古今算法記序
数者始 ̄リ于一 ̄ニ終 ̄ハル ̄ニ一者九 ̄ノ之
祖 ̄メ也九 ̄ハ者八十一 ̄ノ之宗 ̄ナリ也古者
伏羲氏継 ̄テ天 ̄ニ而王 ̄タリシヲ受 ̄テ_二河図 ̄ヲ_一而画 ̄シ_二
八卦 ̄ヲ_一禹治 ̄メシム_二洪水 ̄ヲ_一鍚 ̄テ_二洛書 ̄ヲ_一法 ̄テ而陳 ̄ノフ
【表紙 題箋】
《題:女学範 上》
【資料整理ラベル】
TIAO
26
95
青山
【右丁 白紙 蔵書整理ナンバー入りの黒印あり】
【左肩に手書きの資料整理番号あり】
TIAO
26
95
【左丁】
おほよそをむなのをしへとな
すへかめるいにしへのただし
きみちにしるしてかしこきよ
りもかしこからむものからく
さぐさのいみじきならはしま
てかいあつめたるをとりてみ
るに女学範といふふみなりけ
りかうやうのうるはしくきつ
【右丁】
きにけさやかなるふみつくる
ものいまもあなるやととふに
としごろしたしくきたれる大
江の資衡なむつくれりときこ
ゆるにそせちにゆかしくおも
ほゆれこのをのこざえありて
こゝろさしふかくからのやま
とのふみのみちうとからでよ
【左丁】
ろづめやすしまことにちりひ
ち【注】よりもおこりてひろくよに
もてあそばしめむこそほいも
たちこゝろさしけるをむなの
みちひきともなるへけれはひ
とつのあづさにちりはめてむ
やときこゆればさすがにいな
いがたくやありけむほのかに
【注 塵泥(ちりひぢ) つまらないもの。】
【右丁】
ほころびいでたるくちつきひ
てまろにふでせよとこふよて【依りて】
つたなきことのはをつらねて
まきのはじめにかいつけぬ
明和五年如月中浣
みやまのおきな
【左丁】
女学範目録
上巻
学問大意 三従道
女官品階 読書
廿一代集 三十六人哥合
歌人名数 百人一首
和哥法式 和哥読方
物語草紙 賢女《割書:并 孝婦》
女中学者 女中詩人
女中文人 女中哥人
書学 絵事
【右丁】
下巻
十種香 薫者方
懸香方 懐紙短冊
哥貝 絵貝
歌牌 貝蓋
衣服 染色
布帛 器用《割書:并 御厨子黒棚図》
大和詞 和琴
築紫琴《割書:并図》 双六
雛祭 七夕祭《割書:并図》
女学範目録畢
【左丁】
女学範上
大江資衡述
学問(がくもんの)大意(たいい)
いにしへの ひじり(聖)の みよ(代)の。ただ(正)しき みち(道)を。かい(書)つらね
たる。もろこ(唐土)しのいみじき ふみ(書)の。まき〳〵を。よみて。すう(周)
こう(公)くくじ(孔子)のたふときみち。まねぶなるを。がくもん(学問)とはいふ
めれ。をとこ(男)も をんな(女)も がくも(学問)んすべきなるを。この(此)くに(方)
のならはしなれるにや わか(若)きをのこ(男)も まど(窓)の ほたる(蛍)をむつび。
えだ(枝)の しらゆき(白雪)をならして。ふみ(書)まなぶはきくことまれに
ぞあ ̄ン なる。をんな(女)はさらにがくもんせぬことなめりとこゝ
ろえて。もろこし(唐土)たゞしき ふみ(書)をよまず。この(此)くに(方)ゝて
【右丁】
つくれる。ものが(物語)たり さうし(草紙)な ̄ン どいふ。たはれたるふみをおほく
よみ。それよりしもざまにくだりては。としごとにかず〳〵
つくりいだせる。じやうるり(浄瑠璃)こうた(小歌)などいふものをこのみて。
はる(春)のひのながきをわすれ。ふゆ(冬)の よ(夜)のいたくふくるもしら
で。もてあそぶおほし。としごとにいだせるまき〳〵を。みな こゝ(心)
ろにとゞめて。そのさまのまされるおとれるなど。かたりあひ
てたのしひ。ある(或)はけうにいりてこれをうたふなど。見るも
うれ(愁)はしきならはしなめれ。おほかた たはれ(婬)わざ(乱)いろこのむ(好色)
すぢ かい(書)つらねたれば。みるにしたがひて こゝろ(志)ざしを みだし(乱)。
こゝろ(心)を とらか(蕩)すはしとなるべけれかし。これらは わらはめ(童女)のも
てあそぶべきにあらず。さればとて もろこし(唐土)の ふみ(書)の。
【左丁】
やすらかによむべきにもあらねば。やまとことばにかきし。
和論語(わろんご)。女四書(おんなししよ)。女大学(をんなだいがく)。大和小学(やまとしやうがく)。翁草(おきなぐさ)のたぐひをよみ
て。いにしへの かしこ(賢)き をんな(女)の。たゞし(端正)き おこな(行)ひを。まなぶ
べきなり。
三従道(さんしやうのみち)
をんな(女)は。さん(三)しやう(従)の みち(道)とて。いとけ(幼)なきときは。ちゝはゝ(父母)
に したが(従)ひ。すでに とつき(嫁)ぬれば。をうと(夫)に したが(従)ひ。おい(老)ては
こ(子)に したが(従)ふとなん。ちゝはゝ(父母)は あめつち(天地)にもならぶなめる。
おほ(大)ひなる いつくし(慈愛)みを。かりにも わする(忘)ゝべきかは。されば よ(世)に
あしき ふぼ(父母)といふものは。はべらぬ ことはり(理)をしりなば。けう(孝)のみ
ち こゝろ(心)におこらざらんかし。ね(寐)ても さめ(寤)てもわするゝことなく。
【右丁】
わがこゝろ(心)をつくして。つかふまつるべきなり。たとひ こゝ(心)ろよから
ぬおほせことはあるも。いろ(色)をやはら(和)げことば(詞)をつヽしみて。
ふぼ(父母)のこゝろにさかはぬかたに いさめて(諫)。つかふ(事)まつれば。ふぼ(父母)のこゝ(心)
ろもおのづから。よき(善)にむかはせたまふは。おほいなる けう(考)にあら
ざらめやは。ひと(人)の いへ(家)にとつぎ(嫁)ては。をうと(夫)をたふとひ(尊)うやまひ(敬)。
みづからは。あくまでへりくだり(謙)て。こゝろ(心)をつくしつかふまつるべけ
れ。いにしへ(古)のが くわ(娥皇)う ぢよゑい(女英)といふは。しゆん(舜)といふみかど(帝)に
つかへて。つゆ(露)ばかりも をごり(奢)たまふことなく。つま(妻)たる みち(道)をつくし
て。しゆん(舜)をうやまひ(敬)たまへりし。まいて ひき(卑)し いやしき(賤)み(身)は。
ちゝ(父)はゝ(母)にいたく けう(考)をつくし。おうと(夫)にしたがひ。つかふまつる
べしと。おもふこゝろいづべし。かうやうの ひと(人)あ(有)《割書:ン》なれば。
【左丁】
それをみならふかぎりの をんな(女)の。みちにこころざし(志)おこり(起)て
そのみちおのづからひろまるなり。をうと(夫)の いへ(家)にゆきては。しう(舅)
としうとめ(姑)を。ふぼ(父母)のごとくうやまひ。よろづのことに。こゝろ(心)を
つけ。いみじくつかふまつるべし。ひとたび とつげ(嫁)ば。その(其)いへ(家)にて。
をはる(終)べきみちなりかし。をうと(夫)み(身)まかり(死)などせしに。また こと(外)
いへ(家)にとつぐことは。とり(鳥)けだもの(獣)ゝわざ(事)なりと。いにしへ(古)の ひじ(聖人)
りの いましめ(戒)にくみ(悪)たまふ。ふるき(古)ふみ(書)どもを見て。よくわきまふ
べきとなめれ。列女伝(れつぢよでん)。女四書(をんなししよ)。和論語(わろんご)。などの ふみ(書)。くりかへ
しよみて。をんな(女)のただしき(正)みち(道)を。おこなふ(行)べきなれ。
女官品階(にようくわんのひんかい)
女(をんな)のつかさ(司)くらゐ(位)に。すすませ(進)給(たま)ふも。しな(品)おほき(多)さまなり。その
【右丁】
くは(委)しきことは。みじかき ふで(筆)の。つくすべきにあらねども。童(わらは)
女(め)をさとさんれうに。ふたつ(二)みつ(三)こゝにのす。
ちうぐう《割書:中宮》 にようゐむ《割書:女院》
こくも《割書:国母》 ぼこう《割書:母后》
にようご《割書:女御》 かうい《割書:更衣》みやすどころの
べち(別)の な(名)なり ないしのかみ《割書:尚侍》
ないしのすけ《割書:典侍》 ないしのざう《割書:掌侍》
じやうらうのつぼね《割書:上﨟局》 いちゐのつぼね《割書:一位局》
にゐのつぼねに《割書:二位局》 みやうぶ《割書:命婦》
によくらふど《割書:女蔵人》 とくぜむ《割書:得選》
うねへ《割書:采女》むかしは。くに(国)〴〵より。しかるべき びぢよ(美女)をえらび
【左丁】
て。まいらせしとなり。
によくはん《割書:女官》しよけ(諸家)の。しよだいぶ(諸大夫)のむすめまいる。によう
くはん。あがりては。うねへ(采女)をかくるなり。
もんどり《割書:水取》 とのもづかさ《割書:主殿司》
ゐし《割書:闈司》 にようじゆ《割書:女嬬》これも。さふ
らひのむすめなどまいる。 しやうやく《割書:尚薬》
くすりこ《割書:薬童子》 きたのまんどころ《割書:北政所》
みだい《割書:御台》 ぶき《割書:舞妓》
まひひめ《割書:舞姫》 あづまわらふのつかさ《割書:東竪司》
ざふし《割書:雑仕》 うへわらは《割書:上童》
しもづかへ《割書:下仕》 はしたもの《割書:半物》
【右丁】
このほかにも。おほ(大)じやう(上)らう(﨟)。こ(小)じやう(上)らう(﨟)。ちう(中)らう(﨟)。おんかた(御方)の な(名)。
むきな(向名)。こふぢ(小路)の な(名)。そつ(帥)。あぜち(按察)のつぼね(局)。じゞう(侍従)。こべん(小弁)。くに(國)
の な(名)などありて。その(其)しなおほし。によう(女)くわん(官)のあらまし
をこゝにしるす。くはしきことは。女房官品(にようばうくわんひん)。女官志(にようくわんし)。職原抄(しよくけんしやう)。
官職秘抄(くわんしよくひしやう)。官職知要(くわんしよくちやう)。などをあはせみるべし。
読書(よみもの)
をんな(女)こ(子)を をしふる(教)に。もろこし(唐土)のふみ(書)どもは よみ(読)がたければ。
和論語(わろんご)。女四書(をんなししよ)。大和小学(やまとしやうがく)。女小学(をんなしやうがく)。女大学(をんなだいがく)。大和俗訓(やまとぞくくん)。
五常訓(ごじやうくん)。童子訓(どうじくん)。家道訓(かどうくん)。大和女訓(やまとぢよくん)。女訓雎鳩草(ぢよくんみさごぐさ)。
女訓翁草(ぢよくんおきなくさ)。女実語教(をんなじつごきやう)。女童子教(をんなどうじきやう)。女今川(をんないまがは)。などの ふみ(書)を。
をしふ(教)べし。これ(是)らのふみ(書)は。みな(皆)かなぶみにして。いとけ(幼)なき
【左丁】
をんな(女)も。よくよむべければ。ひたすら をしへ(教)よましむべし。これ(是)
らの ふみ(書)をならへば(習)。おや(親)にけう(孝)をつくし。せうと(兄)をうやまひ。
おとうと(弟)を あはれみ(愍)。すべて をんな(女)のたヾしき みち(道)をしるなり
ある(或)ふみ(文)に いふ(云)。よ(世)のひと(人)の たはれ(婬乱)ゆきて。かへる(帰)みち(道)をしらず
なりぬるは。源氏物語(げんじものかたり)。伊勢物語(いせものかたり)。あればにや。げんじ(源氏)は。
をとこ(男)をんな(女)の たはれ(婬乱)ごとをしるし。いせ(伊勢)は。いろこのむ(好色)のすぢ
ばかりかいたれ(書)ば。かりにも いとけなき(幼)な【「を」も誤】んな(女)に。をしふ(教)べきもの
にあらずと。さもありぬべくおぼゆ。ものよくいふものゝ。よにあるべきが。
そらごと(虚言)をよくしなれたるくちつきより。げんじ(源氏)はおとこ(男)をん(女)
なの いましめ(戒)につくれり。いせ(伊勢)は いろごのむ(好色)すぢしるせれど。れい(礼)
をふくむものあり。ぎ(義)をふくむものありなど。さま〴〵にいひ
【右丁】
いだすらめ。もと すう(▢)こう(公)くじ(孔子)のみちをしらざるよりして。
わが(我)このむわざの。よし(善)あしき(悪)もかうがへず(考)。ひと(人)をそこなひ(害)。たゞ(正)
しき みち(道)をふたぎて。かヽる そらごと(不経語)をいひいざせるなるへし。
和論語(わろんご)といふ ふみ(書)は。清原(きよはら)の良業(よしなり)。みことのり(勅)をかうふり(奉)て
つくれり。まき(巻)のはじめには。もろ(諸)〳〵の かんことば(神託)をのせ。つぎ
の まき(巻)に。よゝ(世々)のかしこき みことのり(勅)をあつめ。つぎにおほくの
かしこきひと(賢者)のことばをしるし。つぎにたけきものゝふの ことば(詞)。
つぎ(次)に かしこきおんな(賢女)の ことば(詞)あり。まき(巻)のをはり(終)には。しやく(釈)
し(氏)の ことば(詞)をあつめたり。みな(皆)ひとのすなほ(直)にかしこ(賢)からんことを。
をしへ(教)たまふことばなめれ。
女四書(をんなししょ)といふは。女考経(ぢよかうきやう)。女論語(ぢよろんご)。内訓(だいくん)。女誡(ぢよかい)。の よくさ(四種)をあつ
【左丁】
めて。女四書(をんなししよ)といふなり。女考経(ぢよかうきやう)は。唐(たう)の陳邈(ちんはく)といふ ひと(人)のつま(妻)。
鄭氏(ていし)のつくれるを。このくに(此方)ゝてやまとことばになしたり。女論語(ぢよろんご)は。
漢(かん)の曹大家(さうたいこ)といふ をんな(女)のつくれる ふみ(書)を。このくに(此方)にてやはらげ(譯)
とき(説)たり。内訓(だいくん)は。明(みん)の大宗(たいそう)皇帝(くわうてい)の御后(おんきさき)の。つくらせたまふ ふ(書)
みなり。このくに(此方)にてやはらげ か(書)けり。女誡(ぢよかい)も漢(かん)の曹大家(さうたいこ)の つく(作)
れる ふみ(書)なるを。このくに(此方)にてやはらげ か(書)けり。いづれも。をんな(女)のこゝ(心)
ろたヾしく。おこなひ(行)のきよらか(清)ならんことを。をしへ(教)みちびき(導)
たまふ ふみ(書)なり。
大和小学(やまとしやうがく)といふ ふみ(書)。ふたくさ(二種)あり。ひとくさ(一種)は もろこし(唐土)の小(しやう)
学(がく)を。たヾちにやまとことばにかいたり。たが(誰)ふで(筆)そめしといふ
ことさだかならず。また ひとくさ(一種)は。山崎闇斎(やまざきあんさい)の大和小学(やまとしやうがく)と
【右丁】
いふあり。これは もろこし(唐土)の 小学(しやうかく)に。なずらへて/つく(作)れり。このふみ
の/をはり(終)に/かみ(神)の/やしろ(社)のことしるせり。この/をのこ(男)。かみ(神)の/みち(道)この
めるゆえにや。
女小学(をんなしやうがく)は。宇保氏(うほうぢ)の/ひと(人)の/つく(作)れるなり。をんな(女)の/たヾしき(正)/みち(道)
を。その(其)むすめ(娘)に/しめ(示)したるを。あづさ(梓)にちりばめたるとなり。
女大学(をんなだいがく)は。筑前(ちくぜん)の貝原益軒(かいばらえきけん)。名(な)は篤信(あつのぶ)といふ ひと(人)つくれり。
大和俗訓(やまとぞくくん)も益軒(えきけん)つくれり。一ニの/まき(巻)を為学(いがく)といふ。三四の
まき(巻)を心術(しんしゆつ)といふ。五の/まき(巻)に衣服(いふく)言語(げんぎよ)をとけ(説)り。六七の/まき(巻)
に。躬行(きうかう)をのす。八の/まき(巻)に応接(おうせつ)をとき(説)
たり。
五常訓(ごじやうくん)。童子訓(どうじくん)。家道訓(かだうくん)。みな貝原益軒(かいばらえきけん)つく(作)れり
大和女訓(やまろぢよくん)は肥後(ひご)隈本(くまもと)の幡龍子(ばんりやうし)。井沢長秀(いざはまさひで)といふ/人(ひと)つくれり。
【左丁】
女訓雎鳩草(ぢよくんみさごぐさ)も。井沢長秀(いざはまさひで)つく(作)れり。此(この)序文(じよぶん)は。井沢氏(いざはうぢ)のむ(女)
すめ須賀(すが)つく(作)れり。
女訓翁草(ぢよくんおきなぐさ)は。筑前(ちくぜん)の/竹田春庵定直(たけだしゆんあんさだなお)といふ/ひと(人)つく(作)れり。
女実語教(をんなじつごきやう)。女童子教(をんなどうじきやう)。女今川(をんないまかは)のたぐひは。なべて/ふみ(文)のみち
うとき(疎)にたれど。いとけ(幼)なきをんな(女)にをしへて。あしからぬ
かたにおぼゆ。
廿一代集(にじふいちだいしふ)
廿一代集(にじふいちだいしふ)といふは。みな/やまとうた(和歌)を。あつめ(集)たる/ふみ(書)なり。万(まん)
葉集(ゑふしふ)といふ/ふみ(書)は。ふる(古)き うた(歌)の ふみ(書)にて。なら(奈良)のみかど(天皇)の/おん(御)
とき(宇)。左大臣(さだいじん)橘諸兄(たちばなのもろえ)公(こう)の。えらひ(撰)たまへりしか。この(此)うちにはい
らず。廿一代集とは。古今和歌集(こきんわかしふ)廿巻(はたまき)《割書:紀貫之 紀友則 凡|河内躬恒 壬生忠岑》
【右丁】
《割書:等 勅を奉て撰す。仮名序は貫之。|真名序は。紀淑望かけり。》後撰集(ごせんしふ)廿巻(はたまき)《割書:坂上望城 源順 紀時|文 大中臣能宣 清原元》
《割書:輔等|撰す》拾遺集(しふいしふ)廿巻《割書:大納言公任えらぶ。又は花山院|法皇御撰ともいふ。》後拾遺集(ごしふいしふ)廿巻《割書:中|納》
《割書:言通俊|撰す》金葉集(きんえふしふ)十巻(とまき)《割書:木工頭俊頼|勅をうけて撰す》詞花集(しくはしふ)十巻《割書:左京大夫顕輔 勅|をうけて撰す》
千載集(せんざいしふ)廿巻《割書:三位藤原俊成|院宣を奉て撰す》新古今集(しんこきんしふ)廿巻《割書:通具 有家 定家 家|隆 雅経 等院宣によつて》
《割書:撰す》此(この)八品(やしな)を八代集(はちだいしふ)といふ。新勅撰集(しんちよくせんしふ)廿巻《割書:中納言定家 勅|を奉て撰す》
続後撰集(ぞくごせんしふ)廿巻《割書:民部卿為家|勅を奉て撰す》続古今集(ぞくこきんしふ)廿巻《割書:前内大臣基家 藤原為家|藤原行家 藤原光俊等 勅》
《割書:をうけて|撰す》続拾遺集(ぞくしふいしふ)廿巻《割書:大納言為氏|勅をうけて撰す》新後撰集(しんごせんしふ)廿巻《割書:大納言為世 勅|を奉て撰す》
玉葉集(ぎよくえふしふ)廿巻《割書:大納言為兼|勅をうけて撰す》続千載集(そくせんざいしふ)廿巻《割書:大納言為世|勅を奉て撰す》続後拾遺(ぞくごしふい)
集(しふ)廿巻《割書:民部卿為藤 子息|為定 勅を奉て撰す》風雅集(ふうがしふ)廿巻《割書:萩原法皇|御自撰》新千載集(しんせんざいしふ)廿
巻《割書:大納言為定|勅をうけて撰す》新拾遺集(しんしふいしふ)廿巻《割書:民部卿為明|勅を奉て撰す》新後拾遺集(しんごしふいしふ)廿巻
《割書:中納言為遠 中納言|為重 勅を奉て撰す》新続古今集(しんぞくこきんしふ)廿巻《割書:中納言雅世|勅を奉て撰す》をいふなり。この
【左丁】
ほか(外)にも。うた(歌)をあつめたる ふみ(書)あれども。廿一代集をもとゝするなり。
三十六人 歌合(うたあはせ)
三十六人の うた(歌)あは(合)せを。かせん(歌仙)ともいふ。四条大納言(しぢやうたいなごん)藤原公任(ふぢはらのきんたふ)のえら
べるとぞ。そのゝち覚盛法師(かくせいはふし)。うたの ひだり(左)みぎ(右)をわかちて。
十八つがひ(番)となせり。その三十六人は。
柿本人麿(左かきのもとのひとまろ)《割書:大夫 上世|の哥人也》紀貫之(右きのつらゆき)《割書:木工頭。五位|大内記。》凡河内躬恒(をふしかうちのみつね)《割書:甲斐権少目|淡路掾》
伊勢(右いせ)《割書:伊勢守藤原継蔭|の女也。七条院の女房。》大伴家持(おほとものやかもち)《割書:旅人男。従|三位。中納言。》山辺赤人(やまのべのあかひと)《割書:聖武御時|の人》
在原業平(ありわらのなりひら)《割書:従四位上。|右近中将。》 遍昭僧正(へんじやうそうじやう)《割書:俗名宗貞とい|ふ。花山僧正と号す》素性法師(そせいはふし)《割書:宗貞の男。|俗名玄利》
紀友則(きのとものり)《割書:大内記|五位□》 猿丸大夫(さるまるたいふ)《割書:何の時の人か|しれず》小野小町(をのゝこまち)《割書:出羽郡司|常澄の女》
藤原兼輔(ふぢはらのかねすけ)《割書:中納言。従三位。|堤と号す。》藤原朝忠(ふぢはらのあさたゞ)《割書:従二位|大納言》 藤原敦忠(ふぢはらのあつたゞ)《割書:中納言》
藤原高光(ふぢはらのたかみつ)《割書:左近衛少将|五位》源公忠(みなもとのきんたゞ)《割書:国紀子。右大弁|四位。》 壬生忠岑(みぶのたゞみね)《割書:右衛門府生》
【右丁】
斎宮(さいくうの)女御(にようご)《割書:徽子 後村|上の女御》大中臣頼基(おほなかとみのよりもと)《割書:祭主神|祇大副》 藤原敏行(ふぢはらのとしゆき)《割書:富士丸の男。|右衛門督。四位。》
源 重之(しけゆき)《割書:相模権守。|五位》 源 宗于(むねゆき)《割書:兵部太輔。|正四位上》 源 信明(のぶあき)《割書:陸奥守。|四位》
藤原 清正(きよたゞ)《割書:兼輔の男。|左小弁五位。》源 順(したがふ)《割書:挙の男。能登守。|五位。》藤原 興風(おきかぜ)《割書:相模掾。|従五位》
清原元輔(きよはらのもとすけ)《割書:肥後守。|五位》 坂上是則(さかのうへのこれのり)《割書:大内記|五位》 藤原 元真(もとざね)《割書:丹波介。|五位》
小大君(こおほきみ)《割書:女蔵人|左近》 藤原 仲文(なかぶん)《割書:伊賀守|五位》 大中臣能宣(おほなかとみのよしのぶ)《割書:祭主典領|四位》
壬生忠見(みぶのたゞみ)《割書:忠岑男。|摂津目》 平兼盛(たひらかねもり)《割書:駿河守|五位》 中務(なかつかさ)《割書:敦慶親王の女也。|母は伊勢。》
歌人(うたびとの)名数(なかず)
うたびと(歌人)の なかず(名数)を。くみあはせたるに。二聖(にせい)。六哥仙(ろくかせん)。梨壺(なしつぼ)
の五人。梨壺(なしつぼ)の五哥仙(ごかせん)などいふことあり。
和哥(わか)の二聖(にせい)とは。人麿(ひとまろ)。赤人(あかひと)の ふたり(二人)をいふなり。
六哥仙(ろくかせん)といふは。僧正遍照(そうじやうへんじやう)。在原業平(ありわらのなりひら)。文屋康秀(ぶんやのやすひで)。
【左丁】
喜撰法師(きせんはふし)。小野小町(をのゝこまち)。大伴黒主(おほとものくろぬし)の六人をさしていふ。
梨壺(なしつぼ)の五人とは。大中臣能宣(おほなかとみのよしのぶ)。清原元輔(きよはらのもとすけ)。源順(みなもとのしたがふ)。
紀時文(きのときぶん)。坂上望城(さかのうへのもちき)。の五人をいふ。
梨壺の五哥 仙(せん)は。みな上東門院(しやうとうもんゐん)の侍女(しぢよ)なり。赤染衛門(あかそめえもん)。
和泉式部(いづみしきぶ)。紫式部(むらさきしきぶ)。馬内侍(うまのないし)。伊勢大輔(いせのたいふ)の五人をいふなり。
百人一首(ひやくにんいつしゆ)
百人一首(ひやくにんいつしゆ)といふ ふみ(書)は。むかし京極中納言(きやうごくちうなごん)藤原定家(ふぢはらのさだいへ)と
いふ ひと(人)。おい(老)の ゝち(後)。をぐら(小倉)の さんさう(山荘)にありて。いにしへ(古)いま(今)の
うた(歌)の なか(中)に。わが(我)こゝろ(心)に。かなひたる うた(歌)を。ひやくす(百首)すぐり
いだして。しきし(色紙)がたに かい(書)て。かの さんさう(山荘)の さうじ(障子)に。おさせ。
たまへりし。これ(是)を よ(世)に つた(伝)へて。をぐらさんさう(小倉山荘)の しきし(色紙)の
【右丁】
わか(和歌)といへり。もゝ(百)ひと(人)の つく(作)れる うた(哥)を。いつす(一首)づゝ かい(書)たまへ
れば。百人一首ともいふなり。その しきし(色紙)には。うた(哥)ばかりなん
かい(書)てよみ ひと(者)の な(名)はなし。のち(後)に みこ(子息)為家(ためいへ)。かきあつめさせ。
よみひと(作者)をしるし。よ(世)にひろめたまふとぞ。百人一首の ちう(注)
したる ふみ(書)に。拾穂抄(しふすいしやう)。《割書:北村季|吟作》改観抄(かいくわんしやう)。《割書:沙門契|沖作》なとあり。その(其)
百人一首とは。
天智天皇(てんぢてんわう)《割書:諱は葛城|在位十年》 持統天皇(じどうてんわう)《割書:女帝在位|十一年》 柿本人麿(かきのもとのひとまろ)《割書:大夫。上世|哥人也。》
山辺赤人(やまべのあかひと)《割書:上総国の人|正六位上》 猿丸大夫(さるまるたいふ)《割書:官姓詳|ならず》 中納言家持(ちうなごんやかもち)《割書:姓は大伴。|旅人の男。》
安部仲麿(あべのなかまろ)《割書:秘書監|左補闕》 喜撰法師(きせんはふし)《割書:橘氏一作_二|基泉_一》 小野小町(をのゝこまち)《割書:出羽郡司|常澄女》
蝉丸(せみまろ) 《割書:姓氏不|_レ詳》 参議篁(さんぎたかむら)《割書:姓。小野。|岑守男。》 僧正遍照(そうじやうへんじやう)《割書:姓は良峯|初め名は宗貞》
陽成院(やうぜいゐん)《割書:諱貞明》 河原左大臣(かはらのさだいじん)《割書:姓は源|名は融》 光孝天皇(くわうかうてんわう)《割書:諱は時康|号は小松》
【左丁】
中納言行平(ちうなごんゆきひら)《割書:姓在原》 在原業平朝臣(ありはらのなりひらあそん)《割書:行平の弟|号閑麗翁》 藤原敏行(ふぢはらのとしゆき)朝臣《割書:従五位上。|大内記。》
伊勢(いせ)《割書:藤原氏。継蔭|の女。》 元良親王(もとよしのみこ)《割書:三品兵部|卿》 素性法師(そせいはふし)《割書:初の名は|玄利》
文屋康秀(ふんやのやすひで)《割書:字は琳|三河掾》 大江千里(おほえのちさと)《割書:伊予守|正五位下》 菅家(かんけ)《割書:名は道真。字は三|官は丞相。》
三条右大臣(さんぢやうのうだいじん)《割書:名は定方|姓は藤原》 貞信公(ていしんこう)《割書:名忠平。姓藤原|太政大臣。》 中納言兼輔(ちうなごんかねすけ)《割書:姓は藤原|号は堤》
源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)《割書:右京亮|正四位上》 凡河内躬恒(をふしかうちのみつね)《割書:淡路権掾》 壬生忠岑(みぶのたゞみね)《割書:右衛門|府生》
坂上是則(さかのうへのこれのり)《割書:大内記|従五位下》 春道列樹(はるみちのつらき)《割書:文章生|壱岐守》 紀友則(きのとものり)《割書:大内記》
藤原興風(ふぢはらのおきかぜ)《割書:正六位上|治部少丞》 紀貫之(きのつらゆき)《割書:従五位下|木工頭》 清原深養父(きよはらのふかやふ)《割書:従五位下|内匠名》
文屋朝康(ふんやのあさやす)《割書:大膳少進》 右近(うこん)《割書:右近少将季縄|女》 参議等(さんぎひとし)《割書:姓は源。|従三位。》
平兼盛(やひらかねもり)《割書:従五位下|駿河守》 壬生忠見(みぶのたゞみ)《割書:摂津大目》 清原元輔(きよはらのもとすけ)《割書:従五位上|下総守》
権中納言敦忠(ごんぢうなごんあつたゞ)《割書:姓藤原|従三位》 中納言朝忠(ちうなごんあさたゞ)《割書:姓は藤原|従三位》 謙徳公(けんとくこう)《割書:名は伊尹。姓は|藤原。摂政》
曽禰好忠(そねのよしたゞ)《割書:丹後掾》 恵慶法師(ゑきやうはふし)《割書:寛和の比の|人》 源重之(みなもとのしげゆき)《割書:従五位下|相模守》
【右丁】
大中臣能宣(おほなかとみのよしのぶ)《割書:伊勢祭主|四位》 藤原義孝(ふぢはらのよしたか)《割書:従五位下|春宮亮》 藤原実方(ふぢはらのさねかた)《割書:正四位下|陸奥守》
藤原 道信朝臣(みちのぶあそん)《割書:左中将|従四位上》 右近大将道綱母(うこんのだいしやうみちつながはゝ)《割書:倫寧女》 儀同三司母(ぎどうさんしがはゝ)《割書:伊周母。高|階業忠女。》
大納言公任(だいなごんきんたふ)《割書:姓藤原。号|四条。正二位。》 和泉式部(いづみしきぶ)《割書:上東門院女|房。大江雅致女。》 紫式部(むらさきしきぶ)《割書:為時の女|宣孝の妻》
大弐三位(だいにさんゐ)《割書:宣孝の女|成平の妻》 赤染衛門(あかぞめのゑもん)《割書:赤染時用|の女》 小式部内侍(こしきぶのないし)《割書:橘道貞の|女》
伊勢大輔(いせのたいふ)《割書:大中臣輔|親の女》 清少納言(せいしやうなごん)《割書:清原元輔|の女》 左京大夫道雅(さきやうのたいふみちまさ)《割書:姓は藤原|三位中将》
権中納言 定頼(さだより)《割書:姓藤原正二|位兵部卿》 相模(さがみ)《割書:源頼光の女。号は|乙侍従。》 大僧正行尊(だいそうしやうぎやうそん)《割書:天台の|座主》
周防内侍(すはうのないし)《割書:名は仲子。|源継仲女。》 三条院(さんじやうのゐん)《割書:諱は居貞。在|位五年。》 能因法師(のういんはふし)《割書:姓は橘氏|古曽部と号。》
良暹法師(りやうぜんはふし)《割書:祇園別当》 大納言経信(だいなごんつねのふ)《割書:姓は源|太宰帥》 祐子内親王家紀伊(いうしないしんわういへのき)《割書:源経|方女》
権中納言匡房(ごんちうなごんまさふさ)《割書:姓。大江|太宰権帥》 源 俊頼(としより)朝臣《割書:左京大夫|従四位上》 藤原基俊(ふぢはらのもととし)《割書:従五位下|左衛門佐》
法性寺入道(はふしやうじにふだう)前関白太政大臣(さきのくわんぱくだいじやうだいじん)《割書:名忠通|姓藤原》 崇徳院(すとくゐん)《割書:諱|顕仁》 源 兼昌(かねまさ)《割書:従五位下。皇|后宮大進。》
右京大夫顕輔(うきやうのたいふあきすけ)《割書:姓藤原》 待賢門院堀河(たいけんもんゐんのほりかは)《割書:神祇伯|顕仲女》 後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)《割書:名実|定》
【左丁】
道因法師(だういんはふし)《割書:本姓藤原|氏》 皇太后宮大夫俊成(くわうだいこうぐうたいふとしなり)《割書:姓藤原。|五条三位》 藤原 清輔(きよすけ)朝臣《割書:正四位下|長門守》
俊恵法師(しゆんゑはふし)《割書:本姓は源氏》 西行法師(さいぎやうはふし)《割書:本姓藤原氏。|名円位。》 寂蓮法師(しやくれんはふし)《割書:本姓藤原|氏》
皇嘉門院別当(くわうかもんゐんのべ[つ]たう)《割書:名隆子。|源俊隆女。》式子内親王(しよくしないしんわう)《割書:萱の斎院と|号す》 殷富門院大輔(ゐんふもんゐんのたいふ)《割書:藤原信|成女》
後京極摂政(ごきやうこくせつしやう)前(さきの)太政大臣《割書:名良経》 二条院讃岐(にじやうのゐんさぬき)《割書:源頼|政女》 鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)《割書:名実朝》
参議雅経(さんぎまさつね)《割書:姓は藤原|従三位》 前大僧正慈円(さきのだいそうじやうじえん)《割書:本姓藤原|吉水と号》 入道前太政大臣《割書:名は公|経》
権中納言 定家(さだいへ)《割書:姓は藤原|号は京極》 従二位家隆(じゆにゐいへたか)《割書:姓藤原|号は壬生》 後鳥羽院(ごとばのゐん)《割書:諱は尊成。在|位十五年。》
順徳院(じゆんとくゐん)《割書:諱守成。在|位十一年。》
和歌法式(わかのはふしき)
和哥(わか)の はふし(法式)き。さま〴〵あるなかにも。六義(りくぎ)。六 体(てい)。十 体(てい)。 七 病(ひやう)。八
病(ひやう)。四家(しか)の式(しき)。哥合式(うたあはせのしき)。などいふことあり。さだ(定)まれる はふ(法)なり。
六義(りくき)とは。風(ふう)。賦(ふ)。比(ひ)。興(けう)。雅(が)。頌(しよう)をいふ。
【右丁】
風(ふう)といふは。そへ うた(歌)なり。もの(物)をものに。そへよめるなり。その(其)
こと(事)をいはで。その(其)ひと(人)をさとらすといへり。
難波津に咲や此はな冬こもり今は春へと咲やこの花
賦(ふ)は。かぞへ うた(歌)なり。もの(物)にもたとへずしていへり。
さく花におもひつくみのあちきなく身にいたつき の いるもしらすて
比(ひ)は。なずらへ うた(歌)なり。もの(物)になずらへたるなり。たとへば。たとへ
たるといふも。おなしことなり。
君にけさあしたの霜におきていなばこひしきことにきえやわたらむ
興(けう)は。たとへ うた(歌)なり。
わかこひはよむともつきし有磯海のはまの真砂はよみつくすとも
雅(か)は。たゞこと うた(歌)といへり。
【左丁】
いつはりのなき世なりせはいかはかり人のことの葉うれしからまし
頌(しやう)は。いはひ うた(歌)なり。
このとのはむへもとみけりさき草のみつはよつ葉にとのつくりせり
八雲御抄に いふ(云)。貫之(つらゆき)おほよそ むくさ(六種)にわかれんことは。えある
まじきことゝいへり。まこと(誠)に六義(りくぎ)に。さま(様)をかへん こと(事)は。わか(難分)
ちかたき か(歟)。たゞ(但)それもやうにより。ことによるべき こと(事)なり。
六体(りくてい)とは。長哥(ちやうか)。短哥(たんか)。旋頭哥(せんどうか)。混本哥(こんぽんか)。折句(をりく)。沓冠(くつかうふり)。これ(是)を
六体といふ。
長(ちやう)哥は。もじかずを。五七五七五七五七七七と。つらぬるなり。
ある(一) せつ(説)には。つね(常)の うた(歌)を 長歌(ちやうか)といふ。
短哥(たんか)は。もじかずを。五七五七五七七七とつらぬるなり。ある(一)せつ(説)には
【右丁】
つね(常)の うた(歌)を短哥(たんか)といふ。
旋頭哥(せんどうか)は。つね(常)のうた(歌)に。また一 句(く)を くは(加)ふるなり。
混本哥(こんぽんか)は。つね(常)の うた(歌)に。一 句(く)たらす。五七五七とつらぬるなり。
折句(をりく)は。つね(常)の うた(歌)にて。句(く)ごとの はじめ(首)に。もじ(文字)をおくなり。
沓冠(くつかうふり)は。句(く)ごとの かみ(上)しも(下)に じ(字)をおくなり。
古今集(こきんしふ)に いだ(出)せる短哥(たんか)を一首(いつしゆ)こゝにのす。
七条の きさい(后)うせたまひにける のち(後)によみける 伊勢
おきつなみ あれのみまさる みやのうちは としへてすみし
いせのあまも ふねなかしたる こゝちして よらむかたなく
かなしきに なみたのいろの くれなゐは われし【「ら」の誤】かなかの
しくれにて あきのもみちと ひと〳〵は をのかちり〳〵
【左丁】
わかれなは たのむかけなく なりはてゝ とまるものとは
はなすゝき きみなきにはに むれたちて そらをまねかは
はつかりの なきわたりつゝ よそにこそ見め
十 体(てい)とは 有心体(うしんのてい) 長高体(たけたかきてい) 可然体(しかるべきてい) 見様体(みるやうのてい)
一節体(ひとふしありてい) 拉鬼体(おにとりひしぐてい) 麗体(うるはしきてい) 面白体(おもしろきてい) 濃体(こまやかなるてい)
幽玄体(いうげんてい)を。わか(和歌)の十 体(てい)といふなり。
八 病(びやう)とは同心(どうしん)。乱思(らんし)。欄蝶(らんてふ)。渚鴻(しよこう)。花橘(くわきつ)。老楓(らうふう)。中飽(ちうはう)。後悔(こうくわい)。の
やくさ(八種)をいふなり。同心病(どうしんびやう)とは。おなじことの。二 句(く)にあるを
いふなり。乱思病(らんしびやう)とは。ことば(詞)いう(優)にしてそへよめるなり。欄蝶(らんてふ)
病(びやう)とは。もと(本)の 句(く)よく(好)てすへ(末)の 句(く)あらき(疎)なり。渚鴻病(しよこうびやう)は。ひ(偏)
とへに だい(題)にひかれて。ことば(詞)らうせ(不労)ざるなり。花橘病(くわきつびやう)は。す
【右丁】
なほにして。すぐ(直)に その(其)ほんみや(本名)うを もち(用)うるなり。老楓(らうふう)
病(びやう)は。へん(編)しゆう(終)いつしやう(一章)に。かみ(上)四(よつ)しも(下)三(みつ)を もちう(用)るなり。
中飽病(ちうはうびやう)は。三十五六 字(じ)あるうたをいふ。後悔病(こうくわいびやう)は。ふうせい(風情)
なくて。のち(後)に。くやむ(悔)となり。
七 病(びやう)とは。頭尾病(つびびやう)。胸尾病(きようびひやう)。膊尾病(はくびびやう)。靨子病(ゑふしびやう)。遊風病(いうふうひやう)。声(せい)
韻病(いんびやう)。遍身病(へんしんびやう)。をいふなり。頭尾病(つびびやう)とは。ほつく(発句)のをはり(終)と。
第二句(だいにく)の をはり(終)と。おなじ(同)きなり。胸尾病(きようびびやう)とは。ほつく(発句)の
をはり(終)。第二句の上(かみ)六字。おなじ(同)きなり。膊尾病(はくびびやう)《割書:膊一 ̄ニ|作_レ膞》
《割書:又。作_レ■【注】膊匹各反。|膞音転。》は。た(他)の く(句)の をはり(終)と。ほんいん(本韻)と おなし(同)き
なり。第三句の をはり(終)と ほんいん(本韻)なり。靨子病(ゑふしびやう)は。又
句の うち(中)。ほんいん(本韻)しも(下)に同字(どうじ)あるなり。遊風病(いうふうひやう)は。一
【左丁】
句(く)の うち(中)の じ(字)と。をはり(終)の じ(字)と おなじ(同)きなり。声韻病(せいいんびやう)
は。二韻(にいん)同字(どうじ)なり。遍身(へんしん)病は。二韻(にいん)の うち(中)。本韻(ほんいん)二字以
上を のぞき(除)。同字(どうし)あるをいふなり。
四家式(しかのしき)とは。歌経標式(かけいひやうしき)《割書:参議藤原浜成|勅を奉て作る》喜撰作式(きせんさくしき)《割書:喜撰勅を奉て|作る》
孫姫式(まごひめかしき)《割書:有序》石見女式(いはみめかしき)《割書:是は安部の清行か|式と同物なりや》この よくさ(四種)の ふみ(書)をいふ
となり
哥合(うたあはせ)といふことあり。その(其)しだい(次第)は。先(まづ)刻限(こくげん)に大殿已下(おほとのよりしもつかた)公卿(くぎやう)十余(とをあまり)
奉着座(おましにつきたまふ) 次(つぎに)立切灯台(みあかしをたつ) 敷菅円座(わらふざをしく) 次(つぎに)置左右文台(ひだりみきりのふつくゑをおく) 次(つきに)左(ひだり)
右(みぎり)参上(まいりたまふ) 次(つきに)召講師(かうしめす) 次(つきに)歌評定(うたのしなさだめ) 人々進寄(ひと〴〵すゝみよる) 次(つきに)花哥七番講畢(はなのうたなゝつがひよみをはる)
公卿膳坏酌(くぎやうのかしはでかはしけむ) 汁物(しるのもの) 高坏物(たかつきのもの) 次(つきに)郭公哥(ほとゝきすのうた) 次(つきに)勧盃(かはらけまいる) 公卿可取之(くぎやうとりたまふ)
次(つぎに)月雪祝哥(つきゆきいわふうた) 判畢(はんをはる) 次(つぎに)諸大夫置管絃具(しよたいふいとたけの▢▢▢をおく) 次(つきに)呂律曲(りよりちのごく) 次(つきに)有禄(ろくあり)
【注 「𨍭」か「轉」と思われる。】
【右丁】
次(つぎに)引出物(ひきでものあり)
和歌読方(わかのよみかた)
和歌庭訓抄(わかていきんしやう)に いふ(云)。やまとうたの みち(道)は。とほ(遠)くもと(求)め。ひろく き(聞)
く みち(道)にあらずと はべる(侍)こと(事)。この(此)こと(事)しやう(至要)にはべる。まこと(誠)に げつし(月氏)
かんち(漢朝)やうのわざを よむ(読)べきにあらず。たゞ(只)やまと(大和)ことば(詞)にて。み(見)
る もの(物)きく(聞)ものに つき(付)て。いひ いだ(出)すばかりなり。また(又)千載集の じよ(序)
に いふ(云)。この(此)みち(道)をまなぶる こと(事)を いふ(云)に。からくに(韓国)ひのもと(日本)の ふる(古)
き ふみ(書)の みち(道)をまなび。しか(鹿)の その(苑)。わし(鷲)の みね(嶺)の。ふか(深)きみ
のりをさとるにしもあらず。たゞ(只)かんな(仮名)のよそじあまり。なゝもじ(七文字)
の うち(内)をいでずして。こゝろ(心)に おも(思)ふことを。ことのはにまかせて。
いひつらぬるならひなりとぞ。
【左丁】
うたをよまんと おも(思)はゞ。まづ なに(何)ゝてもあれ。だい(題)にふかく こゝろ(心)を
いるゝことをよしとす。知題抄(ちだいしやう)に いふ(云)。いはゐ(祝)には。かぎりなく ひさ(久)し
き こゝろ(心)をいひ。こひ(恋)にはわりなく。あさ(浅)からぬよしをよみ。もし(若)
は いのち(命)にかへて はな(花)をおしみ。いへぢ(家路)をわす(忘)れて。もみぢ(紅葉)を たづ(尋)ね
んごとく。その(其)もの(物)に こゝろざし(志)をふかく よむ(読)べしとぞ。
題(だい)を はじめ(初)の いつもじ(五文字)にいひつくし。また(又)は たい(題)を。をはり(終)の く(句)ば
かりに。よむ(読)ことを きらふ(嫌)なり。京極中納言相語(きやうこくちうなごんのさうご)に い(云)ふ。題(たい)は
はじめ(初)の く(句)ばかり。もしは をはり(終)の く(句)ばかりにて。その(其)ことに
なきものゝ うた(哥)を。おほく(多)れう(領)ずる。いはれなき こと(事)なりとそ。
本哥(ほんか)をとりてよむといふことあり。古今集(こきんしふ)。後撰集(ごせんしふ)。拾遺(しふい)
集(しふ)。この みくさ(三部)の うち(中)の うた(哥)を。ほんか(本哥)にとりてよむなり。たとへば
【右丁】
古今集本哥 さむしろに(◦◦◦◦◦)衣(◦)かたしき(◦◦◦◦)今夜もや我を待らんうぢのはし姫《割書:読人不知》
新古今集 きり〴〵す鳴や霜夜の さむしろに(◦◦◦◦◦)衣(◦)かたしき(◦◦◦◦)独かもねん《割書:後京極》
哥(うた)を よむ(読)には。ふるき ことば(言葉)をもて。おも(思)ふことを いひ(言)つらぬべし。たとひ
おもしろき うた(哥)にても。ことば(言葉)あたら(新)しきは きら(嫌)ふなり。うた(哥)のこ
とばをあつめて。ちう(注)したる ふみ(書)は。八雲御抄(やくもみしやう)。藻塩草(もしほくさ)。幽斎聞書(いうさいきゝかき)
全集(ぜんしふ)。初学和哥式(しよかくわかしき)。和哥八重垣(わかやへがき)などなり。
題(だい)に一字題(いちじだい)といふあり。松(まつ)。竹(たけ)。峯(みね)。河(かは)。のたぐひ(類)なり。結題(むすびだい)といふあり。
月前懐友(つきのまへにともをおもふ)。松為久友(まつとひさしきともとす)。の たぐひ(類)なり。また経文(きやうもん)の題(だい)といふあり。
返(かへ)し哥といふあり。これは ひと(人)よりよみて たまは(給)りたるに
われもまた よみ(読)て こた(答)ふるをいふなり。
名所(めいしよ)に景物(けいぶつ)をむすぶといふは。たとへば男山(をとこやま)に子日(ねのび)。桜(さくら)。藤(ふぢ)
【左丁】
月(つき)。鳫(かり)。女郎花(をみなへし)。神楽(かぐら)。松(まつ)などをむすぶ。吉野川(よしのかは)には。蛙(かはつ)。款冬(やまふき)【欵は俗字】
千鳥(ちとり)などをむすぶ。二見浦(ふたみのうら)には。卯花(うのはな)。郭公(ほとゝきす)。菊(きく)。鳫(かり)。擣衣(きぬた)。
千鳥(ちどり)。鴛(をし)などをむすぶたぐひなり。これらは八雲御抄(やくもみしやう)。哥枕(うたまくら)。
秋寐覚(あきのねざめ)。名所部類考(めいしよぶるいかう)などにくはしく見えたり。
組題(くみだい)といふ こと(事)あり。たとへは春部(はるのぶ)を十首。くみあはすには。
朝霞(あさかすみ)。夕鴬(ゆふべのうくひす)。柳露(やなぎのつゆ)。山花(やまのはな)。款冬(やまふき)。【欵は俗字】寄煙恋(けふりによするこひ)。寄河恋(かはによするこひ)。寄高恋(たかきによするこひ)。
嶺上松(みねのほとりのまつ)。竹為友(たけをともとする)などなり。秋部(あきのぶ)を五首くみあはすには。秋色(あきのいろ)
秋声(あきのこゑ)。秋香(あきのか)。秋情(あきのなさけ)。秋恋(あきのこひ)などなり。四 季(き)を二首くみあはすに
は。水郷春望(すいきやうのしゆんばう)。山路秋行(さんろのしゆうかう)などなり。これらは和哥組題集(わかくみたいしふ)にいず。
たれ(誰)にても うた(哥)をよみ つら(連)ねん こゝろ(志)ざしあらば。まづ うた(哥)の よみ(読)
かた(方)の ふみ(書)と。ことば(詞)よせ(寄)たる ふみ(書)を。十へんはかりよみて。その(其)
【右丁】
のち(後)うた(哥)を あつめ(集)たる ふみ(書)を。なに(何)ゝても百へんばかりよむべし。
かくのごとくして よみ(読)つら(連)ぬれは。おほよそ うた(哥)はよまるゝ
ものなりと。ひと(人)のかたりき。
哥(うた)の よみ(読)かた。うたの法式(ほふしき)を。見るべき ふみ(書)には。八雲御抄(やくもみしやう)《割書:順徳院勅|作》
和歌用意(わかようい)《割書:二条家|の抄》詠哥大概(えいかのたいがい)《割書:定家の|作》八雲口伝(やくもくてん)《割書:為家の|作》悦目抄(ゑつもくしやう)《割書:基俊つく|る》
近来風体抄(きんらいふうていしやう)《割書:後成円寺|の作》和歌庭訓抄(わかていきんしやう)《割書:定家|作》知題抄(ちだいしやう)《割書:飛鳥井|家の抄》三賢秘決(さんけんひけつ)
《割書:為家|作》新撰髄脳(しんせんずいなう)《割書:公任|作》愚問賢注(ぐもんけんちう)《割書:後成円寺の問|頓阿の注》耳底記(じていき)《割書:細川玄旨談。光|広聞書。》
井蛙抄(せいあしやう)《割書:頓阿|作》幽斎聞書(いうさいきゝかき)《割書:細川|玄旨》歌林良材(かりんりやうざい)《割書:兼良|作》初学和歌式(しよがくわかしき)《割書:長伯の作》
などの たぐひ(類)を。よく〳〵見て。うた(哥)の こゝろ(心)をしるべきなり。
物語(ものがたり)草紙(さうし)
ものがた(物語)り さうし(草紙)などいふ ふみ(書)は。かなぶみ(和字文章)つくる れう(料)に。まうけ(設)
【左丁】
たる もの(物)なめれ。さればその まき(巻)〳〵を見るに。ことば(詞)
のおかしく あはれ(哀)なるさま。よ(世)になく いみじう(美)。ゆかしき
こゝちすれ。なかにも源氏物語(けんしものがたり)。狭衣(さごろも)。伊勢物語(いせものかたり)。大和物語(やまとものかたり)
栄花物語(えいぐわものがたり)。竹取物語(たけとりものかたり)。宇津保物語(うつほものかたり)。枕草紙(まくらざうし)。蜻蛉日記(かげろふのにき)。徒然(つれ〳〵)
草(ぐさ)などいふ ふみ(書)は。みな そのかみ(其昔)の めいぶん(名文)なりとぞ。
源氏物語(げんじものがたり)は。六十 帖(でふ)といへども。ふみ(書)のかずは。五十四帖なり。ことば
いう(優)にして。よのつね(尋常)の もの(者)ゝ。よみ(読)うる(得)ことかたければ。ちう(注)せ
る ふみ(書)おほ(多)し。源氏物語抄(げんじものかたりしやう)《割書:作者|しれず》同(おなしく)湖月抄(こげつしやう)《割書:北村季吟|つくる》同 紹巴抄(じやうはしやう)
《割書:称名院殿|よりつたふ》同 明星抄(みやうじやうしやう)《割書:西三条三|光院作》同 弁引抄(べんいんしやう)《割書:一花堂|の作》同 綱目(かうもく)《割書:西道智|の作》同 竟(きやう)
宴(えん)《割書:松永貞徳|の作》同 万水一露(はんすいいちろ)《割書:宗祇の孫弟子|能登永閑作》同 河海抄(かかいしやう)《割書:四辻左|大臣作》同 岷紅入楚(びんかうにふそ)
《割書:中院也|足軒作》などの たぐひ(類)よろし。その五十四 帖(でふ)とは。
【右丁】
きりつぼ《割書:桐|壺》 はゝきゞ《割書:帚|木》 うつせみ《割書:空|蝉》 ゆうがほ《割書:夕|顔》 わかむらさき《割書:若|紫》
すゑつむはな《割書:末摘|花》 もみぢのが《割書:紅葉|賀》 はなのえん《割書:花|宴》 あふひ《割書:葵》 さかき《割書:榊》
はなちるさと《割書:花|散里》 すま《割書:須|磨》 あかし《割書:明石》 みをづくし《割書:漂|𣼓》【注①】 よもぎふ《割書:蓬|生》
せきや《割書:関屋》 ゑあはせ《割書:絵合》 まつかぜ《割書:松風》 うすぐも《割書:薄|雲》 あさがほ《割書:朝|皃》
をとめ《割書:乙女》 たまかづら《割書:玉𩬿》【注②】 はつね《割書:初音》 こてふ《割書:胡|蝶》 ほたる《割書:蛍》
とこなつ《割書:常夏》 かゞりひ《割書:篝火》 のわき《割書:野分》 みゆき《割書:行|幸》 ふぢばかま《割書:蘭》
まきはしら《割書:槙柱》 うめがえ《割書:梅枝》 ふぢのうらは《割書:藤裏|葉》 わかな《割書:若菜|上》 わかな《割書:若菜|下》
かしはぎ《割書:柏木》 よこぶえ《割書:横|笛》 すゞむし《割書:鈴虫》 ゆふぎり《割書:夕|霧》 みのり《割書:御|法》
まぼろし《割書:幻》 にほふみや《割書:匂|宮》 こうばい《割書:紅梅》 たけかは《割書:竹|川》 はしひめ《割書:橋|姫》
しゐがもと《割書:椎本》 あげまき《割書:角|総》 さわらび《割書:早蕨》 やどりき《割書:寄|生》 あづまや《割書:東|屋》
うきふね《割書:浮舟》 かげろふ《割書:蜻|蛉》 てならひ《割書:手習》 ゆめのうきはし《割書:夢浮橋》
【注① 𣼓はUnicodeに記載あれど『大漢和辞典』には記載なし。】
【注② 𩬿はUnicodeに記載あれど『大漢和辞典』には記載なし。鬘の誤ヵ。】
【左丁】
この五十四帖のうちの さうぞく(装束)を。ちう(注)したる ふみ(書)に。源(げん)
語装束抄(ごさうぞくしやう)。男女装束抄(なんによさうぞくしやう)などあり。
狭衣(さごろも)とは。大弐三位(だいにさんゐ)といふ をんな(女)の つく(作)れるなり。源氏物語(げんじものがたり)
になすらへて。つくれるとなん。この大弐三位(だいにさんゐ)は。紫式部(むらさきしきふ)の
むすめ(女)なりければ。源氏物語(げんじものがたり)に。をさ〳〵おとるべくもあらじと
ぞ。この(此)ちう(注)をせし ふみ(書)に。下紐(したひも)といふあり。系図(けいづ)あり。系図(けいづ)
は。逍遥院殿(しやうやうゐんでん)つく(作)らせたまへりとなり。
伊勢物語(いせものがたり)は。伊勢(いせ)の御(ご)のつく(作)れるゆゑに。な(題号)をもかくいへ
りとぞ。また(又)在原業平(ありわらのなりひら)の。みづから しる(記)されしともいふ。あ(或)
る ひと(人)のいふ(説)に。業平(なりひら)の じき(自記)の さうし(草紙)ありしうへに。伊勢(いせ)
さま〴〵の こと(事)を かい(書)そへ(添)て。つくり(作)ものがたり(物語)となして。
【右丁】
宇多院(うだのゐん)の后宮(きさいのみや)。七条(しちぢやう)のきさい。温子(をんし)の おん(御)かた(▢)へ。たて(奉)まつりし
といふに。けつ(決)せりとあり。さもありぬべし。伊勢物語(いせものがたり)に ちう(注)
をせる ふみ(書)は。知顕抄(ちけんしやう)《割書:作者|不知》初冠(ういかうふり)《割書:作者|不知》愚見抄(ぐけんしやう)《割書:一条禅閣|の作》逍遥院(しやうやうゐん)
殿家説(てんのかせつ)《割書:三条西|殿作》惟清抄(いせいしやう)《割書:舟橋三位|環翠軒の作》肖聞抄(しやうもんしやう)《割書:牡丹花老人|肖柏の作》闕疑抄(けつぎしやう)《割書:細川玄旨|作》
杼海(じよかい)《割書:了意|作》盤斎抄(ばんさいしやう)《割書:踏雪|作》山口記(やまぐちのき)《割書:宗祇|作》秘訣抄(ひけつしやう)【注】《割書:高田宗|賢作》拾穂抄(しふずいしやう)《割書:北村|季吟》
などあり。また(又)六条宮(ろくじやうのみや)の。まな(真名)の伊勢物語(いせものがたり)といふあり。か(漢)
ん じ(字)に かい(書)て。かなの てん(点)を つけ(付)られたり。これは後(のち)の中(ちう)
書王(しよわう)の さく(作)といひ つたふ(伝)るなり。
大和物語(やまとものがたり)は。在原滋春(ありわらのしげはる)のつく(作)れるといふ。滋春(しげはる)は。業平(なりひら)
の次郎(じらう)ぎみにて。在次君(ざいしくん)とも な(名)づく。ある(或)は花山院(くわさんのゐん)の おん(御)
つく(作)り もの(物)ともいひつたへたり。この ものが(物語)たりの抄(しやう)。北村季吟(きたむらきぎん)つくる。
【注「決」は誤】
【左丁】
栄花物語(ゑいがものがたり)は。赤染衛門(あかそめゑもん)の つく(作)れるといふ。宇多天皇(うだのみかど)より。
後(のちの)朱雀院(すさくゐん)までのあひだの。帝王(みかど)。中宮(ちうぐう)。摂家(せつけ)のことを のせ(載)た
り。その ふみ(書)の かず(数)。四十 章(しやう)あり。こゝにのす。
つきのえん 花山(くわさん) さま〴〵の悦(よろこひ) 見はてぬ夢(ゆめ) うら〳〵の別(わかれ)
かゝやく藤壺(ふぢつぼ) 鳥辺野(とりべの) はつ花(はな) いはかげ 日影(ひかげ)の葛(かづら)
つぼみ花(はな) 玉村筆(たまむらのふて)【ママ】 木綿四手(ゆふしで) あさみどり 疑(うたがふ)
本(もと)のしづく をんがく 玉台(たまのうてな) 御着裳(みもぎ) 御賀(おんが)
後悔大将(こうくわいのだいしやう) 鳥舞(とりのまひ) 駒競(こまくらべ) わか枝(え) 峯(みね)の月(つき)
楚王(そわう)の夢(ゆめ) 衣珠(いしゆ) 若水(わかみづ) 玉(たま)のかざり 鶴林(つるのはやし)
殿上花見(てんじやうのはなみ) 哥合(うたあはせ) きるはわびしと歎女房(なげくにようばう) 晩待星(くれまつほし)
蛛振舞(くものふるまひ) 根合(ねあはせ) 煙後(けふりののち) 松のしつは【ママ】 布引滝(ぬのひきのたき) 紫野(むらさきの)
【右丁】
竹取物語(たけとりものがたり)は。作者(さくしや)さだかならず。源順(みなもとのしたがふ)つくれるともいふなり。源(げん)
氏(じ)ゑあはせのまきにも。まづ ものが(物語)たりの いでき(出来)はじめ(始)のおや
なる。たけとり(竹取)のおきな(翁)に。うつほの としか(俊蔭)けを。あは(合)せて
あらそふ(争)と かい(書)たりしも。この(此)ものが(物語)たりのことなかれ。また
万葉(まんえふ)に。わかな(若菜)のことによめるは。このものがたりにはあらずとなん。
宇津保物語(うつほものがたり)は。能登守(のとのかみ)源順(みなもとのしたがふ)つくれり。としか(俊蔭)けのまきといふ
も。うつほものかたりのことなりき。
枕草紙(まくらざうし)は。清原元輔(きよはらのもとすけ)の むす(女)め。清少納言の つくり(作)たる
なり。ちう(注)したる ふみ(書)には。季吟(きぎん)のつくれる春曙抄(しゆんしよしやう)といふあり。
この(此)ふみ(文)の装束(さうぞく)ばかりに ちう(注)したるを。装束撮要抄(さうぞくさつえうしやう)とい
ふ。壷井義知(つほゐよしとも)の さく(作)なり。
【左丁】
蜻蛉(かけらう)の日記は。右大将(うだいしやう)道綱母(みちつなのはゝ)のつくれるなり。右 兵衛佐(へうゑのすけ)藤原(ふぢはら)。
倫寧(ともやす)のむすめなりき。
徒然草(つれ〴〵ぐさ)は。吉田(よしだ)の兼好法師(けんかうはふし)の つく(作)れる ふみ(書)なり。兼好(けんかう)はじめ。
後宇多(ごうだ)の帝(みかど)につかふ。左兵衛佐(さへうゑのすけ)卜部兼好(うらべのかねよし)といひしが。やま(遁世)すみ
して。たゞちに法名(はふみやう)となすとぞ。うた(哥)をよみ ふみ(書)をつゞること。
たへ(妙)にして。しうぎ(秀吟)んおほし。この(此)ふみ(書)に ちう(注)したるは。くさ〴〵あ ̄ン な
るなかにも。寿命院抄(すめうゐんのしやう)二巻(ふたまき)。野槌抄(のづちしやう)十四巻(とをあまりよまき)《割書:林道|春作》貞徳抄(ていとくのしやう)二巻(ふたまき)《割書:長|頭》
《割書:丸|作》古今抄(こきんしやう)八巻(やまき)《割書:大和田|気求作》盤斎抄(ばんさいしやう)十三巻《割書:踏雪|作》句解(くげ)七巻(なゝまき)《割書:高階揚|順作》文段抄(もんだんしやう)
七巻《割書:季吟|作》諺解(げんかい)五巻(いつまき)《割書:南部宗|寿作》【注①】増補鉄槌(そうほてつつい)六巻(むまき)《割書:山田元|隣作》【注②】大全(だいぜん)十三巻《割書:高田宗|賢作》
参考抄(さんかうしやう)八巻《割書:恵空和|尚作》諸抄大成(しよしやうたいせい)二十巻(はたまき)《割書:浅香山|井作》などをよしとす。
【注① 南部草寿の誤と思われる。】
【注② 山岡元隣の誤と思われる。】
賢女(けんぢよ)《割書:并孝婦》
【右丁】
よ(▢(世ヵ))に かしこ(賢)き とこ(徳)【ママ】を たもち(有)て。もろひと(諸人)にたうと(尊)び。うや(敬)
まはるゝ をんな(女)を。徳子(とくし)。藤子(とうし)。といふ。徳子(とくし)といふ ひと(人)は。内大臣(うちのおとゞ)
秀房(ひでふさ)のむすめにて。太宰大弐(だざいのたいに)大内義隆(おふちよしたか)の つま(室)となりたまふ。
けんとこ(賢徳)あるよし。和論語(わろんご)に見 ̄エ たり。おなじ ふみ(書)に。藤子(とうし)と
いふは。藤原政長(ふぢはらのまさなが)のむすめなりけるが。京極高次(きやうごくたかつぐ)なるひとの つ(室)
まに。そな(備)はりたまへりしとなん。これも かし(賢)こき ざえ(才)ありて。か(芳)
ふばしき ほまれ(誉)。ひと(人)にすぐれたまふとなん。かい(書)つけられたり。
孝婦(けうふ)
孝(▢う)はよろづ おこな(行)ふみちの。もとなめれ。あさ(朝)なゆふなに。ちゝ(父)
はゝ(母)を うや(敬)まひて つか(事)ふるは。ひと(人)の とり(鳥)けだ(獣)ものに こと(異)なる
ゆゑ(所以)なりとぞ。いにしへ(古)より。ひと(人)のよくしれる孝婦(けうふ)は。
【左丁】
兄媛(えひめ)《割書:応神天皇の|御代の人》佐紀民直(さきのたみのあたひ)の女(むすめ)《割書:大和国添|下郡の人》波自采女(はじのうねへ)《割書:対馬島|の人》難波部安良(なにはへのやすら)
売(め)《割書:筑前|の人》橘氏(きつし)妙仲(めうちう)《割書:逸勢|の女》福依売(ふくよめ)《割書:薩州|の人》衣縫造(きぬぬひのみやつこ)金継(かなつぐ)の女(むすめ)。■(みち)南(みなみ)築(つく)
紫(し)の女(むすめ) 舞女(まひひめ)微明(みめう) 周防内侍(すはうのないし) 狭白(けふはく)《割書:若狭|の人》 熱田縁采女(あつたのえんねべ) 照田(てるたの)
姫(ひめ) 千世能姫(ちよのひめ)などをいふめれ。ふるき ふみ(書)の。まき(巻)〳〵に見へたり
女中(ぢよちうの)学者(がくしや)
すがた(姿)かたち(容)はさらなり。いみ(美)じき ざえ(才)ありて。から(韓)のやまと(大和)
の ふみ(書)の まき(巻)〳〵を。ひね(終日)もす よみ(読)つゝ。いに(古)しへ いま(今)を かうが(考)へて。
その こと(理)はりを。わき(弁)まへん をんな(女)は。もろこ(唐土)しにもおほから
ぬに。まいて この(此)くに(方)ゝは。ふみ(書)まなぶ をんな(女)といふものは。なく(無)
てありぬべくなど おも(思)ふ。ならはしなるめれといふも。ひた(一向)ふる
の おろか(愚)なるかたにや。もろこ(唐土)しの班婕妤(はんせふいよ)。《割書:班汎|の女》班昭(はんしやう)《割書:班固|の妹》蔡文姫(さいぶんき)
【右丁】
《割書:名 ̄ハ琰。|邕の女》などいふ をんな(女)をも。おどろ(驚)かして。れ(音)たゝず(不立)なしてんは。
紫式部(むらさきしきぶ)《割書:藤原為時の女。|宣孝の妻。》清少納言(せいしやうなごん)《割書:清原元|輔の女》有智子内親王(いうちしないしんわう)《割書:嵯峨天皇の皇女|博学の聞へあり》
江侍従(かうじじう)《割書:大江朝綱の女なり|或 ̄ハ匡衡の女ともいふ》讃岐(さぬき)《割書:源頼政の女なり。十三経|をよく講せしとなり。》阿波内侍(あはのないし)《割書:少納言信西の女なり|父の智徳につぎて。文》
《割書:を学び諸書|に達したるなり。》従三位豊子(じゆさんいとよこ)《割書:大江清通の妻|定経の母なり》小野氏(をのうぢ)《割書:名は通。号は|身葉子。》古春(こしゆん)《割書:安井真|祐の妻》井上(ゐのうへ)
氏(うぢ)《割書:名 ̄ハ通。讃|岐の人。》井沢氏(ゐさわうぢ)《割書:一名は須賀。井沢|長秀の女。》などをいふにや。これらの ひと(人)は。をと(男子)
こにも まれ(稀)なる。がくざえ(学才)あ ̄ン なるよし。ふるき ふみ(書)に見へたり。
女中詩人(ぢよちうのしじん)
もろこ(唐土)しの をんな(女)の。し(詩)つくれることは。名媛彙詩(めいえんいし)《割書:明の鄭文|昂えらふ》名媛(めいゑん)
詩帰(しき)《割書:鐘伯敬|えらふ》名媛詩仙(めいえんしせん)《割書:藤昌琳|えらふ》などに。おほく見へたり。このくに(此方)の
をんな(女)は。まなじ(真字)を よみ(読)わくることも。さだかならずきこゆな
るに。みづから ふで(筆)とり。し(詩)をも つくり(作)いだせるさま。いとたふとし。
【左丁】
もろこ(唐土)しにも もて(持)わたり。つたへまほしげなる こゝち(心)すれ。こと
くにの ひと(人)に くらぶ(比)れは。その いさを(功)しの おほ(多)き。ひ(日)を おなじ(同)
うして かたる(語)べきかは。されば文花秀麗集(ぶんくわしうれいしふ)。経国集(けいこくしふ)。朗詠集(らうゑいしふ)。
玉壺詩稿(ぎよくこしかう)。帰家日記(きかにき)。歴朝詩纂(れきちやうしさん)。金蘭詩集(きんらんししふ)。中山詩稿(ちうざんしかう)。などいふ
ふみ(書)に。このくに(此方)の をんな(女)の し(詩)見へたり。その(其)さくしゃ(作者)は。姫大伴氏(ひめおほともうぢ)
《割書:嵯峨天皇の時の人。|文華秀麗集に見ゆ》有智子内親王(いうちしないしんわう)《割書:嵯峨天皇の皇女。|経国集に見ゆ》惟氏(これうぢ)《割書:峩嵳【ママ】天皇の時の人。|経国集に出。》
尼和氏(にわ▢▢)《割書:和気氏の女。尼となり|名は法均。経国集に出。》十市采女(とをいちのうねへ)《割書:美濃国の人|朗詠集に出》公主聖安(こうしゆせいあん)《割書:後西院天皇の皇|女。歴朝詩纂に見ゆ》
小野氏(をのうぢ)《割書:名は通。号は|身葉子》桃仙(たうせん)《割書:内田氏|の女》井上氏(ゐのうへうぢ)《割書:名 ̄ハ通。讃岐の人。|帰家日記に見ゆ》阿留(ある)《割書:和州|の人》古春(こしゆん)《割書:安井真|祐の妻》
麗草(れいさう)《割書:城州伏見の人。|玉壺詩稿に見ゆ》龍氏(たつうぢ)《割書:初の名は菊。後 ̄ニ名を貞と|改む。金蘭詩集に出》立花玉蘭(たちばなぎよくらん)《割書:柳川の人。中山詩稿|を著す》
幡君蕙(はんくんけい)《割書:字は瑶華|京師の人》龍氏貴(りうしたか)《割書:貞の女弟|江州の人》龍氏輝(りうしてる)《割書:貴の女弟|江州の人》などをいふ。その(其)
詩(し)を数首(すしゆ)こゝにのす。
【右丁】
晩秋述懐(ばんしゆうのしゆつくわい) 姫大伴氏(ひめおほともうぢ)
節候(せつかう)蕭条(しゆうじやうとして)歳(とし)《振り仮名:将_レ闌|たけなはならんとす》。閨門(けいもん)静閑(しづかにして)秋日(しゆうじつ)寒(さむし)。雲天(うんてん)遠鳫(えんがん)声(こゑ)宜(きく)
聴(べし)。檐樹(たんじゆ)晩蝉(ばんせん)引(ひき)《振り仮名:欲_レ殫|つきんことほす》。菊潭(きくたん)《振り仮名:帯_レ露|つゆをおびて》余花(よくわ)冷(ひやゝかなり)。荷浦(かほ)《振り仮名:含_レ霜|しもをふくみて》旧(きう)
盞(さん)残(のこり)。寂寞(せきばく)独(ひとり)《振り仮名:傷_二 四運促_一|しうんのうながすをいたむ》。紛紛(ぷん〳〵たる)落葉(らくえふ)《振り仮名:不_レ勝_レ看|みるにたへず》。
《振り仮名:奉_レ和_二関山月_一|くわんざんげつをわしたてまつる》 有智子内親王(いうちしないしんわう)
皎潔(かうけつ)関山月(くわんさんげつ)。流光(りうかう)万里(ばんりに)明(あきらかなり)。《振り仮名:懸_レ珠|たまをかけて》露葉(ろえふ)浄(きよく)。《振り仮名:臨_レ扇|あふきにのぞんて》霜華(さうくわ)清(きよし)。
寒鳫(かんがん)晴空(せいくうに)断(たへ)。孤猿(こけん)【注】暁峡(けうかふに)鳴(なく)。那(なんぞ)堪(たへん)空閣妾(くうかくのせふ)。《振り仮名:未_レ慰_二相思情_一|さうしのじやうをなくさめす》。
《振り仮名:奉_レ和_二除夜_一|じよやをわしたてまつる》 惟氏(これうぢ)
《振り仮名:自_三従習_レ静出_二風塵_一|しつかなるにならひてけふうじんいでしより》。北斗(ほくと)柄(へい)廻(めくりて)歳月(さいげつ)巡(めぐる)。俗事(ぞくじ)自(よづから)【ママ】《振り仮名:随_二深夜_一|しんやにしたかつて》
尽(つき)。幽心(いうしん)独(ひとり)《振り仮名:対_二 上陽_一|しやうやうにたいして》新(あらたなり)。渓流(けいりう)《振り仮名:向_レ暖迎_二佳気_一|だんにむかふてかきをむかへ》。山燭(さんしよく)閑(しづかに)燃(もへて)避(せ)_二
世人(じんをさく)_一。泉石(せんせき)《振り仮名:不_レ知_レ催_二白髪_一|はくはつをもよほすことしらず》。悠然(いうぜん)徒(いたづらに)《振り仮名:任_二去来春_一|きよらいのはるにまかす》。
【注 「こえん」とあるところ。】
【左丁】
禅居(ぜんきよ) 尼和氏(あまわし)
【右丁 見返し】
【左丁】
女学範下
大江資衡述
十種香(じすかう)
じすかう(十種香)といふこと。いつの ころ(比)より はじ(始)まりけんかし。おな(同)
じ どち(友)。ともにまとゐて。えならぬ にほ(香)ひを も(玩)てあそぶ
に。いと けう(興)ある わざ(事)となりぬ。されば ことく(異国)にゝも。かう(香)をもて
けうずるなる。ふる(古)き ふみ(書)に見えたり。香志(かうし)。香録(かうろく)。香譜(かうふ)。名香(めいかう)
譜(ふ)。などいふふみあるにてしるべきなり。
じすかう(十種香)の みち(道)にいみじきふみは。香合式(かうあはせのしき)。志野宗信筆記(しのそうしんがひっき)。
雪月花集(せつげつくわしふ)。宗温名香記(そうおんめいかうかき)。建部隆勝香之記(たけべたかよしかうのき)。十組香記(とくみかうのき)。暗部山(くらぶやま)。
香道秘伝抄(かうだうひでんしやう)。などありて。かう(香)をきくやう。ちやうど(調度)まで くは(委)しく
【右丁】
しるせり。
じすかう(十種香)の うつは(器)ものには。ついのかうろ《割書:対香|炉【爐】》かうぼん《割書:香牀》
こじたて《割書:火箸|瓶》かうばし《割書:香箸》こじ《割書:火箸》かうすくひ《割書:香匙》ひあひ《割書:火味》
はいおし《割書:灰押》ぎんはさみ《割書:銀夾》ははゝき《割書:香帚》うぐひす《割書:鴬》ふだばこ《割書:符匣》
こばこ《割書:小筥》ぎんだい《割書:銀盤》ふだづゝ《割書:符筒》をりすゑ《割書:折居》ぎんばいれ《割書:銀葉|匣》
ぎんば《割書:銀葉》たきからいれ《割書:炷炉|台》かうつゝみ《割書:香嚢》かうばこ《割書:香盒》ひとり《割書:火取》
きろくがみ《割書:記録|紙》なのりかみ《割書:名紙》など そなへ(備)をさむ(蔵)べきなり。
かう(香)をもてあそぶに。組香(くみかう)といふことありて。さま〴〵におかしく。
くみ(組)いだせるなめり。その(其)なかにも。ふるく つたは(伝)る な(名)は。十炷(じちう)。宇治(うぢ)
山(やま)。小鳥(ことり)。小草(こぐさ)。競馬(けいば)。矢数(やかず)。源平(げんへい)。花月(くわげつ)。源氏(げんじ)。鳥合(とりあはせ)。闘雞(とうけい)蹴踘(しうきく)。
焼合(たきあはせ)十炷(じちう)。名所(めいしよ)。花軍(はないくさ)。呉越(ごえつ)。初音(はつね)。郭公(ほとゝきす)。忍香(しのふかう)。煙競(けふりくらへ)。新月(しんげつ)。星逢(ほしあひ)。
【左丁】
六義(りくぎ)。古今(こきん)。鴬(うぐひす)。四節(しせつ)。御幸(みゆき)。系図(けいづ)。四 町(まち)。三夕(さんせき)。などありき。いま その(其)
ふたつみつこゝにのす。
十炷香(じちうかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三(ひふみ)のかう(香)に。こゝろ(試)み
あり。
きやくかう(客香)。こゝろみ(試)なし。香(かう)本(もと)より。香炉(かうろ)の火(ひ)あひ。よく
とゝのへ(調)て。こゝろみ(試)の かう(香)を たき(炷)いだす。みくさ(三種)のこゝろみ(試)を。
おの(各)〳〵きゝ(聞)をはら(終)は。十包(とをつゝみ)《割書:一三包。二三包。|三三包。客一包》を うち(打)まぜ(交)。いづれ(何)にて
もとりて。ひと(一)つゝみ(包)づゝ。たき(炷)いだす。ふだ(符)づゝ(筒)をも。そへ(添)いだす(出)なり。
香(かう)を きく(聞)やうは。こゝろみ(試)の かう(香)を。こゝろ(心)によく しるしおき(記憶)【臆は誤】て。一の かう(香)
と おもへ(思)ば。一の ふだ(符)。二の かう(香)と おも(思)へば二の ふだ(符)。こゝろみ(試)せざる かう(香)とおもへば。
きやく(客)の ふだ(符)を。ふだづゝ(符筒)にいれて。しだい(次第)に まは(順廻)すなり。おの(各)〳〵きゝ(聞)
をはり(終)て。きろく(記録)をしるすことあり。きろく(記録)のかき(書)やう。つ(▢)にしるしぬ。
【右丁】
十 炷 香 之 記
十 二 三 一 ウ 三 二 二 一 三 一
炷 青松 二(ー) 一 二 一 三(ー) 二(ー) 三 三 一 ウ 三種
香 紅梅 一 一 三 ウ(ー) 三(ー) 二(ー) 二(ー) 三 二 一(ー) 五
黄葉 二(ー) 三(ー) 一(ー) ウ(ー) 三(ー) 二(-) 二(ー) 一(ー) 三(ー) 一(ー) 十
記 白菊 一 二 三 ウ(ー) 一 二(ー) 三 一(ー) 二 三 三
録 丹桂 三 一 二 二 一 三 一 ウ 三(ー) 二 一
之 緑竹 二(ー) 一 一(ー) ウ(ー) 三(ー) 二(ー) 二(ー) 一(ー) 三(ー) 三 八
図 紫麻 二(ー) 三(ー) 三 ウ(ー) 三(ー) 二(ー) 一 一(ー) 一 二 六
仲 春 念 二 某 名
記録(きろく)のかくやう。はじめて十炷
香之 記(き)としるし。つきに ふだ(符)の
しるしを。青松。紅梅。黄葉。な
どかいつけ。かたはらに なのり(名乗)を
くは(加)ふ。そのしも(其下)におの〳〵 きゝ(聞)
あたりたる かず(数)をかくに。うへ(上)よ
りかず【ママ】へて。いくばく(幾)としるし。き(貴)
にん(人)などあらば。いくしゆ(幾種)としる
す。をはり(▢)に。その(其)つきひ(月日)をかい
つけて。しもに あるじ(主人)の な(名)をし
るすなり。
【左丁】
宇治山香(うぢやまかう)は。かう(香)いつくさなり。一二三四五(ひふみよいつゝ)。おの〳〵こゝろみ(試)あり。ふだ(符)
をもちゐず。なのり(名乗)がみ(紙)してしるす。この(此)かうは。喜撰法師(きせんはふし)の
わがいほはの うた(歌)一首(いつしゆ)を。いつゝ(五)にわかちて。一二三四五(ひふみよいつゝ)とさだむる也。
小鳥香(ことりかう)は。いつくさ(五種)なり。こゝろみ(試)なし。ふだ(符)をもちゐず。なのり(名乗)が
みにしるす。ことり(小鳥)な(名)かずは十一なり。もゝ(◦◦)ちどり ほ とゝ(◦◦)きす
あをし とゞ(◦◦) いし たゝ(◦◦)き き(◦)せ き(◦)れい く(◦)ろつ ぐ(◦)み か(◦)しらさ か(◦)
ひと(◦)め と(◦)り かは(◦)らひ は(◦) あさ か(◦)とり よ ふ(◦)ことり
小草香(こぐさかう)は。かう(香)みくさ(三種)なり。また よくさ(四種)にも。いつくさ(五種)にもな
す。さだま(定)れる かず(数)なし。その(其)ところ(処)にて。くさ(草)の な(名)のきは
めによる。こゝろみ(試)あり。
競馬香(けいばかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三 客(きやく)。おの(各)〳〵 こゝろみ(試)あり。
【右丁】
磐(ばん)二めん。人形(にんぎやう)《割書:赤方|黒方》ふたつ(二)馬(うま)二疋(にひき)。しようぶ(勝負)の き(木)ひともと(一本)。十炷香(しちうかう)
の ふだ(符)を もちう(用)。一炷(いつちう)ごとにひらくなり。
矢数香(やかずかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三 客(きやく)。おの〳〵 こゝろみ(試)あり。磐(ばん)一
めん(面)。や(矢)十すぢ。きん(金)の ざい(麾)ぎん(銀)の ざい(麾)《割書:十(とを)》。はこ(箱)にいれおくなり。
源平香(げんへいかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三こゝろみ(試)あり。客こゝろみ(試)なし。
磐(ばん)一めん(面)。おほはた(大旗)二本。《割書:一本は赤|一本は白》こはた(小旗)十本。《割書:五本は白く|五本は赤し》
花月香(くわげつかう)は。かう(香)む(六)【注①】くさ(種)なり。花の一。花の二。花の三。月の一。月の二。
月の三。おの〳〵 こゝろみ(試)あり。
源氏香(げんじかう)は。かう(香)いつくさ(五種)なり。一二三四五。おの(各)〳〵 こゝろみ(試)なく。ふだ(符)な
し。なのり(名乗)がみ(紙)を もち(用)う。ほか(外)にかう(香)のづ(図)ひとまき(一巻)あり(有)。《割書:又かうの図の|印五十三。》
《割書:印肉等|もそろふ》この いつくさ(五種)の かう(香)を。いつきれ(五切)づゝいだす。あはせて廿五(つゞいつ)【注②】包(つゝみ)
【注① 見せ消ち線に見えるが、意図せぬ線か。】
【注② 「つづ」は古語で「十」のことを「つづ」といった。ここから「つづやはたち」(10や20)という言葉が生まれたが、やがてこの言葉の意味は「19か20」に変化し、従って「つづ」という言葉も「十」から「十九」に変わってしまった。さらに「廿」という意味にも使用されるようになり、現在、地名や名字に「廿(つづ)」が残っている。】
【左丁】
なり。これをひとつにうちまぜて。五包(いつつゝみ)をとり い(出)だし たく(炷)なり。
のこり(残)は と(外)つゝ(包)みにをさむ。
鳥合香(とりあはせかう)は。かう(香)いつくさ(五種)なり。みくさ(三種)は こゝろみ(試)あり。ふたくさ(二種)
こゝろみ(試)なし。ふだ(符)をもちゐず。なのり(名乗)がみ(紙)にしるす。とり(鳥)の な(名)
みくさ(三種)。もゝちどり。よぶこどり。いなおふせどり。
名香(みやうがう)の しな(品)。いちじ(著)るしきを。すこしこゝにのす。
たいし《割書:此わうじ|ともいふ》らんじやたい《割書:東大寺|ともいふ》しやうやう《割書:逍遥》こうぢん《割書:紅塵》みよしの
《割書:三吉|野》こぼく《割書:枯木》なかがは《割書:中河》ほくえけう《割書:法花|経》はなたちはな《割書:盧橘》やつはし
《割書:八橋》かぐら《割書:神楽》さかき《割書:榊》ふえ《割書:笛》うすもみぢ《割書:薄紅|葉》やまかげ《割書:山蔭》さうばい
《割書:早梅》ちどり《割書:千鳥》ふたば《割書:二葉》おきな《割書:翁》かゞみ《割書:鏡》りんしやう《割書:林|梢》あげまき《割書:角|総》
ふよう《割書:芙蓉》いほ《割書:庵》かるかや《割書:刈萱》かきつばた《割書:杜若》なつくさ《割書:夏草》ゆき《割書:雪》
【右丁】
ならしば《割書:楢|芝》【蕕は誤】すま《割書:須|磨》あかし《割書:明|石》よもぎ《割書:蓬》おぼろ《割書:朧》にゐまくら《割書:新枕》
うつりが《割書:移香》なかつ《割書:中津》うすぐも《割書:薄雲》ちゞみ《割書:縮》たむけ《割書:手向》やへぎく
《割書:八重|菊》うきしま《割書:浮島》ふゆの《割書:冬野》はなちるさと《割書:花散|里》ふゆ《割書:冬》あさげのはな
《割書:朝気|花》せいぼ《割書:歳暮》かはなみ《割書:川波》はしひめ《割書:橋姫》きく《割書:菊》たなばた《割書:七夕》みを
つくし《割書:漂潦》やなぎ《割書:柳》みかさ《割書:三笠》あふち《割書:樗》まつのと《割書:松戸》のゝみや《割書:野宮》
つむ《割書:摘》たつた《割書:龍田》さみだれ《割書:五月|雨》こじま《割書:小島》こはる《割書:小春》はつかり《割書:初雁》
たけのゆき《割書:竹雪》みやま《割書:深山》。みやうがう(名香)の くさ(種)〴〵 おほ(多)きなか(中)に。
やんごとなきを えらび(撰)て。いそ(五十)あまり(余)こゝにかいつけしるしぬ。
薫物方(たきものはう)
後小松院(ごゝまつのゐんの)宸翰(しんかん)薫物方(たきものはう)といふ ふみ(書)にいはく。たきもの(薫物)ゝ はう(方)。さま
〴〵なれども。つね(常)に あは(合)するは。むくさ(六種)なり。梅花(ばいくわ)。黒方(くろはう)。侍従(じじう)。
【左丁】
菊花(きくくわ)。落葉(らくえふ)。荷葉(かえふ)。これみな とき(時)にしたがひて。むかしの ひと(人)は
あは(合)せけれど。いまの よ(世)にはさしも見えず。はる(春)は梅花(ばいくわ)。うめのはな
の か(香)にかよへり。あき(秋)は落葉(らくえふ)。もみぢ ゝる(散)ころこゝろ(心)すゞしき にほ(香)
ひなり。ふゆ(冬)は菊花(きくくわ)。きくのはなの か(香)にことならず。小野宮(をのゝみや)殿(との)の
方(はう)には。長生久視(ちやうせいきうし)の かう(香)なりと。しるされたり。黒方(くろはう)は。ふゆ(冬)のふかく
さへたるに。あさからぬにほひあり。侍従(じじう)は。秋風(しゆうふう)蕭索(しやうさく)として。こゝろ(心)に
くきおりに。よそへたりとあり。かゝれどいまの よ(世)には。黒方(くろはう)をのみあ
はする。かう(香)のかたすくなくて。そのにほひすぐれたるゆゑなり。
梅花(はいくわ)は一ぢむ《割書:沈香|八両二分》二せんたう《割書:占唐|一分三銖》三かいかう《割書:甲香|三両一分》四ちやうじ《割書:丁子|二両二分》
五ひやくたん《割書:白檀二分|三銖》六かんせう《割書:甘松一分》七くんろく《割書:薫陸一分》
八じやかう《割書:麝香二分》
【右丁】
荷葉(かえふ)は一ぢむ《割書:七両二分》二かいかう《割書:二両二分》三ちやうじ《割書:二両二分》四びや
くたん《割書:二銖》五かんせう《割書:一分》六くわかう《割書:藿香|四銖》七うこむ《割書:鬱金|二両》じやか
うをいる
侍従(じぢう)は一ぢむ《割書:大四両|二分》二かいかう《割書:大一両|二分》三ちやうじ《割書:大二両|二分》四かんせう《割書:小一両》
五うこむ《割書:小一両》じやかうをいる
黒方(くろはう)は一ぢむ《割書:四両》二かいかう《割書:一両》三くむろく《割書:大一分》四びやくたん《割書:一分》
五ちやうじ《割書:二両》六じやかう《割書:二分》
菊花(きくくわ)は一ぢむ《割書:四両》二ちやうじ《割書:二両》三かいかう《割書:一両二分》四くむろく《割書:一分》
五白たん《割書:一分》六じやかう《割書:二分》
落葉(らくえふ)は一ぢむ《割書:九両》二ちやうし《割書:四両》三かいかう《割書:一両二分》四じやかう《割書:二分》
五かうぶし《割書:香附子|三分》六白たん《割書:一分|三銖》七くんろく《割書:一分》八そがふかう《割書:蘇合香|一両》
【左丁】
八条大将方(はちじやうだいしやうのはう)は一ぢむ《割書:小四両|二分》二くんろく《割書:小一分》三白たん《割書:三分》四ちやうじ《割書:小二両》
五かいかう《割書:小一両》六じやかう《割書:小一分|四朱》
朱雀院御方(しゆじやくゐんのおんはう)は一ぢむ《割書:四両》二ちやうじ《割書:二両》三かいかう《割書:一両》四くんろく《割書:二分》
五うこん《割書:二両》
掛香方(かけかうのはう)
かけ(掛)がう(香)のあは(合)するやうも。おほかたは たきもの(薫物)ゝはう(方)に
とほからず。そのおほくあるなかに。いつくさ(五種)をこゝに
のす。
あやめ(菖蒲)。よもぎ(蓬生)ふ。にゐま(新枕)くら。まつかぜ(松風)。ばいくわ(梅花)。これみなうる
はしき はう(方)なめり。
あやめ《割書:菖|蒲》は一ぢむ《割書:沈香|一両》二ちやうじ《割書:丁子|一両》三白たん《割書:白檀|一両二分》四かんせう《割書:甘松|一両》
【右丁】
五じやかう《割書:麝香|四分》六りうなう《割書:竜脳|二分》
よもぎふ《割書:蓬|生》は一じやかう《割書:二両》二りうなう《割書:三両》三さ【きヵ】く《割書:菊花|五両》
にゐまくら《割書:新|枕》は一ぢむ《割書:一両|二分》二ちやうじ《割書:一両》三かいかう《割書:一両》四くんろく
《割書:薫陸|三分》五白たん《割書:二分》六じやかう《割書:二分》
まつかぜ《割書:松|風》は一白たん《割書:二両》二ぢむ《割書:一両》三きく《割書:八分》四じやかう《割書:三分》
五りうなう《割書:一分》
ばいくわ《割書:梅|花》は一りうなう《割書:八分》二ばいにん《割書:梅仁|一両二分》三じやかう《割書:六分》四ちや
うじ《割書:二両》五かんせう《割書:三分》六白だん《割書:二分》
懐紙(くわいし)短冊(たんさく)
うた(歌)をかくかみに。懐紙(くわいし)。短冊(たんざく)。色紙(しきし)のしなありて。くさ(種)〴〵の
はふ(法)あり。そのあらましをこゝにのす。
【左丁】
懐紙(くわいし)の寸法(すはふ)は。大臣(だいじん)。大納言(だいなごん)。中納言(ちうなごん)参議(さんぎ)。などの。もち(用)
ゐたまふは。一尺三寸なり。大高檀紙(おほたかだんし)をつゝみてもち
う。殿上人(てんじやうびとの)四位(しゐ)五位(ごゐ)六位(ろくゐ)などの もち(用)ゐたまふは。一尺
二寸なり。たゞし ない(内々)〳〵の御会(ごくわい)には。小高檀紙(こたかたんし)を も(用)
ちう。諸侍(しよし)などは小高檀紙(こたかだんし)を一尺五六分にしてもち
うべきよし見えたり。
懐紙(くわいし)したゝむるやうは。うた(歌)一 首(しゆ)ならば。三行(さんぎやう)三字(さんじ)
なり。二首三首より。二行七字たるべし。二十首より
百首にいたりては。二行なり。五首七首は。紙(かみ)二枚(にまい)
つぎてもちう。十首は。三枚つぎ。二十首よりはかみかず
さだ(定)まらずとなり。
【右丁】
懐紙(くわいし)よみやう
詠白匊花 しらぎくのはなをよめる
懐 和歌 やまとうた
紙 凡河内躬恒 をふしかうちのみつね
書 心あてにおらはや こゝろあてにおらばや
法 折む初霜の興ま おらんはつしものおきま
図 とはせるしら匊 どはせるしらぎく
のはな のはな
【左丁】
短冊(たんざく)の寸法(すはふ)は。ひろ(広)さ一寸八分。なが(長)さ一尺一寸五分なり。
ただ(但)しなが(長)きにおきては。いさゝか(聊)二分(にぶ)三分(さんぶ)のたがひ。くるしか
らず。ひろ(広)さはさのみ たがひ(違)もなきよし見えたり。またある
せつ(説)には。ひろ(広)さ一寸九分。なが(長)さ壹尺弐寸とあり。
たんざく(短冊)の かみ(紙)を。ひと(人)の もと(元)へ おくる(贈)にはその かず(数)を なに(何)
ほど(程)にてもかさね。ほそ(細)き かみ(紙)にて はし(端)を ふたところ(二所)ゆひ(結)。
ひきあはせ(引合)などいふ かみ(紙)につゝみ。やないば(柳筥)こにすゑて。なか(中)を ふ(二)
た ところ(所)。やないばこ(柳筥)のしたより。ひも(紐)をとほして むすぶ(結)なり。
うた(歌)の だい(題)などありて たんざく(短冊)を おくる(贈)ときは。一首二首
にても。べつ〳〵に。み(三)つに をり(折)て。ひとつにつゝみ。やない(柳筥)ばこ
に すゑ(居)て むす(結)ぶなり。
【右丁】
たんざ(短冊)くの くも(雲)がたは。おほよそ あをぐ(青雲)もを かみ(上)に もち(用)うる
なり。また むらさき(紫)を かみ(上)になすことも。とき(時)〴〵あるべしと。
幽斎(ゆうさい)聞書(きゝがき)に見えたり。
短冊(たんざく)したゝめるやう。図(づ)にしるす。
《割書:此所へ文字半字かくる》 《割書:此間五分|はかりあく》
春始 春きぬと人はいへとも鴬の
なかぬかきりはあらじとそ思ふ 忠岑 【此二行短冊形の枠の中】
《割書:此所おりめ》 《割書:此所おりめ》
をんな(女)の たんざ(短冊)く。したゝむるときは。な(名)を たんざ(短冊)のうらにかくなり。
色紙(しきし)の寸法(すはふ)は。さだ(定)まれる こと(事)なし。いへ(家々)〳〵にかはりあ ̄ン なれ。
おほよそ大色紙(おほしきし)は竪(たつ)六寸四分。よこ(横)五寸五分にしたゝむ。
【左丁】
小色紙(こしきし)はたて(竪)さま六寸。よこ(横)さま五寸三分となり。
色紙(しきし)の かく(書)やう。さま〳〵の もやう(模様)ありて。五十 てい(体)も。百 てい(体)
にも 会(書)わく(分)るなり。いま その(其)はふ(法)を すこ(少)しこゝに づ(図)しぬ
【色紙形の枠の中に】 【色紙形の枠の中に】 【色紙形の枠の中に】
むめか枝に 秋はきぬ 見渡は波の
なきてうつろふ としも半に しからみかけて
あは 鴬の すきぬとや けり卯の花咲る
ゆき はね 荻ふく風の たま河の
そ 白妙 おとろかすらむ さと
ふる に
色紙(しきし)を屏風(びやうふ)におすやう。
屏風(びやうふ)ひとよ(一雙)ろひに。色紙(しきし)を お(押)すやう。さま〴〵しなあり。ひと(一)
よろひ(雙)に。しきし(色紙)三十六 枚(まい)。ある(或)は七十二 枚(まい)。ある(或)は百二十 枚(まい)も
おす(押)なり。三十六 枚(まい)なれは。かた(片)〳〵に十八 枚(まい)おす(押)なり。屏風(びやうふ)の
【右丁】
【六曲の屏風の各面に数字あり】
一 なか(半)ばより。すこし ひき(下)く お(押)
二 して。見よきやうなるをよし
三 とす。いま(今)かた(片)〳〵のづをこゝ
四 にしるしぬ。
五 此図(このづ)は。いにしへの屏風(びやうふ)の形(かた)をいだせり。
六 六枚ともに。木(き)にてつくり。打紐(うちひも)に
て結(むす)ぶなり。南都(なんと)正倉院(しやうさうゐん)に鴨毛(かものけ)の
七 屏風(びやうふ)といふものありとて。其(その)絵図(ゑづ)をみし
九 八 に。こと〳〵く唐木(からき)にてつくりたるものと
十 見えたり。おほよそ今(いま)の屏風(びやうふ)にちかき
十一 物(もの)なり。
十二 よのつねの屏風(びやうふ)に色紙(しきし)押(おす)やう。是(これ)に
十三 かはることなし。
十四
十五
十六
十七
十八
【左丁】
歌貝(うたがい)《割書:うたかるたとも|ついまつともいふ》
うたが(歌貝)いは。いま(今)のうたがるたのことなり。その はじま(始)りし よ(世)さだ
かならず。ある ふみ(書)に在原業平(ありはらのなりひら)御使(おんつかひ)として。いせ(伊勢)のくにゝ参向(さんかう)
のとき。帖子内親王(てふしないしんわう)。斎宮(いつきのみや)に そな(備)はりおはしまして。うた(歌)の かみ(上)
の く(句)を。さか(盃)づきに かい(書)て。いだ(出)したまへりしに。業平(なりひら)とり(取)あへず。
ついまつ(続松)の たき(焼)すてたる。かがり(煹)の すみ(炭)にて。しも(下)の く(句)を。かいつぎ(書続)
たまふと。伊勢物語(いせものがたり)に見え はべ(侍)る。これよりかるたにうつし。もてあそぶ
こと(事)になりぬ。ついまつ(続松)の すみ(炭)にて。しも(下)の く(句)かい(書)つぎたまふ えん(縁)により。う(哥)
た がい(貝)とることを。ついまつ(続松)とる(取)といふなりと見えたり。また(又)これ(是)に に(似)た
る こと(事)は。拾遺集(しふいしふ)にも。ある(或)をんな(女)。うた(哥)の かみ(上)の く(句)を。よみつかは
しけるに。良峯(よしみね)の宗貞(むねさだ)かへ(返)しに。しも(下)の く(句)をよみたることあり
【右丁 挿絵の説明】
七夕祭図
【左丁 挿絵のみ】
【表紙 題箋】
《題:源氏百人一首 完》
【資料整理ラベル】
911.108
KUR
日本近代教育史
資料
【右丁】
黒沢翁満大人著
【縦の線引き有り】
《題:源氏百人一首 完》
【縦の線引き有り】
千鐘房
江戸書林 金花堂 合刻
玉山堂
【左丁】
人をつかふはやすかれと。人をしるはかたし。書
を見るはやすけれと。書をしるはかたし。世に
ものしり人はあれと。たゝうはへにわしりて。その
深きおくか【奥処】をたとらす。すゝろにおしきはめて。
われひろしとおもへらむ人のおほかるは。かの人を
しらすて人をつかふらん。ひとのたくひなりかし。
わかむつたまあへる。葎居の翁こそは。人を□□□
人をつかひ。書をしりて。書を見る人なりけれ
【頭部欄外のメモ】
911.108
KUR
【下部欄外 蔵書印】
東京学芸大学蔵書
【同メモ】
10901068
【右丁】
もとよりおもたゝしき書のうへにいそしくて物語
書を。心とせるきはにはあらされと。今此ふみの。
大むねをさとされたるも凡ならす。又百まりの
哥のときのことの。世のなみならさるもてもいちし
ろし。こは人のもとめにつけるにて。翁のためには。
いとかりそめことなりけれと。花もみちは。一枝見て
その色しられ。あやにしきはひときもて其あや
しられぬ。書とくたりのふみにても。しる人こそは
【左丁】
見しるへけれ。うへやいにしへのおほきひしり【大聖人】の。
国のたからとしも。めてきこえ賜ひし。この紫の
筆のあやにしあれは。世のわらはへにくちならし。めな
らしめおかむと。かくものせられたるそよき。萩をりくれ
は。するとなしに。其もすそそまり。桜をたをれは。
移すとなしに。その袖かをるめり。幼き程より。これ
を見。これをまさくり。これをもてあそひゆかは。おの
つから其人になれ。哥になれ。言になれて。かの物語の
【右丁】
深きこゝろも。いつとなくみゝ近く。成ぬへきなり。子を
もたらん親は。乞得て子にあたふへく。おとをもたらん
兄は。もとめて弟にさつくへし。われまつ乞受て。
家のわらはに口ならさしめんと。あつらへやるついて
に。うちおもふふしを。いさゝかかきつけておくる
になん。天保の九とせ葉月のいつかの日
橘守部
【左丁】
源氏物語一人一首序
紫をくらゐの色のかみのしなと定めら
れたるにひとしくむらさきの物かたり
はたありとあるむかしかたりのかみのくら
ゐにおかれぬ道【へヵ】しいましかの巻々なる
桐壺のみかとより手習の女君まてもゝ【別本による】
たり【百人)】余りの人々のいろ香ことなる言の
【右丁】
葉をつみいてゝひと巻にえらひついてゝ
若紫のうらわかきをみな児のみならふ
ためにと其いふかし舞へきふしことにとき言
をさへしるしそへたるは心きゝていといたき
わさなりかしこはゝやう嵯峨のわたりのもゝ
くさのことの葉の世のめのわらはのもてあつ
かひくさとなれるにさしならふともさのみ
【左丁】
けたるゝ色ならしをねすり【根摺り】の衣したにのみ
ひきこめたらんは何のはえなきわさ
なめり四方の市くらにもていてゝものこ
のみの女君たちにまゐらせんにさかにくき
ふるこたち【古御達】のわりなう疵もとむるたくひも
はひおくれ【灰後れ】たりなとはゐくるへくもあらす
めてのゝしる人おほきをきくにけにかうめ【別本による】
【右丁】
つらかにえらひなせる心しらひ【心くばり】はもとより
いみしき色あひにいとゝつやうちそへたる
いたつきなりとやいふへからむ
天保の十万理一とせといふとしやよひ
はしめつかたすかはらの夏蔭しるす
【左丁】
中昔よりいてきにける物語ふみかすおほく
あなれと其名計のこりて今は世につたはら
ぬもあまたなるへしされと風葉集えらはれける
頃まてはなほのこれりとみえて今の世にしらぬ物
かたりの名とも入られたるもすくなからすなむ
有けるかく今の世につたはれるもつたはらさるも【別本による】
あなる物語のうちに源氏物語はかり巻の数
序一
【右丁】
おほきはなけれとそのかみよりして世々ことにめて
つゝもてはやしけれはにや今もまたくつたはり
けむかしされは源氏見さる歌よみは遺恨の事
なりなと先達ものたまひけむは作者の面目と
いふへしよみ出たる哥は狭衣よりおとりたりとい
ひけむをこのものもあれとそはあさましきこ
となりや其人々の有様心もちひをよく得
【左丁】
てすかたこと葉似つかはしくよめる口ふり此
ものかたりよくよみたらむ人はしるへきこ
となればことさらにめてむもふるめかしけ
れと風葉集にえらはれたる人々の哥にて
もしらるへきことなりこゝに吾友黒沢ぬしはや
くより源氏物語をことにこのまれて明暮に心
をいれてよみ見らるゝあまりいかて此もの語
序二
【右丁】
の哥ともを世のをさなき人々まてもけに口
すさむへきわさをしはしかなとおもはれてかの
小倉の百人一首の常にもてあそひて女のわら
はなとの空にもおほえたらむにならひて其人
のさまをゑかき哥をえらひてその心をから
ふりにかきて世にあるわらはなとにおほえやす
からしめむとてものせられたるをこたひ板に
【左丁】
ゑりて世にひろからしめんとせられて其ゆゑよ
しはしかき【端書】せよとのたまへるをきゝておのれ
いへ■■そはを科なき人の為のみかもあらす
源氏物語しら■【さ(沙)ヵ】らむ人の此源氏一首をみは
なへての巻々をもみむとおもひおこすへきひと
つのはしたてとなるへきわさにこそあらめいとも〳〵
よきことなるかなとく〳〵世の人にしらせたまへ
【右丁】
かしとていさゝかかいつくるに
なむ有ける
天保十一年十月 藤原空美
【左丁】
源氏百人一首
〇総論 黒沢翁満述
○物語(ものがたり)といふ物(もの)は唐土(もろこし)の小説(せうせつ)今(いま)の世(よ)の草双紙(くさざうし)なりされば本よ
り跡形(あとかた)もなき事(こと)又(また)はいさゝかの故事(ふること)などを拠(よりどころ)として世(よ)に奇(あや)しく
めづらかに見(み)る人(ひと)の目(め)をよろこばしむらん事(こと)などを殊更(ことさら)に
思(おも)ひ設(まうけ)て作(つく)りなせる物(もの)なりさはいへど其(その)作(つく)りざまも又(また)種々(くさ〴〵)有(あり)
て或(あるひ)は長(なが)き事(こと)をつゞまやかに短(みじか)く書(かけ)るもあり又(また)は短(みじか)き事
を引延(ひきのべ)てなだらかに書(かけ)るもあれども大方(おほかた)は世(よ)になく奇(あや)しき
事(こと)を世(よ)にあるさまに書(かき)なして男女(めを)のなからひ物(もの)の義理合(ぎりあひ)
など人情(にんぜう)にかなへらんやうに作(つく)れる物(もの)なる事(こと)全(またく)今(いま)の草(くさ)
双紙(ざうし)に異(こと)なる事なし其文(そのぶん)の雅(が)なると俗(ぞく)なると趣向(しゆかう)の
【右丁】
古風(こふう)なると今風(いまふう)なるとの差別(さべつ)こそあれ同(おな)じおもむき
なる事(こと)彼(かれ)と是(これ)とを見合(みあは)せて悟(さと)るべしさるを今世(いまのよ)の歌学(かかく)【別本による】
者流(しやりう)に是(これ)を事むつかしく云(いひ)なして尊(たふと)げにもてあつかふ
輩(ともがら)などもあるは中々に物語(ものがたり)の本意(ほい)にもそむきていみ
じき非(ひがこと)也(なり)唯(たゞ)つれ〴〵のなぐさめに見(み)る為(ため)の物にして古(こ)
代(だい)の草双紙(くさざうし)になんありけるされば昔(むかし)は我(われ)も〳〵といくら
も作り出(いだ)したる物なるが中(なか)に其名(そのな)のみ残(のこ)りて今の世(よ)に
伝(つたは)らぬは其 趣向(しゆかう)も如何(いか)なりけん知難(しりがた)けれども大方(おほかた)今(いま)の世
に残(のこ)り止(とゞ)まれるは竹取(たけとり)うつぼ世(よ)つぎいせ狭衣(さごろも)取替(とりかへ)ばやの
類(たぐひ)猶(なほ)彼是(かれこれ)有(ある)皆(みな)其おもむきはかなく本末(もとすゑ)しどけなき
やうなる物 而已(のみ)なるを独(ひとり)此(この)源氏物語(げんじものがたり)なん類(るい)をぬけ出(いで)
【左丁】
て実録(じつろく)といはんに覚束(おぼつか)なからず三四代(さんよだい)の間(あはひ)の事(こと)を公(おほやけ)私(わたくし)に
渡(わた)りて細(こまか)に作(つく)りなせる筆力(ひつりよく)凡人(ぼんにん)の及(およぶ)所(ところ)にあらず且(かつ)人情(にんぜう)を
よくうがちてそ其(その)文(ぶん)の玅(たへ)なる事 譬(たとふ)るに物なし世(よ)に唐土(もろこし)
の小説(せうせつ)の中(なか)には水滸伝(すいこでん)をもて第一(だいいち)の上作(じやうさく)として其書(そのしよ)余(あま)り
に妙文(めうぶん)なる故(ゆゑ)に是(これ)を書著(かきあらは)したる作者(さくしや)は子孫(しそん)三代(さんだい)が間(あひだ)瘂(おふし)
に生(うま)れしといふ浮説(ふせつ)などもあるは其文(そのぶん)の妙(たへ)なるを限(かぎり)なく
ほめたる物也されども今(いま)此(この)源氏物語(げんじものがたり)にくらべ見ればかの
水滸伝(すいこでん)などの文(ぶん)はいと〳〵拙(つたな)く日(ひ)を同(おな)じうして論(ろん)ずべき
物にあらず中(なか)にも伝中(でんちう)人物(じんぶつ)のおもむき始終(しじう)一貫(いつくわん)せざ【別本による】
る物(もの)多(おほ)く始(はじめ)強(つよ)かりし人(ひと)の後(のち)によわくなり始(はじめ)才(さい)有し人の
後(のち)に不才(ふさい)となる類(たぐひ)あげて数(かぞ)へ難(がた)し増(まし)て人々(ひと〴〵)の気質(きしつ)の
【右丁】
細(こまか)なる所(ところ)などに至(いたり)ては殊(こと)に本末(もとすゑ)通(とほ)らずして別人(ことひと)の如(ごと)く
見ゆるさへ多(おほ)きを此(この)源氏(げんじ)におきては物語中(ものがたりちう)数百人(すひやくにん)の
き気質(きしつ)を一人〳〵をいと細(こま)やかに書分(かきわけ)て始(はじめ)より終(をはり)迄(まで)長(なが)き
間(あひだ)に聊(いさゝか)も乱(みだれ)ず誰(たれ)は誰(たれ)の気質(きしつ)彼(かれ)は彼(かれ)の本性(ほんぜう)と尽(こと〴〵)く一(いつ)
貫(くわん)せる事 実(じつ)に奇(あや)しき迄 妙(たへ)なる物也 世(よ)にもてはやせ
る水滸伝(すいこでん)だに猶(なほ)かくの如(ごと)くなれば増(まし)て其(その)余(よ)は論(ろん)ずるに
足(たら)ずされば和漢(わかん)の小説(せうせつ)物語(ものがたり)類(るい)の中には此(この)源氏(げんじ)ばかりすぐ
れたるはなく群(ぐん)を離(はなれ)て独(ひとり)はるかに高(たか)く尊(たふと)く妙(たへ)にめて
たき物(もの)なる事(こと)を知(しる)べし然(しか)るを昔(むかし)よりの注訳(ちうさく)【ママ】どもに
益(やく)なき儒書(じゆしよ)よ仏書よとてこと〴〵しく引書(いんしょ)をなしさし
も無(なき)事(こと)をほめのゝしりながらかゝる所(ところ)に眼(まなこ)をつけて味(あぢは)ひ
【左丁】
見る人なきはいかにぞや
○此(この)物語(ものがたり)の作者(さくしや)紫式部(むらさきしきぶ)は越前守(ゑちぜんのかみ)藤原為時(ふぢはらのためとき)の娘(むすめ)にて右衛門佐(ゑもんのすけ)
宣孝(よしたか)の室(しつ)となり大弐三位(だいにのさんゐ)を産(うみ)し人(ひと)也(なり)御堂関白(みどうのくわんはく)道長公(みちながこう)の
北方(きたのかた)倫子(りんし)に仕(つか)へて其後(そののち)一条院(いちでうのゐん)の后(きさき)上東門院(じやうとうもんゐん)は則(すなはち)道長公(みちながこう)の御(おん)
娘(むすめ)なるをもて又(また)上東門院(じやうとうもんゐん)の女房(にようばう)となれり此(この)物語(ものがたり)は其(その)程(ほど)に
作(つく)れる物也さて藤原氏(ふぢはらうぢ)の娘(むすめ)なれば藤式部(とうしきぶ)といふべきを紫(むらさき)
式部(しきぶ)としも云(いへ)る名義(なのこゝろ)は清輔(きよすけ)朝臣(あそん)の袋草子(ふくろざうし)に紫式部(むらさきしきぶ)といふ
名(な)二説(にせつ)あり一(ひとつ)には此(この)物語(ものがたり)の中(なか)に若紫巻(わかむらさきのまき)を作(つく)る甚(はなはだ)深(ふか)きの故(ゆゑ)此(この)
名(な)を得(え)たり一(ひとつ)には一条院(いちでうのゐん)御乳母(おんめのと)の子(こ)也(なり)上東門院(じやうとうもんゐん)に奉(たてまつら)しむると
て我(わが)ゆかりの者(もの)也(なり)あはれとおぼしめせと申(まう)さしめ給(たま)ふの故(ゆゑ)此(この)
名(な)あり武蔵野(むさしの)の義(ぎ)也(なり)云々(しか)とあるに付(つき)て昔(むかし)より説々(せつ〴〵)あれども
【右丁】
則(すなはち)紫式部(むらさきしきぶ)の書(かけ)る日記(にき)の中(なか)にあなかしこ此渡(このわた)りに若紫(わかむらさき)やさぶ
らふと伺(うかゞ)ひ給ふ源氏(げんじ)に似(に)るべき人(ひと)も見え給はぬに上(うへ)はいかゞ
物(もの)し給はんと聞(きゝ)居(ゐ)たり云々(しか〳〵)とあるは左衛門督(さゑもんのかみ)公任卿(きんたふけう)戯(たはふれ)に紫(むらさき)
式部(しきぶ)をさして若紫(わかむらさき)と云(いひ)し也(なり)如此(かくのごとく)云(いひ)し心(こゝろ)は源氏(げんじ)一部(いちぶ)の中(なか)
に紫上(むらさきのうへ)は女(をんな)の最上(さいじやう)なればそれになずらへて戯(たはふ)れたるなりもし
紫式部(むらさきしきぶ)男子(をとこ)ならば光源氏(ひかるげんじ)やさぶらふといふべき語勢(ごせい)也(なり)然(しか)れば
其頃(そのころ)紫(むらさき)の物語(ものがたり)とはいはずとも一名(いちめう)をさもいふばかりなりし事
を知(しる)べし其(その)作者(さくしや)なれば藤(ふぢ)は本(もと)より紫藤(しとう)ともいひてかた〴〵
よせあるをもて若紫(わかむらさき)の作者(さくしゃ)よといふ心(こゝろ)に藤式部(とうしきぶ)を紫式部(むらさきしきぶ)
とよびかへられたる物(もの)と見ん方(かた)おだやかなるに似(に)たり始(はじめ)より
自(みづから)のよび名(な)に紫(むらさき)の文字(もじ)を付(つき)ながら殊更(ことさら)【別本による】に物語中(ものがたりちう)のすぐ
【左丁】
れたる女(をんな)を紫(むらさき)としも名付(なづけ)ん事(こと)おのづから有(ある)まじき事と聞(きこ)ゆ
よく〳〵考(かんが)へ渡(わた)して悟(さと)るべし
○此(この)物語(ものがたり)の注訳(ちうさく)【ママ】は昔(むかし)よりいと〳〵多(おほ)くあれども北村季吟(きたむらきぎん)の
湖月抄(こげつせう)に其要(そのえう)をつみて尽(こと〴〵)く出(いだ)したればそれより以往(あなた)の抄(せう)ど
もは湖月(こげつ)にて大方(おほかた)足(たれ)り且(かつ)其後(そのゝち)とても源注拾遺(げんちうしふい)源氏新訳(げんじしんしやく)【ママ】玉(たま)
小櫛(をぐし)など猶(なほ)彼是(かれこれ)手(て)を入(いれ)たる物(もの)も有(あり)て追々(おひ〳〵)に明(あき)らかに成(なり)来(き)に
けるを猶(なほ)湖月抄(こげつせう)は本文(ほんもん)ご免に全備(ぜんび)して見(み)るに便(たより)よきをも
てとかく是(これ)に而已(のみ)よる人(ひと)多(おほ)し且(かつ)明(あき)らかに成(なり)ぬといへども猶(なほ)
いかにぞや覚(おぼ)ゆるふし〴〵も少(すくな)からず殊(こと)に歌(うた)の解(かい)などは語(ご)を
解(とけ)る而已(のみ)にて心(こゝろ)を云(いへ)るはまれなり今(いま)は総(すべ)【惣】てにはかゝはらず唯(たゞ)百(ひやく)
首(しゆ)余(あま)りの歌(うた)のうへ而已(のみ)なれども其(その)解方(ときかた)大方(おほかた)古注(こちう)に異(こと)なる
【右丁】
物(もの)多(おほ)し見合(みあは)せて味(あぢは)ふべし
○世(よ)に紫式部(むらさきしきぶ)は余(あま)りに妙文(めうぶん)を書出(かきいで)たる罪(つみ)によりて地獄(ぢごく)に落(おち)
たりといふ浮説(ふせつ)あるは法師(はふし)の輩(ともがら)のわざくれにて尤(もつとも)論(ろん)ずる
にたらぬことなれどもつら〳〵思(おも)ふに此(この)物語(ものがたり)を書(かけ)る中(なか)に
罪(つみ)とすべき事(こと)無(なき)にあらず古抄(こせう)どもにとかく物語(ものがたり)の本意(ほい)を
まげて強(しひ)て儒(じゆ)に引付(ひきつけ)仏(ぶつ)に引付(ひきつけ)など蛇足(じやそく)の弁(べん)をそへたるは
多(おほ)くてかゝる一大事(いちだいじ)をしも論(ろん)じたる物(もの)無(なき)は委(くは)しからぬ事(こと)
也(なり)いま明(あき)らかに弁(わきまふ)るを見(み)るべしそも〳〵朱雀院(すざくゐん)冷泉院(れんせいゐん)など
歴代(れきだい)の天皇(すべらぎ)の尊号(おほみな)を其(その)まゝに書出(かきいだ)せる事(こと)いと〳〵ゆ有(ある)まじき
大罪(だいざい)ならずや本(もと)より唯(たゞ)其(その)尊号(おほみな)を借(かり)【別本より】たる而已(のみ)の事(こと)ながら
殊(こと)に冷泉院(れんぜいゐん)は母后(ぼこう)源氏(げんじ)と密通(みつつう)の胤(たね)なるよしに書(かけ)るなどは
【左丁】
懸(かけ)てもあるまじき事(こと)なるを思(おも)ふべし発端(ほつたん)の語(ご)に何(いづ)れの
御時(おんとき)にか有(あり)けん云々と書出(かきいで)たる始終(しじう)此心(このこゝろ)【別本による】もてかくべき事(こと)な
るをや是(これ)によりて思(おも)ふに上(かみ)に云(いへ)る堕獄(だごく)の浮説(ふせつ)は古(ふる)くかやうの
批判(ひはん)なども有(あり)しを其(その)片端(かたはし)を聞(きゝ)伝(つた)へて法師(はふし)の輩(ともがら)のおの
が道(みち)に引(ひき)つけてさる筋(すぢ)はいひ出(いだ)せるにもやあらん其(その)引付(ひきつけ)ごと
こそいと悪(にく)けれ罪(つみ)有(あり)としも云(いへ)るはいみじく聞(きゝ)所(どころ)ありて
覚(おぼ)ゆ恐(かしこけ)れど我(わが)皇国(すめらみくに)は神代(かみよ)より今(いま)の人皇(にんわう)に至(いた)る迄(まで)かたじけ
まくも皇統(くわうとう)絶(たえ)させ給はず天地(あめつち)とゝもに天(あま)つ日嗣(ひつぎ)知(しろ)しめせば
たとへ太古(たいこ)の天皇(すべらぎ)といへども今上皇帝(きんじやうくわうてい)とひとしく敬(うやま)ひ恐(かしこ)み【別本による】
奉(たてまつ)らずしては叶(かな)はざる理(ことわり)なるを中頃(なかごろ)より此心(このこゝろ)を忘(わす)れて道々(みち〳〵)【別本による】
しき書(ふみ)どもなどにも罪(つみ)を犯(をか)せる物(もの)少(すくな)からず増(まし)て今(いま)の世(よ)の
【右丁】
物(もの)などにはおのがじし心々(こゝろ〴〵)に昔(むかし)の天皇(すべらぎ)の大御上(おほみうへ)をよくも悪(あし)くも
書(かき)すざび聊(いさゝか)も憚(はゞか)る事(こと)なきは唐土(もろこし)の振(ふり)の移(うつ)れるものにていみ
じき非(ひがこと)の限(かぎり)なるを思(おも)ふべし彼(かの)国(くに)は国王(こくわう)暫(しばらく)も続(つゞ)く事なく
たとへば皇国(みくに)の武将(ぶしやう)などの如(ごと)く移(うつ)り替(かは)れば唐(たう)の世(よ)と成(なり)ては漢(かん)
の世(よ)は他人(たにん)なれば憚(はゞか)るに及(およ)ばず又(また)明(みん)の世(よ)と成(なり)ては唐(たう)の世(よ)は他人(たにん)な
れば憚(はゞか)るに及(およ)ばず代々(よゝ)皆(みな)かくの如(ごと)くなれば彼所(かしこ)の書(ふみ)どもには
総(すべ)【惣】てさるふりにのみ書(かけ)るを爰(こゝ)にも見習(みなら)ひて其風(そのふう)に移(うつ)り本(もと)
を忘(わす)れたるよりの非(ひがこと)也(なり)則(すなはち)源氏物語(げんじものがたり)も此群(このむれ)をまぬかるゝ事(こと)
あたはざるを知(し)るべし然(しか)るを近頃(ちかごろ)或説(あるせつ)に是(これ)を助(たすけ)て朱雀院(すざくゐん)
冷泉院(れんぜいゐん)などはおりゐさせ給へる院(ゐん)の名(な)にて天子(てんし)をさして申(まう)す
にはあらずなどもいへるはなか〳〵に委(くは)しからぬ非(ひがこと)なり其(その)院(ゐん)の名(な)
【左丁】
則(すなはち)御謚(おんおくりな)なる物(もの)をや
○今(いま)此書(このしよ)を作(つく)れる故(ゆゑ)は世(よ)に小倉百人一首(をぐらひやくにんいつしゆ)の普(あまね)く都鄙(とひ)に行(おこな)は
れて牛引(うしひく)童(わらべ)糸(いと)くる処女(をとめ)迄(まで)もまだ舌(した)の廻(まは)らぬ程(ほど)よりしたしく
口(くち)にずじ習(なら)ひて忘(わす)るゝ事(こと)なきは何(いつ)の頃(ころ)よりか此(この)百首(ひやくしゆ)を一巻(ひとまき)と
なし絵(ゑ)をさへ加(くは)へて世(よ)に弘(ひろ)くなしたるが自(おのづから)目(め)馴(なれ)安(やす)くて童子(わらはべ)
の心(こゝろ)に叶(かな)へる故(ゆゑ)也(なり)然(しか)ある而已(のみ)にあらずかるたといふ物(もの)をさへ調(てう)じ
出(いで)て春(はる)の日暮(ひぐら)しもてあそび物(もの)となれるからに弥(いよ〳〵)益(ます〳〵)行(おこな)はれて
老若男女(らうにやくなんによ)ともに歌(うた)といへば百人一首(ひやくにんいつしゆ)と誰(たれ)知(しら)ぬ者(もの)もなく山(やま)の
奥(おく)島(しま)のはて迄(まで)も行渡(ゆきわた)れる也(なり)其後(そののち)は是(これ)に習(なら)ひて何(なに)の歌(うた)がる
たくれの歌がるたとやうに追々(おひ〳〵)に調(てう)じ出(いで)たる或(あるひ)は伊勢物語(いせものがたり)或(あるひ)は
古今集(こきんしふ)などを始(はじめ)て則(すなはち)源氏(げんじ)も源氏(げんじ)がるたとて世(よ)にあるは
【右丁】
五十四帖(ごじふよでふ)の巻名(まきのな)の歌(うた)どもをかるたになせる物(もの)也(なり)されど是(これ)は唯(たゞ)
僅(わづか)の歌(うた)をしる而已(のみ)にて物語中(ものがたりちう)の人名(ひとのな)を知(しる)便(たより)にだにならず
増(まし)て其(その)おもむきの片端(かたはし)をも伺(うかゞ)ひ知(しる)べき物(もの)にはあらず且(かつ)此(この)類(るい)
のかるたどもは世(よ)に弘(ひろ)く上下(じやうげ)おしなべたるもてあそび物(もの)にあら
ずさる物(もの)有(あり)とだに知人(しるひと)まれ也(なり)然(しか)行(おこな)はれざる事(こと)の本(もと)を考(かんがふ)るに
是(これ)其(その)始(はじめ)に絵(ゑ)を加(くは)へたる一巻(ひとまき)の世(よ)に行(おこな)はるゝ物(もの)なければぞかし
兼(かね)て目(め)馴(なれ)ざればたま〳〵かるたに向(むか)ひても取事(とること)あたはず取事(とること)
あたはざれば倦(うみ)て楽(たの)しからざる故(ゆゑ)に自(おのづから)行(おこな)はれ難(がた)き也(なり)けりよて
今(いま)は源氏物語中(げんじものがたりちう)なる人々(ひと〴〵)の歌(うた)どもを一人(いちにん)に一首(いつしゆ)づゝあげて傍(かたはら)に
其(その)詠人(よみびと)の小伝(せうでん)をしるし歌(うた)の注解(ちうかい)をなし尽(こと〴〵)く絵(ゑ)を加(くは)へてひた
すらかの小倉百人一首(をぐらひやくにんいつしゆ)に習(なら)へる物(もの)也かくて板(いた)【別本による】にゑり世(よ)に弘(ひろ)くなし
【左丁】
て幸(さいはい)に行(おこな)はれそめんにはかのかるたといふ物(もの)さへ類(るい)ひろく
成(なり)もて行(ゆき)て終(つひ)にはおしなべてのもてあそび物(もの)とならば
自(おのづから)此(この)物語(ものがたり)の片端(かたはし)を世(よ)の童子(わらはべ)に口(くち)ならし目(め)なれしむる
一(ひとつ)のはしだてとも成(なり)ぬべしと誰(たれ)彼(かれ)のそゝのかし乞(こへ)るまゝに
此度(このたび)聊(いさゝか)のいとまのひまに筆(ふんで)を起(おこ)して僅(はつか)の間(あひだ)になし終(をへ)つる也(なり)
○此(この)物語(ものがたり)に出(いで)たる人々(ひと〴〵)其(その)数(かず)凡(おほよ)そ三百卅人(さんびやくさんじふにん)余(あま)りある中(なか)に半(なかば)は名(な)
而已(のみ)有(あり)て其(その)わざなき人々(ひと〴〵)也(なり)たとへば六条(ろくでう)の御息所(みやすどころ)は大臣(だいじん)の
娘(むすめ)にて前坊(ぜんばう)の御息所(みやすどころ)也と云(いへ)る類(たぐひ)大臣(だいじん)と前坊(ぜんばう)は唯(たゞ)御息所(みやすどころ)
の身(み)の上(うへ)を知(しら)せん為(ため)に書出(かきいで)たるのみにていはゞ其(その)発端(ほつたん)に用(もち)ひ
たる而已(のみ)也(なり)総(すべ)【惣】ての人(ひと)を書出(かきいだ)せるに此類(このるい)いと〳〵多(おほ)し又(また)人(ひと)の子(こ)
の生(うま)るゝよしは見えて其子(そのこ)のわざとては無物(なきもの)も多(おほ)し其(その)外(ほか)
【右丁】
いとかりそめに名(な)のみ出(いで)たる人々(ひと〴〵)など彼是(かれこれ)合(あは)せて半(なかば)にも過(すぎ)
たりされば此類(このるい)は勿論(もちろん)にて其余(そのよ)物語中(ものがたりちう)にわざある人々(ひと〴〵)といへ
ども自然(しぜん)に歌(うた)一首(いつしゆ)も詠(よま)ざる人(ひと)ありとて是等(これら)の類(るい)をのぞき
去(さり)たる上(うへ)にて人(ひと)一人(ひとり)につきて歌(うた)一首(いつしゆ)づゝを撰(えら)び出(いで)たる其(その)数(かず)百(ひやく)
廿三人(にじふさんにん)の歌(うた)になん有(あり)ける
○上(かみ)にも云(いへ)る如く其名(そのな)有(あり)て歌(うた)無(なき)人(ひと)もあれば又(また)歌(うた)有(あり)て名(な)なき
人(ひと)ありたとへば秋(あき)好(このむ)中宮(ちうぐう)の女房(にようばう)たちの詠(よめ)るとて歌(うた)三四首(さんししゆ)も
並(なら)べ出(いだ)し或(あるひ)は殿上人(てんじやうびと)と而已(のみ)有(あり)て誰(たれ)ともいはざる類(るい)也(なり)此類(このるい)も
また彼是(かれこれ)あるを今(いま)は其(その)歌(うた)の詞(ことば)を取(とり)て其人(そのひと)の名(な)とし又(また)は其(その)
住処(すみか)もて名付(なづけ)などもして仮初(かりそめ)の名(な)をまうけ出(いだ)せり是(これ)作(さく)
者(しや)の心(こゝろ)にあらざればいかゞともいふべけれどさらではまじるし【目印】と
【左丁】
するよしなく且(かつ)は指喰(ゆびくひ)の女(をんな)蒜喰(ひるくひ)の女(をんな)などの類(るい)も本(もと)より作者(さくしや)
の知(しら)ぬ名(な)なれども是等(これら)は物語(ものがたり)の始(はじめ)の方(かた)に出(いで)たる人々(ひと〴〵)なれば
おのづから目(め)馴(なれ)口(くち)馴(なる)る人(ひと)の多(おほ)き故(ゆへ)に唯(たゞ)いつとなく然(しか)いひなれ
たる名(な)なるを思(おも)ふべしされば今(いま)設(まうけ)たるも則(すなはち)此類(このるい)なればなでふ
事(こと)か有んとてなん
○総(すべ)【惣】ての書(しよ)に官位(くわんゐ)ある人(ひと)は其(その)極官(ごくくわん)を出(いだ)す事(こと)是(これ)大方(おほかた)の定(さだまり)也(なり)
然(しか)れども今(いま)は此例(このれい)にかゝはらずして六条院(ろくでうのゐん)と書(かく)べきを光源氏(ひかるげんじの)
君(きみ)とし柏木権大納言(かしはぎのごんだいなごん)と書(かく)べきを柏木右衛門督(かしはぎのゑもんのかみ)と書(かけ)る類(るい)多(おほ)し
是等(これら)は聊(いさゝか)にても広(ひろ)く世人(よのひと)の耳(みゝ)にふれたる方(かた)を出(いだ)して童子(わらはべ)
におぼえ安(やす)からしめんとて也 且(かつ)歌(うた)は有(ある)に従(したが)ひて拾(ひろ)ひ入(いれ)つとは
いふ物(もの)の始(はじめ)より順(じゆん)に人々(ひと〴〵)の小伝(せうでん)と歌(うた)の解(かい)とを見合(みあは)せて源氏(げんじ)
【右丁】
一部(いちぶ)の大旨(おほむね)の幽(かすか)にも思(おも)ひたどられなんやうにとて殊更(ことさら)に物(もの)
しつるも有(ある)なり
○絵(ゑ)は童子(わらはべ)に目(め)馴(なれ)安(やす)からしめんとてのわざなれば人々(ひと〴〵)の
装束(しやうぞく)【𫌏は『大漢和辞典』にも見当たらず】など唯(たゞ)絵師(ゑし)に任(まか)せて大方(おほかた)に物(もの)せさせつれば見知(みしら)ん
人(ひと)の為(ため)に其(その)よし聊(いさゝか)ことわりおく且(かつ)此(この)書名(しよめい)を源氏百人一首(げんじひやくにんいつしゆ)と
しも云(いへ)る事(こと)は其実(そのじつ)は百廿三人(ひやくにじふさんにん)の歌(うた)あるに違(たが)ひていかゞなる
やうなれども是(こ)は唯(たゞ)おほよそに源氏(げんじ)の歌(うた)にて小倉百人一首(をぐらひやくにんいつしゆ)
の如(ごと)き物(もの)ぞといふことを暗(そら)に知安(しりやす)からしめんとてのわざ也
あやしと思(おも)はん人(ひと)の為(ため)に是(これ)はたことわりおく物(もの)ぞかし
【左丁 上段】
源氏(けんじ)の君(きみ)の御父(おんちゝ)帝(みかど)なり
葵(あふひ)の巻(まき)に朱雀院(すざくゐん)に御位(おんくらゐ)を
ゆづり給ひ榊(さかき)の巻(まき)に崩御(はうぎよ)し
給ふ此歌(このうた)は源氏(げんじ)の元服(げんぶく)の折(をり)
から引入(ひきい)れの大臣(おとゞ)によみて給へ
るにて源氏(げんじ)を此(この)大臣(おとゞ)の娘(むすめ)葵(あふひ)
の上(うへ)の聟(むこ)にすべきみけしき
給へる也 心(こゝろ)は総(すべ)【惣】て元服(げんぶく)の時(とき)の
髪(かみ)を紫(むらさき)の組(くみ)たる糸(いと)にてゆふ
是をはつもとゆひといふ故(ゆゑ)に
をさなくおひさきある子(こ)ども
の長(なが)きちぎりを今日(けふ)の元(もと)
ゆひにむすびこめたる心(こゝろ)は
ありやと大臣(おとゞ)の心を問(とひ)かけさせ
給へる也いときなきはいとけな
きに同(おな)じ稚(をさな)き事(こと)也
【同 下段】
桐壺帝(きりつぼのみかど)
いときなき
初(はつ)もと
ゆひ
に
長(なが)き世(よ)を
契(ちぎ)るこゝろは
むすび
こめつや
【右丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の御息所(みやすどころ)源氏(げんじ)の
御 母(はゝ)なり桐(きり)つぼの巻(まき)にうせぬ
此 歌(うた)は病(やまひ)おのりて里(さと)へまか
でんとする時(とき)によめる也 心(こゝろ)は
今(いま)は此世(このよ)の限(かぎ)りとて帝(みかど)に
別(わか)れ奉(たてまつ)り出(いで)てゆく道(みち)の
悲(かな)しきにはいきてあらまほし
き【注】ものは命(いのち)ぞと也 生(いか)まほ
しに行(いか)まほしをかねたり
【注 「ぎ」に見えるが別本にて確認。濁点に見える左側はよごれか。右側は「幾」を字母とする仮名の戈づくりの「点」。】
【同 下段 左から読む】
けり
り
命(いのち)な
きは
ほし
いかま
きに
かなし
道(みち)の
わかるゝ
かぎりとて
桐壺更衣(きりつぼのかうい)
【左丁 上段】
禁裏(きんり)の女房(にようばう)なり此歌(このうた)は
桐壺(きりつぼ)の更衣(かうい)うせて後(のち)その
里(さと)へ帝(みかど)の御使(おんつかひ)に行(ゆき)て帰(かへ)らん
とする時(とき)に庭(には)の虫(むし)の音(ね)を
聞(きゝ)てよめるな也 心(こゝろ)は虫(むし)のごとく
声(こゑ)の限(かぎ)りを鳴(なき)つくしても
猶(なほ)長(なが)き夜(よ)をあきたらず
泪(なみだ)のこぼるゝ事かなと也 鈴(すゞ)
虫(むし)は声(こゑ)といはんためふる
なみだは鈴(すゞ)むしのよせなり
【同 下段】
靫負(ゆげひの)【靱は誤】命婦(めうぶ)
鈴虫(すゞむし)の
こゑの
かぎりを
つくし
ても
長(なが)き夜(よ)
あかずふる
なみだかな
【右丁 上段】
按察大納言(あぜちのだいなごん)の北(きた)の方(かた)にて桐(きり)
壺(つぼ)の更衣(かうい)の母(はゝ)なり此歌(このうた)は
上(かみ)の靫負(ゆげひ)の命婦(めうぶ)の哥(うた)の
返(かへ)しなり心(こゝろ)はたゞさへなき
くらす浅(あさ)ぢの宿(やど)に命婦(めうぶ)の
御 使(つかひ)として御 出(いで)ありていとゞ
泪(なみだ)をそへたりいふ心(こゝろ)を虫(むし)によ
せていへるなり昇殿(しようでん)の人(ひと)を男(をとこ)
女(をんな)にかぎらず雲(くも)の上人(うへびと)といふ也
浅(あさ)ぢふは俗(ぞく)にいふつばなの生(おひ)た
るところなり
【同 下段】
更衣(かういの)母(はゝ)
いとゞし
く
虫(むし)の音(ね)
しげき
あさぢふ
に
露(つゆ)おき
そふる
雲(くも)のうへ人(びと)
【左丁 上段】
はじめ大臣(おとゞ)にて源氏(けんじ)の加冠(かくはん)
せし人(ひと)也 加冠(かくはん)をつとむるを引(ひき)
入れといふ也 葵(あふひ)の上(うへ)の父(ちゝ)源氏(げんじ)
の御 舅(しうと)なりみをつくしの巻(まき)に
太政大臣(だいぜうだいじん)薄雲(うすぐも)の巻(まき)にかくれ
給ふ此 哥(うた)は源氏(げんじ)加冠(かくはん)の時(とき)に
桐壺帝(きりつぼのみかど)○いときなき初元(はつもと)
ゆひに長(なが)きよを《割書:云々》の御 哥(うた)を
よみかけさせ給へる御 返(かへ)し也 心(こゝろ)は
仰(おほせ)のごとく結(むす)びこめたる我(わが)志(こゝろざし)の
深(ふか)きちぎりに源氏(げんじ)の御 心(こゝろ)だに
替(かは)らずば長(なが)き世(よ)迄(まで)もと也 元服(げんぶく)の
折(をり)なれば総(すべ)【惣】て其事(そのこと)もて作(つく)れる
なり紫(むらさき)の組糸(くみいと)を用(もちふ)ること上(かみ)に
いへるがごとしあせずはかせずに
同(おな)じ
【同 下段】
引入(ひきいれの)太政大臣(だいぜうだいじん)
むすび
つる
心(こゝろ)も
ふかき
もとゆひ
に
こき紫(むらさき)の
色(いろ)し
あせずば
【右丁 上段】
桐壺帝(きりつぼのみかど)の皇子(わうじ)御母(おんはゝ)は桐壺(きりつぼ)の
更衣(かうい)なり御 年(とし)七(なゝ つ)にて源氏(げんじ)の姓(せい)を
給はり十二にて元服(げんぶく)し給ふ帚木(はゝきゞ)【箒は俗字】の
巻(まき)に近衛(このゑ)の中将(ちうじやう)に任(にん)じ給へるを始(はじめ)
にて追(おひ)〳〵に数多(あまた)の官位(くはんゐ)を経(へ)て
をとめの巻(まき)に太政大臣(だいぜうだいじん)となり藤(ふぢ)の
裏葉(うらば)の巻(まき)に太上天皇(だじやうてんわう)の尊位(そんゐ)に
なずらへて六条(ろくでう)の院(ゐん)と成(なり)給ふ此 歌(うた)は
空蝉(うつせみ)のもとに忍(しの)び給へる夜(よ)別(わか)れに
よみ給へるにて心(こゝろ)は女(をんな)のつれなさに
其(その)恨(うらみ)をだにいひもはてぬ間(ま)にはや
取(とり)あへず別(わか)るゝ時(とき)に成(なり)ぬるを鶏(とり)
のおどろかすらんと也 取(とり)あへぬに
雞(とり)をそへたりしのゝめはねぶた
き目(め)のしば〳〵とするを云(いひ)てあ
けぼのゝ事(こと)【別本による】なり
【同 下段】
光源氏君(ひかるげんじのきみ)
つれな
さを
うら
みも
はて
ぬ
しのゝめに
とりあへぬ
まて
おどろ
かすらん
【左丁 上段】
源氏(けんじ)雨夜(あまよ)の物語(ものがたり)のをりに
女(をんな)の品定(しなさだ)めの博士(はかせ)になりし
人(ひと)也 此歌(このうた)は物(もの)ねたみする女(をんな)を
うとみて離別(りべつ)せんとせし折(をり)に
女 恨(うらみ)て手(て)の指(ゆび)をくひ付(つき)たる
を憤(いきどほり)て別(わか)れ去(さ)る時(とき)によめる
なり心(こゝろ)は指(ゆび)を折(をり)て是迄(これまで)逢(あひ)
みし間(あひだ)のうきふしを数(かぞ)ふれば
此度ばかりかは此度ばかりには
あらずとなり指(ゆび)を喰(くひ)つかれたる
よせに手(て)を折(をり)てとは云(いへ)る也
【同 下段】
左馬頭(さまのかみ)
手(て)をゝり
て
あひ
みし
こと
を
かぞふれば
これひとつ
やは
君(きみ)が
うきふし
【右丁 上段】
左馬(さま)の頭(かみ)が指(ゆび)をくひつきた
る女にて則(すなはち)上(かみ)の歌(うた)の返(かへ)し也
心(こゝろ)は是迄(これまで)君(きみ)がさま〴〵のう
きふしを我心(わがこゝろ)ひとつに数(かぞ)へ
つゝすぐし来(き)て終(つひ)に此度(このたび)や
別(わか)るべき折(をり)ならんと也こやは
是(これ)やなり君(きみ)が手(て)を別(わか)るとは
君(きみ)に従(したが)ふ身(み)の別(わか)ると云(いは)んが
ごとし総(すべ)【惣】て従(したが)ふる物(もの)を手(て)と
いふ軍(いくさ)に手のもの先手(さきて)など
いひ俗(ぞく)にも手さきと云り
【同 下段 左から読む】
をり
べき
わかる
手(て)を
こや君(きみ)が
きて
かぞへ
心(こゝろ)ひとつに
うきふしを
指喰女(ゆびくひのをんな)
【左丁 上段】
左馬(さま)の頭(かみ)と同車(どうしや)して月夜(つきよ)
に女(をんな)をとひし人なり此哥(このうた)は
女の琴(こと)ひきたるにみづから
笛(ふえ)を吹合(ふきあは)せてよめる也 心(こゝろ)は
琴(こと)も面白(おもしろ)く月(つき)もさやけくて
ともにたゞならず人(ひと)まち顔(がほ)なる
宿(やど)なれども心(こゝろ)のつれなき男(をとこ)をば
引(ひき)とめ給ふべきかは得(え)引(ひき)とめ
給はじ志(こゝろざし)深(ふか)き我(われ)なればこそ
折(をり)過(すご)さず来(き)つれと也えならぬ
は俗(ぞく)にいふにいはれぬといふに
似(に)たり引(ひき)とむるは琴(こと)のよせ也
【同 下段】
琴音(ことのねの)殿上人(てんじやうびと)
琴(こと)のねも
月(つき)も
えな
らぬ
宿(やど)ながら
つれなき
人を
ひきや
とめける
【右丁 上段】
琴(こと)ひきたる女にて則(すなはち)上(かみ)の殿(てん)
上人(じやうびと)への返(かへ)し也 上(かみ)の歌(うた)は此女(このをんな)外(ほか)に
待人(まつひと)などもありげによみかけた
るを此 返(かへ)しは又(また)其(その)殿上人(てんじやうびと)をつ
れなきものに云(いひ)なせるなり
心(こゝろ)はよそ吹(ふく)風(かぜ)と心(こゝろ)を合(あは)せ給ふ
笛(ふえ)なれば我(われ)は引(ひき)とむべき言葉(ことば)
もなしと也 今(いま)十月なれば木(こ)
枯(がら)しといひ言(こと)に琴(こと)をそへたり
【同 下段】
木枯女(こがらしのをんな)
こがら
し
に
吹(ふき)あ
はす
める
笛(ふえ)なれば
ひき
とゞむべき
ことのはもな
し
【左丁 上段】
源氏(げんじ)雨夜(あまよ)の物(もの)がたりのをり
品定(しなさだ)めの席(せき)に加(くは)はりし人(ひと)也
此歌(このうた)はある儒者(じゆしや)の娘(むすめ)とちぎり
てとひ行(ゆき)たるに風病(ふうびやう)にて蒜(ひる)を
喰(くひ)たれば今夜(こよひ)は口(くち)くさし此(この)をり
すぐしてきたまへといふことを
漢語(かんご)にて述(のべ)たるが女に似げなく
うとましければ逃帰(にけかへ)るとてよめ
る也 心(こゝろ)は蜘蛛(くも)のふるまひにても
今夜(こよひ)わがきたる事は兼(かね)てし
りぬべきを其(その)心得(こゝろえ)もなく蒜(ひる)の
香(か)失(うす)るまであはずとのたまふは
わけもなき事よと也○我(わが)せこが
来(く)べきよひなりの哥(うた)にてよめ
り蒜(ひる)を昼(ひる)によせたりあやなき
は俗(ぞく)にわけなきといふ心也
【同 下段】
藤式部丞(とうしきぶのぞう)
さゝがにの
ふる
まひ
し
るき
夕(ゆふ)ぐれに
ひるま
すぐせと
いふがあやなさ
【右丁 上段】
儒者(じゆしや)の娘(むすめ)にてすなはち上(かみ)の
歌(うた)の返(かへ)し也 心(こゝろ)は逢夜(あふよ)へだてず
不断(ぶだん)に添(そひ)とぐる中(なか)ならば
昼間(ひるま)にま見え申(まを)すとも何(なに)
の恥(はづ)かしき事かあらむたま
〳〵なればかやうに申(まを)すぞと
也まばゆしは恥(はづ)かしき心也
【同 下段】
蒜喰女(ひるくひのをんな)
あふことの
夜(よ)をし
へだてぬ
中(なか)ならば
ひるま
も
何(なに)かまばゆ
からまし
【左丁 上段】
父(ちゝ)は引入(ひきいれ)のおとゞ母(はゝ)は桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の御 妹(いもと)也
始(はじめ)蔵人少将(くらんどせうしやう)にて帚木(はゝきゞ)【箒は俗字】の巻(まき)に頭(とう)の中将(ちうじやう)
と見えたるより次々(つぎ〳〵)官位(くはんゐ)を経(へ)て藤(ふぢの)
裏葉(うらば)の巻(まき)に大政大臣(だいぜうたいじん)若菜(わかな)の
巻(まき)に致仕(ちじ)の表(へう)を奉(たてまつ)りて隠(こも)りた
まふ此 哥(うた)は御 娘(むすめ)雲井雁(くもゐのかり)と夕霧(ゆふぎり)
との中(なか)をさけ置(おき)給ひしを今(いま)はゆる
さむとおぼして藤(ふぢ)の宴(えん)に事(こと)よせて
夕(ゆふ)ぎりを招(まねき)たる哥(うた)也心は今(いま)我(わが)庭(には)
の藤(ふぢ)の盛(さかり)なるたそかれに暮(ぼ)
春(しゆん)の名残(なごり)を尋(たづね)来(き)給はぬといふ
事のあるべきかは尋(たづね)来(き)たまへと
也下の心は女方(をんながた)には待(まつ)頃(ころ)なるを
本(もと)のゆかりをとひ給へといふなり
たそかれは誰(た)そ彼(かれ)なりくらくて
見えわかれぬよし也
【同 下段】
致仕(ちじの)大政大臣(だいぜうだいじん)
我宿(わがやど)の
藤(ふぢ)のいろ
こき
たそ
かれに
たづねやは
こぬ春(はる)の
なごりを
【右丁 上段】
父(ちゝ)は引入(ひきい)れの大臣(おとゞ)母(はゝ)は桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の御 妹(いもと)
にて致仕(ちじ)のおとゞの同母(どうぼの)妹(いもと)也 桐壺(きりつぼ)の
巻(まき)に源氏(げんじ)の北(きた)の方(かた)と成(なり)葵(あふひ)の巻(まき)に夕(ゆふ)
霧(ぎり)を生(うみ)て後(のち)六 条(でう)の御息所(みやすどころ)の霊(れう)
にて程(ほど)なくかくれ給ふ此哥は物(もの)のけに
くるしみたまふを源氏(けんじ)とひなぐさ
め給へる時(とき)に口(くち)ばしりよみたるにて実(じつ)は
御息所(みやすどころ)の心をその魂(たま)の入居(いりゐ)ていはせた
る也 心(こゝろ)は物(もの)思(おも)ひに心(こゝろ)乱(みだ)れ空(そら)にぬけ出(いで)
たる魂(たま)を君(きみ)が衣(ころも)のつまの下合(したがひ)の所に
むすびとゞめてたまはれと也人の
魂(たま)のうかれ出たるを見て衣(ころも)のつま
をむすべばとゞまるといふ諺(ことわざ)ある
によりてよめるなり下(した)がひは
衣(ころも)の前(まへ)を合(あは)せたる下前(したまへ)の所(ところ)を
いふかひはあひ也
【同 下段】
葵上(あふひのうへ)
歎(なげ)き
わび
空(そら)に
みだ
るゝ
我(わが)たまを
むすびとゞめ
よ
した
がひのつま
【左丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の御 妹(いもと)葵(あふひ)の上(うへ)の
御 母(はゝ)にて源氏(げんじ)の御 姑(しうとめ)也大臣う
せ給ひて後(のち)に御髪(みぐし)おろして
藤裏葉(ふぢのうらば)のまきにかくれ給ふ
大宮(おほみや)といふは是也此哥は葵(あふひ)
の上(うへ)うせて次(つぎ)の年(とし)の初春(はつはる)に
源氏(げんじ)来(き)給ひて○あまた年(とし)
今日(けふ)改(あらた)めし色衣(いろごろも)きてはなみ
だのふるこゝちすると詠(よみ)給へ
る御 返(かへ)し也 心(こゝろ)は初春(はつはる)の事(こと)忌(いみ)
も得(え)せず娘(むすめ)の歎(なげき)に老人(らうじん)は
いつも〳〵なきくらすよし也
【同 下段】
引入(ひきいれの)大政大臣(おとゞの)北方(きたのかた)
あたらしき
年(とし)とも
いはず
ふるものは
ふりぬ
る
人(ひと)の
なみ
だ
なり
けり
【右丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の御 弟(おとゝ)桃園式部卿(もゝぞのしきぶけう)
の宮(みや)の御むすめは源氏(げんじ)と
従弟(いとこ)どち也 榊巻(さかきのまき)に賀茂(かも)の
斎院(さいゐん)と成て薄雲(うすぐも)の巻(まき)に御(み)
髪(ぐし)をおろし給ふ源氏(げんじ)に心(こゝろ)つよく
なびかずしてやみし人也 此哥(このうた)
は源氏(げんじ)○みし折(をり)の露(つゆ)わすら
れぬ槿(あさがほ)の花(はな)の盛(さかり)は過(すぎ)やしぬ
らんとよみておくられたる返(かへ)し也
心は秋(あき)過(すぐ)る頃(ころ)まがきにまとへる
槿(あさがほ)の有(ある)か無(なき)かにうつろひすが
れたるを我身(わがみ)にたとへたる也
霧(きり)はまがきのよせ又あるか
なきかといはん料(れう)にいへる
なり
【同 下段 左から読む】
がほ
あさ
うつる
かに
あるかなき
むすぼゝれ
まがきに
きりの
秋(あき)はてゝ
槿斎院(あさがほのさいゐん)
【左丁 上段】
中納言(ちうなごん)の娘(むすめ)伊予介(いよのすけ)の北方(きたのかた)源(げん)
氏(じ)につれなくて過(すぎ)し人(ひと)也 関屋巻(せきやのまき)
に夫(をつと)におくれて尼(あま)となる後(のち)に源(げん)
氏(じ)六条院(ろくでうのゐん)に住(すま)しめ給ふ此歌(このうた)は
源氏(げんじ)の忍(しの)び給(たま)へる夜(よ)衣(きぬ)を脱(もぬけ)にし
て遁(のがれ)去(さり)たるを恨(うらみ)て源氏(げんじ)○空蝉(うつせみ)
のみを替(かへ)てけるこのもとに猶(なほ)人(ひと)
がらのなつかしきかなと詠(よみ)て贈(おくり)た
まへる時(とき)に詠(よめ)る也 心(こゝろ)は茂(しげ)き梢(こずゑ)に居(ゐ)
る蝉(せみ)の羽(は)に置(おく)露(つゆ)は木葉(このは)に隠(かくれ)て
よそめには見えねどもひそか
にぬるゝが如(ごと)く忍(しの)び〳〵に袖(そで)をぬ
らすと也 空蝉(うつせみ)はたゞ蝉(せみ)の事(こと)也 古(ふる)
くは現(うつゝ)にある身(み)の事(こと)を現身(うつせみ)と
いひしを中頃(なかごろ)より蝉(せみ)の名(な)と
なれり
【同 下段】
空蝉尼(うつせみのあま)
うつせみの
羽(は)におく
露(つゆ)の
こが□□□
しの□□□□□
ぬる□□
かな 【注】
【注 この歌の全文は「うつせみの羽におく露のこがくれてしのびしのびにぬるる袖かな」】
【右丁 上段】
伊予介(いよのすけ)の娘(むすめ)にて空蝉(うつせみ)のまゝ子(こ)
也 後(のち)に蔵人少将(くらんどのせうしやう)の北方(きたのかた)となる
此歌(このうた)は源氏(げんじ)一夜(ひとよ)逢(あひ)給(たま)ひて後(のち)
○ほのかにも軒端(のきば)の荻(をぎ)を
むすばずば露(つゆ)のかごとを何(なに)
に懸(かけ)ましと詠(よみ)ておくり給(たま)へ
る返(かへ)し也 心(こゝろ)はかやうにほのめ
かし給(たま)ふ御文(おんふみ)に付(つき)て一夜(ひとよ)の
御情(おんなさけ)とのみ思(おも)ひわびつる恋(こひ)も
また片心(かたこゝろ)にゆかしく心(こゝろ)のむす
ぼゝれはべるといふこゝろを
荻(をぎ)の下折(したをれ)の風(かぜ)にそよぎ半(なかば)は
霜(しも)にこりたるにたとへたり
【同 下段】
軒端荻君(のきばのをぎのきみ)
ほのめ
かす
風(かぜ)につけ
ても
下荻(したをぎ)の
半(なかば)は霜(しも)
に
むすぼゝれ
つゝ
【左丁 上段】
三位中将(さんゐのちうじやう)の娘(むすめ)也 致仕(ちじ)のおとゞに
逢(あひ)て玉葛(たまかづら)を生(うめ)り後(のち)に源氏に
おもはれて夕顔(ゆふがほ)の巻(まき)にうせ給ふ
此 哥(うた)は源氏 同車(どうしや)して何(なに)がしの
院(ゐん)へともなひ給へる夜(よ)の明方(あけがた)に
○古(いにし)へもかくやは人のまどひけん我(わが)
まだしらぬしのゝめの道(みち)とよみ
給へる返(かへ)し也 心(こゝろ)は月(つき)をかくすも
のは山(やま)の端(は)也 その山のはの心をも
しらずして行(ゆく)月は中 空(ぞら)にて
影(かげ)のきえむ事も計(はか)り難(がた)しと
也源氏を山の端にたとへ我 身(み)を
月にたとへてかくのごとく友な
はれ出たる行末(ゆくすゑ)を覚束(おぼつか)なくお
もふ心也
【同 下段】
夕顔上(ゆふがほのうへ)
山(やま)のはの
こゝろも
しらて
ゆく月(つき)は
うはの
そら
にて
影(かげ)や
たえ
なむ
【右丁 上段】
夕顔(ゆふかほ)の上(うへ)の五条(ごじやう)の宿(やど)に仕(つかふ)る
女房(みようばう)也源氏 御随身(みずゐじん)に仰(「お」ほせ)て
夕顔の花(はな)を折(をら)せ給ふ時に
扇(あふぎ)に書(かい)て出せる哥(うた)也心は只(たゞ)
今(いま)此門(このかど)の内(うち)の夕顔を折せて
花の面目(めんぼく)を添(そへ)たまへるは推(おし)
あてに光(ひかる)源氏の君(きみ)とこそ推(すい)
し奉(たてまつ)りたれと也心あては
推当(おしあて)也面目を露(つゆ)の光(ひかり)といひ
なせる也
【同 下段】
夕顔宿(ゆふがほのやどの)女房(にようばう)
こゝろあてに
それかとぞ
みる
白(しら)
露(つゆ)
の
ひかり
そへたる
夕顔(ゆふがほ)の花(はな)
【左丁 上段】
大臣家(だいじんけ)の娘(むすめ)にて前坊(ぜんばう)の御息所(みやすところ)
秋好中宮(あきこのむちうぐう)の御 母(はゝ)也 榊(さかき)の巻(まき)に斎(さい)
宮(ぐう)に具(ぐ)して伊勢(いせ)へ下(くだ)りみをつ
くしの巻に御ぐしおろしてかくれ
給ふ源氏の思ひ人の一人(ひとり)にて物(もの)の
けと成(なり)し人也此うたは源氏 久敷(ひさしく)
おとづれ賜(たま)はで御ふみのみありし
返(かへ)りごと也心は物おもひに袖(そで)ぬ
らすべき恋(こひ)ぞとは始(はじめ)より半(なかば)は
知(しり)ながらなびきそめたる我(わが)
身(み)こそうけれかくいやしき身
に御こゝろざしの浅(あさ)きはことわ
りぞと也恋路に泥(こひぢ)をそへた
り泥の中(うち)におりたち袖ぬらす
賎(いや)しき田子(たご)を我身にたとへ
しなり
【同 下段】
六条御息所(ろくでうのみやすどころ)
袖(そで)ぬるゝ
こひぢと
かつは
しり
ながら
おち
たつ
たごの
みづか
らぞ
うき
【右丁 上段】
六条(ろくでう)の御息所(みやすどころ)の女房(にようばう)也此 哥(うた)は
源氏 御(み)やす所の御もとに通([か]よ)ひ
たまへる時(とき)朝(あした)の御わかれにこの女
房御おくりつかうまつりたるを
とらへて源氏○さく花(はな)にうつる
てふ名(な)はつゝめども折(をら)で過(すぎ)う
きけさの朝皃(あさがほ)とよみかけ給へる
かへし也心は霧(きり)のはれまも待(また)ずし
て御やす所の方(かた)は夜(よ)ぶかく
帰(かへ)り給ふ御けしきにてよその
花々(はな〴〵)しきあたりに御心をとめた
まへるよと見たてまつると也
わざと我身(わがみ)の上と聞(きゝ)しらぬ
ふりにてみやすどころの事(こと)
にとりなせる也
【同 下段】
中将君(ちうじやうのきみ)
朝霧(あさぎり)の
はれまも
またぬ
けしき
にて
花(はな)に
心(こゝろ)を
とめぬ
とぞみる
【左丁 上段】
北山(きたやま)の僧都(そうづ)の妹(いもうと)按察大納言(あぜちのだいなごん)
の北方(きたのかた)にて紫上(むらさきのうへ)の母方(はゝかた)の祖母(おほば)也
この歌(うた)は紫上(むらさきのうへ)の幼(おさな)くて母(はゝ)にお
くれ給へるを我手(わがて)一(ひとつ)に養(やしな)ひて
われさへ又(また)病(やまひ)重(おも)りたる時(とき)に詠(よめ)
る也 心(こゝろ)はおひ立(たち)給(たま)はん行末(ゆくすゑ)の
落付(おちつき)も知(しら)ぬ人をあとに残(のこ)し
おくらかして我身(わがみ)さきだち
死(しな)ん事(こと)心(こゝろ)ならず悲(かな)しと
いふ事を若草(わかくさ)の露(つゆ)によせ
て云(いへ)る也おくらすはおくらかす
也 空(そら)はかゝる所(ところ)に付(つけ)て云(いへ)るは
心(こゝろ)といふに当(あた)る也 俗(ぞく)にも見る
空聞(そらきく)空(そら)などもいへり
【同 下段】
北山尼(きたやまのあま)
おひ
たゝむ
ありかも
し
らぬ
若草(わかくさ)を
おくらす
露(つゆ)ぞ
きえん
そらなき
【右丁 上段】
紫上(むらさきのうへ)の乳母(めのと)にて後(のち)に源氏(げんじ)須(す)
磨(ま)へさすらへ給(たま)へる時(とき)にあとの
事どもゆだね置(おき)給(たま)ひし人(ひと)なり
此歌(このうた)は上(かみ)の尼君(あまぎみ)の歌(うた)を哀(あはれ)と聞(きゝ)
て則(すなはち)其(その)返(かへ)しに詠(よめ)る也こゝろは
紫上(むらさきのうへ)のおひさきもしられぬうち
に何(なに)とてさやうに御心(おんこゝろ)よわく
死(しな)んとはおぼしめすぞとなり
心(こゝろ)を慥(たしか)に療治(れうぢ)し給へといふ
心(こゝろ)を含(ふく)めり初草(はつくさ)は若草(わかくさ)に
おなじ
【同 下段 左から読む】
すらむ
きえんと
露(つゆ)の
いかてか
に
しらぬま
さきも
おひゆく
初草(はつくさ)の
少納言乳母(せうなごんのめのと)
【左丁 上段】
北山(きたやま)の尼(あま)の兄(あに)にて紫(むらさき)の上(うへ)の母(はゝ)
の叔父(をぢ)也此 哥(うた)は源氏 瘧病(わらはやみ)の
加持(かぢ)しに北山におはしましたる
時(とき)に山の花を愛(めで)て○宮人(みやびと)
にゆきてかたらんやまざくら
かぜよりさきにきてもみるべく
とよみたまへる返(かへ)し也心は三千(みち)
年(とせ)に一度(ひとたび)咲(さく)といふ優曇華(うどんげ)の
花を今の現(うつゝ)にまち得(え)たる
やうにおぼえて辺鄙(へんぴ)のさくら
などには目もうつりはべらずと也
源氏をうどんげにたとへて御登(ごとう)
山(さん)をよろこべる也 優曇鉢華(うどんばつげ)は
霊瑞華(れいずいくは)ともいふ実(み)ありて花
なき木(き)也
【同 下段】
北山僧都(きたやまのそうづ)
うどんげの
花(はな)まち
えた
る
こゝち
して
深山桜(みやまざくら)に
めこそ
うつらね
【右丁 上段】
源氏の瘧病(わらはやみ)を加持(かぢ)したる
聖人(ひじり)也 上(かみ)と同(おな)じ時(とき)に源氏の
御 盃(さかづき)をたまはりてよめる哥(うた)
也心は山(やま)深(ふか)き一室(いつしつ)の外(ほか)には出(いで)た
る事なき聖人(ひじり)のたま〳〵
貴人(きにん)の御 前(まへ)に出ていまだ見し
らぬ御容体(ごようたい)をみたてまつる
といふ心を花によせていへる也
花の顔(かほ)は撰集(せんしふ)にもあまたよ
めり
【同 下段】
何某寺聖人(なにがしでらのひじり)
奥山(おくやま)の
松(まつ)の
とぼ
そを
まれに
あけて
まだみぬ花(はな)の
かほを
見るかな
【左丁 上段】
式部卿(しきぶけう)の宮(みや)の御 娘(むすめ)母(はゝ)は按察(あぜちの)
大納言(だいなごん)のむすめ也 稚(をさ)なくて母
におくれ祖母(そぼ)の尼(あま)にやしなはれ
て北(きた)山におはしゝを源氏に迎(むか)へ
られて御法(みのり)の巻(まき)にかくれ給ふ
六条院(ろくでうのゐん)に数多(あまた)すゑ賜(たま)へる源
氏の思ひ人の第一也 春(はる)の上(うへ)といふ
此 歌(うた)は正月元日 餅鏡(もちかゞみ)を祝(いは)ひて
源氏○うす氷(ごほり)とけぬる池(いけ)のかゞ
みには世にみのりなき影(かげ)ぞなら
べるとよみ給へる返(かへ)し也心は御 庭(には)
の池水の鏡の如(ごと)くなるを万代(よろづよ)
かけて君と住(すむ)べき影の明(あき)らか
にみえたると也池水を餅鏡に
よそへて住に澄(すむ)をかねたり
【同 下段】
紫上(むらさきのうへ)
くもりなき
池(いけ)の鏡(かゞみ)に
万代(よろづよ)を
住(すむ)べき
影(かげ)
しる ぞ
く
みえ
け
る
【右丁 上段】
京極(けうごく)中川(なかがは)に住(すめ)る人也此 歌(うた)は
此女(このをんな)に源氏 一(ひと)だび逢(あひ)たまひて
後(のち)ほどへて其(その)家(いへ)の前を通(とほ)り
給ふ時に○をちかへりえぞ忍(しの)
ばれぬほとゝぎすほのかたらひし
宿(やど)のかき根(ね)にとよみていひ
いれさせたまへる返し也こゝろ
はおとづれたまふはその君(きみ)と
推(すい)したれどもあら不審(ふしん)やた
えはてゝひさしくおはせねば今
更(さら)思ひよらずといふこゝろをほと
とぎすの声(こゑ)の五月雨(さみだれ)にまぎ
れてきこえかぬるにたとへたり
【同 下段】
中川女(なかがはのをんな)
ほとゝぎす
かたらふ
声(こゑ)は
それ
なれど
あなおぼつか
な
五月雨(さみだれ)の
そら
【左丁 上段】
先帝(せんだい)の后(きさい)ばらの四(し)の宮(みや)也 桐壺(きりつぼ)
の巻(まき)に桐壺の帝(みかど)の女御(にようご)となり
紅葉(もみぢ)の賀(が)の巻に冷泉院(れんぜいゐん)を生(うみ)
たまひ榊(さかき)の巻に御髪(みぐし)をおろして
薄雲(うすぐも)の巻にかくれたまふ此 歌(うた)は
源氏○見てもまた逢夜(あふよ)まれ
なる夢(ゆめ)の内(うち)にやがてまぎるゝ
我身(わがみ)ともがなとよみたまへる
御 返(かへ)し也 心(こゝろ)は源氏とみそか事
ありしを深(ふか)くはぢて悔(くい)たまへる
よしにて世(よ)にたぐひなくうき
わざせし我身の上をたとへ夢
のごとくなしはてゝも猶(なほ)世(よ)がた
りにあさましき名や残(のこ)らんと
なり
【同 下段】
薄雲女院(うすぐものにようゐん)
世(よ)がたりに
人(ひと)やつたへん
たぐひなく
浮身(うきみ)
を
さめぬ
夢(ゆめ)
に
なし
て
も
【右丁 上段】
末摘花(すゑつむはな)の女房(にようばう)也此うたは源氏
すゑつむ花に通(かよ)ひそめ給ひて
○いくそたび君(きみ)がしゞまにまけ
ぬらん物(もの)ないひそといはぬこの
みにと詠(よみ)給へる時(とき)末摘花に
替(かは)りて答(こたへ)たるうた也 心(こゝろ)は御(おん)
いらへをせずしてやみなんとは
さすがに思(おも)ひはべらず又御いらへ
を申すにはつゝましく我(われ)なが
らわけもなく思ひみだれ侍(はべ)
りと也 童子(どうじ)のしゞまあそび
は鐘(かね)つきて無言(むごん)になるより
かくはいふ也
【同 下段】
侍従(じじう)
かねつき
て
とぢ
めん
ことは
さすが
にて
こたへ
ま
うきぞ
かつはあやなき
【左丁 上段】
常陸(ひたち)の宮(みや)の御娘(おんむすめ)也すゑつむ
花(はな)の巻(まき)に源氏にあひそめ蓬(よもぎ)
生(ふ)の巻に東(ひがし)の院(ゐん)に移(うつ)され給ふ
みめよからぬ姫君(ひめぎみ)也此うたは
正月元日源氏の御装束(おんしやうぞく)に
とて色(いろ)古(ふる)びたる直衣(なほし)を贈(おく)り
給へる時(とき)のうた也心は君が御心(みこゝろ)
の浅(あさ)くつらければかくのごとく
なみだに袂(たもと)のそぼちぬれて
色のかはりたると也から衣(ころも)は
君の枕(まくら)ことばながらに今(いま)贈る
ものなればいへる也
【同 下段】
末摘花(すゑつむはなの)姫君(ひめぎみ)
から衣(ころも)君(きみ)が
心(こゝろ)のつら
ければ
袂(たもと)は
かく
ぞ
そ
ぼ
ち
つゝ
の
み
【右丁 上段】
父(ちゝ)は兵部(へうぶ)の大輔(たいふ)母(はゝ)は左衛門□乳(めの)
母(と)也 禁裏(きんり)の女房(にようばう)にて源氏に
末摘花(すゑつむはな)の仲立(なかだち)せし人也この
うたは末摘花より源氏へ元日
の装束(しやうぞく)をおくられたるいろ合(あひ)
みぐるしきにつけて且(かつ)その容(よう)
儀(ぎ)の見ぐるしきを源氏のわら
ひたまへる時(とき)によめる也こゝろは
いろうすき衣(ころも)は思召(おぼしめし)にか叶(かな)はずとも
ひたすらわろしといひくたし
たまはずばうれしからんと也下の
心(こゝろ)にはすゑつむ花の容儀(ようぎ)あし
くともひろき御心に用捨(ようしや)して
たまはらばの心をふくめりひと
花衣は一度(ひとたび)染(そめ)たるをいふくたす
は朽(くた)しむる也
【同 下段】
大輔命婦(たいふのめうぶ)
くれなゐの
ひと
花衣(はなごろも)
うすく
とも
ひたすら
くたす
名(な)をし
たてずば
【左丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の頃(ころ)のないしのすけ
修理大夫(しゆりのたいふ)の妻(つま)也 後(のち)に尼(あま)となる
老(おい)てこゝろ若(わか)くいろめきたる
人(ひと)也このうたは源氏(げんじ)たはふれに
もののたまへるときに詠(よめ)る也
心(こゝろ)は君(きみ)かよひ来(き)てだに給はらば
我年(わがとし)老(おい)てさかりすぎたれど
もむつましくもてなし奉(たてまつ)らん
といふ心を乗(のり)ならしたまへる
駒(こま)に若草(わかくさ)ならずとも刈(かり)かはん
といへる也○森(もり)の下草(したくさ)老(おい)ぬれ
ば駒(こま)もすさめずといふうた又
○ひとむらすゝきかりかはん
君(きみ)が手(た)なれの駒(こま)もこぬかな
といふうたによりてよめり
【同 下段】
源内侍(げんないし)
君(きみ)しこば
たな
れの
こまに
かり
かはん
さかり
すぎたる
下葉(したば)なり
とも
【右丁 上段】
二条(にでう)のおとゞの御娘(おんむすめ)にて弘徽([こ]き)
殿(でん)の大后(おほきさい)の御妹(おんいもと)也 葵(あふひ)の□【ま】きに
朱雀院(すざくゐん)に参(まゐ)りてみくしげ
殿(どの)と申し榊(さかき)の巻(まき)に内侍(ないし)の督(かみ)
となるこのうたは源氏(げんじ)に始(はじめ)て
あへる夜(よ)此後(このゝち)おとづれせんため
名(な)のりし給へとありし答(こたへ)に詠(よめ)る
なりこゝろは我身(わがみ)このまゝ死(しに)
て草葉(くさば)の蔭(かげ)にかくれなばそ
の草(くさ)の原(はら)をばたづねとふらはん
とは思召(おぼしめさ)ずやと也 名(な)のらずば
此まゝ捨(すて)はてんとおもひ給ふ
かととがめたる也
【左丁 下段 左から読む】
ふ
おも
とや
じ
とは
をば
草(くさ)の原(はら)
たづねても
やがてきえなば
浮身(うきみ)世に
朧月夜(おぼろづきよの)内侍督(ないしのかみ)
【左丁 上段】
朱雀院(すざくゐん)の母方(はゝかた)の御祖父(おほぢ)朧(おぼろ)
月夜(づきよ)の父(ちゝ)也 榊巻(さかきのまき)に太政大臣(だいぜうだいじん)
と成(なり)明石巻(あかしのまき)にかくれたまふ此(この)
哥(うた)はみづからの家(いへ)に花(はな)の宴(えん)
したまはんとて早(はや)く源氏に
約束(やくそく)し置(おき)つれども至(いた)りたまは
ざりければ御 迎(むかへ)に使(つかひ)しておく
られたる哥(うた)也 心(こゝろ)は我宿(わがやど)の花(はな)
もし世(よ)の常(つね)の色(いろ)ならばいかで
かしひて御 出(いで)を願(ねが)はん大方(おほかた)な
らずよき花(はな)なればこそ待(まち)ま
ゐらすれと也
【同 下段】
二条太政大臣(にでうのだいぜうだいじん)
我宿(わがやど)の花(はな)し
なべての
色(いろ)な
らず
何(なに)かは
さらに
君(きみ)を
待(また)ま
し
【右丁 上段】
前坊(ぜんばう)の御 娘(むすめ)御母は六 条(でう)の御息([み]やす)
所(どころ)也 葵巻(あふひのまき)に伊勢(いせ)の斎宮(いつきのみや)に
立(たち)賜(たま)ひ絵合巻(ゑあはせのまき)に冷泉院(れんぜいゐん)の
女御(にようご)と成(なり)処女巻(をとめのまき)に中宮(ちうぐう)御(み)
法巻(のりのまき)に皇太后宮(くわうたいこうぐう)と成(なり)賜(たま)ふ
此哥(このうた)は斎宮(いつきのみや)と成(なり)て下(くだ)り賜(たま)ふ
時(とき)に源氏○八島(やしま)もる国(くに)つみ神(かみ)
も心(こゝろ)あらばあかぬ別(わかれ)の中(なか)を
ことわれと詠(よみ)おくりたまへる
御 返(かへ)し也心は神(かみ)の心(こゝろ)もて明(あき)ら
かに見通(みとほ)し賜(たま)ふ物(もの)ならば
あかぬ別(わかれ)などのたまふ君(きみ)が
なほざりの偽(いつはり)をまづ正(たゞ)し賜(たま)ふ
べき物(もの)ぞと也 国(くに)つ神(かみ)は天(あま)つ神(かみ)
にむかへていふ地祇(くにつかみ)の事(こと)也
【同 下段 左から読む】
さむ
たゞ
や
まづ
事(ごと)を
等閑(なほざり)
中(なか)ならば
ことわる
《振り仮名:国つ神|くにつかみ》空(そら)に
秋好中宮(あきこのむちうぐう)
【左丁 上段】
薄雲(うすぐも)の女院(にようゐん)の御 兄(あに)也 始(はじめ)は
兵部卿(へうぶけう)にて処女巻(をとめのまき)に式部(しきぶ)
卿(けう)に成(なり)賜(たま)ふ此 哥(うた)は桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)か
くれさせ賜(たま)ひて後(のち)女院(にようゐん)を我(わが)
御方(おんかた)へ御 迎(むかへ)に参(まゐ)り賜(たま)へる時(とき)に
御 庭(には)の五葉松(ごえふのまつ)の下葉(したば)の雪(ゆき)に
枯(かれ)たるを見(み)て詠(よみ)たまへる也 心(こゝろ)は
枝(えだ)ざし高(たか)く蔭(かげ)の広(ひろ)さに隠(かく)
れて頼(たの)もしく思(おも)ひし松(まつ)の枯(かれ)
たるにやあるらん下葉(したば)の散々(ちり〴〵)
になる年(とし)の暮(くれ)にもあるかな
と也 帝(みかど)の広(ひろ)き御恵(おんめぐみ)の蔭(かげ)を
頼(たの)みしもかくれたまひて女院(にようゐん)
の退出(たいしゆつ)したまふを歎(なげ)きたる
なり
【同 下段】
式部卿宮(しきぶけうのみや)
蔭(かげ)広(ひろ)み
たのみし
松(まつ)や
枯(かれ)に
けん
下葉(したば)
ちり行(ゆく)
としの
くれ哉(かな)
【右丁 上部】
薄雲(うすぐも)の女院(にようゐん)の女房(にようばう)にて源
氏の御 心(こゝろ)しり也この哥(うた)は則(▢すなはち)上(かみ)と
同(おな)じく女院(にようゐん)退出(たいしゆつ)したまふ時(とき)に
源氏○さえ渡(わた)る池(いけ)の鏡(かゞみ)の
さやけきに見馴(みなれ)し影(かげ)をみぬ
ぞ悲(かな)しきと詠(よみ)給へる返(かへ)し也
心(こゝろ)は帝(みかど)かくれさせたまひて女(によう)
院(ゐん)は渡(わた)らせ賜(たま)ひ御つき〴〵
迄(まで)も人 目(め)かれゆくを岩井(いはゐ)の氷(こほり)
に人影(ひとかげ)のあせて見(み)えぬに
よせて云(いへ)り
【同 下段】
王命婦(わうめうぶ)
とし
くれ
て
岩井(いはゐ)
の
水(みづ)も氷(こほり)
とぢ
みし
人影(ひとかげ)の
あせも
行(ゆく)かな
【左丁 上段】
源氏の忍(しの)びて通(かよ)ひ賜(たま)へる
女(をんな)也 此哥(このうた)は源氏 外(ほか)より帰(かへり)た
まふ朝(あさ)此女(このをんな)の門(かど)を過(すぎ)たまふ
とて○朝(あさ)ぼらけ霧立(きりたつ)空(そら)
のまよひにも行過(ゆきすぎ)難(がた)き妹(いも)が
門(かど)かなといひ入(いれ)させ賜(たま)へる返(かへ)し
也(なり)心(こゝろ)はさほど過(すぎ)うくおぼし
めさばはかなき門(かど)に障(さは)り
賜(たま)ふべきにあらず御 志(こゝろざし)あらば
入たまふべき也といふ心(こゝろ)を霧(きり)
の前垣(まがき)の越(こえ)難(がた)きと草(くさ)の戸(と)
ざしの入安(いりやす)きもて云(いへ)る也 霧(きり)
は隔(へだつ)れば垣(かき)といひ草(くさ)はとづ
れば戸(と)と云
【同 下段】
霧籬女(きりのまがきのをんな)
たち
とまり
きりの
籬(まがき)の
すぎ
うくば
くさの戸(と)
ざしに
さはりしも
せじ
【右丁 上段】
大臣家(だいじんけ)の御娘(おんむすめ)桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の
女御(にようご)にて花散里(はなちるさと)の御姉(おんあね)也
此 哥(うた)は桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)かくれさせ
賜(たま)ひて後(のち)御はらから物(もの)あは
れに住(すみ)賜(たま)へるを源氏とぶら
ひたまひて○橘(たちばな)の香(か)をな
つかしみ時鳥(ほとゝぎす)はな散里(ちるさと)を
尋(たづね)てぞとふと詠(よみ)賜(たま)へる御 返(かへ)
し也心は人目(ひとめ)もなく荒(あれ)は
てたる我宿(わがやど)は軒(のき)の橘(たちはな)こそ
君(きみ)にとはるゝ種(たね)とは成(なり)けれと
也 軒(のき)の端(は)を軒(のき)のつまとも
いへばとはるゝはしの心(こゝろ)をよ
せたり
【同 下段】
麗景殿女御(れいけいでんのにようご)
人目(ひとめ)なくあれ
たるやどは
橘(たちばな)の
花(はな)こそ
軒(のき)の
つま
と
な
り
け
れ
【左丁 上段】
麗景殿(れいけいでん)の女御(にようご)の御 妹(いもと)にて
源氏の思(おも)ひ人 後(のち)に六 条院(でうのゐん)に数(あま)
多(た)すゑ賜(たま)へる中(なか)の一人(ひとり)也 夏(なつ)の
御方(おんかた)といふ此哥(このうた)は源氏 須磨(すま)
へさすらへ賜(たま)ふ御暇乞(おんいとまごひ)に渡(わた)り
賜(たま)へる時(とき)に詠(よめ)る也 心(こゝろ)はかく君(きみ)
にとはるゝ我身(わがみ)こそ数(かず)なら
ずとも此度のあかず悲(かな)しき御(おん)
別(わかれ)を心ばかりはさへぎりとゞ
め度(たく)思(おも)ふといふ心(こゝろ)を源氏を
月(つき)に譬(たと)へ我身(わがみ)の数(かず)ならぬ
を袖(そで)のせばきによせて泪(なみだ)に
影(かげ)をとゞむる由(よし)にいへる也
【同 下段】
花散里上(はなちるさとのうへ)
月影(つきかげ)の
宿(やど)れる
袖(そで)は
せば
くとも
とめて
も
見ば
や
あかぬ
光(ひか)り
を
【右丁 上段】
伊予介(いよのすけ)の子(こ)也 始(はじめ)右近将監(うこんのしやうげん)な
りしを源氏 除名(じよめう)に付(つき)是(これ)も
除籍(じよしやく)せられ須磨(すま)の御ともし
て後(のち)みをつくしの巻(まき)に蔵(くら)
人靫負尉(うどのゆげひのぞう)に成(なり)此哥(このうた)は源氏
須磨(すま)へ移(うつ)り給(たま)ふ御暇乞(おんいとまごひ)に父(ちゝ)
帝(みかど)の御廟(ごびやう)へ詣(まうで)たまへる御とも
に参(まゐ)り賀茂(かも)の社(やしろ)を見(み)て其(その)
以前(かみ)斎院(さいゐん)の御禊(ごけい)に源氏の
御ともせし事(こと)を思(おも)ひ出(いで)て詠(よめ)る
也 心(こゝろ)は源氏と御馬(おんうま)を引連(ひきつれ)て
葵(あふひ)をかざしたりし其時(そのとき)の勢(いきほひ)
を思(おも)へば今(いま)かゝる世(よ)と成(なり)し事(こと)
神(かみ)もつらく恨(うらめ)しと也そのかみ
に神(かみ)を兼(かね)たり瑞垣(みづがき)はほめて
いふ也
【同 下段】
蔵人靫負尉(くらうどのゆげひのぞう)
引連(ひきつれ)て
あふ
ひ
かざし
そのかみを
おもへば
つらし
加茂(かも)のみづ垣(がき)
【左丁 上段】
源氏の乳母(めのと)大弐(だいに)の尼(あま)の子(こ)也
始(はじめ)民部大夫(みんぶのたいふ)処女巻(をとめのまき)に摂(つ)
津守(のかみ)梅枝巻(うめがえのまき)に宰相(さいしやう)と成(なる)
源氏の殊(こと)に親(した)しく召仕(めしつか)ひたま
ふ人也 此哥(このうた)は須磨(すま)へ源氏の
御ともして鴈(かり)を見(み)て詠(よめ)る
也 心(こゝろ)は鴈(かり)の心(こゝろ)から故郷(こけう)の常(とこ)
世(よ)の国(くに)を捨(すて)て来(き)てかゝる
旅(たび)の空(そら)に鳴(なく)声(こゑ)をきけば
悲(かな)しき物(もの)を昔(むかし)はよその事(こと)
のやうに思(おも)ひ居(ゐ)たる事(こと)かな
と也 今(いま)の身(み)にてきけば我(われ)
も旅(たび)なれば更(さら)によその上(うへ)
とは思(おも)はれずといふ心(こゝろ)をふく
めり
【同 下段】
藤原惟光(ふぢはらのこれみつ)
こゝろ
から
とこよを
捨(すて)て
なく
鴈(かり)を
くものよそ
にも
おもひ
けるかな
【右丁 上段】
前(さきの)播磨守(はりまのかみ)の子(こ)にて源氏の
親(した)しく召(めし)つかひ給ふ人也 始(はじめ)蔵(くら)
人(うど)にてかうむり賜(たま)はり明石(あかしの)
巻(まき)に少納言(せうなごん)みをつくしの巻(まき)
に靫負佐(ゆげひのすけ)処女巻(をとめのまき)に右中弁(うちうべん)
と成(なる)此 哥(うた)は則(すなはち)上(かみ)の哥(うた)と同(おなじ)
時(とき)によめる也 心(こゝろ)は鴈(かり)は其(その)時分(じぶん)
の友(とも)にはあらねどもそれを
見(み)れば昔(むかし)の事ども取集(とりあつめ)て
思(おも)ひ出らるゝよと也かきつら
ねは物(もの)を連(つらぬ)る心(こゝろ)にて集(あつ)め
と云(いふ)が如(ごと)し
【同 下段】
源義清(みなもとのよしきよ)
かきつらね
昔(むかし)のことぞ
おもほゆ
る
鴈(かり)は
そのよの
友(とも)ならねども
【左丁 上段】
近衛中将(こんゑのちうじやう)を去(さり)て播磨守(はりまのかみ)
となり終(つひ)に入道(にふだう)して明石(あかし)の
浦(うら)に住(すめ)り年(とし)老(おい)て山(やま)深(ふか)く隠(かく)れ
入(いり)ぬ此歌(このうた)は源氏(げんじ)須磨(すま)のさす
らへのをり入道(にふだう)が娘(むすめ)を一人寐(ひとりね)
の慰(なぐさ)めにせんとのたまへる答(こたへ)
に詠(よめ)る也 心(こゝろ)はひとりねのつれ〴〵
と物思(ものおも)ひ明(あか)す淋(さび)しさを此(この)ほ
どの御旅寐(おんたびね)に君(きみ)も思召(おぼしめし)知(しり)ぬ
事かと也 娘(むすめ)の一人住(ひとりずみ)なる事(こと)を
思(おも)はせたる也うらさびしは心淋(こゝろさび)し
也心をうらといふ明石(あかし)の浦(うら)と
いひ懸(かけ)たる也
【同 下段】
明石入道(あかしのにふだう)
ひとり寐(ね)は
君(きみ)もしりぬや
つれ〴〵と
思(おも)ひ
あかしの
うらさび
しさを
【右丁 上段】
入道(にふだう)前(さきの)播磨守(はりまのかみ)の娘(むすめ)源氏(げんじ)に
仕(つか)へて明石中宮(あかしのちうぐう)を産(うめ)り六条(ろくでうの)
院(ゐん)に数多(あまた)の思(おも)ひ人(びと)居(すゑ)給へる中(なか)
の一人(ひとり)也 冬御方(ふゆのおんかた)といふ此歌(このうた)は
源氏(げんじ)始(はじめ)て忍(しの)び給へる夜(よ)○むつ
ごとを語合(かたりあは)せん人(ひと)もがなうき
世(よ)の夢(ゆめ)も半(なかば)さむやとゝ詠(よみ)給へ
る返(かへ)し也 心(こゝろ)は無明(むめう)の眠(ねぶり)のさめや
らぬ心(こゝろ)にはいづれをゆめいづれを
現(うつゝ)とも分(わき)て語(かたら)んやうなしと也
【同 下段 左から読む】
らん
かた
て
わき
夢(ゆめ)と
を
いづれ
は
こゝろに
へる
やがてまど
あけぬ夜(よ)に
明石上(あかしのうへ)
【左丁 上段】
太宰大弐(だざいのだいに)の娘(むすめ)也 源氏(げんじ)の逢(あひ)
賜(たま)ひし人(ひと)也 父(ちゝ)とゝもに筑紫(つくし)
に下(くだ)りて須磨巻(すまのまき)にのぼる
此哥(このうた)は源氏すまにさすらへ
賜(たま)ひし頃(ころ)ふみにて尋(たづね)奉(たてまつ)りし
事あり其後(そのゝち)帰京(きけう)し給へるを
又 使(つかひ)して御歓(おんよろこび)を申(まう)す哥(うた)也
心(こゝろ)は須磨(すま)の御座所(おましところ)迄(まで)も心(こゝろ)を
よせて尋(たづね)奉(たてまつ)りし我身(わがみ)の御
さすらへを歎(なけき)て泪(なみだ)に朽(くち)はて
たる袖(そで)を見せ奉りたしと也
やがては則(すなはち)また直(すぐ)にといふ
心也 我身(わがみ)を舟人(ふなびと)に譬(たと)へて
袖(そで)の波(なみ)に朽(くち)たるやうに云(いへ)る也
【同 下段】
五節君(ごせちのきみ)
須磨(すま)の
浦(うら)に
心(こゝろ)を
よせ
し
ふな人(びと)の
やがて
くたせる
袖(そで)を
見せばや
【右丁 上段】
禁裏(きんり)の女房(にようばう)也 此哥(このうた)は秋好(あきこのむ)
中宮(ちうぐう)と弘徽殿(こきでん)の女御(にようご)と左(さ)
右(ゆう)に方(かた)を分(わけ)て絵合(ゑあは)せありし
時(とき)此女房は左(ひだり)の秋好 方(がた)に侍(はべ)り
て左 伊勢物語(いせものがたり)右(みぎ)正三位(せうさんゐ)を合(あは)
せたる時に詠(よめ)る也心は伊勢
物語の深(ふか)き趣(おもむき)を探(さぐら)ずし
て唯(たゝ)古(ふる)めかしといひけす事
の有(ある)べきかはと也右方より古
めきたりと論(ろん)ぜしを云(いひ)返(かへ)
せる也伊勢の名(な)につけて
海(うみ)といひ又(また)波(なみ)とも云(いへ)り
【同 下段】
平内侍(へいないし)
伊勢(いせ)の
うみの
ふかき
心(こゝろ)を
たどら
ずて
ふり
にし
跡(あと)と
波(なみ)やけつべき
【左丁 上段】
是(これ)も禁裏(きんり)の女房(にようばう)にて同時(おなじとき)
右(みぎ)のこきでん方(がた)に侍(はべ)りて上(かみ)の
歌(うた)の返(かへ)しに詠(よめ)る也 心(こゝろ)は雲(くも)の
上(うへ)に高(たか)く思(おも)ひあがりたる心(こゝろ)よ
り見(み)れべ伊勢(いせ)の海(うみ)の千尋(ちひろ)と
深(ふか)き底(そこ)も猶(なほ)遙(はるか)に下(した)に見(み)な
すと也 伊勢物語(いせものがたり)を見下(みくだ)せる
也 正三位(せうさんゐ)は今(いま)の世(よ)に伝(つたは)らぬ昔(むかし)
物語(ものがたり)也 其中(そのなか)に雲(くも)の上(うへ)に登(のぼり)
し事(こと)などありし成(なる)べし
【同 下段】
大弐内侍(だいにのないし)
雲(くも)の上(うへ)に
思(おも)ひ
のぼれる
こゝろには
ちひ
ろの
そこも
はるか
にぞ見る
【右丁 上段】
桂中務宮(かつらのなかつかさのみや)の孫(まご)明石入道(あかしのにふだう)の
北方(きたのかた)也 娘(むすめ)明石上(あかしのうへ)に倶(ぐ)して都(みやこ)
に登(のぼ)る時(とき)に入道(にふだう)は一人(ひとり)明石(あかし)に
とゞまれる名残(なごり)を惜(をし)みて詠(よめ)
る也 心(こゝろ)はむかし入道(にふだう)は播磨守(はりまのかみ)
に成(なり)し時(とき)は夫婦(ふうふ)諸(もろ)ともに都(みやこ)
を出(いで)しに遙(はるか)の年(とし)を経(へ)て此(この)
度(たび)は一人(ひとり)別(わかれ)ゆく旅(たび)なれば野路(のぢ)
などにや迷(まよは)んとなり度(たび)に
旅(たび)を兼(かね)たり
【同 下段】
明石尼(あかしのあま)
諸(もろ)ともに
都(みやこ)は
いでき
此(この)たび
や
ひとり
野中(のなか)の
みちに
まどはむ
【左丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の皇子(わうじ)にて源氏
の御兄(おんあに)也御 母(はゝ)は弘徽殿(こきでん)の大后(おほきさき)
と申す二条(にでう)のおとゞの御 娘(むすめ)也
桐壺 巻(まき)に東宮(とうぐう)に立(たち)葵(あふひの)巻
に御 位(くらゐ)につかせ給ひみをつ
くしの巻に御位を冷泉院(れんぜいゐん)
にゆづりておりゐさせ給ふ若(わか)
菜(なの)巻に御ぐしおろして西山(にしやま)
の御寺に移(うつ)り住(すま)せ給ふ此 哥(うた)
は此帝の御むすめ女三宮(によさんのみや)に
おくらせ給へるにて心は此世を
別(わか)れて死出(しで)の山路(やまぢ)に入なん
事は我身(わがみ)におくれ給ふとも終(つひ)
には極楽(ごくらく)の一ッ所(ところ)を君(きみ)も尋(たづ)ね
来(き)給へと也
【同 下段】
朱雀院(すざくゐん)
世(よ)にわかれ
入(いり)なむ道(みち)は
お
くる
とも
同(おな)じ
ところ
を
きみも
尋(たづ)ねよ
【右丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の皇子(わうじ)源氏の
御 弟(おとゝ)也御 母(はゝ)は薄雲(うすぐも)の女院(にようゐん)と申す
紅葉賀巻(もみぢのがのまき)に生(うま)れさせ給ひ葵(あふひ)
の巻に東宮(とうぐう)に立(たち)みをつくしの
巻に御位につかせたまひわか
なの巻に御位を東宮にゆづり
ておりゐさせ給ふ此 哥(うた)は源氏 桂(かつら)
の院にて月の夜(よ)遊(あそ)び給ふを
羨(うらやま)しうおぼしやりて詠(よみ)ておくらせ
給へる也心は桂川(かつらがは)のあなたの里(さと)な
ればさぞ月 影(かげ)のゝどか成(なる)らんと
いふ事をかへさまにいへる也からぶみ
に月中(げつちう)《振り仮名:有桂樹|けいじゆあり》と云(いへ)るより月
の桂など多くいひならへり今(いま)は
桂といふ名(な)につきてそれにな
ずらへて云る也
【同 下段】
冷泉院(れんぜいゐん)
月(つき)のすむ
川(かは)のをち
なる
さと
なれば
桂(かつら)のかげは
のどけ
かるらむ
【左丁 上段】
源氏 桂院(かつらのゐん)へおはしましける時(とき)
に同車(どうしや)し給へる人也 此哥(このうた)は
同(おな)じ院にて月(つき)の宴(えん)して須(す)
磨(ま)の浦(うら)の事を思ひ出(いで)給ひ
て源氏○めぐりきて手(て)に
取(とる)ばかりさやけきや淡路(あはぢ)
の島(しま)のあはと見し月と詠(よみ)
給へる返(かへ)し也 心(こゝろ)は世(よ)の騒(さわぎ)にて
暫(しばし)須磨へ移(うつ)され給ひしも
帰京(きけう)有(あり)て事(こと)明白(めいはく)に成(なり)たま
へる御代(みよ)の行末(ゆくすゑ)ぞのどか成(なる)
べきと也源氏を月によせて
祝(いは)へる也
【同 下段】
頭中将(とうのちうじやう)
うき雲(くも)に
しばし
まがひ
し
月影(つきかげ)の
すみ
はつ
るよぞ
長閑(のどけ)かる
べき
【右丁 上段】
是(これ)も同(おな)じ時(とき)の月(つき)の宴(えん)に侍(はべ)
りて詠(よめ)る也 此人(このひと)は老人(らうじん)にて
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)に親(した)しく仕(つか)へ奉(たてまつ)り
し人(ひと)ゆゑ其(その)昔(むかし)を恋(こひ)たる也
心(こゝろ)は天子(てんし)の尊(たふと)き御位(みくらゐ)を捨(すて)
ていかなる所(ところ)へ御身(おんみ)を隠(かく)し
賜(たま)ひけるやらんと桐壺の帝
を月によせて云(いへ)る也 住(すみ)かは
住処也所をかといふ事 多(おほ)し
よはゝよひに同じはとひと
通(かよ)へる也 住家(すみか)夜半(よは)の字(じ)の
心と思ふは非(ひ)也
【同 下段】
右大弁(うだいべん)
雲(くも)のうへの
すみかを
捨(すて)て
よは
の月(つき)
いづれの
谷(たに)に
影(かげ)かくし
けむ
【左丁 上段】
父(ちゝ)は参議(さんぎ)宮内卿(くないけう)母(はゝ)は宣旨(せんじ)也
明石(あかし)の上(うへ)の御産(ごさん)の時(とき)に源氏
かの浦(うら)に下(くだ)し賜(たま)ふ松風巻(まつかぜのまき)に
姫君(ひめぎみ)にぐして京(けう)に登(のぼ)る此(この)
哥(うた)は姫君(ひめぎみ)を紫(むらさき)の上(うへ)の御方(おんかた)へ
渡(わた)し賜(たま)はんとする時(とき)明石(あかし)の上(うへ)
別(わかれ)を惜(をし)みて○雪(ゆき)深(ふか)きみ山(やま)
の路(みち)ははれずとも猶(なほ)ふみ通(かよ)へ
跡(あと)絶(たえ)ずしてと詠(よみ)たる返(かへ)し也
心(こゝろ)はたとへ雪(ゆき)のふらぬひまな
き吉野山(よしのやま)にこもり賜(たま)ふとも
必(かなら)ず尋(たづね)まゐらすべきに凡(およ)そ
心(こゝろ)の行通(ゆきかよ)ふ跡(あと)の絶(たゆ)べきこと
かは絶(たゆ)る物(もの)にあらずと也 此山(このやま)
里(ざと)などは増(まし)てと云(いふ)心(こゝろ)也
【同 下段】
明石乳母(あかしのめのと)
雪間(ゆきま)
なき
よし
野(の)の
山(やま)を
尋(たづね)ても
心(こゝろ)の通(かよ)ふ
あと絶(たえ)め
やも
【右丁 上段】
父(ちゝ)は源氏 母(はゝ)は葵(あふひ)の上(うへ)也 葵巻(あふひのまき)
に生(うま)れて処女巻(をとめのまき)に元服(げんぶく)文(もん)
章生(じやうせい)に補(ほ)し侍従(じじう)になれる
を始(はじめ)にて追々(おひ〳〵)に官位(くわんゐ)を経(へ)て
匂宮巻(にほふみやのまき)に左大臣(さだいじん)となる此哥(このうた)
は雲井鴈(くもゐのかり)との中(なか)をさけられ
たる頃(ころ)冬(ふゆ)の空(そら)曇(くも)りたる朝(あさ)
まだきに詠(よめ)る也 心(こゝろ)は霜(しも)も氷(こほり)
もうたてしくむすぼゝれたる
朝(あさ)ぼらけのそらにかきくらし
て雨(あめ)とふる我(わが)泪(なみだ)かなと時(とき)のけ
しきもて思(おも)ひを述(のぶ)る也うた
てはうたゝとも言(いひ)て俗(ぞく)にうたて
しと云(いふ)は同(おな)じ明(あけ)ぐれは夜明(よあけ)
のまだ暗(くら)き程(ほど)をいふこと也
【同 下段】
夕霧左大臣(ゆふぎりのさだいしん)
霜(しも)こほり
うたて
む
す
べる
あけぐれの
空(そら)かき
くらし
ふるなみだかな
【左丁 上段】
父(ちゝ)は致仕(ちじ)のおとゞ母(はゝ)は後(のち)に按察(あぜちの)大(だい)
納言(なごん)の北方(きたのかた)と成(なり)し人(ひと)也 始(はじめ)より夕(ゆふ)
霧(ぎり)と心(こゝろ)を通(かよ)はして藤裏葉巻(ふじのうらばのまき)
に終(つひ)にゆるされて北方(きたのかた)となり子(こ)ど
もあまた生(うみ)給ふ此哥(このうた)はさけられし頃(ころ)
忍(しの)びあひたるを乳母(めのと)の見付(みつけ)て夕霧(ゆふぎり)
の位(くらゐ)低(ひき)く浅(あさ)ぎの袍(はう)なるを六位(ろくゐ)すくせ
と恥(はぢ)しめたる事あり其時(そのとき)に夕霧(ゆふぎり)○
紅(くれなゐ)の泪(なみだ)に深(ふか)き袖(そで)の色(いろ)を浅(あさ)みどりとや
いひしほるべきと詠(よみ)たる返(かへ)し也 心(こゝろ)はかく
さま〴〵の事(こと)に付(つき)て身(み)のうさ【ママ】のしらるゝ
はいかなる因果(いんぐわ)の中(なか)ぞと也 紅(くれなゐ)みどりな
ど云(いへ)るをうけて色々(いろ〳〵)といひ衣(ころも)とも
云(いへ)る也 中(なか)の衣(ころも)は男女(なんじよ)相逢(あひあ)ふ中(なか)に隔(へだつ)
る衣(ころも)の事(こと)也 今(いま)は其心(そのこゝろ)に用(もち)ひたるには
あらず唯(たゞ)詞(ことば)のよせに云(いへ)るのみ也
【同 下段】
雲井雁上(くもゐのかりのうへ)
いろ〳〵に
身(み)の
うきほど
の
しら
るゝは
いかに
染(そめ)ける
中(なか)の
ころも
ぞ
【右丁 上段】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の皇子(わうじ)源氏の御弟(おんおとうと)
也 始(はじめ)はそちの宮(みや)といひしを
処女巻(をとめのまき)に兵部卿(へうぶけう)と成(なり)紅梅(こうばいの)
巻(まき)にかくれ賜(たま)ふ此哥(このうた)は玉葛(たまかづら)を
恋(こひ)て詠(よみ)かけ賜(たま)へるにて心(こゝろ)は
鳴声(なくこゑ)もなき蛍(ほたる)の思(おも)ひだに
外(ほか)より消(け)すにきゆる物(もの)か消(きゆ)る
物(もの)にはあらずまして人(ひと)の思(おも)ひ
こがるゝはいかにしてもやみ難(がた)し
と也 思(おも)ひに火(ひ)をそへたり
【同 下段】
蛍兵部卿宮(ほたるのへうぶけうのみや)
なく声(こゑ)も
き
こえ
ぬ
むしの
おもひだに
人(ひと)のけつには
きゆるものかは
【左丁 上段】
父(ちゝ)は太宰少弐(だざいのせうに)母(はゝ)は夕顔(ゆふがほ)の
乳母(めのと)也 夕顔(ゆふがほ)うせて後(のち)玉(たま)
かづらをぐして父母(ちゝはゝ)と共(とも)に
筑紫(つくし)に下(くだ)り年(とし)経(へ)て玉葛(たまかづら)
帰京(きけう)の時(とき)は彼所(かしこ)にとゞまりし
人也 下(しも)の兵部(へうぶ)の君(きみ)の姉(あね)也
此歌(このうた)は筑紫(つくし)へ下(くだ)る時(とき)に舟哥(ふなうた)
のあはれなるを聞(きゝ)てよめる也
心は我身(わがみ)こそ夕顔(ゆふがほ)をこひし
くおもふなれ舟人(ふなびと)も誰(たれ)を恋(こふ)
とてかうら悲(がな)しげに声(こゑ)の聞(きこ)
ゆると也 大島(おほしま)は筑前(ちくぜん)也 大島(おほしま)
の浦(うら)といひ懸(かけ)たりうらが
なしは心悲(こゝろがな)し也
【同 下段】
兵部姉(へうぶのあね)御許(おもと)
舟人(ふなびと)も
たれを
こふとか
大島(おほしま)の
うら
がなし
げに
声(こゑ)の
聞(きこ)ゆる
【右丁 上段】
父母(ちゝはゝ)は姉(あね)おもとに同(おな)じ幼(よう)
名(めう)はあてきといへりこれも玉(たま)
かづらに倶(ぐ)してくだり帰京(きけう)
の時(とき)も従(したが)ひ登(のぼ)れる人也 此(この)
うたも上(かみ)と同(おな)じ時(とき)に詠(よめ)るに
て心(こゝろ)は来(き)し方(かた)も行先(ゆくさき)も知(し)ら
ず四方(しはう)渺々(べう〳〵)たる沖中(おきなか)に漕(こぎ)
出(いで)ては我身(わがみ)の上(うへ)も定(さだ)まら
ねばいづかたに落付(おちつき)て君(きみ)を
恋(こふ)る身(み)とならん事(こと)ぞと也
あはれはあゝと云(いふ)歎詞(なげきことば)はれ
といふ嘆詞(なげきことば)を一ッにしたる
物(もの)にて俗(ぞく)にも息(いき)を長(なが)く
あゝと引(ひく)に同(おな)じなげき
ことば也
【同 下段】
兵部君(へうぶのきみ)
来(こ)しかたも
ゆくへも
し
らぬ
沖(おき)に
出(いで)て
あはれはいづ
くに
きみを
こふらむ
【左丁 上段】
肥後(ひご)の国人(くにうど)太宰太監(だざいのたいげん)也
此うたは田舎心(ゐなかごゝろ)に玉かづら
を恋(こひ)て忌(いみ)きらはるゝをも
しらずしてよめる也 心(こゝろ)は君(きみ)
に対(たい)して万(まん)一 心替(こゝろがは)りする
物(もの)にもあらば肥前国(ひぜんのくに)松浦(まつらの)
郡(こほり)鏡(かゞみ)の明神(めうじん)を懸(かけ)てち
かひを立(たて)んと也 鏡(かゞみ)の神(かみ)は
神功皇后(じんぐうくわうごう)の御鏡(みかゞみ)を神(かみ)と
まつれる也
【同 下段】
大夫(たいふのげん)
きみにも
し
こゝろ
たがはゞ
松浦(まつら)
なる
鏡(かゞみ)の神(かみ)を
かけて
ちかはむ
【右丁 上段】
太宰少弐(だざいのせうに)の北方(きたのかた)にて兵(へう)
部(ぶ)の君(きみ)等(ら)が母(はゝ)也此うたは
上(かみ)の大夫(たいふ)の監(げん)が哥(うた)の返(かへ)し
せぬもきのどくなれば唯(たゞ)
思(おも)ふ儘(まゝ)に云(いひ)て返(かへ)しの替(かは)り
にしたる也 心(こゝろ)は玉(たま)かづらの身(み)
の上(うへ)を幸(さいはひ)あらせたまへと
祈(いの)る願(ねがひ)の趣(おもむき)に違(たが)ひてかゝ
る男(をとこ)の勢(いきほ)ひにせまりてもし
手(て)ごめにあふやうなる事(こと)
もあらば神(かみ)の利生(りせう)をつら
しとおもふべしと也
【同 下段】
夕顔乳母(ゆふがほのめのと)
年(とし)を
経(へ)て
いのる
心の
たがひ
なば
鏡(かゞみ)の
神(かみ)を
つらしとや
みむ
【左丁 上段】
父(ちゝ)は致仕(ちじ)のおどゝ【濁点の位置違い】母(はゝ)は夕顔(ゆふがほ)也
たまかづらの巻(まき)に源氏の
養女(やうぢよ)となり藤袴(ふぢばかま)の巻(まき)に
内侍督(ないしのかみ)と成(なり)槙柱(まきばしら)の巻(まき)に
鬚黒(ひげぐろ)の北(きた)の方(かた)と成(なり)て子(こ)あ
また生(うみ)たまふ此(この)うたは蛍(ほたる)
兵部卿(へうぶけう)の宮(みや)○鳴声(なくこゑ)も聞(きこ)
えぬ虫(むし)のおもひだに人(ひと)のけつ
には消(きゆ)る物(もの)かはと詠(よみ)たまへる
返(かへ)し也 心(こゝろ)はのたまふごとく
鳴声(なくこゑ)はせずして身(み)をこがす
蛍(ほたる)こそかへりておもひは
深(ふか)かるべけれ言(こと)に出(いで)ていふは
中々(なか〳〵)に浅(あさ)しと也
【同 下段】
玉葛内侍督(たまかづらのないしのかみ)
こゑはせて
身(み)をのみ
こがす
蛍(ほたる)こそ
いふより
増(まさ)る
おもひ
なる
らめ
【右丁 上段】
夕顔(ゆふがほ)の女房(にようばう)也 夕(ゆふ)がほうせ
て後(のち)源氏の御方(おんかた)に仕(つか)ふ
此うたは玉(たま)かづらの行(ゆく)へを
しらん為(ため)に初瀬(はつせ)に詣(まう)です
なはち玉かづらにめぐり合(あひ)
たる時(とき)に詠(よめ)る也 心(こゝろ)は此はつ
せにいのりて尋(たづね)はべらずば
年(とし)を経(へ)てこゝに二(ふた)たび
めぐり合(あひ)奉(たてまつ)るべきやと也
○初瀬川(はつせがは)古川(ふるかは)のべに二本(ふたもと)
ある杉(すぎ)年(とし)を経(へ)て又(また)も
逢(あひ)みん二本(ふたもと)ある杉(すぎ)のうた
にてよめりたちどは立(たて)る
所(ところ)也
【同 下段】
右近(うこん)
ふたもとの
杉(すぎ)の
たち
どを
たづね
ずば
古川(ふるかは)野(の)べ
に
きみを
見ましや
【左丁 上段】
源氏の御 娘(むすめ)にて御 母(はゝ)は明石(あかし)の
上也みをつくしの巻(まき)に生(うま)れ
薄雲(うすぐも)のまきに紫(むらさき)の上(うへ)の養(やう)
子(し)となり藤(ふぢ)のうら葉(は)の巻
に東宮(とうぐう)の女御(にようご)に参(まゐ)りて皇(わう)
子(じ)を御誕生(ごたんぜう)あり御法(みのり)の巻
に中宮(ちうぐう)と成(なり)たまふ此 哥(うた)は
正月 子(ね)の日に明石の上○とし
月をまつに引れてふる人に
けふ鴬(うぐひす)のはつねきかせよと
よみおこせたる返(かへ)し也心ははや
くより引(ひき)わかれ人にやしなは
れて年(とし)経(ふ)れどもまことの母(はゝ)を
心にわするべきかはわすれは
せずといふ心をうぐひすに
よせてよめる也
【同 下段】
明石中宮(あかしのちうぐう)
ひきわかれ
年(とし)はふれ
ども
鴬(うぐひす)の
すだち
し
松(まつ)の根(ね)を
わす
れ
め
や
【右丁 上段】
これより下(しも)の四人はみな秋好(あきこのむ)
の女房(にようばう)也 紫(むらさき)の上の御方の
花見に召(めし)よばれて舟(ふね)にの
せられ池(いけ)をめぐりてよめ
るうたども也心は風(かぜ)吹(ふけ)ば花の
やうに波(なみ)のたてるその波
さへ移(うつ)れる影(かけ)にて誠(まこと)の
山ぶきのいろに見ゆるは是(これ)や
名(な)にたてる山ぶきの崎(さき)な
らんと也山ぶきのさきは
近江国(あふみのくに)の地名(ちめい)といへり
【同 下段】
山吹女房(やまぶきのにようばう)
風(かぜ)ふけば
波(なみ)の花(はな)
さへ
いろ
見えて
こや名(な)
に
たてる
山(やま)ぶき
のさき
【左丁 上段】
これも此 所(ところ)をほめてよめる
也心は此春の御前(おまへ)の池水(いけみづ)は
井手(ゐで)の川瀬(かはせ)に通(かよ)へるにや
あるらん岸(きし)の山 吹(ぶき)影(かげ)うつり
て水底(みなそこ)までもにほへるけ
しき得(え)もいはれずと也井手
は山城(やましろ)の国(くに)山吹(やまぶき)の名所(めいしよ)也
【同 下段】
井手女房(ゐでのにようばう)
春(はる)の池(いけ)や
井手(ゐで)の
川瀬(かはせ)に
かよふらん
きしの
山ぶき
そこも
匂(にほ)へり
【右丁 上段】
亀(かめ)の上の山(やま)とは蓬莱山(ほうらいさん)を
いふ漢書(かんじよ)に亀の脊(せ)に負(おふ)
といへるによりて也心は蓬莱
の山も尋(たづ)ね求(もとむ)るに及(およ)ばず
此舟(このふね)のうちの面白(おもしろ)さに物(もの)
おもひもわすれ心も若(わか)やぐ
こゝちすれば不老不死(ふらうふし)の
名(な)をこの所(ところ)に残(のこ)しとゞめんと
也蓬莱を尋(たづぬ)る程(ほど)に童子(どうじ)
舟(ふね)の内(うち)にて老(おい)たりといふ故(こ)
事(じ)によりて此舟のうちには
老ざるよしに云る也
【同 下段】
亀上女房(かめのうへのにようばう)
かめのうへの
山(やま)も尋(たづ)ね
じ
ふねの
うちに
老(おい)せぬ
名(な)をば
こゝに
のこさむ
【左丁 上段】
今(いま)目(め)の前のけしきを詠(よめ)る
也春の日のうら〳〵と
影(かげ)さしてのどけき池(いけ)の
面(おも)に棹さしめぐれば棹(さを)
の雫(しづく)も花(はな)の散(ちる)やうに
見えて面白しと也日影
と棹とにさしといふ詞(ことば)を
懸(かけ)たり
【同 下段】
春日女房(はるのひのにようばう)
春(はる)の日(ひ)の
うらゝ
に
さして
ゆく船(ふね)は
さをの
しづくも
花(はな)ぞ
ちり
ける
【右丁 上段】
父(ちゝ)は致仕(ちじ)のおとゞ母(はゝ)は二 条(でう)の
おとゞの娘(むすめ)也 処女(をとめ)の巻(まき)に
左近少将(さこんのせうしやう)とあるを始(はじめ)て
追々 昇進(しようしん)し柏木の巻に
権大納言(ごんだいなごん)となりてうせぬ
此うたは辞世(じせい)に女三宮(によさんのみや)へ
おくれる也心は火葬(く▢)さうの烟(けふり)の
行(ゆく)へもなく空(そら)に消(きえ)うする
身と成とも魂(たましひ)は残りて君
があたりを立 離(はな)れじ
と也
【同 下段】
柏木右衛門督(かしはぎのゑもんのかみ)
ゆくへなき
空(そら)の
けぶ
り
と
なりぬとも
おもふあたりを
たちは
はなれじ
【左丁 上段】
父(ちゝ)は致仕(ちじ)のおとゞにて柏木(かしはぎ)の
同母(どうぼ)の弟(おとゝ)也 初音巻(はつねのまき)に弁(べん)の
少将(せうしやう)と見えて終(つひ)に竹川(たけがはの)巻
に右大臣(うだいじん)兼(けん)右近大将(うこんのだいしやう)となる
此うたは兄(あに)柏木のうせたるを
かなしみてよめる也心は恨(うら)
めしき事かな墨(すみ)の衣(ころも)を
誰(たれ)にきよとてか定(さだ)まりの
齢(よは)ひをも待(また)ず盛(さか)りの身
にて死(しに)うせけんと也 霞(かすみ)の衣
に墨の衣をかねたり喪(も)に
こもる人はにび色(いろ)とて黒(くろ)ね
ずみの衣を用(もちふ)るこれを墨
染(ぞめ)といふ也
【同 下段】
紅梅右大臣(こうばいのうだいじん)
恨(うら)めしや
かすみの
衣(ころも)
たれ
きよと
春(はる)より
さきに
花(はな)の
ちりけむ
【右丁 上段】
致仕(ちじ)のおとゞのおとり腹(ばら)の娘(むすめ)也此
うたは姉(あね)雲井の鳫(かり)と夕
霧(ぎり)との中をさけられて
歎(なげき)居る頃(ころ)夕霧に詠(よみ)かけ
たる也心はおもふ人によりが
たくてたゞよひ給(たま)はゞわが
身そのかはりに君(きみ)になび
かんとこそ思へこゝろをさ
だめて返事聞せ賜はれ
といふこゝろを沖(おき)こぐ舟(ふね)に
よそへて云る也
【同 下段】
近江君(あふみのきみ)
おきつ船(ふね)
よるべ
なみぢに
たゞよはゞ
さをさ
し
よら
む
とまり
をしへよ
【左丁 上段】
弘徽殿(こきでん)の女御(にようご)の女房(にようばう)也此
うたはあふみの君(きみ)の許(もと)より
御姉(おんあね)こきでんの女御(にようご)の御 方(かた)へ
のふみに○くさ若(わか)み近江(あふみ)の
海(うみ)のいかゞ崎(さき)いかであひみん
田(た)ごの浦浪(うらなみ)とよみておこせ
たる返(かへ)しを女御(にようご)に替(かは)りて
よめる也こゝろは立出(たちいで)て来(き)た
まへ待(まつ)といふことを常陸(ひたち)駿河(するが)
摂津(せつつ)筑前(ちくぜん)の四国(しこく)を入(い)れて
わけもなくつゞりたるもの也
近江(あふみ)の君(きみ)のうたのわけなき
に付(つけ)て戯(たはふ)れたる也
【同 下段】
中納言君(ちうなごんのきみ)
ひたち
なる
する
がの
海(うみ)の
すまの
浦(うら)に
なみたち
出(いで)よはこ
ざきの松(まつ)
【右丁 上段】
左大臣(さだいじん)の子(こ)藤袴(ふぢばかま)の巻(まき)に
右大将(うだいしやう)若菜(わかな)の巻(まき)に右大(うだい)
臣(じん)となる此うたは兼(かね)て心(こゝろ)
を懸(かけ)たる玉(たま)かづらの十月
には入内(じゆだい)あるべきよしを聞(きゝ)て
詠(よみ)おくれる也こゝろは我身(わがみ)
人数(ひとかず)ならば忌(いむ)べき物(もの)をせ
めて此(この)長月(ながづき)と命(いのち)とつり
替(がへ)に恋(こひ)するははかなき事
よと也 九月(ながづき)は男女(なんによ)の婚(こん)を
忌(いむ)といふならはしあれば也
【同 下段】
鬚黒右大臣(ひげぐろのうだいじん)
数(かず)ならば
いとひも
せまし
長(なが)
月(づき)
に
いのちを
かくる
ほどぞはかなき
【左丁 上段】
式部卿(しきぶけう)の宮(みや)の御(おん)子にて
紫(むらさき)の上(うへ)の兄弟(けうだい)也此うたは
玉(たま)かづらに心(こゝろ)を懸(かけ)たるほどに
近日(きんじつ)入内(じゆだい)あるべきよしを聞(きゝ)
てよみおくれる也 心(こゝろ)は入内(じゆだい)と
定(さだ)まり給(たま)ふからはかひな
き恋(こひ)なれば今(いま)はわすれ腎
はてんとおもふにもはやま
づ悲(かな)しく堪難(たへがた)きをいよ〳〵
入内(じゆだい)あらばいか様(やう)にせんと
いふこゝろを強(つよ)く重(かさ)ねて
いへる也
【同 下段】
左兵衛督(さへうゑのかみ)
わすれ
なむと
おもふも
物(もの)のかなしきを
いかさまに
して
いかさまに
せむ
【右丁 上段】
鬚黒(ひげぐろ)のおとゞの妾(せふ)なり
此うたはおとゞ玉(たま)かづらに心(こゝろ)
をうつされて北(きた)の方(かた)心(こゝろ)乱(みだ)
れ火取(ひとり)のはひをおとゞに
なげかけて衣(きぬ)なども
焼(やき)たる時(とき)に詠(よめ)る也こゝろは
北(きた)の方(かた)の見捨(みすて)られて一人(ひとり)
居(ゐ)たまへるより物(もの)おもひに
こがるゝ胸(むね)のくるしさをこ
らへ兼(かね)たまへるうはなりんね
たみに心(こゝろ)を焼(やき)てかゝる事
も出来(いでき)し也と北(きた)の方(かた)を取(とり)
なして自(みづから)の妬(そね)みをもかす
めし也 独(ひとり)に火取(ひとり)をよせ
たり
【同 下段】
杢君(もくのきみ)
独(ひとり)居(ゐ)て
こがるゝ
むねの
くるし
きに
おもひ
あまれる
ほのほとぞ
見し
【左丁 上段】
父(ちゝ)はひげぐろのおとゞ母(はゝ)は式部(しきぶ)
卿宮(けうのみや)の御娘(おんむすめ)也 蛍(ほたる)の宮(みや)のおも
ひ人となり宮(みや)うせたまひて
後(のち)紅梅(こうばい)のおとゞの北(きた)の方(かた)と
成(なる)此(この)うたは母(はゝ)に従(したが)ひて父(ちゝ)の
家(いへ)を出(いで)さる時(とき)に柱(はしら)につけて
残(のこ)し置(おけ)るうた也 心(こゝろ)は今(いま)を
かぎりとて此やどを離(はな)れ
ゆけどもあけくれ馴(なれ)きつ
る槙柱(まきばしら)よ我(われ)を忘(わする)る事(こと)な
かれたとへ人はわするとも
と云心也 宿(やど)かれは夜(よ)かれな
ども云(いふ)に同(おな)じまきは真木(まき)
にてひの木(き)をいふ
【同 下段】
槙柱上(まきばしらのうへ)
今(いま)はとて
やどかれぬ
とも
なれきつ
槙(まき)の る
はしらよ
我(われ)を
わす
るな
【右丁 上段】
式部卿(しきぶけう)の宮(みや)の御娘(おんむすめ)にて紫(むらさき)
の上(うへ)の姉(あね)也おとゞ玉葛(たまかづら)に
心を移(うつ)せるより上(うは)なり妬(ねた)
みにて槙柱巻(まきばしらのまき)に父宮(ちゝみや)の
許(もと)に帰(かへ)り給(たま)ふ物(もの)のけにて
心のくるへる人(ひと)也此のうたは父(ちゝ)
宮(みや)のもとに帰(かへ)らんとし給ふ
時(とき)御娘(おんむすめ)槙柱(まきばしら)の上(うへ)○今(いま)はと
てやどかれぬとも馴(なれ)きつる
のうたを詠(よみ)給(たま)へる返(かへ)し也
こゝろはたとへ柱(はしら)は馴(なれ)けりと
おもひ出るにもせよ何(なに)し
に立(たち)とまるべき物(もの)ぞと也
いたく腹(はら)だてるなり
【同 下段 左から読む】
はしらぞ
槙(まき)の
べき
とまる
たち
何(なに)により
出(いづ)とも
おもひ
なれきとは
鬚黒大臣北方(ひげぐろのおとゞのきたのかた)
【左丁 上段】
ひげぐろの北(きた)のかたの女房(にようばう)也
たまかづらのさわぎにより
て北(きた)の方(かた)出(いで)たまへば我身(わがみ)も
それに従(したが)ひ行(ゆく)を杢(もく)の君(きみ)は
此所(このところ)に止(とゞ)まれる事(こと)を詠(よみ)たる
哥(うた)也心は北(きた)のかたにくらべて
は杢(もく)の君(きみ)は折々(をり〳〵)に召(めさ)れたる
のみにて契(ちぎり)あさけれども
其(その)浅(あさ)きかたは此所(このところ)に住(すみ)はて
宿守君(やどもるきみ)とまします北(きた)の方(かた)は
懸離(かけはな)れ出去(いでさり)給(たま)ふといふは
いかなる因果(いんぐは)ぞと歎(なげ)きたる
也 澄(すみ)に住(すみ)を兼(かね)懸(かけ)に影(かげ)を
そへたり
【同 下段】
宿守中将君(やどもるちうじやうのきみ)
あきけれど
岩間(いはま)
の
水(みづ)は
すみはてゝ
宿(やど)もる
きみや
かげはなる
べき
【右丁 上段】
藤原惟光(ふぢはらのこれみつ)の娘(むすめ)にて五節(ごせち)の舞(まひ)
姫(びめ)に出(いで)し人(ひと)也 藤裏葉巻(ふぢのうらはのまき)に内(ない)
侍(し)のすけになる夕霧(ゆふぎり)の思(おも)ひ人(びと)也
この歌(うた)は夕霧(ゆふぎり)に逢(あひ)て後(のち)程経(ほどへ)て
加茂祭(かもまつり)の時(とき)に夕霧(ゆふぎり)○何(なに)とかや今(け)
日(ふ)のかざしよ且(かつ)見(み)つゝおぼめく
迄(まで)も成(なり)にけるかなとよみおくり
給(たま)へる返(かへ)し也 心(こゝろ)は今(いま)かくとはれても
奇(あや)しく思(おもふ)ばかり逢事(あふこと)のまれに成し
故(ゆゑ)は学問(がくもん)して物知(ものしり)にまします君(きみ)
が御心(おんこゝろ)にこそ知(しり)給(たま)ふべけれといふ心(こゝろ)を
逢(あふ)を葵(あふひ)によせて云(いへ)る也 漢書(かんじよ)に
桂(かつら)を折(を)る故事(こじ)あるより及第(きふだい)の
事(こと)にいひならひて今(いま)も夕霧(ゆふぎり)は
文章生(もんしやうせい)にてありし人(ひと)なれば加茂(かも)
祭(まつり)の葵(あふひ)桂(かつら)のよせもていへる也
【同 下段】
藤内侍(とうないし)
かざしても
かつたどら
るゝくさの
名(な)は
かつらを
折(をり)し
人(ひと)やしる
らむ
【左丁 上段】
雲井雁(くもゐのかり)の乳母(めのと)にて前(さき)に夕(ゆふ)
霧(ぎり)の位(くらゐ)低(ひき)くあさぎの袍(うへのきぬ)なるを
六位(ろくゐ)すくせと云(いひ)てあざけりし
人(ひと)也 此歌(このうた)は後(のち)に夕霧(ゆふぎり)中納言(ちうなごん)
に成(なり)て○あさみどり若葉(わかば)の
菊(きく)を露(つゆ)にてもこき紫(むらさき)の色(いろ)
とかけきやとそのかみあざけ
りしをいひ返(かへ)し給へる時(とき)の返(かへ)し
也 心(こゝろ)は幼(いとけな)きより尊(たふと)き御筋目(おんすぢめ)の
君(きみ)なれば始(はじめ)の程(ほど)の御位(おんくらゐ)の高下(かうげ)
などを彼是(かれこれ)申す事(こと)は聊(いさゝか)もなか
りしと也 名(な)たゝるは名立(なたゝ)る也 夕(ゆふ)
霧(ぎり)を菊(きく)によせて陳(ちん)じたる也
【同 下段】
大輔乳母(たいふのめのと)
二葉(ふたば)
より
名(な)たゝる
そのゝ菊(きく)
なれば
あさき
いろわく
露(つゆ)も
なかりき
【右丁 上段】
夕霧(ゆふぎり)の乳母(めのと)にて始(はじめ)に雲井(くもゐの)
鳫(かり)との中(なか)を取持(とりもち)たる人(ひと)也 此歌(このうた)は
はじめ其中(そのなか)をさけたる父(ちゝ)大(お)
臣(とゞ)後(のち)にゆるして夫婦(ふうふ)となし
給(たま)へる時(とき)に始(はじめ)のつらさを忘(わす)れず
して大臣(おとゞ)にきけかしに詠(よめ)る也
心(こゝろ)は夕霧(ゆふぎり)は勿論(もちろん)雲井鳫(くもゐのかり)をも
我為(わがため)には主人(しゆじん)とたのもしく思(おも)
ふ其故(そのゆゑ)はをさなきより思(おも)ひ
かはし給へるどちの行末(ゆくすゑ)なればと
いふ事を松(まつ)によせていへる也
二葉(ふたば)も蔭(かげ)もそのよせなり
【同 下段】
宰相乳母(さいしやうのめのと)
いづれをも
かげとぞ
たのむ
ふた葉(ば)
より
根(ね)ざし
かはせる
松(まつ)のすゑ〴〵
【左丁 上段】
三条(さんでう)の女三宮(によさんのみや)の御乳母(おんめのと)の娘(むすめ)
にて則(すなはち)この宮(みや)に仕(つか)ふ柏木(かしはぎ)に
仲立(なかだち)頼(たの)まれし人(ひと)也 此歌(このうた)は柏木(かしはぎ)
はじめて女三宮(によさんのみや)を見初(みそめ)し
頃(ころ)○よそに見て折(をら)ぬ歎(なげき)はし
けれども名残(なごり)恋(こひ)しき花(はな)のゆふ
かげと詠(よみ)ておくられし返(かへ)し也
心(こゝろ)は源氏(げんじ)に定(さだま)り給へるうへは今(いま)
更(さら)及(およ)びなき女三宮(によさんのみや)に心(こゝろ)を懸(かけ)
たりといふ事を人(ひと)の知(し)るべく
色(いろ)に顕(あらは)し給ふなとなり宮(みや)を
桜(さくら)によそへたり
【同 下段】
小侍従(こじじう)
いまさらに
色(いろ)にな
出(いで)そ
山(やま)ざくら
およばぬ
枝(えだ)に
こゝろ
かけきと
【右丁 上段】
紫上(むらさきのうへ)の女房(にようばう)也 此歌(このうた)は源氏(げんし)思(おも)ふ
人々(ひと〴〵)を倶(ぐ)して住吉(すみよし)に詣(まうで)給へる時
に紫上(むらさきのうへ)○すみの江(え)の松(まつ)に夜深(よふか)
くおく霜(しも)は神(かみ)の懸(かけ)たるゆふか
づらかも明石中宮(あかしのぢうぐう)○神人(かみびと)の手(て)
にとりもたる榊葉(さかきば)にゆふ懸(かけ)
そふる深(ふか)き夜(よ)の霜(しも)など詠(よみ)
給へるをうけて詠(よめ)る也 心(こゝろ)は祝(はふり)
子(こ)が手向(たむく)る木綿(ゆふ)にまがひて
おのづから霜(しも)のおきたるはなる
ほど神(かみ)の納受(なふじゆ)あきらけきしる
しかと也 祝子(はふりこ)は神官(しんくはん)なりいち
じるきは明(あき)らけきこゝろなり
【同 下段】
中務君(なかつかさのきみ)
はふり子(こ)が
ゆふうち
まがひ
おくし
もは
げに
いち
じる
き
神(かみ)のしるしか
【左丁 上段】
朱雀院(すざくゐん)の皇女(わうぢよ)にて三宮(さんのみや)也
御母(おんはゝ)は藤壺女御(ふぢつぼのにようご)といふ薄雲女(うすぐものによ)
院(ゐん)の御妹(おんいもと)也 若菜巻(わかなのまき)に源氏(げんじ)の
北方(きたのかた)と成(なり)て二品(にほん)し給ふ柏木巻(かしはぎのまき)
に薫大将(かをるだいしやう)を生(うみ)て後(のち)尼(あま)になりて
三条宮(さんでうのみや)に住(すみ)給ふ此歌(このうた)は尼(あま)に成(なり)
給(たま)へる時(とき)に源氏(げんじ)○蓮葉(はちすば)をおな
じうてなと契(ちぎ)りおきて露(つゆ)の
わかるゝ今日(けふ)ぞ悲(かな)しきと詠(よみ)給へ
る御返(おんかへ)し也 心(こゝろ)は御自(おんみづか)ら柏木(かしはぎ)との
みそか事(ごと)有(あり)し御(おん)あやまちより
世(よ)をそむき給(たま)へるなればたとへ
後(のち)の世(よ)のひとつ蓮(はちす)のちぎりを
なしても君(きみ)の御心(おんこゝろ)にすまずお
ぼしめすらんと也
【同 下段】
三条女三宮(さんでうのによさんのみや)
へだてなく
蓮(はちす)の宿(やど)を
ちぎりて
も
君(きみ)が
心(こゝろ)や
すま
じ
とす
ら
む
【右丁 上段】
朱雀院(すざくゐん)の更衣(かうい)にて落葉宮(おちばのみや)
の御母(おんはゝ)也 此歌(このうた)は落葉宮(おちばのみや)柏木(かしはぎ)
の北方(きたのかた)となり給ひて後(のち)に柏(かしは)
木(ぎ)うせたるを夕霧(ゆふぎり)とぶらひ
て○時(とき)しあればかはらぬ色(いろ)に
匂(にほ)ひけり片枝(かたえ)枯(かれ)にし宿(やど)の
桜もとよみかけられたる返(かへ)し也
心(こゝろ)は今年(ことし)の春(はる)は柏木(かしはぎ)の行方(ゆくへ)
しれず死(しに)うせたるなげきは
涙(なみだ)の玉目(たまめ)に絶(たえ)ずと也 柳(やなぎ)の芽(め)
に露(つゆ)の玉(たま)貫(ぬき)たるにいひかけ
て柏木(かしはぎ)の死(し)を花(はな)の散(ちり)しによ
そへたり
【同 下段 左から読む】
ねば
しら
行方(ゆくへ)
花(はな)の
咲散(さきちる)
ぬく
玉(たま)は
ぞ
柳(やなぎ)のめに
此春(このはる)は
一条御息所(いちでうのみやすどころ)
【左丁 上段】
朱雀院(すざくゐん)の皇女(わうぢよ)にて二宮(にのみや)也 御(おん)
母(はゝ)は下﨟(げらふ)の更衣腹(かういばら)若菜(わかなの)
巻(まき)に柏木(かしはぎ)の北方(きたのかた)となり柏(かしは)
木(ぎ)うせて後(のち)夕霧(ゆふぎり)の思(おも)ひ人(びと)
となり給(たま)ふ一条(いちでう)の宮(みや)とも
小野宮(をのゝみや)ともいふ此歌(このうた)は御母(おんはゝ)
更衣(かうい)うせてのち夕霧(ゆふぎり)に
むかへられて一条院(いちでうのゐん)にわたり
給(たま)はんとする時(とき)に詠(よみ)給(たま)へるにて
心(こゝろ)は御母(おんはゝ)の火葬(くはさう)の煙(けぶり)ともに
此身(このみ)も消(きえ)うせてこゝろにそ
まぬ一条(いちでう)の方(かた)へは行(ゆか)ぬやう
にせまほしきものよと也
【同 下段】
落葉宮(おちばのみや)
のぼりにし
みねのけぶり
に
たち
ま
じり
思(おも)はぬ
かた
に
なび
かずも
がな
【右丁 上段】
紫上(むらさきのうへ)の童女(わらは)也この歌(うた)は紫(むらさきの)
上(うへ)大病(たいべう)の時(とき)によりましとて
物(もの)の気(け)を此童(このわらは)によせて口(くち)
ばしらしむるに此度(このたび)むら
さきのうへをかくなやます物(もの)
の気(け)何物(なにもの)ぞ名告(なのり)せよと
源氏(げんじ)の問(とひ)給(たま)へるに答(こた)へたる歌(うた)
也 心(こゝろ)は我身(わがみ)こそ今(いま)は生(せう)を替(かへ)
て本(もと)の姿(すがた)ならねども君(きみ)はそ
のかみのまゝの君(きみ)にて在(あり)な
がら空(そら)知(しら)ず顔(がほ)し給(たま)ふはつれ
なしと也 六条(ろくでう)の御息所(みやすどころ)の
死霊(しれう)の 入(いり)て詠(よま)せたる歌(うた)也
【同 下段】
物気童(ものゝけのわらは)
我身(わがみ)こそ
あらぬさま
なれ
それながら
そらおぼれ
する君(きみ)は
きみなり
【左丁 上段】
紫上(むらさきのうへ)の女房(にようばう)なりこの歌(うた)は
紫上(むらさきのうへ)かくれ給ひて一周忌(いつしうき)
のはてにみづからの扇(あふぎ)に
かきつけて源氏(げんじ)に御覧(ごらん)ぜさ
せし歌(うた)也こゝろはむらさきの
うへを恋(こひ)なく涙(なみだ)はいつを限(かぎ)り
ともなきものを世(よ)に一周(いつしう)
忌(き)とて今日(けふ)をはてといふ
は何(なに)のはての心(こゝろ)やらんと也
きはは極(きは)にて限(かぎり)り【衍】とのふに
同(おな)じ
【同 下段】
六条院中将君(ろくでうのゐんのちうじやうのきみ)
きみ恋(こふ)る
なみだは
際(きは)も
なき
ものを
けふ
をば
何(なに)の
はてと
いふらむ
【右丁 上段】
紫上(むらさきのうへ)うせ給へる年(とし)の暮(くれ)に六(ろく)
条院(でうのゐん)にて行(おこな)はれたる仏名(ぶつめう)の
導師(だうし)也此 歌(うた)は源氏(げんじ)御歎(おんなげき)の
余(あま)りに御遁世(ごとんせい)の用意(ようい)あり
此(この)をりにもお前(まへ)に導師(だうし)を
めして御盃(おんさかづき)給ふとて○春迄(はるまで)
のいのちもしらず雪(ゆき)のうち
に色(いろ)づく梅(うめ)を今日(けふ)かざし
てんと詠(よみ)給(たま)へる返(かへ)し也 心(こゝろ)は仏(ぶつ)
名(めう)には豊国(ほうこく)安民(あんみん)延命(ゑんめい)等(とう)
を祈(いの)るなれば其(その)梅(うめ)を千代(ちよ)
かけて見(み)給(たま)ふべく源氏(げんじ)の御身(おんみ)
をいのり申して我(われ)こそは齢(よはひ)
ふるびて侍(はべ)れといふ事(こと)を
雪(ゆき)のふるに懸(かけ)ていへり
【同 下段】
仏名導師(ぶつめうのだうし)
千代(ちよ)の春(はる)
みるべき
花(はな)と
祈(いの)り置(おき)て
我身(わがみ)ぞ
雪(ゆき)と
ともに
ふりぬる
【左丁 上段】
玉葛(たまかづら)の女房(にようばう)なりこの歌(うた)は玉(たま)
葛(かづら)の姫君(ひめぎみ)たちに心(こゝろ)をかけて蔵(くら)
人(うどの)少将(せうしやう)の通(かよ)へるころ薫(かをる)も来(き)た
まひて酒宴(しゆえん)など有(あり)しにつきて
もしそれになびきやしつると疑(うたが)
ひて少将(せうしやう)○ひとは皆(みな)花(はな)に心(こゝろ)をう
つすらん一人(ひとり)ぞまどふ春(はる)の夜(よ)の
やみと詠(よみ)たる返(かへ)し也ころは思(おも)
ひを懸(かけ)て誠(まこと)をつくすからに
こそは此方(こなた)よりもあはれと思(おも)ふ
べけれ唯(たゞ)一通(ひとゝほ)りこゝろやすくし
たりとてなびくべきにあらず
といふ心(こゝろ)を梅(うめ)の花(はな)も手折(たをる)か
らこそあはれもしれ香(か)ばか
りには移(うつ)らじといへる也 如此(か)ば
かりを兼(かね)たり
【同 下段】
梅花女房(うめのはなのにようばう)
をる
からや
あはれ
も
しらむ
梅(うめ)の花(はな)
たゞ香(か)
ばかりに
うつり
しも
せじ
【右丁 上段】
父(ちゝ)は鬚黒(ひげぐろ)母(はゝ)は玉葛(たまかづら)也 竹川巻(たけがはのまき)
に頭中将(とうのちうじやう)になる此歌(このうた)はひと日(ひ)
薫(かをる)の来(きた)れる時(とき)に催馬楽(さいばら)の竹(たけ)
川(がは)うたひて遊(あそ)びしを急(いそ)ぎ
て薫(かをる)の帰(かへ)りし事(こと)ありさて
薫(かをる)の許(もと)より○竹川(たけがは)のはし打(うち)
出(いで)し一節(ひとふし)に深(ふか)き心(こゝろ)の底(そこ)は
知(しり)きやと詠(よみ)おこせたる返(かへ)し
也 心(こゝろ)は竹川(たけがは)うたひ遊(あそ)びし夜(よ)に
更(ふか)さじとていそぎ帰(かへり)給(たま)ひ
し様子(やうす)もいかやうのふしを
思(おも)ひおき給ふべきやさる様(やう)
子(す)はなかりしと也○竹川(たけがは)の橋(はし)の
つめなるや花園(はなぞの)に我(われ)をばは
なてめざしくはへてといふ催(さい)
馬楽(ばら)によりての贈答(ぞうたふ)也
【同 下段】
藤侍従(とうじゞう)
竹川(たけがは)に
夜(よ)を
ふか
さ
じと
いそぎしも
いかなる
ふしを
おもひ
おかまし
【左丁 上段】
父(ちゝ)は鬚黒(ひげぐろ)母(はゝ)は玉葛(たまかづら)也 竹川巻(たけがはのまき)
に冷泉院(れんぜいゐん)の女御(にようご)と成(なり)て姫宮(ひめみや)
二柱(ふたばしら)をうめり此歌(このうた)はいまだ家(いへ)
に在(あり)し程(ほど)に妹(いもうと)の姫君(ひめぎみ)と庭(には)の
桜(さくら)をかけ物(もの)にして左右(ひだりみぎ)を分(わか)
ち碁(ご)うちたる時(とき)に負(まけ)てよ
める歌(うた)也 心(こゝろ)は負(まけ)ても勝(かち)ても
やはり心置(こゝろおき)なく見る花(はな)ながら
も大事(だいじ)と思(おも)ふ桜(さくら)故(ゆゑ)にはまけ
たる碁(ご)にこゝろのさわぐと
いふことを花(はな)さそふ風(かぜ)に心(こゝろ)
を痛(いたむ)るによせていへり思(おも)ひ
ぐまなきは心(こゝろ)の隔(へだて)なき也
【同 下段】
負方女御(まけがだのにようご)
桜(さくら)ゆゑ風(かぜ)
に
こゝろの
騒(さわ)ぐかな
おもひ
ぐま
なき
花(はな)と
みる
〳〵
【右丁 上段】
玉葛(たまかづら)の女房(にようばう)にて上(かみ)と同(おな)じ
碁(ご)の勝負(しようぶ)の時(とき)に左(ひだり)に付(つき)て
負(まけ)がたの方人(かたうど)せし人(ひと)也 歌(うた)の
こゝろは桜(さくら)といふ物(もの)はさくと見(み)
ればかたへより散(ちり)うする物(もの)な
れば勝(かち)たりとて倫(りん)もなく負(まけ)
たりとて深(ふか)く恨(うらむ)るにもたら
ずといひなせる也
【同 下段】
宰相君(さいしやうのきみ)
さくとみて
かつは
散(ちり)ぬる
花(はな)なれば
負け(まく)るを
ふかき
恨(うら)みとも
せず
【左丁 上段】
負方(まけがた)の女御(にようご)の妹(いもうと)也 母(は)玉葛(たまかづら)
のゆづりをうけて内侍督(ないしのかみ)と
成(なり)し人也 此歌(このうた)は上(かみ)と同(おな)じ時(とき)
碁(ご)にうち勝(かち)て詠(よめ)る也 心(こゝろ)は
風(かぜ)の為(ため)に花(はな)の散行(ちりゆく)は世(よ)の常(つね)
の事(こと)にてめづらしからねど
も是(これ)は木(き)ごめに此方(こなた)の物(もの)と
移(うつ)り来(き)しなれば何(なに)とも思(おも)ひ
給(たま)はぬ事(こと)はあらじ遺恨(いこん)なる
べしと也 枝(えだ)ながらは本(もと)の木(き)と
もにといふ心(こゝろ)也 上(かみ)の宰相(さいしやう)の
歌(うた)にあたりてよめる也
【同 下段 左から読む】
見じ
しも
たゞに
花(はな)を
ろふ
うつ
枝(えだ)ながら
つね
世(よ)の
ことは
風(かぜ)にちる
勝方内侍督(かちがたのないしのかみ)
【右丁 上段】
同所(おなじところ)の女房(にようばう)にて是(これ)は同(おな)じ
時(とき)の勝(かち)がたの方人(かたうど)也 歌(うた)の心(こゝろ)は
桜(さくら)も心(こゝろ)有(あり)て此度(このたび)みぎ方(がた)の
勝(かち)なるによりて則(すなはち)池(いけ)の右(みぎ)
のかたに落(おつ)る花(はな)よたとへ水(みづ)
の沫(あわ)と成(なり)てもやはり我方(わがかた)
に流(ながれ)よるべしと也 花(はな)に物(もの)を
いひつくるやうにいひて負(まけ)
方(がた)にねたがらしむる也 汀(みぎは)に
右(みぎ)をかねたり
【同 下段】
大輔君(たいふのきみ)
心ありて
いけの
みぎはに
落(おつ)る花(はな)
あわと
なり
ても
我方(わがかた)に
よれ
【左丁 上段】
おなじく右 方(がた)につきて方人(かたうど)
せし女童(めのわらは)なり庭(には)にちり
たる花を拾(ひろ)ひ来(き)てよめ
る歌(うた)也こゝろは空吹(そらぶく)風に
花のちれども其(その)散(ちり)たる花も
則(すなはち)我(わが)方の物なればかくの
如くかき集(あつめ)てもてはやし
見るぞとなり
【同 下段】
勝方童(かちがたのわらは)
大空(おほぞら)の
風(かぜ)に
ちれ
ども
さくら花(ばな)
おのが
物(もの)とぞ
かきつめて
見(み)る
【右丁 上段】
女童(めのわらは)の名(な)也是は左(ひだり)につきて
負方(まけがた)の方人(かたうど)せし人(ひと)也 歌(うた)の
心はさばかり我(わが)物 顔(がほ)にもたま
へども花(はな)は風(かぜ)の自由(じゆう)に吹散(ふきちら)
す物(もの)なるを其(その)匂(にほ)ひをも人(ひと)
のかたへは散(ちら)さじと思召(おぼしめす)と
も大空(おほぞら)をおほふ程(ほど)の大(おほき)なる
袖(そで)は世(よ)にある物かはありはせず
と云おとしたる也右の大空(おほぞら)
の風に散(ちれ)どもといふを受(うけ)て
○大空(おほぞら)をおほふばかりの袖(そで)
もがなといふ歌(うた)にてよめる
なり
【同 下段】
馴公(なれき)
さくら花(ばな)
匂(にほ)ひあま
たに
ちらさ
じと
おほふ
ばか
りの
袖(そで)は
ありやは
【左丁 上段】
同所(おなじところ)の女房(にようばう)也此 歌(うた)は蔵人少(くらうどのせう)
将(しやう)上(かみ)の件(くだり)なる碁(ご)のあらそひ
をかいまみて我(わが)心よせの姉君(あねぎみ)
の負(まけ)たるを悔(くや)しく思ひて傍(かたはら)
に在て助言(じよごん)したらば勝(かた)せん
物(もの)をとて○いてやなぞ数(かず)
ならぬ身(み)にかなはぬは人(ひと)にまけ
じの心(こゝろ)なりけりと詠(よみ)たる
返(かへ)し也心は是非(ぜひ)もなき事
をのたまふ事かな打(うつ)人の
強(つよ)きよわぎに依(よ)る勝負(かちまけ)
なるを外人(ほかびと)のこゝろ一ッにい
かにしてまかする物ぞと
也わりなしは理無(わりなし)也
【同 下段】
督殿中将君(かんのとのゝちうじやうのきみ)
わりな
しや
強(つよ)きに
よらむ
かちま
けを
こゝろ
ひとつに
いかゞ
まかする
【右丁 上段】
源氏(げんじ)の御子にて母は朱雀院(すざくゐん)
の女(によ)三の宮也 若菜巻(わかなのまき)に生れ
匂宮(にほふみやの)巻に元服(げんぶく)して四位 侍(じ)
従(じう)となり次々 昇進(しようしん)して宿(やどり)
木の巻に権大納言(ごんだいなごん)兼(けん)右大将(うだいしやう)
となる此 歌(うた)は宇治宮(うぢのみや)をとぶら
ひ行(ゆく)路(みち)すがらのけしきに哀(あはれ)
を催(もよほ)して詠(よめ)る也心は山おろし
の風に堪(たへ)ずして散(ちる)もろき木(こ)
の葉(は)に置(おき)たる露(つゆ)はいとゞもろ
きを猶(なほ)それよりももろく
こぼるゝわけもなき我 涙(なみだ)哉(かな)
といへる也あやなくは俗(ぞく)に訳(わけ)
も無(なき)といふこゝろなり
【同 下段】
薫大将(かをるだいしやう)
山(やま)おろしに
堪(たへ)ぬこの
葉(は)の
露(つゆ)
よりも
あやなく
もろき
我(わが)なみだかな
【左丁 上段】
玉葛(たまかづら)の女房(にようばう)後(のち)に碁(ご)に負(まけ)たる
姉君(あねぎみ)に従(したが)ひて冷泉院(れんぜいゐん)へ参(まゐ)れる
人也此 歌(うた)は其(その)後 男踏歌(をとこだふか)に竹(たけ)
川うた ひて薫(かをる)の院中へ来(きた)
れる時(とき)に詠(よみ)かけたる歌(うた)也心は先(さき)
だちて玉 葛(かづら)の方(かた)にて藤侍(とうじ)
従(じう)と竹川うたひて遊(あそ)び給ひし
夜(よ)の事は今日(けふ)思(おも)ひ出 給(たま)はず
や勿論(もちろん)忍(しの)ばしく思召(おぼしめす)ほどの
むつまじき交(まじは)りには無(な)かりしか
どもと也 其頃(そのころ)薫も此 姉君(あねぎみ)
に心を懸(かけ)て居(ゐ)たりしを今(いま)は
女御(にようご)と成(なり)て其かひなきに
今日 又(また)竹(たけ)川をうたへるにつき
て如此(かく)はいふ也
【同 下段】
竹川女房(たけがはのにようばう)
竹川(たけがは)の
そのよの
ことは
おもひ
いづや
忍(しの)ぶ
ばかりの
ふしは
なけれど
【右丁 上段】
桐壺帝(きりつぼのみかど)の皇子(わうじ)源氏(げんじ)の御弟(おんおとうと)也
世(よ)を遁(のがれ)て宇治(うぢ)の里(さと)に住(すみ)給(たま)ふ故(ゆゑ)
に宇治宮(うぢのみや)とも云(いふ)御髪(おんぐし)はおろさ
ずして仏道(ほとけのみち)にいりたちおはし
ませばうばそくの宮(みや)とも云(いへ)る也
優婆塞(うばそく)は形(かたち)は俗(ぞく)ながら仏弟子(ぶつでし)
に入人をいふ也此 歌(うた)は御 子(こ)二人
まうけて後(のち)に北方(きたのかた)のうせたるを
歎(なげき)給へるにて仮(かり)の此世にかりの
子をよせたりかりはかる鴨(がも)とて鴨
の一 種(しゆ)也 鴛鴦(をし)に限(かぎ)らず水 鳥(とり)は総(すべ)【惣】
て雌雄(めを)むつまじき物(もの)故(ゆゑ)男女(なんによ)の
中に多(おほ)くたとへ云り心は北方は我身(わがみ)を
打捨(うちすて)てうせ給ひぬるかりそめの世
に小(ちひ)さき子どもの中に我(われ)一人 死(しに)おくれけ
ん事(こと)よと也鴨の子に姫君(ひめぎみ)たちをそへたり
【同 下段】
優婆塞宮(うばそくのみや)
うち捨(すて)て
つがひ
さりに
し
水鳥(みづとり)の
かりの
この世(よ)に
たち
おくれけむ
【左丁 上段】
優婆塞宮(うばそくのみや)の御 娘(むすめ)にて母(はゝ)は
右大臣(うだいじん)の娘也 総角巻(あげまきのまき)にかくれ
給(たま)ふこの歌(うた)は父(ちゝ)宮もうせ給ひける
頃(ころ)薫(かをる)のとぶらひて○色(いろ)かは
るあさぢを見(み)ても墨染(すみぞめ)に
やつるゝ袖(そで)を思(おも)ひこそやれと
詠(よみ)たる返(かへ)し也 心(こゝろ)は墨染に色
かはれる袖をなみだの宿(やど)り
にて我身(わがみ)ぞなげきにせん方(かた)
なく十方(とはう)にくれたると也 涙(なみだ)を
露(つゆ)といへるより置(おき)所なしと
はいへる也墨染は喪服(もふく)にて
黒(くろ)ねずみ色也
【同 下段】
総角姫君(あげまきのひめぎみ)
いろかはる袖(そで)
をば露(つゆ)の
宿(やど)りにて
我身(わがみ)ぞ
さらに
おき
どこ
ろ
なき
【右丁 上段】
新帝(しんてい)の皇子(わうじ)にて御母(おんはゝ)は明(あか)
石中宮(しのちうぐう)也 匂宮巻(にほふみやのまき)に元服(げんぶく)
して兵部卿(へうぶけう)に成(なり)給(たま)ふ此歌(このうた)
は宇治(うぢ)の花見(はなみ)におはしまし
ける時(とき)優婆塞宮(うばそくのみや)より○
山 風(かぜ)にかすみ吹(ふき)とく声(こゑ)はあ
れど隔(へだち)て見ゆる遠(をち)のしら
なみと詠(よみ)贈(おく)り給へる御 返(かへ)し
也心は川のあちこちと隔ち
て汀(みぎは)の波(なみ)に路(みち)はなくとも
風に吹かよへとなりさて今(いま)
まのあたりあはずとも心(こゝろ)は通(かよ)は
し給へといふ心なり
【同 下段】
匂兵部卿宮(にほふへうぶけうのみや)
遠(をち)
近(こち)の
みぎはの
なみは
へだつとも
なほふきかよへ
うぢの
川かぜ
【左丁 上段】
優婆塞宮(うばそくのみや)の御娘(おんむすめ)総角姫(あけまきのひめ)
君(ぎみ)の同胞(はらから)の妹(いもうと)也 総角巻(あげまきのまき)に
匂宮(にほふみや)に逢(あひ)そめ早蕨巻(さわらびのまき)に
同宮(おなじみや)の二 条院(でうのゐん)に迎(むかへ)られて
御子(おんこ)生(うみ)給ふ此歌(このうた)はまだ宇治(うぢ)
の里(さと)にすみ給へる頃(ころ)匂宮(にほふみや)の
御許(おんもと)より○ながむるはおなじ
雲井(くもゐ)をいかなればおぼつかな
さをそふる時雨(しぐれ)ぞと詠(よみ)て
おくり給(たま)へる返(かへ)し也 心(こゝろ)は都(みやこ)に
時雨(しぐれ)ふるころは山里(やまざと)は霰(あられ)ふ
りて物思(ものおも)ひに朝夕(あさゆふ)ながむる
空(そら)も心(こゝろ)もかきくらしわびしと也
【同 下段】
宇治中姫君(うぢのなかひめぎみ)
あられふる
深山(みやま)の里(さと)は
朝夕(あさゆふ)に
ながむる
空(そら)も
かき
くら
し
つゝ
【右丁 上段】
優婆塞宮(うばそくのみや)の御娘(おんむすめ)にて母(はゝ)は
中将君(ちうじやうのきみ)といひし女房(にようばう)也 四阿(あづまやの)
巻(まき)に薫(かをる)の思(おも)ひ人(びと)と成(なり)て
宇治(うぢ)に住(すみ)給ひ浮舟巻(うきふねのまき)に
匂宮(にほふみや)と密通(みそかごと)して蜻蛉巻(かげろふのまき)
に身(み)をなげ給へるを横川(よかはの)僧(そう)
都(づ)の妹(いもうと)の尼(あま)に養(やしなは)れて手習(てならひの)
巻(まき)に尼(あま)と成(なり)給(たま)ふ此歌(このうた)は薫(かをる)の
許(もと)より○うぢ橋(はし)のながき契(ちぎり)は
朽(くち)せじをあやぶむ方(かた)に心(こゝろ)さ
わぐなと詠(よみ)おこせたる返(かへ)し也
心(こゝろ)は通(かよ)ひ給(たま)ふ事(こと)の絶間(たえま)勝(がち)な
ればあやふくこそおもへ然(しか)る
に猶(なほ)朽(くち)せぬ契(ちぎり)ぞと頼(たの)もし
く思(おも)へと仰(おほせ)らるゝかとなり
【同 下段 左から読む】
とや
頼(たの)め
猶(なほ)
物(もの)と
くちせぬ
宇治橋(うぢはし)を
あやふき
世(よ)には
絶間(たえま)のみ
浮舟姫君(うきふねのひめぎみ)
【左丁 上段】
父(ちゝ)は夕霧(ゆふぎり)母(はゝ)は雲井鳫(くもゐのかり)也 此(この)
歌(うた)は十月(かんなづき)朔日(ついたち)匂宮(にほふみや)宇治山(うぢやま)に
紅葉(もみぢ)の宴(えん)し給(たま)へる時(とき)御供(おんとも)
に参(まゐ)りて詠(よめ)る也 心(こゝろ)は過(すぎ)し年(とし)
の春(はる)同宮(おなじみや)の御供(おんとも)にて花見(はなみ)
に来(きた)りしをりはうばそくの宮(みや)
のまだ世(よ)におはしけるを今(いま)は
かくれ給(たま)ひて姫君(ひめぎみ)たちのさ
ぞさびしくやおはすらんと
いふ心を花(はな)の春(はる)と暮秋(ぼしう)
のさびしさもて云(いへ)るにて
木本(このもと)に子(こ)の許(もと)をよせたり
さへは大方(おほかた)の梢(こずゑ)どもにむかへ
て云(いへ)る也
【同 下段】
宰相中将(さいしやうちうじやう)
いつぞやも
花(はな)の
盛(さかり)に
ひとめ
見(み)し
このもと
さへや
秋(あき)は
さびしき
【右丁 上段】
父(ちゝ)は夕霧(ゆふぎり)母(はゝ)は藤内侍(とうないし)なり
この歌(うた)も上(かみ)とおなじ紅葉(もみぢ)の
宴(えん)に此人(このひと)はあとより明石中(あかしのちう)
宮(ぐう)の御使(おんつかひ)にて参(まゐ)りてよめる
なりこゝろはこの山里(やまざと)の紅葉(もみぢ)
の蔭(かげ)の面白(おもしろ)さにわれはこゝ
を行過(ゆきすぎ)うく思(おも)ふを秋(あき)はこれ
を見捨(みすて)ていづくより行(ゆき)けん
事(こと)ぞと也
【同 下段】
右衛門督(ゑもんのかみ)
いづこより
秋(あき)は行(ゆき)
けん
山里(やまざと)の
もみぢの
かげはすぎ
うきもの
を
【左丁 上段】
父(ちゝ)は致仕(ちじ)のおとゞ母(はゝ)は後(のち)に按察大(あせちのだい)
納言(なごん)の北方(きたのかた)と成(なり)し人也 始(はじめ)より夕(ゆふ)
霧(ぎり)と心(こゝろ)を通(かよ)はして藤裏葉巻(ふぢのうらばのまき)
に終(つひ)にゆるされて北方(きたのかた)となり子どもあ
また生(うみ)給ふ此哥(このうた)はさけられし頃(ころ)忍(しの)び
あひたるを乳母(めのと)の見付(みつけ)て夕霧(ゆふぎり)の位(くらゐ)低(ひく)
く浅(あさ)ぎの袍(はう)なるを六位(ろくゐ)すくせと恥(はぢ)しめ
たる事あり其時(そのとき)に夕霧(ゆふぎり)○紅(くれなゐ)の泪(なみだ)に
深(ふか)き袖(そで)の色(いろ)を浅(あさ)みどりとやいひしぼ
るべきと詠(よみ)たる返(かへ)し也 心(こゝろ)はかくさま〴〵のこと
に付(つき)て身(み)のうさのしらるゝいかなる因(いん)
果(ぐは)の中(なか)ぞと也 紅(くれなゐ)みどりなど云(いへ)るをう
けて色々(いろ〳〵)いひ衣(ころも)とも云(いへ)る也 中(なか)の衣(ころも)は
男女(なんによ)相逢(あひあ)ふ中(なか)に隔(へだつ)る衣(ころも)の事(こと)也 今(いま)は
其心(そのこゝろ)に用(もち)ひたるにはあらず唯(たゞ)詞(ことば)の
よせにいへるのみなり
【同 下段】
雲井雁上(くもゐのかりのうへ)
いろ〳〵に身(み)の
うきほどの
しらるゝは
いかに
染ける
中(なか)の
ころ
も
ぞ
【右丁 上部】
桐壺(きりつぼ)の帝(みかど)の皇子(わうじ)源氏の御(おん)
弟(おとゝ)也 始(はじめ)はそちの宮(みや)といひしを
処子巻(をとめのまき)に兵部(へうぶ)卿と成(なり)紅(こう)
梅巻(ばいのまき)にかくれ賜(たま)ふ此哥(このうた)は玉
葛(かづら)を恋(こひ)て詠(よみ)かけ賜(たま)へるにて
心(こゝろ)は鳴声(なくこゑ)もなき蛍(ほたる)の思(おも)ひだ
に外(ほか)より消(け)すにきゆる物(もの)は
消(きゆ)る物(もの)にはあらずまして人(ひと)の
思(おも)ひこがるゝはいかにしてもや
み難(がた)しと也 思(おも)ひに火(ひ)をそ
へたり
【同 下段 左から読む】
ものかは
きゆる
には
けつ
人(ひと)の
に
おもひだ
むしの
きこえぬ
なく声(こゑ)も
蛍兵部卿宮(ほたるのへうぶけうのみや)
【左丁 上段】
父(ちゝ)は左中弁(さちうべん)母(はゝ)は柏木右衛門(かしはぎのゑもんの)
督(かみ)の乳母(めのと)也 宇治宮(うぢのみや)に仕(つか)へて
総角(あげまきの)姫君(ひめぎみ)かくれ給ひて後(のち)早(さ)
蕨巻(わらびのまき)に尼(あま)に成(なり)ぬ此歌(このうた)は則(すなはち)
姫君(ひめぎみ)のうせ給へるをなげきて
詠(よめ)る也 心(こゝろ)は何事(なにごと)につきても
まづ涙(なみだ)のこぼれて川(かは)となる
ばかりなるを其(その)涙(なみだ)の川(かは)に
身(み)をなげたらば姫(ひめ)ぎみにも
おくれず死(しな)るべかりけりと也
【同 下段】
弁尼(べんのあま)
さきにたつ
なみだの
河(かは)に
身(み)を
なげば
人(ひと)におくれぬ
命(いのち)なら
ま
し
【右丁 上部】
始(はじめ)宇治宮(うぢのみや)に仕(つか)へ後(のち)二条院(にでうのゐん)に
侍(さむら)へる女房(にようばう)也 此歌(このうた)は中姫君(なかひめぎみ)
匂宮(にほふみや)に迎(むか)へられて二条院(にでうのゐん)に
移(うつ)り給(たま)ふ時(とき)に詠(よめ)る也 心(こゝろ)は世(よ)に
長(なが)しく在(あり)経(へ)て見(み)ればかゝる
嬉(うれ)しき時(とき)にもあひける物(もの)をもし
今迄(いまゝで)に時(とき)に合(あは)ざる身(み)をう
き物(もの)に思(おも)ひわびて川(かは)に投(なげ)
などもしたらば此悦(このよろこび)は有(ある)まじ
きをと也 身(み)を用(よう)無(なき)物(もの)に思(おも)
ひ捨(すて)たらばの心(こゝろ)を如此(かく)はいふ也
憂(う)を宇治(うぢ)にいひ懸(かけ)たり嬉(うれ)
しき瀬(せ)といふも川(かは)のよせ也
【同 下段】
二条院大輔君(にでうのゐんのたいふのきみ)
ありふれば
嬉(うれ)しき
瀬(せ)にも
あひける
を
身(み)を
宇治川(うぢがは)
に
なげて
まし
かば
【左丁 上段】
同所(おなじところ)の女房にて同時に
よめる歌也心は過去(すぎさり)給(たま)ひし
総角(あげまきの)姫君(ひめぎみ)の恋(こひ)しさも忘れ
得ねども今日(けふ)はまた中姫君
のめでたき御門出(おんかどで)にて一番
に心の浮(うき)たつ事かなと也はた
は又と云におなじ
【同 下段】
行心女房(ゆくこゝろのにようばう)
すぎにしが
恋(こひ)しき
ことも
忘(わす)れ
ねど
今日(けふ)はた
まつも
ゆく心(こゝろ)かな
【右丁 上段】
朱雀院(すざくゐん)の皇子(わうじ)御母(おんはゝ)は承香殿(しようきやうでんの)
女御(にようご)鬚黒大臣(ひげぐろのおとゞ)の妹(いもうと)也 標柱巻(みをつくしのまき)
に東宮(とうぐう)に立梅枝の巻に御元服(ごげんぶく)若(わか)
菜巻(なのまき)に御位につかせ給ふ此歌は
此帝(このみかど)の皇女の二宮(にのみや)の御母 藤壺(ふぢつぼの)
女御うせ給ひて後女二宮の御心
細(ぼそ)くおはしますを薫(かをる)の北方に給
はらんと思召て則薫にほのめかし
給(たま)へる御願也心は病(やまひ)に堪(たへ)ずしてか
くれいにし母女御に捨(すて)られ給へる
女二宮なれども残(のこり)止(とゞま)りて盛(さかり)の
御年におはしますといふ事を霜(しも)
枯(がれ)の園(その)に咲(さき)残たる菊の移(うつろ)はぬ
色(いろ)になずらへて詠給へる也あへ
ずはたへず也あせずはかせずと云
におなじ
【同 下段】
新帝(しんてい)
霜(しも)にあへ
ず
かれ
に
し
そのゝ
菊(きく)なれど
残(のこ)りのいろは
あせずも
あるかな
【左丁 上段】
三条宮(さんでうのみや)の女房(にようばう)にて薫(かをる)の思(おも)
ひ人なり此歌は薫の夜深(よふか)く別(わか)
れて出るを恨(うらみ)て詠(よめ)る也 心(こゝろ)は目
に見るのみにて逢事(あふこと)はゆる
し給(たま)はぬ程(ほど)の中なる物を
馴(なれ)そめて居(ゐ)るらんやうに
外人にはいはれん名(な)のみなるが
惜(をし)きといふ心を逢坂の関(せき)の
小川によせてよめる也 打渡(うちわたし)は
見渡(みわたし)におなじ見馴(みなれ)に水馴
をそへたり
【同 下段】
按察君(あぜちのきみ)
うちわた
し
世(よ)にゆる
しなき
せき
川(がは)を
みなれ初(そめ)
けん名(な)こそ
をしけれ
【右丁 上段】
新帝(しんてい)の女二宮(によにのみや)に心を懸(かけ)し
人也 然(しか)るを薫(かをる)に下し給(たま)ふ
べく定(さだめ)られて明日(あす)女二宮を
薫(かをる)の方へ渡さるべき前日(まへび)藤(ふぢ)
壺(つぼ)にて藤(ふぢ)の宴(えん)ありし時に
此歌は詠(よめ)る也心は世(よ)の常(つね)の御(ご)
贔屓(ひいき)とも思(おも)はれず帝(みかど)の御
かしづき娘(むすめ)の聟(むこ)に撰(えらま)れて
成上(なりあが)れる薫はよく〳〵の果(くは)
報者(はうもの)よといふこゝろを高(たか)き梢(こずゑ)
にまとひのぼのぼれる藤によせ
ていへる也 妬(ねた)き心を含(ふく)めり
【同 下段 左から読む】
みの花
藤な
る
け
たちのぼり
雲居(くもゐ)まで
いろとも見えず
世(よ)の常(つね)の
按察大納言(あぜちのだいなごん)
【左丁 上段】
始(はじめ)中将君(ちうじやうのきみ)と云(いひ)て優婆塞宮(うばそくのみや)
に仕(つか)へ浮舟姫君(うきふねのひめぎみ)を産(うみ)て後(のち)
常陸介(ひたちのすけ)の妻(め)と成(なり)し人(ひと)也 此(この)
歌(うた)は浮舟姫君(うきふねのひめぎみ)を少将(せうしやう)に逢(あは)せ
んと思(おも)ひつるを少将(せうしやう)の心(こゝろ)移(うつり)て
常陸介(ひたちのすけ)が実(じつ)の娘(むすめ)の方(かた)に定(さだま)
りたる時(とき)に少将(せうしやう)に詠(よみ)懸(かけ)たる
也 心(こゝろ)は約束(やくそく)したる我子(わがこ)の方(かた)
は違(たがは)んともせぬをいかに移(うつ)れる
御心(おんこゝろ)ぞといふ事(こと)を花(はな)は乱(みだれ)ず
して露(つゆ)に下葉(したば)の移(うつろ)ふに
よせたりしめゆふは領(れう)する事
にて今(いま)は約束(やくそく)したるをいふ
【同 下段】
常陸北方(ひたちのきたのかた)
しめ
ゆひ
し
こ萩(はぎ)が
うへも
まよはぬに
いかなる露(つゆ)
に
うつるした
葉(ば)ぞ
【右丁 上段】
上(かみ)の歌(うた)の返(かへ)し也 心(こゝろ)は優婆塞(うばそくの)
宮(みや)の御子(おんこ)也といふ事(こと)を知(しり)たらば
聊(いさゝか)も外(ほか)へ心(こゝろ)を移(うつ)す事(こと)などは
有(ある)まじき物(もの)を唯(たゞ)ひたちの
介(すけ)がまゝ子(こ)と而已(のみ)聞(きゝ)たるから
に思(おも)ひおとして今更(いまさら)残念(ざんねん)
也(なり)といふ心(こゝろ)也 宮城野(みやぎの)のこ萩(はぎ)に
宮(みや)の御子(おんこ)といふ事(こと)をそへたり
宮城野(みやぎの)は陸奥(みちのく)萩(はぎ)の名所(めいしよ)也
【同 下段】
少将(せうしやう)
宮城野(みやぎの)の
こはぎが
もとゝ
しらませば
つゆも
こゝろを
わかずぞ
あらまし
【左丁 上段】
明石中宮(あかしのちうぐう)の御腹(おんはら)なる一品宮(いつぽんのみや)
の女房(にようばう)にて薫(かをる)の思(おも)ひ人(びと)也(なり)此(この)
歌(うた)は浮舟姫君(うきふねのひめぎみ)はかなく成(なり)て
後(のち)薫(かをる)の歎(なげき)甚(はなはだ)しきと【注】とぶ
らひたる也 心(こゝろ)は世(よ)の哀(あはれ)を知事(しること)
は人並(ひとなみ)におくれず君(きみ)が御歎(おんなげき)
をも心(こゝろ)に推量(おしはかり)てはあれども
御(おん)とぶらひなど申(まう)すほどの
人数(ひとかず)にもあらぬ身(み)なれば
心(こゝろ)のみ消(きゆ)ばかりに物(もの)思(おも)ひて
日(ひ)を経(ふ)ると也
【同 下段】
小宰相君(こざいしやうのきみ)
あはれしる
心(こゝろ)は人(ひと)
に
おくれねど
かずならぬ
身(み)に
きえつゝぞ
ふる
【注 字面をよく見ると「を」の上部が欠損した形に見え、文意からも「を」の方がしっくりくる。】
【右丁 上段】
同宮(おなじみや)の女房(にようばう)也 此(このうた)は女房(にようばう)
どち物語(ものがたり)して居(ゐ)たる所(ところ)へ
薫(かをる)のより来(き)てたはふれに
○女郎花(をみなべし)乱(みだ)るゝ野辺(のべ)にま
じるとも露(つゆ)のあだ名(な)をわれ
にかけめやとは詠(よみ)かけられたる
返(かへ)し也 心(こゝろ)は女(をんな)はあだなる物(もの)の
やうに名(な)に立(たち)てこそあれども
一通(ひとゝほ)りの男(をとこ)に心(こゝろ)を乱(みだ)すもの
かはみだす物(もの)にあらずといふ心(こゝろ)
を女郎花(をみなべし)の露(つゆ)によそへて
いへる也
【同 下段 左から読む】
する
みだれやは
露(つゆ)に
なべての
女郎花(をみなべし)
あだなれ
名(な)こそ
いへば
花(はな)と
一品宮中将君(いつぽんのみやのちうじやうのきみ)
【左丁 上段】
おなじ宮(みや)の女房(にようばう)にて上(かみ)と
おなじ時(とき)によめる歌(うた)なり心(こゝろ)は
さやうに口清(くちぎよ)くのたまへども
猶(なほ)さかりの色(いろ)にはこゝろの
移(うつ)る物(もの)かうつらぬものか女(をんな)の
中(なか)に宿(やど)りして自身(じしん)を試(こゝろみ)給(たま)へ
と也 是(これ)も薫(かをる)の歌(うた)に答(こた)へた
る也
【同 下段】
弁御許(べんのおもと)
旅寐(たびね)
して
猶(なほ)こゝろ
みよ
をみなべ
し
盛(さかり)のいろ
に
うつり
うつらず
【右丁 上段】
小野尼(をのゝあま)の娘(むすめ)の聟(むこ)也 此歌(このうた)は
娘(むすめ)うせて後(のち)に小野尼(をのゝあま)浮舟(うきふねの)
姫君(ひめぎみ)を養(やしな)へるを恋(こひ)てよめ
る也 心(こゝろ)は外(ほか)の人(ひと)のいひよるとも
なびく事なかれかならず
我物(わがへもの)と領(れう)せんよしや都(みやこ)より
小野(をの)迄(まで)路(みち)の程(ほど)は遠(とほ)くとも
といふ心(こゝろ)を女郎花(をみなべし)によそ
へて云(いへ)る也しめゆふは領(れう)する
事(こと)也あだし野(の)は他国(たこく)をあだ
し国(くに)他人(たにん)をあだし人(ひと)と云(いふ)に
同(おな)じく他所(あだしところ)の野(の)をいふ也
【同 下段】
中将(ちうじやう)
あだし野(の)の
風(かぜ)になびく
な
女郎花(をみなべし)
我(われ)しめ
ゆはん
路(みち)とほく
とも
【左丁 上段】
横川(よかはの)僧都(そうづ)の妹(いもうと)也 此歌(このうた)は浮(うき)
舟姫君(ふねのひめぎみ)を養取(やしなひとり)てより娘(むすめ)の
替(かは)りに聟(むこ)の中将(ちうしやう)に逢(あは)せん
と尼(あま)が心(こゝろ)にも思(おも)ひて種々(くさ〴〵)進(すゝ)
むれども浮舟(うきふね)の聞入(きゝいれ)ざるを
わびて則(すなはち)上(かみ)の歌(うた)の返(かへ)しに詠(よめ)る
也 心(こゝろ)は色々(いろ〳〵)うき事のある世(よ)の
中(なか)の厭(いとは)しさにこそ世(よ)をそ
むきたる草(くさ)の庵(いほり)なる物(もの)を
此(この)姫君(ひめぎみ)養初(やしなひそめ)てより尼(あま)に似(に)げ
なき物(もの)あつかひをして心(こゝろ)を
労(なやま)し侍(はべ)るといふ事(こと)を庵室(あんじつ)
の庭(には)に女郎花(をみなべし)移(うつ)し植(うゑ)た
るによそへて云(いへ)り
【同 下段】
小野尼(をのゝあま)
うつし
うゑて
おもひ
みだ
れぬ
女郎花(をみなべし)
うき世(よ)を
そむく
草(くさ)の庵(いほり)に
【右丁】
天保十年己亥十二月発行
松軒田靖書
棔斎清福画
玉山書堂梓
【左丁】
金花堂蔵板目録 《振り仮名: 須原|日本橋南通四町目》屋佐助
【縦線あり】
【上段】
源氏忍草(げんじしのぶくさ) 《割書: |五冊》 成島公序
《割書:此書は源氏物語一部の大意(たいい)を初学の心|得やすからんために耳(みゝ)ちかきことばにて|さとしたるなり源氏を学び給ふ人は必(かなら)ず|まづよみ味(あぢは)ひ給ふべき書なり》
【縦線あり】
万葉楢落葉(まんえふならのおちば) 《割書: |五冊》 正木千幹大人輯
《割書:此書は哥(うた)よみ物かゝんとする初学のために|万葉集の中のおもしろくめづらしき詞を類(るゐ)|をわかち題(だい)をまうけて五巻(いつまき)とす》
《割書:一の巻 天象(てんしやう)の部 二の巻 地儀(ちぎ)の部|三の巻 神祇(じんぎ)釈教(しやくけう)人倫(じんりん)国郷(こくがう)居処(きよしよ)の部》
《割書:四の巻 腹食(ふくしよく)器財(きざい)の部 五の巻 鳥獣(てうぢう)魚虫(ぎよちう)草木(さうもく)の部|座右(ざいう)におきて哥学(かがく)考証(かうしやう)に備(そな)ふべき書なり》
【縦線あり】
千鳥之跡(ちどりのあと) 《割書: |一冊》 中臣親満大人著
《割書:此書は詠草(えいさう)懐紙(くわいし)短冊(たんざく)等のとりしたゝめ|様(さま)を古人の真蹟(しんせき)或ひは古書等によりて|考(かうが)へ定(さだ)められたる書なり》
【下段】
明季遺聞(みんきゐぶん) 《割書: |四冊》 清鄒錫山先生著
《割書:此書ハ清ノ鄒錫山(スウシヤクサン)ノ手輯(シユシフ)ニシテ明末(ミンマツ)李自成(リジセイ)|ノ乱ヲ倡ヘシ本末ヨリ清ノ閩広(ミンクワウ)ヲ平定スル|事ニイタル国姓爺(コクセンヤ)ノ事実(ジシツ)等コノ書ニ詳|ナリ》
【縦線あり】
歴代帝王承統譜(れきだいていわうしやうとうふ) 《割書:折本|一冊》 紀藩春川先生校閲
《割書:此書ハ唐虞(タウグ)以来清ノ道光帝(ダウクワウテイ)ニイタルマデ|スヘテ漢土歴代 承統(シヤウトウ)ノ主(シユ)ヲ系譜(ケイフ)ニ作リテ|歴史(レキシ)ヲヨムモノニ便(タヨ)リス》
【縦線あり】
草聖彙弁(さうせいゐべん) 《割書: |八冊》 《割書:清朱迦陵先生摹弁|皇国永根文峯先生校宇》
《割書:漢土(モロコシ)ニテ歴代(レキダイ) ノ草法(サウホフ)ヲ集(アツ)メタル書(シヨ)数多(アマタ)アルカ中ニ|此編ノ精善(セイセン)ナルニ如(シク)ハナシ我朝 兼明(カネアキラ)親王ノ書》
《割書:ヲモ此編ニオサメ出セリ始メニ二 画(クワク)ヨリ三十画ニ|至ルマデノ撿字(ケンジ)アリ此(コレ)ニヨリテ字を【ママ】索(モト)ムベシ第八》
《割書:巻ニ草法 母観(ボクワン)ヲ付(フ)シタリ草書ヲ学ビ玉フ君(クン)|子(シ)珍(チン)セズハアルベカラザル書ナリ》
【右丁 上段】
古今選(ここんせん) 《割書: |三冊》 《割書:本居先生輯|村田並樹大人校》
《割書:此書は本居(もとをり)大人哥よみ習(なら)ふ人のために|廿一代集の中(うち)よりことにすぐれたる哥を》
《割書:撰(えら)びとられて常によみうかべて姿(すがた)詞(ことば)の手|本にもとて物せられたる書なり》
【縦線あり】
類題和歌晡補闕(るゐだいわかほけつ)《割書: |六冊》 加藤古風大人撰
《割書:この書は世に行はるゝ類題和哥集(るゐだいわかしふ)の題(だい)のみあげ|て哥の闕(かけ)たる二千九百余首なるをうらみ代との|勅撰家々(ちよくせんいへ〳〵)の集哥合などより広(ひろ)く採集(とりあつ)め》
《割書:且題の誤字(ごじ)を考へ訂(たゞ)されたればよむ人の|かならず机辺(きへん)におき給ふべき書なり》
【縦線あり】
唐物語(からものがたり) 一冊 《割書:西行上人作|清水浜臣大人標注》
《割書:この書はもろこしの故事(こし)どもをわが国の
|ことばにやはらげてをもしろく書なし|たるなり西行上人の作なるよし言伝(いひつた)え》
《割書:たる実(じつ)に文体(ぶんたい)哥詞(うたことば)その頃のものと思はるゝ|よし浜臣(はまおみ)大人の説(せつ)なり》
【同 下段】
草書前赤壁賦(さうしよぜんせきへきのふ) 《割書: |一冊》 天民先生書
《割書:此書ハ前赤壁賦ヲ詩仏(シブツ)先生ノ書レタル|ナリ筆法一 家(カ)ノ風(フウ)ニシテ激(ゲキ)セズ励(レイ)セズ|手本トスベキ書ナリ》
【縦線あり】
小学題辞(せうがくだいじ) 《割書: |一冊》 龍澤先生書
《割書:此書ハ宋(ソウ)ノ朱文公ノ小学 題辞(ダイジ)ヲ龍澤(リウタク)|先生ノ書レタルナリ筆力 怒張(トチヤウ)唐人(タウジン)ノ風|アリ》
【縦線あり】
滝本気霽帖(たきもときせいでふ) 《割書: |一冊》 猩々翁真蹟
《割書:此書は朗詠集(らうえいしふ)の詩哥を抄出して|猩々翁(しやう〴〵をう)のうるはしく書給へるなり》
【縦線あり】
《割書:貫之朝臣書》
堤中納言家集(つゝみちうなごんかしふ)
《割書:この書は堤中納言 兼輔卿(かねすけきやう)の家集(かしふ)を|紀貫之(きのつらゆき)の書給へるが稀(まれ)に伝はりたるを》
《割書:板にゑりたる也 仮字(かな)古法にかなひ疑(うたが)ひ|なき書なり》
【左丁 上段】
仮字考(かなかう) 二冊 《割書:岡田真澄大人著|鵬斎先生漢文序|浜臣大人かな序》
《割書:この書は仮字(かな)はもと草書(さうしよ)の手よりながれ|来れる所なるにつひには其 源(みなもと)の文字の》
《割書:しれがたくなりぬるもあるを五十 音(いん)の次第(しだい)に|したがひてくはしう考へられたるなり頭書(かしらがき)に》
《割書:古人の書体(しよたい)をもあげられたれば書法を|学ぶ人にも大に益(えき)ある書なり》
【縦線あり】
新朗詠集(しんらうえいしふ) 一冊 《割書:真海柏木先生輯|素堂山本先生校》
《割書:この書は詩(し)は上(かみ)文武帝(もんむてい)より下(しも)保元(ほうげん)の比(ころ)に|至るまでの人物(じんぶつ)を撰(えら)み其 時世(じせい)の前後(ぜんご)を》
《割書:正(たゞ)してこれを出し哥は詩に相似(あいに)たるものを|撰(えら)び出す故に作者の時世にかゝはらず春夏》
《割書:秋冬四時に分(わか)つ事一に本集(ほんしふ)の如し巻首(くわんしゆ)|に引書目録あり終(をはり)に四時の題(だい)を大書せり》
【縦線あり】
歌仙絵抄(かせんゑせう)一冊 《割書:藤原正臣先生著|喜多武清先生模画》
《割書:此書は作者の家譜(かふ)及び哥の心を頭書(かしらがき)とす絵(ゑ)は|本図(ほんづ)より武清(ぶせい)先生の手に出たり尤 美本(びほん)也》
【同 下段】
草書千字文(さうしよせんじもん) 《割書: |一冊》 屋代先生書
《割書:此書ハ輪池屋代(リンチヤシロ)先生の筆法(ヒツホフ)ヲ見ル|ベキ刻本(コクホン)ナリ》
【縦線あり】
玄對(げんたい)【対】先生画譜(せんせいぐわふ) 《割書: |三冊》 玄對【対】翁筆
《割書:此書ハ人物(ジンブツ)花鳥(クワテウ)ノ類(タグヒ)ヲ玄對(ゲンタイ)先生ノ画|習(ナラ)フ人ノ手本ニトカヽレタルナリソノ奇(キ)絶(ゼツ)|ナルコト本書ヲ開(ヒラ)キテ見(ミ)玉フベシ》
【縦線あり】
幼稚画手本(えうちゑてほん) 《割書: |一冊》 柳烟堂主人筆
《割書:この書も山水人物 花鳥(くわてう)の類(たぐ)ひを画|ならふ人の手本にとて柳烟堂翁(りうえんどうをう)の|かゝれたるなり》
【縦線あり】
西音発微(さいおんはつび) 二冊 《割書:柳圃先生遺教|大槻玄幹先生著》
《割書:此書ハ西洋書(セイヨウシヨ)飜釈(ホンヤク)ノ時 西洋語(セイヨウゴ)ニアタル|和音(ワオン)唐音(タウイン)ヲ撰(エラ)ビ対註(タイチユウ)ノ仕様(シヤウ)ヲ詳ニサトシ|西洋 字原考(ジゲンカウ)ヲ付(フ)シタリ》
【右丁 上段】
言元梯(げんげんてい) 《割書: |一冊》 大石千引先生著
《割書:この書は詞(ことば)の元(もと)の義(ぎ)を詳に考(かうがへ)定(さだ)められ|たる也 体言(ていげん)は清音(せいおん)のみにて用言(ようげん)には濁(だく)》
《割書:音(いん)まゝある事 詞(し)の言出(いひだ)しを濁(にご)る例(れい)は一切|無之事また字音(じおん)の詞(ことば)音訓(おんくん)相 混(こん)ずる詞》
《割書:などを詳にす次第は五十 音(いん)分(わけ)ヶにして|検出(けんしゆつ)に便(べんり)ならしむ》
【縦線あり】
仮字便覧(かなべんらん) 《割書: |一冊》 大野広城先生輯
《割書:此書 対類(たいるゐ)音便(おんびん)字音(じおん)濁語(だくご)仮字便覧(かなべんらん)と|唱(とな)ふ雅語(がご)はもとより字音俗語までの|仮字(かな)を詳にすひ【右横に長四角】の音便はい【右横に長四角】ゐ【右横に長四角】にまがひ》
《割書:へ【右横に長四角】の音便はえ【右横に長四角】ゑ【右横に長四角】にまがふ類をわかり安き|やうにさとされたる書なり》
【縦線あり】
古今和歌集新校正(こきんわかしふしんかうせい) 二冊 《割書:賀茂翁考正|鈴屋翁再訂》
《割書:是は古今集の善本(せんほん)なり》
【縦線あり】
後撰和歌集(ごせんわかしふ) 《割書:小|本》二冊
《割書:世に流布(るふ)する後撰集の刻本(こくほん)大冊(たいさつ)のみにて》
【左丁 上段】
《割書:懐宝(くわいはう)に便(びん)ならざるが故に小冊となし且|諸先生家の《振り仮名:秘本|ひほん》【別本による】をもて校正(かうせい)を加へ専(もは)ら|会席(くわいせき)旅行(りよかう)の便利(べんり)に備(そな)ふ》
【縦線あり】
《割書: |元和帝御撰》
集外歌仙(しふぐわいかせん)《割書: |一冊》《割書:一名 近代歌仙》
《割書:是はかけまくもかしこき後水尾の上皇(じやうくわう)の撰(えら)ばせ|給ふて 東福門院の御 屏風(びやうぶ)におさせ給へりし|三十六歌仙なり終(おはり)に作者の姓名(せいめい)を付したり》
【縦線あり】
正誤仮字遣(しやうごかなづかひ) 《割書: |一冊》 《割書:賀茂末鷹縣主輯》
《割書:此書は古事記(こじき)日本紀万葉集 和名抄(わみやうせう)等にもと|づきて詞の仮字(かな)をいろはにして引出すに|便(べん)ならしむ》
【縦線あり】
源氏百人一首(げんじひやくにんいつしゆ) 《割書: |一冊》 《割書:黒澤翁満大人著》
《割書:此書は定家卿の小倉式紙(をぐらしきし)にならひ源氏物語の中(うち)|より百人を撰(えら)びおの〳〵その名哥(めいか)一首ッヽを出して|児(じ)女子(ぢよし)のわかり安きやうに註釈(ちゆうしやく)を加へられたり》
《割書:本書は大部(たいぶ)のものなればまづこの書によりて|源氏の大意(たいい)をさとり給ふべし》
【右丁 下段】
単騎要略(たんきえうりやく) 《割書: |五冊》 村井昌弘先生編輯
《割書:此書ハ甲冑(カツチウ)ノ着用(チヤクヨウ)故実(コジツ)褌 襯衣(ホロ)等ノ付|ヤウ頭盔(カブト)ノ緒(ヲ)ノシメヤウ背旗(ウシロハタ)ノサシヤウ等》
《割書:マデオノ〳〵図ヲ設(マウ)ケテ詳ニサトシ手ニ|携(タヅサユ)る【ママ】処ノ鎗刀(ソウタウ)器械(キカイ)ニ至ルマデ其故実ヲ》
《割書:明ラカニシ一 騎(キ)前(マヘ)ノ要領(エウレイ)ヲ尽(ツク)セリ武家方ハ|サラナリ有職(イウシヨク)ノ学シ玉フ人ハ必 坐右(ザイウ)ニ置(オク)》
《割書:ベキ書ナリ村井先生ハ神武迪精武学先入|等ノ作者ニシテ其名高シ》
【縦線あり】
足利家武鑑(あしかゞけぶかん) 《割書: |一冊》 間鐘先生校
《割書:この書は足利 将軍家(しやうぐんけ)の武鑑にして其比(そのころ)の|記録諸家 紋帳(もんちやう)等によりて委(くは)しく考記(かうき)し|学者の助(たすけ)になる事多し》
【縦線あり】
弓箭図式(きうせんづしき) 《割書: |一冊》 栗原先生著
《割書:此書ハ先生 著(アラ)ハス処ノ武林法量中弓(ブリンホフリヤウチウキウ)|箭(セン)ノ一節(イツセツ)タリ武家方カナラズ見玉フ|ベキ書ナリ》
【左丁 下段】
掌中古刀名鑒(しやうちうこたうめいかん) 一冊 《割書:臣檀園輯》
《割書:此書ハ先ニ銘尽(メイツクシ)数多(アマタ)アリトイヘトモ其(ソレ)ト事替(コトカハ)リ|当 同前専両作一伝ノ次第 珍敷(メツラシキ)作人》
《割書:其外吉野年号打作人刃丈 中心(ナカゴ)鎬(シノギ)広狭(クワウキヤウ)|帽子(ボウシ)ノ箇条(カデウ)肌(ハダ)《振り仮名:煮|ニヱ》《振り仮名:鑪|ヤスリ》【鈩 別本による】目(メ)造(ツク)リノ様子 梵字(ボンジ)并》
《割書:彫物(ホリモノ)之次第 鑒定会(カンテイクワイ)ノ入札ノ答(コタ)ヘヨリ致シ|鍛冶(カヂ)ノ官名(クワンメイ)作人 位列(ヰレツ)鍛冶ノ系図(ケイヅ)并 名寄(ナヨセ)》
《割書:等ニ至ルマデ委シク弁(ベン)ジ難(カタ)キハ図(ヅ)ヲ出シ疑敷(ウタガハシキ)|事ハ載(ノセ)ズ奇大(キタイ)ノ珍書(チンシヨ)ナリ》
【縦線あり】
甲冑図式(かつちうづしき) 一冊 《割書:栗原先生著》
《割書:此書ハ武林(ブリン)法量(ホフリヤウ)二編ニテ甲冑ノ図(ヅ)ヲツマ|ビラカニス》
【縦線あり】
武器袖鏡(ぶきそでかゞみ) 一冊 《割書:同 著》
《割書:此書ハアラユル武器(ブキ)ヲ図式(ヅシキ)ニアラハシテ且 付言(フゲン)|ニ兵士ノ事ニ付 精(クハ)[シ]キ考(カンガ)ヘアリ》
【縦線あり】
武器袖鏡(ぶきそでかゞみ)後編 一冊 《割書:同 著》
《割書:此書ハ甲 半首(ハツムリ)喉輪(ノドワ)ヨリ馬具(バグ)旗指物(ハタサシモノ)》
【別本 https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko30/bunko30_a0276/bunko30_a0276.pdf を参照す】
【右丁 上段】
うすやう色目(いろめ) 小本綵色摺 一冊
《割書:詠草(えいさう) 消息(せうそく) 等に用ゆるうすやう四季に|より定まれる組合(くみあい)あることより消息のかき|かた色紙(しきし)のちらしかたをしるせる書なり》
【縦線あり】
県居雑録補抄(あがたゐざつろくほせう) 一冊 《割書:賀茂真淵大人著|長野美波留大人標註》
《割書:この書は賀茂翁(かもをう)のいろ〳〵の書(ふみ)ともを見給へるに|したがひて心あることばともをゑりいてゝ五十 音(いん)》
《割書:にわかち給ひてみつからの考へをもそへ給へるに|美波留(みはる)大人の標註(へうちゆう)し給へるなりまことに古へ》
《割書:学びのおやともおふぐなる賀茂の翁のあつ|め給へるに美波留大人の博覧(はくらん)秀才(しうさい)にまか》
《割書:せて和漢(わかん)数百 部(ぶ)の書籍(しよじやく)を引て標註し|給へるなればこの道にたづさはらん人かならす》
《割書:ふところをはなすましくかつは此書いできて|のちは一日も坐右(ざいう)におかざれはかなふまじき|書なり》
【縦線あり】
截縫早手引(たちぬひはやてびき) 《割書:横|本》一冊 《割書:女中必用》
《割書:この書はうぶ着(ぎ)の截方(たちかた)男女 守縫(まもりぬひ)陰陽(いんやう)つけ|紐(ひも)の法(ほふ)一ッ身(み)三ッ身(み)のたちやう羽織(はおり)上下(かみしも)袴(はかま)》
【左丁 上段】
《割書:馬乗袴(うまのりはかま)野袴(のは▢▢)合羽(かつは)ばつち夜具(やぐ)又はうち幕(まく)|そと幕(まく)のぬひ方(かた)【別本による】にいたるまでちりめん唐桟(たうざん)》
《割書:純(どん)【ママ】子(す)毛織(けおり)片面(かためん)【別本による】ものなどつもりにくき物を|ひなかたにあらはし截方(たちかた)縫(ぬひ)やう微細(ひさい)にしるし》
《割書:たればはじめて截(たち)ものする人にもたち損(そん)じ|なくこゝろ易(やす)く出来(でき)て稀代(きたい)の重宝(ちやうはう)の|書なり》
【縦線あり】
繭養法秘伝抄(まゆかひほふひでんせう) 一冊
《割書:此書は山まゆ種(たね)見やう同 飼(かひ)やう取(とり)やう|糸まゆむしやうの次第(しだい)より始(はじめ)て織(おり)やうの》
《割書:秘伝(ひでん)までくはしく図(づ)にあらはして重宝(ちやうはう)の|書なり》
【縦線あり】
皇和魚譜(くわうわぎよふ) 《割書: |二巻》 丹洲栗本先生纂
《割書:此書巻一ニハ河魚類(カハウヲルイ)凡(オヨソ)五十一 種(シユ)ノ図説(ヅセツ)ヲアゲ|巻二ニハ河海(カカイ)通在(ツウザイ)ノ魚類(ギヨルイ)一十三種ノ図説(ツセツ)》
《割書:ヲアゲラレタリ海魚(カイギヨ)ノ類(ルイ)ハ近刻ニ出ス魚類ノ|性味(セイミ)良毒(リヤウドク)ノ弁(ベン)ジカタク混(コン)ジヤスキモノ此書ヲ|ヨミ玉ハヾ分明(フンミヤウ)ナルベシ》
【縦線あり】
穂立手引草(ほたちてびきくさ) 《割書: |一冊》 醉吟居主人編著
【右丁 下段】
《割書:等ニ至リスベテ武器(ブキ)ノ図式(ヅシキ)ナリ》
【縦線あり】
武器袖鏡(ぶきそでかゞみ)三編 《割書: |一冊》 《割書:同 著》
《割書:此書ハ現在(ゲンザイ)する【ママ】古甲冑(コカツチウ)五十二 種(シユ)ノ威色(ヲドシイロ)|を【ママ】彩色(サイシキ)図(ヅ)ニアラハシ甲冑 製作(セイサク)便(ベン)ナラ|シム》
【縦線あり】
武家用文章(ぶけようぶんしやう) 一冊
《割書:此書は武家方の文章 公用向(こうようむき)の切紙(きりかみ)より|はじめて詞書(ことばがき)願書(ぐわんしよ)届書(とゞけかき)結(むすび)状 裏白(うらしろ)もの類》
《割書:結納(ゆひなふ)帯代(おびだい)等の目録に至るまで巨細(こさい)にしるし|家々(いへ〳〵)によりていさゝかづゝの違(ちが)ひあり共大かた|この書を規矩(きく)にしてたがふ事なし》
【縦線あり】
広益諸家人名録(くわうえきしよかじんめいろく) 一冊 《割書:詩仏|五山》両先生序
《割書:此書は現存(げんぞん)の儒家(じゆか)書画家(しよぐわか)国学家(こくがくか)有職家(いうしよくか)|より篆刻家(てんこくか)鑒定家(かんていか)に至るまで姓氏別号》
《割書:住所会日等までくはしくしるしたれば諸大家を|尋(たづ)ね求むるにいとよき書なり》
【縦線あり】
臨時客応接(りんじきやくおうせつ) 一冊 未学堂先生秘授
【左丁 下段】
《割書:此書は先 綿襷(わたたすき)前垂(まへだれ)がけにて 取次(とりつぎ)ある時の|用意より坐敷(ざしき)給仕(きうじ)のたちまはり小田はら》
《割書:ふ落(ら)挑灯(ちやうちん)【ぶら提灯】の供(とも)の支度(したく)に至(いた)るまで客人(きやくじん)の|入来(いりきた)るより帰(かへ)る間の饗応(もてなし)万事(ばんじ)手おもからず》
《割書:してもてなし行とゞきたとへ思ひがけなき珍(ちん)【珎は俗字】|客(きやく)の入来(じゆらい)にも台所(だいどころ)の間をあはせるこゝろ得》
《割書:塩魚(しほうを)とうふなど手元(てもと)有合(ありあひ)のものにて四季(しき)|献立(こんだて)料理(れうり)のしかた又庵茶 霰湯(あられゆ)の手まはし》
《割書:葛水(くつみつ)【「くすみつ」とあるところ】出しやう便所(べんじよ)の案内(あんない)行水(ぎやうずい)の挨拶(あいさつ)長坐(ちやうざ)の|あひだ打盹脚病にてくるしき時のあしらひ》
《割書:客人 醉(ゑふ)て坐(さ)をたつときの介抱(かいほう)の事にいたる|まですべて百ヶ条(てう)平がな付にてさとしやすく》
《割書:山出しの召仕にても覚(おぼえ)やすく出来やすくしかも|礼法(れいほふ)にかけず規矩(きく)をはづさずして便利(べんり)なる|事近世 未曾有(みぞう)の珍【珎は俗字】書なり》
【縦線あり】
富士根元記(ふじこんげんき) 一冊 《割書:鈴木頂行先生校》
《割書:この書は鈴木翁諸国を経歴(けいれき)せしつい|でに駿河の富士をはじめ津軽ふじ》
《割書:築紫(つくし)ふじ伊豆 有馬(ありま)その外国々に|あるふじの地理(ちり)を委(くは)しくさぐり図(つ)に》
《割書:あらはし諸書によりて古哥などをあげて|風流(ふうりう)の士(し)の一覧に備(そな)ふ》
【右丁 上段】
金生樹譜(きんせいじゆふ) 三冊 《割書:長生舎主人編》
《割書:この書は草木(さうもく)鉢植(はちうゑ)の培養(やしなひ)室(むろ)のかこひやう|接木(つきき)のしたてやうなどを図(つ)【別本による】を設(まう)けて委(くはし)く》
《割書:しるし又諸国の名木(めいほく)を図してその来由を|説(と)けり草木を愛翫(あいぐわん)し給ふ人は必 熟覧(じゆくらん)し|給ふべき書なり》
【縦線あり】
、松葉蘭譜(まつばらんふ) 一冊
《割書:此書は松葉らん雲竜獅子(うんりやうじし)より富士雪(ふじのゆき)に|いたりすべて名闌(めいらん)六十 種(しゆ)の図(づ)をあつめて|好事(かうじ)の清翫(せいくわん)に備(そな)ふ》
【縦線あり】
古今名物類聚(ここんめいぶつるゐじゆ) 《割書: |全十八冊》 《割書:不昧公著》
《割書:此書は諸家(しよけ)に秘蔵(ひさう)し給ふ漢製(かんせい)和製(わせい)の名物|茶器(ちやき)香合(かうがふ)及(および)古切(ふるきれ)等を図(づ)にあらはし其 手筋(てすぢ)》
《割書:竈(かま)の鑒定(かんてい)をしるす茶道(さどう)に遊び給ふ人は必|所持(しよぢ)し給ふべき書なり》
【縦線あり】
日光山誌(につくわうざんし) 五冊 《割書:植田孟縉編》
【縦線あり】
更科日記(さらしなにき) 二冊
【左丁 上段】
須磨(すま)のかいさし 一冊 《割書:中臣親満大人遺文》
《割書:此書は源氏物かたりの中なる須磨の巻を親|満翁の書さして身まかられしが其文のいと》
《割書:うるはしくものかく人の益にもなりぬべければ|摺巻としたるなり》
【縦線あり】
張氏医通(ちやうしいとう) 廿七冊 《割書:明張路玉著編》
【二行分位の枠を黒塗り】
言志録(げんしろく) 一冊 《割書:佐藤一斎先生著》
【縦線あり】
江戸町鑑(えどちやうかん) 二冊
【縦線あり】
江戸町(えどまち)つくし 一冊
【縦線あり】
袖珍名鑑(しうちんめいかん) 一枚
【右丁 下段】
古今和歌六帖標注 《割書:契沖阿闍梨|加茂真淵翁》校本《割書:平田豆流校定|山本明清校注》
《割書:此書は万葉集古今集御撰集につきて昔より歌学に|心ある人は机上に備置れ証歌になす事は各曽て知る所也》
《割書:され共はやうより善本うせけるにや流布の本誤多したま|たま桂園の主契沖阿闍梨加茂県主両大人の校正標注本》
《割書:をえて山本明清先生に校注を加へさせたる証歌第一の珍本也|巻中に部類をわかつ事凡廿五題をまうくることすべて》
《割書:五百十六題なり第一帖は歳時天象の部第二帖第三|帖は地像の部第四帖は恋祝別雑体【別本による】第五帖に又雑思》
《割書:あり第六帖は草虫木鳥魚すべて題のまうけさま意味あり|こと共也集中の作者すべて百九十三人各儀に父祖の名をあげ|たり巻中の歌数四千五百十八首也》
【縦線あり】
産家心得草(サンカコヽロヱクサ) 《割書: |二冊》 《割書:羽佐間先生口訣》
《割書:此書ハ不婦人(フジン)妊娠(ニンシン)ヨリ小児(セウニ)出生(シユツシヤウ)無病(ムビヤウ)ニ成長(セイチヤウ)|セシムル手当(テアテ)温涼(ウンレウ)調理(テウリ)飲食(インシヨク)好悪(カウオ)宜忌(ギキ)等(トウ)|ヲ平仮字(ヒラカナ)ニ書シテ心得(コヽロヱ)ヤスカラシム》
【縦線あり】
為己執記(ゐこしつき) 一冊 《割書:羽佐間芝瓢先生著》
《割書:此書ハ医道(イダウ)ハ人ノ為(タメ)ニスルワザト心得ズ己ガ為(タメ)一スルノ仁(ジン)|道(ダウ)也ト心懸(コヽロガケ)ルガ肝要(カンエウ)タルコトヲ弁(ベン)ジタル書ナリ》
【左丁 下巻】
勧善忠義伝(くわんぜんちうぎでん) 二冊
《割書:此書は宝暦(はうれき)の比(ころ)忠義(ちうぎ)者と名の聞(きこ)えし内田屋|太右衛門五代に及ぶまで家声をおとさず》
《割書:発明(はつめい)にて慈悲(じひ)ふかく召仕(めしつかひ)のもの迄(まで)にその|徳(とく)に化(くわ)して》
《割書:上の御 賞美(しやうび)に預り(あづか)りし者も此 門(もん)より出たる|ことを通俗文(つうぞくぶん)に記せる書なり》
【縦線あり】
画本勲功草前集(ゑほんくんこうさうぜんしふ) 五冊 《割書:山崎知雄大人輯|喜多武清先生画》
《割書:此書は古今の英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)の名誉(めいよ)ありし事(じ)|蹟(せき)を古事記日本紀以下今昔物語宇治》
《割書:拾遺盛衰記東鑑太平記等数十部の国(こく)|史(し)雑史(さつし)軍記(ぐんき)類(るゐ)を徴(しるし)としいさゝかも不稽(ぶけい)の》
《割書:説(せつ)をまじへず仮字文(かなぶん)に記したれば童子輩(どうじはい)|といへども一たび是を読(よむ)ときはすこぶる古へを》
《割書:知(し)るの一 助(じよ)ともなりぬべく且画は可庵翁の|妙手(めうしゆ)をふるひ数部(すぶ)の画巻物(ゑまきもの)および先哲(せんてつ)の》
《割書:図を準拠(じゆんこ)とし彩色(さいしき)の美(び)を尽(つく)し画かれたれば|画を好み給ふ諸君の蔵本(ざうほん)にも備(そな)ふべきものに》
《割書:して是まで俗間(ぞくかん)流布(るふ)の武者絵(むしやゑ)などゝは同日の|論(ろん)にあらざる事一たび書をひもときて察(さつ)し給ふ|べし 後集(こうしふ)は近刻《割書:ニ》仕候》
【右丁 上段】
小説土平伝(せうせつどへいでん) 一冊
【縦線あり】
俳諧人名録(はいかいじんめいろく) 《割書:二冊》 《割書:東都惟草庵【葊は古字】先生輯》
《割書:此書は当世(たうせい)の俳諧家(はいかいか)の人名(しんめい)をいろは分(わけ)にして|各(おの〳〵)その下に其 発句(ほつく)を出したり》
【縦線あり】
俳諧職業尽(はいかいしよくげふづくし) 二冊 《割書:茶静大人撰|梅令大人校》
《割書:此書は筵織(むしろおり)茄子苗作(なすなへつくり)牛飼(うしかひ)雀取(すゞめとり)の類(たぐひ)いまだ|何(いつ)れの書にも見及ばざる職業(しよくげふ)の類をあつ》
《割書:めて画図(ぐわと)にあらはし傍註(はうちゆう)を加(くは)へさて其 間々(あひだ〳〵)に|天明 以来(いらい)当世(たうせい)現存(げんぞん)に至るまでの人々の句(く)を》
《割書:撰(えら)びて左右(さいう)にわかちて是を合せたり只 俳(はい)|諧(かい)に遊(あそ)ぶ人のみならずこの書をよみ給はゞ》
《割書:益(えき)にもなりなぐさみにもなり且 句案(くあん)の|たねとなるべき書なり》
【縦線あり】
俳諧年表録(はいかいねんへうろく) 一冊 《割書:咫尺斎豊山翁著》
《割書:此書は貞徳(ていとく)芭蕉(ばせを)の両翁をはじめつき〳〵の名家(めいか)の|生没(せいぼつ)奇事(きじ)雅談(がだん)等【別本による】を委(くは)しくしたる書なり》
【縦線あり】
《振り仮名:諷本百二十番|観世織部太夫校正》 十珍本薄用 《割書: |全二十二冊》
【左丁 上段】
同外 近刻
【縦線あり】
早引(はやひき)二体(にたい)節用集大成(せつようしふたいせい) 全一冊
【縦線あり】
大宝百人一首紅葉錦(たいはうひやくにんいつしゆもみぢのにしき) 同【仝は古字】
【縦線あり】
桃花百人一首(たうかひやくにんいつしゆ) 同
【縦線あり】
錦百人一首(にしきひやくにんいつしゆ)《割書:書猨山流彩色入》 同
【縦線あり】
瀧本六旬(たきもとろくしゆんでふ) 同
【縦線あり】
同三十六 歌仙(かせん) 同
【縦線あり】
千蔭(ちかげ)先生書
【縦線あり】
山居帖(さんきよでう) 全一冊
【縦線あり】
同 新百人一首(しんひやくにんいつしゆ) 同
【縦線あり】
万葉新採百首(まんえふしんさいひやくしゆ) 同
【縦線あり】
大歌所御歌(おほうたところのみうた) 同
【右丁 下段】
絵本三国妖婦伝(ゑほんさんごくえうふでん) 《割書:上編五冊|中編五冊|下編五冊》 合十五冊
《割書:此書は高蘭山(こうらんざん)先生の校本(かうほん)にて世上(せじやう)みな知る所の|玉藻前(たまものまへ)の読本(よみほん)なり作意(さくい)尤深長(しんちやう)大 流行(りうかう)の|書なり》
【縦線あり】
魚猟手引種(ぎよれふてびきくさ) 一冊
【縦線あり】
五百崎(いほざき)虫(むし)の評判(ひやうばん) □【「一」ヵ】冊
【縦線あり】
俳諧発句題叢(はいかいほつくだいさう) 《割書: |四冊》 《割書:椿丘太筇翁輯》
《割書:此書は和哥 題林抄(だいりんせう)【別本による】にならひて近代の作家(さくか)|二千七十二人の発句をあつむ巻首に国分(くにわけ)にして|其 各家(かくか)の名号(めいがう)をあげたり》
【縦線あり】
《割書:古|今》千五百 題(だい)発句集(ほつくしふ) 二冊 《割書:黒瀬曽見翁校輯》
《割書:此書は古今名人の発句(ほつく)を類題(るゐだい)にしてはじめて俳(はい)|門(もん)にあそぶ人のたよりぶみとす古人は肩(かた)に古の|字(じ)を付て今人とわかてり》
【縦線あり】
芭蕉発句小鏡(ばせをほつくこかゞみ) 一冊 《割書:雪中庵蓼太翁述|門人 三鴼著》
【左丁 下段】
《割書:此書は発句(ほつく)案(あん)じ方(かた)の事 趣向(しゆかう)をとる事より|すべて俳諧 仕立(したて)の心得かたを教へたる書なり》
【縦線あり】
梅室家集(ばいしつかしふ) 二冊 《割書:梅室先生自撰の集なり》
【縦線あり】
梅室大人付句抜粋(ばいしつたいじんつけくばつすゐ) 二冊 《割書:勢南菊所翁編輯なり》
【縦線あり】
今人明題集(こんじんめいだいしふ) 二冊 《割書:双雀庵氷壺翁輯》
《割書:此書は天保の初比より世に聞えたる作家(さくか)の|秀句を類題にして句案(くあん)の一助としたる書也》
【縦線あり】
禾葉俳諧集(くわえふはいかいしふ) 五冊 《割書:双雀庵禾葉翁の家集也》
【縦線あり】
俳諧発句朗詠集(はいかいほつくらうえいしふ) 《割書:初|編》一冊 《割書:一名口調亀鑑》
《割書:此書は宗匠家(そうしやうか)の撰(えら)びおの〳〵同じからざれども|百花 色(いろ)ことにしてみなおの〳〵の風骨(ふうこつ)ある》
《割書:ことをしめさんがため諸家(しよけ)の評(ひやう)ある発句(ほつく)を|あつめたるなり》
【縦線あり】
俳諧合鏡(はいかいあはせかゞみ) 《割書:懐中|本》一冊 《割書:拙堂芦丸翁撰》
【右丁 上段】
同 古今(こきん)【別本による】かな序(じよ) 同【仝は古字】
【縦線あり】
同 往(ゆき)かひ振(ぶり) 同
【縦線あり】
真草(しんさう)【艸】千字文(せんじもん) 同
【縦線あり】
同 用筆類(ようひつるゐ) 大中小 色々
【縦線あり】
同 御好短冊式紙(おんこのみたんざくしきし) 色々
【縦線あり】
百瀬商売往来(もゝせしやうばいわうらい) 全一冊
【縦線あり】
同みやこ名所往来(めいしよわうらい) 同
【縦線あり】
草(さう)【艸】書(しよ)千字文(せんしもん)《割書:天民先生書》同
【縦線あり】
猨山庭訓往来(さやまていきんわうらい) 同
【縦線あり】
万宝古状揃(ばんはうこじやうそろへ) 同
【縦線あり】
御家流商売往来(おいへりうしやうばいわうらい) かな付 同
【縦線あり】
実語教(しつごけう)童子教(とうじけう) 同
【同 下段】
《割書:此書はいにしへ今の名(な)高(たか)き人の句を四季(しき)に|部分(ぶわけ)して当坐(たうざ)探題(たんだい)などの便(たよ)りとしたる|書なり》
【縦線あり】
抱一先生画譜(はういつせんせいぐわふ) 《割書:彩色入善本》
【縦線あり】
近代名家画帖(きんだいめいかぐわでう) 二帖
【縦線あり】
名家画譜(めいかぐわふ) 一冊
【縦線あり】
彫物画手本(ほりものゑてほん) 二冊
【縦線あり】
絵本百物語(ゑほんひやくものがたり) 全五冊
【縦線あり】
絵本大和錦(ゑほんやまとにしき) 《割書:近代各人》 全三冊
【縦線あり】
古今名馬図彙(ここんめいばづゐ) 全三冊
【縦線あり】
絵本金剛伝(ゑほんこんがうでん) 全二冊
【縦線あり】
絵本武者揃(ゑほんむしやぞろへ) 全二冊
【縦線あり】
絵本勇士鑑(ゑほんゆうしかゞみ) 全二冊
【左丁 白紙】
【裏表紙】
【表紙】
【資料整理ラベル】
T1A0
63
108
日本近代教育史
資料
弘化三年
三月日佐藤卯八
丙弘化三年佐藤卯八
午三月吉日求之
【右丁】
題言
すべて商家(しやうか)通用(つうよう)の文章(ぶんしやう)は強(あなが)ち文法(ぶんはふ)にかゝはらず其程々(そのほど〳〵)よりは
少(すこ)しく敬(うやま)ひて事(こと)のよく行(ゆき)とゞくを専一(せんいち)とすしかれば耳(みゝ)なれぬ言(こと)
葉(ば)読(よみ)がたき文字(もんじ)は聊(いさゝか)も□□【遣う?】べからずさればとて無下(むげ)にいやしき言(こと)
葉(ば)されたる文字(もんじ)は殊更(ことさら)に用(もち)□へ□【「ふへか」ヵ】らず唯(たゞ)時(とき)の宜(よろしき)に随(したが)ひ余(あま)り長(なが)からぬ
やうこそあらまほしとぞさるから□□書(しよ)たる偏(ひとへ)に彼意(かのゐ)を旨(むね)として
文言(もんごん)字遣(じづか)ひに心(こゝろ)をくばり博(ひろ)く用字(▢うじ)をすぐつて撰(えら)びたれば是(これ)僅(わづか)の
冊子(さふし)なれども利益広大(りえきくわうだい)なり実(じつ)に通商(つしやう)富家(ふか)の原財(げんざい)といふべし
戊子皐月 興文堂主人謹識
【左丁 頭部】
伊勢(いせ)参宮(さんぐう)
巡路(しゆんろ)
之図(のづ)
京三条橋
【同 本文】
商人(あきんど)書翰(しよかん)便覧(べんらん)目録(もくろく)
早春(そうしゆん)注文状(ちうもんじやう) 初丁
同(おなじく) 返事(へんじ) 二
注文(ちうも[ん])物下(ものくだし)シ状 三
注文(ちうもん)催促(さいそく)状 五
商人(あきんど)引合(ひきあはせ)状 七
同 返事 八
【右丁 頭部】
山しな
おひわけ
山石
三井寺
大津
ぜゝ
【左丁 頭部】
あはづ
せた
やばせ
おひわけ
くさつ
【右丁 本文】)
初而(はじめて)注文(ちうもん)申遣(まうしつかはす)状 九
仕切書(しきりがき)差下(さしくだす)状 十一
仕切銀(しきりぎん)指下(さしくだす)状 十三
為替(かわ▢)取組(と▢くみ)状 十六
同 返事 十七
仕切銀(しきりぎん)催促(さいそく)状 十八
仕切銀(しきりぎん)延引(ゑんいん)断(ことわり)状 二十
【左丁 本文】
金子(きんす)借用(しやくよう) ̄ニ遣(つかはす)状 二十三
同 返事 二十四
直引(ねびき)申遣(まうしつかはす)状 二十五
見世(みせ)代呂物(しろもの)尋(たづね)状 二十八
陶器物(とうきもの)積下(つみくだし)頼(たのみ)状 二十九
同 返事 三十
紺屋(こんや)引付(ひきつけ)状 三十二
【右丁 頭部】
目川
三上山
梅の木
いしべ
よこた川
【左丁 頭部】
水口
つち山
すゞか山
さかの下
【右丁 本文】
同 返事 三十三
油相場(あぶらそうば)《振り仮名:為_レ知|しらせ》状 三十五
京都(きやうと)《割書:江(へ)》売薬頼(ばいやくたのみ)状 三十六
同 返事 三十八
江戸(ゑど)舟積(ふなづみ)【注】案内(あんない)状 三十九
同 返事 四十二
大坂(おほさか)《割書:江(へ)》旅宿(りよしゆく)頼(たのみ)状 四十三
【左丁 本文】
同 返事 四十四
年始(ねんし)状 四十六
同 返事 四十七
五月 節句(せつく)祝義(しうぎ)状 四十八
同 返事 五十
九月 節句(せつく)祝儀(しうぎ)状 五十一
同 返事 五十二
【注 別本による。https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100382992/5?ln=en】
【右丁 頭部】
ふですて山
とよくの
せき
おひわけ
むくもと
くぼた
【左丁 頭部】
とうせい川
津
くもづ川
つき本
六けん茶や
【右丁 本文】
婚礼(こんれい)祝義(しうぎ)状 五十四
同 礼状 五十六
元服(げんぶく)歓(よろこび)状 五十七
同 返事 五十八
安産(あんさん)歓(よろこび)状 五十九
同 返事 六十一
家(いへ)買得(ばいとく)歓(よろこび)状 六十二
【左丁 本文】
同 返事 六十三
別家(べつけ)歓(よろこび)状 六十五
同 返事 六十六
年賀(ねんが)【別本による】状 六十八
同 返事 六十九
留主(るす)見舞(みまひ)状 七十
同 返事 七十二
【右丁 頭部】
まつざか
くしだ川
みやうぜう
茶屋
をばた
【左丁 頭部】
外宮
みや川
山田町
天の岩と
ふたみ
あいの山
あさま
内宮
【右丁 本文】
病人(びやうにん)見舞(みまひ)状 七十三
同 返事 七十五
疱瘡(ほうそう)見舞(みまひ)状 七十七
同 返事 七十八
火事(くわじ)見廻(みまい)状 八十
同 返事 八十一
暑気(しよき)見舞(みまひ)状 八十二
【左丁 本文】
同 返事 八十三
寒気(かんき)見舞(みまひ)状 八十四
同 返事 八十五
参宮(さんぐう)留守(るす)見廻(みまい)状 八十七
同 返事 八十八
餞別(せんべつ)遣(つかは)す状 八十九
馳走(ちそうに)逢(あひ)たる礼(れい)状 九十一
【右丁】
頭書目録(かしらかきもくろく) 伊勢参宮(いせさんぐう)巡路(じゆんろ)之 図(づ) 初丁
銭相場(ぜにさうば)早割(はやわり)《割書:并》曲尺(さしかね)割算(わりざん)之(の)伝(でん)《割書:付》問丸(とひや)繁昌(はんじやう)之図 十三丁
万(よろづ)染物(そみもの)脱(おとし)之(の)伝(でん)《割書:付》職方(しよくかた)之(の)麤(そ)【麁】忽(こつ)を侘(わふ)る図 廿六丁
潮汐時(しほとき)之(の)暗記(くりかた)《割書:并》年中(ねんちう)風雨(ふうう)之(の)考(かんがへ)《割書:付》早綿(はやわた)出船(しゆつせん)之図 四十丁
婚礼式(こんれいしき)之(の)心得(こゝろえ)略法(りやくほふ)手引(てびき)《割書:付》祝言(しうげん)之図 五十四丁
老人(らうじん)食物(しよくもつ)製方(せいはう)之(の)伝(でん)《割書:付》年賀(ねんが)寿筆(じゆひつ)之図 六十七丁
疱瘡(ほうさう)之(の)心得(こゝろえ)《割書:并》妙薬方(めうやくはう)《割書:付》同 神送(かみをく)り之図 七十八丁
【左丁】
早春(そうしゆん)注文(ちうもん)状
一筆啓上(いつぴつけいじやう)仕(つかまつり)候(そろ)未(いまだ)余寒(よかん)
甚(はなはだ)敷(しく)候(さふらふ)処(ところ)弥(いよ〳〵)御安康(ごあんかう)
可(べく)_レ被(さる)_レ成(な)_二御座(ござ)_一奉(たてまつり)_二珍重(ちんちやう)_一候(さふらふ)
然者(しかれば)此度(このたび)別紙(べつし)之(の)通(とふり)注文(ちうもん)
【右丁】
御頼(おんたのみ)申上(まうしあげ)候(そろ)随分(ずいぶん)代呂物(しろもの)
御吟味(ごぎんみ)可(べく)_レ被(さる)_二成下(なしくだ)_一候(そろ)且(かつ)注文(ちうもん)
書(がき) ̄ニ印置(しるしおき)申(まうし)候(そろ)花色(はないろ)秩父(ちゝぶ)
急(きう)入用(いりよう) ̄ニ御座候(ござそろ)間(あいだ)直様(すぐさま)
御出(おんいだし)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)候(そろ)其余(そのよ)者(は)中旬(ちうじゆん)
【左丁】
迄(まで) ̄ニ御揃(おんそろへ)御越(おんこし)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)奉(たてまつり)_二
頼上(たのみあげ)_一候(そろ)以上(いじやう)
同(おなじく)返事(へんじ)
貴札(きさつ)被(され)_レ 下(くだ)忝(かたじけなく)拝見(はいけん)仕(つかまつり)候
如(ごとく)_二来命(らいめいの)_一残寒(ざんかん)甚敷(はなはだしく)候(そろ)
【右丁】
之(の)処(ところ)其(その)御境(おんきやう)御家内(ごかない)様(さま)
益(ます〳〵)御勇健(ごゆうけん)被(され)_レ遊(あそば)_二御座(ござ)_一
珍重(ちんちやう)之(の)御儀(おんぎに)奉(たてまつり)_レ存(ぞんじ)候 誠(まこと)ニ
例年(れいねん)之(の)通(とふり)不(ず)_二相変(あいかはら)_一御注文(ごちうもん)
被(られ)_二仰付(おほせつけ)_一千万(せんばん)有難(ありがたく)奉(たてまつり)_レ存(ぞんじ)候(そろ)
【左丁】
諸色(しよしき)念入(ねんいれ)差上(さしあげ)可(べく)_レ申(まうす)候 且(かつ)
御急(おんいそぎ)之(の)品(しな)者(は)明(みやう)夕出(ゆふつだし)可(べく)_レ申(まうす)候
御染物(おんそめもの)之(の)儀(ぎ)雨天(うてん)無(なく)_レ之(これ)
候者(さふらはゞ)五七日中(ごしちにちぢう) ̄ニ 者(は)出来(しゆつらい)
可(べく)_レ申(まうす)何(いづ)れ中比(なかごろ)迄(まて) ̄ニ相揃(あいそろへ)
【右丁】
指出(さしいだし)可(べく)_レ申(まうす)候 猶(なを)書外(しよぐわい)期(ごし)_二重(ぢう)
便(びんを)_一粗(あら〳〵)御請(おんうけ)迄(まで)如(ごとくに)_レ斯(かくの)御座(ござ)候
恐々(きやう〳〵)謹言(きんげん)
注文物(ちうもんもの)下(くだし)状
春暖(しゆんだん)之(の)砌(みぎり)弥(いよ〳〵)御壮健(ごさうけん)
【左丁】
被(られ)_レ為(せ)_レ入(いら)候半与(さふらはんと)奉(たてまつり)_レ察(さつし)大悦(たいえつ)
奉(たてまつり)_レ存(ぞんじ)候 然(しかれ)者(ば)御注文(ごちうもん)之(の)品々(しな〳〵)
別紙(べつし)入日記(いりにつき)之(の)通(とをり)指出(さしいだし)申(まうし)候
其着(そのちやく)御改(おんあらため)御入帳(ごにうちやう)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)候
扨(さて)又(また)御注文(ごちうもん) ̄ニ者 無(なく)_二御座(ござ)_一候(さふら)へ共(ども)
【右丁】
緋(ひ)之(の)山舞紬(やままひつむぎ)【注】新物(しんもの)五疋(ごひき)
同(おなじく)紫(むらさき)拾疋(じつひき)懸(かけ)_二御目(おんめに)_一申(まうし)候
直段(ねだん)茂(も)至而(いたつて)利口(りこう) ̄ニ付(つき)申(まうし)
候得(さふらへ)者(ば)急度(きつと)御売当(おんうりあて) ̄ニ
相成(あいなり)申(まうし)候 後便(こうびん) ̄ニ御注文(ごちうもん)
【左丁】
沢山(たくさん) ̄ニ被(られ)_二仰付(おほせつけ)_一被(され)_レ 下(くだ)候(そろ)様(やう)奉(たてまつり)_二
待受(まちうけ)_一候 尚(なを)相残(あいのこり)候(そろ)品(しな)茂(も)御座(ござ)
候(そろ) ̄ニ寄(より)仕切書(しきりがき)者(は)跡(あと)ゟ(より)奉(たてまつり)_二
御覧(ごらんに)入(いれ)_一候 恐々(きやう〳〵)頓首(とんしゆ)
注文(ちうもん)催促(さいそく)状
【注 山繭紬のこと】
【右丁】
弥(いよ〳〵)御堅勝(ごけんしやう)被(され)_レ成(な)_二御座(ござ)【一点脱】
珍重(ちんちやう)不(ず)_レ斜(ななめなら)奉_レ存(ぞんじ)候 偖(さて)者(は)
先日(せんじつ)以(もつて)_二飛脚便(ひきやくたよりを)_一注文(ちうもん)申
上候 処(ところ)尓(に)_レ今(いま)御沙汰(ごさた)無(なく)_レ之(これ)
甚(はなはだ)困入(こまりいり)申候 此節(このせつ)売当(うりあて)之(の)
【左丁】
品(しな)茂(も)御座(ござ)候 ̄ニ付(つき)日々(ひび)奉_二
相待(あいまち)_一候 未(いまだ)御 返事(べんじ)茂(も)不(ず)
参(まいら)候 故(ゆへ)自然(しぜん)書状(しよじやう)相滞(あいとゞこふり)
有(あり)_レ之(これ)候 事(こと)哉(や)不審(ふしん) ̄ニ存(ぞんじ)候
ゆへ為(ため)_レ念(ねんの)又候(またざふらふ)注文書(ちうもんがき)
【右丁】
差登(さしのぼし)申 上(あげ)候 此状(このじやう)着(ちやく)次第(しだい)
早々(さう〳〵)御 仕出(しいだし)被(され)_レ 下(くだ)候 様(やう)奉
_レ頼(たのみ)候 尤(もつとも)三度(さんど)飛脚(ひきやく)十五日
出日(でび)《割書:ニ》無(なく)_二相違(そうい)_一御 出(いだし)被(され)_レ 下(くだ)度(たく)
奉_二憑入(たのみいり)_一候 不備(ふび)
【左丁】
商人(あきんど)引合(ひきあわせ)状
以(もつて)_二《振り仮名:寸-書|すんしよを》_一申 入(いり)候 倍(ます〳〵)御安寧(ごあんねい)
可(べく)_レ被(さる)_レ成(な)_二御滞留(ごたうりう)_一奉_二欣幸(きんかう)_一候
然(しかれ)者(ば)此仁(このじん)小間物(こまもの)商売(しやうばい)
被(され)_レ致(いた)候 処(ところ)新仕入(しんしいれ)面白(おもしろき)
【右丁】
品々(しな〴〵)御座(ござ)候 而(て)至(いたつ)而(て)利口(りこう)に
商(あきなひ)被(れ)_レ申(もうさ)候 故(ゆへ)御 引付(ひきつけ)申(まうし)
上(あげ)候 御用(ごよう)御 申付(まうしつけ)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)候
猶(なを)亦(また)御連様(おんつれさま)茂(も)御 仕入(しいれ)等(とう)
被(され)_レ成(な)候(さふらは)者(ゞ)此仁(このじん) ̄ニ些(ちと)御 申(まうし)
【左丁】
付(つけ)被(され)_レ 下(くだ)候 様(やう)貴公様(きこうさま)より
御 世話(せわ)可(べく)_レ被(さる)_二成下(なしくだ)_一候 尚(なを)跡々(あと〳〵)
御注文(ごちうもん)之(の)品(しな)茂(も)御座(ござ)候(さふらは)者(ば)
状通(じやうつう) ̄ニ而(て)埒(らち)明(あき)申候 様(やう)に
篤(とく)与(と)御 引合(ひきあい)置(をき)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)候
【右丁】
先(まづ)者(は)右(みぎ)為(ため)_レ可(べく)_レ得(え)_二貴意(きい)_一
如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ御座(ござ)候 不具(ふぐ)謹言(きんげん)
同(おなじく)返事(へんじ)
御 剪紙(せんし)忝(かたじけなく)拝披(はいひ)仕(つかまつり)候(さふらふ)
先(まづ)以(もつて)御安全(ごあんせん)奉_二珍重(ちんちやう)_一候
【左丁】
扨(さて)者(は)昨日(さくじつ)一寸(ちよと)御 尋(たづね)申
上(あげ)候 処(ところ)商人(あきんど)衆(しう)御 世話(せわ)
被(され)_レ 下(くだ)御深切(ごしんせつ)忝(かたじけなく)奉_レ存候
則(すなはち)乍(ながら)_二少々(せう〳〵)_一注文(ちうもん)申 入(いり)候
已来(いらい)追々(おい〳〵)相頼(あいたのみ)可(べく)_レ申(まうす)候
【右丁】
間(あいだ)御如在(ごぢよさい)有間敷(あるまじく)候へ
ども随分(ずいぶん)利口(りこう) ̄ニ御 働(はたらき)被(され)_レ 下(くだ)
候 様(やう)猶(なを)又(また)貴公様(きこうさま)より
御口演(ごこうゑん)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)候 委細(いさい)
拝顔(はいがん)御 礼(れい)可_二申上_一荒々(あら〳〵)
【左丁】
如(ごとく)_レ斯(かくの) ̄ニ御座候不 詳(しやう)
初而(はじめて)注文(ちうもん)申遣(まうしつかは)す状
其後(そののち)者(は)不(ず)_レ得(え)_二拝顔(はいがん)_一打(うち)
絶(たへ)申候 弥(いよ〳〵)御勇剛(ごゆうかう)可(べく)_レ被(さる)
_レ成(な)_二御座(ござ)_一奉_レ賀(がし)候 然(しかれ)者(ば)
【右丁】
爰許(こゝもと)亀屋芳兵衛(かめやよしびやうへ)殿(どの)《割書:ニ》
承(うけたまはり)候 処(ところ)貴公様(きこうさま)方(かた)《割書:ニ》者(ハ)
縮緬(ちりめん)中形類(ちうがたるい)御 仕入(しいれ)
有(あり)_レ之(これ)候 由(よし)近比(ちかごろ)押付(おしつけ)ケ(が)
間敷(ましき)注文《割書:ニ》御座(ござ)候得共(さふらへども)
【左丁】
別紙(べつし)之(の)通(とをり)只今(たいま)御 染合(そめあい)
御座(ござ)候ハヾ御 下(くだし)被(され)_レ 下(くだ)候 様(やう)
奉_レ頼(たのみ)候 向(む)キ者(ハ)則(すなはち)亀屋(かめや)
方(かた)与(と)同模様(どうもやう)《割書:ニ》而 可(べき)_レ然(しかる)様(やう)
御 見計(みはからい)可(べく)_レ被(さる)_レ 下(くだ)候 猶(なを)来々(らい〳〵)
【右丁】
月(げつ)者(は)上京(じやうきやう)仕(つかまつり)其節(そのせつ)貴面(きめん)
万緒(ばんしよ)可(べく)_レ申上(まうしあぐ)候 謹言(きんげん)
仕切書(しきりがき)指下(さしくだす)状
一簡(いつかん)啓上(けいじやう)仕候 寒気(かんき)
之(の)砌(みぎり)愈(いよ〳〵)御安体(ごあんたい)可(べく)_レ被(さる)_レ遊(あそば)_二
【左丁】
御入(おんいり)_一珍重(ちんちやう)御 儀(ぎに)奉_レ存候
誠(まこと)《割書:ニ》先比(せんころ)差下(さしくだし)申候 品々(しな〴〵)
御 気(き)《割書:ニ》入(いり)候 哉(や)如何(いかゞ)与(と)奉
_レ存候 此度(このたび)別紙(べつし)目録(もくろく)
之 通(とをり)十品(としな)指下(さしくだし)申候
【右丁】
是(これ)者(は)追(おい)御注文(ごちゅうもん)之 品(しな) ̄ニ而
御座候 御入掌(ごにうしやう)可_レ被_レ 下候 且(かつ)
乍(ながら)_レ序(ついで)仕切書(しきりがき)入(いれ)_二貴覧(きらんに)_一申候
御 引合(ひきあはせ)可_レ被_レ 下候 若(もし)相違(そうい)等(とう)
御座(ござ)候(さふら)ハヾ披(られ)_二仰聞(おほせきけ)_一可_レ被_レ 下候
【左丁】
猶(なを)亦(また)不(ず)_二相変(あいかはら)_一御用向(ごようむき)追々(おい〳〵)
被(られ)_二【「され」の誤】仰下(おほせくだ)_一度(たく)奉_二頼上(たのみあげ)_一候 已上(いじやう)
仕切銀(しきりぎん)差下(さしくだす)状
貴書(きしよ)被(され)_レ 下(くだ)忝(かたじけなく)致(いたし)_二拝見(はいけん)_一候
如(ごとく)_二来諭(らいゆの)_一厳寒(げんかん)之 節(せつ)
【右丁 上段】
銭相場(ぜにさうば)早割(はやわり)之(の)法(ほふ)【二重線で囲む】
たとへば相場九匁弐分五厘の時
銀壱匁に銭何ほどゝ問
答曰百七文五分
術に曰定弐十匁と置内いふ
相場九匁弐分五厘を引ば残
十匁七分五厘と成これ壱匁
代の残数百七文五分と見る也
此法十匁までの相場はいづれも
右のごとくしてちがふことなし
曲尺(さしがね)割算(わりさん)之(の)伝(でん)【二重線で囲む】
たとへば壱反に付代
銀七匁八分の木綿
を壱丈五尺買い
申ときは此代銀
何ほどゝ問
答曰四匁五分
【左丁 上段】
術左のごとし
但し土辺(つちべ)にても
直(かく)にすぢを
引さへすれば
そろばんを
用ひずして
割るゝ
なり
【右丁と左丁にまたがる曲尺の中】
壱尺五寸 此所を今買ふ
きれの尺と見る
四寸五分
此四寸五分を今買ふ
きれの代銀と見る
なり
【曲尺の長辺の下】
股二尺六寸 一反の丈とす
【曲尺の短辺の横】
鉤七寸八分 一反の代銀とす
【左丁 上段中央】
曲尺 股(はたづり)の方弐尺六寸《割書:これは壱反|だけのに数也》
と鉤(つり)の方七寸八分《割書:一反代|銀の数也》とにて
弦をわたし扨股の方壱尺五寸
《割書:今買ふ木綿|だけの数也》の所へ尺を引付弦の通
までの寸を見れば四寸五分ある
なりこれ即今買ふ木綿の代
銀四匁五分と知るべし
此外何によらず一切相場の割
かたいづれも右になぞらへて
しるべし唯何の数にても尺の
目に引□をして取るなり
【右丁 下段】
問丸(とひや)
繁昌(はんじやう)
之(の)
図(づ)
【右丁】
弥(いよ〳〵)以(もつて)御壮健(ごさうけん)被(され)_レ成(な)_二御座(ござ)_一
候(さふらふ)之(の)由(よし)大慶(たいけい)奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)
此度(このたび)残代呂物(のこりしろもの)并(ならび)《割書:ニ》染物(そめもの)等(とう)
不(ず)_レ残(のこら)御 越(こし)被_レ 下 慥(たしか)《割書:ニ》入手(にうしゆ)仕候
皆々(みな〳〵)宜敷(よろしく)出来(しゆつらい)大悦(たいえつ)奉
【左丁】
_レ存候 且(かつ)仕切書(しきりがき)御 越(こし)被_レ 下
拝見(はいけん)仕候 処(ところ)三 拾目替(じうめがへ)之
小川(おがは)拾疋(じつぴき)間違(まちがひ)有(あり)_レ之(これ)候
ニ付(つき)引置(ひきおき)申候 御帳面(ごちやうめん)御 調(しらべ)
可_レ被_レ 下候 則(すなはち)其余(そのよ)仕切(しきり)
【右丁】
銀(ぎん)以(もつて)_二為(せ)_レ替(かは)手形(てかたを)_一指下(さしくだし)申候
御 請取(うけとり)可_レ被_レ 下候 年内(ねんない)無(なく)_二
余陰(よいん)_一候得(さふらへ)者(ば)折角(せつかく)御 仕寄(しよせ)
可_レ被_レ成 猶(なを)来陽(らいよう)芽出度(めでたく)可(べく)
_レ得(え)_二貴意(きい)_一候 謹言(きんげん)
【左丁】
為(せ)_レ替(かは)取組(とりくみ)状
以(もつて)_二寸紙(すんしを)_一啓上(けいじやう)仕候 弥(いよ〳〵)以(もつて)
御堅剛(ごけんかう)被(され)_レ成(な)_二御座(ござ)_一珍重(ちんちやう)
奉_レ寿(じゆし)候 然(しかれ)者(ば)此日(このごろ)得(え)_二御意(ぎよい)_一
候 節(せつ)御 噂(うわさ)承置(うけたまはりおき)候 此度(このたび)
【右丁】
江戸表(ゑどおもて)為(せ)_レ替(かは)金(きん)駿河町(するがてう)
不二屋(ふじや)江(へ)申(まうし)遣(つかはし)候 間(あいだ)其旨(そのむね)
御承知(ごしようち)可_レ被_レ 下候 則(すなはち)手形(てがた)
為(せ)_レ持(もた)上(あげ)候 御落掌(ごらくしやう)可(べく)_レ被(さる)
_レ 下候 猶(なを)又(また)外(ほか)御用向(ごようむき)茂(も)候(さふら)ハヾ
【左丁】
無(なく)_二御遠慮(ごゑんりよ)_一可(べく)_レ被(らる)_二仰聞(おほせきけ)_一候
早々(さう〳〵)頓首(とんしゆ)
同返事
御手帖(ごしゆでう)辱(かたじけなく)奉_二拝閲(はいえつ)_一候
愈(いよ〳〵)御清昌(ごせいしやう)被(され)_レ成(な)_二御座【一点脱】候
【右丁】
之 段(だん)奉_二賀寿(がじゆし)_一候 然(しかれ)者(ば)
南部表(なんぶおもて)為(せ)_レ替(かは)御 取組(とりくみ)
被_レ 下候 趣(おもむき)被_二 仰(おほせ)下_一毎々(まい〳〵)
御 世話(せわ)之 段(だん)忝(かたじけなく)奉_レ謝(しやし)候
則(すなはち)印鑑(いんかん)御 使(つかひ)江(へ)御 渡(わたし)
【左丁】
申上候 下拙(げせつ)義(ぎ)弥(いよ〳〵)明後日(みやうごにち)
出立(しゆつたつ)之 積(つもり)に御座候 猶(なを)
留主中(るすちう)之 儀(ぎ)何角(なにか)宜(よろしく)
御 頼(たのみ)申上候 何(いづ)れ後刻(ごこく)
以(もつて)_レ参(さんを)御 礼(れい)可_二申 上(あぐ)_一候(さふら)へ共(ども)
【右丁】
乍(ながら)_レ序(ついで)如(ごとく)_レ斯(かくの) ̄ニ御座候 以上(いじやう)
仕切銀(しきりぎん)催促(さいそく)状
態々(わざ〳〵)以(もつて)_二紙面(しめん)_一啓達(けいだつ)仕候
秋暑(しうしよ)難(がたく)_レ去(さり)候得共(さふらへども)先(まつ)以(もつて)
其(その)御 地(ち)弥(いよ〳〵)御清福(ごせいふく)可_レ被
【左丁】
_レ成(な)_二御 入(いり)_一奉_二珍慶(ちんけい)_一候 然(しかれ)者(ば)
当(たう)六月(ろくくばつ)【ママ 濁点の打ち間違い】十五日 出(で) ̄ニ仕切書(しきりがき)
指下(さしくだし)申候 定(さだめ)而(て)御覧(ごらん)可_レ被
_レ 下(くだ)候 様(やう)奉_レ存候 其(その)節(せつ)申
上候 通(とをり)春(はる)以来(いらい)差引(さしひき)残(のこり)
銀(ぎん)等(とう)茂(も)為(せ)_二御 登(のほせ)_一不(ず)_レ被(され)_レ 下(くだ)
甚(はなはだ)迷惑(めいわく)仕候 間(あいだ)当分(たうぶん)之
仕切(しきり)者(は)無(なく)_二相違(そうい)_一盆前(ぼんぜん)着(ちやく)
仕候 様(やう)為(せ)_二御 登(のぼせ)_一可_レ被_レ 下
御 頼(たのみ)申上候 処(ところ)に_レ今(いま)何(なん)之
【左丁】
御沙汰(ごさた)茂(も)無(なく)_レ之(これ)甚(はなはだ)困入(こまりいり)
申候 ケ(か)様(やう) ̄ニ相後(あいおく)れ候 而(て)者(は)
買先(かいさき)江(へ)申 訳(わけ)茂(も)無(なく)_二御座_一
自然(しぜん)与(と)御 仕入向(しいれむき)遅(おそく)相成(あいなり)
申候 道理(どうり) ̄ニ御座候 間(あいだ)何分(なにぶん)
書状(しよしやう)着(ちやく)次第(しだい)銀子(ぎんす)御 登(のぼし)
被_レ 下候 様(やう)呉々(くれ〴〵)奉_二頼(たのみ)上_一候
右(みぎ)得(え)_二貴慮(きりよ)_一度(たく)早々(さう〳〵)如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ
御座候 不具(ふぐ)
仕切銀(しきりぎん)延引(ゑんいん)断(ことはり)状
【左丁】
七月(しちぐはつ)廿八日 出(で)御状(ごじやう)今日(こんにち)
着(ちやく)仕 拝見(はいけん)仕候 如(ごとく)_レ仰(おほせの)残暑(ざんしよ)
難(がたく)_レ堪(たへ)候 処(ところ)弥(いよ〳〵)御壮栄(ごさうゑい)
奉_二欣賀(きんが)_一候 然(しかれ)者(ば)盆前(ぼんぜん)
仕切(しきり)之儀(ぎ)被(され)_二仰下(おほせくだ)_一御尤(ごもつとも)
【右丁】
千万(せんばん) ̄ニ奉_レ存候 然(しか)ル(る)所(ところ)下拙(げせつ)
前月(ぜんげつ)上旬(じやうじゆん)ゟ(より)在方(ざいかた)掛廻(かけまはり)《割書:ニ》
罷出(まかりいで)漸々(やう〳〵)十二日 ̄ニ帰宅(きたく)仕候
寔(まこと)《割書:ニ》当(たう)盆前(ぼんぜん)懸方(かけかた)大(おゝい)《割書:ニ》
相滞(あいとゞこふり)申候 故(ゆへ)当惑(たうわく)仕 何卒(なにとぞ)
【左丁】
工面合(ぐめんあい)仕 差出(さしいだし)可_レ申 心積(こゝろづもり)
仕 候得(さふらへ)共(ども)大払底(おほふつてい) ̄ニ而(て)繰合(くりあはせ)も
出来(しゆつらい)兼(かね)心外(しんぐわい)之 至(いたり)誠(まことに)以(もつて)
赤面(せきめん)仕候 尤(もつとも)掛方(かけかた)応対(おうたい)
日限(にちげん)茂(も)有(あり)_レ之(これ)候 ̄ニ付(つき)直様(すぐさま)
【右丁】
手代(てだい)共(ども)指出(さしいだし)取集(とりあつめ)何(いづ)れ
当月(とうげつ)廿日(はつか)頃(ごろ)迄(まで) ̄ニ者(は)都合(つがう)
仕 差登(さしのぼし)可_レ申候 間(あいだ)今(いま)暫(しばらく)
之 所(ところ)御用赦(ごようしや)可(べく)_レ被(さる)_二成下(なしくだ)_一候 猶(なを)
委(くはしき)儀(ぎ)者(は)貴顔(きがん)之 砌(みぎり)万々(ばん〳〵)
【左丁】
御 断(ことわり)可【二点脱】申上_一候不 備(び)
金子(きんす)借用(しやくよう) ̄ニ遣(つかはす)状
此間(このあいだ)者(は)懸違(かけちがひ)御 遠々敷(とふ〳〵しく)
奉_レ存候 弥(いよ〳〵)御堅達(ごけんたつ)之 段(だん)
奉_二寿慶(じゆけい)_一候 然(しかれ)者(ば)明日(みやうにち)
【右丁】
差掛(さしかゝり)金子(きんす)入用(いりよう)之 儀(ぎ)
出来(しゆつらい)候 間(あいだ)金子(きんす)弐百両(にひやくりやう)
借用(しやくよう)仕 度(たく)候 御勝手(ごかつて)不(ず)
_レ苦(くるしから)候(さふらふ)哉(や)否(いな)御 尋(たづね)申上候
来月(らいげつ)十七日 限(ぎり)返済(へんさい)可
【左丁】
_レ仕(つかまつり)候 利息(りそく)之 儀(ぎ)者(は)可(べく)_レ然(しかる)
可_レ被_二成下(なしくだ)_一候 何分(なにふん)急用(きうよう)之
儀(ぎ) ̄ニ候 得(へ)者(ば)宜(よろしく)御 頼(たのみ)申上候
已上(いじやう)
同返事
【右丁】
御紙面(ごしめん)被_レ 下 拝見(はいけん)仕候
然(しかれ)者(ば)明日(みやうにち)金子(きんす)御 入用(にうよう)之
趣(おもむき)被(され)_二仰遣(おほせつかは)_一奉_二承知(しようち)_一候 然(しかる)所(ところ)
金高(きんだか)三 百両(びやくりやう)御 借受(かりうけ)被(され)下(くだ)
間敷(まじく)候 哉(や)幸(さいわゐ)明日(みやうにち)戻金(もどりきん)
【左丁】
有(あり)_レ之(これ)候 間(あいだ)早速(さつそく)御 間(ま) ̄ニ合(あはせ)
可_レ申候 金高(きんだか)殖(ふえ)候 処(ところ)御承(ごしよう)
引(ゐん)可_レ被_レ 下候 利息(りそく)之 所(ところ)者(は)
随分(ずいぶん)相働(あいはたらき)可_レ申 右(みぎ)御答(ごとう)迄(まで)
如(ごとく)斯(かくの) ̄ニ御座候 恐々(きやう〳〵)
【右丁】
直引(ねびき)申遣(まうしつかはす)状
一筆(いつぴつ)啓上(けいじやう)仕候 弥(いよ〳〵)御安全(ごあんせん)
可(べく)【レ点脱】被(さる)_レ成(な)_二御座_一奉_レ賀(がし)候 然(しかれ)者(ば)
先月(せんげつ)五日 出(で)御荷物(ごにもつ)之 中(うち)
飛沙綾(とびさあや)弐拾反(にじつたん)黒(くろ)三拾 反(たん)
【左丁】
色合(いろあい)悪敷(あしく)御座候《割書:ニ》寄(より)
差登(さしのぼし)もう申候御 取替(とりかへ)被(され)_レ 下(くだ)
度(たく)候 将又(はたまた)空色(そらいろ)羽二重(はぶたへ)
御紋付(ごもんつき)少々(せう〳〵)色濃(いろこく)候《割書:ニ》付(つき)
納(おさまり)兼(かね)甚(はなはだ)難儀(なんぎ)仕候 所(ところ)漸々(やう〳〵)
染物(そみもの)おとしの伝(でん)
〇絹に油の付たるは滑石(くわつせき)の粉を
ふりかけ紙をしきて火のし
にて幾度もなづればおつる也
〇同あらひものは水弐升にしほ
壱合入よく煎て少しさまし扨
油の付たる所をそゝぐべし水
多く入用のときは右のかげんに
してしほをを合すべし
〇魚の汁みそ汁のつきたるは
かぶらをひしぎその汁にて
すゝぐべし
〇墨の付たるは半夏(はんげ)の粉をふり
かけふくみ水にてあらふべし
〇ふしかねおはぐろのつき
たるは米の酢(す)をせんじてあ
らふべし
〇きわだくちなしのしるの付
たるは梅むきの酢にてすゝ
ぐべし
〇つゆの雨にあひてかびくろみ
たるは梅の葉をせんじ出し
てあらふべし
〇白地のものに血朱(ちしゆ)などの
付たるはめしつぶをもみ付
てあらふべし〇又 生姜(しやうが)を
うすくへぎてよごれたる所の
上におけばうつりてぬける
ものなり
〇うるしの付たるはみそを
せんじすましてあらへば
よくおつるなり
〇 柿(かき)しぶのつきたるにはかつを
ぶしをせんじ出してあ
らふべし
〇 藍染(あいそめ)は石灰(いしばい)を水に入てきれ
れを煮れば白く成なり
〇 茶(ちや)染は水に酒を入て煮(に)
れば白く成なり
【左下】
職方(しよくかた)
の
麁(そ)
忽(こつ)
を
侘(わぶ)る
図(づ)
【右丁】
直引(ねびき)致(いたし)候 而(て)相納(あいおさまり)候 事(こと)《割書:ニ》候
右《割書:ニ》付(つき)御無体(ごむたい)《割書:ニ》候 得(へ)ども
拾匁(じうもんめ)御 直引(ねびき)可_レ被_レ 下候 猶(なを)
以来(いらい)誂物(あつらへもの)御念(ごねん)御 入(いれ)被_レ 下
候 様(やう)奉_レ頼(たのみ)候 早々(そう〳〵)不 備(び)
【左丁】
見世(みせ)代呂物(しろもの)尋(たづね)状
以(もつて)_二紙上(しじやう)_一申上候 愈(いよ〳〵)御静寧(ごせいねい)
奉_二珍重(ちんちやう)_一候 此間(このあいだ)御 見世(みせ)
申上候 羅紗(らしや)未(いまだ)相分(あいわか)り不(ず)
_レ申(まうさ)候 哉(や)此節(このせつ)急々(きう〳〵)入用(いりよう)
【右丁】
御座候 間(あいだ)御 返事(へんじ)奉_二待(まち)
入(いり)_一候 中(ちう)之(の)方(かた)者(は)不(ず)_レ苦(くるしから)候 得(へ)共(ども)
上(じやう)之(の)部(ぶ)今日中(こんにちぢう)《割書:ニ》否(いな)哉(や)
御答(ごとう)可_レ被_二成下(なしくだ)_一候 偖(さて)又(また)此間(このあいだ)
福連(ふくれん)納戸(なんど)買入(かいいれ)申候 向(むき)《割書:キ》【衍ヵ】口(くち)
【左丁】
御座 候(さふらは)者(ば)御覧(ごらん) ̄ニ御 出(いで)可
_レ被_レ 下候 早々(さう〳〵)以上
陶器物(とうきもの)積下(つみくだし)頼(たのみ)状
頃日(このごろ)霖雨(りんう)鬱々(うと〳〵)敷(しく)奉
_レ存候 弥(いよ〳〵)以(もつて)御平安(ごへいあん)被_レ成_二御 入(いり)_一
【右丁】
奉_二欣幸(きんかう)_一候 此度(このたび)平戸(ひらど)
得意先(とくいさき)ゟ(より)清水焼(きよみづやき)品々(しな〴〵)
差下(さしくだし)呉(くれ)候 様(やう)頼(たのみ)参(まいり)申候 所(ところ)
手前(てまへ)不 案内(あんない)之 儀(ぎ) ̄ニ而 困(こまり)
入(いり)申候 貴家(きか) ̄ニ者(は)毎々(まい〳〵)御 仕(し)
【左丁】
入(いれ)被(され)_レ成(な)候(さふらへ)者(ば)御 買先(かいさき)之 仁(じん)
御 引付(ひきつけ)被_レ 下 無(なく)_二如在(じよさい)_一致(いた)し
被(られ)_レ呉(くれ)候 様(やう)御 世話(せわ)可_レ被_レ 下候
年々(ねん〳〵)注文(ちうもん)致(いたし)候 趣(おもむき)申 参(まいり)候
間(あいだ)此旨(このむね)可(べく)_レ然(しかる)御 伝言(でんごん)奉_二
【右丁】
頼(たのみ)上_一候以上
同返事
朶雲(だうん)忝(かたじけなく)拝誦(はいじゆ)仕候 弥(いよ〳〵)
御壮康(ごさうかう)幸甚(かうじん)之御 事(こと) ̄ニ候
然(しかれ)者(ば)陶器(とうき)御 仕入(しいれ)之 趣(おもむき)被(され)_二
【左丁】
仰聞(おほせきけ)_一御細簡(ごさいかん)之 旨(むね)承知(しようち)
仕候 幸(さいわゐ)今日(こんにち)序(ついで)御座候へ者(ば)
直様(すぐさま)可_二申 遣(つかはす)_一候 何(なに)之 誰(たれ)与(と)
申(まうす)仁(じん)当時(たうじ)之 細工人(さいくにん) ̄ニ而 至而(いたつて)
見事(みごと) ̄ニ出来(でき)申候 参(まいり)次第(しだい)
【右丁】
遣(つかはし)可_レ申候 間(あいだ)御注文(ごちうもん)品々(しな〴〵)
直段(ねだん)厳敷(きびしく)御 引合(ひきあい)可
_レ被_レ成(な)候 尤(もつとも)篤実(とくじつ)成(なる)仁(じん) ̄ニ候
得(へ)者(は)無(なく)_二御 心置(こゝろをき)_一御 誂(あつらへ)被(され)
_レ遣(つかは)可(べく)_レ然(しかる)候 猶(なを)亦(また)拝眉(はいび)之 砌(みぎり)
【左丁】
御示談(ごじだん)可_二申上_一候 頓首(とんしゆ)
紺屋(こんや)引付(ひきつけ)状
一簡(いつかん)申上候 打続(うちつゞき)不 勝(しようの)
天気(てんき)困入(こまりいり)申候 御全家(ごせんか)
御堅勇(ごけんゆう)珍重(ちんちやう)不(ず)_レ斜(なゝめなら)
【右丁】)
ゝ
奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)此仁(このじん)私(わたくし)方(かた)
廻縁(くわいゑん)之 者(もの) ̄ニ而 此度(このたび)染物(そめもの)
相始(あいはじめ)申候《割書:ニ》付(つき)御 得意方(とくいがた)
引付(ひきつけ)呉(くれ)候 様(やう)相頼(あいたのみ)申候
貴家様(きかさま)《割書:ニ》者(は)御 出入方(でいりかた)茂(も)
【左丁】
多(おゝき)御 事(こと)《割書:ニ》奉_レ存候へ共(ども)何卒(なにとぞ)
御繁用(ごはんよう)之 節(せつ)者(は)少々(せう〳〵)宛(づゝ)
成共(なりとも)為(させ)_二御 染(そめ)_一被 下 候者(さふらはゞ)忝(かたじけなく)
奉_レ存候 無(なく)_二如在(じよさい)_一相働(あいはたらき)可_レ申
儀(ぎ)《割書:ニ》御座候 右(みぎ)以(もつて)_レ参(さんを)御 頼(たのみ)可(べき)_二
【右丁】
申上_一筈(はづ)《割書:ニ》御座候 得(へ)共(ども)乍(ながら)_二
自由(じゆう)_一以(もつて)_二書面(しよめん)_一如(ごとく)_レ斯(かくの) ̄ニ御座候
恐々(きやう〳〵)不具(ふぐ)
同返事
御花墨(ごくわぼく)被(され)_レ 下(くだ)忝(かたじけなく)拝見(はいけん)
【左丁】
仕候 紺屋(こんや)何某(なにがし)今日(こんにち)御 出(いで)
御紙上(ごしじやう)之 趣(おもむき)承知(しようち)仕候
御案内(ごあんない)之 通(とをり)彼是(かれこれ)出入(でいり)
方(かた)も有(あり)_レ之(これ)候 得(へ)共(ども)折(をり)者(は)
手支(てづかへ)候 事(こと)儘(まゝ)有(あり)_レ之(これ)候 幸(さいわゐ)
【右丁】
今日(こんにち)染出(そめいだし)弐拾反(にじつたん)御 頼(たのみ)申
入(いり)候 尤(もつとも)貴家(きか)御 引合(ひきあい)之 儀(ぎ) ̄ニ
御座候 得(へ)者(ば)御如才(ごじよさい)有(ある)間(ま)
敷(じく)奉_レ存候へ共(ども)随分(ずいぶん)御念(ごねん)入(いれ)
被_レ 下候 様(やう)御 序(ついて)之 節(せつ)被【二点脱】
【左丁】
仰含(おほせふくめ)_一可_レ被_レ 下候 右(みぎ)貴報(きほう)迄(まで)
取急(とりいそぎ)早々(さう〳〵)以上
油(あぶら)相場(そうば)為(せ)_レ知(しら)状
以(もつて)_二早便(そうびん)_一申上候 弥(いよ〳〵)御堅栄(ごけんゑい)
之御 事(こと)珍重(ちんちやう)奉_レ存候
【右丁】
先達(せんだつ)而(て)被(られ)_二仰聞(おほせきけ)_一候 油(あぶら)
此節(このせつ)下直(げじき)《割書:ニ》相成(あいなり)申候 故(ゆへ)
御 買入(かいいれ)之 儀(ぎ)如何(いかゞ)《割書:ニ》御座候 哉(や)
御 尋(たづね)申上候 当年(たうねん)種(たね)之
出来(でき)も宜(よろしく)相見得(あいみへ)し候 故(ゆへ)
【左丁】
相場(そうば)余程(よほど)引下(ひきさげ)申候 併(しかし)
下地(したぢ)相乾(あいかはき)有(あり)_レ之(これ)候 事(こと) ̄ニ候へ者(ば)
亦々(また〳〵)盆後(ぼんご) ̄ニ茂(も)相成(あいなり)候(さふらは)者(ば)
引〆(ひきしめ)可_レ申 愚意(ぐい)存候 尚(なを)
御勘考(ごかんこう)之 上(うへ)唯今(たゞいま)之 内(うち)
【右丁】
御 買入(かいいれ)可(べき)_レ然(しかる)哉(や) ̄ニ奉_レ存候
否(いな)御貴報(ごきほう)奉_レ待(まち)候 恐惶(きやうくわう)
京都(きやうと)《割書:江(へ)》売薬(ばいやく)頼(たのみ)状
一筆(いつひつ)啓上(けいじやう)仕候 御全家様(ごせんかさま)
御 揃(そろひ)愈(いよ〳〵)御勇康(ごゆうかう)可(べく)_レ被(さる)_レ遊(あそば)_二
【左丁】
御座_一珍重(ちんちやう)奉_二歓喜(くわんぎ)_一候 然(しかれ)者(ば)
此度(このたび)不思議(ふしぎ)之 事(こと) ̄ニ而 長崎(ながさき)
名医(めいい)入魂(じつこん) ̄ニ相成(あいなり)申候之 処(ところ)
小児(せうに)薬法(やくほう)伝授(でんじゆ)候 ̄ニ付(つき)精々(せい〴〵)
相様(あいためし)見(み)申候 処(ところ)誠(まこと)《割書:ニ》結構(けつかう)之
【右丁】
製法(せいほう) ̄ニ而 功験(こうげん)奇妙(きみやう) ̄ニ御座
候 故(ゆへ)御 地(ち)《割書:江(へ)》茂(も)出店(でみせ)仕 度(たく)存
候 得(へ)共(ども)無人(ぶにん) ̄ニ而 手(て)茂(も)廻(まはり)不(ず)_レ申(まうさ)候
間(あいだ)御面倒(ごめんだう)《割書:ニ》可(べく)_レ有(ある)_二御座_一候
得(へ)共(ども)貴家(きか)御 店(みせ) ̄ニ而御 弘(ひろめ)被_レ 下
【左丁】
間敷(まじき)哉(や)急度(きつと)御 益(ゑき) ̄ニ茂(も)
相成(あいなり)可_レ申候 間(あいだ)分而(わけて)御 頼(たのみ)申
上候 否(いな)哉(や)御報(ごほう)奉_レ頼(たのみ)候 猶(なを)
委細(いさい)者(は)御面談(ごめんだん)可_二申上_一候以上
同返事
【右丁】
御紙面(ごしめん)被_レ 下 忝(かたじけなく)拝読(はいどく)仕候
先(まづ)以(もつて)弥(いよ〳〵)御堅達(ごけんたつ)之 趣(おもむき)珍重(ちんちやう)
奉_レ寿(じゆし)候 然(しかれ)者(ば)小児(せうに)売薬(ばいやく)
之 事(こと)被(され)_二仰(おほせ)下(くだ)_一承知(せうち)仕候
御存(ごぞんじ)之 通(とをり)家内(かない)隙 ̄ニ罷(まかり)在(あり)
【左丁】
候 事(こと)故(ゆへ)何(なに)哉(がな)見世商(みせあきなひ) ̄ニ而 茂(も)
可(べく)_レ仕(つかまる)存念(ぞんねんに)罷(まかり)在(あり)候 処(ところ)幸(さいにひ)【注】之
御 儀(ぎ) ̄ニ候(さふら)得(へ)者(ば)随分(ずいぶん)御 世話(せわ)
可_レ仕候 迚(とて)茂(も)之御 事(こと)看板(かんばん)等(とう)
立派(りつぱ) ̄ニ御 拵(こしらへ)被_レ 下 度(たし)何(いづ)れ
【注 「さいわひ」の誤ヵ】
【右丁】
御光来(ごくわうらい)可_レ被_レ 下 拝眉(はいび)万々(はん〳〵)
御示談(ごじだん)可_レ申候 不(ず)_二取敢(とりあへ)_一貴答(きとう)
迄(まで)如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ御座候 頓首(とんしゆ)
江戸(ゑど)舟積(ふなづみ)案内(あんない)状
一筆(いつぴつ)啓上(けいじやう)仕候 益(ます〳〵)御安康(ごあんかう)
【左丁】
被(され)_レ遊(あそば)_二御座_一幸慶(かうけいの)御 儀(ぎに)奉_レ存候
然(しかれ)者(ば)番船(ばんふね)来月(らいげつ)十日 出船(しゆつせん) ̄ニ
御座候 ̄ニ付(つき)三日 迄(まで) ̄ニ積切(つみきり)申候
間(あいだ)御荷物(ごにもつ)早々(そう〳〵)御 差出(さしいだし)可
_レ被_レ 下候 当年(たうねん)者(は)荷物(にもつ)殊外(ことのほか)
【右丁 上段】
【囲みの中の見出し】潮汐(しほとき)暗記(そらおぼへ)之(の)法(ほふ)
其日の数に四をかけて十にみつる
ものを一時と定(さだ)め朝の五ツ時
より順(じゆん)にかぞへ端(はした)あるものは其
時の何分(なんぶ)と知るべしたとへば今
十三日のしほは何時ぞといふに
まづ十三に四をかくれば五十二
と成これを五ッ時よりくりはじ
む十(五ッ)二十(四ッ)三十(九ッ)四十(八ッ)五十(七ッ)とかぞへみ
れば十三日は七ッ二分のしほ也と
知るべし夫(それ)より四時すぎて夜(よる)
の四ッ二分を干(ひ)しほと知るべし
余(よ)はいづれもこれに同じ但し
朝しほ七ッ二分なれば夕しほも
七ッ二分と心得べし
【囲みの中の見出し】年中(ねんぢう)風雨(ふうう)之(の)考(かんがへ)
○日の出を見るに色あかきは雨色
黄なるは大風 青(あを)きは雨風くも
【左丁 上段】
多きは風くもおほくやふるゝは
雨そらあかきは風そら黄な
るは雨かみなり
○日の入を見るに雲多きは雨雲
みだるゝは風くものねなきははれ
雲の中に入りても夕やけよくすれば
ふらざることもあり日入てのち
西あかくして次第(しだい)にうすくなる
ははれあかくしてやがてくらく
なるは雨日の高入りするごとく
見ゆるはひよりかわるなり
○風雨北よりふくははれ東風は
雨但しつゆと土用(どよう)とにはふり
つゞきたる雨もあがるものなり
風くもにさき立てふくは雨雲
におくるゝははれ
○雲たちのぼりてきゆればはれ
みだれてとぶは大風みづまきは
雨一天に雲なくはれて青き
は三日の内に雨ふるなり
【右丁 下段 挿絵のみ】
【左丁 下段】
早綿(はやわた)
出船(しゆつせん)
之(の)図(づ)
【右丁】
多(おほく)御座候 ̄ニ付(つき)後(をく)れ候 得(へ)者(は)
跡舟(あとふね) ̄ニ相成(あいなり)申候 尤(もつとも)追積(おいづみ)者(は)
廿二三日 頃(ごろ) ̄ニ御座候 此段(このだん)御承(ごせう)
知(ち)可_レ被_レ 下候 右(みぎ)御案内(ごあんない)申
上 度(たく)如(ごとく)_レ斯(かくの)御座候以上
【左丁】
同返事
御状(ごじやう)被_レ 下 令(せしめ)_二拝見(はいけん)_一候 弥(いよ〳〵)以(もつて)
御安全(ごあんせん)之御 事(こと)珍重(ちんちやう)奉_レ存候
然(しかれ)者(ば)出船(しゆつせん)之 儀(ぎ)為(せ)_二御 知(しら)_一被_レ 下
承知(せうち)仕候 則(すなはち)昨日(さくじつ)荷物(にもつ)悉(こと〴〵く)
【右丁】
指出(さしいだし)申候 定(さため)而(て)今日(こんにち)着(ちやく)可
_レ仕奉_レ存候 宜(よろしく)御 頼(たのみ)申入候
且(かつ)荷物(にもつ)之 儀(ぎ)者(は)不(ず)_レ残(のこら)出(いだ)し
申候 故(ゆへ)追積(おいづみ)者(は)無(なく)_二御座_一
候 間(あいだ)此段(このだん)御承知(ごせうち)可【レ点脱】被_レ 下候
【左丁】
右(みぎ)御報(ごほう)迄(まで)如(ごとくに)_レ此(かくの)御座候以上
大坂(おほさか)《割書:江(へ)》旅宿(りよしゆく)頼(たのみ)状
一簡(いつかん)啓達(けいだつ)仕候 其后(そののち)者(は)
御疎遠(ごそゑん)奉_レ存候 春暖(しゆんだん)之 砌(みぎり)
御 揃(そろひ)御壮剛(ごさうかう)可【レ点脱】被_レ成(な)_二御座_一
【右丁】
奉_レ賀(がし)候 何角与(なにかと)多用(たように)取紛(とりまぎれ)
御(ご)不 沙汰(さた)之 段(だん)御用捨(ごようしや)可_レ被_レ 下候
然(しかれ)者(ば)此度(このたび)主家(しゆか)之 後室(こうしつ)
御 地(ち)見物(けんぶつに)参(まいり)度(たき)旨(むね)被(され)_レ申(もふ)候 ̄ニ付(つき)
両(りやう)三日之 内(うち)出坂(しゆつぱん)仕候 始(はじめ)而(て)之
【左丁】
儀(ぎ)《割書:ニ》付(つき)暫(しばらく)逗留(とうりう)被(され)_レ致(いた)候(さふら)得(へ)者(ば)
何卒(なにとぞ)奇麗(きれい)成(なる)宜(よろしき)旅宿(りよしゆく)
御 世話(せわ)被_レ 下 度(たく)偏(ひとへ) ̄ニ御 憑(たのみ)
申上候 上下(じやうげ)七 人(にん)下拙(げせつ)《割書:も| 御》供(とも)
仕候 着(ちやく)船(せん)之 上(うへ)御左右(ごさう)可
【右丁】
_レ仕 直様(すぐさま)旅宿(りよしゆく)《割書:江(へ)》御案内(ごあんない)
被_レ 下候 様(やう)奉_二頼(たのみ)上_一候 恐々(きやう〳〵)
同返事
鴈墨(がんぼく)忝(かたじけなく)拝見(はいけん)仕候 如(ごとく)_レ仰(おほせの)
其後(そののち)者(は)打絶(うちたへ)御 物遠(ものどふに)奉
【左丁】
【レ点脱】存候 先(まづ)以(もつて)愈(いよ〳〵)御堅勝(ごけんせう)之 趣(おもむき)
奉_レ寿(じゆし)候 然(しかれ)者(ば)御本家(ごほんけ)後室(こうしつ)様(さま)
御下坂(ごげはん) ̄ニ付(つき)御 宿(やど)之 儀(ぎ)被(され)_二仰(おほせ)
下(くだ)_一承知(しようち)仕候 幸(さいはひ)懇意(こんい)之
方(かた) ̄ニ此節(このせつ)普請(ふしん)も出来上(できあが)り
【右丁】
申候而 甚(はなはだ)奇麗(きれい) ̄ニ相成(あいなり)尤(もつとも)
諸事(しよじ)叮嚀(ていねいに)取扱(とりあつかひ)致(いたし)候 方(かた)
御座候 得(へ)者(ば)可_二申 付(つけ)置(をく)_一候
為(せ)_二御 知(しら)_一次第(しだい)直様(すぐさま)御案内(ごあんない)
可_一申上_一候已上
【左丁】
年始状(ねんしじやう)
新春(しんしゆん)之(の)御慶賀(ぎよけいが)不(ず)_レ可(べから)
_レ有(ある)_二尽期(じんご)御座_一目出度(めでたく)
申(まうし)籠(こめ)候(さふらふ)先(まづ)以(もつて)其(その)御表(おんおもて)
御渾家(ごこんか)御揃(おんそろひ)弥(いよ〳〵)御勇健(ごゆうけん)
【右丁】
可(べく)_レ被(さる)_レ遊(あそば)_二御超歳(ごちやうさい)_一珍重(ちんちやう)之(の)
御儀(おんぎに)奉(たてまつり)_レ寿(じゆし)候 然(しかれ)者(ば)例年(れいねん)
之(の)通(とをり)日記(につき)筆(ふで)五十 対(つい)
進上(しんじやう)_レ之(これを)仕(つかまつり)候 聊(いさゝか)年玉(ねんぎよく)之
証(しるし)迄(まで)《割書:ニ》御座(ござ)候 猶(なを)不(ず)_二相変(あいかはら)_一
【左丁】
御用向(ごようむき)被(られ)_二仰付(おほせつけ)_一被(され)_レ 下(くだ)候(さふらふ)様(やう)
奉(たてまつり)_二願上(ねがひあげ)_一候 先(まづ)者(は)年頭(ねんとう)
御祝詞(ごしうし)申上(まうしあげ)度(たく)如(ごとく)_レ是(かくの)《割書:ニ》
御座(ござ)候 猶(なを)期(ごし)_二永春(ゑいしゆん)之(の)時(ときを)_一候
恐惶謹言(きやうくわうきんげん)
【右丁】
同(おなじく)返事(へんじ)
御祝書(ごしうしよ)忝(かたじけなく)拝読(はいどく)仕候
如(ごとく)_二来命(らいめいの)_一改暦(かいれき)之(の)御吉賀(ごきつか)
一天(いつてん)同風(どうふう)重畳(ちやうでう)目出度(めでたく)
申 収(おさめ)候 其(その)御 表(おもて)御家内(ごかない)様(さま)
【左丁】
弥(いよ〳〵)御安泰(ごあんたい)被(され)_レ成(な)_二御迎歳(ごかうさい)_一
奉_二歓賀(くわんが)_一候 次(つぎ)《割書:ニ》爰元(こゝもと)無(なく)_二
異儀(いぎ)_一重年(ちやうねん)仕候 乍(ながら)_レ憚(はばかり)
御安慮(ごあんりよ)可_レ被_二成下(なしくだ)_一候 然(しかれ)者(ば)
為(して)_二御嘉例(ごかれいと)_一御年玉(ごねんぎよく)之 品(しな)
【右丁】
被_二送下(をくりくだ)【一点脱】辱(かたじけなく)幾久(いくひさしく)受納(じゆなふ)
仕候 先(まづ)者(は)右(みぎ)御 礼(れい)御祝(ごしう)
詞(し)旁(かた〴〵)如(ごとく)_レ斯(かくの) ̄ニ御座候 猶(なを)期(ごし)_二
陽春(ようしゆん)之 時(ときを)_一候 恐々謹言(きやう〳〵きんげん)
五月 節句(せつく)祝義(しうぎ)状
【左丁】
一筆(いつひつ)啓上(けいじやう)仕候 端午(たんご)之
御祝儀(ごしうぎ)目出度(めでたく)奉_レ存候
先(まづ)以(もつて)其(その)御 許(もと)御壮健(ごさうけん)
奉_一【二点の誤】欣幸(きんかう)_一候 別而(べつして)当節(たうせつ)者(は)
御 和子(わこ)様(さま)之 御嘉義(ごかぎ)
【右丁】
奉_レ寿(じゆし)候 依而(よつて)甚(はなはだ)麤末(そまつ)之
至(いたり)《割書:ニ》候 得(へ)共(ども)破魔弓(はまゆみ)弐挺(にてう)
進上(しんじやう)仕候 嘸(さぞ)賑々敷(にぎ〳〵しく)為(せ)_二
御 錺(かざり)_一候半(さふらはん)と於(おゐて)_二爰元(こゝもとに)_一茂(も)
折角(せつかく)御 噂(うわさ)申 居(い)候 先(まづ)者(は)
【左丁】
右(みぎ)御 歓(よろこび)申上 度(たく)如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ御座候
乍(ながら)_二末筆(まつひつ)_一殿方(どなた)様(さま)《割書:江(へ)》茂(も)可
_レ然(しかる)御伝声(ごでんせい)可_レ被_レ 下候不 具(ぐ)
同返事
菖蒲(あやめ)之 為(して)_二御祝義(ごしうぎと)_一
【右丁】
御状(ごじやう)被_レ 下 忝(かたじけなく)披覧(ひらん)仕候
愈(いよ〳〵)御堅剛(ごけんかう)被_レ成_二御座_一
大慶(たいけい)之 至(いたりに)奉_レ存候 偖(さて)者(は)
倅(せがれ)【注】《割書:江(へ)》為(して)_二御 祝(いはひと)_一見事(みごと)之
御 品(しな)被(られ)_レ懸(かけ)_二御意(ぎよいに)_一御深情(ごしんしやう)
【左丁】
之 程(ほど)忝(かたじけなき)次第(しだいに)奉_レ存候 幾(いく)
久(ひさしく)拝納(はいなふ)仕候 家内(かない)ゟ(より)茂(も)宜(よろしく)
御 礼(れい)申上候 様(やう)申 聞(きけ)候 猶(なを)
貴面(きめん)之 節(せつ)万々(ばん〳〵)御 礼(れい)可_二
申上_一候 条(でう)粗(ほゞ)貴答(きとう)迄(まで)如(ごとく)
【悴は俗字】
【右丁】
_レ是(かくの)《割書:ニ》御座候 恐々(きやう〳〵)不 備(び)
九月 節句(せつく)祝儀(しうぎ)状
重陽(ちやうよう)之御 佳祥(かしよう)目出度(めでたく)
申 納(をさめ)候 益(ます〳〵)御静謐(ごせいひつ)被(され)
_レ遊(あそば)_二御座_一歓幸(くわんかう)之御 儀(ぎに)
【左丁】
奉_レ寿(じゆし)候 誠(まこと)《割書:ニ》貴家(きか)様(さま) ̄ニ者(は)
定而(さだめて)后(のち)之 雛(ひいな)被(され)_レ遊(あそば)_二御 祭(まつり)【一点脱】
候 半(はん)与(と)奉_レ察(さつし)候 仍而(よつて)甚(はなはだ)
咲(さき)乱(みだれ)候 得(へ)共(ども)庭前(ていぜん)之(の)菊(きく)
進呈(しんてい)仕候御 慰(なぐさみに)相成(あいなり)候(さふらは)者(ば)
【右丁】
大慶(たいけい)仕候 右(みぎ)御 祝辞(しうじ)
為(ため)_二可申上_一呈(ていし)_二愚札(ぐさつを)_一候
不詳謹言(ふしやうきんげん)
同返事
貴翰(きかん)忝(かたじけなく)拝誦(はいじゆ)仕候 弥(いよ〳〵)以(もつて)
【左丁】
御安静(ごあんせい)珍重(ちんちやう)奉_レ存候
然(しかれ)者(ば)為(して)_二重九(ちやうきう)之 御祝(ごいはひと)_一
御庭前(ごていぜん)之菊花(きくのはな)二 種(しゆ)
被(され)_二贈下(をくりくだ)_一御厚志(ごこうし)忝(かたじけなく)奉
_レ存候 幸(さいはひ)只今(たゞいま)来客(らいきやく)在(あり)
【右丁】
_レ之(これ)候《割書:ニ》付(つき)直様(すぐさま)移(うつし)_二瓶中(へいちうに)【一点脱】
持賞(もてなし)一入(ひとしほ)歓悦(くわんえつ)仕候 且(かつ)
為(たる)_レ差(さし)儀(ぎ)茂(も)無(なく)_二御座_一候 得(へ)共(ども)
若(もし)御閑隙(ごかんげき)《割書:ニ》茂(も)御座(ごさ)候(さふらは)者(ば)
些々(ちと〳〵)御来降(ごらいがう)可_レ被_レ 下候
【左丁】
麤酒(そしゆ)一献(いつこん)呈進(ていしん)仕 度(たく)候
先(まづ)者(は)御 礼答(れいとう)猶(なを)御来駕(ごらいか)
之 程(ほど)奉_レ待(まち)候 頓拝(とんはい)
婚礼(こんれい)祝義(しうぎ)状
一筆 啓上(けいじやう)仕候 今般(こんぱん)
婚礼(こんれい)式之(しきの)心得(こゝろえ)
それ婚礼は人間(にんげん)三礼の一にして一
生のはれ事なれども元来(ぐはんらい)子(し)
孫(そん)相続(さうぞく)のためなれば努々(ゆめ〳〵)おごる
べからずさりとて又 倹約(けんやく)にすぐ
べからず唯(たゞ)身分(みぶん)相応(さうおう)をまもる
こと肝要(かんえう)なりその作法(さほふ)貴賤(きせん)
ともに際限(かぎり)あるべからずといへ
ども極略(ごくりやく)にして闕(かく)ましき式を
あらまし左にしるす
結納(たのみ)の式は身のほどをあらはすの
はじめなればよく〳〵仲人(なかうど)に相(さう)
談(だん)して婚礼の式 相応(さうおう)に過不(くわふ)
及(きう)なきやうにとりはからふべし
扨当日になりて夫婦(ふうふ)座(ざ)に着(つけ)ば
まづ手がけ三ッ盃(さかづき)を出し夫(をつと)上
の盃を取そめて三 献(こん)のみ嫁(よめ)に
さす嫁また三献のむべし次に
雑煮(ざふに)を出し嫁二の盃を取そ
めて夫婦たがひに三献づゝのむ
べし次に吸物(すひもの)を出し夫下の
盃を取そめてたがひに三献づゝ
のむべし是(これ)にて三々九 度(ど)の式
すむなり扨 色直(いろなを)しの心もち
にて夫婦 座(ざ)をあらため両家(りやうけ)の
親類(しんるい)とも盃事あり此ときは
盃一ッを小角(こかく)にすへて出しとり
ざかな等もあるべし扨 本膳(ほんぜん)を出
す尤(もつとも)嫁は高もりたるべし次に
菓子(くわし)茶(ちや)など出しておの〳〵
退散(たいさん)すべし其後(そのゝち)床盃(とこさかづき)の式
あるべしこれも盃一ッ小角にすへ
取肴(とりざかな)等にて出す此時は嫁より
はじめて夫へ盃をさすなり
銚子(てうし)提子(ひさげ)のかわりに間鍋を用
ゆべし蝶花形(てうはながた)高貴(かうき)のかざり
つけなれば下ざまにてははばか
りて用ゆべからず凡(すべて)礼は其分限(そのぶんげん)
を犯(おか)すを以て非(ひ)とすること思(おも)ふべし
【右頁下段】
婚(こん)
礼(れい)
之(の)
図(づ)
【右丁】
御婚礼(ごこんれい)首尾(しゆび)克(よく)被_レ遊_二
御 整(とゝのひ)_一千鶴万亀(せんくはくばんき)目出(めで)
度(たく)奉_レ存候 随而(したかつて)軽少(けいせう)之
至(いたり)御座候 得(へ)共(ども)御 扇子(せんす)一 箱(はこ)
鰹節(かつほぶし)一 台(だい)和紙(わし)五 束(そく)
【左丁】
進-上(しんじやう)_レ之(これを)仕候 聊(いさゝか)祝義(しうぎの)
証(しるし)迄(までに)御座候 右(みぎ)御 歓(よろこび)申
上 度(たく)如(ごとくに)_レ斯(かくの)御座候 恐惶(きやうくわう)
謹言(きんげん)
同 礼(れい)状
【右丁】
尊翰(そんかん)忝(かたじけなく)拝披(はいひ)仕候 此度(このたび)
如(ごとく)_二御承意(ごせういの)_一拙者(せつしや)婚礼(こんれい)無(なく)
_レ滞(とゞこふり)相済(あいすみ)候 為(して)_二御祝義(ごしうぎと)_一
目録(もくろく)之 通(とをり)被(され)_二饋下(をくりくだ)_一千万(せんばん)
辱(かたじけなく)幾久(いくひさしく)受納(じゆなふ)仕共 親共(おやども)
【左丁】
ゟ(より)茂(も)宜(よろしく)御 礼(れい)申上候 様(やう)申
付(つけ)候 直様(すぐさま)以(もつて)_レ参(さんを)御 礼(れい)可_二申
上_一筈(はづ) ̄ニ候 得(へ)共(ども)何角(なにか)取紛(とりまぎ)れ
乍(ながら)_二失敬(しつけい)_一以(もつて)_二書面(しよめん)_一御報(ごほう)如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ
御座候 恐々謹言(きやう〳〵きんげん)
【右丁】
元服(げんぶく)歓(よろこび)状
以(もつて)_二手簡(しゆかん)_一申上候 秋冷(しうれい)之 砌(みぎり)
弥(いよ〳〵)御壮昌(ごさうしよう)可_レ被_レ成(な)_二御座_一奉_二
大幸(たいかう)_一候 今日(こんにち)者(は)就(つき)_二吉辰(きつしんに)_一
御子息(ごしそく)様(さま)御元服(ごげんぶく)被_レ成候
【左丁】
由(よし)目出度(めでたき)御 儀(ぎに)奉_レ存候
定而(さだめて)克(よく)被(され)_レ成(な)_二御 似合(にあい)_一候 半(はん)与(と)
奉_レ察(さつし)候 此(この)品(しな)甚(はなはだ)見苦鋪(みぐるしく)
候 得(へ)共(ども)聊(いさゝか)御 祝(いはひの)印(しるし)迄(まで)進覧(しんらん)
仕候 猶(なを)后刻(ごこく)拝面(はいめん)御 歓(よろこび)
【右丁】
可_二申上_一候 頓首(とんしゆ)
同返事
朶雲(だうん)忝(かたじけなく)致(いたし)_二拝見(はいけん)_一候 弥(いよ〳〵)
御昌栄(ごしやうゑい)之御 事(こと)珍重(ちんちやう)
不(ず)_レ斜(なゝめなら)奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)悴(せがれ)義(ぎ)
【左丁】
為(せ)_レ致(いたさ)_二元服(げんぶく)_一候 為(して)_二御 祝(いはひと)_一重宝(ちやうほうの)
御 品(しな)御 恵(めぐみ)被(され)_レ 下(くだ)御悃志(ごこんし)之
段(だん)千万(せんばん)忝(かたじけなく)奉_レ存候 就(つき)_レ夫(それに)
乍(ながら)_レ序(ついで)申上候 明後日(みやうごにち)為(たる)_レ差(さし)
御奔走(ごほんそう)茂(も)無(なく)_二御座_一候 得(へ)共(ども)
【右丁】
麤酒(そしゆ)進上(しんじやう)申 度(たく)候 間(あいだ)乍(ながら)_二
御苦労(ごくらう)_一御光駕(ごくわうが)可_レ被_レ 下候
右(みぎ)御 礼(れい)御案内(ごあんない)旁(かた〴〵)粗(あら〳〵)如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ
御座候不 備(び)
安産(あんさん)歓(よろこび)状
【左丁】
以(もつて)_二手紙(てがみ)_一申上候 御令室(ごれいしつ)様(さま)
御 事(こと)御平産(ごへいさん)被_レ成 殊更(ことさら)
御男子(ごなんし)御出生(ごしゆつしやう)之 由(よし)嘸々(さぞ〳〵)
御満足(ごまんぞく)目出度(めでたく)奉_レ存候
弥(いよ〳〵)御両所(ごりやうしよ)様(さま)共(とも)御機嫌(ごきけん)能(よく)
【右丁】
御 肥立(ひだち)可_レ被_レ成 珍重(ちんちやう)不(ず)_レ過(すぎ)
_レ之(これに)奉_レ存候 随而(したがつて)軽微(けいびの)至(いたり)《割書:ニ》
御座候 得(へ)共(ども)御 肴(さかな)一 折(をり)御 祝(いはひの)
書印(しよゐん)迄(まで)進上(しんじやう)仕候 猶(なを)拝(はい)
眉(び)之 節(せつ)万慶(ばんけい)可_二申上_一候
【左丁】
恐々(きやう〳〵)不 具(ぐ)
同返事
御懇書(ごこんしよ)被_レ 下 忝(かたじけなく)披覧(ひらん)
仕候 愚妻(ぐさい)就(つき)_二平産(へいさんに)_一為(して)_二
御 嘉儀(かぎと)_一見事(みごと)之御 肴(さかな)
【右丁】
被(られ)_レ懸(かけ)_二貴慮(きりよに)_一御深情(ごしんじやう)忝(かたじけなく)
受納(じゆなふ)仕候 猶(なを)期(ごし)_二貴面(きめんを)_一御 礼(れい)
可_二申上_一候 条(でう)御家内(ごかない)様(さま)《割書:江(へ)》
宜(よろしく)御 伝声(でんせい)可_レ被_レ 下奉
_レ頼(たのみ)候 早々(そう〳〵)不 宣(せん)
【左丁】
家(いへ)買得(ばいとく)悦(よろこび)状
一筆 致(いたし)_二啓達(けいだつ)_一候 春寒(しゆんかん)
之 節(せつ)愈(いよ〳〵)御安静(ごあんせい)被(され)_レ成(な)_二
御座_一大慶(たいけい)奉_レ存候 兼而(かねて)
被(られ)_二仰聞(おほせきけ)_一候 何町(なにまち)家屋鋪(いへやしき)
【右丁】
此度(このたび)御買得(ごばいとく)被_レ成候之 由(よし)
重畳(ちやうでう)目出度(めでたき)御 儀(きに)奉_レ存候
勿論(もちろん)御商売(ごしようばい)向(むき)御勝手(ごかって)等(とう)
能(よき)所柄(ところがら) ̄ニ而 一入(ひとしほ)御満悦(ごまんえつ)与(と)奉_二
寿察(じゆさつ)_一候 早速(さつそく)御 歓(よろこび)旁(かた〴〵)
【左丁】
上京(じやうきやう)可_レ仕候 処(ところ)此日(このごろ)荷物(にもつ)
積込(つみこみ)最中(さいちう)《割書:ニ》付(つき)以(もつて)_二書章(しよしやう)_一
御 歓(よろこび)申上候 就(つき)而(て)者(は)此節(このせつ)
沢山(たくさん)成(なる)品(しな)《割書:ニ》御座候 得(へ)共(ども)
鯛(たい)十 枚(まい)奉進(ほうしん)仕候 誠(まこと)《割書:ニ》
【右丁】
御 祝(いはひの)験(しるし)迄(までに)御座候 恐々(きやう〳〵)
謹言(きんげん)
同返事
玉章(ぎよくしやう)辱(かたじけなく)令(せしめ)_二拝覧(はいらん)_一候
然(しかれ)者(ば)先達而(せんだつて)御 噂(うわさ)申上候
【左丁】
売家(うりいへ)漸々(やう〳〵)致(いたし)_二買得(ばいとく)_一候 義(ぎ)
疾(とく)及(および)_二御 聞(きゝ)_一種々(しゆ〴〵)預(あづかり)_二御 祝(いはひに)_一
忝(かたじけなく)奉_レ存候 兼而(かねて)御 噺(はなし)申
上候 通(とをり)商売向(しやうばいむき)諸事(しよじ)
便利(べんり)能(よく)御座候而 大慶(たいけい)御 察(さつし)
【右丁】
之 通(とふり) ̄ニ御座候 近々(きん〳〵)手代(てだい)共(ども)
差下(さしくだし)候 得(へ)者(ば)帰京(ききやう)之 刻(きざみ)
御同道(ごどう〳〵)御入来(ごじゆらい)可_レ被(さる)_レ 下奉_二
待入(まちいり)_一候 先(まづ)者(は)右(みぎ)御 酬答(しうとう)申(まうし)
上 度(たく)如(ごとくに)_レ此(かくの)御座候已上
【左丁】
別家(へつけ)歓(よろこび)状
以(もつて)_二愚章(ぐしやう)_一申入候 貴公(きこう)様(さま)
今度(こんど)御別宅(ごべつたく)被_レ成候 段(だん)
目出度(めでたく)奉_レ存候 誠(まことに)年来(ねんらいの)
御勤功(ごきんこう)故(ゆへ)御主人(ごしゆじん)様(さま)《割書:ニ》も
【右丁】
御 歓(よろこび)之 程(ほど)奉_レ察(さつし)候 将又(はたまた)
近日(きんじつ)御 店開(みせびらき)茂(も)被_レ成候 由(よし)
重畳(ちやう〴〵の)御 事(こと)奉_レ寿(じゆし)候 就(つき)_レ夫(それに)
甚(はなはだ)以(もつて)麤抹(そまつ)之 品(しな)《割書:ニ》候 得(へ)ども
十露盤(そろばん)一 挺(てう)御酒(ごしゆ)一 樽(そん)
【左丁】
進入(しんにう)仕候 聊(いさゝか)御 歓(よろこび)可_二申 伸(のぶ)_一
寸志(すんし)迄(まで)《割書:ニ》御座候 謹言(きんげん)
同返事
貴簡(きかん)忝(かたじけなく)奉_二拝読(はいどく)_一候 弥(いよ〳〵)
御壮栄(ごさうゑい)被(され)_レ遊(あそば)_二御座_一幸甚(かうじんの)
【右丁】
御 儀(ぎに)奉_レ存候 此度(このたび)主人(しゆじん)ゟ(より)
別宅(べつたく)被(られ)_二申 付(つけ)_一大慶(たいけい)仕候
儀(ぎ) ̄ニ御座候 因(よつて)_レ茲(これに)種々(しゆ〴〵)別而(べつして)
重宝(ちやうほう)之 品(しな)御恵投(ごゑとう)被_レ 下
御厚篤(ごこうとく)之 段(だん)不(ず)_レ浅(あさから)辱(かたじけなく)
【左丁】
拝納(はいなふ)仕候 尚(なを)不(ず)_二相変(あいかはら)_一御懇(ごこん)
意(い)被_二成下(なしくだ)_一度(たく)奉_レ願(ねがひ)候 国本(くにもと)
両親(りやうしん)此節(このせつ)参居(まいりい)候而 御厚(ごこう)
慮(りよ)之 程(ほど)《割書:私(わたくし)ゟ(より)》宜(よろしく)御 礼(れい)可_二
申上_一候 様(やう)申 付(つけ)候 委曲(いきよく)以(もつて)_二
老人食物(らうじんしよくもつ)之(の)製法(せいほふ)
〇一切うみ魚(うを)をほねまでやはら
かにするには山査子(さんさし)を二三 粒(りう)
入て煮(に)るべし頭(かしら)せぼねまでも
やはらかにしてしかも魚毒(うをのどく)を
解(げ)すゆへあたることなし
〇一切川魚をやはらかにする
には米泔水(しろみづ)に醤油(しやうゆう)をかげん
して煮るべしかしらもほねも
やはらかになりで小ぼねとい
へども舌(した)にさはることなし
〇あわびをやはらかにするには
貝(かい)をはなし大根(だいこん)にてよくたゝ
くべしいたつてやはらかに成也
〇たこをやはらかにするには備(び)
前(ぜん)すりばちのかけを入て煮る
べし又醤油のかげんをせんじ
茶(ちや)にてしかけ煮るべしいづ
れもよくやはらぎ箸(はし)にて
はさみ切らるゝなり
〇 昆布(こんぶ)をやはらかに煮るには先(まづ)
一 枚(まい)のまゝあらはずに水より入
てたきよくにへたる時水にてよく
あらひざつとほし扨 鮒(ふな)などを
つゝみて煮るべし
〇万年(まんねん)味噌(みそ)の伝(でん)
大豆壱升白米五合此二品をよく
むし箱(はこ)にてもむしろにてもかけて
ねやし花の付たるとき上酒と
醤油と合せ壱升四合にかうじ五合
を入よくかきまぜ風の入らぬやうに
しこみ置(おき)なれ次第(しだい)になむべし
〇 梨子(なし)煉(ねり)の法(ほふ)
梨子をわさびおろしにてすり
しるをしぼりて百匁 生姜(しやうが)のしぼ
り汁(しる)廿匁 氷(こほり)おろし一 斤(きん)この三
品をつちなべに入すみ火にてたき
せつかいにて手をやすめず底(そこ)を
まはすべし飴(あめ)のごとく成なり
【右頁の下段】
年(ねん)
賀(が)
寿(じゆ)
筆(ひつ)
之(の)
図(づ)
【右丁】
参謁(さんえつ)_一可_二申上_一候 頓拝(とんはい)
年賀(ねんが)状
一書(いつしよ)啓上(けいじやう)仕候 益(ます〳〵)御康寧(ごかうねい)
可_レ被_レ成_二御座_一欣幸(きんかう)之御 儀(ぎに)
奉_レ存候 御尊父(ごそんぷ)様(さま)七旬(しちじゆん)之
【左丁】
御 賀(が)《割書:ニ》付(つき)明(みやう)廿日(はつか)参上(さんじやう)可_レ仕
様(やう)御 招(まねき)被_レ 下 忝(かたじけなく)奉_レ存候 誠(まことに)
御機嫌(ごきげん)能(よく)古来(こらい)稀(まれ)成(なる)
御 齢(よはひ)乍(ながら)【レ点脱】不(ず)_レ及(およば)愚詠(ぐゑい)一首(いつしゆ)入(いれ)_二
貴覧(きらんに)_一申候 尚(なを)拝顔(はいがん)万々(ばん〳〵)
【右丁】
御 歓(よろこび)等(とう)可_二申 述(のぶ)_一粗(ほゞ)如(ごとく)_レ斯(かくの)《割書:ニ》
御座候 恐々謹言(きやう〳〵きんげん)
同返事
御芳札(こはうさつ)辱(かたじけなく)拝見(はいけん)仕候
先(まづ)以(もつて)御安康(ごあんかう)被(され)_レ成(な)_二御座_一候
【左丁】
御 事(こと)奉_二大悦(たいゑつ)_一候 然(しかれ)者(は)老人(らうじん)
年賀(ねんが)之 為(して)_二御 祝(いはひと)_一結構(けつかう)之
御 寿衣(じゆい)被_二贈下(をくりくだ)_一御懇切(ごこんせつ)之
程(ほど)幾久(いくひさしく)受納(しゆなふ)仕候 下拙(けせつ)ゟ(より)
宜(よろしく)御 礼(れい)可_二申上 様(やう)_一申 付(つけ)候
【右丁】
右(みぎ)御 請(うけ)迄(まで)如(ごとく)_レ此(かくの)御座候
恐々頓首(きやう〳〵とんしゆ)
留主(るす)見舞(みまひ)状
愈(いよ〳〵)御安昌(ごあんしやう)被_レ遊(あそば)_二御座_一珍重(ちんちやう)
奉_レ賀(がし)候 然(しかれ)者(ば)御子息(ごしそく)様(さま)
【左丁】
御 儀(ぎ)先比(せんころ)ゟ(より)田舎(でんじや)表(おもて)《割書:江(へ)》御 越(こし)
被_レ成候而御 留主中(るすちう)定(さだめ)而(て)
御 淋敷(さびしく)可(べく)_レ有(ある)_二御座_一奉_レ察(さつし)候
御乗船(ごじやうせん)後(ご)者(は)天気(てんき)克(よく)
早速(さつそく)彼地(かのち)可_レ被_レ遊(あそば)_二御 着(ちやく)_一
【右丁】
奉_レ存候 此間(このあいだ)ゟ(より)御 見舞(みまひ)
可_二申上_一筈(はづ)之 処(ところ)時分(じぶん)多用(たように)
取粉(とりまぎれ)存外(ぞんぐわい)之 御(ご)不 沙汰(さた)
真平(まつぴら)御 免(めん)可_レ被_レ 下候 偖(さて)者(は)
不(ざる)_レ珍(めづらしから)【珎は俗字】品(しな)《割書:ニ》御座候 得(へ)共(ども)鯖鮓(さばのすし)
【左丁】
一 箱(はこ)懸(かけ)_二 御 目(めに)_一申候 猶(なを)当用(たうよう)
得(え)_二手透(てすきを)_一候者(さふらはゞ)以(もつて)_レ参(さんを)万々(ばん〳〵)
可_二申(まうし)承(うけたまはる)_一候 先(まづ)者(は)御尋問(ごじんもん)
旁(かた〴〵)如(ごとく)此(かくの) ̄ニ御座候已上
同返事
【右丁】
如(ごとく)_二尊諭(そんゆの)_一漸々(やう〳〵)春寒(しゆんかん)退(しりぞき)
申候 処(ところ)御壮健(ごさうけん)被_レ成_二御 入(いり)_一
幸甚(かうじん)之 至(いたりに)奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)
悴(せがれ)義(ぎ)無(なき)_レ拠(よんどころ)用向(ようむき)在(あり)_レ之(これ)候
《割書:ニ》付(つき)西国(さいこく)筋(すじ)《割書:江》罷下(まかりくだり)申候
【左丁】
仰(おほせ)之 通(とをり)出立(しゆつたつ)後(ご)追日(ついじつ)暖気(だんきに)
相成(あいなり)天気(てんき)等(とう)茂(も)相続(あいつゞき)大悦(たいゑつ)
奉_レ存候 就(つき)_レ夫(それに)留主中(るすちう)為(して)【二点脱】
御尋問(ごじんもんと)_一好物(こうぶつ)之 一種(いつしゆ)送(をくり)給(たまはり)
千万(せんばん)忝(かたじけなき)次第(しだいに)奉_レ存(ぞんじ)候 早速(さつそく)
【右丁】
拝味(はいみ)可_レ仕 相楽(あいたのしみ)申候 猶(なを)
殿方様(どなたさま)《割書:江(へ)》茂(も)乍(ながら)_レ憚(はゞかり)宜敷(よろしく)
御伝詞(ごでんし)奉_レ頼(たのみ)候不 具(ぐ)
病人(びやうにん)見舞(みまひ)状
寸書(すんしよ)を以(もつて)申上候 秋冷(しうれい)之 砌(みぎり)
【左丁】
愈(いよ〳〵)御勇剛(ごゆうかう)可_レ被_レ成(な)_二御座_一
奉_レ賀(がし)候 然(しかれ)者(ば)誰様(たれさま)御 事(こと)
先頃(せんころ)ゟ(より)御病気(ごびやうき)之 由(よし)嘸(さぞ)
御心配(ごしんぱい)奉_二推察(すいさつ)_一候 早速(さつそく)
御 見舞(みまひ)可_二申上_一本意(ほんい) ̄ニ
【右丁】
御座候 処(ところ)下拙儀(けせつぎ)も頃日(このごろ)者(は)
被(され)_レ犯(おか)_二風邪(ふうじやに)_一引籠(ひきこもり)居(い)申候
《割書:ニ》付(つき)以(もつて)_二愚章(ぐしやう)_一御 尋(たづね)申上候
御如在(ごしよさい)無(なき)_レ之(これ)御 儀(ぎ) ̄ニ候 得(へ)ども
御老体(ごらうたい)之御 事(こと)御 介抱(かいほう)
【左丁】
一入(ひとしほ)専一([せ]んいち)之御 事(こと) ̄ニ奉_レ存候
且(かつ)軽少(けいせう)之 品(しな)《割書:ニ》御座候 得(へ)共(ども)
砂糖(さとう)一 箱(はこ)御 見舞(みまひ)書印(しよゐん)迄(まで)
進呈(しんてい)仕候 愚母(ぐぼ)より茂(も)宜(よろしく)
可_二申上_一様(やう)申 付(つけ)候以上
【右丁】
同返事
御悃書(ごこんしよ)相達(あいたつし)忝(かたじけなく)拝披(はいひ)
仕候 貴境(ききやう)弥(いよ〳〵)御安康(ごあんかう)先(まづ)以(もつて)
奉_レ賀(がし)候 然(しかれ)者(ば)病人(びやうにん)義(ぎ)御 尋(たづね)
被_レ 下 忝(かたじけなく)奉_レ存候 先頃(せんころ)者(は)
【左丁】
甚(はなはだ)容子(ようす)悪敷(あしく)御座候 処(ところ)
朋友(ほうゆう)懇意(こんい)之 医師(いし)至而(いたつて)
巧者(こうしや)之 由(よし)相勧(あいすゝめ)被_レ申候 故(ゆへ)相頼(あいたのみ)
申候 処(ところ)夫(それ)ゟ(より)次第(しだい) ̄ニ食事(しよくじ)等(とう)
相勧(あいすゝみ)頃日(このごろ) ̄ニ而者 余程(よほど)快気(くわいき) ̄ニ
【右丁】
趣(おもむき)候 間(あいだ)先(まづ)御安慮(ごあんりよ)可_レ被_二成下(なしくだ)_一候
且(かつ)為(して)_二御 見舞(みまひと)_一御 菓子(くわし)被
_レ 下 忝(かたじけなく)奉_レ存候 厚(あつく)御 礼(れい)申
上候 様(やう)申 聞(きけ)候 右(みぎ)御報(ごほう)為(ため)_レ可(べき)_二
申上_一如(ごとく)_レ此(かくの) ̄ニ御座候以上
【左丁】
疱瘡(ほうさう)見舞(みまひ)状
以(もつて)_二手紙(てがみ)_一申上候 愈(いよ〳〵)御清健(ごせいけん)
被_レ成_二御座_一奉_二欣賀(きんが)_一候 然(しかれ)者(ば)
御愛子(ごあいし)様(さま)御疱瘡(ごほうさう)之 由(よし)
承知(せうち)仕候 暖気(だんきの)折柄(をりから)《割書:ニ》而
【右丁】
殊(こと) ̄ニ御 出物(でもの)茂(も)美敷(うつくしく)御座
候 由(よし)御同慶(ごどうけい)奉_レ存候 随而(したがつて)
乍(ながら)_二麤末(そまつ)_一御 菓子(くわし)《割書:并(ならびに)》御 手遊(てあそび)
人形(にんぎやう)一 箱(はこ)御 見廻(みまい)印(しるし)迄(まで)
入(いれ)_二貴覧(きらんに)_一申候 御笑納(ごせうなふ)可_レ被
【左丁】
【レ点脱】下候 恐々頓首(きやう〳〵とんしゆ)
同返事
御 剪紙(せんし)忝(かたじけなく)奉_二拝覧(はいらん)_一候
然(しかれ)者(ば)悴(せがれ)儀(ぎ)此間(このあいだ)ゟ(より)致(いたし)_二疱瘡(ほうさう)_一
候 処(ところ)御 尋(たづね)被_レ 下 忝(かたじけなく)奉_レ存候
疱瘡(ほうさう)之(の)妙薬方(みやうやくはう)
小児(せうに)にわかにさむけだちにわか
に熱(ねつ)を発(はつ)し目を見つめ一日に
二三度もたえ入り身(み)もだへあく
びしおどろきさわぎすはぶきし
はなひり両(りやう)のあぎとあかくみゝ
ひゆるは疱瘡のしるしなり
発熱(ほとをり) 三日 見點(でそろひ) 三日
貫膿(みづもり) 三日 起脹(やまあげ) 三日
収靨(うせ) 三日 以上日数十五日
これ日数(ひかず)の常(つね)にしてやまひの正(たゞ)
しきものなり其(その)おもきものは
日数の際限(かぎり)あるべからず又いたつ
てかろきものは右の日数をまた
ずうせるといへども十五日めに酒(さか)
湯(ゆ)をして神(かみ)を送(をく)るへきものとぞ
〇疱瘡(ほうさう)を除(のぞ)く方(はう)
梨枝(なしのえだ)《割書:々一束|七本 》 梅枝(むめのえだ) 同上
小豆(あづき)七粒 鼠糞(ねずみのふん) 七ッ
右四味に白水□かゞみのいゑの
ふたにて七はい□せんして行
水すべし疱瘡をのがるゝ也
〇同かろくする奇方(きはう)
紅花(べにのはな)弐分 牛房子(ごばうのみ)弐分
陳皮(ちんひ)十匁 枳殻(きこく)十匁
黒豆(くろまめ)弐合 青大豆(あをまめ)弐合
桑木(くわのき)長さ壱尺 桃木(もゝのき)同上
桑桃ともすへのくちにて三分はかりの枝
右八味に水五升入て三升に
せんじ小児の惣身(さうみ)をのこらず
あらふべし
〇伸応湯(しんおうとう)
黄岑(わうごん)《割書:壱分七り| 》甘艸(かんざう)《割書:あぶりて|壱分七り》
唐大黄(からだいわう)《割書:男子ならば六分八り|女子ならば壱匁》
右三味 細末(さいまつ)してもみのきれ
につゝみふり出して五度にも
七度にものますべし大(たい)ていは
疱瘡をのがるべしたとへ出る共
いたつてかろし
【右項下段】
疱瘡(ほうさう)
神(かみ)
送(をくり)
之(の)
図(づ)
【右丁】
御 蔭(かげ) ̄ニ而 殊(こと)之 外(はか)軽(かろく)日立(ひだち)
申候而 大悦(たいゑつ)仕候 右(みぎ)《割書:ニ》付(つき)為(して)_二
御 見舞(みまひと)_一色々(いろ〳〵)結構(けつかう)之 品(しな)
被_レ懸(かけ)_二貴意(きいに)_一御芳情(ごはうせい)之 段(だん)
忝(かたじけなく)奉_レ存候 猶(なを)一両日(いちりやうにち)中(ぢう)以(もつて)_二
【左丁】
参上(さんじ[や]う)_一拝眉(はいび)万々(ばん〳〵)御 礼(れい)可_二
申 謝(しやす)_一候已上
火事(くわじ)見廻(みまい)状
以(もつて)_二愚札(ぐさつ)_一申上候 其(その)御 地(ち)御 揃(そろひ)
御安剛(ごあんかう)被_レ遊(あそば)_二御座_一恭慶(きやうけい)
【右丁】
御 儀(ぎに)奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)当月(たうげつ)
三日 夜(よ)出火(しゆつくは)御座候 由(よし)承知(せうち)
仕 驚入(おどろきいり)申候 別而(べつして)御近辺(ごきんぺん) ̄ニ而
嘸(さぞ)御周障(ごしうしやう)之 程(ほど)奉_二遠察(ゑんさつ)_一候
乍(ながら)_レ併(しかし)早速(さつそく)相(あい)鎮(しづまり)御無難(ごぶなん)
【左丁】
之 趣(おもむき)御同慶(ごどうけい)奉_レ存候 乍(ながら)_二
延引(ゑんいん)_一御 見舞(みまひの)書印(しよいん)迄(まで)昆布(こんぶ)
十 把(ぱ)進上(しんじやう)仕候 右(みぎ)御 見廻(みまい)迄(まで)
如(ごとく)_レ斯(かくの)御座候 謹言(きんげん)
同返事
【右丁】
貴書(きしよ)辱(かたじけなく)拝読(はいどく)仕候 弥(いよ〳〵)
御全家(ごせんか)御安静(ごあんせい)之 段(だん)珍重(ちんちやう)
奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)先月(せんげつ)爰元(こゝもと)
出火(しゆつくは)之 事(こと)及(および)_二御 聞(おきゝ)_一早速(さつそく)
御 尋(たづね)被_レ 下 忝(かたじけなく)奉_レ存候 近辺(きんへん)
【左丁】
 ̄ニ而 誠(まこと)《割書:ニ》騒動(そうどう)仕候 乍(ながら)_レ去(さり)其(その)
節(せつ)者(は)風(かぜ)茂(も)無(なく)_レ之(これ)候 故(ゆへ)格(かく)
別(べつ)之 大火(たいくわ) ̄ニ茂(も)不(ず)_二相成(あいなら)_一私宅(したく)
無難(ぶなん)《割書:ニ》相遁(あいのがれ)怪我人(けがにん)越(も)【茂の誤ヵ】
無(なく)_二御座_一候 間(あいだ)乍(ながら)_レ憚(はゞかり)御休意(ごきうい)
【右丁】
可_レ被_二成下(なしくだ)_一候 右(みぎ)御 礼答(れいとう)迄(まで)
如(ごとく)_レ是(かくの) ̄ニ御座候 恐々(きやう〳〵)
暑気(しよき)見舞(みまひ)状
一筆 啓達(けいだつ)仕候 甚暑(じんしよ)之
節(せつ)御座候 処(ところ)益(ます〳〵)御勇健(ごゆうけん)
【左丁】
可_レ被_レ成_二御座【一点脱】珍重(ちんちやう)御 儀(ぎに)奉
_レ存候 随而(したがつて)不(ざる)_レ珍(めづらしから)品(しな) ̄ニ候 得(へ)共(ども)
西瓜(すいくは)三 聊(いさゝか)御 見舞(みまひ)証(しるし)迄(まで)
懸(かけ)_二御 目(めに)_一申候 誠(まこと)《割書:ニ》当年(たうねん)者(は)
大暑(たいしよ)難(がたき)_レ堪(たへ)御 事(こと)折角(せつかく)
【右丁】
御 凌(しのぎ)可_レ被_レ成候 先(まづ)者 暑中(しよちう)
御尋問(ごじんもん)旁(かた〳〵)如(ごとく)是(かくの) ̄ニ御座候不 宣(せん)
同返事
貴墨(きぼく)忝(かたじけなく)披見(ひけん)仕候 如(ごとく)_二来(らい)
意(いの)_一酷暑(こうしよ)難_レ凌(しのぎ)御座候 処(ところ)
【左丁】
弥(いよ〳〵)御安栄(ごあんゑい)之 段(だん)奉_二慶賀(けいが)_一候
然(しかれ)者(ば)土用中(どようちう)為(して)_二御尋問(ごじんもんと)_一
何寄(なにより)之御 品(しな)御 恵贈(けいぞう)被_レ 下
毎々(まい〳〵)御厚情(ごこうせい)忝(かたじけなく)拝納(はいなふ)仕候
別而(べつして)好物(こうぶつ) ̄ニ候 得(へ)者(ば)不(ず)_二打置(うちおか)_一
【右丁】
賞翫(しやうくわん)可_レ仕候 尚(なを)貴面(きめん)之
節(せつ)御 礼(れい)可_二申 伸(のぶ)_一候不 備(び)
寒気(かんき)見舞(みまひ)状
一筆 致(いたし)_二啓上(けいじやう)_一候 厳寒(げんかん)之
節(せつ)《割書:ニ》候 得(へ)共(ども)御渾家(ごこんか)様(さま)御 揃(そろひ)
【左丁】
弥(いよ〳〵)御清勝(ごせいせう) ̄ニ可_レ被_レ成_二御座_一奉_二
敬賀(けいが)_一候 因(よつて)_レ茲(これに)麤微(そび)之 至(いたりに)
御座候 得(へ)共(ども)鶏卵(けいらん)五拾
入(いれ)_二貴覧(きらんに)_一候 寔(まこと)《割書:ニ》寒中(かんちう)之
御安否(ごあんぴ)御 尋(たづね)申上候 印(しるし)迄(まで)
【右丁】
御座候 御笑留(ごせうりう)可_レ被_レ 下候
次第(しだいに)寒気(かんき)相増(あいまし)候 得(へ)者(ば)
随分(ずいぶん)御自愛(ごじあい)肝要(かんようの)御 事(こと) ̄ニ
御座候 恐々(きやう〳〵)謹言(きんげん)
同返事
貴撽(きげき)【注】忝(かたじけなく)致(いたし)_二薫読(くんどく)_一候 仰(おほせ)
之 通(とをり)甚寒(じんかん)凌(しのぎ)兼(かね)候之 処(ところ)
愈(いよ〳〵)御静康(ごせいかう)被_レ成(な)_二御座_一奉_二珍【珎は俗字】
賀(が)_一候 然(しかれ)者(ば)寒中(かんちう)為(して)_二御 尋(たづねと)_一
御 国(くに)名産(めいさん)之 品(しな)種々(しゆ〴〵)
【注 撽は音「キョウ」、檄は音「ゲキ」。】
【右丁】
被_二御 送(をくり)下_一忝(かたじけなく)奉_レ存候 此程(このほと)ゟ(より)
別而(べつして)寒気(かんき)烈敷(はげしく)老衰(らうすい)之
我等(われら)甚(はなはだ)困入(こまりいり)申候 貴家(きか) ̄ニ茂(も)
折角(せつかく)御 凌(しのぎ)可_レ被_レ成候 先(まづ)者(は)
御 礼(れい)申上 度(たく)尚(なを)貴顔(きがん)之 刻(きざみ)
【左丁】
万謝(ばんしや)可_二申 述(のぶ)_一候不 悉(しつ)
参宮(さんぐう)留 主(す)見廻(みまい)状
一筆 啓上(けいじやう)仕候 暖和(だんわ)之 節(せつに)
相成(あいなり)候 所(ところ)御盛家(ごせいか)為(せ)_二御 揃(そろは)_一
御安寧(ごあんねい)之御 旨(むね)珍重(ちんちやう)【珎は俗字】御 儀(ぎ)
【右丁】
不(ず)_レ斜(なゝめなら)奉_レ存候 然(しかれ)者(ば)太々(だい〳〵)
神楽(かぐら)御執行(ごしゆぎやう)《割書:ニ》付(つき)御 子息(しそく)様(さま)
御参宮(ごさんぐう)被_レ成候 由(よし)御道中(ごどうちう)
天気続(てんきつゞき)等(とう)御都合(ごづかう)能(よく)一入(ひとしほ)之
御 慰(なぐさみ)等(とう)可_レ有(ある)_レ之(これ)奉_レ察(さつし)御 羨(うらやま)
【左丁】
敷(しく)奉_レ存候 随而(したがつて)麤相(そさう)之 品(しなに)
御座候 得(へ)共(ども)鮮魚(せんぎよ)一籠(いつこ)聊(いさゝか)
御 見舞(みまひ)印(しるし)迄(まで)懸(かけ)_二御 目(めに)_一申候
且(かつ)相応(そうおう)之 御用(ごよう)等(とう)候はゞ無(なく)_二
御遠慮(ごゑんりよ)_一御申 付(つけ)可_レ被_レ 下候
【右丁】
恐々(きやう〳〵)不 具(ぐ)
同返事
御使札(ごしさつ)被_レ 下 致(いたし)_二拝誦(はいじゆ)_一候
益(ます〳〵)御堅昌(ごけんしよう)奉_二歓賀(くわんが)_一候然者
近所(きんじよ)ゟ被_二相誘(あいさそは)候《割書:ニ》付(つき)娘(むすめ)義(ぎ)
【左丁】
抜参(ぬけまいり)仕候 処(ところ)御承知(ごせうち)被_レ 下 為(して)_二
御 見舞(みまひと)_一珍敷(めづらしき)佳肴(かかう)被_二贈(をくり)
下(くだ)_一深(ふかく)辱(かたじけなく)奉_レ存候 今日(こんにち)幸(さいはひ)
宮廻(みやめぐ)りに御座候 間(あいだ)打寄(うちより)心(こゝろ)
祝(いはひ)可_レ仕存 居(い)候 処(ところ)早速(さつそく)賞(しやう)
【右丁】
翫(くわん)可_レ仕候 何(なに)茂(も)不_レ仕候 得(へ)共(ども)
御勝手(ごかつて)不(ず)_レ苦(くるしから)候者(さふらはゞ)御光来(ごくわうらい)
可_レ被_レ 下奉_レ待(まち)候不 具(ぐ)
餞別(せんべつ)遣(つかは)す状
以(もつて)_二手簡(しゆかん)_一申上候 弥(いよ〳〵)御堅剛(ごけんかう)
【左丁】
珍重(ちんちやう)奉_レ賀候 然(しかれ)者(ば)此度(このたび)
御主人(ごしゆじん)様(さま)御用(ごよう)付(つき)御遠方(ごゑんほう)《割書:江(へ)》
御旅行(ごりよかう)之 由(よし)御苦労(ごくらう)之御 儀(ぎに)
奉_レ存候 依(よつて)_レ之(これに)梅枝(むめかえ)田麩(でんぶ)一曲(いつきよく)
進(しん)-上(じやう)_レ之(これを)仕候 御道中(ごどうちう)御 携(たづさへ)
【右丁】
被_レ 下候 者(ば)大悦(たいえつ)仕候 聊(いさゝか)御 餞(はなむけ)
申上 度(たく)尚(なを)後刻(ごこく)以(もつて)_二参上(さんじやう)_一
御 暇乞(いとまごひ)可_二申上_一候以上
同返事
貴墨(きぼく)忝(かたじけなく)拝見(はいけん)仕候 野子(やし)義(ぎ)
【左丁】
此度(このたび)主家(しゆか)用向(ようむき) ̄ニ付(つき)国本(くにもと)《割書:江(へ)》
罷越(まかりこし)候 儀(ぎ)御 聞及(きゝをよび)被_レ 下 何寄(なにより)
重宝(ちやうほう)之 預(あづかり)_二御餞別(ごせんべつに)_一忝(かたじけなく)奉
_レ謝(しやし)候 暫(しばらく)留主中(るすちう)万事(ばんじ)
御 心添(こゝろぞへ)奉_レ希(こゐねがひ)候 何(いづ)れ来月(らいげつ)
【右丁】
中旬(ちうじゆん)迄(まで)者 相懸(あいかゝり)申候 宜(よろしく)
奉_二頼(たのみ)上_一候以上
馳走(ちそうに)逢(あひ)たる礼(れい)状
以(もつて)_二寸書(すんしよを)_一申上候 弥(いよ〳〵)御康寧(ごかうねい)
可_レ被_レ遊(あそば)_二御座_一欣幸(きんかう)之儀(ぎ)
【左丁】
奉_レ存候 誠(まこと)《割書:ニ》此間(このあいだ)者(は)不斗(ふと)
参上(さんじやう)仕候 処(ところ)折節(をりふし)御 客来(きやくらい)
《割書:ニ》付(つき)結構(けつかう)之 御相伴(ごしやうばん)被_二仰付(おふせつけ)【一点脱】
種々(しゆ〴〵)御馳走(ごちそう)之 上(うへ)御 仕舞(しまひ)等(とう)
拝見(はいけん)仕 難(がたく)_レ有(あり)奉_レ存候 右(みぎ) ̄ニ付
【右丁】
殊(こと)之 外(ほか)及(をよび)_二深更(しんかうに)_一御家内(ごかない)様(さま)
嘸(さぞ)御疲労(ごひろう)被_レ遊(あそば)候半(さふらはんと)奉_レ察(さつし)候
早速(さつそく)御 礼(れい)罷出(まかりいで)可_レ申之 条(でう)
一両日(いちりやうにち)仲間(なかま)寄合(よりあひの)儀(ぎ)在(あり)_レ之(これ)
及(および)_二遅滞(ちたいに)_一候之 故(ゆへ)乍(ながら)_二略儀(りやくぎ)_一先(まづ)
【左丁】
以(もつて)_二書中(しよちう)_一如(ごとくに)_レ是(かくの)御座候 乍(ながら)_レ憚(はばかり)
御一統(ごいつとう)様(さま)《割書:江(へ)》宜(よろしく)被_二仰上(あふせあげ)_一被_レ 下
度(たく)奉_レ希(こいねがひ)候 恐々(きやう〳〵)
月 日
【貼付のメモ書】
ちはやふる
四月八日吉日と
髪【紙とあるところ】さげ虫を
せうばいをする
【右丁】
《割書:商家|必用》万(よろづ)手形(てがた)案文(あんもん) 全壱冊
前(さき)に手形鑑(てがたかゞみ)ありといへども其(その)文言(もんごん)迂遠(まはりどを)にして肝要(かんえう)の事を
欠(かき)たりゆへに今これを改正(かいせい)して必用(ひつよう)の証文手形(しようもんてがた)をあまた輯(あつ)め
并(ならび)に認様(したゝめやう)料紙(りやうし)判形(はんぎやう)の心得(こゝろえ)等《振り仮名:数ヶ条|すかてう》 を付録(ふろく)して当用(とうよう)の便利(べんり)に備(そな)ふ
【縦線有り】
《割書:絵入|文章》日(につ) 本(ほん) 往(わう) 来(らい) 全壱冊
此書(このほん)は日本六十 余州(よしう)の名所(めいしよ)旧跡(きうせき)神社(じんじや)仏閣(ぶつかく)名物(めいぶつ)名産(めいさん)国郡(こくくん)風(ふう)
土(ど)物成(ものなり)石高(こくだか)等を幼童(ようどう)児女(じぢよ)もこれを熟習(じゆくしう)すれば諸国(しよこく)の地名(ちめい)を諭(さと)し
おのづから手ならひ稽古(けいこ)のたよりともなる百家(ひやくか)通用(つうよう)の好本(こうほん)なり
【縦線有り】
寺子(てらこ)庭訓往来(ていきんのわうらい) 全壱冊
此庭訓は児童(じどう)手習([て]ならひ)のために普通(ふつう)御家(おいへ)の書風(しよふう)をえらびたる善本(ぜんほん)なり
【左丁】
【囲みに中】
平安 竜章堂閑斎書【陽刻丸印】洒【陰刻角印】美暢
之印
【囲みの中】
浪華 荑揚斎関牛画【陽刻角印】子【陰刻角印】徳
偃 風
【囲みの中】
彫工 浪花 市田治郎兵衛【陰刻角印】市
田
文政十二己丑年正月発行
《割書:心斎橋通順慶町南へ入》
塩屋喜助
大阪書林 《割書:心斎橋通唐物町南へ入》
河内屋太助
【裏表紙】
【冊子購入者の記録と思われる文言。不鮮明な文字有るにより、解読出来る所の飜刻を以て「翻刻完了」とする。】
弘化元年
辰六月吉日求之
《題:《割書:■町》佐藤卯八《割書: |達》》
【上から8~9文字不鮮明】求之
【表紙】
【目録欄に上下段の区切り線、一行ずつの罫線、全体の囲みを省略す】
和国賢女優詞 進物積様之図式
兼房歌道感得図 女三十六歌仙
歌道濫触【觴の誤記ヵ】略由 女中平生身持鑑
目 百首略解并家系 七夕乞巧奠和歌
近江八景図并歌 大和御所言葉
十二月景物和歌 五性名之文字
録 伊勢物語初段図 教歌婦人誰身の上
古今集六歌僊 婚礼式法指南
源氏引哥并香図 十二月往答文章
三夕之図并和歌 小笠原流折形図
色紙短冊之寸法 祝言島台之図式
【題箋】
《割書: 女今川状|百人一首| 女手習状》女教小倉色紙 全
【右丁】
倭国(わこく)賢女(けんじょ)
水無月(みなづき)廿日(はつか)余(あま)りある
殿上人(てんしようびと)きさいの宮(みや)へ参り
けるに女房(にようほう)の通(とを)り
しをかくれてのぞ
きゐける遣水(やりみづ)に
蛍(ほたる)のすだく飛(とび)
かふを見て
さきの女房(にようぼう)
ゆゝしの蛍(ほたる)や
雪(ゆき)を集(あつ)め
たるやうに
とて過(すぎ)けり
次(つぎ)は銀河(ぎんが)
水(みづ)くらうしてと
いふ次(つぎ)は夕殿(せきでん)に
【左丁】
蛍(ほたる)とんでと口
すさむ跡(あと)なる
かくれぬ物(もの)は夏(なつ)
虫(むし)のといひける
優(やさ)しく覚(おぼ)へ
男(おとこ)ねづなきし
ければ物おそろし
ほたるにも
声(こえ)のありける
よとおぼめきける今ひ
とりの女房(にようぼう)なく虫よりも
思(をも)ひなりと取(とり)なしける世人
清少納言(せいしやうなごん)紫式部(むらさきしきぶ)赤染(あかそめ)
衛門(ゑもん)伊勢大輔(いせのたゆふ)和泉式部(いづみしきぶ)
馬(むま)の内侍(ないし)にてあり
けると
なり
【右丁】
讃岐守(さぬきのかみ)兼房(かねふさ)和歌(わか)に
こゝろをよすれとも哥(うた)
上達(しやうたつ)しがたきをなげき
人麿(ひとまろ)を信(しん)じければ
夢中(むちう)に梅花(ばいくわ)のちり
しきたる所(ところ)に人麿
のたゝずみ給(たま)ふを
拝(はい)して後(のち)に読(よみ)し
歌(うた)みな秀哥(しうか)ならず
といふ事なしこれを
里(さと)の海士(あま)の人麿と
いふとかや
梅(むめ)の花(はな)それとも見えず
久(ひさ)かたのあまきる雪(ゆき)の
なべてふれゝば
此哥(このうた)は里(さと)の海士(あま)の人麿(ひとまろ)の哥(うた)といへり
【左丁】
和歌(やまとうた)の始(はしまり)は古今集(こきんしう)の
序(ぢよ)に此うた天地(あめつち)の
ひらけはじまりける
時(とき)よりいできにけりと
書(かき)たり久(ひさ)かたの
天(あめ)にしては下照姫(したてるひめ)に
始(はしま)りけれど文字(もじ)も
さだかならさりしに
素盞烏尊(そさのをのみこと)
出雲国(いづものくに)に宮作(みやづくり)し給ふとき
八色(やいろ)の雲(くも)たつを
御覧(ごらん)じて
八雲立(やくもたつ)いづも八重垣(やへがき)
つまごめに八重垣つくる
そのやへかきを
此(この)御神詠(ごしんえい)より三十一文字(みそひともじ)に定(さだま)り侍りける
【右丁】
【頭部に右から横書きに標題】
近江八景
【色紙に書ける歌 上段】
唐崎(からさきの)夜雨(よるのあめ)
夜(よる)のあめに
おとを
ゆづりて
夕風(ゆふかぜ)を
余所(よそ)に
名(な)たつる
からさきの松(まつ)
三井(みゐの)晩鐘(ばんしやう)
おもふその
暁(あかつき)契(ちぎ)る
はゝ女(め)【別本「はじめ」】
まづ ぞと
きく
三井の
入相(いりあひ)のかね
【同 下段】
石山(いしやまの)
秋月(あきのつき)
いしやまや
にほの海(うみ)てる
月(つき)
明石(あかし)も 影(かげ)
須磨(すま) は
も
ほか
ならぬ かは【別本「かな」】
矢橋(やばせの)帰帆(きはん)
真帆(まほ)かけ【別本「ひき」ここに注記を書きます】て
やばせに
帰(かえ)る
ふねは
今(いま)
打出(うちで)の
浜(はま)を
跡(あと)の追風(おひかぜ)
【左丁 上段】
比良(ひらの)暮雪(ぼせつ)
雪(ゆき)はるゝ
比良(ひら)の
高根(たかね)の
花(はな)の
さかり 夕くれ
に は
すぐる
ころかな
粟津(あわづの)晴嵐(せいらん)
雲(くも)はらふ
あらしに
つれて
もゝ
千船(ちふね)も 船も
波(なみ)の
あわつにぞ
よる
【同 下段】
堅田(かたたの)
落(らく)
雁(がん)
峯(みね)あまた
越(こえ)て
こしぢにまづ
ちかき
かたゝに
なびき
おつる
かりがね
勢田(せたの)夕照(せきしやう)
露(つゆ)しぐれ
もる【ママ】山
遠(とふ)く
過(すぎ)き
夕日 つゝ
の
わたる
勢田の
長橋(ながはし)
【右丁】
【頭部標題 右から横書き】
十二月(じうにつき)異名(ゐめう)并(ならび) ̄ニ和歌(わか)
【色紙書き 上段】
正月(しやうくわつ)
睦月(むつき)
初空(はつそら)月
初見(はつみ)月
春(はる)を得(え)て
けふたてまつる
若水(わかみづ)に
千(ち)とせの
影(かげ)やまづうかぶらん
七種(なゝくさ)
君(きみ)が為(ため)なゝつの
朝(あさ)の
七草(なゝくさ)に
猶(なを)つみそへん
万代(よろつよ)の
はる
【同 下段】
屠蘇(とそ)
春(はる)ごとに
けふなめ
初(そむ)る
くすり子(こ)の
わかへつゝ見ん
君(きみ)がためとか
蓬莱(ほうらい)
亀(かめ)山とも喰(くひ)つみ
とも
いふ
亀山(かめやま)にいく薬(くすり)のみ
ありければ
とゞむるかたも
なき
別(わかれ)かな
【左丁 上段】
二月 《割書:衣更着(きさらぎ) 梅見月(むめみづき)|小草生(こぐさおひ)月》
山桜(やまざくら)いまぞ
ひらくる枝(えだ)
かはす
柳(やなぎ)の
まゆも
花(はな)の
こゝろも
早蕨(さわらび)
やまざとは野辺(のべ)の
さわらび
もえいづる
折(をり)にのみこそ
人(ひと)は問(とひ)ける
【同 下段】
梅(むめ) あやめ
られ
つゝ
梅(むめ)の花(はな)
にほふあたり
の
夕ぐれは
あや
なく
人に
鴬(うくひす)
春(はる)たてば
雪(ゆき)の下水(したみづ)
うち
たにの とけて
うぐひす
今(いま)ぞ
啼(なく)なる
【右丁 上段】
三月 《割書:弥生(やよひ) 桜(さくら)月|花見(はなみ)月》
斧(おの)の柄(え)も
かくてや人(ひと)の
朽(くち)しけん
山路(やまぢ)おほゆる
春(はる)の空(そら)かな
曲水(きよくすい)
春(はる)を経(へ)て
みなかみ遠(とふ)く
成(なり)に
けり
ながれに
うかふ
花(はな)のさかづき
【同 下段】
桃花(もゝのはな)
故郷(ふるさと)の
はなのものいふ
世(よ)なりせば
いかに
むかしの
事(こと)をとはま
し
藤(ふぢ) かゝる
藤(ふぢ)
浪(なみ)
水底(みなそこ)も
むらさき
ふかく
岸(きし) 見ゆる
の
岩(いわ) かな
根(ね)
に
【左丁 上段】
四月 《割書:卯(う)月 卯の花(はな)月|花残(はなのこり)月》
しら波の
おとせで立(たつ)と
見へつるは
卯(う)の花(はな)
咲(さか)る
垣(かき) けり
根(ね)なり
遅桜(おそざくら)
こゝろして
ほかの散(ちり)なむ
後(のち)に咲(さく)
青葉(あをば)の山(やま)の
おそさくら
かな
【同 下段】
更衣(もろもかえ)
我(われ)のみそ
いそぎたゝ
れぬ
夏 ころも
ひとへに
春(はる)を 身(み)
なれ
おしむ ば
葵(あふひ)
けふといへは緑(みどり)
すゞしくかけ
わたす
簾(みす)のあふひの
色(いろ)も
めづら
し
【右丁 上段】
五月 《割書:皐月(さつき) 立花(たちはな)月|月見(つきみ)す月》
磨きなす玉江(たまえ)の
浪(なみ)の十寸(ます)かゞみ
けふより影(かげ)や
うつし初(そめ)けん
橘(たちばな)
にはのおもに
咲(さく)たちはなの
しるきかな
桜(さくら)にならぶ
花とお
もへは
【同 下段】
菖蒲(しやうぶ)
万代(よろつよ)に
かわらぬものは
五月雨(さみだれ)の
雫(しつく)に薫(かほ)る
あやめなり
けり
蛍(ほたる)
おともせず
おもひにもゆる
ほたるこそ
なくむしよりも
あわれなり
けり
【左丁 上段】
六(ろく)月 《割書:水無月(みなつき) 風待(かぜまち)月|鳴神(なりかみ)月 常夏(とこなつ)月》
夏(なつ)の日(ひ)に
なるまてきへぬ
冬籠(ふゆこもり)【篭は俗字】
春(はる)たつ
風(かせ)や
よきて 吹(ふく)らむ
扇(あふぎ) いかで
こめ
うちはとも けん
みへぬあふぎの
ほどなきに
すゝしき
かせを
【同 下段】
夕立(ゆふだち)
谷川(たにかわ)の
流(ながれ)をみても
しられ
けり
雲(くも)越(こす)
峯(みね)の
夕立(ゆふたち)の空(そら)
蝉(せみ)
村雨(むらさめ)の名残(なこり)の
露(つゆ)は
かづおちて
梢(こすへ)に とまる
蝉(せみ)の
もろ声(こゑ)
【右丁 上段】
七月(しちぐわつ) 《割書:文月(ふみづき)|七夕(たなばた)月》
《割書:涼(すゝみ)月 女郎花(をみなめし)月》
とことはに吹(ふく)夕暮(ゆふぐれ)の
風(かぜ)なれと
秋(あき)立(たつ)
日(ひ)こそ
涼(すゞ)しかりけれ
蘭(らん)
主(ぬし)しらぬ
香(か)こそ
にほえれ
誰(たが) 秋(あき)の
脱(ぬぎ) 野に
かけ 藤(ふぢ)
し はかま そも
【同 下段】
七夕(たなばた)
秋(あき)の夜(よ)をながき
物(もの)とは星合(ほしあひ)の
影(かげ)見(み)ぬ
人の
いふにぞ
有(あり)ける
薄(すゝき)
鶉(うづら)なく
真野(まの)の
入江の
尾花(をはな) 浜(はま)
浪(なみ) 風(かぜ)
よる に
秋(あき)の夕(ゆふ)ぐれ
【左丁 上段】
八月(はちぐわつ) 《割書:葉月(はづき)|秋風(あきかぜ)月|月見(つきみ)月》
秋(あき)されは我袖(わかそて)
ぬらす
なみ□【だヵ】
草(くさ) より
木(き)
の
露(つゆ)も
おくにやあるらん
月(つき)
秋(あき)の夜(よ)の
月のひかりし
あかけれは
闇部(くらぶ)の山(やま)も
こへぬ
べうなり
【同 下段】
秋花(あきのはな)
旅(たび)ころも
ひもとく花の
色々(いろ〳〵)も
遠里(とふさと)
小野(をの)の
あたり
朝霧(あさきり)
稲妻(いなづま)
風(かぜ)わたる
浅茅(あさぢ)が
うへの
やとり 露(つゆ)に
も だに
はてぬ
宵(よひ)のいなづま
【右丁 上段】
九月(くぐわつ) 《割書:長月(ながつき) 紅葉(もみぢ)月|寐覚(ねさめ)月》
万代(よろづよ)をつむとも
尽(つき)じ菊(きく)の花(はな)
長月(なかづき)のけふ
あらん
限(かぎ)りは
紅葉(もみぢ)
余所(よそ)に見(み)る
峰(みね)のもみぢや
散(ちり)来(く)る
と
麓(ふもと)の里(さと)は
あらしをぞ待(まつ)
【同 下段】
檮衣(とうゐ)
恋(こひ)つゝや
妹(いも)かうつらん
から衣(ころも)
碪(きぬた)のおとの
空(そら)に
なるまて
初雁(はつかり)
今(いま)よりの衣(ころも)
かりねの
誰(たが) 秋風(あきかせ)に
夜(よ)
寒(さむ)
とか
鳴(なき)て
きぬら
ん
【左丁 上段】
十月(じうぐわつ) 《割書:神無月(かみなつき)|時雨(しくれ)月|初霜(はつしも)月》
神無月(かみなつき)
くれやすき
日の
色(いろ)
霜(しも)の なれは
下葉(したば)に
影(かげ)もたまらず
木枯(こがらし)
ふきおろす
枝(えだ)にはたまる
おとも
なし
松(まつ)の
葉(は)
山(やま)を
つたふ木(こ)がらし
【同 下段】
炉火(ろくわ)
夜をふかみ
かきおこす火(ひ)
幽(かすか)なる
ひかり
に【或は「そ」ヵ】きほふ
風(かせ)の
さむけさ
時雨(しぐれ)
かきくらし
時雨(しくる)る
空(そら)を眺(ながめ)
つゝ
おもひこそ
やれ
神(かみ)
なひの森(もり)
【右丁 上段】
十一月(しういちぐわつ)
《割書: 霜月(しもつき)|神楽(かぐら)月 雪見(ゆきみ)月》
高砂(たかさご)の尾上(をのへ)の鐘(かね)の
音(おと)すなり
暁(あかつき)かけて
霜(しも)や おく
らむ
雪(ゆき)
とへかしな
跡(あと)もいとはて
待(また)れ
けり
まだ
空(そら)はれぬ
庭(には) しら
の ゆき
【同 下段】
氷(こふり)
高瀬舟(たかせふね)
棹(さを)の音(おと)
にも
しられ
足代(あしろ) ける
の
氷
たとへしに
けり
衾(ふすま)
おのつから風(かせ)も
とふさぬ
閨(ねや)の
うちや
さえ
ゆく
夜半(よは)
の
ふ
すま
なるらん
【左丁 上段】
十二月(しうにぐわつ)
《割書: 四極(しはす)|深冬(みふゆ)月 年惜(としをしみ)月》
石(いわ)はしる初瀬(はつせ)の
河(かは)のなみ
まくら
はやくも
年(とし)のくれに
けるかな
寒梅(かんばい)
草(くさ)も木(き)もふり
まかへたる
ゆきの
よに
春(はる)まつ
梅(むめ)の
花(はな)のかそ
する
【同 下段】
水鳥(みつとり)
はかなしや
さても
いく夜(よ)か行水(ゆくみづ)
に
数(かず)かき
わふる
鴛(をし)の
ひとり寐(ね)
炭竈(すみがま)
日かずふる
雪(ゆき)げに
まさる
すみ竈(かま)の
煙(けふり)もさひし
おほはらの
里(さと)
【右丁】
伊勢物語(いせものがたり)初段(しよだん)に
在原業平(ありはらのなりおひら)朝臣(あそん)
春日(かすが)の里(さと)に知行(しるよし)
ありて狩(かり)に出ら
れける時 其所(そのところ)に
いとうつくしき女(むすめ)の
兄弟(はらから)にて住(すみ)けるを
見て心そゞろになりて
着(ちやく)したる忍(しの)ぶずりの
かり衣(ぎぬ)を引(ひき)ちぎりて
哥(うた)を書(かき)ておくりける
春日野(かすがの)のわかむら
さきのすりころも
しのぶのみたれ
かきりしられす
女古哥(こか)にてかへし
みちのくのしのぶ
もぢすりたれ
ゆへに
みだれそめにし
われなら
なくに
【左丁】
伊勢物語(いせものがたり)廿三段に
業平朝臣(なりひらあそん)河内(かはち)
の国(くに)にことつまを
もうけて夜毎(よこと)に
かよひけれども
此女うらむけしき
なくて出しやりければ
男こと心有てかゝるにや
あらんと思ひうたがひて
前栽(せんざい)の中にかくれゐて
河内へいぬるかほにて
見れば
風(かせ)ふけばおきつ
しら波(なみ)立田山(たつたやま)
夜半(よは)にや君(きみ)は
ひとりこゆらん
と読けるを聞て
そのゝちはかはち
えもゆかず
なりし
とぞ
【頭部欄外 右から横書き】
古今六歌仙(こきんろくかせん)
【右丁 上段】
在原業平(ありはらのなりひら)
ねぬる夜の
ゆめをはか
なみ
まどろ
めば
いやはかなにも
なり
まさるかな
【縦線あり】
僧正(そうじやう)遍昭(へんじやう)
名にめでゝ
おれる
ばかり
ぞ
をみなへし
われおち
にきと
人にかたるな
【縦線あり】
文屋康秀(ふんやのやすひで)
吹からに
秋のくさ
木の
しほるれば
むべ山かぜを
あらしと
いふらん
【左丁 上段】
大伴黒主(おゝとものくろぬし)
思ひいでゝ
恋しき
ときは
はつ鳫
の
鳴てわたると
人はしら
ずや
【縦線あり】
喜撰法師(きせんほつし)
我いほは都の
たつみ
しかぞ
すむ
世をうち山と
人はいふなり
【縦線あり】
小野小町(おのゝこまち)
花の色は
うつりに
けりな
いたつら
に
わが身よに
ふるながめ
せしまに
【右丁 下段】
女中つね〴〵草
心をつかはず身をつかひ給ふ
べしさればとて立居(たちゐ)あら
ければ衣装(ゐ▢▢▢)損(そん)じ手足も
あらくなる物なり女も男
もつまはづれなり
心をつかはしとすれば物ぐさ
になりて愛々しくなき物也
下女などに愛憐(あいれん)のかけて
労(らう)を心のたのしみとし給へ
春の夜は四ッをかぎり冬の
夜は九ッをかぎりにやすみ
給ふべし永居(ながゐ)をすれば
下部くるしむなり
いわけなき児(ちご)はあいらしき
物なり姪(めい)甥(をい)のたぐ介(かい)
【左丁 下段】
抱あらば子のごとく能(よく)なづ
けて寵愛(てうあい)めされうつくし
きもてあそび物とし給へ
秋(あき)より冬(ふゆ)の夜はながし後
達?などあそびかたきとし
て哥貝(うたがい)絵貝(ゑかい)かいあはせ文(も)
字札(しふた)拾種香(じしゆかう)などあそび
給へ双六はかしかましくてわ
ろしされど女のしらさるは
野(や)なり碁(ご)しやうぎよし
夜なが過(すぎ)はいわけなき子は
とく寐(ね)させて人は手習ふみ
にてもあそび給へさては
筝(こと)琵琶(びは)しづかに心を楽(たのしむ)
ものはから【唐】大和のふみ又は
哥よむなどなり
【右丁】
【頭部 標題 右から横書き】
石山湖水之図(いしやまこすいのづ)
【本文】
紫式部(むらさきしきぶ)源氏物語(げんじものがたり)を作(つく)りし事(こと)
紫式部は人皇(にんわう)六十六 代(だい)の帝(みかど)一条院(いちじやういん)の御后(おんきさき)上東(じやうとふ)
門院(もんいん)の官女(くわんちよ)にして初の名は藤(ふじ)の式部と申けるが
幼(いとけ)なきより和哥(わか)の道(みち)にこゝろざしふかく名哥(めいか)の誉(ほま)れ
多(をほ)き中に千載集(せんざいしう)に撰(ゑら)はれたる哥に
水鳥(みづとり)を水(みづ)のうへとやよそにみん我もうきたる世を
すぎしつゝ。かやうの名哥をよみ給ふ其(その)ころ斎院(さいいん)より
珍(めづ)らしき草紙(さうし)物(もの)がたり御覧(ごらん)ありたきよし仰(をふせ)ありしにより
式部に物がたりを作(つく)らしめ給ふ折節八月十五夜の事なりし
とぞ石山寺の観世音に参籠し式部は湖水(みづうみ)を眺(ながめ)て
源氏物がたりの趣向(しゆかう)をおもひ出て五十四帖を書つらね
給ふ其中(そのなか)にも若紫(わかむらさき)の巻(まき)ことに面白(おもしろ)く書たりとて
誉(ほめ)給ひしより紫式部と召れけるとなん又ある説(せつ)に
式部は一条院の御乳母(をんめのと)の子(こ)なり門院へ奉りける時(とき)に
ゆかりある者(もの)なり哀(あはれ)とおぼしめさせよとありし程にゆかり
の色(いろ)といふ心をもて藤(ふぢ)の式部とも又紫とも言(いふ)と也
【左丁】
【上下段に分かれ各段に三項目あり。各項(巻)に源氏香の図あるも省略す】
桐壺 いとけなき
第 初もと
ゆひに
契(ちぎ)る
壱 心(こゝろ)は なりき
きりつぼ むすび よを
こめつや
帚木 数(かづ)ならぬ
第 ふせやにをふる
なのうさに
弐 あるにもあらで
はゝき木 きゆるはゝきゞ
空蝉 うつせみの
第 身(み)をかへて
ける
このもとに
三 なをひとからの
うつせみ なつかしきかな
夕顔 よりてこそ
第 それかとも
みめ
たそかれに
四 ほの〳〵見ゆる
ゆふがほ はなのゆふかほ
若紫 手(て)につみて
第 いつしかも
みむ
むらさきの
五 ねに
わかむらさき かよひける
野辺(のべ)のわかくさ
末摘花 なつかしき
第 いろとも
なしに
すへ なにゝこの
六 つむ
すへつむはな はなを
袖(そで)にふれけ
【右丁】
紅葉賀 ものおもふに
第 立(たち)まふべくも
あらぬ身(み)の
袖(そで)
七 うちふりし
もみちのか こゝろしり
きや
花宴 いづれそと
第 露(つゆ)のやとりを
わかんまに
八 こさゝかはらに
はなのえん かせも
こそふけ
葵 はかりなき
第 ちひろの
そこの
おひ みる
九 ゆく 見(み) ふさの
あふひ すへは 舞(ん)
われのみそ
榊 神垣(かみかき)はしるしの
第 杉(すき)もなきものを
いかにまがえて
十 おれる
さかき さか木
ぞ
たちばなの
華散里 かをなつかしみ
十 ほとゝきす
花
ちる
壱 里を
はなちるさと たづねてそ
とふ
須磨 うきめかる
十 いせおのあまを
おもひやれ
藻(も)
弐 塩(しほ)たるてふ
すま 須磨(すま)の浦(うら)にて
【左丁】
明石 秋の夜の
十 つきけの
こまよ
わが
三 雲井(くもゐ)を こふる
あかし かけれ
時(とき)のまも見(み)ん
澪標 かずならで
十 なにはのことも
かひなきに
なに
四 みをつくし
みをつくし おもひそめ
けん
蓬生 たづねても
十 われこそ
とはめ
ふ みちもなく
五 かき
よもきふ よも もと
ぎが のこゝろを
関屋 あふさかの
十 せきやいかなる
せき
し なれは
六 げきなげきの
せきや 中(なか)をわくらん
絵合 うきめみし
十 そのおりよりも
けふはまた
すぎにしかたに
七 かへる
ゑあわせ なみだか
松風 身をかへて
十 ひとりかへれる
ふるさとに
きへ【ママ】しに 似(に)たる
八 まつ ふ
まつかせ かせぞ く
【右丁】
薄雲 いりひさす
十 みねにたなびく
うすぐもは
九 ものおもふ
うすくも そてに
いろやまがへる
朝顔 みしおりの
二 露(つゆ)わすられぬ
花 あさがほの
の
十 さかりは
あさがほ すぎやし
ぬらん
乙女 をとめこが
二 神(かみ)さびぬらし
十 あまつ袖(そで)
ふるきよのとも
一 よはひへぬれ
おとめ ば
玉葛 恋(こひ)わたる
二 身(み)はそれならで
十 玉かずら
いか
二 なる
たまかづら すしを
尋(たづね)きぬらん
初音 とし月を
二 まつにひかれて
十 ふる人に
三 けふうぐひすの
はつね 初音(はつね)きかせよ
胡蝶 花(はな)そのゝこてふを
二 さえやした
十 くさに
秋(あき)まつむしは
四 うとく
こてふ 見るらん
【左丁】
蛍 声(こゑ)はせで
二 身(み)をのみ
十 いふより こがす
まさる 蛍(ほたる)
五 こ
ほたる おもひ そ
なるらめ
常夏 なでしこの
二 とこなつかしき
十 いろを見(み)ば
六 もとのかきねを
とこなつ 人や
たづねん
篝火 かゝり火に
二 たちそふ
十 恋の
よ けふりこそ
七 には ほのほ
かゝりひ たえ なるら
せぬ ん
野分 風(かせ)さはき
二 むらくもまよふ
十 わす ゆふべにも
るゝ
八 まなく き
のわき わすられぬ み
御幸 をしほ山
二 みゆき
十 つもれる
けふ 松(まつ)
九 はかり ばら
みゆき なる に
あとやたづねん
蘭 おなじ野の
三 露にやぬるゝ
あ ふぢばかま
はれ
十 は も
ふぢばかま かけよ ばかり
かごと
【右丁】
槙柱 いまはとて
三 やどかれぬとも
十 なれきつる
まきの
一 はしらよ
まきはしら われを
わするな
梅枝 花(はな)の香(か)は
三 散(ちり)にし枝(えた)に
十 とまらねど
うつらんそでに
二 あさく
むめがえ しまめや
藤裏葉 春日(はるひ)さす
三 ふぢのうらはの
十 うらとけて
君(きみ)しおもはゝ
三 たの
ふぢのうらば われも まん
若菜 こまつばら
三 すゑのよはひに
十 ひかれてや
野辺(のべ)の若菜(わかな)も
四 としを
わかな 上 つむべき
若菜 ゆふやみは
三 みちたど〳〵し
十 月まちて
かへれ
五 わかせこ
わかな 下 そのまにも見(み)む
柏木 いまはとて
三 もへんけふりも
十 むすぼゝれ
たへぬ らん
六 おもひ のこ
かしはぎ の や
なを
【左丁】
横笛 よこぶえの
三 しらべはことに
十 かはらぬを
むなしく
七 なりし
よこふへ ねこそ
つきせね
鈴虫 こゝろもて
三 草(くさ)のやどりを
十 いとへども
なを
八 すゝむしの
すゝむし 声(こゑ)ぞふりせぬ
夕霧 やまざとの
三 あはれをそふる
十 ゆふぎりに
たち
九 いでんかたもなき
ゆふきり こゝちして
御法 たえぬべき
四 みのりなからそ
たのまるゝ
十 よゝにとむすぶ
みのり 中(なか)のちぎりを
幻 おほぞらを
四 かよふまぼろし
十 夢(ゆめ)にだに
一 見えこん玉の
まほろし 行衛(ゆくゑ)しら
せよ
匂宮 おぼつかな
四 たれにとはまし
十 いかにして
二 はじめもはても
にほふみや しらぬわか身ぞ
【右丁】
紅梅 こゝろありて
四 風(かぜ)のにほはず
十 そのゝむめに
三 まつうぐひすの
こうばい とはずやあるべき
竹川 たけかはの
四 はしうちいでし
十 ひとふしに
ふかき
四 こゝろの
たけかは そこは
しりきや
橋姫 はしひめの
四 こゝろをくみて
十 たかせさす
さほのしつくに
五 袖(そで)ぞぬれ
はしひめ ぬる
椎本 たちよらん
四 かけとたのみし
十 しゐかもと
むなしきとこと
六 なりにける
しゐかもと かな
総角 あけまきに
四 ながきちぎりを
十 むすびこめ
おな
七 しところに
あげまき よりもあはなむ
早蕨 此春(このはる)は
四 たれにか
十 かたみに 見せむ
つめる なき
八 みねの 人の
さわらび さわらび
【左丁】
宿木 やどりきと
四 おもひいですは
十 このもとの
九 たびねもいかに
やとりき 淋(さび)しからまし
東屋 さしとむる
五 むぐらや
しげき
あつまや
十 あまり の
あつまや ほとふる
あまそゝぎかな
浮舟 たちばなのこじまの
五 いろはかはらじを
十 此 よるべ
うき しら
一 ふね れぬ
うきふね ぞ
蜻蛉 ありとみて
五 手(て)にはとられず
十 みればまた
行衛(ゆくえ)もしらず
二
かげろふ きえしかげろふ
手習 身(み)をなけし
五 なみたのかはの
十 はやきせを
しがらみ
三 かけて
てならひ たれかとゝめし
夢浮橋 のりのし【法の師】と
五 たづぬる道(みち)を
十 しるべにて
四 おもはぬやまに
帖(でう) ふみ
終(をはり) ゆめのうきはし まよふかな
【右丁】
【囲みの頭部に右から横書き】
三夕之図(さんせきのづ)并(ならび) ̄ニ和歌(わか)
寂蓮法師(じやくれんほうし)
さびしさは
その色としも
なかりけり
槙たつ山の
秋のゆふぐれ
【縦線あり】
西行法師
こゝろなき身にも
あはれは
しられける
鴫たつ沢の
秋の夕くれ
【縦線あり】
藤原定家(ふぢはらのていか)
見わたせば
花ももみち
も
なかりけり
うらの
とまやの
秋のゆふ暮
【左丁 上段】
○天智天皇
てんぢとにこるへし
舒明天皇(じよめいてんわう)の御(おん)
子(こ)也(なり)御 母(はゝ)は皇極(くはうきよく)
天皇の別号(へつごう)斉(さい)
明(めい)天皇はしめは
中(なか)の大兄皇子(をゝゑのわうじ)と
号(こう)す又 葛城皇子(かつらきのわうじ)
とも開別(ひらきわけ)皇子 共(とも)
申ける大化(だいくは)十二年壬
戌十二月三日 崩(ほうじ)給ふ
五十歳又四十六とも
日本記(にほんき)【紀の誤】には癸亥十二
月廿一日 近江宮(あふみのみや)にて
崩御(ほうぎよ)と云 在位(さいい)十年
また一 説(せつ)には山科(やましな)へ行幸(みゆき)
有(あり)てかへり給はず天に
昇(のぼり)たまふにや御履(おんくつ)
ばかりとゞまるゆへに
其(その)所(ところ)に陵(みさゝき)を立ると
云々今も山科に陵
はあり其野(そのゝ)を御 廟(べう)
埜(の)と所謂(いはゆる)十 陵(れう)の
第一なり
【同 中段】
此哥の心は秋の田の庵の時分に秋の
すゑに成ゆきとまなども朽はてゝ
露をふせぐ便りもなく露たぶ〳〵と
おきあまりたるごとく我袖ぬるよし也
王道の御しゆつくわいの哥なりていか
此うたを百首のはじめにゑらひ入
らるゝは民をあはれみ給ふなれは
もとゝせりかりほはかりなる庵也
万葉に借菴と書り御説と云々
○季吟注に曰万乗の主として
民をあはれみ給ふは聖主賢王
の事なりと殊に田夫の業のてい
をつぶさに思召入こと御心正於仁
なり
【同 下段】
天智天皇(てんぢてんわう)
秋(あき)の田(た)
の
かりほの
庵(いほ)の
とまを
あらみ
我(わが)衣手(ころもで)は
露(つゆ)にぬれつゝ
【右丁 上段】
○持統天皇
ぢどうとにごり
てよむなり
女帝(によてい)也(なり)御母(おんはゝ)は越(を)
智姫大臣(ちひめのだいじん)蘇我(そがの)
山田石川丸(やまたいしかはまるの)女(むすめ)なり
天智天皇(てんちてんわう)第二の
皇女(くわうじよ)天武(てんむ)天皇の
后(きさき)なり草壁皇子(くさかべのわう)
子(じの)母后(ぼこう)なり在位(ざいい)
十一年 都(みやこ)は大和国(やまとのくに)
高原郡(たかはらのこほり)藤原(ふぢはら)の
都(みやこ)なり
大宝(たいほう)二年十二月十
日に崩御(ほうぎよ)した
まふなり
【同 中段】
此哥の心は卯月朔日衣がへの御歌也
春三月は霞たる山の今日ははや霞
はれて雲の白〳〵とさなから夏衣
をも干たることくに見ゆる昔此山人
天人衣をかけほしたるゆへかく山とは
よめり新古今の夏の部の巻頭
に入たりいせ物がたりに露とこたへ
てきへなましものをといふにつき
てあいじやうの部に入たりいづれも
よく見て入たり部立わけて然る
べきの集といふはかくのことくのこと
なるべし
○季注に曰たゞ夏といふよりも春
すぎて夏来といへば首夏の
次第なり
【同 下段 左から読む】
かく山(やま)
天(あま)の
てふ
ほす
衣(ころも)
白妙(しろたへ)の
けらし
夏(なつ)きに
春過(はるすぎ)て
持統天皇(ぢたうてんわう)
【左丁 上段】
○柿【柹】本人麿
天智天皇(てんちてんわう)の御
時(とき)の人と《割書:云| 云》
敦光卿(あつみつきやう)人丸の
讃(さん)にいわく太夫
姓(せい)は柿(かきの)【柹】本(もと)名(なは)人(ひと)
丸(まる)蓋(けだし)【盖は俗字】上世(しやうせい)の哥(か)
人なり持統(ぢたう)文(もん)
武(む)の聖朝(せいてう)につか
え遇(あふと)_二新田(につた)高市(たかいち)
乃 皇子(わうじ)_一と《割書:云| 云》
正徹(しやうてつ)の曰人丸の
御忌日(きよきにち)は秘事(ひじ)に
するなりさる程(ほど)
になへて知(しり)たる
人まれなり
三月十八日にて
あるなり
【同 中段】
此哥の心は足引とは山をいはんため又
山鳥はなが〳〵しなどいはんための枕
ことば也秋の夜ながきに二人ねてさへ
うかるべきにひとりねられまじきと
なり第一はかうらい国にて王軍にうち
まけきさきをつれて山谷落給ふ時
后あしをいたみ給ふゆへ足引の山とも
いひつたへる也別なる儀などはさらに
なしたゞあし引のと打出したるに
より山鳥の尾のしだりをのといひ
て長〳〵し世をといへるさまいかほども
かぎりなき風情もつともたけたかし
○季注に曰たゞ長き夜といふよりも
なが〳〵し夜といふにてひとりねの
わびしき無■【渟ヵ】方きこゆ
【同 下段】
柿本人麿(かきのもとのひとまろ)
あし曳(ひき)の
山鳥(やまとり)の
おの
しだり
をの
なが〳〵
しよを
ひとり
かもねむ
【右丁 上段】
○山辺赤人
あかみとゝよむ説(せつ)
あれ共たゞ赤人(あかひと)と
よむがよきなり
父祖(ふそ)不(す)_レ詳(つまひらかなら)
神亀(じんき)の比(ころ)の人也
是(これ)は人丸と同じく
秘伝(ひでん)ある事(こと)也
山辺(やまべ)は姓(せい)なり所(ところ)
の名(な)なりそれを
姓(しやう)とす人丸の后(きさき)
を犯(おかし)て流(なが)されしが
万葉(まんよう)の時(とき)召(めし)かえ
されて赤人(あかひと)と名(な)を
かへたりと云 説(せつ)あた
古今序(こきんのじよ)に山辺赤人(やまべのあかひと)
といふ有人丸は赤人
が上に立(たゝ)んことかたく
赤人は人丸が下に
たゝんことかたくなん
ありけるとあり
別人(べつしん)なる事(こと)
明(あきら)けし
【同 中段】
此哥の心は田子の浦に船さし出てかへり
見るに富士の高根の雪も見へ眺望
かぎりなくして心詞に及ぬに高根に
雪をみたる心を思ひ入てぎんみすべし
海辺のおもしろきこと共をも高根の妙
なるをも詞にはたす事なくてその
さまはかりをいひのべたること尤なるに
こそある人の哥をば古今にも哥にあ
やしくたへ成といへりきめうの心なり
なを此雪はふりつゝといへる余情かぎり
なし
○季注に曰田子の浦に出て富士の
高嶺を見つる景気言説に及
所になければ其てい計をいひて
風致おのづからこもれり然は此哥を
ことはるも又舌頭の及所にあらず
【同 下段】
山辺赤人(やまべのあかひと)
田子(たご)のうらに
うちいでゝ
みれは
白(しろ)
妙(たへ)の
富士(ふし)の高根(たかね)に
雪(ゆき)はふりつゝ
【左丁 上段】
○猿丸太夫
古伝(こでん)に云 官(くわん)姓(せい)時(じ)
代(だい)等(とう)不_レ知_レ之或は
系図(けいづ)に曰 用明(やうめい)天
皇 聖徳(しやうとく)太子山
背大兄王(うしろのおほえきみ)
弓削大王(ゆげのおゝきみ)猿丸(さるまる)太
夫と号(ごう)すと《割書:云|々》鴨(かも)
長明(のてうめい)方丈記(ほうでうのき)に云
近江国(あふみのくに)田上(たかみ)に猿丸
太夫が旧跡(きうせき)ありと《割書:云|々》
祇注(ぎちう)に云 天武(てんむ)御子(おんこ)
弓削道鏡(ゆげのだうきやう)を号(こう)す
と云々 此説(このせつ)不(ず)_レ審(つまひらかなら)
聖徳(しやうとく)太子の御孫
弓削王(ゆげわう)を猿丸(さるまる)と
号(こう)したるを道鏡(とうきやう)
法師(ほつし)といへるは弓(ゆ)
削(げ)につけておもひ
あやまるなるべし
【同 中段】
此哥の心は秋は初秋よりあはれなる程
とは申せども草花ちり乱れ露も
月もおもしろく万の虫の音もおもし
ろかるべし秋の末になりて其けしき
もつきておちば物すごきに鹿は妻
こひかねてなく時節こそ秋はかなし
きなりおく山にといへる五もじまた
干心なりもとのしやうにはは山のもみぢ
ちりて次第に秋のいつの時かなしきと
いへばしかの打わびてなく時の秋がいた
りてかなしきといふ儀なり此秋は世間
の秋なり
○扶桑隠逸伝(ふさういんいつでん)に云夫は深草(ふかくさ)のさと
の人なり今に至て土人深草と名付
て曰爰を猿丸の郷(さと)と云不_レ詳何の代の
人といふ事を知ず又元慶の比也といふ
【同 下段】
猿丸大夫(さるまるたゆふ)
おく山(やま)に
紅葉(もみぢ)
ふみ分(わけ)
啼(なく)
鹿(しか)の
こゑきく
時(とき)ぞ秋(あき)はかなしき
【右丁 上段】
○中納言家持
天平(てんへい)元年己巳生ず
安丸(やすまるの)孫(まご)旅人(たびんと)子云云
大伴宿祢(をゝとものすくね)安麿(やすまろ)大
納言 贈従(ぞうしう)二位 大(をゝ)
伴宿祢(とものすくね)旅人(たひんど)家持(やかもち)
大納言 従(じう)二位 八(や)
雲御抄(くもごせう)に曰 万葉(まんよう)
の作者(さくしや)おほけれ共
家持(やかもち)人丸赤人など
を棟梁(とうりやう)とせり一
説(せつ)に天智(てんち)天皇 大(おゝ)
伴皇子(とものわうし)予多都(よたと)
无麿(むまろ)黒主(くろぬし)が弟(をとゝ)の
夜須良丸(やすよしまる)は安(やす)
麿(まろ)と同人也可_レ尋(たづぬ)
_レ之(これを)従(じう)三位中納言 東(とう)
宮(ぐう)太夫 右大弁(うたいべん)太宰(たざい)
少弐(せうに)抔(など)を経(へ)たり又
征夷将軍(せいいしやうぐん)に任(にん)ず延(えん)
暦(りやく)四年八月 陸奥国(むつのくに)
にて薨(こう)す
【同 中段】
此哥の心ははうゑひに月おちからす
なきて霜天にみつといへる儀ばかり
なりやかもちがあんやにあふて月も
なくさへたる天にむかひてぎんじ思へる
なりしも天に向ひてみちたるとて
目前にふりたる霜にあらず晴夜(せいや)
の寒天(かんてん)さながら霜のみちたると
見ゆるやうなる体也此義は御説也
かさゝぎからすのことなり七夕のあふ
ときからすの羽をならべてはしに
なすをうじやくかうやうの橋とは
いふなり
○季注に曰冬の夜の更たる景(けい)
気(き)を直(す)ぐにうつしたり
【同 下段】
中納言家持(ちうなごんやかもち)
かさゝきの
わたれる
橋(はし)に
をく
霜(しも)の
しろき
を
みればよぞ更(ふけ)
にける
【左丁 上段】
○安倍仲麿
中務(なかつかさ)太夫 舟守(ふなもり)の
子也 元明天皇(げんみやうてんわう)和(わ)
銅(どう)元年に生(むまる)云云
元正(けんしやう)天皇の御宇(ぎよう)
霊亀(れいき)二年八月に
遣唐使(けんとうし)大伴山守(をゝとものやまもり)
に同船(どうせん)して十六 歳(さい)に
て入唐(につとう)せり唐(もろこし)にて
ものまなびして才(さい)
智(ち)高(たかく)なりて姓名(せいめい)改
朝衡(てうかう)といへり唐帝(とうてい)
其 才(さい)を愛(あい)して官(くわん)を
すゝめて秘書監(ひしよかん)に
至(いたり)かさねて撿挍(けんこう)にうつ
り左補闕(さほけつ)をへたり
年(とし)久(ひさ)しくありて日本
にかへる聖武(しやうむ)天皇 天(てん)
平勝宝(へいせうほう)五年に再(ふたゝ)び
唐(もろこし)におもむけり玄宗(けんさう)
天宝(てんほう)二年なり宝亀(ほうき)
元年に卒(そつ)す時(ときに)七
十九 歳(さい)と云云
【同 中段】
此哥の心はもろこしにて月を見て読
るむかし仲麿もろこしへ使にまかり
てわが国を思ひやりて住なれたる
たびゐのなごりをも思ひつゞけ我
国のならの京みかさの山に出し月
とをなじあはれもふかくよせいかぎ
りなきてい也此仲丸は久しく在
唐してきてうのとき唐人はなむ
けの詩を作りし時也土佐日記に曰
むかしあべの仲丸といゝける人は唐
にいたりてかへりきけるときに舟
に乗るべき所にてかの国の人に別
をゝしみてかしこのから哥つくり
なんどしけるとあり
【同 下段】
安倍仲麿(あべのなかまろ)
天(あま)の原(はら)
ふり
さけ
みれ
ば
かすが
なる
三笠(みかさ)の
やまに
出(いで)し月(つき)かも
【右丁 上段】
○喜撰法師
哥式を作(つく)る同人と
云云 一 説(せつ)基泉(きせん)同人
と云又 別(べつ)人とも云
鴨長明(かものちやうめい)無名抄(むみやうせう)に云
三室戸(みむろと)の奥(おく)に二十
余(よ)町ばかり山中へ入て
宇治(うぢ)山の喜撰(きせん)が住(すみ)
ける跡(あと)あり家(いへ)はな
けれとも石塔(せきとう)など
のさだかに侍(はべる)なり
是(これ)を見(みる)べしと云云
元亨(けん▢う)釈書(しやくしよ)十八 神(しん)
仙伝(せんてん)に釈窺仙(しやくのきせん)居(いて)_二
宇治山(うぢやま)_一持(ぢし)【二点脱】密咒(みつじゆを)【一点脱】兼(かね)
て求(もとめ)_二長生(ちやうせいを)【一点脱】辟(さけ)【レ点脱】穀(ごくを)服
_レ餅(もちを)一旦 乗(のり)【レ点脱】雲(くもに)去(さり)云云
喜撰(きせん)窺仙(きせん)同人
にや
【同 中段】
此哥の心はきせんほうし都の巽うぢ
山に庵をしめてすめり人はよをう
ち山といへとも我はたのみてかくの
ごとく心よく住といへり都のたつみとは
方角をさして云り古今序にも
始をはりたしかならすといへるよをうぢ
山と人はいへ共と云べきを人はいふなり
といへる所をさしていへり又秋の月を
見るに曙の雲にあへるがことしと書
ことはよもすがらはれたる月の俄に
雲のかゝりたるをは始終たしかならず
といへり
○季注に三間(サンケン)茅屋(ハウヲク)従来(シウライ)住(チウス)一道(イチドウ)
神光(シンクワウ)万境間(ハンキヤウノアイタ)莫(ナカレ)_レ把(イタクコト)_二是非(ゼヒヲ)_一来(キタツテ)弁(ベンス)
我(ワレ)浮生(フセイ)穿鑿(センサク)不(ズ)_二相関(アイアツカラ)_一
【同 下段】
喜撰法師(きせんほつし)
我(わが)いほは
都(みやこ)の
たつみ
しかぞ
すむ
世(よ)をうち
山(やま)と
人(ひと)はいふなり
【左丁 上段】
○小野小町
出羽郡司(ではのぐんじ)小野秀(おのゝひで)
澄(すみの)女(むすめ)常澄(つねずみ)と云云
或説(あるせつ)に出羽郡司(だはのぐんじ)
小野 良実(よしさね)が女(むすめ)又
常澄(つねすみ)女(むすめ)とも云り
三光院殿(さんくわういんでん)御説(おんせつ)に
当澄女(まさすみむすめ)と云云 仁明(にんみやう)
時(とき)承和(しやうわ)の比(ころ)とあり
古今集(こきんしう)目録(もくろく)并に
拾芥抄(じうがいしやう)に曰 出羽郡司(ではのぐんじ)
女(むすめ)仁明(にんめう)時(とき)承和(しやうわ)の
比(ころ)と云云
つれ〳〵草にいわく
小野小町か事はきは
めてさだかならすお
とろへたるていは玉(たま)
作(つくり)といふふみに見え
たり此ふみ清行(きよつら)が
書りと云説あれとも
高野大師(かうやだいし)御位の目(もく)
録(ろく)に入る大師は承(しやう)
和(わ)の初(はじめ)にかくれ
給ふなり
【同 中段】
此哥の心は我身の世にふる老をくわん
じて花によそへて思をいひのべたり小
町か古今にて第一の哥なり彼集の
後に入たる哥なり此うたに表裏の
洸あり表は花の咲たらば花に身を
なさんと思ひしも世にすめばことしげ
くてとやかくやうちまきれて過たる
花也みぬ花なれうつりにけりなと
取ふしていふなり裏の説は身の裏
も我とはしらぬもの也花のおとろへ
を見てわが身もかくうつりてこそあ
らめとおもひやる義なり
○季注にいわく小町はかたちのおと
ろふるをなげきたる哥おほしと
いへり就中此哥多情なり
【同 下段】
小野小町(おのゝこまち)
花(はな)の
色(いろ)は
うつり
に
けりな
いたづら
に
我(わが)みよに
ふる詠(ながめ)せし
まに
【右丁 上段】
○蝉丸
逢坂(あふさか)のせみ丸は仁(にん)
明(めう)も時の道人(どうにん)也
常(つね)に髪(かみ)をそらず
世の人 号(こうす)翁(おきな)と或(あるひ)は
仙人ともいへり
三光院(さんくわういん)の御 説(せつ)
世人 盲目(もうもく)といへるは
誤(あやまり)なり後撰(ごせん)この
うたの詞書(ことはかき)に相坂(あふさか)
の関(せき)にて往来(わうらい)
の人を見てと云云
盲目(もうもく)ならば見る事
有べからずといへり
又世に延喜(ゑんぎ)の皇(わう)
子(じ)なりと云も誤(あやまり)
なり或抄にいわく
或人の申は古(ふる)き物に
あふ坂の翁(おきな)と書り
俗(ぞく)也と云り或は
童(わらべ)あるひは法師(ほうし)
と云り禿丁(とくてう)なれば
いづれも相違(さうい)なき也
【同 中段】
此哥の心はゆくものかへるものしれる者
しらさるものしはらくわかれてさまよ
ひしやうじの関を思ひては出ず然共
法性の都へいたらんには此関を思ひては
あひがたしと世の中をくはんじてよみける
なりし此哥後撰にはわかれつゝと有又
詞書にあふ坂の関に庵室をつくりて
住侍るに行かふ人を見てとあり是や
このとはあふさかのせきに落つく五もし也
おもては旅客の往来のさまなる物也
下の心はゑしやでうりのこゝろなり
○隠逸伝(インイツテン)ニ曰 蝉丸(セミマル)ハ不_レ知_二何ノ地ノ人
ト云事ヲ_一自 締(ムスヒ)_二草庵ヲ於 相坂(アフサカ)
ノ関(セキニ)_一往得和哥又 善(よくス)_二和琴(ワゴンヲ)_一蝉丸
自(ミツカラ)離(ハナル)_二見濁(▢▢▢▢)_一故(ユヘ)ニ称(セウスル)盲目(モウモク)ト而已(ノミ)
【同 下段】
蝉丸
これやこの
ゆくも
帰(かへ)るも
わかれ
ては
しるも
しらぬも
逢坂(あふさか)の関(せき)
【左丁 上段】
○参議篁
姓(しやう)は小野(をの)参議(さんぎ)左(さ)
大弁(だいべん)号(ごうす)野相公(やさうこうと)
敏達天皇(びたつてんわう)の苗裔(びやうゑい)
参議(さんぎ)峯守卿(みねもりきやう)の
御子なり官(くわん)は文(ふん)
章(しやう)の生(せう)弾正少忠(たんしやうせうちう)
大内記(たいないき)蔵人(くらんど)式部少(しきぶのせう)
丞(ぜう)太宰少弐(だざいせうに)東宮(とうぐう)
学士(がくし)弾正少弼(たんじやうせうひつ)美作(みまさか)
等(とう)を歴(へ)たり
承和(しやうわ)元年正月廿
九日 遣唐使(けんとうし)を
奉(たてまつ)るさて唐使(とうし)の
四舶(しはく)次第(しだい)海(うみ)にうか
みしにたかむら
病(やまひ)によつて進発(しんはつ)
することかなはず
小野篁(をのゝたかむら)は破軍星(はぐんせい)
の化身(けしん)なり
【同 中段】
此哥の心はまん〳〵たる海のおもてしま
〳〵のかぎりなきゆくえを思ひけり
ことになかさるゝ人の心はこゝろぼそく
我かたへ帰るつり舟あまの心なき
ものにつげよとわびたるかなしさ云ん
やうなし古今詞書におきの国にながさ
れける時舟に乗て出立時京なる人の
もとに遣しけると有心はまづ和田の
原と云出たるあはれ深きにや大かたの
人だに海路の旅におもむくべきはかなし
かるべきにましてや是は流人と成てしら
ぬ浪路をわたる心はたとへかたき也いせ物
がたりに京にその人のもとにとてふみ
かきておしへるするがなるうつの山べのうつ
つにも夢にも人にあはぬなりけりさればこゝ
にもわがつまをさして人の許とも云と也
【同 下段】
参議篁(さんぎたかむら)
和田(わだ)の原(はら)
八十島(やそしま)
かけ
て
漕(こぎ)
出(いで)ぬ
と
人には
告(つげ)よ
■(あま)【海+虫】の釣船(つりぶね)
【右丁 上段】
○僧正遍昭
俗名(そくみやう)良峯宗貞(よしみねのむねさだ)
号(こうす)_二花山僧正(くはさんのそうじやうと)_一釈(しやく)
遍昭(へんせう)門下(もんか)侍郎(じらう)
良安世(りやうのやすよ)の子(こ)也 早(はや)く
羽林(うりん)と昇(のほり)殊更(ことさら)仁(にん)
明帝(みやうてい)の加近侍寵
遇日渥 嘉祥(かしやう)三年
三月 上帝(しやうてい)崩(ほうじ)たま
ひぬ不(す)_レ堪(たへ)_二哀慕(あいぼに)_一登(のほり)【二点脱】
叡山(ゑいさん)【一点脱】剃髪(ていはつ)す猶(なを)
元享釈書(けんこうしやくしよ)に祥(つまひらか)
なり大和物語(やまとものがたり)に
も此趣(このおもむき)なり嵯峨(さが)
天皇の后(きさき)に浮名(うきな)
立けるゆへに出家(しゆつけ)
すと云 説(せつ)は非(ひ)なる
か寛平(くわんへい)二年正月十
九日 滅(めつす)七十六歳
【同 中段】
此哥の心は雲吹風も雲の通ひ路を
ふきとぢよしからば乙女のすがたしばし
とゞめて見んとねがひたるさま也古今
には五節のまひ姫をみてよめりと
あれば宗貞とあるべきを爰には
ていかきやうのへんぜうとのせられ
たり此うた今の舞姫をむかし
の天女によみなせりされは舞の
なごりを思ひて雲のかよひぢふ
きとぢよといへりしばしといひたるに
てとゞめえぬ心聞えたりあながち
に舞姫に心をかくるにあらず舞の
おもしろきをいふ也玄旨法印が曰
五節の事日本記【紀の誤】にものせず本朝
月令といふものにあり
【同 下段】
僧正(そうじやう)遍昭(へんせう)
あまつ風(かぜ)
雲(くも)の
かよひ
ぢ
吹(ふき)とぢよ
乙女(おとめ)のすがた
しばしとゞめん
【左丁 上段】
○陽成院
諱(いみな)は貞明(さたあきら)清和(せいわ)
天皇(てんわう)第一之御子
御 后(きさき)皇大后(くわうたいこう)藤原(ふぢはら)
高子(たかご)号(かうす)_二 二条后(にてうのきさき)_一
貞観(じやうくわん)十年十二月十
六日 降誕(こうたん)天暦(てんりやく)三
年九月九日 崩(ほうす)在(ざい)
位(い)八年御歳八十一
此帝(このみかと)を二条院(にでうのいん)と
号(ごう)す事は御譲位(ごじやうい)
の後(のち)に此院(このいん)におはし
ますゆへなり
但 貞観(じやうくわん)十一年二月
一日 皇太子(くわうたいし)二 歳(さい)同
十八年十一月九日 受(じゆ)
禅(ぜん)九歳 元慶(げんけい)六年
正月二日 元服(げんぶく)十五
歳同八年二月四日
譲位(しやうい)十七歳
【同 中段】
此哥の心はいかなる大河も水上はわづか
なるこけのしたゞりおちあつまりて末は
底もしれぬ川となれり見そめたる俤
ほのかなりしおもひもつもりぬれは忍
かたき心となりぬるよしのたとへなりつ
くば山みなの川皆ひたちの名所也
此川の東はさくら川へおつるといへり
つくはねよりまさごの下をくゞりて
川とも見へず一わたりにながれてすへ
は川となれり総【惣】して序哥なり
うたの心は大りやく此分也恋の御うた
にて心おもしろく侍るにや天子の御
身には少の事も思召とは善は天下の
徳となり悪は天下のうれえと
なれり大かたの人も分にしたがつて
此心をおもふべしと云々
【同 下段】
陽成院(やうせいいん)
つくばね
の
峯(みね)
より
おつる
みな
の
川(がは)
恋(こひ)ぞ
積(つも)りて
ふちとなりぬる
【右丁 上段】
○河原左大臣
源融(みなもとのとをる)嵯峨(さが)第十
二源氏母正四位下
大 原金子(はらきんご)六条川
原院 摸(うつす)_二塩竈浦(しほがまのうらを)_一
嵯峨天皇(さがてんわう)
仁明天皇
源 融(とをる)
左大臣従一位号川
原左大臣は男女 皇(わう)
子(じ)五十人の内也 弘仁(こうにん)
三年壬辰生 淳和(じゆんわ)
天皇(てんわうの)為(すと)_レ子(こと)栖霞観(せいかくわん)
大臣の山庄(さんしやう)と云々
承和(しやうわ)五年十一月廿七
日正四位下 元服(げんぶく)貞(でう)
観(くわん)十四年八月廿五日
任(にんず)_二左大臣【一点脱】 仁和(にんわ)三年
十一月十七日御 即位(そくい)
同七年八月廿五日 薨(こうす)
七十四歳
【同 中段】
此哥の心はたれゆへにみだれそめしわが心は
君ゆへにこそみだるれといへる義也をう州
しのぶのこほりよりおるころも也あやの
みだれにいひよそへしゆへしのぶといひあ
まりてみだれたりといへり古今題しら
ずの内の哥也心は上二句はみだるゝとい
はんとての序也古今にはみたれんと
思ふわかならなくにといへり又曰奥州
しのぶのこほりにしのぶ草を紋に付
てするなり紋をみだれすり付たる
ゆへにみだるゝといはんための序なり
いせ物語にそめにしとあり伊勢
ものがたりにてはしのぶのみだれかぎり
しられそ【ママ】と業平の読るかへしに
付ておもしろければ返歌○恋にかく思
ひみたると知せはや心のをくの忍もちすり
【同 下段】
河原左大臣(かはらのさだいじん)
みちのくの
忍(しの)ぶ
もぢ
ずり
誰(たれ)ゆへに
みだれそめ
にし
我(われ)なら
なくに
【左丁 上段】
○光孝天皇
諱(いみな)は時康(ときやす)号(こうす)_二小(こ)
松帝(まつのみかとゝ)_一御 母(はゝ)は藤(ふぢ)
原沢子(はらのさはご)贈(そう)大政大
臣 総継(ふさつぐ)之 女(むすめ)天長(てんちやう)
七年 庚戌(かのへいぬ)降誕(こうたん)承(しやう)
和(わ)三年正月七日 叙(しよす)_二
四品(しほん)【一点脱】同十二年二月 元(けん)
服(ぶく)同十五年正月
常陸守(ひたちのかみ)嘉祥(かしやう)三
年五月 中務卿(なかつかさきやう)仁(にん)
寿(じゆ)元(けん)年十一月廿一日
三品卅三歳 貞観(じやうぐわん)
六年 上野大守(かうつけのたいしゆ)同
十二月廿七日二品四十
一歳同十八年十月
式部卿(しきぶきやう)元慶(けんけい)六年
正月七日一品五十四歳
同八年正月 太宰帥(だざいのそつ)
同二月四日 画禅(ぐはせん)五
十四歳 仁和(にんわ)三年八
月廿六日 譲位(しやうい)五十
八歳 崩御(ほうぎよ)小松山(こまつさん)
陵(りやう)ニ薨(かうす)ナリ
【同 中段】
此哥の心は正月七日七種のわかなを人に
給ひける時あそばし給ふとなり御位に
つかせたまはていまだ親王にておはしまし
ける時きみがため春の野にいでゝ
わかなつむによかんはなはたしく雪の
御衣にかんなんに思召ながら人のため
をおぼしめす御心入ありかたし此うた
仁和のみかどみこにおはしましたる時に
人にわかな給ひける御哥と有仁和
のみかどは光孝の御こと也わかな給ふ
とは賀(が)を給ふ義なり誰共なし人日
に菜羹をふくすれば百病をのぞく
なりと云事 荊楚歳時記(けいそさいじき)大宗家(たいさうか)
訓(くん)といふものにあり七 種(くさ)とはある哥に
せり五行なづなはこべら仏の座
すゞなすゞしろこれや七くさとあり
【同 下段】
光孝天皇(くわうこうてんわう)
君(きみ)がため
春(はる)の野(の)に
出(いで)て
若菜(わかな)
つむ
我(わが)衣手(ころもで)に
雪はふりつゝ
【右丁 上段】
○中納言行平
在原氏(ありわらうち)ノ号(こうす)納言(なごん)
桓武天皇(くわんむてんわう)
平城天皇(へいせいてんわう)
阿保親王(あほうしんわう)
大江音人(おほゑのおとゝふ)【ママ コマ29左丁には同人を「おとふど」とあり】
《割書:中納言権帥正三位|民部左兵衛督》
在原行平(ありわらのゆきひら)
《割書:按察仁和三年|致士配流》
在原守平(ありわらのもりひら)
在原 業平(なりひら)
在原 仲平(なかひら)
【同 中段】
此哥の心は行平いなばの守になりて
みのゝ国を知行してかの国に下りけるに
友だち馬のはなむけに出しときいつ帰り
給ふべきとのべればかくよめりいなは山みの
の国のめい所也たちわかれいなばといゝ
みねにおふる松としきかばといひみな序
哥のていなり古今には題しらずと
あり但かの卿いなばのかみなりしが住
はてゝ都へのぼりけるに思ふ人によみて
つかはすともいへり哥の心はまつ人だに
あらばやがてかへりこんの心にかくいへば
待人もあらじといふ
○季注 耳底記(にていき)に問ていわく言は五句
ながらつゞきたるがよきか其旨答て曰
あしき也〽立わかれし此哥つゞき過せ共
今かへりこんといへるが疎句なるによつて面白也
【同 下段】
中納言行平(ちうなごんゆきひら)
立(たち)わかれ
いなばの
山(やま)の
みねに
おふる
松(まつ)としきかば
今(いま)かえりこん
【左丁 上段】
○在原業平朝臣
平城天皇(へいしやうてんわう)御孫
阿保親王(あほうしんわう)之御子也
母(はゝ)は伊豆内親王(いづのないしんわう)桓(くわん)
武(む)第八 皇女(くわうぢよ)也 阿(あ)
保(ほう)親王(しんわう)の五男に
て在原(ありわら)氏なれば
在五中将(さいごちうせう)共いふ也
天長(てんちやう)二年八月
七日に誕生(たんじやう)して
元慶(げんけい)四年五月
廿八日 卒(そつす)歳五十
六なり系図(けいづ)行(ゆき)
平(ひらの)所にあり爰(こゝ)に
略(りやく)す
もみぢする
みねのかけはし
見わたせば
くれなひ
くゝる
秋の山人
【同 中段】
此哥の心はちはやふるかみと此心は
いはんまくらことばなりたつた川
にもみぢのちりうかひたるおもし
ろさ神代にはたへなることのみ有
といへどもその神代にもきかずから
くれないのにしきのうへに水のくゞる
とはといへるていたへなり又曰詞書に
二条のきさきの春宮のみやす所と
申ける時に屏風にたつた川にもみぢ
ながれたるかたを書たりけるをか【ママ 「た」の誤】い
にて読ると有もみぢの立田川に
ひまなくちりたると也八雲御抄
にいわく立田川古今には三室の山
のすえと見ゆかつらきもちかし
後撰にはいはせのもりちかしとあり
【同 下段】
在原業平朝臣(ありわらのなりひらのあつそん)
千早振(ちはやふる)
神代(かみよ)も
きかず
龍(たつ)
田(た)
川(がは)
からくれ
なひに
水(みづ)くゞるとは
【右丁 上段】
○藤原敏行朝臣
蘇生後(そせいのゝち)一切経(いつさいきやう)を
書(かき)し人なり母(はゝ)は
名虎(なとら)の女(むすめ)也大臣
南家(なんけ)武智丸(たけちまる)六代
の後胤(こういん)也 肥後守(ひこのかみ)
田村丸(たむらまるの)孫(まご)古今集(こきんしう)
の作者(さくしや)なり
武智麿(たけちまる)
《割書:不比等ノ一男正一位左|大臣贈大政大臣任式|部卿御号式家》
巨勢麿(こせまろ)
《割書:三木従三位|式部卿》
真作(まつくり)《割書:三河守|従五位上》
林田(はやしだ)《割書:讃岐守|従四位下》
富士丸(ふじまる)《割書:従四位下》
《割書:按察陸奥守》
敏行(としゆき)《割書:従四位下| 右大将》
《割書:大内記右兵衛督|二行目》
伊衡(これひら)《割書:三木正五位下》
【同 中段】
此哥の心は住の江のきしによるさへや
といはん序のていなり夜ゆめのかよ
ひちには人をよぐへきにもあかね共
そのゆめにさへ心にしのびたるなら
ひとてよぐとみへて心まゝにもなら
ねはいかなることぞとなげきたるてい
なりたかき峯にこそ浪のうちたる
はゆもさむべきことなれ是は南海なり
ことにすみの江のきしはあらき浪
もよせぬ所なるにわか恋路(こひち)のちきり
のごときゆへにとき〴〵心のおどろ
きぞとなり
古今集第十二恋哥に詞書に寛平
の御時きさいの宮の哥合のうたと
なり
【同 下段】
藤原敏行朝臣(ふぢはらのとしゆきあつそん)【注】
すみのえの
きしに
よる波(なみ)
よる
さへや
夢(ゆめ)のかよひ
ぢ
人めよぐらむ
【注「臣」とあるところ「宮」に見える】
【左丁 上段】
○伊勢
祭主(さいしゆ)輔親(すけちかの)母(はゝ)
上東門院女房
仍(よつて)号_二伊勢大輔_一
系図(けいづ)大中臣 能(よし)
宣(のぶ)ガ所(ところ)ニアリ
上東門院中宮
ノ時候(しこう)ト云々
玉簪(キヨクサンニ)曰天子門
九ツアリ
謂開門(イカヰモン)
遠郊(エンカウ)門
近郊(キンカウ)門
城(ジヤウ)門
皐(カウ)門
庫(ク)門
雉(シ)門
応(ヲウ)門
路(ロ)門
【同 中段】
此哥の心はあしをいはんとてなにはかた
とていひみじかきほどのふしのまと人
とぬる間わづかなるによせていひあは
て此よをすごせとやといふこの世もあし
のふしの間のよをいひかけたるなり
すこしの間もぬるよなしにすごさんと
いへりなにはかたとは大やうにいひ出したり
五もじに君臣ありこれは君のかたの
五もじこひしといひつめてちうとなる
もありよく〳〵分別すべきことぞ
心は今まてつもりし思ひをかぞえ
あげたるなり
恋に始中終あり此哥は終の心也
かやうの哥をばおほよそに見ては
曲あるべからざると云々
【同 下段】
伊勢(いせ)
難波(なには)
かた
見じ
かき
あしの
ふしのま
も
あはで
この世(よ)を
過(すご)してよとや
【右丁 上段】
○元良親王
陽成院(やうぜいいん)第一ノ御
子二 品(ほん)兵部卿(ひやうぶきやう)
母ハ主殿頭(とのものかみ)遠長(とをなが)
ノ女(むすめ)ナリ
陽成院ー元良
天慶(テンケイ)三年七月廿
三日 薨(コウス)五十四 歳(サイ)
神皇正統記(シンクワウシヤウトウキ)ニ
曰 皇子(ワウジ)ヲ親王(シンワウ)
ト云事四十一代
文武(モンム)ノ御 時(トキ)ヨリ
始(ハジ[マ])ル
【同 中段】
此哥の心は今はとは今まさにと心得
べし身をつくし海のふかきしるしに立
るくひこれもみをつくしのごとく朝
夕思ひわび袖をほすまのなくとも
一たびあひつたへたらんにはかなりこの
哥詞書にこと出きて後に京極の
御息所につかはしたるとあり是は宇多
の御門の御時此みやす所時平公母に
忍びて通ひけるがあらはれて後につか
はしける哥也事の出きてとはくせつわざ
わひのできしことをいふ也此わびぬれば
といふ五もじ大かたにてはあるべからす
袖中抄に云国史には難波津に初て
みをつくしをたつるよし也其年
いまだかんがへずと《割書:云々》
【同 下段】
元良親王(もとよしのみこ)
わびぬれば
今(いま)はた
おなじ
難波(なには)
なる
身(み)をつくし
ても
あはむ
とぞ
思(をも)ふ
【頭部欄外の手書きの筆文字】
もとよしのみこ
しんのう■の文
【左丁 上段】
○素性法師
俗名(そくめう)玄利(はるとし)又ハ
僐時(あきとき)ト云 良峯(よしみねの)
宗貞(むねさだ)ノ男(むすこ)也
遍昭(へんせう)のもとへゆき
たれば法師(ほうし)の子は
法師こそよけれ
とて出家(しゆつけ)にし
給ふよしやまと
ものがたりに
見えたり
隔日恋
みか月のわれて
あひ見し
おもかけの
在明まてに
なりに
けるかな
【同 中段】
此哥の心は一夜の義にあらす初秋
の比より今こんといひしはかりの
あることをさりともとまち〳〵て
はや長月のあり明の比まで待出る
かなといへりあはれふかし此哥は有明
の月をまち出つるかなといふを顕(あきら)
照(かなる)は一夜のこといへりていか卿の心は
又一ツなり月のいくよをかさねしと
初秋の時分よりはや秋もくれ月
も有明に成たると也他流当流の
かはり目なり
祇注にありあけの月をまち出る心
よせはしとくしたる哥とぞ
云々
【同 下段】
素性法師(そせいほつし)
今(いま)こむと
いひし
ばかり
に
長月(ながづき)
の
有明(ありあけ)の
月(つき)をまち
出(いて)つるかな
【右丁 上段】
○文屋康秀
先祖(せんぞ)不(ず)_レ見(みへ)字(あざな)は文(ぶん)
琳(りん)縫殿助宗于(ぬひのすけむねゆきの)
男(むすこ)也
字(あざな)は琳(りん)といふなり
それに文屋の文の
字(じ)をつけて文琳(ぶんりん)と
いふなり儒者(じゆしや)にて
ありしぞ
古伝(こでん)に曰(いはく)陽成院(やうせいいん)
の御 時(とき)の人と《割書:云々》
任(にんず)_二 三河 丞(ぜうに)_一成は
中納言 朝康(ともやす)の
子と《割書:云々》
【同 中段】
此哥の心はあき風の吹からに草木の
しほりはてゆくにしたがひてげにも山
風と書てあらしとよむもじは此とき
より思ひ合たるなりむべはげにも也
元はこれさだの御子の家見哥合の
哥なりとあり古今の序に詞たくみ
成さかひにいへり説〳〵の多き哥也
木ごとに花ぞさきにけるを木へんに
毎の字をゝくゆへ梅の字の心といひ
山かふりに風書てあらしの字の心と
いふ説あり用ひがたし只あらき風也
むべは宜応此字なりげにもといふ心也
康秀家集には野辺の草木と
あり昔はあらしを秋に用ひたると也
それを勿論と思ひてのべの草木
とよみたり
【同 下段】
文屋康秀(ぶんやのやすひで)
吹(ふく)からに
秋(あき)の
草(くさ)
木(き)
の
しほるれ
ば
むべ
山風(やまかぜ)を
あらしと
いふらん
【左丁 上段】
○大江千里
伊予守(いよのかみ)正五位下
或(あるひは)従(じう)五位下 内(く)
蔵少允(らのせうぜう)
平城天皇(へいせいてんわう)
阿保親王(あほうしんわう)
在原行平(ありわらのゆきひら)
大江音人(おほえのおとふど)
在原業平(ありわらのなりひら)
千古(ちふる)《割書:従四位上|式部権大輔》
千里(ちさと)《割書:音人|五男》
【同 中段】
此哥の心は月をみればいろ〳〵の事共
おもわれてかぎりなきかなしさの身にま
とひたるやうに思はるゝちゞとは千の字
なり秋は我みひとつのあきにはなけれ
どゝいへる成べし又いわく日は陽の気
なればむかふに心の和するなり月は陰
の気なればうちながむるに心も
すみあわれもすゝむものなりさればちゞ
にものこそかなしけれといへりちゞにと
いふはかずもかぎりもなくかなしけれと
いへるを只千文選のかたちよみなり
此ちゞとおなじこゝろなり古今集
秋上詞書にこれさだのみこの家の哥
合の哥とあり其旨のいわく日は
陽の気なればむかふに心の和する也
【同 下段】
大江千里(おほえのちさと)
月(つき)みれば
千(ち)ゝ(ゞ)に
もの
こそ
かなしけれ
我身(わがみ)
ひとつの
秋(あき)にはあらねど
【右丁 上段】
○菅家
右大臣正三位右大将
贈大政大臣(ぞうだいじやうだいじん)正一位
天照太神(てんせうだいじん)第二 御子(おんこ)
天穂日命(あまのほひのみことの)苗裔(ひやうゑい)是(ぜ)
善公(せんこう)之(の)男(むすこ)也今之
北野(きたの)天神(てんじん)也 巨儒(こじゆ)而(にして)
詩文(しぶん)ニ達(たつ)シ然(しかも)哥文(うたふん)
子(し)ニ長(ちやう)シ給(たま)ヘリ元(けん)
慶(けい)六年 鄙海(ひかい)之 使(し)
者(しや)来(きたつ)テ諸儒(しよじゆ)ニ見(まみへ)又
使者(ししや)右大臣ノ詩藁(しこう)【豪の誤ヵ】
ヲ見(ミ)テ称(せう)シテ風製(ふうせい)
白楽天(はくらくてん)ニ似(に)タリト云(いひ)
ケルト也
垂仁天皇(すいにんてんわうの)御宇(きよう)賜(たまふ)_二
土師臣姓(はじのしんのせうを)【一点脱】三世 孫身(そんしん)
臣(しん)仁徳天皇(にんとくてんわう)御宇
改(あらためて)賜(たまふ)_二土師連姓(はじのむらじのせうを)十一
世 孫(まご)古人(ふるひと)等天平
元年六月廿五日改
賜(たまふ)_二菅原姓(すがわらのしやうを)_一
【同 中段】
此哥の心は手向山へ御幸のとき供奉
にてよみ給ひし哥なり此たびは
御とものことなれはぬさもとりあへずと
なりぬさとは神にさゝぐるへいはくのこと
なり手向山にあるもみぢのにしきを
そのまゝにたむけ奉るといへり神の
まに〳〵とは神心にまかせ奉るといふ
ことなり詞書にしゆしやく院のならにお
はしましける時にたむけ山にてよみける
とあり是は寛平の御時の御幸也此たび
は旅の字といふ義もありその心たがふ
べからずといへ共猶たひの字よく侍る
なりぬさとは幣帛のこと也むかしは錦を以
てせしと也神のまに〳〵とは万葉に
随意とかけり神の御心のまゝにと
いふところなり
【同 下段】
菅家(かんけ)
此(この)たびは
ぬさも
とり
あへ
ず
手向山(たむけやま)
紅葉(もみぢ)の
にしき
神(かみ)のまに〳〵
【左丁 上段】
○三条右大臣
定方(さたかた)内大臣(ないだいしん)高藤(たかふぢ)公
二 男(なん)母(はゝは)宮内大輔(ぐないのたゆふ)弥(いや)
益(ます)女(むすめ)
良門(よしかど)ー利基(としもと)
《割書:内舎人勸修寺家恒|閑院左大臣冬嗣六男》
高藤《割書:利基弟》
《割書:勸修寺内大臣》
定国(さだくに)《割書:泉大将》
定方(さだかた)《割書:右大臣左大将|三条右大臣》
兼輔(かねすけ)《割書:中納言》
惟正(これまさ)《割書:従五位下|刑部卿大輔》
為時(ためとき)《割書:従五位下》
紫式部(むらさきしきぶ)
《割書:源氏物語作者》
【同 中段】
此哥の心はあふ坂といふ名におへるならば
やくそくをたがへずまことにくるよしもがな
といへる也さねはしんじつの事也さねか
づらつたの類也かづらといふよりくる
とはゑんをとりたる也人にしられてと
はかつらのしげみのいづれともしられぬ
やうに忍びてくるよしもかなと願ひたる
なり詞書に女のもとにつかはしけると《割書:云々》扨
さねかづらは是を引とるにしげみあるもの
なればいづくよりくるとも見えぬものなり
そのごとく我思ふ人も世にしらずしてくるよし
もがなといへるなりさこ[ゝ]ろに思ひ出る
のち中〳〵わびしきもこよなふ目さ
ましかりける道しばの露の名残なり
かしあふさかのさねかづらは人しれぬ御心
中ばかりにおぼしたえず
【同 下段】
三条右大臣(さんでうのうだいじん)
名(な)にし
おはゞ
逢坂山(あふさかやま)
の
さね
かづら
人にし
られで
くるよしもがな
【右丁 上段】
○貞信公
忠平(たゞひら)《割書:拾遺ニ有》
《割書:小一条大政大臣|照宣公(せうせんこう)四男》
冬嗣(ふゆつぐ)
《割書:閑院左大臣》
良房(よしふさ)
《割書:忠仁公》
基綱(もとつな)
《割書:照宣公》
時平(ときひら)《割書:本院贈大政|大臣》
仲平(なかひら)《割書:枇杷左大臣》
兼平(かねひら)《割書:中納言宮内》
忠平(ただひら)
《割書:贈正一位摂政関白|五条大政大臣号小一条》
師輔(もろすけ)《割書:九条|右丞相》
【同 中段】
此哥の心はていしゐん大井川に御幸ありて
行幸もあるべき所と奏聞あらんと思召
てよませ給ひけると也おぐら山のもみ
ぢ心もあらば今一たびのみゆき待つる
までちりなくぞとあそばしたるなり
心なきものにむかひて心あらばといひたる皆
わかの心ざしにしてゆうなる情也詞書に
ていしゐん大井川に御幸ありて行幸も
ありぬへき所也と仰給ふに事のよしそう
せんとて此哥を読りと云々うたの心は
御幸はすでにありとてものごとに散すして
行幸をまちつけよと也もみぢに
たいしていへり心はあきらかなり大鏡に
はもみぢの文も心あらばとあり
【同 下段】
貞信公(ていしんこう)
をぐら山(やま)
峯(みね)の
紅葉(もみぢ)ば
心(こゝろ)
あらば
いま一たび
の
みゆき
またなん
【左丁 上段】
○中納言兼輔
左中将(さちうせう)利基(としもとの)男(むすこ)号_二
堤中納言(つゝみちうなごん)【一点脱】左衛門
督(かみ)従三位
系図(けいづ)三条右大臣ノ
所ニ見(み)エタリ
承平(せうへい)三年五十七
歳(さい)ニテ薨(こうず)
引哥
月かけもけふ
みかのはら
浪にやとりせ
今しばし
見ん
都出て
けふみかのはら
いつみ川
かわ風さむみ
ころも
かせ
やま
【同 中段】
此哥の心は水のわくことく人を恋る
心のかきりはてなきをたとへていひ泉
川いづみきとてかとかさね河にいひながし
たる也いつのほどに見聞てかくこひしとは
水のわくことく思ふらんとわれと我心を
ことはりたるなりみかのはら泉川名所也
新古今にだいしらずとあり哥の心は
あふてあはさるこひとまたいまだあはざ
る恋との両様也わきてながるゝはいづみ
の縁の字也いつみきといはんためなり
是も序哥也心はふかくみしやうの人の
今はたへはてゝ覚えぬばかりなり猶
おもひやまずこひわびてわがこゝろを
せめていへるなり又一向にあひ見る事も
なき人を年月へて思ひわび打かへしいつ
あひ見たるまゝにて思へるぞと我心にいふ也。
【同 下段】
中納言(ちうなごん)兼輔(かねすけ)
みかの原(はら)
わきて
ながるゝ
泉(いづみ)
川(がは)
いつみき
とてか
恋(こひ)しかるらん
【右丁 上段】
○源宗于朝臣
一品(いつほん)式部卿(しきぶきやう)本康(もとやす)
親王(しんわう)一 男(なん)寛平(くわんへい)六
年正四位下又 三(さん)
光院(くわういん)御 説(せつ) ̄ニ云
光孝天皇(くわうこうてんわう)
是忠親王(これたゞしんわう)
宗于(むねゆき)
閑院(かんいん)
《割書:続古今作者》
かくのことく但(たゞし)帝王(ていわう)
の系図(けいづ)に《振り仮名:不_レ載_レ之|これをのせず》
いかゞある説(せつ)に光孝
天皇 御孫(みまご)右京大夫
致正(むねまさの)子(こ)と《割書:云| 云》致
正又 帝王(ていわう)の系図(けいづ)
にこれなしいかゞ
【同 中段】
此哥の心はおもてのまゝなり山ざと
ながら春秋は花もみぢにたより有べき
が冬はさう〳〵人めも草もかれぬといへる
こと也さびしさは山里のもの成又とり
わけ冬さびしさもまさるといひ人めくさ
ともにかれたるとよせいかぎりなき也冬の
哥とてよめるとあり山は四時さひしき
ものなり冬ぞの文字に心をつけ
次に山里はのはもじにこゝろをつく
べしと三光院の御説なり
○季注山ざとはいつも人めなくさ
びしきに冬は草までもかれて
なをさびしさのまさるとなり
とふ人もあらしと思ひし山ざとに
花のたよりに人めみるかな
【同 下段】
源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)
山里(やまざと)は冬(ふゆ)
ぞさび
しさ
ま
さり
ける
人めも草(くさ)
も
かれぬと
思(おも)へば
【左丁 上段】
○凡河内躬恒
古伝(こでん)ニ云 先祖(せんぞ)
《振り仮名:不_レ見|みへず》甲斐小目(かひのこもく)
御厨子所(みづしところ)預(あづかり)
延喜(ゑんき)七年正月
十三日 任(にんず)_二丹波掾(たんばのぜうに)_一
大目(たいもく)任(にんず)_二淡路掾(あはぢのぜうに)_一
祇注 行氏(ゆきうじの)孫(まご)諶
利子 凡(おふし)者姓也
又 甲斐小目(かひのこもく)良(よし)
高(たかの)子(こ)ト云云
古今集撰者(こきんしうせんじや)也
引哥
心あてに
わくとも
わかし
さくら花
ちりかふ
里の
春の
あは
ゆき
【同 中段】
此哥の心はしらきくの花に霜の
おきわたしたるはいづれか霜ぞとまど
ひたる也心あてにおらんよりほかなしと
よみたり心あてはすいりやうにていへる
ことばなり此哥しらきくのはなを
よめるとありさておらばやをらんとは
かさね詞也おらはおりもやせめといふ
場也いづれもあらましことなり菊
をも霜をもともにあひしたる哥也
はつ霜の初の字に力を入て見る哥
なり初霜をも未見ならはぬと也
○季注に霜もきくも一色にしろ
ければこれや花ならん心あてにおら
ばやおらんさだかには見わけ
られぬとなり
【同 下段】
凡河内躬恒(おほちかうちのみつね)
心(こゝろ)あてに
おらばや
おら
む
初霜(はつしも)の
をきまどは
せる
しらぎくのはな
【右丁 上部】
○壬生忠峯
壬生(みふ)すみてよむ
なり杢介(もくのすけ)忠(たゞ)
衡(もりの)子(こ)泉大将(いづみたいしやう)
定国(さだくに)随身(ずいしん)右衛(うゑ)
門(もん)府生(ふしやう)御厨子(みづし)
所(ところ)定外 膳部(せんぶ)
摂津大目(せつつのだいもく)
暁の恋引哥
つれなさの
たぐひまて
やは
つらからぬ
月をも
めでし
有明の空
あふと見る
なさけも
つらし
あかつきの
露のみふかき
夢の
わかれぢ
【同 中段】
此哥の心はとひゆけとも人のつれ
なくてあはぬにさりともとをり
つゞひくほいなくかへりたる心也有
明の月はつれなくのこり夜は明ぬ
るにあはで別のつらさ是より暁はかり
世にうきものはなしとひとへに思ひたる
さまなり此うた名誉のうた也
是はあふてじつなきこひなり扶(ふ)
桑葉林集とて百帖あるもの
なりさがてんわう此かたの哥を
あつめたるもの也それにはあはずして
かへる恋とあり他流には逢て別るゝ恋
なり心は右の注共に明也まことに手
だてのおもしろき哥なるべし
【同 下段】
壬生忠峯(みぶのたゝみね)
有明(ありあけ)の
つれなく
見え
し
別(わかれ)より
暁(あかつき)
ばかり
うき物(もの)はなし
【左丁 上段】
○坂上是則
大内記(だいないき)従五位下
加賀介(かがのすけ)御書所預(こしよところあづかり)
坂上田村丸(さかのうへたむらまる)
広野(ひろの)
当常(まさつね)
好蔭(よしかげ)
是則(これのり)
望城(もちき)
《割書:後撰撰者|五人之内》
よるならは
月とそ
見まし
我やとの
庭白妙に
ふれる
しら
雪
【同 中段】
此哥の心はあかつきかたみよしのゝ山の
くさ木をみれはあり明の月のやう
に白〳〵とはつ雪のうす〳〵とふりたる
をよめるてい也名所のはつ雪の題
にてあきらかに見えたり此うたの注
やまとの国にまかれるとき雪のふりける
を見てよめるとありたてあさぼらけ
は夜明行時分也朝旦朝朗明旦
いつれもあさほらけとよむ也里と
ほめてはいわぬなりあり明の月空
になくてこゝにはかけのあるあひだ
ちか〴〵とみてかくのことくよむ也
○季注あけ方の月は影うすくして
さすがに明白なれば雪のうすく
ふりけるに見まがふなり
【同 下段】
坂上是則(さかのうへのこれのり)
朝(あさ)ぼらけ
有明(ありあけ)の
月(つき)
とみる
までに
よし野(の)ゝ
さとに
ふれるしら雪(ゆき)
【右丁 上段】
○春道列樹
従五位下 雅楽頭(うたのかみ)
新名宿祢(にいなのすくね)之一男
文章博士(ぶんしやうのはかせ)正六位上
壱岐守(いきのかみ)出雲守(いづものかみ)
自問自答(しもんしたう)の哥
とていせ物かたりに
秋やくる
つゆや
まかふと
おもふまて
あるはなみたの
ふるにぞ
ありける
後撰集に
大井川風の
しからみ
かけて
けり
もみぢのいかだ
ゆきやらぬ
まで
【同 中段】
此哥の心は山河に風の木のはを多く
ふきかけたるは水のしからみとなりて
ながれもあへぬていなり風のかけたる
しがらみは何ものぞと見れはなかれも
あへぬもみぢ成けりとわれととひ
われとこたへる哥のさまなり風のかけ
たるがめづらし此うたの注しがの山ごえ
にて読るとあり此五もじ山から川との
ことに万葉にいへる有その時は河の字
をすむ也是はたゞ河の字にごるべし
木の葉のながれてせかれたるしがらみ
といふにてはなし風のしがらみといへり
一説に北白川の滝のかたはらより上り
てによいのみね越てしがへ出る道なり
といへりあへぬは敢(かん)の字也敢は果也
とてながれもはてぬこゝろなり
【同 下段】
春道列樹(はるみちのつらき)
やま川(がは)に
風(かぜ)の
かけ
たる
しがらみは
ながれも
あへぬ
紅葉(もみぢ)なりけり
【左丁 上段】
○紀友則
紀有友(きのありともの)子(こ)と云云
あるひは長谷雄卿(はせおきやう)の
末(すへ)と云云 有明(ありあきら)とあら
たむると云云
孝元天皇(こうけんてんわう)
彦太忍信命(ひこふとをしまことのみこと)
《割書:此命ヨリ十六代ノ孫》
梶長(かぢなが)
《割書:中納言》
興道(おきみち)ー本道(もとみち)
名虎(なとら)ー有常(ありつね)
有友(ありとも)
友則(とものり)
女子
友則《割書:一本上|如此》
望行(もちゆき)《割書:宮内少輔》
貫之(つらゆき)《割書:従五位下土佐守|杢頭》
時文(ときふみ)《割書:内藏内能書|御撰五人ノ内》
女子《割書:典内侍》
宗庭(むねには)ー行広(ゆきひろ)
勝庭(かつには)《割書:古今作者》
承均《割書:同》
【同 中段】
此哥の心は雨風に花のちり侍ることは
申事なしかぜもふかでのと〳〵し
侍るに花のしづかにもなくちることの
うらめしきといふことなりのどけき日
に何事ぞ花はいそかはしくちるといふ
にてちるらんのはね字も聞えたる也何事
ぞと心を入て見侍るべし詞書にさくら
の花のちるをよめるとあり為家卿に
此心は人の心か花の心かと人の尋ねし
にいづれにてもしかるべしとこたへられしと
なり花の心と見るがまされるなり
うらのせとこたへられしとなり此哥花
ぞちりけるなどゝもあるへき所なるに
ちるらんといへるにてれいらくすること
をふかくおしむ心ありよく〳〵沈
吟すべし
【同 下段】
紀友則(きのとものり)
久(ひさ)かたの
ひかり
のど
けき
春(はる)の日(ひ)に
賎心(しづこゝろ)なく
花(はな)のちるら
む
【右丁 上段】
○藤原興風
ある説にいわく
下総権守(しもふさこんのかみ)正六位
上 治部少掾(ぢぶせう〴〵)
麿(まろ)
《割書:号 ̄ス_二京家贈大政大臣 ̄ト_一》
浜成(はまなり)
《割書:三木作_二和哥式 ̄ヲ_一》
永谷(ながたに)
《割書:従五位下皇后宮亮》
道成(みちなり)
《割書:正六位相模守》
興風(おきかぜ)
《割書:或説ニ興風ハ浜成ノ孫道成ノ子ト
云云》
【同 中段】
此哥は題しらずのうたなり我年老て
後いにしへよりさま〳〵になれにし人も
あるひは此世にながらへたるもあり或は
さきたちてとゞまるもありいろ〳〵に
なりてたゞひとりのこりつゝ朋友の
心したるもなき時高砂の松こそい
にしへより年たかきものなれど思ふに
此松もまた我むかしの友ならねばと
うちなけきてたれをかもしる人に
して心をものべんといへる心なり宗長
聞書にすへから五もしを心得べしと有
また高砂は山の総【惣】名なるべし
しかれども高砂住江の松も相生のやう
にとあればたしかに名所に見ても過ち
あるまじきにや尾上のさくらさきに
けりの高砂は此限にはあるべからずと也
【同 下段】
藤原興風(ふちはらのをきがせ)【「かぜ」とあるところ】
たれをかも
しる人に
せむ
高(たか)
砂(さご)の
松(まつ)もむかしの
友(とも)なら
なくに
【左丁 上段】
○紀貫之
古今集(こきんしう)にいわく
御書所(ごしよところ)之 預(あづかり)
新撰(しんせん)にいわく玄(げん)
番頭(ばのかみ)従五位(しうこいの)上
孝元天皇(こうげんてんわう)ノ御(おん)
末(すへ)紀望行(きのもちゆきが)子(こ)也
或(あるひ)ハ文幹(ぶんかんの)男(むすこ)云云
童名(わらべな)阿久曽(あくそ)
此哥の返歌
花たにも
おなじ
むかし
に
さくものを
うへたる人の
こゝろ
しら
なむ
【同 中段】
此哥の心ははつせにもふてゝぬる度
ことやとりて久しくをとつれさりけれは
あるしうらみけるにそこに有ける梅
をおりてよめる也その人の心のまこと
いつわりはしらずまづ花はむかしの匂ひ
にかわらずとよめるなりいざはしら
ずと書たるなり詞書にはいせにまふ
でつることにつらゆき家集にはむかし
はつせにとあり古今にはつらゆき詞
をなをして入たりつらゆき宿坊に
中絶してきたりたるをあるじうら
みてかくのごとし貫之はむかしはせの
観音の示現にまふけたる子也やがて
くわんおんの夢想に内 坊と名付よと
有しによりてつらゆきわらべのとき
はせにての名とせり
【同 下段】
紀貫之(きのつらゆき)
人はいざ
心(こゝろ)も
しらず
故郷(ふるさと)
は
花(はな)ぞ
むかしの
香(か)に
にほひける
【右丁 上段】
○清原深養父
先祖(せんぞ)《振り仮名:不_レ見|みへず》云云
一 説(せつ)ニ豊前守(ぶぜんのかみ)
房則(ふさのり)が男(むすこ)ト云云
一 説(せつ)ニ筑前守(ちくぜんのかみ)
海雄(かいをの)孫(まご)房則(ふさのりの)
子(コ)ト云云《振り仮名:可_レ尋|たつぬべき》也
従五位下(じうごいのけ)内匠允(たくみのぜう)
蔵人所(くらんどところの)雑色(ざうしき)
又曰 内藏頭(くらのかみ)云云
為家卿此哥を
とりて
卯の花の
かきねは
雲の
いつこ
とて
あけぬる
月の
かげ
やとるらん
【同 中段】
此哥の心は夏のよのあけやすきになを
月をめであはれむ空のみじかさまだ宵
ながらあけたるやうにおもわるゝに月は
雲のいづこにやとりけんとをしみうらみ
たるていなり誠にゆうにあはれなる
哥也詞書に月のおもしろかりける夜
あかつきがたによめるとあり心はたゞ夏
の夜のとりあへずあけぬるほとに月は
いまだ半天にもあらんと見る月入ぬれ
ばかくよめるたゞさへみじか夜なるを月
に向てはいよ〳〵みぢかく覚ゆべしそれを
又よひながら明ぬるとおさへていひたる
おもしろしと也雲のいつことはかなら
ずしも雲に用はなけれどもことば
のかゝりにいえり
【同 下段】
清原深養父(きよはらのふかやぶ)
夏(なつ)のよは
まだ
よゐ
ながら
明(あけ)
ぬる
を
雲(くも)の
いづこに
月(つき)やどるらん
【左丁 上段】
○文屋朝康
先祖(せんぞ)《振り仮名:不_レ見|みへず》文(ぶん)
屋康秀(やのやすひでの)男(むすこ)云云
延喜(ゑんぎの)比之(ころの)人 ̄ト云
延喜二年 任(にんず)_二
大舎人允(おほとねりのすけ) ̄ニ_一云云
伊勢此哥の引哥
あをやきの
枝にかゝれる
春雨は
糸もて
ぬける
玉かとぞ
見る
【同 中段】
此哥の心はあきのゝのえもいはれぬ
千ぐさの花のうへにおきたる露を風
の吹しきたればちりみだれたるさま
つらぬかぬ玉のごとく也とよめる也めで
あはれむ心のたへにしてことのはのゆう
にまことなるものなり此風のふきしくは
しきりにあらき風なりこの哥は別に
心なし当意の風吹たるけいき也
つらぬきとめぬとは玉をば糸にて
つらぬくものなればこれをぬきみだ
しかといへる心なり総【惣】のこゝろは秋
の所せきまでおきみちたる露の
おもしろきなり
○季注につらぬきとめんとするとも
風つよく急に散ゆへ
とまらぬなり
【同 下段】
文屋朝康(ぶんやのあさやす)
しら露(つゆ)に
かぜの
吹(ふき)し
く
秋(あき)の野は
つらぬき
とめぬ
玉(たま)ぞちりける
【右丁 上段】
○右近
右近少将(うこんせう〳〵)藤(とう)ノ
季縄(すへつな)【「なは」の誤】ノ女(むすめ)此 季(すへ)
縄(つな)【ママ】ヲ号(こう)_二ス交野(かたのゝ)
少将(しやう〳〵と)_一
女のうたおもしろ
きとて定家卿
の哥に
身を
すてゝ
人のいのち
を
をしめとも
ありし
ちかひ
の
おぼえ
やは
せん
【同 中段】
此哥の心はわすられはつる我身
をば思はすしてちかひをかけてかは
らじわすれしといひし人のいのち
の神のたゝりにて死なんこそおしく
かなしけれと読たる也又ある注に
たゞ人の千々のやしろを引かけて
もし心かはらばいのちもたへなんと
ちかひたる人のへんじたる時に読り
心はあきらかなり但かくちぎれる
人のかはり行をばうらみずして猶
その人のいのちをおもふ心もつとも
あはれふかきうた成べし
○季注わすらるゝつらさはおもはず
してあだ人の身の上を猶おもふ
ことよとわがこゝろの
はかなきを云たるか
【同 下段】
右近(うこん)
忘(わす)ら
るゝ
身(み)をば
思(をも)はず
ちかひ
てし
人の命(いのち)の
おしくも
あるかな
【左丁 上段】
○参議等
美濃守(みのゝかみ)左中弁(さちうべん)
勘解由(かげゆ)長官(ちやうぐわん)
天暦(てんりやく)五年三月十日
薨(かうず)七十二 歳(さい)
嵯峨天皇(さがのてんわう)
弘(ひろむ)
《割書:広橋大納言|正三位賜源姓》
希(ねかふ)
《割書:中納言従三位》
等(ひとし)
《割書:右大弁|頭三木正四位下》
済(わたす)
《割書:従四位下淡路守》
【同 中段】
此哥の心はあさぢふはおのをいはんため
しのはらへしのぶといはんためなり
かやうにしのぶとは思へともいかでか
あまりてものをおもふよしの人めに
みへ侍らんと心ならぬをもひをいひ
のべたるなり是も序哥也あさぢふ
の小野ゝ名所にあらずうたの心は
忍へとも〳〵あまりてといふ心也たゞわが
こひもそのごとくにつゝむとすれともめ
にもあまりて見ゆるぞとなり我心
にしのぶとしりたらばなど心に余り
てはこひしきぞとなりなとかと我
心にとがめていへる哥なり思ふには忍
る事のまくるならひにてしのべども〳〵
猶こひしき也かやうにやすく聞ゆる
哥をばなを〳〵あちはふべきなり
【同 下段】
参議等(さんぎひとし)
あさぢふの
をのゝ
しの原(はら)
忍(しの)ぶ
れと
あまり
て
などか
人の恋(こひ)しき
【右丁 上段】
○平兼盛
従五位(じうごゐ)駿河守(するがのかみ)
光孝天皇(くわうかうてんわう)
是忠親王(これたゞしんわう)
興雅王(おきまさわう)
篤行(あつゆき)
兼盛(かねもり)
赤染右衛門(あかそめゑもん)
《割書:上東門院女房》
後撰集(ごせんしう)には
兼盛王(かねもりあふきみ)とあり
袋双紙(ふくろざうし)に天暦(てんりやく)
の比(ころ)より平(たいら)の
姓(しやう)にかへるよし
あり
【同 中段】
此哥の心は人にしられしとしのぶ〳〵
とおもへとも忍びあまりてはやもの
おもひをするやと人もとふまで色に
出けりとよめるなりてんとくの哥
合のうたなりうたの義はあきらか也
心を守る事城くわくのことくなりと
いへりしかればずいふん我はしのぶと
思ひしを人の不審するに付てさほど
まで思ひよはれるを心にうちなげきて
いへるもつともあはれふかし宗長聞書に
年月ふる心を下にもたせたるなり
おもひよれるさまを人にとがめられてお
どろくなり
○季吟のいわくいろに出にけりと
いふにてさてもいろに出けるよと
おどろくていに聞えたり
【同 下段】
平兼盛(たいらのかねもり)
忍(しの)ぶれど
いろに
出(いで)に
けり
我恋(わがこひ)は
ものや
思(おも)ふと
人(ひと)の
とふまで
【左丁 上段】
○壬生忠見
本名(ほんみやう)忠実(たゞさね)
忠峯(たゞみねの)男(むすこ)云云
天徳(てんとく)二年
任(にんす)摂津大目(せつつのさくわんに)
沙石集(させきしう)にいわく
天徳(てんとく)の御哥合
の時 兼盛(かねもり)忠見(たゞみ)
左右につかひて
けり初恋(はつこひ)といふ
題を給はりて忠見
秀哥(しうか)よみ出したり
といひて兼盛も
いかで是ほどの哥
よむへきと思ひける
恋すてふ我名は
まだき立にけり
ー扨(さて)既(すで)に御前に
て判せられけるに
かねもりが哥に
つゝめともいろに出
けり我恋はー
共に秀哥なり
【同 中段】
此哥の心はこひすてふはこひすれば也
またき名のたつははやく名のたちける
事よ人はよもしらじと忍びたるに我
をもほへずその色にも見えけるとなり
天徳の哥合に前のうたとつゞひたる
哥なり祇注にいわくをくのうたは
すこしまさりけるよしをいえり
誠にことばづかひ比類なきものなり
またきははやきなり詠哥一体には
まへのうたを猶ほめたり此うたも
心はまへの哥にをなじくとあり
○季吟のいわくおもひそめしより
ほとなくはや名の立ける事かな人
しれすおもひ初しかどもをもひの
ふかきゆへにはやあらはれたる
こゝろきこゆ
【同 下段】
壬生忠見(みぶのたゞみ)
恋(こひ)すてふ
我名(わがな)は
まだき
たち
にけり
人しれず
こそ
思日(おもひ)そめしが
【右丁 上部】
○清原元輔
肥後守(ひごのかみ)従五位(しうごい)
上(じやう)深養父(ふかやぶの)孫(まご)
泰光(やすみつの)男(むすこ) ̄ト云
イ ̄ニ顕忠(あきたゞ)母(はゝ)ハ筑前(ちくぜんの)
守(かみ)高向利生(たかむかふとしなり)女(むすめ)
君をおきて
あだし心を
我もたは
すゑの
松山
浪も
越
なん
松山と
ちぎりし
人は
つれ
なく
て
浪越す
袖に
やどる
月かけ
【同 中段】
此哥の心はすえの松山は奥州の名所
なり君をおきてあだし心を我もたは
すへの松山波もこへなんといふ本哥
よりよみたる也かたみとはたがひの
ことなり此哥本縁この山を浪の
こへん時我ちぎりはかはらんといひし
ことありこと〳〵くみなそれにて
よめり心はさてもあだにかくかはる
ものを互に袖をしぼりて松こさ
じとちぎりけるよとすこしはぢ
しむるやうにいへるこゝろなり
又かはるをは中〳〵うらみずして仇なる
人としり侍らばちきらしものをと歎心也
○季吟のいわくかく変するをしら
ずちぎりきなとはかなきわが心
をとがむるなり
【同 下段】
清原元輔(きよはらのもとすけ)
ちぎり
きな
かた
みに
袖を
しぼり
つゝ
末(すへ)の松山(まつやま)
波(なみ)こさじとは
【左丁 上段】
○権中納言敦忠
時平公(ときひらこう)三 男(なん)母(はゝ)ハ筑(ちく)
前守(せんかみ)在原棟梁(ありわらのとうりやうの)女
敦忠(あつたゝ)《振り仮名:実ハ|じつハ》国経(くにつねの)子(こ) ̄ト
云云 母(はゝ)始(はしめ)ハ為(なる)_二国経(くにつねの)
御妻(おんつま) ̄ト【一点脱】後(のち)ニ嫁(かす)_二時平(しへい)
公(こう) ̄ニ_一依(よつて)実(じつ)ハ国経(くにつねの)子(こ)《割書:云|云》
忠仁公(ちうにんこう)ー《割書:国経(くにつね)|昭宣公(せうせんこう)》
敦忠(あつたゞ)
時平(ときひら)
貞信公(ていしんこう)
拾遺第八雑上云
権中納言敦忠か西
坂本の山庄の跡の
岩にいせか書付ける
おとは川せき
入ておとす
滝つせに
人の心に(の)
見えも
する哉
【同 中段】
此哥の心は君をおもひそめてより
たゞ一すじにあひ見まくほしとのみ
なげきつるが一よあひてはわかれ
のあしたよりあわぬむかしとわかれ
て後のうさをくらぶれは中〳〵む
かしはものをも思はぬやうに思はれ
猶思ひのましたる心也又はしのぶと
いふ事のくはゝるほどにあはさりし
さきはものおもふまてもなかりしと也
またおもひのきざしてはかたちをも
見ばやと思ふおもかけをみては詞
を通ぜんとおもひし也拾遺集第
十二恋に題しらすとあり此うた
やすく聞えたれともその心ふかき
うたなり
【同 下段】
権中納言敦忠(ごんちうなごんあつたゞ)
あひみて
の
のちの
心(こゝろ)に
くら
ぶれば
むかしは
ものも
思(おも)は
ざり
けり
【右丁 上段】
○中納言朝忠
従二位中納言
号(ごうす)_二土御門(つちみかどゝ)_一 中
納言右衛門 督(のすけ)
母中納言 山蔭(やまかげ)
女
内大臣(ないだいじん)高藤(たかふぢ)
定国(さだくに)《割書:泉大将》
定房(さだふさ)《割書:三条右大臣》
朝忠(ともたゞ)《割書:従三位|中納言》
朝頼(ともより)
《割書:勸修寺当流》
たぐへやる
我たましゐを
いかにして
はかなき
空に
もて
はなるらん
【同 中段】
此うたの心はあふといふことの世の中に
たへてなきことならは中〳〵によからん
しからば人もうらめしくおもふともなく
身をうらむる事もなからんあひみる
といふことのあるゆへにものを思ふと
あらぬことにこゝろをよせておもひ
あまりたるつらさをいひ出せりこれ
はあふてあはざるこひのこゝろ
にてよめり心をつくしきて
のことなり世の中にたへてさくらの
なかりせは人の心はといひたる同意
なり中〳〵といふ事只はいらぬ也
○季吟のいわく一義はつかにも逢
まほしき本意なるをかくかれ〳〵に
なる思ひの切なれは中〳〵始にあふ
事の絶てなくはうらみもあらしと也
【同 下段】
中納言(ちうなごん)朝忠(あさたゞ)
あふことの
たえてし
なくは
中(なか)〳〵
に
人をも
身(み)をも
うらみざら
まし
【左丁 上段】
○謙徳公
一条摂政(いちでうせつしやう)伊尹公(これまさこう)
九条(くてう)右丞相(うせう〴〵)師輔(もろすけ)
公(こうの)一男 母(はゝは)武蔵守(むさしのかみ)
経邦(つねくに)女 天禄(てんろく)三十
二 薨(こうす)三十九 歳(さい)此
公 御撰集(ごせんしう)ヲ撰(ゑらば)レ
シ時(とき)蔵人少将(くらんどせう〳〵)ニ
テ和哥所(わかところ)ノ奉行(ぶきやう)
也謙徳公ハ謚名(をくりな)
也大政大臣ノ当官(たうくわん)
ニテ薨(こうじ)タル人必(かなら)ス
在(あり)_レ之(これ)一 国(こく)封(ふう)セラル
仍(よつて)中古(ちうこ)以来(いらい)無(なし)_レ之(これ)
必 薨(こう)スル時(とき)辞退(じたい)
スルナリ
貞信公(ていしんこう)
師輔(もろすけ)《割書:九条右少将》
伊尹(これまさ)《割書:摂政》
義孝(よしたか)《割書:従五位下|春宮亮》
行成(かうせい)《割書:権大納言》
三 蹟(せき)之内 号(こうす)_二権蹟(ごんせきと)_一
【同 中段】
此哥の心はあはれ共いふべき人は
うつゝなくかはりはてぬればいふに
たらずわきにも人のしりてあはれ
むものもなけれはたゝ我みのいた
つらに何の事ともなしにならんより
とてはくちをしき身のはてかなと
よめる哥なり詞書にものいひ
ける女の後につれなく侍りて
更にあわず侍りければとあり
此いふへき人はおもほえでとはくがいの
他人をさしていへり我思ふあひてを
はいふにたらざることなるべし
○季吟のいわく此人は世間の人と
聞ゆれど底はつれなき人なるべし
【同 下段】
謙徳公(けんとくこう)
あはれ
とも
いふべき
人は
おもほ
えで
身(み)の
いたづらに
なりぬべき哉
【右丁 上段】
○曽祢好忠
先祖(せんぞ)不(ず)_レ見(みへ)
寛和(くわんわ)之(の)比(ころ)人 ̄ト云云
任(にんず)_二丹波掾(たんばのせう) ̄ニ_一云云
仍(よつて)号(こうす)_二曽丹(そたんと)_一
新古
紀の国やゆらの
みなとに
ひろふてふ
玉さかに
だにあひ
みてしかな
引哥
梶をたえ
いのちも
たゆと
しらせはや
なみたの
うらに
しづむ
舟人
【同 中段】
此哥の心は我こひのみちのいひ
よるべきたよりもなくさながら
おもひすてられずつもり
つもれる思ひはゆくへもしらぬ
なり由良のとをわたる船人
のかぢをたちたることくなりと
たとへたるなり由良の湊は
紀伊国也玄旨のいわくこの
由良のとは浪のあらき所なるべし
心は大海をわたる舟のかぢなからん
はたよりをうしなふべき事也其
舟のことくわが恋ぢのたのむ
たよりなく行えもしらぬよ
しなり
【同 下段】
曽祢好忠(そねのよしたゞ)
ゆらのとを
わたる
舟人(ふなびと)
かぢ
を
たえ
行衛(ゆくえ)も
しらぬ
恋(こひ)の道(みち)かな
【左丁 上段】
○恵慶法師
ゑきやうほうし
とよむべし
先祖(せんぞ)不)(ず)_レ見(みへ)
寛和(くわんわ)比(ころ)之(の)人(ひと)
播磨国(はりまのくにの)講師(こうし)
家集(いへのしう)ニ有
続古今
中務卿親王
人とはむ
むくらの
やどの
月かげ
に
つゆこそ
みえね
秋かせ
そ
ふく
【同 中段】
此哥の心はかやうに八重むぐらの
やどながら秋はかならす〳〵とひ
くるとなりついに人はかやうの
宿はとはずとなりむぐらのやどは
かたにも秋のものなり宗祇云
詞書にてこゝろはあきらかに
きこへ侍れど往古とほるのおとゞ
の□【「さ」ヵ】かえも夢のやうにてむかし
わすれぬ秋のみかへる心をあはれと
うちことはりたるさまたぐひなく
やよく〳〵河原院のむかしをおもひ
つゞけて此哥をば見侍るべきとぞ
○季注むぐらのやどのさびしきに
人こそとはざらめあまつさへ秋さへ
きにけりとなり
【同 下段】
恵慶法師(ゑけうほうし)
八重(やえ)むぐら
しげれる
宿(やど)の
さび
し
き
に
人こそ
見えね
秋はきにけり
【右丁 上段】
○源重之
兼信(かねのぶの)子(こ)叔父(おぢ)兼(かね)
忠(たゞの)為(なる)_レ子(こと)云云
清和天皇(せいわてんわう)
《割書:号四品閑院》
貞元親王(さだもとしんわう)
《割書:三木治部卿 正四位下|賜源姓》
兼忠(かねたゞ)
《割書:三河守侍従賜源姓》
兼信(かねのふ)
《割書:右馬介 従五位下》
重之(しけゆき) 《割書:相模守》
《割書:冷泉院方々時|帯刀》
待賢門院堀川
あらいその
岩に
くだくる
なみ
なれや
つれなき
人に
かへ【ママ】る
こゝろは
【同 中段】
此哥の心は万葉のうたに山ぶしの
こしにつけたるほらのかいをづ〳〵とし
て岩にあてゝくだけてものを思ふ
ころかなといふ本哥をとりされば
つれなきは岩ほのことくいくたび
なみの思ひかくれともちり〴〵に
くだくる也我つれなき人をみて
恋せむとはなけれどもおのづから
ものを思ふなり
○季注にいわく一儀おのれのみは
世間に
わればかり心折を
くだきて
ものおもふと
なり
【同 下段】
源重之(みなもとのしけゆき)
風(かぜ)をいたみ
岩(いわ)うつ
波(なみ)の
をのれ
のみ
くだけ
て
物(もの)を思(おも)ふ
比(ころ)かな
【左丁 上段】
○大中臣能宣朝臣
祭主(さいしゆ)
祭主 頼基(よりもとの)男(むすこ)
天児屋根(あまつこやね)
常盤大連公(ときはのおほむらじのきみ)
可多能(かたの)大連公
国子(くにこの)大連公
国足(くにたる)
意美麿(いみまる)
清麿(きよまろ)
今麿(いままろ)
常麿(つねまろ)ー岡良(おかよし)
輔道(すけみち)ー頼基(よりもと)
能宣(よしのぶ)ー輔親(すけちか)
輔経(すけつね)
伊勢太輔(いせのたゆふ)
【同 中段】
此哥の心はみかきもりとは大門の
かゞり火のやく人也衛士とはゑ
もんつかさなり此ゑしがたく火
も夜ばかりものをおもふよし
なり昼夜のものおもひをはよ
めるうたなりゑじのたく火のやう
によるはもえてと字をくはえて心
えべきなり其旨のいはく衛士
は左衛門の下につかふ士なり左衛門
は外衛の御垣をまもるなり
心は吾人目をよぐる故にひるは
火のきゆるやうなれどもよるは
またもゆるとなり
宗祇のいわくひるはきゆるおもひ
を休したるさまなり
【同 下段】
大中臣能宣(おほなかとみよしのぶの)朝臣(あつそん)
みかきもり
衛士(ゑじ)のたく
火(ひ)の
よるは
もえ
ひるは
消(きへ)つゝ
ものを
こそ思え
【右丁 上段】
○藤原義孝
右少将(うせう〳〵)従五位下(じゆごいのげ)
謙徳公(けんとくこうの)三男(さんなん)号(ごうす)_二
後少将(ごせう〳〵と)_一母(はゝ)中務(なかつかさ)
卿(きやう)代明親王(たいめいしんわうの)女(むすめ)
元享釈書(けんかうしやくしよ)曰 羽(う)
林次将(りんじしやう)藤原義(ふぢわらのよし)
孝(たか)者(は)大師(だいし)謙(けん)
徳公(とくこう)第四子(だいしのこ)也(なり)
朝事(てうじの)隙(ひまに)誦(じゆす)_二法花(ほうけを)_一
永(ながく)絶(たへ)_二腥葷(せいきんを)_一 天暦(てんりやく)
二年 秋(あき)染(いたむ)_レ病(やまひを)
誦(じゆして)_二方便品(ほうべんほんを)_一而 逝(せい)
去(きよす)下略
西行法師
新古
逢までの
いのちも
かなと
おもひしは
くやしかりける
わがこゝろかな
【同 中段】
此哥の心は後朝の哥なり逢ぬほどは
いのちにもかへてあひたくおもひしに命
あれはこそあひたるらん今はなをい
のちをしきよしなり尤あはれふかゝ
るべし心は大かたにあきらかなれども
思ひけるかなといへる詞に見所あり
人を思ふ心の切なるまゝにわが心の
いつしかながくも思ひ侍ることもと云
所をよく見侍るべきとぞ此哉をば
かへるかなといふなり又ぬる哉といふは
過去の心有けるかなは当うたの心也
○季注にいわくきのふまであひにし
かへばとおもひし命の一夜あふ
てけふはまた逢までのいのちをお
もふ事一しほふかきこひなる
べし
【同 下段】
藤原義孝(ふぢわらよしたか)
君(きみ)がため
おしから
ざりし
いのち
さへ
ながくも
がなと思日(おもひ)
ぬる哉
【左丁 上段】
○藤原実方朝臣
右中将(うちうぜう)正四位下
陸奥守(むつのかみ)
貞信公(ていしんこう)
師尹(もろまさ)《割書:小一条左大臣|従一位》
定時(さだとき)《割書:従五位下|哥人》
《割書:長徳四年十一月十一日》
実方(さねかた)《割書: |於_二任国_一卒》
下野国いぶき山也
能因法師
あぢきなや
いぶきの山の
さしもぐさ
おのが
思ひに
みをこがし
つゝ
【同 中段】
此哥の心はかくとたにはかくともえ云
出しゑぬといふ事也さしもぐさとは
ゑもぎの事也まことに身に火を付て
かんにんして侍るほどの事なれども終に
いわぬは此心を人もしるましきなり
此実方は行成と同時の殿上人にて
口論をして行成の冠を笏にてうち
おとされしをさらぬていにて冠を着
かみかき合色をもそこなはずして
しらけて立けり主上此事を御覧せら
れて実方をは哥枕見て参れとて
陸奥守になして遣はされしと也
○季注己か思ひに身をこがしつゝと云身
をや焼らんと云哥によりて読りされ
共さしも草さしもとうけもゆるおも火
と云にてよく聞へ侍はなり
【同 下段】
藤原実方朝臣(ふぢわらのさねかたのあそん)
閑(か)くとだ
に
えやは
いぶ
き
の
さしも草(ぐさ)
さしもしら
じな
もゆる思(おも)ひを
【右丁 上段】
○藤原道信朝臣
恒徳公(かうとくこうの)四男(しなん)母(はゝ)ハ
謙徳公(けんとくこう)女(むすめ)
師輔(もろすけ)《割書:九条右丞相》
恒徳公(かうとくこう)
《割書:師輔九男母経邦女》
道信(みちのぶ)
《割書:左中将従四位上|正暦五年卒| 廿三歳》
拾遺
いつしかとくれを
まつ間の
大そらは
くもるさへこそ
うれしかりける
万葉
うば玉のこの
よなあけそ
明ゆかば
あさゆく君を
まてば
くるし
きに
【同 中段】
此哥の心は後のあしたの哥なり
あけて暮侍るべきはしりたれとも
人にあはんことのかたければ猶うら
めしき朝ぼらけとは読し也後
拾遺第十二恋に【「二」の誤ヵ】詞書に女のもと
より雪のふり侍る日かへりて遣し
けるとありて哥二首ならびて
入けるかへるさの道やはかはるかはら
ねととくるにまどふ今朝のあは
ゆき今一首はあけぬればの
うた也しりながらといへるに深き
心侍るあけぬればくるゝ理を
しらぬならはと
いふなり
【同 下段】
藤原道信朝臣(ふぢわらのみちのぶのあそん)
明(あけ)ぬれば
くるゝ
ものとは
しり
ながら
猶(なを)うら
めしき
朝(あさ)ぼらけ
かな
【左丁 上段】
○右大将道綱母
藤原倫寧(ふぢわらのともやすの)女(むすめ)東(ひかし)
三条入道 関白(くわんばく)
兼家公(かねいへこうの)室(しつ)本朝(ほんてう)
古今(ここん)之(の)美人(ひじん)三人
之 内(うち)也 道綱(みちつな)ハ
九条 右丞相(うせう〴〵)師(もろ)
輔公(すけこうの)孫(まご)兼家公(かねいへこう)
之三 男(なん)也
師輔(もろすけ)
兼家(かねいへ)
道隆(みちたか)
道兼(みちかね)
道長(みちなが)
道綱(みちつな)
【同 中段】
此哥の心はこの所へ関白大臣かよ
はれしに戸などおそく明侍り
ければ恨みられしこと也そなた
にはいつもふたり侍りて我方へは
まれに問侍なりいつもひとりね
てのみ明やらぬこといかばかりならん
今戸ちとをそくあけらるゝを
さへ恨給ひけるよといへる哥也
拾遺集第十四恋四詞書に入道
まかりたるに門をおそくあけゝれ
ば読て出しけるとあり五文字
あさる【ママ】見るべからず待わつらひ給ふ
なるをなげきつゝひとりぬるよ
の明るまはいかばかりひさしき
ものとうらむるていなり
【同 下段】
右大将道綱(うたいしやうみちつなの)母(はゝ)
なけ
き
つゝ
ひとり
ぬる
よの
あくる
まは
いかに久し
き
物(もの)とかは
しる
【右丁 上段】
○儀同三司母
高階(たかしな)《割書:後拾遺有》
作者部類(さくしやぶるい)ニ曰
従三 位(ゐ)成忠(なりたゞの)女(むすめ)
掌侍(しやうし)貴子(きし)号(かうす)_二
高内侍(かうのないしと)【一点脱】中関(なかのくわん)
白(ばく)道隆公(みちたかこうの)室(しつ)
也 儀同三司(ぎとうさんし)伊(い)
周公(しうこうの)母(はゝ)也
伊周公
長徳(てうとく)二年二月廿
四日 有(ありと)_レ事(まつりこと)左遷(させんす)_二【迁は俗字】太(だ)
宰府(ざいふに)_一同三年四
月三日 帰京(ききやうす)号(こうす)_二
帥内大臣(そつのないだいじん)儀同(きとう)
三司(さんし)【一点脱】私曰儀同
三司ハ三 公(こう)ニ准(じゆん)
スル義ナリト云云
【同 中段】
此哥の心はある人のかたへ通れしに
男の心さだまらざれば今おはるゝ
とき命もきへばはとなりあかれて
後くへてもかいなしと也新古今集
恋哥に巻頭にありことば書に
中の関白通そめ侍る比とあり
踏雪の云哥の心はいくとせをふる
ともわすれしとはいふ共世間のあり
さま反じやすき習なれはわすれし
とは思ひ給ふべけれとわすれずに
ある事はかたきものなれはわすら
れたる時うき物思ひをせんよりはと也
○季注に忘るらんと思ふ心のうた
がひにありしよりけにものぞ
かなしき
【同 下段】
儀同三司(ぎどうさんしの)母(はゝ)
忘(わす)れ
じ
の
行末(ゆくすへ)
までは
かた
ければ
けふを
かぎり
の
命(いのち)
ともがな
【左丁 上段】
○大納言公任
権(ごん)大納言正二位
別当(へつとう)号(ごうす)_二 四条(しでう)大
納言 ̄ト_一
広義公(ひろよしこう)関白(くわんばく)太(だい)
政大臣(じやうたいしん)頼忠(よりたゞの)一
男(なん)母(はゝは)代明親王(たいめいしんわうの)
女(むすめ)也(なり)和漢朗詠(わかんらうゑい)拾(しう)
遺抄(いしやう)ナトヲ撰(せん)シ
給ヘリ能書(のうしよ)ニシテ和(わ)
漢(かん)ノ才人(さいじん)也(なり)
引哥
行すへを
思ふも
かなし
津の国の
なからの
はしも
名のみ
なり
けり
【同 中段】
此哥の心はむかし大かく寺に滝の
侍りける此寺へ見にまかりければ
はやその滝はたへ侍りたれ共名のみ
はよにもなかれ聞へけると也昔
の滝殿ありし也大学寺もとは学
問せし所也後に覚の字に改る
と云云其旨の云心は此滝殿さ
しもいかめしく作れりあとのふり
はへてさひしきさまを詠つゝ思
ひ入てよめる哥なり
○季注に聞伝ふる人もなき跡は
おのづからあはれもとゞまらす埋
もれぬ名の残るにてむかしの
しのばれぬる感情をもよほ
すことなり
【同 下段】
大納言公任(だいなごんきんたう)
滝(たき)の音(をと)は
たえて
久(ひさ)しく
成(なり)ぬれど
名(な)こそ
ながれて
猶(なを)き
こえけれ
【右丁 上部】
○和泉式部
上東門院(じやうとうもんいん)の女房(にようぼう)
大江雅致(おゝえのまさたかゝ)女(むすめ)母(はゝ)は越(ゑつ)
中守(ちうのかみ)保衡(やすひら)が女 弁(べん)
内侍(のないし)と云々又 母(はゝ)は昌(しやう)
子(し)内親王(ないしんわう)御 乳母(めのと)
と云 和泉守(いつみのかみ)道(みち)
貞(さだ)が妻(つま)となる故(ゆへに)
和泉式部(いつみ[し]きぶ)と云云
一 説(せつに)高遠(たかとを)大弐(たいに)正
二位 資高(すけたか)筑前(ちくせん)
守(のかみ)従四位下 女子(によし)
上東門院女房
号(ごうず)_二和泉式部 ̄ト_一母
越中守(ゑつちうのかみ)保衡(やすひら)女
性空上人よみて
やる
くらきより
くらき道にて
入にける
はるかにてらせ
山のはの
月
【同 中段】
此哥の心は御れいたゞならさりし
とき我ともだちの方へよみおくりし
うた也今をかぎりなれば此世
のほかの思ひ出に今一たび逢
侍りたきよし也いつみの守道貞
か妻となるさていつみ式部と云
詞書に心ち例ならず侍りける
ころ人のもとに遣はしけると有
心はかく打たへて問れぬ身に命
のほども久しからぬ世になり
ぬれば逢ずしてはてなんとなり
○季注に今生の思ひ出ははや命
も程あらしなくれ恋しき人にせ
めて今一たびあひて来生の
思ひ出もかなとなり
【同 下段】
和泉式部(いづみしきぶ)
あら
ざらん
此世(このよ)の
ほかの
思日(おもひ)
出(で)に
今(いま)一 度(たび)
の
あふ
ことも
がな
【左丁 上段】
○紫式部
母(はゝは)常陸介(ひたちのすけ)摂津(せつつの)
守(かみ)藤原為信(ふぢわらのためのふの)女(むすめ)
上東門院(じやうとうもんいんの)女房(にようぼう)
或(あるいは)鷹司殿(たかつかさとの)女房
閑院左大臣(かんいんさだいしん)
冬嗣公(ふゆつぐこう)六男
良門(よしかど)
利基(としもと)
高藤(たかふぢ)
兼輔(かねすけ)
惟正(これまさ)
為時(ためとき)
紫式部(むらさきしきぶ)
《割書:源氏物語作者》
兼茂(かねもち)
女子
【同 中段】
此哥の心はたび立てはる〴〵有て
かへりきたり侍るに我見なれし
とものいまだそれ共みもわかぬに
かくれ侍りし事を雲かくれにし
夜半の月にはよそへよめる哥也
玄旨法印の抄に人に逢てやがて
わかれたるさまさながら月のごとく
なりとよめり人を月にたとへ
ていへる詞づかひぼんりよの及
所にあらず詞書の月にきほふ
とはあらそふ心なるべし侍りは
やくよりとははじめよりと
いふ義もあり
【同 下段】
紫式部(むらさきしきぶ)
めぐり
あひ
て
見し
や
それ
とも
わかぬ
まに
雲かくれ
にしよはの
月(つき)かな
【右丁 上段】
○大弐三位
右衛門佐(うゑもんのすけ)宣孝(のふたか)女(むすめ)
母(はゝは)紫式部(むらさきしきぶ)後(のち)一 条(てう)
院(いん)御 乳母(めのと) ̄ト云云
大弐(だいに)成平(なりひらの)妻(つま)タリ
故 ̄ニ号_二大弐三位 ̄ト【一点脱】云云
高藤(たかふぢ)
定方(さたかた)
朝頼(ともより)
為輔(ためすけ)
宣孝(のぶたか)
女子《割書:賢子大弐|三位》
狭衣作者
【同 中段】
此哥の心はありま山はいなのさゝはら
をいはんための枕詞なり我忍び
ける比いまだその人をわすれたま
わずやととひければいかでか左様
にはやく忘れ侍るべきといへる
うたなりかれ〴〵なるおとこの
おほつかなくなんと云たりけるに
よめるとありこれは序哥也いで
そよといわんためいなのさゝはら
風ふけばと云へり
○季注に曰いでそよわすれやはする
といふ所に人はさしもわすれやす
らんわれはさやうにはわすれず
といふ心言外にきこゆ
【同 下段】
大弐三位(だいにのさんみ)
有馬(ありま)
山(やま)
ゐなの
さゝ原(はら)
かぜ
ふけ
ば
いで
そよ
人を忘(わす)れ
やはする
【左丁 上段】
○赤染衛門
上東門院(しやうとうもんいん)女房
或 鷹司殿(たかつかさとの)女房
一説 ̄ニ
光孝天皇(くわうこうてんわう)
是忠親王(これたゝしんわう)
平等行(たいらのあつゆき)
平 兼盛(かねもり)
赤染衛門(あかそめえもん)
妹《割書:中関白密道|ノ人ナリ》
此哥ノ詞書 ̄ニ有
或(あるひは)大隅守(をゝすみのかみ)時用(ときもち) ̄ノ女
江記云赤染ハ赤
染 ̄ノ時用ノ女ナリ
依(よつて)_レ歴(ふるに)_二右衛門 志(し)
府(ふ)等(とうを)_一号 ̄ス_二赤染右
衛門 ̄ト_一実兼盛ノ
女ナリ
【同 中段】
此哥の心はこうくわいしたるうた也
ある人かならずといひてとはざり
けれは心のほどをみへ侍りぬる
ことこうくわいの哥なりされば
これは女の哥なれはにあひ侍ると
なりおとこのうたならばかやう
にはあるましくとなり玄旨法
印のいわくやすらはてねずして
もしやとまちやすらひてこう
くわいしたるなり
やすらふはなを
予【豫】する心なり
【同 下段】
赤染衛門(あかぞめのゑもん)
やすら
はで
ねな
まし
もの
を
さよ
深(ふけ)て
かたふく
までの
月を
みしかな
【右丁 上段】
小式部内侍
和泉守(いつみのかみ)橘道貞(たちはなみちさだ)
女(むすめ)母ハ和泉式部
上東門院女房
橘諸兄公(たちはなのもろえこう)十一世
○仲遠(なかとを)
道貞(みちさだ)
小式部内侍(こしきぶのないし)
新続拾
夏くさは
しけりに
けりな
大江山
越ていくのゝ
道見えぬ
まて
【同 中段】
此哥の心は小式部内侍いつみ式部が
子なり大内にて哥あわせのとき
かの母のあまのはしだてに読
けるがたのみてうたなとよませ
けるなどゝ申あふ人ありしをり
しも大内にて哥あわせの有し
おりしもある人の小式部か袖を
ひかへて天の橋立よりはやく
きたれるやと有しとき則此哥
をよみて人このふしんをはれ
たる哥なり此はしだていまだ
見ずましてふみにて申かよはし
たる事はなきといへる哥なり
小式部若年なるゆえ
人不審し侍りし
となり
【同 下段】
小式部内侍(こしきぶのないし)
大江山(をゝえやま)
いく野(の)ゝ
みちの
とを
ければ
まだ
ふみも
見ず
あまの橋立(はしだて)
【左丁 上段】
○伊勢
前(さきの)大和守(やまとのかみ)従五位(じうごゐ)上
藤原継蔭(ふぢわらのつきかけ)【ママ】ノ女(むすめ)継(つく)
蔭(かけ)元(もと)為(たる)【二点脱】伊勢守(いせのかみ)【一点脱】
故(ゆへに)為(す)_二女之名(むすめのなを)伊勢(いせと)_一【「名」に付いている一点は誤】
物語作者也
寛平法皇(くわんへいほうわう)にも近(ちか)
くつかまつりて仰(きやう)
明親王(めいしんわう)を生(うめり)し
事(こと)の侍(はべ)りされば
源氏物語(げんじものがたり)大和物
語などにもいせの
ごと云り女御(にようご)と
いふこゝろなりとぞ
内麿(うちまろ)ー真夏(まなつ)
《割書:日野家元祖》
浜雄(はまを)ー家宗(いへむね)《割書:三木|左大弁》
《割書:従五位下民部少輔》
関雄(せきを)
《割書:治部少輔号東山進士|古今ノ作者》
継蔭(つぐかげ)
【同 中段】
此哥の心はむかしならの京を今の
九重へうつし侍しとき八重桜
をみて今の九重に うつりたる
都なればさくらはけふは九重に
匂ふべきとはしうくの哥なり
いにしへならの都は人皇四十三代
元明天皇よりはしまり四十九
代光仁天皇まて七代有し也
しかるを桓武天皇ゑんりやく
三年十一月に山城国乙訓の郡
にうつして長岡の京と号す
同十三年十月に今の平安城
にうつさるゝなり
【同 下段】
伊勢大輔(いせのたゆふ)
いにし
へ
の
ならの
都(みやこ)の
八重桜(やえさくら)
けふ
こゝのへ
に
にほひ
ぬるかな
【右丁 上段】
○清少納言
清原元輔(きよわらのもとすけ)ノ女(むすめ)
ト云云
深養父(ふかやぶ)ノ(の)曽孫(そうそん)
一条院(いちでうのいん)皇后宮(くわうこうぐう)
女房
枕草紙作者
実方
わすれずよ
またわすれ
ずよ
かはらやの
したて
烟のした
むすび
つゝ【注】
【同 中段】
此哥の心は此かたへある人の通はれし
に夜ふかりけるゆへ今は関の戸
をあけましければしつかにかへり
給へといふ哥なりゆへはむかし
唐土に孟照君といひし人
いくさに打まけくわんこく関と云
せきぢを通し夜ふかくして関の
戸を明ず臣下にけいめいとて
よくにはとりのまねしけれは夜あけ
たりとてせきのとを明て通し
けるそれはたばかりても通りしが
今のきぬ〳〵にあとでたばかりて
もせきのといまだあけ侍るまし
きと也後拾遺第十六雑二
ことは書あり
【同 下段】
清少納言(せいせうなごん)
よをこめて
鳥(とり)の
そら
ねは
はかる
とも
世(よ)に
あふ
坂(さか)の関(せき)は
ゆるさじ
【左丁 上段】
○左京大夫道雅
帥内大臣(そつのないたいじん)伊周公(いしうこう)
男(むすこ)母(はゝは)大納言(たいなごん)重(しげ)
光(みつの)女(むすめ)
伊周(これちか)
道雅(みちまさ)
女子
上東門院女房
哥人(かしん)宣旨(せんし)
後拾遺作者(ごしういさくしや)
【同 中段】
此哥の心はせつなる恋なりた
ま〳〵いひよる事も人つてばか
りなりたとへあえで恋しぬる共
人づてならでいひよりて
しに侍りたきなり今ははや思ひ
たへなんとかこちたる心なり
後拾遺集第十三恋三詞書に
伊勢斎宮わたりより罷上りて
侍りける人に忍びて通侍り
ける事をおほやけもきこしめし
てまもりめなんどつけさせ
たまひてしのびにもかよはす
なりにければ
よみ侍りける
【同 下段】
左京大夫(さきやうのだいふ)通雅(みちまさ)
いまはたゝ
おもひ
たえ
な
ん
と
ばかりを
人 伝(つて)なら
で
いふよし
もがな
【注 正しくは下の句が「かはらやのしたたく烟したむせびつゝ」】迪
【右丁 上段】
○権中納言貞【定の誤ヵ】頼
権中納言(ごんちうなこん)正二位 公(きん)
任卿(たうきやうの)男(むすこ)母(はゝ)ハ昭平(せうへい)
親王(しんわうの)女(むすめ)也
父(ちゝ)ニ孝(こう)アリシ人ト云
職原(しよくけん)ニ曰
中納言
今 外官(くわいくわん)也
権官(ごんくわん)古来(こらい)在(あり)_レ之(これ)
相(あい)_二当(あたる)今(いまの)従三位(しうさんみに)【一点脱】
唐名(からのな)納言(なごんは)竜(りう)
作(さく)黄門(くわうもん)
【同 中段】
此哥の心はたびは川辺のてうほう
なりうぢの川ぎりのたへ〳〵なる
まよりあじろ木のほの見へ侍る
をもしろき也千載集第六冬
部詞書に宇治にまかりて侍り
ける時に読るとあり人丸の哥
にものゝふの八十宇治川のあじろ
木にいざよふなみのゆくえしら
ずもといふをとれりあじろは
うをゝとるものなり近江の田上
川に□【「て」ヵ】もれたる氷魚を宇治
河にてとると云々
絶(たへ)〳〵は絶(たへ)つたへずなり
【同 下段】
権中納言定頼(ごんちうなごんさだより)
朝(あさ)ぼらけ
宇治(うぢ)の
川(かは)
霧(きり)
たえ〴〵に
あらはれ
わたるせゞの
あじろ木(き)
【左丁 上段】
○相模
先祖(せんぞ)不(ず)_レ詳(つまびらかなら)
入道(にふだう)一 品宮(ほんのみや)女房
本名(ほんめう)乙侍従(おとのじしう)或(ある)
説(せつに)相模守(さがみのかみ)大江(おほえ)
公資(きんすけの)女(むすめ)或(あるひは)妻(つま)正
説云云
此故(このゆへに)号(ごうすと)【二点脱】相模(さがみと)_一云
又一 説(せつに)母(はゝは)能登守(のとのかみ)
慶滋保胤(よししげやすのりが)女(むすめ)
云云
【同 中段】
此哥の心はうらみわびほさぬ
袖はくつべけれどそれさへある
ものをこひにむなしく下さん
名をおしみたるなり玄旨か
曰恋にくちなん名こそをし
けれとはもろ共にあひ思ふこひ
ぢならば名にたゝんこともせめて
成べきもといふ心也
○季注にうらみわぶるは切なる
ならひなりわかるゝなみだの
隙なく袖の朽るはいよ〳〵思ひ
ふかきを猶又名までも朽
なんこと身にあまりたる
なげきなるべし
【同 下段】
相模(さがみ)
うらみ
わび
ほさぬ
袖(そで)だに
ある
もの
を
恋(こひ)に
朽(くち)
なむ
名(な)こそ
惜(をし)けれ
【右丁 上段】
○大僧正行尊
三井寺 円満院(ゑんまんいんの)祖(そ)
師(し)天台座主(てんだいのざす)法(ほう)
務(む)
元享釈書(げんくわうしやくしよに)曰 行(きやう)
尊(そん)ハ諫儀(かんぎ)大夫 源(みなもとの)
基平(もとひらの)子(こ)也年十二
ニシテ投(たうして)_二 三井 明行(みやうきやう) ̄ニ_一
出家(しゆつけす)ト云云
続世継(ぞくよつき)ニ云 平等(ひやうとう)
院(いんの)僧正(そうじやう)行尊(ぎやうぞん)ト
テ三井寺ニヲワセ
シコソ名高(なたか)キ験(けん)
者(じや)ニテヲワシケル
大峯(をゝみね)カツラキハサル
コトニテ遠(とを)キ国々
山々ナト久(ひさ)シクヲ
コナヒ給(たま)フトナリ
【同 中段】
此哥の心は大みねへ入給ひしとき
この山のありさま草木まで見
なれず心ほそきにさくらの
さきたるもとに立より花も
われもともにあはれをしるより
外なしと読りやごとなき御み
をやつし此山に入て行ひ給ふ折
からかゝる桜を見給ひけるときの
さまをよく〳〵思ひ入て見侍る
べし
○季注 異郷(いきやう)莫(なかれ)_レ恨(うらむること)知音(ちいん)少(すくなきことを)
細柳(さいりう)於(をいて)_レ 人(ひとに)先(まづ)眼(まなこ)青(あをし)
【同 下段】
大僧正(だいそうじやう)行尊(ぎやうそん)
もろとも
に
あはれ
と
おもえ
山ざ
くら
花(はな)より
外(ほか)に
しる人もなし
【左丁 上段】
○周防内侍
仲子(なかご)後冷泉院(これいせいいんの)
女房 或(あるひは)宗仲(むねなかの)女
葛原親王(くすはらしんわう)八世
孫(まご)棟仲(むねなか)女ト云云
桓武天皇(くわんむてんわう)
葛原親王(くつはらのしんわう)
《割書:一品 式部卿》
高棟(たかむね)《割書:従二位|大納言》
維範(これのり)《割書:従三位|中納言》
《割書:左大将》
時望(ときもち)ー真材(さねあり)
親信(ちかのぶ)ー重義(しげよし)
継仲(つぐなか)
周防内侍(すわうのないし)
《割書:仲子》
【同 中段】
此哥の心は大内にて夜ふかせし
ころ内侍まくらもがなとたづ
ねられしにある人かいなをみす
のうちへ入てこれをまくらにと
ありけれはよめる詞書に二月
ばかり月のあかき夜二条院
にて人〳〵あまた居なして侍ける
に周防内侍より伏て枕をがな
と忍びやかに云を聞て大納言
忠家是を枕にとてかいなを
みすの下よりさし入て侍り
ければよみ侍けるとなり
【同 下段】
周防内侍(すほうのないし)
春(はる)の
夜(よ)の
夢(ゆめ)
ばかり
なる
手枕(たまくら)に
かひ
なく
たゝむ
名(な)こそ
おしけれ
【右丁 上段】
○三条院
諱(いみな)は居貞(すへさた)冷泉(れいせい)
院(いん)第十一の御子
在位(ざいゐ)五年 母(はゝは)贈(そう)
皇太后(くわうだいこう)超子(てうし)東(ひかし)
三条入道 兼家(かねいへ)
公(こうの)女(むすめ)
天延(てんゑん)四年正月三日
降誕(こうたん)寛和(くわんわ)二年
七月十六日 東宮(とうぐう)
寛弘(くわんこう)八年六月十三
日 即位(そくい)廿八歳
長和(てうわ)五年三月廿
九日 譲位(じやうい)寛仁(くわんにん)元
年四月廿九日 出家(しゆつけ)
同五月九日 崩御(ほうぎよ)
四十一 歳(さい)
【同 中段】
此哥の心は御ふれいたもならざり
しとき御くらゐをゆづらせ
給はんとおぼしめし御心ならず
もしながらへさせたまはゞ此秋
の大内の月思めし出させ給ふ
べきといへる哥なり
○季注に曰ほんゐにもあらで
ながらへは見なれし金殿玉楼
の月のいかばかりこひしかる
べきとなり夜半の月のみにかぎり
て見るべからすむかしを
しのび給ふ事
おほかるべし
【同 下段】
三条院(さんでうのいん)
心(こゝろ)にも
あらで
浮世(うきよ)に
な
からへは
恋(こひ)し
かるべ
き
夜半(よは)の
月(つき)かな
【左丁 上段】
○能因法師
俗名(ぞくみやう)永愷(ながやす)長門(ながとの)
守(かみと)云云
号(ごうす)_二古曽部入道(こそべのにふどうと)_一
肥後守(ひごのかみ)元愷(もとやすの)子(こ)
橘諸兄公(たちばなのもろゑこう)
奈良丸(ならまる)
島田丸(しまだまる)
常王(つねわう)
安吉雄(あきを)
吉種(よしたね)
純行(すみゆき)
忠望(たゞもち)
元愷(もとやす)
能因(のういん)
【同 中段】
此哥の心はみむろの山のもみぢを
あらしのふきちらしたるをけうなし
と思ふべからずたつた川のにしきと
あらしのふきなしたるおもしろき
なり後拾遺集秋下詞書に
永承四年内裡の哥合のとき
よめるとあり此哥かくれたる所なし
たゞ時節の景気と所のさまと
を思び【ママ】合て見侍るへきなりあり
〳〵と読出す事その身の粉骨也
○季注三室よりながれ出至て下
はたつた川也あらしにちる三室
の山のもみぢはすなはち立田
川のにしきとなり
【同 下段】
能因法師(のういんほつし)
嵐(あらし)ふく
三室(みむろ)
の
山(やま)の
もみぢ
ばは
たつ田(た)の
川(かは)の
錦(にしき)なりけり
【右丁 上段】
○良暹法師
父祖(ふそ)不(ず)_レ詳(つまびらかなら)
祇園(きをんの)別当(へつとう)
住(じうす)_二大原(おゝはら) ̄ニ_一
一 説(せつに)母(はゝは)実方(さねかた)朝(あつ)
臣(そん)家(いへの)女房(にようほう)白(しら)
菊(きく)云云
引哥
なかめわひぬ
秋より
外の
やとも
かな
野にも
山にも
月や
すむらん
【同 中段】
此哥の心はわがやどのさひしきかと
立出てうちなかむれば秋のゆふ
ぐれのさびしさはいづくもおなし
と人のうへまではかりしりたる
こゝろなり玄旨の曰心は大かた
明なりなをいづくも同しに
心あるべし我やどのたへがたき
までさひしきと思ひわびて
いづくにもゆかずやと立いでゝ
うちながむれば何所も又吾心
の外のことは侍らざるとなり
○季注さひしさのやるかたありや
と宿立出ても秋より外の宿
もなければはなはだかたき
心見へたり
【同 下段】
良暹法師(りやうぜんほつし)
さびしさに
やどを
立(たち)
出(いで)て
詠(ながむ)れば
いづくも
おなじ
秋(あき)のゆふ暮(ぐれ)
【左丁 上段】
○大納言経信
権帥(ごんのそつ)民部卿(みんぶきやう)
正二位権大納言
中納言 源道方(みなもとのみちかた)
男(むすこ)母(はゝは)源 国盛(くにもり)女(むすめ)
宇多天皇(うだのてんわう)
敦実親王(あつさねしんわう)
《割書:一品式部卿宇多|第九皇子或七》
雅信(まさのぶ)
《割書:一条左大臣》
重信(しげのぶ)
《割書:六条左大臣》
道方(みちかた)
《割書:中納言》
経信(つねのぶ)
俊頼(としより)
《割書:従四位下杢頭》
俊恵(としよし)
《割書:号太夫》
【同 中段】
此哥の心はゆふべになれば秋かぜの
ほのかにたちて門田はいなばをふき
なびかしたれか秋のいたるにしたがつ
てをとつれあしの丸やにすさまじく
夕へ〳〵にときのきたれるをいひ
のべたるなり其旨法印の曰あし
の丸やとはさながら蘆【芦は略字】計にて作れ
るを云なりその門田のいなばに
夕ぐれの秋かせそよ〳〵と吹と見
れば聞もあへずやがてあしのふぜ
いをもつての心あり
○季注に曰田家か秋かぜのけいき
をすぐにうつして
聞えたり
【同 下段】
大納言(だいなごん)経信(つねのぶ)
夕(ゆふ)されは
門田(かどた)
の
稲葉(いなば)
をとづれ
て
あしの
まろやに秋(あき)
かぜぞふく
【右丁 上段】
○祐子内親王
家紀伊
紀伊守(きのかみ)重経(しげつね)妻(つま)
故ニ紀伊(き)と云(いふ)き
とばかり読(よむ)なり
摂津(せつつ)をもつと
ばかりよむ
桓武天皇(くわんむてんわう)
葛原親王(くずわらしんわう)
高棟(たかむね)
惟範(これのり)
時望(ときもち)
真材(さねあり)ー親信(ちかのぶ)
行義(ゆきよし)ー範国(のりくに)
信方(▢▢▢た)
女子《割書:紀伊》
《割書:金葉三宮紀伊有》
【同 中段】
此哥の心はたかしのはま名所なり仇
なる人とはをとにきくも名たかき
といふによそへたるなりそのあだ
なみをかけたらばこなたの袖の
さすがちぎりし人と思はゞあだ人
なりともすてられまじきほどに
はじめよりさやうの人にはいなと
いふかへしの哥なり袖のぬるゝとは
なみだのこと也音にきくといふより
袖のぬれもこそすれまでみな
おもてはなみのえんなり心ことば
かけたる所なくいひおほせたる
うたなり
○季注ぬれもこそすれとはぬれふ
づといふこゝろなり
【同 下段】
祐子内親王(ゆうしないしんわう)
家紀伊【左ルビ:いへのき】
音(おと)
に
きく
た
かしの
浜(はま)のあだ
なみは
かけじや
袖(そで)の
ぬれもこそすれ
【左丁 上段】
権中納言匡房
母(はゝ)橘孝親(たちはなのよしちかの)女(むすめ)
正二位 大蔵卿(おゝくらきやう)
太宰(だざい)権帥(ごんのそつ)号(ごうす)_二江(ごう)
帥(そつと)_一
大江音人(おほえのおんど)
千古(ちふる)ー維時(これとき)
光重(みつしけ)ー匡衡(まさひら)
挙周(たかちか)ー成衡(なりひら)
匡房(まさふさ)
正二位権中納言
和漢才人儒主
和歌同之
江ノ次第作者
【同 中段】
此哥の心はたかさごはめいしよ又山
のそう名にて高山なりはなの
さかぬほどの山もかすみのみねに
かゝりたるもおもしろし花さきて
は霞むやうのことなりたゝすもあ
らんといへり玄旨の曰此たかさご
は山の惣名也名所にあらず心は明也
正風体の哥也只詞づかひさはやか
にたけ有哥也但能因か嵐ふく
みむろの山よりは少しいろへたる
所あり
○季注に咲にけりといふにあらたに
桜を見て興したる
心あり
【同 下段】
前中納言(さきのちうなごん)匡房(まさふさ)
高砂(たかさご)の
おのへの
さくら
咲(さき)に
けり
とやまの
かすに
たゝずもあらなん
【右丁 上段】
○源俊頼朝臣
金葉集(きんやうしうの)作者(さくしや)
経信卿(つねのぶきやうの)男(むすこ)
母(はゝは)貞高(さだたかの)女(むすめ)
引哥
としもへぬ
いのるちきり
は
はつせやま
をのへの
鐘の
よそ
の
夕くれ
【同 中段】
此哥の心はいのりてあはぬ恋也一たひ
はあふよしもかなといろ〳〵祈りけれ
ども人のつれなきがあらしのことく
はげしきばかりにてかいなしといへる
哥也千載第十二恋哥二詞書に権
中納言俊忠家に恋の十首の
哥よみ侍ける時いのれとも逢ざる
こひといへる心をよめるとあり定
家卿のを代秀哥此うたを見れ
ば心深くよめると有心にまかせ
学ふとも云つゞけかたくまことに
およぶまじきすがたなりといへり
五文字うかりける人とは
つゞきたり
【同 下段】
源俊頼朝臣(みなもとのとしよりのあつそん)
宇(う)かりける
人を
はつせ
の
山(やま)おろ
し
はげし
かれとは
いのらぬものを
【左丁 上段】
○藤原基俊
俊成卿(しゆんぜいきやう)和哥之(わかの)
師匠(しせう)二条家(にてうけ)和(わ)
歌之(かの)祖也(そなり)
新撰朗詠集(しんせんらうえいしう)
撰者(せんしや)和漢之(わかんの)才(さい)
子也(しなり)
頼宗(よりむね)
俊家(としいへ)
基俊(もととし)
宗通(むねみち)
成通(なりみち)
【同 中段】
此哥の心はある僧の基俊を頼て
ならのゆいまえ【維摩会】のかうしを望み
けるにもれければもととしいかゝと法
性寺殿へうらみ申されけれはしめし
がはらのさしもぐさの哥の心なり
又此秋もゝれければもととしよめりさ
せもか露をいのちはかなき世に
またことしもゝれたりと恨申たる心也
公事根元に云維摩会是は十
月十日より十六日まで七ヶ日のあいだ
かうふく寺にてゆいま経を講せ
らるゝ十六日は大しよくかんの御忌日
なるゆへなり
○季注いぬめり去の字也講師
の宣秋の中よりあたるべきにや
【同 下段】
藤原基俊(ふじはらのもととし)
契(ちきり)をきし
させ
もが
露(つゆ)
を
いのち
にて
あはれ
ことしの
秋(あき)もいぬめり
【右丁 上段】
○法性寺入道前
関白大政大臣
忠道公(たゞみちこう)摂政関白(せつしやうくわんばく)
大政大臣(たいしやうたいじん)従(しう)一 位(ゐ)法(ほう)
名(めう)円規知足院(ゑんきちそくいん)
関白(くわんばくの)一 男(なん)母(はゝは)六条(ろくてう)右
大臣 顕房(あきふさの)女(むすめ)
御堂関白(みだうのくわんはく)
道長(みちなが)ー頼道(よりみち)
師実(のりさね)ー師通(のりみち)
忠実(たゞざね)ー忠道(たゞみち)
法性寺(ほうせうし)関白(くわんはく)白 花鳥(くわてう)
云法性寺ハ貞信公(ていしんこう)
建立(こんりう)也 尊意座主(そんいざす)
ハ貞信ノ師檀(しだん)ナル
故ニ法性寺ト云ル
ナリ
【同 中段】
此哥の心はわだのはらは海の惣名也
はるかに船をこきいでゝながむれば
まことに雲と浪一つになりてはる
〳〵と見わたされたる也久かたは
雲をいはん枕詞なり海のほとり
なきていをよくけいきをうかべて
いひ出したる哥也よせいかぎりなし
新院位におはしましゝとき海上
遠望といふことをよませ給ひ
けるによめるとあり玄旨の曰心
は明なり我舟にのりて出るなり
大かた眺望の題はつねに詠めやり
たるやうにのみよむをこれは
ふねにてよめる心なを
おかしくや
【同 下段】
法性寺入道(ほうしやうじにうどう)前関白大政大臣(さきのくわんばくだいじやうだいじん)
わだの原(はら)
漕(こぎ)
出(いで)て
みれば
久(ひさ)かたの
雲井(くもゐ)に
まがふ
奥津(おきつ)しら波(なみ)
【左丁 上段】
○崇徳院
後鳥羽院(ごとばのいん)第(だい)一ノ
皇子(わうし)諱(いみな)ハ顕仁(あきひと)母(はゝ)
ハ中宮(ちうぐう)藤原璋子(ふぢはらのせうし)
待賢門院(たいけんもんいん)と号(ごう)
す大納言(だいなこん)藤原(ふぢはらの)
公実(きんざねの)女(むすめ)但(たゝし)白川院
御 猶子(ゆうし)ト云云
元永(けんゑい)二年五月廿八
日 降誕(こうたん)
保安(ほうあん)四年正月廿八
日 譲(ゆつり)を受(うくる)同二月
十九日 即位(そくい)
永治(ゑいぢ)元年十二月
七日 譲位(しやうい)在位(ざいい)十
八年
長寛(ちやうくわん)二年八月廿
六日 於(をいて)_二配所(はいしよに)_一崩御(ほうきよ)
歳四十六 追(おつて)号(こうす)_二崇(しゆ)
徳院(とくいんと)_一
【同 中段】
此哥の心ははやき瀬の岩にくだ
けたるなみもわれてはすへにあふもの
なれどもきみと我中はわかれては
あひがたきとなりわれてもはわり
なくもといふに同し岩うつなみの
われてすゑにあふごとくあふよし
もがなとねがひたるなり玄旨法
印がいわく心は岩にせかるゝ水はわれ
ても末に逢物也つらき人に別て後
は逢かたきをわりなくても末に逢
むと思ふははかなきことぞと也
○季注に岩にせかるゝといふて逢
ぬ心をのべわれてもといふて是非
あはんとおもふ心をのべたり
【同 下段】
崇徳院(しゆとくいん)
瀬(せ)を
はやみ
岩(いわ)に
せか
るゝ
滝川(たきがは)の
われても
末(すへ)にあはむ
とそおもふ
【右丁 上段】
○源兼昌
源俊輔(みなもとのとしすけ)二男(じなん)従(じう)
五位下 皇后宮(くわうこうぐう)
小進(せうしん)
宇多天皇(うだのてんわう)
教実親王(のりさねしんわう)
雅信(まさのぶ)
時中(ときなか)《割書:イニ仲》
朝任(ともたう)
師定(もろさだ)
俊輔(としすけ)
兼昌(かねまさ)
【同 中段】
此哥の心はさひしきすまのうら
にたびゐしてねさめのちどりを
きゝてたへがたかりしにつけて
かやうの所のせきもりとなりて
いくよねさめのちどりをきゝて
たへわひつらんとわがたびゐの
かりなるよりつねに住なれたる関守
のつらきをおもひやりたる哥なり
すまのうらは源氏物語にも海士
の家だにもまれになんと書り我
一夜のたびねざめさへあるに関もり
の心はさこそとなり
○季注にいくよねさめぬる夜
な〳〵ねざめぬらんとなり
【同 下段】
源兼昌(みなもとのかねまさ)
あはぢ島(しま)
かよふ
千鳥(ちどり)
の
なく声(こへ)に
いくよ
寝覚(ねさめ)ぬ
すまのせきもり
【左丁 上段】
○左京大夫顕輔
修理太夫(しゆりのだいふ)顕季(あきすへ)
三 男(なん)詞花集(しくはしう)撰(せん)
者(じや)六条家(ろくてうけ)和歌(わか)
一 流(りう)
中〳〵に
くもる
と
見えて
はるゝよの
月の
光は
そふこゝち
する
【同 中段】
此哥の心は秋風の雲を所〳〵つき
はらしたるより月のかけのさし
出たるはせいてんのけしきより猶
月もあきらかなるやうにおもし
ろき事もなきやうなれとも
よせいありておもしろき哥也
玄旨曰心は明也但さやけさとい
へるより心少しかはれり月も
雲間を出たるはあらたにさやか
にしてしかもおもしろく見ゆる
心まちてさやかなる月は今見
初たるやうなり
○季注に
西風(せいふう)磨出(みかきいだす)白雲月(はくうんのつき)
【同 下段】
左京大夫(さきやうのだいぶ)顕輔(あきすけ)
秋(あき)かぜに
たなひく
雲(くも)
の
絶間(たえま)
より
もれ出(いつ)る
月(つき)の
影(かげ)の
さやけさ
【右丁 上段】
○待賢門院
堀川
神祇伯(しんぎはく)顕仲(あきなか)女(むすめ)
具平親王(ともひらしんわう)
師房(もろふさ)
顕房(あきふさ)
顕仲(あきなか)
堀川(ほりかは)《割書:待賢門院|女房》
待賢門院(たいけんもんいん)ハ鳥羽(とはの)
院(いんの)后(きさき)崇徳院(しゆとくいん)白(しら)
川院(かはのいん)二代(にたい)ノ母后(ぼこう)
大納言(だいなごん)公実(きんさねの)女(むすめ)
白川院 御嫡子(おんちやくし)
云云
【同 中段】
此哥の心はのちのあしたつかわしたる
哥なりながからんとはくろかみのゑん
ご又けさわかれていつをかまたん
といふ事によそへてよみたる也
くろかみといふよりみだれてもの
をもふといひたるゑんなりなが
からんは人の心をさして云みだれ
てはわが心なり長からん心もしら
ずとはゆくすへかけてちぎりしこと
人の心はかはるならひなればいかゞ
あらんもしらす今朝のわかれにて
おもひみだれるとなり
○季注今朝の字 後朝(こうてう)の心
あきらかなり
【同 下段】
待賢門院(たいけんもんいん)
堀川(ほりかは)
ながゝ
らむ
心(こゝろ)も
しら
ず
くろかみ
の
みだれ
て
けさは
物(もの)をこそ
思(をも)へ
【左丁 上段】
○道因法師
為輔(ためすけ)《割書: |高藤公》
《割書:罡?孫中納言》
惟孝(これたか)《割書:従五位下》
惟憲(これのり)《割書:大弐|正五位下》
憲房(のりふさ)《割書:四位下》
敦輔(あつすけ)
清孝(きよたか)《割書:治部卿》
敦頼(あつより)
《割書:従五位下| 左馬頭》
道因法師
【同 中段】
此哥の心は恋にせつかく思ひわび
きえはてぬへきいのちながら扨も
あるものをとよみ出したゝうきに
たへすかぎりもなくこほるゝは
なみだ也けりとわが心をことはり
てなげきたる也此五文字に思ひ
わびとは思ひふり〳〵ていへる也
さりともと思ふ人はつれなくなり
はてゝきはまり行すへの心なり
○季注おもひわびさやうにて
たにもいのちは有をうきに
かんにんならざる
かと
なみたを諫言し
たるていあるか
【同 下段】
道因法師(どういんほつし)
おもひ
わび
さても
命(いのち)
は
ある
もの
を
うきに
たえぬは
なみだなりけり
【右丁 上段】
○後徳大寺左
大臣
実定公(さねさだこう)母(はゝは)中納(ちうな)
言(ごん)俊忠(としたゞの)女(むすめ)
公実(きんざね)
実行(さねゆき)
通季(みちすへ)
実能(さねよし)
待賢門院(たいけんもんいん)
公能(きんよし)
実定(さねさだ)
ほとゝきす
なきて
過行
山のはに
今一こゑと
月そ
のこれる
【同 中段】
此哥の心はほとゝぎすを待こゝろ
幾夜かあかしはてつれなく過
つる一こゑを夢かと聞てゆくべき
かたなき空をながめしたへば只
有明の月のこりたるまて
なりよせいほとゝきすを思ひ
入まちたるていゑんかぎりなし
ほとゝぎすはいろ〳〵にこゝろを
くだきてながむる類多きを
これはたゞ微細にいわでしかも心
をつくしたる所かぎりなくこそ
時鳥の哥第一とも可謂にや
○季注あり明の月残るにて暁
の景気もあか〳〵と
見えたり
【同 下段】
後徳大寺左大臣(ごとくだいじさだいじん)
ほとゝぎす
啼(なき)つる
かた
を
ながむれ
ば
たゞ有明(ありあけ)
の
月(つき)ぞ残(のこ)れる
【左丁 上段】
○皇太后宮大夫
俊成
顕輔卿(あきすけきやうの)為(なる)_レ子(こと)号(ごうす)_二
顕広(あきひろと)_一後(のち)改(あらたむ)俊成(としなりと)
安元(あんかん)【注】二年九月十八日
出家六十三歳
元久(けんきう)元年十一月晦
日 薨(こうす)九十一歳 去(きよ)
年(ねん)於(おいて)_二和哥所(わかところに)_一賜(たまふ)_二
九十 賀(がを)_一
道長(みちなが)ーーー長家(ながいへ)
《割書:御堂関白》 《割書:道長公六男》
忠家(たゞいへ)ーーー俊忠(としたゞ)
《割書:大納言正二位》 《割書:中納言従三位》
俊成(としなり)
《割書:号_二 五条三位_一》
定長(さたなが)《割書:従五位下|法名寂蓮》
定家(さだいへ)《割書:中納言|正三位》
女
【正しくは「あんげん」】
【同 中段】
此哥の心はうきよとてのがるゝに道
もなし山のをくに引こもりて
身をかくせはその所にも一たんかな
しきしかのこへせりと世をわび
たるてい也玄旨の曰うたの心は
いろ〳〵世のうき事を思ひ取て
今はとおもひ入山のをくにしか
のものかなしけにうちなくを
聞て山のをくにも世のうき事
はありけりと思ひて世中よの
がるべき道こそなけれとうち
なげく心はありと也
○季注に曰何こともきかじと
するための山のをくては色かゆる
松風のこゑ
【同 下段】
皇太后宮太夫(くわうたいこうぐうのたゆふ)俊成(しゆんぜい)
世中(よのなか)与(よ)
道(みち)こそ
なけれ
思(おも)日(ひ)
入(いる)
山(やま)のおく
にも
鹿(しか)ぞ鳴(なく)なる
【右丁 上段】
○藤原清輔
皇太大后宮(くわうだいたいこうくう)前大(さきのたい)
進(しん)正四位下
《割書:房前五十二代左京大夫従三位》
顕輔(あきすけ) 清輔(きよすけ)
《割書:大弐正三位》 季経(すへつね)
重家(しけいへ)
顕昭(あきてる) 経家(つねいへ)《割書:正三位》
顕家(あきいへ)《割書:従三位》
有家(ありいへ)《割書:正三位大蔵》
保季(やすすへ)
知家(ともいへ)《割書:正三位》
有季(ありすへ)
行家(ゆきいへ)《割書:従二位左京》
澄博(すみひろ)《割書:従二位大蔵卿》
澄敦(すみあつ)《割書:従二位侍従》
【同 中段】
此哥の心はなからへはこのごろの事も
またやしのび侍らんうしかなし
といひし世を今したふにつけ
てゆくすへの事をかねてより思ひ
やりたるなり何事もすみ〳〵に
おとろへ行むかしににぬうらみ也
玄旨の曰哥の心は明なり次第〳〵
にむかしを思ふほとに今のうさと
おもふ時代をもこれより後には忍
ばんずるかと万人の心に観する哥
ぞとなり只世の中の人たのむ
まじき行すえをたのむなり
○季注に過にしかたのこひし
さの切なるときのうたか
【同 下段】
藤原清輔朝臣(ふぢわらのきよすけのあつそん)
ながらへは
また
此(この)ごろや
忍(しの)
ばれむ
うし
と見し
世(よ)ぞ
今(いま)は恋(こひ)しき
【左丁 上段】
○俊恵法師
経信卿(つねのぶきやうの)孫(まご)俊頼(としより)
朝臣(あつそんの)子(こ)
系図(けいづ)有(あり)_レ前(まへに)
引哥
ふるさとの
板井の
しみつ
見え
そめて【ママ】
月さへ
すます
なりに
けるかな
【同 中段】
此哥の心は物おもふ夜はあけがたき
にねやのすきかげのひまさへつれ
なくあけやらぬとなげきたる
うたなり宗祇の曰ねやのひまさへ
といへる詞めつらしく思ひのせつ
なる所もみえ侍るにやうらむま
じものを恨みなつかしからまし
物を其面影にすること恋路の
ならひ也よく〳〵ねやのひまさへと
うちなげきたる所を思ふべしと云々
山城久世のあたりに桜【ママ】田寺と云
しはしゆんゑほうしのすみし
所なりといへるなり
【同 下段】
俊恵法師(しゆんゑほうし)
よもすから
物(もの)おもふ
比(ころ)は
明(あけ)やら
で
ねやの
ひまさへ
つれなかりけり
【右丁 上段】
○西行法師
俗名(そくみやう)義清(のりきよ)或(あるひ)は
則(のり)清又 憲(のり)清
藤原康清(ふぢわらのやすきよ)が子(こ)
又 泰清(やすきよ)
鳥羽院(とばのいん)下北面(しものほくめん)
藤成(ふぢなり)
豊沢(とよさわ)
林雄(はやしを)
秀郷(ひでさと)
于常(ゆきつね)
文修(ふみはる)
文行(ふみゆき)
公光(きんみつ)
秀清(ひできよ)
義清(のりきよ)
《割書:法名円位|元西行》
【同 中段】
此哥の心は物おもひをするはわれ
からなり人のたのみたる事にも
あらずひるはまきれもしてくらせ
どもよる月にむかひて人の思れ
ぬるかなしさ月の物をおもはする
やうなれども思ひとけば月の思
するにもあらずかこちがほに我
なみだはおつるものかなとわか心の
おろかなるをさすが思ひさつする事
なりかこちがほなる我なみだかな
といへる心をとがめていえるなり
やはと云詞こゝろをつくべしかこ
つは所によりて心かはれり此かこつは
くる心なり
うらむる心も侍るなり
【同 下段】
西行法師(さいきやうほうし)
なげゝとて
月やは
物(もの)を
思(おも)はする
かこち
がほなる
わがなみだ
かな
【左丁 上段】
○寂蓮法師
俗名(そくみやう)定長(さだなが)中(なか)
務(つかさの)少輔(せうゆふ)入道(にうとう)
俊成(しゆんぜい)
俊海阿闍梨(しゆんかいあじやり)
定長(さだなが)
寂蓮(じやくれん)也(なり)俊成卿(しゆんぜいきやうの)
猶子(ゆうし)実(じつは)俊海(しゆんかい)ノ
子(こ)也(なり)
寂蓮 逝去(せいきよ)の時
定家卿(ていかきやう)の哥
玉きはる
かのことはり
も
たどられず
おもへば
つらき
すみよし
の
神
【同 中段】
此哥の心はまきなどある山は
いかにもふかき山とこゝろえべし
秋の夕くれはゑもいわれずおもし
ろきにむらさめのして一そゝぎそ
そぎたる露もいまだひざるに
霧のたち上りたるけいきいわん
やうなし哥は其時その心に成
てみ侍らずはよせいのけいきほ
ねじみがたし三十一字につくし
かたきめう也秋は地中に陽
気があるゆへに雨水がかゝれば
むせてきりと
たちのぼる
なり
【同 下段】
寂蓮法師(じやくれんほつし)
むら雨(さめ)の
露(つゆ)も
まだ
ひぬ
槙(まき)の
葉(は)に
霧(きり)たち
のぼる秋(あき)の
夕(ゆふ)ぐれ
【右丁 上段】
○皇嘉門院別当
皇嘉門院(くわうかもんいんの)別当(へつとう)ハ
源俊隆(みなもとのとしたか)ノ女(むすめ)皇嘉
門院ハ法性寺(ほうしやうじ)関(くわん)
白(ばく)ノ女(むすめ)母(はゝ)ハ大納言 宗(むね)
通(みちの)女(むすめ)崇徳院(しゆとくいんの)后(きさき)
近衛院(こんゑのいんの)准母(じゆんぼ)ナリ
別当ハ物(もの)を司(つかさ)どる
職(しよく)なり
具平親王(ともひらしんわう)
師房(もろふさ)
師澄(もろすみ)
師忠(もろたゞ)
俊澄(としすみ)
女子
皇嘉門院別当
ナリ
【同 中段】
此哥の心は旅宿に逢恋といふ
心をよめりなにはへまづ旅宿と
見べしその所のなにおへるあし
のかりねとよそへてあしはふし
あり一よといへるゑんごあり身
をつくし又これもなにわのうら
によみ侍る哥おほしふねのしる
べのつなぎはしらをみをつくし
といへるなり一よのかりのなじみ
さへおもひはせつなりまして馴
なつかしみたるちきりはいかなら
んとおもへる哥なりはて〳〵は
いかゞあるべきとの
こゝろなりと云々
【同 下段】
皇嘉門院(くわうかもんいんの)別当(べつたう)
難波江(なにはえ)
の
あし
のかり
ねの
一夜(ひとよ)
ゆへ
身(み)をつくしてや
恋(こひ)わたるべき
【左丁 上段】
○式子内親王
後白川院(ごしらかはのいん)第(だい)三 皇女(くわうじよ)一
斎院(いつきのいん)准三宮(しゆんさんのみや)
母従三位 成子(なりこ)大納言
季成(すへなり)女(むすめ)《割書:又》萱斎院(かやのさいいん) ̄ト申
後白川院(ごしらかはのいん)
《割書:鳥羽院第四皇子|在位三年母待賢門院》
二条院(にてうのいん)《割書:第一宮在位七年|母右大臣経宗女》
高倉院(たかくらのいん)《割書:第二宮在位十二年|母建春門院亮子》
殷富門院(いんふもんいん)《割書:第 皇女母|従三位成子》
式子内親王(しよくしないしんわう)《割書:第三皇女|萱斎院》
安徳天皇(あんとくてんわう)
後鳥羽院(ごとばのいん)
《割書:隠岐国配流》
土御門院(つちみかとのいん)《割書:土佐国へ|配流》
順徳院(じゆんとくいん)《割書:佐渡国へ|配流》
【同 中段】
此哥の心はしのぶ恋のこゝろ也玉
のをはいのち也我いのちたへはたへよ
ながらへなば大かた忍ぶ心のよはりて
はては人もしりあたなる名をもらし
て人のため我ためはかなきことに
なりなんと思ひたる哥也玉のおと
いふよりたへなばたへねといひ今の
思ひよりゆくへをおもひやればなが
らふるほどあさましきことにならん
と也
○季注にたへなばたへねとは絶ばたへ
もせよとなり白露はけ【消】なばけなん
などいふがことしよはりもぞする
とはよはりもせうずらふといふ
てにはなり
【同 下段】
式子内親王(しよくしないしんわう)
玉(たま)の緒(を)よ
たえなば
絶(たへ)ね
ながらへ
は
忍(しの)
ぶる
ことの
よはり
もそ
する
【右丁 上段】
○殷富門院大輔
後白川院(ごしらかはのいん)の皇女(くわうじよ)
右に委(くは)し
為輔(ためすけ)《割書:高藤公四代孫》
説孝(ときたか)《割書:中納言》
頼明(よりあきら)《割書:左大弁》
憲輔(のりすけ)《割書:三木》
朝憲(とものり)《割書:従五位上》
行憲(ゆきのり)
信成(のぶなり)《割書:従五位上》
《割書:本名説輔》
女子 殷富門院
女子 同院大輔
【同 中段】
此哥の心はをしまは名所也あまの
そでさへぬることはぬるれども袖
のいろのかはるといふ事はなしをじ
まのあまの袖のぬるゝにわか袖の
なみたのかはく事なきにたれとも
いろのくれないにかはるはあまの袖
にくらべられぬところのきかきこと
は我袖にあり是を人に見せばや
といへり
○季注に小島のあまのそでほど
ぬるゝともふかきおもひの涙なる
をなをいろのなるおもひの
切なるほどを
しらせたき
とぞ
【同 下段】
殷富門院大輔(いんふもんいんのたゆふ)
見せばや
な
をじ
まの
海人(あま)の
袖(そで)だに
も
ぬれ
にぞ
ぬれ
し
色(いろ)は
かわらず
【左丁 上段】
○後京極摂政
前大政大臣
良経公(よしつねこう)系図(けいづ)法(ほう)
性寺殿(しやうじどの)の下(した)に有(あり)
後法性寺(ごほうしやうし)前関(さきのくわん)
白(はく)兼実公(かねざねこうの)二男(じなん)
母(はゝは)従(しう)三位 藤季(とうのすへ)
行(ゆき)女(むすめ)
引哥
ほとゝきす
なくや
さ月の
みしか夜も
ひとり
し
ぬれは
明し
かね
つゝ
【同 中段】
此哥の心は霜夜の比さむしろに
ひとりねてきり〳〵すのとこの
ほとりになくこゑをきゝ夜もす
からさびしくもあはれにもか
なしくも思ひつゞけてながきよ
をあかしたる心ばへまことにその
人になして見侍らばゆうに哀
なるべしさむしろはたゞむしろなり
せばきむしろとかけりひとり
かもねんによくいひかなへたる也
あし引の哥の
こゝろを
おもひ侍らん
【同 下段】
後京極摂政(ごきやうごくせつしやう)前太上大臣(さきのだいじやうだいじん)
きり〳〵す
鳴(なく)や霜(しも)
よの
さむ
し
ろに
衣(ころも)かなし
き
ひとり
かもねむ
【右丁 上段】
二条院讃岐
正三位 頼政(よりまさ)の二
女と云云 二条院(にてうのいん)
は後白川院(ごしらかはのいん)第一
の皇女(くわうしよ)
清和天皇(せいわてんわう)
貞純親王(さだすみしんわう)
経基(つねもと)《割書:六孫王》
満仲(みつなか)
頼光(よりみつ)
頼綱(よりつな)
仲政(なかまさ)
頼政(よりまさ)
頼行(よりゆき)
女子宜秋門院
女子二条院讃岐
【同 中段】
此哥の心はわか袖のかはくまもな
きはおきの石のことくしほひ
に見ゆるものならば人も見侍る
べしこひのふかきあさきの思
ひをはなれて人も思ひしらぬ
わが袖のものおもひ海中の石
のもとよりかはきたる事はなき
は中〳〵人のなきともありとも
しるべきにあらずとよみたる哥
のこゝろなり
○季注に曰人はしらねともかわく
間もなしといふにはあらすかはく
まもなき思ひを人もしるべき
ことなるに難面【つれなく】しらぬよし也
【同 下段】
二条院讃岐(にでうのいんさぬき)
我袖(わがそで)は
しほひ
に
みへぬ沖(をき)
の石(いし)の
人(ひと)こそ
しら
ね
かはくまも
なし
【左丁 上段】
○鎌倉右大臣
源実朝公(みなもとのさねともこう)右大(うだい)
将(しやう)頼朝(よりともの)二男(しなん)母(はゝは)
平時政(たいらのときまさ)女(むすめ)二位 尼(あま)
政子(まさご)也
清和源氏八幡太郎
義家(よしいへ)
為義(ためよし)《割書:六条判官》
義朝(よしとも)《割書:左馬頭|昇殿》
頼朝(よりとも)《割書:従二位|征夷大将軍》
《割書:住鎌倉 大納言》
頼家(よりいへ)《割書:征夷大将軍|左衛門督》
《割書:母平時政女政子》
実朝(さねとも)《割書:右大臣|正二位》
《割書:母同上| 号鎌倉右大臣》
【同 中段】
此哥の心はよの中をつねになして
見侍りまほしき物なりたゝな
ぎさこぐあまのおぶねのあと
もなきことくにはかなき事を
あはれみてつらねたる哥なり
つなでかなしもとはほしき命も
つなぎとめぬことくにあまの
をぶねもつなぎとめずして目
のまへにわがよのはかなきをは
たとへたるなり舟のながめを
あいじやくして
うきことを思量し
たる
感情なり
【同 下段】
鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)
世中(よのなか)は
常(つね)にも
がもな
な
ぎさこぐ
海士(あま)のを
ぶねの
つなで
かなしも
】
○参議雅経
刑部卿(きやうぶきやう)頼経朝(よりつねあ)
臣(そんの)男(むすこ)飛鳥井(あすかいの)祖(そ)
和歌(わか)并 蹴鞠(しうきく)ノ達(たつ)
人《割書: |新古今撰者ノ内》
《割書:京極》
師実(もろさね)
忠教(たゞつね)《割書:正二位|権大納言》
頼輔(よりすけ)《割書:刑部卿|従三位》
頼経(よりつね)《割書:刑部卿|従四位下》
宗長(むねなか)《割書:刑部卿|従三位》
《割書:蹴鞠難波流祖》
雅経(まさつね)《割書:三木|左兵衛督》
《割書:蹴鞠飛鳥井流祖》
【同 中段】
此哥の心はみよしのゝ山のあき風
にさと深たる比までをそばたて
てきけば秋のあはれのせつなるに
ことにふるきさとにうつもうつ也
きぬたのこへしてひとへにひと
り寝のさむきをさへひえあるし
たるていなりきり〳〵すなく
やしもよの哥の心に思ひめくら
して見侍るべしこともなきやう
なれともあはれふかし
○季注に天武天皇よしのゝ国栖
がくさ魚ねせりなと供御に
奉り舟の下にかくし置
奉りなとし
て也
【同 下段】
参議(さんぎ)雅経(まさつね)
みよしのゝ
山(やま)の
秋(あき)かぜ
さ夜(よ)
ふけて
故郷(ふるさと)さむく
衣(ころも)うつなり
【左丁 上段】
○前大僧正慈円
諱(いみなは)道快(だうくわい)第六十
二代 座主(ざす)謚(おくりなを)号(こうす)_二
慈鎮(じちんと)_一号(こうす)_二吉水和(よしみつくは)
尚(しやうと)_一養和(やうわ)元十一月
六日 改(あらたむ)_二慈円(じゑん[と])【一点脱】久(きう)
寿(しゆ)二年己亥四月
十五日 誕生(たんじやう)嘉禄(かろく)
九年九月廿五日
入滅(にうめい)【ママ】《割書:七十|一歳》嘉禎(かてい)
三年三月八日 謚(おくりな)
号(ごうす)_二慈鎮(じちんと)_一滅後(めつご)
十三年也
系図(けいづ)有(あり)_レ前(まへに)
【同 中段】
此哥の心はおほけなくはをよび
なくといふことは也我たつそま
とはひゑい山をいひたるなり此
山にすみて世の中のたみをは
子のことくあはれみ袖をおほふべき
なる此行者なれともおもひな
き我こときのものはいたづらに
此山のあるしとなりて住ばかり
なりと身をかへりみて読たる也
○季注に浅智寡徳の身にて
天下安穏を護持する座主
に備る事こと
謙退旱下の心なり
【同 下段】
前(さきの)大僧正(だいそうしやう)慈円(じゑん)
おぼけ【注】
なく
うき
世(よ)の
民(たみ)に
おほふかな
我(わが)たつ杣(そま)に
墨染(すみぞめ)の袖(そで)
【注 「おぼけなく」と「おほけなく」とは語義が違う。ここでは「おほけなく」とあるところ。この資料の「百首略解并家系」の項(18~68コマ)の下段の和歌の散らし書きの地の文の濁点は、すべて白抜きの小丸「◦」二つで表記されていますのに、この語だけ墨で二つの黒点が付いているのは、後の付記かと思われる。】
【右丁 上段】
○入道前大政大臣
公経公(きんつねこうと)申(もうす)内大臣
実宗公(さねむねこうの)男(むすこ)母(はゝは)入(にふ)
道(とう)中納言 基宗(もとむね)女(むすめ)
通季(みちすへ)《割書:大宮中納言|大納言》
公道(きんみち)《割書:正二位|大納言》
実宗(さねむね)《割書:坊城内大臣》
公経(きんつね)
西園寺(さいをんじ)大政大臣
又 号(こうす)_二 一条(いちでうと)_一
嘉禄(かろく)年中建_二立
西園寺(さいをんじを)_一
【同 中段】
此哥の心ははなはあらしのさそひ
ちらしても雪とみて道をもは
らはで見るといへどもわが身の
をいたるはあさましき事にこそ
侍れといふ心をふりゆくものはわが
身なりけりといへり雪ならで
といふよりふり行ものといひ
たるしんたへなるなり
○季注に総【惣】じて飛花落葉
を見て無常転変をさとる
事霊山の釈迦已前の
独覚も有しと
見へたり
【同 下段】
入道(にうどう)前(さきの)太政大臣(だいじやうたいじん)
花(はな)さそふ
あらし
の
庭(にわ)の
雪(ゆき)なら
で
ふり行(ゆく)
ものは
わが身(み)なりけり
【左丁 上段】
○権中納言定家
俊成卿(しゆんせいきやうの)男(むすこ)母(はゝは)若狭(わかさの)
守(かみ)親忠(ちかたゞ)女 号(こうす)_二京極(きやうごく)【一点脱】
中納言 入道(にふとう)定家(ていか)
卿(きやうの)母(はゝ)親忠(ちかたゞ)女は美福(びふく)
門院(もんいん)女房 伯耆(ほうき)と
云 初(はしめ)藤原為経(ふぢわらのためつね)に
嫁(か)して生(うむ)_二澄信朝(すみのぶあ)
臣(そんを)_一正 二位 民部卿(みんぶきやう)
貞永(ていゑい)元十一月に出(しゆつ)
家(けす)法名(ほうみやう)明静(めうじやう)仁(にん)
治(ぢ)二年八月廿日に
薨(こうす)《割書:八十|歳》本名(もとのな)光(みつ)
季(すへ)改(あらたむ)_二季光(すへみつに)_一後(のち)に
定家(さたいへ)と改
新古今(しんこきん)撰者(せんじや)五人
の随一(すいいち)なり
新勅撰(しんちよくせんの)撰者
記(き)を号(ごうす)名月(めいげつ)と
系図(けいづ)前(まへ)に有(あり)
【同 中段】
此哥の心は松尾のうら名所なり
こぬ人を待といひかけ夕なきと
まつ比をいひのべたりやくやもし
ほと松かせのうらの物をその
まゝにいひ身もこかるゝと我まつ
おもひを夕しほにやくにたとへ
たるなり夕はけふりのおほくたつ
にくるゝにしたがひて其いろみな
けふりとひとしきに我思ひの
こがれてせつなるにたとへていへ
りあまたのうたありつれんなれ
と此百首にのせしなり
【同 下段】
権中納言(ごんちうなごん)定家(さだいへ)【左ルビ:ていか】
こぬ人(ひと)を
まつほ
の
浦(うら)の
夕(ゆふ)
なぎに
焼(やく)やもしほの
身(み)もこがれつゝ
【右丁 上段】
○正三位家隆
前(さきの)大納言(だいなごん)太宰権(だざいごんの)
帥(そつ)光隆(みつたかの)二男
本名(もとのな)号(こうす)_二雅隆(まさたかと)_一
母(はゝは)皇太后宮(くわうだいこうくうの)亮(すけ)実(さね)
兼(かね)朝臣(あつそんの)女(むすめ)
俊成卿(しゆんせいきやうの)門弟(もんてい)一人
云云 寂蓮法師(じやくれんほつし)
之 聟(むこ)也号(こうす)_二壬生(みぶ)二
位 宮内卿(くないきやうと)_一
新古今(しんこきん)撰者(せんじや)
五人之内
みそぎする
ならの
小川の
河風に
いのりぞ
わたる
下に
たへ
し
と
【同 中段】
此哥の心はならの小川めい所也みな
月ばらへする川なり風そよぐ
ならとうへ物にいひよせたる也
すゞしかるべきていなり夕ぐれ
なを深しきにあすはあれと思
ひ此夕なればたゝみそぎするにて
なつとはいふなるべし秋のけしき
はらへをもまたぬてい也なごしの
祓はやく秋にうつし侍らんと
いふまつりこと也よくかなひて
よめるなり
○季注にそよくはうへ物なくてはいは
れずならを楢(なら)にもたせたり風そ
よぐ川夕ぐれいづれもすゞしき物なれ
ば夏のけしきは只みそぎばかり
なり
【同 下段】
正三位(じやうざんみ)家隆(かりう)【左ルビ:いへたか】
風(かぜ)そよぐ
ならの
小川(をがは)の
夕(ゆふ)
ぐれは
御祓(みそぎ)ぞ
夏(なつ)の
しるしなりける
【左丁 上段】
○後鳥羽院
諱(いみなは)尊成(たかなり)高倉院(たかくらのいん)
第四御子 母(はゝは)贈(そう)左
大臣 信澄(のぶすみの)女(むすめ)植子(たねこ)
七条院ト申
治承(ぢしやう)四年七月十四日
降誕(こうたん)寿永(じゆゑい)二年八
月廿日 践祚(せんそ)四歳
同三年七月 即位(そくい)
建久(けんきう)三年七月八
日 於(をいて)_二鳥羽殿(とばとのに)_一御 出(しゆつ)
家(け)法名(ほうみやう)良然(りやうねん)同
月十三日 奉(たてまつる)【レ点脱】移(うつし)【二点脱】隠岐(をきの)
国(くにゝ)【一点脱】延応(ゑんをう)元年二月
廿二日 崩(ほう▢)【「す」ヵ】六十歳或ハ
六十一歳同五月廿九日
可(へき)_レ 奉(たてまつる)_レ号(こうし)_二顕徳院(けんとくいんと)_一宣(せん)
下(げ)仁治(にんぢ)三年七月八日
以(もつて)_二顕徳院(けんとくいんを)_一奉(たてまつる)_レ号(こうし)_二後(ご)
鳥羽院(とばのいんと)
【同 中段】
此哥の心は人もをしとは世の中のたみ
をいたはりおほしめす也しかれども
御心のやうによの中おさまらずして
王道すたれやる時代とてたみの
ためおぼしめすにつけて人もうら
めしと御心をなやましおぼしめす
なり是によりてあぢきなく世を思
ゆへにもの思ふとあそばしたる也
かたじけなき御心にあらずや無端御
心を傷しむると也その徳沢の至
らさる所のある事は
尭舜もそれを
やめりとなんされば
天下のうきに先たつて
ありかたき御心ざし
なるべし
【同 下段】
後鳥羽院(ごとばのいん)
人も
おし
ひとも
うら
めし
あちき
なく
よをおもふ
ゆへに物(もの)をもふみは
【右丁 上段】
○順徳院
諱(いみな)ハ守成(もりなり)後鳥羽(ことばの)
院(いん)第二 皇子(わうし)在位(ざいい)
十一年 母(はゝは)修明院(しふみやういん)藤(ふぢ)
原重子(わらのしげこ)贈(そう)左大臣 範(のり)
季(すへの)女(むすめ)
正治(しやうぢ)二年十月五日
立(たつ)【二点脱】太子(たいしに)_一 四歳
承元(しやうげん)四年十一月廿五
日 受禅(しゆせん)十四歳
承久(しやうきう)三年四月廿日
譲位(しやうい)
同七月 奉(たてまつる)_レ移(うつし)_二佐渡(さどの)
国(くにゝ)_一
仁治(にんぢ)三年九月十二日
崩(ほうず)四十六歳 於(おいて)_二佐渡(さどの)
国(くにゝ)_一
【同 中段】
此哥の心は百敷とは内裏百官の座
席なりふるきのきばとは王道のすた
れたる事をなげきおほしめしのきば
といふよりしのぶとあそばしたる也
しのぶ草の事なり軒にをふるもの
なりしのぶにもなをあまりある
むかしぞとをとろへたるわうたう
をおぼしめしなげかせ給ふ也巻頭の
秋の田はおさまれる御代のたみを思
めしたる御こゝろなり
○季注にしのぶといふ詞堪しのぶ
隠しのぶ恋しのぶなどみな心
かはり侍る爰の
むかししのぶは
したふこゝろ也
【同 下段】
順徳院(じゆんとくいん)
百敷(もゝしき)や
ふるき
軒(のき)
端(ば)の
しのぶに
も
猶(なを)あまり
ある
むかし成(なり)けり
【左丁】
紫式部(むらさきしきぶの)曰(いはく)皆(みな)人毎(ひとこと)にものゝ
ならざるうちは人のいさめ
をもよく入れ道(みち)を守(まも)る
の心あり其(その)のそみを
かなえ得(え)て心のまゝなる
時は皆(みな)おごりになりて
貴(たつと)きをいやしめいやし
きをあなどるこのゆへ
にそもろ〳〵の仏神(ぶつじん)
の望(のそみ)をかなへかね
給ふなり其(その)望(のぞみ)
をかなへてあし
からしめんより
かなへずしてよから
しめんは誠(まこと)に大慈(たいじ)
大悲(だいひ)なるべし
【右丁】
【見出しの囲み】
三保浦(みほのうら)富士山之景(ふじさんのけい)
縹渺(ひやう〴〵たり)春(しゆん)-天(てんの)百(ひやく)-万(まん)-家(か)
疑看(うたがひみる)双(さう)-鳳(ほうの)下(くだることを)_二煙霞(ゑんかに)_一
依々(いゝたり)十(じう)-二(に)-通(つう)-門上(もんのうへ)
洗出(あらひいだす)芙(ふ)-蓉(よう)一(いち)-朶(だの)花(はな)
夜(よ)もすがら
富士(ふじ)の
高根(たかね)に
雲(くも)消(きへ)て
清見(きよみ)が
をき
に
すめる
月影(つきかげ)
【左丁 挿絵だけ】
【右丁 上段】
○色紙(しきし)短冊(たんざく)書(かき)やう《割書:并》寸法(すんほう)の事
【縦線有り】
大 色紙(しきし)《割書:堅六寸四分|横五寸六分》小色紙《割書:堅六寸|横五寸三分》
短冊(たんざく)寸法 堅(たて)一尺弐寸 横(よこ)一寸八分
又 二条家(にじやうけ)は《割書:長壱尺二寸|横壱寸》冷泉家(れいぜいけ)は《割書:長壱尺三寸|横壱寸七分》
【四角い囲みの右側】
すたつといふ年にやみよしのゝ 題のなき短冊は
山もかすみてけさは見ゆらん 下の句一字さげて
書(かく)べし
【四角い囲みの左側】
此里の真萩にすれる衣手を 題あるは上下の頭(かしら)
遠郷萩 をそろへ名乗(なのり)書
ほさて都の人に見せはや俊成 ほどあけべし
【四角い囲みの上側】 【四角い囲みの下側】
くもり 詠有明月和歌
影きよ も 俊成
き あへ
ぬ 秋の夜のふ□【「か」ヵ】きあ
月の鏡 ゆきは はれは有あけの月
の 見るよりそしられそ
ふり 女尓之【めにし】
池水に つゝ
【囲み上側の左】
色紙(しきし)ちらし書(かき)此法(このほう)の外(ほか)に
さま〳〵あれども是(これ)を略(りやく)す
【囲み下側の左】
懐紙(くわいし)の書(かき)やう右(みき)のごとし
終(をはり)三 字(し)を万葉書(まんやうがき)にす
【左丁 上段】
進物(しんもつ)積様(つみやう)之(の)図式(づしき)
【縦線有り】
絹(きぬ) 鰹(かつを)
巻(まき) 節(ぶし)
物(もの)
真(ま) 延(のべ)
綿(わた) 紙(かみ)
【右丁 下段】
女(をんな)三十六歌仙(さんじうろくかせん)絵抄(ゑしやう)
左 小野(をのゝ)
小町(こまち)
おもひつ
ぬれはや
人の
みえつらん
夢(ゆめ)としり
せば
覚(さめ)さら
ましを
右 式子内親王(しよくしないしんわう)
わすれては
うちなげかるゝ
ゆふべかな
我(われ)のみ
しり
て
すくる
月日
を
【左丁 下段】
左 伊勢(いせ)
三輪(みわ)の
山
いかに
待(まち)みん
とし
ふとも
たつぬる
人も
あらし
と
おもへ
ば
右 宮内卿(くないきやう)
みわたせは
ふもと計(ばかり)
に
さき
そめ
て
花(はな)も
おく
ある
みよし
のゝ
山
【右丁 上段】
広蓋(ひろぶた)に
上(かみ) 小袖つむ
には下まへ
下(しも) を上になし
つむなり
雁(かん)
鴨(かも) 魚(ぎよ)るい
祝言(しうけん)の
祝言 ときは
の時は 腹(はら)を合
頭を せて
むかひ つむ
合す べし
祝言(しうげん)
道服(とうぶく)
向ひ は
小袖(こそで) かま
【左丁 上段】
ちりめんは 川魚(かはうを)はせなかを
かくのこと むかふへかしら
く をもち出
つむ る人の右
なり の方へ
なして
つむ也
数(かず)多き
菓(くは) ときは
子(し) 頭をむ
の かふへなし
折(をり) せなかを
もち出る
人の左へ
なしつむ
べし
海魚(うみうを)は
はらを
鳫(がん)鴨(かも) むかふへ
なして
つねの つむ也
つみ 数(かず)多き
やう 時
頭(かしら)を左(ひだり) 頭(かしら)をむ
の羽(はね)の かふへせ
下へ入る なかを右へなしてつむなり
【右丁 下段】
左 中務(なかつかさ)
秋風(あきかぜ)の
ふくに
つけ
ても
とはぬ
かな
おきの
葉(は)なら
ば
をとは
して
まし
右 周防内侍(すはうのないし)
ちきりしに
あらぬ
つらさ
も
逢(あ)ふ事
の
なきには
えこそ
うらみ
さり
けれ
【左丁 下段】
左 殷富門院(いんふもんいん)
太輔(たゆふ)
なにかいとふ
よもながらへし
さのみやは
うきに
たへたる
いのち
なるべ
き
右 俊成卿(しゆんせいきやうの)女(むすめ)
俤(おもかげ)のかすめる
月そ
やとり
はるや ける
むかし
の
袖(そで)の
なみ
だ
に
【右丁 上段】
女中(ちよちう)平生(へいせい)身持(みもち)鏡(かゞみ)
【縦線有り】
それ紅粉(かうふん)翠黛(すいたい)は女色(ぢよしよく)を彩(いろどる)の具(ぐ)
なりと漢家(かんか)本朝(ほんてう)に至(いた)りてこれを
愛(あい)す代々(よ〳〵)の美(び)人みな軽粉(けいふん)をたや
さぬことは哥(うた)によみ詩(し)につくりたりさ
れば女の白粉(はくふん)紅粉(こうふん)をもつていろどる
ことあながちに顔色(がんしよく)をますばかりの
事にあらず是(これ)女の礼(れい)なれは其 心(こゝろ)を
もつておしろひをかろく紅粉(べに)など
つくるもそのこゝろえあるべきなり
○眉(まゆ)は貴賤(きせん)をしなへて今はすみを
ひくなり是むかしの遊女(ゆうちよ)の風(ふう)なり
それ眉のかゝりはほのかなるを遠山(ゑんざん)
のかすみにたとへ又 弓張月(ゆみはりつき)のいるに
もたとへたりたゞゆふ〳〵にしてけ
【左丁 上段】
ば〳〵しからぬをよしとすべし
○ひたいの際(きは)墨(すみ)はいかにもほのかに
うす〳〵とあるべしそのさま雲(くも)ゐの
鳫(かり)の羽(は)をのしてかすみをのするに
たぐひすといへり
【縦線有り】
打(うち)みだりのかさりの図(づ)
これは
箱の
うち
に
かざる
也
【箱の中】
くし四手
はさみ
ひたい あて
そへ すみ
まゆ
つけ
びん
くし
びん
くし
【右丁 下段】
左 右近(うこん)
あ【ママ】ふことを
待(まつ)に
月日は
こゆる
ぎの
磯(いそ)に出(いで)て
や【ママ】
今は
うら
みん
右 待賢門院(たいけんもんいん)
堀川(ほりかは)
うき人を
忍(しの)ぶへし
とは
おもひ
きや
わか
心さへ
などか
はか【ママ】
らん
【左丁 下段】
左 右大将(うたいしやう)道綱(みちつなの)母(はゝ)
たえぬるか
影(かげ)たに見えは
とふへき
を
かたみの
水は
みくさ
いに
けり
右 宜秋門院丹後(きしうもんいんたんご)
なにと
なく
聞(きけ)は
なみた
そ
こほれけ【ママ】る
苔(こけ)の
袂(たもと)に
かよふ
松(まつ)かせ
【右丁 上段】
もとゆひ箱 但しふたばかり
の図(づ) をもちゆ
これは まるゆひ
はこの ひらゆひ
ふたに のし
かざる 【箱の中】 こんぶ
なり 基巾 ききん
壱わげ
壱なる
【縦線有り】
髪(かみ)は当世(たうせい)のゆひやうしな〳〵ありと
いへともみな遊女(ゆうぢよ)などのゆひ始(はじ)めて
はやり出す物(もの)なればいづれ其風(そのふう)はでに
していやしく見ざめのする物也 只(たゞ)それ〳〵
のにあはしき風(ふう)にゆひ給ふべしさり
ながら御所方(ごしよがた)武家(ぶけ)方 町(まち)方の風(ふう)と
それ〳〵のわかちもあればとかく其処(そのところ)
のふうに随(したが)ふへし古風(こふう)なるがよしとて
むかしの髪(かみ)のゆひやうにもならず
【左丁 上段】
わかき女中は時(とき)の風俗(ふうぞく)にしたがふは宜(よろ)
しけれどもあまり目(め)にたゝぬやうに
ゆひ給ふべし老(おひ)たる人のくせとして
我(わが)わかゝりし時(とき)の風(ふう)をいひ出して
今の風(ふう)をそしる物なれど是(これ)大(おゝい)なる
あやまり也 万(よろつ)のことにとき〳〵うつりか
はる事は髪(かみ)の風(ふう)ばかりにあらず小袖(こそで)
の染色(そめいろ)もやう其外(そのほか)櫛(くし)かうがいのなり
まで十年廿年の内にはこと〳〵くかはる物也
かはればこそ職人(しよくにん)も商人(あきんど)もはんしやう
【縦線有り】
櫛(くし)
笥(げ)
【右丁 下段】
左 馬内侍(むまのないし)
あふことは
是(これ)やかぎり
の
たひ
ならん
草(くさ)の
まくら
も
霜(しも)かれ
に
けり
右
嘉陽門院(かやうもんいん)
越前(えちせん)
夏引(なつひき)の
手(て)ひき
の
糸(いと)のとしへ
ても
たえぬ
思ひに
むすほゝれ
つゝ
【左丁 下段】
左 赤染衛門(あかそめゑもん)
つねよりも
またぬれ
そひし
たもとかな
むかし
を
かけて
おつる【ママ】
なみた
に
右 二条院(にでうのいん)
讃岐(さぬき)
一 夜(よ)とて
こかれし
床(とこ)の
さむし
ろ
に
やかても
ちりの
つもり
ぬるかな
【右丁 上段】
する事なり
○白粉(をしろい)はうすきがよしつねに顔(かほ)を能(よく)
みがきて薄(うす)く付れはそこつや【底艶】あり
て美(うつく)しき物(もの)なり
○歯黒(はぐろ)は毎朝(まいてう)すべし歯(は)さきの白(しろ)く
はけたるは見くるしき物(もの)なり総【惣】じて
女のけわいは早朝(さうてう)の事(こと)なり人 未(いま)だ
おきざるうちに顔(かほ)あらひ髪結(かみゆふ)こと
女の作法(さほふ)なり
【縦線有り】
角盥(つのたらい) 粉(ふん)
黛(たい)
鏡台(きやうだい)
【左丁 上段】
春秋(はるあき)祝(いわ)ひ月(づき)の事《割書:并 吉書哥| 七夕哥》
【縦線有り】
正月を睦月(むつき)といふことは常(つね)にうと〳〵
しき一門(いちもん)一家(いつけ)友(とも)ほうばいまでも日毎(ひこと)
により来りて酒宴(しゆえん)しむつましく交(まじは)る
より名付しとかやしめかさりは是(これ)ぞ
神(かみ)の御国(みくに)のしるしにて門(かど)に松竹(まつたけ)
立るは蓬莱山(ほうらいさん)をかたどり不老不死(ふらうふし)
のことぶきをいはふ総(すべ)【惣】て此月は年(とし)
の始(はじめ)月日のはじめ何(いづ)れめでたきことを
取そろへ一年の凶事(けうじ)をのぞき吉事
をまねくのいわれなり
書初の哥
あら玉のとしのはじめに筆(ふで)とりて
よろつのたからかきぞをさむる
われ見ても久しくなりぬ住(すみ)よしの
きしの姫(ひめ)まついく代(よ)へぬらん
【右丁 下段】
左 和泉式部(いつみしきぶ)
もろともに
苔(こけ)の
下には
朽(くち)す
して
うつもれ
ぬ
名(な)を
見るぞ
かなしき
右 小(こ)
侍(じ)
従(しう)
しきみ
つむ
山路(やまぢ)の
露に
ぬれにけり
あかつき
おきの
すみ
そめの袖(そで)
【左丁 下段】
左 蔵人左近(くらんどさこん)
沼(ぬま)ことに
袖(そで)はぬれ
ける
あやめ
くさ
こゝろに
にたる
ねを
もとむ
とて
右 後鳥羽(ごとばの)
院(いん)
心(こゝろ)して 下野(しもつけ)
いたくな
なきそ
きり〳〵す
かことかまし
き
老(おひ)の
ねさめ
に
【右丁 上段】
君(きみ)が代(よ)はちよに八千世(やちよ)にさゝれ石の
いわほとなりて苔(こけ)のむすまで
君か代は天(あま)の羽衣(はころも)まれにきて
なづともつきぬいわほなるべし
春(はる)たつといふばかりにやみよしのゝ
山もかすみてけさは見ゆらん
【挿絵あり】
【左丁 上段】
七月を文月(ふみつき)といふは文書(ふんしよ)の虫(むし)はらひ
するより名付るとなり盂蘭盆(うらんぼん)は
目蓮(もくれん)母(はゝ)の為(ため)に十五日に行(おこな)はれし法(ほう)
会(え)にて日本(につほん)にては聖武天皇(せうむてんわう)天平(てんへい)
五年七月に始(はじめ)て行(おこな)はれしより始(はじま)る
此月 諸人(しよにん)踊(をどり)をなすは秋(あき)は律(りつ)にして
人の心も陰(いん)になるゆへ引(ひき)立んとの
ことにて始(はじめ)しとなり又 家々(いへ〳〵)の門(かと)にとも
す灯籠(とうろう)は亡者(もうじや)の為(ため)とかや哥に
なき人の闇路(やみぢ)てらせとともす火(ひ)を
おのがためとてをどるうなひ子
七夕祭(たなはたまつり)を乞巧奠(きつこうてん)といふはよきことをね
がふゆへなりとぞ五色(ごしき)の糸(いと)を棹(さほ)に
かけ借物(かしもの)を備(そな)ふ何事にても一ツ祈(いのり)
ぬるに三年の内にかならす成就(じやうじゆ)する
ことをいひのこせり
【右丁 下段】
左 紫式部(むらさきしきぶ)
見し人の
煙(けふ)り
と
なりし
ゆふべ
より
なぞ
むつまし
き
塩(しぼ)かま【濁点の打間違い】
のうら
右 弁内侍(べんのないし)
をく露(つゆ)は
草葉(くさば)
の
うへと
おもひ
し
に
袖(そで)さへ
ぬれて
秋(あき)は
来(き)に
けり
【左丁 下段】
左 小式部内侍(こしきぶのないし)
しぬばかり
歎(なけ)きに
こそは
なけき
しか
いきて
とふへき
みにし
あら
ねば
右 少将内侍(せうしやうないし)
恨(うらみ)てもなきて
も
なにを
かこたまし
見し夜(よ)の
月の
つらさ
なら
では
【右丁 上段】
七夕(たなはた)のうたづくし
たなばたのいのる手向(たむけ)やしげからん
あけてそかへるかぢのことの葉(は)
夜(よ)もすから星合(ほしあい)の空(そら)にたてまつる
香(かう)のけふりや雲(くも)となるらん
七夕の逢ふ夜(よ)の庭(には)にをくことの
あたりにひくはさゝがにのいと
たきものを雲(くも)の衣(ころも)に匂(にほ)はせて
七夕つめのくれをまつらむ
しら露(つゆ)の玉(たま)のをことの手向(たむけ)して
庭(には)にかゝくる秋(あき)のともしひ
七夕のいほはたたてゝをるぬのの
あきさり衣(ころも)たれかそめけん
天(あま)の川くらしかねたるともし妻(つま)
わたるをいそくぬさ手向(たむけ)なり
かきつくるかぢの七葉(は)のおもふこと
【左丁 上段】
なをあまりある秋の夕くれ
七夕のたへぬ契(ちぎ)りをそえんとや
はねをならぶるかさゝぎのはし
ひこ星(ほし)の天(あま)の岩舟(いはふね)ふなでして
こよひやいそに磯(いそ)まくらする
天の川こよひあふせのゆくすえを
万代(よろづよ)かけてなをちぎるらん
ひとゝせに一夜(ひとよ)とおもへと七夕の
あひ見ん秋のかぎりなきかな
【縦線有り】
【挿絵】
【右丁 下段】
左 斎宮女御(さいくうにようこ)
なれ行(ゆけ)は
うき世
なれはや
須磨(すま)の
あまの
しほやき
ころも
まとを
なるら
ん
右 伊勢(いせの)
太輔(たゆふ)
わかれにし
その日はかり
は
廻(めぐ)り
来(き)て
またも
かへらぬ
人そ
かなし
き
【左丁 下段】
左 清少(せいせう)
納言(なこん)
たより
ある
風(かぜ)もや
ふくと
松(まつ)しま
に
よせて
久しき
あまのつり舟(ふね)
右 土御門院(つちみかどのいん)小宰相(こざいしやう)
春(はる)はなを
かすむに
つけて
ふかき夜(よ)
の
あはれを
見する
月の
かけ
かな
【右丁 上段】
新改(しんかい)御所言葉(ごしよことば)
【縦線有り】
小そてを ごふくといふ
おびを おもじといふ
夜着を よるの物といふ
かやを かちやうといふ
ぬのこを おひえといふ
わたを おなかといふ
ゆぐを ゆもじといふ
しめしを むつきといふ
紅粉を おいろといふ
水を おひやといふ
米を うちまきといふ
めしを ぐごといふ
さけを くこんといふ
みそを むしといふ
ごとみそを さゝぢんといふ
せきはんを こわぐごといふ
もちを かちんといふ
ちまきを まきといふ
ぼたもちを おはぎといふ
【左丁 上段】
あづきもちを あかのかちんといふ
よもぎもちを くさのかちんといふ
しんこを しらゐとゝいふ
さゝげのしんこを ふじのはなといふ
そうめんを ぞろといふ
でんかくを おてんといふ
しやうゆうを おしたじといふ
とうふを おかべといふ
とうふのかすを からといふ
だんこを いし〳〵といふ
なすびを なすといふ
大こんを からものといふ
ごぼうを ごんといふ
香のものを かう〳〵といふ
くきを くもじといふ
さかなを おまなといふ
たいを おひらといふ
いわしを おほそといふ
たこを たもじといふ
あまざけを あまくこんといふ
【右丁 下段】
左 大弐三位(だいにのさんみ)
うたかひし
いのちはかり
は
ありなから
ちきり
し
中の
たえぬへき
かな
右 八条院高倉(はちてうのいんたかくら)
くもれかし
ながむる
からに
悲(かな)し
きは
月におほゆる
人の
をもかけ
【左丁 下段】
左 高内侍(たかのないし)
独(ひと)りぬる
人や
しるらん
秋(あき)の
ながし 夜(よ)を
と
たれか
君(きみ)に
告(つぐ)ら
ん
右 後嵯峨院(ごさがのいん)中納言典侍(ちうなごんのすけ)
いつはりと
思(をも)はゞ【ママ】
人も
ちきり
けん
かはる
ならひ
の
世(よ)こそ
つら
けれ
【右丁 上段】
女中(ぢよちう)五性(ごしやう)【注①】名頭(ながしら)字(じ)
【縦線有り】
木性(きしやう)【隅黒四角の中】福(ふく ) 繁(しげ) 半(はん) 文(ふみ) 満(みつ) 道(みち)
米(よね) 国(くに) 光(みつ) 留(とめ) 金(かね) 由(よし) 沢(さは) 連(れん)
類(るい) 谷(たに) 弁(へん) 竹(たけ) 梅(むめ) 輪(りん) 麻(あさ) 頼(らい)
蘭(らん) 房(ふさ) 品(しな) 勘(かん) 富(とみ) 大(だい) 運(うん) 勘(かん)【四字上と重複】
火性(ひしやう)【隅黒四角の中】床(ゆか) 吉(きち) 【左ルビ:よし】岩(いわ) 虎(とら ) 幾(いく) 庫(くら)
久(ひさ) 菊(きく) 花(はな) 為(ため) 艶(つや) 吟(ぎん) 越(ゑつ) 塩(しほ)
猶(なを) 益(ます) 園(その)【注②】 延(のぶ) 梶(かぢ) 玉(たま) 金(きん) 曲(くま)
亀(かめ) 源(げん) 高(たか) 極(きは) 今(いま) 国(くに) 薫(くん) 蝶(てう)
土生(つちしやう)【隅黒四角の中】重(しげ) 中(なか) 島(しま) 蝶(てう) 伝(でん) 楠(くす)
長(ちやう) 徳(とく) 六(ろく) 藤(ふぢ) 町(まち) 楽(らく) 滝(たき) 等(しな)
陸(りく) 流(りう) 千(せん) 政(まさ) 丹(たん) 笛(ふえ) 台(たい) 大(だい)
金性(かねしやう)【隅黒四角の中】幸(ゆき) 恒(つね) 好(よし) 熊(くま) 安(やす) 由(よし)
市(いち) 峯(みね) 縫(ぬひ) 豊(とよ) 民(たみ) 門(もん) 坂(さか) 楽(らく)
糸(いと) 末(すへ) 浜(はま) 愛(あい) 閑(かん) 里(さと) 常(つね) 鳴(なる)
鶴(つる) 雪(ゆき) 毎(こと) 茅(かや) 文(ふみ) 与(あて) 中(なか) 虎(とら)
水性(みづしやう)【隅黒四角の中】継(つぐ) 千(せん) 種(たね) 秋(あき) 常(つね) 哥(うた)
松(まつ) 晴(はる) 善(ぜん) 石(いし) 岩(いわ) 政(まさ) 光(みつ) 月(つき)
市(いち) 十(じう) 作(さく) 勝(かつ) 七(しち) 三(さん) 小(しやう) 春(はる)
次(つぐ) 琴(こと) 崎(さき) 京(きやう) 谷(たに) 元(もと) 宮(みや) 脇(わき)
才(さい) 村(むら) 霜(しも) 初(はつ) 清(せい) 関(せき) 辰(たつ) 空(そら)
木性は水性の文字。火性は木性の字。土生は
火性の字。金性は土生の字。水性は金性の字よし
【注① 五性……五行思想で、人は木火土金水のいずれかをその本性として持つと考える場合、五行を五性という。日本では五行の相生(そうせい)、相剋(そうこく)の順によって相性(あいしょう)のよしあしがいわれる。『日本国語大辞典より】
【注② 振り仮名から、「園」が考えられるが字面は門構えに見え、「門+遠」は辞書に見当たらない。】
【右丁 下段】
左 一宮紀伊(いちのみやきい)
浦(うら)かせに
吹(ふき)あけの
はまの
浜(はま)
千(ち)
鳥(とり)
浪(なみ)たち
くら
し
夜半(よは)に
なく
なり
右 式乾門院(しよくけんもんいん)御匣(みくしげ)
身(み)をさらぬ
おなし
うき
世と
おもはす
は
岩(いは)の中
をも
たつねみて
まし
【左丁 下段】
左 相模(さかみ)
もろともに
いつか
とく
へき
あふ事
の
片(かた)むすひ
なる
夜半(よは)の
下ひも
右 藻壁門院(さうへきもんいんの)少輔(せうゆふ)
それをたに
心のまゝの
命(いのち)とて
やす〳〵【「く」の誤】も
恋(こひ)に
身(み)
をや
かへてん
【両丁 上段挿絵】
【右丁 下段】
今川(いまがは)になそらへ
て自(みつから)をいましむ
制詞(せいし)の条々(てう〳〵)
一 常(つね)の心(こゝろ)さしかたま
しく女(をんな)のみち
【左丁 下段】
明(あき)らかならさる事
一わかき女 無益(むやく)の
宮寺(みやてら)へ参(まい)り楽(たの)
しむ事
一 少(すこし)きあやまちとて
【右丁 上段】
【太枠の囲み内 見出し】教訓(けうくん)短我(たが)身(み)の上(うへ)
ふりくらしぬる あめのうち
筆(ふで)にまかする 言(こと)の葉(は)は
うはの空(そら)なる ことならず
よそのことゝな 思ひそよ
人たるをやの ならひにて
としのよるをば かへりみず
子供(こども)のいつか せいじんし
をとなしやかに あれかしと
おもふがをやの ならひなる
あさ夕(ゆふ)こゝろ つくせ共
子どもはそれと 思(おも)はねど
それをにくしと おもはねは
【左丁 上段】
をやたる人の あはれ也
されば天地(てんち)の その内(うち)に
みちはさま〴〵 おほけれど
おやかう〳〵が もとぞかし
たにんの中も たのもしく
神(かみ)やほとけも まもるべし
ことにをんなは ほどもなく
余所(よそ)へむかへて ゆくなれば
をやにそふ間は しばしぞや
心をつくし かうなれや
えんにつきての その後(のち)は
とのごをあがめ かりそめも
しこなしだてに ものいふな
まづしき人に そふことも
【右丁 下段】
不(ず)_レ改(あらため)敗(やぶ)れに至(いた)り
て人を恨(うらむ)る事
一 大事(だいじ)をも弁(わきまへ)【辨】
なくうちとけ
人にかたる事
【左丁 下段】
一 父母(ちゝはゝ)の深(ふか)き恩(おん)を
忘(わす)れ孝(こう)のみち
疎(おろそか)になる事
一 夫(おつと)をかろしめ
われを立(たて)て天(てん)
【右丁 上段】
智恵(ちゑ)のあさきに そふことも
みなえんづくの 物(もの)なれば
夫(おつと)をかろしめ かりそめも
ことばをもどく ことなかれ
とはずがたりに をやざとの
よきうはさなど すべからず
人がきゝても おこがまし
さて又しうと しうとめは
本(もと)がすゝりの たにんゆへ
心のあふは まれぞかし
何(なに)ほどあしき 人にても
又よきことの 有(ある)ものぞ
あしき所(ところ)は きにとめず
よきに目(め)を付 ちなむべし
【左丁 上段】
くだらぬことを いふとても
まづよひ程(ほど)にあひしらひ
いつぞのきげん 見あはせて
しづかにわけを いふぞよき
はらたつ時は たれとても
よきこといへど きゝわけず
しんるい中を はじめつゝ
あたり出入(いでいり)の 人までも
あしき人を もそらすなよ
ひ人あひしらい あしければ
出入ものも うとくなり
世帯(せたい)よろづに そんおほし
人あいよきは ひともとで
手(て)もとをみずは うたがふな
【右丁 下段】
道(みち)を恐(おそれ)ざる事
一 道(みち)に背(そむき)ても栄(さか)
ゆるものをうら
やみねがふ事
一 正直(しやうちき)にして衰(おとろへ)
【左丁 下段】
たる人をかろ
しむる事
一 遊(あそ)びに長(ちやう)じ或(あるひ)
は座頭(ざとう)を集(あつ)め
或(あるひ)は見物(けんふつ)を好(すき)
【右丁 上段】
大事(だいじ)を人に かたるなよ
麤末におくる 大事のもの
いちの大じは 火(ひ)の用心(やうじん)
裁(たち)縫(ぬふ)ことに きをつくせ
たらんやうは しよたい向(むき)
わが身(み)の程(ほど)を しるぞよき
分(ぶん)にすぎたる 衣装(いしやう)きな
かりておきたる 道具(だうぐ)をば
またはかる共 はやかへせ
われを利口(りこう)と こゝろへて
おつとの口を いひかすめ
さしてゝ物(もの)を いふものは
そばから見ても にくひもの
身(み)だしなみをも 伊達(だて)すぎて
【左丁 上段】
世上(せじやう)の人の 気(き)をさつし
暑(あつ)さ寒(さむ)[さ]を 思ひやれ
有徳(うとく)な人の 子なり共
はなにかけては ひけらかし
大きなかほを するものは
人のにくがる たねぞかし
人のあしきを きく時(とき)は
【縦線有り】
【挿絵】
【右丁 下段】
このむ事
一 短慮(たんりよ)にしてしつ
との心ふかく人
の嘲(あざけり)を不(さる)恥(はち)事
一女の猿利根(さるりこん)【注】に
【左丁 下段】
迷(まよ)ひ万事(ばんじ)に
つき人を譏(そしる)事
一人の中(なか)言(こと)を企(くわだて)
ひとの愁(うれひ)を以(もつ)て
身(み)を楽(たの)しむ事
【注 猿知恵に同じ】
【右丁 上段】
わが身(み)の上を かへり見よ
後生(ごしやう)ねがふと いふとても
あまり出家(しゆつけ)に したしむな
しうと夫(おつと)の きに入て
家(いへ)さへみごと おさむれば
それがすなはち ほとけぞや
いかにぜんごん なすとても
人のつまとも なるものは
つまたるみちが とゝのはで
神(かみ)もほとけも うけがはず
よからぬ女の くせとして
くはれいに物(もの)を とりさばき
しよたいのことは ゆめしらず
けんぶつごのみ 物まいり
【左丁 上段】
人ごといひて じまんして
なが茶(ちや)を呑む(のみ)て 気(き)みじかく
ぢやうはこはくて きげんかい【機嫌買】
物をくやみて よくふかく
人のなかごと 人なぶり
鼻(はな)さきしあん とりしめず
さしあししては たちぎゝし
人のはなしの 腰(こし)をおり
きよくる【曲る】やうに 物(もの)いひて
ゑぐりわるく あてこといひ
短気(たんき)でことを しそこない
むか腹(はら)たちて こゑをはり
るすにもなれは 人よせし
男(をとこ)ましりの 大ぐるひ
【右丁 下段】
一 衣類(いるい)道具(だうく)己(おのれ)
美麗(ひれい)を尽(つく)し
召仕(めしつかひ)見苦(みぐるしき)事
一 貴(たつとき)も賤(いやしき)も法(ほう)
ある事を不(す)弁(わきまへ)【辨】
【左丁 下段】
気随(きずい)を好(このむ)事
一人の非(ひ)をあげ
我(われ)に智(ち)ありと
おもふ事
一 出家(しゆつけ)沙門(しやもん)に対(たい)
【右丁 上段】
たとへみめこそ あしくとも
心はなをる 物でかし
三十二 相(さう)も むねに有
後世(ごせ)がおもしと いひなせど
陰陽(いんやう)なふては 道(みち)もなし
けん女なりしも 世に多(をゝ)し
をやかう〳〵に あひらしく
しうとしうとめ むつましく
おつと大事に 家(いへ)もちて
兄弟(きやうだい)までも いとをしみ
他人(たにん)の中も しんじつに
道をたがへず くらしては
ぢごくといへど こはからず
それを地獄(ぢごく)へ おとすなら
【左丁 上段】
それは閻魔(ゑんま)の あやまりぞ
あさ夕(ゆふ)かゞみに むかひつゝ
けしやうけはい の折からに
心のあかも 清(きよ)むべし
こゝろたゞしく 身(み)を持(もち)て
子供(こども)まごども はんじやうし
いく千代(ちよ)や経ん ひめ小まつ
をしゆる道(みち)を まもりつゝ
さかゆくすへを わかみどり
いくよろづ代も にぎやかに
めでたきはるを おくるべし
此国(このくに)の人の道(みち)とは
とにかくに
たゝ正直(しやうぢき)を
おしへぬるかな
【右丁 下段】
面(めん)すといふ共
側(そば)近(ちか)くなる事
一 我(わが)分際(ぶんざい)を不(ず)知(しら)
或(あるひは)驕(おごり)或(あるひは)不 足(そく)の事
一下人の善悪(ぜんあく)を
【左丁 下段】
弁(わきま)へず召仕(めしつかひ)やう
正(たゞ)しからざる事
一 舅姑(きうこ)【左ルビ:しうとしうとめ】にそまつにし
て人の譏(そしり)を得(う)る事
一 継子(まゝこ)に疎(おろそか)にして
【右丁 上段】
【太線枠内 見出し】婚礼(こんれい)式法(しきほう)指南(しなん)
○媒(なかうと)行来(ゆきゝ)して約(やく)だくを
なし聟(むこ)の方(かた)より結納(たのみ)の
祝義(しうぎ)つかはすべし俗(ぞく)にた
のみといふ此 礼(れい)をなしては
二たび変(へん)ずる事なき
ふうふやくそくのはじめ
の礼なりむかしは言入(ゆひいれ)
と書たり近代(きんだい)は結納(ゆひいれ)と
書義理(ぎり)にかなひてよき
とぞ其あらましは上 輩(はい)
は七 荷(か)七 種(しゆ)中輩は五か
五種下は三か三種たるべし
【左丁 上段】
しうとへも太刀(たち)目録(もくろく)樽(たる)
肴(さかな)しうとめへも小袖(こそで)樽(たる)
さかな何れもぶんげん
相応(さうをう)につかはすべし
舅(しうと)より聟(むこ)の方へも祝
義 同格(どうかく)たるべし女
より夫(おつと)へはつかはすに及(およば)
【縦線有り】
【挿絵】
【右丁 下段】
他人(たにん)の嘲(あざけり)を不(ざる)恥(はぢ)事
一 男(おとこ)たるには縦(たとへ)間(ま)
近(ちか)き親類(しんるい)たり共
親(した)しみを過(すご)す事
一 道(みち)を守(まも)る人を
【左丁 下段】
嫌(きら)ひ我(われ)に諂(へつら)ふ
友(とも)を愛(あい)する事
一 人(ひと)来(きた)る時(とき)わか不 機(き)
嫌(けん)に任(まか)せいかりを
伝染(うつ)し無礼(ぶれい)の事
【右丁 上段】
ざるなり今しうとより
聟(むこ)へしうぎなきは甚(はなはだ)
非礼(ひれい)なりぶんけんに
おうじて樽(たる)肴(さかな)ばかり
にてもつかはすべし
○婚礼(こんれい)床(とこ)のかさりは上々
のこんれいは座敷(ざしき)も新(あらた)
にたて床も三げんど
こたるべし二 間床(けんどこ)なら
ば外に又つけ床ある
べし二 重(しう)手がけとう
かざり物 法(ほう)あるべし外 ̄ニ
夫(おつと)の衣服(いふく)をかけ夜着(よぎ)
ふとんは納戸(なんど)にあるべし
【左丁 上段】
女房の道具は前日(ぜんしつ)に女
中きたりてかざるべし
さもなきはいろなをし
のあいだに付 来(きた)りたる
女中かざるべしみづし
くろだなはもとふくろ棚(たな)
といへども婚礼(こんれい)にふく
ろといふ言葉(ことば)をいみて
黒(くろ)だなといふなり是に
かざるたうくおき処(ところ)
あり貝(かひ)おけは床(とこ)に錺(かさ)る
べし床なくは納戸(なんど)の
戸(と)をあけていづれもみ
やるやうにかざるべし女房
【右丁 下段】
右此 条々(でう〳〵)常(つね)に心(こゝろ)
にかけるべき事
珍(めづ)らしからずと
いへども猶(なを)もつて
慎(つゝ)しむべき事也
【左丁 下段】
先(まづ)家(いへ)を守(まもる)べき
には志(こゝろさし)すなほに
して毎事(まいじ)我(われ)
をたてず夫(おつと)の
心に随(したが)ふべしそれ
【右丁 上段】
のいふくは別(べつ)にいかうに
かけてかざるべし上 輩(はい)
はその夜七ツかけ三ツめに
とりかへて五ツかけ五ツめに
三ツかけべし衣桁(いこう)は二ツ
も三ツもあるべし手ぬ
ぐひかけはいかうより上
座たるべし寐間(ねま)には
女房のもたせたる夜着(よぎ)
ふとんけしやうの間な
くば爰に化粧道具(けしやうだうぐ)を
かざるべしびやうぶなと
は其 夜(よ)たつべからずよく
日見あはせてよき所に
【左丁 上段】
立べし大かいかくのごとし
○小袖台(こそでだい)につみやうは
つねのごとくにして袖を
かへさぬなり
○むかひ小袖とて其夜(そのよ)
にいたりむこの方より
遣(つか)はすなり小袖一かさ
ねなり襟(ゑり)と襟(ゑり)とを
あはせいとにてとぢる
なりとぢやう口伝(くでん)あり
○輿(こし)うけ取わたしは
家(いへ)のおとなたがひに
出て門前(もんぜん)にむしろを
敷(しき)こしをすへたがひに
【右丁 下段】
天(てん)は陽(よう)にして強(つよ)
く男(おとこ)のみち也
地(ち)は陰(いん)にして和(やはらか)
く女の道(みち)なり
陰(いん)は陽(やう)にしたがふ
【左丁 下段】
事天地 自然(しぜん)
の道理(どうり)なるゆへ
夫婦(ふうふ)のみち天地
に縦(たとへ)たれは夫を
天のことく敬(うやま)ひ
【右丁 上段】
祝義(しうぎ)をのべてそれより
此方の人こしを請取(うけとり)
なり貝桶(かいをけ)あらばこし
の次(つぎ)に是もおとなしき
人請取わたしあるべし
○夫(おつと)へ女より持参(ぢさん)は小袖
一かさね上下一 具(く)上帯(うはをび)
一 筋(すじ)下おび一筋 扇(あふぎ)一本
畳紙(たとうがみ)五くみ刀(かたな)一こし
以上七種ひろぶたにて
出すなり
○上らう出立(いでたち)は下に白
小袖上に幸菱(さいわいびし)の白小袖
を着(き)ねりの白きあはせ
【左丁 上段】
をかつき座(ざ)につきて此
あはせをすぐにこしまき
にするなり
○夫婦(ふうふ)座(さ)のことはおつと
は客位(きやくい)婦(おんな)は主位(しゆい)に座(さ)
すべしあまりに真向(まむき)
に座(ざ)せず少しすみ
【縦線あり】
【挿絵中の文字】
二重 左 ゑび こぶ くり
かき いわし かうじ
手掛(てかけ)
右
くしこ
くしあはび
まきするめ
小鳥やきて
梅干 こい むすびのし
の汁 かま
ぼこ
食
腹
あわせ 饗食膳(きやうしよくぜん)
【右丁 下段】
尊(たふと)ふは是 則(すなはち)天地(てんち)
の道(みち)也されは幼(いとけなき)
より心はへやさし
く直(すなほ)なる友(とも)に
交(まじは)りかり初(そめ)にも
【左丁 下段】
猥(みたり)かはしく賎(いや)しき
友に近(ちか)よるへからす
水(みづ)は方円(ほうゑん)の器(うつはもの)
に随(したか)ひ人は善悪(せんあく)
の友(とも)によるといふこと
【右丁 上段】
かへるやうに座すべし
○三ツ盃(さかづき)せんぶとうの
次第(しだい)は二重手がけ饗(きやう)
の膳(せん)せきれいの台(だい)ほ
うらいの台(たい)置(をき)鳥おき
鯉(こい)へいじ三ツさかづき
銚子(てうし)ひさげをかざり置
なり平(へい)人は分限(ふんげん)に応(をう)
じ床(とこ)のかさりすべし
手がけ三ツ盃(さかづき)はかならず
有べし扨(さて)待(まち)上らう娵(よめ)
を化粧(けしやう)の間へいざない
ゑもんなとつくろひ
て座敷(さしき)へつけ座(さ)さだ
【左丁 上段】
まりて先手かけを出し
待上らう目出度あ
いさつして夫婦(ふうふ)にのし
こんぶかちぐりを取て
まいらすべし扨おと
なしき女房二人かざ
りたるへいじを取て
下座にさがり杓(しやく)とり
二人 銚子(てうし)提(ひさけ)を取(とり)て
下座(げさ)にさがり扨へいじ
の男蝶(をてう)を取てあを
むけにをき酒(さけ)を提(ひさげ)に
うつし又 女蝶(めてう)を取て
男蝶(をてう)の上にうつむけ
【右丁 下段】
実(まことなる)哉(かな)爰(こゝ)を以(もつ)て
よく家(いへ)を治(おさむ)る
女は正(たゞ)しき事(こと)を
好(この)むよし申 伝(つたふ)る
なり人の善悪(せんあく)を
【左丁 下段】
知り給ふべきは其
人の親(したし)む輩(ともから)を見
て伺(うかゝ)ひ知(し)るといふ
事あれは誠(まこと)に
恥(はつか)しき事なり家(いへ)
【右丁 上段】
にかさね是もさけを
ひさげにうつし扨 提(ひさげ)
より銚子(てうし)へよきほどに
うつして杓(しやく)わがまへ
にひかへて待べし扨ひき
わたし出 夫婦(ふうふ)と待上
らうにすへしそのとき
本 杓(しやく)三ツ盃(さかづき)を娵(よめ)の
まへに持参(ぢさん)すよめ其
上の盃(さかづき)にてする時は
床(とこ)にかざらずかつ手
より出べし錫(すゞ)には
蝶(てう)を付ることなし
○色(いろ)なをしはむかし
【左丁 上段】
は三ツめ五ツめに色をな
をしつれども近代(きんだい)は
九こんすぎてなをす
ことになりぬよろしき
礼(れい)なりとぞ此とき
よめはむかい小袖を着夫
はよめより持参(ぢさん)の小袖上
下 ̄モ たるべし右ふうふ
のさかづき夫より呑(のみ)は
じめ女にさすといふ流(りう)
ありよく〳〵道しれる
人にたづねさだむべし
ゆるかせにすべからず
○舅(しうと)げんざんの事は右
【右丁 下段】
を乱(みだ)す女はかた
ましく気隋(きずい)なる
事をこのむといへ
は朝夕(あさゆふ)われと心を
かへりみてあしき
【左丁 下段】
をさり善(ぜん)に移(うつ)り
すむへし五常(ごじやう)
の理(り)をうけて
生(むま)れたりといへ共
或(あるひ)は善(ぜん)人となり
【右丁 上段】
の祝儀(しうぎ)すみて待(まち)上
らういざなひしうとの
前(まへ)に出べしよめより舅(しうと)
姑(しうとめ)其外こじうと等迄
小 袖(そで)樽(たる)さかな相応(さうをう)の
祝義有べし盃(さかづき)はまづ
手がけを出し扨三ツさ
かづき出引わたしを舅(しうと)
姑(しうとめ)よめ三人へすへ舅三
こんのみてよめにさす
嫁(よめ)二こんのむときに舅
三こんのみてよめに指(さす)
よめ二こんのむときにし
うとより引出物(ひきでもの)ある
【左丁 上段】
べしよめ一こんくわへ
舅(しうと)へかえすしうと三
こんのみておさむる也
こゝにて打み出す平(へい)
人ならば雑煮(さうに)也しう
とめ第一こん呑(のむ)と提(ひさげ)
より銚子(てうし)へさけを少
【縦線有り】
【挿絵と説明】
三ツ盃(さかつき)
置(をき)
鳥(とり)
置(をき)
鯉(こい)
【右丁 下段】
あるひは悪(あく)人と
替(かは)る事 皆(みな)いとけ
なきよりの習(ならひ)に
よるへし男子(なんし)には
師(し)をとり身(み)を脩(おさむる)
【左丁 下段】
道(みち)をならはしむる
も有といへとも女
としては学(まな)ふ者
希(まれ)也此 故(ゆへ)に女の
法(ほう)ある事をしらす
【右丁 上段】
くはふ此 夜(よ)しやくを結(むすぶ)
といふはこゝなり扨一こん
くわへて以上三こん也
酌(しやく)人其 盃(さかつき)を夫(おつと)に持(ぢ)
参(さん)すおつと二こん呑
とき酒をくわゆ以上
三こん右のごとし其か
はらけを下へかさねて
床(とこ)に直(なを)すべし次(つぎ)に雑(ざう)
煮(に)を出す此度は盃(さかづき)を
夫へ持参(ぢさん)す夫のみ様
初のごとくしてよめ《割書:ニ》差(さし)
嫁(よめ)も初のごとくのみて
盃(さかづき)を下へ重(かさね)て置(をく)を
【左丁 上段】
床(とこ)になをし扨ひれ
の吸物(すいもの)出す此たびは
初のことく嫁(よめ)のみて夫
にさす呑(のみ)やう初のご
とし以上三々九ど也
扨おつと座を立てく
つろぐ扨 吸物(すいもの)出て待
上らう共 盃(さかづき)右のごとく
有べし此こん過(すぎ)て嫁(よめ)
色(いろ)なをしすべし扨夫
出て座(さ)につきて其時
食(しよく)を出す五々三にても
五三二にても分限(ぶんげん)によ
るべし高砂(たかさご)の台(だい)など
【右丁 下段】
かたましく邪(よこしま)に
なりゆく事 誠(まこと)に
口惜(くちをしき)次第(しだい)也いく
程(ほど)なく他(た)の家(いへ)に
行(ゆき)夫(おつと)に随(したが)ひ舅(しうと)
【左丁 下段】
姑(しうとめ)につかふる身(み)なれ
は父母(ちゝはゝ)の許(もと)に留(とゞま)るは
暫(しばらく)のうちなれは孝(かう)
行(こう)を尽(つく)す事 第(だい)一也
面(おもて)に白粉(はくふん)【左ルビ:をしろい】を錺(かざり)髪(かみ)
【右丁 上段】
あらば此とき出すべし
酒(さけ)もかんをすべしさて
菓子(くはし)を出す五 種(しゆ)か七
種(しゆ)あるひは折(をり)三方にて
も扨 茶(ちや)出て夫立て
くつろぐべし錫(すゞ)にて二
のかはらけにて三こんのみ
てよめにさす嫁(よめ)二こん
呑(のむ)ときしうとめより引
出物(でもの)有べし嫁一こんく
わへてしうとめへかへす
しうとめ三こんのみて
納(おさむ)るなりこゝにてわた入
平(へい)人は吸物(すいもの)遣すよめ第
【左丁 上段】
三の盃にて一こんのみて
しうとにさす舅(しうと)三
こんのみて嫁(よめ)にかへす
よめ二こん呑(のみ)て姑(しうとめ)にさす
姑三こんのみて納(おさむ)るなり
是にてしうとしうとめ
嫁いづれも三々九ど也
酌(しやく)くはへ右のごとし
○聟(むこ)入は手かけ置鳥(をきとり)置(をき)
鯉(こい)とうのかざりを長持(ながもち)
に入てしうとの方へ遣(つかは)し
ほかいに五百八十の餅(もち)を
入て遣(つかは)す半切(はんぎり)に入るは
本式(ほんしき)にあらず舅(しうと)姑(しうとめ)へ
【右丁 下段】
形(かたち)を粧(よそほ)ふのみにて
心のゆがみを揉(ためん)と
する人 稀(まれ)也心さし
直(すなほ)に貪(むさぼ)る事なくは
貧(まづしく)おとろへたり共
【左丁 下段】
恥(はぢ)ならす邪(よこしま)なれは
富(とめり)と云は智(ち)ある人に
疎(うと)まれぬへし総(さう)【惣】して
我(わが)善悪を知(し)らんと思
は夫の心 穏(おだやか)ならば
【右丁 上段】
祝義右の心なり盃の
次第(しだい)三々九 度(ど)もしうと
けんざんのごとく也
○舅(しうと)入の事右 聟(むこ)入かくを
以てしんしやくあるべし
総【惣】して式法(しきほう)あるひは
過(すき)あるひはおよはざるは
礼(れい)にあらず中にも
こんれいは賤(しづ)の男(を)賤(しづ)
の女(め)も相応(さうをう)の礼(れい)をば
かくべからず先祖(せんぞ)より子(し)
々孫々(しそん〴〵)にいたる迄の吉(きつ)
凶(けう)を相 定(さたむ)る所なれば
よく〳〵尋(たづね)はからふべし
【左丁 上段】
男(を)てふのをりかたを松とゆ
づり葉と銚子(てうし)の口へ金水引(きんみづひき)
五筋(すし)にてむすび付水引に
からみかける
【男蝶,女蝶に折った図】
男(を) 女(め)
蝶(てふ) 蝶
女(め)てふはをりかたを松(まつ)と橘(たちばな)と
かんなべの口にむすび付て銀(きん)
水引にて男(を)てふの通(とをり)にすべし
瓶子(へいじ) 【二本の瓶子の図】
【右丁 下段】
わか行(おこなひ)善(ぜん)と思ふへし
せはしく短慮(たんりよ)ならば
我(わが)心 正(たゞ)しからさると
知(しる)へし人を召仕(めしつか)ふ
こと日月(じつけつ)の草木(さうもく)
【左丁 下段】
国土(こくど)を照(てら)し給ふ
ことく心(こゝろ)を廻(めぐら)し
其(その)人々に随(したがつ)て
召仕(めしつかふ)へき事也
【右丁 上段】
提(ひさげ)
提(ひさげ)の手(て)
を長柄(なかえ)
の通(とをり)に紙
にて十二まくなり
長柄(なかえ)のゑ
銚(てう) をまくは
月の数(かず)に
なぞらへ
子(し) 十二 巻(まく)閏(うるふ)有
年は十三也
【左丁 上段】
【太線の囲み 見出し】女 文章(ぶんしやう) 十二つき
正月 《割書:御とし| こさせ》
あ(新)ら玉の 《割書:給ふ| へし| と》
御いわひ
《割書:めて| たく》 い つ(何方)かたも
《割書:存まいらせ候》め てた(目出度)く
申おさ(納)めまいらせ候
こと(殊)に
の と(長閑)やか【ルビ「長閑」に更に「のとか」のルビあり】
にて
《割書:猶》 その御もと
《割書:すへ》 まいらせ候
お子
《割書:はん》 様かた
《割書:しやう| に》
《割書: さかへ| 給はんと》 御 そく(息災)
才
《割書:思ひ| まいらせ候》にて
《割書:めてたく| かしく》【注】
【右丁 下段】
女(おんな)手(て)ならひ
教訓(きやうくん)の書(しよ)
古(いに)しへは物(もの)かゝ
ぬ人も世(よ)におほ
かりしとは聞(きけ)
【左丁 下段】
共 今(いま)此(この)めて度(たき)
御代(みよ)にむまれ
て物(もの)をかゝねは
常(つね)にふじゆう
なるのみにあら
【注 下記のネット情報参照 http://www.bekkoame.ne.jp/ha/a_r/D1edo9.htm】
【右丁 上段】
初春 御返事
御し(示)めしのと を(通)り
とし(年)たちかへり候へは
よも(四方)
の けし(気色)きも
ひ とし(一入)ほ
しつ(静)やかとて
めてたく
そんしまいらせ候その
御もとさま さそ(嘸)〳〵
御 に(賑)きはしくおはし
まし候はんと さつ(察)し
まいらせ候 いく(幾)ちよ(千世)の御
いわゐめてたく
かしく
【左丁 上段】
二月
明(みやう)日 ひかん(彼岸)まいりの
も や(催)うしとて
こ ゝも(爰元)と
やう(家内)ち み(皆)な〳〵
まいり
まいらせ候御まいり
なされ候はゝ
御 とふ(同道)〳〵いたし
候べく候少々 へん(弁当)
たう
持(もた)せまいり候此 かた(方)へ
さして御 こし(越)まち入
まいらせ候子とも衆
ふたり
なから御 つれ(連)候べく候
かしく
【右丁 下段】
す人と交(まじは)りて
見おとされわら
はるゝ事(こと)あれは
口(くち)をしき事そ
かしされは上(かみ)は
【左丁 下段】
れき〳〵より軽(かろ)
き下々まても
先(まづ)手(て)ならふ事
をおしゆるは
何国(いづく)も同(をな)しこと
【右丁 上段】
御返事
よ(能)くも御しらせ
給り
かた(忝)しけなくそんし
まいらせ候 こな(此方)たにも
まい(参)り た(度)く思ふ折
ふ(節)しに候へは御 と(供)も
いたし
たくそんしまいらせ候
そな(其方)たさまへ
さして
そう〳〵まいり
候べく候
かしく
【左丁 上段】
三月
つゐ(遂)に しほ(汐干)ひ
まいり
いたしたる御事
御さなく候 せつ(節句)くには
かならす〳〵御さそひ
給るへく候そもしさま
御まいりならは
ぬし(主)も
御 かて(合点)んにて
御さ候
ひと(偏)へに
た の(頼)み入まいらせ候
その は(筈)つになされ
給り
候べく候
かしく
【右丁 下段】
なり中(なか)にも
女子(によし)は年(とし)もつ
もれは物縫(ものぬふ)わさ
を学(まな)ふものなれは
いとけなきより
【左丁 下段】
外(ほか)のわさを置(をい)て
まつ習(ならふ)へし第(だい)一
女子は一生(いつしやう)を親(おや)
の許(もと)にてはくら
さすおとなしく
【右丁 上段】
御返事
御文給り 《割書:四日| 五日》
なかめ(詠) 《割書:も》
《割書:おなし| 御事に》 入まいらせ候
《割書:候間》 さて
しも
すみよ(住吉)し
まふ(詣)ての
《割書:その| 御心へ》 御事
三日は
あま(余)り
《割書:おはし| まし》 人 こみ(込)て
《割書:まいらせ候| めて》 まゝ
《割書:たく| かしく》
四月
此中(このぢう)はよふ■〳〵
花(はな)さら(皿)御もとめ
なされ
御こし給り
うれ
しく
【左丁 上段】
そんしまいらせ候
扨しも
庭(には)の卯(う)の花一 もと(本)
おくり(送)まいらせ候それに
つき(就)まし日よりよく
多く御 たんじ(誕生)やうまいり
なされ候はゝ御とも
いたし
候べく候
かしく
【右丁 下段】
成(なり)ては余所(よそ)へ
嫁(か)してゆく〳〵は
他人(たにん)の中(なか)の住(すま)
居(ゐ)しておくる
ものなれは縦(たとへ)
【左丁 下段】
親里(おやざと)よろしく
みめ容(かたち)よく生(むま)れ
付(つき)ても物(もの)かく事
のつたなけれは
夫(おつと)の方(かた)の親類(しんるい)
【右丁 上段】
御返事
見こと 《割書: さいわひ》
なる《割書: 花の》
卯(う)の 《割書:しつく》
《割書:御身|こしらへ》 花 《割書:もとめに|まいり》
たく(沢山)さん 《割書:たく| 候》
《割書:なされ》 に
給(たまは)り
《割書:こなたへ》
か す(数〱)〳〵
《割書:御こし| まち入》 御 嬉(うれ)しく
なかめ(詠)入
《割書:候べく候》 まいら
せ候
めてたく
かしく
【左丁 上段】
五月
あや(菖蒲)めの
御いわひ
めてたく
申 納(をさめ)まいらせ候
是は
さもしき
ものに
候へとも
ちまき(粽)
五 れ(連)ん を(送)くり
まいらせ候
せんもし【注】は
何より
見事
ゆかた(浴衣) なる
おしほ
かたへ
御とらせ給り
扨〳〵
よろこひ(悦)
まいらせ候
めてたく
かしく
【注 「先文字」=先日】
【右丁 下段】
中(ぢう)また出入(いでいる)もの
にも見(み)けなされ
て中(なか)〳〵はつ
かしき事 多(をほ)し
又(また)手(て)なとうつく
【左丁 下段】
しう書(かき)ぬれは
をや達(たち)をも人
のほめるもの
なれは孝行(こう〳〵)
の一ツなり折(をり)ふし
【右丁 上段】
御返事
しやうふの御こと
ふき
とて
いつも〳〵うつく(美敷)しき
御ちまき十(と)ふさ(房)
給り
かず(数々)〳〵うれしく
いわゐ(祝)まいらせ候
とれ
〳〵さまへも
よろ しく(宜敷)
御心へ給るへく候
ちと
〳〵御こし(越)まち入
まいらせ候めてたく
かしく
【左丁 上段】
六月
内々(ない〳〵)御や くそ(約束)くいたし
まいらせ候とをり
こん(今)日
ふな遊(あそ)ひに参り候
此 はう(方)の はま(浜)にふね
つな(繋)かせしそう〳〵
御出なされまいらせ候
ことしは
ね(練)り物(もの)も
多(おほ)く候よし
すい(随分)ふんはやく
まいらるへく候
いそひて〳〵御出
まち入
候べく候めてたく
かしく
【右丁 下段】
の文(ふみ)のとりかはし
にも筆(ふで)かなはねば
ぶんしやうもふつゝ
かさに先(さき)にて打(うち)
寄(より)わらひ草(ぐさ)と
【左丁 下段】
なるこそほゐ
なけれ召(めし)つかふ
下々(した〳〵)さへ物(もの)なと
能(よく)書(かき)ぬれはそだ
ちの程(ほど)おもはれ
【右丁 上段】
御返事
御文のおもて(表)
詠(ながめ)入まいらせ候
《割書:しかし》 成ほと
《割書:げい子》 心へ
《割書: おなつ》 まして候
いまたに参(まい)らす
候まゝ
むかひ(迎)を
遣候べく候
つれだ(連立)ち ほとなふ
参し まいり
候べく候 候半
今すこしの間
御まち給り候べく候
まつ〳〵今日は
御せわさまにて御さ候
かしく
七月
御 井戸(ゐど)かへなされ候
よし
さそにきはしく
候はんと
さつし候べく候さやうに
候へは
【左丁 上段】
せうふん【少分】におはしまし
候へとも三輪(みは)そうめん
二十把(は)から(甜瓜)ふり【注】
二 かしら(頭)
けふのごしうき送り
まいらせ候 猶(なを)いく(幾)千代(ちよ)と
いわひ入まいらせ候
めてたく
かしく
【注 からふり=からうり(唐瓜)=まくわうりの異名。甜瓜。】
【右丁 下段】
てけに〳〵しく
覚(おぼ)ゆるもの也 扨(さて)
また縁(えん)にもつき
て後(のち)はよきこと
につき悪(あ)しき
【左丁 下段】
事(こと)につきても
親(おや)さとへひそかに
云(いひ)やり度(たき)こと必(かならず)
ある物也 事(こと)に
よりて使(つかひ)の者(もの
【右丁 上段】
御返事
《割書:井(い)の神(かみ)へ》
御心に 《割書:そなへ|まいらせ》
かけさせ
《割書:けふの|もてなし| に》御人給る
さへある
見事 成(なる) に
そうめん
《割書:とり|はやし》まくは瓜
とりそろへ
をくり給り
《割書:まいら| せ》 何より
ち(調)やうほう(宝)
かたしけなく
そんし
《割書:候べく候》 まいらせ候
《割書: 又々|かしく》 かしく
【左丁 上段】
八月
けふの頼母(たのも)の
風(かせ)もなく
いつかたも心しつかに
治(をさま)り よろ(悦)こひ
まいらせ候
さてしもめつらかなる物
にてもあらす候へ共
ぶど(葡萄)う《割書:五ふさ》柿(かき)《割書:二えた》
すそわけいたし
まいらせ候
御子たちへ
しんせ
させられ給り
候べく候
めてたく
かしく
【右丁 下段】
にもきかせられ
ぬ事あるとき
筆(ふで)かなはねは心
におもふ程(ほど)書(かき)とら
れず文しやうも
【左丁 下段】
ふつゝかなれはかた
こと云(いふ)のやうにて
わかおもはくとた
かふ事あれは心
の程(ほど)はつうせず
【右丁 上段】
御返事
仰(あふせ)のことく物(もの)しつか
なるけふの御 悦(よろこび)之
扨(さて)しも見事(みこと)成(なる)
ふとうめつらしき
枝(えだ)なりの柿(かき)送り
給りかたしけなく
打(うち)をかずし やう(賞翫)くわん
いたし(致)候べく候又此
《振り仮名:まん|饅 頭(ぢう)》よそより
見えまいらせ候
ゆへ
ため(溜)のしるし
をくり
まいらせ候
めてたく
かしく
【左丁 上段】
九月
きく(菊)の御 しう(祝義)き
となたもめてさた
おなし御事に
いわゐ
まいらせ候 扨(さて)は此 くり(栗)
一かこ
送(おくり)しんしまいら
せ候
たくさん成もの
にて
候へとも せつ(節句)くの
御 いわゐ(祝)の
しるし
はかりに
御はしまし候
めてたく
かしく
【右丁 下段】
してよめかぬる
故(ゆへ)里(さと)にて気(き)つ
かはする事(こと)あり
よみ書しては年(とし)
へて久(ひさ)しきことも
【左丁 下段】
記(しるし)置(をき)ぬれは忘(わすれ)す
遠国(ゑんごく)のおとつれ
をも互(たがひ)に問(とひ)きゝ
また世(よ)の中(なか)の
楽(たの)しみ悲(かな)しみ
【右丁 上段】
御返事
せつ(節句)くの御 いわゐ(祝)
として見事成
くり一 籠(かこ)をくり(送)
下されさて〳〵
かた(忝)しけなく
そんし
まいらせ候又この菊(きく)
の花(はな)には(庭)に咲(さき)
まいらせ候
まゝ
おくりまいらせ候
まこと(誠)に〳〵
きく(菊)かさね(重)の
しるし(験)まてに
御さ候
めてたく
かしく
【左丁 上段】
十月
一 ふて(筆)申入候べく候はや(早)
すゝ風(かせ)も身にひや〳〵
と火燵(こたつ)のほこり
はらふ(払)につき参らす
ゐ(猪)の子 餅(もち)こゝろ
いわゐの しるし(印)
まてにはやしまいらせ候ゆへ
さもしき物(もの)なから
送(をくり)まいらせ候御ふうみ
給るへく候
めてたく
かしく
【右丁 下段】
古(いにしへ)の事(こと)迄(まで)をも
わきまへしることは
みな是(これ)物(もの)かく徳(とく)
なれやむかし
名女(めいぢよ)たちの源氏(けんじ)
【左丁 下段】
いせ物(もの)かたり栄花(えいぐわ)
物語(ものかたり)をかけるも
ものかく事(こと)が
もとそかし昔(むかし)
より世上(せじやう)にて
【右丁 上段】
御返事
ゐの子の御 しうき(祝儀)
いし〳〵一重送り
下されうれしく
そんしまいらせ候
仰(あふせ)のとをり暑(あつさ)
の たへ(堪)かたきもい
つのむかし つゐ(終)
十 や(夜)お みゑかう(御影講)に
成まいらせ候ちと〳〵
夕(ゆふ)かた御こしまち
入まいらせ候めてたく
かしく
【左丁 上段 挿絵のみ】
【右丁 下段】
物(もの)かゝぬをは目(め)の
みへぬにひとしと
誰(たれ)しもいふこと也
たとへは盲人(もうじん)【左ルビ:めくら】のあ
またの医師(いし)に
【左丁 下段】
みせても何(いづ)れ
の医師(いし)もれうし
叶はぬといふても
亦(また)上手(じやうず)ありと
いへはもしかと
【右丁 上段】
霜月
こと(殊)な(外)ふ ひへ(冷)まいらせ候に
御 ゐんき(隠居)よさま京(きやう)へ
御 のほり(登)あそは
され候
よし さそ(嘸)〳〵ひえ
させ給はんとさつ(察)し
まいらせ候 此(この)御所柿(ごしよがき)《割書:一籠》
御 留守(るす)の御なく(慰)
さみにとそんし
をくり(送)まいらせ候
よく
〳〵御るす遊(あそば)され
候べく候めてたく
かしく
【左丁 上段】
返事
よき(能)御つれ(連)候て
一昨日(いつさくじつ)上かたへ登り
まいら(参)れ候によくそ
御 見まひ(見舞)給り忝(かたじけなく)
そんしまいらせ候 その(其)
うへ(上)見事なる御
くわし(菓子)沢山(たくさん)給(たまは)り
かす(数)〳〵うれしく
思ひまいらせ候ことのほか
さみしく候まゝちと〳〵
御こし(越)
まち(待)入まいらせ候
かしく
【右丁 下段】
おもふ心から幾人(いくにん)
にもみするは眼(め)
の明(あき)たさの余(あま)り
にて病人(びやうにん)のなら
ひなり物(もの)かく事
【左丁 下段】
は習(なら)ひさへすれは
一 代(だい)明(あ)く眼(め)をあか
すにくらさんは
口をしきことなら
ずや書(かき)うかへて
【右丁 上段】
十二月
《割書:御たのみ》
御そく(息)もし【注①】さま《割書:なされ| 候》
御手ならひに
《割書:御所火をけ》【注②】
御やりなされ候
《割書:の事| あつらへ》 よし
いかふ
《割書: |をき》 かん(寒)し
《割書: 候べき候へは》 候べき候に
やう〳〵出来(いでき)まいらせ候ゆへ
御をとな(成人)しう
よくも
《割書:持せ| しんし| まいらせ候》
御ゆき(行)
《割書:もやう| なと》 あそは
《割書:此ほとの| そんしつき》【注③】され候
のよし
《割書:いかゝ御さ候や》
御覧なさるへく候
かしく
【注① 息文字=息災の女性語】
【注② 御所風の火桶(木製の丸火鉢)】
【注③ 存じ付き=思い付き。気づいたこと。】
【左丁 上段】
御返事
《割書:かへす〳〵もやう| といひ》
時分(じぶん)から《割書:ふう| といゝ》
御いそ(鬧)
もしの
《割書:のこる| かたなく》 中へ
《割書:しほ》御むつか(六ヶ敷)しき
《割書:らしう| 出来》 御事
《割書:まいらせ候》 とも
たのみ(頼)《割書:かへす〳〵も》
まし
《割書:さためし》 《割書:あり| かたふ》
はやく(早)
《割書:むすめに》 御きかせ
《割書: 見せ候はゝ》 給り
扨(さて)〳〵 《割書:そんじ| まいらせ候| かしく》
《割書:さそ| 〳〵》 あり(有)
《割書:よろこひ》 かたく(難)
《割書:申へく》 そんし
《割書: と》 まいらせ候
《割書:思ひ候べく候》
かしく
【右丁 下段】
は身に付(つき)たる
宝(たから)にて火(ひ)にも
やけすとり落(おとす)
事もなく仕(つかひ)て
へりもせす
【左丁 下段】
用心(やうじん)せぬ共ぬす
まれもせす現世(けんぜ)
来世(らいせ)の宝(たから)なり
また物(もの)かくゆへに
身(み)をたて仕合(しあはせ)能(よき)
【右丁 上段】
【太線での囲みの中 見出し】小笠原流(をかさはらりう)折形(をりかた)
男てふ いたのもの
女てふ 真のいたのもの
真(しん)ののしつゝみ おび
草(さう)ののし たんざく
くさ花 きやら
木の花 かけがう
【左丁 上段】
すへひろ くし
あふぎ しほつゝみ
やうじ
こせうのこ
すみふて
鷹(たか)のあしかり ゆがけ
手拭(てぬぐひ)ふくさ 中の帯(をひ)
【右丁 下段】
女 性(しやう)も世(よ)に多(おほ)し
ならひ給へや
習(なら)ふへし
めて
たく
かしく
【左丁 下段】
むかしより手習(てならひ)の状(じやう)とて男子(なんし)には手(て)
習(ならひ)をいさめ励(はげま)する書(しよ)のありて世(よ)に
弄翫(もてあそ)ぶ事としひさしいかなれば女
子には手ならふことをすゝむる文書(ふみ)の
なき事(こと)こそほゐなけれなどや
女子にもいさめてならはせざらん
とてある方(かた)にて門弟(もんてい)の女子(ちよし)に書(かい)て
あたえ給ふをひたすら乞(こひ)もとめて
世上(せじやう)の幼女(やうぢよ)手ならふ。いさみのために
さくら木(き)に彫(ゑり)て世(よ)に弘(ひろむ)るものなり
必(かならず)しも家(いへ)ごとにたくはえ教(をしへ)ばなんそ
衛(ゑい)夫人(ふじん)のごときも出(いで)ざらめや
【右丁 上段】
【太線囲みの中 見出し】祝言(しうげん)島台之図(しまだいのづ)
蓬莱(ほうらい)の
台(たい)
高砂(たかさご)
の
台(たい)
【左丁 上段】
門松(かどまつ)の台(だい)
王祥(わうしやう)の
台(たい)
【右丁 下段】
それ十二 一重(ひとへ)といふは雲(くも)の
上人(うへひと)のめさるゝ礼服(れいふく)にて中人(ちうにん)
以下にしりて益(ゑき)なしまつ
女の礼服(れいふく)は地黒(ぢくろ)地赤(ぢあか)を
第一とす地(ぢ)白地(しろち)うこん
を次とす其外(そのほか)の染色(そめいろ)は
礼(れい)にたらずうちかけの
下はひぢりめんたるべし
扨(さて)もやうは御所方(ごしよかた)武家方(ぶけかた)
町風(まちふう)の差別(しやべつ)あれば一 概(がい)に
言(いひ)がたし素縫(すぬひ)のもやうは
町(まち)かたは用(やう)なしといへども
高位(かうい)の御方の召(めさ)るゝ物(もの)
なればはゞかるべきこと也
扨(さて)綿入(わたいれ)の服(ふく)は三月卅日まで
四月朔日より袷(あはせ)をきる五月
五日より帷子(かたびら)を着すかた
びらは地黒(ぢくろ)地 白(しろ)うこんを
重(をも)とす扨八月朔日より袷(あはせ)
の物なれども八月の初(はじめ)は残暑(さんしよ)
さらに退(しりそか)ずよつて九月朔日より
袷(あはせ)をきる物(もの)のやうに覚(をぼ)ゆるはあやまりなり
九月九日より綿入(わたいれ)の服(ふく)なり衣桁(いこう)かざり衣裳(いしやう)は時節(しせつ)の色(いろ)を第一とす
春(はる)は青色(あをいろ)夏(なつ)は赤(あか)。土用(どやう)は黄(き)。秋(あき)は白(しろ)。冬(ふゆ)は黒(くろ)と時(とき)のいろを上にすると心(こゝろ)得べし
【下部欄外蔵書印と整理番号】
東京学芸大学蔵書 10807406
【左丁 下段】
【行間に罫線と上下段の境界に横線あり】
女要明鑑小倉錦 《割書:大百人一首| 近刻》 猨山四季かな文 近刻
綾羅百人一首花文庫 近刻 定家かなづかひ 近刻
錦繍百人一首千種織 近刻 女重法記 一冊
連珠百人一首色紙箱 近刻 三十六歌仙 一冊
千歳百人一首吾妻織 近刻 伊勢物語 二冊
宝玉百人一首女訓抄 出来 女今川姫かゞみ 一冊
福寿百人一首翁草 出来 鴨長明方丈記《割書:小本》一冊
猨山流百人一首《割書:手習本》 出来 新錦木物語 五冊
寛政五癸丑歳九月吉日
江戸下谷池之端仲町
書林 須原屋 伊八
【裏表紙】
【上部右】
鬼(をに)○外(そと)
福(ふく)○内(うち)
【上部横書き】
豆(まめ)満(ま)喜(き)雙(すご)六(ろく)
【下部】
《割書:横|三》 辻岡屋文助板
\t一鵬斎芳藤画[朱印]
【双六図の外側の輪の下部より左回り】
ふり出し ひだりへまわる
鬼ヶ嶋
おにごッ子
鬼ヶたけ
おにばな
(休) みなさん お茶がはいり ましたから
一ㇳまわり おや すみ なされ まし
鬼のねんぶつ
鬼若(おにわか)丸
おにもつ
おにまめ
おにがらやき
おにぼうふら
おにがわら
おにかげ馬
おには
おにしめ
おにかゐえあがり
(桜)へあがる
【双六図の内側の輪の下右寄りより左回り】
顔(かお)をふく
(桜)下より 大工じんにゆく
於 多(た)ふく
御(ご)しふく
ほらおふく
へゐふく
(休) 一ㇳまわり きうそく なされ
めしがふく
ないふく
(六)上り
あめおふく
(五)上り
呉ふく
(四)上り
風がふく
(三)上り
あつたかい大福
(二)上り
げんぶく
(一)上り 此所にて あがれば
げんぶくの■■■■お だすべし
【双六図の中心円】
(上り)
一ツあまれば げんふくへかへる
二《割書:ツ|ハ》大福■
三《割書:ツ|ハ》■■ふく
四《割書:ツ|ハ》ごふく
五《割書:ツ|ハ》■■ふく
【欄外右辺】
甲冑着用備双六(かつちうちやくようそなへすごろく) 一壽齋芳員畵
【右下隅から時計回りに外から内へ・○にアラビア数字はマスの順番】
【①】
振出(ふりだ)し
㊀ 褌(ふんどし)
㊁ 襯衣(したぎ)
㊂ 衣帯(おび)
㊃ 小袴(こはかま)
㊄ 足袋(たび)
㊅ 脚半(きやはん)
【②】
褌 ふんどし ㊀
〽なるほど〳〵
こうくびへかけれは
おちるきづけへ
なしだ
しかしどこか
ちつときうくつなやうだ
【③】
襯衣 したぎ ㊁
〽ゆきがあんまり
みぢッけへが
これで
いひかしら
あせぢばんが
もつて
こいだ
これでよし〳〵
【④】
衣帯 おび ㊂
〽これもやつばり
もめんにかぎる
〆あんばいが
しごくめう〳〵
【⑤】
小袴 こばかま ㊃
あんまりかたく
〆てはせつねへ〳〵
〽はかまをはいたで
すこくまがよくなつた
これではちつといくさじみてきた
【⑥】
足袋 たび ㊄
〽かはたびはいゝが
足がほてつて
こまります
もめんの
さし
たびが
よさそうで
こさります
しかしつながはできあひにはあるめへねヱ
【⑦】
脚半 きやはん ㊅
〽きやはんは
すねあての
中はらに
はくのだ
これも
ゆるいほうが
あんばいよしだ
かたいとあしか
いたみいり升
【⑧】
草鞋 わらんじ
〽わらじは
めうがゝ
あさが
いゝと
おしへに
まかせて
はくものゝ
やつばりわらが
ごく上々そめをくひもに△
△すれはよし〳〵
【⑨】
腨当 すねあて
〽むすひ
めは
しつかり
と
しめ
やうは
ゆるく
するがいひ
コレサあんまり
ゆるすぎてはいかぬ〳〵
【⑩】
佩楯 はいだて
〽はいたて
とは
しりの
おもい
やつ
には
てき
ねへ
ことだ
へんじしても
すぐにはたてねへやつサ
【⑪】
决拾 ゆがけ
ゆがけは
いづれ
たてわく
こざくら
ちと
まつかは
に
にて
いやす
しかし
ほうさうなら
ゆかけは上々
【⑫】
臂罩 こて
〽こて〳〵とは
たんとあること
こては
さくわんの
だうぐ▲
▲これは
からだへ
こてへるゼヱ
【⑬】
脇曳 わきびき
〽れんしやくで
せおふたやうだ
おもくろくも
ねへ
しやれだ
【⑭】
胴丸 どうまる
〽きなれ
ないと
むづか
しい
ものだ
いそぎの
とき
には
どう
まる
ものか
【⑮】
表帯 うはおび
〽うはおびを
しめて
やう〳〵
かたまつた
これからまだ〳〵
いくいろもあるいそぐ
ときにはまにあはねへ
【⑯】
肩罩 そで
〽そでじころを
つけねへうちは
ぞうべう
じみて
きが
きか
ねへこれでよし〳〵
【⑰】
帯両刀 りやうたうをたいす
〽これで
しつかり
きまり
ました
〽なるほどたいとう
きまりがいゝ〳〵
【⑱】
喉輪 のどわ
「のどはゝよだれかけ
とまぎらはしいが
りくぐのうち
ならしかたが
ねへ
かけろ〳〵
【⑲】
纏顱巻 はちまきをまとふ
〽はち
まきを
あんまり
かたく
すると
かへつてづつう
はちまちた
【⑳】
蒙頬当 ほうあてをかぶる
〽しやんと
まつすぐに
かぶらないと
ほうあて
ちがひだ
【㉑】
戴頭盔 かぶとをいたゞく
〽かつてかぶとの
をゝしめろだが
まづまへいわいに
一ッしめませう△
△しやん〳〵〳〵
御めてたう厶リ升【注】
【㉒】
背旗 さしもの
〽さしものたけき
ものゝふがト
しやれたら
どうたろう
【㉓】
挿鎗挟 やりばさみをさす
〽やり〳〵
ごくろうト
いはれ
そうだ
【㉔】
楯板 たてのいた
〽のぞきは
四文だ
おすな
〳〵
【㉕】
竹束 たけたば
〽七月六日に
うりのこ
つたやうだ
チトきま
りが
わるい
【㉖】
銕炮 てつばう
〽てつはうはこの
すごろくと
おなしこと
きつとあたると
人のいふらん
〽なんといゝうたゞろう
【㉗】
一番鎗 いちばんやり
〽ちかごろ
一ばん
やりも
せんざいばで
つかいますから
おほきに
やすッ
ぼく
なり
やした
【㉘】
母衣 ほろ
〽ほろを
ふくら
がそう
とおも
つて
かぜに
む
か
ひ
一生けんめい
かけだしたら
ついてきぢんをいきすぎました
めんぼく
ない〳〵
しなび
まし
た
【㉙】
狼煙 のろし
【㉚】
一番乗 いちばんのり
〽うぢ川のせんぢん
さゝきの四郎
たかつなト
なのりたく
なるやつさ
ついおのれの
なをわす
れて
しまつた
なんとか
いつたつけ
【㉛】
弓箭 ゆみや
【㉜】
熊手 くまで
〽よく
ばつて
ゐるやうだが
かきこむには
いゝだうぐだ
【㉝】
一騎 いつき
【㉞】
長刀 なぎなた
〽あぶねへぞ〳〵
よるな〳〵
さわると
きれるぞ
ありや〳〵〳〵
【㉟】
首帳 くびちやう
〽まことひまで
こまります
めでたい〳〵
ちを
ぬら
ず
し
て
いくさは
かち〳〵ぢき
まくがしまつたはヱ
【㊱】
軍師 ぐんし
〽こうしてゐる所は
うらないしやの
やうたか
これでも
こんどは
たれが
上ル
このつぎは
たれが上リ
といふことは
そらんじて
おりますは
【㊲】
革鎧 かはぐそく
〽かはぐそくは
きがきか
ねへやうだが
きこなした所が
いゝからかるいは〳〵
かるきみにこそ◑
◑たのみは
あれと
古かにも
あり
やす
【㊳】
大鎧 おほよろゐ
〽大よろゐ
とはチトおもひ
つきがわかい
ヤレ〳〵おもい〳〵
【㊴】
駅路鈴 えきろのすゞ
〽たかまが
はらに
かみとゞ
まり
ますトいふ
やうだ
【㊵】
軍配 くんばい
にゥしつるかめ〳〵
ひがし宝来山〳〵
ョ〽のこつた
〳〵〳〵
【㊶】
陣羽織 ぢんばおり
【㊷】
旄配 ざいはい
〽かゝれ
〳〵
ありやァ
〳〵〳〵ト
いへ〳〵
【㊸】
上り
勝(かち)
軍(いくさ)
帰(き)
陣(ぢん)
一ッ あまれは さいはい かへる
二ッ あまれは ぢんはおり かへる
三ッ あまれは くんばい かへる
四ッ あまれは ゑきろ かへる
五ッ あまれは 大よろゐ かへる
【欄外左辺】【蔵書印:東京学芸大学蔵書】 芝神明前 丸屋甚八梓
【注 「厶リ升」の読みは「ござります」】
【表紙】
【右上】【蔵書ラベル:部門 往来物|類|番號】
【右下】【蔵書ラベル:5函のD|號 1042|數 1|贈 入 望月購入】
【四段ラベル:T1A0|62|22|】【ラベル:青山】
【左】 【付箋:様|金 八圓|諸職往来|本郷區本郷六丁目帝大赤門前|會場赤門倶楽部|絶版古書籍陳列會場|書舗 木内誠 電話小石川五五七三番】
【蔵書ラベルは付箋で一部隠れているが、請求記号\tT1A0/62/21と対比すると、「5函のD|番號 1042|冊數 1|寄贈購入 望月購入」となる】
【付箋下部は次コマ折り返し部分も合わせ記載している】
【右丁】
増補職人往来
【蔵書印 東京学藝大學圖書】
【上余白手書 倉橋村六左衛門|T1A0|62|22】
【左丁】
ながき世の
とをの
ねふりの
みなめざめ
なみのりふねの
おとの
よき
かな
宝船(たからふね)の事は
古書(こしよ)に見へす
といへども地(ち)は
大海(だいかい)にうかべる
ものなり
としの初(はじ)めより
船にのりたるこゝろにて
ゆだんすべからずとのしめしなるべし
【絵図内】
錦森丸
寳
【右丁】
○武家(ぶけ)は大名小名に至(いた)るまで
との様(さま)といふつねに智仁勇(ちじんゆう)の
三ッをもつて国家(こくか)をおさめ文(ぶん)
道(どう)をまなび理非(りひ)のふん明(めい)を
正(たゞ)して慈愛(じあい)をもつて民(たみ)を
撫育(ぶいく)し天命(てんめい)をわきまへて敵(てき)を
くだく事を要(よう)とすこれを良(りやう)
将(しやう)とも名将(めいしやう)ともいふなり
○百姓(ひやくしやう)とかきておんたからと読(よむ)
ことなりあまたの民(たみ)をいふ事
なれども今は耕作人(くうさくにん)ばかり
を百姓(ひやくしやう)と思へり此/業(わざ)はわきて
手(て)まめ心まめなる人の田畠(でんはた)は下(げ)
田(でん)にても上田(しやうでん)のごとく実(み)のり五(ご)こく
豊饒(ぶねう)のさうをあらはし天下(てんか)を
おだやかになさしむる大/業(ぎやう)なり
【左丁】
○士農工商(しのうこうしやう)みな職(しよく)人なれ共今
は工人(こうじん)ばかり職人といひならはせり
番匠(ばんしやう)鍛冶(かぢ)其外一さいの上手(じやうず)たる
ものは上つかたの器用(きよう)をおさめ
あるひは受領(じゆりやう)など給はるゆへに
其わざを称美(せうび)していふなるべし
されば其家(そのいへ)に生(うまれ)たる人は能々(よく〳〵)
心をいれ後世(こうせい)に名(な)をてらすべし
○商人(あきうど)はそれ〳〵の品(しな)を職人(しよくにん)の
こしらへたる物(もの)を買取(かひとり)てその
あはひを取(とる)をもつて家職(かしよく)とす
されば正直(しやうじき)をたてゝ高利(かうり)を貪(むさぼる)
ことをせざるをよしとす偽(いつは)りを
いひて人をたぶらかすをかしこし
と思ふは欲(よく)といふものゝなす事
にて甚(はなはだ)あやふき世わたりなり
【右丁 上段】
明日(あす)といふ心(こゝろ)に
ものゝさへられて
けふもむなしく
暮(くれ)はてに
けり
【左丁 上段】
文章法式指南(ぶんしやうほうしきしなん)【四角に囲む】
人はその身(み)の分(ぶん)
限(げん)を知(し)るべき事
第一也/常々(つね〴〵)心に
懸(かけ)らるべし然(しかう)して
おのが分限より
一 位(い)卑下(ひげ)して
よろづを取(とり)行(おこな)ふ
ときは身(み)終(おはる)まて
過(あやまち)あるまじきか
殊(こと)さら此事を
沙汰(さた)す此頃(このころ)は諸(しよ)
【5コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
諸職往来(しよしよくわうらい)
夫(それ)士農工商(しのこうしやう)者(は)国家(こくか)之(の)至寶(しほう)
日用万物(にちやうばんもつ)調達(ちやうたつ)之(の)本源(ほんげんと)可(べき)_レ謂(いつつ)也(なり)
就(づく)_レ/中(なかん)武門(ぶもん)者(は)為(たる)_二国土(こくど)之(の)守護(しゆご)_一
間(あいだ)庶民(しよみん)之(の)最上(さいじやう)也(なり)故(かるがゆへに)能(よく)守(まもり)_二仁義(じんぎを)【注①】
礼智信(れいちしんの)五常(ごしやうを)_一以(もつて)_二文道(ぶんどうを)_一脩(おさめ)_レ身(みを)
【左丁 下段】
依(よつて)_二武道(ぶどう)者(は)孫呉(そんこに)_一逞(たしまし)【注②】忠孝(ちうこうを)示(しめし)_レ他(たに)
正(ただし)_二政務(せいむを)_一専(もつはらにす)斉(とゝのふること)_レ家(いへを)以(もつて)_二系図(けいづを)_一彰(あらはし)_二先(せん)
祖(ぞを)_一以(もつて)_二感状(かんじやうを)_一伝(つたふ)_二功名(こうめいを)_一是(これ)武家(ぶけ)之(の)所(ゆ)_二-
以(ゑん)尚(たつとび)冀(こひねがふ)_一也 扨(さて)勤役(きんやく)坐列(ざれつ)之(の)次第(しだい)者(は)
家老(からう)用人(やうにん)留守居(るすゐ)城代(じやうたい)目附(めつけ)
奉行(ぶぎやう)給人(きうにん)物頭(ものがしら)籏本(はたもと)近習(きんじゆ)側(そば)
【5コマ目下段に続く】
【注① 「を」は衍ヵ。「仁義礼智信の五常を守り」と思われる。】
【注② 「たしまし」は「たくまし」ヵ】
【右丁 上段】
家(け)ともに慇懃(いんぎん)の
礼をもちひらる
おの〳〵其こゝろへ
肝要(かんよう)なり
▲高位(かうい)高/官(くわん)にし
て禄(ろく)軽(かろ)き人と
下官(げくわん)下位(げい)にして
禄おもき人は相(あい)
対(たい)すべきなり又
当時(とうじ)微力(びりよく)たり共
筋目(すじめ)貴(たつと)き人は
賞翫(しやうくわん)あるべし
如何(いか)にといふにその
【左丁 上段】
人/先祖(せんぞ)の禄(ろく)官位(くわんい)
を相続(さうぞく)して来(きた)らば人々
求(もとめ)媚(こび)せん事もち
ろんなり然(しか)れども
其人/不幸(ふかう)にして
当時(とうじ)卑賎(ひせん)たり共
いかでか往日(わうじつ)をおもは
ざらん又/当時(とうじ)とき
めく人なり共 本性(ほんしやう)
下賤(げせん)の人はさせる
賞翫(しやうくはん)あらずこれ
先輩(せんはい)のさだめ置(おか)
るゝ所なり
【6コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
使(つかひ)扈従(こしやう)納戸(なんど)郡奉行(こほりぶぎやう)代官(だいくわん)作(さく)
亊(じ)小普請掛(こぶしんがゝり)与力(よりき)同心(どうしん)祐筆(ゆうひつ)
勘定方(かんぢやうかた)同朋(どうぼう)茶道坊主(さどうぼうす)歩徒(かち)
足軽(あしがる)若党(わかとう)中間(ちうげん)小者(こもの)等(とう)迄(まで)応(をうじ)_二
職分(しよくぶん)之(の)高下(こうげに)_一知行(ちぎやう)扶持方(ふちかた)切米(きりまい)
給金(きうきん)可(べし)_レ宛(あて)_二【-脱ヵ】行(おこなふ)之(これを)_一預(あづかる)_二其(その)役(やくに)_一生(うまれて)_レ家(いへに)
【左丁 下段】
者(は)其職(そのしよく)者(は)更(さら)也(なり)第一(だいいち)可(べき)_レ学(まなぶ)者(は)弓(きう)
馬(ば)剣術(けんじゆつ)兵法(ひやうはう)柔術(じうじつ)鉄砲(てつほう)書筆(しよひつ)
算勘(さんかん)無(なく)_二怠慢(たいまん)_一相励(あいはげむ)則(ときは)以(もって)_二其功(そのこうを)_一加(か)
増(ぞう)立身(りつしんせ)者(ば)父祖(ふそ)裔孫(ゑいそん)迄(まで)面目(めんぼく)何(なに)
事(ごと)乎(か)如(しかん)_レ之(これに)次(つぎに)農業(のうぎやう)者(は)春(はる)耕(たがやし)種(たね)
蒔(まき)苗代(なはしろ)水掛引(みずのかけひき)畔塗(くろぬり)畦立(うねたて)夏(なつ)
【6コマ目下段に続く】
【右丁 上段】
▲字体(じてい)の真行草(しんぎやうさう)
はすなはち上中下
なり/真行草(しんぎやうさう)をもつ
て貴賤(きせん)をわかつ
べきなり
▲書状(しよじやう)したゝめ終(おは)り
てはかならずよみかへし
落字(らくじ)ならびに文(もん)
言(ごん)の相違(さうい)よく〳〵
吟味(ぎんみ)すべし
▲順儀(じゆんぎ)一へんの書
状(しやう)は文言(もんごん)くどか
らぬやうにおなじ
【左丁 上段】
文言(もんごん)を書(かゝ)ざるやう
に文をつゞりて短(みじか)く
したゝむべし但(たゞし)用(やう)
事(じ)《振り仮名:有_レ之|これあり》状(じやう)に文(もん)
言(ごん)を綴(つゞ)りすぎて
文のあやどりたるは
【7コマ目上段に続く】
【左丁 上段 絵図内】
□□(わがみ)をは我ほど
誰(たれ)か思ふべき我と
あんじてわれと
おしえよ
【右丁 下段】
者(は)田植(たうへ)草取(くさとり)雩(あまごひ)《振り仮名:𦳊打|こえうち》秋(あきは)猪番(しゝのばん)
鳥追(とりおひ)案山子(かゝし)引板(ひた)鳴子(なるこ)添水(そふず)苅(かり)
田(た)稲扱(いねこき)籾磨(もみすり)懸(かけ)_二扇風車(とうみ)万石篩(まんごくとふしに)_一
俵(たはらを)拵([こ]しらへに)尽(つくし)_二情力(せいりやくを)_一年貢(ねんぐ)収納(しゆのふ)未進(みしん)無(なし)
_レ之(これ)様(やう)平生(へいぜい)可(べき)_二心掛(こゝろがく)_一事(こと)肝要(かんやう)也(なり)旱(かん)【左ルビ:ひ】
魃(ばつ)【左ルビ:でり】水損(すいそん)於(おいて)_レ有(あるに)_レ之(これ)者(は)以(もつて)_二庄屋(しやうや)年寄(としより)
【左丁 下段】
組中(くみぢうを)_一訴(うつたへ)_二代官所(だいくわんしよへ)_一願(ねがひ)_二検見(けんみを)_一以(もつて)_二毛付(けつけ)
坪苅(つぼがりを)_一田畠(でんはた)何町(なんてう)某反(なんだん)幾畝(いくせ)何歩(なんほと)
以(もつて)_二度竿(けんざほを)_一改(あらため)_二民図帳(みづてうを)_一吟味(ぎんみ)相済(あいすみ)之(の)上(うへ)
可(べし)_レ請(うく)_二免許(めんきよを)_一雖(いへども)_レ在(ありと)_二満作豊年(まんさくほうねん)或(あるひは)
風雨(ふうう)不順(ふじゆん)之(の)障(さゝはり)_一聊(いさゝか)以(もつて)_二私欲(しよくを)_一掠(かすむる)_レ 上(かみを)事(こと)
可(べき)_レ恐(おそる)_二 天道(てんとうを)_一也(なり)将(はた)農具(のうぐ)者(は)鋤(すき)鍬(くわ)犂(からすき)
【7コマ目下段に続く】
【右丁 上段】
用事(やうじ)きこへかね
るものなり用事の
おもむきは箇条(かでう)に
上て書べきなり
▲人のため然(しか)るべから
ざる噂(うはさ)わが身にあづ
からぬ人の悪事(あくじ)取(とり)
あつかふ事は遠慮(ゑんりよ)
有べし反古(ほうご)まぎれ
ちりて身(み)の災(わざは)ひ
を求(もとむ)る中立(なかだち)となる
事/世(よ)に多(おほ)し反(ほう)
古(ご)をむさと取(とり)切ら
【左丁 上段】
して他人(たにん)に披見(ひけん)せ
られ人の非(ひ)を世(よ)
に流布(るふ)すること
不仁(ふじん)の至(いたり)り【重複ヵ】也さつ
そくに火中(くわちう)すべし
▲手跡(しゆせき)は風(ふう)おほく
して文字の畧(やつ)し
やうもいろ〳〵あり
但(たゞ)しやつしやうに
よりて字性(じしやう)異(い)
体(てい)になりてよみ
にくき字(じ)有/順(じゆん)
儀(ぎ)までの状(じやう)はよめ
【8コマ目上段へ続く】
【右丁 下段】
鎌(かま)連枷(からさほ)水擔桶(みづたご)龍骨車(りうこし)戽桶(なけつるべ)
拮槹(はねつるべ)筒車(みづぐるま)畚(もつこう)筐(かたみ)碓(ふみうす)碾(からうす)《振り仮名:𣇃臼|つみうす》【注】
挽磨(ひきうす)千石掻篩(せんごくとうし)杵(きね)簸(ひる)簾(とをし)蓑(みの)
笠(かさ)籮(ふご)檋(がんじき)橇(そり)肥(こやし)者(は)《振り仮名:下𦳊|しもごえ》干鰯(ほしか)
馬糞(ばふん)雪花菜(きらず)糠油絞粕(ぬかあぶらのしぼりかす)乾(ほし)
苔(のり)藁灰(わらばい)此類(このるい)也(なり)応(をうじ)_二其土地(そのとちの)作(さく)
【左丁 下段】
物(もつ)之(の)品(しな)_一宜(よろしく)計(はからふ)_レ之(これを)誠(まことに)農業(のうぎやう)者(は)生(せい)
民(みん)之(の)大本(たいほん)与(と)可(べし)_レ謂(いつつ)扨又(さてまた)工匠(こうしやう)之(の)輩(ともがら)
者(は)先(まづ)為(する)_レ首(しゆと)_二番匠(ばんしやう[を])_一也(なり)棟梁(とうりやう)大工(だいく)小工(せうく)
釿始(てをのはじめ)之(の)式法(しきほう)有(あり)惣而(さうじて)以(もつて)_二水盛(みづもりの)規(き)
矩(く)準縄(じゆんじやうを)_一定(さだめ)_レ之(これを)柱立(はしらだて)棟上(むねあげ)者(は)撰(えらふ)_二吉(きち)
日(にち)良辰(りやうしんを)_一事(こと)也(なり)御殿(ごてん)神社(じんしや)拝殿(はいでん)
【8コマ目下段へ続く】
【注 「つみうす」は「つきうす」ヵ】
【右丁 上段】
ずとも扨(さて)有べし
若(もし)用事(やうじ)これある
状(じやう)にいたりては事
の害(がい)たるべし殊(こと)
に貴人(きにん)へ奉る書(しよ)
状(じやう)には全(まつた)き字(じ)を
用ひらるべき也
▲用事(やうじ)に付てとり
かはす状はその用
事/落着(らくじやく)せざるう
ちはとめ置(おき)わが
返事(へんじ)の趣(おもむき)をも書(かき)
留置(とめおく)べし又/遠国(ゑんごく)
【左丁 上段】
より来(きた)りし状は
相(あい)とゞきたる日をば
書付(かきつけ)をき返事(へんじ)
せしむる時(とき)此よし
を申遣すべし人の
思(おも)ひよりてさし越(こし)
たるこゝろざしを
疎(おろそか)にせざる心也
▲疎意(そい)すまじき
人に久しく無音(ぶいん)
しては其/理(ことはり)を申
ひらく事/礼(れい)なり
然(しか)るをあるひは虚(きよ)
【9コマ目上段へ続く】
【右丁 下段】
花衣(とりゐ)随身門(ずいじんもん)神楽殿(かぐらでん)仏閣(ぶつかく)者(は)
四天門(してんもん)堂塔(どうとう)伽藍(がらん)庫裏(くり)客殿(きやくでん)
象鼻彫物(ぞうばなほりもの)廻廊(くわいらう)書院(しよいん)座敷圍(ざしきかこい)
之(の)物数寄(ものずき)萱葺(かやぶき)藁葺(わらぶき)杮瓦(こけらかはら)
見世店(みせたな)土蔵(どさう)文庫(ぶんこ)窖(あなぐら)任(まかせ)_二其(その)所(ところの)_レ望(のそむに)_一【注】
造営(ざうゑいす)又者(または)破損(はそん)等(とう)可(べき)_レ加(くはふ)_二修覆(しゆふく)_一也(なり)猶(なを)可(べし)
【左丁 下段】
_レ有(ある)_二勘弁(かんべん)_一持扱(もちあつかふ)道具(どうぐ)者(は)釿(てをの)鉋(かんな)
鑿(のみ)柊揆(さいつち)錐(きり)小刀(こかたな)鋸(のこぎり)挽廻(ひきまはし)《振り仮名:鼡|が■》
歯(り)斧(をの)鉄槌(かなつち)鐇(まさかり)玄翁(げんおう)鐁(やりかんな)曲尺(さしがね)
墨斗(すみつぼ)捻(すみさし)鑢(やすり)釘貫(くぎぬき)等(とう)也(なり)又(また)蓋屋(やね)
匠(ふき)者(は)檜皮(ひはだ)枌板(そぎいた)竹釘(たけくぎ)台切(だいぎり)片(へぎ)
包丁(ほうてう)谷(たに)之(の)取合(とりあい)破風(はふ)軒口(のきくち)惣而(さうじて)
【注 「望」にレ点があるため、「其(その)望(のぞむ)所(ところに)任(まかせ)」となる。レ点がなければ、「其(その)所(ところの)望(のぞむに)任(まかせ)」となる】
【右丁 上段】
病(びやう)をかまへあるひは
他事(たじ)に付ても偽(いつはり)
をかまえんと怠(おこたり)を
申ひらくことゆめ〳〵
有(ある)まじきことなり
書状(しよじやう)には勿論(もちろん)常(つね)
〴〵仮(かり)にも偽(いつは)りを
忌(いみ)おそるべしいかに
といふにその事を
いつはるに依(よつ)て後日(ごにち)
に其(その)人に参会(さんくわい)し
又/書通(しよつう)のごときも
已然(いぜん)の申わけを失(しつ)
【左丁 上段】
念(ねん)して大に相違(さうい)
する事ありしからば
其人の心ざしも
推量(おしはか)られて無念(むねん)
の事たるべし只(たゞ)廉(れん)
直(ちよく)のおもむきを以
て申ことはるべし
事のもれ安(やす)きを
つねにおそれて其(その)
独(ひとり)をつゝしむべし
▲状面(じやうめん)墨次(すみつぎ)の事
常(つね)のことなれば鍛(たん)
煉(れん)あるべし状面(じやうめん)
【10コマ目上段へ続く】
【右丁 下段】
恰好(かつこう)可(べし)_レ揃(そろゆ)_レ之(これを)《振り仮名:壁𣏓|かべぬり》者(は)以(もつてし)_二鏝堅(こて)
單板(こていた)定木(でうぎを)_一漆喰(しつくひ)大津(おほつ)泥藍(どろあい)
沙壁(すなかべ)下地(したぢ)小舞(こまひ)/全(まつたく)用意(ようい)之(の)事(こと)
翠簾屋(みすや)者(は)畫簾(ゑすだれ)絵筵(ゑむしろ)華(はな)
毛氈(もうせん)芦簾(よしすだれ)管簾(くだすだれ)畳刺(たゝみさし)者(は)雲(うん)
限縁(げんべり)大紋小紋縁(だいもんせうもんへり)紺縁(こんへり)備後(びんご)
【左丁 下段】
表(おもて)琉球表(りうきうおもて)珠数(じゆず)挽牽鑚(ひきろくろ)之(の)
細工(さいく)七寶(しつほう)四天錺(してんのかざり)水晶(すいしやう)之(の)陀妻(だつま)
珊瑚珠(さんごじゆ)之(の)百八(ひやくはち)檀特(だんどく)金剛樹(こんごうじゆ)
菩提樹(ぼたいじゆ)/木患子(もくげんじ)薏苡仁(すゞだま)蓮肉(はすのみ)
各(おの〳〵)依(よつて)_二宗門(しうもんに)_一繋(つなぐ)可(べし)_レ有(ある)_二差別(しやべつ)_一佛(ぶつ)
師(し)者(は)従(より)_二法橋(ほうきやう)定朝(でうちやう)_一相続(あいつゞき)而(て)数(す)
【右丁 上段】
のあしきは其人の
行跡(ふるまひ)のほどをはか
られあさましき
ことなり其内(そのうち)墨(すみ)に
付て外(ほか)にならひ
こと有(あり)といへば心に
かくべきなり
▲我身(わがみ)の用事(やうじ)を
たのみ遣(つかは)す書状(しよじやう)
には常(つね)よりも文言(もんごん)
を恭(うや〳〵)しく引(ひき)つく
ろひしかるべし
是(これ)はあらためて諂(へつら)
【左丁 上段】
ふにはあらず其人
の心ざしを報(ほうず)る
ところなり
▲貴人(きにん)に奉る書(しよ)
状(じやう)におのが分(ぶん)に過(すぎ)
たる料紙(りやうし)あるひは
【11コマ目上段へ続く】
【左丁 上段 絵図内】
見も
わかぬ
書籍(しよじやく)を
つゞり
読(よま)んより
物(もの)
しる
人の
雑談(ぞうだん)を
きけ
【右丁 下段】
代(だい)七条大宮流(しちでうおほみやりう)奈良流(ならりう)又(また)運(うん)
慶(けい)湛慶(たんけい)者(は)鎌倉仏師(かまくらぶつし)与(と)云(いふ)亦(また)
安阿弥(あんあみ)快慶(くわいけい)有(あり)須弥座(しゆみざ)唐(から)
座(ざ)岩座(いはざ)七重座(しちじうざ)舩後光(ふなごくはう)輪光(りんくわう)
細金(ほそがね)彩色(さいしき)箔佛(はくぶつ)泥像(でいぞう)宮殿(きうでん)
厨子(づし)任(まかせ)_二注文(ちうもんに)_一可(べし)_レ《振り仮名:彫-刻|てうこくす》_レ之(これを)板木屋(はんぎや)
【左丁 下段】
印判師(いんばんし)者(は)古文字(こもんじ)篆字(てんじ)隷(れい)
書(しよ)籒文(らうもん)【注】八分字(はつふんじ)真行草(しんぎやうさう)也(なり)
以(もつて)_二金銀(きん〴〵)銅(あかゞね)水晶(すいしやう)琥珀(こはく)蠟石(らうせき)黄(つ)
楊(げを)_一彫刻(てうこくす)宮大工(みやだいく)者(は)鎮守之祠(ちんじゆのやしろ)
禿倉(ほこら)者(は)向拝(ごはい)欄檻(らんかん)護朽(ぎぼうし)蔀(しとみ)
槅(こうし)階子(きざはし)神輿(みこし)者(は)鳥居(とりい)籬(まがき)瓔珞(ようらく)
【注 振り仮名は「ちうもん」ヵ】
【右丁 上段】
麁紙(あくし)あるひは色(いろ)
帋(がみ)半切(はんきり)の紙(かみ)すぎ
はらにあらざる料(りやう)
紙(し)は用(もち)ゆべからず
▲和字(わじ)難字(なんじ)の事
ふだん心にかけて
吟味(ぎんみ)し本字(ほんじ)正(せう)
字(じ)をもつて認(したゝむ)べし
片言(かたこと)をあらため
本語(ほんご)をせんさく
して書(かゝ)ざればその
人の常(つね)をはかられ
あさまに思(おも)はるゝもの
【左丁 上段】
なり書中(しよちう)は勿論(もちろん)
つねの詞(ことば)にもつゝし
むべき事なり
▲文才(もんさい)ある輩(ともがら)は
其/才(さい)をはたらかせ
て言(ことば)をたくみに古(こ)
語(ご)旧文(きうもん)を引(ひき)また
通例(つうれい)人のしら
ざる文字(もんじ)并【注】物(もの)の
異名(いめう)を書(かく)をみづ
から至(いた)れりと
おもへり当流(とうりう)には
これをもちひず
【12コマ目上段に続く】
【注 東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ所蔵の異本(請求記号T1A0/62/21)には「(ならひ)に」と送り仮名・助詞あり】
【右丁 下段】
御前屋(おまへや)金佛壇(きんぶつだん)来迎柱 (らいこうばしら)透(すかし)
彫物(ほりもの)応(をうじ)_二其價(そのあたへに)_一而(て)結構(けつこう)無(なし)_レ限(かぎり)造(つくり)
花(はな)者(は)蝋引(らうびき)水打(みづうち)性摸(しやううつしは)誠(まことに)四季(しき)
目前(もくぜん)之(の)詠(ながめ)行人(いくひと)足(あしを)止(とゞむ)次(つぎに)碁局屋(ごばんやは)
局子(ごいし)碁奩(ごげ)象戯枰(しやうぎばん)【杵ヵ】駒(こま)双六(すごろく)
盤(ばん)采骰子(さいつゝ)等(とう)也(なり)琴師(ことし)者(は)筝(さう)和(わ)
【左丁 下段】
琴(ごん)者(は)海濵(うみはま)磯(いそ)龍角(りうかく)天人(てんにん)座(ざ)
柏葉(かしはば)鞠形(まりがた)三弦(さみせん)者(は)胴(どう)棹(さほ)猿尾(さるお)
根緒(ねを)天軫(てんじん)糸倉(いとくら)海老尾(かいらうび)琵琶(びは)
者(は)撥面(ばちめん)絡帯(らくたい)半月(はんげつ)兎眼(めんがん)【注①】覆手(ふくしゆ)
槽(こく)【注②】柱(ちう)皆(みな)一面中(いちめんちう)之(の)名所(めいしよ)也(なり)胡弓(こきう)
瑟(ひつ)阮(げん)等(とう)此職(このしよく)之(の)預(あづかる)所(ところ)歟(か)皆(みな)金銀(きん〴〵)
【12コマ目下段に続く】
【注① 振り仮名は「とがん」ヵ。「兎」を「免」に誤読ヵ】
【注② 「槽」は「胴の背面の板」の名称と思われる。読みは「そう」。別名「甲(こう)」とも】
【右丁 上段】
只(たゞ)なだらかに読(よみ)や
すく言(ことば)のしりも
いやしからぬを第一
とす去(さり)ながら昔(むかし)
よりもちひ来(きた)り
たる異名(いめう)古語(こご)
をすつべきにも
あらず其(その)人体(じんたい)に
よるべきかたとへは
法体(ほつたい)の隠者(いんじや)【注①】風(ふう)
雅(が)の好士(こうず)などの
かたへは訴状(そじやう)請(うけ)状
などのやうなる
【注① 「隠者(いんじや)」は難読につき東京学芸大学教育コンテンツアーカイブ所蔵の異本(請求記号T1A0/62/21)に依った。
【左丁 上段】
差別(しやべつ)有べし同(どう)
輩(はい)よりも以下(いげ)は
少(すこ)しこばしたるも
にくむまじき
なり只(たゞ)うやまひの
状(じやう)にはあまりかたく
有まじき事也
▲書中(しよちう)の文字(もじ)
づかひのことは音(こへ)にて
聞(きこ)ゆる字(じ)は行(ぎやう)に
書(かく)べし訓(よみ)にて聞(きこ)
ゆる字(じ)は草(さう)に書
べしと有/夫(それ)にも
【13コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
鍍金(めつき)に而 飾(かざる)_レ之(これを)糸組(いとくみ)者(は)総角(あげまき)花(け)
蔓(まん)胸紐(むなひも)練糸(ねりいと)縫糸(ぬひいと)以(もつて)【二点脱ヵ】籆(わく)■(かせ)【注②】
撥拊(はつふを)_一 五色(ごしき)之(の)巻分(まきわけ)天蝅糸(てぐす)者(は)漁(りやう)
者(し)之(の)所(ところ)_レ用(もちゆる)投網(たうあみ)打網(うちあみ)纚(さで)以(もつて)_二捻苧(ひねりそ)_一
合(あはせ)_レ糸(いとを)《振り仮名:透_二-立|すきたつる》之(これを)_一櫛挽(くしひきは)捙梳(さしぐし)【注③】扺子(か[う]がい)【注④】
笄(かんざし)櫛拂(くしはらい)鏡磨(かゞみときは)当世(たうせい)風流(ふうりう)之(の)菅(すげ)
【左丁 下段】
笠(がさ)編笠(あみがさ)網代笠(あじろかさ)綿帽子(わたぼうし)引綿(ひきわた)
■(はづ)【注⑤】塗桶(ぬりをけ)是(これ)女(をんな)童(わらべ)之(の)手業(てわざ)也(なり)
傘(からかさ)挑燈張(てうちんはり)轆轤挽(ろくろひき)木履(ぼくり)足(あし)
駄(だ)草履(ざうり)下駄(げた)籠(かご)筲(いかき)箕(み)水嚢(すいのう)
簣作(かたみつくり)鞢(ゆがけ)弓矢(ゆみや)師 ̄は漆籠(ぬりこめ)重藤(しげどう)
楊弓(やうきう)雀小弓(すゞめこゆみ)矢筒(やづゝ)矢箱(やばこ)胡籙(やなぐゐ)
【13コマ目下段に続く】
【注② ■は「糸+瞿」。字形は「繀」ヵ。物は「綛」ヵ】
【注③ 「捙」は「挿」の誤ヵ。天保刊本は「挿」】
【注④ 振り仮名「かうがい」は、天保刊本参照】
【注⑤ ■は「糸+筈」】
【右丁 上段】
よるべからずその内(うち)
文字(もじ)のやまひを
よく弁(わきま)へて書べし
又/書中(しよちう)にかぎら
す惣(そう)じて義理(ぎり)
へんつくり冠(かふり)等の
点畫(てんかく)をよく〳〵
穿鑿(せんさく)して書(かく)べし
真(しん)にて各別(かくべつ)の
字(じ)を草(そう)に畧(りやく)せ
ば混雑(こんざつ)する字(し)も
あるなりこと〴〵く
たゞし覚(おぼ)ゆべし
【左丁 上段】
是(これ)をあらためん
とおもはゝ分毫字(ぶんごうじ)【注①】
語録字義(ごろくじぎ)といふ
書(しよ)ありこれを見(み)て
よく〳〵熟讀(じゆくどく)すべし
【左丁 上段 絵図内】
老(おい)たるも
わかきも
人は
うちばなれ
出(で)すぎものぞと
いはれては
うし
【右丁 下段】
指物(さしもの)細工(さいく)者(は)覃笥(たんす)【箪の誤】長持(ながもち)櫃(ひつ)手箱(てばこ)
檜物師(ひものし)者(は)木具(きぐ)三方(さんぼう)花足(けそく)嶋臺(しまだい)
柄杓(ひしやく)匙笥(かいげ)櫃(へぎ)之(の)類(るい)檜(ひのき)或(あるひは)杦(すぎ)桐(きり)造(つくり)
細工(さいく)尤(もつとも)物数寄(ものずき)奇麗(きれい)恰好(かつこう)専一(せんいち)
之(の)事也(ことなり)鍛工(たんこう)者(は)俗(ぞくに)鍛冶(かぢ)与(と)云(いふ)釼刀(けんとう)
打物作(うちものつくりを)為(なす)_レ 上(じやうと)工【注②】釼(つるぎ)者(は)亀文(すゞやき)漫(みだれ)理湾(やきのたれ)
【左丁 下段】
錵(にえ)匂(にほひ)瑕(きず)錆(さび)帽子(ぼうし)鎬(しのぎ)棟(むね)鋒端(きづさき)
刃渡(やきばわたし)鑠(うねわたし)備(そなへ)挫(へし)鍛(きたへ)束(つかね)銑(せん)透(すき)銘(めい)
中心(なかご)鑢子(やすり)鑽(たがね)利(とき)鈍(にぶき)者(は)監定(めきゝ)有(あり)
鉾(ほこ)薙刀(なぎなた)鏃(やのね)槍(やり)等(とう)迄(まで)打(うつ)也(なり)磨工(とぎし)者(は)麁(あら)
砥(と)中磨(なかど)精磨(うはとぎ)瑩(みがき)之(の)次第(しだい)有(あり)
此外(このほか)薄刃(うすば)出刃(でば)包丁(ほうてう)鋏(はさみ)鑷子(けぬき)
【14コマ目下段に続く】
【注① 「分毫字辨」ヵ】
【注② 異本は、「為(なす)_二 上工(じやうくと)_一」とあり】
【右丁 上段】
本朝三筆(ほんてうさんひつ)【矩形で囲む】
嵯峨天皇(さがてんわう)は
人皇(にんわう)五十二代の
聖主(せいしゆ)御いみ名(な)は
神野親王(かみのゝしんわう)と申
たてまつれり桓武(くはんむ)
天皇(てんわう)の第(だい)二の皇(わう)
子(じ)にてまし〳〵けり
つねに経典(けいてん)を好(この)
ませ給ひ文章(ぶんしやう)は
玉(たま)をのべ筆勢(ひつせい)は
龍虎(りやうこ)の勢(いきほ)ひし
【左丁 上段】
たまふ弘仁(こうにん)九年
四月 殿閣(でんがく)の諸(しよ)
門(もん)の額(がく)をこと〴〵く
書(かき)あらためらるゝ
に北門(ほくもん)はすなはち
御宸筆(ごしんひつ)にて
東(ひかし)おもては橘(たちばな)の
速勢(はやなり)南西(みなみにし)なら
びに應天門(をんてんもん)は
弘法大師空海(こうぼうたいしくうかい)に
書(かゝ)せらるなを
花(はな)の宴(ゑん)も此(この)御代(みよ)
にはじまるとなり
【15コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
小刀(こがだな)鉈(なた)釘(くぎ)鋲(びやう)等(とう)雑具(ざうひん)之(の)鉄匠(かぢ)銅(どう)
壷(こ)薬鑵(やくわん)類(るい)之(の)職方(しよくかた)飾金具師(かざりかなぐし)
彫物師(ほりものし)者(は)後藤氏(ごとううじ)代々(だい〳〵)家彫(いへぼり)与(と)云(いふ)
其外(そのほか)奈良鐫(ならぼり)横谷(よこや)大森(おほもり)柳川(やながわ)
濱野(はまの)等(とう)之(の)名家(めいか)有(あり)所謂(いはゆる)縁頭(ふちかしら)目(め)
貫(ぬき)鐔(つば)小柄(こづか)揥枝(かうがい)高彫(たかぼり)平彫(ひらぼり)片切(かたきり)
【左丁 下段】
彫(ほり)色繪(いろゑ)象眼(ざうがん)魚々子(なゝこ)金覆輪(きんふくりん)
各(おの〳〵)用(もちひ)_二槖籥(ふいごうを)_一造(つくる)_レ之(これを)冶工(やこう)者(は)俗(ぞくに)云(いふ)鋳(い)
物師(ものし)也(なり)錫(すゞ)道具(どうぐ)鍋(なべ)釜(かま)鑵子(くわんす)提飯(ひさげはん)
銅(どう)薬研(やげん)硫黄突(いわうつき)燈心引(とうしんひき)油絞(あぶらしぼり)仏(ぶつ)
像(ざう)佛具(ぶつぐ)等(とう)銅(あかあかがね)鉄(てつを)堝壷(るつぼに)盛(もり)以(もつて)_二踏鞴(たたらを)_一
鑠(とろかし)_レ之(これを)型(いがたに)流而(ながして)造立(さくりうす)秤屋(はかりや)者(は)於(おいて)_二東国(とうごくに)_一
【15コマ目下段に続く】
【右丁 上段】
橘逸勢(たちばなのはやなり)
尚書(しやうしよ)太夫(たゆふ)入居(いりすへ)の
御/子(こ)といえりその
才名(さいめい)もろこしの
書(しよ)にも書(かき)のせ
たりもつとも
入木(じゆぼく)の道(みち)にくわ
しくてありける
嵯峨天皇(さがてんわう)の召(めし)
を承(うけたまはつ)て宮門(きうもん)の
扁額(がく)をしたゝめ
世(よ)のほまれを取(とり)
ける桓武天皇(くわんむてんわう)
【左丁 上段】
の御宇(ぎよう)延暦(ゑんりやく)の
すへに遣唐使(けんたうし)に
したがひ藤原(ふぢはら)の
賀能(かのう)ともに唐土(もろこし)
にいたりて学業(がくぎやう)を
まなびとゞまる事
二年にして空海(くうかい)
と同舩(どうせん)して帰(き)
朝(てう)すもろこし
人もその藝能(げいのう)
をほめて橘秀才(きつしうさい)
と称(せう)しけると
いえり
【16コマ目上段へ続く】
【右丁 下段】
者(は)守随彦太郎(しゆずいひこたらう)西国(さいこく)者(は)神善四郎(かみぜんしらう)
此(この)両家(りやうけ)之(の)外(ほか)堅(かたく)御製禁(ごせいきん)也(なり)釐等(れてぐ)
杜秤(ちぎ)衡(さほ)錘(おもり)天秤(てんびん)針口(はりぐち)将(はた)分銅(ふんどう)者(は)
後藤(ごとう)今(いま)極(きはめ)是(これ)皆(みな)《振り仮名:権_二-糺|はかりたゝす》物之(ものゝ)軽重(けいぢうを)_一
之(の)具(ぐ)廉直(れんちよくに)可(べき)_二製作(せいさくす)_一所(ところ)也(なり)畫工(ぐわこう)者(は)
流儀(りうぎ)區々(まち〳〵)也(なり)和漢(わかん)今古(こんこ)之(の)差別(しゃべつ)
【左丁 下段】
有(あり)先(まづ)土佐流(とさりう)者(は)元祖(ぐはんそ)土佐守(とさのかみ)
経隆(つねたか)竹光(たけみつ)越前守光重(ゑちぜんのかみみつしげ)廣(ひろ)
周弾正(ちかだんじやう)光信右近将監(みつのぶうこんしやうげん)与(と)相(さう)
續(そくし)而(て)尓今(いまに)禁裡(きんり)御繪所(おんゑどころを)預(あづかる)也(なり)
狩野流(かのりう)者(は)越前守祐清正信(ゑちぜんのかみゆうせいまさのぶを)
爲(す)_レ祖(そと)其子(そのこ)永仙元信(ゑいせんもとのぶ)是(これ)世(よに)称(せうす)_二
【16コマ目下段へ続く】
【右丁 上段】
釋空海(しやくくうかい)
讃岐國(さぬきのくに)屏風浦(びやうぶうら)
の住人(じゆうにん)佐伯直氏(さえきなをうじ)
の子(こ)にて幼名(やうめう)貴物(きぶつ)
といひしおさなき
より才智(さいち)凢(ぼん)なら
ず廿/歳(さい)にして釈(しやく)
門(もん)に入て仏教(ぶつけう)を
まなび終(つい)に天下
の博識(はくしき)となり後
密教(みつけう)を宗(しう)と弘(ひろめ)
し也ことさら書筆(しよひつ)
世に越(こへ)けり唐(もろこし)にて
【左丁 上段】
口(くち)両手足(りやうしゆそく)にて一時(いちじ)
に五字(こじ)を書(しよ)す
かるがゆへに五筆(ごひつ)
和尚(おせう)と称(せう)す帰朝(きてう)
して弘仁帝(こうにんてい)の
勅(ちよく)にて應天門(をうてんもん)
の額(がく)を書(かく)其(その)一点(いつてん)
を闕(かき)しより空海(くうかい)
茟(ふで)をとりてこれを
おぎなひ妙(めう)を
あらはすすべて
不思儀(ふしぎ)のことども
世(よ)に知(し)る所(ところ)なり
【17コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
古法眼(こほうがんと)_一也(なり)祐雪(ゆうせつ)松栄(しやうゑい)永徳(ゑいとく)右(う)
京(きやう)左近(さこん)右近孝信(うこんたかのぶ)之(の)三子(さんし)探(たん)
幽守信(ゆうもりのぶ)主馬尚信(しゆめなをのぶ)永真安信(ゑいしんやすのぶ)
此(この)三家(さんけ)連綿(れんめんし)而(て) 公儀(こうぎの)御繪所(おんゑところ)
也(なり)従(より)_レ此(これ)別家(べつけ)弟子家(でしけ)有(あり)此(この)
外(ほか)者(は)町絵(まちゑ)与(と)云(いふ)雪舟流(せつしうりう)元祖(ぐはんそ)者(は)
【左丁 下段】
非(あらず)_二畫家(ぐわかに)_一禅僧(ぜんそうにし)而(て)相国寺(さうこくじ)之(の)至(いたる)【二点脱ヵ】知(ち)
客(かくに)_一性質(うまれつき)画(えを)好(このみ)而(て)師(しとす)_二周文(しうぶん)如拙(ぢよせつを)_一後(のち)
大明國(たいみんこくに)渡(わたる)帰朝(きてうし)而(て)防州(ぼうしう)雲谷寺(うんこくじに)
住(じうす)雪村(せつそん)継(つぐ)_レ之(これを)今(いま)長谷川(はせがわ)雲谷(うんこく)等(とう)
苗氏(めうじは)此(この)畫裔(ぐわゑい)也(なり)其外(そのほか)仏繪師(ぶつゑし)
風俗絵師(ふうぞくゑし)等(とう)也(なり)筆匠(ふでゆひ)者(は)書画(しよぐわ)共(とも)
【17コマ目下段に続く】
【右丁 上段】
承和(しやうわ)二年三月廿一日
紀州(きしう)高野山(かうやさん)にて
入定(にうぜう)し給ふ後(のち)弘法(こうぼう)
大師(だいし)と諡(おくりな)を得(え)
たまふとなり
【左丁 上段】
唐土(もろこし)の三筆(さんひつ)【矩形で囲む】
張芝(ちやうし)は字(あざな)を伯英(さくえい)
といふ生質(うまれつき)書(しよ)を
このみしかば家内(かない)
のもの衣類(いるい)着類(ちやくるい)迄
こと〴〵く書(しよ)をなさ
ずといふことなし
常(つね)に麗水(れひすい)乏(とぼし)く
すゞりの水(みつ)に窮(きう)す
住(すむ)かたはらに臨(のぞん)と【てヵ】
其侭(そのまゝ)池水(いけみつ)を以て
書をまなびける
【18コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
倭漢(わかん)雅俗(がぞく)各別(かくべつにし)而(て)可(べし)_レ應(をうず)_二其(その)流義(りうぎに)_一
染物屋(そめものや)者(は)紺搔(こんかき)也(なり)藍染(あいぞめ)第一(だいいち)也(なり)
浅黄(あさき)空色(そらいろ)花色(はないろ)萌黄(もえぎ)檳榔子(びんらうじ)
茜(あかね)蘇枋(すほう)欝金(うこん)兼房(けんぼう)鼠色(ねずみいろ)茶(ちや)
類(るい)者(は)数品(すひん)有(あり)定紋(でうもん)小紋(こもん)摸様(もやう)者(は)
時節(じせつ)之(の)流行(はやり)也(なり)紅染(べにぞめ)紫染(むらさきぞめ)屋(や)者(は)
【左丁 下段】
別職(べつしよく)也(なり)石工(いしく)者(は)穴太(あなふと)与(と)云(いふ)結砌(いしがき)礎(いしずへ)
甃(いしだゝみ)仏體(ぶつたい)灯籠(とうろう)水鉢(みづばち)塔(とふ)墳(はか)碑(いしぶみ)也(なり)
石(いし)者(は)諸國(しよこく)之(の)所産(しよさん)名品(めいひん)多(おほし)山谷(さんこく)
之(の)樵夫(きこり)炭焼(すみやき)獠者(かりうど)江河(こうが)之(の)漁(すな)
人(どり)潜家郎(かづきのあまにに)至(いたる)迄(まで)民業(たみのなりはい)若干(そこばくにし)而(て)
具(つぶさに)難(かたし)_二牧挙(かぞへあげ)_一【注】凡(およそ)諸職人(しよしよくにん)受領(じゆりやう)之(の)官(くわん)
【18コマ目下段に続く】
【注 「牧挙」は「枚挙」の誤記】
【右丁 上段】
となり此ゆへに筆(ひつ)
道(だう)を臨池(りんち)の《振り仮名:業|き■■》
といふ其昔(そのかみ)崔氏(さいし)
が《振り仮名:肉|■■■■》張氏(ちやうし)が骨(ほね)と
いふこれを兼備(かねそな)へ
し人なり韋沖将(いちうしやう)
といへる人/草聖(さうせふ)と
ほめしとなり
鍾繇(しやうよう)字(あざな)は元常(けんじやう)
少(わか)くして劉勝(りうせう)に
したがひて書(しよ)を
まなふ事/三年(みとせ)に
して終(つひ)に韋誕(いたん)と
【左丁 上段】
いふものに筆法(ひつぼう)を
学(まな)ぶことを乞(こ)ふと
いへども是(これ)をおし
みて与(あた)へさりしかば
すなはち胸(むね)をうち
て血(ち)をはきしを見(み)て
太祖(たいそ)あはれみ五(ご)
霊丹(れいたん)をもつて
これをすくひける
其のち韋誕(いたん)は
鍾繇(しやうよう)ひそかに其
墓(はか)にゆき人を以て
これをあばきて
【19コマ目上段に続く】
【右丁 下段】
名(めうを)申(まうし)賜(たまはり)名人(めいじん)上手(じやうず)器用(きやうの)顕(あらはす)_二名誉(めいよを)_一
事(こと)非(あらず)_二其(その)身計(みばかりの)手柄(てがらに)【一点脱】栄耀(ゑようを)傳(つたふる)に_二【注①】子(し)
孫(そんに)_一徳(とく)廣大(くわうだい)也(なり)旦暮(たんぼ)無(なく)_二油断(ゆだん)_一凝(こらし)_二工(く)
夫(ふうを)_一可(べき)_二励勤(はげみつとむ)_一者(もの)也(なり)扨(さて)商人(あきうど)者(は)諸物(しよぶつを)為(するが)_二
交易(こうゑき)_一家職(かしよく)也(なり)以(もつて)_二帳面(ちやうめんを)_一算盤(そろばんは)左(さ)
右(ゆう)之(の)如(ごとし)_二臣下(しんかの)_一又(また)爲(し)_二昼(ひるは)鑑(かがみと)_一爲(し)_二夜(よるは)枕(まくらと)
【左丁 下段】
毎日(まいにち)之(の)考(かんがへ)_二相場(さうば)与(と)時矦(じこうを)_一【注②】賣買(ばい〳〵の)可(べし)
_レ有(ある)_二駈引(かけひき)_一利潤(りじゆん)者(は)常(つねに)所(ところ)_レ得(うる)故(ゆへ)早(はやく)知(しり)_二
損失(そんしつを)_一廻(めぐらし)_二氣転(きてんを)【一点脱】賣拂(うりはらひ)買入(かひいれ)専一(せんいち)也(なり)
問屋(とひや)者(は)諸國(しよこく)之(の)客方(きやくかた)荷主(にぬしを)不(ず)_レ致(いたさ)_二
疎畧(そりやくに)_一定(さだめ)口銭(こうせん)之(の)外(ほか)賣抜(うりぬき)買〆([か]ひしめ)等(とう)之(の)
謀計(ぼうけい)無(なき)_レ之(これ)様(やう)可(べし)_二相守(あいまもる)_一諸物(しよふつ)直段(ねたん)高(かう)
【19コマ目下段に続く】
【注① 「傳」の下に「に」が有り、訓点が不自然。「に」は衍、又は「傳」の送り仮名ヵ】
【注② 「矦(侯)」は「候(亻+矦)」の誤】
【右丁 上段】
書(しよ)を偸(ぬす)みとりて
法帖(てほん)とし昼夜(ちうや)
おこたる事なく
ならひしかばつひに
韋誕(いたん)が筆法(ひつばう)の
骨随(こつずい)【髄ヵ】をえて名(な)
を天(あめ)が下(した)にほどこし
古今(ここん)に筆藝(ひつげい)の
高手(こうじゆ)となり和(わ)
漢(かん)ともに賞(しやう)とら
るたれの人も好(この)
める道(みち)はかくの
ごとくありたし
【左丁 上段】
晋(しん)の王義士(わうぎし)【注】字(あさな)
は逸少(いつしやう)晋(しん)の元帝(げんてい)
のときに在(あつ)て大功(たいこう)
をとげてつひに
三/公(こう)の司(つかさ)に至(いた)りしと也
【20コマ目上段へ続く】
【注 「士」の字形は「子」ヵ。正は「王羲之】
【右丁 下段】
下(げ)者(は)以(もつて)_二書状(しよしやうを)_一《振り仮名:通_二[-]達|つうだつし》之(これを)_一 中買(なかがい)直賣(じきうり)俵(ひやう)
物(もの)駄賣(だうり)計賣(はかりうり)玄米(げんまい)搗米(つきこめ)儲(まうけ)_二糠俵(ぬかたはらを)_一
現金(げんきん)無(なし)_二掛直(かけね)_一小判(こばん)者(は)六拾目(ろくじ[う]め)正味(しやうみ)又(また)者(は)
銀(ぎん)相場違(さうばちがひ)何割引(なんわりびけ)呉服(ごふく)太物(ふともの)製(せい)
薬(やく)名方(めいほう)之(の)大看板(おほかんばん)紙店(かみだな)鉄物(かなもの)者(は)銅(あかゞね)
鐡(てつ)唐金(からかね)薬種(やくしゆ)者(は)数品(すひんにし)而(て)不(ず)_レ遑(いとまあら)_レ計(かぞふるに)
【左丁 下段】
荒物(あらもの)者(は)白黒砂糖(しろくろさとう)染草(そめくさ)繪具類(ゑのぐるい)
者(は)紺青(こんじやう)緑青(ろくしやう)丹朱(たんしゆ)胡粉(こふん)生燕脂(しやうゑんじ)
藍蠟(あいらう)雌黄(しわう)阿膠(にかは)等(とう)也(なり)書肆(しよし)者(は)經(けい)
書(しよ)史子(しし)類(るい)之(の)儒書(じゆしよ)仏書(ぶつしよ)經巻(きやうぐはん)醫(い)
書(しよ)軍書(ぐんしよ)和書(わしよ)歌書(かしよ)物語(ものがたり)草紙(さうし)等(とう)
真名(まな)假名(かな)之(の)雑書籍(ざつしよじやくに)至(いたる)迄(まで)其(その)道々(みち〳〵)
【20コマ目下段へ続く】
【右丁 上段】
これ王導(わうどう)か従(いと)
弟(こ)なり義士(ぎし)【之】七
歳(さい)にして書(しよ)を
よくし十三/歳(さい)にて
父(ちゝ)の秘(ひ)しおきたる
前代(ぜんだい)筆跡(ひつせき)の聖(せい)
たるものをひそかに
うかゞひ知(しつ)て今猶(いまなを)
善書(ぜんしよ)の名を遺(のこ)
せりしかのみならず
文章(ぶんしやう)を玉(たま)をつら
ぬかるがゆへに天(てん)
下(か)の人/奇才(きさい)を称(せう)
【左丁 上段】
歎(たん)す其頃(そのころ)三公(さんこう)の司(つかさ)
にありし郗鑒(ちらん)【注①】といふ
人こふて女(むすめ)に婚(こん)す
のちに右軍將軍(ゆうぐんせうぐん)
會稽(くわいけい)方の内夫(ないふ)と
いえる官(くわん)に昇(のぼ)り
しとなり古今(こゝん)に
能書(のうじよ)あまた有(ある)が
中(なか)に逸少(いつせう)をもつて
筆法(ひつほう)の神(しん)とす
將(また)息(そく)王献之(わうけん[し])父(ちゝ)に
次(つい)て能書(のうじよ)也/故(ゆへ)與(よ)
に父子(ふし)を二/王(わう)と嘆賞(たんしやう)【注②】す
【注① 「鑒」の字形は「監」ヵ。振り仮名「らん」は「覧」との混同ヵ。「郗鑒」の読みは「ちかん」】
【注② 「珎賞(ちんしやう)」ヵ】
【右丁 下段】
可(べき)_レ随(したがふ)_二雅俗(がぞく)之(の)所(ところに)_一_レ好(このむ)也(なり)塗物(ぬりものゝ)器品(きひん)
商賣(しやうばい)者(は)膳椀(ぜんわん)坪皿(つぼさら)平皿(ひらさら)食次(めしつぎ)湯(ゆ)
桶(たう)片器(へぎ)折敷(をしき)盞臺(さんだい)盃(さかづき)吸物椀(すいものわん)
重箱(ぢうばこ)食籠(じきろう)提重(さげじう)行厨箱(べんとうばこ)行器(ほかい)
手箱(てばこ)文匣(ふみばこ)類(るい)黒塗(くろぬり)朱青漆(しゆせいしつ)蒔(まき)
繪(ゑ)溢掛(いつかけ)沈金彫(ちんきんぼり)等(とう)也(なり)瀬戸物屋(せとものや)は
【左丁 下段】
南京(なんきん)高麗(こうらい)唐津(からつ)平戸(ひらど)員部(いんべ)御(お)
室(むろ)等(とう)之(の)焼物(やきもの)也(なり)扨(さて)大路(おほぢ)徑([こ]みち)之(の)小商人(こあきんと)
手遊人形(てあそびにんぎやう)飴(あめ)粔粧(おこし)煎茶(せんじちや)餅菓子(もちぐわし)
枇杷(びは)鬼灯(ほうづき)桃(もゝ)瓜(ふり)西瓜(すいくわ)柿(かき)蜜柑(みかん)其外(そのほか)
時節(じせつ)之(の)品々(しな〴〵)或(あるひは)小間物(こまもの)魚類(ぎよるい)前栽(せんざい)
野菜(やさい)等(とう)之(の)擔賣(になひうり)又(また)者(は)籃輿舁(かごかき)
【右丁 上段】
筆(ふで)さかいの事 【矩形で囲む】
生字(いきじ)の筆さかい
【白抜きの文字】
死字(しにじ)筆さかい
なきなり
【黒字の文字】
筆(ふで)さかいといふ事
第一(だいいち)としるべし筆に
さかいのなきはたゞ
筆の裏表(うらおもて)なく
曲(まがり)ばかりにては
死字(しにじ)となるなり
【左丁 上段】
うたがひを身に
きぬやうに
人はあれ
梨下(りか)のかふりを
耳(みゝ)にかふりて
【右丁 下段】
荷持(にもち)車力(しやりき)日雇掠(ひやうかせぎ)馬士(うまかた)舩頭(せんどう)駕(か)
工(こ)水主(すいしゆ)楫取(かんどり)舼乗(たかせのり)筏士(いかだし)渉人(わたしもの)之(の)輩(ともがら)
迄(まで)以(もつて)_二柔和(にうわを)_一誡(いましめ)_二邪欲(じやよくを)_一無(なく)_二欺(あざむき)犯(たぶらかすこと)_一偏(ひとへに)本(もとづき)_二
正路(しやうろに)_一而(て)自他(じた)相對(あいたい)和順(わじゆん)爲(なす)_二渡世(とせい)_一則(ときは)
永(ながく)不(ず)_レ来(きたら)_二災難(さいなん)_一而(して)家門繁栄(かもんはんゑい)之(の)【注】
基(もとい)天道(てんどう)照(てらし)_二正直(しやうじき)之(の)誠(まことを)_一陰徳(いんとく)陽(やう)
【注 28行目 折れ目により判読できない振り仮名は、異本を参照】
【左丁 下段】
報(はう)者(は)顕然(げんぜんと)而(して)無(なき)_レ疑(うたがひ)者(もの)也(なり)仍(よつて)如(ごとし)_レ件(くだんの)
諸職(しよしよく)往来(わうらい)《割書:|終》 松陰堂主人書
十幹【横書・矩形で囲む】甲(きのへ)乙(きのと)丙(ひのへ)丁(ひのと)戊(つちのへ)己(つちのと)庚(かのへ)辛(かのと)壬(みつのへ)癸(みつのと)
十二支【横書・矩形で囲む】子(ね)丑(うし)寅(とら)卯(う)辰(たつ)巳(み)午(むま)未(ひつし)申(さる)酉(とり)戌(いぬ)亥(い)
天保十一庚子年十二月再板
馬喰町二丁目
東都地本問屋 森屋治兵衛板
【裏表紙】
【表紙】
【右上】【蔵書ラベル:部門 往来物|類|番号】
【右下】【蔵書ラベル:第5函のD|番号 1135|冊数 1|寄贈購入 望月購入】
【右下】【四段ラベル:T1A0|62|21|】【ラベル:青山】
【右丁左上】【所蔵記号:T1A0|62|21】
【蔵書印:東京学芸大学図書】
増補
職人
往来
西村永寿
堂梓
此書(このしよ)は元禄(げんろく)年中(ねんぢう)予(よが)本店(ほんだな)にて開版(かいはん)
し世(よ)に弘(ひろ)めしが板行(はんこう)磨滅(まめつ)をし紙/其(その)儘(まま)
に年(とし)を経(ふ)りけるが此頃(このごろ)しきりに人々の
尋(たつね)求(もとむ)るといえども其本(そのほん)を得(う)る事(こと)かたし
然(しか)るに家蔵(かぞう)の匣底(こうてい)に一/本(ほん)を得(う)幸(さひはひ)に
梓(あづさ)に刻(こく)せんとつら〳〵□(□□)するに誠(まこと)に
諸職(しよしよく)のことを具(つぶさ)に書(かき)あらは□しなり
されど漏(もれ)たる事もあるれは一/老人(らうじん)に補(ふ)
と増(ぞう)とを乞(こう)て小冊(せうさつ)とし再(ふたゝ)び桜木(さくらき)に
鐫(ほり)て童学(だうかく)の一/助(じよ)となすものなり
なかき世のとをの
ねふりの
みなめさめ
浪のり舟の
をとの
よきかな
【絵図内:永寿丸】
宝船(たからふね)の事は
古書(こしよ)に見えず
といへども地(ち)は
大海(だいかい)にうかべる
物(もの)なりとしの初(はじ)め
より船(ふね)にのりたる心にて
ゆだんすべからずとのしめしなるべし
【右丁】
〇/武家(ぶけ)は大名小名に至(いた)るまで
との様(さま)といふ常(つね)に智仁勇(ちじんゆう)の
三つをもつて国家(こくか)をおさめ文(ぶん)
道(どう)をまなひ理非(りひ)のふんみやう
を正(たゞ)して慈愛(じあい)をもつて民(たみ)を
育(いく)し天命(てんめい)をわきまへて敵(てき)を
くだく事を要(よう)とすこれを良(りやう)
将(しやう)とも名将(めいしやう)ともいふなり
〇/百姓(ひやくしやう)とかきておんたからと読(よむ)
ことなりあまたの民(たみ)をいふ事
なれども今は耕作人(くうさくにん)ばかり
を百姓(ひやくしやう)といへり此/業(わざ)はわきて手
まめ心まめなる人の田畠(てんはた)は下田(げてん)
も上田(じやうてん)のごとく能(よく)実(み)のり五(ご)
穀(こく)豊穣(ぶねう)のさうを顕(あらは)し天下(てんか)
をおたやかになさしむる大/業(ぎやう)なり
【左丁】
〇/士農工商(しのうこうしう)みな職(しよく)人なれと今
は工人(こうじん)ばかり職人といひならはせり
番匠(ばんしやう)鍛冶(かち)其外一さいの上手(しやうす)たる
ものはつかたの器用(きよう)をおさめ
あるひは受領(しゆりやう)など給はるゆへに
其わざを称美(せうび)していふなるべし
されは其家(そのいへ)に生(うまれ)たる人は能々(よく〳〵)
心をいれ後世(こうせい)に名(な)をてらすべし
〇/商人(あきんど)はそれ〳〵の品(しな)をして人
のこしらへたる物(もの)を買取(かひとり)て其(その)
あたひを取をもつて家職(かしよく)とす
されは正直(しやうぢき)をたてゝ高利(かうり)を貪(むさほる)
ことをせざるをよしとすいつはりを
いひて人をたぶらかすをかしこし
と思ふは欲(よく)といふものなす事
にて甚(はなはだ)あやふき世わたりなり
【上段】
明日(あす)といふ心(こゝろ)に
物(もの)のさはかれて
けふもむなしく
暮(くれ)はてにけり
文章方式指南(ぶんしやうほうしきしなん)
▲人は其(その)身(み)の分(ふん)
限(げん)を知(しる)べき事
第一なり常々(つね〳〵)心
に懸(かけ)らるべし然(しかう)
してをのが分限
より一位/卑下(ひげ)し
て萬(よろつ)を取(とり)行(おこな)ふ
ときは身(み)終(おはる)まで
過(あやまち)あるましきか
殊(こと)さら此/事(こと)を
沙汰(さた)す此頃(このころ)は諸(しよ)
【5コマ目上段に続く】
【下段】
諸職(しよしよく)往来(わうらい)
夫(それ)士農工商(しのこうしやう)は国家(こくか)の至宝(しほう)
日用万物(にちようばんもつ)調達(ちやうたつ)の本源(ほんげんと)可(へき)_レ謂(いひつ)也(なり)
就(づく)_レ/中(なかん)武門(ぶもん)は為(たる)_二国土(こくど)の守護(しゆご)
間(あいだ)庶民(しよみん)の最上(さいじやう)也(なり)故(□るがゆへに)能(よく)守(まもり)_二仁(じん)義(ぎ)
礼(れい)智(ち)信(しんの)五常(ごじやうを)_一以(もつて)_二文道(ぶんどうを)修(おさめ)_レ身(みを)
依(よつて)_一武道(ぶどう)は孫呉(そんごに)_一逞(たくまし)忠孝(ちうこうを)示(しめし)_レ他(たに)
正(ただし)_二政務(せいむを)_一専(もつはらにす)_レ齋(とゝなふること)_レ家(いへを)以(もつて)_二系図(けいづを)_一彰(あらはし)_二先(せん)
祖(ぞを)_一以(もつて)_二感状(かんじやうを)_一伝(つたふ)_二功名(こうめいを)_一是(これ)武家(ぶけ)の(の)所(ゆ)|_二
以(ゑん)尚(たつとび)冀(こひねがふ)_一也(なり)扨(さて)勤役(きんやく)座列(ざれつ)の次第(しだい)は(は)
家老(からう)用人(ようにん)留守居(るすゐ)城代(じやうたい)目付(めつけ)
奉行(ぶぎやう)給人(きうにん)物頭(ものがしら)旗本(はたもと)近習(きんじゆ)側(そば)
【5コマ目下段に続く】
【上段】
家(け)ともに慇懃(いんきん)の
礼(れい)をもちひる
おの〳〵其(その)こゝろ
え肝要(かんよう)なり
▲高位(かうい)高/官(くはん)にし
て禄(ろく)軽(かろ)き人と
下官(げくはん)下位(げい)にして
禄(ろく)おもき人は相(あい)
対(たい)すべきなり又
当時(とうじ)微力(びりやく)たりは
筋目(すいじめ)貴(たつと)き人は
賞翫(しやうくはん)あるべし
如何(いか)にといふに其(その)
人/先祖(せんそ)の禄(ろく)官位(くはんい)
を相続(そうそく)し来らば人
と求(もとめ)媚(こび)せん事/勿(もち)
論(ろん)なり然(しか)れども
其人/不幸(ふこう)にして
当時(とうし)卑賎(ひせん)たりは
いかでか往日(わうしつ)をおもは
づらん又/当時(とうし)とき
めく人なりとも本(ほん)
性(しやう)下賤(げせん)の人はさせる
賞翫(しやうくはん)あらずこれ
先輩(せんはい)のさだめ置(おか)
るゝ所なり
【6コマ目上段に続く】
【下段】
使(つかひ)扈従(こしやう)納戸(なんど)郡(こほり)奉行(ぶぎやう)代官(だいくわん)作(さく)
吏(じ)小普請掛(こぶしんがゝり)与力(よりき)同心(どうしん)祐筆(ゆうひつ)
勘定方(かんぢやうかた)同朋(どうぼう)茶道(さどう)坊主(ぼうず)歩徒(かち)
足軽(あしがる)若党(わかとう)中間(ちうげん)小者(こもの)等(とう)迄(まで)応(をうじ)_二
職分(しよくぶん)の(の)高下(こうげに)_一/知行(ちぎやう)扶持方(ふちかた)切米(きりまい)
給金(きうきん)可(べし)_レ宛(あて)_二行(おこなふ)之(これを)預(あづかる)_一其(その)役(やく)_一/生(うまれて)_レ家(いへ)
は(は)其(その)職(しよく)は更也(さりなり)第一(だいいち)可(べき)_レ学(まなぶ)は(は)弓(きう)
馬(ば)剣術(けんじゆつ)兵法(へいほう)柔術(じうじゆつ)鉄砲(てつほう)書筆(しよひつ)
算勘(さんかん)無(なく)怠慢(たいまん)こうを相(あい)励(はげむ)則(ときは)以(もつて)_二其(その)功(こうを)_一加(か)
増(ぞう)立身(りつしん)は(せば)父祖(ふそ)裔孫(えいそん)迄之(までの)面目(めんぼく)何(なに)
事乎(ごとか)如(しかん)_レ之(これに)次(つぎに)農業(のうきやう)は(は)春(はる)耕(たかやし)種(たね)
蒔(まき)苗代(なはしろ)水(みずの)掛引(かけひき)畔塗(くろぬり)畦立(うねだて)夏(なつ)
【6コマ目下段に続く】
【裏表紙】
【表紙】
【値札上段】
黒田庸行筆《割書:并》 纂校 金 八十■■
嘉永増補
宝玉塵功記
様
【値札下段】
本郷区本郷六【丁目帝大赤門前】
会場赤【門俱楽部】
絶版古書【籍陳列会場】
書舗 木【内誠】
電話小【石川五五七三番】
【題簽】
《割書:自得|捷径》宝玉塵功記 全
【見返し】
宝玉塵【功】
記
【値札折返】
丁目帝大赤門前
門俱楽部
籍陳列会場
内 誠
石川五五七三番
【左丁】
宝玉塵功記【裏面の透き通し】
【前コマと同】
【右丁】
嘉 黒田庸行筆《割書:并|》纂校
永
《題: 宝玉塵功記》
増
補 摂都書林 積玉圃梓
【刻印】東京学芸大学図書
【左丁】
夫(それ)算術(さんじゆつ)の有益(うえき)たるや広大(くはうだい)無量(むりやう)毎家(まいか)
一日も離(はな)るべからざる世(よ)の至宝(しいほう)なり玆(こゝ)におゐて
術師(じゆつし)の生牛(しようし)に汗(あせ)し棟木(むなぎ)に充満(みつ)されど無尽(むじん)
にして這回(このたび)また幼童(ようどう)の為(ため)に書肆(ほんや)其(その)有用(うよう)を摘(つみ)
梓(あづさ)に鏤(ちりばめ)て是(これ)を世(よ)に寿(いのちながふ)し号(なつけ)て宝玉塵功(ほうぎよくぢんこう)
記(き)といふ此書(このしよ)に馮(よつ)て玉(たま)の光(ひかり)を加らば于遠(とふき)を
回(まは)らで捷径(ちかみち)をゆくの能(よき)便(たよ)りならん可し
辛亥孟夏
碓井寛謹識【刻印 麿】
【右丁】
天の一顆(いつくは)を五玉(こたま)といふ地にあるものは
一顆づゝにして則五ツ也 合(がつ)して十と成
右
実 盤中(はんちう)の
十(じう) 横梁(わうりやう)を 橘園
露(ろ) 脊(せき)ど
盤(ばん)上 名(なづ)く
之(の) 脊 もつて 天文暦術
図(づ) 上下(しやうげ)の
法 隔(へたて)とす 数術書淵
左 ト
云々
左を数の首位(はじめ)とし右を数の尾位(すへ)とす
【左丁】
○宝玉塵功記目次
【上段】
基数の名
粮の数名
金銀錢の量名
裁尺
八算の声《割書:并|》註
見一の図解
銀にて米数売買
蔵の中の俵数を積る算
金銀両替《割書:附|》永錢法
撿地積りの事
升積
大樽長手樽積
【中段】
大数小数の名
諸物軽重
斤量の名数
算法用字
八算の図解
掛て割わりて掛算に成法
俵廻しの事
金にて銭売買
利息
知行物成
京升寸法
大小桶積
【下段】
田数の名
九九之声
絹布の数名
古今升の寸法
見一の声《割書:并|》註
金にて米売買
杉形の俵数を知算
銀にて銭売買
入子算の事
毛見免相究の算
柄杓京升積
材木売買廻し
【右丁】
【上段】
檜皮廻しの事
運賃
竹廻しの事
橋の入目銀割の事
鼠算
盗賊絹布配当の算
四人□□【にて】馬三疋に乗算
町見積《割書:并|》島広さ積
鉄炮の玉鋳形寸法
割増割減の算
開平法
開立円法
八角の法
【中段】
家根ふき板積
箔押積り
堀普請割付《割書:并|》日数積
立木の間積
銭米倍増の算
油配分の事
坐鋪囲炉裏入る算
失竹かそへやう事
石だん積
人馬賃銭の算
開立方《割書:附|》再乗九々の声
満統術
十二月異名
【下段】
勺倍のび割付
川普請積り
継子立《割書:并|》秘術
布の立ぬき糸長さ積
日本国中男女の数積
金銀千枚開立積
百万騎の人数を並算
人を升目に積る算
金銀銭米相場
紫薪の売買
開平円法
六角の法
和俗五節句の事
【左丁】
○基数(きすう)之(の)名(めい)
一 二 三 四 五 六 七 八 九 十
○大数(たいすう)之(の)名(めい)
百(ひやく) 千(せん) 万(まん) 億(おく) 《割書:十億|百億|千億》 兆(てう) 《割書:十兆|百兆|千兆》 京(けい) 《割書:十京|百京|千京》
垓(かい) 《割書:十垓|百垓|千垓》 杼(ちよ)【注】 《割書:十杼|百杼|千杼》 穣(ぢやう) 《割書:十穣|百穣|千穣》 溝(こう) 《割書:十溝|百溝|千溝》 澗(かん) 《割書:十澗|百澗|千澗》
【注 「杼(ちよ)」は「秭(し)の誤】
正(せい) 《割書:十正|百正|千正》 載(さい) 《割書:十載|百載|千載》 極(きよく) 《割書:十極|百極|千極》 恒河沙(かうがしん) 《割書:十恒河沙|百恒河沙|千恒河沙》 阿僧祗(あそうぎ)【注】 《割書:十阿僧祇|百阿僧祇|千阿僧祇》
【注 「祗」は「祇」の誤】
那由他(なゆた) 《割書:十那由他|百那由他|千那由他》 不可思議(ふかしぎ) 《割書:十不可思議|百不可思議|千不可思議》 無量(むりよう) 《割書:十無量|百無量|千無量》 大数(たいすう) 《割書:十大数|百大数|千大数》
○小数(せうすう)之(の)名(め)【ふりがな 「い」ぬけ】
両(りやう) 文(もん) 分(ふん) 釐(りん) 毫(もう) 糸(し) 忽(こつ) 微(び) 繊(せん) 沙(しや) 塵(じん) 埃(あい)
【右丁】
○田数(たかす)之(の)名(めい)
一町(いつてう)《割書:十反をいふ|即三千歩也》
一反(いつたん)《割書:むかしは三百六十坪|今は三百坪をいふ》
一畝(ひとせ)《割書:三十歩をいふ也|三十歩とは三十坪の事也》
一歩(いちぶ)《割書:一坪をいふなり|六尺五寸四方也》
一分(いちぶ)《割書:長 ̄サ六尺五寸|広 ̄サ六寸五部【分ヵ】》
一釐(いちりん)《割書:長 ̄サ六寸五部|広 ̄サ六寸五部》
一毫(いちもう)《割書:長 ̄サ六寸五部|広 ̄サ六分五厘》
一糸(いつし)《割書:長 ̄サ六分五厘|広 ̄サ六分五厘》
一忽(いちこつ)《割書:長 ̄サ六分五厘|広 ̄サ六厘五毛》
一微(いちび)《割書:長 ̄サ六厘五毛|広 ̄サ六厘五毛》
【左丁】
【上段】
○粮(かて)之(の)数名(すうめい)
一石(いちこく)《割書:十斗|を云》一 斗(とう)《割書:十升|を云》一 升(しやう)《割書:十合|を云》
一 合(がふ)《割書:十勺|を云》一 勺(しやく)《割書:十抄|を云》一 抄(さい)《割書:十撮|を云》
一 撮(さつ)《割書:十圭|を云》一 圭(けい)《割書:十粟|を云》一 粟(ぞく)《割書:十釜【?】|を云》
【下段】
○諸物(しよぶつ)軽重(けいぢう)《割書:|応位(くらいにおうし)軽重(けいぢう)一ならず》
金(きん)《割書:一寸四方|高 ̄サ同》《振り仮名: 百七十五匁| 重サ 》 銀(きん)《割書:同》《振り仮名: 百四十目|同 》
鉛(なまり)《割書:同》 《振り仮名: 九十五匁|同 》 錫(すゞ)《割書:同》《振り仮名: 六十三匁|同 》
玉(たま)《割書:同》 《振り仮名: 百二十目|同 》 銅(あかゞね)《割書:同》《振り仮名: 七十五匁|同 》
鉄(てつ)《割書:同》 《振り仮名: 六十目|同 》 真鍮(しんちう)《割書:同》《振り仮名: 六十九匁|同 》
青石(あをいし)《割書:一尺四方|高 ̄サ同》《振り仮名: 三十六貫目|同 》 土(つち)《割書:同》《振り仮名: 十一貫目|同 》
【右丁】
【上段】
○九九(くく)之(の)数(かず)
二二ガ 四 二三ガ 六 二四ガ 八
二五 十 二六 十二 二七 十四
二八 十六 二九 十八 三三ガ 九
三四 十二 三五 十五 三六 十八
三七二十一 三八二十四 三九二十七
四四 十六 四五 二十 四六二十四
四七二十八 四八三十二 四九三十六
五五二十五 五六 三十 五七三十五
五八 四十 五九四十五 六六三十六
六七四十二 六八四十八 六九五十四
七七四十九 七七五十六 七九六十三
八八六十四 八九七十二 九九八十一
【下段】
○金(きん)之(の)数名(すうめい)
両(りやう)《割書:但四匁|七分六厘》歩(ぶ)《割書:但壱匁|一分九厘》朱(しゆ)《割書:但弐分|五厘》字(じ)《割書:但し|壱分》
○銀(ぎん)之(の)数名(すうめい)
匁(め)分(ふん)釐(りん)毫(もう)糸(し)忽(こつ)微(び)繊(せん)沙(しや)塵(ぢん)埃(あい)渺(べう)漠(ばく)
○銭(ぜに)之(の)数名(すうめい)
一 文(もん) 十(じふ)文 百(ひやく)文 一 貫(くはん)文
○斤量(きんりやう)之(の)数(すう)
一 斤(きん)《割書:或は六十目|百六十目|二百三十目》 《割書:百 目|百八十目|二百五十目》 《割書:百三十目|二百十匁|三百目》
一 両(りやう)《割書:或は四匁|四匁四分》 《割書:四匁三分|五 匁》 一 分(ふん)《割書:或は|一匁》 一 朱(しゆ)《割書:弐分|五厘》
【左丁】
【上段】
○絹布(けんふ)之(の)数名(すうめい)
匹(ひき) 端(たん) 丈(ぢやう) 尺(じやう) 寸(すん)
分(ぶん) 釐(りん) 毫(がう) 糸(し) 忽(こつ)
【下段】
○裁尺(ものさし)
呉服尺(ごふくざ[し]) 匠(たく[み])の曲尺(かねさし)を
五 段(だん)となし
一段くわへて尺とす是
周尺の例に準(しゆん)ず
曲尺にて一尺二寸也
鯨尺(くじらざし) 同曲尺を四段と
なし一段くはへて
尺とす商尺(しやうしやく)の例に
しゆんす曲尺壱尺
二寸五分に当(あた)る也
曲尺(かねざし) 匠(たくみ)の家(いへ)に用ゆる
商尺の宮造(ふしん)
尺(しやく)に合せるなり
○或はくしら尺(ざし)にて二丈四尺
あるものを曲尺(かねざし)に直(なを)して
何尺といふとき二丈四尺を
曲尺の八にて割(われ)はしるゝ也
【右丁】
【上段】
○算法(さんばふ)用事(ようじ)略(りやく)
法(はふ) 割掛(わりかけ)ともに見合(みあわす)数也 目安(めやす)ともいふ
実(じつ) 法(はふ)をもつて割掛(わりかけ)すへき数(かす)のこと也
商(しやう) あらはしたる数(かず)をいふなり
帰(き) 法(はふ)一 桁(けた)にて割(わ)ることなり
帰除(きじよ) 法(はふ)二 桁(けた)以上(よりうへ)にて割(わる)ことなり
因(いん・よる) 法一桁にてかけるをいふなり
乗(じやう) 法二桁以上にてもかける事也
自乗(じじやう) 同じ数かけ合すをいふなり
零(れい) 一桁 間(あい)のあく事をいふ合も同じ
折半(せつばん) 二ッに割るをいふなり
和(くわ) 幾数(いくつ)も合す事をいふなり併(へい)も同じ
余(よ)は略之(これをりやくす)
【下段】
○古今(ここん)升(ます)之(の)寸法(すんはふ)
古升(こます) 径(わた)り五寸 深(ふか) ̄サ二寸五分
寸坪六十二坪五分
今升(こんます)《割書:わたり|四寸九分》
深(ふか) ̄サ二寸七分
寸坪六十四坪
八分二厘七毛
武佐升(むさます)
径(わた)り四寸六分五厘
深 ̄サ二寸三分九八
寸坪五十一坪
八分六厘
【左丁】
○八算(はつさん)之(の)割声(わりごゑ)之(の)注解(ちうかい)
二の段【上段右から横書】
二一天作五 とは一ツのものを二ツにわれば半になる半は五なり十は五になる
二進一十を五度したるものなり
二進 一十 とは二ツのものを二ツにわればすなはち一なりよつて四には二度
六には三度八には四度十には二一天作五とす
三の段【上段右から横書】
三一三十一 とは一は十なり十のものを三ツにわるときは三進一十と三
度して左りに三ツ右に一ツのこるなり
三二六十二 とは右三一三十一を二ツ合せたるものなり二十のものを三に
われば六は三六十八のわり付になる二は右にのこるなり
三進 一十 とは三ツのもの三にわればすなはち一なりもし又一か二か残り
あればこゑをもつていつまでもわるなり
四の段【上段右から横書】
四一二十二 とは一は下(しも)の桁(けた)のためには十の位(くらい)なるゆへ此一を下(しも)のけたに詰(つめ)て置八を
二十と割ば一の桁(けた)二十と成て下のけたに二のこるゆへ四一二十二といふ也
四二天作五 とは二を二十とし二十四にわれば四進一十と五度するを
すぐに天作五とつくるなり
四進 一十 とは四ツのもの四にわればすなはち一なりもし五なれば一ツ
のこる六ツなれば二ツのこる七は三ツのこるなり
五の段【上段右から横書】
五一 加一 とは一を十とし十を五にわれば二ツになるゆへに一に一を加へて
二とするなり
五二 加二 とは二を二十とし二十を五にわれば四になるゆへ二に二を加へて
四とするなり
【右丁】
五の段【上段右から横書】
五三 加三 とは三を三十とし三十を五にわれば六ツになる三に三を
くはへて六とするなり
五四 加四 とは四を四十とし四十を五にわれは八になるゆへ四に四を
くわへて八とするなり
五進 一十 とは五を五にわればすなはち一なりよつて五をはらふて
一とするなり
六の段【上段右から横書】
六一加下四 とは一を十とし十を六ツにわれば六進一十として左に
一をわりつけ右に四のこるゆへなり
六二三十二 とは右の十四《割書:六二|の数》を二ツ重(かさ)ぬれば二十八と成此八を六進一十とわれば一の
けたは三十と成て下の桁(けた)に二のこるゆへ六二三十二といふなり
六三天作五 とは三を三十とし三十を六ツにわれば六進一十と五度
して五にわりあたるゆへすぐに天作五にするなり
六四六十四 とは右の六二三十二を二ツ
あわせたるものなり
六五八十二 とは五を五十とし五十を六にわれば六進一十と八度して
六八四十八引ゆへ右に二のこるなり
六進 一十 とは六ツあるのものを六ツにわれば
すなはち一なり
七の段【上段右から横書】
七一加下三 とは一を十とし十を七にわれば七進一十として右に三
のこるゆへ一をそのまゝ置て下へ三をくわへるなり
七二加下六 とは右の十三を二ツ
かさねたるなり
【左丁】
七の段【上段右から横書】
七三四十二 とは三を三十とし三十を七にわれば七進一十と四度して
右に二のこるゆへすぐに四十二とす
七四五十五 とは四を四十とし四十を七にわれば七進一十と五度して
右に五のこるゆへ五十五とするなり
七五七十一 五を五十とし五十を七にわれば七進一十と七度して
右に一のこるゆへ七十一とす
七六八十四 六を六十とし六十を七にわれば七進一十と八度して
右に四のこるゆへ八十四とするなり
七進 一十 とは七を七ツにわれば
すなはち一なり
八の段【上段右から横書】
八一加下二 一を十とし十を八ツにわれば八進一十として二残るゆへ
すぐに下へ二くわへるなり
八二加下四 右八一加下二を二ツ
合せたるなり
八三加下六 これも八一を三ツ合せ
たるものなり
八四天作五 四を四十とし四十を八にわれば八進一十五度にあたる
ゆへすぐに天作五とつくるなり
八五六十二 五を五十とし五十を八にわれば八進一十六度にあたり
すなはち二のこるゆへ六十二とするなり
八六七十四 六を六十とし六十を八にわれば八進一十と七度にあたり
四のこるゆへ七十四とす
【右丁】
八の段【上段右から横書】
八七八十六 とは七を七十とし七十を八にわれば八進一十と八度にあたり
六のこるゆへ八十六とするなり
八進 一十 八ツのものを八にわれば
すなはち一なり
九の段【上段右から横書】
九一加下一 一を十とし十を九にわれば九進一十として一ツのこるゆへ
下へ一をくわへるなり
九二加下二 とは二を二十とし二十を九にわれば九進一十と二度して
二のこるゆへ下へ二くわへるなり
九三加下三 とは三を三十とし三十を九にわれば九進一十と三度
して三のこるゆへ三をくわへるなり
九四加下四 とは四を四十とし四十を九にわれば九進一十と四度して
四のこるゆへ下へ四くわへるなり
九五加下五 とは五を五十とし五十を九にわれば九進一十と五度
して五のこるゆへ下へ五くはへるなり
九六加下六 これも右のごとく六を六十とし九進一十と
六度する例なり
九七加下七 これも九進一十を七度
する例なり
九八加下八 とは九進一十を八度する例なり此段は一より八まで
同例のこゑをもつてわるなり
九進 一十 九のものを九ツにわればすなはち一なりゆへに九を
はらふて一とするなり
【左丁】
二之段 《割書:あるひは 銀拾二万三千四百五十六貫七百八十九匁を|二ツに割ば 六万千七百弐十八貫三百九拾四匁五分と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◆匁◆◆◆◆ 八進四十 △二一天作五
◆十◆◆◆ 八進四十 《割書:といふは八をはらひ上へ四あぐる也|是は二進一十を四度あはせていふ》
◆百◆◆ 六進三十 △二一天作五
◆貫◆ 六進三十 《割書:といふは六をはらひ上へ三あぐる也|是は二進一十を三度あはせていふ》
◆十 四進二十 △二一天作五
百◆◆◆◆ 四進二十 《割書:といふは四をはらひ上へ二あぐる也|是は二進一十を二度あはせて云》
千◆◆◆ 二進一十 △二一天作五
万◆◆ 二進一十 《割書:といふは二をはらひ|上へ一あぐるなり》
十◆ 二一天作五《割書:といふは一を五に|つくるなり》
わり
はじめ
一◇◇ 目安 《割書:此法の二を見合せて|こゑをいたすなり》
【下段】
かけざん
【算盤の図】
かけ
はじめ
◆分 二五十 《割書:といふて五を|一につくる》
匁◆◆◆◆ 二四が八 《割書:といふて四をはらひ|下へ八くはへるなり》
◆十◆◆◆◆ 二九十八 《割書:といふて九を一に作る|下へ八くわへる也》
百◆◆◆ 二三が六 《割書:といふて三をはらひ|下へ六くわへる也》
◆貫◆◆◆ 二八十六 《割書:といふて八を一に作り|下へ六くわへる也》
十◆◆ 二二が四 《割書:といふて二を払ひ|下へ四くわへる也》
◆百◆◆ 二七十四 《割書:といふて七を一に作り|下へ四くわへる也》
千◆ 一二が二 《割書:といふて一をはらひ|下へ二くわへる也》
◆万◆ 二六十二 《割書:といふて六を一に作り|下へ一くわへる也》
一◇◇ 目安上に同し
【右丁】
三之段 《割書:あるひは 米拾二万三千四百五十六石七斗八升九合を|三ツに割ば 四万千百五拾弐石二斗六升三合と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◆合◆◆◆◆ 九進三十
◆升◆◆◆ 九進三十 《割書:といふは九をはらひ上へ三上る也|是は三進一十を三度合せていふ》
◆斗◆◆ 六進二十 △三一卅一
◆石◆ 六進二十
◆十 六進二十 《割書:といふは六をはらひ上へ二上る也|是は三進一十を二度合せていふ》
百◆◆◆◆ 三進一十 △三一卅一
千◆◆◆ 三進一十
万◆◆ 三進一十 《割書:といふは三をはらひ|上へ一あぐるなり》
十◆ 三一卅一 《割書:といふは此一を三につくり|下のけたへ二くはへるなり》
わり
はじめ
一◇◇◇ 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
かけはじめ
合◆◆◆ 三三が九 《割書:と云て三をはらひ|下へ九くわへる也》
◆升◆ 三六十八 《割書:と云て六を十に作り|下へ八くわへる也》
斗◆◆ 二三が六 《割書:といふて二をはらひ|下へ六くわへる也》
石◆◆ 二三が六 《割書:右に同じ》
◆十 三五十五 《割書:といふて五を一に作り|下へ五くわへる也》
百◆ 一三が三 《割書:といふて一をはらひ|下へ三くはへる也》
千◆ 一三が三 《割書:右に同じ》
万◆◆◆◆ 三四十二 《割書:と云て四を一に作り|下へ二くはへる也》
一◇◇◇ 目安
【左丁】
四之段 《割書:あるひは 銀拾二万三千四百五十六貫七百八十九匁を|四ツに割ば 三万・八百六拾四貫百九十七匁二分五厘と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◇◇◇◇ 四二天作五
◆匁◆◆◆◆ 八進二十 △四一廿二
◆十◆◆◆ 八進二十 △四二天作五
◆百◆◆ 四進一十 △四三七十二
◆貫◆ 八進二十 《割書:といふは八をはらひ上へ二あくる也|これは四進一十を二度合せていふ也》
◆十 四進一十 △四一廿二
百◆◆◆◆ 四進一十 △四二天作五《割書:といふて四を五に|つくるなり》
千◆◆◆ 四三七十二《割書:といふは三を七に作り下へ|二くはへるなり》
万◆◆ 四進一十 《割書:といふは四をはらひ|上へ一あぐるなり》
十◆ 四一廿二 《割書:といふは一を二につくり下へ|二くわへるなり》
わり
はじめ
一◇◇◇◇ 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
かけはじめ
◆厘 四五二十《割書:といふて五を|二に作る也》
分◆◆ 二四が八《割書:といふて二をはらひ|下へ八くわへるなり》
◆匁◆◆ 四七廿八《割書:といふて七を二に作り|下へ八くわへる也》
◆十◆◆◆◆ 四九卅六《割書:といふて九を三に作り|下へ六くわへる也》
百◆ 一四が四《割書:といふて一をはらひ|下へ四くわへる也》
貫◆◆◆◆ 四四十六《割書:といふて四を二に作り|下へ六くはへる也》
◆十◆ 四六廿四《割書:といふて六を十作り|下へ四くわへる也》
◆百◆◆◆ 四八卅二《割書:といふて八を三に作り|下へ二くわへるなり》
千◇
万◆◆◆ 三四十二《割書:といふて三を十に作り|下へ二くわへるなり》
一◇◇◇◇ 目安
【右丁】
五之段 《割書:あるひは 米拾二万三千四百五十六石七斗八升九合を|五ツに割は 弐万四千六百九十一石三斗五升七合八勺と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◆合◆◆◆◆ 五進一十 △五四加四
◆升◆◆◆ 五進一十 △五三加三
◆斗◆◆ 五進一十 △五二加二
◆石◆ 五進一十 △五一加一
◆十 五進一十 《割書:といふは五をはらひ上へ|一あぐるなり》
百◆◆◆◆ 五四加四 《割書:といふは四を八に|つくるなり》
千◆◆◆ 五三加三 《割書:といふは三を六に|つくるなり》
万◆◆ 五二加二 《割書:といふは二を四に|つくるなり》
十◆ 五一加一 《割書:といふは一を二に|つくるなり》
わり
はじめ
◇一 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
かけはじめ
◆勺◆◆◆ 五八四十 《割書:といふて八を|四につくる也》
◆合◆◆ 五七卅五 《割書:といふて七を三に|作り下へ五くはへる》
◆升 五五廿五 《割書:と云て五を二に|作り下へ五くはへる》
斗◆◆◆ 三五十五 《割書:といふて三を一に|作り下へ五くはへる》
石◆ 一五が五 《割書:といふて一をはらひ|下へ五くはへる》
◆十◆◆◆◆ 五九四十五《割書:といふて九を四に|作り下へ五くはへる》
◆百◆ 五六三十 《割書:といふて六を|三につくる》
千◆◆◆◆ 四五二十 《割書:といふて四を|二につくる也》
万◆◆ 二五十 《割書:といふて二を|一につくるな也》
◇一 目安
【左丁】
六之段 《割書:あるひは 銀拾二万三千四百五十六貫七百八十九匁を|六ツに割ば 弐万◦五百七拾六貫百三十壱匁五分と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◆匁◆◆◆◆ 六進一十 △六三天作五
◆十◆◆◆ 六進一十 △六進一十
◆百◆◆ 六進一十 △六一加下四
◆貫◆ 六進一十
◆十 六進一十 △六三天作五
百◆◆◆◆ 六四六十四《割書:といふて此四を六につくり|下のけたへ四くわへるなり》
千◆◆◆ 六三天作五《割書:といふて此三を|五につくるなり》
万◆◆ 六進一十 《割書:といふて此けたの六をはらひ|上のけたへ一くわへるなり》
十◆ 六一加下四《割書:といふて此一を其まゝ置|下のけたへ四くわへるなり》
わり
はじめ
◇一◇ 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
かけ
はじめ
◆分 五六三十 《割書:といふて此五を|三につくるなり》
匁◆ 一六が六 《割書:といふて此一をはらひ|下のけたへ六くはへる也》
十◆◆◆ 三六十八 《割書:といふて此三を一に作り|下のけたへ八くわへる也》
百◆ 一六が六 《割書:右にあり》
◆貫◆ 六六卅六 《割書:といふて此六を三に作り|下のけたへ六くわへる也》
◆十◆◆ 六七四十二《割書:といふて此七を四に作|下のけたへ二くわへる也》
◆百 五六三十 《割書:右にあり》
千
万◆◆ 二六十二 《割書:といふて此二を一に作り|下のけたへ二くわへる也》
◇一◇ 目安
【右丁】
七之段 《割書:あるひは 米拾二万三千四百五十六石七斗八升八合を|七ツに割ば 壱万七千六百三十六石六斗八升四合と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◆合◆◆◆◆ 七進一十△七進一十
◆升◆◆◆ 七進一十△七二加下六《割書:といふて二を其まゝ|置下へ六くはへる也》
◆斗◆◆ 七進一十△七五七十一
◆石◆ 七進一十△七四五十五
◆十 七進一十△七四五十五
百◆◆◆◆ 七進一十《割書:といふて|七をはらひ|上へ一加へる也》七二加下六《割書:といふて二を|其まゝ置|下へ六くはゆ》
千◆◆◆ 七四五十五《割書:といふて此四を五につくり|下のけたへ五くわへるなり》
万◆◆ 七五七十一《割書:といふて此五を七につくり|下のけたへ一くわへるなり》
十◆ 七一加下三《割書:といふて此一を其まゝ置|下のけたへ三くはへる也》
わり
はじめ
◇一◇◇ 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
勺
かけはじめ
合◆◆◆◆ 四七廿八 《割書:といふて此四を二につくり|下のけたへ八くわへる也》
◆升◆◆◆ 七八五十六《割書:といふて此八を五に作り|下のけたへ六加へる也》
◆斗◆ 六七四十二《割書:といふて此六を四に作り|下のけたへ二くはへる也》
◆石◆ 六七四十二《割書:右に同じ》
十◆◆◆ 三七廿一 《割書:といふて此三を二に作り|下のけたへ一くはへる也》
◆百◆ 六七四十二《割書:右にあり》
◆千◆◆ 七七四十九《割書:と云て此七を四に作|下のけたへ九くはへる也》
万◆ 一七が七 《割書:といふて此一をはらひ|下のけたへ七くはへる也》
◇一◇◇ 目安
【左丁】
八之段 《割書:あるひは 銀拾二万三千四百五十六貫七百八十九匁を|八ツに割ば 弐万五千四百三拾二貫◦九十八匁六分二厘五毛と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
厘 八四天作五
分 八二加下四
◆匁◆◆◆◆ 八進一十△八五六十二《割書:といふて五を六に|つくる下へ二加へる也》
◆十◆◆◆ 八進一十△八六七十四《割書:といふて六を七に|つくり下へ四くはへる》
◆百◆◆ 八七八十六《割書:といふて此七を八につくり|下のけたへ六くわへる也》
◆貫◆ 八進一十
◆十 八進一十△八一加下二
百◆◆◆◆ 八進一十《割書:八をはらひ|上へ一加へる》八二加下四《割書:二を其まゝ置|下へ四くはへる也》
千◆◆◆ 八三加六下《割書:といふて此三を其まゝ置|下のけたへ六くわへるなり》
万◆◆ 八四天作五《割書:といふて此四を|五につくるなり》
十◆ 八一加下二《割書:といふて此二を其まゝ置|下のけたへ二くわへるなり》
わり
はじめ
◇一◇◇◇ 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
かけ
はじめ
◆毛 五八四十 《割書:といふて此八を|四につくるなり》
厘◆◆ 二八十六 《割書:といふて此二を十に作り|下のけたへ六くわへる也》
◆分◆ 六八四十八《割書:此六を四につくり|下のけたへ八くはへる也》
◆匁◆◆◆ 八八六十四《割書:此八を六につくり|下のけたへ四くわへる》
◆十◆◆◆◆ 八九七十二《割書:此九を七につくり|下のけたへ二くわへる也》
百
貫◆◆ 二八十六 《割書:といふて此二を十につくり|下のけたへ六くはへる也》
十◆◆◆ 三八廿四 《割書:此三を二につくり|下のけたへ四くわへる也》
百◆◆◆◆ 四八卅二 《割書:といふて四を三につくり|下のけたへ二くはへる也》
◆千 五八四十 《割書:右にあり》
万◆ 一八が八 《割書:といふて此一をはらひ|下のけたへ八くわへる也》
◇一◇◇◇ 目安
【右丁】
九之段 《割書:あるひは 米拾二万三千四百五十六石七斗八升九合を|九ツに割ば 壱万三千七百拾七石四斗弐升壱合と成》
【上段】
わりざん
【算盤の図】
◆合◆◆◆◆ 九進一十
◆升◆◆◆ 九進一十
◆斗◆◆ 九進一十△九一加下一
◆石◆ 九進一十△九三加下三
◆十 九六加下六
百◆◆◆◆ 九進一十 《割書:といふて此九を|はらひ上へ一加へる》△九一加下一
千◆◆◆ 九六加下六《割書:といふて此六を其まゝ置|下のけたへ六くわへるなり》
万◆◆ 九三加下三《割書:といふて此三を其まゝ置|下のけたへ三くわへるなり》
十◆ 九一加下一《割書:といふて此一を其まゝ置|下のけたへ一くわへるなり》
わり
はじめ
◇一◇◇◇◇ 目安
【下段】
かけざん
【算盤の図】
勺
かけ
はじめ
合◆ 一九が九 《割書:といふて此一をはらひ|下のけたへ九くはへる也》
升◆◆ 二九十八 《割書:此一を一につくり|下へ八くわへる也》
斗◆◆◆◆ 四九卅六 《割書:此四を三につくり|下へ六くわへる也》
◆石◆◆ 七九六三 《割書:此七を六につくり|下へ三くはへる也》
十◆ 一九が九 《割書:右にあり》
◆百◆◆ 七九六十三《割書:右にあり》
千◆◆◆ 三九廿七 《割書:此三を二につくり|下へ七くわへる也》
万◆ 一九が九 《割書:右にあり》
◇一◇◇◇◇ 目安
【左丁】
○見一之声《割書:並|》註
【上欄】【中欄】 【下欄】
見一 無頭 作(さく)九一(きういち)《割書:○帰一倍一|○一進一十》 《割書:是は十一より十九のうへの者にわるとき用るなり|又は百の上の者も千の上の者にわるもおなじ事也》
見二 無頭作九二《割書:○帰一倍二|○八算二ノ段入》 《割書:是は廿一より廿九の上の者にわるとき用ゆるなり|又二百の上の者二万の上の者にわるも同じ事也》
見三 無頭作九三《割書:○帰一倍三|○同三ノ段入》 《割書:是は三十一より卅九の上の者に割時に用る也又三百の|上の者三千の上の者三万の上の者に割も同事也》
見四 無頭作九四《割書:○帰一倍四|○同四ノ段入》 《割書:是は四十一より四十九の上の者にわる時用ゆる也又四百の|上の者四千の上の者四万の上の者にわるも同じ事也》
見五 無頭作九五《割書:○帰一倍五|○同五ノ段入》 《割書:是は五十一より五十九の上の者にわるとき用る也|五百の上者五千の上者五万の上者に割も同事也》
見六 無頭作九六《割書:○帰一倍六|○同六ノ段入》 《割書:是は六十一より六十九の上の者にわるとき用る也|又六百の上の者六千の上者六万の上者に割も同事》
見七 無頭作九七《割書:○帰一倍七|○同七ノ段入》 《割書:是は七十一より七十九の上の者にわるとき用ゆる也|又七百の上者七千の上者七万の上者に割も同事也》
見八 無頭作九八《割書:○帰一倍八|○同八ノ段入》 《割書:是は八十一より八十九の上の者に割る時用る也又八百|の上の者八千の上の者八万の上者に割も同じ事也》
見九 無頭作九九《割書:○帰一倍九|○同九ノ段入》 《割書:是は九十一より九十九の上の者にわるとき用ゆるなり|又九百の上の者九千の上者九万の上者に割も同事也》
【右丁】
見一わり算《割書:たとへば|》銀百匁を《割書:十六に割ば|》六匁弐分五厘と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
㊂五進五十《割書:といふて五をはらひ上へ五あぐるなり此五と法の六と見あわせ|五六三十此けたにて引なり》
匁 ㊁二進二十《割書:といふて二をはらひ上へ二あぐるなり此二と法の六と見合二六十二|引といふて此けたにて十引次のけたにて二引くなり》
十 ㊀六六三十六引《割書:といふて此けた四の内三十引下のけたにて六引ぬゆへ此けたの一を取て下|のけたへ四くはへるこれを六引て四のこるといふなり》
実 百◆ 《割書:|《割書: | |わり| はじめ》》㊀見一無頭作九一《割書:見一無頭作九一といふて一を九につくり下へ一くわへる也扨実の九と法の六と|見合六九五十四次の桁にて引ぬ時帰一倍一と云て一ツ引下へ一加る《割書:此ごとく三度する也此|けたに六と次に四あり》》
◇一◇
法
十◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけはじめ》㊀《割書:上のけたの五と左の六と見合五六三十といふて此けたに|三くわへるなり》
◆厘 ㊀一五が五《割書:といふて五をはらひ下へ五くはへる㊁上のけたの二と法の六と|見合二六十二といふて此けたに十加へ下の桁に二くはへる也》
分◆◆ ㊁一二が二《割書:といふて二をはらひ下へ二くはへる㊂上のけたの六と法の六と|見合六六三十六と云て此桁に卅加へ下のけたへ六くわへる也》
かけざん ◆匁◆ ㊂一六が六《割書:といふて六をはらひ下へ六くわへる也》
◇一◇
法
十◇
【左丁】
見二わり算《割書:たとへば|》米弐百廿壱石を《割書:二十六に割ば|》八石五斗と成なり
【上算盤の図】 【下説明の段】
石◆ ㊁五六三十引《割書:といふて上のけたの五と法の六と見合此桁にて三十引はらふ也》
十◆◆ ㊀六八四十八引《割書:といふて実の八と法の六と見合|此桁にて四十引次の桁にて八引也》㊁《割書:のこる一を二一天作五といふて|一を五につくるなり》
実
百◆◆ 《割書:|《割書: | |わり| はじめ》》㊀見二無頭作九二《割書:といふて二を九につくり下へ二くわへる也扨実の九と法の六と見合六九五|十四つぎのけたにて引けぬ時に帰一倍二といふて一ツはらひ下へ二くはへる也》
◇一◇
法
十◇◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけ| はじめ》 ㊀五六三十《割書:といふて上のけたの五と法の六と見合此桁に三十くはへる也》
◆斗 ㊀二五十《割書:といふて五を|一につくる》㊁六八四十八《割書:と云て上のけたの八と法の六と|見合此桁に四くはへ下の桁に八くはへる》
◆石◆◆◆ ㊁二八十六《割書:といふて此桁の八と法の二と見合八を一に作り下へ六加る也》
かけざん
◇一◇
法
十◇◇
【右丁】
見三わり算《割書:たとへば|》銀弐貫四百四十四匁を《割書:三百七十六に割ば|》六匁五分と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
匁◆◆◆◆ ㊁五六三十引《割書:といふて実の二桁目の五と法の六と見合此桁にて三十引はらふ也》
十◆◆◆◆ ㊀六六卅六引《割書:と云て実の六と法の六と|見合此けたにて三十引|次のけたにて六ひくなり》㊁《割書:此けたに九あるを|六進が二十と云て|六はらひ上へ二上る》㊁《割書:扨此上のけたに五あり此五と法の七|と見合五七三十五といふて此けた|にて三十引次のけたにて五引也》
百◆◆◆◆ ㊀六七四十二引《割書:といふて実の六と法の七と見合|此桁にて四十引次の桁二引也》㊁《割書:扨此けたにのこる一を法の三にて三一卅一|といふて一を三に作り下へ一くわへる也》
実
貫◆◆ 《割書:|《割書: | |わり| はじめ》》㊀三二六十二《割書:といふて此けたの二と法の三と見合|二を六につくり下へ二くわへるなり》
◇一◇
◇十◇◇
法
百◇◇◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけ| はじめ》㊀《割書:右の五と法の六と見合五六三十此桁にくわへる也》
㊀《割書:右の五と法の七と見合五七卅五と|いふて此桁に三加へ次の桁に五くはへる也》㊁《割書:右の六と法の六と見合六六三十六と|いふて此桁に三くはへ次の桁へ三くはへる》
◆分 ㊀《割書:此桁の五と法の三と見合三五十五|といふて五を一に作り下へ五加へる也》㊁《割書:右の六と法の七と見合六七四十二と|いふて此桁に四加へ次の桁に二くはへる也》
◆匁◆ ㊁《割書:此けたの六と法の三と見合三六十八といふて|六を一につくり下へ八くわへるなり》
かけざん
◇一◇
◇十◇◇
法
百◇◇◇
【左丁】
見四わり算《割書:たとへば|》米四千四百◦壱石を《割書:四十五に割ば|》九斗七升八合と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
石◆ ㊂四進一十《割書:といふて四をはらひ上へ一上る也|のこり此けたに四あり》㊂《割書:実の八と法の五と見合五八四十|此けたにて引也》
十 ㊁五七三十五引《割書:といふて実の七と法の五と見合|此桁にて四引下へ五くはへるなり》㊂《割書:のこる三を四三七十二といふて|三を七につくり下へ二をくはへる也》
百◆◆◆◆ ㊀五九四十五引《割書:といふて実の九と法の五と見合|此桁にて五引下へ五くはへる也》㊁《割書:のこる三を四三七十二といふて|三を七につくり下へ二くはへる也》
千◆◆◆◆《割書:|《割書: | |わり| はじめ》》㊀見四無頭作九四《割書:といふて四を九につくり下へ四くわへる也》
実
◇一
法
十◇◇◇◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけ| はじめ》 ㊀《割書:上の桁の八と法の五と見合五八四十といふて|此けたへ四くわへるなり》
◆合◆◆◆ ㊀《割書:此桁の八と法の四と見合四八三十二と|いふて八を三につくり下へ二くわへる也》㊁《割書:上の桁の七と法の五と見合五|七卅五と云て此桁へ三加へ次へ五加へる》
◆升◆◆ ㊁《割書:此桁の七と法の四と見合四七廿八と云て|七を二につくり下へ八くわへる也》㊂《割書:上の桁の九と法の五と見合五|九四十五と云て此桁へ四下へ五加る》
かけざん ◆斗◆◆◆◆ ㊂《割書:此桁の九と法の四と見合四九三十六といふ也|九を三につくり下へ六くわへる也》
◇一
法
十◇◇◇◇
【右丁】
見五わり算《割書:たとへば|》銀三貫八百七十目を《割書:五百十六に割ば|》七匁五分と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
匁 ㊁一五が五引《割書:といふて実の五と法の一と|見合此桁にて五引くなり》㊁五六三十引《割書:といふて実の五と法の六と|見合此けたにて三引く也》
◆十◆◆ ㊀一七が七引《割書:と云て実の七と|法の一と見合此|桁にて七引なり》㊁《割書:又実の七と法の六と見合|六七四十二引といふて此けた|にて四引次の桁にて二引也》㊁《割書:此桁に五有を五進が一十と云て|五をはらひ上へ一上なり》
◆百◆◆◆ ㊀五進一十《割書:といふて此桁にて五はらひ|上へ一くわへるなり》㊁《割書:此けたに二あるを五二倍作四といふて|二を四につくるなり》
貫◆◆◆《割書:|《割書: | |わり| はじめ》》㊀五三倍作六《割書:といふて三を六につくるなり》
実
◆一◇
◇十◇
法
◇百
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけ| はじめ》 ㊀《割書:右の五と法の六と見合五六卅と|いふて此けたに三くわへるなり》㊀《割書:右の五と法の一と見合一五が五と|いふて此桁に五くわへるなり》
㊁《割書:右の七と法の六と見合六七四十二と|此けたに四くはへ下の桁へ二くわへるなり》㊁《割書:右の七と法の一と見合一七が|七と云て此桁に七くはへる也》
◆分 ㊀《割書:此桁の五と法の五と見合五五廿五といふて|五を二につくり下へ五くわへるなり》
かけざん ◆匁◆◆ ㊁《割書:此けたの七と法の五と見合五七三十五といふて|七を三につくり下へ五くわへるなり》
◇一◇
十◇
法
◇百
【左丁】
見六わり算《割書:たとへば|》米六千四百四十壱石を《割書:六百七十八に割ば|》九石五斗と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
石◆ ㊁五八四十引《割書:といふて実の五と法の八と見合|此けたにて四引はらふ也》
十◆◆◆◆ ㊀八九七十二引《割書:といふて実の九と法の八と見合|此桁にて七引次の桁にて二引也》㊁《割書:実の五と法の七と見合五七三十五|引と云て此桁にて三次にて五引也》
百◆◆◆◆ ㊀七九六十三引《割書:といふて実の九と法の七と見合|此桁にて六引次の桁にて三引也》㊁《割書:此桁に三のこるを六三天作五といふ|て三を五につくるなり》
◆千◆《割書:| 《割書: | |わり| はじめ》》㊀見六無頭作九六《割書:といふて六を九につくり下へ六くわへる也》
実
◇一◇◇◇
◇十◇◇
法
◇百◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけはじめ》 ㊀《割書:右の五と法の八と見合五八四十といふて|此けたに四くわへるなり》
㊀《割書:右の五と法の七と見合五七三十五と|いふて此桁に三くはへ下へ五くわへる也》㊁《割書:右の九と法の八と見合八九七十二|と云て此桁に七くはへ下へ二くわへる》
◆斗 ㊀《割書:此けたの五と法の六と見合五六卅|といふて五を三につくるなり》㊁《割書:右の九と左の七と見合七九六十三|といふて此桁に六くはへ下へ三くはへる也》
◆石◆◆◆◆㊁《割書:此桁の九と法の六と見合六九五十四といふて九を五に|つくり下へ四くわへるなり》
かけざん
◇一◇◇◇
◇十◇◇
法
◇百◇
【右丁】
見七わり算《割書:たとへば|》銀六貫九百七十三匁を《割書:七百三十四に割ば|》九匁五分と成なり
【上算盤の図】 【下説明の段】
匁◆◆◆ ㊁四五弐十引《割書:といふて実の五と法の四と見合此桁にて引はらふなり》
◆十◆◆ ㊀四九卅六引《割書:といふて実の九と|法の四と見合此けた|にて三引次にて六引也》㊁《割書:七進一十といふて|此けたにて七はらひ|上へ一くわへる也》㊁《割書:実の五と法の三と見合三五十五引|といふて此けたにて一引次のけた|にて五ひくなり》
◆百◆◆◆ ㊀七進一十《割書:といふて此けたにて七|はらひ上へ一加へるなり》㊀《割書:実の九と法の三と見合三|九廿七引といふて此けたにて|二引次のけたにて七引なり》㊁《割書:此けたに三あるを七三四十|二といふて三を四につくり|下へ二くわへるなり》
◆貫◆ 《割書:|《割書: | |わり | はじめ》》㊀七六八十四《割書:といふて六を八につくり下へ四くわへるなり》
実
一◇◇◇◇
十◇◇◇
法
◇百◇◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけはじめ》㊀《割書:右の五と法の四と見合四五二十といふて此桁へ二くわへる也》
㊀《割書:右の五と法の三と見合三五十五と|いふて此けたへ一くわへ下へ五くわへる也》㊁《割書:右の九と法の四と見合四九卅|六と云て此桁へ三加へ下の桁へ六加る》
◆分 ㊀《割書:此桁の五と法の七と見合五七卅五|といふて五を三につくり下へ五くはへる也》㊁《割書:右の九と法の三と見合三九廿七|といふて此桁へ二くはへ下へ七くはへる也》
◆匁◆◆◆◆ ㊁《割書:此桁の九と法の七と見合七九六十三と云て九を六に作り下へ三加へる也》
かけざん 一◇◇◇◇
十◇◇◇
法
◇百◇◇
【左丁】
見八わり算《割書:たとへば|》米八百十◦石九斗八升を《割書:八千六百に割ば|》九升四合二勺と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
◆升◆◆◆ ㊂八進一十《割書:実の三と法の六と見合三六十八引といふて此桁にて一引次の桁にて八引也》
◆斗◆◆◆◆ ㊁八進一十《割書:といふて八をはらひ|上へ一上るなり》㊁《割書:実の四と法の六と見合|四六廿四引といふて此けた|にて二引次のけたにて四引也》㊂《割書:此桁に二のこるを八二加下四と云て|二を其まゝ置次の桁へ四くはへる》
石 ㊀六七五十四引《割書:と云て実の九と法の六と見合|此桁にて五引次の桁にて四引也》㊁《割書:此桁に三のこるを八三加下六といふ|て三を其儘置次の桁へ六くわへる》
十◆ ㊀見八無頭作九八《割書:といふて八を九につくり下へ八くわへる也》
実 ◆百◆◆◆
《割書:わりはじめ|》
◇百◇
法 ◇千◇◇◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけ| はじめ》 ㊀《割書:上のけたの三と法の六と見合三六十八といふ也|此桁に一くわへ下のけたへ八くはへるなり》
勺◆◆◆ ㊀《割書:此けたの三と法の八と見合三八二十四と|いふて三を二に作り下へ四くわへる也》㊁《割書:上の桁の四と法の六と見合四六廿|四といふて此桁へ二加へ下へ四くわへる也》
合◆◆◆◆㊁《割書:此けたの四と法の八と見合四八三十二と|いふて四を三に作り下へ二くわへる也》㊂《割書:上のけたの九と法の六と見合六九五|十四といふて此桁に五加へ下へ四くはへる也》
かけさん ◆升◆◆◆◆㊂《割書:此桁の九と法の八と見合八九七十二といふて九を七につくり下へ二加る也》
◇百◇
法
◇千◇◇◇
【右丁】
見九わり算《割書:たとへば|》銀六貫九百九十目を《割書:九百三十二に割ば|》七匁五分と成也
【上算盤の図】 【下説明の段】
㊁《割書:実の五と法の二と見合二五十引といふて此桁にて一はらふなり》
◆十◆◆◆ ㊀二七十四引《割書:といふて実の七と法の|二と見合此けたにて|引次にて四引なり》㊁九進一十㊁《割書:実の五と法の三と見合三五十五引|といふて此桁にて一引次にて五引なり》
◆百◆◆◆◆ ㊀九進一十《割書:といふて九をはらひ|上へ一あぐるなり》㊀《割書:実の七と法の三と見合|三七廿一引といふて此けた|にて二引次のけたにて一引なり》㊁《割書:此けたに四のこるを九四加下|四といふて四をそのまゝをき|下へ四くはへる也》
◆貫◆ 《割書:|《割書: | |わり | はじめ》》㊀九六加下六《割書:といふて六を其まゝ置下へ六くわへるなり》
実
一◇◇
十◇◇◇
法
◇百◇◇◇◇
【下算盤の図】【下説明の段】
《割書:かけはじめ》㊀《割書:右の五と法の二と見合二五十といふて此桁へ一くわへる也》
㊀《割書:右の五と法の三と見合三五十五と|いふて此桁へ一くわへ下の桁へ五くはへる也》㊁《割書:右の七と法の二と見合二七|十四と云て此桁へ一加へ下へ四加へる》
◆分 ㊀《割書:此けたの五と法の九と見合五九四十五|と云て五を四につくり下へ五くはへる也》㊁《割書:右の七と法の三と見合三九廿|一といふて此桁へ二加へ下へ一加へる也》
◆匁◆◆ ㊁《割書:此桁の七と法の九と見合七九六十三と云て七を六に作り下の桁へ三加へる也》
かけざん
一◇◇
十◇◇◇
法
◇百◇◇◇◇
【左丁】
○かけてわれるさんの事
【上段】
【算盤の図】 ○米五千六百七十八石を
九石 ◆石◆◆◆ 五八四十 二ツに割ときは下ゟ
三十 ◆十◆◆ 五七卅五 五をもつてかくれば
八百 ◆百◆ 五六三十 弐千八百三十九石
二千 ◆千 五五廿五 と成なり
【算盤の図】 ○銀六貫弐百八十九匁を
八分
七匁 ◆匁◆◆◆◆ 二九十八 五ツに割ときは下ゟ
五十 ◆十◆◆◆ 二八十六 二をもつてかくれば
二百 百◆◆ 二二が四 壱貫二百五十七
一貫 ◆貫◆ 二六十二 匁八分と成
【下段】
【算盤の図】 ○米九千八百七十六石を
四升
○ ◆石◆ 四六廿四 二十五にわるときは
五石 ◆十◆◆ 四七廿八 下ゟ四を以て掛れば
九十 ◆百◆◆◆ 四八卅二 三百九十五石〇四
三百 ◆千◆◆◆◆ 四九卅六 升と成なり
【算盤の図】 ○米九千八百七十六石を
八合
◆石◆ 六八四十八 百廿五に割ときは
◆十◆◆ 七八五十六 下ゟ八を以て掛れば
九石 ◆百◆◆◆ 八八六十四 七十九石〇〇八合
七十 ◆千◆◆◆◆ 八九七十二 と成なり
○わりてかけざんに成事
【上段】
【算盤の図】
分◆◆ 四進一十 ○銀弐百十一匁
八十匁 匁◆ 四三七十二 弐分に廿五を掛
二百 十◆ 四一二十二 る時は四を以て割ば
五貫 百◆◆ 四二天作五 五貫二百八十目と
成也
【下段】
【算盤の図】
五石 升◆◆◆◆ 八四天作五 ○米三拾一石二斗
斗◆◆ 八進一十 四升に百二十五を
九百 石◆ 八七八十六 掛る時は八をもつて
三千 十◆◆◆ 八三加下六 われば三千九百〇石
五石と知る也
【右丁】
○金にて米売買の事
○米八拾一石を金壱両に付二石五斗がへの相場にて両がへ壱両銀六十目がへ
にて右の代金何ほどゝ問答曰金三十弐両壱歩と銀九匁といふ右に米八百
拾石と置左に相場二石五斗にて割ば卅弐両四と成此四の内二五を一ぶんにして
残る一五へ銀の両替六十目をかけて知なり
○金三拾弐両壱歩と銀九匁にて米を買とき金壱に付米弐石五斗替
の米何ほどゝ問《割書:金壱両に付|相場六十目也》答曰米八十壱石也術曰先銀九匁を相場六十目
にて割は永銭百五十文を得る又金壱歩の永銭弐百五十文を加へて次に四百文
と成に卅弐両を加へ三十二両永銭四百文合三二四と成に金壱両の米二石五斗を掛る也
○上米金壱両に付壱石弐斗五升がへ○中米同壱石六斗がへ○下米同弐
石替○餅米同弐石五斗がへ○大豆同三石弐斗がへの相場にて今有金弐百十
六両三歩と銀三匁有是にて右五品を升目等分に買ふあり何程づゝと問○八
拾弐石壱斗九升五合五勺二才一三といふ○上米代六拾五両三歩五分五厘○中米
代五拾壱両壱歩七匁四分六厘○下米代四十壱両五匁九分七厘○餅米代卅弐
【左丁】
両■七匁七分七厘○大豆代廿五両弐歩拾壱匁弐分五厘也○法に金壱両を上
米の相場壱石弐斗五升にて割ば八と成又壱両を中米の相場壱石六斗われば
六二五と成又壱両を下米の相場壱石に割は五と成又餅米の相場弐石五斗にて
割ば四と成又壱両を大豆の相場三石弐斗にて割ば三一二五と成扨五口合二六三
七五と成是にて有金を割也但し三歩は七五銀三匁は五としてくわへ弐百十
六両八にて割ばしるなり 《割書:但金壱両に付相復六十目》
○銀にて米のうり買の事
○米八百拾石あり銀拾匁に付米四斗三升弐合の相場にて米代銀何程と問
答曰銀拾八貫七百五拾目と知る也右に米八百拾石と置左に相場四斗三升二
合と置て右の米を四斗三升弐合にて割ば拾八貫七百五十目と成也米高を
米相場にて割ば銀と成銀をかくれば米と知るべし
○銀十三貫四百五十六匁八分六厘を以て一石に付廿三匁七分五厘がへの米を買(か)ふ
とき石高何程と問答曰五百六十七石八斗也術曰有銀十三貫四百八十五匁二分
五厘を置て一石の相場廿三匁七分五厘を以て割ば石高五百六十七石八斗と成也
【右丁】
○米弐千八百七十五石の代銀七十三貫六百目の時一石に付相場何程と問答曰
相場廿五匁六分也術曰《割書:七十三貫|六百目》を置《割書:二千八百|七十五石》にて割ば相場《割書:廿五匁|六分》と成なり
【上段】
銀四十目の時 拾匁に付 米弐斗五升がへ
同四十五匁の時 同 同二斗二升二合二勺
同五十目の時 同 同弐斗
同五十五匁の時 同 同一斗八升一合七勺
同六十目の時 同 同一斗六升六合七勺
同六十五匁の時 同 同一斗五升三合八勺
同七十目の時 同 同一斗四升一合九勺
【下段】
銀七十五匁の時 同 米一斗三升三合四勺
同八十目の時 同 同壱斗弐升五合
同八十五匁の時 同 同壱斗一升七合
同九十目の時 同 同一斗一升一合壱勺
同九十五匁の時 同 同一斗五合壱勺
同百目のとき 同 同壱斗
○俵まはしの事
○米八百五十石あり但し一石に付三升づゝかん立時は正味升目何程と問答曰正味升
八百廿四石五斗也術曰常の一石を置て内かん三升を引残り九斗七升と成をもつて
石高八百五十石に掛れば正味の升目八百廿四石五斗と成なり
○四斗俵五千三百七十俵あり是を石に直して高何ほどゝ問答曰弐千百四十八
石なり右五千三百七十俵を置て四斗をかくるなり
○蔵の内に四斗八升俵六百俵あり但し四斗八升俵に付直段十三匁づゝに定て四
【左丁】
斗俵も三斗二升俵も代銀各三口何程と云三口合千八百俵の代銀拾九貫五百目也
四斗八升俵六百俵に拾三匁を掛れば七貫八百目と成刻四斗八升俵の代銀也又四斗八升を置
四斗にて割ば十二と成是を法にして七貫八百目を割ば四斗俵の代銀六貫五百目と成又四斗八
升を三升二斗にて割ば一五と成を法にして七貫六百俵を割ば五貫二百目と三斗二升俵の代銀を得る也
各三口合十九貫五百目と知る也
【挿し絵】
【右丁】
○杉なり俵づもりの事
【上段】
○此杉なりの下のはへ八俵あり惣数
何程と問答卅六俵ありと云
右下ばへ八俵と置
是に九俵を掛れば 【俵積 図】
七十二俵と是を二ツに
割ば卅六俵と知る也或は下併(したばへ)
何程にても一俵増掛合二ツに割は惣数知る也
【下段】
○杉形(すぎなり)下 併(ばへ)一俵増にかけ
二ツに割事は或は八俵の杉 形(なり)
二ツ合時は如此四方に成然ば
下八俵に一俵の止(とま)りかならぶ
ゆへ合下九俵と成上は八俵也
是に依て俵一俵増事は何も同前
又二ツに割事は八俵に九俵を懸ば八九七十二俵と成
【俵積 逆俵積 図】
是は四方の
つもりなれるが【?】
半分はなきゆへ
二つにわる也
【上段】
○長屋の下俵杉に積む有
尤上 低(ひく)きゆへ止(とま)り一俵にならず
八俵あり下のはへ卅俵也此杉何
ほどぞと問ふ答て二百十弐俵
ありと云法に下卅俵に一俵加へて高さ
八俵引ば残廿三俵あり是に下卅俵を
加へ五十三俵と成是へ高さ八俵をかくれば
四百廿四俵と成二ツに割ば二百十二俵と知る也
【下段】
【俵積み 長屋 松 挿し絵】
【左丁】
○蔵の内の俵数を積る算
○此蔵に積(つ)む所の俵数何程と問答曰弐千五百九十二俵入といふ術曰高サ二間
横二間掛れば四 坪(つぼ)と成是に長さ九間を掛れば卅十六坪と成是に一坪の法七十弐を
掛れば二千五百九十二俵と知る也但一坪に六十二俵半入ともいふ此(これ)を卅六坪に掛れば
弐千二百五十俵入也あるひは一坪に七十二俵入るともいふ也いづれ俵の大小又つみ
やうによつてすこしづゝの相違(ちがひ)はあるへきなり
○金にて銭の売買の事
○金拾五両三歩あり金一両に付銭七貫二百文がへにして此代銭を問答曰
百拾三貫四百文也術曰拾五両三歩と置此三歩に金壱歩の永銭二百五十文
掛れば七百五十文と成に拾五両をくわへて拾五両七百五十文と成に相場七
貫二百文をかけて知るなり
○銭百十三貫四百文あり金壱両に付銭七貫二百文がへにして此金何程と問答曰
拾五両三歩也術曰百十三貫四百文と実に置相場七貫二百文を法にして割ば十五両と永銭
七百五十文と成也此七百五十文は金壱歩の永銭二百五十文三ツなるゆへに三歩と知る也
【右丁】
○金五両弐朱の代銭卅六貫九百文のとき金壱両の相場代銭を問答曰
七貫弐百文術曰金五両と弐朱の永銭百二十五文とを法にして三十六貫
九百文をわれば壱両の代銭七貫弐百文と成也
○銀にて銭のうりかひの事
○銭壱貫文に付銀拾弐匁五分がへのとき壱匁に此銭何程と問答壱
匁に銭七十六文八ぶ也術曰九十六文と置拾弐匁五分にて割也
十一匁五分の時《割書:八十三文|四ぶ〇九》十一匁六分 《割書:八十二文|七ぶ〇六八》十一匁七分 《割書:八十二文|〇〇六》十一匁八分 《割書:八十一文|三ぶ〇六六》十一匁九分 《割書:八十文|六ぶ〇八六》
十二匁 《割書:八十文》十二匁一分 《割書:七十九文|三ぶ〇四八》十二匁二分 《割書:七十八文|六ぶ一八》十二匁三分 《割書:七十八文|〇〇六》十二匁四分 《割書:七十八文|四ぶ〇二四》
十二匁五分《割書:七十六文|八ぶ》十二匁六分 《割書:七十六文|一ぶ二四》十二匁七分 《割書:七十五文|五ぶ二五》十二匁八分 《割書:七十五文》十二匁九分 《割書:七十四文|四ぶ三四》
十三匁《割書:七十三文|八ぶ六》十三匁一分 《割書:七十三文|二ぶ八〇二》十三匁二分 《割書:七十二文|七ぶ〇三六》十三匁三分 《割書:七十二文|一ぶ〇七》十三匁四分 《割書:七十一文|六ぶ五六》
十三匁五分 《割書:七十一文|〇一五》 十三匁六分 《割書:七十文|六ぶ〇〇八》 十三匁七分 《割書:七十文|〇〇一》十三匁八分 《割書:六十九文|五ぶ〇九》十三匁九分《割書:六十九文|〇〇九》
十四匁 《割書:六十八文|五ぶ一》十四匁一分 《割書:六十八文|〇三》十四匁二分 《割書:六十七文|六ぶ〇〇八》十四匁三分 《割書:六十七文|〇一九》十四匁四分 《割書:六十六文|六ぶ〇九六》
十四匁五分 《割書:六十六文|二ぶ〇一》十四匁六分 《割書:六十五文|七ぶ〇七八》十四匁七分《割書:六十五文|二ぶ〇〇九》十四匁八分 《割書:六十四文|八ぶ〇九六》十《割書:四匁九分|五匁》 《割書:六十四文四ぶ|六十四文》
十五匁一分 《割書:六十三文|五ぶ二五》十五匁二分 《割書:六十三文|一ぶ〇八八》十五匁三分 《割書:六十二文|七ぶ〇六九》十五匁四分 《割書:六十二文|三ぶ〇五八》十五匁五分 《割書:六十一文|九ぶ〇五五》
【左丁】
十五匁六分 《割書:六十一文|五ぶ五り〇六》十五匁七分 《割書:六十一文|一ぶ〇七三》十五匁八分 《割書:六十文|七ぶ〇九四》十五匁九分 《割書:六十文|三ぶ〇一二三》十六匁 《割書:六十文》
○銀両替の事
【上段】
○丁銀五百六十九匁を以て灰吹(はいふき)に換る時
内二割引にして灰吹何ほとゝ問答曰灰吹
四百五十五匁弐分也術曰丁銀五百六十九
匁を置内二割引の法《割書:八|分》を掛れは灰吹四百
五十五匁弐分と成也但二割引内は八を以て
掛け外(そと)は十二にて割と心得へし尤二わり
増の法は外は十二をかけ内は八を以て割と知るべし
【下段】【挿し絵】
○金両がへの事
○金壱両に付相場六十目替にして今銀壱貫四百四十目の代金を問答曰金廿四
両也法曰銀壱貫四百四拾目を相場六十目にて割也
○金十弐両弐歩の代銀七百八十七匁五分の時此金相場何程と問《割書:金壱両に付相場|六十三匁》相
法曰銀七百八十七匁五分を置永十弐貫五百文《割書:これ金十二両二歩五り即十二両に|十二貫文二歩に五百文なり》をわれば金一両
【右丁】
の相場六十三匁と成なり
○金三両壱歩あり相場六十匁にして代金何程と問曰答曰代銀百九十五匁なり
術曰永三貫弐百五十文《割書:即三両|壱歩也》と置て相場《割書:六十|匁》を掛れば代銀《割書:百九十|五匁》と成なり
○銀七百八十七匁五分あり相場六十三匁がへにして此代金何程と問答曰代金十二両二歩
術曰銀高《割書:七百八十|七匁五分》を置て相場《割書:六十|三匁》にて割ば永(えい)十二貫五百文《割書:此五百文は|二歩の位也》と成是代金《割書:十二両|二歩》と知る也
○永銭法 一両は一貫文 一歩は二百五十文 二歩は五百文 三歩は七百五十文 二朱は百廿五文
○利足の事
○銀六貫八百五十目を月壱分半の利にして貸とき一ヶ月の利銀何程と問答曰
利銀百二匁七分五厘也術曰元銀に利を掛るなり但し利は一分五厘也
○元利合銀壱貫四百五十一匁あり年壱割二分の利にて此元銀何ほど答
元銀壱貫三百目なり術曰利足一割二分に元一を加へ《割書:一 一| 二 》と成法として合銀高■【をヵ】割也
○今銀九貫七百六十匁を年二割五分の利足にて三ヶ年貸置ありこれを
毎年 等分(とうぶん)に取(とり)くずすときは一ヶ年の取銀何程と問《割書:但し二年目より|利に利をくわゆる也》答曰一ヶ年の
取銀五貫目術曰利足《割書:二割|五分》に元一 箇(か)をくわへ《割書:一箇二|分五厘》法とし貸銀《割書:九貫七百|六十匁》に三 度(と)
掛れは八十九貫〇六十弐匁五分と成を実(じつ)とす又 定(ぢやう)一 箇(か)を置て法(めやす)を掛れば
【左丁】
○一 箇(か)二分五厘と成に定(ぢやう)一箇をくわへ《割書:二箇二分|五厘なり》又法を掛れば二 箇(か)八分一
厘二五と成に又 定(ぢやう)一 箇(か)をくわへ《割書:三箇八分|一二五なり》以て実を割ば一ヶ年の取銀《割書:五貫|匁》と成也
○銀四貫匁を月二分の利足にて貸すとき元利 等(ひとし)くなる月数何ほどゝ問
答曰五十ヶ月術曰元銀《割書:四貫|匁》に利足弐分をかけて八十匁と成これにて
元銀《割書:四貫|匁》を割は元利銀 等(ひとし)くなる月数《割書:五|分》と成なり
○入子ざんの事
○五ツ入子を銀卅六匁に買(か)ふあり二番目
頭より一割下三番目は二割下り四番目は
三割下り五番目は四わり下りにして
頭の代銀何程と問先十九八七六合四十
あり是を目安にして惣代銀卅六匁を
割時は頭一ツの代九匁と知る也頭の代に九を
掛れば二番目の代知るゝ也又八を掛れば三番
目の代七をかくれば四番目の代六を
かくれば五番目の代銀知るゝ也
【挿し絵内】
九匁
六匁三分 八匁一分
五匁四分 七匁二分
【右丁】
○同六ツ入子を銀廿壱匁に買(か)ふあり入子一ツに付
銀四分づゝ次第にさけて各何程と問先一二三四
五と置合十五あり是に四分を掛れば六匁と成
是を惣代銀廿壱匁くわへ入子数六ツに割は
頭一ツの代四匁五分と知る也残りは次第に四分づゝ引也
又下の代を先へ知る時は廿一匁の内六匁引残を六ツに割る也
【挿し絵内】
二匁五分 ■【二】匁九分 ■【三】匁三分
三匁七分 四匁一分 四匁五分
○検地つもりの事
【上段】
○けん地は大事(たいし)の物也
かり初(そめ)の事にあらす
後(のち)〳〵ぞ用ひて年貢(ねんく)
役(やく)等(なと)いたす事なれは細(こまか)に定(さゞ)め
上中下の位(くらゐ)万事に心を
用ゆべし検地(けんち)の積(つも)りやう
図(づ)にくわしくあり
【中段】
【田地の図】
八十坪 八十坪 八十坪 五十六坪 間
八
間
八 百坪 百坪 百坪 七十坪 間
十 十
二
サ 百坪 百坪 百坪 七十坪 間
広 十
十間 同 同 七間
此田地いかほどゝ問 三反四畝十六歩あり
【下段】
法長サ卅七間に広サ
廿八間を以てかくれば
千三十六坪と成なり
是田法三百坪をもつて
われば三反四畝十六歩
と知るべし左にそろ
ばんの図あり
【左丁】
【そろばんの図】
かけざん 六
七八五十六 卅 三進一十 《割書:此坪より内は|其まゝ置なり》
◇間◇◇ 二七十四 三八二十四 三一三十一
長
十◇◇◇ 二三が六 千 三一三十一
わりざん
◇間◇◇◇
広
十◇◇
田 ○田地の図
百◇◇◇ 長サ百三十三間 広サ七間五尺二寸
法
此田数何程と問答 三反四畝十七歩四分也と云
寸
二
尺 【縦長方形の図】
五
間
七 百三十三間
左に算盤の図あり
【右丁】
【そろばんの図】
かけざん
四
三八二十四 七
寸◆◆ 五八四十 三八二十四 三七二十一 卅 三進一十
◆尺 六五八十二 一八が八 三七二十一 三一三十一
◆間◆◆ わりざん 一七が七 千 三一三十一
◇◇◇ ○広さ七間五尺二寸と実に置此五尺計を間法六尺五寸にて割ば
◇◇◇ 七間八分と成に百三十三間をかくれば千〇三十七坪四分得るを卅坪以
◇ 上を田法三百坪を以割ば三反四畝十七歩四分と知る也
【上段】
【円形の図】
○法に十五間を左右に置かくれば二百廿五
坪と成これに七九をかく
【図内】 れば百七十七坪七分五厘
さし渡し十五間 と成これを田法三を以
われは〇五畝二十七歩七
分五厘と知るゝなり
【下段】
【八角形の図】
○八角方面六間 つゝあり此坪数をとふ
【図内】 百七十三坪六分壱厘
六間 といふ法六間を左右
同 同 に置かくれば三六と成
同 同 これに二をかけ七二と成
同 同 是に八角の法四一四七
同 をもってわる也
【左丁】
【右上段】
【鼓形の図】
○法に十七間に十一間を加へる時廿八間と成
【図内】
長サ三十六間 是を二ツへ割ば十四間と
間 間 間 なる是に長さ三十六間
七 一 七 をかけ五百四坪となる
十 十 十 田法三ツにわり
○壱反六畝廿四歩と知る也
【右下段】
【直角三角形の図】
○法に曰十二間に九間をかけて百〇八坪
【図内】
九間 と成を二ツに割五十四坪と
間 なるこれに三十歩以上を
二 田法三を以われば壱畝二十
十 四歩と成なり
【左上段】
【六角形の図】
○六角の表七間あるとき此坪数を問
百廿七坪三分二毛といふ
【図内】
七間 法に七間を左右に置
同 同 掛れは四九と成これに
六角の法二五九八を掛
同 同 れば知るゝ也又法に七間を
同 左右に置かけて四三
三の法をかくれば二壱二壱
八これに六をかけても知るゝ也
【左下段】
【台形の図】
○法に五十四間に四十五間をくはへ九十九間
【図内】
長サ四十五間 と成これを二ツにわれば
間 四十九間半となる是に
一反九畝廿四歩 二 十二間をかけ五百九十
十 四坪となるこれを田法
長サ五十四間 横 三にてわれば
一反九畝廿四歩と
知るゝなり
【右丁】
【上段】
【縦平行四辺形の図】
○法に長サ二十八間に十五間をかくれば四百廿
間 坪と成是を田法三を
【図内】長サ廿八間 五 もつて割ば
十 ○一反四畝と知るへき也
○法に四間を二ツに割ば二間と成是を長六十
【三角形を縦にした図内】
四 五間にかくれは百卅坪と
間 なるこれを田法三に割は
長サ六十五間 ○四畝十歩と知る也
○法に廿七間に十二間をかくれば三百弐十
【「く」の字の図内】
四坪と成これを田法
二 十 十 間 三を以てわれは
十 二 二 七 ○壱反二十四歩と
七 間 間 十 知るなり
間 二
【下段】
○法に横の二十六間を二ツにわれば十三間
【扇状の図内】
と成これを廿八間に掛れば
間 三百六十四坪と成これを
六 廿八間 田法三をもつて割れは
廿 一反二畝四歩と成也
○法に十五間を左右に置かくれは二百二十
【三角形の図内】
五坪と成是に三角の法
間 四三三をかくれは九十七
五 坪四分二厘五毛と成
十 同 是を田法三にわれは
同 三畝七歩四分二厘五毛と
知る也
【長方形がくびれた形の図内】
間
六
間 間
八 長三十九間 八
十 十
九
間 【左丁下段枠の内へ】
【左丁】
○此屋敷のまわりに田地あり中のまはり
八十四間あり外(そと)のまわり百廿間あり
広サ六間あり
【挿し絵】 是何程と
とふ
答て
○二反十二歩といふ
法に外内(そとうち)ともに二百●
四間あり是を二ツに
われば百〇二間と成
中の 是に六間をかくれば
まわり 六百十二坪あり
八十 これを田法三にて
四間 われは知るゝ也
【二重円の図】
間数図のごとし
【二重円の内側】・内の廻り八十四間
【二重円の中側】外のまわり百二十間
【下段枠の内】
○法に卅九間に十八間をかけ七百二坪と成是を
別に置又六間の欠を九間の欠に加へ十五間と
成を二ツに割ば七間半と成是に卅九間を掛れば
二百九十二坪半と成是を右の内より■【引】残て
四百〇九坪半を田法三にてわれば
一反三畝十九歩半と知るなり
【右丁】
○知行物成
今一反七畝の田地あり一反に付壱石五斗代にして米高何程と問答四石〇五升
術曰田数《割書:弐反|七畝》を置代数《割書:一石|五斗》をかくれば米高四石〇五升と成なり
今九反三畝廿一歩の田地あり一反に付一石五斗代にして米高何程と問答曰
十四石〇五升五合也術曰田数《割書:九反三畝|二十一歩》を置て廿一歩《割書:畝の下歩数あるときは□□□【いつれヵ】もその|歩数ばかり田率にて割と心得べし》を田率《割書:三十|歩》
にて割ば共(とも)に九反三畝七分と成に代数《割書:一石|五斗》を掛れば米高《割書:十四石〇|五升五合》と成なり
知行 高(たか)三万五千二百石あり六ツ五分 物成(ものなり)にして此物成何ほどゝ問答曰物成二
万二千八百八十石也術曰知行高三万五千二百石を置き物成《割書:六ツ|五分》をかくれば物
成二万二千八百八十石と成なり
知行高五万七千三百石あり此物成三万八千九百六十四石なるとき何程に当る
と問答六ツ八分也術曰物成《割書:三万八千九百|六十四石》を置て知行高《割書:五万七千|三百石》にて割ば《割書:六ツ|八分》と成る也
年貢米八石六斗七升納むあり内一石に付口米二升づゝ引て納米何程と問
答曰納米八石五斗也術曰八石六斗七升を置き一石〇弐升にて割るなり
銀六百七十五匁年貢代に納むあり一石に付廿五匁づゝの算用の口米引て何
程と問答曰納米廿六石四斗七升〇五勺八才也術曰銀六百七十五匁を置法に
【左丁】
一石代廿五匁と置これに口米二升分五分加へ廿五匁五分にて割なり
○毛見免相究の事
○高千百三十石の所去年四ツ八分五厘と成とき当物成免成程と問
答二分二厘五毛の上り五ツ七厘五毛と成也此免を究やうは先毛見の已前に其
時の民図帳(みづてう)を見て田数をしり帳の奥書にあるひは《割書:上|中|下》田合四十六町此高八百五十
一石《割書:上|中|下》畠合十四町三反二畝此高百七十九石二口合千〇卅石此成米四ツ八分五厘と有
扨当立毛上中下を見立田地一歩の内にて積たとへば長さ一間に稲株十三あり
是を両方に置かくれば一間四方に百六十九株と成又上中下三株合穂数廿一あり
是を三ツにわれば一株に七穂づゝに成を百六十九株にかくれば千百八十三穂と成又
上中下三穂合もみ数百〇八粒あり是を三ツに割は一穂に卅六粒つゝと成是を千
百八十三穂にかくれば四万二千五百八十八粒と成これを当京升に入積り六万六千
粒を以割ば一歩に六合四勺五才二七と成是に田法三百歩をかくれば一反に一石九斗
三升五合八勺一才と成是を田数四十六町にかくれば八百九十〇石四斗七升二合
六勺あり此内を田方の高八百五十一石引ば残て卅九石四斗七升二合六勺あり
是に四ツ八分五厘をかくれば十九石壱斗四升四合二勺一才一 ■【弗・とヵ】成これを田法の
【右丁】
高八百五十一石を以割ば二分二厘五毛の上り免と知るゝなり畠方も田に応じ
て免を上るなり
○万升つもりの事
古升の法六二五 《割書:四角なるもの口ひろさ二方とふかさ以上三方かくれば坪と成とき|此法を以われは升数知るゝ也》
今升の法六四八二七 《割書:四角なるものに升目つもるとき口はゞを懸合又深さをかけ升法|にてわれは升数何ほど入ると知るゝなり》
又曰坪と成とき十六をかけても升数しるゝ也是古升のつもり也
○右入り升の法六四八二七といふは一升の内の一寸四方の物数也是を知る事口の
広さ四寸九歩両方にかけ合それに深さ二寸七分をかくれば六四八二七と成これ
法也古升の法も同前但古升は口広さ五寸四方深さ二寸五歩也又十六を掛る
事は一尺四方の内へ古升一斗六升入ゆへ也今升にては一斗五升四合二勺六才入也
【上段】
○術に四尺に三尺八寸くわへ七尺八寸と成
二尺に一尺八寸くわへ三尺八寸と成此是に右
七尺八寸をかくれば歩数二千九百六十四となる
【左丁上段へ】
【下段】
【丸桶の形の図 内に】
歩 深さ ○術にさし渡し四寸九歩を両
九 一寸 方に置かけ合是に深さ二寸
寸 一分 七歩をかけ又円法七九をかけ
四 【左丁下段へ】
【左丁】
【上段】
【舟形の図】
上はゞ二尺
寸
平 尺 八
四 尺
ふ さ 三 別に置又四尺の内三尺八
長 さ 寸引ば二寸残る又二尺の内
ね 上 長 壱尺八寸引は二寸残る是に
下 右の二寸をかけ合四歩と成
下はゞ これを済統(さいとう)法三を以割ば
一尺八寸 一歩三三ーと成是を右別に
あり歩にくわへ二千九百六十五三三ー有これを
四に割扨深さ五寸をかけ其後古升の法十六
をかくれば升数〇五斗九升三合六勺六六入と
知るなり
○術に口六寸に底三寸六分をかくれは歩
数廿一六分と成右へ別に置又口六寸の内底
三寸六分引ば二寸四分のこる是を両方に
置かくれば五七六と成これを済統(さいとう)の法
[図次に有] 三をもつて割は一九二と成これを
【次コマ右丁上段へ】
【下段】
後今升の法六四八二七を以われは〇七合七勺
と知るなり
○術に長さ四尺九寸はゞ壱尺四寸七分
【横立方体の図】
はゞ
一尺四寸 深さ
七分 一尺
長 八寸
さ 九分 をかけ又深さ壱尺八寸九分
四 をかくれば坪一三六一三六七と
尺 なる是を今升の法六四八二
九 七をもつてわれは〇二石一斗
寸 入ると知るなり又古升に積■【る】
ときは右の一三六一三六七に成
六二五をもつて割ば知るゝ也又右の坪一三
六一三六七に《割書:古升法|十六》をかけても〇二石壱斗
七升八合壱勺八才と知るなり
○術に面一方の四方を両に置かけ合一六
と成これに深さ四寸二分をかけ六七二と成
[図次に有] これに六角の法二五九八をかけ
【次コマ右丁下段へ】
【[ ]は枠で囲む】
【右丁】
【上段】
[つゞき]]
【釣瓶桶の図 真ん中に桟あり】
寸 三
六 寸 右に別に有歩数とむす
六 六 ひて廿三五二ありこれに
寸 寸 分 深さ六寸をかけ扨古升の
六 法十六をかくれば升数〇
深さ六寸 一升二合五勺七才九二入
と知るなり右つるべ平ふね惣じて底の
すわりたる物つもりやういろ〳〵ありと
いへとも此外おの〳〵別の法あるべからず
是本つもりなり又口底置合二ツに割
つもり事はあしき算なりことにより
過分(くはぶん)に違ふものなり
○術に底さしわたし五寸六分を両に置
かけ合三一三六となるこれに深さ八寸を
かけ二五〇八八となる是に円法八をかけ
二〇〇七〇四となる是に済統三をもつて
【左丁上段へ】
【下段】
【六角升の図】
深さ四寸三分
同 同 一七四五八五六となるこれを今
寸 同 升の法六四八二七をもつて
四 われば〇二升六合九勺三才
同 同 一入ると知るなり
○術に二尺四寸五分を両に置かけ合せ
【三角垂升の図】
深さ三尺二寸四分
分
五 同
寸 深さ三尺二寸四分を
四 かけ又三角の法四三
尺 同 三をかけ扨済統の法
二 三を以てわり又升の
法六四八二七をもつて割は升数〇四斗三
升三合入と知るなり右の外あるひは五
角六角八角にても皆其法をかけ四方
の坪に直し深さをかけ三に割なり
○術に上一尺四寸七分に底七寸三分五
【左丁下段へ】
【左丁】
【上段】
【とつくりの図】
深サ八寸 五 われば六六九〇三ーとなる
寸 これを升の法六四八二七に
六 わるなり一升〇三勺二才入
分 なり
【桶の図】
口さしわたし六尺三寸七分
分
八
寸
八
尺
ふかさ 五
八尺一寸 し
た
わ
し
さ
底
【文は左丁下段中央へ】
【下段】
【壺の図】
深さ二尺七寸
一 七
尺 寸
四 三 厘をかくれば百八四五となる
寸 分 別に置又上さしわたしの内
七 五 下のさしわたし程引ば残る
分 リ 七寸三分五厘あり是を両に
ン 置かけ合済統の法三を以
われば十八〇〇七五と成是を右に別におき
坪と置合百廿六〇五二五有是に深さ二尺
七寸をかけ扨壺升の法八一〇三三七五を
もつて割ば四斗二升入ると知る也
○術に口六尺三寸七分に底五尺八寸八分
をかくれば坪数三千七百四十五五六と成
別に置又口さしわたしの内底の差わたし【下段終わり】
ほと引は四寸九分残るこれを両に置かけ合廿四〇一と成なるこれを済統(さいとう)の法三を以
われば八〇三三三三となるこれを別におき坪数と置合扨深さをかけ又円積七九
【[ ]は枠で囲む】
【右丁】
をかけ升の法をもつて割ば升数知るゝ也三十七石五升一合入なり
○京升寸法の事
【京升の図】【焼印 丸京】
《割書:口広さ四寸九分|底深さ二寸七分》一合《割書:口二寸二分七厘四毛四|深一寸二分五リ三毛二》一斗《割書:同一尺〇五分五リ六毛七|同五寸八分一リン七毛》 一石《割書:同二尺二寸七分四リ三毛|同一尺二寸五分三リ二毛二》
五合《割書:口三寸八分九リン九毛|深二寸一分四リン三毛》五斗《割書:同一尺八寸〇五リン一毛七|同九寸九分四リン七毛》十石《割書:同四尺九寸|同二尺七寸》
○柄杓京升積の事
一合《割書:指渡シ 二寸九リン七毛八|深さ 一寸八分六リン四毛七》五合《割書:同 三寸五分八リン七毛二|同 三寸一分八リン八毛六》一升《割書:同 四寸五分一リン九毛五|同 四寸〇一リン七五毛三》
○大樽《割書:并》長手樽積の事
一升《割書:口 四寸三分四リン七毛|底 三寸六分八リン七毛|深サ 五寸〇七リン四毛》五升《割書:同 七寸四分三リン三毛|同 六寸三分〇五毛|同 八寸六分七リン六毛》一斗《割書:同 九寸三分六リン五毛|同 七寸九分四リン三毛|同 一尺〇九分三リン一毛》
○大小桶つもりの事
一斗《割書:口 一尺〇二分六リン九毛四|底 九寸一分九リン五毛|深サ 八寸六分五リン五毛》五斗《割書:同 一尺七寸五分六リン|同 一尺五寸七分二リン三毛|同 一尺四寸八分》一石《割書:同 二尺二寸一分二リン四毛|同 一尺九寸八分一リン|同 一尺八寸六分四リン六毛》
【左丁】
五石《割書:口 三尺七寸八分三リン二毛|底 三尺三寸二分六リン九毛|深サ 三尺一寸八分八リン五毛》十石《割書:同 四尺七寸六分六リン六毛|同 四尺二寸六分七リン九毛|同 四尺〇一分七リン三毛》百石《割書:同 一丈〇二寸六分九リン四毛|同 九尺一寸九分五リン|同 八尺六寸五分五リン》
○材木うり買廻しの事
○六寸角の二間木を一本に付四匁五分五厘の時六寸角長さ五尺あり此代銀
何程と問答曰代銀壱匁七分五厘也といふ術曰四匁五分五厘に五尺をかけ弐弐
七五と成を二間の長さ一丈三尺を以て割なり
○【丸木の図内】《割書:寸|五》丸木一丈三尺《割書:但しこれを廻し|にして》五寸角になして長さ何程と問【角木の図内】五寸 長サ一丈二寸七分といふ
術に円長壱丈三尺に円法七九を以かくれば〇五寸角長一丈二寸七分と成なり
○《割書:六寸|角》【角木の図内】長さ壱丈三尺 是を指渡し六寸の丸太にして長さ何程と問
【丸太の図内】六寸 長さ一丈六尺四寸五分五厘也 右の一丈三尺を円法にてわる也
○七寸の丸太【丸太の図内】七寸 長弐間 是を長さ同し二間にして角となし何寸と問
角に成といふ【角木の図内】■ 長二間 六寸二分二二角といふ法に曰左に二二
五と置これを法にして七寸をわれば角寸を得るなり
○ひわだ廻し之事
【右丁】
【ひわだの図】今ひわだ四尺五寸のしめ弐百束あり是を五尺縄のしめに
まわして何束に成と問答曰五尺縄にして百六十二束也法に曰
四尺五寸を周法三一六を以割ば一四二四と成両に置掛合二〇二七七七
六と成に束数二百束を掛て四〇五五五五と成を右に置又五尺を周法三一六にて割ば
一五八二と成を両に置掛合二五〇二七二と成を目安にして右を割也但一束に付何わりと
みるにたとへば五尺縄と四尺縄の違ひをみるに五尺を左右に置掛合廿五と成又四尺五寸を
掛合廿〇歩〇二五と成を右の内より引残四七五有を廿歩〇二五を以割は二割三分四厘五毛と成也
○家根のふき板積りやうの事
【上段】
【挿し絵】
【下段】
○あつさ八寸広さ一尺二寸長さ七尺ありしゝろ【注】をふき板に
あけて一丁に付何程と問答曰一丁に付千九百廿数と云但しはゞ
一寸に厚(あつ)さ一寸を十二数づゝにへぎ一丁を五ツに切る積り也法に厚
八寸に十二数をかけて九十六数と成又広さ一尺二寸を板はゞ三
寸にわれば四数と成これを右の九十六数にかけ三百八十四
数と成に五切をかけ
千九百二十数と知るなり
【左丁】
【上段】
此家の坪数両はしにて六十四坪ありこけら
ぶきにして板何程入ぞといふ時軒にて一寸あし
中にて一寸五分あし棟にて二寸あし三所取合
一寸五分也板のはゞ三寸あり○板数六万令令
八十八数三分二厘入也先一坪の法四二二五是に六十四を
かくれば二七下四と成是を右に別に置又左に板はゞ
三寸置あし一寸五分をかくれば四五と成是にて
右をわれば六万〇〇八十八数三分二厘と知る也
○又法位をはやく見んと思(をも)はゞ六尺五寸を
板はゞ三寸にて割ば廿一数六分六厘六毛六糸
一間にならぶ也六尺五寸をふきあしの
一寸五分にて割ば四十三数三分三厘三毛
三糸ならぶ也是を右へ掛れば九百卅八数八分八厘
八毛八糸と成是一坪の板数也是に六十四坪を
掛て惣数六万〇〇八十八数三分二厘と知るなり
【下段】
【ふく前の「屋根」の挿し絵】
【注 「ありし代(しろ)を」ヵ】
【右丁】
○かうばいのび割つけの事
○あるひは四寸かうばいの
のび何程と問答七分七厘
〇三 糸(し)三 忽(こつ)といふ術に四寸を
両方へ置かけ合せ四四の十六と成
是に勾配(かうばい)の定積(ぢやうつもり)百をくはへ開平(かいへい)を以て
除とき壱尺〇七分七厘〇三 糸(し)三忽七成一尺は
本(もと)よりの有尺(あるしやく)のこ□【りヵ】七分七厘〇三 糸(し)三 忽(こつ)を
延(のび)と知るべし右五分より一尺 迄(まで)の割付(わりつけ)る術みな
同前(どうせん)なりたとへ何寸何分何厘の勾配(かうばい)といふとも何(いづ)れも
寸を両方(りやうほう)に置かけ合せ寸坪(すんつぼ)につもり扨 定法(ぢやうはう)の百を加(くは)へ開平(かいへい)
をもつて除(わる)ときは尺寸ともに知(し)るゝなり其本壱尺をのけて
残(のこ)りしのびて【とヵ】しるべし
【下段 勾配の図】
一尺 こうばいのび 四寸一分四リン二毛一糸 一尺
《割書:九寸|五分》 同 一【三ヵ】寸七分九リン三毛一糸
九寸 同 三寸四分五リン三毛六糸 一尺
《割書:八寸|五分》 同 三寸一分二リン四毛四糸
八寸 同 二寸八分〇六毛二糸 一尺
《割書:七寸|五分》 同 二寸五分
七寸 同 二寸二分〇六毛五糸 一尺
《割書:六寸|五分》 同 一寸九分二リン六毛七糸
六寸 同 一寸六分六リン二毛 一尺
《割書:五寸|五分》 同 一寸四分一リン二毛七糸
五寸 同 一寸一分八リン〇三糸 一尺
《割書:四寸|五分》 同 九分六リン五毛八糸
四寸 同 七分七リン〇三糸 一尺
《割書:三寸|五分》 同 五分九リン二四毛八糸
三寸 同 四分四リン〇三糸 一尺
《割書:二寸|五分》 同 三分〇七リン七毛
二寸 同 一分九リン二毛〇三忽 一尺
《割書:一寸|五分》 同 一分一リン一毛八糸
一寸 同 四リン九毛八糸七忽 一尺
《割書:五|分》 同 一リン二毛四糸九忽
【左丁】
○船運賃の事
【上段 挿し絵】
【下段】
○米八百九十八石七斗を積とるあり但し
一石に付運賃四升五合なりこれを石高
の内にて払ふときは本米およひ運賃米
おの〳〵何程と問
答曰《割書:本米 八百六十石|運賃米三十八石七斗》
術に曰 常(つね)の一石に運賃《割書:四升|五合》をくわへ法(はふ)
とす以(もつ)て石高《割書:八百九十|八石七斗》を割ば本米《割書:八百|六十》と成
又石高を置き運賃《割書:四升|五合》を掛て法を以て
割ば運賃米《割書:三十八|石七斗》と成なり
○箔押積の事
【上段】
○今図のことき高さ五尺三寸横二尺六
寸の二枚屏風あり両方合せて六尺二寸
なり絵面(えめん)の廻(まわ)り三寸 幅(はゞ)の金箔(きんばく)押(をす)ときは
【次コマ上段へ】
【下段】
○今図のごとき二間四方ある所を内外みな
金箔(きんはく)を押(をす)とき何程と問答三寸箔六千四百
枚也術に曰高さ六尺を箔のはゞ三寸を以て
【次コマ下段へ】
【右丁】
【上段】
此箔数七十六枚四分四厘四入なり法に先
二寸を四ツよせて八寸と成是に五尺三寸を
掛れば四百廿四 歩(つぼ)あり扨又上の四寸と下の
二寸をよせて六寸と成横はゞの引残り二
尺二寸を両方にて四尺四寸也是を六寸に
掛れば二百六十四 歩(つぼ)と成二口合六百八十八 歩(つぼ)
と成是に箔のはゞ三寸両に置掛合九 歩(つぼ)と
成を目安に
して割也
【屏風の挿し絵】
【右隻】
五尺三寸 寸
二
四 二
寸 寸
寸
二
【左隻】
二
寸
四 二
寸 寸
二
五尺三寸 寸
【下段】
七寸
われは二十枚と成是を左右に置てかけ合せ
ば四百枚と成是六尺四寸の箔の数なり是を
うら表(おもて)にて十六間あれば
千六合せてはゞ数六千
四百枚と成也
【挿し絵】
二間
二間
高六尺
【左丁】
【上段】
○川普請積の事
○此堤(このつゝみ)の坪数(つぼかず)
何程と問
百卅六 歩(つぼ)
なり術に下の
横(よこ)六間に上の
二間をくはへ八間と成
是を二ツに割四間
と成高さ二間を
かけ八 歩(つぼ)と成
是に長さ十七
間をかけ百
三十六 歩(つぼ)と
しる也
【下 堤の挿し絵】
二間
二間
六間
【下段】
○今 図(づ)のごとき蛇籠(しやかご)あり
此坪数何程と問答四坪
二合〇七一なり術に五尺を
左右に置かくれば二五と成
これに円法七九をかけ
一九七五と成是に
長さ九間をかけ一七七
七五と成是を平坪の
法四二二五に割ば
知るゝ也
【下 蛇籠の挿し絵】
高さ五尺
じやかご横長さ九間
【右丁】
【上段】
○此角わくに何程入と問答一坪半入也
【角わくの絵】
高サ一間
半 法に中一間を
かけ合一坪と成
一間 是に高さ一間
半をかくれば
知るゝ也
【下段】
○此わくの中へくり石 【わくの絵】
何程入と問答一坪 高サ一間半
七合四勺入也法に
七尺掛合是に 七尺
高さ一間半をかけ
平坪法四二二五に割ば
知るゝ也
○竹廻しの事
○竹 一束(いつそく)といふは廻り壱尺八寸縄にてしめたる也此竹一束を弐匁替にて買(か)ふあり
又弐尺のしめは何程と問答弐匁四分六厘九毛也法に二尺を左右に置てかけ合四と
成これに弐匁をかけて八と成又別に一八をかけ合三二四と成を以て右の八をわれば
弐匁四分六厘九毛と成也
○堀普請の割《割書:并》日数を積る事
○堀の広さ十二間深さ八間長さ三百八十間
あり此 歩数(つぼかず)何程と問答三万六千四百八十坪
【下挿し絵】
【左丁】
なり術に十二間に八間をかけ九十六坪と
成を長さ三百八十間をかくれは三万
六千四百八十坪也右の堀(ほり)を人数五千にて
堀とき一かしらの人数千六百人有是には
堀何間と問答百弐十〇間三尺九寸也
術に長さ三百八十間に千六百人をかけて
高五千人にわる也
○堀の長さ四百間広さ五間三尺
深さ二間二尺あり此坪数何程と問
答五千四十一坪四分二厘也術に
二間二尺と右に置此二間に六五を
掛れば一丈五尺と成又五間三尺にも
五間計に六五を掛三丈五尺五寸
と成を一丈五尺に掛れば
五三二五
【下挿し絵】
【右丁】
と成に長さ四百間をかけ二一三と成を四二二五に割ば五千四十一坪四分二厘と成也また
右の二一三を六五にて二たびわりても知るゝなり
○たとへば堀長さ三百八十間上はゞ廿二間半下はゝ十九間壱尺三寸深さ四間半
に堀とき毎日千人づゝかゝる也土の除場(のけば)いづれも二丁半づゝ有時一日に八里あゆみにして
此普請日数何程に仕廻と問答八十五日一時三分二厘也術に底(そこ)はゞ十九間一尺三
寸と置間より下を六五にて割ば十九間二分と成是に上はゞ廿二間半をくわへ
四十一間七分と成に深さ四間半をかけ又長三百八十間をかけ二ツに割三万五千六
百五十三坪半と成に壱 歩(つぼ)の荷数弐百七十五荷をかければ九百八十万〇四千七
百十二荷半と成是に往来(ゆきゝ)の道(みち)五丁をかくれば四千九百〇二万三千五百六十二
丁半也是を一里の法卅六丁にて割ば百卅六万千七百六十五里六二五と成是を
八里にてわれば十七万〇弐百二十人と成を二千人をもつてわれば八十五日一壱と成
此二ばかりに十二時をかくれば八十五日一時三分二厘と知る也
○ ○まゝ子だての事
○子三十人あり内十五人は先腹(せんばら)の子十五人は当腹(とうばら)の子なり斯のごとく立(たて)ならべ
【左丁】
十にあたるをのけ又二十に当(あた)るを
のけ二十九人まてのけて残(のこ)る
壱人に跡(あと)ゆづらんといふ時(とき)に
まゝ母(はゝ)此(かく)のごとく立たる也
扨(さて)かぞふれば先(せん)ばらの子
十四人までのくゆへ一人 残(のこ)り
たる子のいふやうは今(いま)一度(いちど)
かぞへなば先腹(せんばら)の子みな
のくべしあまり片(かた)一双(いつそう)にのく
ゆへ今より我(われ)からかぞへゐへと
いへば各々(をの〳〵)これにしたがひ
壱人残りたる先腹(せんばら)の子(こ)
よりかぞふれば当腹(とうばら)の子
皆(みな)のき先腹(せんばら)の子一人
残(のこ)りて譲(ゆつり)を受(うけ)ると也
【下 子が池をめぐつてならぶ挿し絵】
【岩の文字】
よみ
はじめ
左へよむなり
【旗の文字】
のちはこれより
右へよむなり
【右丁】
○まゝ子算の秘術
【上段】
術に曰かぞへの十を甲(きのへ)と号(なづ)け乃(すなはち)
甲の十を置(をき)壱人を加(くは)へ三を以(もつ)て累(るい)
減(げん)して余(あま)り二これに甲(かう)を加(くは)へ四を以(もつ)て
累減(るいげん)して余り四甲をくはへ五を以て
累減して余り四甲を加入して六を
もつて累減してあまり二これに
甲を加入して七を以累減してあまり
五是に甲を加入して八を以累減し
てあまり七これに甲を加入して九
を以累減して余り八これに甲を
加入して十を以て累減して余り八
是に甲を加入して十一を以累減して
あまり七又是に甲を加入して十二【左丁へ】
【下段】
【内側の数字一から三十をならべ外側の数字よみはじめからの番号を各々付す図 内に】
世にまゝ子算といひて
数多の塵功記に著
すといへとも本術起原
を秘して出さず爰を
以て予童蒙の便に
今公にする事しるす
黒田子謹誌
【左丁】
を以 累減(るいげん)してあまり五又これに甲を加入して十三を以累減してあまり二甲をくわへ十四を
累減して是 乃(すなはち)累減にたらざる事二なり余十二是に甲をくわへて廿二となる十五をもつて
累減して余り七これに甲を加へ十七十六を以て累減してあまり一甲をくはへ十七をもつて
累減するにたらざる事六ツ故に余り十一甲を加へて十八を以て累減して余り三甲を加へ
十九をもつて累減するに足(たら)ざる事六ツなり故にあまり十三甲をくわへて二十をもつて累
減してあまり三甲をくはへて二十一を以て累減するにたらさる事八ツなる故にあまり十三甲
をくはへ廿二をもつて累減してあまり一甲を加へて廿三をもつて累減するに足(たら)さる事十二
故に余り十一甲を加へて廿四をもつて累減するにたらざる事三故にあまり廿一甲を加て
廿五を以て累減してあまり六ツ甲をくはへて廿六をもつて累減するにたらさる事
十なる故にあまり十六甲をくはへて廿七を以て累減するにたらざる事一あまり廿六
甲を加へて廿八を以て累減して余り八甲をくはへて廿九をもつて累減するに足ら
ざる事十一ゆへあまり十八甲をくはへて廿八となる是則ち本子 継子(まゝこ)合三十人なる
故に止此廿八は始(はじ)めよみ初(はじめ)より廿八人目の子に当(あた)る也又此この廿八番を始として逆(さか)に算(かそ)へ十に当(あた)るを
のけ廿に当(あたる)をのけ三十に当(あた)るをのけ四十にあたるをのけおいて十(とふ)を目に当るを去(さ)れば始め
よみ初(はじ)めの第一番と知る也是はよみもどし故也 委(くわし)くは前(まへ)の図(づ)を見て知るべし但(たゝ)し外(そと)に
【右丁】
ある番数は始めに去(さ)る子より何番目に去(さ)ると知る番数也たとへば五とあるは始より
五人目にさるといふ事なり十番は十人目と知るべきなり
○橋の入目銀割の事
○橋一ツの入目銀八貫弐百五十目を町中へ掛る時橋より
西に通り町五丁と横片原町二丁あり又東へ通り町三丁と
横町二丁あり町数合十二町にして右の銀いだす時先 西橋詰(にしはしづめ)
を高にして夫より末(すへ)五丁迄は次 第(だい)に卅匁づゝさげて出し片原
町一丁は橋詰(はしづめ)の返(ほと)り半分づゝ出し又東橋詰は西詰の返(ほとり)より
廿匁 少(すく)なく出し夫より次第(しだい)に三十匁づゝ末(すへ)三丁迄は
引て出し横町二丁は橋詰のあたりに是も卅匁づゝおとりて
出す積(つも)りにしては何(いつ)れも何程と問答曰西橋詰八百目
西片原町四百目づゝ同二丁目七百七十目同三丁目七百
四十目同四丁目七百十匁同五丁目六百八十匁◦東橋詰
七百八十匁東横町七百五十匁同三丁目七百弐十匁先
西の方一二三四東へ二又横町二是を合十五有是に
【川にかかる橋と両岸の丁と各々負担する銭高の挿し絵】
【左丁】
三十匁をかくれば四百五十匁と成これを銀高八貫
弐百五十匁にこみ又東丁数五丁に廿匁を掛れば
百匁と成是も銀高にこむ三口合八貫八百目有是を
惣数十一町を以われは西橋詰のあたり八百目と知る也
これも次第に引也右惣町数十二町有を十一町にわる事は
片原町□□ゆへなり
○立木(たちき)の間(けん)を積(つも)る事
○杣(そま)などはかくのごとく内股(うちまた)より
木(き)の末(すへ)を見(み)通(とふ)し
扨(さて)それよりその
つかへたる手(て)の所より
木の根本(ねもと)迄(まで)の間(あいだ)の
けんを打てみれば則 其(その)間(あいだ)
ほと木の長さあるなり
【杣の木を内股からのぞく男の挿し絵】
【右丁】
【上下 山と大木と測る男の挿し絵】
是は人の目(め)を地(ち)に付て木の末(すへ)
までを▷の角(すみ)に見積(みづも)り木を
折通(をりとふ)してみるといふ工夫(くふう)也○又法
はな紙(かみ)を四角(しかく)に折(をり)て下の
角(すみ)と角とを折(をり)て下の
角(すみ)に糸(いと)をもつて小石(こいし)を
おもりにつけ図(づ)のごとく
下の角(すみ)より上の角
まて見通(みとふ)して木の
末(すへ)を 見 扨(さて)夫より木の根(ね)
迄七間あれば又 居(ゐ)だけを
半に入て是を身積(みつも)る也
【左丁】
○布一端のたてぬきの糸の長さ積る事
○布一端のたてぬきの
糸を向の浜より
此浜まて何程三里
六丁四十三間二尺
五寸布長さ二丈
八尺呉服にてはゞ一尺
あり曲尺(かね)一寸に糸
五十
すじ
【向岸まで糸を渡す男の挿し絵】
○鼠算の事
○正月に鼠(ねずみ)の父(ちゝ)母いてゝ子を十二 疋(ひき)うむ親ともに十四疋と成二月には子も又子を十
二疋づゝうむゆへに親子(をやこ)孫(まご)とも九十八疋と成 此(かく)のことく月〳〵に親も子も孫も曽孫(ひまこ)も
玄孫(つるのまご)も十二疋つゝうむなり此 次第(しだい)〳〵にうまるゝ親子の鼠一ヶ年に何程と問答曰
【右丁】
此惣数弐百七拾六億八千弐百五十七万四千四百〇二疋也術曰ねずみ二疋にて七を十二度
かくれば右ねずみの高しるゝなり
【ねずみの婚礼の挿し絵】
うまるゝ子十二
正月に親ともに
十四疋なり
【左丁】
○毎月一倍増の事
○銭壱文を毎日一倍増にして三十日の銭高何程と問答曰五十三万六千八百
七十貫九百拾二文と成也但し右の目銭二万二千三百六十九貫六百廿文あり二
合五十五万九千弐百四十貫五百三十二文《割書:但し九六百下|直して也》
○米一粒を毎日一倍増にして三十日の米高何程と問答曰五億三千六百八十
七万九百十二粒と成也但し壱升に六万粒■【入ヵ】積りにして此升目何程と問答曰
八十九石四斗七升八合四勺八才五札三圭三粟也
○日本国中男女の数積る事
○男数は 合十九億九万四千八百廿八人《割書:但し此億は小乗の億にて|十万を億といふなるべし》
○女数は 合廿九億四千八百弐十人○惣合四拾八億九万九千八百四十八
人 此人数壱人に付飯米五合当として一日に米高何程と問答曰
弐万四千四百九拾八石弐斗四升と成也
○盗賊絹布配当の事
○今(いま)盗賊(とうぞく)集(あつま)りて絹(きぬ)と布(ぬの)とを分取(わけとり)あり其数を知らず只(たゞ)云(いふ)絹四反半づゝわく
れば八反 余(あま)る又云布二反づゝ分(わく)れば十一反あまるかさねていふ絹布(きぬぬの)合(あり)て七反つゝ
分(わく)れば七反 足(た)らずとぞ絹布およひ人数何ほどゝ問
【右丁】
【上段 橋の下にて絹 布を分配する盗賊の挿し絵】
【下段】
○答曰人数廿人 《割書:絹八十二反|布五十一反》
術曰又いふ余(あま)る《割書:十一|反》の内 只(たゞ)いふ余(あまる)《割書:八|反》を
引ば残(のこ)り三反となる是に不足(たらず)《割書:七|反》を
くわへ十反と成を実(じつ)として不足の内
絹(きぬ)《割書:四反|半》と布《割書:二|反》とを引のこり《割書:五|分》を以(もつ)て
実を割ば人数《割書:二|十》と成是にきぬ《割書:四反|半》を
掛て内 只(たゞ)云(いふ)余(あまる)を引ば絹数《割書:八十|二反》と成
又人数《割書:二|十》に布《割書:二|反》をかけて又云余りを
かけ【加ゆヵ】れば布数《割書:五十|一反》と成なり
○掛てわり割てかけ算に成法の事
二に割には 五分をかけ 二を掛るには 五分にてわる
四に割には 二分半をかけ 四を掛るには 二分半にてわる
五に割には 二分をかけ 五を掛るには 二分にてわる
八割には 一分二五をかけ 八を掛るには 一分二五にてわる
十六に割には 六厘二五をかけ 十六を掛るには 六厘二五にてわる
二五に割には 四厘をかけ 廿五を掛るには 四厘にてわる
【左丁】
○油配分の事
○あぶら壱斗を二人してわけ取
あり三升ますと七升ますをもつて
五升づゝにわくる時は先三升ますにて
三ばいくみて七升ます入は三升
升に二升残る時七升ますにあるを
元(もと)の桶(をけ)へあけてかの二升を七升ますへ
入かへ三升ますに一ぱいを入合せ五升つゝなり
【下段 男が油をはかり、それをみる男と犬の挿し絵】
○金銀千枚を開立にして積る事
【上段】
【正六面体の絵】
六寸三分
金千枚 リ一毛五
糸四方六
面
【後藤分銅の図】
厚サ
金五十貫目 四寸六分
長サ
一尺四寸
○金千枚を開立法にて
四方六面にして〇六三分
一厘一毛五糸四方六面也
金千枚の重サ四十四貫目
を百七十五匁にてわれば
坪二百五十一坪四二八五
七一を開立に除なり
【下段】
【正六面体の絵】
銀千枚
【後藤分銅の図】
厚サ六寸
銀五十貫目
長サ一尺六寸
○銀千枚の目方四十三貫目
を百四十八匁にて割坪
三百〇七坪一四二八五七一
と成を開立に除は〇六
寸七分四厘七毛四方六
面なり
【右丁】
○六里を四人にて馬三疋に乗合事
○六里の道を四人して馬三疋に乗合等く往道する
とき何里づゝ乗ると問
○壱人前に四里半づゝ也壱里半づゝ乗(のり)てかはる〴〵
せんぐりに乗る也先壱人は馬に壱里半乗て下(をり)る
なり一人は三里のりて下(をり)るなり一人は四里半乗て
下るなり壱人ははじめ一里半のりて下(をり)る人は又三里
目よりのり通すなり三里乗たる人は四里半目
よりすへ一里半乗通す也法に先道の遠き六
里に馬三疋をかけ三六の十八里と成此十八里を
人数四人にてわれは壱人分に四里半づゝに当る
なり扨此四里半を馬数三疋にわれば一里半
と成ゆへ乗かゆるなり
【下 馬に乗るサムライの挿し絵】
【左丁】
○三里ある道を三人して馬二疋に等分(とうぶん)に乗合する事○壱人前に二里づゝ也
壱人は二里乗てすへ一里ありくなり一人は一里のりて中一里ありく也壱人は
壱里あゆみてすへ二里のるなり
○座敷へ囲炉裏を入る事
二間四方八畳の座敷
【座敷の図】長さ
六尺六寸づゝ
一尺二寸
四方ノ爐
八畳鋪に角かゝぬ畳のこと
則二間四方也しかれども
六尺間にして一丈二尺
なり此内一尺二寸四方の
爐にして引は残る一丈八寸也
是を半畳たけ四に割て
二尺七寸を畳の横に
しるべし此二倍五尺
四寸に爐の一尺
二寸をくはへ
六尺六寸八畳の
たてとしるべきなり
【下 囲炉裏を入れる男の挿し絵】
【右丁】
○百万騎(ひやくまんぎ)の人数(にんしゆ)
を並(ならべ)て見(み)る事
○百万騎(ひやくまんぎ)の
人数(にんじゆ)を一間に弐人つゝ
立(たて)て長(なが)さ何程
つゞくと問二百卅一里十七丁廿間に立
《割書:一間は六尺|五寸なり》○《割書:一町は|六十間也》○《割書:一厘は|卅六丁也》法に百万人を
二人にて割は五十万間と成是を六十間
にて割ば八千三百卅三町廿間と成
是を卅六町に割は長さ二百卅一里
十七丁廿間ならぶ也
右の人数
を四人立に
すれば百十五里厘廿六丁四十間に並(なら)ぶ
也割やうは右二人づゝ立る法とおなじ事也
【下 武者の挿し絵】
【左丁】
○町見積并海中島広さを積る事
【上段】
○是より向ふの村まで
何程あると問○十二町四十
九間一尺五寸也術に長四尺
はゞ二間の板を以先前の角
よりさきの角向の木の根を
目附にして三所一筋に見通し
又一方前の角右の目付所いか
にもろくにため合する時前のかね
にて或は一厘六毛に見ゆる時是にて板
長さ四尺を割ば弐五となる
是に板はゞ二尺を掛ば五百丈と成
是を六尺五寸を以間迄割
夫を又六を以町迄割ば
十二町四十九間一尺五寸と成也
【下 向の村までの距離をはかる挿し絵】
はゞ二尺
長さ四尺 板
かね
見通し 見通し
【次コマ上段へ】
【下段】
○向ふの丸島より是まで海
おもて遠さ一里半ある時向ふの
島の広さ何程あると問○広さ
四十八間三尺九寸ある也術に長さ
四尺の板を以て向ふの島をみる時
さきのかねにて或は六分と見ゆる
是を四尺に割ば一五と成是に一厘
半をかけ二二五と成是に三六を
かくれば八一と成是に六を掛れば
四十八間六分と成此六分ばかりに
六五をかくれば四十八間三尺九寸
と成也口伝○又遠山の高さを
積る事谷の深さを知るも皆
同じ事にて板を以て積り又
【下 向の島の広さをはかる挿し絵】
二尺
板
長さ四尺 六分
此間の行程一里半
【次コマ下段へ】
【右丁】
【上段 前コマ上段続き】
右の外町積 種々(しゆ〳〵)あり中にも秘伝の法
也かねにため合事肝要の口伝なり
○矢の竹のかぞへやうの事
【矢の竹を束ねた挿し絵】
○此廻りの数四十二本あり一束の数何程
と問答数百六十九本ある也術に廻り数を六
ツに割ば七本と成又廻り四十二本に真廻り
六本置合二ツに割ば廿四本と成是に右の
七本を掛れば百六十八本と成是真壱本
加へて惣数百六十九本と知る也
惣じて丸きもの或は碁(ご)石やうのもの
にてもひとつを六ツにて廻し其上を十二
にて廻し次第(しだい)に六ツ廻しと知るなり
【下段 前コマ下段続き】
板四尺に二尺といへども是定むるにあらず
又枚にかぎらず手前(てまへ)にあるものをとりて
見る只(たゞ)何にても竪横(たつよこ)広(ひろ)きもの程(ほと)見ること
安し向ふに丈尺の知れたる物を目標(めじるし)にして
積る事は所によりてならぬ事あるべし但し
橋所を目附にして積るなり
○人を升目に積る事
【挿し絵 ふろに入ろうとする二人の男】
【左丁】
○或人いふ我身を升数に積り何程に成と問扠 風呂桶(ふろをけ)を取出(とりいだ)し水一ぱい入れ壱
人を入れ上(あが)りたる跡(あと)へ又水を升にてはかり二斗壱升五合入れ則升数弐斗
壱升五合也といふ是は算勘(さんかん)の工夫積(くふうづも)りにて寸尺の取(と)れさるものと心得(こゝろふ)べし
○鉄炮の玉鋳形寸法の事
一匁玉《割書:さし|渡し》二分九厘三毛七糸七 一匁五分 三分三厘六毛二糸 二匁 三分七厘〇二糸 二匁五分 三分九厘八毛七糸
三匁 四分二厘三毛七糸 三匁五分 四分四厘六毛〇三 四匁 四分六厘六毛三糸 壱両 四分七厘七毛七糸
四匁五分 四分八厘五毛 五匁 五分〇二毛三糸四 五匁五分 五分一厘八毛六糸 六匁 五分三厘三毛八糸
六匁五分 五分四厘八毛九糸 七匁 五分六厘一毛九糸五 七匁五分 五分七厘五毛〇四 八匁 五分八厘七毛五糸四
八匁五分 五分九厘九毛五糸 九匁 六分一厘一糸 九匁五分 六分二厘二毛 糸七 十匁 六分三厘二毛九糸
二十目 七分九厘七毛四糸 三十目 九分一厘二毛八糸 四十目 一寸〇四毛七糸 五十目 一寸〇八厘二毛三糸
六十目 一寸一分五厘〇一糸 七十目 一寸二分一厘〇八糸 八十目 一寸二分六厘五毛八糸 九十目 一寸三分一厘六毛五糸
百目 一寸三分六厘三毛五糸 二百目 一寸七分一厘八毛 三百目 一寸九分六厘六毛六糸 四百目 二寸一分六厘四毛五糸
五百目 二寸三分三厘一毛六糸 六百目 二寸四分七厘七毛七糸 七百目 二寸六分〇八毛四糸 八百目 二寸七分二厘七毛一糸
九百目 二寸八分二厘六毛三糸 一貫目 二寸九分三厘七毛七糸 十貫目 六寸三分二厘九毛一糸 百貫目 一尺三寸六分三厘《割書:八毛|五糸》
右なまり鋳かた寸法は開立を以て作る也又玉のおもさを積るには橋渡シを両に置掛合
又一度かけ其後四一八八八の法をかくれば知るゝ也又曰玉廻りの寸法を取両に置かけ
合又一度かけ四壱六をかくればおもさを知る也是は早積りの法なり
【円の内】
まわり 又云此玉廻り壱尺二寸此 重(をも)さ何程と問答壱尺二寸を三ツに割は四寸と
鉛玉 なる此を両に置かけ合又一度かけ六四と成これに五二をかけ又八をかくれは
一尺二寸 二貫六百六十二匁四分としるなり
○石だんの積り算
○石段(いしだん)がんぎの
すはる所からの土井(どゐ)
長さ壱丈三尺四寸五分
はゞ二 間(けん)あり此(この)土井(どゐ)八寸のりといふ
又 石(いし)二ツのあつさ七寸づゝにして幾段(いくだん)
すわり又ふむ所はゞ何寸づゝに
すへてよきぞ又 両方(りやうはう)のかづら石(いし)共(とも)に
【下段 町人の男女が旅人の男と石段で行き違う挿し絵】
【左丁】
石何程入と問答がんぎ十二段すはるふむはゞ
八寸七分五厘石廿八間九寸入といふ也
○金銀銭米相場割の事
○金壱両に付銀六拾目替にして今金三百八十四両の代銀何程と問
答曰 銀弐拾三貫〇四拾目
術曰有金《割書:三百八十|四両》を実とし両替銀《割書:六十|目》をかくれぼ代銀廿三貫〇四十目と成也
○金壱両に付銭六貫六百文替にして今金七拾五両の代銭何程と問
答曰 四百九拾五貫文
術曰有金《割書:七十|五両》を実とし両替銭《割書:六貫六|百文》を掛れば代銭四百九十五貫文と成也
○金壱両に付銭六貫六百文替にして今金三百廿五両弐歩の代銭何程と問
答曰 銭弐千百四十八貫三百文
術曰有金《割書:三百廿五両永五百文|此五百文は金二歩也》を置両替銭《割書:六貫六|百文》をかくれば代銭二千百四十八貫三百文と成
○銀百九十五貫四百弐拾目を金にして何程と問《割書:但し両替銀六十目|》
答曰 金三千弐百五拾七両
【右丁】
術曰銀《割書:百九十五貫|四百二十目》を置両替銀《割書:六十|目》にてわれば此金三千弐百五十七両と成也
○両替銀六拾弐匁にして銀壱匁の銭何程と問《割書:但し両替銭六貫七百十六文|》
答曰 銀壱匁の銭百〇八文
術曰両替銭《割書:六貫七百|十六文》を置百文以上定法《割書:九分|六厘》をかけ調銭《割書:六貫四百|四十八文》と成是を両替銀《割書:六十|二匁》
をもつて割ば調銭百〇四文となる百文の目銭四文をくわゆれば壱匁の代銭百〇
八文と成なり
○銀九百六拾目を銭にして何程と問 《割書:但し両替銀六十目に付銭六貫六百文也|》
答曰 銭百〇五貫六百文
術曰銀《割書:九百六|十目》を置両替銀《割書:六十|目》にてわれば《割書:金十|六両》となるこれに両替銭《割書:六貫六|百文》を掛れば
代銭百〇五貫六百文と成也
○銭は百文を以て百文とするを調銭と云九十六文をもつて百文とするは省銭
といふ但し七文より以下は銭率(せんりつ)《割書:九分|六厘》をかくると心得(こゝろう)べし
○省銭六貫五百文あり調銭にして何程と問
答曰 調銭六貫弐百四十文
術曰省銭《割書:六貫五|百文》を実として銭率《割書:九分|六厘》をかくれば調銭六貫二百四十文と成也
【左丁】
○調銭弐拾六貫百二十五文あり省銭にして何程と問
答曰 省銭二拾七貫二百十三文
術曰調銭《割書:二十六貫|百廿五文》を置百文以上を銭率(せんりつ)《割書:九分|六厘》にて割ば省銭廿七貫二百十三文と成也
○銭四百三十九貫六百八十四文を金にして何程と問 《割書:但し両替銭六貫|七百文》
答曰 金六拾五両弐歩二朱
術曰銭《割書:四百卅十九貫|六百八十四文》を置十文より下(した)は銭率《割書:九分|六厘》にて割は四百卅九貫六百八十七文
五分と成是を両替銭《割書:六貫七|百文》を以割ば金六拾五両と永銭六百弐十五文《割書:金二歩二|朱也》
則金六拾五両二歩二朱と成なり
○銭壱貫文あり銀九匁五分替にして銀八匁壱分七厘の代銭何程と問
答曰 銭八百五拾七文六分
術曰銭《割書:一貫|文》を置銭率《割書:九分|六厘》をかくれば調銭九百六十文と成是に《割書:八匁一分|七厘》をかけ
銀相場《割書:九匁|五分》にて割ば調銭八百弐拾五文六分と成百文以上銭率《割書:九分|六厘》を以われば
代銭八百五十七文六分と成也
○金壱両に付米七斗二升替にして米壱升の代何程と問《割書:但し両替銭|六貫六百文》
【右丁】
答曰 米壱升代銭八十八文
術曰両替銭《割書:六貫六|百文》を置銭率《割書:九分|六厘》をかけ調銭《割書:六貫三百|三十六文》と成を米相場《割書:七斗|二升》にて
われば米壱升の代銭八十八文と成也
○米七斗三升六合の代金壱両の時百文に付米何程と問《割書:但し両替銭|六貫四百文》
答曰 米壱升壱合五勺
術曰米相場《割書:七斗三|升六合》を置両替銭《割書:六貫四|百文》にて割ば米壱升壱合五勺と成也
○米壱石の代銀七十五匁の時金壱両に付米何程と問 《割書:但し両替|銭六十目》
答曰 米八斗
術曰銀六拾目を置一石の代銀七十五匁にて割ば米八斗と成也
○割増わり減の算
内【〇の中】たとへば内二日の減(へり)といふは物数一ツの内二分引て残り八分得るをいふ又八分を
もつて一ツを割ば二分五厘と成是を内二割増といふ又一ツの内三分引のこり
七分を得るこれを内三わり減(へり)といふ
外【〇の内】たとへば外二わり減といふ物数一ツ二分の内二分引残り一ツ得るをいふ又
一ツに二分をくわへ一ツ二分を得るを外二割増といふ余は准知(じゆんち)すべし
【左丁】
○本馬壱疋の駄賃百三十六文の場所外二割五歩増にして何程と問
答曰 駄賃銭百六拾九文
術曰原駄賃《割書:百卅|六文》を置《割書:目銭|四文》を引残り《割書:百三十|二文》と成を実とす《割書:二割|五分》を置定法一をくわへ
《割書:一ヶ二分|五厘》と成是を実にかくれば《割書:百六十|五文》と成《割書:目銭|四文》をくわゆれば駄賃銭百六十九文と成也
○人足壱人の賃銭八十四文の場所内三割増にして何程と問
答曰 賃銭百廿四文
術曰定法一を置内《割書:三|割》を引残《割書:七|分》と成をもつて原賃銭八十四文をわり目銭四文を
くわゆれば賃銭百廿四文と成也
【荷馬と人足の挿し絵】
【右丁】
○玄米(くろまい)十六石あり搗減(つきへり)壱割にして此白米何程と問答十四石四斗なり
術曰右十六石と置一わり減(へり)九をかくれば十四石四斗と成也
○玄米三十石を白米にして廿五石二斗あり此 搗減(つきへり)何程と問法に三十石の
内廿五石二斗を引余る米を三十石を以割ば一わり六分の減と成也
○米八百五十石あり一石に付三升づゝの欠(かん)立時(たつとき)は正味升目何程と問答升目八百二十
四石五斗也術曰壱石を左に置内三升引残る九七を以て八百五十石を掛て知る也
【男二人が話をし米が搗かる挿し絵】
【左丁】
○柴薪之売買
○銀十匁に付弐十五 荷(か)がへの柴([し]ば)百六十七荷あり此代銀何程と問 答曰
代銀六十六匁八分 術曰 買(かふ)荷数(かかず)《割書:百六|十七》に替(がへ)の銀《割書:十|匁》をかけて千六百七十 荷(か)
と成を替(がへ)の柴(しば)《割書:廿|五》にて割ば代銀《割書:六十六|匁八分》と成なり
○薪(たきゝ)八十四 束(そく)あり此代銀三十壱匁九分弐厘也一 束(そく)に付代銀何ほどゝ問
答曰一束に付三分八厘 術曰代銀《割書:三十一匁|九分二厘》を置(お)き束数(そくかず)《割書:八十|四》にて割は一束の
代銀《割書:三分|八厘》と成なり
○薪(たきゞ)五十 掛(かけ)の代銀百七十五匁にして有銀(ありがね)四百廿匁代の薪何程と問
答曰薪百廿 掛(かけ) 術曰 有銀(ありがね)《割書:四百|廿匁》を置(お)き薪数《割書:五|十》をかけて代銀《割書:百七十|五匁》にて
割ば買(か)ふ薪《割書:百廿|かけ》と成なり
○銀五百六十匁を以て薪百六十掛を買置(かひおく)あり是を一掛に付 同(おなじ)直段(ねだん)に売りて銀
四十弐匁の口銭(こうせん)あるといふ時は一 掛に付 直(なを)す目方(めかた)及(をよ)ひ薪高何程と問 答曰 買置(かひおく)
薪 目方(めかた)一掛に付廿壱貫五百匁○売(うる)薪高百七十二掛一掛に付 直(なを)す目方(めかた)廿貫匁
術曰 買(かふ)銀(ぎん)《割書:五百六|十匁》に口銭(こうせん)《割書:四十|二匁》を加へ六百〇弐匁と成に買薪《割書:百六|十掛》を掛れは九万六千三百弐
十掛と成を買銀《割書:五百六|十匁》にて割ば売薪高《割書:百七十|二かけ》と成也此売薪《割書:百七十|二かけ》にて右の六百〇弐
匁を割ば直(なを)す目方《割書:廿貫|匁》と成又 買(かふ)薪《割書:百六|十掛》にて買銀《割書:五百一|十匁》を割は本(もと)の目 方(かた)《割書:廿一貫|五百匁》と成也
【右丁】
○開平法の次第
【上段】
先位見(まづくらゐをみる) とは坪数多少あるを先大かた
何ほど四方になると大図を
知ることなり
二方塗(にはうぬり) とは有坪の内にて大方坪を積り
引残る坪をは大方の位一はいにして
夫を目安とし引残坪を先一けたに割也
【下段】
大方取(たいはうをとる) とは先位を見て其あたる位を両
にかけ合千坪数ほとある坪の内
引則其位をある坪上に立る也
角引(すみびき) とは大方を位にして残る坪割を等分
に二方へぬれとも角あはさるゆへ塗出し
の間を九九によびて割残坪の内にて引也
ぬりだし角
し
大方 た 又かくのことく角あわざるゆへぬり出すあいたを九九によびわり
り のこす坪の内引すつるなり
ぬ
平坪積百四拾四坪《割書:是を四角にして|》拾弐間四方と成
【算盤図】
位見 坪 ◆◆◆◆ 先位を見るは爰を一と定桁越して十と上へあげる也
十 ◆◆◆◆
積 百 ◆ 十 此十間を九九によび一の百坪引なり
先位を見るに十間に当るゆへ爰に大方十間とたてる也
【左丁】
【算盤図】
【上段①】
右積百四十四位を見て百坪
坪 ◆◆◆◆
残 引上し間立残り四十四坪
十 ◆◆◆◆
此図にあり
大方 十 ◇ 此十間へそのまゝ置左に又
この位を倍して二十間と
目安を作る下の図にあり
【上段②】
二二か四是を角引にはらふ也
残 ◆◆◆◆
二
二
塗 ◇◇ 此二を九九よび二が四坪下にて引也
大方 ◇
目安 ◆◆ 今これは用ひず
【下段①】
是四十間を立目安の廿間
坪 ◆◆◆◆
を以上一けたわれば十間の次に
今又三間立なり
残 十 ◆◆◆◆
又後の図にあり
大方 十 ◇
目安 十 ◆◆
【下段②】
間 ◇◇
正
十 ◇
○開平法右の図のごとく也積百四十四坪置先位を見る坪といふ所より一〇
十と次第(しだい)によみ上るとき積(せき)の頭に十あたる也先十間四方となり一ノ百坪積を
引其上へ引付て十間と大方を立る下に残て四十四坪あり又左にしりぞいて
大方の十間を倍して二十間と置これを目安にして残四十四坪をかみ一桁
われば大方十間の次に今二間立下にのこり四坪あり今立る二間を九九
によひ《割書:二|二》ノ四坪引はらへば正十二間と知るなり
【右丁】
○積拾三万三千弐百廿五坪を《割書:四定にして|》三百六十五間と成
【上段】
【算盤図】
位見 坪 積を置位をみるとき千
十◆◆ の位はなし百の位先四百間
百◆◆ 四方に取てみる《割書:四|四》千六万
十 坪はなきとき三百間四
千◆◆◆ 方に取也《割書:三|三》ノ九万坪積を
万◆◆◆ 引則其跡へ三百間と大
百 方を立るのこりて四万三
積 十◆ 千二百廿五坪有後の図に
あり
【算盤図】
◆坪 大方三百間の次今立六十
十◆◆ 間を倍し百二十間を左の
◆百◆ 目安にくわへ七百廿間を以て
残 千◆◆◆ のこる三千六百廿五坪を
塗 ◇十 上一桁わる時三百六十間
大方 百◇◇◇ の次に今又五間立その五
間を九九によび《割書:五|五》二十五坪
目安 ◆百◆ 下を払へば正三百六十五間
と知る也
【下段】
【算盤図】
◆坪 大方の三百間を倍に六百間
十◆◆ と左にのけて置夫を目安にして
百◆◆ 残る坪をかみ一桁わる時大方三
十◆◆◆ 百間の次今又六十間立その
残
万◆◆◆◆ 六十間を九九によび《割書:六|六》三千六百
大
百◇◇◇ 坪下を引は以上三百六十間と
方
成残て三千六百廿五坪あり
後の図のごとし
【算盤図】
間
三 角五 ぬり
二 開五間 塗
一 矩 六十間
◇間 三 塗
正 ◇ ◇ 二 之 間
百◇◇◇ 一 図 五
大方 十
十◆◆ 六
◆百◆◆ り 百
ぬ塗 三
三百六十五間
【左丁】
○開立法の事《割書:并|》開立に用る九九の定法
再乗(さいじやう)九九声(くくのこゑ)《割書:一 一 之 一二二之 八 三三二十七 四四六十四 五五百二十五|六六二百十六 七七三百四十三 八八五百十二 九九七百二十九》
【上段】
先位見《割書:とは坪数多少あるを先大かた|何程四方六めんになると也|図をしる事なり》
三方塗《割書:とは大方を究自乗して又三を|かけそれを目安にして残る坪|をたゞ一けたわるなり》
【下段】
大方取《割書:とは先位を見て其当る位を三乗|して其坪数程有坪にて減し|其位を残る坪の上に引付立る也》
《割書:三方|小角》引《割書:とは大方の次へ割付間を九九によび左に置|又右にて大方に三を掛夫へ次の割付間を|くはへ夫に左を掛其坪数程割残す坪で引也》
壱間四方六百の積弐千百九十七坪《割書:是□に四方六めんにして|》拾三間と成
【上段】
【算盤図】
◆坪◆◆ 積置位見る時十の位脇に
◆十◆◆◆◆ 退て左右に十間と置一ノ百
百◆ 坪と成夫に又高十間をかく
千◆◆ れば千坪と成是程有坪積
を減し其上引付て十間
千◆ と大方を立脇の左右は
百◆ 皆破算法十間の次に残
て千百九十七坪後の図
十◆ にあり
◆
【下段】
【算盤図】
◆坪◆◆ 上立大方のごとく脇退て
◆十◆◆◆◆ 又十間置それに元大方の
百◆ 十間よぶ時一ノ百坪と成是三
残 千◆ 方をかくれは三百坪と成是を
大方 十◇ 目安にして残る坪かみ一けたに
わる時大方十間の次に又
目安 百◆◆◆ 三間立次に残る二百九十
脇 百◆ 七坪有脇の目安は皆破
目安 十◆ 算す又次の図にあり
【右丁】
【上段】
【算盤図】
割 ◆坪◆◆ 大方の次に後に立三間を
残 ◆十◆◆◆◆ 《割書:三|三》の九坪と脇にしりぞいて
坪 百◆◆ 左に置又脇に右に大方
塗 間◇◇◇ のごとく十間と置それに
大方 十◇ 三方をかくれば三十間と成
又次に立三間をくはへ三
坪 十三間ありこれに左の九
百◆◆◆ 坪をかくれば二百九十七坪
右 百◆◆◆ と成是をわりのこす坪
十 にて引はらへば正十三間と
右 見ゆるなり
脇 ◆坪◆◆◆◆
左
【下段】
【算盤図】
万◇◇◇
正
十◇
○積五拾六万千五百十五坪六分二厘五毛を
《割書:四方六面にして|》八拾弐間半と成
【左丁】
【上段】
【算盤図】
◆毛 積置一〇〇十〇〇百と位
厘◆◆ 見る時百にあたらず十の
◆分◆ 位に取脇に退て左右に
位見 ◆坪 八十間と置両掛合《割書:八|八》六千
十◆ 四百是に高八十間をかく
◆百 れば五十一万二千坪これ
千◆ 程を有坪積て減し其
◆万◆ かみへ八十間と大方を立
◆十 脇の左右は皆破算す八
百 十間の下に残て四万九
千五百十五坪六分弐五
後の図にあり
千◆◆
万◆
右 ◆十
脇
左 ◆十◆◆◆
【下段】
◆毛 上に立つ大方のごとく
厘◆◆ 脇に又八十間と置夫に
◆分◆ 大方八十間をかくれは六
◆坪 四と成に三方をかくれば
十◆ 一九二と成是を目安にて
◆百 残坪を只一けた割とき
◆十◆◆◆◆ 大方八十間の次に又二間
残 万◆◆◆◆ 立次に残て一万千百十
五坪六二五ありわきの
大方 ◇十◇◇◇ 目安は皆破算す又後の
図にあり
安 二 ◆◆
九 ◆ ◆◆◆◆
目 一 ◆
【右丁】
【上段】
【算盤図】
◆毛 大方の次に後に立二間を
厘◆◆ 《割書:二|二》の四坪と脇に退て左に置
◆分◆ 又脇に右に大方の八十間
◆坪 を置それに三角の三を掛
十◆ れば二百四十間と成又次の
百◆ 二間をくわへて二百四十二
千◆ 間と成これに左の四坪
残 万◆ をかくれば九百六十八坪是
塗 間◇◇ 程を二間の三角少角に割
大方 ◇十◇◇◇ 残す坪で引也八十二間の次に
残一万百四十七坪六分二厘
五毛後の図にあり
◆坪◆◆◆
◆十◆
右 ◆百◆◆◆◆
左 坪◆◆◆◆
【下段】
【算盤図】
◆毛 上にうつ八十二間を又
厘◆◆ わきに退て置八十二間
◆分◆ をかくれば六七二四と成
◆坪◆◆ 是に三方をかゆれば二
十◆◆◆◆ 〇一七二となるこれを目
百◆ 安にして残る坪を一けた
わる時八十二間のつぎに
残 万◆ 又半間立下に残つて
間◇◇ 六十一坪六二五あり脇の
大方 ◇十◇◇◇ 目安はみな破算する又
後の図にあり
◆◆
二 ◆ ◆◆
一 ◆
目
安〇
二 ◆◆
【左丁】
○□□八十二間の次に後立半を《割書:五|五》二分五厘脇に退て左に置又脇右四上に立
【算盤図】
◆毛 八十二間を置それに三をかけ又次の半間をくはへ二百四十六間
厘◆◆ 半あり是に左に二分五厘をかくれば六十一坪六分二厘五毛と
◆分◆ なる是を半間の三角と小角に下に残る坪て引はらへは正八十
坪◆ 弐間半と見ゆるなり
残 ◆十◆
塗 ◇分
間◇◇
大方 ◇十◇◇◇
五
二 ◆厘
六 ◆分◆
一 坪◆◆◆
六 千◆◆
右
脇 ◆厘
左 分◆◆
【二段目】
【算盤図】
◇合
正 間◇◇
◇十◇◇◇
【三角図】
角
三
角
角
【三段目】 【四段目】
【正立方体図】 【正立方体図】
塗
一 大方 二
塗
【正立方体図】 【正立方体図】
角 塗
四 塗 開立
小 角 小角 成就
角 之図
角 塗
【右丁】
○ 開平円法の事
【上段】
○一寸四方の平坪三千八百七十一を真丸にしてさし
わたし何程と問答曰さしわたし七尺と成也
術曰有を円積七九を以われば数増とき開平法
をもつて徐なり径七尺と知るなり右わたり七尺
両におき掛合後七九をかくれば寸坪三千八百七
【円の図】 十一有是本の坪とあふなり指わたし
さしわたし 七尺の円廻り何程と問答二丈二尺
七尺 一寸二分ありといふ法に三一六に径り
七尺をかくれば廻り知るゝなり
【下段】
○此円物廻り壱丈五尺あり是寸何程と問
答曰千七百八十坪なり術に廻り壱丈五尺
両に置かけ合二二五と成是を定法十二六
四をもつて割ば坪数知るゝなり又右の弐二
【円の図】 五に七九二四かけてもよしまた
廻り 廻りを三一六割時さし渡と成
一丈五尺 夫を両に置かけ合七九をかけ
答千七百 ても坪数しれとも是はあしく【ゝヵ】たゞ
八十坪 廻りを云て坪する時右の算よし
○ 開立円つみ事
【玉の図】○一寸四方六面の積三十五万九千四百廿五坪四分三厘一
毛を玉にして径何程と問答曰玉径九尺に成也術に曰
さし渡し 積数を四八を以て割後開立法をもつて徐之玉指渡し
玉九尺 知るゝ也玉坪積は廻りを四ツに割両に置掛合又一度掛
る時四方六面の積何程有と知る也又径を両に置かけ
ても同し積也右玉の積り是早き算也又本算の定法
有といへども口伝多くして深き違ひなしとかく径一尺の玉に
一寸六面の積五百にてはなし是を以心得べし本積定法は秘伝也
【左丁】
○ 済統術の事
○京升二斗四升入の箱を深さ八寸一分にして四方きりのごとくに底をとかし
【正四角錐の図】さす時口広さ何程の四方に成と問
同 同 答曰 口広弐尺四寸〇五毛四方と成也
深さ八寸一分 術に升法六四八二七に二斗四升をかけ三を掛扨深《割書:サ|》八寸一分を以て割
二尺 同
四寸〇六毛 後開平法に徐之時口広さ知るなり
○ 六角の法の事
○一寸四方の積六千四百九十五坪あり是を六角にして一方の面何程と
答曰五尺つゝに成といふ術曰積数定法二五九八をもつてわれば二千五百
【六角の図】 【六角の図】 坪と成これを開平を以て徐之時六角
五尺 の面しるゝ也右六角の坪数積る
尺 五 同 一尺 時は面五尺両に置掛合定法二五
五 尺 同 九八をかくれば六千四百九十五坪と
尺 五 八寸六分六リン 同上 なる也六角の法二五九八といふは面一
五 尺 同 尺の六角に一寸四方の積り二百
尺五 同 同 五十九坪八分あるゆへ也此おこり
図にあり六角の法二百五十九坪八分是定法なり
【下段】
【六角を開平した図】
八寸六分六リン
寸 一
五 尺
尺 一
一 尺
尺 一
一 尺
寸
五
○ 八角の法の事
【八角の図】
九尺 ○壱尺四方の積三百九十一坪一分〇〇四を八角にて一方の
同 同 面何程と問 答曰九尺つゝに成也 術曰積数を定法四
同 同 八二八四をわれば八十一坪と成これを開平をもつて徐之
同 同 とき八尺の面知るゝなり右八角の坪数を積る時面九
同 尺両に置掛合定法四八二八四をかくれば三百九十坪一
分〇〇四と知るなり
○又世間に四一四二の法は違ひある也
【八角の図】 ○八角坪はや積り
一尺九寸 八角一ツあり是に一寸四方坪何程と問答曰五百十坪〇
五三ありといふ八角の積は面の寸をとらず如此とりて
角径二尺六寸八分七厘 はやし大小ともにあふ也術に角径二尺六寸八分七厘
に横壱尺九寸をかくれば坪数すぐに知るなり右八角
のすみ径り二尺六寸八分七厘両に置かけ合一四一四
二一をもつて割ても同坪と成定法なり
【左丁】
又ひらより平へのわたり自乗して後二二七一をかけても同し八角の面に二四一四二
をかくれば平と平の径知る也同面に二六一三一二をかくれば角と角との径知るなり
○八角を平坪に直したる図
【上段】
厘糸 分
二八 六
分毛 寸糸
合 八六 七六
四百 寸 て毛
八十 三 せ三
二八四 一尺八寸四分七リン七毛七糸 合厘
余 口五
是則 此坪三百四十一 二
四八 坪四分二余
二八四 あり 八角坪に直す
の 算は上にあらはす
をこ 図のごとくふちを
り也 落して平にあつ
めしもの也
【下段】
此所は二ツにわりて 厘 此長さ一尺八寸
下ひらをあはす也 二也 四分七厘七毛
分糸 六糸のもの也
八八
寸毛
三六
是も上と四分
平にならしたる図
七
かくのごとく 寸
あはす 六
分
五
厘
三
毛と成
【符号省略】
【右丁】
【上段】
○十幹(しつかん) 甲乙(かうをつ)《割書:木|》【きのへきのと】 丙丁(ひやうてう)《割書:火|》【ひのへひのと】
戊己(ほうき)《割書:土|》【[つ]ちのへつちのと】 庚辛(かうしん)《割書:金|》【かのへかのと】 壬癸(じんぎ)《割書:水|》【みづのへみつのと】
○同 異名(いめう)閼逢(あつほう)《割書:甲|》 旃蒙(せんもう)《割書:乙|》
柔兆(じうてう)《割書:丙|》 強圉(きやうぎよ)《割書:丁|》 著雍(ちやくちやう)《割書:戊|》【注①】
屠維(とい)《割書:巳|》 上章(じうしう)《割書:庚|》 重光(てうくはう)《割書:辛|》
玄黓(げんよう)《割書:壬|》 昭陽(せうよう)《割書:癸|》
○十二月 異名(いめう)
陬(すう)《割書:正|月》 如(ちよ)《割書:二|月》 寎(へい)《割書:三|月》 余(よ)《割書:四|月》
皐(かう)《割書:五|月》 且(しよ)《割書:六|月》 相(さう)《割書:七|月》 壮(さう)《割書:八|月》
玄(げん)《割書:九|月》 陽(やう)《割書:十|月》 辜(こ)《割書:十一|月》 涂(しよ)《割書:十二|月》
○四時(しいじ)春(しゆん)《割書:木|》夏(か)《割書:火|》秋(しう)《割書:金|》冬(とう)《割書:水|》
【下段】
【十二支の絵】【横書はかこみ】
十二(じうに) 摂提格(せつていかく)《割書:寅|》 大荒落(たいくはうらく)
枝(し) 《割書:丑|》 《割書:巳|》
一 ̄ニ作 赤奮若(せきふんじゃく)
_レ支 ̄ニ 《割書:卯|》
異(い) 単閼(たんあつ) 《割書:辰|》
名(めう) 執除(しつぢよ)
《割書:子|》 閹茂(えんも)《割書:戌|》
困敦(こんとん) 大淵献(たいえんけん)
《割書:午|》 《割書:亥|》
敦牂(とんしやう)
《割書:未|》
脇洽(けうかう)
涒灘(くんたん)《割書:申|》【注②】
作噩(さくかく)《割書:酉|》
【左丁】
《割書:皇漢|西洋》書籍売捌処
書籍売捌処
《割書: |大阪心斎橋通北久太良町》
積玉圃 柳原喜平衛
【注① 「雍」は「やう」】
【注② 「涒」は「とん」】
本舗高田益生舎家ノ伝
新潟県下ヵ《見せ消ち:中頸城郡|中頸城郡》
越後高田
茶町
《見せ消ち:丸山御主人様内ニテ|》茶町
《見せ消ち: 佐藤安治郎|》 《見せ消ち:丸山辰蔵|》
《見せ消ち:用本ヵ|》
善光寺町有沢市太郎
【欄外右辺】
大功記(たいこうき)出世(しゅつせ)双六(すごろく) 錦朝楼芳虎画
【右下隅から時計回りに外から内へ】
【①】
ふり出し
三州(さんしう)矢矧橋(やはぎのはし)
猿之助(さるのすけ)勇気(ゆうきを)顕(あらはす)
【②】
蜂塚村(はちづかむら)
猿之助(さるのすけ)そくち【即智】
【③】
藤川(ふぢかは)合戦(かつせん)
東吉郎(とうきちらう)初陣(ういぢん)高名(かうみやう)
【④】
佐屋川(さやかは)合戦(かつせん)
東吉郎(とうきちらう)先陣(せんぢん)
【⑤】
岩倉(いはくら)攻(せめ)
小田(をた)七郎(しちらう)左(ざ)エ(へ)門(もん)
勇戦(ゆうせん)
【⑥】
桶狭間(をけはざま)
稲川(いながは)義元(よしもと)討死(うちじに)
【⑦】
美濃(みの)攻(ぜめ)
むしろばた
【⑧】
須俣川(すのまたかは)
一夜城(いちやしろ)
【⑨】
稲葉山(いなばやま)間道(かんだう)
織尾(おりを)茂助(もすけ)
勇力(ゆうりき)
【⑩】
和田山(わだやまの)城(しろ)
三時ぜめ
【⑪】
姉川(あねがは)合戦(かつせん)
五十野(いその)丹波(たんばの)守(かみ)
十二/段(たん)備(そなへ)をやぶる
【⑫】
越前(ゑちぜん)征伐(せいばつ)
山崎(やまさき)長門(なかたの)守(かみ)
しんがり
【⑬】
高松城(たかまつしやう)
水ぜめ
【⑭】
安土(あづち)
森(もり)蘭丸(らんまる)
光秀(みつひて)を打(うつ)
【⑮】
本能寺(ほんのうじ)
小田(をだ)春永(はるなか)
さいご
【⑯】
二條(にてう)落城(らくじやう)
武智(たけち)十郎(しゆらう)左(さ)エ(へ)門(もん)
うちじに
【⑰】
尼ヶ崎(あまがさき)
久吉(ひさ■)の智(ち)
危難(きなん)をのかる
【⑱】
山崎(やまざき)合戦(かつせん)
武智(たけち)光秀(みつひで)
敗軍(はいくん)
【⑲】
近江(あうみ)辛崎(からさき)
武智(たけち)左馬助(さまのすけ)
湖水(こすい)わたり
【⑳】
清州(きよす)評定(ひやうぢやう)
千羽田(ちはた)辰家(たついへ)
不礼(ふれい)
【㉑】
大徳寺(だいとくじ)
焼香(しやうかう)
【㉒】
賊ヶ峯(しづがみね)
久吉(ひさよし)威(ゐ)を顕(しめ)す
【㉓】
野間(のま)内海(うつみ)
小田(をだ)春孝(はるたか)滅亡(めつ□う)
【㉔】
越中(ゑつちう)富山(とやま)
笹(さゝ)成政(なりまさ)降参(かうさん)
【㉕】
紀州(きしう)根来(ねころ)攻(せめ)
悪僧(あくそう)三万人
やきほろぼす
【㉖】
四国(しこく)征伐(せいばつ)
佐藤(さとう)正清(まさきよ)
焼山(やけやま)を越(こへ)る
【㉗】
九州(きうしう)平定(へいぢやう)
大友(おほとも)義弘(よしひろ)
くだる
【㉘】
小田原(をだはら)陣(ぢん)
関(くわん)八州(はつしう)落陥(らくかん)
【㉙】
朝鮮(てうせん)征伐(せいばつ)
正清(まさきよ)虎(とら)かり
【㉚】
賊(しづ)ヶ(が)峯(みね)七本鎗(しちほんやり)
佐藤正清
秋坂安治
浮島正則
平野長安
形桐且元
佐藤嘉明
糟谷武則
【欄外左辺】
東都通油町 藤岡屋慶治郎梓
【㉛】【1コマ目㉚の折り込み内】
上り
源平英雄寿語録 一寿齋芳員画 《割書:両|国》 《割書:横山町三丁目| 辻岡屋文助板》
【以下、右上から1段目-①列目とする】
【1-①】
根ノ井大彌太行親【根ノ井大弥太行親】
一 上り
二 ひぐち
五 かじはらかげすへ
【1-②~1-⑤】
北条時政
右大将頼朝
大江広元
和田左エ門義盛
上り
【1-⑥】
今井四郎兼平
三 上り
四 さゝき
六 ひぐち
【2-①】
佐々木(さゝき)三郎(さぶらう)盛綱(もりつな)
一 ねのゐ
三 ゆり
六 みうらのすけ
【2-②】
楯(たて)六郎(ろくらう)親忠(ちかたゞ)
三 いまゐ
四 ひらやま
六 かづさのすけ
【2-③】
樋口(ひぐちの)治郎(じらう)兼光(かねみつ)
一 いまゐ
三 さゝきもりつな
五 ■■■
【2-④】
梶原(かじはら)源太(げんだ)景季(かげすへ)
三 ねのゐ
四 ひらやま
六 ふるこをり
【2-⑤】
熊谷(くまがへ)治郎(じらう)直実(なをざね)
一 たてのろくらう
二 てづかのたらう
五 かづさのすけ
【2-⑥】
平山(ひらやまの)武者所(むしやところ)季重(すへしけ)
三 さいとう
四 かじはらかけすへ
六 ゆり
【3-①】
齋藤(さいとう)別当(べつとう)実盛(さねもり)
二 ひぐち
三 くまがへ
五 かとうじ
【3-②】
土屋(つちや)大学介(だいかくのすけ)義清(よしきよ)
二 かじはらかげすへ
四 たてろくらう
六 くまがへ
【3-③】
三浦之介(みうらのすけ)義證(よしずみ)【三浦之介義澄】
二 ひらやま
三 いづみ
五 かづさのすけ
【3-④】
由利(ゆり)八郎(はちらう)惟平(これひら)
一 くまがへ
五 さゝきもりつな
六 たてのろくらう
【3-⑤】
手塚(てづかの)太郎(たらう)光盛(みつもり)
一 いまゐ
四 かじはらかげすへ
六 いづみのさぶらう
【3-⑥】
和泉(いづみの)三郎(さぶらう)忠衡(たゞひら)
一 ひぐち
三 ひらやま
五 ちばのすけ
【4-①】
千葉介(ちなのすけ)常胤(つねたね)
四 いなげ
五 かじはらかげたか
六 ゆり
【4-②】
古郡(ふるこふり)新左エ門(しんざへもん)保忠(やすたゞ)
一 ■■■すけ
三 いなげ
六 さいとうべつとう
【4-③~5-④】
ふり出し
一 ふればかとうじ
二 ふればいなげのさぶらう
三 ふればさとうたゞのぶ
四 ふればちばのすけ
五 ふればおかざきしらう
六 ふればかじはらかげたか
出ぢんの肴組図
勝くり五つ 昆布五つ
打蛇五つ 盃三つ
帰陣の肴組図
打あわび五つ 昆布五つ
かちぐり五つ 盃三つ
【4-⑤】
加藤(かとう)二(じ)影簾(かげかど)【加藤次景廉】
二 かづさのすけ
五 ゆりはちらう
六 おかざきしらう
【4-⑥】
佐藤(さとう)四郎(しらう)忠信(たゞのぶ)
三 かじはらかげたか
四 くまがへ
五 つちや
【5-①】
梶原(かじはら)平二(へいじ)景高(かげたか)【梶原平次景高】
一 さいおうべつとう
三 おかざきしらう
六 さとうたゞのぶ
【5-②】
稲毛(いなげ)三郎(さぶらう)重成(しげなり)
一 つちやだいかく
三 てづかのたらう
五 ひぐちのじらう
【5-⑤】
岡崎(おかざき)四郎(しらう)義直(よしなを)
一 いづみのさぶらう
三 ゆりはちらう
六 みうらのすけ
【5-⑥】
上総助(かづさのすけ)忠清(たゞきよ)
一 ゆりはちらう
四 ふるこをり
六 ひぐち
《見せ消ち:第十六号|第十五號》 弐冊
《題:《割書:福田|理軒|著述》明治小學塵劫記《割書:自桝物利足|至差分杉拼》二》
福田理軒先生著【陽刻の社印】巻二
《題:明治小学塵劫記》
東京書肆 万青堂発兌
ニ之巻
【上段】
桝物(ますもの)の/算(さん)廿問/同解(おなしくかい)
尺物(しやくもの)の算十五問同解
内外増減(ないぐわいざうげん)算五問同解
盈□(えいじゆく)算四問同解
約分(やくぶん)二問同解
加減分(かげんぶん)二問同解
除分(じよぶん)二問同解
復習題(ふくしうだい)五十六問同荅式
【下段】
掛目(かけめ)の/算(さん)廿問同解
日時(にちじ・ひとき)の算十六問同解
貸借(かしかり)利足(りそく)算十五問同解
差分(さぶん)算十五問同解
命分(めいぶん)一問同解
乗分(じようぶん)二問同解
杉拼(すぎはへ)の算五問同図解
【右丁】
次編(じへん) 目録(もくろく)
定位(ぢやうゐ) 面積(めんせき) 体積(たいせき) 地方(ぢかた) 開平(かいへい)
開立(かいりう) 勾股(こうこう) 幾何(きか) 点竄(てんざん)
【左丁】
明治小学塵劫記(めいじせうがくぢんかうき)巻之二
福田理軒著
花井静校
枡物(ますもの)の算(さん)
一 米(こめ)一 石(こく)の価(あたひ)三 円(えん)八十 銭(せん)の時(とき)金(きん)五千七百円に/米(こめ)何程(なにほど)あるや
荅 千五百石
術(じゆつ) ㈠三円八十銭 ㈡一石 ㈢五千七百円 故(ゆへ)に㈠の
三円八十銭を/以(もつ)て㈢の五千七百圓を/除(のぞ)き千五百/石(こく)と/知(し)
る㈡の一石を/乗(かけ)ざるものは/前(まへ)に/示(しめ)す/如(ごと)く一の數(かず)なるゆ
へなり/他(た)/之(これ)にならへ
【頭部欄外 蔵書印】
福島県岩
瀬郡北横
田小学校