コレクション2の翻刻テキスト

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暴瀉須知

BnF.

芙蓉竒觀

其所知道士元海彫鐫之工曰
白鵞余為略紀巔末於首云
文政戌子歳仲秋

  正二位資愛

   芙蓉竒觀目録
罩彩霞圗《割書:春》  日野正二位藤原資愛卿
雲峰起岳腹圗《割書:夏》勘觧由幸次小路宰相藤原資善卿
淡霧籠岳足圗《割書:秋》外山正三位藤原光□卿
寒飈巻彤雲圗《割書:冬》東坊城右大辨菅原總長卿
昕輝䠶映圗  八條従三位藤原隆祐卿
岳巔帯反□圗      資愛卿
氷輝澄映圗        資善卿
臘雪始消圗《割書:六月望》     光□卿
新雪始霽圗《割書:ヽ既》      總長卿
夏雨晴後圗        隆祐卿
葢雲醸両圗        資愛卿
葢雲三重促風両圗     資善卿
三重葢雲崩圗       光□卿
 葢雲崩乾則為両兆頽艮則為暘兆散亂則為風兆
濛両籠岳圗        總長卿
快晴圗          隆祐卿
             極娱亭藏

絵本黴瘡軍談

疱瘡心得草

引痘喩俗草

引痘(うゑぼうさう)の諸事/素人(しらうと)一己(いつこ)の臆断(りやうけん)に任(まか)し又は引痘を行(おこな)
はぬ医(ゐしや)の指揮(さしづ)を守(まも)りて謬(しそこなふ)こと多(おほ)きを以て此(こゝ)に始(し)
終(じう)の心得を挙て十全(けがなきこと)を保(うけあふ)の道を喩(さと)す引痘を其
子に行はんと欲(おも)ふ人は必此書を閲(み)て他(ほか)に心を惑(まどは)すこと勿(なか)れ
《題:引(うゑ)痘(ぼうさう)喩俗(さとし)草(ぐさ)》
《題: 安芸有喜斎》

三宅ぬしあきの国に
接痘のわざをおこなひ
て此病にわつらふへき
児ともの為にいみしきわさを
たてらるゝよしを聞て
 吹すきはあれ散こすゑの
   うきかせをよそにさくらの
      花しつめ【注】かな  芳樹

【注 陰暦三月の花の散る頃、疫病も分散して人を悩ますと考えられていたことから、疫病を払うために、古代、令制で神祇官が行った祭祀の一つ。大神(おおみわ)、狭井(さい)の二神をまつった行事。】


引痘(うゑほうさう)さとし草
  引痘(うゑほうさう)貴人(きにん)に専(もつは)ら行(おこな)ひ給ふ事
此引痘は古今無二の良法(よきほふ)にして人命(ひとのいのち)を助(たすけ)ること
是(これ)に出(いづ)る物なし嘉永二年己酉に和蘭(をらんだ)より此種(このたね)を
持来(もちきたり)しより人々/尊信(そんしん)する者 多(おほく)して京都にては
親王方(みやさまがた)を初奉り諸国には御大名方に専ら行(おこなひ)給ふ
事は人々の知(しる)所なりかゝる貴(たつと)き御方にはよく〳〵
御穿鑿(ごせんさく)ありて聊(いさゝ)か妄漫(みだり)なる事を用い給ふ物に
非す然に世人(よのひと)一己(おのれ)の臆断(りようけん)にて此の法を疑(うたが)ひ或は譏(そしり)
などするは実(ぢつ)に頑愚(がんぐ)【左ルビ ことのわからぬ人】といふ者なり
  悪説(あしきひやうばん)は能々/撿査(たゞ)し見るべき事

引痘の再(にど)発せぬ理(わけ)は言(いふ)にも及ねば爰(ここ)に略(りやく)しぬ
世人(よのひと)折角に吾(わが)子に引痘して大厄(たいやく)を逃(のが)さんとせし
時に何所(どこ)に再痘(にど)したといひ又/彼所(あれ)には引痘に
て夭死(わかじに)したもありなど実(ほん)らしく云(いひ)なして其/父(お)
母(や)の疑(うたがひ)を起(おこさ)しむる悪人(あくにん)あり若(もし)左様なる説(ひやうばん)ある
時は我(わが)子の為(ため)なれは竭力(ちからをつくして)【左ルビ こんかぎり】能々/撿査(ただ)し見るべし
必ず浮説(うそ)なりしかし無法(むほう)の医(いしゃ)が妄(みだり)に引痘して
真仮(ほんものとにせものと)の弁別(わかち)も知(しら)ずして誤(しそこなふ)事は常にあることなれば
引痘には別(わけ)て医(いしゃ)を撰(えらぶ)を第一とすること也

BnF.

BnF.

【表紙】
【右側背表紙近くの張り紙に
JAPONAIS

【表紙裏の張り紙】
JAPONAIS  339

【文字無し】

【文字無し】

【文字無し】

【メモ書き風】
339
R.B   1843 } 3278

【外題】
契情草履打(けいせいざうりうち)
【外題の左側のラベル】
12
【画中の提灯右側】
げだひ
国貞画
【画中の提灯左側】
ぜんご
六冊
【画面左下部 丸の中に】

東西「草冠+庵」南北作
             招福迎慶
柳川重信図

けいせい草履打(ざうりうち)全六冊

文政五年
       西宮春松軒梓
壬午初春

鏡山(かゞみやま)の狂言綺語(きやうげんきぎよ)。いざ立(たち)よりて看官(ごけんぶつ)。合巻(がふくわん)の冊子(さうし)年経(としへ)ぬるまで。老(おい)たる
も若(わか)きも復讐(ふくしう)の小説(せうせつ)に目(め)を怡(よろこ)ばすこと世(よ)に流行(りうかう)するや茲(こゝ)に久(ひさ)し。其流行(そのりうかう)の
逸疾(いちはや)き。鰹(かつを)のさしみは黄肌(きはだ)の鱍(まぐろ)【鱍=黄鰭、キハダマグロ】に寵(てう)を奪(うば)はれ。江戸前の鱣(うなぎ)は穴子(あなご)の蒲(かば)
焼(やき)に権(けん)を執(と)らる。七変化(しちへんげ)さへ割増(わりまし)して十二月 八景(はつけい)の所作(しよさ)を愛(めで)。暑中(しよちう)の冷(ひやつ)
水(こい)はやり風の為(ため)に五苓湯(ごれいたう)麦湯(むぎゆ)の熱(あつ)きを賞(しやう)す。夫(それ)羽折の長 短(たん)目識(もくし)す
るに遑(いとま)あらす。染色(そめいろ)の浅深究(せんしんきはめ)て測(はかり)がたし。密妾(かこひもの) 鼻(はな)について寝臭(ねぐさ)き
女房(にようばう)に劣(おと)り。籠細工(かございく)目に
倦(あき)て朝皃(あさがほ)の花のはかなきを詠(なが)む。流行
段々だんぼさん【意味不明】廃(すた)れてかん〳〵踊(をどり)の一品(いちぼん)たいさうにおこなはる。物換(ものかは)り
星移(ほしうつ)りて。実(げに) 名(めい)月のかがみ山。磨(みが)きあげたる傾城(けいせい)のざうり打(うち)。うつて
かはつた新米新粉。喰気(くひけ)と下卑(げび)てはならさりや。この手(て)をつくした作者(さくしや)
の腸(はらわた)。一ぱいうけた色気(いろけ)のたつぷり。うつろふものは世中(よのなか)の。人のこゝろの
はなにぞ有(あり)ける。
  文政五年
          晋米斎五粒述 「米齋」と書いた瓢箪型の印
    壬午孟陬

【右丁】
ゆく春やさうりの裏に国ひとつ 南北
大磯(おほいそ)
 舞鶴屋(まひづるや)
   の
  全盛(ぜんせい)
   岩藤(いはふぢ)

【左丁】
うはさうり
 うつゝに
   きけは
  おいらんの
   かたきうつ
    とてさはく
      挙酒
        柳川
 故松助常世の二人が鏡山の狂言の絵に
岩藤や尾上の    東西庵
  ■【壱ヵ】南【角ヵ】の散てより

     岩藤(いはふぢ)が妹(いもと)女郎(ぢよらう)尾上(をのへ)
       はじめ浦里(うらざと)といふ

【右丁】
真言(しんごん)
 杢(もく)
  次(じ)
   郎(らう)

【左丁】
音羽屋(おとはや)
  伊太八(いだはち)

  山屋豆腐を
     賞味して
よし原や     東西庵
  花ととうふの
    いろ白し

【右丁】
五尺(ごしやく)
染五郎(そめごらう)

竹村を
 出て山屋
     に
 いる月は

【左丁】
もなかとやいはん
 おほろとやいはむ
     五常亭
        道守

大磯芸妓(おほいそのけいしや)
   於初(おはつ)

        たつね
   その風を    て
  敵と悪む   ありく
花の頃     なつの夕暮東西庵

【右丁 文字無し】
【左丁】
【四角い囲みの中】よみはじめ
あしかゞのばつか【幕下】に
ぞくするあふみのぐん
りやうかゞみ山の太しゆ
はんぐわんときかねのかしんに
しんごん杢二良【「郎」の略】といへるわかもの
あり此杢二良わかげのいたりにて▲
▲おくむきの
女子に心かよはせ
けるにやある夜つぼね口の
にはにしのび入らんとせし時
おくごてんのしまりをあづかる
もの川くらのしんといへるもの杢二良とは
夜のあやめにつゆしらずヤレとうぞくよいであへ〳〵といふに
せんかたなくとらへくらのしんもとらへて今は何とせんすべなく
にがさんとするにもはやおもやくにん【重役人】はいふにおよばず
主人のみゝにまで入りしかばぜひなくとうぞくの
つみにおちてすでにしおきばにひかれてつみ
せらるべきにきはまりぬ此ときいばらてん
ぜんといふものとのゝたいけんをためしまゐらせんと▼▲
▼▲
たちとりの
やくをこひうけ
夕ぐれよりしおき
ばにいたりくびきる
じこくをまつうち
天にはかにかきくもりて
大あめしのをみだし
しんどうらいでんして
さらにものゝ
あいろも【丸に十の字のマーク】
【丸に十の字のマーク】
わから
ざりけり
てんせん
しおきの
じこくと
【四角い囲みの中】つぎへ▲





【左端の小さな囲み】
これまではねん〳〵
さい〳〵かはらぬ
ものがたりの
ほつたんなり
ゑぐみ【絵組み】あたら
しきをみ給へ

【四角い囲みの中】つゞき
あらむしろの上に
杢二良【「郎」の略】をなをらせヱイと
こゑかけたちひらめくと
みえしがかたはらのこものが
くびをうちおとし杢二良が
いましめをきりほどき何か
さゝめきてくわいちうより
そくばく【沢山】のきんすをあたへ
おとしやりぬこれ何ゆゑ
ありてたすけしやてんぜんが
むねに一もつあることのちにぞ
おもひあはされけるされば此夜
杢二良をたすけしこと
 しるものさらになかりけり
〇こゝにあしかゞあそんはふう
りうのきみにてもつぱら
きぶつをこのませ給ふしかるに
かゞみ山のいへにひめおくをし
鳥のかうろうといへるむかし
百さいこく【百済国】のわうじより此国に
おくりし品なりゆゑありて
かゞみ山家に伝来すあしかゞ
どのかねてしよもうせらるゝに
よりてもの川くらのしんつかひの
やくをかうむりかのをし鳥の
かうろうをたづさへみやこに
         おもむきぬ×
×時に五月下じゆんのことなりしが
ふりつゞくさみだれにやすがはの
水かさまさりてたび人のゆきゝ
たへたりしかるにくらのしんはにち
げんちこくなりがたき主よう【主用】
なれば水かさのおつるをもど
かしくおもひことにせいきう
なる老人のことなればかねて
馬じゆつにたつしたれば馬
のはらおびをしめあげ
みなぎる安川にのり入れすで
にむかふのきしにいたらんとする
ときのりたる馬にはかにさわぎ
くらのしんをふるひおとし川
しものかたへながれゆくくらの
しんぬきてをきつておよぎし
が何ものかはしらず水中を
くゞりくらのしんがわき
はらをさしとほしくわい
ちうなす所のをし鳥の
かうろうをうばひとりて
うせにけりつきしたがふ
けらいおひ〳〵ちうしん
なすにそ時二良おどろき
あわてゝそのばしよに
いたるといへどもかたきは
たれといふしやうこも
なくたゞ父くらのしんがむな
しきなきからをおしうごかして
なくよりほかはなかりけりさそ
此ことのおもむきあしかゞどのへ【桝形の中に×点】

【桝形の中に×点】
きこえたて
まつり又せがれ
時二良へはとうぞく
のせんぎをおほせ
つけられけり

【頭部欄外】
二巻
【上部】
木屋丁【「町」の略】に
のきをなら
べるかしざしき
まだはる
わかき鶯の
こゑをさそふ
てつまおとの
もれくる梅の
かきねごしやみおと
ろへし時次【ママ】良まどの
しやうじをおしあけて
四方打ながめ
ひとりごと
「むかひざしき
のあのつま
おとはせい
ふがまくらを
かこつこうけい
のきよくわれは
それにあらで
はてしなき病
のゆかアノ鶯
さへ時を
しりて
ねをはつするに
たちゐもまゝ
ならぬらう人の
羽ぬけどり
をし鳥の
かうろの▼▲

【中部】
▼▲
せんぎ
もなほ
ざりに
あまつさへ
かたきと共に
天をいたゞく
むねんさチヱヽ
 よく〳〵〼

【下部】
〼ぶ
うんに
つき
はて
たり
 ト
こぶ
しを
にぎり
はら
〳〵と
泪を
こぼ
せば
そば

つき
そふ
下べ


五良も
らく
るいを
おさへて
にが
わらひ
「わかだんな
さまとした
ことが【四角の囲みの中】つきへ

【右丁】
【四角い囲みの中】つゞき 何をきなきな【くよくよ】おつしやりますごびやうき
さへ御ほんぶくあそばせばみたからをせんさく
なしかたきのくびをひつさげめでたくきこく
あそばすにも時さへいたればアノ梅の
花とおなじやうにひらくる
ごうんは今のうちアレ又おせきが
でるはねりやくをめし
あがりませドリヤおせなかを
たゝき
ませう
 ▼▲【上部左側】
▼▲
【四角の囲みの中】向ざしきの文だん
「コレヤ浦里さまだんな
【左丁上部へ】
さまとごいつしよに
此かしざしきへでやう
じやう【出養生】あそばしても
かへつておもるその
ごびやうきこちの
だんなはせんしう
さかいでたれしらぬ
ものもない松屋水 月(げつ)
といはるゝ道具の目きゝ
しやちやのゆのせつは
たび〳〵ひがし山さまへ
めされけつこうなお薬を
てうだいなされてあなたに
しんぜてもこれほども
しるしのないはもし恋やみ
とかいふやうなことじやござり
ませぬかないまあなたのおしらべ
あそばした琴うたのしやうが【唱歌】は
かたおもひのあはれぬまくらを
うらやむ紅閨(かうけい)のきよくいとしい
とのごそひたいとのごのあるはむりと
おもはぬ二八の花のむすめごさま
はゝごさまにははやくおわかれあそ
ばしてわらのうへからおそだて申た
此うばえんりよなさるはみづくさしと
なじりとはれてむすめぎのほにあらはれし【合印△の中に▼】

【右丁左側中段】
【合印△の中に▼】はづ
かしさ
やつと
こらへて
うばが
そばにより
「きよねんの
【左丁中段】
はるとほきあづまの
かまくらとやらの
ちやきだうぐやの
伊太八さまといふ
とのごみやこのぼりの
そのついでのたがひに
きゝおよびしどうぐ
やどしたづねて
みへたそのときに
こちのとゝさんはかこひ
じまんのうすちやの
ちそうその時の
きやくぶりよいとの
ごとおもひそめたる
いろぶくさむねは
ぐら〳〵にへがまの
あけていはれぬ
ふたおきのとやかう
おもふそのうちに
いつかあづまの
たびだんすそれが
ぢびやうのちやしやくとなり此かし
ざしきに出やうじやうあけても
くれてもわすられぬいだ八さま【合字】の
おもかげにいきうつしなる
むかふのかしやのおぶけさま【「次へ」を四角く囲む】

【右丁下段】
「あひた
けれど
わしや
はづ
かしうて
ならぬ

【左丁下段】
「わた
しが
それ
 と
みたは
ひが
 目
では
ある
まい
それ
〳〵
その
はづかし
がることがさ
なんの此
 わしに
えんりよ
   は
  ない
   ぞへ

【右丁上部】
【「つゞき」と四角く囲む】あさゆふみやる二かいのまどいまはなか〳〵あの
とのごにおもひがまさる此やまひすいりやうして
たもいのとあとはなみだの
ひざのうへうばの
おかねは浦里が
せなかをさすり▼一▲
【右丁下部】
▼一▲「すりや
いつぞや
みへた
あづまの
おきやく
伊太八
さまを
みそめ
 また
向ふの
お武
 け
さまが
伊太
 八
さまに
【合印〇に×】
【左丁下部】
【合印〇に×】よく
にて
ござる
ゆへ
いた八
あな
たを
思ふて
 その
御病
 気と
おつ
しやるので
ござんすか
おほかた
それであろ
とすのりやう
してゐまゝた
むかふのおぶけ
さまもぶら〳〵
わづらひこれも
大かた恋やみの
出やうじやう
おまへさまにこがれ
てゐるかもしれぬ
それなれば【合印枡の中に菱形】
【左丁中部】
【合印枡の中に菱形】おもひ
あふた中じや
さいはひあさ
ばんことばを
かけあふ【「次へ」を四角で囲む】

【右丁上段】
【「つゞき」を四角で囲む】むかひのしもべのしゆうにうちつけていふたら
あちらもあいたくちへもちこむとりもちト
そやしたてふみしたゝめてたまはれト
うばはしゆじん思ひのいつしんに時次良が
方にいたりけるこそまめ〳〵し
さて浦里がうばのおかねは
染五良にあふて
浦里がふみを
わたしこゝろの
ほどをのべ
けるにぞ
染五良も
心の
せつ
なるを
あはれに
思ひ
やがて
時次良に
▼▲
【右丁中段】
▼▲ことのよしをつげけるに
ものがたき大にいかり
大まう【大望】ある身をもちて
みだりがましきことにたづ
さはり世の人のうしろわらひを
うくべきわれとおもふか此ふみ
見るもけがらはしやトいたくのゝ
しれば染五良はさかやきをなでゝ
いふやう御しゆじんにはたゞことを
わくことなくひとすぢにおぼし

【左丁】
□給ふはかたくなとや申さんかの娘が
おやは人にしられし道具やのことなれば
ふんじつ【「紛失」の古称】のかうろをたづぬるたよりにも
なるべきかとおもはれ候むかし牛若
御ぞうしはじやうるりごぜんにれんぼ
してふくしうのいちみをかたらひし
ためしもありなぞと口をすになして
さま〴〵いひすゝむれば時二良もやう
やくにうけひきおくりし玉づさ【手紙】をひらき
みるに筆のはこびのうつくしさぶんていの
いやしからざるにすこしは心もときめく
時二良がゑがほをみてとりりやうし【料紙】すゞりを
さしいだせばかへしごとのふみさへも
をとこもじにさら〳〵とかい
やりけるにぞ染五良はうけ
とりてむかひのうばを
小手まねきしてわたせば
うばはこよなくよろこび
時二良がふみをみすれば
むすめはたちまちじやう
きのいろもつや〳〵と
ぎば【耆婆=昔、天竺にいたと伝えられる名医の名】がひでんのめう
やくよりきゝめのはやき
きぐすりはいろよきへんじのふみならん
さてある日まつ屋水月は東山どのへめされてこよひは
夜もふけべきさたなればうばはこれをさいはひと思ひ【合印四角の中に×】
【左丁下段】
【合印 四角の中に×】たがひのしゆうをしのびあはする
手はづをしめしあふて日のくるゝ
     をぞまちにける
〇さえかへるさむさに春ともしらず
 ふる雪にふくるにしたがひまちわび
 る浦里はねやのあかりをとほ
 ざけてすがごもなら
 ぬ四布【よの】ぶとん
 ふたぬのあけて
 まつとぼそ
 もしや心の
 かはりしか
 なぜに
 との
 ごの
【合印〇の中に×】
【左丁下段】
【合印 〇の中に×】おそき
ぞと
いねては
おきつ
又いねつ
まくら
がみさへ
いたづらに
油じまぬぞ
うらめしき
ととき
うつ
かねを
かゞ
なへ
て【「かがなべて=指折り数えて】


といき
つくより
ほかぞなき
  【四角く囲んで】つぎへ


【上段】
【四角く囲んで】つゞき とうぞくのなんを
おそれしゆゑなりしかるに
いまぬすまれしはわが
おちどなりといひつゝ
おちちりし時次良が
ふみをみてさては
むすめがかくし男の
わざなるやと思ひ
むすめとうばを
いたくせめとふにぞ
つゝむにつゝまれず
ありのまゝにもの
がたれば水月は大に
いかりにくきらうにんが
たくみいでむかふのかし
ざしきにいたりかゞみを
とりもどさんとかないの
下男をめしぐし【連れて行く】むかひの
いへにぞいたり時二良が方
にはこよひしのぶべきやくそく
なりしが夕がたゟの大ゆきに
大きにあてられくるしはな
はだしきゆへ下良【郎の略】の染五良はいしやの
方へいたりてるすなるあとに時二良
一人やまひにくるしみゐたりける所へ
松やすいげつがいへの下男どもてんでに
六尺ぼうをたづさへヤレぬすびとようちすへて【合印〇の中に二】
【中段】
【合印 〇の中に二】くゝしあげよと
いひさまうつて
かゝるをやみつかれ
たる時二良しん
たいじざいならず
といへどもおぼへ
の手のうち
ゆんでめでに
なげつけたり
此手なみに
おそれいかゞ
してとらへん
「そばにこし
のものがあれば
よういにかゝられず
などゝたちさはぐばかりなり
此時里ぶぎやうの夜まはりの
やくにんとほりかゝりぬすびとゝ
のゝしるこゑに十手とりなは
たづさへ内にふみこみとつた
といふに時二良はやくにんと
みるより手むかひもせず
じんじやうにいましめを
うけたり此時松や水月
やく人のまへにひさまづき
ことのよしをつぶさに
ごんじやうなすにぞ
やく人はなはつきの時二良に
たづぬるにこよひは雪に〼
【下段】
〼あたり
やまひに
くるしみ
しのぶ
べき
やく
そくは
なほ
ざり
にせ

こと
ども

もの
がた
る内
下良
の染
五良
いしやの
方より
くすりを
とりて
もどり
此ていを
みておどろ
きいさゝかも
いつわる所も
なくこよひの
病きを
 かたり【四角い囲みの中に】次へ





《割書:御かほの|妙薬》美艶仙女香(びゑんせんぢよかう)一包四拾八文
此(この)御くすりは享保(きやうほ)十一年廿一 番(ばん)の船主(せんしゆ)伊孚九(いふきう)と云(いへ)る
清朝人(せいてうじん)長崎偶居(なかさきぐうきよ)のとき時(とき)丸山中(まるやまなか)の近江屋(あふみや)の遊女菊野(ゆうぢよきくの)に
授(さづけ)たる顔(かほ)の薬(くすり)の奇方(きはう)なり伝(つたへ)ていふ清朝(せいてう)《割書:今の|から》にて宮中(きうちう)の
婦人常(ふじんつね)に此薬(このくすり)を用(もちひ)て粧(けはひ)をかざるとぞ右(みぎ)の伝方(でんはう)故有(ゆゑあつ)て
予が家(いへ)に伝(つた)へたるを此度世(このたびよ)に弘(ひろ)むるものなり今世上(いませじやう)に顔(かほ)
の薬(くすり)と称(しよう)するものあまたありて色(いろ)はいづれも初霜(はつしも)のおき
まどはせる菊(きく)なれども家方(かはう)の妙薬(みやうやく)は別種(べつしゆ)の奇剤(きざい)なれば
世上(せじやう)の顔(かほ)のくすりと一列(ひといろ)に下看(みなし)給ふことなかれ
      功能(かうのう)左にしるす

▲常(つね)に用ていろを白くしきめをこまかにす▲はたけそばかすによし
▲できものゝあとをはやく治(なほ)す▲いもがほに用てしぜんといもを治(なほ)す
▲にきびかほのできものに妙なり▲はだをうるほす薬(くすり)ゆゑ
常(つね)に用ゆれば歳(とし)たけてもかほにしはのよる事なし
▲惣身(そうみ)一切のできものによし▲ひゞあかぎれあせもに
妙なり股(もゝ)のすれにはすれる所へすり付てよし
調合売弘所《割書:江|戸》南てんま町三丁目
       いなりしん道     坂本氏
        いなりの東どなりにて
【囲みの中】
《割書:口|上》右の御くすり十包以上御もとめ被下候はゞ当時(たうじ)三芝居 立者(たてもの)
 立役(たちやく)女形(をんながた)正めい自筆(じひつ)の御扇子けいぶつとして差上申候間
十包以上御求め被遊候節は御好(このみ)の役者(やくしや)名前(なまへ)御しるし御こして被下候其置先■
【囲みの外】
〇用ひやう 水にてとき御つけて被□【成ヵ】候

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【文字無し】

【裏表紙の裏(見返し) 文字無し】

【裏表紙 文字無し】

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SEI
ZO
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339

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BnF.

散花養生訓

散花養生訓


天敷保
幼妊前
仁獣
 御蒙

   縁富

【右開き】
     松山藩 石井喜太郎
うゑもせぬたねこそ身そはおひ
はけれ おひすそいれいもうゑましものを いし敷ん
きへかねに なくおそ 
 たねとり そめし けるき
  えひする うゑぬせと つ長
      同藩 西村弥四郎
【左開き】
散花養生訓   【印】
【印】 松山   池内蓬輔 記
  /総論(そうわけ)
嘉永二年の/夏和蘭船腐来(おらんだぶねもちわたり)しより今に/至(いた)つて七
年の間/各国(くに〳〵)/行(おとすのわ)るゝ/種痘(みふうそう)は/牛痘(ものふうそう)の/苗(たね)にて/古(ふる)く行
ひ来りし/人痘(はやりほうそう)とは苗の/元素(おゝもと)大に異なり人痘の
苗にて/種(うゆ)る/法(はう)/数(かづ〳〵)術有りといへとも/危■(あやうきこと)たくゆ
へにて牛痘法/始(はじまり)より/絶(たつ)/行(おこの)ふ人なし/此(この)牛痘法は
一人も/命(いのち)を/誤(あやま)とす/麻面(じやぎ)/崎醜(かたわもの)となしず/古今(こゝん)の妙

【右開】
術なり/医(い)法の中にも/痘(ほうそう)に/鈎(かぎ)らす/妙術奇法(みようじゆつきほう)と/唱(い■)
る法はたくあれども此法に及ふ法なしいかな
る妙術奇法といへども一人に功あれば一人に
/害(がい)あり一病に/得(え)る事あれば一病に/失(しここない)あり/百的(ひやくまんが)
/百中(ひやくまん)の金功をうること/能(あた)わに/故(ゆへ)に此年痘法は
古今/無二(ふたつなき)の法なる事を知るべし其無二の法な
る事を/一諸條/深(ふか)く/感(かん)じ玉ひて/厚(あつ)き/仁恵(おめぐみ)より和
蘭人に/嘱(おせつけ)られて痘苗を/貢船(もちわた)り/皇国(につほん)の/重宝(たから)と
なりきち/其由来(そのゆらい)は既に/芸州(あきのくに)の/種痘家(うつて)宅氏の/著(あじわ
せる/引痘喩俗草(こへぼうそうさとしぐさ)と/云(い)へる/小丹子(こざうし)に見えたり/其(その)
【左開】
/略(りやく)に/曰(いわ)く此引痘の種は/元来(くわんらい)/西国(さいこく)の或る御大名
の御骨折りにて和蘭より御取奇に相成それを其
/姫君(ひめぎみ)にうゑさせ玉ひへ其種を末くへ下された
事より日本国中に/弘かりたるものなり種とい
ふは/即(すなわ)ち/発出(はついで)たる/痘(ほうそう)の/良漿(よきうく)なり/巳(わ)が子も人の
この漿を種として/大厄(だいやく)を/逃(のが)れたれは又人の子
にも巳が子乃漿を伝うべき道なり/旦(そのうえ)是を/採(とり)て
一切/害(さわり)にならぬ物なれば醫もそれを/採(とり)/伝(つた)へて
/始終(しじう)たえぬ様にする事なり万一その子に/毒(どく)な
どありて種にならぬもあればとりて人々に傳

【右開】
ふる程の/良漿(よきうみ)ならばその父母/喜(よろこ)び/勇(いさ)むべき事
なるに中には/可愛(かわい)子の漿を/破(やぶり)り/採(と)ることは醫
にもさせぬなど/理不尽(りふじん)に/伝(つひ)て種の/絶(たへ)るを/気毒(きのどく)
にも思はぬ人なり是は/人情(にんじやう)も/恩儀(おんぎ)もしらぬ人
なり其上是を/採(とり)て為にならずば/高貴(たつとき)御方は猶
更末々へ下されぬはつ醫も亦せぬ筈なり是等
を/考(かんがへ)見るべしとあるを見ては共に恵のありが
たき事/言語(ことば)に/尽(つく)し/難(がた)し共/訳(わけ)も知らず/疑心(うたがい)を/離(はな)
れす/種々(いろ〳〵)の/悪説(わるくち)を/流布(いいふら)し/婦女子(おんなこども)を/迷(まよ)わす事/実(しら)
に天下の大/罪(とが)人/其罪(そのとが)/其身(そのみ)に/帰(むくい)て/終(つい)に/自然(しぜん)の/道(どう)
【左開】
/理(り)に/因(より)て/愛(かわゆき)子を/天痘(はやりほうそう)の/為(ため)に/矢傷(とられる)する人少から
ず/恐(おそ)れ/謹(つゝし)むべし
   /種日法(うへびのわけ)
○/種痘(ほうそう)を/乞(こ)ふ父母の心得べきは先つ/種(う)へ/日(び)に
/携行(つれゆ)き/受痘(うへてんらい)しより/第四日(よつかめ)に/当(あた)る/早朝(そうちよう)/携(つれ)行き/見(ほみ)
/苗(せ)の/現況(もよう)を/質(ただ、みてもらい)し《割書:真痘の見苗なれば此日より心まか
|せに/吉幣(おしめ)を/強(はり)て/其役(ぎしき)の如くす

又/第七日(なゝぬかめ)に携行きて/起帳潅膿真急假(やまあけほんられよしあし)の/鑑定(みわけ)を/乞(こ)
ひ/旦漿(そのへたね)/乞(このま)るゝ時は/快(こゝろよ)く漿を分つべし三宅氏
も/伝(いへ)る如く/鎖少(すとしも)/害(さわり)ある事なし 予も /七年来(しちねんらい)/数百(かずの)
/児(こども)に/試(てくろ)むれども一人害あるを/曽(かつ)て/見聞(みきく)せす然

【右開】
ども其漿を採るに/定法(おきて)あり/譬(たとへ)は/五顆(いつか)ある者は
/二顆(ふたつ)の/外(まか)採るものにあらず/不塾(てるんぬ)の/醫(こへて)は五顆/盡(□□)
く採ると言へども五顆豊く漿を採りては/防痘(うえほうそう)
の/功(しるし)少なし/何(なに)ゆゑに防痘の功少なしと言へば
/八九日前(ほんうんのまえ)に/掻(か)き/破(やぶ)れば/再剃(さへなをし)するものゆゑ其功
少なし故に種痘を/托(たの)む/醫(い)は/格別(かくべつ)に/選(えらん)んで托む
べし/鎖術(さゝいなさぎ)の/様(よう)に見るゆれども/種法(うへかた)/鑑定(みきわめ)ともに/口(く)
/諸(でん)もあり且つ/語強(ていほへ)もたからざれば真仮の鑑定
に/窮(こま)る事少なからず其種術鑑定強/正(ただ)しから
ざれば年痘を種ゆへどもるとい再痘すまじき
【左開】
に/非(あ)らず次の/條(くだり)に真痘の/一端(はしくれ)を/挙(あげ)て/世(せけん)の/迷(まよい)を
/解(と)く/聊(すこし)の/助(たすけ)に/備(その)ふ/世(よ)のひと/何(なに)ごとも/是死(よしあし)を正さ
ず/驚(おどろ)くべからざる事に驚き驚くべきに驚かず
再痘したと/言(いふ)其/元(もと)を正さず/漫(みだ)りに種痘は何に
もならずものにて/彼(うしと)にも再痘したり/此(こゝ)にも再
感せり/刻(あまつ)さゑ痘を種て后天痘に/染(うつ)るときは/悪(あく)
/痘(とう)が/発(でき)て死したり又種痘すれば/夭札(わかじに)する/等(るど)の
/空言(うそ)を/信(まこと)にし/狐疑猶予(うたがいみあさす)内に天痘に罹り/終(つい)に取
りがゑなき/一子(ひとりで)を失ひ/後悔(こうくわい)するを見るに/忍(しの)び
ず世人は/笑(わら)ふべけれども/遠慮(えんりよ)なく/嬰児(こども)を見る

【右開】
/毎(たび)に種痘せしめよと/強(しい)て/動(すく)むなり種痘中醫
の/誤(あやま)り或は父母の/杜撰(そまつ)より/合併(かふめい)と言て種痘と
天痘と/一時(いちじ)に発する事なり此痘を世人再痘と
言ふ再東井にわあらず合併/或(あるいは)/兼痘(けんとう)と言ゑる/症(たち)な
り再痘と言るものは種后十五日の/経過(うんあわせ)/恙(さわ)りな
く痂も落て后天痘に罹らば是れ/全(まつ)く再痘なり
其症あることを/未(いま)だ/聞(き)かず/知(し)らず/醫(い)の不熟か
/虚悦(うそ)かよく〳〵吟味あるべし/尚(なを)世人/何(いつれ)を/聞(き)
き/誤(あやま)りたるか小児/生(うま)るゝ其年は痘に/感(かん)ぜぬも
のなどの空言うを信じ種痘の/訳(わけ)を信じながら/種(うへ)
【左開】
ずして流行痘を感じて死するを/毎次(おり〳〵)見聞きせり
小児/生下(うまるゝ)四五十日を/経(すぐ)れば/種(うゆ)べし空言に迷ふ
べからす必らず予が/億悦(ひがこと)に非ず和蘭に/於(おき)て此
の如き種法なる事/引痘諸書(かへぼうそうのほん)に/見(みへ)たり痘を種て
真痘を/得(ゑ)て十五六/若(もし)くは十七八にちを/経(すぎ)る/迄(まで)は
天痘を恐るゝ事/疫病(ぐえき)を恐るゝ如くすべし/其(その)体(からだ)
の等を/感(う)ける/感受力(かんじゆりよく)と言るもの/全〳〵(じゆぶんに)/脱(ぬ)けず
《割書:委しくは種痘|小言に見たり》天痘の/毒気(どつき)は風につれ又は/衣裳(きるい)に/染(つき)
て五里十里の/遠路(ゑんはらう)も飛ひ行きて人に/伝染(うつる)もの
なり/古人(こじん)も十五日を過るまでは合俗をおそるゝ

【右開】
る実に疫病を/遁(よけ)るが如くす
  /真痘弁(しんとうのわかち)
○真痘の/次序(したい)は種日より第三日の夜又は四日
の朝に至つて/蚤(のみ)の/咬(かみ)たる如く/淡紅色(はなりあかく)に/顕(みへ)るは
真痘の/見苗(ほみせ)なり
《割書:種る翌日大豆大さに赤く腫れ|上るは仮痘の見苗なり》/夫(それ)
より経過して第八区日に至れば満漿(けんうれ)して/葡萄(ぶどう)
のよく/熟(うれ)るに/似(に)て痘の/周囲(まわり)に/紅単(こうこん)とれ赤き糸
の如く/輪(わ)を/廻(まわ)し痘の/頂(いただ)き少し/凹(くぼ)み流行痘の
/面部(かほ)に/四五(よついつゝ)顆を発したる/善痘(ぜんとう)に異ならず又九
日十日に至れば/掀衝(きんしやう)とて/一様(つつたり)に痘と痘との間
【左開】
赤く/腫(は)れ《割書:いわゆる|じばれなり》/脇下(わきのした)腫れ/面色埃淡(かほいろあをざめ)て/心中(きげん)/爽(さわや)か
ならず/熱(ねつ)の/発作(でいり)ありて/天紙(うすれいき)によりては/頭痛(づつう)/吐(と)
/瀉(しや)又は/不食(ふしよく)すること有り/是(これ)真痘の/徴候(しるし)なり/仮(か)
痘(とう)には此の如き/諸症(わずらい)なし/若(も)し仮痘なれば/幾度(いくたび)
も/種直(うへなを)すべし真痘といへるものは其/年齢(としかす)によ
りては/一点(いつてん)まても諸症/備(そなわ)るときは種痘の/功(さるし)あ
ることなりたとへ/数点(かず〳〵)/発出(てきる)とも/真仮分明(よきわるきたゝか)なら
ざる時は其功なし故に携れ来る/日記(やくそくに)は/風雨寒(あめかぜあつさ)
/暑(さむき)/多事匁肥(いそがわしき)/且(か)つ/遠近(とをきちかき)をゑらばず種痘醫の家に
行こと是父母たるものゝ/専務(うんよう)なり尚種痘中は

【右開】
/食傷風邪(しょくたりかぜひき)/其他(そのほか)を発せざると/夜分(やぶん)掻き破らぬ
ようとに心を/配(くば)る事是又油断あるべからず天
痘の如く/昼夜看病(よるひるかいほう)の/苦(くる)しみもなく/神佛(かみほとけ)を祈り
或は大金を/費(つい)やす等の/配慮(いんぱい)なければ/乳児(ちのみご)は母
の/食物(くいもの)を/淡簿(さかりとしたもの)にし十二日の間は/堅(かた)く慎むべし
/乳(ちゝ)汁の/性(あじ)を/変紋(かわら)し其乳汁を/嚥(の)ましめば其児/種(いか)
引の病を発する事ありて痘に/拘(かわ)なぬ症にて命
を/検(そん)ずるあり古人のいへるにも/人命(じんめい)は/朝露(あさつゆ)の
如く/危(あやう)きものにて/無病(つね〴〵)平全の時と/雖(いゑ)ども何ん
時病を発して死すましきにも非らずいわんや
【左開】
種痘中/他病(ほかごと)にて死るも婦女子は種痘のゆゑと
疑心を/起(おこ)し/悪評(わるくち)を流布して此の/良法(りようほう)を/汚(けが)す事
少なからす
  /禁戒(いみごと)
○/種后(うつてのち)/風呂(ふろ)に/浴(い)る事/先輩(せんせいだち)の/法悦(かんがく)ありて/適不適(よしあし)
あれども/過半(たいてい)/浴(いら)ぬ方/宜(よろ)しく/半身浴(はんしんよく)とて/腰以下(こしよりしも)
を/四時(なつふゆ)とも/洗(あら)ひ/其他(そのほう)は/手巾(てぬぐい)にて/拭(ぬぐ)い/置(お)くべし
/随痘(なちにより)其人に/指揮(さしず)すべし
○/剃髪(さかやき)は種后/五六日(いつゝむやう)の/間(うち)は/害(さわり)なし七八日より
/濃熱(のうねつ)とて熱を/発(おこ)すゆく十二日の后/剃(そ)るべし

【右開】
○/灸火(やいと)は種后宜しからず十二日の后すゆべし
元来灸火の/効用(こうのう)は/衝動(しやうどう)とて/筋肉気血(そうしん)を/動(うご)かし
て病を/治(なを)すものゆゑ/症(たち)によりては大小害あり
十二日の后すゆべし
○/衣類(きもの)は/寒辺(かんちう)といへども/法外(ほうぐわい)の/重服(かさねぎ)は宜しか
らず/近時(ちかころ)/行(はや)る/筒袖(つゝそで)《割書:一に鉄他袖と|いゑるもの》/痘中(うへてのち)甚だ/不便利(ふべんり)
なり/年常(つね〳〵)といへども嬰児には/不養生(ふようじやう)の/服(きもの)なり
用ゆべからず
○/禁食(どくいみ)は/用飲膳(まいにちそへもの)に/供(そなへ)るの/品(もの)甚だたし/盡(ても〳〵)く此
に/書記(かきしる)す事/能(あた)わず/漸(やうやく)く/二三品(すこしばかり)を次に/記(しる)せりは
【左開】
とも/其(その)/天賦(うまれつき)と/貴賤(うへ〳〵しも〴〵)/都(みやこ)鄙(いなか)との/少差(ちがい)もあれば委し
くは醫に問て用ゆべし
 /青色(あをいろ)の/魚類(うをるい) /脂肪(あぶら)/多(おゝ)き/魚鳥(うをとり)又/獣類(けだもの)の/肉(にく)
 /塩蔵(しほくら)の魚鳥 /総(すべ)て/難消化(こなれにく)き/食物(くいもの) 油酒
 /酸味(すのけ) /餅(もち) /烏賊(いか) /章魚(たこ) /海老(えび) /蒟蒻(こんにやく)
 /南瓜(かぼちや) /茸類菓(たけるいなり)ものゝ/諸品(るい)善悪あれども惣て
 食せざるべし/豌豆蚕豆(えんどうこやまめ)の/二品(ふたつ)/大害(だいどく)あり痘
 に/痒(かゆ)みを/生(おこ)して十に八九は掻き破るなり
 /落痂(うわおちこ)の后も/暫時(しはらく)食すべからず/摩蛹(たゞ)れて/痘(あ)
 /痕(と)久しく/乾(かわ)かざる事なり是予が経験す

【右開】
事/所(ところ)なり
○/神祭(まみまつ)りは/醫(い)法にあづからぬ事ゆへ其心に/任(まか)
すべし種痘は/一切(いつせつ)/忌憚(いみきらい)なきを妙とす只/痘漿(たね)の
善悪に/因(より)て痘の/染不染(つくふかぬ)あり/故(ゆへ)に種痘に/念(こゝろ)ある
人は醫の/動(すく)むる時は前に言る如く/大凡(たいてい)の/差(さ)し
/合(あい)は/捨(す)て/置(おき)て/種(う)ゆべし惣て種痘醫は漿の/続(つい)く
を/専(もつぱ)らとし/棚(あわれと)/塩(おけふ)の/術(わざ)を/行(おこな)う/心(こころ)上より/嬰孩(えどりご)を/愛(あい)
する事/親疎(しんそ)の/別(わかち)なく/当(しかも)/大陽(にちりん)の/六合(せかい)を/照臨(てらし)たも
ふが如とし
散花養生訓 終
【左開】
○此の/散花養生訓(かへそうそういやうじやうくん)は種痘中/摂生(やうしやう)の/次第(くわい)を
問るゝに/人毎(それ〳〵)に答るに/迎(ひま)あらず且つ/言語(いふこと)
は/聴聞(きくように)の/間(より)/誤(あやま)りなき事能わず故に/至要(うんよう)の
一二言を/綴(つゞ)り/傍(かたわ)ら/答訓(こたへ)の/労(めんどう)も/劣(はぶ)くが為に
/木(はん)に/上(ほり)し/家塾(いへ)に/蔵(おさ)めり必ず公にするに非
らず尚種痘の/委曲(くわしきこと)は予が/耕(つヾ)り/作(な)す/種痘(しうとうせう)に
/言(げん)に見へたり/他日(ちか〳〵)/夜々梨(はんにほること)を/果(はた)さば諸君子の
槃生を希ふと伝 角
 安政二年未巳外秋日 散花堂施印

BnF.

【洋本装丁表紙】

【洋本装丁表紙裏】

【フランス語書き込みあり】

【洋本装丁表紙】

【登録番号シール N.F. CHINOIS. 1806】

【洋本装丁】

【洋本装丁 白紙】

【洋本装丁 白紙】

【洋本装丁 白紙】

【手書き書込 1806】

今様櫛□雛形 くしの部 
          上

【表紙裏 白紙】

【蔵書印あり R.F.】

湯津(ゆづ)の爪櫛(つまぐし)つげの小櫛(をぐし)は両天(りやうてん)□【秤】の二柱(ふたばしら)
梅花(ばいくわ)のかをる神代(かみよ)にはじまり順(じゆん)が和名(わみやう)の
細櫛(ほそぐし)さし櫛(ぐし)いひ出(いで)んも事(こと)ふりたれど鎌倉山(かまくらやま)
の真砂形(まさごかた)はかもしの長(なが)く世(よ)につたはり
室町御所(むろまちごしよ)の簾櫛(すだれぐし)はびなんかづらの香(にほひ)に
残(のこ)れり薩摩(さつま)長門(ながと)の国産(こくさん)は慶長(けいちやう)に名高(なたか)く
丸峯庵形(まるむねいほりがた)は元禄(げんろく)に聞(きこ)えたりそれより益(ます〳〵)
新奇(しんき)を巧(たくみ)朝日(あさひ)ととなへ三日月(みかづき)とよび蒔絵(まきゑ)
彫物(ほりもの)の手(て)を尽(つく)せどいまだ其鑑(そのかゞみ)とすべき
絵本(ゑほん)は絶(たえ)て世(よ)に見えずさる故(ゆゑ)に書肆(しよし)永寿堂(えいじゆだう)
前(さきの)北斎為一(ほくさいゐいつ)にあつらへ品々(しな〳〵)の絵様(ゑやう)をかゝせ
末(すゑ)に□(きせる)の図(づ)を添(そへ)て櫛□(せつきん)雛形(ひながた)と□(よび)
是等(これら)の物(もの)をつくらしむるもろ人の
助(たすけ)とす其(その)ことわりをはじめに記(しる)すは
   文政壬午        柳亭のあるじ
    秋八月望          種彦なり

器材(きざい)の制作(せいさく)たる時移(ときうつ)れば方(はう)を円(えん)に
製(せい)して人挙(ひとこぞつ)て珎重(ちんちやう)する是(これ)流行(りうかう)と
いふ況(いはんや)児女(ぢぢよ)の愛(あい)する所(ところ)櫛笄(くしかうがい)の形体(かたち)をや
故(ゆへ)に当時(たうじ)の制作(せいさく)にもとづいて画(ゑが)かば
亦(また)後世(こうせい)の変易(へんゑき)を患(うれ)ふ依(よつ)て形(かたち)の円方(えんほう)
大小(だいせう)に拘(かゝは)らず唯(たゞ)其画(そのぐわ)をなすの助(たすけ)たらん
わ要(よう)す今(いま)此冊子(このさうし)に画(ゑが)ける模様(もやう)櫛(くし)の形(かたち)に
余(あま)りたるは裏(うら)へ写(うつ)して裏画(うらゑ)となす草木(さうもく)
虫魚(ちうぎよ)は裏(うら)へ折(おり)かへして然(しか)り今世(こんせい)行(おこな)はるゝ
三日月形(みかづきがた)は棟尤(むねもつとも)せばし又(また)後世(こうせい)の流行(りうこう)
にて棟(むね)の広(ひろ)き時(とき)は増補(ぞうほ)の労少(ろうすくな)しと
せず且(かつ)其員(そのかず)に応(おう)じて筆画(ひつぐわ)の数(かず)を
減(げん)ずるは安(やす)く加(くわ)へんは難(かた)し故(ゆへ)に其傍(そのかたはら)に
添書(そへがき)す見(み)る人(ひと)心(こころ)を留(とゞめ)よ
    前北斎改  葛飾為一誌

源氏
 うきふね 【浮舟】


 あさがほ 【朝顔】


 こうばい 【紅梅】

藻いでの
   こゐ  【藻出の鯉】

きく 【菊】

あしにちどり 【葦に千鳥】

くわんそう 【萱草】

かりがね 【雁金】

あし うらへかへる 【葦 裏へ返る】

てつせんくわ 【鉄線花】

まつもにかに 【松藻に蟹】

さくら かさね 【桜重ね】

 ▲もやうのはしは
  うらへおりかへすと
     しるべし

 ▲くしのかたち
  ときのりうこうありて
  かたちさだまらずされば
  のちのこゝろへあるべきか


ぼたん 【牡丹】

ぶどう 【葡萄】

うらへ
 おりかへし


しうかいどう 【秋海棠】

▲はじめに
   同じとしるべし

同うらへおり
かへすなり


はぎ 【萩】

かきつばた 【杜若】

おみなへし 【女郎花】

いづれも
 うらへおりかへし也

こうりん
 きゝやう 【光琳桔梗】

ひつじくさ 【未草】
 うらへかへす也

くわうりんの
  きく 【光琳の菊】

やまぶき 【山吹】


いづれも
 うらへ折かへし

ほしあひ  【「星逢」或は「星合」 七夕の意匠】


ふじばかま 【藤袴】

此るいもやううらへ
     おりかへしなり


さくらそう 【桜草】

ふけわらび 【老け蕨】

おひまつ 【老松】

わかまつ 【若松】


▲もやううらへまはすべし

むめ 【梅】
   まへにひとしく
   うらへかへすべし


くわうりんの
  きりのはな 【光琳の桐の花】

からまつ 【落葉松】

つばき 【椿】

おりはしは
   うらへまはすべし

おりはし
   うらへまはる也



くれたけ 【呉竹】

わかたけ 【若竹】

べたもの

くわう
 りん
 もの 【光琳物】


らいもんあさのは 【雷文麻の葉】

ねぢむめ 【捻じ梅】

ねぢきゝやう 【捻じ桔梗】

ねぢぎり 【捻じ桐】


   ねぢ
    あさのは 【捻じ麻の葉】


【文字なし】

【上図はかすがい、下図は釘の模様】

さぎ

  鵞

  かもめ



ちどり

  かめ



なみ
大小
とも

べた
づけ

▲たかきもやうはうらがへして
 くしのうらへつけべし

     いろを


みなと口の
  たそがれ

ゆうなぎ 【夕凪】

あさなぎ 【朝凪】

山中の月

三笠山のつき

月下のゆきかい

水月

ゆき     雨中

晴     梅りん【梅林】

竹りん【竹林】

ふゆのけい【冬の景】

いせうら  【伊勢浦】
  ■【夏】けい


▲もやうのあまりあらば
 はじめのごとく
 こゝろへ
 べし


川がり

入江のあき

ひらかたよふね



いづれもまへに同じ

里のゆき


其二

かぜを
 おこすなみ




あさき
  水

【上図】
大き
なる
くし

かた


べし






【下図】
もやうはいづれも
うらへ
まわる也

たき

うらはもやうを
  うらがへしてかくべし


さいくなみ

          大き
          なる
          くしに
          入べき
            也

          大■




もやう
うらへま■る
ときは
うらがへして
   うつすべし

【上図】



【下図】

合せ
 の
なみ

つゆ
 くさ          つゝじ


はな
うつぎ        きゝやう


くしの大小に
したがひて
 うつし
   いるべし


一りんばい        あさ
              がほ


ふくじゆそう        あぢさゐ


のぎく


すみれ           川ほね 【河骨】

はな          すいせん
ざくろ


ゆり         なしのはな


かいどう         かきの
              はな

かきつばた         しんきく


ふよう


ふたば
あふひ           なでしこ

ばせう 【芭蕉】


いも 【里芋】
 われもこう 【吾亦紅】

くさふじ 【草藤】


あざみ 【薊】

   りんどう


ばら

 ゆきのした


へちま

そてつ 【蘇鉄】


びやうやなぎ【未央柳】

【上図案】 げんげばな

【中図案】 たんぽすぎな

【下図案】 竹にすゞめ

【上図案】 あまりやう【雨龍】

【中図案】 しらん【紫蘭】

【下図案】 やゑもゝの花【八重桃の花】

【白紙】

【背表紙】

【表紙】

今様櫛■雛形 くしの部
         下


【表紙裏・白紙】

かいづくし

いか
あほりいか

小ゑび



瘡家示訓

虎列剌予防の諭解

虎列剌豫防諭解 《割書:各一| 計二》

虎列剌豫防諭解 各一 計二

内務省《割書:社寺局|衛生局》編輯
《題:虎列剌豫防諭解  完》

【右頁】
内務省《割書:社寺局|衛生局》編輯
虎列剌豫防諭解
   社寺局出版

【左頁】
緒言
昨年虎列剌病ノ流行セル患者拾六萬余人二上リ
其内十萬余人ハ遂ニ之レガ犠牲トナレリ人世ノ
毒害ヲ逞ウスルモノ虎列剌ヨリ甚シキハナシ是
時ニ當テヤ政府豫防ノ規則ヲ發シ各地方ノ官吏
ハ百方此ニ盡力シタリト雖モ憾ムラクハ細民其
旨ヲ解セズシテ病毒ノ畏ルベキヲ知ラズ或は隠
蔽忌避シ或ハ頑嚚不逞ニシテ誠實ニ之ヲ遵奉スル
モノ少ナキヲ以テ十分ニ豫防ノ成効を見ルコト能

虎列剌豫防諭解 緒言 内務省

【右頁】
ハザリキ蓋シ斯民ヲ開諭啓導シテ先ヅ其蒙ヲ發
クニ非ザレバ如何ナル良善ノ法律規則アリト雖
トモ決シテ其美果ヲ結ブコト能ハズ然シテ朝トナク
夜トナク孜々諄々戸ニ説キ家ニ諭シ遂ニ能ク其
良心ヲ挑發シ頑ヲ解キ愚ヲ啓キ以テ斯民ヲ至惨
ノ害毒ニ脱セシムルモノハ特ニ敎導職ノ説諭ニ
頼ラズンバアラズ我内務卿大ニ此ニ見ルアリ乃
チ此諭解一篇ヲ草セシメ以テ其説敎ニ資セント
ス幸ニ敎導職タル人能ク此誠意ヲ體シ其力ニ因
リテ人民ヲシテ普ク傳染病ノ畏ルベキヲ知リ各
【左頁】
自豫防ノ方法ヲ實践シ兼テ養生自衛ノ道ヲ會得
セシムルニ至ルヲ得バ日本全國ノ健康即チ富彊
ヲ他日ニ企望スルヲ得ベシ而シテ其要只人民各
自ニ己ガ一身ノ健康ヲ保護スルノ良心ヲ啓發ス
ルノ一點ニアルノミ

  明治十三年四月   内 務 省

【左頁】
虎列剌予防(これらよぼう)の諭解(さとし)

 第一章
  虎列剌(これら)其他(そのた)伝染諸病(でんせんしよびやう)の予防(よばう)及(およ)び制伏(せいふく)の事(こと)
凡(すべ)て人(ひと)の世(よ)の中(なか)に在(あ)るには形(かたち)ある敵(てき)と形(かたち)なき敵(てき)
とありて斷(た)えず人(ひと)の生活(すぎはひ)を妨(さまた)げ身(み)の健康(けんかう)【「たつしや」左ルビ】を害(がい)し
甚(はなはだ)しきは貴(たふ)とき命(いのち)を奪(うば)ひ去(さ)りて之(これ)を絶(たや)さんとす
るに至(いた)る戦争(いくさ)洪水(おほみづ)飢饉(ききん)大風(おほかぜ)火災(くわじ)地震(ぢしん)等(とう)は多(おほ)くは
形(かたち)あるものにて人々(ひと〴〵)も普(あま)ねく知(し)りたるいと恐(おそ)る
べき大敵(たいてき)なりされど此形(このかたち)ある敵(てき)の外(ほか)更(さら)に形(かたち)なき

【右頁】
敵(てき)ありて形(かたち)あるものよりは一層(いつそう)劇(はげ)しき害(がい)をなし
且(かつ)其敵(そのてき)の所為(しわざ)曾(かつ)て人(ひと)の耳目(みゝめ)に掛(かゝ)らず正(まさ)しく害(がい)を
なしたる後(のち)に至(いた)りて始(はじ)めて其(その)畏(おそ)るべきを知(し)るも
のあり此敵(このてき)は是(こ)れ何物(なにもの)なるや即(すなは)ち虎列剌(これら)其他(そのた)の
伝染病(でんせんびやう)なり其(その)攻(せ)め来(きた)る鋒刃(ほこさき)は極(きは)めて神變不測(しんべんふしぎ)に
して如何(いか)なる所(ところ)に潜(ひそ)み隠(かく)れ如何(いか)なる所(ところ)より撃(う)ち
出(いづ)るか容易(ようい)に之(これ)を知(し)り難(がた)く吾人(われひと)ともの目(め)に觸(ふ)れ
ざるゆゑ之(これ)を形(かたち)なき敵(てき)と云(い)ふなり其人間(そのにんげん)に害毒(がいどく)
をなすこと形(かたち)ある敵(てき)よりも夐(はる)かにまさりて畏(おそ)る
べき大敵(たいてき)なり
【左頁】
さて斯(か)く畏(おそ)るべき病敵(びやうてき)も決(けつ)して偶然(ぐうぜん)に攻(せ)め来(きた)り
て其害毒(そのがいどく)をなすものならず来(く)るには必(かなら)ず来(く)るだ
けの自然(しぜん)の道理(だうり)のあることは戦争(いくさ)飢饉(ききん)洪水(おほみづ)等(とう)其(その)
天然(てんねん)の理(り)に因(よつ)て出来(いでき)たるに異(こと)ならず凡(すべ)て此等(これら)の
災害(わざはひ)は皆(みな)それ〴〵の道理(だうり)ありて起(おこ)るものにて決(けつ)
して神佛(しんぶつ)の冥罰(ばち)にも非(あら)ず又(また)悪魔(あくま)の所為(しわざ)にも非(あら)ず
若(も)し神佛(しんぶつ)の怒(いかり)ならば善(ぜん)を祐(たす)くる神佛(しんぶつ)が慈悲善根(じひぜんごん)
の人(ひと)までも悪人共(あくにんとも)におしなべて生命(いのち)を絶(た)つの理(り)
はあらじ若(も)し亦(また)悪魔(あくま)の所為(しわざ)ならば人力(じんりよく)を以(もつ)て防(ふせ)
ぎ得(う)るの理(り)なかるべし

国字断毒論

《題:痘疹断毒論》

《背表紙:痘疹断毒論 一冊》

《題:痘疹断毒論》

麻疹御伽双紙

《題:麻疹御伽双子 完》

【背表紙】麻疹御伽双子 完

《題:麻疹御伽双子 完》

《題:麻疹御伽双子 完》

  麻疹(はしか)によろしき食物
ゆりね かんひやう にんじん ほし大根(だいこん) やきしほ 水あめ
あづき やへなり さつまいも 白うり 冬瓜(とうくわ) くわへ
くす くろまめ 十六さゝけ ひしき せんまい かたくり
うど いんげん いんげんまめ らくがんのるい ふき 白せつかう【白石膏?】
かつをぶし くこのめ れんこん 右之類毎日食してよし此外
ごほう 冬大こん うこ木のめ 長いも 白さとう かるやき【軽焼き煎餅?】
やうかんのるい■く【折〳〵ヵ】食してよし春夏の大こん悪し
魚類はあわび きす かながしら さより むしかれい
日数十五日も立て少々つゝよし其外魚類とり類竹の子
きのこ類あふらけすのものめんるいくだものなすび玉子そらまめ
なたまめ梅づけ粕(かす)つけ類五十日忌べし慎(つゝしま)ざれば
よどく出て難症となるおそるへし房事(ぼうじ)は殊に慎しむへし五十日
前におかせは命にもかゝはる事なれはおそるへしはしかはかはきある
ものなれはくすゆを与ふ(あたう)【與】へし梨子(なし)を焼て与(あた)へてもよし











避疫要法

《題:避疫要法 全》

《背表紙:避疫要法》

《題:避疫要法 全》

《題:避疫要法《割書:一三?六|》 全》 

大祲後。毎有疾疫。聞丙午之災。明春疫死者。十倍餓死
者。本年荒歉。殆如丙午。而疾万寖興。高野翁憂之。有此
小著。其辟方及治方頗詳。夫疫行而辟之。辟之不得
而治之。猶如橋解頼有舟楫。則其於済患也広矣。梓□。
欣然遂題。丙申至日後五日羽倉則識 内田恭書

避疫要法

夫凶歉与疫疾天-災之最大者而両者並至往々有之□□治化
隆盛 官有賑済之法而民不飢焉医有治疫之書而民不夭焉
独至避疫之法未嘗之聞也余病之前著瘟疫考附避疫之法於
巻末而校讐未竣今冬既見疫疾之兆於是先摘抄其要命門生
高橋景作校之名曰避疫要法其専用国字者使人易通暁也是

国字痘疹戒草

麻疹養生伝

《題:麻疹養生伝 全》

《背表紙:麻疹養生伝 全》
《題:麻疹養生伝 全》

《題:麻疹養生伝 全》

唐玄宗帝嘗臥病忽夢
万鬼侵玉床而又有一
士提剣撃之鬼忽退帝
問其名答云先朝之卑
宦鐘馗者也帝夢寤而
後命宦祭之後人是以
画其像掛壁上則必除
疫万云

麻疹養生伝序
夫人之性 ̄ハ理也有_二 天命 ̄ノ之性_一有_二気質 ̄ノ之性_一寿夭
貧福 ̄ハ即 ̄チ天命 ̄ノ之性賢愚緩急 ̄ハ即 ̄チ気質 ̄ノ之性 ̄ニシテ【シテ合字】而各
為 ̄リ_二懸隔之異_一而養生中 ̄ルトキハ_レ【トキ略字】節則免 ̄ル_二夭死 ̄ヲ_一始末慮 ̄ルトキハ_レ【トキ略字】遠
則不_二餓死 ̄セ_一 天命 ̄ノ之性 ̄スラ尚然 ̄リ焉況 ̄ヤ如 ̄キ_二気質 ̄ノ之性 ̄ノ_一依 ̄レリ_二其善
行 ̄ニ_一矣偶患 ̄フル_二麻疹 ̄ヲ_一者唯専_二 一 ̄トセハ養生 ̄ヲ_一何為 ̄ソ有 ̄ン_二幸不幸之異_一哉
此書拾_二鳩 ̄シ古今 ̄ノ医説 ̄ヲ_一投 ̄テ_下得 ̄ル_二其症_一者 ̄ニ_上欲 ̄スル_レ令 ̄ント_レ不 ̄ラ_レ誤 ̄ラ_二全体 ̄ヲ_一而已
  文政甲申春          重田貞一謹誌

   麻疹(はしか)之来由
○痘瘡(はうそう)麻疹(はしか)ともむかしは曽(かつ)てなし此故に内経(ないけう)に載(のせ)ず後(ご)
漢(かん)の張仲景(ちやうちうけい)も又これを論(ろん)ぜず魏(ぎ)より以来/病論(びやうろん)あり
といへども薬方(やくはう)なしたま〳〵唐(とう)の孫真(そんしん)人はじめて疱(はう)
瘡(そう)の治(ぢ)方を出せども麻疹のことはいまだあらず
○或書に曰/推古(すいこ)天皇三十四年日本/穀作(こくさく)実(み)のらず
是によりて三/韓(かん)より米粟(へいぞく)百七十 艘(そう)を調進(てうしん)しける
その舩/浪花(なには)につく舩の中に三人の少年 瘡疹(さうしん)を
なやむものあり異形者(ゐぎやうのもの)蔭(かげ)のごとくその病者どもに
付そひゐたりけるゆへ側(かたはら)のものあやしみその名を問(と)ふ
にかのものども答(こた)へてわれ〳〵は疫神(ゑきじん)の徒(と)なり瘡疹(そうしん)
の病(やま)ひをつかさどるものにしてもとは此病をうけて
死(しゝ)たるものどもなるが今 疫神(ゑきじん)となりてこの病者に付
こゝにわたれり傷(いたま)しきかな今よりして此/国(くに)の人もまた
これを患(うれふ)るべしと云おわりて形(かたち)消(きへ)うせたるがそれよりして
日本に瘡疹の病あるといへり然(しかれ)ども恐(おそ)らくは此疫神