@chinjuhさんと読む草双紙の翻刻テキスト

このテキストはみんなで翻刻で作成したものです.利用条件はCC-BYです.

[大昔化物双紙]

御存の化物

【以下と内容は同じです→大昔化物双紙 2巻・ https://honkoku.org/app/#/transcription/4B5A859D5566995808D7844291EF99C8/1/?ref=%2Fprojects%2Fkusazoushi%2Fcollections%2F8D9A19D520D25828E144B163972281E4】

寛政四年【1792年】
御存しの化物
桜川慈悲成作
歌川豊国画

化物楽屋異牒

むかし〳〵とは
まん八きよねん
しのたぞめの
大たてもの
くすのはが
弟きつね
こんくはいと
いふもnあり
もゝくり三
ねんかき八
ねんして
いきとし
いける
もの
いつれか
くがいなら
ざるはなし
きつねもち
とせやこん〳〵
といふて□
手を□ち□【打ちて?】
【左ページへ】
大つう人となる
それ大つうは
きつねとかはり
きつねはたい
つうとかはる
りくつなり
こんくはいもねん
あけかまちとふ
しくねんかあ
いてのたのしみ
はやかて
ひやつこのなを
ついてはかすをつね
の此まゆけいとより
ほそく【木の下へ】■よしか
あり【木の下へ】かて□の
もの【木の下へ】いゝならい
きものも【木の下へ】とふさんが
よかろふか【木の下へ】くろ はち
かよかろふ【木の下へ】かとふ
かこふかき
ちかいのやう
になつて
いる



こんくはいしきりに大つうに
なりたくなりな年【?】とは
ちとうつゆへとふ り【里?】
丁の京伝か出みせて
大つうを一ふくろ
かつてかへりし事【?】
わかなすきいも
うりおやちか
またとなりへ
あんしつを
たてけんくはんには
はま丁りうにて
くろとろに する
けなしこんくはいとみせ
つけ鳥なきさ との
つうかうしや【しやく?】をはじめ
けるにきんねん はは
けもの
もつうになり
たかるべく
もつてゆき
たれば大き
にをちがき
てあふらあけ【油揚】や
あつきめし【小豆飯】のあ
けてあるもん
せんいちを
なしける【門前市をなしける】

【入り口の貼り紙】
するけふし
こんくるい

【イノシシらしき人の台詞】
これか
こんくはいとやら
かうちたそう
たふつさうな
いへたさとう
かね【座頭金】てもかり
ていると
みへる

【左ページ上の台詞】
ちつと□□□
ござらぬこの
くらいのとこ
ろはおちやのこさ

【本文】
こんくはいは
ちよ〳〵ら
をもつて
かけのめし
やぼなは
けものとも
にありがた
がらせけれ
ばそののちや
ること■
ちなし
さんのくら【うら?】
かたのごとく
大しさんの
おみくじの
ごとし日にはいゝ
たりといふかづも
しらずそのひやう
ばんゆやの二かいかみ
ゆいとこはいうも
さらなり

【三つ目の化物の右、台詞】
なるほどおもし
ろいことさ
まなんでよる〳〵
つうけんこう
しやくをま
けだ

【天狗の下、台詞】
さよふさへんせ
さわやかにかう
ちうすゝしく
どふかこれでは
はみかきの
のうがきの
よふだ

たぬきどのは
まだきやせぬ
     ね
大かたはらつゞみでもうつていやろう

ばけもの共は
みな〳〵よしはらの
ものになりげい
しやびろめつき
だしもみこみ
のふるまいをし
むけんのかねの
ちやばんをこじ
つけみな〳〵
おつくるめて
すへはん
ぜうにさ
かへける

ねこはめり
やすを
ひく
〽おもいには
どふしたひやう
りの
 いやう
たんか ねこの

こねこお
こね□のこ
いかにつと
めじや
ねつみじやとても

【下へ】
〽きつねは二かいより
れいのこのはを
ふらせる

〽かつははてうづ
はちのやくをつと
むる

〽はうら〳〵はおもて〳〵
おちばかなときて
       ゐる

ゆき女ははむらやにて
こじつける

山東けいこう作回【圖?画?】

化物一家髭女

信有奇怪會

信有奇怪男 完

【以下と内容は同じもののようです→https://honkoku.org/app/#/transcription/3B3F007B34BD47599101F93D290DB5C6/1/】

寛政八


信有奇怪会 一九 画作 二冊

水虎十弐品之圖

【上部中央に横書】
《題:水虎十弐品之圖》

按するに川太郎は一種の水怪にして不可思議のもの也其類数種あり
関東にもありと雖ども甚た稀にして人に害をなす事も亦稀也豊後
地方に産するもの甚た多く人其害を蒙るもの少からす是亦別様
のもの也漢土の書籍にも其事を載る事をきかす水虎の名
本草【本草綱目】溪鬼蟲の付録に載す然れとも共に其説審ならず

唐山□木容及 山𤢖(ヤマオトコ)【操の偏を犭にした文字】等の名あり即此ものの属か    幽冥録

【上段を右へ】
河童
豊筑に産する
もの全く人形 又
猴に似て毛細長
し能人言をなして
好て相撲をなす
も亦人と同し妄
に人目に触るゝ事
なし形をかくすの
術を得る事化物の
及ぶ所にあらす

説文云蛧蜽山
川之精物也淮
南子説蛧状云
如三歳小児赤
黒色赤目長耳
美髪【淮南子に髪とあり】正字通蛧
巫紡切音■徐
絃曰俗作魍魎

享和元年辛酉六月
朔日水戸東浜
にて網に
かゝりたる
河童(かつぱ)高 ̄サ
三尺六寸余
□ ̄サ拾二■■【重さ拾二貫ヵ、3.75×12=45Kgでそれらしい重量となる】
なり状ち
  図の如し

     此二図は
      表裏なり

【左頁 続】
     菅原大明神什物
     水虎の害を避くるに菅丞相和歌あり
     いにしへの 舶来せしを忘るなよ川立男氏は友原 俗伝 ̄ニ云【友は菅か?】

【右下の図】
水虎陰乾図長 ̄サ二尺余

【左下の奥書】
紀州 浩雪坂本先生 鑒定
     純澤先生 縮圖
東都書肆 林奎文房潤暉發兌

【左下の欄外】
彫工師 大隅豊次郎

【下段右から】
其類属のうちにも年を歴たるものは力量つよく能
人家に入りて婦人となり男子となりて魅(み)せ
られて抱さるゝものありといふ

【中段】
此水虎の図は越後国新潟に産するものと云
寛政甲寅■【之ヵ】秋奥の旅中に写すもの也

【その下】
脚図
の如し

長 ̄サ七寸手足の指五 ̄ツ面はさるのことく
惣身に細毛あり

寛永年間豊後國
肥田と云処にて獲る処の
水虎写真也人是に
触るときは手の鮮腥(ナマグサキ)
なる事譬るものなし
頭上の凹処蛤貝の如く
深 ̄サ二寸許髪■■■
かふりて此凹■■見分
難し牙は前上下四枚
魚歯左右二枚ありと云

【図書ラベル】
特1
3158

紀藩医坂本浩雪著。水虎の圖

妖相生の盃

《割書:新板|風流》妖相生の盃 富川吟雪画 全

【「化物三ツ目大ほうい 2巻」と内容は同じです → https://honkoku.org/app/#/transcription/6D490FD1EB93AF5B9FFAA67A6F7B094F/1/】

怪物つれつれ草

化物世界夜半嵐

化物仲間破

化物和本草

化物和本草

寛政十


京伝作 北斎可侯画
上中下之上

やまと本草

獅子身中蟲(しししんじうのむし) 《割書:/加古川本草(かこがわほんざう)|/綱目に曰(かうもくにいはく)》

しししんぢうのむしといふはかしらはつりどうろうのことく
はねはくものすのごとし(く?)しりおはふみのごとし
つねにえんの下にすまいをなして?こざかなを
ゑじきとなしそのこゑ
ゆらどの〳〵となくあるひと
かんざしをしゆりけんにうつて
このむしをころしかも川に
ながしたるとなりもつとも
あかい■■をき■■ふむしなり
いつたいこのむしは
そのいゑにしやうじ
そのいゑのろくを
はんでそのいゑを
ほろぼさんと
はかるいたつて
ふぎふぜんを
このむなり
にくむべく
おそるべきむしなり

忠臣蔵
七段目に
つまひらかなり
いまここに?
しる?す

【右ページ下】
〽ゆふべのゆめミが
はるかつた
にげろ
〳〵


【右ページ中ほど】
〽あのひとはしやうぶかはの
きものをきているから
てらおか平右ゑ門と
おもつてひつくりした

【左ページ】
のふこはや
おそろしや

/平気蟹(へいきがに) /大(だい)の平記物語(へいきものがたり)に曰(いはく)

へいきがにといふはそのむかし
寿永(じゆゑい)のみだれに平家の
いちもん西海(さいかい)のなみにしづみ
男子(なんし)の一ねんはへいけがにとなり
女子(によし)の一ねんはへいきがにとなる
かうらはおんなのかほのごとく
はさみはひらも■いにに?てあしは
べつかうのかんざしのごとしめは
わげゆらちひに?にたりやまのくづるゝ■■やうな
ことありてもへいきなるゆへかくは
           なづくるなり
とかくひとに
さからふかににて
ものごとよこに
ばかりあゆむなり
うたがいふかく
むねのうちに
つるぎをかくし
りんきしつと【悋気・嫉妬】
のこころおおく
ややもすれば
男観(おがん)?■をしりに
しきたがるかに
なりそのやくに【ゆへに?】

【左ページ】
て■■■■
■■■
へ■■

べきかになり


【左端】
■■ひるめし?
■へじや■■■■■
へ■■いて
にげ■くい■


【左ページ下】
■■■
いのちは?
とふ■
■■■
して
くだ
され

かか■な
は■にけ?
さつしやれ




ひとのせがれ?
ふ■■ずんにて
ゆうきやうにふけり
すじついゑにかへらす
父母のなげきに
■■もて?■■の
ひとをたのみ
ごくろうにては
いへどもきさま
け■■らん事さ■いて
なに■ぞと■■■■を
いゑにつれかへりくださる
べしとたの■かれすなわち
ゆうきやうのちにゆきれ
かのせかれにあわつれ
かへらんときやうらんを
もち■■ときかの
せがれのいへるは
ずいぶんきとうさまの
■■けんにしたがい
すらくやかえかへり■べし
さりながらまづ■■
いつさんめしあがつて
くだされとす■られ
したぢは■きなり
■■いのみ■
はいの■
つ■には■■■

【左ページ】
■■■■■
ふぎゆう■■■
なじり■■■■
ともにい■■かく■を
わ?するこれをなつけて
みいらとりの
みいらになる
とは■なり
これは■
はだ■■の
にはどゝ
やくなり


このみいらは
ずいぶんなりを
みやはせ
たび〳〵
いけんで■■■
さいまつして
もちひずは
くすり
には
なるまい






化物太平記

化物見世開

信有奇怪会

信有奇怪会 上、下合冊

【以下と内容が同じもののようです→https://honkoku.org/app/#/transcription/16DD3A931016579B177FBECD50D396D1/1/edit #みんなで翻刻 】

寛政八辰年 三十九 木村氏

一九戯作
信有奇怪会(たのみありばけものゝまじはり) 上
【屋号紋・丸に岩】岩戸屋 板

【1796年】

ばけもの
なかまもきん
ねんはあ
まりお
ちをとつ
たことも
なくきん
ときでやい
にへこみどう
しにてその
うへこのごろは
ばけものなかまの
こむすこやこむすめが
まよいごになつて
ゆきがたしれざる
ものかずをしらず
ばけものでやいの
事なれば
よもや
きつね
たぬきに
ばかされた
でもあるまい
かみさそい
ならばてんぐ
たちのはこに【?】
いるはづそう
でもなし
なんでも
ふしぎな事たと
ひやうぎまち〳〵
にてすてゝもおかれ
ずといゝやわせて
たづねにでる

【右上】
人のまよいごは
のやまをたづね
ばけものでやいの
まよいごあとかく
まちなかを
さがしあるく
かねたいこ
よりふへと
たいこでヒヤウ
ドロ〳〵
まいごの〳〵
ろくろくびヤイ
ヒヤウドロ〳〵〳〵

【右ページ下】
りやう
ごくあた
りを
たづね
たら
しれ
そふな
ことだ

〽まいこの〳〵
ろくろくび
ヤアイ
チヨン〳〵
チキ〳〵
チヨン
チキ


みぶおどり
どころ
じやアねへ
しやれせんな【?】

【左ページ下】
ろくろくびどのは
めんかはまぶし
大かたしりくらい
くはん九郎にでも
あやなされねば
いゝが

三つめにう
どうの
ひとり
むすめ
ろくろ
くびは
かねて
みこし
にう
どう
とち
ぎり
てい
たり
しが
みこし

かたへ
かよい
ける
みち
にて
きん
ひら
にいで
あい
ければ
つねの人と
こゝろへ思入
【左ページへ】
おどかしけるを
きんひらはかねて
ばけものづきにて
わざとまいよ〳〵
うしみつごろ
よりでかけ
ものすごき
のやまをそゝ
りあるきける
おりから
ろくろくび
にいでやい
まづこいつも
しめこの
さぎとながい
くびをひき
ばつてつれ
かへりける

【すぐ下の台詞】
〽きんひら
さんおゆ
るしあそ
ばせぬし
とはおも
いもよら
ぬ事さ
くびがち
ぎれま
すアレエ
   〳〵

【右ページ下】
おらがだんな
もばけものを
はりかける
とはとんだ

わるい
おもい
つきだ

みなもとの
らいかうの
かしん
さかたの
きんひら
このあいだ
よりば
けものを
あつめる

歌の化物一寺再興

歌の化物一寺再興

むかし〳〵づんとむかしのことなりけるか
さるいなかのかたほとりにもり村とか
いへる所ありかの
もり村の山おくに
大寺なれど大にあれ
たるふる寺あり
けるがいまは
ばけ物のすみ
かとなつて
いかなる出家を
なおしても一夜をも
あかしへずだん〳〵と
       ばけ物

はびこり
所のすいびならん
ことをかなしみ何とぞ
しやうたいをみとゞ
けよきそうを
なおし寺を
とりたてるは
所もはん
じやうせんと
いろ〳〵
そうだんする

〽のぞみならは
ともかくも
いたそうがたい
ていなめい
そうでなくは
いくまひ
   ぞや

〽庄や
との
しやう
うんと
いふ
ほう
ずか
いく
べいか
いゝ


すが
とふし


べい
【庄屋どの、常うんと云ふ坊主が行くべいか、云い申がどふしますべい】

むら近所のほとりに
しやうんといへるぼうず
所のいたづらものを
あつめばけ物をみとゞ
けにゆかんと
   そうだんする

なんのばけ物
今どきやぼと
はけ物はござらぬ

〽しをう
せると【し遂せると】
てらは
そさまの
ものじや
うまい
ことよ

〽こなたが
なんほ
じまんしても
ことはの
よふに
いけば
いゝが

【右ページ下】
きづ
かい
さつ
しや
るな
おい


いく
べい


【左ページ上】
〽かくて百しやう
常うん【僧侶の名前】をともない
ふる寺へきたる

このてらだ
きついあれよふしや
どふかもふこわい
      よふだ

〽きづ
かい
さつ
しや
るな
やかて
ちうし

なつて
みせう


【左ページ下】
常うんどの
あたまから
くわれ
まい

其ゟ常うんは
ばけ物のふる寺へ
ゆきだん〳〵と
夜もふけければ
みにしむかせも
ものすこくみのけ
よだつばかり
     なり

つなまくさき
かせふきくれば
一つまなこの
大ふりそでたんざくを
もつてのろりと
いつれは【出れば】さもあわれなる
こへたか〳〵に

〽こよいの
月はそらに
こそすめと
うたの下ばかり
よみてわつと
いふてきへ
うせける

【左ページ上】
ぼうさん
此上の
くわへ【句わへ】

〽おけ〳〵
そんなくは
おけにしろ
地口の
ほうか
よつほど
いゝ

【右ページ下、百姓たちの台詞】
なんのこつたおらがみゝへは
ねからわからぬ
とうやらちりけ
もと【身柱元】が
そく〳〵とし
てきた
【身柱元は首元のこと。身柱というツボがあるあたり。】

どれ〳〵
おれか
上のくを
つけよ
【左ページへ】
〽名月や下てはたんこ
くろうなり
なんといゝく
たんへいこれで
よいか

もし
〳〵

せう
さん【和尚さん】
わた
くしは
おまへ
の■■
じや
おめをかけて
くたさり
   ませ

【右ページ】
入道はあいみ
たかひじや
なめあみだぶつ
      〳〵

常うんは
けうすること
なりがたく
いのち
から〳〵
にけかへる

ひよんな所へきて
うきめをみる
ことじや

さあ
いきつき
一口
のまんせ

【左ページ】
〽くらくは
ぼんぼりをあげ
ませうとつくりと
みてゆかんせ

アイ
大あしから
いたぞんざい
もんてこんす
みしつて


らい

せう

けたり【蹴ったり】
ふんたり【踏んだり】
やしや【夜叉】
みやう
  おふ【明王】
たすけ
給へ〳〵

所の庄や
とゞむる
いらぬことゝ
おもつたに
二人の
しう
かし
こく
もつとも
じやりやうけんして
やらしやれ

〽かくて
常うんは
じまんして
行けるが
はしめのことば
と大きにそう
いしていのち
から〳〵人さきへ
にげかへりける
のこりし
二人の
もの
ども
大きに
はらをたち
さん〳〵
ちやうちやく
する

【右ページ中央、若い衆の台詞】
衣を
はいて
村をたゝき
だす
べひ

【右ページ下、常うんの台詞】
わしはせん
きか【疝気が】
おこつた
からそれてはやく
かへつたまつひら
ごめん〳〵

【左ページ上、本文】
かゝる
所へ
たび
そう

おり
かゝり
いさい

きく

とぞ
その
ふる
てらへ
おしへ
たべ

たの

ける

【村人の台詞】
これよりはるか
山おくにてあつたら
てらでござります

たびそうお
ふるてらへ
あんないし
ければ





たゞ
その
よは
こゝに
とまりける
〽やれ〳〵いかい
おせわで
ござるあした御目に
かゝりおはなし
申さん
おさらば〳〵

【村人の台詞】
〽たきゞを
したゝかよせました
お茶でもわかして
あがりませ
あのぼんさまもいらぬ
ものだ

【右ページ下、村人の台詞】
おさみしくも
ごゆたん
なさるゝな
明日
御目に
かゝり
ませふ

【右ページに落書きあり】

歌化物一寺再興 下

くだんのたびそうはぜんかくの
さとりざぜんのくんで
いたりければばけ物
さま〳〵とよふかひ
をして
心をひきみる

直指人心(しきしにんしん)
見性成仏(けんせうじやうぶつ)
【経文などに頼らずに坐禅によって心をみきわめ悟りに至ること。主に禅宗で使われる。】

【左ページ下、本文続き】
いろ〳〵なる
すがたを
あらはしけれども
さとり給ひし
めいそうゆへ
ばけ物ども
ばけ
あくむ

かつての
とうぐ
それ〳〵に
ばけて
やしよくの
ていにみへ
ける

【包丁の妖怪の台詞】
なつきり
はつきり
やまひ
きり

【お膳の妖怪の台詞】
こんやは
かよひ
ほんが【通い盆、給仕に使う盆】
るすだから
いそが
しい〳〵

おれが
みんなの
じやまを

しよう
くわら〳〵〳〵

【右ページ右下、田楽をあぶる妖怪の台詞】
でん
かく
大じに
おとさぬてんぎゃう
大じのおんさくなんと
地口か〳〵
【田楽大事に落とさぬ、伝教大師の御作、なんと地口か地口か】

【左ページ上、丼の妖怪の台詞】
〽どん
ぶりと
うまみに
はまる
とりさかな
なんと
名くか【名句か】

【釜と竈の妖怪の台詞】
〽かまど
しやうぐんと
いつてだいところては
けむつたい
ほうだ【火吹き竹の台詞に続く】

【左ページ中ほど、樽の妖怪の台詞】
酒であか
さぬよは
とてもなし
おれがいねへ
じやざし
きが
さむし
   い

【左ページ下、火吹き竹の妖怪の台詞】
どつこい
そのけむたい所を
こうふきつけるば
きつ
いか〳〵

すでに
ばけつくし
ければ
もはや
ふしぎなる
ことも
あらんと
一間の
うちに
入て
みれば
はるか
上ざ
なる
上人
らしき
ばけ物
こん
ばん
のほつくはいかゞ
ありしぞ
はるかばつさに【遥か末座に】
ありける
こせう【小姓】
とり
あへず
【左ページへ】
〽こよひ
の月は
そらに
こそ
すめと
よみ
ける

【右ページ下】
ハヽア此てらのじうそう
ぼんのうにくらまされし
すがたもくぜんに
みへけるぞ
たびそうは
とり
あへす

〽か
げうつる水は
こふりにとぢ
られて【小姓姿の化物が詠んだ下の句「こよひのつきは…」に上の句を付けたということ】

【左ページ下】
かくよみければ
ばけ物このかみの
くのさとりの
うたにしうんの【紫雲の】
うきくもはれ
やきせうぶつ【成仏】して
はつとかたちも
きへうせける

〽まことに
ぼんのふの
火もきへうせて
山〳〵のかね
かふ〳〵と
ものしづかにぞ
なりにける




もり村の
百姓
あつまり
ふるてらへ
きたる
かくて
ぜんそうは
ふるてらの
しうしんのばけ物を
さとりのうたにて
ぜうぶつしつゝがなく
ひとりよを
あかしける

【すぐ左下】
〽やれ〳〵かわる
ことなふ御目に
かゝりました
いかひおもから〳〵【?】

【その左下】
どうぞ
御ようすを
うけ
たまはりたい

【右ページ右下すみ】
これははァ
あきれ
ました

【右ページ左下すみ】
さて〳〵
かおり
申た
めいそうて
ごさる

【左ページ、僧侶の台詞】
みな〳〵ござり
ましたか
なんのことものふ
よをあかしまして
ばけ物をば

まつ
とゞめ
ました
こゝろ
やすく
おぼし
めせ

さァ〳〵
こゝへ〳〵
おはなし
もふそう

夫ゟ
村にては
大きによろ
こひ
きん
ごう
【左ページへ】
きん村
より
あつ
まり
かの
あれ

こん
りうし【建立し】
ければ
らう
にやく
なん
によ
くん
じゆ

ける
ぜん
そうぢうしとなり
給ひさとりの
うたをおがませしゆじやうの
まよひをさいどし給ふ
〽かげうつる水こほりにとちられて
 こよひの月はそらにこそ
          すめ


まことに一寺を
とりたてしも
どふぜんなりとて
村中あつまり
よろこひ
いわいける

〽わしはちくとん
べい【少しばかり】いわい
申べいばけ物
ハアぜんそう
さまの御めい
かてヱ【御名歌でぇ】
どこへかへん
ぬげて
いきやつたから
あとはうらゝか
しあせだ所も
はんぜうさく【さゝ?】
   はんぜう

此草さうしもよく
でけたと御ひやうばんの■
たのみます
等々うやまつてもふす
目出たいこんだァ

おらァ
ちやわんで
やるべい
おもいれ
のんで
さわげ
〳〵〳〵
なんだか
むしやうに
目出
たい〳〵


【左ページ手書きで】
中嶋屋内
妙けん


大昔化物双紙

大昔化物双紙 完

【以下と内容が同じ本です→ https://honkoku.org/app/#/transcription/0E6BFA83690E76BE9BF12C64824DF76C/1/】

寛政七乙卯春【1795年】

大昔化物双紙
慈悲成作
豊国画
二冊

御ぞんしのゑちごの
くにの大にうだう
一子を一つめ小ぞう
とてちやうあいし
けるに此小ぞう
おやにおとらぬばけ
ごうしやにてありし
かばあまたのばけもの
に□たう【にうたう】にいふやう
一つめどのいん■【ま】はあつ
はれのばけやう
なればにうだうは
ゐんきよして世を
一つめにゆすり給へと
すゝめけれはにう
だうもなかまの
すゝめによりて
わが一つめをくり
ぬき小ぞうに
ゆづりわがみは
めひとつぼう
とあらため
世をのがれて
くらしける

【ゑちごの入道の台詞】
小ぞうめに世をはわたしたが
あじをやればいゝがむかしと
ちがつていまはばけものも
だへぶしにくひが


【右ページ、大入道の息子の台詞】
おれがなりは
ひらがなの
つぢほう
ゐん【辻法印】と
いふ
みだ

おやぢはよつほと
人にこはがられた
もんだがおれも
うまく
やりたい
もんだ

【左ページ】
一つめ小ぞうは
にうだうに世を
ゆづられなか〳〵
いまゝでのやふに
まるぼんにとふふ【ママ、豆腐】を
のせてあめふりにやな
ぎのしたからもゝん
じいとやらかすよふな
まだるいことをしては
大にうだうのかぶが
すたるとかのどうじ
がうし【童子格子】の大どてらを
こしらへてつのぼうを
よた〳〵とついてしよ
こくばけしゆぎやうと
でかけける

【右ページ台詞】
よく〳〵
はからへ
〳〵

ずいぶん
ばけなかまで
はなのひしやげぬ
やふにするかいゝ

かつてんか
〳〵


【左ページ上、本文】
たんばの山おくに
ひゝといふもの
ありてよく人を
なやまししゝ【ここでは猪】おゝ
かめ【狼】をとりくらひ
山をあらしけれは
さと人これがために
なやまぬものなし
たんばのくにのばけ
ものだいしやうといふ
しかるにひゝがいつしを
山わらう【山わろう=やまわろ】といへりされ
ども山わらうはばけもの
だいしやうとなるべきはたらき
なければひゝせんかたなく
みこしにうだうといへるものを
こぶんにたのみ申けるは此たび
ゑちごのくに大にうだうがせがれ
一つめ小ぞう世をとつていまにう
たうといゑりかればけしゆぎやうに
いでたるよしきゝなればなんぢかの
いまにうだうとみるならばひつとらへ
はなをひしぎくれよとみこしびうだうに
いゝわたしける


【左ページ、台詞など】
山わらは
へこんでゐる

なにさおめへさん
まだ一つめ
ぐらゐの
小ぞうが
此みこしに
あつておた
まりが
あるもの
    か
【おたまりがあるものか=たえられるわけがない=ひとたまりもない】

こゝにばけものさと
とてあまたの
ばけものうつゝを
ぬかすくるはあり
なかにも
なかくびやの
おろく
おゝさむやの
ゆきの夜
とてそのころ
なだいのぜん
せいありけり

【台詞】
おゝしやうし【笑止=おかしい、馬鹿馬鹿しい】

【左ページ】
此くるはのすけん【素見=ひやかし】
たるもろこしの
ばけもの
すいくはのばけもの
そゝりうた【そそり歌】で
でかける


【ひやかし客の台詞】
とんだ
うつくしい
もんだ

コウ【ヨウ?】たうもろや
これからちつと
もゝんぢいよこ丁を
ひやかそふじやァ
ねへか

【遊女を先導するちょうちんの台詞】
おろくさん
あんまり
おのびな
さへすな
人ごみで
かんざしが
あぶなひ
ぞへ


いまにうだう【今入道】
つく〳〵と
おもひけるは
ばけのさとは
おふくの【多くの】ばけ
ものゝゐりこむ
ところなれば
此さとにいり
こみばけしゆ
ぎやうせんと
まいや〳〵
かよひけるが
此ごろの
つきだし
しんやの
毛(け)女郎と
ふかくなれ
そめける

【右ページ下、台詞】
此ところ
だんまりに
しておくべい

【左ページ】
ひゝがやうしの【狒狒が養子の】
みこしにうだうは
毛女郎がつき
だしのそのひ
よりいろ〳〵
こゝろをつくし
てにいれんと
しけれども
いつかうとく
しんなければ【一向得心なければ】
いかなるわけ
やらんとおもい
けるに毛女郎は
いまにうだうと
ふかくなじみて
うまきなかときゝて
きもをつぶし毛女郎□【を】
今にうだうにとられては
やしなひおやし【養ひ親父】たるひゝに
いゝわけたゝずなにとぞして
毛女郎をわがてにゐれいまにう
たうのはなをひしがんと心を
いたむるおりから【折りから】くるは【郭】にてゆきあひさや
あてしてついに毛女郎のもらひひき【貰い引き】になる

【左ページ下、台詞】
おれも
だんまりで
いべい

【だんまり=歌舞伎の暗闇のシーンなどで、台詞を使わず誇張された動作だけで表現すること。】



かくて
ふたりの
にうだう
たがひに
毛女郎を
もらう
ならんの
いゝづく
より
かたなに
かけてと
ぬきつれて
たゝかふところへ
しんやの毛女郎
かけきたりふたりの
かたなをおさめさせ
ひとまづしんやの
にかいへつれゆく

【今入道の台詞】
われから
ひけ

【見越し入道の台詞】
われから引

【左ページ毛女郎の台詞】
にうだうさん
うたがひが
それたはい
のふ

【本文】
今にうだう
毛女郎へ
しんぢうに
かた〳〵の
めをくり
ぬいてやる

いたい〳〵
めいたびらめと
きてゐる
【目が痛いのと、目板鮃という魚をかけた駄洒落。江戸時代中期にはヒラメとカレイを明確には呼び分けていなかったので、メイタビラメは今でいうメイタガレイの事だと思われる。】

【前のコマを見ると今入道は越後の一つ目小僧のことを言っているが、挿し絵で目をくりぬかれている入道には長い首があり、見越し入道に見える。ただし着物の柄は一つ目小僧のもの。】
【次のコマでは狒狒が「親から貰った片目を女に与えるとは」と言っているので、やはり目を抜かれたのは一つ目小僧でなくてはならない。】





【丹波の狒狒の台詞】
ヤイ小ぞう
いかにとしか
ゆかぬ
とて
おやの
ゆづりし
ひとつの
めを毛女郎のためにくり
ぬきなにをもつてばけものゝ大
しやうとなるぞ此上は入道とはよばぬ
やつはりもとの一つめ小ぞうだ〳〵〳〵と
あくこう【悪口】する

【右ページ下】
ひゝ一首歌
〽ばけおふき
ばけが中にも
ばけぞあり
ばけになれ
    ばけ
ばけに
  なれ
  ばけ

【右ページ上、本文】
みこしにうだうは
いまにうだうにおゝきに
【左ページへ】
へこまされ しかばおやぶんの
ひゝ大きにはらを
たちとしよつての
さとがよひはあまり
でかさぬ事ながら
みこしがはぢをすゝ
がんとしんやの毛女郎を
あげぞめにしておく

いまにうだう
ひゝにみつけられ
いろ〳〵あつかう【悪口】
       され
むねんがる

【左ページ下、毛女郎の台詞】

まい

〳〵
てゝは
ならぬ
はい
のふ

【妖怪たちの台詞】
はやく
どこぞへ
いつて
こどもでも
おどかせやい

きり〳〵
きへて
しまへ
〳〵

うぬがざまを
みをれやつはり
もとの
ちよろけん
小ぞう【注一】た
ホンニ
どじめ
かん
ねん
ぶつ【寒念仏=物乞い】

【注一、 福禄寿の張りぼてを着た子供の見せ物】

あみだの
ひかりに
あたつた
よふな
ざまた

【右ページ左上、本文】
なさけなや
いまにうだうは
ひゝかはからひにて
たけのこがさを
【左ページへ】
かぶせられまるぼんにとうふをのせて
てにもたせくるはのわかいものに
いゝつけばけのさと
でぐちの
やなぎの
したへ
おひ
いだ
され
ける

【今入道の台詞など】
いまいちど
毛女郎にあはせて
くだされなさけ
女郎だと
しやれる

いまにうだう
ひゝにあつかう
さればけものゝ
くらゐをくるは
よりおいさげ
られし事を
おやのふる
にうだう
ひそかにきゝ
□【こ】ゆへのやみに
ゑちごのく□【に】を
いでゝせがれが
ありかをたづね
さまよひける
おりから毛女
郎はいまにう
だうがあとを
したひくるはを
かけおちして
ふたりしな
んとかくごの
ところへふる
にうだう
ゆきあひ
【左ページへ】
ばけもの
だけにこは
ゐけんも
よくきく

此ところ
じやう
るりと
いふば
なれども
そんな
きの
きいた
ばけ物
にては
なし
ずんど
むかしの
事ゆへ
たじ
ひと
とをり
なり

【右ページ下、古入道の台詞】
いまにうだうやァい
毛女郎やァい

ハッアノ
ひとこへは
かつはち【注一】
にうだう【入道】
ほとゝぎすか
ハア
そふじや
〳〵

【左ページ下、毛女郎の台詞】
こちの人ばけめに
かゝらぬうち
はやくしに
たいはい
のふ

【今入道の台詞】
そなたはながらへ
わがばけあとを
とふてたべ


【注一、加牟波理入道という便所に出る妖怪がいて「かんはり入道ほととぎす」と言えばこれに出会わないと言われている。その俗信にかけた言葉であろう。】 

【毛女郎の台詞】
こちの人
にうだうどの
あつぱれ〳〵と
ほめてもみるめが
ないやつさ

【古入道の台詞】
ヲヽ〳〵
そふだぞ〳〵
もつと
もゝんぢイ引と【長音記号の表現か?】
ながァくひつぱれ
〳〵〳〵

【右ページ左上、本文】
子にはめのない
おやこゝろとふる
【左ページへ】
にうだうなにとぞ
せがれをばけもの
だいしやうに
したく思ひ
あとにのこ
りし
たつ


ひとつの
めをまた
くりぬきて
せがれにやり
ければ毛女郎の
これぞふうふの片目(かため)
なりとてはじめもらひしめをくりぬきいま
にうだうにわたしければいまはあつはれめいよの
ばけものだいしやうゑちごのくにの三つめにうたう
とてはけものなかまおそれをなしけるとぞ




酒田(さかた)の金時(きんとき)は
ばけものたいぢ
せんとてくすね
してまちけるが
三つ目にうだうは
いまだじやくねんの
ことなればまた〳〵
おりもあらんと
きんときは
ゆうぜんとして
めでたき
はるを
むかへける

うた川 画【歌川豊国】

桜川慈悲成 作【櫻川慈悲成】

紺屋百物語

紺屋百物語

【タイトルは違いますが内容は以下と同じようです→場戯嘉話古手返 : 3巻 https://honkoku.org/app/#/transcription/E294C8CFA43937EC381C1C2B9D19351D/1/ 】

大時代唐土化物

万物小遣帳

化物小遣帳

寛政八
      一九     九作
化物小遣帳  画作 二冊  全二冊

万物(ばんもつ)小遣帳(こつかひちやう)叙(じよ)
倹約(けんやく)と吝嗇(りんしよく)は水仙(すいせん)と葱(ねぎ)のごとく。其形(そのかたち)ひとし
けれども。吝嗇(りんしよく)には悪(にくむ)へきの嗅(くさ)みあり。倹約(けんやく)には
愛(あい)すべきの花(はな)ありて。能(よ)く霜雪(そうせつ)の中にしほまず。
終(つい)に一陽来福(いちやうらいふく)の時(とき)にあへるも。目枯(めかれ)ぬ花(はな)の徳用向(とくやうむき)
始末(しまつ)をもつて趣向(しゆかう)とし。所帯(しよたい)道具(だうぐ)に目鼻(めはな)をかき。
手足(てあし)をつけるも費(ついへ)なき。小遣帳(こつかいちやう)の〆(しめ)くゝり。先(まづ)
正月のはじめに記(しる)す
  寛政八 辰ノ春       十遍舎一九 題

【右頁上段】
人間
日用
なく
てかな
はぬものは
衣食(いしよく)
住(ぢう)の三つ
なりその中にも
食は人をやしなふの
とくありて天地の
正報(しやうほう)といふべし
一つさいしよ
たいとうぐ
そのしよくを
せいし出すの
依報(ゑほう)にして
みな〳〵
それ〳〵の

あり
一つとしてついへの事はなけれ共
なをもそまつのなきやうにと
だいところをしろしめすくわうしんさま
どうぐしよしきのつとめかたをいち〳〵
てうめんにしるし給ひ毎(まい)月三十日には
あ ため給ひてはげむものにはしやう【賞】を
【左頁上段】
あたへおこたるものにはばつをくわへてたゞ
けんやくのみちをとききかせ給ふそありがたき
〽国をおさむるは小鮮をにるがことくすといへり
又家内をおさむるはぢうばこにてみそをする
やうにせよとはすみ〳〵までゆきとゞかぬやうに
するがよひいふ事也あまりきめこまかに
するとりんしよくといふになりてけんやくとは
いふべからずけんやくのみちはおごらずたかぶらず

大時代唐土化物

化物尽

化物三ツ目大ほうい

化物三つ目大ほうい 全

【「妖相生の盃 2巻」と内容は同じです→ https://honkoku.org/app/#/transcription/2FA4C9D7F22F5F14E2E66E7766E25CC1/1/】

むかし
〳〵
ゑち
この国
おく山に
三つめ大
ほうつと
いうゑせ
ものあつて
はけものゝ
おやたまと
いゝしなたか
きはけ
ものあり
こゝに又しな
のゝくに■めしびつ
ふるそうという【飯櫃古蔵、コマ5にあり】
はけものゝおや
かたありしか
三つめかむす
めおろくをこいう
けんとおして
【左下、猫目のキャラの脇】
ゆいの
う おくる

ねこまたみけゑもん

【地蔵の左脇】
三つ目大ほうつか
ひとり
【ページ境目の木の下へ】
むすめおろくこい神【?】よう
くわいまおうへ さんけい
しみこしの介
をみそめる

【おろくの足もと】
よいわ か
しゆ【良い若衆】




【左ページ】
てんもく山みこし
入道かむすこ
みこし



おろく

みてふかき
こいしと
なる

【左ページ下のほうに小さく】
いた

さへ

めしひつふる蔵は【手の下へ】三つめかむ
すめおろくをもら【手の下へ】はんと
ゆひのうをつかわ
せしにしゆのう
せす

かへ
せ〳〵
ゆへ三つめを
うつすて
んとくわ

たて
  る

【右ページ下】
やれとん
たこと

つか
まへ
し事

しろ

めしひつさうたんなか
はくいのしゝ【白猪】かけきた
りふるわん【古椀】ひらさら【平皿?】
ゑんりよ【柄杓の下へ】なくふみ
とはしかけり
    ゆく

【左ページ】
やれかなはぬけが
をするなふみかゝれ
てははやいきても
なかもちはせぬ

【左下すみ】
ぬらや【ぬりや?】
のふろへとうじにいかう

二日替

ばけもの
    二日替
つわもの

寛政二年

三才の小児 不 俏 (われ)に問(とふ)ていふ金時が強(つよ)いか弁慶(べんけい)が強かと
日(いわく)金時より金平はつよく弁慶より弁かいはつよし
其つよいにも品定(しなさだ)めありて張(はり)のつよき姉女郎(おいらん)なれば
押のつよき客人(きやくじん)あり猶酒(なをさけ)につよき牽頭(たいこもち)カンの
つよき盲人(ざとう)いづれもつはものゝまじはりながら茶のみ
ある中の酒宴(しゆゑん)は御子様方の御口に合ず爰(こゝ)に慈悲(しひ)
なり椎(しい)の実(み)筆を走(はし)りこくらの走りかきして此ばけ
ものを書(かい)たり〳〵頭は申の年(とし)籠(こもり)尾(を)は酉(とり)の年(とし)の
新板(しんはん)もとより文盲(もんもう)慈悲(しひ)なれば大の眼(まなこ)を
ひつくりかへしておゝめに御 覧(らん)候へかし
           桜川杜芳述

【右頁】
さるほどに
源のらいくはう
四天王のもの
どもにをふせ
あるはひさしく
ばけものゝさた
なくそのほうどもの
ちからこぶもねかして
おかばねちからとな
らんことのほいなく
ふとおもひつき
此たびゑちごの
くにの大にうだう
をいけとりまいれ
とをふせにあるにさか田の
きんときわたなべの
源次つな
両人申上る
はきんときが
せがれ時太郎
つながせがれつな
次郎いまだきみへ
【左頁上段】
御ほうも
つかまつらず 
よきをりから
なれば両人の
せがれへをふせ
つけられ候よう
にとねがふ

 をふせつけ
   られた
  御ようを
    ほかに
  してまた
   なかつへ
     でも
    いくなよし
【左頁下段】
かしこまりました 
まつおうけは申
あげましよう

【右頁上段】
時太郎綱次郎
きみの
をふせを
こふむり
ばけもの
たいぢの
そうだん
するにかへ
るの子は
かへるにな
らずおや
におとりし
をくびやう
ものにて
しよせんばけものを
たいぢはならずどふ
ぞしてばけものに
うしろさへみせねば
よしそれにつけても
みこしにうだうや
ろくろくびをみる
とすぐにめをま
わすはしれて

【左頁上段】
あると
両人ばけ
ものゝつらうを
みぬくほう
    する

 なんでも
   つらを
     みぬ
  くふうには
   めんても
 かぶるが
   いゝトやァ
      ねへか

【右頁下段】
ばけものもねェ
 とんだ事を
  いゝつかつた

【左頁下段】
あて事も
ねまとり
てとり
  にくい

【右頁上段】
さて両人はゑちごの国へきたり
ものすごき
古いへありしを
みたてゝ
あしをとどめ
まづその夜は綱次郎一人
にて此所を
あづかりし
にひごろ
ちやばん
しろと【素人】しばい
のこゝろがけあれば
あつがみにて団十郎の
目をこしらへばけものをみぬ
ように
しつかりと
わが目にはり
きみわるくり
きんでいるところへ
まづ御ぞんし【御曹司】のみこし
にうどうみならい【見習い】
のためせがれ一つ目小
ぞうを
つれて
【左頁上段】
きたりもんぢァ
でももんぐわァ
でもおどろかずみこしも
いろ〳〵手をつくせ
どもおそれぬゆへ
大てれほうにて
うすどろにて
すご〳〵かへる

 をれはよいから
  ■■みとふしぎだは
あゝつ
 かもねへ

【右頁下段】
  あたまから
 しほをつけ
てかもふソ
 なんとこ
  わいか

【左頁下段】
とつさん
 にんげんが
 こわいかほ
 している
 からきみ
 がわるい

【右頁上段】
よくばんは時太郎がばん
にてこれもおなじくはり
この大あたまをかぶりま
ちうけしにこよいはみこし
にうどうが女ぼうお六
でいりのたいこいしや【幇間医者】ぶか
りひよんお六がおいの河
太郎とうせいのばけ
もの二三人ひきつれ
きたりしがとき太郎は
なにがきても
大あたまで
かほをかくして
いるゆへおそれ
もせず大
きせるを
いのちから〴〵
にぎり
つめてしや
つちくばつ
ているをみ
てばけもの
これはたまら
ぬとみな〳〵にけかへる
【右頁下段】
はやくなくなれひさしく
いるとをれもきみが
わるくなるぜ
【左頁】
さても
こわい
かほ
 じや
今時
あの
 よふ
  な
にんげん
はない
はづ
 じや
  が

こちの人の
むかしかたぎ
ではおそれぬ
 はづ
   じや




【右頁上段】
みこし入道
いろ〳〵あら手を
いれかへ〳〵はたら
けども両人の
よはものびつ
くりともせぬ
ゆへせんかた
つきかし
らの大
にうどうが
かたへきたり
そふだん
  する

さくばんは
さい【妻】をつか
わしましたが
あなたのおつ
むりほどのにん
げんがでました
  そふでござります

せんせいの御くふうを
 おかりもふさねはなりませぬ

【右頁下段】
おやきみの
 わるいのふ

【左頁上段】
さて二三日はばけもの
どもそふだんあるゆへ
とき太郎つな次郎も
すこしほねやすめ
しているところへ時
太郎めしつかいのやつこ
はや介ちゝきんとき
よりのつかいにきたる
きうよふあつてのむかい
でこざりますとふたりを
せきたてゝつれてゆく

きうよふとは
こゝろゑぬ
はやく
着かへる
はやすけ
かごの
よう
いせ
 い

【左頁下安】
此御じやうを
御らんなさつた
なら一ときも
はやくおし
   たく
なされ
 まし


妖怪仕内評判記

そればけ物
といふものはひる出
ことかなわすよるば
かりいつるしごくと【?】
わみそのものなり。
しかるにこれまでく
さそうしなとにつゝり
しを見る■たゞ
ばけて人をおとろ
かすばかりでばけ
□と■どもてまへ〳〵の
みうちの鬼の
くらいしれずこれによつて
此たびそのみばけのいさほしよつて
上々吉上こまたは白吉あるいはくろの上ばかりなとゝ
ろうひのくらいをあたゆよつてすいふんばけのけいこ
たい一にはけ物のかしらたるによつてきつね
太郎たぬき次郎に申わたす

ばけ物のせん
せい
大入どう
それがし身に
しやうながら
とう年ばけ
ものゝざがしら
ときたから
みな〳〵けいを
はけみめ
されい

いさい
かしこ
まり




極上上吉
ばけ物のかしら大入道のまいを
ふれけれはあるとあらゆるはけ物
しうちけいこ所へあつあまりその
しうちをそこぢつけける第一ばんに
きつねまかりいておどり子の
しうちわかしゆがた
のしうち

〽てんと市川
門のすけと
きた■■みへ
ごさるくそうが
おくつてやりま
しよか

〽おこゝろ
さしなら
わたくしが
まいるあな
までおくつて
くださりませ

【右ページ下】
きつねおどりこに
はけまくそを
さりなには
    さむ

〽おきやく
さんまひ
とつのみ
ねヱさかな
をはさ
みんしよ

〽てんと
むまいの
ねときた

きみの
お名は
なにと
いわまの
こけ
むしろきりま
□□□□な

【左ページ】
上上□【上上吉?】
第二ばん目にあおさきがしうち
これはよるわうらいの人をお
どろかすはかりなれどさそくきみのわるきひかりものなり
そのありさまたけ五尺ばかりのはしらのこときものに
火をへてあとよりついてくるこれりやうのはがいにて
するげいなり

あをさきは
くびを
ちゝめて
四かくのはしら
のことくにしてうへに
火をもやしたる
よふにはけ
人□おとろかす
なりこれりやう
のはがいのひかり
       なり

【左ページ下】
〽のふ■■■
うどんやか
さては■ゝでき
のよみせあん
どんといふばけ
ものだはやく
にげあしは
中しま
天かうと
でやう

【囲み内】㭬上上吉
【㭬は木+豕、豕の下に一】
第二ばんは見こし入どう
このおぼうはいんきょ
していまはしゆつ
きんなけれど
こんどのこと
ゆへまかり
いでける
これまるくらい
ときとうる人の
うしろより見
こしてむかふへ
ぬつとくびを
さしのへてこ
わがらする
しうちなりさて見こし
入どうのあいてには■るゝれ
つりあいよしとてろくろ
くびをいだしけるがおろく
くび引□かちておちをとる
【囲み下】
かいる【蛙】
せんせい
がまけ
そうだ
とこへ
〳〵

【蛙の下、猫の足下】
ねこまた

【囲み内】山うば上上
この山うばがいくらかやま
めぐりをしておびたゝしく
はけものも見たかおたふく【?】
くびはことし
がしへはん【?】
とんと
ぶちや〳〵
のおちよ
ときた

〽としはよるまいもの
むかしはちからて
かちのきましたきよ
もりなれど女にまけて
七ふぐりときた〳〵〳〵さぬ
きのこんひら


【左ページ】
【囲み内】化物仕内稽古所(ばけものしうちけいこところ)
【囲み内】上上吉
そのつぎにろくろくびころは
人じんにてやまひ也本 草(草)
奇病(きびやう)門に見へたりしかれども
人けんにてのばけ物にすべて
ばけ物と名づくるにことの
しなじ【しな〳〵?】めり躰卵湿気(たいらんしつけ)の四品二 躰(たい)でうまれて
ばける物あり玉子でうまれてばける物あり湿(しつ)で化する
はけ物あり此しやべつをわきまへ給へ

〽なんぼにやんなどのやひきさんが【ニャン那(旦那)殿やヒキさんが?】
さしだしつけをかたしやんしても
みづからにまけさんしてはいけぬ
せかいさ
おゝしやるし

剛屋敷

こゝに
みこし
入道と
いふはけものあり
さみしき
つれ〳〵
なるおり
ふしかわ
太郎が■■
■り月
なみの
ほつし

■す
べし


がみ
きたり
ければ
い■■■もむかんと
たちいつるみちにて
たつねに出合とう〴〵
せん■いふ わたくし
はけふはかのさき
ころ■きのゆき
女かしんたくで



【中段、みこしの首の右】
少し
なけ

うす
ぢや
などゝ

いふはらで
でかけま
した が
これ■■を
ばふんな
がらき
かふ



おも
ばんおぐばは
ほつ
こく
〳〵

【下段】
けふはりやうじばもいそかしい
がかつはがところでくはい
があるとてかつ てこい
とて
かみか
きたか
らいま
からうせ
ふつさら
いとやる
つもりさ

いやとう二のかはら
のひやうばんごろう
じたの 
■もうきついもの
        さ


【刷りが悪く読みにくいため、かなりの部分が間違っているかもしれません。蔵書印を目立たないように画像処理したものをこちらにアップしてあります→https://twitter.com/chinjuh/status/1436210832312995870】

年中行状記

《割書:新|板》化物年中行状記 十返舎一九

り?五百三十三

新版《割書:化|物》年中行状記(ねんぢうぎやうじやうき)上《割書:通油町|つたや》

【刷りの違うものが以下の「12」に収録されています→ https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/he13/he13_01465/index.html】

   歳首
 今朝ふるき
  ものゝはしめや
     はつ日の出
      十遍齊
         一九
於蔦舎開文䑓

【右頁上段】
むかしより
御子さまがた
御ぞんしのばけもの
今はみなつう【通】に
なつて人をおどすの
なんのといふ事は
なくとんと
べつにせかいを
たてゝおのれ〳〵が
かぎやうを大せつに
つとめおとなしく
くらしけるとりわけ
はつはるのいわい
なども人間の
せかいにかわる事
なししかしはけ
ものだけよるを
おもにあるく
ゆへ正月の
れいしや【礼者】も
うしみつごろ
そう〳〵より
でかける
又かけとり【掛け取り】
などは一年
に一どの大せつき【大節季】
ゆへよるひるの
しやべつ【差別】はなく

【右頁中段】
〽まだ
よなかで
ごさり
ます
から

けぬ
さきに
よひ
はるで
ごさり
 ます

【右頁下段】
〽どう
 れ

〽もゝん
 がア
 
〽ばけ
もの仲間
でもちと
しさいらしい
手合は
ふへと
たいこを
もたせ
  て
  あ
 る
 き
げん
くわん
など
にて
ヒウ
トロ〳〵
  と
 たゝ
 かせ
 ると
 うち
 から
どうれ
といつて
とり
つぎが
でる
 事
 也

【左頁上段】
あるくゆへ
ゑては
れいしやと
道にて出合
かしたものを
よこさぬ
はけものは
大はぢを
かく事まゝ
あるなり
又かと礼【門礼】
なども
人間は
ものもうと
いへども
ばけものだけ
もゝんがアと
いへはうちから
どうれ
ばけ
ましては
よい
はるで
ごさり
ますと
 いふ

【左頁中段】
〽人間をとつて
 くらつたはむかしの
 事だ今どき
 米やをふんで
なにをくらふ
 つもりだ
こんひらさまへ
 へへつた【へえった】
 どろぼうを
みるやうに
 まごつきやァがる
  事はねへサァ
   どうするのだ

【左頁下段】
又れいしやと
 かけとりが
  あへものに
   なつて
    くるゆへ
     ゑては
     とり
     ちがへて
    れいしや
   いきまはつて
    ござれと
    いふ事も
      ある也

  〽かけ
    とりの
ばけものは
思ひなしか
 おにの
  やうだ

【右頁上段】
ろくろくびの
こどもはちい
さいときより
人げんの子が
たこをあげる
ごとくうぬが
くびを
だん〳〵
のばし
ならふ
事あり
女の
子どもは
てまりの
かわりに
火の玉を
ついて
あそぶ
みな
はるさきの
こともの
  あそひなり

【右頁中段】
〽あねさんおいらも
 あんなにくびが
 のばしたい

   〽まだてめへ
  たちやァ
 ちいさいから
今からくびを
のはすと
ちきれて
しまわァ
そんなに
むりを
 いふと
きんぴらに
 やる
  ぞよ

【右頁下段】
〽それ〳〵からすが
 きたァめだまでも
       つゝ
       かれ
        ぬ
      やうに
      いとを
       ひけ
       〳〵

〽よくあかつたら
  ひのたまを
   やつて
   くわゑんを
    ふかせろ

【左頁上段】
〽くびはうぬが
 口でふう〳〵〳〵
  とうなつて
     いる

【左頁中段の左】
〽けふはかせか
 つよいから
 いつそ水はなか
 でゝならねへ
 もう
  おろせ
    〳〵

【左頁中段の右】
  〽これ〳〵
  木のゑたへ
 はなはしらが
 ひつかゝらァ
アヽきのきか
 ねへと
うぬが手を
 しかり
  つける

【左頁下段】
〽きんのうも
おいらがとこの
ものほしへどこのか
くびがきれて
 きてひつ
  かゝつて
    いた

〽おいらも
  きんたま
     を
   のばし
    ならふ
      べい







【右頁上段】
三月になれば
人げんかいでも
はなをかざる
やうにはけものゝ
せかいでも
いろ〳〵の
思ひつきにて
ひなさまに
ばける

〽もしごろう【御覧】しませ
たいこおろしの
ばけたのも
 ようごさります
又ほうそう【疱瘡】などの
 みまひには
すりこぎがだるまに
 ばけかいしやくしが
 みゝつくに
  なったのも
 こさり
   ます

【右頁中段】
〽きやう
  れつが
  おのそみ
    なら
   のみや
  しらみの
 うさ〴〵と【がさがさと?】
  ばけたのも
   こさります

【左頁上段】
〽おつかさんやわつちにやァ
はだかこぞうをかつて
くんなきものをぬつて
きせたいヨウ
  おつかさん

〽ヲヤけしからねへ
てめへも大きな
なりしをして
みんながわらふから
そんな事い
いやんなと口には
いへどむすめに
あまひは
はゝおやの
ならひ
さすかばけ
ものでも
かほつきに
にやわぬ
しほらしき
ものにて
むすめに
ねだられ
ながら
にこ〳〵
  している

【左頁下段】
〽たへぶ【だえぶ、でーぶ、だいぶ】ねんが入つて
おりますからねたん
        か
     はつて
      おり
      ます

〽もし
  おやうさん【おしやうさん=おじやうさん=お嬢さん?】
 これに
  あそばせ

【右頁上段】
そも〳〵このせかいの
くはんそ【元祖】はかの大しまの
どてうのせんせい
みこしにう
だう【見越しの入道】なり
此ぼうず
四月八日の
生まれなり
人けんかいにて
四月八日に
おしやかさまの
たんじやう
とててら
まいりなど
するにひと
しく
このかい【界】
でも
みこし
入道の
生まれし
日を

やう
する
なり
する
なり
人はかしらのほうより
生れ出れどみこしは
くびがながひゆへあたまが
【左頁上段】
より生れるとそゝう【粗相】な
とりあげばゞアはあめを
のばすやうにして引ちぎつて
しまふゆへみこしにかぎりて
あしの方からさかさまに
生るゝゆへ今にいたつて
おさかさま【逆さま】のたん生とて
卯月八日をまつるなり
〽又此日にいゑ〳〵にて
うたをかいて
ほう〳〵へはり付る
ちはやふる卯月
八日は吉日よ
かみさげぶしを
せいばいぞする
といふはきん時
きん平はみな
ちから
かみを
さげて
いるゆへ
かみさけ
武士を
せいばい
そする
とは▲

【右頁中段】
〽みこし入道は
このづのごとくあしにて天と
地をおしへ天上天下その外
 はこねよりこつちは
  もちろんあつちにも
   われひとりといつて
  くびをのばししりの
   上へちよいときかつて
          生るゝ

【右頁下段】
〽アヽさむくなつた
これからおに
ころしではない 【鬼殺し=酒の種類】
 人ころしを
 いつはい
 引つ
  かけ
   べい
〽おさかさま
  のたん
  しやう
   〳〵
〽ちい【爺】さんたんごよりやァ
  でんがくのかるわざが
         みたひ

【左頁中段】
〽おとなしく
    しや
はなより
  だんごを
   かつて
    やらう

【左頁下段】
    ばけものに
   にやはぬおく
 びやうにていま
 だにきんとき
てやいをこはがつて
   いるとは
   さか【性】とは
   しやう
   ぢきな
    もの
     なり

【上段】
五月ののほりにせうき【鍾馗】がおにを
いじめているのはあくまはらひの
心もちばけものはみな
あくまゆへこのてやいの
□つくはあちらこちら
にておにがけんをもつて
せうきをおつかけるづな
どをのぼりにかゝせる
又きんときがくまや
おゝかみをいじめる
などもみなその
引っくりかへしを
そめさせふきぬきの
こいもやめにしてうわばみをつける

【中段】
〽あのくまはつよいよきん
ときをとつつかまへて
いらアあんなよわひ
やつはこわくもなん
   ともないのう

【下段】
そして
つちくも
さんのこの
のほりにやァ
きんびらか
しはられて
 ないていらァ
 おかしい
    のふ

第十番

【上段】
六月のすゞみなどは
きつねのとんだ
かねもうけする
ときにてうぬが
おいゑのもの
馬のほねを
いろ〳〵にとほし
などして
すゞみふねへ
うり付る
たまやかぎやとて
いつれもはなび
をあきなふ
 〽きへてみれんに
  又あらはれて
  トツチリワン
      〳〵
 〽玉やの花火は
   いつそあをひ
    火だね
   そして
    あめのふる
   ばんはべつして
    よくともるが
     きめうさ

【下段】
〽すゝき
らんぎくは
玉やの事だ

イヨ
 玉や
 おそろ
  〳〵

【右頁上段】
七月になるとしんだはけものがみなゆうれいになつてこきやうへ
かへるこのせかいにてはゆれいがこわくもなんともないゆへ
こどもまでもうれしがりぢいさんや
ばアさんが又きなすつたみやげを
くんねへとちこくから
くるものをてらまいり
でもして
かへつた
やうに
思つている
だん〳〵の
せんぞより
のこらず
此七月には
かへりきたりて
まご【孫】ひこ【曽孫】までも
打そろうて
たがひにぶじを
ことぶ【寿】きむつ
ましきありさま
人間よりはやさしく
しほらしきていなり
又やうれいももとが
ばけものゆへいつ
までもちう【宙】に
ふらりとまよつて
いるのをうれしかる
ほとけになるを

【左頁上段】
いやがるてやいなれは
それそうをうの
おにかぼうすのやくにて
ねんふつ
をやり
たな
きやうに
あるく
〽うりや
なすびが
うしうまに
ばけ




いを
のせ

きたる
さり
とは


ほう【重宝】な
 事
 なり

【右頁下段】
〽おにもねんぶつのか【以下文字無】
ほうがてうをもつ【以下文字無】
 せしめてくる
  くめんば【以下文字無】
   してい【以下文字無】
    しん【以下文字無】
   うかま【以下文字無】
    いるが【以下文字無】
     かつ【以下文字無】
      そう【以下文字無】

【右頁中段】
〽庄やどのゝ
 もうしや【亡者】は
 いつでも
  大ぜいで
 にぎ
  やかだ
〽これは
おはやう
 こざり
  ました

【左頁中段】
〽みな相そろふて
  かわる事も
  こさらぬか

【左頁下段】
〽アヽ
 も
 ちつ
 と
 しや
 はやく
 そう
 めんに
 あり
  つき
 ま
  せふ

【右頁上段】
此せかいにも
よしはら
などの
やうな
くるはが
あつて
うぶめ
ゆき女
などの
たぐひを
女郎に
し立て
おり〳〵は
ゆうれいの
つきだし
あつて
はやる
ところなり
しかし女らは
みなふだん
しろむくで
いるゆへ
八さくには
なぜか
くろ
小そでを
きる事
此日
ばかり
  なり

【右項中段】
〽ねがわくは
 けいらと
なつて
 さいやうに
  つかん
   おそろ
    〳〵
〽ナント
おしやううつくしひの
人間かいのろかう
としやくも中〳〵およふまひ
 こればつかりはおいらが
   せかいのひげなでだ
〽こよひはくつとげびそうと
 でかけてにばなをいれの
  まゝのうちはどうだ

【左頁上段右】
〽こればけのや
たぬきやに
ねこまた
やしきのにやァふう
さんがいさしつ
たつけわつちが
よくやんすと
 いつてきや
はやくよ
ェヽじれつ
   てへ
 子だヨウ

【左頁中段】
あい〳〵

【左頁上段左】
  〽ことしおいらんへ
  おゝかた
   ろくろさんが
  くびを
  みじかく
  して
 まつて
いさつ
 しやる
 だろう
   ね

【右頁上段】
いにしへ千年
としふる
きつねが
らんぎくの
もとに
あそぶと
いふ故事(こじ)
にて
九月には
きくを
あいし
いのち
ながきを
よろこふ
事人けん
かいに
かわる
事なし

【右項中段】
〽さらやしきの
  きくが
とんだ
ひやう
 ばんで
ごさり
 ます

 〽ことしは
  かくべつ
 わしがせわを
  したので
きくがみごとに
   さいた
 おしやうに
    みせたひ

【左頁上段】
〽十月はゑひすかう
すもうとて
くわんじん
大すまふ
せいてん
十夜のあいだ
日くれ
そう〳〵
より
はじ
まる

けんぶつ
〽何の
 せき
 とりは一度も
 ばけた事がねへ
  つよひものたイヲ

〽これみこしどのあたまがたかひ
  又このてんぐもはねをすぼめていたつせへ

〽杵山とはきねのばけたのか
  つよひやつのそして飛だ川は名を
              かへたそうだ

〽これみかんのかはをなげまひぞ
  いま〳〵しいばけそこないめらだ

【左頁下段】
〽シイリ
  チヨン
   〳〵
 どつさり
   〳〵
  ヨイヤ
   サア

【右頁上段】
かほみせはひるの
内にて
とし
よりの
やくしやが
わか
女かた
にばけ
いろ男
にばける
みな
おしろい
のらずに
じゆうに
ばけて
みせるは
同じ
ばけ
ものゝ
内でも
又やくしやに
なる
ばけ
ものは
べつな
ものにて
いつも
大入
大はやり
   なり

【右頁中段】
〽やくしやは
  ぶたいと
  ぢかほは
  とんだ
  ちがひ
   やす
 なるほど
 ばけ
  もの
   だね
〽もしとんだ
  ちやがまが
   やくわんにはける
    ところがきつひ
     ひやうばんさ

【右頁下段】
〽むかふからくるは
  こんにやくの
   ゆうれいに
    なつた
〽女がた
   じや
  なる
   ほと
  うつく
   しい

【左頁上段】
〽ばけ女がたあか山とみ三郎
 とうじやうし【道成寺】のめいじんなり
 しかしこのせかいにてはじや【蛇】に
  なつたところばかりする
   ゆへおもしろくも
       なんともなし
〽てんぐさんは
 ことしも
 まばら
  さきに
  いなり
    さ
〽あのたぬきめは娘の
聟だと見へるが
あのばじめが
気があるかの
  おれとは
気が有そう
  な物だに

【左頁下段】
〽ことしはにしの
 うみから
下りやくしやが
 でへふ【だいぶ】あると
   いふ事だ

いつたいばけものはとんだ
正じきなものにてばけの
かはをあらはさぬが
此なかまのてがらなれば
ものまへせつき
などにも
尾をたすと
いふ事は
けつしてなく
たとへくふものは
くわずともかりた
ものはしらきてう
めんにはらひこと
さらごく月の大せつきは
はれのせつきにてとこもとゞこをりなく
ちやん〳〵とはらひをするばけもの
とてみなもちまるにてはなけれども
へいぜいついへな事をせず身ぶんにすぎたる
おごりをせぬゆへなりましてせけんの
はけものさまがたこの手合のねを
なさるがようござりますそうさへ
すれはいつでもめでたい〳〵

化物世帯氣質

《題:化物世帯気質《割書:晋米齋玉粒》》

【図書ラベル】
207
1437

ばけもの
世帯気質(せたいかたぎ)
晋米作
美丸画
全二冊
【蔵書印】大惣かし本【注①】
【付箋、整理番号ヵ】り四百弐拾番
文政庚辰春


【注① 貸本屋「大野屋惣八」の蔵書印で、「大惣貸本」の意味】
【「大野屋惣八」は全国一の蔵書を誇った名古屋の貸本屋】
【国立国会図書館サイトの「蔵書印の世界」に詳細情報あり】 
【https://www.ndl.go.jp/zoshoin/collection/05.html】

鶏口
牛後
晋米齋
玉粒作
歌川
美丸画
戊辰春新䥴

化物(ばけもの)
世帯(せたい)
気質(かたぎ)

化物(ばけもの)の冊子(さうし)を編(つゞら)んとて。硯(すゞり)の海坊主(うみばうず)に河童(かつぱ)の皿(さら)の水(みづ)を
滴(たら)し。烏羽玉(うばたま)の墨(すみ)を點(てん)じ。舌出(しただ)し禿(かぶろ)の筆(ふで)採(とり)て。工夫(くふう)も
更(ふく)る丑満過(うしみつすぎ)。物凄(ものすさま)じき秋(あき)の夜(よ)の。生臭(なまぐさ)き風(かぜ)北窓(まど)におと
づれ。狐火(きつねび)ほそく遠寺(えんじ)の鐘(かね)。コウ〳〵たる鼾(いびき)に人音(ひとおと)絶(たえ)て。
気(き)の利(きゝ)たる化(ばけ)ものは。足(あし)を洗(あら)ふて居(ゐ)る時刻(じぶん)。幻(まぼろし)のごとく
物蔭(ものかげ)にさゝやく咄(はなし)の聞(きこ)ゆるに。首筋(くびすぢ)もとからぞゝぞつと。
怖(こわ)いもの見たしと耳(みゝ)聳(そはだつ)れば。化物(ばけもの)の首長(かしらぶん)未然(みぜん)を見
越(こ)す大入道(おほにふだう)。女房(にようばう)の雪女(ゆきをんな)に向(むか)ひ。《割書:アノ》かゝァどの《割書:コレ》お雪(ゆき)や。此(この)
頃(ごろ)きけば今(いま)金時(きんとき)といふつよいやつが出(で)て。又(また)此節(このせつ)の新(しん)
化(ばけ)を退治(たいぢ)するとの噂(うはさ)。《割書:イヤモウ》前(まへ)の金時先生(きんときせんせい)におさ〳〵
劣(おと)らぬ兵(つはもの)のよし。ひどき目(め)にあふて消(きえ)てなくなるも

【右ページ】
あまり智恵(ちゑ)がないから。こつちから一《割書:チ》ばん降参(かうさん)するが上(じやう)
分別(ふんべつ)じやァあるまい歟(か)。《割書:アイサ》わたしも此間(このあひた)うぶめさんの
はなしで聞(きゝ)ました。さうなさるがよからうと。相談(さうだん)きはまり
入道(にふだう)は。支度(したく)とゝのへ今(いま)金時方(きんときかた)へと尋(たづ)ね行(ゆく)を。夢現(ゆめうつゝ)
とも辨(わきま)へず。狐(きつね)にばかされた心地(こゝち)にて。跡(あと)を慕(した)ひつき
歩行(あるき)しが此(この)一編(いつぺん)の首尾(しまつ)。利考(りかう)か馬鹿(ばか)か作者(さくしや)の胸中(けうちう)。
看官(ごけんぶつ)夫(それ)これを鍳察(さつし)たまへ。云尒【云爾(しかいう)、尒は爾の異体字】。
 《割書:文政二季己卯秋稿成|同 三季戊辰春発兌》晋米齋玉粒戯述【印】米齋
【文政三年戊辰は庚辰の誤り】

【左ページ】
 平灰【仄の意図的誤字】混乱
 不均【均の扁を意図的に手偏に書く】韻字
小説(せうせつ)恰(あたかも)如_二河童(かつぱのへの)
屁(ごとく)_一。圗(づ)画(ぐわ)偏(ひとへに)似_二珍(ちんぶつ)
物店(みせににたり)_一。編成(へんなりて)綴(とづるに)
用_二 三眼錐(みつめきりをもちひ)_一。雨夜(あめふり)
寂見(ものさびし)_二片目兒(ひとつめこそうをみる)_一。
怪談(くわいだん)数回(すくわいの)狐表紙(きつねべうし)。謡曲(ようきよく)
一流(いちりう)狸腹鼓(たぬきのはらつゞみ)。古寺譚議(ふるてらのだんぎ)
敷_二金玉(きんたまをしき)_一。茶釜生(ちやかまげを)_レ毛稱(しやうじて)_二文福(ぶんぷくとよぶ)_一。
帰(みづに)_レ水(きす)海霊及雪女(うみぼうずとゆきをんな)。百鬼(ひやくき)消滅(せうめつは)公時功(きんときがかう)。
 題_二化物稗史_一   藍亭玉粒賦

さるほとに見こし入道雪女は今金時を
たづねて立出けるがみちすがらふぜいか
ないとてしばゐでする類ひ【道行ヵ】の
おもいれにて■■■【道具立ヵ】の柳ばし
ものすごき
なりもの
いりて
此二■■め
のまく
 あく
〽ばけ
ものゝ
ため
にや
今の
金時を
たづ
ぬる
むねの
こは
ければ
世を
しのふ
身の
あとや
さき人目を
つゝむなり【注①】
【注① 「人目を包む」とは人目をはばかって隠れること】

【左ページへ】

かぶりかくせど
白きゆき女なれぬ
あゆみを入道が
いたはる身さへ雪
ゆゑにあたゝめたらば
きえようとこゝろつかひに
あし引の山の手さしてゆく
そらの月もくもりてよひ
やみにいまみのし■【よヵ】さで
ゆくむかふへちからかみ【注②】
りゝしく六尺はかりの
ぼうをかたげしぶ
うちは【団扇】にごふん【胡粉】
をもつて金の
字(じ)を白〳〵とかき
たるをもち
ごんぜんかご【御膳籠、方形の竹かご】にも
おなじく金の字
をしるしたるは
ばけものゝくびを入るゝ
よういにやといかめしく
大きやうなるこゑにて
きんとき〳〵とよび
きたれば入道ふうふ
きもをつぶしくさ
むらにわけいりていき
をころしてゐたりしはをかしかりける次第なり

【左ページ下 箱】
金時
さとう
いり

【左ページ下 足元】
きんときや〳〵

【注② 力紙、歌舞伎用語で、これを付けていると力持ちを示す】

さても入道ふうふはかのきんときをとほしすごし
心をしづめてよくみればさとういりのきんとき
なればはじめてあんどのおもひをなし道を
いそぎて今金時の門口にいたりおづ〳〵
あんないしわれ〳〵は見こし入道雪女
にて候が何とぞおむづかしながら
金時せんせいさまにおめにかかり御ねがひ
申したきしさいありと申入れば何ごとにや
これへとほせとひとまへいれば金時
ゆうぜんとざしてひげぬきながら
めづらしや入道たづねきたりし
しさいいかにいへきかんといぎ
げんせんたるいちごんに入道は
ハットひれふし御けんご【堅固、達者なこと】のてい
まづ〳〵きやうえつ【恐悦】さておねがひ
のぎべつぎにあらずいつも〳〵
てしたのばけものどもとかく
そこつなることをいたし人げん
さまをなやまし奉るだんさぞはや
御りつぷく【立腹】のほどおそれ入り奉り
ますしかるにばんたんしはい【支配】仕り
まするわたくし此うへはとりしまり
仕りふつゞかなるぎいたさせませぬ
ほどに何とぞ御たいぢの御さた
御とゞまり下さりませうなら▼▲

【左ページ下へ】

▼▲ふんこつ
いたして
せいとう
いたし
ませうと
ことばをつくし
たのみける
金時きゝて
なるほど
もつともなる
ねがひ此せい
ひつのみよの
ありがたきを
おもひむかしは
はこねから
こつちと
きめたが
あちら
とても
かならず

次へ【⬜囲み】

【左ページ上 台詞】
〽入道はちと
すぎもの
テモうつくしい
これがほんの
白ものじや
なア

諸野原書状をこし
つゞき【⬜囲み】 けうけてん
のくわいゐ【怪異】なき
やうはげみて
せわいたすこと
ならずいぶん
きゝとゞけ
つかはさん
さりながら
とかくのら
ぎつねたぬき
などやゝとも
すればばん
もつの▼▲

【左ページ 中段】

▼▲れいたる
所の人を
ばかし
小判の
かはりに
このはを
つかませむさ
くろしき
きんたまを
さしき【座敷、注①】にして
馬のくそを
食事に
たぶらかし
などするはぶれい
とやいはんひ■【ろヵ】う【尾籠ヵ】
とやいはん
ふとゝきしこく
いつたいまつ
人げんにても
はけものかい
にてもとせい
といふものが
なければ
とかく〿

【右ページ 中段】

〿ふらち
ものが
おほい
そのはう
ばけものゝ
をさをも
する身なれば
それ〳〵にかげふ【家業】
を見たてゝ
かせがせるやうに
すればおのづと
あくじもせぬ
やうになること
なれば此むね
きつとこゝろえて
おこたることなかれ
ときびしく
【左ページへ】
きたへられ
入道ていとう【低頭】
へいしん【平身】なし
さつそくごとく
しん 何がさて
此■■【うつけヵ】ばけの
けのじも
ないやうに
いたし
ますと


【右ページ 下段】

三つ
のめ
から
なみ
だを
ながし
ゆき
女は
きえ
〴〵
となり
ひや
あせを
ながして
よろこび
いさんで
かへりける
○みこし
入道は
金時の
じんしんを
よろこび
ばけ
ものを
よび
あつめて
きん時の
【左ページへ】
しひを
いひ
きかせ
みな
それ
きくお■
のげう
を見立
ていひ
つけ
さし
づめ
きん時は
なかまの
ふ■
かしら
■【をヵ】なし
はう〴〵
ふれある
■■【かせヵ】
■■【なまヵ】ける
ものゝ
■ある
しと
なし

次へ【⬜囲み】

【注① 「金玉を座敷にして」は狸が八畳敷きの陰嚢を座敷にして人を化かすことを指します】

つゞき【□囲み】舟ゆうれいのそこのなきひしやくを
とりあけてそこのあるのをわたしたぬきの
木のはをとりかへて小ばんをわたし
それ〳〵のもとてをあたへて
かせき【稼ぎ】にとりつかせけるは
きとくなる
 ことどもなり

○舟ゆうれいは
ひしやくより
おもひつきて
りうくうじやう
名物本ほりぬき
ひやつこい水うりと
心【出ヵ】かけまことのどんぞこの
まみづを
くみて
さとうも
出じまの
ほんものを
つかひ
一《割書:ツ|》はい
二もんと
うりかけ
おかはりは
一もんつゝおなじとしてやすうり
せしかはうれるほどに〳〵 ▼▲

【右ページ 下】
▼▲ 大入大はん
じやうして
ぜにまうけ
なしける
しかし
 これは
なつの内
ばかりゆゑ
雪【冬ヵ】に
なると
水くみを
するつもり
のよし
入道に
ないばなし
ありし
よし
なり

【右ページ 右下】
〽さとうを
たんと
いれて
くんな

【左ページへ】
こゝにばんしうに
としひさしき
おきくがゆうれい
古井戸より出て
まいばんさらを
かぞへわうらいの
人をおびやかせ
しが入道か
りかいによりて
ひとつのせう
ばいをおもひ
つきやきつき
といふ事を
はじめ
九まいの
さらも
十まいに
とゝのひ
やう〳〵
じやう
ふつ【成仏】とく
どう【得道】し
さらに
えんある
かつぱと
ふうふ
になり
次へ【□囲み】

【左ページ 下】
〽わしが
かゝとの
あかゞり【あかぎれのこと】も
やき
つぎに
なり

せうか

夭怪着到牒

天明八年【1788年】

夭怪着到牒【牒はへんが巾】
北尾政美

八つのかねを
ぶる〴〵ものとてつく

世にいふようくわいはおくびやうより
 おこるわが心をむかふへあらわしてみるといへども
  其りばかりにあらす夜ぶかにいれば
    いろ〳〵おそろしきすがたをあらわしみる人きもをけす


【検索用「妖怪着到牒」「ようかいちゃくとうちょう」「妖怪図鑑」】

はけものゝおやだま
みこし入道
あらわれ

てしたの
ばけどもを
よびいだす

【左ページ】
入道のまご大あたま
こぞうあめのそぼ
ふる夜とうふやを
    おどかし

一てう
しめ

 くる

□□【かすれ】くつれ
やしきの
さむらい
ごてんに
夜づめ
のと
ころ

う~~【「ゝ」かもしれない】
     人
       ごろし
          〳〵
【左ページ】
夜も
ふかく
いりけれは
しきりに
ねむくなり
少しいねむり
かけうと〳〵と
しなからふとめを
あけばからかみを
さら〳〵あけ
ざしきいつぱい
ある大さむらい
にうつとのぞい

ごばんの
しゆ
ごくろう


太郎に
とられたる人
うかみも
やらずあら
われいで
とも
ぐいを
する

【左ページ】
これは河太郎なり
さみしき川
ばたをとをれば
いろ〳〵のかたちに
へんじ人を
たばかり
川中へ引こみ
はらわたを
くろふ

みけねこのふたまたは
     かはぬもの
       のちには
         人げん
          の
         ごとく
        心つう
          じて
         人を
          ばかし
           なや
           ます


【左ページ】
あま
にうどう
口ひろくはは
とがりておそろしく
   このさむらいあたまから
          ばり〳〵〳〵

さか女は
よいのうち
とてもさみ
しきところには
いるものなり
ひろには長ろうか【広庭・長廊下】
またはつね
    〳〵
せついんにも【雪隠=便所】
いること
あれば
女中がたはこようじん

【左ページ】
これは
しやう
かいの【?】
うみ
ぼうず
かいちうに
うかみ出
ふな人を
とる
おそろしき
はけものなり

月の
うち
くろ日【黒日=縁起の悪い日】
   には

ばけものより合を
     すること
       あり

きつねはしよさ
ことめいじん【所作事名人】
えてものゝ【得手物の=得意の】


【左ページ】
しのたつまを【信田妻を】
  おとる


むまどの
たいこを
うち
  ます

ひめじの
 おさかべ
 こわいものゝ
 おやたま
 ひとたび
 まことの
  すがたを
   みる人は
    そくさに
     めいを
       とら
         るゝ
          なり

【左ページ】
みつめんうば
 ひとつまなこの
  うばと見へて
   つきまとう

女の
 人
 だま
 にくい
   と
 おもふ
 男の
のどへ
くいつく

くし虫
くさふかき
ところにて
  おり〳〵て
     あい
     たる
     こと
     あり【折々出会いたることあり】


悪息
くさき
きをふく
このきに
あたれは
たちまち



たこ
 の
にう
とう
かい
へんに【海辺に】
いでゝ
 人を
  とる

【左ページ】
さるの
こう
ろを

たる【猿の劫﨟を経たる】
ひゝなり【狒狒なり】
人の
おもふことを
よくさとる
ゆへ
 かりとること
あたわず

たぬきの
きんたま
八丈ひろけ
あたまから
かぶせる
そののち其
ばかになると
     なり

くるまめぐり
わか口より
いづるくわゑん
      にて
わかかたちを
 くるまとともに
  めくらす

こうもりの
ばけたものなり

なめ
  くし
    ら
    の
  ばけもの
 人にすいつく

【左ページ】
あかおに
こどりこを
くらう

人の目を
ねらう

風あま

大かぜのふく
ときいでて
人にとりつく

がいこつ
はかしよに【墓場に】
いてよな〳〵
おどる

かゝるところへ
あさひなの三郎
とんでいで
もろ〳〵の
あくきを
たいぢしけれ
      ば
みな
ばけもの
    は
ねだやし
なり

 まの
よには
少しも
こわき
事はな
   し

御子さまがた
御気をじやうぶに
しいに御出なさるべく候


政よし画

作意妖恐懼感心

化物大閉口

化物大閉口 全

寛政九巳【1797年】
化物大閉口
楚満人作
豊国画
二冊

きんねんはくさぞうしに
金平がうでづくをやめし
よりばけものともは
だん〳〵すいび
してにち
〳〵ごとう
ちのはん
じやうに
したがひいで
べきあきや■き
もなくはしから
はしすみからすみまで
二八のあんどんちやづけやのかん
ばんにはくちうよふなれば
いつかうつらだしもならず此まゝ
ならばばけ物いつとうとりつゞき
できがたくいがゝせんとより
あひさうだんするにみこ
し入道がいふはこれはくさ
ぞうしのさくしやにたの
みおそろしくこはひ
所をしんばんにだ
してもらはゞまた〳〵
よにいづる事もあら
んといへはみな〳〵しかる
べしとさうだんきはまる

【雪女】
どうも
つまら
ねへ

【三】
此ぐろはふきやさんへおいらを
つかひおらぬ

もゝん
ぢいといつ
ても
こどもが
ねつから
こはがら
ねへ

【六(ろくろくび)】
此やふに
しろむくが
よこれ



はりかへし
さへできや
せん

ときにさくしやはたれが
よからう京ばしはおら
が事はかくめへしかわらけ
まちはこじんなるしすこし
こふうだか芝の楚満人は
とうだらうといへばみな
よから
うと大
ぜいうち
つれたち
たがねきた
りしんはんに
いだしくれよと
たのみければ
なんせんおゝ
きに
ふき
出し
いま
じふん
てめへたちの
事をくさ
ざうしにだ
してみたが
いゝてへ〳〵人がわるくいふこつちやァ
なへまづてめへたちがすがたを人がこは
がると
【左ページへ】
思ふが大きなふかくたそれより
此うきよにてへ〳〵おつかなひ
ものがあるこつちやねへそふ
いつてもほんにしめへから
しんせんざのせんせいにかりて
きたおらんだ
めがねを
みせて
なつとくさせよふ
よの中の
ばけものかこはひのを
みやれとぐつとちやな
めいさつばけものは
大きにおもいれを
くじかれさふかならば
どふぞおめがねを
はいけんいたし
たいとみな〳〵
のぞむ

【右ページ見越しの首の下】
ちと物たのみ
もふします
おいらはちつと
ちかつきた

【見越しの足下】
うちかしらぬ
マアすこし

のぞき
ましやう

【ろくろ首の足下】
アイ
おゝぜい
では
ござりや
せん

【左ページ縁側】


や此

ちうに
さし
たる
かどを
たゝくは
くいなか
たごし【?】
そば

【右ページ上、遠眼鏡を覗く妖怪たち】
サア〳〵
はやく
かわり


まだ
おれは
ろくに
みねへ

なんと
どうた
もふ
〳〵
てめへたちは
らちは
あかねへ


マア〳〵
もふ
ちつと
みせ


イヤ
もふ
〳〵
おそろ
〳〵

【下段の顔の大きな侍たちは遠眼鏡で見られている】
アタくはへが【?】
又おらが
たんなを
むしる
くめん
だな

けふは
ゑび金で
おひと
おとを【?】
あいてに
のみ
しやくと
しやれさ

モシ
それより
ゆばふくわんのん
まへでほしをにさせは
どうでごぜへす

【左ページ、妖怪たちの台詞など】
そのときしんせんさで
かりてきたおらんだの
トンカラスといふ
めがねをうや〳〵
しくとりいだし
ばけものともに
みせる
もしへあのかほの
おゝきなかみしも
をきたのはわた
しらがなかまの
ものではないか
あれはなんだねへ
ムヽあれかあいつはいくらもある
やつさそふたいかねさへできると
あのふにつらが大きくなるもんだ
又そのそはにいるそうがみがこわいやつだ
あのおゝつらのおひげのちりをゑじきにして
いるハテねここちらのわかしゆこ【と?】はとんだ
いどふといる【?】あれもいわくかいきりやすか【??】
あれはふとざほにのせたがるからたが
あれもいつまでもわかしゆでもいられねへ
からやがて女になるせへんしやうなんし【?】とおしやかゞ
むかふからくるゐしやはふん〳〵いゝにほひがするけれど田丁の
はんごんたんいけのはたのきんたんゑんでまつかうくさいのを
しのぐのだがあいつもおしつけどうぎやうでございとなるたらふ

【下段は遠眼鏡で見られている人たち】
かのてきめが
ぬしは
とんだ
おゝかめ
もんた

いゝ
おつた

それはあまり
ほうへんを
といたによつて
そふいつたろふ

むかしゆかしや
おれもかもつらに
まけは
せぬ

ヲーサ【?】〳〵つゝよおれろのみこんしやあ
おゝふねたとおもつていろ
ぬしのはなんのよふだ
けんくはでいり
よしわらが
あづかり
やしやふ
あつちがは
く■■かや
     の
みせ
だしか
よし
〳〵

ときにもし
あのむねの
おふきな人
をおにのよふ
なしゆが
こはかるよふすだ
        が
ねかうおいらには
わからねへがどう
したこつたねへ
てめへたちにはげせ
まいがあれはむかしは
おとこだてといゝかみ
かたてはたてし今では
きおひともいさみともいふがきついものよ
【左ページへ】
おやぶんたのむときゝかさへことねへな
こつてもかけこんでかたをつけてやる事
なんのざかたもなくやれ女をつれて
にけたけんくはであたまをたゝき
こはしたのやれおもてをかいてうが
とをるのあすこでみせびらきか
あるのおみき
のろう中か
たのみあき
たのとの一ねん
ぢうあつ
ちこつち
うらいゝつ【?】
〳〵のしり
をくつて
いるが
なんと
わか■□
たのん
しやあ
ねへかこう
いふ人が町中に
あるととんだいゝものよ
そしていやみ【?】なしの
しらきてうめんだから
それで人かおそれるが
もつともさ


【右ページ下】
おやぶん
おらあ
あのやろう
     に
アヽやすく
されては
たらねへか
とうそして
くんなん


【左ページ下】
マアわたしがのをきいて
くんなんしアノあつ

うへ

ちや

たら






たかこふさ
ゆふへはろうちて【?】
とつちりのみやした
のんところへてこんや
うちへはねられねへ
からとけへそいうねへ
かといつたらあいつか
どうめへたかうめへつた
           と
ぬかしてらちかあか
ねへからわつちも
いめへましくなつて
たゝきのめし
やした

こんやのきやくはためになるやつだらふ
それにしてももふはや
きそふなもんだが

わるひばんに
きたなとゝ
どんたこふうな
ぐちこゝとをいふ

おや〳〵ついぞねへおとこのろくろくびがありやすね
ムヽまだヽもつとながくのばすのがあるものよ
めづらしからぬこつたおゐらもわかひおりには
でへふのばしたもんだそれよりこつちらの
ざしきのびやうぶのうちのおいらんかての
いかひ事あることをみやれせんじゆくはんのん
さまからあげせんをとりそふだ
【左ページへ】
あのよふなゑさにかゝるがさへごとんた
めにあはせられるおそろしいてつへんだ

又きやくじんのはなのたかひ事あたごやまのごとくたらう
ぼうから五わりましこうまんがぶかついて【ぶらついて?】いけねへくせに
わるあなをいゝたがりぐつといろおとこのきになつであのまあ
てのたくさんなおいらんにあしをつけるきになつてゐかむしの
いゝまだ〳〵こゝにはみせたへものがいくらもあるけれども
どうかおれがわるあながいゝたいよふだからよしにしやう

つきあへだ
〳〵と
ぬしは
いゝ
なんす
けれ


うらに
いきなん
したと
宇八が
もふしんす

おきや〳〵
そのてゞは
いかねえ


【右ページ下妖怪たち】
なんと
みやれ
此せかひは
また
なを
すご




これは〳〵おそれ
いり山がた



ぢ【濁点が半濁点になっている】

ほど
あつて
とん

もん





【雲のような枠の中、楚満人と妖怪】
サア〳〵
こゝかまた
とんたむつ
かしいところだ
はてねへ
あのこもちの
かゝアはなんだねへ
なんとてめへたちには
げせめへがこゝは
いつてきかせるまでも
ねへ此つぎを
みさつし

なるほと
わつ
ちら
には
いつかう
わかりやせん

【下段、遠眼鏡で見られている人間たち】
それでもねつ
から此こが
ねゐり
つか
ねへ

おしつえ
りう
きやう
さんから
むかひが
こよふはやく
みごしらへを
しまつばいゝ

【妖怪たち、雲のような囲みの中】
大の
へこみ【?】
〳〵

一ク〳〵【?】
いくじ
ちや
  あ
ねへ

いやもふ
これをみては
わたくしともは
いつかう〳〵
モウ〳〵
あやま〳〵
てめへたちはあゝは
ばけられます
     まい
【枠の下、おそらく楚満人のせりふ】
あのふり
そでのうつ
くしいやつか
さいぜんの三人の
こもちかゝあ【前巻最後に出てきた】
たかどうた
おそれる□
〳〵

【人間の台詞、和歌になっているかも】
いざさらはつきみふ
ころぶところまて□
しばせんかう□
      □□〳〵
          □


【雲のような囲みの中】
ときにこゝはまた
むつかしいあのおや
ちはてめへたちめには
みへめへがてあしの
つめにひをとぼし
わらぢをぬがすに
三十ねんほくとの
ほしをおがんであの
よふにはらっふく
ふくれとなつて
金のうなりごへ
ばかりきいてゐる
それでもひよつと
うちのものにての
なかいものがあら
うかとみせかう【?】
かつてもとどぞう
ものをきのこかと【?】
ころなくめをくば
る事いくつとらふ
かづがきりなくよる
ひるきら〳〵ひけら
かしてゐるがなんと
三つ目ぐらゐはおよ
びもなへこんた
□テねへムヽウ【勝てねへムヽウ?】
【左ページへ】
又こちらのはばん
しうだがこいつ
わるくすると
よな〳〵
大川のなみの
うへをわたり
たがるやつた
あちらのは
うちのむすこ
こいつゆふべ
とつかいきおつて
けさかへりて
おふくろを
あやなしいゝ
かけんに
あはせてゐる
けれど
おやの
かほか八めん
大わうのよふた
しかしまだ〳〵
おやちのかほの
こはいうちは
たのもしい
ずいふんこのおやぢもわかひとらじまちのきはあさつはらの
しやうじきそはかじまちのきうどじる【?】もくつた
やつたかなせかむしやうにむすこにはやかましい

【人間たち台詞、右ページ】
くらやしきへ
■かつき
ました ■【?】

しらせで
まいり
ました
あらためて
まいりま
しやう

【左ページ】
ゆふべはうたひの
くわいにまいつたと
申ます
そふて
あらう

はんには
なんと
いつて
うちを
てよふ
しらん






それめもきつし【?】あのかみなの【?】
さいごのみをもらへおちや
つけにはたいのみそつけが
おいしいばんのおよなが
にはおかづかねへならつけや
七いろまめばかりじやァ
たべられねへからいつそ
かはやきかおいしからふ
此ころのうちまきは
な【あ?】んばかりでもたれ
くるしいさつき
とめがとこから【?】
あとかでるとつて【?】
ばんづけをよこしたつゝ【?】
けきたへもんだねへしかく
ではへ■■にみかんの
かはをなげるから
さ□きでな■■
ちやわるひかそれも
あんまりすへ
じやあばん
どうかこう
わきがわか
らねへから
みはばんが【?】
いゝの

【左ページへ】
あすは三口もらへ大し
さまへゆく□
せんどきたこそ
では又きてはいか
れねへかどうした
もんだらう【?】そして
此くしはもふあきたから
もちつとやまのたかひ奴のいきな
のがほしい此かんざしもあんまりめが
たんとつきすぎておもたへのあぶらは
どうして大三ろ【?】あんがいゝおしかいは
下むらのこつたけふはしやく
あんまをよんできやばんがた
にはやくしさまへゆくから
てうずのゆをわかしておきやと
いふをていしゆとくさくと
いふやつさ

【右ページ下へ、人間の台詞】
あしためくるへ
いくまにあはせて
もらへ

かへちようはいかが
きらいらくねへか【?】

こんとの
かんさしは
またかへ
られつ
たへ

八丈のまがひ
     が
はゆか【?】
  かう【?】
いやに
なつて
きた

ついでに
したてゝ
よこしな

とんと
もふそれか
うへ
なしで

さり
ます

【雲のような囲みの中、妖怪たち】
いかさま
にんちうの
ながい
むまれだ
さぞ
じゆめうも
ながゝ
らふ

うらやま
しい
みのうへた

しのぎはまだで
ござりやすが
めへかんざしか
できやした

ばけもの
どもめかね
にてみれば
みるほどきもを
つぶしあきれはて
たる折ふしいれめ
いれはないればの
かんばんならびに
くろあぶらしらが
そめぐすりかみはへ
ぐすりのかんばんに
いよいよおどろき
大よわりによわり
なるほどおいらを
人かおそれぬはつと
あやまりいつてぞ
     みへ■けり
なんと此かんばんをみてはもふ
いちごんもあるめへふつつかと
おもひきつてばけものをば
やめるがいゝぜ
【看板】
かみはへくすり
しらか染くすり
【看板】
入目
入鼻
入歯
【看板】
伽羅之油

【妖怪の台詞】
おれは
めを一つ
ぬひて
もらひ
たひ

いくらもふ〳〵
これではなる〳〵【なか〳〵?】
わたくしともは
はじまりや
せん

おれもめをもふ一ついれて
しらうとにならふわへ

しらうと
ほうが
をゝ
こはや
〳〵
おいらが
いけねへ
はつ


【楚満人の台詞】
此あとやまとやがかみがたへ
ゆくかほみせの金太郎に
みせたへちやうど六つか
なゝつくらいにみへた
せんたへてめへたちはぶふうがな
なりだちつとたうせいふ
なるがいゝせ

むづかしい
事かでへふいつて
きかせたへかひつ
かうのかきどこが
ねへからこんどの
事しやう

【坊主頭の妖怪の台詞】
たゞいままで
こうとはぞんし
ませんでいかい
たわけなき
はづ
かしい

【見越しの台詞】
なるほど
〳〵
人のめつたに
かゝらぬうち
つれだつて
たちのき
ましやう

【左ページ上】
かくて
ばけ
ものども
だん〳〵
おそろしき
ありさまを
見きはめて
ぶる〳〵もの
にて申けるは
けうこう【?】
ごとり【?】
ちにて【?】
われ〳〵いか
やうにばけ
たりともなか〳〵
おちのくる事ある
べからずしよせん
こどもしゆまでかこはからねば
さつはりとおもひきり此のちは
つらだしをいたすまじとあや
まりいつてぞみへにけるさくしやも
すこしきのどくにてしかしそふ
ばかりいつたものでもないまだ〳〵ひろい事
なればとこぞの山おくにやあすみそふな所がある
めへもんじやあねへからみをやつしていつその事
ちくらがをきとやらへでもいかつしやひとやぶれ
かさ五六かいとりいだしはなむけにつかわしける

かくてばけ
ものともは
よるはなか〳〵
ひとめはづかしく
まつひるまに
はなのお江戸を
ふりすてゝ
なごりおしけに
立いづる
いづくを
あてとは
しらねども
東海道に
さしかゝり
はこねの山は
こへけれども
それからさきは
だれもしらず
おゑどには
ばけものゝ
ねだやしにて
もふ〳〵くわひものは
さつはりおりま
せぬから
おこ様がた
さやうにおぼしめせ

戯作 南杣笑 楚満人

豊国 画

ばけものをいとまこひ
つゝ【?】ひしやくでも
        ほしい

おいらが
ひるなかに
あるくよふな
せかひになつた
サア〳〵
いそがつしやれ
よるはこはいそ



化物通人寝言

化物通人寝言

きんねん
せかい
大つう
となり
ちりつは【?】
いつほん
やほなもの
とて■な〳〵
くさそうし
もみこし
入道一つまな
こて■おこさま
かたもかつてんな
さらす【合点なさらず】はけ物が
人けんの子をうむ
またはけいしやに
ならいて【?】つうなは
けやうをおほへいろ〳〵
なしることのしん【?】
はんことしもなんそ
ふう□よはけんと大つう
のことばともあつまりそうたんする

亀山人家妖

【図書館ラベル】
208
特別
517

亀山人家の妖 完
【読みは、「きさんじんいえのばけもの」】

【図書館ラベル】
208
特別
517

天明七未年

亀山人家の化物

家の化物

自序(じしよ)
咄(はなし)を画(ゑ)にかくといふことはあれど序文(じよぶん)を画(ゑ)に書た
ためしは


こゝにゑざうしといや
つたや重三郎

ゑざうしの作者
喜三二かもとへ
年礼に来り
ひつじの春
の新はん
青本を
たのむ
来年のをもう
たのむのかづいぶん
はるの内書やせう
書うとおもへば
ぢきにできる
などゝ大うぬ【うぬ:うぬぼれ】
をならべる

とうはるの大福帳は
とんだ評判
がようござり
ましてありが
たうござり
ますなどゝ
ちよ〳〵
ら【ちょちょら:いいかげんな調子の良いこと】をいふ

【右側の男は版元の蔦谷重三郎(つたやじゅうざぶろう)】
【左側の男は作者の朋誠堂喜三二(ほうせいどうきさんじ)】
【蔵書印として、福田文庫】

耕書堂の主人三月
までまちけれとも
さたなければ
四月五月の
ころだん〳〵
さいそくすれ
とも六月
になりて
も七月に
なりても
まだあん
じが
ないと
ずるけ
けるゆへ
八月の頃
は大かんしやく【癇癪】
になりて
来年
  新板【注①】
【左ページへ】
のげだい【外題、作品タイトルのこと】ひ
ろうのじ
せつになれば
せめてげ
だいにて
    も
きはむ【極む、ここでは決定すること】
べしと
せめる

わたくしは
ちよつと
おてつだい
に出ました
ばかり
さうしの
しゆこうの
外で
こざり
ます

【大きな紙に書かれた文字】
          上中下
       喜三二作

《割書:面向(めんこう)|不背(ふはい)》お年玉(おとしだま)  上中下
       萬象亭作

芝全交智恵之程(しばぜんこうがちゑのほど)上下
      芝全交作

日本一痴鑑(につほんいちあほうのかゝみ) 上下
      好町作

《割書:自笑請合(じせううけあい)|本八文字(ほんはちもんじ)》正札附息質(しやうふだつきむすこかたき) 上中下
        三和作

三筋緯客気植田(みすじだちきやくのきうへだ) 上中下
       京傳作

【紙の下】
げたいを
かく所を
あけて
おき
ました

外の写本はさらに
そろひ板も出来
上りましたこれ迄
はけ物の御さくはご
ざりませぬなんぞ
ばけものによいのはご
ざりますまいか此
みそか迄にぜひ
おたのみ申上ます

ばけ
で一つ
あんじて
みましやう
まづけたひ
はかうても
出して
置ふ

これは
ほんの
見す
てん【注②】た

【筆を持った喜三二が持っている長い紙】
亀山人家妖(きさんじんいへのはけもの)

【注① 草双紙などは毎年正月に新作を売り出す商慣習でした。】
【注② 見ずてん、良く確かめないで実行すること、花札用語から】


喜三二はばけものゝしゆこうに
さま〳〵くふうをこらし心で
心とさうだんしながら
とろ〳〵ねいる

喜三二が心の友に
亀山人をはじめ狂歌れんのてがらの
おかもちさいけんのじよをかくほう
【左ページへ】
せい堂なとよりあい【注①】
ばけものゝさうだんする

はやりのくわいらんしよく【案②】
などであんし【案じ】はある
まいか

しよせんほんの
ばけ物を
かいては
あやまる

おかもちが朋誠堂か
喜三二が亀山人かと
きくもきまぐれ

そこが何か
ありそうな
ものさ

【左ページ下】
くわいさい
こうといふ
あんじも
口もとの
所だ

【注① 「亀山人」は喜三二の別号】
【「てがらのおかもち」は「手柄岡持」で、喜三二の狂歌号】
【「さいけんのじよをかくほうせい堂」は朋誠堂喜三二が当時、吉原細見の序文を書いたことによる】
【案② 執筆年の天明6年正月元旦に江戸で皆既日食があり、それを指すらしい】


【△印は化物の説明や台詞】
△一本
あし
一つまな
   この
ばけ
もの

△七十のおきなの化物

【右ページ下】
さくしや
とうたはれ
     て
あんまり
ちへがねへ

いかさまそん
な手てはやく
【左ページ下へ】
まい車がゝりで
なくてはあるべ
かゝりだ

【左ページ上】
喜三二
おもひ
つきたる
ばけ物
三人あら
はれ出
たる所ねつ
からおもしろ
くもなん
   とも
    なし

△口はみゝのねまで
さけたばけもの
わたくしは此ごろ迄
くるはかゝりており
やした

【左端、喜三二の台詞】
こいつも
いかぬはやく
きへろ〳〵

喜三二ばけ物のくふうにこまりいる折ふし
蔦十【?】よりは日々のさいそくにて九月廿五日
くれ六つの
かねをあいづに
しや本を
わたすべしと
てづめになり
こまりける時
いづくともなく
一人の入道来りて曰
〽わたくしはソンや【?】めへの号に
付てござる
かめ山の化物さ
はこねからこつ
ちといふはむかしのことで
今は日本中にやぼと
ばけ物はねへからわたくしも
化ものをくつとやめのろう
とゝなりサやくしやを化物と
見るやうなやぼなこつ
ちやァとんとうけとら
ねへからおめへに大事の
こつたけれ共申やす

【右ページ下、喜三二の台詞】
なるほどこいつは
おもしろいそ
もうこんど
は大てこ

ずり


【隣りの化物の台詞】
わたしがばけ
物でゐた時
もついにば
けたことは
ねへけれ

ソレ
むかふ
からば
かされ
て来□
こゝを
よく
くふう
して
みなさ
い□□

【左ページへ】
喜三二はさうをうにあい
さつはしけれ共ばけ物
ときゝておそろしく
なりける心のままひ
にやそこらあたりまつ
くらになりてかめやまの
ばけものはゆきがた
しらずなつたかなら
ぬかまつくらにて
みへわからず
尤喜三二が
すがたも
見へぬ
つもり
なり

【左ページ下】
此紙
半まいは
何もかくこと
なきゆへ
じつはまつ
くらになり
たるなり
きつい
喜三二
でん

こぢつけ
なり

喜三二は目をひらきて
みればたちまちはれ〴〵
とあかるくなりけり今
まではめをふさぎてゐ
たるゆへまつくらになり
たるとおぼへしなり
さればばかすもばかさ
れるもみな人の心にあり
ばかにするもばかにされるも
おなし道理なりと
さとりてそれより化物
ざうしをつゞりてはつ春
のわらひにそなふ

【右ページ下、喜三二の台詞】
まづ
上の
まきは
まぎら
かして
しまつた
うれしや
〳〵

【右ページ枠の中】
といふことを演(のべ)てこれより化物ざうしの初り
さやうにとしかいふ
 時に丙午の年九月尽 喜三二


【左ページ、ここから二巻目】
こゝに手柄
の岡もちと
いふものあり
おなし狂歌
のれん中に
しぶぞめの
びくあみを
まくりのさほ
に【?】ととろ
川のつれんと
なとあつまり
人のゆかぬ
所に手から
はあること
なればおい
てけぼり
つりに行て
見んと云
   ける

【右端の小さな文字】
おいてけほりをこはがるはきついたそけ【?】なことさ

【左端の人物の頭の上】
ばけが出たら
いけとる
なとも
よか
ろう

【左端】
ハテ
もし
おいてけと
いふならおいてゆくくる
ふんのことだたるの
つんだものだ


四人のもの共おいてけ堀
にてしんニなつてつるほどに
おびたゝしくかたを上ケ
よろこぶ時むかふのやうかい
よりおいてけ〳〵
そのてがらのおか持
をおいてけといふニ
みな〳〵それ
をなす

岡もちハ入ものゝ
おかもちのことなり
とて手がらのふな
をそのまゝをきて
にげんとするを
つれの三人口〳〵ニ
手がらの
岡もち


おいてけ
といふ
   からハ
 きさまの
ことなりとて
あたりの大木へ
おかもちを帯にて

化物夜更顔見世

武家物奇談

武家物奇談

【ラベル】
207
530
【手書き】
武家
化物【文字の上に縦線】

     序
年は数(かぞ)へて知(しる)形(かたち)は鏡(かヾみ)で見(み)る形(かたち)なき物(もの)を化(ばけ)ものといふ
其(その)化物(ばけもの)を顕(あらは)さんと欲(ほつ)すれど魑魅(ちみ)皮(かは)不新(あたらしからず)古(ふるき)趣向(しゆこう)骸垢(よごれ)れ
たれど洗濯(せんたく)すべき日和(ひより)なければ男(おとこ)日照(ひてり)の勇士(ゆうし)を集(あつ)め
化(ばけ)の皮(かわ)武家(ぶけ)の加和(かは)に張替(はりかへ)夏(か)の禹王(うわう)水陸(すいりく)の妖怪(ようかい)を
軍中勢(くんちうせい)に譬(たとへ)一陽斎主(いちやうさいしゆ)に怪(はけ)武家物(ぶけもの)を画(くは)図(と)写(しや)して
物疆(ものおそれ)する童蒙(どうもう)に捜助(そうじょ)たらまく欲(ほつし)ぬ《割書:予(よ)》其意(そのゐ)を伸(のへ)
む言書(ことかき)の魑魅(ちみ)を陣鐘(ぢんかね)太皷(たいこ)に擬(なそら)へ飄(ひる)がへる赤白(あかしろ)の
籏(はた)は雲龍(うんりやう)の下(くだ)るが如(ごと)く勢(せい)を勧(すゝ)むる再幣(さいはい)は稲妻(いなつま)の如(ことく)
光(ひかり)都慮(すべて)城廓(しやうくはく)の魘敷(おそろしき)ことを妖怪(ようくはい)に編(つヾり)先陣(せんぢん)後陣(ごぢん)と
冊子(さうし)分(わか)ち遂(つい)に十五 帖(じやう)とはなりぬ
 享和二戌早春   馬鹿山人
             花道誌【字にかかり朱落款】

【右丁上段】
   目録
一 岩田川(いわたかは)茂森(しげもり)の怪   
一 越中(ゑつちう)黒丸(くろまる)の怪
一 倶利伽羅谷(くりからだに)巴女(ともへじょ)の怪
一 粟津(あはつ)ケ(が)原(はら)今井戸(いまいど)の怪
一 蝶千鳥(てうちとり)の怪
一 入道(にうだう) 火焔(くはゑん)と化(けす)怪
一 難波津(なにはづ)之 梅(むめ)の怪
【下段】
一 梶野之原(かじののはら)蚰(げぢ〳〵)の怪
一 影清(かげきよ) 両眼(りやうがん)の怪
一 赤沢山(あかさはやま)蟾蜍(かわづ)の怪
一 七騎落(しちきおち)の怪
一 五条橋(ごでうはし)千人取(せんにんとり)の怪
一 渡辺村(わたなべむら)お綱婆々(つなばゝァの)怪
一 化鵺(ばけぬへ)の怪
【左丁絵の下】国立国会図書館 武家物奇談:3巻 207-530

【右丁】
発端(ほつたん)
しゝはわがこを
たにへすて
いきほひを
見るといふ
そのたかき
へいをいつ
くやと
たずぬ
るに
ある人




とう
ちをさる
こと二千里に
してせんじやうが
たけといふこせん
じやう【戦場ヶ岳といふ古戦場】ありたかねに
しゝなくてあやしき
ものおほしこのすそ
【左丁】
のをのぢんといふむかふに
つるぎのなかやまありしにんの
くはいあつまりしゆへしびとの
やまをつくとはこれなるかふもとに
くび十けんのまちやありいへのむねに
とりべのけむりたつまたたかねにいき
ほいふるいしふけものありいでたち
しとやかなれどすへにはおふかみ【狼】のごとく
あれあるきやまのかい【山の崖】よりはぐんびやう
うんかのごとくいでこのとき
ひはなをちらすひのたま
くうちうをとびちがひふもとに
ひやうでうしといふふるてらあり
このちへちぼうけいりやくのこつたるを
うづめしゆへよな〳〵きこゆるかんけんの
こへはこたまをなしちじんゆう【知仁勇】の
三とくはみづのあはときへておそろ
しきことようぐはいのごとし
さればよにようぐはいをかたる
            べからず

【右丁】
   岩田(いわた)川(かは)茂森(しげもり)の怪(くはい)
いまはむかしみくまの【三熊野】にいわた
かは【岩田川】といふなかれありさゆふ【左右】に
こまつしげりひるながら
うすくらくいとものすご
きところなるゆへいつしか
このもりをしげもりと
なづくある日さとの女
ぼうたちこのかはへきたり
せんたくなんどしてなに
こゝろなくいたりしがとう
ろうのひのごとくなるもの
いでゝはつときへうせぬ
見やる女いとふしぎ
におもひけるうち
しげもりにかぜ
さはぎてこのよを
さりしゆふれいの
かたちかはにうつり
ければさと人おゝきに
【左丁】
おどろき
わがや〳〵へ
かへりこの
あやしきを
かたりつたへ
     ぬ

【看板の文字】
岩田川

【右丁】
    梶野之原(かじのゝはら)蚰(けぢ〳〵)の怪
   そかもの
   がたり【曽我物語】に
   いわく
  かまくら
山のふもとかち
のゝはらの
さかいにやはづ
いわといふがんくつ
 ありこのいはのあいだに
      すむげち〳〵と
【左丁】
             いふおゝいなる
            あくちうかま
           くらのりやう
          ぶんをわがものゝ
        やうにおもひでんち
        でんはたをあらし
       いづるころはだい一ばんめ
      より五たてめのうちは
五六七ひきづゝうちつれだちさは
がしきこといふはかりなしその
むかしのかたちかしらにゑぼしつのを
いたゞきさゆふになまずひげを
はやしかほはくれないのごとくそうしん【総身】
かきいろのごとしこへはつんぼさしきまて
ひゞきではいりのおとはそよ〳〵こそ〳〵として
たゝみざはりあらくとかくしていろおとこを
めがけつよひものにおそれおくびやうなる
ばけものなり
〽またそらするすみ【注】をながしあめいけ
づき【注】のみつますころいづるとなん
〽このけものいづるころは
大みやうかぜをふかすとなん

【注:頼朝が持っていたと言われる生食(いけずき)と磨墨(するすみ)という二頭の名馬に関連づけたと思われる】

【右丁】
   越中(ゑつちう)黒丸(くろまる)の怪
えつちうのくにくろまるこほり
につたむらによしださだゑもんと
いへる人むらぢうのきせんに
とうとまれなをよしさだと
よばれぬこのよしさだ
すこしのこうろんつのりて
人をあやめぬそのとがに
よつてごくもんにかゝりし
となん
〽あるよかしらの
なき人き
たりなま
くびをぬすみ
とりかたはらの
どちうを
   ほり
うづめたるを
むらやく人の
見どかめければ
そのすがた
きへうせしと
     なん
【左丁】
   五(ご)条(でう)橋(はし) 千人(せんにん) 取(どりの)怪
五でうはしの
ほとりにいでゝ
人をとりくらふ
大にうどうありければ
ゆふくれより
おゝらい
とまり
たれ
あつ

かよふ
もの
もな
かり
  ける
にうどうのかたちせいのたかさ一じやうばかりめの
ひかりかわにうつりてこへの【声の】ひゞきやまにこたへつかも
四しやくはも四しやく大なぎなたをつへにつきせなか
にはすにんのくびをくゝしつけゆふくれよりはしの
たもとにいづるをなんかたりぬ

【右丁】
越(えつ)
中(ちう)   俱利伽(くりか)
      羅谷(らたに)
  巴(ともへ) 女(じょ)の
    怪
   いまはむかし
   ゑつちうくり
     からたに
       と
        いへる
          に
        うつ
【左丁】
      くしき女
      いでゝおふきなる
       かぶとはち【兜鉢】を
           もつて
ゆきき
の人
 に
みつ

くんでくれ
よとこふやら
ねばそでごひのごとく
どこまてもついて一つるべくれよと
いふうるさきゆへ一つるべづゝのち
にはくんでやりぬればみつを
もらふとすがたはたちまちきへ
うせるとなんさればこのやまを
のぼらんとするときは一つるべづゝ
やるゆへ人つるべとあやまりまた
なみ〳〵とみつをこのむゆへなみはともへ
のかたちなれば【注】いつしかくりからたにの
ともへ女とよひともへ女の人つるべと
いまの世までもいゝつたふ
【波巴また巴波などの言い方がある】

【右丁】
   赤(あか)
   沢(さは)
    山(やま)
     蟾蜍(かはず)怪
抱朴子(ほうほくし) ̄ニ曰(いはく)ひきの
ことぶき三千年なる
ものはかしらにつのあると
いふむかしあかざはやまの
ふもとにさと人あり
さくもつをうへて
かてとなしぬある日
れいのごとくさと人
うちつれたちこの
ところへゆきけるに
かさまつのしたに大き
なるかわづまなこはかゞ
みのごとく口はくれないの
ごとくなれば人々くもを
かすみとはせかへり
【左丁】
ひと〴〵にかたりぬ
【下段】
このようぐわいさのみがいは
なさねど人をなけることをゑてか
むさしいづさがみ【武蔵伊豆相模】の人を
たび〳〵なけしと
       なん

【右丁】
粟津(あわづ)が原(はら)
今井戸(いまいと)の怪
むかしあふみのくにあはづがはらと
いふところにいまいどといふ大きなる
てんい【天井】ありきんじよにかねひら【注】と
いふ大りきの大おとこありしがひころ【日頃】のはい
ぐんにみをせめられぢんかね【陣金カ】のさいそくを
たび〳〵うけてしよせんかなはぬいのち
なりとてつるぎをのどより
つきとをしいまいどの
うちへみをしづめけり
たる

より
 て
【下部】
そのもふねんのこりかぜのあした
あめのゆふべにはい【井】のうちよりいでゝ
つるぎをぬいてくれよとさけぶこへ
いとくるしくぞきこへけるあるたび
そう【旅僧】このところへきかゝりふびんに
思ひ十ねん【十念】をさづけければ
そのまゝじやうぶつし
たりしとぞ
【左丁絵のみ】
【今井兼平=木曾義仲の家来。木曾四天王の一人】

【右丁】
七騎落(しちきおち)の怪(くはい)
いつのころにかありけん
いしばし山よりはるかこな
たとひ【土肥】のすきやま【杉山】と
いふところありこの山の
うちに大ほく【大木】しせんと【自然と】
くちくさり【朽腐り】うろ【洞】と
なりいたりしか
たが【誰が】いふともなく
このうろより
かしらおゝい
なるばけも
のすまふと
いゝふらし
けれはぢとう【地頭】よりにんしゆ【にんじゅ=人数】を
あつめかりに
いでにけり
〽なかに
ひとりの
大おとこ
このうろを
たつぬるにたゞ
しらはと【白鳩】ばかり
すんであやしきものは
【左丁】
なかりしとて
人〳〵【か】へりぬ
この
大おと
こへいぜい【平生】
こゝろ
やさしく
むやく【無益のことカ】
せつ
しやう【殺生】を
このます
ものゝいのちを
たすくるゆへ

ろの
ばけ
ものも
見てみのがし
けりと
のちに
かたりぬ
この人とし
をへて
こうゐ【高位カ】に
   なりしとかや


【右丁】
蝶鵆(てうちとり)の怪
もろこしのせいこう【不明】は
とうかいにおぼれて
けてう【化鳥】となりし【精衛=伝説上の小鳥の名前】
るいいつのころにか
ありけん
ふじの
すそのゝ
へんに大い
なるてう【蝶】と
ちどりのけ
ものさうしん【総身】は
みの【蓑】ゝごとくの

をせうじ【生じ】もと
より五月下じゆんの
これ【ママ=ころカ】なれば
しかをよせる
ひぐし【注】かと
思ふほとのたい
まつをとぼし
大いそ小いそまでをとひ【飛び】
あるきけるこのけものに
なじみたるとらなども
人をなやませしとなんけものゝすみしところを
そが中むらといへり
【注:火串「ほぐし」=火をつけた松明を挟んで地に立てる木。夏の夜これに鹿などが近寄るのを待って射取る】
【左丁】
景清両眼(かげきよりやうがん)の怪(くはい)
へいけすど【数度】のかつせんにうちまけ
みかたこと〴〵くさんらんしてかい
ちうへしづみ又は
いけどら
るゝも
ありし
その
中に
七兵へ【注1】
かげ
きよ
はひう
がのくにへ
みをかくしりやうがんを
ぬいてきよみづくはんおん
におさめけるさるほど
にかげきよのりやうがん
げんじにうらみのこりよな〳〵
とうをはなれてらくちうを
とびあるきぬ
〽だんのうらにてみほのや【美尾谷】との
しころひき【錣引き=注2】にことのこりてや
ふたつのまなこ人のゑりをねらいし
ゆへゑりもとがぞつとしたら
ゆだんをするなとらくちうのものいゝつたふ
【注1:景清は悪七兵衛景清と言われた】
【注2:屋島の戦いで、平景清と源氏方の美尾谷 (みおのや) 十郎国俊が格闘し、景清がつかんだ国俊の兜の錏が切れたという伝説。】

【右丁】
入道火焔(にうだうくはゑん)と化(はける)怪
きやうと六
はらのへんに
そうゐ【僧衣】のにう
どうありしが
こゝろたん
りよにて
人のなんぎを
よろこび
むや
くの
せつ
しやう





てん
とう【天道】を
おそれず
あくぎやくを
たくみ
山をくづし
てうみと
なしうみをうづめて山とな
すゑいぐは【栄華】も二十とせのゆめとさめて
ついにてんばつをかふむりさうしんくは
ゑんとなりかたはくるまにのりてらくちうを
とびあるきけるとなり
【左丁前コマ左丁に同じ】

【右丁:前コマ右丁に同じ】
【左丁:前コマ右丁の続き】
あるよきんじよの女十才をかしらにけうだい
三人をねかしつけこゝろ
ぼそくもとのふしあな
よりかのかたは
ぐるま

にう
だうを
みやりければ
おれを見るより
わが子を見よと
入だうのゝしり
      ければ
わが子を見んとする
うちおやこ四人
さらはれたりと
ある人かたりぬ

【右丁】
渡辺村(わたなべむら)お綱(つな)
   ばゝあの怪
一でうもとりはし【一条戻橋】のこなた
わたなべむらといふに一つや
ありあるしのばゝいかゞ
してやはしのたもとにて
きじんのうでをゑる
もとよりまづしき
くらしなればかての
かわりにうでを
くらひしとなん
このばゝつきひのたつに
したがひかしらにつのを
おひまなこは日月のごとく
ひかりいでいとなるかみも
しろかねのはりのごとく
はへていつしか
うんちう【雲中】へとび
さりしと
  かや
【左丁】
それ
より
らく
ちう
の人

とり
くら

らく
ちう
大き

みたれ
その
ほか
あやし
きこと
すどあり
くわしくは
げんし七だいしうに
  あれば
   こゝに
    ふでを
      とむる

【右丁】
とふざい〳〵あまりゆふしのけものばかりゆへこれより二でうはまことのゆふしをあら
はしごらんにいれますそのため口上さよう

 難波津梅(なにはづむめ)の怪(くはい)
源のよしつねつのくに【津の国=摂津の国の古称】あまがさき
にてあやしき葉花ものを
見給ひころう【古老】をめして
たづねられしににんとく
てんわうのおんときこの
花(け)ものふゆこもりとよみし
葉花(はけ)ものなるよし
申ければゆへ
なく人のうたん
ことをなげき給ひ
べんけいをめして
せいさつ【制札】をたて
られしとなん
 其文に曰
一此花物妖怪ニ無所也
花物ニ彊ル童蒙者
天永紅葉之例不任
一眼光者一心可居
【左丁】
とたつひつ【達筆】にしたゝめおきしとはなりぬ
〽このけものゝのいづる
ころはふゆより
もよふしはるを
さかりといづるなり
こち【東風】とと【「と」のダブリヵ】いへる
かぜまたなま
ぬるきよふず【南風 注】と
いふかぜとともに
にほひはなをとをし
まなこは日月のごとく
ふしはきのねまでさけ
した三ずん【舌三寸】といへども
たんざくのしたを
だしゆきゝの
人に見らるゝとなり

【注 「ようず」=南海道地方で主に春の夕方に吹く南風をいう。なまぬるい雨もよいの風で、物を腐らせたり頭痛を起こさせたりすると考えられていた。】


【右丁】
  化鵺(ばけぬへ)の怪
みかどのちよくをかふむり
へうごのかみ【兵庫頭】よりまさ【頼政】
ろうどう【郎等】ゐのはやた【注】を
めしつれていじやう【庭上】に
ゆふ〳〵とざ【座】し
いまやおそしと
まちゐける
はやうし
みつのころ
おいより
くうちう
すみ

なかせしごとく
いなつま
大ちを
かすり
くろ
くも
やね




【注:猪早太・井隼太・猪野隼太等を当てる】
【左丁】
と見へ
しが
なにともしれぬ
なきごへのきこへけれ
ばすはやけものと
ゆみやををつてひき
しぼりてうとはな
せばてこたへありて
そらはれわたり
大ぢ【大地】へおつるあやしき
おとにゐのはやた
とつてあしにふ
まへ九寸五ぶ【注】を
とうさんとせし
かばこはいかに
かたちは
ねこにに
てかほは
おゝかめも
のゝことし【狼者の如し】
しりほ【尻穂=しっぽ】をよ
くかくしつめ
ながくさうみ【総身】のけ【毛】はかは【皮】は
をりのごとくつらのかはあつしといへどもたび〳〵むかれてしやう
たいわからずなくこへそらなき【空泣き】かおほしまたぢうし【島田十四?】よく■かへをする
ゆへさだかならずいかやうのゆうしまたとくじつのうまれな人にても
このけてう【化鳥】にみこまれてはおしき【惜しき】いのちにかへ大せつのふぼをすてさするおそろしき
ばけものなりかならずしもこのやう開(かい)にみこまれ給ふなばかさん給ふなおそるべしとふさくべし
【注:九寸五分=長さが九寸五分の短刀。】

【48行目、狼者は外面は優しい善人面で内面は邪悪ということ。】
【53行目、島田は若い女の髪形。十四はそのくらいの年齢という意味か。鵺は猿の顔で描かれるが、この挿し絵は若い女の顔になっている】
【下部】
〽もし
ゐのさんつむり
のものはみな
さんだんでおす
からそつとのつ
ておくんなんし
なんぼぬしが九寸五ぶ
をときすまし
     なん
   しても
わたしがせうち【承知】しねへ
じやあせふかん【?】すめへと
      中(ちう)のじを
           きめる

【右丁】
すべてようくはいはきのまよひなりしるしにたてるはたもさほ【竿】を
とれば大じやのことしこしにさすつるぎもあわせてみればつのににたり
りやうわう【陵王=注】がかぶともせいぞろひのばめんも
はなしてみれば
おそろしく
おもはるゝ
さればはこ
ねより
さき
にも
ばけ
ものは
いてま

とかく
どう
もう【童蒙】は
しよ【書】を
なまび
さへすれば
ものゝまよい
もはれ一生
あかるくくらずこれほどめでたひことはない
     も一つまけてめでためでたし〳〵
【絵中の文字右から上下の順】
太刀(たち)
陵(りやう)
王(わうの)
冑(かぶと)
【注:蘭陵王 541〜573年、本名・高長恭。「その美貌が兵士の士気を下げることを恐れ、仮面をつけて戦っていた」という有名な伝説が誕生した。】

旗(はた)
馬面(ばめん)
【左下隅】
豊国画
花道作【囲みの中、下に落款】

【左丁ラベル】
207
530

【文字なし】

【裏表紙】

妖怪雪濃段

化物敵討

変化物春遊

変化物春遊

寛政五丑年 三十二へ【?】 木むら■

変化物春遊
慈悲成作
豊国画
二冊

まいよあをきひのみへる
やなきのたいぼくあり
よにいりてその
もとへゆくものなし
たゝばけやなぎ〳〵と
そいゝけるところの
ものあをき火のもゆる
ともこよひはしのつく
ごとくのあめゆへ
そのひもなからん
とたゞひとりその火
のもとへゆき■■はいつ
よりそのひあをみ
てものすごしみる
うちにやなぎ
のたいぼく いつはい
にあを〳〵 ひかり
ければかの
おとこそのまゝ
たをれるか
これあを
さぎのなす
わざなり

妖物十番斬

はやくしまつて
もどらんせ
■■か

【下へ】
女ほうおまん


【四角いはんこの下】
■■…のけき
■■…事
もふいやな
こつちや□□
けん万【?】■五■

【柵のようなものの横】
■■仕合よくして
■ん■たぬき■■■して
■■そふ■おとなしく■すをせい

【縁の下】
■ふかわづかの
■■■…
■■…人■
す■■
ゆ■■
なるもの
とて
弓を■■
射てつ
  はうの
名人ま■
是■むか…【以下破れている】

場戯嘉話古手返

場戯嘉話古手返

【タイトルは違いますが、内容は以下と同じです→紺屋百物語 : 3巻 https://honkoku.org/app/#/transcription/4D2CCE087578E0A4D21182AFBFA7E940/1/edit】

はけものゝ
きんねんす
たりしこと
大めうしま
しつほう
よりもはな
はだしく
これにては
中〳〵つあら
ぬ事也とて
三めぐりへ
ちよびと
より合を付
はけやうの
こんたんま
ち〳〵なり
これを膳【?】
会と
  いふ
くろすけ
をはじめ
【左ページへ】
そですり
まつさきすき
のもりなど
ば所はへぬ
きのきつね
そのほか
所々のきつ
ねわれさ
きにと
あつまり
けれはみこし
入道の一とう
は大のそく【そゝ?】
なりとて
此よりあい
には
はふき
ける

【中央、屏風の中、台詞】
なんでも
こゝへよつた
所でくつとあたらしいあけ
がとかくあろうでごぜへ
          す

アヽねむく成た
むさしやへ
とりにやろう


【右ページ下、台詞】
かさぬひらぐ【?】
かいたら
をちが
こよふ

【左ページ下、台詞】
そんな
ともいゝ
だろう

大時代唐土化物