コレクション2の翻刻テキスト

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BnF.

《題:榮圖》

榮 ̄ハ者動脉 ̄ナリ也。其 ̄ノ源出_二 ̄ツ於心蔵 ̄ノ左系_一 ̄ニ。注_二 ̄キ大衝脉_一 ̄ニ。上_二 ̄リ缺盆_一 ̄ニ下 ̄ル_レ臍 ̄ニ一條 ̄ノ大動脉 ̄ナリ也。則 ̄チ脊裡動脉是 ̄ナリ也。其 ̄ノ別 ̄ルヽ者 ̄ヲ爲_レ經 ̄ト爲_レ絡 ̄ト。爲_二支絡孫絡細絡_一 ̄ト。其 ̄ノ末 ̄ヘ如_レ ̄トク羅如_二 ̄トクナリ毫釐_一也。上 ̄リ
_レ頭 ̄ニ注_レ ̄キ手 ̄ニ下_レ ̄リ足 ̄ニ。内 ̄チ灌_二漑 ̄ス於十二蔵_一 ̄ニ。榮者 ̄ハ行_二 ̄ク脉中_一 ̄ヲ。大小動 ̄テ而 ̄シテ不_レ居 ̄ラ也。過_二 ̄キ骨上_一 ̄ヲ行_二 ̄クモノ絶道_一 ̄ヲ者。可_三 ̄シ診 ̄シテ而 ̄シテ察_二 ̄ス有餘不足_一 ̄ヲ也。資_乙 ̄トル養 ̄ヲ於中焦水穀之味 ̄ノ化 ̄シテ而 爲(ナル)_二精微_一 ̄ト者(モノ)_甲 ̄ヨリ。《割書:微一 ̄ニ作_レ ̄ル糜 ̄ニ|洞 ̄シテ出_レ ̄スノ糜之》
《割書:糜|仝。》靈樞逆順肥痩篇 ̄ニ曰 ̄ク。衝脉 ̄ハ爲_二 ̄タリ血 ̄ノ之海_一。其 ̄ノ上(ノホ) ̄ル者 ̄ハ。従(ヨ)_二 ̄リ缺盆_一走_二 ̄リ於息道_一 ̄ニ。通_レ ̄シテ頂 ̄ニ出_二 ̄ツ於頑顙_一 ̄ニ。滲_二 ̄シ諸陽_一 ̄ニ灌(ソヽ)_二 ̄ク諸精_一 ̄ニ。其 上(ノホ) ̄ツテ而 外(ソト) ̄ナル者 ̄ハ。従(ヨ)_二 ̄リ缺盆_一俠_二 ̄ミ結喉_一 ̄ヲ。伏行 ̄シテ貫_二 ̄テ耳中_一 ̄ヲ出_二 ̄ツ耳前_一 ̄ニ。上_二 ̄テ頭
角_一 ̄ニ而 ̄シテ散 ̄ス。従(ヨ)_二 ̄リ耳前_一別 ̄ルヽ者(モノ)。上_二 ̄リ眉後_一 ̄ニ。循_二 ̄リ額角_一 ̄ヲ。至 ̄テ_レ顖 ̄ニ而 ̄シテ散 ̄ス。其 ̄ノ後 ̄ヘナル者(モノ)従_二 ̄リ耳下_一別 ̄レテ。出_二 ̄テ耳後_一 ̄ニ。俠_二 ̄ンテ枕骨_一 ̄ヲ上_二 ̄リ後頂_一而 ̄シテ散 ̄ス。其前 ̄ナル者(モノ) ̄ハ別_二 ̄レ人迎_一 ̄ヨリ。上_二 ̄リ大迎_一 ̄ニ。出_二 ̄テヽ口吻_一 ̄ニ。至_二 ̄リ鼻柱 ̄ノ下_一 ̄トニ。伏行 ̄シテ出_二 ̄テ鼻 ̄ト與鳩 ̄ト
間_一 ̄ニ。循_二 ̄リ眉本_一 ̄ヲ上_レ ̄テ額 ̄ニ而 ̄シテ散_二 ̄ス前頂_一 ̄ニ。従(ヨ)_二 ̄リ大迎_一別 ̄ルヽ者(モノ)ハ。循_二 ̄リ下齒 ̄ノ齗_一 ̄ヲ。承漿_一 ̄ニ。循_二 ̄リ下唇_一 ̄ヲ合_一 ̄ス口吻_一 ̄ニ。滲_二 ̄シテ諸絡_一 ̄ニ温_二 ̄ム肌肉_一 ̄ヲ。故 ̄ニ絡 結(ムス) ̄ホルトキ面 ̄ン脉不_レ動。不_レ ̄レハ動則厥 ̄ス。厥 ̄レハ則寒 ̄ス年【矣ヵ】。」其 ̄ノ横 ̄ナル者(モノ) ̄ハ従_二 ̄リ缺盆_一別 ̄レテ横 ̄ニ出 ̄テ
腋下_一 ̄ニ。循_二臑(ノウ)内_一 ̄ヲ入_二 ̄ル肘中_一 ̄ニ。伏_二行 ̄シテ臂 ̄ノ上骨内_一 ̄ヲ。出_二 ̄テヽ腕後_一 ̄ニ上_レ ̄リ魚 ̄ニ。入_二 ̄ル大指内間_一 ̄ニ従_レ ̄リ肘別 ̄レテ而 ̄シテ下(クタ) ̄ル者(モノ) ̄ハ。伏_二行 ̄シテ臂 ̄ノ下骨内_一 ̄ヲ。出_二 ̄ツ掌骨後_一 ̄ニ。其前 ̄ヘナル者 ̄ハ従_二 ̄リ掌後_一別 ̄レテ出_二 ̄テ合骨兩骨 ̄ノ之間_一 ̄ニ。其 ̄ノ後 ̄ヘナル者(モノ) ̄ハ従_二 ̄リ
掌後_一 ̄ヨリ。伏行掌中_一 ̄ヲ。入_二 ̄リ諸指間_一 ̄ニ。滲_二 ̄キ諸絡_一 ̄ニ而 ̄シテ温_二 ̄ム肌肉_一 ̄ヲ。故 ̄ニ絡結 ̄レハ合谷不_レ動。不_レ ̄レハ動則厥 ̄ス。厥 ̄レハ則 ̄チ寒 ̄ス年【矣ヵ】。」其 下(クタ) ̄ル者 ̄ハ直(タヽ) ̄チニ下 ̄テ至_二 ̄リ臍_一 ̄ニ。㔫右 ̄ニ別 ̄レテ《割書:三結交|也》出_二 ̄テ氣衝_一 ̄ニ。循 ̄テ_二隂股内廉_一 ̄ヲ。斜 ̄ニ入_二 ̄リ膕中_一 ̄ニ。伏_二
行脛骨内_一 ̄ヲ。下 ̄テ入_二 ̄テ内踝 ̄ノ之後属_一 ̄ニ而 ̄シテ別 ̄ル。従_レ ̄リ膕別 ̄テ而 ̄シテ下 ̄ル者(モノ)。伏_二行 ̄シテ脛骨外_一 ̄ヲ。下 ̄テ至_二 ̄テ解鞋穴 ̄ノ之分_一 ̄ニ而別 ̄ル。其前 ̄ナル者 ̄ハ伏行 ̄シテ出_二 ̄テ附屬_一 ̄ニ。下 ̄テ循_二 ̄リ足心_一 ̄ヲ。散 ̄シテ入_二 ̄ル諸指間_一 ̄ニ。其 ̄ノ後 ̄ヘナル者(モノ) ̄ハ。従_二 ̄リ解鞋_一 下_二跗
陽_一 ̄ニ。散 ̄シテ入_二 ̄リ諸指間_一 ̄ニ。滲_二 ̄メ諸絡_一 ̄ニ而 ̄シテ温_二 ̄ム肌肉_一 ̄ヲ。故絡 ̄ク結 ̄レハ趺上不_レ動。不_レ動則厥 ̄ス。厥 ̄レハ則寒 ̄ス年【矣ヵ】



《題:中經圖》

史記 ̄ノ扁鵲傳 ̄ニ曰 ̄ク繵_二縁 ̄ス中經維絡_一 ̄ニ
膈膜 ̄ノ之下 ̄モ。上下二紀之
間 ̄タ。生_二 ̄シ細支絡_一。受_二 ̄テ血 ̄ヲ於榮_一 ̄ヨリ。
相會 ̄シテ而 ̄シテ爲_二 ̄ミ一大經_一 ̄ラ。亦 ̄タ散 ̄シテ
生 ̄シ_二細支絡_一 ̄ヲ。周_二布 ̄ス於肝臓_一 ̄ニ。
而 ̄シテ輸(ヲクル)_二血 ̄ヲ於 衛(ヱ)_一 ̄ニ。名 ̄テ曰_二 ̄フ中經_一 ̄ト。
此 ̄ノ經。比_レ ̄レハ榮 ̄ニ乃 ̄チ無_レ動。比_レ ̄レハ衛 ̄ニ
乃 ̄チ無_レ節。是 ̄レ腹部一種 ̄ノ之
竒經 ̄ナリ也。


陽州園蔵版一

《題:衛圖》
衛(ヱ)者 ̄ハ不_レ動。其 ̄ノ道(ミチ)有_レ節。節 ̄ノ之長短不_レ 一 ̄ナラ。靈樞曰。節之交。三百六十五《割書:云》云。是也。其源起 ̄リ榮 ̄ノ之所_一レ ̄ロニ終 ̄ル。資 ̄トツテ始 ̄ル也(ナリ)。多 ̄ク起_二 ̄ル四肢頭面_一 ̄ニ。浮 ̄テ而 ̄シテ逆行 ̄シ。會_二 ̄シテ頸(━)項(━)肘(━)膝(━)_一 ̄ニ。潜_二行 ̄ス分肉 ̄ノ裡_一 ̄ヲ也。起源 ̄ハ如_レ ̄ク羅 ̄ノ如_二 ̄シ毫釐_一 ̄ノ。而 ̄シテ細絡 ̄トナリ而 ̄シテ
孫絡 ̄トナリ而 ̄シテ支絡 ̄トナリ而 ̄シテ絡 ̄トナリ而 ̄ト經 ̄トナリ大 ̄ニ會 ̄シテ爲(ナ)_二 ̄ル大經_一 ̄ト。並_二 ̄テ大衝 ̄ノ脉_一 ̄ニ。貫_二 ̄キ膈膜_一 ̄ヲ。混朿 ̄シテ而 ̄シテ入_二 ̄ル扵心藏 ̄ノ右系_一 ̄ニ。朝_二 ̄シテ扵肺藏_一亦 ̄タ下_二 ̄リ扵心藏_一 ̄ニ。爲(ナ)_二 ̄ル榮 ̄ノ之源_一 ̄ト也。中焦水穀 ̄ノ之精糜亦 ̄タ爲(ナ)_二 ̄ス一道_一者(モノ)。上_二 ̄リ缺盆骨下_一 ̄ニ。而 ̄シテ合_二 ̄シ此 ̄ノ大經_一 ̄ニ。入_二扵心藏 ̄ノ右
系_二 ̄ニ。變化 ̄シテ而 ̄シテ赤 ̄シ謂_二 ̄フ之 ̄ヲ血_一 ̄ト也(ナリ)。要 ̄スルニ榮(ヱイ)衛(ヱ)俱 ̄ニ是 ̄レ血道 ̄ニシテ。而 ̄シテ滎 ̄ハ者動 ̄テ而順 ̄ニ下 ̄リ。衛(ヱ) ̄ハ者不_レ ̄シテ動 ̄カ而逆 ̄ニ上 ̄ル。二 ̄ソノ者 ̄ノ充_二實 ̄シ扵一身_一 ̄ニ。潮_二汐 ̄ス扵心藏_一 ̄ニ。故 ̄ニ榮 ̄ニ有_二 ̄リ經絡_一。衛(ヱ) ̄モ亦 ̄タ有_二 ̄リ經絡_一直行 ̄ノ者 ̄ヲ爲_レ ̄シ經 ̄ト。傍出 ̄ノ者 ̄ヲ爲_レ ̄ス絡 ̄ト。榮衛相 ̄ヒ貫 ̄ク如_二 ̄シ環 ̄ノ無_一レ端(ハシ)。莫_レ ̄ス
_レ知_二其期_二 ̄ラ也。葢 ̄シ榮 ̄ハ者出 ̄シテ而 ̄シテ不(ス)_レ納 ̄レ。衛 ̄ハ者納 ̄レテ而 ̄シテ不(ス)_レ出 ̄サ。外邪 ̄ノ之中_レ ̄タル人槩/由(ヨ)_レ ̄リ衛入 ̄ル也(ナリ)。靈樞夲輸篇 ̄ニ曰 ̄ク出(イツル)_二 ̄ヲ扵手 ̄ノ大指端内側小商之穴_一 ̄ニ。爲(ス)_レ井 ̄ト。溜_二扵魚際_一。魚際 ̄ハ者手魚/也(ナリ)。爲_レ滎 ̄ト。注_二扵大淵_一 ̄ニ大淵 ̄ハ者魚後一寸/也(ナリ)
爲_レ輸。行_二扵經渠_一。經渠 ̄ハ者寸口中也。爲_レ經。入_二扵尺澤_一。尺澤者 ̄ハ肘中也。爲_レ合。○出_二手 ̄ノ中指之端中衝之穴_一爲_レ井。溜_二扵勞宮_一。勞宮者 ̄ハ掌中中指本節之内間也。爲_レ滎。注_二扵大陵_一。大陵者 ̄ハ掌後兩骨之
間也。爲輸_レ。行_二扵間使_一間。使之道 ̄ハ兩筋之間 ̄タ三寸 ̄ノ之中也。爲_レ經。入_二扵曲澤_一。曲澤者 ̄ハ肘 ̄ノ内廉也。爲_レ合。○出_二扵手小指次指之端關衝之穴_一。爲_レ井。溜_二扵液門。液門者 ̄ハ小指次指之間也。爲_レ滎。注_二扵陽
池_一。陽池/者(ハ)在_二腕上。爲_レ輸。行_二扵支溝支溝/者(ハ)上_レ ̄コト腕三寸兩骨之間也。爲_レ經。入_二扵天井。天井者(ハ)肘外大骨之上也。爲_レ合。○出_二扵手 ̄ノ小指之端少澤之穴_一。爲_レ井。溜_二前谷_一。前谷者。手 ̄ノ外廉本節前也【赤字で中央に「、」】。注【赤字で「、」】_二《割書:爲滎》
扵腕骨_一 ̄ニ。腕骨/者(ハ)在_二手 ̄ノ外側腕骨之前_一 ̄ニ。爲_レ輸。行_二扵陽谷_一。陽谷/者(ハ)鋭骨之下也。爲_レ經。入_二扵小海_一。小海/者(ハ)肘内大骨之外也。爲_レ合。○出_二扵手 ̄ノ大指次指之端商陽之穴_一。爲_レ井。溜_二扵二間_一。二間/者(ハ)本節
之前也。爲_レ滎。注_二扵合谷_一 ̄ニ。合谷/者(ハ)在_二大指骨之間_一。爲_レ輸。行_二扵陽谿_一。陽谿/者(ハ)兩筋 ̄ノ之間也。爲_レ經。入_二扵曲池_一。曲池/者(ハ)肘外輔骨陷者中 ̄ナリ。爲_レ合。○出_二扵足 ̄ノ大指端外側大敦之穴_一。爲_レ井。溜_二扵行間_一。行
間/者(ハ)足 ̄ノ大指間也。爲_レ滎注_二扵大衝_一 ̄ニ。大衝/者(ハ)行間之上二寸也。爲_レ輸。行_二扵中封_一。中封/者(ハ)内踝之前一寸半也。爲_レ經。入_二扵泉_一。曲泉/者(ハ)輔骨之下 ̄ト大筋 ̄ノ之上也。爲_レ合。○出_二扵足 ̄ノ大指之端内側隠
白之穴_一。爲_レ井。溜_二扵大都_一。大都/者(ハ)本節 ̄ノ之後 ̄ヘノ下也。爲_レ滎注_二扵太白_一。太白/者(ハ)腕骨之下也。爲_レ輸。行_二扵商丘_一。商丘/者(ハ)内踝之下也。爲_レ經。入_二扵隂之陵泉。隂之陵泉/者(ハ)輔骨之下也。爲_レ合。○出_二扵足心


湧泉之穴_一爲_レ井。溜_二扵然谷_一。然谷/者(ハ)然骨下也。爲_レ滎。注_レ扵大谿_一。大谿/者(ハ)内踝 ̄ノ之後跟骨之上也。爲_レ輸。行_二扵復留_一。復留/者(ハ)内踝上二寸。爲_レ經。入_二扵隂谷_一。隂谷/者(ハ)輔肯之後 ̄ヘ大筋之下 ̄ト
小筋 ̄ノ之上也。爲_レ合。○出_二扵足 ̄ノ小指之端外側至隂之穴_一。爲_レ井。溜_二扵通谷_一。通谷/者(ハ)本節之前 ̄ヘ外側也。爲_レ滎。注_二扵京骨_一。京骨者(ハ)足 ̄ノ外側大骨之下也。爲_レ輸。行_二扵崑崙_一。崑崙/者(ハ)外踝之
後跟骨之上 ̄ナリ。爲_レ經。入_二扵委中_一。委中/者(ハ)膕中央也。爲_レ合。○出_二扵足 ̄ノ小指次指之端竅隂之穴_一。爲_レ井。溜_二扵俠谿_一。俠谿/者(ハ)足 ̄ノ小指次指ノ之間也。爲_レ榮。注_二扵丘墟_一。丘墟者。外跟 ̄ノ之前 ̄ヘノ下 ̄タ陷
者 ̄ノ中也。爲_レ輸。行_二扵陽輔_一。陽輔者(ハ)外踝之上《割書:也》輔骨 ̄ノ之前 ̄ヘ絶骨之端也。爲_レ經。入_二扵陽之陵泉_一。陽之陵泉/者(ハ)膝外陷者中也。爲_レ合。○出_二扵足 ̄ノ大指次指之端厲兌之穴_一 ̄ニ。爲_レ井。溜_二扵内庭_一。
内庭者次指外間也爲滎注扵衝陽街陽者足跗上五寸也爲輸行解鞋解鞋者衝陽上一寸半也爲經入扵下陵下陵者膝下三寸經骨外也爲合○缺盆中名曰天突一
次天突之側名曰人迎陽明挾喉穴也二次人迎之側名曰扶突在人迎之外不至由頰二寸三次扶突之側名曰天窻當曲頰四次天窻之側名曰天容少陽耳下曲類之
後也五次天容之側名曰天耀本耳下完肖之下六次天爛之外名曰天柱大陽挾項大筋之中髪際也七次項之中央名曰風府也衛生手足之端逆行浮而朝扵内者歴
合穴而沈潜行肉中也衛之生頭面而下行者合扵左右中央十四穴分而沈潜行肉中也夫精神榮衛者醫之先務人之大寶也黄岐之道在内經農皇之道在本經不外
于精神榮衛也今刻榮衛中經三圖人之血脉往来逆順如環無端亦不外于此圖則王氏銅人經滑櫻寧十四經發揮恣其博會之諔詭未免揣摩臆度有不决之疑也

文政八年乙酉复五月   侍醫法眼石阪宗哲撰
            醫官《割書:外孫》吉田秀哲校《割書:並》書   陽州園蔵版二

BnF.

BnF.

水滸画伝  上

【右下にシール】
JAPONAIS
4670
1

【右上欄外に横書き】
Japonais 4670 (1)


柳水亭種清著
葵岡北渓画

水滸画伝 全三冊
   東都書肆
     甘泉堂板 
【右下欄外に横書き】
Don 35719

這(この)水滸伝(すゐこでん)也(や)。洪信(こうしん)が龍虎山(りやうこざん)の邪(じや)に乱(みだ)れて。宗公(さうこう)が
蓼兒洼(りやうじあ)の義(ぎ)に治(おさま)る。邪(じや)は 是(これ)蛇(じや)にして義(ぎ)は是(これ)蟻(ぎ)也(なり)。蛇(じや)の
百丈(ひやくぜう)にして莫大(ばくたい)なれども。六朔(りくさく)に看(み)る 背富士(うらふじ) の麦茎(むぎはら)
工手(ざいく)に髣髴(さもにたり)。蟻(あり)の寸分(すんぶん)にして至小(ゑひせう)なれども。或(あるひ)は洷(とうくみ)あるひは
淵(ふち)なす。邪(じや)の大(だい)なるは成(なり)やすく。義(ぎ)の小(せう)なるは成難(なしがた)し。
その小(せう)を以(も)て大(だい)に勝(かつ)と。貴童(おこさまがた)に義(ぎ)を勧(すゝめ)て。百八 傑(けつ)に
なけなしの。力(ちから)を勠(あわ)せつ序(じよ)すこと有尒(しかり)

安政三丙辰歳正月           柳水亭種清識

【右頁】
太宋(だいそう)の仁宗(じんそう)
皇帝(くわうてい)万民(ばんみん)の
災(わざわひ)を払(はら)はん為(ため)
中太尉(ちゆうたいゐ)洪信(こtうしん)を
勅使(ちよくし)として江西(こうせい)信州(しんしう)の
龍虎山(りやうこざん)に遣(つかは)し道士(だうし)の真人(しんじん)を
迎(むか)へんと登山(とざん)するに其(その)
辛苦(しんく)を恨(うら)みければ
忽(たちまち)猛虎(もうこ)毒蛇(どくじや)
顕(あらはれ)出(いで)て 洪信(こうしん)を
呑(のま)んとす
勢(いきを)ひに中太尉(ちゆうたいゐ)
驚(おどろき)怖(おそれ)て顛(まろび)伏(ふし)
更(さら)に活(いき)たる本(こゝ)
性(ち)もなく稍(やゝ)寸(はん)
【左頁】
晌(とき)ほどありけるが
よふやく振動(しんどう)
罷(やみ)ければ再(ふたゝ)び
起(おき)つ大息(ためいき)
次亦(つぎまた)嶮岨(けんそ)
をば躋攀(せいはん)【左にヨジノボリ】
 したり         
【題名】
龍虎山(りやうこざん)

【右頁】
【題枠】
其二
太宋(たいそう)の嘉祐(かゆう)三年。
都(みやこ)さかんに疫癘(えきれい)流行(はやる)
を。祈禳(きじやう)なさんと。大尉(たいゐ)
洪信(こうしん)。詔書(しやうしよ)を奉(うけ)て。
信州(しんしう)なる。龍虎(りやうこ)山上(さんしやう)の
張真人(ちやうしんじん)を。請待(せうだい)のため。既(すで)に山(さん)■(ぶく)【山+复】に
よぢ涉(のぼ)るに。山(やま)嶮(けん)にして径(みち)岨(そ)なれば。心(こゝろ)此(こゝ)に
怠慢(たいまん)して。疑狐(うたがふ)うちに雨風(あめかぜ)起(おこ)り。妖虎(ようこ)幻龍(げんりやう)
【左下欄外】ウ上◯上ノ二
【左頁】
【右下欄外】ヲ上◯上ノ三
現出(あらはれいで)。白眼(はくがん)紅口(こう〳〵)怖(おそろ)しきまで謂(いふ)べうなし。脚䟿々(あしろく〳〵)に
地(ち)に着(つ)かで。又(また)二三十/歩(ほ)移(うつ)す此頭(おりから)。黄牛(あめうし)
に跨(の)る青童兒(せいどうじ)。山軸(さんじく)を出来(いできた)るを。
喃(のふ)と呼止(よびとめ)。真人(しんじん)の所在(ありか)を
問(とへ)ば。早(はや)已(すで)に鶴(つる)に駕(が)せられ。都(みやこ)へ行(ゆき)ぬと
答(こた)へたり。疑惑(ぎわく)
忽(たちまち)心(こゝろ)に満(みち)
て。進退(しんたい)
茲(こゝ)に悩(なや)
まさ
るゝは。
又(また)愚(おろか)な
らずやまた
慮(はかり)なや
【頁左肩】

【右頁】
【題枠】
史(し)
 家(か)
  邨(そん)
教頭(きやうとう)王進(わうしん)高俅(かうきう)が太尉(たいゐ)
の官(くわん)に昇(のぼり)たるを誤(あやまつ)て。来(らい)
賀(が)せず。是(これ)が為(ため)に怒(いかり)を
受(うけ)て。性命(せいめい)明日(あす)に極(きはま)るを。
三十六 計(けい)走(はしる)を上(じやう)とすと。
母(はゝ)の教(おしへ)に心(こころ)を決(けつ)し。朝霧(あさぎり)
深(ふか)きに母子(ぼし)屏共(もろとも)に。西華門(せいくわもん)を  
紛出(まぎれいで)。延安府(えんあんふ)に向(むき)て馬(うま)を■(はし)【馬+走】らす。
旅行(りよかう)一月(いちげつ)計(ばかり)にして。まだ宿(やど)を求(もとめ)
やらぬに日(ひ)は早(はや)暮(くれ)たり。愁(うれひ)て
再(ふたゝ)び遠(とほ)く望(のぞ)めば。林(りんヵ)中(ちゆう)粲々(さん〳〵)
                                                               【左下欄外】               ウ上◯ 上ノ三
【左頁】 【右下欄外】               ヲ上◯ 上ノ四 
として。灯(ひ)の閃(ひら)めくに寸喜(すんき)
を得(え)。馬(うま)を速(はや)めて来(き)
て見(み)れば。二三百 株(ほん)
の柳(やなぎ)の内(うち)に土墻(ぬりべい)
高屋(たかどの)露(あらはれ)たり。
宿(やど)を乞(こふ)に主(あるじ)の
太公(たいかう)。痛(いと)
切(ねんごろ)に欵(もて)
待(なす)報(むく)ひに。
己(おのれ)が貯(たくは)ふ武(ぶ)
芸(げい)を以(も)て。教(おし)へ
たりしその少年(わかふど)は
此(この)史太公(したいかう)が一個(ひとり)の
忰(せがれ)。九紋龍(きうもんりやう)史(し)進(しん)
なり

【右頁】
【題枠】
梁山(りやうさん)
泊口(はくかうの)
酒店(しゆてん)   【頁左下欄外】ウ上◯ 上ノ四
【左頁】【頁右下欄外】ヲ上◯ 上ノ五
一竿(いつかん)の斾(さかばた)一対(いつゝい)の胡床(こせう)。それ
すら雪(ゆき)に埋(うづもれ)て。真偽(しんぎ)殆(ほと〳〵)見(み)
明(わかり)がたきは。是(これ)水泊(すゐはく)の出張(でばり)
にして。酒屋(さかや)の主(あるじ)は朱貴(しゆき)
てふ豪傑(がうけつ)。林冲(りんちう)茲(こヽ)に泊(はく)
路(ろ)を問(とへ)ば。一枝(いつし)の號箭(がうせん)【左に(アイヅノヤ)】
飛脚(ひきやく)して。瞬間(またゝくひま)に
迎(むかひ)の早舟(はやぶね)
出来(いできた)りぬ

【右頁】
【題枠】
景(けい)
 陽(やう)
  岡(かう)
故郷(こきやう)を思(おも)ひ柴進(さいしん)宋公(そうかう)に別(わかれ)を告(つげ)て。陽谷県(やうこくけん)の
界(さかひ)なる。酒屋(さかや)に慢(ほこつ)て。不過岡(ふくわかう)などいふ㓻酒(おにころし)を
飽(あく)まで飲(のん)で足蹌々(あしよろ〳〵)。景陽岡(けいやうかう)の半(はん)■(ぷく)【山+复】に至(いたれ)ば
天(そら)は晡(さる)をすぎて雞目(とりめ)ならねど眼中(がんちう)巴〃(ちよろ〳〵)。指(ゆび)
もて睫(まつげ)を㧲(そ)と弾(はじ)き。晴(し?み)を鎮(すへ)て盵(き)と覙(みれ)ば。
この岡上(かうしやう)に大蟲(とら)在(あり)て。
人(ひと)を傷(そこの)ふ断文(ことわりがき)。読(よみ)も了(おわ)らず打笑(うちわらひ)。
虻蜂(あぶはち)ほども怖(おそ)
れず上(のぼ)るに。岑下(みねおろし)
来(く)る恠風(あやきかぜ)。日(ひ)の晩了(くれはて)
たる
林(はやし)を
踏分(ふみわけ)。
哮(さけひ)て出(いで)たる
                【頁左下欄外】ウ上◯上ノ五
【左頁】           【頁右下欄外】ヲ上◯上ノ六
大虎(おほとら)を。
獲(ゑ)たりや     
𡄖(あう)と大(おほ)
手(で)を開(ひろ)げ。双(ふたつ)
の耳(みゝ)を引揪(ひつとら)へ。
右(みぎ)の脚(あし)もて
踢倒(けたふ)せば。
虎(とら)は岩根(いはがね)に
打伏(うちふし)て吼声(ほゆるこゑ)は恰(あたか)も落(おち)たる雷(らい)の
像(ごと)し。武松(ぶせう)は拳(こぶし)に息(いき)吹(ふき)かけ。
続(つゞ)けて打(うつ)こと六七十。 
恁(かゝ)る奇代(きたい)の恠力(くわいりき)に
打殺(うちのめ)されて
有繋(さすが)の猛獣(もうじう)。
哀(あは)れ 息絶(いきたへ)声止(こゑやみ)けり

【題枠】
飛(ひ)
 雲(うん)
  浦(ぼ)
武松(ぶせう)再(ふたゝ)び流罪(るざい)せられて。
孟州(まうしう)に至(いた)る路(みち)。下官們(げくわんら)
恠(あや)しく弄目(めくばせ)するを。猜量(すいりやう)
して。飛雲浦(ひうんぼ)の橋上橋(きやうせうきやう)
下(か)に。四個(よたり)を殺(ころ)し。  
その仇人(あだびと)を听(きゝ)
誌(とゞ)け。取(とつ)て返(かへし)て
鴛鴦楼(ゑんおうろう)に。
血(ち)を溅(そゝ)ぎしは。
独身(どくしん)独行(どくかう)。誠(まこと)に
豪傑(がうけつ)とい■ゝべし
【頁左下欄外】 ウ上◯上ノ六

【頁右下余白】 上◯上之七
目(もく)録(ろく)
【上段】
及(きう)時(じ)雨(う)宋(そう)江(かう)明(めい)
入(じゆ)雲(うん)龍(りやう)公(こう)孫(そん)勝(せう)
跳(てう) 澗(かん)虎(こ)陳(ちん)達(だつ)
小(せう)覇(は)王(わう)周(しう)通(つう)
霹(へき)靂(れき)火(くわ)秦(しん)明(めい)
小(せう)旋(せん)風(ふう)柴(さい)進(しん)
白(はく)日(じつ)鼠(そ)白(はく)勝(せう)
捙(てん)翅(し)虎(こ)雷(らい)横(わう)
【下段】
神(しん)医(ゐ)安(あん)道(どう)全(ぜん)
九(きう)紋(もん)龍(りやう)史(し)進(しん)
花(くわ)和(お)尚(しやう)魯(ろ)智(ち)深(しん)
豹(へう)子(し)頭(とう)林(りん)冲(ちう)
鎮(ちん)三(さん)山(ざん)黄(くわう)信(しん)
青(せい)眼(がん)虎(こ)李(り)雲(うん)
鼓(こ)上(しやう)蛍(さう)時(じ)遷(せん)
赤(せき)髪(はつ)鬼(き)劉(りう)唐(たう)

【上段】  
玉(ぎよく)旙(ばん)竿(かん)孟(もう)康(かう)
活(くわつ)閻(ゑん)羅(ら)阮(げん)小(せう)七(しち)
智(ち)多(た)星(せい)呉(ご)用(よう)
神(しん)行(かう)大(たい)保(ほ)戴(たい)宗(さう)
母(ぼ)夜(や)叉(しや)孫(そん)二(じ)娘(ぜう)
雙(さう)尾(び)蝎(くはつ)解(かい)宝(ほう)  
捨(しや)命(めい)三(さぶ)郎(らう)石(せき)秀(しう)
黒(こく)旋(せん)風(ぷう)李(り)逵(き)
鉄(てつ)叫(きやう)子(し)楽(らく)和(くわ)
【下段】
立(りつ)地(ち)太(たい)歳(さい)阮(げん)小(せう)二(じ)
短(たん)命(めい)二(じ)郎(らう)阮(げん)小(せう)五(ご)
錦(きん)豹(へう)子(し)楊(やう)林(りん)
菜(さい)園(ゑん)子(し)張(ちやう)青(せい)
両(りやう)頭(とう)蛇(じや)解(かい)珍(ちん)
病(へい)関(くわん)索(さく)楊(やう)雄(ゆう)
石(せき)将(しやう)軍(ぐん)石(せき)勇(ゆう)
浪(らう)裡(り)白(はく)跳(てう)張(ちやう)順(じゆん)

【右下欄外】ヲ上◯上ノ八
及(きう) 時(じ) 雨(う) 宋(そう) 江(かう) 明(めい)
義(ぎ)の高天(かうてん)より昴(たか)【昂の誤】く。仁(じん)の大(だい)地(ち)より厚きも自(みづから)妾(めかけ)を
養(やしな)ふては。文袋(ふみぶくろ)の内(うち)に毒蠎(どくまむし)と変(へん)じ。他(ひと)の妻(つま)を助(たすけ)ては。
花燈(くわたう)の前(まへ)に悪蛇(あくじや)と化(け)す。酔(ゑふ)て反詩(はんし)の災(わざわひ)を
醖(かも)せど夢(ゆめ)に
天巻(てんくわん)の
賜(たまもの)降(くだ)る。

斬(きれ)ども破(やぶ)れず。焼(やけ)
ども爛(たゞ)れず。奇なる
かな此(この)■(ひと)【亻に星】

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天魁星(てんくわいせい)》 及(きう)時(じ)雨(う)宋(さう)江(こう)
此一個(このひとり)は鄆城県(うんせいけん)の押司(おうし)にして。三祖(さんそ)宋家邨(さうかそん)に住(ぢゆう)す。寐食(しんしよく)出入(しゆつにう)仁信礼義(じんしんれいぎ)を捨(すて)ざる
縡(こと)。恰(あたか)も声(こゑ)と響(ひびき)の像(ごと)し。郷(さと)に困窮(こんきう)の民(たみ)あれば財貨(たから)を以(もつ)て是(これ)を助(たす)け。国(くに)に危急(ききう)の士(もの)
あれば身(み)を抛(なげうち)て彼(かれ)を救(すく)ふ。是(これ)がために山東河北(さんとうかほく)の諸賓(ひと〴〵)呼(よん)で及時雨(きうじう)と稱讃(よびとなふ)。如何(いか)なる歹(わろき)
因(ちなみ)にや閻婆惜(ゑんばしやく)を妾(めかけ)として招文袋(ふみぶくろ)の諍(あらそひ)より。脚下(あしもと)に跂(はふ)蟻一頭(ありいつぴき)殺(ころ)さぬ仁者(じんしや)も。邪(よこしま)なる毒婦(どくふ)
が行状(ふるまい)をもだすに道(みち)なく。怒(いかつ)て楼裡(ろうり)に妾を殺(ころ)すと。泣(ない)て駅上(ゑきじやう)に士卒(しそつ)を斬(きる)。数百(すひやく)の戦場(せんじやう)を
経(ふる)と雖(いへども)自己(みづから)刀(かたな)に釁(ちぬ)りしは。生涯(しやうがい)只(たゞ)此(この)二遭(にど)なり。公(かみ)の難(なん)を遁(のがれ)んと清風山(せいふうざん)に遊(あそ)びし機日(をり)。劉(りう)
高(かう)が妻(つま)を救(すく)ひしも。奸婦(かんふ)却(かへつ)て恩(おん)を仇(あだ)にし上元燈花(じやうげんとうくは)の下(もと)に捕(とら)はる。百千万の灯(ともしび)もなどか罪(つみ)
をば照(てら)さゞる。囚路(しうろ)に花栄㑪(くはゑいら)が救(すく)ひを得(え)たれど父(ちゝ)の災(わざはひ)を抜(ぬく)に道(みち)なく。遂(つい)に江州(ごうしう)の流人(るにん)
            【左下欄外】ウ上◯上ノ八

【右下欄外】ヲ上◯上ノ九
となり。酔中(すいちう)一首(いつしゆ)の反詩(はんし)を吟(ぎん)じて黄文炳(くわうぶんぺい)に毒察(どくさつ)せられ。事(こと)斬罪(ざんざい)に極(きはま)りて。身(み)を
法場(しおきば)の刃(やいば)が下(もと)に早(はや)投出(なげいだ)す機会(をり)こそあれ。晁蓋(ちやうがい)呉用(ごよう)㑪(ら)蒐来(かけきたり)て首尾(しゆび)全(まつたふ)しつ済脱(すくひいだ)し。   
梁山泊(りやうさんはく)に誘(いざなは)れぬ。托塔(たくとう)天王(てんわう)半途(はんと)に没(ぼつ)して遂(つい)に一百有八 個(にん)。仁(じん)に伏(ふく)し義(ぎ)に傾(かたぶ)き拝(はい)
して山首(さんしゆ)と仰尊(あふぎたつと)む。宣和(せんくは)二年 天碑(てんび)降(くだり)て梁山泊(りやうさんはく)の一百八 個(にん)。天罡地煞(てんかうちさつ)の星(ほし)たる縡(こと)
道士(だうし)が諷誦(ふうじゆ)に顕然(けんぜん)たり。宿大尉(しゆくたいい)が奏(そう)に頼(より)て全(まつた)く天子(てんし)の大臣(たいしん)となり。遼国賊(りやうこくぞく)を始(はじめ)
として。河北(かほく)淮西(わいさい)江南(こうなん)を五年七月に征伐(せいばつ)し。国(くに)を平均(たいらげ)民(たみ)を安穏(やすんし)し。凱歌(がいか)を奏(そう)して
武徳(ぶとく)太夫(たいふ)楚州(そしう)の安撫使(あんふし)に封ぜられしも。四毒官(しどくくはん)が酒(さけ)に伏(ふくし)て既(すで)に天(てん)に帰(き)せんとする
晌(とき)。潜(ひそか)に后(のち)の汚名(をめい)を恐(おそ)れ李逵(りき)を招(まねぎ)て毒酒(どくしゆ)を飲(のま)しめ。共(とも)に楚州城(そしうぜう)の南門外(なんもんぐはい)なる。蓼(りやう)
兒洼(じあ)に葬送(そう〳〵)せしを忠烈(ちうれつ)義済(ぎせい)霊応候(れいおうかう)と。追号(ついごう)をぞせられたり

神(しん)医(い)安(あん)道(だう)全(ぜん)
剤(さい)を宋代(そうたい)に執(とつ)て。篇鵲(へんじやく)華陀(くわだ)が左(ひんだ)りに出(いづ)る術(しゆつ)
あるも。巧奴(きやうど)が脚疾(かつけ)に発足(かどんで)を悩(なや)まされて。張順(ちやうじゆん)が
剣尖(はさき)の薬(くすり)を得(ゑ)たり。嗚呼(あゝ)術(じゆつ)なるかな
百薬(ひやくやく)の外(ほか)に
くすりある
ことを唯(たゞ)惜(おし)
むべきは。妓女(うかれめ)
の家(いへ)の壁(かべ)の
上(うへ)に。血(ち)をもて
罪(つみ)をそゝぎし文字(もじ)に。
舐医(なめい)の舌(した)の曁(およば)ざる歟(か)
【左下欄外】ウ上◯上ノ九

【右下欄外】ヲ上◯上ノ十
入(じゆ)雲(うん)龍(りやう)公(こう)孫(そん)勝(せう)
黄泥岡(くわうでいこう)に棗(なつめ)を栽(うゆ)れば。
その花(はな)ひらいて酴釄(やまぶき)の
像(ごと)し。その実(み)を斛(はか)れば
十万 貫(ぐわん)。これ
仙術(せんしゆつ)のうち
ならず

《割書:地煞星(ちさつせい)七十二 員(いん)|之内(のうち)地㚑星(ちれいせい)》 神(しん)医(ゐ)安(あん)道(だう)全(ぜん)
此一個(このひとり)は原(もと)建康府(けんかうふ)の人。家(いへ)医法(ゐほう)を業(ぎやう)として。病人(やもうど)に逢(あ)ふて首(くび)を傾(かたぶけ)。薬餌(くすり)を配(はい)さい
する晌(とき)は。四々(しゝ)の内疾(ないしつ)【左に(ハラノヤマヒ)】八々(はち〳〵)の外腫(ぐわいやう)【左に(デキモノ)】。一(ひとつ)として治(なを)らすといふ縡(こと)なし。先年(せんねん)張順(ちやうじゆん)が母(はゝ)の疽(そ)を。
即(すぐに)療(なを)せし功(かう)を称(あげ)て。是端(このたび)宋公(そうかう)が怪腫(あやしきできもの)に煩(わづ)らふを。荐(ふたゝ)び張順府(ちやうじゆんふ)に走(はしつ)て。請迎(こひむか)へんと
家(いへ)に至(いた)る夕(よ)。愛妓(あいぎ)李巧奴(りかうど)に婬着(いんぢやく)して。別離(わかれ)の情柳(おもひ)。殆(ほど〳〵)苦(くる)しげなるを見(み)て。多(おほく)は発旅(かどんで)
の妨(さまたげ)ならんと。巧奴(かうど)が分宴(???し)に来(きたり)し後(うしろ)を。浪裡(ろうり)が白刃(しらは)跳(おど)らせて。水(みづ)も鳴(なら)さず斬害(きりころ)し。却(かえつ)て
壁(かべ)に鮮血(ちしほ)を染(そ)め。巧奴(かうど)を殺(ころ)せし刃(やいば)の本(ぬし)は。道全(だうぜん)なりと記(しる)したれば。一身(いつしん)故郷(こきやう)に安難(おきがた)く。心(こゝろ)を
決(きわめ)て水泊(すゐはく)に奔(はし)る。而(しか)して宋公(そうかう)が病(やまひ) を覙(み)。笑(わら)ふて剤(ざい)を用(もちゆ)ること。一旬(とふか)ならぬに全快(ぜんくわい)して。容体(ようだい)飲食(いんし)【左に(ノミクヒ)】素(もと)の如(ごと)し。是余(このよ)の剤能(ざいのう)右に劣(お)【「と」脫ヵ】らず
【左下欄外】上◯  上ノ十

【右下欄外】上◯ 上ノ十一
《割書:天罡星(てんこうせい)三十六|員之内(いんのうち)天閑星(てんかんせい)》 入(じゆ)雲(うん)龍(りやう)公(かう)孫(そん)勝(しやう)
此(この)一個(ひとり)は原(もと)蘓州(そしう)の人(ひと)なり。一清(いつせい)先生(せんせい)と号(ごう)す。二仙山(じせんさん)羅真人(らしんじん)の仙門(せんもん)に投(いり)。雲霧(うんむ)風雨(ふうう)を
呼起(よびおこ)す㕝(こと)を学(まなん)で厥術(そのじゆつ)最(もつとも)自在(じざい)なれば。入雲龍(じゆうんりやう)と綽号(あだな)し称(との)ふ。身(み)の丈(たけ)八尺に剰(あまつ)て。殊(こと)に
武芸(ぶげい)を琢磨(たくま)せり。晁蓋(てうがい)に力(ちから)を勠(あわ)せて。黄泥岡(くはうでいこう)に獲財(えもの)をなし。難(なん)を避(さけ)て水泊(すいはく)に入(い)りしが。
念(おもひ)を母(はゝ)に苦(くる)しめて。再(ふたゝび)二仙山(じせんざん)に蔵(かく)れたりしも。梁山(りやうざん)の縁(ゑん)最強(いとつよ)きをいかにせん。顕(いで)て高唐州(かうとうじう)の戦(たゝかひ)に。
高廉(かうれん)が幻術(けんじゆつ)を砕(くだ)く縡(こと)。有(あるひ)は恠光(くわいくはう)を放(はなち)て異獣(いじう)【左に(アヤシキケモノ)】を追退(おひのけ)。有(あるひ)は雷火(らいくわ)をおこして。神兵(しんへい)を
焼(や)く。芒碭山(ぼうとうざん)の魔軍(まぐん)に対(むか)へば。初(はじめ)には八陣(はちぢん)を布(しひ)て。項充李袞(かうじうりこん)を擒(とりこ)になし。后(のち)には魔(ま)
将(しやう)樊瑞(はんずい)を降伏(ごうぶく)して。門下(でし)となす。軍慮(ぐんりよ)智多星(ちたせい)とひかりを肩立(ならべ)て。一百八 個(こ)の
指南(しなん)たり

【右頁】
九(きう)紋(もん)龍(りやう)史(し)進(しん)
身(み)は九龍(きうりう)の白玉水(はくぎよくすゐ)に
游(うか)ぶが像(ごと)く。性(こゝろ)は
百虎(ひやくこ)の鉄石山(てつせきざん)に
穴(すむ)に斉(ひと)し。火坑(くわきやう)
にも跳投(とびい)り。刀山(たうざん)
にも■(はせ)【足+急】■(のぼ)【足+向】るに。
毛頭(もうとう)怕(おそ)るゝ血色(けしき)
なし。これが
ために英名(ゑいめい)ます〳〵
高(たか)ふして。背(せ)に黥(ほ)る龍(りやう)と
もろともに。絳霄(てん)にや戻(のぼ)らん。
誉(ほ)めんとすれども。舌(した)の根(ね)の。
脨(すくむ)ばかりの豪傑(がうけつ)なり
      【左下欄外】  ウ上◯ 上ノ十一
【左頁】  【右下欄外】  ヲ上◯ 上ノ十二
批(ひ)して云(いふ)。百八
煩悩(ぼんのう)の中(うち)。貪欲(どんよく)
最(もつとも)剛(つよふ)して。大象(たいぞう)も
■(とどめ)【馬+止】得(ゑ)ず。奮雷(ふんらい)も砕(くだ)き
がたし。此人(このひと)史家村(しかそん)に
馳(は)せるの勢(いきほひ)。
寔(げ)に三(さん)
毒(どく)の
首領(しゆりやう)
たり

跳(てう)澗(かん)虎(こ)陳(ちん)達(だつ)

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天微星(てんびせい)》 九(きう)紋(もん)龍(りやう)史(し)進(しん)
此(この)一個(ひとり)は花陰縣(くはいんけん)史家邨(しかそん)。柳太公(りうたいかう)の嫡胤(むすこ)なり身(み)の點墨(いれほくろ)に表(なぞらへ)て。俗流(よのひと)九紋龍(きうもんりやう)と綽号(あだな)
せり。首(はじめ)には売薬(くすりうり)李忠(りちう)が棍鉾(ぼうやり)を学(まな)び尾(のち)には旅客(たびうと)王進(わうしん)が武芸十八 盤(はん)の點撥(でんじゆ)を受(うけ)て。
筋骨(きんこつ)是(こゝ)に練熟(れんじゆく)す。納涼(のうりやう)風裡(ふうり)に小華山上(せうくはさんぜう)の賊話(ぬすびとはなし)を听出(きゝいだ)し。閭夫偕(さとびとども)と合挷(てあはせ)して賊首(ぞくしゆ)
陳達(ちんたつ)を擒(とりこ)にし。朱武(しゆぶ)楊春(やうしゆん)を劫(おびやか)す 而(しか)して后(のち)に。三 賊(ぞく)と和(くは)する縡(こと)水魚(すゐぎよ)たり。縣尉(こほりぶぎやう)が■(うらみ)【兵+包】を
解(と)き一遭(ひとたび)小華(せうくは)の山塞(さんさい)に遁(のが)れ。荐(ふたゝび)延安府(えんあんふ)に赴(おもむ)く途中(とちゆう)。魯達(ろたつ)に値(あふ)て義宴(ぎゑん)を
設(もふ)け。南浪北漂(なんらうほくひやう)なして后(のち)梁山泊(りやうさんはく)に豪社(かうしや)を結(むす)び。宋公明(さうかうめい)が手足(しゆそく)と成(なり)高童㑪(かうどうら)が
慢軍(まんぐん)を扼(とりひし)ぎ偕(とも)に天子(てんし)に帰順(きじゆん)して遼国(れうこく)蘓城(そぜう)に向(むか)ふては。明玉(めいぎよく)明済(めいせい)を一刀(いつたう)に
四断(しだん)となし。方臘(ほうろう)が潤州(じゆんしう)には猛将(もうせう)沈剛(ちんこう)を斬(ぎる)なんど。万夫(ばんぷ)不当(ふとう)の豪傑(がうけつ)なり
         【左下欄外】  ウ上◯ 上ノ十二

        【右下欄外】  ヲ上◯ 上ノ十三
《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員(いん)之 内(うち)地周星(ちしうせい)》  跳(てう)澗(かん)虎(こ)陳(ちん)達(たつ)
此(この)一個(ひとり)は鄴 城(じやう)の人(ひと)。鎗棒(そうぼう)を能(よく)す。 外術(ぐわいじゆつ)あつて。濶(ひろき)を跳(とび)高(たかき)を踰(こゆ)る。昔(そのかみ)年少(わかき)の比(ころ)。
鄴城(ぎやうじやう)の西(にし)に。涉(わたり)百尺(ひやくじやう)計(ばかり)の双流(そうりう)の深(ふか)き澗(たに)ありたりしを。五十 両(りやう)の銀賭(かねがけ)して只(たゞ)一(ひと)
跨(とび)に跳 踰(こへ)たり。流俗(よのひと)これに感(かん)じ驚(おどろ)き。綽号(あだな)を跳澗虎(てうかんこ)と呼称(よびたゝ)へり。朱武(しゆぶ)
楊春(やうしゆん)と少華山(せうくわざん)に賊主(ぞくしゆ)となつて。威(い)を振(ふる)ふこと六七 年(ねん)。■(ふもと)【山+下】の村(むら)に史進(ししん)と
争(あら)【そ】ひ。朱武(しゆぶ)か助才(じよさい)に和睦(わぼく)を遂(と)げ。秋去(あきさり)春(はる)の来(くる)まゝに。豪傑(がうけつ)を琢(みが)くうち。
画工(ぐわかう)王義(わうき)が小事(せうじ)より。鎧(よろひ)の糸口(いとぐち)もつれそめて。史進(ししん)智深(ちしん)が災(わざはひ)生(せう)じ。西岳(せいがく)の
庿華州(びやうくわしう)の城(しろ)。戦流(たゝかひなが)す水 滸(こ)の劔戟(けんげき)。此(この)軍中(ぐんちう)に加(くは)はつて。抜群(ばつくん)の挣(はたら)きなし。宋徳(そうとく)呉(ご)
智(ち)の最(いと)頼着(たのもし)さに。心(こゝろ)偏(ひとへ)に傾(かたむ)きて。水泊(すゐはく)に帰伏(きふく)せり

【右頁】
   花(くわ)和(お)尚(しやう)魯(ろ)智(ち)深(しん)
酒楼(さかやのにかい)に婦(おんな)を
救(すく)ふは。是(これ)色(いろ)の為(ため)
ならず。禅場(てらのには)に葷酒(ぐんしゆ)を
甞(なむ)れど。持戒(ぢかい)の僧(そう)の樒(まつ)
香(かう)臭(くさ)きに十陪(じうばい)浄(きよ)し。
二王(にわう)の体(からだ)の赤(あかき)を看(み)ては。
偕(とも)にゑうかとあざけり。
菜園(なばたけ)に柳(やなぎ)を抜(ぬき)ては。䔫(な)蘿葍(だいこん)より最(いと)軽(かろ)し。
戯中(けちう)自(おのづか)ら世間(せけん)をして怕(おど)さしむ。善(よき)かな此(この)■(ひと)【人偏+星】
【人物の後ろに山門柱】
不許葷酒山門入【入カ】  
     【頁左下欄外】  ウ上◯  上ノ十三
    【左頁右下欄外】  ヲ上◯  上ノ十四
   小(せう)覇(は)王(わう)周(しう)通(つう)
唐土(あつち)の方言(ふてう)で謂(いひ)倒(のめ)さば。山(やま)を隔(へだて)て火(ひ)を
把(とつ)て。蝋燭(らうそく)続(つい)で何(なん)の那(か)のと。閨(ねや)の帷(と)  
開(あく)れば騫闇(まつくらがり)。恋(こい)にはむやみ
やけ野(の)の雉(きぢ)。鉄砲(てつばう)に侶(に)た
和尚(おしやう)が説法(せつほう)。婚礼(こんれい)の夜(よ)に
情(なさけ)なや。邪婬(じやいん)
戒(かい)を有(たも)て
とは

《割書:天罡星(てんこうせい)三十六|員之内(いんのうち)天弧星(てんこせい)》 花(くわ)和(お)尚(しやう)魯(ろ)智(ち)深(しん)
此 一個(ひとり)は経略府(けいりやくふ)の提轄(ていかつ)なり。姓(せい)は魯(ろ)名(な)は達(たつ)性(こゝろ)飽(あく)まで実直(じつちよく)にして。酒(さけ)を
嗜(すく)こと長鯨(ちやうけい)が百川(ひやくせん)たり。私奔(かけおち)なして趙員外(ちやういんぐわい)に身(み)を託(たく)し。五台山(ごだいさん)に
桑門(しゆつけ)と化(なつ)て。法号(ほうごう)を智深(ちしん)と號(ごう)す。背上(せなか)に花(はな)の點墨(いれずみ)ある故(ゆゑ)。或(あるひ)は花(くわ)
和尚(おしやう)と呼讃(よびはや)さる。錫鉢(しやくはつ)水雲(すいうん)の身(み)となつて。東京(とうぎん)大相国寺(たいさうこくじ)に菜園(さいゑん)
を看守(かんす)せし機会(をり)。大株柳(おほかぶやなぎ)を根起(ねこぎ)にして。豹子頭(ひやうしとう)を驚(おどろ)かし。荐(ふたゝ)び
諸邦(しよこく)に行脚(あんぎや)して。九紋龍(きうもんりやう)と義盟(ぎめい)を結(むす)び。二龍山(じりやうざん)の宝珠寺(ほうじゆじ)に。賊(ぞく)
首(しゆ)と成(なる)こと両春秋(りやうしゆんじう)。遂(つゐ)に天子(てんし)の臣(しん)となり。四逆賊(しぎやくそく)を伐(うつ)に臨(のぞ)み。河北(かほく)
田虎(でんこ)が州(しう)郡(ぐん)を征(せめ)ては。益州 城(ぜう)に太守(たいしゆ)枢密(すうみつ)鈕文忠(ちうぶんちう)を打殺(うちころ)し
  【頁左下欄外】ウ上◯  上ノ十四

   【頁右下欄外】 上◯  上ノ十五止
汾陽(ぶんやう)の軍(いくさ)には魔軍(まぐん)の大将(たいしやう)。神駒子(しんくし)馬霊(ばれい)を擒(とりこ)にす。又(また)江南(かうなん)を
征(せむ)るの功誉(てがら)は。天僧(あまつひじり)の教指(おしへ)を受(うけ)。幫源洞(ほうげんどう)の深峪(ふかだに)に。賊主(ぞくじゆ)方臘(ほうらう)を
捕(とらへ)たり。是(これ)を以(もつ)て説(とく)ときは百八人が武勇(ぶゆう)の功(かう)。此(この)大和尚(だいおしやう)に超(こす)ものなし。
四海(しかい)全(まつた)く平均(へいきん)しつ。軍(いくさ)を収(おさめ)て帰(かへ)る途(みち)。杭州(かうしう)六和寺(ろくわじ)へ一泊(いつはく)せり。
夜半(やはん)に至(いたつ)て江上(かうせう)鳴(なる)を和尚(おしやう)忽(たちまち)驚(おどろひ)て。傍(かたはら)に居(お)る僧(ひじり)に問(とへ)ば。潮信(ちやうしん)
なりと答(こたへ)たり。和尚(おしやう)欣然(きんぜん)として一笑(いつしやう)なし。吾(われ)往生(おうぜう)の時(とき)至(いた)ると。坐臥(ざぐは)
を布(しき)袈裟(けさ)を纏(まと)ひ。端坐(たんざ)合掌(がつしやう)念仏(ねんぶつ)して眠(ねふ)るが如(ごと)く成仏(じやうぶつ)せり。
朝廷(てうてい)おほひに尊信(そんしん)したまひ。御勅使(おんちよくし)の礼(れい)あつて。義列照暨(ぎれつせうき)大(だい)
禅師(ぜんじ)と諡(おくりな)せらる。

《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地空星(ちくうせい)》 小(せう)覇(は)王(わう)周(しう)通(つう)
此(この)一個(ひとり)は洪州(かうしう)の人(ひと)なれども。青州(せいしう)桃花山(とうくわざん)を奪(うばふ)て。賊(ぞく)の主領(しゆれう)となり。自(みづから)小覇王(せうはわう)と
立号(りつごう)す。而(しか)して茲(こゝ)に雷威(らいゐ)を做(なす)こと。六七 年(ねん)。或(ある)天(ひ)李忠(りちう)を伴(とも)のふて。山陣(さんぢん)に請(せう)
して。塞勢(さいせい)はじめに十陪(じうばい)せり。街(まち)となく邨(むら)となく。恣(ほしいまゝ)に横行(わうぎやう)するうち。桃花村(とうくわそん)なる
刘家(りうか)が娘(むすめ)に強姻(がういん)【左に(ムリナムコイリ)】せんと。小嘍囉(こぬすびと)夥(おびたゞ)しく延倶(ひきとも)なひ。新鮮(あざやか)に投来(いりきた)り。祝燕(しゆくゑん)【左に(メテタキサカモリ)】夜(よ)
こと共(とも)に䦨(たけなは)なる晌(とき)。はや春心(しゆんぜう)の動(うご)めくにや。銷金帳(しやうきんちやう)を左右(さゆう)にかゝげ。投(い)らんとすれば斯(こ)はいか
に。美人(びじん)変(へん)じて羅刹(らせつ)の像(ごと)き和尚(おしやう)となり。却(かえつ)てかれに説破(ときやぶ)られ。色(いろ)を舎(すて)て義(ぎ)を采(と)
れり。稍年(やくとし)あって。呼延灼(こゑんじやく)が敗走(はいさう)しつ。■(ふもと)【山+下】の邨(むら)に寒宿(かんしゆく)せし夜(よ)。烏騅(うすゐ)てふ良馬(りやうば)を盗(ぬす)み。大㕝(だいじ)
此(こゝ)に振起(ふるいおこつ)て。青州城(せいしうぜう)の圍(かこみ)を受(うけ)しも。三山偕(さん〴〵とも)に合兵(がつへい)【左に(テゼイヲアワセ)】し。猶(なを)水泊(すゐはく)の扶(たすけ)を得(え)て。忠義堂(ちうぎだう)に座(ざ)を連(つらね)り

【裏表紙 左側に短冊に書き込み】
   ◯カこと
  三冊 イモ  カヤ

【題簽】
水滸画傳  中
【整理票】
JAPONAIS
4670
2

【手書きの図書整理番号 】

【頁上部】
Japonais
H 670


【頁下部】
Don 35719

【右下欄外】 ヲ上◯中ノ一
【右下に蔵書印】
  豹(へう)子(し)頭(とう)林(りん)冲(ちう)
街(ちまた)に求(もとむ)る剱羽(つるぎば)は。鴛鴦(をし)の
夫婦(ふうふ)が睦(むつみ)を断截(たちきり)。
山(やま)に振(ふる)ふ信義(しんぎ)の刀(かたな)は
主(あるじ)を撰(えらん)で𠜯々(ろう〳〵)【告+刂】たり
白虎(びやくこ)の前門(ぜんもん)遁(のが)
るに路(みち)なく天(てん)
王(わう)の後門(こうもん)避(さく)るに
ほこらあり。心性(こゝろ)
正路(すぐなるみち)をはしれば
 いづくんぞ
  鬼(き)■(かん)【鬼+干】邪魅(じやみ)も
    これを
      害(がい)せん乎(や)

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天雄星(てんゆうせい)》 豹(ひやう)子(し)頭(とう)林(りん)冲(ちう)
此一個(このひとり)は東京(とうざん)八十万 禁軍(きんぐん)鎗棒(そうぼう)教頭(きやうとう)たり。身(み)の長(たけ)八尺(はつしやく)武術(ぶじゆつ)敢(あゑ)て暨(およ)ぶものなし。
其剏(そのはじめ)岳庿(がくへう)詣(もふで)の路癖(みちくさ)に。大相国寺(たいそうこくじ)の菜園(なばたけ)を。密(そ)と闖(さしのぞ)けば吁(あな)珍(めづ)らしや。
丈(たけ)なる 鉄杖(てつじやう)うち振(ふる)僧(そう)あり。投(い)て名(な)を問(とへ)ば魯智深(ろちしん)なり。歓喜(よろこび)斜(なゝめ)なら
ずして。即(すなはち)兄弟(きやうだい)の義(ぎ)を結(むす)べり。世(よ)に忌(いま)わしきは歓後(かんこ)の歎(なげき)。妻(つま)が身(み)の上(うへ)に
預(あづかり)起(をこ)れり。其故(そのゆへ)いかんと是(これ)を問(とふ)に。衆人(しうじん)毒(どく)大尉(たいう)と慄(おのゝぎ)怖(おそ)るゝ。彼(かの)高俅(かうきう)が独(ひとり)
嫡(むすこ)。高衙内(かうかたい)てふ狻猾(くせもの)あり。道(みち)に逆(そむ)ける色(いろ)を好(このん)で。今(いま)林冲(りんちう)が妻(つま)に及(およ)べり。
屡(しば〳〵)詢(くど)けど貞節(ていせつ)崩(くだ)けず。殆(ほと〳〵)情意(ぜうい)を熾(こが)すおりから陸謙(りくけん)等(ら)が助才(じよさい)あつて。
密談(みつだん)【左に(クチマイノヨキハナシ)】餹話(たうわ)に日(ひ)を経(ふ)るうち。豹子(ひやうし)は心(こゝろ)の鬱(うつ)を晴(はら)さんと。気(き)の怄(かなふ)たる
【左下欄外に】 上◯中ノ■

花和尚(くわおしやう)を。誘(さそふ)て登(のぼ)る酒楼(さかやのたかどの)。盃(さかづき)把(とつ)て武(ぶ)を講(こう)じ。兵(へい)を談(だん)ずる楽(たのしみ)は。月前(げつぜん)
花下(くわか)の管絃(くわんげん)より。十陪(じうばい)勝(まさ)る興(きやう)さへも。鮫(さめ)にはあらて白鞘(しらさや)の。陰謀(いんぼう)の
刀(かたな)を街(ちまた)に買(かふ)て。白虎(びやつこ)節堂(せつだう)に擒(とりこ)となり。滄洲(そうしう)に配流(はいる)せらるゝ通路(みちすから)。
野猪林(やちよりん)の危(あやふき)には。智深(ちしん)が杖(つゑ)の助(たすけ)を得(え)。柴宦人(さいくわんじん)が欵待(もてなし)には。洪教(かうきやう)
頭(とう)が骨(ほね)を咬(かむ)。配所(はいしよ)に陸虞(りくぐ)が害心(がいしん)通(つう)ぜず。山神庿(さんじんびやう)の㚑(れい)あるにや。草料場(まくさば)の
夜(よる)の雪(ゆき)を猛火(みやうくは)【左(ホノホ)】鮮血(せんけつ)【左(チシヲ)】真紅(まあか)に染成(そめな)し。悪計(あくけい)忽(たちまち)くひちがふて。三個(みたり)の毒夫(どくふ)。却(かへつ)て
豹子(ひやうし)に憤殺(ふんさつ)せらる。凍苦(とうく)【左(コヾヘクルシム)】に逼る茆舎(わらや)の頭(ほとり)に。不意(おもはず)荐(ふたゝ)び宦人(くわんじん)に偶(あ)ひ。難(なん)を遁(のがれ)て
梁山(りやうざん)に上(のぼ)り。投名状(たうめいぜう)に楊志(やうし)を得(え)。晁蓋(てうがい)呉用(ごよう)等(ら)を迎(むこふ)るに臨(のぞん)で王倫(わうりん)を斬(きつ)て主(しう)
を定(さだ)む。扈三娘(こさんぢやう)を始(はじめ)として。強(つよき)をいけ捉(とり)堅(かたき)を破(やぶ)る。その㓛(こう)揚(あげ)て筭(かそ)へがたし

  
【左頁】
  霹(へき)靂(れき)火(くわ)秦(しん)明(めい)
霹靂(かみなり)の如(ごと)くに叫(さけ)べは。
邪(じや)徒(と)膽(きも)を損(おと)し。狼牙(らうげ)
半(わづか)に振(ふる)へば。毒軍(どくぐん)身(み)を
糊(のり)にす。生(いき)て大宋(たいさう)の
臣(しん)たらば。
死(し)すとも大宋(たいさう)
の鬼(をに)
  たらん。    
          【左下欄外】 ウ上◯中ノ二
【右頁】      【右下欄外】 ヲ上◯中ノ三
  鎮(ちん)三(さん)山 黄(くはう)信(しん)
三山(さん〴〵)を鎮(しづむ)る縡(こと)を専(もつぱら)とせず。
  偏(ひとへ)に梁山(りやうざん)を鎮(ちん)す。混名(あだな)は
         礼(れい)のために
         山(やま)なすと
        いへども。
心(こゝろ)は義(ぎ)のために
 聳(そびへ)て。三山(さん〴〵)
  宛(あたか)も芥子(けし)の
      像(ごと)し。

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天猛星(てんもうせい)》  霹(へき)靂(れき)火(くわ)秦(しん)明(めい)
此一個(このひとり)は山後(さんこう)開州(かいしう)の■(ひと)【人偏+星】にして。宦(くわん)は青州府(せいしうふ)の統制(とうせい)たり。性(たましひ)殊(こと)に火急(くわきう)
なれば。箸(はし)仆(たふ)れても怒(いかり)を発(おこ)す。其声(そのこゑ)雷(らい)に彷彿(さもに)たれば。霹靂火(へきれきくわ)と混(あだ)
名(な)せり。狼牙棒(らうげぼう)を練熟(てなれ)て使(つか)ふに。一揮(ひとふり)振(ふる)へば数百(すひやく)の敵(てき)を粉(こ)となし飛(とば)す。
一時(あるとき)門士(でし)の黄信(かうしん)が。清風山(せいふうざん)に破(やぶれ)を執(と)りしを憤(いきどふ)り。清風山(せいふうざん)を騫地(まくち)に攻(せめ)てその急(きう)
なるを炮矢(ほうし)の像(ごと)く。遂(つゐ)に花栄(くわゑい)㑪(ら)が謀(はかりごと)の坑(あな)に陥(おちい)り。却(かへつ)て敵(てき)の助(たすけ)を得(え)て一遭(ひとたび)府城(ふぜう)
に還(かへ)ると雖(いへど)も。府尹(ふいん)素(もと)より愚鈍(ぐどん)にして城内(ぜうない)に容(いれ)さりしかば。拠(よりどころ)に度(ど)を失(うしな)ひ更(さら)に
宋公(さうかう)花栄(くわゑい)㑪(ら)が。仁義(じんぎ)の深(ふか)きに泥熟(なづみいる)を。剰(あまつさへ)花栄(くわゑい)妹(いもと)を与(あた)ふ是(これ)を納(うけ)て妻(つま)と
なし。水泊(すいはく)に安住(あんぢう)して義膽(ぎたん)ます〳〵壮大(さかん)なんぬ
【左下欄外】 ウ上◯中ノ三

【右下欄外】ヲ上◯中ノ四
《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地殺星(ちさつせい)》 鎮(ちん)三(さん)山(〴〵)黄(くはう)信(しん)
此一個(このひとり)は青州府(せいしうふ)の都監(つがん)たり。秦明(しんめい)の門(もん)に学(まなん)で武芸(ぶげい)頗(すこぶる)高強(かうきやう)なり。
よく䘮門劔(そうもんけん)を使熟(つかひなら)ふて。鉄石(てつせき)これに触(ふる)る晌(とき)は必(かならず)斬(き)らずといふ縡(こと)なし。身(み)は
長大(ちやうだい)にして蚊(みづち)の像(ごと)く。平日(つね)に驕(ほこつ)て謂(いふ)ことあり。我(われ)誓(ちがつ)て青州(せいしう)三山(さん〴〵)を《割書:三山(さん〴〵)は|桃花山(とうくわさん)》
《割書:二龍山清風(じりやうさんせいふう)|山(ざん)これなり》平鎮(へいちん)せんと罵(のゝし)りしが。閭俗(さとびと)此語(このご)を听(きゝ)しより鎮三山(ちんさん〴〵)と
混名(あだな)せり。其頃(そのころ)清風寨(せいふうさい)に事(こと)起(おこつ)て。文知寨(ぶんちさい)劉高(りうかう)が内意(ないゐ)に依(よ)り。府尹(ふいん)の
命(めい)を蒙(かふむつ)て寨(さい)に至(いたつ)て密(ひそか)に計(はか)り。宋公(さうかう)花栄(くわゑい)を擒(とりこ)にし。是(これ)を陥車(らうごし)にして青州府(せいしうふ)
に還(おもむ)く途中(とちやう)。二(ふたつ)の陥(らう)【䧟は陥の異体字】車(ごし)を失(うしな)ひつ。荐(ふたゝび)寨(さい)に籠(こも)りしも。師(し)秦明(しんめい)が利舌(りぜつ)に伏し。邪(しや)を
舎(すて)遂(つゐ)に義(ぎ)に走(はしつ)て。英名(ゑいめい)髙(たか)く梁山(りやうざん)の星境界(せいきやうがい)に 輝(かゞやか)せり

【右頁】
  小(せう)旋(せん)風(ぷう)柴(さい)進(しん)
隼(たか)を碧霄(あをそら)に翶(とば)せては。仁(じん)を天公(てんかう)に
告(つ)げんと欲(ほつ)し。狗(いぬ)を緑野(あをの)に
𧿡(はしら)【 足+犬】せては。徳(とく)を
鬼神(きじん)に
訴(うつた)へん
  とす。
知(し)らず
田文(でんぶん)が三千(さんぜん)の
客(かく)のうち。宋公(そうかう)
 李逵(りき)の
  豪傑(がうけつ)
   あり乎(や)。
【左下欄外】  ウ上◯中ノ四
【左頁右下欄外】ヲ上◯中ノ五
  靑(せい)眼(がん)虎(こ)李(り)雲(うん)
手裡(しゆり)の囚索(とりなわ)は。恰(あたか)も
常山(ぢやうざん)の蛇(へび)の像(ごと)く。
首尾(しゆび)よく心(こゝろ)の
自由(まゝ)にして。
ひとり妙(たへ)
なる 擒術(きんじゆつ)
あり。旋風(つじかぜ)を
綁(いま)しめ。洪水(つなみ)
を縛(し)ばる。
凡(な)■(み)【 聿+冂・庸ヵ】の捉宦(とりて)の
能(あた)わざる技藝(わざ)もて
天賊地魔(てんぞくちま)を
  捕(とら)ふ《割書:旋風(つぢかぜ)は|李逵(りき)也》

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天貴星(てんきせい)》 小(せう)旋(せん)風(ふう)柴(さい)進(しん)
此一個(このひとり)は代々(よゝ)濸洲(そうしう)に舘(いへ)す。是(これ)大周(たいしう)の柴世宗(さいせいそう)が子孫(しそん)なり。況(いわん)や太祖(たいそ)武徳皇(ぶとくかう)
帝(てい)より。鉄券(あんどくう)を賜(たまは)るゆへに。刀争(とうしやう)の禍(わさはい)家(いへ)に蒙(かゝ)る縡(こと)なく。五十 餘個(よたり)の豪傑(がうけつ)を
養(やしなふ)て。財(たから)を惜(お)むことなきをもて。柴大家人(さいだいくわんじん)と稱(とな)ふ或年(あるとし)叔父(おぢ)柴皇城(さいくはうせい)が病(やまひ)を
訪(とふ)て。髙唐州(かうとうじう)に来(きた)り。李逵(りき)が殷 天錫(てんじやく)を打殺(うちころ)せしより。券威(けんい)折(くしげ)て髙薕(かうれん)が怒(いかり)
をうけ強(む)に囚(とらはれ)て囹圄(ひとや)に墜(おと)さる。宋公(そうかう)遥(はゞか)に是(これ)を听(きゝ)て。眉(まゆ)に火(ひ)の着(つく)許(はかり)に念(ねん)じ。軍馬(ぐんば)を
発(はつ)して。州府(しうふ)に直進(おしよ)せ。猛威(もうゐ)を振(ふる)うて穿鑿(せんさく)なし。ようやく深井(ふかゐど)の中(うち)に宦(くわん)
人(じん)を尋(たづね)當(あて)。李逵(りき)を卸(おろ)して助出(たすけいた)し。即地(そのば)に仇(あだ)を返逵(むくひあふ)せ。宋公(そうかう)等(ら)が勧(すゝ)めに任(まか)せ。
水泊(すいはく)にいざなはれて。家(いへ)を全(まつた)ふし妻子(さいし)を安(やすん)ず
【左下欄外】ウ上◯中ノ五

【右下欄外】ヲ上◯中ノ六
《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地察星(ちさつせい)》 青(せい)眼(がん)虎(こ)李(り)雲(うん)
此一個(このひとり)は 沂水縣(きすいけん)の都頭(みやこがしら)たり。山窟(いはや)野寓(のあな)に賊(ぞく)を。覙顯(いた)す縡(こと)の奇(き)なるを以(も)て。青眼(せいがん)
虎(こ)と綽号(あだな)し讃(はや)さる。同郷(おなじさと)なる 沂嶺(きれい)が𪨢(ふもと)【山+下】。曹太公(さうたいかう)が女(むすめ)の訴(うつたへ)を。听(きく)より速(はや)く杖索(つゑなわ)
搔掌(かいとり)。捕士(しそつ)に指揮(げじ)し曹家(さうか)の聟(むこ)たる。李鬼(りき)を殺(ころ)せし暴夫(わるもの)なりとて黑旋風(こくせんふう)を
押捕(おつとり)誥(こめ)。手(て)に唾(つば)して。索(なわ)三寸(さんずん)のうちに綁(いま)しめ。囚車(しうしや)に舁(かい)てまうで往(ゆく)みち。朱貴(しゆき)
兄弟(きやうだい)が欵待体(もてなしぶり)の。麻酒(しびれざけ)に謀(はか)られて。李逵(りき)をうしなひ。士卒(しそつ)も過半(くははん)斬(たり)
散(ちら)され。禄(ろく)はあれども喰(はみ)がたく。主(しゆう)はあれども仕(つか)へがたし。此(この)面目(めんぼく)の。向(むく)べき方(かた)も
なき比来(おりから)。朱冨(しゆふ)が巧(たく)める。舌先(したさき)【尖ヵ】に巻(まき)こまれて。終(つい)に水泊(すいはく)の陣(ぢん)に投(いり)そ。
蓋家(がいか)の難(なん)を抜(まぬ)かれたり

【右頁】
嶺上(とふげ)の午天(ひる)の
暑気(しよき)はらひ。一盃(いつばい)
めして試(ため)されよ。
枇杷葉湯(びわえうたう)の
能(のう)ならで。旅(たび)の
疲(つか)れをます酒(ざけ)
に。口をつくれば
面(つら)のいろ。恰(あたか)も
黄(き)なる泥(どろ)のごとし
 と。岡上(かうぜう)に鬻(ひさ)ひで
  大利(だいり)を得(え)ぬ。

   白(はく)日(じつ)鼠(そ)白(はく)勝(しやう)
【左下欄外】ウ上◯中ノ六
【左頁右下欄外】ヲ上◯中ノ七
   鼓(こ)上(じやう)■(さう)【癶+虫・蚤】時(じ)遷(せん)
楊雄(やうゆう)石秀(せきしう)に 祝鴨銼(しやもなべ)
を■(ふる)【酉+刕・酬ヵ】食(まふ)てはその
贖料(かんじやう)に身(み)を曲(しち)
に投(いれ)て祝家(しゆくか)の
牢(ろう)に苦(くる)しむ
梁(うつばり)に走(はしれ)ば徐(ぢよ )
寧(ねい)が家(いへ)の下婢(げじよ)
は鼠(ねづみ)かと听失(きゝたが)ひ
樓(たかどの)に向(むか)へば北京(ほくきん)の
城(しろ)の門子(もんばん)は犬(いぬ)かと
看惑(みまど)ふ甲(かぶと)を奪(うば)ひ
火を放(はな)つは義(ぎ)に走(はしる)の
  所為(いへん)にして雞(にわとり)と一様(いちやう)の
       疎意(そい)ならず

《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地耗星(ちほうせい)》白(はく)日(じつ)鼠(そ)白(はく)勝(しやう)
此一個(このひとり)は。黄泥岡(くはうでいかう)の東(ひがし)。安樂邨(あんらくそん)てふ瘠里(やせむら)に。酒(さけ)を啇(あきな)【商カ】ひ賭(かけ)の争塲(やど)をす。徃日(そのつみ)
晁蓋(てうがい)が恩顧(おんこ)を蒙(き)しゆへ梁中書(りやうちうしよ)が贈金(おくりもの)を。奪(うば)はんとする荷擔(かたん)に加(くは)はる。亦(また)
晁蓋(てうがい)が夢(ゆめ)の。小星(せうせい)化(け)して。白光(はくくはう)と成(な)るの兆(しるし)に應(おう)ず。既(すで)に當日(そのひ)の身行(やくまはり)には。一荷(いつか)の酒(さけ)
に■(ひさく)【杓カ】を添(そへ)。炮子(てつほうだま)をば藍(あい)もて稠(しげ)く染出(そめだし)たる。㧆(てぬぐひ)まろめて汗(あせ)拭却(ふきのめ)し。野調(ひやくせううた)に紛(まぎ)ら
して。全具(まんま)と十万貫(じうまんぐはん)を偸果(ぬすみおほ)せ厥財(そのかね)いまだ配(わけ)もやらぬに。緝補使(とりてがしら)の弟(おとゝ)たる。何清(がせい)が
索(なは)に。四(よつ)の肢(えだぶし)縊(くゝ)られて。東京(とうぎん)の囹圄(ひとや)にいれども。終(つい)に遁(のがれ)て梁山(りやうざん)に来(きた)りし縁故(いへん)は。此(この)
漢子(ひと)原(もと)より奇術(きじゆつ)あつて。鼠空(ねづみあな)まれ。■(ふし)穴(あな)まれ身をほそふして竇(くゞ)ること。極(きはめ)て妙(みやう)を
得(え)たるゆゑ。白日鼠(はくじつそ)とは綽号(あだな)せり
【左下欄外】ウ上◯中ノ七

【右下欄外】ヲ上
《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地賊星(ちぞくせい)》 鼓(こ)上(しやう)蚤(さう)時(じ)遷(せん)
此一個(このひとり)は髙唐州(かうとうじう)の人。酒(さけ)や賭(ばくち)に身(み)を逼(せま)ふし。流落(おちぶれ)て蘓州(そしう)に来(きた)り。しば〳〵
楊雄(やうゆう)が惠(めぐ)みを蒙(うけ)たり。素(もと)より竒妙(めづらしき)術(じゆつ)を得(え)て。簷(のき)を跳(とび)壁(かべ)を走(はし)る。潜(ひそか)に
翠屏山(すいへいざん)の墓(はか)を壊(こぼち)て銀器(ぎんき)を探(さが)すと同(おな)じ天(ひ)に。楊雄(やうゆう)怒(いかつ)て此山(このやま)に。妻(つま)を殺(ころす)の
塲(ば)に遇會(であへり)。楊石二雄(やうせきにゆう)と偕(とも)に走(はしつ)て。祝家奉(しゆつかほう)が家(いへ)に宿し。酔(ゑい)に乗(じやう)じて雞(にわとり)を
盗(ぬすん)で喫(くら)ふ。㕝(こと)を茲(こゝ)に奮発(ひきおこ)して。囚(とらはれ)となりたるを。宋公(そうかう)等(ら)に救(すく)はれて。水泊(すゐはく)に
安態(あんたい)す。徐寧(じよねい)が家(いへ)の梁(うつばり)を走(はしつ)ては。秘(ひ)したる金(こがね)の甲(かぶと)を奪(うば)ひ。北京(ほつきん)攻(せめ)の合拠(あいづ)には。上(じやう)
元(げん)花燈(くわとう)の賑(にぎは)しき夕(よ)。翠雲樓(すいうんろう)を一炬(ひともし)に焼(やく)。最(もつと)も陳々(いくさごと)に要(よう)ありて。その功(かう)大(おほひ)に
亦(また)高(たか)し。

【右頁】
  捙(りん)翅(し)虎(こ)雷(らい)橫(わう)
潜賊(せんぞく)【左に(カクレタヌスビト)】ありと口風(いゝずて)稠(しげ)きに。鄆知縣(こほりぶぎやう)の
命(おほせ)を蒙(うけ)。東溪村(とうけいそん)の嶺上(たうげのうへ)に。
尋(たづね)て來(きた)る楓葉(かへでば)は。まだ
赤(あか)からで綠林(りよくりん)【左に(トウゾク)】の。
狡猊(くせもの)ありと索(なわ)
舁扒(かいさばき)。赤熊(しやぐま)の
ごとき大漢子(おほをのこ)
を。㚑宦廟(れいくわんびやう)の
帳前(ちやうぜん)に。綁(いまし)め
たりしも晁蓋(てうがい)が
家(いへ)にして。身(み)の
黒白(こくびやく)を説(とき)ほどかれ
【左下欄外】 ウ上◯中ノ八
【左頁右下欄外】ヲ上◯中ノ九
四肢(てあし)は脱(とけ)ても。こゝろに怒(いかり)の
最(いと)鬱(むす)ぼれ。如何(いか)にも痛(いた)く
報(むく)はんと。追(お)ふて一二里(いちにり)樹(き)の
本(もと)に。大喝(だいくはつ)一声(いつせい)きり結(むす)ぶは。
はじめの怨索(なわ)のうらみ
ぞかしと。焔(ほのほ)を飛(とば)す赤鬼(せきゝ)
のつるぎ。中當(うけ)つ末當(ながし)つ
刀心䫸(たちかぜ)の。あれたる虎(とら)が
嘨(うそふ)くこゑ。千里(せんり)が外(そと)の
天(てん)にや听(きこ)へて。智多星(ちたせい)
ここに来(きた)るは鎮刀(ちんてう)

  赤(せき)髪(はつ)鬼(き)劉(りう)唐(とう)

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天退星(てんたいせい)》■(りん)【捙】翅(し)虎(こ)雷(らい)横(わう)
此一個(このひとり)は濟州(せいしう)渾城縣(こんせいけん)の鉄匠(かぢや)が子(こ)なり。身(み)の長(たけ)七尺五六寸 面色(めんしよく)譬(たとへ)ば 
紫棠(したう)の像(ごと)く。髭(ひげ)は銅(あかゞね)の鍼(はり)に侶(に)たり。能(よく)濶澗(ひろだに)を跳(とぶ)をもて■(りん)【捙】翅虎(しこ)とこそ
綽号(あだな)すれ。知縣(ちけん)これが武(ぶ)を知(しつ)て歩兵(ほへい)都頭(ととう)の職(しよく)を與(あた)ふ。有日(あるひ)閑人(かんじん)李小二(りせうじ)
と美人(びじん)白秀英(はくしうゑい)が歌舞(かぶ)を見る。雷横(らいわう)嚢(さいふ)に錢(ぜに)なきを秀英(しうゑい)が父(ちゝ)。白玉喬(はくぎよくきやう)
誹(そしる)を以(もつ)て是(これ)を打擲(うつ)。此頃(このごろ)知縣(ちけん)秀英女(しうゑいじよ)を愛(め)ずる縡(こと)淺(あさ)からざれば。其威(そのい)を
権(かり)て秀英(しうゑい)が雷横(らいわう)を流人(るにん)となす。時(とき)の押牢(おうらう)節級(せつきう)は深友(しんいう)朱仝(しゆどう)なるに依(より)。
いと哀(あは)れんで途中(とちゆう)より絨(いましめ)を解(とき)逃(にが)したり。火中(くわちゆう)に水(みづ)の恩(おん)を謝(しや)し母(はゝ)を背(せ)
助(おふ)て直定(ましぐら)に梁山泊(りやうさんぱく)へ添武(くはゝ)りぬ
【左下欄外】ウ上◯中ノ九


【右下欄外】ヲ上◯中ノ十
《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天異星(てんいせい)》 赤(せき)髪(はつ)鬼(き)劉(りう)唐(とう)
此一個(このひとり)は東路州(とうろしう)の人(ひと)。滿身(そうみ)黒(くろ)く面(つら)濶(ひろ)く。鬂邉(びんべん)に一の硃砂記(あかぼくろ)あり。故(ゆへ)に流俗(よのひと)
赤髪鬼(せきはつき)と綽号(あだな)せり。北京(ほつきん)の贈貨(おくりもの)十万 貫(ぐわん)の首尾(しゆび)を告(つ)げんと。東溪村(とうけいそん)に來(き)て
見(み)れば夜(よ)已(すで)にふけて。晁蓋(てうがい)が門(もん)に入會(いりえ)ず。㚑宦庿(れいくわんびやう)に熟睡(むまね)して。巡瞼(みまはり)雷横(らいわう)が手(て)に
囚(とら)はれたり。晁天王(てうてんわう)が舌畧(ぜつりやく)に。假甥(にせをひ)となして■(いましめ)【若+索】を免(まぬか)がせしが。憤怒(ふんど)に堪(た)へず
追駈(おつかけ)て。茂林(ゐりん)の中(うち)に振(ふるひ)闘(たゝ)かひ。雷横(らいわう)殆(ほど〳〵)危(あや)ふかりしを。呉用(ごよう)晁蓋(てうがい)になだめられ。
偕(とも)に帰(かへつ)て調畧(ちやうりやく)なし。黄泥岡(くわうていこう)に望(のぞみ)盈(みち)。梁山泊(りやうさんぱく)に頭(かしら)となつては。まづ敵初(てはじめ)に千
餘(よ)の兵(へい)を衁(ち)に染(そめ)て。大将(たいしやう)黄安(くはうあん)を擒(とりこ)にし。連環馬軍(れんくわんばぐん)に向ふては副将(ふくしやう)韓滔(かんとう)を
活捉(いけどり)にす。就中(なかんづく)髙俅(かうきう)が舩(ふね)を焼(やく)なんどは。群(ぐん)に超(こえ)たる大功(たいこう)なり

【右頁】
  玉(ぎよく)旙(ばん)竿(かん)孟(もう)康(かう)
義名(ぎめい)を琢(みが)くことは。
玉(たま)の如(ごと)く。武勇(ぶゆう)を
顕(あらは)すことは。旙(はた)
竿(ざほ)に似(に)たり
身(み)は旙(はた)よりも
翻(ひるがへつ)て軽(かろ)く。
心(こゝろ)は竿(さほ)よりも
真直(ますぐ)にして
かたし。動静(どうじやう)よく
 此寶玉(このほうぎよく)を。
   持獲(たもちえ)たり
【左下欄外】 ウ上◯中ノ十
【左頁 右下欄外】ヲ上◯中ノ十一
  立(りつ)地(ち)太(たい)歳(さい)阮(げん)小(せう)二(じ) 
主(あるじ)剛(つよ)ければ艸屋(さうおく)【左に(カヤブキ)】
還(かへつ)て鉄城(てつじやう)に
勝(まさ)れり
呉用(ごよう)が
所好(のぞむ)數斤(すきん)の
鯉(こひ)は譚(はなし)のうち
に龍(りゆう)と成(な)らんず
㔟(いきほひ)あり網罟(あみ)を
黄泥岡(くはうでいこう)の嶺(みね)に
攤(さばひ)て東京(とうきん)への贈(おくりもの)
山鯨(やまくじら)てふ大漁(だいりやう)あり
その重(おも)きこと十万貫(じうまんぐわん)

【右頁】
 活(くわつ)閻(ゑん)羅(ら)阮(けん)小(せう)七(しち)
掖揚(ひきあぐ)る昨夕(よんべ)の罟(あみ)の空(むな)し
さに。任他(まゝ)よ三度(さんど)の糧(めし)
よりも。
嗜(たしめ)る酒(さけ)の贖(つくの)ひに。唯(たゞ)一領(いちりやう)
の蓑(みの)を曲(まげ)しが。今(けふ)朝舩(あさぶね)
の憎生(あなにく)や。水滸(すゐこ)の
雨(あめ)にそぼぬれて。
櫃(ひつ)に貯安(きがへ)の
なに有(あ)らず。一把(いつは)
の葦(あし)の赤心(せきしん)【左に(タキビ)】に。
肩腰(かたこし)の寒(さむさ)を
  とゝのふめり
【左下欄外】 ウ上◯中ノ十一
【左頁 右下欄外】 ヲ上◯中ノ十二
 短(たん)命(めい)二(じ)郎(ろう)阮(げん)小(せう)五(ご) 
恒(つね)に編(すく)網罟(あみ)の目(め)
よりも。自己(おの)が名(な)の。  
五(ご)の目(め)を逐(おふ)て
ある晌(とき)は。一擲(ひとはり)
千金(せんきん)みな
大膽(どたう)。家(いえ)に
四壁(かべ)さへ
ありもせで。
富貴(ふうき)もしらず
 貧(ひん)も識(し)らぬは。
   是(これ)豪傑(がうけつ)の
     平生(へいぜい)なり

《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地満星(ちまんせい)》 玉(ぎよく)旙(ばん)竿(かん)孟(もう)康(かう)
此一個(このひとり)は真定州(しんていじう)の人(ひと)。身(み)の長(たけ)八尺 余(よ)有(あて)【りカ】て眼(まなこ)最秀(もっともひいで)たれは。玉旙竿(ぎよくばんかん)と混名(あだな)せり。 
拳闘(こぶしあらそひ)に他(ひと)を傷(いため)て他國(たこく)に奔(はし)る。途(みち)の半(なかば)に断金(だんきん)の友(とも)たる鄧飛(とうひ)に値偶(ゆきあひ)。同(どう)
身同意(しんどうい)の欲(ほつ)するところ。那邉(あなた)の狡猾(わるもの)。這邉(こなた)の飄男(ころつた)【ころつきカ】を随子(てした)となし。
飲馬山(いんばさん)の嶺上(れいせう)に。剛盗(ごうどう)を做(なす)こと一年 餘(よ)。遂(つい)に戴宗(たいそう)が勧(すゝ)めに随(したが)ひ。
一百八 個(こ)と苦楽(くらく)を偕(とも)にし。偏将軍(へんせうぐん)が兜(かぶと)の纓(ひも)を結(しめ)なし。夏國(かこく)の
賊(ぞく)を伐(うつ)ときは。西陵(せいりやう)橋下(きやうか)の埋伏(まいふく)に。三阮(さんげん)と力(ちから)を勠(あは)せ。杬州城(かうしうぜう)の十将(じつせう)
たる。茅迪(ほうてき)を擒(とりこ)になし再(ふたゝ)び鎗(やり)を流(しこき)整(なお)して。猛将(もうせう)と呼(よば)れたる湯逢士(とうほうし)を。
胸(むね)より背(せ)まで刺串(つきつらぬ)く。敵前不退(てきぜんふたい)の英雄(ゑいゆう)なり
【左下欄外】ウ上◯中ノ十二

【右下欄外】上◯中ノ十三 ヒ
《割書:天劔(てんけん)|星(せい)》立(りつ)地(ち)太(たい)歳(さい)阮(げん)小(せう)二(じ)《割書:天罪(てんざい)|星(せい)》短(たん)命(めい)二(じ)郎(らう)阮(げん)小(せう)五(ご)《割書:天敗(てんはい)|星(せい)》活(くわつ)閻(ゑん)羅(ら)阮(げん)小(せう)七(しち)  
此三個(このみたり)は原(もと)より濟州(せいしう)石碣邨(せきかつそん)の産居(もの)にして。兄弟偕(きやうだいながら)共(とも)に漁夫(ぎよふ)たり。上(うえ)の兄(あに)を
立地太歳(りつちたいさい)と綽号(あだな)し。中(なか)の兄(あに)を短命二郎(たんめいじらう)と諢名(あだな)し。弟(おとゝ)を活閻羅(くわつえんら)と混字(あたな)
せり。陸(くが)に在(あつ)ては劔鎗戈戟(けんそうくわげき)を熟講(ねりきたへ)。水(みづ)に投(いつ)ては浮沈(ふちん)往来(おうらい)溪鬼(けいき)も面(おもて)を掩(おほふ)て
伏(ふく)す。櫓竿(ろさほ)を撑(とつ)て舩(ふね)を行(やる)こと。順逆(じゆんぎやく)縦横(じうおう)遅速(ちそく)動静(どうじやう)。糸(いと)もて物(もの)を牽(ひく)が像(ごと)
し。一日(あるひ)呉用(ごよう)が訪(とひ)に偶(あ)ひ。兄弟(きやうだい)三個(みたり)一致(もろとも)に。肝(きも)を頎(かたふ)け胸(むね)を開(ひら)き雀(すゞめ)の如(ごとく)
躍(おどり)つ舞(まひ)つ。その歓(よろこび)の深(ふか)きこと濟江(さいかう)と共(とも)に涯(かぎり)なし。蓮花(はちす)の万柄(あまた)開布(ひらき)たる。
岸測(きしべ)に舟(ふね)を撑着(こぎつけ)て。倒水閣(とうすゐかく)に宴(えん)を撝(もう)け。秘事(ひじ)を語(かた)らひ密意(みつい)を話(はな)し。
首尾(しゆび)拴(とゝのふ)たる厥(その)大魚(だいぎよ)。拾万貫(じうまんぐわん)を網(あみ)し獲(え)て。却(かえつ)て自己㑪(おのれら)宦手(こうぎ)の網(あみ)に捕(とら)れん

ことを慮(おもんはか)り。晁蓋(てうがい)㑪(ら)と一齊(もろとも)に水泊(すゐはく)の陣(ぢん)に退入(ひきいる)とき。宦将(ぐわんしやう)何濤(がとう)を勾引(ひきよせ)て。
小五(せうご)が水(みづ)に拏投(ひきづりこめ)ば。小七(せうしち)虚(すか)さず犇捕(ひつとら)ふ。軍功(ぐんこう)これを剏(はじめ)として。江軍(こうぐん)湖(こ)
戦(せん)に臨(のぞん)では。一塲(ひとつ)も缺(かき)たる所(ところ)なし。就中(なかに)名盈(なたゝ)る攁(はたらき)は小七(せうしち)水子(かこ)の長(をさ)と
なつて。陳大尉(ちんたいゐ)を迎(むかへ)る晌(とき)。舩(ふね)を倒(たほ)して天中(てんちゆう)の御酒(ぎよしゆ)を膁奪(すかしうば)ふ。遂(つい)には
梁山(りやうざん)の蒼浪(さうらう)に纓(えひ)【左に(カムリノヒモ)】を洗(あら)ふて。大 宋(さう)の朝臣(けらい)となり三個(みたり)諸共(もろとも)。偏将(へんしやう)
軍(ぐん)の職(しよく)を握(にぎつ)て。威恰(ゐきほひあたか)も洹河(ごうが)に跳(おど)る鰐鮫(わにざめ)の像(ごと)く。方臘(ほうらう)攻(ぜめ)に馳向(はせむか)へば。
舩兵(せんへい)の頭領(かしら)として。江陰(こういん)の軍(いくさ)には嚴勇(がんゆう)を打損(うちたふ)し。太倉城(たいそうぜう)の戦(たゝかひ)には。李(り)
玉(ぎよく)を殺(ころ)してその圖(づ)に乗(ぜう)じ。常熟(ぢやうじゆく)の城(しろ)を伐落(きりおと)す。此三傑(このさんにん)の猛兄弟(もうきやうだい)が南(なん)
國攻(こくぜめ)の功労(こうらう)は。筆紙(ひつし)にもつて竭(つく)し難(がた)く言語(げんぎよ)にもつて舒(のべ)がたし

【裏表紙】

《題:水滸畵傳《割書: 下》》

【右下欄外】上◯下ノ一
 智(ち)多(た)星(せい)呉(ご)用(よう)
黄泥(くはうでい)の岡(をか)に棗(なつめ)を啇(あきな)ふては。他(ひと)を渴(かつ)
せしめて。自(みづから)飽(あく)まで盗泉(とうせん)を飲(のみ)。盧家(ろか)に
説(と)く賣卜(うらやさん)は。髙俅(かうきう)が毒軍(どくぐん)に。その
八卦(はつけ)を精(くはし)く
見(あらは)す。西岳(せいがく)
庿(びやう)の誑(にせ)神宦(かんぬし)は。
混天象(こんてんせう)が陣(ぢん)に向(むか)ふて。
九天玄女(きうてんげんじよ)が五色(ごしき)の
幣(へい)を振(ふ)る前兆(きざし)。
凌振(れうしん)が石炮(いしびや)も。いかでか
智多(ちた)の先生(せんせい)が。此(この)徹謀(てつぼう)に
          可(およふ)_レ暨(べけん)乎(や)

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天機星(てんきせい)》智(ち)多(た)星(せい)呉(ご)用(よう)
此一個(このひとり)は鄆城縣(うんせいけん)に家居(いへゐ)して。閭兒(わらべ)がために讀書(とくしよ)を師能(しなん)す。字(あざな)は學究(がくぎう)。綽(あだ)
号(な)は智多星(ちたせい)。道号(だうごう)は加亮(かりやう)先生(せんせい)と稱(せう)したり。胸中(けうちゆう)万里(ばんり)にして。克(よく)。太公(たいこう)。
孫子(そんし)。孔明(こうめい)。李靖(りせい)が智(ち)を貯(たくは)へ。百八人《割書:己(おのれ)も使(つか)はるゝ|ゆゑかふいふなり》を手足(しゆそく)として。事(こと)を做(なす)
こと虚々(きよ〳〵)實々(じつ〳〵)。黄泥岡(かうていこう)に東京(とうぎん)の十万 貫(ぐわん)を剏(はじめ)として。濟州江(せいしうかう)に 
初度(しよど)の宦賊(くわんぞく)。何濤(がとう)を水(みづ)にて責(せめ)𨐡(なやま)【辛+苦】し。江州(かうしう)の法塲(しおきば)には。士農工(しのうこう)
啇(しやう)の摸様(いでたち)して。及時雨(きうじう)を捄㧞(すくひいだ)し。軍(いくさ)を帰(かへ)せば獨龍岡(どくりゆうこう)に。祝家(しゆくか)
の父子(ふし)を謀滅(ぼうめつ)し。髙唐州(かうどうしう)には高亷(かうれん)が妖軍(ばけものいくさ)を抝(とりひし)ぎ。或(あるひ)は凌振(れうしん)が軣(ごう)
天炮(てんほう)。呼延灼(こえんじやく)が猛勇(もうゆう)も。一旬(いちじゆん)を経(へ)ず降伏(がうぶく)なし。孔明(こうめい)。孔賔(こうひん)が
【左下欄外】ウ上◯下ノ一

【右下欄外】ヲ上◯下ノ二
牢苦(ろうく)を扶助(たすけ)。西岳(せいがく)の庿(びやう)に朝(むかふ)ては。宦卒(くわんそつ)を木石(ぼくせき)にし。華州城(くわしうぜう)に押(おし)よせ
ては。城兵(ぜうへい)を水火(すゐくわ)となす。或(あるひ)は北京(ほくきん)に焼打(やきうち)して。盧員外(ろいんぐわい)が危急(ききう)を救(すく)
ひ。軍(いくさ)を還(かへ)せば関勝(くわんせう)が。剛(つよ)きを摧(くだひ)て擒(とりこ)となし。遂(つゐ)に不背(ふはい)の義黨(ぎとう)に
帰(き)せしめ。曽頭市(そうとうし)に血(ち)を漲(みなぎら)しては晁天王(てうてんわう)の霊(れい)を慰(なぐさ)め。兵糧舩(ひやうらうせん)の餌(えば)
を垂(たれ)ては。張清(ちやうせい)を水泊(すゐはく)に釣(つり)的(おほせ)。八卦(はつけ)の隊伍(そなへ)十面(じうめん)の埋伏(まいぶく)此(この)謀畧(ぼうりやく)に
當(あたつ)ては。宦軍(くわんぐん)ほとんど魂(こん)を泥(どろ)にし。魄(はく)を灰(はい)にす。終(つい)に王家(わうか)の臣(しん)となつて。 
大遼(だいれう)。方臘(ほうらう)。田虎(でんこ)。王慶(わうけい)。の四大賊軍(しだいぞくぐん)を伐(うつ)て。臨(のぞん)で変(へん)に應(おう)じ機(き)に
隨(したが)ひ。火征(ひぜう)を為(なせ)ども胸(むね)を烘(こが)さず。水攻(みづぜめ)做(なせ)ども手(て)を濡(ぬら)さず。古今(ここん)未(み)
曽有(ぞう)の大師都督(たいすいととく)と謂(いつ)つべし

【右頁上段】
 錦(きん)豹(ぺう)子(し)楊(よう)林(りん)
蘓州(そしう)より濟(せい)
州道(しうだう)へ發向(こゝろざす)。
旅行(たび)は伴行(みちづれ)
あらまほしや
と。情(こゝろ)寂寥(さびしき)
をりぐちの。
坡店(さかや)の門(かど)
より鶴首(くびながふ)し。
一個(ひとり)の旅客(りよかく)
が走(はし)るを看(み)
れば。一瞬(ひとまばたき)に

【左下欄外】ウ上◯下ノ二
【左頁右下欄外】ヲ上◯下ノ三
一里(いちり)を来(き)にけり。
這(これ)一清(いつせい)が話(はなし)に
听(きゝ)し。神行大(しんかうたい)
保(ほ)ならんずと。
其(その)字(な)を呼(よべ)ば
彼方(かなた)にも。
聲(こゑ)に
應(おう)じ
て眄(ふり)
顧(かへ)り。
見(み)れ
ども迭(かたみ)
に認(みしら)ぬ面(つら)

【右頁下段】
公孫勝(こうそんせう)が
文章(ふみ)に媒(ばい)
せられ義兄弟(ぎきやうだい)
の盟(ちかひ)を結(むす)び。
【左頁下段】
戴宗(たいさう)己(おのれ)が甲馬(かうば)
と分(わけ)て。楊林(ようりん)が
脚(あし)に帯(はか)せつゝ。
逓(たがひ)に径(みち)を急(いそが)
せて。二仙山(じせんざん)に
走行(はしりゆく)。此(この)■(ひと)【亻+星】
若(もし)また日(ひ)を
追(おは)ば、魯陽(ろやう)
に戈(ほこ)を棄(すて)
ざらまじ。
 神(しん)行(かう)大(たい)保(ほ)
    戴(たい)宗(さう)

《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地暗星(ちあんせい)》錦(きん)豹(ひやう)子(し)楊(やう)林(りん)
此一個(このいつこ)は彰德府(しやうとくふ)の人。圓頭(ゑんとう)大耳(たいじ)直鼻(ちよくび)方口(はうこう)清眉(せいび)秀目(しうもく)宛(さながら)錦豹子(きんひやうし)の
摸様(さま)あるゆゑ。混名(あだな)とするも理(ことはり)なり。諸郡(しよぐん)の豪傑(がうけつ)を訪尋(とひたづ)ねんと。武(ふ)を𨂻(ふみ)【蹈】
文(ぶん)を渉來(わたりき)て。蘓州(そしう)山中(さんちゆう)に一清(いつせい)先生(せんせい)の教(おしへ)を承(うけ)歓喜(よろこん)で梁山泊(りやうさんはく)に
臻(いたらん)ずる途(みち)。沂水縣(きすいけん)の境上(きやうせう)に。神行大保(しんかうたいほ)が走(はし)るを怪(あやし)み。偕(とも)に話(かたつ)て
宋公(さうかう)㑪(ら)を慕(した)ふこと。磁石(ぢしやく)の南(みなみ)に朝(むか)ふが像(ごと)く。荐(ふたゝ)び公孫勝(こうそんせう)が山(やま)に
到(いた)る。厶(その)路半(ろはん)飲馬川(いんばせん)の山寨(さんさい)より。鄧飛(とうひ)孟康(もうこう)㑪(ら)を透出(さそひいだ)し。水泊(すいはく)義(ぎ)
廳(ちやう)に加(くは)はつて。勇(ゆう)を海鰍舩(かいしうせん)に奮(ふる)ふ晌(とき)は左義衛親軍(さぎえいしんぐん)丘岳(きうがく)が。活首(いけくび)
抜(ぬひ)て軍誉(ぐんよ)を顕(しめ)す。陣前無敵(ぢんぜんむてき)の英雄(ゑいゆう)なり
【左下欄外】ウ上◯下ノ三

【右下欄外】ヲ上◯下の四
《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天速星(てんそくせい)》 神(しん)行(かう)大(たい)保(ほ)戴(たい)宗(さう)
此一個(このいつこ)は江州(がうしう)押牢(おうらう)の節級(せつきう)なり。神行大保(しんかうたいほ)の綽号(あだな)と謂(いつ)は。公私(かうし)の急用(きうよう)ある
晌(とき)は。二(ふたつ)の甲馬(こうば)を腿(もゝ)に拴(くゝ)り。神行(しんこう)の法(ほう)を以(もつ)て走行(はしりゆく)こと。卯(むつ)より酉(むつ)まで五百 餘里(より)。四 甲馬(こうば)
用(もつ)て■(はし)【馬+走】る晌(とき)は。八百 余里(より)の脚法(きやくほう)ある縡(こと)。皆(みな)會(ゑ)て他(ひと)の知(し)る所(ところ)も。識(し)らぬ流人(るにん)の宋公(さうかう)が
常例錢(じやうれいせん)の錢穴(ぜにあな)より頽(くづれ)て。廣(ひろく)水滸(すゐご)の交(まじはり)剏(はじめ)て東京(とうぎん)へ飛脚(とびゆく)途中(とちゆう)。呉用(ごよう)に偶(あふ)て宋公(さうかう)
を助(たす)けん爲(ため)の。欺囬翰(にせへんじ)を調(もつ)て江州(ごうしう)に返(かへ)りしが。千慮(せんりよ)の一失(いつしつ)印(いん)より漏(もれ)て。黄文炳(かうぶんへい)に毒看(みいだ)
され。宋公(さうかう)同引(もろとも)法塲(しおきば)にて微(すは)や首(かうべ)の墜(おち)んとする晌(とき)晁蓋(てうがい)呉用(ごよう)等(ら)危急(ききう)を救(すく)ひ万死(ばんし)を
遁(のが)れて水泊(すゐはく)に身(み)の安全(あんぜん)を斟酌(しんしやく)せり。足(あし)もて達(たつ)する功(こう)のみならず。智謀(ちぼう)を走(はせ)て義(ぎ)
■(ぼう)【用ヵ】を救(すく)ひ豪友(がういう)を助(たすけ)る縡(こと)。東西南北(とうざいなんぼく)涯(かぎり)なし

【右頁】  
  菜(さい)園(ゑん)子(し)張(ちやう)青(せい)
魔魅(まみ)を断(き)る。密家(みつけ)の九字(くじ)の
法(ほう)よりも。猶(なほ)怖(おそろ)しき十字(じうじ)の坡店(さかみせ)。 
羈夫(まらうど)這(こゝ)に十字斬(つじぎり)せられ。
命(いのち)を守(まも)るその身(み)の四大(しだい)も。
散(ちり)〱(〳〵)颯(ばつ)と風大(ふうだい)は。軒(のき)の酒斾(さかばた)
に去上(たちのぼ)り。火大(くわだい)は
𤐉(かん)銼(なべ)の臀(しり)を迷(めぐ)【逨ヵ】り。
地大(ぢだい)は刚(そが)【削ヵ】れて
肉包(にくまんぢう)。且(かつ)水大(すゐだい)は
樽(たる)のうち。酒(さけ)に混(こん)
じて庶人(もろびと)に。水多(みづぽい)と
誹(そし)られんか。痿(しび)れ
【左下欄外】 エ上◯下ノ四
【左頁右下欄外】ヲ上◯下の五
たりと懼(おそ)れんか
怎麼(そもさん)なんどゝ戯言(しやれ)
啳(のめ)す。法語(しやうじんことば)は厥(そ)も
斯(かゝ)る。屠所(としよ)に
侣(に)あはぬ縡(こと)なんぬ
れど。光明精(くわうみやうせう)
舎(じや)の菜園(なばたけ)
よりその
根(ね)を引(ひい)て
  植(うゑ)るならん
  母(ぼ)夜(や)叉(しや)孫(そん)二(じ)娘(ぜう)

《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地形星(ちけいせい)》菜(さい)園(ゑん)子(し)張(ちやう)青(せい)
此一個(このひとり)は原(もと)北京(ほくきん)の人(ひと)なり。年卑(としわか)き頃(ころ)府中(ふちゆう)光明寺(くはうみやうじ)の菜園(さいゑん)【左に(ナバタケ)】を衛(まも)る縁故(ゆへん)に
菜園子(さいゑんし)と諢名(あだな)せり。僧侶(そうりよ)と諍(あらそ)ふて精舎(てら)を焼(やき)殿司(てんそ)を殺(ころ)して私奔(かけおち)なし。猛(もう)
州(しう)に來(き)て漂逰(さまよふ)うち。山夜叉(さんやしや)孫元(そんげん)に武術(ぶじゆつ)を学(まな)び。剰(あまつさへ)女(むすめ)孫二娘(そんじぜう)を授(もらふ)て妻(つま)となし。  
十字坡(しうじは)の山上(さんせう)に酒店(さかや)を設(もふ)け。過客(たびうど)を呼(よん)で麻酒(しびれざけ)を浮勧(しひすゝ)む。その毒(どく)環(まはつ)て
渾身(そうみ)の痿(なへ)るを窺(うかゞ)ひつ。衣(ころも)を剥(はぎ)財(たから)を奪(うば)ひ。他(ひと)の肉(にく)を包(まんぢう)にし。是(これ)を鬻(ひさい)で嶺禽(とり)
溪獣(けだもの)の風味(ふうみ)に欺(あざむ)く。好(このん)で人命(じんめい)を屠(ほふ)ること芥(あくた)の像(ごとく)すると雖(いへども)。誓(ちかつ)て三(みつ)の不殺(ふさつ)【左に(コロサヌコト)】を持(たも)つ。一(ひとつ)には
雲逰(たび)の僧(そう)。二には婊子(げいしや)妓女(ぢよらう)。三には流人(るにん)囚者(とらはれびと)。家(いへ)に是等(これら)の禁断(きんだん)あれども。動(やゝもすれ)ば
妻(つま)二娘(じぜう)誓(ちかひ)を破(やぶつ)て。魯智深(ろちしん)武松(ぶしやう)の誤(あやまち)を做(し)起(いだ)せり
【左下欄外】ウ上◯下ノ五

【右下欄外】ヲ上◯下ノ六 
《割書:地煞星七十二|員之内地壮星》母(ぼ)夜(や)叉(しや)孫(そん)二(じ)娘(じやう)
此一姑(このいつこ)は張青(ちやうせい)が妻(つま)なり。酒店(さかや)の門(かど)に客(きやく)を延(ひく)こと美餌(うまきえば)もて。竿頭(かんとう)に飢(うへ)
たる魚(うを)を釣(つる)が像(ごと)し。頭(かしら)の飾(かざり)は鐡(くろがね)の環(たまき)を以(もつ)て䯻束(ねかけ)となし。野(の)に放花(さくはな)を簪(かんざし)
とす。紅粉(べにおしろい)だにも施(ほどこ)さねど。樵婦(しやうふ)【左に(シバカリヲンナ)】猟女(らうぢよ)【左に(カリウドムスメ)】に混(まじへ)て看(みれ)ば。蓬(よもぎ)が叢(なり)に開(ひら)ける芙(ふ)
蓉(よう)。色香(いろか)の内(うち)に毒(どく)あつて。害(がい)を做(なす)こと夜叉(やしや)の如(ごと)し。接(す)を選(えらん)だる二龍山(じりゆうざん)には角(つの)を
磨(みがき)牙(きば)を琢(とぎ)。荐(ふたゝび)上(のぼ)る梁山泊(りやうさんはく)には忠(ちう)を錬(ねり)義(ぎ)を釙(きたゆ)。夫婦(ふうふ)隊伍(そなへ)を偕(とも)にして功(こう)を讓(ゆづ)り
兵(へい)を助(たす)く。呉用(ごよう)が指揮(さしづ)に■(おもむく)【走+向】ときは。蜑婦(あま)捕田女(さをとめ)の袖振(そでふり)て。関(せき)を破(やぶ)り城(しろ)を
おとす。這(これ)に比(ひ)すれば猛光女(もうくはうぢよ)が隻手(かたて)の乳柄(ちから)に大石臼(おほいしうす)を挰露(さしあげ)たりしも。何(なん)
のその今更(いまさら)竒(き)として讃(ほむ)るに足(た)らず

【右頁】
石(いし)を見(み)て虎(とら)と
射(い)る箭(や)の
それならで。
毛家(もうか)に於莬(とら)
の争(あらそ)ひより。
石(いし)のひとや
の苦(くるし)みを。
うくるを母(はゝ)
の大蟲(とら)あつて。此(この)
兄弟(きやうだい)を助(たす)くるなど抂(まげ)て
文勺(ことば)のちなみを採(と)れり
  兩(りやう)頭(たう)蛇(じや)解(かい)珍(ちん)
【左下欄外】ウ上◯下之六
【左頁右下欄外】ヲ上◯下ノ七
  雙(さう)尾(び)蝎(くはつ)解(かい)寳(ほう)
宋(さう)を輔(たすけ)て遼(れう)を征(せむ)るの夕天(ゆふべ)。盧(ろ)
員外(いんぐわい)が行方(ゆくゑ)を尋(たづね)て。深(ふか)く青石(せいせき)
硲(とく)に苦渉(くせう)せり。計(はか)らざりしに
猟戸(かりうど)なる。劉二(りうじ)劉三(りうさん)
が家(いへ)に次(とま)るに。
老母(らうぼ)信(しん)もて谷中(こくちゆう)
の順逆(じゆんぎやく)を指能(しなん)す。
此(この)■(ひと)【亻+星】にして此縁(このゑん)
あり。嗚呼(あゝ)烏龍(うりゆう)
嶺(れい)に苦死(くし)するは。
  是(これ)兄弟(きやうだい)が
     天也(てんなり)命也(めいなり)

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天暴星(てんほうせい)》兩(りやう)頭(とう)蛇(じや)解(かい)珍(ちん) 《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天哭星(てんこくせい)》双(さう)尾(び)蝎(かつ)解(かい)寶(ほう) 
此(この)兄弟(きやうだい)は登州(とうしう)城外(ぜうぐわい)の猟戸なり。両人共(りやうにんとも)に身材(みのたけ)大(おほひ)なること七尺 餘髙(ゆたか)力(ちから)
も衆(しう)に勝(すぐれ)たれば日夜(にちや)も分(わか)たず狩渡(かりくら)して。一(ひとつ)の崖(がけ)を過(すぐ)る晌(とき)傷(ておひ)の虎(とら)に出(でつ)
會(くはせ)。毛仲義(もうちゆうぎ)が邸(やしき)へ射落(ゐおとし)たり。是(これ)を取(とら)んと兄弟(きやうだい)が彼(かの)■(いへ)【舘ヵ】に行(い)て求(もとむ)るに。毛家(もうか)の父(ふ)
子(し)心善(こゝろよか)らず。虎(とら)は返(かへ)さで却(かへつ)て誑(たばか)り。䁠囚(すかしとらへ)て索(なわ)を綀(かけ)宦司(くわんし)の獄(ひとや)に墜(おと)したり。孫新(そんしん)夫婦(ふうふ)
是(これ)を憐(あはれ)み。三五(さんご)の豪傑(がうけつ)と心(こゝろ)を勠(あは)せ。畢(つい)に牢(らう)より助出(たすけいだ)さるその足(あし)をもて毛家(もうか)に
亂入(こみいり)毒父(どくふ)悪子(あくし)を初(はじめ)として家内(かない)剰(あま)さず鏖(みなごろし)にし。金銀(きん〴〵)刀馬(たうば)奪(ばひ)【(うばひ)ヵ】取(とつ)て宋公(さうかう)
明(めい)が出陣(しゆつちん)せる。曽頭市(そうとうし)の軍(ぐん)に加(くは)はり。兄(あに)解珍(かいちん)が功首(てはじめ)に三男(さんなん)曽索(そうさく)が首(くび)を執(と)
る。賊宦(ぞくくわん)童貫(どうくわん)が軍(いくさ)を追(おふ)ては。鄷美畢勝(ほうびひつせう)を責悩(せめなやま)し。高俅(かうきう)が海鰍舩(かいしうせん)を破(やぶつ)
【左下欄外】ウ上◯下ノ七

【右下欄外】ヲ上◯下ノ八
ては聞煥章(ぶんくわんしやう)と妓女們(ぎぢよら)【左に(ジヨラウドモ)】を捉(とら)ふ。遼國(れうこく)の軍(いくさ)には。青石峪(せいせきこく)に盧俊義(ろしゆんぎ)を尋(たづね)て。
硲底(たにそこ)を渉徊(へめぐ)ること終日(ひめもす)すれども。出入(しゆつにう)路(みち)なく日(ひ)全(まつた)く没(ぼつ)したり。愁苦(しうく)
浅(あさ)からざりし折(をり)。猟戸(かりうど)なる劉(りう)兄弟(きやうだい)が慈思(なさけ)を得(え)。夜(よ)を其家(そのいへ)に暁(あか)し
つゝ。猶(なほ)その母(はゝ)に硲中(こくちゆう)の死路(しろ)活路(くわつろ)を教(をし)へられ。是(これ)を宋公(さうかう)に告聞(こうぶん)して。
遂(つい)に盧将軍(ろしやうぐん)を救出(すくひいだ)せり。亦(また)方(ほう)臘(らう)の戦(たゝかひ)には獨松関下(どくしやうくわんか)の。竹林(たかばやし)に
埋伏(まいふく)なして。敵(てき)の猛将(もうしやう)張儉(ちやうけん)張韜(ちやうとう)を擒(とりこ)にす。杭州城(かうしうぜう)の軍(いくさ)には范(はん) 
村(そん)に兵糧舩(ひやうらうせん)を奪(うば)ひ。猶(なほ)城中(ぜうちゆう)へ火(ひ)を放(はな)つ。是(これ)第一(だいいち)の功(こう)なり。斯(かゝ)る豪傑(がうけつ)
なりと雖(いへども)。哀(あはれ)むべし兄弟(きやうだい)一齊(もろとも)。烏龍嶺(うりやうれい)の背山(うらやま)にて。弩石(どせき)のために
命(いのち)を損(おと)しぬ。嗚乎(あゝ)惜(おしい)哉(かな)

【右頁】
  病(へい)関(くわん)索(さく)楊(やう)雄(ゆう)
厥妻(そのつま)にして邪(じや)を行(おこな)ひ。他家(よそ)の
漢(をとこ)に艶(ゑん)するを。その夫(をつと)として
怒(いか)らざらんや。况(いはん)や勇(ゆう)に
傷(きず)をつけ。義(ぎ)を損(そこね)たる
奸邪(かんじや)の巧雲(きやううん)。快(こころよい)哉(かな)
山神(さんじん)の祠(ほこら)の前(まへ)に
殺(ころ)したる。悪妻(やまのかみ)
が死骸(しがい)を。
翠屏(すいへい)深(ふか)く
潜(かく)せしは。是(これ)
妻(つま)の為(ため)ならず。
 夫(おつと)楊雄(やうゆう)が身(み)
   のためなり
【左下欄外】ウ上◯下ノ八
【左頁右下欄外】上◯下ノ九
  捨(しや)命(めい)三(さぶ)郎(らう)石(せき)秀(しう)
楊雄(やうゆう)醉話(すいわ)の誤(あやまち)より。巧雲(きやううん)が邪舌(じやぜつ)に
誑(たら)され。その疑(うたがひ)の石秀(せきしう)が。身(み)に
覆擁(ふりかゝ)るを雪(すゝ)がんと。或(ある)
暁(よ)楊雄(やうゆう)が殿口(うらもん)に。邪(あやしき)
奸(もの)の出(いで)やすると。窺(うかゞひ)
俟(まつ)たる恰撞着(であいがしら)。内(うち)
より出(いで)たる一個(ひとり)の
頭陀(しやみ)。爾(おのれ)邪乎(あやし)と
拏捕(ひつとら)へ。拷問(ごうもん)すれば
隨作(ありのまゝ)。語(かた)るを听得(きゝとり)
特地(とくち)に殺(ころ)し。その 
直綴(ぢきとつ)を咱身(わがみ)に纏(まと)ひ。合圖(あいづ)に鳴(なら)す
木魚(もくぎよ)の声(こゑ)に。他(ひと)看(あ)やなしと裴如海(はいじよかい)。
潜出(ひそみいで)しが刀(かたな)の下(もと)。法水(ほうすい)淫(いん)して血潮(ちしほ)と
 なるは。是(これ)石秀(せきしう)が剱(つるぎ)の妙(めう)なり

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天牢星(てんらうせい)》 病(へい)關(くわん)索(さく)楊(やう)雄(ゆう)
此一個(このいつこ)は河南(かなん)の人(ひと)なり。武(ぶ)に達(たつ)し文(ぶん)に通(つう)ず。面色(めんしよく)都(すべ)て黄(き)なるを誹(そしつ)て。病(へい)
関索(くわんさく)と混名(あだな)せり。蘓州城(そしうぜう)の押司(おうし)に轉(うつ)る日(ひ)。狡猾(あばれもの)張保(ちやうほ)們(ら)が街(ちまた)に妨(さまたげ)したりし
を。薪(たきゞ)啇夫(あきうど)石秀(せきしう)が見(み)るに忍(しの)びず。悪軰(わるもの)を遮攔(さゝへとゞめ)て打倒(うちたふし)ぬ。這(この)義勇(ぎゆう)を好(よみん)じて
盟(ちぎり)を結(むすん)で兄弟(きやうだい)とし。飲食(いんし)座卧(ざぐは)を偕(とも)に做(な)せしが。妻(つま)潘巧雲(はんきやううん)が邪婬(まぶぐるひ)に。酔(ゑひ)て閨中(けいちゆう)の 
侫話(うそ)を信(しん)じ。既(すで)に義盟(ぎめい)を欫(かゝ)んとせしかど。裴如海(はいじよかい)が屍(かばね)を見(み)て心(こゝろ)の迷(まよひ)頓(とみ)に消(はれ)。即地(そのば)
の怒(いかり)を僅(わづか)に堪(こら)へ。先祖(せんぞ)の墓(はか)へ賽(もふで)んと妻(つま)巧雲(きやううん)を欺出(あざむきだ)し。翠屏山(すいへいざん)へ透來(つれきた)り大樹(だいじゆ)が根(もと)に
梱着(くゝりつけ)。舌(した)を㧞(ぬき)眼(まなこ)を排(ゑぐり)怨(うらみ)を筭(かぞへ)て是(これ)を殺(ころ)し。公難(かみのとがめ)を遠(とほ)く避(さけ)て梁山泊(りやうさんばく)の群(むれ)に投(いり)。平生(つね)に
石秀(せきしう)と隊(そなへ)を合(あは)せて楊温(やうおん)賀重寶(がてうほう)を捕(とらふ)る武勇(ぶゆう)。伍々隊々(いくさのたび〳〵)数(かそ)ふるに𣈷(いとま)【日+皇】あらず
【左下欄外】ウ上◯下ノ九


【右下欄外】ヲ上◯下ノ十
《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天慧星(てんけいせい)》  捨(しや)命(めい)三(さむ)郎(らう)石(せき)秀(しう)
此一個(このいつこ)は金陵(きんれう)建康府(けんかうふ)の人(ひと)なり。弱(よわき)を顧(み)ては泫然(げんぜん)として助(たすけ)。剛(つよ)きに■(あふ)【面+當】ては忿(ふん)
然(ぜん)として打懲(うちこら)す。是(これ)を稱(せう)して流俗(よのひと)は。捨命三郎(しやめいさむらう)と混名(あだな)せり。釜(かま)を破(やぶ)り舟(ふね)を焼(やひ)て
故郷(こきやう)を辞(さり)。蘓州(そしう)に來(きたり)て愈(いよ〳〵)落流(おちぶれ)。城下(ぜうか)に薪(たきゞ)を啇(あきな)ふ比(をり)。張保(ちやうほう)們(ら)數十個(すじうにん)を打悩(うちなやまし)
て。楊雄(やうゆう)が難(なん)を除(のぞ)き。義兄弟(ぎきやうだい)と成(なつ)て。彼(かれ)が■(いへ)【舘】に偶居(かりすまい)す。祭霊(ほうじ)の席(せき)の邪婬(じやいん)を憎(にく)み
悪僧(あくそう)如海(じよかい)を砍殺(きりころし)て楊雄(ようゆう)が迷(まよひ)を解(とき)。翠屏山(すいへいざん)に女(をんな)を害(がい)させ時選(じせん)と三個(みたり)
路(みち)を偕(とも)にし梁山泊(りやうさんばく)に走(はし)るの次(とまり)。祝家(しゆくか)の災(わざはひ)起(おこ)りしも宋公(さうかう)等(ら)が助(たすけ)を得(え)たり
北京(ほくきん)に酒樓(しゆらう)を跳(とん)では盧俊義(ろしゆんぎ)を救(すく)ひ寶嚴寺(ほうがんじ)に塔(とう)を焼(やい)ては蘓州城(そしうせう)を責(せめ)
落(おと)す殺氣(さつき)凛々然(りん〳〵ぜん)として身(み)終(おふ)るまで勇(ゆう)を减(げん)ぜず

  石(せき)将(しやう)軍(ぐん)石(せき)勇(ゆう)
隊伍(そなへ)を立(たつ)るの堅固(かたき)ことは
礎(いしずへ)の像(ごとし)。軍(いくさ)に向(むか)ふて敵兵(てきへい)を
粉(こ)にする縡(こと)は碓(いしうす)に佀(に)たり。 
豪傑(がうけつ)の名(な)を把(とつ)て
万世(ばんせい)に傳(つたふ)る
ことは。恰(あたか)も
碑(いしぶみ)に等(ひと)し。 
心(こゝろ)も賢(かしこ)く
身(み)も固(かた)ければ。
  名字(みやうじ)の
   石々(せき〳〵)自若(じじやく)
       たり 
【左下欄外】ウ上◯下ノ十


【右下欄外】ヲ上◯下ノ十一
《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地醜星(ちしうせい)》 石(せき)将(しよう)軍(ぐん)石(せき)勇(ゆう)
這(この)一個(ひとり)は北京(ほくきん)大名府(たいめいふ)の■(ひと)【人+星】なり。博賭(ばくち)を用(もつ)て過活(すぎはひ)とし。錦(にしき)を被(き)て逰(あそ)ぶ昼(ひる)有(あれ)ば。
褛(つゞれ)を纏(まと)ふて臥(ふ)す夜(よ)もあり。性(こゝろ)頗(すこぶる)強勇(きやうゆう)にして。敵(てき)する者(もの)に當(あた)ること石(いし)もて壜(とくり)を
破(わ)るが像(ごと)し。故(ゆへ)に石将軍(せきしやうぐん)と混名(あだな)せり。一年(あるとし)既(すで)に冬暮(ふゆくれ)て翌天(あす)は新歳(しんさい)の
境(さかひ)となり。賭(かけ)に勝(かた)では一身(いつしん)を。春惠(はるめか)されじと心(こゝろ)を焦(いら)だて。射落崫(しやらくつ)といふ賭塲(かけば)に至(いた)り。
是非(じひ)を論(ろん)ぜず勝(かち)なんものと。思(おも)ふに齟齬(そご)する怒(いかり)から。摶倒(はりたふ)したる石拳(いしこぶし)骰子(さい)の面目(つらめ)
は出(いで)ずに。當人(あひて)の面(つら)の両眼(りやうがん)飛出(とびだ)し。あはや果(はか)なく損(たふ)るゝを。一座(いちざ)の他々(ひと〴〵)噪(さは)ぐ間(ま)に。
銀(かね)掻捘(かつさらへ)て故郷(こきやう)を走(はし)り。鄆城縣(うんせいけん)に憑往(たどりゆき)宋清(さうせい)が書(しよ)を提(たづさへ)て。宋公(さうかう)を尋(たづね)る途中(とちゆう)
燕順(ゑんじゆん)と争(あらそ)ひしを。及時雨(きうじう)に媒鎮(とりさへ)られ。大義(たいぎ)を爰(こゝ)に結発(むすびそめ)て威(ゐ)を宋代(さうたい)に怖(おのゝか)せり

【右頁】  
  黑(こく)旋(せん)風(ふう)李(り)逵(き)
宋公(さうかう)戴宗(たいそう)を■(もて)【欵ヵ】待(な)さん
と。鮮魚(せんぎよ)を覓(もとむ)る琵琶(びは)
樓前(ろうぜん)。李逵(りき)は怒(いかつ)て
張順(ちやうじゆん)を痛(いた)拍(うつ)を
七八 拳(けん)。その拳(こぶし)
には敵(てき)し■(がた)【難ヵ】く。
獲術(えて)もて
李逵(りき)を拗(ひしが)ん
と。舟(ふね)を湖(いりえ)に
撑出(こぎいだ)し。李(り) 
逵(き)に指(ゆびさし)罵(のゝし)る
舌(した)の根(ね)。抜(ぬか)んずと◯
◯後(あと)追(おひ)来(きた)るを。
張順(ちやうじゆん)見(み)て
獲(え)たりと水(みづ)へ
跳投(をとりい)り。李逵(りき)を
【左下欄外】上◯トノ十一
【左頁左下欄外】ヲ上◯下ノ十二
浪間(なみま)へ拏拮(ひきずりこむ)。
張順(ちやうじゆん)が身(み)は雪(ゆき)より
皓(しろ)く。李逵(りき)は墨(すみ)
より猶(なほ)黑(くろ)し。
浮(うい?)つ沈(しづ)みつする摸様(さま)は。
獃烏(あほうがらす)が鸕鷀(う)の摹(まね)して。
鷺(さぎ)に挵(せゝ)らりに髣髴(さもに)たり。
遂(つい)に迭(たがひ)の仇(あだ)解(とけ)て。
潯陽江(じんやうこう)に兄弟(きやうだい)の
盟盞(みづさかづき)を酙約(くみかは)すは。
是(これ)ぞ誠(まこと)の
水魚(すいぎよ)
たり
浪(らう)裡(り)白(はく)跳(てう)張(ちやう)順(じゆん)

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天殺星(てんさつせい)》 黑(こく)旋(せん)風(ふう)李(り)逵(き)
這(この)一個(ひとり)は沂水縣(きすいけん)百丈村(ひやくぜうそん)の人(ひと)なり。面(おもて)は黑熊(こくゆう)の像(ごと)く。身(み)は鐡牛(てつぎう)に侶(に)たり。
故(ゆゑ)に李鐡牛(りてつぎう)とも呼(よ)べり。能(よく)雙(ふたつ)の斧(をの)を使(つか)ふて。しば〳〵酒狂(しゆきやう)の悪癖(わるくせ)あり。
少時(わかゝりしとき)江州(ごうしう)に来(きた)り。戴宗(たいさう)が許(もと)に小牢子(こらうもり)をす。法塲(しおきば)に戦呌(たゝかひさけん)で。宋江(さうこう)戴宗(たいそう)
を助(たすく)ること。這人(このひと)をもて第一(だいいち)とす。母(はゝ)の迎(むかひ)に往(ゆく)山路(やまぢ)には。欺(にせ)李逵(りき)を殺(ころ)して。
酒店(さかや)を粉(こ)になし。沂嶺(きれい)に母(はゝ)を咬(かま)れては。山谷頭(さんこくとう)に怒哭(どこく)して。四頭(しひき)の大蟲(とら)
を憤殺(ふんさつ)なす。敵(てき)にむかふて斬(き)る首(くび)は。獨龍岡(どくりやうかう)に。祝龍(しゆくりやう)。祝彪(しゆ?ひやう)。十面(じうめん)埋伏(まいふく)に。
段鵬挙(だんはうきよ)。青石峪(せいせきこく)に賀雲(がうん)。眞雷(しんらい)。毗陵郡(びりやうぐん)には。髙可立(かうかりう)。張近仁(ちやうきんじん)。奸邪(かんじや)を
糺直(たゞ)して屠(ほふ)る頭(かうべ)は。四柳邨(しりうそん)に狄家(てきか)の婬女(いろずき)。牛頭山(ぎうとうざん)に假宋公(にせさうこう)或(あるひ)は燕青(ゑんせい)に
【左下欄外】ウ上◯下ノ十二

【右下欄外】 上◯下ノ十三
従(したが)ふて泰安州(たいあんしう)に到(いたつ)ては。抵角(すもふ)の塲(には)に號狂(ごうきやう)なし。壽張縣(じゆちやうけん)に逰(あそん)では心(こゝろ)の
如(ごと)く戯決断(ばかけつだん)す。梁(はり)より跳下(とびおり)詔書(せうしよ)を裂(さひ)ては陣宗善(ちんそうぜん)を呌殺(けうさつ)す。此外(このほか)
悪徒(あくと)毒輩(どくはい)が膽(きも)を食(くら)ひ精(せい)を甞(なむ)。くちは飽(あく)まで暴悪(ぼうあく)なれども。心(こゝろ)に
一片(いつぺん)の邪曲(じやきよく)なし

《割書:天罡星(てんかうせい)三十六|員之内(いんのうち)天損星(てんそんせい)》 浪(らう)裡(り)白(はく)跳(てう)張(ちやう)順(じゆん)
此一個(このひとり)は張横(ちやうおう)が弟(おとゝ)にして。江州(がうしう)城外(ぜうぐわい)に魚牙(うをどひや)の賣主(もとじめ)たり。其性(そのせい)水(みづ)に熟練(じゆくれん)して
波上(はしやう)を渉(ゆく)こと四五十 里(り)。水底(すいてい)に沈(しづ)むこと七 日(にち)七 夜(や)。されども身躰(しんたい)甞(かつ)て疲(つか)れず。是(この)  
縁故(ゆゑ)をもて混名(あだな)をば。浪裡白跳(らうりはくてう)と称(よば)れたり。琵琶樓上(びはらうせう)に宋公(さうかう)等(ら)と大義(たいぎ)を結(むすん)で

より已來(このかた)。江上湖中(こうしやうこちゆう)の攁(はたらき)は。黄文炳(こうぶんぺい)を剏(はじめ)として。安道全(あんどうぜん)を迎(むか)へては。楊子江(やうしこう)に賊(ぞく)張(ちやう)
旺(わう)。海鰍舩(かいしうせん)の邪(じや)髙俅(かうきう)。金山寺浦(きんさんじうら)には呉成(ごせい)を殺(ころ)し。陳家(ちんか)の舩(ふね)を奪(うばふ)ては。潤(じゆん)
州攻(しうせめ)の功(こう)第一(たいいち)。杭州城(かうしうぜう)の軍(いくさ)には。單身(ひとり)西陵橋(せいれうきやう)より跳投(とびいつ)て。幾重(いくへ)の鈴索(すゞなは)
鐸網(なるこあみ)。右(みぎ)に潜(くゞ)り左(ひだり)に抽(ぬけ)。湧金門(ゆきんもん)に爬上(はいあが)り。雲垣(たかべい)踰(こえ)んとする音(おと)を。衛看(ばんて) 
の士(もの)に䚕現(みだ)されつ。數千(すせん)の弓兵(ゐて)に射屈(ゐすくめ)られ。水底(すゐてい)深(ふか)く遁(のが)れても。
身(み)に寸鉄(すんてつ)の帮板(たて)なければ。哀(あは)れむべし盛壮(さかん)なる豪傑(がうけつ)も。西湖(せいこ)の泡(あわ)と
化(け)し畢(をはん)ぬ然(され)ども猛魂(もうこん)空(むなし)からで。龍帝(たつのみかど)の慈惠(じけい)を蒙(かうぶ)り。金華大保(きんくはたいほ)の宦(くはん)を 
得(え)て兄(あに)張横(ちやうわう)が身(み)をかりつ。五雲山下(ごうんさんか)に城主(ぜうしゆ)たる。方天定(はうてんてい)を怒殺(どさつ)せしは。
誠(まこと)に忠義(ちうぎ)の至極(しいきよく)なんぬ

【右下欄外】ヲ上◯下ノ十四《割書:止|》
 鐡(てつ)呌(きやう)子(し)樂(らく)和(くわ)
髙俅(かうきう)がために佯(いつは)られ。東京(とうきん)の邸(やしき)にありしを。
燕青(ゑんせい)等(ら)謀(はか)らふて。樂和(らくくわ)にその意(い)を通(つう)じ合(あは)せ。屏(へい)
の外(そと)より索(なわ)を投(なげ)いれ。これを柳(やなぎ)の枝(えだ)にくゝり。端(はし)もて
外(そと)より強(つよ)くひけば。樂和(らくくわ)はさながら蜘蛛(さゝがに)の。糸(いと)を
こつたふ如(ごと)くにて。毒地(どくち)をのがれ出(いで)たりとぞ


《割書:地煞星(ちさつせい)七十二|員之内(いんのうち)地樂星(ちらくせい)》 鐡(てつ)呌(けう)子(し)樂(らく)和(くわ)【図書館印】  
這(この)一個(ひとり)は原(もと)茅州(ぼうしう)の■(ひと)【人+星】なり登州城(どうしうぜう)に来(きたり)て節級(せつきう)の職(しよく)を務(つと)む。一個(ひとり)の娘(むすめ)
を與(あたへ)て病尉遲(へいうつち)孫立(そんりう)を聟(むこ)とせり。十八 盤(ばん)の藝(じゆつ)を極(きはむ)れども武(ぶ)を以(もつ)て他(ひと)を怖(おど)
さず。仁(じん)ありて多(おほ)く罪人(とがにん)囚士(めしうど)を憐(あはれ)む縡(こと)。自(みづから)養(やしな)ふ子弟(してい)の如(ごと)く。一遭(ひとたび)顧大嫂(こたいそう)㑪(ら)が
頼(たの)みに隨(したが)ひ。解珍(かいちん)解寳(かいほう)が牢苦(らうく)を救(すく)ひ。八個(やたり)の豪傑(がうけつ)と宋江(そうこう)が陣(ぢん)に加(くは)はり。
稍軍亊(やくぐんじ)を経歷(けいれき)して。髙俅(かうきう)が宦兵(くわんへい)を破(やぶ)るの後(のち)。契約(けいやく)の為(ため)に東京(とうぎん)に伴(ともなは)れ。月(つき)を超(こゆ)
れども是(これ)を水泊(すいはく)へ返(かへ)さゞれば。戴宗(たいそう)燕青(ゑんせい)謀合(かたらふ)て髙俅(かうきう)が邸(やしき)を出(いだ)させたり。然(しか)して四海(しかい)
平鎭(へいちん)の日。此人(このひと)謡歌(あうか)の妙(みやう)を得(え)たれば駙馬王大尉(ふばわうたいい)に招(まねか)れて。宦禄(くはんろく)を得(え)たりしは。
是(これ)鐡呌子(てつけうし)の綽号(あだな)に依(よ)るものなり
【左下に蔵書印(林忠正)】
【左下欄外】ウ上◯下ノ十四《割書: |止》

【白紙】

【裏表紙 手描きの紙片】
Présumé
David Weil
Sylvain Leuy

【本の背】

BnF.

芙蓉竒觀

其所知道士元海彫鐫之工曰
白鵞余為略紀巔末於首云
文政戌子歳仲秋

  正二位資愛

   芙蓉竒觀目録
罩彩霞圗《割書:春》  日野正二位藤原資愛卿
雲峰起岳腹圗《割書:夏》勘觧由幸次小路宰相藤原資善卿
淡霧籠岳足圗《割書:秋》外山正三位藤原光□卿
寒飈巻彤雲圗《割書:冬》東坊城右大辨菅原總長卿
昕輝䠶映圗  八條従三位藤原隆祐卿
岳巔帯反□圗      資愛卿
氷輝澄映圗        資善卿
臘雪始消圗《割書:六月望》     光□卿
新雪始霽圗《割書:ヽ既》      總長卿
夏雨晴後圗        隆祐卿
葢雲醸両圗        資愛卿
葢雲三重促風両圗     資善卿
三重葢雲崩圗       光□卿
 葢雲崩乾則為両兆頽艮則為暘兆散亂則為風兆
濛両籠岳圗        總長卿
快晴圗          隆祐卿
             極娱亭藏

BnF.

BnF.

【表紙 文字無し】

【表紙裏(見返し)資料整理番号のラベル】
JAPONAIS
 365

【見返し 文字無し】

【白紙】

【白紙】

【白紙 資料番号が手書き】
1825【線を引いて見せ消ち】
365

【題箋】
《割書:再|板》絵本初心柱立(ゑほんしよしんはしらだて) 1 上
【題箋の横にアルファベットで本の説明を手書きした紙を貼付。】
4
Ye hon siyo-sin Hasira date
 Enseignement des premiers principes
  du dessin, 3 Vol, Comp,
   No, 534 du Cotal(?), Cel(?), Japoneioumn(?)【Japonaiserieヵ】

【文字無し】

やゝ冬(ふゆ)がれの庭(には)のけしき。一人居(ひとりゐ)の
気さんじさは。土(ど)ぐわんす【陶製の鑵子(かんす)】に葉茶(はちや)をわかし。
つくへにもたれて。日比(ひころ)すける絵本を
工(たく)めと。あくびは出れと絵工(ゑく)の出(いで)ぬ候。
予 此道(このみち)にうとくさもあれめくら
へびにおそれずと。古今名(ここんめい)

筆(ひつ)の書捨(かきすて)を集(あつめ)て愚筆(ぐひつ)に
作(つく)り。すぐに題号(だいがう)を。絵本初心柱立と
                       し侍る

猩々(しやう〳〵)

【絵だけ。文字無し】

獅子(しし)
 一日に
 五百里も
 はしる
 けだもの也
 とらへう
 をくらふと
 いヘリ

豹(へう)
虎(とら)
虎子(とらのこ)

豹(へう)かたちねこの
  大成がことし
  白きおもて
  まるきかしら
  わけて毛を
  むくむ
虎(とら)
千里の竹林
にすんで
風を生ずか
ける事矢の
ごとし大うしの
ごとしのこぎりの
きばありこゑらいの
ごとし白虎なり

象(ざう)大成る物也きばながし
 はなにて人をまくと也
 三年に一度 乳(にう)す

【上部】
麒麟(きりん)
聖人の
御代に
出る仁獣
  なり
かしらに
一角
あり

【下部】
犀(さい)
かしらは
馬のことし
一角有
せに甲
あり能
水上を
かける

【上部】
貘(ばく)
はなはざうのごとく
長しつねに竹を
くろふあしきゆめを
く【「て」とあるが誤記と思われる】ろふとて枕に
ばくをかくよく
ねむるけだもの也

【下部】
野猪(ゐのしゝ)
腹ちいさく
あしみじかし
きばあり
はないき
あらしの
ごとし

【上部】
狼(おほかみ)
口みゝきわ迄
きれするど成
ほうさき前後を
能見る
けだもの也
あしの
ゆひに水
かきあり

豺(やまいぬ)

【下部】
熊(くま)
深山に住
むねに白 脂(し)
あり月の
輪といふ
たけき
けだもの也
目たてに
あきあし
人のことし
つねに
かにを
くらふ

【上段】
鹿(しか)
四月に角おち
て又二三月に
生ず其上鹿は
天上を知るけだ
もの也雨ふらん
とては三日前に
しるとなり六月に子をうむと也

【下段】
男狐(おきつね)
はなとがりて
尾大き也百
さいに至りて
北斗を礼
してはけるとなり

【上段】
猿猴(ゑんこう)
猿ににてひじ長し
能木の枝つたふもの
         也

【下段】
狸(たぬき)
かしらとがりて口ひろし
年へてしゆ〳〵のようくわいを
なし人をまどわす也

【上段】
貉(むじな) 能ねむるもの也
   ひるはふして
   よる出るけだもの
   なり

【下段】
羊(ひつじ) 能紙をくらふ
   けだものなり

【上段】
猿(さる)
手あし人の
ごとししりに
毛なく尾みぢ
かくさわかし
き物なり

【下段】
兎(うさぎ)
まへあし
みぢかし
しりに九ツ
のあなあり
なく水を
およぐもの
   なり

【上段】
靈【霊】猫(じやかう)
色くろし
ほそに
香気
あり

【下段】
獒犬(とうけん)
みゝたれて
尾ながし
たけきものなり

【上段】
猫(ねこ)
十二時に
まなこ替る
けたもの也はな
つねにひやゝかなり
夏至に一日あたゝか
   なりといへり
    毛いろ
     しな〳〵
        有

【下段】
小犬(ちん)

犬(いぬ)
 さとに
 すんで
 家をま
 もるもの
 なり
 毛いろ
 しな〳〵
 あり

狗猧(ゑのころ)

【上段】
栗鼠(りす)
鼠にて大
きし色き
くろし
毛ふかく
して
あたゝか
なり

【下段】
鼬(いたち)
鼠ににて
身長し
尾大
きく
色くろき
なり能
鼠を取
なり

貂(てん)
いたちの
こうへし【意味不明】
をてんと
いふ山に
すむもの
なり

【上段】
鼠(ねすみ)
四ツのはあり
きばなし
まへの爪四つ
うしろ爪五つ
あり

白鼠
  あり
ちいさきを
廿日鼠と
いふ

【下段】
繋馬(つなぎむま)
猿(さる)

連銭葦毛(れんぜんあしけ)
髪白(ひたいじろ)
駮(ぶち)
雪踏(よつじろ)
鹿毛(かげ)
黒馬(くろむま)

紅梅鴇毛(こうばいつきげ)  野馬(のむま)
河原(かはら)毛     毛色
栗(くり)毛      しな〳〵
         あり
糟(かす)毛
葦(あし)毛
柑子栗(かうしくり)毛

野牛(やぎう) 下ば有つて上はなし
   はなにて物を能きく也
 牛馬のとしを知るにははにてとる
               と也

黄牛(あめうじ)

めうし
犢特牛(ことひうし)
星斑牛(ほしまだらうし)

上(のぼり)り【送り仮名の重複】龍(りやう)
下(くだり)り【送り仮名の重複】龍(りやう)

雲龍(うんりやう)
雨龍(あまつりやう)

飛龍(ひりやう)

輪龍(わりやう)
龍之丸(りやうのまる)

【上段】
海老(ゑび)
はせゑび

【下段】
石亀(いしかめ)
すつほん
緑毛亀(みのがめ)

【上段】
蝤䗋(がざめ)
蟹(かに)

【下段】
亀(かめ)
緑毛亀(みのがめ)

龍門瀧(りやうもんのたき)【左側に振り仮名】鯉(こい)

【左下部】
日和

【裏表紙 文字無し】

【表紙 題箋】
《割書:再|板》絵本初心柱立(ゑほんしよしんはしらだて) 2 中

【文字無し】

  孔雀(くじやく)
かしらに三毛をいたゞく
尾さきに
玉のふあり人手を
うつてうたへは
  まふ羽音
 さゝなみの
  うつが
 ことし

女鳥

鳳凰(はうわう) 聖人の代に
     出る仁鳥也
   羽を五しきにいろとるこゑは
   しやうのことし祠にすみ竹の
   実をくふ《割書:其外さいしきは|色々いろどる也》


ちとせのよはひを
たもちめてたき
鳥なり
せはねうす鼠いろ
目ほあかし
つはさくろし
夜半のなく声
ましわりて
はらむと也

鶴はその類多し
  羽いろもいろ〳〵あり

音呼鳥(いんことり)
せはねとくさいろ也
ほむねあかし

鶺鴒(せきれい)
  せはね青し
  ほむね
   きいろ也
とぶ時
なくゆく
ときは
尾かしら
をうご
 かす也

鶴(つる)
沢辺におりゐて
せりをくふ也

せくろ
 鶺鴒(せきれい)
 せくろし
 はら
 きなり

杜鵑(ほとゝきす)
せはね
きいろ鼠
 いろなり
はら白し
うくいすの巣に
かいご【卵】をうむと
    いへり

鵲(かさゝぎ)
 せはねくろ青し
 かしらのふ白し
 はら白し
 尾とがりて
 はしくろし

【右中部】
雉子(きじ)

【右下部】
鴛(えんとり)【「は」と振るは誤記と思われる】
羽いろ青
  くろし

鷹(たか)
 ゆうもうの
とり也田猟【でんりょう=野に出て狩をすること】に
もちゐてとりをとら
しむるたかの類色〳〵
        あり

【上段】
鵠(くゞい)
雁より大なり
羽いろ白し
あしあかし
たかくとぶ
  なり
【下段】
雉(きじ) おとりはかしらむね
   はね青くひかる
尾ながしめ鳥は
かわらけ色也
尾みじ
かし

鷽(うそ)かしらくろしせはね
  うす鼠尾さき黄色也
  はら白しうつくしき鳥也

鴎(かもめ)
 羽いろうす白く
 目あかくはし
 あしなかし
 三月にかいご【卵】をうむ

燕(つばくら) 春の社日に来て秋の
    社日にさるどろをふく
    みてすを屋さきの
    下につくる戊巳の日
          さくる也
せはね
くろく
はら白し
はしあか


鵥(かしとり)こげいろ也
   かしら青し
   はねにふあり

山雞(やまどり)
きじににたる鳥也
尾ながしうつくしき鳥也
山どりの尾のしだり尾
のと哥にもよめり

鴈(がん)
羽いろうす
くろしはら白し
秋みなみへ
わたり春
きたへ行
なり

鴛鴦(をしどり) 縁のふかき鳥也
    女の鏡のいへにも
おしのおもひ羽とて入おく也
かしらに白く長き毛あり
うつくしき鳥也いろ〳〵のはねいろ也

鳩(はと) 羽いろうす白しうなじの
  下まだらにしてしんしゆの
  ことし其外羽いろ〳〵有
  おとりははれをよばひ
  女鳥は雨をよばふといへり
  まはとはつちくれと
  いふなり

𩿦(ましこ)【只+鳥】せはね鼠
   きいろなり
   むねうすあかし

鴰(ひよどり)
をかしらともに
青くろし
大雪ふらんとする時は
飛あつまるといへり

小こく

鶤雞(とうまる)

雞(にはとり)
■(ひよこ)【禾+心+鳥】
此鳥類多し羽いろさま〳〵
          あり

白鷹(しらたか)
類多し
さいしきに
口伝あり

のご鳥
 せはね青ちや
 いろなりほあかし

雲雀(ひばり) すゝめにてこげくろ
   色なり空中を
   とぶことなゝめならす

鶍(いすか)せはねかきいろ也
   はら白しくち
   はしくいちかふて
   あわず
   俗にいふ物の
   ちかふことを
    いすかの
    はしと
    いふこと
    此とりより
    出ることば
    なり

【右上】
鷲(わし)尾ながくつはさみぢ
  かくいろき也空中を
  とぶよくけだものを
  とるなり

【右下】
鸚鵡(あふむ)
せはね白く青し
かしらはしあし
あかし又五色
もありよく
ものいふ鳥なり

【左上】
■(くま)【皁ヵ】鵰(たか)
わしくまたか其性
をなじ羽を矢にはぐ也

【左下】
鵐(しとゝ)
 すゝめの類也
 羽いろこけ
 いろなり

梟(ふくろう)
ねこのかほ
のやうにて
夜 ̄ル とび
昼ふす
なくこゑ
らうじん
のことし

角鴟(みゝづく)ふくろうと其性同し
   みゝ有なくこゑ
   わらふかことし

鷦鷯(みそさゞい)
 すゝめにてせはね
 はいいろまだら也
 あしにすを
    かくる也

水雞(くゐな)
 ほ白くくちばしながく
 尾みじかくせに白まだら成
 ふあり水辺にゐて五月比夜なく鳥也

鳶(とび)
たかにゝたり
せはねこけ
いろなり尾は
かぢのごとし

烏(からす)惣くろし生きて六十日
  母くゝむるすたちして
  六十日又母をくゝむる
  孝鳥也

鶉(うづら)
せはねかはら
けいろなり
おとりはあし
たかし
めとりはあし
ひくし
田鼠【野鼠の異名】起して
うつらと成と
いへり








錦雞(きんけい) くじやくの
     はねのことし
     又五しきも
       あり

翠雀(すいしやく)【左側に「るり」と傍記】
せはねるり
いろなり
かしら目のあたり
うすあかし
すいちやう
ともいふ

白鷴(はくかん)山とりににていろ白し
   こくもんのふあり
      尾のながさ
       三四尺

翡翠(かはせみ)
 はねうすくろし
 せに青き毛あり
 くちばしなかくあし
 くれなゐ也うつくしき鳥
 なり
 水上にて
 よく魚を
 取

鵙(もず)
かしらせはね
青ちやいろ也
はらうす鼠
ふあり
夏至になき
冬至になき
やむ

ふんとり
 せはねきいろ也
 羽さきくろし
 ほあかし

鶸(ひわ)かたちすゝめの
  ことしとくさいろ
  なり

鶲(ひたき)かしらあをし
  せはねうす
  くろし

桑䲩(あつとり)
 羽かた
 あかし
 せ朱
  くろ
   いろ
     也

はとう鳥
 せはね青し
 くちはしあし
 あかしさかあり


   かたち鼠にゝ
   たりいろはいくろ
蝙蝠(こうもり)にして四そく
   あり
   夏出る夜 ̄ル
   とんてかをくふ

あをぢ 羽いろき青ちや也

おとり

めとり

とき

せはね
うすあかし
はら白し
はし
ながし

鸎(うぐひす)
 せはねうすきいろなり
 尾さきうすくろし
 立春の後鳴也金衣鳥【きんえちょう】
       ともいふ也

鳬(かも)かしら青くろしあしあかし
  はらうすくろし
  其外いろ〳〵
  の羽いろ
    あり

八頭(やつかしら)
 いろ〳〵の羽いろ
       あり

鸊鷉(かいつふり)はとの大さにしてあし
   かもににたりりくきやう
   することならす巣を
   うきくさなどに作る

【右上】
𧒑(まめ)嘴(どり)
はしふとく
羽きなる
まめのいろ
    なり

【右下】
画眉(ほうじろ)
 せはねこけ色也
 ほ白し

【左上】
鳺鴀(かつこうどり)
 としよりこい也
 色きいろ也

【左下】
鶚(みさご)たかににてきいろ
  なり水上にて
  魚を取くふ

とうくわ鳥
かしらむね
くろし
せはね
うす
くろし

深山(みやま)
畫眉(ほうじろ)
 羽さききいろ也
 せくろあかし

 鴻(ひしくい)
かんの大成もの也
はら白し
沢辺におりゐて
ひしをくらふ也

啄木(てらつゝき)【「きつつき」の異名】かしらは桃花のことし
    はしあし青くはし
    なかくきりのことし
    木をうかつて虫をくらふ

めじろ とくさいろなり
    はら少白し
    めなぶちしろし

【右上】
鷸(しき) うつらのことくして
   羽いろ青こけいろ也
   鼠いろの羽もあり
   雨ふらん時なくなり

【右下】
鶫(つぐみ) せはねかわらけいろ也
   せいほに是くふなり

【左上】
竹雞(やましぎ) かういろして
    またらあかし
    尾なし蟻をくらふ也

雀(すゞめ) せはねこけいろ也
   くちはしに
   きなる所あり

千鳥
 はねうす青し
 ほはら白し

【上段】
山雀(やまがら)せはねくろあかし
   むねうすあかし
   くるみをくらふ

四十雀(しじうから)はねうす
    くろ青し
    はしきめなり

【下段】
駒鳥(こまとり)
せばね
うすあか
 くろし
むねあかし
鳴声こまの
ことし

きひたゝき
はねうす
くろし
かしらむね
  きいろ
   なり


哵々鳥(はゝてう)
をかしらとも
くろしさか
   あり
したは
  人のことし








さんかう鳥【三光鳥】

練鵲(れんじやく)
せはねうすくろし
かういろ也尾に
白き毛あり
ねりたる
おひのことし

きやう〳〵し鳥【仰々子鳥】
 せはねうすいろ也
 はさききなり
 はら白し

嶋鴰(しまひよどり)
 かしら白し
 せはねくろし

【上段】
ゑなか鳥【柄長鳥】
せはねうす
くろし
すこし
あかし

【下段】
かうざし
 せはねうす
 青し
 かしらはら
 あかし

ひかう鳥
 せはね青し
 はらきいろ也

【上段】
烏鳳(おながとり)
 いろ〳〵の羽いろ
     なり
玉母鳥共云

山鵲(さんしやく)
 せはねいろくろし
 はしあかく尾長く
 して
  遠く
   飛事
   なら
     す

【下段】
白鷺(しらさき)
林木すんて
水にむらかる事
雪の
ことし
いたゝきに
ながき毛あり
いとのことし

青鷺(あをさぎ)
 はねいろ青し
 其性白さぎに
 おなじ

  五位鷺(ごゐさぎ)
うなしに
紅毛あつて
かふりの
ことし









吐綬雞(とじゆけい) かしらきしにゝたり
     はねのいろ青
     くろし
 ほうすあかしきいろ成
 所もありさか毛あり
    まへによたれかけの
    やう成長き毛有

鸕鷀(う)
 せはねくろし
 はらすこし
 白し

鶩(あひる)いろ〳〵の
羽いろあり飛事
あたわず

【裏表紙の裏(見返し) 文字無し】

【裏表紙 文字無し】

【表紙 題箋】
《割書:再|板》絵本初心柱立(ゑほんしよしんはしらだて) 3 下

【表紙裏(見返し) 文字無し】

松(まつ)に藤(ふぢ)

若松(わかまつ)

竹(たけ)

漢竹(かんちく)

笋(たかんな)【たけのこ(筍)の古称】

長間竹(しのべたけ)

紅梅(かうばい)

梅(むめ)

桜(さくら)

糸桜(いとさくら)

柳(やなぎ)

楓(かへで)

藜蘆(おもと)

南天(なんてん)

杉(すぎ)

蓑虫(みのむし)

桃(もゝ)

梨(なし)

源平桃(げんへいたう)

栗(くり)

蝉(せみ)

林檎(りんご)

蜜柑(みつかん)

橘(たちばな)

梔(くちなし)

梔実(くちなしのみ)

柚(ゆ)

石榴(じやくろ)

葎(むぐら)

銀杏(いちやう)

柊(ひいらぎ)

棕櫚(しゆろ)

伊吹木(いぶき)

黄楊(つげ)

蜘蛛巣(くものす)

桐(きり)

樗(あふち)

百足(むかで)

毬花(てまり)

木槿(むくげ)

椎(しい)

蔦(つた)

凌霄花(のうぜんかづら)

榧(かや)

【上部】
柏(かしわ)

胡桃(くるみ)

【下部】
梶葉(かぢのは)

松茸(まつたけ)

【上部】
椿(つばき)

【下部】
沈丁花(ぢんちやうけ)

海棠(かいどう)

桜草(さくらくさ)

【上部】
蠼螋(はさみむし)

笹龍胆(さゝりんだう)

水木(みづき)

【下部】
芭蕉(ばせを)

酴醿(やまぶき)

螻(けら)

【上部】
蝶(てふ)

牡丹(ぼたん)

鳳蝶(あげはてふ)

【下部】
菫草(すみれぐさ)

芍薬(しやくやく)

蜻蛉(とんぼう)

【上部】
栯李(にはむめ)

梅嫌(むめもどき)

【下部】
皐月(さつき)

羊躑躅(もちつゝじ)

【上部】
蘇鉄(そてつ)

虻(あぶ)

垣衣(しのぶ) 

【下部】
庭桜(にはさくら)

菝葜(えびついばら)

蕨(わらび)

【上部】
秋海棠(しうかいどう)

𧉣(たまむし)

薔薇(いばらしゆうび)

【下部】
鳥頭(とりかぶと)

甲虫(かぶとむし)

華蔓(けまんさう)

【上部】
桔梗(ききやう)

女郎花(をみなめし)

轡虫(くつわむし)

山茨菰(ほうづき)

【下部】
菊(きく)

薄(すゝき)

【上部】
蘭(らん)

春菊(かうらいきく)

【下部】
美人草(びじんさう)

罌粟(けし)

【上部】
蜂(はち)

石荷(ゆきのした)

【下部】
鶏頭花(けいとうげ)

鴈緋(がんひ)

【上部】
石竹

薊菜(あさみ)

瞿麦(なでしこ)

【下部】
施覆花(おぐるま)

鳳仙花(ほうせんくわ)

石菖(せきしやう)

金銭花(きんせんくわ)

【上部】
鉄線花(てつせんくわ)

杉菜(すぎな)

蓮花(れんげ)
 草(さう)

土筆(つく〴〵し)

酸漿(かたばみ)

蒲(たん)
公英(ほゝ)

【下部】
百合(ゆり)草

秋葵(しうき)

紅花(こうくわ)

【上段】
芙蓉(ふよう)

籣(ふぢばかま)

【下段】
刈萱(かるかや)

蛬(きり〴〵す)

萩(はぎ)

【上部】
蓮(はちす)

蛙(かはつ)

河骨(かうほね)

【下段】
杜若(かきつばた)

豉虫(まひ〳〵むし)

鈴(すゞ)
虫(むし)

松(まつ)
虫(むし)

【上段】
菖蒲(しやうぶ)

蓬(よもぎ)

蛍(ほたる)

蒲(かま)

【下段】
沢瀉(おもだか)

菖蒲(あやめ)

【上段】
蜻蛉(かげろふ)

沢桔梗(さわききやう)

露草(つゆくさ)

蚊帳釣(かやつり)
  草

小蓮花(これんげ)

【下段】
覆盆子字(いちご)

白葵(しろあふひ)

白小葵(しろこあふひ)

蒲萄(ぶだう)

瓢箪(へうたん)【「簟」(音テン)とあるは誤記と思われる】

蟻(あり)

蟷蜋(かまきり)

【上部】
蕣(あさがほ)

蓬虆(つるいちご)【「蘽」とあるは誤記ヵ】

【下段】
茶山花(さゞんくわ)

水仙花(すいせんくわ)

【上段】
慎花(いはれんげ)

蠅(はい)

葱花(ぎほうし)

木賊(とくさ)
【下段】
射干(からすあふぎ)

檜扇(ひあふぎ)

馬藺草(ばりんさう)

鴟尾(いちはつ)

【上段】
蘩蔞(はこべ)

麻(あさ)

蜻蚓(こうろぎ)

蘘荷竹(みやうがだけ)

【下段】
浅(あさ)
瓜(ふり)

大根(たいこん)

真桑瓜(まくわふり)

蕪(かふ)

【上部】
粟(あわ)

麦(むき)

竃馬(いとゞ)【「かまどうま」の異名】

【下部】
冬瓜(かもうり)

稗(ひえ)

茄子(なすび)

【上部】
稲(いね)

螽(いなご)

【下部】

小角(さゝげ)豆

蜀黍(たうきび)

芹(せり)

絵本類書(ゑほんるいしよ)世(よ)に多(おほ)し今 改(あらた)むるには
あらず筆勢愚(ひつせいおろか)なるは至(いた)らざらんゆへと
御(み)ゆるし給へ唯(たゝ)初心(しよしん)の便(たより)にもなれかしと思(をもふ)のみ

正徳五《割書:乙|未》年霜月新板 《割書:大阪心斎橋筋順慶町北入》
            渋川清右衛門
寛政六《割書:甲|寅》年霜月再刻 《割書:京寺町通松原下 ̄ル町東側》》  刊
            今井喜兵衛
          《割書:京寺町通松原上 ̄ル町西側》  行
            今井七郎兵衛
【縦線が引かれて区切る】
絵本写生獣(ゑほんしやせいけだもの)図画(づぐわ)《割書:全部|二冊》 《割書:世にけだもの絵本おほしといへども|今あらたに残る所なく書□つし》
             《割書:初心■【のヵ】手本これにまさるは□し》

【裏表紙 文字無し】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【文字無し】

【裏表紙裏(見返し) 文字無し】

【裏表紙 文字無し】

【背表紙】
YE HON
SIYO-SIN
FASIRA DATE
【資料整理番号のラベル】
JAPONAIS
 365
【背表紙下部】
GARDIEN 1864

【冊子の天或は地の写真】

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【冊子の天或は地の写真】

BnF.



 のさち  地  【うみのさち?】



JAPON. 603(2)


JAPONAIS
  603
   2

○ もうを

 稀人に
 藻魚
 おません
 ふゆ
 もとき

    春望子

【右丁】
  ○あかう   赤魚

  秋の
   来て
【左丁】
  さのみ
   染ねと
    赤魚
      かな

    竹園斎
        悪来

【右丁】
  ○あまたい    方頭魚 黄穡魚
           興津鯛 云貨
  白浪を出て冴けりおきつ鯛
         蘆丈

  薄霜や
   塩甘鯛の
       奥津波

  ○はゑ   芝皐
  婦人の眉や
  みとりの
     柳
      はゑ
【左丁】
  ○芝ゑひ   其帳
  芝鰕やす【頭】は
   月みる後ろ前

  ○川ゑひ   時丸
  川鰕や鵜飼に
    もれて涼し
        けれ

  ○あち 鯵  
         銀谷
  夕暮に
   生て出なん
      鯵の照

【右丁】
   ○ます  鱒魚 鮅魚 赤眼魚

                 忍岡奴
                   玉馬
   初の字を付けたきものよ鱒の色

              翠羽
   鱒突や己か命も渕に立

              湖暁
   川べりや鱒も連立帆なし舩
【左丁】
              市朝
   山川や魚木にのほる
           鱒の影
              渓嵐
   梅漬のゆかりや
         鱒の一夜酢
    孫炎云鱒好獨行尊而必者
              太申
   五月雨に鱒は登る歟
           最上川

【右丁】
  ○あいなめ
  方俗あふらねとよふもの
  嬰児に補あり其形
  似かよひたれは
           既酔
 あいなめに犢の
      ■【註】や薬喰
  ○くじめ
        二關
  あふなけも夏の
    くじめや薬魚
  ○さつは
           六器
 東風吹や取るゝ
   さつは無尽蔵
 【左丁】
  ○なまこ    海参 海男子
           琴松亭
             柳蝶
 塩梅も生れなからのなまこ哉
           古井菴
             如畔
 尾に鰭の世間をしらぬ海鼠
           かな
           朝四
 北へ向くあたまも持ぬ海鼠哉

【註】腿を革偏に書いたものか

【右丁】
  ○ひらめ  比目魚 鰈魚 版魚
            五潮
 雪■にも片身は染ぬひらめ哉【注壱】
            旭扇
 積交て歌の書たき
      ひらめ哉
      岩槻
        何来
 寐忘れて汐干に
   残るひらめ哉
【左丁】
  
      鷺十
 引汐の砂に
  うすみてひらめ哉【注弍】
      楚雲
 踏當て春やむかしの
      不孝もの【注参】
      信稲
 鯛おそしひらめに
    かすむ花も
        かな

【注壱 二文字目、「弁」「舞」「翁」と考察いただきました。まだ確定させず、調べさせていただきます。】

【注弍 一文字目、「か」に見えますが句意から「う」では。「砂にうずみて」という意か。歴史的仮名遣いでは「うづみて」ですが。変体仮名は「か」「う」が紛らわしいですね。】

【注参 「不孝もの」と「ふせねもの」とで考察いただきました。調べてみましたら芭蕉の弟子の句に「親にらむひらめを踏まん潮干かな」とありヒラメは親を睨んでいる様な目をしている不孝者との言い伝えがあった様です。そこから考えまして、「不孝もの」としました。】

【右丁】
 ○たかのは    洞什
 積交てたかのは涼し
         打違ひ
 ○とこふし    仙橘
 床臥や振分髪の
      かた思ひ
 ○うくひ     沖谷
 人の手を
 遁しうへを
    鵜喰かな
【左丁】
 ○笛吹たい
 浪の隙に
  笛ふく魚や
   海寒し
       聴雨亭
         水路

【右丁】
  ○さけ
          一茂
  初さけや暖簾の浪に
         日の出ほと

          砂十
  さけ引《割書:か》は秋の花也
           吉野川

          春里
  初さけや籠に知行の
         草少し
【左丁】
        《割書:女》紹茂
  初さけや籠て
       目見への旅姿

            素猿
  野分切《割書:ル》威勢やさけの
           猟初穂

            斧女
  荒川の瀬もすれぬらん
           上りさけ

【右丁】
          方言 的魚 かねたゝき
  ○かゝみたい
      市町
  桜鯛も
  みかはせ
  花の
   鏡たい

      算【筧】社
  南天に
   うらや露けき
       かゝみ鯛
【左丁】
        玉珧 生䗯 𧍧䗯  𧍧蛤 【注】
  ○たいらき 
           田旦
  たいらき、【へ】前【散】やうしろの
         山桜

           田東
  たいらきや
   海松和布の
  中の
  柱建

【注 この行の漢字の熟語は「たいらぎ」の漢字表記を挙げたものと思われるが、『大漢和辞典』では「玉珧」以外は「まてがい」の意。】

【右丁】
  ○くらげ     水母 海䖳
           石鏡 樗蒲魚
           一種 水くらけと云有
  夕立の
   濁に
【左丁】
  しまぬ
  水母
    かな

     平汐

【右丁】
  ○かます  梭魚
              湖関
  此角は春の日さしや大かます

             《割書:女》枕絲
  網を梭にぬける
      かますや
       秋の水

  ○あなご    供十
  自然
   薯の
  是も
  化けたるあなご哉
【左丁】
  ○かさこ
  紅梅に
   雪の
  つもりし
    かさこ哉
          五絃
  かさこ干
   小嶋の海士の四月かな、
          讃多

  ○きち〳〵   小らぎ
          湖丈
  世の中やきちも
   釣らるゝ霧の海

【右丁】
  ○さより   鱵魚 姜公魚
           三春林
             嘉房
  葡萄酢の曇にしまぬさより哉

           環子
            百義
  細に子を星の数かく
        さより哉

  ○いしもち
           喜遊
  石持の
  手柄や
  かるき
  秋の味
【左丁】
  ○おこじ
           柴窓
            水鶏
  おこし〳〵
    佐保山姫を
        笑せよ
  ○しまあぢ
           れむ索
  島鯵は蓼酢を
      しらぬ身也けり

           蛙柳
  嶋鯵のしまも
    涼しき
       明石潟【注】

【氵に写で潟の略字になります】

【右丁】
  ○さるぼう
          呂宋庵
            銀車
  さるぼう貝は
    じうともいはす雛祭
  ○ばい 枚
          鯉山
  はいの身も子ともに
       家を譲りけり

  ○みるくひ  《割書:淡菜|西施舌》《割書:海蜌|  》
          桂舎
  海松喰や
    鴫にほいなき濱の秋
【左丁】
  ○あかゝい  《割書:魁陸 蚶 瓦屋子 伏老|瓦壟子》
  赤貝の赫も錦や山さくら
          長寿庵
            里明

  ○さゝゑ   栄螺
  絵合に須磨の噂や栄螺貝
            春江

  金沢や栄螺も左甚五郎
           湖舟

【右丁】
  ○むつ
          五鹿
  むつ提て隠家訪ん
         睦み月

          徳英
  尉殿へ眼の鈴みせん
         むつの魚

          吾山
  煤の夜やむつの眼
       光る魚の店
   
【左丁】
          五汲
  賣初や其名のうらは
         ろくの魚【注壱】

          双魚
  折なれや
     睦月のむつに六の花【注弍】

          雲和亭
            其躬
  宗任の梅と
    見はやせろくの魚


【注壱 ろくのうお クロムツのこと】

【注弍 六の花 雪のこと】

【右丁】
  ○かき  牡蠣
          如皐
  牡蠣よ〳〵海苔干
      濱に拾ふとも

  ○うしのした《割書:鞋底魚 《割書:閩書》 鰈魦魚|又 水かれい 左目明右目晦》
          白抄
  桃の海に踏るな
     牛の舌ひらめ

  ○しやこ《割書:石楠花鰕 鰕姑|青龍》
          喜黄
  毘沙門の
    しやの字を
   しやこの姿かな
【左丁】

  ○うきゝ
   楂魚
  《割書:俗》 満方

  涼しさや
  波の立居の
  うきゝ取
     一柳舎
       時雞

  海原や其夜
   うきゝに積る雪
          俳狂人 高塵

            萱國
  はせを葉に
    ひとしき鰭のうきゝ哉

【右丁】
  ○さわら  馬鮫 閩書《割書:に》青斑魚 小《割書:を》青箭(/さご)

  葛の葉はつまむ程也初さわら
            万年楼 
               紀輦

   漁村待電光翌究
   淂是魚

  稲妻の網をあひせり
         さわら取
            壺谷舎
              承篁

  わたつみの
    太刀折紙や
       さわら籠
            楚雲
【左丁】
            鳩居
  のひ〳〵と春の
     姿のさわら哉

            巴鶏
  同し名を
   擔桶にも呼て【注】
      さわらかな

            疑里改
  夏近き        せんか
   男姿の
    さわら哉

  【注 擔=担 担桶(たご)】

【右丁】
  ○ゑひ  海鰕 紅鰕 《割書:いせ|かまくら》

          朝丸
  春風にお江戸は
      海老の勇哉

       青庵中
          蛙暁
  水引は禿の髭や
      かさりゑひ
  
          浦遊
  船盛の鎌倉海老や
      月の興
【左丁】
  ○いわし  鰛

          銀波
  宇和の秋
    波にひたすや
       いわし雲

  玉葉集の神詠今猶
  此魚の美名高し
          無為庵
           雪砂
  住吉の風の和光や
       うわいわし
  ○いなだ
  そさのおの祭に
  備ふいなた哉
          西丸

【右丁】
  ○いぼぜ
          絲玉
  柚の花の下にいほせの
         豐かな

  ○わかさき
          花見
  わかさきよ吸物ならは
         船のあか

  ○こはた
  このしろには室の八しまの
  古哥もあり侍るに
          《割書:女》通車

  色紙鮓せめてこはたの
         手から哉
【左丁】
  ○とせう  《割書:泥鰌 泥鰍|鰼魚》
          来久
  又濁す御田の
       とせうも乳の餘 ̄り

          新甫亭
            在雅
  泥鰌かなうすめく水の
          五月闇

          芋秀
  涼しさは泥鰌も浮む
         夕へかな

【右丁】
  ○わかなこ
          仙呂
  わかなこや波間も
  青き若葉時

  ○たなこ
          花林
  海松もうれし
   並ふたなこの果報哉

  ○しまたい
          扇之
  水底も衣配りたつ嶋小鯛
【左丁】
     簳魚 載帽
  ○やから
          亀歳
  月は弓又海中に
     やから哉

  ○うつわ
          雷魚
  初汐や岸に
  うつわの
  継子立

  ○ひしこ
  小いわしを塩になせは
  ひしことよふも所によりての
  よしあしの風流にや
              廣國
  ものゝ名も難波の秋のひしこ哉

【右丁】
  ○貝つくし
          待美
  行春の踏分そめつ
         桜貝

          節花
  海あけて
    風に巻たり
        簾貝
【左丁】
  例の物くさに田井小よろきの
  磯つたいもむつかしく硯の海の
  本とりに古人の玉をつらね〳〵
  千種の貝を拾ふ
          仙菊
  貝よせの風歟二三丁類柑子

 







【右丁】
  くじら  海鰌 《割書:万葉|  》 《割書:いさな|勇魚》 数種あり

  せみ鯨《割書:一 ̄ニ 背干|   》 あをさぎ   ちご鯨   ざとう鯨
  つち《割書: |槌》鯨    あかぼう   まつこ鯨

  のそ鯨《割書:又》のみ     いわし鯨   かつを鯨

  ごと鯨《割書:瀬ごとう 大なまごとう|こすひごとう|なひさごとう》しやちほこ《割書:さかまた|たかまつ|くろとんぼ》

【左丁】
              東為
  七浦の人もくろみて鯨かな

              塵匣
  年毎に鯨に卒都婆めてた
            けれ

              信鳥
  冬の色凝りてや魚のはたつひろ

  ○緑毛龜

  龜の浮く
   波も
  高しや
   松の色






【右丁】
    題海河

  東海に白魚の目も要かな     存義
  海原や国にちなみの一曇     平砂
  乙姫のすふてみせたる汐干哉   米仲
  鳥の頭枝折になるや硯とり    祇丞
  海山に桜を鯛のさかりかな    買明
  硯とり法紙もすなり七信の海   楼川
【左丁】
  かすむ日の果や無漂の笹濁り   湖十
  春なれや魚の/卵(カヒ)うむ海の水   百萬
  末かけてたのみある日や御祓川  紀逸
  犀川のなかれ〳〵てすゝみ川   再賀
  橋はあれとかちより渡る凉哉   珠来

   編集の趣によせて発句の題
   得侍りしかといたつきある心にて
   求に応せすたゝ当季の一句を
   おくりて附すのみ

  日のみなみ風さえあつき感かな  萬立
  夏川や波のしらなす燈の光    超雪
  □□ひや筏の蚊け水を這ふ    秀信




【右丁】
  蛇籠這ふ川おそろしや五月雨     吉門
  葉桜の影すくはらや川あそひ      栖鶴
  月や影空にしられぬ汐曇        鐘口
  大工町秋の寒さも海辺かな       柳尾
  雨ちかしみしらぬ渕や秋の海      由林
  あか〳〵と魚飛海やけふの月      庭台
  かゝりけり鯛も赤魚も秋の海      清泉
  月ふた夜洗て寒し名古の海       田社
  うろくすに海も金氣のひかり哉      圖大
  川中や篝火にみする秋の空       海如
【左丁】
  川寒し松をともせは猿の声       露牙
  冬川に梅船の夢や五十年        道院
  山川やもみち水かく鴨の足       芻狗
  冬木せぬ名さへ鲦さへさくら川     春堂
  風かろく冬たつ川の蘆邊哉       温克
  霜はしらたつや酒匂も柱橋       在轉
  雪にめけぬもの一筋や川の面      祇貞
  圦川に氷の魚や鷺の觜         小知
  夜は雪に埋みて川の闇路かな      龜成


   

【右丁】
    題魚
  さゝ濁すひらめに狂【?】ふ汐干かな   中和
  花魚や黄門様のたねおろし     沾山
  影折し鲦ものほるや花の瀧     海旭
  いたつらに春を寐なくす𫚦哉    環山
  声極に伊達をつけてや柳鮒     岱貝
  烏帽子着し松魚麗やい勢の海    石鯨
  女にも踏るゝ春のひらめかな    風導
  さくかへる水淺くとも海鼠哉    不言
  白魚や篝のもとに月と雪      紫風
【左丁】
    題貝
  すみよしや寸濱にそたつ寸蛤    牛呑
  いそによる涛を花とやさくら貝   葵足
  吹あくるはま風ぬるしすたれ貝   長鶴
  行春や岩本院に月日貝       金羅





【右丁】
   歌僊
  月花にあまりて深し海の幸   秀國
   帆は帆はしらに当る春の日  買明
  めろ共か萩入もうけに餅搗こと 存義
   ねこたの出来を匍匐ふて見る 祇丞
  竹の皮松無間《割書:イ|》へさかさ立《割書:チ|》   平砂
   けふい国主の茶にめされん  塵匣
【左丁】
 《割書:ウ|》なかめ入陀阿上人の鼠いろ   明
   濱の砥石の遣ひ捨たり    國
  樵溜し植木ほとけはによつと蛇 丞
   手をかへ品をかへて執念   義
  幾十人改宗はみな女なり    匣
   わりなく隠し朝鮮の胤    砂
  軍した跡しら波に松の磯    義
   くたひれ馬の上に夕月    明
  休む日の荷瘤の毛にも秋の風  砂
   蓼鶏頭も水縄のうち     匣


 

【右丁】
  所とて庵の小隅に糸車       國
   河内の佐山金を恐るゝ      丞
  俊基も遠近人にうちましり     匣
   老たる狐いふことやよし     砂
  くらいうち祢宜の玄関を掛立て   朋
   三つのいわゐの/いと(幼)を輦    義
  雪もよひ油単に趣向あまりけり   丞
   おり〳〵獵も隅田の百性     國
  学問は誉る側から時花やみ     明
   扇たゝんてたゝく桜戸      匣
【左丁】
  藤に鶏赤前垂かわるさして     義
   長閑なりやこそ社地に昼寝る   國
  月の句を屏風に惜や其嵐桃     丞
   種持頃の茄子摺なし       砂
  尼御所の蕣の垣奇麗なり      國
   地震につよき水戸のあらしこ   丞
  やゝ晴て幟を横に高瀬さす     匣
   案に相けな川端の家       義
  花に猶見倦ぬ本を留守居饗     砂
   何所ともなしに三月の昼     明

【右丁】
       跋
  画は声なきの詩詩は形なきの画にして
  俳諧も又形なきの画々は声なきの俳諧
  ならんか粤に石寿観秀國勝龍水生の
  写生の魚つくしを得て是に俳句を求め
  海の幸と名つけ二帖となし余に跋せよと請
  先輩既に序文に其言尽されたるへし亦
  何をか云んと是を開きみれはこゆるきの
【左丁】
  磯はしらす魚の肆に立るかことし傍なる人戯
  に云絵の魚似たる事は似たれとも形のみにして
  味なしと余云味は人々の句中にありて時の
  景物植物なと取合せ酢を和し醤を以って
  烹炙心にまかせて塩梅あらはをのつから
  骨あり肉あり味あらん歟と独菴中買明
  其後へに述










  寶暦十二壬牛歳二月

             本石町一丁目
          書林  龜屋太兵衛

           大傳馬町二丁目
         彫刻并  關口 甚四郎
         彩色摺  同  藤吉



BnF.

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【見返し 文字無し】

往古于今唐之我朝に
人のもてはやし潤はしき事
に方り伝に絵に書顕し
歌に読讃に造りて風流
を慕ひ侍へり悟道の人
布袋和尚と申たてまつる
有如何なる者の子成と
いふ事聞えす何たる氏の
末も知る事なし唐之五
代の初つくる明州の奉化
県といふところに止まり住
て又更に定りたる家もなし
自から長汀子と名をつきて
物にかゝはる事もなく世
を謟ふ思ひもなし本来空
理の悟りに叶ひて迷ひ
の雲を払らひ心にかゝる
妄念もなく胸のうち明
かに涼しき事縦へは秋
の半さはやか成月影の
波もなき水に移【ママ】りて光
を増か如くなり世の人
更に長汀子の風流を
しる事なし初のほとは
只あかの法師也とのみ思
ひ侮り奉り候て敬ふ
事もなし風顛の長汀
子といひ訇りひてんに半狂の
者に思ひくるしけり足をも
更に心に懸ことわか思ひの伝
に随いまたうらみいかる事なし
もしは言葉をかけてをとしめ
笑らひ偏る時は長汀子も
又諸共に打笑たゝ常にいふ
言葉とては人百世常の中
に生まれて露の命を世路の
草葉に置なから後の世の
もとめを忘れて邪心まゝに
罪咎に沈み本来常住の
空理を弁へすかゝりともから
を風顛のはんきやうと我を
見るなりとて還而笑給ふ
程に人皆断に覚えてえ不
笑也にけり幼き子共何となく

【絵画の右側】
見るなりとて還而笑給ふ
程に人皆行に覚えてえ不
笑也にけり幼き子共何となく
いと可笑かりて長汀子に慕み
懐きて彼方此方いさなひ行て遊
ひけれは長汀子も是に慰て
月日を過し給ふ

【絵画の左側】
抑此長汀子うき世の外の
道に遊ひてしまより定る家
もなく跡をとゝむる寺もなし
こくら衣のすそ短しかく破れ
たろ袈裟を肩かけまとひ一本
の杖に布袋を懸是を

の杖に布袋を懸是を
荷ふて爰彼に行遊ひ給へは
世の人名付て布袋和尚と申
せり或は寺の廊下の傍或
人家の軒下または橋の上
成共往来る所に止りて
夜を明し日を送り給ふほと
にあまねく人も見知り奉つる
其風流を貴とみて敬ひ
仰く事に也ぬ逢心に叶ふ
所に至りて頓て座禅の床
の上に空理三昧に入給ひ五日
七日も動き立事もなしさな
から木石のことくにして目ましろ
かしと息をつかと定めより立てはも
との如く風顛さすらひありさま也
あるときは山ふかくわけいりて岩
のうへに端座して【?】入給ふにもろ〳〵
のあやしき鳥共木のえたに
あつまりめつらしき色音にさえ
つり鹿猿のたくひうたき【怒ってうなり】たぬ
きのやからはその四方にむらかり
をりまたおそろしき虎狼も
猛き心をうしなひつゝかうへを
うなたれ座禅のゆかを守り奉る
然るに往昔より申つたへ侍へる
両虎たゝかへは相共に死すと
かやもしふたつの虎の出逢て
たゝかふ時は両方なから死せされ
は止らすといふにあるとき布袋
和尚山中に分入給へは忽に二つの
虎にあひてたかひに牙を■【嚆ヵ】詰
顕し吼忿声木たまに響き
谷に■■【盈+□ヵ】に聞て夥しといふも
愚なりききしをとる山人
共は是を聞ておとれまひて山
を分いつるかゝる所に布袋
和尚行懸り給ふを山人共
袖をひかへて【袖を控えて=袖をとらえて引き止める】是より里に立かへり
給へ恐ろしき虎の戦ふ声の聞
へ侍へるにと申和尚は聞しめし
ていや〳〵少もも【ママ】くるしからす我行
て彼か怒を止めすは定めて戦
死すへしこれをなためてあたへ
むとて虎の辺に立寄互に向ひ
居たる中間に杖を入れて両方
に押分給へは二の虎恐れて両
方に立退けり布袋の言く如何
に汝等生て愚痴の因縁より■【蓋ヵ】
生の身を受たり定て汝等はしる
ましこの生にむなしく忿を起
し憐みを知らす朝に腹立
て我か子を食い夕へに怒て
我妻を縣すから我心さしにて
はいつか生死の迷ひを放れむ
暗より闇に沈み苦るしみより
くるしみに迷れむ闇より暗に

【絵の右側】
くるしみに迷れむ闇より暗に
沈みくるしみよりくるしみに迷
れん斗うたかひなしはやく
いかりをとゝめて本来ならの
住理をよとめよなんと様々
説法為給へは二つの虎は
頭を傾け耳をたれなみ
たの
  なかるゝ事
     雨のことく
        はゐに
 尾を
   たれて
    山のおく
  に
   そ
  いり
   に
    ける

【絵の左側】
去程に山人共布袋和尚を
頻に止め申せしに不用山





頻に止め申せしに不用山
深く入給へは今は定ため
て虎の為に喰らはれ
虚敷成給ひけむ痛
はしさよといふ所へ袋を
荷ふて立出ふ人々驚
きあやしみて更【?】ゆへを
尋ぬるに尓〳〵の事々語
給ふ山人共気とくに思
ひ奉り我家に呼入
奉り説法を聴聞する
に貴き事いふ斗なし
各〳〵歓喜の涙を流所
に村中俄に震動して
余多遊ひ居たりける
子共声をはかりに呼喚
て逃迷ふ指も【「さしも」と読ませるのか】今まて外
念なく並居て説法を
聞ける者共子共泣声
に驚出て見れは怖しき
虎とも五斗出て来れり
是は如何成事そ此人々
幼けなき子共年老た
る親女童部は逃る共
逃のふへからすと止りて
防へき様もなし如何せんと
周章ふためく布袋は立
出て如何汝等人を取らん
為に来れるか何の故には
来たりけるそと宣ふ所に
虎共各〳〵口に草物有
ひし〳〵と取依り布袋の前に
積置たり珍敷花の枝
有よき草物沈香のえた
水精の珠
其外色〳〵の物
くはへて積上一面にうつくま
りぬ布袋御覧して扨
は前に示しける法問を貴く
覚て置て聞為成や更
は汝等に見性悟道の事を
教むとてあら〳〵説て示し合
に五五六七群かりし虎の
両眼より各〳〵一等に涙

【絵画より右側】
に五五六七群かりし虎の
両眼より各〳〵一等に涙
を流し尾をふりて山路を
さして帰ぬ更に人をも
害せす傍をも見やらす
耳を垂れ尾を伏つゝ其
勢ひを忘れたりける有
様畜生とは申なからも説
法を心にしめして
    貴くお■へるゆへ
     ならすや

【絵画より左側】
又布袋和尚と申は是
弥勒菩薩の化身なり彼
菩薩と申は往昔は三僧
祇百大劫【三阿僧百大劫】の修行を勤て
等覚の位に至常に都
卒天の内院に御座し法
を説て諸の天人を導引
給ふ也此位に至りぬれはの
位とは生絹一重起隔てたる
かことくにして高悟の位也今
よりも五十六憶七千万年
の後天竺の鶏頭城といふ
国に天降り給りて龍花
樹といふ木の本にして正覚を
取構■里耶仏【仏の名よく分からない】と申す仏





の後天竺の鶏頭城といふ
国に天降り給りて龍花
樹といふ木の本にして正覚を
取構唄里耶仏と申す仏
と成三会の説法以て普
衆生を助給ふ龍華三
会の暁とは此事をいふ也
夫より以前かの都卒の
内院御座ます間には其身
を百手に分身して十方
世界に顕はれそれ〳〵の縁
をむすひ余多の御法を説
広めて諸の衆生導引
給ふに難有爰を以て
思ふに往古霊鷲山にて
忝なくも釈尊浄土の無
量衆経を説て弥□【「陀」ヵ】の
誓願を広め給ふ時かの
弥勒菩薩に念佛法問を
授給ふ末法万年の後の
百年に諸の経論法句
皆ほろひかせて世に色〳〵
のわたいゝひおこり人悉く
邪見ならんときの念仏
はかりは弥勒頼り給て其
時も■【「絶」ヵ】転なく世に弘め
給ひて衆生を極楽に
送り給はむとまのあたり
釈尊の仰含め給ひし
も此菩薩の御事也文珠
法華の御法を弘め弥勒
の念仏の教へを伝たへ取
〳〵にこそたうけれと又形
を人間に顕らはし明州の奉
化県にして禅法のみのりを
伝へて自身風顛のかたち
をこへし世をすくひ人を導
引給ふ事末の世の輩に
私【相では】なしほとけの御教へ何
の法かをはりまさりよしあし
はなき物すと法花念仏
禅法そのなか八宗の教は
皆諸共に我等の心を戒め
邪をひるかへし直なる道に
入らしめむ御方便成けりと
知らせ給はむ為そかし

是より山人共弥貴とき事
に思ひ此上には何国へ行給
ふへき同しく此所に止り
給て我等を導引給へ
かしと申けれ共布袋更に
止り給はす又奉化縣に立
出難しこえを嘯き行歩
き給ふ或暗(?)道にて一人の
沙門に行逢給ひ其物語り
さなから昔の友達て久
敷隔りて逢奉る事も
なしいかにして此世中におは
するそやさこそ天上の事
思召出し侍へるやらんとの給へ
は布袋打笑ひ給ひて去
はよ此世の中かへりかはる
有様諸の衆生の苦しみ
に沉む不便さに天上の事
も打忘れ衆生利益に障
こそ無れ定めて和君も
済度利生はし給ふらん今
我常に流の水にかけを
写せは梵天帝釈八幡天
莫を捧て我前に覆
参り送くるゝゆへに四
天王是に随常に供養

【前頁続き五行目から】
をとくるなりこのゆへに懸る
業世に住とてもすこしも苦
しき事なし縁なき者に
縁を結ひ縁有ものには
仏法をしめす更何の
愁へ苦しむ思ひ有らむ
答給へは沙門はうちうなつき
大に笑ひて曰く我も又其
如く是より天竺に形を分
て顕はし衆生を導引
侍んそ往昔霊鷲山に
釈尊顕れ給ひて御説法
の有し時和君と某と一所
に有て是を聴聞せし其時
往別てより一千五百余年
以来逢不奉久しさよ
宣ひて頓てまたこそ対
面すへけれとて沙門と布袋
と手をとりつくしけり
物語りしたまひ或は笑ひを
含みなとし給ふ何事にて
か有けん言葉は天竺の言
葉なれはあたりに有け
る人も其分ちをはしらす
かくて暇乞し念比に別を
とり沙門は雲に乗て虚
空をさして上給ふ布袋
はしはらく見をくりつゝ
其日は
   そこに
     とゝまり
        給ふ

去は此沙門と申奉るは是大
聖文殊にて御座す然るに
文殊師利菩薩は昔釈尊
説法のときは正敷顕れて
【次行次ページ】


【四行目から】
仏法の断を諸共に教へ又
龍宮世界に往ては妙法蓮華
経を説て龍神を導引
在けり何よりもさるときは往
古過去の世に文殊菩薩
池の辺起り給ひしに一人の
若き女池の端に立て身
を投げんとしけるを文殊
あやしみ給ひて其女の袖
を扣へ汝如何なる故に寄て
此池には身を投るそとたつね
給へは女答ていふやうわか夫
心定らす別の女を語らひ
自からを余所に見て日比
の情薄らき侍へり此うら
めしきいふはかりなし責めて
此池に身を投て大蛇と也
さし悪き男女を心の侭に
殺さむ為に身を投る也
と申す文殊聞しめし様
々になためて押止給へ
共此腹立胸のほむらは
更不止て止むに非らす
引放て池に入たりしを
文殊あはれみ給ひて手
に持たまへる法花経を投
打給ふ此経を女の身に触
たりける功徳に引れて
竜宮世界に生て娑竭
羅龍王の娘と成過去
の功徳深によりて更に三
熟の苦みもなく知恵
勝れて慈悲深く既に
八歳に成たり此折節釈尊
世に出給て法花経を時
給ふ時文殊其座より
龍宮に行給ひ昔の縁
熟しけれは彼八歳の龍
女か為に法花経を説教
給ふに龍女は知恵勝れ忽
に法花経の妙の道理を
悟て文殊と共に霊鷲
山に参りつゝ爰成男子
の利益に豫り南方無垢世
界に生なから往生し正覚


【最後の二行まで前コマ参照】
をとりたりけにも是文
殊の利益なり

水野志摩守様御筆
布袋草□【紐で見えず】

水野志摩守様御筆
布袋草司

【右側 巻物桐箱蓋内側貼紙】
布袋の草子
水野重孟筆 元録頃写
彩色5図入
桐箱入 一巻
【貼紙に印刷の文字】
東京・神田 玉英堂書店 【電話マーク】
03(294)8045
【左側 紐付き桐箱内、布の上に置いた巻物】
【ラベル】JAPONAIS 5332

【右側、巻物桐箱蓋内側、前コマ翻刻の貼紙上に別の貼紙】
【上印刷文字右から】商標 木簡 登録【下印刷文字】禁複製
表具用
防虫香
【左側、紐付き桐箱空の状態】

【上から見た蓋を閉じた桐箱】

【紐を結び横から見た桐箱】

【前コマと反対側横から見た桐箱】

【桐箱ラベル】布袋草子

【前コマ反対側ラベル】JAPONAIS 5332

BnF.

【表紙】
【右側背表紙近くの張り紙に
JAPONAIS

【表紙裏の張り紙】
JAPONAIS  339

【文字無し】

【文字無し】

【文字無し】

【メモ書き風】
339
R.B   1843 } 3278

【外題】
契情草履打(けいせいざうりうち)
【外題の左側のラベル】
12
【画中の提灯右側】
げだひ
国貞画
【画中の提灯左側】
ぜんご
六冊
【画面左下部 丸の中に】

東西「草冠+庵」南北作
             招福迎慶
柳川重信図

けいせい草履打(ざうりうち)全六冊

文政五年
       西宮春松軒梓
壬午初春

鏡山(かゞみやま)の狂言綺語(きやうげんきぎよ)。いざ立(たち)よりて看官(ごけんぶつ)。合巻(がふくわん)の冊子(さうし)年経(としへ)ぬるまで。老(おい)たる
も若(わか)きも復讐(ふくしう)の小説(せうせつ)に目(め)を怡(よろこ)ばすこと世(よ)に流行(りうかう)するや茲(こゝ)に久(ひさ)し。其流行(そのりうかう)の
逸疾(いちはや)き。鰹(かつを)のさしみは黄肌(きはだ)の鱍(まぐろ)【鱍=黄鰭、キハダマグロ】に寵(てう)を奪(うば)はれ。江戸前の鱣(うなぎ)は穴子(あなご)の蒲(かば)
焼(やき)に権(けん)を執(と)らる。七変化(しちへんげ)さへ割増(わりまし)して十二月 八景(はつけい)の所作(しよさ)を愛(めで)。暑中(しよちう)の冷(ひやつ)
水(こい)はやり風の為(ため)に五苓湯(ごれいたう)麦湯(むぎゆ)の熱(あつ)きを賞(しやう)す。夫(それ)羽折の長 短(たん)目識(もくし)す
るに遑(いとま)あらす。染色(そめいろ)の浅深究(せんしんきはめ)て測(はかり)がたし。密妾(かこひもの) 鼻(はな)について寝臭(ねぐさ)き
女房(にようばう)に劣(おと)り。籠細工(かございく)目に
倦(あき)て朝皃(あさがほ)の花のはかなきを詠(なが)む。流行
段々だんぼさん【意味不明】廃(すた)れてかん〳〵踊(をどり)の一品(いちぼん)たいさうにおこなはる。物換(ものかは)り
星移(ほしうつ)りて。実(げに) 名(めい)月のかがみ山。磨(みが)きあげたる傾城(けいせい)のざうり打(うち)。うつて
かはつた新米新粉。喰気(くひけ)と下卑(げび)てはならさりや。この手(て)をつくした作者(さくしや)
の腸(はらわた)。一ぱいうけた色気(いろけ)のたつぷり。うつろふものは世中(よのなか)の。人のこゝろの
はなにぞ有(あり)ける。
  文政五年
          晋米斎五粒述 「米齋」と書いた瓢箪型の印
    壬午孟陬

【右丁】
ゆく春やさうりの裏に国ひとつ 南北
大磯(おほいそ)
 舞鶴屋(まひづるや)
   の
  全盛(ぜんせい)
   岩藤(いはふぢ)

【左丁】
うはさうり
 うつゝに
   きけは
  おいらんの
   かたきうつ
    とてさはく
      挙酒
        柳川
 故松助常世の二人が鏡山の狂言の絵に
岩藤や尾上の    東西庵
  はなの散てより

     岩藤(いはふぢ)が妹(いもと)女郎(ぢよらう)尾上(をのへ)
       はじめ浦里(うらざと)といふ

【右丁】
真言(しんごん)
 杢(もく)
  次(じ)
   郎(らう)

【左丁】
音羽屋(おとはや)
  伊太八(いだはち)

  山屋豆腐を
     賞味して
よし原や     東西庵
  花ととうふの
    いろ白し

【右丁】
五尺(ごしやく)
染五郎(そめごらう)

竹村を
 出て山屋
     に
 いる月は

【左丁】
もなかとやいはん
 おほろとやいはむ
     五常亭
        道守

大磯芸妓(おほいそのけいしや)
   於初(おはつ)

        たつね
   その風を    て
  敵と悪む   ありく
花の頃     なつの夕暮東西庵

【右丁 文字無し】
【左丁】
【四角い囲みの中】よみはじめ
あしかゞのばつか【幕下】に
ぞくするあふみのぐん
りやうかゞみ山の太しゆ
はんぐわんときかねのかしんに
しんごん杢二良【「郎」の略】といへるわかもの
あり此杢二良わかげのいたりにて▲
▲おくむきの
女子に心かよはせ
けるにやある夜つぼね口の
にはにしのび入らんとせし時
おくごてんのしまりをあづかる
もの川くらのしんといへるもの杢二良とは
夜のあやめにつゆしらずヤレとうぞくよいであへ〳〵といふに
せんかたなくとらへくらのしんもとらへて今は何とせんすべなく
にがさんとするにもはやおもやくにん【重役人】はいふにおよばず
主人のみゝにまで入りしかばぜひなくとうぞくの
つみにおちてすでにしおきばにひかれてつみ
せらるべきにきはまりぬ此ときいばらてん
ぜんといふものとのゝたいけんをためしまゐらせんと▼▲
▼▲
たちとりの
やくをこひうけ
夕ぐれよりしおき
ばにいたりくびきる
じこくをまつうち
天にはかにかきくもりて
大あめしのをみだし
しんどうらいでんして
さらにものゝ
あいろも【丸に十の字のマーク】
【丸に十の字のマーク】
わから
ざりけり
てんせん
しおきの
じこくと
【四角い囲みの中】つぎへ▲





【左端の小さな囲み】
これまではねん〳〵
さい〳〵かはらぬ
ものがたりの
ほつたんなり
ゑぐみ【絵組み】あたら
しきをみ給へ

【四角い囲みの中】つゞき
あらむしろの上に
杢二良【「郎」の略】をなをらせヱイと
こゑかけたちひらめくと
みえしがかたはらのこものが
くびをうちおとし杢二良が
いましめをきりほどき何か
さゝめきてくわいちうより
そくばく【沢山】のきんすをあたへ
おとしやりぬこれ何ゆゑ
ありてたすけしやてんぜんが
むねに一もつあることのちにぞ
おもひあはされけるされば此夜
杢二良をたすけしこと
 しるものさらになかりけり
〇こゝにあしかゞあそんはふう
りうのきみにてもつぱら
きぶつをこのませ給ふしかるに
かゞみ山のいへにひめおくをし
鳥のかうろうといへるむかし
百さいこく【百済国】のわうじより此国に
おくりし品なりゆゑありて
かゞみ山家に伝来すあしかゞ
どのかねてしよもうせらるゝに
よりてもの川くらのしんつかひの
やくをかうむりかのをし鳥の
かうろうをたづさへみやこに
         おもむきぬ×
×時に五月下じゆんのことなりしが
ふりつゞくさみだれにやすがはの
水かさまさりてたび人のゆきゝ
たへたりしかるにくらのしんはにち
げんちこくなりがたき主よう【主用】
なれば水かさのおつるをもど
かしくおもひことにせいきう
なる老人のことなればかねて
馬じゆつにたつしたれば馬
のはらおびをしめあげ
みなぎる安川にのり入れすで
にむかふのきしにいたらんとする
ときのりたる馬にはかにさわぎ
くらのしんをふるひおとし川
しものかたへながれゆくくらの
しんぬきてをきつておよぎし
が何ものかはしらず水中を
くゞりくらのしんがわき
はらをさしとほしくわい
ちうなす所のをし鳥の
かうろうをうばひとりて
うせにけりつきしたがふ
けらいおひ〳〵ちうしん
なすにそ時二良おどろき
あわてゝそのばしよに
いたるといへどもかたきは
たれといふしやうこも
なくたゞ父くらのしんがむな
しきなきからをおしうごかして
なくよりほかはなかりけりさそ
此ことのおもむきあしかゞどのへ【桝形の中に×点】

【桝形の中に×点】
きこえたて
まつり又せがれ
時二良へはとうぞく
のせんぎをおほせ
つけられけり

【頭部欄外】
二巻
【上部】
木屋丁【「町」の略】に
のきをなら
べるかしざしき
まだはる
わかき鶯の
こゑをさそふ
てつまおとの
もれくる梅の
かきねごしやみおと
ろへし時次【ママ】良まどの
しやうじをおしあけて
四方打ながめ
ひとりごと
「むかひざしき
のあのつま
おとはせい
ふがまくらを
かこつこうけい
のきよくわれは
それにあらで
はてしなき病
のゆかアノ鶯
さへ時を
しりて
ねをはつするに
たちゐもまゝ
ならぬらう人の
羽ぬけどり
をし鳥の
かうろの▼▲

【中部】
▼▲
せんぎ
もなほ
ざりに
あまつさへ
かたきと共に
天をいたゞく
むねんさチヱヽ
 よく〳〵〼

【下部】
〼ぶ
うんに
つき
はて
たり
 ト
こぶ
しを
にぎり
はら
〳〵と
泪を
こぼ
せば
そば

つき
そふ
下べ


五良も
らく
るいを
おさへて
にが
わらひ
「わかだんな
さまとした
ことが【四角の囲みの中】つきへ

【右丁】
【四角い囲みの中】つゞき 何をきなきな【くよくよ】おつしやりますごびやうき
さへ御ほんぶくあそばせばみたからをせんさく
なしかたきのくびをひつさげめでたくきこく
あそばすにも時さへいたればアノ梅の
花とおなじやうにひらくる
ごうんは今のうちアレ又おせきが
でるはねりやくをめし
あがりませドリヤおせなかを
たゝき
ませう
 ▼▲【上部左側】
▼▲
【四角の囲みの中】向ざしきの文だん
「コレヤ浦里さまだんな
【左丁上部へ】
さまとごいつしよに
此かしざしきへでやう
じやう【出養生】あそばしても
かへつておもるその
ごびやうきこちの
だんなはせんしう
さかいでたれしらぬ
ものもない松屋水 月(げつ)
といはるゝ道具の目きゝ
しやちやのゆのせつは
たび〳〵ひがし山さまへ
めされけつこうなお薬を
てうだいなされてあなたに
しんぜてもこれほども
しるしのないはもし恋やみ
とかいふやうなことじやござり
ませぬかないまあなたのおしらべ
あそばした琴うたのしやうが【唱歌】は
かたおもひのあはれぬまくらを
うらやむ紅閨(かうけい)のきよくいとしい
とのごそひたいとのごのあるはむりと
おもはぬ二八の花のむすめごさま
はゝごさまにははやくおわかれあそ
ばしてわらのうへからおそだて申た
此うばえんりよなさるはみづくさしと
なじりとはれてむすめぎのほにあらはれし【合印△の中に▼】

【右丁左側中段】
【合印△の中に▼】はづ
かしさ
やつと
こらへて
うばが
そばにより
「きよねんの
【左丁中段】
はるとほきあづまの
かまくらとやらの
ちやきだうぐやの
伊太八さまといふ
とのごみやこのぼりの
そのついでのたがひに
きゝおよびしどうぐ
やどしたづねて
みへたそのときに
こちのとゝさんはかこひ
じまんのうすちやの
ちそうその時の
きやくぶりよいとの
ごとおもひそめたる
いろぶくさむねは
ぐら〳〵にへがまの
あけていはれぬ
ふたおきのとやかう
おもふそのうちに
いつかあづまの
たびだんすそれが
ぢびやうのちやしやくとなり此かし
ざしきに出やうじやうあけても
くれてもわすられぬいだ八さま【合字】の
おもかげにいきうつしなる
むかふのかしやのおぶけさま【「次へ」を四角く囲む】

【右丁下段】
「あひた
けれど
わしや
はづ
かしうて
ならぬ

【左丁下段】
「わた
しが
それ
 と
みたは
ひが
 目
では
ある
まい
それ
〳〵
その
はづかし
がることがさ
なんの此
 わしに
えんりよ
   は
  ない
   ぞへ

【右丁上部】
【「つゞき」と四角く囲む】あさゆふみやる二かいのまどいまはなか〳〵あの
とのごにおもひがまさる此やまひすいりやうして
たもいのとあとはなみだの
ひざのうへうばの
おかねは浦里が
せなかをさすり▼一▲
【右丁下部】
▼一▲「すりや
いつぞや
みへた
あづまの
おきやく
伊太八
さまを
みそめ
 また
向ふの
お武
 け
さまが
伊太
 八
さまに
【合印〇に×】
【左丁下部】
【合印〇に×】よく
にて
ござる
ゆへ
いた八
あな
たを
思ふて
 その
御病
 気と
おつ
しやるので
ござんすか
おほかた
それであろ
とすのりやう
してゐまゝた
むかふのおぶけ
さまもぶら〳〵
わづらひこれも
大かた恋やみの
出やうじやう
おまへさまにこがれ
てゐるかもしれぬ
それなれば【合印枡の中に菱形】
【左丁中部】
【合印枡の中に菱形】おもひ
あふた中じや
さいはひあさ
ばんことばを
かけあふ【「次へ」を四角で囲む】

【右丁上段】
【「つゞき」を四角で囲む】むかひのしもべのしゆうにうちつけていふたら
あちらもあいたくちへもちこむとりもちト
そやしたてふみしたゝめてたまはれト
うばはしゆじん思ひのいつしんに時次良が
方にいたりけるこそまめ〳〵し
さて浦里がうばのおかねは
染五良にあふて
浦里がふみを
わたしこゝろの
ほどをのべ
けるにぞ
染五良も
心の
せつ
なるを
あはれに
思ひ
やがて
時次良に
▼▲
【右丁中段】
▼▲ことのよしをつげけるに
ものがたき大にいかり
大まう【大望】ある身をもちて
みだりがましきことにたづ
さはり世の人のうしろわらひを
うくべきわれとおもふか此ふみ
見るもけがらはしやトいたくのゝ
しれば染五良はさかやきをなでゝ
いふやう御しゆじんにはたゞことを
わくことなくひとすぢにおぼし

【左丁】
□給ふはかたくなとや申さんかの娘が
おやは人にしられし道具やのことなれば
ふんじつ【「紛失」の古称】のかうろをたづぬるたよりにも
なるべきかとおもはれ候むかし牛若
御ぞうしはじやうるりごぜんにれんぼ
してふくしうのいちみをかたらひし
ためしもありなぞと口をすになして
さま〴〵いひすゝむれば時二良もやう
やくにうけひきおくりし玉づさ【手紙】をひらき
みるに筆のはこびのうつくしさぶんていの
いやしからざるにすこしは心もときめく
時二良がゑがほをみてとりりやうし【料紙】すゞりを
さしいだせばかへしごとのふみさへも
をとこもじにさら〳〵とかい
やりけるにぞ染五良はうけ
とりてむかひのうばを
小手まねきしてわたせば
うばはこよなくよろこび
時二良がふみをみすれば
むすめはたちまちじやう
きのいろもつや〳〵と
ぎば【耆婆=昔、天竺にいたと伝えられる名医の名】がひでんのめう
やくよりきゝめのはやき
きぐすりはいろよきへんじのふみならん
さてある日まつ屋水月は東山どのへめされてこよひは
夜もふけべきさたなればうばはこれをさいはひと思ひ【合印四角の中に×】
【左丁下段】
【合印 四角の中に×】たがひのしゆうをしのびあはする
手はづをしめしあふて日のくるゝ
     をぞまちにける
〇さえかへるさむさに春ともしらず
 ふる雪にふくるにしたがひまちわび
 る浦里はねやのあかりをとほ
 ざけてすがごもなら
 ぬ四布【よの】ぶとん
 ふたぬのあけて
 まつとぼそ
 もしや心の
 かはりしか
 なぜに
 との
 ごの
【合印〇の中に×】
【左丁下段】
【合印 〇の中に×】おそき
ぞと
いねては
おきつ
又いねつ
まくら
がみさへ
いたづらに
油じまぬぞ
うらめしき
ととき
うつ
かねを
かゞ
なへ
て【「かがなべて=指折り数えて】


といき
つくより
ほかぞなき
  【四角く囲んで】つぎへ


【上段】
【四角く囲んで】つゞき とうぞくのなんを
おそれしゆゑなりしかるに
いまぬすまれしはわが
おちどなりといひつゝ
おちちりし時次良が
ふみをみてさては
むすめがかくし男の
わざなるやと思ひ
むすめとうばを
いたくせめとふにぞ
つゝむにつゝまれず
ありのまゝにもの
がたれば水月は大に
いかりにくきらうにんが
たくみいでむかふのかし
ざしきにいたりかゞみを
とりもどさんとかないの
下男をめしぐし【連れて行く】むかひの
いへにぞいたり時二良が方
にはこよひしのぶべきやくそく
なりしが夕がたゟの大ゆきに
大きにあてられくるしはな
はだしきゆへ下良【郎の略】の染五良はいしやの
方へいたりてるすなるあとに時二良
一人やまひにくるしみゐたりける所へ
松やすいげつがいへの下男どもてんでに
六尺ぼうをたづさへヤレぬすびとようちすへて【合印〇の中に二】
【中段】
【合印 〇の中に二】くゝしあげよと
いひさまうつて
かゝるをやみつかれ
たる時二良しん
たいじざいならず
といへどもおぼへ
の手のうち
ゆんでめでに
なげつけたり
此手なみに
おそれいかゞ
してとらへん
「そばにこし
のものがあれば
よういにかゝられず
などゝたちさはぐばかりなり
此時里ぶぎやうの夜まはりの
やくにんとほりかゝりぬすびとゝ
のゝしるこゑに十手とりなは
たづさへ内にふみこみとつた
といふに時二良はやくにんと
みるより手むかひもせず
じんじやうにいましめを
うけたり此時松や水月
やく人のまへにひさまづき
ことのよしをつぶさに
ごんじやうなすにぞ
やく人はなはつきの時二良に
たづぬるにこよひは雪に〼
【下段】
〼あたり
やまひに
くるしみ
しのぶ
べき
やく
そくは
なほ
ざり
にせ

こと
ども

もの
がた
る内
下良
の染
五良
いしやの
方より
くすりを
とりて
もどり
此ていを
みておどろ
きいさゝかも
いつわる所も
なくこよひの
病きを
 かたり【四角い囲みの中に】次へ





《割書:御かほの|妙薬》美艶仙女香(びゑんせんぢよかう)一包四拾八文
此(この)御くすりは享保(きやうほ)十一年廿一 番(ばん)の船主(せんしゆ)伊孚九(いふきう)と云(いへ)る
清朝人(せいてうじん)長崎偶居(なかさきぐうきよ)のとき時(とき)丸山中(まるやまなか)の近江屋(あふみや)の遊女菊野(ゆうぢよきくの)に
授(さづけ)たる顔(かほ)の薬(くすり)の奇方(きはう)なり伝(つたへ)ていふ清朝(せいてう)《割書:今の|から》にて宮中(きうちう)の
婦人常(ふじんつね)に此薬(このくすり)を用(もちひ)て粧(けはひ)をかざるとぞ右(みぎ)の伝方(でんはう)故有(ゆゑあつ)て
予が家(いへ)に伝(つた)へたるを此度世(このたびよ)に弘(ひろ)むるものなり今世上(いませじやう)に顔(かほ)
の薬(くすり)と称(しよう)するものあまたありて色(いろ)はいづれも初霜(はつしも)のおき
まどはせる菊(きく)なれども家方(かはう)の妙薬(みやうやく)は別種(べつしゆ)の奇剤(きざい)なれば
世上(せじやう)の顔(かほ)のくすりと一列(ひといろ)に下看(みなし)給ふことなかれ
      功能(かうのう)左にしるす

▲常(つね)に用ていろを白くしきめをこまかにす▲はたけそばかすによし
▲できものゝあとをはやく治(なほ)す▲いもがほに用てしぜんといもを治(なほ)す
▲にきびかほのできものに妙なり▲はだをうるほす薬(くすり)ゆゑ
常(つね)に用ゆれば歳(とし)たけてもかほにしはのよる事なし
▲惣身(そうみ)一切のできものによし▲ひゞあかぎれあせもに
妙なり股(もゝ)のすれにはすれる所へすり付てよし
調合売弘所《割書:江|戸》南てんま町三丁目
       いなりしん道     坂本氏
        いなりの東どなりにて
【囲みの中】
《割書:口|上》右の御くすり十包以上御もとめ被下候はゞ当時(たうじ)三芝居 立者(たてもの)
 立役(たちやく)女形(をんながた)正めい自筆(じひつ)の御扇子けいぶつとして差上申候間
十包以上御求め被遊候節は御好(このみ)の役者(やくしや)名前(なまへ)御しるし御こして被下候其置先■
【囲みの外】
〇用ひやう 水にてとき御つけて被□【成ヵ】候

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【白紙】

【文字無し】

【裏表紙の裏(見返し) 文字無し】

【裏表紙 文字無し】

【冊子の背表紙の写真】
KEI
SEI
ZO
RI
UTSI

【資料整理番号のラベル】
339

【冊子の天或は地から撮った写真】

【冊子の小口の写真】

【冊子の天或は地から撮った写真】

BnF.

女三の宮はしゅしゃくゐんの
御娘也かしは木の衛門ほのかに
なれそめまいらせてのち
かのみやにねこの有けるを
見てかしは木の
歌に

こひ
 わた【「ふ」とあるところ】る人の
  かたみと手ならせはなれよ
   なにとて
    なくねなるらん

BnF.

公冶長能通鳥語未聞孔聖人
以異端擯斥之蓋挌物窮
理之一端爾紅毛氏之言其音
雉鴃舌其字雉横乃其有
成心一也儒者読書詩書為
先務余力馴致天地間無可
棄之言試使公冶長復生于

今世必購此冊置之案頭恐不
在弁島語之後
寛政戌午冬至
  蒲籚居士葛質題

   題言
一嘗テ聞ク。蘭人ノ初学ニ教ユルヤ。「アベ、ブック」「レッテル、コンスト」
 ナド云フ。訓蒙ノ書ノ始ニ載ル。「セイラブ」を諳(ソラ)ニ誦(ヨマ)シム。所謂(イハユル)
 「セイラブ」ナル物ハ。彼邦ノ国字。「アベセ」ノ二十五言ヲ。連属(レンゾク)
 スル法ニシテ。取モ直サズ。仮名遣ヲ会得セシムルナリ。次ニ同書
 ノ中ニ記ス。「ヱンケル、ウ《割書:ヲ》ールド」ヲ授ク。「ヱンケル」ハ単(ヒトツ)「ウ《割書:ヲ》ールド」ハ語(コトバ)
 ナリ。天文。地理ヲ始メ。物類ノ称呼ヲ集メ。清濁。半濁。直舌。曲
 舌ノ音ヲ正シ。訛言(カタコト)ヲ云習ハスマジキカ為ナリ。「ヱンケル、ウ《割書:ヲ》ー
 ルド」数百言ヲ空(ソラ)ニ記(オボエ)タル上ニテ。「サアメン、スプラク」ト云書ヲ授ク。

 応対ノ言語ヲ集成シタル物ニテ。初学ノ舌人(ツウジ)ナド。第一二此所書ヲ
 学ブトナリ。「セイラブ」ハ。前野氏ノ蘭訳草稿。大槻氏ノ
 蘭学階梯。及ヒ。佩觹ノ成書有テ。蛮字ヲ読。蛮字ヲ書
 事ハ。師ヲ待タズシテ成就スルヤウニナリヌ。今此編ハ。「エンケル
 ウ《割書:ヲ》ールド」ノ当用ナルモノ。数百言ヲ採摭シ。類ヲ分チテ輯
 録シ。蛮語ヲ学ブ人ノ。筆硯ノ労ヲ省カン為。梓ニ鋟(チリバム)ル事
 トハナリヌ。
一二字一音ノ仮名ハ「クヮ」「チャ」ノ如ク合書シ。引呼(ヒキガナ)ハ「ハー」
 「マー」ノ如ク竪抹(タテボウ)ヲ書シ。促呼(ツメガナ)ハ「ハッ」「ヒッ」ノ如ク。ツヲ小書
                              《割書:題言一》

 ス。一言ニ語ノ物ハ。分ツニ大圏ヲ用テシ。拾ヒ仮名ニ読ベキ
 物ハ。「ハ○ウ」「カ○ウ」ノ如ク。字間ニ小圏ヲ施シテホヲ コヲ
 ノ音ト混是ザラシシテ。一語ノ中ニ読(ヨミキリ)アルモノハ。梅核ヲ点ス。此
 編モツトモ遺漏多シ。不日ニ次編ヲ追刻シテ。足ザルヲ
 補フ可シ。

寛政十戊午歳十月

   東都

【枠外左下隅】
題言二

蛮語箋
 ○天文     ○地理
 ○時令     ○人倫
 ○身体     ○疾病
 ○神仏《割書:此条姑蕨闕》 ○宮室
 ○服飾     ○飲食
 ○器材     ○金部
 《割書:目次》

○玉石    ○鳥部
○獣部    ○魚介虫
○草部    ○木部
○数量    ○言語
  附録
○万国地名箋

【枠外左下隅】
目次完

蛮語箋
 天文
天《割書:ヘーメル》     日《割書:ゾン》
日光《割書:ゾン子、シケイン》 日陰《割書:シカーヂュ》
日蝕《割書:ゾン、エキリプス》  月《割書:マアン》
満月《割書:ホルレ、マアン》  弦月《割書:ハルフ、マアン》
月蝕《割書:マアン、エキリプス》 星《割書:ステルレン》
  《割書:天文》

霜柱《割書:ボルスト》       雷《割書:ドンドル》
電 《割書:ブリキセン○ウェールリクト》 虹《割書:レーゲン、ボヲゴ》
晴 《割書:リクテン》       暗《割書:ドンケル》
《割書:日月ノ|曇ル》《割書:タアネン》       東《割書:ヲヲスト》
西《割書:ウェスト》        南《割書:ソイド》
北《割書:ノールド》        寒《割書:コウト》
涼《割書:クール》         煖《割書:ヲウドステ、ブルール》

 地理
地《割書:又》土 《割書:アアルド》    世界《割書:ウェーレルド》
地気 《割書:ステレイキ》     国 《割書:ランド》
地方 《割書:ゲウェスト》     都《割書:ホヲフト、スタアド》
市街(マチ) 《割書:スタアド》     村《割書:ドルプ》
十字街(ヨウ〱ヂ) 《割書:コロイス、ウェギ》  道《割書:ウェギ》
 野 《割書:ヘルド》      堤《割書:デイキ》

牧 《割書:ウェイ》         林 《割書:ボス》
砂 《割書:サント》         石 《割書:ステーン》
泥 《割書:モッデル》        田 《割書:サアイ、ランド》
圃(ハタケ) 《割書:アッケル》       嵓(イワ)《割書:ロッツ》
壕 《割書:ガラアヘン》       地震 《割書:アアルド、ベヒング》
荒地 《割書:ウースト○ウィルデルニッセ》 庭 《割書:リュスト、ホフ》
薬園 《割書:コロイト、ホフ》     菜園 《割書:コヲル、ホフ》

【枠外左下隅】

 人倫
人 《割書:メンス》      男《割書:マン》
女 《割書:フローウ》     君《割書:ヘール》
臣 《割書:ケネキト》     父《割書:ハアドル》
母 《割書:ムードル》     祖父《割書:ゴロート、ハアドル》
祖母《割書:ゴロート、ムードル》  叔父《割書:ヲヲム》
叔母《割書:ムーイ》      兄《割書:ヲウドステ、ブルール》
  《割書:人倫》

軽粉         銅緑(ナラクロセウ)《割書:コーペルグルウン》
鉄粉 《割書:ヘインエイセル》   鉛粉(タウノツチ)《割書:セルーザ》
朱 《割書:フルミリウン》     丹《割書:メニイ》
金箔 《割書:ブラード、ゴウド》   銀箔《割書:ブラード、シルヘル》
密陀僧 《割書:シルヘルゲリット》 《割書:鑵ニ造ル|鉄ノ薄金》《割書:ブリキ》

                     《割書:四十一》

麝 《割書:ムスクスジイル》 霊猫(シヤカウネコ) 《割書:ムスクスカット○シイヘットカット》
猫 《割書:カット》     狐 《割書:ホス》
狸 《割書:ダス》     猬(ハリネズミ) 《割書:エーゲル》
角 《割書:ホールン》    爪 《割書:カラアウ》
足 《割書:ポウト》     毛 《割書:ウ《割書:ヲ》ル》
尾 《割書:スタアル》    膠 《割書:レーム》

                      《割書:四十六》

《割書:桂川中良  寛政十年序刊》
《題:蛮 語 箋》

東京神田
一誠堂書店

【背表紙】

BnF.

しつかこせんはしらひやうしにて源の
よしつねにあひなれ□【「て」か】の後あつまに
くたりよりともへめされまひをかな
てたる事
世にかくれ
なき事也

物おもひそへて
 立まふから衣
   かへす〳〵も
     君そ
      こひし
         き

BnF.

【表紙】

【ラベル】
JAPONAIS
177

【文字無し】

【文字無し】

Japonais No 177
【括り括弧】

頼光勲功図会 壱

【逆さラベル】
7 Vols cat 【catalogueの省略ヵ】
2118/4

中村定保編
玉蘭斎貞秀
【縦仕切り線】
頼光勲功図会
【縦仕切り線】
浪花  岡田群玉堂
          合梓
東都  稲田金幸堂

題_二頼光朝臣紀事_一
蓋 ̄シ 神国風俗 ̄ノ之美。在_下郷党子弟。
不_レ待 ̄タ_二教導 ̄ヲ_一。而自 ̄カラ重 ̄シ_レ恥 ̄ヲ軽 ̄シ_レ死 ̄ヲ。慈 ̄ムコト_二不義 ̄ヲ_一
如 ̄ク_二仇讐 ̄ノ_一然 ̄ルニ_上矣。三歳 ̄ノ孫児。或 ̄ハ躓 ̄イテ_レ石 ̄ニ而
倒 ̄レ。傷 ̄テ_レ足 ̄ヲ而泣 ̄クヤ也。有 ̄リ_レ 人為 ̄メニ罵 ̄レバ_レ石 ̄ヲ。則孫
児呑 ̄ミ_レ声 ̄ヲ自 ̄カラ起 ̄チ。挙 ̄テ_二其所 ̄ノ_レ傷 ̄ツク之足 ̄ヲ_一。蹴 ̄ルコト_二其 ̄ノ
石 ̄ヲ_一 三 ̄タヒ。以為(オモヘラク)報 ̄スト_レ仇 ̄ヲ。其気習類 ̄シテ如 ̄シ_レ是 ̄ノ。而 ̄シテ
其所 ̄ハ_二欽慕 ̄スル_一。則保昌。季武。綱。金時。義

経。弁慶。鬼将軍之武勇也。開 ̄ケハ_レ口 ̄ヲ則 ̄チ
曰 ̄ク吾 ̄ハ是 ̄レ為 ̄リ_三神孫。唯 ̄ニ知 ̄リ_二挫(ヒシ) ̄キ_レ鬼 ̄ヲ斬 ̄ルコトヲ_一レ蛇 ̄ヲ。不
_レ知_二他事 ̄ヲ_一。吾 ̄ハ為【二点脱ヵ】 神国之人_一。何 ̄ヲ敢 ̄テ受 ̄ケンヤ_二
胯下 ̄ノ辱 ̄シメヲ_一哉。何 ̄ノ敢 ̄テ学 ̄ハンヤ_二唐人 ̄ノ為 ̄スルコトヲ_一哉。為 ̄メニハ_一【二点ヵ】忠
孝 ̄ノ_一不_レ避 ̄ケ_二水火 ̄ヲ_一。若有 ̄ラハ_レ所_レ過 ̄マツ。則 ̄チ自 ̄カラ伏 ̄ス_二白
刃 ̄ニ_一耳(ノミ) ̄ト。豈 ̄ニ不 ̄スヤ_二愉快 ̄ナラ【一点脱ヵ】哉。豈 ̄ニ不 ̄ヤ_二愉快 ̄ナラ_一哉【句点脱ヵ】書
肆菊幸新 ̄ニ刻 ̄シ_二頼光朝臣紀事 ̄ヲ_一。求 ̄ム_二題
言於余 ̄ニ_一。々《割書:カ》曰。使 ̄ンテ_下二重 ̄ン_レ恥 ̄ヲ軽 ̄スルノ【レ点脱ヵ】死 ̄ヲ之子弟 ̄ヲ_一。

読 ̄マ_中重 ̄ンシ_レ恥軽 ̄ンスル_レ死 ̄ヲ之書 ̄ヲ_上。不_二亦 ̄タ善 ̄カラ_一乎。然 ̄カリ而 ̄カレトモ
余無 ̄シ_下勇 ̄ノ之可 ̄キ_二以 ̄テ語 ̄ル_一レ 人 ̄ニ者_上。漫 ̄リニ書 ̄セハ_二此 ̄ノ事 ̄ヲ_一。
聞 ̄ク者皆笑 ̄ヒ。必 ̄ス為 ̄メニ_二郷党子弟 ̄ノ_一所 ̄レン_レ咲 ̄ハ焉。【注】
幸大笑 ̄シテ曰 ̄ク。善哉。題言既 ̄ニ成 ̄レリト矣。余亦
笑 ̄テ而遂 ̄ニ把 ̄ル_レ筆 ̄ヲ。
嘉永辛亥初冬    海西漁夫識
          半嶺樵者書

【注:訓点に違和感有り】

【右丁絵のみ】
【左丁】
源頼光(みなもとのよりみつ)参(さん) 内(だい)の図(づ)は為一(ゐいつ)
老人(らうじん)九十 有余歳(いうよさい)の筆(ふで)なる
を秘(ひめ)て蠹虫(しみ)に喰(はま)せんより
はとこゝの口画(くちゑ)に出(いだ)したり

【右丁上部】
碓氷(うすひの)
 貞光(さだみつ)

卜部(うらべの)
 季武(すゑたけ)
【下部】
快童丸(くわいどうまる) 後(のち)に
   酒田公時(さかたきんとき)

綱(つな)とりあへず拍子(へうし)を取(とつ)て
 〽美玉(びぎょく) 斯(こゝ)に在(あ)り匵(はこ)に
   韞(おさめ)て蔵(かく)したり善賈(よきあたひ)を
   求(もと)めて沽(うらめや)【レ】諸【[これを]】 今(いま)善賈(よきあたひ)
    を求(もと)めたり公(きみ)に
【左丁―右丁〽の続き】
 事(つかふまつ)るに時(とき)を得たり
と祝(しゆく)し
   けり


渡辺綱(わたなべのつな)

【右丁】
藤原(ふぢはらの)
 仲光(なかみつ)

語曰殺其身
為仁矣幸寿
  夫庶哉
【右下部】
一子(いつし)幸寿丸(かうじゆまる)
【左丁】
弘徽殿(こきでん)の
 麗女御(れいにようご)

頼光(よりみつ)朝臣(あそん)勲功(くんこう)図絵(づゑ)目録(もくろく)
    ○巻之壱
第 一 満仲(みつなか)朝臣(あそん)住吉(すみよし)参籠(さんろう)  《割書:附》多田(たゞ)の城(しろ)を築(きづ)く
第 二 渡辺(わたなべの)綱(つな)が由来(ゆらい)   《割書: 附》満仲(みつなか)退隠(たいいん)頼光(よりみつ)家督(かとく)
第 三 美丈丸(びじやうまる)中山寺(なかやまでら)に趣(おもむ)く 《割書:附》美丈丸(びじやうまる)縦逸(じういつ)无頼(ぶらい)
第 四 美丈丸(びじやうまる)横川(よかは)に趣(おもむ)く  《割書:附》幸寿(かうじゆ)若君(わかぎみ)の命(いのち)に換(かは)る
第 五 法華(ほつけ)三昧院(さんまいゐん)建立(こんりう)   《割書:附》主上(しゆじやう)御元服(ごげんぶく)
第 六 佐州(さしうの)脚力(ぎやくりき)到着(たうちやく)   《割書: 附》千晴(ちはる)以下(いか)誅(ちゆう)に伏(ふく)す
    ○巻之二
第 七 頼光(よりみつ)上総介(かづさのすけ)に任(にん)ず  《割書:附》卜部(うらべ)季武(すゑたけ)が来由(らいゆ)

第 八 諸国(しよこくに)群盗(ぐんとう)蜂起(はうき)  《割書:附》群賊(ぐんぞく)満仲(みつなか)が館(たち)に入(い)る
第 九 出羽介(ではのすけ)満成(みつなり)卒去(そくきよ) 《割書:附》源賢(げんけん)阿闍梨(あじやり)父子(ふし)対面(たいめん)
第 十 頼光(よりみつ)瑞夢(ずいむ)を蒙(こうむ)る 《割書:附》太守(たいしゆ)の弁(べん)
第十一 碓氷(うすひの)荒太郞(あらたらうの)来由(らいゆ) 《割書:附》頼光(よりみつ)と君臣(くんしん)契約(けいやく)
第十二 頼光(よりみつ)上洛(しやうらく)    《割書:附》金時(きんとき)出(いで)て頼光(よりみつ)に任(つか)ふ
    ○巻之三
第十三 洛中(らくちう)夭(えう)■(くわい)【女+圣】    《割書:附》渡辺(わたなべの)綱(つな)鬼(おに)の腕(うで)を斬(き)る
第十四 大内(おほうち)炎上(えんしやう)《割書:并》地震(ぢしん) 《割書:附》四天王(してんわう)等(ら)土蜘蛛(つちぐも)退治(たいぢ)
第十五 右京亮(うきやうのすけ)保輔(やすすけ)凶悪(きようあく) 《割書:附》右衛門尉(ゑもんのぜう)斎明(ときあきら)誅(ちゆう)に伏(ふく)す
第十六 貞光(さだみつ)袴垂(はかまだれ)を生捕(いけど)る《割書:附》弘徽殿(こうきでん)の女御(にょうご)早世(さうせい)
    ○巻之四

第十七 花山帝(くわざんてい)御落飾(ごらくしよく)      《割書: 附》多田(たゞの)満仲(みつなか)剃髪(ていはつ)
第十八 保輔(やすすけ)堀川院(ほりかはのゐん)へ乱入(らんにふ)    《割書:附》綱(つな)季武(すゑたけ)袴垂(はかまだれ)を誅(ちゆう)す
第十九 頼光(よりみつ)摂政(せつしやう)へ駿馬(しゆんめ)を献(けん)ず 《割書: 附》廉平(かどひら)が神異(しんい)水破(すゐは)兵破(ひやうは)
第二十 如蔵尼(によさうに)実(じつ)を以(もつ)て弟(をとゝ)に告(つぐ)る《割書: 附》平太郎(へいたらう)逐電(ちくてん)
第廿一 良門(よしかど)多田(たゞ)の城(しろ)を攻(せむ)る   《割書:附》謀計(ばうけい)齟齬(そご)敗走(はいそう)
    ○巻之五
第廿二 良門(よしかど)渡辺(わたなべ)に討(うた)る     《割書: 附》丹波(たんは)の目代(もくだい)早馬(はやうま)を立(たつ)る
第廿三 頼光(よりみつ)千丈(せんぢやう)が岳(たけ)へ趣(おもむ)く  《割書: 附》酒顛童子(しゆてんどうじ)退治(たいぢ)
第廿四 大江山(おほえやま)洛城(らくじやう)       《割書: 附》諸将(しよしやう)帰洛(きらく)恩賞(おんしやう)
     総目録《割書:終》

頼光朝臣(よりみつあそん) 勲功図絵(くんこうづゑ)巻之一《割書:起安和二年三月|至天禄三年四月》 凡四年也
       東都   松亭中村定保集輯録
  第一 満仲朝臣(みつなかあそん) 住吉参籠(すみよしさんろう)
   附 多田(たゞ)の城(しろ)を築(きづ)く
農夫(のうふ) 草(くさ)を去(さつ)て嘉穀(かこく)必茂(かならずしげ)り。忠臣(ちうしん)姦(かん)を除(のぞい)て王道(わうだう)以(もつ)て清(きよ)しとかや。奥(こゝ)に承(しやう)
平(へい) 天慶(てんけい)の往昔(むかし)。東西(とうざい)の国々(くに〴〵)擾乱(ちやうらん)せしも。忠良(ちうりやう)の賢臣(けんしん)肝胆(かんたん)を摧(くだ)きて。平定(へいぢやう)に
及(およ)びしより。こゝに二十 有四年(いうよねん)。四海(しかい)泰平(たいへい)にして眼(め)に干戈(かんくわ)を視(み)ず。耳(みゝ)に戦馬(せんば)の音(おと)を
聴(きか)ず。万民(ばんみん)鼓腹(こふく)してその業(げふ)を楽(たの)しめり。然(しか)るに這回(こたび)左大臣(さだいじん)源高明公(みなもとのたかあきらこう)。隠謀(いんばう)の企(くはだて)
ありしも。満仲朝臣(みつなかあそん)の計(はか)らひに因(よつ)て。速(すみやか)に落居(らくきよ)なしし。其功(そのこう)莫大(ばくたい)なるにより。摂津守(せつつのかみ)
に任(にん)ぜられ。長(なが)く居住(きよぢゆう)して鳳闕(ほうけつ)を護(まも)り。直(すぐ)にその国(くに)を領(れう)すべきよし。詔命(ぜうめい)のあり
しかば。満仲(みつなか)面目(めんぼく)を施(ほどこ)し。斜(なゝめ)ならず悦(よろこ)びつゝ。その准備(こゝろがまへ)をなして。日(ひ)ならず封国(ほうこく)摂津(せつつ)へ

下向(げかう)ある。斯(かく)て彼(かの)朝臣(あそん)武道(ぶだう)におゐては。往々(わう〳〵)の書(ふみ)に記(しる)すが如(ごと)く。胸(むね)に孫吾(そんご)の兵略(へいりやく)を
畳(たゝ)み。打物(うちもの)弓馬(きうば)の達人(たつじん)にて。当時(たうじ)武家(ぶけ)の冠(くわん)たるがうへに。和歌(わか)の道(みち)を好(この)み給ひて。
秀逸(しういつ)の名歌(めいか)あり。然(しか)るに摂津国([せつ]つのくに)住吉明神(すみよしみやうじん)は。歌道(かだう)守護(まもり)のおん神(かみ)なり。一回(ひとたび)歩(あゆ)
行(み)を運(はこ)ばんと。予(かね)ても念(ねん)じ給ひけれど。或(ある)ひは伊予守(いよのかみ)に任(にん)じ。或(ある)ひは京師(みやこ)の守護(しゆご)
と成(なり)。国(くに)を隔(へだて)て私(わたくし)の物詣(ものまうで)にたち出(いで)んこと。その憚(はゞかり)なきにあらずと。今(いま)まで黙止(もだし)給ひ
しが。這回(こたび)僥倖(さいはひ)に当国(たうごく)の。守(かみ)となること多年(たねん)の蟄懐(ちつくわい)。一時(いちじ)に散(さん)ずるとき至(いた)りぬと。
深(ふか)く歓(よろこ)び給ひつゝ。まづ住吉四所(すみよしししよ)の明神(みやうじん)へ。参詣(さんけい)なし給ひつゝ。第一(だいゝち)には武運長久(ぶうんちやうきう)。
子孫繁栄(しそんはんえい)を祈(いの)り給ひ。第二(だいに)には和歌(わか)の道(みち)に数年(すねん)心(こゝろ)を倚(よ)せ候へど。短才(たんさい)にして
名句(めいく)を得(え)ず。願(ねがは)くは末代(まつだい)に遺(のこ)る。秀歌(しうか)を詠(よま)せ給へ。第三(だいさん)には。臣(しん)この国(くに)を賜(たま)はり。即(すなはち)
下向(げかう)なすといへども。未(いまだ)然(しか)るべき住所(ぢゆうしよ)を得(え)ず。願(ねがは)くは永住(えいぢゆう)の地(ち)を。示現(じげん)なし給はれと
一心不乱(いつしんふらん)に丹誠(たんせい)を凝(こら)し。神馬(じんめ)三匹(さんびき)宝剣(はうけん)一振(ひとふり)を奉納(はうなう)ありて。七日(なぬか)参籠(さんろう)し給ひければ。

神(かみ)も納受(なうじゆ)や在(まし)ましけん。第(だい)七日(なぬか)に満(みつ)る夜(よ)。吾(われ)にもあらで間睡(まどろみ)給ふに。宝殿(はうでん)の扉(と)を
おしひらき。いと妙(たへ)なる御声(みこゑ)にて。汝(なんぢ)優(やさ)しくも我(われ)を祈(いの)る。その丹心(たんしん)悉(こと〴〵)く納受(なうじゆ)あり。また住(すみ)
所(ところ)を索(もと)めんとす。そも〳〵この国(くに)に勝地(しやうち)あり。空(くう)に向(むか)ひて矢(や)を発(はな)ち。その矢(や)の落(おち)たらん
所(ところ)をもて。住所(すみどころ)となすならば。子孫長久(しそんちやうきう)疑(うたが)ひなし。と示(しめ)し給ひて宝殿(はうでん)の。扉(とぼそ)閉(とづ)るよと
見(み)たりしは。将(まさ)に華胥国(くわしよこく)の一夢(いちむ)なれど。全(まつた)く明神(みやうじん)の託宣(たくせん)なりと。頓(やが)て法施(ほせ)を奉(たてまつり)。
さて神教(しんけう)に任(まか)せつゝ。上差(うはざし)の鏑矢(かぶらや)ぬきとり。空(くう)に向(むか)つて放(はなち)しに。その矢(や)虚空(こくう)になり
わたり。北(きた)を斥(さし)てぞ飛去(とびさ)りける。抑(そも〳〵)住吉(すみよし)のおん神(かみ)と申すは。かけまくも畏(かしこ)き神代(じんだい)のその
上古(いにしへ)。伊弉諾尊(いざなぎのみこと)日向(ひうが)の小戸(をど)の。橘(たちばな)の 檍原(あはきがはら)に至(いた)り給ひ。祓除(みそぎはらひ)し給ふときに。顕(あらは)れ給ふ
おん神(がみ)にて。九神(こゝのはしら)のその中(うち)に。底筒男命(そこつゝをのみこと)。中筒男命(なかつゝをのみこと)。表筒男命(うはつゝをのみこと)。これなりとかや。
それより後(のち)。神功皇后(じんこうくわうごう)。三韓(さんかん)を伐(うち)給ふ前(さき)に。神託(しんたく)の事(こと)ありて。この征伐(せいばつ)を企(くはだて)たまふ。
既(すで)に三韓(さんかん)より還行(くわんかう)のとき。摂州(せつしう)この地(ち)に移(うつ)り住(すみ)。給ふべきの宣言(せんげん)あり。因(よつ)てその

BnF.

【洋本装丁表紙】

【洋本装丁表紙裏】

【フランス語書き込みあり】
Le numero 349 Decor des pipes et des
peignes - par Hokousai【アンダーライン】
   2 ouvrages le premier en une partie,
le second en deux parties.
     ( ouvrage ?【一語不明】)

【洋本装丁表紙】

【登録番号シール N.F. CHINOIS. 1806】

【洋本装丁】

【洋本装丁 白紙】

【洋本装丁 白紙】

【洋本装丁 白紙】

【手書き書込 1806】

今様櫛□雛形 くしの部 
          上

【表紙裏 白紙】

【蔵書印あり R.F.】

湯津(ゆづ)の爪櫛(つまぐし)つげの小櫛(をぐし)は両天(りやうてん)秤の二柱(ふたばしら)
梅花(ばいくわ)のかをる神代(かみよ)にはじまり順(じゆん)が和名(わみやう)の
細櫛(ほそぐし)さし櫛(ぐし)いひ出(いで)んも事(こと)ふりたれど鎌倉山(かまくらやま)
の真砂形(まさごかた)はかもしの長(なが)く世(よ)につたはり
室町御所(むろまちごしよ)の簾櫛(すだれぐし)はびなんかづらの香(にほひ)に
残(のこ)れり薩摩(さつま)長門(ながと)の国産(こくさん)は慶長(けいちやう)に名高(なたか)く
丸峯庵形(まるむねいほりがた)は元禄(げんろく)に聞(きこ)えたりそれより益(ます〳〵)
新奇(しんき)を巧(たくみ)朝日(あさひ)ととなへ三日月(みかづき)とよび蒔絵(まきゑ)
彫物(ほりもの)の手(て)を尽(つく)せどいまだ其鑑(そのかゞみ)とすべき
絵本(ゑほん)は絶(たえ)て世(よ)に見えずさる故(ゆゑ)に書肆(しよし)永寿堂(えいじゆだう)
前(さきの)北斎為一(ほくさいゐいつ)にあつらへ品々(しな〳〵)の絵様(ゑやう)をかゝせ
末(すゑ)に□(きせる)の図(づ)を添(そへ)て櫛□(せつきん)雛形(ひながた)と題(よび)
是等(これら)の物(もの)をつくらしむるもろ人の
助(たすけ)とす其(その)ことわりをはじめに記(しる)すは
   文政壬午        柳亭のあるじ
    秋八月望          種彦なり

器材(きざい)の制作(せいさく)たる時移(ときうつ)れば方(はう)を円(えん)に
製(せい)して人挙(ひとこぞつ)て珎重(ちんちやう)する是(これ)流行(りうかう)と
いふ況(いはんや)児女(ぢぢよ)の愛(あい)する所(ところ)櫛笄(くしかうがい)の形体(かたち)をや
故(ゆへ)に当時(たうじ)の制作(せいさく)にもとづいて画(ゑが)かば
亦(また)後世(こうせい)の変易(へんゑき)を患(うれ)ふ依(よつ)て形(かたち)の円方(えんほう)
大小(だいせう)に拘(かゝは)らず唯(たゞ)其画(そのぐわ)をなすの助(たすけ)たらん
を要(よう)す今(いま)此冊子(このさうし)に画(ゑが)ける模様(もやう)櫛(くし)の形(かたち)に
余(あま)りたるは裏(うら)へ写(うつ)して裏画(うらゑ)となす草木(さうもく)
虫魚(ちうぎよ)は裏(うら)へ折(おり)かへして然(しか)り今世(こんせい)行(おこな)はるゝ
三日月形(みかづきがた)は棟尤(むねもつとも)せばし又(また)後世(こうせい)の流行(りうこう)
にて棟(むね)の広(ひろ)き時(とき)は増補(ぞうほ)の労少(ろうすくな)しと
せず且(かつ)其員(そのかず)に応(おう)じて筆画(ひつぐわ)の数(かず)を
減(げん)ずるは安(やす)く加(くわ)へんは難(かた)し故(ゆへ)に其傍(そのかたはら)に
添書(そへがき)す見(み)る人(ひと)心(こころ)を留(とゞめ)よ
    前北斎改  葛飾為一誌

源氏
 うきふね 【浮舟】


 あさがほ 【朝顔】


 こうばい 【紅梅】

藻いでの
   こゐ  【藻出の鯉】

きく 【菊】

あしにちどり 【葦に千鳥】

くわんそう 【萱草】

かりがね 【雁金】

あし うらへかへる 【葦 裏へ返る】

てつせんくわ 【鉄線花】

まつもにかに 【松藻に蟹】

さくら かさね 【桜重ね】

 ▲もやうのはしは
  うらへおりかへすと
     しるべし

 ▲くしのかたち
  ときのりうこうありて
  かたちさだまらずされば
  のちのこゝろへあるべきか


ぼたん 【牡丹】

ぶどう 【葡萄】

うらへ
 おりかへし


しうかいどう 【秋海棠】

▲はじめに
   同じとしるべし

同うらへおり
かへすなり


はぎ 【萩】

かきつばた 【杜若】

おみなへし 【女郎花】

いづれも
 うらへおりかへし也

こうりん
 きゝやう 【光琳桔梗】

ひつじくさ 【未草】
 うらへかへす也

くわうりんの
  きく 【光琳の菊】

やまぶき 【山吹】


いづれも
 うらへ折かへし

ほしあひ  【「星逢」或は「星合」 七夕の意匠】


ふじばかま 【藤袴】

此るいもやううらへ
     おりかへしなり


さくらそう 【桜草】

ふけわらび 【老け蕨】

おひまつ 【老松】

わかまつ 【若松】


▲もやううらへまはすべし

むめ 【梅】
   まへにひとしく
   うらへかへすべし


くわうりんの
  きりのはな 【光琳の桐の花】

からまつ 【落葉松】

つばき 【椿】

おりはしは
   うらへまはすべし

おりはし
   うらへまはる也



くれたけ 【呉竹】

わかたけ 【若竹】

べたもの

くわう
 りん
 もの 【光琳物】


らいもんあさのは 【雷文麻の葉】

ねぢむめ 【捻じ梅】

ねぢきゝやう 【捻じ桔梗】

ねぢぎり 【捻じ桐】


   ねぢ
    あさのは 【捻じ麻の葉】


【文字なし】

【上図はかすがい、下図は釘の模様】

さぎ

  鵞

  かもめ



ちどり

  かめ



なみ
大小
とも

べた
づけ

▲たかきもやうはうらがへして
 くしのうらへつけべし

     いろを


みなと口の
  たそがれ

ゆうなぎ 【夕凪】

あさなぎ 【朝凪】

山中の月

三笠山のつき

月下のゆきかい

水月

ゆき     雨中

晴     梅りん【梅林】

竹りん【竹林】

ふゆのけい【冬の景】

いせうら  【伊勢浦】
  ■【夏】けい


▲もやうのあまりあらば
 はじめのごとく
 こゝろへ
 べし


川がり

入江のあき

ひらかたよふね



いづれもまへに同じ

里のゆき


其二

かぜを
 おこすなみ




あさき
  水

【上図】
大き
なる
くし

かた


べし






【下図】
もやうはいづれも
うらへ
まわる也

たき

うらはもやうを
  うらがへしてかくべし


さいくなみ

          大き
          なる
          くしに
          入べき
            也

          大■




もやう
うらへまはる
ときは
うらがへして
   うつすべし

【上図】



【下図】

合せ
 の
なみ

つゆ
 くさ          つゝじ


はな
うつぎ        きゝやう


くしの大小に
したがひて
 うつし
   いるべし


一りんばい        あさ
              がほ


ふくじゆそう        あぢさゐ


のぎく


すみれ           川ほね 【河骨】

はな          すいせん
ざくろ


ゆり         なしのはな


かいどう         かきの
              はな

かきつばた         しんきく


ふよう


ふたば
あふひ           なでしこ

ばせう 【芭蕉】


いも 【里芋】
 われもこう 【吾亦紅】

くさふじ 【草藤】


あざみ 【薊】

   りんどう


ばら

 ゆきのした


へちま

そてつ 【蘇鉄】


びやうやなぎ【未央柳】

【上図案】 げんげばな

【中図案】 たんぽすぎな

【下図案】 竹にすゞめ

【上図案】 あまりやう【雨龍】

【中図案】 しらん【紫蘭】

【下図案】 やゑもゝの花【八重桃の花】

【白紙】

【裏表紙】

【表紙】

今様櫛■雛形 くしの部
         下


【表紙裏・白紙】

かいづくし

いか
あほりいか

小ゑび



のがん 【野雁ヵ】


   うんくわく  【雲鶴ヵ】


BnF.

こからしの女は源氏ものかたりはゝき木の
                巻に
ことのねも月も
えならぬといふ
哥のぬしに
こからしに
吹あはす
   める
  笛
   のねを
引とゝむへき
  ことのはそ
     なき
とよみし人の
     事也



.

BnF.

BnF.

ほとけこせんハゐ中のゆう君也都にのほり
ぬれハきよもりこれをてうあいしきわう
をすて給ふゆへにきわうハ
さかのおくに住けるを
ほとけこせんうらやましく
おもひてあとを
したひてさかに
ゆき世を
   のかれし
     と也
名にきゝし
  ほとけのくにを
    たつねはや
  ミやこもつゐの
    すミかならねは

BnF.

【巻子】
題簽「浦しま太郎」

【巻物上部或は下部】

【巻物上部或は下部】

【巻物表紙】
浦しま太郎
【左に紐】
【白ラベル内】JAPONAIS 4169

【見返し】

むかし丹後の国に浦嶋といふもの侍り
ける其子に浦嶋太郎と申て二十四五の
をのこありける明暮海邊に出て萬のう
ろくつをすなとりつりをし父母をやし
なひけるかある日のことなるにつりを
せんとて出にけりうら〳〵入江〳〵いたり
ぬ所もなくうほをつりかひをひろひある
ひはみるをかりなとしける處に大きなる
かめをつりあけたり太郎此かめにいふやう
なんちしやうあるものゝ中に亀は万年とて
命久しきもの也たちまち爰にて命をたゝ
ん事いたはしけれはたすくる也かならす此
おんをわするへからすとて亀をもとのうみにそ
かへしけるかくて浦嶋太郎其日はくれて
帰りぬまたつきの日うらのかたへ出て釣をせん
とおもひてこゝかしこをめくりける處に
はるかなる海上にせうせん一そううかへり
あやしくおもひてみるに女房一人のり波にゆられて
したい〳〵に太郎のたちたる所へちかつきより
太郎此よしをみてふしきなるありさま也と
思ひて申けるやうはいかなる人なれは女しやう
の身として一人舟にのりかゝるおそろしき
海上にたゝ何となく渡らせ給ふそと申けれは
女房のいひけるはみつからはさるかたへひん
せん申てまゐり侍るところにおりふし波
風あらくして人あまた海へはね入られしを
なさけある人みつからをは此はし舟にのせて
おもふ方へゆけとてはなされさふらふあまりのか
なしさに行えもしらす波にたゝよひ風にふ
かれゆられ行ほとに鬼の嶋へゆかんすらん
とおほつかなくかなしむ處に嬉しくも人
さとちかきうらにつき今御身にあひまゐらせ候
ことのうれしさに是も此世ならぬ御縁にてこそ
あるらめとてさめ〳〵となきにけり浦嶋太郎も
さすかに岩木ならねハあはれなることゝおもひ
てつなてをとりて引よせにけり女房申けるは
人をたすけ給ふはほさつのきやうとうけ給は
り候哀みつからを故郷へおくり届給ハり候へかし
爰にて又捨られ参らせはなにと成行候















へし海上にての物こひもおなし事にて候と
とかきくときて又さめ〳〵となきけれは
浦嶋太郎ものゝあはれをしるものなれは
おなし舟にのりうつりさらはふるさとへ
をくりまゐらせんとておきのかたへこき
出す彼女はうのをしへにまかせてはるかの
舟路をへてこきゆく程に五日と申には
ふるさとへそつきにける扨舟よりあかりてみ
るにしろかねの門をたてこかねのいらかをな
らへいかなるきん中の住居はこれにはいかて
まさるへき此女房のすみところ心言葉もおよは
れす申も中〳〵をろかなり扨女房浦嶋に
申やう一しゆのかけにやとり一河の流をくむこ
とも皆これたしやうのえんそかしましてや
はる〳〵の波路を是まてをくり給ふ事此
世ならぬきえんなれは何かはくるしく候へき
みつからとふうふの契りを結ひ給へとこま〳〵
とかたりけれは太郎申すやうとも
かくも仰せにしたかひたま給ふへしとそ申ける


扨それよりかいらうの契りあさからす天に
あらはひよくの鳥地に又すまはれんりのえた
とならんとかりそめなからいもせの中に成にけり
其後女房申けるは是はたつの都と申ところ
なりすなはち四方に四季の草木あらはせりいら
せ給へみせ申さんとて太郎を引きくしてこそ
出にけれ先ひかしの戸をあけてみれは春のけ
しきとおほしくてのきはの梅に鶯のこゑ
めつらしく青柳の糸のしつかに春風になひ
くかすみの漠よりもいつれの梢も花なれや
南おもてのすたれをあくれは夏のけしきみえ
にけり春を隔つるかき外には卯の花や先咲ぬ覧
池のはちすの露うけてみきは涼しきさゝ波に水
鳥あまたあそひける木々のこすえもしけりそ
ひゆふたちすくる雲まより声かすかなる時鳥
なきて夏とそしらせける西のみきはゝ秋なれや
四方の梢も紅葉してませの内なる白菊や霧立
こむる野をちかみまかきか露をわけ〳〵て声も
侘しきさおしかのなきて秋とてしられける








【絵の左右の文字は前コマ次コマに翻刻】

さてまた北は冬なれや庭の草木も霜枯の
いつしか山は白妙の雪にむもるゝ谷の戸
に心ほそくもすみかまのけふりにしるきし
つかわさも冬としらするけしきかなかくて
面白き事ともに心をなくさみてみとせにな
るはほともなしさて浦嶋太郎申やう我
にしはしのいとまをたひ候へかしふるさとの父
母をみすてかりそめに出てはやみとせにな
り候へは心もとなく候ほとにみたてまつり
て心やすくまゐり候はんと申けれは女房
涙をなかし申けるは此みとせが程はえんわう
のふすまの下にひよくのかたらひをなしてか
た時みえさせ給はぬ事にもとやせんかくやあ
らましと心をつくし申せしに今御身に別
なは又いつの世にかはあひまゐらすへしふうふ
は二世の契りと申せは此世にてこそゆめまほろ
しの契りにておはしまし候ともかならす来世
にては一はちすのえんとむまれあはせ給へかしと
てさめ〳〵となきけるかしはし有て女房申けるは
今は何をかつゝみさふらふへきみつからと申
は此りうくうしやうの亀にてさふらふか
一とせえしまかいそにて御身に命をたすけ
られしなさけにいつの世にかはかゝる御恩を
ほうし申さんとおもひしゆへにかくふうふとは
なりまゐらせ候又是は形見に御覧候へとてひた
りのわきより手箱を一つとり出して申やうあ
ひかまへて〳〵この箱をあけさせ給ふなとて形
見に是參らするとて渡しけり会者定離
のことはりあふものは必別るゝとはしりなからかめ
かくなん
 日数へて重し夜半の旅衣立別つゝいつかきてみん
浦島かへし
 唐衣うらかなしくも立別れ又きてみんもしらぬ行末
と詠してたかひに名残をゝしみつゝ形見の物
をとりもちてなく〳〵ふるさとへこそかへりけれは
るかの波路を行舟のかいのしつくも涙もなかし
そへたる袖のうへをいかゝせん又うら嶋かくなん
 かりそめに別し人の面影を別もやらぬ身こそかなしき
扨浦島太郎はやう〳〵ふるさとへ帰りみれは
ひとの通ふ跡もなくあれはてゝとらふす野


【一行目前頁】
へと成にけりうら嶋むねうちさはきこはいか
なることやらんといひけれは内より八十あまりの
おきな立出て此あたりにてはみなれぬ御すかた
かないかなる人にてわたらせ給ふそと申けれは此
所のうら嶋は何方に居給ふそととひけれはおきな
申やう御身いかなる人なれは浦嶋の行衛を
尋給ふそや其うら嶋とやらん申侍るははや
七百年さきのことゝ申侍て候と申けれはこ
はいかなることやらんとて大きにおとろきなく
〳〵そのいはれをかたりけれはおきなもふし
きのおもひをなし涙をなかし申けるはあれに
みえて候草たかき中のふるきつかこそその
ひとのつかと申侍てこそ候へとてゆひをさし
てをしへける其とき浦嶋太郎は草ふかく
露しけき野へを分ゐりてふるきつかに
まゐりなく〳〵かくなん
 たらちねにあはんと思ひきてみれは苔むす塚と成にける哉
 かりそめに出にし跡を今みれはとらふす野へと成そ悲しき
扨浦嶋は一本の松のかけにてやすらひてあきれはてゝそ居たりける



さるほとに浦嶋おもふやうりう宮にて亀か形
見とてあたへし箱あくる事なかれといひけれ
とも今はなにかはせんあけてみはやとおもふこそよ
しなけれ此箱あけてみるに内より紫の雲み
すちたちのほりける浦嶋太郎廿四五はかりのよは
ひもたちまちにかはりはてゝひたいには四かいの波を
たゝみかしらのかみは雪をいたゝきまゆには八しゆの
霜をたれせつなの程にみるもいふせき【いぶせき=うっとうしい】おきなの
すかたと成にけるこそくやしけれ其後浦嶋は
靏になりてこくう【虚空=大空】にあかりけり抑此浦嶋か
よはひを亀かはかりことゝして七百年の
老の波を箱の中にたゝみ入ぬるゆへに久しく
よはひをたもちけるとや古きうたにも
 君にあふよは浦嶋か玉手箱あけてくやしき我涙哉
しやう【生】あるものいつれもなさけをしらぬといふ
事なしましてや人間のしやうをうけて恩を
みてそのおんを思ひしらさるはほくせき【木石=木と石。転じて人間としての情を解さないもの】にたとへ
たり契りふかきふうふは二世のえんそかしこの
浦嶋は靏になりてほうらいにあひをなす【愛をなす=(子供などを)かわいがる】亀は
又こうにみせきの祝をそなへて萬世をへぬるとなり
【絵の後の行】
さてこそめてたきためしにも靏と亀




さてこそめてたきためしにも靏と亀
とをほんとするなりひとをあはれみなさ
けのあるものは行すゑまてもめてたきよ
し申つたへたりそのゝちうら嶋太郎ハ丹後
の国に浦嶋の明神とあらはれしゆしやう
をさいとし給へりまた亀もおなし所に神
あらハれて今の代まてもふうふの神とそ
申侍けるかゝるめて
たき事世に
ためし
なきありかた


とそ

BnF.

【表紙】

【見返し 資料整理ラベル】
JAPONAIS
 305

【見返し】

【白紙】

【白紙】

【白紙 頭部手書きメモ】
3288
大ガッコ
R.R.
1843



【1047 の上に線を引き見せ消ち】
305

【白紙】

【白紙の頁に手書きメモが貼付】
23【丸で囲む】
山海名産図会 San Kai mei san Jsu je   5 03 .
【以下省略】

山海名産図会序
中古人士之於物産也【右に小さな〇を傍記】率本
於本草【同前注】而山産海錯【同前注】認而無
遺漏者【同前注】自向観水稲若水松
怡顔島彭水之徒【同前注】才輩実不
匱焉【同前注】余夙預其流【同前注】于今既費
数十年之苦心【同前注】見人之所未

日本山海名産図会(につほんさんかいめいさんづえ)巻之壱

   ○ 目 録

  摂州(せつしう)伊丹(いたみ)酒造(さけ[つく]り)


             藍江【落款】

酒(さか)
楽(ほかひの)
歌(うた)


此御酒(このみき)を醸(かみ)けん人は。其鼓(そのつゞみ)
臼(うす)に立(たて)て。うたひつゝ醸(かみ)けれ
かも。舞(まひ)つゝ醸(かみ)けれかも。
この御酒(みき)のみきの。あやに
転楽(うたたの)〳〵サヽ

是(これ)は応神天皇(わうしんてんわう)角鹿(つのか)より
還幸(くわんかう)の時(とき)神功皇后(しんくうくわうこう)酒(さけ)
を醸(かも)し侍(はへり)ていはひ奉(たてまつ)
り歌(うた)うたはせ給(たま)ふに
武内宿祢(たけうちすくね)天皇に代(かはり)奉り
答(こた)へ申 歌(うた)なり是(これ)を酒楽(さかほかひ)
の歌(うた)といひて後世(こうせい)大嘗(たいしやう)
会の米舂(こめつ)くにもうたふと也
   右古事記

   ○ 造醸(さけつくり)
酒(さけ)は是必(これかならす)聖作(せいさく)なるべし、其(その)濫觴(はじまり)は宋竇革(そうのとくかく)が酒譜(しゆ□)に論(ろん)してさだか
ならず、日本(にほん)にては酒(さけ)の古訓(こくん)をキといふ是則(これすなはち)食饌(け)と云儀(いふぎ)なり、ケは
気(き)なり、《割書:字音(じおん)をもつて和訓(わくん)とすること|例(れい)あり器(き)をケといふがごとし》神(かみ)に供(くう)し、君(きみ)に献(たて)まつるをば尊(たつと)みて
御酒(みき)といふ、又(また)黒酒(くろき)白酒(しろき)といふは清酒(せいしゆ)濁酒(だくしゆ)の事(こと)といへり○サケといふ
訓儀(くんぎ)は、マサケの略(りやく)にて、サは助字(じよじ)ケは則(すなはち)キの通音(つうおん)なり、又 一名(いちめう)ミワ
とも云、是(これ)は酒(さけ)を造(つく)るを醸(かみ)すといへば、カを略(りやく)して味(み)の字(じ)に冠(かんむ)らせ、
古歌(こか)に、味酒(うまさけ)の三輪(みわ)、又(また)三室(みむろ)といふ枕言(まくらことば)なりと冠辞考(くわんじかう)にはいへり、され
ども、味酒(うまさけ)の三輪(みわ)、味酒(うまさけ)の三室(みむろ)、味酒(うまさけ)の神南(かみなみ)備 山(やま)、とのみよみて外(ほか)に
用(もち)ひてよみたる例(れい)なし、神南備(かみなみ)、三室(みむろ)とも是(これ)三輪山(みわやま)の別名(べつめう)にて他(た)
にはあらず、是(これ)によりておもふに、万葉(まんよう)の味酒(うまさけ)神南備(かみなみ)とよみしを
本歌(ほんか)として、三輪(みわ)三室(みむろ)ともに、神(かみ)の在山(いますやま)なれば、神(かみ)といふこゝろ

【ページ 一ノ二】


を通(つう)じて詠(よみ)たるなるべし、《割書:ちはやふる神(かみ)と云(いう)をちはやふる加茂(かも)|ちはやふる人(うち)とよみたる例(れい)の如(ごと)し》これによ
りて三輪の神(かみ)松(まつ)の尾(を)の神(かみ)をもつて酒(さけ)の始祖神(しそしん)とするもその
故(ゆへ)なきにしもあらず、又(また)日本記(にほんき)崇神天皇(すしんてんわう)八年、高橋邑人(たかはしさとひと)、活日(いくひ)を
もつて大神(おほかみ)の掌酒(さかひと)とし、同十二月 天王(てんわう)、大田田根子(おほたたねこ)をもつて、倭大(やまとおほ)
国魂(くにたま)の神(かみ)を祭(まつ)らしむ、云く大国魂(おほくにたま)は大物主(おほものぬし)と謂(いひ)て、三輪(みわ)の神(かみ)なり、
されば爰(こゝ)に掌酒(さかひと)をさだめて神(かみ)を祭(まつ)りはじめ給(たま)ひしと見(みへ)えたり、
《割書:今(いま)酒造家(▢ゆそうか)に帘(さかはた)にかえて杉(すき)をは|招牌(かんばん)とするはかた〴〵其縁(そのえん)なるへし》又此後(またこののち)大鷦鷯(おほさゝき)の御代(みよ)に、韓国(からくに)より参来(まうき)し、
兄曽保利(えそほり)、弟曽保利(おとそほり)は酒(さけ)を造(つくる)の才(さへ)ありとて、麻呂(まろ)を賜(たま)ひて酒看(さかみい)
良子(いらつこ)と号(かう)し、山鹿(やまか)ひめを給(たま)ひて酒看郎女(さかみいらつめ)とす、酒看酒部(さかみさかべ)の姓(せい)是(これ)より
始(はじま)る是より造酒(さうしゆ)の法(はう)精細(せいさい)と成(なり)て今 天下日本(てんかにほん)の酒(さけ)に及(およ)ぶ物(もの)なし、是(これ)穀(こく)
気(き)最上(さいしやう)の御国(みくに)なればなり、それが中(なか)に、摂州伊丹(せつしういたみ)に醸(かも)するもの尤(もつとも)醇(じゆん)
雄(ゆう)なりとて、普(あまね)く舟車(しうしや)に載(のせ)て台命(たいめい)にも応(おう)ぜり、依(よつ)て御免(こめん)の焼印(やきいん)
を許(ゆる)さる、今も遠国(ゑんこく)にては諸白(もろはく)をさして伊丹(いたみ)とのみ称(せう)し呼(よべ)へり、

【挿絵】
【右丁】
伊(い)
丹(たみ)
酒(しゆ)
造(さう)

米(こめ)あらひ
  の図(づ)

【左丁 文字無し】

されば伊丹(いたみ)は日本上酒(にほんじやうしゆ)の始(はじめ)とも云(いう)べし、是(これ)又 古来久(こまいひさ)しきことにあらず、
元(もと)は文禄(ぶんろく)、慶長(けいちやう)の頃(ころ)より起(おこつ)て、江府(かうふ)に売始(うりはじめ)しは伊丹隣郷(いたみりんごう)鴻池村(かうのいけむら)山(やま)
中氏(なかうち)の人(ひと)なり、其起(そのおこ)る時(とき)は纔(わづか)五斗一石を醸(かも)して担(にな)ひ売(うり)とし、或は二拾
石三十石にも及(およ)びし時(とき)は、近国(きんこく)にだに売(うり)あまりけるによりて、馬(むま)に負(おほ)ふ
せてはる〴〵江府(かうふ)に鬻(ひさ)き、不図(はからず)も多(おゝ)くの利(り)を得(ゑ)て、其(その)価(あたひ)を又馬に
乗(の)せて帰(かへ)りしに、江府(こうふ)ます〳〵繁盛(はんじやう)に隨(したが)ひ、石高(こくたか)も限(かき)りなくなり、
富巨萬(とみきよはん)をなせり継(▢▢で)起(おこ)る者(もの)猪名寺(いなてら)屋 升(ます)屋と云て是(これ)は伊丹(いたみ)に居住(きよじう)す、船(ふな)
積(つみ)運送(うんそう)のことは池田(いけた)満願寺屋(まんぐわんじや)を始(はじ)めとす、うち継(つい)で醸家(さかや)多(お )くなりて、
今(いま)は伊丹(いたみ)、池田(いけだ)其外同国(そのほかとうこく)、西宮(にしのみや)、兵庫(ひやうこ)、灘(なだ)、今津(いまず)などに造(つく)り出(いだ)せる物(もの)また
佳品(かひん)なり、其余(そのよ)他国(たこく)に於(おひ)て所々(ところ〳〵)其名(そのな)を獲(え)たることの多(おゝ)しといへとも、
各(おの〳〵)水土(すいと)の一癖(いつへき)、家法(かはう)の手練(しゆれん)にて、百味人面(ひやくみにんめん)のごとく、又 殫(つく)し述(のふ)べからず、又
酒(さけ)を絞(しぼ)りて清酒(せいしゆ)とせしは、纔(わづか)百三十年 以来(このかた)にて、其前(そのまへ)は唯(たゞ)飯籮(いかき)を以
漉(こし)たるのみなり、抑(そも〳〵)当世(とうせい)醸(かも)する酒(さけ)は、新酒(しんしゆ)、《割書:秋彼岸(あきひがん)ころより|つくり初(そめ)る》間酒(あいしゆ)、《割書:新|酒》


【ページ 一ノ四】

 《割書:寒前酒の|間に作る》寒前酒(かんまへさけ)、○寒酒(かんしゆ)、《割書:すへて日数も後程多く|あたひも次第に高し》等(とう)なり、就中(なかんつく)新酒(しんしゆ)は
 別(べつ)して伊丹(いたみ)を名物(めいぶつ)として、其香芬(そのかうふん)弥妙(いよ〳〵めう)なり、是(これ)は秋八月 彼岸(ひがん)の頃(ころ)、
 吉日を撰(ゑら)み定(さだ)めて其四日前に麹米(かうしこめ)を洗初(あらひそめ)る、《割書:但し近年は九月節寒露|前後よりはしむ》

酒母(さけかうじ)【二行割書】むかしは麦(むき)にて造(つく)りたる物(もの)ゆへ文字(もんし)麹につくる中華(ちうくわ)の
         製(せい)は甚(はなは)たむつかしけれども日本の法(はう)は便(べん)なり

  彼岸頃(ひかんころ)、□(もと)【酉に胎】入定日(いれじやうじつ)四日 前(まへ)の朝(あさ)に米(こめ)を洗(あら)ひて水(みづ)に漬(ひた)すこと一日、翌日蒸(よくじつむ)して
  飯(めし)となして筵(むしろ)にあげ、抦械(えかひ)にて拌匀(かきませなら)し、人肌(ひとはだ)となるを候(うかゞ)ひて不残(のこらす)槽(とこ)【資料では手偏にもみえるが】
 に移(うつ)し《割書:とことは飯(めし)いれ|の箱(はこ)なり》筵(むしろ)をもって覆土室(おゝひむろ)のうちにおくこと凡(およそ)半日、午
 の刻(こく)ばかりに塊(かたまり)を摧(くだき)其時(そのとき)糵(もやし)を加(くわ)ふ事(こと)凡(およそ)一石に二合ばかりなり、其夜(そのよ)
  八ツ時分に槽(とこ)より取出(とりいだ)し、麹盆(かうじふた)の真中(まんなか)へつんぼりと盛(もり)て、拾枚宛(じうまいづゝ)かさね
  置(おき)、明(あく)る日のうちに一度(いちど)翻(かへ)して、晩景(はんかた)を待(まつ)て盆(ふた)一はいに拌均(かきなら)し、又 盆(ふた)を
  角(すみ)とりにかさねおけば其夜(そのよ)七ツ時には黄色(わうしよく)白色(はくしよく)の麹(かうじ)と成(な)る
麹糵(もやし)
 かならず古米(こまひ)を用(もち)ゆ、蒸(む)して飯(めし)とし、一升に欅灰(けやきはい)二合許を合せ、


【右丁 挿絵のみ】

【ページ 一ノ五】

【左丁 挿絵の説明】


麹(かうじ)
  醸(つくり)

  筵(むしろ)幾重(いくへ)にも包(つゝみ)て、室(むろ)の棚(たな)へあげをく事十日 許(はかり)にして、毛醭(け)を生(せう)
  ずるをみて、是(これ)を麹盆(かうじぶた)の真中(まんなか)へつんほりと盛(も)りて後(のち)盆(ふた)一はいに
  搔(かき)ならすこと二 度許(どはかり)にして成(な)るなり
醸酒(さけの)□(もと) 《割書:米五斗を一□といふ一つ仕廻(しまい)といふは一日一元づゝ片付(かたづけ)|行(ゆく)をいふなり其 余(よ)倍々(はい〳〵)は酒造家(さかや)の分限(ぶんげん)に応(わう)ず》
  定(しやう)日三日前に米(こめ)を出(いだ)し、翌朝(よくてう)洗(あ)らひて漬(ひた)し置(お)き、翌朝(よくてう)飯(めし)に蒸(むし)
 て筵(むしろ)へあげてよく冷(ひや)し、半切(はんきり)八 枚(まひ)に配(わか)ち入(い)るゝ《割書:寒酒(かんしゆ)なれは|六枚なり》米(こめ)五斗に麹(かうじ)
 壱斗七升水四斗八升を加(くは)ふ《割書:増減家々(ざうげんいへ〳〵)|の法(はう)なり》半日ばかりに水の引(ひく)を期(こ)として、
 手をもつてかきまはす、是(これ)を手元(てもと)と云(いふ)、夜(よ)に入(いり)て械(かひ)にて摧(くだ)く、是(これ)をやま
 おろしといふ、それより昼夜(ちうや)一時に一度 宛(づゝ)拌(かき)まはす《割書:是(これ)を仕|ごとゝいふ》三日を経(へ)て
 二石入の桶(おけ)へ不残集(のこらずあつ)め収(おさ)め、三日を経(ふ)れば泡(あわ)を盛上(もりあぐ)る、是(これ)をあがりとも
  吹切(ふききり)とも云なり《割書:此機(このき)を候(うかゞ)ふこと丹錬(たんれん)の妙(めう)|ありてこゝを大事とす》これを復(また)、□(もと)をろしの半切二
 枚にわけて、二石入の桶(おけ)ともに三ツとなし、二時ありて筵(むしろ)につゝみ、凡(およそ)六時
 許には其内(そのうち)自然(しぜん)の温気(うんき)を生(せう)ずる《割書:寒酒(かんしゆ)はあたゝめ桶(おけ)に湯(ゆ)を入ても|ろみの中(なか)へきし入るゝ》を候(うかゞ)ひて

【このページの□は酉に胎の字。 酒母の酛のことか。】

【ページ 一ノ六】

  械(かい)をもつて拌冷(かきさます)こと二三日の間(あいた)、是(これ)又一時 拌(かき)なり是までを□(もと)と云(いふ)
酘(そへ)《割書:右 □(もと)の上へ米麹(こめこうじ)水をそへかけるを|いふなり、是をかけ米又 味(あぢ)ともいふ》
 右の□(もと)を不残(のこらず)三尺 桶(おけ)へ集収(あつめおさ)め、其上(そのうへ)へ白米八斗六升五合の蒸飯(むしはん)、白米二
 斗六升五合の麹(かうじ)に、水七斗二升を加(くわ)ふ、是(これ)を一(ひと)□(もと)といふなり、同(おなし)く昼夜(ちうや)一時
  拌(かき)にして三日目を中(なか)といふ、此時是(このときこれ)を三尺 桶(おけ)二本にわけて其上(そのう)へ
 白米一石七斗二升五合の蒸飯(むしはん)、白米五斗ニ升五合の麹(かうじ)に水一石二斗
 八升を加(くわ)へて一時 拌(かき)にして、翌日(よくじつ)此半(このなかば)をわけて桶(おけ)二本とす、是(これ)を大頒(おほわけ)と云(いう)
 なり、同く一時拌にして、翌日又白米三石四斗四升の蒸飯(むしはん)、白米一石六斗
 の麹(かうじ)に水一石九斗二升を加ふ《割書:八升入ぼんぶりといふ|桶にて二十五 杯(はい)なり》是(これ)を仕廻(しまい)といふ、都合(つがう)
  米麹(こめかうじ)とも八石五斗水四石四斗となる、是より二三日四日を経て、氳気(うんき)を
  生(せう)ずるを待(まつ)て、又 拌(かき)そむる程(ほど)を候伺(うかがふ)に、其機発(そのきはつ)の時(とき)あるを
 以て大事(たいし)とす、又一時拌として次第に冷(さま)し、冷(さ)め終(おは)るに至(いたつ)て
は一日二度拌ともなる時を酒の成熟(せいじゆく)とはするなり、是(これ)を三尺 桶(おけ)


【このページの□は酉に胎の字。 酒母の酛のことか。】


【挿絵】

其三
 □(もと)【酉に胎】
 お
 ろ
 し

【ページ 一ノ七】


 四本となして、凡八九日 経(へ)てあげ桶にてあげて、袋(ふくろ)へ入れ醡(ふね)に満(みた)し
 むる事、三百余より五百 迄(まで)を度(と)とし、男柱(おとこはしら)に数々(かず〳〵)の石をかけて
 次第に絞(しぼ)り、出(いづ)る所(ところ)清酒(せいしゆ)なり、是を七寸といふ澄(すま)しの大桶(おほおけ)に入て、四五
 日を経(へ)て、其名をあらおり、又あらばしりと云、是を四斗 樽(たる)につめて
  出(いだ)すに、七斗五升を一駄(いちだ)として樽(たる)二つなり、凡十一二 駄(だ)となれり○
 右の法(はう)は伊丹 郷中(がうちう)一 家(か)の法(はう)をあらはす而巳(のみ)なり、此余(このよ)は家々(いへ〳〵)の秘(ひ)
  事(じ)ありて石数(こくすう)分量(ふんりやう)等(とう)各(おの〳〵)大同少異(たいとうしやうい)あり、尤(もつとも)百年 以前(いせん)は八石 位(くらい)より八
 石四五斗の仕込(しこみ)にて、四五十年 前(まへ)は精米八石八斗を極上とす、今極上と
 云ふは、九石余十石にも及へり、古今 変遷(へんせん)是又 云(いゝ)つくしがたし○すまし
  灰(はい)を加(くわ)ふることは、下米酒(けまひしゆ)、薄酒(はくしゆ)或(あるひ)は醟酒(そんじさけ)の時(とき)にて上酒に用(もち)ゆることは
 なし○間酒(あいしゆ)は米の増方(ましかた)、むかしは新酒同前(しんしゆとうせん)に三斗増なれども、いつの
  頃(ころ)よりか一 □(もと)【酉+胎】の酘(そへ)、五升 増(まし)、中の味(み)一斗増、仕廻(しまい)の増一斗五升増とするを
  佳方(かはう)とす、寒前、寒酒、共に是に准(じゆん)ずべし、間酒(あいしゆ)はもと入 ̄レ より四十余日、寒


【ページ 一ノ八】


 前は七十余日、寒酒(かんしゆ)八九十日にして酒をあくるなり、尤(もつとも)年の寒暖(かんだん)に
 よりて、増減駆引(そうけんかけひき)日 数(かず)の考(かんがへ)あること専用(せんよう)なりとぞ○但(たゞ)し昔(むかし)は新(しん)
 酒の前にボタイといふ製(せい)ありてこれを新酒とも云(いひ)けり、今に山家(やまか)
 は此製 而巳(のみ)なり、大坂などとてもむかしは上酒は賤民(せんみん)の飲物(のみもの)にあら
 ず、たま〳〵嗜(たし)むものは、其家にかのボタイ酒(しゆ)を醸(かも)せしことにあり
 しを、今治世二百年に及(およ)んて纔(わづか)其 日限(ひかきり)りに暮(くら)す者(もの)とても、飽(あく)まで
  飲楽(いんらく)して陋巷(ろうこう)に手(て)を撃(う)ち萬歳(まんせい)を唱(とのふ)、今其時にあひぬる有難(ありがた)
 さを、おもはずんばあるべからす
米(こめ)
 □【注】米(もとまい)は地廻(ちまは)りの古米(こまい)、加賀(かが)、姫路(ひめぢ)、淡路(あわぢ)、等(とう)を用(もち)ゆ、酘米(そへまい)は北国(ほつこく)古米、第
 一にて、秋田(あきた)、加賀(かが)、等(とう)をよしとす、寒前(かんまへ)よりの元(もと)は、高槻(たかつき)、納米(なやまい)、淀(よと)、山方(やまかた)の
  新穀(しんこく)を用(もち)ゆ

【注 酉+胎】

【挿絵】

其四

酘(そへ)

中(なか)

大頒(おほわけ)


【ページ 一ノ九】

舂杵(うすつき)
  ■【注】米(もとまい)は一人一日に四臼(ようす)《割書:一臼(ひとうす)一斗三|升五合位》酘米(そへまい)は一日五 臼(うす)、上酒(じやうしゆ)は四 臼(うす)、極(きはめ)て精細(せいさい)
 ならしむ、尤(もつとも)古杵(ふるきね)を忌(い)みて是(これ)を継(つ)くに尾張(おはり)の五葉(ごよう)の木を用ゆ、
  木口(こくち)窪(くぼ)くなれば米(こめ)大(おほ)きに損(そん)ず故(ゆへ)に、臼廻(うすまは)りの者(もの)時々(とき〳〵)に是を候伺(うかかふ)也、
  尾張(おはり)の木質(きしつ)和(やは)らかなるをよしとす
洗浄米(こめあらい)
  初(はじ)めに井(ゐ)の経水(ねみづ)を汲涸(くみから)し新水(しんすい)となし、一毫(いちがう)の滓穢(をり)も去(さ)りて極々(ごく〳〵)
  潔(いさき)よくす、半切(はんぎり)一ツに三人がゝりにて水(みつ)を更(かゆ)ること四十 遍(へん)、寒酒は五十遍に及(およ)ふ、
家言(かけん)
 ○杜氏(とうじ) ○酒工(しゆこう)の長(てう)なり、又おやちとも云、周(しう)の時(とき)に杜氏(とうぢ)の人(ひと)ありて其(その)後葉杜康(こうようとかう)といふ
      者(もの)、よく酒(さけ)を醸(かも)するをもつて名(な)を得(え)たり、故(ゆへ)に擬(なぞら)えて号(なづ)く
 ○衣紋(ゑもん) ○麹工(かうじく)の長(てう)なり、花(はな)を作(つく)るの意(こゝろ)をとるといへり、一説(いつせつ)には中華(ちうくわ)に麹(かうじ)をつくるは
      架下(たるのした)に起臥(きくわ)して暫(しばら)くも安眠(あんみん)なさゞること七日 室口(むろのくち)に衛(まも)るの意(こゝろ)にて衛門(えもん)と云(いう)か
醸具(さかだうぐ)

【注 酉+胎】


【ページ 一ノ十】

  半切(はんきり)二百 枚余(まいよ)《割書:各(おの〳〵)一ツ仕廻(しまい)|に充(あて)る》○□(もと)おろし桶(おけ)二十本余○三尺桶三本余○から
  臼(うす)十七八 棹(さほ)○麹盆(かうしふた)四百枚余○甑(こしき)はかならず薩摩杉(さつますき)のまさ目(め)を用(もちゆ) 
  木理(きめ)より息(いき)の洩(も)るゝをよしとす、其余(そのよ)の桶(おけ)は板目(いため)を用(もち)ゆ○袋(ふくろ)は十二石の
  醡(ふね)に三百八十 位(くらい)○薪入用(たきゞいりよう)は一□ (ひともと)にて百三十貫目余なり
製灰(はいのせひ)
  豊後灰(ぶんごはい)一斗に本石灰四升五合入れ、よくもみぬき、壷(つぼ)へ入れ、さて、はじめ
 ふるひたる灰粕(はいかす)にて、たれ水(みづ)をこしらへ、すまし灰(はい)のしめりにもちゆ
  尤口伝(もつともくてん)あり
なをし灰(はい)
 本石灰一斗に豊後灰(ふんごはい)四升、鍋(なべ)にていりてしめりを加(くわ)へ用(もち)ゆ 
 ○囲酒(かこひさけ)に火をいるゝは入梅(つゆ)の前(まへ)をよしとす
味醂酎(みりんちう)


【このページの□は酉に胎の字。 酒母の酛のことか。】

【挿絵】

其五

もろ
みを
  拌(かく)

袋(ふくろ)に
 いれて
  醡(ふね)に
   積(つむ)

酒(さけ)
 あげ




 の
   図(づ)


【ページ 一ノ十一】

 焼酎(しやうちう)十石に糯白米(もちこめ)九石弐斗、米麹(こめかうし)弐石八斗を桶(おけ)壱本に醸(かも)す、
 翌(よく)日 械(かい)を加(くわ)え、四日目五日目と七度 斗(ばかり)拌(か)きて、春(はる)なれば廿五日
 程(ほと)を期(ご)とすなり、昔(むかし)は七日目に拌(かき)たるなり○本直(ほんなを)しは焼酎(しやうちう)十石に
 糯白(もちこめ)米弐斗八升、米麹(こめかうじ)壱石弐斗にて醸法(つくりかた)味醂(みりん)のごとし 

醸酢(すつくり)
 黒米(くろこめ)弐斗、一夜水に漬(ひた)して、蒸飯(むしはん)を和熱(くわねつ)の儘(まゝ)甑(こしき)より造(つく)り桶(おけ)へ移(うつ)し、
 麹(かうし)六斗水壱石を投(とう)じ、蓋(ふた)して息(いき)の洩(も)れざるやうに筵菰(むしろこも)にて桶(おけ)を
 つゝみ纒(まとひ)、七日を経(へ)て蓋(ふた)をひらき拌(か)きて、又元(またもと)のごとく蓋(ふた)して、七日目こと
 に七八度 宛(づゝ)拌(かき)て、六七十日の成熟(せいしゆく)を候(うかゞ)ひて後酒(のちさけ)を絞(しぼ)るに同し《割書:酢(す)は|食用(しよくよう)》
 《割書:の費用(ひしよう)はすくなし、紅粉(へに)、昆布(こんぶ)、染色(そめいろ)|などに用(もち)ゆること至(いたつ)て夥(おびたゝ)し》是又 水土(すいと)、家法(かはう)の品多(しなおゝ)し、中(なか)にも和州(わしう)小
 川 紀(き)の国(くに)の粉川(こかわ)、兵庫北風(ひやうごきたかぜ)、豊後(ぶんご) 船井(ふなゐ)、相州(さうしう)駿州(すんしう)の物(もの)など名産(めいさん)す
 くなからず

袋洗(ふくろあらひ)○新酒成就(しんしゆじやうしゆ)の後(のち)、猪名川(いなかわ)の流(なかれ)に袋(ふくろ)を濯(あら)ふ其頃(そのころ)を待(まち)て、
 近郷(きんごう)の賤民(せんみん)此(この)洗瀝(しる)を乞(こ)えり、其味(そのあぢ)うすき醴(あまさけ)のごとし、是又
 佗(た)に異(こと)なり、俳人鬼貫(はいじんおにつら)
    賤の女や袋あらひの水の汁
愛宕祭(あたこまつり)○七月二十四日 愛宕火(あたこひ)とて伊丹本町 通(とを)りに
 燈(ひ)を照(て)らし、好事(こうす)の作(つく)り物(もの)など営(いとな)みて天満天神(てんまてんしん)の川祓(かわはらへ)に
 もをさ〳〵おとることなし、此日(このひ)酒家(さかや)の蔵立等(くらたてとう)の大(おほひ)なるを見(み)ん
 とて四方(しはう)より群集(くんじゆ)す、是(これ)を題(たい)して宗因(そうゐん)
    天も燈に酔りいたみの大燈篭
 酒家(さかや)の雇人(ようしん)、此日(このひ)より百日の期(こ)を定(さた)めて抱(かゝ)へさだむるの日に
 して、丹波(たんば)、丹後(たんご)の困人(きうしん)多(おゝ)く輻奏(ふくそう)すなり


伊丹(いたみ)筵(むしろ)
包(つゝみ)の印(しるし)

【印の図】
      余略

池田(いけだ)薦(こも)
包(つゝみ)の印(しるし) 【印の図】    余略


【ページ 一ノ十三】

日本山海名産図会(につほんさんかいめいさんづゑ)巻之二

   ○目録

○豊島石(てしまいし)     ○御影石(みかけいし)
○竜山石(たつやまいし)     ○砥礪(といし)
○芝(さいはいたけ)      ○日向香蕈(ひむかしいたけ)
○熊野石耳(くまのいはたけ)
○同 蜂蜜(はちみつ) 蜜蝋(みつらう) 会津蝋(あいづらう)

○山椒魚(さんせううを)     ○吉野葛(よしのくず)
○山蛤(あかかへる)      ○鷹峯(たかがみね)蘡薁虫(ゑびづるのむし)
○鷹羅(たかあみ)      ○鳧羅(かもあみ)
○予州(よしう)峯越鳧(をこしのかも) 摂州(せつしう)霞羅(かすみあみ) 無双返(むさうかへし)
○捕熊(くまをとる) 《割書:堕弩(おし)|取肝(きもをとる)》 《割書:洞中熊(ほらのくま)|試真偽(しんきをこゝろむ)》 《割書:以斧撃(おのをもつてうつ)|製偽肝(にせをせいす)》

【注 「𬯄」はUnicodeの漢字検索に記載あれど『大漢和辞典』、その他の辞典に見当たらず。】

石品(いしのしな)
 石(いし)は山骨(やまのほね)なり物理論(ふつりろんに)云(いふ)土精(どせい)石(いし)となる石(いし)は気(き)の核(たね)なり気(き)の石(いし)を
 生(せう)ずるは人(ひと)の筋絡(きんらく)爪牙(さうげ)のごとし云々されども其(その)石質(せきしつ)におゐては万国(ばんこく)万山(ばんさん)
 の物(もの)悉(こと〴〵)く等(ひとし)からず是(これ)風土(ふうと)の変更(へんかう)なれば即(すなはち)気(き)ををつて生(せう)ずることし
 かり又 草木(そうもく)魚介(ぎよかい)皆(みな)よく化(くわ)して石(いし)となれり本草(ほんざう)に松化石雙宋書(せうくわせきさうしよ)に拍(はく)
 化石稗史(くわせきひし)に竹化石(ちくくわせき)あり代醉編(たいすいへん)に陽泉夫余山(やうせんふよさん)の北(きた)にある清流(せいりう)数十歩(すじつぶ)
 草木(さうもく)を涵(しつめ)て皆(みな)化(くわ)して石となる又イタリヤの内(うち)の一国(いつこく)に一異泉(いちいせん)あり何(いつれ)
 の物(もの)といふことなく其中(そのうち)に墜(おつ)れば半月(はんげつ)にして便(すなは)ち石皮(せきひ)を生(せう)じ其物(そのもの)を裹(つゝむ)
 又(また)欧邏巴(わうらつば)の西国(にしくに)に一湖(いつこ)有(あ)り木(き)を内(うち)に插(さしは)さんで土(つち)に入(い)る一段(いちたん)化(くわ)して鉄(てつ)と
 なる水中(すいちう)は一段(いつたん)化(くわ)して石(いし)となるといへり本朝(ほんてう)又(また)かゝる所(ところ)多(おゝ)く凡(およそ)寒国(かんこく)の
 海浜(かいひん)湖涯(こがい)いづれもしかりすべて器物(きぶつ)等(とう)の化石(くわせき)も其所(そのところ)になると知る
べし又(また)石(いし)に鞭(むち)うちて雨(あめ)を降(ふら)し雨(あめ)をやむる陰陽石(いんやうせき)ありて日本(につほん)にても宝(ほう)

亀(き)七年 仁和(にんな)元年 及(およひ)東鑑(あつまかゞみ)等(とう)にも其(その)例(れい)見(み)えたり江州(かうしう)石山(いしやま)は本草(ほんざう)に
いへる陽起石(やうきせき)にて天下(てんか)の奇巌(きかん)たり又 日本紀(にほんき)【記は誤】雄略(ゆうりやく)の皇女(こうによ)伊勢斎宮(いせさいぐう)
にたゝせ給(たま)ひしに邪陰(しやいん)の御(おん)うたがひによりて皇女(くわうによ)の腹中(ふくちう)を開(ひら)かせ給(たま)ひしに
物(もの)ありて水(みづ)のごとし水中(すいちう)に石(いし)ありといふことみゆ是(これ)医書(いしよ)に云(いう)石瘕(せつか)なるべし然(しかれ)ば
物(もの)の凝(こり)なること理(り)においては一なり品類(ひんるい)におゐては鍾乳石(しやうにうせき) 慈石(じしやく) 礜石(よせき) 滑石(くわつせき)
礬石(はんせき) 消石(せうせき) 方解石(はうかいせき) 寒水石(かんすいせき) 浮石(かるいし) 其余(そのよ)の奇石(きせき)怪石(くわいせき)動物(どうぶつ)などは曩(さき)に
近江(あふみ)の人(ひと)の輯作(しうさく)せる雲根志(うんこんし)に尽(つき)ぬれば悉(こと〴〵)く弁(べん)するに及(およ)ばす
○イシといふ和訓(わくん)はシといふが本語(ほんご)にてシマリ シツ(沈)ム俗(ぞく)にシツカリなどのごとく物(もの)の凝(こ)り
定(さたま)りたるの意(い)なり○イハとは石歯(いは)なり盤(いは)の字(じ)を書(かき)ならへりかならず大石(たいせき)にて
歯(は)牙(きば)のごとく徤利(するとき)【注】の意(い)なり○イハホとは巌(かん)の字(じ)に充(あ)てゝ詩経(しきやう)維石巌々(これいしがん〴〵)と
いひておなじく尖利(するとく)立(たち)たる意(い)なり万葉(まんよう)には石穂(いはほ)とかきて秀出(ほいづ)るの儀(ぎ)
なり又いはほろともいへりかた〴〵転(てん)して総(すべ)【惣】てをいしともいはともいはほとも通(つう)
じていへり○日本(にほん)にして器用(きよう)に造(つく)る物(もの)すくなからず就中(なかんづく)五畿内(こきない)西国(さいこく)に産(さんす)るが

【注 徤は辞書に見当たらず。】

【右丁】
うちに御影石(みかけいし) 立山石(たつやまいし) 豊島石(てしまいし)等(とう)は材用(さいよう)に施(ほどこ)し人用(にんよう)に益(ゑき)して翫(くわん)
物(ぶつ)にあらず故(ゆへ)に其(その)三四箇条(さんしかてう)を下(しも)に挙(あげ)て其余(そのよ)を略(りやく)す○和泉石(いつみいし)は色(いろ)必(かならす)
青(あを)く石理(いしめ)精(こまか)にして牌文(ひもん)【ママ】等(とう)を刻(こく)す又(また)阿州(あしう)より近年(きんねん)出(いだ)すもの是(これ)に類(るい)
す其石(そのいし)ねぶ川(かわ)に似(に)て色(いろ)緑(みどり)に石形(いしのかたち)片(へぎ)するがごとし石質(せきしつ)は硬(かた)からず又(また)城州(しやうしう)
にては鞍馬石(くらまいし) 加茂川石(かもがはいし) 清閑寺石(せいがんじいし)等(とう)是(これ)を庭中(ていちう)の飛石(とひいし)捨石(すていし)に置(おき)て
水(みつ)を保(たも)たせ濡色(ぬれいろ)を賞(せう)し凡(すべ)て貴人(きにん)茶客(さかく)の翫物(くわんもつ)に備(そな)ふ

  ○豊島石(てしまいし)

大坂(おほさか)より五十里 讃州(さんしう)小豆島(せうどしま)の辺(へん)にて廻環(めぐり)三里の島山(しまやま)なり家(いへ)の浦(うら)かろう
と村(むら)こう村の三村(さんそん)あり家(いへ)の浦(うら)は家数(いへかず)三百 軒(けん)計(ばかり)かろうと村(むら)こう村は各(おの〳〵)百七八
十 軒(けん)ばかり中(なか)にもかろうとより出(いづ)る物(もの)は少(すこし)硬(かた)くして鳥井(とりゐ)土居(どゐ)の類(るい)是(これ)を
以(もつ)て造製(さうせい)すさて此山(このやま)は他山(たのやま)にことかはりて山(やま)の表(おもて)より打切(うちきり)堀取(ほりとる)にはあらず
唯(たゝ)山(やま)に穴(あな)して金山(かなやま)の坑場(しきくち)に似(に)たり洞口(とうこう)を開(ひら)きて奥(おく)深(ふか)く堀入(ほりい)り敷口(しきくち)を縦横(しうわう)に

【右丁 挿絵の説明】
讃州(さんしう)豊(て)
島石(しまいし)

【左丁 挿絵のみ】

【右丁 挿絵のみ】
【左丁 挿絵の説明】
同豊(て)
島(しま)
細工(さいく)
所(しよ)

切抜(きりぬ)き十町廿町の道(みち)をなす。採工(げざい)松明(たいまつ)を照(てら)しぬれば穴中(けつちう)真黒(まつくろ)にして石共
土(つち)とも分(わか)ちがたく採工(げざい)も常(つね)の人色(にんしよく)とは異(こと)なり。かく堀入(ほりいる)ことを如何(いかん)となれば。
元(もと)此石(このいし)には皮(かわ)ありて至(いたつ)て硬(かた)し。是(これ)今(いま)ねぶ川(かは)と号(なづけ)て出(いだ)す物(もの)にて《割書:本ねぶ川|は伊予(いよ)也》矢(や)を
入(い)れ破取(わりとる)にまかせず。たゞ幾重(いくへ)にも片(へ)ぎわるのみなり。流布(るふ)の豊島石(てしまいし)は其
石の実(み)なり。故(かるがゆへ)に皮(かわ)を除(よけ)て堀入る事しかり。中(なか)にも家(いへ)の浦(うら)には敷穴(しきあな)七ツ有(あり)。
されども一山(いつさん)を越(こ)えて帰(かへ)る所(ところ)なれば器物(きぶつ)の大抵(たいてい)を山中(さんちう)に製(せい)して担(になひ)出(いだ)せり
水筒(ゐつゝ)。水走(みつはしり)。火炉(くはろ)。一ツ竈(へつい)などの類(るい)にて。格別(かくべつ)大(おほい)なる物はなし。かう村は漁村(ぎよそん)なれ
ども石もかろうとの南(みなみ)より堀出(ほりいだ)す。石工(せきこう)は山下に群居(くんきよ)す。但(たゞ)し讃州(さんしう)の山(やま)は悉(こと〴〵)く
此石のみにて。弥谷(いやたに)善通寺大師(ぜんつうじだいし)の岩窟(いわや)も此石にて造(つく)れり
○石理(いしめ)は 磊落(いしくず)のあつまり凝(こり)たるがことし。浮石(かるいし)に似(に)て石理(いしめ)麤(あらき)なり。故(ゆへに)水盥(みづたらい)
などに製(せい)しては。水漏(みつも)りて保(たもつ)ことなし。されども火に触(ふれ)ては損壊(そんくわい)せず。下野(しもつけ)宇(う)
都宮(つのみや)に出(いた)せるもの此石(このいし)に似て。少(すこ)しは美(び)なり。浮石(かるいし)は海中(かいちう)の沫(あは)の化(け)したる
物(もの)にて伊予(いよ)。薩摩(さつま)。紀州(きしう)。相模(さがみ)に産(さん)すされば此山も海中(かいちう)の島山(しまやま)なれば開(かい)

闢(ひやく)以後(いご)汐(しほ)の凝(こり)たる物(もの)ともうたがはれ侍(はへ)る塩飽(しあく)の名(な)も若(もし)は塩泡(しほあわ)の転(てん)じ
たるにか○塩飽石(しあくいし)は御留山(おとめやま)となりて今(いま)夫(それ)と号(なづ)くる物(もの)は多(おゝ)く貝付(かいつき)を賞(せう)す
是(これ)其辺(そのへん)の礒石(いそいし)にて石理(いしめ)粋米(こゞめ)のごとくにて質(しやう)は硬(かた)し飛石(とひいし)水鉢(みづはち)捨石(すていし)等(とう)に
用(もちひ)て早(はや)く苔(こけ)の生(お)ふるを詮(せん)とす礒石(いそいし)は波(なみ)に穿(うが)たれて礧(ゆがみ)砢(くほみ)異形(いぎやう)を珍重(ちんてう)【珎は俗字】す

  御影石(みかげいし)
摂州(せつしう)武庫(むこ)。菟原(むはら)の二郡(にくん)の山谷(さんこく)より出(いだ)せり。山下(ふもと)の海浜(かいひん)御影村(みかけむら)に石工(いしや)ありて。
是(これ)を器物(きふつ)にも製(せい)して積出(つみいだ)す故(ゆへ)に御影石(みかげいし)とはいへり。御影山の名(な)は城州(じやうしう)加茂(かも)
あふひを採(と)る山(やま)にして此国(このくに)に山名(さんめい)あるにあらず。たゞ村中(そんちう)に御影(みかけ)の松(まつ)有(あり)て。
続古今集(しよくこきんしう)【読は誤】に基俊卿(もととしきやう)の古詠(こゑい)あり。元(もと)此山(このやま)は海浜(かいひん)にて往昔(むかし)は牛車(うしくるま)などに負ふ
することはなかりしに。今は海渚(かいしよ)次第(しだい)に侵埋(うもれ)て山(やま)に遠(とを)ざかり。石(いし)も山口(やまくち)の物(もの)は
取尽(とりつき)ぬれば。今は奥深(おくふか)く採(と)りて廿丁も上(かみ)の住(すみ)よし村より牛車(うしくるま)を以(もつ)て継(つい)て
御影村(みかけむら)へ出(いだ)せり。有馬街道(ありまかいどう)生瀬(なませ)川原(かわら)などの石(いし)も此(この)奥山(おくやま)とはなれり。此上 品(ひん)の

【右丁 挿絵の説明】
摂州(せつしう)
御影石(みかげいし)

【左丁 挿絵のみ】

橋台(はしたい) 石橋(いしばし) 庭砌(ていれき)【注】 土居(とゐ)など其用(そのよう)多(おゝし)又(また)石橋(いしばし)に架(かく)る物(もの)別(べつ)に河州(かしう)より出(いたす)
石(いし)も有(ある)なり○切取(きりとる)には矢穴(やあな)を堀(ほり)て矢(や)を入(い)れなげ石(いし)をもつてひゞきの入(いり)たるを
手鉾(てこ)を以(もつ)て離取(はなしとる)を打付割(うちつけわり)といふ又(また)横(よこ)一文字(いちもんじ)に割(わる)をすくい割(わり)とはいふなり

【注 「砌」の音は「セイ」】

  ○竜山石(たつやまいし)
播州(ばんしう)に産(さん)して一山(いつさん)一塊(いつくわい)の石(いし)なる故(かゆへ)に樹木(じゆもく)すくなし。往々(ところ〳〵)此石山 多(おゝ)けれども運(うん)
送(さう)の便(たより)よき所(ところ)を切出(きりいだ)して。今は堀採(ほりとる)やうになれども。運送(うんさう)不便(ふべん)の山(やま)はいたづら
に存(そん)して切入(きりい)る事(こと)なし。石(いし)の宝殿(ほうでん)は即(すなはち)。立山石(たつやまいし)にして其辺(そのへん)を便所(へんしよ)として専(もつはら)
切出(きりいだ)し採法(さいはう)すべてかはることなし。故(ゆへ)に図(づ)も略(りやく)せり。色(いろ)は五綵(ごさい)を混(こん)ず。切(きり)て形(かたち)を
成(な)す事。皆(みな)方条(ながて)にのみあり。溝渠(みそ)。河水(かは)の涯岸(きし)。或(あるひは)界壁(さいめ)の敷石(しきいし)。敷居(しきい)の土居(とゐ)
庭砌(ていれき)等(とう)の用(よう)に抵(あ)てゝ他(た)の器物(きぶつ)に製(せい)することなし。大(おほき)さは三四尺より七八尺にも。
及(およ)び方(はう)五寸に六寸の物(もの)を。五六といひ。五寸に七寸を。五七といひて。尚(なを)大(おほい)なる品(ひん)
数(すう)あり《割書:麓(ふもと)の塩市村(しほいちむら)に石工(せつく)あり南(みなみ)の尾崎(おさき)に竜(たつ)が端(はな)といひて|竜頭(たつかしら)に似(に)たる石(いし)あり故(ゆへ)に竜山(たつやま)といふ》

石といふは至(いたつ)て色(いろ)白(しろ)く黒文(くろふ)なし。是は昔(むかし)に出(いで)て今は鮮(すく)なし。されども其(その)費(ひ)
用(よう)をだに厭(いと)はずして。高嶽(かうかく)深谷(しんこく)に入(いつ)ては。得(え)ざるへきにあらずといへども。運送(うんそう)車力(しやりき)の便(たより)なき所(ところ)のみ多(おゝ)し
○石質(いしのしやう) 文理(いしめ)は京(きやう)白川(しらかは)石に似(に)て至(いたつ)て硬(かた)し故(かるがゆへ)に器物(きぶつ)に制(せい)するに微細(ひさい)の稜(か)
尖(と)も手練(しゆれん)に応(おう)ず。白川は酒落(ほろ〳〵)して工(たくみ)に任(まか)せず。石工大なる物(もつ)に至(いたつ)ては難波(なには)
天王寺の鳥井(とりゐ)などをはしめ城廓(しやうくはく)。石槨(せきくはく)。仏像(ふつぞう)。墓牌(ぼひ)【碑の誤】。築垣(ついかき)に造(つく)り琢磨(たくま)【啄は誤】し
ては皮膚(ひふ)のごとし。是(これ)万代(ばんたい)不易(ふへき)の器材(きさい)。天下の至宝(しほう)なり
○品数(ひんすう)      直塊(のつら)は。大鉢(おほはち)。中鉢(ちうはち)。小鉢(こはち)。《割書:鉢(はち)とは手水鉢(てうずはち)に用(もちおゆ)るにより本語(ほんご)とはす|れども柱礎(はしらいし)溝石(みぞいし)なとをはしめその用多し》
頭(ず)無(なし)は大(おほき)さ大抵(たいてい)一尺五六寸にして。其上(そのうへ)の物(もの)を一ツ石と号(なづ)く。又六人といふは
一 荷(か)に六(むつ)宛(づゝ)担(になふ)の名(な)なり。栗石(くりいし)は小石にして大雨(たいう)の時(とき)には山谷(さんこく)に転(ころ)び落(おつ)る
物(もの)ゆへ石に稜(かど)なし是は鉢前(はちまへ)蒔石(まきいし)等(とう)に用(もち)ゆ《割書:石(いし)をくりといふこと応神記の哥(うた)に見へたり。また|万葉集(まんようしう)に奥津(おきつ)はくりともよみて山陰道(さんいんどう)の俗(そく)》
《割書:言(ご)なりともいへり。大小|にかゝはらずいふとぞ》
割石(わりいし)は大割(おほわり) 中割(ちうわり) 小割(こわり) 延条(のべ)《割書:長(なか)く切(きり)たる|石なり》蓋石(ふたいし)《割書:大抵(たいてい)長二尺計 幅(はゞ)|一尺一二寸 厚(あつさ)三四寸》いづれも築垣(ついがき)

BnF.

《割書:千八百|七十年》孛佛戦記 四
【図書館蔵書記号】
JAPONAIS
5631
4

【白紙】

緒言
余嚮 ̄ニ承 ̄テ_二 十-洲細-川先-生之囑 ̄ヲ_一。而
任 ̄ス_二此 ̄ノ書之翻-譯 ̄ヲ_一。業未【シテ】 ̄タ_レ半 ̄ナラ而先-生
有 ̄リ_二海-外之役_一。不_三啻 ̄ニ闕 ̄ノミ_二校-閱之資 ̄ヲ_一。
頃 ̄ロ余 ̄モ亦公-務鞅-掌。不_レ能 ̄ハ_二速 ̄ニ卒 ̄ルヿ_一レ業 ̄ヲ。
故 ̄ニ煩 ̄ハシ_二友-人立-花氏 ̄ヲ_一。戮 ̄セテ_レ力 ̄ヲ從-事既 ̄ニ

得 ̄タリ_レ刊_二-行 ̄スルコトヲ初-帙 ̄ヲ_一。其 ̄レ奈 ̄ンセン前-門雖 ̄トモ_レ禦 ̄クト_下責 ̄ルノ_二
愉-綖 ̄ヲ_一之虎 ̄ヲ_上。後-門卻 ̄テ進 ̄ム_下促 ̄スノ_二嗣-刻【𠜇】 ̄ヲ_一之
狼 ̄ヲ_上。因 ̄テ惟 ̄フニ此 ̄ノ書記 ̄スルヤ_二孛-佛兩-國搆-兵
之事 ̄ヲ_一。政-敎之得-失。府-庫之貧-富。
人-心之向-背。器-械之精-粗。戰-鬪
之利-鈍。凡 ̄テ所_三-以 ̄ノ關_二-涉 ̄スル於其 ̄ノ盛-衰 ̄ニ_一

者 ̄ハ詳 ̄ニ論 ̄シテ而無 ̄シ_二遺-漏_一。實 ̄ニ國-家之龜-
-鑑。人-心之鍼-砭也。宐【𡧧】 ̄ナル哉世-人促 ̄スノ_二
嗣刻【𠜇】 ̄ヲ_一之急-迫 ̄ナル。何 ̄ソ可 ̄ン_下口_二-實 ̄トシテ劇-務 ̄ヲ_一而
遲-緩 ̄ス_上耶(ヤ)。於 ̄テ_レ是 ̄ニ復 ̄タ與_二立-花氏_一。相 ̄ヒ-謀 ̄リ
合-譯共-校 ̄シテ而輙 ̄チ卒 ̄フ_二第-二-帙之業 ̄ヲ_一。
其 ̄ノ成-功何 ̄ソ速 ̄ナル。此 ̄レ自 ̄ハ_レ非 ̄ル_三晨-昕硏-精

惜 ̄ムニ_二寸-陰 ̄ヲ_一安 ̄ソ能 ̄ク得 ̄ン_レ如 ̄キヲ_レ是 ̄ノ。伹恐 ̄ル倉-卒
脫 ̄ス_レ稿 ̄ヲ。文-辭澁-滯。讀 ̄ム-者或 ̄ハ有 ̄ンコトヲ_下不 ̄ル_レ能 ̄ハ_三
遽 ̄ニ達 ̄スルコト_二其意 ̄ニ_一者_上。乞 ̄フ恕 ̄セヨ。
明-治辛-未季-夏仲-澣題 ̄ス_二於東-京
外-務-省 ̄ノ官-舍 ̄ニ_一春濤芳川俊雄
【印「春濤」】【印「俊雄」】

《割書:千八百|七十年》孛佛戰記卷之四

              《割書:芳川萬三郎|立花鼎之進》譯

  ○第五篇
今度ノ戰爭ニ於テ論ズベキ要用ノ事件ハ「孛魯
士」「佛郎西」兩國貧富ノ形情ナリ是今般干戈ヲ動
カスニ方リ自然勝敗ノ機ノ關スル者ニシテ論
ゼザルヲ得ザル箇條ナリ○然レトモ「佛郎西」國ノ
會計ヲ論ズルヤ精宻ニ筭定スル事能ハザル一

難事アリ是其帝國會計執政等ノ筭勘皆私アリ
テ一致セザルヲ以テナリ○右執政等ヨリ𥘋メ
來年金穀出納定筭簿ヲ出セリ然ルニ其後一箇
年或ハ二箇年目ニ又前年ノ出納定筭改正簿ヲ
出シ其後又一箇年二箇年目ニ至リ恐クハ三年
前出納ノ決筭簿ヲ出セリ右出ス所ノ定筭簿其
執政ニヨリ或ハ四十【千ヵ】五百万/元(ドルラル)ナルアリ五千万
元ナルアリテ其多寡互ヒニ異レリ○且ツ其不
正ナルコトハ實ノ國費ヲ計ルニ此定筭簿ノ如ク
多キコトナシ○十六年ノ經過ヲ以テ國債五百五

千万元ニ減ゼリ是逐次ニ租稅收金アルヲ以テ
ナリ又「佛郎西」國政府諸廳ニ於テ皆偽詐ヲ主ト
シテ公財ヲ私スルノ夥キハ人皆知ル所ナリ○
於是成ベキダケ精宻ニ一千八百七十年ノ𥘋ヨ
リ「佛郎西」國會計ノ多寡形情如何ヲ捜索シテ次
ニ其筭定ヲ著ハセリ
一千八百六十九年「佛郎西」國ニテ收納セシ所ノ
租稅ノ全數ハ四億二万五千七百四十四千三百【ママ】
六十元ニシテ合衆國ノ租稅ニ過ルコト五千四百
八十万六百十二元ナリ○此髙ハ諸運上及ビ國

内工作ノ諸稅ヨリ收メシモノニシテ總テ帝國
ノ諸費ニ供スルモノナリ
租稅ノ重立タルモノ左ノ如シ
 直稅       六五、九〇三、七三二元
 書記稅手數料及ビ證印稅
          八六、七八九、二〇〇元
 諸運上及ビ䀋稅  二〇、七二四、六〇〇元
 諸郡ヨリ納ムル稅及ビ「マヨール」支配地ヨリ
 納ル稅      四五、六四九、一六六元
 酒及ビ酒精類ノ稅 四六、九四三、二〇〇元

 專賣煙草稅    四九、五二一、六〇〇元
右舉ル所ノ表ハ「佛郎西」國ニ於ケル收稅ノ由テ
起ル所ノモノヲ示セリ目今ノ戰爭ニ於テ軍費
ノ多分ハ之ヨリ取ル者ト知ルベキナリ
同時ニ筭定セル費用ハ四億四千六十六万八千
百三十元ニシテ次條ニ舉ルガ如ン【シ】
 國債元金及浮債《割書:方今償却スベ|キモノヲ云》ノ費
          七四、四四九、一五三元
 王室ノ諸費    四〇、〇四九、五八七元
 軍務局ノ諸費   七四【、】一七二、一五五元

 會計局ノ諸費   二三、八八九、五六五元
 海軍局及植民所ノ諸費
          三二、二六七、六八四元
 諸稅收納ノ諸費  四六、八五五、〇二二元
「佛郎西」國軍務ノ費用ハ太平無事ニ於テ全計七
千四百万元ナリ是レ四十万四千人ノ常僃兵ノ
費用ニシテ非常ニ供スル時ノ雜費ハ此數ノ外
ナリ○其他海軍及植民地ノ諸費ヲ合シテ三千
二百二十六万七千六百八十四元ナリ○斯ノ如
キ大費用アルニ由テ年々「佛郎西」國ニ於テハ收

稅多シト雖トモ其費ヲ償フ事ヲ能ハズ且ツ軍務
ノ豫僃ヲ充分ニ爲ス事ヲ得ザルベシ「合衆」國戰
爭ノ時ニ於ケルガ如シ○且「佛郎西」國ノ諸費ハ
年ヲ逐テ漸ク增加スル事左ノ如シ又其後年々
ニ倍蓰セリ
 一千八百五十二年 三七一、〇〇〇、〇〇〇元
 一千八百五十三年 四四一、六〇〇、〇〇〇元
 一千八百五十四年 四一六、八〇〇、〇〇〇元
 一千八百五十五年 四三四、〇〇〇、〇〇〇元
 一千八百五十六年 四二一、四〇〇、〇〇〇元

 一千八百五十七年 四五七、四〇〇、〇〇〇元
帝國創業ヨリ一千八百六十三年ノ末ニ至ルマ
デ十一年閒通例ノ收稅二億九千七百四十万元
ヨリ四億五千二百八十万元ニ增加セリ然ルニ
其費用ハ右十二年閒ニ増大スル事三億二百六
十万元ヨリ四億五十【千ヵ】七百四十万元ニ至レリ○
一千八百五十五年ハ收稅多キヲ以テ出納相適
スレトモ其餘ノ年々ハ別ニ大費用アリテ其費用
收稅ノ上ニ超ヘザル事一年モアルコト無シ○政
府ニテ年々會計ノ不足ヲ補ハンガ爲メニ一千

八百五十四年ヨリ一千八百七十年マデノ

BnF.

【表紙】

【見返し 資料整理ラベル】
JAPONAIS
 368

【見返し 文字なし】

【白紙】

【白紙】

【白紙の頭部に手書きメモの数字】
1828【上から線を引いて見せ消ち】
368
【同下部に手書きメモ】
29 aout 1855
Don F43  【適当です】

【表紙 題簽】
北斎画式

【表紙裏 文字なし】

先画は小天地にして此道を得んと
欲る人は胸中に四時の気を備て
指上に造化の工を奪ふにあらすんは
其妙を得ことあたはす爰に東都
葛飾北斎虔士は幼より此道を好み
常に造化を師として其妙趣を
極む古今独歩といふへし往年より

門下初心の為に画譜数篇を着す
然とも人々其好に応して得意を
全ふせさるを愁ふ爰を以今年浪華
宋栄堂の主人此画式を乞山水人
物禽獣草木初心の規矩となるへき
ものゝ尤勝たるを求て梓に鏤名て北斎
画式といふ画に志有の輩及諸職百工

         【枠外囲み】序一

【推定】鏤(ちりば)名(め)て

の徒此画式によつて出入せは其図
を伸縮左右し且画法得こと師に随
て学か如し予北斎虔士及宋栄堂
主人と素紹友たるによつて此事を記
文政改元重陽
       東都 景山虔士

【4行目の紹友には約友の案あり。また、山口素絢のことではないかという教示あり。しかし、この文は「予」から始まっているので、素絢と読めば文脈が混乱する。よって、「予は北斎及び宋栄堂主人と「もとより」親友である。」と読むべきだと思われる。】

臥游

        【枠外囲み】序二

蛭子(ひるこ)

【右帖】
白太夫(しらたゆう)

        【枠外囲み】一

【左帖】
戯場(けじやう)に
  寄(よる)  梅(むめ)松(まつ)桜(さくら)

【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】二


【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】三


【右帖】
淵辺(ふちべ)伊賀守(いがのかみ)
大塔(おゝとう)の宮(みや)を
   窺(うかゞ)ふ

        【枠外囲み】四

【左帖 文字なし】


【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】五

【右帖】
不動明王(ふどうめうわう)
       【欄外囲み】六
【左帖】
役小角(ゑんのせうかく) 《割書:後鬼(ごき)|前(ぜん)鬼(き)》
            

【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】七

【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】八

【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】九

【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】十

【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】十一

【右帖】
【画像のみ文字なし】

        【枠外囲み】十二
【左帖】
鈆花(おしろひ)《割書:に|》   【鈆花=鉛華】
  交魚(まぜさかな)

【画像のみ文字なし】
        【枠外囲み】十三

【画像のみ文字なし】
        【枠外囲み】十四

【画像のみ文字なし】
        【枠外囲み】十五

【画像のみ文字なし】
        【枠外囲み】十六

【右帖】
雨後月(うごのつき)
        【枠外囲み】十七
【左帖】
【画像のみ文字なし】

舩(ふね)の起(おこり)
        【枠外囲み】十八

源(みなもと)の
頼光(よりみつ)

【画像のみ文字なし】
        【枠外囲み】十九

【右帖】
【画像のみ文字なし】
        【枠外囲み】二十
【左帖】
在郷(ざいてい)

毘沙門天(びしやもんてん)
        【枠外囲み】廿一

【右辺上】
東都画工先北斎先生 
 葛飾載斗筆印
【右辺下】
摂陽 千鶴亭北洋
浪花 雪花亭北集洲
《割書:交合|門人》春陽斎北敬
板木工 大坂 山崎庄九郎
【上】
文政二年卯四月
   書林
【下】
江戸日本橋一丁目
   須原屋 茂兵衛
同浅草新寺町
   和泉屋 庄治郎
尾州名古屋本町七丁目
   永楽屋 東四郎
大阪心斎橋安堂寺町
   秋田屋 太右衛門
京都堀川仏光寺
   伏見屋 藤右ヱ門
同三条通御幸町
   和泉屋 利兵衛

【裏表紙 文字なし】

【白紙】

【見返し】

【見返し】

【裏表紙】

【背表紙 五等分した区割りの1,3,4番目の同じ王冠マークとアルファベット「N」】
【資料整理ラベル】
[JA] PONAI [S]

【冊子の天或は地】

【冊子の小口】

【冊子の天或は地】

BnF.

【表紙】

【題簽】
神通五行六親納甲□【旁は各か】

【白ラベル JAPONAIS 1244】

      馬禄占
図の如く病人を占ふに若病人の生死を尋占ひを是に時に当て
此図に向ひ数へ見る事又其煩ひ付の日をも聞て繰見るべし
     大の月は上より馬々々禄馬禄馬禄馬禄を順に下へ繰りおろして
                               又上より
                             繰下る
                             べし
    正五九  馬【逆さ字】馬馬【右倒し字】禄【逆さ字】馬【右倒し字】禄馬【右倒し字】禄【逆さ字】馬禄【逆さ字】
    二六十  馬禄馬禄【左倒し字】馬【逆さ字】禄【左倒し字】馬禄【左倒し字】馬【逆さ字】禄
    三七十一 禄馬【右倒し字】禄馬【右倒し字】禄馬【右倒し字】馬【右倒し字】馬【右倒し字】禄【逆さ字】馬
    四八十二 馬禄馬禄【左倒し字】馬【逆さ字】禄【左倒し字】馬禄【左倒し字】禄【左倒し字】
             【朱印 R.F. BIBLIOTHEQUE NATIONALE SSW】
     小の月なれば下より上に繰登るべし
右馬の字は早く治す馬【逆さ字】なれは生命危し馬【左倒し字・注】なれば長引くも治すべし
禄は早く治す禄【逆さ字】は死す禄【右倒し字・注】は長引くも治すべし

【注 馬の左倒し字と禄の右倒し字は図中に無し】

【頁右上端の書き込み JAPON. 1244】

持 ̄ス世 ̄ヲ凡 ̄ノ事【事はコトの合字】不穏阻滞 ̄ル○身命時々損
失有○仕官盛 ̄ヲ吉 ̄トス○凡墓 ̄ニ入 ̄ハ憂多 ̄シ○
冲 ̄ニ遇 ̄エハ却 ̄テ吉 ̄トス
妻【○囲み朱字】妻財発動病【○囲み字】脾 ̄ノ胃障 ̄リ縁【○囲み字】吉産【○囲み字】安 ̄シ望【○囲み字】
吉旅【○囲み字】障勿動失【○囲み字】家 ̄ヲ出 ̄ル宅【○囲み字】青竜 ̄ニ着旺 ̄レハ富 ̄ム
○変化進神 ̄ニ化 ̄レハ金手 ̄ニ入 ̄ル○官鬼 ̄ニ化 ̄レハ憂
有○子 ̄ニ化 ̄レハ悦 ̄ヒ笑 ̄フ○父 ̄ニ化 ̄レハ主人吉 ̄シ○兄 ̄ニ
化 ̄レハ破損○持 ̄レハ世 ̄ヲ財益 ̄ス○官兄 ̄ニ化 ̄レハ凡凶
兄【○囲み朱字】兄弟 ̄ノ発動病【○囲み字】難 ̄シ_レ愈売【○囲み字】本 ̄ヲ損 ̄ス仕【○囲み字】官【○囲み字】吉
神 ̄ヲ帯 ̄レハ吉左勿 ̄クハ損失多 ̄シ妨有待【○囲み字】不来 ̄ラ縁【○囲み字】

【○は朱色】

【頁左上端の書き込み JAPON. 1244】

妾【○囲み字】婢【○囲み字】心 ̄ニ不任 ̄セ身【○囲み字】命【○囲み字】女 ̄ニ付殃有○変化
退神 ̄ニ化 ̄レハ凡無障○父 ̄ニ化 ̄レハ妾奴婢 ̄ニ驚 ̄ク事【事はコトの合字】
有○妻 ̄ニ化 ̄レハ金宝 ̄ニ障 ̄ル○官 ̄ニ化 ̄レハ親戚兄弟 ̄ニ
災有○子 ̄ニ化 ̄レハ凡吉○持世財 ̄ヲ不得○
朱雀 ̄ヲ帯 ̄レハ口舌有○官発動 ̄スレハ禍有又官
発動 ̄シテ【シテは合字】官 ̄ニ変 ̄レハ奇災有也

【○は朱色】

父【○囲み朱字】父母 ̄ノ発動病【○囲み字】薬用 ̄モ勿効売【○囲み字】利勿縁【○囲み字】
子勿音【○囲み字】来 ̄ル失【○囲み字】逃【○囲み字】共 ̄ニ訴 ̄ヘ穿議 ̄ニ及 ̄フ身【◯囲み字】小児 ̄ニ
障有○変化進神 ̄ニ変 ̄レハ文書 ̄ノ事【事はコトの合字】 ̄ニ吉○子
孫 ̄ニ変 ̄レハ家内無事○官鬼 ̄ニ変 ̄レハ転職 ̄ノ事【事はコトの合字】有
○妻財 ̄ニ化 ̄ハ家主憂有○持 ̄レハ世 ̄ヲ凡 ̄ノ事【事はコトの合字】身
労○身命妻財 ̄ノ爻 ̄モ共 ̄ニ動 ̄ケハ能 ̄キ妻難得又
長寿 ̄シ難 ̄シ又家督 ̄ヲ不得又官鬼動 ̄テ妻財
無事成 ̄ハ学文 ̄ヲ以出身 ̄ス
子【○囲み朱字】子孫 ̄ノ発動病【○囲み字】宜 ̄シキ医 ̄ヲ得 ̄ル売【○囲み字】平安縁【○囲み字】吉
旅【○囲み字】安 ̄シ訴【○囲み字】終 ̄ニ和 ̄ス産【○囲み字】吉勤【○囲み字】凶貴【○囲み字】人【○囲み字】 ̄ニ謁【○囲み字】凶○

【○は朱色】

身命男 ̄ノ身 ̄ニ滞 ̄リ有○変化退身 ̄ニ化 ̄レハ人 ̄ヲ求 ̄メ
財 ̄ヲ求 ̄ルコト【コトは合字】凶○父母 ̄ニ化 ̄レハ作蚕敗 ̄ル○妻財 ̄ニ化 ̄ハ
物事【事はコトの合字】吉 ̄シ○官鬼 ̄ニ化 ̄レハ産凶○持 ̄レハ世 ̄ヲ凡吉
最克 ̄ニ遇 ̄フハ凶○仕官凶○詞訟妨勿
失物得 ̄ル
官【○囲み朱字】官鬼発動病【○囲み字】苦 ̄ム若旺盛 ̄レハ発化 ̄ス縁【○囲み字】不
成疑滞有旅【○囲み字】逃【○囲み字】共 ̄ニ災有勝【○囲み字】負 ̄ル訟【○囲み字】負 ̄ル売【○囲み字】
利薄 ̄シ失【○囲み字】難得○変化進神 ̄ニ化 ̄レハ仕官速 ̄ニ
成○妻 ̄ニ化 ̄レハ病凶○父 ̄ニ化 ̄レハ文書 ̄ノ類成○
子 ̄ニ化 ̄ハ官途 ̄ニ障 ̄ル○兄 ̄ニ化 ̄レハ家内 ̄ニ不和 ̄ヲ生 ̄ス○

【○は朱色】

【白紙】

巳四月 戌(壬)  申  午  辰(甲)  寅  子  六龍御天 春 吉
 乾   ○世  ○  ○   ○応  ○  ○  広大包容 夏 凶
卅 冲  父   兄  官   父   オ  子  龍尓変化 秋 平
                       万物資始 冬 吉

午五月 戌(壬)  申  午  酉(辛)  亥  丑  風雲相済 春不利
 姤   ○   ○  ○応  ○   ○  ○世 君臣会合 夏 病
十八   父   兄  官身  兄   子  父  菓有樹頭 秋福徳
                       鳳出逢鸞 冬 凶

未六月 戌(壬)  申  午  申(辛)  午  辰  豹南山陰 春 吉
 遯   ○   ヽ応 ○   ○   ○世 ○  遷善遠悪 夏 凶
廿九   父   兄  官   兄   官  父  貴人隠山 秋 平
                       鑿井無泉 冬 凶

申七月 戌(壬)  申  午  卯(辛)  巳  未  天地不交 春 吉
 否   ○応  ○  ○   ○世  ヽ  ○  人口不円 夏 凶
十九合  父   兄身 官   オ   官  父  月蔵霧中 秋 平
                       寒鶯待春 冬 吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

酉八月 卯(辛)  巳  未  卯(乙)  巳  未  雲晴空捲 春  平
 観   ○   ヽ  ○世  ○   ○  ○応 春花競開 夏  凶
十一   オ   官  父   オ   官  父  風揚塵埃 秋  吉
                       見■遇雨 冬  凶

戌九月 寅(丙)  子  戌  卯(乙)  巳  未  旧去新生 春 旺吉
 剥   ヽ   ○世 ○   ○   ○応 ○  郡陰剥画 夏  平
八    オ   子  父   オ   官  父  鼠穿倉禀 秋  凶
                            冬 不利

卯二月 巳(己)  未  酉  卯(乙)  巳  未  竜剣出匣 春  吉
 晋游  ○   ヽ  ○世  ○   ○  ○応 臣以逢君 夏  平
廿八   官   父  兄   オ   官  父  満地鏽錦 秋  凶
                       人登玉階 冬  吉

寅正月 巳(己)  未  酉  辰(甲)  寅  子  金玉堂満 春  吉
 奢帰  ○応  ヽ  ○   ○世  ○  ○  日中天麗 夏  平
十七   官   父  兄   父   オ  子  穿窓開明 秋  凶
                       深谷発花 冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

【「見■遇雨」は「見華遇雨」ヵ】

亥十月 未(丁)  酉  亥  丑(丁)  卯  巳  江湖物巻 春  吉
 兌   ○世  ヽ  ○   ○応  ○  ○  天雨沢降 夏  凶
五 冲  父   兄  子   父   オ  官  新月旺地 秋  吉
                       有挙有譏 冬  病

午五月 未(丁)  酉  亥  午(戊)  辰  寅  河中無水 春  吉
 困   ○   ○  ○応  ○   ヽ  ○世 守己待時 夏  凶
十五   父   兄  子   官   父  オ  鴉啼枯木 秋  平
                       沢中有湿 冬  凶

未六月 未(丁)  酉  亥  卯(乙)  巳  未  魚竜娶会 春  吉
 萃   ○   ヽ応 ○   ○   ○世 ○  水下如就 夏  凶
十七   父   兄  子   オ   官  父  鯉登竜門 秋  平
                       妓歌衆順 冬  凶

寅正月 未(丁)  酉  亥  申(丙)  午  辰  山沢気通 春  吉
 咸   ○応  ○  ヽ   ○世  ○  ○  大明天当 夏  平
卅    父   兄  子   兄   官  父  鶯吟鳳舞 秋  凶
                            冬  凶

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

酉八月 子(戌)  戌  申  申(丙)  午  辰  飛雁蘆啣 春  凶
 蹇   ○   ヽ  ○世  ○   ○  ○応 明背暗向 夏 自如
廿一   子   父  兄   兄   官  父  門前有陥 秋  吉
                       寒蝉悲風 冬  病

戌九月 酉(癸)  亥  丑  申(丙)  午  辰  地下有山 春  平
 謙   ○  ○世  ○   ヽ   ○応 ○  高仰下就 夏  吉
十八   兄   子  父   兄   官  父  登山平安 秋  吉
                       称物平施 冬  吉

卯二月 戌(庚)  申  午  申(丙)  午  辰  飛鳥音遺 春  吉
 ■游  ○   ○  ヽ世  ○   ○  ○応 上逆下順 夏  吉
二    父   兄  官   兄   官  父  飛鳥山過 秋  凶
                       門前有兵 冬  平

申七月 戌(庚)  申  午  丑(丙)  卯  巳  浮雲日蔽 春  凶
 ■帰  ○応 ヽ   ○   ○世  ○  ○  陰陽不交 夏  吉
九    父  兄   官   父   オ  官  芙蓉戴霜 秋  凶
                       西施傾国 冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

巳四月  巳(己)   未  酉   亥(己)   丑  卯  飛禽有網 春  凶
 離   ○世  ○  ○   ○応  ヽ  ○  大明天当 夏  吉
朔    兄   子  オ   官   子  父  雉罹網中 秋  病
                       秋葉飄風 冬 不吉

午五月  巳(己)   未  酉   申(丙)   午  辰  鳥巣如焚 春 半吉
 旅   ○   ヽ  ○応  ○   ○  ○世 楽極衰生 夏 失財
七 合  兄   子  オ   オ   官  子  日西山傾 秋  凶
                       見鳥失矢 冬 不利

丑十月  巳(己)   未  酉   酉(辛)   亥  丑  旧改新就 春 口舌
 鼎   ○   ヽ応 ○   ○   ○応 ○  豹変虎成 夏  凶
十二   兄   子  オ   オ   官  子  鼎鼐調味 秋  凶
                       微昄過床 冬  吉

申七月  巳(己)   未  酉   午(戊)   辰  虎  海竭珠求 春  平
 未   ○応  ヽ  ○   ○世  ○  ○  憂中喜有 夏  平
朔    兄   子  オ   兄   子  父  暁光浮海 秋 自如
                       落花結実 冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

酉八月  寅(丙)   子  戌   午(戊)   辰  寅  人畑草蔵 春  凶
 蒙   ○   ○  ○世  ○   ヽ  ○応 万物発生 夏  平
廿七冲  父   官  子   兄   子  父  巌険雲煙 秋 不利
                       生花未開 冬 口舌

辰三月  卯(辛)   巳  未   午(戊)   辰  寅  水順舟行 春  平
 渙   ○   ○世 ヽ   ○   ○応 ○  大風物吹 夏  平
四    父   兄  子   兄   子  父  順風駕帆 秋 不利
                       萍水相逢 冬  吉

卯二月  戌(壬)   申  午   午(戊)   辰  寅  俊鷹兎逐 春  凶
 訟游  ○   ヽ  ○世  ○   ○  ○応 天水相違 夏  平
廿五   子   オ  兄   兄   子  父  田猟無獲 秋  吉
                            冬  凶

寅正月  戌(壬)   申  午   亥(己)   丑  卯  𢰧魚水従 春大殺世
 同帰  ○応  ○  ○   ○世  ヽ  ○  二人金分 夏  吉
十七   子   オ  兄   官   子  父  闇夜揚灯 秋大殺世
                       菅鮑金分 冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

亥十月  戌(庚)   申  午   辰(庚)   寅  子  震百里驚 春  旺
 震   ヽ世  ○  ○   ○応  ○  ○  声有無刑 夏  平
十一冲  オ   官  子   オ   兄  父  二竜競珠 秋  平
                            冬  吉

午五月  戌(庚)   申  午   卯(庚)   巳  未  鳳凰生雛 春  平
 予世  ○  ○   ヽ応  ○   ○  ○世 万物発生 夏  吉
十五合  オ   官  子   兄   子  父  雷地出奮 秋  吉
                       行止順時 冬  凶

丑十二月 戌(庚)   申  午   午(戊)   辰  寅  春雷雨行 春  平
 解   ○   ○応 ○   ○   ヽ世 ○  憂散喜生 夏  吉
廿    オ   官  子   子   オ  兄  渉川未乾 秋  凶
                       雷雨緩散 冬 不利

寅正月  戌(庚)   申  午   酉(辛)   亥  丑  日月常明 春  吉
 恒   ○応  ○  ○   ○世  ヽ  ○  四時不没 夏  凶
七    オ   官  子   官   父  兄  並行相背 秋 失財
                       無咎無挙 冬  平

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

酉八月  酉(癸)   亥  丑   酉(辛)   亥  子  高山木植 春  吉
 舛   ○   ○  ○世  ○   ○  ヽ応 小積成大 夏  吉
十六   官   父  オ   官   父  オ  橋上往来 秋  平
                       三月有譏 冬  平

辰三月  子(戊)   戌  申   酉(辛)   亥  丑  珠深淵蔵 春  凶
 井   ○   ヽ世 ○   ○   ○応 ○  静守常安 夏  災
十四   父   オ  官   官   父  オ  漁人求魚 秋  吉
                       病夫行市 冬 有気

卯三月  未(丁)   酉  亥   酉(辛)   亥  丑  寒木花生 春  吉
 达游  ○   ○  ヽ世  ○   ○  ○応 本末共弱 夏  平
三    オ   官  父   官   父  オ  如常山蛇 秋  凶
                       走馬花街 冬  平

申七月  未(丁)   酉  亥   辰(庚)   寅  子  良工琢玉 春  平
 随帰  ○応  ○  ○   ○世  ○  ヽ  水車如推 夏  吉
十四   オ   官  父   オ   兄  父  乗馬逐鹿 秋  凶
                       我動彼説 冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

【「水車如推」は「水車如椎」ヵ】

巳四月  卯(辛)   巳  未  酉(辛)   亥  丑  風行草偃 春  平
 巽   ○世  ヽ  ○   ○応  ○  ○  上行下做 夏  吉
六 冲  兄   子  オ   官   父  オ  䬝風■舩 秋  凶
                       枝折幹仆 冬  病

子十一月 卯(辛)   巳  未   辰(甲)   寅  子  宝剣匣蔵 春  病
 小畜  ○   ○  ヽ応  ○   ○  ○世 密雲不降 夏  凶
廿三   兄   子  オ   オ   兄  父  暁風残月 秋 口舌
                       相親相疎 冬  凶

未六月  卯(辛)   巳  未   亥(己)   丑  卯  海入求玉 春  吉
 家人  ○   ○応 ○   ○   ヽ世 ○  花開結子 夏  凶
廿五   兄   子  オ   父   オ  兄  従窓見月 秋  平
                       有気無形 冬  凶

申七月  卯(辛)   巳  未   辰(庚)   寅  子  鴻鵠風遇 春  凶
 益   ○応  ○  ○   ○世  ヽ  ○  滴水河添 夏  平
廿一   兄   子  オ   オ   兄  父  風拂蘆花 秋  凶
                       耒耜邦利 冬  平

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

【「䬝風■舩」は「䬝風覆舩」ヵ】

卯二月  戌(壬)   申  午   辰(庚)   寅  子  石中玉蘊 春  吉
 無   ○   ○  ○世  ○   ○  ヽ応 旧守常安 夏  平
六 冲  オ   官  子   オ   兄  父  雷逢暑震 秋  凶
                            冬  吉

戌九月  巳(己)   未  酉   辰(庚)   寅  子  日中市成 春  凶
 噬   ○   ヽ世 ○   ○   ○応 ○  頥中有物 夏  吉
十    子   オ  官   オ   兄  父  夫婦恕閏 秋  凶
                            冬  吉

酉八月  寅(丙)   子  戌   辰(庚)   寅  子  竜清潭陰 春  凶
 頥游  ヽ   ○  ○世  ○   ○応 ○  善遷遠悪 夏  平
十    兄   父  オ   オ   兄  父  壮士執剣 秋  吉
                       匣中秘物 冬  利

寅正月  寅(丙)   子  戌   酉(辛)   亥  丑  三蠱血食 春  平
 蠱帰  ○応  ヽ  ○   ○世  ○  ○  以悪害義 夏  吉
十二   兄   父  オ   官   父  オ  門内有賊 秋  利
                       石上栽蓮 冬  凶

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

亥十月  子(戊)   戌  申   午(戊)   辰  寅  船重灘渉 春  吉
 坎   ○世  ヽ  ○   ○応  ○  ○  外虚中実 夏  凶
二六冲  兄   官  父   オ   官  子  二人溺水 秋  凶
                       載宝破船 冬  吉

子土月  子(戊)   戌  申   丑(丁)   卯  巳  船行風横 春  吉
 節   ○   ヽ  ○応  ○   ○  ○世 寒暑節有 夏  吉
四    兄   官  父   官   子  オ  狐渉泥中 秋  凶
                       作穽自隕 冬  吉

未六月  子(戊)   戌  申   辰(庚)   寅  子  竜浅水居 春  吉
 屯   ○   ○応 ○   ○   ○世 ヽ  万物始生 夏  凶
廿八   兄   官  父   官   子  兄  竜動水中 秋  吉
                       草■不寧 冬  平

寅正月  子(戊)   戌  申   亥(己)   丑  卯  舟揖川歩 春  平
 既   ○応  ○  ○   ○世  ヽ  ○  陰陽配合 夏  凶
朔    兄   官  父   兄   官  子  芙蓉載霜 秋  平
                       西施傾国 冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

【「草■不寧」は「草味不寧」又は「草昧不寧」ヵ】

卯二月  未(丁)   酉  亥   亥(己)   丑     豹変虎成 春  凶
 革   ○   ○  ○世  ○   ヽ  ○応 旧改新従 夏  平
十三   官   父  兄   兄   官  子  腐草蛍火 秋  凶
                       売金買物 冬  吉

戌九月  戌(庚)   申  午   亥(己)   丑  卯  日中天麗 春  吉
 豊   ○   ○世 ○   ○   ヽ応 ○  暗背明向 夏  平
八    官   父  オ   兄   官  子  俊隼擭雉 秋  凶
                       残花雨待 冬  吉

酉八月  酉( 癸)  亥  丑   亥(己)   丑  卯  鳳凰翼垂 春  平
 明游  ○   ○  ○世  ○   ヽ  ○応 明出暗向 夏  凶
廿六   父   兄  官   兄   官  子  嚢中有物 秋  凶
                       雨後苔色 冬  吉

申七月  酉(癸)   亥  丑   午(戊)   未  寅  天馬郡出 春  平
 師帰  ○応  ○  ○   ○世  ヽ  ○  寡以衆伏 夏  凶
廿四   父   兄  官   オ   官  子  地勢臨淵 秋  凶
                            冬  吉

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

巳四月  寅(丙)   子  戌   申(丙)   午  辰  游魚網避 春  凶
 艮   ヽ世  ○  ○   ○応  ○  ○  小積大成 夏  平
十 冲  官   オ  兄   子   父  兄  山上鎖関 秋  凶
                       葛藟纏身 冬  吉

子十一月 寅(丙)   子  戌   亥(己)   丑  卯  猛虎岩依 春  平
 賁   ○   ○  ○応  ○   ヽ  ○世 光明通泰 夏  凶
九    官   オ  兄   オ   兄  官  門中競美 秋  吉
                       明不明遠 冬  平

丑十二月 寅(丙)   子  戌   辰(甲)   寅  子  竜大■潜 春  吉
大畜   ヽ   ○応 ○   ○   ○世 ○  小積成大 夏  凶
五    官   オ  兄   兄   官  オ  金在巌中 秋  凶
                       浅水船舟 冬  平

申七月  寅(丙)   子  戌   丑(丁)   卯  巳  石鑿玉見 春  平
 損   ○応  ヽ  ○   ○世  ○  ○  土握成山 夏  吉
廿    官   オ  兄   兄   官  父  貴賤正位 秋  吉
                       奢損存孚 冬  平

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

【「竜大■潜」は「竜大𡎙(壑)潜」ヵ】

卯二月  巳(己)  未   酉  丑(丁)  卯  巳  猛虎穽陥 春  吉
 聧   ○   ヽ   ○世  ○   ○  ○応 二女同居 夏  平
廿四   父   兄   子   兄   官  父  桃季競開 秋  平
                        方円有用 冬  凶

辰三月  戌(戊)  申   午  丑(丁)  卯  巳  虎尾如履 春  凶
 履   ○   ○世  ○   ヽ   ○応 ○  案中危防 夏  平
廿一   兄   子   父   兄   官  父  尊卑分定 秋  凶
                             冬  吉

酉八月  卯(辛)  巳   未  丑(丁)  卯  巳  鶴鳴子和 春  平
中学游  ○   ヽ   ○世  ○   ○  ○応 事定有期 夏  平
三    官   父   兄   兄   官  父  鍋釜得蓋 秋  吉
                             冬  吉

寅正月  卯(辛)  巳   未  申(丙)  午  辰  高山木植 春  吉
 漸帰  ○応  ヽ   ○   ○世  ○  ○  小積大成 夏  吉
十    官   父   兄   子   父  兄  千里一歩 秋  吉
                             冬 不利

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

亥月   酉(癸)   亥   丑   卯(乙)   巳  未  万物生載 春  凶
 坤   ○世  ○   ○   ○応  ヽ  ○  博原無疆 夏  吉
廿九冲  子   オ   兄   官   父  兄  含弘有斐 秋  凶
                        品物資生 冬  吉

子十一月 酉(癸)   亥   丑   辰(庚)   寅  子  砂淘金見 春  平
 復   ○   ○   ○ 応 ○   ○  ヽ世 反復往来 夏  凶
七 合  子   オ   兄   兄   官  オ  地掘得珠 秋  吉
                        破屋重修 冬  平

丑十二月 酉(癸)   亥   丑   丑(丁)   卯  巳  鳳雞郡入 春  吉
 臨   ヽ   ○応  ○   ○   ○世 ○  上以下臨 夏  凶
十二   子   オ   兄   兄   官  父  黄花叢生 秋  凶
                        小女従母 冬  平

寅正月 酉(癸)   亥   丑   辰(甲)   寅  子  天地交通 春  平
 泰   ○応  ヽ   ○   ○世  ○  ○  小行大来 夏  吉
廿    子   オ   兄   兄   官  父  麟角有内 秋  吉
                        雁至衡陽 冬  平

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

卯二月  戌(庚)   申   午   辰(甲)   寅  子  羝羊藩觸 春  凶
大壮   ○   ○   ヽ 世 ○   ○  ○応 先曲後順 夏  平
廿八冲  兄   子   父   兄   官  オ  猛虎生角 秋  吉
                        着錦夜行 冬  吉

辰三月  未(丁)   酉   亥   辰(甲)   寅  子  神剣蛟斬 春  平
 夬   ヽ   ○世  ○   ○   ○応 ○  先損後益 夏  吉
十九   兄   子   オ   兄   官  オ  蛟竜登天 秋 福徳
                        羝羊喜觸 冬  凶

酉八月  子(戊)   戌   申   辰(甲)   寅  子  雲靄天中 春 自如
 需游  ○   ヽ   ○ 世 ○   ○  ○応 密雲不降 夏 口舌
廿九   オ   兄   子   兄   官  オ  雪中梅綻 秋  平
                             冬 半吉

申七月  子(戊)   戌   申   卯   巳  未  衆星北拱 春  病
 比帰  ○応  ヽ   ○   ○世  ○  ○  水地上行 夏 自如
廿三   オ   兄   子   官   父  兄  和楽無間 秋  吉
                             冬 大利

【ヽは○囲み】

【○は朱色】

上五南見父母  毎日願成就ノ 正 月 二 月 三 月 四 月 五 月 六 月
上四坤聞    吉時万用吉  七 月 八 月 九 月 十 月 十一月 十二月

四五西得    朔日 七 十三   子 丑 亥 子 戌 亥 酉 戌 申 酉 未 申
初四乾待    十九   廿五   午 未 巳 午 辰 巳 卯 辰 寅 卯 丑 寅

初二坎怪住居  二日 八 十四   亥 子 戌 亥 酉 戌 申 酉 未 申 午 未
初三艮失盗   二十   廿六   巳 午 辰 巳 卯 辰 寅 卯 丑 寅 子 丑

二三震願望待  三日 九 十五   戌 亥 酉 戌 申 酉 未 申 午 未 亥 子
上三巽業病   廿一   廿七   辰 巳 卯 辰 寅 卯 丑 寅 子 丑 巳 午

二四縁夫婦   四日 十 十六   酉 戌 申 酉 未 申 午 未 亥 子 戌 亥
二五心中々央  廿二   廿八   卯 辰 寅 卯 丑 寅 子 丑 巳 午 辰 巳

上三崇怨敵   五日 十二 十七 《割書:|》申 酉 未 申 子 丑 巳 午 辰 巳 酉 戌
        廿三   廿九   寅 卯 丑 寅 午 未 亥 子 戌 亥 卯 辰

乾大望待人遊魂 六日 十三 十八《割書:|》未 申 午 未 亥 子 辰 巳 卯 辰 申 酉
        廿四   卅    丑 寅 子 丑 巳 午 戌 亥 酉 戌 寅 卯

兌縁談金談◦得《割書:絶|命》坤病(聞)気住所 ̄ノ事《割書:絶|体》 坎心( 怪ミ)艱 ̄ミ蔓 ̄レ剛盗《割書:逰|年》艮失争 ̄ヒ訟 ̄ユ盗怪

离文(見)章縁破敗《割書:禍|害》 震願望( 壽命 )旅行新望《割書:天|医》 巽家(業)内口舌旅行望破 ̄レ怨 ̄ミ病《割書:福|徳》

五 天 三 縁 四 病 三 怨 二 心 二 願 初 住 初 盗 二 待
 爻   爻   爻   爻   爻   爻   爻   爻  三爻
六 禄 四 談 六 気 六 敵 五 中 三 望 二 所 三 難 四 人

【「遊魂」・「盗怪」の「怪」・割書は朱字】

【頁左下端に書き込み有り】

【一段目】
  日神金巡方十方塞
毎月一 ̄ノ日卯 ̄ノ方、二 ̄ノ日巽、三 ̄ノ日午 ̄ノ、四 ̄ノ日
坤、五 ̄ノ日酉、六 ̄ノ日乾、七 ̄ノ日子、八 ̄ノ日艮
九 ̄ノ日天宙、十 ̄ノ日中央地、皆是做

  四卦没例
春、需 夏、観 秋、節 冬、臨
 右者吉神 ̄ノ扶無 ̄キハ大凶

  四卦滅例
春、蒙 夏、蠱 秋、剥 冬、旅
 右者凶神 ̄ヲ兼 ̄テ動 ̄ケハ大凶
【ここまで読点は朱書き】

  十死之卦
豊  需  節  旅  賁  夬
蠱  同人 明夷
 右 ̄ハ病 ̄ニ於 ̄テ四季不抅生 ̄ノ利 ̄ナシ

乾(上リ)四九  兌(下リ)四九  离(上リ)二七  震(上リ)三八
【四九・二七・三八・上リ・下リは朱書き】
巽(下リ)三八  坎(下リ)一六  艮(上リ止リ)五十   坤(上リ)五十
【三八・一六・五十・上リ・下リ・止リは朱書き】

【二段目】
卯辰  巳午  未申  酉戌  亥子  丑寅《割書:年月|日■|方位》
 柔父  剛母  柔妻  剛夫  柔《割書:子|女》  剛《割書:奴|婢》
 北   中   西   南   中   東《割書:  |方位》
【柔・剛は丸囲み字】

 外   君           臣   外
 首   晦   身   股   腓   趾 人身
 天———天   人———人   地———地
【首・晦・身・股・腓・趾は丸囲み字】

 未———未   現———現   既———既
 首《割書:角|耳》  前足  身   身   後足  尾 獣身
【未・現・既は丸囲み字 】

 —————三上応—————
         —————初四応—————
 上   五   四   三   二   初【上~初は丸囲み字】
     —————二五応—————

     ——巽——   ——乾——
 离   坤   兌   震   艮   坎
【离・坤・兌・震・艮・坎は丸囲み字】

少男女十九迠 中男女廿九迠
長男女卅九迠 老男女四十 ̄ヨリ
全卦主爻 爻卦主爻 ̄ノ事【事はコトの合字】
雷巽 ̄ハ 初坎离 ̄ハ中艮兌 ̄ハ上
乾坤 ̄ハ 中爻主也

【三段目】
初四父  上四母
四五妻  上三妾
【朱印 R.F. BIBLIOTHEQUE NATIONALE SSW 】
二三長男 初二中男
初二二男 初三三男
三上長女 上五中女
四五少女 三四 己 ̄レ

乾待兌得巽行。怨
震願。壽命艮失
坎怪坤聞离見

乾一九 兌二四 离三二七
震四三 巽五八 坎一六
艮七五 坤八十

【裏表紙 】

【青字 487 37】
【青字 48】

BnF.

道中安全
道中安全
道中安全

画種五

【白紙】

 當院(とういん)に宗祖(しうそ)歴代(れきたい)の真筆(しんひつ)ならひに上古(しやうこ)の調度等(てうととう)を収蔵(しゆさう)す
 《割書:其余(そのよ)深草(ふかくさ)不可思議(ふかしき)の|筆(ひつ)せる経題(きやうだい)等(とう)あり》
 【當院とは鬼子母神別当の大行院のこと】
蓮成寺(れんしやうし) 同 東(ひかし)に隣(とな)る当寺(たうし)は本山(ほんさん)十三世 日延(にちえん)上人の開創(かいそう)なりと
 いへり十八 老僧(らうそう)の像(さう)を安(あん)す《割書:日源(にちけん)日家(にちり)日保(にちほう)日弁(にちへん)日法(にちほふ)日傳(にちてん)日位(にちゐ)日秀(にちしう)|天目(てんもく)日得(にちとく)日合(にちかふ)日賢(にちけん)日高(にちかう)日實(にちしつ)日禮(にちれい)日祐(にちいう)》
 《割書:日忍(にちにん)日門(にちもん)以上|十八人なり》
【本頁は「江戸名所図会  巻之四 天権之部」より引用されたもの】
【参考:国立国会図書館デジタルコレクション「江戸名所図会 7巻. [12]」の54コマ】
【https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2563391/54】

【白紙】

本門寺(ほんもんし)

檀林

身延記行
万治二年
 深草隠士
  元政法師
やつかれは一日先
たちて池上へ
行てこころ
しつかに法文
なと尋ていたう
ふけて書院
なる所に臥
ぬ夜静に心
すみてしはし
ねられねは枕
をささへて
 人世少智音追師斯再尋
 今宵池上月依奮照天心
其朝とく起て遥に
御骨堂をおかむ
肉つきの御歯も
此内にあり此歯の
あらん所は我生
身常にありと
思へとなんのたまへる
いとたうとし

 いなり 塔中 檀林 塔中 大こく 総門

其二 妙見 七面 いなり 番神 天神 鬼子母神 五重塔
茶や 二王門 大こく 題目堂

其三
松化石
清正社
鐘楼
庫裡
祖師堂
釈迦堂
楡蔵
玄関
塔中
宝蔵
骨堂
日蓮上人荼毘所
塔中
硯井
大坊

其四
日蓮上人廟所
塔中

義経(よしつね)握弓(ゆみとり)

詠-歌尋-訪 ̄ス五
條 ̄ノ宅横笛吹
囘 ̄ス一 ̄ノ谷 ̄ノ風壮
士勇名皆若
_レ是九郎不_レ失
楚人弓
 羅山先生賛

 三世(さんぜ)休(やま)ず戦(たたか)ふも斯(かく)やと覚(をぼ)へて無慙(むざん)なり平家(へいけ)射調(いしら)はれて船(ふね)ども少々(せう〳〵)漕(こぎ)■■んす
 判官(はうぐはん)勝(かつ)にのつて馬(むま)の太腹(ふとはら)まで打入(うちいれ)て戦(ただか)ひけり越中(えつちう)の治郎兵衛盛嗣(ぢらうべうへもりつぐ)折(おり)を得(え)たり
 と悦(よろこ)びて大将軍(たいせうぐん)に目をかけて熊手(くまで)を下し判官(はうぐはん)をかけんと打(うち)かけたり判官(はうぐはん)
 ■(しころ)【革+固 𩊱】頎(かた)ふけて懸(かけ)らじ懸(かけ)られじ〳〵と太刀(たち)をぬき熊手(くまで)を打(うち)のけ〳〵する程(ほど)に脇(わき)挟(はさ)み
 たる弓(ゆみ)を海(うみ)にぞ落(おと)しける判官(はうぐはん)は弓(ゆみ)を取(とつ)て上らんとす盛嗣(もりつぐ)は判官(はうぐはん)をかけて引(ひか)ん
 とす元より危(あや)ふく見へければ源氏(げんじ)の軍兵(ぐんべう)あれは如何(いか)に〳〵其(その)弓(ゆみ)捨(すて)給へ〳〵と声(こへ)〴〵に
 申けれども太刀(たち)を持(もつ)て熊手(くまで)を会釈(あしら)ひ左(ひだり)の手(て)に鞭(むち)を取(とつ)て掻(かき)よせてこそ取(とら)れける軍(ぐん)
 兵(べう)等(ら)が従(たと)ひ金銀(きん〴〵)をのべたる弓(ゆみ)なりとも怎(いかが)壽(いのち)に替(かへ)させ給(たま)ふべき浅猿(あさまし)〳〵と
 申ければ判官(はうぐはん)は軍将(ぐんせう)の弓(ゆみ)とて三人 張(ばり)五人 張(ばり)ならば面目(めんぼく)なるべし去(され)ども平家(へいけ)
 に責(せめ)つけられて弓(ゆみ)を落(おと)したりとて彼(あち)とり此(こち)とり強(つよ)きぞ弱(よは)きぞと披露(ひらう)せ
 んこと口惜(くちおし)かるべし又 兵衛佐(ひやうへのすけ)の漏(もれ)きかんも言(いひ)甲斐(かひ)なければ相構(あいかま)へてと取(とつ)たりと宣(のたま)へば

行吉水法印(きやうよしみづほふいん)宗信(そうしん)が方(かた)に至(いた)り給ふに。諸卿(しよきやう)うち集(つと)ひ出家(しゆつけ)遁世(とんせい)の御評議(ごひようぎ)最(さい)
中(ちう)なりしかは。正行公(まさつらぎみ)臆(をく)する色(いろ)なく。法印(ほふいん)に向(むか)ひ給ひ。ほぼ承(うけたまは)れば當山(たうざん)伺(し)
侯(かう)の諸卿(しよきやう)。退散(たいさん)隠遁(いんとん)の思召(おぼしめし)有(ある)よし。正行(まさつら)に於(おい)ては甚(はなはだ)心得(こゝろえ)がたく候。先尅(せんこく)臣(しん)への
御遺勅(ごゆいちよく)には。新帝(しんてい)を守立(もりたて)如何(いか)にもして。尊氏(たかうし)兄弟(けいてい)を亡(ほろぼ)し再度(ふたゝび)京師(みやこ)へ還幸(くわんこう)
なく奉れよと。呉(くれ)〻(〳〵)したゝめ給へり。然(しか)らば諸卿(しよきやう)へは猶(なを)以(もつ)て朝敵(てうてき)追伐(つひばつ)の御遺(ごゆい)
勅(ちよく)にて有べきに。無下(むげ)に言(いひ)甲斐(がひ)なき思召(おぼしめし)にて。返(かへす)〻(〳〵)も口惜(くちをしく)候。但(ただ)し諸卿(しよきやう)へは新(しん)
帝(てい)を捨(すて)ても出家(しゆつけ)遁世(とんせい)し。朕(ちん)が後世(ごせ)菩提(ぼだい)を吊(とふら)へと御遺勅(こゆいちよく)有しにや。正行 未(いま)だ
幼若(ようしやく)には候へど。一命(いちめい)を新帝(しんてい)に献(たてまつ)り。幾度(いくたび)も大敵(たいてき)に駈(かけ)向(むか)ひて忠戦(ちうせん)を励(はげ)み。逆臣(げきしん)
を誅伐(ちうばつ)して。君(きみ)を再度(ふたゝび)花洛(くはらく)に還幸(くわんこう)なし奉らん所存(しよぞん)に候へば。隠遁(いんとん)退散(たいさん)の
御詮議(ごせんぎ)ならんには。速(すみやか)に退(しりそき)候べし。將(はた)朝敵(てうてき)征伐(せいばつ)の御評議(ごひやうき)ならば。恐(おそれ)ながら御(ご)
末席(ばつせき)を汚(けが)し。是非(ぜひ)の御高論(ごかうろん)を承(うけたまは)り度(たく)候。法印(ほういん)宜(よろ)しく示(しめ)し給へと。礼儀(れいぎ)を
正(たゞ)し弁舌(でんせつ)爽(さはやか)に宣(のたま)ひける。其(その)さま相貌(さうばう)衆(しう)に秀(ひいで)。言語(ごんご)人を動(うごか)し給ふ。並居(なみゐ)る

後醍醐天皇(ごだいごてんわう)
崩御(ほうぎよ)之(の)図(づ)

諸卿(しよきやう)僅(わづか)十四才の正行(まさつら)に説伏(ときふせ)られ。各(おの〳〵)面(おもて)を見合(みあはせ)一言(いちこん)半句(はんく)もなく。赤面(せきめん)閉口(へいかう)して
さし兎(うつ)【俛】首(むき)給ふ。法性寺(ほふしやうじ)佐兵衛督(さひやうゑのかみ)殿(どの)膝(ひざ)を拍(うつ)て感嘆(かんたん)し給ひ。誠(まこと)に楠子(なんし)の子(し)
息(そく)とて。年齢(ねんれい)にも似(に)ず。理非(りひ)明らかなる異見(いけん)にて愧(はづ)かしく候。如何(いか)にや■■
幼若(ようじやく)の正行すら一心(いつしん)動(どう)ぜず。義(ぎ)に勇(いさ)める㕝 斯(かく)の如(こと)し。誰(たれ)か是(これ)に愧(はぢ)ざらん
只(ただ)命(いのち)を塵芥(ちんがい)に比(ひ)し。朝敵(てうてき)誅伐(ちうばつ)の謀(はかりこと)を廻(めぐ)らし給へと励(はげ)まし給ひしかば。諸卿(しよきやう)
大いに色(いろ)を直(なお)し。実(けに)我(われ)ながら愧(はづか)しく候。かかる若大将(わかたいしやう)在(ある)上(うへ)は。聖運(せいうん)を開(ひら)かせ
給はん㕝 何(なに)の疑(うたがひ)か候べき。早(はや)く大嘗会(たいしやうゑ)を行ひ。而(しかふ)して後(のち)朝敵(てうてき)誅伐(ちうばつ)の軍(ぐん)
議(き)有(あれ)かしと一斉(いつせい)に勇(いさ)み立(たち)給ふにぞ。正行公(まさつらきみ)大きに欣悦(きんゑつ)し給ひ。其日(そのひ)は終日(しうじつ)御(ご)
商議(しやうき)に日(ひ)を暮(くら)し給ひける
      新帝(しんてい)御即位條(こそくゐのくたり)《割書:并》八尾恩地(やをおんじ)等(ら)病死(びやうし)之㕝
楠右中将正行公(くすのきうしやうまさつらこう)一言(いちごん)を発(はつ)して諸卿(しよきやう)を挫(とりひしき)給ひしかは。各(おの〳〵)大きに慙愧(さんぎ)後悔(かうくわい)し
隠遁(いんとん)の心を転(てん)し。義良親王(のりよししんわう)を御位(みくらい)に即(つけ)。大嘗会(たいしやうゑ)を行(おこな)ひ。南朝(なんてう)二伐の君(きみ)と

十四人 一味(いちみ)の連書(れんしよ)に血判(けつはん)をすへ。京都(きやうと)へ登(のぼ)しけれ尊氏(たかうし)直(たゞ)■(?)。渡(わた)りに船(ふね)
を得(え)し心地(ここち)し。一義(いちぎ)にも及(およ)ばず隆(らう)を許(ゆる)し。頓(やか)て大軍(たいくん)さしむけん間。其時(そのとき)
内応(ないおう)し内外(うちと)より挟攻(はさみうち)。南方(なんほう)平(へい)■(きん)【鈞ヵ】の功(こう)を立なむ。莫大(はくたい)の恩賞(おんしやう)を与(あて)行(おこなは)んと
尊氏(たかうし)自筆(じひつ)の證文(しやうもん)執(しつ)事(し)師直(もろなふ)が添状(そえぜう)等さし下しけるにぞ。国人等(くにんとら)雀踊(こおどり)し
て怡悦(いえつ)し。内々(ない〳〵)集会(しうくわい)して商議(しやうぎ)しけるは。恩地左近(おんちさこん)死(し)せしと雖(いへとも)。正行(まさつら)は人中(しんちう)
の龍(りやう)と称(しやう)する程(ほど)の大将(たいしやう)にて。若冠(じやくくわん)ながら未前(みせん)を先知(せんち)し。希世(きせい)不側(ふしき)【測】の度(と)
量(りやう)有(あり)と聞(きけ)ば。先(まつ)此者(このもの)を除(のそか)ずんば大功(たいこう)の妨(さまたけ)と成(なる)べし。幸(さいは)ひ大島(おふしま)九郎は八(や)
幡林吉太(はたはやしきつだ)と水魚(すいきよ)の因(ちなみ)あれは。何卒(なにとぞ)渠(かれ)をも一味(いちみ)させ。正行(まさつら)を吉野(よしの)へ釣出(つりいた)し
て討(うち)とらば。大望(たいまう)成就(しやうじゆ)すべしと申ければ。浅智(せんち)短才(たんさい)の国人等(くにんどら)一応(いちおふ)の思慮(しりよ)
にも及(およ)はす。是(これ)窮(きはめ)て上策(じやうさく)なりと。早速(さつそく)京都(きやうと)へ使者(ししや)を登(のぼ)し。楠家(なんけ)の臣下(しんか?)
八幡林吉太(やはたばやしきつだ)をも御味方(おんみかた)に隆(くだ)らせ。俱々(とも〳〵)内応(ないおふ)させ候 半間(はんあいた)。御教書(ごきやうしよ)並(ならび)に執(しつ)
事(し)の添状(そへじやう)を賜(たまは)らんと。早(はや)一味(いちみ)合体(かつたい)せし様(よふ)に申遣しければ。尊氏(たかうし)悦ひ乞(こふ)に

正行(まさつら)
誅(ちうする)_二謀(む)
叛人(ほんにんを)_一
図(づ)

任(まか)せ。成功(せいこう)の上は三千 貫(くわん)の菜地(さいち)を与(あたへ)んとの墨附(すみつき)並(ならび)に師直(もろなふ)が添状(そへしやう)を使者(しゝや)
に与(あた)へければ。使者(しゝや)立帰(たちかへつ)て大島に渡(わた)しぬ。大島 是(これ)を懐中(くわいちう)し潜(ひそか)に千剱破(ちはや)に
いたり。八幡林(やはたはやし)に対面(たいめん)し。世(よ)の動静(どうせい)に事(こと)よせ。南北両朝(なんぼくりやうてう)の時勢(じせい)を語(かた)り。吉太(きつだ)が
心庭(しんてい)を探(さぐ)らんとす。吉太(きつだ)景舎(かけいへ)心利(こゝろきき)たる者なれば。早(はや)く大島か心術(しんじゆつ)をさとり
扨(さて)は此者(このもの)南朝(なんてう)を叛(そむ)く心ありと思ひければ。佯(わざ)と眉(まゆ)を皺(ひそ)め。我(われ)倩(つら〳〵)当時(たうじ)の時務(しむ)
を考(かんがふ)るに北朝(ほくてう)は日(ひ)を追(おつ)て勢(いきほ)ひ強大(きやうだい)となり。諭(たとへ)ば旭(あさひ)の登(のぼ)るが如(こと)く。南朝(なんてう)は月(つき)
を重(かさ)ねて勢(いきほ)ひ微々(びゝ)たる事。傾(かたむ)く月(つき)に似(に)たり。とても久しく北朝(ほくてう)に拒敵(てきたい)せん
事(こと)能(あた)はじ。御辺(ごへん)如何(いかゞ)思(おも)ひ給ふやと。実(まこと)しやかに語(かた)るにぞ。大島 仕(し)すましたりと
悦(よろこ)び。人を□【はヵ】らひ声をひそめ。御辺(こへん)如斯(かくごとく)高(たか)き見識(けんしき)有(あり)ながら。あたら智能(ちのふ)を
抱(いだ)き。猶(なを)微々(びゝ)たる南朝(なんてう)に属(ぞく)し。区々(くゝ)として自(みづか)ら亡滅(ほうめつ)の時(とき)を待(まち)給ふやと問(とふ)
吉太(きつだ)額(ひたへ)を撫(なで)て曰(いはく)。我(われ)兼(かね)て南朝(なんてう)の公家原(くげばら)が。貪欲(とんよく)不義(ふぎ)なるを憎(にく)み。北朝(ほくてう)に
降(くだ)らんと思(おも)へども。さすか楠家(なんけ)の恩義(おんぎ)も捨(すて)がたく。又 弱(よはき)を捨(すて)□【てヵ】強(つよき)に降(くだ)らんも

 西山(にしやま)善峯寺(せんほうし)に居(きよ)して盛(さかん)に宗教(しうけう)を弘通(くつう)ありし故(ゆゑ)に世(よ)に西山(にしやま)上人
 と称(しよう)しまゐらす《割書:浄宗(しやうしう)西山派(せいさんは)の大祖(たいそ)と称(しよう)す|一世(いつせ)の行状(きやうちやう)は上人 傳(てん)に詳(つまひらか)なり》
 当寺(たうし)往古(そのかみ)は大伽藍(おほからん)にして関東(くわんとう)の高野山(かうやさん)と称(しよう)し衆人(しやうしん)先亡(せんほう)並(ならひ)に逆(きやく)
 修(しゆ)等(とう)の石塔婆(せきたふは)を建(たて)参詣(さんけい)の人も多(おほ)かりしとなり故(ゆゑ)にや今(いま)も古(ふる)き
 石碑(せきひ)石仏(せきふつ)の類(たく)ひ此処(ここ)彼処(かしこ)に存在(そんさい)せり《割書:寺(てら)の大門より六七丁 東(ひかし)の方(かた)に|護摩堂(ごまたう)屋敷(やしき)と号(なつ)くる地(ち)あり》
 《割書:不浄(ふしやう)なる時(とき)は祟(たたり)ありとて田畠(たはた)耕作(こうさく)|する事なしとて叢(くさむら)となりてあり》
光明寺池(くわうみやうしのいけ) 光明寺(くわうみやうし)の南(みなみ)に添(そ)ふ往古(そのかみ)の矢口(やくち)の川筋(かはすち)なりしといへり今(いま)は
 水流(すゐりう)替(かは)りて南(みなみ)の方へ寄(より)て流(なか)る池(いけ)の長(なか)さ東西(とうさい)弐百 余(よ)間(けん)幅(はは)は南北(なんほく)へ
 五十 間(けん)はかりもありとおほし《割書:里老(りらう)傳(てんに)云(いふ)記主(きしゆ)禅師(せんし)当寺(たうし)に住職(ちゆうしよく)たりし時(とき)|此池(このいけ)の鯉魚(りきよ)を取揚(とりあけ)頭(かしら)に朱(しゆ)をもて名号(みやうかう)を書(かき)て》
 《割書:元(もと)の所(ところ)へ放(はな)ち給ふ其(その)余類(よろい)ありて今(いま)に折々(をり〳〵)浮(うかみ)出(いつ)ることもありといへり正月廿五日御 忌念(きねん)|仏会(ふつゑ)執行(しつきやう)の時(とき)は彼魚(かのうを)あまた水上(すゐしやう)に浮(うかみ)出(いつ)るとなり》
新田大明神(につたたいみやうしん)社 光明寺(くわうみやうし)より五丁南の方 矢口邑(やくちむら)にあり別当(べつたう)は古義(こき)の
 真言宗(しんこんしう)にして真福寺(しんふくし)と号(かう)す高畑宝幢院(たかはたけはうとうゐん)に属(そく)す祭(まつ)る所(ところ)の神(かみ)は
 新田左兵衛佐(につたさへうゑのすけ)義興(よしおき)朝臣(あそん)の霊(れい)なり十日を縁日(えんにち)とす拝殿(はいてん)のみを経営(けいえい)す

新田明神社(につたみやうしんのやしろ)
真福寺(しんふくし)

庫裡
方丈
本堂
木馬
額堂

かくら所
いなり
拝殿
本社
天王
いなり
義興朝臣墓
三峯

 本社(ほんしや)の地(ち)は古廟(こひやう)なり則(すなはち)其回(そのめく)りに瑞籬(たまかき)を造(つく)り設(まう)く中(なか)は一堆(いつたい)の塚(つか)
 にして蒼樹(さうしゆ)繁茂(はんも)す《割書:此地(このところ)は昔(むかし)の奥州(あうしう)海道(かいたう)にして往古(そのかみ)は廟後(ひやうこ)耕田(こうてん)の地(ち)こと〳〵く|入江(いりえ)にして玉川(たまかは)の流(なかれ)も此地(このところ)に傍(そひ)て流(なか)れしとなり是(これ)を矢口(やくち)の》
 《割書:沼(ぬま)と称(しやう)す長(なかさ)凡(およそ)三百 間(けん)斗(はかり)横(よこ)四十 間(けん)或(あるひ)は三十八間 程(ほと)ありといふ土俗(とそく)のいはく是(これ)も昔(むかし)の川筋(かはすち)
|なりといへり今(いま)は水流(すゐりう)付(つけ)かはりたり》
 鞍掛榎(くらかけえのき)《割書:社前(しやせん)にあり至(いたつ)て老樹(らうしゆ)なりしか|今(いま)はかれたりとてみえす》
 古廟碑(こひやうのひ)《割書:社前(しやせん)左(ひたり)の方に建(たて)たり文章(ふんしやう)は服元(ふくけん)喬書(きやうしよ)は烏石(うせき)|葛辰(かつしん)なり古(いにしへ)は後(うしろ)の方へ向(むか)ふと云 今(いま)は社(やしろ)の方(かた)へ向(むか)ふ》
  矢口新田神君廟碑
  昔元弘帝出居南山足利氏立光明帝于京於是南
  北分朝諸国各拠其党戦争数年而新田氏挙族勤
  王南朝宗人左中将源公義貞卒其族衰神君者中
  将公庶子名義興勇気掩世延文中以兵衛助為南
  帝密徇東国勢将復張先是足利氏使其子基氏居
  鎌倉令関東畠山国清為副時共出次武州患之畠
  山以幕中士竹沢嘗事神君因使図之乃陰其謀伴
  与竹沢有隙遂之竹沢使謂神君曰臣無罪見疑於
  国清若得再事旧君願有所効神君納焉乃飾美女
  進之有寵既而請饗已家因図害之美人有夢悪懼
  止神君不出竹沢不克果而神君亦不猜近之乃又
  密請畠山使江戸氏二人助焉亦伴遂之二人因竹
  沢来神君納焉於是三人比事焉勤襲鎌倉且曰有
  衆難襲使分士卒先神君至矢口津従者十三人耳
  竹沢預与舟人謀竅舟而塞之使待于岸既而神君

調煉(ちゅうれん)し。専(もつは)ら軍戦(くんせん)の用意(ようい)をなし給ひしが。程(ほと)なく七月になり□□□□
正行公 諸士(しよし)を本丸(ほんまる)の大広間(おほひろま)に会合(くわいがう)させ給ひ。扨(さて)仰(おゝせ)けるは先年(せんねん)予(われ)京(きやう)
都(と)を攻(せめ)んと思立(おもひたち)しを。安間了願(あんまりやうぐわん)時努(しむ)を説(とき)て諌(いさめ)止(とゝめ)し故(ゆへ)。其(その)言(ことは)につきて
既(すて)に二年を経(へ)たり。最早(もはや)足利(あしかゞ)旗下(きか)の族(やから)内乱(ないらん)を生(しやう)ぜんに程(ほど)も有まじ
けれども。兎角(とかく)朝庭(てうてい)の御政(おんまつりこと)正(ただ)しからず。只管(ひたすら)恨(うら)み奉るもの者(もの)のみ多(おほ)し。扨(さ)
ては聖運(せいうん)を開(ひら)かせ給はん事(こと)難(かた)かるべし。其故(そのゆへ)は山中(さんちう)伺候(しかう)の公卿(くぎやう)の御領(こりやう)をば
足利方(あしかゞかた)の者(もの)とも奪取(はいとつ)て。押領(おうりやう)する輩(ともから)多(おほ)し。此者等(このものとも)味方(みかた)の鉾先(ほこさき)強(つよき)
を恐(おそ)れ。押領(おうりやう)する處(ところ)の国郡(こくぐん)をだに賜(たまは)らば。官軍(くわんくん)に属(そく)し奉らんと望(のそ)む
□(??)【者(もの)ヵ】是彼(これかれ)数(す)十人に及ふこれ天より下(くだ)し給ふ所(ところ)の幸(さいはい)なり。依(よつ)て予(われ)是(これ)を執(しつ)
達(たつ)し策(はかりこと)を献(たてまつ)ると雖(いへとも)皇居(くわうきよ)の公卿(くきやう)只(たゝ)私欲(しよく)を先(さき)として。是(これ)は丸(まろ)か所領(しよりやう)彼(かれ)は
予(よ)が領地(りやうち)などゝて許(ゆる)し給はず。当時(たうし)の武士(ぶし)は貪(むさぼつ)て飽(あく)事(こと)をしらず。利欲(りよく)を
もつて招(まね)き集(あつめ)ば。足利(あしかゞ)を亡(ほろぼ)さん事安かりなん。而(しかふ)して世(よ)太平(たいへい)に皈(き)せばいか

誉田(ほんた)
河原(かはら)
合戦(かつせん)

様(やう)とも計(はから)らわる扁紀に。公卿(くきやう)等(ら)愚昧(くまい)にして是(これ)を悟(さと)り給はず。今(いま)の如(こと)くにて
は人を懷(なづくる)の道(みち)絶果(たへはて)。如何(いか)なる奇計(きけい)良策(りやうさく)を奉るとも。本意(ほんい)を達(たつ)する■【事ヵ】
能(あた)はし。正行又 日(ひ)を追(おつ)て病苦(ひやうく)増(まし)。夜(よ)にまして気力(きりよく)衰(おとろ)へ。中々(なか〳〵)敵(てき)の内乱(ないらん)を■(??)【待(まち)ヵ】
遂(とぐる)迠(まで)の存命(そんめい)思(おもひ)もよらず。依(よつ)て短慮(たんりよ)には似(に)たれども。速(すみやか)に京都(きやうと)へ攻登(せめのほ)り。有(う)
無(む)の一戦(いつせん)をとげ。事ならずんば骸(かばね)を軍門(くんもん)に曝(さらさ)んと。思慮(しりよ)既(すて)に決(けつ)したり。予(われ)
と同意(とうい)の人は随(したか)ひ。時節(じせつ)を待(また)んと思ふ人は止(とゝどま)り候へ。残(のこ)るも随(したか)ふも君の為(ため)天(てん)
下(か)の為なれば。腹藏(ふくざう)なく申候へと。座中(さちう)を見渡(みわた)し宣(のたま)ひければ。新発意(しんほち)源秀(けんしう)
衆人(しうしん)の言(ことは)をもまたす進(すゝ)み出(いで)。御諚(ごぢやう)尤(もつとも)に候。当事(たうし)の公卿(くきやう)の政事(せいし)にては。本意(ほんい)を
達(たつ)せん事思ひもよらす。只(たゝ)公家(くけ)の政(まつりこと)に拘(かか)はらず。当館(たうやかた)より賞禄(せうろく)の沙汰(さた)し給ひ
太平(たいへい)の後(のち)兎(と)も角(かく)も計(はか)らひ正(たゝし)給ふとも何(なん)の障(さわり)か候べきと事(こと)もなげに申ける
正行 頭(こうべ)を揮(ふり)たまひ。否々(いや〳〵)夫(それ)は足利(あしかゞ)に等(ひと)しく。上(かみ)を蔑(ないかしろ)にするにて朝敵(てうてき)同前(どうせん)
たらん。志貴(しぎ)神宮寺(しんくじ)等(ら)口を揃(そろ)へ。何分(なんふん)一旦(いつたん)尊氏(たかうし)と雌雄(しゆう)を決(けつ)し給ひ。渠等(かれら)を討(うち)

衛門。松田(まつた)治郎左衛門 始(はじめ)安保奈良﨑(あほのならさき)。目賀田(めかた)。熊谷(くまかへ)。猪股(ゐのまた)。梶原(からはら)。赤松(あかまつ)等(ら)。都(すへ)
て大将(たいしやう)十二員(しふにいん)。惣軍(そうくん)七万 余騎(よき)とそ聞へぬ。楠家(なんけ)の忍(しの)■(び )【竊ヵ】。板持(いたもち)辻風(つしかぜ)が輩(ともから)はやく
此旨(このむね)を天王寺の陣(ぢん)へ注進(ちうしん)しければ。正行 諸士(しよし)と御軍議(こぐんぎ)あり。一旦(いつたん)居城(きよしやう)に皈(かへ)り
策(はかりこと)を定(さため)て撃破(うちやふら)んと。和田(わた)早瀬(はやせ)恩地(おんぢ)八幡林(やはたはやし)等(ら)は。持城(もちしろ)〻〻( 〴〵 )へ帰(かへ)し。自身(みつから)は残(のこり)の諸士(しよし)
と倶(とも)に赤阪(あかさか)に御皈城(こきしやう)ある。扨(さて)も細川(ほそかは)佐(さ)〻(ゝ)木(き)等(ら)は大軍を卒(そつ)し。摂州(せつしう)に発向(はつかう)せ
しに。楠軍(なんくん)悉(こと〳〵)く居城(きよしやう)に引篭(ひきこもり)しと聞えしかば。諸将(しよしやう)打笑(うちゑみ)。さすがの楠(くすのき)も味方(みかた)の
大軍に辟易(へきゑき)し。尻込(しりこみ)せし社(こそ)可笑(をかし)けれとて。直(たゝち)に天王寺を本陣(ほんぢん)とし。扨(さて)軍議(ぐんき)
し。先(まづ)手始(てはしめ)に河州(かしう)矢尾(やを)の砦(とりて)を攻落(せめおと)せよとて。赤松(あかまつ)範資(のりすけ)。舎弟(しやてい)貞範(さたのり)。佐(さ)〻(ゝ)木(き)
定詮(さたのり)同 氏安(うしやす)。壹萬(いちまん)五千 余騎(よき)にて。僅(わづか)なる矢
尾(やを)の砦(とりて)を。十重廿重(とえはたへ)に追取(おつとり)まき
息(いき)をも継(つが)せず新手(あらて)を入替(いれかへ)。曵(ゑい)〻(〳〵)声(こえ)して揉立(もみたて)ける。当所(たうしよ)に篭(こも)る者(もの)は。進(しんの)太■■■
次郎 丹下(たんけ)小三郎 等(ら)。五百余騎にて在(あり)けるが。雲霞(うんか)のことき京軍(きやうぐん)を少(すこ)しも懼(おそ)れ
ず。百術(ひやくしゆつ)を尽(つく)して。其日(そのひ)一日(いちにち)は防(ふせき)しが。とても保(たもち)かたきを知(しり)。其夜(そのよ)城内(しやうない)の抜穴(ぬけあな)より

楠軍(なんぐん)
京都(きやうと)
  へ
逆寄(さかよせ)
之図(のづ)

悉(こと〳〵く)迶(のか)れ出て。本城(ほんしやう)赤阪(あかさか)にそつぼみける。京軍 欺(かく)とは夢(ゆめ)にもしらず。翌日(よくしづ)
未明(みめい)より。四方(しほう)を囲(かこ)み。今日(けふ)は是非(せひ)乗落(のりをと)さんと。喊(とき)を告(つくつ)て攻(せめ)寄(よす)るに。城中(しやうちう)は
静(しつま)り返(かへつ)て音(おと)もせず。扨(さて)は又いかなる謀計(はうけい)をか設(まうけ)けん。軽忽(かろ〳〵しく)近着(ちかつき)て埋草(うめくさ)にな
なりそと。互(たかい)に尻込(しりこみ)して左右(さう)なく寄(より)つかす。猶予(ゆうよ)せしが。よく〳〵城上(じやう〳〵)をみれ
ば。旗(はた)指物(さしもの)は立(たて)ながら。樹林(じゅりん)に宿(ねくら)せし諸鳥(しよちやう)。囀(さへす)り戲(たはれ)て驚(おとろ)く躰(てい)なければ。なま
賢(さか)しき者ども。扨は空城(くうじやう)ならめと察知(さつち)し。小気味悪(こきみわる)ながら五七人 談(だん)し合(あひ)。近(ちか)〻(〳〵)
と進(すゝ)みより窺(うかゝ)ふに。弥(いよ〳〵)人音(ひとおと)なし。さればこそ案(あん)に不違(たかはず)と。各(おの〳〵)石垣(いしかき)を攀(よし)て城(しやう)
上(しゆう)へ乗込(のりこみ)。旗(はた)を以(もつ)て味方を指招(さしまね)き。赤松殿(あかまつどの)の御内(みうち)何某(なにかし)等(ら)。当城(たうしやう)の一番乗(いちはんのり)せり
かた〴〵続(つゝぎ)給へと呼(よばゝ)り。走(はし)り下て城門(しやうもん)を開(ひら)きければ。寄手(よせて)大きに腹(はら)を立(たて)。空城(くうしやう)
ともしらで。躊躇(ちうちよ)せしこそ悔(くや)しけれとつぶやきなから惣勢(さうぜい)乗込(のりこみ)。さるにても
厳(きび)しく四方(しほう)を囲(かこ)みしに。如何(いかゝ)して落失(おちうせ)しやらんと。隅(くま)〻(〳〵)を改(あらた)めければ。果(はた)して
大いなる抜穴(ぬけあな)有。人を入みせしむるに。一町(いつてう)許(はかり)行先(ゆくさき)を。早(はや)磐石(はんしやく)を以て切塞(きりふき[ママ])き

 しより魯(ろ)の昌平郷(しやうへいきやう)に比(ひ)して号(なつ)けられしとなり初(はしめ)は相生橋(あひをひばし)
 あたらし橋(はし)又 芋洗橋(いもあらひはし)とも号(かうし)たるよしいへり太田姫稲荷(おほたひめいなり)の
 祠(ほこら)は此地(このち)淡路坂(あはちさか)の上(うへ)にあり旧名(きうみやう)を一口稲荷(いもあらひいなり)と称(しよう)す《割書:社記(しやき)は|拾遺名(しふゐめい)》
 《割書:所図会(??つゑ)に|詳(つまひらか)なり》又東に柳森稲荷社あり《割書:並に拾遺に|これを戴す》
神田川(かんたかは) 江戸川(えとかは)の下流(かりう)にして湯島聖堂(ゆしませいたう)の下を東(ひかし)へ流(なかれ)大川(おほかは)に
 入(いる)明暦(めいれき)より万治(まんち)の頃(ころ)に至(いた)り仙臺候(せんたいこう) 台命(たいめい)を奉(ほう)し湯島(ゆしま)
 の臺(たい)を掘割(ほりわり)小石川(こいしかは)の水(みつ)を初(はしめ)てこゝに落(おと)さるゝと云伝(いひつた)ふるは
 少(すこ)しく誤(あやま)るに似(に)たり古老(こらう)の説(せつ)に慶長(けいちやう)年間(ねんかん)駿河台(するかたい)の地(ち)闢(ひら)け
 し■(とき)【眨ヵ】に至(いた)り水府公(すゐふこう)の藩邸(はんてい)の前(まへ)の堀(ほり)を浅草川(あさくさかは)へ堀(ほり)つけられ
 其(その)土(つち)を以(もつ)て土堤(とて)を築(きつ)き内外の隔(へたて)となし給ふと云 此説(このせつ)しかる
 へきに似(に)たり《割書:按(あんする)に昔(むかし)は舟(ふね)の通路(かよひち)もなかりしを仙台候(せんたいこう)命(めい)をうけたま|はられし頃(ころ)堀(ほり)広(ひろ)け今(いま)の如(こと)く舟(ふね)の通路‘を開(ひら)かれたりしなるへし》
丹後殿(たんことの)前(まへ) 雉子町(きしちやう)の北(きた)の通(とほ)りをいふ昔(むかし)此地(このち)に堀(ほり)丹後守(たんこのかみ)殿(との)の弟宅(ていたく)
 ありし故(ゆゑ)にしか唱(とな)へけるとそ《割書:寛永(くわんえい)九年の江戸(えと)絵図(ゑつ)に因(よつ)て考(かんか)ふに今(いま)の|津田(つた)山州(さんしう)候(こう)の地(ち)則(すなはち)堀家(ほりけ)のやしきの跡(あと)なり》

筋違(すちかひ)
 八(や)ッ小路(かうち)

  駿河台
  加賀原

  筋違橋
  御高札

 其頃(そのころ)此辺(このあたり)の風呂屋(ふろや)に湯女(ゆな)を置(おき)て客(きやく)を招(まねき)しにより又 六法組(ろくはふくみ)
 とて武夫(ふふ)にもあらぬ壮年(さうねん)の侠夫(きゆうふ)大小 立髪(たてかみ)の異風(ゐふう)なる出立(いてたち)にて
 此(この)風呂屋(ふろや)の辺(あたり)を徘徊(はいかい)せしかは是(これ)を丹前六法風(たんせんろくはふふう)と呼(よひ)ける《割書:丹前(たんせん)は丹後殿(たんことの)|前(まへ)の略語(りやくこ)なり》
 《割書:今(いま)も此地(このち)に清水屋(しみつや)梶川(かちかは)抔(なと)云(いふ)湯屋(ゆや)あり則(すなはち)昔(むかし)の湯女風呂(ゆなふろ)|にして其頃(そのころ)は清水風呂(しみつふろ)梶(かい)か風呂(ふろ)と称(とな)へたりしとなり》後(のち)に哥舞妓(かふき)芝(しは)
 居(ゐ)にて狂言(きやうけん)に取組(とりくみ)名(な)も丹前(たんせん)とよひけるとなり《割書:所謂(いはゆる)六法(ろくはう)とは|神祗組(しんきくみ)鶺鴒組(せきれいくみ)》
 《割書:白柄組(しらつかくみ)銕棒組(かなほうくみ)唐犬組(たうけんくみ)|笊籬組(さるくみ)等(とう)なり》
藍染川(あゐそめかは) 神田(かんた)鍛冶町(かちちやう)の通(とほり)を横(よこ)きりて東(ひがし)の方(かた)へ流(なか)るゝ溝(みそ)なり里(り)
 諺(けん)に一町はかり上にて南北(なんほく)の水(みつ)落合(おちあひ)此所(このところ)にて会流(くわいりゆう)する故(ゆゑ)に
 逢初(あひそめ)と云の儀(き)にとると云又 紺屋町(こんやちやう)の辺(あたり)を流(なか)るゝ故(ゆゑ)に藍染川(あゐそめかは)と
 云ともいへり《割書:此(この)溝(みそ)の端(はた)鍛冶町(かちちやう)の裏(うら)の小路(こうち)に養善院(やうせんゐん)といへる真言(しんこん)の|庵室(あんしつ)あり本尊(ほんそん)を頬焼(ほうやき)薬師(やくし)と字(あさな)す此(この)本尊(ほんそん)昔(むかし)千葉助(ちはのすけ)》
 《割書:常胤(つねたね)の侍女(しちよ)に代(かは)りて自(みつか)ら|頬(ほう)を焦(こか)し給ふといひならはせり》
於玉(をたま)か池(いけ) 舊名(きうみやう)を桜(さくら)か池(いけ)と云 今(いま)神田(かんた)松枝町(まつえちやう)人家(しんか)の後園(こうえん)に於玉(おたま)
 稲荷(いなり)と称(しよう)する小祠(こみや)あり里諺(りけん)に云 於玉(おたま)か霊(れい)を鎮(まつ)ると其(その)傍(かたはら)に

【前コマの後半と同】

【裏表紙】
   目印
《題:《割書:大|⚫|坂》浪花講定宿帳》
   看板

   目印
《題:《割書:大|⚫|坂》浪花講定宿帳》
   看板

   目印
《題:《割書:大|⚫|坂》浪花講定宿帳》
   看板

【小口】