コレクション4の翻刻テキスト

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BnF.

【表紙】

十二月初二日着ス

【題字】
陸軍武官服制表並ニ図

【表紙裏】

    凡例
一正帽参謀科会計部鎮台ハ紺絨近衛ハ緋
 絨
一正帽頂上ノ星少尉以上ハ金線会計部ハ
 銀線ヲ用ユ大将ハ六個中将ハ五個少将
 ハ四個佐官ハ三個尉官ハ二個ヲ付ス
  但会計部頂上ノ星数監督長ハ少将江
  相当シ以下之ニ準ス
一正帽ノ日章少尉以上ハ金色軍曹以上ハ
 真鍮伍長兵卒ハ銅

一正帽頂上ノ立物従前之通
一隊外将校ノ正帽ハ従前之通
一正衣袴少尉以上及ビ軍医会計部ハ黒或
 ハ紺絨近衛ノ下士官兵卒ハ紺綿絨鎮台
 ノ下士官兵卒ハ紺大絨
一隊付軍医馬医火鉄木縫鉄蹄工喇叭卒ハ
 該隊ノ服制ヲ用ヒ左ノ臂ニ章ヲ付ス図
 ノ如シ
一隊外軍医馬医ハ参謀科服制ヲ用ユ
一軍医ハ隊付隊外ヲ不論帽前面ノ日章ヲ

 去リ代ユル臂章ト同シキ章ヲ付ス
一兵学寮及ヒ教導団生徒ノ服制ハ従前之
 通
一軍衣少尉以上并会計軍医馬医少尉相当
 以上ノ者ハ黒或ハ紺絨
一軍帽ハ当分正帽ヲ兼用ス
一略帽略衣袴ハ追テ相定ベシ
一此服制ハ明治七年一月一日ヨリ相用ユ
 ベシ
一将官参謀科会計部ハ正衣領袖口喰出シ

 等正衣同色タルベシ其他砲工歩騎輜楽
 佐官以下ハ兵種ニ依リ分別スルヿ左表
 ノ通


            砲兵  工兵  歩兵  騎兵   輜重  楽隊
佐尉官 正帽 近衛   緋絨  緋絨  緋絨  緋絨   緋絨  緋絨
       鎮台   紺絨  紺絨  紺絨  紺絨   紺絨  紺絨
    正衣 襟    黄絨  白絨  緋絨  萠黄絨  紫絨  紺青絨
       袖口   黄絨  白絨  緋絨  萠黄絨  紫絨  紺青絨
       喰ミ出シ 黄絨  白絨  緋絨  萠黄絨  紫絨  紺青絨
    正袴 側章   黄絨  白絨  緋絨  萠黄絨  紫絨  紺青絨
下士官兵卒 帽  近衛 赤塗革 赤塗革 赤塗革 赤塗革  赤塗革 赤塗革
         鎮台 黒塗革 黒塗革 黒塗革 黒塗革  黒塗革 黒塗革
      正衣 襟  黄絨  白絨  緋絨  萠黄絨  紫絨  紺青絨
         飾線 黄毛織 白毛織 緋毛織 萠黄毛織 紫毛織 紺青毛織
      正袴 側章 黄絨  白絨  緋絨  萠黄絨  紫絨  紺青絨

正衣図

少尉以上

 小釦

 大釦

少将以上正袴図
        参謀佐尉官皆同シ会計軍医馬医部ハ一分巾ノ銀線

     側章金線壱分巾


日章壱寸五分

          釦大七分  小五分

正帽
      襟半折図 中少将皆同

大将

帽章金銀線幅大五分小一分
襟袖章金銀線幅一分


        袖章

正帽

中将
        袖章

正帽

少将
        袖章

正帽
      襟半折図 中少佐皆同

参謀科大佐

        袖章

正帽
 頂上金星同前
        袖章

同中佐

正帽
 頂上金星同前
        袖章
同少佐

同大尉

 正帽

 襟半折図 中少尉皆同

 袖章

同中尉

 正帽
  頂上金星同前

 袖章

同少尉

 正帽
  頂上金星同前

 袖章

監督長

 会計部
  正帽

 監督長 少将相当
 以下九等ニ至ル迄
 之ニ準ス

 監督長襟半折図

 袖章

監督

 四等
  正帽

 同四等 五等 六等 襟半折図

 袖章

 五等
  正帽

 一等副監督
 一等司契

 袖章

 六等
  正帽

 二等副監督
 二等司契
 軍吏正

 袖章

 七等
  正帽

 監督補
 司契副
 軍吏

 同七等 八等 九等 襟半折図

 袖章

 八等
  正帽

 軍吏副

 袖章

 九等
  正帽

 軍吏補

 袖章

近衛佐尉官正帽

鎮台佐尉官正帽

金線ヲ以テ徽章ヲ附シ及ヒ頂上
金星ノ数参謀科ニ同シ

砲兵少尉以上正衣袴図

 帽并襟袖章参謀科ニ同シ下同

 正袴両側章幅壱寸
 工歩騎輜楽隊皆同

 工兵同前

 歩兵同前

 騎兵同前

 輜重兵同前

 楽隊尉官
 同前

下士官兵卒
正衣袴図

 表

 裏

同正帽図

 近衛兵
    日章

 鎮台兵
    同上

下副官曹長
 毛織線三
 金線 一

曹長
 毛 二
 金 一

軍曹
 毛 一
 金 一

伍長
 毛織線三

一等兵
 毛 二

二等兵
 毛 一

但毛織色ハ兵種ニ依リ前図ノ如シ此図ハ砲兵トス
 色章線幅五分金線幅平組壱分

砲兵同前

正袴両側章幅五分
工歩騎輜楽隊皆同

工兵同前

歩兵同前

騎兵同前

輜重兵同前

楽隊同前

少尉以上
軍衣図

 表

 裏

同前 縁ハ毛革又毛織ヲ用ユ

胸飾ハ
総テ十

同袖章

如図将官佐尉官共ニ黒色一分線ヲ以テ
付ス官等分別正衣ニ同シ

軍医以下正略衣左臂章図


軍医章 太サ如図
 白絨
  一文字緋絨

喇叭手章 同上
 緋絨

馬医章 同上
 緋絨


蹄銕工章 同上
 緋絨

縫工章 同上
 緋絨

靴工章 同上
 緋絨

銕木工章 同前
 緋絨

火工章 同上
 緋絨

【右下 臂章の名称無し】
 緋絨


軍吏部章 同上
 緋絨

【裏表紙裏】

【裏表紙】

【背】

【天】

【小口】

【地】

BnF.

老鼠本国
【ラベル】
SMITH-LESOUEF
1517 FIV
JAP K 5

【文字なし】

【文字なし】

老鼠本国
【ラベル】
SMITH-LESOUEF
1517 FIV
JAP K 5

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

BnF.

BnF.

【表紙題箋】
勃那把爾帝始末  全

【右下に円形ラベル】
JAPONAIS
5333

【白紙】

勃那把爾帝始末  全

【白紙】

近頃欧邏巴諸国大ニ乱れし本末其治平後の光景
をいかにと尋るに我寛政の初拂郎察ローデウェイキ
第十六世の代に当りて《割書:按に拂郎察の始祖拂郎哥斯より|六十六代の孫をローデウェイキ第十四世王》
《割書:と云此王の時威名隆盛なりし由西史に|見ゆ此十六世王は乃て十四世王の孫ならん》政令正しからす国民
苛虐に堪すして盗賊蜂起せしに有司も制する
能はす千七百九十三年正月《割書:寛政四年|十一二月の交》国王遂に賊の為に
弑さる《割書:拂郎察に限り王の弑に逢及ひ病て|死するをさへ謹て他邦に告すと云》時に五人の諸侯

あり一人の名はバヲスと云四人の名は記せす此五侯力を
戮せて賊を討て是を平け各一致して国を治し
かとも《割書:蓋各地を分|て領せしならん》互に地を広めんとて又軍起り或
は隣国と戦ひ国内静ならす是ゟ先ボナパルテ
ナボレヨンなる者あり《割書:ボナバルテは名トボレヨンは性|なり凡て西夷の性名皆倒置す》父は裁
決所の下吏たり幼き時哥爾西加島《割書:地中海に有り拂|郎察に属す》
の学校に学ふ長して尤兵略に通す初て仕へて

【右2箇所のナボレヨンのヨをヲに朱記修正あり】

隊長たり此に至てボナパルテ兵を起し先哥爾西加
島を奪ひ進て馬児太島《割書:亦地中|海に在》を取り遂に阨入
多に渡らんとす《割書:阨入多は亜弗利加洲|に保【ヵ】り都児格に属す》諳厄利亜人早く
軍艦を備へてこれを俟つ守備甚厳なりボナパル
テ風雨の烈しく其備の稍懈れるを覗ひ忽ち船装
して阨入多に渡りぬ其部下の後るゝ軍艦諳厄
利亜人に焼撃れて大に敗走せりボナバルテ既に

【哥爾西加=コルシカ】
【馬児太=マルタ】
【阨入多=エジプト】
【都児格=トルコ】

阨入多人都児格人と戦てこれに勝ち阨入多を奪
また進て意太里亜国を取んとす《割書:此時西斉里亜近傍|の地は既に奪しならん》
ナルローヲといへる橋あり意太里亜人橋北に軍たちし
銃手を伏て大軍の橋を渡らんとするを雨の如く連発
せしかはボナバルテが勢面を掩ふさへ隙なくて逡巡して
乱れんとすボナバルテ一騎馬に鞭て銃丸降か如き
橋上を駆通り大声を発して士卒を励すに大軍

【意太里亜=イタリア】
【西斉里亜=シシリア】

力を得て奮戦して勝利を得遂に意太里亜を取り
夫より拂郎察に至り五諸侯と戦て尽く是を亡し
《割書:拂郎察世襲の貴族をアヽドルと云ボナ|ハルテ皆是を廃し己か部下を以てアヽトルとせしと云》自立して王たり
実に千八百四年と覚へし《割書:文化元年に当り此時ボナバルテ|前王の弟ローテウェイキ第十七世》
《割書:を擄し獄に繋て|十四歳にして卒す》拂郎察東北に入爾馬泥亜和蘭
孛漏生波羅泥亜弟那瑪爾加蘇亦斉俄羅斯
等の大国あり西南に伊斯把泥亜波爾杜瓦爾北に

【拂郎察=フランス】
【入爾馬泥亜=ゼルマニア= ドイツ】
【和蘭=オランダ】
【孛漏生=プロイセン】
【波羅泥亜=ポーランド】
【弟那瑪爾加=デンマーク】
【蘇亦斉=スエーデン】
【俄羅斯=ロシア】
【伊斯把泥亜=イスパニア】
【波爾杜瓦爾=ポルトガル】

海を隔て諳厄利亜あり於是ボナパルテ兵を四方
に出して戦争止む時なく其殃を蒙さるなし
東の方三たひ戦て入爾馬泥亜を取りまた段【波=朱記修正】羅泥亜
和蘭と戦て皆是に勝つ和蘭の主父子諳厄
利亜に遁れ入爾馬泥亜の帝波羅泥亜さして出
奔せり是より先伊斯把泥亜王父子国を争て
乱起る父王戦敗れて意太里亜に弄【奔=朱記修正】る其子名は

【諳厄利亜=アンゲリア=イギリス】

ヘルヂナンド自ら国に王たりボナバルテ其虚に乗して
撃て是を敗りヘルヂナンドを擄し拂郎察に将ひ
去て獄に繋けり遂に進て波爾杜瓦爾を撃つ
国王禦く事能わす妻孥を率て伯西児(ブラシル)に遁る
《割書:伯西児は南亜墨利加洲に係る波爾|杜瓦爾人甞て併有せし所なり》弟那瑪爾加人はコフベン
ハーカに於て戦て敗られたり蘇亦斉国王ホナバルテ
は鉾を避〆とや其部下の将を請て己を嗣とす是を

カーレル・ヤンと云《割書:ヤンはヨヤンの略|養子ゆへ復姓也》実にボナバルテか兵を
用る神の如く皆人意の表に出て千古以来いまた
曽て聞さる所なり既に欧邏巴三分の一を併呑し
自ら帝と称す己か兄ヨーセスサ【ナ=朱記修正】ボレヨ【ヲ=朱記修正】ンを以て伊斯
把泥亜に封して王とし弟ローデウェイキ・ナポレヨ【ヲ=朱記修正】ンを
和蘭国王とし姉聟ヨハツヘム・シユラを西斉里亜及
那布児斯(ナーフルシ)国王とし己か子を以て羅瑪の太子に

【那布児斯=ナポリ】
【羅瑪=ローマ】

立つ又弟あり此人軍旅を事とせす世を避て羅
瑪に在り《割書:此羅瑪は意太里亜国教皇の所都|にして四方ゟ来り学ふ者甚夥し》爾後ボナバル
テ遠く兵を出して其いまた服せさるを征せんとす
自ら十五六万人を師て入爾馬泥亜波羅泥亜を
過て俄羅斯国に侵入し莫斯哥烏を囲めり
《割書:莫斯哥烏は俄羅斯の旧都にして城郭壮大なり|風説書には莫斯哥烏の都下を焼て攻むとありき》俄羅斯人奇
計を設け刃に血ぬらすして鏖にせんと先其近傍

【莫斯哥烏=モスクワ】

所在の粮穀を焼き又透く彼か糧道を絶ち
固く守て時日を過さしめ雪降り寒の至るを待
果して其策の如く大軍凍餒に堪すして死る
者多しボナバルテか漸く軍を還すと見て俄羅
斯人一時に兵を発してこれを敗りまた逐すかつて
大に敗りしかは死る者勝て計ふへからす俄羅
斯の人其屍を埋るにたへす皆焼捨たりボナバルテ

敗走して波羅泥亜に出る頃ほひ蘇亦斉王アーレル
ヤン《割書:元ボナバルテか|部下の将》俟設けて撃而已ならす波羅泥亜
及サキセン《割書:国|名》の軍勢裏切せしかはホナバルテ勇なりと
いへとも前後左右に当り難く又敗走して拂郎察
に帰るに其兵五万に過さりしと《割書:此事文化十一年|の冬なるへし》初め
和蘭の主ウイルレム第五世孛漏生王の女を娶て世子
フリンスハン・オラーニイを生り《割書:今の和蘭王 ブリンスハンオラ|-ニイは世子の封称なり》

嚮に和蘭の王ボナバルテに敗られ世子を率て諳厄
利亜に在し時諳厄利亜王女子一人ありて男無りし
かは彼世子を養て嗣とし其女に配せんとす《割書:按に百八|十年前》
《割書:和蘭のウイルレム第二世諳厄利亜のカアレル第一世王の長女を娶て|ウイレレム第三世を生り第三世も又諳厄利亜のヤーコフブ第二世王の》
《割書:女を娶とり此時諳厄利亜嗣に乏しウイルレム第三世外孫の故にや|遂に諳厄利亜の王となり和蘭と兼治之事ありき》
嗣後和蘭の世子ボナバルテか弟和蘭国王《割書:名はローデウェ|イキナボレヨンと云》
乃国を得る事能わす国民服せし【せし→し】て遂に遁て

【国民服せすして=が文意か】

拂郎察に帰ると聞き自ら和蘭に至て精兵を
募りボナバルテか新に俄羅斯に敗られて勢始て
折けたるに乗して千八百十五年《割書:文化十|二年》諳厄利亜を
合従し孛漏生フリンスウェイキ《割書:伯爵|の国》蘇亦斉等諸
国と謀て拂郎察に侵入はボナバルテみず自ら大軍を
率ひハートルロー《割書:地|名》を去る事七八里に兵を伏せて是
を待六月十五日初夜の頃ゟ戦始り十六日孛漏生と

決戦してこれを敗れり十七日東西勝敗を決せす
十八日と所謂ワートルロトの大戦なり夜をこめて軍
始り遂に入乱れて戦ふ時和蘭の世子勇を奮て
指揮するに忽ち流丸来て肩に中つ幸に疵浅けれは
尚奮戦せしに諳厄利亜孛漏生の人共に力戦し
■大にボナハルテを敗れり《割書:按に風説書にも六月十六日和|蘭の世子カテレブラスの陣にて勇》
《割書:戦し人ワートルローにて奮戦せり|敵味方名誉の勝利を得たりと》ホナバルテたまり得す車

に乗て疾走せしに《割書:車に馬数匹を駕して駆しむ|走る事甚捷しとそ》孛漏生
人進すかへて既に車の牕より手をさし入て執んとす
ボナバルテ身を翻して躍出し車を棄て走る事
共に百二十里計 把理斯(パレイス)に及ふに《割書:把理斯は乃|拂郎察の都府》尚遂
来つて事甚急なりホナバルテ川を隔て残兵を陣
し和を請す并に己か子を以位に立ん事を願ふ《割書:是は|己か》
《割書:蟄居せんとの|意なるへし》皆肯せす於是海岸さして走るに諳厄

【把理斯=パリ】

利亜の船数十艘既に備たりボナバルテ進退谷り終に
舶中に跳り入て役たり其舶の名をイルドコンボルト
と云彼れ諳厄利亜に降かはロントン《割書:諳厄利亜|の都府》に将て
往き厚待せられんと思ひしに左はなくてシントヘルレ
イナ島《割書:か|》《割書:按にシント|ヘレナ島なるへし》追放せられし欧邏巴中二十
余年の争乱此に至つて始て平治てしかは入爾馬
泥亜帝《割書:波羅泥亜地方に|出奔せし人也》伊斯把泥亜の王《割書:名はヘルヂドンド|拂郎察斯の獄》

《割書:中に繋|れし人》各国に帰り拂郎察の人前王の弟を迎て
立つ是をローデウェイキ十八世王とす諸国の王会盟
し信好を睦み法令を定めもし向来大砲一発
せんものあらは諸国挙て粉斉せんと約しぬ先和蘭
の世予を以大勲労とし入爾馬泥亜拂郎察の人地を
割て賞与し王国たらしむ和蘭の地古に復せり
《割書:按に和蘭もと十七州惣称してネーテルランドと云文明中全く|入爾馬泥亜に属し後又伊斯把泥亜に属せり此時伊斯把泥亜の》

《割書:守令其人を虐使せしかは諸部是を怨み師を興し屡伊斯|把泥亜を敗りしに又ナランエ国侯兵を出して是を援しかは》
《割書:国勢大に張り遂に天正六年和蘭七州の酋長共にオランエ侯を|推て主長とす是をウイルレム第一世と云遂に一致したり此後伊》
《割書:斯把泥亜の人前後八十年和蘭と強戦して遂に勝事能はすはすと云|へり東十州の地は大半入爾馬泥亜に属し小半拂郎察と和蘭とに》
《割書:属せしに此に至つて十七州全く|和蘭の有となり古に復せし也》和蘭の世子王位に即く是
をウイルレム第一世と云《割書:天正中ウイルレム第一世は一致国たりし|始祖なり今は王国たりし第一世なれは前》
《割書:称に碍かす|といへり》尋て俄羅斯帝の女を娶て妃とす《割書:按に我(ママ)|羅斯》
《割書:帝ナレキサン|テルの女なるへし》王国孛漏生は入爾馬泥亜の藩屏にして

和蘭諳厄利亜に次て勲功あり蘇亦斉王カーレルヤン
は期に後れて至て会盟に与れりビユルデンブルグの大公
及サキセンのケウルホルスト《割書:爵|名》共に王爵と降りぬ嚮に
和蘭世子の国に帰る頃ほひ諳厄利亜王の女子立
て王たり《割書:按に前王卒|せし故なるへし》幾もなふして卒す於是入爾馬
泥亜のプリンスバン・ワルレスを迎て嗣王とす《割書:フリンスハン・ワルレ|スは入爾馬厄亜》
《割書:王子の|封称也》是をジヨルセ第四世と云今の王なり文政七年

拂郎察のローデウェイキ十八世王卒す弟嗣く是を
カーレル第十世と云乃今の王なり
衣冠の制も改革このかた諸国多く改りしなり
和蘭にては肩に金絲の徽章を付て俄羅斯の
制の如し是俄羅斯に傚てかくせしにはあらす各
其宜に随て制せしなり殊に其瑣細なる飾は
時に改むる事なりき但今の王の服も甲比丹の服

制と異らす只色は花色を用ひ手先と肩には
猩々緋を入れ左の胸辺に銀の星を付る而已
右ことし入貢和蘭甲比丹スツルレル予か問も
答しまゝを綴りしなりスツルレル歳十四炮
手と成り十八隊長え擢られ拂郎察の役に
屡功あるをもて出身せしとそ惜らくは接話の
際余詻【裕ヵ】なく問を遺せる甚多したゝ和蘭と

諳厄利亜と睦ひ俄羅斯婚し諸邦と和親し
国勢大に張て復疇昔の比にあらさるを
識る耳
  丙戌四月

 右甲比丹スツルレルか話説に就て鄙懐の黙止し
 難きもの有よりて愚蒙の微志を贅する事左の
 如し
一凡て西洋の歴史は彼暦数千七百六十九年《割書:明和|六年》和
蘭にて刊行せし万国地誌中に載て詳なり
其後の事は我
邦にて識よしなくまして近時改革せる光景をや

適々杳かに伝へ聞へしも異説区々にして定りならす
蓋し西洋中昔より通商を免させられし和蘭
のみにて他の国ゟ聞識ん由なけれは長崎在晋の
和蘭人己か憚りあるより当時の模様程よく云なして
実事は秘して告さりし也《割書:我 邦の就中諳厄利亜|俄羅斯の二国を厳禁せら》
《割書:るゝ事情をは和蘭人曽て知れる事なれは彼か拂郎察に奪れ|て諳厄利亜に遁れ諳厄利亜に号泣して和蘭を興復し俄羅斯》
《割書:と婚する等の事を秘して|是迄語る事なきも宜なり》西洋の習ひにて諸国の風説

を日々刊行して世に顕す事なるに其風説書を
も渡さす又長崎の通詞等間々其あらましを聞
知るも有へけれとも亦憚りてや実をは語らさりき
三十年このかた彼諸国の形勢いかんを知らす彼暦史
の起【記ヵ】略をさへ追補せん便もなかりしと今スソルレルか
話説ゟ依て其大略を補ふことを得んとす《割書:スツル|レルと》
《割書:砲手より屡軍功にて漸く進てコロネルに擢られしとの由|ネルは武官にして乕頭の顕甲比丹より位貴し今甲比丹を》

 《割書:兼て来れるよし甲比丹は文官に属し舶に在ては舶中の|事を指揮し商館に居ては交易の事を掌る彼和蘭の》
 《割書:マスタクと云へる処にて生れ今年五十一歳性質文事に疎く|武事には長せりと見へて軍事を問は彼か得意にて陸て》
 《割書:語れるより終に|嫌疑を明せしならん》
一凡十年来和蘭斉来の貨物何故旧時と品多く
 替り《割書:其品過半諳厄利亜の産物又は印度の産|物有之和蘭属島になき品々多しと覚ゆ》衣服冠
 帽の製もほとなく改りし様子覚へていふかしかりしか
 スツルレルか話を聴き始て疑念を解きぬ抑和蘭

もと諳厄利亜俄羅斯と親しからす此二国常に和蘭
の我 邦に通商するを嫉み仇敵たりしか《割書:先年松|前に囚》
《割書:し俄羅斯の甲比丹ゴロウキンが著する遭厄紀事に文化元年|俄羅斯の使レサノフ長崎に至て日本の信牌を得け交易を》
《割書:乞しに許容なかりしは全く和蘭人の間せし|故なりとさま〳〵和蘭人を誹謗せし事見ゆ》俄羅斯と諳
厄利亜とは原ゟ婚親し《割書:漂客元太夫か俄羅斯に|在し時俄羅斯より諳厄利》
《割書:亜に養子|たりしと云へり》事なれは互に相助け官士も互に入れて使
へり《割書:今年入貢の和蘭人フルケルの話に松前に囚れし|俄羅斯のフロウサンは諳厄利亜の人なりといへる也》殊に俄

羅斯の舶司は皆諳厄利亜人を使ふよし其人尤
航海に熟すれはなり《割書:諳厄利亜人性智巧勇悍にして|尤航海水戦に長せるよし西史に見ゆ》
《割書:五百年来数々世界を航海し万国の|地勢を審にし彼か奪併■所又多し》固り俄羅斯と諳厄
利亜は同胞の国なるに今和蘭をはしめ欧邏巴
諸国の盟て倍好を結ひ合従の勢なれるは
豈悪むへく懼るへき事ならすや
スツルレル云へるは改革この方欧邏巴へ統和平し

和蘭も静謐に目出たき事なれ共治平続きなは
武備必衰へて後来事あらん時一支もならさるに
至らんかと却てあやふみぬ貴邦は自然の要害に拠
国を鎖して海外と通せしめす其鎖国の意は固に
感服する処あれとも海国にして艦軍に習はす好を
隣国に結はされは外患を禦くに利あらし然るを
まして治平久しく武備漸く衰へなんと若外寇

【海国にして艦軍に習はす=各文字に朱記傍点】

の難あらん亦危からすやと是甚憎ひへきの悪
言なれとも我に取ては亦良薬の口に苦きに似り
大凡欧邏巴の人は無事安閑として日月を過るを
恥ち《割書:諳厄利亜人性情志に就中諳厄利|亜の人は無事安逸を好さる由見ゆ》各其業をつと免め
励む事和漢の如くならす《割書:故に逸民乞丐|稀なりといふ》されは彼武官
等二十年干戈の中に老練し治平後十年為へき
業なれは《割書:スツルレルか甲比丹を兼て来れる|も畢竟為すへき業成れはなり》或は閑暇に

【無事安閑~如くならす=割書きを除き朱記傍点】
【閑暇に=朱記傍点】

 堪す外国を襲んなと謀るも有ん歟故に彼国の
 治平は余国の患なり
一先年俄羅斯より頻に我邦へ交易を願しは
 畢竟ヤムシヤツカ《割書:蝦夷千島の北に連れる大国にして|近世ロシヤ人併拓せし所なり》
 を賑さん為なりと松前に囚へしコロウヰン等か語
 れりと聞及しに今年和蘭人ブルゲルも左なりと
 語りぬ遭厄記事を按るに近来俄羅斯より

【堪す~謀るも=朱記傍点】

西北亜墨利加の地を開発併有し其地の産物を
カムシヤツカに送れり依てカムシヤツカとオボーツガ
の両所に奉行を置き亜墨利加地方交易進
貢の事を掌らしめ今は両地より亜墨利加へ
往来の船漸く緊【繁ヵ】くと見ゆ《割書:因て七年前和蘭出板の蛮|書を閲すに天明八年に》
《割書:当りて俄羅斯人西北亜墨利加の浜地北極土地五十八九度の間|と八ケ村を設く毎村家数百十六軒或は百廿軒ありて人前記》
《割書:俄羅斯の人四百六十二人亜墨利加の人六百人計ツヽ住す又寛政|五年此地の戸口を増んとて俄羅斯ゟ多く人数を送り既に》

《割書:学校をも設けて其土民に書を読□事を|書する事を教ゆと物産は諸獣の皮革極て夥し》彼西北亜墨
利加の地は更なり都て俄羅斯の蚕食せし
亜細亜の東北部皆冱寒不毛の地なれは食糧
極て乏し故にカムシヤツカ、オボーツカを初め此地
方諸堡営の食糧は悉く遙遠なる本国より
送れるなり仍て近隣なる我 邦と交易して
一は貨物の利を得一は輸糧の労を省んとなれは

 文化中の一件復【後=朱記】絶て来らされとも終に我北陸
 の患ならん
一文化元年長崎へ来りし我羅斯人の紀行書
 四冊あり此頃《割書:は享保か|》手に入りぬ《割書:此書我羅斯語なるを|和蘭に訳せしなり》
 《割書:内一冊は長崎在留中の日記にて都て 本朝の事情を書き|載て頗詳々なり既に訳者に投けて起稿せしむ訳成は奉んとす》
 其書中 本邦蝦夷及近傍諸国の地図ありて
 其時往返せし舟路を記せり長崎ゟ帰路は壱岐

対馬の間より北海を経て出羽より津軽海岸近く
乗通り西蝦夷海岸通りソウヤと北蝦夷との
間を過て北蝦夷の東岸を測りカムシヤツカに至れり
且 日本蝦夷の周囲海の浅深等は往返共に
測しと見へて精く載ぬ又文化八年俄羅斯人
コロウヰン等捕れて害訊せられし時コロウヰン詭
りて薪水食糧尽し故止ことを得す舟を寄せし

なりとて実は島々の形勢海港の深浅等
測量せよとの王命なる事は秘して告さりしと
彼か遭厄記事に述たり《割書:他国の島々を測量|せよとは何の心そや》又文政元年
諳厄利亜の漁船浦賀へ来りし後は年々我東
海へ来り鯨漁をなせり類船数十艘なりと聞ゆ
《割書:十年来此事あるは彼国兵乱治りて無事|を得且東海の舟路既に熟すれはなり》彼等一万里の
波濤を経て我東海に来ること隣浦に往て

 漁するか如し終に何等の点計をか企ん亦悪むへく
 懼るへき事ならすや
一前に述し如く西洋諸国治平一致して無事閑暇
 なるは余国の患にして《割書:諳厄利亜の漁船数十艘我東海|に来て漁し我海浜の船子を》
 《割書:親み懐んとにや数々物を与へ或は邪教の書を与へ又運送|の船を脅して掠め取又岸に来て薪水蔬菜を乞の類我患也》
 オホーツカメカムシヤツカの繁盛は偏に我蝦夷の
 患なり《割書:蝦夷ゟカムシヤツカに至る迄庭の踏石を並し如く小島|数十連続せり所謂千島にして大なるもの廿四島有》

《割書:其中廿二島は俄羅斯|人既に併奪せり》抑諳厄利亜人の東海浜に
来て薪水蔬菜を乞ふは禍浅して制し易く
俄羅斯人の西北亜墨利加を開発してカムシヤ
ツカ、オホーツカを繁盛にせんは毒深くして見へ
難し如何となれは此両所繁盛を以輸量の費甚
しからん然らは終に我 邦に向て望を絶こと
能はすもし来て交易を乞すんは窃に千島の夷

人をして交易せし免歟はた奇計を設けて我虚に
乗せん歟《割書:嚮に官地の時すら一商船に|攔妨せしこときなり》先年蝦夷地
官領たりし故ヱトロフ、クナシリの二島は奪とれ
すもし嚮に 官地とならすんは此二島も既に俄
羅斯に属して蝦夷の北部は危からす北部陥らは
禍終に解さらん

一夫蝦夷の地百年を顧して余に是を開かは弊
 なからんに連に成を欲して費多く利少く無用
 の地とするに至れり蝦夷の地勢は
 本邦の後陣たり利のみを以て事を論する
 は恐くは国家の為に取らさる所なり惜かな
 大日本四国の内最心を用ひすんは有へからさる
 蝦夷の要地をして小身の松前氏に復させ

給ふ世以ていふからすや必
神慮あるあらんと照して筆を絶ぬ

 文政九年四月  高橋景保謹述

【白紙】

別埒阿利安設(ベレアリヤンセ)戦記
   第一 勿能(ウエーネン)の会    《割書:吉雄宜|青地盈》全訳
             高橋景保校                 
千八百十四年《割書:我文化十|一年甲戌》第五月三十日同盟の諸国の
軍既にボナバルテを把理斯(ハレイス)に討て之に捷ち凱旋し
彼を執へてヱルバ島《割書:意太里亜|の属島》に流竄しローテウェーキ
第十八世王を再その国王に即かしめ諸国始て拂郎
察に和睦し諸国の軍士各本国に帰り万民安

堵の思をなせり扨此年秋同盟の諸王侯 勿能(ウエーナン)に
会集して猶和平の盟約定議すへしとて第九月
廿五日には魯西亜帝孛漏生王勿能に至れり其衆
都て一万人に余り旅舎する所なく野陣を張りて
之に舎す又ベイエレンの女王ウェルゲンブルグ《割書:共に独乙都|国の諸王》
及ひ弟那瑪爾加等の王侯も来会し第十月一日
已に諸国の執事集りて評議はしまりける元此

会議は欧邏巴中にかゝはる大事なれは数月を経る
に非れは定議すへしとは思はさる所に卒にボナハルテ
彼配所を遁れ出て兵を募りて把理斯を襲ふ
の風聞ありて会議は半はに廃し同盟の諸国
再ひ軍を引て彼敵を討へしとて陣鐘打て
此会議は後日に延へられたり
  第二ボナバルテヱルハ島を逃拂郎察を襲ふ事

同盟の諸王侯は会議して天下万民の治安を謀る
に引かへてボナバルテはヱルバ島にて新に暴虐の
企を起し私にヱルハ島を出て把理斯に襲入の
急報至り人々実にその悪逆を驚歎せさるはなし
斯て又天下和平の日は雲に掩はれ再危懼の世の中
となりぬさて千八百十五年《割書:文化十二|年乙亥》第二月廿六日の夜
九時にボナバルテは舟を装ひ与党の拂郎察波羅

泥亜 克爾西革(コルシカ)《割書:意太里亜|属島の名》の兵千許を卒てポルトヘ
ラヨより開帆し三月一日拂郎察の南方カンネス
に着岸し翌朝進てゲレノブレに至るに拂郎察
の反賊ラベドイヱレ其部属す卒て彼に属と此ゟ
直ルリラン《割書:拂郎察|国中》に赴て三月十日其党兵已に九万
より十万に及ひネイ《割書:人|名》等の悪徒皆彼に属し第
三月廿日の夕八時に把理斯に至る其途中人々を

して唱へしめけるは此王再国に入て三色の幟章
を建て新に富貴を得て更に二十五年の栄華を
収むへきとそ扨ローデウェーキ王は把理斯に在て
自ら守らんと心を砕きボナバルテは罪悪その党
類の不臣の罪を国人に説き聞せて兵卒を集め
彼を防んと欲れとも勢弱く却て其部下の兵も王を
棄て遁れ去けれは王は詮なく十九日の夜把理斯の

王城を棄てケントに遁れ行たり勿能には第三月
十三日始て此乱の急報至りけれは同盟の王侯直に
ボナバルテの信義を棄て人民を残害する罪状を
挙て国人に触れ天下治安を致さんとて諸軍一同
速に拂郎察に馳向て兇賊を征伐すへきを命したり
  第三ヲクシヨベルロ橋頭の合戦
ぼボナバルテが再ひ拂郎察王位に復ると聞へけれは那

波里王ムラトは彼か姉婿なれは直に貪利の企を起し
意太里亜の諸地を掠取らんとて部下の兵八万を
擁し不意に羅瑪所属 都斯加能(トスローネン)所属の地に
乱入し其土人を挑撥し己に与る者は国法を離
れ自由の栄華を得せしむへしと云はせ第四月三日
已にボログナの辺に至る扨此手の討手として独逸
都の大将ヨハロン・ビアンシ兵を総て之に向ひ戦ける

がムラトが勢に敵し難くポー河の辺に退きし故に
那波里の兵はフヱルラヨを過てオクシヨベルロの橋
頭に到る此時ヒアンシは加勢の兵を得てムラトと
戦ひ之を破り遂に威を奮て頻りに戦ひ第五
月二日朝より夜に至りて彼を追払ひしに三日朝
ムラト又寄来りしを遂に大に之を撃て彼か兵
二千を俘にし燌【熕ヵ】炮数多を奪ひムラト敗走して

那波里に引返しぬ
  第四独乙都の兵那波里に乱入す
トレンチノ《割書:意太里亜|国中》の戦《割書:前の合|戦を云》に独乙都の軍勝利
を得て大将ビアンシ進てカプアに到りけれは那波
里の大臣デーユカガルロ来て和を請けれともビアンシ
肯せすムラトと和を講するの義なしとて彼を
返しけれは又彼の総督コレツタ那波里の兵を収めて

降参し那波里城は独乙都方のヘルヂナント第四世
王に属すへきを約す然るに那波里府に内乱
起りて管領ネイベルグ其部下を率て之を制するに
鎮る事能はす終に独乙都の兵を以て之を
平定す此日総兵ビアンシは斉西里亜王子レヲポ
ルトを伴ひ兵二万を以て那波里に入ムラトは前
已に拂郎察に走り其婦人は諳厄利亜の舶にて

テリヱストに送り遣りぬ爾後ムラツト私に克爾西
革に拠らんとし事あらわれて執はれフーヱルテーイ
ナンド王命して之を斬しめぬ
  第五ベルレアリアンセ《割書:地|名》に於てブルセル」ウェルリ
  ングトン《割書:供に|人名》の勇戦
此時ボナバルテ把理斯に入て軍備を整へ兵卒を
四境に出し守らしむアンコウレメの侯は拂郎察国

南部の人民を以てホナバルテを防んと欲すれとも
彼か勢強きを以て避て舟にてセツトに退去す斯て
ボナバルテは自ら兵をマイの野に集めて点検す
るに一万八千なり二万許は已に諸方に遣りけれとも残
る所調練の強兵四五万ありけれは第六月十二日自ら
其軍を総て和蘭国境に向ひ其処に在孛漏生
諳厄利亜の軍に敵せんとし十四日其地に着し

十五日サムデレ河をカルレロイより渡りけれは孛漏生方
に其聞へありてブルセル及ウェルリングトン其軍を纏
たるに十二日拂郎察は歩兵十二万騎兵二万二千を
張て孛漏生方に突懸りける孛漏生の兵力を奮
て血戦せしか拂郎察方に利多くブルンスウェーキの侯
も爰に戦死し大将ブルセルも馬より落て已に危
きを辛ふして救ひ去れり十七日も終日戦止す十八

日朝十一時《割書:四半|時》よりベレアリアンセにて戦ひたるか爰に
諳厄利亜人の一手にて血戦せしかとも雌雄なく
夕七時に至れり其時ブルセル再孛漏生の兵を卒て
敵の背後より撃て此戦遂に大勝利を得たり
  第六拂郎察兵の引口
此戦味方は血に染み敵は鏖となりたるかボナバルテ
猶残兵を引て隊伍を乱さす退きけるけるか孛漏生の兵

奮激して之を追撃せしに由て遂に彼か兵卒乱
れ走りその途に燌炮装菓車桑車諸兵具等
を土地の見へさる計棄て散したりブルセルは此夜
月の明なるを幸とし敵を村里より駆出すへしと
命し兵を進めてゲナツぺに入しにボナバルテの乗
車を奪ぬ此時ボナパルテは帽子を脱し劔を失ひ
狼狽して遁れ去ブステロース《割書:人|名》辛ふして彼に従ひ

走りぬ残る所の拂郎察勢僅に四万許にして尽く
城営の方に遁失せり此戦に味方に得たる熕炮
三百門余あり此日ボナパルテの本陣ヘレアリアンセと
名る砦の高処に置たりホルストブルセルとウーエルリン
グトン此夜の大戦の後相会し互に勝利を賀して
ブルセル云けるは此戦はベレアリアンセの戦と名けて後
まて記念にすへしと云り

  第七ウレーデ王の兵サールゲムンデン」サールブルゲン
  を攻取る事
同盟の諸軍は各レイン河より拂郎察に進みブル
セル及ウェルリングトンは拂郎察の北辺に軍す爰に
ウレーデ王は第六月廿四日サール河を越て彼孛漏生の
軍に合し働人と約せしにサールゲムンデンの傍に
て敵に逢て遂にはけしき戦となり味方はサールの

橋頭に攻寄んとし敵はサール橋にて防きしか
督将ベクケルス已に進み前郭と橋とを攻取敵を進
て兵に府中に押入たり又ベイヱレンの兵はルネヒルレ
《割書:地|名》を攻取りぬかくて二十八日ウレーデ王本陣をナンセイ
の内に布きてメウラ及ムーセに河浜の敵を攻且スタ
ラーツブルグに在る敵将ラツプか把理斯に退く帰路
を絶ち又敵将レコウルベを打破らんと備へたり然るに

又ウーエルテンブルグの王子廿二日にゲルメルスヘイムより
レイン河を渡し来りラツプをフタラーツブルグに攻囲み
レコーベをボウルグリブレ「ブルグヘルド「ネウドルブの処とに
撃破り彼をヒユンニンゲン城に追入たり其他の総兵
フリモントは意太里亜よりシンブロンを越来りビブナ
はモレトセニスを越来り諸方より攻入んとせり
  第八魯西亜の軍カロンス府に乱入す

第七月二日魯西亜の総兵ヱーセルニツセフ兵を督して
カロンス《割書:拂郎察|の地》府に入んとせしに府人誤て此を敵とし
防人に企ける故にヱーセルニツセフ怒て兵に令し彼等
無益の敵対なす懲しめに其人を殺し其家を
壊て■て兵を放にし乱入せしに其危懼の内にも
おかしき事のありし府中にミニスクテウル「カウヒンと云
者ありて其家綺麗に見へけるか一人のコサック《割書:魯西亜|兵隊の名》

其家に蒸餅を求め飢を療んとし入て之を請ふ
にその家人蒸餅及火酒をも与へけれはコサッケン其
家婦家族の悲歎のありさまを見て已に掠奪に
逢し者なけんと憐みを起しフレデリキデラル《割書:貨錢|の名》
二枚を出して其婦に与ふ其婦敢て是を取らす
コサッケル其甚寡きを嫌ふて取さると思ひ又十四
枚を出し与へと云貢婦之を収めるアレキサンデル

《割書:魯西亜|帝の名》の兵は貨を惜ますして去りぬ又府中の老氏
リクテルといふ者頭に創を受て血に染て途に倒れ
けれは一人のコサック之を追て忽ち馬より飛下り己か
襦祥【ママ】を裂て其疵を縮縛し遣りたり但此老
人は遂にその疵にて死したり又総兵エーセルニツ
セフ此処を出去る時郊外の一酒店の主ニカイセ
といふ者総兵の過るを伺ひ已に家の破壊されたる

を嘆きけれはヱーセルニツセフ云けるは是は我過に非す
府人の無益の敵対をなせし故なりとて自ら十二
ジユカトン《割書:貨錢|の名》を彼に与へ是はヱーセルニツセフが汝に
致す志なりとて去れり
  第九同盟の諸軍把理斯に入
第六月二十一日ボナバルテはベレアリテンセの敗績の後
把理斯に帰り至り自ら位を退き其子を嗣とし

て二十四日把理斯を出去りたり其間フルセル及ウェルリン
グトンは勝に乗し直に兵を進め敵地の諸城を攻
降し第七月一日已に把理斯に入んとす爰にボナバルテ
の残党猶ダホウスト《割書:人|名》の麾下に集りて三度イスセ
ー《割書:地|名》の味方の軍を襲ひけれとも味方の兵之を打
破りけれはダホウスト力屈して和を乞へりかくて味
方の軍兵五万を率て第七月六日昼十時《割書:四|時》把理

斯に入同十八日ローデウェーキヱも返り来り廿日孛漏生土
独逸都帝魯西亜帝と共に陣を把理斯の内に
移しぬ如此く把理斯再ひ味方に属しけれとも
諸軍治定の間を此国の政庁の興行するまて諸軍
は此に留り守れり
  第十ボナバルテ諳厄利亜人に投す
ボナバルテは把理斯を出て第七月三日ボセホルトに

至り此より亜墨利加に往んと欲し大舶フレカトを
装ひ之に乗て順風を俟つ所に諳厄利亜の巡海の
軍艦之を見付て放さす殊に月夜なれはボナバルテ
も夜にまきれ遁れへきやうなく十五日終に自ら小舟
に乗りヘルトラント「サハレイ」ランマント等四十人許を従へ
諳厄利亜人に身を委ぬベルレロボン舶に移れり諳厄
利亜人彼等を執へ二十四日トルバーイ《割書:諳厄利|亜の地名》に至る

其途中彼等の身の果を見んとて遠近群聚せり
とて同盟の諸王侯相議しボナバルテをはシントヘ
レナ島に流竄すへきに極り舶将マツクブルンの支
配にてノルツムベルランド《割書:舶|名》に乗せ送りぬ此と共に島に
趣し者はベルトラント「モントロン管領フカサス兵将コル
ガント等其妻子及■人婢三人なり嗚呼万人を
残虐し万人に怒り罵られたる魁首たるボナパルテ

も終にヘレナ島を以て結果の所とせり
  第十一独逸都フンニンゲン城を抜く
フンニンゲン城は敵将バルバネゲレなる者守れり寄
手はアールツヘルトグヨハン君にて第八月二十二日大砲を
放ち攻けるに城中ゟ熕砲を放て防けれとも味方
を損するに至らす昼後已にその城門及廓道を焼払
ひ二十二日の夜より廿三日に至り城の外なる砲台を

奪へり二十三日二十四日昼夜大砲を放て焼たてけるに
城兵力屈し白幟《割書:帰降の|印なり》を揚て降を請ひハル
バネゲル部卒千九百人を引兵を伏て城を開て
出けれはアールツヘルトク降を受て城に入に長吏
これを迎入り其民をは各其郷里に還らしめ
本兵をバロイン河の背後に遣りて平定せり
  第十二シントヘレナ島

此島はアーランチセ海《割書:一に波爾杜|瓦爾海と云》の南辺に孤立する
巌礁島にして地下の大坑ありと見ゆ島の長さ
四爾時程《割書:凡五|里程》幅三爾時程《割書:凡四|里》高峰多くピーキ」
ハン」テ。イアナ」は二千六百九十尺《割書:凡七|町余》に及ふ全島の平
地僅に十二モルゲン《割書:一モルゲン凡千|三百二十六坪余》に過す礁上に僅に
土を敷甚脆疎なれとも能物を生長す田圃
とする所七八千モルゲンに過きされとも其余三

【爾時=レゴア(蘭語)リーグ(英語)】

万モルゲン許は不毛の礁石なり其田圃は肥潤な
れとも鼠甚多く穀種を下すを妨るか故に
土人唯畜牧里蔬を以て養とす野牛肉尤美
とし又野獣禽鳥多くあり但樹木に走しとす
温泉数所あり時気は良善清浄なり一府
ヤーメスストウン又ヤコーブススタードと名くヤコーフ
谷といふ処に置その処は島中最広平の地なれ

敵に当り諸軍を励まし昔より伝る和蘭国
の武威を輝せしは初め王子自ら進て強く敵
を打払しか忽ち敵兵の中に包まれ殆と危かり
けるに従騎之に衝入り力戦して之を救ふ其
苦戦の中に流丸王子の左肩に当り味方色を失
へかりしに王子之に辟易せす却て味方の
勇気激発して遂に敵を打払ひし故に

拂郎察人も始て和蘭国の勇威を感称せし
とそ此に由て王子の勇名高くあらわれ其創
も恙なく治しけれは国民王子は天の加護を得
たる事を嘆称せり
  第十四ベレアリアンセ府
ベレアリアンセ府は元世人のしらさる所なれとも此戦
再ひ欧邏巴諸州の治平を興せしか故に是府

とも僅に一条の街にして其家屋稠密にして
街の両側の房室直に巌崖に迫り雨時には
その崖礁砕落て屋を破る事屡々なりヤコー
ブスボクトと名る海湾ありホルトヤメスの砦を
要害とす海舶の破泊の常処とせり府と七十
余の村落とを総て口数三千許なり此島は
千五百の二年《割書:文亀二|年壬戌》波爾杜瓦爾のカハンイは始て

之を見出し其日のヘレナ《割書:古哲|の名》の祭日なるを以て
島の名とせり後千六百年《割書:慶長五|年庚午》に諳厄利亜人
之を取れり
  第十三和蘭の王子ボストレスロクツテレブラ
  ス《割書:初|名》ベレアリナンセ《割書:地|名》に於勇戦
第六月十八日ベレアリアンセの戦に和蘭の王子クツ
ルテレブラス一名ニールスプロングと云処にて勇を奮て

も亦大に名を顕せり夫悪虐終に幸を得は
天日永世に暗からん然とも英雄フラセル及ウェル
リングトンの二人相助て兇賊を撃て再万民
和平の勲を建しは正に此府と同しく不朽
の名を伝へ人々をして天道善に帰るを
鑑せしむ豈無量価の宝ならすや

右一巻和蘭人近時撥乱及正の盛を記して
其世子奮戦図の週に掲鏤せしものなり蓋
彼の功烈を後世に輝さんとなるへし故に唯其
挭概を述るのみ此ころ桂川氏か所蔵なる
を乞ふて訳せしめ甲比丹スツルレルか説話と
併せて当時の光景を観るの一助に備と云
 文政九年丙戌初秋 橘景保誌

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【裏表紙】

【帙の背の画像 下部に附番】
JAPONAIS
5333

【帙への収納状態の画像】

【帙を閉じた状態の画像】

【帙への収納状態の画像】

【帙の上面 題箋部に文字なし】

【帙を開き表紙を見せた画像】
【題箋】
勃那把爾帝始末  全
【右下円形ラベル】
JAPONAIS
5333

【帙の内面のみの画像 文字なし】

【帙を開いた画像】
【帙内面後端部の東京神田一誠堂書店の票】
高橋景保訳編 ナポレオン伝
勃那把爾帝始末  《割書:文政九年成| 文政頃新写》
【表側、背の画像は前出】

BnF.

【表紙】
【右下に図書票】
JAPONAIS
5340
【中央に題箋】
すゑつむ花

【見返し】
【文字無し】

【文字無し】

【文字なし】

【右上余白に図書整理番号の筆記】
Japonais
5340
(1)
【右下余白に図書館印 と日付ヵ】
Acq.92-09

おもへともなをあかさりしゆふかほのつゆに
をくれし心ちをとし月ふれとおほしわすれ
すこゝもかしこもうちとけぬかきりのけし
きはみ心ふかきかたの御いとましさにけ
ちかくなつかしかりしあわれににるものな
うこひしくおもほえ給いかてこと〳〵しき
おほえはなくいとらうたけならむ人のつゝ
ましき事なからむ見つけてしかなとこり
すまにおほしわたれはすこしゆへつきてき
こゆるわたりは御みゝとめ給はぬ給はぬ【原文に、「給はぬ」が重複している】く

まなきにさてもやとおほしよるはかりの
けはひあるあたりにこそはひとくたりを
もほのめかしたまふめる は(に)なひきゝこえす
もてはなれたるはおさ〳〵あるましきそ
いとめなれたるやつれなうこころつよきはた
としへなうなさけをくるゝまめやかさなとあ
まりものゝほとしらぬやうにさてしもすく
しはてすなこりなくゝつをれてなを〳〵
しきかたにさたまりなとするもあれはの
給ひさしつるもおほかりけりかのうつせみを

ものゝおり〳〵にはねたうおほしいつおきの
葉もさりぬへきかせのたよりある時はおと
ろかし給ふおりもあるへしほかけのみたれ
たりしさまはまたさやうにてもみまほしく
おほすおほかたなこりなきものわすれをそ
えしたまはさりける左衛門のめのとゝて大
貮のさしつきにおほいたるかむすめたいふ
の命婦とて◦(内に)さふらふわかむとほりの兵
部の太輔なるむすめなりけりいっといたう
いろこのめるわか人にてありけるを君もめし

つかひなとし給ふはゝはちくせんのかみのめにて
くたりにけれはちゝ君のもとをさとにてゆき
かよふ故ひたちのみこのすゑにまうけて
いみしうかしつき給し御むすめ心ほそくての
こりゐたるをものゝついてにかたりきこえけれ
はあはれのことやとて御こゝろとゝめてとひきゝた
まふ心はへかたちなとふかきかたはゑしり
侍らずかいひそめ人うとうもてなし給へはさへ
きよひ【さべき宵】なとものこしにてそかたらひ侍る
きん【琴】
をそなつかしきかたらひ人とおもへるとき
                  こ

ゆれはみつのともにていまひとくさ【一種】やう
たてあらんとてわれにきかせよちゝみこの
さやうのかたにいとよしつきてものし給ふ
けれはをしなへてのてにはあらしとおもふ
とかたらひ給さやうにきこしめすはかりには
侍らすやあらむといへはいたうけしきはまし【気色ばまし】
やこのころのおほろ月夜にしのひてもの
せんまかてよとの給へはわつらはしとおもへと
うちわたりものとやかなる春のつれ〳〵に
まかてぬちゝの太輔の君はほかにそすみ

ける命婦はまゝはゝのあたりはすみ【住み】もつかす
ひめ君のあたりをむつひて【睦びて=親しく振舞って】こゝにはくるなり
けりの給ひしもしるく【予言通り】いさよひの月おかし
きほとに【夜に】おはしたりいとかたはらいたき【気が咎める】わさ
かなものゝねすむへき夜のさまにも侍らさ
めるに【ありませんね】ときこゆれと【申し上げれば】なをあなたにわたり
てたゝひとこゑ【一曲】ももよをしきこへよむな
しくてかへらんかねたかるへきを【残念なので】とのたまへは
うちとけたるすみかにすへ【据え】たてまつりて【お通しなさって】
うしろめたうかたしけなしとおもへとしん

殿にまいりたれはまた【まだ】かうしもさなから【そのまま】む
めのか【梅の香】おかしきをみいたしてものしたまふ【中から眺めておられる】よ
きおりかなとおもひて御ことのねいかにま
さり侍らむと思給へらるゝよのけはひにさ
そはれ侍りてなんこゝろあはたゝしきいて
いり【出入り】にえうけたまはらぬこそくちをしけれ
といへはあはれしる人こそあなれ【いてほしい】もゝしき【宮中】
にゆきかふ人のきくはかりやはとてめしよ
するもあいなう【よそながら】いかゝきゝたまはんとむねつ
ふるほのかにかきならし給ふおかしうきこ

ゆなにはかり【大して】ふかきて【深き手=習熟したお手並み】ならねとものゝねからの
すちことなるものなれはきゝにくゝもおほ
されすいといたうあれわたりさひしき
所にさはかりの【それ程の】人のふるめかしうところせく【あたりが狭く感じる程家人が多く】
かしつきすへたりけん【大切に世話をして一所におちつかせただろう】なこりなくいかに
おもほしのこす事なからむかやうのところ
にこそはむかしものかたりにもあはれなる事
ともありけれなとおもひつゝけても物やい
ひよらましとおほせとうちつけにや【唐突だと】おほさ
むと心はつかしうてやすらひ給ふ【躊躇なさる】命婦か

とあるもの【かどある者=才気ある者】にていたうみゝならさせたてま
つらしと思ひけれはくもりかちに侍めり
まらうとのこむと侍りつるいとひかほ【厭ひ顔=さも避けているような様子】にもこそ
いま【すぐにまた】心のとかにを【ゆっくりとね】みかうし【御格子】まいりなん【おろします】とて
いたうもそゝのかさて【せかして勧めもせず】かへりたれはなか〳〵な
るほとにて【途中で】もやみぬるかなものきゝわく程
にもあらてねたふ【残念だ】との給ふけしきおかし
とおほしたり【興味を持たれた】おなしくはけちかき程の【近くで】
たちきゝせさせよとのたまへと心にくゝて【心惹かれてもっと聞きたい】
とおもへは【(そこで止めると決めていたので)】いてや【いえいえもう】いとかすかなる【勢いのない】ありさまに

おもひきえてこゝろくるしけにものしたまふ
めるをうしろめたき【気がとがめる】さまにやといへはけにさも
ある事にはかに我も人もうちとけてかたら
ふへき人のきは【際=身分】ゝ きはとこそ(ことにこそイ)あれ【こともあろうに】なとあは
れにおほさるゝ人の御ほとなれはなをさ
やうのけしきをほのめかせとかたらひ給ふ
またちきり給へるかたやあらむいとしのひ
てかへり給ふうへ【上=帝】の【(源氏の君は)】まめにおはしますと【真面目だからと】も
てなやみ【処置に困ると】きこえさせたまふ 【御心配されているのは】こそ(こそ)おかしう
おもふ給へらるゝおり〳〵侍れかやうの御

【「や」が脱落ヵ】つれすかたをいかてか御らんしつけんときこ
ゆれはたちかへり【引き返し】うちわらひてこと人【異人=関係のない人】のい
はむやうに【言いそうなことを】とか【咎】なあらはれそ【とがめだてされたくないよ】これをあた〳〵
しき【浮気っぽい】ふるまひといはゝ女のありさまく
るしからむ【差し障りがあるだろう】とのたまへはあまりいろめいた る(り)【左に「ヒ」と傍記】
とおほしており〳〵かうのたまふをはつ
かしとおもひてものもいはすしん殿の か(か)【本文の「か」を見せ消ち】
たに人のけはひきくやうもや【感じられるかもしれない】とおほして
やをらたちのき給ふすいかい【透垣】のたゝすこ
しおれのこりたるかくれのかたにたち

より給ふにもとよりたてるおとこあり
けりたれならむ心かけたるすき物あり
けりとおほしてかけにつきて【物陰に入って】たちかく
れ給へはとうの中将なりけりこのゆふ
つかた【夕つ方】うち【内裏】よりもろともに【一緒に】まかて【退出】たまひ
けるをやかて大殿にもよらす二条院にも
あらてひきわかれ給ひけるをいつちなら ひ(む)【「ひ」の文字の中央に「ヒ」と記載】【どこへ行くのだろう】
とたゝならて【様子がいわくありげで】われもゆくかたあれとあとに
つきてうかゝいけりあやしきむまにかり
きぬすかたのないかしろにて【無造作ななりで】きけれはえ

しり給はぬに【お気づきなさらないで】さすかにかうことかた【異方=違った所】にいりた
まひぬれは心もえす【要領をえず】おもひけるほとものゝ
ねにきゝついて【聞いてそれに心ひかれ】たてるにかへりやいて給と
したまつ【下待つ=ひそかに待つ】なりけり【のであった】君はたれともえみわ
きたまはて【気付くことが出来ず】われとしられしとぬきあし
にあゆみのき給ふにふとよりて【寄ってきて】すてさ
せ給へるつらさに御をくりつかうまつり
つるは【お送りして差上げたのですよ】
   もろともにおほうちやまはいてつれと
いるかたみせぬいさよひの月とうらむるも

ねたけれと【憎らしいが】この君と見給ふにすこしお
かしうなりぬ人のおもひよらぬ事よと
にくむ〳〵
   さとわかぬ【どの里にも隔てず】かけ【月の光】をはみれとゆく月の
いるさ【入り際】の山をたれかたつぬるかうしたひ【慕い】あ
りかはいかにせさせ給はむ【どうされますか】ときこえ給まこ
とはかやうの御ありきにはすいしむ【随身】から
こそ【を付けてこそ】はか〳〵しきこと【しっかりした行動という】こともあるへけれをくらさ
せ給はてこそあらめ【(私を)置き去りにしないでほしい】やつれたる【お忍びでの】御ありき
はかる〳〵しき事【軽率な事】もいてきなむ【起こります】とをしか

へし【押し返し=反対に】いさめたてまつるかうのみ【こんな時ばかり】見つけ
らるゝをねたし【癪】とおほせとかのなてしこ
はえたつねしらぬを【(頭の中将も)よう尋ね知らないので】をもきこう【功=手柄】に御心の
うちにおほしいつをの〳〵ちきれるかたにも
あまえて【遠慮せず】えゆきわかれ給はす【別々の所へ別れて行くこともようなさらないで】ひとつく
るまにのりて月のおかしきほとにくも
かくれたるみちのほとふえふき【笛吹き】あは
せておほとのにおはしぬさき【先】なともを
はせ【追わせ=先追い(前駆)】給はすしのひいりて人みぬらう【廊】に
御なをしともめしてきかへ給つれなう【さりげなく】

いまくるやうにて御ふえともふきすさみ
ておはすれはおとゝ【大臣】れいの【例によって】きゝすくし給はて【聞き過ごしはなさらないで】
こまふえ【高麗笛】とりいて給へりいと上す【上手】におは
すれはいとおもしろうふき給御こと【琴】めし
てうちにもこのかたに心えたる人〳〵にひか
せ給ふ中務の君わさと【格別に】ひは【琵琶】ゝひけと
頭の君心かけたる【思いをかけていたの】をもてはなれて【故意に避け続けて】たゝ
このたまさかなる【(源氏の)】御けしき【魅力】のなつかし
きをはえそむききこえぬ【ようお離れ申し上げることができず】にをのつから
かくれなくて【有名で】大宮なともよろしからす

おほしなりたれはものおもはしくはした
なき【みっともない】心ちしてすさましけ【心の楽しまないさま】によりふした
りたへてみたてまつらぬ所にかけは
なれなむもさすかに心ほそくおもひみたれ
たり君たちはありつる【例の】きんのね【琴の音】をおほ
しいてゝあはれけなりつるすまゐの
さまなともやうかへて【事情が変われば】おかしうおもひつゝけ
あらまし事に【将来の予測だが】おかしうらうたき【美しくて心惹かれ大事にしてやりたい】人のさ
てとし月をかさねゐたらむときみそめて
いみしう心くるしくは人にもゝてさはかる

はかりやわか心もさまあしからむなとさへ中
将はおもひけりこの君のかうけしきはみ【何となくそれらしい様子が現れ】
ありき給をまさにさては【それではこのまま】すくし給ひて
むや【過ぎるとは思われない】となまねたう【ちょっと憎らしく】あやうかりけり【不安だ】そのゝ
ちこなたかなたよりふみなとやり給へし
いつれもかへり事みえす【返事が来ず】おほつかなく【不安で】
心やましき【イライラする】に◦あまりう(ひたやこもりなり)【直屋籠り=引きこもってばかりいること】たてある【嘆かわしいこと】かなさ
やうなるすまひする人 は(もう)もの思ひしりた
るけしきはかなき木くさそらのけしき
につけてもとりなしなとして心はせ

をしはかるゝおり〳〵あらむとそあはれなる
へけれ【あるのはいいことなのだが】をも〳〵し【社会的地位が高い】とてもいとかう【本当にこのように】あまりうもれ
たらんは【あまりに引っ込み思案なのは】心つきなく【心が惹かれず】わるひたり【悪く見えている】と中将は
まいて【まして】心いられしけり【きもちがイライラさせられている】れいのへたて【心の壁を】き
こえ給はぬ【おつくりにならない】心にてしか〳〵のかへり事はみ給
や心み【試み】にかすめ【軽く事に触れて言う】たりしこそはしたなく【きまりが悪く】
てやみにしか【途絶えてしまった】とうれふ【憂ふ】れはされはよ【やっぱりね】いひより
にけるをやとほゝゑまれていさみむとしも【見たいとも】
思はねはにやみるとしも【見ることも】なしといらへ給を人
わき【人別き=相手によって態度を変える】しけるとおもふにいとねたし君はふかう

しもおもはぬ事のかうなさけなきをすさ
ましくおもひ【しらけた感じに】なり給にしかとかうこの中将
のいひありき【あれこれと言い寄り】けるをこと【言】おほくいひなれたら
む方にそなひかむかししたりかほ【得意顔】にもとの
ことをおもひはなち【思い切る】たらむけしきこそう
れはしかる【嘆かわしい】へけれとおほして命婦をまめ
やかに【誠実に】かたらひ給おほつかなうもてはな
れたる【なぜか故意に避け続ける】御けしきなむいと心うきす
き〳〵しきかた【好色めいた人】にうたかひよせ給ふにこそ
あらめ【疑いをお持ちなのだろうか】さりとも【ともかく】みしかき心は え(え)つかはぬも

のを人の心ののとやかなる事なくておも
はすに【意外なことに】のみあるになん【なると】をのつからわかあや
まちにもなりぬへき心 のとかにておやは
らからのもてあつかひ【世話】うらむるもなう心やす
からむ人はなか〳〵なむらうたかるへきを【大事にしてやりたいものを】とのた
まへはいてや【いやあ】さやうにおかしき【興味が惹かれる】かたの御かさや
とり【暫しの雨宿り(恋の立ち寄り所)】にはえしもや【とても】とつきなけに【相応しくないさまに】こそみえ侍
れひとへにものつゝみし【遠慮深く】ひきいりたる【控えめな】かた
はしも【ばしも=でも】ありかたうものし給ふ【稀でいらっしゃる】人になむ【人ですから】と
みるありさまかたりきこゆらう〳〵しう【ろうろうじう=物慣れて行届いていて】かと

めき【かどめき=才気ありげに見え】たる心はなきなめり【ないと見える】いとこめかしう【子供っぽい】お
ほとかならむ【おっとりしている】こそらうたく【大事にしてやりたく】はあるへけれとおほ
しわすれすのたまふ【(源氏は)】わらはやみ【瘧病 注】にわつら
ひ給人しれぬものおもひのまきれも御心の
いとまなきやうにて春なつすきぬ秋の
ころをひしつかにおほしつゝけてかのきぬた
のをともみゝにつきてきゝにくかりしさへ
こひしうおほしいてらるゝまゝにひたちの宮
にはしは〳〵きこへ【ママ】給へと【文をお出しするが】なをおほつかなう
のみあれは【返事が来ないので】よつかす【世付かず=世間並みでなく】心やましう【不愉快で】まけてはや

【注 間欠熱の一種。悪寒、発熱が隔日または毎日、時を定めておこる病気。マラリアに似た熱病。おこり。えやみ。】

まし【負けては止まじ=根負けして止めるつもりはない】の御心さへそひて【加わって】命婦をせめ給ふいか
なるやうそいとかゝる事こそまたしらね【経験したことがない】と
いとものしと【不愉快だと】おもひてのたまへはいとおし【気の毒だ】とお
もひてもてはなれて【相手を避け続けて】にけなき【相応しくないなどという】御事とも
おもむけ侍らす【仕向けたわけではありません】たゝおほかたの御ものつ
つみの【もの慎みの=引っ込み思案が】わりなきに【どうにもならない】て【手】をえさしいて給はぬ
となむみ給 に(ふ)【左に「ヒ」と傍記】る に【左に「ヒ」と傍記】ときこゆれはそれ
こそはよつかぬ事【世付かぬ事=世間知らず】なれものおもひしるまし
きほと【物心のつかない子供】こそさやうにかゝやかしき【照れくさい】も事は
りなれ【ことわり=道理だが】なにごとも 思ひ(思ひ)しつまり給へらん【正常な分別があるであろう】

とおもふこそそこはかとなくつれ〳〵に心ほ
そうのみおほゆるをおなし心にいらへ給はむは
ねかひかなふ心ちなむすへきなにやかやと
よつけるすち【色恋に関連する事柄】ならてそのあれたるすの
こにたゝすまゝほしき【佇んでみたい】なりいとうたて【いよいよ甚だしく】心え
ぬ【納得できない】心ちするをかの御ゆるしなくともたはかれ
かし【計画をめぐらせよ】心いられしうたてあるもてなしにはよも
あらしなとかたらひ給ふなをよにある人【世にときめいている人】の
ありさまをおほかたなるやうにてきゝあ
つめみゝとゝめ給くせのつき給へるをさう

〳〵しき【騒々しき=騒がしい】よひゐ【夜更けまで起きていること】なと に(のイ)はかなき【とりとめのない(話)の】ついてに
さる人こそ【そんな人がいるのか】とはかりきこえいて【噂が漏れ】たりしにかく
わさとかましう【意識的に】のたまひわたれはなまわつ
らはしく【なんだか煩わしく】女君の御ありさまもよつかはしく【好色がましく】
よしめき【訳ありそう】なともあらぬを中〳〵なる【生半可に】みちひ
きに【導きして】いとおしき事【気の毒なこと】やみえなん【にならないか】とおもひけ
れと君のかうまめやかに【誠実な様子で】のたまふにきゝ
いれさ ゝ(ら)むもひか〳〵しかるへし【片意地になっているようだ】ちゝみこおは
しけるおりにたにふりにたる【年月を経て古くなってしまっている】あたり
とてをとなひきこゆる【訪問される】人もなかりけるを

ましていまはあさちわくる【生い茂った茅(ちがや)などを分けて尋ねてくる】人もあとたえたる
にかくよにめつらしく御けはひのもり
にほひくるをはなま女【若くて身分の低い女】はら【如き者】なともゑみまけ
て【笑みまげて=笑顔を作って】なをきこえ給へとそゝのかしたてまつ
れとあさましう【驚くほど】ものつゝみ【遠慮深く引っ込み思案】したまふ心に
てひたふるに【熱心に】み【見】もいれ給はぬなりけり
命婦はさらはさりぬへからんおり【都合のよい折に】にものこし
にきこえ給はむほと御心につかすは【お気に入らないなかったら】さて
もやみねかし又さるへきにて【それ相応の御縁で】かりにもおは
しかよはむをとかめ給へき人なしなとあ

ためきたるはやり心は【浮気で軽率な心だと】うちおもひて【ふと思って】ちゝ
君にもかゝる事なといはさりけり八月廿よ
日よひ【宵】すくるまてまたるゝ月の心もとなき
にほしのひかりはかりさやけく松のこすゑ
ふく風のをと心ほそくていにしへの事
かたりいてゝうちなきなとし給いとよきおり
かなとおもひて御せうそ こ(こ)やきこえつらん【連絡をなさったのだろう】
れいのいとしのひておはしたり月やう〳〵
いてゝあれたるまかき【籬】のほとうとましく【気味悪く】
うちなかめ給ふにきむ【琴】そゝのかされてほの

かにかきならし給ほとけしう【悪く】はあらすゝ
こしけちかう【親しみやすく】いまめきたる気を【当世風ではなやかな感じ】つけは
や【つけたほうが】とそみたれたる心には心もとなく【物足りず】思ひ
ゐたる人めしなき所なれは心やすくいり
たまふ命婦をよはせ給ふいましもおとろ
きかほにいとかたはらいたき【気が咎める】わさかなしか〳〵
こそおはしましたなれつねにかううらみ
きこえ給ふを心にかなはぬよしをのみいなひ【否び=ことわり】
きこえ侍れはみつからことはりもきこえ
しらせんとのたまひわたるなりいかゝき

こえかへさむなみ〳〵のたはやすき【軽々しい】御ふるまひ
ならねは心くるしきをものこしにてきこえた
まはむ事【(源氏が)仰ることを】きこしめせ【お聞きなさい】といへはいとはつかしと
思て人にものきこえむやうも【御挨拶の仕方も】しらぬをとて
おくさま【奥のほう】へゐさりいり給いとわか〳〵しうお
はしますこそ心くるしけれかきりなき【身分の高い】人も
おやなとおはしてあつかひうしろみ【後見】きこえた
まふほとこそわかひ【若び】たまふも事はりな
れかはかり心ほそき御ありさまになをよ
をつきせす【男女の仲の事柄や情を理解せず】おほしはゝかるは【遠慮や心配なさるのは】つきなう【相応しくない】

こそとをしへきこゆさすかに人のいふ事は
つようもいなひぬ【否びぬ=断らない】御心にていらへきこえて【お答え申し上げないで】たゝ
きけとあらはかうし【格子】なとさし【鎖し=錠をおろし】てはありなむ
との給すのこなとはひんなう【具合が悪く】侍なんをした
ちて【無理に我意を張って】あは〳〵しき【軽々しい】御心なとはよも【まさか】なといと
よくいひなしてふたま【二間】のきはなるさうし【障子】
てつからいとつよくさして御しとね【座布団】うち
をきひきつくろふ【取り繕う】いとつゝましけにおほ
したれとかうやうの人【このような(高貴な)人】にものいふらむ心は
へ【心構え】なともゆめ【まったく】しり給はさりけれは命婦の

かういふをあるやうこそはとおもひてもの
し給めのとたつおい人なとはさうしにい
りふしてゆふまとひしたるほとなりわか
き人二三人あるはよにめてられ給ふ御あり
さまをゆかしきものにおもひきこえて心け
さうしあへりよろしき御そたてまつり
かへつくろひきこゆれはさうしみはなにの
心けさうもなくておはすおとこはいとつき
せぬ御さまをうちしのひよういし給へる御
けはひいみしうなまめきて見しらむ人に

こそ見せめはへあるましき【張り合いなど有るはずがないだろう】わたりをあな
いとをし【見ていて気の毒だ】と命婦はおもへとたゝおほとかに【おっとりと】
ものし給ふをそうしろやすう【安心で】さしすきた
ること【出過ぎたこと】はみえたてまつり給はし【御覧に入れることはなさらない】とおもひける
わかつねにせめられたてまつるつみさり
こと【罪・咎を避けるためにする物事】に心くるしき人【気がかりな人(姫君)】の御物思ひ【思い悩むこと】やいてこむ
なとやすからす【不安に】おもひゐたり君は人【姫君】の御ほ
と【身分】をおほせはされくつかへり【甚だしゃれていて】い さ(まイ)やうの【今様=当世風の】よしは
み【よしばみ=上品ぶった様】よりはこよなうおくゆかしうとおほさるゝ
にいたうそゝのかされてゐさりより給へる

けはひしのひやかにえひのか【「衣被」或は「裛衣」の香 注】いとなつかし
うかほりいてゝおほとかなるを【おっとりしているように感じ】されはよ【やっぱりね】とお
ほすとしころおもひわたるさまなといとよ
くの給ひつゝくれとましてちかき御いらへは
たえてなしわりなの わ(わ)さや【あまりにもひどいしわざ】とうちなけき給
   いくそたひ【何度も】君かし ゝ(らイ)まに【あなたの沈黙に】まけぬらむ
ものないひそといはぬたのみにのたまひもす
て ゝ(てイ)よかしたまたすき【事が掛け違って】くるしとのたまふ
女君の御めのとこ【乳母子】しゝう【侍従】とてはやりかなる【調子のよい】わ
か人いと心もとなうかたはらいたしとおもひて

【注 各種の香料を調合して作った薫物(たきもの)の一種。衣服にたきしめる】

さしよりてきこゆ
   かねつきてとちめむことはさすかにて
こたえまうき【答えることがつらい】そかつは【一方で】あやなき【筋が通らない】とわかひ【若び】
たるこゑのことにおもりか【どっしりと落ち着いているさま】ならぬを人つて
にはあらぬやうにきこえなせはほとよりは
あまへてときゝ給へとめつらしきかなか〳〵【かえって】
くちふたかるわさかな
   いはぬをもいふにまさるとしりなから
をしこめたるはくるしかりけりなにやかやと
はかなき事なれとおかしきさまにもまめ

やかにも【誠実な様にも】の給へとなにのかひなしいとかゝるも
さまかはりおもふかたことにものし給ふ人にや
とねたくやをらをしあけていり給ひにけり
命婦あなうたて【あらいやだ】たゆめ【油断させる】給へるといとおし
けれとしらすかほにてわかゝた【我が方】へいにけりこ
のわか人ともはたよにたくひなき御あり
さまのおときゝにつみゆるしきこえてお
とろ〳〵しうもなけかれすたゝ思ひも
よらすにはかにてさる御心もなきをそお
もひけるさうしみ【正身(しょうじみ)=本人】はたゝわれにもあらす

はつかしくつゝましきよりほかの事また
なけれはいまはかゝるそあはれなるかしまた
よなれぬ人のうちかしつかれたるとゆるし
給ふものから心えすなまいとおしとおほ
ゆるさまなりなに事につけてかは御心の
とまらむうちうめかれてよふかういて給ひぬ
命婦はいかならむとめさめてきゝふせりけ
れとしりかほならしとて御をくりにとも
こはつくらす【注】君もやをらしのひていて
給にけり二条の院におはしてうちふし

【注 「こわづくり(声作り)=ふつうとは違った改まった声を出す】

給ひても猶おもひにかなひかたきよ【世:男女の仲】にこそ
とおほしつゝけてかるらか【(身分などが)軽く低いこと】ならぬ人の御ほと【身分】
を心くるしとそおほしける思ひみたれておは
するに頭中将おはしてこよなき御あさい【朝寝】かな
ゆへあらむかし【訳がありそうだ】とこそおもひ給へらるれ【思わざるを得ない】といへ
はおきあかり給て心やすきひとりねのとこ
にてゆるひに【のんびりしている】けりや内より【内裏より(の帰り)】かとの給へはし
か【そうです】まかて侍るまゝなり朱雀院の行幸
けふなんかく人【楽人】まひ人【舞人】さためらるへきよしよへ【昨夜】う
けたまはりしをおとゝ【大臣】にもつたへ申さむとて

なんまかて侍るやかてかへりまいりぬへう【助動詞「べく」の音便形】侍り
といそかしけなれはさらはもろともにとて御か
ゆこはいひめしてまらうと【客人】にもまいり【すすめ】給てひ
きつゝけたれとひとつにたてまつりてな
をいとねふたけ【眠たげす】なりととかめいてつゝかく
い【隠し】給事おほかりとそうらみきこえたまふ
ことゝもおほくさためらるゝ日にてうちにさふ
らひくらし給つかしこにはふみをたにといと
おしくおほしいてゝゆふつかたそありける
あめふりいてゝ所せくもあるにかさやとり

せむとはたおほされすやありけむかしこに
はまつほとすきて命婦もいと〳〵おしき御
さまかなと心うくおもひけりさうしみ【正身】はみこ御心の
うちにはつかしうおもひ給てけさの御ふみの
くれぬれとなか〳〵とか【咎】ともおもひわき【判断する】給
はさりけり
   ゆふきりのはるゝけしきもまたみぬに
いふせさ【気鬱】そふるよひのあめかなくもまゝちいて
むほといかに心もとなうとありおはしますま
しき御けしきを人〳〵【女房達】むねつふれてお

もへとなをきこえさせ給へ【お手紙をさしあげなさい】とそゝのかしあへ
れといとゝおもひみたれ給へるほとにてえ
かたのやう【型式どおり】にもつゝけ給はぬ(ね)【「ぬ」の左に小さく「ヒ」と傍記(見せ消ちか)】はよふけぬとて
しゝうそ【侍従ぞ】れいのをしへきこゆる【申し上げる】
   はれぬ夜の月まつさとをおもひやれ
おなし心になかめせすともくち〳〵にせめられ
てむらさきのかみのとしへにけれははひをく
れ【灰後れ 注】ふるめいたるにて【手】はさすかにもし【文字】つよう
中のさたのすちにてかみしもひとしくかい【書き】
給へりみるかひなううちをき給ふいかに

【注 紫の色がさめる。紫色を染めるのに椿の灰を入れたところから、色があせてくるのを灰の力が不足したとして、おくるといったもの。】【ここに注記を書きます】

おもふらむとおもひやるもやすからすかゝるこ
とをくやしとはいふにやあらむさりとていかゝ
はせむわれはさりとも心なかくみはてゝむと
おほしなす御心をしらねはかしこにはいみしう
そなけい【嘆き】給けるおとゝ夜にいりてまかて
給にひかれたてまつりて大殿におはしま
しぬ行幸のことをけふありとおもほして
きみたちあつまりての給ひをの〳〵まひ
ともならひ給ふをそのころことにてすきゆく
ものゝねともつねよりもみゝかしかまし【やかまし】くて

かた〳〵【お互い】いとみつゝ【張り合って】れいの御あそひならす大
ひちりきさくはち【尺八】のふえなとのおほこゑを
ふきあけつゝたいこをさへかうらん【高欄】のもとにま
ろはし【転がし】よせて手つからうちならしあそひおは
さふす【みな遊んでいらっしゃる】御いとまなきやうにてせちに【どうしてもと】おほ
す所はかりにこそぬすまはれ給へ【密かに通っていたので】かのわたり【あの人のところ】
にはおほつかなく【訪れがなく】てあきくれはてぬなを
たのみこしかひなくてすきゆく行幸ち
かくなりてしかく【注】なとのゝしる【大声をたてる】ころそ命婦
はまいれるいかにそなとゝひ給ひていとおしとは

【注 試楽=公に行うべき舞楽の予行演習】

おほしたりありさまきこえていとかうもて
はなれたる【避け続けている】御心はえは【(そばで)】見給ふる人さへ心く
るしくなとなきぬはかりおもへり心にくゝ【憎らしい程完璧に】
もてなしてやみなんとおもへりしことをく
たいてける心もなくこの人のおもふらんを
さへおほすさうしみのものはいはておほしうつ
もれ給らむ【ふさぎこまれておられる】さまおもひやり給ふもいとをし
けれはいとまなきほとそや【忙しかったのだ】わりなし【やむをえない】とうちなけ
い給てもの思ひしらぬやうなる心さまをこら
さんと【懲らさんと】おもふそかしとほゝゑみ給へるわかう

うつくしけなれはわれもうちゑまるゝ心ちし
てわりなの【どうしようもない】人にうらみられ給ふ御よはひ【年齢】や
おもひやりすくなう御心のまゝ【思いのまま】ならむもことは
りとおもふこの御心いそきのほと【忙しい時期】すく【過ぐ】して
そ時〳〵おはしけるかのむらさきのゆかりた
つねとり給ひてそのうつくしみに心いり
給て六条わたりにたにかれまさり【いよいよ足が遠のき】給ふ
めれ【ように思われる】ましてあれたるやとはあはれそわり
なかりける【どうにもならない】所せき【気づまりな】御ものはち【恥ずかしがり】をみあらはさ
む【見極めようと】の御心もことになくてすきゆくをうち

かへし見まさりするやうもありかしなを
てさくりのたと〳〵しきにあやしう心えぬ
こともあるにやみてしかな【見たいものだ】とおもおほせとけ
さやか【目立つように】にとり【「行」とあるは誤記】なさんもまはゆし【照れくさい】うちとけた
る【くつろいでいる】よひゐ【宵に寝ないで起きていること】のほとやをら【静かに】いり給ひてかうし
のはさまより見たまひけりされとみつ
からはみえ給へくもあらす【見えるはずもない】木丁【几帳】なといたく
そこなはれたるものからとしへにけるた
ちと【立ち処=置く場所】かはらすをしやりなとみたれねは【乱れねば】心も
となくてこたち【御達=女房たち】四五人ゐたり御たい

ひそく【秘色】やうのもろこしのものなれとひと
わろき【他人に対して体裁が悪い】になにのくさはひ【種類】もなくあはれけ【いかにもあられに思われる様】
なるまかてゝ人〳〵くふすみのま【隅の間】はかりにそ
いとさむけなる女 房(はらか?)しろききぬのいひし
らす【何とも言えない】すゝけたる【黒ずんでいる】にきたなけなるしひら【注①】
ひきゆひつけたる【結びつけている】こしつきかたくなしけ【不体裁なさま】也
さすかにくし【櫛】をしたれて【垂らして】さしたるひた
いつきないけうはう【注②】内侍所【注③】のほとにかゝ
るものともあるはやとおかしかけても【ゆめにも】人の
あたりにちかふふるまふものともしりたま

【注① しびら(褶)=下半身にまとうひだの少ない裳(も)の一種。略儀の所用で、主として下級の女房の間に用いられた。】
【注② 内教坊=宮中にあって、舞姫を置き、女楽、踏歌(とうか)などを教習させる所。】
【注③ 宮中の温明殿(うんめいでん)の別名。三種の神器の一つである八咫鏡を安置する所。内侍が常に奉侍する。】

はさりけりあはれさもさむきとしかないのち
なかけれはかゝるよにもあふものなりけりとて
うちなくもありこ宮おはしまししよをな
とてからし【つらい】とおもひけんかくたのみなくて
もすくるものなりけりとてとひた つ(ち)【「つ」の字に「ヒ」と書き込み有】ぬへく
ふるふもありさま〳〵に人わろき事ともを
うれへあへるをきゝ給もかたはらいたけれはた
ちのきてたゝいまおはするやうに【今来たばかりのように】て【格子を】うち
たゝき給ふそゝや【それそれ】なといひて火とりなをし
かうしはなちていれたてまつるしゝうはさい

院にまいりかよふわか人にてこのころはなかり
けりいよ〳〵あやしうひなひたるかきりに
て見ならはぬ【見慣れない】心ちそするいとゝうれふなり
つる雪かきたれ【あたり一面に】いみしう【たいそう】ふりけりそらの
けしきはけしうかせふきあれておほと
なふら【大殿油 注】きえにけるをともしつくる人もなし
かのものにをそはれしおりおほしいてられて
あれたるさまはおとらさめるを【劣らなかったが】ほと【部屋の広さ】のせはう
人気【ひとけ】のすこしあるなとになくさめたれと
すこう【凄う】うたて【ますますひどく】いさとき【眠れなくめざめやすい】心ちするよのさま

【注 大殿(御殿)でともす油火のあかり。】

なりおかしうもあはれにもやうかへて心と
まり【興味を感じる】ぬへきありさまをいとむもれ【引っ込んで】すくよ
かにて【そっけない様で】なにのはへなき【良さが発揮されずさえないこと】をそくちおしうおほ
すからうしてあけぬるけしきなれはかう
してつからあけ給ひて まへ(御まへイ)の前栽の雪
を見給ふみあけたるあともなくはる〳〵
とあれわたりていみしうさむしけ【寂しげ】なるに
ふりいてゝゆかん【振り切って帰る】事もあわれにておかしきほ
とのそらも見給へつきせぬ御心のへたて【壁】
こそわりな【わりなし=わきまえを失っている】けれとうらみきこえ給ふまた

ほのくらけれと雪のひかりにいときよらに
わかうみえ給ふをおい人ともゑみさかへて【満面に笑みをたたえて】見
たてまつるはやいてさせ給へあちきなし
心うつくしきこそなとをしへきこゆれはさ
すかに人のきこゆる【仰る】事をえいなひ【否び=辞退する】給はぬ
御心にてとかう【あれこれ】ひきつくろひてゐさりいて
給へりみぬやうにて【見ないふりをして】とのかた【外の方】をなかめ給へれ
としりめ【後目 注①】はたゝならすいかにそうちとけま
さり【注②】のいさゝかもあらはうれしからむとおほす
もあなかちなる【ひたむきな】御心なりやまつゐたけ【坐っている時の身の高さ】の

【注① 瞳だけ動かして、後方を見やること。】
【注② 隔てをなくしてくつろいだ姿かたちが、きちんとした時よりかえってすぐれて見えること。】

たかうをせなか【を背長=胴長】に見え給ふにされはよ【やっぱりね】とむ
ねつふれぬ【心が非常に痛む】うちつきて【その次に】あな【感動詞】かたわ【不格好】とみゆる
ものははな【鼻】なりけりふとめそとまるふけん
ほさつ【普賢菩薩】ののりものとおほゆあさましうたかう
のひらかにさきのかたすこしたりて【垂りて】いろつき
たる事ことのほか【考えられない程】にうたてあり【嘆かわしい】いろはゆき【雪】
はつかしく【顔負けの】しろうてさ を(おイ)【青白いさま】にひた ひ(いイ)つきこよなう【格別に】
はなたるに【広く】なをしもかち【下勝ち 注①】なるおもやう【面様=生まれつきの顔だち】はおほ
かたおとろ〳〵しう【注②】なかきなるへし【長そうである】やせ給へる
事いとおしけに【可哀そうなまでに】さらほひて【やせ細って】かた【肩】のほとなと

【注① 下半分の方が長く大きいこと。】
【注② いかにも人目を驚かすほど。】

はいたけなる【痛そうに見える】まてきぬのうえまてみゆなにゝ【何で】
のこりなう見あらはしつらむ【すっかり見てしまったのだろう】と思ものからめつ
らしきさまのしたれはさすかにうちみやられた
まふかしらつきかみのかゝりは【懸り端 注】しもうつくし
けにめてたしとおもひきこゆる人〳〵 も(◦に)お
さ〳〵【めったに】おとるましううちき【袿】のすそにたまり
てひかれたるほと一尺はかりあまりたらん【余っている】
とみゆきたまへるものともをさへいひたつるも
ものいひ【物の言い方】さかなき【意地が悪い】やうなれとむかしものか
たりにも人の御さうそく【装束】をこそまついひた

【注 長い髪の垂れかかった具合】

めれ【言ったものである】ゆるしいろ【注①】のわりなう【すっかり】うはしらみ【上白み 注②】たるひ
とかさねなこりなう【以前の色の名残もないほど】くろきうちきかさねてう
はきにはふるき【黒貂 注③】のかはきぬ【皮衣】いときよらにかうは
しき【香ばしき】をき給へりこたい【古代】のゆへ【由緒】つきたる御
さうそくなれとなをわかやかなる女の御よそ
ひにはにけなう【ふさわしくなく】おとろ〳〵しき【人目に立つ】事いともては
やされたりされとけに【げに=実に】このかはなうてはた【やはり】さ
むからましとみゆる御かほさま【お顔の様子】なるを心くる
し【気の毒だ】と見給ふなに事もいはれ給はすわれさ
へくちとちたる心ちし給へとれいのしゝま【無言】も

【注① 誰でも用いてよい衣服の色。】
【注② 表面の色が褪せて白っぽくなる。】
【注③ くろてん(黒貂)の古語。】

こゝろみむとてとかう【あれこれ】きこえ給ふに【仰せになられたが】いたうは
ちらひてくちおほひしたまへるさへひなひ【鄙び】ふる
めかしうこと〳〵しく【仰々しく】きしき【儀式】官のねりいてたる【ゆるりゆるりと歩み出る】
ひちもち【肘持ち 注①】おほえて【思い出されて】さすかにうちゑみ給へる
けしきはしたなう【無作法で】すゝろひ【注②】た る(り)【「る」の字の中に「ヒ」と記入】いとおし
くあはれにていとゝいそきいて給ふたのもし
き人なき御ありさまをみそめたる人には
うとからす思ひむつひ給はんこそほいある心ち
すへけれゆるし【受け入れる】なき御けしきなれはつら
うなとことつけて

【注① 肘を張って行く有様。扇や笏(しやく)などを持って肘を横に張った姿勢。ひじつき。】
【注② すずろ(漫)う=何となく落ち着かず、そわそわした様子をする】

   あさ日さすのきのたるひ【垂氷】はとけなから【溶けるのに】
なとかつららのむすほゝる【凝固する】らんとの給ひ【「ひ」の字の中と左側に「ヒ」と記入】へと
たゝむゝとうちわらひてくちおもけなる
もいとをしけれはいて給ひぬ御車よせたる
中門のいといたうゆかみよろほひて【今にも倒れそうで】よめ【夜目】にこ
そしるきなからもよろつかくろへたる【表立っていない】事おほ
かりけれいとあわれにさひしくあれまとへる【ひどく荒れている】に
まつの雪のみあたゝかけにふりつめるやま
さとの心ちしてものあはれなるをかの人〳〵の
いひしむくらのかと【葎の門 注】はかうやう【このよう】なる所なりけん


【注 むぐらの生い茂っている門。荒れた家や貧しい家をいう。】

かしけに心くるしく【気の毒で】らうたけならん人【注①】をこゝ
にすゑてうしろめたう【気が咎める程】こひしとおもはゝや
あるましきもの思ひはそれにまきれなむ
かしと思ふやうなるすみかにあはぬ御あり
さまはとるへき所なしとおもひなからわれならぬ
人はましてみしのひてむや【注②】わかかうて【注③】見な
れけるはこ【故】みこのうしろめたし【将来が気掛かりだ】とたくへをき【一緒に居させ】
給ひけむたましひのしるへ【導き】なめりとそおほ
さるゝたちはなのきのうつもれたるみす
いしん【御随身】めしてはらはせ給ふうらやみかほに松


【注① 心ひかれていとおしく思われるような人】
【注② 見忍びてむや=見てこらえるだろうか】
【注③ 「かくて」の変化した語。このようにして】

の木のをのれおきかへりてさと【さっと】こほるゝ雪
もなにたつすゑの【注①】とみゆるなとをいとふかゝ
らすともなたらかなるほとにあひしらばむ【応対する】
人もかなとみたまふ御車いつへきかと【門】はまた
あけさりけれはかき【鍵】のあつかりたつねいて
たれはおきなのいといみしきそいてきたる
むすめにやむまこ【孫】にやはしたなる【どっちつかずの】おほき
さの女のきぬはゆきにあひてすけまと
ひさむしと思へるけしきふかうてあやし
きもの【不審な物】に火をたゝほのかにいれて袖くゝみ【注②】

【注① 『後撰和歌集』六八三番 の歌「和が袖は名に立つ末の松山か空より浪の越えぬ日はなし」のうたをさしている。ここでは歌意に関係なく、三、四、五句を、現在の情景と結びつけ、松の枝からこぼれる雪を波に見立てて興じたもの。】
【注② 袖で包むようにすること】

にもたり【もっている】おきなかと【門】をえあけやらねはより
てひきたすくるいとかたくなゝり御ともの
人よりてそあけつる
   ふりにけるかしらの雪をみる人も
おとらすぬらすあさの袖かなわかきものはか
たちかくれすとうちすし【注】給ひてはなの色
にいてゝいとさむしと見えつる御おもかけ
ふと思ひいてられてほゝゑまれ給ふ頭中
将にこれをみせたらんときいかなる事をよ
そへいはむつねにうかゝいくれはいまみつ か(け)【「か」の左に「ヒ」と記す】られ

【注 ずじ(誦じ)=経・詩文など定まった読み方でよむものを、声を出して読む。】

なんとすへなう【注】おほすよのつねなるほと
のことなる事なさ【無さ】ならはおもひすてゝもやみ
ぬへきをさたかに見給ひてのちは中〳〵あ
はれにいみしくてまめやかなるさまにつねに
をとつれ給ふるき【黒貂の古語】のかは【皮】ならぬきぬあやわた
なとおい人【老人】とものきるへきものゝたくひかのお
きなのためまてかみしもおほしやりて
たてまつり給かやうのまめやか事もはつ
かしけならぬを心やすくさるかたのうしろみ
にてはくゝまんとおもほしとりて【決心して】さまこと

【注 すべなう(術なう)=「すべなし」の連用形「すべなく」のウ音便。なすべき方法がなくてせつない】

にさならぬうちとけわさ【注①】もし給けりかのうつ
せみのうちとけたりしよひのそ ◦(は)め【注②】にはいと
わろかりしかたちさまなれともてなしに
かくされてくちおしう【期待はずれ】はあらさりきかし【なかったよ】おとる
へきほとの人なりやはけにしな【品=身分】にもよら
ぬわさなりけり心はせのなたらかにねたけ
なりしをまけてやみにしかなとものゝおり
ことにはおほしいつとしもくれぬ内のとのゐ
所におはしますにたいふの命婦まい
れり御けつりくし【梳り櫛 注③】なと(ことイ)にはけさうたつ【注④】

【注① 気を許して、隔てをなくした振る舞い。】
【注② そばめ(側目)=斜めから見ること。】
【注③ 櫛で髪をとかすこと。またその櫛。】
【注④ はっきりと恋心を示す。】

すちなく心やすきものゝさすかにの給
たはふれなとしてつかひならし【注①】給へれは
めし【召し】なき時もきこゆへき【報告すべき】事あるおりはまう
のほりけり【参上した】あやしきことの侍をきこえさ
せさらむもひか〳〵しう【片意地になっていると】おもひ給へわつらひて
とほゝゑみてきこえやらぬをなにさまのこ
とそわれにはつゝむ事【包み隠す事】あらしとなむおもふ
との給へはいかゝはみつからのうれへはかしこくとも【恐れ多くとも】
まつこそは【すぐに報告しますが】これはいときこえさせにくゝなん
といたうことこめ【注②】たれはれいのえんなる【思わせぶりな】と

【注① 自分やその仕事に慣れさせる】
【注② 言籠め=口ごもる】

にくみ給かの宮より侍る御ふみとてとりい
てたりましてこれはとりかくすへき事かは
とてとり給ふもむねつふるみちのくにか
み【紙】のあつこえ【厚肥え】たるににほひはかりはふかうし
めたまへりいとようかきおほせたり ら(う)たも
   からころも君か心のつらけれは
たもとはかくそそほち【注】つゝのみ心えす【理解できず】【首を】うち
かたふき 給へるに つゝみにころもはこのおも
りかに【重そうに】こたい【古体=古風】なるうちをきてをしいてたり
これをいかてかはかたはらいたく【気がひける】おもひ給へさらん

【注 しみて内部まで濡れる】

されとついたちの御よそひとてわさと
侍めるをはしたなう【ぶしつけに】はえかへし侍らすひ
とりひきこめ侍らむも人の御心たかひ侍へ
けれは御らんせさせてこそはときこゆれはひ
きこめられなむはからかりなまし【つらいだろう】袖まきほ
さむ人【注】もなき身にいとうれしき心さしに て(こ)
そはとのたまひてことに【特に】ものいはれ給はす
さてもあさましの【あきれた】くちつき
やこれこそはてつからの御事のかきりなめれ侍従こそと
りなをすへかめれまたふて【筆】のしりとる

【注 袖枕干す人=涙にぬれた袖を枕に共寝して、自然にかわかしてくれる人】

はかせ そ(そイ)なかるへ(なかへきイ)きといふかひなくおほす心
をつくしてよみいて給つらむほとをおほす
にいともかしこしとはこれをそいふへかりけり
とほゝゑみてみ給ふを命婦おもて【顔】あ
かみてみたてまつるいまやう【今様】いろのえゆるす
ましくつやなうふるめきたるなおし【直衣】のうら
うえひとしうこまやかなるいとな を(ほイ)〳〵し
う【平凡な】つま〳〵【端々】そ見えたるあさまし【興ざめだ】とおほす
にこのふみをひろけなからはしに【端に】てならひ
すさひたまふをそはめ【側目=斜めから見ること】にみれは

なつかしき色ともなしになにゝこの
すゑつむはなを袖にふれけんいろこきは
なと見しかともなとかきけし給ふはな
のとかめをなをあるやう【事情】あらむとおもひあ
はする【あれこれ考え合わせる】おり〳〵の月かけなとをいとおし
きものからおかしうおもひなりぬ
     くれなゐのひと花ころもうすくとも
ひたすらくたすな【けがす名】をしたてす【立てず】は心くる
しのよやといといたうなれてひとりこ
つ【独り言】をよきにはあらねとかうやう【かよう(斯様)】のかいなて【通りいっぺんであること】

にたにあらましかは【あったのなら】とかへす〳〵くちおし人
のほとの心くるしきにな【名】のくちなむはさす
かなり人〳〵まいれは【来たので】とりかくさんや【取って隠そう】かゝるわ
さは人のするものにやあらむとうちうめき【溜息をつき】給
ふなに ゝ(かはイ)【どうして】御らんせさせつらん【お見せしたのだろう】われさへ心なき【思慮がない】
やうにといとはつかしくてやをら【静かに】おりぬ【退去した】又の
日うへにさふらへはたいはむ【台盤】所にさしのそき【ちょっと顔出しする】
給てくはや【ソラ】きのふのかへり事あやしく【何だか】心は
みすくさるゝとて【文を】なけ給へり女はらたち【女輩達=女の人々】
なに事ならんとゆかしかる【知りたがる】たゝ梅の花の

いろのことみかさの山のをとめこはすてゝと
うたひすさひて【注①】いて給ひぬなを命婦は
いとおかしとおもふ心しらぬ人〳〵はなそ【なぞ 注②】御ひと
りゑみはととかめあへりあらす【いえ】さむき霜あ
さにかいねり【注③】このめるはなのいろあひやみえ
つらん御つゝしりうた【嘰(つづし)り歌 注④】のいとおかしきとい
へはあなかちなる【注⑤】御事かなこのなかにはにほ
へう【ママ】はなもなかめりさこむ【左近】の命婦ひこ【肥後】の
うねへ【注⑥】やましらひ【交じらひ】つらんなと心もえすいひ
しろふ【注⑦】御かへりたてまつりたれは宮には女


【注① 慰み半分に歌う。】
【注② どうして】
【注③ 搔練り=砧(きぬた)でよく打って練ったり、のりを落として柔らかくした絹織物。紅色のものについていうことが多い。】
【注④ 口の中でもぐもぐと歌う歌。】
【注⑤ 独り合点の】
【注⑥ うねべ=うねめ(采女)に同じ。】
【注⑦ 互いに言い合う。】

房(はうイ)つとひてみめて【注①】けり
   あはぬよをへたつるなかのころもてに
かさねていとゝみもしみよとやしろかみにす
てかい【注②】給へるしもそなか〳〵おかしけなりつ
こもりの日のゆふつかたかの御ころもはこに御
れう【注③】とて人のたてまつれる【注④】御そ【注⑤】ひとく【注⑥】えひ
そめのをりものゝ御そ又山ふきかなにそ
いろ〳〵みえて命婦そたてまつりたるあ
りしいろあひをわろしとや見たまひけんと
おもひしらるれとかれ【あれ】はた【やはり】くれなゐのおも

【注① 見愛で=みて素晴らしいと思う。】
【注② すてかい=「捨て書き」に同じ。無造作に書くこと。】
【注③ 御料=天皇や貴顕の人が所有、または、使用するもの。主として衣服、飲食物、器物なぢについていう。】
【注④ 人から献上された】
【注⑤ 御衣(おほむぞ)=お召物】
【注⑥ ひとぐ(一具)=(「具」は衣服、器具などを数えるのに用いる語。)一そろい。一組。一式。】

〳〵しかりしをやさりともき た(えイ)しとねひ
人【注①】ともはさだむる御うたもこれよりのはことはり【筋道】
きこえてしたゝかにこそあれ御かへり【返歌】はたゝ
おかしきかたにこそくち〳〵にいふひめ君も
おほろけならて【注②】しいて【注③】給へるわさ【注④】なれはも
のにかきつけてをき給へりけりついたち
のほとすきてことしおとこたうか【注⑤】あるへけ
れはれいの所〳〵あそひのゝしり給にもさは
かしけれとさひしき所のあわれにおほ
しやら ◦(る)れはなぬかの日のせちゑはてゝ夜に

【注① 年老いて経験を積んだ人】
【注② 並々でなく。】
【注③ 為出で=作り上げる。】
【注④ 詠歌の意】
【注⑤ 男踏歌(おとこどうか)=正月十四日に行われる男の踏歌。踏歌(とうか)とは平安時代以降正月に宮中で行なわれた行事で、歌い、舞い、足踏みして踊ること。十六日が女踏歌。】

いりて御せん【前】よりまかて給けるを御との
ゐ所にやかてとまり給ぬるやうにてよふ
かしておはしたりれいのありさまよりは
けはひうちそよめき【注①】よついたり【注②】君もすこ
したをやき【注③】給へるけしきもてつけ【注④】た
まへりいかにそ【注⑤】あらためてひきかへ【注⑥】たらんと
きにとそおほしつゝけらるゝ日さしいつる
ほとにやすらひ【注⑦】なしていて給ふひむかしの
つまとをしあけたれはむかひたるらう【廊】の
うえ【注⑧】もなくあはれ【注⑨】たれはひのあしほとなく


【注① 「うち」は接頭語。きぬずれや人のざわめきのかすかな音がする。】
【注② 「世付いたり」=世間並みになった】
【注③ 「たをやぐ」=物柔らかになる。しなやかに見える。】
【注④ 心にかけてとりつくろう。】
【注⑤ どうだ。】
【注⑥ ひきかえ=すっかり変える】
【注⑦ 思案してどうしょうかと迷うこと】
【注⑧ 屋根】
【注⑨ あばれる=(住居などが)荒れてこわれた所がある。】

さしいりてゆきすこしふりたるひかりに
いとけさやかに【注①】見いれらる御なをし【直衣】なとた
てまつるを見いたしてすこしさしいてゝかた
はらふし給へるかしらつき【注②】こほれいてた
る【注③】ほとめてたしおひなをり【注④】見いてたらん
時とおほされてかうし【格子】ひきあけ給へり
いとおかしかりしものこり【注⑤】にあけもはて
給てけうそく【脇息】をゝしよせてうちかけて
御 ひくき(ひんくきイ)【注⑥】のしとけ【「しとけ」の左に「ヒヒヒ」と傍記】しとけなき【注⑦】をつくろ
ひ給ふわりなく【注⑧】ふるめきたるきやうた

【注① けざやか=はっきりしている。】
【注② 頭付き=(頭髪も含めた)頭全体のかっこう。】
【注③ 外に現れ出る】
【注④ 「おひなほり(生い直り)」=成長して性格などが、以前より改まること。】
【注⑤ ものごり(物懲り)=物事に懲りること。】
【注⑥ 鬢茎=結い上げた鬢髪の毛筋。】
【注⑦ 無造作である。】
【注⑧ どうしょうもなく。】

いのからくしけ【注①】か ら(かゝイ)けのはこ【注②】なととりいて
たりさすかにおとこの御く【具】さへほの〳〵【注③】あ
るをされておかしと見給ふ女の御さうそく
けふはよつき【注④】たりとみゆるはありしは
この心はへをさなからなりけりさもおほし
よらすけふ【興】あるもん【紋 注⑤】つきてしるき【注⑥】うはき
はかりそあやしとはおほしけることしたに
こゑすこしきかせ給へかしまたるゝものは
さしをかれて御けしきのあらたまらんなん
ゆかしきとのたまへはさえつるはるはとから


【注① 唐櫛笥=(唐は中国風の意)櫛などを入れておく立派な箱。】
【注② かかげのはこ(掻上の箱)=日常の結髪道具などを入れる箱。】
【注③ 少しは】
【注④ 世付く=世間並みの様子。】
【注⑤ 綾に織り出した模様。】
【注⑥ きわだっている。】

うしてわなゝかしいて【注①】たりさりや【注②】としへ
ぬるしるしよとうちわらひ給て夢かとそ
みるとうちす【誦】していて給ふをみをくりて
そひふし【注③】給へりくちおほ い(ひ)【「い」の字の中に「ヒ」と記入。】のそはめよ
りなをかのすゑつむはないとにほひや
かにさしいてたり見くるしのわさやとお
ほさる二条院におはしたれはむらさきの
君いともうつくしきかたおひ【注④】にてくれ
なゐはかうなつかしきもありけりとみ
ゆるにむもん【無紋】のさくらのほそなか【注⑤】なよゝか【注⑥】に

【注① ふるえ声を出す。】
【注② その通りだ。】
【注③ (物や人に)寄り添って寝る。】
【注④ 片生ひ=十分に成長していないこと。】
【注⑤ 細長=貴族のこどもの装束。】
【注⑥ 衣服など柔らかな感じのするさま。】

きなしてなに心もなくてものし給ふ【注①】
さまいみしうらうたしこたいのをいきみ
の御なこりにてはくろ【歯黒】めもまたしかりけ
るをひきつくろはせ【注②】給へれはまゆ【眉】のけさ
やかに【けざやかに=くっきりと】なりたるもうつくしうきよらなり
心からなとか かよう(かう)【「かよう」の左に「ヒヒヒ」と傍記】うきよを見あつかふ【注③】
らむかく心くるしきものをもみてゐたらて
とおほしつゝれいのもろともにひひなあ
そひし給ゑなとかきていろとり給よ
ろつにおかしうすさひちらし【注④】給けり

【注① 居らっしゃる】
【注② きちんと整えさせ】
【注③ 男女の仲を見てもてあます。】
【注④ 気の向くままに書き散らし。】

われもかきそへ給ふかみ【髪】いとなかき女
をかき給ひてはな【鼻】にへに【紅】をつけて見
給ふにかたに【注①】かきてもみまうき【注②】さまし
たりわか御かけのきやうたいにうつれる
かいときよらなるを見給ててつからこ
のあかはなをかきつけにほはし【注③】て見給ふ
にかくよきかほたにさてましらむは見く
るしかるへかりけりひめ君みていみしく
わらひ給まろかかくかたは【注④】になりなむと
きいかならむとのたまへはうたて【注⑤】こそあらめ


【注① 形だけを描いたもの】
【注② 見ま憂し=見るのも嫌である。】
【注③ 彩る。】
【注④ 片端=不恰好。】
【注⑤ 情けなく。】

とてさもや【注①】しみつかむとあやうく【注②】思ひた
まへりそらのこひ【注③】をしてさらにこそしろ
まね【注④】ようなきすさひわさ【注⑤】なりや内にい
かにのたまはむとすらんといとまめやかに【注⑥】
の給をいと〳〵おしとおほしてよりての
こひ給へはへいちう【注⑦】かやうにいろ【墨の色】とりそへ給
なあからんはあえなん【注⑧】とたはふれ給さま
いとおかしきいもせとみえ給へり日のい
とうらゝかなるにいつしかと【注⑨】かすみわ
たれるこすゑともの心もとなきなかにも


【注① その通りに~するかもしれない。】
【注② 不安に】
【注③ ふき取るふり。】
【注④ 一向に白くならない。】
【注⑤ 遊び事】
【注⑥ いかにも真面目に。】
【注⑦ へいぢう=『平中物語』(平安時代に成立した歌物語)の主人公。 平中は、女を訪れるときに、硯の水入れを持参して、目をぬらしてなくふりをして。女が水入れに墨を入れておいたので、平中の顔は真黒になったという話がある。】
【注⑧ 我慢できるだろう。】
【注⑨ いつの間にか。】





むめはけしきはみ【注①】ほゝゑみわたれるとり
わきて見ゆはしかくし【注②】のもとのこう
はひ【紅梅】いととくさくはなにていろつき
にけり
   くれなゐ に(の)【左に「ヒ」と傍記】はなそあやなく【注③】うとまるゝ
むめのたちえ【立枝】はなつかしけれといてや【注④】と
あいなく【注⑤】うちうめかれ【注⑥】給かゝる人〳〵のす
ゑ〳〵いかなりけん


【注① つぼみがふくらむ。】
【注② 寝殿などの正面の階段を覆うために差しだした屋根。】
【注③ 理由なく】
【注④ いやもう。なんとまあ。】
【注⑤ むしょうに】
【注⑥ 溜息をつき】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【見返し】

【裏表紙】

【背表紙の写真】

【冊子の天或は地から撮った写真】

【冊子の小口の写真】

【冊子の天或は地から撮った写真】

BnF.

【表紙】

1059 A
correspondant aux
Recueils de
Dialogues hollandais
et japonais
    1059 B
    1059 C
  → Jap.313

【文字なし】

【文字なし】

【アクサンは省略します。文頭は大文字にし、文尾にはピリオドをつけました。】
【右上隅】226【アンダ-ライン】【右下ページ番号】1

31【大文字に見える部分不明】
    Premier Dialogue
entre un homme d'un age mur et an apprentif.
1 Pourquoi ne venez vous plus me voir a present?
2 Puisque je passe mon tems a l'etude.
3 C'est bon que c'est l'etude que vous empehe de
venir me voir depuis tant de tems.
4 Je vous suis oblige de votre compagnie.
5 Qui est votre maitre, ou votre maitre comment
se nomme t'il?
6 Mon maitre se nomme T, mais depuis quelques
jours J'ai promi a mes amis de nous assembler
vous apprendre.
7 Votre maitre en est il bien informe?
8 Oui, il le sait bien et se rejouit de ma deligence.
9 Moi de meme, Combien de fois vous assembler
vous par mois?
10 Six fois par mois.
11 Allez vous toujours au meme endroit, ou cela
change t'il chaque fois?
12 Nous nous assemblons tantot a la maison de
l'un, tantot a celle de l'autre.
13 Qui a commence le premier ces comparitions
ou assemblees?
14 N. a commence le premier.
15 A quelle heure vous vous assemblez vous?
16 J'y vais l'apresmidi et reste jusqu'au soir.
17 Vous en allez vous directment apres vos etudes?
18 Oui, je retourne de bonne heure a la maison car lorsqu'il est devenu trop tard mon pere
me gronde.
19 Pourqoi cela?
  R.C.5742
【朱蔵書印二つ】

20 Puisqu'il craint que j'ai ete au bordel.
21 Il a raison: on peut jouir a son aise de ces plaisirs dans l'age mur, c'est le contraire
avec l'etude, il faut tacher de s'y applique
dans sa jeunesse.
22 Je pense de meme, c'est pour cela qu'il faut
que je m'applique constamment.
23 En agissant ainsi ton pere sera a son aise:
n'as tu rien appri de nouveau a ton club?
24 Oui, j'ai appri quelques nouvelles, mais
vous les dirai une autre fois, car mon tems
est ecoule en causant.
25 Vou vous en allez donc?
26 Oui, je m'en vais.
27 Restez encore un peu.
28 Non, je reviendrai te voir dans peu.
29 Porte toi bien donc jusqu'a revoir.
30 Je suis votre serviteur.
31 Et moi, le votre.
   Second Dialogue.
entre un habitant d'Osaka et un natif
   de Nagasaki
1 De qu'elle contree venez vous?
2 Je viens d'Osaka.
3 Pourquoi etes vous venu a Nagasaki?
4 Pour tout voir.
5 Ou etes vous loge.
6 J'ai eu a Nagasaki un Parent chez qui ju loge.
7 Votre parent ou demeure t'il?
8 Il demeure dans la rue Sakay Matje(?).
9 Qu'elle pratique du commerce faites vous a Osaka?
10 Je traffique en etoffes.


【ページ番号】2
11 Avez vous ete souvent ici a Nagasaki?
12 Non, j'y viens cette annee pour la premier fois.
13 Venez vous seul?
14 Oui, je ne'ai personne avec moi.
15 Avez vous des enfans?
16 Oui, j'en ai deux, dont l'un est une fille
17 Pourquoi ne menes vous donc pas vos enfans
avec vous?
18 Puisqu'ils sont encore trop jeunes.
19 Quel age ont ils?
20 Le fils a treize, la fille a onze ans.
21 Avez vous ete voir tout?
22 Oui, j'ai vu tous les endroits et les temples,
principalement les Hollandais et Chinois, j'en
suis bien aise, puisque'a present je me trouve en
etat de donner un detail de mes procedes.
23 Nagasaki n'a rien de curieux si non que celle
annee ci il n'y a point de vaisseau Hollandais
ni de Jonques Chinoises.
24 Dans quel tems les vaisseau Hollandais par-
tent ils de Vatavia pour le Japon?
25 Ils vont de la au mois de Juin, et arrivent ici
sur la fin de Juillet ou au commencement d'Aout.
26 Dans quel mois partent-ils d'ici?
27 Au mois d'Octobre.
28 Quels articles les vaisseaux emportent ils pour
Batavia?
29 Ils chargent principalement du cuivre et du
Camphre, et plusieurs autres articles en retour.
30 D'ou vient le Cuivre et le camphre?
31 Le cuivre vient de la Province Akita, et le
Camphre de celle de Satsuma.

32 Quelle est la cause que les Hollandais,qui au
paravant firent leur commerce a l'Isle de
Firando ont abandonnes celle factorie, et se
sont etablies ici?
33 Je n'en sais pas bien la cause, pourtan on m■
fait entendre que c'est a caus que la ville de
Nagasaki est une premiaire(premiere?) domaine Imperial
et surtout qu'elle et bien situee pour le commerce.
34 Je le comprends a present: a combien de lieux
le Japon est il de Batavia?
35 Environ ,,, lieux.
36 Je crois que les Hollandais sont souvent en
denger dans leur voyages au Japon.
37 C'est comme vous l'observez, car il y a quelque
annees qu'un vaisseau ■ affale a l'Isle de
Goto apres avoir souffert beaucoup d'une tem-
pete
38 Comment en a t'on conduit ici les debris?
39 On l'a amene ici de Goto, et on l'a demoli pour
le mettre en vente.
40 A quoi s'est on servi des poutres et des planches?
41 Pour consrire【construireヵ】des barques.
42 Je veux m'en aller.
43 Causez encore un peu, restez encore quelque tems.
44 Le tems m'appelle.
45 Pour quoi?
46 Je dine aujourd'hui chez N.
47 Le connaissez vous aussu?
48 Oui, je le connais fort bien.
【頻出するtemsはtempsに同じと思われる】

【ページ番号】3
49 Comment avez vous fait sa connaissance?
50 C'est un ancien ami de mon Parent, a cause de
cela il m'a pres aussi en amitie.
51 Y allez vous aujourdhui?【aujourd'hui】
52 Oui.
53 Quand reviendrez vous?
54 Je serai de retour chez vous apres demain.
55 Est ce vrai?
56 Je suis un homme digne de fois, comment pour-
rais je parler de deux bouches?
57 Vous avez raison, mais il y a des gens qui ne tiennent jamais leurs promesses.
58 C'est vrai, mais ma parole est inebranlable
comme un rocher.
59 Je vous dirais donc adieu, adieu j'usqu'apres de-
main.
60 Je vous le souhaite de meme, adieu.
  Troisieme Dialogue
 entre Deux Amis.
1 Monsieur est il chez lui?
2 Qui est la?
3 Je viens vous voir .
4 Je vous en remercie, entrez au Salon.
5 Comment vous portez vous?
6 Je me porte bien, pour vous servir.
7 C'est strange que vous vous trouvez aujourdhui chez vous.
8 Je serais sorti, mais a l'improviste des occupations
indispensables survenues, c'est a cause de cela
que je suis reste chez moi.

9 J'en suis fache.
10 Etes vous sorti aujourdhui pour vous amuser?
11 Non,il y a longtems【=longtemps】 que ju n'ai ete nulle pars.
12 Hier j'ai ete a la compagne pour chercher de champignons, et m'y suis fort amuse.
13 Vous vous y etes amuse beaucoup, mais avez vous trouve des champignons?
14 Non, point du tout,ils sont trop loin dans le ■.
15 Je les crois encore trop rares pour en trouver.
16 Vous dites vrais.
17 Hier j'ai appri de N. que votre mere a ete in-
commodee dernierment, est elle deja retablie?
18 Oui, elle se porte mieux, mais ne se leve pas
encore.
19 Pardonnez que je n'ai pas ete la voir, que
est son mal?
20 Elle a la pleuresie.
21 Moi aussi j'ai en la pleuresie il y a dix jours.
C'est pourquoi j'ai en recours a bruler du moxa.【moxa=もぐさ】
22 Oui se bruler le moxa est le meilleur reme■
pour guerir la pleuresie.
23 C'est vrai, mais ne voulez vous pas boir du
Saki?【Saki=酒ヵ】
24 S'il vous plait, mais je suis extremement
confus que vous me regalez si souvent.
25 C'est trop honnete.
  entre le maitre et son valet
  viens ici
  Que vous plait il?
  Apportez du Saki et des friadeses
  comme il vous plait.

【ページ番号】4
26 Veuilles commencer par cette jatte.
27 Non, buvez auparavant.
28 J'en gouterai donc, et vous la remettrai.
29 A votre sante.
30 Je vous suis oblige.
31 Je vous dirai quelque chose de nouveau.
32 Qu'elle nouvelle apportez vous?
33 J'ai appri qu'il y a apresent un spectacle au villge Woerakami.
34 De qu'elle contree vient il?
35 D'Itsuki de la Province Boengo.
36 Je crois que ce spectacle sera bon.
37 Moi de meme, c'est pourquoi je veux y aller
dans peu.
38 Demain, se vous n'etes pas occupe, ou s'il fait
beau je vais avec vous.
39 C'est bon, mais a nous deux ce sera trop solitaire .
prendrai je pour cela N. avec nous?
40 S'il vous plait: mais comment ferons nous avec
les provisions et le boisson?
41 Moi je me charge seulment des provisions.
42 Et moi du boisson.
43 A qu'elle heure partez vous pour Woerakami?
44 Apres le dejeuner.
45 Je serai donc de bonne heure chez vous.
46 S'il vous plait.
47 Envoirez vous un commissionaire chez N.?
48 Faites le prier en votre nom.
49 J'y irai directement pour l'en prevenir.
50 Non, il ne faut pas que vous y alliez vous meme
mais faites l'en prevenir par un billet.

51 C'est bon, je ferai comme vous desirez.
52 Ne voulez vous pas encore boire un coup?
53 Non, j'ai bu assez.
54 Ne voulez vous pas souper?
55 Non, je vous suis oblige, le Saki m' echauffe.
56 Ne pouvez vous pas souper apres boire?
57 Je ne soupe jamais apres avoir bu beaucoup.
58 Ce n'est pas bon, pour l'estomac
59 Je crois que c'est vrai: je m'en vais.
60 Je suis tres charme d'avoir cause aujourdhui
si longtems avec vous.
61 Je vous suis oblige de votre bon acceuil.
62 Ayez la bonte d'etre demain de bonne heure
chez moi avec N.
63 Bon, je vous souhaite une bonne nuit.
64 Moi de meme, portez vous bien.
  Quatrieme Dialogue
 Avec un Ami qu'on n'a pas vu depuis
      longtems.
1 je viens vous voir.
2 Ha! soyez le bienvenue mon bon ami.
3 Comment vous va t'il?
4 Je me trouve toujours bien.
5 C'est bien heureux.
6 Pourquoi n'etes vous pas venu me voir depuis
si longtems.
7 J'ai ete malade depuis longtems.
8 Est ce vrai?
9 Oui, vraiment.
10 Ou ne m'en a rien dit, c'est pourquoi je ne le savais pas.

【ページ番号】5
11 Je vous en voulais.
12 Je vous prie de me pardonner.
13 Je vous pardonne puisque vous ne l'avez pas su.
14 Qu'elle etait votre maladie?
15 J'etais incommode beaucoup d'une diarrahee.
16 Combien de jours avez vous ete au lit?
17 Vingtcinq jours environ.
18 Je crois que vous etes beaucoup affaibli.
19 Oui, c'est pourquoi j'ai desire quelqu'un pour
dissiper mon ennui.
20 Mais pourquoi ne m'avez vous pas fait venir?
21 Comment pouvais je insister de venir me voir
etant malade?
22 Ne suis je donc pas ton sincere ami?
23 Oui.
24 Qu'elle en est donc la cause?
25 Ne le sentez vous pas encore?
26 Non mon bon ami.
27 Les vrais amis on les eprouve au besoin.
28 Je le sais bien, mais ne le crains pas.
29 Ce n'est qu'un badinage.
30 Je vous fais mon compliment d'etre retabli si tot.
31 Je vous suis infiniment oblige.
32 Avez vous vu N?
33 Non, je ne l'ai pas vu depuis longtems.
34 Il est marie.
35 Qui epousait il?
36 La fille de M.
37 Lui a t'elle apporte de l' argent?

38 Oui, elle lui a apporte ---.
39 C'est un tres bon marriage.
40 Je pense de meme.
41 Mons【Monsieurの略ヵ】N quel age a t'il?
42 Il a vingt an.
43 La fiancee qeul age a t'elle?
44 Ella n'a pas encore dixhuit ans.
45 Voila un couple charmant.
46 Je pense qu'apresent les deux Maisons
seront au comble de la joie.
47 Avez vous ete lui faire vos complimens【compliments:t脱ヵ】?
48 Oui j'y suis ete il y a deja longtems.
49 J'y vais donc demain. Avec quoi lui avez vous
compliments, ou, que lui avez vous offert en compliment?
50 Je lui offrais des friandises.
51 Je lui en offrirai donc de meme.
52 Je vous conseille de lui offrir quequ'autre chose.
53 Et quoi?
54 Une grande Creme.
55 Je vais a Moesasi.
56 Pour quoi faire?
57 Pour me baigner dans de l'eau souffre.
58 Que vous manque t'il?
59 J'ai la gale(?).
60 Avec qui allez vous?
61 Je vais avec N.
62 Quand partirez vous?
63 Sur la fin de ce mois.
64 Avez vous demande permission a Monsieur le
Gouverneur?

【ページ番号】6
65 Oui, j'ai obtenu conge.
66 Combien de tems serez vous en voyage?
67 Deux ou trois mois.
68 Ce tems me paraitra tres long.
69 Voulez vous m'accompagner?
70 Je le voudrais bien, mais je ne peux pas.
71 Pourquoi pas?
72 Vous savez que je ne peux pas.
73 Mais dites le moi.
74 Je n'ai pas d'argent.
75 Irez vous avec agant de l'argent.
76 Oui, volontier.
77 Je vous en fournirai donc.
78 Je vous remecie, il fait tard.
79 C'est vrai.
80 Je vous souhaite un heureux voyage.
81 Je vous suis fort oblige, portez vous bien jusqu'a
mon retour.
  Cinqieme Dialogue
 Avec un ami, qui promit hier d'aller
voir la Comedie.
1 Ton maitre est il deja leve?
2 Non, il dort encore.
3 Ayez la bonte de l'eveiller.
4 C'est bon.
5 Vous venez de si bonne heure.
6 Oui, vous dormez si tard.
7 Cela vient d' avoir bu beaucoup hier au soir.
8 Avec qui avez vous tant bu?
9 Avec N.
10 Je viens pour vous parler.

11 De quoi?
12 Je ne peux pas vous accompagner aujourdhui a
Woerakami【浦上ヵ】.
13 Comment cela?
14 Hier au soir environ minuit j'ai recu un bi■
du ?apporteur, et dois me rendre aujourdhui a
Decima【出島ヵ】.
15 Pour quoi faire?
16 Pour y prendre les pieces d'etoffe dans le ma-
gazyn(?).
17 Pourquoi ne m'en avec vous donc pas prevenu
hier au soir.
10 Parce qu'il etait trop tard.
19 Ne pouvez vous pas prier N. de vous remplacer.
20 Je le peux bein, mais veux y aller aujourdhui
pour m'acquitter de mon devoir.
21 Vous me trompez: je le diffaire(?) donc pour au-
jourdhui.
22 Il ne faut pas le differer a cause que je m
peux pas vous accompagner.
23 C'est vrai , mais je prefere d'aller ave
vous.
24 Mois de meme mais je ne puis y faire.
25 Vous ne tenez jamais vos promesses.
26 J'irai donc chez lui, pour le prier de me
remplacer.
27 S'il vous plait, mais a quelle heure allez vous a Decima.
28 A dix heures.
29 C'est encore de bonne heure.
30 Je serai de retour dans un moment.

【ページ番号】7
31 Ayez donc la bonte de vous depecher autant que
vous pourrez.
32 Bon, je suis de retour dans un moment.
   Avec un Autre Ami
33 Soyez le bien venu mon bon Ami.
34 J'ai appri de N que vous irez aujourdhui
avec lui au spectacle.
35 Oui, mais ce n'est pas encore sur.
36 A cause de quoi?
37 Il va aujourdhui a Decima.
38 Vous vous moques de moi.
39 Non, je vous dis la verite.
40 De qui l'avez vous appri?
41 Il me l'a dit lui meme.
42 A t'il ete chez vous?
43 Oui, dans le moment.
44 Est il deja parti pour Decima?
45 Non, il est apresent chez N, pour le prier de
le remplacer.
46 Revient-il?
47 Oui, voulez vous attendre son retour.
48 Oui, mais je vous accompagnerait s'il ne
va pas.
49 Nonobstant vous pourrez aller avec nous, car
je desirerais d'etre a trois.
50 Sil vous plait.
51 Ha, vous retournez vite, que vous a t'il dit?
52 Il ne peut pas.
53 Pourquoi cela?
54 Il y a ete hier, au surplus il se trouve aujour-
dhui un peu incommode.

55 J'en suis fache, je vais donc demain.
56 Si cela se peut, vous me ferez plaisir.
57 Mais il ne faut donc pas manquer encore de-
main.
58 Non, je viens demain pour sur.
59 Viendrez vous aussi?
60 Oui, s'il vous plait.
61 Le tems presse, je vais a Decima.
62 Je retourne chez moi.
63 Je vous dis le bon jour a tous deux.
64 Je vous souhaite une bonne matinee.
  Sixieme Dialogue
 Avec un domestique qui avait fait
      un message
1 Viens ici.
2 Que vous plait il?
3 Savez vous la demeure de N?
4 Il demeure a la ?ue 【Rueヵ】Tokija-matje.
6 Quel homme est il?
7 C'est un interprete hollandais.
8 Commet se nomme t'il.
9 Il se nomme N.
10 Je n'ai jamais ete chez lui.
11 Je crois que vous y avez ete souvent.
12 Non jamais, mais j'y irai en m'informe
de lui.
13 Dernierement tu lui apportais encore un billet.
14 Pardonnez moi, je m'en resouviens apres ■
15 Je le pardonne,mais ne tiens plus de tels propos■.

【ページ番号】8
16 C'est bon.
17 Apportes lui cette lettre.
18 C'est bon, mais que ferai je de la lettre si
quelquefois je ne le trouve pas chez lui?
19 Demande alors la femme ou il est, et
apporte la lui.
20 C'est bien, j'irai donc.
21 Retourne vite, et ne l'arrete pas dans la
ville.
22 Ha, sais le bien venu, Je t'aurais envoye une
lettre.
23 Sur quoi?
24 Il y un moment que j'ai recu un beau cadeau
de N.
25 Qu'avez vous recu?
26 Un couple de canards, et une grande breme.
27 C'est un superbe cadeau.
28 C'est pour cele que je veux me rejouis avec
vous, et l'appreter moi meme.
【以下頭の番号は次コマに合わせ推測】
29 C'est bon, j'irai donc chercher la pate, et les
oeufs.
30 S'il vous plait.
31 Avez vous de la cassenade?
32 N. en apportera.
33 Vient il aussi?
34 Oui.
35 Je vais donc chez moi.
36 Pourquoi cela?
37 Parce que je suis sorte ce matin de si bonne
heure.

38 Ce n'est pas besoin que vous retournes.
39 Je vais pour m'informer de l'issue d'une
affaire.
40 Je t'addendrai donc, reviens vite.
41 Bon, jusuqu'a revoir.
  Septieme Dialogue
 entre deux Amis
1 Hier sur les quatre heures j'ai ete voir N.
2 Il y a ?pui pres cinq jours que je n'ai pas
ete le voir.
3 Il me la dit ainsi.
4 Je serais alle avant hier, mais n'y suis
pas ete, a cause d'affaires indispensables
survenues a l'improviste.
5 Pourquoi n'etes vous donc pas venu hier
qu'elle en est la cause?
6 Hier il y a eu plusiers regals, ou festins
7 Qui a regale?
8 N a recu hier d'ailleurs un beau cadeau.
9 Qu'a t'il recu?
10 Un couple de canards, et une grande breme.
11 Ha, c'est tres bon pour l'appreter soimeme.【最後のmeは推測】
12 Oui, il l'a apprete.
13 Je suis tres jaloux de n'y pas avoir ete.
14 C'est comme cela.
15 A combien de personnes vous etes vous re-
gale?
16 J'y etais avec lui, et encore un autre.
17 Je crois que vous avez la beaucoup.
18 Oui, j'ai bu jusqu'a dix heures de la nuit, et dela je suis alle a la maison Naka no tsu-
koegaya(?), chez le tannedon Itara.
【a la maisonの後推測で意味不明】


【ページ番号】9
19 Avez vous fait la depence d'un fasimitye(?)
d'une juene fille?
20 Non, j'y allais seulement pour me promener.
21 Vous etes vous amuse beaucoup.
22 Oui, mais je me trouve aujourdhui un peu
indispose du boisson.
23 Je crois cela.
24 Ne voulez vous pas m'accompagner aujourdhui?
25 Ou allez vous?
26 A une maison d'entrevue.
27 Je le voudrais bien, mais suis engage pour
aujourdhui.
28 J'ordonnerai donc pour vous des mets (?) solides.
29 Je vous suis oblige, mais aujourdhui je reste
chez moi.
30 Mettez vous donc ce prix la a mon amitie?
31 Je ne la recuse pas, mais je ne veux pas sortir,
pour me remettre.
32 Ne sortiriez vous donc pas, meme si on vous
demandait au Gouvernement?
33 Vous me repondez de travers, puisque ceci n'a
point de rapport avec notre devoir.
34 Ce n'est que raillererce, ne vous en fachez pas.
35 Non, je ne suis pas fache.
36 J'irai donc avec vous un autre jour.
37 S'il vous plait
38 Adieu donc, jusqu'a revoir.
39 Je suis votre serviteur.
  Huitieme Dialogue
1 Qu'apprenez vous apresent.
2 Je suis paresseux en ce tems ci.

3 Pourquoi cela?
4 Pace que je fais bombance jour et nuit.
5 C'est ainsi: nous passons le premier mois
entierement a boire et a nous amuser.
6 Le quinze de ce mois j'ai ete regale
N, ou j'ai bu beaucoup.
7 A quelle occasion vous a t'il regale?
8 Il nous a regale le jour, ou commanca■
autrement le voyage a Jedo【江戸の表記ヵ】, pour remp■-
cer ce voyage
9 A combien y etiez vous.
10 Environ a quarante.
11 Ha, il y eu beaucoup de convives.
12 Je pense que Mons le Chef R. s'en for■-
lisera.
13 Quel mal avez vous fait?
14 Je n'ai rien fait de mal.
15 De quoi est ce donc?
16 J'ai compose pour lui quelques dialogugue
en hollandais et Japonais jusqu'a l'hiver
passe, mais n'ai encore rien compose de
ce mois ci.
17 Pourquoi donc ne vous occupez vous de cela
apresent.
18 Puisque comme j'ai dit tantot je n'ai pas
le tems.
19 Il faut le faire aujourdhui quoique vous
n'en auriez pas le tems.


【ページ番号】10
20 Regardez, c'est pour cela que j'ai ecrit un peu
avant votre arrivee.
21 Par qui l'enverrez vous a Decima?
22 Il faut que je le demande a N.
23 Ha, c'est une bonne leçon pour vous.
24 Vous dites vrai..
25 J'ai appris que Mr. S(?) est un bon maitre.
26 C'est ainsi, car il le comprend bien quoique
j'aye ecrit tout a fait a rebours.
27 Ou m'a dit le meme, il faut tacher de vous
appliquer pendant qu'il reste a Decima.
28 Oui, il faut que je m'applique sans re-
tache.
29 En faisant ainsi vous ferez bientot des progres.
30 Non, je crois qu'il y a des gens qui ne
peuvent pas reussir, car la langue hollandaise
est tres difficile a apprendre.
31 C'est sur, mais par votre application vous
y pourrez parvenir.
32 Je desirerais volontier d'apprendre aussi
parfaitment que possible.
33 Il ne faut pas le negliger quoique le tems
soit court.
34 Je ferai comme vous dites.
  Neufieme【Neuvieme】 Dialogue
1 Ha, vous venez me voir aujourdhui si a
l'improviste.
2 Je viens vous prendre.

3 Ou allez vous?
4 Je vais a la montagne Siro-no-kosi.
5 Pourquoi faire?
6 Pour lancer un cerf volant.
7 J'ai appri que lancer des cerf volant et■
defendu.
8 Qui en a donne l'ordre?
9 Le Gouverneur l'a ordonne au premier bou■-
gemetre【bourgmestreヵ】
10 Pourquoi cela?
11 Ne le savez vous pas encore?
12 Non, je n'en ai rien appris.
13 C'est parce qu'on s'est querelle.
15 C'est arrive dans la rue Jemafakata(?).
16 Qui ont eu■ querelle?
17 Dans le commencement deux enfans se sont battus
apres , les deux peres se sont battus a coup
de sabre par quoi tous deux sont grievement bles-
ses.
18 Je crois qu'ils seront punis severement.
19 Tous les officiers de garde sont accourus sur
la premiere nouvelle pour les appaiser【apaiser】, p■
ils en ont fait rapport au Gouvernement.
20 Qu est ce que le Gouverneur a ordonne sur
ces querelleurs?
21 Il n'a encore rien ordonne puisque tous
deux sont trop blesses encore.




【ページ番号】11
22 Cela a ete un rude combat.
23 Je pense qu'il y a parmi le peuple des gens
trop passiones.
24 C'est ainci, il y a souvent de ces combat entre eux.
25 C'est vrai, ils s'assemblent toujours pour boire
et apres ils font querelle.
26 Vous dites la verite, c'est la leur habitude.
27 C'est comme vous le dites.
28 Je vais donc sans cerf volante, ainsi allez avec
moi.
29 S'il vous plait, mais je n'ai encore rien ap-
prete.
30 Il faut rien prendre avec vous, J'ai deja
aussi apprete le diner pour vous.
31 N'ai je donc qu'a venir.
32 Oui, tres volontier.
33 Mais je suis honteux.
34 Ah! c'est trop poli.
5 Excusez moi, je vous regalerai donc apres, pour
m'acquitter.
36 Allons, je sors avec vous.
  Dixieme Dialogue
1 Ha! sois le bien venu mon bon ami !
2 Comment vous portez vous?
3 Je me trouve toujours assez bien.
4 Vous etes heureux.
5 N'avez vous appris rien de nouveau.
6 J'ai ete hier chez M, la j'ai appri que Monsr
N. etait alle a Takeo(?).

7 Est il possible?
8 Oui, vraiment.
9 A quel dessein allait il a ■keo?
10 Pour se fomenter dans de l'eau sulphree.
11 Quelle maladie a t'il?
12 Sa maladie ne signifie rien, mais il alla
en partie pour s'amuser.
13 Je n'en ai rien appri.
14 Moi de meme, mais l'ai su parce qu'il le
disait.
15 Nous avons commis【commettreの変化】 une grande incivilite a
egard.
16 C'est vrai, mais c'etait une chose dont nous
avons point etes instruits.
17 C'est ainsi, quand reviendra t'il.
18 Je crois sur la fin de ce mois.
19 C'est un long sejour.
20 Oui, j'avais envie de venir vous voir aujourdhui.
21 Pourquoi.
22 C'est mon jour de naissance.
23 Je vous en felicite.
24 Pour cela je desire beaucoup de vous offrir ce soir
une jatte de Zakki(?).
25 Je vous suis tres oblige.
26 Viendrez vous ce soir?
27 Oui, il faut que je vienne.
28 Je vous en remercie.
29 En rentrant je vous enverrai【envoyerの変化】 une breme vivante
pour vous complimenter.


【ページ番号】12
30 Il ne faut rien donner, au contraire, je suis honteux.
31 Mais je le donne seulement en felicitation
si cela vous plait donc, mais il en faut ■ donner une petite.
32 Comment pourrais je vous en donner une grande, elles
sont tres rares donc ce tems ci par le mauvais tems.
33 Veuilles【vouloirの変化】 donc venir un peu de plus bonne heure ce
soir.
34 Je m'empresserai【empresserの変化】 autant que possible.
35 Adieu, jusqu’a ce soir.
36 Je vous souhaite le bon jour.
  Onzieme Dialogue
1 Mr E. est tres poli
car lorsque j'ai ete dernierement chez lui.
Il punissait【punirの変化】 un noir.
Je lui en demandais la raison, ■ quel mal ce
garcon avait fait?
Il me repondait.
Vous etes venu ici ce matin.
Il vous a dit alors
que je n'y etais pas.
Il vous a trompe en disant que j'etais sorti de
si bonne heure.
Je l'ai puni pour cela.
Je ne pouvais pas y repondre.
J'etais fort honteux.
Il est trop pol.
2 J'ai recu il y a quelques jours un livre et une
bougie, mais je n'ai pas ete pour remercier.

3 De qui avez vous cela?
4 Je l'ai de mon maitre.
5 Je soupçonnai que cela vous venait de votre pere
de votre maitre.
6 Pourquoi cela?
7 【冒頭抹消】Cela sert pour un bon avis.
8 Quel en est le motif?
9 Ce n'est pas si facile a dire le motif en sera■
mysterieux.
10 Veuilles【vouloirの変化】 bien me l'expliquer, je n'en parlerai.
11 Si vous le desirez, je vous en dirai le motif.
12 C'est bon.
13 Je vous le dirai, pretez attention.
Cela sert pour une bonne leçon, il faut vous lev■
de bonne heure dans la nuit, et allumer cette bon■
au feu, puis il ne faut point negliger d'appren■
et d'ecrire ardemment.
14 C'est vrai, j'ai compris apresent que c'etait ■
si bonne leçon.
15 Il faut apprendre au fond, mais vous avez ecr■
cette annee ci plus mal que la derniere.
16 Oui, j'ai perdu la tete.
C'est pour cela que j'ai fait pis
mais si mon delire augmente ainsi
dans peu je ferai de nouveau des babioles.
17 Ce n'est que raillerie, il ne faut pas vous en fa■
j'ai bu beaucoup c'est pour cela que je suis si b■.
18 Ou avez vous ete?
19 J'ai ete au Gouvernement.
20 Pour quoi faire?

【ページ番号】13
【会話の番号不明のまま入力】
Le Sieur N. m'a fait venu pour me conter une
histoire de Miaco.
Est ce la que vous avez bu tant?
Oui, apres que le recit fut fini, je me suis regale
avec le Sieur N.
Mais ce n'est pas le que j'ai bu tant.
Car il est venu une lettre du sieur A.
C'est pour cela que je n'y suis pas reste a dejeu-
ner.
Etant a juin le boisson m'a pris sitot.
Qu'y a t'il de nouveau au Gouvernement?
Je n'ai rien appris, mais un Courier est arrive de
Yedo, Monsieur le Gouverneur n'a pas encore
change d'emploi.
Est il possible?
Oui.
Quand cette nouvelle est elle venue au Gouvernement?
Le Sieur N. m'a dit qu'elle etait venue hier.
Quand est il parti de Yedo l'annee passee sur
la fin douxieme mois, ou bien au commencement
des nouvelan?【nouvel an:新年】
Je ne le sais pas bien au juste, mais annuelle-
ment le deuxieme jour du nouvelan un Courier
part pour ici de Yedo.
  Douzieme Dialogue
1 Sois le bien venu.
2 Je me trouve si isole aujourdhui par les pluies permanentes, c'est pour cela que je ne puis rester
chez moi.
3 Entrez, il vaut mieux et c'est plus amusant d'etre
a causer avec un ami au jour de plui【pluieヵ】, que de sortir.

4 Vous avez raison, je desirais beaucoup de re■
chez moi, mais je n'ai d'autre amusement que
de causer avec ma mere, c'est pour cela que
je voulais venu chez vous.
5 Qu'y a t'il de nouveau?
6 Je n'ai rien appris.
Mais hier l'ami N. a ete chez moi
et a conte
que l'arrivee de l'autre Gouverneur change
tout Nagasaki autant au mieux, que c'etait
auparavant.
7 C'est une bonne nouvelle, mais il vous a tro■
8 Non, c'est un homme probe
s'il a promis quelque chose, l'effet n'est pas
contraire, il est toujours tres poli.
9 Je crois que ce que vous dites est vrai, ■
mais qu'elle preuve a t'il de ce qu'il ava■
10 Je n'en sais pas 【抹消部分あり】, les det■
j'ai appris que la cause en etait que Naga-
saki deperit【deperirの変化】 de jour en jour.
11 Ce n'est pas sur, car Nagasaki principal-
ment est une domaine Imperiale, ainsi
le Gouverneur n'obtient pas le consentment
de le Empereur, il ne peut pas faire ce
qu'il veut.
12 C'est vrai, mais les Gouverneurs n'ont pas
besoin d'etre convaincus【convaincreの変化】 que s'il y arriven■

【ページ番号】14
beacoup de vaisseaux hollandais et de bargues【barges】
chinoises dans la baye【baie】, Nagasaki deviendra【devenirの変化】
bientot aussi florissant【fleurirの変化】 qu'auparavant.
13 Pourquoi n'y a t'il pas plus de Jonques Chinoises
d'arrivees?
14 N'en savez vous pas la raison?
15 Non, je n'en parlerai pas, veuilles m'en dire
la raison.
16 Il faut le taire, je vous conterai alors les obstacles.
17 Je prends le ciel a temoin.
18 He bien, je vous le dirai.
Depuis quelques annees, les marchandises ap-
portees par les Chinois ont ete prises peu a peu
par la Tresorerie a plus bas prix, par cela
les Chinois ont souffert de grandes pertes, et se
sont endettes【endetterの変化】 beaucoup.
19 Il ne faut pas y voir de si pres avec
les Etran-
gers, il faut leur montrer quelqu'indulgence, cela ne
sera pas une si grande perte pour la Tresorerie.
20 C'est vrai; mais que voulez vous prendre? il
est tems de diner.
21 Je vous suis oblige, je n'ai point d'appetit.
22 Il ne faut pas me refuser, en causant si
longtems l'estomac ne se remplit【remprlirの変化】 pas.
23 Je boirai donc un coup, je vous dit la verite,
veuilles me donner une autre jatte, je ne
pourrais en vuider【vider】une si grande
puisque
je bois tres peu.


dis la es

24 Si vous le voulez ainsi je vous en donnez
une moindre, mais apres avoir bu encore
une grande jatte, je n'insisterai plus.
25 Non, fut ce meme
par l'ordre du Gouverneur
je ne boirai pas d'avantage, voyez comme je
suis pris directement.
1 Dialogue entre deux personnes
sur quelques evnements depuis
notre novel an jusqu'a la fin du douzieme
mois.
2 Je vous fais mon compliment avec le
nouvel an.
3 Je vous remercie.
4 Le tems est clair et doux.
5 C'est ainsi.
6 Entrez monsieur.
7 Je reviendrai une autre fois.
8 Veuilles entrer un moment.
9 Bon, s'il vous plait.
10 Entrez au salon.
11 Pardonnez, j'irai la.
12 Veuilles vous mettre la.
13 Assayez vous.
14 Je prie de vous mettre plus haut.
15 Je suis tres bien ici.
16 Mettez vous un peu plus haut je vous en
prie, car c'est ici un appartement ordinaire

【ページ番号】15
17 Avec votre permission, je me mettrai donc la.
18 Veuilles vous mettre a votre aise.
19 Prenez la soupe Tong s'il vous plait.
20 Je gouterai premierement de ce Taki(?),et puis
vous l'offrirai.
21 A votre sante.
Je boirai a votre sante.
22 Je vous suis tres oblige.
23 Veuilles boire une pleine jatte, et puis donnes la
a mon fils et a ma fille s'il vous plait.
24 Excusez moi, je la leur donnerai donc.
25 Mon fils et ma fille offrez la a M. apres avoir bu.
26 Je ne peux pas boire autant.
27 Buvez encore une jatte, et rien de plus.
28 Je ne puis aller nulle part si je la bois.
29 Cela ne vous grisera pas quoique vous buviez
encore une ou deux jattes.
30 Regardez moi, comme je deviens rouge ! C'est
un signe d'ivresse.
31 Ne voulez vous donc plus boire?
32 Non, je vous remercie.
33 Je vous remercie de votre acceuil【accueil】.
34 Pardonnez moi de vous avoir si mal reçu
ou ne prenez pas de mauvaise part que je vous
ai reçu si mal.
35 Vous etes trop poli.
36 Je vous dis donc adieu.

37 Restez encore un peu a causer.
38 Causez encore un peu.
39 Prenez seulement un peu de the【thé:アクサン省略】.
40 C'est un the delicieux, et d'unparfuni agrea■.
41 Je l'ai recu d'un connaissance.
42 En desirez vous veuilles me le dire, je vo■
en procurerai.
43 Je vous prie de m'en procurer quatre a c■
catties ■1 cattie fait un livre et un quart.
44 C'est bon, je n'y manquerai pas
bon je vous en procurerai.
45 Je vous suis oblige.
46 C'est a votre service.
47 Je crois que dans peu vous ferez tous vos
preparatifs pour le voyage de Jedo【江戸】.
48 Oui, c'est vrai, ne faites pas scrupule de ■
le dire, si vous desirez contracter quelque ■【chosesヵ】
a Osaka, Miyako ou Jedo.
49 Je vous suis oblige de vos bontes, je vous
chargerai donc d'une commission.
50 Que desirez vous pour contracter.
51 En verite Je n'oserais vous le dire - pourtant
je vous prie instamment, de m'achetter ■
choses a Osaka - je ne manquerai pas a vo■
payer a votre retour.
52 Je ne l'oublierai pas.
53 Je vous suis fort oblige.
54 Qui ira cette annee ci comme premier
conducteur.

【ページ番号】16
【会話番号は推測】
55 Le Sieur N.N.
56 C'est un brave homme.
57 Je crois que nous aurons peu de trouble dans
tant de cours du voyage, puis qu'il est si bien
habitue a tout.
58 Je le crois de meme.
59 Combien de fois avez vous fait le voyage a
la cour?
60 J'ai ete trois fois a Jedo
l'annee derniere, nous avions un traget tres
dangereux par une tempete dans la mer
entre Simo-no-seki et ?iogo
un fazimaroe / grande barque ? etait sur
le point de perir, mais fut sauve.
Nous nous amusions extremement sur l'eau
le tems etant calme et le vent favorable
mais avions bien peur quand une tempete
survint【survenirの変化】
Mais les Hollandais ne le craignent【craindreの変化】pas
puisqu'ils sont accoutumes 【accountumes】a pleine mer.
61 C'est vrai.
J'ai peur quand J'entends un pareil recit.
je prefere de voyager par terre a par eau.
L'eau est un gouffre profond, c'est un enfer
quand on tombe a la mer.
62 C'est vrai ce que vous dites.
63 Qu'en pensez vous
voila deja cette nouvelle lune a peu pres a moitie
expiree

dans deux ou trois jours les Banjoos v■-
drant a Decima pour examiner tout ce qui d■
servir en voyage.
64 Je pense de meme.
Nous savons d'avance, que chaque annee nous【推測】
avons beaucoup a faire avant que le voyage
commence, principalement la premiere a■
quand le tems approche pour faire tous les
preparatifs du voyage.
65 J'espere que le quinze de ce mois le tems se■
beau et clair-il faudra accompagner tous
ceux qui seront du voyage jusqu'a Sakraba■(?)
pour y prendre conge d'eux.
66 J'espere aussi que le tems soye(?) constament
beau jusqu'a Kokera(?)
car c'est tres disagreable d'avoir du mauvais
tems, et des chemins bourbeux comme l'annee derniere.
67 Je vous ai detenu longtems.
Je crains de vous avoir ennuie.
Je m'en vais
et reviendrai un autre jour pour vous dire a■.
68 Je ferai de meme monsr【monsieurの略ヵ】.
69 Je crois que pendant que nous serons en voyage
vous me cesserez de vous amuser tant le printems【printemps】 ■
vos amis.
70 Oui, on peut depenser toute l'annee au printems
beaucoup d'argent dans differentes parties de pla■

【ページ番号】17
71 Je crois que vous aussi vous depenserez beaucoup
d'argent pendant le voyage
en allant, n'etant point de service, au cabaret
et que vous vous amuserez beaucoup avec les
Taju(?) / filles de la premiere classe / et d'autres
filles.
72 Vous vous moquez de moi
comment peut on, quoi qu'on le dise, s'amuser
ainsi pendant le voyage?
Nous n'avons pas tous les ans le tems pour
nous amuser
mais sommes tout fatigues tant il y a afaire
et souvent nous devons nous lever de meilleure
heure, et nous coucher plus tard.
73 Certainement cela se pourra.
74 Quelle heure est il apresent?
75 C'est passe sept heures du Japon.
76 Passe sept heur du Japon, c'est passe quatre
heures des Hollandais, n'est ce pas?
77 Oui, J'ai une montre hollandaise
pour cela je sais fort bien que chez les
Hollandais, le jour et la nuit ont vingtquatre
heures, qui sont divisees en douze chez les
Japonais
comme vous le savez
ainsi chaque heure est diminuee de moitie
et chaque est comptee pour une demie

ainsi six heures des Hollandais sont d■-
cord avec six heures chez nous.
Mais quand les les jours et les nuits se prolon-
gent ou se raccourcissent【raccourcirの変化】, cela differe un
peu en avancant ou en reculent
n'est ce pas vrai?
78 Certainement:j'ai aussi appris a Decima
qu'il y avait une telle difference dans la
marches des montres.
Mais quand les jours s'allongent les montres
hollandaises avancent ordinairement
plus que les notres.
79 Notre bavardage est cause que bientot ■
fera obscur.
Il est tems de s'en aller.
80 Restez encore un peu, il ne faut pas quel
tems nous presse.
81 Oui, le tems ni l'heure ne nous genent pas
mais je crains
comme j'ai ete si longtems detenu chez vous
que je ne pourrai pas aller aujoudhui ■
mes complimens【compliments】ailleurs.
82 On ne le prend pas pour incivilite lorsque
le cours de cinq jours vous allez complimenter
quelque part.

【ページ番号】18
car depuis le premier jour du nouvel an jus-
qu'an cinqieme, tous sont des jours fortunes.
83 Oui, c'est vrai.
Mais je desire aussi faire mes compliments
a d'autres
pendant que le tems est si beau
car je serais fort embarrasse si parfois
nous avions de la plaie.
84 Demain il faut sortir de bonne heure.
Je vous prie de passer ici la soiree.
Que dites vous du Nouvel An?
La plus part des jeunes gens et des plus ages
sont gai, et s'amusent beaucoup
pendant que les garçons et les filles se
divertissent entre eux avec
le jeu de paume
\ \ \ papiers
\ \ \ plumets
\ \ \ coquilles de limacons
\ \  d'Echee
et plujeurs【plusieursヵ】 autre jeu.
C'est pour cela aussi qu'il ne faut pas etre
si presse que dans un autre tems
lorsqu'il fait obscur, plusieurs fammes comme
il faut, et d'autres, proprement mises,accom-

paniees d'une servante avec quelques pe■
paquets de thee, et par un homme portant
lanterne, vont paru par la dans les
rues pour complimenter leurs connaissance
et parents.
Alors elles sont importunees par les enfans que sont tres
gais et enjoues, avant les cinq heures du
soir chez nous, jusqu 'a quatre heures.
Vous les verrez【voirの変化】 en retournant.
Vous savez ces choses la.
Je vous les conte seulement pour vous tenir
un peu plus longtems.
85 Oui: Oui:c'est l'usage de parer les mais■ 【maisonヵ】
chaque annee d'une variete d'ornement
 et que tous les employes doivent aller
la premiere matinee du nouvel an ch■
【chezヵ】
le Gouverneur pour lui presenter leurs de■
apres ils vont par ci par la pour faire
compliment chez leurs amis et parents
le quatrieme jour tous le grand et mo■
clerge et les prefets des temple y vont po■【pourヵ】
payer leur hommage
 de la ils vont chez tous ceux qui sont ■
scrits sur le livre de leur temple.

【ページ番号】19
le septieme jour ils complimentent pour rap-
port au Nanakoesa【七草の表記ヵ】 /vid:la Chronologie/
alors de tout cote on les invite a d'autres
fetes, donnees suivant l'usage pour reguler
ses amis et parents.
Le vingtieme vient la fete du Dieu Ibis【夷の表記ヵ】,
principalment chez les marchants qui
l'ont en grande faveur: par ou que vous
venez vous etes regale
pour cela il faut porter a cote deux petits
batons a manger, et visiter ses amis pour s'amuser
 les femmes pourtant ne peuvent pas aller
elles memes, elles le font seulment par une
servante, qui presente un petit paquet de thee,
qu'on donne et recoit en compliment de la
nouvelle annee.
86 Oui, on passe le premier mois a peu pres
entierement, a boire, manger, et faire des
compliments.
87 Je le crois aussu.
88 On dit, que suivant l'usage, le tems pour
complimenter le Dayri 【内裏の表記ヵ】et la haute noblesse
avec le nouvel an, n'est pas limite certaine-
ment on y sera regale splendidment.

89 Cela se peut.
90 Ha! en causant tant pour me retenir com■
tu as dit tantot, il fait nuit.
91 Portez vous bien j'usqu'a revoir.
92 Dormez bien.
   Fin du detail
  sur la nouvelle annee
      ou
   sur le premier mois
【弧線あり】

【白紙】

【白紙】

【ページ番号】20
1 C'est un vent favorable pour les vaisseaux.
2 Cette barque attend un bon vent.
3 C'est un bon homme.
4
5 Il est toujours tres obligent.
6 Il est tres studieux.
7 Il est toujours tres affable.
8 C'est un homme intelligent.
9 C'est un homme diligent.
10 C'est un homme vertueux.
11 C'est un homme debonnaire.
12 C'est un mechant.
13 C'est un brutal.
14 C'est un menteur.
15 C'est un homme deprave.
16 C'est un vaurien.
17 C'est un mauvais garçon.
18 Il se fait hair de chacun.
19 Il parle mal de tout le monde.
20 Il querelle toujours.
21 Il cherche toujours querelle.
22 Il le sait, mais ne veut pas le dire.
23 Cette montre va tres bien.
24 Cette montre s'arrete.
25 Cette montre va trop vite.
26
27 Cette montre retarde trop.
28 Je n'ai aucune montre qui va bien.
29 Je n'ai que deux montres a moi.
30 J'ai donne une montre au Gouverneur.
31 Je ne peux pas me defaire de celle ci.
32 J'en ai besoin moi-meme.
33 Je veux volontier vous la donner.

34 Je n'aime pas a vendre quelque-chose.
35 Je n'aime pas l'argent.
36 L'argent rend beaucoup de gens malheureux.
37 Un homme d'esprit est plus heureux qu'un riche.
38 J'avais dit au Charpentier de faire un poutre de trois
pouces d'epaisseur il le fait de six pouces.
39 Il a eu soin que le vent ne l'emportera pas.
40 Ils sont partis pour Magome pour examiner les barques.
41 Comment se porte votre mari?
42 Comment se porte votre mere?
43 Votre pere quel metier fait il?
4 A qu'elle distance cetter rue est elle d'ici?
45 Si vous vous comportes bien, vous pourrez devenir ■.
46 Ou est ce mieux, a la ville, ou ici?
47 En revenant au Japon j'emmerai un jeune garçon et
          jeune fille pour vous servir.
48 Je regrette de vous voir toujours seule.
49 A l'arrivee des vaisseaux vous pourrez avoir joinnellez
               compagnie.
50 Le temps vous pesera.
51 Je le demanderai a Suby(?) des qu'il viendra a Decem■【Decembreヵ】.
52 Je l'ai demande a Suby,(?) mais il ne le comprend pas.
53 Je vous ai demande a Suby, mais il ne le sait pas.
54 Je vous ai fait prier de venir.
55 Priez Suby de venir.
56 Attendez jusqu'apres midi.
57 Finissez le bien vite.
58 C'est tres indecent de vous habiller si nonchalamment
59 Il faudrait avoir honte qu'on vous vit ainsi.
60 Vouloir couvrir la mer de la main est peine perdue.
61 Il ne sait pas le tems du flux & reflux pour chercher des co■.
62 Apres trois jours.
63   \ quatre \
64   \ cinq  \
65   \ six   \
66   \ sept  \
67   \ huit  \
68   \ neuf  \

【ページ番号】21
69 Apres dix jours
70  \  onze  \
71  \  douze \
72  \  treize \
73  \  quatorze \
74  \  une heure
75  \  doux heures
76  \  trois heures
77  \  quatre \
78  \  cinq  \
79  \  six   \
80  \  trois semaines
81  \  un mois
82  \  deux mois
83  \  trois  \
84  \  quatre semaines
85  \  quatre mois
86  \  cinq   \
87  \  six  \
88  \  un an
89 un an passe
90 dans une semaine
91  \  quinze jours
92  \  un mois
93 trois jours passe, ou depuis trois jours
94 quatre \  \
95 cinq  \  \
96 six   \  \
97 sept   \  \
98 huit   \  \
99 neuf  \  \
100 dix   \  \
101 onze  \  \
102 douze \  \
103 treize \  \

【文は大文字で始めピリオドをつけました。】
104 Il y a quatorze jours, quatorze jours passes, depuis 14 j■【joursヵ】.
105 depuis une heure
106  \  deux heures
107  \  trois heures
108  \  quatre heures
109  \  cinq heures
110  \  six heures
111 depuis trois semaines
112 depuis un mois
113  \  deux \
114  \  trois \
115  \  quatre \
116  \  cinq  \
117  \  six  \
118 Que fera t'on demain?
119 une balance au Doorn/un Magasin/
120 une balance pour l'etain
121 une balance pour le plomb
122 deux balances pour le sucre
123 deux balances pour lle bois de sapon
124 Combien d'ouvriers faudra t'il demain?
125 Quatre vingt c'est trop, soixante suffiront.
126 Le plus qu'il y a en a le plus qu'ils sont paresseux.
127 Ils finissent de trop bonne heure.
128 prens garde au vol
129 Tous ces ouvriers sont nes valeurs.
130 Je ferai tenir bonne guide.
131 Combien de bateaux de fret faudra t'il?
132 Il faut quatre bateaux de fret pour demain.
133 Je leur ferai remettre les poutres et les rames.
134 demain deux barques de fret sufferont
135 une pour les effets de la compagnie

【ページ番号】22
136 une pour les effets des particuliers
137 une pour le magasin de provisions
138 une pour le ris
139 une pour la poudre a canon
140 Semain on ne travaillera pas.
141 Le tems est trop mauvais.
142 Le chemin est trop bourbeux.
143 Tous sera gate.
144 Le sucre sera mouille.
145
146 J'ordonnerai au charpentier d
147 Les Banjoos(?) sont ils arrives?
148 J'ordonnerai d'arborer le pavillon.
149 J'ordonnerai d'amener le pavillon.
150 un tems pour parler, un tems pour observer
151 Les maqueraux font mauvaise chere chez eux.
152 Adieu.
153 Ou alles vous?
154 D'ou venes vous?
155 de l'Eglise
156 de la boursse【brousseヵ】
157 du marche
158 du barbier
159 Que faites vous?
160 Que cherchez vous?
161 Que dites vous?
162 Que demandez vous?
163 Je ne vous entends pas.
164 Parles doucement.
165 Depechez vous.
166 Courez vite.
167 Il faut que je sorte.

168 ce matin
169 avant midi
170 apres midi
171 ce soir
17 dans un moment
173 apres une heure
174 cette semaine
175 apres une quinzaine
176 Il y a un mois.
177 Ou aves【avez】 vous ete?
178 a la maison, a la bourse(?), au spectacle
179 chez moi
180 chez lui
181 chez elle
182 chez mon Pere
183 Comment se porte t'il? ou elle?
184 Comment se portent ils?
185 Comment se nomme t'il, ou elle?
186 Que fait il?
187 Que dit il?
188 Que veut il?
189 Ou est il?
190 Qu'apporte t'il?
191 D'ou vient il?
192 Ou va t'il?
193 Il a an singe.
194 Il dit.
195 Il fait.
196 Il veut.
197 Il faut qu'il revienne bientot.
198 Il peut.
199 Il devra.
200 Il voit.

【ページ番号】23
【Mats,Kokera,Omera等大文字で始まる語は人名、地名と思われるが不明】
201 Il appele.
202 Il va.
203 Il fait signe.
204 Il donne.
205 Il demande.
206 Il avait vu.
207 Il montre.
208 Il demande trop d'argent.
209 Il offre cinquante tails, ou cinq cent maas.【tails,maas共に不明。お金の単位?】
210 Il trouve un koban.
211 Il l'a trouve deja.
212 Il devient riche.
213 Il tache a l'apprendre.
214 Il est assi sur une chaise/sur un mat.
215 Il est debout.
216 Il dort.
217 Je l'ai reçu de Mats.
218 J l'ai donne a Mats.
219 Je l'ai dit a Mats.
220 Je l'ai appris de Mats.
221 Dites a Mats.
222 Donnes a Mats.
223 Demandes mats.
224 Prenes ceci.
225 Combien cela conte t'il?
226 Je vous souhaits une bonne sante.
227 Je vous suis oblige.
228 Comment nomme t'on ceci en Japonais?
229 Les Hotels sur la route a Kokera sont mauvais.
230 A Omera et Kokera les femmes sont belles.
231 Comment nomme t'on cet endroitt-ce?
232 A quelle distance Osaka est elle d'ici?
233 J'ai faim.

234 Couvres【couvrirの変化】 la table.
235 Apportes la diner.
236 Deserves.
237 Donnes a boire.
238 Apportes de l'eau pour nous laver.
239 Donnes un essuimain【essui-main】 propre.
240 Il fait aujourdhui un tems superbe.
241 Le tems aujourdhui est pluvieux.
242 Ouvres la coulisse.
244 Faites le lit.
245 Demain je veux aller en ville.
246 Je veux me baigner cet apres midi.
247 Apportes mes soulliers.
248 Netoyes【nettoyesヵ】 les boucles.
249 Donne moi chaque jour du ligne propre.
250 Netoyes l'appartement.
251 J'ai mal de tete.
252 Il fait trop chaud ici.
253 Quel age avez vous?
254 Combien d'annees avez vous ete la?
255 une femme mariee
256 une jeune fille
257 une fille nubile
258 une vielle【vieille】
259 une fille folatre
260 Elle est toujours enjouee.
261 Permettes de boire une coupe de Sake avec vous
262 S'il vous plait.
263 Ou avez vous ete si longtems?【頻出のtems=temps】
264 Chez ma Mere.
265 Avez vous des freres et des soeurs?
266 Je desire une alouette qui chante.

【ページ番号】24
267 N'y a t'il pas des pivoines?
268 Il y a trop de vent.
269 Apportez des charbons.
270 Cette soupe de mizo【味噌ヵ】 est delicieuse.
271 Je crois que vous faites la cuisine delicieusement.
272 N'ayant rien a faire, le tems pese.
273 Je souhaite que les vaiseaux vont bientot arriver.
274 Le cuisinier fait les mets trop salles【salesヵ】.
274 Le cuisinier ne met pas assez de sel dans les mets.【274二回】
275 Il y a trop peu de sel dans ceci.【ceciは寿司の表記のようです。】
276 Ceci est trop aigre.
277 Ceci est trop gras.
278 Goutez le.
279 Je veux le gouter.
280 Je l'ai goute.
281 L'avez vous goute?
282 C'est tres bon.
283 C'est trop doux.
284 C'est trop fade.
285 C'est trop amer.
286 C'est trop fort.
287 C'est peu mourissant.
288 Cela n'a pas de gout.
289 C'est d'un mauvais gout.
290 Ce Poisson est bien etuve.
291 Ces feves sont delicieuses.
292 Pour nous le saumon est le meilleur poisson.
293 J'ai mal d'estomac.
294 Je suis malade.
295 Je ne puis dormir.
296 Je ne puis marcher.
297 Je ne puis rester couche.
298 Je ne puis me lever.



299 Ici je sens une douleur tres forte.
300 Je me trouve beaucoup mieux apresent.
301 Je serai bientot retabli.
302 Je me porte toujours bien.
303 Comment vous portez vous?
304 Vous avez l'air tres sain.
305 Vous etes vous toujours bien porte?
306 Vous engraissez beaucoup.
306 Il grandit beaucoup.【306二回】
307 Il maigrit beaucoup.
308 Je n'ai point d'appetit.
311 Rien ne flatte mon gout.
312 Je suis charme de vous revoir.
313 Que craignez vous?
314 Je ne vous ferai point de mal.
315 Approchez.
316 Assoyez vous.
317 Je desire beaucoup de vous voir.
318 J'ai desire souvent de vous voir.
319 A quoi ceci vous sert il?
320 Montrez moi comment qu'il faut faire.
321 Je veux en faire l'epreuve.
322 J'ai envie de dormir.
323 Je me coucherai de bonne heure.
324 Je me leverai de grand matin
325 Il faut m'eveiller.
326 A quelle heure.
327 Quelle heure est il?
328 Demain a midi.
330 Ce soir.
331 Je vous souhaite une bonne nuit.
332 Il faut m'enseigner du bon Japonais.
333 A Decima on parle tres mal.
334 Les vaisseaux etant en vue, il fat venir ici.
【335 一行抹消】

【ページ番号】25
336 Il faut m'en prevenir directement.
337 Les femmes Japonaises sont plus belles qu'en peinture.
【338 なし】
339 Elles ont des cheveux noirs superbes.
340 Elles ont un superbe retelier.
341 Ne le dites a personne.
342 Ne le montres a personne.
343 Cachez le bien.
344 Je desire de boire du the【thé アクサン省略】.
345 Desirez vous de boire du the?
346 Mouchez les bougies.
347 Allumez lles bougies.
348 Allumez la lampe.
349 Eteignez les bougies.
350 Couvrez le feu.
351 Roulez ceci.
352 Essayez ceci.
353 Vous aimez beaucoup a dormir.
354 C'est de trop bonne heure.
355 Donnez a manger aux oiseaux.
356 Donnez a boire aux oiseaux.
357 Les oiseaux n'ont rien a manger.
358 Il faut soigner les oiseaux.
359 Donnez du sable propre aux oiseaux.
360 Netoyez les cages.
361 Pendez les au soleil.
362 Defendez les des chats.
363 Je deteste les chat.
364 Chassez les chats.
365 Fermez la porte.
366 Laissez la porte ouverte.
367 La chaleur incommode plus que le froid.
368 Donnez moi une cuillere.
369 Donnez moi une fourchette.
370 Donnez moi un couteau.
371 Tendez moi ce plat.
372 Je vous donnerai de l'argent.
372 Je vous donnerai du drap pour un habit.






374 Je ne puis comprendre ceci.
375 Je ne vous entends pas.
376 Que dites vous?
377 Parlez lentement.
378 Donnez ceci.
379 ?tez ceci.
380 Je vais me promener.
381 C'est une superbe soiree.
382 C'est un beau claire de lune.
383 L'air est couvert.
384 Il pleuvra.
385 Je crois que nous aurons demain beau tems.
386 Pourquoi les Japonais ne font ils pas murir les fr■
387 Les fruits pas murs sont tres malsains.
388 Si F ne revient pas j'en serai fache.
389 J'espere d'avoir deux vaisseaux cette annee.
390 Je m'ennuie d'etre seul.
391 J'aime a avoir du monde.
392 Le tems s'ecoule rapidement.
393 Les Japonais ont ils des Histoires aussi volumineux.
394 J'en doute.
395 Depuis quelle epoque commencent elles?
396 Qui en a l'inspection?
397 C'est tres difficile d'ecrire le Japonais.
398 Les estampes Japonaises sont mal gravees.
399 Si je reussis dans mon projet.
400 En parlant chaque jour on apprend beaucoup.
401 Corrigez moi en parlant mal.
402 Je N'ai pas honte d'apprendre.
403 On n'est jamais trop age pour apprendre.
404 Le plutot vaut le mieux.
405

【ページ番号】26
【番号は前コマから推測】
406 【抹消】
407
408 Pourquoi ne me repondez vous pas?
409 Je l'ai dit si souvent.
410 Il l'a oublie.
411 Aidez moi a traduire ceci.
412 Appelez un domestique.
413 Qui est la?
414 Je ne puis lui parler.
415 J'ai trop a faire a present.
416 Faites le revenir.
417 N'oubliez pas les les(?) pivoines.
418 Procurez moi tout ce qui est curieux.
419 Procurez mois【moi】 les grains de toute sorte de ?apins.
420 Ces arbres doivent etre arrosees chaque jour.
421 Je viendrai directement.
422 Il y a deja tres longtems que j'ai attendu.
423 Je m'ennuie fort.
424 Souvent j'ai desire d'etre de retour a Decima.
425 Le voyage a la cour(?) est tres amusant pour les Japonais.
426 Ce voyage est tres ennuieux【ennuyeux】 pour nous.
427 Il faut se lever de trop bonne heure.
428 On arrive de trop bonne heure a l'Hotel.
429 On ne peut pas diner a l'heure ordinaire.
430 On n'est pas libre, on est comme enferme.
431 On ne peut pas avoir de femmes chez soi.
432 Avec des femmes, le tems s'ecoulerait rapidement.
433 Je puis me faire aux circonstances.
434 J'apprends a me faire aux circonstances.
435 Je dois bien me faire aux circonstances.
436 Il ne peut pas se faire aux costumes des Japonais.
437 Je n'ai pas envie d'aller la.

438 Je prefere de rester ici.
439 Je brule d'envie de partir pour Jedo.【江戸】
440 Je desirerais d'aller a la chasse.
441 Il faut qu'il y ait beaucoup de gibier sur ces montagnes.
442 Il faut venir me voir tous les jours.
443 Si vous n'avez rien a faire , venez me tenir compagne.
444 【番号なし】
445 Je veux noter tout.
446 Faites lui mes complimens【compliments】.
447 Dite lui de venir instamment.
448 Je l'ai desire depuis longtems.
449 Je crains la pluie.
450 Je suis fache de ta maladie.
451 Je vous souhaite le bon jour.
452 Je vous souhaite la bon soir.
453 Je vous souhaite une bonne nuit ou dormez bien.
454 Revez agreablement.
455 Vous avez l'air tres enjoue aujourdhui.
456 Faites apporter du thé.
457 Faites apporter ce qu'il faut pour fumer.
458 Ne voulez vous pas fumer?
459 Emportez ces tasses.
460 Le feu est eteint【eteindreの変化】 faites en venir.
461 Dites lui que je dors.
462 Je vous souhaite une bonne nuit.
463 Je prendrai conge.
464 Quand reviendrez vous?
465 Je vous aime beaucoup.
466 Aussi longtems que je serai au Japon, vous resterez ch■.
467 Que m'avez vous demande ce matin?
468 Il faut noter chaque jour ce qu'il vous faut.
469 Ou est le livre du fournisseur?
470 Voyez si vous avez ordonne ceci.
471 Il faut qu'il retourne demain.
472 Que dites vous?
473 Avez vou encore mal de tete?

【ページ番号】27
474 Avez vous bien dormi cette nuit?
475 Il fait tard, ne voulez vous pas vous lever?
476 La riviere est tres profonde.
477 Le courant est tres fort.
478 La route est tres penible.
479 La route est tres pierreuse.
480 La montagne est tres aride.
481 La terre est tres fertile.
482 Voila un bel arbre.
483 Cet arbre est plein de fruits.
484 Le terrain est trop gras.
485 Le terrain est trop sec.
486 La grande chaleur dessechera tout.
487 Les fortes pluies feront【faireの変化】 tout pourrir.
488 Cette graine ne veut pas pousser.
489 Cette graine pousse luxurieusement.
490 Cet arbre doit etre taille.
491 Cet arbre doit etre transplante.
492 Bechez la terre.
493 Il est tems de diner.
494 Demandez au cuisinier si le diner est pret.
495 Pourquoi est il fache?
496 Ces bougies ne veulent pas bruler.
497 Il fume ici terriblement.
498 Il commence a faire froid.
499 Qu'on apporte de la bierre.
500 Vous donnez du tabac a un autre moi je ne recois【recevoirの変化】 rien de vous.
501 Ce n'est pas aimable.
502 Veuilles【vouloirの変化】 dire au fournisseur.
503 En parlant lentement je puis vous comprendre.
504 Ordonnez une superbe robe chez ?aquia.
505 Ordonnez deux chapeaus blans chez ?aquia.
506 Il faut toujours porter des chaussons blancs.
507 Je desire de pouvoir t'emmener a Batavia.
408 Chez nous les femmes jouissent【jouirの変化】 plus des agremens【agrements】 de la vie.

509 Qu'est ce qui te rend confuse?
510 Il faut toujours etre gaie.
511 Je n'aime pas de voir des figures abattues.
512 Demandez moi tout ce que vous desirez.
513 Ordonnez a Faquia de t'apporter quelques belles robes.
514 J'aime a te voir superieurement que tu travailles.
515 Je ne veux pas souffrir que tu travailles.
516 Venir chez soi.
517 De retour a la maison
518 Aites vous si longtems a vous coiffer?
519 Vous vous coiffez toujours jolliment.
520 Cette pomade a un odeur delicieux.
521 Je ne veux pas qu'il aille la.
522 Il n'agit pas bien en cela.
523 Il se trompe.
524 Il croit que je l'ignore.
525 Il croit que je ne l' appercois pas.
526 Il croit que je ne l'entends pas.
527 Il croit que je ne le comprends pas.
528 Ce n'est pas ainsi.
529 C'est la verite.
530 S'il n'y a plus de thé, il faut en faire venir d■
fournisseur.
531 Je vous souhaite un bon appetit.
532 Combien de tems y a t'il?
533 Il y a six mois.
534 Depuis longtems
535 Depuis peu
536 Dans peu de tems
537 Attachez le.
538 Detachez ce chien.
539 Je vous demande pardon.
540 Ne vous fachez pas.
541 Je ne le ferai plus.
542 Ne vous mettez pas en colere.
【単語の上に語順を示す数字あり:1,3,2の順】

【ページ番号】28
543 C'est arrive par malheur.
544 De retour a Batavia je penserai toujours a vous
545 Je reviendrai bientot
546 Je ne vous oublierai pas.
547 Vous demeurereaz chez votre mere.
548 Je payerai l'argent.
549 Vos parents sont ils dans le besoin?
550 De quoi vivent ils?
551 Il faut que je me leve de grand matin.
552 Vous pouvez dormir a loisir.
553 Il faut qu'elles soyent【soient】 sur leur garde avec le feu.
554 J'ai peur d'une incendie.
555 Ordonnes tout ce que vous desirez chez fournisseur.
556 Je ne vous permets pas de payer.
555【再出 言い換えヵ】 Faites venir du fournisseur tout ce que vous desirez.
557 Qu'avez vous? Que manque t'il?
558 La forte fumee me donne du mal de tete.
559 Elles dorment trop longtems.
560 Elles doivent se lever de meilleure heure.
561 De quoi est il afflige?
562 Quand cela sera t'il pret?
563 Quand le charpentier viendra t'il a Decima?
564 N'allez pas la, le soleil te brulera.
565 Dites le moi quand on t'incommode.
566 Quand un trucheman viendra t'il a Decima?
567 Si un trucheman vient a Decima je le lui dirai.
568 Ordonnez le au charpentier.
569 Il travaille tres proprement.
570 Il faut que ce soit bientot pret.
571 Il me fait toujours trop attendre.
572 La fumee me fait mal aux yeux.
573 Je ne puis pas le fier.
574 Je le ferai venir un autre fois.
575 Il est toujours tres mal-propre.
576 Ce soir je veux laver les pieds.
577 C'est plus sain dans de l'eau froide que dans de l'eau
chaude.

578 Essayez mes pieds.
579 Coupez les ongles.
580 Restez ici jusqu'a ce qu'ils soient partis.
581 Je ne veux pas que personne entre ici.
582 Ik wil niet【オランダ語らしい=I don't want】
583 En sortant j'irai le voir.
584 Cette eau est refroidie.
585 Chauffez la.
586 A qui est cette fille?
587 La fille de Mats(?)
588 Ne pouvez vous pas ecrire?
589 Ne jouez vous pas du Samsi(?)?
590 Pourquoi ne jouez vous pas du Samsi?
591 Je ne l'ai pas appris.
592 D'ou avez vous cela?
593 Faites le voir.
594 Dites a tes filles de se lever de meilleure heure.
【595&596順番通り 】
595 Dites a tes filles de netoyer l'appartement.
596 Pourquoi ne faites vous pas allumer ici une la■【lampeヵ】
597 Faites venir un autre jou de cartes.
598 Donnez un autre jeu de cartes.
599 Ces cartes sont trop sales.
600 J'en ai perdu quelque uns.
601 Qui le gagne?
602 Il voit dans mon jeu.
603 De moi
604 A moi
605 J'ai ete hier chez Sakfrasan(?).
606 Il faut boire tous les jours de cette medecine.
607 Dans quelle maladie cela sert il?
608 On s'en sert contre la gale.
609 Aussi longtems qu'elle est malade, elle ne peut pas coucher ■.
610 Oekfra(?) est morte hier au soir.
611 Il faut y verser deux tasses d'eau, et l' ebouill■【ebouillirヵ】
sur une tasse.

【ページ番号】29
612 Ne prenant pas de medecine vous ne guerirez jamais.
613 Tous les jour il faut faire cuire un paquet de ces herbes
et en boire l'eau.
614 Cet onguent est bon pour se frotter.
615 Tous les Japonais s'en servent.
616 On m'en demande souvent en ville.
617 En vous servant de ceci vous retablirez bientot.
618 A qui ecris tu?
619 Je crois que tu corresponds beaucoup en ville.
620 Ils n'osent plus retourner ici.
621 Il se sont trop amuses.
622 Depuis quand etes vous a Nagasaki?
623 Combien de tems faut-il encore y rester?
624 Il faut m'en prevenir quand votre mere sera a la porte.
625 Je ne veux pas que vous y restez longtems.
626 Je veux que vous retournez toujours directement.
627 Je ne veux pas que vous foratrez ou causez avec elles.
628 Les filles a Decima ont l'habitude d'ecrire a leurs parents.
629 Si elle me deplait je la renverrai.
630 Amusez vous bien.
631 Que fait il?
632 Que faites vous?
633 Etant a Decima j'ai du tems a l'oisir.
634 Que boirez vous?
635 Ne boirez vous rien?
636 Si vous desirez a boire veuilles【vouloirの変化】 l'ordonner.
637 Je vous suis infiniment oblige de la peine que vous
avez prise.
638 Apprenez moi un chanson Japonais.
639 Dite le parole je les ecrirai.
640 Avez vous deja pris des medecines?
641 Elle voulait hier que je vous renvoyais.
642 Il faut faire venir aujourdhui une autre fille.
643 Je ne veux plus de celle la.

644 Une fois, deux fois
645 Nagasaki est a trente deux degres.
646 Elle m'envoyait un present de quelques petits gateaux.
647 Je n'avais pas envie d 'en manger.
648 Je les renvoyais et la fis remercier.
649 Cela lui donna de l'humeur, elle ne voulut pas me par■.
650 Je compris la cause de son mecontentement.
651 Pour l'appaiser【apaiserヵ】 je lui demandai quelque gateaux.
652 Je la priai de m'en envoyer quatre le lendemain ma■.
【653&654なし】
655 Je lui disais de les trouver delicieux.
656 Ceci l'appaisa【apaisaヵ】.
657 Cette lampe doit etre a une plus grande distance dans la m■.
658 Je crains【craindreの変化】 que les rideaux ne prennent feu.
659 Il faut allumer aussi une chandelle de nuit.
660 Cette lampe doit etre remplie d'eau auparavent【auparavantヵ】
661 Donnes moi vos armes.
662 Hier je vous avais prie deja de me donner vos armes.
Vous l'avez oubliee.
663 Envoyez vous chaque jour un commissionaire en ville.
664 Ne desirez vous pas d'aller en ville?
665 Je l'enverra【envoyerの変化】 en ville.
666 Subi【人名ヵ】m'a dit que vous lui avez envoye du sucre.
667 Que voulez vous faire?
668 Ceci devienda charment.
669 Quand ceci sera t'il acheve?
670 Quand ce sera acheve je le desire.
671 Vous etes tres habile.
672 Aujourdhui vous etes tres paresseuse.
673 Aujourdhui vous etes tres enjouee.
674 A quelle heure vous etes vous endormie cette nuit?
675 Vous m'avez tenue eveille longtem.
676 Tirez fort.
677 J'ignorais que vous savies broder.
678 Fermez votre robe.

【ページ番号】30
679 Vous etes tres belle, vous etes charmante.
680 Que je vous aide.
681 Aidez moi.
682 Ne le cassez pas.
683 Ne le jettez【jetezヵ】 pas.
684 Buvez beauoup tous les jours.
685 Plus vous boirez , mieux vous vous porterez.
686 Entrez, il vient du monde.
687 Mettez ou habillez vous jolliment.
688 N'avez vous pas honte?
689 Vous devriez avoir honte.
690 Il ne faut pas noircir vos dents.
691 Ne rasez pas ses sourcils.
692 Nous detestons cela.
693 Ordonnez des fruits murs.
694 Je viens vous tenir compagnie.
695 Jouons aux cartes.
696 Les cousins ne vous incommodent-ils pas?
697 Les cousins m'ont beaucoup incommodes la nuit passee.
698 il y a beaucoup de cousins ici.
699 Dressez vous tous les jours tres proprement.
700 Fille, portes ces bouteilles en devant.
701 Pourquoi doit on te le dire si souvent?
702 Je n'aime pas a dormir sans lumiere.
703 Si l'huile d'Hollande ne brule pas, faites en
venir ici.
704 J'aime a te voir enjouee.
705 Mets ce sucre dans une boite.
706 Il n'est pas permis que cela passe la porte ainsi.
707 Il faut auparavant un passeport.
708 A l'arrivee des vaisseaux je le donnerai du theriaque.
709 Il faut avoir si longtems patience.
710 Journellement il faut qu'une fille apporte a son
levee ces bouteilles en devant.


. te voi1

711 N'allez pas la.
712 Restes dans ta chambre.
713 Ici sont mes appartemens【apartments】, la les votres.
714 Tu parais languir de voir ta mere.
715 En partant pour Batavia je le predrai avec m■.
716 A mon retour je t'apporterai une ceinture brode
de tes armes.
717 Ces poineons(?) sont elles d'ecaille de tortue, ou de corne?
718 A l'arrivee des vaisseaux je te ferai faire des
peignes et des poineons(?) de sabots de tortue.
719 Vous pourrez les ordonner a la fantaisie.
720 Il faut que tu ayez les plus belles peignes et
de toutes les dames.
721 Il me l'a prete.
722 Te l'a t'il prete?
723 Cela n'est pas a moi.
724 Je le desire.
725 Pretez le moi.
726 Je le garderai comme un souvenir.
727 【1,2,3の語順通り】Demain je verrai si je l'ais【aiヵ】 encore.
728 Les dames du Japon peuvent rire a bon pla■.
729 Dites que je la fais remercier.
730 Dites lui que je suis informe qu’elle est enceinte.
731 Quand doit elle accoucher?
732 Combien de mois est elle grosse?
733 Pretes moi ta pipe.
734 Il a la barbe tres forte.
735 Je suis encore a juin, ayant bu trop de sake hier
soir.
736 Couchez vous.
737 Laisse moi tranquille.
738 Mets le la.
739 Pretes moi ton evantail.
740 Eventez moi.

【ページ番号】31
741 Ramassez ceci.
742 Pendez ceci.
743 Laissez le.
744 Je n'ai pas faim - J'ai faim.
745 As tu faim?
746 Cela me plait pas.
747 Faites emporter ceci.
748 Faites venir du feu.
749 Chauffez cet eau.
750 Donne moi une chaise.
751 Ne faites pas tant de bruit.
752 Soyez tranquille.
753 Ne lui faites pas du mal.
754 Ne la battez pas.
755 Ne la pincez pas.
756 Serrez ceci
757 Cousez ceci.
758 Coupez ceci.
759 Faites la feu.
760 Elle est trop entetee.
761 Si elle s'absente encore si longtms, je la renverrai.
762 Faites le lit.
763 Faites l'apporter de l'eau.
764 Si vous voulez parler a Sinstei(?), faites le venir ici.
765 Ce n'est pas bien dans la rue.
766 Cela n'ira pas ainsi avec elle.
767 Ne vous couchez vous pas encore?
768 Si cela ne lui plait pas elle peut s'en aller ou(?) renvoyez la.
769 Les chats ont devores une pivoine la nuit derniere.
770 N'oubliez pas de fermer tous les soirs ces paravents.
771 Je veux qu'elle fasse ce qu'on lui dit.
772 Mets cette malle ici.
773 Mets cete malle la dessus.
774 Veuilles me corriger en parlant mal.

775 Donnes moi par ecrit ce que chacun vous d?ir.
776 Je me moque de sa mauvaise humeur.
777 Je desire de parler aussi bien le Japonais, que vous
faites le hollandais.
778 Du cote oppose on peut tout voir ici.
779 Faites tomber la malle.
780 Vous etes superieurement coiffee aujourdhui.
781 Vos cheveux sont coiffes tres negligement aujourdhui.
782 Pourquoi ne le aidez vous pas?
783 Avez vous pris mon couteau?
784 Je l'ai cherche longtems.
785 Je ne puis le trouver.
786 Rendez le moi.
787 Emportez tout d'ici.
788 C'est peine perdue /en parlant a un domestique/
789 C'est peine perdue /dans le discours/
790 C'est peine perdue /parlant de quelque chose/
791 N'es tu pas encore partis?【番号順】
792 Faites oter ceci.
793 Faites netoyer【nettoyer】 ceci.
794 Faites moi eventer.
795 Je veux t'eventer.
796 Sois sur ta garde.
797 Le chemin est trop crotteux【crotteヵ】.
798 Attendez jusqu'apre midi.
799 Attendez jusqu'a demain.
800 Vous dormez trop longtems.
801 C'est malsain.
802 Sois gaye【gaieヵ】.
803 Je te trouve charmante.
804 Laissez cela.
805 Quand je vais me coucher, couchez vous de meme.
806 Tu m'empeches de dormir.
807 Ne faites pas tant de bruit.

【ページ番号】32
808 Apres avoir vuide【videヵ】cette vase, il faut la faire remplir.
809 Il faut avoir soin chaque jour de remplir cette vase
d'eau avant mon coucher.
810 Je ne puis pas dormir, n'ayant pas de l'eau dans ma chambre.
811 Avant de te coucher,baignes toi dans de l'eau chaude.
812 Combien de tems y a t'il?
813 Il y a apresent six mois.
814 Attachez le.
815 Il y a longtems.
816 Depuis peu.
817 Dernierement
818 Veillez ici jusqu'a mon retour.
819 Sa mauvaise humeur est bientot passee.
820 Je n'aime pas de voir quelqu'an malheureux.
821 Pouquoi ne me l'a t'elle pas dit?
822 Pourquoi ne s'en est elle pas plainte?
823 Je deteste les querelles.
824 Apres avoir ete quinze jours en ville je la ferai revenir.
825 En attendant il faut faire venir une autre fille.
826 Pourquoi n'a t'elle pas attendu jusqu'aujourdhui.
827 Je l'ai bien menace, mais ne voulais
pas la renvoyer.
828 Nous ne sommes pas habitues a manger du fruits pas
murs.
829 Je ferai ici autant de place que possible.
830 Le soir, si vous avez du monde, vous pouvez le
recevoir ici.
831 Les vaisseaux peuvent venir dans la quinzaine.
832 A l'arrivee des vaisseaux vous m'obligerez en
invitant du monde tous les soirs.
833 Je l'anguis【languirの変化】 de savoir si Mons T reviendra.
834 On dit qu'il parle tres bien le Japonais.
835 Il comprend tout ce qu'on dit.
836 Lorsque ses Japonais parlent entr'eux, je ne comprends
pas encore bien tout ce qu'ils disent.

837 Je comprends bien de simples phrases mais pas encore
tout un discours.
838 Crois tu que cela te va bien?
839 Pourquoi demandes tu cela?
840 Je le demande parceque【parceque以下なし】
841 Mais.
842 Pas vrai.
843 C'est un menteur.
844 La saison n'est pas encore fort avancee.
845 Dites lui que je ne veux pas qu'elle m'envoye des cad■【cadeauxヵ】
846 Si elle m'en envoit【envoiヵ】 encore, je les renverrai.
847 Elle depense ainsi son argent, et en a besoin elle meme.
848 Je la ferai venir des que le tems se refroidit.
849 Les jours s'allongent.
850 Les jours diminuent.
851 Il commece a faire froid.
852 Si le froid continue je ferai faire du feu.
853 La porcelaine de Firando est belle .
854 Mais ils ont de mauvais modeles.
855 Encore les coulers ne sont pas vives
856 Anciennement on faisait de plus belle porcelaine
qu'en ce tems ci.
857 L'ancienne porcelaine du Japon est tres recherche.
en Hollande.
858 On la prefere beaucoup a celle de la Chine.
859 Puisqu'elle resiste a l'ardeur du feu.
860 Aussi la paye t'on plus cher.
861 Fournisseur, envoyez une chevre qui donne plus de ■.
862 On dit que Subi(?) ne peut pas sortir a cause de
ses dettes, et qu'il a mis tout en gage.
863 Ses dettes montent a plus de quinze mille ■【貨幣の単位と想像】
/cent cinquante mille maas(?)/
864 Il faut qu'il attende encore un mois.
865 Il n'y a pas d'autre moyen pour le sauver, qui■
porter tous les ans deux cent barils de sucre pour les
interpretes.

【ページ番号】33
866 Les faits doivent correspondre avec les paroles.
867 Ses actions ne correspondent pas avec ses discours.
868 Je veux apprendre a bien parler le Japonais malgre toute difficulte, ou qu'il soit difficile.
869 faire - fait
870 menacer
871 J'ai menace de le renvoyer.
872 Pourquoi n'etes vous pas venu hier?
873 J'ai ete me divertir a Jagami.
874 Je vous ai fait venir.
875 J'ai cru que vous etez au Gouvernement.
876 J'ai cru que vous aviez de l'humeur, et ne vouliez
pas venir.
877 Vous etes vous beaucoup amuse a Jagami?
878 Je crois qu'en ce tems-ci il n'est pas fort amusant
a Jagami.
879 Peu de monde y ira.
880 Une sentence de confactsoe【?】
Il est facile de faire accroire des mensonges,mais comment appaiser la
conscience?
Ses sortes de vers sont toujours de cinq lignes.
La 1er de cinq, la 2e de sept, la 3e de cinq, la 4e & 5e
de sept sillabes.
881 Je vous remercie.
882 Je vous suis oblige.
883 J'ai bu assez.
884 Encore un verre, et pas d'avantage.
885 Je me trouve incommode.
886 Je suis malade.
887 Depuis quand?
888 Deja depuis longtems.
889 Je m'en vais, suivez moi.
890 Venez ici.
891 Ouvrez la porte.
892 Fermez la porte.

893 Venez vite.
894 Qu'attendez vous?
895 C'est tems d'aller.
896 Je dois partir.
897 Ou est ce?
898 Est ce loin d'ici?
899 C'est tout pres.
900 Que fait il?
901 Il mange et boit.
902 Ou demeure t'il?
903 Ou demeure t'elle?
904 Ou est il?
905 Ou sont ils?
906 Est il en ville?
907 Quand sera t'il chez lui?
908 Je l'ignore.
909 Qu'avez vous de nouveau?
910 Je ne sais rien d'extraordinaire.
911 On dit que【文の終わりではない】
912 J'ai entendu dire.
913 C'est bon.
914 Ce n'est pas mal.
915 Demeurez un peu, ou attendez un peu.
916 Restez la.
917 Taisez vous.
918 Vous vous meprenez【meprendreの変化】.
919 Vous avez raison.
920 Pardonnez moi.
921 Vous etes dans l'erreur.
922 Je vous demande pardon.
923 C'est vrai.
924 C'est faux.
925 Il ment【mentirの変化】.

【ページ番号】34
926 Ce n'est pas possible.
927 De quoi parlez vous?
928 Assayez vous.
929 Levez vous.
930 Que vous faut il?
931 Il est sorti.
932 Il est dehors.
933 Est il revenu?
934 N'est il pas revenu encore?
935 Quel age a t'il?
936 J'ai quelque chose a faire.
937 J'en suis fache.
938 J'en suis bien aise.
939 N'allez pas si tot.
940 Connaissez vous ce Monsieur?
941 Je le connais de vue.
942 Faites mes complimens【compliments】 a la mere.
943 Je n'y manquerai pas.
944 Cela ne vient pas de sa tete.
945 Le soleil se leve.
946 Le soleil est leve.
947 Le soleil se couche.
948 La lune se leve.
949 La lune s'est levee.
950 le voici.
951 le voila.
952 La voila.
953 Les voila.
954 Me voici.
955 Qui est la?
956 Combien cela vaut-il?
957 Un sous.【sou: スー(サンチーム)昔の貨幣単位、複数形で金・コインの意】
958 Deux sous.

959 Deux liards【liard リヤール銅貨、昔のフランスの通貨】
960 Dix sous
961 C'est trop.
962 C'est trop cher.
963 C'est bon marche.
964 Combien demandez vous pour cela?
965 Que voulez vous donner?
966 Vous badinez.
967 Viens diner.
968 As tu fini?
969 Dressez la table.
970 Emportez les plats.
971 Ou sont les couteaux?
972 Ou est la fille?
973 Elle est sortie.
974 Elle dehors.
975 Ou est elle allee?
976 Je l'ignore.
977 Je viendrai vous voir.
978 Venez demain apres midi.
979 Je ne puis.
980 Quand donc?
981 J'ai ete hors de ville.
982 Ou.
983 A Magome.
984 La semaine prochaine.
985 La semaine passee.
986 C'est bien.
987 C'est bien travaille.
988 C'est bien fait.
989 C'est bon.
990 Allez au marche de poissons.
991 Savez vous quelqu'appartment a louer.

【ページ番号】35
992 C'est admirable.
993 Suivant mon idee.
994 De quoi riez vous?
995 Que vous manque t'il?
996 C'est domage.
997 J'ai pris une rhume.
998 Qu'allez vous faire.
999 Je t'en prie.
1000 Faites moi ce plaisir
1001 A qui en est la faute?
1002 C'est ta faute.
1003 Ce n'est pas ma faute.
1004 C'est un honnete homme.
1005 C'est un veau rien.
1006 Mon honneur y est interresse.
1007 J'ai mal de tete.
1008 Ce matin
1009 Quel est ton dessein【dessinヵ】?
1010 Parlez vous l'hollandais.
1011 Je comprends un peu, mais je ne puis le parler.
1012 Comment dit on cela en hollandais?
1'013 Qui est il?
1014 Qu'est ce que cela?
1015 Faites moi voir quelqu'autre chose.
1016 Netoyez【nettoyezヵ】 mes souliers.
1017 Mon lit est il fait?
1018 Combien est ma depence【depenseヵ】?
1019 A combien monte la depence【depenseヵ】?
1020 Ce n'est pas possible.
1021 Il fait tard.
1022 Ce n'est pas tard.
1023 C'est encore de bonne heure.
1024 Qu'elle heure est il?

1025 C'est midi.
【1026 ヌケ】
1027 C'est bientot neuf heures.
1028 Neuf heures vont sonner.
1029 Voila qu'il sonne dix heures.
1030 C'est passe neuf heures.
1031 C'est neuf heures et un quart.
1032 C'est a peu pres neuf heures et demie.
1033 Quel age avez vous?
1034 N'en parlez pas.
1035 C'est fini.
1036 Il y a un an.
1037 Depuis longtems.
1038 Il vient quelu'un.
1039 Il y a deux personnes qui vous demandent.
1040 Il n'y a personne.
1041 On frappe a la porte.
1042 On frappe.
1043 Cela ne vaut rien.
1044 Il y a du danger a cela.
1045 La chaleur est passe.
1046 Le vent a tourne.
1047 Le tems s'eclaireir.
1048 Que【?】 pensez vous?
1049 Je crains qu'il pluevra.
1050 C'est un tems superbe pour se promener.
1051 C'est clair de lune.
1052 Allons.
1053 Le tems est passe.
1054 Le tems est expire.
1055 Commet se porte t'elle.
1056 Elle m'a dit qu' elle se portait bien.
1057 Qu'a t'elle dit?

【ページ番号】36
1058 Elle vous remercie.
1059 N'avez vous rien de nouveau?
1060 Monsr【monsieurの略】 N. est mort.
1061 Vous m'affragez【affrigezヵ】.
1062 Vous me dites la a quoi je ne m'attendais pas.
1063 Depuis quand a t'il ete malade?
1064 Seulement depuis trois jours.
1065 De qu'elle maladie mourut il?
1066 D'une fievre ardente.
1067 Quand sera t'il enterre?
1068 Demain au soir.
1069 A qu'elle heure?
1070 Nous n'avons qu'une piece de boeuf et un chapon.
1071 Nous sommes seuls.
1072 Je vous donnerai un verre.
1073 Mettons nous a table.
1074 La table est dressee.
1075 Le diner est pret.
1076 As t'on servi?
1077 M'a t'on attendu?
1078 Le premier dialogue.
1079 Comment parler a quelqu'un, et comment prendre conge?
1080 Monsieur je suis ton serviteur.
1081 -----    je suis le votre.
1082 Comment vous portez vous.
1083 Tres bien a vous servir.
1084 Assez bien
1085 Comme-ça comme a l'ordinaire.
1086 Pas trop bien.
1087 Vous pouvez disposer de moi en toute occasion.
1088 Puis je vous etre de quelque service?
1089 Je vous suis oblige.

1090 Je vous fais mes remerciemens【remerciements】.
1091 Je vous suis tres oblige.
1092 Je vous remercie de tout mon coeur.
1093 Adieu.
1094 Bon soir.
1095 Porte toi bien.
10956 Ou allez vous?
1097 D'ou venez vous?
1098 De l'Eglise.
1099 De la bourse.
1100 Du marche.
1101 Du barbier.
1102 Que faites vous?
1103 Que cherchez vous?
1104 Que dites vous?
1105 Que demandez vous?
1106 Je ne vous entends pas.
1107 Parlez lentement.
1108 Depechez vous.
1109 Courez vite.
1110 Je dois sortir.
1111 Ce matin.
1112 Avant midi.
1113 Apres midi.
1114 Ce soir
1115 Dans ce moment.
1116 Apres une heure.
1117 Cette semaine.
1118 Passes quinze jours.
1119 Apres un mois.
1120 Ou avez vous ete?
1121 Ou avez vous ete si longtems.
1122 A la maison.
1123 A la bourse.
1124 Au spectacle.

【ページ番号】37
1125 Chez mon Pere.
1126 Chez lui.
1127 Chez elle.
1128 Chez nous.
1129 Soyez le bien venu.
1130 Entrez.
1131 S'il vous plait.
1132 Chauffez vous.
1133 Il fait froid.
1134 Fait il du vent?
1135 Il fait beaucoup de vent.
1136 Il fait cheau.
1137 Il pleut.
1138 Pleut il?
1139 Il neige.
1140 Il frele.
1141 Il gele.
1142 Il degele.
1143 Quel tems fait il?
1144 Il fait beau tems.
1145 Il fait mauvais tems.
1146 Il est tard.
1147 Il fait nuit.
1148 C'est midi.
1149 C'est douze heures.
1150 Je vais diner.
1151 J'ai faim.
1152 J'ai soif.
1153 Pretez moi quelqu'argent.
1154 Je n'ai point d'argent.
1155 Donnez moi de la bierre.
1156 Donnes moi a boire.
115 Un verre de bierre.
1158 Apportes moi du vin.
1159 Donnez moi une rasade.
1160 Je n'ai pas de pain.

1161 J'ai nu couteau ni fourchette.
1162 A votre sante Monsieur.
1163 Je suis votre serviteur.
1164 Remplissez le verre.
1165 Donnes le a Monsieur.
1166 Prens garde de ceci.
1167 Enfermez le la.
1168 Mouillez le papier.
1169 Remuez le.
1170 Rincez le.
1171 Netoyez【nettoyez】 le, lavez le.
1172 Mouillez le.
1173 te ssechez【sechezヵ】 le.
1174 Repasez le.
1175 Pignez vos cheveux.
1176 Coiffe vous.
1177 Qu'attendez vous?
1178 Pressez cette natte.
1179 Levez cette natte.
1180 Serrez ta robe.
1181 Vous la perderez.
1182 Faites le netoyer【nettoyer】.
1183 Regardez vous au miroir.
1184 Brossez vos dents.
1185 Envoyez le en ville.
1186 Envoyez le a votre mere.
1187 Allumez ma pipe..
1188 Remplissez ma pipe.
1189 Pretez moi des ciseaux.
1190 Decoudez ceci.
1191 C'est la dessous.
1192 C'est la dessus.
1193 Couchez vous la.

【ページ番号】38
1194 Couchez ici.
1195 Ne tombez pas.
1196 Ne me pincez pas.
1197 J'ai le corps tout plein de taches rougatres【rougeatres】/en parlant
1197 le meme  /en ecrivant
1198 Ton pincer(?) en est la cause.
1199 De quoi pleurez vous?
1200 De quoi avez vous pleure?
1201 De quoi riez vous?
1202 Dites le moi.
1203 Je vous montrerai des choses charmantes.
1204 Je vais les chercher.
1205 Je le demanderai a Mats.
1206 Je l'ai demande a Mats.
1207 Demandez le a Mats.
1208 Il m'a demande.
1209 Attendez ici.
1210 Demeure et attends ici.
1211 Suivez moi bientot.
1212 Allez avec moi.
1213 Ne suis point effrangee.
1214 De quoi as tu peur.
1215 Tu es folle.
1216 Tu es ennuyant.
1217 Reviens bientot.
1218 Comment nommez vous ceci?
1219 Qu'est ce qui vaut mieux ceci ou cela?
1220 Ne trouvez vous pas que je parle tres bien?
1221 Instrisez【instruisez】 moi.
1222 Vous ne voulez pas m'instruire.
1223 Je desire ardanment d'apprendre.
1224 Nettoyez vos oreille.
1225 Lavez vos mains.

1226 Coupe tes ongles.
1227 Lavez le visage.
1228 Lavez vos pieds.
1229 Vous mangez trop de bons bons.
1230 Cela derengera【derangera】 ton estomac.
1231 Vous deviendrez malade.
1232 Restez hors le vent.
1233 Cachez vous du soleil.
1234 Ici c'est trop humide.
1235 Quand il fera du tonnere cette eau monte.
1236 Quand il tonnera ces boules descendent.
【1237なし】
1238 Jettez【jetez】 le.
1239 Prenez le.
1240 Ramassez le.
1241 Cousez le.
1242 Donne moi une aiguille.
1243 Donne moi du fil.
1244 Taisez vous .
1245 Mets toi ici.
1246 Allez vous en.
1247 Attachez le.
1248 Nouez le.
1249 Laissez l'aller.
1250 Tenez le.
1251 Cela me surprend.
1252 Cela m'effraye.
1253 Ne vous effrayez pas.
1254 Levez vous.
1255 Habillez vous.
1256 Ecrivez le.
1257 Rappellez vous en.

【ページ番号】39
1258 Ne L'oubliez pas.
1259 Viens voir.
1260 Qui est il?
1261 Je ne le connais pas.
1262 Le connaissez vous?
1263 Coupez ceci.
1264 Aiguisez, affilez ceci.
1265 Ce couteau est emousse.
1266 Ce couteau eest tranchant.
1267 C'est trop sec.
1268 C'est trop humide.
1269 C'est tres sain.
1270C'est malsain.
1271 Allez de la.
1272 Qu'y cherchez vous?
1273 Vous n'y avez rien perdu.
1274 Ce n'est pas la votre place.
1275 Ce n'est pas necessaire.
1276 J'en ai besoin.
1277 Je sais ce que vous desirez.
1278 Vous desirez d'aller avec moi en ville.
1279 【末梢】
1280 J'ai egratigne ma jambe.
1281 Cela me fait bien de mal.
1282 Un humeur acre en sort.
1283 Je suis charme que vous vous portez bien
1284 J'avias appri que vous etiez uncommode.
1285 On m'a fait un faux rapport.
1286 Je ne le crois pas.
1287 On ne peut s'y fier.
1288 C'est incertain.

1289 On pretend que c’est vrai.
1290 Sjubi【名前ヵ】est il encore malade?
1291 Sjubi est deja retali.
1292 Je ne suis pas bien encore.
1293 Quand le Gouverneur partira t'il pour Jedo【江戸ヵ】?
1294 De jour en jour le froid augmente.
1295 Le froid est plus agreable que le chaleur.
1296 Qui est aujourdhui de garde au College?
1297 Le Gouverneur viendrai t'il cette annee a Decima?
1298 Quand les Jonques Chinoises partent elles?
1299 Les rapporteurs viennent rarement a Decima.
1300 Dites lui que je le remercie.
1301 J'estime un homme actif.
1302 Je meprise un paresseux.
1303 Il n'est bon a rien.
1304 On ne peut l'employer a rien.
1305 Il est l'ennemi de lui meme/ou son propre/
1306 Il s'accable d'ennui.
1307 Il perd toujours son tems a des bagatelles.
1309 Profites de l'occasion.
1310 Vous la regretterez apres.
1311 Vous faites le plus de tort a vous meme.
1312 Ne negligez pas l'occasion.
1313 Suivez mon conseil.
1314 Je vous aiderai dans tout.
1315 Tout est il pret?
1316 Ne me faites pas attendre.
1317 Informez moi quand il sera tems.
1318 C'est peine perdue.
1319 Ne m'inposez【m'imposez】 pas.

【ページ番号】40
1320 Il y a longtems que je ne vous ai vu.
1321 Craignez vous de venir ici?
1322 Le tems des pluies est tres long cette annee.
1323 Cette annee sera tres abondante.
1324 Le laboureur languit apres la pluie.
1325 Dites moi quand vous vous en irez.
1326 Il m'a dit que le Gouverneur se propose de venir
a Decima.
【1327なし】
1328 Quand ces magazins seront ils demolis?
1329 Ils coupent la perspective de la baye.
1330 Les frais de reparation monteraient trop haut.
1331 Encore dans ce-tems-ci ils ne servent a rien.
1332 On y met peu de marchandises.
1333 La Tresorerie paye les marchandises trop peu.
1334 On perd sur beaucoup d'articles.
1335 Les magazins de la Compagnie suffisent pour
contenir toutes les marchandises qu'on apporte.
1336 Il faut se faire au tems.
1337 Il n'y a plus de profits a faire ici, ou a gagner.
1338 Les articles du Japon sont a bas prix a Batavia.
1339 On ne peut emporter des marchandises d'ici.
1340 Saki【酒の表記のようです】 est l'article le plus avantageux pour
emporter.
1341 On le boit a Batavia avant le diner.
1342 On trouve beaucoup d'Amateurs de Saki a Batavia.
1343 Pourquoi les Japonais preferent-ils le Saki brun
ou blanc?
1344 Les Japonais boivent le Saki chaud.
1345 Nous preferons de boire le Saki froid.
1346 Le Saki chaud encore bientot.
1347 Apres que les Magazins【magazines】auront ete demolis on y
pourra faire un superbe jardin.

1348 On y cultivera beaucoup de legumes.
1349 On a des legumes delicieux au Japon.
1350 Tout ce qu'on fait venir du fournisseur est tres
cher.
1351 Il faut qu'ils gagnent beaucoup.
1352 Il a beaucoup d'argent.
1353 Il depence plus que ses revenus.
1354 L'ecnomie est toujours bonne.
1355 Il vaut mieux d'etre econome dans la jeunesse
que d'etre dans le besoin a un age avance.
1356 Il faut toujours avoir la fin en vue.
1357 Un gredin est haï de tout le monde.
1358 Un gaspileur 【gaspilleur】est meprise de tout le monde.
1359 Je desire pouvoir trouver moyen pour avan-
tager la Compagnie.
1360 Les Japonais sont le peuple le plus heureux du
monde.
1361 Ils ne sont point【desヌケヵ】 troubles par des guerres.
1362 Leur Pais【Paysヵ】 est toujours en paix.
1363 Les Japonais sont braves.
1364 Ils craignent peu la mort.
1365 Plus on apprend plus sage on devient.
1366 L'experience est le meilleur maitre.
1367 Le tems decouvre tout.
1368 Le tems vous l'apprendra.
1369 Ayez de la patience seulement.
1370 Qui va lentement va sur.
1371 Par activite on surmonte tout.
1372 Il faut endurer patiemment ce qu'on ne peut
prevenir.

【ページ番号】41
1373 On ne peut pas toujours prevoir les suite.
1374 Il se mele de choses qui ne lui regardent pas.
1375 Avant de reprendre un autre, apprens【apprends】 a te connaitre
toi-meme.
1376 On appercoit 【aperçoit】 bien vite les fautes d'un autre.
1377 On ne fait pas attention a ses propres fautes.
1378 C'est une mauvaise habitude.
1379 Tout le monde y est sujet.
1380 Ne sois pas trop convoiteux.
1381 Le plus d'argent qu'on a, le plus qu'on desire.
1382 Il a une fantaisie pour tout ce qu'il voit.
1383 Il parait que le froid tarde encore a venir.
1384 Je crois que vous n'aurons pas un hiver rude.
1385 Il fait plus chaud aujourdhui, qu'il ne faisait
hier.
1386 Aujourdhui il fait plus froid que hier.
1387 Ou l'avez vous perdu?
1388 Dites qu'elle le cherche.
1389 Je l'ai cherche pendant longtems mais ne peux
pas le trouver.
1390 Il fait froid le matin et chaud dans la journee.
1391 Cette lettre signifie mois.
1392 N'ai tu pas encore trouve ta lague【langueヵ】?
1393 Il m'a prie de faire ceci.
1394 Sont ils encore a Decima?/des personnes
              /des choses
1395 Je suis fache de ne pouvoir parler avec lui.
1396 Il ne peut pas comprendre ma langue.
1397 En parlant plus avec lui, il l'apprendra.
1398 Je crois que nous n'aurons point de vaisseaux l'an
prochain.

1399 Nous sommes dans une guerre affreuse.
1400 Il n'y a pas en de vaisseax a la Chine cette
annee-ci.
1401 N'avez vous jamais ete a l'Isle Chinoise?
1402 Je crois que Sakfrasan va souvent a l'Isle
des Chinois.
1403 J'ai beaucoup appri aujourdhui .
1404 Je desire beaucoup de pouvoir parler le Chinois.
1405 Je vous suis oblige de la peine que vous avez prise.
1406 Demande a Sakfrasan si elle ne va pas souvent
a l'Isle des Chinois.
1407 Demande a Sakfransa si elle s'est beaucoup ■
-sec a Jagami.
1408 J'ai appri qu'elle y a ete pendant trois jours.
1409 Une fausse nouvelle.
1410 Il y a aujourdhui une mauvaise nouvelle dans
la ville /en parlant d'une personne
   /en parlant d'une chose.
1411 Ce chien a la gale.
1412 Il a eu la gale.
1413 Ayant une telle lecon chaque jour, j'apprendrai
bientot.
1414 J'en ai achete un a Jedo.
1415 Je veux en acheter un.
1416 Achette【achetez】z en un.
1417 Ceci ne peut il pas etre apporte en ville?
1418 Je veux suspendre ici une alouette.
1419 J'aime le chant des alouettes.
1420 N'oublie pas de donner chaque jour cette jatte a
un garçon pour la remplier.
1421 Apporte ca au cuisinier.

【ページ番号】42
1422 Ou cela as t'il ete fait!
1423 Ils faut venir toutes de deux ici dans la soiree, et
causer ensemble pour me faciliter le moyen de vous
entendre.
1424 Un bourgimaitre(?)
1425 Je n'ai point de transpiration.
1426 Si je pouvais transpirer cela serait bientot passe.
1427 Les Japonais tiennent le transpirer pour indecent.
1428 Nous le croyons tres sain.
1429 Cela chasse toutes les mauvaises humeurs.
1430 Quand on transpire ou coure peu de risque de
devenir malade.
1431 A Batavia je transpire beaucoups.
1432 Le plus qu'on y transpire le mieux qu'on s'y
porte.
1433 Quand je me trouve indispose, jeuner【jeune】 est le mei-
leur remede.
1434 Hier, et avant hier je n'ai rien mange.
1435 Parlez lentement.
1436 Vous parlez trop vite.
1437 Je me tiendrai encore chez moi pendant quatre
ou cinq jours.
1438 Je ferais oter ce petit lit d'ici.
1439 Je craignais beaucoup que vous ne fussiez encore
malade.
1440 Apresent je suis rassure.
1441 Croyez vous que cela me fait plaisir?
1442 Il ne faut pas aller la, mais rester chez ta
mere
1443 Je m'informerai sur cela, et si j'apprends que vous
y avez ete, je vous renverrai pour toujours.

1444 On y donne du ris rouge et des sardines salees a
manger.
1445 Quand allez vous fouler du pied les image?【不明】
1446 Dans quelle rue demeure ta mere?
1447 Je ferai donner a ta mere trois kobans【小判?】 par mo■.
1448 Les femmes de la ville sont preferables aux fil■.
1449 Il ne faut pas suivre ses conseils.
1450 Je crois que souvent elle vous conseille mal.
1451 Il ne faut pas faire tout ce qu'elle vous dit.
1452 Il ne faut pas croire tout ce qu'elle vous conte.
1453 Ceci vous affaiblit beaucoup.
1454 Il faut y mettre huit tasses d'eau et le cuire
jusqu' quatre.
1456 Donnez le peau de baleine a ta fille.
1457 Elle mange des patates /une sorte de pommes de terre jusqu'a crever.
1458 Des petits mourceaux【morceaux】 de poisson grilles a des
brochettes.
1459 Apres avoir mange du ris rouge et des sardines
salees elle peut santer comme un lievre.
1460 Elle voudrait bien boire du sake, mais on ne
lui permet que de sentir a la tasse.
1461 Les tablettes a manger sont tres propres mais
les jattes ne sont remplies qu'a moitye【moitie】.
1462 C'est pour les faire plus alerte en danfa■.
1463 Il ne faut y parler de rien.
1464 Elle est tres jalouse de vous.
1465 Elle dine pour deux sous【上にsur】 du miso【味噌ヵ】 et de poisson
roti.
1466 Par grace elle obtient un mourceau de dayco【大根ヵ】
/une sorte de navets longs, prepares avec le sediment
du Sake, et du sel.
1467 Le maquereau craint qu'elle ne gute【gouteヵ】 son estomac.

【ページ番号】43
1468 Combien de livres de patatess【patates】 peut elle manger?
1469 En restant si longtems a Decima elle aura peine
a se procurer de quoi manger.
1470 Avez vous deja fait cuire tes remedes?【番号順】
1471 Je ne peux pas dormir dans l'obsecurite.
1472 Il ne faut toujours de la lumiere dans mon appartment pendant la nuit?【番号順】
1473 Combien de tems vous faut il pour apprendre a jouer du Samsi(?) ?
1474 Ils sautent par dessus le cloison et viennes
sans bruit dans le jardin pour voler les legues.
1475 Je connais toutes leur menees.
1476 Je ne veux pas deloger au jardin cette annee.
1477 Je trouve ce logement plus agreable.
1478 En Kocguarts【九月の表記ヵ】/le neufseme【neuviemeヵ】mois des Japonais/je
vais diner au jardin.
1479 Je remets allors la table a mon successeur.
1480 En marchandent il faut etre toujours sur ses
gardes avec des inconnus.
1481 Il est tres expert a dissimuler.
1482 Je ne veux rien avoir a faire avec lui.
1483 Apres ils se moquent de vous en secret.
1484 Je viens vous voir en secret.
1485 Jouer au cerf volant.
1486 Il a coupe la corde de son dragon.
1487 Elles en sont elles memes la cause.
1488 Si les convives se plaignent d'elle ,elle est
pincee et battue.
1489 Il me l'a promi.
1490 Je crois qu'on la pris pour dupe.
1491 C'est pour ne pas devenir trop petulent【petulant】.
1492 Avez vous achete un cheval?

1493 Prends garde que tes parents ne le sachent.
1494 De la j'ai ete a la montagne.
   Maniere de dire en Japonais
1494 Quand l'armoise crois parmi du chanvre, ils poupe■
tous deux/quand un veaurien【vaurienヵ】 est constamment avec d'hon-
     netes gens il devient bon.
【1494二回あり】
1495 Un million de revenue ne produit pas un fokki fokki
             /sorte de legume.
1496 Une bete armee de cornes n'a point les dents tranchants.
1498 Qui porte la pique, n'ose s'en defendre.
1499 l'intimite entre le homme et la femme a existe de
tout tems.
1500 Vieux ou jeune tant homme que femmes tous sont
les memes.
1501 Homme ou femme, mort ou absent ne peut rester seul
dans ce monde.
1502 Homme, bete, ou oiseau, ils ne peuvent pas rester seuls
dans ce monde.
1503 Ce qui est sans vie ne produit rien, hommes et demi dieux,
tous proviennent d'accouplement.
1504 Savant ou sot apres neuf mois on vient au monde.
【1505最後から二番目】
1506 Apres neuf mois on est ne.
1507 Il faut s’y livrer dans sa jeunesse.
1508 La ceinture obi doit etre libre jour et nuit.
1509 Dormir est le plaisir supreme.
1505 Il faut penser avant de parler.
1510 Il faut toujours etre pret au besogne.

【ここから英語に変わります。前同様文頭は大文字に文尾に.や?をつけました】
【ページ番号】44
  First Dialogue
 between an elderly man & a disciple
1 Why do'nt 【don't】you come so seldom to see me?
2 Because I pass my time in learning.
3 I am glad that it is study that prevents you so
long from coming to see me.
4 I thank you for your company.
5 Who is your Master, or who is the name
of your master?
6 His name is ■. but, within these few days I have
promised my friends that we should meet in order to study together.
7 Have you already informed your master of it?
8 Yes he knows it and he rejoices at my diligence.
9 【&挿入ヵ】I too: how often do you meet a month?
10 Six times a month.
11 Do you go constantly to the same place or
do you change every time?
12 Sometimes we meet at the house of one, sometimes
at that of another of (our company).
13 Who was the first beginner of those
meetings or assemblies?
14 N. begun them first.
15 At what o clock【o'clock】 do you meet?
16 I go there in the afternoon, and stay till the evening.
17 Do you return imediately【immediately】 after your studies are over?
18 Yes: I return home at an early hour, be-
cause when it is late my father
is angry.
19 Why so?

20 Because he fears I have been at a brothel.
21 He is right: one may easily enjoy such plea-
sures in riper years, it is quite the contrary
with learning, you must endeavour to apply
yourself to it when young.
22 I think so too, on account of that I must
study constantly.
23 In behaving thus your father will be easy ■【toヵ】
have you not heard any news at your meeting.
24 Yes, I have heard some news, but will tell ■
you another time, because I have spent my
time in talking.
25 Do you go away then?
26 Yes, I go.
27 May a little.
28 No, in a few days I will come back to see you.
29 Farewell then till your return.
30 I am your servant.
31 And I, yours.
  Second Dialogue
 between an inhabitant of Osaka, & a
     native of Nagasaki
1 From what Country do you come?
2 I came from Osaka.
3 What brings you to Nagasaki?
4 To see everything.
5 Where do you lodge?
6 There is a relation of mine here with whom I lodge.
7 Where does your relation live?
8 He lives in the street Sakay matje.
9 What is your trade or business?
10 I am trading in stuff goods.

【ページ番号】45
11 Have you been often at Nagasaki?
12 No, I came here for the first time this year.
13 Do you come alone?
14 Yes, I have no body【nobody】 with me.
15 Have you children?
16 Yes, I have two, one of them is a girl.
17 Why then don't you bring your children with you?
18 Becase they are still to【too】 young.
19 What is their age?
20 The boy is thirteen the girl eleven years.
21 Have you been to see every thing.
22 Yes, I have been all the quarters (of the town), & the temples, par-
ticularly the Dutch & Chinese. I am very glad
of it, because it enables me to give an account
of my journey.
23 Nagasaki offers nothing extraordinary, if it be not the non arrival this year of Dutch Ships and
China Junks.
24 At what time do the Dutch Ships leave Ba-
tavia.
25 They sail from Athenee in the month of June ,
and arrive here about the end of July or in
the beginning of August.
26 In what month do they go from this?
27 In the month of October.
28 What goods do the Ships take in for Batavia?
29 They take chiefly copper & camphor besides other articles in return.
30 From where does the copper & camphor come?
31 The copper comes from the Province Akita, the
camphor from that of Satsuma.

32 What is the reason why the Dutch who formerly
have been trading at the Island Filando have
left that Factory, and have established them-
selves here?
33 I do not well know the reason, however I
have been told, it was because
the town of Nagasaki is the principal of
the Emperors domains, and particularly because
it was well situated for trade.
34 I conceive it at present: how many miles is Japan from Batavia?
35 About ----miles.
36 I believe the Dutch in their voyage to Japan【Japonの訂正と推測】
are often exposed to dangers.
37 It is as you observe, for some years ago, a
ship, after suffering much in a storm, was
thrown on the Island of Goto.
38 In what manner was the wreck wrought.
39 It was hauled hither from Gotho, and was
broken down here, to be sold.
40 Of what use were the beams & planks?
41 They were employed in the construction of barks【バーク型小型帆船】.
42 I must go.
43 Chat a little , stay a little longer.
44 Time forces me to go.
45 Why?
46 I dine to day【today】 with N.
47 Do you know him too?
48 Yes, I know him very well.

【ページ番号】46
49 Did you become acquainted with him?
50 He is an old friend of my relations, on account of that he is also friendly to me.
51 Do you go there to day【today】?
52 Yes.
53 When do you come back?
54 I will be back with you after to morrow【tomorrow】.
55 For certain?
56 You may confide in me, how can I speak
with two mouths?
57 You are right, but there are people who never
keep their word.
58 It is so but my word is firm as a rock.
59 Then I will take leave, good bye till after to-
morrow.
60 I wish you good bye too, fare well.
  Third Dialogue
 between two friends
1 Is Mr.--- at home?
2 Who is there?
3 I am come to see you.【挿入のamによりcome→comingヵ】

4 I thank you, walk into the parlour.
5 How do you do.
6 I am well, at your service.
7 It is extraordinary you are to day at hoe.
8 I would have gone out but unexpectedly
some pressing business has occurred, it is on
account of that I have stay'd at home.
9 I am sorry for it.
10 Have you gone out to day to amuse youself?

11 No, it is a long time since I have been anywhere.
12 I went into the fields yesterday to seek
mushrooms, and I was much amused.
13 You was【were】much amused, but
did you fond【find】any mushrooms?
14 No, none at all, they are too far off in the wood.
15 I think they are too scarce yet.
16 You are right
17 I learned yesterday from N. that your mother has
been indisposed lately, is she recovered?
18 Yes, she is better, but does not yet leave the bed.
19 I beg you pardon I have not been to see her,
what is her complaint?
20 She has a pleurisy.
21 I too have had a pleurisy ten days ago.
It is for that that I have had recourse to the bur-
ning of moxa.
22 Yes, the burning of moxa is the best remedy
for curing the pleurizy【pleurisy】.
23 It is so, but do'nt you like to drink Saki?
24 If you please, but I am extremely asha
m'd you
entertain me so often.
25 You are too polite.
  Between Master and his servant
  Come here.
  What do you wish?
  Bring Saki & some sweetmeats.
  As you desire.

【ページ番号】47
26 Please to(?) begin with this bowl.
27 No, drink first.
28 I will then taste it and give it to you.
29 Your health.
30 I am much obliged to you.
31 I will tell you some news.
32 What news do you bring?
33 I have heard there is a play at present at
the village Woerakami【村名と思われる】.
34 From what country does it come?
35 From Itsuki in the Province of P■oengo.
36 I believe it will be a good play.
37 & I too, therefore I will go there soon.
38 To morrow, if you have no business, or if
the weather is fair, I will go with you.
39 It is well, but if we are only two, it will be too
solitary, will I then take N.with us?
40 If you please: but how will we do for
provisions & liquor.
41 I take charge of provisions.
42 And I of the liquor.
43 At what o clock do you go to Woerakami?
44 Afte breakfast.
45 I will then be with you at an early hour.
46 If you please
47 Will you send a messager【messenger】to him?
48 Ask him in your name.
49 I will go there instantly to inform him of it.

50 No, you ought not to go there yourself, but
let him know by a note.
51 Well, I will do what you desire.
52 Wont【won't】 you drink one cup more?
53 No, I have drunk enough.
54 No I thank you, the Saki has heated me.
56 Can you not take supper after drinking.
57 I never take supper after drinking much.
58 It is not good for the stomach.
59 I beleive【believe】it is time : I am going.
60 I am very happy to have conversed
so much with you to day.
61 I thank you for your kind reception.
62 Be so good to come here early tomorrow
along N.
63 I will, I wish you a good night.
64 & I too, fare well.
  Fourth Dialogue
 with a friend after a long absence
1 I come to visit you.
2 Ha! wellcome【welcome】 my good friend.
3 How do you do?
4 I am always well
5 It is very lucky.
6 Why have you not been to see me for so long a time.
7 I have been a long while indispos'd【indisposedの省略】.
8 Really?
9 Yes, truly.
10 I was not imformed of it & that it is the reason I did not
know it.

【ページ番号】48
11 I was angry with you.
12 I beg you will pardon me.
13 I pardon you, as you did not know it.
14 What ailed you.
15 I have been much indisposed by a flux.
16 How many days have you been in bed?
17 Nearly seventy five days.
18 I think you feel yourself very weak.
19 Yes, on accout of that I have wished for
some body to dissipate my grief.
20 But why did you not send for me?
21 How could I insist on your coming to see me,
being indispos'd?
22 Am I not then your friend?
23 Yes.
24 What is then the reason of it?
25 Do'nt you not conceive it yet?
26 No, my good friend.
27 True friends are tried in need.
28 I know that, but am not afraid of it.
29 It is but a jest.
30 I pay you my compliments on your spedy【speedy】
recovery.
31 I am very much oblig'd to you.
32 Have you seen N?
33 No, I have not seen him for a long while.
34 He is married.
35 Who has he married?
36 The daughter of M.
37 Has she brought him some monny【money】 in mar-
riage? or, has he got some mone with her?

38 Yes, she brought him ---.
39 It is a very god match.
40 I think so too.
41 What age has Mr.N.
42 He is twenty.
43 What age has the bride?
44 She is not yet eighteen.
45 A charming pair it is.
46 Both houses I think will be extremely
rejoiced at present.
47 Have you been to pay him your compliments?
48 Yes, I have been there long ago.
49 Then I will go there to morrow - what
have you offered him as a compliment.
50 I offered him some sweetmeats.
51 I then will offer him the same.
52 I advise you to give him some thing else.
53 What then.
54 A large bream.
55 I am going to Moesasi.
56 What to do?
57 To bathe in sulphur water.
58 What ails you.
59 I have the scurvy.
60 With whom do you go?
61 I go with N.
62 When do you set off.
63 About the end of this month.
64 Have you asked leave of the Governor?
65 Yes, I have his consent.
66 How long will you be voyage?

【ページ番号】49
67 Two or three months.
68 That time will seem to me very long.
69 Will you go with me?
70 I would like it, but I can not go.
71 Why not?
72 You knows【know】I can not.
73 But tell me why.
74 I have no money.
75 Will you go if you have cash.
76 Yes, with all my hearth【heart】.
77 I will then supply you with some.
78 I thank you, but it is late.
79 T'is true.
80 I wish you a good journey.
81 I am much obliged to you, fare well till I
come back.
  Fifth Dialogue
 with a friend who had promised yesterday
 to go to see the play
1 Is your master up yet?
2 No, he is asleep.
3 Be so good as wake him.【as to wake himとあるところ】
4 Well.
5 You come so early.
6 Yes, you sleep so long.
7 It comes from having drunk too much last
night.
8 With whom have you been drinking so much?
9 With N.
10 I come to spenk with you.
11 About what?

12 I can not go to day【today】 with you to Woerakami.
13 Why so?
14 Last night about twelve o clock I have got a note
from the rapporteur, and must to to day to
Decima.
15 What to do?
16 To fetch the stuff goods from the storehouse.
17 Why then have you not informed me of it
last night.
18 Because it was too late.
19 Can you not request N to fill your place?
20 I can do so, but will go thither to day myself
to transact my business.
21 You deceive me : I will put it off then for
another day.
22 You ought not to put it off because I can not go with you.
23 T'is true, but I prefer to go with you.
24 I too, but I can not help it.
25 You never keep your word.
26 I will then go to him and beg him to fill
my place.
27 Pray do so, but at what o cloc do you go to
Decima?
28 At ten o clock.
29 T'is still early.
30 I will soon be back.
31 Be so good then to make as much haste as
possible.
32 Very well, I will be back in a moment.

【ページ番号】50
  with another friend.
33 Welcome my good friend.
34 I have heard from N. you are to go to day
with him to the play.
35 Yes, but it is not yet certain.
36 Why so?
37 He goes to day to Decima.
38 You are joking.
39 No, I tell you the truth.
40 Who told you so?
41 He told me so himself.
42 Has he been with you.
43 Yes, this instant.
44 Is he gone already to Decima?
45 No, he is at present with N, to beg him to fill
his place.
46 Does he come back?
47 Yes, will you stay till he returns?
48 Yes, but I will go with you if he does not.
49 At all events you may go with us, as I wish
to be three.
50 If you please.
51 Ha! you return soon, what has he told you?
52 He can not go.
53 Why so?
54 He was there yesterday, moreover he feels
himself to day a little indispos'd.
55 I am sorry for it, I will go then to morrow.
56 If you can, you will oblige me.
57 But then you must not fail again to morrow.【2のthenは削除ヵ】

58 No, I will certainly come to morrow.
59 Will you come also?
60 Yes, if you please.
61 Time glides away, I am going Decima.
62 I return home.
63 I wish you both a good day.
64 I wish you good morning.
  Sixt【sixth】 Dialogue
 with a servant who had been on an er-
rand.
1 Come here.
2 What are your commands ?
3 Do you know the house of Mr. N.
4 No, where does he live?
5 He lives in the Street Tokiyo-matye.
6 What is he?
7 He is a dutch interpreter.
8 What is his name?
9 His name is N.
10 I have never been at his house.
11 I think you have been there often.
12 No, never, but I will go, and inquire about
him.
13 Not long ago you carried him a note.
14 Pardon me, I recollect him at present.
15 I pardon you, but do'nt tell me such stories
again.
16 Very well.
17 Carry him this letter.
18 Well sir, but what will I do with the letter?

【ページ番号】51
If perhaps he is not at home?
19 Ask his wife then where he is, and carry
it to him.
20 Well, I will go then.
21 Return instantly and do'nt trifle in the town.
22 Ha! welcome , I was going to send you a
letter.
23 About what?
24 But a moment ago I received a handsome
present from N.
25 What have you received?
26 A brace of ducks, and a large bream.
27 T'is a handsome present.
28 Therefore I will make a frolick with you, and
dress it myself.
29 Very wel【well】, I then will fetch the paste and
eggs.
30 If you please.
31 Have you powder sugar?
32 N will bring it..
33 Does he come also.
34 Yes.
35 Then I go home.
36 Why so?
37 Because I went out so early this morning.
38 There is no need for your returning
34 I go to inquire about te【theヵ】issue of some busi-
ness.
35 Then I will wait for you, return soon.
36 Well jusqu'a【jusqu'au】 revoir.

  Seventh Dialogue
  between two friends
1 Yesterday about four o clock I was on a
visit to N.
2 It is about five days since I have been to see him.
3 He told me so.
4 I intended to go there the day before yesterday
but have not been there on account of some
pressing business which came on unexpectedly.
5 Why is the reason of it?
6 There were several entertainements【entertainments】 yesterday.
7 Who gave them?
8 N. received yesterday a
nice present.
9 What has he received.
10 A pair of ducks and a large bream.
11 Ha! it is extremely good to dress it himself.
12 Yes, he did dress it.
13 I am very sorry not to have been there.
14 It is so.
15 How many were at his feast?
16 I was there with him and another per■【personヵ】
17 I imagine you drank a great deal.
18 Yes, I was drinking till ten o clock
at night, & from thence I went to the hou■【houseヵ】
Naka no tsiekoegaya, at the Fannedon Itarra【?】.

【ページ番号】52
19 Have you bought a fasimitie【?】/a young girl/?
20 No, I went thither only to take a walk.
21 Did you amuse yourself much?
22 Yes, but to day I am a little indisposed by drinking.
23 I beleive【believe】 so.
24 Won't you go with me to day?
25 Where do you go to?【to不要】
26 To a meeting house.【棒線は抹消ヵ】
27 I would like to do so but am engag'd to day.
28 Then I will order substantial victuals
to be ■ for you.
29 I am obliged to you, but to day I stay at home.
30 Do you value then my friendship thus?
31 I do not dispise【despiseヵ】 it, but I will not go only
to make amends.
32 would you not go out then, even if called to
the Governors.
33 You answer me wrong, because this
has nothing to do with our duty.
34 It is, but a joke, do'nt angry for it.
35 No, I am not angry.
36 Then I will go with you another day.
37 If you please.
38 Fare well then jusqu'a【jusqu'au】 revoir.
39 I am your servant.
  Eighth Dialogue
1 What are you learning at present?
2 I am lazy at present.

3 Why so?
4 Because I am feasting day and night.
5 It is so, we pass the first month entirely
in drinking and amusing ourselves.
6 The fifteenth of this month I was
treated by N.
7 On what occasion did he entertain you?
8 He has treated us the day on which the
voyage to Jedo was to have been begun to consol■
for not having made the voyage.【丁寧すぎて文法がややこしい!】
9 How many were you?
10 Near forty.
11 Ha, he has a large company.
12 I think Mr. F.(?) will be displeased with it.
13 What have you done amiss.
14 I did no harm.
15 Why then?
16 I have till last night been composing for him some dialogues
in dutch and Japanese
but have not composed any yet during
this month.
17 Why then are you not busy about it at
present.
18 Because I have no time, as I told you
just now.
19 You must do it to day: even if you had
no time for it.
20 You are, t'is for that I was writing a little
before you arrived.

【ページ番号】53
21 By whom will you send it to Decima?
22 I must beg N to carry it.
23 Ha, t'is a good lesson for you.
24 You are right - or it is true.
25 I have been informed Mr T is a good master.
26 It is so, for he understands it very well.
I write very ill.
27 So I am told, you must endeavour
to apply your self while he is still at Decima.
28 Yes, I must apply my self constantly.
29 By doing so, you will soon improve.
30 No, I beleive【believe】there are people who can
make no progress, because the dutch
language is very difficult to learn.
31 It is true, but by application you may
succeed in it.
32 I wish very much to learn it as correctly
as possible.
33 You must not neglect it though the time
be short.
34 I will do what you advise.
  Ninth Dialogue
1 Ha! you calls【call】on me so unexpectedly to
day.
2 I come to fetch you.
3 Where are you goin?
4 I go to the mountain Siro-no-kosi.
5 What to do?
6 To fly a kite.

7 I have heard lanching【launching】kites has been for■【forbiddenカ】
8 Who ord'red so?
9 The Governor has given these orders to the
maoyor.
10 Why?
11 Do'nt you know it yet?
12 No, I have not heard it.
13 It is on account of a quarrel.
14 Where did it happened【happen】?
15 It happened in the street Jemafakata.
16 Who were the parties?
17 In the beginning two children were
boxing, afterwards both their fathers
had recourse to the sword,by which
both are severely wounded.
18 I think a severe punishment awaits them.
19 All the officers of the guard having
heard of it
instantly flocked thither to put a stop to it, and
have since made their reports at the gover-
nor's
20 What orders has the Governor given about those
quarrelers.
21 He has ordered nothing yet as they are both
too much wounded.
22 It has been a severe battle.
23 I think there are amongst the common people many who are
too passionate.
24 It is true, such quarrels often happen among them.

【ページ番号】54
25 True, they meet to drink, and quarrel after-
wards
26 You speek【speak】 true, that is their cutom.
27 It is as you say.
28 I will go then without kite, so come with me.
29 If you please, but I have nothing prepared yet.
30 You should not carry any thing, I have
prepared dinner already for you also.
31 Have I then only to go.
32 Yes.
33 But I am ashamed.
34 Ah, you too polite.
35 Pardon me, I will treat you then afterwards
to acquit my self.
36 Well, I go with you.
  Tenth Dialogue
1 Ha! welcome my good friend!
2 How do you do?
3 I am always pretty well.
4 You are fortunate.
5 Have you not heard any news?
6 I have been yesterday at M, there I have
heard Mr N. is gone to Takeo.
7 Is it possible?
8 Yes, indeed.
9 What was the purpose of his going
toTa-
keo.
10 To use the fumigation of a sulphur bath.
11 What is his complaint?

12 His complaint is almost nothing, but he went
partly for amusement.
13 I have not heard of it.
14 Nor I neither【Neither do I】, but I knew it because he told me.
15 We have been guilty of impoliteness towards ■【himヵ】.
16 T'is so, but it is a matter we were una-
quainted with.
17 It is true, when does he return?
18 I fancy about the end of this month.
19 It is a long stay.
20 Yes, I had a mind to come to you to day.
21 Why.
22 To day is my birthday.
23 I wish you joy.
24 On this account I desire much to offer you a
cup of Zakki this evening.
25 I am much obliged to you.
26 Will you come to night?
27 Yes, I will come without fail.
28 I thank you.
29 On coming home, I will send you a live brea■【breamヵ】,
as a present.
30 You ought not to give any thing, on the contrary
I am asham'd.
31 But I give it only to compliment you.
32 If it pleases you then, but you must give me
a small one.
33 How can I got 【get】a large one? At present
on accoun of the bad weather it is very scarce.

【ページ番号】55
34 Then be so good as to【消されているが入るべき】 come a little earlier to night.
35 I will make as much haste as possible.
36 Fare well till to night.
37 I wish you a good day.
  Eleventh Dialogue
1 Mr E. is very polite
for when I was last with him
he punished a black boy.
I asked him the reason, or what fouls the boy
had committed.
He answered.
You came this morning to me.
He told you then
I was not at home.
He deceived you by telling I went out so
early.
It is for this I punished him.
I could not answer
as I was much asham'd
He is too polite.
2 I got a few days ago a book and a
wax candle, but have not been to return my
thanks.
3 From whom have you got that?
4 I got it from my Master.
5 I guessed that it came from your father, or from
your mother
6 Why so?
7 It is a good hint.

8 What may be the object of it?
9 't is not so easy to say, the object will b an abstruse
one.
10 Be so good as【to削除なしがbetter】 explain it to me, I will not speak
of it.
11 If you wish it I will tell you the object.
12 Well.
13 I will tell it you【to youがbetter】, pay attention.
It serves as an excellent lesson, you must rise
early in the morning and light that candle at
the fire, then you must not neglect to apply
your self with ardour to learning and writing.
14 't is true, I conceive now that it is such a good
lesson.
15 You must learn perfectly, but this year you have
written worse than the former.
16 Yes I have lost my head.
't is for that I did worse
but if my madness increases thus
soon again I will talk childishly.
17 't is but a joke, do'nt be angry, I have
drunk a great deal, 't is the reason why I am
so loquacious.
18 Where have you been?
19 I have been at the Governors.
20 What to do?
21 Mr. N. has sent for me in order to tell me a story of
Miako's.
22 Was it there you have drunk so much?
23 Yes, after he told me his story we were
merry together.

【ページ番号】56
but it was not that I drunk so much
for I got a letter from Mr. A
which was the reason I did not stay break fast【breakfast】.
being still fasting I was so soon affected
by the ■.
24 What news is there at the Governor's?
25 I have heard of nothing but that a post is【hasの誤記ヵ】arrived
from Jedo, the Governor has not yet got another appoint-
ment.
26 Is it possible?
27 It is so.
28 When did that news arrive at Government?
29 Mr N. told me that it came yesterday.
30 When did he leave Jedo, last year at the end of
the twelfth month, or at the beginning of the
new year?
31 I do'nt know exactly, but every year on the
second day a post comes hither from Jedo.
  Twelfth Dialogue
1 Welcome.
2 I find myself so lonesome to day by the constant rains, that I can not stay at home.
3 Walk in, it is better and more amusing to
talk with a friend on a wet day than to go out.
4 It is true, I wished to stay at home
but I had no other amusement but that of talking
with my mother, this prompted me to come to
you.
5 What news is there?
6 I have heard nothing
but yesterday our friend N. has been with me

and told me
the arrival of the new Governor will entire■【entirelyヵ】
change Nagasaki & will make it as flourishing
as it was formerly.
7 't is good news, but he has deceived you.
8 No: he is a honest man.
When he has promised you any thing , the ■
is not dubious, he is always very polite.
9 I beleive 【believe】it is true, but what proofs has he for what he advances?
10 I do'nt know the particulars
I have heard the reason was because Nagasa-
ki decays from day to day.
11 It is not certain, for Nagasaki is a princi-
pal Imperial domain, thus, if the Governor
does not obtain the consent of the Emperor,
he can not do what he likes.
12 True, but the Governors do not need
any new arguments to convince them that if many Dutch
ships & Chinese vessels come into the Bay Nagasaki will soon flourish as much as
formerly.
13 Why did no more Chinese junks arrive?
14 Do'nt you know the reason?
15 No, tell me the reason, I will not speak of it.
16 You must not speak a word of it & I wil tell you
the reason.

【ページ番号】57
17 Heaven be my witness!
18 Well then I will tell you.
19 For these some years post【pastヵモ】 goods imported
by the Chinese have been taken gradually by
the treasury at lower prices, by which the
Chinese have suffered severe losses, and became
greatly indebted.
20 T'is true: but what will you take? It is
dinner time.
21 I thank you, I have no appetite.
22 You must not decline it, by talking so long
the stomach fills not.
23 Then I will drink a little, I tell you the truth,
pray give me another cup, it would be im-
possible to me to empty such a large one, as
I drink but a little.
24 If you insist on it I will give you a smaller
but after you have drunk a large cup more
I will not press you further.
25 No: even if it was by order of the Governor I
would not drink more: you see how soon I
grow tipsy.

1  Dialogue between two persons
about some occurrences from
our new year until the end of the twelfth
month.
2 I wish you joy of the new year.
3 I thank you.
4 The weather is clear and soft.
5 It is so.
6 Walk in sir.
7 I will come back another day.
8 Be so good as come in.
9 Well, if you insist on it.
10 Walk into the hall.
11 Excuse me, I will go there.
12 Please to(?) sit down there.
13 Sit down.
14 I beg you will sit highter up.
15 I am very well here.
16 I beg you will go up a little higher for
it is not a room of ceremny.
17 With your leave then I will sit down there.
18 Pray be without ceremony.
19 Take the soup Zony【雑煮の表記ヵ】 if you please.
20 First I will tast【tasteヵ】 this Zaki, then I will
offer it to you.

【ページ番号】58
21 Your health.
I drink your health.
22 I am much obliged to you.
23 Please drink a full cup, then give it
to my son an daughter.
24 You will excuse me, I will give it them
25 My son and daughter after you have
drunk, offer it to the gentleman.
26 I can not drik so much.
27 Drink but one cup and no more.
28 If I drink it I can go nowhere else.
29 If you drink one or two cups more it will
not affect you.
30 Look at me how red I grow, it is a proof it
affects me.
31 Will you then drink no more?
32 No, I thank you.
33 I thank you for your entertainment.
34 Pardon me for having received you so ill
or, do'nt take it amiss I have received you
so ill,
35 You are too polite.
36 Fare well then.
37 Stay & chatt【chat】 little longer.
38 Talk a while.

39 Drink but a dish of tea.
40 This tea is delicious and of an excellent
flavor.
41 I got it from a friend.
42 Would you wish for some of it, pray tell it me【to me】, I will
supply you with it.
43 I beg you will procure four or five cattis /a catti makes 1 pound 1/4 /【cattiはcattieあるいはcattyヵ】
44 Very well I will not neglect it, or well, I
will procure it for you.
45 I am obliged to you.
46 At your service.
46 I beleive【believe】you will soon prepare your self
for the voyage to Jedo.
48 Yes, 't is true, do'nt scruple to tell me, if
you like to make contracts for any goods
at Osaska, Miyako or Jedo.
49 I thank you for your kindness, I will
charge you then with a commission.
50 What goods do you desire?
51 Really I scarcely dare to mention it to you, however I
beg you earnestly to buy for me such & such goods
at Osaka & will not fail to pay you on
your return.
52 I will not forget it.
53 I am very much obliged to you.

【ページ番号】59
54 Who will have the superintendance【superintendence】 this year?
55 Mr. N.N.
56 He is a good man.
57 I think we will have little trouble during
the whole voyage, as he is so well acquainted
with every thing.
58 I think so too.
59 How often have you been on the voyage to the
court.
60 I have been three times at Jedo
last year. We had a very dangerous pas-
sage by a storm in the sea between Simo-no-Seki and Hiogo.
a fazimaroe/ a large vessel/had nearly
sound'red【単語不明】, but was sav'd.
We amused ourselves much as sea
with fine weather and a favorable wind
but were much frightened when a storm came
on
but the Dutch are not afraid of it as they
are accustom'd in open sea.
61 True.
I am fright'ned even by such a detail.
I like rather to travel by land than by sea.
The water is a fathemless【fathomless】 gulf, and a hell
for one who falls into the sea.

62 You say true.
63 What do you think of it?
Already this new moon is nearly half over.
Within two or three days the Banjoos(?) are
to come upon the Island, to inspect every thing
for the voyage.
64 I beleive【believe】 so too.
We are【不要】 know beforehand that we are very busy every year
before the voyage begins, particularly the
first year, when the time for making the
preparation for the voyage draws near.
65 I wish the weather may be clear and fair the
fifteenth of this month - we must go to Sak-
roebaba there to take leave of all the travellers.
66 I wish also the weather may be fair
as far as Kokera
for it is extremely unpleasant with bad weather
and a muddy road, as last year.
67 I have detained you long
and fear I have tired you.
I will go home
and will come on another day to take leave of
you.
68 I will do the same sir.
69 I fancy during our voyage you will be
constantly amusing yourself with your friends
the whole spring.
70 Yes, one may spend every spring
an【a】great deal of money in different parties of pleas ■【pleasureヵ】

【ページ番号】60
71 I beleive【believe】you also will spend much money on
the voyage
by going, when not on service, to the tavern
and that you will amuse your self much with
the Taju/girls of the upper class/and with
other girls.
72 You are joking with me.
Though they say so, how can one amuse himsef
in that way during the voyage?
We have not every year the time to amuse
ourselves
but are quite wearied by business, often we
must rise earlier and go later to ed.
73 Certainly that may be.
74 What o clock is it at present.
75 It is past seven o clock with us.
76 Past seven o clock with us, is past four o
clock with the Dutch, is it not so?
77 Yes: I have a Dutch watch.
By that I know very well that day and
night have twenty four hours with the Dutch,
which with us are divided by twelve
as you know.
Thus every hour is diminish'd by the half
and every one is counted for half an hour.
Thus six o clock with the Dutch agrees with
our six o clock.

but when the days and nights grow longer
or shorter, that differs a little in advancing
or retarding.
Is it not so?
78 Certainly: I have also heard at Decima
that there is great difference in the going of
the watches
but when the days grow longer the Dutch
watches commonly run faster than ours.
79 While we are talking it will soon be dark.
It is time to go.
80 Stay still a little, time ought not to maste■【masterヵ】
us.
81 Yes, time nor hour binds us
but I am afraid
as I have been so long with you, I can not g■【goヵ】
to day to pay my compliments elsewhere.
82 It is not looked on as impolite,
when you pay your copliments within
five days
for from te【the】first day of the new year
untill the fifth, all are lukky【lucky】days
83 Yes: 't is true
but I wish to pay also my compliments to
others
as the weather is still so fair
for I would by【be】 extremely uneasy if

【ページ番号】61
rain came on.
84 To morrow you must go out early.
I beg you will pass the evening here.
What do you say of the new year?
Almost all young and old people are merry
and amuse themselves much
while the boys an girs are playing at
   the game of balls
   \  \  \ paper
   \  \  \ feathers
   \  \  \ cockleshels
   \  \  \ chests
and differernt other games.
Therefore you ought not to be in such
a hurry as at other times.
When it grows dark many ladies and
other women, nicely dressed, acco-
panied by a woman servant with some
small bundles of tea, and by a lanternbearer
go to and fro in the streets to pay
compliments to their acquaintances & relations
then they are plagued by the children,
who are very gay and merry from before
our five o clock at night till four.
You will see them as you go home.
You know these things.

I have told you that story only to detain you
a little longer.
85 Yes yes:It is customary every year to fit■
all the houses with a variety of ornaments
and that all who are in offices must go
the first morning of the new year to the
Governor's to pay their compliments.
Afterwards they go to their houses of
their friends and relations.
The fourth day all the higher en【andヵ】 lower
clergy and the prefects of the temples go thither
to pay their homage.
From thence they go to the house of every one who inscribed
on the body of their temple.
The seventh they pay their compliments
with the Nanakoesa【七草】/bid: the chronology/
They are everywhere invited to
entertain'ments given as usual to rega■
the friends and relations.
The twentith【twentieth】comes the festival of the
God Ibis【えびす】, particularly with the merchants
with whom he is in high favor: where-ever you
go then you are entertain'd.
On account of that you must wear at your
side two eating sticks, and visit your friends
to amuse yourself.
The women however can not go themselves

【ページ番号】61
to pay compliments at daylight, they do it
only by a woman servant, offering a small
bundle of tea, which is given and accepted
as a compliment with the new year.
86 Yes, they pass almost the whole first month
in drinking, eating, and compliments.
87 I think so too.
88 It is said that according to custom, the time is not
limited for congratulating in the Dayri's, and
the first nobility's on the new year,
probably they entertain magnificently.
89 That may be.
90 Ha! by talking so much, to keep me here,
as you told presently, it has grown dark.
91 Fare well jusqu'a revoir.
92 Good night
  End of the account
   of the new year
       or
   of the first month

【蔵書印のみ】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【ラベル】
JAPONAIS
313
3

【裏表紙】

【背表紙】
DIALOGUES FRANCAIS-ANGLAIS.

JAPONAIS
313
3

【小口】

【天あるいは地】

BnF.

BnF.

さくらのちうしやう

【右丁文字なし】
【左丁】
月日のかすをかうふれはことし
もすてにくれなんとするとかな
しくおほしめすおなしならひに
おはするをたかひにしらせ給はて
ひめ君はさらに世になからふへき
心ちもし給はすあけくれたゝふし
しつみておはしけるなからんあと
のかたみにもとてかくそかきおき
たまへる
  いにしへを  おもひいつれは
  いとゝしく  うかりける身を
  いつまてか  おなしうき世に
  ありそうみの ありとはかりは
【右下Acg.2001-09】
【赤丸の中BnF MSS】

【右丁】
しりなから  なとあふことの
まれにたに  とふ人もなき
あしのやに  ひとりぬる夜の
ゆめにたに  あふとはみえす
ひこほしの  あふ夜をまつは
うらやまし  いつとたのめぬ
中たえて   人はあはれと
いふたすき  たゝあすまての
さためなき  いのちつれなし
なからへは  ゆめにも君を
みるやとて  風のたよりを
まつのとに  あけくれ物を
【左丁】
おもひつゝ  ことしもくれて
くれはとり  あやうき世をも
すきゆけは  おかのまくすの
うらみわひ  人に心を
おきつ風   身にしむよるの
とりのねに  したふこゝろの
つれなさよ  さらはといへは
わすられて  おもふこゝろの
くるしさを  せめてはきみに
しらせはや  すきわかれにし
みとりこの  つるのけころも
ほしあへぬ  そてのなみたを
つゝみかね  こゝろはかりは





【右丁】
  ふるさとへ  かよふおもひの
  かひもなく  わかうへをきし
  ふるさとの  のきのしのふや
  ひめこまつ  おひゆくすゑを
  いつかみむ  たゝあけくれて
  こひしさの  そてにも身にも
  あまりつゝ  さためなき世は
  中々に    またはたのみの
  ありあけに  うちもねられぬ
  よる〳〵は  いのちつれなく
  なからへて  あひみる事も
  ありやせん  おもひきえなは
  なきあとに  もしもたつぬる
【左丁】
  人あらは   なからんのちの
  かたみともなれ
かやうにふてもしとろにかきみたし
給ふひめ君は神な月のすゑつかた
よりたえぬ御物おもひにしつみ
給へは月日のゆくにそへていとゝ
御心ちもなやましくなりまさり
給て一かたならぬ御おもひなれは御
いのちもあやうくみえさせ給ふ

【右丁絵】
【左丁】
すけは此御ありさまいかにせんとそ
なけきかなしみけり御心もたゝよ
はりまさり給へはわれなくなりなは
いかにすけかなけかんすらんとそれ
のみ心にかくり心くるしさもやるかた
なしとの給ひてそてを御かほに
をしあてゝなみたにむせひ給へは
すけいかならんみちにもすてさせ
給ふなとてなきかなしむ事かきり
なしたゝみやこの人々のこひしさ
わか君のしのはしさうつれはかはる
世のならひとはおもへとも中将の御
事もさすかにこひしきそとよ

【右丁】
いかにもすへきことのはもなきわか
身のありさまそやさきの世に
いかなることのあるやらんいまかゝる
おもひをすかむしろしきたへのま
くらもうくはかり御なみたのひま
もなしとかきくとき給ひていまは
つゆのいのちもいとゝをきところ
なきそとよなとせんかたなけに
みえさせ給へはすけなく〳〵申
けるはあな御うたてのありさまや
それにつけても御心をつよく
もたせ給ていま一たひこひしき
御かた〳〵をも御らんし候へと申けれは
【左丁】
うちなき給ひていまはたゝわか身の
事はこひしき人々ゆへにたのみも
なけれはそれをこそふかくのちの
世まてもたのむそよわれはか
なくなりたらはそれにはいのちを
なかくして中将のかたみの物わか
君の御くそくなといろ〳〵とり
出てこれをこそ此ほとはみてなく
さみつれともむなしくなりなは
うき世はくるまのわのことしめくり
あひまいらせ給はゝこと〳〵くかへし
まいらせ給へとて此御かたみともを
御かほにをしあてゝ又なきかなしみ

【右丁】
給ふ事かきりなし日かすのふる
まゝにいとゝおもひのかすそひて
御身もしたいによはりたまひて
なからへてあるへしともおほしねは
とて御ふみとりのあとのやうに
かきおき給へりすけにむかひて
もしふしきにも中将にあひたて
まつりなはこれをまいらせよとて
たひはさてもいかならんあとまても
心うかりつる事ともいかならん世
まてもわすれかたくこそおほゆれ
されはうき世にはかたときもなから
へたくはなけれともわか君のこひし
【左丁】
さにつゆのいのちもおしきなり
たとひむなしくなりぬともこの
おもひよみちのさはりとなりぬへし
くちおしくこそおほゆるれとて御ま
くらのしたはうくはかり御なみたそて
もせんかたなくそみえさせたまふ
いつよりもこよひは心ほそく人々
もこひしくかなしく思ふとてたかひ
にかたりあかし給ふすけ申けるは
さりとも中将殿はわすれさせ給ふ
へきさりともひめ君たちののたま
はぬ事はよもあらしさしも御心
さしふかくわたらせ給ひし物をと

【右丁】
わか君たにもおはしまさはいます
こしはなくさみ給ふへき物をなと
申ほとにあかつきになりてひめ
君すこしまとろみ給ひけりすけは
この御ありさまいかにせんと思へは
つゆまとろます松風さよちとり
いそにつなみのをとにひめ君おと
ろき給ひてたゝいまゆめに中将
度のれいのところよりかへりたる
心ちしていつよりもこよひはあ
まり物うくてあかしかねてこそ
まちつれ御身のおもひもたゝ
おなしなみたなりとてそてを
【左丁
しほり給ふほとにわれもともに
かきくとく此ほとのうらみをいふ
まてもなくてうちおとろきつる
よとてなみたにむせひ給へはこそ
かく御らんしつらんと申ひめ君御
なみたのひまよりかくなん
 つゆの身のいまを
    かきりとおもふにも
  たゝこひしきは
     みやこなりけり
夜あけぬれはかきをき給ひて
わかなからんのちのかたみにと

【右丁】
の給ひけるわれなくなりなはいか
はかりすけなけかんすらんとそれ
のみ心くるしくこそみやこのこひし
さにもしゆめにもみるやとて又
うちふし給へともねられぬとて
かくなん
 ふるさとをゆめに
    見は又なくさまて
  なとあやにくに
    こひしかるらむ
たとひはかなくなるともわか君
をいま一め見はやとおもふにおもかけ
にたちそひていかにすへしとも
【左丁】
おほえす又かえす〳〵すけになこり
いかゝすへきとて御そてをかほに
をしあてゝくれたゝたえ入給へは
すけもあま君もこはいかにや
中将殿の御いてにて候と申け
れは■

【右丁】
絵のみ文字無し
【左丁】
ひめ君とりなをし給ひけりあはれ
之御事やこひしき人の御ことを申
たれは御心をとりなをし給ひたる御
事のうれしさよと申ほとにひめ
君御心をしはしとりなをして中将
度のはとの給へはいま二三日のほとに御
入候はんするに御いのちをなからへて
またせ給へと申せはさらはまちて
こそ見めおさあひ人もくるかと
の給へはみな〳〵これへ御入候と申
けれはひめ君はいかにして此人には
おはしますそやうれしくは思へとも
いまは身もよはくなりてまちつけ

【右丁】
たてまつるへき心ちもせすとて
なき給へはすけをはしめてなくより
ほかの事そなきひめ君の給ひ
けるは此日ころまちつるよりもなを
心くるしきそとよつゆのいのちの
きえはてゝおはしたらはなにゝかは
せんこの世のうちにあるときこそ
見たけれ中〳〵むなしくなりはては
そのかひあるましわか身の事はこよひ
のうちもあすのほとはすきしと
おもふそとよはや〳〵おはせよかし
見たてまつりて心やすくしなんと
いきのしたにの給へはあはれにはか
【左丁】
なく御心をつくさせたてまつる
中〳〵御いたはしく思ひなからしはしの
御いのちもやとてたゝいま〳〵と申
のへつゝかなしき御事中〳〵申せは
おろかなり夜あけはかならすおはし
なんと申けれははや此夜のとく
あけよかしとまち給ふほとにひめ
君はよはり給へりすけあま君もろ
ともに中将殿よわか君よとこゑを
あけて申けれはとかくこたへ給へとも
うなつき給ひてなみたのみこほし
給へはかきりと見まいらせてすけも

【右丁】
あま君もねんふつをすゝめ申せは
いきのしたにて十へんはかり申
給ひてまとろむ人のやうにきえ
入給ひぬすけもあま君もこゑを
あけてなきかなしむ事かきりなし
すけ御まくらによりてこはいかにや
これまてつきそひまいらせてくたり
て候へはかへす〳〵かなしき事も御身
のゆへそかしうき事もわすれ
つゝいとけなくわたらせ給ひしとき
よりかけのことく御身にそひたて
まつりてかたときもたちはなれ
まいらせすいまをかきりの火の中
【左丁】
みつのそこまてもをくれさきたゝ
しとこそおもひまいらせ候しかひ
もなく御ひとりをきまいらせんにて
もさふらはす御ともにくしておはし
ませのこしをかせ給ふなともたへこ
かれてなくありさまこれもたす
かるへしともみえすあるしのあま
君あな心うやいかゝしたてまつ
らんと二人の人をかゝへてなき
かなしむ事かきりなし

【右丁】
絵のみ
【左丁】
かくしつゝすみよしには中将殿よる
ひるつゆもまとろみ給はす此君
にあひみすはこのうみのそこのみ
くつとなりてこんよのあまとも
なりなんとねんしおはしますほとに
まほろしとやいはんいみしくとし
おひたるおきなのかみひけしろ
きか中将を見たてまつりてうや
まひたるけしきにていとおしや
君のこひわひ給ふ人はすてにめい
とくはうせんのみちにをもむき給ふ
なりさりといへともこひゆへしぬる
人をはによいりむくはんをんのあはれみ

【右丁】
給ふよへにこたうにさきたちゆきて
くはんをんゑんまわうにこひうけ
たてまつらんとすかなはすはこの
おきなか身にかはりていま一と
君にあひみせたてまつらんたゝし
あすのむまのときにたつねあひ
みたてまつらすはいかゝあるへからん
とて
 たつね見よなにはの
   あまのぬれころも
  このすみよしの
     松とたのみて
はや〳〵とて此おきなはかりきぬの
【左丁】
そてをむすひてかたにかけいそ
きいて給ふとおもへは心ちくれ〳〵と
してうつゝともゆめとも思ひわけ
給はすむねうちさはきてさては
みやうしんの御しけんなりとたつ
とくたのもしく思ひていそきみ
やしろをたちいて給ひてなには
といふところをゆめにまかせてたつ
ねみんとおほせらるれは

【右丁】
絵のみ
【左丁】
はりまのかみうれしく思ひてまいり
けるほとになにはとはかりたつね
きたれともいつくをさしてそことも
しらすいりえ〳〵につくりかけたる
あしの屋のいやしきしつかすま
ゐなりうはのそらにまよひあり
き給ふほとに日もくれにけりあや
しきしつかふせやにやとをかり
ふして日ころは物を思ひけりいかに
なりぬることそすみよしのみやう
しんたすけさせ給へと夜もすから
きせいし給ふほとにあけかたにす
こしまとろみ給へはくれないの

【右丁】
はかましろきぬ七はかりに松に
もみちのうちきあおいろのから
きぬきてあふきさしかさしたる
女はうありひきむけてみれは
大みやのひめ君なりゆゝしき
めをわれにみせ給ふ物かないつくに
おはするそとの給へはうらめしけ
にて物もの給はすなみたを
をさてかくなん
 おもひきやなにはも
     ゆめとしりなから
   身をうきくもに
      たくふへしとは
【左丁】
ほのかにの給ふとおもへはうちおと
ろきぬされははや此世の中には
おはせぬ人にこそとあさましく
心のうさもいふはかりなくかなしくて
 なけきつゝまとろむ
    ほとのゆめさめて
  あはぬうつゝに
      きえぬへきかな
ものをおもへは身のくるしさにおかさ
れてまうさうにこそみゆなれ
たとひ此世におはせすともこけの
したまてもなとかはたつねみさらん
と心をつよくもちてしゆすを

【右丁】
をしもみ給てねんしゆをふかく
し給へはあるしのおきなねさめ
してねんふつなと申てあないと
おしや此御たひ人はさらにまとろみ
給はすねんしゆのおこゑみゝに
そみてたつとく思ひたてまつり候
おひをとろへてけふあすをもしら
ぬせうなとかうちとけてぬる事
のあさましさよといひてさても
御たひ人はいかなる人にてまします
そやこゝにあはれなる事の候この
川なみをへたてゝむかひのきしに
ほそみちのおくなるいゑは京のあま
【左丁】
君と申かみやこよりとてうつくし
き女はう二人なかされ人にておは
せしかおもひにはしなぬとは申せとも
みやこに殿も御こもある人とて
あけくれ御むねをこかしなき
かなしみ給ひ候かとひくる人も侍らす
いよ〳〵日かすのふるまゝにおもひの
かす〳〵うちそひてきのふのひる
ほとにこひしにゝしなせ給て候
もしさやうの事やしらせ給ひて候
そなたさまの人にてもやわたら
せ給ふらんこひしてしにたる人は
さうなくたましゐさりはてす

【右丁】
たとひむなしくなりたる人も
神ほとけの御はうへんにて
いきかへるとうけたまはり候おもふ人
にてなくはそのつかひともなのり
てくすりをあたへてみるとよき
たまはりをよひ候と申けれは
【左丁】
絵のみ

【右丁】
中将殿これをきくよりむねうち
さわきてされはこそわかたつぬる
人にておはしませとおもへともはや
はかなくなり給ひけん事のあさ
ましさよと思ひてなみたををさへ
てまことにあはれなる事にて侍り
けりと思ひてとひ給ふやうは
せう殿はそのくすりやしらせ給て候
そのかたのものにては侍らねとも
あまりにきくもいたはしくおもひ
まいらせ候といへはおきなかむかし
おく山へたきゝきをこりにまかりて
みちにふみまよひてはるかにひん
【左丁】
かしをさしてゆくほとに日かすをへ
ておもひのほかなるせかいにまかりて
侍りしとき此くすりをたまはりて
をこなひ人のありしかやくしによ
らいの御つかひなりとの給ふほとに
これをとりておもふ所へかへりにけり
としころのうはおきなかわかれを
かなしみておもひしにゝして七日と
申にかえりきてくすりをあたへ
侍りつれはいきかへりしなりまことに
やくしの十二大くはんいわうゑんてん
へんしやくちやうせいふらうふしの
くすりとおほし侍るとてたてまつり

【右丁】
ぬうれしくおもひてかれをとりて
いてんとすれはいゑもなき松の
したにていまゝて物いひつる
おきなもなかりけりさてはこれも
すみよしのみやうしんの御おしへ
なりといよ〳〵たのもしくてこの
るりのつほをとりて川なみを
こえて松のあるところをたつ
ねてあんしつのまへにおはし
たてはたゝこえ〳〵に人のなくのみ
きこえあはれさはかきりなし
はりまのかみたちよりて物申
さんといふときうちよりゆゝしく
【左丁】
なきたるすかたにて女はうたそと
いふこれにみやこの人やおはしますと
いふときあま君まいりてすけか
ふしたるまくらによりてかゝる事
こそ候へいてゝ見給へと申けれは

【右丁】
絵のみ
【左丁】
すけなく〳〵おきあかりて身んと
するにめもくれ心もきえてあしも
さたかにたゝねともやう〳〵いてゝ
みれははりまのかみなりいかにや御身
はかりかといへは中将殿もこれへ御入候
と申すけこれをきゝてとにかくに
物をはいひえすしてまつさめ〳〵と
そなきにけりいかにやうれしくあひ
みたるにこはなに事そとの給へは
あな心うや〳〵とはかりにてきえ入
けしきなりあるしのあま君まいり
てとく〳〵とひめ君のはかなくなり
給へるところへ中将殿の御手を

【右丁
ひきていれたてまつるすけまいりて
なみたのひまよりいかにや中将殿
のまいらせ給ひて候たとひかきりの
御みちなりともしはしたちとゝまら
せ給へとこゑもおしますさけひ
けれともらつくわえたをさつて
二たひさくならひなしさんけつ
にしにかたふきて又なかそらに
かへるならひなけれはゆきのことく
なる御むねのあたりもひえはてゝ
一たひゑめはもゝのこひありし御
まなこもふさかりてこときれたる
御ありさまたとへんかたそなかり
【左丁】
ける中将これを御らんして心もきえ
はてゝはたへに御はたへをそへて
あたゝめていま一たひかはらぬ御
かほをみせ給へあなうらめしの御
ありさまやわれをもくしておはし
ませとてなきふし給ふ御事かきり
なしほんてんたいしやくてんしん
ちしんたゝわれらかいのちをめされ
ていま一たひかはらぬすかたをみせ
させ給へとなきかなしむ事かきり
なしはりまのかみまいりてあな
あさましけさの御くすりをまいらさせ
給へと申せはそのとき中将ちからを

え給ひてけに〳〵とてとりいたし
これをひめ君の御くちにいれて
見給へはあま君すけもろこゑに
中将殿御入にて候しらせたまはぬ
にやと申中将もさしよりていか
にやわれこそまいりたれとの給へは
すこしめをみあけ給ひて御かほを
つく〳〵と御らんして御なみたを
なかしつゝ又きえ入給ふこゑをあけ
てよひたてまつり御くすりを
くちへいれまいらせけれは又御心
とりなをし又きえいりたひ〳〵
し給ひてしたいに御心をとり
【左丁】
とりなをし給へり中将御そはにおはし
て御ゆをとりよせてまいらせ給へは
御くしをすこしもちあけて御ま
いりありて御ひさをまくらにして
又ふし給へりいまたたのみなく
そみえ給ひける

【右丁】
絵のみ
【左丁】
御心くるしくて中〳〵物もきこえす
なとの給ひけるとかくあつかひ給へは
したい〳〵に御心ちとりなをし給へり
あま君もすけもそのときすこし
心いてきて中将殿にもはりまの
かみにもくこんとりいたし御さかな
いろ〳〵にこしらへてまいらせけり
中将殿ひめ君にはわれたてまつ
らんとてすこしまいらせ給へは御心
つくまゝにいとゝ御はつかしくおほし
て此ありさまにてみえたてまつる
事よとおほしめしうちそはみて
物ものたまはすうらめしくおほしめす

【右丁】
そととひ給へはうちうなつき給ひて
さめ〳〵となき給ひてわか君はいか
にとの給へはたゝいまこれはまいり候と
の給へりさても御身ゆへにおほく
の心をつくしてなをさりなる御事
にあひみたてまつるとやおほし
けんさなからすみよしの御たすけ
なりとてなをしの御そてを御かほ
にをしあてゝさめ〳〵となき給へは
ひめ君御心をとりなをし給ひて
いつくともしらぬみちにまよひ候
ほとにすけもみえす心すこき
事かきりなかりしにとしおひたる
【左丁】
おきな一人きたりてなんちこの
たひはかへり給へ御身のつまわれに
心さしふかくきせいして大くはんを
たてゝあひみん事をいのるゆへに
これまてきたる事なんちかため
なりされはほんてんたいしやくゑん
まわうくしやうしんしみやうし
ろくに申うくるなりはや〳〵かへり
給へとてそてをひかへてたかき所へ
ひきあけ給ふと思ひつれは人々の
御こゑみゝにかすかにきこえつる
なり中にもすけかこゑときくに
ちからをつけて御こゑをきゝつるに

【右丁】
中〳〵きもきえてうれしきにも
なをくるしくありつるよわか君の
こひしさはたとへんかたなき物を
御身は又大かた殿より御つかひあらは
まいり給ふへしわか君をはわれに
たへつゆのいのちのきえんまても
身にそへてみんとてこゑを
あけてなき給へは中将かゝへたて
まつりてよし〳〵いまはわれも
たちはなれたてまつるましきそ
わか君もいまおはしまさんする
なとこま〳〵とこしらへてこし
かたゆくすゑの御物かたりとも
【左丁】
かきくときかたり給ひてたかひ
にそてをしほりたまひける
かくしつゝすきゆくほとに

【右丁】
絵のみ
【左丁】
としもたちかへりぬみやこへはり
まのかみまいらせていつくの
うらにもすみ侍りなんわかきみ
をはたまはらんと申させ給ひてのほ
せ給ひけれは京には中将のいつくへ
おはしぬらんとあさましくおほして
らくちうらくくわいそのほかてら〳〵
山〳〵に人をつかはしてたつねたて
まり給へともおはせぬとて大将殿
も御思ひにしつみ給ひてさまをも
かへていかならん山のおくにもとち
こもりてほたいをもねかはんとし
給ひけるところへはりまのかみ

【右丁】
まいりてしか〳〵と申けれはゆめか
うつゝかとてよろこひ給ふことかきり
なしさてきたの御かたに此ほとの
しきくれ〳〵申たりけれはふしき
の事ともや神たにも御なうしう
おはしましけるをいかてあはれと
おほささらんなに事も中将を思ふ
ゆへにこそとかきくときの給へは
大将殿まことにことはりなりとて
いまの御しよをさなからゆつり
給ひて御身はへちの御しよへうつらせ
給ひてやかてすみよしへ御むかひ
に御むまくるまにておひたゝしく
【左丁】
まいらさせ給けり又みかとより中将
のゆくゑありときこしめして九
てうのない大しん殿を御むかひに
まいらさせ給ひけりめんほくの
いたりせひなかりけりをの〳〵よろ
こひ給ひて御むかひともまいらさせ
給ひけりかやうにあれとも中将は
ちゝはゝのあまりに御うたてしき
事ともをふかくうらみ給ひてかへり
まいり給はす大りよりかさねて
御つかひありて正月十一日にみや
こへかへり給へと御つかひしきりに
くたりけり又ちゝ大将殿よりはわか

【右丁】
君をはみやへのほりて見給へと
おほせられてとゝめ給へり中将は
ゆゝしきものなるとて又せん
しをなされけれはかたしけなく
かほとのおほせにまいらてはかな
はしとて正月十日になにはを
たち給ふひめ君すけあま君
御ともにまいりふねにのりて
のほり給ひけり
【左丁】
絵のみ

【右丁】
みちすからおもしろくあそひ給ひ
てかゝるみちの御つゐてまれなる
御事なるへしとて松のこかけに
ふねさしとてめてよものけしきを
なかめ給ひて日をへてあそひ
給ふほとに十一日にみやこへいらせ
給ふめてたき事かきりなし
これにつけてもすみよしのみやう
しんの御ありかたさたとへんかた
なかりけりみやこにかへりすみ給
てのちひめ君まうけ給ひて
とし月ふれはねうこにまいり給ふ
そのゝちわか君ひめきみあまた
【左丁】
いてき給ひぬこかの御いもうとの
ひめ君たちはかやうに大みやの
ひめきみのめてたくさかへさせ給ふ
を人しれすうれしくおほしけるさて
とく大し殿のひめ君には御なさけ
をかけ申させ給ひけりわかおもひし
事をおもひあはすれは人の心も
いとほしくとの給ひけり中将は
ついにおはせす大将殿もそのちは
おはしませともおほせられさりけり
わか君たちあまたいてき給ひて
御よろこひ申さんためひきくし
てすみよしへ御まいりありけるその

【右丁】
御よそほひこそむかしえんしの
大将のまいり給ひけるもこれには
まさり給はしとおほしたりあま君
なさけありてはくゝみ給ひし
事なれはよろつの事をあま君
にうちまかせ給ひけりすみよしへ
の御ともにはくるまにてまいり
けるいみしかりけるありさまいふはか
りなしひかるけんしのいにしへはもしほ
たれいみしきたみのうきねをな
きてゆきひらの中なこんのせき
ふきこゆるといひけんうらなみの
よる〳〵いとちかくきこえてなみたゝ
【左丁】
こゝもとにたちくる心ちするとな
かめ給ふほとにりうしんめをおとろ
かしてむかへたてまつらんとするなみ
風のあらきをすみよしのみやう
しんたすけ給へるむかしの事まて
思ひいてゝいまもむかしも心あらん
人はすみよしみやうしんをたのみ
たてまつるへしことにこひする人を
あはれみ給ふとこそうけたまはるなと
さま〳〵中将ふねのうちにてもみや
しろにても人に物申やうにみやう
しんにふかくきねん申てきんたち
のひめ君すけのつほねあま君

【右丁】
うかりしむかしの事をおもひいつれ
は神の御めくみのたのもしくこそ
おもひ給ひけれうらふく風をきくに
すきにしかた思ひいてられけるかみ
のいかきにはふくすもあをみわ
たりてをとにもあきをきかぬかほ
なれはいにしへ人のことをもいまのやう
にそおほしいてけるさま〳〵の大
くはんともみなはたし給ひてぬさたて
まつるほとにさかきのしたにつけ
たるしての風になひくさまそゝろ
さむくたつとき事かきりなしすゝ
のこゑかくらのをといみしく夜もす
【左丁】
からつとめてみや人のかふりすかた
なとめもあやにめてたきけしきを
みやうしんもさこそ御なうしうある
らんとよろこひのなみたせきあへす
ころは神な月のはしめの事なれは
松にをとするこからし身にしみて
おほしたりいと御なこりおしく思ひ
まいらせなからをの〳〵けかうし
給へりあるしのあま君のくるまに
ひめ君の御かたより
 たのみこし神の
    いかきをきてみれは
   ときはにさかふ
      松のむらたち

【右丁】
あま君やかて御返し
 よそならぬ身にも
   あはれをしらするは
  松のうはゝを
    わたるかみ風
かくてみやこへけかうし給て御ゆく
すゑめてたくさかへさせ給ひて
たのしみ日にまさりいよ〳〵はん
しやうさせ給ふ御事さなからめて
たかりける御事ともはつくしかた
くてかきとゝめ侍るなり
【左丁】
絵のみ

【右丁】
これにつけても神ほとけにしんを
いたせはあまねく御めくみにあつかる
のみならすこしやうにてはせんしよに
むまれこんしやうにてはゑいくわに
ほこり給ふなりかへす〳〵此さうしを
御らんせん人々はかみほとけを
たつとみ給ふへし此けちえんにて
二しんしやうりやうしやうとう
しやうかくとんせうほたいと御ゑかう
あるへし
 すきにける
    そのふることをみてもなを
  神のちかひを
      いかてわすれん
【文字無し】

【裏表紙】

【草紙の箱?】
【白丸ラベル】
JAPONAIS
5345
1-2
GRANDE RESERVE
1517 F.III

BnF.

【文字なし】
【ラベル】
JAPONAIS
5343

【文字なし】
【ラベル】
JAPONAIS
5343

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

BnF.

BnF.

【表紙題箋】《題:十二花鳥和歌》

【前見返し ラベル:SMITH-LESOUËF/JAP 194】

 正月
  柳
うちなひき春くる風の色なれや
日をへてそむる青柳のいと
  鶯
春きては幾よもすきぬ朝戸出に
うくひすきゐる窓のむら竹

【挿絵】

 二月
  桜
かさしおる道行
  人の袂まて桜に
   にほふきさらきの空
  雉
狩人の霞にたと
  るはるの日を妻とふ
   きしの声にたつらん
【挿絵】


  藤   
   行春のかたみとや
   さくふちのはな
   そをたに後の
   色のゆかりに
三月
  雲雀
   すみれさくひはり
    の床に宿かりて
     野をなつかしみ
      くらすはる
           哉
【挿絵】

【上段】
四月
  卯花
 白妙の衣
  ほすてふ
 なつのきて
   かきねも
  たはに咲
   るうの花
【下段】
 時鳥
郭公しのぶ
  のさとに
 里なれよ
  また卯花
 のさつきま
   つころ 
【挿絵】

匂ふのきのたちはな
つきのやとかほにかならす
郭公なくや【歟】さ
  廬橘
五月
  水鶏
槙の戸をたゝく
くゐなの曙に人やあ
やめののきのうつりか
【挿絵】

【上段】
六月 常夏
大かたの日影
にいとふみな
つきのそら
さへおしき
常夏の花
【下段】

みしかよのう
かはにのほる
かゝりひのはやく
すき行みな
つきのそら
【挿絵】

七月
 女郎花
秋ならて誰も逢
  見ぬをみなへし契や
   をきし星合の空
 鵲
長き夜にはねをな
  らふる契りとて
   秋待渡る鵲のはし
【挿絵】

八月
 鹿鳴草 
秋たけぬめ如何なる色と吹風に
やかて移ふもとあ【悪】らの萩
 初雁
詠【ながめ】つゝ秋の半も【母】すぎ【杉】の戸に
待ほどしるき初雁の声
【挿絵】

      秋のつれなさ
     すてゝ暮ゆく
    たもとの露けさを
    はなすゝき草の
   薄
九月
   鶉
    人めさへいとゝふか
    くさかれぬとや【歟】
     ふゆまつしもに
      うつらなくらん
【挿絵】

十月
 残菊
神無月霜夜の
 きくのにほはすは
 秋のかたみに
  なにをゝかまし
 鶴
夕日かけむれたる
  たつはさしなから
 しくれのくもそ
  やまめくりする
【挿絵】

十一月
 枇杷
冬の日は木草のこさぬ霜の色を
葉かへぬ枝のはなそまかふる
 千鳥
千鳥なくかもの川せの夜半の月
ひとつにみかく山あひのそて
【挿絵】

早梅 色うつむ垣ねの雪のころなから
   としのこなたに匂ふ梅かえ

   十二月

水鳥 詠する池の氷に降雪の
   かさなる年ををしの毛衣
【挿絵】

【裏見返し シール「No 19 ■■■■■」】

【裏表紙】
【ラベル:194】
【ラベル:SMITH-LESOUËF/1517 F   IV/JAP 194】

【帖装本の側面】

【帖装本の側面】

【帖装本の側面】

【帖装本の側面】

BnF.

【表紙】

【見返し】【ラベル】JAPONAIS/311/2

【書入れ 1058に取消線あり、その下に311】1058 311
【書入れ「R.B」と「1843」を中括弧で結び、その右に「3267」】 R.B. 1843 3267

頭書(かしらがき)増補(そうほ)訓蒙図彙(きんもうづゐ)巻之十二
  畜獣(ちくじう)《割書:此/部(ぶ)には山野人間(さんやにんげん)にすむ|もろ〳〵のけだ物(もの)をしるす》
【上段】
○麒麟(きりん)は
  仁獣(じんじう)なり
 ■(くしかの)【麕ヵ】身(み)牛尾(うしのを)
  一角(いつかく)あり牡(ぼ)を
 麒(き)といひ牝(ひん)を
  麟(りん)といふ生虫(せいちう)
    をふまず
 生草(せいさう)をふまず
  聖人(せいしん)の世(よ)に
   いづる獣(けだもの)
      なり
【下段 挿絵】
麒麟(きりん)【横書き】
【丸印 朱 中央に冠を頂く鳥(鷲ヵ鷹ヵ)の図を囲むように円形の文字列】BIBLIOTHÉQUE IMPÉRIALE MAN.
【二重丸印 朱】 R.F./BIBLIOTHÉQUE NATIONALE :: MSS ::
【上欄書入れ】Fase.6        6   1
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        一

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        一
【右頁上段】
○獅子(しゝ)は百/獣(じう)
  の長(ちやう)たり
   一/日(にち)に
 五百/里(り)を走(はし)る
  虎豹(こへう)をとり
   食(くら)ふ故(ゆへ)に
《割書:補》虎豹(こへう)といへども
  獅子(しゝ)を大に
   恐(おそ)ると也
 天竺(てんぢく)の猛獣(もうじう)
  にて通力(つうりき)し
   ざいを得(ゑ)し
 ものなりといへり
  一/名(めい)狻猊(しゆんげい)と
      いふ
【右頁下段 挿絵】
獅子(しし)
【二重丸印 朱 R.F.|BIBLIOTHĒQUE NATIONALE :: MSS::】
【左頁上段】
○獬豸(かいち)は
  異国(いこく)の獣(けだもの)
   なり其形(そのかたち)
 獅(し)子に似(に)て
  一角(いつかく)あり一名(いちめい)
   神羊(しんよう)と云
 能曲直(よくきよくちよく)を
  わかつ皐陶(かうよう)
   獄(ごく)を治(おさむ)る時
 その罪(つみ)うたがは
  しきものは獬(かい)
   豸(ち)にあたふ 
《割書:補》罪(つみ)あるものは是(これ)
  を喰(くらふ)罪(つみ)なき
   はくらはずと
【左頁下段 挿絵】
獬(かい)
 豸(ち)
【上欄書入れ】2
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        二

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        二
【右頁上段】
○虎(とら)はかたち
  猫(ねこ)のごとく
   大(おほい)さ牛(うし)の
 如(ごと)し色黄(いろき)に
  して前足(まへあし)ふと
   く一身(いつしん)の力(ちから)
 前足(まへあし)にあり夜(よる)
  行(ゆく)に一目(いちもく)は光(ひかり)を
   放(はな)ち一目(いちもく)は物(もの)
 を見る声雷(こゑらい)の
  ごとくよく風(かぜ)
   をおこす《割書:補》山(さん)
 上(じやう)にて虎一声(とらいつせい)
  吼(ほゆ)れは百/獣(じう)恐(おそれ)
   すくむといふ
【右頁下段 挿絵】
虎(こ)《割書:とら》
【左頁上段】
○騶虞(すうぐ)は白虎(びやくこ)
  なりその
   尾/身(み)より
 ながし仁獣(じんじう)
    なり
○豹(ひう)はかたち
  虎(とら)によく似(に)て
 ちいさし頭円(かしらまる)く
 面白(おもてしろ)し毛色(けいろ)《割書:補》
  薄黄(うすぎ)にて白(しろ)
   きほしあり
 甚美(はなはだび)なり故(ゆへ)に
  みづから毛采(もうさい)
   をおしむと
     いふ
【左頁下段 挿絵】
騶(すう)
 虞(ぐ)

豹(へう)《割書:なかづ| かみ》
【上欄書入れ】3
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        三

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        三
○獏(ばく)は熊(くま)に
  似(に)たり象(ざう)の
   鼻(はな)犀(さい)の
 目尾(めお)は牛(うし)の
  ごとく虎(とら)の
   足銅鉄及(あしどうてつおよひ)
 竹(たけ)を食(くら)ふ
  よくねむる
   けだものなり
《割書:補》すべてあしき
  夢(ゆめ)をくらふと
   いふよつて
 枕(まくら)にゑがいて
   獏(ばく)まくらと
     名(な)づく
【右頁下段 挿絵】
獏(ばく)
【左頁上段】
○象(ざう)は異国(ゐこく)の
  大獣(たいじう)なり
 鼻牙(はなきば)ながく
《割書:補》食(しよく)は口(くち)より
     くらひ
 水(みつ)は鼻(はな)より
  吸(すう)といふ三年
   に一たび
 乳(にう)す大山高(たいさんかう)
  山(ざん)にすむなり
    牙(きば)をとり
 て万(よろづ)のうつは
  ものにつくる
   象牙(ざうげ)といふ
      なり
【左頁下段 挿絵】
象(ざう)
【上欄書入れ】4
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        四

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        四
【右頁上段】
○犀(さい)は毛豕(けぶた)の
  ごとく蹄(ひづめ)に
   三/甲(かう)あり
頭(かしら)は馬(むま)のごとく
 三/角(かく)あり鼻(ひ)
  上額上頭上(じやうかくしやうづじやう)
    にあり
○熊は毛色黒(けいろくろ)く
形豕(かたちぶた)に似(に)たり胸(むね)
に白脂(はくし)あり俗(ぞく)に
熊白(つきのわ)といふ洞穴(ほらあな)に
すむを穴熊(あなぐま)といひ
木(き)にすむを木熊(きくま)と
いふ熊蹯(ゆうはん)はくまの
たなごゝろ熊膽(ゆうたん)くま
        のゐ
【右頁下段 挿絵】
熊(いう)《割書:くま》
犀(さい)
【左頁上段】
○狼(おほかみ)は狗(いぬ)に似(に)て大(おほい)也
頭(かしら)するどに頬白(ほうしろ)く
前足高(まへあしたか)く後(うしろ)ひろし
 口とがり大(おほ)き也
力(ちから)つよく諸獣(しよじう)
 をとり食(くら)ふ
よく後(うしろ)をかへり
    見る
○豺(さい)は狼(おほかみ)の類(たぐひ)
なり色黄(いろき)にして
頬白(ほうしろ)く尾(を)ながし
 狼(おほかみ)よりは少(すこ)し
小(ちいさ)く力(ちから)つよく
 諸獣(しよじう)を喰(くら)ふ
   悪獣(あくしう)なり
【左頁下段 挿絵】
豺(さい)
 《割書:やま| いぬ》
狼(らう)
 《割書:おほ| かみ》
【上欄書入れ】5
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        五

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        五
【右頁上段】
○鹿(しか)は馬(むま)のごと
くにして小(しやう)なり
頭長(かしらなが)く脚細(あしほそ)く
高(たか)し牡(を)は角(つの)有
夏至(げし)におつ牝(め)は
角(つの)なし六月に
して子(こ)をうむ 
好(このん)で亀(かめ)をくら
ふ秋(あき)のすへにいた
りて声(こへ)を発(はつ)す
虚労(きよらう)をおきなひ
腰(こし)をあたゝめ一切(いつさい)
の病(やまひ)に益(ゑき)あり
○麑(かのこ)は鹿(しか)の
   子(こ)なり
【右頁下段 挿絵】
鹿(ろく)《割書:しか》
 《割書:かのしゝ| とも|  いふ》
麑(げい)《割書:かの|  こ》
【左頁上段】
○麞(くじか)は秋冬(あきふゆ)は山に
すみ春夏(はるなつ)は沢(さわ)に住(すむ)
鹿(しか)に似(に)て小(ちいさく)して
角(つの)なし黄黒色(きくろいろ)也
雄(お)は牙(きば)あり 
○麋(おほしか)は鹿(しか)にて色(いろ)
青黒(あをくろ)なり大(おほ)さ子(こ)
牛(うし)のごとし目(め)の下(した)に
二の穴(あな)あり夜(よる)の目(め)
といふ
○麢(かもじゝ)は羊に似(に)て
青色(あをいろ)にして大(おほい)なり
角(つの)は細(ほそ)くて文(もん)あり
人(ひと)の指(ゆび)のごとし長(なが)さ
四五/寸皮(すんかわ)をとつて
褥(しとね)とす
【左頁下段 挿絵】
麞(しやう)
 《割書:くじか》
麋(び)《割書:おほ| じか》
麢(れい)《割書:にく》
《割書:かも|  じゝ》
【上欄書入れ】6
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        六

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        六
【右頁上段】
○麝(じや)は麞(くじか)に似(に)
 て小さく色黒(いろくろ)し
臍(ほそ)に香気(かうき)あり
《割書: |補》じやかうといふは
是(これ)なり故(ゆへ)におのれ
 が臍(ほそ)をおしむと云
○羊(ひつじ)は柔毛(じうもう)の畜(ちく)
 なりよく群(ぐん)を
なすよつて群(ぐん)
 の字は羊(ひつじ)に
   したがふ
○綿羊(めんよう)は羊(ひつじ)の 
 毛(け)の長(なが)きもの
をいふ夏羊(かよう)
   胡羊(こよう)と同
【右頁下段 挿絵】
麝(じや)
 《割書:じや| かう》
綿羊(めんよう)
 《割書:むく| ひつ|  じ》
羊(よう)
 《割書:ひつじ》
【左頁上段】
○豕(ちよ)は猪彘(ちよてい)の惣名(さうみやう)
なり野猪(いのしゝ)豪猪(やまぶた)な
とあり不潔(ふけつ)を喰(くら)ふ
よつて豕(ぶた)といふなり
腎虚(じんきよ)を補(おぎな)ふ
○豚豕(ゐのこぶた)の子(こ)也/唐人(とうじん)は
ころして常(つね)に食(しよく)す
○野猪(ゐのしゝ)は腹小(はらちいさ)く脚(あし)
ながし毛䅥色牙(けかちいろきば)に
てかけ投(なげ)る力(ちから)つよし
味甘毒(あぢはひあまくどく)なし癲癇(てんかん)を
治(ち)し肌膚(きふ)を補(おぎな)ふ
○山猪(やまぶた)は項(うなし)背(せ)に棘(いばらの)
鬣(たてがみ)あり長(なが)さ一/尺(しやく)ば
かり筋(すし)のごとし触(ふるゝ)
ときは矢を射(ゐ)るが如(ごと)し
【左頁下段 挿絵】
野猪(やちよ)
 《割書:ゐのしゝ》
山猪(さんちよ)
 《割書:山| ぶた》
豚(とん)
 《割書:ゐのこ》 
豕(し)
《割書:ぶた》
【上欄書入れ】7
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        七

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        七
【右頁上段】
○馬(むま)は火気(くはき)を受(うけ)
て生(うま)る火は木
を生(しやう)ずる事あたは
ず故(かるかゆへ)に肝(かん)あつて
膽(たん)なし膽(たん)は木(き)の
精気(せいき)なり木臓(もくざう)不(ふ)
足(そく)す故にその肝(かん)を
くらふものは死(し)す
○駒(く)は馬(むま)二/歳(さい)なる
を駒(く)といふ又五尺
以上(いじやう)を駒といふ
○驪(り)は馬(むま)の純(もつはら)に
黒(くろ)きものなりく
ろこまなり
○騮(りう)はあかき馬(むま)の
【右頁下段 挿絵】
駒(く)
 《割書:こま》
馬(ば)
 《割書:むま》
驪(り)
 《割書:くろ| こま》
騮(りう)《割書:かけの| むま》
【左頁上段 右頁上段から続く】
黒(くろ)きたてがみ
なるをいふなり
駵(りう)同かげのむま
なり
○驄(そう)は馬(むま)の青(あを)
  しろき色(いろ)
   なり
あしげ馬(むま)なり
 連銭葦毛(れんぜんあしげ)
○駁(はく)は馬(むま)の
  色(いろ)の純(もつはら)なら
ずしてまだら
  なるなり
   駁(はく)同
  ぶちむま也
【左頁下段 挿絵】
驄(そう)
 《割書:あしけ》
駁(はく)
 《割書:ぶち》
【上欄書入れ】8
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        八

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        八
【右頁上段】
○牛(うし)は田(た)を耕(たがへ)す
  畜(ちく)なり唐(もろこし)
   には牛(うし)を
殺(ころ)して祭(まつり)に備(そなふ)
 野牛(やぎう)有/水(すい)
  牛(ぎう)あり牲(いけにへ)
にそなゆるを
  大/牢(らう)といふ
○犢(とく)は牛(うし)の子(こ)
  なり犢(とく)の鼻(はな)
   男根(なんこん)に似(に)
たるゆへ男根(なんこん)を
  犢鼻(とくび)といふ
     なり
【右頁下段 挿絵】
犢(とく)《割書:こ|うし》
牛(ぎう)【左ルビ「うし」】《割書:特牛こというし|牝牛めうし|黄牛あめうし|犂牛ほしまだらうし》
【左頁上段】
○驢(ろ)はうさき馬(むま)と
  いふ耳(みゝ)ながき
   馬(むま)なり唐(もろこし)
には是(これ)をつかふ
  倭国(わこく)にはなき
   馬(むま)なり
○駝(だ)は背(せなか)に肉鞍(にくあん)
  ありて峰(みね)の
ごとし頸(くび)ながく
  して脚高(あしたか)し
   其毛(そのけ)温厚(うんかう)
にして狐(きつね)の毛(け)
 よりもあたゝか
  なり夏(なつ)は
    涼(すゞ)し
【左頁下段 挿絵】
驢(ろ)《割書:うさぎ|  むま》
駝(だ)
 《割書:らくだの|   むま》
【上欄書入れ】9
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        九

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        九
【右頁上段】
○狐(きつね)は狗(いぬ)に似(に)て
鼻(はな)とかり尾(お)大(おほい)
なり昼(ひる)はかくれ
夜出(よるいづ)る馬骨(ばこつ)を
くはへて吹(ふけ)ば光(ひかり)を出(いだ)
し食(しよく)を求(もと)む是(これ)
を狐火(きつねび)といふ又/玉(たま)を
くはへて光(ひかり)をなすと
もいふ百/歳(さい)を経(へ)て
北斗(ほくと)を礼(らい)して化(ばけ)る
といへり
○猫(ねこ)は眼晴(まなこのひとみ)子午卯(ねむまう)
酉(とり)には糸(いと)のごとし
寅申(とらさる)巳亥(みい)には満月(まんげつ)
の如(ごと)く丑未辰戌(うしひつじたついぬ)に
【右頁下段 挿絵】
狐(こ)《割書:きつね》
猫(めう)《割書: |ねこ》
【左頁上段 右頁上段から続く】
は棗核(なつめのたね)のごとし鼻(はな)
常(つね)に冷(ひやゝか)なり夏至(げし)
一日あたゝかなり
○狸(り)は虎狸(こり)あり猫(めう)
狸(り)あり猫狸(めうり)はくさし
食(しよく)すべからず頭(かしら)とがり
口方(くちけた)なるを虎狸(こり)と云
○貉(かく)は狐狸(こり)に似(に)た
り毛黄(けき)にして褐色(かちいろ)
なりよくねむる昼(ひる)
はふして夜出(よるいづ)る
○貒(たん)は犬(いぬ)に似(に)て喙(くち)
とがり足黒(あしくろ)く毛(け)䅥(かち)
色(いろ)なり尾足(おあし)みぢかく
ゆくことおそし耳(みゝ)
聾(しい)て人(ひと)を恐(おそ)る
【左頁下段 挿絵】
狸(り)《割書:たぬき》
貒(たん)
《割書:みだ| ぬき》
貉(かく)《割書:む|じな》
【上欄書入れ】10
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十
【右頁上段】
○獒犬(かうけん)は大犬(おほいぬ)なり
高(たか)さ四尺なるを
獒(かう)といふ俗(そく)にこれ
を唐犬(とうけん)といふ
○犬(いぬ)は味(あじわひ)鹹(しははゆく)温毒(うんどく)な
し五/臓(ざう)を安(やすん)し気(き)
をまし腎(じん)に宜(よろ)し
○㺜犬(のうけん)は毛長(けなが)し
尨狵獅犬(ほうほうしけん)同し
むくいぬなり
○蝟鼠(いそ)は貒(みたぬき)のごとし
脚短(あしみぢか)く尾長(をなが)し
色青白(いろあをしろ)し足毛(あしのけ)
人をさす山谷田野(さんこくでんや)
に生(しやう)ず猬(ゐ)同
○霊猫(れいめう)は南海(なんかい)の山(さん)
【右頁下段 挿絵】
獒犬(かうけん)
 《割書:たう| けん》
犬(けん)《割書:いぬ》
㺜犬(のうけん)
 《割書:むくいぬ》
【左頁上段】
谷(こく)に生(しやう)すかたちた
ぬきのごとし陰(いん)は
麝(じやかう)のごとし
○兎(うさぎ)は前足(まへあし)みじ
かく尻(しり)に九の孔(あな)有
辛(からく)平毒(へいどく)なし中(うち)
を補(おぎな)ひ気(き)をます
○猿(ゑん)は禺(さる)のたぐひ
猴(こう)に似(に)て臂(ひぢ)ながし
よく樹(き)の枝(えだ)を攀(よづ)
○猴(こう)はかたち人(ひと)に似(に)
たり腹(はら)に脾(ひ)なふ
して行【犴?】をかつて食(しよく)
を消(しやう)すよく立(たつ)て
ゆく性(せい)さはがしく
して物(もの)を害(かい)す
【左頁下段 挿絵】
蝟鼠(ゐそ)
 《割書:くさぶ》
霊猫(れいめう)《割書:じやかう|  ねこ》
兎(と)《割書:うさ|  ぎ》
【上欄書入れ】11
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十一

    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十一
【右頁上段】
○獺(をそ)は水中(すいちう)にすむ
四/足(そく)ともに短(みじか)し色
青黒(いろあをぐろ)し魚(うを)をとり
くらふ水気(すいき)脹満(ちやうまん)
を治(ぢ)す多食(おゝくくらふ)べからす
○貂(でう)は鼠(ねずみ)のたぐひ
大(おほひ)にして黄(くわう)黒色(こくしき)
なり毛(け)ふかくして
あたゝかなり帽子(ばうし)
領(えり)にして寒気(かんき)をふ
せぐ俗(ぞく)に栗鼠(りす)と書(かく)
○鼯(むさゝび)は小狐(しやうこ)のごとく
肉(にく)翅(し)蝙蝠(かふもり)に似(に)たり
脚(あし)みじかく尾長(をなが)
さ三尺ばかり声人(こゑひと)の
よぶがごとく火煙(くはゑん)を
【右頁下段 挿絵】
猴(こう)《割書: |ましら》
猿(ゑん)《割書:さる》
獺(だつ)
 《割書:かわ|  をそ》
【左頁上段】
喰(くら)ふ高(たか)きより下(ひきゝ)
におもむく下(ひきゝ)より
高(たか)きにのぼる事
あたはず
○鼲(てん)は鼠(ねづみ)のたぐひ
なり皮(かわ)裘(かわころも)につくる
べし一名(いちめい)礼鼠(れいそ)
○海狗(かいく)は膃肭臍(をんとつせい)
なり形狐(かたちきつね)ににて
尾(を)は魚(うを)なり身(み)に
青白(あをしろ)き毛(け)あり又
青黒(あをくろ)き点(てん)あり
臍(ほそ)は脾腎(ひじん)の
労極(らうごく)を治(ぢ)す
○海獺(かいだつ)は獺(をそ)に似(に)
て大(おゝき)さ犬(いぬ)のごとし
【右頁下段 挿絵】
貂(でう)《割書: |りす》
鼲(こん)
《割書:てん》
鼯(ご)《割書: |むさゝび》
【上欄書入れ】12
    【柱】頭書増補訓蒙図彙十二        十二

【右頁上段】
脚(あし)の下(した)に皮(かわ)あり毛水(けみつ)につい
て濡(うるほ)わずあじかといふ
○水牛(すいぎう)は色(いろ)あをく腹(はら)大(おほい)に頭(かしら)
とがりかたち猪(いのこ)に似(に)たり
これを食(しよく)すれば消渇(せうかつ)を
やめ脾胃(ひゐ)をやしなひ虚(きよ)を
おぎなひ水腫(すいしゆ)を治(ぢ)す
○猩猩(しやう〴〵)は海中(かいちう)にすむ獣(けだもの)也
毛色黄(けいろき)にしてさるのごとし
耳白(みゝしろ)く面(おもて)と足(あし)は人(ひと)のごとくに
て酒(さけ)をこのむ血(ち)をとりて染(そむ)
○狒々(ひひ)は猴年(さるとし)を積(つみ)て狒々(ひひ)
となるといふ形人(かたちひと)のごとくにし
て大(おほい)なり唇(くちひる)長(なが)く反踵髪(はんしやうばつ)を
被(かふ)ふり迅(とく)走(はしり)て人を食(くら)ふ人を
見れは大(おほい)に笑(わらふ)
【右頁下段 挿絵】
海(かい)
狗(く)
《割書:おつと|  せ》
海獺(かいだつ)
 《割書:うみ| をそ》
 《割書:あじか》
水(すい)
牛(ぎう)
【左頁上段】
○鼠(ねすみ)は四/歯(し)ありて牙(きば)なし前(まへ)の
爪(つめ)四ツ後(うしろ)の爪(つめ)五ツあり小児(せうに)の
驚風(きやうふう)てんかんを治(ぢ)す
○鼷(けい)はつかねずみなり鼠(ねすみ)のちい
さきものなり人をくらふて痛(いた)
まず瘡(かさ)となる
○鼴(ゑん)うぐろもちは伯労(もず)の化(くは)
するものなり鼠(ねすみ)に似(に)て頭(かしら)は
ゐのしゝのごとく尾(お)なし毛色(けいろ)
黄黒(きくろ)し地中(ちちう)をうがつてみゝ
すを食(くら)ふ日月(じつげつ)の光(ひかり)をおそる
○鼬(いたち)は鼠(ねすみ)より大(おほき)に身(み)ながく
四足みじかく尾(お)大(おほい)なりいろ
黄(き)にしてあかしよく鼠(ねすみ)をとる
○角(かく)はあらそふとよめりけだ物(もの)
角(つの)をもつてあらそふなり
【左頁下段 挿絵】
狒々(ひひ)
猩猩(しやう〴〵)

【右頁上段】
鹿(しか)は夏至(げし)に角(つの)おちて
秋分(しうぶん)に生(しやう)ず鹿角(しかのつの)水(すい)牛(ぎう)の角(つの)器(うつはもの)につくる
○牙(きば)は歯(は)のながく大(おゝい)なる
ものなり象(ざう)の牙(きば)は
大(おゝい)にしてうつは物(もの)につ
くり猪(ゐ)の牙(きば)は物(もの)をす
りてなめらかにす
○騣(そう)は馬(むま)の頸(くび)にあるた
てがみなりうながみともいふなり鬃(そう)鬐(さ)鬛(れう)
ならびに同
○蹄(てい)はけだものゝ足(あし)の
さきなり麒麟(きりん)は蹄(ひづめ)
の下に肉(にく)ありて物(もの)をふ
んでやぶらずといふ
【左頁下段 挿絵】
鼠(そ)
《割書:ねず| み》
鼷(けい)
《割書:はつか| ねず|  み》
鼴(ゑん)《割書:うごろもち》
鼬(いう)《割書: |いたち》
角(かく)
 《割書:つの》
牙(げ)
《割書:き| ば》
騣(そう)
《割書:たて| がみ》
蹄(てい)《割書:ひづめ》
【左頁上段】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十三
禽鳥(きんてう) 《割書:此/部(ぶ)には山林(さんりん)にすむもろ|〳〵の鳥(とり)をのこらずしるす》
○鳳凰(ほうわう)は神霊(しんれい)の鳥(とり)
なり雄(お)を鳳(ほう)と云/雌(め)
を凰(わう)といふ其かたち
雞(にはとり)に似(に)たり羽(はね)は五
采(さい)をそなへ高(たか)さ四五
尺(しやく)声(こゑ)は簫(しやう)のごとし
生虫(せいちう)を啄(ついばま)ず生草(せいさう)
をふまず桐(きり)をこのむ
竹実(ちくじつ)をくらふ
鳳凰(ほうわう)瑞鶠(ずいえん)並同
【左頁下段 挿絵】
鳳凰(ほうわう)

【右頁上段】
○孔雀(くじやく)は大さ鴈(かん)よ
り大なり高(たか)さ四尺
かしらに三/毛(もう)をいたゞ
く長(なが)さ一寸余/惣身(そうしん)
緑色(みどりいろ)にて光(ひか)り有
尾(を)の玉(たま)は青(あを)くひかる
人/手(て)をうつて歌(うた)へは
尾(お)をひらきて舞(まふ)
【右頁下段】
孔雀(くじやく)
【左頁上段】
○錦雞(きんけい)は山どりに
似(に)て小(ちいさ)く羽色(はいろ)は五
色(しき)なり孔雀(くじやく)のは
ねのことし鷩雉(べつち)
采鷄(さいけい)並同
○白鷴(はくかん)は山雞(やまとり)に似(に)
て色白(いろしろ)し黒(くろ)き文(もん)
あり尾(を)の長(なが)さ三四
尺ばかりあり食(しよく)す
れば中(うち)を補(おぎな)ひ毒(どく)
を解(げ)す
【左頁下段 挿絵】
錦雞(きんけい)
白鷴(はくかん)

【右頁上段】
○鶴(つる)は長(なが)さ三尺/高(たか)さ
三尺余/啄(はし)の長(なが)さ四
五寸/頂(いたゞき)目(め)頬(ほう)あかく
脚(あし)あをく頸(くび)ながく指(ゆび)
ほそく羽白(はねしろ)くつばさ
黒(くろ)し夜半(やはん)になく
声(こゑ)ましわりて孕(はら)むと
糞(ふん)石(いし)に化(くわ)す
○鸛(こうづる)は鶴(つる)に似(に)ていたゞ
き丹(あか)からすくび長(なが)く
喙(はし)あかく色(いろ)灰(はい)白(しろく)つば
さ黒し高木(かうぼく)に巣(すくふ)
○鶬鴰(さうくわつ)は鶬雞(さうけい)なり
まなづるなり
【右頁下段 挿絵】
鸛(くわん)《割書:こう| づる》
鶴(くわく)《割書: | | つる|たんてう》
鶬鴰(さうくわつ)
 《割書:まなづる》
【左頁上段】
○雁(がん)【鴈】は大なるを鴻(こう)と
いひ小(すこし)なるを雁(がん)と云
久(ひさ)しく食(しよく)すれは
気(き)をうごかし骨(ほね)を
さかんにす
○鴻(ひしくひ)は雁(かん)の大なるもの
なり江渚(こうしよ)に多(おゝ)くあ
つまるゆへに江(こう)と書(かく)也
五/臓(ざう)を利(り)し丹石(たんせき)の
毒(どく)を解(げ)す
○鵠(はくてう)は雁(がん)より大なり
羽(はね)白く高(たか)く飛(とぶ)味(あぢは)ひ
あまく平毒(へいどく)なし人の
気力(きりよく)をまし臓腑(ざうふ)を
【左頁下段 挿絵】
雁(がん)《割書:かり》
鴻(こう)
 《割書:ひし| くひ》
鵠(かう)《割書:くゞひ》
 《割書:はく| てう》

【右頁上段】
○鵞(とうがん)は蒼白(あをしろ)の二/色(いろ)
ありまなこ緑(みどりに)喙(はし)黄(き)
に脚(あし)紅(くれない)なりよく闘(たゝか)ふ
食(しよく)すれは五/臓(さう)の熱(ねつ)
を解(け)す
○鶩(あひる)はかたち鳬(かも)に似(に)
たり飛(とぶ)ことあたはず
羽色(はいろ)は白きあり頭(かしら)黒(くろ)
きはかもの羽色のごとし
大寒(だいかん)毒(どく)なし風虚(ふうきよ)
寒熱(かんねつ)水腫(すいしゆ)を治(ぢ)す
○鸊鷉(かいつふり)は鳩の大さほ
どあり陸(くが)をあゆむこ
とあたはず水(みづ)に入て
【右頁下段 挿絵】
鵞(が) 《割書: | |とう| がん》
鶩(ふ)《割書: | |あひ| る》

《割書:かい| つぶり》
【左頁上段】
魚をとる
○鳬(かも)は品類(ひんるい)多(おゝ)く大
小あり羽色(はいろ)さま〴〵かは
れり図(づ)するところは俗(ぞく)
にいふ真鴨(まがも)なり中(うち)を
補(おぎな)ひ気(き)をまし胃(ゐ)を平(たいらかに)す
○鴎(かもめ)【鷗】は白(しろ)き鴿(はと)のごとし
喙(はし)ながくむらがり飛(とん)
で日にかゝやく海辺(かいへん)に
住(すむ)三月に卵(かいこ)をうむ
○鴛鴦(をしどり)は大さ鴨(かも)の如(ごと)
し色(いろ)黄(き)黒(くろ)羽(は)青(あお)くひ
かる小毒(しやうどく)あり夫婦(ふうふ)和(くわ)
せざるものにはひそかに
【左頁下段 挿絵】
鸊鷉(へきてい)《割書:かいつ|  ぶり》
鳬(ふ)
 《割書:かも》
鴎(をう)《割書: | |かも|  め》

  《割書:を|し| とり》
鴛鴦(えんわう)

【右頁上段】
喰(くら)はしむ
○鷺(さぎ)は頸(くび)ほそく長(なが)く
喙(はし)脚(あし)ともに長(なが)し大小有
小なるは頂(いたゝき)に長(なが)き毛(け)
有/脾(ひ)をまし気(き)を補(おぎな)ふ
○鵁鶄(ごいさぎ)は水鳥(みづとり)なり
大さ鷺(さぎ)のごとし灰白(はいしろ)
色(いろ)背(せ)黒(くろき)をせぐろごいと
いひほしあるを星(ほし)ごい
といふ諸魚(しよぎよ)の毒(どく)を解(げす)
○紅鶴(とき)は一名/朱鷺(しゆろ)
といふ鷺(さき)より大なり
色白(いろしろ)く少(すこ)しあかく
俗(ぞく)にたうがらすと云
【右頁下段 挿絵】
 《割書: |ごいさぎ》
鵁鶄(かうしやく)
鷺(ろ)《割書:さぎ》
紅鶴(こうくわく)
 《割書:たう| とき》【「とき」は「つき」ヵ】
【左頁上段】
○鷸(しぎ)は大さ鳩(はと)より少(すこ)
し小(ちいさ)し喙(はし)脚(あし)長(なが)く
羽(はね)茶色(ちやいろ)に黒(くろ)きふ有
田沢(てんたく)にすむ大小あり
大なるをぼとしきと
いふ虚(きよを)補(おぎな)ひ人を暖(あたゝむ)
○鸕鷀(う)は鴉(からす)に似(に)て
頸(くび)長(なが)く喙(はし)少(すこ)し長
し水(みづ)に入てよく魚(うを)
をとる林木(りんぼく)に巣(す)く
ふ漁人(ぎよじん)かふて魚(うを)を
とらしむ
【右頁下段 挿絵】
鷸(いつ)
 《割書:しき》
鸕鷀(ろじ)
 《割書:う》

【右頁上段】
○鷲(わし)は鷹(たか)
の大なるもの
なり至(いたつ)て大
なるは七八尺に
およぶ其色(そのいろ)は
黄(き)にしてはら
黒(くろ)くふあり
觜(はし)黄(き)なり
深山(しんざん)にすみて
空中(くうちう)をかけり
よく獣(けだもの)をつかみ
喰(くら)ふ
【右頁下段 挿絵】
鷲(しう)
 《割書:わし》
【左頁上段】
○皂鵰(くまたか)は鷹(たか)の大(おゝい)
なるものなり翅(つばさ)つ
よく空中(くうちう)高(たか)く飛(とび)
めぐり諸鳥(しよてう)はいふに
及(およ)ばす獣(けだもの)をとり食(くら)
ふ其/長(たけ)三四尺あり唐(もろ)
土(こし)にて大鷹といふ
は鷲(わし)皂鵰(くまたか)をいふと
なり日本にては大
鷹と称(せう)ずるものは
隼(はやふさ)などをいふ
【左頁下段 挿絵】
皂鵰(さうしう)《割書:くまたか》

○鷹(たか)は惣名(さうみやう)にて大
小その品(しな)多(おほ)く勇猛(ゆうもう)
の鳥(とり)なり田猟(でんりやう)にも
ちひて諸鳥(しよてう)をとら
しむる事はそのかみ
神功皇后(じんぐうくわうこう)の御(み)代に
百済国(はくさいこく)よりはじめて
鷹を献(けん)ぜしとかや
それより代々(よゝ)鷹(たか)を
もてあそび給ふ鷹は
朝鮮国(てうせんごく)の産(さん)を第一
とす
【右頁下段 挿絵】
鷹(よう)《割書: | |たか》
【左頁上段】
○隼(はやふさ)は鷹(たか)の中(なか)にて
するどきものなり形(かたち)も
大にして鳶(とび)ほどあれ
ば雉(きじ)鴈(かん)鴨(かも)などの大
鳥(とり)をとる鶴(つる)などに
は隼を二/羽(は)かくると
かや鶽(じゆん)同
○鷂(はしたか)は鷹(たか)の小(ちいさ)きもの
なり鷂の小(ちいさ)きを兄(こ)
鷂(のり)といふさらに小きを
雀鷂(つみたか)といふいづれも
かたち小(ちい)さければ小鳥(ことり)
【左頁下段 挿絵】
隼(しゆん)《割書:はやふさ》
白鷹(はくよう)

【右頁上段】
をとるなり
○雀(ゑつ)𪀚(さい)【「鳥」偏に旁は「戎」】 雀鸇(さしば)
何れも鷹(たか)の名(な)小
鳥をとる鷹の種品(しゆほん)
四十八あり鳶(とび)鵙(もず)梟(ふくろう)
をくはへて四十八/種(しゆ)と
せりしかりといへども
狩猟(しゆれう)にもちゆる鷹
は其(その)飼(かふ)人の名付(なづく)る
あり又むかしより名(めい)
誉(よ)の鷹には悉(こと〴〵)く異(い)
名(みやう)あり亦(また)異国(いこく)より
【右頁下段 挿絵】
鷂(よう)《割書:はしたか》
兄鷂(けうよう)《割書:このり》
【左頁上段】
わたりし鷹には異(ゐ)
類(るい)ことさらにあるべし
唐鷹(とうよう)高麗(かうらい)南蛮(なんばん)
琉球(りうきう)日本にも東国(とうごく)
西国(さいこく)北(ほつ)国四国中国
つくしその国々(くに〴〵)のか
わりありとかや鷹の
羽(はね)はかた羽(は)に廿四枚両
羽合て四十八/枚(ま?)尾(を)は
十二枚ありいづれも名
あり鷲(わし)の尾(を)は十四枚
あり
【左頁下段 挿絵】
雀(じやく)𪀚(しう)《割書:ゑつさい》
雀鸇(さしば)

【右頁上段】
○鶯(うぐひす)【鸎】は毛(け)うす青(あを)し
立春(りつしゆん)のゝちはじめて
さへつる声(こへ)春陽(しゆんやう)に応(おう)

○鷦鷯(みそさゞい)は雀(すゝめ)よりちい
さく赤黒(あかくろ)く黒きふ
あり寒中(かんちう)雪(せつ)中に
きたる夏(なつ)は居(お)らず
○鶲(ひたき)は冬(ふゆ)きたる雪(ゆき)
びたきといふは青(あを)くひ
かる羽色(はいろ)なりじやう
ひたきはかばいろに黒(くろ)
き羽(は)まじはる
【右頁下段 挿絵】
鶯(あう)
《割書:うぐ| ひす》
鷦鷯(せうれう)《割書: |みそ|  さゞひ》
鶲(ひたき)
【左頁上段】
○山鷄(やまどり)【雞】は雉(きじ)に似(に)
てすこし小(ちいさ)くし
て尾長(をなが)く羽色(はいろ)黄(き)
赤(あか)し山にすむ也
鸐雉(てきち)といふあぶり
食(しよく)すれば中(うち)を補(おぎな)ひ
気(き)をます
○啄木(てらつゝき)は小(ちいさ)きは雀(すゝめ)の
ごとく大(おゝい)なるはひよどり
ほど有/下腹(したはら)赤(あか)く觜(くちばし)
錐(きり)のごとく木(き)をつゝき
うかつて虫(むし)を食(くら)ふ
【左頁下段 挿絵】
山鷄(さんけい)《割書:やま| どり》
啄木(たくぼく)
《割書:てら| つゝき》

【右頁上段】
○雲雀(ひばり)は一名/蒿雀(かうじやく)
といふ雀(すゞめ)より少(すこ)し大(おゝい)
に茶色(ちやいろ)にしてふあり
三月の始(はじめ)より夏至(げし)の
頃(ころ)まで空(そら)に登(のぼ)りて
囀(さへづ)る陽(よう)をおこし精(せい)
髄(すい)をおぎなふ
○雉(きじ)は雄(を)は羽色(はいろ)美(び)也
尾(を)長(なが)し雌(め)は茶色(ちやいろ)に
してふあり春陽(しゆんよう)に
至(いた)りてなく九月より
十一月まで食(しよく)すべし
【右頁下段 挿絵】
雲雀(うんじやく)
 《割書:ひ| ばり》
雉(ち)《割書:きじ》
【左頁上段】
○練雀(れんじやく)は尾(お)の長(なが)き
と短(みじかき)との二種(しゆ)あり大
さひよどりより小(ちいさ)く
黒(くろ)く䅥(かち)【かうヵ】色(いろ)尾(を)に白き
毛(け)ありて練(ねり)たる帯(おび)
のごとし
○鵐(しとゝ)は雀(すゞめ)の大(おゝい)さほど
ありて薄青(うすあを)く少(すこ)し
ふあり冬月(とうげつ)来る俗(ぞく)に
あをじといふ此(この)鳥(とり)を
黒(くろ)やきにして腫物(しゆもつ)
に付(つけ)て妙薬(めうやく)なり
【左頁下段 挿絵】
鵐(ふ)《割書:しとゝ》
練鵲(れんじやく)

【右頁上段】
○鶉(うづら)はひよどりの大(おゝい)
さほどありて丸(まる)き形(かたち)
なり惣身(さうしん)こまかなる
ふあり赤(あか)ふ黒(くろ)ふの二
品(ひん)あり秋(あき)のすへに至(いた)
りてなく人/此(この)声(こゑ)をは
賞(しやう)じて多(おゝ)く籠(こ)に入(いれ)
てかふ粟(あわ)をこのんで食(くら)
ふあぶり食(しよく)すれば五
臓(ざう)をおぎなひ中(うち)をま
すなり
【右頁下段 挿絵】
鶉(じゆん)《割書: |うづら》
【左頁上段】
○吐綬雞(とじゆけい)は大(おゝい)さ鶏(にはとり)
のごとし頭(かしら)雉(きじ)に似(に)
たり羽(はね)の色(いろ)黒(くろ)黄(き)に
してほしあり項(うなじ)に
嚢(ふくろ)ありて肉綬(にくじゆ)を納(おさむ)
日和(ひより)よく快(こゝろよ)き時(とき)はこの
嚢(ふくろ)をのばしあそぶ
○山鵲(さんじやく)は鵲(かさゝぎ)のごとく
にして色黒(いろくろ)く文采(もんさい)
あり觜(はし)あかく尾長(おなが)く
してとをく飛(とぶ)ことあ
たわず
【左頁下段 挿絵】
吐綬雞(とじゆけい)
山鵲(さんじやく)

【右頁上段】
○鶤雞(たうまる)は雞(にはとり)の大なる
ものなり一/名(めい)傖雞(さうけい)
といふもろこし蜀(しよく)
中(ちう)に多し羽色(はいろ)黒(くろ)
白(しろ)の二/品(ひん)あり其(その)性(せい)
勇(ゆう)にしてよく闘(たゝか)ふ
又しやむ国(こく)より渡(わた)
りし鶏(にはとり)ありよつて
しやむといふ鶤鶏(たうまる)
よりは少(すこ)し小(ちい)【ちいさヵ】く脚(あし)
ふとく高(たか)くして勇(ゆう)也
闘(たゝかひ)をこのむ
【右頁下段 挿絵】
鶤雞(こんけい)
 《割書:たうまる》
【左頁上段】
○雞(にはとり)は朝鮮国(てうせんこく)を
良(よし)とす羽色(はいろ)は品々(しな〴〵)
あり俗(ぞく)にしやうこく
といふ炙(あぶり)食(しよく)すれば
虚(きよ)を補(おぎな)ひ中(うち)をあた
ため血(ち)をよめ婦人(ふじん)
の崩(ぼう)によし
○雛(ひな)は諸鳥(しよてう)の巣(す)
だちなり初(はじめ)て生(うま)
れてみづから啄(ついばむ)を
雛(ひな)といふ母(はゝ)くゝめ食(くらは)
しむるを鷇(こ?く)といふ
【左頁下段 挿絵】
雞(けい)《割書:にはとり》
 《割書:しやう| こく》
雛(すう)《割書: | ひな|ひよこ》

○矮雞(ちやぼ)はもろこし
江南(こうなん)に多(おゝ)しかたち
小(ちいさ)くして脚(あし)わづかに
二寸ばかり
○鷽(うそ)【鸒】は雀(すゞめ)より小く
羽色(はいろ)文采(もんさい)あり腹(はら)の
下(した)白(しろ)くしてうつく
しき鳥なり
○燕(つばくら)は雀(すゞめ)の大(おゝき)さほど
あり泥(どろ)を含(ふくみ)て屋(いへの)宇(のき)
に巣(す)をつくる戊巳(つちのへみ)の
日をさくるといへり
【右頁下段 挿絵】
鸒(よ)
《割書:うそ》
矮雞(わいけい)
 《割書:ちやぼ》
燕(ゑん)
《割書:つば| くら》
【左頁上段】
○鳩(はと)は惣名(さうみやう)にて類(たぐひ)お
ほし図(づ)する処(ところ)は俗(ぞく)に
いふじゆずかけ又/八幡(はちまん)
鳩(ばと)ともいふ頸(くび)のまはり
黒(くろ)くじゆずをかけたるか
ごとし羽色(はいろ)灰白(はいしろ)くふなし
人/此(この)鳩(はと)をとらず
○青鳩(やまばと)は山に住(すみ)て里(さと)
に出(いで)ず羽色(はいろ)緑(みどり)褐色(かちいろ)
なり食(しよく)すれば虚(きよ)を
補(おぎな)ひ血(ち)を活(いか)す
天子(てんし)御衣(ぎよゐ)の色(いろ)是(これ)なり
【左頁下段 挿絵】
鳩(きう)《割書:はと》
青鳩(せいきう)《割書: |やま| ばと》

【右頁上段】
○鳲(かつこ)鳩は色(いろ)褐(かち)にして
三月/穀雨(こくう)の後(のち)はじめ
てなく食(しよく)すれは神(しん)を
安(やすん)ず又つゝ鳥(どり)といふ有
是(これ)も鳩(はと)の類(たぐひ)にて三月
の頃(ころ)なく声(こゑ)を聞(きゝ)て豆(まめ)を
まくといへり
○鴿(いへばと)は堂塔(たうたう)に多(おゝ)く
あつまり住(すむ)はとなり
精(せい)をとゝのへ気(き)を益(ます)悪(あく)
瘡(さう)を治(ぢす)藥毒(やくどく)を解(げ)す
多く食(しよく)すべからず
【右頁下段 挿絵】
鴿(がう)
 《割書:いへば|   と》
鳲鳩(しきう)《割書: |かつこ》
【左頁上段】
○鶫(つくみ)は鵯(ひよどり)の大(おゝき)さ有
羽色(はいろ)茶(ちや)にしてふ有
歳(とし)の暮(くれ)に是(これ)を食(しよく)
す味(あじは)ひよし
○鵙(もず)は鵯(ひよどり)より少(すこ)し小(ちいさ)
く茶色(ちやいろ)にて頭(かしら)鷹(たか)の
如(ごと)く小鳥(ことり)を追(おひ)肉食(にくじき)す
小児(しやうに)言(ものいふ)ことおそきに鵙(もず)
の踏(ふむ)枝(えだ)にてうつなり
○鶸(ひわ)はかたち雀(すゞめ)ほど
あり羽色(はいろ)黒(くろ)く黄(き)なる
羽(はね)まじる春(はる)きたる
【左頁下段 挿絵】
鶫(とう)《割書:つぐみ》
鶸(じやく)《割書: |ひわ》
鵙(げき)《割書:もず》

【右頁上段】
○画眉(ほゝじろ)は■(くは)【畫+鳥】鶥(び)鳥(てう)
なりかたち雀(すゞめ)ほど有
羽色(はいろ)も似(に)たり頬(ほう)白(しろ)く
黒(くろ)き毛(け)あり 
○鶖(かしとり)は鵯(ひよどり)より大(おゝい)に
翅(つばさ)に青(あを)く■【るヵ】りに黒(くろ)き
ほし有/羽(は)あり秋(あき)の末(すへ)
より冬月(とうげつ)に来(きた)り鳴(なく)
○杜鵑(ほとゝぎす)は鵯(ひよとり)より大に
して黄黒(きくろ)く口(くち)赤(あか)し
四五月の頃(ころ)夜陰(やいん)に
なく杜宇子規(とうしき)同
【右頁下段 挿絵】
画眉(ぐはび)《割書:ほゝ|じろ》
鶖《割書:かし| どり》
【左頁上段】
○鵯(ひよとり)は鸜鵒(くよく)なり
又/哵哵鳥(ははてう)ともいふ
身(み)首(かしら)ともに薄(うす)ね
ずみ色(いろ)に黒(くろ)きふあり
諸木(しよぼく)の実(み)を食(くら)ふ
秋冬(あきふゆ)多(おゝ)く来(きた)る
○鶺鴒(せきれい)は觜(はし)ほそく
尾長(をなが)し飛(とぶ)ときは鳴(なく)
居(おる)とき尾をうごかす
羽(はね)白/背(せ)黒(くろ)きをせぐろ
といひ青(あを)く黄(き)なるを
きぜきれいといふ
【左頁下段 挿絵】
杜鵑(とけん) 《割書:ほとゝ|  ぎす》
鶺鴒(せきれい)《割書:いし| たゝき》
鵯(ひ)《割書:ひよ| どり》

【右頁上段】
○翠雀(るり)は一名/翠(すい)
鳥(てう)といふかたち雀(すゞめ)の
大(おゝい)さほどあり頭(かしら)背(せなか)
ともにるり色(いろ)に光(ひか)
りて美(うつ)くしき鳥也
ちやるりといふもの有
○蝋嘴(まめどり)は一名/竊脂(せつし)
といふかたちひよどり
の大(おゝい)さほとにて喙(はし)は
ふとく黄(き)なり又しめ
といふ鳥(とり)かたち蝋嘴(まめどり)
と同/嘴(はし)薄赤(うすあか)し
【右頁下段 挿絵】
翠雀(すいじやく)
 《割書:るり》
蝋嘴(らうし)《割書:まめ| どり》
【左頁上段】
○烏鳳(おなかどり)惣身(さうみ)黒(くろ)く
尾(を)長(なが)し一/名(めい)王母(わうぼ)
鳥(てう)といふ
○雀(すゞめ)は頭(かしら)は蒜(にら)の顆(つぶ)
のごとく目(め)は椒(さんせう)の目の
ごとし其(その)性(せい)尤(もつとも)淫乱(いんらん)
なり食(しよく)すれば陽(よう)を
さかんにし気(き)をまし
腰(こし)ひざをあたゝめ小便(しやうべん)
をしゞめ血崩(けつほう)帯下(たいけ)を
治(ぢ)す頭(かしら)を食(しよく)すべから
ず瘡(かさ)を発(はつ)す
【左頁下段 挿絵】
烏鳳(うほう) 《割書:おなかどり》
雀(じやく)《割書:すゞ|  め》

【右頁上段】
○鸚鵡(あふむ)はよく言鳥(ものいふとり)
なり白青(しろあを)く又五
色(しき)あり青(あを)き羽(はね)赤(あかき)
嘴(はし)あり唐鳥(からとり)なり
○竹鶏(やましぎ)は鷓鴣(しやこ)に似(に)
てちいさく褐色(かちいろ)にし
てまだらに赤(あか)し
尾(を)なし蟻(あり)をくらふ
水辺(すいへん)にすむ
【右頁下段 挿絵】
鸚鵡(あふむ)
竹鶏(ちくけい)《割書: |やま| しぎ》
【左頁上段】
○鸜鵒(はくてう)はかたち烏(からす)
に似(に)て小くよく人(ひとの)
言(ものいひ)をなす尤(もつとも)唐鳥(からとり)
なり
○蝙蝠(かふもり)はかたち鼠(ねずみ)に
似(に)てつばさは紙(かみ)をはる
がごとくものなり
夏(なつ)より秋(あき)の末(すへ)まで
夜(よ)ことに飛(とび)めぐりて
蚊(か)を食(くら)ふ昼(ひる)は洞穴(ほらあな)
にかくれ居(をる)つばさの
さきにかぎ有てかゝり
          ゐる
【左頁下段 挿絵】
蝙蝠(へんふく)《割書: |かふ| もり》
鸜鵒(くよく)
 《割書:哵哵鳥(ははてう)也》

【右頁上段】
○鴉(からす)は觜(はし)大(おゝい)にしてむ
さぼる事を好(このむ)黒焼(くろやき)
にしてやせ病(やまひ)欬嗽(がいそう)
労疾(らうしつ)を治(ぢ)す
○烏(からす)は觜(はし)ほそく鴉(あ)
より小なり生れて
母(はゝ)哺(くゝむる)こと六十日/巣(す)だ
ちして母(はゝ)を哺(くゝむる)こと
六十日よつて慈烏(じう)と云
○鳶(とび)は鷹(たか)に似(に)たり
鴟(てい)同/黒焼(くろやき)にして
頭風(づふう)を治(ぢ)す
【右頁下段 挿絵】
烏(う)
 《割書:からす》
鳶(えん)
 《割書:とび》
鴉(あ)《割書: |からす》
【左頁上段】
怪鴟(よたか)はふくろうの
たぐひにて夜(よる)出(いて)て
昼(ひる)はかくれ居(お)るかた
ちは鷹(たか)に似(に)て小(ちいさ)し
不徉(ふしやう)の鳥(とり)なり
○角鴟(みゝづく)はかたちふく
ろうにてちいさし頭(かしら)
目ねこのごとく毛角(もうかく)
両耳(ちやうに)あり昼(ひる)ふして
夜(よる)いづる声(こゑ)老人(らうじん)の
ものをよぶがごとし
【左頁下段 挿絵】
怪鴟(くはいし)《割書:よたか》
角鴟(かくし)
 《割書:みゝづく》

【右頁上段】
○梟(ふくろう)はかたち鳶(とひ)に
似(に)て小(ちいさ)く頭(かしら)大(おゝい)にして
丸(まる)く眼(まなこ)大(おゝい)なり夜(よる)出(いで)て
昼(ひる)はかくれ居(お)る雌(め)は
声(こゑ)さけぶがごとし母鳥(はゝとり)
を食(くら)ふといふ不孝(ふかう)の
鳥(とり)といへり
○鵲(かさゝぎ)は大(おゝい)さ鴉(からす)のごと
し尾(を)とがりて長(なが)し
觜(はし)黒(くろ)し食(しよく)すれは
淋病(りんびやう)消渇(せうかつ)を治(ぢ)する
婦人(ふじん)は食(しよく)すべからす
【右頁下段 挿絵】
梟(けう)
 《割書:ふくろう》
鵲(しやく)
 《割書:かさゝ|   ぎ》
【左頁上段】
○秧雞(くひな)は雞(にはとり)に似(に)
て小(ちいさ)し頬(ほう)白(しろ)く觜(はし)
長(なか)く尾(を)みじかく背(せなか)
に白まだらあり田(てん)
沢(たく)のほとりにすむ
○鴗(かはせみ)は大(おゝい)さ燕(つばめ)のごとし
喙(はし)かたちより大に尖(とが)りて
長(なが)し足(あし)のうら紅にし
て短(みぢか)し水辺(すいへん)に有
て魚(うを)をとる土(つち)にあな
ほりて巣(す)つくる惣身(さうみ)
黒(くろ)く青(あを)くひかる
【左頁下段 挿絵】
秧雞(あうけい)
 《割書:くひな》
鴗(りう)《割書:かはせみ》

【右頁上段】
○火雞(くはけい)はかたち雞(にはとり)に
類して高(たか)さ七尺くび
長(なが)く日に飛行(とびゆく)こと三
百里/異国(ゐこく)の鳥(とり)なり
駱駝馬(らくだむま)に似(に)たるゆへ一名
駱駝鶴(らくだくはく)ともいふ

○鶚(みさご)は鷹(たか)の類(るい)なり
鷹(たか)に似(に)て羽色(はいろ)黄(き)白
なり海辺(かいへん)水上(すいじやう)を
飛(とび)めぐりてよく魚(うを)
をとり食(くら)ふ
【右頁下段 挿絵】
火雞(くはけい)
《割書:一名|駱駝(らくた)| 鶴(くはく)》
【左頁上段】
○羽(は)斑(まだら)鷸(しぎ)はしぎの
たぐひなり羽(はね)まだら
にふありてうつくし
田沢(てんたく)にすむ鷸(しぎ)と
同くむらがり飛(とふ)
○鴋(はん)は水鳥(みつとり)なり大
小ありかたち雁(がん)鳬(かも)に
類して脚(あし)は長(なが)し
【左頁下段 挿絵】
羽斑鷸(はまだらしぎ)

《割書:ばん》
鶚(かく)
《割書:みさご》

【右頁上段】
○鶁(むくとり)は小(こ)むくといふ大(おゝい)
さひよどりより小(ちいさ)く
頭(かしら)白く背(せなか)黒白(くろしろ)の毛(け)
あり秋(あき)の央(なかは)多(おゝ)くむ
れわたる味(あじは)ひ美(び)也
○椋鳥(むくとり)大(おゝ)むくといふ
小むくより大(おゝい)なり羽(は)
色(いろ)もかはれり夏秋(なつあき)の
頃(ころ)来(きた)るむれにならず
○菊(きく)戴(いたゞき)は至(いたつ)て小(ちいさ)き鳥(とり)
なり惣身(さうみ)薄青(うすあを)し
頂(いたゞき)に黄(き)なる毛(け)あり天
【右頁下段 挿絵】
椋鳥(むくどり)
 《割書:小むく》
菊戴(きくいたゝき)
椋鳥(むくどり)《割書:大むく》
【左頁上段】
気(き)よくあたゝかなれは
頂(いたゞき)の毛(け)をひらけば中(なか)よ
り紅(くれない)の毛(け)いづる冬月(とうけつ)
来(きた)る鳥(とり)なり
○文鳥(ぶんてう)は雀(すゞめ)ほどあり
羽色(はいろ)黒(くろ)く頬(ほう)に丸(まる)く
白(しろ)き毛(け)あり腹(はら)白し
○四十雀(しじうから)は雀(すゞめ)より
小(ちいさ)く頭(かしら)黒(くろ)く頬(ほう)丸(まる)く
白し背(せなか)はうす青(あを)く
腹(はら)白く黒(くろ)き毛(け)あり
秋冬(あきふゆ)きたる
【左頁下段 挿絵】
文鳥(ぶんてう)
四十雀(ししうから)

【右頁上段】
○山雀(やまがら)は雀(すゞめ)の大さほ
どあり頭(かしら)くろく背(せなか)
黒(くろ)くはらかき色(いろ)なり
羽(は)づかひかるくしてよ
くかへるゆへに籠(かご)に入
て飼(かひ)をくなり
○鴰(ひがら)は四十/雀(から)に似(に)て
小(ちいさ)し是(これ)も飼置(かひをく)によし
毛色(けいろ)うるはし 
○小雀(こから)は鴰(ひがら)に似(に)てい
たつて小(ちいさ)しいづれも
秋(あき)のすゑにわたる
【右頁下段 挿絵】

《割書: ひ|  がら》
山雀(さんじやく)
《割書:   やまがら》
小雀(しやうじやく)
《割書:   こがら》
【左頁上段】
○繍眼児(めじろ)は雀(すゞめ)より
小(ちいさ)し羽色(はいろ)もへぎ色(いろ)
腹(はら)うす黄なり目(め)の
まはり白(しろ)し多(おゝ)く集(あつま)
り枝(ゑた)におし合(あひ)とまる
鳥(とり)なり
○ゑながは至(いたり)て小(ちいさ)き
鳥(とり)なり頂(いたゞき)灰白(はいしろ)色/羽(は)
色(いろ)うす黒灰白(くろはいしろ)の毛(け)
交(まじ)りうすあかき毛(け)有
尾(を)長(なが)し秋(あき)より冬(ふゆ)
にいたりてむれ来(きた)る
【左頁下段 挿絵】
尾長(ゑなが)
繍眼(めじ)
 兒(ろ)

【右頁上段】
○駒鳥(こまとり)鵯(ひよどり)より小(ちいさ)く
頭(かしら)背(せなか)ともに赤茶(あかちや)
色(いろ)腹(はら)に黒(くろ)き毛(け)有
山に住(すみ)て里(さと)へいでず
鳴(なく)声(こへ)を人/賞(しやう)じて
飼(かひ)をくなり
○九官(きうくはん)は一/名(めい)秦吉(さる)
了(か)といふ鳩(はと)より小(ちいさ)く
惣身(さうみ)黒(くろ)く翅(つばさ)に白
き羽(は)ありよく人の
言(ことば)をなす尤(もつとも)唐鳥(からとり)
なり
【右頁下段 挿絵】
駒鳥(こまとり)
九官(きうくはん)
《割書:一名》秦吉了(さるか)
喉(の)紅(ご)鳥(どり)
【左頁上段】
○風鳥(ふうてう)はかたち雀(すゞめ)
より大(おゝい)につばさ尾(を)
ともに長(なが)き毛(け)あり
てみのをきたるが如(ごと)
し色(いろ)は緑(みどり)にてひか
りありまれなる鳥(とり)
なり
○/𪈿(ひよくのとり)【蠻+鳥】は比(ひ)■(よくの)【羽+戈】鳥(とり)とも
書(かく)なり雌雄(しゆう)つばさ
をならべて飛(とふ)といふ
此(この)鳥(とり)実(じつ)に見(み)たる人
をきかず
【左頁下段 挿絵】
風鳥(ふうてう)
𪈿(ひよくのとり)

【右頁上段】
○喉紅鳥(のごとり)はかたち
雀(すゞめ)の大さありのど
より胸(むね)にいたりて紅(へに)
にして美(うつ)くしき鳥也
まれにあり
○深山頬白(みやまほじろ)は小鳥(ことり)
にて羽色(はいろ)美(び)なる
鳥(とり)なり
○黄雀(きすゞめ)はすゞめに似(に)
て黄なり又/紅雀(へにすゞめ)と
いふは紅(へに)の毛(け)あり又
入(にう)内(ない)雀(すゞめ)といふも有
【右頁下段 挿絵】
深山(みやま)頬白(ほじろ)
黄(き)雀(すゞめ)
鸞(らん)
【左頁上段】
○鸞(らん)は神鳥(しんてう)なり
かたち鶏(にはとり)に似(に)て尾(を)
長(なが)く声(こゑ)五音(ごゐん)にあた
る鏡(かゞみ)を見れは舞(まふ)
○蒼鷺(あをさぎ)はさぎより
大(おゝい)にして青(あを)く腹(はら)白し
雨夜(あまよ)には羽(はね)青(あを)く光(ひか)
りて人/怪(あやし)みおそる
○葦(よしはら)雀(すゞめ)は雀(すゞめ)より
大(おゝい)にかしましく鳴(なく)葦(よし)
芦(あし)の中(なか)に居(お)る河辺(かへん)
沢(さわ)のほとりに多(おゝ)し
【左頁下段 挿絵】
蒼鷺(さうろ)
 《割書:あをさぎ|みとさぎ》
葦雀(おげら)《割書: | | |よしはら|  すゞめ| よしどり|   きやう〳〵し|     ともいふ》

【右頁上段】 
○鴆(ちん)は鷹(たか)に似(に)たり
紫黒(むらさきくろ)く嘴(はし)赤黒(あかくろ)し
頸(くび)長(なが)さ七八寸/蛇(へび)を
食(くら)ふ大毒鳥(だいどくてう)なり鳳(ほう)
凰(わう)をおそる
○雉鳩(きじばと)は鴿(いへばと)に似(に)て
羽薄(はねうす)黒赤(くろあか)く茶色(ちやいろ)の
ふあり竹林(ちくりん)に住(すむ)としより
こいとなく
○犳(しやく)【杓ヵ】鴫(なぎ)は惣身(さうみ)茶色(ちやいろ)
にて頸長(くびなが)く脚(あし)ながし
海辺(かいへん)に住(す)む
【右頁下段 挿絵】
鴆(ちん)
雉鳩(きじばと)
【左頁上段】
○都鳥(みやこどり)はかしらより
背(せなか)は黒(くろ)く腹白(はらしろ)し
觜(はし)脚(あし)あかし水鳥(みづとり)也
○音呼(いんこ)は大小あり
大(おゝい)なるは鳩(はと)の大(おゝい)さあり
小なるは小鳥(ことり)ほど有
色は紅(べに)有/五色(ごしき)あり
唐鳥(からとり)なり
○羽(は)は翎(れい)䎐(かん)【翰ヵ】並に同
翮(かく)はね羽根(はね)羽茎(はぐき)也
翈(かう)はかざきり翮上(かくじやう)の
短羽(たんう)なり
【左頁下段 挿絵】
犳(しやく)【杓ヵ】鴫(なぎ)
都鳥(みやこどり)
音呼(ゐんこ)

【右頁上段】
○翼(つばさ)は鳥(とり)のつばさ
なり翅(し)同/大鳥(おゝとり)を
翼(よく)といふ小鳥(ことり)を羽(う)
といふ
○尾(を)は鳥(とり)の尾(を)なり
臎(すい)同
○嘴(くちばし)は鳥(とり)のくちば
しなり喙(けい)同又/吻(ふん)は
くちわき觜(し)はくちばし
○卵(らん)雛(すう)は諸鳥(しよてう)の
たまご鶏卵(けいらん)は五臓(ござう)
を安(やすん)し水臓(すいざう)を温(あたゝ)む
【右頁下段 挿絵】
羽(う)《割書:は》
翼(よく)
 《割書:つば|  さ》
嘴(し)《割書: | |くち| ば| し》
尾(び)《割書: |を》
卵(らん)
雛(すう)
《割書:たま|  ご》
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十四
  龍(りよう)魚(ぎよ) 《割書:此部(このぶ)には海水(かいすい)川谷(せんこく)にすむ|もろ〳〵の龍(りよう)蛇(じや)魚(ぎよ)鱗(りん)をしるす》
【左頁上段】
○蛟(みつち)は龍(たつ)の角(つの)なき
ものなり四/足(そく)あり
せなか青(あを)まだらに
わき錦(にしき)のごとく水(すい)
中(ちう)又深山(しんざん)幽谷(ゆうこく)にす
むなり
○龍(たつ)は鱗虫(りんちう)の長(ちやう)也
せなかに八十一の鱗(うろこ)有
九々の数(すう)をそなへたり
よく雲雨(うんう)をおこす
【右頁下段 挿絵】
蛟(こう)《割書:みつち》

○螭(あまれう)は蛟(みつち)に似(に)て角(つの)
なし龍(れう)ににていろ
黄(き)なり
○魚虎(しやちほこ)一名/土奴魚(ととぎよ)
といふ海中(かいちう)にありて
よく潮(しほ)をふくよつて
城門(じやうもん)に此(この)魚(うを)をつくるは
火災(くはさい)をさくるの心
なりといへり
○鯨(くじら)は海中(かいちう)の大魚(たいぎよ)
なり浪(なみ)を鼓(く)して雷(らい)
をなし沫(あわ)をはいて
雨(あめ)をなす雄(を)を鯨(げい)と
いひ雌(め)を鯢(げい)といふ
【右頁下段 挿絵】
龍(りよう)
 《割書:たつ》
【左頁上段】
○鰐(わに)はかたち大にし
て四/足(そく)あり口大に人
をのめば海上(かいしやう)にうく
鱷(かく)同
○鯪(りよう)はかたち鯉(こい)にゝ
て陵(をか)に穴(あな)して居(を)る
よつて鯪鯉(りようり)といふ
四/足(そく)あり首(かしら)鼠(ねづみ)の如(こと)
く鱗(うろこ)かたきこと鉄(てつ)の
ごとし
○鯛(たひ)は棘鬣魚(きよくれうぎよ)と云
水腫(すいしゆ)を消(せう)し小/便(べん)を
利(り)し痔(ぢ)を治(ぢ)し上(じやう)
気(き)虚労(きよらう)を治(ぢ)す但
【左頁下段 挿絵】
螭(ち)
 《割書:あま| れう》

【右頁上段】
産後(さんご)百/余日(よにち)があいだ
かたくいむべし若(もし)あ
やまつて食(しよく)すれは必(かならず)
死(し)す
○鯖(さば)は湿痺(しつひ)によし
韮(にら)と同しく煮(に)て
食(しよく)すれは脚気(かつけ)煩(はん)
悶(もん)を治(ぢ)し気力(きりよく)をま
すなり
○鯵(あぢ)は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し
痢疾(りしつ)を治(ぢ)すわすれ
て尿(いばり)するものはくら
ふべからず
○鰷(せいご)は煮(に)て食(しよく)すれば
【右頁下段 挿絵】
魚虎(ぎよこ)
 《割書:しやち|  ほこ》
鯨(けい)
《割書:くじ|  ら》
【左頁上段】
うれひをやめ胃(ゐ)をあ
たゝめ冷(れい)瀉(しや)【泻】をとむ
鮂魚(しうぎよ)同
○鮸(くち)は中(うち)をおぎなひ
気(き)をます多(おゝ)く食(しよく)
すべからず瘡(かさ)を発(はつ)
し脾湿(ひしつ)をうごかし
足膝(あしひざ)に利(り)あらず
○鰩(とびうを)は婦人(ふじん)難産(なんざん)
にくろやきにして
酒(さけ)にて壱匁ふくす
れば産(さん)しやすし
文鰩(ぶんよう)同
○鯼(いしもち)は五/臓(ざう)をおぎな
【左頁下段 挿絵】
鯪(りよう)
《割書:穿山甲(せんざんかう)》

鰐(がく)
《割書:わに》

【右頁上段】
ひ筋(すじ)骨(ほね)をまし脾(ひ)
胃(ゐ)を和(くは)すおゝく食(しよく)
してよし
○鮏(さけ)は一名/過臘魚(くはらうぎよ)と
いふ鮭(けい)につくるは非(ひ)也
○鰶(このしろ)は胃をあたゝめ
人を益(えき)痢(り)をやむ
多(おゝ)く食(しよく)すれは風(ふう)
熱(ねつ)をうごかしかさを
発(はつ)す
○尨魚(はうぎよ)は今いふくろ
だひなり又はちぬた
いともいふ
○黄檣(わうしよく)【穡ヵ】は今いふはな
【右頁下段 挿絵】
鯖(せい)
《割書: さば》
鯵(さん)《割書: |あぢ》
鰷(でう)
《割書: せいご》
鯛(しう)
《割書: たひ》
【左頁上段】
おれたいなり
○烏頬魚(うけうぎよ)は今いふ
すみやきだいなり
○梭魚(かます)は五/臓(ざう)をおぎ
なひ肌(はだへ)をうるほし
気力(きりよく)をまし積(しやく)を
治(ぢ)し虫(むし)をころす
○鰈(かれい)は王余(わうよ)【餘】魚(ぎよ)とも
比目魚(ひもくぎよ)ともいふ虚(きよ)を
おぎなひ気力(きりよく)をま
す多(おゝ)く食(しよく)すれば
気(き)をうごかす
○海鰻(はも)は五/疳(かん)湿痺(しつひ)
面目(めんもく)うそばれ脚気(かつけ)
【左頁下段 挿絵】
鮸(ばん)《割書:くち》
鮏(せい)《割書: |さけ》
鰩(よう)《割書: | |とび| うを》
鯼(そう)
《割書:  いし| もち|   石首(せきしゆ)|     魚(きよ)|   とも|   いふ》

【右頁上段】
風気(ふうき)によしはらみ女
の水気(すいき)あるによし
○鯧(まながつほ)は人をして肥(こへ)すこ
やかならしめ気食(きしよく)を
ます鱂魚(しやうぎよ)同
○鯔(なよし)は胃(ゐ)をひらき五
臓(ざう)を利(り)し人をして
肥(こへ)すこやかならしむ
○江鮏(あめ)は胃(ゐ)をあたゝめ
中(うち)を補(おぎな)ふ多(おゝ)く食(しよく)す
れば瘡(かさ)を発(はつ)すまた鯇(あ)
魚(め)といふ又/水鮏(すいせい)とも
書(かく)なり
○馬鯪(さはら)【馬鮫ヵ】は一名/章鮌(しやうけん)
【右頁下段 挿絵】
鰶(せい)
《割書: このしろ》
鰛(うん)
《割書: いわ|  し》
尨魚(はうぎよ)
《割書: くろだひ》
黄(わう)
 檣(しよく)【穡ヵ】
《割書:はな| おれ|  だひ》
烏頬(うけう)
《割書:すみやき|  だひ》
【左頁上段】
といふちいさきものを
青前(せいせん)といふさごし
なり章鮌(さはら)擺錫(さはら)同
○鱈(たら)は風をさり酒(さけ)を
さまし煮(に)て食(しよく)すれ
は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し小便(しやうべん)
を利(り)す
○䰵(ゑぶな)はまへの鯔(なよし)の所(ところ)
に見えたり かうきち
ぼら いな いせごゐ
ゑぶな すばしり い
づれも同物(どうぶつ)異名(いみやう)也
○鱸(すゞき)は五/臓(ざう)をおきな
ひ筋(すじ)骨(ほね)を益(ます)腸(ちやう)胃(ゐ)
【左頁下段 挿絵】
海鰻(かいまん)
《割書: はも》
   《割書:狗魚(くぎよ)|白鰻(はくまん)|鮦鮵(とうだつ)|慈鰻(じまん)| 鱺(れい)| 並同》
梭魚(さぎよ)《割書:かます》
鰈(てう)
《割書:かれい》

【右頁上段】
を和(くは)し水気(すいき)を遂(おふ)
おゝく食(しよく)すれば痃(けん)
癖(べき)はれ物(もの)いづる
○鰹(かつほ)は生(なま)は膈(むね)をきよ
くし炙(あぶれ)は脾胃(ひゐ)をとゝ
のふ多(おゝ)く食(しよく)すれは血(ち)
をうごかす
○鰧(おこじ)【䲍】は虚労(きよらう)をおぎな
ひ脾胃(ひゐ)をまし腸風(ちやうふう)
瀉血(しやけつ)を治(ぢ)し気力(きりよく)を
ます人をして肥(こへ)すこ
やかならしむ
○魴鮄(ほうぼ)は鯄(かながしら)に似(に)て
色(いろ)あかし一名/藻魚(もうを)と
【右頁下段 挿絵】
鯧(しやう)
《割書:まな| がつほ|扁魚(へんぎよ)同》
江鮏(こうせい)
《割書: あめ》
鯔(し)
《割書:なよし|ぼら》
馬鯪(ばかう)《割書:さはら》
【左頁上段】
もいふ
○江豬(いるか)は脯(ほぢゝ)となして
食すれば虫(むし)をころし
瘧(おこり)を治(ぢ)す又/海豚(いるか)と
も書(かく)なり
○鱪(しいら)は其性(そのしやう)未(いまだ)_レ考(かんがへ)
秋の末(すへ)に多(おゝ)く出る
○鱣(ふか)は長(たけ)二/丈(じやう)はかり
灰(はい)いろなりせなかに
三/行(かう)あり鼻(はな)ながく
してひげあり玉版(ぎよくはん)
魚(きよ)同
○鮫(さめ)は首(かしら)鼈(かめ)に似(に)て
脚(あし)なく尾(を)の長(なが)さ尺(しやく)
【左頁下段 挿絵】
鱸(ろ)《割書:すゞき》
鱈(せつ)
《割書: たら》
䰵(し)
《割書:ゑ| ぶな》
鰹(けん)
《割書: かつほ》

【右頁上段】
余(よ)あぢはひ美(び)なり
皮(かわ)は刀(かたな)の柄(つか)さやに
つくるなり
○鯄(かながしら)は魴鮄(ほうぼ)に似(に)た
り小児(せうに)のくひぞめに
かならず用ゆ
○鱠残魚(きすご)は一名/王余(わうよ)
魚(きよ)といふ呉王(ごわう)船中(せんちう)
にて鱠(なます)を海にすつる
に魚(うを)となれり今の
王余魚(わうよぎよ)これなり 
○鯽(ふな)は小鯉(こごい)に似(に)て
色(いろ)くろし五/味(み)に合(がつ)
して煮(に)て食(しよく)すれば
【右頁下段 挿絵】
鰧(ちん)【䲍】
《割書: おこじ》
鱪(しよ)《割書: |しいら》
魴鮄(ほうぼ)
江豬(こうちよ)《割書:いるか》
【左頁上段】
○虚羸(きよるい)をつかさどる中(うち)
をあたゝめ気(き)をくだ
し下痢腸痔(げりちやうじ)を
やむ蓴(ぬなわ)に合(かつ)してあ
つものとなしては胃(ゐ)
よはくして食(しよく)くだ
らざるをつかさどり
中をとゝのへ五ざうを
ます
○鮧(なまづ)は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し
小便(しやうべん)を利(り)し下血(げけつ)だ
つこうのいたみに葱(ひともし)
と同しく煮(に)て食(しよく)
してよし
【左頁下段 挿絵】
鱣(はん)【てんヵ】
《割書: ふか》
鱠残魚(くはいざんぎよ)
《割書: きすご》
鯄(きう)
《割書:かな|がし| ら》
鮫(かう)《割書:さめ》

【右頁上段】
○鯉(こい)は頭(かしら)より尾(を)に
いたるまで鱗(うろこ)に大
小なしみな三十六
鱗(りん)あり煮(に)て食(しよく)す
れば欬逆(がいきやく)上気(しやうき)黄(わう)
疸(だん)を治(ぢ)し渇水腫(かつすいしゆ)
を治(ぢ)す
○杜父(とふ)はいしもちと
もうしぬすびととも
又ふぐりくらひとも
いふなり五/臓(ざう)をおぎ
なひ脾胃(ひゐ)を和(くは)す
また杜文(とぶん)はいかりいを也
土(と)■(ほ)【魚+莆】土鮒(とふ)土附(とふ)同
【右頁下段 挿絵】
鯽(せき)《割書:ふな》
鮧(い)《割書:なま| づ》
鯉(り)《割書: | こひ》
【左頁上段】
○鮞(はす)【鰣ヵ】は虚労(きよらう)をおぎ
なふ油(あぶら)をとりてやけ
どにぬりて妙(めう)なり
○鱓(やつめうなぎ)は中(うち)をおぎな
ひ血(ち)をまし虚(きよ)をお
ぎなひさんこのあく
露(ろ)を治(ぢ)す
○鰻(うなぎ)は虫(むし)をころし瘡(かさ)
を治(ぢ)し脚気(かつけ)腰腎(こしじん)
のあいだの湿痺(しつひ)を治(ぢ)
し陽(やう)をたすく
○黄鱨(ぎゞ)はおゝく食(しよく)す
べからず脾胃(ひゐ)をそんじ
洩痢(せつり)す一名/黄顙(わうさう)
【左頁下段 挿絵】
杜父(とほ)
《割書:うし| ぬすびと|ふぐり| くらひ》
鱓(せん)
《割書:やつめ| うなぎ| 小| なる|  を》《割書: |鰌鱓(しうせん)といふ》
鰻(まん) 《割書:鰻鱺(まんれい)| 魚(ぎよ)同》
《割書:うなぎ》

【右頁上段】
魚といふ
○鰌(どぢやう)は中(うち)をあたゝめ
気(き)をまし酒(さけ)をさまし
かわきをやめ痔(ぢ)を治(ぢ)ス
○金魚(きんぎよ)は藻(も)のうち
に生(しやう)ず甘(あまく)平毒(へいどく)なし
久痢(きうり)を治(ぢ)す銀魚(ぎんぎよ)
朱鯉(ひごい)朱鮒(ひぶな)あり
○年魚(あゆ)は煮物(に)て食(しよく)
すれば憂(うれい)をやめ胃(ゐ)
をあたゝめ冷瀉(れいしや)を止(やむ)
○鮅(うぐひ)は眼(まなこ)あかく鱒(そん)と
なづく又一名/赤眼魚(せきがんぎよ)
といふ
【右頁下段 挿絵】
黄鱨(わうしやう)《割書:ぎゞ》
金魚(きんぎよ)
《割書: 朱魚(しゆぎよ)同》
鰌(ゆう)
《割書: どぢやう》
年魚(ねんぎよ)
《割書:  あゆ| 銀口魚(ぎんこうぎよ)》 
【左頁上段】
○鱭魚(たちを)は火(ひ)をたす
け痰(たん)をうごかし疾(やまひ)を
発(はつ)し瘡(かさ)をはつす
多(おゝ)く食(しよく)すれべからず
○鯃(こち)は能毒(のうどく)いまだつ
まびらかならず鯒(こち)
とも書(かく)なり
○河㹠(ふぐ)は虚(きよ)をおぎな
ひ湿(しつ)をさり腰脚(こしあし)
をおさめ痔(ぢ)をさり
虫(むし)をころす此魚(このうを)に
大/毒(どく)あり食(くらふ)べからず
○魥(はまち)は功能(こうのう)いまだつ
まぎらかならず
【左頁下段 挿絵】
鮅(ひつ)
《割書:うぐひ》
河㹠(かとん)《割書: |ふぐ》
《割書:鯸䱌(こうい)同》
鱭魚(せいぎよ)
《割書: たちを》
《割書:鮆魚(せいぎよ)|鮤魚(れつぎよ)|鱴魚(へつぎよ)|魛魚(とうぎよ)|  同》
鯃(ご)《割書: |こち》

【右頁上段】
○小鮦(こんぎり)は鱧(はも)の少(ちいさ)き
ものなり功能(こうのう)はも
に同し
○鱵(さより)は甘(あまく)平毒(へいどく)なし
これを食(しよく)すれば疫(えき)
病(ひやう)をやまず針魚(しんぎよ)同
○鱒(ます)は胃(ゐ)をあたゝめ
中を和(くは)す
○鰕(えび)は鼈瘕(へつか)を治(ぢ)し
痘瘡(とうそう)につけてよし
陽(やう)をさかんにし乳(ち)
を通(つう)ず小児(せうに)食(しよく)す
れは足よわくなる
蝦(か)同
【右頁下段 挿絵】
鱵(しん)
《割書: さより》
魥(ぎう)
《割書:はまち》
小鮦(しやうたう)《割書:ごんぎり》
鱒(そん)《割書:ます》
【左頁上段】
○鰝(うみえび)は鮓(なます)にして食(しよく)
すれは虫(むし)くひばを
治(ぢ)し頭(かしら)のかさを治(ぢ)
す紅鰕(こうか)龍鰕(りやうか)海(かい)
鰕(か)同
○河鰕(かか)はかはえび也
俗(ぞく)にてながゑびと云
○醤蝦(あみ)はゑびのこま
かなるものなり苗蝦(べうか)
線蝦(せんか) 泥蝦(でいか)ともいふ
○麪條(しろうを)は中(うち)をゆるく
し胃(ゐ)をすこやかにし
水(みづ)を利(り)し欬(せき)をやむ
○蝦姑(しやくなげ)はゑびのたぐ
【左頁下段】
河鰕(かか)《割書:てながゑび》
《割書: かは|  えび》
鰕(か)《割書:えび》
鰝(かう)《割書: |うみえび》

【右頁上段】
ひなり海馬(かいば)といふは
この事なり産婦(さんふ)に
手にもたすれば平産(ひらさん)
すといへり
○鰤(ぶり)は肝(かん)を利(り)し血(ち)
をおぎなふ脾胃(ひゐ)実(じつ)
するものはくらふ事なかれ
○鰣(ゑそ)は虚労(きよらう)をおぎな
ふ油(あぶら)をとりてやけど
にぬりて妙(めう)なり
○鰚魚(はらか)は腹赤(はらか)とも
かくなりはらかの魚
を帝(みかど)に献(けん)ぜし事
【右頁下段 挿絵】
醤蝦(しやうか)
《割書: あみ》
麪條(めんでう)《割書: |しろいを》
蝦姑(かこ)《割書:しやくなぎ》
鰤(し)《割書: |ぶり》
【左頁上段】
あり
○矢幹魚(やからいを)ははもに
似(に)て色(いろ)あかし膈症(かくしやう)
のどに食(しよく)つまるを治(ぢす)
○青前(さごし)魚は諸病(しよびやう)に
いまず馬鮫(さはら)のちい
さきものなり
○鯡(にしん)は能毒(のうどく)つまび
らかならず猫(ねこ)の病(やまひ)を
いやす
○鱓(ごまめ)は鼠頭(いわし)魚の
ちいさきものなり能(のう)
毒(どく)いまだつまびらか
ならず
【左頁下段 挿絵】
鰚魚(せんぎよ)
《割書:  はらか》
鰣(じ)
《割書:ゑ| そ》
青前(せいせん)
《割書:  さごし》
矢幹魚(しかんぎよ)
《割書: やがら|  いを》
鯡(ひ)《割書: |にしん》

【右頁上段】
○水母(くらげ)は婦人(ふじん)の虚(きよ)
損(そん)積血(しやくけつ)こしけ小児(せうに)
の丹毒(たんどく)又やけとに付(つけ)
て妙(め)なり
○烏賊(いか)は気(き)をまし
志(こゝろざし)をつよくし人に
益(えき)あり月経(ぐはつけい)を通(つう)ス
○鱝(えい)は男子(なんし)の白濁(ひやくだく)
膏淋(かうわん)玉茎(ぎよくけい)のいたみを
治(ぢ)す小/毒(どく)あり人に
益(えき)あらす海鷂魚(かいようぎよ)同
○土肉(なまこ)は元気(げんき)をおぎ
なひ五/臓(ざう)をまし三焦(さんせう)
の熱(ねつ)をさる鴨(かも)と同じ
【右頁下段 挿絵】
鱓(せん)
《割書:ごまめ》
烏賊(うぞく)
《割書: いか》
水母(すいも)
《割書:くらげ》
《割書:海月(かいげつ)|石鏡(せききやう) 並同》
鱝(ふん)
《割書: えい》
《割書:邵陽(えい)魚 魟魚(えい)|鯆魮(えい)》
【左頁上段】
く食(しよく)すべからず
○海馬(かいば)は血気(けつき)のいたみ
を治(ぢ)し水臓(すいざう)をあたゝ
め陽道(やうどう)をさかんにし
かたまりを消(せう)し疔(てう)
はれいたむによし
○海牛(すゞめいを)は功能(こうのう)いまだ
つまびらかならず
○章挙(ここ)は血(ち)をやしな
ひ気(き)をます冷(れい)なる
ものなれば脾胃(ひい)よは
きものは食(しよく)すべからず
章魚(しやうぎよ)同/石鮔(せききよ)はあし
ながだこ飯蛌(はんくは)いゐだこ
【左頁下段 挿絵】
海牛(かいぎう)《割書: |すゞめいを》
土肉(とにく)
《割書:なまこ》
章挙(しやうきよ)
《割書: たこ》
海馬(かいば)

【右頁上段】
○鮪(しび)はかしらちいさく
してとがりかふとに似(に)
たり口(くち)おとがいの下(した)に
あり大なるは七八尺ばか
りあり
○䱱(さんせういを)は疫病(やくびやう)を治(ぢ)し
瘕(かたまり)を治(ぢ)し虫(むし)をころす
又鯢(げい)とも書(かく)
○魚子(はらゝご)は目(め)のうちかす
むによし鱖(さけ)又は鯇(あかめ)に
あり
○乾鱖(からざけ)は鱖(さけ)のしらぼし
なり能毒(のうどく)鱖(さけ)に同し
目(め)の玉(たま)は煮出(にだ)しによし
【右頁下段 挿絵】
鮪(ゆう)
《割書:しび》
䱱(てい)《割書:さんせう|  いを》
【左頁上段】
かつほにまされり
○鰊鯑(かずのこ)は鯡(にしん)の子(こ)なり
正月又はしうげんに用(もちゆ)
○鯣(するめ)は烏賊(いか)のほし
たるなり能毒(のうどく)いかに
同し産後(さんご)によろし
○鱲子(からすみ)は鯔(ぼら)の子(こ)
のほしたるなり
○鰭(き)は魚(うを)の背(せなか)をいふ
俗(ぞく)にひれといふ又はた
ともいふ鬣同/夏(なつ)は
陽気(やうき)上(かみ)にあるゆへ魚(うを)
の美味(びみ)鰭(ひれ)にあり冬(ふゆ)は
陽気(やうき)下(しも)に有ゆへに魚(うを)の
【左頁下段 挿絵】
鱲子(らうし)
《割書:から| すみ》
鰊(とう)《割書:かずのこ》
鯑(き)

乾鱖(かんけつ)
《割書: から|  ざけ》
魚子(ぎよし)
《割書: はら|  らご》
鯣(しやく)《割書: |するめ》

【右頁上段】
美味(びみ)腹(はら)にあり
○鱗(うろこ)は魚龍(ぎよりやう)のうろこ
なり鱗(うろこ)あるもの龍(りやう)
これが長(ちやう)なり鯉(こい)は大小
ともにせなかに鱗(うろこ)の数(かず)
三十六/鱗(りん)あり
○鰓(さい)は魚(うを)の頬(ほう)の中(なか)の
骨(ほね)なり俗(ぞく)にこれをえ
らといふ又おさとも云
○鰾(へう)は魚(うを)の腹中(ふくちう)に有
ふえといふ魚脬(ぎよはう)なり
膠(にかは)につくりてにべと云
【右頁下段 挿絵】
鰭(き)《割書:はた》
《割書:ひれ》
鱗(りん)《割書:うろ| くず》
《割書:うろこ》
鰓(さい)
《割書: えら| おさ》
鰾(へう)
《割書: ふえ| にべ》
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十五
   蟲介(ちうかい)《割書:此/部(ぶ)には野草(やさう)にすむもろ〳〵の蟲(むし)|川谷(せんこく)にすむ甲(かう)介ある虫(むし)の類(るい)をしるす》
【左頁上段】
○亀(かめ)は四/肢(し)ひき
つりなへたるにゝて
くらふ瀉血(しやけつ)血痢(けつり)
をとめ三十/年来(ねんらい)
の寒嗽(かんさう)を治(ぢ)す
○鼈(どうがめ)は瘀血(をけつ)を下し
陰(いん)を補(おぎな)ひ婦人(ふじん)の
難産(なんざん)腰痛(こしいたむ)を治(ぢ)ス
○鱟(かぶとかに)は痔瘻(ぢろ)を治(ぢ)ス
虫(むし)をころす多(おゝ)く食(くら)
【左頁下段 挿絵】
龜(き)《割書: |かめ》

鼈(べつ)《割書: すつ|  ほん| |どうがめ》

【右頁上段】
へは咳(せき)および瘡(かさ)を
はつす
○䘂(がざめ)は一名を黄甲(わうかう)
といふがざめなり
○蟳(しまがに)は一名を蝤蛑(ゆうほう)
といふ小児(せうに)のつかへ熱(ねつ)
気(き)によし
○螺(さゞい)は瘰癧(るいれき)結核(けつかく)
むねのうち欝気(うつき)
してのひざるを治ス
蠃蠡(られい)同
○田螺(たにし)は小便(せうべん)を利(り)
し目(め)の痛(いたみ)を治(ぢ)す
○蟹(かに)は血(ち)をさんじ
【右頁下段 挿絵】
鱟(こう)
《割書:かぶと| かに》
䘂(しん)
《割書:がざめ》
蟳(じん)《割書: | |しま| がに》
【左頁上段】
筋(すじ)をやしなひ気(き)
をまし食(しよく)を消(せう)す
うるしまけにすり
て付てよし螃(はう)
蟹(かい)【蠏】郭索(かくさく)同/石蟹(いしかに)
蟛螖(はうくはつ)《割書:あしはら|  かに》螯(かにのこう)
○毛亀(みのがめ)は陽道(やうどう)をた
すけ陰血(いんけつ)をおぎなひ
精気(せいき)をまし痿弱(なへよわき)
を治(ぢ)す
○螄(ばい)は目(め)をあきら
かにし水(みづ)を下(くだ)し
渇(かつ)をやめ熱(ねつ)をさり
大小/便(べん)を利(り)し酒毒(しゆどく)
【左頁下段 挿絵】
田螺(でんら)
《割書: たに|  し》
蟹(かい)
《割書: かに》
螺(ら)《割書: |さゞへ》

【右頁上段】
を解(げ)す海螄(かいし) 尖
螺 螺螄(らし)はにる
○蛤(はまぐり)は五/臓(ざう)をうるほ
し酒(さけ)をさまし胃(ゐ)
をひらき婦人(ふじん)の血(けつ)
塊(くはい)によし
○蚶(あかゞひ)は五/臓(ざう)をうる
ほし胃(ゐ)をすこやか
にし中(うち)を温(あたゝ)め食(しよく)
を消(せう)し陽(やう)をおこす
○蜆(しゞみ)は胃(ゐ)をひらき
乳(ち)をつうじ目(め)を
あきらかにし小/便(べん)
を利(り)し脚気(かつけ)酒毒(しゆどく)
【右頁下段 挿絵】
毛龜(もうき)
《割書: みのがめ》
【左頁上段】
を治(ぢ)す
○蚌(からすがひ)は渇(かつ)をやめ熱(ねつ)
をのぞき酒毒(しゆどく)を解(げ)
し目(め)をあきらかにし
帯下(こしけ)によし蜯(はう)𧉻(〳〵)【虫+半】同
馬刀(ばたう)
○貝(たからがひ)は汁(しる)をとりあら
へば目(め)のいたみを止(やめ)菜(さい)
に合(かつ)し煮(に)て食(くらへ)ば心(しん)
痛(つう)を治(ぢ)す海(かい)𧵅(ば)【貝+巴】同
○蟶(まて)は虚(きよ)をおぎな
ひ痢(り)を治(ぢ)し胸中(けうちう)
の熱(ねつ)いきれをさる
○蛎(かき)は虚損(きよそん)を治(ぢ)し
【左頁下段 挿絵】
螄(し)《割書:ばひ》
蚶(かん)
《割書: あか|  がひ》
《割書:魁蛤(くわいかう)|瓦壟子(くはらうし)》
螺(ら)
 螄(し)《割書: |みな》
蛤(がう)《割書: |はま| ぐり》
蜆(けん)
《割書: しゞ|  み| 扁螺(へんら)》

【右頁上段】
中(うち)をとゝのへ生(しやう)にて
くらへは酒後(じゆご)の熱(ねつ)を
さます
○鰒(あわび)は精(せい)をまし身(み)
を軽(かる)くし五/淋(りん)をつう
し目(め)を明(あき)らかにし
風熱(ふうねつ)労極(らうごく)によし
○車渠(ほたてがひ)は神(しん)をやすんし
緒(もろ〳〵)の藥毒(やくどく)を解(げ)す
能毒(のふどく)あかゞひと同
○淡菜(みるくひ)は虚労(きよらう)精(せい)す
くなく腰痛(こしいたみ)疝気(せんき)帯(こし)
下(け)によし久(ひさし)く食(しよく)すれ
は人の髪(かみ)ぬくる
【右頁下段】
蚌(はう)
《割書:からす| がひ》
貝(ばい)
《割書:たから|がひ》
蟶(てい)《割書:まて》
蠣(れい)《割書:かき》
《割書:肉(にく)を|蛎黄(れいわう)| といふ》
鰒(はく)《割書:あわび》《割書:石決明(せきけつめい)|九孔螺(きうこうら)》
【左頁上段】 
○辛螺(にし)は飛尸遊(ひしゆう)
虫(ちう)に生(しやう)にて食(くら)ふ
べし
○梭尾螺(ほらのかい)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ考(かんがへ)
法螺貝(ほらのかい)ともかく
○玉珧(たいらぎ)は巧用(こうよう)蚌(からすかい)
に同じ多(おゝ)く食(しよく)
すれば風(かぜ)をうごか
す𧍧(たい)【虫+咸】䗯(らぎ)ともかく也
○帽貝(ゑぼしかひ)はかたち帽(もう)
子(す)に似(に)たり能毒(のふどく)は
いまだつまびらかな
らず
○海燕(たこのまくら)は雨湿(うしつ)にあ
【左頁下段 挿絵】
車渠(しやぎよ)
《割書: ほたて|   がひ》
淡菜(たんさい)《割書:一名/穀菜(こくさい)》
《割書: みるくひ》
辛螺(しんら)
《割書:  にし》
《割書:   香螺(かうら)|    ながにし》
梭(さ)《割書:ほらの| かひ》
玉珧(ぎよくたう)
《割書:  たいらぎ》
《割書:海月(かいげつ)|馬頬(ばけう)》
《割書:江跳(こうてう)|並同》

【右頁上段】
てられ身(み)いたむに
汁(しる)に煮(に)てくらふべ
し一名/陽遂足(やうすいそく)に
海盤(かいはん)ともいふ
○寄蟲(がうな)は顔色(がんしよく)を
まし心志(しんし)をうるは
しうす
○海膽(うに)は能毒(のふどく)いま
だつまびらかならず
○郎君(すがい)は婦人(ふじん)の
なんざんに手(て)にもた
すれはうまる酢(す)の
中(なか)へ入れはうごくなり
【右頁下段 挿絵】
帽貝(はうかい)
《割書:ゑぼ| し| がひ》

海燕(かいゑん)《割書:たこの|  まくら》

寄蟲(きちう)
《割書: かうな》

郎君(らうくん)《割書:す| がひ》
《割書:  相(さう)|  思(し)|  子(し)|   同》

海膽(かいたん)《割書: かぶと|   がひ》
【左頁上段】
○蛍(ほたる)は腐草(ふさう)又は
爛竹(らんちく)の根化(ねくわ)して
ほたるとなる夏(なつ)の
大/火気(くはき)を得(え)て化(くは)
すよつて光(ひか)り有
○蛬(きり〳〵す)は蟋蜶(しつすつ)【「蜶」は「蟀(しゆつ)」ヵ】とも
蜻蛚(せいれつ)ともいふ夏の
蝗(いなご)に似(に)て大(おゝい)なり《割書:補》夏(なつ)の
末(すへ)にいづる
○螻(けう)【けらヵ】は土中(どちう)の泥(どろ)に
すむ土(つち)をくらふ也
一名/土狗(どく)又/石鼠(せきそ)
ともいふ
○蟷螂(かまきり)はいほむじ
【左頁下段 挿絵】
蛍(けい)《割書:ほたる》《割書:丹鳥(たんてう) 蠗々(よう〳〵)【熠燿ヵ】同 蛆螢(そけい)《割書:みづ| ぼたる》》
螻(ろう)《割書:けら》
蛬(きやう)《割書:きり〳〵す》

り仲夏(ちうか)に生ずいか
るときは臂(ひぢ)をかゝく
○絡線(こうろぎ)はきり〴〵
すともいふ一名/聒(くはつ)
々児(〳〵じ)いとゞといふも
此たくひなり
○螇蚸(けいれき)は一名/蟿(けい)
螽(とう)といふはた〳〵
むし俗(ぞく)にしやう
りやうむし
○竈馬(まるいとゞ)は一名/竈(そう)
雞(けい)といふかたち丸(まる)く
脚(あし)長(なが)し竈(かまど)のほ
とりにすむ
【右頁下段 挿絵】
絡線(らくせん)《割書:こう| ろぎ》

蟷螂(たうらう)【蜋】
《割書: かま|  きり》

螇蚸(けいれき)
《割書:しやうりやう|    むし》

竈馬(そうば)《割書: |まるいとゞ》
【左頁上段】
○蜻蛉(とんぼう)は六/足(そく)四の
つばさ夏(なつ)生(しやう)ずと
んでむしをとり
喰(くら)ふ《割書:補》大(おゝい)なるをやん
まといふ
○赤卒(あかゑんば)はとんぼう
の色(いろ)赤(あか)きものなり
俗にあかやんまと云
黒(くろ)やきにして喉痺(こうひ)
を治(ぢ)す
○䘀螽(いなご)は稲(いね)に生(しやう)
す𧑄(しう)【虫+衆】同
○/𧐍(はた)【虫+舂】𧑓(〳〵)【虫+黍】は一名/螽(しう)
斯(し)いなごに似(に)たり
【左頁下段 挿絵】
蜻蛉(せいれい)《割書:とんぼう》

赤卒(せきそつ)《割書:あかゑんば 絳騶(かうすう)同》

䘀螽(ふしう)《割書:いなご》

𧐍𧑓(しようしよ)《割書:はた〳〵》

【右頁上段】
○蝶(てふ)は蚕(かいこ)【蠺】化(くわ)して
なる又/麦化(むぎくは)して蝶(てふ)
となる鳳蝶(ほうてふ)はあげ
は胡蝶(こてふ)蛺蝶(けうてふ)野(や)
蛾(が)同
○蝿(はへ)は前足(まへあし)にて縄(なわ)
をなふかたちをなす
よつて虫へんに黽(なわ)の
字(じ)をかく爛灰(らんくはい)の内(うち)
より生ず
○金亀(たまむし)は大さ刀豆(なたまめ)
のごとし夏/蔓草(まんさう)
の中(うち)に生ず
○燈蛾(ひとりむし)は燈(ともしび)をはら
【右頁下段 挿絵】
蝶(てふ)《割書:あげは》

燈蛾(とうが)《割書:ひとり| むし》

蝿(よう)《割書:はへ》

金龜(きんき)
《割書: たま|  むし》
【左頁上段】
ふを飛蛾(ひが)とも燭蛾(しよくが)
ともいふひとりむし
○馬蜂(くまばち)は虻(あぶ)の大(おゝい)なる
ものなり色くろし
○叩頭(ぬかつきむし)ははたをり
むしとも《割書:補》いもつき虫
ともいふ
○/𧉟(まつむし)【虫+台】は《割書:補》七月の末(すへ)よ
り生(しやう)す声(こへ)松風(まつがせ)の
音(をと)のごとし広野(くはうや)に
生ず
○金鐘(すゞむし)は一名/金鏡(きんけい)
児(じ)とも月鈴児(げつれいじ)とも
いふなり
【左頁下段 挿絵】
馬蜂(ばほう)
《割書: くま|  ばち》

叩頭(こうとう)
《割書: ぬかつき|  むし》

金鐘(きんしやう)《割書:すゞむし》

𧉟(たい)【虫+台】
《割書:まつ| むし》

【右頁上段】
○鑾虫(くつはむし)はなく声(こへ)く
つはの音(をと)に似(に)たりよつ
て名づく
○斑蝥(はんはう)は人に大毒(だいどく)
なり斑猫(はんめう)とも書(かく)
○紺蠜(かねつけとんばう)は水上(すいじやう)に飛(とん)で
虫(むし)をとる紺蝶(かんてふ)同
○齧髪(かみきりむし)は一名/天牛(てんぎう)
ともいふよく髪(かみ)をく
ひきる目(め)の前(まへ)に二
角(かく)あり
○蓑蟲(みのむし)は一名/木螺(もくら)
結草(けつさう)といふ
○蜂(はち)は腐(くさる)菌(くさひら)化(くは)し
てなる毒(どく)尾(を)にあり
【右頁下段 挿絵】
斑蝥(はんはう)
《割書: はんめう》

鑾蟲(らんちう)
《割書: くつはむし》

齧髪(けつはつ)
《割書:かみきり|    むし》

紺蠜(かんはん)《割書:かねつけ| とんばう》

蓑虫(さちう)《割書:みの| むし》
【左頁上段】
鋒(ほこ)のごとしよつて蜂(ほう)
といふなり
○蠧(のんし)はかいこにゝて木(もく)
中(ちうに)有て木(き)又/葉(は)を
くらふ木(き)をくらふを蝎(けつ)
といふ葉(は)をくらふを
蠋(しよく)といふ
○蟢(あしたかぐも)はあしながきく
もなり蟰蛸(せう〳〵)同
○蝉(せみ)は地虫(ぢむし)化(くは)して
なる口なふして鳴(なき)の
んで食(くら)はず
○蝸(かたつふり)は池沢(ちたく)草樹(さうじゆ)の
間(あいだ)に生(しやう)ずかたち螺(にし)
【左頁下段 挿絵】
蜂(ぼう)《割書: |はち》

蟢(き)《割書:あし| たか| ぐ|  も》  《割書:ぢよらう|   ぐも》

蠧(と)《割書: |のん| し》

蝉(せん)《割書:せみ》

蝸(くわ) 《割書:かた| つふり》 《割書:蝸蠃(くわら)同》  《割書:でん〴〵|  むし》

【右頁上段】
に似(に)て色(いろ)白(しろ)く角(つの)有
○虻(あぶ)は大(おゝい)なるを木(もく)
虻(ばう)といふつばさを
以てなく声(こへ)虻々(ばう〳〵)と
いふよつてなづく
○蛾(か)は蚕(かいこ)【蠺】化(くは)して蛾(が)
となる燈蛾(とうが)の類(たぐひ)也
○蠮螉(えつをう)はさそり又
蜾蠃(くはら)とも細腰蜂(さいようほう)と
も蒲蘆(ほろ)【芦】ともいふ俗(ぞく)
にいふ似我蜂(じがばち)
○気蠜(へふりむし)は一名/行夜(かうや)
つばさ短(みじかく)して遠(とを)く
飛(とば)ず
【右頁下段 挿絵】
虻(ばう)《割書:あぶ》

蛾(か)《割書:ひゝり【ひゝるヵ】》

気蠜(きはん)
《割書: へふり|  むし》

蠮螉(ゑつをう)《割書:さゝ| り》
【左頁上段】
○蚋(ぶと)は田野(でんや)に生(しやう)じ
雨(あめ)の前後(ぜんご)に飛(とん)で人
の肌(はだへ)をさす其あと
愈(いへ)がたし
○蚊(か)は孑々虫(ぼうふりむし)化(くは)して
なる豹脚(へうきやく)はやぶが也
○孑孑(ぼうふりむし)はたまり水
くさりて生(しやう)ず化(くは)し
て蚊(か)となる一名/釘(てい)
倒虫(たうちう)
○蛙(かはづ)は惣名(さうみやう)なりね
ずみ色(いろ)にして背(せ)に小
紋(もん)がた有をかはづと云
なく声(こへ)美(び)なり水(すい)
【左頁下段 挿絵】
蚋(せい)
《割書:ぶと》

蚊(ぶん)《割書:か》

孑孑(けつ〳〵)《割書:ぼう| ふり|  むし》

蝌蚪(くわと)
《割書: かへるこ》

蛙(あ)
《割書: かはづ》 《割書:田雞(でんけい)|水雞(すいけい)|  同》  《割書:青蛙(せいわ)| あま|  かへる》

蛭(しつ)《割書:ひる》
《割書:てつ》

【右頁上段】
中(ちう)に住(すむ)又/色(いろ)青(あを)きを
あまがへるといふ色(いろ)赤(あか)
きを赤(あか)がへるといふ
是(これ)を小児(せうに)に食(しよく)せし
めてよし
○蝌蚪(かへるこ)は蟇(ひきがへる)の子(こ)也
水中(すいちう)に生(しやう)ず蛞斗(かつと)
活東(くわと)並同
○蛭(ひる)は大なるを馬(むま)
蛭(ひる)といふよく人の血(ち)
をすふ
○蠼螋(はさみむし)はかたちむか
でに似(に)て色(いろ)黒(くろ)し
人の影(かげ)にいばりすれ
【右頁下段 挿絵】
蠼螋(くしう)
《割書: はさみ|  むし| 蛷螋(きうしう)| 捜夾(しうけう)《割書:同》》

蟾蜍(せんじよ)
《割書: ひき|  がへる》

蜈蚣(ごこう)
《割書: むかで》

百足(はくそく)
《割書:をさ| むし》
蚰蜒(いうゑん)《割書: |げじ|  〴〵》
《割書:螾(いん)𧍢(えん)【衍+虫】同》

蝦蟇(がま)《割書: |かへる》
【左頁上段】
ば人かさを発(はつ)す
○蜈蚣(むかて)はせなか黒(くろ)く
みどり色(いろ)足(あし)あかく
腹(はら)黄(き)なりさゝれたる
人は烏鶏(くろきにはとり)の尿(くそ)又は
大蒜(おゝびる)をぬるべし
○蟾蜍(ひきがへる)は腹(はら)白(しろ)く黒(くろ)
き紋(もん)ありせなかにが
んぎあり油(あふら)を蟾(せん)
酥(そ)といふ藥(くすり)に用(もち)ゆ
○蝦蟇(がま)はせなかに黒(こく)
点(てん)あり身(み)にして
よくおどる化(くは)して
鶉(うづら)となる
【左頁下段 挿絵】
蠓(もう)
《割書:ぼう| |しやう| 〴〵》

蚘(くわい)《割書: |はらの| むし》

蚯蚓(きういん)《割書:みゝ| ず》

蛆(そ)《割書:うじ》

糞蛆(ふんそ)
《割書: くそ| むし》

蠐螬(せいさう)《割書:きり| うじ》

蟫(いん)《割書:しみ》

蚤(さう)《割書:のみ》

虱(しつ)【蝨】
《割書:しら| み》

蛜(い)
蝛(い)
《割書:おめむし》

蟻(ぎ)《割書:あり》

【右頁上段】
○蚰蜒(けぢ〴〵)はむかでにゝ
て足長(あしなが)し毒(とく)あり
人の耳(みゝ)に入(いり)たるに
龍脳(りうのう)をふき入べし
○百足(おさむし)は長(なが)さ七八分
色(いろ)黒(くろ)し足(あし)百にいたる
一名/馬蚿(ばけん)
○蠓(しやう〴〵)は雨(あめ)によつて
生(しやう)じ陽(ひ)をみて死(しす)
■(うすひく)【「虫+豊」。『頭書増補訓蒙図彙』では「磑」】がごとき時は風(かぜ)吹(ふく)
舂(うすつく)【㫪】がごときときは
雨(あめ)ふる
○蚘(はらのむし)は人の腹中(ふくちう)に有
ながき虫(むし)なり蛔(くはい)同
【右頁下段 挿絵】
蠶(さん)《割書:かひこ》

蛣蜣(きつきやう)
《割書:くそ|む| し》

蜘蛛(ちちう)
《割書: くも》

土蠱(どこ)

木(もく)
虱(しつ)《割書: |たにこ》

水蚤(すいさう)
《割書:とびむし》
【左頁上段】
脾胃(ひゐ)の湿熱(しつねつ)より
生ず
○蛆(うじ)は腐肉(ふにく)のあいだ
に生ず魚類(ぎよるい)畜類(ちくるい)の
肉(にく)のうちに生す鮓(すし)
の中(なか)にもわく蠁(きやう)同
○蠐螬(きりうじ)はかたち蚕(かいこ)の
ごとし樹根(じゆこん)又は糞(ふん)
土(ど)の中に生(しやう)ず身(み)みし
かく色(いろ)白(しろ)し蠀螬(しそう)
同《割書:補》又/小(ちいさ)く黒(くろ)きあり
○蚯蚓(みゝず)は雨(あめ)ふれば出
はるゝときは夜(よる)なく
○蛜蝛(おめむし)は一名/𧑓(しよ)【虫+黍】蝜(ふ)
【左頁下段 挿絵】
水馬(すいは)
《割書:しほう|  り》

蠑螈(ゑいげん)《割書:いもり》

滑蟲(くわつちう)《割書:あぶら| むし》

蜥蜴(せきてき)
《割書:とかけ》

蝘蜓(ゑんてん)《割書:やもり》

【右頁上段】
虫といふ又は鼠婦
ともいふ
○蟫(しみ)は書中(しよちう)の白魚(しみ)
なり一名/蛃(へい)と云/俗(そく)
に蠧魚(とぎよ)といふ
○蚤(のみ)は床下(ゆかのした)土中(どちう)ゟ
生ず
○蝨は人の《割書:補》身(み)にわく
髪(かみ)にもわく又/毛(け)にも
有かたちかはれり
○蟻(あり)は大なるを蚍蜉(ひふ)
といふ小(ちいさき)を蟻(ぎ)といふあ
りに君臣(くんしん)の義(ぎ)あり
故(ゆへ)に義(ぎ)の字(じ)をかく
【右頁下段 挿絵】
殻(かく)
《割書:こく|  から》

甲(かう)
《割書:こ| う》

介(かい)

蛻(たい)《割書:もぬけ》

蝉蛻(せんたい)
《割書: うつせみ》

繭(けん)《割書: |まゆ》
【左頁上段】
○蜘蛛(くも)はぢよらうぐも
を花蜘蛛(くはちちう)といふ足(あし)たか
くもを蟢子(きし)といふむか
しの大昊(たいかう)くもをみて
あみをむすび出せり
○蚕(かいこ)は糸(いと)を吐(はく)虫(むし)なり
三たび俯(ふ)し三たび
起(をき)二十七日にして老(おふ)
黄帝(くはうてい)の元妃(けんひ)西陵(せいりやう)
氏(し)始(はじ)て蚕(かいこ)をやし
なふて糸(いと)を作(つくる)
○蛣蜣(くそむし)はよく糞土(ふんど)
をうつて円(ゑん)をなす
糞虫(ふんちう)同
【左頁下段 挿絵】
蛅蟖(せんし)《割書:いら| むし》

豉蟲(しちう)
《割書: まひ〳〵|  むし》

蚇蠖(しやくくわく)《割書:しやく| とり》

蛞(くわつ)
蝓(ゆ)
《割書:な|め|く|ぢ》

螲蟷(ちつたう)
《割書:  つち|  く|   も》

【右頁上段】
○土蠱(どこ)は《割書:補》蛭(ひる)に似(に)て色(いろ)
黄(き)なり頭(かしら)耳(みゝ)かきの
ごとし俗(ぞく)にみゝかき蛭(びる)
といふ此(この)虫(むし)大毒(たいどく)あり
○木虱(たに)は木竹(きたけ)より生
ず𧈲(しらみ)【「卂+虫」、蝨ヵ】に似(に)てまるく
青(あを)く灰色(はいいろ)なり壁(へき)
𧈲(しつ)【「卂+虫」、蝨ヵ】同/俗(ぞく)にいふたにこ
○水蚤(とびむし)は一名/水蝨(すいしつ)と
いふ湿地(しつち)の土中(どちう)に生(しやう)
すよくとぶ目肬(めいぼ)に
つけてよし
○水馬(しほうり)は一名/水黽(すいよう)と
いふ水上(すいじやう)におよぐ水(みず)
【右頁下段】
壁銭(へきせん)《割書:ひらた| くも》

虎(ようこ)
《割書: はへとり|   ぐも》

螵蛸(へうせう)
《割書: おほぢが|  ふぐり》

雀甕(じやくよう)
《割書: すゞめの|    たご》
【左頁上段】
かるればとふ長さ一寸ば
かり四/足(そく)あり
○蠑螈(いもり)は水中(すいちう)に住(すむ)
せなか黒(くろ)く《割書:補》腹(はら)赤(あか)く
四/足(そく)あり
○蝘蜓(やもり)は一名/守(しゆ)官(きう)【宮ヵ】
といふ此/虫(むし)を殺(ころし)て宮(きう)
女(ぢよ)の臂(ひぢ)にぬるに男(をとこ)
を犯(おかす)ことあればはぐる
おかさゞればはげずよつ
て守宮(しゆきう)といふ壁虎(へきこ)
蝎虎(けつこ)並同
○蜥蜴(とかけ)は《割書:補》土中(どちう)にすむ
毒(どく)あり石龍子(せきりやうし)山龍(さんりやう)
【左頁下段 挿絵】
蟒(まう)《割書:やまかゝち》
《割書:うは| ばみ》

子(し)ならびに同
○滑虫(あふらむし)は一名/蜚蠊(ひれん)
といふかまどの辺(へん)に多(おほ)
し《割書:補》羽(はね)有てとぶ色(いろ)黒(くろ)し
○殻(から)は蚌螺(ほうら)の類(たぐひ)のから
の惣名(さうみやう)也/蛤(はまぐり)のからを玄(けん)
明粉(みやうふん)といふ痰(たん)を治(ぢ)すは
いのふたを甲香(かうかう)といふ又
厴(えん)とも書(かく)たき物に入
鰒(あわび)の貝(かい)のからを石決明(せきけつめい)と云
目(め)の痛(いたみ)を治(ぢ)しはなぢをとむ
又かき貝(がい)のからを牡蠣(ぼれい)と
なづくよく盜汗(ぬあせ)をとむる
○蛻(もぬけ)は蛇蛻(じやたい)はへびのきぬ
【右頁下段】
烏(う)
蛇(じや)
《割書:からす|  へみ》

両頭(りやうとう)

蛇(じや)《割書:くちなは》

銀蛇(ぎんしや)
《割書:しろ| へみ》

蝮(ふく)
《割書: まむ|  し》

岐首(きしゆ)
【左頁上段】
なり蛇皮(じやひ)共/蛇退(しやたい)とも云
黒焼(くろやき)にして酒(さけ)にて用(もち)ゆ
れは難産(なんざん)によし
蝉蛻(せんたい)は蝉退(せんたい)とも枯蝉(こせん)
共いふ粉(こ)にして油(あぶら)にて
とき耳(みゝ)だれに付れは治(ぢ)す
○甲(かう)は亀(かめ)の甲(かう)なりむ
かしは亀(かめ)をやいて甲(かう)の
紋(もん)を見て吉凶(きつけう)をうら
なふ事有/是(これ)を亀(き)
卜(ぼく)といふ又/薬(くすり)に用(もち)ゆ
れは腎(じん)を補(おきな)ひ瘀血(をけつ)
を消(せう)す又/鼈(べつ)【鱉】甲(かう)は瘀(を)
血(けつ)を散(さん)じ腫(はれ)を消(せう)す
【左頁下段 挿絵】
䖹(べい)虫(ちう)
《割書:こめ| む|  し》

吉丁虫(きつていちう)
《割書: かぶと|  む|  し》

蛅蟖(せんし)
《割書: けむし》

蠛蠓(べつもう)
《割書: かつほ|  むし》

螱(い)
《割書: は|  あり》

芋蠋(うしよく)
《割書: いも|  むし》

介(かい)は蟹(かに)の甲(かう)なり○繭(まゆ)はかいこをかひて眉(まゆ)をつくらせ綿(わた)をとる蟓(しやう)はくはまゆ○蛅蟖(いらむし)は一名/黒髯虫(こくせんちう)といふ
木上に生(しやう)ず人をさせばはれいたむ○蚇蠖(しやくとりむし)は樹上(じゆじやう)に生ず行(ゆく)こと指(ゆび)にて尺(しやく)をとるがごとし○豉虫(まひ〳〵むし)は一名/豉母虫(しぼちう)と
いふ水中(すいちう)に生ず色(いろ)黒(くろ)く小し○蛞蝓(なめくじり)は二/角(かく)あり蝸牛(くわきう)に似(に)たり一名/土蝸(どくわ)といふ○螲蟷(つちぐも)は土窟(とくつ)の中(うち)に
すむ一名/蛈蜴(てつたう)といふ古(ふる)きいわやに有○壁銭(ひらたぐも)は壁戸(かべと)などの間(あいだ)に有一名/壁鏡(へききやう)といふ窠(す)を壁繭(へきけん)といふ
○蝿虎(はいとりぐも)は一名/蝿豹(ようへう)といふ蝿蝗(ようくはう)蝿豹(ようへう)並同○雀甕(すゞめのたご)は一名/蛅蟖房(せんしばう)といふいらむしの窠(す)なり螵蛸(おほぢがふぐり)は
木(き)の枝(えだ)にあり一名/蟷螂房(とうらうばう)といふかまきりのすなり○蟒(うはばみ)は蛇(へび)の大(おゝい)なるものなり深山(しんざん)広野(くはうや)にすむ人を
のむなり○蛇(くちなは)は草中(さうちう)にすみて蛙(かいる)を食(しよく)す蛇(じや)は惣名(さうみやう)なり○蝮(まむし)は蛇(へび)に似(に)て長(たけ)みじかく黒黄色(くろきいろ)なり
おとがひ黄(き)にかしら大に口とがり毒(どく)はなはたしくよく人をさす又ははみとも反鼻蛇(はんひじや)ともいふ○烏蛇(からすへび)は
身(み)黒(くろ)くひかりあり頭(かしら)まるく眼(まなこ)あかし又/烏梢蛇(うせうじや)とも黒花蛇(こくくはじや)ともいふ○銀蛇(しろへび)は長さ一尺ばかり一名は
錫蛇(しやくじや)又/金蛇(こがねへび)といふ○両頭蛇(りやうとうじや)は一/頭(とう)は口目(くちめ)なし是(これ)をみれば不吉(ふきつ)なり一名/越王蛇(えつわうじや)といふ○岐首蛇(きしゆじや)は首(かしら)
ふた岐(また)ある蛇(へび)なり枳首蛇(きしゆじや)とも書(かく)ことに毒(どく)あり触(ふる)べからず○螱(はあり)は飛(とぶ)蟻(あり)なり朽木(くちき)より生ず
○吉丁虫(かぶとむし)はせなかみどりにかぶとのごとし此(この)虫(むし)をとりて身(み)におぶれは人を愛(あい)し媚(こば)しむ○芋蠋(いもむし)
芋(いも)の葉に生(しやう)ず○蛅蟖(けむし)は木(き)の葉(は)より生じて枝(ゑだ)を食(くひ)枯(から)す○䖹虫(よねむし)は米(こめ)の中(うち)に生ず俗(ぞく)にいふ
こくうぞう○蠛蠓(べつもう)はかつほむし順(したがふ)の和名抄(わみやうしやう)に見へたり

頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十六
  米穀(べいこく) 《割書:此部(このぶ)には五/穀(こく)の類(るい)すべて|くひ物のたぐひを記(しる)す》
【上段】
○粳(うるしね)は気(き)をまし胃(い)の気(き)を和(くは)し
中(うち)を補(おぎな)ひ腎精(じんせい)をまし腸胃(ちやうゐ)をます
○糯(もちごめ)は中(うち)をあたゝめ気(き)をまし脾(ひ)
胃(い)をあたゝめ小/便(べん)をしゞめ虚(きよ)
寒(かん)洩痢(せつり)をとむ
○粟(あわ)は腎気(じんき)をやしなひ脾(ひ)
胃(ゐ)の熱(ねつ)をさり小/便(べん)を利(り)し
反胃(ほんい)を治(ぢ)す
○稷(きび)は気(き)をまし不足(ふそく)を補(おぎな)ひ
熱(ねつ)をのぞき中(うち)を安(やす)くし胃(い)を利(り)
し血(ち)をすゞしうし暑(しよ)を解(げ)す
○稲(たう)【左ルビ「いね」】は禾(くは)同 かりいね
【下段 挿絵】
早稲(わせ)
晩稲(をくて)

粳(かう)
《割書:うる| しね|糲米(くろごめ)|精米(しらげ)》

糯(だ)《割書:稬(だ)【糯】米(べい)同|もちの| よね》

【右頁上段】
○穧(せい)はいなば苗(べう)はなへ又
苗代(なはしろ)ともいふ
○稗(ひえ)は中をおぎなひ気(き)
をまし腸胃(ちやうゐ)をあつくし
飢(うへ)をすくふ
○麦(むぎ)は虚(きよ)をおぎなひ血(けつ)
脈(みやく)をさかんにし五ぞうを
実(じつ)し顔色(かんしよく)を益(ます)
○蕎(そば)は腸胃(ちやうゐ)を実(じつ)し気(き)
をくだし積滞(しやくたい)を和(くは)し
熱腫(ねつしゆ)風痛(ふうつう)を消(しやう)す
○菉(ぶんどう)は食(しよく)を消(せう)し気き
をくだし熱(ねつ)をさり毒(どく)を解(げ)
し小べんを利(り)し脹満(てうまん)
泄痢(せつり)をつかさどる
【右頁下段 挿絵】
粟(ぞく)《割書: |あわ》
《割書:■米(もちあわ)【「禾+木」、「柇」ヵ「秫」ヵ、秫米(もちあわ)】|梁米(うるあわ)》

稷(しよく)
《割書: きび|丹黍(あかきび)|秬黍(くろきび)》

稗(はい)《割書:ひえ|稊(てい) 䄺(い)同》
【左頁上段】 
○麻(あさ)は女人(によにん)経候(けいこう)通(つう)せず
けんぼう金瘡(きんそう)内痔(ないぢ)を
治(ぢ)し悪血(あくけつ)をさる
○豇(さゝげ)は気(き)をまし腎(じん)をお
ぎなひ胃(ゐ)をすみやかにし
五ざうを和(くは)し小便(しやうべん)しげ
きをとむ
○豌(えんどう)は小/便(べん)を利(り)し腫満(ちやうまん)
をつかさどり消渇(せうかつ)を治(ぢ)し
吐逆(ときやく)を治(ぢ)す胡豆(こづ)𧰆(ひつ)【豆+畢】豆(づ)な
らびに同
○菽(まめ)は水腫(すいしゆ)を治(ぢ)し悪血(あくけつ)を
さんじ脾胃(ひゐ)をすこやかに
し酒病(しゆびやう)を解(げ)し胃中(ゐちう)の
熱(ねつ)をさる
【左頁下段 挿絵】
菉(りよく)《割書:やへなり|ぶんどう》

蕎(きやう)《割書:荍麦(けうばく)同》
《割書: そば》

麥(ばく)《割書:むぎ》
《割書:稞麦(くはばく)|むぎやす》

○荅(あづき)は水(すい)と気(き)を下(くだ)し濃(うみ)【膿ヵ】
血(ち)をはらい小便(しやうべん)を利(り)し脹(ちやう)
満(まん)消渇(せうかつ)を治(ぢ)す
○藊(あぢまめ)は中(うち)を和(くは)し気(き)を
くだし呕(ゑづき)をやめ五ざうを
おぎなひくはくらん酒毒(しゆどく)
を解(げ)す扁豆(へんづ)籬豆(りづ)眉豆(びづ)
ならびに同
○胡麻(ごま)は気力(きりよく)をまし肌(き)
肉(にく)を長(ちやう)じ筋(すぢ)骨(ほね)をかたく
し大小腸(ちやう)を利(り)し耳(みゝ)目(め)
をあきらかにす
○嬰粟(けし)は風毒(ふうどく)をさり邪(じや)
熱(ねつ)をおい痰(たん)を治(ぢ)し反胃(ほんゐ)を
治(ぢ)しかはきをうるほす
【右頁下段 挿絵】
麻(ま)《割書:あさ》

豇(かう)《割書:さゝげ》
《割書:白角豆(しろさゝげ)|紫豇豆(あかさゝげ)》

豌(ゑん)《割書:のらまめ|えんだう》
【左頁上段】
○蚕豆(そらまめ)は胃(ゐ)をこゝろよくし
臓腑(ざうふ)を和(くは)す一に胡豆(こづ)と
なづく
○玉黍(なんばんきび)は気(き)をまし中(うち)を和(くは)
し洩(くだり)をとめくはくらんくだり
腹(はら)をとめ小べんを利(り)す
○蜀黍(たうきび)は中(うち)をあたゝめ腸(ちやう)
胃(ゐ)をしぶらしくはくらんを
治(ぢ)す蘆穄(ろさい)萩穄(しうさい)同
○刀豆(なたまめ)は中(うち)をあたゝめ気(き)を
くだし腸(ちやう)胃(ゐ)を利(り)ししや
くりをとめ腎(じん)をまし元(げん)
をおぎなふ
○黎豆(はつしやうまめ)は中(うち)をとゝのへ胃(ゐ)を
まし小/便(べん)をつうず貍豆(りづ)
【左頁下段 挿絵】
菽(しゆく)《割書: まめ》

荅(たう)《割書:あづき》

藊(へん)
《割書: あぢまめ| いんげん|   まめ》

【右頁上段】
虎豆(こづ)ならびに同
○燕麦(からすむぎ)はあまく平(へい)どく
なし飢(うへ)をすくひ腸(ちやう)をな
めらかにす一名/雀麦(じやくばく)といふ 
○穂(ほ)はいねのほなり芒(はう)【𦬆】は
のぎ秕(ひ)はしひなせ今(いま)按(あん)ず
るにみよさ
○藁(かう)はわらなり禾稈(くははい)禾(くは)
穣(じやう)稲草(たうさう)ならびに同/稈(はい)
心(しん)わらしべ稭(かい)䕸(かつ)秸(かつ)並同
○穀(こく)もみ禾(あわ)麻(あさ)粟(こめ)麦(むぎ)豆(まめ)
これを五/穀(こく)といふ種(しゆ)は
たね稃(ふ)はすりぬか
○萁(き)はまめがらなり𧯯(き)【豆+其】同
魏(ぎ)の曹稙(そうちよく)詩(し)につくれり
【右頁下段 挿絵】
胡麻(ごま)《割書:油麻(ゆま) 脂麻(しま)|芝麻(しま)》

罌粟(あうぞく)《割書:けし》

蠺豆(さんづ)《割書:そら| まめ》
【左頁上段】
○莢(けう)はまめのさやなり
豆角(づかく)なり藿(くはく)はまめのは
なり馬(むま)これをくらふ
○饅頭(まんぢう)はもとは肉餡(にくあん)をも
ちひし事なり小豆餡(あづきあん)
のものを素饅(そまん)といふ餡(あん)
なきものを蒸餅(せうべい)といふ
今(いま)は新製(しんせい)品々(しな〳〵)あり唐(とう)
饅頭(まんぢう)あるひは煎餅(せんべい)饅(まん)
頭(ぢう)などいふものあり
○飯(はん)はいひなり又めし
強飯(こうはん)はこはいひ赤飯(せきはん)はあづ
きめし乾飯(かんはん)はほしいひ水(すい)
飯(はん)は湯(ゆ)づけめし《割書:補》麦飯(ばくはん)は
むぎめし粟飯(ぞくはん)はあわのめし
【左頁下段 挿絵】
燕麥(えんばく)《割書:からす|  むぎ》

玉黍(ぎよくしよ)《割書:なんばん|   きび》

蜀黍(しよくしよ)《割書:とう| き|  び》

刀豆(たうづ)
《割書:なた| まめ 刀鞘豆(たうさうづ) 挟劔豆(けうけんつ) 同》

【右頁上段】
○餅(べい)はもち麺餅(めんべい)なり
糕(こう)は粉餅(ふんべい)なり団子(だんご)なり
飯団(はんだん)はほたもち《割書:補》粟餅(ぞくへい)は
あわもち艾餅(かいへい)はよもぎもち
○糖(たう)はあめなり飴(い)同/湿(しつ)【濕】糖(たう)
はしるあめ錫(せい)はかたあめ也
ともに老人(らうじん)をやしなふ
一種(いつしゆ)地黄煎(ぢわうせん)と名づくる
《割書:補》もの有/当時(たうじ)夏月(かげつ)に専(もつはら)
小児(せうに)に用(もち)ゆ
○糉(そう)はちまきなり粽(そう)同一に
角黍(かくしよ)といふ楚(そ)の屈原(くつげん)よ
りはじまりし事といふ也
古(いにしへ)は葦(あし)の葉(は)にてつゝみ五/色(しき)
《割書:補》の糸(いと)にて巻(まき)しとぞ今(いま)用(もち)
【右頁下段 挿絵】
黎豆(れいづ)
《割書: 八升|  まめ》

萁(き)
《割書: まめがら》

穂(けい)《割書:ほ》

藁(かう)
《割書: わら》

莢(けう)
《割書: まめの|   さや》

穀(こく)
《割書:もみ》
【左頁上段】
ゆる笹(さゝ)の葉(は)は腹中(ふくちう)によ
ろしからずといふ能々(よく〳〵)あく
けを出しよくゆてゝつかふ
べし
○索麺(さくめん)はむぎなわといふ
一名/索餅(さくへい)といふ《割書:補》又饂飩(うんどん)
蕎切(そばきり)冷麦(ひやむぎ)などいふ物をす
べて麺類(めんるい)といへり
○餢飳(ふと)は俗(ぞく)に伏兎(ふし)【寛永六年版のフリガナ「ふと」】とかけ
りあぶらあげの餅(もち)なり油(ゆ)
堆(たい)となづく
○環餅(くわんべい)はまがりなりあぶ
らあげの菓子(くはし)なり糫(くわん)
餅膏(へいかう)とも糫寒具(くわんかんく)とも
いふ巧果(こうくわ)あぶらもち
【左頁下段 挿絵】
饅頭(まんぢう)

飯(はん)《割書:いひ》

餅(べい)
《割書: もち》

糖(たう)
《割書:あめ》

糉(そう)《割書: |ちまき》

【右頁上段】
○酢漿(さくしやう)はすはまなりまた
酨(すはま)とも書(かく)べし俗(ぞく)に洲浜(すはま)
とかくなり
○焼餅(やきもち)は䭆(やきもち)とも書(かく)べし
串(くし)にさしたるをこがくといふ
又/鳥(とり)のかたちにつくりて鶉(うつら)
やきと名(な)づく
○粔籹(きよぢよ)はおこしごめなり糯(もち)
をいりて飴(あめ)にてかためたる
なり俗(ぞく)に興米(をこしごめ)とかけり
《割書:補》丸(まる)きを飴(あめ)おこしといひかと
あるを岩(いわ)おこしといふ
○煎餅(せんへい)は餅(もち)をひらめて
煎(いり)あぶりたるなり又/銭(せん)
餅(へい)とも書(かく)べし
【右頁下段 挿絵】
酢(さく)
漿(しやう)
《割書: すはま》

焼(やき)
餅(もち)

餢(ぶ)
 飳(と)

煎(せん)
餅(べい)

巧(あぶら)
果(もち)

粔籹(きよぢよ)
《割書: おこし|   ごめ》

環餅(くわんへい)《割書:ま| がり》
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十七
   菜蔬(さいそ) 《割書:此/部(ぶ)にはもろ〳〵の野菜(やさい)|苑蔬(ゑんそ)のたぐひをしるす》
【左頁上段】
○蕪菁(あをな)は食(しよく)を消(せう)し気(き)を
くだし嗽(せき)をやむつねにくらへば
中(うち)を通(つう)じ人をこへすこやか
ならしむ
○莱菔(だいこん)は気(き)をくだし食(しよく)を消(せう)
し痰咳(たんがい)を治(ぢ)し中をあたゝ
め大小/便(べん)を利(り)す
○芹(せり)は頭中(づちう)の風熱(ふうねつ)をさり
酒後(しゆご)の熱(ねつ)をさまし大小
腸(ちやう)を利(り)し血(ち)をとめ気(き)を益(ます)
○葱(ひともじ)は汗(あせ)を発(はつ)し風(かぜ)を去(さり)
【左頁下段 挿絵】
蕪(ふ)
菁(せい)《割書: |な》

芹(きん)《割書:せり 水靳(すいきん) 同》

莱(らい)
菔(ふく)
《割書: たい|  こん》
《割書:蘿(ら)蔔(ふく)| 同》

【右頁上段】
小べんをつうじ魚肉(ぎよにく)の毒(どく)
をころし中をあたゝめは
なぢをとむ
○韮(にら)は胃熱(ゐねつ)をのぞき中を
あたゝめ虚(きよ)をおぎなひはら
のいたみによし
○蒜(にんにく)は脾胃(ひゐ)に帰(き)し中を
あたゝめくはくらん腹中(ふくちう)やす
からざるを治(ぢ)す
○薤(らつきよ)は水気(すいき)をさり中をあ
たゝめ不足(ふそく)をおぎなひ久(ひさ)し
きくだり腹(はら)によし気(き)をくだす
○菠薐(はうれんさう)は酒毒(しゆどく)を解(げ)し
胸(むね)をひらき気(き)をくだしか
わきをうるほす
【右頁下段 挿絵】
葱(そう)《割書:ひと| もじ》《割書: ねぎ》
《割書:葱針(かりぎ) 凍葱(わけぎ)》

蒜(さん)《割書:にんにく|ひ| る》《割書:葫蒜(おほひる) 山蒜(のびる)》

韮(きう)
《割書:に|ら|豊本(ほうほん)同》

薤(がい)《割書:おほ| にら》《割書:䪥(かい)同》

菠薐(はれう)《割書:からな》
《割書:ほうれん|   さう》

胡葱(こさう)
《割書: あさ|  つき》
【左頁上段】 
○胡葱(あさつき)は中をあたゝめ気(き)
をくだし食(しよく)を消(せう)し虫(むし)
をころしはれを治(ぢ)す
○芋(いも)は腸胃(ちやうゐ)をゆるうし肌(はだへ)を
みち熱(ねつ)をさり渇(かつ)をやめ胃(ゐ)
をひらき宿血(しゆくけつ)をやぶる
○著蕷(やまのいも)は虚(きよ)をおぎなひ
気力(いりよく)をまし陰(ゐん)をつよくし
腰(こし)のいたみをとめ腎(じん)をます
○午房(ごぼう)は中風(ちうふう)はのいたみ脚(かつ)
気(け)風(ふう)どくせんきによし面目(めんもく)
はれいたむにもよし
○胡蔔(にんじん)は気(き)をくだし中を
おぎなひ腸胃(ちやうゐ)を利(り)し五
臓(ざう)をやすんずこれをくらふ
に益(えき)ありて損(そん)なし
【左頁下段 挿絵】
芋(う)《割書:芋魁(いもがしら)》
《割書:いも|蹲鴟(いもがしら)》

牛蒡(ごぼう)

薯蕷(しよよ)
《割書: やまの|  いも》

胡蔔(こふく)
《割書:にんじん》

【右頁上段】
○苣(ちさ)は胸( む)膈(ね )をひらき筋(すぢ)
骨(ほね)をかたくし目(め)をあきら
かにし乳汁(にうじう)をつうじむしを
ころす
○芥(からし)は腎経(じんけい)の邪気(じやき)をのぞ
き上気(じやうき)せきを治(ぢ)し胃(ゐ)を
ひらき膈(むね)を利(り)し九/竅(けう)を
利(り)す
○薺(なづな)は肝(かん)を利(り)し中をや
はらげ胃(ゐ)をまし五ざうを
利(り)す
○莙薘(たうぢさ)はすぢほねをおぎ
なひ胸(むね)のふさがりをひら
き熱(ねつ)を解(げ)す 
○天蓼(またゝび)は中風(ちうぶう)口ゆがみけんべ
きかたまり女子(によし)の虚労(きよらう)を治(ぢ)す
【右頁下段 挿絵】
苣(きよ)《割書:ちさ》
《割書:苦苣(せんば)|萵苣(きじのを)》

薺(せい)
《割書: なづな》

芥(かい)《割書:からし》

莙薘(くんたつ)
《割書:  たうちさ》
【左頁上段】
○蕗は葉(は)あふひにゝてひろ
じ茎(くき)は煮(に)てくらふべし
欵冬(ふき)と和訓(わくん)同(おなじ)きがゆへに
あやまる事/多(おほ)し
○蘘荷(めうが)は蠱(こ)にあたり沙虫(しやちう)
蛇毒(じやどく)を解(げ)す多(おほ)くくらへば
脚(あし)に利(り)あらず
○莧(ひゆ)は気(き)をおぎなひ熱(ねつ)を
のぞき九/竅(けう)をつうじ大小/腸(ちやう)
を利(り)し癜(なまず)治(ぢ)す
○独活(うど)は痛風(つうふう)を治(ぢ)し中風(ちうぶう)
湿冷(しつれい)逆気(ぎやくき)皮膚(ひふ)かゆく手(て)
足(あし)ひきつるを治(ぢ)す
○瓢(なりひさご)は脹(はれ)を消(せう)し虫(むし)をころ
し痔(ぢ)下血(げけつ)を治(ぢ)し血崩(けつばう)
赤白(しゃくびやく)の帯下(こしけ)を治(ぢ)す
【左頁下段 挿絵】
天蓼(てんれう)
《割書: またゝび》

蕗(ろ)《割書:ふき ふきのとう》

蘘(めう)
荷(が) 《割書:めうがのこ》

莧(けん)《割書:ひゆ》
《割書:野莧(やけん)《割書:くさひゆ》》

独活(どくくはつ)《割書:うど》

【右頁上段】
○瓠(いふがほ)は口中のたゞれいたむ
を治(ぢ)し水道(すいだう)を利(り)し心(しん)
熱(ねつ)をさり心肺(しんはい)をうるほす
○瓜(うり)はすべて小/便(べん)をつうじ
渇(かつ)をとめ熱(ねつ)をのぞき大
腸(ちやう)をゆるくす羊角瓜(あさうり)
○冬瓜(かもうり)は小/便(べん)を利(り)し渇(かつ)
をやめ気(き)をましむねのつかへ
をのぞき熱(ねつ)をさる
○蕈(たけ)は気(き)をまし風(かぜ)を治(ぢ)
し血(ち)をやぶる地(ち)に生(しやう)ずる
を菌(きん)といふ木(き)に生(しやう)ずるを
蕈(たん)といふ
○胡瓜(きうり)は熱(ねつ)をすゞしうし
渇(かつ)を解(げ)し水道(すいだう)を利(り)す
小児(せうに)にはいむ
【右頁下段 挿絵】
瓠(こ)
《割書:ゆふ|  がほ》

瓜(くは)《割書: |うり》

瓢(へう)《割書:なり|ひさご》《割書:蒲盧(ひやくなり)》

冬瓜(とうくは)
《割書:かも| うり》
【左頁上段】
○醤瓜(あをうり)は水道(すいたう)を利(り)し中
をおぎひはれを消(せう)す
○糸瓜(へちま)は皮(かわ)をほしてたゝみ
をふき踵(くびす)のあかをとるに
よし熱(ねつ)をのぞき腸(ちやう)を利(り)す
○山葵(わさび)はひへばらのいたみ
を治(ぢ)し食(しよく)をすゝめむね
を利(り)し痰(たん)をひらく
○茄(なすび)は血(ち)をさんじいたみを
とめ腫(はれ)を消(せう)し腸(ちやう)をゆる
くし痰(たん)をおふ銀茄(ぎんか)しろ
なすびなり
○鶏腸(よめがはぎ)は毒腫(どくしゆ)を治(ぢ)し忘(わす)
れていばりするによし
人(ひと)に益(ゑき)あり
○薊(あざみ)は宿血(しゆくけつ)をやぶり胃(ゐ)を
【左頁下段 挿絵】
蕈(たん) 《割書:松蕈(まつたけ)》
《割書:たけ| |香(かう)|蕈(たけ)》

醤瓜(しやうくは) 《割書:あを| うり》

胡瓜(こくは)
《割書:きうり》

山葵(さんぎ) 《割書:わ|さび》
《割書:山姜(さんきやう)同》

絲瓜(しくは)《割書: |へちま》

【右頁上段】
ひらき食(しよく)をくだし吐血(とけつ)
衂血(ぢくけつ)をとめ熱(ねつ)をしりぞく
○藜(あかざ)は虫(むし)をころしむし
くひばを治(ぢ)す脾(ひ)胃(ゐ)虚(きよ)
寒(かん)の人には用(もちゆ)べからず
○馬莧(すべりひゆ)はりんびやうを治(ぢ)
し血(ち)をさんじはれを消(せう)
し腸(ちやう)を利(り)すはらみ女は
くらふべからず
○薑(はじかみ)は胃(ゐ)をひらき血(ち)をや
ぶり風邪(ふうじや)をさる菌(くさびら)の毒(どく)
を解(げ)し神明(しんめい)に通(つう)ず
○蔏陸(やまごぼう)は五さうをすか
し水気(すいき)をさんず色(いろ)
ありきものは人を害す
食(しよく)すべからず
【右頁下段 挿絵】
藜(れい)《割書:あかざ》

茄(か)《割書: |なすび》《割書:水茄(ながなすび)》

馬莧(ばけん)《割書:すべり| ひゆ》

雞膓(けいちやう)《割書:よめが|  はぎ|齊蒿(せいかう)同》

薊(けき)
《割書: あざみ》
【左頁上段】蔞蒿
○蒟蒻(こんにやく)は消渇(せうかつ)をとめ血(ち)を
くだしはれを消(せう)し癰(よう)
を治(ぢ)し労(らう)を治(ぢ)す疱瘡(はうさう)
せざる小児(せうに)にはいむべし
○蘩蔞(はこべ)は年(とし)ひさしき悪(あく)
瘡(さう)痔(ぢ)愈(いゑ)ざるに血(ち)をやぶり
乳汁(にうしう)をつうずさんの女くら
ふべからず
○蒲英(たんほゝ)は乳癰(にうよう)水腫(すいしゆ)に汁(しる)
にしてくふべし食毒(しよくどく)を消(せう)
し滞気(たいき)をさんず
○蕨(わらび)は熱(ねつ)をさり水道(すいだう)を
利(り)し五ざうの不足(ふそく)をおぎ
なふなり
○狗脊(くせき)はぜんまいなり俗(ぞく)に
いぬわらびといふ疝気(せんき)を
【左頁下段 挿絵】
薑(きやう)《割書:はじ|  かみ》
《割書:姜(きやう)|同》

《割書:はこべ》《割書:蔞蒿(ろうかう)同》
蘩(はん)
蒌(ろ)

蔏(しやう)
陸(りく)
《割書:やま| ごぼう》

蒟蒻(こんにやく)

蒲英(ほゑい)
《割書:  たんぼゝ》

【右頁上段】
治(ぢ)し帯下(こしけ)をによし
○蓴(ぬなわ)は腸(ちやう)胃(ゐ)をあつくし気(き)を
くだし呕(ゑづき)をやめ下焦(げしやう)を安(やすん)ず
○瓣(べん)はうりのへたなり薬(くすり)
に用(もちひ)て膈噎(かくいつ)呕逆(さくり)を治(ぢ)す
○瓤(じやう)はうりのなかごなり𤬓(ゐん)【「兼+瓜」㼓。れんヵ】
犀(せい)同/橘柚(きつゆ)の肉(にく)をも瓤(じやう)と云
○芝(し)は渇(かつ)をやめ人の顔色(かんしよく)
をまし神(しん)につうし智(ち)をまし
気(き)をすこやかにしるいれきに
○鹿角(ひぢき)は風気(ふううき)をくだし小(せう)
児(に)の骨蒸(こつしやう)労熱(らうねつ)を治(ぢ)し
麺(めん)の熱(ねつ)を解(げ)す
○石花(ところてん)は上焦(しやうせう)の浮熱(ふねつ)を去(さり)
下部(げぶ)の虚寒(きよかん)をはつす
○昆布(こんぶ)は水道(すいだう)を治(ぢ)し面(おもて)
【右頁下段 挿絵】
鹿角(ろくかく)
《割書: ひじき|  鹿尾菜(ろくびさい)|  海鹿草(かいろくさう)並同》

芝(し)《割書:れい| し》

蕨(けつ)《割書:わら|  び》

瓣(へん)《割書:うりの| へた》

瓤(じやう)《割書:うりの|なかご》

狗(く)
脊(せき)
《割書:ぜん|まい》
【左頁上段】
はれ悪瘡(あくさう)を治(ぢ)しこぶ結(けつ)
核(かく)陰(いん)はれいたむによし
○海帯(あらめ)は風(かぜ)をさり水(みづ)をくだ
し女のやまひを治(ぢ)しさん
のはやめによし
○紫菜(あまのり)は煩熱(はんねつ)をさりこぶ
脚気(かつけ)をうれふる人はこれを
くらふべし多(おほ)くくらへばはら
いたむなり
○水松(みる)は水腫(すいしゆ)のやまひを治(ぢ)
しさんのはやめに用(もちひ)てよし
○燕窩(えんす)は虚(きよ)をおぎなひ
労痢(ろうり)をやむ
○石耳(いわたけ)は目(め)をあきらかに
し精(せい)をまし人をして
うゑず大小べんすくな
【左頁下段 挿絵】
石花(せきくは)
《割書:こゝろ|  ぶと|ところ| てん》

蓴(じゆん)《割書: ぬな| わ》《割書: 蒓同| 》
《割書:じゆんさい》

水松(すいせう)
《割書:み| る》

昆布(こんぶ)《割書:ひろめ》

海帯(かいたい)
《割書: あらめ》

【右頁上段】
からしむ
○苔菜(あをのり)は乾苔(かんたい)
ともいふむしをこ
ろし痔(じ)くはくらんゑ
づきを治(ぢ)す
○木耳(きくらげ)は気(き)をま
し身(み)をかるくし
こゝろざしをつよく
し痔(じ)を治(ぢ)す
○萆薢(ひかい)はところ
なり黄薢(わうかい)とも
いふ又/野老(やらう)といふ
味(あぢ)にがしよく疝(せん)
気(き)のむしをころ
すなり
【右頁下段 挿絵】
燕(えん)
窩(す)

萆薢(ひかい)《割書:とこ| ろ》

苔(たい)
 菜(さい)
《割書:   あを|   の|   り》

紫(し)
菜(さい)
《割書:あま|のり》

木耳(もくに)
《割書:きく|ら| げ》

石耳(せきじ)《割書:いわ|た|け》
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十八
   果蓏(くわくは) 《割書:此/部(ぶ)にはくだものゝ|たぐひをしるす》
【左頁上段】
○杏(あんず)はほしさらしてくらへ
は渇(かつ)をとめ冷熱(れいねつ)の毒(どく)をさる
仁(にん)はせきをとむ
○梅(むめ)は生(なま)は多(おゝく)くらへば歯(は)を損(そん)
ず仁(にん)は目(め)をあきらかにし白
梅(ばい)は痰(たん)をのぞく
○桃(もゝ)は生(なま)は顔色(がんしよく)をまし仁(にん)は瘀(を)
血(けつ)をさんじ大/便(べん)をつうず
○李(すもゝ)は労熱(らうねつ)をさり肝病(かんびやう)に
食(しよく)すべし麦(むぎ)じゆくして
実(み)なるを麦李(ばくり)といふ
【左頁下段 挿絵】
杏(きやう)《割書:から| もも|あん| ず》

梅(はい)《割書:む| め》

桃(たう)
《割書: もも》

杏(り)《割書:す| もゝ》

【右頁上段】
○梨(なし)は熱(ねつ)嗽(さう)をやめ渇(かつ)をと
め痰(たん)を消(せう)し火(ひ)をくだし
肺(はい)をうるほす
○柰(からなし)は中焦(ちうせう)もろ〳〵の不(ふ)
足(そく)の気(き)を補(おぎな)ひ脾(ひ)を和(くは)し
気(き)ふさがるを治(ぢ)す
○棗(なつめ)は脾(ひ)胃(ゐ)をやしなひ津(しん)
液(ゑき)を生(しやう)し心腹(しんふく)の邪気(しやき)を
さり心肺(しんはい)をうるほす
○栗(くり)は気(き)をまし腸(ちやう)胃(ゐ)を
あつくし腎(しん)を補(おぎな)ひ腰(こし)脚(あし)かな
はざるを治(ぢ)す茅栗(しばぐり) 杭子(さゝぐり)
○柚(ゆう)は食(しよく)を消(せう)し酒毒(しゆどく)を解(げ)
し腸(ちやう)胃(ゐ)の悪気(あくき)をさり婦(ふ)
人(じん)孕(はらみ)て食(しよく)をおもはず口(くち)淡(あはき)を
治(ぢ)す
【右頁下段 挿絵】
梨(り)
《割書:な|し》

柰(たい)《割書:からなし》

棗(さう)
《割書:なつ| め》

栗(りつ)
《割書:く| り》

柚(いう)
《割書: ゆ》

柑(かん)
《割書:くねん| ほ》
【左頁上段】
○柑(くねんほ)は腸(ちやう)胃(ゐ)のうちの熱/毒(どく)を
利(り)し俄(にわか)に渇(かつ)をやめ小便を利(りす)
○枳(からたち)は大/便(べん)をつうしむねのつかへ
をさり痰(たん)を消(せう)す脾(ひ)胃(ゐ)よ
はきものは用ゆべからず
○橘(たちばな)は消渇(せうかつ)をやめ胃(ゐ)をひらき
膈中(むねのうち)のふさがりをのぞく
○榧(かや)は寸白虫(すんばくちう)を治(ぢ)し食(しよく)を消(せう)
し目(め)を明(あき)らかにし欬嗽(がいさう)白濁(びやくだく)
をやめ痔(じ)を治(ぢ)す
○柿は水(みづ)を利(り)し酒毒(しゆどく)を解(げ)し
胃中(ゐちう)の熱(ねつ)をさる
○椎(しい)は腸(ちやう)胃(ゐ)をあつくし人をし
て肥(こへ)すこやかならしむこれを
くらへばうへず
○榛(はしばみ)は気力(きりよく)をまし腸(ちやう)胃(ゐ)を実(じつ)
【左頁下段 挿絵】
橘(きつ)《割書: たちばな|  みかん》

《割書:か|ら|た|ち》
枳(き)《割書:きこく》
《割書:し》

椎(すい)
《割書: しい》

榧(ひ)《割書:かや》

柿(し)《割書:かき》

榛(しん)《割書:はし|ばみ》

【右頁上段】
し人をしてすこやかにし胃(い)を
ひらく
○楉榴(ざくろ)は喉(のど)のかわくを治(ぢ)し三尸(し)
虫(ちう)を制(せい)す味(あぢは)ひ酸(すく)甘(あまき)の二/品(ひん)有(あり)
○来禽(りんご)は気(き)をくだし痰(たん)を消(せう)
し霍乱(くはくらん)腹(はら)の痛(いたみ)消渇(せうかつ)を治(ぢ)す
○葡萄(ぶだう)は淋病(りんびやう)しひれを治(ぢ)し
腸間(ちやうかん)の水をのぞき久(ひさ)しく
くらへは身(み)をかろくす
○金柑(きんかん)は気(き)を下(くだ)し胸(むね)をこゝろよ
くし渇(かつ)をやめ二日酔(ふつかえい)を治(ぢ)す
○銀杏(ぎんあん)は生(なま)にては酒(さけ)を解(げ)し
痰(たん)をくたし虫(むし)をころす熟(じゆく)し
くらへは小/便(べん)をしゞむ
○枇杷(びは)は吐逆(ときやく)をとめ上/焦(せう)の熱(ねつ)
をつかさどり気(き)を下(くだ)し肺気(はいき)を利(り)ス
【右頁下段 挿絵】
来禽(らいきん)《割書:りんご》

楉(じやく)
榴(りう)《割書:ざく| ろ》

金柑(きんかん)《割書:ひめたち| ばな》《割書:盧橘(ろきつ)同》

葡(ほ)
萄(どう)
《割書:ぶ| どう》 《割書:えび》

《割書:鴨脚(いてう)樹》
銀杏(ぎんきやう)
《割書:ぎんあん》
【左頁上段】
○枳椇(けんほのなし)は五/臓(ざう)をうるほし大小
便(べん)を利(り)し酒毒(しゆどく)を解(げ)す
○楊梅(やまもゝ)は気(き)をくだし腸(ちやう)胃(い)をそゝ
ぎ渇(かつ)をやめ痰(たん)をさりゑづき
をとめ食(しよく)を消(せう)す
○茘支(れいし)は渇(かつ)をやめ顔色(がんしよく)をまし
煩(いきれ)を除(のぞ)き頭(かしら)おもきを治(ぢ)す
○苺(いちご)は気(き)をまし身(み)を軽(かろ)くし虚(きよ)を
補(おぎな)ひ男は陰(いん)なへ女(をんな)は子(こ)なきによし
○仏手柑(ぶしゆかん)は気(き)をくだし痰(たん)
水(すい)をのぞき酒(さけ)に煮(に)てのめば
痰(たん)咳(がい)嗽(さう)を治(ぢ)す
○胡桃(くるみ)は肌(はだへ)をうるほし髪(かみ)を黒(くろく)
し多食(おゝくくら)へば小/便(べん)を利(り)す
○榲桲(まるめろ)は中をあたゝめ気(き)を下(くだ)
し食(しよく)を消(せう)し胸(むね)の間(あいだ)の酸水(さんすい)
【左頁下段 挿絵】
枳椇(しく)《割書:けんほの|   なし》

苺(ぼ)《割書:いちご》
《割書:樹(き)|苺(いちご) 覆盆子(つるいちご)| 蛇苺(へびいちご)》

枇杷(びは)
《割書:一名/炎(えん)|   果(くは)》

楊(やう)
梅(ばい)
《割書:やま| もゝ》

茘(れい)
支(し)
《割書:離支(りし)同》

香椽(かうゑん)
《割書:ぶしゆ| かん》
《割書:仏手柑(ぶしゆかん)同》

【右頁上段】
をのぞき水瀉(すいしや)を治(ぢ)し酒
気(き)を散(さん)ず
○木瓜(ぼけ)は脚気(かつけ)筋(すぢ)ひきつり
くはくらんを治(ぢ)す
○菱(ひし)は中を安(やすん)じ五/臓(ざう)を補(おぎな)ひ
酒毒(しゆどく)を解(げ)し渇(かつ)をやめ丹石(たんせき)の
どくを解(げ)す
○茶(ちや)は小/便(べん)を利(り)し痰(たん)熱(ねつ)を
さり渇(かつ)をやめねむりすくな
く食(しよく)を消(せう)し目(め)を明(あき)らかにす
○椒(さんせう)は風邪(ふうじや)の気(き)を除(のぞ)き中
をあたゝめ女人の経水(けいすい)を通(つう)ず
○胡頽(ぐみ)は水痢(すいり)を治(ぢ)す寒(かん)
熱(ねつ)の病(やまひ)には用(もちゆ)ゆべからず
○葧臍(くわい)は風毒(ふうどく)を消(せう)し耳(みゝ)目(め)を
明(あきらか)にし胃(ゐ)をひらき腸(ちやう)胃(ゐ)をあ
【右頁下段 挿絵】
《割書:核桃(かくたう)| 核果(かくくは)同》
胡桃(こたう)《割書:くる| み》

菱(れう)
《割書:ひ|し》

榲(うん)
桲(ぼつ)《割書:ま| る|める》

茶(た)《割書:ちや》
《割書:さ》

椒(せう)
《割書:さん| せう》

木瓜(もくくは)
《割書: ぼけ》
【左頁上段】
つくし血/痢(り)をつかさどる
○慈姑(しろくわい)は産後(さんご)にむねをせめ
死(し)せんとし難産(なんざん)ゑな下(くだら)さるを治(ぢす)
○梬棗(さるがき)は心(しん)をしづめ熱(ねつ)をとめ
消渇(せうかつ)をとめ久(ひさ)しく服(ふく)すれば
顔色(がんしよく)をよろこばしむ
○松子(まつのみ)は諸風(しよふう)骨(ほね)ふし痛(いたみ)頭(かしら)
ふらめきがいさうによし
○龍眼(りうがん)は胃(ゐ)をひらき脾(ひ)をまし
虚(きよ)を補(おぎな)ひ智(ち)をます久(ひさ)しく
服(ふく)すれは志(こゝろさし)をつよくし身(み)をかる
くして老ず
○甘蔗(かんしや)はさたうの木(き)なり
よく脾(ひ)胃(ゐ)をおぎなふ
○胡椒(こせう)は中をあたゝめ痰(たん)を去(さり)
腹痛(はらのいたみ)をやめ胃口(ゐこう)虚冷(きよれい)を治(ぢ)す
【左頁下段 挿絵】
胡頽(こたい)
《割書: ぐみ》

梬棗(ゑいさう)《割書:さる| がき》

葧臍(ほつせい)《割書:く| わい》

慈(じ)
姑(こ)  《割書:茨菰(じこ)同》
《割書:しろ| ぐわい|    おもだか》

松子(せうし)
《割書: からまつの|     み》

【右頁上段】
○鴉瓜(からすうり)は火(ひ)をくだし咳(せき)を治(ぢ)し
痰(たん)をそゝぎのどを利(り)す
土瓜(とくは)赤雹子(せきはくし)同
○燕覆(あけひ)は膀胱(ばうくはう)を治(ぢ)し癰(よう)を
消(せう)し腫(はれ)をさんじ能(よく)乳汁(にうじう)を通(つう)ス
○甜瓜(からうり)は熱(ねつ)をのぞき小/便(べん)
を利(り)し煩渇(はんかつ)をとむ暑(しよ)
月(げつ)にくらへば暑(しよ)にあてられず
○苦瓜(つるれいし)は邪熱(じやねつ)をのぞき労(らう)
乏(ぼく?)をおぎなひ心(しん)をきよく
し目(め)をあきらかにす
錦茘枝(きんれいし) 癩葡萄(らいぶだう)
○烏柿(うし)はあまほしなり
火柿(くはし)同 醂柿(りんし)はさはしがき
烘柿(こうし)つゝみがき白柿(はくし)はつり
がきなり
【右頁下段 挿絵】
胡椒(こせう)《割書:まるはじ|   かみ》
  《割書:一名|木奴(もくぬ)》

龍(りう)
眼(がん)
《割書:円眼(えんがん)|茘奴(れいぬ)同》

鴉瓜(あくわ)《割書:から| す|う| り》

甘蔗(かんしや)《割書:さたう| だけ》

燕(ゑん)
 覆(ふく)
《割書:一名|桴棪| 子| あけび》
【左頁上段】
○蔕(てい)は瓜(うり)の蔕(ほそ)柿(かき)の蔕(へた)
なり又/蒂(てい)につくる㚄(てい)同
柿(かき)茄(なすび)などのへたなり
○莍(きう)は櫧(かし)櫟(いちゐ)などの実(み)を
もる房(はう)なり俗(ぞく)にかさと云
○仁(にん)はくだものゝ核(さね)のうち
にあるものなり
梅仁(ばいにん) 桃仁(とうにん) 杏仁(きやうにん)なり
薬(くすり)にもちゆ
○核(かく)は梅(むめ)桃(もゝ)《割書:補》その外すべて
くだもの又は瓜(うり)茄(なすび)のさね也
核(さね)の中(うち)薬(くすり)にもちゆるもの
あまたあるなり
○紫糖(くろざたう)はおほく食(くら)へば心(しん)
痛(つう)し長虫(ちやうちう)を生(しやう)す
【左頁下段 挿絵】
《割書:まくは| うり》
甜(てん)
 瓜(くは)
《割書:から| うり》

《割書:にがうり》
苦(く)
 瓜(くは)
《割書:つる| れい|  し》

白(はく)
柿(し)
《割書:つ| り|がき》
烏柿(うし)
《割書:あま| ぼ| し》

蔕(てい)
《割書: ほそ| へた》

【右頁上段】
○沙糖(さたう)は
  心肺(しんはい)をうる
   ほし
 大小/腸(ちやう)の
  熱(ねつ)をさり
   酒毒(しゆどく)を解(げ)す
○氷糖(こほりさたう)は
  心脹(しんてう)の熱(ねつ)を
    さまし
 目(め)をあきら
    かにす
【左頁下段 挿絵】
氷(へう)
糖(たう)
《割書:こほり| ざたう》

沙(さ)
糖(たう)
《割書:しろ| ざたう》

紫(し)
糖(たう)
《割書:くろ| ざたう》

核(かく)
《割書:さね》

莍(きう)
《割書: かさ》

仁(にん)
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十九
   樹竹(じゆちく) 《割書:此/部(ふ)にはうへ木(き)竹(たけ)のるいをしるす》
【左頁上段】
○松(まつ)は久(ひさ)しく服(ふく)す
れば身(み)を軽(かる)くし
て老(おい)ず年(とし)をのぶる
といへり《割書:補》五/葉(よう)を俗(ぞく)
に唐松(からまつ)といふ
○楓(ふう)はかいでなり又
鶏冠木(かいで)とも書(かく)也
もみぢの事なり
《割書:補》紅葉(こうよう)は諸木(しよぼく)に多(おゝ)ク
あり楓(かいで)は中(なか)にも勝(すぐれ)
         たり
【左頁下段 挿絵】
松(しやう)《割書:まつ》 楓(ふう)《割書: |かいで》

【右頁上段】
○桧(ひのき)は深山(しんざん)あり
て《割書:補》大木(たいぼく)となる白木(しらき)
の木具(きぐ)曲物(わげもの)など
みな此木を用(もち)ひて
最上(さいじやう)とす又/楫(かぢ)に
つくるなり
○《割書:補》円柏(いぶき)は葉(は)栢(かや)にゝ
て実(み)は松に似(に)たり
尖(とが)りかたし但(たゞ)し
葉(は)桧(ひのき)に類(るい)して
色(いろ)黒(くろ)く皮(かわ)あらし
檼栢(いんはく)同
○檉(むろ)は《割書:補》檉柳(ていりう)なり
一名雨師(うし)といふ
皮(かわ)あかし
【右頁下段 挿絵】
檜(くわい)
《割書: ひのき》

圓栢(ゑんはく)
《割書: いぶき》

檉(てい)《割書:むろ》
【左頁上段】
○杉(すぎ)は《割書:補》深山(しんさん)に生(しやう)
ずるもの大木と
なる木立(こだち)直(すぐ)に
て枝葉(ゑたは)しげる也
煎(せん)して毒瘡(どくさう)を
洗(あら)ひ水に浸(ひた)し
て脚気(かつけ)腫満(しゆまん)を
治(ぢ)す
○仙栢(いぬまき)は《割書:補》槙(まき)のは
に似(に)たり実(み)の形(かたち)
手(て)を合(あは)せたるか如(こと)し
一名/羅漢松(らかんしやう)
【左頁下段 挿絵】
仙栢(せんはく)《割書:いぬ| まき》

杉(さん)《割書:すぎ》

【右頁上段】
○南燭(なんてん)は《割書:補》五月に
少(ちいさ)き白き花さき
実(み)のり霜後(さうご)に
紅(くれない)になるその色
美(び)なり《割書:補》此(この)木(き)悪(あし)
き夢(ゆめ)を見たる時
此(この)木(き)をみればその
夢(ゆめ)きゆるといふ事
ゆへ多(おほ)く手水所(てうづどころ)
のむかふに植(うへ)をく
なり
○山茶(さんさ)は《割書:補》品類(ひんるい)多(おほ)
し俗(ぞく)にさゞんくは
といふ冬(ふゆ)花/咲(さく)うす
紅(べに)白花(はくくは)なりつばき
は春さく花(はな)葉(は)共
に大にして色(いろ)品々(しな〴〵)有
【右頁下段 挿絵】
南燭(なんしよく)《割書:なんてん》

山茶(さんさ)
《割書: つばき》
【右頁上段】
○桜(さくら)は一名/朱桃(しゆとう)又は
麦英(ばくゑい)ともいふ《割書:補》むかしは
梅(むめ)にかきりて花(はな)と称(しやう)
じき今は花(はな)といへは桜(さくら)
にかぎる実(み)を桜桃(あふとう)と
いふ桜(さくら)は一重(ひとへ)なるもの成
しが後(のち)に八重桜(やゑさくら)の種(しゆ)
類(るい)多(おほ)くなり今は
百/種(しゆ)に及(およ)べり
○海棠(かいだう)は《割書:補》花白く
紅色(へにいろ)の所(ところ)ありて
尤(もつとも)美(ひ)なり葉(は)はな
しのことく三月に
花さく一名/海紅(かいこう)
花(くは)といふ
【左頁下段 挿絵】
櫻(ゑい)《割書:さくら》

海棠(かいだう)

【右頁上段】 
○躑躅は類(たぐひ)多し
紫花(しくは)は《割書:補》二月に花
さく赤(あか)つゝじは三月
花さくれんげつゝじは
少し遅(おそ)く花大に
して見事なり霧(きり)【雱】
島(しま)は花/濃(こい)紅(へに)にして
美(び)なりもちつゝじは
薄紫(うすむらさき)四月花さく
りうきうつゝじは白花
と紫(むらさき)有花大にし
ておそし杜鵑(さつき)花は
五月花さく紅紫(へにむらさき)
又は白紅交(はくこうまじ)り種々(しゆ〴〵)有
【右頁下段 挿絵】
羊躑(やうてき)
  躅(ちよく)
《割書: れんげつゝじ》
映躑躅(えいてきちよく)
《割書: あかつゝじ》
杜鵑花(とけんくは)
《割書:   さつき》
【左頁上段】
○辛荑(こふし)は葉/細(ほそ)
長(なが)し花白くして
少し赤(あか)みあり花
を木筆花(もくひつくは)といふ也
春花さく
○木蘭(もくらん)は香蘭(からん)に
似(に)て花は蓮(はす)のごと
くうち白くほかわ
むらさきなり《割書:補》花を
木蓮花(もくれんげ)といふ
○厚朴(こうぼく)は春(はる)葉(は)を
生し四季しほま
ず花くれないに実(み)
あをし一名/榛(しん)
【左頁下段 挿絵】
辛荑(しんい)
《割書: しでこぶし》

木蘭(もくらん)《割書:もくれんげ》

厚朴(こうぼく)
《割書: ほうの|   き》

【右頁上段】
○《割書:補》槿(むくげ)は芙蓉(ふよう)のは
なに似(に)て小(ちい)さし
薄紅(うすべに)白(しろ)あり八重(やゑ)
ひとへあり七月花
さく一名/日及(じつきう)
○芙蓉(ふよう)は水に生
するを水芙蓉(すいふよう)
といふ荷花(かくは)なり木(き)
を木芙蓉(もくふよう)といふ
《割書:補》きばちすともいふ
七八月花ひらく
【右頁下段 挿絵】
槿(きん)《割書: |むくげ》

芙蓉(ふよう)
《割書: きはちす| 一名/拒霜(きよさう)》
【左頁上段】
○蜀漆(くさぎ)は秋/紫(むらさき)の
花さく花中(くはちう)に黒(くろ)
き実(み)有/根(ね)を常(じやう)
山(ざん)といふ六月/比(ころ)葉(は)
とり食(しよく)すれども
毒(どく)ありともいふ
○女貞(ねづもち)は冬(ふゆ)をしのぎ
てしぼまずよつて女
の貞節(ていせつ)に比(ひ)して名
づく一名/蝋樹(らうしゆ)
○冬青(もちのき)は冬月/青(あを)
くみどりなりよつて
冬青(とうせい)といふ葉(は)少(すこ)
しまるし
【左頁下段 挿絵】
蜀漆(しよくしつ)
《割書: くさぎ》

冬青(とうせい)
《割書: もち|  のき》

女貞(ぢよてい)
《割書: ねづ|  もち》

【右頁上段】
○粉団(てまり)は葉(は)まるく
花白くして手毬(てまり)
のごとし四月花さ
く玉(ぎよく)繍(しう)【綉】花(くは)とも繍(しう)【綉】
毬花(きうくは)ともいふ《割書:補》かん木(ぼく)
といふ木も粉団(てまり)に似(に)
たる花なり大てま
り小でまり二/種(しゆ)有
○紫陽(あじさい)は《割書:補》五月花
さく粉団(てまり)似たり色(いろ)
はるり又うす紅白
あり葉(は)てまりに
似(に)て葉(は)さき尖(とが)る
木の長(たけ)三四尺
【右頁下段 挿絵】
粉(ふん)
 團(たん)
《割書:てまり》

紫陽(しやう)《割書:あぢ|  さい》
【左頁上段】
○薜茘(まさきのかづら)は一名を
木饅頭(もくまんぢう)といふ又
鬼饅頭(きまんぢう)といふ《割書:補》秋
のすゑに青(あを)き実(み)
のる中あかし
○梔(くちなし)は《割書:補》花白く五
月にさく実(み)は黄(き)
なる染色(そめいろ)に用ゆ
上/焦(しやう)の熱(ねつ)をくだし
痰(たん)を治(ぢ)す花を
簷蔔(せんふく)といふ
【左頁下段 挿絵】
薜茘(へきれい)
《割書: まさきのかづら》

梔(し)《割書:くちな|  し》

【右頁上段】
○錦帯花(やまうづき)は四月に
花さく楊櫨(うつぎ)に似(に)
て花/葉(は)ともに大
なり花/開初(ひらきはしめ)には
白く後(のち)に赤(あか)く成
○楊櫨(うつぎ)は葉(は)こま
かく花も小(ちいさ)く木(き)は
黄色(きいろ)をそむるによ
し実(み)は莢(さや)をなす
空䟽(くうしよ)同
○棘(いばら)は《割書:補》山野(さんや)に多し
【右頁下段 挿絵】
錦帯花(きんたいくは)
《割書: やまうつぎ》

楊櫨(やうろ)
《割書: うつぎ》
【左頁上段】
はり多(おゝ)く群(むらが)り生(しやう)
ず五月白き花/咲(さく)
棘刺(きよくし)棘鍼(きよくしん)並同
○角楸(あづさ)はかはらひさ
ぎといふ《割書:補》実(み)はさゝげ
のごとく細長(ほそなが)くふさ
をなす冬(ふゆ)葉(は)落(おち)
て角(つの)なを有
○木槵(つぶのき)は五六月に
白き花さく実生(みしやう)
は青(あを)く熟(じゆく)すれば
黄(き)なり
【左頁下段 挿絵】
棘(きよく)《割書: | いはら》

角楸(かくしう)
《割書: あづさ| かはら|  ひさき》

木槵(もくけん)
《割書: つぶの|  き》

【右頁上段】
○棕櫚(しゆろ)は六七月に
黄白(きしろき)花さき八九
月に実(み)をむすぶ
かたち魚(うを)の子(こ)の如
し《割書:補》此木(このき)の毛葉(けは)
を帚(はうき)につくる
○黄楊(つげ)は葉(は)こま
かくかたし花さか
ず実(み)ならず四/季(き)
しぼまず《割書:補》木(き)め細(こまか)
くかたし色(いろ)黄(き)也
【右頁下段 挿絵】
椶櫚(しゆろ)

黄楊(わうやう)《割書:つげ》
【左頁上段】
○衛矛(くそまゆみ)は三月に
茎(くき)を生す高(たか)さ
三四尺ばかり《割書:補》秋の
すへ紅葉(こうよう)す茎(くき)に
箭(や)の羽(は)の如(ごと)き物
あり今いふにしきゞ
一名/鬼箭(きせん)
○鐵蕉(てつしやう)は蘇鉄(そてつ)
なり一名/鳳尾焦(はうびせう)
となつく琉球(りうきう)より
出るを番焦(ばんせう)と云
【左頁下段 挿絵】
衛矛(ゑいほう)《割書:くそまゆみ|にし|  きゞ》

鐵(てつ)
蕉(せう)
《割書: そ|  てつ》

【右頁上段】
○/𣖾(ぬる)木(で)は実(み)を塩(えん)
麩子(ふし)といふ虫(むし)あり
て房(ばう)をむずぶを
五倍子(ごばいし)といふ是
ふしなり
○楮(かぢ)は皮(かわ)を製(せい)し
て紙(かみ)につくるなり
かうそといふ穀(こく)
構(こう)ならびに同
《割書:補》七月七日/児童(じどう)
此/葉(は)に詩歌(しいか)を
書(かき)二星(じせい)にそなふ
【右頁下段 挿絵】
𣖾(び)【木+備の旁】木(ぼく)
《割書: ぬるで》

楮(ちよ)
《割書: かじ》

㯃(いつ)《割書: |うる| し》
【左頁上段】
○㯃(うるし)は《割書:補》葉(は)ぬるで
に似たり秋(あき)こま
かき実をむすふ
此/木(き)より器物(きぶつ)を
ぬるうるしをとる
みだりにゐら?へはま
けるなり
○木樨(もくせい)は一名/岩(がん)
桂花(けいくは)といふ花(はな)白(しろき)
を銀桂(きんけい)といひ黄(き)
なるを金桂(きんけい)と云
《割書:補》香(か)つよき花なり
【左頁下段 挿絵】
木樨(もくせい)
《割書: かつらの|    はな》

【右頁上段】
○桐(きり)は琴(こと)につくる
四月花さく白く
薄紫(うすむらさき)なり大木(たいぼく)
あり箱(はこ)などつくる
に此木を用ゆ
○梧桐(ごとう)は皮(かわ)青(あを)く
ふしなし実(み)は
胡椒(こせう)のごとくかわ
にしわあり花は
小にして黄(き)なり
櫬(しん)同
○櫟(くぬぎ)は《割書:補》葉(は)はかしわ
【右頁下段 挿絵】
桐(とう)《割書:きり》

梧桐(ごとう)
《割書:  きり》
【左頁上段】
に似(に)てうすし
又/栗(くり)に類(るい)す実
を橡実(しやうじつ)といふ俗(ぞく)
にどんぐりといふ也
木かたく薪(たきゞ)とし
て最上(さいじやう)なり
○槲(かしわ)は一名/樸樕(ほくそく)
といふ実を櫟橿(れききやう)
子(し)といふ《割書:補》俗(ぞく)にかし
といふ品類(ひんるい)多し
木かたくして棒(ぼう)
につくるなり
【左頁下段 挿絵】
櫟(れき)
《割書: くぬぎ》

槲(こく)《割書: | かしわ》

【右頁上段】
○檗(きわだ)は葉(は)呉茱萸(こしゆゆ)
に似(に)たり冬(ふゆ)しぼま
ず皮(かわ)そと白くうち
黄(き)なり黄檗と
いふきわだなり
○紫荊(しけい)は葉(は)こま
かにして花(はな)むらさ
きなり春(はる)花ひら
き秋(あき)実(み)のる実を
紫珠(しじゆ)といふ
○石南(しやくなんげ)は石(いし)の間/陽(ひ)
に向(むか)ふ所に生(しやう)ずる
よつて石南(しやくなん)と云
葉(は)枇杷(びわ)のごとし
【右頁下段 挿絵】
檗(はく)《割書:き| わだ》

紫荊(しけい)

石南(せきなん)《割書:しやく| なん|  げ》
【左頁上段】
○狗骨(ひいらぎ)は木のはだ
へ白くして狗(いぬ)の骨(ほね)
の如(こと)し依(よつ)て狗(く)こ
つといふ又/柊木(とうほく)とも
書(かく)なり
○瑞香(ぢんてうけ)は葉(は)厚(あつ)く
春(はる)花(はな)さくかたち丁(てう)
香(かう)のごとく色(いろ)黄(き)白(しろ)
紫(むらさき)なり
○接骨(にわとこ)は小便(せうべん)を
通(つう)じ水腫(すいしゆ)を治(ぢ)ス
一名/木蒴藋(もくさくてき)と
いふ手足(てあし)の痛(いたみ)に
煎(せん)じ洗(あら)ふてよし
【左頁下段 挿絵】
狗骨(くこつ)《割書:ひいらぎ》
《割書: 猫児刺(めうにし)| 杠谷(こうこく) 並同》

瑞香(ずいかう)《割書:ぢんてう|   け》

接骨(せつこつ)《割書:にわとこ》

【右頁上段】
○桑(くわ)は一切(いつさい)の風気(ふうき)
を治(ち)し中(うち)を調(とゝの)へ
気(き)をくだし痰(たん)を
消(せう)し胃(ゐ)をひら
き食(しよく)を下す
《割書:補》棟(あふち)は葉(は)槐(えんじゆ)のごと
く三四月に花さく
薄紫色(うすむらさきいろ)なり俗(ぞく)に
せんだんと云/実(み)を
金棟子(きんれんし)といふ
○五加(うこぎ)は蔬につく
りてくらへは皮膚(ひふ)
の風湿(ふうしつ)をさる五
佳(か)五/花(くは)同
【右頁下段 挿絵】
桑(さう)《割書:くわ》

棟(れん)《割書:あふち》
《割書: せんだん》

五加(ごか)
《割書: うこ|  ぎ》
【左頁上段】
○枸杞(くこ)は皮膚(ひふ)骨(こつ)
節(せつ)の風(かぜ)をさり熱(ねつ)
毒(どく)をさりかさの腫(はれ)
をさんず 
○紫薇(しひ)は花/紅色(べにいろ)
なり七月さく百日(ひやくじつ)
紅(こう)といふ《割書:補》俗(ぞく)にさるす
へりといふ
○樟(くす)は楠(くすのき)に似(に)たり
四/季(き)しぼます夏
細(ほそ)き花さく《割書:補》楠木(なんぼく)も
此(この)類(たぐひ)なり大木と
なる数年(すねん)をへて
其(その)木(き)石(いし)となる
【左頁下段 挿絵】
枸杞(こうき)《割書:くこ》

樟(しやう)《割書: |くす》

紫薇(しひ)

【右頁上段】
○石檀(とねりこ)は葉(は)槐(えんじゆ)に似(に)
たり樳木(じんぼく)苦櫪(くれき)並
同/皮(かわ)を秦皮(しんひ)といふ
○合歓(ねむのき)は五月に
花さく色(いろ)紅白(こうはく)也
実にさやあり《割書:補》葉(は)
昼(ひる)ひらきて夜(よる)しぼ
むよつて一名/夜合(やがう)
樹(じゆ)といふ
○楡(にれ)は赤白(しやくひやく)二/種(しゆ)有
三月に莢(さや)を生(しやう)ずか
たち銭(ぜに)の如し色(いろ)白
し実を楡莢(ゆけう)楡銭(ゆせん)
といふ
【右頁下段 挿絵】
石𣞀(せきたん)
《割書: とねりこ》

合歡(がうくわん)
《割書: ねむの|   き》

楡木(ゆぼく)《割書:にれ》
【左頁上段】
○葉(よう)は木のはなり
嬾葉(どんよう)わかば紅葉(こうよう)も
みぢば落葉(らくよう)おちば
病葉(ひやうよう)わくらは
○株(しゆ)はくゐぜなり俗(ぞく)
にいふかふなり土(つち)に
入を根(ね)といひ土を出
るを株(しゆ)といふ
○蘖(かつ)は木のわかば
への事なり枿(かつ)丕(かつ)【孑ヵ𣎴ヵ】
ならびに同
○芽(げ)は草(くさ)のめざし
いつるをいふ萌芽(ばうか)と
もいふ又さしめを云
【左頁下段 挿絵】
葉(よう)《割書:は》

蘖(かつ)
《割書:ひこ| ばへ》

株(しゆ)《割書: |かぶ》

寄生(きせい)《割書:やどりき》

芽(け)《割書:ぬき| ざし》

【右頁上段】
○楊(やう)は黄(くはう)白(はく)青(せい)
赤(しやく)の四/種(しゆ)あり白(はく)
楊(やう)は葉(は)まるく青(せい)
楊(やう)は葉(は)ながし赤(しやく)
楊(やう)は霜(しも)くだりて
葉(ば)赤(あか)くそむ水(すい)
楊(やう)は川(かわ)やなぎなり
水辺(すいへん)に生(しやう)ず
○寄生(やどりき)は諸木(しよぼく)に
あり枝(えだ)の間(あいだ)木(き)のま
たに生(はゆ)る木をいふ
木によりて名(な)かはれ
り又/寓木(ぐうほく)ともいふ
○柳(あをやき)は垂條(すいでう)の小
【右頁下段 挿絵】
白楊(はくやう)
《割書: はこやなぎ》

水楊(すいやう)《割書:かわや|  なぎ》

柳(りう)《割書:しだりやなぎ》
【左頁上段】
楊(やう)なり花白し柳(りう)
絮(ぢよ)は柳(やなぎ)のまゆなり
○槐(ゑんじゆ)は葉(は)ほそく花
は黄(き)にして色(いろ)をそ
むるに用ゆ又/宮槐(きうくわい)
さやを槐角(くわいかく)といふ
○椋(むくのき)棶(らい)同一名/郎(ろう)
来(らい)といふ葉(は)はほし
て物をみがきてつや
をいだす
○栴檀(せんだん)は葉(は)槐(えんじゆ)のご
とく皮(かわ)青(あを)し黄檀(わうたん)
【左頁下段 挿絵】
《割書:あを|  やぎ》

【右頁上段】
白檀(びやくだん)紫(し)檀/赤檀(しやくたん)
黒檀(こくたん)のわかちあり
《割書:補》伽羅(きやら)沈香(ぢんかう)はこの木(き)
朽(くち)てなるなり
○皂莢(さいかし)は葉(は)槐(えんじゆ)に
似(に)たり枝(えだ)にはり有
夏(なつ)ほそく黄(き)なる
花/咲(さく)皂角子(さいかし)共/書(かく)
○柴(しば)は小木(しやうぼく)散財(さんざい)
なり俗(ぞく)にしば
○薪(たきゝ)は粗(あらき)を薪(しん)と云
こまかなるを蒸(せう)と
【右頁下段 挿絵】
皂莢(さいけう)《割書:さいかし》

槐(くわい)《割書:ゑん| じゆ》

椋(りやう)《割書:むく》
【左頁上段】
といふ又つまぎ
○竹(たけ)は六十一/種(しゆ)あり
六十年にして一/度(たび)
花さき実(み)のり枯(かる)る
《割書:補》是をじねんこ入(いる)と
いふ花をさゝめぐり
といふ枯(か)れ尽(つく)れは又
生ず
○筍(たかんな)は笋(たかんな)同
食(しよく)すれは膈(むね)を利(り)し
痰(たん)を消(せう)し胃(ゐ)をさは
やかにし水道(すいどう)を通(つう)
【左頁下段 挿絵】
栴檀(せんだん)

伽羅(きやら)

柴(さい)《割書: |しば》

薪(しん)《割書:たき| ぎ》

【右頁上段】
し気(き)をます
○篠(しのざゝ)は小竹(こだけ)なり竹
の根(ね)より生(はゆ)る小ざゝ
をいふなり
○箬(じやく)は山に生ずる
さゝなり葉(は)大にして長(たけ)
二尺ばかり有此/葉(は)にて
粽(ちまき)をつゝむ篛(じやく)同
○篁(たかむら)は竹の苗(なへ)なり
たかむらともいふ
○蘆竹(なよたけ)は葉(は)大にし
て芦(あし)に似(に)たるまた
【右頁下段 挿絵】
篠(でう)《割書:しの| ざゝ》

筍(しゆん)《割書:たかんな|たけのこ》

竹(ちく)《割書:たけ》
《割書: 淡竹(はちく)| 苦竹(まだけ)》

箬(じやく)
《割書: さゝ》
【左頁上段】
秋芦竹(しうろちく)ともいふ
○棕竹(しゆろちく)は一名/実(じつ)竹
葉(は)棕櫚(しゆろ)に似(に)たり
杖(つえ)又/柱杖(しゆちやう)につくる也
○枎竹(ふちく)はふたまた竹
なり双(さう)【雙】竹(ちく)とも天親(てんしん)
竹(ちく)とも又/相思(さうし)竹とも
いふなり
○紫竹(しちく)は斑(はん)竹とも
いふ舜(しゆん)のきさき娥(か)
皇(くはう)女英(ぢよゑい)のなみだが
かゝりてまだらにそ
【左頁下段 挿絵】
篁(くわう)《割書:たかむら|  だけ》

蘆竹(ろちく)《割書:なよたけ|しのびだけ》

【右頁上段】
みたるとなり
○無節(むせつ)竹はきせる
のらうにもちゆる
竹なり
○/𥳇(ふく)【竹冠+復】はさゝめぐりと
いふ竹の実(み)なり一名
竹米(ちくべい)といふ《割書:補》俗(ぞく)にいふ
じねんことて竹の病(やまひ)
なりと実(み)の中(なか)に米(こめ)
のごとき物あり
○籜(たく)は竹のかわなり
又/竹皮(ちくひ)とも筍皮(じゆんひ)と
【右頁下段 挿絵】
椶竹(そうちく)
《割書:しゆろ| ちく》

枎竹(ふちく)  《割書:ふた| また|  だけ》

紫竹(しちく)《割書:むらさき|  だけ》
【左頁上段】
もいふ
○筒(とう)はたけのつゝ
筩(よう)【『訓蒙図彙』では「とう」】同/竹節(ちくせつ)たけ
のふしなり
○蔑(べつ)【篾ヵ】はたけのあを
かわ俗(ぞく)にいふかづらそ
■(へつ)【竹冠に蜜、『訓蒙図彙』では「䈼」】筠(きん)同
○幹(かん)は木(き)の心(しん)なり
俗(ぞく)にいふみきなり
○根(こん)は木(き)の根(ね)なり
柢(てい)同/本(ほん)とも
○枝(し)は木(き)のゑだなり
【左頁下段 挿絵】
𥳇(ふく)【竹冠+復】
《割書:さゝめ|ぐり》

筒(とう)
《割書:たけ| の|つゝ》

無/節竹(せつちく)《割書:らう| だけ》

籜(たく)
《割書: たけの| かは》

篾(べつ)《割書:たけの| あをかは|たけの| かづら》

【右頁上段】
柯(か)同ほそきゑだを
條(でう)といふずはえ樹(き)の
またを椏(あ)といふ
○梢(せう)は木(き)のこずへなり
杪(しやう)同
○炭(たん)はあらずみなり
烏銀(うぎん)ともいふ桴炭(ふたん)
はけしずみ
○杮(し)はこけら榾柮(こつとつ)は
きのはし鋸末(きよまつ)は
おがくずなり
【右頁下段 挿絵】
幹(かん)《割書:から|みき》

根(こん)《割書:ね》

枝(し)
《割書: えだ》

炭(たん)
《割書: すみ》

梢(せう)
《割書: こずへ》
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之二十
   花草(くはさう) 《割書:此部(このぶ)にはもろ〳〵の草(くさ)|花(ばな)をしるす》
【左頁上段】
○牡丹(ぼたん)はふかみ
ぐさともはつかく
さともいふ花(はな)の
王(わう)とす紫花(しくは)多(おゝ)
し紅白(こうはく)あり紅(べに)を
上/品(ひん)とす尤(もつとも)花の
富貴(ふうき)なるものな
りと古人(こじん)も賞(しやう)ぜ
り一名/花王(くはわう)又/木(もく)
芍薬(しやくやく)といふ牡丹(ほたん)
皮(ひ)とて薬(くすり)に用(もち)ゆ
【左頁下段 挿絵】
《割書:はつか| ぐさ》
牡丹(ほたん)
《割書: ふかみ|  ぐさ》
【左頁上欄書入れ】Fasc.9   9 99

【右頁上段】
○芍薬(しやくやく)は三/枝(し)五
葉(よう)なり花/牡丹(ぼたん)に
似(に)てすこし小(ちい)さ
し夏(なつ)の初(はじめ)に花
さく紅白(こうはく)紫(むらさき)あり
花相将離(くはしやう〳〵り)といふ也
根(ね)を薬(くすり)に用ゆ
○桜草(さくらさう)は葉(は)蕪(ぶ)
菁(せい)の如(ごと)くにしてこ
はし花/紫(むらさき)白(しろ)なり
三月花さく
【右頁下段 挿絵】
芍(しやく)
 薬(やく)
《割書: かほ|  よ|   ぐさ》

桜草(さくらさう)
【左頁上段】
○葵(あふひ)は惣名(さうみやう)なり
葉(は)大にして花は
紅(べに)又/紫(むらさき)あり五月
花さく実(み)は大さ
指(ゆび)のごとくかわう
すくして扁(へん)なり
○蜀葵(しよくき)はからあふ
ひなり花/千重(せんえ)に
して濃(こき)紅(べに)別(べつ)して
うるはし菺葵(けんき)同又
戎葵(しうき)ともいふ
○錦葵(きんき)はこあふひ
なり又/銭葵(ぜにあふひ)とも云
荊葵(けいき)同
【左頁下段 挿絵】
錦葵(きんき)《割書:こあふひ》

葵(き)《割書:あふひ》

蜀葵(しよくき)
《割書: からあふひ》
【左頁上欄書入れ】100

【右頁上段】
○芙蓉(ふよう)は葉(は)葵(あふひ)
のごとく花/紅白(こうはく)有
一重(ひとへ)千重(せんゑ)ありひと
ゑは木槿(もくげ)似(に)て大
なり清(きよ)く美(び)なり
七月花さく
○竜胆(りうたん)は花/桔梗(ききやう)
の花の色(いろ)のごとく
葉(は)は笹(さゝ)のごとし
九月のすへ花さく
俗(ぞく)にりんだうといふ
【右頁下段 挿絵】
芙蓉(ふよう)

龍膽(りうたん)
《割書: ゑやみぐさ》
【左頁上段】
○秋葵(かうそ)は一名/黄蜀(くはうしよく)
葵(き)といふ又/側金盞(そくきんさん)
葉(は)とがりせばくきざ
あり秋うす黄(き)なる
花さく俗(ぞく)にとろゝ
○莠(はくさ)は稷(ひえ)【稗ヵ】に似(に)て
実(み)なし一名/狗尾(くび)
草(さう)と禾粟(あわ)の中(なか)に
生ず俗(ぞく)にゑのころ
草(ぐさ)といふ
○金銭花(きんせんくは)は午時(ごじ)
花(くは)ともいふ秋花さく
こい紅(べに)にてうるはし
一名/子午花(しごくは)
【左頁下段 挿絵】
秋葵(しうき)《割書:かうそ》

莠(いう)《割書:はくさ》

金銭花(きんせんくは)
《割書: ごしくは》
【左頁上欄書入れ】101

【右頁上段】
○蘭(らん)は茎(くき)むら
さきに葉(は)みどり
なり水沢(すいたく)のほと
りに生ず花/黄(くはう)
白(はく)にしてかうばし
蘭(らん)は品類(ひんるい)多(おほ)し
○風蘭(ふうらん)は一名を
桂蘭(けいらん)とも吊蘭(てうらん)
ともいふ此/類(るい)に
岩蘭(いはらん)岩石蘭(がんぜきらん)
なといふあり
【右頁下段 挿絵】
蘭(らん)《割書:ふじ| ばかま》

風蘭(ふうらん)
【左頁上段】
○鶏冠(けいくわん)は葉(は)莧(ひゆ)
に似(に)て少(すこ)し長(なが)
く茎(くき)赤(あか)し花は
赤(あか)黄(き)又は交(まじ)り有
六七月花さき霜(さう)
後(ご)まであり鶏頭(けいとう)
花(げ)とも書(かく)なり
○秋海棠(しうかいどう)は秋
花さくうす紅色(べにいろ)也
茎(くき)葉(は)ともに少(すこ)し
あかみあり
【左頁下段 挿絵】秋(しう)
海(かい)
棠(だう)

鶏冠(けいくわん)《割書: |けいとうげ》
【左頁上欄書入れ】102

【右頁上段】
○剪秋羅(せんをうけ)は花(はな)
石竹(せきちく)のごとく朱(しゆ)
色(いろ)にて美(び)なり
六月花/咲(さく)ふし
黒(ぐろ)といふも此/類(たぐひ)也
○剪春羅(がんひ)は花
の色(いろ)せんをうより
薄(うす)く黄(き)みあり
○薏苡(ずゞたま)は子/白(しろ)と
黒(くろ)有/薏苡子(よくいし)と
いふ五膈(ごかく)を治(ぢ)す
【右頁下段 挿絵】
剪秋羅(せんしうら)《割書:せんをう|   げ》

剪(せん)
 春(しゆん)
  羅(ら)《割書: |がんひ》

薏苡(よくい)《割書:ずゞ| たま》
【左頁上段】
○百合(ゆり)は品類(ひんるい)多(おほ)し
此花三月/末(すへ)より咲(さく)
紅うす紅あり
○巻丹(おにゆり)は六七月に
花さく大にして黄(き)
赤(あか)し五六尺もたち
のびて花多くさく
葉(は)の間にくろき実(み)
を生す一名/番山丹(ばんさんたん)
○山丹(ひめゆり)は四月/初(はじめ)に
花さく小(ちいさ)くして赤(あか)
白有赤は極朱(ごくしゆ)也
うるはし渥丹(をくたん)同
此外(このほか)類(るい)多くあり
【左頁下段 挿絵】
百合(ひやくかう)《割書:ゆり》

巻丹(けんたん)
《割書:おに| ゆり》

山丹(さんたん)
《割書: ひめ|  ゆり》
【左頁上欄書入れ】103

【右頁上段】
○他偸(えびね)は四月の
末(すへ)より花さく其(その)
品(しな)多し花黄(き)なる
あり紫(むらさき)有花色に
種々(しゆ〴〵)かはり有又秋
さく花もあり
○麗春(びしんさう)は三月に
花さく一重(ひとへ)は本紅(ほんへに)也
千重(せんゑ)は紅にしてつま
白し一名/仙女蕎(せんぢよけう)
又/御仙花(ぎよせんくは)といふ
【右頁下段 挿絵】
他偸(たゆ)《割書:えび|  ね》

麗春(れいしゆん)《割書:びじん|  さう》
【左頁上段】
○金盞花(きんさんくは)は花
のかたち盞(さかづき)の如(ごと)
し色(いろ)赤(あか)し三月
花さく今(いま)誤(あやま)りて
金銭花(きんせんくは)といふ金
銭花は別種(べつしゆ)なり
○春菊(かうらいぎく)は花/白(しろ)く
にほひ黄(き)なり三
月花さく蒿菜(かうさい)
花(くは)といふはばへの
時(とき)食(しよく)す
【左頁下段 挿絵】
金盞花(きんさんくは)
《割書: きん|  せん|   くは》

春菊(しゆんきく)
《割書:かう| らい|  ぎく》
【左頁上欄書入れ】104

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         六
【右頁上段】
○蒲公英(たんほゝ)は花
白き大(おゝい)なり黄(き)成(なる)
は小(しやう)なり二三月に
花さく葉(は)をとり
て食(しよく)す
○菫菜(すみれ)は一名/箭(せん)
頭草(とうさう)と云すも
とりぐさなり花紫
白花(はくくは)又うす紫(むらさき)の
もの葉(は)丸(まる)く小(しやう)也
○虎杖(いたどり)は月水(ぐわつすい)を
通利(つうり)し瘀血(おけつ)を破(やぶ)る
渇(かつ)をやめ小便(しやうべん)を利(り)し
腹(はら)はり満(みつ)るを治(ぢ)ス
【右頁下段 挿絵】
蒲公英(ほこうゑい)
《割書: たん|  ほゝ》

菫菜(きんさい)
《割書:  すみれ》

虎杖(こぢやう)
《割書:いた| どり》
【左頁上段】
○萱草(わすれぐさ)は花
巻丹(おにゆり)のごとく黄(き)
赤(あか)く初夏(しよか)に咲(さく)
春(はる)若葉(わかば)を取(とり)て
食(しよく)す水気(すいき)乳(にう)よ
うはれ痛(いたむ)を治(ぢ)す
食(しよく)を消(せう)すこのん
でくら【「へ」脱字ヵ】ば悦(よろこび)てうれ
ひなし花/千重(せんゑ)
のものは毒(どく)ありあや
まりて喰(くう)ふべからず
○酢漿(かたばみ)は一名/酸(さん)
草(さう)といふ俗(ぞく)に云
すいものぐさ
【左頁下段 挿絵】
《割書:わす|  れ| ぐさ》
萱草(くはんざう)

《割書: かた|   ばみ》
酢漿(さしやう)
【左頁上欄書入れ】105
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         七

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         七
【右頁上段】
○射干(からすあふぎ)はひあふぎ
ともいふ葉(は)のかたち
檜扇(ひあふぎ)に似(に)たり花は
黄赤(きあか)し五六月花
さく烏扇(うせん)烏翣(うさう)
ならびに同
○蝴蝶花(こてうくは)は射干(からすあふぎ)
の類(るい)なり三月白き
花/咲(さく)黄(き)み中(なか)にあり
俗(ぞく)にやぶらんといふ
しやがは射干(しやかん)の音(おん)
を誤(あやまり)しものなりと
○夏枯草(かこさう)は野(の)に
多(おほ)し薄紫(うすむらさき)の花/咲(さく)
【右頁下段 挿絵】
射干(しやかん)
《割書: からす|  あふぎ》

蝴蝶花(こてうくは)《割書:しやが》

夏枯草(かこさう)
《割書:  うつぼくさ》
【左頁上段】
○鴟尾(いちはつ)は葉(は)は射(からす)
干(あふぎ)ににたり花は
むらさきなり花
を紫羅傘(しらさん)と
いふ四月花さく
○馬藺(ばりん)は沢辺(たくへん)
に生(しやう)ず気(き)くさし
花はあやめににて
細(ほそ)し色(いろ)もうすし
馬棟(ばれん)ともいふ夏(なつ)
の初(はじめ)に花さく
【左頁下段 挿絵】
鴟尾(しひ)《割書:いち| はつ》
《割書:鴨脚花(かうきやくくは)》

馬藺(ばりん)
【左頁上欄書入れ】106
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         八

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         八
【右頁上段】
○杜若(かきつばた)は水中(すいちう)に
生(しやう)ず花大にして
色(いろ)桔梗(ききやう)の花の色
にてうるはし夏(なつ)
のはじめに花さく
○菖蒲(あやめ)は花/杜(かき)
若(つばた)に似(に)て小(ちい)さく
葉(は)も細(ほそ)し又/菖(しやう)
蒲(ぶ)と云は別種(べつしゆ)也
花なし又花菖
蒲と云物/一種(いつしゆ)有
【右頁下段 挿絵】
杜若
《割書:かき| つばた》

菖蒲(しやうぶ)
《割書: あやめ》
【左頁上段】
○様錦(もみぢぐさ)は六七月
葉(は)紅(くれなゐ)なり黄緑(きみどり)
色(いろ)をかぬるを十様(しうやう)
錦(きん)といふ又/雁(かん)来(きたり)て
紅(くれない)なるを雁来紅(がんらいこう)
といふ俗(ぞく)に葉鶏頭(はげいとう)
といふなり
○桔梗(ききやう)は花/紫(むらさき)有
白あり一重(ひとへ)有かさ
ね有六月にひらく
又/梗草(かうさう)となづく
【左頁下段 挿絵】
様錦(やうきん)
《割書:もみ|  ぢ| ぐさ》

桔梗(けつかう)
《割書: ききやう》
【左頁上欄書入れ】107
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         九

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         九
【右頁上段】
○烏頭(とりかぶと)は花きゝ
やうの花の色(いろ)なり
かたち烏(からす)の頭(かしら)の如(ごと)
し亦とりかぶと
のかたちに似(に)たり
九月花さく 
○鳳仙花(ほうせんくは)は花/紅(こう)
白(はく)あり七月はな
さく又/金鳳花(きんほうくは)と
いふ花に黄(くはう)紫(し)碧(へき)
ありと
【右頁下段 挿絵】
烏頭(うづ)
《割書: とり|  かぶと》
鳳(ほう)
仙(せん)
花(くは)
【左頁上段】
○番椒(たうがらし)はせんき
を治(ぢ)し虫(むし)をこ
ろす人にどく也
○丈菊(てんがいばな)は一名は迎(けい)
陽花(やうくは)といふ日輪(にちりん)
にむかふ花なりよ
つて日車(ひぐるま)とも云
花/菊(きく)に似(に)て大(おゝい)也
色(いろ)黄(き)又/白(しろ)きも
あり
○杜蘅(とかう)は葉(は)は馬(ば)
蹄(てい)に似(に)たり紫(むらさき)
の花/咲(さく)馬蹄香(ばていかう)
土細辛(どさいしん)といふ
【左頁下段 挿絵】
番椒(ばんせう)《割書:たうがらし》

丈菊(じやうきく)《割書:てんがいばな》

杜蘅(とかう)《割書:つぶねぐさ》
【左頁上欄書入れ】108
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         十

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿         十
【右頁上段】
○薔薇(しやうび)は花/紅白(こうこく)
黄(き)薄紅(うすべに)有/千重(せんゑ)の
ものを牡丹(ほたん)いばら
といひ一重(ひとへ)なるを■(いばら)【棘ヵ䔉ヵ】
薔薇(しやうび)と云一名/月々(げつ〳〵)
紅(こう)又/長春(ちやうしゆん)ともいふ
○慎火(いはれんげ)は一名/景天(けいてん)
又は戒火(かいくは)ともいふ小(しやう)
なるを仏甲草(ぶつかうさう)と
いふなり
○苔(こけ)蘚(せん)同/水(みづ)に有
を陟(ちよく)釐(り)【𨤲】と云/石(いし)に生(はゆ)
るを石濡(せきしゆ)瓦(かはら)に有
を屋游(をくいう)墻(かき)を垣衣(ゑんい)と云
【右頁下段 挿絵】
薔薇(しやうび)
《割書: いばらしやう|       び》

慎火(しんくは)《割書:いはれんげ》
《割書:  仏甲草(ぶつかうさう)》

苔(たい)《割書:こけ》
【左頁上段】
○酸漿(さんしやう)は五月に
白き花/咲(さき)実(み)赤(あか)
くとうろうのごとし
よりて金燈篭(きんとうろう)と云
○旋覆(をぐるま)は葉(は)長(なが)み?
有花は黄(き)にして
菊(きく)ににたり六月に
花さく又九月にむ
らさきの花さくを
紫苑(しをん)といふ是(これ)は
見事(みごと)成(なる)花なり
【左頁下段 挿絵】
酸漿(さんしやう)《割書:ほう| つき》

旋覆(せんほく)
《割書: をぐるま》
【左頁上欄書入れ】109
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十一

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十一
【右頁上段】
○藤(ふぢ)は三月の末(すへ)
に花さく色(いろ)紫(むらさき)は
おそく花の長(たけ)三
四尺に及(およ)ぶ白花(はくくは)は
早(はや)くさきて短(みじか)し
一名/招豆藤(せうづとう)
○石斛(せきこく)は石上(せきじやう)に
生ず胃(ゐ)の気(き)を
平(たいらか)にし皮膚(ひふ)
の邪熱(じやねつ)をさる一
名/石蓫(せきちく)
【右頁下段】
藤(とう)《割書:ふじ》

石斛(せきこく)《割書:いはくすり》
【左頁上段】
○棣棠(やまぶき)は花黄にし
て一重(ひとへ)有/八重(やゑ)有
三月花さくあるひ
は地棠花(ぢたうくは)となづく
○巻栢(いはひば)は一名を地(ぢ)
栢(はく)と云/石間(せきかん)に生(しやう)ス
生(しやう)にて用(もちゆ)れば血(ち)
を破(やぶり)炙(あぶ)れは血(ち)を止(とむ)
○玉栢(まんねんぐさ)は一名/万年(まんねん)
松(せう)とも云/長(なが)きを石(せき)
松(せう)又/玉遂(ぎよくすい)ともいふ
【左頁下段 挿絵】
棣棠(ていとう)《割書:やまぶき》

  《割書:いは| ひ|  ば》
巻栢(けんはく)

玉栢(ぎよくはく)
《割書: まんねん|   ぐさ》
【左頁上欄書入れ】110
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十二

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十二
【右頁上段】
○葦(あし)は水辺(すいへん)に
生(しやう)ずいまた秀(ひいで)ざ
るを芦(ろ)といふ長(ちやう)
成(せい)すると葦(い)と云
葉(は)は竹(たけ)に似(に)て花
は荻(おぎ)のごとし
○蓮(はちす)は花/紅白(こうはく)有
葉(は)を荷(か)といひ根(ね)
を藕(くう)といひ花を
芙蓉(ふよう)といひ実(み)を
蓮菂(れんてき)といふ
【右頁下段】
葦(い)《割書:あし》

蓮(れん)《割書:はち| す》
【左頁上段】
○菖(しやう)は一寸九/節(せつ)
なるものを菖(しやう)
蒲(ぶ)と名付(なつく)冬至(とうじ)
の後(のち)五十七日にし
てはじめて生(しやう)ず
○菰(まこも)は水辺(すいへん)に生(しやう)
ず菖(あやめ)にゝたり一名
茭草(かうさう)又/蒋草(しやうさう)ト云
○蒲(がま)は水辺(すいへん)に生
す筵(むしろ)に織(をる)べし蒲(ほ)
槌(つい)がまほこ花上(くはじやう)の
黄粉(くはうふん)を蒲黄(ほくはう)と云
○萍(うきくさ)は水上(すいじやう)にあり
て根(ね)なし血色(けつしよく)の如(ごと)
【左頁下段 挿絵】
菖蒲(しやうぶ)

菰(こ)《割書:まこ|  も》

萍(へい)
《割書: うき|  くさ》

蒲(ほ)
《割書: がま》
【左頁上欄書入れ】111
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十三

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十三
【右頁上段】
くなるを紫萍(しへい)ト云
○薜(すげ)は水辺(すいへん)に生ず
香附子(かうぶし)の苗(なへ)ににたり
一名/莎(さ)白(はく)薹(たい)
○藺(ゐ)は沢地(たくち)に生ず
茎(くき)円(まとか)に細(ほそ)く長(なが)し
痳病(りんびやう)に煎(せん)じ用(もち)ゆ
○芡(みづぶき)は中(うち)を補(おぎな)ひ気(きを)
ます多(おほ)く喰(くらへ)は風(ふう)
気(き)をうごかす実(み)
を芡実(けんじつ)といふ
○藎(かりやす)は九月十月に
とる緑色(みとりいろ)也/絹(きぬ)を染(そむ)
一名/黄草(わうさう)菉竹(りよくちく)王芻(わうすう)
○莕(あさゝ)は水底(すいてい)に生す
茎(くき)は釵(かんざし)のごとし上/青(あをく)
て下白し花(はな)黄(き)に
【右頁下段】
薜(せつ)《割書:すげ》

藺(りん)《割書:ゐ》

莕(きやう)
《割書: あさゝ》

芡(けん)《割書:みづ|  ぶき》

藎(じん)《割書:かり| やす》
【左頁上段】
葉(は)紫(むらさき)にまるし荇(かう)
おなじ
○葒(けたで)は茎(くき)ふとく毛(け)
あり葉(は)に赤(あか)みあり
実(み)も大きなり
○蘇(しそ)はくき方(けた)にし
て葉(は)まるく歯(は)有
色(いろ)紫(むらさき)なり桂荏(けいしん)同
実(み)も葉(は)も薬種(やくしゆ)
にもちゆ
○蓼(たで)はくはくらんを
やめ水気(すいき)面(おもて)うそばれ
たるを治(ぢ)し目(め)を明(あきらか)にす
○萹蓄(うしぐさ)は三月に
ちいさき赤(あか)き花を
生ず和名(わみやう)にわやな
き扁竹(へんちく)同
【左頁下段 挿絵】
萹蓄(へんちく)《割書:うし| ぐさ》

葒(こう)
《割書:けたで》

蘇(そ)《割書:のらえ|  しそ》

蓼(れう)《割書:たで》 《割書:水蓼(すいれう)|  いぬたで》
【左頁上欄書入れ】112
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十四

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十四
【右頁上段】
○菊(きく)は百/種(しゆ)あり
花も数品(すひん)あり頭(づ)
痛(つう)目(め)を明(あき)らかに
し年(とし)をのぶると
いへり薬(くすり)には黄色(きいろ)
なる菊(きく)に一/種(しゆ)あり
○莣(おばな)は茅(ちがや)にゝたり
皮(かは)は縄(なわ)又は履(くつ)につ
くるなり大を石芒(せきばう)
小を芭芒(はばう)といふ
○荏(え)は白蘇(はくそ)とも
いふ山野(さんや)に多(おほ)く
生(しやう)ず油(あぶら)おほし
えのあぶらといふ
【右頁下段 挿絵】
《割書:女節(じよせつ)|   花》
菊(きく)
《割書:かはら| よもぎ》

莣(はう)《割書:おばな|すゝき》

荏(じん)《割書:え|はくそ》
【左頁上段】
○牽牛(あさがほ)は葉(は)三
尖(とがり)あり花はむらさ
き白はむかしより
有/近比(ちかごろ)新花(しんくは)出
て紅絞(べにしぼり)飛入(とびいり)花形(くはぎやう)
も品々(しな〳〵)あり
○鼓子(ひるがほ)は花のかた
ち軍中(ぐんちう)に吹(ふく)鼓子(くし)
のごとし故(ゆへ)に鼓子(くし)
花といふ又/旋(せん)葍(ふく)
花(くは)ともいふ
○蒴藋(そくづ)は枝(えだ)ことに
五/葉(よう)花白く実(み)
青(あを)く緑豆(ふんどう)のことし
痛所(いたみしよ)に葉(は)を付
煎(せん)じ洗(あら)ふてよし
一名/接骨草(せつこつさう)
【左頁下段 挿絵】
鼓子(くし)
《割書: ひるがほ》

牽牛(けんご)
《割書: あさ|  がほ》

蒴藋(さくてき)
《割書:そく|  つ》
【左頁上欄書入れ】113
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十五

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十五
【右頁上段】
○水仙花(すいせんくは)は冬(ふゆの)
初(はじめ)より花ひらき
初春(しよしゆん)まで花有
かたち酒盃(しゆはい)の如く
黄(き)なる物有花び
らは白しよつて金(きん)
盞銀台(さんきんだい)といふ
葉(は)は石蒜(せきさん)にゝたり
○麦門冬(ぜうがひげ)は四月
にうすむらさきの
花ひらく実(み)緑(みとり)に
して珠(ま)【元禄八年版「たま」】のごとく丸(まる)
し秋(あき)の比(ころ)みのる此
根(ね)を薬(くすり)に用(もち)ゆ
【右頁下段 挿絵】
水仙花(ずいせんくは)

麦門冬(ばくもんう)【元禄八年版「ばくもんとう」】
《割書:  せうがひけ》
【左頁上段】
○瞿麦(なでしこ)は花の色(いろ)
薄紫(うすむらさき)六月にさく
河原(かはら)に多(おほ)し近(ちか)
比(ごろ)は新花(しんくは)あり色
も品々(しな〳〵)あり
○石竹(せきちく)は撫子(なでしこ)によく
似(に)て花/紅白(こうはく)又は絞(しぼり)
など種々(しゆ〳〵)あり五六
月に花さく一重(ひとへ)千(せん)
重(ゑ)あり
○玉簪(ぎぼうし)は葉(は)大なり
秋花さく色うす紫(むらさき)
数品(すひん)ありて色もかは
れり一名/白鶴仙(はくくはくせん)
【左頁下段 挿絵】
瞿麦(くばく)《割書:なでしこ》

石(せき)
 竹(ちく)

玉簪(ぎよくさん)
《割書:ぎ| ぼう|   し》
【左頁上欄書入れ】114
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十六

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十六
【右頁上段】
○蒼朮(さうじゆつ)は花うす
赤(あか)し脾(ひ)をすこやか
にし湿(しつ)をかわかし中(うち)
をゆるくす山薊(さんけい)と
もいふ花白きは白朮(ひやくじゆつ)也
○木賊(もくぞく)は目(め)のかすみ
を退(しりぞけ)積塊(しやくくわい)を消(せう)す
和名(わみやう)とくさ板(いた)など
おろし磨(みがく)に用(もち)ゆ
○山葱(さんさう)は一名を膈(かく)
葱(さう)とも又/鹿耳(ろくに)
葱(さう)ともいふ俗(ぞく)に
いふぎやうじやにん
にくなり
【右頁下段 挿絵】
蒼朮(さうじゆつ)
《割書: おけら》

木賊(もくぞく)
《割書:とく|  さ》

山葱(さんさう)
《割書: ぎやうじや|   にんにく》
【左頁上段】
○石荷(ゆきのした)は一名/虎耳(こし)
草(さう)といふ水湿(すいしつ)の地(ち)
に生す五月花/咲(さく)
○馬勃(ばぼつ)は湿地(しつち)くち
木のうへなとに生
ずのどのいたみを
治(ぢ)す灰菰(くはいこ)牛尿(ぎうし)
菰(こ)となづく
○石韋(ひとつば)は湿地(しつち)に
生ず葉(は)大にして
かたく皮(かわ)のごとし枝(えた)
なく一/葉(よう)づゝ生ず
労熱(らうねつ)邪気(じやき)をつかさ
とり痳病(りんびやう)を治(ち)す
○螺厴(まめづる)は一名/鏡面(きやうめん)
草(さう)といふ石上に生ス
かゞみぐさ又/豆(まめ)ごけ
【左頁下段 挿絵】
馬勃(ばぼつ)《割書:おに| ふすべ》

石荷(せきか)《割書:ゆきのした》

石韋(せきい)
《割書: ひとつば》

螺厴(らゑん)《割書:まめづる》
【左頁上欄書入れ】115
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十七

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十七
【右頁上段】
○芭蕉(ばせを)は葉(は)落(おち)
ず一/葉(よう)のぶる時は
一/葉(よう)焦(こがる)よつてこ
れを芭蕉(ばせを)といふ
○苧(まを)皮(かは)をはぎて
布(ぬの)を織(をる)さらし布(ぬの)は
これなり紵(ちよ)同から
うしともいふ
○艾(よもぎ)は春(はる)苗(なへ)を生し
秋/小(ちいさ)き花さく艾(かい)
蒿(かう)なり又蓬蒿(はうかう)
といふ
○薢(かい)は腰(こし)背(せなか)いた
みこはりたるを治(ぢ)し
腎(じん)をおぎなひ筋(すぢ)
をかおたくし精(せい)を
まし目(め)を明(あきらか)にす
【右頁下段 挿絵】
芭(ば)
 蕉(せを)

薢(かい)
《割書: とこ|  ろ》

苧(ちよ)《割書:まを》

艾(がい)《割書:よもぎ》
【左頁上段】
○華蔓草(けまんさう)はは
なのかたちけまんの
かざりによく似(に)たり
薄紅色(うすべにいろ)なり三月
花さく
○鼠麴(はゝこくさ)は小(ちいさ)く黄(き)な
る花さく鼠(ねずみ)の耳(みゝ)
の毛(け)のことくなる実(み)を
生す又/鼠耳草(そじさう)と
もいふ
○羊蹄(きし〳〵)は一名/禿(とつ)
菜(さい)とも又/牛舌菜(ぎうぜつさい)
ともいふ実(み)を金蕎(きんけう)
麦(ばく)といふ
【左頁下段 挿絵】
華蔓(けまん)

鼠麴(そきく)
《割書: はゝこぐさ》

羊蹄(ようてい)《割書:ぎし〳〵》
【左頁上欄書入れ】116
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十八

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十八
【右頁上段】
○陵苕(のうせんかつら)は木(き)にま
とふ夏(なつ)より秋迄
花/咲(さく)色(いろ)赤(あか)し又
陵霄花(れうせうくは)といふ
○藍(あひ)は葉(は)蓼(たで)に
似(に)て大(おほい)なりいぬた
での如(ごと)く葉(は)の中(なか)に
黒(くろ)きてんあり五六月ニ
紅(くれない)の花さく葉を
染色(そめいろ)にもちゆ
○茜(あかね)はあかき色(いろ)を
そむる草(くさ)なり一
名/地血(ぢけつ)といふ又/染(せん)
緋草(ひさう)ともいふ
【右頁下段 挿絵】
藍(らん)
《割書: あひ》

《割書:  のうぜん|   かづら》
陵苕(れうてう)

茜(せん)《割書:あかね》
【左頁上段】
○山薑(いぬはじかみ)は葉(は)姜(はじかみ)に
似(に)て花あかし子(こ)は
草豆蒄(さうづく)にゝてね
は杜若(かきつばた)にゝたり一名
美草(びさう)
○沢漆(たうだいぐさ)は葉(は)馬歯(すべり)
莧(ひゆ)に似(に)たり円(まとか)にし
てみどり碧(あを)き花
さく毒草(どくさう)なり
○蓖麻(たうごま)は葉(は)瓠(ひさご)の
葉(は)のごとく中(うち)空(むなしう)
して五また有/秋(あき)
花さき実(み)をむす
ぶ実(み)に刺(はり)あり
【左頁下段 挿絵】
山薑(さんきやう)
《割書: いぬはじ|     かみ》

澤漆(たくしつ)
《割書: たう|  だい|   ぐさ》

蓖麻(ひま)
《割書: たうごま》
【左頁上欄書入れ】117
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十九

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        十九
【右頁上段】
○蒼耳(をなもみ)は葉(は)茄子(なすび)
のごとし風湿(ふうしつ)づつう
気(き)をまし目(め)を明(あきらか)
にししびれを治(ぢ)ス
○車前(おほばこ)はながきほ
を出す七八月の比(ころ)
実(み)をとる芣苡(ふい)牛(ぎう)
舌(せつ)同
○竜芮(うしのひたい)は四五月に
黄(き)なる花さき実(み)
をむすぶ大さ豆(まめ)の
ごとし一名/地椹(ぢしん)
○防風(ばうふう)は正月に
葉(は)を生(しやう)じ五月
に黄(き)なる花さき
六月にくろき実(み)を
むすぶ
【右頁下段 挿絵】
車前(しやぜん)
《割書:  おほばこ》

蒼耳(さうに)《割書:をな| もみ》

龍芮(りうぜい)《割書: |うしの| ひたい》

《割書:  はま|    にがな》
防風(ばうふう)
《割書:苗(なへ)を珊瑚菜(さんごさい)と|       いふ》
【左頁上段】
○紅花(こうくは)は血(ち)をやぶ
り瘀血(をけつ)のいたみを
とめ大べんを通(つう)ず
花をとりて紅(べに)とす
○積雪(かきどをし)は本名(ほんみやう)つぼ
くさといふ葉(は)まるく
して銭(ぜに)のごとくつる
なり連銭草(れんぜんさう)胡(こ)
薄荷(はつか)並同
○苦参(くらゝ)は葉(は)槐(えんじゆ)に似(に)
たり花/黄色(きいろ)にして
実(み)はさや有/根(ね)甚(はなは)だ
にがし水槐(すいくはい)地槐(ぢくはい)同
○蛇牀(じやしやう)は気(き)をくだし
中(うち)をあたゝめ瘀(を)を
おい風をさる■(き)【元+由、訓蒙図彙「虺」】牀(しやう)
蛇栗(じやりつ)同
【左頁下段 挿絵】
紅花(こうくは)《割書:べにの|はな》

積雪(しやくせつ)
《割書: かきど|  を|   し》

苦(く)
  参(じん)
《割書:   くらゝ》

蛇牀(じやしやう)
《割書:   ひる|    むしろ》
【左頁上欄書入れ】118
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        二十

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        二十
【右頁上段】
○鼠莽(しきみ)は実(み)は天(また)
蓼(たび)の実(み)のごとし
毒(どく)あり
○葛(くず)は粉(こ)は渇(かつ)を止(やめ)
ゑづきをとめ胃(ゐ)を
ひらき酒(しゆ)どくを解(け)
し大小/便(べん)を利(り)し
熱(ねつ)をさる
○紫草(しさう)は九竅(きうけう)を
つうじ水(みず)を利(り)しは
れを消(せう)すほうさ
うによし一名/茈(し)
䓞(れい)といふ
○鴨跖(かうせき)は野外(やぐはい)に生
ず花あをし
碧蝉花(へきせんくは)笪竹花
並同
【右頁下段 挿絵】
《割書:しき| み》
鼠(そ)
 莽(まう)

紫草(しさう)
《割書: むら|  さき》

葛(かつ)《割書:くず》

鴨跖(かうせき)《割書:ついくさ》
【左頁上段】
○南星(なんせう)は風疾(ふうしつ)を治(ぢ)
し身(み)をやぶりこわ
ばりたるによし又/虎(こ)
掌(しやう)鬼(き)■(く)【艹+竭、蒟ヵ】蒻(にやく)といふ
○防已(ばうい)は風湿(ふうしつ)脚気(かつけ)
の痛(いたみ)を治(ぢ)し癰(よう)はれ
痛(いたむ)を治(ぢ)す解離(かいり)共云
○牛膝(ごしつ)湿(しつ)にてしびれ
なへ腰(こし)脚(あし)いたむを治(ぢ)ス
山/莧菜(けんさい)対節菜(たいせつさい)
となづく
○水莨(たからし)はおこりに此
葉(は)を寸口(すんこう)に付れはお
つるなり大毒(だいどく)あり
○絡石(ていかかづら)は葉(は)橘(たちばな)の如(ごと)
く花白く実(み)くろし
石をまとふ
【左頁下段 挿絵】
天南星(てんなんせう)
《割書:   おほ|    そみ》

絡石(らくせき)
《割書:  ていか|   かづら》

防已(ばうい)《割書:つゞら| ふぢ》

牛膝(ごしつ)《割書: |ゐのこ| づち》

水莨(すいらう)《割書:たからし》
【左頁上欄書入れ】119
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿一

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿一
【右頁上段】
○茴香(ういきやう)は疝気(せんき)を
のぞき腰(こし)はらのい
たみをやめ胃(ゐ)を
あたゝむ蘹香(くはいかう)同
○■(めな)【艹+稀、豨ヵ】薟(もみ)は花/黄(き)
白なり一さいの毒(どく)
虫(むし)のさしたるに此
葉(は)をもみて汁(しる)を
付てよし
○天茄(こなすび)は一名/龍葵(りうき)
といふ葉(は)茄(なすび)ににて
小なり五月のすへ
小(ちいさ)き白花をひら
き小(ちいさ)き青(あを)き実(み)のる
【右頁下段 挿絵】
茴香(ういきやう)
《割書:くれの|  おも》

■(き)【艹+稀、豨ヵ】薟(けん)
《割書: めな|  もみ》

天茄(てんか)《割書:こな| すび》
【左頁上段】
○蒿(かう)は青蒿(せいかう)又/蓬(ほう)
蒿(かう)といふ藾蕭萩
同邪気を払ふ
○茺蔚(じゆうい)は益母草(やくもさう)
といふ湿地(しつち)に生ず
○茵蔯(ゐんちん)は葉(は)のう
ら白くまた有九
月にほそき黄(き)な
る花さく
○玄及(げんきう)は実(み)を五
味子(みし)といふ枝(えだ)を切(きり)
水につけ置(をけ)はね
ばり出る油(あぶら)のかはり
に髪(かみ)に付る
○地膚(ぢふ)は若葉(わかば)をく
らふ落帚(らくしう)独帚(とくしう)同
此木(このき)を帚(はうき)とす
【左頁下段 挿絵】
青蒿(せいかう)《割書:かはら| よもぎ》

茺蔚(じゆうい)《割書:めはしき》

玄(げん)
 及(きう)
《割書:さねかつら》

茵蔯(いんちん)《割書: |かはらよもぎ》

地膚(ぢふ)《割書:はゝきゞ》
【左頁上欄書入れ】120
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿二

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿二
【右頁上段】
○忍冬(にんとう)は木にま
とふ葉(は)青(あを)く毛(け)有
三四月花さく初(はじめ)は白(しろ)
く後(のち)に黄(き)なり仍而(よつて)
金銀花(きん〴〵くは)といふ
○茅(ばう)は水をくたし血(ち)
を破(やぶ)り小/腸(ちう)をつうじ
消渇(せうかつ)鼻血(はなぢ)下血(げゝつ)を
治(ぢ)す又/荑(てい)といふ
○萍蓬(かうほね)は水沢(すいたく)に
生す葉(は)慈姑(おもだか)に
にたり水栗(すうりつ)骨(こつ)
蓬(はう)同
○藻(も)は水に有/葉(は)
大なるは馬藻(ばさう)葉(は)の
ほそきは水蘊(すいうん)と云
馬尾藻(ばびさう)ほだはら
【右頁下段 挿絵】
忍冬(にんどう)《割書:すいかづら》

茅(ばう)《割書:菅茅(くはんはう)|   かや》 《割書:白茅(はくばう)| つばな》

藻(さう)《割書:も》

萍蓬(へいほう)《割書:かうほね》
【左頁上段】
○菝葜(えびついばら)は山野(さんや)に
多(おほ)し茎(くき)かたくし
て刺(はり)あり葉(は)丸(まる)く
大(おゝい)にして馬(むま)の蹄(ひつめ)
のごとし秋あかき
実(み)のる
○萩(はぎ)は郊野(かうや)に生
ずるを野萩(のはぎ)と云
葉(は)さきとがり花/少(ちいさ)
き也/宮城野(みやぎの)といふは
花/紅白(こうはく)有て大(おゝい)なり
【左頁下段 挿絵】
萩(しう)《割書:はぎ》

菝葜(はつかつ)
《割書: えびつ|  いばら》
【左頁上欄書入れ】121
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿三

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿三
【右頁上段】
○建蘭(けんらん)は今いふ
白蘭(はくらん)なり一に
蕙花(けいくは)ともいふ又
鉄脚蘭(てつきやくらん)ともいふ
○金燈(きつねのかみそり)は石蒜(せきたん)
といふしびとばな也
一名/鬼燈檠(きとうけい)又
曼珠沙花(まんじゆしやけ)とも
いふ秋の末(すへ)赤(あか)き
花さく茎(くき)は矢(や)から
の如しよつて一枝箭(いつしせん)
【右頁下段 挿絵】
建蘭(けんらん)
《割書: しう|  くき》

金燈(きんとう)《割書:きつねの| かみ|  そり》
【左頁上段】
○石帆(うみまつ)は石上(せきじやう)に生ず
○茎(くき)はくきなり
𦼮(かん)【艹+幹】同/茎( き)【元禄八年版「くき」】の衣(ころも)を
苞(はう)といふはかま也
草根(くさのね)を荄(かい)といふく
さのねなり
○薹(たい)はふき萵(ちさ)な
どのたうなり葶(てい)

○葩(は)ははなびらなり
花片(くはへん)花瓣(くはべん)並同
【左頁下段 挿絵】
莖(きやう)《割書: |くき》

石帆(せきはん)
《割書: うみまつ》

葩(は)
《割書:はなびら》

薹(たい)《割書: |たう》
【左頁上欄書入れ】122
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿四

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿        廿四
【右頁上段】
○蔓(まん)はつるなり
木(き)の本(もと)を藤(ふぢ)といふ
草(くさ)の本(もと)を蔓(つる)と云
○苞(はう)はつぼみなり
蓓蕾(ばいらい)同
○蕋(ずい)は花のしべ
なり蕊(ずい)蘃(ずい)な
らびに同又/花心(くはしん)
ともいふ
○萼(がく)ははなぶさ
なり花蔕(くはたい) 花(くは)
柎(ふ)ならびに同
【右頁下段 挿絵】
蔓(まん)
《割書: つる》

苞(はう)《割書: |つぼみ》

萼(がく)《割書:はなぶさ》

蕋(ずい)
《割書: しべ》
【左頁】
頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之廿一
   雑類(ざうるい) 《割書:此部(このぶ)には諸天(しよてん)神仙(しんせん)聖賢(せいけん)仏菩薩(ぶつぼさつ)諸祖師(しよそし)|其外(そのほか)人物(じんぶつ)の部(ぶ)に洩(もれ)たるを補(おぎな)ひしるす》
【左頁上段】
  二王金剛(にわうこんがう)
○右(みき)を右弼(うひつ)金剛(こんがう)と云
人の生善(せうぜん)をよろこび
たまふ那羅延金剛(ならゑんこんがう)
ともいふ
○左(ひだり)を左輔金剛(さほこんがう)と
いふ人の断悪(だんあく)をよろ
こびたまふ密迹金(みつしやくこん)
剛(がう)ともいふ仏法(ふつほう)の守(しゆ)
護神(ごじん)なれば三門(さんもん)に
安/置(ち)す
【左頁下段 挿絵】
右(う)
弼(ひつ)
金(こん)
剛(がう)
 
左(さ)
輔(ほ)
金(こん)
剛(がう)
【上欄書入れ】Fase.10     10   123
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        一

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        一
【右頁上段】
○持国(ぢこく)天王/乾達婆(けんだつば)
毘舎闍(びしやじや)を足下(そくか)に踏従(ふみしたが)へ
て東方(とうばう)を守護(しゆご)したま
ふ四天王の第一(だいいち)なり
○増長(ぞうちやう)天王/鳩槃荼(くはんだ)
薜茘多(びやくれいた)を足下(そくか)に踏(ふみ)
従(したが)へ南方(なんばう)を守護(しゆご)した
まふ四天王の第(だい)二なり
○広目(くはうもく)天王/龍(りやう)及(およ)び富(ふ)
單那(たんな)を足下(そくか)にふみした
がへ法界(ほうかい)を安立(あんりう)し西方(さいほう)
を守護(しゆご)したまふ
○毘沙門(びしやもん)天皇/夜叉(やしや)羅(ら)
刹(せつ)を足下(そくか)にふみしたがへ
北方(ほつはう)を守護(しゆご)したまふ大
悲多聞(ひたもん)天王ともいふ
【右頁下段 挿絵】
持国(ぢこく)
 天王

毘沙門(びしやもん)
 天王
【左頁上段】
○韋駄天(いだてん)は仏法(ぶつほう)の守(しゆ)
護人(ごじん)なり魔王(まわう)仏舎(ぶつしや)
利(り)を奪(うばひ)とり逃(にげる)を追欠(おつかけ)
取返(とりかへ)し給ふなり禅家(ぜんけ)は
厨(くり)に安置(あんち)す
○鐘馗(しようき)は唐(たう)の明皇(めいくはう)夢(ゆめ)
に臣(しん)は終南(しうなん)の進士(しんじ)鐘馗(しようき)
なり天下(てんか)の虚耗(きよがう)妖孽(ようげつ)
を厭(はら)はんと見給ふ故(ゆへ)に
呉道士(ごだうし)に命(めい)して其(その)形(かたち)を
図(づ)せしめ天下(てんか)に伝(つた)ふと云
【左頁下段 挿絵】

 韋(ゐ)
  駄天(だてん)
 

 鐘馗(しやうき)
【上欄書入れ】124
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        二

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        二
【右頁上段】
 弁才天女(べんざいてんによ)
○衆生(しゆじやう)に智恵(ちゑ)福(ふく)
をあたへたまふなり
琵琶(びわ)を弾(たん)じたまふ相(さう)
をもつて又は妙音(めうをん)
天女ともいふ
 福禄寿(ふくろくじゆ) 
○福神(ふくじん)なり天南星(てんなんせい)
といふ星(ほし)の化現(けげん)なり
頭(かしら)ながくして柱杖(しゆじやう)に
経(きやう)を結(ゆひ)そへてもてり
鶴(つる)を愛(あい)す又/鹿(しか)を
愛(あい)すともいふ
【右頁下段 挿絵】
弁才(べんざい)
 天女(てんによ)
 
福禄寿(ふくろくじゆ)
【左頁上段】
 大黒天(だいこくでん)
○八万四千の眷属(けんぞく)
あり貧困(ひんこん)を転(てん)じて
福者(ふくしや)となさんと誓(ちかひ)
たまふ摩伽羅神(まからじん)と
もいふなり
 蛭子(ゑびす) 
○伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の第三
の御/子(こ)日(ひ)の神(かみ)の御
弟/西宮(にしのみや)蛭子(ゑびす)三郎/殿(どの)
といふなり市(いち)の売(ばい)
買(〳〵)を守(まも)り給ふ御/神(かみ)
なり
【左頁下段 挿絵】
大(だい)
黒(こく)
天(でん)
 
蛭子(ゑびす)
【上欄書入れ】125
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        三

    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        三
 布袋(ほてい)
○志那(しな)の散聖(さんせい)にし
て弥勒菩薩(みろくぼさつ)の化身(けしん)
なりといへり常(つね)に布(ぬの)
の袋(ふくろ)を負(おひ)てあそべ
りゆへに布袋(ほてい)和尚(おしやう)
と名(な)づけたり
 寿老人(じゆらうじん)
○福神(ふくじん)なり老人星(らうじんせい)と
いふ星(ほし)の化現(けげん)なり白(はく)
髪(はつ)にして帽子(ほうし)をかぶ
り柱杖(しゆぢやう)をもてり鹿(しか)を
愛(あい)す
【右頁下段 挿絵】
布袋(ほてい)

寿老(じゆらう)
【左頁上段】
○伏羲氏(ふつぎし)唐土(もろこし)の帝王(ていわう)
大/聖人(せいじん)なり此(これ)人生(じんせい)の始(はじめ)に
て網罟(まうこ)を作(つくり)て猟(かり)漁(すなどり)を
民(たみ)に教(おしへ)給ふ又/画(ぐわし)_二 八/卦(けいを)_一
瑟琴(しつきん)造(つくり)たまふ
○神農氏(しんのうし)は同/帝王(ていわう)にて
聖人(せいじん)なり民(たみ)に五穀(ごこく)を作(つくる)
事を教(おし)へ又/市(いち)をなし
交易(かうえき)の利(り)を施(ほどこ)し給ふ
帝(みかど)草木(さうもく)を味(あちは)ひ寒温(かんうん)
平熱(へいねつ)の性(しやう)を察(さつ)し人身(じんしん)
の病(やまひ)を療(りやう)ずる事を教(おし)へ
給ふ此(これ)より医道(ゐとう)おこる
【左頁下段 挿絵】

 神農(しんのう)
 

 伏羲(ふつき)
【上欄書入れ】126
    【柱】頭書増補訓蒙図彙廿一        四

○倉頡(さうけつ)は黄帝(くはうてい)の代(よ)
の人なり眼(まなこ)四ツあり鳥(とり)
の足跡(あしあと)を見(み)て始(はじめ)て
文字(もんじ)を作(つく)る是(これ)文字(もんじ)の
祖(そ)たり
○黄帝(くはうてい)は軒轅氏(けんゑんし)といふ
蚩尤(しゆう)といふ逆臣(ぎやくしん)を亡(ほろぼ)し
帝位(ていゐ)に即(つき)給ふ聖人(せいじん)也
此時(このとき)より暦算(れきさん)律呂(りつりよ)
宮室(きうしつ)書契(しよけい)冠服(くはんふく)等(とう)こ
と〴〵く具(そなは)る又/始(はじめ)て舟(ふね)
を作(つく)り給ふ元妃(げんひ)に命(めい)
じて蠶(こがひの)業(わざ)を教(おしへ)給ふ
【右頁下段 挿絵】
倉頡(さうけつ)

黄帝(くはうてい)
【左頁上段】
○孔子(こうし)は唐土(もろこし)周(しう)の代(よ)の人
尭(ぎやう)舜(しゆん)の道(みち)を弘め五/常(じやう)
を教(おしへ)給ふ文宣王(ぶんせんわう)ともいふ
儒宗(しゆそう)の大/聖人(せいじん)なり
○老子(らうし)は周(しう)の代(よ)蔵室(ぞうしつ)
の吏(し)たり生れながら白(はく)
髪(はつ)なり道経(とうきやう)五千/言(げん)を
顕(あら)はし無為自然(むいしぜん)の道(みち)を
教(おしへ)給ふ道士(どうし)の大祖(たいそ)神人(しん〴〵)
なり其(その)終(おはり)をしらず
○許由(きよゆう)は尭帝(ぎやうてい)位(くらい)を譲(ゆづ)
らんとの給ふを聞(きゝ)て其(その)耳(みゝ)
汚(けが)れたりとて潁川(えいせん)の滝(たき)に
いたり耳(みゝ)を洗(あらひ)し賢人(けんじん)なり
【左頁下段 挿絵】
老子(らうし)

孔子(こうし)

許由(きよゆう)

【右頁上段】
○維摩(ゆいま)居士(こじ)ともいへり
手(て)に払子(ほつす)を持(もち)方丈(ほうじやう)
の内に八方の師子(しし)の座(ざ)
をかざり三千の大衆(たいしゆ)を
入て法門(ほうもん)をヽし給へり
○山越(やまごし)の弥陀(みだ)は比叡山(ひえいざん)
横川(よかは)の峰(みね)に阿弥陀仏(あみだぶつ)
の尊容(そんよう)を現(げん)じ給ふを
惠心(ゑしん)僧都(そうづ)拝(おが)み給ひて
写(うつ)し給ひけるとかや
○聖徳太子(しやうとくたいし)は人王卅二代
用明天皇(ようめいてんわう)の皇子(わうじ)なり
卅四代/推古天皇(すいこてんわう)の御宇(ぎよう)
摂政(せつしやう)たり日本(につほん)仏法(ふつほう)の
祖(そ)なり守屋(もりや)を亡(ほろぼ)し摂州(せつしう)
天王寺(てんわうじ)を建立(こんりう)し給ふ
【右頁下段 挿絵】
維摩(ゆいま)

山越弥陀(やまごしのみだ)

聖徳太子(しやうとくたいし)
【左頁上段】
○出山(しゆつさん)の釈迦(しやか)は如来(によらい)
十七/歳(さい)にして出家(しゆつけ)し
三十歳の御/時(とき)十二月八
日/明星(みやうぜう)の出(いづ)るとき廓(くはく)
然大悟(ねんだいご)をしめし正/覚(がく)
を成(なし)たまへり
○誕生仏(たんじやうぶつ)は釈迦如来(しやかによらい)
卯(う)月八日寅の尅(こく)に誕(たん)
生(じやう)し給ひ七/歩(ぶ)あゆみ
御/手(て)の左右(さゆう)をもつて
上下をゆびさして天
上天/下(げ)唯我独尊(ゆいがどくそん)と
のたまへりとかや入滅(にうめつ)は
二月十五日なり
【左頁下段 挿絵】
出山(しゆつさんの)釈(しや)迦
 
誕生物(たんじやうぶつ)

【右頁上段】
○初祖(しよそ)達磨(だるま)は梁(りやう)の
武帝(ぶてい)にまみへ江をわた
りて魏(ぎ)の少林寺(せうりんじ)に入
たまふ世(よ)に芦葉(ろよう)の達(だる)
磨(ま)とも又は一/葦(ゐ)の達(だる)
磨(ま)ともいふ
○不動明王(ふどうみやうわう)右の手(て)に
利剣(りけん)を持(もち)左に搏(ばく)の縄(なわ)
を持(もち)給ふは衆生(しゆじやう)の邪悪(じやあく)
をいましめ給ふすがたなる
べし後(うしろ)の炎(ほのふ)は動(どう)ぜぬ
かたち又/凡人(ぼんにん)の怒(いかり)のていを
あらはし示(しめ)し給ふなるべし
【右頁下段 挿絵】
達磨(たるま)
 尊者(そんじや)

不動明王(ふどうみやうわう)
【左頁上段】
○龍猛菩薩(りうみやうぼさつ)は南天竺(なんてんぢく)
に出生(しゆつしやう)釈尊(しやくそん)より八百年
後(のち)なり真言宗(しんごんしう)第一の
祖(そ)なり大日/経(きやう)金剛頂(こんがうてう)経
蘇悉地経(そしつちきやう)を弘(ひろ)め給ふ
○善導大師(ぜんどうだいし)は唐土(もろこし)長(ちやう)
安(あん)の滝(たき)より出現(しゆつげん)し給ふ
三十/余年(よねん)少(すこし)も睡眠(すいみん)せ
ず唐(とうの)永隆(ゑいりう)二年三月十四
日/遷化(せんげ)
○天台(てんだい)大/師(し)は陳(ちん)隋(ずい)二代
の国師(こくし)唐土(もろこし)天台宗(てんだいしう)の開(かい)
祖(そ)十一月廿四日六十歳にて
入滅(にうめつ)智者大師(ちしやだいし)ともいふ
【左頁下段 挿絵】
龍猛(りうみやう)

善導(ぜんどう)
 大師(たいし)

天台大師(てんだいだいし)

【右頁上段】
○六/祖大師(そだいし)は唐土(もろこし)にて
達磨(たるま)より第六/祖諱(いみな)は
惠能(ゑのう)此下(このした)より禅宗(ぜんしう)五
家(か)にわかる大/監(かん)禅師(ぜんじ)は
おくり号(がう)なり 
○伝教(でんぎやう)大師は㝡證(さいてう)とも
いふ日本(につほん)天台(てんだい)の開祖(かいそ)なり
延暦(ゑんりやく)廿一年に入唐(につとう)五十六
歳六月四日/入滅(にうめつ)
○役行者(ゑんのきやうじや)は役小角(ゑんのせうかく)とも
いふ和州(わしう)の人/葛城山(かづらきやま)に入
て孔雀明王(くじやくみやうわう)の法(ほう)を行(おこな)ひ
後(のち)に母(はゝ)を鉢(はち)入て入唐(につとう)し
たまふ
【右頁下段 挿絵】
伝教(でんぎやう)
 大師(だいし)

六/祖(そ)大師(だいし)

役行者(ゑんのぎやうじや)
【左頁上段】
○寒山子(かんざんし)は初唐(しよたう)の人
天台山(てんだいさん)に隠(かく)れて常(つね)
に拾得(しつとく)と法友(ほうゆう)たり後(のち)に
去(さる)所(ところ)をしらず文殊(もんじゆ)の
化身(けしん)なりといふ
○拾得(じつとく)は豊于禅師(ぶかんぜんじ)の
道(みち)のかたはらに拾(ひろ)ひ得(ゑ)
たるゆへ拾得(じつとく)といふ常(つね)に
寒山(かんざん)とまじはるその終(おはり)
をしる人なし
○巨霊人(これいしん)は大/力(りき)神通(じんつう)
を得(え)たる仙人(せんにん)なり山を
劈(つんざく)の力(ちから)あり常(つね)に白虎(びやくこ)
を愛(あい)す
【左頁下段 挿絵】
寒山(かんざん)

拾得(じつとく)

巨霊人(これいじん)

【右頁上段】
○費長房(ひちやうぼう)は後漢(ごかん)の代(よ)
の人なり仙術(せんじゆつ)をまな
び得て白鶴(はくくはく)にのりて
空中(くうちう)を飛行(ひぎやう)しあそび
たる仙人(せんにん)なり
○琴高(きんかう)は神仙(しんせん)の術(じゆつ)を
学(まな)びて其(その)功(こう)なる大
いなる鯉(こい)に乗(じやう)して水上(すいじやう)
を飛行(ひぎやう)し書(しよ)をよみ
遊(あそ)びたる仙人(せんにん)なりと
いへり
【右頁下段】
琴高(きんかう)

費長房(ひちやうぼう)
【左頁上段】
○大公望(たいこうぼう)は尚父(せうほ)ともいへ
り渭浜(ゐひん)に釣(つり)して楽(たの)し
みたる隠士(いんし)なり後(のち)に
八十/余歳(よさい)に及(およん)で周(しう)の
文王(ぶんわう)その賢(けん)をしり給ひ
師(し)とし給ひ同/武王(ふわう)に兵(へい)
を教(おし)ゆついに紂王(ちうわう)を
亡し給ふ
○上利釼(じやうりけん)は釼(つるぎ)を乗(のりもの)と
して大海(だいかい)の波上(なみのうへ)を飛(ひ)
行(ぎやう)する術(じゆつ)を得(え)たりと
なん
【左頁下段 挿絵】
大公望(たいこうぼう)

上利劔(じやうりけん)

【右頁上段】
○張九歌(ちやうくか)は宋(そう)の代(よ)に都(みやこ)に
居(きよ)し冬(とう)月にたゞ単(ひとへ)の衣(ころも)
きるばかり帝(みかど)あやしみて
召(めし)て酒(さけ)を飲(のま)しむある日
王(わう)にまみへいとまをこひ薄(うす)キ
紙(かみ)を蝶(てふ)のかたちに剪(きり)て
是を放(はな)せば悉(こと〴〵く)飛(とび)さりける
又/招(まねけ)ばかへりて元(もと)の紙(かみ)と成
しとなり 
○鉄拐仙人(てつかいせんにん)は虚空(こくう)に
むかつて己(おのれ)がかたちを
ふきいだす術(じゆつ)を得(え)た
りし仙人なり
○蝦蟇仙人(がませんにん)はつねに
蝦蟇(ひきがへる)を愛(あい)せるゆへに
其(その)名(な)を得(え)たるとなん
【右頁下段 挿絵】
張九哥(ちやうくか)

鐵拐仙人(てつかいせんにん)

蝦蟇(がま)仙人
【左頁上段】
○西王母(せいわうぼ)は仙女(せんぢよ)なり
前漢(ぜんかん)の武帝(ぶてい)に桃(もゝ)を
奉る味(あぢはひ)甚(はなはだ)美(び)なり帝(みかど)
核(さね)を植(うへ)んと有しかば王(わう)
母(ぼ)の曰(いはく)此(この)桃(もゝ)三千年に一度(ひとたび)
花咲(はなさき)実(み)のる一ツ食(しよく)す
れば三千年の寿(ことぶき)をたも
つと東方朔(とうぼうさく)此桃を三ツ
ぬすみ食(しよく)せりとぞ
○通玄(つうげん)は張果呂(ちやうくはろ)とも
いふひさごの中(なか)より駒(こま)
を出す術(じゆつ)を得(え)たりし
仙人なり
【右頁下段 挿絵】
西王母(せいわうぼ)

通玄(つうけん)

【右頁上段】
○天人(てんにん)は首(かしら)の花曼(けまん)
しぼむことなく羽衣(はごろも)常(つね)
に垢(あか)づかずつねにま
たゝきせずとかや然(しかれ)
ども命(いのち)終(おは)るときは
楽(たのし)みつきて五/衰(すい)の
かなしみあり
○迦陵頻(かれうびん)は天上の
鳥(とり)なり天人(てんにん)の面(おもて)の
ごとく声(こゑ)すぐれて
美(うつ)くしよつて妙(めう)
声(せう)鳥(てう)又/好音鳥(かうおんてう)と
もいへり是(これ)仏経(ぶつきやう)の
説(せつ)なり
【右頁下段 挿絵】
迦陵頻(かれうびん)

天人(てんにん)
【左頁上段】
○和歌(わか)は此(この)国(くに)の風俗(ふうぞく)と
して三十一/字(じ)のかなをつら
ね心を種(たね)として情(じやう)を
述(の)ぶる事/実(まこと)をもとゝ
す故(ゆへ)に仏神(ぶつしん)も感応(かんおう)
有ほどの徳(とく)あるは歌(うた)也
それ和歌(わか)は神代(かみよ)より
始(はじま)るといへども住吉(すみよし)大/明(みやう)
神(じん)を以(もつて)歌(うた)の御/神(かみ)と崇(あが)め
奉り衣通姫(そとをりひめ)人麿(ひとまろ)赤(あか)
人を歌(うた)の祖神(そじん)とすと
かや後(のち)に俊成(しゆんぜい)定家(ていか)家(か)
隆(りう)のごとき歌人(かじん)数多(あまた)在(あり)
て秀歌(しうか)多(おゝ)し
【左頁下段 挿絵】
和歌(わか)
 三/神(じん)

衣通姫(そとをりひめ)

人麿(ひとまろ)

赤人(あかひと)

【右頁上段】
○詩(し)は唐土(もろこし)よりおこれ
り故(かるがゆへ)に唐歌(からうた)といふ夫(それ)
詩(し)は和歌(わか)に同じく六(りく)
義(ぎ)あり五/言(ごん)七/言(ごん)とて
五/字(じ)七字に作(つく)り絶句(ぜつく)
と律(りつ)とありよく其(その)情(じやう)
を述(のべ)て人心(じんしん)を感(かん)ぜし
め実(じつ)をあらはす事 詩(しい)
歌(か)の二ツにとゞめたり
白居易(はくきよい)あざ名(な)は楽(らく)
天(てん)晩唐(ばんだう)の詩人(しじん)なり
蘇軾(そしよく)字(あざな)は子瞻(しせん)東坡(とうば)
と号(がう)す宋(そう)の代(よ)の人
なり
【右頁下段 挿絵】
詩人(しじん)
 白楽天(はくらくてん)

東坡(とうば)
【左頁上段】
○筆道(ひつどう)は唐土(もろこし)の文字(もんじ)
なり漢字(かんじ)といふ晋(しん)の
王義之(わうぎし)筆法(ひつほう)の祖(そ)とす
石面(せきめん)に書(しよ)すれば墨(すみ)石(いし)へ
一寸ばかりしみ入しとなり
日本(ひのもと)にては嵯峨天皇(さがてんわう)
弘法大師(こうぼうだいし)橘逸勢(たちばなのはやなり)是を
三/筆(ひつ)といふ道風(とうふう)佐理(さり)
行成(かうぜい)を三/跡(せき)といふ何れ
も筆道(ひつどう)の名誉(めいよ)後世(こうせい)
に残(のこ)りて其(その)筆跡(ひつせき)を
尊(たつと)べり尊円親王(そんえんしんわう)の御/筆(ひつ)
跡(せき)を御家(おいゑ)一/流(りう)と称(しやう)じ
て今(いま)世(よ)に習(なら)ひもちゆ
【左頁下段 挿絵】
筆道(ひつどう)

晋(しんの)
 王義之(わうぎし)

小野道風(おのゝとうふう)

【右頁上段】
○琴(こと)は伏羲(ふつき)の作(つく)り始(はじ)メ
給ふ五十/弦(けん)又廿五/弦(けん)あり
瑟(しつ)といふ楽器(がくき)を用(もちゆる)を
和琴(わごん)といふ又/世(よ)に翫(もてあそ)べる
十三/弦(けん)の琴(こと)をつくし
琴といふ音曲(おんぎよく)しらべ上手(じやうず)
多(おゝ)くあり
○香(かう)は清浄(せうじやう)潔白(けつはく)の徳(とく)
ある物(もの)にて穢(けがれ)をさくる
故(ゆへ)に神前(しんぜん)仏前(ぶつせん)にて焼(たく)
なりその香(か)遠(とをき)にいたる
伽羅(きやら)は水(みづ)に入てしづむ也
よつて沈香(ぢんかう)といふ唐土(もろこし)
よりきたる
【右頁下段 挿絵】
琴(こと)

香(かう)
【左頁上段】
○鞠(まり)は唐土(もろこし)女媧氏(じよくはし)の
代(よ)に逆臣(ぎやくしん)蚩尤(しゆう)といふ
者(もの)謀叛(むほん)を企(くわだて)軍(いくさ)に及(および)
しが女媧子(じよくはし)は女帝(によてい)なが
ら聖徳(せいとく)あれば万民(ばんみん)な
びき従(したが)ひ終(つひ)に蚩尤(しゆう)を
討亡(うちほろぼ)し給ひ其(その)頭(かうべ)をは
ねたり諸人(しよにん)蚩尤(しゆう)を悪(にく)
みて頭(かしら)を蹴(け)たり是(これ)鞠(まり)
の始(はじめ)とかや鞠のかゝりは
松(まつ)楓(かへで)柳(やなぎ)桜(さくら)の四本を植(うゆ)
るなり飛鳥井家(あすかゐけ)難波(なんば)
家(け)鞠(まり)の御/家(いゑ)なり上が
茂(も)社家(しやけ)松下(まつした)一/流(りう)あり
【左頁下段 挿絵】

 蹴鞠(しうきく)

【右頁上段】
○目利(めきゝ)は墨蹟(ぼくせき)古画(こぐは)又
万(よろづ)の器(うつはもの)の真贋(しんがん)をよく
見分(みわく)る人をいふ古筆見(こひつみ)
とも名付(なづく)剣(つるぎ)の目利(めきゝ)は
本阿弥(ほんあみ)とて其(その)家(いゑ)あり
○算術(さんじゆつ)は万法(まんほう)にわたり
貴賎(きせん)ともになくてかなは
さる事なり天地(てんち)五/運(うん)
の行道(ぎやうどう)も算数(さんすう)を以て
考(かんが)ふ高山(かうざん)万里(ばんり)の数(すう)を知(し)
る事も皆(みな)算勘(さんかん)の術(じゆつ)
をもつてす人間(にんげん)日用(にちよう)算勘(さんかん)の高徳(かうとく)あげてか
ぞへがたし
【右頁下段 挿絵】

目利(めきゝ)

筭術(さんじゆつ)
【左頁上段】
○諸礼(しよれい)は人倫(じんりん)の交(まじは)り
において礼なくてかなは
ざる事なり聖人(せいじん)の
教(をしへ)給ふ六芸(りくげい)といふは礼(れい)
楽(がく)射(しや)御(ぎよ)書(しよ)数(すう)なり中(なか)
にも礼を重(おもん)じ給ふこの
国(くに)の礼儀(れいぎ)の作法(さほう)は将(しやう)
軍(ぐん)義満(よしみつ)公の御代(みよ)より始(はじま)
れりとぞ小笠原家(おがさはらけ)の
諸礼(しよれい)といふ又/躾方(しつけがた)とも
いふ仕官(しくはん)の人は勿論(もちろん)の
事/貴人(きにん)にまじはる人
はしらでかなはぬ芸(げい)な
れば心がけ有(ある)べき事也
【左頁下段 挿絵】

諸礼(しよれい)

【右頁上段】
○弓(ゆみ)は射芸(しやげい)といふ武(ぶ)
士(し)の家(いゑ)に生(うま)るゝ人は射(しや)
芸(げい)を学(まな)ばずんばあるべか
らず武士(ぶし)を弓執(ゆみとり)とは
いふなり唐土(もろこし)に楊由(やうゆう)
基(き)と云し弓(ゆみ)の達人(たつじん)は百
歩(ほ)下(さが)りて柳(やなぎ)の葉(は)を
射(ゐる)に一/葉(は)も射(ゐ)そんずる
事なしとぞ我朝(わがてう)に
おゐては鎮西為朝(ちんぜいためとも)能(の)
登守(とのかみ)教経(のりつね)那須与一(なすのよいち)
等(とう)弓(ゆみ)の達人(たつじん)なり其
外(ほか)数多(あまた)精兵(せいへい)の射(ゐ)て
ありしなり
【右頁下段 挿絵】

 弓(ゆみ)
【左頁上段】
○馬(むま)は乗馬(じやうば)の法(ほう)なり
是(これ)武士(ぶし)の要道(ようどう)なれば
師伝(しでん)を受(うけ)て習(なら)ふべきこ
と肝要(かんよう)なり巧者(こうしや)無功(ぶこう)
者(しや)によりて俊馬(じゆんめ)【「俊」は「駿」の当て字ヵ】にても
あしく曲(くせ)出(いづ)るなり其/品(しな)
百曲(もゝくせ)ありとかや駒(こま)のし
いれ曲(くせ)の直(なを)しやう法式(ほうしき)
ありてむかしより八/乗(じやう)
流(りう)あり今世(こんせい)大坪(おほつぼ)の一/流(りう)
を専(もつはら)にもちひて武士(ぶし)の
要道(ようどう)とす高山(かうざん)の𡸴(けん)【山+㑒】岨(そ)も
たやすく上り大河(たいが)を渡(わたす)
も是(これ)みな俊馬(じゆんめ)の徳(とく)也
【左頁下段 挿絵】

 馬(むま)

【右頁上段】
○剣術(けんじゆつ)は太刀打(たちうち)の
法(はう)なり兵法者(へいほうじや)とも
いふ武士(ぶし)第一の道(みち)也
流儀(りうぎ)あまたあり神(しん)
道流(とうりう)柳生流(やぎふりう)新影(しんかげ)
流/一刀(いつたう)流などさま〳〵
有/併(しかし)未熟(みじゆく)の芸(げい)を
頼(たの)み身(み)の危(あやうき)をしら
ざる人まゝ多(おゝ)しいた
ましき事にあらすや
今(いま)静謐(せいひつ)の御代(みよ)に
おゐては商家(しやうか)職人(しよくにん)
農人(のうにん)等(とう)はしらぬこ
そよかるべし
【右頁下段 挿絵】

 釼術(けんじゆつ)
【左頁上段】
○囲碁(いご)は周公旦(しうこうたん)作(つく)り
給ふと云/吉備大臣(きびだいしん)入(につ)
唐(とう)の時/伝来(でんらい)といふ三百
六十/目(もく)は年月(ねんげつ)日/数(かず)也九
目(もく)星(ほし)は九/曜(よう)の星(ほし)石(いし)の
黒白(こくびやく)は昼夜(ちうや)を表(ひやう)する
なりとぞ
○将棋(しやうぎ)は周(しう)の武帝(ぶてい)臣(しん)
下(か)王褒(わうほう)に命(めい)じて作(つく)ら
しむ軍法(ぐんほう)の備(そなへ)をかたど
りしものなり大将棋(だいしやうぎ)中
将棋あり今もてあそ
ぶを小将棋(しやう〳〵き)といふもと
よりならひあるなり
【左頁下段 挿絵】

 圍碁(いご)

将棊(しやうぎ)

【右頁上段】
○茶湯(ちやのゆ)はむかしより
ある事なれども茶(ちや)
亭(てい)を数寄(すき)屋と号(がう)し
草木(さうもく)の植(うへ)やう料理(りやうり)等に
いたるまで法式(ほうしkい)を立(たて)て
くわしくなりしは千(せんの)
利休(りきう)よりはじまれり
古田織部(ふるたをりべ)小堀遠州(こぼりゑんしう)な
ど茶道(さどう)の達人(たつじん)其/流(りう)
品々(しな〳〵)あり人倫(じんりん)の交(ましは)り
行儀(ぎやうぎ)をしるの一助(いちぢよ)なり
元来(もとより)茶道(さどう)は奢(おごり)をは
ぶき敬恭(けいきやう)をもとゝす
るを本意(ほんい)とすといふ
【右頁下段 挿絵】

茶湯(ちやのゆ)
【左頁上段】
○立花(りつくは)は京/六角堂(ろくかくだう)
の別当(べつたう)池坊(いけのぼう)立花の宗(そう)
匠(しやう)なり毎年(まいねん)七月七日
に門弟(もんてい)参集(さんしう)して立(たつ)
る貴賎(きせん)是を見物(けんぶつ)す
又/拋入(なげいれ)の伝(でん)所々(しよ〳〵)に師(し)
あり今世(きんせい)なげ入/専(もつはら)に
おこなはれて花の会(くわい)
多(おゝ)し宜(むべ)なるかな花
は人の心をなくさめ
欝気(うつき)をさんずるもの
なればよきわざにて
貴賎(きせん)のもてあそびと
なるもことはりぞかし
【左頁下段 挿絵】
立花(りつくは)

【右頁上段】
○山伏(やまぶし)を修験道(しゆげんどう)とも
いふ真言(しんごん)の法(ほう)なり行(ぎやう)を
修(しゆ)し身(み)をこらし又/高(かう)
山(ざん)大山へのぼりて行(ぎやう)を
なすなり常(つね)に天文(てんもん)易(えき)
学(がく)をまなびて諸人(しよにん)の
五/運(うん)八/卦(け)を占(うらな)ひ手(て)の筋(すじ)
吉凶(きつけう)病(やまひ)の軽重(きやうぢう)失物(うせもの)の
方(はう)がく等(とう)を考(かんが)ふまた
一/派(は)役行者(えんのきやうじや)の法(ほう)を修(しゆ)
するものあり是を行者(ぎやうじや)
の先達(せんだち)といふ人の病(やまひ)を
祈祷(きとう)す垢離場(こりば)あり是を
行者(ぎやうじや)ぼりといふ 
【右頁下段 挿絵】
山伏(やまぶし)
【左頁上段】
○鷹(たか)は唐土(もろこし)五/帝(てい)の時
より賞(しやう)ぜりとかや我(わが)
朝(てう)にわたりしは神功(しんこう)
皇后(くはうごう)の御代(みよ)に百済(ひやくさい)
国(こく)より始(はじめ)て鷹(たか)を奉
る其後(そのゝち)仁徳天皇(にんとくてんわう)の
御代(みよ)に唐(とう)より鷹を
献(けん)ぜしかば御猟(みかり)を催(もよほ)さ
れ諸鳥(しよてう)をとらしめた
まふ是(これ)鷹狩(たかがり)のはじ
めなり鷹は勇気(ゆうき)さ
かんにして武備(ぶひ)の鳥(とり)
なれば武門(ふもん)に賞(しやう)せら
るゝ事/宜(むべ)なり
【左頁下段 挿絵】
鷹(たか)
 匠(じやう)

【右頁上段】
○能(のふ)はむかしよりある
事なれども其/伝(でん)たし
かならず後小松院(ごこまつのいん)の
御于(ぎよう)に観世(くはんぜ)世/阿弥(あみ)と
いふ者(もの)公方家(くばうけ)の能太(のふた)
夫(いふ)にてさかんに翫(もてあそび)ぬ後(のち)
に金春(こんはる)宝生(ほうしやう)金剛(こんがう)と別(わかれ)
て四/座(ざ)といへり又/猿楽(さるがく)
といふ事は猿田彦(さるたひこ)の余(よ)
流(りう)のいひなりとかや謡(うたひ)は
日本(ひのもと)遊興(ゆうけう)の随一(すいいち)にして
神祇(じんぎ)釈教(しやくきやう)恋(こひ)無常(むじやう)故(こ)
事(じ)世(よ)の諺(ことはざ)まて悉(こと〴〵く)集(あつ)
むるものなり
【右頁下段 挿絵】
能(のふ)

脇(わき)
地謡(ぢうたひ)
《割書: 同音(どうおん)ともいふ》
太夫(たいふ)《割書:してとも|    いふ》
【左頁上段】
○笛(ふえ)小鼓(こつゞみ)大鼓(おゝつゞみ)太鼓(たいこ)
是を四/拍子(ひやうし)といふなり
笛(ふえ)は漢(かんの)武帝(ぶてい)の時(とき)丘仲(きうちう)作(つく)る
とかや鼓(つゞみ)は秦(しん)の穆王(ぼくわう)の
作(さく)なり大鼓(おゝつゞみ)は陽(やう)にして
呂(りよ)なり小皷(こつゞみ)は陰(いん)にして
律(りつ)なりこれ陰陽(いんやう)和(わ)
合(がう)の器(き)なり又/太鼓(たいこ)は
黄帝(くはうてい)の時(とき)夔(き)を殺(ころ)【煞】し
其(その)皮(かは)をもつて作(つく)れり
とかや或(あるひ)は云/黄帝(くはうてい)蚩(し)
尤(ゆう)とたゝかふ玄女(げんじよ)帝(みかど)
のために夔牛(きぎう)の鼓(こ)
を作(つく)れりと云々
【左頁下段 挿絵】
笛(ふえ)
小皷(こつゞみ)
大皷(おほつゞみ)
太皷(たいこ)

【右頁上段】
○狂言(きやうげん)はそのはじまり
つまびらかならずのふ
の間へ入る事は気(き)を
転(てん)じて笑(わらひ)をもよふす
べきためなるべし能(のふ)と
同じく流義(りうぎ)のわかち
ありて少しのかわり有
又/狂言(きやうげん)のうちに伝授(でんじゆ)
とするものありそれ
狂言の本意(ほんい)は狂戯(きやうけ)を
専(せん)として人の心をなぐ
さめわらひをおこす事
を要(よう)としたるものなり
とかや
【右頁下段 挿絵】
狂言(きやうげん)
【左頁上段】
○浄留理(じやうるり)は小野(をのゝ)お通(づう)
に始(はじま)るお通(づう)は信長公(のぶながこう)の
侍女(しじよ)なり参州(さんしう)矢作(やはぎ)
浄留理娘(じやうるりむすめ)が事(こと)を作(つく)る
岩船検校(いわふねけんげう)ふしを付(つけ)て
是(これ)を浄留理(じやうるり)といへり
其(その)後(のち)瀧野(たきの)沢角(さはつの)の両(りやう)
検校(けんげう)三線(さみせん)に合(あは)せて曲(きよく)
節(せつ)をかたる又(また)慶長(けいちやう)の頃(ころ)
より浄留理(じやうるり)太夫(たいふ)の受領(じゆれう)
をいたゞく事(こと)になり
京大坂江戸に浄留理
太夫/多(おほ)くなりて色々(いろ〳〵)の
流義(りうぎ)出来(しゆつたい)せり
【左頁下段 挿絵】
浄留理(じやうるり)
 太夫

【右頁上段】
○三絃(さみせん)は元来(ぐはんらい)琉球(りうきう)
国(ごく)の楽器(がくき)なるよし
三味線(さみせん)とも書(かく)なり
近世(きんせい)諸国(しよこく)ともに此(この)三
絃をもてあそぶ事/専(もつはら)
なり尤/淫声(いんせい)の物なれ
ども調子(てうし)におゐて自(じ)
由(ゆう)なる器(き)なり故(ゆへ)に雪(せつ)
月(げつ)花(くは)の楽(たのし)みその余(よ)の
遊興(ゆふけう)いづれ三絃をもて
一曲(いつきよくの)専要(せんよう)とす又/小弓(こきう)と
いふものは三絃より作(つく)り
出せるものなるべし
【右頁下段 挿絵】
三絃(さみせん) 小弓(こきう)
【左頁上段】
○芝居(しばゐ)は其(その)おこりは
河原(かはら)の芝(しは)にござなんど
を敷物(しきもの)として狂言(きやうげん)を
なしたるものにて今の
放下(ほうか)しなどゝ同し類(たぐひ)
の物なりしが次第(したい)に高(かう)
上(じやう)になりて衣服(いふく)器物(きぶつ)
まても花美(くはび)を尽(つく)して
立役(たちやく)女形(をんながた)敵役(てきやく)などゝ
それ〳〵に役(やく)をわけて
三ケの津(つ)には常芝居(じやうしばゐ)
をゆるされ諸人(しよにん)の慰(なぐさみ)所
とはなりぬよつて芝居(しばゐ)
と名(な)づけ侍りぬ
【左頁下段 挿絵】
芝居(しばゐ)役者(やくしや)《割書: | |敵役(てきやく)|女形(をんながた)|立役(たちやく)》

【右頁上段】
○人形(にんきやう)芝居(しばゐ)はあやつり
ともいふ名(な)ありはじめは
人形を糸(いと)にてつり
つかひし事なりしが
功者(こうしや)出(で)きて今(いま)は自由(じゆう)に
はたらきをなす事/生(しやう)
あるがごとし難波(なには)竹本(たけもと)
豊竹(とよたけ)の両(りやう)芝居(しばゐ)をもとと
す上手(じやうず)あまたあり又
難波(なには)に竹田(たけだ)といふからく
り人形(にんぎやう)の芝居あり珍(めづ)ら
しき細工(さいく)をなして人の
目(め)をおどろかすほどの上(じやう)
手(ず)なり
【右頁下段 挿絵】
人(にん)
 形(きやう)
芝(しば)
 居(ゐ)
【左頁上段】
○軽業(かるわざ)はむかしより其
伝(でん)ある事にや始(はしめ)をしら
ず誠(まこと)に危(あやう)き所作(しよさ)なれ
どもかね合(あひ)手練(しゆれん)のこと
にて上手(じやうす)あまた出て
人の目(め)をよろこばしむる
といへどもやゝもすれば
怪我(けが)過(あやまち)をなすもの有
きりん太夫といひしもの
一ツつなをわたり始し
より軽(かる)わざしをすべて
世俗(せぞく)にきりんとよぶ幼(よう)
稚(ち)の時より仕(し)なれざれは
なりがたかるべし
【左頁下段 挿絵】
軽業(かるわざ)

【右頁上段】
○鉢扣(はちたゝき)は元祖(くはんそ)空也(くうや)上
人なり下京(しもぎやう)空也堂(くうやどう)の
内(うち)に住居(すまゐ)して茶筌(ちやせん)を
けづり作業(さきやう)とす十二
月十三日より京町中を
売(うり)ありく正月大ぶくの
茶筌(ちやせん)めてたき例(ためし)とし
て求(もとむ)る事なり 
○鹿島(かしま)の事触(ことふれ)といふ
は毎年(まいねん)春(はる)鹿島(かしま)大/明(みやう)
神(じん)其(その)年(とし)の吉凶(きつけう)人間(にんげん)の
身(み)の上(うへ)五穀(ごこく)の善悪(よしあく)等(とう)
神託(しんたく)あるを諸国(しよこく)へ触(ふれ)
しらするものなり
【右頁下段 挿絵】
鉢敲(はちたゝき)

鹿嶋事觸(かしまのことふれ)
【左頁上段】
○猿舞(さるまはし)はふるきこと
なるよし今(いま)京都(きやうと)へ
来るは伏見(ふしみ)の辺(へん)より
出るよし年(とし)の始(はじめ)に
御所方(ごしよがた)へ嘉例(かれい)とし
て上りめでたき事
を舞(まは)しむ又/田舎(いなか)にて
牛馬(うしむま)を飼(かふ)所は秋入(あきいれ)の
時分(じぶん)きとうのためにと
て舞(まは)しむとかや其(その)故(ゆへ)は
猿(さる)は山の父(ちゝ)と称(しやう)じ馬(むま)は
山の子といふゆへなりと
あいのふ抄(せう)といふ書(しよ)に
見へたり
【左頁下段 挿絵】
猿(さる)
 舞(まはし)

【右頁上段】
○万歳楽(まんざいらく)は年(とし)の始(はじめ)に
めでたき例(ためし)をとり揃(そろ)へ
て祝(いは)ひまふなりむかし
よりも有事なるよし
聖徳太子(しやうとくたいし)の御/時(とき)に烏(ゑ)
帽子(ぼし)装束(しやうぞく)を下し給はり
し例(れい)によりて今に烏(ゑ)
帽子(ぼし)素襖(すはう)を着(ちやく)すると
いへり都(みやこ)へ来るは大和(やまと)ゟ
出る農人(のうにん)なりよつてや
まと万歳(まんざい)といふ又/中国(ちうごく)
へは美濃(みの)より出/東国(とうごく)へは
三河(みかは)の国よりもいづると
いふ
【右頁下段 挿絵】
万歳楽(まんざいらく)

夫 ̄レ宮‾宝衣‾冠。動‾植飛‾沈。凡‾百器‾用。以_二
文‾字_一。写_二‾貌其 ̄ノ状_一 ̄ヲ。則苦‾捜力‾索。劣 ̄カニ得_二其
彷‾彿_一 ̄ヲ。求_二之図‾絵_一 ̄ニ。則一‾目瞭‾然。思已 ̄ニ過
_レ半 ̄ニ矣。故古‾人之講_レ学。必也右‾書左‾図。
図‾書並_称。所_二従‾来_一尚 ̄シ矣。惕‾齋先‾生所
_レ著図‾彙。其意 ̄ノ所_レ属。蓋亦在_二乎此_一 ̄ニ。其 ̄ノ書
奚 ̄ソ_翅訓_二‾導童‾蒙_一云_爾。雖_二宿‾儒老‾学_一。亦
有_三資 ̄テ以広_二致‾格之識_一 ̄ヲ。家_珍【珎】人_蔵。良 ̄ニ有

_レ以哉。従_二寛‾文_一逮_レ今 ̄ニ。殆 ̄ト百幾十年。版已 ̄ニ
就_二刓‾欠【缺】_一 ̄ニ。今_茲寛‾政己‾酉。額_田_氏主‾人。
嘱_二 下_河_邊_氏_一 ̄ニ。移_二‾写 ̄シ旧‾様_一 ̄ヲ。再‾刻剞‾劂。而
精‾工縝‾密。視_レ旧 ̄ニ有_レ倍 ̄コト焉。刻_成。請‾余以_二
一‾語_一。余_謂 ̄フ。近 ̄ロ有_二春‾朝‾斎山_城名‾所図‾
会_一。亦以_二図‾絵 ̄ノ之故_一。盛 ̄ニ行_二乎世_一 ̄ニ。朝‾摺暮‾
印。洛‾陽紙_貴。彼 ̄ハ実 ̄ニ不_レ過_二 一‾臥‾遊 ̄ノ之具_一 ̄ニ
而已。猶_且見_レ賞如_レ斯。況 ̄ヤ之大 ̄ニ有_レ益之

書。非_三徒 ̄ニ供_二於目‾翫_一 ̄ニ也。則必与_レ彼並_駆。
而超‾乗過此。如_レ指_二諸掌_一 ̄ニ。余預 ̄シメ為_二額田
翁_一 ̄ノ作_レ賀。翁其 ̄レ記 ̄シテ而験_レ ̄セヨ之。

  己酉四月      春荘端𨺚【隆】
      【方印 陰刻】《割書:端隆|之印》 《割書:文|中氏》

寛政元年己酉三月吉辰 出来
 皇都書林  九皐堂 寿梓
【上段】
訓蒙図彙《割書:大本》       全八冊
同本小本        全四冊
同増補頭書       全八冊
同増補頭書大成     全十冊
《割書: 寛政元年出来|   下河邊拾水子画図》
同増補頭書大成拾遺     《割書:全五冊|嗣 出》
三才千字文《割書:訓蒙図彙の目録を幼童の素|読になして文字を覚ゆるに便あらしむ》
【下段】
村上 勘兵衛
出雲寺文治郎
今井七良兵衛
額田 正三郎
勝村治右衛門
泉  太兵衛
小川太左衛門
小川 源兵衛
谷口 勘三郎
【二重丸印 朱】R.F./BIBLIOTHÉQUE NATIONALE :: MSS ::

字尽節用解(じづくしせつようかい)【觧】《割書:中本| 全部壱冊》《割書:世(よ)に節用(せつよう)あまたありといへども文字(もじ)の訳(わけ)委(くはし)からざる|故(ゆゑ)に良(やゝ)もすれば誤(あやま)る事/多(おほ)し故に此/節用(せつよう)にはしれがたき|文字(もじ)をそれ〳〵仮名(かな)にてくはしく義理(ぎり)をとき初心(しよしん)の|輩(ともがら)文章(ぶんしやう)等/認(したゝむ)るに必(かならず)誤なからしむ実(じつ)に重宝(てうほう)の書也》
万徳雑書三世相(まんとくさつしよさんぜそう)《割書:大本| 全部壱冊》《割書:此書(このしよ)は人々一代の吉凶(よしあし)家屋敷(いへやしき)田畑(でんはた)の売得(ばいとく)普請(ふしん)|移徒(わたまし)宅替(たくかへ)の方角(ほうがく)吉凶(よしあし)あるひは男女(なんによ)縁組(ゑんぐみ)相性(あいせう)|の善悪(ぜんあく)夢(ゆめ)のうらなひ八卦(はつけい)手相(てのすぢ)暦(こよみ)上中下段の|次第/年中(ねんぢう)日のよしあし等(とう)平かなにてしるし|俗家(ぞくか)重宝(てうほう)随(ずい)一の書(しよ)にて常(つね)に弄(もてあそ)ひ益(ゑき)ある書也》
古文(こぶん)余師(よし)  《割書:後集之部| 全部四冊》 《割書:此/古文(こぶん)は師(し)を求(もとめ)ずして読安(よみやす)きやうによみかた平|かなにて記(しる)し本文には註(ちう)をくはへて文句(もんく)の義理(ぎり)を|釈(とき)やはらげ独学(どくかく)のたよりとす。故事(こじ)をくはしく記たれば|詩歌(しいか)連俳(れんぱい)のためには至(いたつ)て自由(じゆう)を得(う)る至宝の書也》
四書国字弁(ししよこくじべん) 全部十冊 《割書:片かなにて本文に註釈(ちうさく)をくはへたれは師(し)を求(もと)めずし|てくはしく解(げ)し又人にとき聞(きか)しむる随一の書なり》
古今和歌集 《割書:文政新板大本|校正全部二冊》 《割書:文政新改にして惣(そう)じて古がなをもちひ又はかなちがひ|を正し異本(ゐほん)をかたはらにくはへて歌人(かじん)の至宝(てうほう)に備ふ》
 京都書林  津逮堂  吉野家仁兵衛板
【丸印 朱 中央に冠を頂く鳥(鷲ヵ鷹ヵ)の図を囲むように円形の文字列】BIBLIOTHÈQUE IMPÉRIALE MAN.
【二重丸印 朱】R.F./BIBLIOTHÈQUE NATIONALE :: MSS::

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【遊紙】

【後見返し】

【裏表紙】

【背:KIN MÔ/ DSU I/DAI SEI/2】
【丸ラベル:JAPONAIS/311/2】

【小口】

【前小口】

【小口】

BnF.

【表紙題箋】
瓢軍談五十四場 初編

【整理ラベル SMITH-LESOUEF JAP 128(1)】

【右上貼付メモ Jap 128】
【右下 同 8C】

瓢軍談五十四場 
  一英斎芳艶画 五十四枚続

日本六十余州はいふもさらなり
朝鮮国まてわかものになし給ふ
豊太閤久吉公の御一代御幼名
猿之助と申されしころ三州矢はき
の橋上梶塚与六と出会をはしめと
して相州小田原せめ目出たく
帰陣のおはりまて五十四場
の大にしき外題を瓢軍談と
いふことしかり
      板元 知英堂(印)

瓢軍談(ひさごぐんだん)五十四場(ごじふよじやう) 

 第一 
梶塚与六(かぢづかよろく)
矢矧(やはぎ)の橋(はし)にて
猿之助(さるのすけ)に見(まみ)ゆ


       一英斎芳艶画

瓢軍談(ひさごぐんだん)五十四場(ごじふよじやう) 
           一英斎芳艶画
 第二 
猿之助(さるのすけ)初陣(ういぢん)に
伊藤日向守(いとうひふがのかみ)を
    討(う)つ

【画中に】 猿之助  伊藤日向守

瓢軍談(ひさごぐんだん)五十四場(ごじふよじやう)   一英斎芳艶画

 第三
猿之助(さるのすけ)
尾田家(をたけ)へ
士官(しくわん)を好(この)む

瓢軍談(ひさごぐんだん)五十四場(ごじふよじやう)   一

 第四
此下宗吉(このしたそうきち)
割普請(わりふしん)
破損(はそん)をおさむ

       一英斎芳艶画

瓢軍談(ひさごぐんだん)五十四場(ごじふよじやう)   一英斎芳艶画

 第五
此下宗吉郎(このしたそうきちらう)
岩倉(いはくら)を
焼討(やきうち)にす

瓢軍談(ひさごぐんだん)五十四場(ごじふよじやう)
 第六
梅島(うめしま)此下(このした)
試鎗(やりのちやうたん)の長短(をこゝろむ)


【画中に】 
此下宗吉郎  梅嶋主水

            一英斎芳艶画

瓢軍談五十四場(ひさごぐんだんごじふよじやう)        一英斎芳艶画

 第七
桶狭間合戦(をけはざまかつせん)に
稲川氏元(いなかはうぢもと)
   討死(うちじに)


【画中に】
中条小市 
服部平太 
稲川治部太夫氏元   林藤八郎
 毛利新介    

瓢軍談五十四場(ひさごぐんだんごじふよじやう)       一英斎芳艶画

 第八
此下宗吉郎(このしたそうきちらう)
筵(むしろ)にて五色(ごしき)の旗(はた)を
造(つく)り奇計(きけい)を行(おこな)ふ

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   第九
  此下(このした)宗吉郎(そうきちらう)
  再(ふたゝ)び須股(すのまた)の
  砦(とりで)を築(きづ)く


                   一英齋
                   芳艶画

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   第十
  宗吉郎(そうきちらう)智弁(ちべん)を
  もつて滝(たき)【瀧】中(なか)を
  須(すの)またの閑居(かんきよ)に     此下宗吉郎
       うつす


                  滝【瀧】中官兵衛

                        一英齋
                        芳艶画
【絵の縁取り右側に丸印と「蔦吉板」の文字】

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)            梶塚政十郎

  第十一
 此下宗吉郎(このしたそうきちらう)        此下宗吉
  稲葉山(いなばやま)の
 搦手(からめて)を襲(おそ)ふ
            折尾宇助
                          赤山新助
                日野七大夫
  梶塚与六
       勝田隼人   稲葉大江

                        一英齋
                        芳艶画

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   十二に
  ひやうたんの相図(あひづ)に
  寄手(よせて)水門(すゐもん)より
  討入(うちいり)稲葉山(いなばやま)落城(らくじやう)

                       此下勢
             折尾宇助

                       一英齋
                       芳艶画

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   十三
  千葉田員家(ちばたかずいへ)
   宗貞(さうてい)が為(ため)に
  水(みづ)の手(て)を断(たゝ)るゝ


                      一英齋
                      芳艶画

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)               一英齋
                         芳艶画

   十四
  員家(かずいへ)水瓶(みづがめ)を
  破(わつ)て諸士(しよし)を
  はげます


                千葉田源六員家

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)               一英齋
                         芳艶画
   十五
  仙住坊(せんちうばう)木蔭(こかげ)に
  しのび春長(はるなが)を
  討(うた)んとす


            仙住坊

【絵の右縁に丸印と次の文字】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   十六
  佐々井(さゝゐ)京蔵(きやうざう)【藏】
  行年(ぎやうねん)十五歳 乱(らん)
  軍(ぐん)の中(うち)に討死(うちじに)

          佐々井京蔵


                      一英齋
                      芳艶画

【絵の右縁に丸印と次の文字】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)    安藤喜右衛門

   十七
  安藤喜右衛門(あんどうきゑもん)
  敵陣(てきぢん)へ紛(まぎれ)こみ
  春長(はるなが)を害(がい)せんとす


   尾田上総之助春長
                      一英齋
                      芳艶画

【絵の右縁に丸印と次の文字】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)               一英齋
                         芳艶画

   十八
  延受藤助(えんじゆとうすけ)
  主君(しゆくん)数家(かずいへ)の
  馬印(うまじるし)を取返(とりかへ)す

   延受藤助

【絵の右縁に丸印と次の文字】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)              一英齋
                        芳艶画

   十九
  志奥近内(しむつこんない)
  今成(いまなり)を水中(すいちう)へ
  引入(ひきいれ)討(うち)とる


            志奥近内


                  今成力之輔

【絵の右縁に】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   第二十
  久吉(ひさよし)播州(はんじう)へ
  出張(しつてう)を春長(はるなが)
  見送(みおく)り給ふ    尾田上総之助春長


              真柴久吉
                         一英齋
                         芳艶画

【絵の右縁に丸印と次の文字】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   二十一
  天目山(てんもくさん)に
  武田伊賀四郎勝家(たけたいがのしらうかついへ)
  主従(しゆう〴〵)討死(うちじに)す


                        一英齋
                        芳艶画

【絵の右縁に】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   二十二
  春長公(はるながこう)
  蘇鉄(そてつ)の怪異(くわいゐ)を       尾田春長
   怒(いか)りたまふ

                   杉野谷九左衛門

【絵の右縁に丸印と次の見字が】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   廿四
  赤松(あかまつ)水責(みづぜめ)
  防戦(ばうせん)難儀(なんぎ)に
     およふ


                       一英齋
                       芳艶画

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   二十五
  四方伝政兵衛(しはうでんまさべゑ)      四方伝政兵衛
  本能寺(ほんのうじ)の塀重(へいぢゆう)
  門(もん)を打砕(うちくだ)く


                      一英齋
                      芳艶画
【絵の右縁に丸印と次の文字が】
蔦吉板

瓢(ひさご)軍談(ぐんだん)五十四(ごじふよ)場(じやう)

   二十七
  武智右馬之助(たけちうまのすけ)
   石(いし)弩 火鉄(びや)にて
  敵城(てきじやう)を打崩(うちくづ)す

                        一英齋
                        芳艶画
【絵の右縁に丸印と次の文字】
蔦吉板

【裏表紙】

BnF.

【表紙】

【題字】
けむじものかたり


【管理タグ】
SMITH-LESOUËF
JAP
52-1

【白紙】

【白紙】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【白紙】

【白紙】

【裏表紙】

【小口】

【小口】

【小口】

【小口】

BnF.

【表紙 題箋】
歌仙

【資料整理ラベル】
JAPONAIS
 640

【貼付のメモ書き】
《割書:本阿彌》
 光悦  《割書: 本氏ヲ松田ト云フ|太虚庵ト号ス》
書法ヲ近衛前久ニ學ビ書法ヲ海北
友松ニ學ブ云々
寛永十四年二月没ス年八十一
巴里千八百九十九年七月十七日  千里識

【同メモ書きの上下の手書きの英(払)字】
Honnami
Koyetsou

mort:1637
a 81 ans

ーKo-etsouー

【ページ右上の資料整理ラベルと手書き文字】
JAPONAIS
 640

JAJAPON 640

【ページ下部の手書き文字】
Don 7605

156

【貼付の仏字のメモは刻字を省略】





ふるらし
     時雨
御室の山に
   の
神なひ
 なかる
龍田川紅葉は
左 人丸

【上部欄外に蔵書印】

【右丁】
左  躬恒
住よしの
松を秋
   風
 吹からに
声うちそふる
奥津しら波

【左丁】
左  中納言家持
まきもくのひはら
 もいまた
 曇らねは
小松か原に
 あは雪のふる

【右丁】
     して
もとのみに
我身ひとつは
   ならぬ
のはる
やむかし
月やあらぬ春
左  業平朝臣

【左丁】
    へし
あへすけぬ
ひるはおもひに
をきて
    は
しら露よる
音にのみきくの
左  素性法師

【右丁】
  秋は悲しき
    そ
 声きく時
  かの
なくし
紅葉踏分
おく山に
左  猿丸大夫

【左丁】
吹かとそきく
みねのまつかせ
 たかさこの
   に
 更行まゝ
みしか夜の
左  中納言兼輔

【右丁】
左  中納言敦忠
伊勢の海【「の」が脱落】
ちい【「ひ」とあるところ】ろの
   浜に
ひろふとも
今は何てふ
かひかあるへき

【左丁】
    すな
あさきよめ
  この春はかり
 つこ心あらは
ともの宮
とのもりの
左  公忠朝臣

【右丁】
 かけつゝ
 ちか露を
きえしあさ
  けり
しられ
ゆふへは
  秋の
袖にさへ
 左  斎宮女御

【左丁】
 今や鳴らん
をのへのしかは
 高砂の
さきにけり
秋はきのはな
 左  敏行朝臣

【右丁】
   おもへは
枯ぬと
人めも草も
  ける
まさり
さひしさ
山里は冬そ
 左  宗于朝臣

【左丁】
 左  清正
あまつかせ
 ふけゐの
  浦に
   ゐるたつの
なとか
 雲居にかへら
     さるへき

【右丁】
 逢はあふかは
年に一度
     の
 つらき七夕
    そ
契けむ心
 左  興風

【左丁】
 左  是則
三芳野の山の
しら雪
 つもるらし
故郷寒く
 成まさる也

【右丁】
    見る
 雪かとそ
      を
たついはなみ
  けれは
風のさむ
    山
大井川そま
 左  小大君

【左丁】
物をこそ思へ
ひるはきえつゝ
 夜はもえ
 焼【「焚」とあるところ】火の
みかきもり衛士の
 左  能宣朝臣

【右丁】
 左  兼盛
しのふ
 れと
色に出に
  けり
  我恋は
ものやおもふと
人のとふまて

【左丁】
 右  貫之
むすふ手の
しつく
  にゝ
   こる
山の井の
あかても人に
 わかれぬる哉

【右丁】
 右  伊勢
三輪の山いかに
 待見む
  とし
  ふとも
たつぬる
人もあらしと
  おもへは

【左丁】
 右  赤人
わかの浦に
しほみちくれは
 かたをなみ
あしへを
   さして
たつ鳴わたる

【右丁】
 右  遍昭僧正
いその神ふる
    の
 山辺の
 桜花
植けむ時をしる
 人そなき

【左丁】
 右  友則
夕暮【「され」とあるところ】は蛍より
 けにもゆれ
   共
光みね
  はや
人のつれなき

【右丁】
右  小野小町
わひぬれは身
     を
うき草の根
    を
たえて
さそふ水
   あらは
いなむとそ
   おもふ

【左丁】
右  中納言朝忠
萬よの始と
 けふを
  いのり
   をきて
今行末を神
    そ
 かそへむ【「しるらん」とあるところ】

【右丁】
 右  高光
春過てちり
はてにける
さくら【「うめ」とあるところ】
  はな
たゝか【香】はかりそ
枝にのこれる

【左丁】
 右  忠岑
はるたつといふ
 はかりにや
三芳野の
山も霞て
けさは見ゆらん

【右丁】 
 右  頼基朝臣
 ねのひする
  野辺に
  小松を
   ひきつれて
帰る山路に
 鶯そ鳴

【左丁】
 右  重之
夏かりの玉え
    の
あしを
  踏し
   たき
むれゐる鳥の
たつ空そ
   なき

【右丁】
 右 信明朝臣
ほの〳〵と
有明の月の
  月影に
紅葉ふきおろ
      す
山おろしの風

【左丁】
 右  順
水の面に照
月なみ
   を
 かそふれは
こよひそ秋の
 もなかなり
     ける

【右丁】
 右  元輔
契りきなかたみに
 袖をしほ
  りつゝ
すゑの松
   山
波こさし
   とは

【左丁】
 右  元真
さきにけり
     我
山里の卯
 花は
かきねに
   きえぬ
雪と見るまで

【右丁】
 右  仲文
思ひしる人に
 見せはや夜も
   すから
わかとこ
 なつに
おきゐたる露

【左丁】
 右  忠見
いつかたに鳴て
行らむ
  郭公
よとの
   わたりの
またよふかき
      に

 右  中務
秋風の吹 
    に
つけても問ぬ
   かな
おき【荻】の葉
  ならは
音はして
 まし

【白紙】

【裏表紙】

【冊子の背の写真】

【冊子の天或は地の写真】

【冊子の小口の写真】

【冊子の天或は地の写真】

BnF.

【表紙 題箋】
踊獨稽古 乾

【上部 右から】
おどり獨稽古

葛飾北齋画編  七代目三升序

月影に
  我裾直す
     おとりかな

【絵だけで文字無し】

【右丁】
    序
呉(ご)住(ちう)後(ご)漢(かん)の注(ちう)の字を曰(いは)ば。燒桐(やきぎり)する狂勢客(あにゐ)が
立引(くれ)た良木(もへさし)は。焦尾琴(せうびきん)【注】と作(なし)て。其(その)美音(びいん)。我朝(わがちやう)
の菊岡(きくおか)も爪(つめ)を噛(くはへ)。文志傳(ふんしでん)の漢語(からつたく?)は。旅館(はたごや)の
天井(てんぜう)から貪(みたふし)た煤竹(すゝたけ)も。笛(ふえ)に製(つくつ)て最(もつとも)異声(ゐせい)
にして。侠客(でんぼう)涎(よだれ)を流(なが)す。蝮(ぢや)の道(みち)を知(し)る蛇山(へびやま)の
主人(あるじ。)葛飾(かつしか)の痴老(おやぢ)が筆(ふで)を借(かり)て。躍(おどり)の手続(てつゞき)を

【注 (後漢の蔡邕(さいよう)が呉人の桐を焼く音をきき、その良材である事を知りその桐材で尾部の焦げたままの琴を作ったという故事から)琴の名器の名。転じて琴の異称。】

【左丁】
写(うつさ)しめ。是(これ)に墨引(ぼくいん)を添(そえ)て進退(しんたい)手足(しゆそく)の伸(のび)
■(かゞみ)を示(しめ)すに。観客(みるひと)不学(まなばず)して尽(こと〴〵く)其業(そのわざ)に熟達(じゆくたつ)
すべし。且(かつ)画所(ゑがくところ)の人物(じんぶつ)の生動(ふぜい)。自(おのづから)踊(おどる)がごとき筆(ふで)
拍子(びやうし)。ヤットンとんと近来(ちかごろ)滑稽(こつけい)の小冊(せうさつ)ならん。
と看技(けんぶつ)の後(うしろ)に立(たつ)て。誉(ほむ)る事(こと)しかり

  乙亥の春     七代目
             三升述
         【印 白文】三升














  

【右丁】

近路(ちかみち)を示(しめす)に。人指頭(じんしとう)を画(ゑがき)。竹竿(たけのさき)の喰(くひ)
裂(さき)紙(かみ)は。水道普請(すいだうぶしん)の穴(あな)を知(しら)しむ。川童(かつぱ)
と呼(よん)で木瓜(きふり)とし。山鯨(やまくじら)と書(かい)て猪肉(ゐのしゝ)としる。
後世(こうせい)の合利(ぢよさいなき)を。ぐつと呑込(のみこむ)蛇山(へびやま)の主人(おやかた)。
画工(ぐわこう)と謀(はかつ)て踊独稽古(おどりひとりげいこ)の小冊(せうさつ)を編(づゞる)。
師(し)の影(かげ)を踏(ふめ)と教(をしゆ)る躍(おどり)かな。と故人(こじん)の秀吟(しうぎん)

【左丁】
に引替(ひきかへ)。学(まなば)ずして其(その)振(ふり)を覚(おぼゆ)る事(こと)。月前(げつぜん)
の形影(けいゑい)。麻中(まちう)の野蒲(やぼ)。水(みづ)の凹(ひくき)につくか
如(ごと)し奇也(きなり)妙也(めうなり)茶碗(ちやわん)を鳴(なら)し。燭台(しよくだい)を
敲(たゝく)の酔客(おきやく)。珍蔵(ちんざう)すべしと爾(しか)云(いふ)。
       需(もとめ)に応(おふ)じて
   《割書:亥の》       秀佳誌
    初陽




【右丁】
    初編(しよへん)目録(もくろく)
 ○登(のぼり)り【語尾の重複】夜舟(よふね)
 ○気(き)やぼうすどん【注】
 ○悪玉(あくだま)おどり
 ○団十郎(だんじうろう)冷水売(ひやみづうり)
【縦線の区切りあり】
◦源太(げんだ)◦半田稲荷(はんだいなり)◦おかめ◦道成寺(どうぜうじ)みちゆき
 右の四ばんは後編(こうへん)にあらはす一体(いつたい)【躰】は右(みぎ)の手(て)をいだす時(とき)は
 左(ひだり)の足(あし)をひく左の手(て)をいだせは右の足(あし)を引としるべし手(て)と
 足(あし)といつしよにいだすはなんばんといふとなり

【注 「きやぼうすどん」は「生野暮薄鈍」と思われる。生野暮=すこしも世の中の人情や風流を解しないこと。またそのさま。特に遊里の事情にうといこと。またその人。薄鈍=ぼんやりしていて血の巡りが悪いこと。またそのようなさまや、そのような感じの人。うすのろ。】

【左丁】
   のぼりよふね
の《割書:ウ》ぼりよ《割書:ウ》ふ《割書:ウ》ね《割書:ヱヱヽ•》かい《割書:イ》や《割書:ア|•》ろじや《割書:ア》てゝ《割書:•》かぢをとつた《割書: |•》
ゑ《割書:ヱ》い《割書:ヱイ•ツルツルツンツルツヽンツツン|ツンチヽリチリチツヽツン》さだや《割書:ア|•》ひら《割書:ア》か《割書:ア》た《割書:•》よど《割書: |•》
《割書:ツヽ•| ン》みづにくるまが《割書:•》くる〳〵《割書:ウ》と《割書:•》ふしみ《割書:イヽヽ》へ《割書: |•》つ《割書:ウ》くへ《割書: |•》おいおい《割書:•》
きやはんのひもじや《割書:モ|•》ひとつじや《割書:•》三じやくおびじや《割書:•》わき
ざしじや《割書:•》かさじや《割書:•》ひもじや《割書:•シテ| •ム•》あるくのじや

いづれもはだをぬぐにはあらずてあしののびちゞみまがる又はみのひねり等の
よくわかるやうにゑがかせんためとしるべしたゞしはちまきはすべし
まむきにゑがきてふりのわかりがたきはよこにかきてかたへに㊣【黒丸に白抜き】しるしをつくるなり
そのぶんはまむきのふりとしるべし【黒い棒線7~8字分位引き】てあしをひくの印なり

【踊りの手順が番号順に示されているので番号を頭初に翻刻します。なお、番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
【右丁】
一          六
 の《割書:ウ》          かいをつかうふりなるべし
  ぼりと        左りへてをながす
    ふむ          べし
                    かい《割書:イ》
二                    や《割書:ア》
 ぼり
  はちまき         七
     する          ろじや《割書:ア》
三                  ろをおす
 よ《割書:ウ》                かたちなり
  一《割書:ト》あし            ㊣【黒丸に白抜き字】
  あゆむ            てゞ《割書:ト》
                 みとともにりやうてを
                 いつぱいにつきいだすべし

【左丁】
四            八
 ふ《割書:ウ》            てゞ   ㊣【黒丸に白抜き】
  ふうと又一ト          てとゝもに
      あし          こしよりかみを
      あゆむ         むかふへつき
                     いだす

 ねへと          九
 あしをひく         かぢを
                   こしより下は
 ね《割書:ヱ》                そのまゝに置き
                   こしより
                   かみを左りへ
 あしと                   ひねる
 ともにこしよりうへを右へまげる
                  あはせたる
                  てをこゝまで
                     ひくべし


  

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
十             十四
 づのごとく          ツル
 ひねる              つる と 右を
   なり             一《割書:ト》あし
                  はこぶ
  とつた
              十五
十一               づのごとく
 ゑ《割書:ヱ》い             すべし
  あし
  とゝもに             ツン と てを
  ひぢを                つきいだ
   ひくべ                 す也
     し                 合かた
                        にて
  二度めのゑいにて              此あし
   あしをふむべし               ふみ
  ㊣【黒丸に白抜き】             かへる

【左丁】
十二           十六
 づのごとく         ツルツヽンツツン と あしをふむ
    そるべし              さしたるさほを
                        ひきゆく
 ㊣【黒丸に白抜き】                かたち
 ゑい
            十七
 ひぢを         合かたのうちはむかふへあゆみゆく
 ひゐたる
  てなり
             十八
十三             さだ《割書:ア》
 ツル
  つると左りを           だ《割書:ア》と 左りを
  一《割書:ト》あし                 だす
   はこぶ
     べし           みをかへして
  さおゝ             つのごとくゆびさす
  さすかたち                かたち也
     なり

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
十九           廿四
 や《割書:ア》            みづにくるまが と りやうてを
  てを                   右へすじかいに
  入《割書:レ》かへるなり              ながす事
                       二へんすべし
  や《割書:ア》と
  右をふむ                みづのながるゝ
                      こゝろもち也
廿
 ひら《割書:ア》          廿五
 か《割書:ア》た            くる〳〵《割書:ウヽ》

  くう                  と 右のてを
  かたち                 二へんまはす也

廿一                くるまのまはる
 よ                     かたちにて
 ど                     こゝろへべし

 みをかゞめて
 むねにつかへるふり

【左丁】
廿二              廿六
 つ                と
                    右のあしを
  つ と りやうあしを            ふむべし
     つまだてる
        なり      廿七
                  ふしみ と てびやうしを
                         うつ也
廿三
 つん と りやうあしを     廿八
     ふみつけ         ひだりを   右をふみ
        べし        ゆびさす     だし
                       いへ

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
廿九              卅五
 つ《割書:ウ》〳〵㊣【黒丸に白抜き】      三じやく

 あしをつま          卅六
 だてそる也                おび
                       じや

 ゑ  ㊣【黒丸に白抜き】      おびを
                   しめるこなしなり
卅一
   おゝい          卅七
 右のてをまねぐ           てをこしへ
                   ひきつける
 左を
 ふみいだ                  わきざし
    す

【左丁】
卅二              卅八
 てあしをいれかへるなり        じや
                    づのごとし
     おい
                卅九
卅三                かさじや
 ひもしめるかたち也
  ふむべし              さきへ
                     ふみ
 きやはんの                こむ
 ひもじや                  也

卅四              四十
 もひとつ              ひも
   じや
 ふむべし





【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
四十一
 じや と しめる
    かたち

 あしを
 左右へ
 ひらく
 べし
【人物のあしもとの記載】
 二度にひらくにはあらず

四十二
 シテ

 づの
  ごとし

四十三
 ムあるく
  のじや

 あゆむ
  なり

【右丁下段】
これはおどりをけいこしてのちに
ゑがきたるにはあらずもんていしう
けいこのせつゆきあはしてさいわいと
かきとりしものなれどもうつしたる
かたちをいち〳〵にとりひろげよく
〳〵うたのせうがさみせんのてに
ひきあはせたればそのてつゞきすこし
にてもさうゐあるまじけれどゑに
かくとふりにいたせしとはいさゝか
のこゝろへたがひもあらんかもしさうい
あらばふりつけのあやまりにはあらず
ゑしのゆきとゞかざるところなれば
みるひととがめたまう事をゆるし
たまへかしたゞ〳〵そのはやきを
みとめうつしとりたるのみの事と
こゝろへたまわるべし
のぼりよふねのおとり

【左丁】
    きやぼうすどん  《割書:チントンシヤン》【トンの下から左に線ば下にのび】おい
きや《割書:ア》ぼ《割書:•》うす《割書:ウ》ど《割書:ヲ》ん《割書:ウヽゝ|  •》ぜう《割書:ヲ》な《割書:ア》し《割書:•》てなしのくせとし
て《割書: |•》
《割書:チヽチン| チンヲイ》わる《割書:ウ》じや《割書:ア》れ《割書:ヱヽ•》いう《割書:ウ》た《割書:アヽ》り《割書:•》だいつうしうちも
あるまいし《割書:•》どふいふり《割書:イ》く《割書:ウ》つ《割書:ウ•》か《割書:アヽアヽヽ•| チンチレチレツン》きが《割書:アヽヽ•》し《割書:イヽ》
れ《割書:ヱヽヽ》ぬ《割書:ウヽヽヽ•| チンテンツン》き《割書:イ》が《割書:アヽ》し《割書:イヽヽ》れ《割書:ヱヽヽヱ》ぬ《割書:ウヽヽヽ引》
いづれもはだをぬぐにはあらずてあしのすぐまがるのびちゞむまたはからだの
ひねりかゞむのくせをよくゑがゝせんためとおもふべしまむきにかきてふりの
わかりがたきはよこむきにかきそのかたわらに㊣【黒丸に白抜き】しるしをおくなり此ぶんはみな
まむきのふりとおもふべし【黒い棒線7~8字分位引き】てあしをひくしるしなり
【大きくCの形に書き】
てにてまはす
しるしなり
【大きく半楕円形を書き】
かくのごとく
あるはそのなりに
 てをひくしるしなり
【やや短い線を三本、歩く足形に書き】
これはてあしにて
  きざみゆく
  しるしなり

【右丁】
チントンシヤン
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
一               五
 おい    ㊣【黒丸に白抜き】  うす《割書:ウ》
  左右の               と うすをひくかたち
  てにてひざを一《割書:チ》どにうつなり    かくのごとくこぶしを
                          まはす也
                六
                  ど    ど《割書:ヲ》んとふむ
二                 《割書:ヲ》
                  ん と たいこのかたちを
 き《割書:イ》                 まわしてのちすぐに
                    ひとつうつかたちなり

【左丁】
三             七
 や《割書:ア》            ぜう《割書:ヲ》と ぜうをあけるてつき也
              八
               な《割書:ア》し
                と てにいや〳〵といふかたち也

               九 てなしの

 ぼ               と てを
   と づのごとくひざかゞめ   ふと
   そるきみなり         ころへ入《割書:ル》







【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
十              十六
 くせ と ものを        《割書:ヤツ》
    とるきみか        ヲイ 左のてにて右の
                    ひぢをするなり
十一   ㊣【黒丸に白抜き】      ㊣【黒丸に白抜き】
 と 上のだん             右のてをつきいだす
   もっとも
   はやく         十七
   すべし           わる《割書:ウ》
十二
 して  ㊣【黒丸に白抜き】   と りやうてにてわをまはす也      同【或は「日」ヵ】 そのてをすぐにひたいへつけべし
       

【左丁】
十三             十八
      ㊣【黒丸に白抜】   じや と そり アと
 チヽ                    とゝむべし
  てをうつ
                  かほをつきいだすべし
  はやき
  ひやうしなり       十九
                 ア
十四
      ㊣【黒丸に白抜き】   左りへかみを
 チン                すこしひねるきみが
  てを               よし
    うつ

十五
      ㊣【黒丸に白抜き】同【或は「日」ヵ】
 チン
  つぎのかけごへとゝも右をつきだす也








【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
廿             廿四
 れ              大つうしうち【注】も
  かほをこゝまで           あるまいし
  つきいだしてよし
                づのことくあしを
  いぜんのごとくそり     ひらきかたあしづつあゆむ也
  ヱと とゞむ
               廿五 チン
廿一                  てとゝもに
 ヱ                   ふむべし
  こしより
  かみを右へひねる         てをすみのとおり
        きみ也        ながすべし

【注 大通仕打ち=遊里の事情に通じているようなそぶり。】

【左丁】
廿二
 いう《割書:ウ》             廿六
      ㊣【黒丸に白抜き】   チテ
  と もとゆいを            同じく
     まはすき                同じ
        どり也
                 廿七
廿三
 た《割書:アヽ》り             おい(ツン)

  と もとゆひをしめる
        かたちなり

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
廿八            卅二
 どういう           アヽ  は
  むなづくし【注】を
  とる          卅三
  きみ            チンチレ
                チレツン
廿九                チレツンとかるく
 りいくう                あてべし
 は
                  チンチレと てをかるく
                  あてる

【注 むなぐら。】

【左丁】
卅              卅四
 つう《割書:ウ》            きが と
 は               むねへゆびさす

                と むねへ
卅一              ゆびをさす
 か《割書:ア》                なり
  てをたがいちがいに
        あてべし   卅五
                 アヽ と同じく
                    ゆびさし
                      する


【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
卅六            四十 チン
 しい《割書:イヽ》             テン
                   ツン
  と たつべし          とりやうていちどにひざを
                         うつべし
                     ㊣【黒丸に白抜き】
              四十一
卅七             き《割書:イ》が《割書:アヽ》とそでを
 れ《割書:ヱ》                 おりて
               し 
  れ《割書:ヱ》と          《割書:イヽヽ》   し《割書:イヽヽ》れゑと
   ふむ也               右のあしを
                        ひく

【左丁】
卅八         四十二   れ《割書:ヱヽヽヱ》
 ヱヽ                ぬ《割書:ウヽヽヽヽ|    引》
              ヱヽぬ《割書:ウ》とむかふみるなり
  ヱヽとふむ也          つのごとくすべし
                  【▲に続く】
卅九
 ぬ《割書:ウ》ウヽウヽウヽ引
 右のてはつむりをはらふやうにかるくなして
 ぬウヽ●ウヽ●ウヽ●と三度のばすべし

  づのごとくにてあしを
   かるく
     あゆむなり

【▲】
しりをはしよりたるはあしのはこひ等の
よくみわけやすきためなりよくかんがへ
あるべしてつゞきとふりとてあしのひやうし
ほどあいはよくひきあはせてゑがくといへ
どもかたちをふでにとりふでをかたちに
かへてのわざなればいさゝかさうゐあらんか
それはふりつけのあやまりならずゑしの
ふてそほうなりたゞてじなのはやき事を
みとりてかきつらねたるのみなり
      きやぼうすどん おわり

【右丁上段】
あくだまおどり

てさきかるく   こゝろへの事
ふは〳〵と      はしめはとんびなり
する            づのことくなるべし
 きどり
  よし           つまさきにてとび
                     いづる也
とんび


とばざるときは    てさきしやんとすべし
つまさきにて
すり
あゆむ也
             つまさきにて
からす          あゆみいづる
そのきどり
  あるべし

【右丁下段】
あくだまはあつがりにて
こしらへづのごとくに
くわんぜよりをつけ
こゝより折くわい中
      すべし
【おおきな丸の中に】


うらのくわんぜ
   よりを
  くわへおとるべし

しやうめんよりみる
ときはうちわ小く
    なるべし

【左丁】
   あくだまおどり
《割書:チリチン|〳〵》とん《割書:ウ》び《割書:イ|ヽヽ》から《割書:ア》す《割書:ウヽ》に《割書:イヽ》なら《割書:アヽ》る《割書:ウ》る《割書:ウヽ》なら《割書:アヽ》ばとん《割書:ウヽ》で《割書:ヱ》ゆきた《割書:ア》や
ぬしの《割書:ヲ》そ《割書:ヲ》ば《割書:チリチン〳〵トツヽルテンツテツンツヽツンチリチツヽンチヤン。|チヤン〳〵〳〵チリチツヽンチリ〳〵チンツル〳〵ツンチリチン〳〵》
ぬし《割書:イ》と《割書:ヲヽ》ふた《割書:ア》り《割書:イ》で《割書:ヱヽ》くら《割書:ア》す《割書:ウヽ》な《割書:ア》ら《割書:アヽ》さけで《割書:ヱヽ》くろふも《割書:ヲ》おき《割書:イ》なが《割書:ア》し
《割書:チリチン〳〵トツヽルテンツテツンツヽンチリチツヽンチヤン。|チヤン〳〵〳〵チリチツヽンチリ〳〵チンツル〳〵ツンチリチン〳〵》なべかまへつつい
《割書:チリ|チツヽン》どふこやくはんにすりばちか《割書:ツル〳〵|ツン》すりこぎかついでにおやじも
《割書:チヽチリ|チン〳〵〳〵》そへ《割書:ヱヽ》じや《割書:ア》わいな《割書:ア》あゝ《割書:アヽよいトコ|  トントン〳〵》あゝ《割書:アヽ| ア》めつたにでまかせ
あしまかせでん八おせうはくもをやみ【注】いさみちらしていそぎゆく《割書:終》

【注 雲を闇=雲を闇の中でつかむようなたよりのないこと。】

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
一           五       はじめは
  とん         から     正めん也

   此すじは      かたちをすへ
   とぶ印也      たいを       あしと
             ねぢらす      たいと
二                      いつしよに
  び                    はこぶべし
            六 ア
   すべてかるく
   とぶがよし      づのごとく
              あしのはこび
      同         にて
              右左とむき
                かはると

【左丁】
三    イ          しるべし

  此四ツのふりはまづ    七
  かほかたちともに      す《割書:ウ》
  とんびのきどり    同
      かんじんなり   八 に《割書:イイ》

四    イ             しまいも
                   正めんにて
   とんび《割書:イイ》とすべて        とまる也
   よことびなりとんびの
   きどりにて           これはからすの
     てをふは〳〵とゆく也    あゆむ
                    かたちに
                    と【こヵ】ゝろへて
                       すべし


【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
九              十三  ならア
  此四手はすべてよことび       《割書:アヽ》ば
  にてたいは正めん也         とふむべし
                    印あり
     なら
               十四 アヽば
十      とび印        かほはめつききよろ〳〵と
 ア                 からすの下を
                     みおろす
十一     とぶ印            おもいれ也
 アヽ               バ   とあふぎを
                    ア  まわし
【放物線に添って】        ア     ながらひき
此すじ                      つけべし

【左丁】
【放物線に添って】       十五 とん《割書:ウ》
大《割書:ヲ》とびにとぶ印なり           で《割書:ヱヽ》

       る《割書:ウ》      【人物の足元の線に添って】
                 とんでヱヽゆきたアやア《割書:アヽ》
  からすの          
  ひよい〳〵と         十六 ゆきた《割書:ア》や《割書:ア》
   とぶきどり也          アヽとめんを
                        くわへる也
十二
 る《割書:ウヽ》

  これまではいづれも
   正めんのふりと
      こゝろへて
       すべし

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
十七 ぬし《割書:イ》          廿一
  左右のてをし《割書:イ》と       【手元の線に添って】
     二ツうつべし        此のてをこゝへ引

十八                  トツヽル
 此すじのごとく左右のてを         テン
  わきばらへひきつける也
    の《割書:ヲ》にてひくべし        つのごとく
    たゞしてのこうをうへに       するが
             する也        よし

の《割書:ヲ》そ             廿二
                 【手元の線に添って】
【人物の足元の線に添って】   左右のてを
  そ《割書:ヲ》ばと          すじのごとくこゝまでひくべし
 此あしをいつ               ツテ
                       ツン

【左丁】
【右丁からの線に添って】
  ぱいにひく也

十九              廿三
 《割書:ヲ》ば              ツヽツン
                    つぎの
  ヲヽばと              ちりちつといふとき
   てをかへしてひらを        そつとふみつける也
    うへになし
  すじの             【手元の線の右端】
  ごとくいつぱいにつき       て
       いだすべし      【手元の線の左側】
        づのごとし      てをこゝ
                   までひき
廿                  ながらての
 チリチン              うらをみせる
   〳〵                  なり
                  【足元の線の右側】
  此あしを             こゝへ
  あげる也             ひきつける也
                  【足元の線の左側】
                   こゝの
                   あしを

【右丁】
【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
廿四            廿七
 チリチツ          又
               チヤンと
  廿三のつゝつんの     左右のてを
  あしかくのごとく     いれかへる也  ひやうしともに
    ふみつける    ◑         あしをあぐる也
            つぎへの
  此からだをかみの     印
  ほうばかりうしろへ
  ねぢりてせなかをみせ    廿八
  つぎのごとく         又チヤンと
        なると      あしをあとへ
       こゝろへてすべし  げあげる也
                 ひやうしとゝもに
                 あとへ
                 づの
                 ごとく
                 引也

【左丁】
廿五           【右丁よりの延長線の左端】
    ツン        て

 廿四のたいをこしより     廿九
 上をひねりて          チリと
 てをこゝへ           両のてを
 ひく             つきいだす
  也             【頭上の線の右端】
                 て
【頭上の線の左端】
て               卅
                 チツ
 ツンとあとへ           チツと左右の
 ひくべし             てをづのごとく引也
             【膝の位置にある横線に添って】
廿六                     あしを
 チヤンと             此すじのことく引
 このてをつき
   いだすべし           つぎのつんにて
                   ふみつけべし










   

【番号は漢数字を丸で囲んでいるが、ここでは漢数字だけで表示する。】
卅一            卅五
 ツン            くらすなら
              くら《割書:ア》す《割書:ウヽ》な《割書:アヽ》ら《割書:ア》と此ふりにて
【左手の線に添って】          かるくあゆみ行
  いちどに                   べし
  つきいだすべし        【扇の上と横】
【右手の線に添って】       もんくのふしとゝもに此
  つんと左右とも       あふぎを印シの所までいくたびも
【足元】                   うごかす也
  つんとふむあし
               卅六
卅二                さけ《割書:ヱ》で《割書:ヱ》と
 チリ〳〵チン           のむかたちを
                     するなり
  と 左右のてにて
  たがへちがへにめんをうつ也      さけで

  づのごとくてはあふぎをうち
  あふぎはめんをうつべし

【文字無し】

【裏表紙 資料整理ラベル】
JAPONAIS
 260

【冊子の背 整理番号記載】
260

【冊子の天或は地の写真】

【冊子の小口の写真】

【冊子の天或は地の写真】

BnF.

大倭東錦絵

大日本
《題:縮画》
東風俗

BnF.

BnF.

【表紙 題箋】
ほうらい山 《割書:下》

【題箋下部の手書き資料整理ラベル】
jap
23(2)

【見返し 右丁 資料整理ラベル】
SMITH-LESOUEF
JAP 23(2)
1517 F 1

【見返し 左丁 文字無し】

【右丁 白紙】
【左丁】
かゝるめてたきくすりなれはきく人ことに
うらやみてもとむるといへともたよりは
さらになかりけりもろこし秦(しん)の始皇(しくはう)のとき
天下こと〳〵くおさまり始皇みつから御身の
えいくはたとへんかたもなかりしにつら〳〵
心におほしけるはたとひ天下をはたなこゝ
ろのうちにおさむるとも年かさなれはよはひ
かたふき老(おひ)か身のはてしにはむなしくならん
はうたかひなしねかはくはよはひかたふかすい
のちかきりなき長生(ちやうせい)不死(ふし)の仙術(せんしゆつ)をつたへ

【右丁】
ほうらいさんのふらう不死のくすりをもとめ
てあたふる人やあると天下の諸国をたつね
られしに徐福(ちよふく)と云 道士(たうし)ありてみかとに
そうもん申すやう我ねかはくは君のために
不死のくすりをもとめえてたてまつるへしし
からは此くすりは大 海(かい)のうちにほうらいさん
とて神山(しんせん)ありこのうちにこそあるなれは此
山にいたつてとるへしたゝし風あらく波たか
けれはたやすくはいたりかたし十五いせんの子
ともをおとこ女をの〳〵五百人を舟にのせて

【左丁】
子々孫々(しゝそん〳〵)あひつきてつゐには山にいたるへし
やかてとりえて
      たてまつらん
           と申
             けれ
               は

【右丁 絵画 文字無し】
【左丁】
それこそねかふところなれとみかと大によ
ろこひ給ひて大船をこしらへ千人の子とも
をのせ徐福(ちよふく)これにとりのりて大かいにこそ
うかひけれ風あらく波たかくめには蓬莱(ほうらい)の山
をみれともきしによるへきやうもなし波
ふねをあくるときは天上の雲にものほるへ
く波よりふねのをるゝときはりうくうの底(そこ)
にもいたるへししかも蛟龍(かうりう)【注】と云おそろしきもの
其舟につきしかは舟さらにはたらかす徐福(ちよふく)
すなはちこれをしたかへんとて舟はたに五


【注 「蛟」が「魚」偏に見えるが誤記と思われる。蛟龍(こうりょう)は中国こだいの想像上の動物。水中に潜み、雲雨に会えばそれに乗じて天上に昇って龍になるとされる。】

【右丁】
百の強弩(きやうど)をしつらひかうりうのうかひあかる
をあひまちけり有ときかうりう水のうへに
うかひ出たりかうへは獅子(しゝ)のかしらに似(に)て
角(つの)おひ髪(かみ)みたれまなこは又かゝみのおもて
に朱(しゆ)をさしたることくなりうろこさかしま
にかさなり六【?】のあしは爪なかくふしたけ【臥長】は
百 余丈(よぢやう)にもあまりたり徐福(ちよふく)これをみてもと
より待まうけたることなれは五百の連弩(れんと)の石
弓を一とうに【いちように】はなちたれはかうりう是に
うたれつゝかうへくたけ腹(はら)やふれてたちまち

【左丁】
にむなしくなる大海の水この故に血(ち)に
へんしてこそみえにけれしかれとも徐福(ちよふく)は
なをも山にはゆきつかてふねにのせたる
童男丱女(とうなんくはんぢよ)【注】はいたつらにおひおとろへふねは
風にはなされて
      行かたなく
          こそ
           なり
            に
             けれ

【注 丱女=髪をあげまきに結った少女】

【両丁 絵画 文字無し】

【右丁】
またもろこし漢(かん)の武帝(ふてい)はこれも長 生(せい)不 死(し)
のみちをもとめて西(せい)わう母(ほ)といふ仙人をま
ねきしやうしてせんしゅつ【仙術】をまなひ給ふ
わう母すなはち勅におうして禁中(きんちう)にさん
たいし七 菓(くわ)の桃(もゝ)をたてまつり丹砂(たんしや)雲母(うんほ)玉(ぎよく)
璞(はく)をねり紫芝黄精(ししわうせい)の仙薬をとゝにへつゐ
にほうらいのふしのくすりをたてまつりき
それより唐(たう)の世にうつりて玄宗皇帝(けんそうくはうてい)の
御とき楊貴妃(やうきひ)の魄(たま)のゆくゑをたつねまほし
くおほしめし方士(はうじ)【注①】におほせてもとめ給ふに

【注① 「ほうじ。ほうしともいう。方術、すなわち神仙の術を行う人。道士】

【左丁】
方士すなはち勅銘をうけたまはり十 洲(しう)三
島の間をあまねくたつねめくるところに
かのほうらいの山のうち太真宮(たいしんきう)【注②】にてたつね
あふ七月七日 星合(ほしあひ)の夜のひよくれんり【比翼連理=男女の間の睦まじいこと】のか
たらひねんころなる私語(さゝめこと)おはしけりと云
事は此時にそしりにけるやうきひと申す
もほうらい宮(きう)の神仙(しんせん)にてかりに人けんに
あらはれて玄宗(けんそう)くわうていにちかつき
花清宮(くはせききう)の御遊(きよゆう)にも仙家(せんか)のきよくをまひ
たまふけいしやう羽衣(うい)のきよくとは是

【注② 「太真」は楊貴妃の号】

【右丁】
天しやうの神仙(しんせん)よりつたへたりし舞楽(ぶがく)
なりかれといひ
       是といひ
   まことに
       たつとき
           事
            とも
              也

【左丁 絵画 文字無し】

【右丁】
こゝに紀伊(きい)の国 名草(なくさ)の郡(こほり)に安曇(あつみ)の安彦(やすひこ)
とて釣するあまの有けるか春ものとかに
うらゝかなる波にうかへる小船(せうせん)に棹(さほ)さして
沖(おき)のかたにこき出し魚(うを)をつるところに
にはかに北風吹おちて波たかくあかりつゝ
雪の山のことくなり安彦こゝちまとひて舟
をなきさによせんとすれとも風はいよ
〳〵はけしう吹なみはます〳〵あらう打
けれはちからなく風にまかせ波にひかれ
てみなとをさしてはせてゆくかくてゆく事

【左丁】
とふかことく一日二日とはするほとにい
つくとはしらすひとつの山にふきよせ
たり安彦すこしこゝちなをりてふねより
あかり山のていを心しつかにみわたせは
金銀すいしやうはきしをかさり草木の
はなも世にかはりきゝなれぬ鳥のこゑ
なにゝつけてもさらににんけんのさか
ひともおほえすこはそも九野(きうや)八 極(きよく)をへた
てし乾坤(けんこん)の外なるらんとあやしくおもひ
てたちやすらふ【立ったまま、ぐずぐずと事をのばす】ところに年のころはた


【右丁】
ちはかりの女房たち七八人なきさにそふ
ていはまをつたひあゆみきたりしありさ
ま雲のひんつら【鬢ずら】かすみのまゆひすいのかん
さしたまのやうらく【瓔珞】花をかさりしよそほ
ひ心もこと葉もをよはれすらうたく【可憐でいじらしく】う
つくしうみえけるか安彦を見たまひ大に
おとろきのたまふやうそも〳〵こゝはほう
らいの山とてはるかに人けんをへたてた
るしやう〳〵【しょうじょう(清浄)】の仙境(せんきやう)なれはたやすく人のか
よふへきところならすなんちいかなる

【左丁】
ものなれは是まてはきたりけるやらんと
のたまふ安彦うけたまはりかうへを地につけ
手をあはせて申すやうそれかしは是より
大日本紀伊の国 名草(なくさ)のこほりにすまゐして
うらへ【浦辺】にふねにさほさしてたまもをひ
ろひいそ菜(な)【磯にあって食用になる海藻】をとり又つりさほをたつさへ
て魚をとりて世をわたるいやしきあまの
たくひなりしかるに我一えう【葉=小舟を数えるのに用いる】のふねに棹(さほ)
さして沖に出て魚をとらんとせしところ
ににはかに大風吹おちて波にをくられ風

【右丁】
にはせられて心ならす此地にきたれり
ねかはくはめくみをたれてたすけさせた
まへと申す女房たちのたまふやうみつから
をの〳〵よのつねの人けんにても侍へらす
おなしく仙家(せんか)のかすにありされはなんちら
にこと葉をもかはすへきことならねともな
むち【汝】おもひかけすこの地にきたるも又故
ありむまれてよりこのかた心にいかりを
わすれ欲(よく)すくなくしやうちきにして物を
あはれみ慈悲(じひ)ふかきそのまこと天理(り)にかなひ

【左丁】
こと故【事故=差しさわり】なくこのところにもきたることをえ
たる也さらは仙境(せんきやう)の有さまをみせ侍らんに
まつ溟海(めいかい)の水に浴(よく)せよとの給ふやすひこ
水に浴(よく)すれはかしけ【かじけ=やつれること】くろみしはたえ【皮膚の表面】はたち
まちに色しろくこまやかにわかやきたり
又一りう【粒】のくすりをあたへてのましめた
まふに安彦(やすひこ)をろかなるまよひのむねたち
まちに霧はれてさやかなる月にむかふ
かことくにて自然智(しねんち)【じねんち=自然に悟りをひらいた智】をそさとり
    ける

【右丁 絵画 文字無し】
【左丁】
かくて安彦は七人の女仙にともなひてほう
らいきうのあひたをめくりてこれをみるに
まことにみめう【微妙=不思議なほど素晴らしいこと】きれいなりかゝるところは
むまれてよりこのかた目にみしことはいふ
にをよはす耳(みゝ)にきゝたるためしもなし
みれとも〳〵いやめつらかにあきたる事さら
になし又かたはらよりひとりの仙人たち出
て心もこと葉もをよはぬほとのいしやうを
あたへ天のこんすけんほ【玄圃】の梨こんろん【崑崙】の
なつめなとさしもに【あれほどに】めつらしきものをあたへ

【右丁】
たれはいよ〳〵心もさはやかにとひたつはかり
におほえたちそれよりふらうもん【不老門】のうち
長生殿(ちやうせいてん)につれゆきて此仙人かたりけるは
いかにこれこそはなんちもさためてきゝを
よひけん不老不死(ふらうふし)のくすりはこの宮中(きうちう)に
こめられてたやすく人にはほとこしあたふ
ることなけれともなんちか心のしひふかく
正ちきにしておやにかうあるその心さしを
かんする故にこれをなんちにあたへんとて
すなはち是をとりいたし瑠璃(るり)のつほのうち

【左丁】
より七ほうのうつはものにうつしいれて安
彦にたひ【お与えになる】てけり安彦これを給はりて今は
いとま申て二たひ故郷にかへらんと申すさ
らは心にまかせよとてやかて舟にをくり
のせ給ひけれは七人の仙女も岸まてたち出
給ひて東門(とうもん)の瓜(うり)南花(なんくは)の桃(もゝ)玄雪(けんせつ)の煉丹(れんたん)【注】を
安彦に給はりぬかくてともつなをときめい海(かい)
にうかひけれはみなみの風 徐々(ぢよ〳〵)と吹て
         日本の岸(きし)につきに
                けり

【注 古代、中国で、道士が辰砂(しんしゃ)をねって不老不死の妙薬を作ったこと、またその薬】






【右丁 絵画 文字無し】
【左丁】
きのふけふとはおもへとも故郷は山川ところ
をかへしれる人はさらになし晋(しん)のわう質(しつ)か
仙家よりかへりし事水のえのうらしま子か
りうくうよりかへりたりしむかしのためしに
露たかはす安彦もやうやく七世の孫(まこ)に尋ね
あひたりいま安彦も三百 余(よ)年をすきにけり
みかと此事をきこしめしをよはせ給ひちよくしを
たてゝめされけり安彦ちよくにしたかひて
いそきさんたいつかまつりほうらいさんの
ありさまつふさにそうもん申つゝふらう

【右丁】
      不死の
         くすり
            を
        みかとに
           これ
             を
           たて
             まつる

【左丁 絵画 文字無し】

【右丁】
みかとえいかんあさからす安彦(やすひこ)やかて一とうに
三位の宰相(さいしやう)になし下されみつから薬字(くすり)をなめた
まへはみかとの御よはひわかくさかりに立かへり
長 生不死(せいふし)の御ことふきをたもち給ふ安彦は又
七世の孫(まこ)もろともに通力自在(つうりきじざい)の仙人となり
いまはこの人 界(がい)もわかすむところにあらす
とてそらをかけり雲にのりて天上の仙宮(せんきう)
にのほりけるとそめてたけれ

【左丁 見返し 文字無し】

【裏表紙】

BnF.

【上部3行翻刻できず。左側縦書に対応する右英語部分のみ翻刻。紙面左から右へ。以下コマも同様】
トーカイドーブンケンエヅ
東海道分間絵図
A Graphic representation of all the roads
and passes on the way of the Eastern sea, from
Yeddo【江戸】to Miaco【都ヵ】in Japan.
This is a complete travelling vade mecum
in Japan exhibiting the appearance of the
roads and face of the country through which
the road passes with the rivers to be
crossed and the tunnel to be passed through
in all the jourey thro【through】 Japan.

ブンケンエドダイエゾ【ママ】
分間江戸大絵図
A large map of Yeddo about eight feet
square exhibiting all the streets and
lanes in that large city.

The same on a smaller scale and colour
red.

オーサカシシヤウズ
大坂指掌図
A map of the city of osaca.

エトノヅ
江戸図
A middling sized map of the city of Yeddo

ニツボンキヨーチセンヅ
日本與地全図
D
A complete map of the islands of Japan
with the degrees of latitude and longitude【*】
according to the European mode, to which
【*】
is added a map of the northern island.【*】

ドーチウヒトリアンナイヅ
道中独案内図
D
A map of roads trough Japan.

リョードーチウクワイホーヅカン
両道中懐宝図
D
A book of roads through all Japan.

ダイニツポンドーチウシナン
         クルマ
大日本道中指南車
D
The same in a different form and color【*】

ニ【以下なし】
日光御山総絵図
A duplicate of No 90.
【*=直前単語推測】

ニツコーオヤマソーエヅ
日光御山絵総図
A ground plan of the temple and im-
perial burying place at ■【Nikkoのつもりヵ】

タイセイコクカイリクドーテイヅ
大清国海陸道程図
D
A collection of maps representing China
in the different periods of her history.

分間江戸大絵図
A duplicate of the map Chi.【Chinese省略ヵ】 with
the addition of translation of the
names of various places.

The above collection of maps appear
to me to be of great interest and value.
     N.M. Medhurst【人名怪しい】
Batavia, June 6th 1829.

【白紙】

【前行と次行に分かれた単語はハイフンをつけた】
マンカイセツヨージフクゾー
満海節用字福蔵
A happy compilation of useful words essential
in all parts of the Empire.
A Japanese and Chinese Dictionary arran-
ged according to the Japanese alphabet
where in every Japanese word may be found
under its appropriate initial letter. But there
is a second arrangement which renders the
consulting of this dictionary difficult to
a foreigner, the words being classed under their
several initial letters, no further attention
is paid to alphabetic【alphabetical】 arrangement, but the
words are then arranged according to subjects
so that a person must know the meaning
of the word in order readily to pitch upon
it. This book is intended for Japanese stu-
dents who knowing their own language are
anxious to find out the corresponding cha-
racters in Chinese for every given Japanese
word; were the work rearranged, it would be
very useful to the Chinese scholar and
would enable him speedily translate every
Japanese book put into his hands.
Beside the Dictionary more than half the
book is taken up with plates and descrip-
tions respecting the most common things
seen and believed in Japan which it

may be thought necessary for a Japa-
nese to be acquainted with.

トクワイセツヨーヒヤクカツー
都会節用百家通
D
A general collection of a useful words【sは推測】
common to all families.

A Japanese and Chinese dictionary ar-【推測】
ranged like the former, and of nearly
same character with this exception ■
in this work more room is given to ■
dictionary and less to the extraneous
matter, so that as a mere dicionary
this would be more useful than the【推測】
former.

ワカンセツヨームノーフクロ【ママ】
倭漢節用無双嚢
An incomparable sackfull【sackful】 of useful
words in the Japanese and Chinese lan-【推測】
guages.
A Japanese and Chinese Dictionary
like the two former only【ヵ】 smaller and
more compact.

ハヤヒキセツヨーシウ
早引節用集
An early introduction to the useful ■【collectionヵ】
of words.
A Japanese and Chinese Dicionary ■【arran-ヵ】
ged a little differently from the ■
former for the words being classed ■
their respective initial letters they ■

【英語右側四行目から】
henceforth arranged according to the syl-
lables, those of one syllable being first, then
those of two and such, this dictionary may
be more easily consulted by the European
and Chinese students than any other.

ジリンギヨクヘンタイゼン
字林玉篇大全
D
\A word of characters in the pearly page
fully completed\
A Chinese and Japanese dictionary, arranged
according to the chinese radicals; in which any
given Chinese character may be found readily
and the explanations in Japanese, with the
Japanese sound of the chinese word there-
by, this book is invaluable for a chinese
student, in enabling him to translate from
Chinese to Japanese but vice vesa it is of
small utility.

イコクシヨモク
彙刻書目
\ A catalogue of printed books\
This catalogue contains many thousand
works common both to China and Japan,
treating of the ancient Classics, Mythology,
History, Astronomy, Statistics, Geography,
Law, Physic, and morals, and tends to show
how extensive and general the literature
of those Eastern nations has been.

\A collection of of pictures and plates, for the
instruction of Youth\

キンモウズイタイセイ
訓蒙図彙大成
This work is full of graphical illustration
of every thing common in Japan, including
descriptions of their astronomy, geography
buildings , professions and trades, parts of
human bodies garments, precious thing ar-
ticles of use and implements of hus■
■; beasts, birds fishes and insects,
vegeables, fruits, trees, flowers and
miscellanies including every thing ■
■whichi a person may wish to know
or see relative to Japan all plainly ■
■【■■=portrayedヵ】, and a description in Japanese
thereby.

ココンセンクワカヾミ
古今泉貨鑑
”A mirror of ancient and modern coins”.
This is an extensive work on coins
exceedingly interesting to the connoi-
seur or the antiquarian including
descriptions of all kinds of coins
from the earliest antiquity to the pre-
sent time, that have ever existed in【推測】
Japan.

サイヨーゼンフ
西洋銭譜
“A list of foreign coins\
This is a collection and description
such European coins as have fallen
to the hands of the Japanese, ■
on account of the clearness with ■
our ■ seem to be delineated, and
the interest which the Japanese ap■
to take in them.

\A mirror of Chinese and Japanese coins



サイヨーゼニフ
珍貨孔方鑑【「ちんかこうほうかん」と読むらしい】
D
【四行目から英語部分のみ】
This work contains also many curious des-
criptions of coins, different from the two
former.

コーホーカン
孔方鍳
An other book of coins of the same
nature with the preceding.

チンゼニキヒンズロク
珍銭奇品図録
D
”A graphical representation of precious
coins of a singular order\
This is also a work on coins similar to
the peceding.

コセンアタエツケ
古銭価附
D
Ancient coins with the value annexed.

コーホーズカヽミ
孔方図鑑
D
”An other work on coins”

キンギンズロク
金銀図録
D
\A graphical description of gold and
silver coins\

シンキウセツヤク
鍼灸説約
\The rules of lancing and caute-
rizing\
This is a medical work handing【handlingヵ】
what cases, lancing and cauterizing
may be useful and how the ope-
ration is to be performed.

コ【ソ】ーシソ
宋詩礎
\The foundation of Sung【宋】 poesy【poetryヵ】\
This is a Gradus ad parnassum【コマ40に注記】
showing how to make odes and ■
■【■■=poetryヵ】equal to what graced the ■【Sungヵ】
dynasty in China.

エホンコンレイツーシヘン
絵本婚礼通志篇
\A graphical representation of
ceremonies universally adopted【byぬけ】
mariages【marriages】\
This work is a collection of
pictures, representing the marriage
ceremonies gone through by the
young couples previous to and ■【afterヵ】
marriage.

リツカセイドーシウ
立華正道集
\The right way of planting flowers\
This work seems to reveal the arts of
planting flowes in such a way as
to discover secrets and foretel【foretell】future
events by their growths. Three of
these four volumes are full of
graphical descriptions of the sin-
gular growth of these flowers, whi-
le the fourth volume points how
they are to be managed so as to pro-
duce these effects.

コツドーシウ
骨董集
D
\A Collection of curious things\
This seems to be a work on the
ancient mythology of Japan and
on the feasts of customs founded
thereon.

エキケン
訳鍵
D
\A Dutch and Chinese dictionary\
arranged according to the Dutch
alphabet, with the Japanese
meaning affixed to every Chinese
word.

エキケン
訳鍵
The same as the preceding complete
as to the number of volumes,
but
wanting the Japanese meaning be-
fore every Chinese word.

真字引玉篇大成
D
\A complete pearly Page introductory to
true knowledge of the Chinese Character\
This is a Chinese and Japanese Dictio-
nary arranged according to the strokes■【ofヵ】
the Chinese caracter【character】after a new ■
singular mode, which when a person【推測】
is accustomed to may be easy■【forヵ】
reference, but in its present form
no means so useful as the Dictionary
No.【No 抹消ヵ】5 which it【isとあるべき】in some respects re■
bles【前行re■+bles=resemblesヵ】

ニッポンオーダイイツラン
日本王代一覧
A General view of the generations
of the Japanese Kings.
This is a complete history of Japan■【fromヵ】
the time of the Shim moo 【神武の表記ヵ】, their first Empe-
ror B.C.620【*①】 to the latest period written 【推測】
Partly in Chinese and partly in Japanese,
a most interesting work and well ■
of translation.

ミヨージユツハクブツセン
妙術博物筌
\A collection of wonderful arts, and
curious things\
This work seems to contain every-
thing considered useful for a Japanese
to know a kind of exyplopedia【?】 of ■

シウチンリヤクインタイセイ
袖珍略韻大成
\A sleeve pearl containing a collection
of words according to the sound\
This is also a \Gradus ad Parnassum\【*②】like the
mentioned No.19 but much fuller.

【*①神武天皇即位は西暦に換算すると紀元前六六〇年といわれる。】

【*②グラドゥス・アド・パルナッスム(ラテン語:Gradus ad Parnassum)とは、パルナッソス山への階梯という意味のラテン語。「階梯」とはこの場合は「段階」を意味する。パルナッソス山は芸術や学問の聖地とされ、「グラドゥス・アド・パルナッスム」という題は芸術の教則本などによく用いられた(Wikipedia)】

エホンソーキウオカ
絵本双乃岡
A kind of story the purports of which can
not be ascertained.

エホンキンクワダン
絵本金花談
\A discours on the golden flower
with plates\

グワホンオーシクバイ
画本鶯宿梅
\The parrot of the plum tree\ with
plates.
This appears to be a book of poetry.

エホンシヤホーフクロ
絵本写宝袋
\The precious garment with plates\
This seems to be a romance as do also
the three former ones.

エキゼン
訳筌
\Explanations of synomemous【synonymousヵ】terms
in the Chinese language.

セイドーツー
制度通
\Rules and Regulations\
This is a manuscript work on all the
ceremonies and laws common to China
and Japan.

ゴールイダイセツヨーシウ
合類大節用集
\A useful collection of all sorts of ■【wordsヵ】\
This is a Japanese and Chinese Dictio-
nary in which the words are clas■【classified】
under 13 heads, each head occupy■
a volume, and the words under
each head arranged alphabetically
according to the letter of the Japa■【Japanese】
alphabet.
This work is of use to a Japanese
who wishes to know the Chinese
character and meaning for any ■
new word in his own language.

ウンコンシ
雲根志
\The science of the roots to things\
This is a work on mineralogies and
chrystallizations that must be ■【veryヵ】
interesting to those who may be ena■【enabledヵ】
to consult it.

ヤマトネンダイコーキエシヨー
倭年代皇紀絵章
A history of the Japanese kings, ■【forヵ】
the earliest antiquity, tho【=though】 the ■
of the Emperor who flourished a■【at】
AD 690

【日本語タイトルなし】
This would be an interesting and impor-
tant work if it were completed to the
present time.

ブツゾーズイ
仏像図彙
\Representations of the various forms of the
God Buddha\
This work is full of pictures, showing
the multitudinous forms under which
this idol is worshipped in Japan, and the
names and titles wich【which】 are there given
him, to the number of several thousand.

エホンブユーサクラ
絵本武勇桜
The use of military weapons with plates.
This work is full of pictures repre-
senting the various modes of fencing
and guarding used in Japan.

シマハラカツセンキ
島原合戦記
\The wars of ■■\
This is a work representing a severe
contest maintained in some part of Japan
with plates.

ホクサイクワシキ
北斎画武【式の誤記】
\Outlines of drawing\
This is a collections of sketches, intended
for those who study the art of drawing.

キョウカクワントーヒヤクダイ
             シウ
狂歌関東百題集
Wandering ■ from the eastern borde■【borderヵ】
a romance with plates.

グワホンムシセン
画本虫撰
\Representations of insects\
This is a book of lively pictures showing vari【varietyヵ】
of insects and the plants on whichi th【theyヵ】
feed.

エホンシヨシンハシラタチ
絵本初心柱立
A work on natural history inclu【includingヵ】
representations of various objects in
the animal and vegetable kingdom.

イセモノカタリ
伊勢物語
\ A Description of Ise\
This work contains a descrip【description】
of the holy Imperial ■【Tombsヵ】 of
Ise.

サイコンヒヨー
菜根譚
A collection of moral sayings and
proverbial sentences.

キヨーカフソーシウ
狂歌■【扶ヵ】桑集
\Favourite ■ on bearing the
mulberry branch\ - a poem

一谷嫩軍記
\An account of some military ex-
pectation\ -

オーミゲンジセンジンヤカタ
近江源氏先陣館
\A residence near the rivers
head\- a play. -

カナテホンチウシンクラ
仮名手本忠臣蔵
\The faithful minister under a feig■【feignedヵ】
name - a play
This and the two former works are
written in the running hand of the
Chinese character, which to a f■
reigner【f■+でforeignerヵ】is very difficult .

スカワラデンシユテナライカヾミ
菅原伝授手習鑑
The lady of the thatched cottage\【Theの前の\は見えない。他にも例あり。】
a play -

ホンマチイトヤムスメ
本町糸屋娘
The mirror of mechanism\
a play

双蝶蝶曲輪日記
The record of the ■ cha■
between two butterflies\

マツカゲクワイダン
松陰快談
\Plesant【pleasant】conversations under the cypress
shade\
This is a work written wholly in the Chi
ese
character, with a few Japanese letters
to mark the parts of speech - and treats of good government ethics ?et.

ソーシセイセツ
宋詩清絶
The spirit of Sung poetry\-
This is a collection of poems published
in the Sung dynasty of Cnina, when poetrymost flourished there, and which【whenの誤記ヵ】 poems
are much esteemed. It is written in the
Chinese character as above.

ケンセイゾ【グ】ーキ
間情偶寄
This is a work in the Cninese caracter【character】
treating of building houses and ma■
king furniture:- or the country gent-
lemans vade mecum.【*】

シシヨ
四書
The four books of confucins【confucians】in the
Chinese Character, with a Japanese
translation in the Hiragana Character
interlined with the Chinese. This is
an invaluable work for any one
acquainted with the four books
in Chinese as he would thereby be
soon enabled to become familiar
with the Japanese translation.
【*vade mecum=携帯参考書,必携,便覧】

エゾホーゲンブブン
蝦夷方言部分
D
\A vocabulary of the ■【蝦夷の表記ヵ】and Ja-
panese languages.
The words are arranged according 【to見えない】
the subjects each word being ■【writtenヵ】
in the Chinese character above ■【allヵ】
explained in Japanese characters ■
This book would be extremely ■
to a Chinese scholar who wanted
to acquire some knowledge of th■
particular dialect of the Japanese
language.

エホンタブノミネ
絵本多武峰
\A collection of various military
weapons and graphic description
of deadly combats

キヨーカグワシマン【「ツ」に見えるのは「ワ」と理解】
狂歌画自満
\ A weighing ■ for self dece■【self-deceptionヵ】
This work is a collection of ■
■【■■=pictureヵ】 presenting a variety of landscape
scenery

センジモン
千字文
\The thousand character classic\
This work contains 1000 different ■
se 【■+seでChineseヵ】characters, each written in the ■【variousヵ】
forms of the plain hand, running hand
printed text, seal character, and the ■
cient 【■+cient=ancientヵ】method, with the explanation ■【ofヵ】
Japanese annexed to each.-

バンセイエドマチカ■【ヽミかヵ】
万世江戸町鑑
\ A ■ of officers in Yeddo【江戸】 for
various generations\

エゾシウイ
蝦夷拾遺
\An account of Yezo【蝦夷】describing their
■ language , manner, implements
& in manuscript

A continuation of the same consisting
chiefly of graphic description.

A work containing the three sorts
of the Japanese letters, the male, the female
and the Chinese originals from which these
were taken. -

A vocabulary of the Yesasch【?】and
Japanese languages, with the Dutch
meaning to every word, and the sound
of each Japanese and Yesa■【?】(【?
】word
in Dutche characters

ロクキンヒヤクニンイツシヨアツマニシキ
■金百人一首吾妻錦
A work treating of various
things for the use of females

ヘイケモノカク【タ】リ
平家物語
A discourse on the arrangement of
family affairs\ a novel, with pla■
a duplicates of ■

コーヨーグンカン
甲陽軍鑑
The history of the wars in ■
an【a】 work on military affairs
   a duplicate ■

タイヘイキ
太平記
A record of peaceful times
   a duplicate ■

カガミヤマレツシヨコー
鏡山列女功
The merits of the illustrious lad■【ladyヵ】
of king san【鏡山の音読みヵ】.- A romance with ■

マチヒケシバンクミ
町火消番組
A Table exhibiting all the habili-
ments and marks of the rules of the
various districts in Yedo【江戸】, on which they
may be marshalled out in case of
fire.

シウホーコセンフ
袖宝古銭譜
A Table exhibiting form and
value of old coins

ギキシシセウ
紀季指掌
A Table of Japanese kings arranged
according to the first character of
which their names are composed

【タイトルなし】
A Japanese and Dutch dictionary
arranged first according to the
Japanese alphabet and then under
each letter of the alphabet arranged
according to subjects - This dictiona-
ry if it were rearranged entirely
according to the Japanese alphabet
would be of some use but still it is
not very full of words

トーキウシラナミ
透乃白波
\■ are the foaming billows\
a tale with plates

【右端の切れた部分を推測で埋めた箇所あり。他コマも同様】
ワカンネンレキセン
和漢年歴箋
Two chronological tables, containing
autenticated【authenticated】lists of all the Chinese and
Japanese sovereigns - the former com-
mencing 3254 years before Christ and
the latter about 900 years before Christ
the Chinese and the Japanese chronological
lists are carried down together and
length of time each sovereign reigned
distinctly states the whole brought
down to AD 1025.-

A partial translation with a full ar-
rangement of the foregoing in the
Dutch languages containing some
notices of the different Japanese ■
but not quite complete.

バンレキリヨーメンカヾミ
万歴両面鑑
Two useful tables.-
the one giving a ful【full】view of Japanese
chronology and the other exhibiting
all that is necessary in caluculating
lucky days

ssary in 切れた

ハ【ル】イヨーヒヤクニンイツシユヲ
シエブンコ
類葉百人一
首教文庫
\One head for 100 men\
A book for instruction

ブツゾーズイ
仏像図彙
Graphical representations of the different
Buddas with their names annexed

ガイシンギヨー
大清㞷真形
Descriptions of mountain scenery

本草綱目
A botanical works containing a ful【full】ac-
count of the plants and trees known
in China & Japan probably translated
from the Chinese in 52 volumes

日本書紀
A History of Japan from the earliest
times in 30 volumes 15 bound

和漢三才図絵
A natural history including astrono-
my, geography, botany, zoologies §d【section記号+d=sectioned】
in more than 100 volumes but
many missing

歌林雑木抄
A collection of poetical expression
for the assistance of those who make
verses relating to the four seaso■【seasons】
■ and miscellanies in 8 volumes

画筌
A miscellaeous work on different subject
comprised in the study of nature and reg■
on - in 5 volumes

絵本孝婦伝
Examples of females celebrated for their
filial piety

艶郭通覧
A work over female habits and performances
in 5 volumes

名枝伝
An account of the famous ■ a
romance in 2 volumes

古今角偉
Ancient and modern stories a roaman-
ce in 5 volumes

歌道名目
D
A famous collection of poetstical【poetical】ex-
pressions - in 3 volumes

東牖子
An elocution - or the art of speaking
in 1 volume

小笠原諸礼大会
A work on Ceremonies and the forms
of politeness - in 3 volumes

本朝蟇物
An account of celebrated men in the
present dynasty in one volume

近世真婦伝
An account of the chaste women
of modern times - in 5 volumes

世談
Vulgar stories in 5 volumes

教訓鑑
D
The miror【mirror】of instruction in 5 volumes

 The books contained in the
foregoing ctalogue are altogether
the most rare and valuable
collecton I have ever met with.

      W.H. Medhurst
Batavia
  June 6th 1829

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

BnF.

【表紙 文字なし】

【ラベル】JAPONAIS 149

【白紙】

【白紙】

《割書:和漢|名筆》畫寶  一

法眼周山先生纂
名筆畵寶
神戸書肆  弘文堂

画者蒙也蒙以成物物自京則天文
地理俯佐之際象而為物庖犠氏ノ
卦是也九土貢金摧鋳山川霊怪使
民避神姦不逢不若夏后氏宝界
是也若夫十二神章旗物之画恙
雁之飾黼芾文繍以潤色礼典絵

事之用不亦大乎歳知者創之巧者
述之守之世之於是乎工立其家南北
分派倭夏異流而今古低昻雅趣俗
態其揆若不一然然象以成物物自
寓則均是文其文用其用則似不可他
求者雖然些書書即古文籕篆隷枇

竹草唯其體而無之違而可乎何以
専美乎神手鬼腕画之取法於古雖
名家也亦然豈唯文其文用其用以
為聊改爾耳而可乎浪華法眼
周山氏以画立家名価籍甚一時乎
自模写古名画巾箱額盈就其中

択之以授剞劂氏欲使渡之工者取
法於此乎則所謂能述者其人可
思己明和丁亥臘月
      越後即猷撰
      【落款】【片猷之印】【孝秩】


画絵之事先哲具其法
不可苟忽焉何者画之為
趣也■矣人之為観也無彊
矣然画之之道不苟拠其
成法則必違先哲之教故
欲守之不失者固当図焉

者又殆幾矣予自少壮且
暮所写粉本若干乃積環
緪之数将蠧於筐笥中頃
日書肆渋川氏請上梓弘
世予亦起志或原画之幅隕
大者決縮之或縦横交移為
冊以附之雖然筆勢本在

墨色其濃淡飛曲裁而後
生霊現玅苟一施于鏤彫則
神色殆不可存焉設使数
竅始備復非渾沌之旧
得罪古人所不辞也
明和丁亥秋九月 法眼周山書
     【落款】【充興之印】【周山】

【文字なし】

名画宝叙
画弗徒観而画之為用也宏
博哉衣裳之文鼎 鼐之識至
麟閣雲台凌洞之旌功固己
論或借箸聚米或月仄度蝕
橋衡比席之類亦皆可謂之
以裏臆中之画也画云画云

丹青云乎哉画誠弗徒観矣
摂都周山翁者専門之巨魁
一時之領袖也余久覧其画
且聞其言其言曰則以柯斯
為善柯範以御斯為良御
苟睨視苟詭遇者是殆是遠於
献翁之画也誠回帰於君子

矣蓋有本者如此安不盈其
科哉余也一経生而未志画
絵之道唯於翁之言有当佩
服故余毎講書属文必以翁
之画与言示之画弗徒観誠
回帰於古聖近頃翁之所摸古
画縮帖書矣翁也都下之聞人

齢高徳邵非俟人之言而駕
者然以翁之画与言私悦者
余居其一矣
丁亥秋九月題于浪華僑居
     備前草加親賢
     【落款二個】

画宝巻之一目録
 子路(しろ)問(とふ)_レ道(みちを)図(づ)  王昭君(わうしやうくん)
 虎(とら)児(こを)愛(あいする)図(づ)   寒山(かんざん)拾得(じつとく)
 馬(むまに)水(みづ)飼(かふ)図(づ)    張飛(ちやうひ)
 松虎(まつにとら)      呂洞賓(りよとうびん)
 西域(さいいき)進貢(しんこう)    衛霊公(ゑいのれいこう)観(みる)_レ馬(むまを)図(づ)
 琴棊(きんぎ)書画(しよぐわ)    唐画(とうぐわ)《割書:図者(つしや)未(いまた)_レ考(かんがへ)|         (ず)》

 官人(くはんにん)馬乗(むまのり)遊図(あそびのづ) 西域(さいいき)人物(じんぶつ)
 羅漢(らかん)従者(じうしや)    宮女(きうぢよ)之(の)図(づ)
 竹虎(たけにとら)      関羽(くはんう)
 蝦蟇(がま)鉄枴(てつかい)    東方朔(とうはうさく)
 嫦娥(じやうが)      帝王(ていわう)蹴鞠(しうきく)之(の)図(づ)
 呂洞賓(りよとうびん)

子路問道図

清狂山人郭詡写

月山写

【文字なし】

趙子昂

【文字なし】

顔輝写

【文字なし】

張飛之像

毛益【ヵ】

呂洞賓

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

 衛霊公観馬之図  子昂
黍離降後単風于君臣
義絶綱常迷政教陵逢
四海沸兵戈且鮮争華
夷衛国君臣辺塞下
閲尽駑願得良馬
両行颯々動清
風行凛々霜滴
汗流赫千笙駿骨俏無

儔迫風逐電駿
颼々致遠調良跨
騵駬掘気不騁光
何求良工見之動
衷恕払■■■
忙碾墨旧作霊公
観馬図好絶清希
世難得国子助教
趙■施


大徳癸卯三月望日
道人趙孟頫作

【文字なし】

【文字なし】

実父仇英制

文進写

張思恭

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

顔輝  探幽写

【文字なし】

東方朔

【文字なし】

中 宋太祖
左  太宗
右  党晋

呂洞賓

《割書:和漢|名筆》画宝   《割書:二》

【文字なし】

画宝巻之二目録
 鍾馗(しようき)《割書:雪舟(せつしう)》     山水(さんすい)三品《割書:周文(しうぶん)》
 山水(さんすい)五品《割書:雪舟(せつしう)》   山水(さんすい)《割書:雪村(せつそん)》
 山水(さんすい)三品《割書:雪舟(せつしう)》   鍾馗(しようき)《割書:秋月(しうげつ)》
 梅(むめ)        山水(さんすい)二品《割書:雪舟(せつしう)》
 牛牧(うしまき)之(の)図(づ)四品  雨中(うちう)東坡(とうば)
 寿老(じゆらう)


【文字なし】

雪舟筆

周文

何人祇役見公程数
里長堤並輿行隔
峰春山多少寺負花
過暮鐘声   小補題

周文

【右丁】
 周文

【左丁】
 雪舟

【右丁】
其二

【左丁】
其三

【右丁】
其四

【左丁】
其三

【右丁】
其二

【左丁】

 雪舟

【右丁】
 雪舟

【左丁】
其二

 其三

 雪舟

 雪舟

 雪村

 雪舟

 雪舟

 雪舟

 秋月

【文字なし】

 雪舟

 雪舟

 雪舟

 松栄法眼

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

東坡

 秋月筆

寿老   秋月筆

《割書:和漢|名筆》画法      《割書:三》

【白紙】

画宝巻之三目録
 鐘離権(しようりけん)   三仙人(さんせんにん)   鍾馗(しようき)橋渡図(はしわたりのづ)
 雲龍(うんりやう)    鍾馗(しようき)剣䃩図(けんをとぐづ) 山水(さんすい)
 虎渓三笑(こけいのさんせう)  真山水(しんのさんすい)   墨画(すみゑ)花鳥(くわてう)二品
 狙公(さるかひ)    黄初平(くはうしよへい)   桃(もゝ)小鳥(ことり)
 周茂叔(しうもしゆく)   茅濛(ばうもう)    二賢(にけん)
 山水(さんすい)墨画(すみゑ)  真山水(しんのさんすい)   梅小鳥之図(むめことりのづ)

 老松之図(おひまつのづ)  林和靖(りんわせい)   許由(きよゆう)
 石鞏(せききやう)張(はる)_レ弓(ゆみを) 六祖(ろくそ)    五祖(こそ)
 李太白(りたいはく)

鐘離権
 古法眼筆

【左下隅】古法眼

  鍾馗
   古法眼筆

  古法眼筆


        古法眼

【左端】古法眼

虎溪三咲     古法眼筆

 陶淵明
 恵遠
 陸修静

【文字なし】

【左端】古法眼

【左端】古法眼

  古法眼

  古法眼

 黄初平   古法眼

    古法眼

 周茂叔  永徳筆

 茅濛  祐雪筆 

【左端】永徳筆

    祐雪筆

    祐雪筆

   古法眼筆  屏風地採

【文字なし】

  永徳筆
    唐松之図
    
    泥■

  林和靖  永徳筆

【左端】古法眼

【右端下】祐雪筆

【左端】六祖  祐雪筆

 五祖  祐雪筆

【左端】宗周法眼筆

《割書:和漢|名筆》画法     《割書:五》

【白紙】

画宝巻之五目録
 松猿猴(まつにえんこう)    寒山拾徳(かんざんじつとく)   芙蓉(ふよう)
 秋収之図(あきおさめのづ)   三賢(さんけん)     竹雀(たけにすゝめ)
 太公望(たいこうばう)    岩亀(いはにかめ)     雪中東坡(せつちうのとうば)
 李太白(りたいはく)    柳燕(やなぎにつばめ)    竹雀(たけにすゝめ)
 梅鵯(むめにひよとり)    東方朔(とうばうさく)    蓮鶺鴒(れんにせきれい)
 豊干禅師(ぶかんぜんじ)   《割書:竹鶏(たけににはとり)|梅鶏(むめににはとり)》二幅対 林和靖(りんわせい)

 菊兎(きくにうさぎ)     蘇武(そぶ)     枯木烏(かれきにからす)
 三幅対(さんふくつい)《割書:中 孔明(こうめい)|左右 麟鳳(りんほう)》 梅山鵲(むめにさんじやく)   船乗(ふねのり)布袋(ほてい)
 東方朔(とうばうさく)    浪千鳥(なみにちどり)    山水(さんすい)二幅対(にふくつい)
 馬(むま)二幅対(にふくつい)   馬師皇(ばしくはう)    三幅対(さんぶくつい)《割書:中 寿老人(じゆらんじん)|左 菊鶴(きくにつる)|右 松亀(まつにかめ)》
 石公(せきこう)張良(ちやうりやう)

【左端下】守光筆

   法眼永真筆

【左端下】法印探幽六十五歳筆

【文字なし】


【文字なし】

 尚信筆

【左端下】常信筆

【右下端】常信筆

【左端上】太公望

【文字なし】

 雪中             常信筆

【左端上】東坡

 李白           常信筆

【右端下】常信筆

【竹の根本】常信筆

【底部】常信筆

 東方朔

【左端下】常信筆

【文字なし】

 豊干

【左端下】常信画之

【文字なし】

【文字なし】

【右端下】常信筆

【左端上】林和靖

【左端下】常信筆

 蘇武          常信筆

【左端下】安信筆

【右下端】常信筆

【左端下】常信筆

 孔明          常信筆

【文字なし】

【左端下】常信筆

      法印古川叟筆

【左端】常信筆

【右下端】常信筆

【左端下】常信筆

【右下端】常信筆

【左端下】常信筆

 馬師皇          常信筆

 寿老           常信筆

【右下端】常信筆

【左端下】常信筆

【左端上】黄石公 張良

《割書:和漢|名筆》画英    《割書:六》

【白紙】

画英巻之六目録
 松鷲(まつわし)     山水(さんすい)     白沢之図(はくたくのづ)
 芍薬蝶(しやくやくてふ)    桃音呼(もゝいんこ)    芍薬(しやくやく) 狗子(いぬこ)
 岩水仙(いわすいせん)    鐘鋳(かねい)     山水(さんすい)
 渡唐天神(ととうてんじん)   謙信(けんしん)     馬乗之図(むまのりのづ)
 座頭(さとう)     狗子(ゑのこ)     歌舞妓(かぶき)《割書:舞子(まひこ)》
 舟長(ふなおさ)     群集(くんじう)上代人物(じやうだいじんぶつ)之(の)図(づ)

 上臈(しやうらう)     織之図(しよくのづ)    蓬莱山(ほうらいさん)

 直庵

【文字なし】

【文字なし】

 白沢避怪図

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

 法印探幽六十九歳筆



  衣ウス墨

   探幽高然暉流山水

【左端下】探幽筆

    探幽画

  土佐

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

  土佐

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

   法印探幽行年六十八歳筆

        京都 多田庄兵衛
   彫刻   大阪 藤江文 助
        同  藤江喜平治

明和八辛卯年九月吉日
 書籍
 製本   兵庫県下神戸元町通五丁目
 発売   弘文堂 船井政太郎
 書林

【白紙 「絵本出来目録 渋川称光  」は紛れ込み札ヵ】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【裏表紙】

【背】
HOU-MING
 HAN-PI
HOUA-PAO

【端面】

【横端面】

【端面】

BnF.

【表紙】

【題字なし】
【「けむじものかたり」(源氏物語)の分冊の一つ】


【管理タグ】
SMITH-LESOUËF
JAP
52-4

【白紙】

【白紙】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【絵】

【白紙】

【白紙】

【裏表紙】

【小口】

【小口】

【小口】

【小口】

BnF.

唐物語 上 【ラベル内】Jap 3

【ラベル】JAP 3 1
1517 F 1

春もやう〳〵くれゆき五月雨の比になり
ぬ雨中つれ〳〵なるに友とする人きたり
世中のよしなき事共うらなくかたるこそ
おかしけれおなじ人間に貴賤賢愚有
又すかた言葉のちかひしことはもろこし成
へしと云何の国には人のかたちかく有なと
かたりけるにかたはらいたくおもしろしいかて
かの井うちのかはつなるへし

【右丁】
三才図絵にくわしくありと云これを
見るに初心の人めやすからすみるに
せんなしあさきよりふかきに入なれは
他のあさけりもあらんなれと仮名に
なをしつれ〳〵のなくさみとせし
なりおよそ一百四十余ケ国有めつら
しくちかいひしことなりという字によそへ
すなはち異国物かたりと名つくるのみ
【左丁】
異国物語上
日本国則和国なり新羅国の東南大海
のうちに有山嶋によつてすみかとすこ
の国九百余里もつはら武勇をこのみ
中国にしたかわす国をおかしうははん
とす此ゆへに中国是をおそれて常に
和題と名つく又は神といひ天神
七代地神五代より人王の今にいたりま
つり事たゝしく伝釈道詩哥管

【右丁】
弦文武医薬その道をまなひ上下万民
まことをさきとし国の制度明なりしか
あれは四海をたやかに諸国にすくれたり
是により万国日本にしたかはすと
         いふことなし
【左丁】
大日本国

【右丁】絵
【左丁】
いにしへは鮮は早
と名つく周
の武王の時箕
子を其国に
封してより朝
鮮国と名つく
中国の礼楽詩書医薬うらかたに至るまて
みな此国につたはりて官制こと〳〵くあきらか
なり国の制度皆儒道の風にしたかひて又悪
殺のいましめなし人みな君化にかなひて四夷の
中にひとり高麗をすくれたりとすたゝ礼義のおこ

【右丁】

なはるゝかたち中国にたかふ事有其国に良
馬白石なしともし火に黒麻をもちひ布を
もてあきなふ国のかたち東西二千里南北
千五百里なり都は開州にあり名付けて開
城府と云北京の都にいたる事其道三
千五百里なり
【絵の上部】扶桑国
此国は大漢国
の東に有板
屋をつく
りてすみ
かとすさらに
城槨なし武
帝の時罰
【左丁】
賓の人その国にいたりて見るに国人常に鹿をかふ
て牛のことくにつかふ又其乳を取を以てわさとすと也
【絵あり国名なし】
此国
建安より水
を行事五百
里也其国に
玉石おほし
中国の制度
にしたかひて
朝覲みつきものをたてまつるみな時にかゝはらす
王子およひ陪臣の子はみな大学に入て書をよ
む礼義はなはたあつし




【右丁】
【絵の上部】小琉球国
其国東南海に
ちかし地より玻
瓈名香其
外もろ〳〵の
たからを生す
【絵の上部】女真国
其国契丹国
の東北の方
長白山のも
とに有鴨
線水のみな
もと古粛慎
の地也其さ
【左丁】
き完顔氏といふもの有つみをのかれて此国に
かくれたり其地に金おほし此ゆへに国の名とし
て金国と云阿国と云人よりみつから帝王と号
す国人鹿皮魚を衣としたり又野人皆利刀を
帯し死をかろくし命をおします男子皆其面に
點入たり
【絵の上部】邏羅国
其国浜海に有
男子はかならす
其陽をさく宝
物をたくはへてふ
うきをへつら
ふもからされは

【右丁】
【絵の中】匈奴韃靼
女家これに妻あわさす此国に凍おほし
此国人五種有
一種は身の毛
黄なり是山
鬼と黄?牛
との生する所
なり一種はくひ
みしかくおほきなるものはすなはち?狡と野猪
との生する所なり一種は髪くろく身の色白は
則是唐の李請の兵の末孫也一種は突楔
なり其さきは則射摩舎利海神のむす
めと金角の白鹿ましはり感して生すこの
【左丁】
【絵の中】巴赤国
国の主として民みなしたかふ白鹿の生する
共五世を貼木真と名つく是大蒙古といふひそ
かに帝王と称す是より四世の孫則必
烈すてに中国の天子となれり国人常に
獦をこのみて羊馬野鹿の皮を衣とす
此国人常に林木
のうちに住居し
て田をつくる又
馬をあきなふ
応天符より
ゆく事一年
にして此国に
いたる





【右丁】
【絵右】黒契丹国
此国ゆたかにして
城地有家あ
またつくりなら
へ人煙たへす金
国の人此国に
いたり行応天
府ゟ行事一年
にいたる
【絵の上部】土麻国
此国ゆたかに家
つくりして人煙
たへす国の風俗また
韃たん国に似たり
応天符ゟ行事
七ケ月にしていたる
【絵の上部】阿呈車蘆
其国皆山林に
よりて城をか
まへ家をつくり
又田あり応天
より行事一年にして
     いたる
【絵の上部】女暮楽国
其国城池人煙
おほし人皆鹿
皮を衣とし
て牛羊をや
しなふ国のな
らひ人皆ゆた
かなりたつたん国
の人と通して
あきなふ

【右丁】
【絵の上部】鳥衣国
其人常に鳥
衣を着たり
かしらに大被
をかつくその
なかさひさをか
くしうてをか
くす漢人を
みるときは則そむき行て其かほゝみせし
めすもししゐてそのかほをみるときは則是
をころすいわく我おもては人にみせしめす
と則又草をもつて其死人におほふ物をあ
きなふに又かけ物を以てをりもしそのあたひ
【左丁】
すくなき時は又も人をころす
【絵の上部】老過国
此国
安南国の西
北のかたにあり
いにしへ越裳国
の人其性狼
戻にしてたゝ
人とましわら
すひそかに弓を引て是を射ころすもし又他
国の人をとらへては足のうらをすりて其皮
をはく此ゆへに行事あたはす其国より象
牙金銀をいたすをよそ食物は口よりくらい
水さけは鼻よりのむ



【右丁】
【絵の上部】?魯国
此国木魯国とおなじ風俗也
応天府より
行事七ケ月
にしていたる
【絵の上部】乞黒国
其国城池なし
羊と馬とを
いたしあきなふ
国のふうそくたつ
たん国に同し
応天ゟ行事
七ケ月に至る
【左丁】
【絵の上部】古城国
其国みな林の
内をすみかと
す安南国よ
りみつき物
を奉る広
列より船を
いたし順風八日にしていたる国の内名香犀象
をいたす又田をたかやしてくらふ海浜に
鰐の魚ありもし国人とかのうたかはし
き時は鰐にあふたるにとかなきものは
くらはすといふ



【右丁】
【右絵の上部】深烈大国
其国人たつたん
国とふうそくお
なしくせり応
天府より行事
六ケ月にして
いたる
【左絵の上部】波利国
其国林木おほし
田をうへてなり
はひとす城地な
し家おほく
作ならへたりた
つたん国に通す
応天府より
行事一年に
していたる
【左丁】
【右絵の上部】鉄東国
其国ゟよく逸
物の馬を出す
応天府より
行事二ケ月に
していたる
【左絵の上部】訛魯国
其国人まなこ
ふかくおち入
てかしらのか
み黄なり木
を重ね立て
家とせり応
天府ゟ行事
一年半に至る






【右丁】
【右絵の上部】木思実徳
此国のふうそく
又たつたんに
おなじ応天
府より行事
七ケ月にし
ていたる
【左絵の上部】方連魯蛮
其国人ものいふ
ことはあきらめ
かたし田を作り
てなりはひと
す馿馬を出し
あきなふ応天
府より行こと
一年にして至る
【左丁】
【右絵の上部】昏吾散僧
其国山林おほし
人みな田を作
て食をたくはふ
応天府より
行事九ケ月
にしていたる
【左絵の上部】大漢国
此国に兵才なし
又合戦する事
なし紋身国と
通して物を
あきなふたゝ
其言葉一つ
ならすとなり



【右丁】
【絵の上部】爪哇国【ジャワ】
東南海の嶋の
うちに有則
是古しへ固闍婆
城と名つくる
所なり泉州路
より船を出し
て一月にし
ていたるへし其国冬夏のへたてなく常に
あつくして霜雪なし其地より胡椒蘇方【すおう】
をいたす武勇をもつて賞にあつかる飲食
は木葉にもりてくらふおよそあらゆる虫
のたくひみな是をにて食す男死する時
は其妻十日を過して又人めとつる
【左丁】
【右絵の上部】擺里荒国
其国北海に近
し風俗また
たつたん国に同
し応天府
より行事
六ケ月にして
いたる
【左絵の上部】後眼国
其国人うしろの
かたうなしに一目
有国のありさま
たつたん国に同
昔良河の人此
国に行てたち
まちに此人を見
て大きにおそれ
たり









右丁】
【右絵の上部】大羅国
此国の風俗又
たつたん国に
同じ応天府ゟ
行事四ケ月
にしていたる
【左絵の上部】不刺国
此国西夏【資料は草冠+夏】にかく
れり常に馬
羊をやしなひ
て是をあき
なふ応天府
より行事一年
八ケ月にして
   いたる
【左丁】
【絵の上部】三仏斎国
此国南海の内
にあり広州ゟ
舟をいたして
南北の風十五
日にしていた
るへし惣門ゟ
入て五日にして
其国中にゆく木をもつて柵垣をつくりて城と
す国人よく水にうかふ其人みな薬を服するさらに
矢もたゝすかたなもやふらす此故に諸国に
覇たり其国の地に穴あり牛数万わき出る人
是を取て食とす後の人其穴に垣をゆふより又牛



【右丁】
わきいてすといふ
【絵の上部】近仏国
此国東南海の
ほともに有此
国々野嶋の蛮
賊おほし麻羅
ぬと名つく商
人の舟其国に
いたりぬれは国
人むらかりあつ
まりて是をとりこにし大なる竹をもつてさし
はさみてやきころしくらふ人のかしらを食
物のうつはものとす父母死する時は一類あつ
まりてつゝみをうちともに其肉をくらふこ
【左丁】
れ非人の類なり
【絵の上部】大闍婆国
莆家献国
のほとりに有
中国より吹
風八日にして
いたるへしむかし
いかつち此国に
おちて大石さ
けくたけ其石のうちより一人出生せる是を立
て国の大王とす此国より生するもの青塩
およひ綿あふむ鳥其外たからの玉あり又
其国に飛頭の人あり《割書:轆馿首|といふ者也》其民を名













【右丁】
付て虫落民といふ
【絵の上部】婆羅国
此国人男女共に
かたなをおひて
道をゆく又人と
ちなみしたし
ます人をころし
て他国には
しり丗日を
すくれは其とかをかうふらす他国の人其妻をぬ
すむ事あれはわか妻かたちすくれて人のた
めに愛せらるゝと云て其おとこをころし其
女をむかへて是をやしなふたかふことあれは皆
【左丁】
ころすをもつて国風とす
【絵の上部】沙弼茶
此国昔より
このかた人のい
たる事なし
たゝ聖人沮(?)
葛尼と云人
のみ此国に渡
りて文字を
をしへらる其国は西荒のきわまりにして
日輪西に入時日のめくるこゑいかつちのひゝく
かことし国王常に城の上に数千人をあつめ
てかくを吹かねを鳴らし太鼓を打ちて日のめ
くるこゑにまきらかすしからされは小覧夫






【右丁】
人みなおそれて死すとなり
【絵の上部】斯伽里野国
芦眉国に
ちかし山の上
に穴あり四
季のうち火
のもえいつる
事常なり
国人大石を其
穴の内になけいるゝにしはらくのうちにみな
やけくたく五年に一たひつゝ火もへあかり
て家もはやしも石もともに火にや
【左丁】
かれ人みな死すといふ
【絵の上部】崑崘層期
此国西南海の
ほとりにあり此
嶋の上に大鵬
と云鳥有此
鳥のとふ時は
両のつはさ
九万里なり
よく駱駝の馬をくらふむかし人其鳥の羽をひ
ろふて其茎をもつて水桶につくるよし又
野人有身くろき事うるしのことし他国の
商人のために奴となりてあきなふ






【右丁】
【右絵の上部】采牙金虎【別本は「彪」】
この国西番の
木波国に近し
応天府より
行事五ケ月
にしていたる
【左絵の上部】獦獠国
𨋽軻に有其
国人婦人みな
はらむ事七月
にして子を生す
国人死する時
は竪棺【縦棺】【「披」は「棺」の誤記。別本による。】にして
是をうつむ
【左丁】
【絵の上部】瓠犬国
此国昔帝誉
高辛氏のとき
宮中に老女
有耳のうち
より蚕のまゆ
のことくあるも
のを生す
瓠に入てをくに化して犬となる其色五色なり名
つけて瓠犬といふ時に呉将軍むほんをおこす
瓠犬ひそかに呉将の首をくわへてかへり帝よ
ろこひて宮女を給うふ犬女をつれて南山に入て




【右丁】
年のうちに男子十二人をうむみな是人なり帝
長沙の武陵蛮の主とせり其子わか父の犬
なることをはちてひそかにはかつて是をころ
せり今瓢犬の国そのすえなり
【絵の上部】紅夷国
此国安南のみ
なみのかたに
有其国人
衣をつくる
事なし綿を
もつて身にま
とへりくれなゐのきぬをかしらにまとへり其かたち回々
国の人のことし国に塩なし交地の人塩を以て此国にあきなふ也
【左丁】
【絵の上部】天竺国
此国大秦に
ちかし良馬
おほし国人皆
両鬂をたれ
くたし帛を
もつてかしら
をつゝみきぬを
もつてしたふすとせり国のうちに泉あり商人
瑠璃の瓶に此水をいれてふねのうちにたく
はへもし風あらくなみたかき時此水を
海にそゝくに風波立ところにとゝまるなり











【右丁】
【右絵の上部】交脛国
此国人両の足
もちれまかれり
そのはしる事
風のことく
   すなり
【左絵の上部】阿黒驕国
此国人家おほし林
木のあいたに有
国人鹿皮を衣と
し馬に乗て弓
を引たはふれに
人を射死する時
にはそのせなかをうつ
に則よみかへると也
【左丁】
【絵の上部】蘇門答剌
此国田かたふし
て五こくすくな
し中にも脛高
人物をおさめ長
する也国人一
日の間に身の
色かならす三度かわり其色或はくろく或は黄
あるひは赤としことにかならす十余人をころして
其血を取てあふる時はその年病をしやうせす
これにより民皆おそれて都につきしたかふしかれ
はすこし死のなんをのかるとなり










【右丁】
此国城も田もおほくあり男子は腰にはかり衣を
きて長高かみをくみて首にたれ婦人はほ
うしをいたゝいて居るなりきわめて楽をすく
なり琵琶ふえをもちあそふなり男子は馬に乗
弓を射てたはふれとするなり
【左丁文字無し】

【文字無し】

【裏表紙】

BnF.

【表紙】

【国立国会図書館デジタルコレクションに別本あり】
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288378

【右上】
Japonais
4500

【文字なし】

【文字なし】

それ我てうと申はあまつこやねのみことの“ あまのい
はとををしひらき“ てる日のひかりもろともに“ かすか
の宮とあらわ【「は」とあるところ】れてこつかをまほり給ふなり“ されは
にやかすかを春の日とかく事は“ 夏の日はこくねつ
す“ 秋の日はみしかし“ ふゆの日はさむけし“ 春の日は
のとけくしよくはんふつ【万物】をしやうちやう【生長】す“ 四きに
ことさらすくれ“ めい日なるによりつく“ 春の日とかき
たてまつてかすかとなつけ申なり“ かの宮のうち子
は藤はらうちにておはします“ 藤はらのその中に
大しよくわんと申は“ かまたりのしんの御事なり“ はしめ
はもんしやうせう【文章生】にて御さ【ござ】ありけるか“ いるかのしんを

たいらけ” 大しよくわん【大織冠】になされさせ給ふ” そも此くわんと
申は” 上代にためしなし” さてまつたいに有かたきめ
てたきくわんとなりけり” 是によつて此君をはふひ
とうとも申” いつもかまをもち給えはかまたりのしんと
も申す” されはにやかすかの宮にさんろう有て” あま
たのくわんをたてさせ給ふ” 中にもこうふく寺【興福寺】の
こんたう【金堂】を” さいしよにこんりう有へしとて” しやう
こん【荘厳】七ほうをちりはめ” しやこんたう【社金堂】をたてさせ
給ふ” くはほうは夫よりもあまくたり” 国のなひき
したかふ事は” ふる雨のこくとをうるほし” たゝさうよ
う【草葉】の風になひくかことし” きんたちあまたおはし
ます” ちやくによ【嫡女】をはくわうみやうくわうくう【光明皇后】と申た

たてまつつて” しやうむ天わう【聖武天皇】のきさきにたゝせ
給ふ” しによ【二女】にあたり給ふを” こうはく女となつけて
三国一のひしん【美人】たり” 《割書:かゝる| 》しかるに【右に彼ひめきみのゆふに【優に】や
さしき御かたち” たとへをとるにためしなし” かつらの
まゆ【桂の眉=三日月のような美しい眉】は” あほふしてゑんさんににほふ” かすみに” 《割書:ふし| 》もゝの
こひ【百の媚】あるまなさきは” せきやうのきりのまに” ゆみは
り月のいるふせい” ひすひ【翡翠】のかんさしは” くらふしてなか
けれはやなきのいとを” 春風のけつるふせひにこ
とならす”《割書:ことは| 》 すかたは三十二さうにし” なさけは天下に
ならひもなし” かゝるゆふなる御かたちの” いこくまても
きこえのあり” 七つかとのそうわう” たいそうくはう
てい【太宗皇帝カ】はつたへきこしめされ” 《割書:いろ| 》見ぬこひにあこかれ


雲の上もかきくもり“ 月のともゝおのつからひかりを
うしなひ給ひけり“《割書:ことは| 》しんかけいしやう【臣下卿相】一とうに“ そうもん
申されけるやうはぎよくたいの御ふせい“ よのつねな
らすおかみ申て候“ 何をかつゝませ給ふへき“ おほしめさ
るゝ事のさうはぢしんの中へせんしあれとそうし申
されたりけれは“《割書:いろ| 》御門【みかど】ゑいらんまし〳〵てあらはつかしや“
つゝむにたえぬ花のかの“ もれても人のさとりける
か“ いまは何をかつゝへき“ 是よりとうかいすせんり【数千里】“
日本ならのみやこすむ“大しよくわんかおとひおとひめを
風の《割書:ふし| 》たよりにきくからに“ みぬおもかけの“ 立そひてわ
すれもやらていかゝせん《割書:ことは| 》しんかけいしやううけ給て“
是はなによりもめてたき御しよまうにて候物かな”

ちょくしをたてゝりんけん【綸言】にてむかへとらせ給ひ” えい
らん【叡覧】あれとのせんきにて\うんかと申つは物をちよくし
にたてさせ給ふ” うんかすてに太そうの” きんさつ【金札 注①】をた
まはりすせんばんり【万里】のかいろをすき” 日本ならのみや
こにつき” 大しよくわんの御本【みもと】にててうさつ【注②】をさゝく”
大しよくわんは御らんして” 《割書:かゝる| 》我は是しゝいきとて小国の
わうのしんかとし” いかにとしていこくの大王を” さうなく【左右無く】
むこにとるへきと《割書:つめ| 》一とはちょくしをしたいある” ちよくし
立もとつて” 此むねをそうもんす” 太そういとゝ
あこかれ” 二とのちよくしをたてさせ給ふ” しやうむ
くはうてい【皇帝】きこしめし” なさけは上下によるへからす小
国のしんかの子なりとも” そのはゝかりは有へからす” 凡返

【注① 金札 帝王の書状を敬っていう語。勅書。】
【注② 朝札=朝廷からの書状。】

てう【牒】をいたすとて” かたしけなくもくわうていの” ゐんはん【印判】
をなされけれはちよくしめんほくほとこして” いそきた
ちもとつて” 返てうをさゝくれは” 太そう大きに
ゑいりよ【叡慮】あり” きち日ゑらひさう〳〵に” むかひ舟
をそこされける” こんとのむかひのちよくしには” たち
はなのあつそんにう大しんほうけんなりそもほん
てうと申は” 小国なりとは申せとと【もヵ】” ちゑたい一の
国なり” みれんのいてたちかなふまし” けつこう
あれとのせんきにて” むねとの【主だった】大せん三ひやく
そう” きさきの御舟をは” りようたうけきし
う【龍頭鷁首】となつけて” しゆだんをもつてかたとり” えには
わふむのかしらをまなひともにくしやくのおゝ

たれたり” 舟のうちににしきをしきぢんたん【沈檀】をまし
へ【交え】” くわうようらんけい【光耀蘭閨】みかきたて” 玉のはた【幡】をは
風になひきこかねのかはらは日にひかりぐせい【弘誓】の舟
ともいつつへし?” はつひ【半臂のこと】天くわん【冠】玉をたれ”身を
かさつたるによくわん【女官】しによ【侍女】” 三ひやく人すくつて”
是はせんちうの御かいしやく【介錯】のためにとて” かさり舟
にそのせられたりけるしゝいきよりももろこしま
て” すせん【数千】はんり【万里】のかいしやうの” 御なくさめのそのため
に” をんかのまひあるへしとて” ちこ百人すくって”
身をかさつてそのせられたる” すてにふ月の
すへつかたどもつなとひておしいたす” あまのか
はせ【注①】にあらねともつまこし舟【注②】のほをあけたり”

【注① 天の川瀬=天の川の川瀬。牽牛がここにさおさして織女のもとに渡るという。】
【注② 妻越舟=妻迎え舟に同じ。妻を迎えに行く舟。】

かくてなみ風しつかにて” 舟はほんてうつの国や” なん
はのうらにつきしかは” ちよくしはならの京につ
く” 大しよくわんはうけとつて” 一つはいこくのきこへ
といひ” 又一つは本てうの” いくわうのためそとおほし
めされさんかいのちんくわ【山海の珍菓】を山とつみ” 五千人の
上下を” そのとしの八月中はより” あくるう月はし
めまてもてなし給ふ大しよくわんくわほうの程
のめてたさよ《割書:ことは》う月もやう〳〵すへになりゆき
けれは” きち日をゑらひ玉のみこしをたてまつり”
なんはのうらへ御出あり” それよりもりようたうけ
きしう【龍頭鷁首】にめされじゆんふうにほを上けれは” 舟はほと
なく大たうのみやうしうのみなとにつかせ給ふ” 大

王にきこしめされて” すわやこくむ【国母】のきやうけい
よ” いさ〳〵御むかひまいらんとて” ひたりみきの
大しん” によくわんところ百くわん【官】けいしやう【卿相】” くわん人
しちやうにいたるまてのこるところはなかりけり” そも
〳〵大国の” 国のかすを申に一千四百四十こく” こう
りのかすを申に九まん八千よくん” 寺のかすを申
に一万二千六ヶ寺” いちのかすを申に一まん二千
八百” ちやうあんのいちと申は” さいけのかすは百まん
けか” 人のかすを申に五十九おく十まん八千人た
ついちなり” ちやうあんしやうのみなとよりとをの
みちわかてり” けんろけんなんたうとはたつみをさ
してゆくみち” 三十五にふみわけり” おくなんた

うと申はひつしさるへゆくみち” 五十九にふみわけり”
さいけいたうと申はにしをさしてゆくみち” 廿六に
ふみわけり” かうほくたうと申はきたをさしてゆ
くみち” すえはたゝふたつ” 《割書:いろ| 》とうやうたうはふなちに
てすゑは日本につゝけり”《割書:ことは| 》 かゝるみち〳〵よりもして
御つき物をそる人きさきをおかみたてまつる”
あら有かたや” たゝ一めおかみ申人たにもひんく
をのかれたちまちに” ふつきのいゑとなる” されは
にやくはうてい【皇帝】もりようかんにしたしみ” なれちか
つかせ給へば” しよひやうをいやしたちまちに”《割書:いろ| 
》 やう
しやうのたいゐにあへる心ちして” 五ちのあひた世
すなをに” たみのかまともゆたかなり《割書:ことは| 》かくてうちす

きゆく程に” きさきの宮おほしめす” 我はこれ小国のも
のと有なから大国のきさきにそなわりたる” そのこう
めいを日本に” のこしてこそとおほしめし” 御ちゝの大
しよくわん” こうふくし【興福寺】のこんたう【金堂】” おなしきしやか【釋迦】のれ
いさう【霊像】を” 御こんりうある人たに” かのみたう【御堂】のせにう【施入】
に” ふつく【仏具】ほうく【法具】をおくつて” まつたいのしるしとも” な
さやはやとおほしめしそろへ給ふたからにはまつ”
《割書:つめ》くはけんけい【華原磬 注①】しひんせき【泗浜石 注②】” くわんけんけい【注③】と申は” うち
ならしてのそのゝちに” こゑさらになりやます
とゝめんと思ふ時には” 九てうのけさおゝふなり” し
ひんせきはすゝり” かのすゝりのとくゆふは” 水なくして
すみをすつて心のまゝにつかふなり” ほんほん【梵本 注④】の

【注① 中国陝西省の原産の石で作った磬。】
【注② 中国の泗水という河の岸から出るという石。磬や硯をつくるのに用いるという。】
【注③ かげんけい(華原磬)の変化した語】
【注④ ぼんぽん=梵字で書かれた書物。】

ほけきやう【法華経】はたらよう【多羅葉】にてあなんそんしや【阿難尊者】のあそは
したるしちしやうるり【瑠璃】の水かめ” しやくせんたん【赤栴檀】のけい
たい【磬台】” へいるり【注①】の花たて” せんたん【栴檀】のけうそく【脇息】” にく
たんしゆ【?】のしゆす【数珠】一れん” くわふこのとらのかは” こんし
きのしゝのかは” くはそ【注②】のかは三まひ” かゝるたからのそのな
かに” しやくせんたんのみそき【注③】にて” 五寸のしやかをつ
くりたて” にくしき【肉色】の御しやりを御しん【身】につくりこ
めなからほう八寸のすいしやうのたう【水晶の塔】のなかにおさめ
て” むけほうしゆとなつけて” 是を一のてうほう【重宝】にし
おくり文をへつしにかきいしのはこにおさめて”
おくらせ給ひけるとかや” 此玉はすなはち” こうふく
寺のほんそんしやか仏のみけんに” ゑりはめ給ふへき

【注① べいるり(吠瑠璃)=七宝の一つ。青い石の宝石。】
【注② 火鼠(かそ)=その皮で火浣布(かかんぷ)という不燃性の布を織るとされ、中国南部の深山にすむと考えられた鼠。ひねずみ。】
【注③ みそぎ(御衣木)=神仏の像をつくる材料となる木。】

なりとかきこそおくり給ひけれ” 《割書:ことは| 》さてしもかゝるてう
ほうを” たれかはしゆこしておくるへき” きりやうのしん
をめせとて” つはものともをめさるゝに” 大こくのなら
いにて” 百人か大しやうを百こといひ” 千人か大しや
うを千こといひ” 万人か大しやうを万ことなつく”
かうほくたうのすゑ” うんしうといふ国に” 万こしやう
くんうんそうとて大かうのつは物あり” おとらぬ程の
つはものを” 三百人あひそへて” みやこをたつて大
たうの” みやうしうのみなとより” 一ようの舟にさ
ほさし” おひての風にほをあけてすせんはんり
をおくりけり” 《割書:ことは| 》かいていにすみ給ふ” 八大りうわうのそ
う王” 玉の日本へわたること事を” しんつう【神通】にてきこし”

めしもろ〳〵のりうわうたちをあつめておほせら
れけるは” 《割書:いろ| 》われらはすてにかいていのりうわうたりと
いへと” 五すい【衰】三ねつ【熱】ひまもなくおつこう【億劫】にもあひ
かたき” 《割書:ことは| 》しやくせんたんのみそきにて” 五寸のしやか【釋迦】のれ
いふつ【霊仏】の” 此なみの上に御さあるを” いさ〳〵うはひと
つてわれししやうかくなるへし” もつともしかるへしと
て” 八大りうわうのなみ風あらくたて給えは” 舟ひよ
うたう【漂蕩】し地さんし” なみちもしつかならさりき” さり
ともきとくふしきの” ほとけのめしたる御舟なれは”
しやうかいの天人は雲をしのき” ふつほうしゆこのや
しやらせつはなみ風をみつめさせ給ひ” 舟にしさい
はなくしてみつは【三羽】の” そや【征矢】をゐる【射る】ことく” ことさらおひ

てとなりにけり”《割書:ことは| 》 りうわういとゝいかりをなし” なみ風にて
とゝめすは” おさへて【注①】うはひとるへし” さ有らん程にいこ
くの物” さためてつよくふせくへし” りうくうのけん
そく【眷属】に” しかるへき物はなし” しゆらはたけき物なれは” た
のう【みヵ】てみんとの給ひて” あしゆらたちをそたのまれ
ける” かのしゆらともの大しやうまけいしゆら【注②】” もろ〳〵の
しゆらともを” ひきくしてこそ出にけれ” もとよりこのむ
たうしやうなれは” もゝてにやつかんのけんそくともを”
いきやういるい【注③】に出たゝせ” ほこ【矛】たうしやう【刀杖】をとり
もたせ” てきはすまんきくとも” いくさはいゑの物なれ
は” 玉におひてはうはひとつて” 《割書:かゝる| 》まいらせんと申て”
日本とたうとのしほさかひ” 《割書:ふし| 》ちくらかおき【注④】に” ちんを

【注① 強引に。】
【注② 摩醯首羅=仏法を守護する神。】
【注③ 異形異類=普通と異なったもの。又人間ではない異様な姿をしたもの。】
【注④ ちくらが沖=韓(から)と日本の潮境にあたる海。】

とり万こか舟をまちいたり” 《割書:ことは| 》是をはしらて万こは”
しゆんふうにほを上て心にまかせふかせゆくに” 日
ころ有へしともおほえぬところに” しま一つうかへ
り見れははたあしひるかへし” くろかねのたてのあひ【間】
よりも” つるきやほこのいなひかり” たうしやうのかけ
ともか” うんかのことく【注】に見えけれは” あれは何といへるしさ
いそや” いかなる事の有へきそと心もとるゝ思かれけ
れとも” さあらぬていにふかせゆくに” かのしゆらともの
大しやうまけいしゆら” 一ちんにすゝみ出” 天をひゝかす
大をんにて” たゝ今此おきにせきをすへたるつは物を
いかなる物と思ふらん” しゆらといへる物なり” かいていのり
うわうたちをみつけんため” それをいかにと申に” 御

【注 雲霞の如く=大衆・兵士など人の群がり集まるさまが、雲や霞が沸き起こるようである。】

舟にまします” しやくせんたん【赤栴檀】のみそき【御衣木】にて” 五寸のしや
かのれいふつ” よのたからほしからす” そのすいしやうの玉”
すみやかにわたされ候へ” さらすは一人もとをすまし
いと申” 万こ此よしきくよりも” 舟のへいた【舳板】につつ
たち【突立ち】あかりて” あらけう〳〵しのいきをいさうや” さては
をとにうけ給る此あしゆらたちにてましまする” 我
大こくのならひにて” 百人か大しやうを百ことなつけ
くはん人といふ” 千人か大しやうを千ことなつけしゆり
やうといふ” 万人か大しやうを万ことなつけしやうくん
と是をいふ” かい〳〵しくはなけれとも” 一万人の大し
やうなれは” 万こしやうくんうんそうとはそれかしか事
にて候” もつともりうくうよりの御しよまうにした

かつて” すいしやうの玉” まいらせたくは候へとも” 七御門の
中よりも” きりやうのしんとゑらはれ” 日本のちよくし
を” 給る時の日よりもして” いのちをはわか君のおんの
ためにたてまつる” されはめいのかろき事は” 此きによ
る事なれは” いのりのあらんするかきりは” 玉にをひては
とゝるましひそ” 《割書:かゝる| 》けにと玉かほしくは万こをうつて
とれやとてから〳〵とそわらひける” しゆらとも此よし
をきくよりも” さらはてなみ【手並み】を見せんとて” てつしやう【鉄杖ヵ】
らんは【藍婆】のつるきをひつさけうんかのことくせめかゝる” まん
こ是をみて” しやうそくをそきたりける” 万こかその日の
しやうそくに” しんつうゆけ【神通遊戯】のうてかねさはんやつかん

のすねあてし” めうほうれんけのつなぬきはき” にんに
くしひ【注①】のよろひを” くさすり【注②】なかにきくたしてあの
くたら三みやく三ほたひ【注③】の五まいかふと【五枚兜】をいくひに
き【注④】” しのひのを【注⑤】ゝそしめたりける” かうまりけん【注⑥】のた
ち【大刀】【「ろ」に見えるが誤記ヵ】” まん十もんし【真十文字】にさすまゝに” 大たうれんといふつ
るき” あしをなかにむすんてさけ” けんみやうれんと
いふほこもつて” 舟のへいた【舳板】につつたちあかる三百
よ人のつはものとも” 思ひ〳〵にいてたつて” はし舟【注⑦】お
ろしおしうかへすてにかけんとしたりけり” たうのい
くさのならひにてみたんに【みだりにヵ】かくる事はなし” てうし【調子】を
とつてかく【楽】をうつてひやうしにあはせかけひくせい
そろへの大こは” らんしよ〳〵しよつてうし” かけよと


【注① にんにくじひ(忍辱慈悲)=さまざまの侮辱や迫害を耐え忍んで慈悲深いこと。】
【注② 草摺=鎧の胴の下に垂れて、大腿部を覆うもの。】
【注③ 阿耨多羅三藐三菩提。完全な悟り。】
【注④ 猪首に着=兜を逆さにあお向けて深くかぶること。】
【注⑤ 忍びの緒=兜の緒に対する近世の通称。】
【注⑥ 降魔利剣=悪魔を降伏させるという剣。】
【注⑦ 端舟(はしぶね)=本船に付属して、その用事をする小舟。】

うつ大こは” さそう〳〵とうつなり” ひけよとうつ大こは”
をつてうこつとうつなり” くんてくひをとれとは” つるて
うこつとうつなり” かなはぬ時のせんには” しはうてつは
うはなし” みたれひやうしきりひやうし” きうにおよふ
時には” ちをはたきとなかして” かうへをつかにつめよ
とうつ” しゆらたう人のたゝかいは” むかしも今もため
しなし” その上しゆらかたゝかひに” くはえん【火炎】の雨をふ
らし” あくふう【悪風】をふきとはせ” はんしやく【盤石】をふらすこ
とは雪の花のちることくつるきをとはせほこを
なけ” とく【毒】のやをはなす事まなこをまくかことし” 身
をかくさんと思ふ時” けしの中へわけていり” あらはれん
とおもふときしゆみにもたけをくらふへし” かゝる

しんつうめいよをまのまへ【目の前】にけんし” 【現じ】こゝをせんとゝたゝ
かへは” すてにはやたうしん” 心はたけく【猛く】いさめ【勇め】と” 此いき
をひにおされてのかれかたくそ見えにける”《割書:ことは| 》 さる
あひた万こは” みかたのくんひやう【軍兵】ともをあつめて
申けるやうは” とてもかなはぬ物ならは” しゆらか大しやう四
五人” そこのみくつ【注①】となしてこそ” いこくのきこへはしる
へけれ” 我と思はんする人々は” ともをしてたへやとて”
こんこん【「う」の誤記】かいのまんたら【注②】” たひさうかいのまんたら【注③】を”
ほろにかけてふきそらし”【注④】ふなそこよりもめいは
ともを” そのかすあまたひきいたす” 万こかひさう
のめいはに” しんつうあしけ【神通葦毛】となつけ【名付】て” 七き八ふんあ
け六さい” おかみ【尾髪】あくまてあつうして\ 《割書:いろ| 》おつさま【注⑤】む

【 注① 底の水屑=水死する。】
【注② 金剛界の曼荼羅。】
【注③ 胎蔵界の曼荼羅。】
【注④ 吹き反らす=風に翻す。】
【注⑤ 追様=馬などの尻のほうから見た姿。この言葉から次のコマに続く語は馬の吉相を表現する常套語。】

かふよこはたはり【横端張り】【注①】” をくち【尾口 注②】そうとうつまねのくさり”
しゝあひ【注③】ほねなみ【注④】よめのふし【注⑤】はつくりつけたること
くなり” 《割書:つめ| 》らんてん【注⑥】のくら【鞍】をゝきしよつかうのにしき【注⑦】の
うはしき” こん〳〵ぬつたるりのあふみ【鐙】りきしゆのち
からかは【注⑧】をは” しやう〳〵のち【猩々の血】にてそめたりけり” おなしき
おもかい【面懸】をかけさせ” こかねのくつは【銜】かんしと【注⑨】かませにし
きのたつな【錦の手綱】よつてかけ” 万こゆくりとうちのつて” な
みにしつまぬうくくつ【浮く沓 注⑩】を”四ツのあしにかけたれは”
なみの上をはしる事はへいろ【平路】をつたふことくなり”
三百よ人のつは物とも” いつれと【「も」の誤記(別本より)】むま【馬】にのつたれ
とも” みな〳〵うくくつかけたれは” 雲ゐにかり【雁】のと
ふやうに” 一むらかりにさつとちらししゆらかちんへきつ

【注① 追様向う横端張り=(馬の体格が)尻のほうから見ても、真向いから見ても、横幅の広いこと。馬の吉相の一つとされた。】
【注② 「をぐち」とも言う。馬などの尾の付け根。】
【注③ 肉合い。ししおき(肉置き)に同じ。肉付き。】
【注④ 骨並み。骨合いに同じ。骨組みの具合。骨格の様子。】
【注⑤ 夜目の節=馬の前脚の膝上の内側にある白い節状のもの。これのある馬は夜間によく走るとされる。】
【注⑥ 「らでん」の変化した語。螺鈿。】
【注⑦ 蜀江の錦。中国明代を中心にして織られた錦。日本には多く室町時代に渡来。】
【注⑧ 力革=馬具の名。鞍橋(くらぼね)の居木(いぎ)と鐙(あぶみ)の鉸具頭(かこがしら)とをつなぐ革。】
【注⑨ がんじと=動かないように堅く締めるさまを表わす語。】
【注⑩ 「うきぐつ(浮沓)」に同じ。これを付けると、馬が自由自在に水上を走ることができると信じられていた、架空の浮き具。】

【別本のURL】
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1288378


ている” しゆらとも是を見て” 一ひき二ひきのみならす”
三百ひきのむまともか” いつれもなみをはしるこ
とはふしきなりときもをけし” か程にいさむしゆ
らともゝにけまなこ【注①】にそなつたりける” 大しやうのう
しあしゆら” すゝみ出ていひけるはなふこゝさうそか
ねてより” 申せし事のちかはぬなふ” めたれかほ【注②】のす
くやかし【注③】” おもてかほくせ【注④】めにすみたていらんあらそ
ひあらかふき【儀】にはに【似】ましき事にて候そや” てを
くたかてはいかにとして” かうみやうふかくか見えはこそ”
一かつせんせんとて” 出たつたりしありさまは” おくこうしん
ゐのよろひをき” むみやうけんこのかふとのをゝ
しめ
とうしやうむさんのほこつゐて” しんゐくちのはた

【注① 逃げ眼=逃げようとする目つき。】
【注② 目垂れ顔=卑怯な振る舞いををする時の顔つき。】
【注③ したたかである。】
【注④ 顔癖=人の表情にあらわれる癖。】ゝ

さゝせ” もゝてにやつかんのけんそくともをあひしたかへ”
しきりに時をつくれは” へきてんやふれはしやう【波上】に
をちかいていをうこかしなみ【波】をあけ” こくう【虚空】さなから
とうようして月のひかりもうつもれて一ゑに【ひとへに】ちやう
夜となつたりけり” 此程をと【音】にうけたまはる” 万こうん
そうにけんさん【見参】をせんといふまゝに” 万こを中にと
りこめたり” 万こかつはものとも” こゝをせんとゝきつ
たりけり” ら五あしゆら【注】三百人からこんらあしゆら
五百人” てをくたいてそきつたりける” 万こはめいよ
のむまのり” うみの上にてのるたつな” さうかひふと
りうはいふ” のりうかへたるむまのあし” ゆんて【弓手(左手)】の物を
つくとき” わうきやうのたつなきつとひきめて【馬手(右手)】のも

【注 羅睺阿修羅(らごうあしゅら)=日月を覆って蝕(しょく)を起こすといわれる悪魔の名。】

のをつく時” ふきやうのふ【別本「む」】ちをちやうとうつ” にくる【逃ぐる】物をお
ふときには” せんきやうあをりのあふみのふ【別本「む」】ちをき
よくしんたい【注①】にのつたりけり” にしからひかしへきつてと
をる時には” 三百よ人かあとにつゐてこゝをせん
とゝきつたりけり” いれかへ〳〵たゝかへはしゆらかいく
さはこたれ【注②】かゝつてかなふへしとも見えさりけり” さう
大しやうのまけいしゆら” 八めん八ひを” ふりたてゝやつ
したのほこをうちふり” うちしにこゝなりとおめき【注③】さ
けんてかけにけり” 万こ是を見て” かなふ【叶ふ】へきやう
あらされは” うしほゝ【「を」の誤記】むすひてうつ【手水】とし” しよ天【注④】に
ふかくきせい【祈誓】する” しかるへくはくはんせをん【観世音】ひくはん【悲願】
かな【別本「たか」】へ給ふな” ふいくんちんちう” ねんひくはんをんり【注⑤】

【注① 曲進退=軽快に前後へ自在に動く事。またそのさま。】
【注② こだれる=勢いがゆるむ。】
【注③ 「わめき」に同じ。】
【注④ 諸天=神々。】
【注⑤ ねんびくわんをんりき(念彼観音力)=観音の力を念ずること。】

き”しゆをんしつたいさん” ちかひ今ならては” しゆらかお
そるゝけまんのはたを” たゝさしかけよ〳〵とけち【下知】
すれは” けまんらんはう玉のはたを” まつさきにさゝせ”
我をとらしとせめかゝる” 万こかつは物” かつにのつて”
おつふせ【注①】〳〵きつたりけり” しんりきもつきは
て” つうりき【通力】ひきやうも” かなはすしそこのみくつと
なりにけり” いきのこるしゆらともすみか〳〵にかくれけ
り” 万こかちときつくりかけ” もとの舟にとりのり”
しゆらたうしんのたゝかひにかちぬや〳〵といさみを
なしたうとかうらひはしりすき日本ちかふそなり
にける”《割書:ことは| 》さる間りうわうたち【龍王達】” 是をはさていかゝはせんと
そせんき【詮議】せられける” その中にとつても” なんた【注②】り

【注① おっぷせ=「おしふせ(押し伏せ)の変化した語。押倒す。ねじ伏せる。】
【注② 難陀龍王のこと。八大龍王の一。跋難陀龍王と兄弟で、つねに摩伽陀(まかだ)国を護るという。】

う王のたまはく” それにんけんの心をたはからんには見め
よき女によもしかし” こゝをもつてあんするに” り
う女をもつて此玉をたはかつてとるへきなり” し
かるにりうくうのをとひめにこひさひ女と申て”
ならひなかりしひしん【美人】たりしを” 見めいつくしく【注①】かさ
りたて” うつほ舟【注②】につくりこめ” なみの上におしあく
る” 是をはしらてまんこは” しゆんふうにほをあけて
心にまかせふかせゆくに” 《割書:いろ| 》かいまん〳〵【注③】としては又はしやうちゝむたり” へき天のをきぬく風くわう
〳〵としては又いつれのほくさうにかこゑやとさん”
かしらなしをふかわらきとのしま” もろみのしまもめい
しま” さつまのくにゝきかいかしま” ゆきのもとをり

【注① 美麗に。】
【注② うつほぶね(空舟)=丸木の内部をえぐって作った舟。】
【注③ 海漫漫=海が広いさま。】

つしまのない” 事ゆへなくはしりすき” 九国の地をはゆん
て【弓手=左手】にみてさぬきの国にきこへたるふさゝきのお
きをとをりけり”《割書:ことは| 》 かゝりけるところになかれき【流木】一ほん
うかんてあり” すいしゆ【水手】かんとり【注①】是をみて” こゝにきた
いなる木こそ候へ” 此程の大風に” 天ちくたうとのちん
かう【沈香】はしふかれてなかるゝやらんと” 人々あやしめたり
けれは” 万こ是をみて” 何のあやしめ事そとりあ
けよとけち【下知】をする” 御ちやう【注②】にしたかひはし舟お
ろしとりあけ見るに” ちんかうにてはなし” あやしや
わつて見よとて此木をわつてみるに” 何とこと
はにのへかたきびしん一人おはします” すいしゆかん
とり是をみて” おのまさかりをなけすてゝあつと

【注① かんどり=「かじとり」の変化した語。舵取り。】
【注② 御諚=貴人の仰せ。】

はかり申” 万こ此よし見るよりもいかさまにも御身は
天まはしゆん【天魔波旬】のけけん【化現】にて” しやうけ【注①】をなさんその
ためな” あやしやいかにといひけれは” 《割書:いろ| 》何と物をはいは
すしてたゝなみたくみたる計なり” 万こかさね
て申けるはいや” 何とたるませ【注②】給ふとも” せひにつけ
ておほつかなし”【注③】たゝかいていにしつめみくつにせよ
といさみをなせは” あらけなき【注④】つはもの御手に
すかつてうみへ入れんとす”《割書:くとき| 》りうによ【龍女】はいとゝあ
こかれてあらうらめしの人のことはや” のにふし山を
いゑとする” こらう【注⑤】やかん【注⑥】のたくひたにもなさけは
あるとこそきけ” みつから【注⑦】と申はけいたんこく【契丹国】の大王
の” いつきのひめにてさふらふなるか” あるきさきの

【注① しょうげ(障礙)=悪魔・怨霊などが邪悪をすること。】
【注② 油断させる。】
【注③ 不審だ。】
【注④ 荒々しい。】
【注⑤ 古狼=年をとったオオカミ。】
【注⑥ 野干=狐の異名。また、中国では狐に似た伝説上の悪獣。よく木に登り、夜鳴く声が狼に似ているという。】
【注⑦ 一人称。私。】

さんにより” うつほふ舟につくりこめさうははんり【蒼波万里】へなかさるゝ”
たま〳〵きとくふしきに” しんりんのたくひにあひ
たれは” さりともとこそ思ひしに” 何のつみに二たひう
きかいていにしつむへきそ” うらめしさよとかきく
とく” みたれかみをつたいて《割書:ふし| 》なみたの露の” こほるゝ
はつらぬく玉のことくなり” しもをおひたるおみな
へし” したはしほるゝふせひし” せいしかやさう
にすてられてひしき物【注①】には袖しほれ” ほす日も
なしと” わひけるも今こそ思ひしられたれ” かつらを
かけしまゆすみ” はちすをふくむくちひる” もゝの
こひ【注②】ますあひきやうなみとなみたにうちぬれ”
物おもふ人のふせいかや” うちむつけたる【注③】” 御ありさ

【注① 引敷物=しきもの。】
【注② もものこび(百の媚)=様々な媚態。】
【注③ 「うち」は接頭語。むつけたる=腹を立てている。すねている。】

まよその見るめもいたはしやさしもに【注①】かしこき万こ
とは申せともやかてたるまかされ【注②】” けに〳〵【注③】さそおはす
らん” それ〳〵とうせん【登舟】申せとて” やかて舟にのする”
りうわう【龍王】のわさなれはむかふさまに風ふひて” ふ
さゝきのおきに十日はかりとうりう【逗留】す” さなきたに【注④】
りよはく【旅泊】はことに物うきに” 万こあまりにたへか
ねて” 風のたよりにかよひきて” いねかりそめのうたゝ
ねは” 何となるこのをとたかく” よにもすゝめのすみう
きにおとろかさんかいたはしさに《割書:いろ| 》あふきをあ
けて是をたとへ” 風大きよにやみぬれは木をう
こかして是ををしゆ《割書:ことは| 》あひみる人をこふるには”

【注① いかにも。】
【注② だるまかす=だまくらかす=だます。だるまかされ=だまされ。す】
【注③ げにげに=たしかに。】
【注④ さなきだに=そうでなくてさえ。】

文かよはねととこうるならは” 君か心をとりにくる
なふ” いかに〳〵とおとろかす” りうによ【龍女】はもとより
ねも入すさりなからうたゝねいりたるふせひし
て” たそやゆめみる折からに”《割書:かゝる| 》うつゝともなともなきこと
のはゝ” 《割書:くとき| 》ゆめのうきよのあたなれは人のことはもた
のまれす” 夜のまにかはるあすか川” 水ほのあはの
かりそめに風にきえぬることのはの” すゑもとを
らぬ物ゆへに” あたなたちては何かせん《割書:ふし| 》中〳〵人
には” はしめよりとはれぬはうらみあらはこそ”《割書:ことは| 》その上
我はむまれてよりもかいもん【戒文】をあやまたす” むし
より今にいたるまて” おゝくのしやうをうけし事”
あるひは六よく【欲】ししやう【四生】にむまれ” 五すい【衰】八く【苦】のく

をうけ” あるひは三つしやく【注】におち” 四たいもつのひに
あへり” かゝるさいこうをふり” 今人間とむまるゝ事
もかいりき【戒力】によつて”たい一せつしやうかい【殺生戒】をたもつ
て心のさうとなる” ちうたうかい【偸盗戒】をたもつてかんのさ
うとなる” しやいんかい【邪淫戒】をたもつてひのさうとなる”
まうこかい【妄語戒】をたもつてはいのさうとなる” おんしゆかい【飲酒戒】
をたもつてはじんのさうと是なる” これに五いんし
つせいあり” いはゆるきうしやうかくちう” そうわうひ
やうはん一こつ” 是又みめうのみのりとし五ちのをん
せい是なり” これに五ツのたましいあり” こんしはくゐ
しんありき” 此五ツのかたちをくそく【具足】するを仏と申”
《割書:いろ| 》五ツのかたちかけゐれはくちあんへいのちくるい

【注 しあく(四悪)の変化した語。人の口に生ずる四つの悪。妄語。両舌。悪口。綺語。をいう。】

たり”いかにも仏をねかはんする人はまつ” 五かいをよく
たもつへし” 一つもかい【戒】をやふりなは” むそく【無足】たそ
く【多足】の物となつてなかく仏になるましゐ”《割書:ことは| 》おほせは
おもくさふらへと” たい三のかいもん【戒文】を” いかにとして
やふらんと” なみたくみたる計にて思ひ入てそ
おはしける” 万こもたいたう【大唐】そたち” ふつほう【仏法】るふ【流布】の
国なれは” あら〳〵かたり申す” あらしゆしやうやさて
はこしやう【後生】の御ために” きんかい【禁戒】をたもたせ給ふか”
そのかいもんの中に” ろくはらみつ【注①】のきやう【行】あり” その
中にとつてもにんにくはらみつ【忍辱波羅蜜】とは” 人の心をやふ
らす” いかに五かいをたもつても” 人の心をやふりな
は” 仏とさらになりかたし” されはにや仏には三みや

【注① 六波羅蜜=菩薩の六種の実践修行。】

う【三明】六つう【通】まします” 是は一ゑにくわこにして” しよはらみ
つ【諸波羅蜜】をきやう【行】せし”《割書:かゝる| 》そのとく今にあらはれて仏となり
給へり” たとひ一とはたきの水” にこりてすまぬもの
なりと” つゐにはすみてきよからん” 恋には人のし
なぬか” さてもむなしく恋しなは” 一ねん五百しやう【注①】”
けんねん【注②】むりやうこう【注③】しやう〳〵せゝ【注④】のあひたに”
つきせぬうらみのふかうして” ともにしやしんとなるなら
は” 仏にはならすしてしやたうになかくおつへし”
かいのしなあまたあり五かいをよくたもつては” 人間
とむまれて” 五たい【体】をうくるなり” 十かいをたもつて
は” 天人とむまれて” 五すいをうくるなり” 二百五
十かいは又” しやうもんとむまれて” 仏にはなりかたし” 五

【注①一念五百生=わずか一度、心に妄想を抱いただけで、その人は五百回もの回数にわたって輪廻しその報いを受けるということ。】
【注② 縣念=気がかりに思うこと。】
【注③ むりょうごう(無量劫)=非常に長い時間。】
【注④ しょうじょうせせ(生生世世)=生れては死に、死んでは生れることを永遠に繰り返すこと。世世は代々。】

百かいをたもつては” ゑんかくと是なる” これも仏にゑなら
す” ほさつさんしゆ【菩薩三聚】一しんかい” 此かいをたもつてはやかて
ほさつとなりつゝ” 仏とさらになりかたし” 大しやうゑん【乗円】
とんかい【頓戒】此かいをたもつてはやかて仏になるなり” 大し
やう【大乗】のかいきやう【戒行】は二ねんをつかぬかいなり” しんたいは
むさうにてかしん本よりしくふなり” しやうし【生死】にもつ
なかれすねはんにさらにちうせす” しやしやう【邪正】すな
はちきよけれは” すゝくへきあかもなし” いとふへきほん
なふ【煩悩】なしねかひてきたる仏なし見る一けんをほう
としきく事をみのりとす” こゝをしゝ【「ら」ヵ】ぬをまよひ
とすゐんやう【陰陽】二ツわかうのみちいもせ” ふうふのなか
へ” これふつほう【仏法】のみなもと” をろかにおもふへからすおな

ひきあれやとそ思ふいかに〳〵と申けり” りう
女きこしめされて” それはほつしんのみのりとし”
ふつほうにおひてはひさうのところなれとも”
ねかふ事なくしては仏とさらになりかたし” 上
代はき【気】もしやうこん【上根 注①】にしてちゑ【智恵】も大ちゑなる
へし” まつせ【末世】の今はけこん【下根】にてちゑある人もす
くなし”《割書:いろ| 》むかし上代の大ちゑの人たにもいゑをい
てゝさいし【妻子】をすて” のり【法】のためになんきやうす”
しつた太し【悉達太子】はかういなるはんようのくらゐをふり
すてわりなく契ふかゝりきやしゆたら女【注②】を
よそにみ” 十九にてしゅつけをとげ” たんとくせん【檀特山 注③】
のはうれひあらゝせんにん【注④】をし【師】とたのみ” わし

【注① 根気のよいこと。忍耐強いこと。】
【注② 耶輸陀羅女(にょ)=釈尊の従妹で釈尊出家前の王妃。】
【注③ 北インドにある山。悉達太子の修行の地とする説あり。】
【注④ 阿羅邏仙人=紀元前532年頃のインドの哲学者。釋迦が出家求道のはじめに教えを請うた仙人。無所有の境地を説いたという。】

のみ山のれいほうにたき木をこ【伐】り身をこかし
せんこくにむすふあかの水【注】” こほりのひまをくむ
たひになみたは袖のつらゝとなる” よるは又よ
もすからせんにんのゆかの上にし” させん【座禅】のとこ
のふとんとなりかゝるしんくのこうをつみ” 《割書:ふし| 》まさ
しくしやかとなり給ひ” 三かいのとくそん【独尊】” ししや
うのゑことまし〳〵て” 一代しやうけう【聖教】を” ときひろ
め給ふなり” こゝをもつてあんするに” ほんなふ【煩悩】そ
くほたいしん【菩提心】” しやうし【生死】そくねはん【涅槃】とて” さいしをた
いしさふらいて” 仏とやすくなるならは” なとや大し
しやくそんは王のくらゐを” ふりすてゝのちをい
とひ給ひけり” 其外せうくはのらかん【羅漢】たち”

【注 閼伽の水=仏に供える水。】

いつれかさいしをたいして仏となりし人やある” さて
も仏の御おとゝ” なんた太子と申せしは” しつきほん
なふつきすして” 女人をこのみ給ひしを” かくてはほ
とけにならしとて” 仏はうへん【方便】めくらして” しやうとち
こくのありさまを” そくしにみせたてまつり” つゐに
しゆつけ” とけさせてなんたひく【比丘】とそなし給ふ”《割書:つめ| 》いとゝ
このむしやきやうを” よしとをしへ給ふは” まふもくに
あしきみちをしゆるふせひなるへし” かやうに申
せはとてもとより我は” 仏にてあるなり” こくう一し
やうとう一たいかしらはやくし” みゝはなはあみた”
むねはみろくはらはしや[か」こし大日によらいなりそ
のほか十はう【方】のしよふつたち” もろ〳〵のほさつ

とし” 我たいにくそくし” 十はうのこくうに” ほうによ
として” おはしますきたりもせすさりもせす
いつもたへせすましますをほつしんふつ【法身仏】と申” か
たちをつくりあらはし” しやうとをたてゝ” すみか
としたまふをほうしんふつ【報身仏】と申なり” 八しやう
しやうたう【八相成道 注】し給ひて” のりをときすなはち” しゆ
しやう【衆生】をりやく【利益】し給ふをおうしんふつ【応身仏】と申なり”
三しん【身】をとりわけ” 一心をしんするをさとりの
まへのほとけなり” 三しんいつそくとくわんし” いつ
れをもしんするをさとりのまへと申” 仏とならん
そのため” なんきやうくきやう【難行苦行】せん物” いかてせんあく
みたるへき身はいたつらになさるゝとかなふまし

【注 はっそうじょうどう=釋迦が衆生救済のために、この世に出現して示した八種の相。その内の「成道(悟りを開いて仏陀となること)」を特に重んじていう。】

とそおほせける” さる間万こは” 事のほかにはらをた
て” いかにや〳〵きこしめせ” 仏をねかふ人はみな” た
う【道】とちゑとしひしん【慈悲心】一ツかけてもなりかたし”
たうといつは【注①】きやうたい【行体 注②】” ちゑといつはさとりの
心” しひ【慈悲】といつは一さいの” しゆしやう【衆生】をふかくあはれ
みて” 人の心にしたかへり” たい一しひのかけては仏と
さらになりかたし” しよせん物を申せはこそ” ことはも
おほくつくれ” 今は物を申まし” かくてこゝにひ
れふし” 思ひしにとなつて” 此世のちきりこそあさ
くとも” ちこく【地獄】かき【餓鬼】ちくしやう【畜生】しゆら【修羅 注③】にんてん【人天 注④】に” むま【生】
れかはりし【死】にかはり” 六たう【注⑤】四しやう【注⑥】のそのうちを”
くるり〳〵とおいめくつて” うさもつらさものちの世

【注① 「言っぱ」=「言うは」の転。】
【注② 修行のかたち、方法。】
【注③ 阿修羅の略。常に帝釈天と戦っている悪神。須弥山の下の海底に住むという。】
【注④ にんでん=人間界の人間と天上界の天人。】
【注⑤ 六道=すべての衆生が生前の業因によって生死を繰り返す六つの迷いの世界。すなはち、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天上をいう。】
【注⑥ 四生=生物をその生れ方から四種に分類したもの。胎生、卵生、湿生、化生の四種の生まれ方。】





に” 思ひしらせ申さんとそのゝち物をはいはす” りう
によはもとよりかやうにめされんため” たはかりす
まさせ給ひて” 玉をのへたる御てにて” 万こかた
もとをひかへさせ給ひなふ” いたふなうらみさせ
給ひそよ” まことに心さしのましまさは” みつから
かしよまう【所望】をかなへてたへ” 草の枕のうたゝねの”
露のなさけはゆめはかりちきりなん” 万こあまりの
うれしさにかつはと起て身をいたきなふ” こは
まことにて御さ候か” 二つとなきいのちをもまいらせん
と申” いやそれまてもさふらはす” けにやらんうけ
たまはれは” しやくせんたん【赤栴檀】のみそき【注】にて”五寸のしや
か【釈迦】のれいふつのましますよしを” 舟のうちにてうけ

【注 御衣木=神仏の像を造るのに用いる木。】

給る” そのすいしやうのたま” みつからに一夜あつけさせ
給えどもかくもおほせにしたかふへし” 万こ此よし
きくよりも” あらしやうたいなや” よのしよまうか
とこそ思ひつるに” 此すいしやうの玉にをひては”
中〳〵思ひもよらぬ事なるへしと” ふつと思ひき
りけるかいや” 何ほとの事の有へきそと思ひ
なをし” さても〳〵御身は” 何として御そんし候ひ
けるそ” やさしくも御しよまう候物かな” さらは
そと【注①】” 《割書:かゝる| 》おかませ 申さんとて” くろかねしやう【錠】をさ
しいんはんをもつてふうしたる石のからうと【注②】の中
よりすいしやうの玉をとりいたし《割書:つめ| 》りうによのか
たへわたす” けいせいとかひては” みやこかたふく

【注① 少し。】
【注② 「からひつ(唐櫃)」の音便形「からうつ」の転じた語。】

とよまれしも今こそ思ひしられたれ” かくてしうあ
ひ【執愛】れんほ【恋慕】のわりなきちきりと見えつるか” 三日も
すきさるにかきけすやうにうせぬ” 玉はと人に
見せけれはとりてうせぬと申” 《割書:いろ| 》たゝはうせん【呆然】と” あ
きれはて” こくうにてをこそたゝたくすれ《割書:ことは| 》あらくち
おしや” りうくうのみやこよりたはかりけるをし
らすして” とかう申におよはすとて” のこるたからを
さきとして” いそきみやこにのほり” さま〳〵のたから
物を” とりいたし大しよくわんにまいらせあくる” 大
しよくわんは御らんして” おくり文のその中に” だい一
のたから物” すいしやうの玉の見えぬは” いかにとたつ
ねよひ給ふ” つゝむへきにて候はす” ありのまゝに

申” 此玉をとらんとてりうわうとくにしよまう【所望】する”
おしみてさらにいたさす” しゆらをかたらひはわんと
す” ぢんのたゝかひをのつから” ことはにものへ【述べ】かたし
筆にもいかてつくすへき” おほくのしゆらをうちと
つてりうわうなふをやすめ” いまはと心やす
くして” さぬきの国ふさゝきのおきをとをり
し時” なかれ木一ほんうかんてあり” すいしゆ【水主】かんとり【舵取り】あ
やしみをなし” とりあけわつてみるに” 天下ならひ
なき天によあり” うみにいれんとせし時” りうて
いこかれかなしむを” あまりみれはかわゆさに” たゝ
一夜とうせん【登舟】す” ひまをうかゝひしのひ入てとり
てうせぬと申す” かまたりきこしめされて” あま

り思えはむねんなるに” せめて我をくそくし” そのう
らのありさまを我にみせよとおほせけれは” うけ
給ると申して” もとりの舟にのせ申” ふさゝきのお
きへおしいたしてこゝなりと申す” たゝはう〳〵【茫々】と
したるなみの上を御らんしてむなしくもとり
給ふ”《割書:いろ| 》みちすからおほしめすさもあれむねんなる
物かな” 三国一のてうほう【重宝】をわかてう【我朝】のたからと
なさすして”いたつらにりうくうのたからとな
しけんくちおしさよ” 《割書:ことは| 》よく〳〵物をあんするに” り
うくうかいは六たう【道】にをひてもちくしやうた
う【畜生道】のうち” にんけんのちゑにははるかおとるへき
物を” さあらん時は何としてたはかられけんふし

きさよ” われ又せんきやうはうへんしいかにもあん
をめくらし” 此玉にをひては” とらふす物とおほし
めしみやこにかへり給ひて” てうせき【朝夕】あんをめ
くらし” 玉をとるへきはかりことくふうまし〳〵
けれとも” さすかかいちうへたゝつて” たしう
ゑんたうならされは舟のかよひちあらはこそ” し
かりとは申せとも” しんそくにをいてをや” たいせ
太し【大施太子 注】はかたしけなく女い【如意】の玉をとらんとて” ゑんし
のかいをもつて” きよかいをはかりつくしつゝつゐに
ほうしゆゑたまへり” 大くわんとしては又つゐに
むなしき事あらし” 我らもちかひてねかはくは
《割書:しほる| 》しやう〳〵せゝのあひたにこの玉にをひては

【注 〖大施太子〗=謡曲。観世小次郎信光作。大施太子は国の貧民を救うために梵天を祈り、龍宮の如意宝珠を授かったので、国民に望をかなえてやると告げる。集まった民の中に龍女の化身がいて、宝珠を奪うが帝釈天に取戻される。】

とらふす物とおほしめし” みやこのうちをしのひ
いてかたちをやつし給ひて又ふさゝきにく
たらるゝ” 《割書:ことは| 》かのうらにつきたまひ” うらのけしきを
見給ふに” あまともおゝくあつまつてかつきする
事おひたゝしく” かのあまの中にとしのよわ【ママ】ひ
はたちはかりに見え” みめかたちもしんしやう【尋常】な
るか” ろすいにもつれてあそふ事はたゝやいろを
つたふことくなり” かまたり見こめ【込め】給ひてかのあ
まのとまやにやとをかり” 日かすをおくらせ給ひ
けるにあまにもいまたつまもなし”《割書:かゝる| 》かまたりたひのひ
とりねのとこもさひしき事なから” こゝにて日をや
かさねけん” ねかたけれともひめ松のはやうら風にうち

なひく” なにはもつらきうらなからそよよしあしとい
ひかたりて” ふたりあれはそなくさみぬ” 《割書:ふし| 》うきねの
とこのかちまくら【注①】” なみのよるにもなりぬれは” ともゝ
なきさのさよち鳥【注②】” ふきしほれたる” うら風にこ
ゑをくらふるなみのをと” すさきの松に” さきあれ
は” こすへをなみの” こゆるにゝてしほやのけふり一
むすひ” すゑはかすみにきえにほひ”ゆめち【夢路】に
にたる” うたかたの” なみのこし舟かすかにて” からろ【注③】の
をとの” とをけれは花に” なくねのかりかね” 我もみ
やこのこひしさにこゑをくらへてなくはかり” うきみ
なからもまき【注④】のとを” あけぬくれぬと” すきゆけ
はみとせに” なるはほともなし” 《割書:ことは| 》かくてなんによのなか

【注① 楫枕=楫を枕として寝る意から舟の中に泊まること。船旅。】
【注② 小夜千鳥=夜鳴く千鳥。】
【注③ 唐艪=中国風の艪。】
【注④ 真木=すぐれた木の意。杉や桧などの木の称。】

らへわりなき中のちきりにや” わかきみいてき給ふ”
今はたかひに何事をも” うちとけたりし色み
へたり” かまたりみこめ【注】給ひて” 今は何をかつゝむへ
き” 我こそみやこにかくれもなき” たんかいこうふひ
とう” 大しよくはんとはわか事なり” 心にふかきのそ
みのありて” 此程是にありつるそ” しかるへくは身つ
からかしよまうかなへてたひてんや”《割書:ととき| 》 あま人うけた
まはりなふ” こはまことにて御ささふらうか” あらはつ
かしや四かいに御な【名】かくれもなき” かゝるきにん【貴人】にした
しみ申けることよ” 一ツはみやうか【冥加】つきぬへし” 一ツはは
はく女けせん【下賤】にてはたへはなみのあらいそたちゐは
いそのなかれ木” こゑはあらいそにくたくるうつせなみ

【注 見込め=その人の価値を十分に認識する。】

のをと” かみはやしほに” ひきみたすつくものことくなる
身にて” みやこの雲の” うへ人に” おきふしひとつ” とこに
してみゝへぬるこそはつかしけれ” しかしたゝ身をな
けてしなんとこそはくときけれ《割書:ことは| 》かまたりおほせける
やうはとてもしせんいのちを” わかためにあたへ” りうく
うかいへわけ入て” たつぬる玉のありところを見て
かへれとの御ちやう【諚】なり” かいしん【海人】うけたまはつて”
りうくうかいとやらんは” ありとはきひていまた
見す” ゆきてかへらん事はかたかるへし” たとひい
かなるおほせなりとも” いかてかそむき申【別本】へき” かま
たりにいとまをこひ” 一ようの舟にさほゝさし” おき
をさいてこきいたし” なみまをわけてつつといる”

一日にもあからす” 二日にもあからす” 《割書:いろ| 》三日四日もはやす
きて七日にこそなりにけれ”《割書:ことは| 》かまたり御らんして” あら
むさんやかのものは” うをのゑしきともなりけるか”
あやしやいかにおほつかなしと” 心をつくさせ給ふ
ところに” よみかへりたるふせひにて” もとの舟に
そあかりける” いかにととはせ給へはしはしは物を申
さす” やゝありて申けるはなふ” 此とよりりうくう
かいへゆく道は” 事もなのめならす【注①】” 一つのかしらを
さきとして” くらきところをまもつて” ちいろ【注②】の
そこへわけて入” うしほのろすいのつきぬれは” く
れなひのいろの水そあり” なをし【注③】そこへわけゆくに” こ
かねのはまちにおちつく” 五しきのれんけをひふし”

【注① なのめならず=普通でない。ひと通りでない。】
【注② 千尋=きわめて深いこと。】
【注③ 猶し=ナホに強めの助詞シが付いた語。それでも。】

あをきくちなはおゝくしてれんけのこしをまとへり”
なをしさきを見わたすに” れいかきよくなかれ”
水の色は五しきにてさうかんたかくそはたてり”
川に一ツのはしあり” 七ほうをちりはめ” 玉のはた
ほこたてならへ風にまかせてへうよう【飄揺】す” かのはし
をわたるに” あしすさましくきもきへ《割書:つめ| 》ゆめうつゝとも
わきまへす” なをしさきを見わたすに” ろうもん
雲にさしはさみ” 玉のまくさ【注①】はかすみのうち” こ
かねのかわらは日にひかり” そうてんまてもかゝやけ
り” 三ちうのくわいらうに” ししゆのもんをたてたる”
一つの大りおはします” りうくうしやう是なり
けり” へいるり【注②】のはしらをたて” めなうのゆきけ

【注① まぐさ(楣)=窓や出入口の上に水平に渡した横木。】
【注② べいるり(吠瑠璃)=七宝の一つ。青色の宝石。瑠璃。】

たに” はりのかへをいれにけり” ししゆのまんしゆの
やうらく玉のすたれをかけならへ” ちやう【帳】にも
あやをかけつゝ” とこににしきのしとねをしき” ちん
たん【注①】をましへ” なをらんけい【注②】をみかきたつ” かゝるめ
てたききうたゝに” しやかつらりうわう【注③】はしめ
とし” わしゆきつりう【注④】にいたるまて” ほうさ【法座ヵ】をかさり” さ【座】せらるゝ
もろ〳〵の” せうりうとくりう” こかねのよろひかふ
とをきて” 四ツのもんをまほれ【注⑤】り” さてもたつぬる
玉をは” へちにてんをつくつて” たからのはたをたて
ならへ” かうをもり” 花をつみ二六しちうにはんを
もり” いねうかつかう【注⑥】中〳〵に申におよはさり
けり” 八人のりうわうしゝこく〳〵【時々刻々】にしゆこしすれは”

【注① ぢんだん(沈檀)=沈香と白檀。】
【注② 蘭閨=后妃の寝室。】
【注③ 沙竭羅龍王=八大龍王の一つ。海に住み水をつかさどる神】
【注④ 和修吉龍王のこと。八大龍王の一つ。九頭の龍という。】
【注⑤ まほる=まもる(守る)】
【注⑥ 囲繞渇仰(いにょうかつごう)=周囲をめぐって深く信仰礼拝すること。】




此玉をとらん事” こんしやう【今生】にてはかなふましましてみ
らいてとりかたし” おほしめしきり給へ我君とこそ
申けれ”《割書:ことは| 》かまたりきこしめされて”さては玉のあり
ところをたしかに見つる物かな” ありとたにも思ひ
なはとりゑん事はし【別本は「けつ」】ちやう【注①】なり” りうともゝはかり
事をめくらしてたはかつてとりたれは” 我もたく
みをめくらしてたはかつてとるへきなり” 《割書:いろ| 》それり
うしんと申は五すい【注②】三ねつ【注③】ひまもなくくるしみお
ほき御身なり” 此くるしみをまぬかる事は” しらめ【別本「へ」】
のをとによもしかじ” 《割書:ことは| 》こゝをもつてあんするに” り
うわうをたはかるならは” まひ【舞】とくわんけん【管絃】にてたは
かるへし” 此うみのおもてにごくらくしやうと【極楽浄土】をま

【注① けつぢやう(決定)=疑いない。】
【注② 五衰=天人が死ぬときに現れる五種の衰えの相。】
【注③ 三熱=龍蛇の身が受けるという三種の苦しみ。一は熱風、熱砂のために身を焼かれること。二は悪風のために住居や衣服を失うこと。三は金翅鳥(こんじちょう)に襲われて食われそうになること。】

なふへし” 玉のはたほこ百なかれ【注①】たてならへ” さて又
かく屋【注②】をさうにかさつて” ひたりみきのけんくわん
をしらへすまし” そのみきん【注③】にみめよきちこをそ
ろへ” をんかくをそうする物ならはたゝ天人ににたるへ
し” さあらん程に大そうしやう【僧正】” からりん【注④】をうちならし”
上天けかい【下界 注⑥】のりうしんをくわんしやうするほとならは
すゝめによつて神ほとけ” のそみらいりんまし
まさは” りうくうのみやこより” はつたいりうわう【八大龍王】
さきとして” そくはく【注⑤】のけんそくともを” ひきくし
ていてらるへし” そのあひたはりうくうのみやこに
は” りうひとりもあるましきそ” るすのまをう
かゝつて” そろりと入てぬすみとつてやあたへ

【注① 流れ=旗などを数える語。】
【注② 楽屋=楽人が舞楽を演奏する所。】
【注③ みぎん=みぎり(砌)の転。】
【注④ 唐鈴=唐様の鈴(りん)。読経の折に用いる仏具で、小鉢形の鐘。】
【注⑤ 沢山。】
【注⑥ 龍宮など、海中にあると考えられる想像上の世界。】

かしとこそおほせけれ” あま人うけ給り” あらゆゝしの
君の御たくみやさふらふ” かゝるせんきやう【善巧】なくしては
いかてたやすくとりゑなん” たゝしるすのあひた
なりとも玉のけいこ【警護】はあるへし” たとひむなし
くなるとも玉にをひてはしさひなく” とりあけ
きみにまいらすへきか” もしもむなしくなるな
らは” またたらちを【ママ】のみとり子のちふさをはな
るゝ事もなし” きみならては後の世を” あはれ
む人のあるへきかとて” なくよりほかの事はなし”
《割書:ことは| 》かまたりきこしめされて” 心やすく思へ” もしもむ
なしくなりたらは” けうやう【孝養】のそのために” ならのみや
こに大からんをこんりうすへし” 又そのわかにをひ

ては” いまたようちなりといふとも” みやこへくそく
し【注】天下の御めにかけ” ふさゝきの大しんとかうし
ふちわらのとうりやうたるへきよしを” こま〳〵にの
たまへはあま人うけたまはつてよろこふ事はかき
りなし” やかてみやこへししやをたて” まひのしを
めしくたし” あたりのうらの舟をよせ” しゆたんをも
つて色とれる” ふたいをこそはりたてけれ” 十てう【丈】
のはたほこ百なかれたてならへ” 風にまかせてひる
かへせはさうかいはやかてしやうと【浄土】ゝなる” ひたりみきの
かくやに” かさりたてたる大たいこ” まんまくを上させ”
しゆれんに玉のすたれをかけ” ほうさ【法座】をさうにか
さらせて” うけん【有験】ちとく【智徳】の大そうしやう” 《割書:かゝる| 》からりんを

【注 具足す=伴い連れること。】

うちならし” 上天下かいのりうしんをおとろかししや
うすれは” 八たいりうわうしゅつらい【出来】してせんき
まち〳〵なりけり” なんせんふしう【注①】” ふさゝきのうら
にしてほうさをかさりちようしやうある” いさやら
いり【来臨】んやうかう【注②】なつてちやうもんとせんと” せんき
してそくはく【注③】のけんそくともをひきくしてこそ
いてられけれ” すてにりう神出給へは” こくちう【国中】の
ちこたち” 身をかさりまうけ” こゝをせんと【先途】ゝまい
給ふたゝ天人のことくなり” さる程にりうしん五
すい三ねつ【注④】たちまちまぬかれ給ひけるあひた”
何事もうちわすれまひに見とれたまひてふ
さゝきに日をそおくらるゝ”《割書:ことは| 》すはやひまこそよけ

【注① 南瞻部洲。「南閻浮提(なんえんぶだい)に同じ。須弥山の南にある閻浮提の意。人間世界の称。】
【注② 影向(やうがう)=神仏が仮にその姿を現すこと。】
【注③ 沢山。】
【注④ コマ59の注②、注③を参照。】

れとて” あまをいてたちをかまへけり” 五しきのあや
をもつて身をまとひ” やくわう【夜光】の玉をひたい
にあて” ぬのつなのはしをこしにつけ” かねよきかた
なはりはさみなみまをわけてつつといる” たと
ひなんし【男子】の身なり共” 一人うみへいらんする事は
とゝのうほりようかめ” 大しやのおそれもあるへきに”
申さんや【注】女の身とあつて” 一人うみへ入事は
たくひすくなき心かな” すせんはんり【数千万里】のかいろをす
きりうくうのみやこにつきにけりやくわうの玉
にてらされて” くらきところはなかりけり” 見をき
たりし事なれは” まようへきにて候はす” りうくうの
ほうてん【宝殿】にあかめ【崇め】をく” すいしやうの玉” 思ひのまゝにぬ

【注 いわんや(況や)を丁寧に、また改まった口調でいうもの。まして申すまでもなく。】

すみとつて” こしにつけたるやくそくの” ぬのつ【「す」は誤記ヵ】なを
ひけは” せんちう【船中】の人々” あはややくそくこゝなりと
てんてにつなをひきにけり” あまはいさみてかつ
けは” 上よりもいとゝひきあくる” 今はかうよと思ひ
けるに” 玉をまほる【注①】せうりう【小龍】” 此よしを見つけ” あと
をもとめておうことは” たゝみつはのそや【注②】をいるこ
とく” せんちうの人々” あはやほのかにみゆるは”《割書:つめ| 》 くりあ
けよとけちするに” あまのあとにつゐては” 一つの
大しやおうてくる” たけは十しようはかりにてひれ
につるきをはさみたてまなこはたゝせきみつ
の” 水にうつろふことくなり” くれないのことくなる” した
のさきをふりたてゝ” すきまなくおつかくる” あま

【注① まぼる=まもる(守る)。】
【注② 三羽の征矢=三枚の矢羽を付けた征矢(実戦用の矢)。早く飛ぶので、非常に早いことのたとえに用いられる。】

かなはしと” 思ひけるあひたかたなをぬいてふせき
けり” せんちう【船中】の人々此よしを御らんしててをあか
き身をいたきおつつふいつころんす” あはや〳〵
とおほせけり” かまたり御らんしきよけんをぬき
ゑうちのときゝつねのあたへたひたる” 一つのかまに
とりそへ” とんていらんとし給ふを” せんちうの人々”
ゆんてめてにすかつてこはいかにとてとゝめけり” す
てにはや此つなのこりすくなく見えしとき” 大しや
はしりかゝつて” なさけなくもかのあまの二つの
あしをけちきれ【注】は水のあはとそきへにける《割書:くとき| 》むな
しきしかひ【死骸】をひきあけ” しよにんの中に是を
をき一とにわつとさけふ” かまたり御らんして

【注 けちぎる=食いちぎる。】

玉はとりえぬ物ゆへに二せ【世】のきゑん【機縁】はつきはてぬ”
むねのあひたにきすあり” 大しやのさけるのみな
らすと” あやしめ御らんありけれは” 此きすの中
よりもすいしやうの玉出させ給ふ” 大しやのおひか
けしときかたなをふると見えしは” ふせかんために
なくし” 玉をかくさんそのために” わか身をかひし
けるかとよ” せめて此きすをわか身すこしおいた
らは” かほとに物は思ふましきををんなははかなき
ありさまかな” をつとのめいをちかへしとていのちを
すつるはかなさよ” 《割書:ふし| 》ともし火にきやる” よるのむしは
つまゆへその身をこかすなり” ふゑによる” 秋の
しかははかなきちきりにいのちをうしなふ” それは

みな〳〵しうあいれんほ【執愛恋慕】のわりなき” ちきりとは
いひなから” かゝるあはれはまれなるへし” 我には二
せの” きゑんなれは” 又こんにもあひ見なん” なんちは
いまこそかきりなれ” わかれのすかたをよく見よ
とて” いとけなき” わかきみをしかい【死骸】におしそへたり
けれは” しゝたるおやとしらぬ子の此ほとはゝには
なれつゝ” たまにあふたるうれしさに” むなしきち
ふさをふくみつゝ” はゝのむねをたゝくを見て”
上下はんみん” おしなへてみな” なみたをそな
かしける” 《割書:つめ| 》あまはむなしくなりたれと” かしこきせん
きやうはうへんによつて” りうくうかいへうはわ
れしむけ【注】ほうしゆ【宝珠】をことゆへなく” うはひ返し給ふ

【注 むげ(無価)=値段をつけることができないほど高価なこと。または貴重なこと。】

事ありかたしとも中〳〵に申におよはさりけり”
此玉はすなはち” おくりふみにまかせ” こうふくし
のほんそん” しやかほとけのみけんに” ゑりはめ給ひ
けるとかや” しやうしんのれいさう” しやくせんたん【赤栴檀】の
みそき【御衣木】にて五寸のしやかをつくり” にくしき【肉色】の御
しやり御しん【身】につくりこめなから方八寸のすいしや
うのたう【塔】のな中におさめ” むけほうしゆとなつけて”
三国のてうほう” りうわうのおしみ給ひしこと
はりとこそ聞こえけれ

【白紙】

【白紙】

【裏表紙】

【冊子の背】

【冊子の天或は地】

【冊子の小口】

【冊子の天或は地】

【帙を開いた表側】

【帙を開いた内側】

BnF.

【表紙 題箋】
夕きり

【資料整理ラベル 右上】
MS
【資料整理ラベル 右下】
JAPONAIS
 5340
  4

【見返し 文字無し】

【白紙】

【白紙】

まめ人の名をとりてさかしかり給ふ大将この
一條の宮の御ありさまをなをあらまほしと心に
とゝめておほかたの人めにはむかしをわすれぬよう
いにみせつゝいとねんころにとふらひきこえ給ふし
たの心にはかくてはやむましくなむ月日にそへて
おもひまさり給ひけるみやす所もあはれにありか
たき御心の【ミセケチ】はへにもあるかなといまはいよ〳〵もの
さひしき御つれ〳〵をたえすをとつれ給になく
さめ給事ともおほかりはしめよりけさうひてもき
こえ給はさりしにひきかへしけさうはみなまめ【。の右】かんもま

はゆしたゝふかき心さしをみえたてまつりうちとけ
給おりもあらしはやとおもひつゝさるへき事につけ
ても宮の御う(けイ)はひありさまを見たまふ身つから
なときこえ給事はさらになしいかならむついて
におもふことをもまほにきこえしらせてひて人の御け
はひをみむとおほしわたる宮す所ものゝけにいた
うわつらひ給てをのといふわたりに山さとも【「ち」の脱落か】たまへ
るにわたり給へりはやうより御いのりの師に
てものゝけなとはらひすてけるりし【=律師】山こもりし
て里にいてしとちかひたるをふもとちかくさうし

おろし給ゆへなりけり御くるまよりはしめて御
前なと大将殿よりそたてまつれ給へるを中〳〵
まことのむかしのちかきゆかりの君たちはことわさ【仕事】
しけきをのかしゝの世のいとなみにまきれつゝえし
もおもひいてきこえ給はす弁の君はたおもふ心
なきにしもあらてけしきはみけるにことのほかな
りける御もてなしなりけるにしゐてえ まて(まうてイ)
とふらひ給はすなりにたりこの君はいとかしこう
さりけなくてきこえなれ給にためり【注】すほう【修法】な
とせさせ給ふときゝてそう【僧】のふせ【布施】上え【浄衣】なとやうの


【注 助動詞タリとメリとの複合の音便形タンメリのンを表記しなかった形。…したようだ。】

こまかなる物をさへたてまつれ給なやみ給人はえき
こえ給はすなへての せし(せんしイ)かき【宣旨書き=代筆】はものしとおほしぬへ
くこと〳〵しき御さまなりと人〳〵きこゆれは宮そ
御かへりきこえ給いとおかしけにてたゝひとくたり
なとおほとかなるかきさまこと葉もなつかしき所
かきそへたまへるをいよ〳〵みまほしうとまりてし
けうきこえかよひ給猶ついにあるやうあるへき
御なからひなめりときたのかたけしきとり給へれ
はわつらはしくて まて(まうてイ)まほしくおほせととみに
え ま(いイ)て給はす八月中の十日はかりなれは野へ

のけしきもおかしきころなるに山里のありさま
のいとゆかしけれはなにかしりし【注①】のめつらしくおりた
なる【注②】にせちに【是非とも】かたらふへき事あり宮す所【御息所】のわつら
ひ給なるもとふらひかてら【御見舞がてら】まうてむとおほかたにそ
きこえこちて【注③】いて給御前【先導】こと〳〵しからて【注④】したし
きかきり五六人はかりかり衣にてさふらふことにふ
かきみちならねと松かさきのを山の色なともさ
るいはほならねと秋のけしきつきて都に に(に)な
くとつくしたるいへゐにはなをあはれも そう(けうイ)【興】もまさ
りてそみ◦(ゆ)るやはかなきこしはかき【小柴垣】もゆへあるさま


【注① 「りっし(律師)」の「つ」を表記しなかった形。】
【注② たなる=完了の助動詞タリの終止形に伝聞の助動詞ナリの連体形ナルのついた形タリナルの音便形タンナルのンを表記しなかった形。「~したそうだ。」「~たという。」の意。】
【注③ 聞こえごちて=願い事を申し上げて】
【注④ 仰々しくなく】

にしなしてかりそめなれとあてあてはか【注①】にすまゐなし
給へりしん殿とおほしきひんかしのはなちいてにす
ほう【修法】のたん【檀】ぬりてきたのひさしにおはすれはにしお
もてに宮はおはします御物ゝけ【もののけ】むつかしとてとゝめ
たてまつり給けれといかてかはなれたてまつらむと
したひわたり給へるを人にうつりちるををちて【注②】すこ
しのへたてはかりにあなたにはわたしたてまつり
給はすまらうと【客人】のゐ給へき所なけれは宮の御かた
のす【簾】のまへにいれたてまつりて上らうたつ【注③】人〳〵御
せうそこきこえつたふいとかたしけなくかうまての

【注① 品がよいさま】
【注② 懼じる=恐れる】
【注③ 上臈だつ=いかにも上臈のように見える】

たまはせ【注①】わたらせ給へるをなむもしかひなくな
りはて侍なはこのかしこまり【注②】をたにきこえさせてや
とおもふ給ふるをなむいましはしかけとゝめ【注③】まほしき
心つき【注④】侍ぬるときこえいたし【注⑤】給へりわたらせ給し
御をくりにもとおもふ給へしを六条院にうけ 給(給はりイ)
さしたる【注⑥】事侍しほとにてなむ日ころもそこはか
となくまきるゝ事侍ておもひ給ふる心のほとよ
りはこよなくをろかに御らんせらるゝことのくるしう
侍なときこえ給宮はおくのかたにいとしのひておはし
ませとこと〳〵しからぬたひの御しつらひあさきやう

【注① 宣わせ=仰せられ】
【注② 御礼】
【注③ この世に引きとどめる】
【注④ 考えるようになる】
【注⑤ 外にいる人に向かってお話をする。】
【注⑥ 重要な。】

なるおましのほとにて人の御けはひをのつからしるし
いとやはらかにうちみしろきなとし給御そ【衣】のをと
なひさはかりなのりときゝゐ給へり心も空におほえ
てあなたの御せうそこかよふ程すこしとをう【遠う】へたゝる
ひまにれいの少将の君なとさふらふ人〳〵にものかたり
なとし給てかうまいりきなれうけ給はる事のとし
ころといふはかりになりにけるをこよなう物とをう【遠う】も
てなさせ給へるうらめしさなむかゝるみすのまへにて人
つての御せうそこなとのほのかにきこえつたふるこ
とよまたこそならはねいかにふるめかしきさまに人〳〵

ほゝゑみ給らんとはしたなくなむよはひつもらすか
るらかなりしほとにほのすきたるかたにおもなれなま
しかは【注①】かううゐ〳〵しうもおほえさらましさらにかは
かりすく〳〵しう【注②】おれてとしふる人はたくひあらしかし
との給けにいとあなつりにくけなるさまし給へれは
されはよと中〳〵なる御いらへきこへいてんははつかしう
なとつきしろひ【注③】てかゝる御うれへきこしめししらぬ
やうなりと宮にきこゆれはみつからきこえ給はさめ
るかたはらいたさにかわり侍へきをいとおそろしきまて
ものし給めりしを見あつかひ【注④】侍し程にいとゝあるか


【注① 面慣れなましかば=見慣れていたのだったら。】
【注② 生真面目である。】
【注③ 突きしろひ=つつき合う。】
【注④ 看病する】

なきかの心ちになりてなむえきこえぬとあれは
こは宮の御せうそこかとゐなをりて心くるしき御
なやみを身にかふはかりなけきゝこえさせ侍るもなに
のゆへにかかたしけなけれとも物をおほししる御ありさ
まなとはれ〳〵しきかたにも見たてまつりなをし給
まてはたひらかにすくし給はんこそたか御ためにも
たのもしき事には侍らめとをしはかりきこえさする
によりなむたゝあなたさまにおほしゆつりてつ
もり侍ぬる心さしをもしろしめされぬはほいなき
心ちなんときこえ給けにと人〳〵もきこゆ日いり

かたになりゆくに空のけしきもあはれにきりわ
たりて山のかけはをくらき【小暗き】心ちするに日くらしな
きしきりてかきほ【注①】におふるなてしこのうちなひけ
る色もおかしうみゆまへの せさい(せんさいイ)の花とも は(は)心にまか
せてみたれあひたるに 水のをといとすゝしけにて
山おろし心すこく松のひゝき木ふかく【注②】きこえわた
されなとしてふたんの経よむときかはりてかね
うちならすにたつこゑ【注③】もゐかはるも【注④】ひとつにあひて
いとたうとくきこゆ所から【場所柄】よろつ事心ほそう見
なさるゝもあはれにものおもひつゝけらるいて給はん心

【注① 垣穂=「ほ」は「秀」の意で、高くつき出ているさまを表わす。垣。】
【注② 木が生い茂っていて奥深い感じである。】
【注③ (交代で)座を立つ僧の声】
【注④ 入れ替わる僧の声も】

ちもなしりし【律師】もかち【加持】するおと【音】してたらに【陀羅尼】いとたうと
くよむなりいとくるしけにし給なりとて人〳〵も
そなたにつとひておほかたも【注①】かゝるたひ所【注②】にあま
たまいらさりけるにいとゝ人すくなにて宮はなかめ給
へりしめやかにておもふこともうちいて【注③】つへきおりか
なとおもひゐ給へ り(る)【「り」の字に「ヒ」と記入】に霧のたゝこののきのもとま
てたちわたれはまかてんかた【罷出ん方】もみえす成行(なりゆく)はいかゝすへきとて
   山さとのあはれをそふる夕きりに
たちいてん空もなき心ちしてときこえ給へは
    山かつのまかきをこめてたつ霧は(も)【「は」の左に「ヒ」と傍記】

【注① 一般に。普通。】
【注② たびどころ=仮に宿る所。自宅以外の宿所。】
【注③ 打ち明ける。】

心空なる人はとゝめすほのかにきこゆる御けはひ
になくさめつゝまことにかへるさ【注①】わすれはてぬ中空
なるわさ【注②】かないへち【家路】はみえす霧のまかきはたち
まと(とま)【左に「ヒヒ」と傍記】るへう【注③】もあらすやらはせ給つきなき人【注④】はかゝ
ることこそなとやすらひてしのひあまり【注⑤】ぬるす
ちもほのめかしきこえ給ふに年ころも【注⑥】むけにみ
しり給はぬにはあらねとしらぬかほにのみもてな
し給へるをかくことにいてゝうらみきこえ給をわつ
らはしうていとゝ御いらへもなけれは◦(い)たうなけきつゝ心の
うちに又かゝるおりありなむやとおもひめくらし給

【注① 帰る折。】
【注② どっちつかずの次第】
【注③ 「べし」の連用形「べく」の音便形】
【注④ おぼつかない人。】
【注⑤ 忍び余る=隠しおおせず表面に出る。】
【注⑥ 今迄何年も。】

なさけなうあはつけき【注①】ものにはおもはれたてまつ
るともいかゝはせんおもひわたる【注②】さまをたにしらせた
てまつらんとおもひて人をめせは御つかさのそうより
かうふり【注③】えたるむつましき人そまいれるしのひやか
にめしよせてこのりし【律師】にかならすいふへきこ と(と)のあ
るをこしむ【護身 注④】なとにいとまなけな◦(め)るたゝいまはうち
やすむらんこよひこのわたりにとまりてそのしは
てんほとにかのゐたるかたにせむこれかれさふら
はせよすいしん【随身】なとのおの こ(こ)ともはくるすのゝさう【荘】
ちかゝらんまくさなととりかはせてこゝに人あまた

【注① 軽率である。】
【注② 思い続けて月日を経る。】
【注③ 官位】
【注④ 「護身法」の略。密教での加持の法】

こゑなせそかやうのたひねはかる〳〵しきやう【注①】に人も
とりなすへしとの給ふあるやうあるへしと心えてう
け給はりてたちぬさてみちいとたと〳〵しけれは
このわたりにやと【宿】かり侍るおなしうは【注②】このみす【御簾】のもとに
ゆるされあらなむあさり【阿闍梨】のおるゝほとまてなむと
つれなく【注③】の給ふれゐはなかゐ【長居】してあされはみ【注④】たる
けしきも見え給はぬをうたてもあるかなと宮おほ
せとことさらめきて【注⑤】かるらかにはひわたり【注⑥】給はんも
さまあしき心ちしてたゝをと【音】せでおはしますにと
かくきこえよりて御せうそこきこえつたへにゐさり

【注① 軽率な感じに。】
【注② 同じことなら】
【注③ さりげなく。】
【注④ あざればむ=男女の間で、たしなみに外れた様子をする。】
【注⑤ わざとらしくする。】
【注⑥ 歩いて行く。】

いる人のかけにつきていり給ぬまた夕暮のきりにと
ちられてうちはくらくなりにたるほとなりあさ
ましうて【注①】見かへりたるに宮はいとむくつけうなり
給て北のみさうし【御障子】のと【外】にゐさりいてさせ給をいと
ようたとりてひきとゝめたてまつりつ御身はい
りはて給へれと御そ【衣】のすそののこりてさうし
はあなたよりさすへきかたなかりけれはひきたてさ
して水のやうにわなゝき【注②】おはす人〳〵もあきれ
ていかにすへき事ともえおもひえすこなたよ
りこそさすかねなともあれいとわりなくて【注③】あら

【注① 驚いて。】
【注② 体・手足などが小刻みに震える。】
【注③ どうにもならなくて。】

〳〵しくはえひきかなくる【注①】へくはた【注②】ものし給はね
はいとあさましう【注③】おも(おもふイ)たまへり【「り」の左に「ヒ」と傍記】よらさりける御心の
ほとになむとなきぬはかりにきこゆれとかはかり
にてさふらはんか人よりけに【注④】うとましうめさましう【注⑤】
おほさるへきにやは【注⑥】かすならすとも御みゝなれぬる年
月もかさなりぬらんとていとのとやかにさまよくも
てしつめておもふことをきこえしらせ給ふきゝいれ
給へくもあらすくやしうかくまてとおほすことの
みやるかたなけれはのたまはん事はたましておほえ
給はすいと心うくわか〳〵しき御さまかな人しれぬ心

【注① 引きかなぐる=手荒く引きのける】
【注② さすがに】
【注③ 意外で興ざめだ。】
【注④ げに=実に】
【注⑤ 失礼だ。】
【注⑥ 思われるのでしょうか。】

にあまりぬるすき〳〵しき【注①】つみはかりこそ侍らめ
これよりなれすきたることはさらに御心ゆるされては【注②】
御らんせられしいかはかり千々にくだけ侍おもひにたへ
ぬそやさりとも【注③】をのつから御らんししるふしも侍ら
むものをしゐておほめかしう【注④】けうとう【注⑤】もてなさせ
給めれはきこえさせんかたなさにいかゝはせむ心ちなく
おほすともかうなから【注⑥】くちぬへきうれへをさたかにき
こえしらせ侍らんとはかりなりいひしらぬ御けしきの
つらきものからいとかたしけなけれはとてあなか
ちに【注⑦】なさけふかうよういし給へりさうしををさへ


【注① いかにも恋にひたむきである。】
【注② ゆるされでは=許されないでは(許されなければ)】
【注③ いくらそうであっても。】
【注④ はっきりしない。】
【注⑤ 気疎う=気持ちが離れているように。】
【注⑥ このまま。】
【注⑦ 一途に。】

給へるはいとものはかなきかためなれとひきもあけ
すかはかりのけちめ【注①】をとしひておほさるらんこそあ
はれなれとうちわらひてうたて心のまゝなるさ
まにもあらす人の御ありさまのなつかしうあて
になまめい給へることさはいへとことにみゆ よとゝ(よとゝ)も
に物をおもふ給けにややせ〳〵にあへか【注②】なる心ち
してうちとけ給へるまゝの御袖のあたりもなよひ
か【注③】に気ちかう【注④】しみたるにほひなととりあつめて【注⑤】
らうたけに【注⑥】やはらかなる心ちし給へり風いと心ほ
そうふけゆく夜のけしきむしのねもしかの

【注① 隔て。しきり。】
【注② 弱弱しいさま。】
【注③ たおやかで上品なさま。】
【注④ 親しみのある。】
【注⑤ 総じて。】
【注⑥ 可愛らしく】

なくねもたきのをともひとつにみたれてえんな
るほとなれはたゝあり【注①】のあはつけき【注②】人たにね
さめ【寝覚め】しぬへき空のけしきをかうし【格子】もさなから入かた
の月【注③】の山のはちかきほととゝめかたうも さ(の)【「さ」の左に「ヒ」と傍記】あはれ
なり猶かうおほししらぬ御ありさまこそかへりては
あさう御心のほとしらるれかう世つかぬまて【注④】しれ
〳〵しき【注⑤】うしろやす き(さ)【「き」の左に「ヒ」と傍記】【注⑥】なともたくひあらしと
おほえ侍るをなにことにもかやすき【注⑦】ほと【注⑧】の人こそか
かるをはしれものなとうちわらひてつれなき心
もつかうなれあまりこよなく【注⑨】おほしをとし【注⑩】たるに

【注① 普通の。】
【注② 軽々しい。】
【注③ いま没しようとする月。】
【注④ 世間しらずで。】
【注⑤ とぼけていて】
【注⑥ あとは安心だと感じる。】
【注⑦ 何の気遣いもいらない。】
【注⑧ 身分。】
【注⑨ 格段の違いで。】
【注⑩ おぼしおとし(思し落し)=人より軽くお思いになる。】






えなむしつめはつましき心ちし侍世中【注①】をむけに【注②】
おほししらぬにしもあらしをとよろつにきこえせめ【注③】
られ給ていかゝいふへきとわひしうおほしめくらす
世をしりたるかたの心やすきやうにおり〳〵ほのめ
かすもめさましう【注④】けにたくひなき身のうさなり
やとおほしつゝけ給にしぬへくおほえてうき身
つからのつみをおもひしるとてもいとかうあさま
しきをいかやうにおもひなす【注⑤】へきにかはあらむと
いとほのかにあはれけにない【泣い】給て
   われのみやうき世をしれるためしにて

【注① 男女の仲。】
【注② 全然。】
【注③ 聞こえ責め=相手の言葉や返答を口やかましく催促し申しあげる。】
【注④ 不愉快だ。】
【注⑤ (心に)受けとめる。】

ぬれそふ袖の名をくたすへきとの給ふともな
きをわか心につゝけてしのひやかにうちすし【誦し】給へる
もかたはらいたくいかにいひつることそとおほさるゝにけ
にあしうきこえつかしなとほゝゑみ給へるけしきにて
   おほかたはわれぬ【「れ」が脱字】衣きせすとも
くちにし袖の名やはかくるゝひたふるにおほしなり
ねかしとおほす心つようもてなし給へとはかなう
ひきよせたてまつりてかはかりたくひなき心さ
しを御らんししりて心やすうもてなし給へ御ゆる
しあらてはさらに〳〵といとけさやかにきこえ給

ほとあけかたちかうなりにけり月くまなうすみわ
たりてきりにまきれすさし入たりあさはかなるひ
さしののきはほともなき心ちすれは月のかほにむかひ
たるやうなるあやしうはしたなくてまきらはし
給へるもてなしなといはんかたなくなまめき給へり
こきみの御事もすこしきこえいてゝさまようのとや
かなるものかたりをきこえ給さすかになをかのすき
にしかたにおほしおとすをはうらめしけにうらみきこえ給
御心のうちにもかれは位なともまたをよはさりけるほと
なからたれも〳〵御ゆるしありけるにをのつからもて

なされて見なれ給にしをそれたにいとめさましき心の
なりにしさまましてかうあるましきことによそに
きくあたりにたにあらすおほとのなとのきゝおもひ
給はん事よなへての世のそしりをはさらにもいはす
院にもいかにきこしめしておもほされんなとはなれぬ
こゝかしこの御心をおほしめくらすにいとくちおしうわか心
ひとつにかうつようおもふとも人のものいひいかならむ宮す
所【御息所】のしり給はさらんもつみえかましうかくきゝ給て心
おさなくとおほしのたまはんもわひしけれはあかさて
たにいて給へとやらひきこえ給よりほかの事なし

あや【「さ」の誤記】ましやことありかほにわけ侍らんあさ露のおもはむ
ところよ猶さらはおほししれよかうおこかましきさま
を見えたてまつりかしこうすかしやりつとおほし
はなれんこそそのきはゝ心もえおさめあふましう
しらぬこととけしからぬ心つかひもならひはしむへうお
もふ給へらるれとていとうしろめたくなか〳〵なれとゆく
りかにあされたることのまことにならはぬ御心ちなれはいと
おしうわか御身つからも心おとりやせんなとおほひて
たか御ためにもあらはなるましきほとのきりにたち
かくれいて給心ちそらなり

   おきは く(ら)や軒はの露にそほちつゝ
やへたつ霧をわけそ行へきぬれころもはなをえほさ
せ給はしかうわりなうやらはせ給御心つからこそはとま【「き」の誤記】こ
え給けにこの御名のたけからすもりぬへきを御心のと
はんにたにくちきようこたへんとおほせはいみしうもて
はなれたまふ
   わけゆかん草葉の露をかことにて
猶ぬれきぬをかけんとやおもふめつらかなる事かな
とあはめ給へるさまいとおかしうはつかしけなり年
ころ人にたかへる心はせ人になりてさま〳〵になさけ

をみたてまつるなこりなくうちたゆめすき〳〵しき
やうなるかいとおしう心はつかしけれはをろかならすおも
ひかへしつゝかうあなかちにしたかひきこえてものちお
こかましうやとさま〳〵におもひみたれつゝいて給みちの
露けさもいとところせしかうやうのありきならひ給
はぬ心ちにおかしうも心つくしにもおほえつゝとのに
おはせは女君のかゝるぬれをあやしととかめ給ぬへけれ
は六条院のひんかしのおとゝにまうて給ひぬまた
朝きりもはれすましてかしこにはいかにとおほしや
るれいならぬ御ありきありけりと人〳〵はさゝめく

しはしうちやすみ給て御そぬきかへ給夏冬とい
きよらにしをき給へれはかう【香】の御からひつよりとうて【取う出】ゝ
たてまつり給御かゆなとまいりて御前にまいり
給かしこに御ふみたてまつれ給へれと御らんしも
いれすにはかにあさましかりしありさまめさましう
はつかしうもおほすに心つきなくて宮す所【御息所】のもり
きゝ給はん事もいとはつかしうまたかゝる事やとかけて
もしり給はさらんにたゝならぬふしにても見つけ給ひ
人のものいひかくれなき世なれはをのつからあはせてへ
たてけるとおほさむかいとくるしけれは人〳〵ありし

まゝにきこえもらさなむうしとおほ し(す)【「し」の左に「ヒ」と傍記】ともいかゝはせんとお
ほすおやこの御中ときこゆる中にもつゆへたてな
くおもひかはし給へるよその人はもりきけともおやにかく
すたくひこそむかし物かたりにもあめれとさはたおほさ
れす人〳〵はなにかはほのかにみたれんまたきに心くるし
なといひあはせていかならむとおもふとちの御せうそ
こ【消息】のゆかしきをひきもあけさせ給 は(は)ねは心もとなくて
なをむけにきこえさせ給はさらんもおほつかなくわ
か〳〵しきやうにそ侍らんなときこえてひろけ
たれはあやしうなに心もなきさまにて人にかは

かりにてもみゆるあはつけさの身つからのあやまちに
おもひなせとおもひやりなかりしあさましさもなくさ
めかたくなむえみすとをいへとことのほかにてよりふ
させ給ぬさるはにくけもなくいと心ふかうかい【書い】給て
   たましゐをつれなき袖にとゝめをきて
我心からまとはるゝかなほかなるものはとむかしも
たくひありけりとおもふ給へなすにさらにゆくかたしら
すのみなんなといとおほかめれと人はえまほにもみ
すれいのけしきなるけさの御文にもあらさめれと
なをえおもひはるけす人〳〵は御けしきもいとお

しきをなけかしうみたてまつりつゝいかなる御事
にかはあらんなに事につけてもありかたうあはれ
なる御心さまはほとへぬれとかゝるかたにたのみき
こえては見おとりやし給はんとおもふもあやうく
なとむつましうさふらふかきりはをのかとちおも
ひみたる宮す所【御息所】もかけてしり給はすものゝけに
わつらひ給人はをもしとみれとさはやき給ふひま
もありてなむものおほえ給ひる日中の御かち【加持】は
てゝあさり【阿闍梨】ひとりとゝまりて猶たらに【陀羅尼】よみ給よ
ろしうおはしますよろこひて大日如来そらこ

とし給はすはなとてかかくなにかしらの心をいたして
つかうまつる御す法にしるしなきやうはあらむあく
らうはしふねき【執念き】やうなれと こふ(こつイ)しやう【注】まとはれたるは
かなものなりとこゑはかれていかり給いとひしりたち【聖だち】
すく〳〵しきりし【律師】にてゆくりもなくそよやこの大将は
いつよりこゝにはまいりかよひ給そととひ申給宮す所【御息所】さ
る事も侍らす故大納言のいとよき中にてかた
らひつけ給へる心たかへしとこのとしころさるへき
事につけていとあやしくなむかたらひものし給ふも
かくふりはへわつらふをとふらひにとてたちより

【注 「業障」。「ごふしゃう」とも「ごっしゃう」とも言う。悪業のために生じた障害。】

給へりけれはかたしけなくきゝ侍しときこえ給いて
あなかたはなにかしにかくさるへきにもあらすす【左に「ヒ」と傍記】けさこ
やにおとこのいて給へるをきりふかくてなにかしはえ
見わい【注①】たてまつらさりつるをこのほうしはらなむ大将
殿いて給なりけりとよへ【注②】も御車もかへして
とまり給にけりとくち〳〵申つるけにいとかうはしき
か【香】のみちてかしらいたきまてありつれはけにさ
なりけりとおもひあはせ侍ぬるつねにいとかう
はしく物し給君なりこの事はいとせちにもあらぬ
事なり人はいといふ そ(そ)くにものし給ふなにかし【何某】らも

【注① 「見分き」のイ音便】
【注② よべ=昨晩】

わらは ◦(に)ものし給時よりかの君の御ための事はす法【修法】
をなむこ【故】大宮のの給つけたりしかは いかう(一かうイ)にさるへきこ
といまにうけ給る所なれといとやくなしほんさいつよ
くものし給さるときにあへるそうるい【注】にていとやんこ
となしわか君たちは七八人になり給ぬえみこの
きみをし給はしまた女人のあしき身をうけ長
夜のやみにまとふはたゝかやうのつみによりなむ
さるは【左に「ヒ」と傍記】いみしきむくひをもうくるものなる人の御いか
りいてきなはなかきほたしとなりなむもはらう
けひかすとかしらふりてたゝいひにいひはなち【左に「ヒ」と傍記】

【注 「ぞくるい(族類)」の音便形。一族親類。】

てはいとあやしきことなりさらにさるけしきにも見
え給はぬ人なりよろつこゝちのまとひにしかはうちやす
みてたいめんせむとてなんしはしたちとまり給へる
とこゝなるこたち【御達】いひしをさやうにてとまり給へるにや
あらんおほかたいとまめやかにすくよかにものし給人
をとおほめ【注➀】い給なから心のうちにさる事もやありけ
むたゝならぬ御けしきはおり〳〵みゆれと人の御
さまのいとかと〳〵しうあなかちに人のそしりあ
らむ事ははふきすて【注②】うるはしたち給へるにたは
やすく心ゆるされぬことはあらしとうちとけたるそかし


【注① おぼめきの音便形。納得できなくて不思議そうにする。いぶかしがる。】
【注② 省き捨て】

人すくなにておはするけしきをみてはひ入もやし給
けんとおほすりし【律師】たちぬるのちに少将の君をめ
してかゝることなむきゝつるいかなりし事そなとか
をのれにはさなんかくなむとはきかせ給はさりけるさし
もあらしとおもひなからとの給へはいとをしけれとあり
しやうをはしめよりくはしうきこゆけさの御文のけ
しき宮もほのかにのたまはせつるやうなときこえ
としころしのひわたり給ひける心のうちをきこえ
しらせむとはかりにや侍けんありかたうよういあ る(り)【左に「ヒ」と傍記】
てなんあかしもはてゝいて給ぬるを人はいかにきこえ

侍にかりし【律師】とはおもひよらてしのひて人のきこえ
けるとおもふ物もの給はていとうくくちをしとおほす
になみたほろ〳〵とこほれ給ぬ見たてまつるもいと
をしうなにゝありのまゝにきこえつらむくるしき
御心ちをいとゝおほしみたるらむとくやしうおもひ
ゐたりさうし【障子】はさしてなんとよろつによろしき
やうにきこえなせととてもかくてもさはかりになにの
よういもなくかるらかに人に見え給けんこそいと
いみしけれうち〳〵のみ心きようおはすともかくまてい
ひつるほうしはらよからぬわらはへなとはまさにいひの

こしてんや人はいかにいひあらかひさもあらぬことゝいふへき
にかあらんすへて心おさなきかきりしも こゝ(みイ)にさふら
ひてともえの給やらすいとくるしけなる御心ち
に物をおほしおとろきたれはいと〳〵をしけなりけ
たかうもてなしきこえんとおほいたるによつかはし
うかる〳〵しき名のたち給へきををろかならすおほ
しなけかるかうすこしものおほゆるひまにわたら
せ給へうきこえよそなたへまいりくへけれとうこき
すへうもあらてなんみたてまつらてひさしうなり
ぬる心ちすやとなみたをうけての給まいりて

しかなむきこえさせ給ふとはかりきこゆわたり給はんと
て御ひたいかみ【額髪】のぬれまろかれたる【注①】ひきつくろひひとへ【単衣】
の御そ【衣】ほころひたるきかへなとし給てもとみにもえうこ
い給はすこの人〳〵もいかに思ふらんまたはしり給はりし
よとおほしあはせんもいみしうはつかしけれはまたふし
給ひぬ心ちのいみしうなやましきかなやかてなをら
ぬさまにもなりなはいとめやすかりぬへくこそあしの
け【注②】ののほりたる心ちすとをしくたさせ給ふものを
いとくるしうさま〳〵におほすにはけそあかりける
少将うへにこの御事ほのめかしきこえける人こそ

【注① 丸かれたる=くっつきあって丸くなっている。】
【注② 脚の気=脚気。また、脚の血がのぼって頭や顔がほてる症状ともいう。】

侍へけれいかなりしことそととはせ給ふつれはありの
まゝにきこえさせてみさうしのかためはかりをなん
すこしことそへてけさやかにきこえさせつるもしさやう
にかすめきこえさせ給はゝおなしさまにきこえさせ給へ
と申すなけい給へるけしきはきこえいてすされはよと
いとわひしうてものもの給はぬ御まくらよりしつく
そおつるこの事にのみもあらす身のおもはすにな
りそめしよりいみしうものをのみおもはせたてま
つることゝいけるかひなくおもひつゝけ給ふてこの人は
かうてもやまてとかくいひかゝつらひいてんもわつ

らはしうきゝくるしかるへうよろつにおほすまいて
いふかひなく人のことによりていかなる名をくたさまし
なとすこしおほしなくさむるかたはあれとかはかりに
なりぬるたかき人のかくまてもすゝろに人にみゆ
るやうはあらしかしとすくせうくおほしくし【注】てゆふつ
かたそ猶わたらせ給へとあれはなかのぬりこめのと
あけあはせてわたり給へるくるしき御心ちに
もなのめならすかしこまりかしつききこえ給ふ
つねの御さほうあやまたすおきあかり給ふてい
とみたりかはしけに侍れはわたらせ給ふも心くるし

【注 「屈し(クッシ)」の促音「ッ」を表記しない形。】

うてなむこのふつか三日はかりみたてまつらさりける
ほとのとし月の心ちするもかつはいとはかなくな
むのちかならすしもたいめ【注】の侍へきにも侍らさめり
まためくりまいる ◦(と)もかひやは侍へきおもへはたゝ時のま
にへたゝりぬへき世中をあなかちにならひ侍にけるも
くやしきまてなんなとなき給ふ宮も物のみかな
しうとりあつめおほさるれはきこえ給ふ事もなくて
見たてまつり給物つゝみをいたうし給本上にて
きは〳〵しうの給ひさはやくへきにもあらねはは
つかしうのみおほすにいと〳〵おしくていかなりしな

【注 対面(たいめん)の「ん」を表記しない形。】

ともとひきこえ給はす御となふら【殿油】なといそきま
いらせ御たいなとこなたにてまいらせ給ものきこし
めさすときゝ給てとかうてつからまかなひなをし
給へとふれ給へくもあらすたゝ御心ちのよろしう
みえ給そむねすこしあけ給ふかしこより又御ふ
みあり心しらぬへ【左に一つと字の上に二つ「ヒ」と記入。(見せ消ち)】人しもとりいれて大将殿より
少将の君にとて御ふみありといふそまたわひ
しきや少将文をはとりつみやす所いかなる御文
にかとさすかにとひ給人しれすおほしよはる心も
そひてしたにまちきこえ給けるにさもあらぬなめり

とおほすも心さわきしていてその御ふみ猶きこ
え給へあいなし人の御名をよさま【注】にいひなす人はか
たきものなりそこに心きようおほすともしか
もちゐる人はすくなくこそあらめ心うつくしきや
うにきこえかよひ給ふてなをありしまゝに【左に「ヒ」と傍記】ならむ
こそよからめあいなきあまえたるさまなるへし
とてめしよすくるしけれとたてまつりつあさま
しき御心のほとを見たてまつりあらはいて
こそ中〳〵心やすくひたふる心もつき侍ぬへけれ
   せくからにあさゝそ見えん山川の

【注 よざま(善様)=よいさま。よいふう。】

なかれての名をつゝみはてす いと(はと)こと葉もおほかれ
とみもはて給はすこの御文もけさやかなるけし
きにもあらてめさましけに心ちよかほにこよひつ
れなきをいといみしとおほすこかんの君の御心さ
まのおもはすなりし時いとうしと思しかとおほ
かたのもてなしはまたならふ人なかりしかはこなたに
ちからある心ちしてなくさめしたに世には心もゆか す【左に「ヒ」と傍記】
さりしをあないみしやおほとのゝわたりにおもひの
給はんことゝおもひしみ給いかゝの給とけしきを
たにみむ心ちのかきみたりくるゝやうにし給めをしほ

りてあやかしきとりのあとのやうにかき給たのも
しけなくなりにて侍とふらひにわたり給へる
をりにてそゝのかしきこゆれといとはれ〳〵し
からぬさまにものし給めれは見給わつらひてなむ
   をみなへししほるゝ野へをいつ◦(こ)と て(にてイ)
一夜はかりのやとをかりけむとたゝかきさして
をしひねりていたし給ふてふし給ぬるまゝに
いといたくくるしかり給御ものゝけのたゆめける
にやと人〳〵いひさはくれゐのけんあるかきり
いとさはかしうのゝしる宮をは猶わたり給ひねと

人〳〵きこゆ る【左に「ヒ」と傍記】れと御身のうきまゝにをくれきこえ
しとおほせはつとそひ給へり大将殿はこのひるつ
かた三条殿におはしにけるこよひたちかへり給はんに
ことしもありかほにまたきにきゝくるしかるへしな
とねんし給ていと中〳〵としころの心もとなさ
よりもちへに物おもひかさねてなけき給北方は
かゝる御ありきのけしきほのきゝて心やまし
ときゝゐ給へるにしらぬやうにてきんたちもて
あそひまきらはしつゝわかひるのおましにふし給へり
よひすくるほとにそこの御かへりもてまいれるをかく

れいにもあらぬとりのあとのやうなれはとみにも見と
き給はて御となふら【殿油】ちかうとりよせて見給女君
ものへたてたるやうなれといととくみつけ給ふてはい
よりて御うしろよりとり給つあさましうこはいか
にし給そあなけしからす六条のひんかしのうへの
御文なりけさ風おこりてなやましけにし給
つるを院の御まへに侍ていてつるほとまたもまうて
すなりぬれはいとおしさにいまのま つり(いか)【左に「ヒ」「ヒ」と傍記】にときこえ
つるなり見給へよけさうひ【懸想び 注①】たるふみのさまかさて
もなを〳〵し【注②】の御さ ◦(ま)やとし月にそへていたうあな

【注① 恋心を持っているような行動をする】
【注② いかにも賎しい。】

つり給こそ く(う)れた【注①】けれ思はん所をむけにはち給は
ぬよとうちうめきておしみかほにもひこしろひ【注②】給は
ねはさすかにふともみてもたまへりとし月にそふるあ
なつらはしさは御心ならひ【注③】なへかめりとはかりかくうるは
したち給へるにはゝかりてわかやかにおかしきさまして
のたまへはうちわらひてそはともかくもあらんよのつねの
ことなりまたあらしかしよろしうなりぬるをのこのかく
まかふる方なくひとつ所をまもらへてものをちしたる
とりのせう【注④】やうのものゝやうなるはいかに人わらふらんさる
かたくなしきものにまもられ給は御ためにもたけ

【注① 「うれたし」=忌々しい】
【注② ひこじろひ=無理に引っ張る。】
【注③ 心の習慣。ならわし。】
【注④ 雄の鷹】

からすやあまたか中になをきはまさりことなるけち
めみえたるこそよそのおほえも心にく く(く)【左に「ヒ」と傍記】わか心ち
もふりかたくおかしきこともあはれなるすちもたえ
さらめかくおきなのなにかしまもりけむやうにおれ
まとひ【注①】たれはいとくちおしきいつこのはゝかあらんと
さすかにこのふみのけしきなくをこつり【注②】とらんの
心にてあさむき申給へはいとにほひやかにうちわら
ひてものゝはえ〳〵しさ【注③】つくりいて給程ふりぬる人【注④】
くるしやいといまめかしくなりかはれる御けしき
のすさましさも見ならはすなりにける事なれ


【注① 疎れ惑ひ=すっかり愚かになる。】
【注② おこつる(誘る)=うまい事を言ったりして人をあざむき誘う。とりいる。】
【注③ 華やかで見栄えがするさま】
【注④ 古りぬる人=老いた人】

はいとなむくるしきかねてよりならはし給はてと
かうち【ママ 「かこち」ヵ】給もにくゝもあらすにいかにとおほすはかりには
なに事かみゆらんいとうたてある御心のくまかなよ
からすものきこえしらする人そあるへきあやしうもと
よりまろをはゆか【別本は「る」】さぬそかし猶みとりの袖のなこ
りあなつらはしきにことつけてもてなしたてまつ
らむと思やうあるにやいろ〳〵きゝにくき事ともほ
のめくめりあいなき人の御ためにもいとをしうなと
の給へとつゐにあるへきことゝおほせはことにあらか
はす大夫のめのといとくるしときゝてものきこえ

すとかくいひしろひてこの御文はひきかへし給つれ
はせめてもありとらてつれなくおほとのこもりぬ
れとむねはしりていかてとりてしかなとみや
す所の御文なめりなに事ありつらんとめも
あはすおもひふし給へり女君のね給へるによへ
のおましのしたなとさりけなくてさくり給へとな
しかくし給へらんほともなけれはいと心やましうてあ
けぬれととみにもおき給はす女君はきんたちに
おとろかされてゐさりいて給にそわれもいまおき
給やうにてよろつにうかゝ い(ひ)【「い」の字の上に「ヒ」と記入】給へとえみつけ給

はす女はかくもとめんともおもひ給へらぬをそけにけ
さうなき御ふみなりけりと心にもいれねはきんたち
のあはてあそひあひてひゐな【雛】つくりひろいすへ
てあそひ給ふみよみてならひ【手習】なとさま〳〵にいとあ
はたゝしちいさきちこ【稚児】はひかゝりひきしろへ【注①】はとり
し文のこともおもひいて給はすおとこはこと事もお
ほえ給はすかしこにとくきこえんとおほすによへ【注②】
の御ふみのさまもえたしかにみすなりにしかは
みぬさまならんもちらしてけるとをしはかり給へ
しなと思みたれ給たれも〳〵御たいまいりなと

【注① 引きしろふ=互いに引っ張り合う】
【注② よべ=昨夜】

してのとかになりぬるひるつかたおもひわつらひて
よへの御文はなに事かありしあやしうみせ給は
てけふもとふらひにきこゆへしなやましうて六条に
もえまいるましけれはふみをこそはたてまつら
めなに事かありけんとの給かいとさりけなけれは
文はおこかましうとりてけりとすさましうてその
ことをはかけ給はす一夜の御(み)やまかせにあやまち給
へるなやましさなゝりとおかしきやうにかこちき
こえ給へかしときこえ給いてこのひか事なつね
にのたまひそなにのおかしきやうかあるよ人【世人】に

なす く(ら)【左に「ヒ」と傍記】へ給こそ中〳〵はつかしけれこのねうはう【女房】た
ちもかつはあやしきまめさをかくの給とほゝゑむ
らんものをとた は(は)ふれことにいひなしてそのふみ
よいつらとの給へととみにもひきいて給はぬほと
に猶ものかたりなときこえてしはしふし給へるほと
にくれにけり日くらしのこゑにおとろきて山の
かけいかにきりふたかりぬらんあさましやけふこの
御返ことをたにとい ふ(と)【左に「ヒ」と傍記】をしうてたゝしらすかほ
にすゝり【硯】をしすりていかにしなしつとかとりな
さむとなかめおはするにおましのおく に(の)【左に「ヒ」と傍記】すこし

あかりたる所を心みにひきあけ給へれはこれにさ
しはさみ給へるなりけりとうれしうもおこかまし
うもおほゆるにうちゑみて見給にかう心くるしき
ことなむありけるむねつふれてひとよの事を心
ありてきゝ給けるとおほすにいとをしう心く
るしよへたにいかにおもひくらし給けんけふもいまゝ
てふみをたにといはんかたなくおほゆいとくるしけ
にいふかひなくかきまきらはし給へるさまにてお
ほろ ◦(け)におもひあまりてやはかくかき給へらんつれな
くてこよひのあけつらんといふへきかたのなけれは

女君そい ふ(と)【左に「ヒ」と傍記】つらふ心うきそゝろにかくあたえかくし
ていてやわかならはしそやとさま〳〵に身もつらく
てすへてなきぬへき心ちし給ふやかていてたち給はん
とするを心やすくたいめ【注①】もあらさらむものから人もかく
の給ふいかならむかむ日【注②】にもありけるをもし給(たま)【左に「ヒ」と傍記】さかに
おもひゆるし給はゝあしからむなをよからんことをこ
そとうるはしき心におほしてまつこの御かへりをき
こえ給いとめつらしき御文をかた〳〵うれしうみ給ふ
るにこの御とかめをなむいかにきこしめしたる事にか
   秋の野の草のしけみはわけしかと

【注① 「たいめん(対面)」の「ん」を表記しない形。】
【注② 坎日(かんにち)=陰陽家で、万事に凶であるとする日。】

かりねのまくらむすひやはせしあきらめきこえ
さするもあやなけれとよへのつみはひたやこもり【注①】にやと
あり宮にはいとおほくきこえ給てみまや【注②】にあし
とき【疾き】御むまにうつしおきてひとよのたいふを
そたてまつれ給ふよへより六条院にさふらひて
たゝいまなむまかてつるとていふへきやうさゝめきを
しへ給ふかしこにはよへもつれなくみえ給ひし
御けしきをしのひあ•(へ)てのちのきこえをもつゝみ
あへすうらみきこえ給ふしをその御かへりたにみ
えすけふのくれはてぬるをいかはかりの御心に

【注① 直屋籠り=ひたすら家の中にじっとしていて、外に出ないこと。】
【注② 「御うまや(厩)」の約。】

かはともてはなれてあさましう心もくたけてよ
ろしかりつる御心ちいといたうなやみ給ふ中〳〵
さうしみ【正身】の御心のうちにはこのふしをことにうしとも
おほしおとろくへきことしなけれはたゝおほえぬ人
にうちとけたりしありさまをみえし事はかり
こそくちをしけれいとしもおほししまぬをかく
いみしうおほいたるをあさましうはつかしうあき
らめきこえ給ふかたなくれいよりもものはちし
給へるけしきみえ給ふをいと心くるしうものをの
みおもほしそふへかりけるとみたてまつるもむねつ

とふたかりてかなしけれはいまさらにむつかしきことを
はきこえしと思へとなを御すくせとはいひなから思は
すに心おさなくて人のもとき【注①】ををい給ふへきことを
とりかへすへきものにはあらねといまよりは猶さる心し
給へかすならぬ身なからもよろつにはくゝみきこえ
つるをいまはなに事をもおほししり世中のとさ
まかうさま【注②】のありさまをもおほしたとりぬへき
程に見たてまつりをきつることゝそなたさまはう
しろやすくこそみたてまつれ猶いといはけ【注③】て つ(つ)
よひ御心をきて【注④】のなかりけることゝおもひみたれ

【注① もどき=非難】
【注② とざまかうさま=「かう」は「かく」の音便形。ああやこうや。】
【注③ 「いはく」=子供っぽくて頼りない。】
【注④ 掟=心構え】

侍にいましはしのいのちもとゝめまほしうなむたゝ人
たにすこしよろしくなりぬる女の人ふたりとみる
ためしは心うくあはつけき【注①】に【左に「ヒ」と傍記】わさなるをましてかゝ
る御身にはさはかりおほろけにて人の心【左に「ヒ」と傍記】ちかつき
きこゆへきにもあらぬを思ひのほかに心にもつかぬ御あ
りさまととしころもみたてまつりなやみしかとさる
へき御すくせにこそは院よりはしめたてまつりて
おほしなひきこのちゝおとゝにもゆるい給へき御けし
きありしにをのれひとりしも心をたてゝ【注②】もいかゝはと
思より侍しことなれはすゑの世まてものしき【注③】御

【注① 分別が足りず軽率である。】
【注② 「おだてる(煽る)」=騒ぎ立てる。】
【注③ 不吉である。】

ありさまをわか御あやまちならぬにおほそらをか
こちてみたてまつりすくすをいとかう人のためわ
かためのよろつにきゝにくかりぬへき事のいてき
そひぬへきかさてもよその御名をはしらぬかほにて
よのつねの御ありさまにたにあらはをのつからあ
りへんにつけてもなくさむ事もやとおもひなし
侍るをこよなうなさけなき人の御心にも侍ける
かなとつふ〳〵となき給ふいとわりなくをしこめ
ての給ふをあらかひはるけんことの葉もなくて
たゝうちなき給へるさまおほとかにらうたけ

なりうちまもりつゝあはれなに事かは人におとり
給へるいかなる御すくせにてやすからす物をふかく
おほすへきちきりふかゝりけむなとのたまふまゝに
いみしうくるしうし給ふものゝけなともかゝるよはめ【弱目】
にところうるものなりけれはにはかにきえいりてたゝ
ひえにひえいり給律師もさはきたち給て願な
とたてのゝしり給ふかきちかひにていまはいのちを
かきりける山こもりをかくまておほろけならすいて
た ■(ち)てたんこほちてかへりいらん事のめいほく【注】な
く仏もつらくおほえ給へき事を心をおこして

【注 面目(めんぼく)=「めんぼく」の「ん」を「い」で表記したもの。平安時代初期、漢字の字音のうち、音節の末尾のnの音を「い」の仮名で写す習慣があった。】

いのり申給ふ宮のなきまとひ給事いとことはり
なりかしかくさはくほとに大将殿より御文とりいれ
たるほのかにきゝ給てこよひもおはすましきなめ
りうちきゝ給心うく世のためしにもひかれ給へき
なめりなにゝわれさへさることの葉をのこしけんと
さま〳〵おほしいつる も(に)【左に「ヒ」と傍記】やかてたえ入給ぬあへなく
いみしといへはおろかなりむかしよりものゝけにはとき
〳〵わつらひ給ふかきりとみゆるおり〳〵あれはれ
いのことわりいれたるなめりとてかち【加持】まいりさは き(け)【左に「ヒ」と傍記】
といまはのさましるかりけりみやはをくれしとお

ほしいりてつとそひふし給へり人〳〵まいりてい
まはいふかひなしいとかうおほすともかきりあるみち
にはかへりおはすへきことにもあらすしたひきこえ
給ふともいかてか御心にはかなふへきとさらなること
はりをきこえていとゆゝしうなき御ためにもつ
みふかきわさなりいまはさらせ給へとひきうこか
か【「か」の重複ヵ】いたてまつれとすくみたるやうにてものもおほえ
給はすす法【修法】のたん【壇】こほちて【注①】ほろ〳〵と【注②】いつるにさる
へきかきりかたへ【注③】こそたちとまれいまはかきりのさま
いとかなしう心ほそし所〳〵【注④】の御とふらひいつの

【注① こぼちて=壊して】
【注② (僧が)散りぢりに。】
【注③ 「片方」=一部分。】
【注④ あちこち。かたがた。】

まにかはとみゆ大将殿もかきりなくきゝおとろき
給てまつきこえ給へり六条の院よりもちし【注①】の大殿
よりもすへていとしけうきこえ給山のみかともき
こしめしていとあはれに御ふみかい【書い】給へり宮はこの
御せうそこにそ御くしもたけ給日ころをもくなやみ
給ときゝわたりつれとれいも【注②】あつしう【注③】のみきゝ侍
つるならひにうちたゆみ【注④】てなむかひなきことをはさる
ものにておもひなけい給ふらむありさまをしは
かるなんあはれに心くるしきなへての世のことはり
におほしなくさめ給へとありめもみえ給はねと

【注① ちじ(致仕)=仕官をやめること。辞職。】
【注② いつも。】
【注③ 篤し=病弱である。】
【注④ 「うち」は接頭語。気がゆるむ。油断する。】

御かへりきこえ給つねにさこそあらめとの給ふける
ことゝてけふやかておさめたてまつるとて御をいの
やまとのかみにてありけるそよろつにあつかひきこ
えけるから【注】をたにしはし見たてまつらんとて宮
はおしみきこえ給けれとさてもかひあるへきことなら
ねはみないそきたちてゆゝしけなるほとにそ大
将おはしたるけふよりのち日ついてあしかりけり
なと人きゝにはのたまひていともかなしうあはれに宮
のおほしなけくらんことををしはかりきこえ給てか
くしもいそきわたり給へきことならすと人〳〵いさめき

【注 亡骸。】

こゆれとしゐておはしましぬほとさへとをくて入給
ほといと心すこし【注①】ゆゝしけ【注②】にひきへたてめくら
したるきしき【儀式】の方はかくしてこのにしおもて【西面】に
入たてまつるやまとの守いてきてなく〳〵かしこまり
きこゆつまと【妻戸】のすのこ【簀子】にをしかゝり給て女房よひ
いてさせ給ふにあるかきり心もおさまらすものおほ
えぬほとなりかくわたり給へるにそいさゝかなくさ
めて少将の君はまいる物もえのたまひやらす
なみたもろにおはせぬ心つよさなれと所のさま
人のけはひなとをおほしやるもいみしう ◦(て)つねなき

【注① 心凄し=索漠とした感じである。】
【注② 見るからにおそれ慎むべきさま。】

よのありさまの人のうえ【注①】ならぬもいとかなしきなり
けりやゝためらひてよろしうおこたり【注②】給さまにう
け給しかはおもふたまへたゆみたりし程にゆめも
さむるほと侍なるをいとあさましくなむときこえ
給へりおほしたりしさまこれにおほくは御心もみた
れにしそかしとおほすにさるへきとはいひなからも
いとつらき人の御ちきりなれはいらへをたにし給はす
いかにきこえさせ給とかきこえ侍へきいとかるらか
ならぬ御さまにてかくふりはへ【注③】いそきわたらせ給へる
御心はへをおほしわかぬ【注④】やうならんもあまりに侍へし

【注① 他人の身の上。】
【注② 病勢がゆるむ。小康得る。】
【注③ わざわざ。】
【注④ おぼしわかぬ(思し分かぬ)=理解や判断をなさらない。】

とくち〳〵きこゆれはたゝをしはかりてわれはいふ
へきこともおほえすとてふし給へるもことはりにて
たゝいまはなき人とことならぬ御さまにてなむわた
らせ給へるよしはきこえさせ侍ぬときこゆこの人〳〵
もむせかへる【注①】さまなれはきこえやるへきかたもなきを
いますこし身つからもおもひのとめ【注②】またしつまり
給なんにまいりこんいかにしてかくにわかにとその御
ありさまなむゆかしきとのたまへはまほ【注③】にはあら
ねとかのおもほしなけきしありさまをかたはし
つゝきこえてかこちきこえさするさまなむなり

【注① しゃくりあげて泣く。】
【注② 心のうちを落ち着かせる。】
【注③ 十分であること。】

侍へきけふはいとゝみたりかはしきみたり心ちとも
のまとひ【惑ひ】にきこえさせたかふる【違ふる】ことゝもゝ侍なん
さらはかくおほしまとへる御心ちもかきりあること
にてすこししつまらせ給なむほとにきこえさせう
け給はらんとてわれにもあらぬさまなれはの給ひい
つることもくちふたかりてけに こ(こ)そやみにまとへ
る心ちすれ猶きこえなくさめ給ふていさゝかの御
かへりもあらはなむなとのたまひをきてたちわつ
らひ給もかる〳〵しうさすかに人さはかしけれはかへり
給ぬこよひしもあらしとおもひつることゝものしたゝめ

いとも【左に「ヒ」と傍記】ほともなくきは〳〵しきをいとあえなしと
おほいてちかきみさうの人〳〵めしおほせてさる
へき事ともつかうまつるへくをきて【注①】さためてい
て給ぬことのにはかなれは そやう(そくやうイ)なりつる事とも
いかめしう【注②】人かすなともそひて【注③】なむやまとのかみも
ありかたきとのゝ御をきてなとよろこひかしこまり
きこゆるなこりたになくあさましき事と宮
はふしまろひ給へとかひなしおや と(と)きこゆともいと
かくはならはすましきものなりけり見たてまつ
る人〳〵もこの御事をまたゆゝしうなけき

【注① 指図】
【注② 盛大である】
【注③ さらに備わる】

きこゆやまとのかみのこりの事ともしたゝめてかく
心ほそくてはえおはしまさしいと御心のひま
あらしなときこゆれと猶みねのけふりをたにけ
ちかく◦(て)おもひいてきこえんとこの山里にすみはて
なむとおほいたり御いみにこもれるそうはひんかし
おもてそなたのわたとの【渡殿】しもや【下屋】なとにはかなきへ
たてしつゝかすかにゐ 給へり(たり)【「給へり」の左横各字に「ヒ」と傍記】西のひさしをやつして
宮はおはしますあけくるゝもおほしわかねと月ころ
へけれは九月になりぬ山おろしいとはけしうこの
はのかくろへなくなりてよろつのこといといみしき

ほとなれはおほかたの空にもよほされてひるまも
なくおほしなけきいのちさへ心にかなはすとい
とはしういみしうおほすさふらふ人〳〵もよろつ
にものかなしうおもひまとへり大将殿は日ゝ【ママ】にと
ふらひきこえ給さひしけなる念仏のそうなと
なくさむはかりによろつのものをつかはしとふ
らはせ給ひ宮の御まへにはあはれに心ふかきこと
のはをつくしてうらみきこえかつはつきもせぬ御
とふらひをきこえ給へととりてたに御らんせす
すゝろにあさましきことをよはれる【弱れる】御心ちに

うたかひなくおほししみてきえうせ給にし
事をいつるにのちの世の御つみに さ(さイ)へやなるらむ
とむねにみつ心ちしてこの人の御事をたにか
けてきゝ給はいとゝつらく心うきなみたのもよほし
におほさる人〳〵もきこえわつらひとくたりの御かへ
りたにもなきをしはしは心まとひし給へるなと
おほしけるにあまりにほとへぬれはかなしきことも
かきりあるをなとかかくあ ま(ま)り見しり給はすはあ
るへきいふかひなくわか〳〵しきやうにとうらめしう
こと事のすちにはなやてうやとかけはこそあらめ

わか心と【ママ】あはれとおもひものなけかしきかたさまの
事をいかにととふ人はむつましうあはれにこそおほ
ゆれおほ宮のうせ給へりしをいとかなしとおもひ
しにちしのおとゝ【致仕の大臣】のさしも思ひ給へらすことはり
の世のわかれにおほやけ【公】しきさほう【作法】はかりのことを
けうし【注①】給しにつらく心つきなかりしに【注②】六条院の
中〳〵ねんころにのちの御事をもいとなみ給し
かわか方さまといふ中にもうれしう見たてま【左に「ヒ」と傍記】
まつりしそのおりにこ【故】衛門のかみをはとりわ
きて思つきにしそかし人からのいたうしつまりて

【注① 孝ず(きょうず)=親や近しい者のために供養をする。】
【注② 不愉快であったが。】

ものをいたうおもひとゝめたりし心にあはれもまさ
りて人よりふかゝりしかなつかしうおほえしなと
つれ〳〵とものをのみおほしつゝけてあかしくらし
給ふ女君猶この御中のけしきをいかなるにか
ありけむみやす所とこそふみかよはしもこまやかに
し給めりしかなと思えかたくてゆふくれの空をな
かめいりてふし給へるところにわか君してたてま
つれ給へるはかなきかみのはしに
   あはれをもいかにしりてかなくさめむ
あるや恋しきなきやかなしきおほつかなき

こそ心うけれとあれはほゝゑみてさま〳〵もかくおもひ
よりての給ふにけな【注①】のなき【亡き】かよそへやとおほす
いととくこ そ(とイ)なしひ【注②】に
   いつれとかわきてなかめむきえかへる
露も草葉のうへとみぬ世をおほかたにこそか
なしけれとかい【書い】給へり猶かくへたて給へることゝ露
のあはれをはさしをきてたゝならすなけきつゝお
はすかくおほつかなくおほしわひてまたわた
り給へり御いみなとすくしてのとやかにとお
ほししつめけれとさてもえしのひ給はすい


【注① 似気無(にげな)=形容詞「にげなし」の語幹。ふさわしくないこと。】
【注② ことなしび(事無しび)=何事もないような様子。】

まはこの御な の(き)【「の」字の中に「ヒ」と傍記】なのなにかはあなかちにもつゝまんた
たよつきてつゐのおもひかなふへきにこそはと
おほしたちにけりきたのかたの御おもひやりをあ
なかちにもあらかひきこえ給はすさうしみ【正身】はつよう
おほしはなるともかのひと夜はかりの御うらみふみ
をとらへ所にかこちてえしもすゝきはて給は
しとたのもしかりけり九月十よ日の山のけし
きはふかくみしらぬ人は【左に「ヒ」と傍記】たにたゝにやはおほゆる山
風にたへぬ木ゝ【ママ】のこすゑもみねのくす葉も心あ
はたゝしうあらそひちるまきれにたうときと

経のこゑかすかに念仏なとのこゑはかりして人の
けはひいとすくなう木からしのふきはらひたるに
しかはたゝまかきのもとにたゝすみつゝ山田のひた【注①】
にもおとろかす色こきいねとものなかにましり
てうちなくもうれへかほなりたきのこゑはいとゝ
物おもふ人をおとろかしかほにみゝ【耳】かしかまし【注②】うとゝ
ろきひゝく草むらのむしのみそよりところな
けになきよはりてかれたる草の下よりりん
たうのわれひとりのみ心なかうはひいてゝ露
けくみゆるなとみなれいのこのころの事なれ

【注① 引板(「ヒキイタ」の転。流れ落ちる水口に板を当て、板が揺れて鳴り響くように仕掛けたもの。) 
【注② かしかまし=(音や声が気にさわって)うるさい。やかましい。】

とおりから所からにやいとたへかたきほとのものかな
しさなりれいのつまとのもとにたちより給ふ
てやかてなかめいたしてたち給へりなつかしき
ほとのなをし【直衣】に色こまやかなる御そ【衣】のうちめいとけ
うら【注】にすきてかけよはりたるゆう日のさすかに
心もなうさし入たるにまはゆ く(け)【左に「ヒ」と傍記】にわさとなくあふ
きをさしかくし給へるてつき女こそかうはあらま
ほしけれそれたにかうはあらぬをと見たてま
つるものおもひのなくさめにしつへくゑましき
かほのにほひにて少将の君をとりわきてめし

【注 けうら=「清ら」に同じ。】

よすすのこの程もなけれとおくに人やそひゐた
らむとうしろめたくてえこまやかにもかたらひ給
はすなをちかくてをなはなち給ひそかく山ふか
くわけいる心さしはへたてののこるへくやはきりもい
とふかしやとてわさともみいれぬさまに山のかた
をなかめてなを〳〵とせちにの給へはにひ色の
き丁【几帳】 ◦(を)すたれのつまよりすこしをしいてゝすそ
をひきそはめつゝゐたりやまとのかみのいもう
となれははなれたてまつらぬうちにおさなくより
おほしたて給けれはきぬの色いとこくてつるは

みの きぬ(もきぬイ)ひとかさねこうちききたりかくつきせぬ御
事はさるものにてきこえむかたなき御心のつらさを
おもひそふるに心たましゐもあくかれはてゝみる人こ(こ)
とにとかめられ侍れはいまはさらにしのふへきかたなし
といとおほくうらみつゝけ給ふかのいまはの御ふみ
のさまものたまひいてゝいみしうなき給この人もま
していみしうなきいりつゝそのよの御かへりさへ
みえはへらすなりにしをいまはかきりの御心にやかて
おほしいりてくらうなりにしほとのそらのけしき
に御心ちまとひにけるをさるよはめにれゐの御も

のゝけのひきいれたてまつるとなん見給へしす
きにし御事にもほと〳〵御心まとひぬへかりしお
り〳〵おほく侍しを宮のおなしさまにしつみ給し
をこしらへきこえんの御心つよさになむやう〳〵
ものおほえ給しこの御なけきをはおまへにはたゝ
われか【注①】の御けしきにてあきれて【注②】くらさせ給しなと
のとめかたけにうちなけきつゝはか〳〵しうも
あらすきこゆそよや【注③】そも【注④】あまりにおほめかしう
いふかひなき御心なりいまはかたしけなくともた
れをかはよるへにおもひきこえ給はん御山すみ

【注① 「我か人か」の略。自分か他人か区別のつかない状態。】
【注② どうしようもなく忙然として。】
【注③ そうそう。】
【注④ それも。】

もいとふかきみねに世中をおほしたえたる雲
のなかなめれはきこえかよひ給はんことかたしいと
かく心うき御けしききこえしらせ給へよろつ
のことさるへきにこそ世にありへしとおほすとも
したかはぬ世なりまつはかゝる御わかれの御心にか
なはゝあるへきことかはなとよろつにおほくの給
へときこゆへきこともなくてうちなけきつゝゐた
りしかのいといたくなくをわれおとらめやとて
   里とをみおのゝしのはらわけてきて
われもしかこそこゑもおしまねとのたまへは

   ふちころも露けきあきの山人は
しかのなくねにねをそそへつるよからねとおり
からにしのひやかなるこはつかひなとをよろしう
きゝなし給へり御せうそこい【左に「ヒ」と傍記】とかうきこえ給へと
いま◦(は)かくあさましきゆめのよをすこしもおもひ
さますおりあらはなんたえぬ御とふらひもきこえ
やるへきとのみすくよかにいはせ給ふいみしういふ
かひなき御心なりけりとなけきつゝかへり給ふ
みちすからもあはれなる空をなかめて十三日の
月のいとはなやかにさしいてぬれはをくらの山

もたとるましうおはする一条の宮はみちなり
けりいとゝうちあはれてひつしさるのかたくつれた
るを見いるれははる〳〵と【注①】おろしこめて【注②】人かけもみ
えす月のみやり水のおもてをあらはにすみなし
たるに大納言こゝにそあそひなとし給ふおり
〳〵をおもひ出給ふ
   みし人のかけすみはてぬ池水に
ひとりやともる【宿守る】秋の夜の月とひとりこちつゝ
とのにおはしても月をみつゝ心は空にあくかれ給
へりさも見くるしうあらさりし御くせかなとこた

【注① ずーっと一面に】
【注② 「下し籠めて」=格子、蔀、御簾などをすっかりおろしてとじこめて。】

ち【御達 注①】もにくみあへりうへはまめやかに【注②】心うくあくかれたち【注③】
ぬる御心なめり【注④】もとよりさるかたにならひ給へる六
条院の人〳〵をともすれはめてたきためしにひき
いてつゝ心よからすあいたちなき【注⑤】ものに思ひ給へる
わりなしやわれもむかしよりしかならひなまし
かは人めもなれて中〳〵すくしてまし世のため
しにもしつへき御心はへとおやはらからよりは
しめたてまつりめやすき【注⑥】あへもの【注⑦】◦(に)し給へるをあ
り〳〵て【注⑧】すゑにはち【恥】かましきことやあらむなと
いといたうなけい【嘆い】給へり夜もあけかたちかく


【注① ごたち=女房階級の婦人たち。御婦人たち。】
【注② 本当に。】
【注③ 憧れたつ=魂が、何かにひかれて落ち着かなくなる。】
【注④ 指定の助動詞「ナリ」と推量の助動詞「メリ」との複合。…であるようだ。】
【注⑤ 不愛想だ。愛想がない。】
【注⑥ 感じが良い。】
【注⑦ あやかりもの。】
【注⑧ 挙句のはてに。】

かたみにうちいて給ふ事なくそむき〳〵【注①】になけ
きあかしてあさ霧のはれまもまたすれいのふみ
をそいそきかき給いと心つきなし【注②】とおほせと
ありしやうにもはい【注③】給はすいとこまやかにかきて
うち お(を)【左に「ヒ」と傍記】きてこそふき給ふしのひ給へともりてきゝつけらる
   いつとかはおとろかすへきあけぬ夜の
夢さめてとかいひしひとことうへよりおつるとやか
いたまへらんをしつゝみてなこりもいかてよからむなと
くちすさひ給へり人めしてたまひつ御かへりことを
たに見見つけてしかななをいかなることそとけし

【注① 互いに背を向けているさま。】
【注② 心づきなし=不愉快である。】
【注③ ばい(奪い)=「ウバイ(ヒ)の頭母音の「ウ」の脱落した形。他人のものを無理に取る。】

き見まほしうおほす日たけてそもてまいれるむら
さきのこまやかなるかみすくよかにてこ少将それいの
きこえたるたゝおなしさまにかひなきよしをかきて
いとをしさにかのありつる御ふみにてならひすさひ
給へるをぬすみたるとてなかにひきやりていれたり
めには見給ふてけりとおほすはかりのうれしさそ
いと人わろかりけるそこはかとなくかきつゝ
   あさゆふになくねをたつるをの山は
たえぬなみたやをとなしの瀧とやとりなすへからん
ふることなとも物おもはしけにかきみたり給へる御

てなとも見所あり人のうへなとにてかやうのすき
こゝろおもひいらるゝはもとかしううれし心ならぬことに
見きゝしかと身のことにてはけにいとたへかたかるへき
わさなりけりあやしやなとかうしもおもふへき心いら
れそと思かへし給へとえしもかなはす六条院にも
きこしめしていとをとなしうよろつをおもひしつめ
人のそしり所なくめやすくて【注①】すくし給をおも
たゝしう【注②】わかいにしへのすこしあ ま(さイ)れはみ【注③】あたな
る名【注④】をとり給ふしおもてをこし【注⑤】にうれしうおほし
たるをいとおしういつかたにも心くるしき事のあるへき


【注① 見ていて安心で。】
【注② 面立たしう=名誉で大したものである。】
【注③ あざればむ=男女の間で、たしなみにはずれた様子をする。】
【注④ 浮き名。】
【注⑤ 面起し=名誉の挽回。】

事さしはなれたるなからひにたにあらておとゝなともいか
におもひ給はんさはかりの事たとらぬにはあらしす
くせ【宿世】といふもののかれわひぬる【注①】ことなりともかくも
くちいる【注②】へきことならすとおほす女のためのみこそい
つかたにもいとおしけれとあいなく【注③】きこしめしなけ
く【嘆く】むらさきのうへにもきしかたゆくさきのことおほ
しいてゝかうやうのためしをきくにつけてもなから
むのち【注④】うしろめたうおもひきこゆるさまをのたまへ
は御かほうちあかめて心うくさまて【注⑤】をくらかし【注⑥】給へ
きにやとおほしたり女はかり身をもてなす


【注① 逃れわびぬる=逃げ出ることが容易にできなくなてしまっている。】
【注② 口入る=言葉をさしはさむ。】
【注③ ひとごとながら】
【注④ 亡からむ後=(自分が)死んだ後。】
【注⑤ さまで(然まで)=そんなにまで。】
【注⑥ 後に残す。】

さまも所せうあはれなるへきものものはなしものゝあはれ
おりおかしき事をもみしらぬさまにひきいりしつ
みなとすれはなにゝつけて も(か)【左に「ヒ」と傍記】世にふるはえ〳〵し
さもつねなき世のつれ〳〵をもなくさむへきそは
おほかたものゝ心【注①】をしらすいふかひなきものにならひ
たえんもおほしたて【注②】けむおやもいとくちおしかるへ
きものにはあらすや心にのみこめ【注③】て無言太子
とかほうし【法師】はら【注④】のかなしきに【左に「ヒ」と傍記】ことにするむかしのた
とひのやうにあしき事よき事をおもひしりな
からうつもれなむもいふかひなしわか心なからもよ

【注① 物の心=物の道理。】
【注② 生ほし立つ=育てあげる。】
【注③ 籠む=深くしまう】
【注④ ばら=人に関する名詞に付いて、…の如き仲間、階層の人の意を添える。敬意に欠けた表現に使われることが多い。】

きほとにはいかてたもつへきそとおほしめくらす
もいまはたゝ女一宮の御ためなり大将の君ま
いり給へるついてありて おも(おもうイ)給へらんけしきもゆ
かしけれはみやす所のいみはてん【左に「ヒ」と傍記】ぬらんなきのふけふと
おもふほとにみそとせよりあなたのことになる世に
こそあれあはれにあちきなしやゆふへの霧かゝる
ほとのむさほりよいかてかこのかみそりてよろつ
そむきすてんとおもふをさものとやかなるやうにて
もすくすかないとわろきわさなりやとのたまふ
まことにおしけなき人たにをのかしゝ【注】ははなれかた

【注 おのがじし=めいめい。それぞれ。】

くおもふ世にこそ侍へめれなときこえてみやす所の
四十九日のわさなとやまとのかみなにかしのあそんひと
りあつかひ侍いとあはれなるわさなりやはか〳〵
しきよすかなき人はいけるよのかきりにてかゝるよの
はてこそかなしう侍けれときこえさせ給ふ院より
もとふらはせ給らんかのみこいかにおもひなけき給ふ
らんはやうきゝしよりはこのちかきとしころことに
ふれてきゝみるにこのかういこそくちおしからす【注①】めやす
き【注②】人のうちなりけれおほかたの世につけておし
きわさなりやさてもありぬ【注③】へき人のかううせゆく

【注① 口惜しからず=期待はずれでなく】
【注② 見ていて安心な】
【注③ この世に生きている】

よ院もいみしうおとろきおほしたりけりかのみここそ
はこゝにものし給入道の宮よりさしつき【注①】にはらうた
う【注②】し給けれ人さま【注③】もよくおはすへしとのたまふ御心は
いかゝものし給らんみやす所はこともなかりし人のけはひ
心はせになんしたしううちとけ給はさりしかとはかな
きことのついてにをのつから人のよういはあらはな
るものになむはへるときこえ給て宮の御事も
かけすいとつれなしかはかりのすくよけ心【注④】におも
ひそめてんこといさめんにかなはしもちゐさらむもの
からわれさかしに【注⑤】こといてんもあいなし【注⑥】とおほしてや

【注① さしつぎ=すぐ次につづく。】
【注② いとおしく、大事にする。】
【注③ 人ざま=人品。】
【注④ 「すくよか(健よか)心」に同じ。すくよかな心。】
【注⑤ 賢しに=一見賢そうに。】
【注⑥ ばつが悪い。】

みぬかくて御ほうし【法事】によろつとりもちてせさせた
まふことのきこえをのつからかくれなけれはおほいとの
なとにもきゝ給ひてさやはあるへきなと女かたの心あ
さきやうにおほしなすそわりなきやかのむかし
の御心あれはきんたちもまうてとふらひ給ふす行【注①】
なと殿よりもいかめしうせさせ給ふこれかれ【注②】もさま〳〵
おとらし給へれはときの人のかやうのわさにお
とらすなむありける宮はかくてすみはてなんと
おほしたつことありけれと院に人のもらしそうし
けれはいとあるましきこと也けにあまたとさまかう

【注① 字面からは「修行」に思えるが、文意からは「誦経」か。】
【注② あの人この人。】

さまに身をもてなし給へき事にもあらねとうし
ろみなき人なむなか〳〵【注①】さるさまにてあるましき
名をたちつみえかましきときこの世後のよ
中そら【注②】にもとかしきとか【咎】おもふわさなるこゝにかく
世をすてたるに三宮のおなしこと身をやつし給へ
るすゑなきやうに人のおもひいふもすてたる身
にはおもひなやむへきにはあらねとかならすさし
も【注③】やうの事【注④】とあらそひ【注⑤】給はんもうたてあるへし【注⑥】
よのうきにつけていとふは中〳〵人わろきわさ
なり心とおもひとるかたありていますこしお

【注① なまじ。】
【注② 中ぞら=どっちつかず。】
【注③ そんなにも】
【注④ 用の事=なすべき仕事。】
【注⑤ (出家することを)】
【注⑥ 嘆かわしい。】

もひしつめ心すましてこそともかうもとたひ〳〵
きこえ給ふけりこのうきたる御名をそきこ
しめしたるへきさやうの事のおもはすなるにつ
けて う(うんイ)し【注①】給へるといはれ給はん事をおほす成けり
さりとてまたあらはれて【注②】ものし給はんもあは〳〵し
う【注③】心つきなき【注④】ことゝおほしなからはつかしとおほさむ
もいとをしきをなにかはわれさへきゝあつかはんとお
ほしてなむこのみちはかけても【注⑤】きこえ【注⑥】給はさりける
大将もとかくいひなしつるもいまはあいなしかの御心
にゆるし給はんことはかたけ【難け】な ◦(め)りみやす所の心しりな

【注① 倦んじ=ものごとがいやになって投げ出す。】
【注② はっきりと。】
【注③ 思慮もなく浅はかで。】
【注④ 好感が持てない。】
【注⑤ かりそめにも。】
【注⑥ 申し上げる。】

りけりと人にはしらせむいかゝはせんなき人にすこし
あさきとかはおもはせていつありそめしことそとも
なくまきらはしてんさらかへりて【注①】けさうたち【注②】な
みたをつくしかゝつら【注③】はんもいとうゐ〳〵しかるへし
とおもひえ【注④】給ふて一条にわたり給へき日その
ひはかりとさためてやまとのかみめしてあるへき
さほうの給ひ宮のうち【内】はらひ【注⑤】しつらひ【注⑥】さこそいへ
とも女とち【注⑦】はくさしけうならひ給へりしをみか
きたるやうにしつらひなして御心つかひなとある
へきさほうめてたうかへしろ【壁代】御屏風き丁【几帳】おまし

【注① 更返りて=あと戻りして。】
【注② 懸想立ち=はっきりと恋心を示す。】
【注③ 関心をもってつきまとう。まといつく。】
【注④ 思ひ得=悟る。】
【注⑤ すっかりきれいに片づける。】
【注⑥ 室内などに調和した装飾、設備。】
【注⑦ 女どち=女同士。】

なとまておほしより【注①】つゝやまとのかみにの給ふて
かのいへにそいそきつかうまつらせ給ふその日われ
おはしゐて御くるまこせん【御前=前駆】なとたてまつらせ給ふ
宮はさらにわたらしとおほしの給ふを人〳〵はい
みしうきこえやまとのかみもさらにうけ給はらし心
ほそくかなしき御ありさまをみたてまつりな
けきこのほとのみやつかへはたふるにしたかひて
つかうまつりぬいまはくに【注②】の事も侍りくたりぬへ
し宮のうちの事も見給へゆつる【注③】へき人も侍ら
すいとたい〳〵しう【注④】いかにと見給ふるをかくよろ

【注① 思し寄り=思いつきなさり。】
【注② 任国】
【注③ あとの世話を頼む。】
【注④ たいだいしう=不都合なことで。】

つにおほしいとなむをけにこのかたにとりて思給
ふるにはかならすしもおはしますましき御あり
さまなれとさこそはいにしへも御心にかなはぬため
しおほく侍れひと所【注①】やはよのもとき【注②】をもお【負】はせ
給へきいとおさなうおはしますことなりたけう【猛う】
おほすとも女の御心ひとつにわか御身をと
りしたゝめかへりみ給へきやうかあらむなを人の
あかめかしつき給へらんにたすけられてこそ
ふかき御心のかしこき御をきて【注③】もそれにかゝる
へきものなりきみたちのきこえしらせたてま

【注① 「一所」=(身分の高い人について)おひとり。単身。】
【注② もどき=非難。】
【注③ おきて(掟)=指図。意向。】

つり給はぬなりかつは【注①】さるましきことを御心
ともにつかうまつりそめ給てといひつゝけて左
近少将をせ【責】むあつまりてきこえこしらふる【注②】に
いとわりなく【注③】あさやかなる御そ【衣】とも人〳〵のたて
まつりかへさするもわれにもあらす猶いとひたふ
るにそきすてまほしくおほさるゝ御くしをかき
いてゝ見給へは六尺はかりにてすこしほそりた
れ は(と)【左に「ヒ」と傍記】人はかたはにも見たてまつらす身つから
の御心ちにはいみしのおとろへや人にみゆへきあり
さまにもあら[す]さま〳〵に心うき身をとおほしつゝけ

【注① 且は=同時に。一方では。】
【注② 「聞こえ拵ふ」=あれこれ申し上げてなだめ、説得する。】
【注③ 割なし=どうにもならない。】

て又ふし給ひぬときたかひぬ夜もふけぬへし
とみなさはくしくれいと心あはたゝしうふきま
かひよろつにものかなしけれは
   のほりにしみねのみねのけふりにたちましり
おもはぬかたになひかすもかな心ひとつにはつよく
おほせとそのころは御はさみなとやうのものはみ
なとりかへして人〳〵のまほりきこえけれはかくも
てさはかさらんにてなにの事けある身にてか
おこかましうわか〳〵しきやうにはひきしのはん
人きゝもうたておほすましかへきわさをとおほ

せはそのほいのこともし給はす人〳〵はみないそきた
ちてをの〳〵くし【櫛】てはこ【手筥】からひつ【唐櫃】よろつのもの
をはか〳〵しからぬふくろやうのものなれとみなさ
きたてゝはこひたれはひとりとまり給へうも
あらすなく〳〵御車にのり給もかたはらのみま
もられ給てこちわたり給ふしとき御心ちのくる
しきにも御くしかきなてつくろひおろしたて
まつり給ふしをおほしいつる◦(に)もめもきりて【注】いみし
御はかし【佩刀】にそへて御経はこをそへたるか御かた
はらもはなれねは

【注 目も霧て=(涙で)くもってよく見えない状態になる。】

   こひしさのなくさめかたきかたみにて
なみたにくもるたまのはこかなくろき【注①】もまたし
あへさせ給はすかのてならし【注②】給へりしらてん【螺鈿】の
はこなりけりすきやう【誦経 注③】にせさせ給しをかたみ
にとゝめ給へるなりけりうらしまのこ の(か)【「の」の左と真ん中に「ヒ」と記入。】心ちな
むおはしましつきたれはとのゝうちかなしけもなく
人を【ママ】おほくてあらぬさまなり御車よせてお
り給をさらにふるさとゝおほえすうとましう
うたておほさるれはとみにもおり給はすいとあや
しうわか〳〵しき御さまかなと人〳〵もみたてまつ

【注① (喪中の)黒い経箱】
【注② 手慣らし=使い慣らし】
【注③ 誦経に対してお布施を差し出すこと。】

りわつらふ殿はひんかしのたいのみなみおもてを
わか御かた【方】かりにしつらひてすみつきかほ【注①】におは
す三条殿には人〳〵にはかにあさましうなり給
ぬるかないつのほとにありし事そとおとろき
けりなよゝか【注②】にお[か]しはめる【注③】ことをこのましからすお
ほす人はかくゆくりか【注③】なることそうちましり【注④】給
けるされととしへにけることをことなくけしきも
もらさてすくし給けるなりとのみおもひな
してかく女の御心ゆるひ給はぬとおもひよる
人もなしとてもかうても【注⑤】宮の御ためにそいとをし

【注① 住み着き顔=住み着いたような顔。住み慣れ顔。】
【注② 態度が弱弱しくものやわらかなさま。】
【注③ 「おかしばむ」=おもしろい様子をしている。趣深く見える。】
【注③ 無遠慮で気兼ねしないさま。】
【注④ 交ざっている。】
【注⑤ 「とてもかくても」の音便形。いずれにせよ。】

けなる御まうけ【注①】なとさまかはりてものゝはしめ
ゆゝしけ【注②】なれとものまいらせ【注③】なとみなしつまりぬ
るにわたり給て少将のきみをいみしうせめ給御
心さしまことになかうおほされはけふあすをす
くしてきこえさせ給へ中〳〵たちかへりてもの
おほししつみてなき人のやうにてなむふさせ
給ぬるこしらへ【注④】きこゆるをもつらしとのみおほさ
れたれはなにことも身のためこそ侍れいとわつ
ら ◦(は)しうきこえさせにくゝなむといふいとあやし
うをしはかりきこえさせしにはたかひていはけ

【注① 御設け=饗宴などの仕度。】
【注② ゆゆしげ=縁起でもないと思えるさま。】
【注③ お食事を差し上げ】
【注④ いろいろとなだめて気持ちを落ち着かせる。慰める。】

なく心えかたき御心にこそありけれとておもひよ
れるさま人の御ためもわかためにも世のもとき【注①】
あるましうのたまひつゝくれはいてやたゝいまはまたい
たつら人【注②】に見なしきこゆへきにやとあはたゝし
きみたり心ちによろつおもふたまへわかれすあか
君とかく【注③】をしたち【注④】てひたふる【注⑤】なる御心なつかはせ給
そとて【手】をするいとまたしらぬ世かなにくゝめさましと
人よりけにおほしおとすらん身こそいみしけれいかて
人にもことはらせんと【注⑥】いはんかたもなしとおほしてのた
まへはさすかにいとをしうもありまたしらぬはけによ

【注① もどき=非難】
【注② いたづら人=死んだ人】
【注③ あれこれ】
【注④ 押立ち=相手を無視して無理に我意をはる。】
【注⑤ 無茶なさま。一途】
【注⑥ 事の是非を判断させよう】

つかぬ【注①】御心かまへのけにこそはとことはりはけにいつ
かたにかはよる人侍らむとすらんとすこしうちわら
ひぬかく心こ(こ)はけれ【注②】といまはせかれ【塞かれ】給へきならねは
やかてこの人ひきたてゝをしはかりに【注③】いり給宮
はいと心うくなさけなくあはつけき【注④】人の心なり
けりとねたく【注⑤】つらけれはわか〳〵しき【注⑥】やうにはいひさ
はく【注⑦】ともとおほしてぬりこめ【注⑧】におまし【御座し】ひとつしか
せ給てうちよりさし【注⑨】ておほとのこもりにけりこれ
もいつまてにかはかはかりにみたれたちにたる人の
心ともはいとかなしうくちおしうおほすおとこ君はめ

【注① 世づかぬ=男女の仲をしらぬ。】
【注② 「心ごはし(強し)」の已然形=気が強い。】
【注③ 推量して】
【注④ 分別が足りず軽率である。】
【注⑤ 憎らしく。】
【注⑥ いつまでも子供っぽい。】
【注⑦ 「言い騒ぐ」=あれこれ言って騒ぐ。】
【注⑧「塗籠」=衣服、調度など手近な器具を納めて置く所。】
【注⑨ 「鎖し」=錠をおろす。】

さましう【注①】つらしとおもひきこえ給へとかはかりにてはな
にのもてはなるゝことかはとのとかにおほしてよろつに
おもひあかし給ふ山鳥の心ちそし給ふけるからう
してあけかたになりぬかくてのみ【注②】ことゝいへはひたおも
て【注③】なへけれはいて給ふとてたゝいさゝかのひまをたにと
いみしうきこえ給へといとつれなし
   うらみわひむねあきかたき冬の夜に
またさし【鎖し】まさるせきのいはかと【注④】きこえんかたなき【注⑤】御心なり
けりとなく〳〵いて給ふ六条院にそおはしてやす
らひ給ふひんかしのうへ一条のみやわたしたてまつり

【注① 失敬で】
【注② こういう状態で。】
【注③ 「直面」=面と向き合うこと。】
【注④ 「石門」=堅固な門。】
【注⑤=申し上げようもない】

給へることゝかのおほとのわたりなとにきこゆるいかなる
御事にかはとおほとかにの給ふみき丁【御几帳す】そへたれ
とそはよりほのかにはなをみえたてまつり給ふ
さやうにも猶人のいひなしつへきことに侍こ宮す所【故御息所】
はいと心つようあるましきさまにいひはなち給しかと
かきりのさまに御心ちのよはりけるに又みつる人のな
きやかなしかりけむなからんあとのうしろみなとやうな
る事の侍しかはもとよりの心さしも侍しことにて
かく おも(おもふイ)たまへなりぬるをさま〳〵にいかに人あつか
ひ侍らんかしさしもあるましきをもあやしう人

こそ物いひさかなきものにあれとうちわらひつゝかの
さうし身【正身】なむ猶世にへしとふかうおもひたちて
あそ【ママ】になりなむと思ひむすほゝれ給ふめれはなにか
はこなたかなたにきゝにくゝも侍へきをさやうにけん
きはなれてもまたかのゆいこんはたかへしと思給
へてたゝかくいひあつかひ侍なり院のわたらせ給
へらんにも事のついて侍らはかやうにまねひきこ
えさせ給へあり〳〵て心つきなき【注】こゝろつかふと
おほしのたまはんをはゝかりつれとけにかやうのす
ちにてこそ人のいさめをも身つからの心にもした

【注 心付きなし=好感が持てない。】

かはぬやうに侍けれとしのひやかにきこえ給ふ人の
いつはりにやと思侍つるをまことにさるやうある御
けしきにこそはみな世のつねの事なれと三条の
ひめ君のおほさむ事こそいとをしけれのとやかに
ならひ給てときこえ給へはらうたけにものたまはせな
すひめ君かないとおに【鬼】しうはへるさかなものをとて
かそれをもおろかにはもてなし侍らんかしこけれと御
ありさまともにてもをしはからせ給へなたらかならむの
みこそ人はつゐの事にははへめれさかなく【注①】ことかましき【注②】
も しはしは(しは〳〵イ)なまむつかしう【注③】わつらはしきやうにはゝ

【注① さがなし=意地が悪い。】
【注② 言がまし=口やかましい。】
【注③ 何となく厄介だ。】

からるゝ事あれとそれにしもしたかひはつ【注①】ましき
わさなれは事のみたれいてきぬるのち我も人にく
けにあきたしや猶みなみのおとゝの御もちゐ【注②】こそ
さま〳〵にありかたうさてはこの御方の御心なとこそは
めてたきものにはみたてまつりはて侍ぬれなと
ほめきこえ給へはわらひ給てものゝためしにひ
きいて給ほとに身の人わろきおほえこそあら
はれぬへうさておかしきことは院の身つから
の御くせをは人しらぬやうにいさゝかあた〳〵しき
御心つかひをはたいし【大事】とおほいていましめ申給

【注① 従ひ果つ=完全に従ってしまう。】
【注② 用ゐ=尊敬して重んじること】

しりうこと【注①】にもきこえ給めるこそさかしたつ【注②】人のをの
かうへしらぬやうにおほえ侍れとの給へはさなむつ
ねにこのみちにもをしもいましめおほせらるゝさる
はかしこき御をしへならてもいとよくおさめて
侍心をとてけにおかしと思たまへりおまへにま
いり給へれはかの事はきこしめしたれとなにかは
きゝかほ【注③】にもとおほいてたゝうちまもり給へるにい
とめてたくきよらにこのころこそねひまさり【注④】給へ
る御さかりなめれさかさまの【注⑤】すきことをしたまふ
とも人のもとく【注⑥】へきさまもし給はすおに神も

【注① しりうごと(後言)=かげぐち】
【注② さかしだつ(賢し立つ)=しっかりしているようにふるまう。】
【注③ 聞き顔=すでに聞いて知っている顔つき。】
【注④ ねびまさる=成熟の度がきわだつ。】
【注⑤ 道に反する。】
【注⑥ もどく=非難する。】

つみゆるしつへくあさやかににほひをちらし給へ
りもの思ひしらぬわか人のほとにはた【注①】おはせすかた
ほ【注②】なる所なうねびとゝのほり【注③】給へることわりそかし
女こそなとかめてさらんかゝみを見てもなとかをこ
ら【注④ここに注記を書きます】さらむとわか御こなからもおほす日たけて殿に
はわたり給へりいり給ふよりわか君たちすき
〳〵【注⑤】うつくしけにてまつはれあそひ給女君は
帳のうちにふし給へりいり給へれとめも見あはせ
給はすつらきにこそはあめれと見給ふもことはり
なれとはゝかりかほ【注⑥】にももてなし給はす御そ【衣】をひき

【注① やはり】
【注② かたほ=未熟】
【注③ 十分に成長して調和がとれる。】
【注④ おごる=格別上だと思う。】
【注⑤ すぎすぎ(次次)=つぎつぎ。】
【注⑥ 憚り顔=いかにも遠慮している様子。】

やり給へれは◦(い)つことておはしつるそまろははやうし
にきつねにおにとの給へはおなしくはなりはてなむ
とてとの給ふ御心こそおによりけにも【注①】おはすれ
さまはにくけもなけれはえうとみはつ【疎み果つ】ましとなに
心もなういひなし給も心やましうてめてたきさ
まになまめい給らんあたりにありふへき身にも
あらぬはいつちも〳〵うせなんとするなをかくたにお
ほしいてそあいなく【注②】としころをへけるたにくやし
きものをとておきあかり給へるさまはいみしうあ
い行つき【注③】てにほひやかにうちあかみ給へるかほいと

【注① 一段とはなはだしく】
【注② 不本意ではあるが。】
【注③ あいぎょうつく(愛敬つく)=可愛げなところがある。】

おかしけなりかく心おさなけにはらたちなし給へれは
にやめなれて【注①】このおにこそいまはおそろしくもあらす
なりにたれかう〳〵しき【注②】け【気】をそへはやとたはふれ
にいひなし給へとなに事いふそおいらかに【注③】しに給ひ
ねまろもしなんみれはにくしきけはあい行【愛敬】なし見す
てゝしなむはうしろめたしとの給にいとおかしきさ
まのみまされはこまやかにわらひてちかくてこそみ給
はさらめよそにはなとかきゝ給はさらんさてもちきり
ふかゝなるせをしらせんの御心なゝりにはかにうちつゝ
くへかなるよみち【黄泉】のいそきはさこそはちきりきこえし


【注① 目慣れて=いつも見ていて、何も感じなくなって。】
【注② 神々しき】
【注③ あっさりと。】

かといとつれなくいひてなにくれとこしらへきこえなく
さめ給へはいとわかやかに心うつくしうらうたき【注①】心はた
おはする人なれはなをさりこと【注②】ゝはみ給なからをのつから
なこみつゝものし給をいとあはれとおほすものから心は
空にてかれもいとわか心をたててつようもの〳〵し
き人のけはひには見え給はねともし猶ほい【本意】ならぬ
事にてあまになとも思ひなり給なはおこかまし【注③】
うもあへい【注④】かなとおもふにしはし【注⑤】はとたえをく【注⑥】ましう
あはたゝしき心ちしてくれゆくまゝにけふも御かへり
たになきよとおほして心にかゝりていみしうなかめ


【注① いたわってやりたい。】
【注② なほざりごと=冗談。】
【注③ 笑いものになりかねない。】
【注④ あべい=「あべき」の音便形。「あべき」はまた「あるべき」の音便形「あんべき」の「ん」が表記されない形。あるだろう。あるはずだ。】
【注⑤ 少しの間。】
【注⑥ 訪れのないままにしておく。】

をしたまふきのふけふ露も【注①】まいら【注②】さりけるもの
いさゝかまいりなとしておはすむかしより御ために心
さしのをろかならさりしさまおとゝのつらくもてなし
給しに世中のしれかましき【注③】名をとりしかとたへかた
きをねんしてこゝかしこすゝみけし[き]はみ【注④】しあたり【注⑤】を
あまたきゝすくししありさまは女たにさしもあらし【注⑥】
となん人ももとき【注⑦】しいまおもふにもいかてかはさあ
りけむとわか心なからいにしへたにをもかりけりと
おもひしらるゝをいまはかくにくみ給ともおほしすつ
ましき【注⑧】人〳〵いと所せき【注⑨】まてかすそふめれ【注⑩】は御心


【注① 少しも】
【注② 参る=召し上がる】
【注③ ばかげている】
【注④ 心のうちをほのめかす。】
【注⑤ あたり=方。人を婉曲にいう。】
【注⑥ それ程でもない。】
【注⑦ もどく=非難または批評する。】
【注⑧ お見捨てになることが出来ない】
【注⑨ 所狭し=場所が狭すぎて、おさまりきらないほどいっぱいである。】
【注⑩ 数添ふめれ=数添ふ+推量の助動詞「めり」。数多くいるように思われる】

ひとつにもてはなれ【注①】給へくもあらすまたよしみた
まへやいのちこそさためなき世なれとてうちなき給ことも
あり女もむかしのことをおもひいて給にあはれにもあり
かたかりし御中のさすかに契ふかゝりけるかなと思ひ
いて給ふなよひ【注②】たる御そ【衣】ともぬき給ふて心ことなるを
とりかさねてたきしめ給ひめてたうつくろひけさ
うしていて給をほかけに見いたしてしのひかたくなみた
のいてくれはぬきとめ給へるひとへの袖をひきよせ給ふて
   なるゝ身をうらみむよりは松しまの
あまの衣にたちやかへましなをうへし人にてはえす

【注① (相手を)敬遠した状態に保つ。】
【注② なよぶ=しなやかになる。】

くすましかりけりとひとりことにの給をたちと
まりてさも心うき御心かな
   松しまのあまのぬれ衣なれぬとて
ぬきかへつてふ名をたゝめやはうちいそきていとなを〳〵
し【注①】やかしこには猶さしこもり給へるを人〳〵かくての
みやはわか〳〵しうけしからぬきこえも侍ぬへきを
れいの御ありさまにてあるへき事をこそきこえ
給はめなとよろつにきこえけれはさもある事と
おほしなからいまよりのちのよそのきこえをもわ
か御心のすきにしかたをも心つきなく【注②】うらめしかり

【注① いかにも平凡だ。】
【注② 思慮分別がなく】

ける人のゆかりとおほししりてその夜もたいめ【注①】し給
はすたはふれにくゝめつらかなりときこえつくし【注②】給ふ
人もいとをし【注③】とみたてまつるいさゝかも人心ちするおりあ
らんにわすれ給はすはともかうもきこえんこの御ふく【注④】の
ほとはひとすちに思みたれ【左に「ヒ」と傍記】るゝことなくてたにすく
さむとなむふかくおほしのたまはするをかくいとあ
やにくに【注⑤】しらぬ人なくなりぬめるをなをいみしう
つらきものにきこえ給ときこゆおもふ心はまた
ことさまに【注⑥】うしろやすきものをおもはすなりける
世かなとうちなけきてれいのやうにておはしま

【注① 「たいめん(対面)」の「ん」を表記しない形】
【注② 聞こえ尽くす=残るところなくお話し申し上げる。】
【注③ 気の毒】
【注④ 御服=服喪】
【注⑤ 折悪しく不都合にも】
【注⑥ ことざま(異様)=普通の有様とは違っていること。】

さはものこしなとにてもおもふことはかりきこえて
御心やふる【注①】へきにもあらすあまたのとし月をもす
くしつへくなんなとつきもせす【注②】きこえ給へと猶かゝる
みたれにそへてわりなき【注③】御心なんいみしうつらき人
のきゝおもはん事もよろつになのめならさり【注④】け
る身のうさをさる物にてことさらに【注⑤】心うき御心かま
へなれと又いひかへしうらみ給つゝはるかに【注⑥】のみもてな
し給へりさりとてかくのみやは人のきゝもらさむ
事もことわりとはしたなうこゝの人めもおほえ
給へはうち〳〵の御心つかひはこのゝ給ふさまにかな

【注① 傷つける】
【注② 尽きもせず=とどまる事なく。】
【注③ 何ともひどい】
【注④ 普通ではない。】
【注⑤ ことさら(殊更)に=故意に。】
【注⑥ ずっと離れて。】

ひてもしはし【注①】はなさけはまむ【注②】よつかぬありさまの
いとうたてあり【注③】又かゝり【注④】とてかきたえ【注⑤】まいらすは人
の御名いかゝはいとおしかるへきひとつにものをおほし
ておさなけなるこそいとおしけれなとこの人をせ
め給へはけにとも思ひみたてまつるもいまは心くるし
うかたしけなうおほゆるさまなれは人かよはし給
ぬりこめの北のくちよりいれたてまつりてけりい
みしうあさましうつらしとさふらふ人をもけにかゝ
る世の人の心なれはこれよりまさるめをもみせつへかり
けりとたのもしき人もなくなりはて給ぬる

【注① 少しの間。しばらく。】
【注② 情けばむ+助動詞「む」=情けありげにふるまおう。】
【注③ うたてあり=いやだ。困ったことだ。】
【注④ このようだ。】
【注⑤ 搔き絶え=ふっつり途切れる。】

御身をかへす〳〵かなしうおほすおとこはよろつにおほし
しるへきことはりきこえしらせことの葉おほふあは
れにもおかしうもきこえつくし給へとつらく心つき
なしとのみおほいたりいとかういはんかたなきものに
おもほされける身のほとはたくひなうはつかしけれ
はあるましき心のつきそめけんも心ちなく【注①】くやし
うおほえ侍れととりかへすものならぬなかになに
のたけき御名にかはあらむいふかひなくおほしよ
はれ思にかなはぬとき身をなくる【注②】ためしもはへな
る【注③】をたゝかゝる心さしをふかきふちになすらへ給て

【注① 不注意である。】
【注② 身を投ぐる。】
【注③はべなる=「侍る」+伝聞・推量に助動詞「なり」の「はべる」➝「はべんなり」の「ん」が表記されない形「はべなり」の連体形。あるらしい。】

すてつる身とおほしなせときこえ給ふひとへの御
そ【衣】を御くしこめにひきくゝみてたけき事【注①】とは
ねをなき【注②】給さまの心ふかくいとをしけれはいとうた
て【注③】いかなれはいとかうおほすらんいみしう思人もかは
かりになりぬれはをのつからゆるふけしきもある
をいは木【岩木】よりけになひきかたきはちきりとをう
てにくしなと思やうあなるをさやおほすらんとお
もひよるにあまりなれは心うく三条の君のおもひ
給らん事いにしへもなに心もなうあひおもひかは
したりしよの事としころいまはとうらなき【注④】

【注① 精一杯なしうること。】
【注② 「音を泣く」=声をたてて泣く。】
【注③ 情けない。】
【注④ 無心である。】

さまにうちたのみとけ給へるさまを思いつるもわか
心もていとあちきなうおもひつゝけらるれはあなか
ちにもこしらへきこえ給はすなけきあかし給ふつ
かうのみしれかまし【注①】うていていらんも【注②】あやしけれはけふ
はとまりて心のとかにおはすかくさへひたふるなるをあ
さましと宮はおほいていよ〳〵うとき【注③】御けしきの
まさるをおこかましき御けしきかなとかつは【注④】つら
きものゝあはれなりぬりこめもことにこまかなる
ものおほふも【多うも】あらてかう【香】の御からひつ【唐櫃】みつし【御厨子】なと
はかりあるはこなたかなたにかきよせてけちかう【注⑤】

【注① 「痴れがまし」=馬鹿げている。】
【注② 出で入らんも=出入りするのも】
【注③ 疎き=冷淡な】
【注④ 且は=一方では。】
【注⑤ 気近う=親しみやすく。うちとけている。】

しつらひてそおはしけるうちはくらき心ちすれと
あさ日さしいてたるけはひもり【漏り】きたるにうつも
れたる御そひきやりいとうたてみたれて【左に「ヒ」と傍記】たる
御くしかきやりなとしてほのみたてまつり給
いとあてに【注①】女しくなまめいたるけはひし給へり 
おとこの御さまはうるはしたち【注②】給へるときよりも
うちとけてものし給は(はイ)かきりもなうきよけ【注③】な
りこ【故】君のことなる事なかりしたに心のかきり
おもひあかり御かたち【注④】まほ【注⑤】におはせすとことのお
りに思へりしけしきをおほしいつれはまして

【注① 上品に】
【注②麗しだち=折目正しく振舞う。】
【注③ 清げ=美しい】
【注④ 御顔立ち】
【注⑤ 十分に整っている】

かういみし く(う)【左に「ヒ」と傍記】おとろへにたるありさまをしはしにて
も見しのひなんやとおもふもいみしうはつかしう
とさまかうさまにおもひめくらしつゝわか御心をこし
らへたまふたゝかたはらいたうこゝもかしこも人の
きゝおほさむ事のつみさらむかたなきにおりさへ
いと心うけれはなくさめかたきなりけり御てうつ
御かゆなとれいのおましの方にまい れ(れ)【「れ」の中に「ヒ」と記入】り色こと
なる御しつらひもいま〳〵しきやうなれはひんか
しおもて【東面】は屏風をたてゝもや【母屋】のきはにかう
そめ【香染】の御き丁【几帳】なとこと〳〵しき【注】やうにみえぬもの

【注 仰々しき】

ち ん(むイ)【沈】の二か い(ひイ)【注①】なとやうの物たてゝ心はへありてしつら
ひたりやまとのかみのしわさなりけり人〳〵もあさ
やかならぬ色の山ふきかいねり【注②】こきゝぬ【濃き衣】あをに
ひ【注③】なとをとかくまきらはして御たい【注④】はまいる女
ところ【注⑤】にてしとけなく【注⑥】よろつのことならひたる宮
のうちにありさま心とゝめてわつかなるしも人
をもいひとゝのへこの人ひとりのみあつかひお
こなふかくおほえぬやむことなきまらうと
のおはするときゝてもとつとめさりけるけ
いし【家司】なとうちつけに【注⑦】まいりまところ【政所】なといふかたに

【注① 二階=棚の二段ある厨子で扉のないもの。ここに注記を書きます】
【注② 搔練り(カキネリの音便形)=練って糊を落し、柔らかにした絹布。多く紅色らしい。】
【注③ あをにび(青鈍)=染色の名。青味ある薄墨色。また、やや黒味のある縹色ともいう。多く仏事の衣服・調度・紙に使う。】
【注④ 御台=貴人の食膳。】
【注⑤ 女所(おんなどころ)=女ばかりが住んでいる所。】
【注⑥ 気楽な感じである。】
【注⑦ 突然に】

さふらひていとなみけりかくせめてもすみなれかほ【注①】につく
り給ほと三条殿かきりなめりとさしもやはとこそか
つはたのみつれまめ人【注②】の心かはるはなこり【注③】なくなときゝ
しはまことなりけりと世を心みつる心ちしていかさまに
してこのなめけさ【注④】をみしとおほしけれは大殿へかたゝ
かへん【方違へん】とてわたり給にけるを女御のさとにおはする
ほとなとにたいめ【注⑤】し給てすこしものおもひはるけ
所【注⑥】におほされてれいのやうにもいそきわたり給はす
大将殿もきゝ給ふてされはよいときうにものし
給本上なりこのおとゝもはた【注⑦】おとな〳〵しう【注⑧】のと

【注① 「住み馴れ顔=住みなれていること、またそのさま。】
【注② 堅物(かたぶつ)】
【注③ 心に残ること】
【注④ なめげさ=無礼な言。】
【注⑤ たいめん(対面)の「ん」を表記しない形】
【注⑥ 思いを晴らすことができる場所】
【注⑦ はた=やはり】
【注⑧ まことに大人らしい。】

め【注①】給へる所さすかになくいとひききり【注②】にはなやい給
へる人〳〵にてめさまし【注③】みしきかしなとひか〳〵し
き【注④】事ともしいて給つへきとおとろかれ給て三
条殿にわたり給へれはきんたちもかたへ【注⑤】はとまり給
へれはひめ君たちさてはいとおさなきとをそゐて
おはしにけるみつけよろこひむつれあるはうへをこひ
たてまつりてうれへなき給を心くるしとおほすせう
そこ【消息】たひ〳〵きこえてむかへにたてまつれ給へと御
かへりたになしかくかたくなし【注⑥】うかる〳〵し【注⑦】のよ【注⑧】やと
ものしう【注⑨】おほし給へとおとゝの見きゝ給はん所も

【注① のどむ=気分をゆったりさせる。】
【注② 性急に物事に決着をつけたがる性質】
【注③ 不愉快だ】
【注④ 思い違いも甚だしい。】
【注⑤ 一部。半分。】
【注⑥ 頑なし=強情である。愚かしい。】
【注⑦ 軽々し=粗末なさまである。】
【注⑧ 世=ここでは「夫婦生活」ぐらいの意か。】
【注⑨ 不愉快に】

あれはくらしてみつからまいり給へりしんてん【寝殿】に
なむおはするとてれいのわたり給かたはこたち【注①】のみ
さふらふわか君たちそめのとにそひておはしけるい
まさらにわか〳〵し【注②】の御ましらひ【注③】やかゝる人をこゝかし
こにおとしをき給てなとしんてんの御ましらひは にさ(ふさ)
はしからぬ御心のすち【注④】とはとしころみしりたれとさる
へきにやむかしより心にはなれかたうおもひきこえて
いまはかくくた〳〵しき【注⑤】人のかす〳〵あはれなるをか
たみに【注⑥】見すつへきにやはとたのみきこえける
はかなきひとふし【注⑦】にかうはもてなし給へくやといみ

【注① ごたち(御達)=「御」は婦人にいう軽い敬称。女房階級のご婦人方。】
【注② たいそう子供っぽい。】
【注③ まじらひ=まじわり(交わり)。】
【注④ 筋=性分】
【注⑤ くだくだしき=繁雑でわずらわしい。】
【注⑥ かたみに=互いに】
【注⑦ 一件】

しうあはめ【注①】うらみ申給へはなに事もいまはと見
あき給にける身なれはいまはたなをるへきにもあらぬ
をなにかはとてあやしき人〳〵はおほしすてすは
うれしうこそはあらめときこえ給へりなたらかの御
い ら(ら)へやいひもていけはたか名かおしきとてしゐて
わたり給へともなくてその夜はひとりふし給
へりあやしう中空なる こ(こ)【左に「ヒ」と傍記】ろかなとおもひつゝ
君たちをまへにふせ給てかしこにまたいかにおほ
しみたるらんさまおもひやりきこえやすから
ぬ心つくしなれはいかなる人かやうなることおかしう

【注① 淡め(あわめ)=相手を厚い深い心が無い人だと思い取って軽蔑する。】

おほゆらんなとものこり【注①】しぬへう【注②】おほえ給ふあけ
ぬれは人のみきかんもわか〳〵しきをかきりとのたま
ひはては さ(まイ)て心みんかしこなる人〳〵もらうたけに
こひきこ え(ゆ)【左に「ヒ」と傍記】めりしをえりのこし給へるやうあらんと
はみなからおもひすてかたきをともかくももてなし
侍なんとおとしきこえ給へはす る(かイ)〳〵しき【注③】御心に
てこのきんたちをさへやしらぬ所にゐてわたし給
とあやうしひめきみを いさ(いさ)給へかし見たてまつ
りにかくまいりくる事もはしたなけれはつね
にもえまいりこしかしこにも人〳〵のらうたき

【注① ものごり(物懲り)=物事に失敗してこりごりすること。】
【注② べう=「べし」の連用形「べく」の音便形。】
【注③ すがすがしき=すっきりしている。】

をおなし所にてたに見たてまつらんときこえ
給ふまたいといはけなく【注①】おかしけ【注②】にておはすいと
あはれと見たてまつり給ふてはゝ君の御をし
へになかなひたもうそいと心うくおもひとるかたな
き心あるはいとあしきわさなりといひしらせ
たてまつり給ふおとゝかゝることをきゝ給ふて人
わらはれなるやうにおほしなけくしはしはさ
てもみ給はてをのつからおもふ所物せらるらん
ものを女のかくひきゝりたるもかへりてはかるく
おほゆるわさなりよしかくいひそめつとならは

【注① 年端もいかずあどけなく】
【注② 正常でないさま。】

なにかはおれて【注①】ふとしもかへり給はんをのつから
人のけしき心はへはみえなむとのたまわせてこ
の宮にくら人の少将の君を御つかひにて奉り給
   ちきりあれや君に心をとゝめをきて
あはれとおもふうらめしときく猶えおほしはな
たしとある御ふみを少将もておはしてたゝ
いりにいり給ふみなみおもてのすのこにわらう
た【注②】さしいてゝ人〳〵ものきこえにくし宮はまして
わひしとおほすこの君は中にいとかたちよくめや
すきさまにてのとやかに見まはしていにしへ

【注① 疎れて=愚かになって。うっかりして。】
【注②わらうだ=「わらふだ」の転。藁を縄にない、渦に巻いて平たく組んだ敷物。わらざ。】

をおもひいてたるけしきなりまいりなれにた
る心ちしてうゐ〳〵しからぬにさも御らんしゆる
さすやあらんなとはかりそかすめ給ふ御かへりい
ときこえにくゝてわれはさらにえかくましとの
たまへは御心さしもへたてわか〳〵しきやうに
せんしかき【注】はたきこえさすへきにやはあつま
りてきこえさすれはまつう き(ち)【左に「ヒ」と傍記】なきてこうへ【故上】お
はせましかはいかに心つきなしとおほしなからつみ
をはかくい給はましと思いて給になみたのみつら
きにさきにたつ心ちしてかきやり給はす

【注 宣旨書き=宣旨は天皇の言葉を代書したものであることから、一般に代筆すること。また、代筆した書状。】

   なにゆへかよにかすならぬ身ひとつを
うしともおもひかなしともきくとのみおほし
けるまゝにかきもとちめ給はぬやうにてをしつゝみ
ていたし給ひつ少将は人〳〵ものかたりしてとき
〳〵さふらふにかゝるみす【御簾】のまへはたつきなき【注①】
心ちし侍をいまよりはよすか【注②】ある心ちしてつね
にまいるへしないけ【注③】なとゆるされぬへきとしこ
ろのしるしあらはれ侍る心ちなんし侍るなとけ
しきはみ【注④】をきていてたまひぬいとゝしく【注⑤】心よ
からぬ御けしきはみをきていて給ひぬいとゝし

【注① たづきなし=恰好がつかない。】
【注② よすが=縁。】
【注③ ないげ(内外)=出入りすること。】
【注④ 気色ばむ=気持ちが外に現れる。】
【注⑤ いとどしく=その上さらに】

く心よからぬ御けしきあくかれまとひ【注①】給ほと大殿
の君はひころふるまゝにおほしなけくことしけし
内侍のすけかゝる事をきくにわれをよとゝも【注②】
にゆるさぬものにの給なるにあなつりにくき
事もいてきにけるをと思ひてふふみ【ママ】なと
はとき〳〵たてまつれはきこえけり
   かすならは身にしられまし世のうさを
人のためにもぬるゝ袖かななまけやけし【注③】と
は見たまへとものゝあはれなる程のつれ〳〵にかれ
もいとたゝにはおほえし【覚えじ】とおほすかた心【注④】そ

【注① あくがれまどふ(憧れ惑う)=すっかり心を奪われて夢中になる。】
【注② 世と共=つねづね。】
【注③ 「なま」は接頭語。なんだかわずらわしい。】
【注④ 片心=わずかな関心。】

つきにける
   人の世のうきをあはれとみしかとも
身にかへんとはおもはさりしをとのみあるをおほし
けるまゝとあはれにみるこのむかし御中たえの
ほとにはこのないしのみこそ人しれぬものに思
ひとめ給へりしかことあらためてのちはいとたま
さか【注】につれなくなりまさり給つゝさすかにきむ
たちはあまたになりにけりこの御はらには太
郎君三郎君四郎君六郎大君なかの君
四の君五の君とおはす内侍は三の君六の君

【注 めったにないこと。】

二郎君五郎君とそおはしけるすへて十二人
か中にかたほ【注①】なるなくいとおかしけにとり〳〵
におひいてたまひける内侍はらのきむたち
しもなむかたち【容貌】おかしう【注②】心はせ【注③】かありみなすく
れたりける三の君二郎君はひんかしのおく
にそとりわきてかしつきたてまつり給ふ
院もみなれ給ていとらうた ◦(く)し給ふこの御な
からひのこといひやるかたなくとそ

【注① 持って生まれた性質や運命などに、至らぬ欠けた点があるさま。】
【注② 美しくて心がひかれる。】
【注③ こころばせ=機転、行き届いたこころ遣い。】

【白紙】

【白紙】

【文字無し】

【裏表紙】

【冊子の背の写真】

【冊子の天或は地の写真】

【冊子の小口の写真】

【冊子の天或は地の写真】

BnF.

BnF.

BnF.

日本画譜

七福神

昆沙門
布袋
壽老
大黒天

辨才天
福禄壽
蛭子

 源賴朝 靜女
平家ヲ亡シ終ニ諸國總追捕
使ト成ル是ヨリ天下ノ權悉ク
武家ニ歸ス弟義經賴朝ト
不諧終ニ逃亡ス後義經ノ妾
靜姿色アリ之ヲ召シ鶴ヶ岡ノ
祠頭ニ於テ歌舞セシム靜辞
スレトモ聽サス乃チ衣ヲ整ヒ起
テ舞フ其謡フ所皆義經ヲ懐
慕スルニアラサル者ナシ聞者皆
為ニ漣然ス

   織田信長
智勇兼備ニシテ四方ヲ攻伐シ
テ海内ヲ蕩平セントス應仁以来
王室及ヒ足利氏ノ政令行ハレス
群雄四方ニ割據シテ爭戦止時
無シ是ニ於テ織田氏日々大ナリ
信長朝儀多ク廢欫スルヲ憂ハ
貲ヲ獻シテ舉行フ又足利氏ヲ再
□スト雖モ義昭愚ニシテ終ニ
亡フ信長甞テ諸臣ニ遇スルコト不
禮ナリ數シハ非理ヲ以テ明智光秀
ヲ虐ス後光秀叛テ信長ヲ弑ス
秀吉兵ヲ舉テ光秀ヲ誅ス
8

   豊臣秀吉
智勇兼備豪邁無比身草
莽ニ在リ氣己ニ宇内ヲ呑ム此
時ニ當リ爭戦虚日ナシ秀吉
神策鬼筹其機ニ恊ヒ終ニ天
下ノ大柄ヲ握ル又兵ヲ遣シ朝
鮮ヲ伐チ且明ノ援兵ヲ破ル㑹
秀吉疾ニカヽリ其子秀頼ヲ
家康等ニ諾シテ薨ス

   德川家康
秀吉ノ遺命ヲ奉シテ其子
秀頼ヲ輔佐スのち後盟約破シ
石田三成等ト関ヶ原ニ戦テ
大ニ是ニ勝ツ天下悉ク家康ニ
歸ス是ニ於テ家康ヲ以テ大
将軍トス是ヨリ德川氏世ヽヽ
相繼テ大将軍タリ府ヲ江戸
ニ開キ諸侯ヲ參勤セシム是
ヨリ世大ニ治マリ民于戈ニ観
サルコト二百五十余年ナリ
10

11
 梅ニ
   壽帯鳥

櫻ニ
  翠雀
12

13
  栁桃ニ
     鴗

松ニ
  丹頂鶴

15
 水草ニ
   錦鷄

巌ニ
  鷹
16

17
 芙蓉ニ
   白鷺

菊花
  三種

19
 内裏

公家

宦女

21
 武家

 士分

神職

僧侶

23
 藝妓 《割書:サミセン|コキウ》

 西京藝妓《割書:タイコ|ツヅミ》

朙治七年十一月在
東京四谷全勝精舎
樓上寫此譜

信濃 甘泉酒井妙成

BnF.

【表紙 題箋】
住よしのほんち 《割書:下》

【資料整理ラベル】
SMITH-LESOUEF
JAP
  177 3

【右丁 文字無し】
【左丁】
くわうごうなのめならすにゑいかん
ありてかの一くわんのひしよをち
ぼうとしりやうくわのみやうしゆを
ふびとあそばししんらへむかはん
とし給ふにたいないにやどり給ふ
八まん大ぼさつすでに月ごろに
なりたまひしかは御さんのけし
きりなりくわうごうおほせける
やうはたいないにおはしますはさだ
めてわうじにておはしまさんなれ
ばちんが申むねをよく〳〵きこし
めせわがくにいこくのために
おかされなんぎにおよぶによつて

【右丁】
かれをたいぢせんためにかしこに
おもむかんとするかといで【かどいで=門出】にうまれ
いて給ふならはわうじもちんもとも
にをたし【穏し(おだし)=平穏である】かるまし君わがくにのほう
そ【宝祚=皇位】をつかせたまひたみあんせんの
代とならんならはこのたびいこく
をたいらげこのくにゝきてうせん
まては御さんをまたせ給へかしと
きせい【祈誓】ふかくし給へはたちまちに
御さんのけはやみにけりしかれとも
くわうごうの御はら大きにお
はしましけれは御よろいをめさ
るゝに御はだへあきたりたまたれ

【左丁】
のみことこのよしを見給ひてわいだ
てと申ものをこしらへてめさせ給ふ
その時すみよしの大みやうしんは
ふくしやうぐんとなりたまふすはの
大みやうじんはひしやうぐん【裨将軍 注】となり
たまひもろ〳〵の大小のじんぎ
ひやうせん【兵船】三千よそうをこきならべ
かうらいこくへよせ給ふこれをきゝて
かうらいこくのゑひすともひやうせん
一まんぞうにとりのりてかいしやうに
いでむかひ大こゑをいだしてせめたゝ
かふすみよしすはのりやうしん【両神】はまつ
さきにすゝみ給ひてぐんびやう【軍兵=兵士】を

【注 軍勢を統括指揮する大将軍の下にあって補佐する役目】



【右丁】
いさめげじ【下知】をなしたゝかい給へば
いつれもせうれつ【勝劣=優劣】はなかりけり
たゝかひいまたなかばなるときに
くわうごうりうぐうよりかりもとめ
給ひしかんじゆ【干珠】をかい中になげ
たまひしかばうしほにはかにしり
ぞひてかい中たちまちろくぢ【陸地】と
なりにけり三かんのつはもの
とも此よしを見るよりも
これたゝことによもあらし【あるまい】天
われにりをあたへ給へりもと
よりかちたち【徒立ち=合戦で、騎馬でなく徒歩で戦うさまにいう】いくさはわかとも
からのこのむところよとよろこひて

【左丁】
めん〳〵ふねよりとびおり
   あるひはかちたちになり
ほこをまじへ
      ゆみをひき
     せめつゝみ【攻鼓 注】を
           うつて
たゝかひけるありさまなにゝ
      たとえんかたも
          なし


【注 攻太鼓に同じ。攻め掛る時の合図に打ち鳴らす太鼓】




【両丁 絵画 文字無し】

【右丁】
このときにすみよしの大みやうしんかの
まんしゅ【満珠】をとりてひかたになけいだし
たまひしかはうしほ十はうより山の
くづるゝごとくにみなぎりきたれり
すまんにんのいぞくどもむまにのり
かちになりてたゝかひけれはどろ
にまみれしうをのことくなみにお
ぼれ水にむせぶところをわがくにの
神たちすせんぞうのふねをこぎよ
せ〳〵一人ものこらずたいぢし
たまふくまはりは此よしをみるよりも
いまはいかにもかなふましと思ひけれは
みづからみをしや【捨】してかう【攻】し給ひ

【左丁】
けれはしんぐうくわうごう御ゆみの
うらはずにて三かんのわうわが日の
もとのいぬなりとせきへきにかき
つけてきてう【帰朝】し給ふてのち三かんわが
てうにしたがひてたねんそのみつき
ものをたてまつるくわうぐ【ママ】うはつくしに
つかせ給ひつゝたいなゐにおはし
ます八まん大ほさつをよろこばせ給ふ
そのところをうみのみやと申なりそれ
よりしてながとのくにゝみゆきありて
とよらの京に大みやつくりし給ひつゝ
くは【ママ】うごうていにそなはり給ふ御代をしろ
しめす事は七十ねんその十一ねんに

【右丁】
あたるかのとのうのとしすみよしの大みやう
じんくはうこうの御まくらかみにたゝせ給ひ
つゝほうそ【宝祚=皇位】をまほらん【守らん】とたくせんし給ふ
によつてやしろをまふけすみよし大
みやうしんをくはんじやうし給ふそのゝちくわう
ごうやまとのくに十市のさとわかさくらのみや
にうつらせ給ふときつのくにつもりのうらに
こんじきのひかりたちけると御ゆめにみ給ふに
よつてちよくしたてゝみせ給へはすみよしの
大みやうじん一にんのおきなとげん【現】し給ひ
つゝますみよしのくになれは里を此ところに
あがめよにしをまほりの神とならんとのた
まひてかきけすやうにうせたまふ

【左丁 絵画 文字無し】

【右丁】
ちよくしかへりまいりてこの
よしかくとそうもん【奏聞】申ければ
みかとしんたくをしんじ給ひ
てすなはちやしろをつくりすみ
よし四しよみやうしんとあかめた
まひけり四しやのうち一ざは天しやう
だいじん一ざはたきりひめ一ざは
そこつゝを中つゝをうはつゝを
いま一ざはしんくうくわうこうにて
おはしますみやしろのあり
さまよのしやとうにはやうかはり
いつれもにしにむかはせてたゝせ
たまふもいこくのえびすを

【左丁】
ふせぎたまはんとの御しんたく
あるゆへとかやつもりのうらに
あらはれたまひてのちれいげん
いよ〳〵あらたかにおはし
ましわかくにをそむきまいら
するいそく【夷賊】らをはつし給はす
といふ事なしさてもおはり
のくにやつるきのみやうじん【熱田神宮の別宮である八剣神社にまつられた神】と
申はむかし神代よりつたはり
しあまのむらくものけんを
あかめたまひしほうでんなり
こゝにしんらこくにしやもん【沙門】
だうぎやうといへるそうあり






【右丁】
日ほんにめいけんのひかり
たつをしんらのわうにつげ
けれはすなはちかのそうをつ
かひにててんち天わう七ねんに
くだんのれいけんをうばはんた
めにわがてうにそわたし
けるだうぎやうあつたのやしろ
にまいりつゝ三七日こもりて
けんのひほうをおこなつてれい
けんをぬすみいたし五でうの
けさにつゝみてすでに
しやとう【社頭】をにげいでんとしたり
しおりふしにはかにくろ

【左丁】
くもまいさかりかのれいけんを
とりまきけれはかないかたく
してしやだん【社壇】にかへし
おくりたてまつりまたかさねて
百日おこなつて九でうのけさ
につゝみてしやとうをなん
なくにげいてあふみのくにまで
かへるところにまたくろくも
そらよりまいさがりれいけん
をとりてひかしをさして
たなびきゆくだうぎやうこ
のよし見るよりもとつてかへ
しおふてゆくそのところを


【右丁】
おいそのもりと
       いへり
    このところより
         つるぎを
   おいそめ
       ければ
         なり

【左丁 絵画 文字無し】

【右丁】
だうぎやう又千日おこなつて十五でう
のけさにつゝみてにげゝればこんどは
つくしのはかたまてぞおちゆきけるその
ときすみよしの大みやうじんおいかけたま
ひてくだんのつるぎをとりかへし
だうぎやうをはほろぼし給ひてれいけん
をばもとのことくにあつたのやしろに
おさめたまふこのつるきと申はむかし
そさのをのみことのいづものくに八戸さか
にてほろほし給ひしやまだのおろ
ちがおよりいてたるけんなりてんしやう
大じんへたてまつり給ふをあめみまご
にさづけたてまつらせ給ひて人わう十代

【左丁】
しゆじん天わうまでつたへさせ給ひしをみかど
れいけんのあらたなる事をおそれ給ひて
いせ大じんぐうへかへしたてまつらるだい十二
だいけいかう天わうの御ときたうい【東夷】ちよく【勅】に
そむきしかばやまとだけのみこと【「やまとたけるのみこと」のこと】うつてに
つかはさるときに天しやう大じんやまとひめ
のみことにおほせてかのあまのむらくもの
けんをみことにさづけ給ふみことこのれい
けんを給はりてくわんとうにおもむき
給ふするがのくにゝつき給ふときいぞく【夷賊】
らみことをすかし【言いくるめて騙す】たてまつり野なるくさ
にひをつけてやきころしたてまつらんと
しけるところにみかとかのけんをぬきてくさを

【右丁】
なぎ給へばくさに火もえつきいぞく
のかたにおほひしによつていぞくこと〳〵く
ほろびにけりそれよりもれいけんを
くさなきのけんとは申なりそのゝちみこと
は御とし三十にしてこうぜいしたまひ
白鶴とへんしてにしをさしてとび給ふ
さぬきのくにしらとりのみやうしんとあら
はれたまひけりさてくさなぎのけん
をは天しやう大じんの御はからひにて
おはりのくにあつたのやしろにあづけ
をかせ給ひけるなりあつたのやしろ
と申はそ【ママ】さのをのみことゝも申または
やまとだけのみこと【「やまとたけるのみこと」のこと】ゝも申なり

【左丁 絵画 文字無し】

【右丁】
またもろこしのみかとの御とき
にしわがくにのちえをはかりて
日ほんごくをうちとらんとおほ
しめしかんりん【翰林】のがくしはつ
きよいといへるぶんじや【文者】にあ
またのめいさい【明才】の人をあひそへ
大せん【船】す百よ【数百余】そうをかさりて
日のもとのちにわたさるゝ
すてにたうと日ほんのさか
いちくらかおき【筑羅が沖 注】といふところまて
たうせんはせわたりけるとき
にすみよしの大みやうじん
一人のぎよおう【漁翁=としよりの漁師】とへんしいさり

【注 韓(から)と日本の潮堺にあたる海】

【左丁】
ふねにさほさしかのたう
せんのあたりにてつりを
たれておはしましけれは
はつきよいいやしきおきな
そと見なして日ほんの事を
たつぬるところにかんご【漢語】を
もつてとへばかんごをもつて
こたへけるやまとことばをもつ
てとへばすなはちうたのもしに
ことよせておもしろくへん
たうし給ふによつてから人
かんにたえかねおこ【烏滸】とたゞ人【普通の人間】とも
おほへす日ほんのふうしよく【風色=景色】は







【右丁】
なに事をかもてあそふまなふ
て見せよと申けれはみやう
じんきこしめされてまづも
ろこしのならはしをまなふで
御身せ候へしとのたまひ
ければはつきよい申けるは
もろこしには思ふといふ事
をつくりて人のこゝろさしを
のぶればけんぐしやしやう
をく中にかくれすいでさら
はわがおもひをのべてきかせん
とて
 青苔帯(せいたいおひて)_レ衣(ころもを) 懸(かゝり)_二巌肩(いはほのかたに)_一

【左丁】
  白雲似(はくうんにて)_レ帯(おひに)
        廻(めくる)_二山腰(やまのこしを)_一
と申けれはみやうじんみこし
めされてちかころのしう
く【秀句】かなそれわかくにのなら
はかし【「ならはし(習慣)に同じ】には神代よりも和哥(わか)といへる事をよみならはし
てはんべるいつれもこゝろ
さしはあひおなしかるへし
いでさらばおよばずなから
いまのかへしを申さんとて
  こけころもきたる
    いはほはさもなくて


【右丁】
    きぬ〳〵山の
       おひを
         する
           かな
とよみ給ひけり

【左丁 絵画 文字無し】

【右丁】
から人おほきにかんじてふしきや
見れはさもいやしきぎよ
おう【漁翁】なるがかやうにめてたく
わかをつらね【連ねる=ことばを並べ整えて、歌をつくる】たまふ事こそ
ふしんに候へはじめよりたゝ人
とはおもはれずいかさま【ぜひとも】御名を
なのり給へと申けれはみやう
じんきこしめされていや〳〵
さのみにふしんはし給ひそ
ときをかんずればはなになく
うくひす水にすめるかはづ
まてもうたをつらぬるためし
ありましていはんやじんりん【人倫=人間】の

【左丁】
身をかれば身はいやしなからわが日の
もとのならはしをいさゝかしらでは侍る
へきおろかにまします人々かなと
おほせけれはから人このよしきゝて
それあしはらこくはそくさんへんち【粟散辺地】
の小こくなれともちえだい一のしん
こくなるといふにつけてかゝるあや
しきおきなまてもたつときゑいか【詠歌】
をつらぬれはもろこしのをろかなる
心をもつてちえくらべせんなしと
いふところにみやうじんのたまひけるは
わが日のもとにすみよしの神のちから
のあらんほとはもろこし人のわざと


【右丁】
してしんこくをしたがへたまはん事は
たうらう【蟷螂(かまきり)】がおのをもつてりうしや【隆車=高大な車】を
さえきるににたるべしすみやかにほん
こくへかへらせ給へあしくしてばちあた
りたまふなよから人たちとの給ひつゝ
かきけすやうにうせ給ふから人この
よしみるよりもふしきやたゝいまの
ぎよおうのありさまはしめよりたゞ
人ならずと思ふところにすかたのう
せしこそあやしけれいかさま【なるほど】しんこく
なれはみやうじんのへんげして
みえ給ふかとみな〳〵おそれさはぐ所に
にはかにそらかきくもり大あめふりて

【左丁】
かみ風しきりにふきいでければかいしやう【海上】
もものすごくはくらう【白浪】天にみなぎる
ほどにこはいかにときもたましゐをけす
ほとに八大りうわうは八まん四せんの
けんぞくともをひきぐしあをうなはら
にうかみいでわが日のもとのあまつ日つき
にあたをなしたてまつらんものならば
うみにしづめんとてくうかい【空海】にとびかけり【飛び翔ける】
けるほとにから人いよ〳〵おそれを
なしふねをほんごくにこぎもどし
ければなんなくみやうじう【明州(めいしゅう)のこと】のみなと
につきにけり


【両丁 絵画 文字無し】

【右丁】
さてこそだい〳〵もろこしのみかど
日ほんをはからん事をかたく
おもひとゞまりたまひけり三ごく
ぶさうのはくらくてん【白居易のこと】小こくの
ちえをはかりかねわか日のもとの
あんせんなる事ひとへにすみ
よし大みやうじんのおうご【擁護】に
かゝりけりしかるにかのしやだん【社壇=神殿】
としひさしくざうゑいもな
かりしかばのきも戸ほそ【扉】もあれ
はてゝ月とうみやうをかゝげきり
かうをそなへ【霧が、立ちのぼる香の煙のようなさまからいう】しかばみやうじん
これをいみしとやおほしめしけん

【左丁】
たむらのみかどの御ときにみかとの
御ゆめに一人のらうじん御まくら
かみにたちよらせ給ひて
  夜やさむきころもやうすきかたそきの【千木の片端を縦に切り落としたもの。住吉神社の宮つくり】
   ゆきあひのま【相寄って接した物と物の間のすき間】にしもやをくらん
とゑいじ給ひしかはみかと御ゆめ
こゝちになんぢはいかなるものそと
とはせたまへはかのらうじん
これはすみよしのあたりにす
まひするぜう【尉ヵ】にて侍るとて
かきけすやうにうせ給ふみかと
御ゆめさめてしんたくにおど
ろきたまひつゝすなはちすみよし

【右丁】
のやしろへちよくしをたてら
れ見せたまへはしやだんくはう
はいしてげればやがてさいこう
あそはされかゝやくほとにさう
ひつ【造畢=建物を造りおわること】せりかみもさこそ【本当に】よろ
こひ給ふらめそのうへてんあんの
ころかとよみかとかのやしろへ
はしめてぎやうごう【行幸】あそばし
ける御じんはい【じんばい(神拝)】ことをはり松の
みぎはにせうえう【逍遥】したまふ
ところにありはらのなりひら
ぐぶ【供奉】しはんへり【「侍り」の転】けるかつかう
まつりける【お作りする】

【左丁】
  われ見てもひさしくなりぬ
       すみよしの
   きしのひめまついく世へぬらん
ときこえければみかとえいかん【叡感】
あさからすとそきしのひめ松
をはわすれぐさとも申なり
たうしや大みやうじんのきさき
にておはしますたまよりひめと
申たてまつるはわたづみの御そく
ぢよなるがつゐにとこよのくに
にかへられけるをみやうじん
御なごりをおしみ給ひておなし
くとこよのくにゝいらんとし給ひ

【左丁】
しをやをよろつの神たちこれ
をなげきかなしみにはかに
千ほんのまつをうへてみやうじん
をなくさめたてまつるかの千ぼん
のまつの中にたまよりひめの
御すかたにすこしもたかはさる
まつありみやうじんこのまつを
御らんしてきさきの事をは
わすれ給ひにけりそれよりして
かのまつをばひめ松とも申又は
わすれくさとも申なりきさき
をものちには神といはひたてま
つるきしうかたのうらにあとを

【左丁】
た給ふあはしまのみやうじん
これなり又うぢのはしひめも
このみことにやすみよしみやう
じんの御うたに
 さむしろにころもかたしきこよひもや
  われをまつらんうぢのはしひめ
とよみたまひて夜な〳〵かよひ
たまふとなんあかつきことに
うぢの川なみはげしうひゞく
事はこのゆへとかや百わうの
すゑの御代まても君ゆたかに
たみさかへこくどあんおんなる
事はたゝすみよしの御はかり

【右丁】
ことにてぞくと【賊徒】をばつし給ふ
ゆへなりげんりやく【元暦】のころをひ
へいけのぞくとくにをみだり【乱り=秩序を混乱させる】
三じゆのしんほうをうはひていこく
におもむかんとせしをもすみ
よし大みようじんのおうご【擁護】に
よつてしづまりぬそのゝちぶん
えいこうあん【文永・弘安】のりやうど【両度】げんてう【元朝】
のくはうていわか日のもとをうち
とらんとてまんしやうぐんを
大しやうとして百まんぎの
つはものをむけられすでに
あやうかりし時にもすみよしの

【左丁】
みやうじんまつさきにすゝみ
たまひてぞくせんをこと〳〵
くうみにしつめ給ひしかば
わがくにつゝがなかりけりされ
はいまのよまてもとしこと
のみな月のすゑつかたみやうじん
御むまをそろへて見たまふ事
さんかんのぞくとらをはらひ
たまはんぎしきなり又む月
の中ころにたからのいちをた
てたまふ事はかのとこよの
くによりみちひのたま【満干の珠=海水の干満を自由にできるという珠】と申
たからものをあまのいわくす






【右丁】
ふね【天の磐樟船=クスノキで作ったといわれる堅固な船】につ
みのせてみやうじんへ
さゝげたてまつりしぎし
きをまなひたまふとかやされ
ばたうだいのにんみん【人民】うしろ
やすく【先が安心である】してよにすめる事は
ひとへにすみよしの大みやう
じんのおうこ【擁護】の御めくみなれは
ほうしや【報謝】のためにもあゆみ
をはこびあかめたてまつるへし
ましていはんやこんじやうの
めいぼう【明望=名声と人望】らいせのちぐう【値遇】をや
ちえをいのるにもふくをね
かうにもたうしやのみやう

【左丁】
じんはわかをもつはらあひせ
させ給ふなればうたをよまんと
    思はん人は
       このやしろを
   しんじ
     たて
       まつる
         べし

【両丁 絵画 文字無し】

【見返し 両丁 文字無し】

【裏表紙】

BnF.

BnF.

【表紙】
【資料整理ラベル】
JAPONAIS
 5328
1517FⅢ

【青海波】

1r
髙砂  《割書:能》

2r
実盛  《割書:能》

3r
熊野  《割書:能》

4r
松風  《割書:能》

5r
羽衣  《割書:能》

6r
當朝  《割書:能》麻

7r
西行桜  《割書:能》

8r
百萬  《割書:能》

9r
桜川  《割書:能》

10r
芦刈  《割書:能》

11r
俊寛  《割書:能》

12r
放下僧  《割書:能》

13r
鵜飼  《割書:能》

14r
野守  《割書:能》

15r
熊坂  《割書:能》

1v
末広がり  《割書:狂言》

2v
素襖落  《割書:狂言》

4v
縄なひ  《割書:狂言》

5v
棒しばり?  《割書:狂言》

7v
釣狐  《割書:狂言》

10v
禰宣山伏 《割書:狂言》

11v
月見座頭⁇ 《割書:狂言》

12v
武悪⁇ 《割書:狂言》

13v
文荷 附子 《割書:狂言》

14v
神鳴  《割書:狂言》

15v
居杭  《割書:狂言》

BnF.

【表紙】
【左端に赤い題箋】
《割書:開巻|驚奇》暴夜物語《割書:永峯秀樹譯》第二編
【左端下に円形図書票】
JAPONAIS
5636
2

【頁上部余白に左から読む】
ARABIANNIGHTS
【本文】
永峯秀樹譯 【朱の角印】秀樹之印

《題:《割書:開|巻|驚|奇》暴夜物語(あらびやものがたり)》
東京 奎章閣發兌 印

【注 奎章閣(キュジャンガク)は、李氏朝鮮の王立図書館に相当する機関である。​歴代王や王室の各種文書や記録、中国の文献、朝鮮の古文書などを収蔵管理した。】

《割書:開巻|驚竒》暴夜物語巻之二
        
             永峰秀樹 譯

   漁夫の傳
昔し一人りの老夫あり漁猟を生計(なりわひ)となし其性
固より正直にして又 勤業者(かせぎもの)なりければ一日た
りとも怠ることなかりしも得る利は細く家族は
多く一人の妻に三人の子を養ひ兼ね家いと貧
しく危き露命を其日々々と漸くに繋ぎ留めた
る計(ばか)りなりき。斯く其身は貧しく暮せ共(ども)神に願(ねぎ)

事(こと)ありしかや綱を投(うつ)こと一日に四回よりは多く
せじと自から盟ひを立たりけり斯くて或日常
の如く早且【旦】に家を出て月を燭(あかり)に舩を波間に漕
ぎ出し三回まて網を撒(ま)きたるに撒く度毎に手
堪へ强く曳網の断(きる)るばかりに重かりければ數
千の魚を得たるにあらざるも數尾の大魚は失
はじと心嬉しく兎角して曳擧たる所に始めの 
網には驢馬の死骸の大きやかなるの既に腐爛(くされたゞれ)
たるを曳擧げ次には沙泥を盛りたる馬篭を曳
擧け又其次には貝殻(かゐがら)石泥等を夥しく曳き擧げ

三回共に一尾の魚をも得ることなく徒らに力を
勞する常日(ひごろ)に十倍したれば大に其身の不幸を
嘆き夜も既に明け方に近つけば先づ朝拜を了
り再び第四回の網を撒きたるに先きに増して
重かりける此度こそは必ず多數の魚を得たる
ならんと力を極めて曳き擧げたるに又一尾の
魚もなく只黄銅を以(も)て製したる最(いと)重き古瓶の
み一個 滚(ころ)び出たり漁夫怪み近ひて注視(よくみ)れば鉛
を以て固く封じ封の上には印章を深く打ち打
ちたる字畵尚ほ明亮(あり〳〵)と讀得べし漁夫之を見て

大に悦び之を以て鑄冶(いものし)【左ルビ】に賣らば今日の食量を
購ふに餘りあらん善き物得たりと獨語(ひとりごと)【左ルビ】しなが
ら猶打返し打返し心を注(と)めて上下周圍を檢査(ぎんみ)
し中には何物か入りて有るやらんと震動(ふりうごか)して
試むるに響なし熟(つら〳〵)思ふに此封印の文と云ひ此
瓶の状(なり)と云ひ中に入れたる者は貴重の珍宝に
疑ひなし。いで先づ試みに取出して見んと腰に 
帯たる小刀を把出し鉛封を開き瓶を倒さまに
為したる所中より出る物なければ怪みながら
瓶を己が前に据(すへ)置き姑(しばら)く手を拱(こまぬ)き思考してあ

【瓶の中から煙と共に現れた魔神と驚く漁夫の図】
【図右下に】彫刻會社製

【白紙】

る處に忽ち瓶中より一道の濃烟湧き出しける
漁夫之が為に一驚を喫し両三歩(ふたあしみあし)退ひて打守る
に烟は次第に上騰し将さに雲際(くもきわ)に達せんとす
るとき忽ち解けて水陸に充満し咫尺もわかぬ
朝霧に 彷彿(さもに)たり漁夫は此時 股慄(おのゝきふるへる)【左ルビ】して走り避る
ことさへも得ならず怕ながらに尚ほ注目(みつめ)てあれ
ば瓶より出る烟り騰り畢るよと見る處に水天
に霏抹(たなび)きたる烟霧は次第に収縮(まとま)りて終に一個
の固体となり仰見(みあげ)ても猶ほ見盡し難き大魔君 
と為りにける其時魔君は雷の如き聲を轟かし

【注】 
【咫尺(しせき):周代の小尺で、約十八㎝。距離が短いことをいう。ここでは咫尺も弁えぬ程の深い朝霧という言い回しで、視界がきかず近距離のものも見分けがつかない意】

て所羅門(ソロモン)乎(よ)至大至聖なる預言者所羅門よ吾か
罪を赦せ余再ひ君が意に逆(さか)【注】はじ今より後萬事
君が命令に黙従せんと叫び了り頭を垂れ漁夫
を見て汝疾く吾が前に来り拜伏して吾が汝を
殺すを待てと一聲大ひに叫びけるに漁夫は怕
れながら吾れ君に何の罪ありや今君の禁錮を
救ふたるの大恩は既に忘れ玉ひたるやと聲振
はして怨ずれば魔君荅へて爭(いか)で汝が恩を忘却
すべきや然れども汝を殺すことは止まる能はず
只汝に一事を恵まんと曰ふ漁夫曰く大君何を

【注】
【古語に「逆(さか)ふ」(四段活用)という語が有り、「おのずからさからう」の意】

か吾に惠まんや魔君曰く唯汝自から死の方法(しかた)
を擇べ然らば吾汝が望に従ふて汝を殺さんの
み因りて汝が疑ひを晴さしめんがため其由来
を語り聞せん抑も余は天帝に背きたる一位の
魔君なり大闢(ダビット)《割書:大闢は耶蘓の|祖なりと云ふ》の子 所羅門(ソロモン)天帝の 
預言者として衆魔君を其下に致せしに佐加尓(サカル)
と吾とは他神に服従するが如き卑物にあらず
と自から驕りて彼が命に従がはざりしかば所(ソ)
羅門(ロモン)余を罪して此銅瓶の中に包埋(いれる)【左ルビ】し余か脫出
せんことを恐れ封印を打ちて瓶口を固く封した

り彼が封印には原来上帝の大名を■(きざみ)【刻刾ヵ】あれば余
が力之を破る能はさるを知ればなり、さて所羅
門は余を包藏したる此瓶を配下の魔君に授け
此海底に沈めしめたり余れ瓶中に在りて自(み)か
ら誓ふらく若し初めの百年間が余を救ひ出す
ものあらば此世は勿論(おろか)死後に至るまでも永久
の冨を與へんと然れども救ふものなく百年を
打過ぎたれば又 自(み)から誓ふらく第二百年間に
救ふものあらば地下の富を發して盡く之を與
へん又第三百年間に救ふものあらば地上の大

王となし魔君仙女と伍せしめ一日に三度宛其
望む所の亊を叶へしめんと然るに既に三百年
を經ても未た救ふ者なく瓶裏に鎖篭(とじこめる)【左ルビ】さるゝこと
依然たれば是に於てか余れ憤怒やる方なく又
自(み)から誓ふらく此後余を救ふ者あらば憐慈を
垂れす速かに之を殺し只其死法を自から擇べ
しめ其望みに任すべきの一惠を與へんと然る
に今日汝来りて余を救へり故に余汝を殺すの
み汝が死は既に避くべからず速かに其死法を
擇びて快よく余が劍を受よと語り了りければ

漁夫其身の免れ難きを聴き悲歎限りなく我身
はさして惜むに足らねども一日一日と辛く漁
獵に世を送るに我身死しなば三人の子兒(こども)等は
如何にせん餓へてや死なん乞兒(かたひ)【左ルビ】とやならんと
愁緒萬丈(うれいのいとすじ)【左ルビ】九膓(はらわた)【左ルビ】を圍繞(めぐる)【左ルビ】して悲傷やるかたなくい
かで今一度哀を請はんと魔君に向ひ縦(たと)ひ大君
の誓は。ざることなりとも禁錮の中より救ひ奉り
たる老夫が功を顧み一片の憐れみを垂れ斯く
非理不道の誓を立返し老夫が命を赦し玉はれ
や然らば天帝亦大君を赦し大君の為に敵者の

害を防ぎ玉ふべきものをと聲 震(ふる)はして歎き乞
へども魔君は之を肯んぜす痴呆(おろか)なり如何に道
理を列(なら)べ立て一年三百六十五日 口説(くどく)とても赦
すものかは無益の談論聞く耳持たず疾(と)く汝の
死法を擇べ無用の談に時晷(とき)たてざれと聲荒ら
かに言い放てりと語り了り新皇后は帝に向かひ
世の常言(ことわざ)に窮迫者思慮之母なりと云へるが如
く此漁夫忽ち一計を設け。さの玉ふ上は吾身の
死は救ふに術(すべ)なし只上帝の意に任せんのみ但
し老夫が死法を擇むに先だつて大闢(ダビツト)の子 所羅(ソロ)

門(モン)なる天帝の預言者の封印に■【刻刾ヵ】みたる上帝の
大名を以て大君と誓はん老夫 疑慮(うたがひ)【左ルビ】決し難き一
亊あり試みに大君に問ひ奉らんに大君真誠を
以て答へ玉へと云ければ魔君は上帝の大名を
以て誓を立てたるを見て既に恐怖の体あり汝
の問ふ所は何事ならんか速かに語れと促すに
漁夫は既に其状を察し再び聲を擧げ上帝の大
名に因り誓を立てん大君實に此瓶中に在りし
や甚た不審(いぶかし)く覺へ候ふ此瓶此の如く小なり大
君の一足をだも容るに足らす豈能く大君の全

身を藏すべけんやと難じたるに魔鬼笑ふて正
に汝が目前に見たるが如くなり余之を上帝の
大命に誓へり汝尚之を信ぜざるやと答へたる
に漁夫尚ほ之を信ぜざるが如くもてなし其實
否を親視(まのあたりみる)【左ルビ】せんと請ふたれば随即(たちまち)魔君の形は再
び烟霧と觧け初め次第に前の如く天際に靡抹(たなび)
き亘り再び凝りて一道の濃烟と變し徐々(しづか)【左ルビ】とし
て瓶中に収まり一点の烟影も瓶外に残らざる
とき魔君瓶中より聲を擧げ疑深き無智の匹夫 
なりとも今は吾言の真誠なるを信ずべけんさ

りとも尚ほ疑ふやと問ふたる聲を聞くやいな
漁夫は得たりと答もなさず敏捷(てばや)く鉛蓋を把り
持ちて忙がはしく瓶口に推當て聢(しか)と嵌込(はめこみ)棒の
如き大息(ためいき)をほつとつき瓶に向ひ魔君既に事情
一變せり今番(このたび)憐恕を願ふ者は正に汝が身に遷
り行けり余再び汝を此海に沈め余又此處に家
を搆え此海に漁する者に誡めて禁錮を救ふ者
を殺さんと毒誓を立てたる惡魔を救ひ舉げざ
らしめんと言ひければ魔君は漁夫の仁心を動
さんと言を巧にして百方に苦請すれども漁夫

之を聴かす詐り多き汝が言を争でか信ずへけ
んや若し再び汝を許さば其時こそは余命は汝
の為めに失はれん汝の余を遇するは希臘(グリーキ)王が
醫生 銅盤(ドウバン)を遇したるに善く似たりいで其物語
を語らん
   希臘王並醫生銅盤の傳
昔し希臘に一王あり久しく癩病を患ひたるに
在庭の医官は云に及ばす國中の医師尽々秘方
を探り夙夜(よるひる)【左ルビ】心を苦しめて治療を施せども一毫(つゆばかり)
も效験(しるし)なく匙を投し手を引きて治術なきを嘆

じたり然るに他邦より新たに来りたる一医生
名を銅盤と称するもの自から朝に入り大臣に
謁して王の病を治癒せん亊を乞へり此醫生銅
盤は學織古今に匹(たぐい)なく希臘(グリーキ)。此耳西(ペルシヤ)。土耳古(トルコ)。亜刺(アラ)
非亜(ビヤ)。羅典(ラテン)。西里亜(シーリア)。欺非流(ヒブルー)諸國の學に精しく又理
學に長じ尤も本業に明らかに草木の貭に通暁
したり王先づ其人物を見んと欲し玉ふ銅盤乃
はち朝服を穿ちて宮に入り王に見へて臣大國
の医官盡く不學にして王の病を医する能はざ
るを聞及びたるを以て遠路を厭はす遥々貴國

に推叅せり若し陛下臣が術を試むるの意あら
ば臣内服外貼を用ひずして忽ち陛下の大患を
除かんと言ければ王悦んで治を請はれける銅
盤は私宅に歸り「ラツケツト」板《割書:羽子板の如き者|にして球を打つ》
《割書:の遊戯に|用ふる者》を作り其柄に窩凹(くぼみめ)【左ルビ】を■【刻刾ヵ】み之に藥劑を
填塞(うめる)【左ルビ】し次の日之を持ちて宮に入り王の前に拜
伏し地を啜り了り《割書:地を啜るは此地|方の敬礼なり》王を請ふて
「ラツケツト」塲に致らしめ王には昨夜製したる
「ラツケツト」を執らしめ其 操持法(もちかた)をも精しく示
し朝臣と共に馬上に球を撃ち勝敗を爭はしめ

たり王は原来最も「ラツケツト」遊を好みたりけ
れば往来馳騁(わうらいちてい)勝を爭ふて心身を勞動せるを以(も)
て忽ち周身(みのうち)汗を流し掌裏(てのうち)も亦汗を握りたれば
藥劑掌より鑽入(とほる)【左ルビ】して周身に流注(めぐる)【左ルビ】せり是に於て
銅盤「ラツケツト」遊を輟(や)めしめ王に沐浴を勸め
其他種々銅盤の言ふ所王盡く之に従がひ。さて
明朝に至りし處竒なるかな一夜の中に數年の
痼疾忽ち平癒し瘢痕(あと)さへもなかりける王は之
を見て忻喜極まりなく政㕔に出で玉㘴に就け
ば列㘴の朝官聲を齊ふして其平癒を祝賀し王

の喜びを賛成(たす)けたり既にして銅盤も入朝し王
の前に拝伏すれば王 忽忙(あはたゞしく)玉㘴を下り自から扶
け起して王と共に玉㘴に上らしめ姑くして午
時になれば食架(テーブレ)を共にし相對して食ひ衆官退
朝の時に及び更らに御服に二千金を添へて之
を銅盤に賜ひ其次の日も王は唯銅盤に幸福を
與へんとすることのみにて朝を卒り再び許多
の賜物あり爰に宰相中に貪婪(むさぼること)【左ルビ】にして邪智に冨
み猜忌深き者ありけるが王が一醫生を寵して
賜物夥しきを見て嫉(ねた)きこと限りなく医生の罪を

構成(こしらへる)【左ルビ】せんと王に謁して陛下未だ悟り玉はざる
や彼の醫生銅盤は敵國の刺客なり然るに陛下
心を傾けて親任し玉ふは抑も亦危ふきことに候
はすやと密奏す王は顔を左右に打ふり否々賢
相過てり卿の目(めざす)【左ルビ】して刺客となし逆臣となす者
は實に天下の良士なり吾身に取りては天下に
尊崇すべき者彼に増す者一人もなきを覺ふる
なり卿も知る如く彼れ實に吾が不治の痼疾を
医したり彼れ若し刺客ならんには吾身を殺さ
んことをこそ圖るべけれ何の為めにか吾が病を

治すべけんや察するに彼が才智群を㧞くを見
て卿妬心を懐きたるならん吾焉んぞ徳に報ゆ
るに怨を以てすべけんや余れ初めは彼を以て
一醫生の特(たゞ)に其業にのみ精しき者とのみ思ひ
たるに昨日彼と談ぜし所彼は諸學に通じ實に
天下又あるまじき賢人なり故に今日より彼に
大禄を給し別に毎月一千金を與へんと欲す。た
とひ吾が國を裂き彼に與ふるも猶吾心に厭足(あきたら)
ざるの思ひあり新努番努(シンドバンド)王が其王子を殺さん
とせしとき其宰相が諫言せし物語あり今卿の

為に之を語らん
   富商並鸚鵡の傳
昔し富商ありけるが美婦を娶り夫婦/最(いと)睦(むつま)しく
霎時(しはし)の程も離るゝに忍びざりしが避くべから
ざる事出で来たり旅立つこととなりけるに冨商
は其/性(さが)嫉妬(しつと)深かりければ一策を案じ出し市頭
に一羽の鸚鵡を購ふたり此鸚鵡は希世の名鳥
にして一回見たることは日を過ぐれとも強記(よくおほ)へ
問ふ事あれば荅へざることなきの美質あり是れ
屈竟なりと家に携へ来り妻には唯 平常(あたりまへ)【左ルビ】の鸚鵡

の如く言ひ倣し余が身と思ひ此鳥を汝が室に
珍重して飼置玉へと言含【原文は異体字U+2D1E5】めて旅立ちしがさて
家に歸り妻のあらさる時を窺がひ吾が旅行中
何事か家内に起りしやと種々の事を尋ね問ふ
たるに鸚鵡は其妻の隠事を洩さず語りにけれ
ば富商はさもあらんと其妻の歸り来るを待構
へて其穢行を譴(せ)め鞭笞して之を懲したるに妻
は更に承服せず無根の讒【原文は異体字の谗】言を聴き妄りに潔白
の名を汚せり抔と其夫の薄情を怨み唧(かこ)ちて爭
ひ遂げ。さて自から思ふやふ余が密事を何(いか)にし

て夫は早く聞知りけん是必す僕婢の中にて告
たる者あるならんと一人一人に密室に呼び其
事を詰問せしに皆盡く其罪は彼鳥にこそある
べけれ我們(わがみ)は告げたる覺之【やの可能性も】れなしと衆人の言
ふ所一致しければ冨商の妻は忽ち悟り夫の疑
心を觧き兼て其怨を報せんと一計を設け夫の
家に在らざる夜を待ち三僕をして其形を隠し
て鸚鵡の篭の上下と前とにあらしめ下に在る
者をして手磨(てうす)【左ルビ】を旋轉(まはす)【左ルビ】せしめ上に在るものをし
て雨の如く水を溉(そゝ)がしめ又前にある者をして

鏡面に蝋燭の火を照して鳥篭の邉を閃(ひらめ)かさし
めたること宵より暁に達したり却(かく)て次の日冨商
は家に歸り又鸚鵡に昨夜何事か有りたるやと
問ふに鸚鵡は雷電暴雨頻りにして甚た困却せ
る由を荅へける冨商は是に於て鸚鵡の語を信
ぜす吾婦の事を告げたるも亦彼が胡乱言(めつたぐち)【左ルビ】に出
でたるならんと忽ち大ひに怒り罪なき鸚鵡を
篭より取出し力を極めて地板(ゆかいた)【左ルビ】の上に擲ちけれ
ば愍れむべし即時に息は絶にけり其後冨商は
鸚鵡の冤罪なるを聞き知りて大に之を悔たり

とぞ賢相たとひ妬心を懐き汝に怨恨なき銅盤
を殺さしめんと欲すとも彼の冨商が如き後悔
なからん為め容易く汝の言を信せざるなりと
奸情を穿(うが)ちて責玉ひけれども宰相猶ほ屈せす
言葉巧みに奏する様陛下善く回想(おもひみ)玉へ一鸚鵡
を失ふも大害と云ふべあらず又彼の冨商も其
後悔は久しからざるべきなり臣が奏する所は
國家の大事なれば寧ろ一/無辜(つみなきもの)【左ルビ】を過殺するの悔
あるも彼医生を誅せんことを抗論せざるべから
ざるなり臣が彼を仇とするは陛下を愛し國家

を思ふが為に仇とするなり私怨嫉妬の為にあ
らず若し臣が言ふ所ろ詐偽ならば昔時の一相
と同戮を甘受せん若し御許容あらば其一相の
物語りを陳述(のぶる)【左ルビ】せん
   受戮宰相の傳
是も亦/新努番努(シンドバンド)國の事に候ふが王に一人の王
子あり其/性(さか)打獵(かり)【左ルビ】を熱愛(ひどくこのむ)【左ルビ】したり王之を鍾愛し其
好む所に任せて戒めず唯其危害を防獲(ふせぎ)【護】しめん
と出獵毎に宰相に命じて陪行せしめたり一日
獵人(せこ)一匹の鹿を獵出したりしに王子は宰相後

より續くことよと思へば頻りに駿足に鞭うち獵
夫山を見ざるの喩の如く峻坂危径の嫌ひなく
心を鹿に奪はれて驀直(まつしくら)に逐ひたりしかども鹿
は逸足にして遂に之を見失なひ馬を駐めて初
めて心付き首を延して後方(あとべ)を展眸(ながむれ)ども續く者
とては一人もなく身は唯獨り廣漠たる濤山(うねやま)の
中に佇立(たゝず)めり王子は忽ち懼を懐き聲を限りに
呼び號【原文は號の異体字】べども荅ふるものは幽禽と喬木の風に
戰(そよ)ぐの音のみなり王子は益畏懼甚しく疾く歸
路を求めんと右に馳せ左に馳せて愈深く迷ひ

入り途方に暮れて躊躇(ちうちよ)する所に忽ち女子の啼 ̄キ
聲程近く聞ゆれは訝(いぶか)りながら聲ある方に馬を
寄すれば年少き女の衣裳美麗に容貌の最(いと)嬋㜏(あてやか)
なるが路傍(みちのべ)に潜然(さめ〴〵)と泣き伏したり王子怪しみ
て何人なるぞと問ひければ彼の少女荅へて兒(わらは)
は印土王の少女に侍(は)べるが臣僕と共に此野を
過る時/睡魔(ねむけ)【左ルビ】に誘(さそ)はれて馬より下に滾(ころ)げ落たり
しならん睡りてあればそれさへ知らす候ひき
今眼を覺(さま)し侍べりしに身獨りにて斯く恐ろし
き野の中に臣僕にさへも打捨られ行べき道も

得知ざれば途方に暮れて泣より外に術(すべ)を知ら
ず唯神明の保獲【護】を祈りたるに相公(との)の此地を過
り玉ひしは定めて神明の導き玉ひたるならん
にあはれ一片の情を垂れ兒(わらは)を助け玉はれやと
言ひ畢り又 潜然(さめ〳〵)と泣き伏しければ王子は不愍
の事に思ひ最易きことなり吾と累騎(とものり)【左ルビ】【一頭の馬に同乗すること】し玉へと勸
めければ彼の少女世にも嬉しき様子なり王子
はやがて其少女を抱き騎(の)せ歸路を求めんと馬
の蹄(あがき)【「あがき」とは、馬が前足で地面をかくことで、ここでは前進することを指す】を促がしつゝ行々門破れ壁/頹(くづ)れたる一廬(こや)【左ルビ】
を過ぎる處に少女姑く馬より下んことを請ふ王

子乃はち【すなわち】助けて鞍より卸し彼女は内に入りた
るより姑くすれども出で来らざれば暇(ひま)どりて
は宮に歸るに便(たより)悪し彼女は何をか猶豫(ゆうよ)し居る
やらんと馬より飛下り勒口索(たづな)【左ルビ】を執り戸外に近
づけば内に談話の聲するあり耳を𠋣て聴く所
に彼女の聲と覺しく吾が兒よ悦ぶべし汝等の
晩餐(ゆふめし)【左ルビ】に肥満(こへたる)【左ルビ】したる一人の少年を獲たりと曰へ
ば今空腹を覺へたり何䖏に居り候ふやと荅へ
たり王子は之を聞き毛骨(みのけ)いよだち馬に打騎り
一散に迯出したる所幸に大道に出て辛く虎口

を脱れて宮中に歸り入り父王に見へ食人鬼(ひとくひおに)【左ルビ】に
出逢ふたることを語り是れ全く宰相の緩怠より
起りたると語りければ王大に怒りて直ちに宰
相を殺したり今彼銅盤既に䏻く陛下不治の痼
疾を去りたるも焉ぞ後日却つて為めに大害を
起さゞるを必すべけんやと忠言らしく語りけ
る王は原来智識淺くして黒白を辨ずる䏻はず
忽ち迷ひを生じ賢相の言當れり彼れ必らず劔
を用ゆるの刺客ならず定めて毒藥を用ひて暗
殺するの刺客ならん吾先づ彼を屠戮して其伎

𠈓を施す䏻はざらしめんと朝官を馳せて銅盤
を招かしめけるに銅盤はかゝることあらんとは
夢にも知らす速かに朝に入り来れば王は之に
聲かけて銅盤汝を呼びたる意を知るやと問ひ
けるに臣爭でか知る由あらんや謹んで王命を
待つのみと荅ふ王は其時言荒らかにさもあら
ん汝を呼びたるは我身の汝が絆套(わな)【左ルビ】に䧟らんこと
を恐れ吾先づ汝を殺さんが為めなりと罵りけ
れば銅盤の驚き言ふべからす微臣何の罪あり
てか斯く無慈(なさけなき)命を下し玉ふやと怨するに王は

少しも猶豫なく汝の隠謀既に暴露(ばくろ)【左ルビ:あらはれる】せり汝元来
吾を殺さん為めの刺客なるは我に告る者あり
て疾く之を知れり如何に陳ずるとも宥し難し
と言放ち一員の朝官を顧み速かに敵國の刺客
を曳出して刑に䖏せよと命じたり銅盤は其状
を見て朝臣の中巳【己の誤字】が冨貴尊榮を猜みて王に讒【原文は異体字の谗に近いが、書体がかなり違うので採用せず】
する者あることを悟り再ひ王に向ひ微臣陛下不
治の痼疾を醫したるの功を賞するの法此の如
く苛なるや願くは微臣が露命を生存(ながらへ)しめ玊【原文は誤字で王】へ
若し王微臣を虐殺せは王もやがて其報ひある

べきにと哀訴しけれども王尚ほ之を聴かず否
々吾心既に決せり然らざれば汝の妖術を以て
吾が病を治したる如く又人知れす吾を害せん
こと鏡に照(かけ)て觀るが如しと赦す氣色なく銅盤の
両眼を布もて縛り膝【原文は膝の異体字】/折屈(おりかゞま)しめ劊手(たちとり)後へ【しりへ】に廻り
たる時銅盤再び聲を擧げ、せめて一回家に歸り
葬儀を整へ妻子に訣別(わかれ)【左ルビ】し貧者を恵み微臣珍藏
の書は人を撰んで之を與へ永く世の洪益とな
らしめ其中一本は最も貴重の者なれば是を陛
下に奉獻せんと欲す此書實に世間又あるまじ

き珍品なれば陛下永く之を珍藏せんことを望む
と言ひける時其書に如何なる効䏻ありや其を
語れと王命ありければ銅盤荅へて其書には竒
々妙々/枚擧(かぞへあぐる)【左ルビ】するに勝ゆべからざる諸功䏻あり
其は熟讀せば知り難からす試みに其一を擧げ
んに若し陛下自から其書を開き第六葉の裏に
於て第三行を一讀し玉ひて後陛下試みに問を
出さん時/軀(むくろ)を離れたる微臣の頭顱(あたま)一々之を奉
荅せんと荅へければ王は其書を得んと欲し死
一日を弛べ守兵を附けて家に歸らしめたり偖

て次の日に至れば前代未聞の竒事あるぞとて
文武の百官政㕔に群集し今や今やと待居たる
所に銅盤は守兵に取巻かれ手に一巻の冊子を
捧げ持ちて入り来り其帙を脱(はづ)して敬しく之を
王に奉り盆を請ふて帙を其上に開き載せ又之
を王に奉り。さて云ふ様微臣の頭を刎たる後頭
を以て此盆の上に置かば流血忽ち止まん流血
止む時王自から其冊子を開き第六葉裏面の第
三行を一讀し玉ひたる後何事にまれ問玉はん
に臣が頭顱一々之を荅ふべきなりされども其(そ)

は微臣が願にあらす願くは臣が無罪を亮察さ
れ死を赦し玉はれかしと言葉/曇(くも)りて嘆き請へ
ども王は首を左右に打振り其願は許し難し若
し汝が罪は寃なるにもせよ死後頭顱䏻く言語
するが如き珍事あれば此一事のみにして既に
汝が頭顱は汝が身に添ふを得ざるなり而るを
況んや汝が隠謀あるに於てをや疾く心を決し
て快く刀を受けよと言ひながら彼冊子を受取
り劊手(たちとり)に命して銅盤の頭を刎(はね)之を盆に載せし
めたる處其言の如く忽ち出血止みたり竒なる

かな此時銅盤の頭顱は眼を開き陛下其冊子を
開き玉はんやと言ひければ在聴の衆官驚き怪
まざるものなかりける。さて王は冊子を開かん
とするに葉々/粘貼(かたくつく)【左ルビ】して開き難ければ指に唾し
開ひて苐六葉に到りし處唯白紙のみなれば王
は頭顱に向ひ銅盤苐六葉には一字の讀むべき
なきぞと尋ね問ひけるに尚數葉を開き玉へと
荅ふ王は頻りに指頭に唾して數葉を開きたる
所に忽ち心身脳乱し手足を悶躁(もが)き苦痛を叫ん
て横に倒れ其まゝ息は絶へたりける銅盤の頭

顱は王の倒るゝを見て虐王吾其書に毒藥を貼(つ)【左ルビ】
附(ける)【左ルビ】せり汝の死は吾が計る處なり以て知るべし
凡そ君主其勢力を恃み無辜を殺すものは早晩(いつか)
其報あることをと言畢り王と共に頭顱の命も絶
たりとぞと漁父は語り了り魔君に向ひ若し此
時銅盤の命を助けたらば王も亦永く冨榮を受
けたらんに暴虐なるを以て自から死を招けり
今汝が形状 希臘(グリーキ)王と同じ余曩に哀を請ふたる
も汝之を允(ゆる)さず因て今の苦難を受けたるなり
余汝を愍まざるにはあらざれども已(やむ)を得す斯

く汝を待遇するなりと諭しければ魔君瓶中よ
り大漁翁願くは慈悲を垂れよ古時/炎麻(エンマ)が亜的(アテ)
加(カ)に怨を報ふたるが如きなるなかれと叫びけ
るとき漁父其委曲を聴かんことを求むれば魔君
荅へて若し君其物語を聴んと欲せば吾をして
瓶外にあらしめよ斯く狭小の器中に在りては
呼吸(いき)苦くして語る䏻はざるなりと荅ふるを打
聴て一聲髙く冷笑(あざわら)ひさても巧みに計りたり今
余窮苦の中に世を送るに一段の物語りを知る
も無益なり。いざ此瓶を海底に沈めんと瓶を滾(ころ)

がし水中に投ぜんとすれば魔君大ひに驚ろき
大聲擧げて吾猶一言せんと欲す君若し吾を免
さば汝が願ふ如く冨貴安榮を獲【原文は獲の異体字】せしめんと叫
びける漁夫は冨榮の二字を聴き忽ち自から思
ふ様魔君を永く禁錮するも吾が死を免かれた
るのみ吾が貧乏を救ふに益なし若し魔君の言
に詐りなく冨榮を得たらんには是又/無上(こよなき)幸福
にこそと思案し再び瓶に向ひ汝の言恐くは詐
りならん何を以て汝が詐りなきを證すべきや
若し汝が言眞實ならば上帝の大名に誓ふて其

誠を顕はせ。よも上帝の大名に誓ふたる盟約は
汝と雖ども破り得難からんと問ひけるに魔君
言下に誓ひける漁夫乃はち【すなわち】鉛蓋を再ひ開く所
濃霧上騰すること初めの如く終に魔君其眞形を
現はし脚を擧げて瓶を海中に蹴(け)込みたり漁夫
此 擧動(ふるまい)を見て大に驚きたる時魔君漁夫に向ひ
心を沈靜(おちつけ)よ余が今の擧動は汝を驚かさんと戯
れたるのみいで約の如く汝に福を與へんに汝
の網罟(あみ)を収め肩に荷ふて吾に跟随(つき)来れと命じ
ければ漁夫は尚危ぶみながら魔君に跟随(つき)行(ゆく)に

市中を過ぎ一山の巓を越へ廣野に出でたり茲
處に四𫝶の小山並立し中に小湖を為す者あり
魔君は其湖邉に来りて止まり網を撒(う)てよと命
ずれば漁夫は網を荷ふて湖中を觀る處に魚類
簇(むら)がるが如く鼻衝(つ)き逢ふて浮沈せり然るに怪
むべきは其魚盡く純青。純黄。純赤。純白。の四色を
為し間色(まざり)【左ルビ】の者もなく又/班(ぶ)【斑】色(ち)【左ルビ】の者もなしさて網
を撒ちたるに青黄赤白各色の魚一尾づゝを得
たり手に取り擧げて之を見るに果して未だ嘗
て見聞せざるの美魚なり是を以て市に估(う)らば

必らず多銭を得べき竒貨ならんと獨り大に悦
ひ居たり茲時魔君又漁夫に諭し其四魚を帝宮
に携へば必らず汝が身に餘る多金を得ん尓後【尓(爾)後、じご】
毎日来りて此處に漁するを汝に許さん但し網
を下すは一日に一回にてとゞまるべし然らざ
れは後悔あらん善く注意(きをつけ)よ吾が汝に示すべき
は是のみなり若し汝䏻く吾が言ふ所に従がは
ゞ汝が為に大利あらんと言なから足を擧けて
大地を踏めば大地忽ち左右に開け魔君を中に
入れ終るよと見へける時再び合して裂痕(われめ)も見

へずなりにける
   漁夫の傳《割書:續》
却説(さても)漁夫は魔君の言に従がひ再び網を撒たず
市府に歸り彼四色なる四魚を以て帝宮に齎し
之を奉りしかば帝は希代の珍魚なりと暫く熟(なが)
視(め)玉ひしがやがて一個々々に手に取り擧げ打
返し打返して一時餘り顧眄(わきめ)もふらずあり玉ひ
さて宰相に向ひ此の如き美魚其味も亦必ず美
ならんに近頃希臘王より送り越したる厨婦は
極めて工手(じやうず)【上手ヵ】なれば彼女に命して晩餐に備へし

めよと命じ漁夫には黄金四百両を賜はりけれ
ば漁夫は未だ斯(かゝ)る大金を得たることなければ若
しや夢ならんか夢ならば永く醒ざれと祈りつ
ゝ先づ試みに市に入り物を買ふたる後初めて
其夢ならざるを悟り歡喜言ふべからざりし却(さて)
説(また)厨婦は宰相の命を受け鱗を去り膓を抜き清
水に洗ひ鍋に油を澆ぎ火に上せ既に下面 炒(や)け
得て十分ならん返して之を炒かんと返し卒る
や卒らざるに忽ち見る厨壁左右に拆(ひら)けて入り
来る物あり厨婦驚ひて之を見れば入り来る者

は一婦人にして身には花卉(はなは)【左ルビ】を華麗に刺繡(ぬひとり)した
る絲緞(しゆす)【左ルビ】の上衣を穿ち頚環(ゑりわ)【左ルビ】指環は大なる眞珠を
以て作り紅宝石を嵌(はめ)込たる黄金の臂釧(てくびかざり)【左ルビ】【ひせん、本来は二の腕につける腕飾りのことだがここではブレスレットのことらしい】を貫き
手に一條の杖を執りたるが淡粧濃抹相宜しか
らざるなく眞に天人ならんかと怪まるゝはか
りの容貌あり彼美婦人は徐々と鍋の邉に緩歩
し来り其杖を擧けて一魚を鞭ちなから魚よ々
々汝尚ほ舊約を固保するやいなやと云へども
其魚黙したれば彼女又問ふこと初めの如し其時
四魚齊しく首を擧け唯々(はい〳〵)【左ルビ】若し汝尚ほ記臆せば

吾輩も亦記臆せん若し汝の屓債(おひめ)【屓は負の誤字ヵ】を償(つぐの)はゞ吾輩
も亦償はん若し汝 飛(とび)𩗺(あがる)【左ルビ】せば吾輩䏻く之を制服(おさへつける)【左ルビ】
せん其時吾輩初めて分に安ぜんと荅へければ
彼少女杖を以て鍋を覆(くつが)へし再び折壁(ひらけたかべ)【左ルビ】を過ぎて
歸るよと見れば壁は合して再び舊に復(かへ)り初め
に變ることなかりけり厨婦は是等の光景(ありさま)を看て
驚愕(おどろき)【左ルビ】極まりなく漸く吾に返りて魚を視れば既
に炭よりも黒く焼け果てたり厨婦は悲きこと言
はん方なくたとひ有りしこと共を帝に奏すると
も爭(いか)でか之を實とし玉はん愈々怒りて重き罪

に行はれんこと必せり如何(いかゞ)はせんと悶へ嘆きて
止ざりけり斯(かゝ)る處に宰相は再び厨房(くりや)【左ルビ】に入り来
り調理了りたるやと尋ねたるに厨婦は有りの侭
に之を語り寛仁の處置を願ひたり宰相は厨婦
の物語を聞きて大に驚きたれど之を帝に奏
せす程䏻く其場を執成し直ちに漁夫に人を走
せて前の如き四魚を求めけるに漁夫は明朝之
を奉らんと約し次の朝未明に彼湖に至り網を
下したる所再び昨日の如く四色の魚四尾を得
たりければ約時を違へす宰相に呈しける宰相

は魚を携へ厨房に来り己【巳の誤】が見る前にて彼厨婦
に之を調理せしめたるに厨婦の物語りたる所
詐ならす再び美女来りて魚と問荅すること毫末(つゆほど)
も違はざりければ宰相大に驚き怪み是れ異常
の怪事なり秘すべきことにあらすと。やがて帝に
謁して委曲を奏しければ帝更に四魚を得んこと
を欲し漁夫を召て之を求め玉へば漁夫は明朝
之を獻すべしと約し彼湖に至り網を撒ちたる
處同しく四魚を獲て直ちに之を帝に獻ず帝大
に喜んで再び黄金四百両を賜ひ魚をば内閣に

齎し四戸を閉し宰相をして之を調理せしめ下
面既に炒十分(やけとほり)たりいざ反して炒かんと之を反
したる時内閣の一壁忽ち開け入り来る者あり
帝宰相と共に之を見れば前日と異にして入り
来りたる者は美婦に非ず一個の大黒奴。奴衣を
穿ち大棍を右手に提けたるが禹歩(おゝまた)に走み【「あゆみ」と読むヵ「歩」の誤記ヵ】て鍋
に近づき棍を以て魚を打ながら怖ろしき聲を
發し魚よ魚よ汝尚ほ舊約を固保するやいなや
と問ふ時に四魚齊しく首を擧け唯々若し汝尚
ほ記臆せば吾輩も亦記臆せん若汝の負債(ふさい)を償

【挿絵の下】
彫刻會社製
【図書館の蔵書印】BnF MSS

【白紙】

はゞ吾輩も亦償はん若し汝/飛(ひ)𩗺(よう)せば吾輩䏻【能の俗字】く
之を制服せん其時吾輩初めて分に安ぜんと荅
へければ彼黒奴棍を擧て鍋を覆(くつがへ)し魚を火中に
投じ開けたる壁を過ぎりて歸りたるに其壁。痕(あ)
跡(と)をも殘さず再び元の如くに合したり帝爰に
於て此魚尋常の魚にあらす必らづ竒事の在る
有らんと察し玉ひ漁夫を召し問ふて纔【原文は纔の俗字】かに三
時間可りにして達すべき四座【𫝶】の小山の中央に
在る一湖より得たるを聞き朝官に命じて盡く
馬に騎らしめ漁夫を嚮導(しるべ)となし湖邉に至り見

玉ふに湖水/透(とう)明にして湖中に游泳する四色の
魚類歴々【明かにわかるの意味】として數ふべし帝は其竒觀なるを賞
して久しく注視(みつめ)玉ひしが諸臣に向ひ卿等斯く
竒にして美なる湖の斯く近地に在るを今迄知
らざりしやと問ひ玉ふに衆官口を揃へて目に
觀るは勿論(おろか)聞きたることも候はずと答へけるに
帝又の玉ふ様是實に極めて怪むべき者なり此
湖/何時(いつ)何様の事変ありて忽ち生し又其魚類何
を以て四色なるや其/縁故(ことのもと)を究めざる間は再び
宮に還らじと心を決したりとて衆官を其地に

陣せしめ帝の幕營(テント)は少しく離れ湖岸に傍ふて
張らしめたり夜に入りて帝は其幕營に入り宰
相に向ひ此湖遽かに現はれ此魚竒語を吐き黒
奴吾か内閣に来りたるが如き盡く竒異にして
吾が心為めに穏かならす必す其本源を探り得
んと決心せり爰を以て吾 今宵(こよい)獨り幕營を出で
ゝ之を探らんと欲す賢相は吾が幕營に残り留
まり明日他の宰相衆官等来らば吾れ微恙あり
人を見ることを忌むと告知らせ日を經るとも吾
が歸り来るまでは誰にも其實を洩すことなかれ

と命じ玉へば宰相其過失あらんことを恐れ諫沮(とめる)【左ルビ】
すれども帝之を聴かす身輕に打扮(いでたち)一口の劍を
帶び更闌(こうた)け人靜まるを窺ひ獨り幕營を出で玉
ひ峻險(けはし)からざる一山を越へて平野に出てたる
時は既に日出る三竿の頃なりけり其時四方を
展眸(みわた)すところ遥かに宮殿の見ゆるあり近づひ
て之を見るに黒き大理石を磨きに琢きて築き
立てたる宮殿に水晶かと怪まるゝはかりに輝(きら)
々(〳〵)と照り耀く鋼鉄(はがね)【左ルビ】を以て之が屋とし其結構善
盡し美盡せり帝は是を見て大に喜び玉ひ是亦

一竒觀なりと正門に至り門を叩ひて案内を請
ふこと數遍(あまたゝび)なれども應ずる者なければ摺門(おりど)【左ルビ】の方
に赴く所に一門の開けたるあり帝其傍に佇立(たゝす)
み人の出るを待玉ふに之を久ふして尚ほ一人
の出る者もなかりける帝大に不審(いふかし)み斯く廣殿
華宮の中に人の住するなきや人なければ懼る
ゝに足らす。よしや兇人の住處なるも自から防
ぐの術ありと獨言しながら。やをら摺門(おりど)【左ルビ】を通り
過ぎ長廊(ろうか)【左ルビ】に至りし時再び聲を限りに呼び號べ
ども應る者なければ帝は益怪しみながら進み

て廣廰(しょいん)に至れとも尚ほ人に出逢はず夫より右
に廻り左に廻り若干の室房を過る處に地氊(しきもの)【左ルビ】は
盡く絹帛《割書:古事亜細亜西邉及び西洲にて絹帛を|得る甚難く絹布を以て最も貴重の品》
《割書:となせり「シーサール」東征より歸り絹布の|上袍を穿ち朝官を驚かしめたることあり》を以
て製し寝室卧床は「メッカ」《割書:亜刺比亜|の大市》織を以て覆(おほ)
ひ戸帳は金銀を以て刺繡(ぬいとり)【左ルビ】したる印度「シャール」
を以て製したり帝尚ほ進んで深く入り玉へば
一室あり此室の中央に瀑布(たき)の下るあり何處よ
りか落るやらんと觀る所に四隅に一個/宛(づゝ)の大
獅あり各黄金を以て之を製したり各獅の口よ

り數千の金剛石ならすば必ず數万の眞珠なら
んと怪しまるゝばかりなる數千條の水を噴(は)き
出し室の中央に湊合(あつまる)【左ルビ】して一條の瀑布を成せる
なりさて四方を觀る所に此城には園庭甚多く
中に各種の嘉花竒木を栽へ又珍禽群を成して
飛鳴し鳥の飛び去るを防ぐ為ならん黄金の罔
を園上に張れり帝は其構造の壮美を驚きなが
ら尚ほ若干の房室を打過ぎ玉ひたる時夜前よ
りの倦怠(つかれ)を覺へ玉へば暫く休憩(いこは)んと遊廊に𫝶(す)【左ルビ】【座のJIS標準外の異体字、入力タブで文字化けするが閲覧タグでは表示される】
下(はる)【左ルビ】し園面を望み玉ふ所に忽ち聞く壁を隔てゝ

悲號する者あり耳を傾け聞く所に噫(あゝ)保留丹(ホルタン)神
よ《割書:保留丹は|善神の名》助け玉へ汝既に己が快樂を計らん
が為め吾を久しく苦しめたり最早吾を苦しむ
ることを止め速かに吾を殺して此苦悩を免がれ
しめよと言ふ聲手に取る如く聞へたり帝は此
號聲を聞き直ちに起立し聲を嚮導(しるべ)に一室に至
り戸帳を取りて蹇(かゝ)【搴】げ擧げ室内をさし覗(のぞ)けば小
髙き玉㘴の上に一人(ひとり)の少年あり衣服美々しく
装ふたるが面㒵衰へ深き憂のあるに似たり帝
之を見進んで礼を施こせしに彼少年は起立せ

ず但其頭を下低して答礼し。さて言ふ様何人か
は知らざれども余が無禮を恕(ゆる)し玉へ吾身不幸
にして竒禍に逢ひ正禮を行ふ能はすと言葉静
かに演(のべ)けれは帝は答へて汝の擧動(ふるまい)【左ルビ】如何んに関
せず既に汝の講情(いひわけ)【左ルビ】あり余身に於ては猶ほ敬礼
を受けたるの想あり余が此處に来りしは今彼
處にて汝が悲號を聴き特に汝を救助せんとの
為めなり我をして此地に来らしめたる者は上
帝の誘引に因れるならん故に余上帝の大命を
奉し力を盡して汝を救助せん。されども先づ吾

が為めに此城に近き湖水のこと又其魚の四色な
ること又此城の此處に現出したるは如何なる由
縁なるか何を以て汝獨り此城に住するやを詳
説し玉へと請はれにければ彼少年は言葉なく
唯悲涙を浮べながら其/上袍(うはぎ)を蹇(かゝ)【搴の誤字ヵ】げ擧げたり帝
之を見れば怪しむべし此少年は胸部より以上
のみ人にして胸部より以下は黒き大理石(マーブル)【左ルビ】と化
したりけり帝は之を見て彼少年に向ひ汝の吾
に示したる者は愈々 竒怪(ふしぎ)なり先づ汝の傳記(みのうへ)を
余に語られよ湖と云ひ魚と云ひ必ず汝の傳記

と相関する所あらん速かに物語りて余が疑心
を晴さしめんことこそ願はしけれ又世間不幸の
事も其艱難悲愁を人に告るときは少しく其れ悶
欝を軽減(へらす)【左ルビ】することを得るものなりと諭し玉へば
少年は熟(つら〳〵)之を聞きさて云ふ様慎んで命を奉ぜ
り言永く共余が悲しき傳記を聞き玉へ
   黒島王の傳
此國は黒島國と號し余が父 眞父武土(マフムード)は之が國
王たり其黒島國と名づけたる由来は君が見た
りし四山より出たり彼の四山は徃日(さきごろ)までは皆

海島にて彼湖の在る處は正に吾が父の都城な
りき余が父死して余位を繼き従弟女を迎へて
妻となし琴瑟在御(ふうふなかよく)【左ルビ】偕老同穴を約し最樂しく五
年を過せしに爰に不快の一事出て来たりけり
一日午飯も果て吾が妻沐浴せんと出行き余は
一睡せんと卧榻に横はり二人の侍女をして前
後に在らしめ毛扇をもて暑氛を殺(そ)き蒼蝿を拂
はしめ目を閉ぢ睡れるが如く他事を思考(かんがへ)居た
りしに侍女等は余が熟睡せると思ひてや聲を
低(ひそ)めて私語(さゝゆく)を聴けば一女先づ口を開き斯く可(いと)

憐(しき)王を嫌ふて他人を愛するとは王后/錯(あやま)てり王
后は是非を辨せざる者に似たるにあらすやと
言ふに一女答へて然り汝の言當れり然れども
王后宮を出で他に行くは毎夜の事なり王の知
らざることはよもあらし知りて恣にせしむるは
最(いと)不審(いぶか)し是れ眞に觧すべからざる事なりとい
へば先の女又答へて王如何にして知る由あら
んや王后は何やらん草液(くさのしる)【左ルビ】をもて酒に和し毎夜
之を王に飲ましむるが故に王は忽ち先後も知
らす死睡し王后の出入を知らず黎明(しのゝめ)の頃に王

后は歸り来り王の鼻に香氣ある物を當つれば
王は忽ち睡醒るなりと語りたる時余新たに眠
り醒めたる假態(おもゝち)して眼を開きければ侍女等は
口を閉ぢたりさて余が妻は沐浴より歸り来り
晩餐を果て卧床に就かんとする時 例(つね)の如く自
から一杯の酒を持来れは余は其杯を把りなか
ら庭面(にはもせ)を觀る假態(ふり)して密に之を窓外に溉(そゝ)ぎ了
り一滴も餘さす飲盡したるを示さんが為め特(わざ)
と其杯を吾が妻に還し與へて直ちに卧床に横
はり熟睡せるふり做せしかは吾が妻は。やがて

起き上り美服を着飾り香を薫(くす)べさて余に向ひ
死睡せよ死睡せよ汝の睡り終身醒めざれ吾既
に汝を厭へりと數遍繰り返し室を出で去りた
る時余も亦直ちに飛び起き手早く衣裳を引き
披(かけ)劍を提げ足を極めて逐ひかけしかば忽ち前
面に履響(くつのおと)【左ルビ】聞へたり近付ひて悟られじと是より
歩(あゆみ)を緩め見へ隠れに随ひ行くに吾か妻門に至
れば輙(すなは)ち何やらん咒文を唱ふる所忽ち門は左
右に開けたり斯くして數多の門を過ぎ終りに
園門に至る時も亦先の如く咒文を唱へて中に

入りたる時余は此門にて留まり暗夜なれども
眼を凝(こら)して覗(うかヾ)へば吾が妻は林の中に歩み入り
たり其林は密樹をもて生籬(いけがき)とし門外より進み
近づくべければ是れ幸ひと路を違へて門外よ
り茂林に達し籬外に身を躱(かく)して覗ふたるに吾
が妻は一個の男と伴なふて行々物語るを聞け
ば妖術をもて土地人民を滅絶し二人して憚る
處なく世を送らんことを計るなり是時余怒りに
堪へ兼ね劍を抜き持ち躍り入り其男の背を斫
しかば其男は苦(あつ)と一聲叫びたる儘忽ち仆れた

り余が妻は親族なれば手づから殺すべき者な
らすよりて之を許し足早に籬外に走り出でた
れば吾妻は其情郎を害したる者の誰人なるを
知らす只悲み叫ぶのみなれば余は心地よく直
ちに宮裡に歸り卧し。そしらぬ風(ふり)して卧床に横
はりたり余が斫りたる創は最深くして忽ち死
すべき程なるに吾か妻の妖術を以て其生を尚
ほ保たしめ死とも云ふべからす生とも云ふべ
からす恰かも是れ入定の有様となし一處に隠(かく)
匿(まい)おき。さて夜も明け方に近き頃歸り来りて吾

を醒し両親及長兄の死報を聞きたるとて䘮服
を着し大小/悲(かなし)み號び為めに一廟を建てゝ時々
參詣せんことを乞ける余其/虚誕(いつわり)たるは知るとい
へども其情郎を害したるは余が業なることを察
せられじと故(わざ)と其孝心を賞し之を允(ゆる)し壮嚴を
極めて一廟を建て圓屋を備へ既に峻功(できあがり)たる時
之を墮涙廟と名けたり彼處に見ゆる圓屋即其
廟なりと帝に指さし示しさて吾が妻は姦夫を
墮涙廟に移し其後廟に詣(もふづ)ると號し朝夕彼處に
往き姦夫を看護(かいほふ)したり吾妻廟に篭り初めたる

より數日を過ぎたる頃余其/光景(ありさま)の如何なるや
らんかそを見聞したきこと堪がたければ密かに
廟裏に入り窺ふ處に吾が妻は半死半生にして
㘴卧も自(み)からする能はざるのみか言語さへも
不自由にて宛然(さながら)唖の如くなる黒奴に體し最/懇(ねんご)
ろに慰めつゝ心を盡して看護(かんご)するを見て再び
憤怒を忍び難く奸夫姦婦を誅せんと劍を抜き
持ち跳り入りたる所に吾妻は少しも恐れず冷(あざ)
笑(わら)ふて左程に怒り玉はすともよからんにと云
ながら咒文を唱へ又聲髙 ̄ニ吾が妙術を以て汝を

して半石半人たらしめんと云かと思へば今君
の見るが如き淺間敷形と変じ死躰は生人と伴
なひ生躰は死人と連なれり彼の毒婦余が形を
是の如くなしたる後余を此宮に移し我が都府
を滅ぼし宮殿を消滅し人口稠密にして繁昌な
りし國をして今君が見る如き湖水不毛の地と
変ぜしめたり彼の湖中四色の魚類は元来四教
徒の市人なり乃ち白き者は回々(マホメツト)教徒にして赤
なるは火を拜するの比耳西(ペルシヤ)教徒なりし又青き
者は基督(キリシタン)教徒にして黄なるは猶太(ジユデヤ)教を奉ずる

者共なりし余が是等の事共を知る者は余が悲
痛を増さしめんが為め毒婦が口づから余に告
知らせたるに因れり毒婦余に仇する是に止ま
らす尚ほ日々に来りて衣裳を褫(うば)ひ裸躰(はだか)【左ルビ】となし
背に一百の鞭を啖(くら)はしめ流血常に身に徧き【読みは、あまねき】に
至りたる後山羊の踈服【そふく、粗末な服のこと】を肌上に蓋ひ其上に此
刺繍衣(ぬいとりぎぬ)【左ルビ】を掩ひたり其刺繍衣を掩ふ者は吾を敬
ふが為ならす唯吾を嘲侮せんとする者なりと
語り畢りて少王は悲憤の涙止敢す聲を放つて
泣伏しける帝は始め終りを熟(とく)と聴き共に感傷

やるかたなく手を拱ぬき頭を垂れ黙し玉ひた
り暫時(しばし)ありて少王天を仰ひで大息し吾が今日
の不幸は決して人事ならす必らず天意に依れ
るならん是を以て苦悩を忍んで人天を恨みず
只願くは上帝吾が誠心を鑑みて将来の幸福を
與へ玉へと祈念しける是時帝は少王の資質(うまれつき)善
良なるを知るからに。愈(いとゞ)不愍やるかたなく。いか
で為めに怨を報ぜしめんと心を決(さだ)め少王に向
ひ世間君が如き危禍に苦しめらるゝ者二人と
はあるべからす唯君の傳記中に尚ほ一事の不

足する者あるを覺へたり其(そ)は他にあらす即ち
復讎の一事なり余必らず力を盡して君が為め
に復讎を謀らんと此地に来りたる一五一十(いちぶしぢう)を
少王に告げ復讎の計策を相謀り毒后毎朝少王
を苦めたる後姦夫を見舞ふこと及び姦夫が言語
する能はざるを歎く等のことを聴得て帝忽ち一
計を工夫し少王に示しければ少王甚だ之を悦
び明日其事を行はんと帝は夜も䦨(ふけ)たる時少し
睡眠(まどろみ)玉へども少王は妖婦に魅(み)せられてより以
来一刻の睡もならざれば帝の為めに周夜(よもすがら)警備(こゝろづ)

け其復讎の成否は期すべからさるも尚ほ一点
の冀望【きぼう】なきにあらざれば僅かに慰むる所あり
て最(いと)賴母敷(たのもしく)覺へ玉ひけり斯くて帝は次の朝。曉
と共に起き出て玉ひ其計を行はんと上袍(うはぎ)を脱
ぎて軽装(みがる)に打扮(いでた)ち時を計り墮涙廟に【「に」の左側がやや消えていると判読】至りて見
玉ふに内には數万の白蝋燭の火把(たいまつ)【左ルビ】を尚ほ煌々(こう〳〵)
と燭(とも)し連ね數千個黄金の香爐よりは數千條の
烟り上騰(あがる)【左ルビ】し妙香鼻を衝(つ)きたり帝は直ちに進ん
で後堂(おくざしき)【左ルビ】に至り見玉ふに姦夫なる黒奴は唯獨り
死するが如く生けるが如く卧榻【がとう、寝台のこと】に横はり居り

たり帝は之を一刀に誅戮し之を程近き井の内
に投げ棄て再び返りて姦夫の卧榻に横はり劍
を懐ひて待構へたり再説(さてまた)少王の宮には帝の出
てたる後 少間(しばらく)ありて妖婦なる王后は黒島王な
る丈夫の室に入り来り少王の哀を耳にも入れ
す其苦を叫び痛を呼ぶを見て心地善げに汝吾
が情郎をして彼の状となしたるは情ある處置
と云ふべきや然るを奈何ぞ獨り汝を遇する苛
虐ならざるを得べけんやと嘲けりながら一百
の鞭笞を背に負はせ了はり山羊の踈布【疎布:そふ、あら布のこと】を肌上

に蓋ひ其上に刺繡の美服を被せ踵を旋らして
墮涙廟に至り閾を越へて入り来りながら伏し
たる帝を情郎(おもふおとこ)【左ルビ】なりと思へばや聲 曛(くもら)【曛について、5コマ3行目の明け方の「明」の篇と同じなので日篇と判断】せて君こそ
は妾が腹なり光なり又精神(たましひ)とも思ふなるに恒(い)
常(つも)一言の返し言なきは餘りに情(なさけ)なし今朝こそ
は一言の返言して妾が悲みの眉を開かしめ玉
はれやと聲を擧て號(なげ)きければ帝は黒奴に假(に)せ。
さも疲れ果たる如き聲音にて一言答へけるに
妖婦は天に欣び地に喜び可憐夫(いとしきつま)よ今聞きたる
言は吾耳の過(あやま)ちにはあらすや眞に君が口より

出たるにやと喜んで手の舞ひ足の踏ところを
知らす進み近づかんとする時帝は可笑(おかし)さを保(こら)
へ猶(なほ)黒奴の聲音に假せ毒婦め汝と談話(ものいふ)は最(いと)穢(けがら)
はし疾く何處へなりと出て行けと答へければ
妖婦忽ち哀み號【読みは「さけ」び、號の旁の虎が異体字の乕となっている】び君は汝を罵り玉ふや最(いと)怨(うら)め
し何事の氣に逆(さか)ふてか斯く怒りを起し玉ふや
と問ひ返せば帝又/低聲(こゞへ)に汝日毎に汝が正夫を
呵責(かしやく)し其哀號天に通じたるを以て吾が病勢の
治癒を妨ぐるなり否(しか)らざれば既に吾が病は昔
し話しとなり又吾が舌は既に圓滑昔の如くな

りしならんに汝が此悪行の為に吾が舌縮(しゞ)まり
身は疲れ平生(いつも)聲の出で難きなりと答へ玉ふ滛【滛は淫の異体字】
后再びさらば吾れ彼をして元形に復せしめん
然(さ)ることとは知らすして今迄多少の辛苦せしは
吾ながら愚なりき又吾が所天(おつと)も早く之を告げ
られざりしは可恨(うらめし)くこそ候へ吾が先夫を元形
に復さんは君の情願より出たるやと問ひ返す
に帝又答へて然り速に彼を濟へ。さらば吾が病
は頓(とみ)に平癒すべきなりとの玉へば滛后直ちに
墮涙廟を出で王宮に入り盃に水を盛り咒文を

唱ふれば其水/忽地(たちまち)沸騰せり妖后直ちに少王の
室に至り其水を少王に濺(そゝ)ぎながら若し造物主
汝を罪して此形と造りしならば此形を変ぜざ
れ若し吾が妖術を以て此形と変ぜし者しなら
ば汝が天賦の形を再受し元形に復れと唱へ了
りたるよと思へば少王忽ち元形に復り起立し
て恩を上帝に謝したる所に妖后は王に向ひ速
かに此宮を出て去り再び歸り来るなかれ若し
再び歸り来らば其時決して赦さじ疾(とく)々と追立
られ少王は是非なく宮を出で起手(てはじめ)既に思ふ如

くなれば後事も失敗(しそこな)はじと想へども尚覺束な
く上帝に祈り後の安否如何と待居たり妖后は
足を空(そら)に墮涙廟に走(はせ)歸り尚ほ榻上の帝を情郎
なりと誤信(おもひたがへる)【左ルビ】しければ聲を擧げて可憐夫(いとしおとこ)よ既に
君の命に随ひ事果てゝ歸り来れり君の容体如
何んぞやと問ひける時帝は猶黒奴の聲を假せ
聲音(こはね)低(ひく)く汝が為せし事未だ全く吾が病を平癒
せしむるに足らす唯一半の苦惱を去りたるの
み汝速かに根本を撃打せよと命じ玉ふ妖后/不(いぶ)
審(かしみ)ながら根本を撃打するとは何事ならんや觧

し難く候と問ひければ帝又汝尚ほ觧せざるや
乃ち都府國民四島等汝が妖術を以て壊滅(ほろぼ)した
る者を云ふなり彼の魚類毎夜頭を擡(もた)げて上帝
に哀訴し復讎を計りたるもの亦吾病の長く癒
へざる由縁なり疾く行きて萬物を元の形に復
すべし斯く為し果て歸り来らば吾れ其時吾手
を汝に與へんに汝吾を助けて起立せしめんや
と尚黒奴に似せての玉へば妖后此言を聞き情
郎の平癒目前に在りと喜び勇んで吾が心膓な
り精神なる可憐夫(かれんぷ)よ汝の平癒は時を移さじ悦

びて待玉へと言ひながら再び墮涙廟を出で湖
畔に至り手掌に水を掬し二三語の咒文を唱へ
ながら湖面に濺ぎける所見る間に都府現はれ
出て魚類は盡く回々(マホメツト)。基督(キリシタン)。比耳西(ペルシヤ)。猶太(ジユデヤ)。の四教徒
となり老少の男女一時に現はれ中に主あり奴
僕あり家として人あらざるはなく人として財
産を保たざるはなく萬事変形以前に在りし者
と異なることなし帝に従がひ来りたる宰相以下
諸従僕等湖畔に陣を張りたると思ひたる者遽
かに廣大華美にして人口稠密なる一都府の中

央に立ちたるを見て驚愕せざる者なかりける
再説(さてまた)妖后は萬物を回復し直ちに墮涙廟裏に歸
り入り吾が可憐夫よ一々君が命の如く成し果
てたり。いざ起立して君の手を與へ玉へよやと
呼びければ帝は仕濟したりと喜びさらば近く
寄り玉へとの玉ふに妖婦は喜びながら近寄り
来るを待付け忽ち俄破(がは)と蹶(はね)起きて左手に妖婦
の手を把(とら)へ右手に劍を揮ふて薙(なぐ)ところに妖婦
の身軀は腰より別れて両段(ふたきだ)【左ルビ】となり一半は戸外
に僵(たふ)れ一半は戸内に落たりけり帝は思ひの儘

に仕遂げたれば喜悦限りなく死骸を其儘打捨
て置き墮涙廟を出で黒島王に尋ね逢ひ君が仇
敵既に吾が手に死せり怕るべき者更らになし
是より君は妨碍(さはり)なく都城に住することを得べし
唯吾と共に吾都に来ることを煩(はづら)はさんのみ君も
定めて知らん比隣の地なれば敢て否み玉はじ
吾國に来り玉はゞ國人必らず君を敬待する猶
ほ君の臣民の如くならんとの玉ふに少王敬ん
で吾が大恩ある宇宙の大君たる陛下のゝ玉ふ
言を考ふるに都府相接すると思ひ違ひ玉へる

と見へたりと怪み問玉へば帝又唯三四時を費
さば速かに達すべきのみとの玉ふ少王忽ち悟
り陛下此地に来り玉ふことの斯く容易(たやす)かりしは
吾國妖術の為に縮小されたればなり然るに今
既に妖術除き萬物古に復りたれば早行夜宿(はやくおきおそくとまる)【左ルビ】も
尚ほ一年の久しきを費やさん。されどもたとひ
地は遠く路は険(けは)しく地極より地極に至る旅途(たびぢ)
なりとも爭でか恩人の随行を否まんや吾れ不
才にして報恩の術を知らず唯吾が身を君に任
せ國家を捨るも悦んで陪行せんとの玉ふに帝

は思はす身は斯く遠地に来りたるを聞き驚き
玉ふこと大方ならざりしが暫くありて少王に向
ひもし君を得て吾が子となすことを得ば斯る長
途の勞を償ふに餘りあり吾に子女なし是を以
て君を請ふて嗣子となし吾か帝國を譲らんと
欲するなり。若し承諾あらば吾身の大幸なり君
に取りても敢て不利ならじいざ同行し玉へと
説勸め玉へば少王は悦ぶこと限りなく父子たら
んことを約し宮裏の重宝を一百頭の驢馬に負せ
騎士の精鋭なる者五十人を従がへ帝諸共に黒

島國を打立ち長き旅路も障碍(さはり)なく既に都に近
づかんとする前數日に人を馳せ歸都を報し兼
てその遅延の由縁を告しめければ大臣初め満
城の臣民數を盡して出迎へ大臣等は先づ國中
の平穏を奏し市民は帝の恙なきを祝して數日
の間歡び歌ふ聲/都城野村(みやこもひなも)【左ルビ】に充満せりさて帝は
其次の日百官を集めありしことともを精く説知
らせ黒島王を養ふて嗣子となすべきことを令し
少王は帝城に留まり黒島國には大臣を派遣し
て之を治めしめ官等に随がひ臣民に賜與する

こと各其/差(しな)あり帝は此時尚ほ彼の漁夫を遺忘せ
ず此/回(たび)數十万の生靈を救濟したる大功業も其
本は彼に因れりと漁夫を召して美服を賜ひ家
に二女一子あるを問ひ知り一女を自からに一
女を太子に娶り其子をば出納官となし漁夫は
當時の豪冨中の冨者と称され二女は長く帝后
となり共に冨貴安樂を得たりと世の口碑に傳
はり【別本より判読】たりと助邉良是土新皇后は最(いと)面白く語り
卒(おは)り又帝に向ひ若し漁夫の物語りを以て之を
担夫(にもち)【左ルビ】の物語に比すれば未だ甚だ竒とするに足

らす候との玉ひければ帝愈興あることに覺へ玉
ひいざ疾く其担夫の物語りを語り繼ぎ玉へと
耳を傾け促(うな)し玉ふ新皇后果して何等の竒談か
ある看官之を次編に會せよ



《割書:開巻|驚竒》暴夜物語巻之二《割書:終》

【奥書】
暴夜物語 次編近刻 BnF MSS【蔵書印、フランス国立図書館BnFが所蔵する写本を示す】
明治八年五月七日官許
發兌 東京亰槗【京橋の異体字】銀㘴三丁目
書肆 山城屋政吉

【裏表紙の見返し】

【裏表紙】

【背】

【上小口】

【前小口】

【下小口】
暴夜物語二【小口書、右からの読み】

BnF.

《題:ひともと菊《割書:下》

ときはひかしのたいやゆきしそく申
さんといひけれははりまの三位申やう
宮の入せ給ひけるかさらは申給へよこの
ひる程に浅ましき事こそ有つれ
さへもんのつほねこんの少将申けるは
宮のかよはせ給ひ候へともかなふへくも
候はすこれ程にならせ候へはいか成ふしの
さもあらんに見えさせ給ひて我〳〵
おもはこくみ給へと申せはひめきみ聞 
入たまはす候ひつるをやかてくるまよせの

せまいらせておいするほとに浅まし
くて宮の入せ給はゝいかゝ申へきそと
申けれと返事もせす行ゑもしらす
出させ給ひて候あさましき事にてさ
ふらふと申給へと有けれはときわ
まいり此よし申けれはさやうの事
はよもあらしはりまの三位かしわさ成
あはれ兵衛の介なかされし時取いたして
いつかたにもおかんと思ひし物を心を
くれしてうきめをみるかなしさよいかな
らん有さまにてうしなひつらむいまた命
もあるらんはかなくもなし参らせつらんと
ちゝに御心をくたかせ給ひて爰かしこを
御覧しけれ共物のくそくなんともした
ためすたゝかりそめに出たる様なりと
ひめきみおはしましたる所をなつかし
くおほしめしてはらく御さまりけ
れとも人なけれは御心にもそます
なくさみもをはしまさすこ覧しまは
し給ひけれはきちやうのひほにむ

すひたる物有取て御覧しけれはひめ
きみの御手にてかくなん
 うき人になをさしそへてかなしきは
 たゝつれなきはいのち成けり
身はうきふねのよる方もなく成ぬる
なりいかにも聞しめす事あらは後
世たすけ給へとそかゝれたり宮是を
御らんしてあはれやすからぬ事かな
とおほしめしはりまの三位をいかに〳〵と
うたかわせ給へとも今の御門の御めのと
にてかたをならふる人もなし思ふともかな
ふまし今たゝうちしつれ御なみた計
なり御名残もをしけれはこれにてよ
をあかさはやとお覚しけれとも三
位をる?ましくおもひてうちにてわら
はん事もはつかしかへらんとおほしめし
て御くるまにのりみやす所へ帰り給ひ
てより後はひんきも聞しめさす
しのひの御なみたはかりやるかたも
なし扨そのとしもやう〳〵暮あ

くるやよいの比にも成しかは宮のはゝによ
うご聞しめしいかにや宮の御なやましけ
にわたらせ給ふいかゝしてなくさめ参らせ
たまへ春のあそひにはまりに過たる物
はなしとて大内にしかるへき人〳〵参り
てみやの御内にて御まり有人々はよろ
すの御あそひにも兵衛の介とのゝ御
事おほしめしわすれ給ふ事なし
いか成御やうたいにてかをわすらんと
みななみたをなかさせ給ふ中つかさの
中将のたまふやうされはこそししうのな
ひしみかとにたにもなひき給はぬか
此ひやうゑのすけにあひそめてしのひ〳〵
にかよひけるかあかぬわれをかなしみ
て御宮つかひもしたまはてたゝつほね
になきしつみゐたまへなと申給へは
宮聞しめしてけにやしゝうのなひ
しははかなきよしをきゝし物をなつ
かしくこそおほゆれいてやとふらはんと
て御なをしあさやかにめして大内へ参

給ひけり扨もまつかのつほねを御覧し
けれはなひしは柳五つきぬきてさく
らつくしのこうちきもみちきぬかた
はらにぬきてをきひき物によりかゝ
りうちふしたるまくらにより給ひて
おはしける宮仰けるやういかにやおな
しゆかりと思ひ給へよとふらはんと
てまいりたりとのたまへはなひし
うけたまわりひやうふきやうの宮に
てわたらせ給ふにやとてもみちきぬひ
きてちとなやむ事にてふして候と
何となく申てうちそはみたるけし
きひやうゑのすけおもひつきけるも
事わりなりされとも我うしなひて
なけく人にはおとりたり人を御覧
つるにつけてもひめ君こひしくお
ほしめしけり又かたはらを御らんしけれ
はやなきかさねのあふきありけるを
何となく御覧しけれはけんそうの
やうきひとつれさせ給ひてりんそう

きうに御ゆきなりなんてんのうちや
う〳〵しつまり物すこくしてけいしやう
うんかくの袖かせにひるかへすたひに
たへまのかさりくもる成のちにことな
らすちやうせいてんに出給ひみかとや
うきひのてをとり給ひて天にあらは
ひよくの鳥と成地にあらはれんりの
ゑたとならんとちきり給ひてたち
ける所をあふきに
     かゝれたり

【挿絵】

宮これを御覧すれはなひし申けるはむ
かしもためしあれはこそゑにもうつ
しつたふらん今人ことにかなしき恋
をするとて
 やうきひのことつてしけるむかしより
 いきてわかるゝ我そかなしき
と申けれは宮いまよりはかよふにい
ひてこそなくさみ候はんつれとてゆかり
の草とおもひ給へとせんしありけれ
はなひしあらかたしけなやとそ申ける
扨宮かへり給へは人こそおほけれはりまの
三位まいらせてうちゑまいり御門に申
やうひやうふきやうの宮こそなひしの
本へかよはせ給ひ候へかのないしをはせん
し成て四位の少将にあはせたひ給へと
申けれはひやうふのつほねこれをきゝ
てないしのつほねにかたりけるやうさん
みこそしか〳〵との給ふなれと申給へは
ないし心うやたれゆへにあかぬわかれ
をして物おもふ身とはなりぬるそや

これにかくて候はゝいか成事も候はぬさ
きに大りを罷出んと思ひ候なりうれ
しくもきかせ給ひ候物かな此世におゐ
ていかてかわすれまいらせんやかてまかり
出候はんとのたまへはひやうぶ御名残をし
みなき給ふなひしめのとのもとへ文を
つかひ給ひてちとかせの心地有しは
らくいたはらんとおもふ成のり物いそき〳〵
とかゝれたりあはてゝくるまをまいらせ
けれはなひしさすかになこりをしくて
我十三よりまいりてことし七ねんに成
そかし何と仕ける御宮つかひのはて
そやとかなしみてしはらく出もやら
すみくるしき物ともとりひそめいて出
けるころはやよひ十日あまり事なれは
おほろ月花のこすえにまかひてことに
あはれに見えしかはひやうぶのつほね
かくなん
 我あらはなをたちかへれ春かすみ
 うらみにおもふ雲ゐ成とも

とゑいし給へはまたないしも
 春かすみたちはなれなは雲にいり
 月に出るとめくりあふへき
かやうにうち詠なひしなく〳〵くるまに
のり出給ふめのとのもとにゆきつきて
そのまゝうちふしなくより外のことそ
なきさるほとにその年の暮にめの
としよりやう【所領】たまわりてないしの枕に
たちより申やうふんこ【豊後】こそよろこひ
にあひ候へさつまの国をたまはりてこそ
候へたゝならはかくはかりよろこふへきに
候はねともゆへなくなかされ給ひしひ
やうゑの介とのおはしますかたにて候
とても御宮つかひもすさましくを
ほしめし候はゝ思ふにはとら【虎】ふすのへに
くしら【鯨】のよる島と申ためし候なり
出させたまへさつまの国えく【具】しまいら
せんと申せはないしよろこひて父はゝ
にかくれめのと斗【計-ばかり】をたのみやよひ廿日
比に都を出いつしかならぬふねの内のすま

ひを心ほそくあけぬくれぬと行程に
さつまかたへそつきにけり国のしんはいま
つり事然るへきようにしてめのと人
にとひけるはなかされ人すみ給ひ
つる所やしろしめしたるかをしへ給へ
とありけれは人の申やうなかされ
人わたり候
   ところは是よりほとなく
    はつか廿四てうと申
      けれは

【挿絵】

めのとよろこひひめきみに申やう
御文あそはしてまいらせ給へこれよ
りほとなく候と申けれはないし
取あへす
 身をすてゝみるめかりにやあた波の
 うらまてふねをいそきけるかな
おほろけにやなんとゝかゝれたりない
しのめのと子にいまたはらはにて
ありけるをめしてこれをもちてまいれ
とてよくをしゑてまいらせけれはかの
所へたつねゆきひやうゑのすけとのに御
文をまいらせけれはよろこひ給ふ事か
きりなしやかて返事あり
 あたなみの浦にいか成ちきりして
 身をすてゝのみみるめかるらん
とかくの申ことなしたゝいそき〳〵入
せ給へとかゝれたりめのとよろこひ
てあしろのこしにのせ奉りておはし
ますないし御覧しつれは磯へにかけ
たるいゑのさすかよし有てゐに見えた

りいその春風いと身にしみ給ふらん
かゝる所にをはしたるよと見るに
なみたもとゝまらすたかひにやせく
ろみたる恋のすかたにてとかくの
こと葉も出すやゝありて御物かたり
有わかれしよりいままての事とも
かたり給ひけれはよそのたもと
もしほりけりさるにても都には
何事か候ひつるととひ給へはなひし
申給ふ三条のひめきみこそうせさせ
給ひて候へみやはたゝ一すしの御物
おもひにてくこ【供御】も聞しめさすとかた
り給へは兵衛の介殿なひしにあわせ
給ひ此ほとの事ともすこしはるゝ
心ちしたまふにいもうとの姫君うせ
たまふときゝ給ひて又かきくらす心ち
してあはれさたとへんかたもなし思ひ
つる物を命をやうしなひつらん又いかなる
物にもとらせてやあるらん今は此世に
あらしされは今一とあふ事もかたかる

へしさらはしゆつけをもしたゝ一すち
に此人の後世をとむらははやと思へとも
ちゝはゝにもかくれわれを頼くたり給へ
るないしをうちすて奉り候らはんもさ
すかにおほえていまはしら?〳〵【他本「いましはらく」】ほとへて
いかにもならんと覚しめしいままては
まひ日御きやうよみ給ひともそのゝ
ちは御きやうよみ給へ共いもうとの後
世たすけたまひ給へと朝夕いのらせた
まひけるさるほとにひめきみはきや
うにて四条あたりにをしこめられて
なきふし給へりそのいゑのあるしのし
たしき物はりまの国のもくたい【目代】にて
有折ふし此家に入けるかすきまに
此さしきのかたを見るほとに姫君を物
こしにみ奉りあらいつくしやと思ひ
うちへ入まついふへき事はさしをきて
此さしきにはいかなる人のすみ給ふや
らんさもいつくしきすきかけ【透き影】の見えつ
るはといひけれはあるし申やうあれは

やこやとなき人の世をしのひておはします
とかたりけれはあわれとかむる人をわ
せすは我にあわせ給ひかしたれもい
ちことほしき事あらせしと申けれ
はあるし思ひけるははりまの三位はい
かにしてうしなひ奉らんとのたまへ
ともいたわしさにあかしくらすなり
さらは此人にあわせはやと思ひむす
め十二三はかり成をよひてけふはさしき殿
へまいり御みやつかひ申て夕さりは
しやうしのもとにふしてかけかねはつ
しあの人をいれまいらせよとよく〳〵を
しえけるれいならすきりめきはたらき
けれはこんの少将あやしくおもひて
此物をすかしとはんと思ひうれしくも
まいりたりなとや此程は参らさりし
そ今よりは我をおやと思ひていわんこ
とを何事も人にかたるなよ我も人
にかたらしさるにてもさき〳〵は参らさ
りしか何のやうにまいりたるそとひ

とつもへたてす有のまゝにかたれよ
ゆめ〳〵人にいふましとさま〳〵にとひ
けれはをさなき物にて何心なくありの
まゝにそかたりける姫君きゝもあ
ゑすなき給ふこんの少将あらうらめしの
御事や兵衛の介とのなかされ給ひし
時つゆともきゑさせ給ふへきに今
まてなからへさせ給ひてかゝるうきめを
御覧する事のかなしさよねかわく
はかみ仏たすけ給へといのりけるこ
そあはれなれけふは日も暮すして
あれかしとねんしけれともかひそな
きさる程に日もくれけれはこんの少将
おさあひものを我あとにふさせて姫
君をはさへよりあなたへやりまいら
せて我身はひめきみのおはしける所
にふし夜にかく成ぬれは火をしやうし
よりあなたにとほしてかけかねよく
かけたら清水のかたへむかひて南無大
ひくはんせおん我十三より月まふてを申

三十三くはんの御きやうをよみまいらせし
ひくわんむなしからすは姫君のよの内
のなんをはらゐてたひ給へそれかなはぬ
ものならは御命をとらせ給へと申ける
され共夜ふけけれはかのたゆふきたりて
爰あけよやおさあい物とてしやうし
うちたゝきひめきみやおわすらんとひき
あけれともうちよりつよくかけたれ
はひけともさらに
      あかさりけり

【挿絵】

しきふの大夫をそろしき声にてあらおこ
かましこよひこそ入させ給はす共あした
はとく〳〵参りけんさんに参らせ候へき由
こよいはゆるしまいらせ候とて帰りけるこ
そくはんおんの御たすけとうれしくこ
よひこそのかるゝ共あすはおし入らんと
心うくてねもいらすさしきたかくてい
つくよりもれ出つへきやうもなし四
条をもてのしとみたかくあけけれは卯
月のつきなれはくまもなくことに物哀成
あかつきに上のかたより笛のねかすかに
聞えける是きかせ給へよひやうゑの介殿
のおもしろく吹給ひし物をいかなる所にて
ならせ給ひけん浅ましの事共やとな
きたまひてかとの方を御覧して入せ給へ
はくるまのおと聞えふえのねちかく成
けりめのと申やうひやうふきやうの宮の御
ふえのねににさせ給へる物かなと心をし
つめて聞けれは笛ふきすさひて
誠にけたかき御声にて月はくまなく

てらせともともに詠る人もなしあはぬ
物ゆへよもすからはかなき恋ちにほた
されてたいあんとうをたつぬとて月に
のりてそ行帰るとゑいし給ひけるを
聞けれは宮の御こゑにてわたらせ給
ひけりいかにとむねうちさわきひめ
きみにいかにや宮の御声にて候そ
やとさわきけり宮はおほしめししつ
み給ひてきよみつに参りたまひ七日
御こもりありて御下向成四条おもて
を過させ給ふときわも御ともにてむま
のうへに見えて有嬉しさかきりなく
てこんの少将すこしもしのふ事なくも
ちたるあふきにてまねきあれはとき
わかといひけれはたれ成らんとさしき
のきわへむまうち寄けれはときは
にておはするかこんの少将こそ是に候へ立
よらせ給へ物申さんといひけれはときわ
こんの少将にてまします嬉しさよと
申ける少将申やうはりまの三位におし

こめられて此ほとうきめを御覧して
おはしませはたはかり出し参らさせ
給へといひけれはときわ聞て御待候へ
とて宮の御くるまにをいつき参ら
せんいまたともかくも申さて御車た
まはらんと申けれは宮何事共聞わけ
させ給はすときわか申事なれはを
りさせ給ふ御車たまはりてかの所へや
り入て爰あけよやはりまの三位の本
よりそこよひの御とのい【宿直】はたそはや
〳〵あけよといひけれはさんみといふに
したかひてやかて門をあくる車をやり
入はや〳〵めせと申けれはひめ君のり
給へは人〳〵嬉しさ夢の心ちしていそき
御とも申けり宮御車にのりうつらせ
給ひてわかれ給ひしより今まての御
恋しさいか成所におはしますとも
かせのたよりのをとつれおもなとや
かくともしらせ給はぬそとうらみ給へ
はひめきみとりあへす

 たよりをも今はほしきを山かせの
 いはまの水にせかれけるかな
宮これを聞しめし御返事にかくなん
 せかれける岩間の水をしらすして
 もらさぬとのみうら身けるかな
とかやうにおほせありて御車をさぬき
かもとへと有けれは御めのとさぬきの
もとへ入せ給ふ姫君たゝならす入らせ給
へは八に御さんの月なれは御祈
かきりなしその御しるしにやあたる
月にも成しかは御さんへいあんにわか君
出き給ふ宮の御よろこひかきりなしはゝ
にようこ聞しめしあやしの物成とも
宮のわりなくおほしめしなはをろか
成いはんや右大臣の宮はらなりわさと
もの御事なり
   しかもわかきみさへ
    出きたてまつり給ふ
     ありかたき
       事とかや

【挿絵】

あやしの所にいかてをき奉るへき是へ
とて御むかいに車七両御しやうそく
に十二きぬくれなゐの御はかまとり
そへてまいらせ給ふをくりの車やり
つゝけてきさきたち成ともこれには
すきし宮す所へ入せ給へは御母によう
こ御覧して有かたき世のすゑにも
かゝる人はためしなしと覚しめし
ける御まこの若宮をいたきたまひて御
らんし父宮のおさなくおはしますに

はるかまさらせ給へりこれをは我御子
にあそはし奉らんとてやことなくか
しつきもてなし給ふ事かきりなし
かくてあけぬ暮ぬとせしほとに無
神付のはしめより今のみかと御なや
み有はるのころつゐにかくれさせ給
ふいまたまふけのきみもましまさ
さりくきやうせんきあるやうひやう
ふきやうの宮御位につかせ給ふへき
なりさるほとにひやうゑのすけの
いもうとの姫君きさきにたゝせ給ひけり
若宮東宮に御立あるみかとのせんし
にはさつまの方えなかされし兵衛の
介をかへすへしとて御むかひまいり
けり兵衛の介御よろこひかきりなし
たゝよのつねにてめしかへさんたにも
うれしくおはしまさんにいはんやゆく
へもなくうせ給ひし姫君きさきに
たゝせ給ふ事一かたならぬよろこひに若
宮さへ出き給ひてめしかへされんことの

嬉しさよとてしゝうのないしとうち
つれて都へのほり給ひけり心の内いかは
かりうれしくおほしけん仏神三ほう
のかこ【加護】おはしけれはなみ風たへなく上り
給ふ程にはやくとはへつき給ふ御む
かいの人〳〵かすをしらすまつせんそなれは
とて三条へ入せ給へははりまのつほね
四位の少将あはてさつき内より出けり
あら物さわかしやまつしはらくおわせよ
かし物かたりせんと有しかともうし
ろをたにも見かへらすして出る兵衛の介
とのあけんもおそく候へとてきさきの
御かたへそまいりたまへと申せはきさ
き出させ給ひてわかれまいらせし時の
かなしさ今の嬉しさはいつれをろかな
らすとて嬉しなからなき給ふ兵衛の介
殿これを御らんしてかくなん
 ふえ竹のなきしうきねも忘られて
 うれしきふしを見るに付ても
かきくとき給ふきさきのたまふやう我より

も御門のなをも恋させ給ふにまつとく〳〵
入せ給やと有けれはあけもせてまたよふ
かきに内へ入せ給ふ御門せいりやうてんより
御覧せられ給ひていかにやしめちか原【標茅原】と
ちきりしは
  これをいひし
   そやいまのよろこひには
    三位の中将になす
     へしとせんし
      なり

【挿絵】

打つゝき大納言に成給ふ御門扨もはりまの
三位四ゐの少将をはいかにはからふへきさつまの
方へなかすへしとせんし有は兵衛の給ふ
やう仰にて候へ共父大臣草の影にてみ候はんも
哀に候へはこんとのよろこひにるさいを御
とゝめ候やと申されけれはさるにても
あまりにくき物成はかむりおはいくはん【他本-ひくわん】を
とゝめてなを浅ましと覚ゆれはおやこ三人を
は都の内をおい出してやとさためぬ物とな
すへしとせんし成けれは九重の内出され
けりさる程に后の宮打つゝき二の宮出き
させたまふ其御よろこひに大なこんくはん白
てんかと申けるしゝうのないしは北のまん所と
申ける御門わか宮二人姫宮二人出き給ひぬ
一の宮に御位ゆつり給ひ二宮とうへくうに立
給ふ姫君一人いせの斎宮に立給一人はかもの
さいくうに立給くわんはく殿もわか君姫君
あまたをはしますちやくしとうの中将二郎殿
は三位三郎殿は四位の少将とそ申ける
見る人めてたき御くわほうとそ申ける

【挿絵】

一の宮位につき給ひきさきに立梅つほの后と
申けるこんの少将むし【他本-ないし】の守に成かた〳〵さかへ給ふ
昔今にいたるまて仏神の御ちかひをろかな
らす殊くはんおんの御りせうすきたることなし
しひ第一心をやさしく持人かやうにゆく末
はんてうにめてたき御くはほう有なり
これを以て聞人清水のくはんおんよく〳〵
しんしんあるへし物かたりこれめてた
きくわほうとそ申つたへ侍りけり

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【巻子本の見返しと紐】

   御行幸乃次第目録
一 御車の先へ女中方長えにて御供之事
一 御公家衆前後行列之次第之事
一 御車九両の次第之事

寛永三年九月六日
御行幸  二条亭への事
それひさかたの天ひらけあらかねの地はしまつて
よりこのかた神代の年月をよそへすといへとも
かのれきてんたしかならす人王らんしやうちんむ
天王よりくわんゑいの今にいたるまてせいしゆ
百十代せいさう二千二百七十五てうていのまつり
ことまさきのかつらたへすりやうしんのつとめは
松の葉のちりうせす今にをよふといへとも其道を
つたふる人をゝくなししかるにいまこゝに
さきのせい将軍左大臣源秀忠公
同右大臣源家光公 りやうひつたるゆへに国家あん
せん四かいおたやかにまつりことたゝしきに
よりふるきをたつねあたらしきをもとめすたれる
をひろひ天気を得給ふにきやうこうなるへきとて
二条ていにまふけの御所をいとなみかんわのひを
つくししゆきよくをのへあふきてもそのよそほひ
れき〳〵としてかきりなしかゝるめてたきみゆき
のことのはなり

【挿絵】

きんり   御ちよちうかた 【御女中方】
  車   上らふ御つほね 【上臈御局】
      大すけ殿
      おちこ一人
      こんすけとの
      大なこんすけ殿
      新大納言殿
      おちこ三人
  車   なかはしとの
      中ないし殿
      おちこ一人
      しんないし
ないしなみ しものうち
      くないきやう殿
      いよとの
      おちこ二人
おしりのうち
      すわうとの
      いせとの
      はりまとの
      しもつけとの
うねめ五人のうち
    上 おさい一人
    上 うねめ一人
つきのおすへなみ
      かも一人
    同 たん三人

【紙の継ぎ目まで翻刻】

【紙の継ぎ目より翻刻】

    同 いなの一人
      御物し二人
      おすへ四人
      とち三人
      女しゆ四人
    下 ひつかさ二人
   此外御しきはした五人
    上中下
    合三十三人
    このほかおちこ七人
    右長え二十四ちやう
    つりこし二十一ちやう
    黒ぬり十五丁
             はくてう



中宮様  女中方
  すけとのたち
   車 権大納言殿
   同しんたいなこん殿
   同 みくしけとの
   同 梅小路殿
   同 せんしとの
ちうらふなかはしとの なみ
   同 式部との

【紙の継ぎ目まで翻刻】

【紙の継ぎ目から翻刻】

   同 さきやう殿
   同 中将との
   同 □□のすけ殿
   同 ひことの
   同 ふせん殿
  長え なかととの
   同 大二との
   同 のと殿
   同 たしま殿
   同 しなのとの
   同 石見との
   同 ひうか殿
   同 さつま殿
  御おもてつかひ
   同 出羽殿
   同 うつみとの
  姫宮様御さしおしもなみ
   同 河内殿
   同 御物かき一人
   同 やまち

  姫宮様衆

  一の宮さま御かひそへ
  すけとのなみ
 車  中務との

【紙の継ぎ目まで翻刻】

   一宮様大上らふ
  長え おあこ御方同

   二宮さま御かひそへ
  く■ま おいま同
   一宮様小上らふ
おしもなみ おまん
   二宮様同
      おやみ同
    おちの人
  車  やゝおちの人同

   同 ちや■おちの人同

 御さしおしもなみよりした
  これより長え おまき
   同中らふ  おふう
   同     ちくこ
   同     おいわ
   同     おちや
   同次をすへ ふく
   同     ちよ
   同     いぬ
   同     いちや
   同     かね
   同 女しゆ かつ

【紙の継ぎ目まで翻刻】

   同     むす
   同     ちよほ
   同     七
   同     いし
   同     やま
   同     こな
   同     やす
   同     ろく
   これまで同前
   ひつかさ次のおすへ
  女しゆより下
         ひさ
         あけまき
         きりつほ
         まつかへ
  上中下
   合五十五人
  このほか御しきはした
  十二人            はくてう
  右の内二十九人は車
  内  十一人は長え
  内  つりこし十一ちやう
  内  黒ぬり十八ちやう


【紙の継ぎ目まで翻刻】


女院様  女中方
  上らふ分
 車   一位殿

 同  にしきの小路殿
 同  かての小路との
 同  こかうとの
 同  おちこ
 同  中納言殿
  御中らふ分
 同  あせちとの
 同  少将との
  御しもたち
 同  備後殿
 同  さぬきとの
 同  へんとの
 同  豊後殿
 同  能登殿
 同  うこんとの
 同  さかみとの
 同  備後との
 同  和泉殿
 同  ちんさうす殿
 同  たま
 同  越前
 同  おかつ

   これまて同前
    おすへ五人
 同  女しゆ三人
此外御しきはした
十一人
 合二十八人
 このほかおちこ一人
中御門ちうなこん殿■
右の内九人は車
内   十一人は長え
同   つりこし八ちやう
同   黒ぬり十一丁
  小袖の次第
■けおりは 上らふはかり
あやは   すけとの斗
そめは   下の衣
女院様衆は上もめし候
     以上

武家諸大夫十二騎    同諸大夫十二騎





右同前        右同前

随身三騎       随身三騎


           上

            ほうい     上五

非蔵人三騎       同三騎
 あさきしやうそく   同
これは■人       是は■人

これより公家衆     同

きよ蔵人        塩小路蔵人
あさきしやうそく     同

これより        同
あかしやうそく     あの侍従
四条侍従        はし本
船橋侍従         侍従
やましな侍従      あすか井
さいほう寺        侍従
  侍従        六条侍従
中務少将        中御門侍従
■右衛門佐       くわんしゆし
             ■
            くか少将
   はくてう

からす丸             ■■十
 さいしやう
    くろしやうそく


さいおん寺宰相
    くろしやうそく


柳原宰相
    くろしやうそく


日野中納言
    同



ひろはし大納言
     くろしやうそく


からす丸大納言
     くろしやうそく


日野大納言
     くろしやうそく

諸大夫           諸大夫
 あかしやうそく      同



随身二騎          随身二騎
 あさきしやうそく     同



二条左大臣
     くろしやうそく


ほうい四人
はくてう同
馬そへ 同
かさもち

あすかひ中将        れいせん中将
  くろしやうそく      くろしやうそく


     ほうい


中宮様



地下衆御車そへ

非蔵人三騎           同蔵人三騎
   あさきしやうそく        同

からはし侍従          倉橋蔵人


是より黒そく         あかしやうそく
岩倉もく           右京侍従
白川侍従           いわくら
浦辻侍従             侍従
花その            阿野侍従
  侍従           あふら小路の
長水谷              侍従
  侍従           小倉侍従
くしけ            本その侍従
  侍従           東坊城
西ほう
  てう

やくみ
  あかしやうそく



徳大寺中将
   くろしやうそく

       ほうい

西洞院右衛門守
     くろしやうそく


みなせ中将
    くろしやうそく


花山院宰相
    くろしやうそく


             ほうい

四辻中納言
    黒しやうそく



諸大夫             諸大夫
   あかしやうそく       同


随身              随身
 あさきしやうそく        同

九条内大臣
   くろしやうそく  ほうい

       供右同前

諸大夫              諸大夫
 あかしやうそく         同

随身
 あかしやうそく         随身同

         ほうい


一条右大臣
  くろしやうそく

         供右同前


女院様


西おん寺大納言

                 はくてう
やくめ
  あさきしやうそく     同

■■判官
  くろしやうそく
                 はくてう

非蔵人二騎           非蔵人二騎
  あさきしやうそく      同

清蔵人             同蔵人
  あさきしやうそく

松木侍従
 あかしやうそく

あねか小路           難波侍従
少将黒しやうそく        くろしやうそく

■しけ             くせの侍従
 少将 同           同

■■侍従            ひ口少将
  同             同





西おん寺宰相
  くろしやうそく

西おん寺中納言
  くろしやうそく


       ほうい

中御門中納言
  同


                はくてう

諸大夫           同
  あかしやうそく

随身             随身
あさきしやうそく       同



     はくてう        はくてう

     ほうい


なかつかさ右大将
    くろしやうそく


    ほうい


女一乃宮様


判官 あさきしやうそく
馬そへ四人
はくてう二人

    ほうい



女二の宮様

   判官 あさきしやうそく


車の女中かた■
いつれも右のなかへの所に
しるす



       ほうい

   判官
    あさきしやうそく


   はくてう

判官
あさきしやうそく
馬副四人
はくてう二人
かさもち



右長えのときかきつけの
 車  女中方


判官
  あさきしやうそく
供右同前

此車御内衆は
いつれも右のなかへ
の所にしるす
 女中かた



判官
  あさきしやうそく



この車右前同


此御車の女中方
 いつれも右の長え
 のところに
 しるす



下北西八騎          ■ほくめん八騎

三条大納言
    てんそう



中院中納言
    てんそう



    随身
     あさきしやうそく

【巻末・白紙部分】

BnF.

《題:から物語   中》
【ラベル】SMITH-LESOUËF/JAP/3 (2)/1517 F. ■【Iヵ、1ヵ】

【表見返し】【ラベル】SMITH-LESOUËF/JAP 3 2

【挿絵 横書き】交趾国
交趾国又は安
南と名付く
其国もとこれ
漢の馬援か
兵の末孫也
国人親子一所に
住せす妻をむかふに媒をもちひす男子は盗賊を
わさとす女子ははなはた淫乱なり古城の王其
少子をつかはして中国の妻をよみ道をおこなふ
国人是にそむく漢の中国これをおさむ交州の刺
史をたつ後漢のとき又そむく馬援これをしつむ

五代のすゑにあたつて節度使呉昌文初て
ひそかに王の号をたつる其後みな王の名を称
す欽より西南のかた舟をもつてわたる事
一日にしていたるへし
【挿絵】黒蒙国
此国城池有家
つくりあり国人
田をつくりて
なりはひとす
天気常に熱
して人の身焼
かことく也人皆
五色のにしきをはかまとせり応天府より行事一年
【挿絵】婆登国
林邑の東に
有西のかた
迷笏国に
ちかく南の方
訶陵国に
かゝれり稲を
うゆる月こと
に一たひしゆくす文字あり貝葉にかくもし死
すれは金銀をもつて四肢をつらぬきて後に
婆律膏およひ沉檀龍脳をくわへて薪木
をつみてこれを火葬すとなり

【挿絵】無腹国
此国海の東南に
あり国人男女共
にみなはらなし
【挿絵】聶耳国
此国無腹国の東に
有国人身はとらの
紋ありて耳なか
き事ひさをすき
たりゆく時はその
耳をさゝけてゆく
といふなり
【挿絵】三身国
此国鑿歯国の
東にあり其人
かしらひとつに
して身は三つ
あり
【挿絵】蜒三蛮国
此国人船をもつて
家とすきわめて
まつし冬にいたるに
も身に一衣なし
魚を取て食と
す妻子共に船に
のりゆくさきに
とゝまるなり

【挿絵】木蘭皮国
此国大食国の
西に大海有海
の西に国有其
数かきりなし其
中に木蘭皮
国まては人みな
いたるへし昔
陀盤の地より船をいたして西に行事百日に
して一つの小船をみる舟のうちに数百人のりて
酒さかなもろ〳〵のうつはもの有其国の生する
所麦一粒のたけ三寸爪の大さめくり四五尺也
柘榴一顆おもさ五斤桃は二斤菜のたけ三四
尺井をほる事ふかさ百丈にして水あり羊のたかさ
三四尺春は腹をさきてあふらをとる事数十斤
二たひ其疵をぬふてよく又よみかへらしむこれ
ぬふ所の糸にくすりをぬるといふ
【挿絵】賓童龍
此国もと占城
国の貴人国の
あるしとなれ
り道ゆく時は
さうにのり馬
にのるつきし
たかふ者数百
人皆手ことに盾をもてりあかきかさをさすそ
の従者木の葉に食をもり椰子酒と米酒と

をもつてみち〳〵たてまつるある人のいわく仏書
にいへる王舎城はすなはちこの地なり今目
連舎利弗の塚ありと云
【挿絵】骨利国
此国回鶻の北
大海の辺に
有名馬をい
たしあきなふ
其国昼なかく
夜はみしかし
日くれて後天の
色くろし羊を煮て熟する時夜明て日いつると云
【挿絵】頓遜国
此国昔梁の
武帝の時み
つき物をたて
まつる其国海
島の上にあり其
国人まさに死
すれは親族こと〳〵く歌舞して野にをくる鳥有
其かたちあひるのことし数万とひきたる親族み
なかたはらに立よる其鳥死人の肉を食しつ
くすすなはち其ほねを火葬してかへるこれを
鳥葬と名つくなり

【挿絵】狗骨国
此国人皆人の
身にして犬の
かしらなり身
になかき毛有
て又衣を着す
ものいふこと葉
犬のほゆるか
ことし其つまは皆人にしてよく漢語に通す
貂鼠皮を衣とし犬人と夫婦として穴にすめ
りむかし中国の人其国にいたる犬人の妻
其人をにけかへらしむ犬人これををふ時
帯十余筋をおとす犬ひとこれをくわへて穴に
帰り此内にのかれ帰りぬと云応天府より行事
二年二月にいたる
【挿絵】長人国
此国の人たけ
三四丈なり昔
明州の商人
海を渡るとき
霧ふかく風あ
らくして舟
のむかふかたをわきまへすやう〳〵霧はれ風やみて後
ひとつの島につくふねよりあかりて薪木をとらんと
するにたちまちにひとりの長人をみる其行こと
飛かことしあき人おとろきおそれてにけまとひ

ふねにかへる長人この人をおふて海にか
けいる船人強弩の大弓をはなつにのかるゝ
事をえたり
【挿絵】蒲甘国
犬理国【三才図会では「大理国」】より五
程にして其国
にいたる黒水と
淤泥河とをへ
たてゝしかも難
所なるをもつて
西蕃の諸国通
路なし其国の王は金銀の冠をいたゝき金銀をもつて
家をかさりちりはめ錫をもつて瓦をつくりてふくと云なり
【挿絵】婆羅遮
此国人男女共に
いぬのかしらをい
たゝき猿の面
をかけ日夜まひ
あそふなり
【挿絵】五渓蛮
此国人父母死す
る時は鼓を打
歌をうたひ親
属酒宴して
舞あそふ山に
ほふふりて其子
三年の内塩を
くらはす

【挿絵】哈密国
此国西蕃の内
に有火州の東
なり国の風俗
は回々国と
たつたん国に
同し
【挿絵】撒馬兒罕
此国哈刺国の
東に有もと是
西蕃の内也山川
の景物すこふる
中国に同しあき
なふ物は皆国中
の銭をもちゆ
となり
【挿絵】孝臆国
此国のめくり三
千余里平沙【「沙」は三才図会「州」】
の内にすめり
木をもつて柵か
きをつくる柵
のうちめくり
十余里其内
に人家二千余あり気候常にあたゝかにして草木
冬もしほます国人皆長なかく大鼻にしてま
なこあをくかみ黄なり其おもて血のことくつね
にかみをゆふことなし五こくゆたかに金鉄おほく
麻布を衣とす商敗のあきないものなし道

行時は男女ともに其おやをつるゝ孝道の
国なり馬羊をやしなふをわさとせり
【挿絵】繳濮国
此国永昌郡の
南の方一千五
百里にあり
国人みな尾有
座せんとする
時は先地をほ
ほ【「ほ」衍字ヵ】りて穴を作
其尾おきてのちにさすもしあやまりて其尾
をうちおる時はすなはち死すとなり
【挿絵】的刺普刺
此国皆城池家井
あり田をつくる
又明珠をいたす
其玉光りあり又
もろ〳〵の宝石
おほし応天府
より行事二年
一ヶ月にしていたる
【挿絵】三首国
此国人むかし夏
后の時に有一
身にして三つ
のかしらあり

【挿絵】真臘国
此国広州より船
をいたして北風
十日にして此国
にいたるへし天
気さらにさむ
き事なし
妻をめとるに
は男まつ女の
家にゆくとなり国人もし女子を生すれは九才の時
に僧をよひて経をよましめ其女子の身より
血をいたし其ひたいに点すしからされは国
人めとらすもし人の妻他人と通すれは其
おとこ大によろこひていはく我妻かたちうつ
くし此故に人のために愛せらるゝとてさ
らにとかむることなしもし盗人あれはその
手足をきる火印をもつて其かほにしるし
をつくると也国人のとかををかせは金を出して
あかなふ金なけれは身をうるとなり
【挿絵】道明国
此国の人身に衣を
着せすもし人の
衣を直せるをみ
ては則是をわら
ふ国に塩とくろ
かねなし竹を以
て弓矢につくり
鳥をいて食とす

【挿絵】七番国
此国山をたかへ
し田をつくる駝
牛をいたして
あきなふなり
【挿絵】猴孫国
此国一には抹刊刺
国と云若他国より
此国をとらんとす
れは数万の猿有
てふせきかへえす応
天府より行事
三年にしていたる
となり
【挿絵】勿斯里国
此国白達国に属
す国人七八十歳
まて雨をみさる
ものあり大なる
江ありて其み
なもとをしらす
大水田をひたす
水のうちより神人いてゝ石の上に座す国人是を礼し
て年の吉凶をとふに神人わらふ時は吉なりうれ
へ有時はわさはひ有国人山の上に廟をたてゝ
是をまつる廟の上に大鏡あり他国より其国
にわさわひせんとする時はかゝみにうつりてみ

ゆるといふなり
【挿絵】焉耆国
此国の風俗正
月元日二日八日
は婆摩遮の
まつり三月十五
日は遊林の祭
五月五日は弥勒
下生の日七月
七日は先祖のまつり十月十日には国王より首領
の臣をいたし両部【「両部」三才図会は「両朋」】の兵をわかち甲冑をきせて
石をうち杖をもつてたゝかふ《割書:今いふ印地|なるへし》たかひ
に死するをまちてとゝむとなり
【挿絵】瑞国【正瑞国】
此国人ひつしを
やしなひ田を
つくる人家多

【挿絵】龜茲国
此国牛馬のたゝ
かふをもつてた
はふれとし七日
のうちにせうふを
見てその年の牛馬の吉
凶を見ると
    いふ

【挿絵】丁霊国【釘靈國】
此国海内にあり国
人ひさより下に毛
を生して足は
馬のことしよくはし
るにみつからその
足に鞭うつ一日に
三百里を行応天
府より行事二年に
いたる
【挿絵】野人国
此国山林多し人皆
木のはをくらふ国
人たつたん【韃靼】国と
たゝかふにまけす
となり
【挿絵】蔵国
此国城池人家有
国のうちに大成
柳の木多し応
天府より行事一
年三ヶ月にし
ていたる
【挿絵】黙伽臘国
此国城池人家有
国主有人是に
したかふ大海より
珊瑚樹をいたす
国人くろかねのあみ
ををろしさんこ
をとるといへる
此国のこと成へし

【挿絵】奇肱国
此国人よく飛
車を作りて風
にしたかひて遠
ゆく昔慇【殷】の
湯王の時奇
肱国の人く
るまにのり
て西風によつて豫州にきたる湯王其車を
やふりて国民にみせしめすそのゝち十年を
へて東風吹とき奇肱の人またくるまを
つくりてかへる其国玄玉門の西一万里にあり
【挿絵】無䏿国
此国人腹の
うちに腸な
し土を食
として穴に
すむ男女し
するもの皆
土にうつむ
そのこゝろくちすして百年の後又化して人
となる其肺の蔵くちすして百二十年に
又化して人となる其肝の蔵くちすして
八十年に人となる其国三蛮国に同し
             となり

【挿絵】大食勿斯離
此国秋の露
をうけて日に
さらすに雨と
なるあちはひ
まことに甘露
なり山の上
に天正樹有
木のみ栗のことし蒲芦と名つく国人とり
て食す次のとし又生するを麻茶といふ
三年にして生するを没石寺といふ又桃
柘榴くるみ等あり木蘭皮国とおなし
くゆたかなり
【挿絵】木直夷国
此国獦獠国の西にあり鹿の角をもつてうつ
わものとし国人死する時はくゝめてこれを火
葬にすその人いろくろき事うるしのことし
冬にいたれは沙のうちにとゝまりてそのかし
らをいたすとなり

【挿絵】一臂国
此国人一目一孔一
手一足半躰
にしてあひなら
ひてゆく西海
の北にあり
【挿絵】乾陀国
此国昔尸毘王の
庫火のため
にやかれてこかれた
る米今にあり人
一粒を食する時
は身ををふるまて
やまひなしとなり
【挿絵】長毛國
応天府よりゆく事二年十ヶ月にして
いたる国人みな其身に長毛あり城池人
家田畠あり其国人はなはた短少なり
晋の永嘉四年中国にきたれり

【挿絵】昆吾国
此国よりからかねをいたすかたなにつくるに玉
をきる事泥よりもやすし其国塹をかさ
ねて浮屠をつくる屍をおさめまつりて哭す
るを孝行とす

【後見返し】

【裏表紙】

BnF.

【文字なし】
【題の文字がかすれてしまっている】
【竹取物語 】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】

【文字なし】