学校教材発掘プロジェクト 4の翻刻テキスト

このテキストはみんなで翻刻で作成したものです.利用条件はCC BY-SAです.

絵本写宝袋

【表紙】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
日本近代教育史
 資料【横書き】

【見返し】
【題箋】
絵本写宝袋 三

【左丁】
絵本(えほん)写宝(しゃほう)袋(ふくろ)三之巻目録
源義家(みなもとのよしいゑ)《振り仮名:追_二安倍貞任|あべのさだたふをおふ》【一点脱】  宗任(むねとう)《振り仮名:詠_二和歌_一|わかをゑいずる》図(ず)
景正(かげまさ)敵(てき)を射(ゐ)る図(づ)   保元(ほうげん)夜軍(よいくさ)之(の)図(づ)
為朝(ためとも)《振り仮名:与_二義朝_一|よしともと》戦(たヽかふ)図(つ)  源頼政(みなもとのよりまさ)《振り仮名:射_レ鵺|ぬゑをゐる》図
真田与一(さなだのよいち)勇力(ゆうりき)之(の)図  川津(かわづ)股野(またの)相撲(すまふ)之図
文覚(もんがく)荒行(あらぎょう)之図    伊豆(いづの)院宣(ゐんぜん)之図
加藤(かとう)次景(じかげ)廉(かど)之(が)図   金子(かねこの)十郎/之(が)図
三浦(みうらの)大介(おほすけ)之図    難波(なにはの)梅(むめ)制札(せいさつ)之図 

【右丁】
梶原(かぢはら)二度(にどの)駆(かけ)之図   忠度(ただのり)旅宿(りよしゆくの)花(はな)之図
教経(のりつね)《振り仮名:欲_レ捕_二義経_一|よしつねをとらんとする》図  舎那王(しゃなわう)之(の)図
弁慶(べんけい)《振り仮名:乗後馬|うしろむまにのる》図    堀河(ほりかは)夜討(ようち)之図
安宅(あたかの)/関(せき)之(の)図     時宗(ときむね)大磯(おほいそ)へ馳行(はせゆく)図
朝比奈(あさひな)/草摺(くさずり)を引(ひく)図

【左丁】
源義家(みなもとのよしいゑ)【見出し囲み文字】
頼義(よりよし)/衣川(ころもがは)に押(おし)よせ給ふといへども究竟(くつきやう)の
要害(ようがい)にてたゆすく落(おと)さんこと難(かた)かりし所に清原(きよはらの)/武則(たけのり)術(じゆつ)を
めぐらし城中(じやうちう)に火(ひ)をかけさせしかば貞任(さだたふ)兄弟(きょうだい)をはじめ
さん〴〵になつておち行(ゆく)時(とき)義家(よしいゑ)貞任をめがけかた手矢(てや)
はげておつかけ給ひこゑをあげていかに貞任(さだたふ)しはらく
返(かへ)せ言(ものい)はんと宣(のたま)ひければ貞任ものがれゑじとおもひ
馬(むま)をしづめしかば義家(よしいゑ)大音(だいおん)にて
  衣(ころも)のたてはほころびにけり
と宣(のたま)ひければ貞任(さだたふ)も馬の鼻(はな)を引返(ひつかへ)し𩋙(しころ)【注】をふり向(むけ)
  年(とし)を経(へ)し糸(いと)の乱(みだれ)乃/物憂(ものう)さに
と付たりければ義家(よしいゑ)/番(つがひ)給ひし矢(や)をさし迦(はづし)て
引返(ひきかへ)し給ひけり

【注 「𩋙」は『大漢和辞典』では義未詳とされていますが字面は𩋙だと思われます。】




【右丁】
源義家【見出し囲み文字】

【上部】
甲(かぶと)装束(しやうぞく)金
地白(ぢしろ)
𩋙(しころ)緑青(ろくせう)
吹返(ふきかへし)正平
鎧(よろひ)紅(くれない)裳紺(すそご)
赤地(あかぢの)錦(にしき)

【下部馬の説明】
馬星(むまほし)
芦毛(あしげ)

【左丁】
【上部】
安倍(あべの)貞任(さだたふ)生年(しやうねん)
三十四 歳(さい)長(たけ)九尺五寸
腰囲(こしのめぐり)七尺四寸
容貌(かたち)魁偉(おおきに)皮膚(はだへ)甚(はなはた)肥(こへ)白(しろし)
東国(とうごく)一之 壮士(さうし)大/力之(りきの)男(おとこ)也

【下部馬の説明】
馬は栗毛(くりげ)

【左下部】
出立(いでたち)紺地(こんぢ)の錦(にしきの)直垂(ひたたれ)
龍頭(たつかしらの)甲(かふと)椑革威之鎧(しなかわおどしのよろひ)

【右丁】
【隅切囲み見出し】高宗任(かうのむねたふ) 《割書:和哥(わか)|の徳(とく)》
源 頼義(よりよし)奥州(おうしう)安倍貞任(あべのさだたふ)
高宗任(かうのむねたふ)と九年の
たゝかひに源氏
終(つい)にうちかち
たまひ兄 貞任(さだたふ)は
せんじやうにて
うち死す
おとうと
むねたふは
いけどられ
御帰洛(こきらく)の後(のち)
よりよしの御館(みたち)に
有しをわかき
殿上人(てんじやうびと)あづまの
ゑびすなぶりて

【左丁】
あそばんと
さかりなる
梅(むめ)のはな
一 枝(えだ)手折(たおり)
これはいか
なる花(はな)ぞと
ありし
ことばに
つきて
あづまにて
むめの
はなとは
見つれども
大みや人はいかゞ
いふらむ
此 哥(うた)に興(けう)さめて
しらけと
    なり

【挿絵中の文字】
丹朱(たんしゆ)仕立

【右丁上部】
【隅切囲みの中】鎌倉権五郎景正(かまくらのごんごらうかげまさ)
出羽(でわ)にて後(のち)三年の
戦(たゝかひ)の時(とき)義家(よしいゑ)に
したがひ生年(しやうねん)
十六 弓矢(ゆみや)打(うち)
物ならぶ人なし
鳥海(とりのうみ)弥三郎
に左の眼(まなこ)を
甲(かぶと)に射付(いつけ)
られながら
敵(てき)をおつかけ
一 矢(や)に射(い)
ころし
たる剛(かう)の者(もの)也

【同 下部】
景正(かげまさ)出立(いてたち)
地白(ぢしろ)に
すゝきほを
 ぬふたる
  ひたゝれ
   卯(う)の
    花(はな)
   威(おどし)の
    鎧(よろひ)
     也

【挿絵中の文字】

よろひ
しろし
いとはごふん
 仕立

【左丁】
【隅切囲みの中】鳥海弥三郎(とりのうみのやさぶらう)
奥州(おうしう)の住(ぢう)人なり
清原武衡(きよはらのたけひら)に
したがひ無双(ぶさう)の
弓取(ゆみとり)也四人 張(ばり)に
十四 束(そく)ねらひすま
して射(い)たりしに
景正(かげまさ)すこしも弱(よは)らず
当(たう)の矢(や)まいらせんと
弓矢(ゆみや)つがうを見て
にげたれども
ついに景正(かげまさ)に
ころされしと
なり

【右丁】
図(つ)する所は源為義(みなもとのためよし)の八 男(なん)
鎮西(ちんぜい)八郎 為朝(ためとも)弓勢(ゆんぜい)の所也
寄(よせ)たるは伊藤(いとう)五伊藤六
兄弟(きやうだい)なり伊藤五 景綱(かげつな)
為朝に矢(や)を射(い)かけたり
為朝事ともせず合(あわ)ぬ敵(てき)
と思へどもなんぢがことば
ゆゝしければ矢(や)一つ給(たまはら)ん
請て見よと三年 竹(だけ)の節(ふし)
近(ぢか)なるに山鳥の尾にて剥(はい)
だるに七寸五 分(ぶ)の丸根(まるほね)の
矢(や)十五 束(そく)しばし保(たもつ)て
兵(ひやう)ど射(い)る真先(まつさき)に進(すゝん)だる
伊藤六が胸板(むないた)をかけず
射通(いとを)し余(あま)る矢が後(うしろ)なる
伊藤五が射向(いむけ)の袖に

【挿絵中の文字】
兄 伊藤(いとう)五郎 景綱(かげつな)

弟伊藤
 六郎
 最期(さいご)

【左丁】
うらかへして
立たりける

【標題 右から横書き 隅切囲みの中】
保(ほう)元(げんの)夜(よ)軍(いくさ)

【挿絵中の文字】
為朝(ためとも)
            御所(ごしよ)

【右丁】
【隅切囲みの中】源義朝(みなもとのよしとも)
此 図(づ)は源為朝(みなもとためとも)
義朝(よしとも)を
おびやかし
しりぞけんと
わざと甲(かぶと)の
星(ほし)を射削(いけづり)て
余(あま)る矢(や)が
法荘厳院(ほうしやうごんいん)の
門(もん)の方立(はうだて)に
篦中(のなか)責(せめ)て
立(たつ)たる所(ところ)也

義朝(よしとも)出立(いてたち)
黒糸(くろいと)おどし
の鎧(よろひ)
赤地(あかぢの)錦(にしき)の
直垂(ひたたれ)

【左丁】
為朝(ためとも)出立
赤地(あかぢの)錦(にしき)の
直垂(ひたゝれ) 鎧(よろひ)は
義朝(よしとも)の八 龍(りう)の
鎧(よろい)を写(うつ)し
胸板(むないた)に獅子(しゝ)を
八つ金物(かなもの)にす
総(すべ)て金物
獅(し)子也
直垂(ひたゝれ)の
紋(もん)も
獅子(しゝ)なり
太刀(たち)は
熊皮(くまのかは)の
尻鞘(しりさや)
  也

【右丁】
【隅切囲みの中】兵庫頭(ひやうごのかみ)源頼政(もなもとのよりまさ)
鵺(ぬゑ)の事(こと)は
諸(しよ)人の知(し)る
所(ところ)なれば
注(ちう)するに
及(およ)はす

【左丁 挿絵中の文字】
朱ずみ具   トラ仕立
しゆずみくま
毛がき金
           羽山鳥

           ねずみ

           足は
           虎(とら)仕
           立

     猪早太(ゐのはやた)  くろいと
           おどし

【右丁】
【隅切囲み内】俣野(またのゝ)五郎
此 図(づ)は
関東(くわんとう)の
諸侍(しよさふらひ)おくのゝ
狩(かり)をくわだて
頼朝(よりとも)を慰(なぐさめ)し
時(とき)にかしわが
とうげに
酒(しゆ)ゑんの折(おり)
座中(ざちう)に
七尺 余(あま)りの大 石(いし)
あり俣野(またの)五郎
景久(かげひさ)力(ちから)ぢまん
にて此石 妨(さまたけ)と

【左丁】
ひつかゝへ谷(たに)へ捨(すて)んと
せし所へ真田(さなだ)の
与一といふ者(もの)来(きた)る
またの与一にいしゆ
有与一に言葉(ことば)を
かけなげかけしを
与一も大力(だいりき)の
者(もの)にて中(ちう)に
かゝへなげかへ
せし所なり
与一此 時(とき)
生年(しやうねん)十六
歳(さい)にてぞ
有けると
なん

【挿絵中の文字】
真田与一(さなだのよいち)

【右丁】
川津(かはづ)俣野(またの)相撲(すまふ)之(の)図(づ)【隅切囲み内】川津(かはづ)三郎 祐重(すけしげ)は井藤(いとう)次郎が長子(ちやうし)
土肥(とひ)次郎が婿(むこ)なり伊豆国(いつのくに)柏(かしは)が峠(とうげ)にて武蔵(むさし)伊豆(いづ)相模(さがみ)の人々
すまふの時 俣野(またの)かちずまふにて川津(かはづ)と出合(いであひ)三 番(ばん)まけしと也

肉色(にくいろ)朱(しゆ)のきめにてくま
下帯(したおび)ろくせうもやう
金でいしゆこんぜう
ごふんゑんじかき入

【挿絵あり】
                黒肉色(くろにくいろ)下帯(したおび)朱(しゆ)金(きん)大 紋(もん)

【左丁】
文覚(もんがく)荒行(あらぎやう)之(の)図(づ)【隅切囲み内】此 法師(ほうし)俗名(ぞくみやう)遠藤盛遠(ゑんどうもりとを)と云 性(うまれつき)憤(いきとをり)り【衍ヵ】強(つよ)く
十八 歳(さい)にてほつ心(しん)し諸国(しよこく)を廻(めぐ)り熊野(くまの)那智(なち)の滝(たき)に七日の願(ぐわん)を発(おこ)
してうたれける比(ころ)は極月(ごくげつ)廿日 余(あま)り寒雪(かんせつ)梢(こずへ)を埋(うつ)み滝(たき)の白糸(しらいと)たる
ひとなれりされどもたきづほ【ママ】に入てうたれけり二三日には其(その)
身(み)岩木(いわき)のごとくこゞへすでに気(いき)たへける時(とき)こんがらせいたか来(きた)り
文覚(もんがく)をすくひ給ひけり是より行力(ぎやうりき)つよくして高尾(たかお)の神護寺(しんごじ)を建(こん)
立(りう)せんと院(いん)の御所(ごしよ)へくわんじん帳(ちやう)をさゝげしを平家(へいけ)文覚(もんがく)をとつ
て伊豆(いづ)の国(くに)へながししかばいきどほりふかくいかにもして平家(へいけ)を
ほろぼし神護寺(じんごじ)を取立(とりたつ)べしと心ざしけり其比(そのころ)源(みなもと)の頼朝(よりとも)は
平治(へいぢ)の軍(いくさ)にうちまけ是も伊豆(いづ)に流(なが)されおはしける文覚(もんがく)参(まい)り
度々(たび〳〵)むほんをすゝむといへどもあへてうけ給(たま)はずあるとき義朝(よしとも)の
髑髏(されかうべ)を見(み)せまいらす頼朝(よりとも)涙(なみだ)にむせび口惜(くちおし)や我(われ)勅勘(ちよくかん)の身(み)なれば思(おもふ)に
甲斐(かひ)なし若(もし)今 平家(へいけ)追討(ついたう)の院宣(いんぜん)を蒙(かうふ)らばなどか此 恨(うらみ)を報(むくひ)ざるべきと
歎(なげき)給ふ文覚(もんがく)実(まこと)義兵(ぎへい)を思立(おもひたち)たまはゞ我(われ)ひそかに院宣(いんせん)を請(かふ)てまいら
せんと飛(とぶ)が如(ことく)に都(みやこ)に上り院宣(いんせん)を賜(たま)はりて頼朝(よりとも)にこそ渡(わた)しける

【右丁】
【隅切囲みの中】矜羯羅童子(こんがらどうじ)

色(いろ)白(しろ)く
  髪(かみ)黒(くろ)し

【左丁】
【隅切囲みの中】制多伽童子(せいたかだうじ)
 髪(かみ)
かき
 色(いろ)

 色(いろ)赤(あか)し

【右丁】
【隅切囲みの中】伊豆(いづ)の院宣(いんせん)
頼朝(よりとも)は院宣(いんぜん)を蒙(かうふり)り【衍】
北条時政(ほうでうときまさ)をかたらひ
先(まづ)伊豆(いづ)の目(もく)
代(だい)泉判官(いづみのはんぐわん)
兼高(かねたか)を夜討(ようち)に
せんと北条(ほうでう)承り
打勝(うちかち)候はゞ火をあ
ぐべし若(もし)利(り)あらずは
使(つかひ)を参らせんと
申て向(むか)ひけり
されども
やうがいよく
北条(ほうでう)もせめ
あぐんでひかへけり

【左丁】
加藤(かとう)次郎 景廉(かけかと)は頼朝(よりとも)の御かんきをかうふり此 度(たひ)もやうしにもれけれ
とも心(むな)さわぎしければ何事か有やらんと紫威(むらさきおどし)のはら巻太刀を帯
佐殿(すけどの)へはせ参る頼朝(よりとも)は小具足(こぐそく)に小長刀(こなぎなた)つきゑんにつゝ立(たち)給しが
かげかとを見て仰(おゝせ)には今夜(こんや)いづみの判官(はんぐわん)を討(うた)んと北条(ほうでう)佐々木(ささき)を
つかはしぬ打(うち)かちたらば館(たち)に火(ひ)をかくべしと云つるがいまだけふり
も見へず覚束(おぼつか)なしとのたまふ景(かけ)かど承り夜討(ようち)はそれがしこそ
とて言葉(ことば)をちらしかけ出るをかげかどしばしとて火(ひ)おどしの鎧(よろひ)
白星(しろほし)の甲(かぶと)をたび夜討(ようち)には太刀(たち)より柄(ゑ)の長(なが)き物よかるべしと
つきたまふ小長刀(こなぎなた)をそ給はりけり景(かげ)かどいそぎ向(むか)ひ北条(ほうでう)に
対面(たいめん)す時政(ときまさ)見て御へんは御かんどうの身(み)なりといへばかげかど
さればにわかに召れてかねたがか【濁点の位置が違う】首(くび)つらぬいてまいらせよと此 長(なぎ)
刀(なた)を給はりしとてみせけり北条(ほうでう)さしもあぐみし城中(じやうちう)に事(こと)
なくせめ入り櫓(やぐら)に火(ひ)をかけついにかねたかをうちとりけると也
其後 土肥(とひ)土屋(つちや)岡崎(をかざき)三百 余騎(よき)にて石橋山(いしばしやま)に籠(こも)り又 安房(あわ)上(か)
総(づさ)へ渡(わた)り千葉介(ちばのすけ)味方(みかた)して終(つい)に平家(へいけ)をうちほろぼし給ふ

【右丁 挿絵中の文字】
    加藤(かとう)次郎 景廉(かげかど)【隅切囲みの中】火(ひ)おどし

兵衛佐(ひやうのすけ)頼朝(よりとも)【隅切囲みの中】  赤地

【左丁】
【隅切囲みの中】金子(かねこの)十郎 家忠(いゑたゞ)
三浦(みうら)一 党(とう)衣笠(きぬかさ)の城(しろ)に籠(こも)りし
とき金子も畠(はたけ)山と同心して
よせたり大介金子がはたらき
人にすぐれしをかんじ
城(じやう)中よりひさげに
酒を入て盃をもたせ
出(いだ)しけり家忠(いゑたゞ)盃を取
三 度(ど)ほして一 礼(れい)して
かへしけり軍陣(ぐんぢん)に酒を
饋(おく)るは法(ほふ)也 請(うく)るは礼なり
大介が所為(しわざ)といひ家忠(いゑたゞ)兵(ひやう)
法(ほふ)の礼を知(し)れりと人々 感(かん)じ
            けり

【右丁】
三浦大介義明(みうらのおほすけよしあきら)【隅切囲みの中】三浦(みうら)の一統(いつとう)は頼朝(よりとも)に力(ちから)を合せんと三百 余騎(よき)
にて出けるが頼朝 石橋(いしばし)の軍(いくさ)に打(うち)まけ給ひ行方しれざりし
ゆへ空(むな)しく帰る道にて畠山 重忠(しげたゞが)五百 余騎(よき)に行逢(ゆきあひ)ゆひこつ
ほの浦にてたゝかひ畠山 敗軍(はいぐん)し其後又大勢にて衣笠(きぬかさ)の
城(しろ)にをしよせ責(せめ)たゝかふ大介味方の手よはきを見我れ十三
より已来(このかた)弓矢取て今年(ことし)七十九 歳(さい)老々(らう〳〵)として所労(しよらう)折 節(ふし)
再発(さいほつ)せり此軍にあふ事 老後(らうご)の面 目(ぼく)なり義明(よしあきら)最期(さいご)のいくさ
してみせんと白(しろ)きひたゝれの袖(そで)せばきにもみゑぼし引立て
太刀(たち)ばかり腰(こし)に付馬にうちのり右の手(て)に策(むち)をぬきいれ左に
たづなかいくり既(すで)に出んとしけるを子息の別当(べつたう)義澄(よしずみ)父(ちゝ)が気
しきを見て馬の口にとりつきしをそこのけと策(むち)にてうて
ども甲(かぶと)なればいたまず強(あなかち)に城中へ引(ひき)入けりこれ大介諸
卒(そつ)にはげみを付べき謀(はかりこと)なり

【左丁 挿絵中の文字】
【隅切囲みの中】三浦(みうらの)大介 義明(よしあきら)
               青地(あをぢ)

               火威(ひおどし)の鎧(よろひ)

    【隅切囲みの中】三浦(みうらの)別当(べつたう)義澄(よしずみ) 

【右丁】
難波津(なにはづ)の梅(むめ)【隅切囲みの中】源義経(みなもとのよしつね)津(つ)の国(くに)尼(あま)が崎(さき)にて年(とし)ふりたる梅(むめ)を
見給ひ古老(こらう)を召(め)して尋(たづね)られしに仁徳天皇(にんとくてんわう)の御時(おんとき)此花(このはな)冬籠(ふゆごもり)
とよみし梅(むめ)なるよし申(もうし)ければゆへなく人の折(おり)とらん事をなげき
弁慶(べんけい)を召(めし)て制札(せいさつ)をかゝしめ立(たて)られしとなり

【左丁】

    制札之文(せいさつのぶん)
此華(このはな)江南(こうなんに)《振り仮名:所_レ無|なきところ》也(なり)於(おいて)_下折(おり)_二 一枝(いつしを)_一盗之輩(ぬすひとのともからに)_上者(は)
任(まかせ)_二 天永(てんゑい)紅葉之例(こうようのれいに)【一点脱】伐(きら)_二 一(いつ)枝(しを)【左ルビ:ゑだ】_一者(ば)可(べし)_レ剪(きる)_二 一(いつ)指(しを)【左ルビ:ゆび】_一

【右丁】
【隅切囲みの中】梶原(かぢわら)二度(にど)の駆(かけ)
生田(いくた)の森(もり)は
平家(へいけ)十万 余騎(よき)
の大手(おゝて)なりしに
梶原(かぢわら)源太 景季(かげすゑ)
盛(さかり)なる梅花(むめのはな)一(ひと)
枝(ゑだ)手折(たおり)て
箙(ゑびら)にさし
出立(いでたち)
はなやか
なりしかば
あつはれ敵(かたき)よ
遁(のが)すなと大勢(おゝぜい)
      に

【挿絵中の文字】 梶原(かぢわら)平三
           景時(かげとき)

【左丁】
取(とり)こめられ甲(かぶと)も
うち落(おと)され大(おゝ)
わらはに成(なつ)て
戦(たゝか)ひしを
父(ちゝ)平三
景時(かげとき)
返(かへ)し
来(きたつ)て
大勢(おゝぜい)を
打(うつ)ちらし
源太(げんだ)と共に
御方(みかた)の陣(ぢん)へ
帰(かへ)りける

【挿絵中の文字】  源太景季(げんだかげすゑ)

【右丁】
    行暮(ゆきくれ)て木(こ)の下陰(したかげ)を宿(やど)とせば
旅宿花(りよしゆくのはな)
    花(はな)や今宵(こよひ)のあるじならまし 忠度(たゞのり)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【挿絵】

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
【隅切囲みの中】
能登守(のとのかみ)平教経(たいらののりつね)

教経(のりつね)出立(いでたち)
唐繍(からあや)【綉は繍の俗字】威(をどし)の
鎧(よろひ)是は
唐錦(からにしき)の
ごとし
赤地(あかぢの)錦(にしき)の
直垂(ひたゝれ)
定紋(ぢやうもん)鎧(よろひ)の
金物(かなもの)等(とう)は
十六の
菊(きく)なり

【左丁】
【隅切囲みの中】
源(みなもとの)判官(はうくわん)義経(よしつね)

義経(よしつね)出立(いてたち)赤地(あかぢの)錦(にしき)の
直垂(ひたゝれ)紫裳紺(むらさきすそご)の鎧(よろひ)
此 図(づ)能登殿(のとどの)は判官(はうぐわん)の
船(ふね)に乗(のり)あたり判官を
めかけ飛(とん)でかゝる
義経かなはじとや
思はれけん
御方(みかた)の舟の
間二丈ばかりのき
たりけるにゆらりと
飛(とび)うつりたまふ
勢(いきほ)ひなり

【右丁】
【隅切囲みの中】舎那王(しやなわう)《割書:牛若|の事》
字(あざな)は牛若(うしわか)源(みなもと)の義朝(よしとも)の八 男(なん)
曽(かつ)て鞍馬山(くらまさん)僧正谷(そうじやうがたに)にて
異人(いじん)と会(くわい)し兵法(ひやうほふ)の
奥儀(おうぎ)を伝受し給ひける
と云へり

【挿絵中の説明】
           あいろぐ   朱   白
                         紫
                            こん
          つるいと         こん
          こん       こん       緑青(ろくせう)
鎧(よろひ)ゑんじ具(ぐ)
生ゑんじ           朱      金
くま

 おどしの
 毛(け)がき              僧正坊(そうじやうぼう)色(いろ)黒肉(くろにく)
 同しく

        しゆ    にしき

【左丁】
【隅切囲みの中】二階堂土佐房正順(にかいどうとさばうしやうじゆん)
弁慶(べんけい)はざつしき一人ぐして
土佐(とさ)が宿(やど)へうち入みれば
らうどう共七八十人
夜討(ようち)の評定(へうぢやう)してこそ
居(ゐ)たりける弁慶(べんけい)は
土佐がよこざ
にむづと
なをりいかに
御(ご)へんは在(ざい)京あらば
先(まづ)ほり河(かは)殿(との)へ参
申さるべきに
遅参(ちさん)はびろうなりと
云まゝに引立(ひつたて)て我馬(わかむま)に
のせ弁慶(へんけい)も後(うしろ)馬に
のりむちにあぶみを合て
堀河(ほりかは)にはせ着(つき)此 由(よし)を申上る

【右丁 上部】
堀河夜討(ほりかはようち)【隅切囲みの中】土佐房正俊(とさばうしやうじゆん)【正順と前出】は判官殿(はうぐわんどの)の御前(おんまえ)へ
参ちんじけるは此 度(たび)かまくら殿の御代官(ごだいくわん)と
してくまのへ参候が路次(ろし)より風(かぜ)の心(こゝ)ちにて候
ゆへ遅参(ちさん)に及(および)候などゝ申ひらき
ければ判官心に思(おほ)しけるは
たとへ討手(うつて)に来(きた)るとも何(なに)
程の事かあらん重(かさね)てかれが
よせ来らんときうつべしと
て起請(きしやう)を書(かゝ)せかへしたまふ
土佐房は其(その)帰(かへ)るさに
案内(あんない)をよく見 置(をき)て
其夜に堀河へおし
よせたり
御所(ごしよ)には
よもこ
よひは

【左丁 上部】
よせ
じと
思はれ
しかば
さふらひ
一人も
有 合(あは)ず
判官(はうぐわん)
みづから
ふせぎ給ふ
土佐(とさ)もさう
なくかけ入ず
しばらく時
うつりしかば
判官殿のさふらひども
方々(はう〴〵)よりはせまいりて

【右丁 下部】
  さん〴〵にたゝ
 かひ正俊(しやうじゆん)がちやくし
土佐太郎同いとこ
いわうの五郎も
  いけどられて
   正俊はくらま
    をさして
     おちけるを
     大 勢(ぜい)
     つゞいて
       おつ
       かけ
        僧
       正が
        谷
       にて

【左丁 下部】
        べん
        けいが
       生(いけ)どり
         て
        六 条(てう)
     河原(かわら)にひき
    出し正 俊(じゆん)を
   はじめちやくし
   太郎さがみの
   八郎いほうの
   五郎みな切(き)られ
 けり討(うち)もらされたる
者(もの)どもはおちくだりて
かまくら殿へかくと
申上にけり

【右丁】
【標題 隅切囲みの中】富樫左衛門(とがしのさゑもん)安宅関(あたかのせき)

左衛門判官
殿をとゞ
めんと

けれ
ども
弁慶か
ちう心(しん)を
かんじ
一 命(めい)を
わすれ
酒を
すゝ
めて
通(とを)し
けり

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
【標題 隅切囲みの中】曽我時宗(そがのときむね)

此 太刀(たち)おびとり
なし手綱(たづな)
にてくゝり
表帯(うはおび)の下(した)へ
とほし肩(かた)へ
かけ背(せなか)にて
むすぶ

曽我(そが)より
大礒(おほいそ)へはせ
行(ゆく)ところ
   なり

【左丁】
【標題 隅切囲みの中】朝比奈(あさひな)草摺(くさずり)を引(ひく)

時宗(ときむね)鎧(よろひ)沢潟威(おもだかおど)し小札(こさね)金
おどし糸(いと)緑青(ろくせう)
上は褐(さいみ)に
衣裳(いしやう)定(さだまり)なし
鳳蝶(あげはのてふ)を墨(すみ)にて書(かき)
たるあり下(しも)はこん也
是 夜討(ようち)の時に着(ちやく)す
上下 褐(さいみ)の事(こと)あり
褐(さいみ)は色わうどなり
此時は上下とも
朱(しゆ)にて仕立(したつ)る事あり
【紋の図】又 舎(いほり)に二木瓜(ふたつもつかう)を付る
事もあり直垂(ひたゝれ)のごとく
又は大紋(だいもん)のごとし
朝比奈(あさひな)素襖袴(すわうはかま)こんぜう
紋(もん)白(しろ)舞鶴(まひづる)あるひは三巴(みつともへ)

【右丁】
   彫割細工人
     《割書:聚楽町板木屋》
       藤村善右衛門
     《割書:京下立売通千本東へ入 ̄ル板木屋》
       丹羽平左衛門

  写宝袋後編拾冊
         未割

【左丁 見返し 白紙】

【裏表紙】

絵本写宝袋

【表紙 題箋】
□□□□袋 《割書:五》

【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁 見返し】

絵本写宝袋 五

【左丁】
絵本写宝袋五之巻目録
金竜(きんりやう)護(まもる)_二武王(ぶわうを)_一図(づ)    覆水(ふくすい)重(かさねて)《振り仮名:不_レ収|おさまらざる》図(づ)
周公(しうこう)旦(たん)之(の)像(ざう)       叔虞(しゆくぐ)作(つくる)_二桐葉詩(とうようのしを)_一図
周公(しうこう)作(つくる)_二指南車(しなんしやを)_一図    穆王(ぼくわう)逢(あふ)_二西王母(せいわうぼに)_一図
羸(ゑい)【ママ 注】非子(ひし)養(かふ)_レ馬(むまを)図 姜(きやう)皇后(くわうごう)諫(いさむる)_二宣王(せんわうを)_一図
幽王(ゆうわう)放(はなつ)_二火台(くわたいを)_一図     管仲(くわんちう)之(が)図像(づざう)
甯戚(ねいせき)叩(たゝく)_二牛角(ぎうかくを)_レ図      秦(しんの)穆公(ぼくこう)得(うる)_二騫叔(けんしゅくを)_一図
晋(しんの)重耳(ちやうじ)周(しう)-_二遊(ゆうする)諸国(しよこくに)_一図  趙衰(ちやうずい)狐偃(こゑん)奪(うばふ)_二重耳(ちやうじを)_一図


【注 羸は音「ルイ」。贏が音「エイ」なので羸は誤ヵ】

【右丁】
養由基(やうゆうき)之(が)像(ざう)       雲外(うんぐわい)に夜(よる)射(いる)_レ声(こゑを)図
顔夫人(がんふじん)祷(いのる)_二尼丘山(じきうざんに)_一図   孔子(こうし) 嬰児(ゑいじ)之(の)時(とき)嬉戯(きげし給ふ)図(づ)
伍子胥(ごししよ)争(あらそふ)_二明輔(めいほを)_一図

【左丁】
【句点と思われる「・」は「。」に置き替える】
絵本写宝袋五之巻
    金竜(きんりやう)武王(ぶわう)を守護(しゆご)する事
殷(いん)の紂王(ちうわう)悪逆(あくぎやく)無道(ぶたう)にして万民(ばんみん)を苦虐(くぎやく)す武王(ぶわう)是を嘆(なけ)き太公(たいこう)
望(ばう)と儀(はかり)て天下のために紂王(ちうわう)を。ほろぼしたまはんとて数(す)
万騎(まんぎ)の軍兵(ぐんびやう)を起(おこ)し帝都(ていと)へおしよせ紂王(ちうわう)が八十万 騎(ぎ)と牧(ぼく)
野(や)に戦(たゝか)ひ給ふ時。殷(いん)の諸将(しよしやう)みな戦(たゝかひ)負(まけ)て進(すゝ)む事あたはず爰(こゝ)に
紂(ちう)王が大 将(しやう)に方相(はうさう)といふ者(もの)。鎗(やり)を横(よこ)たへ馬(むま)を拍(うつ)て直(たゞち)に武王(ぶわう)の
陣(ぢん)に駆入(かけいり)。左(ひだり)に突(つき)右に衝(つい)て人なき所に行(ゆく)がごとく遂(つゐ)に武(ぶ)王
の坐陣(ざぢん)にうち入り。長槍(ながきやり)を以(もつ)て武(ぶ)王を刺(つか)んとするに紅(くれなゐ)の光(ひかり)燦(さん)
爛(らん)として八爪(はつさう)の金竜(きんりやう)出現(しゆつげん)して武王の車駕(しやか)を遮(さへぎり)掩(おゝ)ふ。方相(はうさう)
驚(おとろ)き馬(むま)を返(かへ)せば散宜生(さんぎせい)。南宮活(なんきうくわつ)の二将(にしやう)すでに討(うた)んとす。方相
これと戦(たゝかふ)こと三十 余合(よがふ)遂(つゐ)に活捉(いけどら)れて武王に見(まみ)ゆ武王方相か
勇なるを惜み命(いのち)を赦(ゆるし)給ふ其後(そののち)方相が曰(いわく)紂(ちう)王 既(すで)に亡(ほろ)び給ふ何(なん)の
面目(めんほく)ありて命を保(たも)たんやとみづから首(くび)刎(はね)て死(し)す

【右丁 挿絵】
    方相(はうさう)

周(しうの)武王(ぶわう)

【左丁 挿絵】

太公望
童顔(どうがん) 靍髪(くわくはつ)
貌(かたち)常(つね)ならす

大公望(たいこうばう)姜尚(きやうしやう)

【右丁】
   覆水(ふくすい)重(かさね)て盆(ぼん)に収(おさま)らず
大公望(たいこうばう)は東征大軍師(とうせいだいぐんし)となつて紂王(ちうわう)が乱(らん)を平(たいら)げしかば
武王(ぶわう)帝位(ていゐ)に即(つ)き太公望(たいこうばう)を斉(せい)といふ大国(たいこく)の主(あるじ)とし給ふに
よつて太公(たいこう)其(その)身(み)には錦繍(にしき)【綉は繍の俗字】を着(ちやく)し四馬(しめ)の車(くるま)に乗(の)り数(す)
千の卿太夫(けいたいふ)士卒(しそつ)を召(めし)つれ旗旌(きせい)を空(そら)にひるがへし金(かね)鼓(つゞみ)【皷は俗字】を
鳴(なら)し傍(あたり)を払(はらつ)て本国(ほんごく)に趣(おもむ)かれし所に始(はじめ)離別(りべつ)したる妻(つま)
の馬氏(ばし)此よしを聞(き)き路(みち)の側(かたはら)に出迎(いでむか)ひ車(くるま)の前(まへ)に至(いた)り涙(なみだ)を
ながし妾(われ)智恵(ちゑ)浅(あさく)して先(さき)に離別(りべつ)をなしいま後悔(こうくわい)するに
かひなし願(ねが)はくは我(わ)が先非(せんひ)をゆるし再(ふたゝ)びみやづかへせしめ
たまへといふ太公望すなはち盆(ぼん)に水(みづ)を入させ。これを地(ち)に
覆(こぼ)してまた盆(ぼん)に入よといふに妻(つま)すなはち其言(そのことば)の如(ごとく)に
すれば。唯(たゞ)泥(どろ)のみ盆(ぼん)にあり。太公望のいわく一旦(いつたん)離別(りべつ)
してふたゝび相合(あひあふ)べからず覆水(ふくすい)かさねて盆(ぼん)に收(おさ)まらざ
るが如(ごと)しと。車(くるま)を押(をさ)せて斉(せい)に入 妻(つま)は悔(くい)羞(はぢ)て。みづから縊(くびれ)て死(し)す

【左丁】
周公(しうこう)旦(たん) 文王(ふんわう)の子(こ)武王(ぶわう)の弟(おとうと)にして大 聖人(せいじん)なり武(ぶ)王 崩(ほう)じ給ひ成王(せいわう)幼年(ようねん)にて
即位(そくゐ)し給ふにより周公(しうこう)旦(たん)政(まつりごと)を摂(せつ)し給ふ魯侯(ろこう)の元祖(ぐわんそ)なり 史記(しきの)世家(せいか)に
周(しう)は冢宰(てうさい)の位(くらゐ)に在(ある)こと七年の後(のち)政(まつりこと)を成王(せいわう)に還(かへ)し北面(ほくめん)して臣下(しんか)の位(くらゐ)に就(つき)つゝ
しみたまふこと畏(おそ)るゝがごとしと享年(こうねん)八十三 歳(さい)にして薨(こう)じ給ふ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 周公(しうこう)旦(たん)

  賛 ̄ニ曰
 姓 ̄ハ姫名 ̄ハ旦武王 ̄ノ
 弟負 ̄テ_レ朝 ̄ヲ摂_レ政 ̄ヲ作
 _レ楽 ̄ヲ制 ̄シ_レ礼 ̄ヲ二-叔不
 _レ咸 ̄セ居 ̄テ_レ東 ̄ニ有愍金
 緘啓 ̄キ_レ忠 ̄ヲ雷-雨応 ̄フ
 敏 ̄シ衮衣言帰赤
 為何 ̄ソ病 ̄ヘシ展_二祀 ̄ヲ魯
 邦 ̄ニ_一千載 ̄ノ元聖

【右丁】
異朝(いてう)にて人臣(じんしん)を以(もつ)て摂政(せつしやう)とすること周公(しうこう)旦(たん)を始(はじめ)とす本朝(ほんてう)にては
清和天皇(せいわてんわう)幼時(いとけなきとき)御 外祖(ぐわいそ)忠仁公(ちうじこう)天子(てんし)にかわり政(まつりこと)を摂(せつ)し給ふも周公(しうこう)の例(れい)
を用(もち)ひ給ふとなり嘗(かつ)て周公(しうこう)御子 伯禽(はくきん)に誡め(いましめ)て曰(のたまは)く我 文王(ぶんわう)の子(こ)武(ぶ)
王の弟(おとうと)成王(せいわう)の叔父(おぢ)なり然(しかれ)ども一(ひと)たび沐(かみをあらふ)に三 度(たび)髪(かみ)を握(にぎ)り一度 飯(はん)【左ルビ:めしに】
するに三たび晡(ほ)を吐(は)き起(たつ)て士(し)を待(ま)ち天下の賢(けん)を失(うしなはん)ことを恐(おそ)るゝと
叔虞(しゆくぐ)桐葉(とうよう)の詩(し)を作(つく)る 周(しうの)成王(せいわう)一日(あるひ)御 弟(おとゝ)叔虞(しゆくぐ)と庭前(ていぜん)の桐樹(きりのき)の陰(かげ)に遊(あそび)【欄外上部に▲】
給ふ成(せい)王 叔虞(しゆくぐ)に汝(なんぢ)よく詩(し)を吟(きん)ずるやとのたまふ叔虞(しゆくぐ)の曰(いわ)く頗(すこふ)る
其 意(こゝろ)を識(しれ)り成(せい)王の曰 朕(われ)此 桐葉(きりのは)を取て圭璋(けいしやう)【珪は圭の古字】とせん汝(なんぢ)よく此 詩(し)を
吟(ぎん)ぜば諸侯(しよこう)とすべし叔虞(しゆくぐ)其まゝ桐葉(とうよう)の詩(し)を吟(ぎん)じ給ふ成王 喜(よろこび)給ひ
才思(さいし)頗(すこむ)る佳(か)なり但(たゞ)汝(なんぢ)幼(いとけなふ)して諸侯(しよこう)の位(くらい)に任(にん)ずること能(あた)はず姑(しばら)く
数年(すねん)を俟(まつ)て諸侯(しよこう)とすべし其時 といふ臣(しん)傍(かたわら)に在(あつ)て奏(そう)して曰(いわく)
陛下(へいか)なんぞ言(ことば)を異(たがへ)給ふや成(せい)王の曰 朕(ちん)戯(たはふれ)らくのみ史佚(しいつ)が曰天子は戯(たはふれ)
言(ごと)なし一(ひと)たび言(ことば)を出し給へば史官(しくわん)史冊(しさつ)に書(しよ)す望(のぞ)むらくは我(わが)王(わう)叔(しゆく)
虞(ぐ)を封(ほう)ずる事 反覆(はんふく)し給ふべからず成王 則(すなはち)叔虞を封(ほう)じて唐侯(たうこう)とす

【左丁】
            周成王(しうのせいわう)

                            史佚(しいつ)

 桐葉(キリノハ)之(ノ)詩(シ) 叔虞(シユクグ)
  桐葉(トウヨウ)落(ヲツ)_二庭(テイ)-除(ヂヨニ)_一
  吾(ワガ)王 削(ケヅヽテ)作(ツクル)_レ圭(ケイニ)【注】
  如(コトク)_レ念(ヲモフカ)_二連(レン)-枝(シノ)秀(シウヲ)_一
  春(シユン)-風(フウ)共(トモニ)暢(テウ)-舒(ジヨス)      叔虞(しゆくぐ)《割書:是(これ)晋(しん)の国(くに)の元祖(くわんそ)後(のち)に|韓(かん)趙(てう)魏(き)の三 国(ごく)とわかる》

【注 珪は圭の古字】

【両丁 挿絵のみ】

【右丁】
【句点と思われる「・」は「。」に置き替える】
成王(せいわう)の御時 蕃夷(ばんい)の使(つかひ)来朝(らいてう)して貢(みつき)を献(たてまつ)る次(つぎの)日(ひ)使(つかひ)本国(ほんごく)に帰(かへ)らん
事を告(もう)す王(わう)かれが国 路(みち)の程(ほど)中国(ちうごく)より幾(いくばく)里(り)かあると尋(たづね)給ふに一 万(まん)
三千 里(り)あつて来(きた)るゝと一 年(ねん)余(よ)を経(へ)て京師(みやこ)に至(いた)ると奏(そう)す成王(せいわう)周公(しうこう)
に命(みことのり)して曰(のたまは)く蕃視(ばんし)本国(ほんごく)に帰(かへ)る万里(ばんり)の労(らう)を。すくふの。はかりことを
なしたまはんや周公(しうこう)すなはち黄帝(くわうてい)の制(せい)するところの指南車(しなんしや)を
作(つくり)て蕃使(ばんし)に賜(たま)ふ蕃夷(ばんい)【左ルビ:ゑびす】此 車(くるま)を先(さき)にたて指(ゆびさ)す方(かた)にしたがひ行(ゆく)
に唯(たゞ)半年(はんねん)にして本国にかへることを得(ゑ)たり
周(しうの)穆王(ぼくわう)の時 徐哈達(ぢよがうたつ)といふ夷(ゑびす)京師(けいし)に攻(せめ)来(きた)らんとす穆王(ぼくわう)すなはち
東方(とうばう)の諸侯(しよこう)羸徐子(ゑいぢよし)【注】に命(めい)じて是を伐(うた)しむ哈達(がふたつ)八駿(はつしゆん)といふ名(めい)
馬(ば)に乗(の)る此 馬(むま)一日に千 里(り)を行(ゆく)徐子(ぢよし)哈達(かふたつ)を討取(うつとり)其馬を穆王(ぼくわう)に
献(たてまつ)る王此 名馬(めいば)を得(ゑ)給ひ普(あまね)く天下を週(めぐり)て名山(めいさん)仙蹟(せんせき)を窮(きわ)めんと
化人(くわにん)といふ道士(だうし)に案内(あんない)をさせ彼(かの)八駿(はつしゆん)に大 輅(ろ)をひかせ崑崙山(こんろんざん)の
頂(いたゞき)に至(いた)り瑤池(ようち)に升(のぼり)給ふ是(こゝ)に西王母(せいわうぼ)が居所(きよしよ)の宮殿(くうでん)あり化人(くわにん)
まづ門(もん)に入て天子 御幸(みゆき)のよしを告(もうす)王母(わうぼ)すなはち白雲(はくうんの)仙輦(てぐるま)
に乗(の)り数(す)十の仙女(せんぢよ)を率(ひき)ひ飄然(ひやうせん)として出(いで)て穆王(ぼくわう)に見(まみ)ゆ

【注 羸は音「ルイ」。贏が音「エイ」なので羸は誤ヵ】

【左丁】
周(しうの)穆王(ぼくわう)逢(あふ)_二西王母(せいわうほに)_一図(つ)






【両丁挿絵のみ】

【右丁】
周(しうの)孝王 馬(むま)三千 疋(びき)を羸非子(ゑいひし)【注】に授(さづけ)て此馬をよく養(やしなふ)て数(かず)多(おゝく)すべしと【欄外上部に▲】
勅(みことのり)し給ふ非子(ひし)勅命(ちよくめい)をうけて其馬を汧渭(けんい)といふ大 河(が)の辺(ほとり)に養(やしな)ふ。
此 河(かわ)の向(むかひ)は西戎(せいじう)にて毎日(まいにち)戎(ゑびす)の馬(むま)共を引来(ひきゝた)り此 河(かわ)にて水(みづ)を養(かふ)。非(ひ)
子(し)一つの計(はかりこと)を生(な)し牝(め)馬を岸(きし)の上につなぎ置(をき)。なれたる牡(お)馬を河(かは)に
入て浴(かはあみ)し水(みづ)飼(かふ)。其時 岸(きし)の上なる牝馬(めむま)ども牡(お)馬を慕(した)ひしきりに
嘶鳴(いななき)ければ河向(かはむかひ)なる戎(ゑひす)の馬共 牝(め)馬の嘶(なく)を聞(きゝ)て数(す)千 疋(びき)川を渡(わたつ)て
此方(こなた)の岸(きし)に来(きた)るをこと〴〵く取て一年ならざるに多(おゝく)の馬を献(たてまつ)る
孝王大に喜(よろこ)び非子(ひし)に秦国(しんのくに)を賜(たま)ふ是 秦(しんの)始皇帝(しくわうてい)の元祖(ぐわんそ)なり
周(しうの)宣王(せんわう)は姜(きやう)皇后(くはうごう)を愛(あい)し昼夜(ちうや)酒宴(しゆゑん)して政事(まつりこと)に怠(おこた)りたまふ尹吉甫(いんきつほ)【欄外上部に▲】
これを嘆(なげ)き諫表(かんひやう)を上(たてまつ)る王 怒(いかつ)て其 表(ひやう)を地(ち)に投打(なけうつ)皇后(くわうごう)其 表(ひやう)を取(とら)
しめつく〴〵と見(み)給ひて是 皆(みな)王の過(とが)にあらず妾(しやう)が科(とが)なりとて自(みづから)
簪(かんざし)を脱(ぬぎ)き【ママ】衣裳(いしやう)を謝(しや)して王の前(まへ)に跪(ひざまづ)き陛下(へいか)色(いろ)を楽(たのしみ)て政事(まつりごと)に
怠(おこた)りたまふ事 皆(みな)是 妾(しやう)を愛(あい)し給ふゆへなり願(ねがは)くは妾(しやう)を死(ころ)して
政事(まつりごと)を理(おさめ)給へと諫(いさめ)たまふ宣王(せんわう)遂(つゐ)に過(あやまち)を改(あらた)めよく政(まつりごと)を行(おこな)ひ給ふ

【注 羸は音「ルイ」。贏が音「エイ」なので羸は誤ヵ】

【左丁】
【右から横書き】
姜(きやう)皇(くはう)后(ごう)脱(ぬぎて)_レ簪(かんざしを)諫(いさむ)_二宣(せん)王(わうを)_一

【右丁】
【右から横書き】
烽(ほう)火(くわ)台(たい)之(の)図(づ)

【左丁】
幽王(ゆうわう)褒姒(ほうじ)と
望辺楼(もうへんろう)に
烽火(ほうくわ)を見(み)て
笑(わらひ)楽(たのし)む


【右から横書き】
望(もう)辺(へん)楼(ろう)

【右丁】
   幽王(ゆうわう)褒姒(ほうじ)と望辺楼(もうへんろう)に烽火(ほうくわ)を見(み)て笑(わら)ひ楽(たのし)む事
烽火台(ほうくわたい)と云は皇城(わうじやう)に大事(だいじ)おこるときは是に烟(けふり)をあげて隣国(りんごく)に
示(しめ)すに国々(くに〳〵)よりこれを見て馳(はせ)参(まい)るためなりしかるに周(しうの)幽(ゆう)王
褒姒(ほうじ)といふ美人(びじん)を寵愛(てうあい)してたわふれに煙(けふり)をあぐるに国々(くに〴〵)の諸侯(しよこう)
みな軍兵(ぐんびやう)を卒(そつし)て都(みやこ)に来(きた)る幽王(ゆうわう)褒姒(ほうじ)と共に望辺楼(もうへんろう)に出てこれ
を見(み)るに防(ふせ)ぐべき敵(かたき)なくたゞ王の戯(たはふ)れなるよしを聞(き)き皆(みな)いかり
て本国(ほんごく)に帰(かへ)る王 美人(びじん)と掌(て)を拍(うつ)て大に笑(わらひ)楽(たのし)む其後 犬戎(ゑびす)中(ちう)
国(ごく)をおかし皇城(わうじやう)をせむるによつて烽火(ほうくわ)をあげて諸侯(しよこう)を召(めせ)ども
又王のなぐさみぞと心得(こゝろへ)て一人も来(きた)らず幽王(ゆうわう)遂(つゐ)にゑびす
のためにほろび給ふ 紂王(ちうわう)が炮烙(ほうらく)の刑(けい)と幽王(ゆうわう)烽火台(ほうくわたい)の図(づ)と
是を一双(いつさう)の図(づ)とす実(まこと)に大切(たいせつ)の事をたわふれ事(ごと)になして其身(そのみ)を
あやまる誡(いましめ)の図(づ)なりみだりに画(ゑかく)事なかれ
漢書(かんじよ)に云 辺寨(へんさい)には常(つね)に寇(あた)を防(ふせ)がんために高橧(こうそう)を作(つく)り狼糞(おゝかみのふん)を積(つみ)たくわへ
是を燃(もやし)て相図(あいづ)とす狼糞(らうふん)の煙(けふり)高(たか)く直(すぐ)にのぼりて斜(なゝめ)ならず是を狼煙(のろし)といふ

【左丁】
斉(せい)の襄公(じやうこう)其(その)臣(しん)管至甫(くわんしほ)に
弑(ころ)さる此時 襄公(じやうこう)の弟(おとゝ)糾(きう)は魯(ろ)
国(こく)に在(あり)けるが斉(せい)に君(きみ)なき
事(こと)を聞(きゝ)て魯公(ろこう)より精兵(せいへい)五
千をそへて其(その)傅(もり)管仲(くわんちう)に命(めい)
じて斉国(せいのくに)に帰(かへ)し遣(つか)はす又
其 弟(おとゝ)小白(せうはく)は其(その)傅(もり)叔牙(しゆくが)と
ともに莒国(きよこく)の勢(せい)を率(ひきい)て国(くに)
に帰(かへ)る管仲(くわんちう)是を遮(さへぎ)り止(とゞ)め
て曰(いわく)わが主(しゆ)は兄(あに)にて汝(なんぢ)は弟(おとゝ)
なるに何(なん)ぞ位(くらい)を奪(うば)はんとす
るやと弓(ゆみ)を引(ひい)て小白(せうはく)を射(い)る
其矢(そのや)玉帯(ぎよくたい)に受(うけ)とめて身(み)
に中(あた)らず莒(きよ)の兵(つわもの)管仲(くわんちう)に討(うつ)
てかゝる管仲 小勢(こぜい)なれば引(ひつ)

【右丁】
【句点と思われる「・」は「。」に置き替える】
返(かへ)す。小白(せうはく)はやく斉(せい)に至(いたつ)て位(くらい)に即(つ)く。是を桓公(くわんこう)といふ。其後(そののち)
叔牙(しゆくが)が薦(すゝめ)によつて小白(せうはく)。管仲(くわんちう)が矢(や)を射(い)たる仇(あた)を赦(ゆる)し。その賢(けん)
才(さい)なるを尊(たつとん)で斉(せい)の相(しやう)とし。管仲(くわんちう)が謀(はかりこと)を用(もち)ひて大に覇(は)を天下
に振(ふる)ふ。天子 管仲(くわんちう)を召(めし)入 宣(みことのり)して上卿(じやうけい)の職(しよく)をたまふ
斉(せい)の桓公(くわんこう)。管仲(くわんちう)が謀(はかりこと)を用(もち)ひ。天子(てんし)に奏(そう)して諸侯(しよこう)を。北杏(ほくきやう)と【欄外上部に▲】
いふ所に会盟(くわいめい)す。宋公(そうこう)盟(ちかひ)に背(そむ)くによつて桓公(くわんこう)これを忿(いか)り。
大 軍(ぐん)を率(ひき)ひて宋(そう)の国(くに)を望(のぞ)んで進発(しんばつ)する所に衛国(ゑいのくに)の農(のう)
夫(ふ)甯戚(ねいせき)といふ者(もの)。路辺(みちのほとり)に牛(うし)を牧(かふ)て桓公(くわんこう)の馬(むま)。牧(まき)に近(ちか)づかんとす
れどもかへり見ず牛(うし)の角(つの)を叩(たゝい)て時(ときの)政(まつりごと)を刺(そしつ)て歌(うた)ふ。桓公 怒(いかつ)て
是を斬(きら)んとす管仲(くわんちう)が曰(いわく)。此 牧夫(うしかひ)をみるに凡人(たゞひと)にあらず。用(もちひ)て公(きみ)を
輔(たすけ)しめば必(かなら)ず益(ゑき)あらん桓(くわん)公 諫(いさめ)を聴(きい)てすなはち甯戚(ねいせき)を下軍(かぐん)
太夫(たいふ)とす戚(せき)。宋(そう)に使(つかひ)して説諭(ときさと)しければ宋公(そうこう)五十里の地(ち)を
割(さ)き斉(せい)に入て和睦(わぼく)を乞(こ)ふ是ひとへに甯戚(ねいせき)が知謀(ちぼう)によつて
刃(やいば)に血(ち)ぬらずして宋国(そうのくに)を平治(へいぢ)したりとて甯戚(ねいせき)を賞(しやう)じて
中軍(ちうぐん)統謀(とうぼう)とし給ふ

【左丁】
南(ナン)-山(サン)燦(サンタリ)白(ハク)-石(セキ)爛(ランタリ)中(ナカニ)有(アリ)_二鯉長(コイノタケ)尺(セキ)-半(ハンナル)_一
生(イキテ)不(ズ)_レ逢(アハ)_二尭(ギヤウ)與(ト)舜(シユントノ)禅(ユヅリニ)_一短(タン)-褐(カツ)単(タン)-
衣(エ)纔(ワヅカニ)至(イタルハ)_レ骭(キホネニ)従(ヨリ)_レ昏(クレ)飯(ハンシメ)_レ牛(ウシニ)至(イタル)_二
夜半(ヤハンニ)_一長(チヤウ)-夜(ヤ)《振り仮名:漫-々|マン〳〵トシテ》《振り仮名:何-時-旦 |イツレノトキカアケン》

【右丁】
桃花(タウクワ)紅時(クレナイナルトキ)李花(リクワ)-白(シロシ)
桃(タウ)-紅(コウ)李(リ)-白(ハク)呈(テイス)_二春色(シユンシヨクヲ)_一
惟(ヒトリ)有(アリ)_二寒梅(カンハイノ)不(サル)_二_レ闘(アラソハ)_レ芳(ホウヲ)【一点脱】
藐(ハルカニ)視(ミテ)_二年(ネン)-光(クハウヲ)【一点脱】為(ナル)_二過客(クハカクト)_一

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
【句点と思われる「・」は「。」に置き替える】
斉(せい)の䬹(しつ)と云所に姓(せい)は蹇(けん)。名(な)は叔(しゆく)。字(あざな)は伯時(はくじ)と云人あり。博(ひろ)く古今(ここん)に
通(つう)じて政事(せいじ)に暁達(けうたつ)すといへども閑居(かんきよ)して世(よ)に出ず秦(しんの)穆公(ぼくこう)
百里奚(はくりけい)の薦(すゝめ)によつて公子(こうし)縶(ちう)を斉(せい)に遣(つか)はして聘(とは)しむ縶(ちう)則(すなは)ち
其所を尋(たつね)至(いたつ)て見るに。竹林(ちくりん)の中に清泉(しみづ)を左にし白石(しろきいし)を右に
して茅廬(ぼうろ)あり。縶(ちう)馬(むま)より下(を)り柴(しば)の扉(とほそ)を叩(たゝ)く。内より童子(どうじ)
出(いて)て主人(しゆしん)は今朝(こんてう)より花(はな)見に出たり。頓(やが)てかへるべしといふ。
しばらく有て一人(ひとり)の耳(みゝ)長(なが)くかたち痩(やせ)たるが。布(ぬの)の袍(ひたゝれ)を着(ちやく)
し驢馬(ろば)に乗(の)り手(て)に梅花(むめのはな)一枝(ひとゑだ)をもち閑(しづか)に寒梅(かんばい)の詩(し)を吟(ぎん)
じ僕(ぼく)に提重(さげぢう)をもたせて帰(かへ)る縶(ちう)出むかふ蹇叔(けんしゆく)驢(むま)より下(お)り
引連(ひきつれ)て草廬(さうろ)に入る縶(ちう)秦公(しんこう)の命(めい)を告(つぐ)るに蹇叔(けんしゆく)かたく辞(じ)す
縶(ちう)が曰(いわく)これ百里奚(はくりけい)の薦(すゝ)むるところなり貴公(きこう)なんぞ其君(そのきみ)を得(ゑ)
て仕(つか)へず徒(いたづら)に草木(さうもく)と共(とも)に腐(くち)たまはんやとて蹇叔(けんしゆく)を伴(ともな)ひ
秦(しん)に至(いた)る秦公(しんこう)階(きざはし)を降(くだ)りみづから迎(むかへ)て上太夫(しやうたいふ)に封(ほう)じ百里奚(はくりけい)と
共(とも)に政(まつりごと)を治(おさめ)しむ夫(それ)より秦(しん)の国(くに)大に覇業(はげう)を振(ふる)ふ功(こう)成(なり)名(な)遂(とげ)て
官(くわん)を辞(じ)し斉(せい)の䬹村(しつそん)に帰(かへ)り八十 余(よ)にて死(し)す

【左丁】
晋(しん)の献公(けんこう)驪戎(りじう)を伐(うつ)て驪姫(りき)を得(ゑ)て夫人(ふじん)とし奚斉(けいせい)を生(うむ)驪(り)【欄外上部に▲】
姫(き)おのれが子(こ)を立(たて)て位(くらい)を嗣(つが)せばやとおもひ太子(たいし)申生(しんせい)を讒(ざん)し
殺(ころ)す申生(しんせい)の弟(おとゝ)重耳(ちやうじ)翟(てき)と云(いふ)国(くに)に逃(のが)れ重耳(ちやうじ)の弟(おとゝ)夷吾(いご)は
梁(りやう)の国(くに)に走(はし)る其後(そののち)里克(りこく)といふ臣(しん)奚斉(けいせい)を殺(ころ)し驪姫(りき)が徒(ともがら)を
ほろぼし夷吾(いご)を迎(むかへ)て位(くらい)に即(つく)是を恵公(けいこう)とす重耳(ちやうじ)は翟国(てきこく)の女(むすめ)
を婚(めとつ)て十 余年(よねん)を経(へ)て二(ふたり)の子(こ)を生(うむ)其(その)臣(しん)趙衰(てうすい)孤毛(こもう)等(ら)と議(ぎ)して
秦(しん)楚(そ)に適(ゆ)き大 国(こく)を結(むすひ)連(つれ)て晋(しん)の国(くに)にかへり入らんとて先(まづ)衛(ゑい)の
国(くに)に至(いた)る衛公(ゑいこう)門(もん)を閉(とぢ)て納(いる)ることなし重耳(ちやうじ)怒(いかり)て従者(しうしや)と共に曹(そうの)
国にいたるに粮米(らうまい)尽(つき)て将士(しやうし)疲(つかれ)くるしむ路上(みちのほとり)に数人(すにん)の農夫(のうふ)午(ひる)
飯(めし)を食(くら)ふ重耳(ちやうじ)孤偃(こゑん)をして其食(そのめし)を求(もと)む農夫(のうふ)が曰(いわく)我等(われら)は村庄(そんしやう)
の小夫(せうふ)何(なん)ぞ余(あま)り有らんとて戯(たわふれ)に土塊(つちくれ)を取て孤偃(こゑん)に与(あたへ)て食(めし)は
なし土(つち)なり共 奉(たてまつ)らんと云 魏犨(ぎしう)大に罵(のゝしつ)て其 鋤(すき)を取て田夫(でんぶ)を鞭(むちうた)ん
とす孤偃(こゑん)止(とゞめ)て曰(いわく)土(つち)は国(くに)の基(もと)なり天(てん)より国を得(ゑ)給ふと云 重耳(ちやうし)然(しか)
なりとし車(くるま)より下(おり)て拝受(はいじゆ)す此時 介子推(かいしずい)腿(もゝ)の肉(にく)を重耳に奉(たてまつ)る
終(つい)に斉(せい)に至(いた)る桓公(くわんこう)宗女(あねむすめ)姜氏(きやうし)を重耳に妻(めあわ)せ重(おも)く是を待(もてな)す

【右丁 挿絵のみ】

【左丁】
十(シフ)英傑(エイケツ)
輔(ホ)-_二佐(サシ)
重耳(チヤウジヲ)_一
従(シタガフ)_レ之 ̄ニ

趙衰(テウズイ)字(アサナハ)子(シ)-余(ヨ)【餘】
臼季(キウキ)字(アサナハ)胥臣(シヨシン)
公(コウ)-孫(ソン)賈(カ)-陀(タ)
魏犨(キシウ)字 公(コウ)-諒(リヤウ)
介(カイ)子(シ)-推(スイ)字 公(コウ)-恕(ヂヨ)
顚頡(テンケツ)字 高挙(カウキヨ)【擧】
先(セン)-丹(タン)-木(ボク)字 時(ジ)-春(シユン)
畢万(ヒツバン)【萬】字 極之(キヨクシ)
孤毛(コモウ)字 ̄ハ子(シ)-羽(ウ)
孤偃(コエン)字 ̄ハ子(シ)-犯(ハン)

【右丁】
重耳(ちやうじ)は斉(せい)に在(あつ)て姜氏(きやうし)と
宴楽(ゑんらく)し本国(ほんごく)に帰(かへ)ることを
忘(わす)るゝ所に斉(せい)の桓公(くわんこう)既(すで)に
卒(そつ)して晋(しん)の恵公(けいこう)亦(また)卒(そつ)し
其子(そのこ)子圉(しきよ)位(くらい)に即(つき)しかば
趙衰(てうずい)孤毛(こもう)等(ら)重耳(てうじ)を晋公(しんこう)
の位(くらい)に即(つか)んとて桑林(さうりん)の下(もと)
に集(あつま)り相議(あいはか)【儀は誤】る折節(おりふし)姜氏(きやうし)の
侍女(じぢよ)桑(くわ)を採(とり)しが此 由(よし)を聞(きゝ)
て姜氏(きやうし)に告(つ)ぐ姜氏(きやうし)侍女(じぢよ)
が大事(だいじ)を又 他(た)に洩(もら)さん事を
おもひ魏犨(ぎしう)に令(れい)して是を
斬(き)らしめ重耳(てうじ)に語(かたつ)て曰(いわ)く
君(きみ)今 妾(しやう)に羈(つなが)れて国(くに)に
かへる事を忘(わす)れ給ふ光陰(くわういん)は
矢(や)のごとし時(とき)人を待(また)た【衍】ず
速(はや)く返(かへつ)て位(くらい)に即(つき)たまへ
重耳の曰(いわく)人生(にんぜい)は隙過(ひまゆく)駒(こま)の

【左丁】
ことし何(なん)ぞ心神(しん〴〵)を苦(くるし)めて人と
争(あらそ)ふ事をせんや姜氏(きやうし)重耳の
従(したが)はざるを知(しつ)て重耳に酒(さけ)を勧(すゝめ)
大に醉(よは)せて密(ひそか)に車(くるま)に乗(のせ)従(じう)
者(しや)を付(つけ)て国(くに)に帰(かへ)らしむ孤偃(こゑん)
は車(くるま)を御(ぎよ)し趙衰(てうずい)は戟(ほこ)を持(もつ)その
外(ほか)従臣(じうしん)前後(せんご)を護(まも)り楚国(そこく)を
頼(たの)み本意(ほんい)を遂(とげ)んとする所に
秦侯(しんこう)重耳をむかへて兵十二万
を発(はつ)し送(おくつ)て国(くに)にかへらしむ
終(つい)に子圉(しきよ)を殺(ころ)して位(くらい)に即(つく)
是を晋(しん)の文公(ぶんこう)と云 斯(かく)て大に
功臣(こうしん)を賞(しやう)するに介子推(かいしずい)独(ひとり)賞(しやう)
に漏(もれ)たり子推(しずい)も亦 告(つげ)明(あきらむ)ること
をせず綿上山(めんじやうざん)に隠(かく)る文は我(わが)
過(あやまり)なりとて徴(めせ)ども出ずみづから
岩穴(いわあな)の中に焚死(やけし)す詔(みことのり)して
廟(びやう)を立(たて)是を祭(まつ)らしむ







【右丁】
【句点と思われる「・」は「。」に置き替える】
養由基(ようゆうき) 姓(しやう)は養(よう)名(な)は由基(ゆうき)。楚(その)荘王(さうわう)の臣(しん)叔敖(しゆくがう)が小卒(せうそつ)也(なり)。よく射(ゆみいる)こと
神(しん)の如(ごと)し百(もゝ)たび発(はなつ)て百(も)たび中(あた)る。先鋒(せんぼう)の争(あらそ)ひある時(とき)百 歩(ほ)退(しさつ)て柳(やなぎ)
の葉(は)を射貫(いつらぬ)き。先鋒(せんぼう)の職(しよく)に補(ほ)す。共王(きやうわう)の時 養由(ようゆう)を殿前大将軍(でんぜんたいしやうぐん)とす。
                          由基(ゆうき)軍前(ぐんぜん)に出(いづ)る
                          ときは。これに向(むか)ふ
                          者(もの)。生(いき)て帰(かへ)る事なし
                          其(その)弓勢(ゆんぜい)におそれ
                          敢(あへ)て近(ちか)づく者(もの)なし。
        【挿絵】              号(がう)して神射将軍(しんしやしやうぐん)
                          といふ。晋侯(しんこう)おもへらく
                          由(ゆう)。楚(そ)にある間は勝(かつ)事
                          能(あた)はじとて暗夜(あんや)に
                          万伏弩(まんふくど)を発(はつ)して遂(ついに)
                          由基を射死(いころ)さしむ

【左丁】
《振り仮名:雲-外|ウンクハイニ》聞(キイテ)_レ鴻(コウヲ)夜(ヨル)射(ヰル)_レ声(コエヲ) 楚(そ)の養由(ようゆう)雲上(うんしやう)の鳫(かり)を射(い)ると云(いふ)俉(ご)にしたがひて此
図(づ)を画(ゑか)く一本(いつほん)に周(しう)の穆王(ぼくわう)の臣(しん)更嬴(かうゑい)と云(いふ)者(もの)虚空(こくう)に矢(や)を発(はなつ)て鳥(とり)を射(い)る
ことを得(ゑ)たり折(おり)しも王(わう)の前(まへ)にて鳫(かり)の東(ひがし)より西(にし)に過(わた)る声(こゑ)を聞(きゝ)てやがて
これを射(い)おとしけるといふ此 図(づ)は養由(ようゆう)が狩(かり)に出(いで)していなり更嬴(かうゑい)ならば
朝服(てうふく)を着(き)冠(かんふり)にて矢(や)を放(はな)つ体(てい)なるべし此 図(つ)古(いにしへ)より養由(ようゆう)と云(いひ)伝(つた)へ画(ゑかく)なり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

上に此 図(つ)を
画(かく)べし


   【挿絵】

【右丁】
顔夫人(がんふじん)祷(いのる)_二
尼丘山(じきうざん) ̄ニ_一図(のづ)

   賛曰
 尼-山巌-々     魯-邦是-胆
 降 ̄スコト_レ霊 ̄ヲ自 ̄ル_レ母 ̄ニ  孕 ̄ムコトハ聖 帰(キ) ̄ス_レ男 ̄ニ
 既 ̄ニ験 ̄ニ以 ̄シ_レ形 ̄ヲ    遂 ̄ニ徴以 ̄テ名 ̄ク
 一-誠感 ̄シテ-格    万-古明-文

【左丁】
孔子(こうし)名(な)は丘(きう)字(あざな)は仲尼(ちうじ)殷(いんの)紂王(ちうわう)が兄(あに)微子啓(びしけい)の後胤(こういん)父(ちゝ)は叔梁紇(しゆくりやうこつ)母(はゝ)
は顔氏(がんし) 叔梁紇女子 多(おゝく)して男子(なんし)なし故に夫婦(ふうふ)尼丘(じきう)山に至て
神に祷(いの)る其時 山野(さんや)に宿(やど)して懐妊(くわいにん)す魯(ろの)襄公(じやうこう)二十二年八月
廿七日に魯(ろ)の昌平郷(しやうへいきやうの)陬邑(すうゆう)といふ所にて誕生(たんじやう)し給ふ首上(かしらのうへ)圩(くぼる)
にして頂(いたゞき)尼丘(じきう)に象(かたど)る児(ちご)の時 嬉戯(あそびたはふること)つねに俎豆(つくゑうつは)を陳(つら)ね礼容(れいよう)
を設(もうけ)たまふ長(ひとゝな)るに及(およん)で身長(みのたけ)九尺 腰(こし)の大さ十囲 竜(りやう)の額(ひたい)亀(かめ)
の脊(せな)河目 隆顙(りうさう)々(ひたい)尭帝(ぎやうてい)に似(に)項(うなじ)皐陶(かうたう)に類(るい)し肩(かた)子産(しさん)に類
す腰(こし)より以下(いげ)禹(う)王に及(およ)ばざる事三寸天 性(せい)聡明(さうめい)叡智(ゑいち)なり
ければ定公これを用て中 都(と)の宰(さい)とす一年にて四 方(はう)大に
治(おさま)る斉公(せいこう)恐(おそれ)て夾谷(けうこく)に会盟(くわいめい)し魯に侵(おか)せる地(ち)を帰(かへ)す其後大
司寇(しこう)となり又 国政(まつりごと)を摂行(とりおこなひ)給ふ三月にして魯(ろ)国大に治るに
よつて斉人(せいひと)魯国を乱(みだ)さんと欲(ほつ)し女楽(ぢよがく)を帰(おく)る魯これを受(うけ)しかば
孔子(こうし)魯を行(さり)諸(しよ)国に周遊(しうゆう)す諸侯(しよこう)みな用(もちゆる)事 能(あた)はず乃(いまし)易詩書(ゑきししよ)礼(れい)
楽(がく)を正(たゞ)し春秋(しゆんじう)を作(つく)り給ふ弟子(ていし)三千人 六芸(りくげい)に通(つうす)る者(ひと)七十二人 終(つい)に
魯(ろの)哀公(あいこう)十六年壬戌二月十八日に卒(そつ)す享(こう)年七十三後世 文宣王(ぶんせんわう)と贈(おくりな)す

【右丁】
【右から横書き】
先(せん)聖(せい)小(せう)児(に)之(の)像(さう)

聖父児嬉俎-豆是特登降俯仰有 ̄リ_レ容有_レ儀
不 ̄シテ_レ学 ̄ハ而能 ̄クシ不 ̄シテ_レ聞 ̄カ而 識(シル)化-_二洽 ̄シ群-童 ̄ヲ_一名 ̄ヲ伝 ̄フ_二列国 ̄ニ_一

【左丁】
秦(しん)の哀公(あいこう)覇業(はぎやう)を天下に振(ふる)はんと欲(ほつ)し周(しう)の天子に奏(そう)して大に
諸侯(しよこう)を臨潼(りんとう)【注】に会(くわい)す又 潜(ひそか)に兵(つはもの)を四方(しはう)に伏(ふせ)て従(したが)はざる者は擒(とりこ)
にせんと議(はか)るさるほどに列国(れつこく)の諸侯(しよこう)各(おの〳〵)宝物(ほうもつ)を捧(さゝげ)て潼関(とうくわん)に
至(いた)る斉(せい)の大夫(たいふ)晏平仲(あんへいちう)が曰(いわ)くいにしへは諸侯 会(くわい)するにかならず
公明正直(こうめいせいちよく)にして文武(ぶんふ)兼備(かねそなはる)の士(し)を得(ゑ)て列(れつ)国の是非(ぜひ)を議(はか)り
定(さだ)むこれを明輔(めいほ)といふ先(まづ)明輔を立たまへと哀公(あいこう)すなはち文(ぶん)
題(だい)を下(くだ)しよく此 文字(もんじ)の義(ぎ)を答(こた)へ明(あか)し又 重(おも)さ千 斤(ぎん)の鼎(かなへ)を
挙(あぐ)る者(もの)あらば此 職(しよく)とすべしとて八 句(く)の題目(だいもく)を書下す
 天何(いづれの)-所(ところにか)付(つく)地(ち)何(いつれにか)依(よる)     天-地(ち)相生(あいしやうず)数(すう)已(すでに)-知(しるや)
 江(こう)-水(すい)源(みなもと)従(より)_二何(いつれの)-処(ところ)_一出(いつる)   泰(たい)-山(さん)派(みなまた)自(よりか)_レ那(いつれ)支離(ゑだわかる)
 五-行(ぎやう)迭(たがいに)-運(めぐり)誰(たれか)為(す)_レ重(おもしと)    万(ばん)-物(ぶつ)叢(さう)-生(せい)孰(いつれか)最(もつとも)奇(きなる)
 試(こゝろみに)挙(あげて)_二 六‐題(だいを)_一関(くわん)-_二要(ようす)問(とふことを)_一 有(あらば)_二能(よく)明(あきらむるもの)_一_レ此 ̄を是(これ)男児(だんじ)
其時 秦(しん)国の将軍(しやうぐん)公孫后(こうそんこう)兼(かね)てたゝみ置(をき)し事なれば進(すゝみ)出て
まづ題(だい)を答て後両の手(て)にて鼎を挙(あげ)地(ち)をはなるゝ事三尺 面(おもて)を
赤(あか)くして下(もと)に置(をく)諸(しよ)人これを感(かん)じすでに明輔たらんとする所に

【注 臨洮とあるところ】

【両丁挿絵のみ】

【右丁】
楚国(そこく)の将軍(しやうぐん)伍子胥(ごししよ)向進(むかへすゝん)で曰(いわく)公孫后(こうそんこう)文(ぶん)を論(ろん)じて題(だい)を破(は)せず
鼎(かなへ)を挙(あげ)て座(ざ)を離(はな)れず何(なん)ぞ此 職(しよく)に任(にん)ぜんとて筆(ふで)を取(とり)答(こたへ)て曰く
 天(てん)-元(もと)依(より)_レ 地(ちに)々(ちは)依(よる)_レ 天(てんに)    天-地(ち)皆(みな)従(より)_二 五(ご)-数(すう)【一点脱】先(さきだつ)
 河(か)-水(すい)自(おのづから)従(より)_二 天上(てんじやう)_一降(くだる)   泰(たい)-山(さん)已(すてに)発(はつして)_二崑(こん)-崙(ろんに)_一原(はじまる)
 土(と)-坤(こん)尊(たつたふして)守(まもる)_二 五(ご)-行(ぎやうの)信(しんを)_一  人(じん)-道(たう)貴(たつとふして)為(なす)_二《振り仮名:万-物-全|ばんぶつのまつたきを》
 請(こふ)挙(あげて)_二此(この)-詩(しを)_一明(あかす)_二 六-問(ぶんを)_一  篇々(へん〳〵)透(とう)-徹(てつ)不(ざらん)_二胡(なんそ)言(いわ)_一
答(こたへ)罷(おわつ)て片手(かたて)にて鼎(かなへ)を挙(あげ)諸侯(しよこう)の前を匝(めぐ)り又 元(もと)の所に置(をく)
子胥(ししよ)遂(つい)に明輔(めいほ)の職(しよく)につき殿階(でんかい)の上に立て誓(ちかひ)を定(さだ)む列国(れつこく)
各(おの〳〵)宝(たから)を出し軽重(きやうちう)を闘(くらべ)明(あわ)す只(たゞ)楚国(そこく)は宝を備(そなへ)来(きた)らず哀公(あいこう)の曰(いわく)
楚(そ)は大国なるに何(なに)とて宝(たから)なきや子胥(ししよ)が曰 我(わが)楚は宝とするなし惟(たゞ)善(せん)
以(もつ)て宝とす君々(きみ〳〵)たり臣々(しん〳〵)たり四民(しみん)業(ぎやう)を楽(たのし)む誠(まこと)に鎮国(ちんこく)の大 珍(ちん)豈(あ)に
方寸(はうすん)の珠(たま)に比(ひ)せんや哀公 理(り)に服(ふく)して答(こたふる)こと能(あた)はず子胥又 哀(あい)公に告(つげ)て
曰(いわく)潼関(とうくわん)の一 路(ろ)を見るに強徒(きやうど)相(あい)阻(へた)つ君(きみ)護送(まもりおくら)しめ給へとて公孫后(こうそんこう)を相(あい)
従(したがへ)て関(せき)を出るによつて伏兵(ふくへい)敢(あへ)て犯(おかす)事 能(あた)はず偏(ひとへ)に伍子胥が功(こう)に
よりて諸侯(しよこう)を保(やす)んじおの〳〵辞謝(じしや)して国に帰(かへ)る 五巻終

【左丁 見返し 白紙】

【裏表紙】

絵本写宝袋

【表紙】
【題箋は殆ど欠損】
□本【以下欠損】

【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁 見返し】
絵本写宝袋 六

【左丁】
絵本写宝袋六之巻目録
晏平仲(あんへいちう)楚国(そこく)に使(つかひ)して斉(せい)を辱(はづか)しめざる図(づ)
晏子(あんし)之(の)御者(ぎよしや)が妻(つま)賢才(けんさい)にして夫(おっと)を諫(いさむ)る図
呉王(ごわう)闔閭(かつりよ)【ママ】使(して)_二孫氏武(そんしぶを)_一女兵(ぢよへい)を操(あやつ)らしむる図(つ)
呉王 夫差(ふさ)与(と)_二西施(せいし)_一 八景(はつけい)に遊(あそ)ぶ図
孔子(こうし)生智(せいち)萍実(へいじつ)を弁(べん)【左ルビ:ことわる】ずる図
 《割書:并ニ》顔回(がんくわい)の仁(じん)廉節(れんせつ)を改(あらため)ざる図抄(づせう)
智伯(ちはく)が臣(しん)予譲(よじやう)漆(うるしして)_レ身(みに)欲(ほつする)_レ報【左ルビ:ほうぜんと】_二主君(しゆくんの)仇(あたを)_一之(の)図(づ)

【右丁】  
孫臏(そんひん)法術(ほふじゆつ)を修(しゆ)し強盗(ごうどう)を伏(ふく)する図(つ)
孫臏(そんひん)魏(ぎ)に事(つかへ)て雨(あめ)を祈(いの)る図
孫臏(そんひん)以(もつて)_レ策(はかりことを)馬陵道(ばれうだう)に万弩(まんど)射(いる)_二龐涓(ほうけんを)_一図
藺相如(りんしやうちよ)秦(しん)に使(つかひ)する図
 并 ̄ニ卞和(へんくわ)が夜光璧(やくわうのたま)の事
秦王(しんわう)与(と)_二趙王(てうわうと)会(くわい)_二澠池(めんちに)_一する図
藺相如(りんしやうぢよ)廉頗(れんは)が来(きたる)を見(み)て車(くるま)を避(さく)る図
【左丁】
絵本写宝袋六之巻
  晏平仲(あんへいちう)楚(そ)に使(つかひ)して斉国(せいのくに)を辱(はづ)かしめざる事
斉(せい)の晏嬰(あんゑい)闘宝(とうほう)の事(こと)を謝(しや)せんがため楚国(そこく)に使(つかひ)す既(すで)に楚(そ)
に至(いたつ)て国中の風景(ふうけい)を見るに地霊(ちれい)人傑(じんけつ)まことに江南(こうなん)の美(び)
地(ち)なり進行(すゝみゆき)てみれば一大 門(もん)有(あつ)て掩閉(おほひとさ)せり傍(かたはら)に小 門(もん)あり
甚(はなは)だ窄(せば)く矮(ひく)し楚国の奏者(そうしや)出 迎(むか)へ引(ひい)て小門より入らん
とす晏子(あんし)心に我を慢(あなど)る事を知(しつ)てこれは狗竇(くとう)【左ルビ:いぬのあな】なり狗国(くこく)
の使(つかひ)を待(まつ)て入よといひければ遂(つい)に大門より入る朝(てう)に至る
に及(およん)で数(す)十人の儒臣(じゆしん)謀士(ばうし)左右(さゆう)に相(あい)列(つらなつ)てかわる〴〵出て
なじるといへども晏子こと〴〵く返答(へんたふ)しければ皆(みな)閉口(へいこう)して
退(しりぞ)く楚(そ)の上軍(じやうぐん)太夫(たいふ)伍奢(ごしや)が曰(いわく)晏子は斉の賢士(けんし)何(なん)ぞこれを
慢(あなど)るやと引て霊王(れいわう)に見(まみ)ゆ王 橘(たちばな)を賜(たま)ふ晏子 皮(かわ)共に食(しよく)す楚王大に
笑(わら)ふ晏子が曰 臣(しん)聞(きく)君(きみ)果(このみ)を賜(たま)ふ刻(ときは)橘柑(きつかん)割(わら)ずと云へりと楚人
敢(あへ)て辱(はづか)しむること能(あた)はす遂(つゐ)に聘礼(へいれい)を収(おさ)め晏子を宴(もてな)して帰(かへ)らしむ

【両丁 挿絵のみ】

【右丁】
【上段挿絵の説明】
御者(ぎよしや)が妻(つま)
 晏子(あんし)を見る

【下段】
晏平仲(あんへいちう)一日(あるひ)出(いて)行(ゆく)時
其(その)車(くるま)を御(ぎよ)する者(もの)の妻(つま)
門(もん)の間(ひま)よりこれを闚(うかゞひ)
みれば夫(おつと)の御者(ぎよしや)大 蓋(がい)
を擁(よう)し駟馬(しめ)に策(むち)うち
意気(いき)揚々(やう〳〵)として自(みづから)
得(ゑ)たるの様(さま)なり既(すで)に
して家(いゑ)に帰(かへ)れば彼妻(かのつま)
去(いとまの)ことを請(こふ)御者その
ゆへを問(とふ)妻の曰(いわく)主人(しゆじん)の
晏子(あんし)は長(たけ)五 尺(しやく)に満(みた)ず
しかれども其身(そのみ)斉国(せいのくに)
の相(しよう)として名(な)諸侯(しよこう)に
顕(あら)はれたまへり今日(けふ)
わが夫(おつと)をみるに長(たけ)八

【左丁】
【上段挿絵の説明】
晏嬰(あんゑい)


御者(ぎよしや)

【下段】
尺ありといへども人の
僕御(ぼくぎよ)たり然(しか)も御身(おんみ)の
心みづから足(た)れりと思(おも)
へり妾(われ)こゝを以(もつ)ていとま
の事を云(いふ)ものなりと
御者(ぎよしや)大に恥(はぢ)てそれ
より抑損(へりくだり)けるが晏子(あんし)
あやしみてこれを問(と)へ
ば御者ありのまゝに
かたる晏平仲大きに
感(かん)じ遂(つゐ)にすゝめて
太夫(たいふ)とすといへり
晏子 姓(せい)は晏(あん)名(な)は嬰(ゑい)
字(あざな)は平仲(へいちう)斉(せい)の国(くに)の
相国(しやうこく)なり

【右丁】
【右から横書き】
呉(ご)王(わう)従(より)_二台(うたての)上(うへ)_一視(みる)_二女(ぢよ)兵(へいを)_一

【左丁】
【右から横書き】
孫(ソン)武(ぶ)女(ぢよ)兵(へい)を操(あやつる)図(つ)

       二 妃(ひ)法(ほふ)に背(そむく)ゆへ
       孫氏武(そんしぶ)これを斬(きる)

【右丁】
   呉王(ごわう)夫差(ふさ)与(と)_二西施(せいし)_一遊(あそふ)_二 八 景(けいに)_一
呉王(ごわう)楚(そ)越(ゑつ)を従(したが)へ心を安(やすん)じて姑蘇台(こそたい)を建(たて)て遊覧(ゆうらん)に
備(そな)ふ其 高(たか)さ三百里を望(みる)べく寛(ひろ)さ六千人を容(いる)べし梁(うつばり)に
彫(ほりもの)し桷(たるき)に画(ゑか)き柱(はしら)を金にし欄干(らんかん)を玉(たま)にし庭(には)には美(うつくし)
き草華(くさはな)を植(うへ)珍(めづら)しき鳥獣(とりけだもの)を放(はな)ち湖水(こすい)を引(ひい)て台(うてなの)前(まへ)に
環(めぐ)らし荘(かざ)れる舟を浮(うか)ふ左に香水溪(かうすいけい)あり右に百花洲(ひやくくわしう)有
四時(しいし)花(はな)の香(かうば)しき事 絶(たへ)ず此 台(うてな)三年の財(ものなり)を積五年の力(つとめ)を
あつめて成就(じやうじゆ)せり王 日々(ひゞ)に此台に出てあそぶ数(す)十の美(ひ)
女(ぢよ)を座(ざ)の側(かたはら)に列(つらね)て歌(うたひ)舞(まは)しむ時に西施(せいし)其(その)第(だい)一たり美(うるはしき)
貌(かたち)たぐひなし王の寵愛(てうあい)后妃(きさき)に勝(まさ)る又 霊岩山(れいがんさん)に西施洞(せいしとう)
を築(きつ)き玩花池(くわんくはち)を開(ほり)採香径(さいかうけい)を闢(ひら)き碧泉井(へきせんせい)を鑿(ほり)館娃宮(くわんあいきう)
を建(たて)西施を挈(たづさ)へ妃嬪(ひひん)をして前後(せんご)を擁(かこま)しめ八 景(けい)に遊(あそ)ぶ《割書:八景は|姑蘇》
《割書:台。百花洲。香水溪。西施洞。玩花池。|採香径。碧泉井。館娃宮。なり》五十 歩(ほ)に一 亭(てい)八十歩に一 榭(しや)ありて
亭に逢(あふ)ごとに酒 宴(ゑん)をなし榭(しや)に遇(あふ)毎(ごと)に歌舞(うたひまふ)春(はる)は四方(よも)に百 花(くわ)

【左丁】
をたづね花の枝(ゑた)を折(おり)西施(せいし)が鬢(びん)【鬂は俗字】に插(さしはさ)みて曰(いわく)月夜(つきのよ)に百 花叢(くわそう)の
下(もと)に立ば孤(われ)花の貌(すがた)の子(なんじ)に類(るい)して子(し)が貌(かたち)の花(はな)に類する事を
知(し)らじと。夏(なつ)は数多(あまた)の船(ふね)に簫鼓(しやうこ)を載(のせ)西施と共に香水溪(かうすいけい)に蓮(はちす)を
賞(しやう)じ宮女(きうぢよ)に蓮(はちす)を採(とら)しむ西施も蓮花(はちす)をとらんとして誤(あやまつ)て
溪水(たにみづ)に溺(おぼ)る宮女あまた水に入て扶(たすけ)起(おこ)し王みづから舟中(しうちう)に
抱(いたき)入て曰(いわ)く西施が水に溺(おぼれ)たるありさまは落花(らくくわ)の水に随(たゞよふ)が如(こと)
しと又 溪(たに)に白珠(しらたま)を布(しき)清水(しみづ)を引(ひい)て西施と共に浴(ゆあみ)し秋(あき)は
西施と共(とも)霊岩山(れいがんさん)に登(のぼ)り紅葉(もみぢ)をたづね館娃宮(くわんあきう)に処して
昼夜(ちうや)歌舞(かぶ)管絃(くわんけん)し冬(ふゆ)は霜(しも)の朝(あした)雪(ゆき)の夜(よ)王(わう)西施と共に狐(きつね)の
裘(かはころも)を着(き)て数(す)十の宮(きう)女をして車(くるま)を引(ひか)しめ梅花(ばいくわ)を尋(たづ)ね《振り仮名:従_レ此|これより》
呉王(ごわう)政事(まつりごと)を理(おさめ)ず昼夜(ちうや)酒宴(▢ゆゑん)淫楽(いんらく)を専(もつはら)にし給ふ国政(こくせい)みな
荒(すさめ)り伍子胥(ごししよ)表章(ひやうしやう)を具(ぐ)して諫(いさ)むれども全(まつた)く納(いれ)給はず子胥(ししよ)
出て歎(たん)じて曰(いわく)呉(ご)の末(すゑ)桀紂(けつちう)が世の如し安(いづくん)ぞ其(それ)亡(ほろ)びざるべけん
やと後(のち)遂(つい)に越(ゑつ)王 句(こう)【勾】践(せん)のために滅(ほろぼ)されたり

【右丁】
呉王(こわう)与(と)西施(せいしと)雪夜(ゆきのよ)
西施洞(せいしとう)に遊(あそ)ぶ図(づ)

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
楚王(そわう)の使者(ししや)宗木(そうぼく)
孔子(こうし)に見(まみ)ゆる

【左丁】
   孔子(こうし)萍実(へいじつ)【左ルビ:うきくさのみ】を弁(ことはり)たまふ

先聖(せんせい)
御 歳(とし)
六十三


       子路(しろ)

回 若(わかふ)して
髪(かみ)鬚(ひげ)     顔回(がんくわい)
みな
白(しろ)し   冉求(ぜんきう)
          曽参(そうしん)
              子貢(しこう)

【右丁】
   孔子(こうし)萍実(へいじつ)を弁(べん)じ給ふ《割書:并》顔回(がんくわい)の仁(じん)廉(れん)
楚(そ)の昭(しやう)王 賢(けん)を尊(たつと)み士(し)を招(まね)き兵(へい)を利(り)して覇業(はぎやう)を振(ふる)はんこと
を欲(ほつ)す其(その)臣(しん)諸梁(しよりやう)が曰(いわく)魯(ろ)の孔仲尼(こうちうじ)は当世(とうせい)の聖人(せいじん)なり昔日(そのかみ)
魯公(ろこう)これを用て魯国大に治(おさま)り斉(せい)より侵(おか)せる地(ち)を返(かへ)す今 列(れつ)
国(こく)に遊(あそん)で晋(しん)に在(あ)り大王 誠(まこと)に覇(は)をはかり給はゞこれを迎(むか)へ
国(くに)の政(まつりごと)を授(さづけ)給へ宗木(そうぼく)が曰 孔丘(こうきう)は迂儒(うじゆ)にして時務(じむ)に達(たつ)せずと昭(しやう)
王の曰(いわく)我 江洲(こうしう)に於(おい)て一 物(もつ)を拾(ひろひ)得(ゑ)たり群臣(ぐんしん)其名を知(し)る者(もの)
なし聖人(せいじん)は心(むね)に竅(あな)有て人の識(しら)ざる事をしると云へば使臣(ししん)をし
て彼(かの)一 物(もつ)の名(な)をたづねて試(こゝろ)みんとて則(すなはち)宗木に一物を持(もた)せ孔
子(し)に見(まみ)へて問(とは)しむ孔子其一物を見給ふに円(まるく)大にして光(ひかり)有
子(し)の曰(のたふまく)これ萍(うきくさ)の実(み)なり食(しよく)すれば味(あぢはひ)甜(あま)き事 蜜(みつ)のごとし宗木
拝辞(はいじ)してかへり昭王に告(もう)す王 割(わり)て群臣(ぐんしん)に賜(たま)ふこれを食(くらふ)に
蜜(みつ)のごとし昭王 即(すなはち)安車(あんしや)駟馬(しめ)を以(もつ)て孔子を迎(むか)へしむ孔子 楚(そ)に
赴(おもむ)き其 礼(れい)に答(こた)【ママ】んとて轡(くつわづら)を反(かへ)して進(すゝ)み給ふ陳蔡(ちんさい)の二 公(こう)相議(あいぎ)

【左丁】
して曰(いわ)く楚(そ)に孔子を用て覇(は)を振(ふる)はゝ我(わが)小国 危(あやふ)からんたゞ
孔子を防(ふせい)で楚に入るゝ事なかれとて忽(たちまち)兵を起(おこ)して孔子を囲(かこむ)
子路(しろ)怒(いかつ)て戈(ほこ)を挺(とつ)て戦(たゝか)はんとす子曰 君子(くんし)は己(おのれ)を咎(とがめ)て人を咎ず
焉(いづくん)ぞ仁義(じんぎ)を修(しゆ)して世俗(せぞく)と争(あらそひ)戦(たゝか)はんやとて琴(こと)を援(ひい)て歌(うた)ひ給ふ
陳蔡(ちんさい)の兵(へい)退(しりぞが)ざること七日 糧(かて)尽(つき)て弟子(ていし)餒(うへ)労(つか)る子貢(しこう)齎(つゝむ)ところの
貨(たから)を取出し窃(ひそか)に野人(やじん)に告(つげ)米(こめ)一 石(こく)を求(もとめ)得(ゑ)たり顔淵(がんゑん)これを
炊(かしく)に埃墨(ほこり)飯(いひ)中へ堕(おつ)る顔回取て食(くら)ふ子貢(しこう)井の辺(ほとり)よりこれを
見て窃食(ぬすみくら)へりと思ひ孔子に顔淵が飯(いひ)を食(くらふ)ことを告(つげ)て曰 仁人(じん〳〵)
廉士(れんし)も窮(きう)しては節(せつ)を改(あらたむ)るか孔子曰 吾(われ)回が仁を信(しん)ずること久し
それ必(かならず)故(ゆへ)あらんとて顔回を召(めし)て曰 疇昔(きのふ)予(われ)夢(ゆめ)に先人(せんしん)を見る我
これを祭(まつ)らんとす子(なんぢ)炊(かしき)たる飯(いひ)を進(すゝめ)よ回の曰 向(さき)に埃墨(ほこり)飯(いひの)中に
入たり是を置(をく)ときは潔(いさぎよ)からずこれを棄(すつ)れば惜(おしむ)べし故(かるがゆへ)に回 之(これ)
を食ふ祭(まつる)べからず孔子の曰(のたまは)く然(しか)らば吾(われ)も亦(また)これを食はん回
出ぬ子(しのゝ)曰 吾(わ)が回を信(しん)ずる事 今日(けふ)のみに非(あら)ず子貢 之(これ)を聞(きい)て服(ふく)す

【右丁  挿絵の説明】
         子貢(しこう)

  顔淵(がんゑん)

【左丁 挿絵の説明】
       冉求(ぜんきう)
    曽子(そうし)
                   子路(しろ)


孔子(こうし)
          宗木(そうぼく)

【右丁 挿絵の説明】
趙無恤(てうぶじゆつ)錦(にしき)の衣袍(ゑぼう)を
脱(ぬい)で予譲(よじやう)に与(あた)ふ

【左丁 挿絵の説明】
   予譲(よじやう)衣袍(ゑぼう)を斫(きつ)て主君(しゆくん)の
    仇(あた)を報(ほう)ずる
     心(こゝろ)をなす

【右丁】
趙無恤(てうぶじゆつ)智伯(ちはく)を殺(ころ)し其 頭顱(されかうべ)を漆塗(うるしぬり)にして洩便(いばり)の器(うつは)物とす
智伯(ちはく)が臣(しん)予譲(よじやう)其 仇(あた)を報(ほう)ぜんと短剣(たんけん)を懐(ふところ)にかくし潜(ひそか)に無恤(ぶじゆつ)
が宮中(やかた)に入 詐(いつわ)りて役(やく)を勤(つとむ)る者(もの)となり泥(つち)を以(もつ)て厠(かわや)の壁(かべ)を塗(ぬ)り
近寄(ちかより)て刺(さゝ)んとす無恤しきりに心(むね)驚(をどろ)く急(きう)に捜(さが)さしむるに
智伯(ちはく)が臣(しん)予譲(よじやう)なり従士(じうし)これを殺(ころ)さんとす無恤が曰智伯 死(しゝ)て
子孫(しそん)なし而(しかる)にために仇(あた)を報(ほう)ぜんとす真(まこと)の義士(ぎし)なり我 謹(つゝしみ)て
これを避(さく)べしとて遂(つい)にこれを赦(ゆる)す譲(じやう)亦 身(み)に漆(うるし)をぬり癩病(らいびょう)
人となり炭(すみ)を呑(のん)で啞(おし)となり乞食(こつじき)に皃(さま)をかへて無恤をねらふ
其(その)友(とも)の曰(いわく)子(し)が才(さい)を以(もつ)て無恤に臣(しん)とし事(つか)へば近(ちか)き幸(さいわひ)を得(う)べし
と譲が曰 質(かたち)を委(ゆだ)ね臣と為(なり)て之(これ)を殺(ころ)すは二(ふた)心也とて板橋(いたばし)の
下に伏(ふ)して無恤が過(とを)るを待(まち)て刺(さゝ)んとす無恤が馬 悲(かなし)み嘶(いばふ)て
退後(あとすさり)す無恤あやしみ捜(さが)さしむるに果(はた)して予譲を曳(ひき)出す無恤
が曰 吾(われ)前(さき)に汝(なんぢ)を赦(ゆる)す所に亦(また)此(かく)のごとし今はゆるしがたしとて従士(じうし)
を以て取 囲(かこ)ましむ譲が曰今我 再(ふたゝ)び生(しやう)を貪(むさぼ)らじ願(ねがはく)は君の衣袍(ゑぼう)を

【左丁】
賜(たま)はり是を刺(さし)て仇(あた)を報(ほう)ずる意(こゝろ)をなすべしと無恤すなはち錦(にしき)の
袍(ぼう)を脱(ぬい)与(あた)ふ譲(じやう)其袍を刺て後に自害(じがい)すそれより無恤 病(やまひ)
に染(そみ)て終(つゐ)に死(し)す是 身(み)を舎(すて)義(ぎ)を重(おも)んずるなり
   孫臏(そんひん)法術(ほふじゆつ)を修(しゆ)し賊(ぞく)を服(ふく)し雨(あめ)を請(こひ)謀(はかりこと)を以 龐涓(ほうけん)を討(うつ)事
孫臏(そんひん)は孫武子(そんふし)が子孫(しそん)なり嘗(かつ)て龐涓(ほうけん)と倶(とも)に水簾洞(すいれんとう)の鬼谷(きこく)
子(し)を師(し)として兵法(ひやうほふ)を学(まな)ぶ法術(ほうじゆつ)兵機(へいき)くわしく通達(つうたつ)す龐涓
は已(すで)に魏(ぎ)の将軍(しやうぐん)と為(な)る魏王又孫臏を召(め)す鬼谷子(きこくし)孫臏に告(つげ)
て曰(いわ)く巍に龐涓あり二 子(し)並(ならび)立がたからん吾(われ)汝(なんぢ)がために災(わざわひ)を
除(のぞ)かんとて則(すなはち)法を行(おこなふ)て錦(にしき)の袋(ふくろ)を授(さづ)け危急(ききう)なる時是を折(ひらく)べし
と臏(ひん)拝辞(はいじ)して山を下り黒陽山(こくやうざん)の下(もと)に至(いた)るに遠達(ゑんたつ)独孤陳(どくこちん)
といふ二人の盗賊(とうぞく)数(す)十の賊を率(ひきひ)て路(みち)を遮(さへぎ)り路銭(ろせん)を乞(こふ)おの〳〵
剣戟(けんげき)を抜(ぬき)連(つれ)て害(がい)せんとす孫臏 隠(ひそか)に法 術(じゆつ)を修(しゆ)し馬を馳(はせ)て林(はやしの)
中に入二 賊(ぞく)馬を双(ならべ)てすゝみ至る所に忽(たちま)ち空(そら)昏(くも)り日(ひ)暗(くら)くなり
て樹(じゆ)木こと〴〵く将卒(しやうそつ)と成て金(かね)鼓(つゞみ)天に振(ふる)ふ賊党(ぞくとう)くるしみ迷(まよふ)て

【右丁 挿絵の説明】
孫子(そんし)遠達(ゑんたつ)
独孤陳(どくこちん)の
二 賊(ぞく)を伏(ふく)す
           孫臏(そんひん) 法(ほふ)を修(しゆ)す

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
せんすべしらず声(こゑ)を揚(あげ)て一 命(めい)をゆるし給へと云孫臏 則(すなはち)法を
念(ねん)ずれば天(そら)晴(はれ)草木(さうもく)元(もと)のごとし二 賊(ぞく)跪(ひざまづい)て辞(じ)し去(さ)る孫臏又
其夜(そのよ)賊 来(きた)らん事を察(さつ)し石(いし)を以(もつ)て八 陣(ぢん)を布(しく)二賊 案(あん)のごとく
来(きた)り石陣(せきぢん)に入て出る事 能(あた)はず孫臏又是をゆるす次の夜(よ)又
賊来る孫臏 兼(かね)て索(なわ)をもつて縦横(たてよこ)に布列(しきつらね)しかば二賊 彼(かの)索(なわ)
にかゝりて綑(からめ)倒(たを)され手足(てあし)働(はたらく)ことあたはず遂(つゐ)に伏従(ふくじう)しける
孫臏(そんひん)魏(ぎ)に入て恵王(けいわう)に見(まみ)ゆ王 喜(よろこん)で中軍太夫(ちうぐんたいふ)に封(ほう)じ龐涓(ほうけん)
と相対(あいたい)して覇(は)を興(おこ)さんことを図(はか)らしむ此時 国中(こくちう)大に旱(ひでり)して
草木(さうもく)焦(こがれ)黄(きばみ)て百姓(はくせい)哀(かなし)み苦(くるし)む臏(ひん)よく風(かぜ)を呼(よび)雨(あめ)を喚(よぶ)の術(じゆつ)を
得(ゑ)たりければ龐涓魏王に奏(そう)し孫臏をして雨(あめ)を祈(いの)らしむ
臏 命(みことのり)を承(うけ)て斎戒(ものいみし)沐浴(ゆあひし)【注】し髪(かみ)を散(さば)き宝剣(ほうけん)を取て壇(だん)に登(のぼ)り
法を行(おこな)ふに須臾(しばらく)して雲(くも)起(おこ)り風(かぜ)生(しやう)じ大雨(たいう)淋々(りん〳〵)と遍(あまね)く満(みち)
て百姓(くにたみ)大に悦(よろこ)ぶ魏王大に感(かん)じ孫臏を封(ほう)じて鎮魏(ちんぎ)大 国師(こくし)
兼(けん)参軍務事(さんぐんむじ)とす龐涓みづから孫臏に及(およば)ざることを知(しつ)て之(これ)を

【注 早稲田大学本 https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_01293/bunko06_01293_0006/bunko06_01293_0006_p0015.jpg には振り仮名に「し」は無し。】

【左丁】
妬(ねた)み謀(はかりこと)を以て其 両足(りやうあし)を断(きつ)てこれを黜(しりぞ)く此時 斉(せい)の使(つかひ)淳于(じゆんう)
髠(こん)来て隠(ひそか)に孫臏を車(くるま)に乗(のせ)て窃(ぬす)み帰(かへ)る斉(せい)の威王(いわう)兵法を問(とふ)
てこれを師(し)とす其後 魏軍(ぎぐん)韓(かん)を伐(うつ)韓 救(すく)ひを斉(せい)に請(こふ)威(い)王 則(すなはち)
田忌(でんき)を将とし孫臏を元帥(げんすい)として韓(かん)を援(すくは)しむ孫臏田忌と
議(ぎ)して直(たゞち)に魏の都(みやこ)大 梁(りやう)を攻(せむ)魏の将(しやう)龐涓これを聞て韓を
去(すて)て大 梁(りやう)に帰(かへ)る斉の田忌出て戦(たゝか)はんとす孫子が曰(いわく)兵法に
云(いわく)百 里(り)にして趨(わしる)こと利者(ときもの)は上将を蹶(とりひし)ぐと云(い)へり魏兵(ぎへい)みづから
驍勇(ぎようゆう)なりとして毎(つね)に斉を軽(かろ)んず今我 柔弱(じうぢやく)を以て勝(かつ)べし
とて夜(よる)密(ひそか)に詐(いつわつ)て師(いくさ)を班(まと)む龐涓兵を率(ひきい)て斉の陣(ぢん)にうつ入
其 竈(かまと)を数(かぞ)ふるに十万あり龐涓が曰十万の竈 焉(いづくん)ぞよく遠(とを)く
粮(かて)を継(つゞけ)んやとて兵(つわもの)を催(もよふ)して急(きう)に追(お)ふ明日孫臏 退(しりぞく)こと五十里
にして陣(ぢん)を取り五万の竈(かまど)を為(な)して去(さ)る龐涓すゝみ至て竃の
減(げん)ずるを見て大に喜(よろこ)んて斉軍われを怯(おそ)れて士卒(しそつ)亡(おつる)者 過半(くわはん)
なりと乃(すなはち)歩軍(かちむしや)を棄(すて)て騎馬(きば)の兵を率(ひき)ひ又 進(すゝむ)こと一日孫子其行

【両丁 挿絵のみ】

【右丁 挿絵の説明】
龐涓死此樹下

【左丁 挿絵の説明】
魏(ぎの)大将(たいしやう)龐涓(ほうけん)
【旗の文字】龐将軍

【右丁】
程を度(はか)り暮(くれ)に馬陵(ばれう)に至るべし此所道 狭(せばく)嶮(けわしく)して林樹(りんじゆ)叢密(しげりあひ)
たり則(すなはち)両 傍(はう)に善(よく)射(ゆみいる)者を撰(ゑら)ひ万 弩(ど)【左ルビ:いしゆみ】を備(そなへ)て伏置(ふせをき)又大 樹(じゆ)を砍(きり)
仆(たを)し道を塞(ふさ)ぎ其木を 斫(けづ)り白して龐涓此 樹下(きのもと)に死(し)せんと
書(かき)て伏勢(ふせゞい)に下地(げぢ)して曰(いわ)く日 暮(くれ)て此 樹下(きのもと)に火(ひ)の光(ひかり)を挙(あぐ)るを見ば
一同に弓弩(きうど)を発(はなつ)べしとて又三万の竈を作(なし)て退(しりぞ)く龐涓 連(しきり)に追(おふ)
て馬陵道(ばれうだう)の口(ほとり)に至る時天日 已(すで)に昏(くれ)たり斉軍の竈 次第(しだい)に減(げん)
ずるを見て悦(よろこ)び前(すゝ)む諸将(しよしやう)咸(みな)曰 前(さき)に馬陵の嶮岨(けんそ)ありて馬 進(すゝみ)
がたし又 恐(おそ)らくは埋伏(まいふく)あらん姑(しはら)く明日を待(まつ)て追給へと龐涓 叱(しかり)て
曰 今夜(こんや)追(おふ)こと卅里にして孫臏(そんひん)を虜(とりこ)にすべき事 目前(もくぜん)にあり馬
通(とを)らずんば歩立(かちだち)になつて追べしとて難所(なんじよ)を越(こへ)て追至る所に前(さき)
軍(て)回(かへり)来て前(さき)に大 木(ぼく)道を塞(ふさき)て通路(つうろ)を遮(さへぎ)り一行の文字(もんじ)有 昏(くらく)
して弁(わきまへ)がたしと云龐涓 松明(たいまつ)を照(てら)し白書(はくしよ)をよみ心中大に驚(おどろ)
き我 刖(あしきられ)夫が謀(はかりこと)に中(あた)れり速(はや)く軍(いくさ)を回(かへ)すべしと云事いまだ畢(おわら)
ざるに斉(せい)の軍(ぐん)万 弩(ど)を倶(とも)に発(はな)つ其 箭(や)雨(あめ)の下(ふる)がごとし魏軍(ぎぐん)大に

【左丁】
乱(みだ)れ敗(やぶ)る龐涓 痛手(いたで)負(おふ)て智(ち)窮(きわま)り遂(つゐ)に豎子(じゆし)が名を成(な)せりと
云てみづから剄(くびはね)て死(し)す斉軍 勝(かつ)に乗(のつ)てこと〴〵く魏軍を破(やぶ)り
魏(ぎ)の太子(たいし)申(しん)を虜(とりこ)にして帰(かへ)る此(こゝ)を以て孫臏が名(な)天下にあらはれ
世(よゝ)其 兵法(ひやうほふ)を伝(つた)ふ然(しか)れ共 臏(ひん)其 恩賞(おんしやう)を受(うけ)ず冠帯(くわんたい)を解(とき)て雲夢(うんほう)に帰(かへる)
   藺相如(りんしやうぢよ)之(が)智勇(ちゆう)《割書:并》卞和(へんくわ)が玉の事
藺相如(りんしやうぢよ)は趙(ちやう)の官者(くわんしやの)令繆賢(れいぼくけん)が舎人(しやじん)なり趙王(ちやうわう)嘗(かつ)て夜光(やくわう)の
璧(たま)を得(ゑ)給ひけるを秦(しん)の昭(しよう)王 伝聞(つたへきゝ)て趙の恵文王(けいぶんわう)に書(しよ)を
送(おく)り願(ねかはく)は秦(しん)の十五 座(ざ)の城(しろ)を以て璧(たま)に易(かへ)給はらんと云
趙王 群臣(ぐんしん)と議(ぎ)して曰(いわく)若(もし)これを与(あたへ)ば定(さだめ)て城(しろ)を得ずして
空(むなし)く欺(たばから)れん若(もし)又 与(あたへ)ずんば秦 兵(へい)我(わが)国を攻撃(せめうつ)べしと藺相(りんしやう)
如(じよ)が曰く臣(しん)璧(たま)を持(もち)て秦に使(つかひ)すべし必ず玉を秦に留(とゞ)めば
十五城を趙に入べし若(もし)城を得ずんば玉を全(まつたう)して趙に帰(かへる)べし
と爰(こゝ)に於(おい)て相如(しやうぢよ)をして璧を奉(さゝげ)て秦に往(ゆか)しむ相如秦に
至て昭王(しようわう)に見(まみ)へ寡君(わがきみ)秦趙の好(よしみ)を絶(たゝ)ん事を恐(おそ)れて明珠(めいしゆ)を

【右丁】
                    御史(ぎよし)

   字書(ジシヨノ)註(チウ)ニ盆(ボン)也
缻(ホトギ)【左ルビ:フ】土制(ツチニテツクル)鉢(ハチ)ナリ
   藺相如(リンシヤウヂヨ)秦王(シンワウ)ニ       秦王(しんわう)
   之(コレ)ヲ撃(ウタ)シムト

【左丁】
翼図解 ̄ニ云 瑟(ヒツ)【左ルビ:コト】長(タケ)  藺相如(りんしやうぢよ)
八尺一寸 広(ハヾ)一尺八
 寸 面(コウ)底(ウラ)皆(ミナ)用(モチユ)_二
 梓木(アツサノキヲ)_一絃(イト)ハ
 古制(イニシヘハ)五十 絃(ケン)
 今(イマ)用(モチユ)_二廿五絃 ̄ヲ_一

    趙王(ちやうわう)


             御史(ぎよし)

【右丁 挿絵の説明】
廉頗(れんは)が来るを見て藺相如(りんしやうぢよ)
車(くるま)をわき道(みち)へ引返(ひつかへ)す

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
献(けん)上す秦(しん)王 璧(たま)を観(み)て真(まこと)に天下 無双(ぶさう)の至宝(しいほう)なりとて璧を得て
も城をわたす事を云はず藺相如(りんしやうぢよ)近付(ちかつぎ)【ママ】前(すゝん)で秦王(しんわう)に告(つげ)て曰(いわく)。此
璧(たま)美(び)なりといへども微(すこし)瑕(きず)あり。臣(しん)是を大王に示(しめ)さん。秦王(しんわう)璧(たま)を藺(りん)
相如(しやうぢよ)に授(さづ)く。藺相如(りんしやうぢよ)玉を得て退(しりぞ)き。殿(てん)の柱(はしら)に寄立(よりたち)いかれる髪(かみ)
立て冠(かんふり)を衝(つ)き。秦王(しんわう)を倪(にらん)でいわく。大王 書(しよ)を我国(わがくに)に送(をくり)て玉の
代(かはり)に十五城をあたへんとなり。爰(こゝ)におゐて我王 斎(ものいみ)する事五日
にして玉を送(をく)る。大王 臣(しん)に見(まみ)ゆる時はなはだ倨(おご)れり。其上城を
償(つくな)ふこゝろなきを見る所以(このゆへ)に璧(たま)を取復(とりかへ)せり。大王 威勢(ゐせい)を以て
臣を挟(さしはさ)まば臣(しん)が頭(かうべ)玉と共に此 柱(はしら)に撃砕(うちくだく)べしと云。秦王(しんわう)玉を
破(わら)ん事を恐(をそ)れて藺相如(りんしやうぢよ)に謝(しや)して我誠に過(あやま)れり。かならず
十五城を趙に入べしと藺-相-如 度(はかる)に是 璧(たま)を得んとて欺(あざむ)くなり
と思ひければ此 卞和(へんくは)が玉は天下の至宝(しいほう)なり。大王五日の
斎(ものいみ)して九賓(きうひん)の礼(れい)を設(もふけ)たまはゞ。臣(しん)玉を上(たてまつ)るべしといふ。秦王(しんわう)藺(りん)
相如(しやうぢよ)が形勢(ありさま)権威(けんゐ)を以て劫(おびや)かしがたき事を知(しつ)て藺相如(りんしやうぢよ)を伝舎(でんしや)

【左丁】
に館(くわん)せしむ。藺-相-如は従者(じうしや)李文(りぶん)といふ者(もの)に玉を懐(ふところ)にし径(こみち)より
趙に帰らしむ。秦王 斎(ものいみ)すること五日にして藺-相-如を召(めし)璧(たま)を
もとむ。藺相如(りんしやうぢよ)昭王(しようわう)に謂(いつ)ていわく。秦(しん)の繆公(ぼくこう)より以来(このかた)二十 余(よ)
君(くん)いまだ嘗(かつて)約束(やくそく)を堅(かた)くする人なし。今(いま)若(もし)大王に欺(あざむか)れて趙
に帰らば何 ̄ン の面目(めんぼく)有てか我が王にまみへん大王かならず璧(たま)を得 ̄ン
とおもひ給はゞ。先(まづ)城(しろ)を趙(ちやう)に入たまへ然るときは趙王何 ̄ン ぞ玉
を留(とゞめ)て罪(つみ)を大国に得んや秦(しん)の臣(しん)等(ら)大にいかり。藺相如(りんしやうぢよ)
を殺(ころ)さんといふ王のいはくこれを殺(ころ)せり共 終(つい)に璧(たま)を得(う)ること
能(あた)はじ只(たゞ)厚(あつ)く遇(ぐう)して帰らしめば趙王 豈(あに)一 璧(へき)を以て秦
を欺(あざむ)かんやと遂(つい)に藺-相-如を款待(もてなし)て帰らしむ。藺-相-如趙に
帰れば趙王大に喜(よろこ)び藺-相-如を封(ほう)じて上 太夫(たいふ)とす
 抑(そも〳〵)此 夜光(やくわう)の璧(たま)と申 ̄ス は昔年(そのかみ)楚人(そひと)に卞和(へんくわ)と云 者(もの)あり
 楚(そ)の荊山(けいざん)に於(おゐ)て一つの璞(あらたま)を得て楚(そ)の厲王(れいわう)に奉る。厲
 王 玉人(ぎよくじん)に見せしむるに玉にあらず石なりといふ王 詐(いつは)れり

【右丁】
 として卞和(へんくわ)が左の足(あし)を刖(あしき)る。又 楚(そ)の武王(ぶわう)に献(たてまつ)る。武王
 数多(あまた)の玉工(たまつくり)に見せしむるに皆(みな)石なりといふ。武王又 卞和(へんくわ)
 が右の足(あし)を刖(き)る。卞和 血(ち)に哭(なき)ていはく。世(よ)に明珠(めいしゆ)を知(し)る
 者(もの)なく貞士(ていし)を以て詐(いつは)りとすと璞(あらたま)を抱(いだき)て荊山(けいざん)の下(もと)に
 隠(かく)る。其後また楚(そ)の文王(ぶんわう)に奉(さゝ)ぐ。文王 玉工(きよくこう)を撰(ゑらん)で磨(みが)かし
 むるに果(はた)して光明(くわうみやう)を出し暗夜(あんや)を照(てら)す事日中のごとし。故(かるかゆへ)に
 名(な)付て楚(そ)の夜光(やくわう)の璧(たま)といふ趙の恵文(けいぶん)王 諸侯(しよこう)を会(くわい)せし
 時 楚王(そわう)より是を得たり。後に秦(しん)天下を一 統(とう)にして帝位(ていゐ)に
 即(つき)此 璧(たま)を以て伝国(でんこく)の玉璽(ぎよくし)と云は此玉のことなり
秦王(しんわう)又 趙(ちやう)王と西河(せいが)の澠池(めんち)に会(くわい)せん事を願(ねが)ふ。趙(ちやう)王 藺相如(りんしやうぢよ)
を従(したが)へ澠池(めんち)に至(いたつ)て秦王(しんわう)と会(くわい)す秦王 酒(さけ)数盃(すはい)に及(をよび)醉(ゑひ)て曰
寡人(くわじん)趙(ちやう)王の音楽(おんがく)を好(この)めることを聞今日 願(ねが)はくは趙瑟(ちやうしつ)を鼓(く)
して楽(がく)を奏(そう)したまへ趙王 辞(じ)することあたはず琴(こと)【注】を鼓(ひ)く
秦(しん)の御史(ぎよし)筆(ふで)を取て某(それがし)の年月日 秦王(しんわう)澠池(めんち)の会に趙王(ちやうわう)に

【注 資料では琴の下部が「女」となっている】

【左丁】
琴(こと)【注】を鼓(ひか)しむと書(かき)て趙王を辱(はづか)しむる。 藺相如(りんしやうぢよ)すゝみ出て曰
趙王すでに琴(こと)【注】を鼓(ひき)たり秦王も又 缻(ほとぎ)を撃(うつ)て秦(しん)の音声(おんせい)を
歌(うた)ひたまへ。秦王 怒(いかつ)て従(した)がはず。藺-相-如 近寄(ちかより)て缻(ほとぎ)を進(すゝ)め秦王(しんわう)
の前(まへ)に跪(ひざま)づいていはく。大王 若(もし)缻(ほとぎ)を撃(うち)給はずんば立(たち)どころに
臣(しん)が頭(かうべ)の血(ち)を以て大王に濺(そゝ)がん。秦王 已事(やむこと)を得ずして缻(ほとぎ)を
撃(うつ)て歌(うた)ふ。藺-相-如 趙(ちやう)の御史(ぎよし)を召(よん)で某(それがし)の年月日趙王 澠池(めんち)
の会(くわい)に秦王 ̄ニ缻(ほとぎ)を撃(うつ)て歌(うた)はしむと書記(かきしる)さしむ。秦王つゐに
趙に勝事(かつこと)なく酒宴(しゆえん)罷(やん)で趙王 国(くに)に帰り秦王の仇(あた)せん
ことを恐(おそ)れて兵を設(もうけ)て相待(あいまつ)といへとも。秦さらに兵を動(うごか)す
事なし。ひとへに藺-相-如が功(こう)の大なるを拝(はい)して上 卿(けい)とし
くらゐ廉頗(れんは)が上に処(おら)しむ廉頗(れんば)がいはく。我趙の大将として
城を攻(せめ)野(や)に戦(たゝか)ひ身体(しんたい)を労(らう)して大 功(こう)あり。藺-相-如は徒(たゞ)口舌(べんぜつ)を
以て位(くらゐ)我(わが)上に処(しよ)す。其上藺-相-如は素(もと)繆賢(ぼくけん)が家人なり
吾是が下に処(お)らん事を羞(はづ)。我藺-相-如に逢(あは)ば。かならず之(これ)を

【右丁】
辱(はづ)かしめんと藺-相-如聞て肯(あへ)て与(とも)に会(くわい)せず廉頗(れんば)朝(ちやう)する
毎(ごと)に藺-相-如は病(やまひ)と称(しやう)じて廉頗(れんば)と列(れつ)をあらそはず一日 藺(りん)
相如(しやうぢよ)出るに廉頗(れんば)が来(きた)るを見て車を引て避(さけ)匿(かく)る。藺相(りんしやう)
如(ぢよ)が家人(けにん)等(ら)諫(いさめ)ていはく臣(しん)等(ら)君に事(つかゆ)ることは君が高義(かうぎ)を
慕(したふ)がゆへなり。今 廉頗(れんば)悪言(あくごん)をなすに君 避(さけ)匿(かく)れて恐(おそ)るゝ
事の甚(はなはだ)しきは何ぞや。藺-相-如がいはくわれ秦王にさへ臆(をく)せず
其 君臣(くんしん)を辱(はづ)かしめたり。何ぞ今 廉将軍(れんしやうぐん)を畏(をそ)れんや。我思ふに
強秦(きやうしん)の兵(へい)を趙にくはへざるは廉頗(れんば)と我と有 ̄ル を以てなり。今両
人 闘(たゝか)ひ争(あらそ)はゞ其 勢(いきほ)ひともに死(し)なん我かくのごとくする事は国家(こくか)
の急(きう)を先(さき)にして私(わたくし)のあたを後にするなりと廉頗(れんば)是を伝(つた)へ
聞て大に慚(はぢ)藺-相-如が門に至り自(みづから)はだへをあらはし鞭(むち)をおふ
て罪(つみ)を謝(しや)し遂(つい)に相(あい)ともによろこんで生死(しやうし)をひとしくするの
まじはりをなせり
                      六巻終

【左丁 見返し 白紙】

【裏表紙】

絵本写宝袋

【書籍の左中央に若干の題箋の破片らしきものあり。「袋」の字の右側か。】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁 白紙】
【手書き文字有り】森

【左丁】
 絵本写宝袋(ゑほんしやほうぶくろ)二之巻目録
三天神之像(さんてんじんのざう)   三 戦神之像(せんじんのざう)
経津主命(ふつぬしのみこと)之像  武甕槌命(たけみかづちのみこと)之像
武将(ぶしやう)来由(らいゆ)之図  将軍(しやうぐん)由来(ゆらい)之図
武具(ぶぐ)冑(かぶと)之図   同 鎧(よろひ)胴(どう)之図
同 具足(ぐそく)之図   同 太刀(たち)再幣(さいはい)策(むち)等(とう)図
同 弓矢(きうし)之図   同 鼓(こ)貝(かい)旗(はた)幕(まく)之図
馬面(ばめん)鞍(くら)鐙(あぶみ)之図 馬櫪神(ばれきじん)之像

【右丁】
乗馬(じようめ)繋馬(つなぎむま)之図《割書:品々(しな〳〵)》腋楯之始(わいだてのはじめ)之図
高良明神玉垂(かうらみやうじんたまだれ)之図 神功皇后(じんごうくわうごう)之像
六孫王(ろくそんわう)経基(つねもと)之図  多田満仲(ただのまんぢう)之図
源頼光(みなもとのよりみつ)瑞夢(ずいむ)の図 頼光(らいくわう)大江山入(おほえやまいり)之図
渡辺綱(わたなべのつな)化生(けしやう)切(き)る図 源 頼信(よりのぶ)海渡(うみわたし)之図
源 頼義(よりよし)水請(みづこひ)之図  頼義(よりよし)《振り仮名:与_二武則_一|たけのりと》対面(たいめん)之図

【左丁】
【隅切囲みの中】士(し)
夫(それ)士農工商(しのうこうしやう)の四(よつ)を集(あつ)め是を図写(づしや)して四巻(よつのまき)となし其事を注(ちう)し采色(さいしき)を
付(ふ)す図(づ)するに士(し)は其 初(はじめ)なれは武門(ぶもん)の神(かみ)より武将(ぶしやう)勇士(ゆうし)軍器(ぐんき)馬事(ばじ)を連写(つらねうつ)す
【罫線あり】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【右から横書き】武(ぶ)門(もん)三(さん)天(てん)神(じん)像(ざう)
大 黒(こく)かみひげ白(しろ)      弁天(べんてん)かみくろ
ごふんくま
同かき
いれ      【三天神の像】


鉾(ほこ)紺(こん)
うんけん
      毘沙門(びしやもん)かみ朱(しゆ)ずみくま金泥かきいれ
【左丁 下部】
画工(くわこう)に三 天神(てんじん)の像(ざう)
をゑかゝしめて武命(ぶめい)
の守護(しゆご)に信敬(しんきやう)し給ふ
彩色(さいしき)
三 面(めん)六 臂(ひ)金 泥(でい)
冑(かぶと)金 朱(しゆ)こんうんけん
衣(ころも)六金わりもん袋(ふくろ)白(しろ)
帯(おひ)噛(かみ)金 石帯(いしのおび)金
錀(かぎ)宝 鉾(ほこ)金 槌(つち)金うんけん
宝珠(ほうしゆ)六こん朱(しゆ)うんけん
甲(よろい)のくさずりうんけん
板芥子(いたけし)うんけん
衣(も)すそ芥子(けし)六くさくま
ごふんきほひはかま白(しろ)
俵(たわら)常(つね)のごとく

【右帖】
【枠内】三戦神之像(さんせんじんのざう)
【右帖右下】弓矢(ゆみや)打物鉾(うちものほこ)はやわざを守(まも)り給ふ神也
           団(うちは)は大将軍配(たいしやうぐんばい)之(の)器物也(うつわものなり)

【右帖左上】
陽炎(やうゑん)に
大/事(じ)
あり

【右帖左下】
豪豕(やまぶた)
棘豕(いばらぶた)
玄猪(おいのこ)
色灰黒(いろはいくろ)也
野猪(ゐのしゝ)に非(あら)ず豕(ぶた)也
【左帖】
【上部】
経津主像(ふつぬしのざう)
武甕槌像(たけみかづちのざう)
【同下部】
【枠内】本朝武神(ほんてうぶじん)
神代書(じんだいのしよ)に天御神(あまつおんがみ)
天孫(てんそん)を豊葦原(とよあしはら)の
中津国(なかつくに)に降(くださん)と欲(し給ふ)とき天稚彦(あめわかひこ)に勅(ちょくし)
曰(のたまはく)中津国に横思神(あしきかみ)有/汝(なんぢ)先(まづ)往(ゆき)て残賊(ちはやふる)
強暴不順神(きゃうぼうまつろはぬかみ)を平(たいらげ)よと曰(のたまひ)てすなわち
弓矢(ゆみや)を給ふ天稚彦(あめわかひこ)勅(ちょく)を受(うけ)て降(くだり)ける
が不忠(ふちう)にして国神(くにつかみ)の女(むすめ)を娶(めとり)て国を押(おゝ)
領(れう)せんと欲(おもひ)不来報間(かへりことまうさゞること)八年に及(およ)ぶ果(はたし)て
天(あま)の返矢(かへしや)に中(あた)り立(たちどころに)死(し)す。其(中略)後/将(しやう)を撰(ゑらん)で
経津主(ふつぬし)の神(かみ)に将軍(しやうぐん)の勅(みことのり)ある時/武甕槌(たけみかづち)の
神/進(すゝん)て曰(まうさく)唯(たゞ)経津主(ふつぬしの)神/独(ひとり)丈夫(ますらお)にして吾(われ)は
丈夫にあらずや其 辞(ことば)■(いさぎよ)し故(かるがゆへ)に配(そへ)【別本による】て
降(くだ)し給ふ二神/授(さづけ)玉ふ天(あま)の広矛(ひろほこ)を以(も[つ])て
諸(もろ〳〵)の不順神鬼(まつろはぬかんたち)をこと〴〵く平(たいらげ)たまふ
是/本朝(ほんてう)武将(ぶしやう)のはじめなり

【早稲田大学図書館蔵の別本参照 https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_01293/bunko06_01293_0002/bunko06_01293_0002.pdf】








【右丁 上段】
武士(ぶし)【左ルビ:、たけきものゝふ】【枠内】
武(ぶ)は勇剛(ゆうかう)にして仁義(じんぎ)有の
器(き)なり計(はかりこと)を帷幄(いあく)の中(うち)に廻(めぐら)し勝(かつ)ことを
千里(せんり)の外(ほか)に決(けつ)す朝下(てうか)の守(まも)り也/朝(てう)に
奉(つかへ)背(そむく)く者(もの)を退治(たいぢ)す古(むかし)道臣命(みちおんのみこと)日本(やまと)
武尊(たけのみこと)を武将(ぶしやう)とす其後/源(みなもと)の義家(よしいゑ)
頼朝(よりとも)これを次(つぐ)
【絵に対する注記、時計回りに】
筒釬(つゝごて)
尻鞘(しりさや)
踏込(ふんこみ)たび
鎧直垂(よろひゝたゝれ)

【同 下段】
将軍(しやうぐん)【枠内】大将(たいしやう)なり漢名(からな)元帥(げんすい)
将は才(さい)を以(もつ)て物(もの)を将(ひきゐ)るに之(これ)に勝(かつ)を将(しやう)と云
智(ち)を以て人を帥(ひきゐ)るに足(たつ)て之(これ)に先(さきだ)つ是を
帥(すい)と云国に在(ある)ときは大夫(たいふ)と称(しやう)じ軍(ぐん)
に在(ある)ときは将軍(しやうぐん)と称(しやう)ず漢(から)にては韓信(かんしん)
本朝にては源(けん)九郎/義経(よしつね)也
【絵に対する注記、右から】
佩盾(はいだて)
臑当(すねあて)
牀兀(しやうぎ)
毛沓(けぐつ)
大口(おゝくち)
兵器(ひやうき)立物(たてもの)【枠内】
甲(かぶと)に龍頭(たつかしら)をゑかくは大将(たいしやう)斗也/龍(れう)は天子(てんし)の器物(きぶつ)等(とう)の飾(かさり)に用ゆ
大将は天子の勅命(ちよくめい)を蒙(かうふ)り朝敵(てうてき)を平(たいら)ぐ故に龍形(れうのかたち)を甲に免(ゆる)
されて着(ちやく)す鎧(よろひ)の色は紫(むらさき)裳(すそ)紅(こう)角総(あけまき)紫を用ゆ是大将の主(つかさ)どる処(ところ)なり立
物は大/様(やう)猛獣(もうじう)の角(つの)を象(かたど)る凡(およそ)金色(きんしき)を用ゆるは人の眼(め)を迷(まよ)はす利用(りよう)なり
【枠内】龍頭冑図(たつかしらかふとのづ)
くわがた金【図注右から】
たつがしら金
くわがた
ふきかへし
【下へ】
【枠内】高角(たかつの)
金【右上から時計回り】
はち
しころ
ひしぬいのいた
まびさし
吹返(ふきかへし)
鹿角(しかのつの)也
【下へ】
【枠内】天衝(つき)
金【右上から時計回り】
ふきかへし
牛角也
【左上へ】
淩王冑図(りやうわうのかぶとづ)
面金(めんきん)
髭(ひげ)
白(しろ)

或(あるひ)は甲に龍頭(たつかしら)を立て面彭(めんほう)を掛(かく)る事唐(もろこし)
淩王(れうわう)より始(はじむ)と也/淩(れい)王/賊(ぞく)と戦(たゝかひ)たまふ時/敵(てき)に
面(おもて)を見知られんことを恐れて面を懸(かけ)られしと
云り龍(れう)は天子の器(うつはもの)に用るところなりくわ形
を書(かく)ときは火焔(くわゑん)をかゝずくわがた本(もと)火(くわ)形か
















【右丁】
【右上】            【右下】
鎧胴之図(よろひどうのづ)【枠内】
    鎧(よろひ)の胴(どう)も具足同前       堯葉(げうやう) 正平革紋(しやうへいかはもん)《割書:三重菊(みゑきく)|三重/襷(たすき)》
    なり前を革(かわ)にて包(つゝ)む
          文革正(もんかわしやう)               其外色〳〵
綿(わた)         平革(へいかわ)也               品〳〵の紋有
噛(がみ)         是を弦(つる)               三重襷(みゑだすき)
          はしり
          といふ              
                            前(まへ)を高紐(たかひも)と云
        三/重(ゑ)の菊(きく)     綊障(けうしやう) 引合左合  後(うしろ)を捜(さぐり)といふ

【左上】            【左下】
          真(さね)は     総(あげ)【枠内】    赤色(あかいろ) 真紅(しんく)
鎧(よろひ)         左 重(かさね)也    角(まき)        定色(ぢやうしき)也 紫は
袖(そて)                          禁(きん)色なり
大袖         菱(ひし)                 彩色(さいしき)
之下    櫛形(くしがた)  綴(ぬいの)                  朱塗(しゆぬり)
二三四        板(いた)                 丹(たん)に粉(ふん)を
五之 板(いた)  口伝(くでん)                      少くわへ
は略(りやくす)_レ之   有  口伝                  組をかく
            有                 小なる物は
                     袖之緒      金でい

【左丁】
【右上】
筒(つつ)     鎧(よろひ)武者(むしや)は膚着(はだぎ)の上(うへ)に双釬(もろこて)を指(さし)背(せな)に鞐(こはぜ)あり前紐(まえひも)有 後(うしろ)を掛(かけ)
釬(こて)     前を結(むすふ)其上に錦(にしき)の鎧(よろひ)直垂(ひたゝれ)を着(き)鎖袴(くさりばかま)蹈込(ふんこみ)等(とう)を着(ちやく)し
      扨 鎧(よろい)を着(ちやく)す流儀(りうぎ)ある事なれども画人(くわじん)の不用(もちひさる)事は略之(これをりやくす)
       ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
      【枠内】鎧(よろひ)直垂(ひたれ)之(の)図(つ) 【枠内】筒腨当(つゝすねあて)図(つ)する所 左(ひだり)の方(はう)《割書:内|外》也
                      さび色
双(もろ)【枠内】   地(ぢ)は錦(にしき)          又金

釬(こて)

筒(ツヽ)                          此 糸(いと)色こんもゑきむら
金(キン)    袖(そで)一 幅(はゞ)半(はん)                         さき
間(アイタ)は         色は
鉄(テツ)   纐(きく)        赤地(あかぢ)
鎖(クサリ)   纈(とぢの)        青(あを)地
     総(ふさ)   袖括(そでくゝり)  紺(こん)地
比沙(びしや)            白(しろ)地       へぐり糸
門釬(もんこて)   又は菊封房(きくとぢのふさ)   木蘭色(もくらんじき)       色白

【右丁 右上段】
【隅切囲みの中】
龍頭(りうづ)         惣金(そうきん)
馬面(ばめん)           勢(せい)
              揃(そろへ)に
頭(かしら)の毛(け)          用(もちゆ)  
馬(むま)の              
  尾(を)        朱(しゆ)のくま

【同 右下段】
【隅切囲みの中 右から横書き】
折(をり)     面(めん)朱漆(しゆうるし)ふち筋(すぢ)金箔(ばく)
馬(ば)
面(めん)          川越(かはごし)に
            用(もち)ゆ

       かしらに雞(にはとり)の
       白(しろ)き尾(お)をうゆる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
軍馬(ぐんば)に面(めん)をかくる事は敵(てき)の馬(むま)をおどすためなり折面(おりめん)は向(むか)ふにかけ引(ひく)にははづす
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【同 左上段】
【隅切囲みの中】鞍(くら)
              待(まち)
手掛(てかけ)は
平治(へいぢ)の軍(いくさ)の時(とき)
雪(ゆき)鞍(くら)に積(つ)み鎌田(かまだ)
正清(まさきよ)のりかねたり     手掛(てかけ)
悪源太(あくげんだ)手掛(てかけ)をせよとありしかは
正清 刀(かたな)を以(もつ)て手かけを付しとなり

【同 左下段】
【隅切囲みの中】
総(ふさ)𦃍(だすけ)       【隅切囲みの中】
鎖(くさり)𦃍(だすけ)        鐙(あぶみ)
【隅切囲みの中】
轡(くつわ)  承鞚(みづつき)

立聞          鉸具(かぐ)

【左丁】
【隅切囲みの中】
馬櫪神之像(はれきじんのざう)

【挿絵】
馬(むま)を守(まもり)給(たまふ)神(かみ)也
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【標題 隅切囲み内】
  乗馬(じようめ)繋馬(つなぎむま)之(の)図(づ) 品々(しな〴〵)

【右丁】
軍馬(ぐんば)《割書:いくさ|のむま》【隅切囲みの中】一 切(さい)にゑがく名所(なところ)多(おほ)しと
乗馬(じようめ)《割書:のり|むま》【隅切囲みの中】 いゑども事しげきゆへに
             あらましをしるす
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
尾夾(をばさみ)
 ろくせう

三頭(さんづ)

馬(ば)
せん   【馬の絵】
柿色(かきいろ)         羊鬚(ようしゆ)
柑色(かうじいろ)

        夜眼(やがん)
頭(づ)
巾(きん)
髪(かみ)   見張(みはり)

【同 下段】
装束馬(しやうぞくむま)【隅切囲みの中】《割書:総色(ふさいろ)|真紅(しんく)【左ルビ:しゆ】 萌黄(もへき)【左ルビ:ろくせう】紺(ふかはなだ)【左ルビ:こんせう】縹(はなだ)【左ルビ:こんじやう】》
《割書:牛馬(きうば)の飾(かさり)は右方にて|むすふ口取も右方也》 紫(むらさき)総は常(つね)にもちひず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■さんじやくなわ金
是は䋣(おもかい)の
はづれぬ
やうに
かけし
物なり

         纕はるび【注】白

【注 「「はらおび」の変化した語】
【左丁】
𩢻(しゆ)【左ルビ:あかむま】【隅切囲みの中】環眼(さめ)馬 馬舎(むまや)に養(やしなふ)て衆馬(しゆうば)の
    凶災(わさわひ)を避(さくる)と云 吉相(きつさう)の馬(むま)なり
毛色(けいろ)白(しろう)してそこ薄赤(うすあか)し老(らう)馬に成程(なるほど)
てる目の中 朱(しゆ)のごとく玉(たま)黒(くろ)く白きふち有
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
             枊(こう)よせばしら
    首環(くびだま)

    【馬の絵】   眼(め)口(くち)爪(つめ)
             陰(ふくり)肉色(にくいろ)
瞳子(くろたま)の
めぐりに
輪(わ)のごとく
白(しろ)きふち
あるゆへ
さめと云

【同 下段】
白馬(はくば)【左ルビ:しろむま】【隅切囲みの中】純白(しゆんはく) 青馬(あをむま) 駯騡(しゆせん)《割書:唇(くちひる)|黒(くろ)し》
彩色(さいしき)《割書:全体(せんたい)胡粉(ごふん)目(め)口(くち)爪(つめ)陰(ふぐり)あいろぐ|薄墨(うすずみ)くま》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
             爪(つめ)薄黒(うすくろ)
  【馬の絵】

【右丁 上段】
駱(らく)【左ルビ:かわらけ】【隅切囲みの中】河原毛(かわらげ)黄白(きしろく)して尾髪(をかみ)黒(くろ)し
    沙馬(くろかわらげ) 栗色(くりいろ)と白毛(しろきけ)まぢる爪(つめ)計(ばかり)黒(くろ)し
加毛駱(かもかわらげ) 《割書:毛色(けいろ)常(つね)のごとし尾(を)の通(とを)り骨(ほね)筋(すぢ)に|黒(くろ)き毛(け)有 足(あし)爪(つめ)共に黒し》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
采色(さいしき)
黄土(わうど)具(ぐ)
陽(ひおもて)
ごふん
  くま
陰(がけ)【ママ】  【馬の絵】
合黄土曲(あはせわうどくま)
尾(を)髪(かみ)
うすゞみ
くま
こき墨
かきいれ

【同 下段】
驪(り)【左ルビ:くろむま】【隅切囲みの中】純黒(しゆんこく)【左ルビ:かつくろ】《割書:鉄驄(てつそう)は青緑(あをみどり) 鉄馬(てつば)は真黒(まくろ)|目(め)口(くち)爪(つめ)耳(みゝ)の中(うち)まで黒(くろ)し》
    黒(くろ)くして耳(みゝ)の中(うち)赤(あか)きはひばりげに
    通用(つうよう)す
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
采色(さいしき)
地すみ
あいろ少
ごふん
合ぬり
こきすみ
にてくま
とる    【馬の絵】

𩢻(しゆ)
白(はく)
驪(り)
右 三色(みいろ)
神馬(しんめ)に
   用ゆ

【左丁 上段】
駩(せん)【左ルビ:つきけ】【隅切囲みの中】鵇毛《割書:つきげ》 彤(あか)【明ヵ】月毛(つきけ) 馼(ふん)《割書:かみあかき|つきげ》
    騢(か)《割書:さはつきけ》 虎月毛(とらつきげ) 騡(せん)《割書:しろつきげ》
又 泥(どろつきけ)《割書:薄白(うすしろ)にして髪(かみ)尾(お)共に白(しろ)く|爪(つめ)計(ばかり)くろし右の毛(け)に少 薄(うす)し》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【馬の絵のみ】

【同 下段】
駂(はう)【左ルビ:うすげ】【隅切囲みの中】 糟毛(かすげ)白黒(しろくろ)雅?【雉の誤ヵ】毛也 灰色(はいいろ)
  下 墨(すみ)具(ぐ)仕立(したて)うすゞみくま毛(け)がき
  こきごふんかきいれ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【馬の絵】     爪(つめ)口(くち)くろし

【右丁 上段】
驒(たん)【左ルビ:れんせん】【隅切囲みの中】連銭驄(れんせんあしけ)【𩣭は俗字】 星驄(ほしあしげ) 黄驄(きあしげ) 虎驄(とらあしげ)
    駰(いん)くろあしげ
牡驒(ほたんあしげ)は《割書:常(つね)の連銭(れんせん)の紋(もん)より大き成(なる)|もんなり》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
尾鞱(をつゝみ)
馬褐(むまきぬ)


大帯(おほをび)  【馬の絵】

【同 下段】
驄(さう)【左ルビ:あしけ】【隅切囲みの中】葦毛(あしげ)  𩡰(あしげ) 青(あを)白(しろ)雑色(まぜいろ)なり
    䮨(さい)《割書:しら|あしげ》白(しろ)く爪(つめ)口(くち)ともに黒(くろ)し
澇驄ごま【みは誤】あしげ白(しろく)して口(くち)足先(あしさき)くろし
胡麻驄《割書:ごま|あしけ》口(くち)爪(つめ)黒(くろ)し毛(け)は《割書:本くろく中|白末あかし》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
猿木(さるき)


腹懸縄(はらかけなは)
           【馬の絵】
平伏(へいふく)を
制(せい)する為(ため)
馬坊(むまや)の
上(うへ)なる
猿木(さるき)に
繋(つなぎ)上る

【左丁 上段】
騟(いよ)【左ルビ:くろくりげ】【隅切囲みの中】栗毛(くりけ) 𩥏(てう)《割書:くろく|りげ》緛(ちゝみ) 尉(ぜう) 姫(ひめ) 柑子(かうじ) 権田(ごんだ)
    柴馬(しばくりげ) 驊馬(くわば)は《割書:紅梅(こうばい)くり毛|あるくりけなり》 騵(げん)は《割書:栗毛(くりけ)|はら白を云》
毛色(けいろ)《割書:鹿毛(かげ)より黒(くろ)みあり|真赤(まつかい)栗毛(くりげ)は足(あし)爪(つめ)はかり黒(くろ)し》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
かやうに長きを    上 尾(お)の色 身(み)と同し
野髪(のがみ)とも
眼(め)かくし共云

  髪(かみ)身色(みのいろ)に
  同し

 【馬の絵】
 黒(くろ)し
             爪(つめ)黒(くろ)し
仕立(したて)は焼黄土(やきわうど)ぬり
朱(しゆ)墨(すみ)くま目(め)爪(つめ)くろし
柴馬(しば)は生(しやう)ゑんじのくま有

【同 下段】
騮(りう)【左ルビ:かけ】【隅切囲みの中】鹿毛(かげ)赤身(しやくしん)黒鬣(こくりやう)浅黄(うすき)色なり
    烏(う)は黒鹿毛(くろかけ) 驃(へう)は白鹿毛(しろかげ)
烏(くろ)馬 足(あし)黒く身(み)は栗(くり)色 觜(くち)少 赤(あか)し身(みの)色なり
鹿毛(かけ)栗毛(くりけ)同 姓(しやう)にして栗毛(くりげ)は黒(くろ)く鹿毛(かげ)は薄黄赤(うすきあか)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
彩色(さいしき)黄土(わうど)   口(くち)少(すこし)赤(あかし)
朱(しゆ)墨(すみ)くま         墨(すみ)
同じく            くま
毛(け)がき

     【馬の絵】

                爪(つめ)黒(くろ)し

【右丁】
【上段】
騝(けん)【左ルビ:ひばりけ】【隅切囲みの見出し】鶬毛(ひばりけ) 水騝(みづひばりげ) 背(せな)の毛(け)黄色(きいろ)
采色(さいしき)《割書:黄土(わうど)具(ぐ)朱(しゆ)墨(すみ)くま尾(お)髪(かみ)薄墨(うすゞみ)|くま こき墨(すみ)かきいれ》
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

脊梁(せきりやう)   【馬の絵】

 鏡台骨(きやうだいほね)  鏡(かゝみ)の節(ふし)  爪(つめ)口(くち)黒(くろ)し

【下段】
駁(はく)【左ルビ:ぶち】【隅切囲みの見出し】斑馬(はんば)【左ルビ:まだら】 起雲馬(にげのむま) 髪白(かうはく)【左ルビ:かしらしろ】 馬臀白(ともしろ)
   䭹(かう)馬(ば)《割書:腹(はら)白(しろ)なり》 蹄(てい)馬【左ルビ:よつじろ】《割書:爪白(つまじろ)なり》
馵馬(ちよば)は膝より上白也 四骹(しかう)【左ルビ:よつはぎ】は膝より下白なり
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
眼(め)口(くち)爪(つめ)
黒(くろ)し


毛(け)色は
黒(くろ)と白(しろ)と
栗(くり)と白と      【馬の絵】

 鬣(たちがみ)
 とりかみ
 たつなかみ

  此間を
   小松原(こまつはら)といふ

【左丁】
【上段】
雒(らく)【左ルビ:かみしろ】【隅切囲みの見出し】  黒身白(こくしんはく)鬣(れう)【左ルビ:たてかみ】なり
総【惣】じて馬くろき下ごふんにすみをくわへぬる
したてすみぐま馬の毛色一やうならず
さま〴〵有しるすにいとまあらず
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【馬の絵】

【下段】
䮕(せつ)【隅切囲みの見出し】 額(ひたい)白(しろ) 䮤(かく)  𩧏(かく) 馰(てき) 駹(ほう)
             戴星(つきひたい) 的盧準(つきひたい)
             流顙(りうさう)《割書:ながれびたい》【桑+隹は誤】  毛色(けいろ)は《割書:黒色(くろいろ)|栗色(くりいろ)》
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              眼(め)藍(あい)具(く)
              口(くち)爪(つめ)くろし

        【馬の絵】

立髪(たてがみ)
ゆふ数(かず)
二十八
又は卅六
とも云

【右丁】
【隅切囲みの中】
《題:武将勇士之図》
【罫線あり】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
腋盾始(わいだてのはじめ)【隅切囲みの中】神功皇后(じんごうくわうがう)《割書:諱(いみな)は気長足姫尊(いきながたらしひめのみこと)と申奉る開化帝(かいくわてい)の|曽孫(ぞうそん)仲哀天皇(ちうあいてんわう)の后(きさき)なり》
仲哀天皇(ちうあいてんわう)崩御(ほうぎよ)の後(のち)住吉(すみよし)大明神の御つげによりて皇后(くわうがう)みづから
三韓(さんかん)を討(うち)たまふ其時(そのとき)応神天皇(おうじんてんわう)御懐胎(ごくわいたい)にてまし〳〵御 鎧(よろひ)の
ひきあわせあきてあやふく見へさせたまふゆへ武内大臣(たけのうちのおとゞ)鎧(よろひ)の
くさずりを切(きつ)てあきまをふさがれしよりわいだてといふ事 始(はしまり)
しとなり皇后(くわうかう)をば香椎(かしい)大明神とあがめ奉る武内(たけのうち)は高良(かうらの)明神也

【左丁 挿絵中の文字】
武内大臣(たけのうちだいじん)

【右丁】
【隅切囲みの中】高良明神(かうらみやうじん)玉垂命(たまたれのみこと)
神功皇后(じんこうくわうがう)三 韓(かん)にせめ入
たまふ時 龍宮(りうぐう)よりさゝげし
潮満珠(しほみつたま)をなげたまへば
うしほわきて敵(てき)の軍兵(ぐんひやう)
しほにおほれうせし
ゆへ皇后(くわうがう)軍(いくさ)にかち
たまふ
               朱
  六こんくま

    朱
これ
ひとへに
干満(かんまん)の珠(たま)の  白
徳(とく)なり
             白

【左丁】
【隅切囲みの中】神功皇后(じんぐうくわうごう)
三韓(さんかん)の軍(いくさ)に勝(かち)
たまふとき
弰(ゆはづ)にて
大石(たいせき)に
文字(もんじ)を
書(かき)たまふ
図(づ)
【挿絵中の文字】
よろひゑんじぐ
生ゑんじくま
金でいけがき

こんじの
にしき
もん金

国王

大口(おゝくち)赤地(あかぢ)の錦(にしき)

【右丁】
源経基王(みなもとのつねもとのおゝきみ)【隅切囲みの中】承平(しやうへい)二年 秋(あき)の比(ころ)鳳闕(ほうけつ)の築山(つきやま)にいづく共なく
大きなる牡鹿(をしか)一 疋(ひき)躍(おどり)出 玉体(ごよくたい)をめがけ飛(とび)かゝらんとす有合(ありあふ)所の
殿上(てんじやう) 人 剣(つるぎ)を以(もつ)て払(はらひ)給(たま)へば御殿(ごてん)の棟(むね)に飛上(とびあが)り皇居(くわうきよ)をにらんで
居(ゐ)たるけしき眼玉(まなこのたま)朱(しゆ)のごとく口(くち)は耳根(みゝのね)までさけ上下の牙(きば)生違(おひちがひ)
すさまし共 云(いふ)計(はかり)なし経基(つねもと)鏑矢(かぶらや)打番(うちつがひ)忽(たちまち)彼(かの)鹿(しか)を射落(いおと)し給ふ
【挿絵あり】

【左丁 左下】
鏑(かぶら)は合(あわせ)物
にて中(あたる)とくだ
け散(ちる)ゆへ中矢(あたりや)
にかぶらを
画(かゝ)す
【挿絵中の文字】
六せう金もん
小袖(こそて)白無地(しろむじ)
       ふぢ色 無紋(むもん)

【右丁】
源満仲(みなもとのまんぢう)【隅切囲みの中】抑(そも〳〵)此 満仲(みつなか)ときこへさせ給ふは古今(ここん)の名将(めいしやう)仁(じん)
義(ぎ)の賢君(けんくん)なり其先(そのさき)は忝(かたじけなく)も 清和天皇(せいわてんわう)の皇子(わうじ)貞純(さだずみ)親(しん)
王(わう)の御子 鎮守府(ちんじゆふの)将軍(しやうぐん)六孫王(ろくそんわう)経基(つねもと)の嫡男(ちやくなん)也 朝廷(てうてい)を重(おも)んし
民(たみ)を憐(あわれ)みたまふ事 一子(いつし)のごとし此時 世(よ)初(はしめ)て治(おさま)れり
適々(たま〳〵)悪逆(あくぎやく)の人あれども本意(ほんい)を遂(とぐ)る事 不叶(かなはず)源家(げんけ)
栄(さかへ)天下 泰平(たいへい)なり神社(じんじや)仏閣(ぶつかく)を建立(こんりう)し給ふ事かぞへ
がたし或時(あるとき)は夢中(むちう)に龍女(りうによ)来て龍馬(りうめ)を奉り住吉(すみよし)に
参籠(さんろう)ありて神鏑(かんかぶらや)を発(はなち)て大 蛇(じや)を退治(たいぢ)し居地(きよち)を得(ゑ)
たまふ鬚切(ひげきり)膝丸(ひざまる)の霊剣(れいけん)は源氏累代(げんじるいたい)の重宝(ちやうほう)なり
曽(かつ)て自身(じしん)の像(ざう)を割(きざん)で末代(まつだい)弓矢(ゆみや)の守護神(しゆごじん)たるべしと
自作(しさく)の御 貌(かたち)を抄(せう)し給ふと也 彼(かの)龍女(りうによ)来て龍馬(りうめ)を
奉りし所を左に図す

【左丁】
満仲(みつなか)朝臣(あそん)領所(りやうしよ)津国(つのくに)のせの辺(ほとり)に
入り猟(かり)し遊(あそ)び給ふ事四五日也
有 夜(よ)女 来(きた)り御 前(まへ)にありいか
なる者(もの)ぞと御 尋(たづね)あるにさん候
我(われ)は龍女(りうによ)なるが仇(あた)の候かれを
退治(たいぢ)ありてわれを
たすけたまへと申
則(すなはち)満仲(まんぢう)許容(きよよう)あり
しかば女よろこび
龍馬(りうめ)一 疋(ひき)引(ひく)と思(おぼし) 召
御 夢(ゆめ)覚(さめ)てあたり
を御覧(こらん)ずれ
ばまことに
常(つね)ならぬ馬
一 疋(ひき)ありしと也

【挿絵中の文字】

龍女(りうによ)

【右丁】
源頼光(もなもとのらいくわう)【隅切囲みの中】夢中(むちう)に抍花(せうくわ)女(ぢよ)より
弓矢(ゆみや)の大 事(じ)を得(ゑ)たまふ
蛇(じや)頭弓 一 張(はり)
水破(すいは)《割書:黒(くろ)き鷲(わし)の羽(は)にてはぎたる箭(や)也》
兵破(へいは)《割書:山鳥(やまどり)の尾(お)にてはぎたる箭(や)也》
雷上動(らいじやうどう)は鏑(かぶら)の名(な)鳴音(なるおと)
雷(いかづち)の如(ごと)し
故(かるかゆへ)に名(な)あり
葉早黄(はつもみぢ)色の直垂(ひたゝれ)
右 長男(ちやうなん)頼国(よりくに)相伝(さうでん)す
後(のち)五代之 孫(まご)源 頼政(よりまさ)
に至(いた)り暗夜(あんや)に化鳥(けてう)
を射(い)たりしも此
弓矢(ゆみや)の徳(とく)也

【挿絵中の文字】
頼光(らいくわう)

【左丁】
抍花(せうくわ)女 弓矢(ゆみや)を
伝(つた)へたまふ所

【右丁】
源頼光(みなもとのらいくはう)【隅切囲みの中】永延(ゑいゑん)二年の秋(あき)頼光(よりみつ)朝臣(あそん)しきりに御 睡(ねふ)りさし
出給ふところに空中(くうちう)より蔭(かげ)のごとくなる者(もの)下り立御 覧(らん)ずるに
端正(たんしやう)美麗(びれい)の女 手(て)に弓矢(ゆみや)をたづさへ我(われ)は唐土(たうど)養由基(ようゆうき)が女(むすめ)
抍花(せうくわ)と申 女(おんな)なり我 父(ちゝ)より弓矢(ゆみや)の秘決(ひけつ)を得(ゑ)たり是を末代(まつだい)
に伝(つたへ)んことを欲(おも)ふ我 弟子(でし)を尋(たづぬ)る所に足下(そくか)器量(きりやう)ありみづからが
術(じゆつ)を授(さづく)る也と云て去(さ)りぬ夢(ゆめ)さめて見給へは弓矢 直垂(ひたゝれ)有
是より射芸(しやげい)天下に双(ならぶ)人なし其後 丹州(たんしう)千丈嶽(せんぢやうがだけ)に鬼神(きじん)住(すみ)
て万民(ばんみん)をなやます頼光(らいくわう)武(ぶ)に長じ給ふゆへ 禁裏(きんり)に召(めし)て
鬼神退治(きじんたいぢ)の宣旨(せんじ)下りしかば先(まづ)住吉(すみよし)八幡(やわた)熊野(くまの)三 所(しよ)に祈誓(きせい)
し主従(しう〴〵)六人 山伏(やまぶし)のかたちとなり征罰(せいばつ)ある深山(しんさん)すでに道(みち)絶(たへ)
たりいかゞせんとのたまふ所へ其さま異(こと)なる者(もの)三人来りしかば
山路(やまぢ)の案内(あんない)をたづね給ふ彼(かの)者(もの)申やうしろし召ぬこそ理(ことは)りなれ我等(われら)
道(みち)しるべしてまいらせんと人々をともなひ峯(みね)を越(こ)へ谷(たに)を渡(わた)りて其(その)のち
人々に申やう此山 蔭(かげ)に我(われ)らがあばら屋の候御入候てつかれをやすめ

【左丁】
られ候へと人々をしやうじ様々
にもてなしまいらせ一人申様
人々のけしきつねならぬ
人なりされば申べき事有
是よりおく千 丈(ちやう)がだけと
申に鬼神(きしん)有方々
我等が申ごとくに
したまはゞ鬼神(きじん)たい
ぢ心のまゝなるべし
鬼畜(きちく)は本(もと)より酒を
好(この)むかれは酒をのむ
こと法(ほふ)に過(すぎ)たりと
いふ其時 甲(かふと)てうし
酒を取出し此酒を
此てうしにてもりたまへ
ゑひふしたる時此かぶとの
はちをいたゞきたいぢある
べし

【右丁】
【隅切囲みの中】山入之図(やまいりのづ)

いざこなたへ
     と

【左丁】
又うちつれて
なを山ふかく
入にけり

【両丁絵画のみ】

【右丁】
渡辺綱(わたなべのつな)【隅切囲みの中】図(づ)するは天延(てんゑん)四年四月十日の夜(よ)頼光(らいくわう)の
御 使(つかひ)に一 条(でう)大宮(おゝみや)へ罷(まか)る夜(よ)更(ふけ)ぬれば道(みち)の程(ほど)用心(ようじん)の
ため御 太刀(たち)鬚切(ひげきり)をはかせらるかくて一 条(でう)堀河(ほりかは)の
戻橋(もとりばし)にてあやしき女に行逢(ゆきあふ)おんななれ〳〵しく
われは五 条(でう)わたりまで行者(ゆくもの)なりおくりてたび
なんやといふ綱(つな)くせ者(もの)と思(おも)ひ馬(むま)より飛下(とびおり)安(やす)き
御事此 馬(むま)に召せとかきのせ行道(ゆくみち)にて彼(かの)おんな
恐(おそろ)しき鬼(おに)となり綱(つな)が髪(もとゞ)りつかんで提(ひつさげ)行(ゆく)綱(つな)は
さはがず鬚切(ひげきり)を颯(さつ)と抜(ぬき)空様(そらさま)に鬼(おに)が手(て)をふつと切(きる)
化生(けしやう)は行(ゆき)がた知らずなりにけり

【左丁】
【左側上部】
鬼女(きぢよ)
墨肉色(すみにくいろ)
髪(かみ)ひげ
胡粉(ごふん)打(うち)きせ
朱(しゆ)くま金でいちらしもやう
【左側下部】
すわう白と
   こんと
のしめ
 緑(ろく)と白と
【挿絵中】
鹿毛(かげ)

【右丁】
【上部 右から横書き】
源(みなもとの)頼(より)信(のぶ)海(うみ)渡(わたし)図(づ)

【下部】
浦(うら)人 海(うみ)の
浅瀬(あさせ)を申
上るてい

【左丁】
【上部 右から横書き】
千(ち)葉(ば)之(の)城(しろ)

【左 下部】
此 ̄ノ-国ハ平 ̄ラノ忠-常 ̄カ本国下-
総 ̄ノ之本-城-也要-害無-双 ̄ノ
城 ̄ニテ海-上卅‐里面 ̄テ廿-余-
町渡 ̄ルニ無_レ船頼-信満 ̄チ湖 ̄ノ之
時察 ̄シテ_二敵 ̄ノ-之油断 ̄ヲ_一自(ミヅカラ)先駆 ̄ス
五-万 ̄ノ味-方続 ̄テ-渡 ̄ル忠-常防 ̄ク-
方 ̄タ無 ̄クシテ而終 ̄ニ降 ̄リ病死 ̄ス

【挿絵中の文字】
砂子(スナゴ)

  金

【右丁】
源頼信(みなもとのよりのぶ)【隅切囲みの中】 平忠常(たいらのたゞつね)謀叛(むほん)し下総(しもふさ)に城(しろ)をかまへてたて籠(こも)る頼信(よりのぶ)
勅命(ちよくめい)をかうふり向(むか)ひ給ふ此 城(しろ)後(うしろ)は高山(かうさん)前(まへ)は海上(かいしやう)卅 里(り)海(うみ)の面(おもて)
廿 余(よ)町 要害(ようがい)無双(ぶさう)なり其上(そのうへ)忠常(たゞつね)浦々(うら〳〵)の舟(ふね)共を取かくす源氏(けんじ)渡(わたす)
べきやうなかりし所に頼信 浅瀬(あさせ)を尋(たつね)知(しつ)て満潮(みちしほ)の最中(さいちう)に馬を進(すゝ)め
たまふ諸卒(しよそつ)如何(いかゞ)と申しかは大 将(しやう)の給ふやう干(ひ)かたには敵(てき)も用心(ようじん)す
べし今みち潮(しほ)の時よせたらんこそとて先駆(さきがけ)して渡(わた)し給へは御方(みかた)
五万 余騎(よき)つゞいて渡(わた)り終(つい)に忠常(たゞつね)をほろぼしたまふとなり
【罫線あり】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
源頼義(みなもとのよりよし)【隅切囲みの中】 奥州(おうしう)安倍頼時(あべのよりとき)と戦(たゝかひ)たまふ比(ころ)は水無月(みなづき)七日さらで
だに炎天(ゑんてん)しのぎがたきに数日(すじつ)雨(あめ)ふらず水(みづ)つき士卒(しそつ)渇(かつ)にたへ
かね既(すで)にあやうかりしかば頼義(よりよし)諸天(しよてん)にちかつて水(みづ)をこひ弓弰(ゆはづ)を
以(もつ)てあたりの岸(きし)をうがち給ひしかば燃(もゆ)るがごときの岩間(いわま)より
浄水(じやうすい)にはかに涌(わき)出たり諸卒(しよそつ)此水を飲(のん)で渇(かわき)をうるほし是天の
助(たすけ)なりと勇(いさみ)進(すゝん)で打て出 終(つい)に敵(てき)を追(おひ)かへしけるとなり

【左丁】
源頼義(みなもとのよりよし)【隅切囲みの中】水請(みづこひ)之図(のづ)
あいしらい
軍勢(ぐんぜい)少々(せう〳〵)
馬(むま)
旗(はた)


山(やま)
かゝり
松(まつ)など
あるべし

【右丁】
         宦軍(くわんぐん)三千 余騎(よき)


鎮守府将軍(ちんじゆふのしやうぐん)
    源(みなもとの)
    頼義(よりよし)

     奥州(おうしう)栗原郡(くりはらのこほり)営(たむろ)が岡(をか)
     にて両将(りやうしやう)会合(くわいがふ)の所

【左丁】
     此 営(たむろ)が岡(をか)は昔時(そのかみ)   清原武則(きよはらのたけのり)
     坂上田村麻呂(さかのうへのたむらまろ)蝦夷(かい)を
     征(せい)する日(とき)此 所(ところ)にて
     軍士(ぐんし)を支(そろへ)整(とゝの)ふ
     故(ゆへ)に営 ̄か岡といふ
     其 佳例(かれい)に任(まか)せ
     此所にて対面(たいめん)し
     たまふ


    兜鍪(トツハイ)金 泥(デイ)

      加勢(かせい)一 万余騎(まんよき)

【右丁】
  清原武則(きよはらのたけのり)与【注】 鎮守府(ちんしゆふの)将軍(しやうぐん)源頼義(みなもとのよりよしと)会合(くわいがふ)の事
天喜(てんき)五年の冬(ふゆ)源頼義(みなもとのよりよし)は官軍(くわんぐん)千八百 余騎(よき)にて安倍貞任(あべのさだたふ)が四
千 余騎(よき)と奥州(おうしう)鳥海(とりのうみ)にて戦(たゝかひ)給ふおりふし寒風(かんふう)烈(はげし)く降雪(ふるゆき)
道(みち)を隠(かく)し往来(わうらい)も絶(たへ)て日数(ひかず)を過(すご)しければ御方(みかた)兵粮(ひやうらう)尽(つき)精力(せいりき)
労(つか)れて戦(たゝかひ)利(り)あらず主従(しう〴〵)僅(わづか)に七 騎(き)と成(なつ)て漸々(やう〳〵)鎮守府(ちんじゆふ)に
帰(かへ)り給ふ其後 出羽国(ではのくに)清原真人(きよはらのまつと)武則(たけのり)に加勢(かせい)をこひ給ふ武則(たけのり)
子細(しさい)なく領掌(りやうじやう)して其勢(そのせい)一万 余騎(よき)を引率(いんぞつ)し当国(たうごく)栗原郡(くりはらこほり)
営(たむろ)が岡(をか)にて将軍(しやうぐん)と会合(くわいがふ)あり先(まづ)此(こゝ)にて諸陣(しよぢん)の押領使(おうりやうし)を定(さだ)め
らる其時 武則(たけのり)皇城(くわうじやう)を拝(はい)し天地(てんち)に誓(ちか)ひ臣(しん)既(すで)に子弟(してい)を発(はつ)し
将軍(しやうぐん)の命(めい)に応(おう)ず志(こゝろざ)し節(せつ)を立(たつ)るに在(あ)り身(み)を殺(ころ)すことを顧(かへりみ)ず
と至信(ししん)を尽(つくし)申けり諸軍勢(しよぐんぜい)是を聞(きゝ)感涙(かんるい)を流(なが)さずといふ者(もの)なし
それより頼義(よりよし)と力(ちから)を合(あわ)せ武略(ふりやく)戦功(せんこう)をはげまし終(つい)に貞任(さだゝふ)宗任(むねたふ)
をほろぼしたまふ于時(ときに)康平(こうへい)五年八月九日なり  終

【注 「与」は「と」と読み「ともに」の意。】
【早稲田大学図書館蔵の別本参照。https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_01293/bunko06_01293_0002/bunko06_01293_0002.pdf】

【左丁 白紙】

【裏表紙】

音訓国字格

【表表紙】
【文字無】

【右丁】
高蘭山先生著
《題:音訓国字格》
我朝のいろは仮字(かな)は女文字(をんなもじ)とも云て四十七 字(じ)さへしれは世の中に通(つう)せさること
なしされ共 漢字(かんじ)はそれ〳〵もちまへの音(をん)ありことに国字(かな)にいゐをおえゑ軽重(きやうぢう)
あれは字(し)に引合て当らさること多しよつて音(をん)も訓(くん)もかなつかひ差別(しやべつ)ある
ことをしるし漢音(かんをん)呉音(ごをん)唐音(たういん)のことまて文字(もし)に引当(ひきあて)てたがひなき処を知らしむ
【左丁】
音訓国字格序 【角印】■■■■■■■
有_二言-語_一而-后有_レ字。有 ̄テ_レ字而后有
音-訓_一。音-訓 ̄ハ又言語也焉。固 ̄メ【同 ̄シテ?】_レ席 ̄ヲ而
可_レ通者 ̄ハ言-也。隔 ̄レトモ_レ国 ̄ヲ可_レ達者 ̄ハ
字也。



【文の切れ目が記されておりここでは「。」で翻刻する】

天尓を波紐鑑

絵本写宝袋

【表紙】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁】
絵本写宝袋 四

【左丁】
絵本写宝袋四之巻目録
伏犧(ふつき)【犠】之(の)聖像(せいざう)    竜馬(りうめ)出現(しゆつげん)之(の)図(づ)
叙画(じよぐわ)之(の)源流(げんりう)        女媧氏(ぢよくわし)征(せいする)_二共工氏(けうこうしを)_一図
精衛(せいゑい)逢(あふ)_二王母(わうぼに)_一図      黄帝(くわうてい)滅(ほろぼす)_二蚩尤(しゆうを)_一図
平羿(へいげい)夫婦(ふうふ)登仙(とうせん)之(の)図     《割書:付(つけ) ̄タリ》指南車(しなんしやの)始(はじめ)之(の)事
異朝(いてう)帝王(ていわう)之(の)像(ざう)       倉頡(さうけつ)制(せいする)_レ字(じを)図
《割書:付 ̄タリ》黄帝(くわうてい)制(せいする)_二冕旒(べんりう)袞服(こんふくを)_一事 諫鼓(かんこ)之(の)図
禹王(うわう)治(おさむる)_二洪水(こうずいを)_一図     黄龍(わうりう)負(おふ)_二禹王(うわうの)舟(ふねを)_一図

【右丁】
二竜(にりう)降(くだる)_二朝門(てうもんに)_一図  《割書:并 ̄ニ》劉累(りうるい)醢(しゝびしをにする)_二竜肉 ̄を【左ルビ:りやうにく】_一事
伊尹(いいん)之(の)図像(づざう)     傅説(ふゑつ)之(の)像(ざう)
雲中子(うんちうし)之(の)像     呂尚(りよしやう)釣(つりする)_二磻溪(はんけいに)_一図
文王(ぶんわう)夢(ゆめみ給ふ)_二飛熊(ひゆうを)_一図 《割書:并》文王(ぶんわう)得(ゑ給ふ)_二太公望(たいこうばうを)_一事

【左丁】
絵本写宝袋四之巻
  孟河(もうが)に竜馬(りうめ)出現(しゆつげん)し庖羲氏(ほうぎし)河図(かと)を得(ゑ)給ふ事
古者(いにしへ)燧人氏(すいじんし)の女(むすめ)懐妊(くわいにん)する事(こと)十六ゕ月にして伏羲(ふつき)を生(うむ)
長(ひとゝなり)て身長(みのたけ)三丈六尺 首(かしら)蛇(じや)の如(ごと)く眼(め)虎(とら)に似(に)たり仰(あをいて)則 象(しよう)を
天に観俯(みふし)て則 法(ほふ)を地(ち)に観(み)る網罟(あみ)を結(むすん)で魚鳥(ぎよてう)を取り六 畜(ちく)を
豢(やしなふ)て庖厨(くりや)を充(みつる)万民(ばんみん)大によろこび楽(たのし)み推(をし)て君(きみ)とす此時 孟(もう)
河(が)に竜馬(りやうめ)現(あらは)る其 形(かたち)竜(りやう)に似(に)て身(み)に鱗(うろこ)を生(しやう)ず高(たか)さ八尺五寸
両翼(つばさ)有て水上を走(はしる)こと平地(ひらち)を行(ゆく)ごとし背(せな)の上に一の箱(はこ)を負(おふ)
帝(みかと)すなはち群臣(ぐんしん)と同じく河辺(かはのほとり)に至(いた)りこれを見(み)祝(しゆく)して曰(のたまは)く
朕(ちん)天下を治(おさめ)て過(あやまち)あらば朕(われ)を罪(つみ)し給へ望(ねかはく)は波浪(なみ)を息(やめ)て民(たみ)を
害(かい)すること勿(なか)れ背(せなかの)上の箱(はこ)若(もし)民(たみ)を益(ます)物ならば我に与(あたへ)給へとて
礼拝(らいはい)し給へば波(なみ)忽(たちまち)息(や)み竜馬(りやうめ)黙頭(うなづき)て河辺(かはばた)に至(いた)る帝(みかど)其 箱(はこ)を
受(うけ)開(ひらい)て見給へば箱(はこ)の内に河図洛書(かとらくしよ)八卦(はつけ)を画(くわく)し変(へんじ)て六十
四 卦(け)となつて以(もつ)て神明(しんめい)の徳(とく)に通(つう)じ万物(ばんぶつ)の情(じやう)に類(るい)す是 易(ゑき)の始(はじめ)也

【右丁】
太昊帝(たいかうてい)伏犧(ふつき)之(の)聖像(せいざう)

【聖像の絵】

伏-犧画 ̄ク_レ卦 ̄ヲ像多-図 ̄ス故 ̄ニ除 ̄ク_レ茲 ̄ニ上-古 ̄ハ人-相荒《割書:〳〵》シク
麻-綿ノ類ナク衣-物冠-舃等定コトナシ故ニ木ノ
葉蒲蘆獣 ̄ノ皮鳥 ̄ノ羽ヲ穿(キル)ト也今図スル像シハラク
本-文ノ文ニヨツテ帝ノ像ナレハ少ノ替アリ

【左丁】
 河図(かと)

彩色(さいしき)猊(からしゝ)の如(ごと)く
薄墨(うすゝみ)の曲(くま)面(つら)
口(くち)のあたり
竜(りやう)の仕立(したて)

 茲(こゝ)に図(づ)するは
    守信(もりのぶ)五聖(ごせい)の
 像(ざう)を図(づ)す下(しも)に河図(かと)竜馬(りうめ)の形(かたち)有 鱗(うろこ)
 趐(つはさ)なく面(つら)竜(りやう)に非(あら)ず駝(だ)の如(ごと)く身(み)に旋毛(せんもう)【左ルビ:つし】あり

【右丁】
叙(ジヨ)-画(グワ)之(ノ)源流(ゲンリウ)
画ハ伏(フツ)-羲(キ)ノ河図(カト)ヲ得(エ)八 卦(ケ)ヲ画(エカキ)タマフヨリ初ル卦ノ象(カタチ)画-也 是(コノ)時
虫(ムシ)鳥(トリ)ノ形(カタチ)ヲ画テ書(シヨ)画(クワ)同-体《割書:也》舜(シユン)絵(エ)ヲ明(アキラカ)ニシ玉フ画(エ)ハ成(ナシ)_二教-法 ̄ヲ_一助 ̄ケ_二 人-倫(リン) ̄ヲ_一
窮(キハメ)_二神-変(ヘン) ̄ヲ_一与_二 六-籍 ̄ト_一同 ̄シフス_レ功 ̄ヲ ト云リ古-人ノ言(コトハ)ニ宣(ノフル) ̄ハ_レ物 ̄ヲ莫(ナシ)_レ大 ̄ナルハ_二於 言(コトハ) ̄ヨリ_一存(ソン) ̄スレバ_レ形 ̄ヲ莫(ナシ)_レ善(ヨキ) ̄ハ_二
於画 ̄ヨリ_一此(コレ)-之(コノ)謂(イヒ)-也又-曰 ̄ク絵(エ)ニ画(グハ)図(ト)写(シヤ)ノ三-象有 ̄リ画(スミエ)ハ画(エ)ノ総-名画ノ草(サウ)也
図ハ画(エ)ノ行(ギヤウ)写ハ画ノ真(シン)也又-曰画ハ是 有形(カタチアル)ノ詩(シ)-也異-名ヲ無声(ムセイ)【左ルビ:モノイハヌ】ノ詩(シ)【左ルビ:ウタ】
トモ名(ナツ)ク絵ノ神ナルコト風雲雨雪ヲ写(ウツ)シ四時ノ景(ケイ)-候(カウ)万(バン)-物ノ形ヲ
目前ニ出シ〝万-里ヲ尺-寸ノ間ニ象(カタト)ル不 ̄ル_レ見人ヲ写(ウツ)シ道ノ守 ̄リ トス是 ̄レ聖 
人ノ初 ̄メ玉フ故(ユヘ)-也亦-曰五-聖ノ像(ザウ)ヲ画 ̄ク-時ハ必 ̄ス竜馬ヲ画ク俗 麒麟(キリン)ト云 非(アラス)
_レ麟(リン) ̄ニ竜馬(リウメ)也 伏(フツ)-羲(キ)画(エカキ)_レ卦 ̄ヲ タマフニヨル故也亦 孔(コウ)-子(シ)四(シ)-亜(ア)十(ジツ)-哲(テツ) ̄ノ連図ニハ麟ヲ画 ̄ク
代(ヨ)-々麟ト竜-馬ト形ヲ画(カキ)-誤(アヤマ)ル予(ヨ)三-才-図-会孔-門ノ書其-外諸-書ニ出ヲ
見 ̄ル ニ昔 ̄シ ヨリ麟ト名(ナツクル)形ハ竜馬也 図会(ヅエ) ̄ニ云 昔(ムカシ)伏(フツ)-羲(キ)ノ時 孟(モウ)-河(カ)ニ竜馬出 ̄ツ竜ニ
似(ニ)テ馬ニ似(ニル)身ニ鱗(リン)甲(カウ)趐(ツバサ)有 ̄リ長 ̄サ八尺 背(セナ) ̄ノ上ニ八-卦ヲ負(ヲフ)ト其 ̄ノ-図竜 ̄ノ首(カシラ)馬 ̄ノ形(カタチ)
鱗(ウロコ)甲ヲ画ク又 一(アル)書ニ竜馬 黄(クワウ)-河(ガ)ニ出 ̄ツ身(ミ)ニ旋(ツ)-毛(ジ)有 河(カ)-図(ト)是-也ト云ヘリ
竜馬ニ角(ツノ)火勢(クワセイ)弩(ド)【左ルビ:クチ】鬚(シユ)【左ルビ:ヒケ】背(ハイ)鬣(レフ)【左ルビ:ヒレ】ヲ画(エカク)ハ竜ニ似(ニル)ト云文 ̄ノ-勢ニヨツテ画 ̄ク モノ也

【左丁】如歟
  共工氏(きようこうし)乱(らん)を起(おこ)し女媧氏(ぢよくわし)これを征(せい)し給ふ事
女媧氏(ぢよくわし)は伏羲(ふつき)の妹(いもうと)なり賢女(けんじよ)なれば伏羲(ふつき)崩御(ほうぎよ)の後(のち)群臣(ぐんしん)
推(すゝめ)て帝位(ていゐ)に即(つけ)奉る加之(しかのみならず)雲(くも)の鬢(びんづら)花の顔(かほばせ)窈窕(ようてう)とたをやか
なりければ見者(みるもの)心を動(うごか)さずと云ことなし其時 諸侯(しよこう)に共工氏(きようこうし)
康回(こうくわい)といふ者(もの)あり深(ふか)く卦爻(くわかう)を明(あき)らめ能(よく)神(しん)に通(つう)ず然(しか)れども
淫楽(いんらく)を好(この)み女媧氏(ぢよくわし)に恋慕(れんぼ)しけれども女皇(ぢよくわう)従(したがひ)たまはざるゆへ
遂(つい)に謀叛(むほん)して乱(らん)を作(おこ)す女皇は柏皇氏(はくくわうし)【栢は俗字】央皇氏(ゑいくわうし)を両 先鋒(せんぼう)として
大に戦(たゝか)ふ康回(こうくわい)幻術(げんじゆつ)を行(おこな)ひ河水(かすい)天に漲(みなぎ)り女皇の人馬(じんば)利(り)を
失(うしな)ひ康回(こうくわい)水上を駆(かけ)ること飛鳥(とぶとり)の如(ごと)し柏(はく)皇 央(ゑい)皇は水に浸(ひた)り進(しん)
退(たい)きはまる所に南方(なんばう)の諸侯(しよこう)に祝融(しゆくゆう)といふ老人(らうじん)能(よく)天 文(もん)地理(ちり)を極
其 術(じゆつ)康回(こうくわい)に勝(まさ)りけるが女皇の軍(いくさ)利(り)あらざる事を悟(さと)り山上
に至(いた)り杖(つゑ)を以て教(おしへ)救(すく)ひしゆへ官軍(くわんぐん)危(あやうき)をのがる康回 怒(いかつ)て祝融(しゆくゆう)
を射殺(いころ)さんと矢(や)を放(はなち)ける時 祝融(しゆくゆう)忽(たちまち)白 鶴(つる)に化(け)し飛去(とびさり)再(ふたゝび)祝融
三万 余騎(よき)を領(りやう)し康回を責亡(せめほろぼ)し天下大に治(おさま)るとなん

【右丁】
共工氏(きようこうし)浪(なみ)を駆(かけ)り祝融(しゆくゆう)を射(い)る図(づ)

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
   精衛(せいゑい)公主(こうしゆ)西王母(せいわうぼ)に遇(あふ)事
精衛(せいゑい)公主(こうしゆ)は炎帝(ゑんてい)神農氏(しんのうし)の御女(むすめ)なり生得(むまれつき)美麗(びれい)にして螓首(しんしゆ)【左ルビ:たちのひしくび】
蜂腰(ほうよう)【左ルビ:ほそきこし】真(まこと)に閑月(かんげつ)花を羞(はづ)るの容貌(よそおひ)あり一日(あるひ)落花(らくくわ)を見(み)て嘆(たん)【左ルビ:なけき】
じて曰【左ルビ:いわく】盛(さかん)に開(ひら)ける華(はな)も時(とき)あつて枝(ゑだ)を辞(じ)す人生(にんぜい)金石に
あらざれば誰(なん)ぞ顔(かんばせ)を改(あらため)ずして存命(ながらへ)んやあはれ長生(ちやうせい)
不死(ふし)の道(みち)もやと爾時(そのとき)空中(くうちう)より車(くるまの)声(こゑ)轔々(りん〳〵)として西王(せいわう)
母(ぼ)形(かたち)を現(あらは)し告(つげ)て曰(もうさく)公主 出塵(しゆつぢん)の思ひあらば凡心(ぼんしん)を去(さり)意(こゝろ)
を堅(かたく)して仙宮(せんきう)に至(いた)るべしとて辞(じゝ)去(さ)れり公主(こうしゆ)よろこび
次日(あくるひ)父母(ふぼ)に告(つげ)て数十(すじう)の侍女(おもとびと)と同じく船【舡】に上(の)り東海(とうかい)に出(いて)
游(あそ)ぶ半塗(はんと)に東莱(とうらい)といふ島あり公主 其処(そのところ)の美男(びなん)を見(み)て
恋(こひの)心を生(しやう)じ道心(だうしん)稍移(すこしうつ)る遂(つい)に蓬莱宮(ほうらいきう)に至(いたる)ことあたはず溺(おぼれ)
死(し)して化鳥(けてう)となる此 鳥(とり)常(つね)に西山(せいざん)より木石(ぼくせき)を銜(ふくみ)【啣は銜の俗字】来(きたつ)て東(とう)
海(かい)を埋(うづめ)んとすこれを精衛鳥(せいゑいてう)と云(いふ)とかや

【左丁】
精衛(せいゑい)公主(こうしゆ)
 西王母(せいわうぼ)に
  逢(あふ)図(づ)

【挿絵】

【右丁】
【隅切囲みの中】黄帝(くわうてい)與(と)蚩尤(しゆうと)涿鹿(たくろく)に戦(たゝかふ)図(づ)【挿絵の説明】《割書:黄帝 指南車(しなんしや)を制して進(すゝみ)給ふ》

博古(ハクコ)ニ曰 ̄ク北(ホク)-山(サン)ニ石(イシ)アリ磁石(ジセキ)ト云
鉄針(テツシン)ニスリ付テ水(ミヅ)ニウクルニ針(ハリ)
水上ニテ南北(ナンボク)ヲ指(サ)ス黄帝(クワウテイ)【別本より】コレヲ
用ヒ指南車(シナンシヤ)ヲ制(セイ)スト云
指南車ハ今ノ磁針(ジシン)ナリ人形(ニンキヤウ)ハ後(ノチ)
ノ作(サク)ナリ

磁針(ジシン) ̄ノ
図(ヅ)

【左丁】

蚩尤(しゆう)幻術(げんじゆつ)を
 施(ほとこ)し
雲(くも)霧(きり)を
  起(おこ)す

【右丁】
  黄帝(くわうてい)滅(ほろぼし)_二蚩尤(しゆう) ̄を_一 《割書:并ニ》始(はじめ)て指南車(しなんしや)を作(つく)りたまふ事
炎帝(ゑんてい)神農(しんのう)より八代の帝(みかど)を楡岡(ゆかう)と云此時に当(あたつ)て蚩尤(しゆう)と云
逆臣(げきしん)悪(あく)を肆(ほしいまゝ)にして乱(らん)を興(おこ)し諸侯(しよこう)を責(せめ)なびけて天下を動(うご)
揺(か)す帝(みかど)不徳(ふとく)にて制(せい)すること能(あた)はず敗北(はいぼく)して涿鹿(たくろく)へ逃(にげ)入し
かば蚩尤(しゆう)は都(みやこ)に入 位(くらゐ)に坐(ざ)し却(かへつ)て涿鹿(たくろく)を攻(せめ)て取囲(とりかこむ)こと雲(うん)
霞(か)の如(ごと)し爰(こゝ)に炎帝(ゑんてい)の後裔(こうゑい)に有熊国君(ゆう〳〵こくくん)の子(こ)軒轅(けんえん)と云
人あり徳(めいとく)をおさめて人 民(みん)帰服(きふく)【左ルビ:なびきしたがい】し三万 騎(ぎ)の兵(つわもの)を領(りやう)し帝(みかど)を
援(すく)ひ蚩尤(しゆう)が大 軍(ぐん)へ突(つい)て入蚩尤 目(め)を嗔(いからか)【瞋とあるところ】し歯(は)を切(くいしめ)て軒轅(けんえん)と戦(たゝかふ)
こと百 余合(よがふ)蚩尤 打負(うちまけ)て走(にげ)けるが忽(たちまち)妖術(ようじゆつ)を施(ほどこ)し雲(くも)霧(きり)を動(うご)かす
味方(みかた)前後(ぜんご)を亡(ぼう)じて敗軍(はいぐん)す軒轅(けんえん)又 謀(はかりこと)を廻(めぐ)らし指南車(しなんしや)を造(つくり)軍士(ぐんし)
を乗(のせ)再(ふたゝ)び戦(たゝかひ)を挑(いど)む蚩尤又 霧(きり)を起(おこ)しけれ共 指南車(しなんしや)在(あつ)て敵陣(てきぢん)
に望(むかひ)て進(すゝみ)ければ味方(みかた)軍(ぐん)を乱(みだ)さず終(つい)に蚩尤を滅(ほろぼ)し給ふ天下
の民(たみ)其徳を尊(たつと)み推(をし)て帝王(ていわう)とす是 則(すなはち)黄帝(くわうてい)と申 聖王(せいわう)なり

【左丁】
   平羿(へいけい)夫婦(ふうふ)登仙(とうせん)の薬(くすり)を得(ゑ)て月宮(けづきう)【濁点の付間違いヵ】に至(いた)る事
帝(てい)尭(ぎやう)の時 悪獣(あしきけだもの)有て人を害(そこなふ)によつて平羿(へいげい)に命(みことのり)してこれを
平(たいらげ)しめ給ふ羿(げい)は勅(ちよく)を承(うけたまは)り我家(わがや)を出て是を制(せい)す去(され)ば羿(げい)が妻(つま)
は其(その)容皃(かたち)美(うつく)しく其 心様(こゝろばへ)も亦(また)好(よ)し然(しか)るに今度(このたひ)夫(おつと)他国(たこく)へ出(いで)し
より跡(あと)に残(のこり)て深閨(しんけい)【左ルビ:ふかきねや】にたゞ独(ひと)り夫(おつと)を慕(したひ)て輾転(ふしまろび)さても夫(おつと)の
おとづれはいかにやと寤(さめ)ても寐(ね)ても思ひ侘(わび)て年月(としつき)を送(おく)り
ける或夜(あるよ)夢(ゆめ)に羿(けい)帰来(かへりきたつ)て薬丸(やくくわん)一顆(いつくわ)を与(あたふ)ると見て驚(おとろき)覚(さめ)て
側(かたはら)を見れば実(じつ)に丸薬(ぐわんやく)ありけり妻(つま)不思議(ふしぎ)におもひ我夫(わがおつと)
もしは死(しゝ)たるやらんといとゞ思ひを燋(こが)し夜(よ)の明(あく)るを待(まち)けるが
漸々(やう〳〵)平明(あけほの)の比(ころ)夫(おつと)の羿(げい)実(じつ)に帰来(かへりきたり)て彼(かの)夢(ゆめ)のやうを聞(きゝ)誠(まこと)に
前年(むかし)山に入 道(だう)を学(まな)びし時 西王母(せいわうぼ)に不老(ふらう)不 死(し)の薬丸(くすり)を
授(さづか)れり是は定(さだめ)て相(あひ)恋(おもふ)の感(かん)ずる所なるべしさらば此 薬(くすり)を
服(のみ)て偕老(かいらう)の衾(ふすま)の下に長生(ちやうせい)の契(ちぎり)を結(むす)ばんとて試(こゝろみ)に是を
呑(のめ)ば妻(つま)は習々(しう〳〵)と飛(とび)て空(そら)にのぼる羿(げい)も亦(また)その裳(もすそ)に取
つきすがつてともに月宮(つきのみやこ)に入る妻(つま)は嫦娥(ぜうが)となり羿は蟾蜍(せんぢよ)となる

【右丁】
【右から横書き】
羿(げいが)妻(つま)夢(ゆめに)薬(くすりを)授(さつかる)図(づ)

【左丁】
唐朝(タウテウノ)李(リ)義(ギ)山(サンガ)詩(シ) ̄ニ ニ
 雲(ウン)-母(ボ)屏(ヘイ)-風(フウ)燭(シヨク)‐影(エイ)深(フカシ)  長(チヤウ)-河(ガ)漸(ヤウヤク)落(ヲチテ)暁星(ケウセイ)沈(シヅム)
姮(コウ)-娥(ガ)応(ヘシ)_レ悔(クユ)偸(ヌスム)_二霊薬(レイヤク) ̄ヲ_一  碧海(ヘキカイ)青天(セイテン)夜々心(ヤヽノコヽロ)
此 ̄ノ-詩羿 ̄カ之 故(コ)-事(ジ)也

【挿絵】


羿夫婦(げいふうふ)月宮殿(げつきうでん)に登(のほ)る図(づ)

【右丁】
軒(ケン)-轅(エン)氏(シ)治 ̄メ_レ兵 ̄ヲ戮(リク)_二蚩尤(シユウ) ̄ヲ_一而天-下 帰(キ) ̄ス_レ之 ̄ニ名 ̄テ号 ̄ス_二黄帝 ̄ト【一点脱】暦(レキ)【左ルビ:コヨミ】-算(サン)律(リツ)-呂(リヨ)宮(キウ)-室(シツ)書-契(ケイ)章(シヤウ)-服(フク)
畢(コト〴〵) ̄ク-具(ソナハレ) ̄リ黄-帝 冕(ベン)-旒(リウ)袞(コン)-服(フク)ヲ制(セイ) ̄ス冕(ヘン)ハ冠 ̄ノ-名旒ハ金-銀 珠(シユ)-玉七-宝ヲ小 毬(タマキウ)トシ貫(ツラヌキ)-_二繋(ツナク)之(コレ) ̄ヲ
冠ノ前-後ニ【一点脱】各《割書:〱》十二 垂(タル)ル是ヲ十二 旒(リウ)ト云 玉 ̄ノ数(カズ)モ十二アリ珠(タマ)ハ貝(カイ)ノタマ真(シン)-珠(ジユ)硨(シヤ)-𥓼(コ)也
玉ハ水(スイ)-晶(シヨウ)【左ルビ:シユ】瑪(メ)瑙(ナウ)【左ルビ:カキ】瑠(ル)-璃(リ)玻(ハ)-瓈(リ)琥(コ)-珀(ハク)琅(ラウ)-玕(カン)珊(サン)-瑚(ゴ)【左ルビ:アカ】樹(シユ)也○旒(リウ)ハ王 ̄ノ眼(メ) ̄ヲ覆(オホフ)テ諸 ̄ノ邪事(ジヤジ) ̄ヲ見マ
ジキ為(タメ)也亦冠ノ左右ニ鳴鈴(スヾ)ヲ垂(タレ)テ王ノ耳(ミヽ)ヲ塞(フサ)グ是ヲ黈纊(トウクワウ)ト云諸-臣ノ讒(ザン)
言(ゲン)悪-事ヲ聴(キク)マジキ為ノ器(ウツハモノ)-也 図(ツ)ヲ見テ可 ̄シ_レ知 ̄ル○有虞(ユウグ)氏(シ)《割書:帝舜(テイシユン)》袞(コン)-服(フク)二十二章
ヲ制(セイ)シ其 ̄ノ象形(カタチ)ヲ衣(コロモ)ニ画(エカキ)裳(モ) ̄ニ繍(ヌウ) ̄テ其 ̄ノ色-品(シナ)ヲ彩(エドリ)タマフ是ヲ絵(エ)ト云 彩(サイ)-色(シキ)ノ始(ハシメ)也
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十 《割書:衣 ̄ニ|画 ̄ク》《割書:日左|月右》画(エカク)星辰(セイシン)《割書:北極(ホクコク)|北辰(ホクシン)》也《割書:背後(ウシロ)ニ画ク不(サル)_レ見(ミヘ)故ニ|略(リヤク)而(シテ)前(マヘ)ノ左右ニ画 ̄ク》山(ヤマ)二《割書:左|右》画 竜(リヤウ)二《割書:右 ̄ニ ノボリ|左 ̄ニ クダル》華虫(クハチウ)二《割書:右 雉(キシ)ヲ|左画ク》

章(シヤウ)《割書:裳 ̄ニ|画 ̄ク》宗彛二《割書:左白 ̄キ猿(サル)果然(クハセン)ナリ|右白 ̄キ虎(トラ)騶虞(スウク)ナリ》藻(ソウ)【左ルビ:モ】二《割書:海草(カイサウ)ナリ|藻(モ)クサナリ》火(ヒ)【左ルビ:モユルヒ】二《割書:囲繞(イニヨウ)【左ルビ:カコミメグラス】ノ|形(カタチ)ヲ画》粉米(フンベイ)二《割書:白|米》黼(ホ)《割書:マサカリ|ヲ画》黻二《割書:相背形|色 青(アヲ)白(シロ)》
方心(ホウシン)胸(ムネ)ニ有(アリ)象(カタチ)【図】方(ケタ)也人 ̄ノ心方-寸 ̄ノ間ニ有 ̄ル義ニトル是(コノ)鉤(マカレル)【鈎は俗字】-物(モノ)ヲ曲領(キヨクレイ)ト云 形(カタチ)曲(マカリ)クビヲメグリ後(ウシロ)ニ結(ムスヒ)垂(タルヽ)色白
綬(ジユ)腹(ハラヲ)覆(オホフ)《割書:乳(チ)下ニ垂(タル)ル|左右 ̄ニ ヒモ有》紳(シン)【左ルビ:ヲヽヲビ】《割書:前ニサクル衣裳(イシヤウ)ノ権(ヲモリ)ナリ悉(クワ)【注】シク|四書大全郷党ノ篇ニ見ヘタリ》佩(ハイ)二《割書:腰(コシ)ノ両 脇(ワキ)ニ垂(タル)ル玕(カン)《割書:琚|琚》瑀《割書:衝|牙》 《割書:璜|璜》色白又五色|是ヲノスルモノヲヤウキウト云色白緑》
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古-人ノ衣-色 玄(クロ)シ天ノ色ヲ象(カタト)ル裳(モスソ)黄-也 地(チノ)-色ヲ象(カタド)ル彩ニ衣ヲ渋(シブ)-色(イロ)ニス《割書:黄赤黒|ノ色ナリ》
又コンジヤウ ̄ニテ空色(ソライロ)ニス今 ̄ノ制(セイ)ハ衣 ̄ノ色ヲ黄土(ワウド)ニテ塗(ヌ)リ朱墨(シユズミ)ノクマ有 ̄リ裳(モスソ)ヲ白緑(ヒヤクロク)
ニス手ハ左 ̄リ ヲ上 ̄へ ニス玄(ゲン)-珪(ケイ)ヲトル象ニ剣形(ケンギヤウ)ニシ上 ̄ヘ ニ三‐星(セイ)ヲ画(グワ)シ色白緑(ビヤクロク)也

【注 「悉」の古字の「怸」と間違ったものか。】

【左丁】
【隅切り囲みの中】十二 旒(リウ)
  ⟦ー○(シユ)ーー○(コン)-○(キ)ーー○(スミ)-○(コフン)-○(シユ)ーー○(コン)-○(キ)-○(スミ)ーー○(コフン)-○(シユ)-○(コン)

 黈(トウ)  金 白 金
 纊(クワウ) 【図】
                        腰衱(ヨウキウ)
冕(ベン)
旒(リウ)    【黄帝ノ図】            椅(イ)
                        踏(トウ)

                        佩

 黄帝(クワウテイ)大舜(タイシユン)湯王(タウワウ)文王(フンワウ)武王(ブワウ)
 文宣王(フンセンワウ)之(ノ)像(サウ)此(コノ)図(ヅ)ヲ用 ̄ヒ画 ̄ク也

 冕(ヘン)
 板(ハン)       後白(ウシロシロ)【丸で囲む】 ○( 真穴) 前赤(マヘアカ)【丸で囲む】
黄土(ワウド)塗(ヌリ)
朱墨(シユスミ)仕立(シタテ)

【右丁】
倉(サウ)-頡(ケツ) ̄ハ《振り仮名:四‐目|メヨツアリ》生 ̄ス_二于 軒(ケン)-轅(エンノ)時 ̄ニ_一已(ステニ)建(タテヽ)_二左-右 ̄ノ史(シ) ̄ヲ_一以 ̄テ記(シルス)_二言-動 ̄ヲ_一頡(ケツ)詛誦 実(マコトニ)当(アタリ)_二左-史(シ) ̄ノ任 ̄ニ_一世 ̄ノ
人 咸(コト〳〵ク)称(イフ)字従 ̄フ_二其制 ̄ニ_一始 因 ̄テ_二鳥 ̄ノ跡(アトニ)_一而作 ̄ル_レ字 為(タリ)_二万世文字 ̄ノ之祖_一蓋(ケダシ)亦 因 ̄テ_二其 ̄ノ文 ̄ニ_一
而 増(マシ)-創(ハシムル)耳(ノミ)耶 謹(ツヽシンテ)按 ̄スルニ伏(フツ)-犠(キノ)時已 ̄ニ有 ̄リ_二書-契_一
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【縦に刻字す。】
乾天 ̄ノ卦坤地 ̄ノ卦 伏犠(フツキ)氏(シ)因 ̄テ_二河(カ)-   鳥(テウ)-跤(カウ)之(ノ)篆(テン)【フミ】 倉頡(サウケツ)鳥ノ足-
        図(ト) ̄ニ画 ̄シ_二 八卦 ̄ヲ_一玉フ         形ヲ見テ造(ツク) ̄ル
【卦ノ図】   心ハ字 ̄ニ而 象(カタチ)ハ   【芥ノ篆書体】 _レ字 ̄ヲ是字-画ノ
        画(エ)也是書-画 ̄ノ            始 ̄メ也此-後字 ̄ノ
        之初 ̄メ-也       今之 芥(カイノ)【左ルビ:アクタ】字 象八-体(テイ)トナル
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馬  尾(ヲ)也  倉頡馬ヲ
        見テ象ル
【馬ノ古文字】

        四 足(アシ)也
【馬の字】【左ルビ:ムマ】古文字
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鳥書篆(テウシヨテン) 画(クワク)ノ頭(カシラ)ヲ鳥(トリノ)首(カシラ)ニス      

【幡信の字】

幡信(ハンシン)ト云字ナリ
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 虫(チウ)【左ルビ:ムシ】書篆(シヨテン) 魚(キヨ)【左ルビ:ウヲ】篆(テン)
書          對(タイ)
【書の字】     【對の字】

上古ハ鳥(トリ)獣(ケモノ)竜(リヤウ)魚(ウヲ)虫(ムシ)草木(クサキノ)象(カタチ)ヲ字(ジ)トス
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林(リン)-和(ワ)-靖(セイ)書-法ヲ効(ナラフ)_二【效は旧字】王-摩(マ)-詰(キツニ)【一点脱】  梅(ハイ)
竹(チク)                             書

 【猷の字】         【省の字】
猷(イウ)【左ルビ:ナヲシ ハカル】  省(セイ)【左ルビ:カヘリミル】
 画中ニ有_レ字          字-中ニ画有リ
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図-会 ̄ニ曰按 ̄ニ_二字-学 ̄ノ之体 ̄ヲ_一 六 ̄ヲ曰 ̄フ_二鳥書 ̄ト_一在 ̄ツテ_二幡 ̄ノ上 ̄ニ_一書 ̄スル_二端象鳥頭 ̄ヲ_一者 ̄ハ則画流漢末
大-司-空甄-豊 挍(ナラフテ)_レ字-体 ̄ヲ有_レ 六其 ̄ノ六 ̄ヲ曰 ̄フ_二鳥書 ̄ト_一即幡-信 ̄ノ上 ̄ニ虫鳥 ̄ノ形 ̄ヲ書 ̄ス幡-信ト云
ハ天-子ノ幡(ハタ)ノ名‐也其 ̄ノ幡ニ古-文-字ニテ幡-信ト書 ̄ス

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
    尭(げう)の御治世(ごぢせ)に敢諫(かん〳〵)の鼓(つゞみ)有(ありし)事
尭帝(ぎやうてい)は帝(てい)嚳(こく)の子(こ)なり至聖(しいせい)にして恭(うや〳〵し)く克(よく)俊徳(しゆんとく)を明(あきらか)にし
たまへば九族(きうぞく)【左ルビ:しんるい】既(すで)に睦(むつまし)く黎民(れいみん)時(これ)雍(やわらげ)り其 富(とみ)天下をたもち
尊(たつと)きこと天子の御 位(くらい)なれども御 身(み)を驕(おごり)たまはず茅(かや)を以(もつて)屋(いゑ)を
覆(ふき)土階(つちのきざはし)三 等(だん)蒲草(がまくさ)を席(むしろ)とし衣服(いふく)紋(もん)なく舟(ふね)車(くるま)不飾(かざらず)万事(ばんじ)
倹約(けんやく)にし給ひ財用(ざいよう)の費(ついゆ)ること無(な)ければ年貢(ねんぐ)をゆるくして百姓(たみ)
を恵(めぐ)みたまふ一 民(たみ)の飢(うへ)たるを見ては我(われ)これを飢(うや)すが如(ごと)く一 民(たみ)
の寒(こゞへ)たるを見ては我(われ)これを寒(こゞやか)すが如(ごと)く思(おほし)めしける程(ほど)に万民(ばんみん)
これを崇(たつと)み親(したし)むこと父母(ちゝはゝ)のごとし民(たみ)安(やす)く業(なりわひ)を楽(たのし)み諸侯(しよこう)降伏(きぶく)
し敢(あへ)て恨(うらみ)【限は誤】謗(そしる)ことなし又 敢諫(かん〳〵)の鼓(つゞみ)をもうけて曰(のたまは)く朕(われ)君(きみ)と
成(なり)て民 労役(くるしみ)なきや朕(ちん)が身(み)に過(あやまち)なしやもし朕(われ)に過(あやまち)有て
民に苦(くるし)み憂(うれふ)ることあらば此 鼓(つゝみ)を撃(うつ)べしと仰(おゝせ)出されしか〝共
帝(みかど)に諫(いさ)むべき過(あやまち)なく民(たみ)に訴(うつたふ)へき憂(うれへ)なければ遂(つい)に鼓(つゞみ)は有 ̄レ
〝共 撃(うつ)人なく諫鼓(かんこ)はおのづから苔(こけ)深(む)して四海(しかい)泰平(たいへい)国土(こくど)安穏(あんおん)
に治(おさま)り雨(あめ)壌(つちくれ)を動(うごか)さず風(かせ)枝(ゑだ)をならさず目出度(めでたき)御代(みよ)なりける

【左丁】
諫鼓之図(かんこのづ)

 【図】
    中心ナルハ巴ニアラズ
    珠ナリコンロク仕立
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昔(むかし)より此図を画(ゑかく)事 朗詠集(らうゑいしう)の諫鼓(かんこ)苔(こけ)深(ふかふ)して鳥(とり)不驚(おどろかず)と云 詩(し)によつて画(ゑかく)者か本
文のごとくならば麤【麁は俗字】なるてい也 尭王(けうわう)は古今(こゝん)にすぐれたる聖人(せいじん)にてましませばかくおごる形(かたち)
なるべからずたゞ帝王(ていわう)の器なるを見(み)せん計(はかりこと)なるべし詩(し)の心は尭(ぎやう)王 民(たみ)の患(うれへ)を奏(そう)すれとも曲(まがる)
臣(しん)上(かみ)に告(つげ)ず帝(みかど)なげきたまひ患(うれひ)有ば此 鼓(つゝみ)をうつべし鳴(なる)ときはみづから聞てことはらん
とて門外(もんくわい)に太鼓(たいこ)を立たまふかくて鳴(なり)のしばらくも止(やむ)時なし世 治(おさま)り訴(うつたへ)申事なきゆへ
うつ人なし故(かるがゆへ)に太鼓(たいこ)はあれどもあたりに寄(よる)人なきゆへいたづらに苔(こけ)むしておのづから諸(しよ)
鳥(てう)のすみかとなりたるてい也しからば庭鳥(にはとり)にかぎるべからず太鼓(たいこ)の辺(あたり)に諸鳥(しよてう)を画(かく)べき歟(か)

【右丁】
   舜(しゆん)《振り仮名:命_二禹_一治_二洪水_一|うにみことのりしてこうすいをおさめ給ふ》事(こと)
大舜(たいしゆん)位(くらい)に即(つき)給(たまひ)て四凶(しけう)三 苗(めう)とて悪逆(あくぎやく)の諸侯(しよこう)を従(したが)へ御代(みよ)治(おさまり)
群臣(ぐんしん)慶賀(よろこびをそう)すといへども但(たゞ)洪水(こうずい)災(わざはひ)をなして民(たみ)甚(はなはだ)くるしめり
舜(しゆん)これを禹公(うこう)に命(みことのり)して治(おさめ)救(すく)はしむ禹(う)勅(ちよく)を奉(うけたまは)り天に祷(いの)り
功(こう)を成就(じやうじゆ)せしめ給へと誓願(せいぐわん)ありければ其夜(そのよ)夢(ゆめ)に一男子(ひとりのおのこ)赤(あか)き繍(ぬいもの)
の衣裳(いしやう)を穿(き)手(て)に一 冊(さつ)の書(しよ)を持(もち)我(われ)は天の使者(ししや)なり天帝(てんてい)汝(なんぢ)の
一心(いつしん)に天下の為(ため)に水(みづ)を治(おさめ)んとするを喜(よみん)じ給ふゆへ某(それがし)を以(もつ)て汝(なんぢ)に
授(さづく)るに水を治(おさむ)る経(きやう)を賜(たま)ふ是に遵(したがつ)て治(おさ)めよと言(いひ)訖(おわつ)て雲(くも)に
入る禹公(うこう)夢(ゆめ)覚(さめ)て見給へば一冊(いつさつ)の経(きやう)あり取て是を視(み)大(おゝ)きに
喜(よろこん)で次日(あけのひ)人歩(にんぶ)に分付(いひつけ)て備(そなへ)を立(たて)耟(すき)【ママ】鍬(くわ)を用(もたせ)て行(ゆく)まづ九州(こゝのくに)の道(みち)
を通(つう)じ九沢(こゝのつのさは)を障(さゝ)へ九 山(やま)を度(ひらき)て既(すで)に江北(きたぐに)の諸水(しよすい)を治(おさ)め淮水(わいすい)と
云所を渡(わた)り給に其所尤 険(けわしく)して支巫期(しふき)と云 怪物(いきもの)有その形(かたち)
大木(たいぼく)の如(ごとく)にて色(いろ)黒(くろ)く長(なが)さ十 余丈(よぢやう)ばかりなる恐(おそろ)しき物 浮(うかみ)出て涛(なみ)

【左丁】
を漲(みなぎ)らし岸(きし)を崩(くず)し民家(みんか)をやぶる禹(う)手下(てした)に下知(げぢ)しこれを
射殺(いころ)す又一の獣(けたもの)有て水上(みづのうへ)を駆(かけ)る事 鳥(とり)の飛(とぶ)が如(ごと)く其形(そのかたち)
八の首(かしら)八の足(あし)耳(みゝ)目(め)倶(とも)になし又 箭(や)を備(そろ)へて射(い)るといへ共 一(ひとつ)も
肉(にく)に着(たつ)ことなく皆(みな)筈(はづ)をかへしければ禹(う)大に嘆(なげ)き抱(うれへ)悶(もだへ)給ふ是夜(このよ)
夢(ゆめ)に又 使者(ししや)来(きた)り告(つげ)て曰(いわく)此(これ)は天呉(てんご)と云(いふ)物なり食(しよく)せず死(し)せず
                 千歳(ちとせ)にして斃(し)す我(われ)公(きみ)の
                 為(ため)にこれを治(おさ)むべしと
                 忽(たちまち)雲(くも)開(ひら)け波(なみ)息(やむ)是(これ)誠(まことの)
                 心の致(いたす)す【衍】所なり遂(つい)に
      【挿絵】       江(えの)流(ながれ)治(おさま)り平(たいら)かになれば
                 諸人(しよにん)安土(あんど)を得(ゑ)てこれに
                 居(い)百姓(はくせい)地(ち)を得(ゑ)て五穀(ごこく)を
                 種(うへ)民(たみ)以 食(しよく)を足(たらはす)ことを得(ゑ)たり

【両丁 挿絵のみ】

【右丁】
  夏(かの)禹王(うわう)江を過(わた)るに黄竜(わうりやう)舟(ふね)を負(おふ)事
大禹(たいう)は黄帝(くわうてい)の玄孫(つるのまご)なり天性(うまれつき)敏給(さとく)克勤(よくつとめ)て其徳(そのとく)違(たが)はず
其仁(そのいつくしみ)親(したしむ)べく其 言(ことば)信(まことに)すべし洪水(こうすい)を治(おさ)めて大に功(こう)あり故(かるがゆへ)に
舜(しゆん)の禅(ゆつり)を受(うけ)て帝位(ていゐ)に即(つ)き天下を分(わか)つて九別(こゝのつ)とし
田土(でんど)の高下(かうげ)を差(わか)ち貢税(みつき)の式度(のり)を定(さため)井田(せいてん)とて田畠(てんばた)を井(い)
の字(じ)の如(ごと)く分(わか)ち其(その)中(まんなか)一つを年貢(ねんぐ)に奉(たてまつ)り廻(めぐ)り八つを農民(のうみん)
の徳用(とくよう)にすべしと定(さだめ)たまふ万民(ばんみん)観(よろこび)【歓の誤ヵ】楽(たのしみ)て天下大に治る或時(あるとき)
禹王(うわう)自(みづから)四方(よも)に巡狩(くにめぐり)し給ふ道にて江(ゑ)を渡(わた)り給ふに忽(たちまち)波(なみ)
起(たつ)て黄竜(きいろのりやう)船(ふね)を犯(おか)す舟中(ふねのうち)の人 惧(おそれ)て大に哭(なく)禹王(うわう)舟の覆(かへ)
らんとするを見て大に嘆(なげ)き天を仰(あをい)でぼ某(それかし)命(めい)を天(てん)に受(うけ)
力(ちから)を竭(つく)して万民(ばんみん)を救(すく)ふ奈何(いかん)ぞ竜(りやう)に憂(うれふ)と言(のたまひ)て剣(つるぎ)を抜(ぬい)て
うち振(ふり)給へば竜(りやう)は其(その)威(ゐ)におそれ首(かしら)を俛(ふせ)尾(を)を低(たれ)て去(さる)
こゝに於(おい)て王の舟(ふね)恙(つゝか)なく岸(きし)に至(いた)る 古今註(ここんちう)には黒竜(こくりやう)と
あり又 朗詠集(らうゑいしう)にも此 詩(し)あり

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】【句点の「・」を「。」にす。】
    劉類(りうるい)竜肉(りやうにく)を醢(しゝびしほ)にする事
夏(かの)禹王(うわう)より十五代の帝(みかどを)孔甲(こうかう)と云(いふ)。鬼神(おにかみ)を好(この)み淫乱(いんらん)を
事(こと)とし政道(まつりごと)正(たゞし)からざりしが。一日(あるひ)朝門(みかどのもん)の外(そと)に雌雄(しゆう)二つの
竜(りやう)。天より降(くだり)て升(のぼ)らず。帝(みかど)其 吉凶(きつけう)を群臣(ぐんしん)に問(とふ)。蔡史(さいし)と
いふ臣(しん)。奏(そう)して曰(いわく)これ吉祥(きちじやう)の瑞相(ずいさう)なり。宜(よろ)しく是を養(やしなふ)て
おのづから去(さる)を待(まち)たまへと。帝(みかど)奏(そう)に准(したが)ひ。すなはち劉類(りうるい)と
云(いふ)臣(しん)に宣(みことのり)して是を養(やしなは)しむ。劉類(りうるい)よく飲食(いんしよく)を調和(とゝのへあわ)して
養畜(やしなふ)こと。おこたらざりしが。或時(あるとき)雌(し)【左ルビ:めん】竜(りやう)たちまち死(し)したり。
劉類(りうるい)これを醢(しゝびしほ)にして帝(みかと)にたてまつる。孔甲(こうかう)是を食(しよく)するに
其 味(あぢわひ)はなはだ美(び)【左ルビ:うまし】なりければ。再(ふたゝ)び劉類(りうるい)に雄(おんの)竜(りやう)をも醢(ひしほ)
にして献(たてまつ)るべきよし勅定(ちよくぢやう)ある。劉類 思(おも)ふやう。自死(おのづからし)する者(もの)
こそ醢(しゝびしほ)にもなるべけれ。生(いき)たる竜(りやう)はいかにしてか。近付(ちかづき)殺(ころ)す事を
得(ゑ)んやと。大におそれて夜中(やちう)に逃去(にげさる)。帝(みかと)は此 由(よし)を聞(きゝ)。大に

【左丁】
怒(いか)り武士(ぶし)三百人に命(みことのり)して竜(りやう)を捉(とら)しむ武士(ふし)等(ら)養竜(ようりやう)の
池水(いけみず)を放(はなち)乾(かは)かし矢(や)を揃(そろへ)て是を射(い)る竜(りやう)はよく霊(れい)に通(つうず)る
物なれば身(み)を飜(ひるがへ)して一たび揺(ゆる)げば忽(たちまち)空(そら)かき曇(くも)り雨風(あめかぜ)
しきりに吹(ふき)降(おち)て雲(くも)を半空(なかぞら)に騰(のぼ)し三百人の武士(ぶし)みな池(いけの)
中に捲(まき)入 雷(なるかみ)電(いなつま)三日まで止(やま)ず帝(みかど)是より病(やまひ)を受(うけ)て遂(ついに)崩(ほうす)
 趙弼(てうひつ)評(ひやう)して曰(いわく)四霊(しれい)の物 竜(りやう)より霊(あやしき)はなし能(よく)幽(かすか)に能(よく)明(あきらか)に大小に
 変化(へんくわ)し飛騰(とびのぼること)量測(はかりしる)べからず故(かるがゆへ)に升(のほり)降(くだる)之(の)際(あいた)雷電(らいでん)風雨(ふうう)其(その)神異(あやしき)を助(たすけ)
 雲気(うんき)晦瞑(くらく)山嶽(やまだけ)形(かたち)を失(うしな)ひ江河(ゑかわ)泛(うかれ)溢(あふれ)波涛(なみ)震(ふるひ)蕩(たゞよふ)孰(たれ)か能(よく)これに
 近付(ちかづか)んや若(もし)擾(なれ)養(やしなひ)すべくは牛(うし)馬(むま)と異(こと)なる事なし必(かなら)ず時(とき)に或(ある)ひは
 異物(ことなるもの)竜(りやう)の形(かたち)に肖(に)たる者(もの)あつて故(かるがゆへ)にこれを養(やしなふ)事を得(ゑ)たる歟(か)吾(われ)は
 信(しん)ぜずと或(ある人の)曰(いわく)然(しか)らば三百の武士(ぶし)竜(りやう)のために池(いけ)中に捲(まき)入られしと
 云(いふ)も非(ひ)なるか散人(さんじん)が曰(いわく)是は竜と云(いへ)るを以(もつ)てかくの如(ごと)く勢(いきほひ)を書(かけ)り
 文勢(ぶんせい)と云もの也今 画工(ゑかき)の竜を象(かたと)るに四足(しそく)に火炎(くわゑん)を画(かく)も勢(いきほひ)を写【左ルビ:うつす】筆勢(ひつせい)也

【両丁 挿絵のみ】

【右丁】
伊尹(いいん)は元(もと)莘(しん)と云所の農民(のうみん)なりしが成湯公(せいとうこう)其 賢才(けんさい)なるを知(し)り召(めし)て
これを用(もち)ひ夏(かの)桀王(けつわう)を伐(うつ)桀王(けつわう)大 勇(ゆう)にして責(せむ)ること能(あた)はず伊尹(いいん)十(じう)
面(めん)埋伏(まいふく)の謀(はかりこと)を成(な)し遂(つい)に桀(けつ)を亡(ほろぼ)し成湯(せいたう)を帝位(ていゐ)に即(つけ)其後(そのゝち)湯王(たうわう)の
孫(まご)大甲(たいかう)位(くらい)即(つき)て無道(ふたう)なりければ是を桐宮(とうきう)に廃(はい)して諸侯(しよこう)とし
伊尹(いいん)政(まつりごと)を摂(せつ)【左ルビ:とる】すること三年大 甲(かう)過(あやまち)を悔(くや)み仁義(じんぎ)に遷(うつ)るゆへ又大 甲(かう)を天子(てんし)とす
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
伊尹之像(いいんのざう)


   賛 ̄ニ曰
維-尹未 ̄タ_レ遇(-) ̄セ耕 ̄ス_二於有莘 ̄ニ_一《振り仮名:嚚-々|チン〳〵》 ̄トシテ自-得 ̄ス尭舜 ̄ノ君民三 ̄タヒ使 ̄ム_二往 ̄テ聘 ̄セ_一幡-然 ̄トシテ而起 ̄テ
五 ̄タヒ就 ̄テ五 ̄タヒ反 ̄ル推壑若巳 嗣(ツク)王不_レ恵亦子 ̄ヤ之 辜(ツミ)克終允徳可以托孤

【左丁】
殷(いん)の高宗(かうそう)字(あざな)は武丁(ぶてい)一夜(あるよ)御 夢(ゆめ)に白髪(はくはつ)の翁(おきな)ありて政(まつりごと)を弼(たす)け良(よく)天下 治(おさめ)
しと見(み)たまふ覚(さめ)て後(のち)其 翁(おきな)の皃(かたち)を絵(ゑ)に画(かゝ)せて此 図(づ)に似(に)たる人を
尋(たづね)て召来(よびきた)るべしとて国々(くに〴〵)を周(あまね)く求(もとめ)しめたまへば果(はた)して版築(はんちく)の間(あいた)
に一人の翁(おきな)ありけるが絵図(ゑづ)を合(あわ)せ見たりしに少(すこし)も違(たか)はず帝(みかと)よろこび
召(めし)出され此人を用(もちひ)て政事(まつりこと)を行(おこな)ひ給ふより天下大に治(おさま)りける
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
   賛曰
身 蘊(ツヽミ)_二綸 ̄ヲ_一隠 ̄ル胥-靡 ̄ノ中 ̄チニ_一実天 生(ナセリ)_レ徳 ̄ヲ聖 ̄ヲ自神-通 ̄ス作(タツテ)
相(タスク)_二商 ̄ノ邦 ̄ヲ_一啓(ヒラキ)-_二沃(ソヽキ)宸-衷 ̄ヲ_一為(ナス)_二霖 ̄ヲ一-代 ̄ニ_一万-古長-風

【右から横書き】
傅(ふ)説(ゑつ)之(の)像(ざう)

【右丁】
殷(いんの)紂王(ちうわう)妲己(だつき)を寵愛(てうあい)し婬宴(いんゑん)
を楽(たのしみ)て政事(まつりこと)に荒(すさ)む其時
雲中子(うんちうし)と云 道士(だうし)分野(ぶんや)をみるに
妖気(ようき)あり怪(あやしみ)て照魔鏡(せうまきやう)に
向(むかひ)て是を見れば九(きう)尾(び)【左ルビ:を】
の老狐(ふるぎつね)帝宮(ていきう)にあり
雲仲子(うんちうし)の曰(いわく)吾(われ)此 邪魅(じやみ)を
除(のぞ)き国民(くにたみ)を救(すく)はんと
則(すなはち)山に入千 年(ねん)の枯木(こぼく)
を取(とり)て一つの剣(けん)を作(つく)り
紂王(ちうわう)に献(たてまつ)り今 妖気(ばけもの)宮殿(ごてん)に
蔵(かく)る此 宝剣(ほうけん)を帯(おび)給はゞおのづから
退(しりそ)き去(さる)べしと王(わう)喜(よろこん)で是を帯(おぶ)
妲己(だつき)が曰 妾(われ)本(もと)より深(ふかき)閨(ねや)に生長(そだち)
て剣戟(つるぎ)をみれば心 驚(おどろ)き病(やまひ)をなす
是は雲中子(うんちうしか)邪術(じやじゆつ)をもつて我(わ)か王(わう)を迷(まよ)
はすなりと王 則(すなはち)木剣(もくけん)を焼捨(やきすつる)夫(それ)より
悪行(あくぎやう)日々(ひゞ)に増(ま)し終(つい)に紂(ちう)王亡(ほろ)びける

【挿絵中の文字】
雲仲子(うんちうし)

【左丁】
太公望(たいこうばう)姓(しやう)は呂(りよ)名(な)は尚(しやう)と云(いふ)
よく天文(てんもん)地理(ちり)を明(あき)らめ
軍法(ぐんほふ)に達(たつ)し聡明(さうめい)叡智(ゑいち)
なれども時(とき)に遇(あわ)ず家(いゑ)極(きはめ)
て貧(まづ)し殷(いん)の紂王(ちうわう)が悪(あく)
行(ぎやう)無道(ぶたう)なるを避(さけ)て周(しう)の
文王(ぶんわう)の地(くに)へ徒(うつ)り磻溪(はんけい)と
云(いふ)所(ところ)に住(す)み釣(つり)を垂(たれ)て世(よ)を
渡(わた)り道(みち)を曲(まげ)て仕(つかふ)ることを
求(もと)めず不義(ふぎ)の富貴(ふうき)を願(ねが)
はず清貧(いさぎよき)を楽(たのし)む妻(つま)を馬氏(ばし)
と云(いふ)その貧苦(ひんく)に堪(たへ)かね離(り)
別(べつ)すべしと云 呂尚(りよしやう)の曰(いわく)我(わが)年(とし)
八十になるならば必(かなら)ず世(よ)に出(いて)
汝(なんぢ)等(ら)を安楽(あんらく)ならしめむ

【右丁】
今(いま)しばらく時節(じせつ)を待(まつ)べしとて毎日(まいにち)海浜(はまべ)に出て魚(うを)をつる一(ある)
日(ひ)妻(つま)餉(ひるめし)を持(もち)行(ゆき)私(ひそか)に籃䉪(うをかご)を見るに魚(うを)一つもなし他人(たにん)は多(おゝく)
魚(うを)を釣得(つりゑ)たるにいかなれば籠(かご)の空(むなし)きぞとて其 釣竿(つりざほ)を取て
みれば鉤(つりばり)【鈎は俗字】を曲(まげ)ず直(すぐ)なる針(はり)にて餌(ゑば)もなし妻(つま)怒(いかり)て曰(いわく)今(いま)まては
御身(おんみ)賢才(けんさい)有といへども時(とき)に遇(あは)ざると思ひしが此 鉤(はり)を見て御 身(み)
の愚昧(おろか)なることをしれり早(はや)【里は誤】く離別(りべつ)して旧里(ふるさと)にかへり老期(らうご)を心
安(やす)くすべしと云 呂尚(りよしやう)の曰(いわく)我(われ)飢(うへ)て死(し)す共 心(こゝろ)を曲(まげ)て科(とが)なき物を取(とる)
事を好(この)まず直(すぐ)なる鉤(はり)にかゝるは天命(てんめい)の尽(つき)たる魚(うを)なれば取て生(なりわひ)
とすべし又 西北(にしきた)の方(かた)に当(あたつ)て奇瑞(きすい)なる雲(くも)あり三年の内必す
王侯(わうこう)来り我を迎(むかへ)給ふべし其時 汝(なんぢ)を栄花(ゑいぐわ)ならしめて今(いま)までの
困苦(くるしみ)を報(ほう)ずべしとてさま〴〵にさとすといへども妻(つま)真(しん)ぜず
先(さき)に御身(おんみ)八十に及(およ)ばゞ世(よ)に出(いづ)べしと云(いひ)たまへども今に富貴(ふうき)
来(きた)らず我(われ)すでに老(おひ)極(きわま)りたとへ死期(しご)に富貴(ふうき)になりたり
とも何(なに)の楽(たの)しむ事あらんと云 呂尚(りよしやう)の曰(いわく)時(とき)至(いた)らばかならず運(うん)
を開(ひら)くべし其時 汝(なんぢ)くやむべし妻(つま)聞(きゝ)入ず袖(そで)を払(はら)ふて去(さ)る

【左丁】
周(しう)の文王(ふんわう)一夜(あるよ)夢(ゆめ)に一の
熊(くま)東南(とうなん)より飛(とび)入 側(かたはら)に
侍(はんべ)るに百官(ひやくくわん)みな拝伏(はいふく)す
と見給ふ覚(さめ)て後(のち)群臣(ぐんしん)
に問(とひ)たまふ散宜生(さんぎせい)が曰(いわく)
熊(くま)は良獣(りやうじう)【左ルビ:よきけもの】なるに飛翼(つばさ)を
生(しやう)ずる事は是わが公(きみ)賢(けん)
相(しやう)を得(ゑ)給ふべし座(ざ)の側(かたはら)
に侍(はんべ)り百 官(くわん)拝賀(はいが)するは
君(きみ)の左右(さゆう)に相(しやう)たる者(もの)也
公(きみ)よろしく東(ひがし)南(みなみ)に猟(かり)
して賢人(けんじん)を求(もと)めたまへ
文王(ぶんわう)の曰(のたまはく)夢(ゆめ)なんぞ信(しん)ず
るにたらん宜生(きせい)がいわく
むかし商(しやう)の高宗(かうそう)は夢(ゆめ)に
良弼(りやうひつ)【左ルビ:よきたすけ】を見て其(その)賢人(けんじん)の

【右丁】
相(さう)を絵図(ゑづ)に画(かゝ)せて遍(あまね)く天下を求(もと)めたまふに果(はた)して傅説(ふゑつ)を
得(ゑ)給へり我公(わがきみ)ゆめを軽(かろ)んじたまふ事なかれ爰(こゝ)におゐて
文王(ぶんわう)大によろこび文武(ぶんぶ)の諸臣(しよしん)と共(とも)に東南(とうなん)に狩し給ふ
に賢人(けんじん)に逢(あい)たまはず散宜生(さんぎせい)が曰(いわく)むかし湯王(たうわう)の伊尹(いいん)を莘(しん)
野(や)に聘(とひ)給ひし時も三たび至(いたり)て後(のち)に出たり我君(わがきみ)賢者(けんしや)を
得(ゑ)んとおぼしめさば潔斎(けつさい)してふたゝび行(ゆき)たまへかならず
賢人(けんじん)に逢(あひ)たまはん文王の曰(のたまは)く宜生(ぎせい)が言葉(ことば)わが意(こゝろ)にかな
へり古人(こじん)君子(くんし)の郷(さと)に入るに車(くるま)を枉(まげ)て式(しよく)すといへり賢(けん)を
うやまふの礼(れい)疎(おろそか)にすべからずとて斎戒(ものいみ)して又 磻溪(はんけい)に
至(いた)りたまひ呂尚(りよしやう)にまみへ其 姓名(せいめい)をたづね給へば呂尚(りよしやう)姓(しやう)
は姜(きやう)名(な)は尚(りよ)【呂の誤ヵ】字(あさな)は子牙(しが)又 飛熊(ひゆう)と号(がう)すと文王(ふんわう)のたまはく飛(ひ)
熊(ゆう)夢(ゆめ)に入しは此人なりとて車(くるま)に乗(の)せて朝(てう)にかへり給ふ

      四之巻終

【左丁 見返し 文字無し】

【裏表紙】

百人一首

《題:百人一首 女消息往来》

【資料整理ラベル】
TIAO
14
68

日本近代教育史
  資料

歌は常にいへることはを三十一文字につゝり
あるはことを問ひものを答ふことはつかひの
わゝきなんことを学へる端なれは殊に女子の
翫ふへきものなりされは世のいとなみのいとま
なく歌よむことのならぬ身は常に古歌を吟
すへしおのつから歌の心を得てことはの
やはらく便ともならんかし

【右丁】
定家卿(ていかきやう)
  小倉山(をぐらやま)の
   別荘(べつさう)に
      て
 百首(ひやくしゆ)の
  和歌(わか)を
 認(したゝ)め
  たまふ
     図

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
  女中こと葉【以下紙面欠損】
小袖(こそで)を  ごふく   たいを  お【以下欠損】
わたを  おなか   かつをゝ かた〳〵   か【以下欠損】
はながみを おさし  いはしを  おむら   すり□□を ら【以下欠損】
べにを  おいろ   くじらを  おさくり  れんぎを  こからし
こめを  うちまき  すしを  《割書:月夜| 又すもじ》   せつかいを  うぐいす
みづを  おひや   ごまめを ことのはら  しやくしを  しやもじ
たんごを  いし〳〵  たこを  たもし   白はしを  ねもじのはし
もちを   かちん   うをを  おなま   杉はしを  ■りかいのはし
さけを  《割書:九こん| 又さゝとも》  ゑびを  ゑもじ   かみそりを  おけたれ
めしを   おこゞ  かすのこを かず〳〵  舛(ます)を   よはう
ひしほを  あまむし  大こんを からもの  ねるを  おしづまる
醤油(しやうゆ)を  おひたじ  そうめんを  ぞろ   おきるを おひるなる
しほを  なみのはな ふのやきを あさがほ   此余(このほか)ならひ知(し)るべし

【左丁 上段 挿絵】
【同 下段】
  天智天皇(てんちてんわう)
秋(あき)の田(た)の
 かりほの
庵(いほ)
 の
苫(とま)
 を
あらみ
  わが衣(ころも)
    □(で)【以下欠損】
 □(つゆ)【以下欠損】

【右丁 上段 挿絵のみ】
【同 下段 行初部欠損】
春【以下欠損】
来(き)にけらし
 白妙(しろたへ)の
衣(ころも)ほす
 てふ
あまの
 かぐ山(やま)

【左丁 上段】
○女(おんな)消息(せうそく)往来(わうらい)
およそ婦人(ふしん)女子(によし)の
文(ふみ)玉章(たまづさ)は一筆文(ひとふでふみ)
して申上 示(しめ)し
そうろうべく候 御書(ごしよ)拝見(はいけん)御(おん)
消息(せうそく)拝(はい)し上(あげ)御細(おんこま)
々(〴〵)との御ふみ下(くだ)され
御 文(ふみ)のやう繰返(くりかへ)し
詠(なが)め入そうろうべく候 年始(ねんし)
七種(なゝくさ)までは初春(はつはる)あ

【同 下段】
 柿本人麿(かきのもとのひとまろ)
あしびきの
 山どりの


しだり
  おの
 なが〳〵
   しよを
  ひとり
    かもねむ

【右丁 上段】
ら玉(たま)七日過(なぬかすぎ)は尽(つき)せ
ぬはる此春(このはる)の御 寿(ことぶき)
御 目出(めで)たき御祝儀(ごしうぎ)
いづかたも千里(ちさと)
も同(おな)じ御 事(こと)祝(いはひ)
ひ【衍】納(おさめ)参(まい)らせ候
上々(うへ〳〵)様(さま)がた若殿(わかとの)
様 御姫様(おひめさま)御惣容(ごそうよう)
様(さま)其(その)御程(おんほど)さま
御手まへさま御まへ

【左丁 上段】
さま御 夫(それ)さま御とり〴〵
さま御 遊(あそ)ばし遊ば
されます〳〵いよ〳〵
御機嫌よく御 障(さわり)
なふ御 息(そく)もじ甲(か)
斐(ひ)ある春(はる)若葉(わかば)
のはるをむかへさせ
られ御 年(とし)かさね
御 祝儀(しうぎ)相替らず
御 賑々(にぎ〳〵)しく御 祝(いは)ひ

【右丁 下段】
 山部赤人(やまべのあかひと)
田子(たご)の浦(うら)に
 うち
いでゝ

 れ
  ば
 白(しろ)たへの
  ふじの
   たかねに
雪(ゆき)はふりつゝ

【左丁 下段】
 猿丸太夫(さるまるだゆう)
奥山(をくやま)にもみぢ
 ふみ
  わけ
なく
鹿(しか)
 の
こゑきく
  ときは
 秋(あき)は
  かなしき

【右丁 上段】
幾万々年(いくまん〳〵ねん)もち代
万代の末(すへ)までも
限(かぎ)りなふかず〳〵
御 目出(めで)たく爰元(こゝもと)
此方(こなた)皆々(みな〳〵)かはり
なふおそれながら
憚(はゞかり)なから御 心(こゝろ)易(やすく)
思召(おぼしめ)し御 案(あん)じ
下さるまじく
御きもじやすふ

【左丁 上段】
態と相祝(あいいは)ひ御 鏡(かゞみ)
餅(▢▢)幾飾(いくかさり)田作(たつくり)数(かすの)
子(こ)串海鼠(くしこ)串貝(くしかい)
進上(しんじやう)致し差上(さしあげ)
御 目(め)にかけ贈下(おくりくだ)
され有(あり)かたく忝
さこれよりも取(とり)
あへす麤末(そまつ)ながら
軽少(けいしやう)ながら御とし
玉のしるしまで

【右丁 下段】
 中納言(ちうなごん)家持(やかもち)
鵲(かさゝぎ)のわた
   せる
 はしに
をく
霜(しも)
 の
しろ
  きを
 みれば
    夜(よ)そ
  更(ふけ)にける

【査定 下段】
 安陪仲麿(あへのなかまろ)
あまのはら
 ふりさけ
 みれば


 が
  なる
 三笠(みかさ)の
   山に
 いでし
   月(つき)かも

【右丁 上段】
なを春永(はるなか)には
るふかく折角(せつかく)余(よ)
寒(かん)御 厭(いとひ)如月(きさらき)の
空(そら)にうつり日増(ひまし)
に暖(あ▢ゝか)天気(てんき)よく
麗(うららか)に日和(ひより)よく
三月 長閑(のどか)桃(もゝ)の
御 節句(せつく)御 娘子(むすめご)さま
初(はじめて)の節句 別(わけ)て
御にきやかに御祝

【左丁 上段】
内裏雛(だいりひな)一対(いつつい)前(せん)
司(し)人形(にんきやう)蓬餅(よもきもち)蛤(はまくり)
進上(しんじやう)いたし御祝 下(くた)
され幾(ゆく)久しく祝(し▢)
納(なふ)いたし花見(はなみ)汐(しほ)
干(ひ)開帳(かいちやう)参り御
遊山(ゆうさん)御 遊(あそ)び御 慰(なぐさみ)
御 楽(たのしみ)御 誘引(さそひ)御 同(どう)
道(だう)御 供(とも)申 芝居(しばゐ)
狂言(きやうけん)御 見物(けんぶつ)御 出(いで)

【右丁 下段】
 喜撰法師(きせんほうし)
わが庵(いほ)は
 みやこの
たつみ
しか
 ぞ
すむ
  世(よ)を
 うぢ山と
  人(ひと)は
  いふなり

【左丁 下段】
 小野小町(をのこまち)
花(はな)の色(いろ)は
 うつりに
 けりな
いた
 づら
  に
我身(わがみ)
 よに
  ふる
ながめ
 せし
  まに

【右丁 上段】
御 延引(ゑんいん)御 帰遊(かへりあそ)ば
され大(おほき)に絶(たへ)醉(ゑひ)
御 草臥(くたひれ)御 休(やすみ)御 隙(ひま)
御 暇(いとま)夏(なつ)は卯月(うづき)
朔日(ついたち)更衣(ころもかへ)郭公(ほとゝぎす)
の初声(はつこへ)和哥(わか)発(ほつ)
御 同(どう)秀逸(しういつ)感心(かんしん)い
だし暑(あつさ)に向(むか)ひ
入梅(にふばい)五月雨(さみたれ)降(ふり)
つゞき悪(あ)しき御

【左丁 上段】
天気(てんき)濛々(もう〳〵)しく
鬱陶(うつとう)しく御 徒然(つれ〴〵)
菖蒲(あやめ)の御 祝儀(しうぎ)御(ご)
惣領(そうれう)様(さま)御 子息(しそく)様(さま)
御 幟(のほり)壱 対(つい)御 兜(かぶと)
一錺(ひとかさり)菖蒲(しやうぶ)刀(かたな)相(あい)
祝(いは)ひ御目にかけ柏(かしは)
餅(もち)御 重(ぢう)の内(うち)打寄(うちより)
御 賞翫(しやうくわん)もふし上
土用(とよう)に入(いり)殊(こと)のほか

【右丁 下段】
 蝉(せみ)丸
これやこの
  ゆくも
 かへるも
わか

 ても
 しるも
 しらぬも
  逢坂(あ▢さ▢)の
     関(せき)

【左丁 下段】
 参議(さ▢き)篁(たかむら)
和(わ)田のはら
 八十島(やそしま)
かけ
 て
こぎ
 出(いて)ぬ
   と
 人(ひと)には
  告(つげ)よ
 あまの
   つり船(ふね)

【右丁 上段】
の御 暑(あつ)さ御 見舞(みまひ)
御 尋(たづね)楼舟(やかたふね)にて
夕涼(ゆふすゝし)み花見(はなみ)御
見物(けんぶつ)秋(あき)は文月(ふみづき)
残暑(ざんしよ)つよく七夕(たなばた)
の御 祝義(しうぎ)生身(いきみ)
魂(たま)蓮(▢す)の飯(いひ)刺鯖(さしさば)
の贈物(おくりもの)霊祭(たままつり)盆(ほん)
過(すぎ)より次第(しだい)にお
すゞしく俄(にはか)に

【左丁 上段】
冷々(ひへ〳〵)しく八朔(はつさく)田(たの)
面(も)の祝(いは)ひ待宵月(まつよひつき)
見(み)十六夜(いざよひ)の腰折(こしをれ)
御はづかしく御 添(てん)
さく御 直(なを)し願(ねがひ)
上(あげ)九月(くぐはつ)菊(きく)がさね
の御 祝儀(しうき)美(うつく)し
き御 小袖(こそて)見事(みごと)成(なる)
御 さかな壱折(ひとをり)一(ひと)か
□【汚損】御 庭(には)の菊(きく)の花(はな)

【右丁 下段】
 僧正(さうぜう)遍昭(へんせう)
天(あま)津風
  雲の
かよひ
  ぢ
吹(ふき)
とぢ
  よ
 乙女(おとめ)の
   すが□【たヵ】
しばし
  とゞめ
     む

【左丁 下段】
 陽成院(ようぜいいん)
つくばねの
みねより
  おつる
 みなの
  河(かは)
恋(こひ)
 ぞ
 つもりて
ふちと
  成(なり)
   ぬる

【右丁 上段】
下(くだ)され御 手入(ていれ)のほ
ど感(かん)じ入(いり)冬(ふゆ)十月(じふぐわつ)
より日増(ひま[し])に御 寒(さむく)
夷講(ゑびすこう)家内(かない)残(のこ)ら
ず御 招(まね)き 御 取(とり)は
やし毎度(まいど)毎(いつ)も
種々(しゆ〴〵)いろ〳〵御 丁(てい)
寧(ねい)好物(こうぶつ)の御 馳走(ちそう)
御 饗応(もてなし)御 振廻(ふるまひ)御
世話(せわ)に成(なり)御 世(せ)もじ

【左丁 上段】
浅(あさ)からず御 忝(かたしけなく)山々
うれしく御礼申
尽(つく)しかたく霜月(しもつき)
師走(しはす)寒(かん)に入(いり)雪(ゆき)
ゆへ別(べつ)して寒強(かんじつよ)く
寒明(かんあけ)ては余寒(よかん)也
歳暮(せいほ)年(とし)の尾(を)暮(くれ)
の御めでたさ嘸々(さぞ〳〵)
御 取込(とりこみ)の御 事(こと)御 事(こと)
多(をほ)く御 世話(せわ)しく

【右丁 下段】
 河原左大臣(かはらのさだいしん)
みちのくの
 しのぶ
もぢ

 り
誰(たれ)ゆへに
 みだれ
 そめにし
我なら
  なくに

【左丁 下段】
 光孝天皇(くはうかうてんわう)
君がため
   春(はる)の
 野(の)にいでゝ
わかな
   つむ
我(わか)
 衣(ころも)
  手(で)
   に
雪(ゆき)は
 降(ふり)
  つゝ 

【右丁 上段】
御いそもし御 察(さつ)し
申上御 推(すい)もじ
おしはかり差懸(さしかゝり)
指急(さしいそ)きさし支
拠(よんどころ)なく御無心(ごむしん)扨(さて)
又(また)平生(へいせい)女子(おなご)の嗜(たしなむ)
べき芸能(げいのう)は手(て)
習(なら)ひ縫(ぬい)はり躾(しつけ)
がた歌道(かだう)活華(いけばな)
香(かう)の道(みち)糸竹(いとたけ)の

【左丁 上段】
調(しら)べ也御 奉公(ほうこう)宮仕(みやつかへ)
召抱(めしかゝへ)られ殿様(とのさま)御(おん)
奥様(をくさま)《割書:被》御 目見(めみへ)老(ろう)
女(しよ)局(つぼね)御 年寄(としより)御 側(そば)
呉服(ごふく)の間(ま)物縫(ものぬい)針名(しんみやう)
【挿絵あり】

【右丁 下段】
 中納言(ちうなごん)行平(ゆきひら)
立(たち)わかれ
いなばの
  山(やま)の
みねに

 ふ
  る
 まつとし
   きかば
いま
  帰りこむ

【左丁 下段】
 在原業平(ありわらのなりひた)
    朝臣(あそん)
千早振(ちはやふる)
神代(かみよ)も
 きかず
立(たつ)
田(た)
河(かは)
から
 くれ
 なゐに
水(みづ)
 くゞる
  とは

【右丁 上段】
御 乳人(ちのひと)御 傅(もり)御 小性(こしやう)
腰元(こしもと)御 次(つき)御 右筆(ゆうひつ)
御 茶(ちや)之間(ま)御 仲居(なかゐ)
御 末端(すへは)女部屋方(しよへやがた)
傍輩(ほうはい)睦敷(むつまじく)勤向(つとめむき)
大切(たいせつ)に致(いた)し結構(けつはう)【ママ。「こう」の誤ヵ】
仰付(おふさつけ)【ママ】られ立身(りつしん)
出世(しゆつせ)あるべき也
存(そんじ)寄(よ)らず御 加増(かざう)
御 巻物(まきもの)紗綾(さや)縮(ちり)

【左丁 上段】
緬(めん)綸子(りんす)緞子(どんす)【純は誤】羽二(はぶた)
重(へ)縮(ちしみ)晒(さらし)絹類反(きぬるいたん)
物(もの)御目録(おんもくろく)拝領(はいれう)い
たし戴(いたゞ)き冥加(みやうか)
にあまり御 序(ついで)の
節(ふし)御 礼(れい)よろしく
御 執成(とりなし)御 沙汰(さた)御 披(ひ)
露(ろう)願上(ねがひあげ)御 頼(たのみ)申上
参らせ候御 吹聴(ふいちやう)御
羨(うらやま)しく漸(やうやく)年(とし)

【右丁 下段】
 藤原敏行朝臣(ふぢはらのとしゆきあそん)
住(すみ)の江の
 きしに
 よる波(なみ)
よる

 へ
  や
夢(ゆめ)の
 通路(かよひち)
 人(ひと)め
  よくらむ

【左丁 下段】
 伊勢(いせ)
難波潟(なに▢がた)
みじかき
 あしの
ふしの
 まも
あは
 で
此よ
  を
 すぐして
 よとや

【右丁 上段】
闌(たけ)縁付(ゑんづき)ては夫(おつと)を
敬(うやま)ひ舅(しうと)姑(しうとめ)に孝(かう)
あるべし此中(このちう)此(この)
間(あいだ)此度(このたび)先(せん)もじは
御 日柄(ひから)よく御 結納(ゆひなふ)
御 印(しるし)御 取替(とりかはし)し家(や)
内(ない)喜多留(きだる)昆布(こんぶ)
寿留女(す▢め)帯(おび)あるひ
は帯代(おびだい)分限(ぶんぎん)に寄(よる)
なり御 婚礼(こんれい)御 祝(しう)

【左丁 上段】
言(げん)首尾(しゆび)よく御 調(とゝのひ)
御 里開(さとひら)き御 聟入(むこいり)
御 滞(とゞこをり)なく済(すま)せられ
御 勇敷(いさましく)千秋(せんしう)万(まん)
歳(さい)いく千代(ちよ)も限(かきり)
なふ御 目出度(めでたく)御(ご)
祝義(しうぎ)御 歓(よろこ)び御 初々(うゐ〳〵)
しく御 馴染(なじみ)御 安(あん)
産(ざん)ことに御 男子(なんし)様(さま)
御 出生(しゆつしやう)御 誕生(たんじやう)御 両(りやう)

【右丁 下段】
 元良親王(もとよししんわう)
侘(わび)ぬれば
いまはた
 おなし
なに
 は
なる
 身(み)を
 つくし
   ても
あはむとそ
   おもふ

【左丁 下段】
 素性法師(そせいほうし)
いまこむと
  いひし
 ばかりに
長月(ながつき)の
 有(あり)
 明(あけ)
 の
月(つき)を
 まち
 出つる
   かな

【右丁 上段】
人(にん)様とも御 丈夫(ぢようぶ)御
達者(たつしや)に御 血(ち)ごゝろ
もなふ御 肥立(ひだち)なさ
れ御 両親(りやうしん)様(さま)嘸々(さぞ〳〵)
御 歓(よろこび)御 満足(まんぞく)御 安堵(あんど)
御 七夜(しちや)御 名付(なつけ)御 夜(や)
食(しよく)食籠(ぢきろう)一荷(いつか)重(ぢう)
之(の)内(うち)一組(ひとくみ)進上(しんじやう)御
髪置(かみおき)御 袴着(はかまぎ)御
帯解(おびとき)御 元服(げんぶく)御 顔(かほ)

【左丁 上段】
直(なをし)御 鉄漿(かね)召上(めしあけ)ら
れ能(よく)御 似(▢)【にヵ】合(あひ)其後(そののち)
は久々(ひさ〳〵)打絶(うちたへ)御 遠々(とを〳〵)
しく御 疎々(うとし)しく
御 懐(なつ[か])しく御 床(ゆか)しく
【挿絵あり】

【右丁 下段】
 文屋康秀(ぶんやのやすひで)
吹(ふく)からに
   秋(あき)の
くさ

 の
しほる
  れば
 むべ山(やま)
   かぜを
あらしと
  いふらむ

【左丁 下段】
 大江千里(おほえのちさと)
月(つき)みれはちゞに
  ものこそ
 かなしけれ


身(み)
 ひとつ
    の
あきには
 あらねど

【右丁 上段】
何角(なにかと)彼(かれ)これ御 取(とり)
まぎれ御 無沙汰(ぶさた)
御 噂(うはさ)申(▢▢し) 暮(くらし)御(お)子
さまがた御さえ〳〵
しく御 成人(せんしん)【ママ】御 成(せい)
長(ちやう)能(よふ)ぞや御 出(いで)
御 入(いり)緩々(ゆる〳〵)御 目(め)もじ
御 物語(ものがたり)いたし御 嬉(うれ)
敷(しく)併(▢▢▢▢) 去(▢り)なから
余り御 早々(そう〳〵)御 麤(そ)

【左丁 上段】
末(まつ)御 残(のこり)多(をほ)く山(やま)〳〵
御 気(き)のどく其折(そのをり)
柄(から)何寄(なにより)の御 土産(みやげ)
重宝(ちようほう)之(の)御 品(しな)沢山(たくさん)
に下(くだ)され御 用立(ようだち)候
傘(からかさ)風呂敷(ふろしき)御 持(もた)せ
御 返(かへ)し慥(たしか)に受取(うけとり)
大(をほ)きに失念(しつねん)遅(をそなは)り
御 心遣(こゝろづか)ひ御心配(ごしんぱい)
御 心置(こゝろをき)なく此品(このしな)あ

【右丁 下段】
 菅家(かんけ)
このたびは
 ぬさも
とり
あへ
 ず
 手向山(たむけやま)
 もみぢの
  にしき
神(かみ)の
 まに〳〵

【左丁 下段】
 三条右大臣(さんぜうのうだいじん)
名にし
  おはゞ
 あふさか
山(やま)

さね
 かづら
人(ひと)にし
  られで
 くるよしも
   かな

【右丁 上段】
ら〳〵しく御座(ござ)候へ
ども折節(をりふし)のまゝ
御 移(うつり)まで御覧(ごらん)に
入(いれ)御伝言(ごでんごん)御 挨拶(あいさつ)
尚又(なをまた)宜(よろしく)仰(あふせ)上(あげ)られ
下(くだ)さるべく明日(みやうにち)
御在所(ございしよ)田舎(いなか)へ御 旅(たび)
立(だち)御 発足(ほつそく)遠路(ゑんろ)は
る〴〵御 道中(だうちう)御 恙(つゝが)
なく御 着(ちやく)御 下向(げかう)

【左丁 上段】
御 礼(はなむけ)御 餞別(せんべつ)長々(なが〳〵)御
留主(るす)御 逗留(とうりう)御 淋(さみ)しく
御 退屈(たいくつ)御 当所(とうしよ)へ御 引(ひき)
越(こし)引移(ひきうつ)り万事(ばんじ)
御 差図(さしつ)御 指南(しなん)御
教訓(けうくん)御 呵(しかり)仰(おふせ)のご
とくおふせの通(とを)り
今日(こんにち)明晩(みやうばん)夕(ゆふ)かた
後(のち)ほど翌朝(よくてう)日(いつ)
外(ぞや)兼々(かね〳〵)御 隠居(ゐんきよ)様

【右丁 下段】
 貞信公(ていしんこう)
小倉山(をぐらやま)みねの
  もみぢば
 心あらば
  いま


たびの
御幸(みゆき)
 また
   なむ

【左丁 下段】
 中納言(ちうなごん)兼輔(かねすけ)
みかのはら
 わきて

 が
るゝ
いづみ
   河(かは)
 いづみき
    とてか
 恋(こひ)し
   かる
    らむ

【右丁 上段】
【挿絵の後本文】
御 法体(ほつたい)御 剃髪(ていはつ)米
々御賀 餅(もち)御 守札(まもりふだ)偏(ひとへ)
に何卒(なにとぞ)御 擬肖(あやかり)申
度(たく)自他(じた)不 快(くわい)勝(すぐ)れ
もうさす遠方(ゑんはう)わざ〳〵

【左丁 上段】
御 使(つかひ)御 念(ねん)もじ御
深切(しんせつ)いか計(ばかり)御 交(まぜ)
肴(さかな)御 菓子(くはし)下(くだ)され
早速(さつそく)取弘(とりひろ)め打寄(うちよる)
御 賞翫(しやうくわん)御 風味(ふうみ)御 病(びやう)
人(にん)さまにも少々(せう〳〵)づゝ
御 こゝろよく御 食(しよく)
事(じ)御 程(ほど)よく召上(めしあげ)
られ候 哉(や)くわしく
御 様子(やうす)うけ給り度(たく)

【右丁 下段】
 源宗于朝臣(みなもとむねゆきあそん)
山(やま)さとは
  冬ぞ
 さびしさ
まさ
 り

 る
人(ひと)めも
   草(くさ)も
 かれぬと
    おもへば

【左丁 下段】
 凡河内(おふちかふちの)
   躬恒(みつね)
心(こゝろ)あてに
 おらばや
おら
 ん
初(はつ)
しもの
をきまど
  わせる
 しらきくの
   はな

【右丁 上段】
御/容体(ようだい)/伺度(うかゞひたく)折(せつ)
角(かく)御 大切(たいせつ)御 保養(ほうやう)
御 煎薬(せんやく)御 丸薬(ぐわんやく)散(さん)
薬(やく)膏薬(かうやく)御 相応(さうをう)
御 平愈(へいゆ)御 本復(ほんぶく)夜(よ)
伽(とぎ)看病(かんびやう)御 介抱(かいほう)御
疲(つかれ)御 辛労(しんろう)御 苦労(くろう)
御 心痛(しんつう)弔(とふらひ)の文(ふみ)は
誰(たれ)さま御 病気(びやうき)の処(ところ)
御 養生(やうじやう)御 叶(かなひ)なさ
【左丁 上段】
れず御 死去(しきょ)御/臨(りん)
終(じう)のよし御しら
せうけ給はり驚(おどろき)
入(いり)御 笑止千万(しょうしせんばん)御 愁(しう)
傷(しやう)御 愁嘆(しうたん)察(さつ)し
上まいらせ候御 悔(くやみ)申
上たく早々か
     しく
返々(かへす〳〵)なを〳〵書(かく)
べからず短(みぢか)く
    有た
      し
【右丁 下段】
 壬生忠岑(みぶのたゞみね)
有明(ありあけ)のつれ
     なく
みへし
 わかれ


あか
 つき
  ばかり
うきものは
  なし

【左丁 下段】
 坂上是則(さかのうへこれのり)
朝(あさ)ぼらけ
有(あり)
明(あけ)

月(つき)
 と
みるまで
   に
 よしのゝ
   さとに
 ふれる
  しらゆき

【右丁 上段】
【挿絵の後本文】
葬送(そうそう)出棺(しゆつくわん)御 朦(もう)
中(ちう)御 忌中(きちう)御 程(ほど)
なく御 初七日(しよなぬか)御 一(いつ)
周(しう)何 年忌(ねんき)御 相当(さうどう)
さて〳〵御 間(ま)も御(ご)
座(ざ)なく嘸々(さぞ)思召(おぼしめ)し

【左丁 上段】
出(いだ)さるべく候 此品(このしな)
御 霊前(れいぜん)御 仏前(ふつぜん)へ
御 備(そな)へ御こゝろざし
御 重(ぢう)の内(うち)法事(ほふし)
仏事(ふつじ)追善(ついぜん)寺参(てらまいり)
談義(たんき)説法(せつほふ)後生(ごしやう)
菩提(ぼだい)主人(しゆしん)旦那(だんな)
親子(おやこ)祖父(ぢゞ)父(ちゝ)ともじ
母(はゝ)かもじ夫婦(ふうふ)兄(きやう)
弟(だい)姉(あね)妹(いもと)悴(せがれ)娘(むすめ)聟(むこ)

【右丁 下段】
 春道列樹(はるみちのつらき)
山河(やまかは)に風(かぜ)の
  かけたる
しが


 は
ながれ
   も
 あへぬ
もみぢ
  なりけり

【左丁 下段】
 紀友則(きのとものり)
ひさかたの
 ひかり
のど

 き
春(はる)の
 日に
しづ心(こゝろ)
   なく
花(はな)の
 ちるらむ

【右丁 上段】
娵(よめ)孫(まご)曽孫(ひこ)伯父(おぢ)
叔母(おば)甥(お[い])姪(おい)【ママ】従弟(いとこ)一(いつ)
家(け)親類(しんるい)縁者(ゑんじや)他(た)
人(にん)の間(あいだ)吉事(きちじ)凶事(きやうじ)
取遣(とりかはし)の文通(ぶんつう)際限(さいげん)
なしといへとも女(おんな)
に入用(いりよう)の文字(もんじ)
あらまし書記(かきしる)し
まいらせ候目出たく
       かしく
 消息往来終

【左丁 上段】
○男女(なんによ)相性(あひしやう)の事
庚申(かうしん)待(まち)のことは藤(ふじ)
原(はら)の清輔(きよすけ)袋草紙(ふくろさうし)
にみへたり婦人(ふじん)は常(つね)
に家(いゑ)の内(うち)にあつく
夫(おつと)しうとめに随(したが)ひ
心(こゝろ)を恣(ほしいまゝ)にすること
能(あた)はず気(き)むすぼれ
やすきゆへ癆瘵(ろうさい)と
いふ病(やまひ)いづること有
是(これ)は三尸(さんし)とて悪(あし)
き虫(むし)あり庚申(かうしん)の

【右丁 下段】
 藤原興風(ふじはらをきかぜ)
誰(たれ)をかも
 しる
人(ひと)にせん
高(たか)
砂(さこ)
 の
松(まつ)もむかしの
 友(とも)なら
  なくに

【左丁 下段】
 紀貫之(きのつらゆき)
人(ひと)はいさ
 心(こゝろ)もしら
    ず
ふる
さと
  は
花(はな)ぞ
 むかしの
 香(か)に
  匂(にほ)ひける

【右丁 上段】
夜(よ)寝(いぬ)れは其虫(そのむし)がい
をなすゆへやまひを
うくるといふ此(この)ゆへに
庚申(かうしん)の夜(よ)は寝(いね)ずし
て守(まも)るものなりとい
へりもしねぬる時(とき)
は此うたを唱(とな)ふべし
○しやむじはいぬや
 去りねやわか床(ゆか)を
 ねたれば寝(ね)ぬぞ
 ねたぞねぬるぞ

【左丁 上段】
このやうにとなへて
臥ばわざはひをま
ぬかるべし婦人は
かうしんを信(しん)ずれば
身(み)のさいわひを得
るといへり【注】
【挿絵中】
庚申(かうしん)

【注 類聚本袋草子四に「庚申せでぬる誦文 しやむしはいねやさりねやわがとこをねたれどねぬぞねねどねたるぞ」とあり。】

【右丁 下段】
 清原深養父(きよはらのふかやぶ)
夏(なつ)の夜(よ)は
まだ宵(よひ)
 ながら
明(あけ)
ぬる
  を
   雲(くも)
    の
いづこに
月(つき)やどるら
     む

【左丁 下段】
 文屋朝康(ぶんやのあさやす)
しら露(つゆ)に風(かぜ)の
 吹(ふき)しく
秋(あき)
 の
 野
  は
つらぬき
 とめぬ
玉(たま)そ
 ちりける

【右丁 上段】
男木女火子五人
あり内(うち)三人は大ひに
よしはじめは口舌(くせつ)
あれども後(のち)富貴(ふうき)也
命(いのち)もろともながし
但(たゞ)し主祖(しゆそ)のたゝり
有(あり)祭(まつ)り之よし
○男木女木 初(はしめ)よし
後(のち)悪(わる)し子(こ)二人か
五人あるべし荒神(くわうしん)
をまつりてよし
ひんせんにして取(とり)

【左丁 上段】
わけはらあしき也
○男木女土子三人
あるへし邪見なれ
ば子のゑんなしつ
ねに石ふみあり神
仏(ぶつ)につかへてよし
○男木女金はじめ
よし後(のち)あしく子(こ)
二人あるべしことに
成長(せいちやう)して口舌事(くせごと)
あるべし
○男(おとこ)木(き)女(おんな)水(みづ)生(むま)るゝ

【右丁 下段】
 右近(うこん)
わすら
  るゝ
身(み)をば
 おも

 ず
ちかひ
  てし
 人(ひと)の
  いのちの
 おしくも
  あるかな

【左丁 下段】
 参議(さんぎ)等(ひとし)
あさぢふの
をのゝ
 しのはら
しのぶ
 れ
 ど
あまり
  て
などか
人(ひと)の
 こひしき

【右丁 上段】
子五人あり富貴(ふうき)に
して命(いのち)ながし氏
神(がみ)を常(つね)にまつりて
よし田畑(たはた)にゑん
あり
○男火女火大きに
わろし子あれとも
衣食(いしよく)ともにたらず
して口舌事(くぜつこと)あり
荒神(くわうしん)を祭(まつ)りて
よし
○男火女 土(つち)大(おほき)によし

【左丁 上段】
子二人かまたは九人
あるべし富貴(ふうき)にし
て命(いのち)ながし荒(くわう)
神(じん)を祭(まつ)るべし此(この)
子の内(うち)三人とうを
立べし
○男 火(ひ)女 木(き)よし
子ふたりかもし八人
あるべし尤(もつとも)富貴(ふうき)に
して命(いのち)ながし
常(▢ね)に氏神(うぢがみ)を祭(まつ)り
てよし牛馬(きうば)にゑ

【右丁 下段】
 平兼盛(たいらのかねもり)
しのぶれど
色(いろ)に
出(で)
 に
けり
 わが
   恋(こひ)は
 ものや
   おもふと
  人(ひと)のとふまで

【左丁 下段】
 壬生忠見(みぶのたゞみ)
恋(こひ)すてふ
 わが名は
 またき
立(たち)に

 り
人(ひと)しらず
   こそ
 おもひそめ
     しか

【右丁 上段】
んあり
○男 火(ひ)女 金(かね)悪(わろ)
し但(たゞし)半(はん)吉(よ)しなり
子二人か三人ある
へし衣服(いふく)ともに
とぼしきなり但(たゝし)
人にしらるゝことも
あるべしこうじ荒神(くわうじん)を
祭(まつ)るべし
○男 火(ひ)女 水(みづ)大に
わろし子あれど
もひんせんなり又

【左丁 上段】
衣食(いしよく)ともにとぼし
きなり口舌(くぜつ)多(をほ)し
子三人の内(うち)壱人は
わろし
【挿絵】

【右丁 下段】
 清原元輔(きよはらのもとすけ)
契(ちきり)きな
かたみに
 袖(そで)を


 りつゝ
 すゑの
   まつ山
 波(なみ)こさし
   とは

【左丁 下段】
 中納言(ちうなこん)敦忠(あつたゞ)
あひみての
後(のち)の
心(こゝろ)
 に
くら
 ぶ
  れば
むかしは
  ものを
 おもはざり
    けり

【右丁 上段】
男(おとこ)土(つち)女(おんな)土(つち)半吉(はんよし)なり
はじめよし後(のち)わろし
子三人あり何事も
おもふにちからなし
やまひあり
○男 土(つち)女 金(かね)大(おほひ)に
よし子(こ)九人あるべし
田畑(たはた)につきてこと
によしつねにかま
の神(かみ)をまつるべし
何(なに)ごともこゝろのご
とくめでたし

【左丁 上段】
○男 土(つち)女 水(▢つ)大(おほ)ひに
あしく子なし
なにごとも心(こゝろ)ならず
ものをうちをとす
やうにてちからな
し氏神(うちがみ)をまつる
べし後(のち)はよし
○男 土(つち)女 木(き)半吉(はんよし)
なりはしめまづし
ければ後(のち)はよし子
五人あるべしさぶら侍(さむらひ)は
所領(しよりやう)をもち下郎(げらう)は

【右丁 下段】
 中納言(ちうなごん)朝忠(あさたゞ)
逢(あふ)ことの
 たへて
  し
なく
 ば
なか〳〵
    に
 人(ひと)をも
   身(み)をも
うらみ
 ざらまし

【左丁 下段】
 謙徳公(けんとくこう)
哀(あはれ)ともいふべき
  人(ひと)は
おもほえて
身(み)の

 た
 づらに
なりぬべき
   かな

【右丁 上段】
あきなひによし
○男 土(つち)女 火(ひ)大(おほ)きに
よし子五人ありい
しよくともに多(をほ)し
何ごともこゝろのまゝ
なるべし無病(むひやう)に
して命(いのち)長(なが)し
常(つね)に地神(ちじん)を祭(まつ)る
べし
○男 金(かね)女 金 大(おほひ)に
わろし子三人 有(ある)
べしやまひつねに

【左丁 上段】
たへす但(たゝ)してん
神(しん)を祭(まつ)れば後(のち)は
よし秋(あき)に入てよし
○男 金(かね)女 木(き)大きに
わろし子二人あれ
ども一人はかたわな
るべし心のまゝなら
ずして口舌(くせつ)たへす
○男 金(かね)女 水(みつ)大に
よし子(こ)五人あり
富貴(ふうき)にしてことに
命(いのち)ながしまた田畑(たはた)

【右丁 下段】
 曽根好忠(そねのよしたゞ)
ゆらのとを
 わたる
船(ふな)
人(びと)
かぢをたえ
 行衛(ゆくゑ)も
  しらぬ
 恋(こひ)の
   みちかな

【左丁 下段】
 恵慶(ゑげう)法(ほう)師
八 重(ゑ)葎(むぐら)
 しげ

 る
 宿(やど)
  の
さびしきに
  人(ひと)こそ
 みえね
 秋(あき)は来(き)に
     けり

【右丁 上段】
多(をほ)し氏神(うぢかみ)を祭(まつ)
りて何事(なにごと)もこゝろ
のまゝなるべし
○男 金(かね)女 火(ひ)大(おほ)ひに
わろし子(こ)一人あれ
ども命(いのち)みじかし
貧賎(ひんせん)にして何ごと
もおもふことちがふ也
○男 金(かね)女 土(つち)大(おほ)きに
よし子(こ)五人かまた
九人あるへし富貴(ふうき)
にして命(いのち)ながし

【左丁 上段】
下人(げにん)多(おゝ)くめし使(▢かひ)
牛(きう)馬にゑん有むつ
ましくして何事(なにこと)
もこゝろのまゝなり
○男 水(みつ)女 木(き)大ひに
よし子三人か七人
あるべし法華経(ほけきやう)
千部(せんふ)をよみふけん
ほさつをいのるべし
富貴(ふうき)にしてこゝろの
まゝなり万事(はんじ)大(たい)
吉(きち)なり

【右丁 下段】
 源重行(みなもとしけゆき)
風(かぜ)をいたみ
 岩(いは)うつ
浪(なみ)の
をのれ
 のみ
くだ

 てものを
 おもふ比(ころ)
     かな

【左丁 下段】
 大中臣能宣(お▢なかと▢よしのぶ)
    朝臣(あそん)
御垣守(みかきもり)
  衛士(ゑじ)の
 たく火(ひ)の
夜(よる)は

へて
ひるは
  消(きへ)つゝ
ものをこそ
   おもへ 

【右丁 上段】
【挿絵あり】
○男 水(みつ)女水 半吉(はんきち)
にして子八人有(ある)べし
たゞし貧(ひん)にし
て後(のち)わろし常(つね)に
うち神(かみ)を祭(まつる)へし
○男 水(みつ)女 土(つち)大き

【左丁 上段】
にわろし子三人か
四人あれとも常(つね)に
とほしきなり口(く)
舌(ぜつ)たへすしてよ
ろつわるし
○男 水(みつ)女 火(ひ)大(おほ)き
にわろし子(こ)あれ
どもそたゝず但(たゞ)し
三人あり内(うち)壱人 智(ち)
ゑあるへし二人の中(うち)
にはら立もあり
○男 水(みつ)女 金(かね)大(おほ)ひ

【右丁 下段】
 藤原義孝(ふじはらよしたか)
君(きみ)がため
 おしから



 命(いのち)
  さ
   へ
ながくも
  がなと
 おもひ
   けるかな

【左丁 下段】
 藤原実方(ふじはらさねかたの)朝臣(あそん)
かくとだに
  えやは
  いぶきの
さしも
   ぐさ


 も
しらじな
 もゆる
  おもひを

【右丁 上段】
によし子七人 有(あり)こと
に富貴(ふうき)にしてゆう
ふくのことありうぢ
かみをまつりて大(だい)
吉(きち)なりけんぞく
多(おほ)くあるべし
【挿絵あり】

【左丁 上段】
○衣服裁縫

同     も
      ひ
   寸
   五  尺
   尺  二
   三  び
で  り  く
そ  ゑ  お



【記号】


常はゞ一ツ身七尺五寸   たけ 弐尺
おくび  二寸五分    そで 八寸五分
ひもながさ 一尺五寸で ゑりはゞ 一寸五分
ゑりかたあき 一寸   そではゞ 半はゞ

【右丁 下段】
 藤原道信(ふじはらみちのぶの)朝臣(あそん)
明(あけ)ぬれば
くるゝ
 もの
とは
しり
 な
  がら
   なほ
うらめしき
 朝(あさ)ぼらけ
    かな

【左丁 下段】
 右大将(うたいしやう)道綱母(みちつなのはゝ)
歎(なげき)つゝ
  ひとり
 ぬる
  よ
   の
明(あく)るまは
 いかに
ひさしき
 ものと
   かは
 しる

【右丁 上段】

  尺
  四


  身

同    同
  尺  
  二  
     寸
     五
     尺
も び  一
ひ く  で
  お  そ

              たけ弐尺
八丈一ツ身七尺はゝ一尺壱寸 そで七寸五分
  おくび はゞ  三寸     ゑり はゞ弐寸
  ひも  ながさ 一尺五寸で  ゑりかたあき一寸

【左丁 上段】

寸   寸
五   五
尺 同 尺
一   一
    で
    そ 同



  も
  ひ   身

    尺
  尺 四
  二





ちりめん一ツ身 《割書:長さ 五尺五寸|はゞ 一尺三寸》
 たけ 二尺   そで 七寸五分  おくびはゞ三寸
 ゑりはゞ二寸  ゑりあき 一寸

【右丁 下段】
 儀同(ぎだう)
  三司(さんしの)
   母(はゝ)
忘(わす)れじ
  の
行末(ゆくすへ)
 までは
かたけれど
  けふを
  かぎりの
 命(いのち)とも
  がな

【左丁 下段】
 大納言(だいなごん)公任(きんたう)
滝(たき)の音(おと)は
  たへて
 ひさしく
なり
  ぬれど
名(な)

 そ
  ながれて
 なほ
  聞(きこ)へける

【右丁 上段】
《割書:七寸》  《割書:二寸》




四   り
    ゑ



《割書:六寸五分》

   も
   ひ 同







  同  寸
び    五
く    尺
お    二

 つねはゞ三ツ身(み)裁(たち)一丈二尺 《割書:たけ二尺五寸|そで一尺一寸二分|おくびはゞ 三寸》

【左丁 上段】

《割書:五寸》 《割書:八寸》

り  尺
ゑ  五
   袖(そで)
《割書:七寸》

  尺 び
  三 く
    お


 尺
 三




く 尺
お 三

 八丈 三ツ身だち 《割書:壱丈四尺|はゞ一尺一寸》
  たけ三尺     そで一尺弐寸五分
  おくびはゞ 四寸

【右丁 下段】
 和泉式部(いづみしきぶ)
あらざらむ
この世(よ)の
  ほかの
おもひ
 出(で)
  に
いまひと
  たびの
あふ
 ことも
  がな

【左丁 下段】
 紫式部(むらさきしきぶ)
めぐり
  逢て
 みしや
それとも
 わかぬ
  まに
雲(くも)
 がくれ
   にし
夜半(よは)の
 月(つき)
  かな

【右丁 上段】
  《割書:九寸》

   尺
   五

り  で
ゑ  そ

  《割書:七寸》

 尺
 三

《割書:七寸》

   尺
   三

   《割書:六寸》
    び
 尺び く
 三く お
  お
《割書:六寸》

             片面ものたちかた
追送(おいおくり)三ツ身(み)裁(たち)《割書:壱丈四尺|はゞ一尺三寸》
 《割書:たけ三尺  そで壱尺二寸五分|おくびはゞ四寸》

【左丁 上段】
○《割書:真名(まな)|片仮名(かたかな)》いろは
【縦線あり】
いろはにほへと
夷侶葉迩甫遍砥
イロハニホヘト
【縦線あり】
ちりぬるをわか
地梨努流雄輪哥
チリヌルヲワカ
【縦線あり】
よたれそつねな
余陀【陁】令疎都根名
ヨタレソツネ【子】ナ
【縦線あり】
らむうゐのおく
羅牟卯位能於具
ラムウヰノオク

【右丁 下段】
 大弐(だいにの)
  三位(さんみ)
有馬山(ありまやま)
 いなの
さゝ
 原(は▢)
かぜ
 吹(ふけ)ば
  いで
   そよ
人(ひと)を
わすれやはす
      る

【左丁 下段】
 赤染衛門(あかそめゑもん)
やすらはで
ねなまじ
 ものを
小夜(さよ)
 ふけ
  て
かたむく
 までの
月(つき)を
 みし
  かな

【右丁 上段】
やまけふこえて
夜麻介富巨枝転
ヤマケフコエテ
【縦線あり】
あさきゆめみし
阿佐伎油芽身志
あさきゆめみし
アサキユメミシ
【縦線あり】
ゑひもせす
衛斐裳背須
ヱヒモセス
【縦線あり】
【挿絵】

【左丁 上段】
○懐胎(くわいたい)の内(うち)食物(しよくもつ)
 ○よきもの
くらけ  いか
鴈(がん)《割書:鳥の》  大(だい)こん
にんじん 山(やま)のいも
ごぼう  ふ
せり   いちご
あは   きび
くこ   うど
大麦(おほむき)   くろまめ
こひ《割書:魚の》 うこぎ

【右丁 下段】
 小式部(こしきぶの)
  内侍(ないし)
大江山(おふへやま)
 幾野(いくの)の
  みちの
とを
 ければ
 まだ
ふみも
  見ず
  あまの
   はし立(だて)

【左丁 下段】
 伊勢大輔(いせのおふすけ)
いにしへの
  ならの
 都(みやこ)の
八重(やゑ)
  桜(さくら)
 けふ
  九重(こゝのへ)
    に
にほひ
 ぬる
   かな

【右丁 上段】
○同あしきもの
 すべて川うを
 油(あぶら)あげのもの
 熱(あつ)きもの
 からき物(もの)
 嗅(くさ)きもの
 うろこなき魚(うを)
こんぶ  たこ
ゑび   なまづ
でしやう さけの魚(うを)
石(いし)がれい しゞみ
あゆ《割書:うをの》 かに

【左丁 上段】
すゞめ  かも
はと   すもゝ
ひともじ くずのこ
麪(めん)るい  木のこるい
もち   なし
くはゐ  あんず
すべりひゆ
○産後(さんご)によき物
こひ   牡蛎(かき)
くらげ  とび魚(うを)
あわび  ずいき《割書:いもの》
ひともじのしろね

【右丁 下段】
 清少納言(せいせうなごん)
夜(よ)をこめ
   て
 鳥(とり)の
  そらねは
はかる
  とも
 よに
 あふ坂(さか)
    の
 せきは
ゆるさじ

【左丁 下段】
 左京大夫(さきやうのたゆう)
  道雅(みちまさ)
いまはたゞ
 おも
  ひ
たへ
 なむと
   ばかりを
人(ひと)づて
  ならで
 いふよしも
    かな

【右丁 上段】
【挿絵あり】
○産後(さんご)あしき物
そば   なすび
わらび  たで
いも   にんにく
さんしやう胡せう
ちさ   こんぶ

【左丁 上段】
酒(さけ)   瓜(うり)
木の子(こ)類(るい) くだ物(もの)るい
めんるい
○同(おなじく)いみもの
○男女(なんによ)のまじはり
○爪(つめ)を早く取事
○手足(てあし)を冷(ひや)す事
○髪(かみ)を早くすく事
○おどろき恐るゝ事
○精気(せいき)をつかす事
○行水(ぎやうずい)を早く遣う事
○脇臭(わきが)の人を近(ちかづく)る事

【右丁 下段】
 権中納言(ごんちうなごん)定頼(さだより)
朝(あさ)ぼらけ
  宇治(うぢ)の
河(かは)
 霧(ぎり)
たへ〴〵
   に
あらわれ
   わたる
瀬(▢)【せヵ】々の
 あしろ木(き)

【左丁 下段】
 相模(さがみ)
うらみわび
  ほさぬ
袖(そで)
 だに
 あるも
   のを
恋(こひ)に
 くち
  なむ
 名(な)こそ
 おし
  けれ

【右丁 上段】
○乳汁(ちゝ)をふとくするもの
こひ   とびうを
するめ  ちさ
たんぼゝ 山のいも
むぎめし 赤小豆(あづき)がゆ
白(しろ)かゆ  あま酒(ざけ)
【縦線あり】
○子(こ)の男女(なんによ)を知(しる)事
○母(はゝ)の長のとし孕(はらみ)
て次(つぎ)の年(とし)五月五日
より前(まへ)に生(うま)る子(こ)は
男子(なんし)なり又五月五日
の後(のち)に生(うま)るゝは女子也

【左丁 上段】
また母(はゝ)の半(はん)のとしは
らみてつ次(つぎ)のとし五月
五日より前(まへ)に生(うま)るゝは
女子(によし)なり五月五日より
後(のち)に生(むま)るゝは男子(なんし)也
○懐胎(くわいたい)腹帯(はらおび)する事
 吉日(きちにち)
きのへ ね《割書:●》 きのへいぬ
きのとうし《割書:●》 ひのへ むま
ひのへ いぬ《割書:●》つちのへ ね
つちのへいぬ《割書:●》かのへ いぬ
かのへ ね《割書:●》 かのへ とり

【右丁 下段】
 前大僧正(さきのだいさうじやう)行尊(げうそん)
もろともに
  あわれと
おもへ
 山(やま)
  桜(さくら)
花(はな)より
 ほかに
しる人(ひと)も
  なし

【左丁 下段】
 周防内侍(すほうのないし)
春(はる)の夜(よ)の
ゆめばかり
  なる
 手(た)
  枕(まくら)
   に
かひなく
  たゝむ
  名(な)こそ
 おしけれ

【右丁 上段】
暦(こよみ)の中段(ちうだん)の《割書:●》みつ《割書:●》たつ《割書:●》
 此(この)日よろし
同《割書:●》五(こ)む日《割書:●》ちいみ《割書:●》
 此(この)日わりし
同《割書:●》あやぶ《割書:●》ちいみ《割書:●》
 此(この)日いむへし
○同 向(むか)ふかたの事
正月《割書:みなみ》二月《割書:にし》
三月《割書:きた》 四月《割書:にし》
五月《割書:きた》 六月《割書:ひがし》
七月《割書:きた》 八月《割書:ひがし》
九月《割書:みなみ》十月《割書:ひがし》

【左丁 上段】
十一月《割書:みなみ》十二月《割書:にし》
 万事この方(はう)へ向へば
         よし
○産(さん)のときむかふ
     方のこと
正月《割書:ひつじ》二月《割書:いぬ》
三月《割書:うし》 四月《割書:ひつじ》
五月《割書:たつ》 六月《割書:むま》
七月《割書:ひつじ》八月《割書:ひつじ》
九月《割書:さる》 十月《割書:さる》
十一月《割書:いぬ》十二月《割書:とり》
右の方へむかへば親子(おやこ)と
もに難(なん)なし但(たゞ)し大
をん 大将(だいしやう)ぐん《割書:●》さい

【右丁 下段】
 三条院(さんじやうのいん)
心(こゝろ)にも
  あらで
 うき世(よ)に
なが

 へ
  ば
 こひ
  し
  かるべき
夜(よ)半の
 月(つき)かな

【左丁 下段】
 能因法師(のういんほうし)
あらし吹(ふく)
  三室(みむろ)の
 山(やま)の
もみ

 葉
 は
竜田(たつた)の
  河(かは)の
 にしき
   成(なり)けり

【右丁 上段】
せつ《割書:●》金神(こんじん)《割書:●》鬼(き)もん《割書:●》
天(てん)一の方(はう)《割書:●》月(つき)ふさがり《割書:●》
日ふさがり《割書:●》はぐん《割書:●》
右の方へはよく〳〵あ
らためて忌(いむ)へし
【縦線あり】
○生(むまる)る年によつて
 善(ぜん)あくある事
子(ね)午(むま)の人は《割書:なつ ふゆ よし|は▢ あき あし》
丑(うし)戌(いぬ)の人は《割書:なつ ふゆ 吉|はる あき あし》
辰(たつ)申(さる)の人は《割書:なつ ふゆ あし|はる あき よし》
巳(み)未(ひつし)の人は《割書:はる あき 吉|なつ ふゆ あし》
卯(う)酉(とり)の人は《割書:はる あき よし|なつ ふゆ あし》

【左丁 上段】
寅(とら)亥(い)の人は《割書:はる あき大吉|なつ ふゆ あし》
【縦線あり】
○生(うまれ)る月(つき)の善(せん)あくの
         事
正月《割書:おとこよし|女あし》二月《割書:おとこよし|女あし》
三月《割書:おとこよし|女わるし》四月《割書:おとこよし|女わるし》
五月《割書:おとこよし|女ひん也》六月《割書:おとこよし|女わるし》
七月《割書:男ひん也目|女よし》八月《割書:おとこよし|女わるし》
九月《割書:おとこよし|女わるし》十月《割書:おとこよし|女わるし》
十一月《割書:おとこよし|女わるし》十二月《割書:おとこよし|女よし》
  乳(う)母 取(とり)に吉(よき)日
とら う さる とり
何月(なんぐわつ)にても右の日に
とるべし

【右丁 下段】
 良暹法師(りやうせんはうし)
淋(さみ)しさに
宿(やど)を
立(たち)
 出(いで)
  て
ながむれ
    ば
  いづこも
   おなし
 あきの
  ゆふくれ

【左丁 下段】
 大納言(たいなごん)経信(つねのぶ)
ゆふざれは
  門田(かどた)の
 いなは
おと
 づ
  れて
あしの
 まろや
    に
 秋風(あきかぜ)ぞ
    ふく

【右丁 上段】
○臍(ほそ)の緒(を)きる吉日
正月《割書:み》 二月《割書:み》
三月《割書:み》 四月《割書:さる》
五月《割書:さる》六月《割書:さる》
七月《割書:たつ》八月《割書:たつ》
九月《割書:たつ》十月《割書:とり》
十一月《割書:とり》十二月《割書:とり》
右の日にきるべし
甲寅(きのへとら)の日は小児(せうに)の
衰日(すいじつ)也といふ此日に
きるべからず

【左丁 上段】
○不成就日(ふじやうじゆにち)
正七月 《割書:三日 十一日|十九日 廿七日》
二八月 《割書:二日 十日|十八日 廿六日》
三九月 《割書:朔日 九日|十七日 廿五日》
四十月 《割書:四日 十二日|廿日 廿八日》
五十一月 《割書:五日 十三日|廿一日 廿九日》
六十二月 《割書:六日 十四日|廿二日 晦日》
【縦線あり】
【挿絵】

【右丁 下段】
 祐子(いうし)
内親王家(ないしんわうけ)
  紀伊(きい)
音(おと)に聞(きく)
たかしの
 はまの
 あだ
  浪(なみ)は
かけじや
   袖(そで)の
濡(ぬれ)もこそ
    十【「す」の誤】れ

【左丁 下段】
 前中納言(さきちうなごん)匡房(まさふさ)
高砂(たかさご)の
 おのへの
 さくら
咲(さき)に
 けり
外(と)
 山(やま)
  の霞(かすみ)
たゝずも
    あらなむ

【右丁 上段】
右の日 物(もの)を仕初(しそめ)るにも
人にものいひかへるに
もじようじゆすること
かたし何事(なにごと)にもつ
かふべからず
【縦線あり】
○毎月あく日
四日十一日十八日廿五日
此日 暮(くれ)六時より夜
九ツ時まで悪日なり
八日十五日廿二日廿九日
朝(あさ)六ツ時より昼(ひる)九ツ時
まで悪日なり毎

【左丁 上段】
月この日成就せぬ
日なり
○願成就(くわんしやうじゆ)日
正月  とらの日
二月  み の日
三月  さるの日
四月  ゐ の日
五月  う の日
六月  むまの日
七月  とりの日
八月  ね の日
九月  たつの日

【右丁 下段】
 源俊頼(みなもととしより)朝臣(あそん)
うかりける
  人(ひと)を
はつ瀬(せ)の
 山(やま)
おろし
  はげし
 かれとは
 いのらぬ
    ものを

【左丁 下段】
 藤原基俊(ふじはらもととし)
契(ちきり)おきし
させもが
露(つゆ)
 を
命(いのち)
 にて
  あはれ
ことしの
 秋(あき)も
   いぬめり

【右丁 上段】
十月  ひつじの日
十一月 とりの日
十二月 うしの日
【縦線あり】
○物(もの)をたちきら
     ざる日
正月《割書:とら|とり》二月《割書:う》
三月《割書:たつ》四月《割書:さる》
五月《割書:いぬ》六月《割書:い》
七月《割書:とら|う》八月《割書:い》
九月《割書:たつ》十月《割書:さる》
十一月《割書:ね》十二月《割書:いぬ》
 正月七日
 七月七日

【左丁 上段】
 八月六日
 九月二日
右の日大に悪(わる)し
晴明(せいめい)が物立(ものたち)あく日
つちのとのみかのへかのと
  此日 男(おとこ)の衣(き)るいた
  つべからず
きのへさるの日は女の
  衣(き)るいたつべからす
又 月(つき)のさはりあるとき
  ものたつべからず
  よく〳〵つゝしむべし

【右丁 下段】
 法性寺入道(はふしやうじのにふどう)前関白(さきのくはんばく)
    太政大臣(たいせうたいじん)
わだのはら
  こぎ出て
  みれば
ひさ
 かたの
雲井(くもい)
 に
まがふ
沖津(おきつ)
 しら浪(なみ)

【左丁 下段】
 崇徳院(すとくいん)
瀬(せ)をはやみ
  岩(いは)に
 せかるゝ
滝(たき)
 河(かは)
  の
われても
  すゑに
逢(あは)むとぞ
  おもふ

【右丁 上段】
○女中(ぢよちう)文(ふみ)かきやう
女のふみはいかにもやさ
しくあるべし文(ふみ)は
言葉(ことば)をうゑに遣(つか)は
ずよみにつかふべし
たとへば昨日(さくじつ)をさく日(じつ)
といふごとくさくじつは
うゑなりきのふは
よみなり今日(こんにち)をけふ
一昨日(いつさくじつ)をおとつひなど
かやうにつかふことなり
○墨(すみ)つぎはいかにも

【左丁 上段】
濃くかくべきことな
れどもあまりにこきは
いやしければ見合(みあい)【注】て
書(かく)く【衍ヵ】べし
○文字(もじ)のくだりのこと
句(く)ぎりをよくかくべし
【縦線あり】
【挿絵】

【右丁 下段】
 源兼昌(みなもとかねまさ)
淡路島(あはぢしま)かよふ
千鳥(ちどり)
 の
なく
 こゑに
  いく夜(よ)
ねざめぬ
 須磨(すま)の
  せきもり

【左丁 下段】
 左京太夫(さきやうのたゆふ)
   顕輔(あきすけ)
秋(あき)かげ【「ぜ」の誤】に
たなびく
  雲(くも)の
絶(たへ)
間(ま)
 より
もれ出(いづ)る
   月(つき)の
影(かげ)のさやけさ

【注 「い」は「は」に見えるが、次コマ12行目「第一」の振り仮名「だいいち」の「いち」の「い」が「は」に見えるが「い」であるのと同じ。】



【右丁 上段】
たとへは見事(みこと)の御さかな
送り下されなどゝかく
とき見事(みごと)の御さ。かなと
かなを上(うへ)へあげて書(かく)
ことあしゝさかなと
つゞけてかくべしまた
まいらせ候をまい。ら
せ候とらせを上(うへ)へかく
事もよろしからず
また墨(すみ)つぐべからず
○第一(たいいち)にいひやることは
墨(すみ)をつぎてかくべし

【左丁 上段】
○文字のすがたをや
さしくかゝんとていろ
〳〵にやつしちらして
ふみわけがたきは大に
無礼(ぶれい)なりまた点(てん)を
ひきすて又ははね
などあまりながく
すべからず
○文章(ふんしやう)をやさしく
かゝんとてあまりに
しさいらしきこと
葉(は)をかくは物しり

【右丁 下段】
 待賢門院(たいけんもんいん)
  堀川(ほりかは)
ながゝ
  らむ
  心(こゝろ)も
しらず
くろ
 髪(かみ)
  の
乱(みだれ)て
  けさは
ものを
 こそ
 おもへ

【左丁 下段】
 後徳大寺左大臣(ごとくだいじさたいじん)
郭公(ほとゝぎす)
 鳴(なき)つる
 かたを
なが
 む

 ば
たゞ有明(ありあけ)の
 月(つき)ぞ
   のこれる

【右丁 上段】
だてにてあしく
また流行言葉(はやりことば)など
ゆめ〳〵かくべからず
○文(ふみ)のかきやういろ〳〵
あることながら女中(ちよちう)は
さのみこまかに書(かく)事
を正(たゞ)しくするにも
おち度には成(なる)まじき
なり第一(だいいち)祝義(しうぎ)ふみは
なを〳〵書をねんごろ
にかくべし婚礼(こんれい)の文(ふみ)
又は不 幸(かう)悔(くやみ)の文(ふみ)などは

【左丁 上段】
かへす〴〵なとのかさね
ことばをいむべし
旅(たび)遠国(えんごく)へ遣(つか)はす文(ふみ)は
封(ふう)し目(め)をときても
先(さき)の名(な)も我名(わがな)も切(き)れ
ぬやうにかくべし
 うやまひの方(かた)へ遣
はすふみは披露文(ひろうふみ)
なるべしさきの召(めし)つか
はれ人(ひと)の方(かた)へのあて名(な)
にしてかき留(とめ)はこの
よしよろしく御 披露(ひろう)

【右丁 下段】
 道因法師(とういんほうし)
おもひ侘(わび)
さても命(いのち)は
 あるものを
うき
 に
たへぬは
 なみだ
  成(なり)け
    り

【左丁 下段】
 皇太后宮太夫(くわうだいこうぐうのたゆふ)
     俊成(しゆんせい)
世(よ)の中(なか)よ
みち
  こそ


 れ
 おもひいる
山のをく
   にも
 しかぞ
   なくなる

【右丁 上段】
【挿絵】
【縦線あり】
頼(たの)み上まいらせ候とも又は
此よしよきに御 心(こゝろ)
得(え)とも御申上給り候へく候
とも御申上給へめてたくかしく
とも書(かく)べし文(ふみ)の
上々(じやう〳〵)のうやまひがきは

【左丁 上段】
進上(しんじやう)がきよろし
【囲みの中】

 進上
  たれさま
   まいる人々御申給へ

右を進上かぎ【ママ 濁点の位置の誤】といふ

  文(ふみ)封(ふう)じ脇付(わきつけ)の事
《割書:上々》宜しく御申上
《割書:上々》参る人々御申給へ
《割書:上の|中》人々御中申給へ
《割書:上の|中》参る御人々へ
《割書:■【注】の|下》参御中へ
《割書:上の|下》参人々中へ
《割書:中|上》人々み申給へ

【右丁 下段】
 藤原清輔(ふじはらのきよすけ)
    朝臣(あそん)
ながらへば
また此(この)
 ころや


ばれむ
うしと
  みし世ぞ
 いまは
  こひしき

【左丁 下段】
 俊恵法師(しゆんゑはうし)
夜(よ)もすがら
 もの
  おもふ
頃(ころ)
 は
明(あけ)
 やらで
 閨(ねや)のひま
    さへ
つらな
  かりけり

【注 よく見ると中と書いて上と付け足して書いているように見える。】





【右丁 上段】
《割書:同はい》人々申し給へ
《割書:下上》人々給へ
《割書:下中》人々
《割書:下々》人々【字が大層崩れている。】
又まいる上るとも
かくへしふみしやう
のことは前(まへ)の六拾五丁
のところにしるしことば
見合すべし

【左丁 上段】
○潮汐(しほ)の満干(みちひ)
朔日十六日《割書:大 朝 六ツ四分|  昼 九ツ八分》
二日十七日 《割書:朝 六ツ八分|昼 九ツ八分》
三日十八日《割書:中 朝 五ツ二分|  昼 八ツ二分》
四日十九日 《割書:朝 五ツ六分|昼 八ツ六分》
五日廿日  《割書:昼 四ツ|晩 七ツ》
六日廿一日 《割書:昼 四ツ四分|晩 七ツ四分》
七日廿二日《割書:小 昼 四ツ八分|  晩 七ツ八分》
八日廿二日【ママ 三の誤ヵ】 《割書:昼 九ツ二分|暮 六ツ二分》
九日廿四日 《割書:昼 九ツ六分|暮 六ツ六分》
十日廿五日《割書:大 昼 八ツ|  夜 五ツ》
十一日廿六日 《割書:昼 八ツ四分|夜 五ツ四分》

【右丁 下段】
 西行法師(さいげうはうし)
なげゝとて
 月(つき)やは
もの
 を
おも
 はする
かこち
  がほなる
 わかなみだ
    かな

【左丁 下段】
 寂蓮法(じやくれんはう)師
むらさめの
   露(つゆ)も
まだ
 ひ
 ぬ
槙(まき)の葉(は)に
  霧(きり)たち
のぼる
  秋(あき)の夕(ゆふ)ぐれ

【右丁 上段】
十二日廿七日 《割書:昼 八ツ八分|夜 五ツ八分》
十三日廿八日 《割書:晩 七ツ二分|夜 四ツ二分》
十四日廿九日《割書:大 晩 七ツ六分|  夜 四ツ六分》
十五日晦日 《割書:大 暮 六ツ|  夜 九ツ》

右にたとへは朝しほ六ツ四分なれば
晩も六ツ四となり干しほも
これにおなし
【縦線あり】
○十干(しつかん)
甲(きの[へ])乙(きの[と])丙(ひのへ)丁(ひのと)戊(つちのへ)
己(つちのと)庚(▢のへ)辛(かのと)壬(みづのへ)癸(みづのと)
○十二支(じふにし)
子(ね)丑(うし)寅(とら)卯(う)辰(たつ)巳(み)
午(む▢)未(ひ▢し)申(さる)酉(とり)戌(いぬ)亥(ゐ)

【左丁 上段】
○御所(こしよ)洗粉(あらひこ)の方(はう)
○白芙蓉(はくふよう)
緑豆(ぶんどう)《割書:五合》滑石(くわつせき)《割書:一両》
白附子(びやくぶし)《割書:一両》白檀(びやくだん)《割書:一両》
白芷(びやくし)《割書:一両》甘松(かんせう)《割書:一両》
龍脳(りうなふ)《割書:二両》
     一両とは目四匁也
【挿絵】

【右丁 下段】
 皇嘉門院(くわうかもんいん)
   別当(へつとう)
難波江(なにわえ)の
あしのかり
   ねの
 一夜(ひとよ)
  ゆへ
身(み)
 を
つく
  し
  てや
 恋(こい)わたるへき

【左丁 下段】
 式子内親王(しよくしないしんわう)
たまの緒(を)よ
  か【「た」の誤】へなば
たへね
ながら
  へば
しのぶる
 ことの
よはり
もそ
 する

【右丁 上段】
右(みぎ)の七色(なゝいろ)を粉(こ)にして
浴(ゆあみ)のとき肌(はだ)にぬり
あらへばつやを出し
はだへを濃(こま)やかにし
汗瘡(あせぼ)にきびすべて
肌(はだ)のあしきをもこま
かになること妙(めう)なり此(この)
洗(あら)ひこは初(はじ)め小糠(こぬか)か
から粉(こ)にて洗(あら)ひたる
上(うへ)を絹(きぬ)の袋(ふくろ)に入(いれ)て
あらふべし白粉(おしろい)を
はしらせ艶(つや)を出(いだ)す也

【左丁 上段】
○懸香(かけかう)匂袋(にほひふくろ)方(はう)
○新枕(にいまくら)
沈香(ぢんかう)《割書:四匁|二分》丁子(てうじ)《割書:四匁》
甲香(かふかう)《割書:半両》白檀(びやくだん)《割書:一匁》
麝香(じやかう)《割書:二分》薫陸(くんろく)《割書:五分》
○蓬生(よもぎふ)
麝香(じやかう)《割書:二匁》龍脳(りうなふ)《割書:五匁》
菊花(きくくは)《割書:五匁》
○菖蒲(あやめ)
沈(ぢん)かう《割書:一匁》丁子《割書:八分》
白檀(ひやくだん)《割書:一匁|二分》甘松(かんせう)《割書:八分》
麝(じや)かう《割書:四分》龍(りう)のふ《割書:二分》

【右丁 下段】
 殷富門院(いんふもんいん)大輔(たゆふ)
見せばやな
 をじまの
あまの
袖(そで)
 だにも
 ぬれ
  にぞ
濡(ぬれ)し
 色(いろ)は
 かはら
   ず

【左丁 下段】
 後京極摂政(ごきやうごくせつしやう)
  前太政大臣(さきのだいぜうだいじん)
きり〴〵す
  なくや
霜(しも)
夜(よ)
 の
さむしろ
   に
 衣(ころも)かたしき
 ひとりかもねむ

【右丁 上段】
○松(まつ)かぜ
白(びやく)だん《割書:二匁》沈(ぢん)かう《割書:一匁》
菊花(きくくは)《割書:八分》龍(りう)のふ《割書:一分》
麝(じや)かう《割書:二分》
○梅花(ばいくは)二方
伽羅(きやら)《割書:二分》白檀(ひやくだん)《割書:一匁》
甘松(かんせう)《割書:三匁》龍(りう)なふ《割書:三分》
○又方
龍(りう)なふ《割書:八分》梅花(ばいくは)《割書:一匁|二分》
麝(じや)かう《割書:六分》丁子(てうじ)《割書:二両》
かん松(せう)《割書:三匁》白檀(びやくだん)《割書:一匁》
 以上

【左丁 上段】
○女中(ぢよちう)名(な)づくし
【縦線あり】
○木性(きしやう)によろしき字(じ)
門(もん) 万(まん) 半(はん) 米(よね) 麻(あさ)
房(ふさ) 邦(くに) 満(みつ) 留(とめ) 梅(むめ)
福(ふく) 茂(しけ) 伴(とも) 武(たけ) 間(かん)
品(しな) 包(かね) 芳(よし) 沢(さは) 蘭(らん)
栗 類(るい) 八(やつ) 弁(べん) 林(りん)
富(とみ) 方(かた) 美(よし) 保(やす) 本(もと)
○火性(ひしやう)によろしき字(じ)
磯(いそ) 彦(ひこ) 嘉(よし) 熊(くま) 勘(かん)

【右丁 下段】
 二条院(にじやうのいん)讃岐(さぬき)
わが袖(そで)は
  しほひに
見へぬ
沖(をき)の
 いし
  の
人(ひと)こそ
  しらね
 かはくまも
    なし

【左丁 下段】
 鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)
世(よ)の中(なか)は
  つねにも
 がもな
渚(なぎさ)
 こ
  ぐ
あまの
  をぶねの
 つなで
 かなしも

【右丁 上段】
金(きん) 久(ひさ) 吉(きち) 亀(かめ) 源(けん)
介(すけ) 庫(くら) 虎(とら) 国(くに) 菊(きく)
花(はな) 為(ため) 艶(つや) 塩(しほ) 梶(かぢ)
極(きは) 益(ます) 吟(ぎん) 玉(たま) 里(さと)
近(ちか) 兼(かね) 義(よし) 孝(かう) 敬(よし)
高(たか) 雅(まさ) 経(つね) 光(▢▢) 幾(いく)
○土性(つちしやう)によろしき字(じ)
藤(ふじ) 徳(とく) 重(しげ) 長(ちやう) 林(りん)
竹(たけ) 千(せん) 仙(せん) 六(ろく) 岩(いわ)
良(りやう) 嶋(しま) 當(まさ) 蝶(てふ) 等(たう)

【左丁 上段】
町(まち) 楽(らく) 楠(くす) 仲(なか) 瀧(たき)
孫(▢▢) 傳(でん) 丑(うし) 流(りう) 治(はる)
朝(あさ) 知(とも) 隆(たか) 直(なを) 統(つな)
道(みち) 都(くに) 臺(だい) 覚(かく) 仲(なか)
○金性(かねしやう)宜き字(じ)
案(あん) 恒(つね) 鶴(つる) 由(よし) 幸(ゆき)
与(くみ) 峯(みね) 縫(ぬひ) 鳴(なる) 豊(とよ)
坂(さか) 民(たみ) 愛(あい) 糸(いと) 末(すへ)
市(いち) 一(いち) 玄(はる) 隈(くま) 安(やす)
猶(なを) 縁(ゑん) 喜(よし) 延(のぶ) 邑(むら)

【右丁 下段】
 参議(さんぎ)雅経(まさつね)
みよし野(の)の
 山(やま)の秋(あき)
   かぜ
小夜(さよ)
 更(ふけ)
  て
ふるさと
  さむく
 衣(ころも)うつなり

【左丁 下段】
 前大僧正(さきのだいさうぜう)慈円(じゑん)
おほけなく
うき世(よ)の
  民(たみ)に
おほふ
 かな
わが
 たつ杣(そま)
   に
 すみ染(ぞめ)の
   そで

【右丁 上段】
○水性(みつしやう)に宜(よろし)き字(じ)
政(まさ) 初(はつ) 勝(かつ) 作(さく) 次(つぎ)
清(せい) 松(まつ) 辰(たつ) 善(ぜん) 常(つね)
種(たね) 秋(あき) 三(さん) 七(ひち) 宮(みや)
脇(わき) 霜(しも) 石(いし) 春(はる) 正(まさ)
四(よつ) 庄(しやう) 真(しん) 信(のぶ) 才(さい)
節(ふし) 蔵(くら) 周(ちか) 成(しげ) 元(もと)
寿(ひさ) 哥(うた) 晴(はる) 琴(こと) 崎(さき)
【縦線あり】
すべて名(な)をつけるに
しんじょう
身上(み▢)の親るいの内(うち)同(おな)じ
名あれば遠慮(えんりよ)すべし

【左丁 上段】
【挿絵のみ】

【右丁 下段】
 入道(にふだう)前大政大臣(さきのだいぜうたいじん)
花(はな)さそふ
あら
 し
 の
庭(に▢)の
  雪(ゆき)ならで
 ふり行(ゆく)
   ものは
 わが身(み)
    なりけり

【左丁 下段】
 権中納言(ごんちうなごん)定家(さだいへ)
こぬ人(ひと)を
 まつ
  ほの
浦(うら)
 の
ゆふ
 なぎに
  やくや
   もしほの
 身も
   こがれつゝ

【右丁 上段】
○大日本国尽(だいにつぽんくにづくし)
 五畿内(ごきない)《振り仮名:五ヶ国|ごかこく》
山城(やましろ) 大和(やまと)
河内(かはち) 和泉(いづみ)
摂津(せつつ)
 東海道(とうかいだう)《振り仮名:拾五ヶ国|じふごかこく》
伊賀(いが) 伊勢(いせ)
志摩(しま) 尾張(おはり)
参河(み▢▢) 遠江(とほ〳〵み)
駿河(する▢) 甲斐(かひ)

【左丁 上段】
伊豆(いづ) 相模(さがみ)
武蔵(むさし) 安房(あは)
上総(かづさ) 下総(しもふさ)
常陸(ひたち)
 東山道(とうさんだう)《振り仮名:八ヶ国|はつかこく》
近江(あふみ) 美濃(みの)
飛騨(ひだ) 信濃(しなの)
上野(かふづけ) 下野(しもづけ)
陸奥(むつのく) 出羽(では)
 北陸道(ほくろくだう)《振り仮名:八ヶ国|はつかこく》

【右丁 下段】
 正三位(しやうさんみ)家隆(かりう)
風(かぜ)そよぐ
  ならの
小河(をがは)の
夕(ゆ▢)
 ぐ
  れは
  みそぎぞ
    夏(な▢)の
 しるし
   なり
     ける

【左丁 下段】
 後鳥羽院(ごとばのいん)
ひともをし
  人(ひと)も
 うらめし
あぢき
 な
  く
世(よ)を
 おもふ
   ゆへに
 もの
  おもふ身(み)は

【右丁 上段】
若狭(わかさ) 越前(ゑちぜん)
加賀(かが) 能登(のと)
越中(ゑつちう) 越後(ゑちご)
佐渡(さど)
 山陰道(さんいんだう)《振り仮名:八ヶ国|はつかこく》
丹波(たんば) 丹後(たんご)
但馬(たじま) 因幡(いなば)
伯耆(はふき) 出雲(いづも)
石見(いわみ) 隠伎(おき)【岐とあるところ】
 山陽道(さんやうだう)《振り仮名:八ヶ国|はつかこく》

【左丁 上段】
播磨(はりま) 美作(みまさか)
備前(びせん) 備中(びつちう)
備後(びんご) 安芸(あき)
周防(すはう) 長門(ながと)
 南海道(なんかいだう)《振り仮名:六ヶ国|ろくかこく》
紀伊(きい) 淡路(あはぢ)
阿波(あは) 讃岐(さぬき)
伊予(いよ) 土佐(とさ)
 西海道(さいかいだう)《振り仮名:九ヶ国|くかこく》
筑前(ちくぜん) 筑後(ちくご)

【右丁 下段】
 順徳院(じゆんとくいん)
百敷(もゝしき)や
  ふるき
 軒端(のきば)の
しの
 ぶ
  にも
なほあまり
     ある
  むかし
   なりける

【左丁 下段】
当年(とうねん)の干支(ゑと)よりあとへ歳(とし)の
員(かず)ほど算れは
うまれ年の
干支(ゑと)
 何性(なにせう)と

【大きな円の説明図あり 別に刻字す】


いふこと
 知(しる)るなり
円(まる)の中の
一三五七九は俗(ぞく)に
いふ魂(たましい)の数なりと知(し)るべし

【円の中の説明 真ん中に四角の囲みの中】

【「12時」の位置から時計回りに】
七 《割書:きのえむま|きのとのひつし》 金
三 《割書:ひのえさる|ひのとのとり》 火
九 《割書:つちのえいぬ|つちのとのい》 木
一 《割書:かのえね|かのとのうし》 土
七 《割書:みつのえとら|みつのとのう》 金
三 《割書:きのえたつ|きのとのみ》 火
五 《割書:ひのえむま|ひのとのひつし》 水
一 《割書:つちのえさる|つちのとのとり》 土
七 《割書:かのえいぬ|かのとのい》 金
九 《割書:みつのえね|みつのとのうし》 木
五 《割書:きのえとら|きのとのう》 水
一 《割書:ひのえたつ|ひのとのみ》 土
三 《割書:つちのえむま|つちのとのひつし》 火
九 《割書:かのえさる|かのとのとり》 木
五 《割書:みつのえいぬ|みつのとのい》 水
七 《割書:きのえね|きのとのうし》 金
三 《割書:ひのえとら|ひのとのう》 火
九 《割書:つちのえたつ|つちのとのみ》 木
一 《割書:かのえむま|かのとのひつし》 土
七 《割書:みつのえさる|みつのとのとり》 金
三 《割書:きのえいぬ|きのとのい》 火
五 《割書:ひのえね|ひのとのうし》 水
一 《割書:つちのえとら|つちのとのう》 土
七 《割書:かのえたつ|かのとのみ》 金
九 《割書:みつのえむま|みつのとひつし》 木
五 《割書:きのえさる|きのとのとり》 水
一 《割書:ひのえいぬ|ひのとのい》 土
三 《割書:つちのえね|つちのとのうし》 火
九 《割書:かのえとら|かのとのう》 木
五 《割書:みつのえたつ|みつのとのみ》 水

【右丁 上段】
豊前(ぶぜん) 豊後(ぶんご)
肥前(ひぜん) 肥後(ひご)
日向(ひふが) 大隅(おほすみ)
薩摩(さつま)
 余計(よけい)二島(にたう)
壱岐(いき) 対馬(つしま)
 以上

【右丁 下段】
    十(しう) 二(に) 月(つき) 異(い) 名(▢う)
正月 《割書:青陽(せいやう) 初春(しよしゆん)|端月(たんけつ) 陬月(すうけつ)》  二月 《割書:如月(じよげつ) 仲春(ちうしゆん)|令月(れいげつ) 陽中(やうちう)》
三月 《割書:弥生(やよい) 花月(くはけつ)|晩春(ばんしゆん) 桃月(たうげつ)》  四月 《割書:卯月(うづき) 種 月(▢けつ)|麦秋(ばくしう) 孟夏(もうか)》
五月 《割書:皐月(さつき) 雨月(うげつ)|仲夏(ちうか) 景風(けいふう)》  六月 《割書:林鐘(りんしやう) 季夏(きか)|葉月(はつき) 水無月(みなつき)》
七月 《割書:夷則(いそく) 文月(ふみつき)|初秋(しよしう) 冷月(れいげつ)》  八月 《割書:南呂(なんりよ) 清月(せいけつ)|迎寒(かうかん) □秋(しう)》
九月 《割書:長月(ながつき) 季秋(きしう)|菊月(きくつき) 暮秋(ぼしう)》  十月 《割書:玄英(げんゑい) 陽月(やうげつ)|初冬(しよとう) 無神月(かみなつき)》
十一月 《割書:霜月(しもつき) 仲冬(ちうとう)|陽復(やうふく) 子月(ねつき)》 十二月 《割書:臘月(ろうげつ) 極月(ごくげつ)|大呂(たいりよ) 季冬(きとう)》

【左丁】


             《割書:心斎橋通南本町角》
                敦賀屋為 七
             《割書:心斎橋通南本町北《割書:江》入》
                河内屋平 七

    書肆売弘     《割書:南御堂前》
                近江屋善兵衛

【裏表紙】

[学事奨励に関する被仰出書]

【翻刻文内の注はすべて左ルビ】
人々 自(みづか)ら其身を立て其 産(さん)【しんだい】を治(をさ)め其 業(げふ)【とせい】を昌にして以て其 生(せい)【いつしやう】を遂(とく)るゆゑんの
ものは他(た)なし身を修め智(ち)【ちゑ】を開(ひら)き才芸(さいけい)【きりやうわざ】を長(ちやう)【ます】ずるによるなり而て其身を修め
智を開き才芸を長ずるは学(がく)【がくもん】にあらざれば能(あた)はず是れ学校(がくかう)【がくもんじよ】の設(もふけ)あるゆゑん
にして日用常行(にちようじやうこう)【ひゞのみのおこなひ】言語(げんぎよ)【ことばづかひ】書算(しよさん)【てならいそろばん】を初(はじ)め士官(しくはん)【やくにん】農商(のうしやう)【ひやくしやうあきんど】百工(ひやくこう)【しよくにん】技芸(ぎげい)及び法律(はうりつ)政治(せいぢ)天文(てんもん)医療(いりう)【やまひいやす】
等に至る迄凡人の営(いとな)むところの事学【かくもん】あらざるはなし人能く其才のあると
ころに応(おう)【まかせ】し勉励(べんれい)【つとめはげみ】して之に従事(じうじ)【よりしたがひ】ししかして後初て生を治め産を興(おこ)し業を昌
にするを得べしされば学問(がくもん)は身を立るの財本(ざいほん)【もとで】ともいふべきものにして人
たるもの誰(たれ)か学ばずして可ならんや夫(か)の道路(どうろ)【みち】に迷(まよ)ひ飢餓(きが)に陥(おちい)り家を破(やぶ)り
身を喪(うしなふ)【なくする】の徒(と)【ともがら】の如きは畢竟(ひつきやう)【つまり】不学(ふがく)【かくもんせぬ】よりしてかゝる過(あやま)ちを生するなり従来(じうらい)【もとから】学校
の設ありてより年を歴(ふ)ること久しといへとも或は其道を得ざるよりして
人其 方向(はうかう)【めあて】を誤(あやま)【まちがひ】り学問は士人(しじん)【さむらひ】以上の事とし農工商及び婦女子(ふじよし)【をんなこども】に至つては之
を度外(とくはい)【のけもの】におき学問の何物(なにもの)たるを弁(べん)ぜず又士人以上の稀(まれ)に学ぶものも動(やゝ)も
すれは国家(こくか)【くに】の為にすと唱(とな)へ身を立るの基(もとゐ)なるを知(しら)ずして或は詞章(ししやう)【ことばのあや】記誦(きしよう)【そらよみ】の
末に趨(わし)り空理(くうり)【むだりくつ】虚談(きよだん)【そらばなし】の途(と)に陥(おちい)り其 論(ろん)高尚( かうしやう)【うはべ】に似たりといへども之を身に行(おこな)ひ
事に施(ほどこ)すこと能(あたは)ざるもの少からず是すなはち沿襲(えんしう)【しきたり】の習弊(しふへい)【わるきくせ】にして文明(ぶんめい)【ひらけかた】普(あま)ね
からず才芸の長ぜずして貧乏(ひんばう)【まづし】破産(はさん)【しんだいくづし】喪家(さうか)【いへをなくす】の徒(と)【ともがら】多きゆゑんなり是故に人たる
ものは学ばずんばあるべからす之を学ぶには宜しく其旨を誤るべからず
之に依て今般 文部省(もんぶしやう)に於て学制(がくせい)【がくもんのしかた】を定め追々 教則(きやうそく)【をしへかた】をも改正(かいせい)し布告に及ぶべ
きにつき自今(じこん)【いまより】一般(いつぱん)【いちどう】の人民《割書:華士族卒農工|商及婦女子》必す邑(いふ)【むら】に不学の戸なく家に不学
の人なからしめん事を期(き)【まつ】す人の父兄(ふけい)【ちゝあに】たるもの宜しく此意を体認(たいにん)【こゝろえ】し其 愛育(あいいく)【かはいがる】
の情(じやう)を厚(あつ)くし其子弟をして必ず学に従事せしめざるべからざるものなり
《割書:高上の学に至ては其人の材能に任かすといへども幼童の子弟は男|女の別なく小学に従事せしめさるものは其父兄の越度たるべき事》
 但 従来(じうらい)【これまて】沿襲(えんしう)【しきたり】の弊(へい)【くせ】学問は士人以上の事とし国家の為にすと唱ふるを以て
 学費(がくひ)【けいこいりよう】及 衣食(いしよく)【きものくひもの】の用に至る迄多く官に依頼(いらい)【よりもたれ】し之を給(きふ)【くださる】するに非ざれば学(まなば)ざ
 る事と思ひ一生を自棄(しき)【しふんからすく】するもの少からず是皆 惑(まど)へるの甚(はなはだ)しきものなり
 自今以後此等の弊(へい)を改め一般【いちどう】の人民 他事(たじ)【ほかのこと】を抛(なけう)【すておき】ち自ら奮(ふるつ)【はげみ】て必ず学に従事(じうじ)【よりしたがひ】
 せしむべき様心得べき事
右之通被 仰出候条地方官ニ於テ辺隅小民ニ至ル迄不洩様便宜解訳ヲ加
ヘ精細申諭文部省規則ニ随ヒ学問普及致候様方法ヲ設可施行事
  明治五年壬申七月 太政官

絵本写宝袋

【表紙】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁】
絵本写宝袋 八

【左丁】
絵本写宝袋八之巻目録
桐(きり)に鳳凰(ほうわう)の図(づ)  松(まつ)に孔雀(くしやく)の図(づ)
桜(さくら)に雉子(きじ)の図(づ)  竹(たけ)に野雉子(きじ)の図
竹に鶴(つる)の図    岩(いわ)に鵰(くまたか)の図
鷲(わし)に猿(さる)の図    松(まつ)に猫頭鳥(みゝつく)の図
椎(しゐ)に鴟鴞(ふくろう)の図   芦(あし)【蘆】に鴈(がん)之(の)図
雪柳(ゆきやなぎ)に蒼鷺(さき)    柏(かしは)に山雉(やまどり)の図
木蘭花(もくらんげ)に白鷴(はつかん)   雪(ゆき)に烏雅(からす)

【左丁】
梅(むめ)に山鵲(さんじやく)之(の)図(づ)  竹(たけ)に雞(にわとり)之図
粟(あわ)に鶉(うづら)の図    浮薔(みずなぎ)に鴫(しぎ)の図
松にあふむ     柳(やなぎ)に燕(つばめ)の図
大和 松(まつ)に蒼鷹(おゝたか)   岩(いわ)に黄鷹(わかたか)
舞鶴(まひづる)の図     枯木(かれき)に鴝鵒(はくてう)
岩(いわ)に緋音呼(ひいんこ)    梅(むめ)に鴬(うぐひす)の図
軍雞(しやむ)の図      松に巣籠(すごもり)

【左丁】
絵本写宝袋八之巻
 禽獣之部
掛絵(かけゑ)屏風(べうふ)歩障(ついたて)
画壁(はりつけ)障子(ふすま)押絵(おしゑ)

【右丁】
  尾(を)のさき    桐(きり)に鳳凰(ほうわう)の図(づ)
  朱(しゆ)のくま
  どり

尾(お)朱墨(しゆずみ)          桐花(きりのはな)ぐんぜうをぬり
 毛(け)かき           生(しやう)ゑんじくま
                   こんぜうをかくる
                    葉(は)はろくせう


                   そり羽(は)わうど
                   朱(しゆ)ずみくま同つゝき
                   星(ほし)の中ごふんくま

【左丁】
                         腹(はら)朱(しゆ)
                         生(しやう)ゑんじ
                           仕立(したて)

                            眼中(めのうち)朱(しゆ)

                          冠(さか)朱くま生(しやう)ゑんじつゝき
                         耳(みゝ)しわうぐ朱(しゆ)ずみつゝき
ほろ わうどぬり朱(しゆ)
ずみくま朱(しゆ)ずみつき              嘴(はし)朱 生(しやう)ゑんじくま
ごふんくまあり               足(あし)同断(どうだん)
背(せな)通(とをり)ろくせうこんぜうのくま        みの毛(げ)ろくせうこんぜうくま
肩(かた)白(びやく)ろくろくせうくま
こんぜうのきをひ
へり金でい           わうどぬり朱墨(しゆずみ)くま こき墨(すみ)くま本(もと)朱(しゆ)ずみ
又へりなきもあり                      朱すみつゝき



【右丁】
朱(しゆ)すみ金 泥(でい)      下すみ         乱毛つよくゆら
    かきいれ    上 朱(しゆ)ずみ        〳〵とかく
            ろくせう
           こんせう
           くまとり
金くま 朱すみくま    合
          こき
下ろくせうくま   すみくま
          とり合
上金くま      さきより
          しやうゑん
           じくま
松(まつ)

孔(く)
雀(じやく)

【左丁】
      身(み)の色(いろ)ろく  総(さう)毛(け)がき
      せうかすり
     くさのしるくま   金でい
    こんせうのかす
    り くま


ほろ              金でい
くろし             うすくま
すみ
くま                          ぐんしやう
こん                          こんぜうくま
せう
青                          毛(け)がき
うす               金でいうすくま   すみ
くま                 
面(おもて)黄色(きいろ)目(め)のまはり
あさぎ生(しやう)ゑんじくま
しわうのぐつゝき
目(め)の中(うち)しわう
金 泥(てい)くゝり
くちばし
ねずみ
うすゞみくま

【同 左下】
            風切(かざきり)
             わう
            どのぐ
           合(あわせ)わう
          どのくま
         朱(しゆ)ずみうす
              く
        くまとる
        腹(はら)すみ仕立(したて)
        ろくせう
 足(あし)     うすくひく
 ねずみ
ときすみ文(もん) 爪(つめ)さき白(しろ)し

【右丁 挿絵のみ】

【左丁 挿絵の説明】
桜(さくら)に雉子(きし)   彩色(さいしき)次(つぎ)にしるす

【右丁】
竹(たけ)に 野雞(きじ)
  嘴(くちばし)足(あし)うすゞみくま
  あいろかけかた同断(どうだん)
  せなか黄土(ワウド)朱(しゆ)ずみ
  頬(ほう)朱(しゆ)生ゑんじつゝき
  羽(は)がい
   風切(かざきり) ほろ共うすゞみ
   くま ごふんくま
   あまおゝひ白緑(ひやくろく)草(くさ)のしる
   毛(け)がきめぐり生ゑんじ
   けがき
    尾(を)の仕立(したて)
      【図】
    こきすみにて星(ほし)をつけ
    うすゞみにてくまとり
     こきすみのつゝき
     こき墨(すみ)中筋かき
     へりを朱すみにて
     かく

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
 ひな鶴(づる)
嘴(くちばし) 墨(すみ)くま頂(いたゝき)朱(しゆ)生(しやう)ゑんんじつゝき
 目中(めのうち)しわう生ゑんじくゝり

【左丁 上部】
 まな鶴(つる)
くちばしあし肉色(にくしき)しやうゑんじ仕立(したて)
かしらしろし目(め)しわう頬(ほう)朱(しゆ)生(しやう)ゑんじ
つゝき背うすゞみくまあいろかけ四ツ余り
ごふんくま羽風切(はかさきり)すみくまほろすみくま
はらうすゝみくま
あいろかけ

竹(たけ)
に    鶬鴰(まなづる)
鶴(つる)

くちばしあし
にくしき合(あわせ)わうど
かけ生(しやう)ゑんじくま

【同 下部】
めぐり あさぎぬりごふんつゝき
くびすぢごふんせはら同ごふん
毛(け)がき四つ余りすみ
のどの下(した)すみくま
足(あし)すみくますみ文(もん)


   ひな鶴(つる)

【右丁】
  鵰(くまたか)
全体(せんたい)わうどぬり
脊(せ)うすゞみくま
朱(しゆ)ずみ総(そう)【惣】くま
羽先(はさき)ごふんきをひあり

嘴(はし)すみぐま
青嘴(あをはし)あさぎ       ゴフン
目(め)の中あいろ       クマ
うすゞみくま
まひさし白(しろ)
足(あし)鷹(たか)のごとく
仕(し)たつる
         毛角(ふくりん)
         ごふんきをい
         毛(け)がきすみ

腹(はら)わうどぬりうすゞみ【濁点の位置誤】文(もん)こきすみぐま
わきごふんうすくまとる毛(け)がきごふん中 筋(すぢ)こきすみ

【左丁 上部】
鷲(わし)

眼中(めのうち)しわうぬり
くろたまのめぐり朱(しゆ)の
きめくまとりまぶち
朱(しゆ)ずみくゝりこき
すみにてそとめぐりを
かく青嘴あをく
嘴根(はしね)より
うすゞみ
くま
さき
より
しわ
うの
 ぐ
くま


風切(かざきり)こき    うすゝみくまごふん
すみくま    つゝきさきより
        ごふんくま
腹(はら)こきすみ仕立(したて)
もゝうすゞみくま中すみふがき

【同 下部】
肩(かた)すみのぐうすゞみくま朱(しゆ)すみ総【惣】くま中すみもん
 うら墨(すみ)のぐうすゝみくま中すみ生(ふ)がき
      みの毛(げ)わうどうすゞみねよりくまとりくひぎは山入 毛角(ふくりん)
      朱(しゆ)すみうすくひたいより総【惣】くまとりせのきわ  わし毛(け)と云
               さきよりごふんうすくくま     ごふんくま
                         とる

                               わしの足(あし)
                                たかのごとく
                                爪(つめ)さき
                                 しろし
                                 ねより
                                 うすゞみ
                                 くま


                      うすゝみ

            背通(せとをり)       仕立(したて)
           わうど        羽(は)の
           ぬりうすゞみ     うらと
           くま朱(しゆ)ずみ     同断(とうだん)
           総【惣】くま中 墨(すみ)ふがき

【右丁】
猫(みゝ)
頭(つ)
鳥(く)




目(め)わしのごとく足(あし)たかの如(ごと)く
脊(せ)どをりわうどぬりうすゞみくま
こきすみうすゞみ朱(しゆ)ずみつゝき
朱(しゆ)ずみ総(さう)【惣】くますみ毛(け)がき
はらごふん毛(け)がき

【左丁】
仕立(したて)右に同じかしら朱ずみつゝき
足(あし)のかうに毛(け)あり觜(くちばし)黄(き)
足はふみわけ総(さう)【惣】じて鳳凰(ほうわう)あふむ杜鵑(ほとゝぎす)
啄木ふくろうみゝつくゆび前後(まへうしろ)
二つづゝにわかる



鴟鴞(ふくろう)

【右丁】
蘆(あしに)
鴈(かり)



全体(ぜんたい)わうどぬり
薄墨(うすゞみ)くま朱(しゆ)墨(すみ)総(さう)【惣】くま
腹(はら)ごふんくますみ生(ふ)がき

【左丁】
           白(しろ)はし足(あし)にくしき
  こきすみ     生ゑんじくま
    くま

              下(した)薄墨(うすゞみ)くま
    薄墨(うすゞみ)        朱墨(しゆすみ)総(さう)【惣】くま
     くま       胸(むね)朱ずみくま


       白
                  うすゞみくま

           ごふん仕立(したて)
           うすゞみくま

【右丁】
柳(やなぎ)に蒼鷺(あおさぎ)

【左丁】
           嘴(はし) 黄土(わうど)くま
           ほ くさのしる
           むね ごふんくま
              うすゞみ文(もん)

 全体(ぜんたい)うすゞみ          腹(はら)しろ
      くま
  あいろかけ           足(あし)うす墨(ずみ)くま
                     文(もん)朱(しゆ)すみ

【右丁】
       柏(かしわ)に山雉(やまどり)
     全体(せんたい)黄土(わうど)朱墨(しゆずみ)くま
    墨文(すみもん)ごふんかき入
   嘴(はし)足(あし)薄墨(うすゞみ)くま
  頬(ほう)肉色(にくいろ)朱(しゆ)の
   うはずみくま
   生(しやう)ゑんじつゝき

【左丁】
尾(お)長(なが)し黄土(わうど)ぬり
朱(しゆ)ずみくま文(もん)すみ
  うすゞみくま
     こき墨(すみ)
      つゝき

   ごふん
     くま
    うすゞみ
     つゝき

【右丁】
 白鷴(はつかん)
背通(せとをり)白(しろ)しごふんくま
ごふん毛(け)がき墨(すみ)にて生(ふ)を
かく嘴(くちばし)白緑(ひやくろく)
頬(ほう)朱(しゆ)しやうゑんじつゝき
冠(とさか)墨(すみ)腹(はら)すみ
足(あし)肉色(にくしき)生(ふ)ゑんし文(もん)
眼中(めのうち)しわう


                               木(き)すみくま
                                 あいろ
                                  かけ


        木蘭花(もくらんげ)
         下 白(びやく)ろくごふんくま台(うてな)白ろく草(くさ)のしるつゝき

【左丁】
 白鷴(はつかん)䳄(めどり) 冠(かふり)白(しろ)頬(ほう)薄赤(うすあか)
  全体(せんたい)黄土(わうど)ぬり
  背(せな)は朱墨(しゆずみ)仕立(したて)
  腹(はら)ごふんくま
  尾(お)背(せな)と同色

【右丁 絵のみ】

【左丁】
     眼(め)嘴(くちばし)足(あし)うすゝみあいろかけ



   雪(ゆき)に烏鴉(からす)

【右丁】
梅(むめ)に山鵲(さんじやく)《割書:かしらわうど|背(せな)こんぜう》
 かた朱(しゆ)すみ羽(はね)尾(を)すみくまこんぜうかくる
 眼中(めのうち)朱(しゆ)すみ巡(めぐ)りあさぎごふんつき
 頬(ほう)よりむねこき墨(すみ)くま 嘴(はし)足(あし)朱
 尾先(おさき)珠(たま)ごふんもとよりくま
 さきよりわうどくま
 尾(お)のうらごふんくま
 中すぢすみ

【左丁】

    すみくま


                 花下 白(びやく)ろくうすく
                 ぬりさきよりごふん
           白梅仕立(はくばいしたて) 中に白六にて五ツ星(ほし)を
                 付 真(まん)中に六せうにて
                 星(ほし)を付るしべごふん
                 にほひしわうのぐ

【右丁】
 竹(たけ)に雞(にはとり)
冠(さか)頬(ほふ)垂珠(たぶ)朱(しゆ)
生(しやう)ゑんじつゝき
簑毛(みのけ)合(あわせ)黄土(わうど)
生(しやう)ゑんじくま
四つ毛(け)白黄土(しろわうど)
 くま朱墨(しゅすみ)つゝき
ほろごふんくま
風切(かさきり)薄(うす)ずみくま
足(あし)嘴(くちばし)目(め)しわう

 雌(めんどり)

さか たぶうす色
身(みの)色(いろ)黄土(わうど)ぬり
 うすゞみくま
朱(しゆ)ずみかけ
 うすゞみ生(ぶ)かき
尾(お)うすゞみくま

【左丁 絵のみ】

【右丁】
粟(あわ) 下 合(あはせ)白緑(びやくろく)ごふんにわうど少(すこし)
   くわへつゝきもとは草(くさ)のしるくま
   末(すへ)は朱(しゆ)ずみ薄(うす)くま上(うへ)しわうを
    かくる葉(は)中ろくせうわりくま
     あい筋(すぢ)くさのしるうら白(びやく)ろく
      草(くさ)のしるわりくま
       筋(すぢ)がき同し



       毛(け)かき朱(しゆ)ずみ

   鶉(うづら) 下わうどぐうすくぬり
     生(ふ)のくま図(づ)のごとく薄(うす)ずみ
     濃(こき)すみくま朱墨(しゆすみ)くま
     中 筋(すじ)ごふんにてさきより
     うすぐま
     腹(はら)ごふんうすぐま
 眼中(めのうち)しわう ふちあさぎつゝき
頬(ほふ)朱ずみくま のどごふんくま
足(あし)下 黄土(わうど)具(ぐ)     うすゞみくま
  ごふんつゝきしわうかくる

【左丁】

   白緑(ひやくろく)
 白
 ろく

  緑青(ろくせう)

      緑青(ろくせう)

           白六

                    此 通(とをり)生(ふ)替(かは)る
                    うすゞみかくる

【右丁】
水(みづ)なぎに鴫(しぎ)     水(みづ)なぎ《割書:花こんぜう|しやうゑんじ》
                  《割書:仕立》


                    墨(すみ)くま
                    ろくせう
                      くま
下わうど
ぬり薄墨(うすゞみ)くま
朱(しゆ)ずみかけ
うすゞみ濃墨(こきすみ)にて
生(ふ)をかく
羽先(はさき)こふん仕立(したて)
腹(はら)わうど朱(しゆ)ずみ
にて生(ふ)をかく
嘴(はし)墨(すみ)仕立(したて)
眼(め)に習(ならひ)あり
足(あし)うすくろし

【左丁】

     朱生エンシクマ

                全体(せんたい)ごふん仕立(したて)薄朱(うすしゆ)くま
                眼(め)嘴(くちばし)足(あし)墨(すみ)具(ぐ)

松(まつ)に鸚鵡(あふむ)           足(あし)に習(ならひ)あり

【右丁 絵のみ】

【左丁】

                背(せな)墨(すみ)仕立(したて)腹(はら)ごふん仕立(したて)
                眼下(めのした)おとがい朱(しゆ)ずみ生(しやう)ゑんじ
                すこし交(まぜ)くまとる
柳(やなぎ)に
  燕(つばめ)             柳葉(やなぎは)すみ草(くさ)の汁(しる)

【右丁】
大和松に蒼鷹(おゝたか)《割書:背通(せとをり)うすゝみの毛(け)くま|上(うへ)あいろそうくま毛(け)がき墨(すみ)》
 生(ふ)薄(うす)ずみ中墨(ちうすみ)くま中すみつゝきごまがら
 羽先(はさき)いづれもごふんくまうすゞみ毛(け)がき
 尾(お)同前(どうぜん)
 腹(はら)ごふんうすくぬり
 うすゞみにて生(ふ)をかき
 濃墨(こきすみ)にて又かく
 毛(け)がきうすゞみ
 その間(あいた)へごふん
 にて
 かく
                     白(しろ)
      尾(お)すけ白(しろ)   足(あし)      すみ
     ぼうけう白   こふんにて     くま
             墨がきの     草の
           内をかきうら     しる
           ごふんにてつゝき  ごふん合(あわせ)
            しわうを        くま
            かくる

【左丁】
黄鷹(わうたか)《割書:両鳥屋(もろとや)片鳥屋(かたとや)の仕立(したて)品々(しな〴〵)あり|背(せな)通(とをり)の仕立(したて)先(まつ)全体(せんたい)合(あわ)せ黄土(わうど)をぬり薄墨(うすゝみ)のくま朱墨(しゆすみ)薄(うす)くしてくまとる》
 朱すみ      
 うすく ごふん  すみくま生(ふ)ふた所 間(あいた)薄墨(うすゝみ)と朱(しゆ)ずみとつゝく
 かけ  くま   本(もと)より薄(うす)朱墨(しゆずみ)かくる羽先(はさき)ごふんくま
 山入まで                    白(しろ)      目(め)の中(うち)
 くまとる     ごふん                    足(あし)の色(いろ)
          くま          白(しろ)         習(ならい)あり

 山入(さんにう)ごふん
 くま

 朱 すみ
 かくる                毛(け)がき
                     ごふん
                 朱(しゆ)ずみ
 上(うは)胞(まぶた)【注①】小眥(まじり)【注②】ごふんくま  白(しろ) 薄(うす)朱墨(しゆすみ)
 ごふん毛(け)かき眼(め)まはり同し   くま
 目(め)しわうふちかき朱(しゆ)ずみ具(ぐ)外(そと)こき
 すみにてかく瞳(ひとみ)こきすみ

 目下(めのした)薄(うす)朱墨(しゆすみ)くま濃(こき)朱墨(しゆすみ)生(ふ)あり
 鷹(たか)は習(ならひ)あり大(たい)がい此(かく)の如(ごと)し

【注① 「眼胞」は「まぶた」とよむ。「眼」を略したか。】
【注② 「まじり」は「めじり(目尻」)のこと。】

【右丁 草書で紙面に大書】
帰(カヘル)_レ嵩(スウニ)
 鶴(ツルノ)舞(マイハ)
日(ヒ)高(タケテ)見(ミユ)

【左丁 絵の説明】
朱(しゆ)ぐま

             砂子(すなご)

【右丁】
鴝鵒(はゝてう)
此鳥 好(このん)で水に浴(ゆあひ) ̄ス
身(み)首(かしら)ともに黒(くろ)し
両 翼(つばさ)の下 各(おの〳〵)白 点あり
よく人言(ことば)をなす嫩(わかき)ときは口(くち)黄色(きいろ)
なり老(らう)するときは口(くち)白(しろ)し
頭上(かしらのうへ)に幘ある者(もの)あり
足(あし)大に勾(まかり)眼(め)觜(くちばし)足(あし)爪(つめ)ともに
黄白(きしろ)く光(ひかり)あり
俗(ぞく)慈烏(からす)と云大にあやまる也
鷹に四 種(しゆ)あり小にして純黒(もつはらくろ)く
小觜(こくちばし)なるは慈烏(からす)なり大(をゝ)觜
なるは鴉(はしぶと)なり樢に似(に)て大に
頭(かしら)白(しろ)きは燕烏(ゑんう)なり鴉(はしぶと)に似(に)て大に觜(はし)赤(あかき)は山烏(やまからす)なり
今 本朝(ほんてう)武州(ぶしう)に川小烏(かはこからす)とて小なる烏あり誤(あやまつ)てはゝ鳥(てう)と云あやまり也
鳴声(なくこゑ)愁(うれへ)にして人馬(じんば)のしゝむらを喰(くらふ)となりよく知(し)れる人にたづぬべし

【同 下部】
又 鴝鵒(はゝてう)に
似(に)て觜(はし)足(あし)
赤(あか)く黄耳(きなるみゝ)
黄目(きなるめ)黒身(くろきみ)
なる者(もの)を
秦吉了(きうくわん)と
いふよく人
 の言(ことば)を
  なす

【左丁】
岩(いわ)に緋音呼(ひいんこ)

           緑青(ろくせう)
目 廻(まは)り                  すみくま
生ゑんじ
くま


      すみ
       くま

   肉(にく)色
   丹(たん)くま

              朱墨(しゆずみ)くま
  総(そう)【惣】朱(しゆ)
               うすゞみくま        下すみくま
                             あいろかけ
                             さきごふんくま

【右丁】
梅(むめ)に鴬(うぐひす)                  下うすわうどのぐひき
                       せとをりうすゞみくま
                      上くさのしるかけくま
                       のどうすわうどくま
                       くびごふんくま
                       まじりすみくま
                       はら白ごふんうすくま
                       はし足(あし)うすゞみこき墨(すみ)
                                もん

【左丁】
 みの毛(げ)うすゝみくまうすわうどかけ朱(しゆ)ずみ総(そう)【惣】くま 背(せ)同断(どうだん)
 四つ毛わうどぐぬりさきよりごふんくま 腹(はら)すみ仕立(したて)

                                足(あし)黄色(きいろ)
                     にくしき
                     しやうゑんじつゝき

                            蹴爪(けづめ)

                       四つ毛(け)と云
暹羅(しやむ)国(こく)より来(きた)るに             
 よつて名(な)とす                   あまおゝひといふ
                          仕立(したて)みの毛のごとく
鶤雞(こんけい)しやむ

【右丁】
巣籠(すごもり)

父母(ふぼ)に餌(ゑ)を請(うく)るは皆(みな)ひなと云(いふ)
みづから啄(ついはむ)をひよこと云 高(たか)き
木(き)に巣(す)をかくるゆへ足(あし)をつなぐと
云 羽(は)そろひておのれと飛時(とぶとき)其(その)
つなぎを切(きる)と羽(は)そろへども飛(とび)
あしければ又つなぐと云たとへ
年(とし)をつみても黒(くろ)き羽(は)ある間は
ひなといふみな白(しろ)くなりて
いたゞきばかりあかきを丹鳥(たんてう)
といふ元信がひな鶴(づる)といふは
常(つね)のつるを五六 分(ぶ)計にかきたるを
小なるゆへひなづるといふなり
ひゐな鶴(つる)とてひよこのごとき
もの頭(かしら)足(あし)ながきをかきてひな
鶴(づる)と云おやづると共に餌(ゑ)を
ひろふ図ありこれもゆへ有て
画(ゑかく)なり

【左丁 見返し 手書き文字有り】
早川金

【裏表紙】

頭書萬用婦人手紙之文言

【表紙】

《題:婦人手紙之文言》



【整理ラベル・TIAO / 75 101 / 日本近代教育史資料】

【右丁】
重田一九大人案
臨泉堂先生書
《割書:頭書|万用》婦人手紙(ふじんてがみ)之(の)文言(もんごん)
     児女教訓手習状入
  東都書林 尚古堂梓


【左丁】
   婦人手紙之文言叙
倭語(わご)に書状(しよじやう)をふみといふはふくみといふ事を略(りやく)したるなりと
いふよろづの事この中にふくみたるといふ意(ゐ)なるべし寔(まこと)や千里(ちさと)の
外までも心のまゝをとゞかしむるは手跡(しゆせき)の徳(とく)にして人のうへには
第一に是を学(まなば)ずんば有べからず故(ゆへ)に婦人(ふじん)といへどもしら
されば恥(はぢ)おほく生涯(しやうがい)事たらぬがちにて賢(かしこ)きも愚(おろか)に見ゆるは
口(くち)おしき事ならずやよて児女の為に此書をあらはしてさきに
梓行(しかう)せし手紙の文言に嗣(つ)ぐものなり文のつたなき事
文字の謬(あやまり)あらはそは見ゆるし給へかし
           重田一九識

【同右端蔵書印】東京学芸大学蔵書

【項目の番号は○囲みで書かれているが、入力の便宜上(半角かっこ)で表した】

【頭書・右丁】
頭書目録
(一)文(ふみ)の封(ふう)じやう
(二)月(つき)のかはり名(な)
(三)女中(ぢよちう)詞(ことば)つかひ
(四)大倭(やまと)こと葉(ば)
(五)万(よろづ)染色(そめいろ)の名(な)
(六)畳紙(たとふがみ)折形(をりかた)の図(づ)

【頭書・左丁】
(七)小笠原(をがさはら)をりかた
(八)進物目録(しんもつもくろく)書(かき)やう
(九)婦女(をんな)をしへ草(ぐさ)
(十)諸礼(しよれい)躾(しつけ)【身偏に花】かた
(十一)食事(しよくじ)しつけかた
(十二)給仕(きうじ)の次第(しだい)
(十三)婚礼(こんれい)作法(さほう)の次第(しだい)

【本文・右丁】
   目録
(一)年頭披露(ねんとうひろう)の文(ふみ)   (三)おなじく返事(へんじ)
(四)上巳(じやうみ)の文     (五)花見(はなみ)の文
(六)宿下(やどお)りをとふ文  (七)端午(たんご)の文
(九)五月雨見廻(さみたれみまひ)文   (十)暑中見舞(しよちうみまひ)文
(十一)七夕(たなばた)の文    (十二)盆(ほん)のふみ
(十三)八朔(はつさく)の文    (十四)月見(つきみ)の文

【本文・左丁】
(十五)重陽(てうやう)の文(ふみ)    (十六)祭礼(さいれい)の文
(十七)恵比寿講(ゑびすかう)の文  (十八)髪置祝(かみをきいわひ)の文
(十九)歳暮(せいぼ)の文    (二十)寒中見廻(かんちうみまひ)文
(廿一)婚礼祝義(こんれいしうぎ)文   (廿三)振舞(ふるまひ)の文
(廿四)奉公(ほうこう)に出(いづ)る人へ遣(つかは)す文
(廿六)移徙(わたまし)怡(よろこひ)の文   (廿七)病気見廻(びやうきみまひ)文
(廿八)悔(くやみ)の文     (廿八)仏事(ぶつじ)申遣す文

【項目の番号は○囲みで書かれているが、入力の便宜上(半角かっこ)で表した】

【頭書・右丁】
(十四)平生(へいぜい)女こゝろえ
(十五)七夕(たなばた)祭(まつり)の事
(十六)四季(しき)の曲(きよく)并に序(じよ)
(十七)名香(めいかう)名寄(なよせ)文章(ぶんしやう)
(十八)婦人(ふじん)いましめ草(ぐさ)
(十九)琴(こと)三味線(さみせん)の事
(二十)衣裳(いしやう)の正字尽(しやうじづくし)
【頭書・左丁】
(廿一)小児(せうに)の薬方(やくはう)
(廿二)一生涯(いつしやうがい)の祝事(しうじ)
   頭書目録畢
○香道(かうどう)たしなみの事【挿絵あり】
香(かう)を
もてあそぶは
くみかうと
名づけて
その品
多しと
いへども
いにしへ
より今に
たえず
おこなはるゝは

【本文・右丁】
(廿九)火事(くはじ)見廻(みまひ)文    (卅一)洪水(かうずい)見廻(みまひ)文
(卅二)疱瘡(ほうそう)酒湯(さかゆ)悦(よろこび)の文
(卅二)大風(おほかぜ)見廻文    (卅三)逗留(たうりう)見舞(みまひ)文
(卅四)芝居(しばゐ)申合(もうしあはせ)の文
(卅六)安産(あんさん)怡(よろこひ)の文    (卅七)餞別(せんべつ)の文
(卅八)留主(るす)見廻の文   (卅九)帰宅礼(きたくれい)の文
(四十)帰国(きこく)悦(よろこひ)の文    (四ノ一)衣類(いるい)借(かり)に遣(つかは)す文
【本文・左丁】
(四ノ三)金子(きんす)借(かり)に遣(つかは)す文
(四ノ四)金子 断(ことはり)の文   (四ノ六)金子 催促(さいそく)の文
(四ノ七)弟子入(でしいり)頼(たの)み遣(つかは)す文
(四ノ九)約束(やくそく)変替(へんがへ)の文
(五十)年賀(ねんが)の文     (五ノ一)女手習(をんなてならひ)教訓書(けうくんしよ)
  目録終

【頭書・右丁】【挿絵あり】
十炷(じつちう)なり
いはゆる
十 種(しゆ)は
 小とり
 小くさ
 うぢ山
 けいば
 やかず
 めいしよ
 花月
 源氏
 れんり
これなり
此外
外組(とくみ)と
いふかう
品々あり
其外
心〴〵に
こしらへ家〳〵に
伝ふしなおほし
風流の余情(よせい)
 その■■【りつヵ】く
 すべからず
 その道について
  たつぬべし

【頭書・左丁】【挿絵あり】
[文(ふみ)の封(ふう)じやう]【四角枠で囲み】
たれさま  たれ    おもて
   まいる
 〆      より    うら

むすび文 おもて
〆  誰さま
      まいる

   うら
〆     たれ

 脇付の上下
上々      中の上 
 参る人々    人々
   申給へ    申給へ
中       下
 申給へ     まいる

たて文はおほく婚礼祝儀
文に用ゆ脇付の次第如此

【本文・右丁】【挿絵あり】
○祝物(しうもつ)積(つみ)ものゝ図(づ)
 小袖(こそで) ちりめん 綿(わた) 上下(かみしも)
 巻物(まきもの) 鯉(こひ) 鮮鯛(せんたい)

【本文・左丁】
  ○年頭(ねんとう)披露(ひろう)之(の)文(ふみ)
  返(かへす)〳〵いまだことなふ
  御さむさしのぎかねまいらせ候
あら玉(たま)の春(はる)の御 寿(ことぶき)
  御それさまにもせつかく
松(まつ)竹(たけ)の千世(ちよ)よろづ代(よ)
  御いとゐ遊し候やうねがひ
かけて御めでたく

【頭書・右丁】【挿絵あり】
【挿絵】

 誰さま    たれ
   まいる

年頭の文は
みの紙にて
半紙にても二つ
折となしたとふの
ごとくして文をつゝみ
上を水引にて
むすび上包みに
誰さままいる たれ
としたゝめて
遣すべし
 札紙よくさきの
 所書わかる
   やうに書べし
【挿絵】
名所 たれさま  たれ

[月(つき)のかはり名(な)]【四角枠で囲み】
正月を むつき
二月を きさらぎ
三月を やよひ
【頭書・左丁】
四月を うづき
五月を さつき
六月を みなづき
七月を ふみづき
八月を はづき
九月を きくづき
十月を かみなづき
十一月を しもつき
十二月を おとづき
[女中 詞(ことば)づかひ]【四角枠で囲み】
着ものを おめしもの
ぬのこを おひえ
わたを  おなか
おびを  おもじ
よぎを  よるのもの
かやを  かちやう
はながみを おさつし
べにを  おいろ

【本文・右丁】
幾久(いくひさ)しく御いはひ
  上まいらせ候めて度かしく
あけまいらせ候
上々様(うへ〳〵さま)ます〳〵御機嫌(ごきげん)
よく御年(おとし)かさね遊(あそ)
ばさせられ恐(おそ)れながら
【本文・左丁】
まん〳〵御 目出度(めてたく)存上(そんじあけ)
まいらせ候さては此品(このしな)
ふつゝかのいたりに候へとも
御上臈様(おんじやうろうさま)え御覧(ごらん)に
入たく御それさままて

【頭書・右丁】
かみそりを おけたれ
ねるを   おしづまる
おきるを  おひなる
なくを   おむづかる
あるくを  おひろひ
人をよぶを めす
かみを   おぐし
ものくふを あがる
うまいを  おいしい
みそを   むし
もちを   かちん
しんこを  しらいと
たんごを  いし〳〵
まめのこを きなこ
めんるいを ぞろ
にきりめしを むすび
とうふを  おかべ
きらすを  おかべのから
ゆいこを  おゆのした
【頭書・左丁】
ほしなを  ひば
こんにやくを にやく
さかなを  とゝ
たいを   おひら
たこを   たもじ
いわしを  おぼそ
するめを  する〳〵
こめを   うちまき
さけを   くこん
しやうゆを おしだし
すしを   すもじ
くきを   くもじ
でんがくを おでん
こぼうを  ごん
大こんを  からもの
かつをぶしを かゝ
しほを   しろもの
かうのものを かう〳〵
せきはんを こはぐこ

【本文・右丁】
為持上(もたせあけ)まいらせ候くるしからず
思召(おぼしめし)候はゝ御序(おんついで)の節(ふし)御披露(ごひろう)
仰(おほせ)上られ下さるへく候
まことに初春(はつはる)の御ことぶき
申上まいらせ候までに候まゝ
【本文・左丁】
ひとへに御 取成(とりなし)御 願(ねが)ひ
申上まいらせ候めて度
        かしく
  ○おなしく文
  かへす〳〵冬(ふゆ)としはよふぞや
初春(はつはる)の御しうきいづかたも
  御心にかけさせられ御たづね
おなじ御事にいはひおさめ

【頭書・右丁】
[大和(やまと)ことば]【四角枠で囲み】
 ○いの部
いまち月とは  十八夜
いもせとは   ふうふ
いははしとは  中たえたるをいふ
いなふねとは  いなにはあらずといふこゝろ
いぎたなしとは 人のつよくねたるを云
いとしげしとは しばしまてといふ心
いさめとは   いけんする事
いなせをせぬとは いやともおうともいはぬ事
いざなふとは  さそふこと
いのちの水とは なみだ
いさゝ水とは  たまり水
いらへとは   へんじすること
いさよふ月とは 出やらぬ月といふ事
【頭書・左丁】
いねとは    あねの事
いろねとは   いもうと
いみじきとは  ほめたることをいふ
いへずととは  みやげの事
いつまでぐさとは ながき事をいふ
いろなき人とは こゝろなき人といふこと
いもせどりとは ほとゝぎすのいみやう
いはまくらとは 七夕のあふ夜のまくらのこと
いわたおびとは はらおび
いぶせきとは  こゝろもとなき事をいふ
 ○ろの部
ろうせらるゝとは あさけらるゝことをいふ
 ○はの部
はないろころもとは うつろひやすきことを云
はつか夜とは  月なきことをいふ


【本文・右丁】
まいらせ候いよ〳〵御 揃(そろひ)遊はし
  下されやま〳〵有がたく
御繁昌(ごはんじやう)さまに御 年(とし)むかへ
  存上まいらせ候こなたよりは
遊はし候よしかす〳〵御
  折【打ヵ】たえ御無さた御ゆるし
目出度存上まいらせ候さては
  下さるへく候めてたくかしく
此御さもし一籠(ひとかこ)御いわひ

【本文・左丁】
上まいらせ候御 慮(りよ)もじさま
ながらみな〳〵さまへもよく〳〵
仰上(おほせあけ)れ下さるへく候
猶(なを)春永(はるなが)に万々(まん〳〵)申あけ
まいらせ候めて度かしく

【頭書・右丁】
はながたみとは  はなかご也
はらからとは   兄弟のこと
はながつみとは  まこもぐさ
はふりことは   神人の事
はるつげくさとは 梅の花
はなだいろとは  はないろ
はなちがみとは  みだれがみ
はにふのこやとは いやしき家のことをいふ
はかなしとは   たよりすくなきといふこゝろ
 ○にの部
にげなきとは   にてもにつかぬことをいふ
にゐまくらとは  はじめてちぎるをいふ
にほひ鳥とは   うぐひす
にほてるとは   水うみのこと
になきとは    ひとつにといふこゝろ
 ○ほの部
【頭書・左丁】
ほにいづるとは  おもひのいろほかにあらはるゝを云
ほやのすゝきとは こゝろみだるゝことをいふ
ほのくらきとは  ほのかにくらきことをいふ
ほのめくとは   たしかならぬことをいふ
ほだしとは    よのはなれかたきをいふ
ほそどのとは   らうかのこと
 ○への部
へたとは     うみのはたを云
 ○との部
としこへぐさとは むぎのこと
としのなかばとは 六月也
ともちどりとは  友だち也
とものそめぎとは さかしきことをいふ
とほ山の花とは  恋しきこと
とまりぐさは   なでしこのこと


【本文・右丁】
  ○上巳(じやうみ)の文(ふみ)
  返(かへす)〳〵御 子(こ)さまがたちと〳〵
  御遊ひに御こし下され候やう
桃(もゝ)の節句(せつく)の御いはひ
  御ねかひ上まいらせ候こなた
御めてたく存上まいらせ候さては
  さひしくくらしおりまいらせ候まゝ
此すもじ折節(おりふし)外(ほか)より
【本文・左丁】
  御まち申上まいらせ候めてたくかしく
もらひ候まゝお鶴(つる)さまえ
上まゐらせ候めて度かしく
  ○花見(はなみ)の文
たん〳〵暖(あたゝか)に成(なり)まいらせ候
いよ〳〵御さへ〴〵敷(しく)御くらし

【頭書・右丁】
とこのうみとは  なみだ
どよみとは    とつとわらふ
とのあぶらとは  ねやの火
 ○ちの部
ちひろのうみとは ふかきうみのことをいふ
ちとせのさかとは としおいたることをいふ
ちりひちとは   すこしのこと
ちはやふるとは  久しきこと
ちゝのこがねとは 千両のかねといふ事
ちりほひとは   おちぶれたる
ちぎりとは    やくそくのこと
 ○りの部
りんゑとは    めぐりめぐることをいふ
 ○ぬの部
ぬばたまとは   ゆめをいふ
ぬれぎぬとは   なき名のたつことをいふ
【頭書・左丁】
ぬさとは     神のへいのこと
ぬかづくとは   神ほとけへまゐりをがむ事
 ○るの部
るりのきみとは  げんじ玉かづらの君の名
 ○をの部
をちこちとは   遠近のこと
をぎのうは風とは 身にしむことをいふ
おにつはるとは  はらたつことをいふ
おきこぐふねとは とまりさだめぬこと
をぐるまとは   めぐりあふこと
おしまづきとは  つくゑ
をもなしとは   めんぼくなし
おもひのつゆ   なみだ
をのわらはとは  をとこのわらべなり

【本文・右丁】
候 半(はん)と御めて度御 嬉敷(うれしく)
存上(そんじあけ)まいらせ候 扨(さて)は明日(めうにち)
子供(こども)めしつれ候て飛鳥山(あすかやま)
花見(はなみ)に参(まい)り申べくと
支度(したく)致(いた)しおりまいらせ候
【本文・左丁】
御 程(ほど)さまいかゞおはしまし候 哉(や)
御 誘(さそひ)申上候やう母(はゝ)も申
おり候まゝ御 伺(うかゞ)ひ申上まいらせ候
何(なに)とぞ御 出(いて)なされ候やう
御ねがひ申上まいらせ候めて度かしく

【頭書・右丁】
おもひのたまとは じゆずのことをいふ
おもはゆしとは  はづかしきことをいふ
おゝよすけは   おとなしきこと
おいらくは    老人の事
おだまきは    女のうむへそ也
 ○わの部
わがせとは    つまのこと
わくらはとは   まれなること
わらはやみは   おこり病ひ
わなゝくとは   ふるふ事
わすれぐさは   わするゝこと
 ○かの部
かはたけとは   うきふししげきをいふ
かたわれぶねとは よるかたなきをいふ
かたみぐさは   なつかしきこと
かたわれ月とは  七日八日ころの月をいふ
【頭書・左丁】
かほよばなは   かきつばた
かたおもひとは  われは思へども人のおもはぬ事
かたしろとは   人の形のこと
かねごととは   かねてやくそくしたることをいふ
かぞいろとは   父母の事
かつらの花とは  月のひかりのことをいふ
 ○よの部
よるべとは    たのむえんあることをいふ
よすがとは    たよりの事
よわたる月とは  よもすがらの月をいふ
 ○たの部
たまのをとは   命のこと
たらちをとは   父の事
たらちめとは   はゝのこと又たらちねとも云


【本文・右丁】
  ○宿下(やとさが)りを訪(と)ふ文
  返〳〵此ほとは堺町(さかひてう)
一筆(ひとふで)申上まいらせ候承(うけたまは)り候へば
  ことのほかおもしろきよし
お亀(かめ)さま御事御 宿下(やとおり)に
  みな〳〵申おり候ちと〳〵
御入遊はし候 由 嘸々(さぞ〳〵)御 賑々敷(にぎ〳〵しく)
  おかめさま御つれあそはし
御まへさまにも数(かず)〳〵御 悦(よろこび)と
【本文・左丁】
  御とも申度存上まいらせ候
存あけまいらせ候こなた事も
        めてたくかしく
ひさ〳〵御めもしいたし
《振り仮名:不_レ申|もふさず》候まゝ後程(のちほど)上(あが)り申
べくと存おりまいらせ候 此(この)一折(ひとをり)
御はもしには候へ共御 目(め)に

【頭書・右丁】
たちまちの月とは 十七日の月をいふ
たまぼことは   みちのこと
たまだれとは   すだれ也
たまくしげとは  あかつき也
たをやめとは   わかき女の事をいふなり
たそがれとは   夕ぐれのこと
 ○れの部
れいならぬとは  わづらふこと
れんしとは    ねんごろなることをいふ
れんりのえだとは ふかきちぎりをいふ
 ○その部
そめいろの山とは しゆみせんのことをいふ
そみかくだとは  山ぶしのこと
そゞろとは    心ならずと云こと
そでのしがらみとは なみだのことをいふ
【頭書・左丁】
 ○つの部
つらなるえだとは 兄弟也
つどふとは    人のあつまること
つたなしとは   いやしきこと
ついばむとは   鳥のゑをはむ事なり
 ○ねの部
ねぎこととは   神ほとけにものをいのること
ねぢけ人とは   あしき人
ねまちの月とは  十九日の夜の月をいふ
 ○なの部
なかるゝ水とは  ゆくすゑさだめなきをいふ
なまめくとは   うつくしき人のことをいふ
なをざりとは   ねんごろになきこゝろなり
なべてとは    みなといふこと


【本文・右丁】
かけまいらせ候御 慮(りよ)もしさま
なからよろしく仰上(おほせあげ)られ
下さるへく候めて度かしく
  ○端午(たんご)の文(ふみ)
菖蒲(あやめ)の節句の御ことふき
【本文・左丁】
御めて度存上まいらせ候よふぞや
此ほとは福太郎(ふくたろう)方(かた)へ
見事の品(しな)〳〵御祝(おんいわひ)下
され山々(やま〳〵)有難(ありがた)く御 嬉(うれ)しく
ぞんし上まいらせ候さてはけふし

【頭書・右丁】
 ○らの部
らうだけとは   くるしきこと
らうがはしきとは みだれがはしきことをいふ
 ○むの部
むもれ木とは   人にしられぬことをいふ
むづかるとは   はらたつこと
むつまじとは   ねんごろなるをいふ
むつの花とは   ゆきをいふ
むべとは     道理といふこと
むらさきとは   ゆかりのこと
 ○うの部
うきくさとは   うかれたること
うたかたとは   水のあは也
うかれめとは   遊女の事
うらゝかとは   はなやかなるをいふ 
うの花月は    四月のこと
うつし心とは   狂乱なること
【頭書・左丁】
うなばらとは   海の事
うたこゝろとは  うつりやすき心をいふ
 ○ゐの部 《割書:いの字の|部にあり》
 ○のの部
のちのあしたとは わかれてのあしたのこと也
のこりぐさとは  菊のこと
のもりのかゞみとは よそに見る心をいふ
 ○おの部 《割書:をの字の|部にあり》
 ○くの部
くずのうら風とは うらみをいふことうらはとも云
くだかけとは   にはとり也
くれはどりとは  あやのこと
くるしきうみとは せかいをさしていふことなり
くだり月とは   かたふく月のことをいふ


【本文・右丁】
初(はつ)のせくわざといわい
まいらせ候まゝ昼頃(ひるころ)より
御 子様方(こさまがた)御つれ御入下さるべく候
御 待(まち)申上まいらせ候めて度かしく
  ○五月雨(さみたれ)見廻(みまひ)の文
【本文・左丁】
  かへす〳〵こなたも雨中(うちう)
打(うち)つゝき朦々(もう〳〵)しき御 日並(ひなみ)に
  しのきかねまいらせ候ちと〳〵
候へともます〳〵御さへ〳〵敷
  おはこひ御まち上まいらせ候かしく
御入のよし御めでたく御うれしく
ぞんし上まいらせ候さては
此 品(しな)少々(しやう〳〵)ながらおくり上


【頭書・右丁】
くにつうみとは  地神五代のことをいふ
くたちとは    よのふけゆくこと
 ○やの部
やくもたつとは  みそひともじのうたをいふ
やからとは    妻子の事
やをとめとは   まいひめのこと
やまひことは   こたまの事
やまひととは   仙人のこと
 ○まの部
ますらをとは   かりする人
まめをとことは  しんじつの人
まさなきとは   つよくほめたることばなり
まのあたりとは  めの下なり
またきとは    もはやといふこと
まはゆくとは   はずかしきこと
 ○けの部
けしうとは    あやしき事
【頭書・左丁】
けらしとは    けりといふこと
けうとしとは   けしからぬこと
 ○ふの部
ふしまち月とは  十九日の月をいふなり
ふけまち月とは  廿日の月のことなり
風月の道とは   歌道のことをいふ
ふゞきとは    かぜにゆきのまじりふく事
ふみ月とは    七月の名
ふたつの海とは  生死のこと
ふちころもとは  いやしきもの
ふりわけがみとは いまだ結ひはじめぬかみ
 ○この部
こし地とは    ふるさとのこと
こしかたとは   すぎしこと
こゝのへとは   内裡のこと


【本文・右丁】
まいらせ候御つれ〴〵御酒(おんさゝ)の
御口取りにもと存上(そんじあげ)まいらせ候
まづは折(をり)から御 見舞(みまひ)迄(まて)に
しめし上まいらせ候めて度かしく
  ○暑中(しよちう)見廻(みまひ)の文(ふみ)
【本文・左丁】
  返(かへす)〳〵こなたよりは打(うち)たへ
  御 無沙汰(ぶさた)いたしまいらせ候
わざ〳〵しめし上まいらせ候
  ちと〳〵御 伺(うかゝ)ひ申上たく
此ほどはたへかたきあつさに
  候へとも折(をり)ふし人ずくな
候へとも御 揃(そろひ)遊(あそ)ばし
  にて存なからそのまゝに
御 機嫌(きげん)能(よく)入せられまん〳〵


【頭書・右丁】
こちたきとは   ぶんにすぎたる事こと〴〵しきこと
こゝろの月とは  きよきこと
ことたつとは   祝言のこと
こまかへるとは  わかくなること
五明とは     あふぎなり
このかみとは   あにをいふ
こもりとは    はたけのこと
こずゑの秋とは  九月のこと
ころものいへとは かちやう
こまむかへとは  八月十五日也
 ○えの部
えにしとは    えんのこと
ゑいかづらとは  女のつくりかづらなり
ゑくりとは    もゝのはな
 ○ての部
てなれ草は    持あふぎ也
てふとは     いふとおなじこと
てうろとは    六月六日のこと
【頭書・左丁】
てもたゆくとは  手のたるきことをいふなり
 ○あの部
あこぎとは    たびかさなるればあらはるゝことをいふ
あさなとは    あしたといふこと
あまてらすおほんかみとは 天照大御神の事
あめつちとは   天地の事
あらかねとは   つちのこと
あづまぢとは   東の路也
あしびきとは   山をいふ
あかねさすとは  日の出也
ありあけの月とは つれなき事をいふ
あづさゆみとは  こゝろをひくをいふ
あさぢがはらとは おそろしき事
あすか川とは   かはり安きこと


【本文・右丁】
めて度御いわゐ上まいらせ候
  打すきまいらせ候御ゆるし
さては此(この)重(ぢう)の内(うち)麁末(そまつ)なから
  下さるべく候かしく
御覧(ごらん)に入まいらせ候まづは
あつさの御 伺(うかゞ)ひまでにそう〳〵
申上まいらせ候めて度かしく
【本文・右丁】
  ○七夕(たなはた)の文
けふしは星合(ほしあひ)の空(そら)長閑(のとか)に
一入(ひとしほ)御めで度存上まいらせ候
さては御はもじに候へども
此御まな少(すこ)しばかり


【頭書・右丁】
あはびとは    片おもひを云
あまつ神とは   天神七代
あだし人とは   こゝろさしかならぬ人の事
あだくらべとは  たがひにあだなる中
あづま人とは   東の人
あまぎるとは   雲のきれたることをいふ
あからめもせすとは よそめをせぬ事
あを人ぐさとは  いきとしいける衆生の事
あさゐとは    あさねのこと
あなかしことは  あらおそろしきといふこと
あしかきとは   ちかきこと
 ○さの部
さをしかとは   鹿の事
さゝがにとは   くものこと
さゝれ水とは   少しの水
【頭書・左丁】
さゞれいしとは  ちいさき石
さらなりとは   いふにおよばぬといふ事
さがなきとは   あしき事
さかしたつ人と  かしこだてする人なり
さゝめごととは  さゝやくこと
さやけきとは   月のさえたることをいふ
さかしらとは   さまたぐること
さばかりとは   これほどゝいふ事
さいまつるとは  人をもとく事をいふ
さみとり月とは  正月のこと
さり〳〵とは   がつてんすること
 ○きの部
きりたつ人とは  とほくゆく人のこと
きりにすむ鳥は  ほうわう
きぬ〴〵とは   わかれのこと


【本文・右丁】
外(ほか)より貰(もら)ひ候まゝ御 目(め)に
かけまいらせ候御 慮(りよ)もしなから
御かもしさまへもよく〳〵
御つたへ御ねがひ上まいらせ候
     めて度 可祝(かしく)
【本文・左丁】
  ○盆(ぼん)の文(ふみ)
  返(かへす)〳〵も此ほとは富(とみ)太郎へ御
いまだ暑(あつ)さもさりやらず候へども
  念(ねん)もじの御ことつてなし
みな〳〵さま弥(いよ〳〵)御 障(さはり)なふ
  下されやま〳〵有がたく
御 凌(しのぎ)候はんと山々御めて度
  御うれしくそんし上まいらせ候
御 嬉(うれ)しく存あげまいらせ候


【頭書・右丁】
きさらぎとは   むすめのこと
 ○ゆの部
ゆく水とは    おもふこと
ゆるしてとは   ゆだんなること
ゆみはり月とは  七日八日の月をいふ
ゆふだすきとは  しめなはのこと
ゆふつげ鳥とは  にはとり
 ○めの部
めでるとは    あいすること
めざしとは    いやしき女
めづらかとは   めづらしきこと
めりとは     なりのかへ詞なり
 ○みの部
みをしるあめとは なみだ也
みやびたるとは  うつくしきこと
みづくきとは   ふみのこと
みどり子とは   三四才までの子をいふ
 ○しの部
【頭書・左丁】
しきたへとは   まくらをいふ
しのゝのめとは  あけがたのこと
しらなみとは   ぬす人のこと
しか〳〵とは   いろ〳〵といふこと
しきしまのみちとは 歌の事をいふ
しとねとは    よるしくもの
しがらみとは   水をせくもの
 ○ゑの部 《割書:えの字の|部にあり》
 ○ひの部
ひのもととは   日本のこと
ひたちおびとは  ちぎりをむすぶことをいふ
ひとたのめは   いつわりをいふ事
ひすいとは    うつくしきこと
ひとの日とは   正月七日也
ひちかさあめとは にはかにふるあめの事
ひくらしとは   朝より夕迄


【本文・右丁】
  ちと〳〵御見合せ御はなしに
御 程(ほど)さまにも御魂(おんたま)むかひにて
  御出くださるべく候めてたくかしく
嘸々(さぞ〳〵)御 取込(とりこみ)とすいし上まいらせ候
さては此 三輪素麵(みわそうめん)少々
ながら送上(をくりあげ)候 様(やう)隠居(いんきよ)申
つけまいらせ候ま事にわざと
【本文・左丁】
御はもじの御 事(こと)と存上まいらせ候
      めてたくかしく
  ○八朔(はつさく)の文
  返す〳〵赤かちん一重
田面(たのも)のせくの御いはゐ
  さもしきしなに候へとも
申上まいらせ候 誠(まこと)に日並(ひなみ)よく
  御めにかけまいらせ候かしく
打続(うちつゞ)き一入(ひとしほ)の御事に存

【頭書・右丁】
 ○もの部
もち月とは    十五夜の月
もろこしとは   からくにのこと
もろかづらとは  女の兄弟の事なり
 ○せの部
せなとは     をとこの事
せきもりとは   せきをまもる人の事
 ○すの部
すべてとは    さうじての心
すさびとは    手すさび也
すぐせとは    すぎたる世の事
すゞめいろどきとは くれがたの事
する〳〵とは   いそぐ心をいふ
大和詞終

【頭書・左丁】
[万(よろつ)染色(そめいろ)の名(な)]【四角枠で囲み】
青(あを) 紺(こん) 千種色(ちくさいろ)
花色(はないろ) 浅黄(あさぎ) 萌黄(もえぎ)
木賊色(とくさいろ) 藍豆褐(あいみるちや)【藍海松茶ヵ】
鶯茶(うぐひすちや) 御納戸茶(おなんとちや)
空色(そらいろ) 木蘭(こび)茶(ちゃ)【媚茶ヵ】
黄(き) 鬱金色(うこんいろ) 黄茶(きちや)
卵色(たまごいろ) 鶸茶(ひはちや) 山鳩(やまばと)
梔子色(くちなしいろ) 朽葉色(くちばいろ)
丁子茶(てうじちや) 相伝茶(そうでんちや)【宗伝唐茶ヵ】
木空茶(きがらちや)【黄唐茶ヵ】 褐(かば)【樺ヵ】 柳茶(やなぎちや)


【本文・右丁】
上まいらせ候いよ〳〵御繁昌(ごはんしやう)に
御 入(いり)候 哉(や)さしたる御 事(こと)も
なく候へともまづはけふしの
御 寿(ことぶき)申上たくそう〳〵
めてたくかしく
【本文・左丁】
  ○月見(つきみ)の文
  かへす〳〵外にさしたる
残(のこ)る暑(あつ)さの御 障(さわり)もなふ
  お客さまもなく候ゆへ御 遠慮(ゑんりよ)
御めて度存上まいらせ候殊更
  なふみな〳〵さま御さそひ
はれ〳〵しき御 天気(てんき)にて
  御こしのほどまち上まいらせ候
今宵(こよひ)の詠(ながめ)ひとしほと

【頭書・右丁】
赤(あか) 紅染(べにそめ) 茜(あかね)染
緋色(ひいろ) 蘓枋(すはう)【蘇芳ヵ】 桃色(もゝいろ)
薄紅梅(うすかうばい) 葡萄色(とびいろ)【えびいろヵ・又は鳶色ヵ】
騮色(くりいろ)【栗色ヵ】 紫(むらさき) 藤色(ふぢいろ)
柿(かき) 薄柿(うすがき) 大和柿(やまとがき)
桔梗(きゝやう) 鴇色(ときいろ) 藍藤(あいふぢ)
白(しろ) 素褐(しろちや) 兼防(けんばう)【憲法ヵ】
黒(くろ) 灰色(ねづみいろ) 藍鼠(あいねづみ)
檳榔子(びんろうじ) 瑠璃紺(るりこん)
筑波鼠(つくばねづみ) 煤竹(すゝたけ)
其外当世さま〴〵の
染色あり少しづゝの
ちがひにて其名かはれり
【頭書・左丁】
しかれどもみな青黄
赤白黒の五色より出    【正色せいしょく】
たるものなり右の内
かんしきとて紫くり色   【間色かんしょく】
もえぎ茶色鼠いろ
これを外の五色といふ
いづれも此門より出たる也
[畳紙(たとふかみ)折形(をりかた)の図(づ)]【四角枠で囲み】
たとふかみをりかた品々
ありそのものによつて
おの〳〵かたちいろ〳〵
かはりありこゝにその
あらましをしるす猶
その品々によりくふう
してわかたよろしき
せいしかたあるべし


【本文・右丁】
おし計(はかり)まいらせ候 扨(さて)は兼々(かね〳〵)
申上候通 乗物町(のりものてう)藤間(ふぢま)
よし参(まい)り候まゝお恵(ゑ)みさま
御つれ夕(ゆふ)かたより御出(おんいて)
被成(なされ)候やうねんじ上まいらせ候かしく
【本文・左丁】
  ○重陽(てうやう)の文
  かへす〳〵久々御 無(ふ)さたいたし
気ふし【けふし=今日】の御 寿(ことふき)菊(きく)の齢(よはひ)
  まいらせ候さためて御子さま方
諸(もろ)とも御いわゐ申上
  さそ〳〵御 成人(せいじん)なさるへくと
まいらせ候また〳〵遠方(えんほう)より
  御めてたくそんし
貰(もら)ひ候まゝ木(き)の子(こ)少々

【頭書・右丁】
菊形
 きく
 かた
 に
 おも
 て
 き
 く
 かた
 うら
 きく
 かた
 とて
 あり

うら
きく
かた

おもて
きく
 がた

【頭書・左丁】
しきかはらがた
 二ツつゞき三ツ
    つゞきあり

此たとふ
 がみは
おほくは
 きやう
 づゝみに
 もち
 ゆる
  なり


【本文・右丁】
  あけまいらせ候かしく
さし上まいらせ候お慮(りよ)もし
ながら御 叔母(おば)さまへもよろしく
御 伝(つたへ)ねがひ上まいらせ候かしく
  ○祭礼(さいれい)申 遣(つかは)す文
此ほとは余程(よほど)ひやゝかに

【本文・左丁】
なりまいらせ候 偖(さて)は神田(かんだ)
御 祭(まつり)にてこなた町内(ちやうない)よりも
練物(ねりもの)出(いたし)候まゝ明日(みやうにち)勢揃(せいそろ)ひ
いたしまいらせ候御 子(こ)さまがた
御 誘合(さそひあはせ)見物(けんぶつ)に御こし

【頭書・右丁】

 づゝみ
  にも
 なる
 べし
その
 ほか

 いれ
くし
 いれ
はく
 いれ
  にも
 用ゆ

水ぐるま
 きく
  ながしも
 みなこれに
   おなし
【頭書・左丁】
つゝみはな






十種香
札入にも
用ゆるなり


【本文・右丁】
なされ候やう御まち申
上まいらせ候めてたくかしく
  ○恵比須講(ゑびすかう)の文
  かへす〳〵妙正(めうしやう)かたへも仰(おほせ)下(くだ)
きのふは御使(つかひ)下され候けふし
  され候よしこれは此ほとより
恵比寿講(ゑびすかう)御 祝(いわひ)のよし
【本文・左丁】
  少々すくれ不申候ゆへよろ
此方事(こなたこと)御まねき下され
  しくこなたより御礼
御しんもしの御事と山々
  申上候やう申つけまいらせ候かしく
有かたく御 嬉敷(うれしく)存上まいらせ候
さては此品(このしな)いさゝかなから
御 祝(いは)ひ上まいらせ候おしつけ


【頭書・右丁】
たま手
  ばこ
 にほひ
  もの
  いれ

雌折(めをり)  雄折(ををり)

四かく
五かく
九かく
しな
〴〵
 あり

【頭書・左丁】
[小笠原(をがさはら)をりかた]【四角枠で囲み】
いたものつゝみやう
しんののしつゝみやう
のしづゝみ
あふぎぎやうのつゝみ
あふきさうのつゝみ


【本文・右丁】
上り候てかす〳〵御よろこび
申上まいらせ候めて度かしく
  ○髪置祝(かみをきいわひ)之文
  返す〳〵御それさまさそ〳〵
一筆(ひとふで)申上まいらせ候まつとや
  御うれしく御よろこびと
御 揃(そろひ)遊(あそば)しいつも〳〵御さへ〳〵しく

【本文・左丁】
  そんし上まゐらせ候こなた
御入遊しかす〳〵御めて度
  万代事もよろしく申
そんし上まいらせ候さては
  上候やう申おり候
亀(かめ)五郎さま御事御 髪置(かみをき)
     めてたくかしく
御いわゐ被遊(あそはされ)候よし御心もしに
かけさせられ御 重(ぢう)之 内(うち)被下

【頭書・右丁】
きのはなつゝみ
くさのはなつゝみ
おびつゝみやう
すゑひろ
手ぬぐひ ふくさ
【頭書・左丁】
きやうつゝみやう
かけがうのつゝみ
すみふでつゝみやう
しほづゝみ

さま
〴〵

つゝみかた
あれどもあらまし を出す


【本文・右丁】
ありがたく存上まいらせ候これは
あまり〳〵御はもじの品(しな)に
候へとも御 帯地(おびぢ)有合(ありあはせ)候まゝ
幾久(いくひさ)しく御 祝(いはひ)上まいらせ候
くはしくは御めもしの節(ふし)
【本文・左丁】
万々御 歓(よろこひ)申上まいらせ候めてたくかしく
  ○歳暮(せいぼ)のふみ
  返す〳〵もはや余日も
歳末(さいまつ)の御 寿(ことぶき)まん〳〵
  なく候まゝゆる〳〵春永に
御めて度 存上(そんしあけ)まいらせ候
  申上へく存あけまいらせ候
妙貞(めうてい)さま御 初(はじめ)みな〳〵さま


【頭書・右丁】
[進物目録(しんもつもくろく)書様(かきやう)]【四角枠で囲み】

進上

はくてう 一は
がん   一は
たい   一折
すゝき  一折
くらけ  三桶

 已上

    こなたの名


進物るい折紙の書やうは
樽に魚鳥の時は先鳥を
【頭書・左丁】
書次に魚を書て魚に
樽を書るなり精進物は
魚鳥の間にかくべし
小袖巻物などは樽の
前にかくべきなりすべて
進物の箱あしなき箱は
たて板にかくなり又
箱にひもをかくるもの
ならば
真中
より
右へ
寄て
かく
ひも

かく
れぬ
やうに
書べし
ひもなき
箱は真中に
かくなり又箱ざかな
さんぶたにて足あるには


【本文・右丁】
  はゞかりなからみな〳〵さまへ
御 機嫌(きげん)よふ御入なされ候よし
  よろしく御つたへ
うへなふ御めてたく御うれしく
  下さるへく候こなた
存上まいらせ候いつも〳〵めつらし
  福助よりもよろしく
からす候へとも塩(しほ)さかし一 籠(かご)
  申上まいらせ候めてたくかしく
おくり上まいらせ候 聊(いさゝか)年(とし)の
【本文・左丁】
暮(くれ)の御祝儀(ごしうぎ)申上候まての
御事に候まつはいそぎそう〳〵
    目出たくかしく
  ○寒中見廻(かんちうみまひ)の文
  かへす〳〵此ほとは
打絶(うちたえ)御 音信(をとづれ)も承(うけたまは)り

【頭書・右丁】
よこ板にかくべし尤
奉書紙にてふちを張
印判おしてあるべし
[婦女(をんな)をしへ草(ぐさ)]【四角枠で囲み】
 ○姑(しうとめ)の心得(こゝろえ)
それ姑 最初(さいしよ)の願(ねが)ひの
ごとくすれば則(すなはち)姑の
かゞみとなるべし何を以(もつ)て
かくいふぞとなれば初(はじめ)に
姑のねがふ所は子息(しそく)に
娵(よめ)をとりて夫婦(ふうふ)中(なか)よく
させ家(いへ)をおさめさせなば
最早(もはや)うき世(よ)におもひ
残(のこ)すことはあるまじと思ふ
故(ゆへ)に娵(よめ)をむかへて婚礼(こんれい)
も首尾(しゆび)よくすみぬれば
あらうれしやといふその
【頭書・左丁】
舌(した)をひき入れざる内
に忰(せがれ)の気(き)に入さへすれば
理屈(りくつ)いふではなけれども
思ひの外 支度(したく)麁相(そさう)
此方の約束(やくそく)違(ちが)ふなどゝ
いひ又 支度(したく)十分(しふぶん)なれば
娵(よめ)に自慢顔(じまんがほ)見(み)ゆる
など乳母(うば)腰元(こしもと)に囁(さゝや)く
より此ものども追従(ついしやう)
して仰(おふせ)の通(とふり)あのごとくの
お支度(したく)に似合(にあは)ず姑御(しうとご)へ
のみやげもの麁末(そまて)に
見ゆるなどはや譏事(そしりごと)
いひ出すより事おこる
はじめなればこれを慎(つゝし)む


【本文・右丁】
  大ふく町 伯父(をぢ)さまへ御めもし
不_レ申 御無沙汰(ごぶさた)いたしまいらせ候
  いたし御うわさのみ申
さて〳〵けしからすさむさ
  つゞけまいらせ候御 美代(みよ)さま
つよく候へとも御揃なされ
  御事も御かはりなふ御くらしの
御わもし【わもじ=病気】もなふ山々御めて度
  よしもしもや御たよりも
御 歓(よろこひ)入存上まいらせ候さては

【本文・左丁】
  御さ候はゝよく〳〵御つたへ
此(この)一種(ひとしな)わざ〳〵遠方(えんほう)より
  仰つかはされ下さるへく候
取よせ候まゝいさゝかなから
       めてたまかしく
御 見舞(みまひ)まてにおくり上まいらせ候
折角(せつかく)〳〵寒(さむ)さ御いとひなされ候
やうに存上まいらせ候 何事(なにごと)も

【頭書・右丁】
べき事なれ共女心の
思慮(しりよ)なく次第(しだい)〳〵に
事(こと)かさなりて家(いへ)の乱(みだれ)
となることをしらず
爺親(てゝおや)にあしくいひなし
それよりてゝ親を小(こ)
だてにとり親の気(き)に
いらぬ娵(よめ)を追(おひ)いだす
事に誰(たれ)も申ぶんは有
まじきなどゝいひてわめ
きいだせば息子(むすこ)気(き)の
どくさに取成(とりなし)いふとき
女房に目のくれるも
其方の愚昧(ぐまい)ゆへなどゝ
我子(わがこ)へも恥(はぢ)をあたへ
【頭書・左丁】
娵のにくさにわが子
へもあたりあしくなり
最初(さいしよ)娵(よめ)をとりて
家(いへ)ををさめさせその
身(み)は安楽(あんらく)の身とならん
願ひしこともきへはてゝ
修羅(しゆら)をもやす種(たね)とは
なりぬ浅間(あさま)しき事
ならずやこゝをもつて
姑はじめの願ひのごとく
せば世上の姑の鏡(かゞみ)と
なるべきなり歌に
 いにしへの娵のつら
  さをおもひなば
 鬼ばゝじやとは
  いかでいはれん


【本文・右丁】
御めもじのふしと
    申残しまいらせ候かしく
  ○婚礼祝義(こんれいしうぎ)の文
     ○こんれいの文に返す〳〵とはかくまじきなり
  そへて申上まいらせ候此ほと
  亀右衛門(かめゑもん)さま御はなしにて
一 筆(ふで)しめし上まいらせ候御 揃(そろひ)
  うけたまはり候へは御さきさま
遊し御 機嫌(きげん)よく入せられ
【本文・左丁】
  かねて御 間柄(あいたから)のよし
数々(かず〳〵)御めて度存上まいらせ候此ほとは
  御 相応(さうおう)の御ゑんとうけ
お萬美(まみ)さま御事御 日柄(ひがら)も
  たまはりま事に〳〵
よろしく御 婚礼(こんれい)よろづ
  万々年の末(すへ)かけて
御 滞(とゞこふり)なくすまさせられ候よし
  御めてたく御両親さま
誠(まこと)に玉椿(たまつはき)の八千代(やちよ)まで


【頭書・右丁】
 ○娵(よめ)となる心得(こゝろえ)
娵(よめ)最初(さいしよ)の願(ねが)ひのごとく
せばこれ又 世界(せかい)の娵の
鑑(かゞみ)となるべしはじめ
母親(はゝおや)のいふやうは女といふ
ものは一度(ひとたび)嫁入(よめいり)して
ふたゝびかへれば親(おや)の育(そだて)
柄(がら)あしきによりさきの
気(き)に入らずしてさられ
しといはれて親(おや)迄の
恥辱(ちじよく)となるべしさるに
よりてさきの夫(をつと)を大切(たいせつ)
にし姑(しうとめ)の気に入るやう
にすべし舅(しうと)は男(をとこ)の
事なればいかやうにも
【頭書・左丁】
なるものぞといふとき
娘(むすめ)答(こたへ)て御気つかひ
なさるまじたとへいか
やうの事ありとも戻(もどる)
まじ姑(しうとめ)といふものは
たとへ仏(ほとけ)のやうな方
にてももとは他人(たにん)
なり何事にも機(き)
嫌(げん)をとりて辛抱(しんばう)し
申すべしと一旦(いつたん)母(はゝ)
親(おや)に安堵(あんど)させるは娘
のならひなり時節(じせつ)
来(きた)りて嫁入し当分(とうぶん)
はへやすみのことなれば
慎(つゝし)み深(ふか)きゆゑに家内(かない)


【本文・右丁】
万々年(まん〳〵ねん)も幾久(いくひさ)しく
  さそ〳〵御 安堵(あんど)の御事と
御めて度 嘸々(さそ〳〵)御それさま
  そんし上まいらせ候めてたくかしく
御 喜(よろこひ)の御事と存上まいらせ候
さては此さもし一 折(をり)進(しん)し
上まいらせ候御 歓(よろこひ)申上候 印迄(しるしまで)に
【本文・左丁】
御 祝(いは)ひ上まいらせ候めて度かしく
  ○振舞(ふるまひ)の文
  返す〳〵申上おとしまいらせ候
せんもじは娘(むすめ)かたへ御しんもじに
  御あねさま此ほとは御
かけさせられ見事のしな〳〵
  とうりうのよし
贈(をくり)下され扨々(さて〳〵)御 念(ねん)もじの

【頭書・右丁】
のものまでもよきに
いひはやすにより女心に
油断(ゆだん)してなじむに
したがひ朝寝(あさね)して
髪(かみ)ゆふに隙(ひま)をとり
めづらしきうちは
夫(をつと)も用捨(ようしや)するにつき
あがりて姑の気には
入らず姑の顔付(かほつき)あし
ければそろ〳〵姑を
譏(そし)りいだし腰元(こしもと)下(げ)
女(じよ)を相手(あひて)に陰口(かけくち)いへば
そのうちにも又姑に
告(つげ)るものありて家内(かない)
の騒動(さうどう)となる娵(よめ)
【頭書・左丁】
始(はじめ)の願ひには嫁入
してさきの夫の気に
入り姑(しうとめ)を大切(たいせつ)にして
いかやうのことありとも
辛抱(しんばう)する願ひなり
しを打わすれて夫(をつと)の
大切(たいせつ)なる親(おや)をそしり
わか口よりわが身を
追出(おひいだ)す媒(なかだち)をなすこと
なりうたに
 しうとめをおやぞと
  おもひつかへなば
 いかでふたゝび
   家をいづべき
 ○奉公(ほうこう)する心得(こゝろえ)
下女(げじよ)最初(さいしよ)の願ひには


【本文・右丁】
  御さそひ合され御入のほと
御事と有かたく御うれしく
  くとふも〳〵御まち申あけ
存上まいらせ候さてはわざと
  まいらせ候御慮もしなから
内祝(うちいはひ)いたし候まゝ御 招(まねき)申上たく
  そのよし御あねさまへも
こなたより申上候やう竹(たけ)左衛門
  仰上られ下さるへく候
申付まいらせ候 夕方(ゆふかた)よりいとさま

【本文・右丁】
    めてたくかしく
御めしつれられ御 遊(あそ)ひに
御出被下候やう御ねがひ上まいらせ候
兼(かね)て御馴染(おんなじみ)の勝(かつ)五郎かさ久も
参(まい)り茶番(ちやばん)いたすとやら
申事に候まゝくれ〳〵も御 越(こし)

【頭書・右丁】
奉公(ほうこう)に出てよくつ
とめ主人(しゆじん)の気(き)に入り
立身出世(りつしんしゆつせ)して衣服(いふく)
も沢山(たくさん)にこしらへ相(さう)
応(おう)の所へ縁付(えんづか)んと
おもひての奉公なり
はじめ母親(はゝおや)のいひわた
すには奉公にいづる
からはいかやうの主人(しゆじん)に
つかはるゝやしれず朝(あさ)
もとくおき夜(よる)も遅(おそ)く
寝(ね)るものとこゝろえ
へし女は第一 尻軽(しりがる)
にして主人(しゆじん)にくち
こたへせす仮(かり)にも朋(ほう)
【頭書・左丁】
輩(はい)と主人のことかげ
くちいはず朋輩とて
油断(ゆだん)すべからず主人へ
告口(つげくち)するものと心得
べし年(とし)たけなば
必(かならず)〳〵旦那(だんな)のそば
ちかくよらぬやうにし
とかく人にそねまれぬ
やう物事(ものごと)つゝしみ
大切(たいせつ)に勤(つと)むべしと
いひわたす時娘も其
気(き)になつとくして母の
教(をしへ)のとほりにせんと
おもひしはこれ最初(さいしよ)の
願ひなりさて奉公に


【本文・右丁】
御 待(まち)申上まいらせ候かしく
  ○奉公(ほうこう)に出(いつ)る方(かた)へ遣(つかは)す文
  かへす〳〵何なりとも
いよ〳〵御 替(かは)らせなふ御入のよし
  相応の御用も御さ候はゝ
御めてたくそんしあけまいらせ候
  かならす〳〵御へたてなく
承(うけたま)り候へはお千世(ちよ)さま御 事(こと)
【本文・左丁】
  御申こし下さるへく候
御 奉公(ほうこう)に御出被成候よし
  こなた喜美にても御てつ
嘸々(さそ〳〵)御 支度(したく)何角(なにか)と御
  だひに上ケ可申候まゝくれ〳〵
賑々敷(にぎ〳〵しく)御 祝(いは)ひなされ候はんと
  御申こし御ねかひ申あけ
御めてたく存上まいらせ候さては
  まいらせ候めてたくかしく
ふつゝかの品(しな)には候得とも

【頭書・右丁】
出てもはじめのうちは
何事も慎(つゝし)み心いつ
ぱいに勤(つとむ)るゆゑに
主人も朋輩(はうばい)も心
よくもてはやすにつけて
そろ〳〵と口(くち)をきゝ出し
おなじ不奉公仲間(ふほうこうなかま)
のかげくちにのりて
あしさまに主人を罵(のゝし)り
つひにはおのれの
身のさまたげと成(なり)て
立身(りつしん)出世する事
なし最初(さいしよ)の願(ねが)ひ
には何とぞよく奉公
して衣類(いるい)をも拵(こしら)へ
【頭書・左丁】
出世もせんと思ひし
ことなればその出世を
するやうにつとむべき
はずを不奉公(ふほうこう)するは
はじめの望(のぞみ)をわすれ
たるなりこゝをもつて
只(たゞ)人は発端(ほつたん)の志(こゝろざし)を
ひるがへさずして一図(いちづ)に
まもるべきことなり歌に
 山だしのこゝろを
  もちてつとめなば
 つひには主(しう)に
  めぐまれぞせん
右 姑(しうとめ)と娵(よめ)と下女(げぢよ)と
三ツの品はありといへ共
みな是そのこゝろより


【本文・右丁】
御 鼻紙(はなかみ)一 束(そく)御まな一折
わざと御 祝(いは)ひ上まいらせ候
こなた事も御 悦(よろこひ)御 暇乞(いとまごひ)ながら
まいり申度候得共御 存知(ぞんぢ)の
取込(とりこみ)にて御 無沙汰(ぶさた)いたし
【本文・右丁】
まいらせ候 宜敷(よろしく)御 伝上(つたへあげ)られ
下さるべく候めで度かしく
  ○移徙(わたまし)を祝(いは)ふ文
  返す〳〵福(ふく)兵衛事もさつそく
けふしは御 日柄(ひがら)もよろしく
  御よろこひに上り申へきところ
そなたへ御 移(うつ)りなされ候よし

【頭書・右丁】
善悪(ぜんあく)の相(さう)はあらはるゝ
ことなりしかれども人
是に心をよする事
なくして家(いへ)を乱(みだ)し身(み)
を害(そこな)ふ事になりゆく
ことをしらざるなり
つゝしむべし〳〵
[諸礼(しよれい)躾(しつけ)がた]【四角枠で囲み】
○貴人(きにん)へ小袖(こそで)を参(まゐ)ら
するに先 衿(ゑり)の左右(さゆう)
を両手(りやうて)にもちてひざ
まづきめし給ふとき
たつてきせまゐらせ
帯(おび)の中ほどを左右
の手にもちてまゐ
らするなり
【頭書・左丁】
○脇差(わきさし)をさし上る事
刃(は)の方をわが方になし
鍔(つば)の下とこじりの所
を両手に持(もち)て参らすべし
○惣(さう)じて刃物(はもの)を参ら
すには刃(は)の方をわが方に
なしてまゐらすべし
○床(とこ)のかけもの或(あるひ)は
花(はな)などを見る事まづ
床(とこ)の少しこなたより
ひざまづき三足(みあし)ほど
床の前へはひ寄(より)よこ
畳(たゝみ)の上へ両手をつきて
見るべし
○しやうじあけたて
のこと左りの膝(ひざ)をつき


【本文・右丁】
  多用(たやう)ゆへこなたよりよろしく
御 愛度(めでたく)存上まいらせ候此品
  申上候やう申付候かしく
わざと御祝ひ申あけまゐらせ候
幾久敷(いくひさしく)御おさめ下さるへく候
        めてたくかしく
  ○病気見舞(びやうきみまひ)の文
  返す〳〵とくより御見舞
御かもしさま此ほとより御すぐれ

【本文・左丁】
  申上たく候へとも此ほとは
不被成候よしいかゝ御入候や
  無人(ぶにん)にてことの外せはしく
扨々(さて〳〵)御 案事(あんじ)申あけまいらせ候
  それゆへ自由なから
嘸々(さぞ〳〵)御心づかひさつし上まいらせ候
  御無さたいたしまいらせ候
此一 重(ぢう)御 見廻(みまひ)ながらおくり上
  御ゆるし下さるへく候かしく
まいらせ候くはしくは御めもじに

【頭書・右丁】
右のひざをたてゝ障子(しやうじ)
のこし板(いた)のさんに手を
かけあけたてをすべし
○屏風(びやうぶ)のたてやうは
まづひざまづきて中
ほどをひらき次に右へ
ひらき又左りへ開(ひら)くべし
○貴人(きにん)え状(じやう)を参ら
する事 左の手をつき
右の手にて手紙(てがみ)の
中ほとより少し下の
かたをもちて貴人の
よみ給ふやうにおもて
の方をむかふへむけて
さし出すべし
○貴人(きにん)より肴(さかな)または
【頭書・左丁】
菓子(くわし)はさみ給ふ時は
する〳〵と御 前(まへ)へゆき
ひさまづき膝(ひざ)にて
三足ほどはひより両
手をかさねて頂戴(てうだい)し
又三足ほどさがりて
右のひざをたて下座(しもさ)
のかたへひさをひねりて
たつべし
○香(かう)のきゝやう香炉(かうろ)
をうけとりたるまゝにて
きくべし手を上へ
かざしてきくはいやし
香炉の灰(はい)のおしやう
菱形(ひしがた)におすべしいづれ
もおしきる所をば長(ちやう)に


【本文・右丁】
申上まいらせ候めて度かしく
  ○悔(くやみ)の文
御ともさま御 事(こと)久々(ひさ〳〵)御すぐれ
不被成(なされず)候 所(ところ)御 養生(ようしやう)かなわせられず
御 臨終(りんじう)のよし御しらせ下され

【本文・左丁】
さて〳〵おとろき入まいらせ候
嘸々(さぞ〳〵)御それさま御ちからおとし
さつしあけまいらせ候こなた事
早速(さつそく)上(あが)り可申候得共 折節(をりふし)
持病(ぢびやう)にてふせりおり候まゝ

【頭書・右丁】
おすべし半はいむ事
なりたきものゝ時は灰
をおすに銀葉(ぎんよう)をしき
そのまゝ置(おく)べし請取(うけとり)
わたしの事左の手に
香炉(かうろ)をすへ右の手を
そへて渡(わた)すなり請取
やうも同前(どうぜん)にこゝろえ
べし但(たゞ)し貴人より
たまはらば右の手を左
の下へかさねてきくべし
[食事(しよくじ)しつけかた]【四角枠で囲み】
本膳(ほんぜん)出候前に座配(ざはい)
おの〳〵まづ左右へ
一 礼(れい)してその人の位(くらい)
【頭書・左丁】
相応(さうおう)に次第(しだい)すべし
およそ座(ざ)につくには
位(くらい)の高下(かうけ)をもつて座
をさだむるなれは辞義(じぎ)
に及ばずといへども女
は格別(かくへつ)なり上客(しやうきやく)ほど
叮嚀(ていねい)に末座(まつざ)へ会釈(ゑしやく)
あるべし位なき人の
座席(ざせき)には長幼(ちやうよう)を以
てさだむるなれば猶
厚(あつ)く辞義(じぎ)して定(さだ)む
べし
○給仕(きうじ)のもの膳(ぜん)をすへ
る時 中(ちう)にて取一 礼(れい)
すべし
○上客 箸(はし)をあぐる時


【本文・右丁】
まづは文(ふみ)して御 悔(くやみ)申上
まいらせ候御 用(よう)も御ざ候はゝ何事(なにごと)
にても御 遠慮(ゑんりよ)なく仰下(おほせくだ)
され候やう御 願(ねかひ)申上まいらせ候以上
  ○仏事(ぶつし)申 遣(つかは)す文
【本文・左丁】
きのふは御 使(つかひ)下されことさら
仏(ほとけ)かたへ何寄(なにより)之 品(しな)送(をく)り
下され万々(まん〳〵)有(あり)がたくそんし
上まいらせ候さては明日
麁末(そまつ)の非時(ひじ)さし上 度(たく)候まゝ

【頭書・右丁】
相伴(しやうばん)其外も亭主(ていしゆ)に
一礼して箸(はし)をあぐべし
○箸をとるはさかさまに
とり右の手の無名指(むみやうし)と
小指(こゆび)とのあひだをはさみ
大ゆびと人さし指(ゆび)と
中指と三ッの指(ゆび)にて
飯椀(めしわん)のふたをとり左の
手へわたし又 汁(しる)わんの
ふたを取めしわんのふた
の上へかさねて膳(ぜん)の右の
かたはらに置(おく)べし引
おとしの《振り仮名:飣椀|さいわん》のふたは
喰(く)ふ時ひらきてよし
引おとしは本膳(ほんぜん)の一二の
膳(ぜん)につかずして只 膳(ぜん)の
【頭書・左丁】
わきへひくをいふなり
先 飯(めし)わんを左の手
にてあげてはしを順(じゆん)に
取なほし一はし二 ̄タはし
めしをくひて下におき
左の手にて汁(しる)わんを
あげて汁の実(み)をくひ
汁を吸(す)ひ実(み)を喰(くひ)て
それより本膳のさいを
くふべし本膳のさい
二ッあらば左りの方の菜(さい)
より喰(く)ふべし若(もし)香(かう)の
物左りにあらば右の方
より喰ふべし飯(めし)汁(しる)
飣(さい)と順(じゆん)にくふべし
○二の膳(ぜん)三のぜんの時は


【本文・右丁】
御 夫婦(ふうふ)さま御 揃(そろひ)御 入(いり)下
され候やう御 願(ねかひ)申しあけ
まゐらせ候 何(なに)も御めもし
の節(ふし)と申 残(のこ)しまいらせ候以上
  ○火事(くはし)見舞(みまひ)の文
【本文・左丁】
今朝(けさ)ほと承(うけたまは)り候へは其(その)御 許(もと)さま
御 近火(きんくわ)のよしさて〳〵御さわぎ
なされ候はんとおどろき入まいらせ候
去(さり)ながら何の御 障(さはり)もなふ
皆々様(みな〳〵さま)御 機嫌(きげん)よふ入せられ候

【頭書・右丁】
先本膳の飯(めし)汁(しる)さいを
二三 度(ど)もくひて二の
汁(しる)をすひ同じくさいも
くひて本ぜんのめしに
かへるべし三のぜんも又其
ごとし凡二三の汁(しる)料理(れうり)
によりて客(きやく)くはざる時の
為(ため)にうすみそすまし抔(など)
にするなり又本汁をかへ
にやりたる間にくふなり
○むかふづめはくはずして
よし二の膳の汁は右の
手にとり左の手へうつして
くふ置(おく)時も又右の手へ
うつしておくべし三の汁は
左りの手にて其侭(そのまゝ)とり
【頭書・左丁】
とるがよし鱠(なます)ばかりは
持上(もちあげ)てくふべからず汁(しる)
の実(み)さいのものにても
椀(わん)のそこにあるものを撰(ゑり)
出してくふべからず亭主(ていしゆ)
さいのものをひかばかさを
出してうくべし貴人 飣(さい)
をひかば箸(はし)を膳の上に
置わんを出し両手を
つきてまつべしあたへ
給ふ時両手にうけて
いたゞくへし
○貴人の前にては盃(さかづき)は
右の手にとり左の手を
そえてもつべし同輩(どうはい)
ならば左の手にて飲(のむ)べし


【本文・右丁】
御 事(こと)何(なに)より〳〵御めて度(たく)
御 嬉(うれ)しく存上まいらせ候 取(とり)あへす
有合(ありあは)せ候まゝ此(この)二種(ふたしな)御めに
かけまいらせ候たゞ〳〵御 見廻(みまひ)の
印(しるし)までに候めてたくかしく
【本文・左丁】
  洪水(おほみづ)見舞(みまひ)の文
打(うち)つゞき御 日和(ひより)あしく御もとさま
御 近所(きんじよ)水出(みづいで)候よしさて〳〵
御 蔭(かげ)ながら殊(こと)に御 案(あん)じおりまいらせ候
去(さり)ながら最早(もはや)水(みづ)も引(ひき)候との

【頭書・右丁】
しかし婦人(ふじん)はいづれも両
手にもちたるがよし
○吸物(すひもの)出すにきうじの
ものわが右におかば箸
を取ながら右の手にて
そのふたを取すぐに其
手にて椀(わん)をあげ左の
手にうつすべしもし
左手におかば左にて取
すぐにふたをひらき椀
をあぐべし箸の取直(とりなほ)し
やう引汁の所にて見
合せしるべし吸ものは
てうしの出るを見合せて
くふべしまつ実(み)をくひ
汁を二口ほとすひて
【頭書・左丁】
その後(のち)は心にまかすべし
引汁は箸をさかさまに
取直し無名指(むみやうし)小指
両指にてにぎり大指
人さしゆび中の指にて
椀を取あげ右の手に
うつし先汁をすひ後
に箸をもとのごとくに
順(じゆん)にとり直(なほ)して実(み)を
くふべし下におくには
又右の手にうつして
おくべし
○婦人(ふじん)は猶さらの事
にてものごと尋常(じんじやう)に飯(めし)
も大ぐちにくふべからず
汁(しる)はくちおと高(たか)く長(なが)く


【本文・右丁】
御 事(こと)まづ〳〵御 恙(つゝが)なふ何より
御めてたく存上まいらせ候御 見廻(みまひ)
まで早々(さう〳〵)申上まいらせ候かしく
  ○疱瘡(ほうそう)酒湯(さかゆ)悦(よろこひ)の文
  かへす〳〵こなた母事(はゝこと)も
御あねさま御事御 疱瘡(ほうさう)

【本文・左丁】
  よろしく御よろこひ
御 軽(かろ)く御ひたちなされ御さゝゆの
  申上候やう申付まいらせ候
御 祝(いは)ひとて赤飯(せきはん)御おくり
       めてたくかしく
被_レ 下 有(あり)かたく御めてたく存上まいらせ候
こなたよりはろく〳〵御 見舞(みまひ)も
不_二申上さて〳〵申わけなく

【頭書・右丁】
すゝることあしし舌(した)うち
すべからす酒(さけ)の時同前也
○串(くし)にさしたるもの箸(はし)
にてはさみあげ左りの
手にてくしを取はし
を持(もち)そへてくふべし凡(すべ)て
椀(わん)のうちよりそとを
見ること有べからずまた
よそ見してものを
はさむべからず口をさし
出してくふべからず
○箸(はし)の取やうは三ッ折
にて上の折めをとる
べし箸(はし)を膳(ぜん)におくは
初(はじ)め置たるごとくにて
置べし凡(およそ)飯汁椀(めししるわん)を
【頭書・左丁】
取あひだははしを取直し
ひざの上に置べしいく
たびもかくのごとくすべし
○飯椀(めしわん)のふたにつかば
はしをもつてわんの
内へ入るべし
○もてなしの内三たび
亭主(ていしゆ)がたへ謝礼(しやれい)すべし
はじめに料理(れうり)の結構(けつかう)
なることをいひ二度めに
は料理 丁寧(ていねい)なるよし
をいひ三度めには諸事(しよじ)
念(ねん)入たるよしを挨拶(あいさつ)
すべし此外 遠来(えんらい)の
もの名物(めいぶつ)に気(き)をつけ
礼を述(のぶ)べし


【本文・右丁】
おそれ入まいらせ候此御さもし
少々ながら御 祝(いは)ひ上まいらせ候
        めてたくかしく
  ○大風(おほかぜ)見廻(みまひ)の文
ゆふしは殊(こと)の外(ほか)の大風(おほかぜ)にて

【本文・左丁】
嘸々(さぞ〳〵)御 心(こゝろ)づかひ御 老母様(らうぼさま)
何(なん)の御 障(さはり)もなく候やそれのみ
御 案(あん)じ申上まいらせ候 取(とり)あへず
御 様子(やうす)うけたまはりたくしめし
上まいらせ候めてたくかしく

【頭書・右丁】
○茶菓子(ちやぐわし)出るときは
盆(ぼん)を右の手にて取上け
左の手にうつしやうじを
取りくふべし
○後段(ごだん)の菓子めい〳〵に
出るはよし若(もし)廻(まは)り菓子
ならば上客 相伴(しやうばん)に辞義(じぎ)
して後 紙(かみ)をいだして
よき程(ほど)に取相伴の前へ
差出(さしいだ)すべしよき菓子を
ゑりとるは見ぐるし
○茶(ちや)ぐはしをはらば上
客より立て手水(てうづ)つかふ
べし此時 濃茶(こいちや)の出る
ならばていしゆ持来(もちきた)る
茶わんを上客 請取(うけとり)て
【頭書・左丁】
いたゞき座(ざ)におき上客
次の人へのめといふおの〳〵
あつく辞義(じぎ)して上客に
ゆづる上客 互(たがひ)に辞退(じたい)
せば茶さめ申べしといひ
てとりあげ三口のみて
我(わが)吞(のみ)たる所を指のはら
にてぬぐひ次の人へ渡(わた)
す次の人 受取(うけとり)上客の
呑たる所をわが前へふり
むけいたゞきのみて前の
ごとく次第にのみ末座(ばつざ)の
人にいたらばのみ終(をは)りたる
茶椀(ちやわん)を上客へもどす也
上客受取 茶(ちや)の香(か)を
かぎちやわんを見て次へ


【本文・右丁】
  ○逗留(とうりう)見廻(みまひ)の文
  返(かへ)す〳〵御つれ〳〵のふしは
愈々(いよ〳〵)御さへ〳〵敷(しく)御入候はんと
  ちとこなたへも御はなしに
御めて度存上まいらせ候さては
  御出下さるべく候このせつ
此程(このほと)より永々(なか〳〵)の御 逗留(とうりう)
  所々(しよ〳〵)開帳(かいちやう)にてにぎはひ候まゝ
嘸々(さぞ〳〵)御つれ〳〵さつし上まいらせ候

【本文・左丁】
  御とも申たく候いつれにても
此品(このしな)宿(やど)にてこしらへ候まゝ
  こなたへ御こし御まち申
さもしき品には候へとも御 慰(なくさ)み
  上まいらせ候かしく
ながらしんじ上まいらせ候こなた事も
見合(みあはせ)候て御 見舞(みまひ)に上(あが)り山々
御はなし申上べくとたのしみ

【頭書・右丁】
おくる次第に見をはり
末座(ばつざ)より又上客へ帰(かへ)す
其時上客少しいたゞき
下におく時ていしゆ出て
茶碗(ちやわん)をとらばおの〳〵一礼
すべし本式(ほんしき)はめい〳〵こい
茶なりざしきの廻(まは)り茶は
略義(りやくき)なりこい茶出る時
ふくさを添(そへ)て出すは
茶碗あつきゆゑなり
ちやわん冷(ひえ)たらば服紗(ふくさ)を
下に置のむべしふくさは
上客の前によせ置べし
○金柑(きんかん)は皮(かは)ながら蜜柑(みかん)は
三ッにわり皮をとりて
くふなりきざはしは皮(かは)を
【頭書・左丁】
とらずされども女中は
皮をとりてくふべし
○干飯(ほしいゝ)道明寺(どうみやうし)これは箸(はし)
かたし有べし其 箸(はし)を
とりたるにてほしいゝを
とり水を箸にてかき立
くふべし塩(しほ)を箸にて
さしくはへ水はいくたびも
かへてくふべし
○ちまきはかしらを二ッ
三ッほどきて下へおして
箸(はし)にさしくふべし杉(すぎ)
楊枝(やうじ)を用ゆべし
其外さま〴〵ありといへ共
先日用のあらましを記す
余は師をもとめて知べし


【本文・右丁】
おりまいらせ候めて度かしく
  ○芝居(しはゐ)申合の文
  くれ〳〵もいつごろよろしく候や
菊五郎(きくごらう)助六(すけろく)ことの外よろしき
  御きはめ下され候てこなたへ
よしうけたまはりまいらせ候
  御さそひの御文御こし
いつにても御 供(とも)申上度こなたより

【本文・左丁】
  下さるべく候御もとさま
御 誘(さそ)ひ申上べく候まゝいつ頃
  御ともしさまへはこなたよりない〳〵
にてよろしく候哉御 内々(ない〳〵)
  さそひに上申べく候まゝ
仰(おほせ)下さるべく候こなた事は
  さやう思召下さるべく候かしく
此節(このせつ)取込(とりこみ)之中申出しかたく候ゆへ
御もとさまより御さそひの

【頭書・右丁】
[給仕(きうじ)の次第(しだい)]【四角枠で囲み】
すべて女のたしなみは
髪(かみ)をゆひ化粧(けはひ)して朝(あさ)
夕(ゆふ)身(み)を奇麗(きれい)に持(もつ)べし
すがたを作(つく)るのみにあらず
上たる人への礼義(れいぎ)にて
また不浄(ふじやう)を除(のぞ)くとも
いへば人の給仕(きうじ)する時は
猶さらのことにして手足(てあし)を
きよらかにすべし女の顔(かほ)に
紅粉(べに)おしろいをよそほひ
たり共手足のむさきは
にげなく愛相(あいさう)のつきる
ひとつなればよく〳〵
嗜(たしな)むべし
【頭書・左丁】
○膳(ぜん)すゑやうの事両手
の親指(おやゆび)を膳のふちへ
かけてしつかりともち
目八分(めはちぶん)にさし上け膳の
下より見るごとくにして
しとやかに客座(きやくざ)三尺程
こなたにひざまづき膳を
下に置両手をかけて客
の前へおしてすゆるなり
とかく畳(たゝみ)のへりをふまぬ
やうに心がくへしたつ時は
客(きやく)座敷(ざしき)の右座におらば
きうじは左の足よりたつ
べし客左座ならば
右の足よりたつと心得べし
○客 飯椀(めしわん)を出すとき


【本文・右丁】
御つもりに福助(ふくすけ)へは申聞せ候まゝ
さやうにおほしめし下さるべく候
いつれ御返り事御ねかひ
申上まいらせ候めてたくかしく
  ○安産(あんさん)怡(よろこひ)の文
【本文・左丁】
  かへす〳〵こなたみな〳〵よりも
一筆申上まいらせ候お阿舞(あん)さま
  よろしく申上候やう申おり
御 事(こと)やすらかに御 産(さん)遊はし候よし
  まゐらせ候やかて御めもしに
御 血(ち)ごゝろもなく御子さまも
  まん〳〵御よろこひ申上へくと
御 達者(たつしや)に御入候との御事万々
  存上まいらせ候めてたくかしく
御めてたく嘸々(さぞ〳〵)御もとさま

【頭書・右丁】
たつて客座の三尺ほど
こなたにひざまづき左の
手をつき右の手に盆(ぼん)を
持て差出し飯椀を
とりて飯鉢(めしばち)のある所へ
もどり飯椀ぼんにのせ
たるまゝ下に置両手にて
飯鉢のふたを取下座の
方へあおむけて置飯椀
の糸底(いとぞこ)を左の手にて
もち右にて杓子(しやくし)を取
二杓子半にもるべしさて
飯椀を右へ持直し糸
ぞこをもちて客へ差
いだすなり又飯鉢を直(すぐ)
に客の前へもち出して
【頭書・左丁】
右のごとくし飯(めし)をもること
もあり中輩(ちうはい)は此 格(かく)にて
よろし
○汁(しる)のかよひの事 客
汁をかゆる時汁椀を盆(ぼん)
にて取て下におきその
汁椀のふたを取て打きせ
たつべし汁をかへて来る
とき客の前にひざまづき
ふたをとりて盆のふちに
うつむけ置差出すなり
客汁椀をとらば又盆
を下に置盆にある汁
椀のふたをとりて客の
おきたるものと所へなを
してたつなり


【本文・右丁】
御 怡(よろこひ)とさつし上まいらせ候 誠(まこと)に
麁末(そまつ)之 品(しな)には御座候へとも
御 産着(うぶぎ)一かさねしんし上まいらせ候
幾久敷(いくひさしく)御 祝(いは)ひ納(おさ)め下さるべく候
めて度かしく

【本文・左丁】
  ○餞別(せんべつ)の文
弥(いよ〳〵)御 替(かはり)なふ御くらしのよし
何よりもうへなふ御めて度存上まいらせ候
さては徳入(とくにう)さま御事 上(かみ)がたへ
御出のよし明日御 立(たち)との御事

【頭書・右丁】
○二の膳(ぜん)三の膳 向(むか)ふ附
の順(じゆん)は本ぜんの右へ二の
膳(ぜん)左り三の膳向ふづけは
本膳の少し右のかたへ
すゑおくべし菓子又
ひきもの出る時本ぜんの
向ふ左りのかたへすゆる也
○酌(しやく)とりやうてうし持 
出下にすはりてうしの口
を左の方へむけて我前(わがまへ)へ
おき客の盃(さかづき)とりたる時に
立て客の前少し下座
の方へひざまづき右の手
にててうしのつるひたりの
手にててうしのふたを
おさへてつぐべし酒(さけ)つぎ
【頭書・左丁】
たらばまたもとの座(ざ)へ
もとりて扣(ひか)ゆべし
○肴(さかな)挟む事右の手
にはしを取左の手を添(そへ)
てはしをそろへさかなを
はさみ差出すべし客
一 礼(れい)するならばこなたも
慎(つゝし)んで一礼すべし台(だい)
引物(びきもの)は客の吸物椀(すひものわん)の
ふたをとりてもり出す
べしすべて給仕(きうじ)は座
敷(しき)の敷居一ツへだてゝ
次にあるべしされども
客 同輩(どうはい)よりはやはり
その間(ま)の下座にあるべし
猶 委(くはし)くは師伝(しでん)を受(うく)べし


【本文・右丁】
嘸(さぞ)かし御 取込(とりこみ)御いそもしさまと
存上まいらせ候 左様(さやう)候得はこなた
有合(ありあわせ)候まゝ国府(こくぶ)多葉粉(たばこ)
一 包(つゝみ)御おくり上まいらせ候こなた松兵衛(まつひやうへ)事
御 見(み)たても申上たく候得共
【頭書・左丁】
折柄(をりから)御 屋敷方(やしきかた)御用(ごよう)多(おほ)く
それゆへ其御 断(ことはり)御 怡(よろこひ)ながら
こなたより申上候 様(やう)申付まいらせ候
頓(やが)て御めでたく御かへりのほどを
御 待(まち)申上候まゝ此よしよろしく

【頭書・右丁】
[婚礼作法(こんれいさほう)の次第(しだい)]【四角枠で囲み】
○先(まづ)はじめに媒(なかうと)世話(せわ)を
なしていよ〳〵相談(さうだん)とゝ
のひて聟(むこ)の方より良(りやう)
辰(しん)をえらみ結納(ゆひのう)の品々
遣(つかは)すなり俗(ぞく)にこれを
たのみの證(しるし)といふ此 礼(れい)を
なしては再(ふたゝ)び変替(へんかへ)する
ことなく夫婦(ふうふ)やくそくの
はじめの礼(れい)なり結納(ゆひのう)
上輩(じやうはい)ならば七 荷(か)七 種(しゆ)
中分(ちうぶん)は五荷五種次は
三荷三種しうとしう
とめへも小袖(こそで)目録(もくろく)樽(たる)
肴(さかな)いづれもその分限(ふんげん)に
【頭書・左丁】
よりて相応(さうおう)の品 遣(つか)はす
べし舅(しうと)よりも聟(むこ)の
方へ祝義(しうぎ)同様たるべし
女より夫(をつと)へはつかはすに
およばず
○婚礼床(こんれいとこ)のかさりは
上々のこんれいならば座(ざ)
敷(しき)もあらたにして床も
三間床なるべし二間
床ならば外につけ床ある
べし女房(にようばう)の道具(どうぐ)は
娵(よめ)の方より女中前日
来りてかざるべしみづし
黒棚(くろだな)も床の次の方に
かざるべしくろ棚は元(もと)
ふたつ棚(だな)といひしが


【本文・右丁】
仰上られ下さるべく候めでたくかしく
  ○留守見舞(るすみまひ)の文
  かへす〳〵事により候はゝ
こなたせはしきまゝ御たつねも
  夕かた御はなしなから
不申上候 嘸々(さぞ〳〵)御 留主中(るすちう)御 淋敷(さびしく)
  御たつね申上べく候何も〳〵
御入候はんと存あけまいらせ候

【本文・左丁】
  御めもしにやま〳〵申上へくと
幸(さいわ)ひ外(ほか)より貰(もら)ひ候まゝこのしな
  のこしをきまいらせ候かしく
御めにかけまいらせ候 誠(まこと)に〳〵
御はもしには候 得共(へども)只々(たゞ〳〵)御
見舞(みまひ)の心(こゝろ)ばかりと御くみなし
下さるべく候めで度かしく


【頭書・右丁】
婚礼(こんれい)にふたつといふ
ことをいみて黒棚といふ
これにかざる道具(どうぐ)おき
所あり貝桶(かひおけ)は床にかざ
るべし女房の衣服(いふく)は
別(べつ)に衣桁(いかう)にかけて
かざるべし上輩(じやうはい)はその
夜(よ)七ツかけてかざる三ツ
にとりてかへて五ツかけ
五ツに三ツかけべし衣(い)
桁(かう)は二ツも三ツもあるべし
手ぬぐひかけはいかうより
上座たるべし床の間
には女房の持せたる夜(よ)
着(ぎ)蒲団(ふとん)けせうの間
ならはこゝに化粧道具(けしやうどうぐ)も
【頭書・左丁】
かざり置べし
○小袖(こそで)台(だい)につみやうは
常(つね)のごとくにして袖を
かへさぬなり
○むかひ小袖とて其夜
にいたり聟(むこ)の方より
遣(つか)はすものなり小袖
一かさねなり衿(ゑり)とゑり
とを合せ糸(いと)にて綴(とぢ)て
つかはすなり
○輿(こし)請取(うけとり)わたしは家(いへ)
のをとなたがひに出て
門前にむしろを敷(しき)輿(こし)
をすゑてたがひに祝義(しうぎ)
をのべそれよりこなたの
人 輿(こし)を請取(うけとる)なり貝(かひ)


【本文・右丁】
  ○帰宅礼(きたくれい)の文
  返す〳〵あまり御はもしには
一寸としめし上まいらせ候さては
  候得とも此品々御子さまかたへ
こなた鶴(つる)左衛門事 道中(とうちう)
  御上ケ被下べく候ま事に
何の障(さはり)なく夜前(やぜん)帰(かへ)り候て
  御みやけの印(しるし)ばかりに御さ候
いまだいづかた様へも参り不申候

【本文・左丁】
  めてたくかしく
留主中(るすちう)は御 心(しん)もじに御なし
被下やま〳〵有かたく早速(さつそく)
御 礼(れい)に上(あが)り可申所 旅労(たびづか)れにて
自由(じゆう)ながらそのよし
こなたより申上候やう申おりまいらせ候

【頭書・右丁】
桶(をけ)あらばこれもをとな
らしき人こしのつぎに
うけ取べし
○夫(をつと)へ女より持参(ぢさん)は小(こ)
袖(そで)一 重(かさね)上下(かみしも)一 具(ぐ)帯(おび)一
筋(すぢ)下おび一筋 扇(あふぎ)一本
畳紙(たとふがみ)五 組(くみ)刀(かたな)一 腰(こし)已上
七 種(しゆ)ひろぶたにて出す
これを上輩(じやうはい)として
段々其 分限(ぶんげん)に応(おう)じて
さま〴〵あるべきとなり
○夫婦(ふうふ)座(ざ)の事は夫(をつと)は
客座(きやくざ)女は主位(しゆゐ)に座(ざ)す
あまり真向(まむき)に座せず
少しすみがけになる
やうにすべし
【頭書・左丁】
○三ツ盃(さかづき)ぜんぶ等(とう)の
次第(しだい)は二 重(ぢう)手懸(てかけ)もて
なしの膳せきれいの台(だい)
蓬莱(ほうらい)の台(だい)置鳥(をきとり)
置 鯉(こひ)瓶子(へいじ)三ツ盃 銚(てう)
子(し)ひさげをかざりおく
なり平人(へいにん)は分限(ぶんげん)にした
がひ床(とこ)のかざりすべし
てかけ三ツ盃はかならず
あるべしさて待女郎(まちぢやうろ)は
娵(よめ)を化粧(けしやう)の間へいざ
なひ衣桁(いかう)などつく
ろひざしきへつけ座(ざ)さだ
まりて先手がけを出し
待(まち)女郎目出たく挨(あい)
拶(さつ)し夫婦にのし


【本文・右丁】
まつは恙(つゝが)なく帰(かへ)り候ゆへ御しらせ
御 礼(れい)かた〴〵そう〳〵申上まいらせ候かしく
  ○帰国怡(きこくよろこひ)の文
御 許(もと)さま御 事(こと)長(なが)〳〵の
御 道中(どうちう)御わもしもなふ

【本文・左丁】
御 機嫌(きげん)よく御 帰らせられ候よし
さて〳〵御めてたく嘸々(さぞ〳〵)
御子さまかた御 歓(よろこひ)とすいし上まいらせ候
取敢(とりあへ)ず此(この)一樽(ひとたる)御 祝(いは)ひ上まいらせ候
おしつけ上(あが)り候而まん〳〵御よろこひ

【頭書・右丁】
こんぶかちぐりをとりて
まゐらすべしさてをとな
しき女房二人てうし
ひさげをとりて下座に
下りへいじの雄蝶(をてふ)を取
てあをむけおき酒をひ
さげにうつし扨ひさげより
てうしへよきほどにうつして
酌(しやく)わが前にひかへて待(まつ)
べし扨 引渡(ひきわた)しいで
夫婦と待女郎にすへべし
其時 本酌(ほんしやく)三ツ盃を嫁(よめ)
の前に持参(ぢさん)す嫁とり
あげて三 献(こん)加(くは)へて聟(むこ)へ
さすむこいたゞき其盃を
下へまはしあらたに中の
【頭書・左丁】
盃をとりて三献のみて
嫁にさす嫁いたゞきて
此盃を下へまはし下の
盃をとりあげ三献のみ
て婿(むこ)へさすむこ盃を
とり三献のみておさむ
是三々九度のまなび也
○色直(いろなほ)しは此盃すみて
いだすべし夫(をつと)は嫁(よめ)より
持参(ぢさん)の小袖(こそで)たるべし
此盃の事はいろ〳〵流(りう)
義(ぎ)あれども下にては
略義(りやくぎ)をもつはらとす
れば大略(たいりやく)をこゝにしるす
なほ此みちをしれる人に
尋ぬべし


【本文・右丁】
申上まいらせ候 愛度(めでたく)かしく
  ○衣類(ゐるい)借(かり)に遣(つかは)す文
いよ〳〵御 障(さはり)なふ入せられ
御めて度御 嬉敷(うれしく)存上まいらせ候
さては度々(たび〳〵)申上かね候へとも

【本文・左丁】
本店祝(ほんたないわ)ひにてお福酌(ふくしやく)に
たのまれ候得共御 存知(ぞんぢ)之(の)通(とふり)
衣類(ゐるい)に差支(さしつかへ)困入(こまりいり)まいらせ候
御ほどさま黒(くろ)の御 小袖(こそで)にても
御かり申上度候御 下着(したぎ)も

【頭書・右丁】
○是(これ)より舅(しうと)姑(しうとめ)にげん
ざんすみて雑煮(ざうに)を出し
又盃をはじめ酒(さけ)もかん
をすべし
○舅入(しうといり)の事右むこ入の
かくをもつてじんしやく
あるべし中にも婚礼(こんれい)は
賤(しづ)の男(をとこ)賤(しづ)の女までも
相応(さうおう)の礼をかくべからず
先祖(せんぞ)より子(し)々 孫々(そん〳〵)に
いたるまでの吉凶(きつきよう)を定(さだ)
むるところなれば能々(よく〳〵)
尋(たづ)ねはからふべし
[平生(へいせい)女(をんな)こゝろ得(え)]【四角枠で囲み】
それ縫針(ぬひはり)のわざは女
【頭書・左丁】
第一の芸(げい)なれば幼少(ようせう)
の時より手習(てならひ)とひとしく
はやく習(なら)ひおぼゆべき
ことなり世間(せけん)に琴(こと)三味(さみ)
線(せん)小唄(こうた)などにばかり
心をいれてぬひはりの
わざにうとき女もあれ
どもたとひ富(ふう)家にそ
だちおほく人をつかひ
て物縫(ものぬひ)女を置(おく)身(み)なり
とも心がけざれば女の道(みち)
に背(そむ)くといふべし昔(むかし)
文王(ぶんわう)といふ聖人(せいしん)の后(きさき)は
みづからおりぬひあらひ
はりし給ひけるよしふるき
書(ふみ)に見えたり物縫(ものぬふ)に


【本文・右丁】
御 見繕(みつくろ)ひいかやうの品(しな)にても
宜敷(よろしく)候まゝ何(なに)とそ〳〵
御かし被下候やう御ねがひ申上まいらせ候
まづはそう〳〵めて度かしく
  ○金子(きんす)借(かり)に遣す文

【本文・左丁】
  返す〳〵ま事に〳〵よん処
態々(わざ〳〵)示(しめ)し上まいらせ候いよ〳〵
  なき事にてせひなく
御さへ〳〵敷御入遊はしかす〳〵
  御無心申上候もしまた
御めてたく存上まいらせ候さては
  いかゞにおほしめし候はゝ
こなた事内々 拠(よんところ)なき
  こなたゐるいにてももたせ
事にて金子(きんす)入用(いりやう)に候 所(ところ)


【頭書・右丁】
日をえらむあしき日に
たちぬひすれば歌(うた)を
となふるなどむかしより
例(ためし)あり衣(い)ふくは衣(い)
食住(しよくぢう)の三ツのうちに
して人の身(み)大切(たいせつ)の物
なれば麁末(そまつ)にせざる
つゝしみなるべし此ゆへに
よく身をたしなみ日を
えらむべし其内 申(さる)の日
もの裁(たつ)ことあしし
○衣装(いしやう)をたつ時の歌(うた)
 ちはやふる神のをし
 へを我ぞしる此やど
 よりも富ぞふりぬる
 あさひめのをしへ初めし
【頭書・左丁】
 から衣たつ度ごとに
 よろ
こびぞする
○いそぎのものたつ時は
日のよしあしをもゑらま
さるゆゑ此歌を三 返(へん)とな
へたる上ものたつべし
 つのくにのあしきゑび
 すのきぬたちて入日も
 時もきらはざりけり
 からくにのあられゑびす
 のきぬなれば日をも時
 をもきらはざりけり
○洗(あら)ひすゞきすることは
下さまの女なすわざ
ながらこれも心かけてよし
麁服(そふく)なりともあらひ


【本文・右丁】
  上ケ申へく候ぜひ〳〵御かし
御存知之通物入多き中
  下され候やう御ねかひ申上
申出かたく叔母(おは)かたへ申遣し
  まゐらせ候いづれにも
候得とも是も此 節(せつ)すぐれ
  御めんだうさまなから御かへり事
不申 夫(それ)ゆへ才覚(さいかく)もむつかしきよし
  御なし下さるへく候かしこ
申 越(こ)し候何とそ〳〵申上かね

【本文・左丁】
候得とも金子(きんす)拾五両ほど
むかふ五日(いつか)まて御とりかへ御かし
被下候やう御 願(ねが)ひ申上まいらせ候
誠(まこと)に〳〵きのどくさまに
存上候へとも差当(さしあたり)りいたしかたなく


【頭書・右丁】
きよめて垢(あか)つきたる
ものを着(き)ざるこそ夫(をつと)の
礼義(れいぎ)といひまた其身
の不浄(ふじやう)をはらふべし
先(まづ)衣類(いるい)をあらふには
灰汁(あく)に和(くわ)してこれを
おとすなりつよく油(あぶら)の
しみたるは滑石(くわつせき)の粉(こ)を
ふりかけてすゝぐべし
よくおつるなり
○洗(あら)ひ張(はり)色(いろ)あげ手(て)
染(ぞめ)は女のなぐさみにも
すべき手わざにて身
をつかふのひとつなり
染(そめ)ものゝ中にも紅梅(かうばい)
染の心やすく出来て
【頭書・左丁】
はなやかにその色(いろ)紅(べに)に
まさることをこゝに記(しる)す
 一すはう    四十目
 一ずみ 《割書:薬種也|》  同
 一かりやす   十二匁
 一みやうばん  三匁
右ひとつにして水二升
程入れせんじよく出る
を待(まち)ていくたひも染(そ)
むべしことの外色よく
出るなり
○女の心はおろかなる
ものなるを雑書(ざつしよ)を見て
男女(なんによ)の相性(あいしやう)をかんがへ
ひのえ午(うま)をいみ日を
うらみものいまひする


【本文・右丁】
御内々(ごない〳〵)御 願(ねが)ひ申上候御 聞届(きゝとゞけ)
下され候やうひとへに〳〵
御 願(ねが)ひ申上まいらせ候かしく
  ○金子(きんす)断(ことわり)の文
せんもしは御 使(つかひ)被下候其せつ

【本文・左丁】
仰(おほせ)下され候 金子(きんす)の事
鶴助(つるすけ)へくはしく申 聞(きか)せ候へども
此節(このせつ)仕入(しいれ)さい中(ちう)にてこなたとても
さしつかへ候ほどの事に御座候得は
近頃(ちかごろ)〳〵御きのどくさまには

【頭書・右丁】
ことみな親のをしへなく
道(みち)をまもりわきまへる
ことをしらしめきるゆゑ
なりいはんや後世(ごせ)を
もがひて財宝(ざいほう)をなげ
うち人倫(じんりん)の道(みち)を知(しら)ず
ましてやさしたるよき
こともなきで身(み)のさい
はひを祈(いの)るはまことに愚(ぐ)
痴(ち)のいたりなり菅家(くわんけ)の
おんうたにこゝろだに
まことの道にかなひなば
いのらずとても神(かみ)や
守(まも)らんよく〳〵此 歌(うた)を
詠吟(えいぎん)してさとるべし
今世(こんじやう)だによくをきめば

【頭書・左丁】
後世(ごしやう)とてもひつかひ
なく子孫(しそん)永(なが)く繁昌(はんじやう)
してめでたけるべし
[ 七夕祭(たなばたまつり)の事(こと) ]【四角枠で囲み】
七夕まつりは七月七日の
夜(よ)織女(しよくじよ)銀河(ぎんが)をわた
りて牽牛(けんぎう)にあふと
むかし桂陽城(けいやうじやう)の武丁(ぶてい)
といふもの言【立ヵ】いたせし
よりつたへてさま〴〵の
菓物(くわぶつ)をそなへてこれを
まつるを乞功奠(きつかうでん)【乞巧奠の誤】といふ
そのまつりの次第(しだい)茅萱(ちがや)
の葉(は)をしき瓜菓(くわ〳〵)を手(た)


【本文・右丁】
候得とも此度(このたび)の事は御 断(ことはり)
申上候やう鶴助(つるすけ)申おり候
扨々(さて〳〵)外(ほか)にてもなく御 許(もと)さまより
折角(せつかく)之 仰(おほせ)下候御 事(こと)御 断(ことはり)
申上 思召(おほしめし)の程(ほと)恥(はぢ)入候御事と

【本文・左丁】
存あけまいらせ候 誠(まこと)に〳〵よく〳〵の
事と思召(おほしめし)下さるへく候 猶(なを)
御めもじのふしと申残し
まゐらせ候めて度かしく
  ○金子(きんす)催促(さいそく)の文

【頭書・右丁】
向(む)けうつはものに水を
入て星(ほし)の影(かげ)をうつして
をがむ竹(たけ)を七尺に切(きり)て
左右にたてそのさきに
糸(いと)を七すぢ願(ねが)ひの糸(いと)
とてかくるなり又 香(かう)を
炷(た)き琴(こと)を■【弾】じてま
つるなり
[四季(しき)之(の)曲(きよく)并(ならびに)序(じよ)]【四角枠で囲み】
花(はな)の春(はる)たつあした
には日かけくもらで
にほやかに人の心(こゝろ)
■【裳】おのづからのび
らかなるぞ四方山(よもやま)
【頭書・左丁】
 春(はる)
春(はる)は梅(うめ)にうぐ
ひすやどしや藤(ふぢ)に
山吹(やまぶき)さくらがざす
みや人は花にこゝ
ろをうつせり
 夏(なつ)
夏(なつ)はうのはなたち
ばなあやめはちす
なでしこ風(かぜ)ふけば
すゝしくて水(みづ)に
こゝろうつせり
 秋(あき)
秌(あき)はもみぢに鹿(しか)の


【本文・右丁】
此ほどは御 疎々敷(うと〳〵しく)存上まいらせ候
さてはせんもじの金子(きんす)きのふまて
御 約束(やくそく)御ざ候ゆへ御まち申
上候得共御さたなく誠(まこと)に〳〵
こなた事(こと)こまり入まいらせ候

【本文・左丁】
竹右衛門(たけゑもん)へかくし候て御 内々(ない〳〵)
御かし申候事 故(ゆへ)だん〳〵
のび〳〵になり候てはこなた
心づかひ御すいもじ下さるへく候
是非(ぜひ)〳〵此 使(つかひ)のものへ御 渡(わた)し

【頭書・右丁】
音(ね)ちくさの花に
まつむし鳫(かり)鳴(なき)て
月(つき)にこゝろうつ
せり
 冬(ふゆ)
冬(ふゆ)はまづ初(はつ)しも
あられみぞれ
木(こ)がらしさえし
夜(よ)のあけぼの雪(ゆき)
にこゝろうつせり
各 委(くは)しく琴曲抄(きんきよくせう)
撫箏雅譜集(ぶさうがふしふ)
其外(そのほか)琴の譜の
書(しよ)に見る
【頭書・左丁】
[名香(めいかう)六十一 種(しゆ)
   名寄(なよせ)文章(ぶんしやう)]【四角枠で囲み】
夫(それ)名香(めいかう)のかず〳〵に
匂(にほ)ひ上なき蘭奢待(らんじやたい)
いかにおとらん法隆寺(ほうりうじ)
逍遥(せうよう)三吉野(みよしの)紅塵(かうぢん)
ややどの古木(こぼく)の春(はる)
の花(はな)とくに妙なる法(ほ)
華経(けきやう)は花たちばな
の香(か)ぞふかみみかはに
かくる八(や)ッ橋(はし)の法(のり)の
はやしの園城寺(おんじやうじ)しか
はた似(にたり)うらみそふ
しげる菖蒲(あやめ)にふく


【本文・右丁】
下され候やう御 頼(たのみ)申上まいらせ候かしく
  ○弟子入(でしいり)頼(たの)み遣(つかは)す文
一 筆(ふで)申上まいらせ候 時分柄(じぶんから)
御ひへ〳〵敷候得共御 揃(そろひ)遊はし
御さへ〴〵しく御入らせ候はんと

【本文・左丁】
御めて度存上まいらせ候さては
娘(むすめ)事御 面倒(めんだう)さまながら
稽古(けいこ)御 頼(たの)み申上たく
存上まいらせ候 誠(まこと)に〳〵ふつゝか
ものにて御 気(き)の毒(どく)さまには

【頭書・右丁】
軒端(のきば)般若(はんにや)鷓胡斑(しやこはん)
青梅(せいばい)よ世(よ)にすぐれたる
楊貴妃(やうきひ)ののどけき風(かぜ)
に飛梅(とびうめ)は花の跡(あと)なる
種(たね)が島(しま)白妙(しろたえ)なれや
月の夜ににしき龍田(たつた)の
紅葉(もみぢ)の賀(か)夜(よ)さむの
千鳥(ちどり)浦(うら)つたふふかき
教(をしへ)の法花(ほつけ)こそそこ
ぞと匂(にほ)ふ臘梅(らうばい)や八(や)
重垣(へがき)こめし花(はな)の
宴(えん)むもるる花の雪(ゆき)
を見ゆ名月(めいげつ)賀(が)蘭子(らんす)
蜀(しよく)橘(たちばな)名(な)さへ花散(はなちる)
【頭書・左丁】
里(さと)とへば春(はる)の丹霞(たんう)の
立そひて 手に持馴(もちなれ)し
花がたみ身(み)の上薫(うはだき)の
香(か)を残(のこ)す須磨(すま)の
浦(うら)わに夜(よ)を明石(あかし) 
しらむも知(しら)ぬ十五 夜(や)
の軒(のき)は隣家(りんか)に立並(たちなら)ぶ 
ふる夕時雨(ゆふしぐれ)手枕(たまくら)の
のこる有明(ありあけ)ほども
なく雲井(くもゐ)うつろふ
紅(くれなゐ)は春の初瀬(はつせ)の曙(あけぼの)
に寒梅(かんばい)二葉(ふたば)早梅(さうばい)を
おく霜夜(しもよ)とぞまがえ
けんむすぶ契(ちぎり)は七夕(たなば )よ


【本文・右丁】
御座候得共何事も御 隔(へだて)なく
御 呵(しかり)被下御 世話(せは)おなし
下され候やうひとへに〳〵
御 願(ねが)ひ申上まいらせ候めで度かしく
  ○約束(やくそく)変替(へんがへ)の文

【本文・左丁】
兼々(かね〳〵)御 約束(やくそく)にて明日は
王子(わうじ)へ御 供(とも)いたし候つもりにて
支度(したく)とゝのへ候ところ
福冨町(ふくとみてう)伯父方(おぢかた)よりお美智(みち)
安産(あんさん)のよし申 越(こ)し候

【頭書・右丁】
夜(よ)は老(おい)の身(み)の寝覚(ねざめ)
せし東雲(しのゝめ)はやく
薄紅(うすくれなゐ)日影(ひかげ)もさすや
薄雲(うすくも)の上り馬(うま)とや名(な)
付(づけ)けん六十(む???)の
 香(かう)と是をいふなり
[婦女(をんな)いましめ草(ぐさ)]【四角枠で囲み】
それ女子(をなご)はとりわけて
父母(ちゝはゝ)のいつくしみ深(ふか)き
ものなれば幼少(ようせう)の時
より遠(とを)くあそばず
男の子と交(まし)りあら〳〵
しき戯(たはぶ)れ事をば
なすべからず奉公(ほうこう)に
出なば朝(あさ)とく起(おき)て
【頭書・左丁】
東(ひがし)の方にむかひ天(てん)
道(とう)を拝(はひ)し次に神(かみ)
仏(ほとけ)の心ざしある方を
祈(いの)りまた父母のかた
を拝(をが)みて其日の
災難(さいなん)なきやうにと毎(まい)
朝(てう)いのりて怠(おこた)るべ
からず其主人には勿論(もちろん)
傍輩(ほうばい)のものに至る
までも詞(ことば)がへしせず
おのれ首尾(しゆび)よきとて
人を見くだし高(たか)ぶら
ず何事にも柔和(にうわ)
にしてことば多く仮(かり)
にも高声(たかごへ)にて罵(のゝし)る
べからずまた縫(ぬい)はりの


【本文・右丁】
夫(それ)ゆへ捨置(すておき)がたし今(いま)より
そのかたへ参り候まゝ明日の
御事はよん所なく御ことはり
申上まいらせ候 誠(まこと)に〳〵御 気毒(きのどく)に
存上候へ共此よしよろしく

【本文・左丁】
御 聞(きゝ)とゞけ下さるへく候かしく
  ○年賀怡(ねんがよろこび)文
春水様(しゆんすいさま)御事御 年賀(ねんが)
御 祝(いわ)ひ遊はし候由 誠(まこと)に〳〵
万々歳(まん〳〵ざい)の御 寿(ことぶき)かぎりなふ

【頭書・右丁】
事は女第一の芸なれ
ばよく〳〵ならひ覚(おぼ)ゆ
べしたとへ富貴(ふうき)の
家(いへ)に生れたりとも
仕立物(したてもの)はいふにおよ
ばずしきしつぎもの
つゞまやかにするは
家をたもつ柱(はしら)だて
なるべし夫(をつと)をもち
てはよくしたがひとかく
男をさしおきていひ
出しはからふことあしし
何事も詞(ことば)かずいはず
わかしらぬ道の事は
猶さらにして卒爾(そつじ)
にかたるべからずつたへ
【頭書・左丁】
聞(きゝ)たる事などはあや
まりあるものなれば
かたらんとおもふ事
わが心に会得(えとく)して
かたるべし人をつかふ
ものはおのれ人につか
はるゝとおもふべし万の
事 急(きう)に仕(し)おほせんと
するは気(き)のつくるもの
なりたとへば十ヲのこと
七ツ八ツまで仕おほせ
なば今ひとつふたつは
のこしおきよく気(き)を
やしなひかさねて成就(じやうじゆ)
すべきと思ふがよし
強(しゐ)てものごと早急(さつきう)


【本文・右丁】
御目出たくそんし上まいらせ候
此品(このしな)聊(いさゝか)ながら御めにかけ
まいらせ候 宜(よろし)く仰上られ
下され候やう御 願(ねが)ひ申上まいらせ候
       めで度かしく
【本文・右丁】
  女 手(て)ならひ
  教訓(けうくん)の書(しよ)
古(いに)しへはものかゝぬ
人も世(よ)におほかりし
とはきけども今(いま)
かくめて度(たき)御代(みよ)に

【頭書・右丁】
せんとすればきはめて
障(さはり)できたがるものなり
ゆゑに人をつかふにも
二ツ三ツあてがひその
事を仕廻(しまひ)たらばまた
だん〳〵にあてがふべし
一 度(ど)におほく用事を
いひつくればかならず
仕損(しそん)じできるもの
なり物(もの)習(なら)ふにも高(たか)き
にいたらんとする業(わざ)
をばひくきより習ひ
とほくいたらんと思ふ
事をは近(ちか)きより習ふ
べし無理(むり)なる主(しう)親(おや)
にてもよくしたがふは
【頭書・左丁】
女の道なりとしより
たる主人(しゆじん)親(おや)をばない
がしろにしてよろづのこと
に気(き)をもませかへつて
主親の非(ひ)をあげ己(おのれ)
手がら顔(がほ)して他人(たにん)に
遠慮(えんりよ)も言(いひ)ちらすもの
智(ち)浅(あさ)くたかぶるこゝろ
あるゆゑに損失(そんしつ)多(おほ)く
さやうのものは終(つひ)に世(せ)
帯(たひ)を持(もち)くづし流浪(るらう)
するものなりもと是
愚(ぐ)なるゆゑその時は
かへつて主(しう)を譏(そし)り
親(おや)を恨(うら)むものなり
主に不忠(ふちう)にし親に


【本文・右丁】
むまれて物をかゝ
ねば常(つね)にふじゆう
なるのみにあらず
人と交(まじは)りて見おと
されわらはるゝ事
あれば口(くち)をしき事
【本文・左丁】
ぞかしされば上(かみ)
れき〳〵より軽(かろ)き
下々(しも〳〵)まで先(まづ)手(て)ならふ
事(こと)をおしゆるは何国(いづく)も
おなじ事なり中(なか)
にも女子は年(とし)裳(も)【変体かなの「も」ヵ】

【頭書・右丁】
不幸(ふかう)にせしものは
天然(てんねん)の因果(いんぐわ)にて
そのむくひあるべし
諺(ことわざ)にいふ人五十になる
まで上手(じやうず)にいたらざる
わざをばすつべきなり
はげみ習ふゆくすゑ
もなし老人(らうじん)の事
をば人も笑(わら)はぬもの
なりわかき人の中へ
交(まじは)りたるも見ぐるし
よろづのわざをやめて
暇(いとま)ある身となるやうに
かねて用心(ようしん)すべし
廿年は老(おい)やすく学(まな)ぶ
事はなりがたし一寸
【頭書・左丁】
の光陰(くわういん)をもかろく
おもひてついやすべ
からず過(すぎ)しあとの
はかなきは是悲(せひ)もなく
行末(ゆくすゑ)には心をつくべし
人間(にんげん)の一生はながく
世界(せかい)は広大無辺(くわうだいむへん)也
万の事いち〳〵師(し)は
もとめがたししらざる
事をば人に問(と)ふべし
われより年(とし)もおとり
位(くらゐ)もひくき人たりとも
道(みち)をきくことわれより
さきならばはづかしく
おもはずしてその人に
とひならふべし年(とし)の


【本文・右丁】
つもれば物(もの)縫(ぬふ)わざを
学(まな)ぶものなればいとけ
なきより外(ほか)のわさを
置(をき)てまづ習(なら)ふべし
第(だい)一女子は一 生(しやう)を
親(をや)のもとにてはくら
【本文・左丁】
さずおとなしく
成(な)りてはよそへ嫁(か)し
てゆく〳〵は他人(たにん)
の中(なか)の住居(すまゐ)して
おくるものなれば
たとへ親里(をやざと)よろしく

【頭書・右丁】
前後(ぜんご)にはよるべからず
我(われ)は道を師(し)とすべし
師にあはざればわづか
の事にてもまどひ
とけぬものなれば千
日の勤学(きんがく)よりも一
時の学匠(がくしやう)すぐると
いふ事よく〳〵わき
まへつとむべし〳〵
[琴(こと)三味線(さみせん)の事(こと)]【四角枠で囲み】
琴(こと)は唐土(もろこし)にて神農(しんのう)
といふ聖人(せいじん)つくり
はじめ給ふなり日本
にては天(あめ)のうすめの
命(みこと)はじめ給ふ
【頭書・左丁】
○琴(こと)と三味線(さみせん)との
調子(てうし)をあはする事
琴の三の糸三味線
の一琴の五はさみせん
の三とおなじ
○二あがりのてうしは
琴の三さみせんの一
琴の八三味せんの二
琴の十三さみせんの
三とおなじことなり
○糸のおさへやう大 指(ゆび)
にさしたる爪(つめ)を前(まへ)の
爪といふ中ゆびにさし
たる爪を向ふ爪と云(いふ)
人さしゆびにさしたる
つめをわき爪といふ


【本文・右丁】
みめ容(かたち)よく生(むま)れ付(つき)
ても物(もの)かく事のつた
なければ夫(おつと)のかたの
親類中(しんるいぢう)また出入(でいり)の
ものにも見(み)けなされて
中(なか)〳〵はづかしき
【本文・左丁】
事おほしまた手
なとうつくしう書(かき)
ぬればをや達(たち)をも
人のほめるもの
なれば孝行(かう〳〵)の
ひとつなり折ふしの

【頭書・右丁】
○糸(いと)の名手まへを
巾(きん)といふ次を為(ゐ)と
いふ其次を斗(と)といふ
それより次第に十九
八七六五四三二一なり
おさゆる糸は四七八九
なりひきならひには
おさへずしてもくるし
からず地(ぢ)のきはに墨(すみ)
つけおくべし
○三味線(さみせん)のひきはじ
めは文禄(ぶんろく)の頃(ころ)石村(いしむら)
けんぎやうといふ法師(ほうし)
琵琶(びわ)を■【忠ヵ】し三味
線をつくりたり
○習(なら)ひやう能(よく)弾(ひ)く
【頭書・左丁】
人の撥(ばち)のもちやう
ゆびづかひ色(いろ)の付やう
見るべしばちは手の
内かるく持べし力(ちから)を
入るればはやき事に
ばちまはらずぎしつき
糸の音色(ねいろ)出ざるなり
糸をおさゆるゆびは
つよくかゞめ爪にて
糸をおさゆべし其
心がけにてしぜんと
ねいろ出るなり
○琵琶(びわ)は長さ三尺五寸
四すぢ下よりさかさま
にひくを琵(ひ)といふ上
より順(じゆん)にひくを琶(わ)と


【本文・右丁】
文(ふみ)のとりかはしにも
筆(ふだ)かなはねばぶん
しやうもふつゝかさに
先(さき)にて打寄(うちより)わらひ
草(ぐさ)となることそほゐ
なけれめしつかふ
【本文・左丁】
下々さへものなど能(よく)
書(かき)ぬればそだちの
ほどのおもはれて
げにくしく覚(おぼ)ゆる
ものなり扨(さて)また
縁(えん)にもつきて後(のち)

【頭書・右丁】
いふ天竺(てんぢく)のあしゆりん
王の代(よ)にきぶといふ
もの作(つく)りたるとかや
[衣装(いしやう)の正字(しやうじ)尽(づくし)]【四角枠で囲み】
裱(おもて) 裡(うら) ■(せぬひ) 襟(ゑり)
衽(おくび) 内襟(したがひ) 袖(そで)
袂(たもと) 裙裔(もすそ) 帯(おび)
襘(おびむすびめ) 紐子(ひも) 宗細(わな)
手巾(てぬぐひ) 汗拭(あせぬぐひ) 紛(ぞうきん)
手帕(ふくさ) 襷襅(たすき) 袍(うはぎ)
缺掖(わきあけ) 裳衣(もつき)【蒙ヵ】 浴衣(ゆかた)
䙃(そでなし) 褓襁(むつき) 襯(したぎ)
【頭書・左丁】
汗■(はだぎ)【襂ヵ】 湯具(ゆぐ)
 ○絲(いと)の部(ぶ)
緒(いとぐち) 類(いとふし) 縷(いとすぢ)
絹絲(きぬいと) 線(よりいと) 糸頭(あらいと)
胡糸(しらいと) 経(たて) 緯(ぬき)
■(くみいと) 啄木(たくぼく) ■■(ぼたん)
錦(にしき) 金襴(きんらん) 綺(おりもの)
繍(ぬひもの) 金紗(きんしや) 紗(しや)
羅(うすもの) 穀(ちりめん) 縬(しゞら)
綾(りんす) 光綾(ぬめりんず) 花綾(くわりんず)
紗綾(さあや) 絹(すゞし) 練(ねり)

【本文・右丁】
はよき事につき
悪(あ)しき事につきても
親(おや)ざとへひそかに
言(いひ)やりたき事 必(かならず)
あるものなり事に
よりて使(つかひ)のものにも
【本文・左丁】
きかせられぬ事
あるとき筆(ふで)かな
はねばこゝろにおもふ
ほど書(かき)とられず文(ぶん)
しやうもふつゝか
なればかたこと

【頭書・右丁】
緞子(どんす) 光絹(はぶたへ) 紬(つむぎ)
兜羅綿(とろめん) 絨(びろうど) 七綿(しゆちん)
八綿(しゆす) 縑(かとり) 柳條絹(しまぎぬ)
印美布(さらさそめ) 西洋布(かなきん)
素紬(りうもん) 太布(たふ) 幅(の)
纈(かのこ) 羅紗(らしや) 羅背板(らせいた)
纊(あらわた) 縕(ふるわた) 絮(つゝみわた)
■■(もめん) 斑枝美(はんや) 単皮(たび)
草履(ざうり) 雪踏(せつた) 履(ほくり)
鼻緒(はなを)
 右織物類の字也
【頭書・左丁】
機(はた) 布機(ゑもはた) 滕(ちきり)
《振り仮名:■框|をさかまち》【筬框ヵ】 升(よこ) 綜(へ)
筟(くだ) 繀(くだいと) 榎(いのつめ)
臥機(くつひき) 杼(ひ) 筬(をさ)
篗(わく) 柅(わくのえ) 鍼(はり)
㧺(ゆびぬき) ■■(へそ)【績纏ヵ】 紡車(いとぐるま)
紡錘(つむ) 績桶(をごけ) 綿筒(あめ)
撹車(わたくり) 撥拊(まいは) 裁刀(ものたち)
搗碪(きぬた) 硟(きぬまき) 杵(きね)
綿弓(わたゆみ) 尺(ものさし) 笥(ふみほこ)
文匣(ぶんとう) 硯箱(すゞりばこ) 水滴(みづいれ)

【本文・右丁】
書(がき)のやうにてわが
おもはくとたがふ事
あれば心(こゝろ)の程(ほど)はつう
ぜずしてよめ
かぬるゆへ里(さと)にて気(き)
つかはする事(こと)あり
【本文・左丁】
よみ書しては年(とし)へて
ひさしき事も
記置(しるしおき)ぬれば忘(わす)れず
遠(とを)き国(くに)のおとづれ
をも互(たかひ)に問(とひ)きゝ
またよの中の楽(たのし)み

【頭書・右丁】
案(つくえ) 剪刀(はさみ) 穵子(みゝかき)
削刀(こがたな) 剃刀(かみそり) 箸(はし)
盒(じきろう) 盤(さら) 礠盆(さはち)
浅仔(まるぼん) 篩(ふるひ) 烟盆(たばこぼん)
烟筒(きせる) 食案(ぜん) 行厨(べんとう)
酒鐺(かんなべ) 《振り仮名:𬐜仔|ちよく》 巵(さかづき)
茶匙(さじ) 箒(はうき) 《振り仮名:衣𨥇|たんす》
匜(はんざう) 椸(いかう) 櫛匣(くしばこ)
衣籠(つゞら) 屏風(びやうぶ) 畳紙(たとふがみ)
 ○化粧道具(けしやうどうぐ)
紅(べに) 白粉(おしろい) 櫛(くし)
【頭書・左丁】
眉墨(まゆずみ) 眉掃(まゆはき) 鏡(かゞみ)
三櫛(みつぐし) 筋立(すぢたて) 笄(かうがい)
簪(かんざし) 尺長(たけなが) 髷結(まけゆはひ)
水引(みつひき) 油(あふら) 元結(もとゆひ)
鉄醤(かね)【漿】 洗粉(あらひこ) 糠袋(ぬかぶくろ)
[小児之薬法(せうにのやくほう)]【四角枠で囲み】
○小児 生(うま)れて乳(ち)を
のまざるには葱(ねぶか)の
白(しろ)みを壱寸に切(きり)て
乳を少し加(くは)へせん
じて用ゆべし
○小児生れて大小

【本文・右丁】
悲(かな)しみいにしへの
事までをもわきまへ
しる事みな是(これ)もの
かく徳(とく)なれや【也ヵ】む
かし名女(めいぢよ)たちの
源氏(けんじ)いせものがたり
【本文・左丁】
ゑいぐわ物がたりを
かけるも物かく事が
もとぞかしむかし
より世上(せじやう)にてもの
かゝぬをは目(め)の
見えぬにひとしと

【頭書・右丁】
便通(べんつう)ぜさ【ママ】るには
婦人(ふじん)口をよく洗(あら)ひ
てその児(こ)の心(むね)と両の
手のうらと両の足(あし)
のうらを精出(せいだ)して
すふべし
○小児うまれて産(うぶ)
声(こゑ)出ぬには塩(しほ)を臍(ほそ)
の中にぬり灸(きう)をし
人参(にんじん)をせんじて
用ゆべし
○小児の軟癤(なつぶし)出(いづ)
るには苦参(くしん)をせんじ
あらふべしそのあと
には胡麻(ごま)をこまかに
よくすりてつけべし
【頭書・左丁】
○小児の丹毒(はやくさ)には
鶏卵(たまご)のしろみにて
赤小豆(あづき)の粉(こ)をとき
ぬるべし
○小児の夜啼(よなき)する
には女の歯(は)につくる
五倍子(こぶし)をかねにて
こねて臍(ほそ)にぬるべし
○小児の舌(した)に粟粒(あはつぶ)
のごときものできたる
には赤小豆(あづき)を粉(こ)に
してぬるべしまた
寒(かん)の紅(へに)もよし
[一生涯(いつしやうがい)の祝事(しうじ)]【四角枠で囲み】
夫人 生(うま)れて七日目を

【本文・右丁】
たれしもいふ事
なりたとえば盲(めしい)
たる人のあまたの
医師(ゐし)に見せても
いづれの医師(ゐし)も
りやうじかなはぬと
【本文・左丁】
いふてもまた上手(じやうす)
ありといへばもしかと
おもふこゝろから
幾人(いくたり)にも見するは
眼(め)のあきたさの余(あまり)
にて病人(びやうにん)の

【頭書・右丁】
一七 夜(や)といふ此日 名(な)を
つけ産衣(うぶぎぬ)を着(き)せ
男は左りの袖より女
は右の袖より通(とほ)すべし
○忌(いみ)あきとて男は卅
二日め女は卅三日めに
氏神(うぢがみ)へ参詣(さんけい)するなり
○喰初(くひぞめ)は百廿日めなり
生れ子に膳(ぜん)をすゆる
男は女のひざの上にあげ
女は男のひざへあげて
くゝめるまねをなす
○誕生(たんじやう)日二 歳(さい)のとき
出生の日をいはふなり
髪置(かみおき)は三歳の時
十一月十五日にかみを
【頭書・左丁】
おくなり頭(かしら)の上(うへ)綿(わた)を
うしろへかける也 末広(すゑひろ)を持(もた)
せて氏神へまゐらす
○袴着(はかまぎ)は男子五 歳(さい)の
十一月十五日にきせ初(そむ)る
碁(ご)ばんの上に立(たゝ)せて
左の足(あし)より入させる也
○被初(かつぎぞめ)は女子四才の
時の十一月十五日きせ初る
此事江戸にはなし
○男女とも八歳にて
入学(にふがく)さすべし手ならひ
よみ物さすることなり
○元服(げんぶく)は十五六歳の
ころ半元服(はんげんぶく)とて額(ひたい)に
角(すみ)を入るなり一両年

【本文・右丁】
ならひなり物かく
事は習(なら)ひさへすれは
一代あく眼(め)をあか
ずにくらさんはくち
おしき事ならずや
書うかべては身(み)に
【本文・左丁】
付たる宝(たから)にて
火(ひ)にもやけずとり
落(おと)す事もなく
つかふてへりもせず
用心(ようじん)せねどもぬす
まれもせず現世(げんぜ)

【頭書・右丁】
過(すぎ)て前髪(まへがみ)をとり稚(をさな)
名(な)をあらたむ女はかほ
なほしとて眉(まゆ)を取 鉄醤(かね)【漿】
を付る大かたは縁組(えんぐみ)さだ
まりて歯をそむるなり
○婚礼(こんれい)は殊(こと)に大事の
祝(いわひ)にてかず〳〵の法式(ほうしき)
あり前(まへ)に出す
○年老(としおい)て法体(ほつたい)の
祝義(しうぎ)且(かつ)年賀(ねんが)度々(たび〳〵)
ある中にも六十一を本(ほん)
卦(け)かへりといひ七十を
古稀(こき)の賀(が)といひ米の
祝(いは)ひとして八十八の年(とし)
誕生(たんじやう)日を祝(いは)ひ寿饅(じゆまん)
頭(ぢう)を製(せい)して祝ふなり

【本文・右丁】
来世(らいせ)の宝(たから)なり
また物(もの)かくゆへに
身をたて仕合(しあはせ)よき
女性(によしやう)も世(よ)に多(おほ)し習(なら)ひ
給へや習ふべし
   めてたくかしく

【左丁】
      日本橋通壱丁目
          須原屋茂兵衛
      同   二丁目
          小林新兵衛
      本石町十軒店
          英 大助
東都書林  中橋広小路
          西宮弥兵衛
      馬喰町二丁目
          西村与八
      芝三嶋町
          和泉屋市兵衛
      芝神明前
          岡田屋嘉七

【裏表紙】

【墨で書込みあり・寅政ヵ】

小学教則

《題:小学教則》

小学教則
第一章
小学ヲ分テ上下二等トス下等ハ六歳ヨリ九歳
ニ止リ上等ハ十歳ヨリ十三歳ニ終リ上下合セ
テ在学八年トス
第二章
下等小学ノ課程ヲ分テ八級トス毎級六ケ月ノ
習業ト定メ始テ学ニ入ル者ヲ第八級トシ次第
ニ進テ第一級ニ至ル今其毎級課業授ケ方ノ一

例ヲ挙テ左ニ示ス尤一般必行ノモノニハ非ス
ト雖モ各其地其境ニ随ヒ能ク之ヲ斟酌シテ活
用ノ方ヲ求ムヘシ

 ○第八級 六ケ月 《割書:一日五字一週三十字ノ|割書の課程日曜日ヲ除ク以下|之ニ倣ヘ》

綴字(カナツカヒ)    一週六字 即一日一字
 生徒残ラス順列ニ並ハセ智恵ノ絲口うひ
 まなひ絵入智恵ノ環一ノ巻等ヲ以テ教師
 盤上ニ書シテ之ヲ授ク前日授ケシ分ハ一

 人ノ生徒ヲシテ他生ノ見エザルヤウ盤上
 ニ記サシノ他生ハ各石板ニ記シ記シ畢テ
 盤上ト照シ盤上誤謬【「謬」としたものは言+田+入+小】アラハ他生ノ内ヲシ
 テ正サシム

習字(テナラヒ)    一週六時 即チ一日一字
 手習草紙習字本習字初歩等ヲ以テ平仮名
 片仮名ヲ教フ但数字西洋数字ヲモ加ヘ教
 フベシ尤字形運筆ノミヲ主トシテ訓読ヲ
 授クルヲ要セス教師ハ巡廻シテ之ヲ親示

 ス

単語読方(コトバノヨミカタ)    一週六時即チ一日一字
 童蒙必読単語篇等ヲ授ケ兼テ其語ヲ盤上
 ニ記シ訓読ヲ高唱シ生徒一同之ニ準誦セ
 シメ而シテ後其意義ヲ授ク但日ヽ前日ノ
 分ヲ諳誦シ来ラシム

洋法/算術(サンヨウ)    一週六時即チ一日一字
 筆算訓蒙洋算早学等ヲ以テ西洋数字数位
 ヨリ加減算九々ノ声ニ至ル迄ヲ一々盤上

 ニ記シテ之ヲ授ケ生徒ヲシテ紙上ニ写シ
 取ラシム但加減ノ算法ニ於テハ先ツ其法
 ヲ授ケ而シテ只其題ノミヲ盤上ニ出シ筆
 算ト暗算トヲ隔日練習セシム暗算トハ胸
 算用ニテ紙筆ヲ用ヒス生徒一人ツヽヲシ
 テ盤上ノ題ニ答ヘシムルナリ前日ノ分ハ
 総テ盤上ニ記シテ生徒ヲシテ一同誦セシ
 ム

脩身口授(ギョウギノサトシ)    一週二字《割書:即チ二日置キ|ニ一字》

 民家童蒙解童蒙教草等ヲ以テ教師口ツカ
 ラ縷々之ヲ説諭ス

単語諳誦(コトハノソラヨミ)    一週四時
 一人ツヽ直立シ前日ヨリ学フ處ヲ暗誦セ
 シメ或ハ之ヲ盤上ニ記サシム

 ○第七級 六ケ月
綴字    一週六時
 前ノ如クニシテ五十音四段ノ活用其外字
 音仮名ツカヒ等ヲ授ク

習字    一週六時
 前級ノ如ク漢字楷書ヲ授ク

単語読方    一週四時
 地方往来農業往来世界商売往来等ノ前級
 ノ如ク授ク

算術    一週六時
 乗除ヲ授クルコト前級ノ法ノ如シ尤隔日筆
 算ト暗算トヲ伝フ

会話読方(コトバヅカヒヨミカタ)    一週四時

 会話篇ヲ以テ授クル事単語篇ノ法ニ同シ

単語諳誦    一週二時
 前級ノ如シ

脩身口授    一週二時
 前級ノ如シ

 ○第六級 六ケ月
習字    一週六時
 行書ヲ授クル事前級ノ如シ

単語書取    一週四時
 教師単語ヲ口ニ誦シテ生徒ヲシテ聞書セ
 シメ書シ畢テ教師之ヲ盤上ニ記シ生徒ヲ
 シテ照シ正サシム

算術    一週六時
 乗除ノ算ヲ授ク

会話読方    一週六時
 前級ノ如シ

読本読方    一週六時
 西洋衣食住学問のすゝめ啓蒙知恵ノ輪等

 ヲ用テ一句読ツヽ之ヲ授ケ生徒一同之ニ
 準誦ス

脩身口授    一週二時
 勧善訓蒙脩身論等ヲ用ヒ教師之ヲ講述ス
 ル事前級ノ如シ

 ○第五級 六ケ月
習字    一週六時
 行書ヲ授クル事前級ノ如シ

単語書取    一週二時
 前級ノ如シ

会話諳誦    一週六時
 嚮ニ学フ所ヲ一人ツヽ處ヲ変ヘテ諳誦シ
 又ハ未タ学ハザル所ヲ独見シ来テ諳誦セ
 シム

算術    一週六時
 四則応用ヲ学ハシム尤筆算暗算隔日タリ

読本読方    一週四時
 前級ノ外西洋夜話窮理問答物理訓蒙転変

 地異等ヲ授ク

地学読方    一週三時
 日本国盡ヲ授クル事読本読方ノ如シ

脩身口授    一週一時
 性法略等ノ大意ヲ講授ス

養生口授    一週二時
 養生法健全学等ヲ用テ教師縷々口述ス

 ○第四級 六ケ月
習字    一週六時
 楷書ト片仮名ノ交リタル文ヲ習ハシム但
 字形稍小ナルヘシ

会話書取    一週四時
 其法単語書取ノ如シ

算術    一週六時
 諸等加減乗除法ヲ授ク

読本輪講    一週六時
 既ニ学ヒシ所ヲ諳誦シ来リ一人ツヽ直立
 シ所ヲ変ヘテ其意義ヲ講述ス


地学読方    一週六時
 世界国盡ヲ授ク

文法 当分欠ク
 ゝゝゝノ書ヲ用テ詞ノ種類|名詞(ナコトハ)ノ諸変化
 ヲ授ク尤諳誦ヲ主トス

養生口授    一週二時
 前級ノ如シ

 ○第三級 六ケ月
習字    一週六時
 行草平仮字交リノ文ヲ習ハシム

算術    一週六時
 分数算ヲ授ケ

読本輪講    一週六時
 前級ノ如シ

地学輪講    一週六時
 日本国盡ヲ講述セシムル事読本輪講ノ如
 シ兼テ日本地図ノ用法ヲ示ス

養生口授    一週二時

 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 後詞様詞代詞等ノ諸変化ヲ授クル事各科
 読方ノ如シ

理学輪講    一週二時
 窮理図解等ノ書ヲ授ケ講述セシム

書牘    一週二時
 啓蒙手習本《割書:窮理|捷径》十二月帖ナトヲ用ヒ簡略
 ナル日用文ヲ盤上ニ記シテ講解シ生徒ヲ
 シテ写シ取ラシム

 ○第二級 六ケ月
習字    一週四時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 分数算ヲ授ク

読本輪講    一週六時
 道理図解西洋新書等ノ書ヲ授ケ講述セシ
 ム

地学輪講    一週六時
 既ニ学フ所ノ世界国盡ヲ順次ニ講述セシ
 メ兼テ世界地図ノ用法ヲ示ス

文法 当分欠ク
 働詞ノ活用変化ヲ授ク

理学輪講    一週四時
 前級ノ如シ

書牘    一週四時
 前級ノ如シ

 ○第一級 六ケ月
習字    一週二時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 分数并比例算ヲ授ク

読本輪講    一週四時
 前級ノ如シ

理学輪講    一週六時
 前級ノ如シ

地学輪講    一週四時
 前書或ハ地学事始等ヲ以テ世界地図ノ用
 法ヲ講述セシム

文法 当分欠ク
 接詞副詞歎詞等ノ活用ヲ授ク

書牘    一週六時
 日用文諸証文等ヲ授ク

各科温習    一週二時
 従前学フ所ノ者ヲ挙テ温習セシム

右畢テ大試業ノ上上等小学ニ入ラシム
  落第ノ生徒ハ猶六ケ月第一級ニ置ク

 第三章
上等小学校亦八級ニ分ツ毎級課程各六ケ月トス
亦第八級ニ起テ第一級ニ終ル其日課左ノ如シ

 ○第八級 六ケ月
細字習字    一週二時
 字形ヲ小ニシテ行草平仮名交リノ文及ヒ
 書簡用文等ヲ学ハシム

算術    一週六時
 比例算ヲ授ク

読本輪講    一週四時
 西洋事情等ノ類ヲ独見シ来テ輪流講述セ
 シム

理学輪講    一週六時
 博物新編和解同補遺格物入門和解気海観
 瀾広義ノ類ヲ独見シ来テ輪講セシメ教師
 兼テ器械用ヰテ其説ヲ実ニス

文法 当分欠ク
 作文ノ活用ヲ授ク

書牘作文    一週六時
 短簡ナル日用文ヲ作ラシム

地学輪講    一週六時
 皇国地理書ヲ独見シ来リテ講述セシメ兼
 テ地名ヲ記サヾル地図ヲ置テ其地名ヲ呼
 ヒ其所ヲ指示セシム

 ○第七級 六ケ月

細字習字    一週二時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 比例算ヲ授ク

理学輪講    一週六時
 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

書牘作文    一週六時
 前級ノ如シ

史学輪講    一週四時
 王代一覧等ヲ独見輪講セシム

地学輪講    一週六時
 輿地誌略ヲ用ヒテ前級ノ如クス但兼テ地
 球儀ヲ用ユ

 ○第六級 六ケ月
細字速写    一週二時
 楷書片仮名交リノ文又ハ行草平仮名ノ文

 手簡文ノ手本ヲ置キ速ニ之ヲ書シ而シテ
 字形運筆工緻ニシテ毫モ法外ニ出テサラ
シム

算術    一週六時
 差分算ヲ授ク

理学輪講    一週六時
 前級ノ如シ

書牘作文    一週六時
 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

地学輪講    一週四時
 前級ノ如シ

史学輪講    一週四時
 国史略等ヲ独見シ来テ解説セシム

罫書    一週二時
 南校板罫書本ヲ用ヰテ点線正形ノ類ヲ学
 バシムル事習字ノ法ノ如シ

 ○第五級 六ケ月
細字速写    一週二時
 前級ノ如シ但手本ヲ用ヰズ其文ハ教師之
 ヲ口述ス

算術    一週六時
 差分算ヲ授ク

理学輪講    一週四時
前級ノ如シ

書牘    一週四時
 日誌類ヲ用ヰテ公用文ヲ教フル事日用文
 ノ法ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

地学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

史学輪講    一週六時
 前級ノ如シ

罫書    一週二時

 机案ノ類ヲ書カシムル事前級ノ如シ

幾何    一週四時
 測地略幾何学ノ部ヲ用テ正形ノ類ヲ授ク
 ル法ハ算術ノ如シ

 ○第四級 六ケ月
細字速写    一週二時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 差分算ヲ授ク

書牘    一週四時
 前級ノ如シ

理学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

地学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

史学輪講    一週四時

 万国史略ノ類ヲ以テ独見輪講スル事前級
 ノ如シ

幾何    一週四時
 緒線角度三角形ノ類ヲ授ク

罫書    一週二時
 西書指南等ヲ用ヒ平面直線体ノ類ヲ書カ
 シム

博物    一週四時
 博物新編和解ノ家畜ノ部ヲ独見輪講セシ
 ム

 ○第三級 六ケ月
細字速写    一週二時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 累乗開法大略ヲ授ク

書牘作文    一週四時
 公用文ヲ作ラシム

地学輪講    一週二時

 前級ノ如シ

理学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

史学輪講    一週二時
 五洲紀事等ヲ独見輪講スル事前級ノ如シ

幾何    一週四時
 円形多角平面形ノ類ヲ授ク

罫書    一週二時
 平面直線体ヲ陰影ナシモノヲ書セシム

博物    一週二時
 前書野獣ノ部ヲ独見講述ス

化学    一週四時
 化学訓蒙化学入門等ノ如キ書ラヲ日用物
 品ノ分捕配合ヲ独見講究セシメ教師兼テ
 器械ヲ以テ之ヲ実ニス

 ○第二級 六ケ月

細字速写    一週二時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 利鳥算【利息算の誤記か?】ヲ挍ク

史学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

書牘作文    一週三時
 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

地学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

理学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

幾何    一週四時
 諸形比較等ヲ授ク

罫書    一週三時
 弧線体ヲ書カシム

博物    一週三時
 前書草本ノ部ヲ授ク

化学    一週三時
 前級ノ如シ

 ○第一級 六ケ月
細字速写    一週二時
 前級ノ如シ

算術    一週六時
 連級及対数用法ヲ授ク

地学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

理学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

史学輪講    一週二時
 前級ノ如シ

文法 当分欠ク
 前級ノ如シ

幾何    一週六時

 実用法ヲ授ク

罫書    一週四時
 地図ヲ書カシメ其他種々アルヘシ

博物    一週二時
 前書魚鳥介蟲ノ部ヲ授ク

化学    一週二時
 前級ノ如シ

生理    一週一時
 教師自ラ人身ノ生養スル所以ノ理ヲ口述
 ス

諸科温習    一週一時

右卒業シ大試業ヲ経テ中学ニ入ル

明治五年壬申七月 文部省

【右ページ】
静岡県重刻

【左ページ】
小学教則概表
小学 下等 下等 下等 下等 下等 下等 下等 下等 上等 上等 上等 上等 上等 上等 上等 上等
毎級六ケ月 八級 七級 六級 五級 四級 三級 二級 一級 八級 七級 六級 五級 四級 三級 二級 一級
年齢 六歳 六歳半 七歳 七歳半 八歳 八歳半 九歳 九歳半 十歳 十歳半 十一歳 十一歳半 十二歳 十二歳半 十三歳 十三歳半
一週間三十時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時 時
【以下、表に近い体裁になるよう、数字の間は空白等入れずに記載】
【下等 87654321        】
【上等         87654321】
綴字   六六              
習字   六六六六六六四二        
単語読方 六四              
洋法算術 六六六六六六六六六六六六六六六六
修身口授 二二二一            
単語諳誦 四二              
会話読方  四六             
単語書取   四二            
読本読方   六四            
会話諳誦    六            
地理読方    三六           
養生口授    二二二          



【以下、表に近い体裁になるよう、数字の間は空白等入れずに記載】
【下等 87654321        】
【上等         87654321】
会話書取     四           
読本輪講     六六六四四       
文法       欠欠欠欠欠欠欠欠欠欠欠欠
地理学輪講     六六四六六四二二二二二
究理学輪講     二四六六六六四二二二二
書牘        二四六   四四   
各科温習        二       一
細字習字         二二      
書牘作文         六六六  四三 
史学輪講          四四六四二二二
細字速写           二二二二二二
罫書             二二二二三四
幾何              四四四四六
博物               四二三二
化学                四三二
生理                  一



【裏表紙】

絵本写宝袋

【右丁】
【表紙】
【題箋は殆ど欠損】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁】
絵本写宝袋 七

【左丁】
絵本写宝袋七之巻目録
范雎(はんしよ)遁(のかれ)_レ厠(かはやを)復(ふくする)_レ仇(あたを)図(づ)   張良(ちやうりやう)売(うつて)_レ剣(けんを)説(とく)_二韓信(かんしん) ̄ニ図
玄徳(げんとく)躍(おどらし)_レ馬(むまを)跳(こゆる)_二檀溪(だんけいを)_一図  曹操(さうそう)横(よこたへ)_レ槊(ほこを)賦(ふする)_レ詩(しを)図
錦嚢計(きんのふのはかりこと)趙雲(てううん)救(すくふ)_レ主(しゆを)図   関羽(くわんう)単刀(たんたうにして)赴(おもむく)_二呉会(ごのくはいに)_一図
  仙人之部
王母(わうぼ)持(ぢする)_二蟠桃(ばんたうを)_一図      邪和璞(やわぼく)崔曙(さいしよ)迎(むかふ)_二 上 帝(ていを)_一図
巨霊人(これいじん)愛(あいす)_レ虎(とらを)図       呉猛(ごまふ)乗(のり)_二白鹿車(はくろくしやに)_一持(もつ)_二白羽扇(はくうせんを)【注】図
陳捕(ちんほ)乗(のつて)_レ笠(かさに)渡(わたる)_二洪流(こうりうを)_一【注】図  通玄(つうげん)瓢(ひさご)より出(いだす)_レ【注】駒(こまを)図

【注 早稲田大学本に「はくうせん」とあり、「一点」、「レ点」もあり。https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko06/bunko06_01293/bunko06_01293_0007/bunko06_01293_0007_p0002.jpg 】

【右丁】
陳楠(ちんなん)鉄鉢(てつはつ)より出(いだす)_レ竜(りうを)図     候(こう)先生(せんせい)浴(よくし)_二池中(ちちうに)_一成(なる)_二蝦蟇(かへると)_一図
孫博(そんはく)草木(さうもく)に火光(くはくはう)を生ず図    張(ちやう)九 哥(か)剪(きつて)_レ羅(うすものを)作(なす)_レ蝶(てうと)図
費文(ひぶん)画(ゑかいて)_レ鶴(つるを)酬(むくふ)【注】_二辛氏(しんしに)_一図 黄鶴(くはうくはく)仙人(せんにん)乗(のる)_レ鶴(つるに)図

【注 酧は酬の俗字】

【左丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
絵本写宝袋七之巻
  范雎(はんしよ)厠(かはや)を遁(のが)れ仇(あた)を復(ふく)す
范雎(はんしよ)字(あさな)は叔(しゆく)。魏(ぎ)の大梁(たいりやう)の人。経済(けいさい)の大 才(さい)。諸子(しよし)百 家(か)。皆(みな)
よく其 妙(めう)を究(きはめ)ずといふ事なし。魏の中 大夫(たいふ)須賈(しゆか)に仕 ̄ユ時に
須賈(しゆか)魏の昭王(せうわう)のために。斉国(せいこく)に使(つかい)す。范雎(はんしよ)を副使(ふくし)として。
金(きん)百 斤(きん)白璧車馬(はくへきしやば)を以て斉王(せいわう)に送(おく)り。互(たがい)に相すくふこと
を約(やく)す。二人 斉国(せいこく)に到(いた)る。斉王の曰。尓(なんぢ)が魏(き)何等(なんら)の主(しゆ)にして。寡人(くわじん)
がまへに誓盟(せいめい)を陳(のぶ)るや。范雎 須賈(しゆか)が対(こた)ふることの遅(おそ)きを見
て前(すゝ)み出て曰。臣(しん)が王は仁義礼智雄 略(りやく)の主なり。斉王大に
笑(わら)ふ。范雎が曰。然ば臣一々是を奏(そう)せんとて。魏王の彼(かの)徳(とく)ある
事を称(せう)し。猶又斉王の問(とい)にこたへ。終日(ひねもす)談論(だんろん)する事。懸河(けんが)の耳(みゝ)
に入り。蜜(みつ)の浸(ひた)して漸々(ぜん〳〵)に甜(あまき)が如(こと)し。遂(つい)に正使(しやうし)須賈(しゆか)を。さし
除(のけ)て。范雎をもてなし。斉王又 黄金(わうごん)一 笏(こつ)を賜(たま)ふ。時に須賈
正使たる吾をさし置て。范雎をもてなし。金酒を賜(たま)ふ事を

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
妬(ねた)み詭(いつは)りをまふせて先(さき)に魏(ぎ)国に帰り。丞相(せう〴〵)魏 斉(せい)といふ
者に。范雎は魏 国(こく)の密事(みつじ)を斉王に訴(うつた)ふと讒(ざん)す。魏斉
即(すなは)ち人を遣(つかは)し。范雎(はんしよ)を搦(から)め来らしむ。魏斉がいはく。正使(しやうし)
をもてなさずして副使(ふくし)を款待(もてなす)は。国の密事(みつじ)を売(う)りしゆへなり。
吾(われ)今 汝(なんぢ)をもてなさんとて。草(くさ)をまじへたる豆を以て馬と共に
喰(くは)しめ。士卒(しそつ)をして打(うた)しむること百。皮(かは)裂(さけ)肉(にく)綻(ほころ)び脅(かたぼね)を折(お)
り歯(は)を摺(とりひし)ぎしかば。范雎 詭(いつはり)て死(し)したる状(かたち)をなす。魏斉 悦(よろこ)
び簀巻(すまき)にして厠(かはや)に棄(す)て其上にかはる〴〵溺(いばり)せしめ。後のこらし
めにする。鄭安平(ていあんへい)といふもの。范(はん)が罪(つみ)なくして刑(けい)せられし
事を怜(あはれ)み厠に往(ゆき)て是をみるに。范雎 簀(す)に巻(まか)れながら未(いま)だ死
せざることを告(つ)ぐ依之(これによつて)安平 野外(やぐはい)の死(し)人を以て。范雎と入かゑ
連(つれ)帰(かへり)て吾(わか)家に匿(かく)し名(な)を張禄(てうろく)と改(あらたむ)るに是を知るものなし秦(しん)
の昭王(しやうわう)賢(けん)人をもとめ給ふ。安平ひそかに。張禄を以て王 稽(けい)といふ
者に告(つ)ぐ。稽(けい)すなはち車(くるま)に隠(かく)し秦(しん)国に帰る。昭王大に悦(よろ)

【左丁】
[こ]び。張禄(てうろく)を丞相(せう〴〵)に拝(はい)し給ひしより。一年にして秦(しん)国大に治(おさま)り。
遂(つい)に六国(りつこく)を呑(のむ)の勢(いきお)ひあり。魏(ぎ)国又 須賈(しゆか)を使(つかい)として。夜明(やめい)
珠(しゆ)を献(けん)じて和(わ)を乞(こふ)。范雎(はんしよ)是(これ)を聞(きゝ)。宴席(えんせき)を設(まふけ)て列国(れつこく)の使(し)
者(しや)を款待(もてな)し其前(そのまへ)にして。士卒(しそつ)に命(めい)じて須賈を捕(とら)へ。引出(ひきいだ)し
て曰。汝(なんぢ)吾(われ)を讒(ざん)しける時。馬(むま)と共に喰(くらは)しめたるごとく。汝も馬
と共に喰(くら)ふべしとて。割(きさめ)る草(くさ)に豆をまじへ馬と共に喰しめ。
扨(さて)汝(なんぢ)を殺(ころ)すべけれども。一 命(めい)を許(ゆる)す。国に帰て魏(ぎ)王に報(ほう)じ。
速(すみやか)に魏斉(ぎせい)が首(くび)を献(けん)ぜよ。然(しか)らずんば兵(へい)を発(おこ)して。汝が魏国
城を屠(ほふ)らん。須賈 羞(はぢ)を含(ふく)み。国(くに)に帰(かへつ)て魏斉に告(つ)ぐ。魏斉大
に驚(おどろ)き。終(つい)に自(みづか)ら首(くび)を刲(はね)て死(し)す。秦(しん)の昭王(せうわう)六国を併(あは)する
ものは。皆(みな)范雎(はんしよ)が功(こう)なり
  張良(ちやうりやう)売(うつて)_レ剣(けんを)説(とく)_二韓信(かんしんを)_一
張良(ちやうりやう)は韓信(かんしん)が陣門(ぢんもん)に行(ゆき)。同国(どうこく)の友(とも)なり。速(すみやか)に見(まみへ)んことを告(つげ)けれ
ば。韓信 怪(あやし)んで月かげに見れば。其(その)人表(じんへう)常(つね)ならず。問(とふ)て曰。足下(そくか)いかな

【右丁 挿絵の説明】
秦 ̄ノ丞相(せう〳〵)范雎(ハンシヨ)

【左丁 挿絵の説明】
魏国(ぎこく)の使(つかい)須賈(しゆか)
に馬と共に
くらはしむる所

             須賈(しゆか)

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
る人なれば某(それかし)に遇(あは)んといひ給ふぞ。張良が曰。吾(わ)が家(いへ)に伝(つたは)る宝剣(ほうけん)
三振(みふり)あり。誠(まこと)に世(よ)に希(まれ)なる宝剣(ほうけん)なり。遍(あまね)く天下の英雄(えいゆふ)を求(もと)め。
先(まづ)其(その)人を見(み)て次(つぎ)に剣(けん)を売(う)る。既(すで)に二(ふた)ふりは売(うり)たれども。今
一(ひと)ふり。其人に遇(あは)ずして残(のこ)し置(お)けり。将軍(しやうぐん)此(この)剣を得(え)給はゞ。威(ゐ)天下
を制(せい)せん。韓信 心(こゝろ)の内(うち)ひそかに喜(よろこ)び。今 先生(せんせい)剣を持来(もちきたつ)て示(しめ)
さる願(ねがは)くは一 見(けん)せん。張良 剣(けん)をあたへければ。韓信 灯(ともしび)の下(もと)に
て抜(ぬい)て見るに。心の内しきりに喜(よろこ)び問て曰。此剣に名(な)はなき
か。張良が曰。悉(こと〳〵)く名(な)あり。一つは天子の剣。一つは宰相(さいしやう)の剣。
一つは元戎(げんじう)の剣(けん)也。二 振(ふり)は誰(たれ)人に売給ひしぞ。曰。天子の
剣は沛公にうり。宰相(さいしやう)の剣は蕭何(しやうが)にうり候。元戎(けんじう)の剣は。
足下(そくか)に売(う)らんため特(とく)に来てすゝむるなり。韓信が曰。先生(せんせい)は韓(かん)
国の張子房(てうしばう)にてはなきか。張良が曰。将軍(しやうぐん)吾(われ)を知(しり)給ふ。韓信
大に笑(わらつ)て。先生は人中の竜(りう)なり。我(われ)爰(こゝ)を去(さつ)て漢王(かんわう)に帰(き)
せんとほつす。願(ねがは)くは計(はかりこと)を教(おしへ)給へ。張良が曰。将軍(しやうぐん)漢王(かんわう)に帰せん

【左丁 挿絵中の説明】
韓信(かんしん)剣(けん)を見(み)る
                      張良(てうりやう)剣(けん)を売(うり)説(とく)

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
とならば我に一物ありと。懐(ふところ)より封(ふう)じたる割符(わりふ)を取出し。往(その)
日(かみ)漢王(かんわう)に別(わか)るゝ時。破楚(はそ)大元帥(たいげんすい)をたづね得(え)ば。此(この)割符を以て
すゝめ遣(つかは)すべしと蕭何(せうが)と約(やく)をなせり。将軍(しやうぐん)赴き給はゞ漢王(かんわう)
重(おも)く用ひ給ふべしと。又 残道(ざんたう)の地理(ちり)の図(づ)を渡し。次(つぎ)の日張
良は出去(いでさり)ければ韓信(かんしん)は漢中(かんちう)へ赴(おもむ)きけり
  玄徳(げんとく)躍(おどらして)_レ馬(むまを)跳(こゆ)_二檀溪(だんけいを)_一
劉備(りうび)字(あざな)は玄徳(げんとく)後漢(ごかんに)景帝(けいてい)の元孫(げんそん)涿縣(たくけん)の人(ひと)。母(はゝ)に事(つかへ)て孝(かう)
を尽(つく)し。履(くつ)を售(うり)蓆(むしろ)を織(おり)て家業(かげう)とす。身(み)の長(たけ)七尺五寸左右
の手(て)膝(ひざ)を過(すぐ)る。又身の長九尺五寸 髯(ひげ)の長(なが)さ一尺八寸。河東(かとう)の人(ひと)
関羽(くわんう)字(あざな)は雲長(うんてう)。扨又。張飛(てうひ)身の長八尺。此三人 桃園(とうゑん)に義(き)
を結(むす)んで兄弟と成。黄巾(くわうきん)の賊(ぞく)を破(やぶ)りし軍功(ぐんこう)に依(よつ)て。予(よ)
州(しう)の牧(ぼく)に補(ほ)せられ給ふ。曹操(そう〳〵)といふ者(もの)。漢(かん)の天下を奪(うばは)んとす
るを悪(にく)み。義兵(ぎへい)を興(おこ)し。当陽(たうやう)の長坂波(てうはんは)に曹操(そう〳〵)と戦(たゝか)ひ
勢(せい)少(すくな)く打負(うちまけ)て。荊州(けいじう)の劉表(りうへう)を頼(たの)み居(ゐ)給ふ。劉表弟と

【左丁】
称(せう)して。襄陽(じやうやう)の新野(しんや)城を守(まも)らしむ。劉表(りうへう)病身ゆへ荊州(けいしう)を譲(ゆづら)
むといへども。玄徳(げんとく)うけ給はず。劉表の妻(さい)の兄(あに)蔡瑁(さいぼう)と云(いふ)もの。国の政(まつり)
ごとを専(もつはら)にす。劉 表(へう)玄徳に国(くに)をゆづらんといふを聞(きく)。玄徳を置(おき)ては。
後(のち)の災(わざわい)と蔡夫人(さいふじん)と計(はかり)て襄陽(せうやう)の会(くわい)を催(もよほ)し。玄徳を招(まね)きけるに。
玄徳 何(なに)の心(こゝろ)もなく来り給ふ。蔡瑁(さいぼう)仕(し)すましたりと悦(よろこ)びぬ。酒(さけ)三
巡(じゆん)に及ぶ時。伊藉(いせき)といふ者 盃(さかづき)を取て玄徳のまへにゆき。屹(きつ)と目(め)く
ばせして衣(ころも)を着(き)かへ玉へと云ければ玄徳其心を悟(さと)り厠(かはや)へ行 体(てい)にて
出給へば伊藉 私語(さゝやき)けるは蔡瑁君を殺んとて城外三方には皆
大 勢(ぜい)を伏置(ふせおき)たり。只 西(にし)の門 計(ばかり)担溪(だんけい)を頼みて伏(ふせ)勢を廻(まは)さず。此 道(みち)
より落(おち)給へと告(つ)ぐ。玄徳悦び。的盧(てきろ)の馬に乗(の)り。担溪(だんけい)に到(いたり)り【衍】見(み)
給ふに白波(しらなみ)天に漲(みなぎ)り渡(わた)るべきやうなし。後(うしろ)をかへり見給へば。敵軍(てきぐん)はや
背(せなか)にあれば。馬(むま)をさつと打(うち)入れ。馬の頭(かしら)をたゝき。的 盧(ろ)々々(〳〵)努力(つとめよ)やと
宣(のたま)ふに。此馬 忽(たちま)ち一 躍(おどり)三 丈(じやう)飛(とん)で西(にし)の岸(きし)に襄(あが)る。玄徳 茫然(ばうぜん)として雲霧(うんぶ)の
中を行(ゆく)がごとく危(あやう)き難(なん)を遁(のが)れ玉ふ。後(のち)に蜀(しよく)の皇帝(くはうてい)と成給ふは此 人(ひと)なり

【右丁 挿絵の説明】
【右から横書き】
玄徳 的(テキ)盧(ロ)馬(バ)ニ乗 ̄リ 檀(ダン)溪(ケイ) ̄ヲ越(コ)所(ス)

【左丁 挿絵のみ】

【右丁 挿絵の説明】
呉ノ南屏山 ̄ニ月ノボツテ
烏鵲発 ̄ノ_レ声 ̄ヲ景

【左丁 挿絵の説明】
曹操身長七尺 細眼(メホソク)長髯(ヒゲナガシ)行年五十歳
舟頭ニ立テ横(ヨコタヘ)_レ槊(ホコヲ)詩賦(シフ)ノ図              シトグ
中冬西北ノ微風紅ノ袍(ヒタヽレ)ヲヒルガヘス意ヲ写ス       薄墨
                            クマ   黄土具

                                    墨
                                    クマ



                         金
                         砂子

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
  曹操(そう〳〵)横(よこたへて)_レ槊(ほこを)賦(ふす)_レ詩(しを)
魏(ぎの)曹操(そう〳〵)は後漢(ごかん)の末(すへ)の大 名(めう)なりしが。頻(しきり)に軍功(ぐんこう)あつて丞相(せう〴〵)
となる。又 呉(ご)の国の大名を孫権(そんけん)と云。是を亡(ほろぼ)さんため。百万の
勢(せい)を引率(いんそつ)し。数(す)万 艘(ざう)の船を拵(こしら)へ大江に浮(うか)め。懸引(かけひき)を調練(てうれん)す。
呉の国には周喩(しうゆ)といふ大将。又 玄(げん)徳の軍■【師ヵ】諸葛孔明(しよかつこうめい)と計(はかりこと)を
合(あは)せ。孔明は風を祈(いの)る。周愈(しうゆ)は火ぜめの用 意(い)せり黄蓋(くはうがい)に狗(く)
肉(にく)の計(はかりこと)を授(さづ)け。曹操(そう〳〵)に降(くだ)らしむ。孔明は風を祈(いの)り荊州へ
戻(もど)り。手分(てわけ)を定(さだ)め曹操と戦(たゝかは)しむ。時(とき)に建安(けんあん)十二年十一月十五日
曹操 大船(たいせん)を赤壁(せきへき)の中央(ちうわう)に浮(うか)べ。自(みづか)ら将台(しやうたい)の上に坐(ざ)す。近侍(きんじ)
みな錦繍(きんしう)の袖(そで)をつらね。文 武(ふ)の大将 階級(かいきう)に依(よつ)て悉(こと〳〵)く集(あつま)り
しかば。曹操 勇(いさ)み喜(よろこ)び。南 屏(へう)山の月に映(えい)じて画(ゑかく)が如くなるに
酒(さけ)を取て江を奠(まつ)り。三盃 飲(のみ)つくして。槊(ほこ)を横(よこた)へ諸将に向(むかつ)て。
吾此 槊(ほこ)を以て黄巾(くはうきん)の賊(ぞく)を破(やぶ)り。天下の内に縦横(じうわう)す。真(まこと)に
大丈夫の志(こゝろざし)なり。吾今歌を造(つく)らん。汝(なんち)等(ら)是を和(わ)せよとて

【左丁】
一 長篇(ちやうへん)を賦(ふ)せられけるが。終(つい)に打 負(まけ)て。からき命を助りける。
これを赤壁(せきへき)の戦(たゝかい)と云
  錦嚢計(きんのふのはかりこと)趙雲(てううん)救(すくふ)_レ主(しゆを)
呉(ご)の孫権(そんけん)周喩(しうゆ)と計(はかり)て。妹(いもうと)と嫁(めあは)せんと偽り劉玄徳(りうげんとく)を招(まね)き
寄(よ)せ。擒(とりこ)にして獄中(ごくちう)に囚(とらへ)置(おき)荊州(けいしう)を取らんと。呂範(りよはん)といふ者を
荊州へ遣(つかは)す。呂範(りよはん)即(すなは)ち荊州に至る。時に孔明(こうめい)が曰。周喩(しうゆ)が計
にて荊州の故(ゆへ)ならん。某(それかし)は屏(べう)風の後(うしろ)に居(ゐ)て聞べし。君(きみ)は対(たい)
面(めん)して客屋(かくや)に留(とめ)置給へ。評議(へうぎ)して返すべしと。扨呂範玄徳
に見(まみ)へ。孫権(そんけん)の妹と配偶(はいぐう)のことを詳(つまびらか)に申す。玄徳の曰。先 客(かく)屋
にて休(やす)み給へ明日事を定んと。其夜 諸(しよ)大将を集(あつ)め議(ぎ)し
給ふ。孔(こう)明 笑(わらつ)て曰。某(それかし)屏風の後にて具(つぶさ)に聞に此事大 吉(きち)也。
許容(きよよう)し給へ。孫権が妹を娶(めと)る時は荊州 危(あやう)きことなし。玄徳心
決(けつ)せず。孔明三ヶ条(でう)の計(はかりこと)を書写し。錦(にしき)の袋(ふくろ)に入て趙雲に
授(さづ)け。同じく五百 余(よ)人の精兵(せいべう)を添(そ)へたり。玄徳 早(はや)船に乗(の)りて

【右丁 挿絵の説明】
                   常山ノ趙雲(テウウン)

玄徳ノ妻(ツマ)孫夫人ノ車

【左丁 挿絵の説明】
        呉ノ将 陳武(チンブ)潘璋(ハンシヤウ)二人

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
荊州に着(つき)ければ。趙雲(てううん)第一の袋(ふくろ)を開(ひら)き看(み)て。五百人の
壮士(さうし)に計(はかりこと)を授(さづ)く。爰(こゝ)に又 呉(ご)の国に橋国老(けうこくらう)とて。至(いたつ)て正直成(せうちきなる)
人あり。孫策(そんさく)周兪(しうゆ)が舅(しうと)なれは孫権(そんけん)を初(はじ)め諸(しよ)人 尊(たつと)ぶ。玄徳
礼物(れいもつ)を持せ橋国老(けうこくらう)が家(いへ)にゆき次第(したい)を告(つげ)給ふ。橋国老玄徳に
対面(たいめん)して後(のち)。呉夫人(ごふじん)に見(まみ)へ悦(よろこ)びを申す。呉夫人 何(なに)事かと
問(と)ふ。国老曰。孫夫人(そんふじん)に劉玄徳を婿(むこ)とし給ふ由(よし)。玄徳此国に来り
給ふ。呉夫人 曽(かつ)てしらず。孫権(そんけん)を呼(よ)び大に怒(いかつ)て曰。汝(なんぢ)妹(いもうと)を以て
玄徳に嫁(めあは)せんとす。何とて初(はしめ)より知らせず。汝(なんぢ)吾(われ)を母と思はゝ。先(まづ)吾(われ)
に問(とふ)て其後事を行(おこな)はざるやと。以の外(ほか)に怒(いか)り給へば。孫権 元(もと)より
大 孝行人(かう〳〵じん)ゆへ母(はゝ)の怒(いか)りに依(よつ)て。玄徳(げんとく)を実(じつ)の婿(むこ)とす。又 周喩(しうゆ)が
謀(はかりこと)にて金屋(きんおく)朱門(しゆもん)綾羅錦繍(れうらきんしう)をつらね。美(び)女 数(す)十人 孫(そん)夫
人と昼夜(ちうや)遊楽(ゆふらく)せしめ心を蕩(とらか)さしめて是を殺(ころさ)んとす。時に
趙雲(てううん)。孔明が与(あた)へし錦嚢(きんのふ)年(とし)の終(おはり)に開(ひら)き見よと云。第二の
嚢(ふくろ)を披(ひら)き。其 旨(むね)を覚(さと)り。玄徳に暁(さと)して曰。曹操五十万

【左丁】
の勢(せい)を以て荊州を攻(せむ)るのよし。孔明(こうめい)早船(はやふね)を以て告(つぐ)ると。依之(これによつて)
玄徳 孫(そん)夫人と謀(はか)りて。春正月朔日 先祖(せんぞ)の祭(まつり)に事(こと)よせ。孫夫人
は車(くるま)にのり。玄徳は馬(ば)上にて数(す)十 騎(き)を従(したが)へ。趙雲(てううん)が五百の勢(せい)
と。南徐(なんぢよ)を離(はな)れて熊と陸路(りくぢ)より逃(のき)給ひぬ。孫権(そんけん)怒(いかつ)て
陳武(ちんぶ)潘璋(はんじやう)に五百の精兵を授(さづ)け。二人共に捕(とら)へ来れと下知(けぢ)
しける。玄徳は漸(やう)〳〵(〳〵)柴桑(さいさう)まで落(おち)給ふ処に。跡より五六百 騎
飛(とぶ)が如(ごと)く追(おい)来(きた)る。趙雲(てううん)が曰。君はさきへ落給へ。某(それかし)一 軍(いくさ)せんと
云ける時。向より又。一手(ひとて)の勢来る。玄徳前後の敵(てき)あり。進退(しんたい)
極りける時。第三の嚢(ふくろ)を開(ひら)き見。計(はかりこと)を孫夫人に告(つげ)給へば。孫
夫人追手の兵を退(しりぞ)け給ふ所に。孔明兼て商人(あきひと)船に精兵
を隠(かく)し相待。事ゆへなく荊州(けいしう)へ帰り給ふ
  関羽(くはんう)単刀(たんたう)にて呉(ご)の会(くわい)に赴(おもむく)
関羽 身長(みのたけ)九尺五寸 髯(ひげ)の長サ一尺八寸。面は重棗(てうさう)のごとく世に。
美髯公(びぜんこう)と称す。劉(りう)玄徳の弟なり。玄徳 巴蜀(はしよく)を取て関羽

【右丁 挿絵の説明】
呉ノ塞(サイ)外 臨(リン)江亭
兵ヲ伏セ置シ体

    魯粛(ロシユク)

【左丁 挿絵の説明】
 美髯公面赤ク              六シヤウ
 状チ棗(ナツメ)ノ如シ眼             金紋
 鳳ノコトク鬚(ヒゲ)一尺   面朱ノキメクマ    コンジヤウ
 八寸身長九尺五寸               金紋      朱
 緑(ミドリ)ノ袍(ヒタヽレ)ヲ着ス                           朱ウン
                                    ナン
                                 白
             下スミクマ              コン
             コンジヤウ
                カケ       白


青龍ノ偃月刀                 コレヨリ下皆金
       朱    金テイ                  金
                朱  朱
                        白   白
                 白           ワウトグ

              白   白
                           白
                               コン

 臥牛山ノ
 周倉面ノ色ワウト朱スミクマ           下スミクマ
 面(カヲ)虯(ミツチ)【虬は俗字】ノコトク髯(ヒケ)螭(ヱンウ)ノコトク    アイロウカケ
                          金紋






【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
を荊州の太守(たいしゆ)とす。呉(ご)の孫権(そんけん)荊州を取らんため初め妹を餌(えば)とし
玄徳を呼寄(よびよせ)しに。母(ぼ)公の怒(いか)りゆへ実(じつ)の婿【聟は俗字】とし終(つい)に計 不成(ならず)今関羽
を呼寄せ。帷幕(いばく)のかげに精兵を伏せ置。忽(たちまち)に殺さん若大勢に
て来らば。呂蒙(りよもう)甘寧(かんねい)鉄炮(てつほう)を相図とし一 度(ど)に打出。こと〴〵く討(うつ)べしと
陸口(りくこう)の塞外(さいぐはい)臨江亭(りんこうてい)に会宴(くはいえん)を設(もふ)け。書簡(しよかん)を調へ。荊州へ使を遣(つかは)
しけり。関羽書簡を見て。其使に明日必ず行んと云ければ。関平が曰。
魯粛(ろしゆく)が会宴は必ず悪心あらん父千 金(きん)の重(おも)き御身を軽(かる)〴〵し
く虎狼(こらう)の穴に陥(おと)し給ふな。関羽が曰。吾(われ)これを知まじきか。陸口に
兵(へい)を伏置き。擒(とりこ)にして荊州を求(もとめ)んためなり。行ずんば臆(おく)せるに似(に)た
り。馬良(ばりやう)諫(いさめ)て曰軽〳〵しく行給ふな。関羽が曰 豈(あに)呉の国の鼠どもを
怖(おそれ)んや。むかし春秋の時。趙(てう)の国に藺(りん)相如(しやうじよ)と云し人は。鶏(にはとり)を縛(つな)ぐ計
の力もなくして。澠池(めんち)の会(くはい)に秦(しん)の国の君臣を小児のごとくせり。吾
万人の敵(てき)を学(まな)ぶ。既(すで)に行んと云て行すんば是 信(しん)にそむくなり。
馬良が曰。行給ふとも宜く用心し給ふべし。関羽が曰関平に船手(ふなて)

【左丁】
の精兵五百人と早船(はやふね)十 艘(さう)此 方(かた)の岸(きし)に待(また)せ置き若(もし)旗(はた)を以て
まねくを見ば早く舟を飛(とば)して来るべし。関平 父(ちゝ)の命(めい)にしたがい。兵を揃(そろへ)
へ【衍】て北の岸に出(いで)ければ。関羽八十二斤の青 龍刀(りうたう)を周倉(しうたう)に持せ江(え)
を渡る。魯粛(ろしゆく)次(つぎ)の日人を出し見せしむるに。紅(くれない)の旗(はた)に関の字(じ)書(かき)たる舟
既(すで)に岸に着(つき)けり。関羽 緑(みどり)の袍(ひたゝれ)を着(き)て。周倉(しうさう)とて面は蛟(みつち)のごとく成(なる)
千斤を上る大刀。青龍の大 薙刀(なぎなた)を執(とり)て相 続(つゝい)て。躍(おどり)り【衍】上りしかば。
魯粛出 迎(むか)へ礼(れい)を施(ほどこ)し引て臨江亭(りんこうてい)に入り。魯粛 拝伏(はいふく)して仰(あふぎ)
見ること能(あた)はず。酒 半酣(はんかん)に至て魯粛が曰。昔(むかし)劉皇叔(りうくわうしゆく)曹操(そう〳〵)
に攻(せめ)破(やぶ)られ。計(はかりこと)窮(きはま)り。勢(いきをい)尽(つき)し時。我(わが)主人孫権 国(くに)の費(つい)へ民の
労(らう)を思はず。大軍を発(おこ)し。其 憂(うれい)を救(すく)ひし時の約束(やくそく)にそむき。
今 蜀(しよく)の四十一州を取ながら。荊州(けいじう)を渡し給はず。枉(まげ)て併(あは)せ領(れうぜ)ん
とし玉ふ。関羽が曰。是みな兄(このかみ)のことなり。某(それがし)が知る処にあらず。魯(ろ)
粛が曰 昔(むかし)桃園(とうえん)に義(ぎ)を結(むす)んで。共に生死の交(まじは)りを誓(ちか)ひ玉ふ。
然る時は劉皇叔は即(すなは)ち足下なり。何(なに)ゆへ知(しる)処にあらずと宣(のたま)ふ

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
や。関羽 答(こた)ふべき詞(ことば)なし。周倉 声(こへ)を励(はげま)して曰。天上地下只 徳(とく)あ
るもの是を保(たも)つ時に関羽色を変(へん)じ周倉が持たる青龍刀(せいりうたう)
を提(ひつさ)げ。これは国家(こくか)の大事。酒後に論(ろん)すべからずと。屹(きつ)と目(め)くばせ
すれば。周倉其心を悟(さと)り岸(きし)の辺にはしり出。紅(くれない)の旗(はた)を取て招(まねけ)
ば。関平が勢五百余人 早舟(はやふね)十 艘(さう)矢のごとく東(ひかし)の岸(きし)に馳(はせ)来る。関
羽は右の手に青龍刀を提(ひつさ)け。左の手にて魯粛が臂(ひぢ)を引掴(ひつつか)み。
佯(いつは)りて醉(えい)たる体(てい)をなして曰。御辺(ごへん)と是非(ぜひ)を論(ろん)ぜば。恐(おそ)らくは故旧(こきう)
の情(じやう)を傷(やぶ)るべし。他日荊州に請(しやう)じて一 会(くわい)せんと。小児を提(さげ)たる
が如(ごと)くにして岸の辺に出ければ。兼(かね)てより漏(もら)さじと待かけたる
呂蒙(りよもう)甘寧(かんねい)。若(もし)討て出てば魯粛が殺(ころ)されん事を怕(をそ)れ兵を制(せい)
して出ず。関羽が船は順(じゆん)風に乗(ぜう)じて去ければ。魯粛 茫然(ばうぜん)と
して酒に醉(えい)たるごとく計(はかりこと)終にならざれば。共に本陣(ほんぢん)に帰り孫権に斯(かく)
と告げ。重て荊州を攻(せめ)んことを議(ぎ)しけれども。曹操攻来ると聞て
先是を防(ふせ)ぐ事を計りき

【左丁】
       亀台(きたい)金母(きんぼ)
後 漢(カンノ)降(クタル)_二武帝 ̄ノ
殿 ̄ニ_一母 進(スヽメテ)_二蟠桃(バンタウ)七
枚(マイヲ)帝 ̄ニ_一自 ̄ラ食(クラフ)_二其 ̄ノ
二 ̄ヲ_一帝欲 ̄ス_レ留 ̄ント_レ核(サネ) ̄ヲ母 ̄ノ
曰 ̄ク此 桃(モヽ)非 ̄ス_二世間 ̄ニ所 ̄ニ_一_レ有 ̄ル
三-千-年 ̄ニ一 ̄タヒ-実(ミノル)-耳 偶(タマ〳〵)
東方 朔(サク)於(ヨリ)_レ牖間(マド)窺(ウカヽフ)_レ之母指 ̄シテ-曰此 ̄ノ-児(ジ)已 ̄ニ-三 ̄ツ偸(ヌスム)_二吾 ̄カ-桃 ̄ヲ_一矣然 ̄トキハ則朔 ̄ハ九千歳ト
イヘドモ寿(コトブキ)ハカリナシ寿(ジユ)老人ハ朔ナルカ





【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
邢和璞(けいくわほく)【邪は誤】終南山に廬(いおり)す。人の心を算(かぞ)ふるの術を得たり。暴死(とんし)する者を活(いか)す。道(とう)を
学(まな)ぶ者多し。一(ある)日弟子 摧曙(さいしよ)に謂(いつ)て曰。異客(いかく)来らんと。翌(よく)日 果(はた)して一人至る。
身(み)の長(たけ)五尺 闊(ひろ)【濶は俗字】さ三尺。首(かしら)其の半(なかば)にあり緋(ひ)を衣(き)笏(こつ)を執(とつ)て鼓(く)_レ髯(ひげを)して大笑す。吻角(くちひる)
耳を侵(おか)して劇談(ものかたり)す。多く人間の語(ご)に非(あら)ず。摧曙(さいしよ)移(はしつ)て庭を過ぐ。客 熟視(つぐ〴〵み)て和璞に
謂て曰 此(これ)泰山老師(たいさんらうし)に非や。曰然り。食(しよくし)畢(おわつ)て去る。和璞曙に謂て曰。此 ̄レ は上帝(しやうてい)なり。
臣に戯(たはふ)れてなり。泰山老師といふ子(なんぢ)-復(また)-能(よ)く省(さと)るや。曙曰 向(さき)に先生の言(ことば)
を聞に某を泰山
老師の後身と
然れども前身
記(き)することを
得ずと和        上帝
璞 後(のち)に之(ゆく)
所を知らず
            世に寿老人といふは此人歟

【左丁 挿絵の説明】
   邪和璞(ヤワボク)【ママ】

   崔曙

【右丁 挿絵のみ】

【左丁 挿絵の説明】
巨霊人(これいじん) 八仙人ノ内      白虎仕立ゴフン
大力 神通(じんづう)の人なり          章スミ
古文前集に
巨霊山を劈(つんざい)
て洪水(こうすい)尽(つく)
とあり又
白虎を愛
すと有

【右丁】
呉猛(ごもう)《割書:字世雲》
常(つね)に江を渡る時に
波風大にあれば
白(はく)羽 扇(せん)を以て
水を㩇(かきわけ)て渡
後亦白 鹿(ろく)車に

乗じて

天に昇る

【左丁】
陳捕(ちんほ)《割書:字南木》
披(ひらい)_レ髪(かみを)て日に行こと数百里三山の
大義渡(だいぎど)を過て
洪水流て舟を

渡すこと

ならず

依て

着たる

笠を
 浮べて
    済(わた)る

【右丁】
【囲みの中】通玄(つうけん)先生《割書:八仙ノ内》
ひさごより駒を
出す術あり

【左丁】
陳楠(ちんなん)《割書:八仙ノ内》
嘗(かつ)て蒼梧(さうご)に之(ゆく)郡人雨を祈る楠 鉄鞭(てつべん)を執(とつ)
て潭(いけ)に下り竜を駆(か)る須臾(しはらく)にして雷雨(らいう)交(こも〳〵)作(な)
る鉄鉢より
竜を出


【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
何(いつれ)の処の人といふことを知らず。宋の大中の比 京師(みやこ)に在て薬を貨(うり)
年四十余にして鬚(ひげ)眉(まゆ)なし。肌体(みうち)に㨨贅(いぼ)を生ず。馬元(ばけん)と云もの有。夏月 之(これ)に
随(したがつ)て閶闔(しやうかつ)門に出(い)ず。候(こう)池中に浴(よく)す。元 因(よつ)て臨(のぞ)み見ば。乃(すなは)ち一 ̄ツ の大蝦蟇(おほかへる)なり
元 遽(にはか)に退(しりぞ)き引く。候 浴(よく)し畢て衣を着(き)て出ければ。元 前(すゝん)で揖(いつ)す。候笑
て曰。子(なんち)適(まさ)に我を見るや。乃(いまし)元を召して酒肆(さかや)に行て飲む薬(くすり)一粒を元に
与へて曰。是を服(ふく)せば寿(ことぶき)百歳ならんと。此より後見す
後に蜀(しよく)より
 来る者
  市にて
薬を貨(うる)を
見る
 と云

    馬元

【左丁 挿絵の説明】
       候(こう)先生

【右丁】
孫博(そんはく)
好で書を読み
道を学ぶ能く
草木をして火
の光りを
生ぜし
む水中
を行ども
衣 不沾濡(うるをはず)
山間石壁を
出入すること
穴のあるが
 ことし

【左丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
張(ちやう)九 哥(か)
宋(そう)の慶暦(けいれき)年中に京師(みやこ)に居れり。冬の時も単衣(ひとへもの)を着するのみ。燕五是を
奇とす嘗(かつ)て召て与(とも)に飲む。後五に見て曰 遠(とを)く遊(あそば)んとす故に来て別(わか)る。吾
小枝(せうき)あり王を悦(よろこは)しめん乃(すなは)ち羅(うすもの)を取て重(かさね)畳(たゝん)で
剪(きつ)て蝶の状(かたち)を
なす剪るに
随(したが)ひ飛去て
 天日を
   遮(さへぎ)り蔽(おゝ)ふ少頃(しばらくあつ)て
之を呼べは皆
  来り復(かへつ)て
  元(もと)の羅(うすもの)となる

【右丁】
【句点と思われる「・」を「。」にす。】
費文禕(ひぶんい)《割書:字子安》
道を好んで仙を得たり。偶(たま〳〵)江夏 辛(しん)氏の酒館(さかや)に行て酒をのむ。辛後 巨(おほ)き成 觴(さかづき)を与(あた)
へて飲(のま)しむ。明日又来る辛 彼(かれ)が索(もとめ)を待(また)ずして是に飲しむ。如此(かくごとく)すること数載(すさい)略(ほゞ)惜(おしむ)意(こゝろ)
なし。乃(いまし)辛に謂(いつ)て曰。多く酒銭(さかて)を負(おふ)今 少(すこし)く酬(むく)【酧は俗字】ふべしと。橘(みかん)の皮を取て壁(かべ)間に一の
鶴(つる)を画(ゑかい)て曰客来り飲(のむ)とき
但(たゝ)手を拍(はく)【左ルビ:うつ】して歌(うたは)
しめよ鶴
必ず下り
舞(まは)んと後
客来て飲時に
鶴果して蹁躚(へんせん)と
してまふ。回旋(めぐり)宛(ひる)
転(がへり)曲(ぎよく)音律(いんりつ)に
中(あた)る遠近 集(あつま)り

【左丁】
飲て是を観る十年を踰(こへ)て辛氏か 家へ
貲(たせ)【注】巨(こ)万なり一日 子安(しあん)来て所償(むくふところ)
何如(いかん)と問(とふ)辛氏
謝(しや)して曰先生の黄
鶴を画(ゑかく)に因て百倍を
獲(え)たり願くは謝(しや)せんと云
子安笑て曰何ぞ是が為(ため)に
    来らんやと笛を

      取て数(しは〳〵)弄ず
       須臾(しはらく)にして白雪 空(そら)より下る画鶴
        飛て子安が前に至る。遂(つい)に鶴 に跨(またが)り雲
         に乗じて去る。辛氏其所に楼を建て
          黄鶴楼(くはうくはくろう)と名く

【注 「たせ」の意味不明】




【右丁】
黄鶴仙人
代々費長房
ナリト云神仙伝 ̄ニ
壺公遺 ̄メ_二費
長房 ̄ヲシテ帰 ̄ラ_一以_二 一 ̄ツノ之
竹-杖(ツエ) ̄ヲ_一与 ̄テ_レ之 ̄ニ-騎 ̄シム
長房杖ニノツテ
忽然トシテ家
ニ皈ル竹杖ヲ
投 ̄シメ_二葛波 ̄ニ_一而
此ヲカエリミレ
バ青龍ナリト云々
然レバ費長
房ニアラズ
費文飛行
ノ図ヲアヤマル


【左丁 見返し】

【裏表紙】

絵本写宝袋

【表紙】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
日本近代教育史
 資料【横書き】

【見返し】
画師浪速 橘有税
写宝袋 《割書:前|編》
浪華書舗 称觥堂板

【左丁欄外蔵書印】
東京学芸大学蔵書
【左丁】
絵本写宝袋叙
鄒-国-公 ̄ノ曰。離-婁 ̄ノ之明。公-輸
子 ̄ノ之巧 ̄ミ。不 ̄レハ_レ以 ̄テセ_二規-矩 ̄ヲ_一。不_レ能 ̄ハ_レ成 ̄コト_二
方-員 ̄ヲ_一。画-工教 ̄ル_レ 人 ̄ニ亦 類(-) ̄ス_レ是 ̄ニ。不 ̄レハ_レ【レ点の重複】
_レ以_二画-本 ̄ヲ_一。不_レ得_レ成 ̄コトヲ_二形-状 ̄ヲ_一。画-本

【右丁】
者 ̄ハ規-矩也。且-夫 ̄レ物 ̄ノ之形-状
夥 ̄シ矣。牙-角 ̄アル者 ̄ハ孰 ̄レカ不 ̄ン_レ知 ̄ラ_二其 ̄ノ為 ̄ヲ_一_レ
獣。羽-毛 ̄アル者 ̄ハ孰 ̄レカ不 ̄ン_レ知 ̄ラ_二厥 ̄ノ為 ̄ヲ_一_レ禽。
《振り仮名:縦-令|タトヒ》雖 ̄トモ_二異-獣異-禽 ̄ト_一。於 ̄テ_二其 ̄ノ所 ̄ニ_一_レ
写 ̄ス弁 ̄シ_レ之 ̄ヲ。於 ̄テ_二其 ̄ノ所 ̄ニ_一_レ彩(イロトル)別 ̄ツ_レ之 ̄ヲ者 ̄ハ。

【左丁】
其 ̄レ必 ̄ス画(-) ̄カ乎。画 ̄ノ之規-矩可 ̄シ_レ謂 ̄ツ
博 ̄ント矣。状 ̄トリ_レ之 ̄ヲ弁 ̄シテ_レ之 ̄ヲ。而不 ̄シテ_レ可 ̄カラ_レ尽 ̄ス
而尽 ̄シ_レ之 ̄ヲ。不 ̄シテ_レ可 ̄ラ_レ測 ̄ル而測 ̄ル_レ之 ̄ヲ者 ̄ハ。
妙 ̄ナリ也。神 ̄ナリ也。妙(-) ̄ハ者心 ̄ノ之規-矩。
画-本 ̄ハ者形 ̄ノ之規-矩。以 ̄テ_二形 ̄ノ之

【右丁】
規-矩 ̄ヲ_一入 ̄ル_二心 ̄ノ之規-矩 ̄ニ_一。所_レ謂尽 ̄ス_二
神-妙 ̄ヲ_一者也。公-輸-子遂 ̄ニ折 ̄リ_レ規 ̄ヲ
毀 ̄テ_レ矩 ̄ヲ。而騁 ̄スル_二其精-巧 ̄ヲ_一。亦不 ̄ル_レ出 ̄テ_二
此-理 ̄ノ之外 ̄ニ_一爾。今窃 ̄カニ以 ̄テ_二此-理 ̄ヲ_一。
為 ̄クル_二此画-本 ̄ヲ_一。方 ̄ナル者不_レ円 ̄ナラ。円 ̄ナル者

【左丁】
不_レ方 ̄ナラ。動 ̄ク-者忙 ̄シク。静 ̄ナル者閑 ̄ニ。三-遠
之要。七-定 ̄ノ之相。手体万状。
皆写 ̄シテ使 ̄シテ【「シム」左ルビ】_三レ之 ̄ヲ在 ̄ラ_二 此 ̄ノ-内 ̄ニ_一。若 ̄シ措 ̄テ_二規-
矩 ̄ヲ_一而探 ̄リ_レ妙 ̄ヲ測 ̄ル_レ神 ̄ヲ者。雖 ̄トモ_二 一-生
尽 ̄スト_一_レ心 ̄ヲ。吾未 ̄タ_レ見_レ得 ̄コトヲ_二其神-妙 ̄ヲ_一也。

【右丁】

観 ̄ル_二此-本 ̄ヲ_一者。庶-幾 ̄クハ思 ̄ヘ_レ諸 ̄ヲ。旹【時】-維
享保五歳次 ̄ル_二庚子 ̄ニ_一 三-月吉-
日。橘氏有-税子採_二毫 ̄ヲ於浪
花 ̄ノ後素軒 ̄ニ_一
【香炉印の文字】衛【下の印の文字】《割書:橘印|有税》

【左丁】
 絵本写宝袋(ゑほんしやほうぶくろ)一之巻 目録(もくろく)
和歌(わか)三神(さんじん)之(の)図    公家(くげ)束帯(そくたい)衣冠(いくわん)之(の)図(づ)
吉備(きび)大臣(だいしん)之(の)像(ざう)《割書:縫(ぬい)之(の)始(はじめ)》 源氏絵(げんじゑ)簾(みす)障子(しやうじ)蔀(しとみ)之(の)図(づ)
同 閨(ねや)門戸(もんこ)垣(かき)之図   綾羅(れうら)錦繍(きんしう)地紋(ぢもん)之(の)図(づ)
宮女(きうぢよ)衣装(いしやう)之図    衣被(きぬかづき)物見(ものみ)之図
女三宮(によさんのみや)之図     紫式部(むらさきしきぶ)物語(ものがたり)を書(かく)図
源氏(げんじ)明石巻(あかしのまき)之図    同 朧月夜(おぼろづきよ)之図
同 浮舟(うきふね)之図      同 紅葉賀(もみちのが)之図

【右丁】
斎宮女御(さいくうのにようご)之図    伊勢物語(いせものがたり)五条宮(ごでうのみや)の図
梅枝(むめがえ)に雉(きじ)を附(つけ)て送(おくる)図 同 業平東下(なりひらあづまくだり)の図
宮女花見車(きうぢよのはなみぐるま)の図   忠盛扇(たゞもりあふぎ)を落(おと)す図
酒(さけ)を煖(あたゝめ)て紅葉(こうよう)を焼(たく) 中国(なかくに)嵯峨(さが)に趣(おもむ)く図
忠度(たゞのり)歌(うた)の望(のぞみ)之図   鶯宿梅(あふしゆくばい)之図
鸚鵡小町(あふむこまち)之図     犬追物(いぬおふもの)之図

【左丁】
和歌之三神(わかのさんじん) 玉津嶋明神(たまつしまみやうじん)【見出し囲み文字】
【上段 雲中の文字】
衣通姫(そとをりひめ)は応神天皇(おうじんてんわう)の孫(まご)
允恭(いんげう)天 皇(わう)の后(きさき)の妹(いもうと)也
容姿(かたち)艶(うるわし)き色衣(いろみそ)に徹(とをり)て
晃(ひか)るゆへ時(ときの)人 衣通(そとをり)といふ
允恭帝(いんけうてい)の妃(きさき)なり
聖武天皇(しやうむてんわう)神亀(しんき)元年
勅(みことのり)して紀州(きしう)和哥浦(わかのうら)
に玉津嶋(たまつしま)大 明神(みやうしん)と
あがめまつりたまふ
御 衣續(そいろとり)唐衣(からきぬ)白地(しらぢ)
泥紋(でいもん)表着(うはぎ)茶色(ちやいろ)
五衣(いつゝぎぬ)五色(ごしき)のうんけん
単(ひとへ)赤(あか)又は白(しろ)きら銀(ぎん)
泥(でい)仕立(したて)也はだのゑり白(しろ)
二 畳重(てうがさね)へりうむけん
しとねへり紫(むらさき)うんけん

【下段】
  立(たち)かへり
    またも
  此世(このよ)に
  跡垂(あとたれ)む
名(な)も
 おもしろ
     き
  和哥(わか)の
   うら
     波(なみ)

【右丁】
【上段】
左(ひだり)正三位(じやうざんみ)柿本人麿(かきのもとのひとまろ)【見出し囲み文字】
太夫(まうちきみ)【注】姓(しやう)は柿本(かきのもと)名(な)は人丸(ひとまる)
孝照天皇(こうせうてんわう)の後胤(こういん)なり
古今集(こきんしう)序(じよ)におほき三(みつ)の
くらゐ柿本の人丸なんうた
のひじりなりけると云(い)へり
本国(ほんごく)は石見国(いわみのくに)角(つの)の里(さと)播州(ばんしう)
明石(あかし)に人丸を大 明神(みやうじん)と崇祭(あがめまつる)
■(さいしき)【綷ヵ】○帽子(ぼうし)紺青(こんぜう)○表着(うはぎ)袍(ほ)にも
非(あら)ず直衣(なをし)とも見へず名(な)を不知(しらず)
身(み)と袖(そで)一 幅(はゞ)と薄縹(うすはなだ)領(くび)かみ袖(そで)一
幅(はゞ)裙(すそ)【襽ヵ】白(しろ)し前(まへ)に紐(ひも)有 紋(もん)浮(ふ)
線綾(せんれう)銀 泥(でい)にてかく○奴袴(さしぬき)紫(むらさき)
又 藤色(ふちいろ)紋(もん)三もぢり八 総(ふさ)の藤(ふぢ)
銀 泥(でい)にて書(かく)尋常(よのつね)とは異(かわる)也

【注 「太夫(まうちきみ)⦅読みは「もうちきみ」or「もうちぎみ」⦆」は「大夫(まえつきみ)⦅前つ君の意⦆」の変化したもの。天皇の御前に伺候する高位の臣の総称。上は大臣から下は五位まで。】

【下段】
【人物等に注記された文字は画像上で翻刻】
梅(むめ)のはな
 それとも
    見(み)えず
 久(ひさ)かたのあまぎる
  雪(ゆき)のなべて
   降(ふれ)れば

【左丁】
【上段】
右(みぎ)山辺赤人(やまべのあかひと)【見出し囲み文字】
山辺(やまのべ)は姓(しやう)也 所(ところ)の名(な)なり
父祖(ふそ)詳(つまひらか)ならず神亀天平(しんきてんへい)の
比(ころ)の人 聖武帝(しやうむてい)の御宇(ぎよう)に
卒(そつ)す山辺 近江(あふみ)越前(ゑちぜん)に在(あり)
古今集(こきんしう)の序(じよ)に山辺赤人(やまのへのあかひと)
といふ人ありけり哥(うた)にあや
しく妙(たへ)なりける人丸(ひとまる)は赤人(あかひと)
がかみに立んことかたく赤人
は人丸がしもにたゝむことかた
くなんありける云云
綾(いろどり)狩衣(かりぎぬ)かき色(いろ)裏(うら)白(しろ)く
腰帯(こしをび)白(しろ)し地紋(ぢもん)定(さたま)りなし
奴袴(さしぬき)白 無紋(むもん)単(ひとへ)白(しろ)又は
薄花田(うすはなだ) 袖結(そでくゝり)【絬ヵ】白(しろ)し

【下段】
春(はる)の野(の)に
 すみれつみ
    にと
 こし
  我(われ)ぞ

野(の)を
 なつかしみ
  一夜(ひとよ)ねに
    けり

【右丁】
【上段】
文官束帯之図(モンクワンソクタイノヅ)《割書:大 臣(ジン)大納言|中 納言(ナコン)》【見出し囲み文字】
○冠(カフリ) 垂纓(スイエイ) 袍(ホウ) 下襲(シタカサネ) 表袴(ウエノハカマ) 赤大口(アカヲホクチ)
 石帯(イシノヲビ) 襪(シタウズ) 笏(シヤク) 履(クツ) 或(アルヒ)ハ単(ヒトエ) 大帷(ヲホカタビラ)
 大 帷(カタビラ)ハ為(タメ)_二袖衣紋(ソテノエモンノ)_一ナリ
○冠(カフリ)黒濃墨(クロコキスミ)割塗(ホリヌリ)或(アルヒ)ハ薄墨(ウスズミ)隈墨(クマスミ)ニ
テ【割菱紋】菱(ヒシ)ヲカク ○纓(エイ)薄墨(ウススミ)濃墨(コキスミ)【格子模様の図】
 《振り仮名:如_レ此|カクノゴトク》カク《振り仮名:巾-子|コジ》ノ上(ウエ)ト末(スエト)ニ濃墨(コキスミ)ニテ
 【割菱紋】《振り仮名:如_レ此|カクノゴトク》菱(ヒシ)ヲ画(エカ)ク○袍(ホ)《振り仮名:大-略|タイリヤク》黒(クロ)シ極(ゴク)
 丹青(イロドリ)ハ粉墨(ゴズミ)ニテ刻塗(ホリヌリ)地紋(ヂモン)光墨(ヒカリスミ)ニテ
○領(クビ)カミノ中襟袖(ウチエリソデ)ノ中ニ又 有(アリ)_レ袪(ソデグチ)何(イヅ)レモ
 朱(シユ)又 白(シロ)モアリ○裾(キヨ)ハ白(シロ)シ
○面(カホ)殿上眉(テンジヤウマユ)アル時(トキ)ハ鬚(ヒゲ)ナシ帷(カタビラ)赤(アカ)シ
 生眉(ウブマユ)ノトキハ鬚(ヒゲ)ヲ画(カ)ク帷(カタビラ)白(シロ)シ
○表袴(ウエノハカマ)白紋(ゴフンモン)窠(クワニ)霰(アラレ)銀 泥(デイ)ニテカク
○赤大口(アカヲホクチ)表裏(ヲモテウラ)朱(シユ)金 ̄ノ括(クヽリ)○襪(シタウツ)白《割書:ユビノマタナキ|タビナリ》

【下段】
紋銀泥(モンギンデイ)

【左丁】
【上段】
武官(ぶくわん)《割書:左大将(さだいしやう) 右大将(うだいしやう) 左中将(さちうじやう)|右(う)中将 左少(させう)将 右少将》
○冠(カフリ)如(ゴトシ)_二文官(モンクハンノ)_一巻纓(マキエイ)常(ツネ)ノ纓(エ)ヲ内(ウチ)エマキタル
 テイ也○緌(ヲイカケ)【注1】下墨具(シタスミノグ)薄墨(ウスズミ)クマコキスミ筋(スヂ)
 ガキ○袍闕腋(ホケツエキ)弓矢(ユミヤ)ヲ不(ザル)_レ持(モタ)トキハ纓(エ)ヲ垂(タルヽ)

【注1 「糸+禾+心」は誤記ヵ。文字の意味から「緌」で翻刻を行った。】

          《振り仮名:𩍜取|ヲビトリ》【注2】菖蒲革(シヤウブカワ)   胴金(ドウガネ)
帯剣(タイケンノ)𣠽(ツカ)  毛抜形(ケヌキカタ) 分銅鐔(フントウツバ)    菖蒲(シヤウブ) ̄ニ
       金           似 露(ツユ)
 腕貫緒(ウデヌキノヲ)又 犬(イヌ)ハジキ ハイガシラノ   金
            ムスビ

【注2 帯剣(タイケンノ)𣠽(ツカ)の図の説明の𩍜■(ヲビトリ)の「トリ」の該当文字「革+雚」が見当たらず、現在充てられている文字「取」で翻刻しました。「𩏪䪝」の誤ヵ】

垂之図(タレノヅ)
 平緒(ヒラヲ)ノ結目(ユヒメ)ニ掛(カク)ル唐(モロコシ)ノ紳(シン)ニ齊(ヒト)シ

紳之図(シンノヅ)
是(コレ)唐(モロコシ)ノ礼服(レイフク)ノ飾(カザリ)ニシテ衣裳(イシヤウ)ノ権(ヲモシ)也 聖像(セイザウ)
及(ヲヨビ)王侯(ワウコウ)束帯(ソクタイ)之 時(トキ)著(チヤク)シ終(ヲハツ)テ後(ノチ)ニ佩(ヲブ)_レ之(コレヲ)
曲領(キヨクレイ)ト紳(シン)【「ヲヽヲビ」左ルビ】ト一双(サウ)ノ物(モノ)也

【下段】
矢羽切生(ヤノハキリフ)

【右丁】
衣冠(いくわん)之(の)図(ず) 冠(かふり)袍(ほ)奴袴(さしぬき)【見出し囲み文字】
【上段】
束帯(そくたい)の外(ほか)一切(いつさい)にこれを畫(かく)
源氏(げんじ)伊勢物語(いせものがたり)などの絵(ゑ)は
束帯(そくたい)まれなり衣冠(いくわん)かふり
に直衣(なふし)烏帽子(ゑぼし)になふしの
図(づ)をもちゆ歌仙(かせん)には束帯(そくたい)
衣冠(いくわん)なり
束帯(そくたい)の図(づ)は威儀(いぎ)正(たゞ)しく畫(かき)
衣冠(いくわん)はおほやうに畫(かく)と云事(いふこと)
有 奴袴(さしぬき)にかきやう有と云
袍(うはぎ)色 五色(ごしき)単(したぎ)も五 色(しき)あり
奴袴(さしぬき)紫(むらさき)藤(ふぢいろ)薄青白(うすあをしろ)
紋(もん)八藤(やつふぢ)鳥(とり)だすき浮線綾(ふせんれう)
いづれも銀 泥(でい)にて畫(かく)なり

【下段 挿絵注】
エンジ エンジグ 朱(シユ)
ロウセウ シワウク
ゴフン

【左丁】
立烏帽子(たてゑぼうし)直衣(なふし)【見出し囲み文字】
【上段】
源氏絵(げんじゑ)おほくはたてゑぼし
なふしなりかふりになふしの
事(こと)もあり
○冬春(ふゆはる)の絵(ゑ)は 直衣(なふし)白(しろ)
 紋(もん) 浮線綾(ふせんれう)銀 泥(でい)にてかく
○夏秋(なつあき)の絵(ゑ)は 直衣(なふし)薄青(うすあを)
 紋(もん) 三重襷(みゑだすき) 地色(ぢいろ)あいろぐ
 紋(もん)はしんぜう又はあいろにて
 もかく
○奴袴(さしぬき)あいろぐゑんじぐ
 紋(もん) 八藤(やつふぢ)の丸(まろ) 鳥(とり)だすき
 銀 泥(でい)にてかくなり
 衣冠(いくわん) 直衣(なをし) 狩衣(かりきぬ)
 いづれもすあしなり

【右丁】
【上段】
風折(かざをり)狩衣(かりぎぬ)之(の)図(づ)【見出し囲み文字】
鷹野(たかの)などに畫(ゑかく)なり
狩衣(かりきぬ)は冬春(ふゆはる)は裏(うら)あり
夏秋(なつあき)はなし紋(もん)さだまりなし
○飛紋(とびもん)を畫(かく)袖結(そでくゝり)あり
 四季(しき)ともに一重(ひとゑ)狩衣(かりぎぬ)を用る
 事(こと)もありと
○裏(うら)白(しろ)き時は腰帯(こしおび)白し
○こしおびは衣(きぬ)の切(きれ)なりといふ
 ともの色(いろ)に仕立(したつ)る
 高位(かうゐ)は後(うしろ)の裔(すそ)長(なが)し
○大帷(かたびら)単(ひとへ)などの表(うへ)に着用(ちやくよう)
 の事(こと)もあり
○奴袴(さしぬき)ふぢ色 白(しろ)無紋(もんなし)
 むらさきうすあい無紋(むもん)

【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
吉備大臣(きびだいじん)之(の)像(ざう)《割書:はじめの名は|下道の真備(まび)》【見出し囲み文字】
【上方】
孝霊天皇(こうれいてんわう)第(だい)三 王子(わうじ)稚 武彦命(たけひこのみこと)に
備州(びしう)を賜(たま)ふ其(その)後胤(こういん)真備(まび)元正(げんしやう)
天皇(てんわう)の御宇(ぎよう)霊亀(れいき)二年 公(こう)
学文(がくもん)のために入唐(につたう)して
五 経(きやう)三 史(し)陰陽(おんやう)諸芸(しよげい)
こと〴〵く伝(つたへ)て
帰朝(きてう)し給ふ
又 孝謙(かうけん)
天 皇(わう)天平 勝宝(しやうほう)
二年に遣唐使(けんたうし)と
なる同六年 帰朝(きてう)
加茂氏(かもうじ)の祖(そ)也
又 曰(いわく)聖武天皇(しやうむてんわう)の御宇(ぎよう)日本(につほん)より
大 唐(たう)へ貢物(みつきもの)をおくるに安倍仲麿(あべのなかまろ)
を使(つかひ)とす武帝(ぶてい)貢(みつき)物 微少(ひしやう)也とて
仲麿(なかまろ)をころす其後(そのゝち)又 吉備大臣(きひだいじん)を

【下方左:後ろから五行目より】
使(つかひ)として唐(たう)へつかはさる才智(さいち)を試(こゝろ)
みんために碁(ご)を囲(うた)しむ仲(なか)まろが
霊(れい)来(きたつ)て教(おし)ゆるによつて吉備公(きひこう)是
にかつ又 文選(もんせん)と野馬臺(やばたい)乱文(らんもん)の詩(し)
を読(よま)しむ又 霊鬼(れいき)来(きたり)てこれをおしゆ

【図に対する注は画像中で翻刻】

【右丁】
吉備公(きひこう)唐縫(からのぬひ)を見給(みたま)ふ図(づ)【見出し囲み文字】
かるがゆへに公(こう)水(みづ)の流(なが)るゝごとく
これをよむ唐帝(たうてい)感(かん)じて害(がい)する
ことあたはずと云は虚説(きよせつ)なり
吉備公(きびこう)の渡唐(とたう)は玄宗(げんそう)の時(とき)にて
武帝(ぶてい)のときにあらず
又 日本(につほん)にて繍(ぬひ)を縫(ぬふ)こと此 公(こう)
唐(から)にて見ならひ帰朝(きてう)の後(のち)
わが国(くに)の
人に教(をしへ)
ぬはしめ
たまふ哥(うた)に
おるあやにまさりて
みゆるからぬひのいと
しな〳〵に色とれるかな
惣(そうじ)て此 公(こう)発明博識(はつめいはくしき)にして徳功(とくこう)多(おゝ)き人也

【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
【上段】
巻簾外面(まきみすそとおもて)【見出し囲み文字】
仕(し)たてさま〴〵有
大は金 地(ぢ)ろくせう
にてひきまきたる
ところ下わうどぐぬり
ろくせうにてひく

中は下白ろくぬり
しわうぐにてひく
小は下びやくろく【白緑】
金でいにてひく
あみいとはしゆ

同内面(おなしくうちおもて)【見出し囲み文字】
爵金(うこん)朱(しゆ)紺(こん)
本式(ほんしき)編糸(あみいと)両(ふた)
通(とをり)なり畫(ゑ)には
一通也 両通(ふたとをり)は
不(ず)_レ用(もちひ)

【下段】
簾縁文(みすへりのもん)窠(くわ)堅木瓜(たつもつかう)【見出し囲み文字】


平鎰(ひらかき)之(の)図(つ) 勾鑰(同)【見出し囲み文字】
 金泥(きんでい)置上(をきあげ)
簾(みす)の緒(を)近年(きんねん)は外(そと)の飾(かざり)
に畫(かく)此図は上 古(こ)より畫(ぐわ)
伝(でん)のごとく内に畫(かく)又あみ
いとも同 断(だん)なり後人(こうじん)了(りやう)
けんあるべし

簾(みす)の緒(を)【見出し囲み文字】

あげまきむすひ

【図に対する注は画像中で翻刻】

【右丁】
【上段】
障子(しやうじ)畫壁(はりつけ)
冬春(ふゆはる)
絵(のゑ)用 【以上、見出し囲み文字】

半蔀(はんしとみ)
折曲(をりまがり)は
一方を
半 蔀(しとみ)
にかく
夏秋(なつあき)
絵(のゑ)用 【以上、見出し囲み文字】

【下段】
挙格子(あけかうし)
半(なかば)
挙(あぐるは)
半(はん)
蔀(しとみ)【以上、見出し囲み文字】

妻戸(つまど)
竹節襷(たけのふしたすき) 【以上、見出し囲み文字】

【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
閨房(けいばう)之(の)図(づ) 女室(によしつ)ねやの
        とぼそ 【以上、見出し囲み文字】

折扉(おりど)之(の)図(づ) 壁代(かべしろ)之(の)図(づ)
       色しろし 【以上、見出し囲み文字】

【図に対する注は画像中で翻刻】

【右丁】
【上段】
大和門(やまともん)
猪(い)の
 目
すかし
竪(たつ)
 すぢ 【以上、見出し囲み文字】

竹戸(たけど)
し折(おり)
 ど
品々(しな〴〵)
 有
網(あみ)
簀(す)
戸(ど) 【以上、見出し囲み文字】

【下段】
垣(かき)

桧(ひ)
 垣(かき)
あや
 すぎ
あじ
  ろ
葭(よし)
 垣(がき)

柴垣(しばがき)
生(いけ)
 がき 【以上、見出し囲み文字】

【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
源氏絵(げんじゑ)
  人形(にんぎやう)衣裳(いしやう)地紋(ぢもん)正略(しやうりやく)之(の)図(づ) 【以上、見出し囲み文字】

【上段】
浮線綾(ふせんりやう)
輪無(わなし) 【以上、見出し囲み文字】

【下段】
浮線綾略(ふせんりやうりやく)
輪無略(わなしのりやく)

【図に対する注は画像中で翻刻】

【右丁】
【上段】
雲立涌(くもたてわき)【見出し囲み文字】
龍胆(りんだう) 【見出し囲み文字】【「胆」は「膽」の新字】
松竹梅(せうちくばい)【見出し囲み文字】

【下段】
轡唐草(くつわがらくさ)【見出し囲み文字】
菊立涌(きくたてわき)【見出し囲み文字】
早蕨(さわらび)
若松(わかまつ)
唐草(からくさ)【以上、見出し囲み文字】

【左丁】
【上段】
鳥襷(とりだすき)【見出し囲み文字】
窠霰(くわにあられ)
八藤(やつぶさのふぢ)

【下段】
鳥襷略(とりだすきりやく)【見出し囲み文字】
屏風(びやうぶ)の裏(うら)に此
紋(もん)付る事(こと)むかし
鳥襷(とりたすき)の絹(きぬ)にて
張(はり)唐(もろこし)より渡(わた)せし
其(その)まねびなり

三重襷(みゑだすき)【見出し囲み文字】
直(なをし)に用

綾菱(あやびし)【見出し囲み文字】
単(ひとへ)に用

【右丁】
宮女(だいりぢよちう)之(の)衣(きぬ)
十二 単(ひとへ)を云
《割書:附》唐衣(からきぬ)之(の)図(づ)【以上、見出し囲み文字】

【見出し下】
○表着(うはぎ)腰(こし)より上下色 地紋(ぢもん)かわりたるは唐衣(からきぬ)を着(き)せたるなり
 こしより下 表着(うはぎ)なり
○又 上下(かみしも)一 様(やう)の色地紋(いろぢもん)に仕立(したつ)るは唐衣(からきぬ)を着(き)せず小褂(こうちき)と云 衣(きぬ)也
 常(つね)に畫(かく)所也○衣(きぬ)の尺(たけ)凡(およそ)九尺ばかり裳(もすそ)一丈 紅(くれない)の袴(はかま)九尺 余(よ)

【上段】
此 図(づ)は五(いつ)つ衣(ぎぬ)なり又七ッ衣あり
春冬(はるふゆ)の絵(ゑ)には八つも九ッ十も重(かさぬ)ると也
いづれもうむけんの手(て)つまなり

【図に対する注は画像中で翻刻】

【下段】
単(ひとへ)表地門(おもてぢもん)【見出し囲み文字】
同 裏地紋(うらぢもん)

【左丁】
裳(しやう)【左ルビ:も】之(の)図(づ)【見出し囲み文字】
白 羅(うすもの)地摺(ぢすり)の
下(すそ)濃(こ)目染
纐纈(こうけつ)【「くゝしぞめ」左ルビ】の裳(も)

【図に対する注は画像中で翻刻】

【右丁】
女房(にようぼう)装束(しやうぞく)之(の)図(づ)【見出し囲み文字】
【見出し下】
髪(かみ)
目半分
かくると
なり
【上方本文】
唐衣(からきぬ)を
きる時は
裳(も)を付る
これを一 具(ぐ)
具足(ぐそく)といふ
男子(なんし)の束帯(そくたい)の
ごとし
○小袖(こそで)白(しろ)
○単(ひとへ)重(かさね)紋(もん)横菱(よこびし)
 地(ぢ)朱(しゆ)ろくせう紋(もん)紺青(こんせう)
 白ごふん銀でい地(ち)もん
○五 重(がさね)うむけん○表着(うはぎ)見合(みあわせ)
○唐衣(からきぬ)ちや色 見合(みあはせ)金 泥(てい)紋(もん)腰尺(こしだけ)
○小腰(こごし)仕立(したて)もやう色 唐衣(からきぬ)同前なり

【下方本文】
引腰(ひきごし)仕立(したて)右に
      見ゆ
小腰(こゞし)結下(むすびさげ)もやう
色からきぬと
同じ
単(ひとへ)たとへは
表(おもて)ろくせう
うら白(しろ)
ろくせう
紋(もん)表(おもて)ひなた
うらかげ

【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
かさみ着様(きやう)《割書:すそ長き|衣(きぬ)なり》【見出し囲み文字】
後(うしろ)の長(なが)さ一 丈(ちやう)四五 尺(しやく)
前(まへ)の長(なが)さ一 丈(ぢやう)二 尺(しやく)ばかり
前一 幅(はゞ)半 後(うしろ)二はゞ
うしろへ引(ひく)なり
小野小町(をのゝこまち)が表着(うはき)を
細長(ほそなが)と云(いふ)しかれ
ども細長は袖(そで)に
くゝりなし
かさみの類(たぐひ)か
腰帯(こしおび)有

襟(ゑり)は衽(おゝくび)なり
領(くび)かみにも畫(ゑかく)

小町が表着(うはぎ)袖(そで)にあきたるさま有
かざみはけつてきのごとく袖下わき ̄ニ
あき有うてをうしろへなびけしとき
わきのあきしを見あやまるなり

【56行目「けつてき」は「闕腋」と考えられる】

【右丁】
衣被(きぬかづき)【見出し囲み文字】
【上方雲形囲み内】
宮女(きうぢよ)の被(かづき)也
競馬(けいば)
花火(はなみ)
舞楽(ぶがく)
等(とう)
物見(ものみ)
之時(のとき)

又うちかけの
すそを後(うしろ)より
着(き)ながらかしらへ
かつくあり
これを裔被(しりかづき)と
いふ

【下方雲形囲み内】
地(ぢ)しわう具(ぐ)
菊(きく)こんぜう

【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
女三宮(によさんのみや)【見出し囲み文字】
【上方雲形囲み内】
二品(ニホン)
親王(シンワウ)

【右丁】
紫式部(むらさきしきぶ)【見出し囲み文字】

松木(まつのき)
うす墨(すみ)
朱(しゆ)ずみ
葉(は)
草(くさ)の
しる
如此(かくのごと)く
【図に対する注は画像中で翻刻】

【左丁】
【上方】
紫式部(むらさきしきぶ)
しよ願(くわん)ありて石山(いしやま)
寺(でら)にこもりしか比(ころ)
しも八月十五 夜(や)
月(つき)湖水(こすい)にうつりて
すみわたり
しかば光源氏(ひかるげんじ)の
物語(ものかたり)心にうかふ
まゝひとつの
巻物(まきもの)にうつし
けるとなり

【中・下方】
カミヨリアイラウ  又 草(クサ)ノ汁(シル)ニテツヽク
ニテシモヘクマトル 中白キハワウドノ
カミハアイ中ハウス ソコニイサリタル
ズミシモハワウド  ニテツヽク
クマナリ

            水形(ミヅノカタ)
            薄墨(ウスヾミ)
            藍青(アイラウ)
            薄隈(ウスクマ)
            月影(ツキカゲ)
            薄墨(ウスヽミノ)
            隈(クマ)


     中薄墨曲取(チウウスヾミクマトリ)

【図に対する注は画像中で翻刻】

明石(あかし)【見出し囲み文字】

【上方】
秋(あき)

夜(よ)の
つき
 げの
こま
  に
わが
 こふる
雲(くも)
 ゐ
  を
かけ
 れ
時(とき)の間(ま)も
 みむ

此 哥(うた)は源氏(げんじ)のきみ
あかしのうへのもとへ
かよひ給ふ道にて都(みやこ)の
かたこひしく思召(おぼしめし)てよみ給ふ

【下方】
此 図(づ)は光源氏(ひかるげんじ)須磨(すま)に
わびしくておはしけるを
 明石入道(あかしのにうだう)のもとより
 むかへたてまつりしゆへ
   すまよりあかしへ
   うつりたまふその
   道(みち)の景(けい)なり
     入道(にうだう)の哥(うた)に
     ひとりねは
     君(きみ)もしりぬ
     やつれ〴〵と
     おもひあかしの
     うらさびし
     さをとわが
     むすめの事を
     おもはせがほに
     よめりかくて
     つゐに入道の
     むすめあかし
     のうへにあひ
     なれたまふ
       となん

朧月夜(おぼろづきよ)【見出し囲み文字】
【上方】
おぼろ
月よの
内侍(ないし)は
みかど
の御心
ざし有
けるに
大内(おゝうち)の
花(はな)のえん
の時げんじ
のきみ
ひそかに
あひ給ひ
しゆへに
須(す)まへ
うつり
たまふ
なり

いづれぞと
 露(つゆ)のやどりを
 わかむまに
  小ざゝが
  原(はら)に
 風(かぜ)もこそ
  ふけ

おぼろ月夜(づきよ)の
哥にうき身(み)世(よ)に
やがて消(きへ)なばたづねても
草(くさ)のはらをばとはじとや
おもふとよみ給ひし
かへしなり

浮舟(うきふね)《割書:宇治(うぢ)十 帖(でう)の内》【見出し囲み文字】
【扇の上方】
【右丁】
此 浮舟(うきふね)は東屋(あづまや)の
君(きみ)ともいふとなり
光源氏(ひかるけんじ)の御 子(こ)
かほる中将(ちうじやう)の
しのびづま
にて宇治(うぢ)に
おはしけるを
京にすま
せばやと
三 条(でう)に
家作(いゑつく)らせ
たまふ又
源氏(げんじ)の
御 弟(おとゝ)匂(にほふ)
兵部卿(ひやうぶきやう)
のみやは

【左丁】
ある夜(よ)
中 将(じやう)に
にせて
しのびて
あひ給ひ
しづかなる
所にて
契(ちぎ)らんとて
うき舟(ふね)の君(きみ)を
ぬすみいだし
舟(ふね)にのりて
宇治川(うぢがは)にいで
たまひしてい也

雪(ゆき)の夜(よ)のけしき
月は二十日あまりの
ていなり

【扇の内側】
橘(たちばな)の
小嶋(こじま)は
色(いろ)も
かはらじを

此(この)
浮(うき)
舟(ふね)

ゆく
 ゑ
しら
 れぬ

【扇の下方】
【右丁】
月(つき)ごふんつきのわき紺(こん)
青(ぜう)かすり水(みづ)極(ごく)ざい色(しき)の
ときはこんぜう銀 泥(でい)
にて水(みづ)のしはを
かく其外(そのほか)は
あいろう
なり

浮舟(うきふね)
表着(うはぎ)
ちや
又は
ゑんじぐ

【左丁】
にほふ宮(みや)
ひたい
ごふん
うす
くま
殿上(てんじやう)
眉(ま)


べん
ほかし
直衣(なふし)白(しろ)
紋(もん)銀でい
又あいのぐ
こんぜう 地(ぢ)もん
三重(みゑ)だすき
さしぬきむらさき

紅葉賀(もみぢのが)【見出し囲み文字】
【扇の上方】
物おもふ
   に
たち
 舞(まふ)
べく
 も
あら
 ぬ
身(み)


袖(そで)
うち
ふり
 し
心(こゝろ)
しり
 きや

【扇の下方】
【右丁】
此 賀(が)は朱雀院(しゆしやくいん)四十歳(よそぢ)になら
せたまふ御いわひにもみぢ
の木(き)の本(もと)にて舞楽(ぶがく)
あり光(ひかる)げんじも
十七 歳(さい)にて
青海波(せいがいは)を
まひた
 まふ
源(げん)
氏(じ)物
がたりに
いろ〳〵に
ちりかふ
木(こ)の葉(は)の
中より

【左丁】
青海波(せいがいは)
のかゝやき
いでたる
さま
いと
おそ
ろし

まで
みゆと
かきたり
かふりのかさしは
もみぢなりげんじ
のかざし風(かぜ)にちり
たるゆへ菊(きく)の花(はな)の有しを
おりてさし給ふとなり

【右丁】
斎宮女御(さいくうのにようご)
【上方】
  几帳(きちやう)仕立(したて)上(かみ)白(しろ)下(しも)より紫(むらさき)はきかけ
  又は惣朱(そうしゆ)錦(にしき)もやううむけん
  金でい地紋(ぢもん)からくさ等(とう)をかく
一文字(いちもんじ)白(しろ)にても茶(ちや)にても
驚燕(ふうたい)【注】白 紫(むらさき)こん見 合(あわ)せ綾(あや)の紋(もん)を画(かく)三重襷(みゑだすき)
露(つゆ)総角(あげまき)白(しろ)くれなゐ
右いづれも金銀でい仕立(したて)なり
二 畳重(でうがさね)うむけんへり五色(ごしき)三色 思(おもひ)入 次第(しだい)にすべし

【中段 畳上左端】
六セウ
ヘリハ
ムラサキ
ウンケン

【下方】
二畳(にでう)
重(がさね)は
常(つね)の
畳(たゝみ)に。お
なじへり
とりたる
表(おもて)を
重(かさね)て
とづる
よこに
中 筋(すぢ)を
引(ひく)事
畳(たゝみ)と
表敷(うはしき)と
の分(わかち)也

【左丁】
伊勢物語(いせものがたり)【見出し囲み文字】
【上方 雲形内】
むかしおとこ女のもとに
ひと夜(よ)行(ゆき)て又もいかず
なりにければ女 手洗(てあら)ふ
所に貫簀(ぬきす)をうち遣(やり)
てたらひのかけに見へ
けるを
 我(われ)ばかり物思ふ人は
  又もあらじと
 おもへば水の下(した)にも
      ありけり
来(こ)ざりける男(おとこ)立(たち)きゝて
 水口(みなくち)にわれや見ゆらむ
 かはづさへ水のしたにて
 もろごゑになく

【下方 雲形内】
貫簀(ぬきす)はたら
ひにおほふて
水のちらぬ
支度(したく)なるよし
あみてすき
まより水
くゞるといふ
今わたし
かねなども
ぬきすと
いふ

【注 「ふうさい」は誤。正しくは「きやうえん」とあるところだが、掛け物のの風帯の一名なので「ふうたい」と振り仮名をしたと思われる。】

【右丁】
伊勢物語(いせものがたり)に 昔(むかし)おほきおほいまうちきみと聞(きこ)ゆるおはしけりつかうまつる
おとこ長(なが)月ばかりに梅(むめ)の作(つく)り枝(えだ)に雉(きじ)をつけてたてまつるとて
◦わがたのむ君(きみ)がためにと
  折(おる)花(はな)はときしも
   わかぬ物にぞ有ける
とよみて奉(たてまつ)りければ
いとかしこくおかしがり
給ひて使(つかひ)に禄(ろく)給へり
◦おほいまうちきみは
 忠仁公(ちうじんこう)天 安(あん)元年二月
 十九日 太政大臣(おほきおほいまうちきみ)に任(にん)す
 事(つかう)まつる男(おとこ)は業平(なりひら)
 なり時しもわかぬ
 とは作枝(つくりえた)の梅(むめ)なれ
 ばなり又 雉(きじ)をたち

【同丁 挿絵中の説明】
業平(なりひら)よりの使(つかひ)と有

【左丁】
入てよめり
忠仁(ちうじん)
公(こう)を祝(いわふ)
ゆへに
君(きみ)が
ために
折(お)れば
花(はな)も
常盤(ときは)に
なれる
と云也
藤原良房(フヂハラノヨシフサ)ハ
貞観(ヂヤウクハン)十四年
九月二日 ̄ニ薨(コウ)ズ《振り仮名:享-年|カウネン》
六十六-歳 《振り仮名:忠-仁-公|チウシンコウ》 ニ謚(ヲクリナ)ス
【囲みの中】
摂政太政大臣(おほきおほいまうちきみ)藤原良房公(ふぢわらのよしふさこう)

【同丁 左隅】
良房(よしふさと)云(いふ)は存生(ぞんじやう)の諱(いみな)也
忠仁公(ちうじんこう)は謚号(おくりな)なり

【右丁】
【隅切囲みの中】業平(なりひら)東下(あづまくだり)
むかしおとこ東(あづま)の方(かた)に
住(すむ)べき国(くに)もとめにとて
ゆきけり行々(ゆき〳〵)てするがの
国(くに)にいたりぬふじの山を
見れば五月(さつき)のつごもりに
雪(ゆき)いと白(しろ)うふれり
 時(とき)しらぬ山(やま)は
  富士(ふじ)のね
 いつとてか
  かのこ
   まだらに
  雪(ゆき)の降(ふる)らん

【同 挿絵中】
在原業平(ありわらのなりひら)
         嚨(くちとり)
    童(わらは)

【左丁 上部】
早月(さつき)の
富士(ふじ)谷々(たに〴〵)に
雪(ゆき)消残(きへのこ)る形(かたち)
鹿子(かのこ)の如(ごと)し
【同 下部】
峯(みね)は白(ごふん)鹿子(かのこ)
白(しろ)し鹿子(かのこ)
間地(ぢ)紺青(こんせう)
下(すそ)は墨(すみ)にて
星(つゝき)緑青(ろくせう)曲(くま)
【同 挿絵中】
    六位(ろくゐ)

      仕丁(じてふ)
足高山(あしたかやま)

【右丁】
宮女(だいりぢよろう)
 花見車(はなみぐるま)
  之図(のづ)

【左丁 挿絵のみ】

【右丁】
平忠盛(たいらのたゞもり)兵衛佐(ひやうへのすけ)のつぼねといふ
宮女(じやうらう)のもとへ通(かよ)はれけるに
有明月(ありあけのつき)をかきたる扇(あふぎ)を
わすれかへられ
しをわかき
女房(にようばう)
おほく
よりて
ひろひ
あげ
是は
いづくより
の月かげぞや
とわらひければ
佐(すけ)の局(つぼね)取(とり)あへず

【左丁】
雲井(くもゐ)
 より
 忠(たゞ)もり
来(き)
 た
  る
月なれ
  ば
朧(おぼろ)げにては
 いはじ
    とぞ
  おもふ

【右丁】
【隅黒囲みの中】
    林間(りんかんに)《振り仮名:煖酒焼紅葉|さけをあたゝめてこうようをたく》
《割書:白氏文集(はくしぶんじふ)》
    石上(せきしやうに)《振り仮名:題詩払緑苔|しをだいしてりよくたいをはらふ》

高倉院(たかくらのいん)紅葉(もみぢ)を
愛(あい)し大内(おほうち)に
植(うへ)たまひしが
   来夜(あるよ)
   野(の)わけ
   はした
   のふ吹(ふき)て
    こと〴〵く
     ちり
    たるを
  朝ぎよめの
 仕丁(じてふ)ども
 かきあつめ

【左丁 下部】
  さむき
   朝(あした)
   酒(さけ)を
  あたゝ
   むる
   たき
   草(くさ)に
    し
    たる
   てい
    なり

【同 上部】
鍋(なべ)
金(かな)
輪(わ)
墨(すみ)仕立(したて)
蓋(ふた)にゝ色(しき)
土器(かはらけ)黄土(わうど)ぐ
火勢(くわぜい)金 泥(でい)
朱(しゆ)きをひ
煙(けふり)うすずみ
かすり
楓葉(もみぢ)朱(しゆ)
朱(しゆ)ずみ

【右帖】
弾正少弼中国(だんじやうのせうひつなかくに)【枠内】
帝(みかど)の勅定(ちよくぢやう)にて嵯峨(さが)に
        おもむく
【同下部】
馬(ムマ)黄土(ワウド)
ゴフン
クマ

ロク
 セウ

アイ
ノク【藍具ヵ】

朱  白

【左帖左下】
琴(こと)の飾仕立(かざりしたて)
委(くわしく)工商(こうしやう)之(の)巻(まき)
に見(み)ゆ

【枠内】薩摩守(さつまのかみ)平忠度(たいらのたゞのり)
寿永(じゆゑい)三年七月二五日/平家(へいけ)の
人々 都(みやこ)を落(おち)たまふにより忠度(ただのり)
も都(みやこ)を出(いで)られしが道(みち)より
引(ひき)かへし五/條(でう)の三/位(み)俊成卿(しゆんぜいきやう)の
家(いえ)に行(ゆき)具足(ぐそく)の引合(ひきあはせ)より
巻物(まきもの)一/軸(ぢく)取出し
千載集(せんざいしう)をえらひ
たまはゞ此/巻(まき)物の
内/一首(いつしゆ)なりとも
御おんかうふり
たきよし歎(なげ)き
申されける
其後(そののち)世(よ)静(しづ)
まり千載集(せんざいしう)を

【左帖上部】
撰(せん)ぜられける時(とき)
かの巻(まき)物の内に
左(さ)りぬべき哥(うた)
いくらもあり
けれども
勅勘(ちよくかん)の
人なれ
  ば
名字(みやうじ)を
かくして
たゞ一首(いつしゆ)ぞ
入られしが
よみびと
しらずと
かゝれたり

【左帖下部】
 故郷(こきやう)の花(はな)といへる
 心をよめる
さゞ波(なき)や志賀(しが)の
 都(みやこ)はあれ
  にしを
   むかし
    ながら
      の
   山桜(やまざくら)
    かな

【枠内 右から横書き】
鶯(アウ)【左ルビ:うくひす】
宿(シユク)【左ルビ:やどる】
梅(バイ)【左ルビ:むめ】

後鳥羽(ごとばの)
院(いんの)時(とき)京
洛(らく)に寡婦(やもめ)
あり園(その)に
一株梅(ひともとのむめ)を
植(うゆ)紅白(こうはく)相交(あいまじは)る
【左帖】
其花(そのはな)最(もつとも)異(ことなり)
毎春(はるごとに)鶯(うくひす)
有(あつ)て
来(きたり)宿(やど)す
可謂(いひつへし)鶯花(あうくわ)
相得(あいうると)《割書:矣|》
為勅(ちよくして)之(これ)を
被召(めさる)婦(おんな)
和歌(わか)を作(つくりて)云(いわく)
 勅(ちよく)なれば
  最(いとも)賢(かしこ)し
 鶯(うくひす)の宿(やど)はと問(とは)ば
   いかゞ答(こた)へむ
故(かるがゆへ)に帝(みかど)叡感(ゑいかん)ありて
移(うつ)し給(たま)はず
是より鶯宿梅(あうしゆくばい)と曰(いふ)

【右帖下部】
一/説(せつ)に此女は
紀貫之(きのつらゆき)の
妹(いもうと)なるよし
もいふ

【右帖上部から】
小野小町百歳(おのゝこまちもゝとせ)
の姥(うば)となりて
関寺辺(せきてらへん)に
ありける時(とき)
帝(みかど)より御
あはれみの
御哥(をんうた)をつかは
されしに其(その)
返歌(へんか)をぞ
といふもじ
たゞ一字(いちじ)
にて申
上たて

つり


かや
【右帖下部から】
鸚鵡(あふむ)小町(ごまち)一字返歌(いちじのへんか)

陽成院御製(やうせいゐんのぎよせい)
雲(くも)のうゑは
 ありし昔(むかし)に
  かはらねど
みし玉(たま)だれの
 うちやゆか
   しき

勅使(ちよくし)
新大納言行家(しんだいなごんゆきいゑ)

小町(こまち)返(かへ)し

  雲の上は【以下「ぞ」以外は白抜き文字】
    ありし
     昔
      に
   かはらねと
 見し玉
  たれの
 うちぞ【この「ぞ」のみ普通の墨字】
 ゆか
しき


犬追物之図(いぬおふもののづ)【枠内】
鳥羽院(とばのいん)の御宇(ぎょう)に
三浦介(みうらのすけ)
上総介(かづさのすけ)
両(りやう)人/始(はじめ)て
これを射(ゐ)る

絵本出来目録 渋川氏板行
一絵本忘草    草本禽獣虫魚       三冊
一同 稽古帖   ふくさ絵八景山水書法草本 三冊
一同 たからくら 禽獣虫魚         弐冊
一同 草源氏   八景ふくさ絵       壱冊
一同 清書帖   草本禽獣虫魚       四冊
一同万宝全書《割書:和漢絵師景図伝記古筆短尺古今印画古銭手鑑|茶湯道具一切刀脇差目貫笄鍔古今銘画》 十三冊
一同写宝袋後編  未刻

 享保五《割書:子|》年九月吉日

【裏面】

絵本写宝袋

【表紙 題箋】
絵本写宝袋 《割書:九上》

【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史|資料》

【右丁】
絵本写宝袋 九

【左丁】
絵本写宝袋九之巻目録上
遠山(ゑんざん)に麒麟(きりん)の図(づ)    沢獣(たくじう)之(の)図(づ)《割書:俗(ぞく)に駒犬(こまいぬ)と云》
獅々(しし)子(こ)の器(き)を量(はか)る図  獅々(しし)に牡丹(ぼたん)之図
花王(ぼたん)に飛猊(とびしゝ)之図     獬豸(おゝけもの)之(の)図(づ)
貘(ばく)之(の)図(づ)         谷水(たにみづ)に虎(とら)之図
雨(あめ)に虎(とら)之図       松(まつ)に豹(ひやう)之図
松(まつ)に象(ざう)之図       波(なみ)に犀(さい)之図
松(まつ)に熊(くま)之図       杉(すぎ)に野猪(ゐのしゝ)の図

【右丁】
秋(あき)の野(の)に臥(ふす)猪(ゐ)    鉄蕉(そてつ)【注】に獒犬(おゝいぬ)
蓼(たで)に㺜犬(むくげいぬ)の図    芙蓉(ふよう)に霊猫(じやかうねこ)
猫児(ねこのこ)之図       猿猴(ゑんこう)之図

【注 「鉄蕉」は蘇鉄の異名】

【左丁】
【囲みの中】
遠山(ゑんさん) ̄ニ
麒麟(きりん)

毛詩義疏(モウシキシヨ)ニ曰(イハク)
麟(リン)ハ毛(モウ)-虫(チウ)三-百-六-
十 為(タリ)_二之(コレカ)長(-)_一《振り仮名:麟-形| ノカタチ》
《振り仮名:馬-足|ムマノアシ》《振り仮名:円-蹄|マルキヒツメ》黄(キ)-色(イロ)
《振り仮名:円-文-白|マルキモンシロシ》一 ̄ノ-角(ツノ)其(ソノ)-端(ハシ) ̄ニ
有(アリ)_レ肉(ニク)
四 書(シヨ)大 全(セン) ̄ニ曰 ̄ク肉角(ニクカク)
麞(クジカ) ̄ノ身(ミ)牛(ウシ) ̄ノ尾(ヲ)
字(ジ)-彙(イ) ̄ニ曰 ̄ク麟(リン) ̄ハ麕(クシカ) ̄ノ身(ミ)
《振り仮名:牛尾|ウシノヲ》《振り仮名:馬足|ムマノアシ》円(マル) ̄キ
蹄(ヒツメ)五 彩(サイ)           すみぐま
腹(ハラ) ̄ノ下 黄(キナリ)           朱(しゆ)ずみ総(そう)【惣】
高(タカサ)一-丈二-尺         くま

【右丁】
 沢獣(たくじう)
形(かたち)獅々(しし)の如(ごと)く
額(ひたい)に一つの角(つの)あり
俗(ぞく)駒犬(こまいぬ)といふ

         仕立(したて)
          ごふん

【左丁】
獅々子(ししのこ)
   千丈嶽(せんぢやうがだけ)


            子(こ)の器(き)を量(はか)る高岳(たかきをか)より落(おと)す
狻猊(しゆんげい)【左ルビ:しし】 獅子(しし)の器(き)有者(あるもの)は中より飛(とび)帰(かへ)る
            器(き)なき者(もの)は谷底(たにぞこ)に落(おち)て死(し)す

【右丁】
獅々(しし)狻猊(さんげい)
 《振り仮名:為_二百獣長_一|ひやくじうのちやうたり》

【左丁】
状(かたち)虎(とら)の如(ごと)く頭(かしら)大に
尾(お)長(なが)し牡(おん)は尾上(おのうへ)
茸(あつまる)毛(け)計の如(こと)く
鉤(まがる)爪(つめ)鋸牙(のこぎりのきば)弭耳
昂鼻(たかくおゝきなるはな)形(おもて)髯(おゝひげ)あり
 彩色(さいしき)
黄色(きいろ)わうど
朱(しゆ)すみくま

青色(あをいろ)藍(あい)ろぐ
あいろくま
まくり毛(け)金 泥(でい)
髪(かみ)尾(を)かき色

【右丁】
牡丹(ぼたん)に飛猊(とびしゝ)

【左丁 絵のみ】

【右丁】
獬豸(かいち)【左ルビ:おゝけもの】

鹿(しか)に似(に)て
一 角(つの)ありよく
曲直(きよくとよく)を分(わかつ)
皐陶氏(こうとうし)
罪(つみ)のうた
がはしき者(もの)を
ふれしむるに
罪(つみ)なき者(もの)は
喰(くら)はず

【左丁】
頌曰 熊(くま)に似(に)て
象鼻(ざうのはな)犀目(さいのめ)牛尾(うしのお)虎足(とらのあし)
黄白色(きしろいろ)亦(また)蒼白色(あをしろいろ)
埋雅曰
獅首(ししのかしら)
豺(さいの)髪(まへかみ)
鋭(とき)鬐(たてがみ)


貘(ばく)

【右丁】
谷水(こくすい)に
  虎(とら)

【左丁 絵のみ】

【右丁】
         猫(ねこ)は眼間(めのあいた)鼻柱(はなはしら)広(ひろ)く先(さき)細(ほそ)し
雨(あめ)に虎(とら)      虎(とら)は鼻先(はなのさき)広(ひろ)く穴(あな)おしつけくる
           如(ごと)し
虎(とら)は山獣(さんじう)の君(きみ)
状(かたち)猫(ねこ)の如(ごと)く
大(おゝき)さ牛(うし)の如(ごと)し
黄質(きいろのかたち)黒章(くろきふ)
鋸牙(のこぎりのきば)
鉤爪(まかれるつめ)
鬚(ひけ)健(すくやか)にして尖(とがり)
舌(した)大に
掌(たなごゝろ)の如(こと)く
倒刺(たうし)を生(しやう)ず
項(うなし)短(みぢか)く
鼻(はな)齆(ふさがる)

【左丁】
髭(うはひげ)はあくまで長(なが)く
さかしまに生(おゆ)る
一 生(しやう)の力(ちから)前足(まへあし)にあり
前足(まへあし)ふとし

【右丁 絵のみ】

【左丁】
松(まつ)
     円(まる)き首(かしら)白(しろ)き面(おもて)胴(どう)虎(とら)の仕立(したて)
に    金銭(きんせん)の文(もん)は朱(しゆ)ずみ上 濃(こき)すみ
     中ごふんうすくま尾(お)長(なが)し
豹(ひやう)

【右丁】
松(まつ)に象(ざう)

【左丁】
状(かたち)大に肥(こへ)たるゆへ面(おもて)皺(しわ)みて
みにくしと云 牙(きば)は凡(およそ)体(たい)半分(はんぶん)の
長(なが)さなり鼻(はな)は高(たか)さ四 尺(しやく)の
象(ざう)ははなも四尺あると爪(つめ)有て
指(ゆび)なしとは手足(てあし)丸柱の如く
すぐにふとく余(あま)りに肥(こへ)たるが
ゆへ也 色(いろ)は灰白(はいしろ)二 品(ひん)なり

【右丁】
犀(さい) 《割書:頌曰三 角(かく)は頂(いたゝき)額(ひたい)鼻上(はなのうへ)に在(あり)|二 角(かく)は頂(いたゝき)鼻上(はなのうへ)にあり》
水犀(すいさい)は背(せな)にすつほんの如(ごと)き甲(かう)あり
首(かしら)は豕(ぶた)胴(どう)は牛(うし)腹(はら)大に前足(まへあし)中 節(ふし)
なく直(すぐ)なり爪(つめ)三 蹄(てい)


  仕立(したて)
甲(かう)下 黄土(わうど)朱(しゆ)ずみくま
総身(そうみ)【惣】白(びやく)ぐんせうあいろくま
文(もん)の中ごふんうすくま
腹(はら)ごふんくま
爪(つめ)墨(すみ)の具(ぐ)薄(うす)ずみくま
角(つの)ごふんくま
うすわうとかすりくま

【左丁 絵のみ】

【右丁 絵のみ】

【左丁】
松(まつ)に熊(くま)

【右丁】
野猪(ゐのしゝ)
 仕立(したて)
下(した)墨(すみ)肉色(にくしき)
朱(しゆ)ずみくま
牙(きば)ごふんくま
薄(うす)わうどくま
鼻(はな)朱(しゆ)肉色(にくしき)
朱(しゆ)きめくま
目(め)蹄(ひつめ)墨(すみの)具(ぐ)
すみの毛(け)がき
いかり毛(げ)
金(きん)でい
 かき
  いれ

【左丁 絵のみ】

【右丁】
秋野(あきのゝ)に臥(ふす)猪(ゐ)

【左丁】
八雲(やくもの)御抄(おんしやう)に
寂蓮法師(じやくれんほうし)が云(いひ)けるは哥(うた)のやうにいみじき
物なし猪(ゐ)のしゝなどいふおそろしき物を
ふすゐの床(とこ)などいひつればやさしきなり
ましてやさしきものをおそろしく云ひなすは
無下(むげ)の事なりト云々画工(ぐわこう)もかくのごとくならんか

後拾遺(ごしうい)に和泉式部(いづみしきぶ)
かるもかき臥(ふす)猪(ゐ)の床(とこ)も寝(ね)おやすみ
 さこそねをれめかゝらずもがな【注】

七百 首(しゆ)御製(きよせい)
年(とし)ふれば臥(ふす)猪(ゐ)の床(とこ)もへだゝらぢ
 なれぬる山の奥(おく)の廬(いほ)かな


【注 後拾遺和歌集 00821番の歌に「かるもかき ふすゐのとこのいをやすみ さこそねさらめ かからすもかな」とあり。】

【右丁】
鉄蕉(そてつ)に獒犬(かうけん)【左ルビ:おゝいぬ】《割書:大なるは高(たか)八尺|小なるは高さ四尺 余(よ)》  《割書:黒(くろ)白(しろ)赤(あか)あり斑毛(まだらけ)あり|    黄色(きいろ)を貴(たつと)ぶ》
 唐犬(たうけん)といふ はし長(なが)犬(いぬ)

【左丁】

【手書きメモ貼付 金額の上に朱印あり】
一     弐拾六▢
五月二十七・
一     九円八十
一     三十
六月十七・
一    二円十六
一    二円十六《割書:下》


葉(は)仕立(したて)緑青(ろくしやう)うら白緑(びやくろく) 本(もと)かぶすみのぐこきすみかき朱(しゆ)ずみかけ
又 荒(あら)ろくしやうかくる仕立(したて)もあり

【右丁】
㺜犬(なうけん)【左ルビ:むくげいぬ】

     よく水中(すいちう)に入

 いぬ
   たで

【左丁】


水犬なり

【右丁】
                  状(かたち)狸(たぬき)のごとく
                  黄色(きいろ)黒(くろ)き章(ふ)あり


 霊猫(れいみやう)【左ルビ:じやかうねこ】

【左丁】
香気(かうき)あり
麝香(じやかう)とは別(べち)也


          芙蓉(ふよう)

【右丁】
猫児(ねこのこ)

【左丁 絵のみ】

【右丁】
 猿(ゑん)





  臂長猿(ひぢながざる)《割書:俗(ぞく)に左右(さゆう)相(あい)通(つう)ずと云(いふ)》

【左丁 見返し 文字無し】

【裏表紙】

絵本写宝袋

【表紙】
【資料整理ラベル】
721.8
TAC
《割書:日本近代教育史| 資料》

【右丁】
絵本写宝袋 十

【左丁】
絵本写宝袋九之巻目録下
騶虞(すうぐ)之(の)図(づ)《割書:白虎(びやくこ)なり》  浪(なみ)に海馬(かいば)之(の)図(づ)
鹿(しか)之(の)図(づ)《割書:さをしか|かのしゝ》   麋(おゝしか)之(の)図(づ)《割書:やまむま》
麢羊(かましゝ)之図      柏に麝香(じやかう)之図
楮(こうぞ)に羊(ひつじ)之図    秋葵(とろゝ)に綿羊(むくひつじ)之図
牡牛(おうし)之図      柳(やなぎ)に牝牛(めうし)之図
梅(むめ)に牝牛(めうし)之図   水牛(すいぎう)之図
谷水(たにみづ)に駝(だ)之図   柳(やなぎ)に驢(ろ)之図

【右丁】
柳(やなぎに)驢(ろ)の草画(さうぐわ)  冬荻(ふゆおぎ)に狼(おゝかみ)之図
菊(きく)に狐(きつね)之図   木賊(とくさ)に兔(うさぎ)之図
白鼠(しろねずみ)之図

【左丁】
四神(しじん)の幡(はた)に
画(ゑかく)之
白虎(びやくこ)


騶虞(すうぐ)《割書:尾(お)身(み)より|長(なが)し》

【右丁】
海馬(かいば)《割書:図絵(ヅエ)宗彝(ソウイ)【注】ニ出(イヅル)》

【注 彛は彝の俗字】

【左丁 絵のみ】

【右丁】
鹿(ろく)《割書:かのしゝ|しか|さをしか》 《割書:状(かたち)馬(むまの)身(み)羊(ひつじの)尾(お)頭(かしら)側(ほそなが)して長(なが)く高(たかき)脚(あし)にして環(まがれる)角(つの)あり|大(おゝき)さ小 馬(むま)のごとく黄(きなる)質(かたち)白(しろ)斑(またら)牝(め)は角(つの)なく小にして》
無斑毛(まだらげなし)黄白(きしろ)の毛(け)色(いろ)雑(まじ)る夏(なつ)は背(せな)赤(あか)く毛(け)みぢかく冬(ふゆ)は背(せな)黄色(きいろ)
にして毛(け)長(なが)し觜(くちばし)細(ほそ)く口(くち)小にして耳(みゝ)長(なが)く眼中(めのうち)蒼色(あをいろ)青目(あをめ)と云(いふ)
鼻(はな)をふいごと云 首筋(くびすち)をうづらくびと云平 額(ひたい)角(つの)もと角座(つのざ)あり
角(つの)の又(また)を一の草(くさ)かり二の草(くさ)かり
あまの草(くさ)かりあめさつちと云(いふ)
名(な)あり背(せな)黒(くろ)き筋(すぢ)尾(お)に至(いた)る
尾(お)のうら白(しろ)く
あるひは黒(くろき)文(もん)有(あり)
ふくら尾(お)と云
尻(しり)は大に
色(いろ)白(しろ)く
足(あし)ほそく
腹(はら)大きなり

【左丁】
仕立(したて)下(した)黄土(わうとの)具(ぐ)ぬり
合(あわせ)黄土(わうど)にて背(せな)よりくまどり
朱(しゆ)ずみにて文(もん)をよけくま取(とり)
中へごふんを付くまとり
朱(しゆ)ずみにて毛(け)がきをす
目(め)の中(うち)あいのぐぬり
あいろのくま
ひとみすみ
まぶちにくしき
朱(しゆ)のきめくま
腹(はら)ごふんくま
ごふん毛(け)がき
鼻(はな)爪(つめ)すみのぐ
すみかすり
あいろをかくる
角(つの)わうどのぐ
ぬり
朱(しゆ)ずみつゝき
先(さき)ごふんくま

【右丁】
麋(おゝしか)《割書:やま|むま》
鹿(しか)に似(に)て
色(いろ)褐青黒(かばあをくろ)
大さ小 牛(うし)の
ごとし肉(にく)蹄
目下に二 竅(あな)
あり夜目(よるのめ)と云
沢(さわ)を喜(よろこ)ぶ秋(あき)の
比(ころ)角(つの)を以(もつ)て闘(たゝか)ふ
冬(ふゆ)角(つの)を解(おと)す
角(つの)形(かたち)するどに尖(とが)る

此 皮(かわ)を足袋(たび)に
製(せい)す
身(み)に白章なし

【左丁 絵のみ】

【右丁】
麢羊(かましゝ)【注】《割書:此 皮(かわ)を敷物(しきもの)に用 褥(にく)【左ルビ:しとね けぶとん】の皮(かわ)といふ》
形 羊(ひつじ)に似(に)て鬚(ひげ)なく大なる者(もの)は
牛(うし)のごとく臥時(ふすとき)は角(つの)を岩木(いわき)の
枝(えた)にかけて臥(ふ)す
角(つの)羊(ひつじ)の如(ごとく)にして黒(くろ)し
大さ四五寸
毛色(けいろ)蒼白(あをしろ)色
背(せな)黒(くろ)すぢ有

【注 「かましし」は「かもしか」の古名】

【左丁】
麝香(じやかう) 《割書:形(かたち)麞(くじか)に似(に)て小なり色(いろ)赤黒(あかくろ)し㺜犬(むくいぬ)を画(ゑかき)て麝香猫(じやかうねこ)とし霊猫(れいめう)【貓】を|画(ゑかき)て麝香(じやかう)なりとす射(しや)は各別(かくべつ)の者(もの)なり故(かるがゆへ)に図(づ)す》
此 獣(けもの)おのれが臍(へそ)を愛(あい)す猟人(かりうど)にあふ時はみづから其(その)臍(へそ)を爪(つめ)にて
かきやぶり死(し)す是 臍(へそ)をおしみてかくさんがため自(みづから)身(み)を
没(ぼつ)すとなり 香気(かうき)陰(いん)にありといふ


        好(このん)で柏(かへ)【栢は俗字】を喰(くら)ふ
        柏(はく)はかやにあらず
        檜木(ひのき)円柏(いふき)側柏(このてかしは)
        白檀(ひやくたん)等ノ総名(そうめう)【惣】なり

【右丁】
楮(こうそ)に羊(ひつじ) 《割書:説文(せつぶん)に曰(いわく)羊(ひつじ)の字(じ)頭(かしら)角(つの)足(あし)尾(お)の形(かたち)に象(かたとる)|董子(とうし)が云(いわく)羊(よう)は祥(じやう)也 故(かるがゆへ)に吉礼(きちれい)に用(もちゆ)也》
此 毛皮(けかわ)にて皮衣(かわごろも)を製(せい)す羊(ひつじの)裘(かわころも)といふ色(いろ)白(しろき)あり黒(くろき)有
褐(ちや)色あり        長毛(ながきけ)尺余(しやくよ)なるあり諸羊(しよやう)皆(みな)
            目(め)に神(しん)なし眼(まなこ)黄色(きいろ)瞳(ひとみ)黒(くろ)色
             横(よこ)に一の字(じ)の形(かたち)をなす
             亦(また)黄(き)白(しろ)黒(くろ)雑色(ざつしき)の者(もの)あり
              蹄(ひつめ)青黒(あをくろ)色 角(つの)白(しろ)色 青(あを)
                     黒(くろ)色
                       あり

【左丁】
楮(ちよ)は和名(わみやう)を
かうぞといふ
  此 木(き)の皮(かわ)を
   がんひと云
    紙(かみ)を製(せい)
       す

【右丁】
綿羊(めんやう)【左ルビ:むくひつじ】

黒色(くろいろ)なる者(もの)を
俗(ぞく)に野牛(やぎう)といふ
黒白 斑(まだら)毛あり
白色(しろいろ)あり
黒(くろ)色あり
角(つの)眼中(めのなか)四蹄(してい)【左ルビ:ひつめ】
青黒(あをくろ)色
此 毛(け)を製(せい)して
毛(もう)せんとす
こわき毛(け)は
毛織(けおり)に用(もち)ゆと

【左丁】
秋葵(しうき) 《割書:黄蜀葵(わうしよくき) 紙(かみ)を製(せい)するに用(もち)ゆ|和名(わみやう)とろゝ》
花(はな)しわうのぐぬり本(もと)より薄(うす)わうど
くま先(さき)よりごふんくましわうのぐ筋(すぢ)がき
まん中(なか)になでしこのごときものをしやうゑんじ
にてかく


【囲みの中】
白緑(ひやくろく)草(くさ)の汁(しる)
筋(すち)がき
          いづれもしやうゑんじ
          くま同すぢがき
黄土(わうど)具(ぐ)先(さき)より
ごふんくま
本(もと)よりうすわうと
くま ごふんすぢがき

【右丁】
牛(うし) 《割書:周-礼 ̄ニ謂(イフ)_二之(コレ) ̄ヲ|大-牢(ラウ) ̄ト》 特(ことい) 《割書:牡牛(おうし)なり首(かしら)三 角(かく)なり|角(つの)に替(かわ)り有》
史-記 ̄ニ為(ス)_二 四-蹄(テイ) ̄ト_一      仕立(したて)下にわうどぬり合(あわせ)黄土(わうと)総(そう)【惣】
純色 ̄ナルヲ曰 ̄ヒ_レ犧(キ) ̄ト黒(クロキ) ̄ヲ𤚎(イユ)ト云(イフ)  くま朱(しゆ)ずみくま
白(シロキ)ヲ㹊(カク)ト云(イヒ)赤(アカキ)ヲ𤙡(セイ)ト    朱(しゆ)ずみうすゞみふがき
云 ̄ヒ駁(マタラ)ヲ曰(イフ)_レ犂(レイ)[ト]鐶(サ)-眼(メ)-牛(ウシ) つらむねうすゞみくま
黄(アメ)-牛(ウシ) 牡(ヲナル)-者(モノ) ̄ヲ曰(イヒ)_レ牯(コ) ̄ト曰 ̄ヒ_レ特(トク) ̄ト
曰 ̄ヒ_レ犅(カウ) ̄ト曰 ̄フ_レ㹍(テキ) ̄ト 牝(メナル)者 ̄ヲ曰(イヒ)_レ㸺(サ) ̄ト【沙+羊は誤】
曰(イフ)_レ牸(ジ) ̄ト
若牛(わかきうし)は角(つの)長(なが)さ三四寸
光(ひかり)なし歯 色(いろ)黄(き)色なり
老牛は角(つの)に光(ひかり)ありて
歯(は)白(しろ)し諸獣(もろ〳〵のけもの)瞳(ひとみ)棗(なつめ)
の形(かたち)也牛は瞳(ひとみ)竪(たて)に
卵(たまご)の形(なり)にて横(よこ)にせず
虎(とら)猫(ねこ)も亦(また)竪(たて)にす

【左丁】
牛(うし)は歯(は)下(した)にありて上(うへ)に
なし耳(みゝ)聾(しい)して鼻(はな)を
以(もつ)てきく耳(みゝ)の形(なり)枇杷(びわの)
葉(は)の如(ごと)く馬蹄(ばてい)は円(まとか)に
而(して)牛(うしの)蹄(ひづめ)は坼(さく)なり
馬(むま)起(たつ)ときは前足(まへあし)を先(さき)に
し臥(ふす)ときは後足(あとあし)を先(さき)
にす陽(やう)に従(したがふ)ゆへなり
牛(うし)は起(おきる)則(とき)は後足(あとあし)を先(さき)
にし臥(ふす)ときは前足(まへあし)を先
にす陰(いん)に従(したが)ふ故(ゆへ)なり
雨(あめ)前(まへ)には輪(わ)に臥(ふ)す
牛は出雲国(いづものくに)を最(さい)上と
す但馬(たじま)牛は頭(かしら)角(つの)間(あいだ)
𩭈(かづら)毛(げ)なし角(つのゝ)間 広(ひろき)良(よし)
牡牛(おうし)は足(あし)重(おもし)牝牛(めうし)【「あ」は誤】は足(あし)軽(かるし)

【絵の説明】
舌(した)にくしき







【右丁】
柳(やなぎ)に牝牛(ひんぎう)【左ルビ:めうし】

【左丁】
梅(むめ)に牝牛(ひんぎう)

【右丁】
水牛(すいぎう)

色(いろ)白色(しろいろ)青蒼(あをいろ)
鈍頭大腹形
形(かたち)猪(ぶた)の如(ごと)し
角(つの)は大に方偏(ひらめにてかとあり)
文理(きめ)荒(あらく)深(ふかく)して
色(いろ)蒼黒(あをくろ)く
先(さき)白(しろ)し
諸(もろ〳〵の)牛角(ぎうかく)皆(みな)円(まろし)也
水牛(すいきう)は方偏なり

【左丁 絵のみ】

【右丁】
駝(だ) 《割書:状(かたち)馬(むま)の如(ごと)く頭(かしら)竜面(りやうのつら)|のごとく羊(ひつじ)に似(に)たり》
項(くびすぢ)長(なが)く耳(みゝ)垂(たれ)て獒(とうけん)【注】の如(ごと)く
口(くち)大に眼(めの)中 光(ひかり)あり
背(せな)に肉峯(にくほう)有て
鞍(くら)のごとし
形(かたち)毛色(けいろ)蒼褐(あをくろちや)
黄紫(きむらさき)の四品(しひん)あり
爪(つめ)は四 甲(かう)なり
諸獣(しよじう)に異(こと)なり
爪(つめ)に数種(すしゆ)あり
勾(まがる)爪(つめ) 竜(りやう) 猊(しゝ) 虎(とら) 猫(ねこ) 熊(くま) 鷹(たか) 烏(からす)
            中 篇(すち)をかく事 面(おもて)
【爪の図四種】      まるきを見せん
              ためなり

蹄爪(ひづめ)【図二種】四蹄(してい) 甲爪(かうづめ)【爪の図一種】

【注 字面は「敖」だが意が合わず。「獒」に「猛犬の意があるので下部の「犬」が脱落したものと思われる。】

【左丁】 
能(よく)泉源(せんけん)水脈(すいみやく)風候(ふうこう)を知(し)る
凡(およそ)伏流(ふしながれ)て人の《振り仮名:所_レ不_レ知|しらざるところ》
駝足(だあし)を以(もつ)て踏(ふむ)処(ところ)
即(すなはち)《振り仮名:得_レ之|これをう》

【右丁】
驢(ろ)【左ルビ:うさぎむま)】 《割書:長頬(ながきほう)広額(ひろきひたい)》
         磔耳修尾夜鳴す
色(いろ)褐(ちや)黒(くろ)白(しろ)の三 色(いろ)あり

【左丁】
同(おなじく)草画(さうくわ)

【右丁】
荻(おき)の穂(ほ)
 ごふん仕立(したて)
 きら引(ひく)

【左丁】
冬(ふゆ)荻(をぎ)に狼(おゝかみ)

【右丁】
菊(きく)に狐(きつね)

形(かたち)子狗(こいぬ)に
似(に)て
黄赤色(きあかいろ)なり
鼻(はな)尖(とが)り
尾(お)大なり

     亦(また)白狐(びやくこ)あり

【左丁 絵のみ】

【右丁】
     木賊(とくさ)に兔(うさぎ)

【左丁 絵のみ】

【右丁】
白鼠(はくそ)【左ルビ:しろ ねすみ】

仕立(したて)
ごふんくま
生(しやう)ゑんじくま
目(め)同じく
目 赤(あか)し

【左丁】
     《割書: |大坂博労町》
 作者画工 橘氏宗兵衛

享保五年
  子九月吉日
   《割書: |大坂心斎橋順慶町柏原屋》
 書林  渋川清右衛門 板

【裏表紙】

葉唄合俳優双六