【上段】
かしまさま
「くに〴〵の地しんどもの見せしめに
まづ江戸のぢしんめを
てひどくうち
のめししよにんの
あだをてきめんに
とるがよか
ろう
神
「ハイ〳〵かしこまり
ましたこのあたまに
さしたるかなめ石を
さん〴〵にうちこみ
そのうへでせびらきに
してなまづの大かばやきを
こしらへしよにんへ
ほどこし
ませう
江戸
「アヽいたや〳〵
このうへの
おねがいには
いのちばかりを
おたすけくだされ
そのかはそのかはりには
いまよりして
なまづの
けんくわや
じやりの
うへゝでます
ことは
いたしません
くわん八しう
「わたくしは
どのくにゝも
あしをとめませぬ
くわんとうすぢをのたくり
あるきましたが
これからはきつと
つゝしみます
【下段】
しんしう
「わたくしのつみをゆるして
くださるならば信しうも
かまどもなつちも
いらねへ
小田はら
「どうぞとがのせんぎは
をだはらになればいゝが
ゑちご
「わたくしはゑつちりゑちごの
ぢしんゆへかくべゑのやうに
さかさになつておわびを
まうします
甲しう
「わたくしはかうしうの
うまれゆへ
ぶどうのやうな
ひやあせを
ながしておそれ
いります
大さか
「大阪をゆり
いだしてならの
はたごや
みわのちや屋
まですこしは
いたませましたること
いつわり
なく
まうしあげ
ます
【挿絵上段】
江戸のぢしん
【挿絵下段右から】
信州のぢしん
小田原のぢしん
ゑちごのぢしん
甲しうの地しん
大阪のぢしん
くわんとうのぢしん
【瓢覃形の枠内】
平(たひら)の建舞(たてまひ)
貧(ひん)
福(ふく)を
ひつ
かき
まぜて
鯰(なまづ)ら
が
世(よ)を
太(たい)
平(へい)
の
建(たて)まへぞ
する
【立札】
《割書:くらの》開扉
落涙山(なみださん)非常明王(ひじやうめうわう)
《割書:念仏題目等》
《割書:当十月二日夜四ッ時ヨリ翌日朝迄|一同令難渋者也》
《割書:地震院》
火事
【上段の記事】
そも〳〵なみだ山 非常(ひじやう)明王は御救(おすくひ)の小屋山(こやさん)町法大事(てうほうたいじ)の御 作(さく)にして
地震(ぢしん)雷(かみなり)火事(くわじ)親父(おやぢ)を倶足(ぐそく)し奉る本尊なり悪魔(あくま)降伏(かうぶく)は
もちろん世上(せじやう)の人気(しんき)をなほし放蕩(はうとう)惰弱(だぢやく)を止(とゞめ)たまふとの御せいくわん也
地震(ぢしん)と現(げん)じ給ふ時は強欲(がうよく)いんあくの土蔵(どさう)をおとし雷鳴(らいめい)とあら
はるゝときは聾(つんぼう)の耳を貫(つらぬき)魂(たましい)を天蓋(てんがい)にとばして無慈悲(むじひ)の心(しん)
中(ちう)をかはらしむ火事(くわじ)身(しん)を現(げん)じてはつぶれし家(いえ)より火(ひ)をはなち
消(けして)人なければやけほうだい夜(よ)の明(あけ)るにしたがひていつしかきえてあと
かたはなきの涙(なみだ)の箸(はし)もたぬまでになりても命(いのち)さへあれば一法(ひとほう)かき
かへてだますとすれば親仁身(おやぢしん)それかけ出して野宿(のじゆく)の雨(あめ)津浪(つなみ)が
くるとだまされて逃(にげ)たあとから盗(ぬす)みする極悪人(ごくあくにん)はいざし 浪(なみ)心を
直(すぐ)にもつものは誓(ちかひ)て助(たす)けまゐらする非常(ひじやう)明王の御剣(みつるき)は
おやの異見(いけん)の剣(けん)なるべし片手(かたて)にぎる財布尻(さいふじり)しめしを守(まも)る
子孫(しそん)へあたへたるふとの御つげなればつぶれ
しんで後悔(こうくわい)あられませう
やう〳〵
安堵(あんど)し
たてまつる
本尊の由来(ゆらい)を
くやしくたづぬるにむかし
地震王(ぢしんわう)またかど焼亡(しゃうほう)のきこえ
ありて商売(しやうはい)ださだまりかねて命(めい)をかうむり田原俵(たはらへう)だ
火(ひ)出(で)たと御すくひとして二合半のもつそうにておめしに
かりふくれがはらにおしよせたり此ときなみだ山 毎日(まいにち)大(たい)そう
不そうおうをいのり施(ほどこ)し米(ごめ)のはかりことをもつて又門(またかど)の崩(くづ)れと
なりしもこの尊像(そんざう)の御とくなり此ときのうたに
またかどでこめかみよりぞうたれける
かはらおちたがさはりこそして
【下段】
さいなん
けんのん【険難(けんなん)の変化した語】
らいよけ
火なんよけ
こゞとよけの
御守は
これより
出升
こんがり
どじ
せいたか
とうじ
【頭部 標題 右から横書き】
見立ちう身ぐら
【上段】
鴨居たわんでみぞ
はづれ障子のこらず
ばた〳〵〳〵
○地しんの時
みたで
あろ〳〵
○通物を
おぞうりつかんで
なりともおともが
しとふ御坐り舛
○大工さんの
天川や義平は
おとこでごんす
○此中で
施こし
スリヤ何人のお世話で
〽おまへも御ぞんじの
地震(ゆら)さんのおせわで
○よし原をたすかり
元服してしらぬ顔してゐる女郎
四十四のほね〴〵も
くだくる様にあつ
たはやイ
妻子を見殺 ̄シ
【中段】
此よふな目出たい
かなしひ事が
あろふかいなァ
○万歳楽と言ながら死
日本一の
あほふの
かゞみ
○吉原で死だ人
我こひの
とゞかぬ
しるしと
○はりの下で
わう生【往生】する
まつのかた
えだずば ̄ト切
○人を助ける
百万の敵はふせぐ
ともさほどに
正根はすはらしもの
○吉原で弐人 ̄リ で
死ぬる人
お所望申は
それではない
○あな
ぐら
【下段】
釣とふろうのあかりを
てらしよむなが
ふみは
○じしん大火
絵づ
今日御上使ときく
よりもかくあらんとは
かねての覚悟
○工手間値下ゲ
世俗に申
ちやうちんに
つりがね
○家根屋瓦屋
ほしがる所は
山〳〵ある
○土方
人足
こゝをしきつて
かうせめて
○水番
世話役
しゝしんぢうの
むしとはおのれが
ことだはヤイ
○なまづ
【左丁】
【上段・大文字の讃】
直利(なおり)
家茂(いへも)
遊都足(ゆつたり)
仁茂優(ひともゆ)
都多理(つたり)
無斎越讃【讃者の号・不明】
【上段餅を捧げる男】
このたびは思ひがけない大がねをもふけました
しかしゆりつぶれた所やるいせうした
人なぞはさぞこまるだろうからなんでもやすく
うる心だそれでももふかるからしかたがない
かねのなるをもつているこいつはわたくしのことで
ござろうなむ地しん大明神〳〵ヲヤ
大きなこへをした地しん大明神
〳〵大金をもふけさし
給へ〳〵
【中段右からの言葉・人物は見えず】
ふさげとしたおかげたそうでねへと
ながくうまひしるをすふこともならず
かうたくへひとばんいくこともできねへほど
さて又あんまりよくのふかひやうだか
此年が五百両にもなればよい
からどうふぞ守つてくだ
さいまし
【中段右・小判を両手に持つ男】
こまいかきのとま【以下欠落】
なせうばいでもコレ□【以下欠落】
とふりこばんをたくわへ【以下欠落】
もふけた所がありがてへ【以下欠落】
これからかるたくて【以下欠落】
ひやかしと出かけ
やせう
【中段・頭に手をやる手甲の男】
やねやのたけくぎをくつてもさつはり
うまくねへせかいであつたぶんには
どふもいそがしいからけつかう
だけれどそこもここも
いちどきだからイヤ
出来るとはいふものゝ
こばんでぶたれ
かとあり
がたひ
〳〵
【中段左・反物を捧げる男】
わつちらなどはぢしんたの火事だのせけんのさはぎて
なくちやもふかりやせんこんなことがないとがきどうの
ていそうだうまいさけでものむにや人のなき
そうなものをかぶせてほるくらひのちへだ
なまづさんいゝくふうがあらば
おしへてくんな
さいよ
【下段右・袋に手を入れている男】
こんどのちしんかねへと
くちかひあがる所た
【下段左・帳面を開く男】
どかたといつて人かいやしくいふされ共どかたで
道中がなるものかといつて道中の土は何も
ならねへな御とうちの土を壱升金一升といふ
所たとかたの子ゑんまの子といつしよに
いふけれとおいらアおくらだと
かのおやしきの御用にはよつほど
どしやがいるからするがのふじの
山をそつくりとりよせたら
せわがなくよかろう
こいつはなまつとのゝ
ちからてなくちや
いくめへて
【一枚の紙面の右半分】
《題:諸職(しよしよく)吾(ご)沢(たく)銭(せん)》
【上段・大文字の讃】
地震(じしん)
訶良(から)
革(あらため)
天(て)
尚(なを)
代賀(よが)
【中段左・左掌を開き右手を金箱に置いている男】
こんどのぢしんで山の土は大かた
きりだしたがまだ〳〵入用と
みへてちうもんがたくさんだ
から今山にできてある
ちいさい木をひとばんの
うちにたいぼくに
なるやうに守て
下さいま
【中段中・片肌脱ぎの男】
なんだかんだと
いふが
かいうんと
いふのはこんどの
ぢしんだこれから
大がねと取のだソレしゆつ
せのさかののぼりたちだ
えんさらほい
〳〵
【中段左・上を向き合掌する男】
わたしは
とうしんをうるものたか
此ころはつちをかつぐ
のが大ぜにゝなる
そふだからかついでみますに
どふもおもくていけませんから
五人りきても十人りきにもなる
やうにお守り下さいましそのかはり
一代なまづをたへませんからとふぞ
おねがひ〳〵〳〵
【下段右・鉢巻し袖をまくる男】
わつちらはひいきになるおとくひ様がおゝひからどうふもこんなに
いそがしいのではこまるからかくべつよくのふかい
ことはいゝやせんからとふぞ十人りきになる
やうに守つてくださいやし
なまづさまたのみで
ございます
【下段左・右手に小判を持ち腹に黄色い財布の男】
せけんではやたらになまづをわるくいふが
南無ぢしん大明神さまだまづ
こんなにかねもふけをさして
くださるさるはなまづ様の
【下段左からの言葉・人物なし】
ツイ
どろ〴〵と
やらかした
ばかりてソレ
大きにさいはいだがあんまりよくのふかいことはいはねへから
このさいふに十五六ばいかねがとれてほどのよいとくいの
どつさりふへるやうに守つてくださいましそうなるとおまへの
すきなとうなすのかばやきとかしろだまのうまにへひやうたんに
さけを入て上やすからどうぞ願のとふりかなへ給へ〳〵
【3-13】
かしま
〽これはたいへんるすに
とんだことだはやくいつて
かたをつけずはなるまい
要石
雷
〽いやもおれなぞは
いくらおもつても人が
へのよふにおもつてとり
あげてくれねへにはこまる
はやしことば
〽そこで樋口(ひぐち)かまいります
かみなりさんがおびへにげ
あとでしあんのごゐんきよと
けんのうた
〽酒のきげんか
ちどりあしかみなり
あきれてみひよこ〳〵
それぐら〴〵とんで
出(で)てまいりましやう
なんじやかはやがね火事(くはじ)が
あるぢしんがじいさまに
しかられてさるははい死(し)ぬ
とんだこつたなふ
富(とみ)は屋(おく)を崩(くづ)し職(しよく)は身(み)を潤(うるほ)すとは
格子(かうし)で極(きめ)た約束(やくそく)の烟(けむ)りと消(きえ)て
仮宅(かりたく)へ運(はこ)ぶ土(つち)榑(くれ)大鍬(おほくは)に儲(もうけ)を
酒(さけ)とけづりかけ精(しらげ)の米(よね)に
奢(おごり)をきはめ土蔵(どそう)の
日々(ひゞ)のこて
療治(れうぢ)とゞ
かぬまでに
震(ふる)ふとは
なさけ
なくも
また
ありがたき
国(くに)の
恵みを
仰(あふ)ぐに
こそ
ゆすれともうこかぬ御代の
しるしとてはねかへしても
え【元では】のすかたよ
かこいもの
我は旦那さまがつぶされまして
このせつはあいてか御さりませんが
どうか横丁の大工さんか目をかけて
下され升からとうかあの人を旦なに
いたしとう
ごさいます
左官
さてわたくしことあなたの御かげで土蔵かべともに仕ごとか
御ざりましてこのような事わこざりませんゆへ来年は
御本社への参けいいたしますがなまづさまえもよろしく
御ねがひ申ます又土蔵一ツとどうかとそんしますが
これもよろしく
ねがひ上ます
子供
わたしやおかゝさんか死ましてから
とうそ御とつさんかかわゆかつて
四文八文くれるように
御願申
まする
金持
さて我はこのたびの大そうどうて真事に
しかしこの上 こまり升
何事もないように御ねがひ
申上ます
屋ねや
わたくし共はあなたおかけを
持まして金もうけかでき升からこのうへ
百万両の大じんになされて下さい升よう
御ねかひ申上まする
【鯰の顔の右側】
とふど御上共に
かわらや みんなかわら
やねに致す
ように御ねかひ
申ます
大工
わたくしは仕事も沢さんごさり升か
真事に材木か高い【イ】ゆへこまり升
とうか御りやくを持まして
大仕事を御さづけ下さり升
ように
御ねかひ申あげ
ます
とびのもの
このはるよりもせわしう
ごさりま升【ママ】がこのせつは別だん
の事ゆへ金はたんと■【有ヵ】升から
御上も御ねかひ申
あけます
安女郎
我はあなた御かけて命はたすかりましたか
とうそいゝ御客の男のいゝ金のたんと有人に
御さすけ□【な或は下ヵ】
さり升
地震方々人逃状(ぢしんほう〴〵にんにけじやう)之事
一 此(この)ゆり苦労(くらう)と申 者(もの)生得(せうとく)信濃国(しなのゝくに)生須(なまづ)の荘(しやう)
揺初村(ゆりそめむら)【注】出生(しゆつしやう)にて不 慥(たしか)なるふら附者に付荒魔ども
失人(うせにん)に相立(あいたち)異変(いへん)沙汰(さた)へ諸々方々(しよ〳〵ほう〴〵)にゆり出し
申候処めつほう也 火災(くわさい)の義(ぎ)は当卯十月二日夜ゟ
翌(よく)三日午の下刻迄と相定(あいさだめ)困窮(こんきう)人の義(ぎ)は難渋(なんじう)無住(むぢう)と
相きはめ只今御ほどこしとしてさつま芋三俵はしたにてたべ
申候御救之義は七ヶ所へ御 建(たて)じま 御恵(おんめぐみ)に《振り仮名:逢目嶋|あ□めじま》
可被下候事
一鹿島様 御法度(ごはつと)の義(ぎ)は申に不及お家(いへ)の八方(はつぽう)相 傾(かたむか)せ申間鋪候
若(もし)此者お台所(だいどころ)の女中方の寐息(ねいき)を考(かんが)へ内証(ないしやう)の地震(ぢしん)致候歟
又はゆり逃(にげ)壁落(かべおち)致候はゝ急度(きつと)したるかふばりの丸太を
以て早速らちあけ可申候
一 愁患(しうせう)の義は一蓮(いちれん)たく宗(しう)にて寺(てら)は夜中(よなか)ゆりあけ坂
道性寺(どうしやうじ)市中(しちう)まつぱたか騒動院(そうどういん)大火(たいくわ)に紛(まぎ)れ御座
なく候御 発動(はつどう)のゆりしたん宗(しう)にてはこれなく候
若(もし)物音(ものをと)がたつきひめわひより瓦(かはら)をふらし候義は
無之万一ゆりかへし等致候はゝ我等(われら)早速(さつそく)まがり出 要石(かなめいし)を
以(もつ)てぎうと押(をさ)へ付(つけ)野田(のでん)へ宿労(しゆくらう)さしかけ申間敷候 地震(ぢしん)の
たびゆつてむざんの如し
半性大地割下(はんてうだいちわりげ)水
造作(そうさく)ざん年 家なしまご右衛門店
鹿嶋(かしま)の神無(かみな)月二日 つぶれやお出蔵
どさくさほんくらないけんのん橋
みじめや難十郎店
世並直四郎(よなみなほしらう)様 お小屋太助
【注 「揺」は「扌偏」を「土偏」に作る】
【一段目】
かしま □□□さい〳〵これは
「こんどの大ちしんいへくらやいた
いしゆかへし大くし小くしの
なまづのかはやきしかしこの
せつのことはりけんきんうりが
かなめいしひやうたん〳〵ひやう
ばん〳〵ときこえるかしらぬ
くわじ
「モシ〳〵そこへゆくのは雷公と
おやぢどのではないか
おやぢ「そういふは火事公かどこへゆくのだ
くわじ「かしまさまがなまづを
やく火につかはれぬうち
きへるつもりさ
おやぢ「それが
いゝくわじやぢしんはやぼの
うへなしだ
くわじ「シテおまへ
がたはいきなせかいかね
かみなり「たちのきがはやると
いふから いんきよとこつそり
しんそうかいだ
くわじ「そいつは
おたのしみだが しかし らいこうはあけまいぜ
かみなり「なせ〳〵
くわじ「てまへはきんじょのごろつきだから
げいしや
「もし三みせんやさんこのごろはおいそがしいかへ
三みせんや
「どうして〳〵ぢしんこのかた
三すぢはおろか一トすぢの
おあしもとれずまこと
にこまつたよつぢさ
じつにどうしやうかと
おもふおまへなんぞはおでん
かんざけであつたまつたと
いふうわさでござり
ますぜ
【よつぢ= 乳房の痕の四つある猫の皮を使った三味線】
げいしや
「それもほんのあの
とうざサ ながくすると
みそをつけまするよ
せんどう
「ほんにわつちらがしやう
ばいもやつぱりにたり
よつたりでわづか
二朱が三てうの
ちよきがりさへ
できやせぬ
ごふくや
「いづくのうらぢも
おなじことかなきん
もうかる
はなしは
なく
ひまな
上田に
なんぎに
あをめ
ぐちばつ
かりを
ゆうきじまサ
りやうり
「たんもの
よりは
口の
はやい
りやうりで
さへもくひてはなく
くわいせきしやう
ばいにn
なりやせぬ【二段目右端に続く】
【雷の右腕の下】
かみなり
「おいらもこん
どのちしんでは
いやもふまつ
さをになつて
かけだした
【二段目】
かしほんや
「イヤ わたくしなぞも
ほんはやき はらいはとれず
このくれは中本のなきほんサ
はやく一夜あけてわらひぼんの
せかいとしたいこのくろうを
しらぬのは おかこさん おまへだね
かこいもの
「なにさ たんなのうちがまる
やけゆへわたいのほうまで
おはちがまはらず
たべるものさへふじゆう
がちだw
がちだわね
はなしか
「その口かせぎにわたしらも
くみ合のしうのこはいろ
をつかひ しごとにでたが
口ほどにかたがたつしやに
きかぬゆへあふぎなめに
あいました これものちの
はなしのたねサ
おどりのしせう
「とうじんばなしで
おやしきのおきやうげんは
あがつたり なんぎな
ところへこんどのふぢま
しやうもやうも中むら
やでけがをせぬのが
しあはせさ【三段目右端に続く】
【三段目】
小道ぐや
「じつにこんどのぢしんでは大小となく
どぞうをふるひみじん七ゝ子?にどうぐ
やはあきないはひまそのうへに
せつぱつまつたかさくの
いりよりふちかしらを
かいております
かうしやくし
「ぢしんとくわじの
かけもちから ながらう
じやうのひやうろう
ぜめ すでにらくぜう
するところよう〳〵
やかうでとりつきました
とうぶつや
「みなさんよりはとり
わけてかひてのないとう
ぶつ けるゐ いつそらしやや
とろめんか
じんめの毛なら
うれるであらう【四段目右端に続く】
【左の煙の下】
三みせんや
「むねは二上りは
ふるもん?
くと?
こんどはきん
たまがそう
あがりだ
【四段目】
はいくわいし
「あきうどしう□
又ひまはなく□
こまらぬはいくわ□
百いんのてんりや□
とらねばこめの□
じに手にはは□
此せつは一くもで□
ごうち
「モシ そうしよう□
でこさるやつがれな□
おでいりのおやしき□
みなつぶれど□
かうといふめ□
しゆもな□
ほんのいの□
つなぐのみ□
ござ□
茶人
「ふねいちや
などはのうちう
だん〴〵うすち□
そこがみへればこ□
ちやはしあんを
せずはなりま□
まい
くわんけ
「たれか□
とい□
な□
で□
二日このかた
一文のおあしも
もらはぬ大き□
そんじつに
ぢしんはご□
んの□
け□
【くわんけの上】
けいしゃ
「なまづのしりふりは
あとがこわいョ
かみくづひろひ
「やけばに
かみくづのないの
わかつたが
ぢしんのいつたは
よるだから
あとに
かみくづが
あり
そふ□
もの□
【上段・中段・下段の順】
ぢしんゆりいへくら大いにくづれ長者
はなハだ心をくるしめいかゞハせんとせし
ところへ福神きたりたまひ長者を
さとし玉ふ《割書:大こく|》〽《割書:コ| レ》〳〵手まへが先祖ゟ
ためたる所のこがねなれどたゞ〳〵かねの
ばんにんをしてゐるばかりでハいかぬ
ものじや世かいの宝ハゆうずうが
かんようぐる〳〵まハつてゐなけりや
ならぬ《割書:コ| レ》このやうにくらハふるひ
いへハくづれてゐるとてもなんにも
きをおとすことハないありがねの
うちはんぶんハおほくの人に
ほどこしてそのいんとくの
よけいにてその身もます〳〵
あんおんにいへくらやしきハ
いくつでもあとから▲
【二段目・三段目頭を揃えます】
▲できるもの
まづぜんごんをさきとして
人をたすけるくふうを
さつしやれ《割書:ゑびす|》〽それ〳〵
大黒どのゝいハしやるとほり
此せつおほくのこんきうにんへ
せぎやうをいだすものあまた
ありこれらの人も子そんを
おもひその身のくわふくハ
二のつぎにしてけがあやまちの
ないようにトわしらをしんずる
まででもねへいんとくさへほど
こせバ神ハまもるがあたりまへ
なんとほどこしするきはねへか
もち丸〽《割書:モ| ウ》〳〵なにごとにより
ませずおさしづしだい【瓢箪の絵】
【瓢箪の絵】心得ましてムり舛
しかしこのかねハこのまゝ
つミおきましてすこしの
かねをいだしましてうなぎや
のミせなどに見へます
あのなまづをかひとり
大川へはなしましてハ
どうてムり舛ふ
〽(大こく)それもいひがなぜ
かねハだせねへのたエ
〽(ゑひす)さやうさねエ
〽(もち)《割書:ヘ| イ》なまづめを
はなすよりは
つらふムり舛
【絵の周囲 上から下、右から左の順】
〽くぎひろひの
やうたぜへ
〽サアまく〳〵
ぞ
〽さつさと
ひろへ〳〵
〽ぢそうの子
〽土かたのこ
〽はバたの
子ウ
〽ゑんまの子
ゑんやらサ
【看板の文字】
なんぢうやかぢ仮宅
【画面上】
若衆
〽イヤ
おめいちの度々
いするにやこまり
きるぜ
なまづ
〽おれもこんどはじつ
にほつきした此間の
大ゆすりで鹿しまの
おや分からやかましく
いわれたから地のそこに
いてもおもしろくねへから
仮宅のしやかしと出かけ
たのさ
女ら
〽ぬしはばからしいよ萬歳楽たよ
〃
〽ひげつらはわちきやすかねへよ
この間のやつだよ御間【わかるヵ】だよ
なまいきなまづ
〽コウ
信州大坂みや
大なまづのかばやきだとよ
わらかしやかるぜ
なまつ子
〽べらぼうめ
大ゆすりもしねへうち
かばやきにされて
たまるものか
〽コウ
いたぶるれん中が
でいふ見へるぜ
【看板の文字】
江戸まへ
十月二日夜より売出し申候
大なまづ蒲
大あたり〳〵
【画面下】
〽おめいたちは
いきのびて
お目でたいの
持○職人長者
〽イヤハヤ人目にそれとはわからねど
はんとう役、【注】いやなものだ
しじん【注】此かたあさから夜
まで立めしくつて土方
のまねをしてたれか主人
の金銭も目口をふさいで
引出してみんな諸方へふりて
かけてそろばん玉のはづれ
でもあらんかとうたがひ
ねかふはわたしの役徳
馬喰町へんの立のきへ
でもいきたいものじやナア
〽御となりてはいかゝて
ござるイヤハヤまたとまり
ませんイヤモウみとめがつか
ぬにはこまり升わいナア
ヲヤ〳〵コリヤ又
ありがてヱ
百せんのよふだ
ヲヤいたそうだ〳〵
〽ヲヤ〳〵
ヱヽコヲ
〽きけやじしんの時キア
よくもとくもいら
なかつたが仕事を
しまやア酒はたらふく
おまけにさげせんだ
じしん様だろありがた
かあねへか
ムヽ
〽ナニうれしく
なくつて
とうするものか
コチヤナア
内へけへりやア
又のむのだスチヤラ〳〵
ホク〳〵コリヤ〳〵
【注 「、」は「は(八)」の断片ヵ】
【注 「しじん」は「じしん(地震)」の誤ヵ】
新吉原(しんよしはら)こわひ関(せき)の戸(と)
〽かゝる闇夜(やみよ)の大門(おゝもん)をさしてにげ出(だ)す妻(つま)も子(こ)も客(きやく)についても身(み)の上(うへ)を
拭(かけ)ていだせば二階(にかい)の階子(はしご)たまり兼(かね)ては一(ひと) ̄ト飛(とび)に馬爪(ばづめ)のかんざしたど〳〵と大門(おゝもん)
近(ちか) ̄く逃(にげ)てくる鹿島(かしま)は鯰(なまづ)をおさへ玉ひ〽(ことば)ゆすぶればどふもいられぬ大地(おゝぢ)しん何(なん)と
なほ平(へひ)どうもいられぬ地しんではないか〽さやうでござり升(ます)此ぢしんを肴(さかな)にひとつ
もふけたらようござりませうとはなしのしたに女郎(じよろう)たち門(もん)の外(そと)もに
立休(たちやすら)ひ〽此大門をどうぞ通(とふ)してくんなんしへ〽あれ大門に大へんがあるぞや
〽《割書:ナニ》大へんとは何事(なにごと)じや《割書:ハヽア》そさまは女郎衆(じよろしゆ)じやな此大ぢしんに若(わかい)ィ衆(しゆ)も
禿(かむろ)も連(つれ)ずたゞ一人(ひと) ̄り此大門へは何(なに)しにきたのじや〽ァィわたしや仮宅(かりたく)へ立(たち)のきの者(もの)
門を逃(にが)しておくんなんし〽なる程(ほど)逃してもやろうがお守(まもり)が有(ある)か
〽それどころではありんせぬはィなァ〽お守(まもり)がなければけんのん〳〵〽《割書:コレ》此
大ぢしんにさぞなんぎであろう駕(かご)にでものせて逃(にが)してやりやィのう
〽なる程(ほど)通筋(とほりすじ)なら通(とふ)してもやろうがそんならおれがゆすぶる
ことが有(ある)がとで一々(いち〳〵)ころげるか〽ァィ道中(みちなか)でもころげんせうわい《割書:ナ》
〽第一(だいいち)ぎようてんするなさァ江戸 中(ぢう)へ大へんぢしんそうどうに火事(くはじ)
にも焼(やけ)る其中(そのなか)に焼ばの灰(はい)ずみ鬼にして逃(にげ)る姿(すがた)もいとしやと
廓(くるは)の外(そと)へおしたしてこちへ〳〵と逃しけれ
【上段】
ゑんまの子(こ)
ゑんま
〽かういそがしくてはたまらぬみんなてめへ
たちはおれが子にしてくれろと
いふかおれがからだが粉(こ)になる
やうだこれがほんの
ゑんまの粉(こ)だらう
六道(ろくだう)の
辻番(つぢばん)
人(にん)や
辻君(つぢぎみ)も
あじな
ゑんまの
子(こ)とぞ
なり
ける
女曰
〽わちきは町(てう)ざいますがことしのくれは
ねんきもあきすへはどうして黄泉(くわうせん)のなれぬ
たびぢのかりまくらつひうたゝねかゆめうつゝ
おきるまもなくつぶされてやいてこにして水でのむ
人もなき身とあはれみて《割書:モシ》ゑんまさん▲
【中段】
もうじや曰
〽わたくしはおやこ五人のしんいりでございます
どうぞこれからはあなたのお子さま
どうやうにおもつて
すこしもよいとこへ
おねがひ
申します●
子曰
ちやんや
ばうはぢぞうの
子だよ
▲ぬしの
子として
おくんなんし
【下段】
●アノはりの
山はよう
ござりますが
じつにはりの
したは
おそれ
ます
【下段の記事】
安政二卯年十月二日 夜(よ)四ツ時(どき)大地(だいち)大(おほ)ひに
震(ふる)ひ山(やま)くづれ川うづみ家(いへ)を潰(つぶ)し府庫(くら)を
倒(たほ)し渚(なぎさ)こぐ舟(ふね)は波にたゞよひ道(みち) 行(ゆく)駒(こま)は
足(あし)の立所(たてど)を知(し)らずそのうへに猛火(くわじ) 八方(はつはう)
より燃出(もえいで)怪我(けが) 人 死(し)人おびたゞしく猶(なほ)しば〳〵
ゆりかへしの来るに人々恐れおのゝきて
常(つね)には鎖(とざ)しにとざしする家 居(ゐ)もくらも
捨置(すておき)て葛籠(つゞら)を背負(せおひ) 出(だ)す五右衛門あれば
釜(かま)をかたぐる嶋屋の番頭 女房(にようぼ)が
ござは夜たか場如き下女(おさん)が手箱(てばこ)に烏(からす)
なき悪(わる)いといふては駆(かけ)【駈は俗字】いだしよいといふては
逃(にげ)はしり其処(そこ)の広場 彼処(かしこ)の空地(くうち)へ
戸(と)を敷(しき)畳(たゝ)みを置(おき)ならべ木(こ)の下蔭(したかげ)の
花(はな)ならで星(ほし)をあるじのやどりには
茅(かや)の屋根だにあらざれば竹のはしらも
風流(いき)ならず建(たて)まはしたる塀風には
いさゝか閨(ねや)のさまあれど箪笥(たんす)の環(くわん)の
なる度(たび)に《割書:スハ》といひて驚(おどろ)くは彼(か)の新婚(しんこん)の
昼間(ひるま)に似(に)ず然(さ)れば常には夜更
ては蕎麦(そば)うつ人の風鈴かむれゐる
犬(いぬ)の鳴音(なくね)より外(ほか)にはたえて物もなき
町家(まちや)はづれの賑(にぎは)ひて昼(ひる)より明(あか)き
挑灯(てうちん)に火の用心(ようじん)をよぶ声(こゑ)と拍子(ひやうし)
木(ぎ)の音(おと)かしましく市(し)ちうはかへつて寂(ひつ)
莫(そり)かんと人(ひと)はありとも思へぬ有(あり)様
実(じつ)に前(せん)代未聞にて後(のち)の
はなしの種なりかし
【上段の図の囲みの中の題字】
《題:地震後野宿(ぢしんごのじゆく)の図(づ)》
【上部右】
〽子ぞうにそろばん
をおしへているとアノ
さわきさ
二日(にゝち)天災(てんさい)の後(ご) 《割書:と|び》
《割書:もの| か》
地震がいつて 《割書:した》
荷賃(にちん)が一朱 《割書:人事| 用心》
《割書: の|ため》
ひにちてん 《割書:だから| しかた》
たくの事 《割書: か|ねへ》
主人が 《割書:ひらやの| うちへ》
野ぢん 《割書:こし|たい》
◑
◑いやもう
そろ晩(ばん)の事を
おもひだしても
ぞつとする
【中部】
〽ぢしんの晩(ばん)
にはやねがなかつたから
なんぼ天地しんどうでも
我衣ては
▲
▲きりに
ぬれつゝには
おそれ
たよ
○●
○●〽もう かう
かこいができ
りやア
野でん
あんばいよし
さ
〽地
しんの
さわぎて
いまだにど
きやうがおち
つかねへから一ぱい
のみてへものだナニ
かんをすることがで
きねへとそのちや
がまへつゝこみねへ
なんだちろりも
見(み)へ
ねへと
ヱヽまゝよ
▼▲
▼▲ひやでやらかせ
野ぢんのちやまがは
ちろりなくなり
とは此事だ
ろう
【下部】
〽それでも
あめがふらな 〽なにさひとあめ
いでしあは くるとじしんが
せだ おさまるといふから
よ ばら〳〵とむらさめ
ぐらいはしてもいゝ
のさ
太田(をゝた)どうくわんが
そこのところをよんで
おいた
ゆるがずはゆれまじ
ものを大ぢしんの
跡(あと)より張(は)れる
のぢん
の
むら
さめ
と
【上段】
変(へん)化天 災(さひ)持扱の書付
ゆり置申一札の事
一 自身(ししん)義御当地へ対(たい)し僅(わつか)なる動乱(とうらん)より
家並一糸乱 妨(ほう)の上 家 台(たい)骨(ほね)を
打折土蔵殿壁吉殿に
疵(きつ)付候段まつたく以て
時候の上前後もんちやく仕
騒動ゆりかへし御座なく
神々の怒る所 既(すて)に蒲(かは)焼にも
およぶへくを苦(く)けん方
御持扱に依て御了簡(りやうけん)
なし下され以来は
ゆりかたく奉損候
地から上は向後
ゆすりかましき
義相つゝしみ
可申候万一家蔵を
微塵(みちん)体の義ゆれあり候はゝ
要石を以て磐(いわを)とも押へさせられへく
其節石かへしの義致間敷五七の雨
ふつてふたんの如し
千島ゆり返し
かたつき屋破損次店
太平万年ゆれなし月 なまつや
ぬら九郎
御証人 鹿島(かしま)屋
守(まも)助殿
かしま
「おれが
ちつと
ゐぬまに
モウ
あはれ
やァかる
こまつたやつた
はやくとつて
けへして
おさへすは
なるまい
ハイ〳〵
うまた
〳〵
【下段】
□□□□「ひげの□□□□
ぬかしたからおれはほうのさきて?にしてやろう
こううしろからおゝさえ〳〵とつは日よとろ
テンツゝテンツゝ
なまつ
「サアうぬらァよくおれの
ことをのらくらたの
なまつやろうたのと
ぬかしたなはゝかりなから
とろッ子たあ
こたいそうな
ふしんを
しやァ
かつて
かはら
やねたの
にかいや
たのと
ぬかし
ても
おれか
ひけの
さきて
さんはを
ふま
せるの
た
人を
うへに
したから
にやァ
やてへほね
から
こしのほね
まて
たたきをるそ
かくこを
しろ
丸太
「なにこのてへそうめ
おれもさいもくかして
きくみのまる太郎と
いつちやァあしはあしはと
たてられて
とそうやいへの
はしら
にもなるもんたァ
あんまりひり〳〵
はねまはると
なまてしをづけに
やらかすそ
イヤ とつこい
うこ
きやァ
かるな
女
「アレ〳〵なまつかあはれるよ
ほうやはやくにけな
くははら〳〵
そうしやァ
なかつた
まんさいらく
〳〵〳〵
【題字 ▢で囲む】
恵比寿天(ゑびすてん)申訳之記(もふしわけのき)
我等諸神に留守居をあづかりの居候ところ
あまりよきたいをつりしゆへ一 盃(はい)をすごし
たいすい《割書:ニ》および候あいだをつけこみたちまち
かなめいしをはねかへし大江戸へまかりいで
蔵(くら)のこしまきをうちくづしはちまきを
はづし諸家(しよけ)をつぶし死亡(しぼう)人すくなからず
出火(しゆつくわ)いたさせはなはだぼうじやくふじんの
しよぎやういたし候ゆへさつそくとりおさへ
ぎんみ仕候ところ一とうのなまづは身ぶるひして
大《割書:ニ》おそれ一言(いちごん)のこたへもなくこのときかしらだち
たるとみゆるものつゝしんで申□よふ
〽おそれながら仰のおもむきかしこまり候也此たび大へんの
ことは一とふり御きゝ遊され下さるべし此義は申上ずとも御存【注①】の
義にしてはるなつあきふゆのうちにあついじふんにさむい日あり
さむいときにあたゝかなる日ありかくのごとくきこうのくるひ
有てかんだんの順なるとしは少く候今年最ふじゆんなから
ごゝくのよくみのり候は八百万神の御守り遊され候
御力による所也さて天地にかんだんの順のさだまり
ありてはるなつと其きのじかうことの外くるひ候ゆへ
わたくしともくにのすまひにては以の外おもしろき
じせつになりたりとわきまへなきものどもち【「ら」ヵ 注②】ん
しんのごとくくるひまはり候ゆへわたくしども
いろ〳〵せいとうをいたせどもみゝにもかけず
らんぼうにくるひさはぎ候よりつひに思ひよら
ざる日本へひゞき御しはいの内なる
ところをそんじ
候だんいかなる
つみにおこなわるともいはい
これなく候也され共わけて
御ねがひにはわたくしども
のこりなく御うりつくし候とも
そんじたるいへくらのたつにもあらねば
まつしばらくのいのちを御あづけ
下されこれより日本のどち【土地】をまもり
いかなるじかうちがひにてもこの
たびのごときことはもうとう仕らず
天下たいへいごこくほうねんを
君が代をまもり奉り候べしと
一とうにねがひけるゆへわたくし
より御わび申上候ところさつそく
御きゝすみ下されまことに
もつてありがたく候
きやうこう十月のため
よつて苦難(くなん)のことし
自身除之守(じしんかけのまもり)【除の振り仮名は「よけ」のよの上部が欠けているかも】
■(東方)■(西方)■(南方)■(北方)【■は梵字】
右四方へはるべし
【梵字】《割書:家の中なる|てん上にはる》また守に入置
てもよし
【注① 「御存」で「ごぞんじぢ」と読む】
【注② 「自身除妙法(じしんよけのめうほう)」に同じ内容の話があり、そこでは「らんしん」となっている。】
当時おあいだ
【上段右から】
みせもの
唐物や
袋物や
げいしや
会せき
御料理
【中段右から】
さるまわし
茶ノゆ
太夫
けいこ所
ゑ店
三味せんや
かし本や
【右下の看板】
かんさしや
くし五郎【与五郎?】
万小間もの
【下段右から】
まきゑ
かこゐ
やくしや
ぬいはく
ごふくや
たいこ持
ふなやと
【左下の看板】
船宿
大入叶
鯰舞し
の洒落
まはしたる
その
天罸の
むくひ
来て
こよひも
女郎に
廻されに
けり
外山人しるす
【落款】外山人
【同一資料が有り】
【下段右】
〽あそこにおほぜいいるのはしよくにんしゆうと見へて
ごふぎといせいのいゝ人たちだそれはいゝが
此間の大なまづでうちもくらもいごきたしたか
《割書:サテ》いごかないものはかした金だ
どふか貸(かし)た金のいごく工夫(くふう)が
ありそふなものだて
【上段右】
〽おやみなさんまいばんごさかん
さます
ねへ
〽さァ〳〵みん
なそうじ
まいだいくたりても
女郎(ちよろう)を連(つれ)て
こいそして
おれには
▲
▲
一ばんいゝのを
だしてくれおれを左官(さくわん)
だとおもつてかべの
おんなをだしては
いかねへぜ《割書:コウ》やね吉
そんなにたかくとまるな
めかしたつてもはじまらねへ
〽べらぼふめべつにたかく
とまるきじやァねへが
家根(やね)やだからあたり
めへた
〽いゝ《割書:サ》そんなことはどうでも
いゝからはやくけづゝて
おかたづけとして
はやくさいくばへ
いこふしやァねへか
◐
【下段左】
◐
〽《割書:コウ》べらぼうととこ
いそぎだなァそんなに
せかずといゝしやァ
ねへか
なあ
ゑん
ま
〽よして
くれこの
ころしやァ
おれのことを
ゑんまのこ〳〵と
にしきへ【ゑの誤ヵ (錦絵)】へまで出(で)る
でゝいるからふだんはいゝが
こんなみへ【「え」とあるところ】のばしよ
じやァそんな事はいつて
くれるなゑんまだの
ぢざうだのとこゝは
ぢごくじやァねへ
かりたくだよ
【家紋】玉屋地新兵衛
桶伏の段
《題:火夜苦(ひよく)の門並(かどなみ)》
に打
〽宵(よい)の寐(ね)ばなに打(うち)ゆする地震(なまづ)の
もん火(ひ)のいきおひはみな子(こ)に
迷(まよ)ふ行所(ゆきところ)どこにといへるなき
さたは北国(ほつこく)一(いち)の遊女町(ゆふじよまち)よるのなき
こゑかゝり船(ふね)ねごみおこさぬ客(きやく)
もなし中(なか)に高家(たかや)の天へんは
どうもぐづ〳〵ひどいめの風(かぜ)
のかたきのうきよとてあげ
くのはてのゆりかへしかめの
かわりに手ばまりのつみがかうしですい
ふろの〽おけぶせになる身ぞつらや
ぢしん兵衛おろ〳〵なみだぐみ
おそろ感心(かんしん)要石(かなめいし)
かしま【囲み内】〽サテ〳〵
こまつたぬら
くらものだ
こういふことも
あらうかと
かなめいしで
おさへつけて
五七があめの
おきてどふりは
かつてな身
うごきはさせ
なんだに
このはうはじめ
れんぢうのかみ〴〵が
いづもへたびだち
いたしたあとでどこを
どふにげおつたか地の下から
むぐりだしてかく人げんかいを
ゆすりちらしらんぼうの
はたらきふらちせんばんこんどはけつして
ゆるさぬぞサア〳〵まつしやのかみ〴〵たちふかく
ほつていけたかへおもしをしつかりすゑさつしやれ
そしてこんどはいしのそばへぢしんばんをたてずは
なるまいぼんぶたちがねがひのとほりおれが
かへつたうへからはみぶるひどころかびんぼう
ゆるぎもさせぬからのしゆくをせずと
あんしんしてうちへねろハテサおちる
はりあればたすけるかみありダ
はなしか【囲み内】〽エヽありがてへかしまさまのおかげゆゑ
あばれものをおしづめなされてよふ〳〵さん玉がさがりました
しかしわたくしどものとせいはとうぶんあがつたりでなんじういたしやすからさひわひなまづをうめ
つちかつぎにでもおつかひなされてくださりませうならヘイ〳〵〳〵土方(どかた)じけのふござりやす
たいこもち【囲み内】〽トキにわつちもこの男がどうやうになんじうようかんかのこもちこまりいりやのきしぼじん
つちをかついで二百になるふだんひやつぴのおじぎよりありがたいト申やす《割書:イヤハヤ》まいど
なまづのおりやうりかげんはあなたにかぎ〳〵めうでごぜへすおそろかんしんかなめ石《割書:サ》
おいらん【囲み内】〽モシエわちきや《割書:ア》ま《割書:ア》二日のばんのやうになまづさんがおいでなんしてあばれなんすと
しやうももやうもおざり《割書:イ》せん《割書:ヨ》とこへいれ申てなだめまうしんしやうとおもいんしたがそのうちに
いちざの嘉ニ郎さんがおとりなんしてやけになつてあばれなすしこりや《割書:ア|》とても地ごくと
やらへくらがへをすることだらうとあきれたがにげるだけはにげやうとうらてからはねばしを
おろしてわたらうとしたらあんまりあはをたべんしたもんだからおはぐろどぶへ
おつこちになりいしてやう〳〵あがつてなじみのとこへゆくみち〳〵
人にゆきあふとあの女郎はどろみづがしみてゐるとわるくちを
いわれんしたがほんにすゐなかしまさんのおかげゆゑなまづつらをおしづめ
なされておうれしうざますこのすへあんなことのないやうに
おたのみ申んすごしやうでざんすおがみんす《割書:ヨ》
ばゝ【囲み内】〽ヤレ〳〵わしら《割書:ア》くに《割書:サア》にゐるときや《割書:ア》たけのはしらにかやのやねでなんぼ
なまづどのがほてつぱら《割書:ア》たちめさつてもあんともおもひ申さなんだが五十ねん
あとにいまのぢゝイどんとむぎばたけのちゝくりあひがえんとなつてごとう地へ
おつぱしつてきたもんだ《割書:ア》からこんどのやうなきもだま《割書:ア》でんぐりかへすやうなめに
あひ申すそんだ《割書:ア》けれどかしまさまのおかげでこんどもからだ《割書:ア》ふろいました《割書:ア》から
よく〳〵いのちめうがのあるいだ《割書:ア》またとつひやくねんもいきのびるのだか
ムシにやむあみだ〳〵〳〵
むすめ【囲み内】〽わたいはこのあいだからかなめいしさまへごがんをかけるとふりはやくしばゐや
よせのできるやうにおねがひでござりますきのふよそのおばさんがいふには
おまへもやがておよめ入をするとぢしんをゆらせるのだといひなすつたがまつひらで
ござい舛ヨ
【下段】
さむらい【囲み内】〽せつしや意はスハせんじやうと
いふときは百万の大てきをもものゝ
かずともいたさぬがイヤハヤこんどの
ぢしんにはいぐんいたした
兵書(へいしよ)にあるとほり地にいて
なんをわすれずゆだん
大てきとはこの事でござるしかし
かしまどのゝごうせいでなまづ
かたはとう〳〵いけとりとあいなり
けんぞくの小なまづはかばやきやの
手にわたりだい道(とう)ざきのうきめに
あふとは小きみのよいことでござる
四かい太平ゆるがぬみよ
まんざいらくの千しうらく
地しんのうちどめゆりどめ〳〵
あき人【囲み内】これでやう〳〵そんもうの
うめくさをいたしましたいわふて
ひとつしめませうそうしめじや〳〵
みな〳〵【囲み内】〽シヤ〳〵〳〵シヤン〳〵〳〵
〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵〳〵
此世(このよ)から奈落(ならく)へ沈(しづ)むあびきや
うかん野宿(のじゆく)する身(み)の苦(く)は病(やまひ)
五七が雨(あめ)と降(ふり)かゝる涙硯(なみだすゞり)の水(みづ)
ぐきに地震(ぢしん)の歌(うた)をしか〴〵と
柿(かき)の素袍(すほう)や大太刀(おほだち)と借(かり)の
衣裳(いしやう)の成田屋(なりたや)もどき罷出(まかりいで)たる
某(それがし)は鹿島(かしま)要之助(かなめのすけ)石座(いしずへ)といふ
神童(かんわらは)南瞻部台(なんぜんふたい)
一ぱいに尾鰭(をひれ)はばする
のらくら者(もの)鯰坊主(なまづほうづ)は吉例(きちれい)の顔見世(かほみせ)
近き十月二日 㝡(もふ)是(これ)からは盤石(ばんじやく)と踏(ふみ)
堅(かた)めたるあしはら皇国(みくに)ゆるがぬ御代(みよ)の万(まん)
歳楽(ざいらく)此後(このゝち)さまたげひろない筋骨抜(すしほねぬき)の
蒲焼(かばやき)にして凡夫(ぼんぶ)口へほふり込(こむ)と《割書:ホヽ》納(おさまつ)てもふす
聖代要石治
万歳楽(まんざいらく)の
つらね
東西南北(とうざいなんぼく)四(し)
夷(ゐ)八荒(はつくわう)天地(てんち)
乾坤(けんこん)の其(その)間(あいだ)に
何(いづ)れの土地(とち)も
動(ゆら)ざらんや遠(とほ)からん
国(くに)は便(たより)にきけ近(ちか)くはゆつて
眼(め)に泪(なみだ)神無月(かみなしづき)を幸(さいは)ひに家(いへ)
蔵(くら)堂社(どうしや)をゆりこわし大地(だいぢ)が裂(さけ)て
焼た
なまづて
職人は
めしを
くひ
【箱型看板】
江戸前 かばやき
鯰大火場焼
【囲み記事】
口上
町々 御火元(ごひげん)よくゆかせられめいわく
至極(しごく)《割書:ニ》そんじ奉候いたがつて打身(うちみ)せ
崩(くづれ)候《割書:ニ》付 大道(だいどう)《割書:ニ而》商内(あきない)相はじ【濁点の位置の誤記】め候
お間《割書:ダ》御 瓦(かはら)せなく御用心之程
一 ̄ト夜(よ)に〳〵寐(ね)ないあげ奉候
一《振り仮名: 家破|うなんぎ》やき
一骨継(ほねつぎ)どぞう
一なまづ日本 煮(に)
諸方たて大工町
《割書:十月二日ゆり出し》 ふなや《割書:ド》
《割書:当日よけい| 大事あり申候》 ひま蔵
とび
〽ヘイごめんなさいやしわちきアとびのかしらで
ごぜへヱスがこのたびはいろ〳〵おせはくださり
おかげさまでまうかりましましたこれはあげでこぜいす
ほんのしるしばかりとびにあふらげとはこの事てござい升
あなぐら大工
〽ヘイわたわたくしはだいくのあなはちとまうしますが
これはひやうたんぐすりでこざりますがあなたさまには
大みやうやくでこざいますいたみのところへつければ
なまづはひやうたんでをさへますとまうします
どかた
〽チトごめんなさいましわたくしはどかたで
ございますこのごろはどかたのねへほど
かねかもうかるからちつとたれかにかして
やりたいものだ
ほねつぎ
〽わたくしはほねつきでございますがこのあいだ
までしやうじやからかさのほねつぎでこざり
ましたがおかげさまでまうかりました
さかん
〽ヘイごめんなさいわたくしはさかんのぬり五郎てござり
ますがおい〳〵さかんにこて〳〵まうかりますから
なまづでさけがうまうございます
ざいもくや
〽わたくしはざいもくや木へいとまうしますこのたびは
をうきにうれましたけや木ももめずにくろがきも
しのぎましたたくさんまうけすぎましたいくらもめても
木はもめません
四もんや【四文屋】
〽わたくしはしもんやでございますがぢしんさまのおか
げでにしんがうれるからさんちんがししんでせつちんが
くさからう
だいく
〽ヘイわたくしはだいくのいたすけとまうします
なまづくはづにをりましたがぢしんさまのおかげで
おかねがたいそうもうかりましたこのしなものは
せけんをおだやかにふるへのなをる大工(だいく)すりでござります
ちうげん
〽わたくしはあかいごもんのかみさまのちうげんで
こざりますがわらじてもうけましたおれいに
おにしめをもつてまいりましたかづもよつぽど
こざいますぢしんあみなるかずおほく
やねや
〽ヘイわたくしはやねやのとんすけとまうしますが
このたびはおかげさまでやねはぢしんぶきになり
ましておかねがまうかります【ママ】て
こしや【葬儀屋】
〽わたくしはこしやのかめ八でこさいますがあなたの
おかげで一 ̄チ こしばんのかめへこし〳〵おかねがまうかりすぎ
ほねがおれてあしこしがいとふござります
いしや
〽このごびやうきはじうぐわつ二日のよる四ッじぶん
からふるへがまいりましたかしかしこのあんばいでは
かはつておはらのゆうづがつきませうまづこのかしま
かんといふくすりををあがんなさいまし
なまづ
〽わたくしもこのあいだのじこうてからだをだいなし
にいたしましたそれからといふものはあたまがゆさ〳〵して
こまりますまうせけんをおだやかにづゝうのないよう
にいたしたいとはおもひますがふるへがいまだなをりま
□【せ】んからよなほしぐすりでももちいてめでたくなほし
□【た】いものでこざります
【櫓の貼紙】
地震の大出火
鹿島□西□□
【挿絵内せりふ】
十月二日〆取組
大ゆれ〳〵
大はんせう〳〵
〳〵〳〵
かみなり
〽こりやじしん
にや
かなうまい
見物
〽ヤイ
じしんめ
引分てしまへ
〳〵
〃
〽出火(かじ)しつこめ
いゝかげんに
しろ
〳〵
金持おやぢ
〽たがいに
つかれた
ようす
早く
引分にせねば
おれがこまる
職人
〽じしんまけるな
かじもまけるな
かしま
〽地しんのに
大火事の角力
この後行司かしまが
預り申被下
《題:《割書:珍客(おきやく)は八百万神(はつひやくばんじん)の大一座(おゝいちざ)|馳走(ちそう)は鹿島(ていしゆ)が地震(ぢしん)の手料理(てれうり)》鯰(なまづ)のかば焼(やき)大(おゝ)ばん振舞(ぶるまひ)》
鹿島(かしま)大 明神(みやうじん)出雲(いづも)の大社(おゝやしろ)に
おりて諸(もろ〳〵)の神達(かみたち)とともに
氏子(うぢこ)の者(もの)の縁結(えんむすび)をして
居(ゐ)給ひしに本国(ほんごく)より早飛脚(はやびきやく)を
もつて府内(えど)の大変(たいへん)を告(つげ)こし
たるにぞ取(とる)ものもとりあへず神(じん)
通(つう)をもつて数百里(すひやくり)の道(みち)をその
夜(よ)のうちにとつてかへしすぐさま
かの大鯰(おゝなまづ)をとつておさへ以後(いご)の見せ
しめなればきびしき刑罰(けいばつ)におこなはんと
せらるゝところへ日本(につほん)六十余(ろくしふよ)■(しう)【州ヵ】大小(たいしよう)の神(じん)
祇(ぎ)も縁(えん)むすびはそこ〳〵にとりしまひ
おい〳〵うちそろひて鹿(か)しまへ見舞(みまひ)ふ
きたまひしがこのていを見てかしまの
かみのはたらきをかんじまたなまつの
いと強大(ぎやうだい)なるにおどろきしよう
たんし給ふこと■ゑもしばしやま
ざりけりあるじの明神はゑんろ
の所さつそくにお見まひくだ
されし段ありがたくぞんずると
いち〳〵にれいをのべさて諸神
たちへなにがなちそうせんと
おもはれしがかくにはかの
きやくらいといひことに八百万
の大きやくなればいかゞはせんと
ゑびすこんひらの二他【神ヵ】へだんかう
せられしになにかにといはふより
この大なまづをかばやきにして
ふるまひなばよきもてなし
ならんといふにげにもとお
もひにはかにそのかうゐを
なしてづから大なまづを
さきてかばやきになし
八百万神たち
をもてなし
給ひしは神武
いらいはなし
にもきかざる
うそ八百を
おみきの
あまりに
よつて
のぶる
【挿絵中の囲み文字】
西宮ゑひす
さぬきこんひら
鹿島大明神
【二重の四角い囲みの中の題字】
ぢきに直る世
〽ヘイ〳〵
まことに
申わけも
厶【ござ】りません
ヘイ〳〵
〽よくも〳〵
おまひのうちでは
わたしがていしゆと
こともをよく
をころしだ
これから
わたしも
ころして
もらひに
きましたは
鹿島大神宮 商売 武士
土蔵の 主のかたき
うらみ
子供
座頭 親のかたき
金のかたき
親は
子のうらみ
鹿島の神の
利益有て大地震 地主
にうらみ宥主の 地面のうらみ
此所をもつて要石 要石
補助力《割書:ニ而》
あたうちの図
坊主
師のかたき
此人々は地しん 諸芸人 女房
にぎり有て 土方 我身のうらみ 夫のかたき
うらみを よし原
なすこと 金物や
あたわす 材木や
かや家根
名倉
客人
大工 なじみの
左官 かたき
家根や
【上段】
「しらみじやァあるめへし
よくつぶしたりやひたり
したなまづちうにん
からぶつちめろ〳〵
「るすをつけこみ
ふらちのはたらき
いごのみせしめ
かくごしろ
「アイタヽヽヽもふ
こんだから
うごき升
めへから
アレサおち
つひて
とつくり
わけを
きいて
下せへ
これさ〳〵
アイタヽヽ
なまづたぶ〳〵〳〵
「うらめしひ
なまつどの
ドロン
〳〵〳〵
【下段】
「マア〳〵そんなにしねエでも
わつちがいふことがあるから
きいてくだせへ これさ〳〵
【末尾の歌】
ゆるぐ
とも
よし
ひめ
なほす
要石
末広
〳〵と
あふぐ
御代とぞ
【上段】
まあ〳〵
たんと
たれる
がいゝ
や
◦かねぐそ
を
おや〳〵大きな
ものだねへ
◦こんどのちしん
おまへも大そう
をだしなすった
ねへ
◦ほどこしを
【中段】
あんな
かたいものが
おつこち
になつた
よ
◦土手の
いしがき
はじめはいた
かつたがだん
〳〵
よくなつて
きまし
たよ
◦こて
りやうじ
おまへこんやは
よつぴて
おしな
ねへ
◦ねづの
ばん
らくでいゝ
けれ
ど
ふところ
さみしい
よ
◦おゐらん
このごろは
大そうはな
いきをあらく
するねへ
◦大工しやくわん
去年(きよねん)も
やけに
なつて
△
△又こんどもやけに
なつてはいけないよ
三芝居
【落花生形の囲みの題字】
《題:自身除妙法(じしんよけのめうほう)》
安政二年十月二日夜
江戸并関東筋大地震
大火《割書:ニ付》
鹿島大明神託曰
〽其方共義前々
より申 聞(きか)せおく通《割書:り》
此 娑婆(しやば)せかいのうち
大日本国中の地の上は天照
大神其外諸神の御 守護(しゆご)
にして地の下は金輪(こんりん)ならくゑんま王
の住所迄 堅牢(けんろう)地神とそれがしの
あづかる所也しかるに例年(れいねん)のことにして朔日
より出雲大社へ参りいる留すの中(うち)をみこみ
其方共 平常(へいせい)の戒(いましめ)をわすれ乱行(らんげう)いたし御 府内(ふない)
近国に至迄 揺潰(ゆりつぶし)家(いへ)倉(くら)石垣其外を崩(くづ)し其上
出火と成数ヶ所の焼失(せうしつ)のみならずけが人 尚(なを)又一命に及(およぶ)
もの甚多きよし是皆其方共かねてのいましめを
やぶりたる大ざい也いかに某(それがし)るすのうちとてもかくのごとき
異変(いへん)ありては某の守護役(しゆごやく)のかど立がたく我をないがし
ろするふらち一人も其まゝさし置がたしへんとう有やとふかく
いかりをあらはし仰けるに一とうのなまづは身ぶるひして大におそれ
一言をはくものなく此ときかしら立たると見ゆるもの慎(つゝし)んで申《割書:ス》
〽おそれながら仰のおもむきかしこまり候也此たび大へんのことは
一とふり御きゝ遊され下さるべし此義は申上ずとも御存の義にて
はるなつあきふゆのうちにあついじぶんにさむい日あり
さむいときにあたゝかなる日ありかくのごとく気候のくるひ
有てかんだんの順(じゆん)なるとしは少(すくな)く候今年 最(もつとも)ふじゆん
ながら五穀(ごこく)のよくみのり候は八百万神の御守り遊され候
御力による所也さて天地にかんだんの順のさだまり
ありてはるなつと其きのじかうことの外くるひ候ゆへ
わたくしとも地下(くに)のすまひにては以の外おもしろき
じせつになりたりとわきまへなきものどもらん
しんのごとくくるひまはり候ゆへわたくしども
いろ〳〵せいとうをいたせどもみゝにもかけず
らんぼうにくるひさはぎ候よりつひに思ひよら
ざる日本へひゞき御しはいの内なる家倉
をそんじ候だんいかなるつみにおこなはる
共いはいこれなく候也され共わけてお願
にはわたくしどものこりなく御うりつくし候共
そんじたるいへくらのたつにもあらねばまづ
しばらくの命を御あづけ下され是より
日本のとちをまもりいかなるじかう
ちがひにても此たびのごときことはもう
とう仕らず天下たいへいごこくほう
ねん君が代をまもり奉り候べしと
一とうにねがひけるゆへ御ゆるし有て
いづれもかへされけりそれにつき
ぢしんをよける御まもりはむかしより
□□□ありといへども又下にあらはし置候
【下段】
△それ地しんは五ヶ国十ヶ国もゆるものに□
そのいへばかりのがるゝといふことなしされど
かしま明神の御宮居をはじめ其 御領(ごれう)
ぶんの内にすむ家あまたありて
むかしより地しんにてわざはひある
ことをきかず今左にしるす
■(東方) ■(西方) ■(南方) ■(北方)《割書:四方へ| はる也》【■は梵字】
■【梵字】《割書:家の中なる|てん上にはる》又守に入角へかける也
右の守はたとひぢしん有ても
此家ばかりはさはり有ことなし
万化宝(はんくはほう)といふ本を見るべし此ことを
信(しん)じて用(もち)ひたる家は何ごとなく
あざけりたるものはゆりつぶれ
たることあきらかに書たり
されば是も世の心得にならんと
こゝにしるしはべりうたがふ
人はさしおき此守を信じて
いらい地しんのなんを
のがれ給はゝ幸(さいはい)此上
なしと申のみ
【同一資料あり】
鯰(なまづ)
退(たい)
治(ぢ)
【札 ■は梵字】
■(東方) ■(西方)
(中央)■
■(南方) ■(北方)
東西南北天井へ
此ふだをはりおけは
家のつぶるゝうれひ
さらになし
弁慶
な
ま
づ
道
具
けんのうた
〽酒のきげんか
ちどりあしかみなり
あきれてみひよこ〳〵
それぐら〴〵とんで
出(で)てまいりましやう
なんじやかはやがね火事(くわじ)が
あるぢしんがじいさまに
しかられてさるははい死(し)ぬ
とんだこつたなふ
はやしことバ
〽そこで樋口(ひぐち)かまいります
かみなりさんがたびへにげ
あとでしあんのごゐんきよ《割書:ヲ》
【上段】 【中段】
十月の二日は
至て吉日にて
二十八宿の虚宿に 〽よいゆり
あたり時は亥の刻 サアゲ
なれば ヤア
仏説(ぶつせつ)には 引
此日(このひ)この時(とき)の
地震(ぢしん)を
帝釈動(たいしやくのゆり)と
申て 〽ヤイ〳〵なまづまけて
くれるなたのむぞ〳〵
そのしるし 〽だがもちつと
やんはりやんなせへ
大吉なりと またうごくと
こまりやす《割書:ゼ》
ふるき書(ふみ)に
〽かしまさま
ありしとかや こゝは一ばんふつて
ゆつてくだせへまし
〽いや〳〵おれがいづもへ
なまづめを いつてきゆうとおもつて
はなしうなぎの そこへでると
ぬら蔵をゆり このしまつ
くづしたる いごの
金(かね)の みせしめ
口(くち) かんねん
あげ しろ
ウヽン
〳〵〳〵
〽まんざい
らく〳〵
おかしな君た
ねへ
【下段】
〽ゑんやらヤ《割書:ア》〽ヤ《割書:ア》引 〽ゑんまの子ノ
ヤア引
〽ドツコイ
そううまくは
いきやせんわしも
ぬらくらしねへ
やうにやけばで
はいをつけ
てきた
は
〽ヤア
ゑんまの
子があの
なかへまちつて
ゐやがる
ヤヘ
安政二年十月二日夜の四 時神々 出雲(いづも)へ大一座のるすを付込(つけこみ)
例の大鯰(おゝなまつ)ね入ばなゆへねがへりをする所(ところ)江戸十里四方あのめき〳〵
ピシヤリゆへ自身(じしん)もしよげになつて塞(ふさい)てゐる所へ江戸中の鎮守(ちんじゆ)
立合にて吟味(ぎんみ)ある 地震共でたらめに【▢げ囲む】 近頃(ちかごろ)はとつの奴等(やつら)度々(たひ〳〵)此国(このくに)へ参(まい)り地の下で
もうるさく存(ぞん)じ日本の後(うしろ)を力(ちから)任(まかせ)せ【衍】に動潰(ゆりつぶ)したる尻尾(しりを)はづみに乗(のつ)て
江戸 表(おもて)へ持出(もちだ)し候 段(たん)幾重(いくゑ)にもお免(ゆるし)〳〵と地の下で手を合せたるは九
太夫といふ身振(みぶり)なり 諸神【▢で囲む】 こいつ要石(かなめいし)位(ぐらゐ)の甘(あま)口ではいかぬ奴(やつ)今度(こんと)
は柳川(やながは)の板前(いたまへ)へ申付 蒲焼(かばやき)すつぽん煮(に)にすると甚(はなは)だいかり
力身(りきま)【ママ】せ給ふ 山王【▢で囲む】 神田【▢で囲む】 二ヶ 所(しよ)の氏子 怪我(けが)少(すくな)きゆへ今度(このたび)は仲(ちう)人に
成(なり)給ひ此(この)以後(いご)急度(きつと)動(うご)き申 間鋪(ましき)の一札(いつさつ)を月番 深川(ふかがは)の蛭子(ゑひす)の
宮(みや)へとられ鯰共ふるへながら判(はん)をおす日々 少(すこ)しヅヽ動(うご)きたる
は大方(おゝかた)此時(このとき)なるべし【印】《割書:この判は彼奴(きやつ)が証文(しようもん)の印形(いんきやう)なれば|これを懐中(くわいちう)する者(もの)は地震の難(なん)を免》
【挿絵中の囲み文字】
深川恵比寿の宮
江戸地震
信州地震
越後地震
小田原地震
屋
里
宅
【箱型看板】大入 千客万来
おでん
ひ
う
た
ん
【右横 看板】ひうたんや
【上部 右】
鯤鯨(くじら)は七里(なゝさと)を潤(うるほ)はし
鯰(なまづ)は四里四方を
動(うご)がし諸職(しよしよく)の腕(うて)を
振廻(ふりまは)させ自在(じざい)に儲(まうけ)さする
うへ銭車(せにくるま)のめくりよくして
富貴艸(ふうきぐさ)の花をちらし生芝(おひしば)の
芽出しを茂らせ貧福(ひんふく)を
交(まじ)へて正斧(しやうきん)を下(くだ)すとかや
【小判の舞う中の文字】
大国のつち
うこかして
市中へ つむそ
宝の山を めでたき
【見出し】
大鯰(おほなまづ)江戸(えど)の賑(にぎは)ひ
地震御守
鹿嶋(かしま)太神宮(たいしんぐう)の御託宣(ごたくせん)に曰(いはく)
我(われ)此土(このど)のあらん限(かぎり)山川草木(さんせんさうもく)
のひとくさ蒼海(あをうなばら)のみぎはの
いさごのかづ〳〵震(ふるひ)ふるふ
といへども少(すこ)しもその形(かたち)を
害(そこな)ふことあたはずと白(まう)す
此御たくせんをとなへて朝暮
ねんじたまへばあくじさい
なんけんなん火なん地しんの
のなんをよけること疑(うた)かふべか
らず又左にしるす所の御札は
東西南北の柱にはりおもば
家崩れ壁破るゝことなしとかや
【札 鹿嶋】
【上左側】
いせの馬
〽どうた
一ばんへこんだ
ろうこれといふ
のもおらがおや
ぶんの太神宮(だいしんぐう)さまの
おさしづだからしかたが
あるまい井戸(いと)をほつたら
水(みつ)がでる江戸が■んなら
□□□でると思やれさ
【下右側】
□□□んきよ
〽これはたいへんたなんでもこんと■一ばん
おちをとろふと思のたにとんだ
けだものがてしやばつて
むけをとつた■ざん
ねんなこれ■
いせのかみのつげ
なればぜひ■まへ
小ゆすり津浪(つなみ)におしわたりこゝで逢(あ)ふのも
三年目(さんねんめ)久(ひさ)しぶりであつたよな
《振り仮名: 〽|▲》ちよつと見(み)るから高(たか)ゆすりたとへば
地震(ぢしん)雷(ごろつき)でも
鹿島(かしま)の神(かみ)の
御恵(おめぐみ)み【衍】で
ひんぼう動(ゆるぎ)も
さしやァ
しねへぞ
《振り仮名: 〽|●》なる程(ほど)こいつはおつりきな
あんべいだきられの与三なら
三(み)すじの疵(きず)こふもり安(やす)が付(つき)ものなれど
おれは鯰(なまづ)の親(おや)ぶんにはなれぬ中(なか)ののらくら者(もの)
ひやうたんなまづておさへて居(ゐ)やすョ
夜無情(よはなさけなく)
浮世有様(うきよのありさま)
【重ね扇文】横櫛(よこぐし)のお富(とみ)
【三ッ入れ子升文】きられ与三
▲太左衛門
●蝙蝠安(かうもりやす)
かけ
合
せり
ふ
【重ね扇文】
〽思(おも)ひ出(いだ)せは過(すぎ)し頃(ころ)駿河路(するがぢ)かけて小田原の
地震(ぢしん)と聞(きく)もおそろしい
【三ッ入れ子升文】
〽潰(つぶ)れた音(おと)が身(み)の仇(あだ)と京(きやう)信濃路(しなのぢ)も喰(くひ)つめて
【上段中央の題字】
二日はなし
《割書:地震亭》念魚
《割書:町々庵》炎上
●将棋ずき
●吉原やけ
●太神宮神馬
【記事 右上段】
●此あいだのぢしんずきにしやうぎい
すきな人がふとやきあいまして
〽《割書:トキニ》かく兵へさんさてこの間は
けしからぬ事でしかし御ぶぢて
おめでとうござります
〽《割書:イヤ》これはばん吉さん御けがも
なくてしかし《割書:カク》飛車(ひしや)〳〵と
しやうぎだをしはどうでごぜへ升
〽《割書:コレハ〳〵》此そうどうの中で
すきな道(みち)とてしやうぎでしやれる《割書:トハ》
ありがてへもしこれじやァ会所(くわいしよ)も
おあいだしねま事に王将(わうしやう)でごぜへ升
〽なるほど往生(わうじやう)のしやれかへおもしれへ◮
【右下段】
◮それはそふとこのあいださる
ものしりにきゝましたが
このくらいなさわぎは
桂(けい)馬 香(きやう)車いらいないと
ゆうことで厶【ござ】り升
〽《割書:イヤ》そのかはりによのなかゞ
ゆりなほつて金銀のゆう
づうがよくなります
ときに妙(めう)ななりでどこへいきなさる
〽《割書:ナニサ》さるおやしきへ歩(ぶ)に
やとわれてまいり升
〽《割書:ソレ》じやァ金(きん)に
なり升ふ
【題字下】
●ときによしわらの
五丁目は大へんなさわぎだね
〽さよう《割書:サ》あすこはつぶれた上に
やけだからいゝぶんはねへ
〽わしはあのばん五十けんにあすんで
いやしたがおそろしいしんどう《割書:サ》
〽《割書:モシ》よしわらがしんどうなら
むかふのくらのふるつた
くらゐは《割書:アリヤア》かむろて
ごぜへやせう
【左下段】
●《割書:トキニ》こんど
いせの太神宮(だいじんぐう)様の
じん馬(め)の毛(け)がのこら
ずなくなつたそふだが
此あいだゑどのぢしんに
太神宮(だいしんぐう)様がその馬(うま)に
のつてきてたいそふ
人をたすけた
そふだが
たすかつたものは
袂(たもと)にその神馬(じんめ)の毛(け)が
一本づゝあつたそふだ
〽おや〳〵そふかへわたしのおとつさんは
このぢかのぢしんでつぶされて
しんでおてらへほふむつて
しまつたがもしやそのとき
きたゐたきものゝたもとに
神馬(じんめ)の毛(け)かありやァ
しないかときものゝ袂(たもと)を
たづねてみておや〳〵
あらそわれないものだ
毛(け)があつたよ
〽《割書:ドレ》みせな《割書:コリヤア》
神馬(じんめ)の毛(け)じやァねへ
〽それじやァなんだへ
〽《割書:コレカ》こりやァ鯰(なまづ)のひげだ
【左頭部の整理番号】
3-27
《割書:/地震(じしん)|火災(くわさい)》あくはらひ
アヽラてッかいなく今はん【今晩】今宵の天災を神(かみ)の力て
はらひませう十月二日三カ日町並お門を詠【ながむ】れは
三国一夜のそのうちに土蔵や壁の不事の山
かゝるうきめに相生の松丸太やら杉丸太錺り立たる
諸道具をお庭外へ持はこひ野宿する身の苦【九と掛けたか】は
病ひ五七か雨と【注】ふりかゝる瓦や石の目にしみて
なみたにしめす焼原の昼夜ねつはん【寝ず番】自身番火の
用心や身の用心春ならねとも皆人の万才楽とうたひそめ
かそへたはしらもおれ口のおめてたくなる人の山これも世直し出雲(いつも)
から立かえりたる神々のふみかためたる芦(あし)原 皇(み)国千代に八千代に要(かなめ)石の
磐(いわお)となりて苔(こけ)のむすゆるかぬ御代をはゝからす又もやひまをかきつけて
ぬらくら物の鯰(なます)めかわるく尾/鰭(ひれ)を動かさは鹿島の神の名代に
此こと触【事触れ】かおさへつけ高麻(たかま)か原をうち越(こし)てみもすそ川へさらり〳〵
【注 地震があった時刻でその後の天候を推知する江戸時代の歌から引用されたもの。「九は病五七が雨に四つは旱六つ八つならば風と知るべき」】
【看板の記事】
《割書:ぢしん|みやうさく》下徳参(げとくさん)《割書:一撌| 八百八丁》
一此 崩(くづれ)の義は鹿島太神の御夢想(ごむそう)にして一 ̄ト たび焚(もし)震(ゆる)ときは
三十六ヶ所灰となり振動(しんどう)は四里四方家蔵をくづし野宿(のじく)
するといへどものちは識事(しよくじ)【識は職の誤ヵ】すゝみて日銭まはり遊女(ゆうじよ)仮宅(かりたく)に
□ではんじやうし内福より金銀はき下し下々のうるほひを
つけいかなるなんじうにても五場所に御 救(すくひ)小屋をたてられやしなふ
なり世の中治すること震(しん)のごとし
功能(こうのふ)
一 金のつかひたるによし 一 有金を下し
一 ゆうづうによし 一 借金 言訳(いゝわけ)によし
一 中より下のうるほひによし
一 諸職人の手間はよし
忌物(あしきもの)
一 《振り仮名: もちるい|家蔵ぢめん》
一 《振り仮名: とりるい|かしきん》
いづれもあくどき強欲(がうよく)のものわるし
一 用ひかたは夜四ッ時すぎ
寐耳に水でもちひべし
【下段中央】
《振り仮名: 〽|持丸》難治(なんじ)なんもんで
御ざります
《題:生捕(いけどり)ました三(さん)度の大地震(じしん)》
【上段】
だいく
「エヽモシだんなこのてへくのわるひ
ところはとくといひきけやして
とも〴〵おわびをいたしやしやうから
まァともかくもわつちらにおあづけ
なすつてくださいやしじつのことわつちら
はじめでしやらうまで日壱分とつて
すきな??をたらふくけづりやすのも
このしゆうのおかげでごぜへやすから
みにかへてもこのおわびをいたさにや
なりやせん のヲかしら
とびの者
「そうさ〳〵おめへのいふとをり
こんなことでもなくつ
ちやァあいつのつらァ
見にゆくこともでき
やせんモシ〳〵
こかァ一ばん
わつちらが
つらァたてゝくだ
せへましな
左くわん
「あのしゆうの申
ますとをり人の
うれひをよろこぶ
のではございませんが
こんなことでもなけ
りやァはなのしたが
ひあがりますのヲ
やね屋さんおめへなん
ぞもそふじやァねへか
やね屋
「ほんとうにさ
つくろひしごと
ぐれひしてゐた
日にやァすきな
こめの水がのめや
せんこちとらが
ためにやァ
いはゞいの
ちのおや
どうぜんで
ござり
ます
どうぞ△
【下段】
△かんべんして
やつてください
まし
や師
「ヘエ〳〵わたくし
なんぞもぢしんさまの
おかげで五ほんや六本の
おあしはあさのうちにもとり升
からぢしんまへのこめ
やのかりも五つき
たまつたたな
ちんもすつ
はりすま
し
ました
そこらァ□
らもおかんが□
なすつて
どうかこんど□
ところはお見
のがしくださひ
まし
て
なら□
ことな□
かり
なく
なつた
じふん
おつか
まへくだ
さいま□
またぜに
もうけ□
できます
からとてまへ
がつてをな□
だてゝごた□
〳〵
※わびことを
するにかしまの
かみもこゝろにおか
しくわらひをふくみ
けるがわさとこゑをあらげて
「イヽヤならぬかかるつみ
あるやつをゆるしおき
なば日本六十余州の
なまづどもよきことに
こゝろへまた〳〵かやうに
しよ人ンにうなんぎをさせ
市中(しちう)を大家(か)?(ば)やきになさんも
はかられねばいごの見せしめに
なべやきのけいにおこなふべしと
さらにきゝいれ給はざればせんかた
なくみな〳〵ためいきをつきながら
「コリやまァとうせう汁
といひやした
【障子看板の文字】
なまづ
かば焼
江戸屋
【石に】
要石
【上段】
大都会(おほつゑ)不尽(ふし)
〽(二上リ)大なまづゆ (ウ)ら〳〵世間(せけん)は
大そう火事をけし御すくひは
おたきだしにけ出す
おやこは無事(ふじ)のさた
大どうのつゝはり丸太(まるた)
あんまころんで
仰(げう)てんし
わらじの直(ね)を
上ヶて御ふれに
番太(ばんた)もぞつとして
かべふるひじやうだん所で
ござりませんやつとの
おもひでつぶれて
弁当(へんとう)屋根(やね)のうへ
【下段】
なき上戸
ゑんまの子
はらたち
上戸
ちしん
の子
わらひ上戸
地蔵の子
大地震(おゝじしんの)妖怪(ようくわひ)神宮(しんぐう)退治(たいじ)之(の)図(づ)
地震(ぢじん)のすちやらか
おくれて出(で)られぬ 蔵(くら)の中(なか)
あちこち見つけて 薮(やぶ)の中
うちから転げて 大道(だいど)中
はだかでにげ出す 風呂(ふろ)の中
店(たな)ばんはたらく けむの中
女郎(ぢよらう)はおはぐろ どぶの中
雨ふり野じんは とばの中
まがり ̄ヲ直(なほ)して 内(うち)の中
すちやらかぽく〳〵
万歳らく
ぐら〳〵
こゝに安政二年
十月二日の夜
大地震(おほぢしん)ゆりて
家(いへ)たをれ
蔵(くら)くづるゝこと
おびたゞしく
猶(なほ)死亡(しぼう)の人(ひと)多(おほ)かる
中(なか)にけがもなく
あやうき命(いのち)を
たすかりたる
人々(ひと〴〵)は伊勢(いせ)
太神宮(だいじんぐう)の
御たすけ也
その故(ゆゑ)は
彼時(かのとき)御馬
御府内(こふない)を
はせめぐり
信心(しん〴〵)の輩(ともがら)を
すくひ玉ふにや
たすかりし人々(ひと〳〵)の衣類(いるゐ)の袂(たもと)に
神馬(じんめ)の毛(け)入(いり)てある
といふをきゝてその人々
あらため見るにはたして
馬(うま)の毛(け)出(いづ)る也 是(これ)こそ
大御神(おほんかみ)の守(まも)らしむる所なりと云々
〽かみさまがでゝはおれ
たちはかなわねへはやく
にげだせ〳〵
〽アヽいてへ〳〵もふ〳〵
でませんごめん〳〵
【二重の四角い囲みの題字】
持丸(もちまる)たからの出船(でふね)
【題字下部】
《振り仮名: 〽|持丸》アヽせつねい〳〵せつかくつめて
ひろいためたのをいちどにはく
とはばか〳〵しいなんの
ことだかうゆうことなら
いままでつかへば
よかつた
ゲイ〳〵〳〵
《振り仮名:〽|なまづ》《割書:モシ》たんなあ
なたふだん
あんまり下方の
者をつめてなんぎをさせるからこのよふな
くるしいおもひをなさるのだこれから心を
なほしてぢひ【慈悲】ぜんこん【善根】をなさるがよろしふ厶【ござ】《割書:リ》升
《振り仮名:〽|ひろいて》これ〳〵てまへたちはそんなによくばるなまだ〳〵
ゆつくりひろつてもたくさんだいゝかげんにしてかりたくへ
出かけたがいゝ《割書:ヲヽ》そふよ〳〵ひろいためてぢしんに
ひどいめにあうといけねへから仮宅へいつてつかつて
しまふほうがいゝ諸方へのゆうずうになるから
【3-20-左】
【上部】
ぢしん
〽いま
たゝかいを
くつがへすこと
わがひれの
うちにありそれ
しよくにんども
かせげ〳〵
むかふのたいしやうは
大明じんと
あるからは
はゝァわかつた
てもかしま
しいこと
ではあるぞ
ひやうたん
らしいことを
いふな〳〵
【下部】
しよく人
〽大しやうが
いせいをふる
われたで
こちとら
までが
しあわせ
〳〵
入用(いりよう)御間(おあいだ)商売(せうばい)競(くらべ)
かしま
〽わがいし
したにすみ
ながらるすを
だしぬき
うらぎり
したる
おゝ
なまづめ
はやく
あたまを
おさへろ〳〵
みな〳〵
〽いへくにをうごかす
だいざいにん
いまわれ〳〵が
うちとりませう
いづれもこゝがかん
じんかなめいしだ
ぞへ
【3-20-右】
あら
嬉(うれ)し
大安日に
ゆり直す
御代(みよ)は
千(せん)秋(しう)
後万歳(ごまんざい)
楽(らく)
鶴亭主人
〽わたくしどもいさゝか人にうらみはなひが
このごろどぜうめがりうかうしてなまづの
むまにはおあいだにな□□れかく□□くて
うごきましたところおもひよらぬ
けがにんをこしらへあとさき見づの
とがをくやみてごまんざいらくの
はてまてもすなを
かぶつてうごき
ませぬゆへ
ごようしや〳〵
【挿絵内】要石
【囲みの中の題目】
《題:地しん火事の役払》
あゝらめでたいな〳〵当年世なをし
の御しうぎ《割書:ニ》てはらいませう一《割書:ニ》大工二《割書:ニ》
家根や三《割書:ニ》さくはん四《割書:ニ》しごとし五ッ
いなかの平人も六ッむかしの御せいぢ《割書:ニ》
七ッなまづがふるへだし
八ッ御屋敷ぶげんさま九う
みたやうに金をたれ十《割書:ニ》
この事しッたなら此やく
はらいがとんて出又
よ直 ̄シ の事ならば
かしまの国とは
をもへ共
江戸川
おきへ
サら
り
《題:《割書:地しん|どう化》大津ゑぶし》
【上段】
「下方(けほう)ゑ
金(かね)をする。
芸人(げいにん)たいこわ
居酒(いさけ)する。土方
の衆(しう)がのみ
まする。
ぬります
おくらはま間(ま)に
合(あわ)せ。八方(はちほう)へもゑ
上りこれおばみな
見て仰天(ぎようてん)し
十方(とほう)にくれます
るゥ〻。仮宅いそいで
ふしんしる。金(かね)しだ
い評(ひよう)ばんなまづわ
大さわぎ。役者(やくしや)わ
旅(たび)ゆく。ほ
ねつぎはん
ぜう世の
なをし
万歳楽
永生作
【雷に向かって右】
どつこい〳〵よう〳〵
さかながとれて
さけわ下るし
お客は沢山くるし
是こそ三徳用と
ゆうのだろう
【中段右から】
あふむ
【若衆】
まつりの跡で
又永やすみさ
【芸者向かって右・袖下】
一所に
きなまし
【芸者向かって左・ひも下】
今に仮宅ができると
よに出してあげんす
【鎧武者向かって右】
今までかね
をかついで
おゝきにくた
びれた
【ひょうたんを押さえる腹掛けの男の上】
こう地しんを
おさへてよを
なをすのさ
【鬼の面の男向かって左】
たのもしや奉加はとうじ
やすみだからばん付でも
つくろう
【梯子上の左官向かって右】
金持の大あたまは
するば所が
おおい
から
なんぎだ
ろう
【仲間向かって左】
□様のできるあいだ
【下段右から】
【下駄の男向かって右】
此ちくせうめうぬまで
かねをよこさぬか
【下駄の男向かって左】
わん やらないのでは
ないはゑしつかう
でとれぬの
だ わん
〳〵〳〵
【犬の頭上】
仕事はひま
なり一ㇳねりやろう
【犬の尾の左】
これわ親がてきわには
やらぬ
【なまず口の前】
信州から上方
すじ東海道をしま□
えじ
まい□
【ひょうたん左の男の足元】
おれが
うたを
いれる
から大丈夫?
だ?
【福禄寿の下】
おれが
あたまわ
??が□
い蔵も
あるから
するのに
なんぎ
だ
【福禄寿左の職人の足元】
こうあしが
つかへて上が
られねへぜ
そうすると仕事が
らちがあかねえぜ
【落花生形の枠に題字】
《題:世(よ)直(なを)し鯰(なまづ)の情(なさけ)》
△十月二日大地しんの時
いせの御神馬(ごじんめ)が駈(かけ)て
きて諸人(しよにん)を赦(たすけ)た
其せうこにはその
時きていた着物(きもの)の
たもとを見ると白い毛(け)が
二三本づゝはいつてあるなんと
有がたひ事ではないかと咄(はなし)をして
いる所へ一ツの鯰(なまづ)が出て来ていはく
〽(なまづ)今の咄(はなし)の神馬(じんめ)が赦(たすけ)たのではない
アリヤおいらの仲間が赦(たすけ)たのだ《割書:△》〽ナアニ
ばかアいはつせへなまづは人をくるしめるか
おどかすことよりしねへものがどふして〳〵
赦(たすけ)るなぞと情(ぜう)が有ものか今じや親(おや)の敵(かたき)だと
いつて打殺(ぶちころ)されるは足元(あしもと)の明(あか)るひうちにげて
行ッせへ〳〵 《割書:な》【▢で囲む】 〽サアそれだから大 笑(わらひ)だたとひ鯰(なまづ)に
しても千百万 寄(よつ)ても此 大地(だいち)が一分でもうごくものか
地しんは陰陽(いんやう)の気(き)だソレニ鯰(なまづ)をわるくにくむからその
わるくいはねへ人ばかりを赦(たすけ)てゆりやした《割書:△》〽ハヽアそれじやなまづ
にも少(ちつと)は情(なさけ)があるのう《割書:な》【▢で囲む】〽ソリヤおめへ魚(うを)心あれば水心ありだ
即席
鯰はなし
〽これは此たびの地しんにつき
まして多くの蔵や立家を
くづしましたるゆゑ人々うれひ
かなしみゐたるにやう〳〵
月もたち日をおひけるに
あるひかのなまづぼんにんの
かたちをなしつゝ町々をめぐり
あるき〽ヲヤ〳〵でへぶこゝの
内はくづれたヲヤ此くらもひどく
ふるつたァこんなにぶちこわすつもり
ではなかつたトひとりごとをいふをきゝて
あたりよりかけいで〽これ〳〵てめへはぢしん
しやァねへか〽ナニちしんだウヌ手めへのおかげで
かあいゝつま子わかれたり〽ソウヨおやをころした
かたきのぢしんかくごしろトてん〳〵にゑもの〳〵
をもちきたりさん〴〵に打擲(ちやうちやく)いたしければ
ぢしんもいろ〳〵わびけれどもいかなりやうけんなり
がたくぢしんはすか所のきずをうけたをれけるを
おほぜいうちより見るにからた中あざだらけなれば
〽コレ〳〵このあざを見なせへ〽ヱヽこりやァあざじやァねへ
〽ナゼヘ〽イヤサこれはなまづたものを
焼死(しやうし)大法会(たいほうゑの)図(づ)
高名(かうめう)
変死(へんし)
滅法(めつほう)世界(よかい)
念仏(ねんぶつ)種焼(しゆしやう)
拙主(せつしゆ)冨者(ふしや)
南無阿弥陀仏
みななみだ
南無阿弥陀仏
皆なみだ
〳〵〳〵
キンノヲト
〽ガァン〳〵〳〵