春画資料の翻刻テキスト

このテキストはみんなで翻刻で作成したものです.利用条件はCC BY-SAです.

BnF.

《割書:うきよ|げむじ》 五十四帖下

うきよ
 げむ
  じ
  下の巻

君が身をはなれぬ
   ねやの白扇さへ
 あきたちてこそわすられに
            けれ

薄雲

〽これそのやうにはづかし
がらずともこちらを

むき
 やれ
初心(しよしん)めか
  して
どうしたものぢや
 〽それでもわたくしは
   はつかしくてなり
    ませぬアレ
       たれか
     まいりま
       せうに
     エヽモどう
     いたしませう
      フム〳〵〳〵〳〵
      〽それ
       みやれ
       ぢきに
        だす
        では
        ない
         か

朝顔


〽どうも
このよさは
なんとも
  かとも
 いはれぬ

乙女

〽わたしはもう〳〵うれし
くて〳〵はやくおまへと
ふうふになり
たいねへアヽモウ
いつそよ
  いよ

〽けふもこれで二度
  こんな事をするが
    よるいつしよに
    ねられ
     ないから
    ふぢゆうだ
     そのかはり
     ふうふ
       に
     なつた
       ら
     ちう
      や
     いれ
     づめ
      に
     しよ
     う

胡蝶

〽マアちよつと
にぎらせて
   おみせ
ヲヤおそろしく
かたくなつて
そして火のように
あつくツて
どき〳〵〳〵
  ひゞいて
ひよい〳〵はね
かへるようだよ
エヽもう
どうせう
 わた
  しやア
  こたへ
 られ
  なく
 なつたから
 はやく入て
  おくれ
〽ホイこりやア
つばきを
  つける
 にはおよば
    ねへ
  おそろ
   しく
   ぬら〳〵
   だし
   かけた
   かう
   なつ
   ちや
    ア
   おれ
     も
   こたへ
   られ
    ねへ



〽こへはせでみをのみこがすほたるこそいふより
 まさるおもひなるらめとやらもうす
  うたのみほか心のたけを申してあげる
          たよりもなくどうぞ
          してもういちど
           おめにかゝりたい〳〵
           とまいにち〳〵
           あなたのことばかり
            おもつており
             ました
            そのねんが
            とゝいて
              もう〳〵〳〵
            うれしくて
               〳〵
             フン〳〵〳〵〳〵
             アヽ〳〵〳〵
             きを
             やる処
            〽どく〳〵〳〵
             ぬら〳〵
           〽ハア〳〵〳〵
               〳〵

〽それは
わたし
とても
おなじこと
 どうぞ〳〵と
 おもひおもつた
  けふのしゆび
  こんなうれしいしまりのよい
   きみのよい事はついぞ
     おぼへぬアヽどうもひとりでに
    気(き)がいきそうになつてアヽいく〳〵フウ〳〵〳〵
              いんすゐ〽どく〳〵〳〵〳〵

     〽此あつさ
         に
     ほかの
      ざしき
     ではなか〳〵
    とぼせねへ
   まだ未刻(やつ)
   ごろの
   日ざかりだが
  この見はらしは
  なんとなつ
 しらずであらう
しかしてめへのぼゝが
 いゝせへかぢきに
 気(き)がいきそうに
 なるのをこらへ
    よう〳〵と
  骨(ほね)をおる
   ものだから
  どこもかも
 びつしより
あせに
  なつた
アヽどうも
 もう〳〵
 これは
 たまら
  ねへ
  〳〵

   〽フウ〳〵〳〵〳〵
   アヽ〳〵〳〵ウヽ
      〳〵〳〵
   わたしも
    こんなに
   しぼるほど
   あせになつ
  たはねアヽ
  もう〳〵〳〵
  フン〳〵〳〵エヽ
  いきそう
  だよアヽ
  かんじんの
  ところで
  なぜ
  おぬき
   だよ
〽ヲツトいつ
しよにきが
いくときは
ぬきさして
きをやら
ねへと子に
なつたとき
 めんどう
    だ

常夏

篝火

〽夏(なつ)の
ぼゝは庭(には)
さきにかぎる
きがはれ〴〵
してすゞ
しくて
 いゝ

〽アレサだし
ぬけにびつくり
したはねこんな
ところでしな
いで


はい
つて
かやの
なかで
ゆつくりと
したらよさ
そうな
もんだ
ねへ

浮世源氏(うきよげんじ)五十四情(ごじふよじやう)下の巻
       
       薄雲(うすぐも)
いりひさすみねにたなびく薄雲(うすくも)はひかりかゞやく尼鳳山(にほうざん)名双寺(みやうそうじ)の客殿(きやくでん)に錦(にしき)の
袴(はかま)振(ふり)の袖(そで)いとやごとなき若君(わかぎみ)こと表(おもて)をつくらふ見世(みせ)かけ姿(すがた)なにかしさいの有磯(ありそ)
海(うみ)まことは阿古木(あこぎ)が娘(むすめ)の磯名(いそな)まだうい〳〵しき昼交(ひるど)りはいわねどしるき光君(ひかるきみ)磯(いそ)
名(な)はいつそはづかしげに〽ついに仕(し)つけぬ此(この)ようなとのごのような形(なり)をしてどうやら人(ひと)
に見られるようで爰(こゝ)へ来(き)てまで誰々(たれ〳〵)も男(おとこ)あしらひかたくろしいそのあいさつの辺(へん)
事(じ)さへ何(なん)といふてよからうやらわたしやどうせうかト思(おも)ふたわいな〽このしどけない
とりなりがまたひとしほにうつくしいやかたのうちではいつとても人目(ひとめ)にたつをいとふが
故(ゆゑ)得白(しら〴〵)はなしも得(え)ならねば今日(けふ)爰(こゝ)の客殿(きやくでん)にてゆる〳〵そちとかたらわんため
住持(ぢうぢ)をはじめ僧(そう)等(ら)にもそちを男(おとこ)と思(おも)はせたれば葷酒(ぐんしゆ)さへもいましむる此(この)梵刹(ぼんざつ)の

客殿(きやくでん)にて此(この)ような生物(なまもの)を賞翫(しやうくわん)するを誰(たれ)あつてふつに心(こゝろ)のいかぬといふはなん一(いち)だん
よい趣向(しゆかう)であらうがなト入(いれ)たるへのこをぬき出(いだ)し又(また)突込(つゝこん)でたのしみながら〽是(これ)まで
遊所(いうしよ)にいたるゆへ見(み)なれ聞(きゝ)なれせし故(ゆゑ)にや先頃(さきごろ)水上(みづあげ)せし折(をり)よりいちはやく巧者(かうしや)づ
き不束(ふつゝか)ならぬ取(とり)まはし莟(つぼみ)と盛(さかり)のたがひはあれどそちが母(はゝ)の阿古木(あこぎ)と大(おゝ)きな違(ちが)
ひ苦界(くがい)にいても年(とし)ゆかねば男(おとこ)に肌(はだ)をふれざる故(ゆゑ)開中(かいちう)のやわらかさ誠(まこと)に真綿(まわた)の
ごとくにて陰茎(へのこ)の根(ね)よりいちめんに喰〆(くひしめ)るがごとくなりケ(か)程(ほど)にしまりの能(よき)開(ぼゝ)は
是(これ)までさらにおぼへぬト数多(あまた)の女(をんな)を好(すき)自由(じゆう)にされでもなれでもとぼしぬき何百(なんびやく)
人(にん)となき開(ぼゝ)の数(かず)心見(こゝろみ)給ひしさすがの君(きみ)も我(が)を折(をり)給ひまだとしゆかぬこの磯名(いそな)が
玉門(ぎよくもん)に喰〆(くひしめ)られこらへずスウ〳〵フウ〳〵ト猶(なほ)おしこんでよがりの鼻(はな)いき入れたへのこへ
ひつたりと喰(くひ)ついている如(ごと)くなるかたきしまりにぬきさしもゆるやかならぬをグウ〳〵
トさしこみぬきあげするほどに磯名(いそな)はハア〳〵スウ〳〵〳〵かあゆき尻(しり)をふり廻(まは)し開(ぼゝ)の奥(おく)よ
り湯(ゆ)よりもあつき淫水(いんすゐ)がどく〳〵〳〵トながれ出(だ)しへのこにしみる心(こゝろ)よさ是(これ)にて

へのこはいよ〳〵いかり開(ぼゝ)にはびこりいかんともせんかたなしと思(おも)ふうち磯名(いそな)が気(き)をや
りおびたゞしくあぶれだしたる淫水(いんすゐ)のぬめりにさすがの大陰茎(おゝまら)が毛(け)ぎはまで
はいりしかば其(その)まゝすか〳〵早(はや)ごしにとゞかせ〳〵どく〳〵〳〵どつく〳〵ト気(き)をやれば
いそなも男(おとこ)の淫水(いんすゐ)が子宮(こつぼ)につう〳〵ドキ〳〵トこたへる気味(きみ)よさこゝろよさハア
ハア〳〵〳〵スウ〳〵ト間(ま)もなくふたゝび気(き)がいき出(だ)しにへゆのやうな淫水(いんすゐ)が共(とも)にどく
どくぬる〳〵〳〵ハアヽフウヽト両人(りやうにん)がこらへかねたる大(おゝ)よがりふすまの外(そと)にはさいぜんより
二人(ふたり)がそぶり心得(こゝろえ)ずとうかゞひ寄(よつ)たる田貫(でんくわん)馬刀(ばとう)このありさまを聞(きく)よりもくみつ
とせきたちかねてのたくみ。とよしの前(まへ)より内意(ないい)の通(とほ)り是(これ)をおちどに目(め)にもの
見(み)せんと飛入(とびい)らんとしたりしがあまりのよがりに気(き)をうぱはれ左(さ)なきだにさへ
おへがちなるまことや坊主(ぼうず)の徒然(とぜん)陰茎(まら)木(き)のごとくにおへかへれば邪魔(しやま)になりては
たらきも是(これ)では自由(じいう)になるまじト残念(ざんねん)ながら両人(りやうにん)はへのこを我手(わがて)ににぎ
りつめ一(ひ)ト(と)間(ま)のよがりを耳(みゝ)にもうけ夢中(むちう)になつている所(ところ)へいつの間(ま)にやら村荻(むらをぎ)

空衣(からぎぬ)田貫(でんくわん)馬刀(ばとう)は是(これ)さいわひト二人(ふたり)の坊主(ほうず)ふたりの女(おんな)に抱(だき)つくにぞ〽エヽいやらしい
ト空衣(からきぬ)村荻(むらをぎ)一度(いちど)にはつしとつきたをせば足(あし)もしどろの田貫(でんくわん)馬刀(ばとう)のけさまに
たおれるひやうしはづみきつたる一物(いちもつ)を田貫(でんくわん)柱(はしら)に突懸(つゝかけ)るに淫水(いんすゐ)走(はし)ツてツウ
ツウ〳〵馬刀(ばとう)もへのこをかくさんトおさへる手先(てさき)へドク〳〵〳〵この物音(ものおと)に一(ひ)ト(と)間(ま)のふすま
さつとひらいて声(こゑ)たかく〽女犯堕落(によぼんだらく)のふとゞきやつそこ一寸(いつすん)もうごくまいぞ
         朝顔(あさがほ)
見(み)しをりの露(つゆ)わすられぬあさがほのはなのさかりを丸髷(まるまげ)に女房(にようぼ)かたぎの新世(あらぜ)
帯(たい)昼(ひる)も箪笥(たんす)の鐶(くわん)がなりト世(よ)のことわざも嘘(うそ)ならずたがひに思(おも)ひおもはれて
夫婦(ふうふ)となつたら思(おも)ふまゝそして斯(かう)してどうしてと明(あけ)ても暮(くれ)てもとにかくにあわ
れぬつらさをかこちしも願(ねが)ひかなふて今(いま)ははや世間(せけん)はれてのふうふ中世帯(なかせたい)
半分(はんぶん)はんぶんはまづ交合(すること)がかんじんト何(なに)がたがひにめづらしければ中(なか)〳〵夜(よる)の睦(むつ)
言(ごと)が残(のこ)る暑(あつ)さの蚊帳(かや)のうち〽モウ夜(よ)が明(あけ)てしまつたようだよ〽夜(よ)が明(あけ)たとて

今日(けふ)は誰(だれ)も来(く)るものはなしかまふ事(こと)があるものかそりやアそうと小便(せうべん)をして
来(く)るから床(とこ)をあげずに置(おき)なよ真裸(まつはだか)で椽側(えんがは)の戸(と)を明(あけ)庭(には)に朝顔(あさがほ)がさかり
にひらきいるを見(み)て〽今朝(けさ)は能(いゝ)のが大(たい)そうに咲(さい)た〽ドレエト寝間着袷(ねまきあはせ)のまゝ帯(おび)
ひろどけにて同(おな)じくゑんがわへ出(で)て〽ホンニ美(うつく)しく咲(さい)たねへ〽此(この)朝顔(あさがほ)にやアかなは
ねへと女(おんな)の頬(ほう)べたをちよいとつツつく女(おんな)はにつこり〽マア真裸(まつはたか)で大(おゝ)きな物(もの)をぷら〳〵
出(だ)して見(み)つとむないはやく小用(てうづ)をして着(き)ものをおきよ〽まだねむくつてならねへ
から小便(せうべん)をしてもう一(ひ)ト(と)寝(ねい)入りねるつもりだ〽あきれかへつた寝(ね)ぼうだよ〽それで
も夜前(ゆふべ)はてめへのおかげでまんじりともしやアしねへ〽フンむしのいゝ事(こと)ばつかりそれ
だからわたしが又(また)あしたねむいからもうお寝(ね)といつたのに〽それでもおれがうと〳〵
寝(ね)ようとすると陰茎(まら)を握(にぎ)つたりひねくつたりしておゆかさせるもんたからつい又(また)
かゝりあふ気(き)になるのだ〽アレ何処(どつ)かへ聞(きこ)へると外聞(ぐわいぶん)がわるいわね〽ドレもう漏(もり)さう
になつた〽どうりでふくれかへつているよ〽コレサさわるな爰(こゝ)で漏(もらす)と大(たい)へんだト小(こ)

用所(ようじよ)へ行(ゆき)ひよぐりしまい早々(さう〳〵)床(とこ)へはいり〽モウ蚊帳(かや)をはづしたなマア一寸(ちよつと)爰(こゝ)へ来(き)な
不思儀(ふしぎ)な事(こと)があるから〽何(なに)がへ〽今(いま)小便(せうべん)をしたら鈴口(すゞぐち)に何(なに)かさわるようなものが
出来(でき)たやうだがどうかしやアしねへか見(み)てくりや〽ばからしいどうするものかね〽そ
れでもいら〳〵するようだから一寸(ちよつと)見(み)てくりや〽どれト陰茎(へのこ)のあたまをつまんで
見(み)ているうちによつきりとおへる〽ヲホヽヽヽヽ是(これ)かへ〽そこだ〳〵〽いやだよ紙(かみ)のけ
ばかこびついていたのだよ〽おきやアがれあんまり交(し)たから陰茎(まら)のさきへさゝくれが
出来(でき)たかと思(おも)つた。取(とつ)てくりや〽とつてしまつたよ〽とつたらてめへをももう一(いち)ぱん
とつてやらうト女(をんな)をだき上け寝起(ねおき)におへきつたへのこを居茶(ゐぢや)うすに下(した)からぐつ
と毛(け)ぎはまでぬる〳〵〳〵トおしこむト女(をんな)はしつかり抱(だき)つき〽いつてよくとゞくよか
うしてするのもとんだいゝねへ
         乙女(おとめ)
をとめ子(こ)が神(かみ)さびぬらしあまつそでふりのたもとやぬれそめておさなどう

しのためごと〽先頃(せんど)己待(みまち)の晩(ばん)に歌(うた)がるたをとつて皆(みんな)がどこかへいつておまいとわ
たしとふたりになつた時(とき)わたしがいつた事(こと)を覚(おぼへ)ておいでか〽アヽ先頃(せんど)泊(とまり)にまいつ
た時(とき)の事(こと)かへ〽さうさ〽ヲホヽヽヽ〽わすれておしまいか〽ヲホヽヽヽ〽なんだねそんなにわら
つてばかりいてわすれておしまいだらう〽いゝヱ〽それぢやアなんといつたへ〽わたしの
言事(いふこと)をきけとお言(いゝ)のかへ〽さうさそれから二三日(にさんち)過(すぎ)るとおまへは内(うち)へかへつて夫(それ)から
ちつとも来(こ)なかつたが内(うち)へかへつておまへのおつかアに私(わたし)の言(いつ)た事(こと)をお言(いゝ)ぢやアな
いか〽ヲヤなんぼわたしのようなもんだといつてそんな事(こと)を何(なに)いゝますものかね〽そんな
ら能(いゝ)がおまへは何(なん)と思(おも)つておいでだоヱоどうてもいやかへоヱコレサいやならいやで
いゝから何(なん)とでもへんじをしてお聞(きか)せよト娘(むすめ)の手(て)をにぎると真赤(まつか)になつてうつむ
き顔(かほ)に袖(そで)をしつかりあてゝぶる〳〵〽コレサ否(いや)ならいやとたつたひと言(こと)いふばかり
だわね何(なん)とかいつておくれよコレ〳〵トゆすぶれどもぐウともすつとも返事(へんじ)なく
だん〳〵かたく身(み)をちゞめてどう気(き)をもんでも一向(いつかう)だんまりなれば〽これоなく

のかへоコレоコレоそんならもうよすからお泣(なき)でないしつゝここいことを言(いつ)てわたしがわる
かつたから堪忍(かんにん)おしサアもうおなきでないト顔(かほ)へあてた袖(そで)をむりやりに引放(ひきはなす)と
はづかしさが一(いち)ぱいでどうしたらよからうといふ顔(かほ)でоにつこり〽そんならおまへ承(しやう)
知(ち)かへトぐつと引寄(ひきよせ)はづかしがるをむりに口(くち)を吸(すい)かゝれば自由(じゆう)になつて吸(すは)せている
ゆゑもうこつちのものト力(ちから)かぎりにざきしめて〽(わかしゆ)ヱゝどうもかわいゝねへ
        玉葛(たまかづら)
恋(こひ)わたる身(み)はそれなれど玉(たま)かつらいかなる縁(えん)の糸(いと)すじにや初瀬詣(はつせもうで)の道(みち)のつ
れоついに見(み)もせず逢(あひ)もせず知(し)らぬどうしの行合色(ゆきあいいろ)初対面(しよたいめん)から相惚(あひぼれ)にいつ
の間(ま)にやら言(いゝ)かはし今夜(こよひ)たがひにこもりくの初(はつ)の逢瀬(あふせ)にそろ〳〵トかすかに
見(み)ゆる御燈(みあかり)の光(ひかり)を目あてに忍(しの)びよりふたりはこゝろのせくまゝに物(もの)をもいわ
ずいだき付(つき)まづいきなりに股(また)ぐらへぬつと手(て)を入(いれ)玉門(ぎよくもん)をくぢりかゝるにもと
よりもさせる心(こゝろ)で忍(しの)びし事(こと)ぬら〳〵出(だ)しいるうるほひに男(おとこ)はうれしさたまり

得(え)ずこなたも交気(するき)でおやして来(き)たへのこをすぐに入(いれ)かけるにうるほひながらも
まだ生娘(きむすめ)とかくすぐにははいらねば是(これ)ではゆかぬト引(ひき)しりぞけつばきこて〳〵
かりくびへぬりまはしてふたゝびあてがひぐつとひとおし押(おし)ければ程(ほど)よくぬるりと
はまりしうれしさもう是(これ)からはらくなりトそろり〳〵とつかひかけよう〳〵根(ね)迄(まで)
おしこめば娘(むすめ)はしきりに鼻息(はないき)せわしくウン〳〵フン〳〵いゝさまにどく〳〵出(いだ)す心(こゝろ)の水(みづ)
男(おとこ)は得(え)たりと大腰(おゝごし)小(こ)ごし汗(あせ)みづながしてすつかすか娘(むすめ)はスウ〳〵ハア〳〵〳〵アヽ〳〵ど
うもフウ〳〵〳〵男(おとこ)も無言(むごん)でスウ〳〵〳〵ハア〳〵〳〵〳〵ト一心不乱(いつしんふらん)娘(むすめ)は廊下(らうか)の板敷(いたじき)へ
尻(しり)をすりつけすりまはしハア〳〵スウ〳〵はないきもろともふたり一度(いちど)にどく〳〵〳〵
実(げ)にや動穴廻廊(どうけつくわいらう)の契(ちぎり)を爰(こゝ)に結(むす)びげり
       初音(はつね)
とし月(つき)をまつにひかれてふる人(ひと)にけふ鶯(うぐひす)のはつねの床(とこ)〽はつ春(はる)早々(さう〳〵)日(ひ)ごろの
願(ねが)ひがかなつてこんなうれしいめでたい快事(こゝろよいこと)はまたとはあるまいホイ是(これ)はしたり

おまへの心(こゝろ)もしらずにわたしばかり此様(こんな)ことをいふこともないね〽ヲヤどういたしま
せうわたくしこそうれしくて〳〵いつでもお正月(しやうがつ)はうれしいと思(おも)ひますが此(この)ように
嬉(うれ)しいお正月(しやうがつ)はついぞおぼへません〽それでは外(ほか)のお正月(しやうがつ)もたび〳〵なさつたら
わたしなぞのようなお正月(しやうがつ)はおめづらしくもありますまい〽ヲヤその事(こと)ではござい
ませんいつもいたすと申たのは只(たゞ)のお正月(しやうがつ)のお正月(しやうがつ)の事(こと)であなたとこのような事(こと)
をいたすお正月(しやうがつ)はまことにもう〳〵うれしいお正月(しやうがつ)でついぞ此(この)様(よう)な事(こと)をいたしたお正(しやう)
月(がつ)はございませんからそれで此(この)様(よう)なお正月(しやうがつ)はヱヽモウなんだかわたくしにもわか
らなくなりましたアヽもう〳〵〳〵フン〳〵〳〵外(ほか)に此(この)ような事(こと)をいたした事(こと)はござ
いませんからその申わけをいたそうトぞんじてもなんだかモウ〳〵フン〳〵〳〵〳〵ぞんじ
もしない事(こと)をおつしやるからわたくしは〳〵〽ハヽヽヽヽぜうだんに言(いつ)たのだからかん
にんおしおまいにかぎつてそんな事(こと)のないといふのは知(し)つているよ〽それでもあな
たがうたがつておいでなさるかとぞんじて気(き)になつてなりません〽わるい事(こと)を

いつておまへに気(き)をもませたかんにんしておくれサア〳〵もうわたしもいきそうにな
つてアヽどうも〳〵フン〳〵〳〵〽ほんとうにけふがはじめてだからそうおもつておくんなさい
ましよ〽もういゝわねおまいがはじめ痛(いた)がつたので新開(あらばち)は知(し)れきつているわね〽はづか
しいそんな事(こと)をおいゝなさいますなよアヽモウフン〳〵〳〵〳〵〳〵アヽいくよ〽其(その)心(こゝろ)ねがかあいくつ
てたまらないト男(おとこ)も一時(いつしよ)にドク〳〵〳〵庭(には)の梅(うめ)の枝(えだ)にて鶯(うぐひす)の初音(はつね)〽ホウほけき
やう
        胡蝶(こてふ)
花園(はなぞの)のこてふさへやよそへぐさふたりたわむれ睦(むつひ)あひついてんがらが誠(まこと)となり
さア為犯様(させう)なり交(し)ようなりいわずかたらず割(わり)こんでべつたり付(つけ)たる花(はな)の露(つゆ)〽に
くらしいよ〽人(ひと)じらしめとうするか見(み)ろ〽ニイ引かつてにしろ〽泣(なく)ときかねへぞ〽おまいこ
そお泣(なき)でない〽其(その)口(くち)をわすれるなト陰茎(へのこ)を開(ぼゝ)へぬつと入(いれ)る〽アヽ痛(いた)〽それ見(み)ろま
けたらう〽ヱヽぢれつたいトしがみ付(つく)ひやうしに半分(はんぶん)余(よ)までぬつと入(いれ)る〽アヽほんとう

に痛(いたい)よ〽がまんしねへなト小腰(こごし)にすか〳〵すか〳〵むしやうに腰(こし)をはやめて遣(つか)ふに娘(むすめ)は
スウ〳〵いひながらさきばしりの淫水(いんすゐ)をぬる〳〵〳〵ト出(だ)しかければ男(おとこ)はしめたト大腰(おゝごし)に
ぬう〳〵ぬつト根(ね)まで入(い)れすり〳〵トやりかけるに娘(むすめ)はハア〳〵ハア〳〵〳〵アヽもうなん
だかせつないようだよ〽やかましいだまつていねへト陰茎(へのこ)の先(さき)で秘術(ひじゆつ)をつくしいちばん
うまく気(き)をやらせんト口(くち)から奥(おく)までまんべんなくきうしよをこすつてぐつさぐさ娘(むすめ)
もしきりに美快(よく)なりしや反返(そりかへ)り目(め)をねふりフウ〳〵スウ〳〵鼻息(はないき)もいとくる
しげなるよがり顔(がほ)見(み)るに男(おとこ)はたまりかねたちまちへのこがびよく〳〵〳〵既(すで)に気(き)の
いく其(その)期(ご)にいたりぐつト子宮(こつぼ)へ奥(おく)ふかくへのこを突込(つゝこむ)そのはづみ娘(むすめ)はハアヽヽト正(しやう)
体(たい)なく喜悦(よがり)の鼻息(はないき)もろともに能(よい)気味(きみ)凝(こつ)たる溜淫水(ためいんすい)いちどに子宮(こつぼ)をつ
つくりかへし陰茎(へのこ)のあたまへドク〳〵〳〵ドクリ〳〵トかゝるとき男(おとこ)も一時(いつしよ)にツウ〳〵〳〵ドツク〳〵ト
やり仕廻(しまい)其(その)まゝずぼりト引抜(ひきぬけ)ば娘(むすめ)は濡開(ぬれぼゝ)ちやつトかくしぬらつく股(また)ぐらゆもじ
でふき〽ヱヽにくらしいト男(おとこ)は脊中(せなか)を手(て)ひどく掌(ひらて)でぴつしやり打(たゝき)飛(とぶ)がごとくに迯(にげ)て

ゆくかゝる所(ところ)へ来(き)あわすは同じ友(とも)なる若男(わかおとこ)是(これ)もとうからかの娘(むすめ)をねらいすま
していたりしが今此 様子(やうす)にくやしがり時節(じせつ)を待(まつ)て由断(ゆだん)のうちはや友 達(だち)に新開(あらばち)
わらせ虫(むし)がついてはもうゆかぬト惚(ほれ)た子寵(こてう)もうらかへに秋待虫(あきまつむし)のそれならて
疎(うと)く思ふもことはり〳〵
        蛍(ほたる)
声(こゑ)はせで身(み)をのみこがす夏虫(なつむし)のいわぬは言(いふ)に増(ます)思ひ同じおもひにしたひ来(く)る
庭(には)の遣(や)り水恋の山 築(つき)山めぐりて忍(しの)び足(あし)心(こゝろ)も空(そら)に飛石(とびいし)づたひ飛(とび)かふ蛍(ほたる)をた
よりにてこがれよるべの恋の闇(やみ)椽(えん)さきちかく身をひそめ椽(えん)の板(いた)じきほと〳〵ト
合図(あいづ)をすれば最前(さいぜん)よりしのんで待(まち)し此 家(や)の娘そつとすり寄(よ)るそのけわい蛍(ほたる)
籠(かご)のひかりにてはつかに見かわす顔(かほ)とかほ〽よく忍(しのん)て来ておくれだね〽おまい
もよく待(まつ)ておいでだねト其まゝ手に手を握(にぎ)り合(あひ)胸(むね)とゞろかせていたりしが男は
そろ〳〵椽(えん)の上(うへ)すぐに割込(わりこみ)前(まへ)かきわけさぐる手 先(さき)にからまる二布(ふたの)緋縮緬(ひぢりめん)を

まくりあげよう〳〵とゞく玉(たま)の門(かど)暗(くら)さに娘(むすめ)の顔(かほ)は見(み)えねとまだうい〳〵しくはづ
かしがりもぢ〳〵するを片手(かたて)にて男(おとこ)はしつかりいだき〆(しめ)かた手(て)でそろ〳〵くぢりかけ口(くち)
を吸(すふ)間(ま)も陰茎(へのこ)が待(まち)かね火(ひ)の如(ごと)くにおへかへり口(くち)も吸(すい)たしくぢりもしたし早(はや)く陰(への)
茎(こ)も入(い)れてみたしト三方(さんはう)一 度(ど)に心(こゝろ)せき口吸ながらくぢつた指(ゆび)をぬくよりはやくへのこ
をあてがい気をせきぐつと押込(おしこめ)ば娘はいつそ痛(いたむ)と見え乗(の)り出る所(ところ)を抱(だき)すくめ
腰(こし)へ力(ちから)をいれあげて一トおしぬつとおすほどに根(ね)までしつくりはまつたり娘はハア
アヽハア〳〵トこしをもじ〳〵受(うけ)かねるをあしらひ〳〵やわらかくいかにもしづかにつかふう
ちしだいにうるほひ抜差(ぬきさし)もやゝゆるやかになりければ今はいたさに引かへてどこ
ともなしに可愛(かあい)くなりフウ〳〵〳〵ト忍(しの)ひ泣(なき)男もかあいさ快(こゝろよ)さすかり〳〵トおこな
ふに汗(あせ)かあらぬかびちよ〳〵ぬら〳〵そこらわけなくぬらつくあんばいへのこはいよ
いよ開中(かいちう)にてふやけかへりてぬきさしに摺合(すれあふ)気味よさその度々(たび〳〵)淫水(いんすゐ)湧(わき)出あ
ぶれいでふたりは夢中(むちう)に思はず知(し)らずこゑを出してアヽ〳〵〳〵アヽいく〳〵トもだへるはづ

みに椽(えん)先(さき)の蛍(ほたる)かごをふみかへせば数多(おゝく)の蛍が一時にはつと飛散(とびち)る光(ひかり)に驚(おどろ)き飛のく
ひやうしに大 陰茎(まら)がずぼりとぬけてづつきづき気のいきかゝつたふたりが淫水(いんすゐ)はづみを
うつてどく〳〵〳〵ぬら〳〵〳〵トこゝろよくやり水ながるゝ庭(には)の面(おも)蛍は四方へ飛 去(さり)けり
           常夏(とこなつ)
なでしこのとこなつかしき色(いろ)を見ばいかなる偏屈(へんくつ)かたそうもいかで只(たゞ)にや見のがす
べきましてや色の世(よ)の中(なか)に色 好(ごのみ)なるいろ男なつかしとも美(うつく)しともいわんかた
なき仇(あだ)娘(むすめ)をおのが気まゝに囲置(かこひおき)明暮(あけくれ)手 活(いけ)と詠(ながむ)る事 是(これ)にましたる楽(たのしみ)なしト今(け)
日(ふ)も朝(あさ)から妾宅(しやうたく)に呑(のみ)かけしが頃(ころ)も炎暑(ゑんしよ)のことなれば水飯氷魚(すゐはんひを)にも喰(くひ)倦(あき)てさら
ば此上は此 生(なま)がいを水がいにして賞翫(しやうくわん)せんト物好(ものずき)したる泉水(せんすい)へかけ作(づく)りの手摺にかの
仇娘を寄(よせ)かけて後の方よりすきやの帷子(かたびら)まくりあげまた日中(につちう)にもゆるが如(ごと)き緋(ひ)
縮緬(ぢりめん)の二布(ふたの)をぐつとかきのければ肌(はだ)のきよらさ玉(たま)のごとくなるにふつくりとした玉門(ぎよくもん)
さかしまにほの見え空割(そらわれ)ほんのりと薄赤(うすあか)く少しうるほひをふくみたるありさまひたひ

際(きは)に行(きやう)義よくはへたる薄毛(うすげ)も真白(まつしろ)な肌(はだ)にうつくしく見えて何ともかともいわれぬ景
色(しき)いろ好(このみ)なる心には月 雪(ゆき)花はものかは紅葉(もみぢ)の錦(にしき)野辺(のべ)の千草(ちぐさ)もいかでか是につゞくべきト
まづ指先(ゆびさき)にて空割(そらわれ)あたりをいぢり廻(まは)すに〽アレどうおしだへいつそはづかしいはやくどうかなさい
なねへト目をとろりとした顔(かほ)ばせに男は惣身(そうみ)もとろけるばかりからだかぐにや〳〵なるとひと
くへのこは木よりもかたくなりどつき〴〵とおへかへりかりはひらけてすさまじく太筋(ふとすぢ)張(はり)出し一 物(もつ)
を羽二重(はぶたへ)の様(やう)な玉(ぎよく)門へゑしやくもなくあてがつてぬらり〳〵トこね廻せば女は鼻息(はないき)あらくしてや
がてそつと手をのばしへのこをわが手にのぞませて程(ほど)よく開(ぼゝ)をおしつければ擂子木(すりこぎ)ほどな
大 陰茎(まら)がたちまちぬるりとはいりし工合(ぐあい)しつくりとしてゑもいはれず男は其 侭(まゝ)反(そり)身に
なり己がへのこが美(うつく)しき開(ぼゝ)へすつぱり毛際(けぎは)迄(まで)はまつた所(ところ)を見ている心のたのしみさ一寸(ちよつと)はい
かぬ酒まらなれば少しもせかず其まゝに入ひたしにしてたのしむを女はフウ〳〵スウ〳〵トいふにいわ
れぬ美(うつく)しき顔(かほ)をしかめて〽アレなぜじつとしておいでだよわたしやアもうフン〳〵〳〵アレサはやくどう
かしておくれよトおもいれ女に気をもませ程(ほど)よき所でずか〳〵―秘術(ひじゆつ)をいだしておこなへは女は

ハア〳〵スウ〳〵しこしをもぢりてぬら〳〵〳〵気(き)をやる淫水(いんすゐ)ぬきあげた陰茎(へのこ)の棹(さを)へつたわりて根元(ねもと)の
方(かた)までぬる〳〵〳〵又(また)おし入(いれ)てぬき出(いだ)せば中(なか)の淫水(いんすゐ)へのこの棹(さほ)へべつたり付(つい)て出(いで)たるさま紫(むらさき)だちし
一物(いちもつ)がぬれ色(いろ)にひかりたち我(わが)ものながら気(き)がわるくいよ〳〵おへきり開中(かいちう)にて雁(かり)がひらけばぞ
く〴〵とぬきさしするたび摺(すれ)わたり女(をんな)はたまらずハア〳〵もたれし手摺(てすり)へしがみ付(つき)開(ぼゝ)をへのこへ
すりつけ〳〵毛(け)のはへぎは迄(まで)入(いれ)させて夢中(むちう)になつて気(き)をやればさすがの酒(さけ)陰茎(まら)たもちかね
〽ハア〳〵〳〵ト男(おとこ)なき喜悦(よがり)の鼻息(はないき)もろともに子宮(こつぼ)の奥(おく)へかたまつた淫水(いんすゐ)したゝかツウ〳〵〳〵ど
つく〳〵どく〳〵にちや〳〵かあいさト気味(きみ)よさに煉(ねれ)かたまつた淫水(いんすゐ)をのこりなくすつぱり
出(いだ)しマヅ斯(かう)していて一(ひ)ト(と)休(やすみ)と女(をんな)を引寄(ひきよせ)ふり向(むか)せて美(うつ)しき口(くち)に口(くち)をさしよすれば女(をんな)も息(いき)の切(きれ)たる
あげく男(おとこ)の口(くち)に吸付(すいつい)てチウ〳〵吸(すつ)たり吸(すは)れたり互(たがひ)に尽(つき)せぬ睦言(むつごと)は世(よ)にも楽(たの)しき身(み)の上(うへ)也けり
          篝火(かゞりび)
かゞり火(び)にたちそふ恋(こい)のけふりこそ世(よ)にはたへせぬ色(いろ)の道(みち)まづ十四五(こむすめ)の新開(あらばち)はいふに
及(およ)はず十六七は初花(はつはな)ざかり十七八が色(いろ)ざかり十九はたちが交合(とり)ざかり廿二三が喜悦(よがり)のさかり

廿四五より中年増(ちうどしま)情盛(なさけざかり)の本味(ほんあぢ)そなはり廿七八三十だい是(これ)らは功者(こうしや)させ上手(じやうづ)いづれ
すたりはなき中(なか)にも中年増(ちうどしま)こそ誠(まこと)の美味(うまみ)とある男(おとこ)かねてより心(こゝろ)がけしに其(その)隣家(りんか)に
此程(このほど)しばらく逗留(とうりう)の女(をんな)あつらへ通(どほ)りにて少(すこ)しうは気(き)に見(み)えければとかくして言寄(いゝよる)に枇(び)
杷葉湯(わえうとう)かはしらねども手(て)もなく相談(さうだん)とゝのひて首尾(しゆび)を見合(みあはせ)庭先(にはさき)ににて先(まづ)よき
所(ところ)へつくばわせかた足(あし)あけさせ入(いれ)かけるつくばい交(どり)も功者(こうしや)と功者(こうしや)男(おとこ)はもとより喰(くひ)ざかりのそ
の味(あじは)ひをためさん気(き)なればへのこの先(さき)にて開中(かいちう)をとつくりとかきさがすに中(なか)には鶏(とり)のとさか
に似(に)ていとやわらかき肉(にく)多(おほ)くへのこをもてなすきみのよさ是(これ)はいかさまあらそはれぬト心(こゝろ)
に思(おも)へば女(をんな)の方(はう)にもへのこをとつくりかみ〆(しめ)てさてもきみよき一物(いちもつ)かな第一(だいゝち)ふとく雁高(かりだか)で
筋(すぢ)が太(ふと)くていぼ〳〵だちこんなよいへのこの人(ひと)を亭主(ていしゆ)に持(もつ)たらよからうと互(たがひ)にしこたま
気(き)をやつて其(その)夜(よ)は其まゝ別(わか)れしが是(これ)が互(たがひ)のやみ付(つき)となりとう〳〵先(さき)よりもらひ受(うけ)何(なに)
が上開(じやうかい)上(じやう)まらにてすれども〳〵倦色(あくいろ)なく中睦敷(なかむつましく)暮(くら)せしは誠(まこと)似(に)た者(もの)一対(いつゝい)の能(よき)夫婦(ふうふ)とぞ言(いゝ)あへり
浮世源氏(うきよげんじ)下の巻終

BnF.

《割書:道|行》 恋(こい)の婦(ふ?)と佐男(さを) 

【なし】

戀(こい)の取持(とりもち)

おきくあやまつた
あづまがことハさつ
ばり【さっぱり】おもひ
きつたさう【そう】しやつき【癪気】ばらづと
さァ〳〵
きけん【機嫌】
なを【右下へ】しに【下へ】これ


てふ
〳〵
                  下ノ壱
【左頁】
吾妻
与次兵衛


マア
またんせ
ざしき
らうをでヽハ
とゝさま【合略?】へすま

そんなら
ワたしも
ゆくから
【下へ】
□□
□【あちら?】へ

かん

わたしとても
まんざらても
ないのさ

とても
そハれぬ事
ならバしんで
ミらい【未来】でそいとけ
よふとおもい
つめてハミた
【左頁上段】                    下ノ 四
けれともさきの
しれねへミらいより
つらいうきよに
ながらへたらいつ
かそハれる
よふにもな
らうとお
もつてミたら
しミ〳〵しぬが
いや
になつ

てきた
さアよくちを
だしなセェ
ぢれつてへ

小春
紙治

むかしの
次兵衛を
ミるよふ
しんちう【心中】なぞと
いふやぼな
こたァよしにして
【下】

ねんも
いき
てたの
【下】
しむ【楽しむ】か
なんと
つうな
れう  けん【了見】だらう


【右頁下段】
女房の
ふところ
にハおにが
すむか
さつばり
うちにねる
【左頁下段】
がいやだ
てめへと
ふたりの
いんすい【淫水】が
しゞミ川□【へ?】
ながれたら
さそ
なりひら【業平】
大しゞみか
たんとで
きるた
らう

お妻
八郎兵衛

なんにもしらぬ此おはん
一ねん〳〵たつうちに
とゝさま【合略?】にいきうつしだの
なんのとぬかしてほへるからよもや
ほん【本?】のことだとおもつて一ぱいかヽれたハへ
とヽさまにいきうつしならアノがきも
さぞぼゞがすきになるだらふ
【上へ】
うぬらアうなぎだ□【と?】
すんて【済んで?】いかにらんやく【蘭薬?】の
きヽめかいゝとてもあんまりぼゞに
ばかりかまけて
□【ら?】しやァがる
これいろ男しやァむるい【無類】とひきり【とびきり】
くろこく上〻吉【黒極上上吉】といふこのかうぐや【香具屋】の
弥兵衛さまをよくだしにつかつたな
ミんな【皆】ばア【婆?】めもなれあいとミへた
ふてへやつらだふてへまらだ
イヤひろいぼゝた

よくきけよ
おもてだつて
さるじやう【去状?】
をやつた
【左頁へ】               下ノ 五
女房だ
から此

兵衛


さまハ
むこさまに
こざつたのだ
すりやァ【そりやぁ?】れつきと
したま男だぞサァ
とふだ【どうだ】いゝわけか
あるならして
ミろいけつぷてへ【図太てえ】
やらふだながふてへ【長太え】まらだ
【下へ】
なんぼかねがある
とつて【とて?】うぬが
つらでむこに
なられる
ものかへ

【右頁下段】
アレさ〳〵
ヱ〻
むき
どう【無軌道】な

椀久
枩山

てんちけんこん【天地乾坤】
こんとんミぶん
ミことな
まらハ
おゝ
けれど
いれてびつくり
するのハ
ぬしのでおざ
りいす
つい〳〵の
ついと

きがいきいす【気が行きいす】
                    下ノ六
【左頁】

いろにそやされ
こんななりで
ぼゞをする
【下へ】
ちとせを
すへのまつ
やま【千歳を末の松山】といつ
てんばりの
そもじ【其文字】だ
ものをかた
ときわ
すれることハ
ねへおらァ
このよふに
【下へ】
まよつてすへ【末】ハさヽの
は【笹の葉】を
かつ
がにやァ
【下へ】
いゝか

くれ六ツが
ごんとなると
とぼすより
ほかに何も

しよぜへ【処世?】が
ねへこれを

もへバあの
かねハ
【左頁】             下ノ 七
くれむつでハ
なくてぬれ
六ツだ

いりあいでハない
びりあいだ
どうしてもいもふとだけ
あつておふさがほヾより
かくべつ
あじが
いヽ

小糸
佐七

【右頁中段】
サア〳〵
おれも
たまらなく
なつて
きた
【右下】
ア〻それさ いまてさ

はなし
ちやァ
なら
ねへ
【下段】
かん


かな

め【肝心要】の

ころ

それ
〳〵






それ

【左頁】
〳〵

つく

花(はな)に嵐(あらし)





                下ノ 八

  下屋しきの凉しひね

真乳山【待乳山?】夕越くれば菴崎【庵崎】の隅田川原にひとりかとも□【詠?】むとは。昔の
人はとんだ野暮(やぼ)だぞ。真崎にはには女/藝者(けいしや)の。かけて一トといふか有る。もつ□【と?】
是を伸(のハ)せバ吉原といふ色の世界(かい)。コレ手まへハ山の手て育(そだち)て。聖天さまへまだ
参らぬといふから連てハ来たが。マア此くらゐな物さと。しやれる。亭主にいきな
女房まだ十八九と見へて美(か?つ)しき物。此ヶろ【此ごろ?】呼(よん)てはじめて。夫婦連の下
やしき行。草履(さうり)とりをコレわりやァ。桟橋(さんばし)に待つて居る屋根舟行てナ。
色〻にモウふねハ入らねへから先へ帰(かへ)れといへ。夫からすぐに下屋しきへ行て今
来たとしらせろと。夫婦(ふうふ)ハ下女とも引つれ今戸へ鳴(な)り込(こ)めバ。屋/守(もり)の

女ぼうソレ旦那さまかと。すぐに座敷へ返し。御酒よ御肴よと□□くやら。なる
ほど遊山所にこしらへて有るも尤(もつとも)。浅草川を中に置て。長(xxう)命寺(xいし)白髭(しらひげ)と
向ふにならべ。暮かゝる凉風よきほどに吹て。夏ハなきやふに思ハれ。十六日
の月かけ照り後れバ。コレハらうそく【蠟燭】ハ入らぬ【要らぬ】とミな【皆】しめさせ。縁側(ゑんがわ)に蒲(かま)ご
ざ敷(しか)せて。亭主ハ昼(ひる)からの酒きげんに浴衣(ゆかた)もぬいて。丸はだかサアお民(たミ)
誰も見やせぬ。はだかになりやといへバ。ほんに下やしきハとんだ氣□んじ。
ぬいでも能ひかへと。此(この)あつひに抱(たき)付たら。冷(ひ)やりとしそふな□□□(しx)□
肌(はだ)を浅黄ちりめんの二布ひとつ。少しふとり肉(しヽ)の方□間へ□【須?】□う
まさ。わんちりと一口喰付(くいつき)たひやふな。太(ふと)もヽあらハにモウ酒も過るからよし


                     三ノ よ

なよしやれる仕まひが。遠慮(ゑんりよ)もなくよりそふて。口を吸ハれ。女ほうお民ハ
はや曻氣(じやうき)して二かわめとろ〳〵と。氣ざしたるに。男もいきり立ツて横抱(よこだき)に
膝の上へ引上れバ。女ハはや一物を握(にぎ)り。ヱヽモウ是(これ)を入たらサゾ能かろふねへ。私(ワた)
しや今までつとめました。殿(との)さまの物よりおまへのハとんだ大きくてそして。
此/亀頭(かり)とやらが高くて此いぼがいつそにくらしひといふて。妾あがりといふ
事がしれ。好そふな目付で。旦那へはやく入なよといふに。男ハいつか玉門へ
手をやりくぢる【抉る】故に。たまらず。ソレそんなに出るよハァ〳〵と。はないき荒(あらく?)
しがミ附くを。そんならすぐにかうしてと。後かゝりに一物をあてがひ。入れ
もやらずびく附かせバ。いつそ【一層?】ぢらしハ無ひよと。女の手して□□【玉門?】へはめて。

米つき猿(さる)のやふになつて。女の方から腰(こし)を遣ひ。ヲヽいく□□たいくよ。
ハァ〳〵いァァ〳〵と。すゝり上〳〵よがり泣に。ワたしや内でハおとう様や
おかゝさまへひよつと聞よふかと。思つて。今迠たしなんで。こんなによが
られねへ。けふハいつそゑんりよがなひから。氣が行つゞけに。おまへも
もつときつくおくの方をつきなよと。よまひことやらよかりやら。ぐちや
〳〵こほ〳〵。いつそ【一層?】鳴(な)つて来やした。どふせふね【どうしようね?】とつゞけよがり。男は
落着て。ヲヽ出すハ〳〵音のするがうまひ〳〵と。なを〳〵手つよく突立
モツト手まへも腰をつかへ。ソレ二つめがいくよ〳〵と氣をやれと。女房ハ中〳〵
たんのうせず。マアぬきなさるな。かふして寝て休んで又しやせふと


                     三ノ た

扨も助べい。おまへのなへるまで入て寝(ね)な。ヱヽモ今まてくすぐつたひ□【や?】ふ
なが。又それよくなつて来るやふだョ。迚【とて】もの事に。本ン手にしてしなから
が。ァィもふいくよ〳〵

  宵(よひ)まつりのヲヽ暑(あつ)

此あつゐに手前たちハ。モウ寝たかと戸をたヽくと。廿はかりの女の
声して。旦那さんかへ。りんや戸を明て上ヶ申せといわれて。やう〳〵起(おき)て
戸を明ヶるハ。此旦那の妾宅(セうたく)と見へたり。けふハ夕すヽミから来やふと
思つた所へ。軽羅(けいら)とそゝ上【楚々上?】が。夜宮の山王参りに誘引(さそつ)て。何か夫レから
桟敷を見物して。小網町でぐつと呑だ。やう〳〵あ?□□□をはつして

来たすぐに寐やふ。そちらにねて居るハ誰(たれ)だ。ァィ深?□□□【川の妹?】さ。宵(よい)に
桟敷(さじき)を見たかる故。かやば町の御/旅(たび)まで連て行やした。い□用たね。着(き)物
着てそこへ出やせふ。何さすぐにそふしてゐやそのはだかが能(い)ひよ。此
雪(ゆき)の肌(はだ)をかへ。おきやァがれかふだとぐつと抱付口を吸ふヱ酒(さけ)くさひよ。その
酒まらに氣が有ろふ。ドレ〳〵ヲヽ出しかけ山ハ有がたひ。しづかにしな
おぎんがやつと今寐た物を。何かまふ物だ。姉さまから片(かた)付て妹と
いふ点だ。ヱヽ性悪(しやうわる)ばかり。すかねそねへに。いぢらすとはやく入れなよ
合点(がつてん)だとおへ【生へる=勃起する】きつた物を。づふ〳〵と根まで押込ミ。くつと腰(こし)を遣ふ。
ゆへに。ヱヽモだ旦那さん。いつものやふにつゞけておくれ。今宵ハなぜか

                     三ノ れ

わつちやァ身か解(とけ)るやふにいゝよ。ハア〳〵行よ〳〵と高よがりにぐちや〳〵
鳴るやら。こほ〳〵音(おと)がするやら。今夜ハ酒まらだから。もつといヽはづ
だおれハねつから【根っから】氣(き)が行かねへと。なを〳〵手ひどく。腰を遣ハれ。ラ?レ又
よく成ツて来るよ。是で三ッ目がいくよ〳〵と。よがり続(つヾけ)にふたりが一
時に氣をやりて。暑さハ暑し。つかれての一寐入。旦那ハ目さまして。
妹を何でもと心懸(かく)れど姉のおはや油断(ゆだん)せず。暑(あつき)を構(かま)ハず引しめ〳〵。
抱付。旦那さんモツトしなこの据膳(すへぜん)に。いやともいわれず。又くわだて。と
う〳〵夜明るまで入びたし。いくらしても何ともなひ片□蔵。どふぞ
妹のおきんを心かくれど心にまかせす。姉ばかりをた□□□居る内。段

だん寒くなつて。顔見世とはなりぬ。旦那も兼(かね)ての趣(しゆ)□【向?】(かう)□【な?】れバ。妹をと
まりかけに呼にやれ。壱ッ所に見せふといふに。深川へ人□□【をや?】つて呼バせる
内旦那ハ昼から来て。姉に三ッ四ッよがらせて行つかせ。五ッ時ゟに
おぎんが来て。旦那さん有/難(かた)ふござりますといふ目もとの可愛さ。
役者ひゐきの噺(はなし)も済(す)んで。寐るに成れバ手まへたちハくつとそちらへ
よつて寐たか能ひ。おれハ爰(こヽ)だといちや付なしに。先へ寐て見せるも
油断(ゆだん)させるてだて。おはやハ昼(ひる)からの相手(あいて)にくたびれ。そのうへ酒き
げんではあり。すや〳〵寐るを見/済(すま)し。そつと妹の夜着(よき)へころ
び込めバおぎんハひつくりして。ヲヤ〳〵旦那さんと。いふ口へすぐに舌を入


                             三ノ に

てなめ廻し。陰戸へ手をやれバ。ふつくりした肉おき【肉置(ししおき)=肉付き具合】。まだ度〻ハ生物の
通らぬやうすに。つばきたつぷりと指先へ附てまづそろ〳〵いらへば。
小な声して。ワたしやおまへならいやではなひが。姉さんがこわひよと
あどなき事いひなから。玉門ハぬら〳〵と出しかけるに。旦那ハこらへかた
く。玉茎をあてがひ。はゐらぬ物をいろ〳〵として入かけに。おきんも惚
て居る㕝なれバ。旦那次第に成つて居る可愛さ。とう〳〵根まで
入て。あしらい突(つき)にする内。おぎんハワき出るゐん水に。根まで這(は)入て
どふも能くてといふがはじまり。すヽり上〳〵。しく〳〵泣出し
其/息(いき)つかひ。命をむしるばかりのよかり声。旦那ハ□□□になつて。

腰を遣ふ内に。はやおきんハ行かヽるやう一/調子(てうし)高□□【旦?】那さんハア〳〵
死ますよ。ハァァレ行よ〳〵と又一トしきりよがり泣に□【姉?】ハ目をさまし
そこで泣くハ誰だ〳〵。ヱヽいつか灯(ひ)が消(きへ)たか。くらゐよ〳〵旦那ハへ
といふに。旦那ハサア。さつきからおぎんぼうが。癪(しやく)がおこつて押(おさ)へて
居る。おきく灯(ひ)をともしやと。いふ内氣をやり。まつ本望(ほんもう)ハとげ
やした



巻之三終

                           三ノ つ

【なし】

【なし】

BnF.

《割書:道|行》 恋濃(こいの)婦登(ふと)佐男(さを) 中

【なし】

不(しら)知(ぬ)振(ふり)

【中段】
コウ〳〵
 スウ
  ゴウ

【下】
かゝ
 ちやん
  〳〵
ウ〻
 かヽ
  ちやん

【左上】
ゴウ
 スウ
  〳〵
   〳〵
 ウヽ
  なんだ
【左頁】                   中ノ二
それおその【お園?】や
おかん【燗】をかけや
 おすいものがでる
  ゴウ
   〳〵
    スウ
     〳〵

三勝
半七

おや〳〵半七やらうめが
 いつしよねてけつかる
よし〳〵いまにおづふ【?】がねついたら
 くぢつ【抉】てやらう
  どうで【どうでも】とぼす
 ことハならねへ
【中下】
あのやらう
より此
 善右衛門
さんの
 ほうが
よつぽと
いゝおとこだが
さんかつも
ものつきな
 やつさ

【上】
べらぼうめ
しわへ【皺?】ひつ
 からんで【ひっ絡んで?】
へヽるものか

【右下】
かゝさんか
あんまり
やかましく
いふなら
いつてふ【一丁】
【下へ】
とぼ
 して
やんねへな

こんやハ
もふ
二三てふ
とぼさせねへ
 けりやァ
ねかしやァ
 しねへ
今のハ
 ひさし
  かつた
   から
たつふり
 きか
  いつた【気が行った】
【左頁】                       中ノ三

お千代
半兵衛




せん【三味線】
ハげひ
しやの
たましい【芸者の魂】ちか
いにたてし

五大りきそれをやぶつてあの
ざま■人でハ
ないわへ



こまんそちをかく
とぼした事ハよの
   なかの
    大ぞく
     どもハ
 かつてらづたゞ
     いち
【左頁】                    中ノ四
  かいにミともハ
ふらまたとばかり
おもつてゐおる
たわけなやつらだ
おとこがよくてかね
  もちてそれて
  ほれねへたかをハ

むかしかたきのばかものしや
  とうせい【当世】そのよふな
   やほ【野暮】かあるものか
もふ〳〵けつかう【結構】なほゞで
てもさてもアレ〳〵
何やらくハへてひき
こむあんばいじやさァ〳〵
 たまらぬ身うちが
びり〳〵さうミの
 いんすいか

小万
源五兵衛

【右頁下】
 これこまんぼう【小万坊】そもじ【其文字】の
くちハうまいぞへ〳〵
もふ〳〵源五兵衛がことハ
 さらりとにしの
 うミへなかして
  ミども
  いつ
  しやう
  やどの
  つまに
  申うけて
  あらい
  かぜ【荒い風】
  にも
  あて
  さす
  ことじや
  ない
   ヱ〻か
そして
それかん
じんの
 お
 ほヾ
 つ
 こ
 ハ
【左頁下】






てふ【錦の御戸帳】

かけ







り【水垢離】



いて
しやう
じん
けつさ
い【精進潔斎】で
おが









【左上】
あの
 さやくを
三八が
 てたい
がたき【手代敵】に
   して
せんずりを
かゝせ
 われらハ
ちうしや【中車】
【左頁】                   中ノ五
たきのや【瀧野屋】
  きとりて【気取りて】
まぶ【間夫】で
  とぼさう【点そう】と
   おもつたハ
  大きなまちがい
こちミハふ男【不男】に
  にあつた
     よふに
  せんすりでまらが
     ふくれらァ
        ばか〳〵

        しい




若草
伊之助

【右頁下】
ヱ〻
 おまいハナア
くど〳〵いふハ
   なれと【なれど】いつ
ぞやしたの
ひまち【日待ち】の夜
たんなさんかた
げいしやしう
おふくの【多くの?】
なかでこな
   さんの
くぢうさんした【苦渋ざんした】

その



とう

しやん
した【どうさしやんした】
こう

しやん

た【こうさしやんした】





【左頁下】






まへ

まね

せぬ
まハ

ばしも
ないわいな

お里
弥助

ばんにハやすけと
しうけん【祝言】さセると
おとつ
さんが
おつ
しや
つた
とうに
この
よふに
しうけんの
すんで
ゐるのハ
しら
 ねへ
  て
おやと
いふ
 ものハ
ばかな
 ものた



ふたりの
 からたを
たきあわせ
  すしに
   して
【左頁】                   中ノ六
 □?おかふか【寿司にしておこうか】

アレ〳〵
 おくで
  あにきの
こへが
 する
いち
 はん
  あにきか
   いやだ
おやじどのも
 おふくろも
  とうり
   もの【道理者】だ
    が

尾上
伊太八

ちや屋■■やとのつけとヽけ
やりてかふろ【禿=こども】のしきせ【仕着せ】まて
おもてむきおバワしが
なてミんな
そなたの
くめん
づく【工面尽】

【下段】
むかしの
身ならば
とのよふ
にも
しよふ
もよふ【仕様模様】
  も
あらう
けれ
 とも

 身
  に
なつ
 てハ

てふ【一丁】



こ【陰核=陰茎】

れい
より
ほかハ
 ない
【左頁】                  中ノ七



たとへワたしハうけだされ御しんぞうさま【新造様=若妻】
   おくさまとうやまハれていやな
いわミの安さんのよふ男にそおふ【添う】より
     やつばりぬしとこうたきついて【抱き付いて】

懲異見(こわいけん)





【左頁】                    中ノ八

  御代参(ごたいさん)のおや〳〵どふしやう

神(かミ)にねがひをかけまくも。佛いちりも恋からおこる女の情(じやう)。むりな願
懸(かけ)に火のものたち塩たち。一生蜘(くも)と蚰(げぢ〳〵)をたべますまひなどゝの断物(たちもの)も
あどけなくておかし。去ル奥方(おくがた)のお娘さま。ことしおハッきやう風とやら
の大さわぎ。夫といふと諸寺(しよじ)諸山への御いのり。御局の戸/崎(さき)との方〻へ
代参の人/配(くバ)り。御しらし柄(から)の事なれバ。雑司(そうし)谷堀(がやほり)の内ハ日も暮に及へバ
誰往(たれゆけ)かれ往。本所の妙見さま。普(ふ)げん様へハ則ぬしの姪子(めいこ)。おせよさま迚【とても】
今とし十九のすつかり物。器量(きりやう)ハもとより品形(しなかたち)心ばへまでやさしく
奥で育(そだち)て男の肌(はだ)ハしらぬ。うぶ奥(おく)女中のならひにて。張形(はりかた)の兄弟

分しかもすぐれての好物(こうぶつ)。御/夜詰(よづめ)が引けると夜中/張形(はりがた)一本をふたりの
たのしミ。伯母御(おばご)の云付にいやとハわれず。此中でさへすりミがき。やう〳〵に身仕廻(ミしまい)
が出来て。御供にハ若黨(ワかとう)の織平。とし頃も能けれバ。中間の織介に挑灯(てうちん)持
たせ。七ッ時ゟに屋敷を出。妙見(めうけん)様と普賢(ふげん)さまになが〳〵とした願をけかけて。
小梅の提(つヽミ)に出らるれバ。はや日もくれ織介が挑灯とぼして。跡からすた〳〵追(おひ)
付くにその身も褄(つま)引上。腰帯ちやんとしめたる其腰付のうまさ。どふも
ならぬと織平が。四十計の年にも似合ぬむほんの出来心。跡先に人ハなし。どふぞ
してと思ふ内。やぶかげからワンといふて。飛出る犬におとろき玉ひ。ヲヽこわと
かたより見玉ふに。白犬に黒犬(くろいぬ)が追いかけ来て。無二無三に重(かさ)なれば。

【左頁】                       ニ   ち
雌(め)犬ハ尾を下げてあてがへハ。すわやと見る内。上から腰を遣ふいき込
のうまさ。女犬も心よひやう。舌を出してよかる躰(てい)に。おせよさまハ思ハず
立とまり。ヲヤ〳〵織平ミやどふせふと。見とれ玉ふ目元のしほらしさ。いぬの
やりくりでも見玉ふハはじめなれバ。下地ハ御好なり。立すくミになり
玉ひて。婬氣(いんき)盛(さか)んにうつくしき顔。曻氣(じやうき)し玉ふに雄(お)犬ハます〳〵手ひどく
腰を遣ふに。織平も一物木のごとくおへ【生へ】出。ふたりがほつとため息つくところへ
挑灯とぼして織介が欠(かけ)付。此躰を見てきやつもたまらず。お道か悪ふごさ
ります。こちらへ御よけなされませといひながら。織平にめくばせして。芝(しバ)の
上へ押ころはせバおせよさまハおどろき玉ひ。コレ何をしやるつがもな【つがもない=とんでもない】ひと。起(おき)ん

とし玉ふを織平すかさず。両の御手を押へ付れバァレ〳〵との玉へは。あたりに人
ハなし。はやその内に織介ハ用捨もなく。板しめの下着の裾(すそ)まくり上。蔭
戸へさぐり當るに太(ふと)もヽすべ〳〵として。天鵞絨(びろうど)にさハるやふなる毛うすく
はへたる所へ。指をさし込に。㝡前【最前】より犬の交合に見とれし事なれバ。そ
こら訳(わけ)なくぬら〳〵じく〳〵。凍解(いてとけ)のごとく。さし込ゆびにしは〳〵吸ひ付
やふに覺。ヲヤ〳〵是ハうまひと舌を出して悦び。すぐに玉莖をむりに押込。
いさいかまハず。突(つき)立るに。おせよハ氣をとりのぼせ。悪ひ事を退(のい)て〳〵と
あせり玉ふを。織平男力にうごかせず。織介はやく仕てしまへ。とふもまらか
折れるやふだといふ内。織介ハ血氣(けつき)盛(さか)り。何の事もなくしやり〳〵と。
                            り
【左頁】
氣をやるを見すまし。すぐに引のけ。是から織平が賞(せう)観(くわん)致ます。どふ
なされてもせずにハ置ませぬ。じんじやうにさせなと。きやつハ一物人にすぐれ
七寸胴(どう)かへしの黒まら。あてがへども中〳〵はいらぬハ。張かたばかりて生の物ハ
はしめてなれバ。ぬら付ゐん水を一物にぬり廻して。ぬらりと根まで入られ
し心もち。おせよハ思ハずヲヽ能ひ氣味是どふしやると天地(てんち)自然(しぜん)の氣
がめぐり。織介がすぼけまら【包茎】とハ大きな違ひ。其上織平ハ四十男にて甚
巧者もの。虚(きよ)に移(うつ)り実(じつ)に行ひ。すこ〳〵腰を遣ふ心地よさ。おせよハ大に
取ミだし。あらこなし【荒ごなし】した上なれバハアいく〳〵と顏をしかめ。すゝり上〳〵泣
玉ふに思わずしがミ附て氣をやり。髭だらけな頬(ほう)へすり付。むさひ口を吸ひ

玉ふ有がたき。そこらハとろヽこぼしたやふにぬら付。腰を遣ふ度にぐちや
〳〵ごふ〳〵。織平かヽる上代ものに逢(あひ)しハ初と云ひ。その味一物をくわへらるヽ
に得もいわれぬ玉中。三ッほどむしかへす内に。人音におとろき。サア〳〵と
引起せども。あんまり氣をやり玉ひて。腰も膝(ひざ)もたゝぬやふなれバ
ぜひなく脊(せ)中に負(お)ひて大川橋へ参ったら。駕(かご)がござりませふ。
織介てうちん消(け)さぬやふにせろと。業平(なりひら)橋から浅草の方へ

  御錠口の誰も見やせぬかの

千二百八十五畨よ。二千四百九十三よと。朝から帳面にかゝりて聲のかれる
ほど畨附(ばんつけ)を合せるも。判取(はんとり)茶畨(ちやばん)の氣ハざんざと。それを遁(のが)れ〳〵て
                        ニ  ぬ
【左頁】
此ほど京/棧畄(さんとめ)のはかま引かけ。ちよつとしたる細身(ほそミ)の脇さし。今日も朝から
荷(に)もちをうんといふほど脊負ハせてやしき通ひ。佐七といへる手代の。奥(おく)
中に可愛かられ。何もかも此男でなけれバならぬやふにしこなし。むつかしい
お局。かたくろしひ錠(ちやう)口處まで心をゆるして御出入。此男の一物人に勝(すぐれ)
て見事故。誰いふとなく。呉ふく物ハ大(だい)まらやが事しやと。愛敬(あいけう)ハこぼ
るヽばかりの色男。御/廣鋪(ひろしき)の小くらき所に。呉ふく物のふろしきつヽミ
あれ是とりちらし。幾丗さまの御あつらへ。本紅五疋むら瀬さまのお染もの
出来ました。取消し中に。中老の彼にさま迚。今年廿の上ハ壱つかふたつ
ぞつとするほどの美しひ上/代(しろ)物。いつから出来た事やら。人目の隙(ひま)を窺(うかヽ)ひ

しどけ無き後帯(うしろおひ)。佐七ござつたか太義でござると云ひなから。あじな目遣(めつかひ)
にこなたもふろしき包(つヽミ)のかげへよれバ。すぐにあなたからお口をよせられ。そつと
人には聞へぬやふに。ヲヽ可愛ひと吸(すハ)せ玉ふに。佐七ハたまらずそつと
股(また)くらへ手をやれバ。心得てふろしきへよりかゝり。呉ふく物見るふりして。
懐(ふところ)より御手を出され。佐七が手をむづと握り陰戸へあてがひ玉ふぞ
有りかたき。佐七もすかさず。御内もヽより。もち〳〵とさぐり毛のもや〳〵
したるむつくりと高き所をさぐりおろして。ゆびをさねかしら【実頭=陰核】へとヾ
かすれバ。くわつと曻氣(しやうき)して耳まで赤くなり玉ふに。そこらゐん水
だら〳〵とあぶれ。白酒の呑口を明たやふに。こと〳〵と音して手のうらへ

                         ニ  る
【左頁】
つたへバヲヽはづかしとお顏に袖を當(あて)て。玉門を突出し玉ふをそつと覗(のぞ)けバ
御股までとろヽのごとく。さねがしらひこ〳〵とうごき思ハずも顏をしかめ。
いヽ〳〵と小声でのたまふに。こらへかね佐七ハはりさく計の大一物。を。そ
つとあてがひ。人に見られては大のかぶりなりと。身を横(よこ)にしてそろ
はん取り。そちらのちりめんになさるれバ。御/着(き)尺で三両が十匁ぬけ
ますといへハ。ヲヽあの人のぬけるとハ氣味がわるひ。どふぞぬかずにソレ〳〵と。
上から腰を遣ひ玉ふ。なるほどいつまでも御用ハ長ふ承ります。つもり
じやさかひ。ぐつと情(せい)を入ました。此上を御好のもやふ。芦(あし)にそれ是。ソレ
もつと鶴(つる)の首すしをそれ〳〵と下から遣へハ。ヲヽ上手な紺屋。とり分

て色の遣ひやふが能ひから。いつそ身にしミ〳〵と可愛ふいゝよ〳〵と
幾しきりともはなすゝりあげよまひ事やらもやふ好ミやら。フェ〳〵
はな息につれて。腰(こし)を遣ふ度〻。ごつほ〳〵つほ〳〵。佐七ハ心を配(くば)る
だけ氣が行かず。長ふ出し入の内。身内がつかミ立るほどよく成つて
来て。思ハずふたりがひし〳〵と抱付。ヲヽうれし又いくハな。〳〵。ァィワた
しも。それ〳〵参りますと。しやり〳〵と大/筒(つヽ)からはぢき込まれ。女は
うつヽになつてよかり玉ふを。しまひにしてふたりハ飛のき。今の
を誰も見ハせなんだかの。ヲヽはづかし


                      二之巻 終

                     二  を

【なし】

【なし】

BnF.

/小野(をのゝ)/徒/(むだ)/□(まら)【玉篇に莖の嘘字】嘘字尽(うそじづくし) 坤

/文字(もんじ)は/陰陽(いんやう)を/生(しやう)して/万象(ばんしやう)をあらはすといふいつの
/頃(ころ)よりか/小野篁歌字盡(をのゝたかむらうたじづくし)といふものありて/童農(どうのう)
/初学(しよがく)の/益(えき)ある事/普(あまねく)くして/日用便利(にちようべんり)の書といふ
べし/爰(こゝ)に/文化(ぶんくわ)の/頃小野愚嘘字尽(ころおのゝばかむらうそじづくし)と/題(だい)せし/戯作(けさく)
/大(おほい)に/世(よ)に/行(おこな)はれぬ/是(これ)によつて/其後小野酒玉莖肥尽(そのゝちおのゝさかまらおやしづくし)の
/作(さく)あれども/字数少(じかづすくな)く/且其興(かつそのきやう)の/薄(うす)ければ/是(これ)に/増補(ぞうほ)し文字(もんじ)
の/意(こゝろ)のさし/画(ゑ)を/加(くわ)へ/小野股庫嘘字尽(おのゝまたぐらうそじづくし)と/号先(なづけさき)に/開板(かいはん)せしける
【註】5行目「玉莖」の原字は合字で一文字

上に/好(このみ)によりて/小摺物(こすりもの)にも/画(ゑがき)し事の/有(あり)けるが/早一昔(はやひとむかし)の/㕝(こと)とは
なりけり/然(しか)るに/板元喜楽堂此頃何(しよしきらくどうこのころなに)とか/思(おも)ひけん/彼股庫(かのまたぐら)の/虚字(うそじ)
の二/本今絶(ほんいまたへ)て見る事なければ/新(あらた)に/是(これ)を/開板(かいはん)せんと/予(よ)が/愚筆(ぐひつ)を
/需(もとむ)る事/頻(しきり)也/初(はじめ)の/時(とき)さへ/同物(どうぶつ)を/二種(ふたくさ)にして/出(いだ)さん事/如何(いかが)と/辞(じ)せし事
なるに/趣向(しゆこう)に事を/欠(かき)たが/如(ごと)く/今亦三度(いままたさんど)はあこぎならめと/固辞(いなめ)ど
/屈(くつ)せず/五度七度(ごどしちど)おしての/需(もとめ)いなみがたくて/遂(つい)に/筆採(ふでとる)事とはなりぬ
               淫水亭

【虚字  四文字の扁は玉+茎、旁に春・夏・秋・冬を配しすべて「おへる」と訓む
【五字目の扁は玉+茎、旁は宜+我(か?)で訓は「おへづめ」】
【本文】春おへる夏おやければ
     秋もおへ冬も
     おなじく昼夜
     おへづめ

/和歌三淫(わかさんいん)
/夜(よ)やさむきゆふべや
  いものはだ/好(す)のたきしめて
    よりあせやかくらん
/立(たち)かへりまたも
  このよにおへにけん
   /恋(こひ)にこゝろも
    わかのうらどひ
ほの〴〵とあかりは
 くらき/朝(あさ)ぎりに
   /閨(ねや)わかれ/行(ゆく)
     /影(かげ)をしぞおもふ

【虚字 女扁に旁が客で、訓は「だきづめ」】
 【 旁が客で旁も客に間に女、訓は「まはし」客四個が女を取り囲む、訓は「あやにく」】
【本文】
きゃくひとりだきづめふたり廻しなり客がたてこみあやにくざます
○/吉原(よしはら)の/遊女(ゆうぢよ)
  /昼三(ちうさん)はしばらかき
  /見(み)せ/女郎(ちようろ)のつと
  め一/分(ぶ)なり二/朱(しゆ)
  なり/雑用(ざつよう)つき
  /朝(あさ)まで/抱(だき)
  づめが/定(さだめ)
  なれば/女(おんな)
  に/客(きやく)あ
  れば/是(これ)
  /抱(だき)づめとよむ
○/夜なじみの
  /客上(きやくあが)れば女
  一人に/客二人(きやくふたり)と
  なる/上色(じやうしよく)
  なれば名代
  といふ/所(ところ)を
  /左(さ)てなくて/両方(りょうほう)へ
  /行是(ゆくこれ)を/廻(まは)しとよむ也
○又/初会(しょくわい)の客上(きやくあが)りたるあと
  より/追々(おひ〳〵)なじみが二人も三人も来る
  /時(とき)は女もあつちではされこつちでは
  されどうけんやくしても四五ばんは
  される事ゆへ/初会(しょくわい)なぞはまづ
  一丁でおひはらふこれを
  あいふくとよむるか
【左丁下段】ちよとてうづにいつてまいすよ

【虚字 三文字共に穴冠、「はまぐり」は穴冠の下に嫁、「あかがひ」は同じく乳母、「しゞみ」は娘の字を嵌めた合字】
【本文】はまぐりはよめにあかゞひうばなれど
むすめのあなはしゞみかひなり
○/是(これ)は/開(ぼゝ)を/貝(かひ)るゐに
たとへたる文/字(じ)也
げいしやはすはる
/酢貝(すがひ)也/蜑(あま)は
水貝/子持(こもち)
/女房(にようぼ)は/子安(こやす)
/貝大年増(がひおほどしま)は
さゞいから/黒(くろ)
/陰戸(つび)はからす
/貝川柳点(がひせんりうでん)
の/狂句(きやうく)にも
はまぐりは
/初夜赤貝(しよやあかがひ)は/夜中(よなか)なりこれによつ
て/花(はな)よめをはまぐりとよむ也
○又/乳母(うば)のゑてものさながら/赤(あか)
/貝(がひ)にちがひなければ/乳母(うば)の/穴(あな)
にて/赤貝(あかゞひ)とよむすべて
/文字(もじ)は/理詰(りづめ)なるものなり
○/貝(かひ)の中にてもわけてちいさき
は/蜆(しゞみ)なり/舌(した)やわらかくしてま事
に/子娘(こむすめ)の/陰戸(いんこ)のごとしされど
/毎夜(まいよ)わが/指(ゆび)を/入(い)れくじり
きのいく事をおぼへしはおめこも
すこしは大きくなるゆへ
/同(おな)じ/娘(むすめ)にてもこれは
なりひらとよむなり
【下段吹出】「三本いれてまだおかつたるいは
たいがいなまらではすいふろ▲
おけでごぼうだらう

【虚字 女扁を裏返し旁に女を加えて訓は「たがひせん」、二文字目は丁稚の文字を二組並べて「そんとくなし」と訓ず】
【本文】さしむかひ女/抱(たき)あふたがひせんでつちどうしでそんとくはなし
○/長局(ながつぼね)の中よしどうしおひけのゝちは/抱(だき)あひて
 /両方(りやうほう)にへのこの/形(かたち)ある/互形(たがいがた)といふ/張形(はりかた)を
 上下/一度(いちど)に/開(ぼゝ)へつきこみ上から/腰(こし)を
 つかへば下の/開(ぼゝ)へ/深(ふか)く/入(い)り下から/持上(もちあげ)
 れば/上(うへ)の/開(ぼゝ)の/奧(おく)をつく/上(うへ)は/茶臼(ちゃうす)
 下は/本手(ほんて)まことの男にあふ
 ごとく/至(いた)つて/弁利(べんり)の/道具(だうぐ)
 なりなづけて是を
 たがひせんといふ
○/小(こ)ぎれいな
 /丁稚(でつち)どうしせん
 ずりもめづらし
 からずたがひに
 /云(いひ)かはして/穴(けつ)を
 ほりあふ/是(これ)すな
 はち/損徳(そんとく)なしなし
 又此/字(じ)を/兄弟(けうだい)ぶん
 ともよむなり
【虚字 玉莖を縦に描き玉字を挟む合字、「股」でおへる、「握」でなへる、「扱」でせんすりと訓す】
【本文】またぐらへわりこむまらはおへる也
にぎればなへるこくはせんずり  
○女の股ぐらはほちや〳〵やわ〳〵と
 してちらりと見へてさへきの
 わるきものなるにましてやこれ又
 /是(これ)へわりこむときはいかなるへのこ
【左丁吹出し】「きがいくならもつとねまで入てきをやんねへそれから又おめへのけつをほつておもいれきをやらなけりやアならねへ

【虚字 扁に「常」の三文字、旁は「妻」で訓は「やきもち」、同じく常の扁に「下女」で訓は「くじる」、常扁に「丁稚」の合字で訓は「せんずり」 】にようぼうのつねはやきもち下女くじるてつちのつねはせんずりと
【本文】にてもおへぬといふことなし
○さて/独身男寝起(どくしんをとこねおき)なぞにむだ
 まらおへて手におへ
 ぬ/時(とき)はテにぎり
 ぐつとにぎるべし
 なへること/妙(めう)なり
○是をやわ〳〵にぎりて扱
 ときはついどく〳〵ときがいく也
 是せんずりとよむ
○やきもちりん
 きの/異名(いみやう)にて
 なべて/女房(にようぼう)の
 つねとしるべし
○さているれの下女も
 はたちより三十/前後(ぜんご)
 いづれよがり
 ざかりの/年(とし)
 ごろ/一人寝(ひとりね)
 のつれ〴〵
 かんにんならず
 /毎夜(まいよ)わが/指(ゆび)を入て
 /気(き)をやる事いづくの
 下女も/同(おな)じ事なれば
 /是(これ)なを下女の/常(つね)としてくじるとはよむ事也
○/丁稚(でつち)もしたがりとて/顏(かほ)ににきび
 の/出来(でき)るころより/毎夜(まいよ)のせん
   ずり/常(つね)の事なり
【右丁吹出し】
「どうもこのとふりへのこがおれそうだ
 をがむ〳〵
「だれだとおもつたびつくりしたはな
これむりなてをしなさんな

【虚字 娘+乳母の横並びで訓は「とりもち」 乳母の下に丁稚を縦に重ねて訓は「おつかぶせ」】
【本文】とりもちはむすめのわきにうばがたつでっちにうばはおつかぶせなり
○ひかげ
 の/豆(まめ)も
 はじけ/時(とき)
 /娘(むすめ)が/恋(こひ)やみの
 ぶら〳〵/煩(わづら)ひそれと
 さつして/思(おも)ふ男にあはせる/首尾(しゆび)これ
 /乳母(うば)のとりもちなり
○乳母も/二人(ふたり)の/嬉(うれ)しそうなる/鼻息(はないき)をきゝ
 /久(ひさ)しぶりでむしやうにさざせど/見世(みせ)の/若(わか)い
 ものにさせるもよいが/一番(いちばん)がくいつきとなり
 /後(あと)がめんどうゆへいつそ/跡(あと)ばらのやめぬ/丁稚(でつち)に
 でもさせるが/気(き)がはらいでよしとふみまた
 がつてむりに/入(い)れさせる/是(これ)おつかふせといる也
【吹出し乳母】「サアこれがあるかへ
男「かういふしゆびもおめへのおかげだ
ありがたい〳〵 

【虚字 女扁+百は「きりみせ」、女扁+四百は「しやくば」、女扁+廿四文は「よたか」】
【本文】百はきり四百の女しやくば也廿四文はよたかなりけり
○女には大ぶん/直段(ねだん)に/高下(こうげ)ありてまづ
 /上邊(じやよしよ)は一両一分よびだし三/分見(ぶみ)せの
 お/職正面(しよくせうめん)一分/交(まじ)り見せは一分と
 二朱/品(しな)川は/十匁金見(じうもんめかねみ)せ二朱
 /銭(ぜに)見せ六百文四百文その
 /余(よ)大かた/宿場(しゅくば)の女は
 まづ四百文が/通例(つうれい)
  なるべし
○/切(きり)とは切見せ
 かほね/見(み)せの事
 にして一トちんぼう
 ふり/出(だ)すが百文の
 /定(さだ)めなり
○/里童(りどう)の
 /曰(いはく)あのあね
 さんいゝ
 あねさん
 お/尻(しり)が
 ちつとまア
 がつてはりかにうけたら
 /十匁(じうもんめ)よたかに/出(だ)して
 廿四/文(もん)方々/一本(いつぽん)
 はさむが廿四文とは
 いたつて/下直(げぢき)なり
 /川柳点(せんりうでん)に
 /股火(またび)してねるほど
  おちようりこなし
【右丁下吹出し】たばこをのみながらとぼしたらまらのさきからけむがでるだらう
【同左】おつさんなほしてくんねへヨ
    ウン〳〵〳〵〳〵
  

【虚字 女+男四人が取り囲む字は「まわり」と訓、男+女四人は「じんきよ」と訓む】 
【本文】女をば男とりまくまわり也女とりまくときはじんきょよ
/悪者(わるもの)三四人/云(いひ)あはせ
/此(この)ごろめつきりと/色(いろ)けづいたる
/娘(むすめ)が/通(とふ)りかゝる所を/待(まち)
あはせ「コウあねさんいゝことを
おせへてやるから一寸(ちよつと)こつちへ
きなと手を/引(ひつ)ぱられ
/娘(むすめ)はびつくりして/見(み)れば
あらくれなき/大(だい)の男
おやしたてゝ/取(とり)まくに
おどろき「アん
はなしておくん
なさいましよ
ト/逃(にげ)やうと
するを手取(てどり)
/足取(あしどり)人なき
/松原(まつばら)へかつぎ
こみいゝ/事(こと)とは
/此(この)ことだと/大(おほ)ぜい
よつて/股(また)ぐらを
引ぱたけはいらぬ
やつをむりやりにつばき
/物しておし/込(こ)み四人が三ばん
ヅゝとぼして/廻(まは)られ/娘(むすめ)は
/気(き)ぬけのやうにぼうぜんと
して/腰(こし)もぶら〳〵さればたとへ
にもつまらぬかほして/居(ゐ)るをかゞツ
/原(はら)でまはりをとられたやうだと云也
【右下吹出し】「アゝどうもまらがはちきれるやうにおへてこてへられねへ
くちでもすつてやらう
【左下吹出し】「はやくかはらねへかまらがひだるがつてすまくしている
「コレサそらあごをひつかまねへでおれのまらをつかんでみな

○/第一男(だいゝちをとこ)つきよくいきでこうとらで
/程(ほど)がよく/声(こゑ)がよくツてちよいと
やる/葉歌(はうた)なぞが/小(こ)いきてそのうへ
/三味(さみ)せんはうまし/衣類持(いるいもち)ものは/当(たう)せ
/流行(りうこう)の/魁五分(さきがけごぶ)も
すかぬぢよさい
なき/拵(こしら)へそこで
/金がくさるほど
あつて/銭金(ぜにかね)のつかひかたが
きれいで/気(き)まいがよいと
いふ物ゆへ/娘(むすめ)としまはいふに
/及(およ)ばず/芸者遊女(げいしやゆうぢよ)かこいもの
に/至(いた)るまで/一寸(ちよつと)でもつき
/合(やつ)た女は/惚(ほれ)ぬといふ/事(こと)なければ
/色(いろ)は/仕次第(ししだい)と
いふ/身(み)の/上(うへ)こいつ
はよつぽど/果報(くわほう)
ものと/云(いひ)たけれど
/淫水亭(いんすいてい)そうは
いはずしつかい/是(これ)は/開(ぼゝ)
/地獄(ぢごく)といふものにて/舌(した)はぬか
れるほどすはれ/昼夜(ちうや)をわかたね
/開(ぼゝ)ぜめに/忽(たちま)ち/腎虚火(じんきょくわ)
/動(どう)の/症(しやう)となりへのこはおへ
づめながら/目(め)の前(まへ)にある/開(ぼゝ)も
/禁(きん)じられてとぼすことならぬは
さながら/餓鬼道(がきだう)のくるしみアゝ
いやなことだのうト/作者(さくしや)
   まけをしみをいつてゐる
【右下吹出し】「そつちをしまつたらはやくわたしをしておくれいぢられてさへきがいくヨ
「アレまたいきさうだからもうちつとしておくれ
【左下吹出し】「ヲゝいく〳〵フン〳〵〳〵

【虚字 男+女+男=嬲を「まをとこ」と訓、男を両側から娘と母が挟む合字を「いもでんがく」と訓む】
【本文】まをとこは男二人の女にていもでんがくは/母娘(ははむすめ)なり
○/抑芋田楽(そもそもいもでんがく)の/由来(ゆらい)といつは/元来(がんらい)
/所々(しよ〳〵)のさかりば/或(ある)ひは/通(とふ)り丁の/夜(よ)
/見(み)せなどに/四文(しもん)やと/称するものにて
まづさと/芋(いも)をよくあらひ
/是(これ)をいまみて/串(くし)にさしせ
この時/親芋子芋(おやいもこいも)の
さべはなく/片(かた)はしより
さして一ツ/鍋(なべ)に/入(い)れ
/煮(に)もし/田楽(でんがく)も
するすべて/串に
さしたるをでんがく
とは申也
/扨(さて)女をさして/古来(こらい)
/妹(いも)といふゆへに/入婿(いりむこ)
/子妹親妹(こいもおやいも)の/遠慮(えんりよ)
なく/持前(もちまへ)のくしを
ぬッ〳〵とさし/込(こむ)ゆへ
/是(これ)をも/則(すなはち)いもでんがく
と申はたへぬ
○/間男(まをとこ)は/密夫(みつふ)の事也
/図(づ)のごとく/添(そへ)ふして
ゐる所へかねて/密通(みつつう)してゐる
男/亭主(ていしゆ)の/寢入(ねい)りこみたるを
うかゞひ/後(うしろ)からはい/込(こみ)その/女房(にようぼう)をおかす
/文字(もんじ)の/意(い)この/図(づ)にてあきらかなり
【右丁下】「むすめかしあきてあさまらのとき
入させるやうにしてそこはげんざいのむすめだもの十二さゝいかへにするものかな
【左丁下】ていしゆいびき「スウ〳〵〳〵
ムニア〳〵ゴウ〳〵

【虚字  玉+莖で「ねぼそ」と訓、皮+玉+莖と縦並びで「すぼけ」と訓ず】
【本文】玉ぐきのあたまかちならねぼそまら▲
▲かハッかぶりはすぼけとぞよむ
○いにしへよりへのこ
のうたあり
あらばちとけつを
するならすぼけ
まら/後家(ごけ)に
女房は/根(ね)
ぼそ/厂(かり)だか
/此文字形(このもんじかたち)の
ごとく/厂(かり)くび
大きなれば
/則是(すなはちこれ)がねぼそ也
○/皮冠(かはかふり)に玉莖と
いふ文字是/皮(かは)かぶ
りのすぼけまらと/知(し)るべし
【下段吹出し】「おれがまらはねぼそでかりのたかい所がじまんだ
「どうりでなかのものをかきだされるやうであつたヨ

/用文集(ようぶんしふ)
 /新開怪我見舞(あらばちけがみまひ)の文
/婦美(ふみ)してもふし上存候
/御娘子(おんむすめご)おあとさま御/事(こと)きのふ
の夜御/日柄(ひがら)よふ御みづあげ
/遊(あそば)され候とうけ給はりかず〳〵
御めで/度(たく)御/悦(よろこび)申上存候

  /睦月(むつき)
むつきとは男女睦月(なんによむつまじつき)也二日
の/夜(よ)ひめはじめ。ひめは/飛馬(ひめ)
にて/馬(うま)の/物(もの)に/似(に)たるをいふ又
/姫(ひめ)ともいふ/此夜宝舩(このよたからぶね)を/枕(まくら)に
しきのり/初(ぞめ)をいはふ
  哥に
/柱(はしら)より/二本(にほん)の
  /指(ゆび)のいたづらを
 ほゝゆれほゝと
   はやす/万歳(まんざい)
【下段】
さて/又御養子助太郎(またごやうしすけたろう)様
御事/殊(こと)の/外美事成(ほかみごとなる)御/道具(だうぐ)
と/承(うけたまは)りこれ/又(また)おめで/度存(たくぞん)じ存候
/乍去(さりながら)おあと様ごかんこ御/怪我(けが)
/遊(あそ)ばし候との御事御/噂(うはさ)に/承(うけたまはり)り
/扨々(さて〳〵)御/気(き)のどくに/存(ぞん)じ上存候
/少々(せう〳〵)の御/事(こと)に御座候や御/案事(あんじ)

申/上(あげ)存候/此品餘(このしなあま)り〳〵そまつ
なる/品(しな)には候へとも/白塵一束(しろちりいつそく)
/布(ふ)のり/百枚(ひやくまい)きはだの/粉一袋(こひとふくろ)
御/目(め)に/懸(かけ)存候/誠(まこと)に〳〵御みづ/上(あげ)
の御/悦(よろこ)び/迄(まで)御しるしに御座候
/猶又少(なほまたすこ)しも御こゝろ/能(よく)ならせら
れ候はゝごゐじかり/股(また)にても

【上段】/弥生(やよひ)
やよひは/弥生(いよ〳〵おへ)るといふ/心(こゝろ)
なりひなまつりは/夫婦(ふうふ)をかた
どり/赤(あか)がひはまぐり又は/白酒(しろざけ)
をそなふ/此白酒(このしろざけ)を/出(いだ)すも/義(ぎ)
/理(り)あることなり/何(いづ)おえ/道具(どうぐ)
なれば/弥生(やよひ)といふ
 /紙(かみ)びなの/風(かぜ)に
  /一對(いつゝゐ)ころび/寢(ね)を
  /見(み)とて/舌(した)を
    /出(だ)す/供御(くご)の
     はまぐり
【下段】     
御/咄(はなし)に/入(い)らせ有候やう
/念入(ねんいり)存候かつ/今晩(こんばん)よりは
/布(ふ)のりときはだの/粉(こ)御/付(つけ)
御とぼし/遊(あそ)ばさるべく候
/先(まづ)は御/水(みづ)あげの御/祝儀(しうぎ)
 までにあら〳〵
  めでたく候
    かしく

 /腎虚見舞(じんきよみまひ)の文
/貴公様今般取過(きこうさまこんぱんとりすぎ)にて御/腎虚(じんきよ)
被成候/義(ぎ)御/腎張之程被相顕(じんばりのほどあいあらはれ)
/男子(なんし)は/本意与(ほんいと)奉存候/是迄(これまで)の
御/楽(たのし)み/種々(しゆ〴〵)可有之と/毎夜(まいよ)
/妻倶々(さいとも〴〵)御/噂(うはさ)申/明(あか)し候/乍去(さりながら)
/此節抔御内宝定而(このせつなどごないほうつさだめて)御/明穴(あきあな)之

【上段】
/皐月(さつき)
さつきまた/梅雨(つゆ)のうち
なれば/何所(どこ)もかもじく〳〵
としめり/気(き)ざすときなり
さつきとは/早腰(はやごし)にはやく
つく事也
 あやめ/草(ぐさ)
  /髪(かみ)に/結(むす)びて
   /手弱女(たをやめ)が
 よへこそねやに
   何かふくらん
【下段】
/義(ぎ)御/不自由(ふじゆう)奉/察(さつし)候/且又時分(かつまたじぶん)
/柄殊之外蝿多嘸々(がらことのほかはいおほくさぞ〳〵)御/腮(あご)
御/草臥(くたびれ)被成奉/察(さつし)候/麁末(そまつ)
には御座候へ共/腮休之為蝿打(おとがいやすめのためはいたゝき)
/壱致進上之(ひとつこれをしんしやういたし)候御/用(もちひ)にも相成
候はゝ/難有(ありがたく)奉存候/先者(まづは)御/腎(じん)
/虚(きょ)御/見舞迄如是(みまひまでかくのごとくに)御座候

/恐惶謹言(きやうくわうきんげん)
 同/返事(へんじ)
/如仰拙者義取過(おほせのごとくせつしやぎとりすぎ)候/加減(かげん)に哉
/腎虚(じんきよ)仕/打伏罷在(うちふしまかりあり)候へ共/只々(ただ〳〵)
/一物如木(いちもつきのごとく)に相成/昼夜立詰(ちうやたちづめ)にて
/甚当惑(はなはだとうわく)致し候/且何寄之品(かつなによりのしな)
/被黙御意忝(ぎよいにうけられかたじけなく)奉存候/早速(さつそく)相/用(もちひ)

【上段】
 /文月(ふみづき)
ふみ月といふはもろこしの/伯(はく)
/陽夫婦(やうふうふ)が月をねんじて/二(じ)
/星(せい)となり七日の/夜天(よあま)の/川(がわ
にて/出合(であい)をするなり天上の
/出合(であひ)なれば/雲(くも)をふみてつく
なり/故(ゆへ)にふみつきといふ
 /夜這星見(よばいぼしみ)て
  うらやむや/天(あま)の/川(がわ)
 ふんどしほどに
  しろく
   あとひく 
【下段】
可申候/扨又医者(さてまたいしや)申/聞(きけ)候には/持(ぢ)
/薬(やく)に/妻計(さいばかり)は/相用(あいもちひ)候ても/不苦趣(くるしからずおもむき)に
御座候へは/好之道故昼夜入浸(すきのみちゆへちうやいれびたし)に
/致(いた)し/置内々少々宛気(おきない〳〵せう〳〵づゝき)を/遣(や)り
申候/先者右(まづは)御/礼(れい)御/返事迄(へんじまで)
/早々頓首(さう〳〵とんしゆ)
 /男妾請状(をとこめかけうけじやう)之事

一/此馬(このうま)次郎と申/者従肥立能(ものおへたちよりよく)
/存知慥成男根(ぞんぢたしかなるまら)に御座候間
/我等玉茎請(われらまらうけ)に/相立貴殿(あいたちきでん)方江
/開奉公(ぼゝほうこう)に/差上(さしあげ)候處/実正(じつしやう)也
御/給金之義(きうきんのぎ)何両/為御取替(おんとりかへとして)
/何程慥(なにほどたしか)に/受取(うけとり)申候/然(しか)ル/上者途(うへはと)
/中(ちう)にて/草臥(くたびれ)候/歟(か)/又者萎(またはなへ)候/事(こと)御座候

【上段】
 /菊月(きくつき)
きく月は喜苦なり
/恋(こひ)をするもの/苦(く)はつねなり
又あふ/時(とき)はうれしく/喜(き)なり
あへばへのこを/入(い)れてつく
ゆへ/喜苦突(きくづき)といふ
 /白(しろ)きもゝ/見(み)て
  たんざくの
   /雲間(くもま)より
 /露(つゆ)もおちなん
  /仙人(せんにん)のきく
【下段】
はゝ/深夜(しんや)にても/早速罷成急度(さつそくまかりいできつと)
/木之如(きのごと)く/為肥(おやさせ)可申候/万一取過(まんいちとりすぎ)
/腎虚(じんきよ)致し候/節者玉茎代(せつはまらがはり)差出
/少(すこ)し/茂(も)御/開(ぼゝ)之御/間為相欠(まあいかゝせ)
申/間鋪(まじく)候
一/御開之御作法急度相(おんぼゝのごさほうきつとあいまもら)
/守(せ)可申候/昼取(ひるどり)は/不及申如何(もうすにおよばずいか) 

【上段】/其晩早割(そのばんはやわり)の/法(ほう)
   そろばんはやわりの/地口(じぐち)なり
 ▲/陰戸(いんと)の/実引(さねひく)
 ▲二番が/南(なん)
 ▲四五の廿なら 一どに一ど初春の床
 ▲二八十六の娘 毛引て気がのこる
 ▲三五十五の/新(あら)
「アレサいやだよおよしといへどもくど
きかゝツて引に引れぬときは
 /六(む)り/八(や)り/六(む)やみにわりこむ
/法(ほう)に曰/イ(にんべん)に/(はち)かける
/抱(だき)すくめてのむり/取是(とりこれ)にて/新開割(あらばちわれ)る也
【下段】
/遊成曲取(ゆうなるきよくどり)にても/決而違背(けつしていはい)
/為致間鋪(いたさせまじく)候
一/宗旨(しうし)之/義(ぎ)は/代々常取宗(だい〳〵じやうどりしう)にて
/寺(てら)は/廣井乳母山滑々院旦那(ひろゐおうばさんぬら〳〵ゐんだんな)に
/紛(まぎれ)無御座候/則玉茎請我等方(すなはちまらうけわれらかた)に
/取置(とりおき)申候御/入用之節(にゆうようのせつ)は/何時(なんどき)
にても/差出(さしだし)可申候/為後日玉茎(ごにちのためまら)

【上段】/入子算(いれこざん)
   思はぬ人にさせる時は入物を
   かすといふ詞より出たり
【枠上下順に右より左へ】
十四五才あらばち
十六七才
十八九才
廿一二才
廿六才中どしま
三十六七才ふるばち
/初(はじ)めは/新開(あらばち)よりだん〳〵/年(とし)のぼりて
つひに/古(ふる)はちとなる又/一物(いちもつ)をせがれ
又/子僧(こぞう)といひちんぽこなぞいへるを
あらばち/古(ふる)ばちへ入れるゆへ是を
/入子(いれこ)ざんといふ
【下段】
/請證文仍如件(うけしやうもんよつてくだんのごとし)
        玉茎主 馬次郎
        玉茎世話人作蔵
  孫兵衛/後家(ごけ)殿
 /月夜(つきよ)に/釜(かま)をぬかれし人江/遣(つかは)す文
ぬる/松様(まつさま)義/昨(さく)十五日之/夜中(やちう)
御/釜被抜(かまぬかれ)被成候/由承知(よししやうち)仕候/実(じつ)に

【上段】/契悦(けいゑつ)の/割(わり)
 Δ/喜悦(きえつ)のかけごゑ
  スウ〳〵〳〵ハア〳〵〳〵〳〵
 ○/吐瀉々々(どく〳〵)たんのう引
 ○/気酒倍好(きいきばいすき)
 ●/婬心(いんしん)が淫水
 ●/一/深(しん)が八/浅(せん)
 ○/契悦夢中早急(けいえつむちゆうさつきう)に/行(いき)
/兼(かね)てたしなみの/女悦道具(ぢよえつどうぐ)の
/箱(はこ)をひらけばられん/香(かう)と云
せん/香(かう)二本りんの/玉(たま)三ツりん
の/輪(わ)三ツかぶと/形(がた)一ツこれが
/出(で)るといつでも/契悦(けいえつ)の大
よがりをやらかす也
【下段】
/月夜(つきよ)とは/乍申全(もふしながらまつたく)御ぬるま之御/性質(しやうしつ)
/被相顕(あいあらはれ)御/気之毒千万(きのどくせんばん)に奉存候御/釜(かま)を
/掘(ほり)候者は/相分(あいわか)り候/哉奉伺(やうかがひたてまつり)候/併如何(しかしいか)
/成大便(なるだいべん)も/無御息張(おんいきばりなく)御通(つう)じ被成候
/半(はん)と奉/察(さつし)候て御/羨敷(うらやましき)御/義(ぎ)と奉存候
/先(まづ)は/右(みぎ)御/見舞迄如此(みまひまでかくのごとく)御座候以上
/用文尻(ようぶんしり)へ/廻(まは)りて/終(おはり)

【上段】
/手(て)の/筋早見(すじはやみ)
/門前(もんぜん)に/医者(いしや)と
おや子がまつて
ゐる一本の事で
うまらねへやく
まわりだ
あすこの
こゆびめが
おれによつほど
きがある
助ぼう
おめへモウ
ぼゝをくじツた
ことがあるだろう手を出して
見せな/一度(いちど)でもくじつたものは
 つめのいろがかわつて
  ゐるとよ
女の尻を
 つめるとき
  ばかりよ
【下段右より上下順に】
つばきを/付(つけ)る手
 いたくする
 ことぢやア
 ねへから
 じつとしていな
くじる手
/玉茎(へのこ)をにぎる手
 いつそ
 大きな
 ものだのう
つびせんずりの手

【最上段標題】/痕紋(こんもん)乃ぬけ/陰門図説(いんもんづせつ)
【右より左へ縦割り読み】
/玉紋(ぎよくもん)
 /陰門(いんもん)の/中(うち)にてもわけて/上品(じやうひん)なるを/玉門(ぎよくもん)と
 いふ/此門(このもん)ある/婦女(もの)はつれそふ/夫(をつと)に/深(ふか)く/愛(あい)
 せられ/望事心(のぞみごとことこゝろ)のまゝなるべし
/陰紋(いんもん)
 /常(つね)てはなるをすべて/陰門(いんもん)といふこの/紋(もん)
 /至(いた)つて/上(あが)りたるは/味(あじは)ひ大吉なりさがりて
 あるは/味(あじは)ひ大にわるし
/肛門(こうもん)
 /裏紋(うらもん)とも/云或(いふある)ひは/菊座尻(きくざけつ)お/釜(かま)とも
 /号(なづ)け/肛門(けつ)をほらせてお/釜(かま)をおこす事
 ありお/陰(かげ)で/大用通(だいようつう)じ大に吉  

/田舎紋(いなかもん)
 /昔(むかし)の/流行唄(はやりうた)に/曰(いはく)なんぼ/田舎(いなか)でも/芋(いも)の/葉(は)でふか
 れようのんし/拭(ふけ)ばぬらくらとろゝちやんこ/野(の)ら/出合(であい)
 の/陰戸(ちやんこ)のべ/紙(がみ)の/用意(ようい)なく/芋(いも)のはでふく/是(ここ)はいなか/紋(もん)也  
/困紋(こまりもん)
 /誰(たれ)かれの/嫌(きら)ひなくあれにもさせ/是(これ)にもさせ
 だが/口説(くどき)てもいやと/云(いふ)ことなし/身(み)よりが/異見(いけん)すれば
 /心願(しんぐわん)で千人に/施(ほどこ)しますとの/返答是困者(へんとうこれこまりもん)也
/此外書房(このほかふみや)の/注紋何(ちうもんなん)でも/四紋(しもん)と/受込(うけこん)だるおいそれ/紋急案紋(もんきうあんもん)の/古(こ)
/事(じ)つけ/三紋(さんもん)ほどの/智恵(ちゑ)を/出(だ)して/手紋(しゆもん)のあらましを/爰(ここ)に/記(しる)す
/手(て)の/筋早見(すぢはやみ)終

會道笑林
 腎張いつも町   仈尾屋粕兵衛
 婦多川蜆町    薄毛屋新蔵
 伊々頃かわらけ町 荒尾四太郎
 阿手垣通り    千図屋理兵衛
 とん田助右衛門丁 豊島奧次郞
 古川かぶり町   越前屋須保助
 浮世       喜楽堂開版

BnF.

正写相生源氏  中

正うつ
  し
相生
げん
 し
  中之巻


〽アレ御ぜんさま
 あなたはまア
  どうしてこんなに
   おじやうずで
    いらツしやるか
     わたしは
      どうも
      よくツて〳〵
        しに
       さうで
        ござい
          ます

みつ
〽をはり
  はつもの
  なか〳〵に
  としの
   ゆかぬ
    もの
   から
    見る
     と
    その
    あぢは
     かく
      べつ
      じや
      フウ
       〳〵〳〵

みつ
〽かうしてこゝへとまるのも
 そなたとふたりで
      ねたいばかり
  ちつとこちらを
    むいてもよからう
   またをすぼめて
      ちからをいれるは
    こんな事がいやなのか
     それでも
        おぬしは
     さつきらうかで
       おれがする
         とほりに
      なつたではないか
      ナニいつそ
         はづかしい
        ほんにまだ
         をぼこじや
            なア

おとせ
〽まアちつと
 おまちあそばして
   くださいまし
 なんだかいつそ
  むねがどき〳〵
 いたして
   なりません
 アレおてが
   よごれる
      から
    およし
     あそ
      ばせヨ

さぐり
よしみつの
 こはいろにて
〽どうぢや
   ゆふべとは
 またちがふだらう
  ソレどうぢや
     またいゝか
 おれはある
  仙人からでんじゆを
       うけて
 するたびに
    やうすを
  ちがはせる事に
   めうをえて
     ゐるから
  ゆふべはゆふべ
 こよひはこよひ
   そのあぢが
    ちがはうがノ


〽どうやらゆふべ
      より
   おだうぐが
    ちひさう
  なつたかと
    おもひますが

  よい事はこよひの
        はうが
    十ばいでございます
       さつきから
        モウいき
           つゞけで
         アレモウまた
             それ
              フウ〳〵〳〵〳〵
             スウ〳〵〳〵

〽よくなつたら
  ゑんりよはない
       から
 ちからいつはい
  だきつくがよい
 アゝこのしまりの
     よい事は
   サア〳〵おれも
    いきさう
       じや
     フウ〳〵〳〵〳〵

おとせ
〽あれモウ
   なんだか
  からだぢうが

  ふるへるやうに
     なりました
  これがきこゆうが
   いくので
    ございますか
       ねへ

こそめ
〽こゝは大(おほ)かた
    うたの道(みち)をならつて
  をるとぞんじませうに
 思ひもよらぬ
    とんだ御伝授(ごでんじゆ)
  しかし光(みつ)さま
        たうぶんの
 おなぐさみではおうらみで
     ございますヨ

みつ
〽ひとの
  むすめを
 なぐさみ
  ばなしに
 するやうな
  ふじつは
    ない
三鳥三木(さんてうさんぼく)の
 でんじゆより
  三てう
    つゞけの
  でんじゆが
    かんじん
  ようおぼえ
      て
   わすれ
    まい
     ぞや


○こゝの画(ゑ)のわけ
古今伝授(ここきんでんじゆ)は
 下(げ)の巻(まき)の
   始(はじ)めに
      あり


〽アレおよしあそばしまし
  こんな事がしれますと
   はうばいどもが
        あてこすり
    ねたみそねみも
        あらうかと
     こゝろづかひで
          ございます
     わたくしもつね〴〵から
        あなたのやうな
      けだかいおかた
       どうかなるなら
         うれしからうと
          思つては
           をります
            けれど

〽これ浅香まア
    まちやれ
 こゝにすこし
    用がある
 そちがやうな
   やさかたで
 あいけうのある
     をなごを
 たゞとほすことは
      ならぬ
 しやじんの
  ゐくわうを
    かさにきて
 むりをいふでは
   なけれども
 おれもよければ
   そちもよし
 まんざら
   いやでも
    あるまいが


○過去(こしかた)の物(もの)
       がたり
  文(ぶん)にあはせて
    見(み)給ふべし

〽あれサしづかにをしヨおぢやうさんが道具さんに
  水あげをしておもらひだつサいやだノウ
  あんなぢいさんとなんする事は
 それでもよいさうでいつそ
  いく〳〵とおいひだはホヽヽヽ

〽どれ〳〵モウ
  はじまつたかへ
 わちきにも
  見せておくれな
 おまへもまことに
    すけべゑだヨ
 しらんかほをして
  さきへきてサ
   にくらしい

正写(しやううつし)相生(あひおひ)源氏(げんじ)中の巻
               東都  女好菴主人著
      第四  返花(かへりはな)のまき
百年(もゝとせ)に一(ひと)とせたらぬ九十髪(つくもがみ)とは。かの業平(なりひら)をしたひぬる。老媼(おうな)に対(たい)してよみ給ふ。夫(それ)には
あらねど美女(たをやめ)も。いつか四十(よそぢ)に近(ちか)つきては。顔(かほ)の小皺(こじは)の目(め)に立(たち)て。肌(はだ)も荒(あら)びつ髪(かみ)さへも
荊(いばら)ならねど霜(しも)はたび。おける尾花(をばな)に髣髴(さしもに)ツヽ。見所(みどころ)はなきものながら春宵一刻(しゆんせういつこく)千金(せんきん)
とは普通(ありふれ)たる人情(にんじやう)にて。花(はな)と月(つき)とを賞(しやう)せしなれど。また霜葉(さうえふ)は二月(じげつ)の花(はな)より。
紅(くれなゐ)なりと賛(ほめ)たるは。少(すこ)しひねつた騒(さは)がしき、春(はる)より秋(あき)の閑清(かんせい)をよしといひたる人々(ひと〴〵)の心々(こゝろ〳〵)の
世(よ)の中(なか)にて。たとへは鰻(うなぎ)の蒲焼(かばやき)は。厚味(うまい)の極(きは)みなりといへど。日々(ひゞ)三回(さんど)ツヽ喰(くい)せられては。鼻(はな)につき
てその香(か)を厭(いと)ふ。砂糖屋(さとうや)の丁稚(でつち)甘(あま)きを好(この)まず鰻(うなぎ)屋の猫(ねこ)馨(かんば)しきを。嫌(きら)ふといふも
こゝならん。されど室町(むろまち)の吉光君(よしみつきみ)は艶々(つや〳〵)麗々(みづ〳〵)としたる年(とし)若(わか)き。美女(たをやめ)のみを抱寝(だきね)して
味(あぢは)ひ鰻(うなぎ)に等(ひと)しけれど。また邂逅(たま〳〵)には鯷(ひしこ)の卯花漬(うらづけ)。煎菜(いりな)に油揚(あぶらげ)これも妙(めう)と。換(かは)つた

物(もの)の珍(めづ)らしく。年(とし)こそ少(すこ)し萎(すが)れたれ。その取(とり)まはし詞(ことば)の端(はし)。賤(いや)しからず野暮(やぼ)からぬ。浅(あさ)
香(か)を鳥渡(ちよつと)一口(ひとくち)と。心(こゝろ)の裡(うち)の目算(もくさん)に。今宵(こよひ)は此処(こゝ)へお泊(とま)りと。神輿(みこし)を居(すえ)ての大酒宴(おほさかもり)。春(はる)の
夜(よ)いとゞ更安(ふけやす)く。はや子刻(こゝのつ)に程近(ほどちか)く。浅香(あさか)は女児(むすめ)が帰(かへ)らぬを。心裡(こゝろのうち)に案(あん)じ侘(わ)び
畢竟(ひつきやう)斯(かう)して貴人(あてびと)の。かゝる白亭(くさのや)へ来(き)給ひしも。女児(むすめ)音勢(おとせ)が故(ゆゑ)なるに。今宵(こよひ)も帰(かへ)りも
来(こ)ずは。不興(ふきよう)ならんと思(おも)ふにぞ。飲(のん)だる酒(さけ)も裡(り)におちて。快(こゝろよ)くは発(はつ)しもせず。たゞ人(ひと)しらぬ
気(き)あつかひも。みな画餅(むだ)ごとに更闌(かうたく)る。浅香(あさか)は婢女(はした)にいひつけて。たしなみの夜具(やぐ)とり出(だ)させ。
穢(むさ)くるしくもこの所(とこ)へ。お寝(よら)せませうと佐栗(さぐり)へ商議(さうだん)。表座敷(おもてざしき)へしき伸(のぶ)る。綾(あや)の蒲団(ふとん)に純子(どんす)
の横(よぎ)。お前(まへ)はこゝへお憩(やす)みと。一間隔(ひとまへだ)てし納戸(なんど)へは佐栗(さぐり)が床(とこ)を敷(しき)のぶる。吉光君(よしみつぎみ)は浅香(あさか)が案(あん)
内(ない)に。表座敷(おもてざしき)へ入(いり)給ひ。蒲団(ふとん)の上(うへ)に肘枕(ひぢまくら)。酔(ゑふ)た〳〵と寝(ね)給へは。浅香(あさか)は側(そば)に手(て)をつかえ。
浅〽御前(ごぜん)さまそのまゝでは。お召物(めしもの)が皺(しは)になり。見苦(みくる)しうございますサア〳〵是(これ)を召(めし)かえ
ませ。お腰(こし)なり御足(おみあし)なり。お摩(さす)りでもいたしませうトいへば吉光(よしみつ)起(おき)なほり。浅香(あさか)の手(て)をひつと
らへ《割書:光|》〽何処(どこ)も按(もむ)には及(およ)ばぬからマアこゝを摩(さす)つてみやれト手(て)を持(もち)そへてあてがひ給ふ

を。着物(きもの)の上(うへ)から徐々(そろ〳〵)と。摩(さす)つてみればき木(き)のやうに。しやツきり勃起(おゑ)たる大業(おほわざ)
もの。股(また)の間(あひだ)へ横(よこ)たはる。その手障(てざはり)の心(こゝろ)よさ。浅香(あさか)はしばし按摩(なでさす)り。握(にぎ)つてみれば其(その)
太(ふと)さ。着物(きもの)の上(うへ)とは言(いひ)ながら。凡(およ)そ八寸胴(はつすんどう)がへしとも。いふべき程(ほど)にてピン〳〵と。押(おさ)へる手(て)さへ
反(はね)かへす。威勢(いきほひ)尖(する)どきありさまに。忽地(たちまち)気(き)もちあぢになり。吾(われ)をわすれてぬら〳〵と。吐婬(といん)
出(いで)しや。内股(うちもゝ)もやがてびた〳〵するばかり。この時(とき)吉光(よしみつ)手(て)を伸(のば)し。浅香(あさか)が顔(かほ)を引(ひき)よせて。 口(くち)を
吸(すは)んとし給へば《割書:浅|》〽アレ勿体(もつたい)ないお止(よし)遊(あそ)ばせ。憚多(はゞかりおほ)うト半(なかば)もいはせず《割書:光|》〽ハテ野暮(やぼ)なことをいふ。
恋(こひ)に貴賤(きせん)の隔(へだて)があらうか。 夫(それ)とも其方(そち)が否(いや)ならばトわざとぢらして手(て)を放(はな)し。 身(み)を
引(ひき)給へば。《割書:浅|》〽アレ御前(ごぜん)さま。何(なん)で否(いや)でございませう。しかしながら遥々(はる〴〵)と。 是(これ)まで入(い)らせられ
ましたは。女児(むすめ)音勢(おとせ)を御覧(ごらん)のため。生憎(あいにく)留守(るす)で竟(つひ)になう。 泊(とま)りとみえてまだ帰(かへ)らず。
思(おぼ)し召(めし)が何様(どのやう)であらうと。気(き)を操(もん)でをりますヨ《割書:光|》〽ハテ往水(ゆくみづ)と飛(と)ぶ鳥(とり)は。 何処(どこ)へゆくか誰(たれ)
もしらず。 居(を)らぬものが何(なん)とならう。 夫(それ)より其方(そなた)側(そば)へきて。 自己(おれ)が思(おも)ひを晴(はら)さして。くりや
れトいひつゝ引(ひき)よせられ。浅香(あさか)は久(ひさ)しく男(おとこ)の傍(そば)を。 遠(とほ)ざかりつることなれば。 とし年(とし)はとつても何(なん)と

なく。初々(うゐ〳〵)しさに気(き)もときめき。自由(じゆう)になれば吉光(よしみつ)は。やがて抱(だき)しめ手(て)をやつて。山繭(やままゆ)の
腰(こし)まきを。探(さぐ)りひらきて内股(うちもゝ)へ。わり込(こ)み給へば思(おも)ひの外(ほか)。肌(はだ)ざはりさへすべ〳〵し。毛(け)は
ふつさりと房(ふさ)やうじを。並(なら)べていぢる如(ごと)くなる。だん〴〵奥(おく)へさしこむ手先(てさき)に。紅舌(さね)はさはれど
この辺(あた)り。吐婬(といん)ぬら〳〵溢(あふ)れ出(で)て。滑(ねめ)りて紅舌(さね)もつまゝれず。況(まし)て陰門(いんもん)の両淵(りやうふち)は。流(なが)るゝば
かりのありさまに。吉光(よしみつ)もはや堪(たま)りかね。両手(りやうて)でぐつと内股(うちもゝ)を。おし広(ひろ)げて足(あし)を割込(わりこみ)。
鉄火(てつくわ)に等(ひと)しき一物(いちもつ)を。あてがひて二腰(ふたこし)三腰(みこし)。おせば下(した)より持(もち)あげる。はづみにぬる〳〵毛(け)
際(ぎは)まで。何(なん)の苦(く)もなく押(おし)こめば。その開中(かいちう)の温(あたゝ)かさは。いふも更(さら)なり忽地(たちまち)に。子宮(こつぼ)ひらけ
て鈴口(すゞぐち)を。しつかと噬(くわ)えて内(うち)へひく。その心(こゝろ)よさ気味(きみ)よさは。何(なん)に喩(たと)へんものもなく。
吉光(よしみつ)は目(め)を細(ほそ)くなし。 口(くち)をすぽ〳〵吸(すひ)ながら大腰(おほごし)小腰(こごし)九浅(きうせん)一深(いつしん)。上(うへ)を下(した)へとつき立(たて)給ふに
浅香(あさか)は子供(こども)を二三人 産(うみ)たる開(ぼゝ)にてさま〳〵の道具(だうぐ)だてさへ多(おほ)ければ雁首(かりくび)より胴中(どうなか)へ。ひら〳〵
したもの巻(まき)ついて。出(だ)しいれのたび玉茎(たまぐき)をしごくやうにてえも言(いは)れず。吉光(よしみつ)あまたの側(そば)
室(め)を抱(かゝ)へ。種々(いろ〳〵)楽(たのし)みたりといへど。かゝる稀代(きたい)の上開(じやうかい)は。いまだ覚(おぼ)えぬばかりにて。それいく〳〵アゝ

またいくと。浅香(あさか)が脊中(せなか)へ手(て)をまはし。力一(ちからいつ)ぱい抱(だ)きしめて。嬌(よが)り給へはさらぬだに浅香(あさか)は
誠(まこと)に久(ひさ)しぶり。殊(こと)には太(ふと)く逞(たく)ましき。 一物(いちもつ)に突(つき)たてられ。ヒイ〳〵フウ〳〵ムヽ〳〵と。声(こゑ)をも立(たて)ず最初(はじめ)
から。精(き)をやりつゞけて息(いき)もはづみ。正体(しやうたい)もなき折(おり)からに。アヽソレいくよまたいくよと。男(おとこ)に嬌(よが)
りたてられて。何(なに)かは以(もつ)てたまるべき。五臓六腑(ごさうろくぶ)を絞(しぼ)るばかり。陰水(いんすゐ)どろ〳〵ずる〳〵と限(かぎ)り
もならず流(なが)れ出(で)て。昔(むかし)を今(いま)にかへり花(はな)たのしく其(その)夜(よ)を明(あか)したり
    第五  過去(こしかた)のまき
そも〳〵これなる浅香(あさか)といへる。女(をんな)の素性(すじやう)を索(たづ)ぬるに。この北嵯峨(きたさが)に年(とし)古(ふる)き。郷士(ごうし)
何某(なにがし)の女児(むすめ)おりしが。まだ年(とし)ゆかぬそのころより。色気(いろけ)沢山(たつぷり)前尻(まへじり)を。按(なで)つ摩(さす)りつとり形(なり)も。
年(とし)にはませたいやらしさ。蔭(かげ)では譏(そし)る人(ひと)あれど。親(おや)は却(かへつ)てまた恍惚子(おぼこ)と。心(こゝろ)を寛(ゆる)すその眼(め)
を竊(ぬす)み。傍(ほとり)近(ちか)き弱官(わかうど)と。ちゝくりあひて世間(せけん)の評(ひやう)も。騒々(さう〴〵)しきに心(こゝろ)づき。何時(いつ)までも児(こ)
供(とも)ぢやと。思(おも)ふは世(よ)にいふ親破家(おやばか)なり。はや十五にもなるなれば。男欲(おとこほし)さの春心(あだごゝろ)。出(で)る
のも道理(だうり)何事(なにごと)もないうちに躾(しつけ)のため。御所(ごしよ)さまがたの行儀(ぎやうぎ)作法(さほふ)を。見習(みなら)はするが身(み)の

薬(くすり)と。夫(それ)より近(ちか)しき人(ひと)を恃(たの)み。奉公口(はうかうくち)を尋(たづ)ぬれど。生憎(あやにく)この節(せつ)御所(ごしよかた)には。然(しか)るべき
口(くち)もなく。甘泉寺(かんせんじ)の大納言蟻盛卿(だいなごんありもりきやう)のお傍(そば)勤(つとめ)。年恰好(としかつこう)もちやうどよしと。世話(せは)する人の
あるに任(まか)せ。まづ〳〵それへ上(あげ)たりしが。浅香(あさか)は色(いろ)の味(あぢ)をさへ。覚(おぼ)えし身(み)なればその男(をとこ)と。別(わか)るゝ
怨襟(つら)さに人しれず。血(ち)の涙(なみだ)をば流(なが)せども。年(とし)ゆかぬ身(み)は赧然(はなしろみ)て。男(をとこ)にそれといは躑躅(つゝじ)。いはねば
こそあれ恋(こひ)しさを堪(こら)えて出(いづ)る宮仕(みやづかへ)。男(をとこ)も本意(ほい)なく思(おも)へども。互(たがひ)に親(おや)のあるほどは其身(そのみ)一(ひと)ツ
も自由(じゆう)にならず今日(けふ)と過(すぎ)ツヽ翌(あす)の夜(よ)を。明(あか)してみれば去(さ)るものは。日々(ひゞ)に疎(うと)しの慣(なら)ひにて。心(こゝろ)の
裡(うち)は忘(わす)れねど始(はじめ)のごとくもおもほえず。況(まし)て浅香(あさか)は浮(うき)たる性(さが)にて。蟻盛卿(ありもりきやう)は御年(おんとし)も。まだやう〳〵
に二十三四(にじふさうし)。桜(さくら)は公家(くげ)と喩(たと)へたる。その類容(やさかた)に心地(こゝち)まどひ。前(さき)の男(をとこ)の事などは。夢(ゆめ)の端(はし)にも思(おも)ひは
出(だ)さず。いかにもしてこの刀祢(との)と。添臥(そひぶし)したらと旦暮(あけくれ)に。おつな目(め)つきと口元(くちもと)の。愛敬(あいけう)もまた陋(いや)しから
ねば。蟻盛卿(ありもりきやう)も若(わか)ざかり。いまだ定(さだ)まる北(きた)の方(かた)さへ。在(いま)さずして閨淋(ねやさび)しさに。ちよつと浅香(あさか)が手(て)
をとりて。戯(たは)ふれ給へば追風(ゑて)に帆(ほ)の。弥武心(やたけごゝろ)をじづと堪(こら)え。否(いな)めるさまも憎(にく)からず情(なさけ)の言葉(ことば)
種(さま)〴〵に。心(こゝろ)は解(とけ)し帯紐(おびゝも)や。肌(はだ)どはだとをぴつたりと。慈(いと)し可愛(かあい)の睦言(むつごと)に。はや明(あけ)ちかき

鶏(とり)鐘(かね)を。恨(うら)みながらの起(おき)わかれこれより後(のち)は夜毎(よごと)〴〵に。人目(ひとめ)忍(しの)ぶの関(せき)越(こえ)て。深(ふか)くも契(ちぎ)り
参(まゐ)らしツゝ。露(つゆ)の情(なさけ)のたゝまりて。何嵩(いつ)しか腹(はら)のふくらかに。なりしと聞(きい)て蟻盛卿(ありもりきやう)は心(こゝろ)苦(くるし)く思(おぼ)せとも。
初子(うゐご)となれば安(やす)〳〵と。産(うま)せてみたき心(こゝろ)もしつ雑掌(ざつしやう)なる某(なにがし)に。その事 蜜(ひそか)にかたらひて。浅香(あさか)
が親(おや)へそのよしいひ。側室(そばめ)の披露(ひろう)し給はんと思(おぼ)しにけれど先頃(さきごろ)より。裏藤家(うらふぢけ)の姫君(ひめきみ)を。
迎(むか)へ参(まゐ)らす契約(けいやく)あり。近(ちか)きほどに輿入(こしいれ)と。彼方(かなた)よりも言越(いひこし)給ひつ。されば北(さた)の方(かた)の在(おは)せぬ程(ほど)
に。さる事あらんは聞(きこ)えも悪(わろ)し。胎孕(みごもり)たるまゝ浅香(あさか)をば親元(おやもと)へ返(かへ)すに如(しか)しと雑掌(ざつしやう)等(ら)か計(はか)
らひを。了得(さすが)亜相(あしやう)《割書:大納言(たいなごん)の|唐名(からな)也》も否(いな)みがたく。不便(ふひん)やるかたなけれども。数多(あまた)の黄金(こがね)を手充(てあて)
して。浅香(あさか)に身(み)の暇(いとま)を賜(たま)はり。産(うま)れたる子(こ)は男(おとこ)にまれ。また女(をんな)にまれよき様(やう)に。計(はか)らふべしとの
事なれば。浅香(あさか)は只管(ひたすら)うちなげけど。力(ちから)に及(およ)ぶへきならねば。泣々(なく〳〵)親里(おやさと)へ皈(かへ)り来(き)て憂(うき)月(つき)
日(ひ)を重(かさ)ぬるうちに。月数(つきかず)みちて産落(うみおと)せしは。即(すなはち)今(いま)の音勢(おとせ)なり。されば浅香(あさか)が父母(ちゝはゝ)も筋(すぢ)よ
き子(こ)にはあらねども。初孫(うゐまご)といひ清(きよ)らかなる。女(をみな)の児(こ)は愛(あい)らしさも。また一入(ひとしほ)に思(おも)ひツゝ。二(ふた)とせ
三年(みとせ)を送(おく)るほどに。浅香(あさか)を何時(いつ)まで独住(ひとりずみ)にて。置(おき)給んも快(こゝろよ)からず。他(ほか)に跡(あと)とる男(おのこ)もなけれ

ばよき婿(むこがね)に偶(あは)せんと。思(おも)ふほどに親(した)しき人(ひと)の。媒妁(なかだち)するを僥倖(さいはひ)に。迎(むか)へて浅香(あさか)と夫婦(ふうふ)に
なしつ。老(おい)の安堵(あんど)に做(な)さんとせしが。この婿(むこ)は性善(きがよか)らぬものにて。浅香(あさか)母子(おやこ)はいふも更(さら)なり。
父(ちゝ)母(はゝ)にも当(あた)り悪(わる)く。邪慳(じやけん)放逸(はういつ)なるにより。斯(かく)ては末(すゑ)〴〵治(をさま)りがたし。わが眼(め)の黒(くろ)き裡(うち)ならば。
進退(しんたい)すべて自在(じざい)なりと。父(ちゝ)某(なにがし)が計(はか)らひにて。この婿(むこ)を離縁(りえん)なしつ。浅香(あさか)も元来(もとより)さの
みには。思(おも)はぬ婿(むこ)のことなれば。結句(けつく)僥倖(さいはひ)に思(おも)ひとり。夫(それ)より後(のち)は寡婦(やもめ)にて。明暮(あけくら)す
ほどに。父(ちゝ)母(はゝ)もおひ〳〵に辞世(みまがり)つ。今(いま)は母子(おやこ)の侘住居(わびずまゐ)。始(はじめ)の巻(まき)にいへるがことし。
されば音勢(おとせ)が風俗(ふうぞく)の。並(なみ)に勝(すぐ)れてみえぬるはその素性(すじやう)によるものなるべし
     第六 変詐(たばかり)のまき
うら若(わか)みねよげにみゆる若草(わかくさ)を。むすぶ縁(えにし)の緒(いとぐち)や。今朝(けさ)より雨(あめ)の小止(をやみ)なら。軒端(のきば)
をめぐる玉水(たまみづ)の。音(おと)は寝耳(ねみゝ)にひゞきツヽ吉光公(よしみつこう)は目(め)を覚(さま)し。見(み)給へば暁(あかつき)まで。添臥(そひぶし)したる
浅香(あさか)も居(を)らず雨降(あめふり)ながら日高(ひたか)きにや。雨戸(あまど)屏風(びやうぶ)は建(たて)こめて。手元(てもと)はいとゞ暗(くら)けれど。
櫺子(れんじ)は映(かゞや)くばかりなるに。こは昨夜(ゆうべ)の労(つか)れにて。寝忘(ねわす)れたりと起(おき)あがり。手(て)をほと〳〵と

鳴(な)らし給へば〽ハイと回答(いらへ)て徐々(しづ〳〵)と。屏風(びやうぶ)を明(あけ)てはいるは浅香(あさか)。寝乱(ねみだ)れ髪(がみ)もはや繕(つくろ)ひ。きく
童(どう)やらん薄(うつ)すりと。紅(べに)鉄漿(かね)さへも程(ほど)のよく。嗟(あゝ)惜(をし)むべしこの女(をんな)。今(いま)十年(じふねん)も若(わか)からば。比(たぐ)ひもあら
ぬ美人(びじん)ぞと。見蕩(みとるゝ)ばかりの婀娜(あた)造(づく)り。手(て)をつかへ頭(かうべ)をさげ《割書:浅|》〽モウお目(め)が覚(さめ)ましたか
今日(けふ)は生憎(あやにく)大雨(おほあめ)で。とても館(やかた)へお帰(かへ)りは。なりにくからうと佐栗(さぐり)どのも。申すによつてその
まゝに。静(しつか)にいたして居(をり)ました《割書:光|》〽左様(さう)で有(あつ)たかいかにも大雨(おほあめ)。しかし浅香(あさか)そなた宜(よう)早(はや)く起(おき)
たの。おりや大分(だいぶ)労(つか)れたさうで。夫(それ)から後(のち)は一向(いつはり)しらず。今(いま)やう〳〵目覚(めがさめ)た《割書:浅|》〽ホヽヽ私(わたくし)も
貴君(あなた)のお蔭(かけ)で。體(からだ)はぐんにやり筋骨(すぢほね)を。抜(ぬか)れたやうに成(なり)ましたが。兎角(とかく)するまに烏(からす)の
声(こゑ)。佐栗(さくり)どのに見付(みつか)つては。貴君(あなた)のお恥(はぢ)にならう歟(か)と起(おき)て納戸(なんど)へ参(まゐ)つても頭上(つむり)が
ぶら〳〵ぐら〳〵と。眩暈(めまひ)がいたすやうで有たを堪(こら)え〳〵て容子(やうす)にも。気(け)どられまいと
いたした折(をり)は。どんなに苦(くる)しうございましたらう《割書:光|》〽どうだモウ一遍(いつへん)苦(くる)しい思(おも)ひをする気(き)はないか
《割書:浅|》〽ハイ随分(ずゐぶん)宜(よう)ございますねホヽヽヽ好(すき)な奴(やつ)と。さぞおさげすみ遊(あそ)ばしませう《割書:光|》〽大かた懲々(こり〳〵)した
らうノ《割書:浅|》〽イエ懲(こり)はいたしません《割書:光|》〽懲(こり)ずばこゝで迎(むか)ひ酒(ざけ)サア来(き)やト手(て)をとり給へば浅香(あさか)は莞爾(にこ〳〵)

と。後(うしろ)をむき《割書:浅|》〽誰(たれ)ぞ参(まゐ)ると悪(わる)うございます《割書:光|》〽主(ぬし)ない其方(そなた)と寝(ね)てゐる所(ところ)へ。誰(た)が来(き)たと
ても構(かま)ひはあるまい。夫(それ)とも何(なん)ぞやかましく。いふ人(ひと)でも内証(ないしよ)にあるのか《割書:浅|》〽ホヽヽヽどう致(いた)して
此様(こん)な老婆(ばゝあ)を。御慈悲(おじひ)深(ふか)い貴君(あなた)なればこそ。気休(きやす)をめ放仰(おつしやつ)て下(くだ)さるけれど誰(だれ)も構(かま)ひ人(て)は
ございません《割書:光|》〽人(ひと)が何様(どう)だか何処(どこ)までも。自己(おれ)は構(かま)ひ通(とほ)す気(き)ぢやトいひツゝ引(ひき)よせ口(くち)と口。チウ〳〵〳〵
スハ〳〵〳〵。と吸(す)ひながら内股(うちもゝ)へ手(て)を入(いれ)て見(み)給へは。汐干(しほひ)にみえぬ沖(おき)の石(いし)。かわく暇(ひま)なくびた〳〵〳〵と。
潤(うるほ)ふ陰門(いんもん)さながらに。ほか〳〵ほてる心(こゝろ)よさ。二本(にほん)指(ゆび)をさしいれて。子宮(こつぼ)をくり〳〵いらひ
給へば。浅香(あさか)は目(め)をねぶり吾(われ)をわすれフウ〳〵〳〵と鼻息(はないき)は。軒端(のきば)の雨(あめ)の音(おと)に紛(まぎ)れて。聞(きこ)え
ねばこそ僥倖(さいはひ)なれ。折(をり)から屏風(びやうぶ)の外(そと)よりして〽ハイ慈母(おつかあ)さん只今(たゞいま)帰(かへ)りましたト音勢(おとせ)が声(こゑ)
に心(こゝろ)つき。忽地(たちまち)飛退(とびの)き前(まへ)を合(あは)せ《割書:浅|》〽よくこの降(ふる)のに帰(かへ)つたノ。昨夜(ゆふべ)帰(かへ)らない位(くらゐ)だか
ら。大(おほ)かた今日(けふ)も逗留(とうりう)か。モシ左様(さう)ならば駕(かご)を舁(かゝ)して。迎(むか)ひを遣(やら)うと思(おも)つて居(ゐ)たヨ《割書:おとせ|》〽ヲヤ
左様(さう)でございますか。今(いま)聞(きゝ)ましたら昨日(きのふ)から。お客(きやく)さまがあるとのこと。生憎(あやにく)留守(るす)でさそお困(こま)りと
半(なかば)いはせて《割書:浅|》〽左様(さう)サ〳〵。実(じつ)は昨夜(ゆふべ)も待(まち)かねたヨ。今(いま)御前(ごせん)にも丁度(ちやうど)お目覚(めざめ)。マア其方(そつち)へいつて

休息(きうそく)しな。今(いま)に御目見(おめみへ)させませうトいへば音勢(おとせ)はハイ〳〵と彼方(かなた)の院(ざしき)へ立(たつ)てゆく。浅香(あさか)は
莞爾(につこり)吉光(よしみつ)が顔(かほ)をみあげて〽彼(あれ)だから昼(ひる)は油断(ゆだん)がなりません。どうて今日(こんち)は御逗留(ごとうりう)。晩(ばん)
に寛(ゆつ)くら殺(ころ)すとも。活(いが)すともして下(くだ)さいましト膝(ひざ)を突(つゝ)けば吉光(よしみつ)も。本意(ほい)なき容(さま)に
起出(おきいで)給ふ。浅香(あさか)は婢女(はした)を呼(よび)たてゝ。屏風(びやうぶ)を片(よせ)よせ夜(よる)のもの。畳(たゝみ)て雨戸(あまと)くらすれば。忽地(たちまち)変(かは)
る昼(ひる)の体(てい)。漱(うがひ)浄水(ちやうづ)を参(まゐ)らせツゝ。准備(ようい)なしたる朝餉(あさがれい)。あたゝめ直(なを)して持出(もちだ)す膳部(ぜんぶ)。其(その)
配膳(はいぜん)には丁度(ちやうど)よき。女児(むすめ)音勢(おとせ)が役(やく)まはり。跫然(しと)やかに出来(いできた)り。御 目通(めどを)りをなしければ。吉光(よしみつ)
熟視(つら〳〵み)給ふに。聞(きゝ)しに倍(まさ)る艶(あて)やかさ。その品形(しなかたち)のしほらしさ。花(はな)を索(たづ)ねて舞胡蝶(まふこてふ)。露(つゆ)
を含(ふく)める海棠(かいどう)の。花(はな)の姿(すがた)も何(なに)ならず。吉光(よしみつ)はやゝ見蕩(みとれ)。持(もち)たる箸(はし)をわれしらず。はた
りと膳(ぜん)へをちこちの。人(ひと)や見(み)なんと顔(かほ)少(すこ)し。赧(あか)らめ給ふ御在(おんあり)さま。色(いろ)白(しろ)くして眉秀(まゆひいで)。眼(め)は
清(すゞ)やかに鼻筋(はなすぢ)通(とほ)り。朱(あけ)の唇(くちびる)たをやかに。業平(なりひら)源氏(げんじ)の君(きみ)なんどは。物(もの)の本(ほん)にてみた
るのみ。かゝる艶(やさ)しき風流士(たはれを)の。また両個(ふたり)とは世間(よのなか)に。あるべうもなき御姿(おんすがた)に音勢(おとせ)も
見蕩(みとれ)赧然(はなしろみ)て。胸(むね)少(すこ)し得(どき)つくを。じつと定(しづ)めてさし俯(うつぶ)くは。籬(まがき)に咲(さけ)る姫百合(ひめゆり)の。露(つゆ)重(おも)げ

なる其(その)風情(ふぜい)。吉光(よしみつ)はたゞ髪髴(はうほつ)と。砕(ゑふ)るが如(ごと)くに思(おぼ)し召(めし)。程(ほど)なく御膳(ごぜん)も果(はて)ければ。雨(あめ)は
ます〳〵小止(をやみ)なく。降(ふり)しきりて何(なに)となく。淋(さび)しさ倍(まさ)る庵(いほ)のうち。浅香(あさか)は徐々(そろ〳〵)御前(おまへ)へ出(いで)〽生憎(あやにく)
のこの雨(あめ)で。さぞ御退屈(ごたいくつ)でこさりませう。何(なに)はなくとも御酒(ごしゆ)一(ひと)ツと。言(まう)しつけたもまだ参(まゐ)らず
夫(それ)までの御慰(おなぐさみ)。この頃(ごろ)女児(むすめ)が些(ちと)ばかり。習(なら)ひ始(はじ)めた一中節(いつちうぶし)。下々(した〴〵)では流行(はやり)ますが。上(うへ)ツ方(がた)の御耳(おみゝ)
には。如何(いかゞ)であらうか存(ぞんじ)ませぬど。モシ鄙(ひな)びたる一節(ひとふし)でも。苦(くる)しうないと思(おぼ)し召(め)さば。御笑(おわら)ひ種(ぐさ)に
いたさせませうトいへば吉光(よしみつ)きゝ給ひ〽いかにも都(みやこ)一中(いつちう)とやらが。近曽(ちかごろ)弘(ひろ)めた唱歌(しやうか)の一曲(いつきよく)。おもし
ろいものといふ事(こと)じやが。まだ聞(きい)た事(こと)はない。それは僥倖(さいわひ)はやう〳〵ト仰(おふせ)について穴沢佐栗(あなざはさぐり)
も。お傍(そば)に在(あり)しが膝(ひざ)を進(すゝ)め〽女児御(むすめご)の一曲(いつきよく)なら。天津乙女(あまつをとめ)が影向(えうかう)にも。猶(なほ)ました事(こと)であらう。
殊(こと)に流行(はやり)の一中節(いつちうぶし)。サア〳〵早(はや)くお聞(きか)せなされトいふに浅香(あさか)は嗜(たしな)みの。三味線(さみせん)とり出(だ)し。音勢(おとせ)が
前(まへ)へおし居(すえ)て〽サア何(なん)なりとお慰(なぐさ)みの弾(ひき)がたり。一(ひと)ツ二(ふた)ツお聞(きゝ)に入(いれ)やれ《割書:音勢|》〽ホヽヽまだこの頃(ごろ)。やう〳〵
始(はじ)めたばつかりでト跡(あと)は口隠(くごも)る処女(をとめ)の慣(なら)ひ母(はゝ)は只管(ひたすら)すゝめたて。よく出来(でき)ぬのもまた一興(いつきやう)。
サア〳〵といふほどに。音勢(おとせ)は是非(ぜひ)なく膝(ひざ)におく。三(み)すぢの調(しら)べ一筋(ひとすぢ)に。思(おも)ひ初(そめ)たる色糸(いろいと)

の。心(こゝろ)のたけを夕(ゆふ)がすみ。男(おとこ)の顔(かほ)を睨(ながしめ)に。一度(いちど)二度(にど)なら三度(さんど)笠(がさ)。声(こゑ)よく唄(うた)ひ手(て)も濃(こまやか)
に。いとも妙(たえ)なる一曲(いつきよく)に。吉光(よしみつ)主従(しゆうじう)を始(はじ)めとし。その座(ざ)の人々(ひとびと)一容(いちやう)に感(かん)を催(もよふ)す斗(ばか)りなれば。
吉光(よしみつ)は扇(あふぎ)を披(ひら)きて。ヤンヤ〳〵と讃(ほめ)たまひ標数(きりやう)といひ芸(げい)といひ。また類(たぐ)ひなき処女(むすめ)ぞと。
漫(すゞろ)に恋(こひ)のせめくれば。直(すぐ)に舘(やかた)へ連戻(つれもど)り。傍(かたへ)におきて楽(たのし)まばやと。心(こゝろ)もこゝにあらぬまで。
気(き)さへ急(いそ)がれ給へども。降(ふる)雨(あめ)の頻(しき)りにて御 迎(むか)ひの御供(おとも)も参(まゐ)らず。されば今宵(こよひ)はまたこの
家(や)に。一宿(いつしゆく)なしてかの処女(むすめ)と。契(ちぎ)らばやと設計(もくろみ)給へど。また思(おも)ひ返(かへ)さるゝに処女(むすめ)は頓(とう)よう
傍仕(そばづかひ)にと。約諾(やくだく)なれば仔細(しさい)なけれど。われいちはやくもその母(はゝ)なる浅香(あさか)に手(て)を
つけ渠(かれ)もまた。吾(われ)を慕(かた)ふ風情(ふぜい)なれば。今宵(こよひ)この家(や)に卧(ふし)たりとも。音勢(おとせ)を手(て)に入(いる)
ることの難(かた)からん。いかゞはせんと考(かんが)へ給ひつ。こゝに一(ひと)ツの謀計(はかりごと)を。心(こゝろ)に設(まうけ)て佐栗(さぐり)をめし。耳(みゝ)に
口(くち)をさし倚(よせ)て。箇様(かよう)々々(〳〵)に計(はか)らへと。仰(おふ)せ給へば点頭(うなづき)て。首尾(しゆび)よく仕遂(しとげ)いはんと。いふ
に依(よつ)て吉光(よしみつ)は。その日(ひ)の暮(くれ)るを待給ふ程(ほど)なく浅香(あさか)が誂(あつらへ)の。酒(さけ)と殽(さかな)も調(とゝの)ひぬれば。
御ン前(まへ)へ持出(もちいで)て。上下(じやうげ)ざゝめきわたりツゝ。その日(ひ)薄暮(ゆふぐれ)の比及(ころほひ)まで。酌(くみ)かはして遊(あそ)ひ給ふ。

このとき吉光(よしみつ)厠(かはや)へとて。座(ざ)を立(たち)給へば御跡(おんあと)より。音勢(おとせ)は自(みづか)ら湯桶(ゆたう)と手拭(てぬぐひ)。両手(りやうて)に捧(さゝ)
げて持(もち)ゆきけるが。折(おり)ふしこゝに人(ひと)もなし。吉光(よしみつ)はふり向(むい)て〽ヲゝ音勢(おとせ)か太儀(たいき)〳〵。まア其(その)
品(しな)は下(した)におきや。鳥渡(ちよつと)おぬしに用(よう)がある。こゝへ来(き)やれと手(て)を把(とつ)て。引(ひき)よせ給へば
可得(さすが)は恍惚子(おぼこ)。胸(むね)得々(どき〳〵)と赧(あから)む顔(かほ)。吉光(よしみつ)ぐつと引(ひき)よせて顔(かほ)と顔(かほ)とをおしつければ。
伽羅(きやら)の油(あぶら)に白粉(おしろい)の。麝香(じやかう)の薫(かほ)りも床(ゆか)しくて。此方(こなた)も渾身(みうち)ぞつとしつ。物(もの)をもいは
ず口(くち)と口。音勢(おとせ)はこの頃(ごろ)道足(みちたる)に。恋(こひ)の初訳(しよわけ)を教(おし)へられ。生(うぶ)の女児(むすめ)にあらざれば。怖々(こわ〴〵)
なから舌(した)のさき。一寸(いつすん)ばかりを出(いだ)すにぞ。吉光(よしみつ)はスパ〳〵と。吸(すひ)給へともまだ縡足(ことた)らず。
衿首(えりくび)じつと〆(しめ)つけて。舌(した)を強(つよ)くからみ給ふ。その勢(いきほ)ひに音勢(おとせ)が舌(した)の。根(ね)の限(かぎ)り吸(すひ)こみて。猶(なほ)
スパ〳〵と吸(すひ)たてられ。音勢(おとせ)はたちまち上気(じやうき)して。耳(みゝ)と頬(ほう)とを真赤(まつか)になし。自由(じゆう)になつて
在(あり)ければ。吉光(よしみつ)いとゞ可愛(かあい)さに。衿(えり)にかけたる手(て)をしめつけ。左(ひだ)りの手(て)をさし伸(のば)して。前(まへ)を
まくり徐々(そろ〳〵)と。さし入(いれ)て見(み)給ふに。いまだ十四の処女(をとめ)にて。玉門(おんこと)の額際(ひたひぎは)に。薄毛(うすげ)少々(せう〳〵)指(ゆび)の先(さき)
に。さはるやうにて定(しか)とはしれず。両(りやう)の渕(ふち)はやわ〳〵と。蒸(むし)たての饅頭(まんぢう)を。二(ふた)ツ合(あは)せし如(ごと)くとは。

例(いつ)もかはらぬ喩(たと)へにて。その肌(はだ)ざはりえもいはれず。吉光(よしみつ)いとゞたまりかね。この所(ところ)へおし
転(こか)してとは。思(おも)ひ給へどそれもまた。いと仂(はした)なき所為(わざ)のみならず。間(ひま)とらば人(ひと)も来(こ)んと。思(おも)へば是(これ)
さへ心(こゝろ)に任(まか)せず。そのうへ音勢(おとせ)が気(き)あつかひ〽アレ誰(たれ)か参(まい)るさうで。足音(あしをと)がいたしますト恐(おそ)
るゝ処女(をとめ)が心(こゝろ)さへ。汲(くみ)とるものから手(て)を放(はな)し《割書:光|》〽夫(それ)なら晩(ばん)におれが往(いく)から。その積(つも)りで待(まつ)て
居(ゐ)やヨ《割書:おとせ|》〽ハイト言(いつ)たばかり。口(くち)を袖(そで)にてうち覆(おほ)ひ。莞爾(につこり)として嬉(うれ)し気(げ)なり。吉光(よしみつ)はその
まゝに。厠(かはや)に入(い)りて程(ほど)もなく。頓(やが)て元(もと)の席(せき)へ来(き)給ひつ。なほ種々(さま〴〵)の戯(たは)ふれに。其日(そのほ)もやゝ
暮(くれ)果(はて)て。人々(ひと〴〵)も酔蕩(ゑひとろ)け。戌刻過(いつゝすぎ)にもなりければ。はやお憩(やす)みが宜(よか)らんと。浅香(あさか)は予(かね)て
吉光(よしみつ)と。今宵(こよひ)も飽(あく)まで楽(たの)しまんと。思(おも)ふものから婢女(はしため)に。いひつけて己(おのれ)が卧房(ふしど)と。音勢(おとせ)が
卧房(ふしど)は二間(ふたま)を隔(へだて)また吉光(よしみつ)の御ン卧房(ふしど)は。己(おの)が上(かみ)の間(ま)にお床(とこ)をしかせ。それより以下(いか)は
夫(それ)〴〵の。子舎(へや)に床(とこ)を敷(しか)せツゝ。程(ほど)なく君(きみ)をはじめとして。各(おの〳〵)閨(ねや)へ入(いり)にけるが。音勢(おとせ)は。吉(よし)
光(みつ)が艶(やさ)かたなるに処女(をとめ)心(こゝろ)の惑(まど)ひツゝ。今(こ)よひ忍(しの)ぶと宣(のたま)ひしが。若(もし)実言(まこと)なら人々(ひと〴〵)の。寝(ね)る
をや俟(まち)て在(おは)すらん。と思(おも)へばその身(み)も眠(ねふ)られず。故意(わざ)と燈火(ともしび)を細(ほそ)くして。心(こゝろ)も心(こゝろ)なら

ぬまで。嬉(うれ)しくもありまた怖(こわ)く。間睡(まとろみ)もせで在(あり)けるが。吉光(よしみつ)は浅香(あさか)か心(こゝろ)を。粗(ほゞ)しり
給ひて昼(ひる)のほど。佐栗(さぐり)としめし合(あは)せし事(こと)あり。浅香(あさか)は是(これ)を知(し)るよしなく。はや
君(きも)の在(おは)すらん。さきに君(きみ)の仰(おふ)せには。今宵(こよひ)忍(しの)ばんその折(おり)に。燈火(ともしび)の晃々(きら〳〵)しくては。四辺(あたり)
みらるゝ心地(こゝち)なり。と宣(のたま)ひしは燈火(ともしび)を。消(けし)ておけとのことならん。その心(こゝろ)して上(かみ)の間(ま)へ。
お寝(よら)せまうせばわが閨(ねや)へ忍(しの)ぶに惑(まど)ひ給ふことはあらじ。と頓(やが)て燈火(あかし)をふき消(けし)つ。今(いま)か〳〵
と俟(まつ)をりから。間(あはひ)の隔紙(からかみ)徐(そろ)りと明(あけ)て。来(く)る人(ひと)あるは定(たし)かにそれと。浅香(あさか)はやをら身(み)を起(おこ)し
〽ハイこゝでございますト小声(こゞゑ)でいふを導(しるべ)にて。手(て)をさし伸(のは)し探(さぐ)り倚(よ)る。その手(て)を捕(とら)へ
夜着(よぎ)の裡(うち)へ。ひき入(いれ)られてそのまゝに。浅香(あさか)が衿首(えりくび)しつかと押(おさ)へ物(もの)をもいはずに口(くち)を吸(す)ふ。
浅香(あさか)は俟(まち)に待焦(まちこが)れたる。ことにしあれば是(これ)も同(おな)じく。男(おとこ)の衿(えり)をしつかと抱(だき)しめ。舌(した)を長(なが)
くさし出(だ)して。ペチヤ〳〵スパ〳〵〳〵と良(やゝ)しばらく吸(すひ)あふほどに。心地(こゝち)は更(さら)に天外(てんぐわい)へ飛去斗(とびさるばかり)の
思(おも)ひにて。吐婬(といん)はびた〳〵両股(りやうもゝ)へ。つたふ斗(ばか)りに潤(うるほ)へば。浅香(あさか)はしきりに腰(こし)を動(うご)かし。
顔(かほ)をしかめて抱(いだ)きつく。男(おとこ)は徐々(そろ〳〵)手(て)を入(い)れて。まづ紅舌(さね)がしらを撫(なで)まはし夫(それ)より

陰門(いんもん)へ二本(にほん)ゆびを。さし込(こみ)てみるにびた〳〵〳〵と。泡立(あわだち)ばかりに吐婬(といん)ながれ。両(りやう)の渕(ふち)は
ふくれあがり。紅舌(さね)はひく〳〵動(うご)き出(だ)して。まち兼(かね)る景勢(ありさま)に。こなたは猶(なほ)も気(き)を静(しづ)
め。玉門(ぎよくもん)の上下(うへした)を。数十(すじう)ぺん指(ゆび)にてこすり。または深(ふか)くさしいれて。子宮(こつぼ)をぐり〳〵指(ゆび)の
腹(はら)もて。こそぐるやうになしければ。浅香(あさか)は堪(こら)えずアゝ〳〵と。声(こゑ)を立(たて)ツゝ股(また)をひろげ。夢(む)
中(ちう)になつて抱(いだ)きしめ。子宮(こつぼ)ひらけてどろ〳〵〳〵と。熱湯(ねつとう)のごとき婬水(いんすい)を。しきり
に流(なが)して鼻息(はないき)荒(あら)く。男(おとこ)の股(また)へ手(て)をいれて。木(き)の如(ごと)くなる男根(なんこん)を。握(にぎ)りつめての
嬌(よが)り泣(なき)。男(おとこ)も今(いま)は脉(こら)へかね。そのまゝに両足(りやうあし)を。衝(つ)と割込(わりこん)で一物(いちもつ)の。頭(あたま)を玉門(ぎよくもん)にあて
がへは。浅香(あさか)は得(え)たりと腰(こし)をひねる男(おとこ)もぐつと一突(ひとつき)に。突(つゝ)こむ互(たがひ)の勢(いきほ)ひに。毛際(けぎは)ま
でさし込(こめ)ば。いきり切(きつ)て暉々(てら〳〵)と。光(ひか)るばかりの陰茎(へのこ)の亀頭(あたま)。子宮(こつぼ)へぐりゝと障(さは)るや
否(いな)や。浅香(あさか)はヒイと声(こゑ)立(たて)て。しがみ付(つき)ツゝ腰(こし)をもちあげ。正躰(しやうたい)なくも精(き)をやつたり。
男(おとこ)も名(な)におふ上開(じやうかい)に。矯(よが)り立(たて)られソレいくと。いふまもあらずヅキ〳〵〳〵。ドキン〳〵と龍吐水(りうどすい)
にて。弾(はぢ)き出(だ)したる水(みづ)の如(ごと)く。五體(ごたい)を絞(しぼ)つて腎水(じんすい)を勢(いきほ)ひ強(つよ)くはじき込(こめ)ば。子宮(こつぼ)に

臨(のぞ)みし女(おんな)の婬水(いんすい)。これが為(ため)におし戻(もど)され。子宮(こつぼ)の中(うち)にて交(まじは)りあひ。陰陽(いんやう)微(げき)して
水闘(すいとう)の。勢(いきほ)ひをなしければ。その心(こゝろ)よさは喩(たと)へんかたなく。命(いのち)もこゝに終(をは)るべき。心地(こゝち)に
なりて眼(め)もみえず。耳(みゝ)も聾(しい)たるごとくなり。却説(さても)吉光(よしみつ)は四辺(あたり)を伺(うかゞ)ひ。時分(じふん)はよし
とたち出(いで)給ひて。かねて目当(めあて)の音勢(おとせ)か閨(ねや)。こゝぞと外面(そとも)に徨(たゝず)みて。裡(うち)のやうすを窺(うかゞ)
ひ給ふに。いまだ寝(いね)ずや身(み)を動(うご)かす。音(おと)の聞(きこ)えて小(ちい)さき咳(しはぶ)き。一(ひと)ツ二(ふた)ツするほどに。さて
こそ此処(こゝ)に疑(うたが)ひなし。と障子(しやうじ)をそろりと明(あけ)て見(み)るに。燈火(ともしび)幽(かすか)に消残(きえのこ)り。屏風(びやうぶ)をぐる
りと引巡(ひきめぐ)らし。その裡(うち)に卧(ふし)たる容子(やうす)。吉光(よしみつ)やをらその屏風(びやうぶ)を。静(じつか)に手(て)をかけ
引除(ひきのけ)給へば。音勢(おとせ)はそれと起直(おきなほ)り。嬉(うれ)しさ身(み)には余(あま)れども。まだ恋(こひ)なれぬ心(こゝろ)には。
何(なに)といふべき言葉(ことば)なく。さし俯(うつふ)きて居(ゐ)る風情(ふぜい)。猶(なほ)うちつけにかやかくと。いふには倍(まし)て
しほらしく。吉光(よしみつ)そこへ倚(より)そひ給ひ《割書:光|》〽大(おほ)かた待(まつ)て居(ゐ)るだらうと。先刻(さつき)から来(き)たかつたが。まだ
衆人(みな)が寝(ね)ぬやうす。他(ひと)は兎(と)もあれ浅香(あさか)にはチトさし合(あひ)のこともあり。よく寝(ね)させてと
俟(まつ)うちに。遅(おそ)くなつてさぞ待遠(まちどほ)。しかし永(なが)く俟(また)せたかはり。夜(よ)の明(あけ)るまで寝(ね)かしはせぬ

ぞや。枕(まくら)はないかト見廻(みまは)し給へば。音勢(おとせ)は後(うしろ)へ手(て)をやつて把出(とりいだ)したるは下着(したぎ)の小袖(こそで)を。くる〳〵倦(まき)
て紙(かみ)をあて。鹿(か)の子(こ)のしごきで結(むす)びしは。その間(ま)を合(あは)す気転(きてん)の手細工(てざいく)《割書:光|》〽ヲゝこれはよく
出来(でき)た。二人(ふたり)が縁(えん)の結(むす)びめは。下(した)へまはすが寝宜(ねよか)らう《割書:おとせ|》〽モシこれが遊(あそ)ばし憎(にく)くは不躾(ぶしつけ)ながら
私(わたくし)の。此(この)木枕(きまくら)をあげませうか《割書:光|》〽木枕(きまくら)より願(ねが)はくは。斯(かう)して其方(そなた)の手枕(てまくら)をトいひつゝ音(おと)
勢(せ)が手(て)を把(とつ)て。その身(み)の衿(えり)にあてがひつ。その侭(まゝ)其処(そこ)へ寝(ね)給へば。音勢(おとせ)も倶(とも)に横(よこ)になる。
その衿元(えりもと)へ手(て)をかけて。じつと引倚(ひきよ)せ口(くち)と口。すふ間(ま)もあらず手(て)をやつて。内股(うちもゝ)へ
入(い)れ給へば。音勢(おとせ)は思(おも)はず窄(すぼ)める股(また)を。またおしひらき掌(てのひら)を。額(ひたひ)へあてゝ指(ゆび)を伸(のば)し。紅舌(さね)
より徐々(そろ〳〵)玉門(ぎよくもん)を。探(さぐ)り給ふにいさゝかは。潤(うるほ)ひ出(いで)し容子(やうす)にて。指(ゆび)の股(また)がびた〳〵すれば。吉光(よしみつ)
左右(さう)なく指(ゆび)をいれず。猶(なほ)三四(さんし)へん五六(ごろく)へん。指(ゆび)のさきを動(うごか)しツゝ。試(こゝろ)み給へば次第(しだい)〳〵に。吐婬(といん)
うるほひ両渕(りやうふち)まで。少(すこ)しびた〳〵する程(ほど)に。頓(やが)て中指(なかゆび)壱本(いちほん)を。徐(しづか)にいれて上下(うえした)を。あ
しらひ給へば身(み)を縮(ちゞ)め。顔(かほ)を男(おとこ)の胸(むね)にあて。たゞスウ〳〵と息(いき)づかひ。荒(あら)くなる動静(やうす)を
みて。吉光(よしみつ)は松(まつ)の木(き)の。如(ごと)くに勃起(おゑ)て竪横(たてよこ)に。筋(すじ)いと太(ふと)く逞(たく)ましき。業(わざ)ものゝ

亀頭(あたま)より。胴中(どうなか)まで唾(つばき)をぬり。また玉門(ぎよくもん)へも唾(つば)をぬりて。やがておしあてが
ひ。ちよこ〳〵〳〵と。小刻(こきざ)みに突(つき)給ふに。音勢(おとせ)は眼(め)をねぶり歯(は)をかみしめ。左右(さいう)の手(て)に
て吉光(よしみつ)が。脊中(せなか)をしつかり抱(いだ)きしめ。たゞハア〳〵との息(いき)づかひ《割書:光|》〽どうだ痛(いた)いか《割書:おとせ|》〽イゝエ
《割書:光|》〽モウちつと強(つよ)くしても宜(いゝ)か《割書:おとせ|》〽ハイ宜(よう)ございます《割書:光|》〽夫(そん)なら些(ちつと)持(もち)あげやれ《割書:おとせ|》〽持(もち)
あげるとはどういたすのでございます《割書:光|》〽ハゝゝ何卒(どう)するとつて下(した)から上(うへ)へ持(もち)あげるのサ《割書:おとせ|》〽それ
じやア斯(かう)でございますかエ《割書:光|》〽アレそりやアたゞ動(うご)く斗(ばか)りだ。マア〳〵出来(でき)ざアそれでも宜(いゝ)トいひツゝ
すか〳〵突(つき)給へば可得(さすが)の大物(たいぶつ)半(なかば)を過(すぎ)て。やゝ根元(ねもと)まで入(い)らんとするとき。此方(こなた)の間(ま)にて声(こゑ)
高(たか)く〽ヲヤまアおまへは佐栗(さぐり)さん怪(けし)からない吾儕(わたし)は否(いや)だヨ。お前(まへ)はとんだ贋者(にせもの)だ。左様(さう)とは
しらず取乱(とりみだ)したが。今更(いまさら)に恥(はづ)かしい。吾儕(わたし)はきかぬきゝませんト泣声(なきごゑ)出(だ)して叫(わめ)き立(たつ)るを。吉(よし)
光(みつ)不意(ふい)と耳(みゝ)にいり。扨(さて)は佐栗(さぐり)が長居(なかゐ)して。縡(こと)発覚(あらはれ)しかこは便(びん)なし。と暫時(しばし)腰(こし)を
つかひ止(やめ)て。聞(きゝ)給ふほどに音勢(おとせ)も聞(きゝ)つけ。常(つね)にあらざる母(はゝ)の声(こゑ)。訝(いぶ)かれば吉光(よしみつ)が。今(いま)は包(つゝ)む
によしもなく。在(あり)やうは箇様(かう〳〵)々々と。縡(こと)の稍(しだい)を告(つげ)給へば。音勢(おとせ)は聞(きゝ)ていかにせん。左様(さう)とは

知(し)らでこの在(あり)さま。母(はゝ)の男(おとこ)を寝(ね)とりたる。罪(つみ)さへ深(ふか)しとうち驚(おどろ)き。その侭(まゝ)にはね起(おき)
る。吉光(よしみつ)元(もと)より音勢(おとせ)をば。側室(そばめ)となすべき筈(はつ)にして。厭(いと)ふべきにはあらねども。
うち腹(はら)たてる声(こえ)のさま。浅香(あさか)がこゝへ来(きた)らんには。いかなる恥(はぢ)をかかゝすらんと。思(おぼ)せば安(やす)き
心(こゝろ)もなし。音勢(おとせ)はいとゞ恍惚(おぼこ)気(ぎ)に。かゝる姿(すがた)をみるならば。母(はゝ)の怒(いか)りの烈(はげ)しくて。此(この)身(み)
はとまれもし君(きみ)に。こよなき无礼(ぶれい)のあるならば。後(のち)の崇(たゝり)も護影(うしろめたし)。ひとまづ此処(こゝ)を退(さる)に
しかじ。と思(おも)ひ詰(つめ)ツゝ庭(には)さきの。雨戸(あまど)を明(あけ)て身(み)を隠(かく)す。何処(どこ)へ往(ゆく)ぞと吉光(よしみつ)も。続(つゞい)て其(そ)
処(こ)へたち出(いで)給ふ。程(ほど)もあらせず荒(あら)らかに。障子(しやうじ)を開(ひら)きて駈入(かけい)る浅香(あさか)。女児(むすめ)もみえずき君(きみ)もなし。
こは〳〵何処(いづく)へ隠(かく)ろひ給ふ。元来(もとより)女児(むすめ)は参(まい)らすべき。筈(はづ)にはあれどいざ今日(けふ)よりと。母(はゝ)にも告(つげ)ず
に戯婬(なぐさみ)給ふは。君(きみ)に似(に)げなき御ン挙動(ふるまひ)。殊(こと)に此(この)身(み)を変詐(たばかり)て。青侍(あをさむらひ)の佐栗(さぐり)をもて。身代(みがはり)に
たて給ふ。然(さ)は知(し)らずして有無(うむ)にも及(およ)ばず。打解(うちとけ)たるはとの身(み)の愚(おろか)さ。とは言(いひ)ながら御 計(はから)ひ。妾(わらは)つ
や〳〵心得(こゝろえ)がたし。たとへ上(うへ)なき貴人(あてびと)の。為(なし)給ふ事(こと)ながらも。こは此(この)まゝにおきがたし。何方(いづく)に在(おは)す
ぞ出(いで)給へ。女児(むすめ)は何処(どこ)へ隠(かく)れたる。音勢(おとせ)〳〵と呼(よび)たつる。声(こゑ)さへ凄(すご)く聞(きこ)ゆるほどに。音勢(おとせ)は

いとゞ胴(どう)震(ふる)はして。歯(は)の根(ね)もあはぬさま。吉光(よしみつ)もまたさらに。面(おも)なくて声(こゑ)を呑(の)み。霎時(しばし)
ありしが兎(と)にも角(かく)にも。此(この)まゝ出(いで)んは面(おも)ぶせなり。僥倖(さひわひ)雨(あめ)はれ雲間(くもま)より。月(つき)の光(ひか)りも幽(うすか)
なり。女子(をなご)ながらも二個(ふたり)づれ。一先(ひとまづ)こゝを逃出(にけいで)んと。音勢(おとせ)に低語(さゝやき)手(て)を引(ひい)て。庭(には)の切戸(きりと)をおし開(ひら)
き。外面(そとも)へたちいで喘々(あへぎ〳〵)。走(はし)り行(ゆく)こと七八町(しちはつてう)。またもや雲(くも)のうち覆(おほ)ひ。頻(しき)りに降(ふり)くる雨(あめ)のあし。傘(かさ)
も持(もた)ねば頭(つむり)上より。しとゞに濡(ぬ)るゝ便(びん)なきのみか。四辺(あたり)さへ暗(くら)くなり。足(あし)の運(はこ)びも覚束(おぼつか)なき
に。音勢(おとせ)はいとゞ恐(おそ)れ惑(まど)ひ。たゞ吉光(よしみつ)に身(み)をよせかけ。帯(おび)の結目(ゆひめ)を緊(しつか)と押(おさ)へて。渾身(みうち)しき
りに戦慄(わなゝく)のみ。吉光(よしみつ)はこれをみて。いとゞ侘(わび)しくとやかくと。みまはす傍(かたへ)に火(ひ)の光(ひか)り。人家(ひとや)
やあると立(たち)よれば。軒(のき)かたふける草庵(くさのや)は。かねて覚(おぼ)えの地蔵堂(ぢぞうだう)。こゝに霎時(しばし)と身(み)を容(いれ)て。
滅残(きへのこ)る仏前(ふつぜん)の。燈明(みあかし)を掻(かき)たてつ。濡(ぬれ)たる衣(きぬ)を絞(しぼ)りなどす。音勢(おとせ)は上着(うはぎ)の小袖(こそで)を引(ひき)
ぬき。君(きみ)が御足(みあし)の濡(ぬれ)たると。また汚(けが)れしをおし拭(ぬぐ)ひ。其(その)身(み)の足(あし)さへ拭(ぬぐ)ひとりたる。
顔(かほ)見(み)あはせつ諸共(もろとも)に。太(ふと)やかなる息(いき)を吻(つ)くなるべし
生写相生源氏中之巻終

BnF.

はうた合ねしめの色糸  下

はうたあわせ
ねじめの
いろ糸

中の巻

〽わたしやアさつき
 からどんなに
 まつていたか
しれないよマア
 酒(さけ)はあとにして
 まアちよつと
      お寐(ね)よ

〽いかさまおれもみち〳〵
 おやてきたからいち番(ばん)でか
 けねへうちは虫(むし)がおちつかねへ

鳥(とり)かげにねづみなきして
なぶらるゝこれも心(こゝろ)の
うさはらしぐちがのま
せるひやざけもしんきしん
くのアゝしやくのたね

しのぶ恋じはさてはか
なさに食とあふのが命
がけよごすなみだの
白粉もその悪かくす
むりなさけ

【右】
〽アゝモウ
 フウ〳〵〳〵
 いつそ
 よいよ〳〵
 ソレいく
   〳〵〳〵
   ハア
   アゝ〳〵
    〳〵

【左頁】
〽お主(まえ)さまとこんな
ことをいたしましたら
ばちがあたりませう
〽またそんなことをいやる
わたしやいつまでもはなれは
せぬゆへにようぼうじやといつてくりや

梅になかよく
鶯さへづるはるがすみすみれ
たんぽゝかたみおとらぬあさげ
しきあめにほころぶはなのつ
ぼみもたれゆへぞどうしてぬし
はこのやうにおなごをまよ
はすあくしよもの

〽わたくしも
もうまいります
ソレ〳〵
ハアアゝ〳〵〳〵

めぐる日の春にちかい
とて老木の梅か若や
ぎて候しほらしや〳〵かほ
りゆかしと待わびかつ
てさゝなきかける鶯?
のきては朝寝をおと
しけりサリトハ三年越な

〽サア〳〵もうかん
 じんのところに
 なつてきたから
 上(うへ)からもつと
 さつ〳〵とこしを
 つかつてくんねへ
そうだ〳〵
アヽいゝ〳〵
フウ〳〵〳〵


〽アヽどうもわたしも
よくなつてきてどうも
かうもしかたがねへようで
しびれるようでこゝがつかへねへよ
□□どうせうのうもういくわな〳〵
〽おれもいつしよだハアヽヽヽソレいく〳〵〳〵
   いんすい〽どく〳〵〳〵ぬら〳〵〳〵〳〵〽ハアヽヽヽ

かねてよりくどき上手と
しりながら此手かといたとう
じゆすのいつかときてにくら
しいかりてたぼかくつ
きのくしき心と辻うら
ひきばかりほんにやるせが
ないはいな

〽口(くち)をすいてか紅閨(こうけい)より
 紅梅(こうばい)がのろくては
なまものは喰(くへ)ねへ
ちよんの間(ま)に
気(き)をやり梅(うめ)と
しやう

〽わたしや
 柳(やなき)だから
 おまへの
 しやうに
 どう
  でも
  なる
  き
  さ

梅(うめ)がぬしなら
やなぎがわたしなかの
よいのかすねるのかある
夜(よ)ひそかに山の月(つき)こゝろ
ないぞへさよあらし

〽宵(よい)からぬかずふかずに
 入(いれ)つめでとう〳〵もう
 夜(よ)があけるそうだ


あきの夜(よ)ながに
ぬしにあふ夜(よ)のみ
じかさは月夜(つきよ)がら
すがなくわいな月じや
ごんせぬしら〳〵とあけの鐘(かね)

〽わたしやア
まだたんのう
しないからもう
五六ばんして
    おくれ
よがあけ
てもいゝじやアないか

〽今日(けふ)のような
よい間(ま)はないから
サアはやくどうか
     おしよ
〽どうかしろと
 いつてなにを
 どうする
   のだへ
〽じれつ
 たいねへおと
 ぼけでない
  それもう
 こんなにして
 いるくせに
  わたしやアモウ
 気(き)がわく〳〵して
          いるわね
〽それぢやアわたしが
 こうしているから
 このうへゝおのり〽ヲヤ ⌛

⌛おしよく
 ごのみだ
    ねへ

ゆくすへはたがはだふれん
紅(べに)のはなつぼみのうちから
あいきやうのめもとすゞ
しくかあいらしサツテモ
おまへはおとこ気(ぎ)をハテ
まよはしなりかたちまア
どうせうぞ

端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)下の巻
     通(かよ)ひ小町(こまち)
小町(こまち)おもへば照(て)る日(ひ)もくもるしいの少将(しやう〳〵)がなみだ雨(あめ)とはいま
専(もつは)ら世(よ)の中(なか)に通客達(つうかくたち)のいきがりてうたふはうたの文句(もんく)ながら
末(すゑ)の一句(いつく)のばゞじやへは色気(いろけ)のない行(ゆき)どまり外(ほか)になにとか言(い)
ひやうも有(あ)るべきにばゞじやへとは何事(なにごと)ぞや。酒(さけ)は燗(かん)肴(さかな)は気(き)
どり酌(しやく)はたぼちん猫(ねこ)ばゞア子供(こども)いやなりとのおきてをもはゞか
らぬ悪洒落(あくじやれ)の一言(いちごん)。成(な)らば雅言(がげん)に取(と)りなして文句(もんく)をいさゝか

端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)下の巻
     通(かよ)ひ小町(こまち)
小町(こまち)おもへば照(て)る日(ひ)もくもるしいの少将(しやう〳〵)がなみだ雨(あめ)とはいま
専(もつは)ら世(よ)の中(なか)に通客達(つうかくたち)のいきがりてうたふはうたの文句(もんく)ながら
末(すゑ)の一句(いつく)のばゞじやへは色気(いろけ)のない行(ゆき)どまり外(ほか)になにとか言(い)
ひやうも有(あ)るべきにばゞじやへとは何事(なにごと)ぞや。酒(さけ)は燗(かん)肴(さかな)は気(き)
どり酌(しやく)はたぼちん猫(ねこ)ばゞア子供(こども)いやなりとのおきてをもはゞか
らぬ悪洒落(あくじやれ)の一言(いちごん)。成(な)らば雅言(がげん)に取(と)りなして文句(もんく)をいさゝか

かゆるともそつとは
なにかくるしかるべ
き抑(そも〳〵)此(この)小野(をの)の
小町(こまち)といふは出(で)
羽(は)の郡司(ぐんじ)小野(をの)
の良実(よしざね)が娘(むすめ)にて本朝(ほんてう)美人(びじん)の聞(きこ)えたかく和歌(わか)は衣通姫(そとほりひめ)の
流(なが)れをくみてその才(さい)古今(こゝん)にひいでたれば其色(そのいろ)にまよひ其才(そのさい)
をしたひて縁(えん)に因(ちな)みつてをももとめて言寄(いいひよ)るもの多(おほ)けれどおのれ

【絵の中】
花のくもりか遠山の
 雲か月かはしら雪の
なかをそよ〳〵ふく
 春風にうきね
    さそふや
 さゞなみの
   こゝそかもめ着
   みやこ鳥あふぎ
    びやうしの
     ざんざめく内や
   ゆかしき内ぞゆかしき

に漫(まん)ずか所(ところ)よりして心(こゝろ)に叶(かな)ふも者(もの)なくかたはしより刎(はね)つけ皆々(みな〳〵)
お間(あひだ)の始末(しまつ)ながら猶(なほ)あきらめかねて思(おも)ひをこがすものおびたゞし
かり爰(こゝ)に深草(ふかくさ)の少将(しやう〳〵)といへる人(ひと)恋暮(れんぼ)の念(ねん)にしのびかね。じか付(づけ)に
             ひた〳〵ト思(おも)ひの丈(たけ)をならへたてゝかき
             くどきしに其(その)言葉(ことば)の抜(ぬき)さしならぬ
             品(しな)となりさらば今宵(こよひ)よりして百夜(もゝよ)の
             間(あひだ)かよひつめてそもじ様(さま)の真実(しんじつ)誠(まこと)を
             見(み)せ給ひなば其時(そのとき)こそは御心(みこゝろ)にした

【絵の中】
  夜ざくらや
   うかれがらすが
  まい〳〵と花の
   小かげに
  たれやらが
  ゐるわいな
  とぼけさんすな
芽ふく柳が風に
もまれてエゝエゝ
 ふはり〳〵と
そうじやいな

【右側】
に漫(まん)ずか所(ところ)よりして心(こゝろ)に叶(かな)ふも者(もの)なくかたはしより刎(はね)つけ皆々(みな〳〵)
お間(あひだ)の始末(しまつ)ながら猶(なほ)あきらめかねて思(おも)ひをこがすものおびたゞし
かり爰(こゝ)に深草(ふかくさ)の少将(しやう〳〵)といへる人(ひと)恋暮(れんぼ)の念(ねん)にしのびかね。じか付(づけ)に
             ひた〳〵ト思(おも)ひの丈(たけ)をならへたてゝかき
             くどきしに其(その)言葉(ことば)の抜(ぬき)さしならぬ
             品(しな)となりさらば今宵(こよひ)よりして百夜(もゝよ)の
             間(あひだ)かよひつめてそもじ様(さま)の真実(しんじつ)誠(まこと)を
             見(み)せ給ひなば其時(そのとき)こそは御心(みこゝろ)にした
【絵の中】
  夜ざくらや
   うかれがらすが
  まい〳〵と花の
   小かげに
  たれやらが
  ゐるわいな
  とぼけさんすな
芽ふく柳が風に
もまれてエゝエゝ
 ふはり〳〵と
そうじやいな

【左側】
【絵の中】
志賀の
 から
  さき
ひとつ
  松
夜こと〳〵に
 ねり
  からすが
むゝと
  来るを
あを〳〵と
  うれし
なみだの
  かわく
間覚なく
 くもりがちなる
   夜の雨

【左本文】
がひ下紐(したひも)ときて大事(だいじ)の所(ところ)をも任(まか)
せもうさんト我(わが)玉門(ぎよくもん)へ大(だい)ぶん勿(もつ)
体(たい)をつけていひけれど少将(しやう〳〵)もよく
よく惚(ほれ)こんだやう夫(それ)より毎(まい)ばん
こんよく小町(こまち)が家(いへ)の車(くるま)よせまで
通(かよ)ひけるが折(をり)しも年(とし)の暮(くれ)に及(およ)
びていつもより寒気(かんき)厳敷(きびしく)九十
九 夜(よ)めの晩(ばん)には大雪(おほゆき)降(ふり)て寒風(かんぷう)

はだへをつらぬくがごときをもいとはず例(れい)の通(とほ)り車(くるま)よせまでゆき
たるに此(この)雪(ゆき)にあたりて手足(てあし)もひへこほりつひに車(くるま)のもとにてこゞへ
死(しに)けり今(いま)一日(いちにち)の事(こと)にて本望(ほんまう)とげずむだ陰茎(まら)のおやしぞんに
なりけるは目(め)もあてられぬ次第(しだい)なりされば是(これ)等(ら)のもうとう
小町(こまち)の身(み)にむくひつひにはその身(み)も安穏(あんをん)ならず年老(としおい)ておち
ぶれのちにはあてどもなくあちこちとさまよひ歩行(あるき)あるとき
身(み)もつかれはてゝ道(みち)のほとりにそとはのうちにたほれありしに腰(こし)
をかけやすみいたるにある人(ひと)これを見(み)てかくなりはてし身(み)の後(ご)

【右頁】
はだへをつらぬくがごときをもいとはず例(れい)の通(とほ)り車(くるま)よせまでゆき
たるに此(この)雪(ゆき)にあたりて手足(てあし)もひへこほりつひに車(くるま)のもとにてこゞへ
死(しに)けり今(いま)一日(いちにち)の事(こと)にて本望(ほんまう)とげずむだ陰茎(まら)のおやしぞんに
なりけるは目(め)もあてられぬ次第(しだい)なりされば是(これ)等(ら)のもうとう
小町(こまち)の身(み)にむくひつひにはその身(み)も安穏(あんをん)ならず年老(としおい)ておち
ぶれのちにはあてどもなくあちこちとさまよひ歩行(あるき)あるとき
身(み)もつかれはてゝ道(みち)のほとりにそとはのうちにたほれありしに腰(こし)
をかけやすみいたるにある人(ひと)これを見(み)てかくなりはてし身(み)の後(ご)

【左頁】
【絵の中】
風ふいてみちもたへなん
  雪の夜半こぬが
 ましぞとあきらめて
酒のあいてに
  心根のつもる
 うらみの
   宵のうち
 おもひ
   やつたが
  よひわいな

【本文】
世(せ)もねがはひでトつぶやきしに小町(こまち)此(この)体(てい)になりても口(くち)はへらず極(ごく)
楽(らく)のうちなればこそ悪(あし)からめそとはなにかはくるしかるべきとトくそ
やけな事(こと)をいひちらすやうになりしも若(わか)いうち男(おとこ)をはぢひ

たむくいなれば今時(いまどき)の女(をんな)も其(その)
身(み)がどんなにきりやうが能(いゝ)と
いつて男(をとこ)えらみをしてむしやう
にぴんしやんとはねつけるもの
ぢやアねへといふ咄(はなし)さ〽ヲヤ〳〵い
われを聞(きけ)ばありがたいが聞(きい)
てあきれるよねつからおもしろいおはなしをなが〳〵と御苦労(ごくらう)
さまお茶(ちや)でもおあがりな〽ヲツトおちやおあがりは大(おほ)きに

【絵の中】
はるの
  鶯
 なによ
  着て
  寝やる
 花を
  まくらに
 葉を
  かけて
 よい〳〵〳〵

【右頁】
たむくいなれば今時(いまどき)の女(をんな)も其(その)
身(み)がどんなにきりやうが能(いゝ)と
いつて男(をとこ)えらみをしてむしやう
にぴんしやんとはねつけるもの
ぢやアねへといふ咄(はなし)さ〽ヲヤ〳〵い
われを聞(きけ)ばありがたいが聞(きい)
てあきれるよねつからおもしろいおはなしをなが〳〵と御苦労(ごくらう)
さまお茶(ちや)でもおあがりな〽ヲツトおちやおあがりは大(おほ)きに
【絵の中】
はるの
  鶯
 なによ
  着て
  寝やる
 花を
  まくらに
 葉を
  かけて
 よい〳〵〳〵 

【左頁】
お世話(せわ)のなぞ〳〵だらうがおめへもよくかんげへて見(み)ねへななん
ぼおれがやうなものだといつて男(おとこ)のきれつぱしだソレ此度(こんど)のさら
ひの時(とき)なんぞも人先(ひとさき)へ飛出(とびだ)して摺物(すりもの)なんぞアおれひどりて請(うけ)
こんであつちこつちへかけあるいて中(なか)にやア色々(いろ〳〵)な事(こと)を云(い)ふ
やつがあるのをあつちをかねこつちをかね当日(たうじつ)まで滞(とゞこほり)なく済(すん)で
ほつといふ息(いき)をついたのも他人(たにん)のやうにやア思(おも)はねへからのこつ
たぜヘンなにも恩(おん)にかけるじやアねへがどういふ心持(こゝろもち)でそうするか
とちつたアかんげへて見(み)てくんねへなそれからといふものア雨(あめ)が降(ふ)

【絵の中】
初音きにして
  春つげ鳥や
人の心は
  白梅の
かごと
  がましく
うれし
 なき
エヽ
じれつ
  たい
恋が
 うき世か浮世が
  恋かちよつと
    ひと筆
      掛惣文(けさうぶみ)

【本文】
らうが鎗(やり)がふらうが一晩(ひとばん)でも
かゝしつこなしにこうしてまいばん〳〵
稽古(けいこ)に通(かよ)ふにやア何(なに)か心(こゝろ)のある
事(こと)だらうとちつたア察(さつ)してくれ
てもばちもあたるめへぢやアねへか
〽そりやアわたしだといつてお前(まへ)が
ひゐきにしておくれのをいやだの
なんのといふ訳(わけ)ぢやアないがねお前(まへ)

【右頁】
【絵の中】
初音きにして
  春つげ鳥や
人の心は
  白梅の
かごと
  がましく
うれし
 なき
エヽ
じれつ
  たい
恋が
 うき世か浮世が
  恋かちよつと
    ひと筆
      掛惣文(けさうぶみ)
【本文】
らうが鎗(やり)がふらうが一晩(ひとばん)でも
かゝしつこなしにこうしてまいばん〳〵
稽古(けいこ)に通(かよ)ふにやア何(なに)か心(こゝろ)のある
事(こと)だらうとちつたア察(さつ)してくれ
てもばちもあたるめへぢやアねへか
〽そりやアわたしだといつてお前(まへ)が
ひゐきにしておくれのをいやだの
なんのといふ訳(わけ)ぢやアないがねお前(まへ)

【左頁】
【絵の中】
梅は
 ものゝふ
 桜は
  くげしゆ
おいらん
  さんは
 山吹の
 町人衆
   は
  桃の花
 柳ながしは
  世わたり
     の
【本文】
も知(し)つての通(とほ)りのおつかアだからね
〽ヲツト何(なに)もおつかアにかづける事(こと)ねへ
たとへやかましからうがむづかしからう
がわたしやア助(すけ)さんと色(いろ)をしますと
断(ことはり)でもする事(こと)ぢやアあるめへしよし
知(し)れた所(ところ)がどうでもなる事(こと)だ〽升(そ)
りやアそうだけれどね今(いま)にもお
つかが帰(かへつ)てくるとわるいからよ〽なんといはふがもうこういゝだしだからにやアいや

でもおうでも斯(かう)するのだ〽アレサむりな事(こと)をわつちやアいやだよ〽いやであらう
がなんであらうがかうなつちやアやぶれかぶれだあたまばかりでも入(いれ)
なくつちやア男(おとこ)がたゝねへ〽アレサマア此手(このて)をはなしておくれよどうでも
するからマア待(まつ)ておくれよト
ふるへ声(ごゑ)になつて助(すけ)の手(て)を
こぢはなさんとあせれども
男(おとこ)の力(ちから)にどうでもかなわず
とう〳〵股(また)へわりこまれうは

【絵の中】
夢の手まくら
 つい夜があけて
わかれ
 たばこの
おもひの
 けふり
おもふ
 かたへと
 なびき行

【右頁】
でもおうでも斯(かう)するのだ〽アレサむりな事(こと)をわつちやアいやだよ〽いやであらう
がなんであらうがかうなつちやアやぶれかぶれだあたまばかりでも入(いれ)
なくつちやア男(おとこ)がたゝねへ〽アレサマア此手(このて)をはなしておくれよどうでも
するからマア待(まつ)ておくれよト
ふるへ声(ごゑ)になつて助(すけ)の手(て)を
こぢはなさんとあせれども
男(おとこ)の力(ちから)にどうでもかなわず
とう〳〵股(また)へわりこまれうは
【絵の中】
夢の手まくら
 つい夜があけて
わかれ
 たばこの
おもひの
 けふり
おもふ
 かたへと
 なびき行

【左頁】
ばみのやうな大陰茎(おほまら)のおへかへつて鈴口(すゞくち)からは早(はや)先(さき)ばしりのいん水(すゐ)
よだれのごとくだら〳〵出(で)ているやつを手(て)に持(もち)そへて空割(そらわれ)の所(ところ)から開(ぼゞ)
の口(くち)へすべらせるに鈴口(すゞくち)からはます〳〵もらす薄淫水(うすいんすゐ)のぬめりに
てさばかりの大陰茎(おほまら)もぬる〳〵とはいりしあんばい女(おんな)は始終(しじう)身(み)
をもがけど小娘(こむすめ)かなんぞのやうに大(おほ)ごへもあげられずどうかして
入(いれ)させまいといきせいはつていぢばつても男(おとこ)の力(ちから)にむりやりに押(おし)
込(こま)れてはもうかなはずけつくあらだてむりどりにされたと人(ひと)に
しられては恥(はぢ)のうへの辱(はぢ)なればちつとの内(うち)のしんぼうト歯(は)を

くひしばつてがまんをする内(うち)
男(おとこ)は日頃(ひごろ)のおもひのたけ惣(そう)
身(み)の淫念(いんねん)へのこへ入(いり)あげすか
り〳〵とひじゆつをつくしずぼり
ずぼりとつきたつれば女(おんな)は心(こゝろ)
にそまねども天然(てんねん)自然(しぜん)の喜(き)
悦(えつ)業(わざ)ことには過(すぐ)れし大陰(おほま)
茎(ら)でつきたてられてたまらば

【絵の中】
おもひ
  をば
白紙に
 書く
ほそ
 筆の
毛ほど
思はぬ

 さんに
なほ
 ます
 かゞみに
くもらぬと
 いふたが
  むりじや
 ないかいな

【絵の中】
土手を飛びかふ
  蛍のむしに追れ〳〵て
  ちらりちら〳〵
ちよいと出て
 押へた
   うちわの
手くだ
  しよん
   がへ

【本文】
こそハア〳〵〳〵トよがり出(だ)し開(ぼゞ)の奥(おく)から
淫水(いんすゐ)がどく〳〵〳〵トあぶれ出(だ)すその
気味(きみ)よさにたまりかねアヽ〳〵〳〵トし
がみつきはじめのけしきはどこへやら
女(をんな)の方(はう)から持上(もちあげ)〳〵へのこのあたまへ
子宮(こつぼ)をすりつけ尻(しり)を廻(まは)して気(き)をやり〳〵今(いま)の今(いま)までふりつけ
しも此(この)大陰茎(おほまら)にくらい込(こみ)夢中(むちう)になつて気(き)をやられ男(おとこ)は
端唄(はうた)寝〆(ねじめの)色(いろ)糸(いと)大尾      あつけにとられて只(たゞ)ウヽ〳〵

BnF.

春色閨望月  上

三途(さんづ)の川(かは)もこれ此(この)やうに。手(て)
を引(ひき)あふて往(ゆく)ものは。かくの如(ごと)きか
恋(こひ)の渕(ふち)。にてなるをの浜千鳥(はまちどり)。
なきずゝりする心地(こゝち)よさ。そのみな
もとを尋(たづ)ぬれば。神代(かみよ)のむかし二柱(ふたばしら)

の。神(かみ)にをしへし教鳥(をしへどり)。にはくなぶりの
なぶられたさを。身(み)の願(ねがひ)なるはかなさも
好男(すいたをとこ)の噂(うはさ)ゆゑと思(おも)へどいざやしらぬ火(ひ)の。
筑紫(つくし)のつびに伊勢(いせ)のまら。世(よ)に聞(きこ)
えしも事(こと)ふりて。今(いま)は水道(すゐど)の水(みづ)
                       序一

清(きよ)き。吾妻男(あづまをとこ)に京(きやう)女郎(ぢようろ)。恋(こひ)にはや
せの里(さと)そだち。鄙(ひな)に似(に)げなきみめ
かたち。ひく手(て)あまたの双玉(ふたたま)づさ。読(よま)
ずにわかる枕(まくら)の冊子(さうし)。春(はる)はあけぼの
やう〳〵に。あけてみ給へ絵(ゑ)にかける。

女(をんな)ばかりか男(をとこ)とともに。取(とり)みだしたる
筆(ふで)のあや。誰(たれ)か心(こゝろ)をうごかさゞらんや。
喜(よろこ)び永(なが)き宿(やど)さがり。その湯(ゆ)あがり
の折(をり)からに。ゆげの酒(さか)まら。出(で)あひの
席(せき)に筆(ふで)をとる。
              序二

春色


おかめ
〽 与兵衛さんはたしやアおもわぬ
 嫁入するわいなアまゝならぬ浮世と
 かんにんして思ひきつて下されや

与兵衛
〽コレおかめきしにせいしも
 取かはし深くおもわせ
 今さらに嫁入する
        とは
 口おしや
  月夜斗のやみまき

〽このゑは
 たがいに
 はないき
    の
 あひ
  ばかり
 いゝ
  ぐさ
   は
 なん
  にも
 なし

そういふそなたのこゝろなら、このまゝ死(し)
ぬるはほいない縁(え)にし、とてもしぬ身(み)のお
もひでに、どこぞでチヨツト二世(にせ)のかため、 〽(おかめ)う
れしうござんす、そんなら死(しな)ぬそのさき
に、〽(与兵衛)つきぬなごりを、 〽(かめ)与兵衛(よへい)さん、〽(与兵衛)おかめお
じや、トたがひに手(て)に手(て)を取(と)りあひて、行(ゆ)きな
がら、〽(かめ)ヨウ与兵衛(よへい)さん、これからどこへ行(いく)つもりだ、
〽(与)どこへとツて、おれが行(い)くところへ、一所(いつしよ)に

行(い)きせへすリヤア、いひじやアねへか、〽(かめ)それだツ
ても、その往(いく)とこが、どんなうちかしらねヘ
が、大(おほ)かた気(き)がつまるだらふから、サア二世(にせ)のか
ためをしておくれナ、〽(与)二世(にせ)のかためは、ど
うするつもりだ、〽(かめ)ナンダしれたことヲしらア
きつて、サア〳〵、〽(与)するのか、〽(かめ)そうサ、〽(与)この原(はら)
中(なか)でどうなるものか、〽(かめ)ナニおめへこんな
ところへ誰(だれ)がくるものか、わたしやアヽモウ

よひの昏礼(こんれい)さわぎに、気(き)をもんだもの
だから、マダ落(おち)つかねへ、どんなさわぎだとお
もひなさる、聟(むこ)がいま来(く)るのなんのと、ソリヤア
おほさわぎサ、そン中(なか)でにげ出(だ)したものヲ、
あとのことはしらへが、おもひやられるのヨ、
〽(与)おめへかけ出(だ)さねへで、まごついて居(ゐ)やう
ものなら、今夜(こんや)今(いま)時分(じぶん)は、一番(いちばん)されると
ころだ、その時(とき)アどんな顔(かほ)だらふ、みてエ

ようだ、〽(かめ)ナアニ誰(だれ)がさせるものか、このほう
はぴんとこゝろに、錠(ぢやう)をおろしてあります
よ、〽(与)ソウサ腰(こし)から下(した)はあけばなしか、〽(かめ)何ヲ
いひなさる、ソリヤア大(だい)かぐらのおかめサ、それ
とはおかめがちがひますヨ、ソンナむた口(くち)はお
きにして、はやくしておくれナ、ヨウ〳〵ト、いは
れて与兵衛(よへい)も、さすが岩木(いはき)にあらざれど、
かの一物(いちもつ)は、岩木(いはき)の如(ごと)くしやツきりト、

〽(与)そんならこゝでトいひながら、おかめがう
へにのりかゝれば、おかめはとくより待(まち)もう
けて、はや出(だ)しかけし陰水(いんすい)に、まだ手(て)いら
ずのあらばちも、なんの苦(く)もなくおし込(こめ)
ば、下(した)から持(もち)あげ、上(うへ)からつき、ピチヤ〳〵グシヤ〳〵、
おもふほど、こゝろのまゝに気(き)をやりて、物(もの)
をもいはず、たゞスウ〳〵と鼻息(はないき)ばかり、〽(与)ヤレ〳〵〳〵
がツかりとした、サア〳〵これで気(き)がすんだ、

サアいかう、〽(かめ)マアおまちナ、おみナ、このいくちの
ねヘなりヲ、よくしたくして行(いく)はなト、身ごし
らへしてたちつれだち、与兵衛(よへい)とともニたど〳〵
と、足(あし)にまかせて行(ゆく)ほどに、とある百姓家(ひやくしやうや)
にいたり、門(かど)の戸(と)をほと〳〵とおとづれて、〽(与)モウシ
少(すこ)しおたのみ申します、トいへば内(うち)より、
しはがれたる声(こは)ねして、〽どなたへトこたふる
こゑもおぼつかなく、〽(与)与兵衛(よへい)でござります、

夜(よ)ふけてあがりおきのどくながら、チヨツトこゝ
をあけて下(くだ)さりまし、トいふにいらへて門(かど)
口(ぐち)を、あくるをみれば、はや七十(なゝそじ)にちかき婆(ばゞ)ア、
〽(ばゞ)ヲヤどなたかとおもツたら、めづらしいお客(きやく)さま、
大(おほき)に御無沙汰(ごぶごぶさた)申しました、何(なに)しに今(いま)時分(じぶん)
御出(おい)でなすツた、ヲヤおつれがござらツしやる
かへ、〽(与)アイ女(をんな)づれサ、〽(ばゞ)ヲヤツかな、今(いま)時分(じぶん)、マアこちら
へとの言葉(ことば)をしほに、二人(ふたり)とも内(うち)に入(い)れば、

〽(ばゞ)ヤレ〳〵おくたびれでござらツしやらふ、この
通(とを)りの田舎(いなか)、そのうへ夜(よ)ふけで、何(なん)にもあげ
るものはごぜへましねエ、御馳走(ごちそう)は明日(あす)の
こと、夜(よ)のあくるにはマダ間(ま)もあり、マア〳〵御二(おふた)
人(り)ともおやすみなせへ、ト夜着(よぎ)とふとんを取(とり)
出(だ)して、奥(おく)の一間(ひとま)へ入(い)りにけり、あとに
二人(ふたり)は顔(かほ)みあはせ、〽(与)ヤレ〳〵〳〵よう〳〵のことで
気(き)がおちついた、サア寝(ね)ようト床(とこ)をしき、

二人(ふたり)は一所(いつしよ)にひとつ夜着(よぎ)、おびもこゝろもう
ちとけて、ひツたりとあふ肌(はだ)と肌、〽(与)原中(はらなか)とは
違(ちが)ツて、これではゆツくりとして心(こゝろ)もちが
いひト、たがひに息(いき)もつきあへず、雲(くも)となり雨(あめ)
となり、臼(うす)となり杵(きね)となり、腰(こし)のつゞかん
かぎりはト、おもふまゝなる床(とこ)の中(うち)、前後(ぜんご)も
しらず一(ひ)ト寝入(ねい)り、はやくも婆(ばゞ)はおき出(いで)て、
飯(めし)ごしらへの釜(かま)の下(した)、ちからまかせにうつ

火打(ひうち)、カチ〳〵〳〵トいふ音(おと)に、二人(ふたり)はふつと目(め)が
さめて、〽(与)おかめ夜(よ)があけたゼ、〽(かめ)ナアニまだ烏(からす)も
啼(なか)ねへに、はや過(すぎ)るはナ、もう一番(いちばん)とだきし
めて、又(また)すツぽりと夜着(よぎ)のなか、宵(よひ)のつか
れにおもはずも、又(また)うと〳〵と両(りやう)ねむり、いか
なる夢(ゆめ)をやむすぶらん、

BnF.

葉唄合寝〆の色糸 中


 うた
   合
  寝じめの
   色いと
     中の巻

〽内にいてもてめへの
 ことをおもひだす
 だひにむしやう
 につゝぱりかへツ
 てふだんはとんだ
  やつけいものよ
〽そのやつかいものが
 あるばつかりでわたしや
           ア
 もう〳〵どんなに
 くらうするか
  しれねへよ

身ひとつをおき
どころなきむねの内
ひとへのこゝろやゑにとき
ゆびきりかみきりむりな
きしやうも神〳〵さんへはおせは
をかけて烏羽玉の恋のやみ
ぢじやないかいな

ものゝふのやたきアにはやる
ときむねもさすが恋路は
すてかねて花にこてうの
夢の間もわすれぬかたき
のあだまくらあふて
うらみをはらそ
ぞへ


〽あれさ
 いぢらずと
 はやく入れな
      まし
 エゝモウ
   ばからしい入(いれ)ねへ
 うちから
   いきんすかな

〽てめへはまだ
 新造(しんぞう)だけひたい
 ぐちに少々(しやう〳〵)
  花(はな)は人ざかりときているから
 どうもたまらなく
   気(き)がわりい
        わさ

鈴虫のわが身思ふやし
のびねの枕ならへて松風
の月もさすかに秋の
色はづかしなからし
のびあひひぢを枕に
かりのこゑ

梅が香をとめてかほりの
ぬしゆかし顔も紅梅
うぐひすのいつか音色を
たのしみにはつこへそつ
とまどのうちいきな
世界じやないかいな

〽かうしつくりとはいつ
 たところを小袖(こそで)のすそ
 やふたぬので
 つゝめど色香(いろくわ)梅川(うめがわ)
 の川風(かわかぜ)さつとふき
 まくりうまい所(ところ)が
 見(み)へたらばさぞ
 ひとが気(き)をわる
 がるであらふ
〽どうでもよいから
 もつとさつさと
 ついておもいれ
 気(き)をやら
 せて
 おくれ

 アウレ
 いゝよ〳〵
 フウ〳〵〳〵〳〵

【右側上部】
〽おめへとかう
 いふわけになつ
 てから内のひとゝ
 ねてもうはのそらよ
 ほんにおめへとすると
 きをやるにも心(しん)からそこから
 いつせつやる気(き)になるはな

【右下部】
〽あり
 がてへ
 どうり
 でおめへの
 いんすい
    が
 への
 この
 あた
 まへ
 しみ
 こむ
 よう
 だ

【右側上部】
わしが思(おも)ひは三 国(ごく)一の
ふじのみやまのしらゆき
つもりやするともとけはせぬ
浮名(うきな)たつかや立(たつ)かやうき名(な)
いまはうきなのたつのもうれし人の
心(こゝろ)はあいゑんきゑんいつせつから
だもやる気(き)になつたわいな

【左側】
いろの名(な)をいわぬ〳〵と山
吹(ぶき)のなびくといふを恋(こい)の癖(くせ)
水(みづ)にながすはこちや気(き)にかゝ
りなにを蛙(かわづ)のぐと〴〵とほんにおな
ごといふものはやるせないもので
 ござんすわいな

〽なを水(みづ)かはんなま
 ぶきの穴(あな)の露(つゆ)そう
 いでの玉川では
      ねへ
 井手(いで)の
 玉ぐき
    とは
 どうだ
〽アレサむだくちを
 きかないで
 身(み)にしみて
   しないと
 実(み)になら
  ないよう
    だよ

思はれぬ人におも
ます鏡くもりがちなり
むねの内はるゝまもなき
五月やみつきにはにくし
さりとてはまゝにな
らぬがよのならい

春(はる)さめにくせつとぎれて
たゞくよ〳〵とないてゐる
のを寝(ね)たふりによるすべ
もなき女気(おんなぎ)をしやくが
とりもつ中(なか)なをり

〽わたしやア
 おぼへもない
 ことに今の
 ようないゝがゝり
 をいわれるとくやし
 くつて〳〵どうせうかと
 おもうよ〽もう
 いゝわなトいつて
 気(き)をひいて
 見(み)たもの
 よ
 サア
 〳〵
 もう
 いく
 ぞ
 〳〵

〽エゝ
 にくらしい
 アゝ
 いく
 よ
 〳〵

端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)中の巻
    傘(かさ)の雪(ゆき)
我(わが)ものと思(おも)へばかろし傘(かさ)の雪とは人(ひと)として欲情(よくじやう)のはなれざる
事(こと)風雅(ふうが)の上(うへ)にもしかありと古今(こゝん)万事(ばんじ)をつらぬく一句(いつく)そを
色欲(しゝよく)にとりなして恋(こひ)の重荷(おもに)とつゞけしは是等(これら)をはうたの生(しやう)
根(ね)といふべしいもがり行(ゆけ)ばは妹許(いもがり)と書(かき)て女の許(もと)へ行事とは
いはずとみなさま御推(ごすゐ)もじ川風さむく千鳥なくほどいづれも
冬(ふゆ)の余情(よじやう)深きは今日(けふ)の大雪 君(きみ)を思へはかちはざしことはいへども

端唄寝〆色糸(はうたねじめのいろいと)中の巻
    傘(かさ)の雪(ゆき)
我(わが)ものと思(おも)へばかろし傘(かさ)の雪とは人(ひと)として欲情(よくじやう)のはなれざる
事(こと)風雅(ふうが)の上(うへ)にもしかありと古今(こゝん)万事(ばんじ)をつらぬく一句(いつく)そを
色欲(しゝよく)にとりなして恋(こひ)の重荷(おもに)とつゞけしは是等(これら)をはうたの生(しやう)
根(ね)といふべしいもがり行(ゆけ)ばは妹許(いもがり)と書(かき)て女の許(もと)へ行事とは
いはずとみなさま御推(ごすゐ)もじ川風さむく千鳥なくほどいづれも
冬(ふゆ)の余情(よじやう)深きは今日(けふ)の大雪 君(きみ)を思へはかちはざしことはいへども

まさかはたしで色に行(ゆく)のも
あんまり色気(いろけ)のすたつたせん
さくなれば鉄紺(てつこん)の半合羽(はんがつぱ)
に小袖(こそで)三枚(さんまい)ぱつちしりはし
をりの高足駄(たかあしだ)蛇(じや)の目(め)の傘(からかさ)
にふりつもる雪も他(よそ)の囲女(ていけ)を
我(わ)ものとおもふ心(こゝろ)よりは重(おも)し
とも思はすこゝがそのわがものとおもへばかろし傘(かさ)の雪(ゆき)つもり〳〵て

【絵の中】
我恋は
 住よし
  うらの
 夕けしき
  たゞ
    あをた
 まつばかり
 逢ふて
  つらさが
  かたり
    たや

【絵の中】
わしか国さで見せたいものは
 むかし谷風いま
       だてもやふ
 ゆかしなつかし
  みやぎのしのふ
 うかれまいぞへ
 松鴛月たる
  しよんがへ

【本文】
深(ふか)くなり道(みち)もはうがくもうしなふは実(げ)にも思案(しあん)の外(ほか)なるべし
女(をんな)の身(み)もそのごとくかくし男(をとこ)の約束(やくそく)を待間(まつま)の窓(まど)の庭(には)の面(おも)
枝(えだ)もたわめる松(まつ)の雪(ゆき)おもきがうへの小夜衣(さよごろも)わがつまならぬ夫(つま)

【絵の中】
わしか国さで見せたいものは
 むかし谷風いま
       だてもやふ
 ゆかしなつかし
  みやぎのしのふ
 うかれまいぞへ
 松鴛月たる
  しよんがへ
【本文】
深(ふか)くなり道(みち)もはうがくもうしなふは実(げ)にも思案(しあん)の外(ほか)なるべし
女(をんな)の身(み)もそのごとくかくし男(をとこ)の約束(やくそく)を待間(まつま)の窓(まど)の庭(には)の面(おも)
枝(えだ)もたわめる松(まつ)の雪(ゆき)おもきがうへの小夜衣(さよごろも)わがつまならぬ夫(つま)

がさねもいたづら心(ごゝろ)のみにあらずたがひに好(すい)た好(すか)れたはことはざ
にいふ合縁奇縁(あひえんきえん)是(これ)ぞまことに出雲(いづも)にて結(むす)ぶえにしと思(おも)
へどもおふはいやなりおもふのは侭(まゝ)にならぬが世(よ)の慣(なら)らひ
〽此(この)やうなよい間(ま)といふはめつたにはないから早(はや)く来(き)て呉(くれ)
ればよいにあれほど呉々(くれ〳〵)も約束(やくそく)しておいたからよもや日(ひ)を
まちがへる事(こと)でもあるまいにそれに又(また)折(をり)あしく雪(ゆき)はふる
し此様(こんな)に待(まつ)て居(ゐ)てひよつと来(こ)なからうもんならくやし
いのう月んに待(また)るゝとも待身(まつみ)になるなとはよくいつたもん

だトいふ所(ところ)へ〽おゆうさん〽かん
さんもう〳〵〳〵どんなに待(まつ)て
いたかしれやアしねへよ今(いま)
まで何(なに)をしておいでだ〽何(なに)を
していたといつておれだつて
ちつたア用(よう)もあるはな〽外(ほか)の
用はどうでも能(いゝ)はね此方(こつち)
の用がかんじんだよマア早(はや)く

【絵の中】
堅は
やく
  そゝ
よい首尾
  の松
またの
 ごげん
   を
待乳
  山
エゝ
 かねが
 ふち

巨燵(こたつ)へおあたりさつきから火(ひ)をきつくして待(まつ)ていたのだわね
〽それはおかたじけ実(じつ)に川(かは)ツぷちを通(とほ)るときは顔(かほ)を吹切(ふつき)ら
れるやうであつた我身(わがみ)ながらよつぽとのろいやつよのう〽嬉(うれ)
しいよそのかわりにわたし
がよウくあつためてあげる
からもつとこつちへよん
な〽此(この)とほりかなつ氷(こほ)り
だ〽ヲヤつめたい手(て)だのう

【絵の中】
かれ野
  ゆよしき
 墨田堤(すみだつゝみ)
心もすめる
  夜半の月
田毎にうつる
 人かげに
はつと立たる
 あれ
  かりがね
     も
 めをと
  づれ

               サア爰(こゝ)へお入(い)れと内懐(うちぶところ)へ入(いれ)
               させる〽こうするとぢきに
               あぢな気(き)になるぜ〽いゝじやア
               ないかあぢになつたらどう
               でもおしな〽あんまりせわし
               ねへなアしかし斯(かう)いふさむい
ときはかけつけ三番(さんばん)とやらかさゞア胴(どう)ぶるへがとまるめへ欠付(かけつけ)
三番(さんばん)といやア今(いま)来(き)かげに酒(さけ)も肴(さかな)もそういつて来(こ)やうとおも

【絵の中】
君は今頃
 こまかたあたり
鳴てあかせしひほとゝぎす
  月の顔見りやおもひ出す

つたがあんまり世間(せけん)を憚(はゞ)から
ねへやうでよくねへからよしに
したが爰等(こゝら)が不義者(ないしやうもの)の不自(ふじ)
由(ゆう)な所(ところ)だ酒屋丁稚(ごよう)が来(く)るだ
らうから序(ついで)でに肴(さかな)も丁稚(ごよう)に
言伝(ことづけ)てやんねへ小遣銭(こづかひせに)でも遣(や)
らうもんならころ〳〵して用(よう)を
足(た)すはト二分金(にぶきん)を火鉢(ひばち)のかけ

【絵の中】
おまへの
  事を
 苦に
  やんで
身は
 さみ
  せんの
糸柳
 風の
 たより
   を
まつ
 ばかり
ゆびをり
   かぞへ
 袖じほる
    色の
 ならひか
    やるせなや

ごへちよいとなげる〽およしなぶしつけらしいひとが御馳走(ごちそう)しやうと
思(おも)つておかんをつけておくにどうぞ御気(おき)に入(い)らずともわたくしの
御手料理(おてれうり)でおひとつめしあがり下(くだ)さいまし〽是(これ)は〳〵ごたいない(御叮嚀)な
御(ご)あいさつでいたみ入(いり)ます左様(さやう)
御座(ござ)らば御深切(ごしんせつ)の御料理(おれうり)忝(かたじけなく)頂(てう)
戴(だい)仕(つかまつり)たく〽仕度(つかまつりたく)まで聞(きけ)ば沢山(たくさん)
だよ〽そういふけれど仕(つかまつり)たいから
此(この)雪(ゆき)にゑつちらおつちら爰(こゝ)

【絵の中】
野辺の
 花には
 さきや
   う
   かるかや
 おみなへし
そしてあやめ
 しやうぶやかきつばた
 ほつそりと藤ばかま
  あれ朝昌のしほらしや荻(おぎ)の花

【右頁】
ごへちよいとなげる〽およしなぶしつけらしいひとが御馳走(ごちそう)しやうと
思(おも)つておかんをつけておくにどうぞ御気(おき)に入(い)らずともわたくしの
御手料理(おてれうり)でおひとつめしあがり下(くだ)さいまし〽是(これ)は〳〵ごたいない(御叮嚀)な
御(ご)あいさつでいたみ入(いり)ます左様(さやう)
御座(ござ)らば御深切(ごしんせつ)の御料理(おれうり)忝(かたじけなく)頂(てう)
戴(だい)仕(つかまつり)たく〽仕度(つかまつりたく)まで聞(きけ)ば沢山(たくさん)
だよ〽そういふけれど仕(つかまつり)たいから
此(この)雪(ゆき)にゑつちらおつちら爰(こゝ)
【絵の中】
野辺の
 花には
 さきや
   う
   かるかや
 おみなへし
そしてあやめ
 しやうぶやかきつばた
 ほつそりと藤ばかま
  あれ朝昌のしほらしや荻(おぎ)の花

【左頁】
まで来(く)るのだ〽それ
だから仕(つかまつり)てもいゝぢやア
ないか善(ぜん)はいそげと
いふ事(こと)があるようわたし
も気(き)がおちつかない
からちよいときまり
をつけておいて御料理(おれうり)の御馳走(こちそう)は跡(あと)の事(こと)さ〽その事(こと)〳〵寸善(すんぜん)
尺魔(しやくま)何(なに)はともあれ是(これ)がかんじんだトその侭(まつ)ぐつと割込(わりこん)でおへ
【絵の中】
たつた川辺に
 ふねとめて
まだうらわかき
 娘気のどう
 いふてよかろやら
しんきまへりの
 そら寝いり

きつた一物(いちもつ)をゑしやくもなく押(おし)あてがふトさいぜんより待(まち)かねて
先走(さきばし)りの淫水(いんすゐ)がぬら〳〵しているゆへなんの苦(く)もなくぬる〳〵トさし
                 もの大陰茎(おほまろ)はんぶんばかり
                 ぬめり込(こ)む〽おまへ足(あし)は未(まだ)ろく
                 にあつたまらないがかんじんのと所(ところ)
                 はおそろしくあつく成(なつ)ているもんだ
                 のう〽おめへにのぼせあがつて居(い)
                 る証処(しやうこ)だ〽フンよろしく申(もうし)ておくれ

【絵の中】
おもひ
 込たる
我恋は
さきじや
ぢやけんで
 きれ口上(かうじよ)
たとへ
  きれても
 きれやせぬ
  思ひおもふた
 人じやものなぞ
  わたしやみれんが
         あるわいな

【右頁】
きつた一物(いちもつ)をゑしやくもなく押(おし)あてがふトさいぜんより待(まち)かねて
先走(さきばし)りの淫水(いんすゐ)がぬら〳〵しているゆへなんの苦(く)もなくぬる〳〵トさし
                 もの大陰茎(おほまら)はんぶんばかり
                 ぬめり込(こ)む〽おまへ足(あし)は未(まだ)ろく
                 にあつたまらないがかんじんのと所(ところ)
                 はおそろしくあつく成(なつ)ているもんだ
                 のう〽おめへにのぼせあがつて居(い)
                 る証処(しやうこ)だ〽フンよろしく申(もうし)ておくれ
【絵の中】
おもひ
 込たる
我恋は
さきじや
ぢやけんで
 きれ口上(かうじよ)
たとへ
  きれても
 きれやせぬ
  思ひおもふた
 人じやものなぞ
  わたしやみれんが
         あるわいな


【左頁】
口(くち)は自由(じゆう)なもんだのう〽しかしお
前(めへ)のも中(なか)が火(ひ)のやうに成(なつ)ている
からどうも陰茎(へのこ)をうでられる
やうでアゝこてへられねへ〽わたしも
お前(まい)にあつく成(なつ)た証処(しやうこ)だよ〽すぐ
にしつぺゑ返(げへ)しだむしのいゝ巨燵(こたつ)
へあたつて無拠(よんどころなく)あつく成(なつ)たやつを
さづけておいて恩(おん)にかける事(こと)もねへ

【絵の中】
ひと時を
 まつまも
つらき
  雁(かり)のこへ
はなしのやうに
半斎のまだ
 えんりよある
   おかしく
さきの心は
 ほぐじやない
これほど
 みれんな筆と見て
  かへす〴〵も
     待てゐるわいな

〽お前(めへ)はなぜそんなに口(くち)がわりいのうアゝもう
それ所(ところ)じやないよいつそよくなつて来(き)たから
もつと身(み)にしみておくれよサア〳〵もういゝはな
〳〵トしがみついてぐい〳〵持上(もちあげ)〳〵たがひにどく
どく気(き)をやりて〽(男)なんだかやりながらも気(き)が
せくやうだ表(おもて)をちよいとかけておけばいゝ
〽此(この)大雪(おほゆき)にだれか来(く)るものかなそして今夜(こんや)は泊(とまつ)て
もいゝよ明日(あす)の昼迄(ひるまで)は旦(だん)も来(く)る事(こと)じやアないから

【絵の中】
あだし野の
  露の
 いのちの
   鈴むしも
 秋はて
  られて
 今更に
 啼に
  なかれぬ
   物おもひ

【右頁】
〽お前(めへ)はなぜそんなに口(くち)がわりいのうアゝもう
それ所(ところ)じやないよいつそよくなつて来(き)たから
もつと身(み)にしみておくれよサア〳〵もういゝはな
〳〵トしがみついてぐい〳〵持上(もちあげ)〳〵たがひにどく
どく気(き)をやりて〽(男)なんだかやりながらも気(き)が
せくやうだ表(おもて)をちよいとかけておけばいゝ
〽此(この)大雪(おほゆき)にだれか来(く)るものかなそして今夜(こんや)は泊(とまつ)て
もいゝよ明日(あす)の昼迄(ひるまで)は旦(だん)も来(く)る事(こと)じやアないから
【絵の中】
あだし野の
  露の
 いのちの
   鈴むしも
 秋はて
  られて
 今更に
 啼に
  なかれぬ
   物おもひ

【左頁】
〽夫(それ)ぢやア是(これ)からゆつ
くりと爪弾(つめびき)で洒落(しやれ)
られるの。女(おんな)は三味線(さみせん)
を引(ひき)よせ〽心(こゝろ)いきを一(ちよ)
寸(つと)聞(きい)ておくれ〽むりな
事(こと)いふてわしや神(かみ)いのりあひたい病(やまひ)はかんしやくのせい酒(さけ)でしのがす
苦(く)の世界(せかい)」〽おれもやらう〽(とゞ一)見極(みきはめ)た的(まと)がなければ心(こゝろ)の弓(ゆみ)をなんぼ矢竹(やたけ)に
思(おも)ふても〽コウお前(めへ)も正真(ほんとう)に疑深(うたがひぶか)いよサア気(き)の済様(すむやう)にどうでもして呉(くん)な悔(くやし)いのう
【絵の中】
世の中の
 いきなせかいを
今こゝに
 八まんさまの
やまびらき
さゝがこうじて
 つひそれなりに
  ざこ寝の枕かりそめに
 ヲヤすくねへ
       あけの鐘(かね)

BnF.

清水
 通夜
 もの
   語り

/清水通夜物語(きよみずつやものがたり)序
/實(げ)にや/枯(かれ)たる/木(き)にも/花咲(はなさく)ちかひいとも/尊(たうと)くいさゝか
/宿願(しゆくぐわん)の/㕝有(ことあり)て/清水(きよみづ)に/通夜(つや)しける/時(とき)しも/秋(あき)の/半(なかば)にて
よもの/梢風(こずへかぜ)の/音(おと)もすさまじくもの/哀(あはれ)なるに/眠(ねむ)り/覚(さめ)
あたりうち/見(み)れば十四五/人(にん)も/籠(こも)れる/人有(ひとあり)ける/上座(しやうざ)には/七十(なゝそぢ)
/余(あま)りなる/其昔(そのむかし)は/時(とき)めける/方(かた)にもつかへしものゝふの/果(はて)に
と/見(み)へたるひとりは/六(む)そぢばかりの/法師其次(ほうしそのつぎ)に/五(い)そぢ

ばかりのくすしそれに/並(なら)べておなじ/程(ほど)なる/尼(あま)ふたりうち
/見(み)へたりその/外(ほか)には/農家(のうか)の/人(ひと)と/思(おぼ)しきも/商人(あきうど)めきたるも/町(ちやう)
/人(にん)と/見(み)ゆるも/打交(うちまじり)て/並居(なみゐ)たりはじめの/程(ほど)は/唐(から)のやまと
の/物語(ものがたり)して/在(あり)けるが/後(のち)には/色(いろ)めかしき/噺(はな)しに/移行(うつりゆき)ぬ
/其内(そのうち)ひとりが/更行(ふけゆく)まゝにねふり/気(き)ざし/侍(は)べるにいざや
/夜(よ)すがら/相互(あいたがひ)に/一生(いつしやう)の/中(うち)に/有(あり)ける/恋(こひ)のおもはく/恥(はづ)かは
しき/㕝(こと)なりとも/露(つゆ)も/残(のこ)さず/大悲(だいひ)の/御前(みまへ)にて/懺悔(ざんげ)し

/侍(はべ)らば/罪(つみ)もほろぶるわざともなりなんと/言出(いひいで)けるに
みな〳〵/実(げ)にもとすゝみ/出(いで)ひとり〳〵に/物語(ものがた)りしことの
いづれもめづらかに/心地(ここち)よかりしまゝわすれぬさきにと
/懐中紙(ふところがみ)にかい/付(つけ)しは/彼(かの)ほゝゑきやうのうらに/書(かき)とめけん
/須磨明石(すまあかし)も/外(ほか)ならじと/兎角(とかく)するうち/朝霧(あさぎり)のまぎれ
に/夜(よ)はほの〴〵と/明(あけ)はなれし
    乙丑の初夏       淫水亭

【右上円窓】/於茂世(おもよ)が夫の後妻/於君(おきみ)
【右丁下】/駿河国富民某(するがのくにふみんそれがし)が/娘於茂世(むすめおもよ)
【右丁上】もや〳〵として
  しづまるや
   /葛(くず)の/花(はな) 
            嵐艸
【左丁上】/門々(かどかど)の/闇(やみ)
  からふえる
 おどりかな 鳥酔
     /三河(みかは)の/国(くに)にて
           /盆踊(ぼんおどり)の/夜(よ)
【左丁下】/大和吉野郡(やまとのよしのこおり)
      /農家(のうか)の
       /於讃(おさん)
【左端】/浮男(うかれを)の/會(あひ)
     たる/女其名不知(をんなそのなしらず)

/清水通夜物語(きよみづつやものがたり)総目録
第一 /一夜(いちや)にかきる/嫁入年(よめいりとし)は十八たわけは/天下一(てんかいち)
   /再度(さいど)の/縁(えん)は/古長持(ふるながもち)に三百/両(りやう)の/附札(つけふだ)
第二 /年(とし)は/九歳(ここのつ)おとなにまさる/娘(むすめ)
   /日数(ひかず)二十七日に四十六のものかずあり
第三 /東西(とうざい)〳〵/踊(おどり)くづれ/帷子(かたびら)の/裂目(さけめ)に/通(とほ)りものとしる
   /形見(かたみ)の/扇(あふぎ)は/斑女(はんぢよ)もかくや/忘(わす)れがたき/歌(うた)あり
第四 おされて/通(とほ)る/胸(むね)の/済(のち)/頓死(とんし)もやがて/蘇生(そせい)の/沙汰(さた)
   /還俗(げんぞく)の/医師(いし)おもふ/中(なか)に/子(こ)ども三人
第五 /袖(そで)に/縫(ぬひ)こむ/恋(こひ)のたんざく
   /縁遠(えんどを)なる/娘(すむめ)は/手代(てだい)の/仕合末繁昌(しあはせすえはんじやう)の/入婿(いりむこ)

第六 /思(おも)ふ/中(なか)は/腎虚(じんきょ)の/病(やま)ひ/鹿(しか)のやりくりは/思(おも)ひの/種(たね)
   /亡者(もうじや)のおすべりは/出家(しゆつけ)の/喰(くひ)もの/庄屋(しやうや)の/生針(いきばり)はつかへの/妙薬(めうやく)
第七 /長崎医者薬(ながさきゐしやくすり)の/仕(し)かけ
   /一夜(いちや)の/内(うち)は/夢(ゆめ)か/現(うつゝ)かおぼへられぬ/味(あぢ)あり
第八 /紀念(かたみ)の/後家(ごけ)の/喜(よろこ)び/坊主(ばうず)のすゝめに/味(あじ)をさとる女
   /寺(てら)をひらきしはからかさ/一本(いっぽん)の/持(もち)もの
第九 この/手柏(てがしわ)の/二女(にぢよ)ぐるひは/思(おも)ひもかけぬさいはひ
   /姉(あね)と妹(いもと)のかたみ/替(かは)り/表(おもて)の/一面(いちめん)にかはる/情(なさけ)のかくし/裏(うら)
第十 /生(いき)ながら/畜生道(ちくしやうだう)をしたふ女
   /道(みち)も世間(せけん)も/忘(わす)れはてた/迷(まよ)ひの/宿業(しゅくごう)
第十一 /月影(つきかげ)にとりちがへたる/牙(きば)のやみつき
   /両度(りょうど)の/人(ひと)たがひは/思(おも)はぬかたにあやまちの/高名(かうめう)

第十二 /九十九夜(くじうくよさ)の/車(くるま)に/寄(よ)る/輪廻(りんゑ)のきづなは/絶食(ぜつしょく)のくはせ/物(もの)
    とう〳〵/恋(こひ)になりすまいた /作病(さくびやう)
第十三 /見(み)るは/目(め)の/毒垣間見(どくかいまみ)の/生物見事(なまものみごと)に/過(すぎ)たるは/食客(しょくかく)の御/道具(どうぐ)
    /乱(みだ)れかゝる/若後家(わかごけ)男の/心(こころ)をひいて/見(み)る/秋荻(あきおぎ)のうた/占(うら)
第十四 /血気(けつき)の/腰(こし)の/物(もの)はきたへにきたへし/六寸胴(ろくすんどう)がへし
    /姪(めい)女の/身替(みがは)りに/立奧(たつおく)づとめの/伯母(おば)
第十五 /猛(たけ)き/心(こころ)をもやわらぐる/歌(うた)の/徳(とく)は/膳輩(げぐ)の/知(し)らぬ事
    ましてや/是(これ)は三てうの/傳(でん)に/主従(しう〴〵)かけてにい/枕(まくら)
   以上十五回目録終
             淫水亭 恋川笑山編集
/清水通夜物語(きよみづつやものがたり)初篇上之巻
  /一夜(いちや)にかぎる/嫁入年(よめいりとし)は十八たわけは/天下一(てんかいち)
  /再度(さいど)の/縁(えん)は/古長持(ふるながもち)に三百/両(りやう)の/附札(つけふだ)
/中秋(ちうしう)の/月(つき)あかき/夜(よ)に/月夜烏(つきよがらす)の/声(こゑ)かしましく/心耳(しんに)を/澄(すま)せる/清水(きよみづ)に
/通夜信心(つやしん〴〵)の/輩懺悔(ともがらざんげ)のためとて/先(まづ)としごろ/六(む)そぢばかりの人/語(かた)られ
けるは/世間(せけん)ひろしといへとも/浮世(うきよ)に/又(また)たぐひあるまじき/珍事両度(ちんじりやうど)まで
ありけることを/語(かた)り申すべし/其生国(そのしやうこく)は/駿河(するが)の/者(もの)なり/親(おや)は/人並(ひとなみ)
の/百姓(ひやくしやう)にて/兄(あに)は/外(ほか)に/家(いえ)を/持(もた)せ/我(われ)は/親(おや)と/一所(いつしよ)にかせぎし/内(うち)に/父(ちゝ)には
おくれ/母(はゝ)ばかりになりて/身上(しんしやう)も/次第(しだい)〳〵におとろへ/手元(てもと)とてもよろし
からずかゝりし/所(ところ)に/隣郷(りんごう)に/手前能者娘(てまへよきものむすめ)をひとり/持(もて)りしなかたちは
十人/並(なみ)に/勝(すぐ)れて/能(よき)きりやうなれども/心(こゝろ)大だわけなりと/云(いひ)ふらし   

/取(とり)むかゆる人もなく十八の/年(とし)まで/縁(えん)もなし/親(おや)も/是(これ)を/憂(うき)ことにおもひ
人々にもたのみ/明暮苦(あけくれく)にやみて/神(かみ)いのりのみしける/折節(おりふし)もの/詣(まうで)の/帰(かへ)る
さに/大勢(おゝぜい)ひとの/嫁(よめ)むすめうちつれ/通(とほ)りしにゆき/合(あひ)ぬあの/先(さき)より
三/番目(ばんめ)の/娘(むすめ)はたれやらんと友にたづねしにあれこそ/彼名(かのな)取のたわけ
よトおしへけるかく/云(いひ)たれどもそのおもかげ/美(うつく)しくわすれがたかりけるゆへ
/其夜朋友(そのよほうゆう)の/方(かた)へまかりて/今日見(けふみ)しおもかげ/何(なに)ほど/云(いひ)こなされても/忘(わす)れ
がたしあの/容貌(きりやう)にてはたとへたわけにてもくるしからずまして人のいふ
ほどにはよもあるまじといへばかの/友聞(ともきい)て/扨(さて)はまことに/執心(しうしん)なるや/云(いは)るゝ
ごとくたわけ〳〵と人/毎(ごと)に云けなせど/手前(てまへ)かき人の/子(こ)なれば/誰(だれ)もしか
とは/知(し)らず/実(げ)にや人の/云(いふ)ほどにはなきものなりさいはひなるかなその
/方呼(ほうよび)むかへ給はゞ/兼々(かねがね)の/仕度(したく)のうへ/少々(せう〳〵)は/持参(ぢさん)もするやう/我等肝煎(われらきもいり)

申べしとてわれらの/親兄弟(おやきやうだい)に/談合(だんかふ)すれば/本人合点(ほんにんがてん)にてのぞみのうへは
/脇(わき)よりとかく申へきにあらず/首尾能(しゆびよき)ようにと/頼(たのみ)ければそれより/彼娘(かのむすめ)
の/親(おや)のもとへゆき/談合(だんかふ)しけるに/聟(むこ)にふ/足(そく)なし/兎角(とかく)の/思案(しあん)にも/及(およ)ばず
/金子(きんす)五拾/両附(りやうつけ)て/遣(つか)はし申べしと/相談(さうだん)とゝのひ二三日のうちに/結納(ゆいのう)
/取(とり)かわし/善(ぜん)はいそげとて/某(それがし)二十三の/年(とし)八月/中旬(なかごろ)によびむかへぬさて
その/夜祝言(よしうげん)すみて/部屋(へや)に/入(い)り/床盃(とこさかつき)もすみ/燈火(ともしび)かすりに/置(おき)て/互(たがい)の
/縁浅(えんあさ)からずしてかく/夫婦(ふうふ)となるうへは/何(なに)事もむつましくかたらひ
給はれとよりそひけれどもあへていらへもなければ/心(こゝろ)せきもだへてふと
ころの/内(うち)へ/手(て)をさし入れ/抱(いだ)きつけば/其手(そのて)をふりはらひそのやうな
事よして下されとけん〳〵として少しも愛らしき/情(なさけ)の/風(ふ)せいなけれ
どもそれがし若くはありいかにもこらへがたく/下地(したぢ)より/馬鹿者(はかもの)と/聞(きゝ)しが

/阿房娘(あはうむすめ)を
/娶初床(めとりはつとこ)に
/困(こう)じて/無躰(むたい)
に/水揚(みづあげ)を
するの/図(づ)

/馬鹿(はか)りちぎに/色(いろ)の/品(しな)をわるびれる/物(もの)と/心得(こころえ)しものならんもはや
十八なれば/押付(おしつけ)わざしたりとて/気(き)づかひなる事もなしかの/所(ところ)にはうる
ほひはあらんものをと/是非(ぜひ)を/云(い)はさず/組(くみ)ふせおしはだけてぬッとさし
こみてあいた〳〵といふをもかまはず/心(こころ)の/侭(まゝ)に/埒(らち)をあけ思ふぞんぶんに/気(き)
をやりて事すみけれどもぐす〳〵ト泣あかし/夜明(よあけ)たらばはゝさまに/云(いふ)べし
/此(この)やうなむたいな事をするものかなトすり/上(あげ)〳〵なき/居(ゐ)るに/興(けう)さめて
夜も/寝(ね)られすそのうちにしら〳〵と/夜明(よあけ)たり/翌朝(よくてう)は/隣家(となり)あ
たりのうば/嗅目出(かくめで)たやとて/寄合(よりあひ)ければ/母(はゝ)もとく/茶(ちや)など/煮(に)させ
/茶(ちや)のここしらへもてなし/嫁子(よめこ)は/何(なに)とて/出(いて)て茶のみもいぬ/近所(あたり)の/衆(しゆ)
も/見舞(みまい)れしに/出(いで)合給へと/四五度(しごど)のつかひにて/皃府(かほはら)し出けるゆへ/母(はゝ)
見て/何(なに)とせしぞ/気合(きあう)にてもありきや/心(こゝろ)すまぬなりやト/問(と
)はれて/嫁云(よめいひ)けるは

/母(はゝ)さま/聞(きい)て/下(くだ)され/夜前息子(ゆふべむすこ)とのゝせう事かせまい事か毛のはへし志ゝを
/無理(むり)むたいに/押(おし)こまれけるほどにあいた〳〵といへばいふほどくどくぬいつ
/差(さい)つしてあげくのはてには/鼻(はな)たれのやうなもの/出(だ)してあたらしき/二布(ゆぐ)
もなにもみなよごしそのうへ/今朝(けさ)は/小便(しゝ)がしみていたくてどうもなり
ませぬトしく〳〵と泣けるに/母(はゝ)をはしめ/人々(ひと〴〵)もその/座(さ)にたまりかねて
ひとり/逃(にげ)ふたりにげこそ〳〵ト/逃帰(にげかへ)りけるわれもたまらす/中立(なかだち)の/友(とも)を
/呼(よ)びその/日(ひ)の/暮(くれ)るを/待(まち)かねて/暇(いとま)とらせ何も/角(か)も/送(おく)りかへしけれども/母(はゝ)を
はじめ/諸人(しょにん)へ/面向(かほむけ)なりがたく/二三日(にさんにち)の/支度(したく)にて/江戸(えど)へ/逃下(にげくだ)り/麹町(こうじまち)の/伯(お)
/父(ぢ)をたのみ/商(あきな)ひはじめけるに/仕合(しやは)せよくてよほど/江戸馴(えどなれ)たる/時分(じぶん)さる
おやしき/方(かた)に/金子(きんす)二三十両つけて/町人(ちうにん)へ/遣(つか)はしたしと/思(おぼ)し/召腰元(めすこしもと)あり
しかもみめかたちたぐひなしと/肝煎(きもいりて)人のありしに/前(さき)にも/妻(つま)もとめて

/再度美貌(ふたゝびびぼう)
/嬋娟上開(せんけんじやうかい)
の/妻(つま)をむかへ
て/偕老(かいろう)の
/思(おも)ひをなす

/古郷(こごう)をはなれし/身(み)の/焼(やけ)ど/火(ひ)にこりずとかやそれ/肝煎(きもいり)て給へと/伯父(おぢ)を
/親分(おやぶん)にたのみてやつて/能表店借(よきおもてだなかり)て/取(とり)むかへける/実(げ)にや/聞(きゝ)しにまさり
て/色(いろ)よき女なりとしは/二十才(はたち)との事にて/利発(りはつ)にあまりける/者(もの)ゆへ/世(よ)
には/掘出(ほりだ)しもあるものかなトよろこび/浅(あさ)からずかたらひけるかの/所(ところ)も
たぐひなくて/一物(いちもつ)を/吸(す)ふやうに/覚(おぼ)へ/気(き)のゆくときはたへがたきよでに
よきものなればひとしほ/愛(あい)まさりて/又(また)なきものに/思(おも)ひぬしかるに
/此大屋(このおほや)のひとり/息子(むすこ)としごろ廿五六に/見(み)へけるが/妻(つま)にはなれ
さびしき/折(をり)のゆへにや/我女房(わがにようぼう)に/首(くび)たけうち/込(こみ)たる/風情(ふせい)なるが/某(それがし)も
/伯父(おぢ)の/二番息子(にはんむすこ)そのころ十八になるを/子(こ)にもらひ/商(あきな
)ひ/相手(あいて)にしけるとの
ものに/心(こゝろ)をつけてあやしき事あるや/我(わが)るすよくせしにト/云(いひ)ふくめけるに
いつのほどに/出来(いでき)し事なるにやそれがしとまりがけの/商(あきな)ひに/出(いで)ける/夜(よ)

はかの/大屋(おゝや)の/息子(むすこ)うら/口(ぐち)より/忍(しの)びけるふぜいあるよしを知らせける/程(ほど)に
たしかに/様子見届(やうすみとゞ)けたく/思(おも)ひ/我養子(われやうし)と/心(こゝろ)をあはせある/時(とき)又/泊(とま)り
がけに/在郷(ざいごう)人あきなひに/行(ゆく)とて/家(いへ)を/出暮(いでくれ)あひ/過(すぎ)にしのびて/店(みせ)の
/戸棚(とだな)にかくれ/夜更人(よふけひと)しづまりてそろりと出/閨(ねや)の口へよりそひ/立聞(たちきゝ)
せしに/寢(ね)もの/語(がた)りの/声(こゑ)ひそ〳〵しけるあいださてこそと思ひ/壁(かべ)に
/耳(みゝ)をつけて/聞(きく)に/女房(にようぼう)の声にて/亭主(ていしゆ)けふとまりがけに/商(あきな)ひに/行(ゆき)
けるいつ/帰(かへ)るべきもしれずとて/夜前(ゆふべ)ふたつ/交(かし)ける/後(のち)のはあきはて
けれどもいやと云はゞ/気(き)をまはし/侍(はべ)らんかとおもひ/是非(ぜひ)なく/入物(いれもの)
/貸気(かすき)になつて/外(ほか)事おもひ〳〵ようやく男に/埒(らち)あけさせぬ/今宵(こよひ)そ
さまと/寝(ね)て/是(これ)にてはや/四度(よたび)なれども/腠(あく)事はさておきはやく/埒(らち)の
/明(あく)がのこりおゝしかまへて/是(これ)ぎりにてはすまさぬぞへなど/云(いひ)てせか

/後妻夫(ごさいをつと)の
/留守(るす)に/密(みつ)
/夫(ふ)を/引入他人(ひきいれたにん)
に/肌(はだ)を/合(あはせ)て/度(ど)
/数(すう)を/犯(おか)さす

つきぬる/声(こゑ)の心地よく聞へひし〳〵としめあふけわいしけるは女房も男
もたがいに/気(き)をやる/最中(さいちう)よとさつしいるに/常(つね)ならぬ/息(いき)ざしにて男の
/云(いひ)けるはこれほどたのしみに思ひあひぬる中をよそに見て/暮(くら)さん事の
/心憂(こゝろよ)さよ/金子(きんす)百五十両は/某(それがし)人に/借(かし)おきぬ/親父(おやぢ)が/苦労(くらう)にもならぬ
事その/金(かね)を/出(だ)して/隙(ひま)もらふ事はなるまいかトいふ/声(こゑ)しける/扨(さて)もにくき
事かなふすま/蹴(け)はなし/二人(ふたり)ともかさねて/置(おい)て/切伏(きりふせ)ふかと思ひしが/待(まて)
しばし/町人(てうにん)の/手柄(てがら)だて/詮(せん)なき事それよりはすべきやうあらんトとくと
/思案(しあん)してやかて/門(かど)の口へ/忍(しの)びより表より帰りたる/風情(ふせい)して/内(うち)より戸を
/打(たゝ)き/爰明(こゝあけ)よと声かくれば/相図(あいづ)の/養子(やうし)心得たりとて/戸(と)を明/何(なに)とて
/只今(たゞいま)ごろ/帰(かへ)り給ふといへば用ありて/帰(かへ)りたり/是(これ)は/店(みせ)も/奧(おく)も/行燈(あんどう)が/消(きへ)て
ある/女房(にようぼ)どもはや/火(ひ)をともせといへば女房は/肝(きも)をつぶしあんどうはとぼ

/後妻情通(ごさいじやうつう)の
/最中夫(さなかをつと)の戻(もどり)に
おどろき/濡茎(ぬれまら)
の/侭密夫(ままみつふ)を
/長持(ながもち)の内(うち)
へかくす

/怒(いかり)を
/忍(しのび)て/夫入(をつといれ)
/浸(びたし)にし/陰茎(へのこ)の/限(かぎり)
/終夜交合(よもすがらまじはり)て長(なが)
/持(もち)の/内(うち)の/密(みつ)
/夫(ふ)に/聞(きか)す

さずして/長持(ながもち)の/錠(ぢやう)をあけ/中(なか)へ/何(なに)やらん/入(い)れぬる/音(おと)し/侍(はべ)るさて/灯(ひ)をともし
ける/間裏(あいだうら)の/口(くち)そこらの/戸尻片隅(とじりかたすみ)までねんごろに/見廻(みまは)しけるに/別義(べつぎ)
なし/扨(さて)は/長持(ながもち)へ入れたるにうたがひなしと/思(おも)ひやがて/長持(ながもち)の/鍵(かぎ)を/腰(こし)に
つけ長持の錠は/何(なに)とてあいてあると/問(と)へば/着物(きもの)とり出すとて/明(あけ)たりと
いふさても/由断(ゆだん)なる事やと/其侭錠(そのまゝぢやう)をぴんとおろし/女房(にやうぼう)にも/何(なに)こゝろ
つかぬ/体(てい)にもてなさん/手立(てだて)に/閨(ねや)へよび/今宵(こよひ)われ等/在郷(ざいがう)にて/山賊(おひはぎ)に
あひ/金子(きんす)のこらず/取(と)られ/生(いき)がひなき/身(み)となりぬ/明(あけ)なば/家(いへ)をもしまひ
/其方(そち)とも/別(わか)れ〳〵にならずはなるまいかと思へば/残(のこ)り/多(おゝ)や/夜(よ)の/明(あけ)ぬ/間(ま)の
なごりをしみにとて/寝間着(ねまき)のまへまくりあげさしあてけるに/宵(よひ)のほどより
/四度五度(よついつゝ)も/交過(とりすぎ)たるあとならん/其処(そこ)ら/一(いち)めんにぬる〳〵としてわけ
なしこれは/何(なに)とてかやうなるぞト/問(と)へば女申ける/今宵(こよひ)はさびしさの

あまり/夜前(ゆうべ)の事を/思(おも)ひ/出(いだ)しとろ〳〵と/寢入(ねいり)たる/夢(ゆめ)にそさまと/抱(だか)れ
/合(あひ)て/此(この)事する〳〵とおもひ/心(こゝろ)よく/侍(はべ)りし/折節門(おりがらかど)の/戸(と)をたゝかれける
/音(おと)に夢さめ/肝(きも)をつぶしおきあがり/夫(それ)よりぬぐふ/間(ま)もなしと/云(いひ)
ければ/扨(さて)もおそろしやとおもひながらも/結構(けつかう)に/埒(らち)あけべき/上(うへ)はと
/思(おも)ひたがはに/深(ふか)き/中(なか)は/其様(そのやう)なるものなりと/云(いひ)て/怒(いか)りの/心(こころ)をやめければ
/宵(よひ)に/聞(きゝ)ぬる/物(もの)がたり思ひやられて/気味(きみ)あひよければ/是(これ)を/肴(さかな)にして
いつもよりもゆるり〳〵とつゞけ〳〵抜もせずきこんよく抜つさはつするうち
女房もまた三四度もたしかにやりし様子にてくたびれつかれしあり
さま見へたりその/間(あいだ)にわれも/三度(みつ)まで気をやりければからす/告(つげ)わた
りて/夜(よ)ははや/明(あけ)はなれし/扨商売(さてしやうばい)の/為(ため)に/買置(かひおき)ける/品々(しな〴〵)六七十両/程(ほど)
の/物(もの)をもとをはづして/朝五ツ過(あさいつゝすぎ)までの/内(うち)に/賣拂(うりはら)ひ五十四五両の金

を/腰(こし)に/付其後(つけそのゝち)かの/長持(ながもち)を/曳出(ひきいだ)しければ/女房色(にようぼういろ)をかへ/夫(それ)をいづくへと/問(とひ)しに
/此内(このうち)には/大切(たいせつ)の/物(もの)ばかり/入置(いれおき)たり/然(しか)れども/此仕合(このしはあせ)のうへは/拂(はら)はねばならず
さりながら/明(あけ)て/内(うち)を見るにおよばず/長崎荷物(ながさき)のごとく/買人(かうひと)もある
べしとて此長持の内に/某(それがし)が/一跡(いっせき)の物あり/代金(だいきん)三百両と/張紙(はりがみ)して/店(みせ)へ
/引出(ひきいだ)し/置(おき)ける/近所(きんじよ)の/輩(ともがら)あつまつて/不仕合(ふしあはせ)の事あるよし/笑止(せうし)なりとて
/寄合(よりあひ)けるが/長持(ながもち)の/内(うち)に/大屋(おほや)の/惣領(そうれう)ありと女房の/知(し)らせけるにやあらん
/隣家(りんか)の/人買手(ひとかいて)になりて此長持三百両にてはあまり/高直(かうちよく)なり百五十両
にまけ給へといふイヤ壱両かけてもならぬなりいつまでも/賣次第(うれしだい)に
せんとさし/置(おき)けるにはや/昼過(ひるすぎ)よりは貳百につけるいや/少(すこ)しもまけは
しないといへば貳百三十両より五十両までに/買(かひ)あげけるまゝさらば
/金子(きんす)をわたし給へやすくはあれどもまけて/進(しん)ずべしとて/夕七(ゆふなゝ)ツの/鐘(かね)

つくころ弐百五十両の/金子受取長持(きんすうけとりながもち)の/鍵(かぎ)をわたしうりはらひ
/女房(にようぼう)の/道具(だうぐ)はのこらずあらため/媒人(なかうど)のなにがしをも/呼(よび)てみやげ
の金子三十両わたし/倦(あき)あかれぬ/中(なか)にてはべれとも/私(わたくし)ふしあはせ
なる事ありて/身躰(しんだい)しまひ申ゆへいとまとらせ申とてその/日(ひ)に
女房の/埒(らち)を明(あけ)けるさて/自分(じぶん)の/諸道具(しよだうぐ)のこらずあつめ/車(くるま)
につみて/麹町(かうじまち)の/伯父(おぢ)がもとへゆき/件(くだん)のあらましものがたりし
ければさりとては/波風(なみかぜ)もなく人に/疵(きず)もつけずよく/仕(し)まふたり
この/金(かね)にては/身過(みすぎ)もこゝろやすかるべしとてあるおやしき/方(がた)の
はし〴〵の/御用(ごよう)うけたまはりけるに/次第(しだい)〴〵に/知(し)る人なじみ
の/方(かた)も/多(おほ)くなりけるまゝ/江戸(えど)に/居(ゐ)て/人(ひと)のさげすみにあひ
てもうるさしとおもひ/伯父(おぢ)と/談合(だんかう)してもらひ/置(おき)し/伯父(おぢ)の

/子(こ)を/連(つ)れ/尾張(をはり)へのぼりあきなひしけるにうちつゞき/仕合(しあは)せよく
もはや/我等(われら)は/妻(つま)にこりはて/三度目(さんどめ)の/必至(ひつし)とこゝろえて/養(よう)
/子(し)によめとりて/家(いへ)をわたしける/我身(わがみ)はひとり/暮(くら)しこゝろ/安(やす)く
かげまぐるひにつかへをはらし/今(いま)は/楽(らく)の/身(み)にて暮しはべる
/侍(はべ)るこのたびそこの/江戸衆(えどしゆ)にさそはれふと/京(きやう)のぼりして/日々(ひゞ)に
/名所古跡(めいしよこせき)を/見物(けんぶつ)して/今夜(こよひ)はからずめづらしき/人々(ひと〴〵)に/出合過(ではひすぎ)にし
むかしの/恥(はぢ)をさらし/侍(はべ)る/所謂他生(いはゆるたしやう)の/縁(えん)にこそと/汗(あせ)ぬくび〳〵/語(かたり)ける
/清水通夜物語(きよみづつやものがたり)初篇上終

BnF.

雪月花美都の詠 中

【右丁】
「なにだかこれぢやア
きまりがわりいから
ちよつとおびをといて
あをむけになんねへ
【左丁】
「是から松むらへ
いくのだから
そうゆる〳〵しちやア
いられないよ
どうでおまへも
いつしよにおいでな
「それぢやア
かへりにねれた所を
くわせるだらう
【左丁下】
「とんだ
お/食(しよく)
ごのみだ

【右丁上】
「いゝとこへおいでだマア一寸ごらん
まくらざうしといふものはこんな
むりなしやうばつかりかいてある
もんだねへアレサマア
こゝを
ごらん
【右丁下】
マアばから
しい
こんな
なりをして
するものが
あらうか
「なにある
どころか
第一まくら
ざうしを
しんになつて
見る
ものは
みんな
かういふ
あんばいに
【左丁下】
やつて
見るのさ
「ヲヤいや
だねへ
すか
ねへ〔上へ〕
【左丁上】
〔下より〕ナニ
すかねへ事も
あるめへ上の口と
下のくちとは大ちがひだ
こんなにぬら〳〵だしていながら

【右丁】
「アゝモウ
おかみさん
わたくしは
いきそうに
なりました
モウやつても
よう
ござい
ますか
【左丁】
マア
もうちつと
がまんしていな
おいらも
やるからよ
アゝソレ〳〵
もういきそうに
なつたよフン〳〵〳〵
ソレいく〳〵
ヲゝいゝ
エゝくわ
いゝのう
ことしは
てめへに
おめしちりめんの
こそでをこせへてやろう

「かう
して
/上(うは)水
をださ
せて入る
   と
又かく
べつだ
「アゝゝゝフウ〳〵
サア〳〵
はやく
よ〳〵
ハア
〳〵〳〵
〳〵

【右丁】
「アゝモウどうも〳〵フン〳〵〳〵〳〵
ヲゝいゝ〳〵〳〵アゝ又いきますよ
ソレいく〳〵〳〵〳〵ハアゝゝゝハゝゝ
「アゝおれももう〳〵とうも
かうもこてへられなくよく
なつてからだぢうのよさが
いちどきにいんすいに
なつてそれでるぞ〳〵
          〔月ノ五〕
【左丁】
アゝいゝ〳〵〳〵フン〳〵〳〵
ハア〳〵〳〵〳〵

【右丁】
なんだか
もつたいないようだ
「かたつき見は
せぬものだといふ
から又

十三夜にも
こずアなるめへ
     〔月ノ六〕
【左丁】
    /武蔵野(むさしの)の/月(つき)の詠(ながめ)
/行末(ゆくすへ)は/空(そら)もひとつにむさし/野(の)の/草(くさ)の/原(はら)より/出(いづ)る/月(つき)かげをうち
すさびしい/限(かぎ)りなく/遠(とほ)きむかしの/事(こと)にして/今(いま)は/甍(いらか)の/建(たち)つゞき/月(つき)
は/軒(のき)より/軒(のき)に/入(い)る/繁花(はんか)の/土地(とち)の/有難(ありがた)さにはあくまで/栄耀珍味(ゑようちんみ)に
ふけりながら事/足(たら)ざりし/昔(むかし)をしたひいざ事/問(と)はん/夕(ゆう)まぐれ/隅田(すだ)のわた
りに/業平気(なりひらぎ)の/自惚(うぬぼれ)をおこし/都(みやこ)どりより/能(よ)き鳥もがなとあちこち
とうろつきても/秋(あき)の/夕(ゆう)べのならひこれはといふほどなさへた/事(こと)もなきなる
にも/只此頃(ただこのごろ)の/月(つき)のみさへたるを/見(み)て/例(れい)のむかしをしのび/今(いま)は/府中(ふちう)

【右丁】
のほとりうだ野のあなたに
こそ/武(む)さし/野(の)のなごり
ありと/聞(きけ)は同じ
くはかしこにて
/此月(このつき)を/見(み)
まほしと/秋(あき)
の/最中(もなか)を
/待(まち)うけさい
【左丁】
はい/武(む)さしのゝ
あたりに
わづかに
/知音(ちいん)の
/者(もの)あり
ければ/此方(このかた)
に/宿(やど)りを
もとめて

【右丁】
/夜(よ)もすがら/月(つき)を/詠(なが)めんと/友(とも)だち/一両輩(いちりやうはい)うちかたらひしが/皆々急(みな〳〵きう)にさりがたき/用(よう)
/出来残念(いできざんねん)ながら/参(まい)りがたきよしの/断(ことはり)さればとて/思(おも)ひ/立(たち)し/事止(ことやみ)なんも/口(くち)おしとて
ひとり/支度(したく)とゝのへ/立出(たちいで)けるが/漸(やうやく)にて/武(む)さしのに/付彼(つきかの)しるべの/方(かた)に/至(いた)りけるに
「イヤ/是(これ)ははやお/江戸(えど)の/旦那何(だんななに)として/爰(こゝ)な/辺鄙(へんぴ)へはござられしぞ/何(なに)はともあれ
よくこその/御出今夜(おいでこよひ)は/大(おほ)かた/此辺(このあたり)へおとまりならんが/外々(ほか〳〵)へ/行(ゆか)んよりむさくとも
/此方(こち)へお/泊夜(とまりよ)とゝもお/咄(はな)し申さんト/田舎(いなか)とて/取繕(つりつくろ)いぬたのもしき/挨拶(あいさつ)「/御心切忝(ごしんせつかたしけ)
なし/有様(ありやう)は/此方(こなた)を/頼今夜此所(たのみこよひこゝ)の/月(つき)を/見(み)んとわざ〳〵/参(まい)りしなりトいふに「
/月(つき)はどこで/見(み)ても/同(おな)じ月ぢやにさて〳〵/物好(ものずき)な/事(こと)しかしお/月(つき)どのへそなへる/芋(いも)
【左丁】
/団子(だんご)、いもは/畠(はたけ)から/今堀立栗柿(いまほりたてくりかき)は/背戸(せど)の/口(くち)になつているをもぎつたばかり、ほた
〳〵ト/甘露(かんろ)の/垂(たる)のは/是(これ)ばつかりはお/江戸(ゑど)にない/馳走(ちそう)でござる/又団子(まただんご)は/嚊(かゝ)が/自(じ)
/慢(まん)の/突抜(つきぬき)、イヤわしがいふ/事(こと)ばかり、コレかゝよ/此(この)お/人(ひと)はおらがお/江戸(ゑど)へ/行度(ゆくたび)に
いつでもゑらくお/世話(せわ)になる/旦那(だんな)ぢやおちかづきになつてお/礼(れい)申てくれト
/引合(ひきあい)せる/嚊(かゝ)を/見(み)れば/髪(かみ)はぐる〳〵/巻(まき)にしてぼう〳〵/取(とり)かぶり/衣類(いるい)は/手(て)
/機嶋(おりじま)の/洗(あら)ひざらし/肩(かた)と/膝(ひざ)に/継(つぎ)のあたつた/袷(あわせ)のやうな/単物(ひとへもの)まだおひくちぬ
/身のさすがに/身(み)に/垢(あか)つけぬ/身(み)だしなみはかんしん/手足(てあし)はあら/仕事(しごと)にあら
びたれど/目鼻立(めはなだち)しやんとして/中(なか)〳〵/見所(みどころ)ある/代呂物色(しろものいろ)は/浅黒(あさぐろ)けれども

【右丁】
/中肉中(ちうにくちう)ぜいの/美味(うま)そうなとりなり、よく〳〵/見(み)ればまだ廿八九のこのもき/年(とし)ばい
/惜(おし)いものを/在郷嚊(ざいごうかゝ)にしてつゞれをまとはし/麦搗臼挽(むぎつきうすひき)のくたびれ/業(わざ)いかに/田(い)
/舎者(なかもの)とて/此(この)五十あまりのよぼくれ/男(をとこ)をまもり/居(ゐ)る/律義(りちぎ)さがふびんなと
/心(こころ)にしきりに/哀(あはれ)を催(もよほ)すも/大(おゝき)に/御世話(おせわ)な/事(こと)なるべし、/此方(こつち)で/思(おも)ふ/心(こゝろ)は/知(し)ら
す/亭主(ていしゆ)も/嚊(かゝ)も/心切(しんせつ)に/芋団子(いもだんご)のもてなし/彼是(かれこれ)する/内日(うちひ)も/暮(くれ)て/内(うち)に
/居(ゐ)ながら/見晴(みは)らす/野原(のはら)、/実(げ)に/武蔵野(むさしの)のはてなきに/月(つき)はなやかにさし
のぼりたる/景色(けしき)はいふにいはれず/我(われ)をわすれて/詠入(ながめいり)また/鄙(ひな)びたる此/(この)やどり
なと/思(おも)ひあわせて/心(こゝろ)に/風流(ふうりう)を/催(もよほ)し/懐中硯取出(くわいちうすゞりとりいだ)し/歌詠文(うたよみぶん)をつくりて〔月ノ三〕
【左丁】
/楽(たの)しみ/歌(うた)など/詠上(よみあげ)てきかすれど/誠(まこと)に/馬(うま)の/耳(みゝ)に/風一向受(かぜいつかううけ)ざれば/暫時世事(しばしせじ)
/咄(はな)しに/時(とき)うつる/頃一人(ころひとり)の/男門口(をとこかどぐち)から/大(おゝ)きな/声(こゑ)で「/庄屋様(しやうやさま)で/例(れい)の/月見(つきみ)の/酒盛(さかもり)
がもうはじまるほどに/爰(こゝ)な/亭主(ごてい)にはや/来(き)なされとの/呼使(よびづか)ひ「アゝ/今(こ)
/夜(よひ)は/珍客(ちんきやく)があれど/例年(れいねん)の/事(こつ)ちやゆかざなるまい、/今聞(いまきか)しやる/通(とほり)ぢや
からわしはいぎますこな/様(さま)にはゆるりット/今夜(こよひ)は/爰(こゝ)でやすましやれどうで
おれは/夜明(よあかし)じやあろうから、/嚊(かゝ)お/客(きやく)さまにもつとなんぞ/御馳走(ごちそう)せいトさし
むかひにして/何(なに)の/気遣(きづか)ひげもなく/出(で)て/行(ゆく)とはなんぼ/田舎(いなか)の/律義(りちぎ)まつ
ぽうおのれが/心(こゝろ)にひきべつするともあんまりなぶ/用心(ようじん)しかし、/此方(こつち)は/得手(ゑて)に/帆(ほ)

【右丁上】
とたちまち/心(こゝろ)
にむほんさざし
どうがなして/手(て)に
/入(い)れんとさま〴〵
にしかけて/見(み)
ても/人(ひと)なる
/田舎育(いなかそだち)
いゝとしを        
【左丁上】
していながら
やゝもすれば
/顏(かほ)をあかめ
/物(もの)はぢをして
/尻込(しりごみ)がち、/先(さき)に
/一向手(いつこうて)がなければ
/此方(こつち)にも/手(て)の
/付(つけ)やうなく〔印へ〕
【右丁下】
〔印より〕/取附(とりつく)
/嶋(しま)もなきもの
から/詮方尽(せんかたつき)て  〔月ノ四〕
【左丁下】
/身(み)を/横(よこ)にし/月(つき)を/詠(ながめ)て
いたりしが「いつまで
/草(ぐさ)のいつまでもト/小(こ)
/声(こゑ)でうなる/五大力(ごだいりき)
もとより/美音(びおん)の/事(こと)なれば
/此声(このこゑ)に嚊(かゝ)はきゝとれ/耳(みゝ)を
すませるありさまにして
やつたりト/猶(なほ)も〔次へ〕

【右丁】
/身(み)に/入一段(いれいちだん)まんまとやりしまい
「/思(おも)はずうかれてやつてのけたり、さぞおやか
ましからうトいふに「いへ〳〵おもしろい/事(こと)ちやわいなもつと
うたふてもらうてほしいトしきりにのぞ
まれこんとはぐつとふるいびんずるといふ
めりやすで/思ふ
おもわめへだてなくあだ
なる/人(ひと)になでられて/人目思(ひとめおも)ふも                               〔月ノ五〕
【左丁】
アゝ々そんじやへト、とう〳〵/嚊(かゝ)の/心(こゝろ)を
とろかしあたつて/見(み)んと/思(おも)へ
ども/何分(なにぶん)にも/気(き)のとおら
ぬ/嚊(かゝ)なればとかくとりつきあしき
/内(うち)あたり/近(ちか)き/山寺(やまでら)の/鐘(かね)だいぶんに
/夜(よ)の/更(ふけ)たる/音色(ねいろ)「もうお/休(やすみ)
と/床敷(とこしき)のべ/客(きゃく)を/寢(ね)
させて/押入(おしいれ)の/隅の/所(ところ)へ

【右丁】
/二枚屏風(にまいびようぶ)を/仕切(しきり)として/嚊(かゝ)
もふとんにまとはれて、/枕(まくら)を
/取(とる)よりはやく/寢付(ねつく)は/昼(ひる)の
くたびれさぞかしと/思(おも)ひやら
れぬ、/男(をとこ)も/宵(よひ)にくどいそび
れ/客(きやく)あしらいに/隅(すみ)と/隅(すみ)はな
れ〴〵の/屏風(びやうぶ)のへだて
/宝(たから)の山に/入(いり)ながら/手をむな
              〔月ノ六〕
【左丁】
しくして/此(この)まゝに/寢(ね)てし
まふも/残念(ざんねん)なり/草臥(くたびれ)つか
れて/寢込(ねこん)だる/寢陰戸(ねいり)なり
とも/出(で)かけんとそろ〳〵はい
/寄(よ)り/嚊(かゝ)の/布団(ふとん)へうしろから
ほつかりともぐりこめど/一向御存(いつこうごぞんじ)なきようすしすましたりト
うしろからぐるりとまくてむつちりとぽちや〳〵したる/尻(しり)へ
だきつき/後(うしろ)さまにのぞませたるしたゝか/物(もの)につばきをつけ

BnF.

《割書:浮世|源氏》五十四帖 中

あだにうる
花とは
しれど
誰(たれ)もかも
まどひ
いるらん山の
奥(おく)まで

浮世
げんじ
中之巻

【タイトル】


【女性の台詞】
〽あれおよしあそ
ばせお手(て)が
よこれます
ヱヽもう〳〵
どういたそう
いつそよくなつて
まいりました
そのやうに
おいばりあそ
ばすほど
なら
どうぞほん
まにあそ
ばして
下さいまし
アヽもう
まいり
ます〳〵
ハア〳〵
〳〵〳〵

【男性の台詞】
〽おもいれ
だして此 手(て)を
よごすほどで
なければこつ
ちもうれしく
ないサア〳〵なま
あたゝかいのが手の
ひらへながれる〳〵

【タイトル】
花散里

【建物の外の人物の台詞】
〽君(きみ)にはまた
あなばつりで
だいぶんなて
まが
とれる
この
よう

では
れいの
二番(にばん)つゞきのむし
かへしはじやうぶじや
イヤ又(また)あの二階(にかい)の
つまおとも
わるく
ない

【男性の台詞】
〽ほとゝぎすよりめづら
しいはそちがものぢやいつも
はつものこゝちがするぞ
アヽ此(この)しまりかげんは
とうもいへぬ〳〵

【女性の台詞】
〽そのように気(き)やすめ
ばかりぎよい
あそばして
わたくしふぜいを
ほんのおな
ぶりで
ござり
ませう

【柱第】五十四丁中ノ一

【タイトル、左ページ左上】
須磨

【松の木の影の女性たちの台詞】
〽ヲヤ マア
どうせう
ひるひなか
はじめた
そう


そして蛸(たこ)の
あぢが
するとき
烏賊(いか)な
こつ
ても


〽いつそ
うらやま
しい
もう〳〵
どこも
かしこも
うづ〳〵
して
きた
わな


【左ページ上、男性の台詞】
〽此(この)浦(うら)けしきを
ながめながら
生貝(なまがい)を賞翫(しやうくわん)
とはいへぬ
〳〵

【右ページ右下男性の台詞つづき】
しかし蛸(たこ)の味(あぢ)も
する
サア〳〵
だい
ぶん
汐(しほ)が
みちて
きた
アヽどうもこの
うらからみる
けしきはなん
ともかとも
たとへ
ようの
ない
ほど
いゝぞ
〳〵

【左ページ女性の台詞】
〽アレだれぞ
まいると
わるふ
ござい
ます
から
もうおよし
なさいと
もうしたう
ヱヽどう
いたそう
スウ〳〵〳〵〳〵
ヲヽいゝ〳〵〳〵
アレいきます〳〵
フウ〜〜〜

【柱題】五十四帖中ノニ

【タイトル】
明石

【男性の台詞】
〽かうした
ところを
遠(とほ)くから
見(み)たら
月夜(つきよ)
だけに
おうま
 だと
思(おも)ふで
あらふ

【女性の台詞】
〽アヽもう
わたしやア
どう
しやう
ねえ
どうも〳〵
フウ〳〵〳〵〳〵

【柱題】五十四帖中ノ三
アレ
いゝよ【いくよ?】
〳〵
ヲヽヽヽ
いゝ〳〵【いく〳〵?】
〳〵〳〵

いんすい
〽どく
〳〵〳〵
ぬら
〳〵

【タイトル】
澪標

【女性の台詞】
〽アレ
しづかに
しておくれ
いつそ
こはい
やうで
はづ
かし
くつて
むねが
どき
〳〵
するよ

【男性の台詞】
〽なにさ
あんじな
さんな
それもう
あたまが
はいり
かゝつたから
もうちつとだ
マア今に
みなぬると
はいつた
こゝろも
ちは
こたへ
られ
ねへ
ものだ
によ

【タイトル】
蓬生

【男性の台詞】
〽実(げ)に蓬生(よもぎふ)
の宿(やど)のつま
たとへわが
女房(にようぼう)にしろ
他(ひと)の妻(つま)にしろ庭の
よもぎのはへなりが
金(かね)でかはれぬうまい
ところだきれいに
手(て)いれをした女郎(ぢようろ)
よりとかくはへた
まゝに
信仰(しんかう)が
あついものサ

【女性の台詞】
〽ヱヽもうわるくちだか
おせじだかあげるのか
さげるのかなんだか
わからないよサアよ
じつとして
いな
いで

【柱題】五十四帖中ノ四

【女性の台詞つづき】
ぬくとも
入(い)れるとも
しておも
いれやら
しておく

アヽそう
だよ〳〵
ソレ
そこ


ところ

きつく
ハア〳〵〳〵〳〵
それ又いくよ
アヽいゝよ〳〵
ハア〳〵〳〵〳〵

ゆのようないんすいが
〽どく〳〵〳〵〳〵ぬる〳〵〳〵〳〵

【タイトル】
関屋
【女性の台詞】
〽アレサ
そんな
いたづらを
すると
きゝま
せんよ

【男性の台詞】
〽きゝま
せんと
いは
ねへで
おれの
心いきも
ちつ
とは
きいて
くんな
アヽ
もう
こゝ
まで
てがとゝ
いちやア
たまら
ねへ
サア〳〵
ちよつ

〳〵

【柱題 五十四帖中ノ五】

【タイトル】
絵合

【男性の台詞】
〽マア
じつと
して
いな
そこに
かいて
ある
ような
事を
して
やるから
サア〳〵
これは
ごうぎに
ぬら〳〵
だして
ゐるぜ

【女性の台詞】
〽アレサはづ
かしいおゝきな
こゑを
おしで
ない


【タイトル】
松風

【女性の台詞】
アレ
はづ
れるはね
アヽもう
いきそう
だから
ぐつと
おいれ


【男性の台詞】
〽おれ

いき
そうだ
から
あ?しら
つている
のよ
おめへが
いき
かゝつ
たら
ぐつと
入て一
しよに
やらう

【柱題】五十四帖中ノ六

浮世(うきよ)源氏(げんじ)五十四情(ごぢふよしやう)中之巻

榊(さかき)

神垣(かみがき)はしるしの杉(すぎ)もなきものをいかにまがへてをれるさかきぞと野(の)の宮(みや)の辺(ほとり)なる仁木(につき)が仮(かり)のわび住居(ずまゐ)今(いま)は阿古木(あこぎ)も苦界(くがい)をのがれしばしは爰(ここ)に身(み)をよせつこれ
より伊勢(いせ)へ下(くだ)るべきこゝろがまへの用意(ようい)もとゝのひ早(はや)出立(しゆつたつ)のその日(ひ)さへひと日(ひ)ふた日(ひ)
となりしころ恋(こひ)しき人(ひと)の思(おも)ひもよらず忍(しの)びてこゝに問(とひ)給へば飛立(とびだつ)ほどに思(おも)へ
どもあなたこなたの義理(ぎり)合(あい)よりかまへてふたゝびまみへましと一端(いつたん)おもひ切(きり)し
身(み)のなまじ逢(あ)はんもうしろめたくさればとて此(この)まゝにつれなくなさんも本(ほ)
意(ゐ)ならじと心(こゝろ)に問(とひ)こゝろにゆるし逢(あへ)ば恋(こひ)しさいやまさり娘(むすめ)磯名(いそな)のおもはく
もまた空衣(からぎぬ)の手(て)まへさへついうち捨(すて)て月(つき)ごろ日(ひ)ごろ思(おも)ひきりてもわすられ
ぬ逢(あひ)し夜(よ)すがのうれしきを思(おも)ひ出(だ)すほとじれつたき情所(なさけどころ)へかの君(きみ)の昔(むかし)

にかはらぬ大陰茎(をゝまら)を毛際(けぎは)ものこさず入(い)れさせて上(うへ)を下(した)をと好事(このみごと)是(これ)
ぞしばしの名残(なごり)の開(ぼゝ)ふたゝび逢(あ)ふまで持(もつ)ようにと腰骨(こしぼね)かぎりこんかぎり
おくびの出(で)るほど犯(とぼ)させしは余所(よそ)の見(み)る目(め)もいかならん
   花散里(はなちるさと)
たちばなの香(か)をなつかしみほとゝぎす花(はな)ちるさとをたつねてぞ。問ふ
恋人(こひびと)のおとづれに心(こゝろ)のうち■嬉(うれ)しさは何(なに)にたとへんものぞなき〽今(いま)おつかひ
につかはされました惟吉(これきち)さまがもうおかへりでござりませうマアあちらの屏(びやう)
風(ぶ)のうちでひさりぶりにつもる思(おも)ひのありたけをサアどうそわたくしにも
日頃(ひごろ)心(こゝろ)に思(おも)ふほどはらさせて下(くだ)さりませ〽ハテせわしないアノ惟吉(これきち)も野暮(やぼ)で
はない斯(かう)いふ所(ところ)へまいるような心(こゝろ)きかぬ者(もの)なれば常(つね)に供(とも)には連(つれ)ぬわへ左様(さよう)
なことに心(こゝろ)をおかずと勤気(つとめぎ)はなれて某(それがし)に誠(まこと)の情(じやう)をうつして為犯(させ)やれ〽アレにくら

【柱題】五十四帖中ノ一
しいわたくしに此様(このよう)に情(じやう)をうつさせてしらぬふりを遊(あそ)ばして左様(さよう)なら此度(こんど)は

上(うへ)へおのり遊(あそ)ばし下(くだ)さいましもいちど情(じやう)をうつします〽イヤ〳〵それより此(この)ような
見(み)はらしのよい所(ところ)では本手(ほんて)よりは曲(きよく)がよひ。折(をり)からのものなれば茶臼(ちやうす)こそ興(けう)
あらめとむりに抱上(だきあげ)はじめから女(をんな)にひとつ気(き)をやらせしがなか〳〵陰茎(へのこ)は少(すこ)し
もひるまずひときはみごとにおへかへり筋(すぢ)はあらはれぬれ色(いろ)にひかりわたれる
紫色雁高(ししきがんかう)。脈(みやく)うつへのこの上反(うはぞり)を下(した)より開(ぼゝ)におしあてがひ腰(こし)をはりつゝつき
上(あぐ)れはぐすりと音(おと)してそのまゝにぐす〳〵〳〵と根(ね)もとまで毛際(けぎは)ものこらず
はいりたり女(をんな)ハアヽと目(め)を細(ほそ)くし歯(は)をくひしばりてムヽ〳〵〳〵さすがつとめの身(み)
ながらもなみ〳〵ならぬ大陰茎(おゝまら)の尺八(しやくはち)ほどなる上反(うはぞり)をまらの根(ね)かぎりおしこま
れハアともスウとも声(こゑ)さへ出(いで)ず惣身(そうみ)もしびれておぼへもなきほどうつゝのやう
になりけるが次第(しだい)にぬきさしされるほど心地(こゝち)よいとも気味(きみ)よいとも能(よく)て〳〵
どうもたまらず尻(しり)をもぢり身(み)をあせり上(うへ)よりひしとしがみつき男(をとこ)の口(くち)へ口摺(くちすり)
つけ口(くち)を吸(すう)やら鼻息(はないき)やらいつそわけなき大(おゝ)よがりさいぜんよりつゞけさま四(よつ)ツ(ゝ)五(いつ)ツ(ゝ)

気(き)をやりしが今又(いまゝた)何処(どこ)へあたりしやひときはたぎりし喜悦泣(よがりなき)《割書:ハア〳〵|  フウ〳〵》スウ〳〵とへのこ
のあたまへ子宮(こつぼ)の口(くち)すりつけ〳〵がば〳〵と子宮(こつぼ)の奥(おく)より滝鳴(たきなり)して湯(ゆ)のごとくなる
陰水(いんすゐ)をへのこの雁(かり)のてつぺんからかけたかと問(と)ふ開伽(ぼゝとぎ)す日頃(ひごろ)つゝしむ溜淫(ためいん)を一度(いちど)に漏(もら)
してづき〳〵とどこもかしこもうづき頃(ごろ)垣(かき)の卯(う)の花(はな)それならで雪(ゆき)と見(み)まがふふ
き捨(すて)の閨(ねや)に花(はな)ちる麝香紙(じやかうがみ)橘(たちばな)の香(か)もものかはならんか
   須磨(すま)
うきめかるいせをのあまも恋(こひ)そめて曳手(ひくて)あまたのかつら男(をとこ)に兼て思ひをこ
がしたるよしある人(ひと)のまな娘(むすめ)塩屋(しほや)の煙(けふり)たへまなき心(こゝろ)をそれと汲(くみ)て知(し)る塩(しほ)
くむ蜑(あま)のとしまの女(をんな)なかをとりもつ情(なさけ)知(し)り。ともなひつれて能(よき)しほに通(かよ)ふ
千鳥(ちどり)の磯(いそ)づたひいそ繰り返しとしてかの蜑(あま)の粋(すい)な心(こゝろ)を娘気(むすめぎ)に結(むす)ぶの神(かみ)と手(て)を合(あは)
せ〽いつの世(よ)にかはこのお礼(れい)〽ハテわつけもない其様(そん)な事(こと)いふているそのひまにち
やつと〳〵ト気(き)をせけど逢(あ)へばなか〳〵ことばさへ口(くち)へは出(いで)ぬおぼこ気(ぎ)を。としまはそば

【柱題】五十四帖中□二

でもどかしがりさいわいのアノ岩(いは)の蔭(かげ)日頃(ひごろ)の思ひを思ふさまはらさせておも
らいと男(おとこ)の側(そば)へつきやつて〽仲人(なかうど)は宵(よい)のうち床盃(とこさかづき)のお吸(すい)ものモシ蛤(はまぐり)は不塩(ぶゑん)じや
ぞへおまへもぬしの生酢(なます)の子(こ)の海鼠(なまこ)がいかにおいしいとてあんまりたんと食過(たべすぎ)まへ
ぞへ跡(あと)で腹(はら)が張(はつ)てはならぬとおとけまじりの気(き)さく者(もの)粋(すい)を通(とほ)してはしりゆく男(おとこ)
も嬉(うれ)しくそばへより能事(よいこと)には寸善尺魔(すんぜんしやくま)邪(じや)魔のないうちにこそと言葉(ことば)少(すく)
なに引寄(ひきよせ)て〽わたしも此地(こゝ)へ来(き)た時(とき)から余処(よそ)ながらおまへの姿を見(み)るたび〳〵
きりやうなら姿(すがた)なら心(こゝろ)だてまで美(うつ)しくあれほとそろふた娘子(むすめご)かまたとふ
たりあらうかと思(おも)ひこんだはとうの事(こと)あゝいふ娘(むすめ)に一度(いちど)でも逢(あふ)たらそれ
こそ男(おとこ)の本意(ほい)と思へど及(およ)ばぬ霞(かすみ)に千鳥(ちどり)雲(くも)よりけはしはしたなく言(いゝ)よる
事(こと)もならざりしにおまへの方(はう)にもそれほどまで思(おも)ふて下(くだ)さるかこゝろさしわ
すれはおかぬうれしやとそのまゝじつといだき〆(しめ)はづかしがる娘(むすめ)の口(くち)へ口(くち)をしつつけ
チウ〳〵〳〵口(くち)を吸(すは)れてうれしいやらはづかしいやら上気(じやうき)してどきつく胸(むね)をおし鎮(しづ)

め目(め)をねふりてゐるうちにそろ〳〵前(まへ)へ手(て)をさし入(いれ)じつとすぼめし股(また)ぐらもう
ちひらけたる須磨(すま)のうらうらの見るめもはつかしと顔(かほ)あかめるをしらぬふり
してまづ空割(そらわれ)よりうかゝふにそのはだのやはらかさひたひ口(ぐち)にうつすりとはへ
たる薄毛(うすげ)も心(こゝろ)にくゝふつくりしたる上開(しやうかい)のあまりきれいに美(うれ)しければうつ
かり見(み)とれていたりしがかくてははてじと指(ゆび)につはつけ割目(われめ)をだん〳〵撫下(なでおろ)し
はや出(だ)しかけし淫水(いんすゐ)のぬめりにそろ〳〵指(ゆび)を入(いれ)くぢり廻(まは)せばスウ〳〵ト鼻息(はないき)さ
へもはづかしげに上気(じやうき)の顔(かほ)へ袖(そで)をあて男(おとこ)まかせになつてゐるおぼこ娘に
手(て)だれの若(わか)もの場数(ばかず)にいたらぬ生娘(きむすめ)をしつこくいぢればはづかしさにい
やがるものと知(し)りながらやわらかき手ざはりのあまりのことのこゝろよさに思(おも)
はず知(し)らず秘術(ひじゆつ)をつくすに娘(むすめ)は顔(かほ)を見られるやうではづかしくてたまら
ねど惚(ほれ)た男にくぢり廻(まは)され思ひおもひし心(こゝろ)の水(みづ)まだ開中(かいちう)へ本物(ほんもの)も入(い)れ
ぬ先(さき)からはやまつてどつくりはづんではしり出(いで)手(て)さきへあぶるゝ溜淫水(ためいんすゐ)ハア〳〵〳〵

トすゝりなき男(おとこ)はたまらず指(ゆび)引(ひき)ぬき其(その)手にぬらつく淫水(いんすゐ)をおへきるへのこ
へなすりつけすぐにあてがひ入(いれ)かけるに今(いま)までこがれてさせたい一心(いつしん)さしもの
一物(いちもつ)ぬうぬつトきしみながらも胴(とう)中まで苦(く)もなくはいりしこゝろよさ娘ははじ
めて大陰茎(おゝまら)を突込(つゝこま)れてもさいぜんよりくぢりぬかれてもらしたる淫水(いんすゐ)のぬ
めりにてあんじたほどにいたみもなくどこともなしに其(その)男(おとこ)がなを可愛(かあい)く
なりいつ迄(まで)も斯(かう)したまゝですこしの間(あひだ)もはなれがたなく思(おも)ふなるべし男(おとこ)
はそろ〳〵小(こ)きざみよりだん〳〵しげく抜(ぬき)さしして八深九浅(はつしんくせん)しづやかに秘術(ひじゆつ)を
尽(つく)しておこなふほとに開中(かいちう)一(いち)めん陰茎(へのこ)に吸付(すいつき)ぬきあげるたびずぼ〳〵トへの
こをしごくしまりかげんは印籠(いんらう)の工合(ぐあい)に似(に)て無量(むりやう)のあじはひ古今(こゝん)の上開(じやうかい)
もしくは世上(せじやう)に賞美(しやうひ)する明石蛸(あかしたこ)とは此(この)事(こと)ならんかそれはともあれかくもあれ
男(おとこ)はあまりのこゝろよさに三(みつ)ツまでむかへし娘(むすめ)も五六度(ごろくど)気(き)をやつてはじめて
おぼへし陰茎(へのこ)の味(あぢ)に人目(ひとめ)もさらにいとはぬほど引〆(ひきしめ)しめ寄(よせ)余念(よねん)なく逢(あふ)て

思(おも)ひのますかゞみうつす心(こゝろ)の水(みづ)もらさじとかたみに結(むす)ぶ言(こと)の葉(は)によろこびいさむ
笑(ゑみ)の眉(まゆ)たがひの胸(むね)もはれわたるのどけき春(はる)の浦景色(うらげしき)つきぬ契(ちぎり)そたのしけれ
        明石(あかし)
秋(あき)の夜(よ)の月毛(つきげ)の駒(こま)のそれならで雲井(くもゐ)を恋(こ)ふる煩悩(ぼんのう)をとゞめかねたる心(こゝろ)
の駒(こま)忍(しの)びてかよふ枝折(しをり)の外(そと)思(おも)ひがけなき恋人(こひひと)はいのりし神(かみ)の引合(ひきあは)せト嬉(うれ)し
さあまりてぶる〳〵トふるうばかりの心(こゝろ)をしつめ娘(むすめ)の側(そば)へそつと寄り〽ヲヤ〳〵
わたくしはお鳥(とり)どんかと思(おも)ひましたらもう亥刻前(よつまへ)でございませうにおひ
とりで此(この)ような所(ところ)に何(なに)をしておいでなさいます〽ヲヤどなたかと存(ぞんし)たらヲホヽヽ
アノわたくしはあんまり今夜(こんや)の月(つき)かおさへなさつたのでついうかれて庭(には)づたいに出(で)
て見(み)ましたのさ〽ほんにま事(こと)によくさへましたが此(この)月(つき)に引(ひき)かへてとかくわたしの
胸(むね)はくもりがちさへる間(ま)とではございません人(ひと)をたのんでよう〳〵ト送(おく)りし雁(かり)
の玉章(たまづさ)もそれなりけりの片(かた)だよりト聞(きい)て娘(むすめ)はあと先(さき)見廻(みまは)し〽其(その)おへんじ

に人目(ひとめ)を忍(しの)び月(つき)にかこつけさいぜんからトそつとわたせし返事(へんじ)の上書(うわがき)おなじ
思(おも)ひにこがるゝ身(み)よりと書(かき)しは上出来(じやうでき)あんじるよりうむをいわさず枝折戸(しをりと)の
柱(はしら)に娘(むすめ)を寄(よせ)かけて〽中(なか)の文体(ぶんてい)見(み)るにおよばし同(おな)じ思(おも)ひにこがるゝとは此(この)身(み)にとり
て嬉(うれ)しいともかたじけないとも何(なん)ともかともいふにいわれぬおこゝろいき筈(ぜん)はいそ
げ人(ひと)のこぬうちサア一寸(ちよつと)ト心(こゝろ)せくまゝ立(たち)ながら枝折戸(しをりど)小(こ)だてにいだき付(つき)口(くち)ト
口(くち)チウ〳〵〳〵ト吸(すひ)ながら是(これ)ではどうも勝手(かつて)がわるいトうしろより裾(すそ)引(ひき)まくつて
あてがふ一物(いちもつ)。娘(むすめ)も承知(しやうち)の受腰(うけごし)は人(ひと)もや来(こ)んと気(き)のせくまゝはづかしい場(ば)は
うちすてゝはやく〳〵トいわぬはかり男(おとこ)は豊年(ほうねん)秋(あき)の夜(よ)の月毛(つきげ)の馬(うま)をもあざ
むく大陰茎(おゝまら)おやすませしそのさまはさもおそろしきありさまなるをつばき
ものして入(いれ)かけるに娘(むすめ)は開(ぼゝ)がさけるほど痛(いた)さにたへかね手(て)をやつてさぐつて見(み)
れはこはいかに擂子木(すりこぎ)ほどの一物(いちもつ)にびつくりせしが今(いま)さらに迯(にげ)るにも迯ら
れずどうしたものと思案(しあん)のうち男(おとこ)はさま〴〵気(き)をもみぬき我手(わがて)ににぎつて

穴(あな)の口(くち)入(い)れん〳〵とあせるうちつい門口(かどぐち)でどく〳〵ト気(き)をやる淫水(いんすい)玉門(ぎよくもん)にあ
ぶるゝぬめりに嬉(うれ)しくもさすがの大物(たいぶつ)ぬら〳〵ト半分(はんぶん)ばかりはいりしかは娘(むすめ)は
ハアト一生(いつしやう)けんめい枝折(しをり)の柱(はしら)へしがみ付(つき)いたさをこらへてうけかねるを男(おとこ)は今(いま)ぞ大(だい)
願成就(ぐわんじやうじゆ)ト秘術(ひじゆつ)をつくしておこなふほどに娘(むすめ)もしだいに鼻(はな)いきあらくたがい
に出(だ)したるいんすゐに今(いま)はいたさに引(ひき)かへてむしやうにどく〳〵気(き)がいけば男(おとこ)も爰(こゝ)
ぞと精心(せいしん)こめくも手(で)かくなわ十文字(じふもんじ)くもゐをかけれ早腰(はやごし)に日頃(ひごろ)の本望(ほんもう)今(いま)
こそと血気(けつき)の早(はや)わざときの間(ま)に四五丁(しごてう)つゞけし駒(こま)の白泡(しらあは)女(おんな)も男(おとこ)もフウ〳〵スウ〳〵
折(をり)しもわたる逢夜(あふよ)の雁(かり)よがりぬいたる互(たがひ)の喜悦(きえつ)実(げ)にも明石(あかし)の浦山(うらやま)しと
やいはん
       澪漂(みをづくし)
かずならでなにはのこともかひなきに何(なに)みをつくしいつしかに思(おも)ひそめたる惚(ほれ)
たどちつい馴染(なれそめ)しむつごとにたがひの胸(むね)もすみよしの四所(ししよ)のおまへの逢瀬(あふせ)さへ

あきぬつらさをわすれぐさ〽わしや此様(こん)な所(とこ)ではいやじやへ〽ハテだんなは誰(たれ)も来(く)
る事(こつ)ちやないわしも浪花(なには)生れのちやき〳〵ぢや今日(けふ)一日(いちにち)は爰(こゝ)のさびし事(こと)
承知(しやうち)でそもじをさそふて連立(つれだつ)て来(き)たも此たのしみ仕(し)ようばかりぢやマアち
やつと爰(こゝ)へもたれたがよい〽此(この)反橋(そりはし)へかいな〽そうぢや。まそつと前をひろげいな
〽そぢやてゝわしやはつかしい〽ハテ誰(たれ)も見(み)るものはありやせんがトそりはしへよ
せかけて娘(むすめ)の前(まへ)をぐつとまくりあげ割込(わりこみ)ながら其(その)身(み)も前を引(ひき)まくりふん
どしをはづしておへきつた一 物(もつ)をぴんといだし棹(さほ)を握(にぎ)つてへのこのあたまへつば
きをこて〳〵ぬり廻(まは)し其(その)まゝぬつと入かけてすり〳〵とやりかけるに娘も初(はつ)
の事ではなし下(した)からもじ〳〵持上(もちあげ)〳〵目をぬぶりスウ〳〵〳〵ト鼻息(はないき)せはしくアヽ
もうじきにいくわいな〽アせわしないまそつとこらへて一 所(しよ)にやりイな〽そぢやてゝ
アヽ〳〵どうもならんフウ〳〵〳〵アヽつい行(い)たわいな〽もうやつたかいな。のつけからゑらう
出(だ)したさかいぐしや〳〵していつこやくたいぢや〽うそいゝなはづかしい〽ヤそうかういふ

うちコリヤわしもたまらんアヽスウ〳〵〳〵〳〵ハア〳〵〳〵ト男(おとこ)はしきりに腰(こし)をはやめすり〳〵
すり〳〵ずぼ〳〵ぐちや〳〵ずぼり〳〵と八深九浅(はつしんきうせん)惣身(そうみ)の力(ちから)をへのこに入上(いれあげ)精(せい)
心(しん)こらしてつき立(たて)れば娘(むすめ)はいつそ夢中(むちう)のごとくよがりぬいたる喜悦(きえつ)の鼻(はな)いき
身(み)を反(そり)かへりそり橋(はし)へ穴(あな)も明(あけ)べきありさまに尻(しり)を廻(まは)して橋板(はしいた)をゑぐるが如(ごと)く
身(み)をもみてどく〳〵ぬら〳〵気(き)をやりづめ男(おとこ)もすでにゆくべきをこらへるうちの
その気味(きみ)あいどうともかうともいわれぬ美(うま)味さへのこははりきりしびれる
ばかり今(いま)ははや男(おとこ)も女(おんな)もたもちかねこらへ〳〵し淫水(いんすゐ)が一時(いちど)にへのこへ突(つゝ)かけ来(きた)り鈴口(すゞぐち)
せましと走(はし)り出(いだ)しつう〳〵つう〳〵どつくどくどつく〳〵ト淫水(いんすゐ)つくし。身(み)をつくし
たるやりくりは岸(きし)に生(おふ)てふ姫小松(ひめこまつ)いく代(よ)へのこや淫水(いんすゐ)の青(あを)ひと臭(ぐさ)のたへせぬ
ためし神(かみ)もみゆるし給ふらん
        蓬生(よもぎふ)
たづねてもわれこそとはめ道(みち)もなく生(お)ひしだりたる蓬(よもぎ)の宿(やど)は鐘(かね)も聞(きこ)

ず鶏(とり)も無(なく)ふたり寝(ぬ)るゝ夜(よ)のかくれ家(が)にや常(つね)には人(ひと)げも稀々(まれ〳〵)なる受地辺(うけぢあたり)の
下(した)ゆきは世(よ)のなりわひのことしげきうきをなぐさむ遊山(ゆさん)場所(ばしよ)ことにこの程(ほど)妻(つま)を
むかへまだめづらしき内(うち)ながら物堅(ものがた)き両親(りやうしん)のひとつ座敷(ざしき)に卧(ふし)ければよく〳〵
よい間(ま)に女房(にようぼう)の夜着(よき)へはい込(こみ)こそ〳〵トすましてしまふばかりにて思(おも)ふよう
には睦言(むつごと)もならぬ所(とこ)から思(おも)ひつき先(せん)の隠居(いんきよ)が求置(もとめおき)たる受地(うけぢ)の地面(ぢめん)の隠居(いんきよ)
所(じよ)を建(たち)ぐらさしにして置(おき)しが是(これ)さいわひの事(こと)なりと月(つき)のうちに二三度(にさんど)づゝ
保養(ほよう)と号(ごう)して夫婦(ふうふ)づれこの下ゆきの水入(みづい)らず日頃(ひごろ)のうさの捨(すて)どころ律義(りちぎ)
ものゝ下男(げなん)の佐助(さすけ)がいつもきまりで前日(ぜんじつ)より掃除(そうじ)ばんたん煮焚(にたき)の世話(せわ)つかひ
早間(はやま)の調法者(てうほうもの)今日(けふ)は其(その)日(ひ)と夫婦(ふうふ)づれ朝(あさ)から此処(こゝ)へ来(く)るわいな佐助(さすけ)に言(いゝ)
付(つけ)まづ武(む)さしやへ色々(いろ〳〵)と酒(さけ)肴(さかな)の注文(ちうもん)其ついでに長命寺(ちやうめいじ)前(まへ)の山本屋(やまもとや)の桜(さくら)
餅(もち)いつもの程(ほど)籠(かご)に入(いれ)させお袋(ふくろ)へ鼻薬(はなぐすり)に持(もつ)て行(ゆき)そして貴(き)さまは明日(あす)の夕(ゆふ)がた
爰(こゝ)へむかひに来(く)れはそれでよいはト別(べつ)に金弐朱(なんいち)はづみ是(これ)でどこぞて一盃(いつぱい)呑(のん)

で行(ゆく)がよいト佐助(さすけ)をもよろこはせ出(いだ)しやりしあとにはふうふのさしむかひ〽サア直(すぐ)に
はじめやう〽いかなこつてもまだ朝(あさ)ツはらでございますはねそして今(いま)こゝへまいつた
ばかりでなんぼなんでもヲホヽヽヽヽ〽ハテ爰(こゝ)にやア誰(だれ)も遠慮(えんりよ)なものはなし気(き)まゝに
交(し)ようためにくる所(ところ)だあさつぱらでも下(した)ツ腹(ぱら)でもさし合(あい)なしだマアなんにしろ
爰(こゝ)まで歩行(あるい)てねれた処(ところ)が賞翫(しやうくわん)だトいきなりにおしこかし女房(にようぼ)のまたぐらへ手(て)
を入(い)れくぢりかければはや出(だ)しかけてぬる〳〵ぬら〳〵〽こんなに出(で)しているくせにが
まんな女(をんな)だ〽それだと申て男(おとこ)のようになんぼ夫婦(ふうふ)の中(なか)でもそんな事(こと)が口(くち)へ出(だ)
されますものかね〽口(くち)へ出(だ)されねへかわりに下(した)の口(くち)へこんなに出(だ)すのかそこで女(をんな)といふ
ものはつみがふかいといつたもんたらうトいひながらむしやうにくぢり廻(まは)はす〽アヽモウ
フン〳〵〳〵そんな事(こと)をなさるくらゐならとうにどうかなさいまし〽それでも
朝(あさ)ツぱらからなんぼ何(なん)でもといつたじやアねへか〽エヽもう人(ひと)ぢらしなト男(おとこ)の股(また)へ
手(て)を入(いれ)へのこをにぎれば木(き)のごとくにおやしている〽それおまいさんこそこんなにして

おいでなさるくせにトしめつゆるめつにぎられて男(おとこ)はたまらず〽アヽモウこたへられ
ねへトいみわれそうになつたやつをすつぱりのぞませぬつトいれすり〳〵とお
こなへば女房(にようぼ)は下(した)からしがみつき開(ぼゝ)の宿(やど)おり天井(てんじやう)ぬけハア〳〵スウ〳〵遠慮(ゑんりよ)なく
気(き)をやりづめの大(おゝ)よがり男(おとこ)は精根(せいこん)つゞくたけト其日(そのひ)一日(いちにち)その晩(ばん)も夜中(よぢう)女房(にようぼ)を
よがらせぬきあくる日(ひ)のむかひ開(ぼゝ)夕方(ゆうがた)までの入(いれ)びたしはまけずおとらぬ好者(すきしや)
なりかし
       関屋(せきや)
逢坂(あふさか)や人目(ひとめ)の関(せき)をうち越(こへ)て忍(しの)び逢(あ)ふ身(み)のうれしさにつもる思(おも)ひの数々(かず〳〵)
も先(まづ)さしあたるはかの一義(いちぎ)はなしのうちよりくぢりかけ入(いれ)ぬさきから気を
やらせぬらつく所(ところ)へつばきもつけずかりくびのぞませ一(ひと)ト押(おし)おせばすこしきしん
でぶり〴〵ト雁下(かりした)五六分(ころくぶ)はいるやいな娘(むすめ)はスウ〳〵フウ〳〵ト男(おとこ)にしつかりしがみつ
き腰(こし)をもじ〴〵するうちにぬるり〳〵ト奥(おく)ふかく子宮(こつぼ)にとゞくこゝろよさ〽なん

だかいつかの時(とき)よりおまいのものが大(おゝ)きくなつたようでフウ〳〵アヽどうもよくつて
よくつてアヽもういくよ〳〵ハア〳〵〳〵トたちまちにどくり〳〵ト気(き)をやれど男(おとこ)はちつ
ともびくともせずすり〳〵ト半時(はんとき)ばかりぬかずふかずのおへづめに娘(むすめ)はたまら
ず気(き)をやりづめ〽アヽもうわたしはこんなに出(で)るのおまいは何(なん)ともないのかへ〽わた
しもいゝ事(こと)はいゝが気(き)のいかないまじないをしてきたからさ〽長命丸(ちやうめいぐわん)とやらでもお付(つけ)
ぢやアないかへ〽よくお当(あて)だ〽ヲヤいやだねへ〽いやならもうよそうか〽アレサその事(こと)
ぢやアない長命丸(ちやうめいぐわん)とやらがきみがわるいからそれで〳〵アヽモウぢれつたいフウ〳〵
ソレまたいゝわねへハア〳〵〳〵〳〵〽きみがわるいのぢやアない気味(きみ)がいゝからそんなに気(き)
がいゝのだらう〽エヽモしらないよウ。プン〳〵〳〵〳〵
         絵合(ゑあはせ)
うきめ見(み)しそのをりよりもけふはまた過(すき)にしことにこりづまにまだ小娘(こむすめ)の水揚(みづあげ)を
いつかは〆(しめ)んと心(こゝろ)がけつけつ廻(まは)しつ口説(くとき)よるは花壇(くわだん)のもとの猫(ねこ)なで声(ごゑ)むつるゝ小蝶(こてふ)

をわんぐりと。してやらんとするどら猫(ねこ)ならで此(この)近所(きんじよ)なる道楽息子(どらむすこ)〽此 間(あひだ)お
まいのお尻(しり)をわたしがつめりもしないものをつめつたのなんのといつて大(おゝ)ぜいのなかで
わたしによく恥(はぢ)をかゝせたねそのいしゆがへしはソレかうだト娘の尻(しり)をぴしやりトたゝく
〽アヽ痛(いたい)わつちやアいやだよ此(この)間(あひだ)もつめつてどうするか見ろト男(おとこ)をつかまへ脊中(せなか)を
ぴしや〳〵打(たゝ)く〽アヽあやまつた〳〵もうかんにんしなそのかわりいゝものをやるから〽ソレよ
はむしのくせに〽能物(いゝもの)をやらうか〽いらないよまた人(ひと)をだまそうと思つて〽ナニだ
ますのぢやアねへこんなもんだト十二組(じうにくみ)のわらひ画(ゑ)のたとうを懐(ふところ)から一寸(ちよつと)出(だ)しかけ
て見(み)せる〽ヲヤきれいだちよつと〳〵お見せ〽マアやるから爰(こゝ)を放(はなし)なトちよいとなげ
てやる娘はたとうをひらいて見ると男(おとこ)と女とさもよさそうにやらかしている絵(ゑ)
なればすこし顔(かを)をあかくして〽いやだよわつちやアこんなものは入らないよ〽マア一寸(ちよつと)
見ねへなうまいぢやアねへか此(この)娘(むすめ)はてうどおめへのようだぜトだん〳〵下(した)のを出(だ)して
見せるに娘 心(ごゝろ)に恥(はづ)かしいのがいつぱいゆへ顔(かほ)を真赤(まつか)にして迯出(にげだ)しそうな所(ところ)かなか

なか今時(いまどき)の小娘(こむすめ)にそんな晩稲(おくて)はなし〽いやだねへ此様(こんな)ものははやく持(もつ)ておいでト云(いゝ)ながら
見(み)ぬふりをしてしきりに見たがる淫好(すけべい)。男(おとこ)は斯(かう)なくてはならぬ筈(はづ)と色々(いろ〳〵)と絵(ゑ)
説(とき)をしながら娘(むすめ)にすりつく娘も見入(みいり)てすこし鼻息(はないき)がせわしくなる所(ところ)をかんがへ
そろ〳〵手を入(い)るに〽アレいやだよおよしなト言(いひ)なから迯(にげ)もせぬはどんなものかさせて
見たい気(き)もあると見えたり男はかまわずさぐつて見るにまだ毛(け)もはへぬ玉門(ぎよくもん)から
ぬら〳〵ト出(だ)しているゆへすぐに指(ゆび)をぬつと入(い)れそろ〳〵くぢるに娘はもはや色気(いろけ)
たつぷり大(おゝ)きな声(こゑ)もせず〽アレおよしよ〳〵〽マアいゝわなトおしあい〳〵とう〳〵わり込(こみ)
すつぱり新開(あらばち)を割(わり)おかせふたりはホツト溜息(ためいき)〽(娘)にくらしいよ
       松風(まつかぜ)
身(み)をかへてひとりかへれる故郷(ふるさと)に聞(きゝ)しに似(に)たる砧(きぬた)の音(おと)はむかしなじみの新家(しんや)の娘
いも見ざる間(ま)にげんぶくして好(この)もしざかりの愛敬者(あいけうもの)〽ヲヤマア久(ひさ)しぶりで今(いま)おかへりかいな
もう〳〵おまへの内(うち)の女房(にようぼ)さんが明(あけ)ても暮(くれ)てもおまへの事(こと)ばかり待(まち)こがれてじや早(はや)う

いんで顔(かほ)見(み)せて嬉(うれ)しからせてあげたがよいわいな〽わしは又(また)嗅(かゝ)の事(こと)よりそもじの事
ばかり思(おも)ふて居(ゐ)たがさだめし今(いま)では能(よい)亭主(をとこ)もつて中(なか)むつましうしてわしが事(こと)な
ぞは思ひ出(だ)してもくれはせまい〽なにいふてじやいな恥(はづ)かし事じやがわたしが十五(じふご)の
歳(とし)にはじめておまいに新開任(おそわつた)のぢやもの其(その)時(とき)の事(こと)わすれるものじやないわいな
〽イヤどうかしれぬわへわすれたかわすれんか一寸(ちよつと)浚(さらつ)て見(み)ちやどうじや〽どうなと
〽しかしそもじの御亭主(ごてさん)に見(み)つかつちやわるい〽いゝゑいな今日(けふ)は遠方(ゑんはう)へやとはれて
行(いん)でぢやゆへ明日(あす)でなければ戻(もどり)はせぬわいな〽そりやうまい。さいわひ爰(こゝ)は人(ひと)もなし
帰国(きこく)早々(さう〳〵)間男(まおとこ)もめづらしい久(ひさ)しぶりでこりやたまらぬト女の前(まへ)へ手(て)を入(いれ)くぢりか
け〽大(だい)ぶん広(ひろ)うなつたようぢや〽にくて口(ぐち)いふてかいなおまへ江戸(えど)さんがいへ行(い)てあく
所(しよ)ぐるいしてへりはせぬかへトへのこをさぐりじつと握(にき)り〽けつく前より大(おゝ)きうなつたな
〽故郷(こきやう)へ土産(みやげ)にすこやかに育(そだて)あげたつもりじや〽女房(おうち)さんにかへな〽なんのいそもじに
〽嘘(うそ)や〽うそかほんか此(この)勢(いきほ)ひ見さんせトくぢりぬいた開(ぼゝ)へあてがい一度(いちど)にぬつト根

まで入(いれ)れば女(をんな)ハアヽヽヽトしがみつき〽久(ひさ)しぶりアヽよいわいな〽毎晩(まいばん)亭主(ていしゆ)にさせるで
めづらし事(こと)もあるまい〽又(また)かいなもと木(き)にまさるうら木(き)なしじやわいなソレみなさ
れよいと思(おも)へばこそもうゆくわいハア〳〵〳〵アヽこんなに〳〵ヘエヽヽもうよくて〳〵ならん
わいな〽そもじのものが此(この)ようによい味(あぢ)ぢやものわしもわすれた事(こと)はないアヽどう
もどうもアヽいく〳〵〳〵〽ハア〳〵〳〵〳〵スウ〳〵ウヽヽヽヽいく〳〵わたしももう〳〵いきつゞけでアヽ又(また)
いゝ〳〵〳〵ト開(ぼゝ)の奥(おく)から湯(ゆ)のやうな淫水(いんすゐ)がへのこのあたまへどく〳〵〳〵男(おとこ)もハア〳〵スウ〳〵
ト遣(や)つてもなへぬ腎張(じんばり)陰茎(まら)ずぼり〳〵ト大(おゝ)ごしに奥(おく)から口(くち)までこすりたて子宮(こつぼ)
をまとにつきこくれば女(をんな)はハア〳〵スウ〳〵トむしろの上(うへ)をもちまはりはめをはづした
大(おゝ)よがり淫水(いんすゐ)あぶれてどこもかもぬら〳〵ぬる〳〵どろ〳〵〳〵ふたりが喜悦(よがり)の鼻(はな)
息(いき)はふきすさびたる松風(まつかぜ)の音(おと)にもましてすさまじき

BnF.

浮世
  五十四帖 上
源氏

宇喜豫
 源氏
    上の巻

しら鷺(さぎ)の
   しらずと
 人に
  こたへても
  物(もの)おもふ姿(すがた)
       かくす
        よし
          なき

源氏(げんじ)帚木巻(はゝきゞのまき)雨夜(あまよ)の品定(しなさだ)めに。
人(ひと)の見(み)及(およ)ばぬ蓬莱(ほうらい)の山(やま)。あら海(うみ)に
いかれる魚(うを)。からくにのはげしきけものゝ
かたち。目(め)に見(み)えぬ鬼(おに)の顔(かほ)など。ものおそろ
しくかきなせば。誠(まこと)の形(かたち)の是非(ぜひ)は知(し)らず。只(たゞ)見(み)し
所(ところ)勢(いきほ)ひありて。人毎(ひとごと)にまづ思(おも)ひつくものぞとて。
心(こゝろ)のうちは知(し)らずもあれ。うち見(み)。粋(すゐ)に花(はな)やか
なる。女(をんな)の上(うへ)に是(これ)を喩(たと)へ。人(ひと)の常(つね)に目馴(めなれ)たる

遠山(とほやま)のたゞすまひ木(こ)だち物(もの)ふかく家(いへ)居(ゐ)まぢ
かきあたり。籬(まがき)のうちにどこまやかに心(こゝろ)をつけて
能(よく)かきたらんを。実殊(じつ)なる女(をんな)に比(ひ)しけるこそ。
実(げ)に此(この)是(みち)の分知(わけし)りなるべし。手(て)書(かく)わずも
これにおなし。爰(こゝ)かしこの点(てん)をはねちらしたる。いか
さま見事(みごと)に思(おも)はるれど。心(こゝろ)正(たゞ)しき時(とき)は筆(ふで)たゞしと。
格(かく)を乱(みだ)さず心(こゝろ)をこめしは。只(たゞ)見(み)。さまでの手迹(しゆせき)に見(み)
ねど。かの刎散(はねちら)したるに並(ならぶ)れば。見(み)るほどに見(み)ざめせず。

芸能(げいのう)さへに実躰(じつてい)にしかとなきにまして女(をんな)の
上(うへ)にをや。人(ひと)の心(こゝろ)の花染衣(はなぞめごろも)に。粋風(すゐふう)の見(み)せかけ
姿(すがた)。上辺(うはべ)ばかりの仇(あだ)なる色(いろ)は。一期(いちご)の妻(つま)とは
つゞむまじきと。さしも粋好色(すゐこうしよく)の
馬(うま)の頭(かみ)も。指喰(ゆびくひ)。木(こ)がらしの女(をんな)に手(て)
ごりしたる過去(こしかた)話(ばなし)に。光君(ひかるきみ)を始(はじ)め頭中将(とりのちうじやう)
惟光(これみつ)などを笑(ゑ)つぼに入(い)らせし詞(ことば)をかり。今(いま)や
世上(せじやう)の処女(をとめ)のさま〴〵。上(かみ)。中(なか)。下(しも)の品(しな)をわけ。五十四帖(ごじふよじやう)の

行方(ゆきかた)を。心(こゝろ)のまに〳〵説(とき)かけしがいかにせん紙数(しすう)に
限(かぎり)あるをもて。いまだ半(なかば)に三巻(みまき)となりぬ。されば
残(のこ)りの二十七 帖(でふ)大尾(たいび)の夢(ゆめ)の浮橋(うきはし)まで。只(たゞ)夢(ゆめ)のまに
編(へん)を続(つぎ)。五十四帖(ごしふよでふ)を全部(まつたう)して。兼(かね)て開好(ぼこう)を
   御贔屓(ごひゝき)の諸君(しよくん)の御意(ぎよい)にいらばやと。
    扇(あふぎ)を笏(しやく)におつとつて。彼(かの)馬頭(うまのかみ)が
   口真似(くちまね)を。序言(じよげん)にかへて爰(こゝ)にしるしつ
                   淫 水 亭

〽もう
このごろ
ではいたい
ことはある
   まいが
〽イヽエ。そして
いつそ
もう〳〵
うれし
うご
ざい


【右頁】
〽床(とこ)の海(うみ)にいき
かう気も目に
見へぬこつぼの
内とはいへど
ひとの仕およば
      ぬ
蓬莱(ほうらい)の
嶋田(しまだ)わげ
その玉門にも
さま〴〵品の
あるものかな

〽も
つと
お入
 れ
あそ



【左頁】
〽どう
ぞわた
くしを
ほんまに
なさつて
下さい
まし

【右頁】
〽蝉(せみ)のこへを
 きゝながら
 こゝろもちよく
 午睡(ひるね)をもよ
  ほしたが
  もう七ツ
  さがりと
  見へる
 日も西(にし)に
 昼(ひる)のあつ
さをとりかへす
とは此ときだ
どうもいへぬ
 こゝろもち
     の
    うへ
    寝(ね)
    起(おき)
    と
   いふ
  もの
   で

【左頁】
とかく
おへるには
  こまる
 もう
あつさは
とりかへ
 すし
とりかへし
ついでに
夜前(ゆうべ)の
仕(し)のこり
   を
とり
 かへそう

 〽どういた
     そう
  わたしを
     むりに
 此様(こんな)ものへのせて
アレサおちそうで
いつそこわい
そして
 こういふ所(ところ)を
ひとに
  見られる
     と
 はづかしい
     ねへ

〽垣根(かきね)にしろく
  ほの〴〵と
    花の
   夕がほ
   夕げ
   しやう
  うつくしい
 此 顔(かほ)で
こうもおれを
まよはしたる
これはどうも
 たまらぬ〳〵
人のこぬうち
ちよつと〳〵
〽アレおよしよ
 おもてなかで
どうしたもんだへ
エヽモウ
 わたしやア
はづかしい
    ねへ
 〽それでも
  ぬら〳〵
   でた
  ようだ
    ぜ

 〽おぼろ
月夜(つきよ)にく
 ものぞ
なきころたには
あるがわたしならこのおぼろ
  まんぢうにしゝ
  ものはなしと
     よむ
     の
      さ

〽それはこうきでん
とやらのほはどのだとサ
おまへのものはよつ
ぽどふと
どの
 だ
ねへ

〽けふは
おまつりを
  けん
  ぶつに
   きて
  此たび
    は
  この神
   さまの
  おひき
  あはせで
   あらう
そしてかもの
おまつり
   とは
おいらと
 おまいの
  ことサ
〽ヲヤなぜへ
〽ハテ
いとこ
どうし
だから

浮世(うきよ)源氏(げんじ)五十四情(ごじうよじやう)上の巻

        桐壷(きりつぼ)
いときなき初(はつ)もとゆひにながきよをちぎるはじめのうゐこうむりむすぶ
二葉(ふたば)のそれならで思(おも)ひそめにし藤(ふぢ)が枝(え)はおなじ所(ところ)にありながらこだかき
みきにまつはれて手折(たおら)んことも空(そら)おそろしくさりとて思(おも)ひやみがたければ
せめてのことの思(おも)ひ出(で)にとゆかりもとめて春(はる)の野(の)に若(わか)むらさきの壷(つぼ)すみれ
恋(こい)には闇(やみ)のくらまの奥(おく)その垣間見(かいまみ)の折(をり)よりもおさなきものを思(おも)ひわび
いとまめやかにとひおとづれとかくなしつゝよう〳〵とはかりて手(て)もとへうつし
うへ今日(けふ)ぞ妹脊(いもせ)の新(にい)まくら。コレいつまでもそのようにはづかしがることはない
此上(このうへ)はそれがしをまことの親(おや)ともおつと共 思(おも)ひとり何(なに)ごとなりともうちかた
らひかならず心(こゝろ)おき給(たま)ふな。まづうちとけてへだてなくこなたへちかく

寄(よ)り給へと肩(かた)へ手(て)をかけ引(ひき)よすればむらさきはいとゞなをおそろしくもはづか
しくも思(おも)ふものから身(み)もふるひ顔(かほ)にあてたるふりの袖(そで)つゝむにあまる上気(じやうき)の
色(いろ)むねとゞろかすばかりにて只(たゞ)あい〳〵さへ口(くち)のうちあどなきとりなり可(か)
愛(あい)さにそのまゝじつとひきしめて顔(かほ)をかくせし振袖(ふりそで)をむりにおしのけ恥(はづ)
かしがる口(くち)をチウ〳〵吸(すひ)ければ顔(かほ)はます〳〵火(ひ)のごとくむねはどき〳〵手元(てもと)さへ
ふるうばかりの初事(ういごと)ながら日蔭(ひかげ)の豆(まめ)も色付(いろづく)としごろいかにおぼこの生(さ)
質(が)とはいへどはやそろ〳〵と玉茎(なまもの)のかたちも見(み)たく生(なま)ごゝろもしきりに
催(もよほ)す真最中(まつたゞなか)おさな心(ごゝろ)に日頃(ひごろ)よりよいとのごじやと思(おも)ひそめ馴(なれ)まつわり
てしたひたる其(その)男(おとこ)に抱〆(だきしめ)られうれしさこはさはづかしさ。気(き)もうはづりて
わく〳〵するを男(おとこ)はせかずそろ〳〵トせななでさすりいろ〳〵トおさなき心(こゝろ)にあ
ふようなるはなしなどしかくるにすこしは心(こゝろ)おちつくよりいつしかうるほふ心(こゝろ)
の水(みづ)。ひよつと男(おとこ)が知(し)らうかト心(こゝろ)ではぢらうそのけはひそれとさつして

しどけなくみだれし寝間着(ねまき)の下(した)前(まへ)へそつと手(て)を入(いれ)玉門(おんこと)を男(おとこ)はしづかにい
らふにぞなをはづかしさやるせなくむねうちさわぎてせんかたなけれどもと
よりいなにはあらぬ身(み)のじつとこらへているうちに男(おとこ)はなをもかた手にてせ
なをなでつゝいたわりながらまだうい〳〵しきまたぐらにあるかなきかとつ
まみもならぬ小ざねのうへをやわらかく指(ゆび)のはらにてそろ〳〵いぢりやがて割(われ)
目(め)をうかゞへばそのやわらかさ蒸(むし)たての饅頭(まんぢう)とはおろかなこと羽二重餅(はぶたえもち)とも
なんともかともいふにいわれぬ上々開(じやう〴〵かい)ふつくりとして手(て)ざわりのあまりのこ
とのこゝろよさに撫(なで)さすりていたりしがかくてははてじと其(その)手(て)をひき指(ゆび)へつ
ばきをどろりとねやしまたわりこみてわれめをおしわけぬらつくゆびにてその
穴(あな)さぐりそろり〳〵トすゝますれば是(これ)にてはつトむらさきはそのはづかしさか
ぎりなく顔(かほ)をかくして息(いき)ざしも只(たゞ)ならずぞ見(み)えければ片手(かたて)にしかと抱(だき)
〆(しめ)ながらコレこわい事(こと)なないほどにマアじつとしていてみやれ痛(いた)くはじきにい

たいと云(いひ)やれむりな事(こと)することではないかならず気(き)づかひしやるなトいゝつゝ例(れい)
のゆび先(さき)を一寸(いつすん)ばかり入(いれ)かけてそろり〳〵ト気(き)をながくあちこちしづかにいぢ
るうち処女(おとめ)もすこし下(した)はらへ気(き)がめぐりしやぬら〳〵ト薄淫水(うすいんすゐ)を出(だ)しかけ
て玉中(ぎよくちう)しだいにぬらめくにぞ一寸(いつすん)ばかり入(いれ)たるゆびをまたすこししめかけ
だん〳〵深(ふか)くいぢるほどにむらさきはいきだしもせぐるしきほどせわしくなり
いとはづかしげにスウ〳〵トかすかにきこゆる鼻息(はないき)の下(した)から此度(こんど)にぬら〳〵ト湯(ゆ)
よりもあつき淫水(いんすゐ)をしたゝかに出(だ)しかければ男(おとこ)はもはやたまりかね最前(さいぜん)より
おへきつてどつき〳〵ト脉(みやく)高(たか)く火(ひ)のごとくいきりたちその色(いろ)赤(あか)く紫(むらさき)だちし一(いち)
物(もつ)へつばきこて〳〵ぬめらせてさも愛(あい)らしき玉門(ぎよくもん)へ押(おし)あてさまに手(て)にもち
そへぬるり〳〵トこね廻(まは)しやがて図星(づぼし)へあてがひていろ〳〵すれど雁首(かりくび)か蓋(ふた)に
なつてはいりかねせめてはあたまばかりもとさま〴〵に気(き)をもめども鈴口(すゞぐち)が半(はん)
分(ぶん)ほど穴(あな)の中(なか)をのぞいたばかりどうしてみてもはいらねばまづ鈴口(すゞぐち)をつつこみ

置(おき)わきの下より両手(りやうて)をまはし肩(かた)をおさへて心見(こゝろみ)にぐつとひとつおしてみれ
ば。アイタ。トいゝてのり出(いだ)す。こゝまでははづかしさにこらへて声(こゑ)もださがりしがたまり
かねてや。アーどうもわたくしはアヽいたうございますトあるかなきかのふるへごへ男
はすでに此 期(ご)にいたり此まゝにもやみかたく〽はじめはちつといたいものじやがすこ
ししんぼうしてみやれ直(じき)に後(あと)ては美快(よく)なるものじやトぬうウ〳〵トおしければ
少(すこ)しはいりし塩梅(あんばい)ゆゑそつと手(て)をやつもさぐりて見れどあたまはおよそは
いりしが雁(かり)のひらきがつかへてはいらず是はとても急(きふ)にはゆかじトまづ此 夜(よ)は
是(これ)ぎりに入(いれ)ずに仕舞(じまひ)夫(それ)よりさま〴〵娘(むすめ)をいたわり二晩(ふたばん)三晩(みばん)うちかゝり
て第四日目(だいよつかめ)の夜(よ)によう〳〵トかりくびがはいりしかばサア是(これ)からはもうらくじやコレ
もうさのみ痛(いたみ)はせまい〽ハイ〽それみやれまんざらなものでもあるまいがやアヽ
どうも中のやわらかさはどうもいへたものではないトいかにもしづかに小腰(こごし)
につかへばむらさきも今(いま)ははや心(こゝろ)もすこし落付(おちつい)てはづかしながら男(おとこ)のする

まゝ自由(じゆう)になつているうちにだん〳〵陰茎(へのこ)が深(ふか)く入(い)りはじめいたさに引(ひき)かへ
て其(その)心地(こゝち)よさうれしさにしきりにうるほふよがり水男は猶(なほ)も開中(かいちう)をしづかに
へのこでうかゞへば〆(しめ)るがごとくやわ〳〵としごく気味(きみ)よさこゝろよささすが好色(かうしよく)
手(て)だれの身(み)にも是(これ)までおぼへぬあぢわひにこらへかねてハア〳〵〳〵鼻息(はないき)あ
らく早腰(はやこし)に思(おも)はずふかく突込(つきこみ)てどく〳〵〳〵ト気(き)をやりしまいまづ引(ひき)ぬいてほ
つと息(いき)是(これ)ぞ妹脊(いもせ)の初(はつ)ちぎりたがひに心(こゝろ)とけあふてかわるまへぞへかわらじと
かはすことばのすゑかけて幾千代(いくちよ)永(なが)く契(ちぎる)らん
        箒木(はゝきゞ)
数(かず)ならぬふせ屋(や)におふる名(な)のうさにあるにもあらでと詠(ながめ)たる箒木(はゝきゞ)目(め)さ
へうち流(ながし)降(ふり)くらしたる庭(には)もせをながめて雨戸(あまど)をもくらずともし火(び)のもとに
うちくつろぎて御心(おんこゝろ)知(し)りの太郎高直(たらうたかなほ)と世(よ)の中(なか)の色事咄(いろごとばなし)などかたみに物(もの)がたり
興(けふ)じ給ふ折(をり)から例(れい)の馬之丞(うまのじやう)来(きた)りいよ〳〵はなしに身(み)が入(いり)後(のち)は女(をんな)の品定(しなさだめ)はて

は烏丸(からすまる)なる枇杷印(びはしるし)のいたづら娘(むすめ)にうちこみて早蕨(さわらび)の手(て)をはなるゝやと詠(よみ)
かけたる指(ゆび)喰(くひ)のものがたりにみな〳〵興(けふ)に入相(いりあひ)より後夜過(ごやすぎ)までのながばなし
御(お)ひけの時(とき)申(もうし)に皆(みな)〳〵にも休息(きうそく)給はりそのまゝ閨(ねや)に入(い)り給ひしが雨(あめ)はます〳〵
降(ふり)しきりていとしめやかなる閨(ねや)に肌(はだ)さびしく宵(よひ)の程(ほど)よりの色(いろ)ばなしにて
しきりに淫心(いんしん)催(もよほ)す折(をり)しも二葉(ふたば)のまへより御(おん)つかひとして御腰元(おこしもと)の中空(なかぞら)が
まいりしをよきさいわいと引寄(ひきよせ)給ふ時(とき)藤(ふぢ)の方(かた)よりも御尋(おんたづね)に杉(すぎ)ばへの代(かはり)として氷(ひ)
室野(むろの)といふおこしもと菓子(くわし)くだものを送(おく)りけるに是(これ)もまたさいわいなりととゞ
め置(おき)まづこゝろみに此ふたりの玉門(ぎよくもん)の品定(しなさだめ)をして見(み)んと閨(ねや)の戸口(とぐち)に海老錠(ゑびぢやう)
をおろし〽かよういたせば両人(りやうにん)ともに迯(にげ)るとも道(みち)なかるべし中空(なかぞら)はうちわの事(こと)
ひむろのは藤(ふじ)の方(かた)よりの御使(おんつかひ)なればまづ此(この)かたよりもてなさん其(その)馳走(ちさう)には我(わが)
所持(しよぢ)の松茸(まつだけ)を手料理(てれうり)してふるまうべしと最前(さいぜん)よりおへきつたる陰茎(へのこ)を
いだして見(み)せければひむろのは兼(かね)てより惚(ほれ)ぬいていたれどもおよばぬ事(こと)と思(おも)

ひつゝが今宵(こよひ)はからず此 次第(しだい)其上(そのうへ)ことに勝(すぐ)れたる御一物(おんいちもつ)をこゝろよくおやし給ふを
見(み)るよりもとゞろく胸(むね)ともろともに先走(さきばし)りの淫水(いんすゐ)出(いで)股(また)ぐらはいちめんにぬら
ぬらづき〳〵熱(ねつ)しきり嬉(うれ)しさまぎれに此方(こつち)からすぐに抱付(たきつき)交(し)てもらひたく
思(おも)へどもさすがに中空(なかそら)が見る目をかねもぢ〴〵としている所(ところ)ひきよせてくぢり
かけるにはやにちや〳〵ぬら〳〵と上(うは)すべりしてらちなければその侭(まゝ)へのこをの
そませてつはきもいらずぬつと入ればまだ生物(なまもの)もたび〳〵は通(とほ)さぬしるし
あらはれてすこしくきしみてぬら〳〵ト半分(はんぶん)ばかりはいりしに中やわらかくあ
たゝかにてしまりもかたく一 物(もつ)を喰(くひ)きるごとき心地(こゝち)なれば上々(しやう〴〵)吉の位(くらゐ)は
慥(たしか)にありと思ひながらそろり〳〵とつかひかけやがてしつくり根(ね)もとまで入けれ
ばひむろのは早(はや)こらへかねスウ〳〵スウ〳〵ハア〳〵トしきりにすりつけ中空(なかぞら)が見(み)るをもい
とわず喜悦(よがり)なきたちまちどく〳〵どく〳〵ト湯(ゆ)よりもあつき淫水(いんすゐ)が子宮(こつぼ)の
奥(おく)よりはしり出(いで)陰茎(へのこ)のあたまへかゝる気味合(きみあい)是(これ)は大(しろだい)【大は白抜き文字】ぐらゐのほうひは付(つけ)ても

にくからじト女(をんな)にしたゝか気(き)やらせて其(その)身(み)はいまだやらぬうち中空(なかぞら)をこゝろ
みんとへのこ引(ひき)ぬき中空(なかぞら)の手(て)を握(にぎ)つて引(ひき)よせれば是(これ)は中(なか)〳〵日頃(ひごろ)より惚(ほれ)てゐ
るとはまだな事(こと)此(この)君(きみ)ならば命(いのち)でもおしまぬほどのはりこみながら人目(ひとめ)の
関(せき)をこへかねて色(いろ)にも出(いだ)さずいたりしが夜(よ)をかけてのこのおつかひはねがふ処(ところ)と
飛(とび)たつばかりこよひこそ日頃(ひごろ)の思(おも)ひをうちあけて是非(ぜひ)とも一番(いちばん)交(し)てもらひ
たくどうぞさせたい〳〵ト思(おも)ひ込(こん)で来(きた)りしに今(いま)目前(もくぜん)にて氷室野(ひむろの)をとぼすを
見(み)ては猶(なほ)さらに心(こゝろ)をみだし気(き)もうつとりふたりのよがりをもらひなき思(おも)はず
鼻息(はないき)出(で)る処(ところ)を引寄(ひきよせ)られて其(その)まゝに開(ぼゝ)をくぢられ気(き)もとろけうつゝ心(ごゝろ)
に上気(しやうき)した頬(ほう)おしあてれば心得(こゝろえ)て口(くち)を吸(す)はれるうれしさきみよさくぢられた
ばかりてさへもうどく〳〵ト気(き)をやれば〽是(これ)はまたけしからぬはづみようかなさら
ば本物(ほんもの)にてうかゞはんト今(いま)ひむろのにやらせたばかりまだ気(き)のいかぬ一物(いちもつ)なれ
ばいよ〳〵おへきり筋(すぢ)ふとくどきん〴〵トはねかへる陰茎(へのこ)をおさへてぬつと入(いれ)

ればさいぜんよりわけもなくぬら〳〵どろ〳〵出(だ)したる開(ぼゝ)さすがの大物(おゝまら)いつときに
毛際(けぎは)までこゝろよくぬつとはいれば中空(なかぞら)はハア〳〵ト身(み)をもがき何(なん)といつてもまだ
としは二九(にく)にたらざる玉門(ぎよくもん)なれば頬返(ほうがへし)もならぬほど開(ぼゝ)いつぱいにはびこる一(いち)
物(もつ)時(とき)に不思儀(ふしぎ)や開中(かいちう)の肉合(にくあい)いちめん一(いち)もつにからみ付(つく)がごとくにて抜差(ぬきさし)する
たびすぽ〳〵ト雁胴中(かりどうなか)にまとひ付(つき)吸込(すひこむ)ようなる味(あぢ)わひは是(これ)なん世(よ)にいふ
蛸(たこ)ならめト興(けふ)に乗(じやう)じて大腰(おほごし)にすり〳〵トつき廻(まは)せば夢中(むちう)によがりハアアヽ〳〵ト
身(み)をもだへ尻(しり)をもぢりて気(き)をやる淫水(いんすゐ)あぶれながらも一物(いちもつ)をくわへてはなさ
ぬ自然(しぜん)の上開(じやうかい)男(おとこ)もひたと一物(いちもつ)を喰〆(くひしめ)られて思(おも)はずもハア〳〵〳〵トよがり
の鼻息(はないき)側(そば)に見(み)ている氷室野(ひむろの)もともに正体(しやうたい)とりみだしたまりかねてすり寄(よる)
を男(おとこ)はすかさず手(て)を延(のば)し気(き)をわるがる氷室野(ひむろの)が開(ぼゝ)をしきりにくぢるにぞハア
と声(こゑ)あげ玉門(ぎよくもん)をすりつけ〳〵息(いき)をつめくぢる手(て)さきへぬら〳〵〳〵男(おとこ)も是(これ)に
て一物(いちもつ)へぐつと気(き)をもち中空(なかぞら)が開(ぼゝ)の中(なか)にていよ〳〵いかり雁先(かりさき)するどくひらくに

つけぬきさしするたび開中(かいちう)の道具(たうぐ)を雁(かり)にてかき出(だ)すことくたがひの気味(きみ)よさ
こゝろよさハア〳〵ハア〳〵フウ〳〵〳〵。スウ〳〵ムウ〳〵フウ〳〵〳〵ト三人一度(さんにんいちど)に気をやりてがつかりつ
かれてホツト溜息(ためいき)藤(ふぢ)の方(かた)にも二葉(ふたば)にも使(つかひ)のかへりを待(まち)わびんトなはれかたな
き両人(りやうにん)に仕度(したく)直(なほ)させかへしやりまづ中空(なかぞら)の玉門(きよくもん)を大上々吉(たいしやう〳〵きち)と位(くらゐ)をさだめ猶(なほ)
是(これ)よりは外々(ほか〳〵)のおくの女(をんな)の玉門(ぎよくもん)を品さだめしてたのしまんト其夜(そのよ)は猶(なほ)も降(ふり)しきる
雨(あめ)の音(おと)を聞(きゝ)ねいりにさすがにくたびれまとろみ給ひぬ
        空蝉(うつせみ)
うつせみの身をかへてける木(こ)のもとに涼風(すゞかぜ)かよふ夏気色(なつげしき)あつき恵(めぐみ)の代に住(すめ)ば
栄耀(ゑよう)に倦(あき)てうき旅(たひ)も浦(うら)山しさの江嶋詣(しまもうで)是(これ)もうはもり己(おの)が住家より相模(さがみ)の
方角(はうがく)へ今年(ことし)は方(はう)がわるしとて方(かた)たがへト理屈(りくつ)をつけ知音方(しれるかた)の別荘(へつそう)なる隠居(いんきよ)に
右をたのみ置(おき)きのふの夕(ゆふ)より此(この)隠居所(いんきよじよ)へとまりがけ爰(こゝ)より出立(しゆつたつ)するつもりは二三日(にさんち)
此(この)かたこの隠居(いんきよ)へ泊(とま)り居(ゐ)るおもやからの娘客(むすめきやく)是(これ)をせしめん下心にてさてこそ斯(かく)は

はかりしか其(その)計略(はかりごと)図(づ)にあたり夜前(ゆうべ)うま〳〵手に入たるに爰(こゝ)の隠居(いんきよ)は碁(ご)が道(だう)
楽(らく)にて今日(けふ)外(ほか)方(かた)に碁会(ごくわい)ある事 承知(しやうち)なれは〽兼(かね)ておはなしの碁会(ごくわい)是非(ぜひ)
御出ならは今(いま)一日(いちにち)のばしお留守(るす)をせんといへば隠居(いんきよ)は大(おほき)によろこび夜前(やぜん)のことは夢(ゆめ)
にも知らず〽いつはともあれ今日(けふ)はぜひゆかねばならぬが孫娘(まごむすめ)がたま〳〵泊(とま)りに
来(き)ているをひとり置(おい)ても行(ゆか)れずどうしたものトあんじた所(ところ)それなればわたしも
安心(あんしん)孫(まご)めに例(れい)の芝居(しばゐ)はなしなとして聞(きか)せて下(くだ)されそのお礼(れい)には昼(ひる)は大(だい)
金の蒲焼(かばやき)夕飯(ゆふはん)は百川(もゝかは)へわしが行がけに言付(いひつけ)て行(ゆき)ますト隠居(いんきよ)はよろこび出(いで)て行(ゆく)。
扨(さて)も是(これ)は江(え)のしまの弁天(べんてん)さまの御利益(ごりやく)まだまいらぬ先(さき)から能事(よいこと)だらけ実に
開運(かいうん)をさづけ給ふとめつそうなる御利生(こりしやう)かなト飯(めし)たき権助(ごんすけ)の目(め)をしのび朝(あさ)涼(すゞ)
のうち一ばん出(で)かけ朝(あさ)やりによがらせければ娘(むすめ)もうれしく今日(けふ)一日を百とせのおもひ
にむつびかたらひけるはや昼前(ひるまへ)と思ふころ浮世小路(うきよせうぢ)の鰻屋(うなぎや)の男〽ヘイ大金(だいきん)て
ごさりますとあつらへの蒲焼(かばやき)も来りければ娘(むすめ)もともに権助(ごんすけ)に言(いひ)つけて酒燗(おかん)を

つけさせるやう酒(さけ)道具(だうぐ)を出(いだ)すやう早酒(はやさけ)ごとになれど娘(むすめ)は下戸(げこ)なり。男(おとこ)思(おも)ふ
は権助(ごんすけ)におもいれ呑(のま)せ酔(よひ)だおれにしておいてその間(ま)にゆるりと楽(たの)しまんト娘(むすめ)に
ものみこませ二人(ふたり)して権助(ごんすけ)にむしやうやたらに呑(のま)せるに下地(したぢ)は好(すき)なり御意(ぎよい)はよし
ぐつすり酔(よつ)たる大生酔(おほなまゑい)そのまゝ勝手(かつて)の隅(すみ)へ行(ゆ)きたおれたなりの大(おほ)いびきし
すましたりと思(おも)へとも権助(ごんすけ)にのませんとて男(おとこ)もだいぶん呑過(のみすご)しついとろ〳〵ト
一(ひと)ト寝入(ねいり)娘(むすめ)はそこら取片付(とりかたつげ)【ママ】もう男(おとこ)がおきるかと見(み)れども是(これ)もねいりこみ娘(むすめ)は
すこしあてがちがひ只(たゞ)いたづらに股(また)ぐらをぬらせつかせてとやかうと思(おも)ふほど猶(なひ)
玉門(ぎよくもん)がずき〳〵うづけどよく寝(ね)ているをさすがにも。起(おこ)さんこともはづかしく。さも交(し)
度(た)そうに思(おも)はれんトこらへているほど淫水(いんすゐ)が汗(あせ)とひとつにぬら〳〵びちや〳〵兎(と)
角(かく)するうち永(なが)き日(ひ)のあつさもよほどさるの刻(こく)娘(むすめ)はいつそぢれつたく目覚(めざめ)よ
うに物音(ものおと)させれば男(おとこ)はふつと目(め)をさましなむさん思はず寝過(ねすご)したト有無(うむ)をも
いわず娘(むすめ)をおしふせやにはに股(また)ぐらひきまくり寝起(ねおき)にぬつとおへかへりしへのこをあて

がひあらけなく突込(つきこま)れるそのうれしさ気(き)をもみぬいたる淫水(いんすゐ)が一度(いちど)にぶつ〳〵
ぷウ〳〵トきんたまぎはまではしり出(だ)す男(おとこ)も気(き)をせき早腰(はやごし)にこんかぎりとりの
めせばつゞけ〳〵おびたゝしく気(き)をやる娘(むすめ)のよがり顔(がほ)男(おとこ)は猶(なほ)も大(おほ)ごしにすかり〳〵とぬ
きあげるに雁(かり)のひらきがむしやうにこすれぞく〳〵するほど能(よく)なると思(おも)ふとその
まゝツウ〳〵〳〵ドツク〳〵ドツク〳〵〳〵ト我身(わかみ)ながらもとこ迄(まで)出(て)るかと思(おも)ふばかりにとめどもなく
淫水(いんすゐ)したゝか出(いで)けるがやかて十分(ぢうぶん)やりしまひ一ト息(いき)ついていたりしがまたそろ〳〵トむ
しかへしてさへかへる喜悦(よがり)ごゑふたりの鼻息(はないき)権助(ごんすけ)が寝耳(ねみゝ)に入(いつ)て目(め)をさましなん
でもあやしい物音(ものおと)とそろ〳〵一ト間(ま)をうかゝへばふたりは夫(それ)と心付(こゝろづき)ずぼりトぬいた。も
ぬけの陰茎(まら)空蝉(うつせみ)ならぬうづく身(み)のうまい楽(たのしみ)せみしぐれぬいた股(また)ぐらふくまも
なく娘(むすめ)はそつと身(み)をすりぬけふすまの蔭(かげ)へこがくれぬ
       夕顔(ゆふがほ)
よりてこそそれかとも見(み)めたそがれにほの〳〵見(み)ゆる夕化粧(ゆふげしやう)花(はな)の顔(かほ)ばせほんの

りと色(いろ)香穂(かほ)に出る合惚(あいほれ)に〽もう日(ひ)が暮(くれ)るに何をしておいでだ大かたかあい人
でも待(まつ)ておいてのだらう〽ヲヤにくらしいわたくしはそんなものはございませんよそし
てわたくしのやうなものにかまいてはございませんのさ〽ヲヤ〳〵うまくおつしやるもん
だねもしかまいてがあつたらどうなさる〽あるはいやなり思ふはならすさ〽それご
らんなさいわたしらがやうな者(もの)がうつかりかまふととんだ恥(はぢ)をかくところであつた
〽アレおまいさんに恥(はぢ)をかゝせるといついゝましたへ〽それではわたしらがかまつても
はちをかゝせないとおいゝのかへ〽それでもわたくしはそんな事はそんじませんもの
を〽それやつぱりおいやだらう〽そうぢやアないがねトあたりを見廻し。はづか
しいものを〽ほんとうにさうかへエゝどうもこたへられないよトいゝつゝそこへおしこかす
にあたりをはゞかり恥(はづ)かしがるをむりに割込(わりこみ)玉門(ぎよくもん)へつばきへつたりねやしつけおの
れの陰茎(へのこ)のかり首(くび)へもこて〳〵つけておしあてがひぬウう〳〵と大陰茎(おほまら)を半分(はんぶん)
ばかりおしこめば〽なんだかいたいようだよ〽あんまりそうでもあるまいト小腰(こごし)にすか〳〵

つかふうちぬめりとともにどうやらかうやら根(ね)もとまでぬつと入(い)る〽アヽもうわたしやア
フウ〳〵〳〵アヽどうせうねへ〽どうでもおまへのかつてにおし〽エヽにくらしいヨトしがみつき
開(ぼゝ)の奥(おく)からかたまつた湯(ゆ)のやうな淫水(いんすゐ)をどく〳〵〳〵ト出(だ)しかけハア〳〵〳〵アヽもう
もうフウ〳〵〳〵〽おまいのようにそうよがられてはわたしももうたまらねへソレいく〳〵
いく〳〵ト互(たがひ)に出(だ)しあふ溜淫水(こゝろのためみづ)垣(かき)に咲(さき)出(で)し夕顔(ゆふがほ)の花(はな)に置(おき)そふしら露(つゆ)もかくや
とばかりおもわれけり
        若紫(わかむらさき)
手(て)につみていつしかも見(み)んむらさきのねにかよひける若(わか)くさやとしさへゆかぬ
生娘(きむすめ)のまだ恋(こひ)しらぬあどなさは手飼(てがひ)の雀(すゞめ)を小女(こをんな)がつい迯(にが)せしとてたちはらた
ちしたひむづる顔(かほ)にさへ愛敬(あいけう)づきし莟(つほみ)のはなまして盛(さかり)の年頃(としごろ)にもなりなん
にはと思(おも)ひやられて兼(かね)てより心(こゝろ)をかけし若(わか)おのこ三五の春(はる)を今(いま)ははや時待(ときまち)
得(え)たる心地(こゝち)してそろ〳〵手(て)なづけ言(いゝ)よれどわけて他(ひと)より晩稲(おくて)な生(うま)れとかく

おぼこのおさな気(ぎ)なれば人形(にんぎやう)手遊(てあそ)ひ草(くさ)ざうし芝居役者(しばゐやくしや)の贔屓(ひゐき)ばなしより
取入(とりいつ)てとう〳〵その気(き)に引寄(ひきよせ)てまだ毛(け)もはへぬ玉門(ぎよくもん)をいらうまでにはしたれども
指(ゆび)一本(いつぽん)さへきしむくらゐ是はちよつとはらちあくまいトさま〴〵工夫(くふう)をめぐらせ
しがあるとき海蘿(ふのり)を煮(に)とろかし衣漉(きぬごし)にして其まゝにぬめり薬(くすり)の手(て)ごしらへ
娘(むすめ)にとつくりとくしんさせ痛(いた)ければ直(すぐ)によすからマアじつとして居(ゐ)て見(み)なトいふ
に娘(むすめ)も日頃(ひごろ)から可愛(かあい)がられるうれしさにおさないだけにけつくの事(こと)思(おも)ひし程(ほど)
は恥(はづ)かしがらず自由(じゆう)になつてまかせるにぞかの海蘿(ふのり)を玉門(ぎよくもん)の割目(われめ)へどろりと
ながしこみへのこへもべつたりぬりつけ押(おし)あてがひてつきまはすにぬらりくらりと
すべり廻(まは)りどこともなしに気味(きみ)よきにや娘(むすめ)もスウ〳〵息(いき)だしするに男(おとこ)はたまら
ず一物(いちもつ)が張(はり)きるばかりにおへかへれば手(て)に持(もち)そへてこねまはすに思(おも)わず知(し)らず雁(かり)
くびが手(て)もなくぬるりとはいりしかば娘(むすめ)はハアトのり出(だ)せどさして痛(いたい)といゝもせず
只(たゞ)もし〳〵と受兼(うけかね)る様子(やうす)なれば〽とうだ痛(いたい)かいたくはもうよそうかト言(い)へどもだ

まつてゐる故にやがてそろ〳〵やりかけるに又(また)雁下(かりした)が一寸五分(いつすんごぶ)ほどはいりしかば〽アレ
〽いたいか〽そんなでもないけれどなんだかいつそせつないよ〽そんならマアいゝ子(こ)だから
もうちつとがまんしな今(いま)にぢきよくしてやるからトどうやらかうやら新開(あらばち)をいた
まぬようにわりおゝせしはかの北山(きたやま)のひじりめんおこなひすませし御法(みのり)にあらで
是はふのりの徳(とく)ぞかし
        末摘花(すゑつむはな)
なつかしき色(いろ)の浮世(うきよ)に老若(らうにやく)のへだてはあらじ愛着心(あいぢやくしん)角前髪(すみまへがみ)の身(み)ながらも
末摘(すゑつむ)としの中(ちう)どしまどこやら残(のこ)る花(はな)の香(か)にふと袖(そで)ふれしその日(ひ)よりたがひにし
たうあぢな縁(えん)〽ひとは浮気(うはき)で上手(じやうず)にいきな三味(さみ)せんでも弾(ひい)たり琴(こと)をよくしら
べたりする人に惚(ほれ)るがわたしは又(また)おまいのように長(なが)うたの三味せんもよくおひきだ
がそれはちやんと棚(たな)へあげて明(あけ)ても暮(くれ)ても御亭主(ごていしゆ)さんばかり大切(だいじ)にかけてあく
せくと針仕事(はりしごと)おまいのごていしゆさんはまことに仕合(しあはせ)ものだと思(おも)ふよそれにつけ

てもおまいのようなおかみさんをもつたらさぞうれしからうトふつと思(おも)ひそめたのが
わたしのいんぐわさつい道(みち)ならぬ事(こと)になつたがおまへは主(ぬし)ある身(み)わたしは年(とし)もいか
ない身(み)けつく思ひの種(たね)をまいたようなものだねへ〽オヤマアとしもいかないおまいに
左様(さう)いわれるとわたしは何(なん)ともいゝようがないよわたしもほんにすまない事(こと)と思(おも)つては
いるけれどどうした事(こと)かせんどふつとおまへとあんな事(こと)をしてからもう〳〵かわゆくて
かわゆくてどうもこうもならないといふもほんにおまへのいふとほりいんぐわとやらだよ
今日(けふ)はわたしの内(うち)の人(ひと)か二酔(じすゐ)さんにさそはれて向(むか)ふ嶌(じま)へ雪見(ゆきみ)に行(いつ)たから晩(ばん)まで
かへるきづかひはないからゆつくりとあそんでゐてもよいよそして此(この)雪(ゆき)では誰(だれ)もくる
ことてはないからマア一寸(ちよつと)二階(にかい)へおいで〽今日(けふ)は二階(にかい)へいかずともいゝぢやアないかへ〽そんなら
爰(こゝ)の中仕切(なかしきり)を一寸(ちよつと)しめてさアレサまくんなさんなマアわたしが能(よい)ようにして上(あげ)るから
ト若(わか)しゆの下(した)まへゝ手を入へのこをにぎると木(き)のやうにおやしている〽ヲヤモウこんなに
おやしてさトうれしそうににつこりしながら股(また)ぐらをほつかりひろげすつはりと

割(わり)こませつはきもつけずあてがはするにかねて気(き)ざしてぬら〳〵トぬらつかして
いる気(き)のわるさとぼしざかりの中(ちう)どしまの少(すこ)し毛(け)ぶるの上開(しやうがい)へわかしゆながらも
美事(みごと)な一物(いちもつ)ぬるりと入(いれ)ればいんすゐのぬめりでわけなく根(ね)もとまでつぶ〳〵〳〵ト
はいりしきみよさ〽エヽもうかわいゝのうト両方(りやうはう)よりひしげるばかりだき〆(しめ)あひ
口(くち)を吸音(すふおと)チウ〳〵〳〵
        紅葉賀(もみぢのが)
ものおもふにたちまふべくもあらぬ身(み)の袖(そで)につゝめどおのづからほにあらはるゝ
紅葉狩(もみちがり)〽みんなのおつかアたちはとうした〽皆(みんな)がたいそう酔(よつ)てさわいだりおばさん
がおどつたりしている間(ま)にそつとぬけて来(き)たのだよ〽そうかそりやアいゝが此(この)間(あひだ)から
はなさなければならねへ事(こと)があるといつたがなんだ〽アヽその事だがねもう〳〵
わたしやア苦労(くらう)になつてならないから〽そりやア気(き)がかりだ早くいつて聞(きか)せねへ
〽わたしやアどうしたらよからうかと思ふよ〽なんの事(こと)だなはやくいゝねへな〽アノウ

わたしやァね〽エヽ〽今月(こんげつ)で四月(よつき)ばかり月のものを見(み)ないからよ〽エ○なむさんおれこん
だか。そいつァ大(たい)へんだ〽ソレおまいがそんなにびつくおしだから今迄(いまゝで)はかくしていたがも
ういよ〳〵それにちがひないようだからどうせうかと思(おも)ふよ〽どうせうと言(つ)てとても
此事がおめへの処(とこ)のちやんに知(し)れると大(おほ)さわぎだからいつそ二人(ふたり)でにげようぢやァね
へか〽おまへは聞(きく)とぢきに其様(そんな)に大さわぎをするがマア落付(おちつい)でどうか考(かんが)へて見てお
くれなわたしが思(おも)ふにはおまいもまだ独身(ひとりみ)だしわたしもどうせ何処(どこ)かへ縁付(かたづけ)な
ければならないトおとつ さ(〇)んもおつかさんもいつているのだからおまいの所(とこ)から表(おもて)むき
でいゝこんでそれでおまへの処へもいかれないようならにげるかどうかしようと思
ふよとてもわたしやァほかへかたづく気(き)はないものを〽なるほど寝耳(ねみゝ)に水(みづ)でそこへ気か
つかなんだそう相談(さうだん)がきまつたら久(ひさ)しぶりで一寸(ちよつと)出(で)かけようぢやァねへか〽おまいも
マアほんとうに気楽(きらく)ぢやァないかわたしをこんな身にさせておいてわたしやァ苦労(くらう)で
くらうで夜(よる)もろくに寝(ね)られないほどだわね〽つまらねへ事をいふぜ夜(よる)寝ずにいたと

つてそれが直(なほ)りはしめへしどうせ孕(はらん)だものを今(いま)さら交(し)ねへからといつてはじまら
ねへひとり孕やァもうはらむきづかいはねへから能(いゝ)ぢやァねへか〽それもそうだねへ
しかしこんなところぢやァ〽かういふ中(なか)で所(ところ)のよりきらいをしてはいられねへ夕(ゆふ)がたまで
はまだ間(あひだ)があるからゆつくりとしても誰(だれ)も爰(こゝ)へくる気(き)づかひはねへはなトはなしの
うちよりおへきつた陰茎(へのこ)へつばきをつけて〽マア此(この)足(あし)をこつちへ斯(かう)またぎねへトまたがせる
ひやうしにへのこのあたまがてうど開(ぼゝ)の口(くち)へあたると其(その)まゝぐつとこしを〆(しめ)るとねもと
までぬつとはいる〽ハアヽヽアヽよい事(こと)はよいがおなかゞおせたらねんねへがせつなからう〽ま
だそれほどになるものか〽それでもおまいの子(こ)だから大切(だいじ)だよ
        花(はな)の宴(えん)
いづれぞと露(つゆ)の宿(やど)りをわかぬまにをざゝがはらの風(かぜ)ならでさわらば落(おち)ん小笹(おさゝ)
のあられ夜(よる)の桜(さくら)の下雫(したしづく)柳(やなぎ)の糸(いと)の細殿(ほそどの)におぼろ月夜(づきよ)のおもわせぶり〽マア一寸(ちよつと)
爰(こゝ)へ来(き)て御覧(ごらん)なさいよ朧月(おぼろづき)の夜桜(よざくら)ほどいきなものはございませんねへ〽なるほど

おまへのおつしやるとほりだがまだ是(これ)よりいきなものがございます〽是よりよい
ものは何(なん)でございませう〽直(ぢつき)きん所(ぢよ)にあるものさ〽それではアノ山吹(やまぶき)でございますか
へ〽なァに此(この)花(はな)の事(こと)さト女(おんな)のほうべたを指(ゆび)にてちよいとつゝく〽ヲヤにくらしいそんな
におなぶんなさいますなおまへさんこそいきで通人(つうじん)で程(ほど)がよくッておいでなさる
からそれでお月(つき)さまも顔(かほ)をおかくしなさるのでございませう〽おまへこそお世事(せし)
がお上手(じやうず)だ〽ヲヤおせじではございませんまことに真実(しんじつ)からそう思(おも)つておりますは〽そ
れではおたがひにねがつたりかなつたりだトいわせておいて押(おし)のつよいやつだトおわ
らいなさるのであらう〽イヽエほんとうでございます〽イヽエうそ〽イヽエほんとう〽イヽエ
うそ〽イヽエほんとう〽そんならかうしたらうそだとお言(いゝ)だらうト娘(むすめ)の手(て)をじつと
にぎる〽ほんとうだよ〽そんならわたしもほんとうに斯(かう)するがいゝかへトぐつと割込(わりこむ)ひやう
しに最前(さいぜん)よりおやしていた陰茎(へのこ)がふんどしをつきはづし前(まい)の合(あは)せめからぬつト
出(で)るト月の光(ひかり)にて雁(かり)くびがてら〳〵どつき〳〵ト脉(みやく)をうちすさまじくおへきりし

一物(いちもつ)を見(み)て据膳(すゑぜん)に十分(しふゞん)こちから持(もち)かけたはじめには似(に)もつかず此斯(このご)にいたりぶる
ぶるト手(て)もうちふるう尻込(しりごみ)を娘(むすめ)の情(じやう)と男(おとこ)はかあゆくへのこのあたまへこて〳〵とつば
きをつけてのぞますれはこれにてます〳〵むねうちさわぎくわつと上気(じやうき)の桜(さくら)
色(いろ)おぼろ月夜(づきよ)の空(そら)われにながめもふかき夜(よる)の露(つゆ)うるほふ情(なさけ)のたゞなかへ陰(への)
茎(こ)をすつぽりおしあてがひぬつと入(いれ)たるこゝろよさそのまゝすか〳〵つかふうちぬる
りぬるりと奥(おく)ふかく根(ね)もとまではいりしかば女(おんな)はこらへし鼻(はな)いきのたもちがたく
てスウ〳〵〳〵フウ〳〵〳〵ト喜悦泣(よがりなき)男(おとこ)も是にたまりかねしきりに腰(こし)をつかふほどに娘は
たちまち気(き)をやりてどく〳〵〳〵トあぶるゝ淫水(いんすゐ)男(おとこ)も初(はつ)の出合(であい)といゝめづらしけれ
ばこらへ得(え)ずともに喜悦(きゑつ)の鼻息(はないき)もろとも陰茎(へのこ)の胴(どう)がどき〳〵トひゞきわたつ
て気のいゝ淫水(いんすゐ)もれてながれてぬら〳〵ト露(つゆ)のやどりもわかぬまでよがりあふ
こそうれしけれ
        葵(おふい)

はかりなき千尋(ちひろ)の底(そこ)の心(こゝろ)をもあけて見(み)せたき我(わが)思(おも)ひいつか〳〵と待(まつ)うちにけ
ふは卯月(うづき)の中(なか)の酉(とり)の日(ひ)加茂(かも)の祭(まつり)が互(たがひ)の縁先(えんさき)客(きやく)を憩(いこは)す茶屋(ちやや)の奥(おく)にわかき
男女(なんによ)のふたりづれ〽此(この)間(あひだ)はちとかげんがわるいト聞(きゝ)ましたがもうおこゝろよいかへ〽ハイ
まだよろしくもございませんが今日(けふ)おまいさんがこのお祭(まつり)へおいでゆゑ一所(いつしよ)につ
れていつてもらふがよいお祭でも見(み)たらちつとは気(き)の晴(はれ)る事(こと)もあらうとおつ
かさんやおとつさんがおつしやるゆへあなたはおいやだらうとは思(おも)ひましたが〽なに他(た)
人(にん)ではなしことにおまいとわたしはいとこどうしの事(こと)なり何(なに)遠慮(ゑんりよ)がいるものかね
〽おまへさんがそんなにやさしくおつしやつておくんなさるといつそ涙(なみだ)がこぼれてなり
ません〽そんなあわれつぽい事(こと)をおいゝのもやつぱり病気(ひやうき)のせいだからもうそんな
ことはお言(いゝ)でない〽今日はあなたと御一所(ごいつしよ)ゆへ病気もわすれたやうでございます
〽なにわたしが病気の支配(しはい)でもしやアしまいし〽イヽエわたしの病気(びやうき)はおまいさんゆゑ
でございますものどうせなをるきづかひはございません〽エアノわたしに〇そうしてお

まへの両親(りやうしん)も〽アイうす〳〵承知(しやうち)てけふの首尾(しゆび)親(おや)のお慈悲(じひ)はうれしけれど此上(このうへ)
おまへにきらはれたらわたしやいきてはいぬ心(こゝろ)〽きらうどころかわたしもとうから惚(ほれ)
た心は此方(こつち)が先(さき)伯父貴(おぢき)が承知(しやうち)の上なれば必竟(ひつきやう)親(おや)のゆるした中(なか)誰(たれ)に遠慮(ゑんりよ)があ
らうかト恋(こひ)の病(やまひ)におもやせし顔(かほ)引(ひき)よせて口(くち)ト口〽エヽうれしいわたしや此(この)まゝ死(しん)でも
よいよ〽どうして死(し)なしてよいものかトまたぐらへ手(て)を入(いれ)れば〽アレこんな所(ところ)ではづかし
い〽もうこうなつてどう此(この)まゝト思(おも)ひ〳〵し玉門(ぎよくもん)へ指(ゆび)を入てくぢるにぞ娘(むすめ)はいつそ上(じやう)
気(き)してはづかしがるをおしこかしひときは太(ふと)くたくましきへのこへつばきをねやしつけとう
とう根(ね)までぬる〳〵〳〵させたい交(し)たいの二人(ふたり)が思(おも)ひすつぱりはれて薄紙(うすがみ)でぬぐつ
てとつたる娘が全快(ぜんくわい)是(これ)より親々(おや〳〵)談合(だんかふ)して従弟合(いとこあはせ)の夫婦中(ふうふなか)いとむつまじく
楽(たのしみ)くらし諸白髪(もろしらが)までそひとげしとなん

浮世源氏(うきよげんじ)上の巻終

BnF.

春色千里の契  下

越中(ゑつちう)卯坂(うさか)明神尻(しり)うちの神(じん)事 
いかにせん
卯坂(うさか)のもりに
みはすとも
君(きみ)がしもとの
数(かず)ならぬ身(み)は
此日(このひ)は祢宜神主(ねぎかんぬし)たちあい
さか木(き)の杖(つへ)にて
是(これ)までいくまでいくたりの
男(をとこ)に犯(とぼ)させたる事(こと)を
たゞし女のしりをまくり
其数(そのかず)ほどたゝく
まつりなり

しりも
い□そしんきや
そのやうにきつう
したら□うやら中(なか)□いたい
やうじや□いな
なに
いてへことよ
□□□□だが
そんなら
かういふ
あんべえに
そもそも
かうしづうに

し□らより
なりそうろ
なによ候(そうろう)
【ご参考まで】
嵐山渡月橋
「ゑゝも
いつそしんきや
そのやうにきつう
したらどうやら中がいたい
やうじやわいな
なに
いてへことは
ねへはづだが
そんなら
かういふ
あんべゑに
それ〳〵
かうしづかに
したらよかろう
なほよい
きみになつて
きたと
それみなせへ
こんなにぬら〳〵
だしちやア
ソレからふかく入ても
いたかアあるめへ

生勢州の二た見ヶ浦
ふ□□
がう□
のあさ
げとさ
をみに
いこふと
□□□たが
このすスアまの
い□とのけしきを
みてあれはのうこしが
ぬけそうだどれの□
い□へんあくのいん□
あやうい□□させやう

【ご参考まで】
勢州
 二タ見ケ
    浦
「ふたみ
がうら
のあさ
けしき
をみに
ゆこふと
おもつたが
このマア
あまの▼▲
いわとのけしきを
みておれはもうこしが
ぬけそうだどれもう
いつへんおくのいんを
お/参(まい)りをさせやう

周防岩国
 錦帯橋
「おれも
いきそう
になつ
たから
かういふあんべエ▲
しきに
ぐいと
ぬきだして
おいてきを
やらねへと子に
なつたとき
めんどうだ

「アレサ
どうしたんだ
のういき
かゝつたとこ
をぬかれて
たまる
ものかな
エゝどう
せう
じれつてへソレ
いくわな〳〵

奥州
 金花山
「わつちやアはづかしい
けれどおまいだから
みせるよそれだが
そんなにおいぢりで
ないきたないから
アレまたいぢつたゆび
をおなめだよ

「さねかたづかからおく
の子つぼのいしぶみまで
くわしく見な
ければならねへさて〳〵としはいかねへが▲
めいしよきうせきのおゝいほゞだ

/越後女(えちごおんな)の/裾張開(すそはりぼゞ)
/千摩伊十紙(せんまいとうし)初編巻之中
  東都     吾妻雄兎子戯編
  ○/一寸結(ちよつとむす)んだ/出雲(いづも)の/帳外(ちやうぐわい)
/再説彼冨次郞(さてもかのとみじらう)はあつたら/夢(ゆめ)を/侍女(こしもと)のお/柳(やぎ)が/為(ため)に/揺起(ゆりおこ)され/腹(はら)
は/立(たて)ども/亦更(またさら)に/詮術(せんすべ)なければ/忙然(ぼうぜん)と/返辞(へんじ)も/為(な)さで居るを見て
お柳は/顏(かほ)を/和(やは)らげて/枕(まくら)の/傍(そば)へ手を/突(つき)つ栁「/慈母(おつか)アさまの/被仰(おつしやい)
ますには/今冨(いまとみ)が/子舎(へや)へ往(いつ)て見たら/小襆(かいまき)一ッで/転寝(うたゝね)をして居るから
/風(かぜ)でも/引(ひく)と/悪(わる)い/眠(ねむ)いのなら/床(とこ)をとつて/実正(ほんとう)に/寢(ね)かして/呉(くれ)と被仰い
ましたサア/貴君一寸(あなたちょつと)お/床(とこ)を/伸(のべ)ませうと/云顏(いふかほ)つく〴〵打見やり冨「ウム/左様(さよう)か

そんなら左様して/貰(もら)うだが/此処(こゝ)に何か有つて/邪广(じゃま)に/成(なつ)て/起(おき)る/事(こと)が出来
ねへ一寸/是(これ)を/取(とつ)くんな柳「ハイかしこまりました/何処(どこ)にで/御座(ござ)います冨「この/小(かい)
/襆(まき)の/裾(すそ)にイヤ〳〵/其処(そこ)ぢやアねへエゝ/不器用(ぶきよう)なト云ながらお柳が手を取
ソレ/此処(こゝ)だと/烈火(れつくわ)のごとくに/勃起立(おへたち)し/男根(へのこ)の/胴中握(どうなかにぎ)らすればお柳は/不(ふ)
/意故愕(いゆゑびつ)くりし/顏赤(かほあか)らめて/差俯(さしうつぶ)く冨次郞は/採(とら)へたる/手(て)を/持(もち)ぐつと引
/寄(よせ)て/委細構(いさいかま)はず/推転(おしころ)ばし/足(あし)もて/小襆打掩(かいまきうちおほ)ひ/脇(わき)の/下(した)から手を
入れて/抱入(だきいれ)ながら/顏(かほ)見つめ冨「お柳/薮(やぶ)から/棒(ぼう)で/膽(きも)が/潰(つぶ)れやうが有
/様(やう)は/今面白(いまおもしろ)い/夢(ゆめ)を見て/居(い)た/所(ところ)をお/前(めへ)が/起したので/其面白(そのおもしろ)い夢を/何(ど)
/処(こ)かへ/無(なく)して/仕舞(しまつ)た/其腹(そのはら)いせにお前に云事を/聞(きい)て/貰(もら)はなけりやアなら

ねへ/否(いや)でも/有(あら)うが/彼様(かう)しなと云つゝ/股(もゝ)を/推開(おしひら)き/横抱(よこだき)に/割(わり)こんで
玉門へ手をやりくぢりながら/頬摺付(ほうすりつけ)て口を吸ば/元(もと)よりお/柳(やぎ)も/惚(ほれ)て居る
/若旦那(わかだんな)の事なれば/夢(ゆめ)かとばかり/嬉(うれ)しくて/早鼻息(はやはないき)をスウ〳〵と云せ
ながらに/抱付(いだきつく)冨次郞はさいぜんより十二分に/気(き)ざせし事/故矢庭(ゆゑやには)に
上へ/乗(のり)かゝり/彼一物(かのいちもつ)をあてがひて二突三突(ふたつきみつき)つき/立(たて)れば/了得(さすが)の/莖節高(かりだか)
/陰門(いんもん)の/左右(さゆう)の/縁(ふち)を/巻込(まきこみ)ながら半分餘りぬるりと/這入(はいる)女は/額(ひたい)に/皺(しは)
を/寄(よ)せ/歯(は)をくひしばつて身をもだえ/腰(こし)を/左右(さゆう)へ/振度(ふるたび)に/陰門(ぼゝ)にて/男(への)
/根(こ)を/喰〆(くひしめ)て/吸抜(すいぬか)るゝかと思ふばかり実に/希代(きたい)の/蛸壷(たこつぼ)なれば冨次郞は
/幻(うつゝ)をぬかし/深(ふか)く/浅(あさ)く/突立々々乳(つきたて〳〵ちゝ)を/嘗(なめ)たり喰ついたり/秘術(ひじゅつ)を/尽(つく)

して/交合(とぼ)しかけるに女は/此時夢中(このときむちう)になり男の/腰(こし)を/太股(ふともゝ)で〆付
ながら身を/振(ふる)はせ「ソレいきますヨ/何様(どう)してまァ/此様(こんな)に/宜(よ)いの御座い
ませうアゝソレ〳〵エゝ/亦(また)いきますヲゝいきます〳〵アゝフウハア〳〵〳〵と/頻(しきり)によがり
たてられて男も今はたまりかね抱きたる手をぐつと〆付冨「/自己(おいら)もまう。ソレいく
いくと云ながら/毛際(けぎは)の/所(とこ)ぎつしり/推込子宮(おしこみこつぼ)の/口(くち)へ/鈴口(すずくち)を/向(むか)はせ/置(おき)てヅキ〳〵
と/男根(へのこ)に/胴脉打(どうみやくうた)せながら湯よりも/熱(あつ)き/淫水(いんすい)をあびせかければハア〳〵と
女は/肩(かた)で/息(いき)するのをみ男も/漸(やうや)く/精(き)をやりしまひホツと/一(ひ)ト/息(いき)つく/折(をり)から特
屋の/拍子木(ひやうしぎ)カチ〳〵カチ/往来(おうらい)の人の/鼻歌(はなうた)
 「/旦那(だんな)はおさんと寢ぬといふおさんは旦那と寝たといふあれ寢たと

 いふ/寢(ね)ぬといふよがりを/聞(きか)れてあらは。とて
/案下再説爰(それはさておきこゝ)に/亦貸本屋(かしほんや)の/甚介(じんすけ)といふ者あり/福禄屋(ふくろくや)へは/親(した)しく
入込冨次郞とは/友(とも)だち同前亦/金木屋(かねきや)も/得意場(とくいば)なればお/八重(やへ)が
事も/能(よ)知る故/豫(かね)てお八重に冨次郞が/恋慕(こひした)ひ居る/様子(やうす)なれば
/折(おり)もあらば/女房(にようぼ)に/取持媒妁(とりもちなかだち)せんと思ふにぞ今日も/多(おほ)くの/荷(に)を/背(せ)
負(おひ)て金木屋の/裏口(うらぐち)から/這入(はい)て其事/云入(いひいる)るに下女は/早速奧(さつそくおく)へゆき
/頓(やが)て出て/来(き)て下女「アノ本屋さん/種々(いろ〳〵)おうり/申(まうし)たいものが有から荷を/持(もつ)て/奧(おく)へ
来ておくれと甚「ヘイ〳〵/畏(かしこま)りましたト/風呂敷包(ふろしきづゝみ)を/重(おも)げに/提(ひつ)さげ奧へ/通(とほ)れば
/此家(このや)の/主人後家(あるじごけ)のお艶/(えん)は/呉竹(くれたけ)の/四十(よとゞ)を三ツ四ツ過したれどまだみづ〳〵と/若(わか)

木なる花にも増せし/顏(かほ)のつや/然(さ)れど作りは/否味(いやみ)なく/古渡(こうとう)じみを/専(もつはら)と
/諸事(しょじ)に/如在(ぢよさい)もなか〳〵に/兼好法師(けんこうほうし)ならねども/傾(かたぶ)く/月(つき)も/面白(おもしろ)しと見
はやす人も/多かる/風情(ふぜい)甚助を/見(み)て/莞尓(につこり)と《割書:えん|》「ヲヤ本屋さん/誠(まこと)に/焦(こが)れて
居ましたヨサア〳〵お/這入(はいり)ニなさい今日は子供や女どもをお寺参(てらまい)りにやつて私し
/一人(ひと)り/留守(るす)ばんだから/寛(ゆつく)り/噺(はな)してお/在(いで)なさいなコレ/婬(いん)や/其處(そと)から風が
来て/寒(さむ)いからビツシャリと/〆(しめ)ておいてくんなアノウそしてお/茶(ちや)をヨ。モシ本屋さん
アノ/爰女七艸(むすめなゝくさ)の/六編(ろくぺん)が/出来(でき)たさうだが/持(もつ)てお出か《割書:甚|》「/漸(やう)やく/此間出(このあいだで)ました
から今日は/封切(ふうきり)をお目にかけませうと/思(おも)つて/持参(ぢさん)いたしました《割書:えん|》ヲヤまァ
嬉しいねへそして/続(つゞい)て/七編(しちへん)も出るのかへ《割書:甚|》「/左様(さやう)で御座いますまう

/近日配(きんじつくば)りに/歩行(あるく)さうで御座います《割書:えん|》「/左様(さよう)かへ/楽(たの)しみだねへ《割書:甚|》「/今日(けふ)
は/色々新板(いろいろしんはん)を/持(もつ)て上りました/是(これ)を/一寸御覧遊(これをちよとごらんあそ)ばせ/作(さく)が/女好菴(ちよこうあん)で/画(ゑ)
を/本所(ほんしよう)が/書(かき)ましたが/誠(まこと)に/綺麗(きれい)に/美(うつく)しく/出来ましたト/三冊続(さんさつつゞ)きの
/笑(わら)ひ/本(ぼん)をうや〳〵/敷其処(しくそこ)へ置ばおえんは何の/気(き)も付(つか)ず《割書:えん|》「マア/大造(たいそう)
見事な/表紙(へうし)だねへと/云(いひ)つゝ/手(て)に/採(と)り/開(ひら)いて見れば/生(いけ)るが如くに画
がきたる/極彩色(ごくさいしき)の/笑(わら)ひ/絵(ゑ)なれば「ヲヤ〳〵まアと云ながら/少(すこ)し/顏(かほ)
/赤(あか)くして/間(ま)を/悪(わる)そうに/一二枚明(いちにまいあけ)て見る/裡亦跡(うちまたあと)から/其処(そこ)へならべる
/三冊(さんさつ)もの《割書:甚|》「/是は/矢張吾妻雄兎子(あづまおとこ)の/作絵(さくゑ)は本所の/弟子(でし)で/御座(ござ)
ますが/師匠(しせう)さまよりもかへつて/能出来(よくでき)て/居(ゐ)/位(くらゐ)でございますト

/一々何(いち〳〵なに)やら/講釈付(こうしやくつき)にて/頻(しき)りに/并(なら)べる/枕双紙(まくらざうし)をお/艶(えん)が/前(まへ)へ/突付置(つきつけおき)《割書:甚|》「モシお/小用所(こようしよ)はあれで御座いましたツけねト/云(いひ)つゝ/立(たつ)て/縁頬(えんがは)の/障子(しやうじ)を
/明(あけ)て/外(そと)へ/出用所(いでようじよ)へ/往(ゆき)たるふりをしてお艶が/容子(やうす)を/窺(うかゞ)ふにお艶は/外(ほか)に/人(ひと)
なければ/双紙(さうし)に見入て所々/面白(おもしろ)さうな所があれば/書入(かきいれ)などよみて見るに
何れの所も大よがりのやりくりこんたんなりければ/思(おも)はず/濡(ぬ)るゝ/禮股(うちもゝ)にふつと
/溜息(ためいき)つく様子を甚介は見てとりて/厠(かわや)を/出来(いでき)しふりにもてなし元の
所へ来て/居(すは)り《割書:甚|》「いかゞで御座います/些(ちつと)は/御意(ぎよい)に/協(かなつ)たのが御座います
かト云れてお艶は本を置「ヲホゝゝ/誠(まこと)に/綺麗(きれい)にかいて在ねへお/蔭(かげ)で
目に/保養(ほよう)をさせました《割書:甚|》「是/御覧(ごろう)じまし/此図(このづ)なんぞは/夫(それ)と見へないで

/居(ゐ)て/何処(どこ)となく/気(き)の/悪(わる)い様(やう)に/出来(でき)て居るのでは/御座(ござ)いませんかト/本(ほん)を
/廣(ひろ)げて見せながらお/艶(えん)が/傍(そば)へ/摺寄(すりよつ)て「まだ〳〵/此処(こゝ)よりか/此一丁(このいつてう)の/二人(ふたり)が
よく/出来(でき)て/居(を)りますしかし/画(ゑ)に/書(かい)たのは/男(をとこ)のも/女(をんな)のも/餘(あんま)り/何(なに)かゞ/大(おほ)き
/過(すぎ)て/成(なり)ませんが/彼様(かう)かゝないと/何様(どう)も/見立(みたて)がないそうで/御座(ござ)いますト本
を/見(み)するに/事(こと)よせてじりり〳〵と/前(まへ)へ/出(いで)お艶が/膝頭(ひざがしら)をひつたり/突(つき)
/付推(つけおし)て見るにそしらぬ/顏(かほ)して/身動(みうご)きせねば/甚介(じんすけ)はまう/占(しめ)たと/思(おも)ひ
ながらもうたぐつて/猶(なほ)うつかりと/手出(てだ)しをせず《割書:甚|》「貴女(あなた)なんぞはまうさつ
ぱりとこんな/味(あぢ)は/忘(わす)れてお/仕舞被成(しまいなさい)ましたらうねへ女といふものは/慎(つゝしみ)
の/深(ふか)いものだが/男(をとこ)には/中(なか)〳〵此事ばかりは/我慢(がまん)いたす事は/出来(でき)ません 

イヤいくぢのない/事(こと)で/御座(ござ)いますえん「/女(をんな)だつて/忘(わす)れて/仕舞(しまい)はしないけれど
/誰(だれ)もかまひてのないので/無拠辛抱(よんどころなくしんばう)をして居るのサ甚「/若構(もしかま)ひ/人(て)が/有(あつ)たら
きいておやんなさるお/積(つも)りで/御座(ござ)いますかト/云(いひ)ながらこは〴〵お/艶(えん)が/手(て)を
とつて/徐(そつ)と/握(にぎ)れば/握(にぎ)らして/何(なん)とも/云(いは)ず/無言(だまつ)て/居(ゐ)る/故(ゆゑ)思(おも)ひ/切(きつ)てずつと
/摺(すり)より/衿(えり)の/処(ところ)へ/手(て)をかけて/女(をんな)の/頬(ほう)へ/頬推付口(ほうおしつけくち)をよすれば/女(をんな)も/亦舌(またした)を/出(いだ)
して/甚介(じんすけ)が/口(くち)へ/一(いつ)ぱいはうばらせ/自由(じゆう)に/成(なつ)て/吸(すは)せるに甚介は/早(はや)たまらず
/節(ふし)くれ/立(だち)し/大男根如亀(おほでれつくによつき)りズンとおつ/立(たつ)をお艶が手を/採握(とりにぎ)らするに
お/艶(えん)はたえて/忘(わす)れたる/此一物(このいちもつ)を/掴(つか)ませられ/心忽地髣髴(こゝろたちまちはうふつ)と/前後(ぜんご)も
/忘(わす)るゝばかりなり/甚介(じんすけ)はお艶が/股(もゝ)へ手を/差入指(さしいれゆび)に/夤縁白縮緬(からまるしろちりめん)の/湯(ゆ)

/具掻分(ぐかきわけ)て/暖(あたゝ)かき/内股深(うちもゝふか)く/手(て)を/差入探(さしいれさぐ)りて見るにシヤリ〳〵とちゞれて
/長(なが)き/陰毛(いんもう)は/臍(へそ)の/所(ところ)まで/生(はへ)のぼり/額口(ひたいぐち)はむつくりと/小山(こやま)の/如(ごと)く/盛上(もりあが)り
/空割長(そらわれなが)く/紅舌短(さねみぢか)く/其様(そのさま)いうにも/大開(たいかい)と/思(おも)はれければ/心(こころ)に/驚(おどろ)き/道(どう)
/鏡(きやう)ならずは/如何(いか)にして/是(これ)が/對人(あいて)にならるべきと心に/少(すこ)しおくれは/来(く)れど
/水風呂桶(すいふろおけ)の/牛蒡(ごぼう)だと/笑(わら)はゞ笑へト/気(き)をはげまし甚「もつと/股(また)を/廣(ひろ)く
してそして/體(からだ)を/彼様被成(かうなさい)と/云(いひ)つゝ/片手(かたて)で/横抱(よこだき)に/膝(ひざ)の/上(うへ)へかゝへあぐれば
えん「まう/彼様成(かうなつ)ては/何様(どう)でも/宜(よい)からお/前(まへ)の/自由(じゆう)にしてお/呉(くれ)と/男(をとこ)の/首(くび)へ
かぢり/付目(つきめ)を/細(ほそ)くして/甚介(じんすけ)が/顏(かほ)を/下(した)からじつと/見詰莞尓(みつめにこり)と/笑(わら)ひ
ながらえん「もつと/此処(こゝ)を/彼様(かう)するのかへト/内股開(うちもゝひら)いて/推付(おしつく)れば/直様二(すぐさまに)

/本(ほん)の/指(ゆび)を/差入(さしい)れ/浅(あさ)く/深(ふか)くくじり/見(み)るに/子宮(こつぼ)の/居(ゐ)ずまい/左右(さゆう)の
びら〳〵/茘枝肉(れいしにく)のぐり〳〵まで/道具立十分備(どうぐだてじふふんそな)はり/開中(かいちう)の/締(しま)りしつくりと
/口元(くちもと)せまく/奧廣(おくひろ)く/世間(せけん)の/人(ひと)の尊(たつと)がる/巾着陰門(きんちやくぼゝ)いふなればこは/案外(あんぐわい)の/幸(さいはい)と
/甚介無上(じんすけむしやう)に/掻(かき)まはせばお/艶(えん)は/数年(すうねん)の/溜淫水流(ためいんすいなが)して/尻(しり)さへぬるゝばかり
えん「/早(はや)く/入(いれ)てお/呉(くれ)よう/誰(だれ)か/来(く)ると/悪(わる)いからヨウ。サア/早(はや)くと云ながら/鼻(はな)いき
せはしく目を/閉(とぢ)て/心地(こゝち)よげにぞ見えければ/甚介(じんすけ)こゝぞと/抱(いだ)きたるお艶
を/下(した)に/這(はハ)せ/置女(おきをんな)の/尻(しり)をぐつと/引立(ひきたて)いきり/切(きつ)たる/大玉茎(おほまら)を/玉門(ぼゝ)の/割目(われめ)へ
あてがひてづぶりと/突込其時(つきこむそのとき)に/床(とこ)の/間(ま)の/時計(とけい)ギリ〳〵チヨン〳〵〳〵〳〵
千摩伊十紙巻之中終

BnF.

【短冊上】奉納御開帳
【短冊下】女好樓画
 

      茶良麿
/妙法(みょうほう)も
 /弥陀佛(みだぶつ)も
   みな
  一やうに
/穴(あな)たうとしと
おがむ
  なり
    けり


/䟽食(そしひ)を/飯(くら)ひ水を飲、肱を曲て之を枕とす。/楽亦(たのしみまた)其中に在と
/顏回(がんかい)もどきで厄介棒を捻りながらうと/\と机によりて/睡(ねふ)り付
昼寝の夢の浮橋を開帳佛がお通りと聞て/例(いつも)の早
速に半縮半起のまつだけを帯へも挟まず突ぱらせ、いぢ
うり股して駈付るに、早尊像はお小屋入りにて夫なり直の開帳を
迚ものついでに/拝(おがま)んと、先幣殿へ押いりて仰向そほに何く
/涎(よだれ)をすゝり、/看上(みあぐ)れば何佛なるにや異形の尊躰

前に立たるニ童子さへ穴たうとやと合掌するうち、群集残
人に揉たてられ我にもあらで、うら/\と霊寳場へ往たる
に見るもの聞もの珍らしく、その数さへも洗湯の柘榴
口なる木の子の事く、妙亀々々として多きに驚き思はず
後へしさるとき、後方の/花瓶(はながめ)踏かへしはつとんばか
りに仰天なし、かなつぼ/眼(まなこ)をひらき見れば、是なん
/楠柯(なんか)の古くさき/一忘想(いちまうざう)にありけれど、餘りに不思
議の/開夢(かいむ)なれば、好色仲間にものがたらんと

忘れぬうちに筆をとり見たるがまゝをちよこ/\と
すてつへんから書の如し

          ホウ/\/\と
           鼻息に似た声をいだりて
               鴬谷の
                /乱婬書屋(らんいんしょおく)に
                 吾妻雄児子述

/御開帳(ごかいちやう)

【拝む群集】「なむめうぼゞれんげきやう
         なむめうぼうれんげけやう

/開帳(かいてう)
/大繁(おほはん)
/栄往(ゑいあう)
/来写(らいちう)
/真図(うつしつづ)

【左図扇文字】/厥貳開帳帰夕月遠景(そのにかいてうかへりゆうつきえんけい)
【右図歌】 青〳〵と
       風の柳の
          姿かな
             ニ句 女好樓
【左図歌】 夕月に
       色増せりけり
             八重桜

【上之絵】
奉納      和歌失奈義画印 
一切衆生
迷途

十方


出身

        吾妻雄児子印
【下之絵】【右】/曲(きょく)わりや/新(あら)ばち
         ならばこりもせめ
         /茶臼(ちやうす)とてはまた
         たちでやる■■
             穴那小町
【下之絵】【左】  古開や毛をひねくりの
        /紅舌(さね)ならば 
                 其角  

【右】「おいらのはきものはこひ
 ぢでかた
 めたのだよ
 うそだとおもふならよくごらん
 はにへつたりとついてゐるからサ
【下】
 「さうざうしいめらうどもだ
  そのあんばいぢやアさだめし
  したの口もたやし■だらうが
  おいらのを一ぽんくって見ねへか
  どうてごぜへす
【左上】「おいらのげたは
 きゃらせこしらへ
 このまゝはくとΔ▲
 きゃら/\と
 おとがするヨ
 うりだか
 ヲヤまちがった
 かりだか①
 ぢやアない大たかのはなをなんぞとは
 ちがふからまちかへておくれでないよ

【標題】/房然上人御作(ぼうねんしやうねんおんさく)
       /三寸無多素慕氣(さんずんむだすぼけ)の/尊像(そんざう)
【細字】おいらのへのこはむかふ このさといも
どうぜんだからかはをかぶつて
ゐるのをむいてくはせる
のだがらじまんじやア
ねへがほかのちんぽこ
たアあぢがちがふ●
つもりだまづともかくも
たべてごらんなせへ
こてへられやアしねへ
【本文】/抑(そもそも)これに安置したてまつる三寸の
無多すぼけの尊像は半むく伝来
百体の得手佛うちゆう/天竺陰門羅(てんじくつびら)
国の御ほとけ十六/男根漢(まらかん)のうち
むくれん尊者御手づから皮かぶりたる
ちん/木(ぼく)をとり未ちいさきへのこ
きんのぼて切きざみたまひたる
おん/作像(さくぞう)と同躰にして
お筋お身にまとひお/上(うは)
ぞりなるは房然上人
十六歳の時のおん/作物(さくぶつ)に
してむけんの大夫にたまはる
/霊体(れいたい)なればなりお頭/(かしら)の
左りにまがり給ふは/後来(こうらい)
きやんだ/開妙腎(かいめうじん)の/寳(ほう)もつと
なる/淫(いん)ねんを現じ給ふと
いへり/御深腎(ごしんじん)の御婦人
がたはいかう入れて
/御本望(ごほんもう)をとげられませう
【細字】ひとめをしのぶかはかぶりというから
ないしよでいろをするにはおまへの
ようなおちんこにかぎるよどうぞ
おもいれつきまはしておくれよ
そふするとわたしやァ
おもいれきをやるからよ
はやくおしよハア/\/\

/大初會生多恋公(たいしよくわいなまたれこう)の/寳物(はうもの)
   /枇杷(びわ)の/木刀(ぼくとう)
【本文】
/抑(そも〳〵)これなる/枇杷(びわ)の/木(き)の
おん/太刀(たち)は/藤原氏(ふじわらうじ)の
し/祖(そ)コヲツとまちがつた
/藤(ふじ)はらぢやアねへ/金小男根(ふりまら)
うぢの/大祖大初(たいそたいしよ)くわいなま
たれ/公北国開(こうほくこくかい)ばつの
おん時/三(み)ツこ/蒲(ぶ)とんしき/嶋(しま)の
/屏風(びょうぶ)か/浦(うら)に/枕(まくら)の/舩(ふね)そこより
/取出(とりいた)し給ひたる/霊寳(れいはう)にして
おやかしの/木(き)を/以(もつ)て/三所(みところ)こ
/椿(つばき)を/頭(かしら)へすり/付(つけ)たれば
/昼三(ちうさん)おいらんの/乱(らん)をしつめ
/新造(しんざう)まがきの/鬼(き)をはらひ
もんぴもの/日(ひ)を/切(きり)ぬけて
/苦界一(くがいいつ)とうを/平治(へいぢ)するの
/霊剣(れいけん)なりおん
/蝋燭(ろうそく)らせんは/昼夜三百疋(ちうやさんひやくびき)より/一(ひと)とぼし/青銅(せいどう)
/拾疋(じつぴき)まで/是有(これあ)ればちそう/撰(えり)て/素見(すけん)を/禁(きん)じられませう
【左丁下】
「さんは
さうの
いひくさ
ちやア
ありん
せんかしよ
くわいは
やらしと
がまんをして
ゐるんさい
ますかぬし
にこすられ
ちやアとろ
くたらり
とたし
たヨ

/佐和木四郎人(さわきしろうと)がいけ/好(すき)の/駒(こま)
【本文】
/佐和木素人茶良瑞(さわきのしろとちやらいろ)は/唄天皇(うたてんわう)
/無(む)たいの/強婬佐和木(がういんさわき)
/拳酒押盛(けんさけおしもり)か/四男根(よなん)
にして/代々酔身(だい〳〵よふみ)に住(ちう)し
/無多(むた)けん/気(き)の
しやま〳〵なり
/玉門川合(つびかはかつ)せんのとき
/酔朝公(よいともこう)よりこのいけすきの
駒を開りやうして/筋男根(すぢまら)
/跂季(はねすへ)がいろをするすみの/一物(いちもつ)をおひぬき
/第一(だいいち)ばんに/乗渡(のりわた)
して大交(たいこう)
合(がふ)をあらい
せしといふ
/淫水(いんすい)のぬら
/鞍(くら)うしろ
とりの尻がいに/角木衆七(かくもくしゆうしち)ほん
ざらと/三(み)う/杵等(きねとう)のぞうがんあり/歌添(うたそふ)
のさはらぬやう/都々逸(どゝいつ)の/尻(しり)とりにいかう/酔(よつ)て
五たいあかられませう

【右丁吹出し】
「はいとう〳〵おうまた〳〵たれかこの
  おうまにまめをくはせて
   くれゝはいゝ■
そう
すると
ひとの
しねへ
きよく
のりをして
みせるけれど
【左丁吹出し】
「アレもう
すかねへ大まら
たヨあんな
のてされてたまる
ものかかりたかの
すちふしの
うはそりのくろものゝ
大へうはんの
はかやらう
 ヤァイ引

/安直堪能(あんちよくたんのう)の/御腎筆夜鷹(ごじんぴつよたか)の/一軸(いちぢく)
  「さつさときをやらねへと
   すくにおなほしてヨこんな
    上かいを二十四もん
    にうるのだ
    ものを
/是(これ)なる/一軸(いちゞく)はあんぢよく
/堪能御腎(たんのうごしん)ひつの夜の鷹にして/天窓(あたま)に
しらふの/手(て)ぬくひをかぶり/羽(は)がいに/蓙(ござ)の/紋(もん)を
いだく/此夜鷹夜(このたかよ)な〳〵/小(を)のゝ/莖風(きやうふう)が/見(み)とれて
かきたる/蛙(かえる)のきうと/共(とも)にぬけらでむさしの
/国(くに)と/下総(しもふさ)の/国(くに)さかいに/飛行(ひきやう)くらき/處(ところ)に
/羽(は)をやすめてサアおいでなおいでとなく/婬声(いんせい)
■然として陰(てれ)
茎(つく)のあたまに
ひゞけば聞(きく)もの
/是(これ)をとらんとす
その/時此鷹大口(ときこのたかおほぐち)
をあきて/淫水(いんすい)を
すひとり/草鞋(わらじ)を/作(つく)つて
/財宝(ざいほう)二十四文をむしる
/甚(はなはだ)しきは/鼻(はな)をもぎ
られ/男根(なんこん)をとらるゝに/至(いた)る「ウ〳〵さう/押(をし)ちやァ
いかねへ/女(おんな)のうしろへひつついて/当(あて)かきはなりません
ヤレ〳〵口がすつぱくなつたぞ霊宝よりはこつちの/腹(はら)がひだるい〳〵
【左丁下】「まアそんなことをいはずにゆつくりとたつぷりやらしてくんねへそれでなくつちやアあとがきかねへ

【標題】/酒玉茎如来八寸胴返し(さけまらにょらいはっすんどうがへシ)の/尊像(そんぞう)
【下段細字】「ちょっと一はんしんかはしんぼりで
あらばちならはいたみ
いりだといふところだが
をうどしまのΔ▲
ぢさけときてゐるから
ぷんとはなへもつているけれど
おいらのへのこいつほんぎて
ほかのこのどのならしらねといふところが
【一行不読】
【本文】/勿開(もつかい)なくも是に
おやかし/奉(たてまつ)る酒まら
/如来八寸胴返(によらいはつすんとうがへ)シの尊像は
/章魚(たこ)やくし/如来湯玉門薩(にょらいゆぼゝさつ)
と對ぶつにして開ない出
生の霊体なり/御(み)すぼけ/春三度六(しゅんさんとろく)のおん
とき/宇頂(うてう)てん
竺/(じく)こく/冷酒(れいしゅ)せん
において/玉門宴(つびえん)を
ひらき/三千世(さんぜんせ)
/開(かい)の情すほけたちを
集め/交合(かうがう)してまうさく
/我々(わが)の無量の棒味は早
二年むけん真実の後に
ありと さすれば此酒まら如来は
四十二歳のおん時までは/皮(かは)か
ふりにましますものなり/御淫(ごいん)
/腎(じん)の/輩(ともがら)は深う入て/美快(びくわい)をとげ尊体の
お/垢(あか)ふきます/紙料(かみれう)をぬら/\とき/\と/上(あげ)られませう
【下段細字】「おしやるさまのいひぐさぢやア
ないがてんにもちにもたつたいつぽんの
おちんこだとおもつているのだけれど
おまへはほんのあまちやだから
きがもめるでありますヨ

大日本遊国遊里細見全図
【右丁上より「短冊」ごと・・は不読】
「まつしま」恋しき
      人を
      まつ
      ゆへ 
      寄開
      が
      しま
○+「東」いろなきと
     いふ国もたに
     なかりせかば
「武さし」
「しん宿」十三匁四百文
「こつ」ひる弐百文 一ト夜四百文
「江戸」吉原大夫九十匁 かうし六十匁
「・・・」「・・・」ひる六百文よる八百文
「品川」ちうや一〆二百文 花六百文
「えちぜん」「三国」金一分
  「金ツ」十二匁五分一切五匁
「さがみ」手越 ちうや 金一ぶ
「山しろ」「京」しまばら大夫七十匁 
        天じん五十匁
        かこい十八匁
「ふしみ」すみそめ 一匁五分
「いせ」「古市」留ふろ 金二ぶ 夜同一ぶ
「おふみ」「大つ」弐朱也 一夜一分
「大和」きつじ 一夜十二匁
「きい」「うだ」一切百文 夜になれば
        かと口にかいを
        立る 
○+南
「女ごしま」しまへ男ゆけばじんきよする
【左丁右上より】
○+北 あだに思はん人ぞおかしき
「丹後」みやつ 三匁五分 入用とも
「大さか」しん丁
     大夫六十九匁
     天しん三十三匁
     かこい廿十四匁 
「兵こ」「ひら方」いもの丁 花四匁
「せつつ」一切一匁 泊り二匁
「下ノせき」いなり丁
      大夫三十匁
      天じん二十匁
「あき」「広しま」下ノせきトおなじ
「かはち」「石川」五間や
         一切二匁
「いづみ」ちもり二十三匁 一切二匁五分
「さかい」ゑびすじま 一切三匁
「はりま」「むろ」
     天じん二十八匁
     はし十匁
「うつらめ」うこい十七匁
「びんご」本り七丁
     大夫三十匁
     てんじん廿匁
「ちくせん」「はかた」たいこもち 十匁
「長さき」丸山 
    大夫廿五匁
    てんじん 十五匁 
    馬丁 一切百文 
○+西 きのいき

【下段】
/大日本遊国遊里(だいにつほんいうこくいうり)
/細見全図(さいけんぜんづ)の/絵(ゑ)まき
ものは/針まらの/厂平(かりひら)
/朝臣(あそん)あづま/下(くだ)りのついで
/諸国(しょこく)いろしゆぎやうして
あまねく上開下開(じやうかいげかい)をこころみ
/且遊女(かつゆうぢよ)の/直段(ねだん)づけとうを
して/色者(しきしや)のたすけとなし給ふ
/画(ゑ)は/土佐(とさ)の/陰茎平(まらへい)の
/筆(ふで)也
 /日本諸国開(につほんしよくこくかい)の/好悪(よしあし)
/東海道(とうかいだう)は/上開道(じやうかいだう)にしてその/味(あぢ)
   きはめてよし
/西海道(さいかいだう)は/妻開道(さいかいだう)にてその/味(あぢ)
   /平安(へいあん)なり/妻(つま)とするよし
/南海道(なんかいだう)は/難開道(なんかいだう)なれば/開は
   なんあって/味(あぢ)わるし
/北陸道(ほくりくだう)は/袋口道(ふくろくちだう)にてふくろの/口(くち)を
   しめるがごとき味なり
   そくに巾着(きんちやく)といふは/是(これ)也
/中山道(なかせんだう)は/中(なへ)ひへん/道(だう)なれば/開中(かいちう)
   あたゝかにして/味(あぢ)よし
/山陽道(さんやうだう)は/三用道(さんようだう)にて三ぼんの
   /指(ゆび)を/用(もち)ふるなれば開
   ひろくして味わるし
/山陰道(さんいんだう)は/産(さん)いへん/道(だう)にて/産(さん)
   /後(ご)の開(かい)さうもつ/多(おほ)く
   してその味のたんはく也  

/遊女梅ケ枝(いうぢようめがえ)が
  /無毛(むけ)んの/摺鉢(すりばち)
【本文】
/遊女梅ケ枝(いうぢようめがえ)は
/坂(はん)とう/一(いち)の/腎(じん)はり
/筋男根莖太(すぢまらけいだ)
/跂季(はねすへ)かまかり
いでたるのら
ものにて/是(これ)
なる/處(ところ)の
すり/鉢(はち)は
味/噌(そ)を
/揚屋(あげや)の縁(えん)さきにかつて/兜(かぶと)がたの
/緒(を)をしめて/茎節(かり)のくびれへ/結(ゆひ)つけて
/下(した)から/腰(こし)をしよい〳〵と/振(ふり)かたげ
たる/梅が枝(うめがえ)が/苦(く)もなく/割(わら)れし
/宝物(はうもつ)なり/折(をり)をえびらのおん/方(かた)は
/蓼(たで)くふ/虫のすき/嫌(きら)ひなく/今年(こと)しや
/東捕(かぼちや)の/手(て)あたり/次第(しだい)さいふの/底(そこ)から
つまみ/出(だ)し/御(お)さんもつ/御奉納(ごほうのう)あれば/勤(つとめ)に
はなれ/馬鹿(ばか)らしいほど/水(みづ)を/出(だ)し思くひく/田(た)の
/森(もり)の/二度(にど)の/蒐(かり)に/功名(こうみょう)きせんとの/御誓願(せいぐわん)なり
【右丁下】
「いろをしてゐると
うへからかねか
ふるといふのた
から
こんな
うめへ
こたァねへ
これがほんの
かねのふる
よは■と
しほ
とぼ
しと
いふのだ
ところで
こつちもうし
ろとりとは
なんとめうた
らうが
【左丁下】
「むけんのかねを
ついたのだから
かはのかぶ
つたこばん
でもふる
かと
おもつ
たら

やつぱり
あたり
まへのおかねだよ
こんやは三百両
だけきをやる
からそのつもり
でおしよ

/於多毛大屄如来(おたけだゐべちよにょらい)の/持(もち)し
  /山椒(さんしよ)の/擂子木(すりこき)
【本文】
/是(これ)はこれお/多毛(おたけ)
/大(だい)べちよ/如来(にょらい)おん/手(て)
なれの/擂子木(すりこき)にて
/南房(なんぼう)の/開中(かいちう)じだるく
せんの/山椒(さんしよ)なりあたま
/大(おほ)きく/本(もと)ほそく/皮(かは)のうちのふし
くれば/如来(によらい)のおん/頭(かしら)のいぼのごとく
また/本(もと)より/先(さき)までまとひたる
じゆんさいの/筋(すじ)のごときは
/蔦(つた)かつらのからみたるあと
なりこの/如来無量(によらいむりやう)のおんじひ
ましますゆゑ/何(なに)ほど/婬業(いんらく)
ふうきすぼけのものと
いへどもおん/袖(そで)にすがつて
/曲楽往生(きょくらくおうじやう)ずくめを/願ふ
ときはおんかぶりをたてに/振(ふり)給はんとの
/御誓願(ごせいぐわん)なり/御婬心(ごいんしん)のとも
がらはおん/穴(けつ)えんのためどえらく
/勃起(おやし)て/夜這(よばひ)あられませう
【右丁下】
「こいつアめう〳〵めうに
いゝぼゞだといふげん
くわんをかけて
おいてめうぼゝよろ
こべせかれはおやけて
たつたぞやいとは
なんとうまい
しやれ
だろう
【左丁下】
「ムニヤ〳〵
クチヤ〳〵
フニヤ〳〵〳〵
アゝア
そんな
におまへ
このふち
をつめツ
いたいよう
といふは
さねの
あたりを
のみでも
くうと
おもはれ
たり

/陰門大尽(つびだいじん)
  /入唐舩(につたうせん)の/帆柱(ほばしら)
【本文】
/抑(そも〳〵)これなる/得(え)
/手(て)ものは/陰門大尽(つびだいじん)
/朱(あけ)の/長玉茎(ながまら)と/男根(へのこ)
しへ/渡(わた)り給ふときなにはの
/浦(うら)より/舩出(ふなで)し給ひはるかに
/蜑(あま)の/開(かい)しやうを/見(み)ておしたて給ふとこ
ろの/帆(ほ)はしらなり/朱(あけ)の/長(なが)まらはへのこし
にて/陰門長茎(へちよちやうけい)と/開名(かいめい)しにつほんへ/帰(かへ)らん
とするをりから/大年増(あほどしま)の/陰門(かくしど)を見給ひ
「/彼女(ばゞ)このはら/陰門(つび)さき/見(み)ればうづくなる
おねばのやうに/出(だ)せしすきかも」と/三十一(みとひと)
もじの/馬鹿(ばか)をよみてへのこし/人(びと)に/見(み)せ
ければかの/国(くに)のものどもこと〴〵く/気(き)を
わるくせしと也/陰門大尽(つびだいじん)は
/本ちやう/諸(しよ)しきの/開祖(かいそ)
にして/色学(しきがく)くわう/開(かい)
なることはあまねく/諸甚(しょじん)
の/知(し)るところなり

【吹出し右丁より】
「ぼゞを見て
ゐるとへのこが
おやけてやく
かいにΔΔ
なつていけ
ねへから
そこでほゞ見
やつかいと
いふのだ
らうても
なくあなが
ひわのうみ【琵琶湖】
ならさね
がちく
ぶしまと【竹生島】
いふものだ
【吹出し左下】
「サア
ごらんたんと
こらんしかし
見たばかり
しあァいや
だヨよいかへ
あとでおも
いれして
おくれ●
こしの
ぬけるほど
きをやつて
たおしむつもりだヨ

/生得大酒(しやうとくたいしゆ)の/鎧形(よろいがた)
  并に/甲形(かぶとがた)
【本文】
/是(これ)なる/水牛(すいぎう)ふいりのよろい
かぶと/形(がた)は/生得大酒(しやうとくたいしゆ)
ぐづ/法(ほう)の/陰敵若(いんてきもし)やの/開甚大穴(かいじんおほあな)子を
/開伐(かいはつ)し給ふとき/召(め)させ
給ひし/房器(ばうき)にて
/交合(し)とめたる/白(しら)
/血(ち)なほしみつき
たる/大酒傍明(たいしゆほうめい)
/開知(かいち)にして八人の
/女(おんな)の/陰門(いんもん)を一どにくぢり給ふ/故(ゆへ)に/八(や)つ
/指(ゆび)の/交子(かうし)ともまうしたてまつる/大酒色(たいしゆいろ)を
こしひくる/開法十(かいほうじう)ケでうをしめし給ふ一おし
二かね三びなん四ほゝと五てかき六さみせん
/七(しち)しま/八(はち)ひき/九(く)どく/十力(じふりき)トまた四ケ条の/茎(けひ)
/味(み)をさだめ給ふ一忘想二(いちまうざうに)せんすり/三(さん)げつ
四ぼゝとなり/御婬腎(ごいんじん)のともがらは
/百目(ひやくめ)がけのお/蝋(らう)をおつたて
ぬるり〳〵ずるり〳〵と/交合(とぼ)されませう
【右丁吹出し】
「まん
じの
ごとく
ともへ
のごとく
よこたて
十もんじに
ついたら
おめへの
はうでも
しろ
ちを
なが
すだ
ろう

【左丁吹出し】
「おれ
サそん
なにむ
やみに
つゝつくし
あつけ
なくきがいつて
しまふから
やはくよがらせて
おくれよう

/小野(おの)の赤玉茎筆(あかまらふで)
 /無拳地獄(むけんぢごく)の図(づ)
【本文】
/無拳(むけん)ぢごくは婬婆開王(いんばかいわう)の/領(れう)するところ
にして/琴(こと)しやみせんの/音楽(おんがく)をきんじ
ちんく/大津画(おほつゑ)の/舞(ま)ひとうを
/婬々(いん〳〵)として/高(たか)わらひ/高(たか)こゑ
なとあることなし/色欲(しきよく)
/餓鬼(がき)こゝにあつまり
どうしんをもつて
/竹(たけ)の/根(ね)をほるごとく/焦(せう)
ねつ/大焦(だいせう)ねつの/朱玉茎(しゆまら)
どうかへしを/以(もつ)て/阿の穴開(あびかい)
をかずかぎりもなく/堀(ほり)のめす
/開血(かいち)の/池(いけ)となるときは/餓鬼(がき)うしろへ
まはつて/嶋屋(しまや)の/釜(かま)うでとなる/見(み)る/目(め)
かぐ/鼻(はな)のはなをつまみ/目(め)をかくして
/常(じやう)はりのはり/連中針(れんぢうはり)の/山(やま)の/針(はり)まらを
おしたてまんまと/一(いち)ばん/交合(し)での/山(やま)の
おん/方三途(かたさんづ)の/川(かは)の/白波(しらなみ)をぬらり〳〵と
おんなかし/六(ろく)道せんの六匁に壱匁五分
じばゝよといためおみやうがとして/金(きん)弐朱お/勤(つとめ)に/上(あげ)られませう
【右丁下】
「ぢようろとちがつて
ぢごてきはかうきを
やつてくれるから
こてへられねへアゝア
ソレ〳〵かぐはな
のはなΔ▲
いきは
【二文字不読】
あら
ねへ
スウ
〳〵〳〵
ハア〳〵〳〵

【左丁下】
「なんと
かうおくの
ほうを
つゝついたら
こてへられ
めへとふやら
おれも
たまら
ねへ
ソレ〳〵
「わちきの
やうなものに
かあいかられる
のもいんぐわな
えんまとあきら
めてたんときを
やつておくれ

/曲極上手(きよくらくじやうづ)の/図(づ)
【本文】
/曲極上手(きよくらくじやうづ)は/妻房(さいぼう)むちや
/如来(にょらい)のおん/膝(ひざ)もゝにして
/戀(れん)じやう/美開(びかい)のうちに
あり/諸十(しよしう)はうのすぼけ
/黒(こく)びやく/長(ちやう)たんのふまらん
かん/爰(こゝ)にいます
/玉茎(まら)かんこの
/美開(びかい)を/出(しゆつ)
/入(にう)すれば
/玉門(ぼゝ)さつ
ひやうしを
とりて/音楽(おんがく)を
/奏(そう)するの/声(こゑ)をはつし/尻(しり)を
/左右へくる〳〵/舞(ま)ひをなす/連座(れんざ)の
/三(み)ツぶとんあたゝかく
して/舩(ふね)ぞこの/枕(まくら)
諸はんの/期(ご)をしめす/尻(しり)とりの/鳥(とり)
フンスウの/花(はな)いきにさへずり/居茶(ゐぢや)うすの/貝(かひ)
/淫水(いんすい)のなみにしつむ四ツにはひ/立(たち)であはせて
/婬心勃起(いんしんぼつき)の/玉茎(たまぐき)を/根(ね)までずほりとはめられませう
【右丁下段】
「あはもちほどに
ねれたおまんこの
きょくどりはこれで
ございひくわいの
こんけんおやかし
あつておためしなさいプ
【左丁下段】
「まくらが
はづれるときよく
らくどころては
ないちごくおとしに
かゝつたやうなものだから
きをつけて
ゆる〳〵と
こしを
つかつて
おくんなはいよう

/利久(りきう)が/茶臼(ちやうす)
【本文】
/是(これ)なる/茶(ちや)うすは/挊(せんずり)の/子宮居士(しきうこじ)が
/陰中(いんちう)の/藏(そう)もつにして/二本指(にほんゆび)の
うす/紙(がみ)のふくきさばき/茶(ちゃ)
しやくのくぢり/棒(ばう)なつめの
/蓋(ふた)のぐあひよきスウ〳〵の
/水(みづ)こぼしの水ぬら〳〵こぼれて
/嶋(しま)やの/釜(かま)をぬらすといふ
/名器(めいき)なればせんずりの
/八重垣淫水(やへかきいんすい)の/白梅(しらうめ)
ふいた/紙(かみ)の/山本山(やまもとやま)はな
いきの/荒(あら)たき/園(ぞの)きねの
とがりの/高砂(たかさご)ひたへ/口(ぐち)の/毛(け)の
/一森穴(いちもりあな)のあぢの/大吉山未通女(だいきちやまをとめ)のしん/茶(ちや)
/年増(としま)の/粉(こ)ちやみな/此(この)ちやうすを/用(もち)
ふるとまうすなりしつゝこい/茶(ちゃ)のまはし/腰(ごし)
うす/茶(ちゃ)の/泡(あは)のあわをくはす/心(こゝろ)しづかに/美快(びくわい)をとげ
/茶臼(ちやうす)のきん/玉(たま)のつぺいの厂(がん)もどきとまうせば/皺(しは)をのばして/拭(ふか)れませう

【右丁下】
「ゆる〳〵
とおめへ
のいふ
とふりに
すらアな
ソレ〳〵〳〵
【左丁下】
もつと
ぐつと
つゝこんで
したから
まはして
おくれよ

/婬蛮国(いんばんこく)より/奉納(ほうのう)
  /玉茎鉄(まらかね)の/燈籠(ろうろう)
【本文】
/婬(いん)ばん/国(こく)は/味宜(あぢよろ)しう
うち/南婬度玉茎(みなみいんどまら)かでんの/西(にし)
オエルトホテルの/隣国(りんごく)なりダカデンスの
しよくこくなり/玉茎鉄(まらかね)はきん/玉(たま)の
ブラリトサガルよりいづるところの
ものにして/此(この)かね/常(つね)にやはら
かくしてちゞみたりとはいへとも
いぢれば/自(おの)づとかたく
こり着こりのび/太(ふと)りて
ねつをしやうずまた/交合(とぼす)と
/水(みづ)をいだすものなりいろ
/黒(くろ)きはファラデゴンスよりいで
/色(いろ)しろきはスベケライルの/産(さん)
ぶつなり/茶臼永開年(ちゃうすえいかいねん)
へのこの/立(たつ)どし/陰門月(つびづき)
/朔日丸彼出(ついたちぐわんかので)の/国王(こくわう)より
/奉納(ほうのう)するところ
なり
【右吹出し】
「これは
じやうかい
くといふと
どうやら
ぼん
まへの
くはんおん
ばうずの
いゝぐさのやうだ
あゝたま
らぬ〳〵
【左吹出し】
「おまはんの
おちんこで
つかれると
どふもゑぐら
れるやうで
どうも〳〵
よくつて〳〵
ソレ〳〵きが
いきそふで
なりません
フウ〳〵〳〵

/開賊寢玉門(かいぞくねつび)を/除(よけ)
   /子守(こもり)の/御札(おんふだ)
【本文】
/是(これ)なる/開(かい)ぞく/寢(ね)つび
よけ/子守(こもり)のおん/札(ふだ)は
うつくしい女とねんねこせい/寢(ね)んねの/玉門(つび)
たに/何(な)によ/見(み)るだァふ/玉茎(まら)を
ほこえて/里(さと)へいたさァとの/陰門(つび)やに
/紙(かみ)よもんだぬる〳〵/陰戸(いんこ)に/妾(せう)のうへ
【一行不読】
/寢(ね)エえんよりねてしてしよ」ト/酒玉茎(さかまら)
/如来小児(によらいせうに)諸々てんの/御詠歌(ごえいか)をとなへ
/子守(こもり)や/楽(らく)なやうで/楽(らく)ぢやまい
/内(うち)ぢやしかられ子にや/泣蓮華(なかれんげ)
/経(きやう)と/屄毛(ぼけ)きやうの/開目(かいもく)をしるし
/寺院(じいん)の日なた/鎮(ちん)じゆの/社(しや)ぜん
どうにおいて申立ばつかりを
/御祈祷(ごきたう)なしたるおん/札(ふだ)
なればかわらけのお水を共に
/天窓(あたま)へかけたる/色紙(いろがみ)の/半(はん)がけ/料(れう)を
さしいだして/御(お)ちやうだいあられませう
/下小開(だせうかい)わられましよ
【右丁下】
おいらは
さつきから
二三ど
きをやつたの
におめへは
まだ
ぐつ〳〵して
ゐるから
かくべつ
【一行不読】
をとこ
じゃア
ねへか
ハア〳〵〳〵
【左丁下】
「おいらの
うちじやア
こゝのさけの
ほかみりんや
すばかりだからおめへ
にこうぬら〳〵としろ
さけをたされるとどうも
こてへられねへモウ〳〵
だん〳〵いゝこゝろもちに
なつてくるせハア〳〵〳〵

【標題】/大腎国(だいじんこく)の/赤開(あかがい)
大腎国とまうすは毛長じゆ/紅舌(さね)なが宿の
そう/名(みやう)にして味宜しうの東賞りか国の
開中にあり。この赤開二本の
ゆびにていちれば、ふくれ
しこりで肉一めんに
動き、また/松茸(まつだけ)をいれるときは、
白き水をはいて
無量にして一たび食するときは
よだれを質いれし淫水を
うり払っても是をくら
はん事を思ふなり。この
/貝水(かいみづ)の端にあり、ちかう
よって張出しをよまれませう。
○開/(かい)の満る時
○物よみのあと○退屈のとき○ぎょう
水の跡○さけのあと○足のつめ切りしあと
夜の九ツ時○開の干る時
○髪あらひしとき○化粧のあと○道つれとき
○食よくご○心づかひのとき○あさより九ツ時まで
【見物人つぶやき】「イヨウすてきな出らいもんじや/\/\

奉納 /戀情流挿花(れんじやうりういけばな)
○/爪折草(つまおれさう)
   又/揚枝草(やうじぐさ)
○/水引草(みづひきぐさ)
   一名○/飾草(かざりくさ)
○三弦/草(さう)
   一名/轉艸(こゑぐさ)
○/花薄(はなすゝき)
   一名/突出草(つきだしぐさ)
○/口酸漿(くちほうづき)
   一名/慰艸(なぐさみぐさ)
   

○/鐵醤筆草(かねふでぐさ)
○/線香花(せんかうくさ)
   一名/花山草(はなやまぐさ)
○/吸付草(すいつけぐさ)
   一名/烟草(けむりぐさ)
○/黄金菊(ごがねぎく)
   一名
  ○/色出来艸(いろでききく)

【開張提灯の下】
吾妻雄兎子作
戀川女好樓画

/聖人(せいじん)も/佛(ほとけ)も
もとを/尋(たづ)ぬれば
/玉茎(へのこ)のうは/水(みづ)
/陰門(つび)の/下露(したつゆ)

【吹出し】
「今まではう〴〵のおかいちやうへさんさい
いたしたがこんなあらたかなれいはう
ものをおがんだことはありませんはそれだ
からおまんこがありがたがつてぬら〳〵と
なみだをこぼして
をるのでございますヨ
【吹出し】
「わたしなんぞも
こんなはう
もつははじめて
みやたがどこの
かいちやうのれい
はうもこゝのやうに
きのわるいものばかりぢやア
さんさいのひとはみんな
じんきよしてしまひませう
さて〳〵こまつたところだねへ

【図柄の短冊文字】
五人組、あじ芳、恋川秀あけ、しん吉はら、御房前
ひどまら、よかりや、せき太夫

BnF.

春色ねやの望月   下

〽いろはしな川
うき名はたか
なわたのしみ
あればくるし
     み
あり
といたながし
      は
いとはねど
ひよつとかう
いふあさましい
すがたをかの
人にみられ
    たら
あいそがつきる
てありませう
そればつかりが
かなしうござり
      升
とまふねの
お客やせん
どうしゆ
なさけこゞろ
     が
あるならは
わたしがまへ
      は
ふうしのうちへ
たのみます
〳〵

〽いく野さんこしの
つかひやうはこれで
やうごさりませうか
なんだかじやニきらて
わたくしのこしがふら〳〵
いたしますからどうして
よいのかわかり
    ません
もつと
ふかく
いれま
せうか
ねまで
いれ
たら
おせつな
からうかと
そんじて
おもひきつて
つかれません

〽どうも
  〳〵
まことに
  かんしん
   〳〵〳〵
よくつて
  〳〵〳〵
ほんの
おとこに
 給ひ
  まゝ
   とうも
これより
ほかに
いたしやうは
ござり
ます
  まい
アゝモウ
いゝくらへい
もが
いたか
しねません
アゝいゝ〳〵〳〵

「このごろの
 はやりものだ
 からけんで
  やらうさう
 マアきゝなせへ
「さては
 とぼゝに
 いうごとははいるへのこは
 みひよごしゆびぬらし
 なめくじりでまいりやしよ
 なんだかじく〳〵だしかけた
 ぼゞさねにへのこがすい
 こまれたおとはずぼ〳〵

 どですかてんけつから
 はめやしやうサアしなせへ
 しやん〳〵〳〵しやんトうしろから
 ちやうすでまいりマしやう
 「そんなこぢつけをいわずとゝち
   ほんとうによくきを
  やらせてしておくれな
   なんだかおかしな
  きになつてきたわな
 「おめへはおかしなきになつた

  はづたおいらアへのこづ木になつた
    そつちはきやくとりだと
     いわれるからこつちは
       きよくどりと
         やらかすつもりだ
           サアきなせへ
            サアきなせへ
        なんだかじやんじやらだ

麻吊丸勇

【右絵】
【左】
大液(たいえき)のふようの顔(かんばせ)うるはしく、さては末央(びわう)
の柳腰(やなぎごし)、つめびきのどゞいつで、こゝろいきを
しらせやうといふとこを、ぐツとひねツて、恋哥(こひか)に
て、たけものゝふの心(こゝろ)をあぢにやわら毛(げ)の、うツ
すりとしたはりたなべ、尻(しり)いちはやき中(ちう)ど
しま、 〽(おふぢ)おまへは《割書:ナニヨ|  ヲ》お見だへ、田舎源氏(いなかげんじ)か、 〽(源)アイこ
の本(ほん)も作者(さくしや)がかはツて、おもしろくなかツたが、
こんどの作(さく)は、又(また)せんのやうで、おもしろふござい

ますヨ、 〽(ふぢ)おめへそんなものヲ見るより、ほんの源氏(げんじ)
を見ればいゝのに、〽(げん)さやうさね、しかしほんのも此(この)
田舎源氏(いなかげんじ)も、モウちつとゝいふ、かんじんのとこをか
かねえエから、をしいやうだ、 〽(ふぢ)そうサ、そこでわたしがね、
あふひの巻(まき)の、 紫(むらさき)もかゝねへかのとこを書(かい)たのサ、
おまへによんで聞(きか)せやうか、 紫式部(むらさきしきぶ)がうはてを
いくつもりサ、よむからおきゝ、 〽(本文)紫(むらさき)の君(きみ)ねびとゝのひ
て、あかぬところなきもゆかしければ」、ト間(あいだ)を

とばして、 〽(本分)ひめ君(きみ)は、たゞいきのしたにて、 何(なに)と
やらんきゝさすやうに、いらへたまふも、いとはづかしげ
なり」、これからがかんじんのとこだゼ、 〽(本分)まだはづかし
き初(うひ)ごとなれば、 言葉(ことのは)もかはし給はで、 雛(ひいな)のやう
なる、さゝやかなる御手(おんて)にて、 君(きみ)をまとひ給ひて、
ものしたまふに、 男君(をとこぎみ)は、年月(としつき)のつらさもうさも
下(した)ひもニ、ともにとけあふ今夜(こよひ)なれば、さま〴〵と
御手(おんて)のかずつくし給ふに、み心(こゝ)ちもいみじく

なりて、しづくもよゝとものし給ふ、うすらかなる
おん毛(け)に、しろきものゝつきたる、 春(はる)のわか草(くさ)の
もえそめしに、あは雪(ゆき)のすこしふりかゝりたるやう
なわんかし」、どうだね、〽(げん)よくできました、わたくしな
どは、ここの田舎源氏(いなかげんじ)でなければわかりません、それだ
からはやりますことは、田舎源氏(いなかげんじ)のふうの絵(ゑ)さへ出(で)ま
すト、よくうれると申しますヨ、〽(ふじ)コウ源(げん)さんなんだカ、源(げん)
氏(じ)のはなしが身(み)にしみたら、のぼせて来(き)た、サア

こツちへおよりな〽(げん)アイとはいへど顔(かほ)あかめ、ものを
もいはず、 間(ま)のわるそうに、モヂ〳〵と、〽(げん)おまへさん、アノ
ごてんにおいでのときは、サゾごふじゆうでござり
ましやうねヘ、そのをりはどんなおたのしみがござイ
ましたへ、はなしておきかせなさイましナ、うけた
まはりましたが、 女(をんな)どうしでも、いゝ事(こと)ができま
すでばござイませんカ 人(ひと)の申しますには、ほんのお
とこよりもいゝといふことでござイます、トいへば、

〽(ふぢ)おまへマア、そんなことアどうでもいゝじやアねへか、
わたしがするとをりになツておいでヨ、トそばへ引(ひき)
よせて、おとこの帯(おび)もわが帯(おび)も、とくより恋(こひ)にこが
れつゝ、股(また)ぐらへ手(て)をさし入(い)れ、一物(いちもつ)をにぎツて見
れば、年(とし)のいかぬに似(に)もやらで、ふとくたくましきこと
いはんかたなければ、おふぢは思(おもひ)の外(ほか)にえならずよ
ろこび、サアトあてがふをりからに、男(おとこ)もいつかこう
しやにて、さねがしらのあたりを、そろ〳〵と一物(いちもつ)

にてこすりければ、おふぢはよさにたへかねて、もだ
へてだきつき、入(い)れておくれといひながら、尻(しり)をもぢ〳〵
もちあげて、物(もの)をもいはでありければ、男(おとこ)もこゝぞ
と、ぬツと入(い)れてすぐツと出(だ)し、入(い)れたり出(だ)したりす
るほどに、おふぢは久(ひさ)しぶりでのことゝいひ、いよ〳〵ます〳〵
たへかねて、《割書:アヽ|  モウ》どうしやうねヘ、いツそもう、かんしん
だト、おやしきの地(ぢ)がねにて、《割書:ヌル〳〵|    ベタ〳〵》出(だ)しかけ
て、いくよ〳〵とはかなくもいはざるは、さすが宮(みや)

づかへの、むかしわすれぬたしなみよく、 音(おと)なふも
のとては、タゞスウ〳〵ト鼻(はな)いきのあらきのみにて、
目(め)をふさぎ、 一(いつ)しんふらんによがりければ、男もつゞ
けてきをゆりしまい、 〽(げん)まことにうれしうございます
といへば、 〽(ふぢ)わたしもモウどんなにうれしからう、おまへモウ
うわきをだして、わたしヲわすれておくれでないヨ、
間(ま)のいゝことアいくらもあるから、その時(とき)アなんにも
いはずに、わたしがするとをりになツておいでヨ、《割書:  |モウ〳〵〳〵》

アヽよかツた、いつまでもわすれられねヘト、〇(おもいれ)のとこ
ろに、《割書:となりの二階(にかい)にて|  ひくめりやす》〽(もんく)いつまでぐさの、いつまでも、な
まなかまみへものおもふ、たとへせかれて、ぼゝふるとて
も、」ヲヽそうじや、〽あひみての後(のち)のこゝろにくらぶれば
むかしはものをおもはざりけり、アヽなにごとも、
こゝろにまかせぬは、 世(よ)のならひ、またもあひたい
したいのも、なんのいんぐわデ、このやうにあらう
ぞトいふヲ、 〽(げん)わたしもおなじむねのうちあけて

いはれぬものおもひ、ナントいゝふんべつはございま
すまいか、 〽(ふぢ)おまへかそういふこゝろなら、モウひと
しあんしてみようかと、 立(たち)あがりたがひにみ
かはす顔(かほ)と顔(かほ)、
     琴(こと)のこゑ六だんのしらべ
       テントンツテトツチテトン
            チンチテ〳〵ツチトツトン

BnF.

春色里望月  中

〽アレサいしらすとこち
  はやくおいれヨ
   たれぞくると
     しそこなふ
        から
         ヨ

エヽモウ
  むねが
  どき
  〳〵
  して
 みゝが
  あつく
   なつ
    て

〽そんなに
 せわしない
 ことをいわず
      と
 マア
  しづかに
  たのしみ
    なせへ
  だれも
    くる

  こと
   しマア
    ねエ
     わな

〽おや〳〵〳〵
  けしからぬ
  ひる
    ひなか
  きつい
   おたの
    しみだ
  そして
   マア
  あのよがり
    やうは
  どう
   した
    のだ
    らう
  せけんに
   人も
    ねへ
   やうに
  いつそ
   きが
   わるくなつ
   てきた
      ヨ

〽いゝ
  ぐさ
   も
 なん
  にも
 でねエ
こんな
しまり
  の
 いゝ 
  ぼゞ
   を
 した
  ことが
   ない
  ハア
   〳〵〳〵

〽アヽモウよくなつてきたヨ
  エヽモウハアムう〳〵〳〵〳〵 アヽいゝヨ〳〵〳〵
   こんなにほかのおんなをしても
    うれしがらせるかねエ
   にくひ人だヨそれ〳〵またいくヨ
     くひついてやるヨアヽいきが
       はずんでどうも〳〵〳〵
           アヽいゝ〳〵〳〵

【右絵のみ】
【左文】
《割書:ドンカチリ|  チリヽン》 揚弓(やうきう)のおとにて幕(まく)あく、イヨ中(ちう)
二階(にかい)のたてもの、おつくりだね、ト行(ゆき)すぐ
るを、〽(水ちやの娘おべん)す通(どを)りははつとだヨ、 粂(くめ)さん〳〵チツト
およりな、トこえをかけられ、ズツトはいり、しやう
ぎに腰(こし)をかけながし、 十月(しふぐわつ)のなかの十日(とをか)の
みじかきにも、とんぢやくもなく、のらりく
らりと日(ひ)をおくる、 江戸(えど)まへのうわきもの、
落葉(おちば)ふみわけおく山(やま)に、きつゝなれにし

ちやみせのおべん、おつくりをしまひ、うぬぼ
れ鏡(かゞみ)をかたづけて、 茶(ちや)を出(だ)しながら、 粂(くめ)が
そばへ腰(こし)をかけ、〽(おべん)このごろはおとぶ〳〵しい
ねへ、どこぞにおツこちでもできたのかへ、〽(粂)ばかア
いひねへ、ト〽(はなうた)さき ̄ やさほどにもおもやせぬのに、
こち ̄ やのぼりつめ、」おらアおめへにおツこちだヨ、
〽そりやア大(おほき)ナ門(かど)ちがへサ、〽(粂)おべんさん、緋(ひ)がのこ
にむらさきのはらをはせデ、ごうぎにあどけ
                  中ノ一

ねへの、 大(おほ)かたこゝが、ト股(また)ぐらに手(て)を入(い)れて、
こらアとしまダらう、〽(おべん)ヲヤいやヨ、 口(くち)のわりい、ソリヤア
そうと、モウ〳〵霜(しも)がれでいけねへ、 銀杏(いてふ)のは
が黄(き)いろになるとこゝろぼそくなるヨ、こ
のごろは、さツはりおきやくがねへから、〽(粂)そ
うヨ、こゝばかりじやアねへ、よし原(はら)も芝居(しばや)
も、さむくなツちやあアいけねへのヨ、しかし
しばやニヤア、かほみせといふものがあツて、紋(もん)

かんばんの、かざりもんのと、にぎやかだガ、よし
原(はら)じやア、俄(にはか)がすむと、ちや屋の二階(にかい)で、
わた入(い)れものをするやうになツち‾ やア、モウ
いかねへ、 〽(おべん)ヲヽさむい、なんぞあツたかいも の(ン)でも
くひてへもんダ、〽(粂)そんならなんぞおごろう、 取(と)ツ
てきねへ、トいふところへ、となりの土弓場(どきうば)の
むすめ、 紙(かみ)をもちながらちよこ〳〵とあゆみき
たり〽チヨツト間男(まをとこ)のでんじゆは、これこの紙(かみ)

に、きりをふき、 音(おと)のしねへようにもみま
して、ハイさやうなら、お手水(てうづ)にト、にこりと笑(わら)ひ、
行(ゆ)くあとに、 〽(おべん)あの子(こ)をみねへナ、 内(うち)に子(こ)がある
やうに‾ やアみえねへのウ、 〽(粂)そうヨ、 〽(おべん)この間(あひだ)お客(きやく)
が、わたしにおめへに秘書(ひしよ)をやらう、コリヤア褥合(しとねがつ)
戦(せん)のせめ道具(だうぐ)だ、トいつてこんなものヲおくれ
だが、なんだかサツはりわからねへ、トみせるをみ
れば、危檣丸(ほばしらぐわん)の書(かき)つけなり、 〽(粂)ムヽ四(よ)ツ目(め)屋(や)か、

こゝにやアおめへのうれしがる、道具(だうぐ)がたくさん
あるゼ、〽(ぐんしよの心いき)よろひ、かぶとに、りんの玉(たま)、しかもその
日(ひ)の大将(たいしやう)は、 人(ひと)もしツたる弓削(ゆげ)の道鏡(どうきやう)おほ
べのこ、まらの威勢(いせい)のつよきこと、おそれぬもの
のあらばこそ、 西(にし)は九州(きうしう)ひごずゐき、 東(ひがし)はまつ
まへおツとせへ、 風(かぜ)もふかぬにぼゞの毛(け)の、な
びかぬものこそなかりけれ、」〽(おべん)ナニヲいふのかとお
もへば、なんだいやヨ、 〽(粂)ヨウちよツとはなしがあ
                中  三

るから、こゝへきねへ、 〽(おべん)なんだへ、 〽(粂)この中(ぢう)からいは
ふとおもツたが、けふはひまでちやうどいゝ、けふ
こそおれがいふことをきかせねへじやアならねへ、 〽(おべん)ナニ
こゝでか、イヤ〳〵こんな所(とこ)で、この頃(ごろ)にいゝ間(ま)があツ
たら、その時(とき)のことにしねへナ、 〽(粂)ナニヲいふンだ、とうか
らこうしやうとおもツてナ、あたまの物(もん)は、小間(こま)
物(もの)やのへどほども、買(かつ)てやるし、お白粉(しろい)といやア、
百閒中屋(ひやくけんながや)のしらかべをぬるほど、しおくツてお

いたア、なんのためだとおもふ、こうしやうばツかり
だ、ばかアいはずとなリヤト、いひながら、手(て)ごめに
股(また)へわりこめば、いやだ〳〵といひながら、起(おき)んと
するをおこしもたてずに、のツかり、いきりきツた
る一物(いちもつ)を、さしあてがへば、 口(くち)にはいやといふものゝ、ハヤ
ぬら〳〵と出(だ)すところへ、 入(い)れるやいなや、アヽモウ
こてエられねへ、そらいくヨ、 又(また)いく〳〵ト取(とり)みだ
したるありさまは、 前後(ぜんご)夢中(むちう)に大(おほ)よがり、 男(をとこ)
               中 四

もふかくつき、あさく入(い)れ、 種々(しゆ〴〵)さま〴〵の手(て)をつ
くせば、おべんはなき出(だ)しすゝりあげ、タヾすう
すうといだきつき、 男(をとこ)もまだ〳〵気(き)をやりて、《割書:クシ‾ ヤ| 〳〵〳〵》
《割書:ピチ‾ ヤ| 〳〵〳〵》と、あたりもうきになるばかり、たがひに出(だ)し
たりださせたり、これまでなりと、 二人(ふたり)は、やう〳〵
立(たち)あがり、折(をり)から響(ひヾ)く鐘(かね)のこゑ、〽ボヲン、〽(おべん)ヲヤモウ
九(こゝの)ツだ、日(ひ)がみじけへのヲ、おらガ所(とこ)のきまぐれ
は、はやく弁当(べんとう)をよこせばいゝに、〽(粂)いぢのきた

ねへ、おらもけふはいく所(とこ)があツたつけ、〽女(をんな)の
とこかへ、 〽(粂)ばかアいひねへ、モウおそくなツた、ドリヤト
いふとたんに又(また)
         かねのこゑ
          〽ボヲン 引


                  中 五

BnF.

正写相生源氏  下


うつ
  し
相生
 げむじ
        下之巻

【上部】
さぐり
〽じつは
 おまへの
あだな
 しぐさに
まよつた
  をりから

  御ぜんの
   おふせ
   さいはひ
    にして
   くらがりで
    あふた
   ときから
    また
    ひとしほ
     あぢの
    よいので
    わすれかね
      つら
    おしぬぐツて
      また
     きたのさ


【下部】

〽あなたが
  さういふ
 御しんせつな
  おこゝろ
    とも
  ぞんじ
   ませず
  つひ
   だまされ
     たが
   くやし
     さに
   めにかど
    たてゝ
   あら
    だてゝ
  さぞ
   はしたない
   ばゝアだと
  おさげすみ
      で
  ございませう
   あれはつひ
      した
    ことばの
      はづみ
       どう
        ぞ
       かん
        にん

      下ノ一

       あ
        そ
       ばし
         て
      これ
       からは
     すゑ
      ながく
      かあい
       がつて
       くだ
        さい
        まし
         よ
        ヲゝ
         モウ
       よい事
      うれ
       しう
      ござい
         ます

しとみ
〽あとでみすてる
     くらゐなら
  なんでこんなに
      ほねををらう
     いのちをすてるも 
       かねてのかくご
          アゝどうも
            この
            いゝ事
             ソレ
            くわ
             へて
            ひつ
            ぱる
            〳〵


もゝよ
〽あさま
   しい
此なりを
 みつけ
 られては
  身の
 ねがひ
  もう
 かなはい
   でも
  大じ
   ない
  これが
   じつ
   なら
  しとみ
   さん
 かならず
 みすてゝ
 おくんな
  はる
   なヨ

【上部】
おとせ
〽たとへからだに
   さはつても
 あなたの事なら
   いとひません
 いつそずつうが
    しましたが
  こんなことを
    はじめたら
  さつぱりと
    よくなりましたヨ


〽こんな事をしたならば
  びやうきにさはるか
       しらないが
 かほをみてはがまんが
        ならね
  それともいやならよしに
   しやうかアゝどうもこたへられぬ

【下部】
〽いつもの
  おかぢの
 おびくにが
  まゐつた
    から
  さう
   申さうと
 きてみれば
  まのわるさ
   エゝ
    じれつ
     たい
  こんな
    事は
  きかぬ
   はうが
  よつほど
   ましだ


〽すこしのあひだ
  こらへてゐな
 モウ十六と
  いふものだ
      から
   できない
     事は
    ないはづだが

あかし
〽なんだかふちが
    ひり〳〵と
 いたくツて
   なりません
 なんなら
    どうぞ
  これツきり
 ひとり
  ねさせて
 ください
   まし

【上部】

〽手もあしもない
きむすめより
 としまは
かくべつ
させやうが
じやうずな
  せへか
アゝいゝ〳〵〳〵

【下部】
〽せつないときは
  おやをだせとげせわに
   まうすがうそはない
  このやうな
     みやうだいなら
   いつでもいやとは
      いひません
     ヲゝそれ〳〵
    このよい事
      フウ〳〵〳〵〳〵
     エゝモ
       どうしたら
         よう
       ござい
         ませう

〽きけばあなたは
 おくさまもあり
 そのほかいくらと
  いふかぎりなく
    女をおたらし
      なさる
        との
         事
     そのやうに
      きのおほい
     おかたはじつに
        きが
         もめて
         いやだ
          ねへ


        〽そのよに
         わるぎの
        あるものでは
      ないどこから
          そんな
     うはさをきゝやつた


〽これさ
  まア
しづかに
  しろ
はてさて
かしましい
   女ども
    じや

いくせ
〽これ片かひさん
  しつかりとして
 そこをおはなしで
      ないヨ
  あんまり御ぜんが
 しやうわるをあそばす
         から
 モウこつちもきかない
    きになりました

生写(しやうゝつし)相生(あひおひ)源氏(げんじ)下之巻
                               東都  女好菴主人著
     第八  地蔵堂(ぢざうだう)のまき
竹(たけ)の柱(はしら)に萱(かや)の屋根(やね)。鯨(くじら)よる浜(はま)虎(とら)伏(ふ)す野辺(のべ)も。思(おも)ふ郎(をとこ)とくらすなら。何(なん)の厭(いと)はん
なに怨襟(つら)からうと。むかし〳〵の流行(はやり)唄(うた)に。あるものながら是(これ)はこれ。その情態(じやうたい)の
切(せつ)なるを。物(もの)に喩(たと)へていふのみにて。実(じつ)にその事(こと)あるときは。少々(せう〳〵)否(いや)な漢士(をとこ)の傍(そば)でも
朝夕(あさやふ)楽(らく)に不自由(ふじゆう)なく暮(くら)すが倍(まし)ぞと思(おも)ふべし。されば音勢(おとせ)は吉光(よしみつ)に誘(いざな)はれたる夜(よる)
の道(みち)。怖々(こわ〳〵)ながら走往(はせゆき)て。軒(のき)も傾(かた)ふく地蔵堂(ぢざうだう)。渾身(みうち)しとゞに濡(ぬれ)しぼたれ。間(ひま)もる風(かせ)の
身に染(しみ)て。それさへ心苦(こゝろくる)しきに。またもや降来(ふりく)る雨(あめ)の脚(あし)。生憎(あやにく)風(かぜ)のふき起(おこ)りて。堂(だう)の
板間(いたま)へばら〴〵と。音(おと)も厳(きび)しく降沃(ふりそゝ)ぐ。それのみならで今(いま)までは。消残(きえのこ)りたる燈明(みあかし)
の。幽(かすか)ながらも心(こゝろ)の便(たより)と。思(おも)ひしものを吹入(ふきい)るゝ。烈(がげ)しき風(かぜ)にはしなくも。滅(きえ)ての
后(のち)は烏玉(うばたま)の。そことも別(わか)ぬ真闇暗(まつくらやみ)。たゞ怖(おそろ)しさの弥倍(いやまし)て。吉光(よしみつ)の傍(そば)にすり倚(よ)り

俯(うつぶ)きて物(もの)もいはず。吉光もまた今(いま)さらに。よしなきとをしてけりと。男(をとこ)ながらも
何(なに)とやら。後(うしろ)視(み)らるゝ心地(こゝち)して。音勢(おとせ)が背(そびら)へ手(て)をうちかけ。千話(ちわ)も口舌(くせつ)も出(いで)ばこそ。
弱(よは)り給へど女子(をなご)を俱(く)し。怯(おそ)るゝ態(ふり)を視(み)するならいよ〳〵音勢(おとせ)が怖(おぢ)もせんと。自(みづから)心(こゝろ)を
励(はけ)まして。四方(よも)に眼(まなこ)を配(くば)り給(たま)ふ。現(げ)にそのむかし業平(なりひら)が。二條(にでう)の后(きさき)の凡人(たゞうと)にて。在(おは)せし折(をり)から
竊(ねすみ)出(いだ)し。芥川(あくたがは)の辺(ほとり)にて。雨(あめ)ふり雷(かみ)さへ鳴(なり)はためき。弓胡簶(ゆみやなぐひ)を自(みづか)ら負(おひ)て。戸口(とぐち)にたてりし
その夜半(よは)も。思(おも)ひ出(で)られて物凄(ものすご)く。心(こゝろ)も滅(き)ゆるばかりなるに。猶(なほ)雨風(あめかぜ)の小止(をやみ)なく。一陣(ひとしきり)
なる暴風(あらきかぜ)。吹来(ふききた)りしが椋(むく)の樹(き)の。堂(だう)の方(かた)にさし覆(おほ)ひし。枝(えだ)をぽつきと吹折(ふきをり)て。軒端(のきば)へ
かけて摚(だう)と隕(おつ)る。その物音(ものおと)に駭(おどろ)きて。音勢(おとせ)は嗟(いな)やと吉光(よしみつ)に。力(ちから)を究(きは)めて抱(いだ)きつく。
此方(こなた)も同(おな)じく肝(きも)を消(け)し。音勢(おとせ)を直(ひた)と抱(いだ)きしめ。ほつと一息(ひといき)顔(かほ)と顔(かほ)。暫(しばら)くありて
ざわ〳〵と。蔀(しとみ)を伝(つた)ひ地(ち)に落(おつ)るは。樹(き)の枝(えだ)なンどを吹(ふき)をりしと。心(こゝろ)づきては怖気(こわげ)も失(う)せ。始(はじ)め
て匂(にほ)ふ伽羅(きやら)の香(か)は。音勢(おとせ)が髪(かみ)か白粉(おしろい)の。蘭麝(らんじや)の薫(かほ)りも憎(にく)からず。えならぬ心地(こゝち)にむく
むくと。亀頭(あたま)を揚(あぐ)る若(わか)ざかり。吉光(よしみつ)はそのまゝに。音勢(おとせ)を膝(ひざ)へ引(ひき)あけて。物(もの)をもい
                               下ノ一

はず口(くち)と口。怖(こわ)さながらも惚(ほれ)ぬいた。男(をとこ)に抱(いだ)きしめられて。忽地(たちまち)心(こゝろ)もあぢになり。舌(した)
を出(いだ)せばスパ〳〵と。吸(すは)れていとゞ快(こゝろ)よく。思(おも)はず上気(じやうき)のありさまに。吉光(よしみつ)は手(て)を伸(のば)し。徐々(そろ〳〵)
音勢(おとせ)が内股(うちもゝ)へ。さしいれ給へば内股(うちもゝ)を。少(すこ)し広(ひろ)げて猶(なほ)すり倚(よ)る。その可愛(かあい)さも愖(たえ)が
たく。まづ空割(そらわれ)よりだん〳〵と。心(こゝろ)静(しづ)かに撫(なで)まはし。指(ゆび)の腹(はら)にて玉門(ぎよくもん)を。探(さぐ)りてみればはや
じく〳〵と。吐婬(といん)に湿(しめ)る左右(さいう)の渕(ふち)。いと和(やは)らかき肌(はだ)ざはり。絹羽二重(きぬはぶたゑ)も何(なに)ならず。さればそろ〳〵
一本(いつぽん)の。指(ゆび)をさしいれ玉門(ぎよくもん)の。上下(うへした)左右(さいう)をゆるやかに。いぢり廻(まは)せは愖(たえ)ずやありけん音勢(おとせ)は
頻(しき)りに上気(じやうき)して。耳(みゝ)と頬(ほう)とを赤(あか)くなし。鼻(はな)少(すこ)しつまらせて。吾(われ)しらず腰(こし)を動(うご)かし
男(をとこ)に直(ひた)と抱(いだ)きつき。更(さら)に前後(せんご)も覚(おぼ)えぬ体(てい)。吉光(よしみつ)ははやたまらず。火(ひ)の如(ごと)く勃起(おゑ)た
る一物(いちもつ)あてがひてちよこ〳〵〳〵と。十度(とたび)ばかり腰(こし)をつかへば。その度毎(たひごと)に少(すこ)しツゝ。何時(いつ)の間(ま)にか
根元(ねもと)まで。しつくり這(はい)入れば内陝(うちせま)く。ぬきさしのたび雁首(かりくび)を。こすらるゝ心地(こゝち)よさ。
吉光(よしみつ)は舌(した)を伸(のば)し。音勢(おとせ)が口(くち)を甞(なめ)ながら。九浅一深(きうせんいつしん)の術(じゆつ)をつくし。突(つき)たつるほどに
その快(こゝろ)よさ。何(なん)に譬(たと)へむものもなく。音勢(おとせ)はたゞフウ〳〵〳〵と。目(め)をねぶり物(もの)もいはず

力(ちから)を入(い)れて抱(いだ)きつき。身を少(すこ)し震(ふる)はすは。精(き)かいくならんと察(さつ)しれば。こなたも溜(たま)らずドク
〳〵〳〵と。湯(ゆ)の如(ごと)くなる腎水(じんすゐ)を。弾(はぢ)きこみツゝしめつける。今(いま)は怖(こは)さもうち忘(わす)れ。頓(やが)て眼(め)をあけ
莞爾(につこり)と。笑(わら)ふ靨(ゑくぼ)の愛敬(あいけう)女児(むすめ)。吉光(よしみつ)はたゝ可愛(かあい)さに。髣髴(はうほつ)として物(もの)も覚(おぼ)へず。殊(こと)に血気(けつき)の若(わか)大(だい)
将(しやう)。精(き)はゆきぬれど陰茎(いんきやう)は。猶(なほ)しやつきりと弱(よは)りもやらねば。そのまゝに抜(ぬき)もせず左右(さいう)の手(て)にて
抱(だ)き竦(すく)め。さツく〳〵と腰(こし)をつかへば。今度(こんど)は二人(ふたり)の陰水(いんすゐ)が。玉中(ぎやくちう)に充満(みち〳〵)たれは。ずるり〳〵と
大(おほい)に滑(ぬめ)り。外(そと)の方(かた)まで溢(あふ)れ出(だ)し。玉茎(たまぐき)の根元(ねもと)紅舌(さね)のうへ。空割(そらわれ)までもびた〳〵と。互(たがひ)にぬるゝ
花(はな)の雨(あめ)。しばらくありて二人(ふたり)とも一所(いつしよ)に精(き)をやりしまひ。懐紙(ふところがみ)におし拭(ぬぐ)ひ《割書:吉|》〽どうだ快(よ)かつたか
ト顔(かほ)覗(のぞ)かれて問答(いらへ)もせず。たゞ赧(あか)らむる恍惚子(おぼこ)の情(じやう)。いとかあゆくぞ思(おも)はれける。兎(と)かくする
まに鶏(とり)の声(こゑ)。遠近(をちこち)に聞(きこ)えツゝ。はや白々(しら〳〵)とあけ渡(わた)るに。雨(あめ)も止(や)み風も凪(なぎ)て。東(ひがし)の方の
晃々(きら〳〵)しきは。程(ほど)なく朝日(あさひ)の昇(のぼ)るなるへしされば二人は帯(をび)などを。しめ直(なほ)してたちあがり
はや吉光(よしみつ)は堂(だう)の掾(えん)へ。たち出(いで)給ふその折(をり)から。向(むか)ふへ一挺(いつちやう)の駕(かご)を釣(つら)らせ。女子(をなご)三四人 前後(あとさき)に
たち。その他(ほか)俱(とも)とおぼしきもの。十四五人もやありつらん。こなたを付(さし)て来(き)にければ遥(はる)かに
                                      下ノ二

みかけて序(ついで)。悪(わろ)しと。手(て)をもて音勢(おとせ)を推禁(おしとゞ)め。暫時(しば〳〵)堂内(だうない)にかくろひて。遣(や)り過(すご)さ
んとし給ふほどに。かの人々(ひと〳〵)は急(いぞ)ぎ足(あし)。忽地(たちまち)堂(だう)の傍(ほと)りへ来(き)しを。何者(なにもの)ならんと吉光(よしみつ)は。扉(とびら)を
少(すこ)しおしひらき。顔(かほ)さし出(だ)して視(み)給ふとたん。此方(こなた)も視上(みあげ)て恟(びつく)りし〽《割書:ヲヤ| マア》こゝに入(いら)しつた
ヨトいひツゝ階(きざはし)を駈(かけ)あがるは。日来(ひころ)寵愛(ちやうあい)の側室(そばめ)幾瀬(いくせ)。跡(あと)につゞきて片貝(かたかひ)桃代(もゝよ)。その
他(ほか)俱(とも)の若党(わかたう)小者(こもの)も。みな一容(いちやう)に肝(きも)を消(け)し。その処(ところ)へ蹲(うづく)まる。かくて三人(みたり)の側室(そばめ)等(ら)
は。堂内(だうない)へ入(い)り音勢(おとせ)をみて。さてもしほらしきよい女児(むすめ)。それにこの吉光(よしみつ)の。館(やかた)へも
帰(かへ)られず。遊(あそ)びて在(おは)すものならん。とは思(おも)へども他(ほか)に人(ひと)なく。この辻堂(つぢだう)にいかにして。女児(むすめ)と
二人(ふたり)在(おは)すらん。と夫(それ)さへに不審(ふしん)はれず。片貝(かたかひ)は腰(こし)を屈(かゞ)め〽この頃(ごろ)仮初(かりそめ)の御(おん)ン出(いで)より。二三日
たてども御帰館(ごきくわん)なし。余(あま)りのことにおん身(み)のうへを。案(あん)じ過(すご)してまうし合(あは)せ。手人(てひと)斗(ばかり)り
連(つれ)まして。今朝(けさ)は頓(とう)からお迎(むか)ひ心(こごろ)。たしか御出(おいで)さきは嵯峨(さが)とやら。承(うけたま)はつたを宛(あて)にして
参(まゐ)りましたに思(おも)ひもかけず。どうして此処(こゝ)にといぶかれば。吉光(よしみつ)莞爾(につこ)と笑(ゑみ)給ひ〽ヲゝ左(さ)
様(う)か太儀(たいぎ)であつた。竟戻(つひもど)らうと思(おも)ふたが。少(すこ)しのわけで遅(おそ)うなり。僉(みな)のものにも苦労(くらう)を

さした。こゝに居(を)るは音勢(おとせ)といふもの。其方(そち)達(たち)も心易(こゝろやす)う世話(せわ)をして遣(やつ)てくりやれ。
乗物(のりもの)まで宜気(ようき)が付(つい)た。折角(せつかく)の心(こゝろ)いれドレおれは駕(かご)に乗(のら)う。近(ちか)うよせいと仰(おふせ)の給た。
駕(かご)さしよすれば吉光(よしみつ)は。夫(それ)へひらりと乗(のり)給ふ。音勢(おとせ)はこれなる女子(をなご)どもの。容子(やうす)を見(み)るに側室(そばめ)
なるべし。倘(もし)然(さ)もあらばこの身(み)をば。欝悒(いぶせき)ものになすらん。とおもへば己(おの)が心(こゝろ)から。何(なに)となう護身影(うしろめだ)
くて。乱(みだ)れし髪(かみ)を搔(かき)あげなどしつ。果敢(はか〴〵)々々しくは物(もの)もいはず。幾瀬(いくせ)片貝(かたかい)桃代(もゝよ)等(ら)の。三人(みたり)は
夫(それ)と察(さつ)するから。なか〳〵快(こゝろよ)からねど重(おも)き君(きみ)の仰(おふせ)なるを。爭(いか)で疎略(そりやく)になすべきと。側(そば)へ
倚(よ)りて挨拶(あいさつ)し。いざわれ〳〵と連(つれ)だちて君(きみ)の御ン俱(とも)をし給へと。促(うなが)さるゝを僥倖(さいはひ)に。音勢(おとせ)は
頻(しき)りに言葉(ことば)を低(ひく)うし。三人(みたり)が跡(あと)に引副(ひきそふ)て。吉光(よしみつ)が駕(かご)に後(おく)れじと。喘々(あへぎ〳〵)行(ゆく)ほどに。生垣(いけがき)左右(さいう)
に結(ゆひ)めぐらして。小(ちい)さき冠木門(かぶきもん)をたて。裡(うち)よりあまたの枝(えだ)うちかはせし。松(まつ)は緑(みどり)の色(いろ)をまし。
柳(やなぎ)桜(さくら)も折(をり)しり顔(がほ)に。さかりをみするその気色(けしき)。内(うち)ぞ床(ゆか)しきその在(あり)さまに。吉光(よしみつ)駕(かご)を駐(とゞ)め
させ。しばし其(その)さまをうち視(み)やりて。こゝは誰(た)が住居(すまゐ)ぞや。と問(とは)せ給ふに日来(ひごろ)より。連哥(れんか)なシ
どの御対身(おあいて)に。たび〳〵御前(ごぜん)へ召(めさ)れぬる。兎見傔仗(うさみけんぢやう)が家(いへ)なり。と聞(きこ)し召(めし)てたちまちに。心(こゝろ)の裡(うち)
                                 下ノ三

におぼすやう。傔仗(けんぢやう)が女児(むすめ)小曽女(こそめ)といへるは。性質(うまれつき)孅弱(たをやか)にて。心の風流(みやび)も比(ならび)なし。と人(ひと)の噂(うはさ)に
聞(きい)たる事あり。僥倖(さいはひ)なれば立(たち)よりて。それをみばやと乗物(のりもの)の。戸(と)を引(ひき)あけて三人(みたり)を召(め)し。
〽こゝは兎見(うさみ)が宅(たく)とやら。おれは駕(かご)でよいけれど夕(ゆふべ)の雨(あめ)で路(みち)も濘(ぬか)り。歩行路(かちじ)は僉(みな)も大儀(たいぎ)
であらうに。僥倖(さいはひ)傔仗(けんぢやう)は風雅(ふうが)な雄士(をとこ)。立(たち)よつて休息(きうそく)し。朝餉(あさげ)でも支度(したく)して。寛々(ゆる〳〵)館(やかた)へ
帰(かへ)らうほどに。其方(そち)たち先(まづ)前(さき)へ往(い)て。此事(このこと)を伝(つた)えよト仰(おほ)せによつて片貝(かたかひ)始(はじ)め。三人(みたり)は
やをら門(もん)を入(い)り。しか〴〵のよし音信(おとなへ)ば。兎見(うさみ)は聞(きい)て思(おも)ひもかけぬ。こは有難(ありがた)き御来臨(ごらいりん)。さはれ
余(あま)りに早(はや)くして。いまだ掃除(さうじ)もゆきとゞかず。霎時(しばし)それにといひ捨(すて)て。頓(やが)て小奴(こもの)婢女(はしため)等(ら)
を。いそがしたてゝ。遽(あはたゞ)しく。塵(ちり)うち払(はら)ひ御坐(ござ)を設(まう)け。いざ〳〵是(これ)へといふ間(ま)もなく。はや入(い)り
給ふ吉光公(よしみつぎみ)は。築山(つきやま)遣水(やりみづ)などいとをかしう。造(つく)り立(たて)たる庭(には)の面(おも)。かなた此方(こなた)と視(み)やり給ひ
さて書院(しよゐん)へ通(とほ)り給へば。片貝(かたかひ)幾瀬(いくせ)桃代(もゝよ)音勢(おとせ)は。君(きみ)の左右(さいう)に坐(ざ)を卜(しむ)る。奥(おく)には傔仗(けんぢやう)衣服(いふく)
を改(あらた)め。渾家(つま)の小弱木(こよろぎ)女児(むすめ)小曽女(こそめ)も。御 目見(めみへ)をさすべきに。髪(かみ)もかけあげ身(み)じまひも。早(はや)
うせよと急立(せきたて)て。徐々(しづ〳〵)と御前(ごぜん)へ出(いで)。板椽(いたえん)の端(はし)に蹲(うづく)まり思(おも)ひかけずも来臨(らいりん)の。辱(かたじけ)なきよし

を申せば。吉光(よしみつ)はほゝ笑(ゑみ)み給ひ〽朝(あさ)まだきのおしかけ客(きやく)。さこそ便(びん)なくおもふらめど
忍(しの)びのうへのまたしのび。下部(しもべ)の他(ほか)は女子(をなご)ども。聊(いさゝか)も気(き)をおかず。近(ちか)う参(まゐ)つて四方八方(よもやま)の
噺(はな)しでもして聞(きか)せやれ。去来(いざ〳〵)々々と懇(ねんごろ)に。宣(のたま)ふほどに傔仗(けんぢやう)は。然(しか)らば御免(ごめん)と進(すゝ)みより。
いとおもしろき花(はな)のさま。君(きみ)にはいかゞ視(み)給ふらむ。夜半(よは)の嵐(あらし)に遺(のこ)りなく。もて参(まゐ)りし歟(か)と
思(おも)ひしに。さのみには散(ちり)も失(う)せず。まだその詠(なが)めの竭(つき)ざるは。君(きみ)が来(き)まさん准備(ようい)にか。草木(くさき)は
非情(ひじやう)なりと言(まう)せど。情(こゝろ)なくてやかくあるべき。と申せば御機嫌(ごきけん)麗(うるは)しく傔仗(けんぢやう)いしくも言(まう)し
たり。さて伝(つた)えきく其方(そち)が女児(むすめ)。小曽女(こそめ)とかやは風流(みやび)にて。敷嶋(しきじま)の道(みち)を好(この)むとやら。知(し)るごとく
和哥(わか)の道(みち)は。この身(み)にも大好(だいすき)にて。哥(うた)よむ人と聞(きく)ときは。何(なに)やら床(ゆか)しく思(おも)ふなり。けふ爰(こゝ)へ
来(き)た甲斐(かひ)に。小曽女(こそめ)にもあひ。その詠草(えいさう)をも。みまほしく思(おも)ふなりと。仰(おふせ)にはつと傔仗(けんぢやう)が
〽仰(おふせ)までもいはず。頓(とく)お目見(めみへ)を願(ねが)はんと。存(ぞん)じては居(をり)ますれど閨(ねや)の姿(すがた)のみだれ髪(がみ)。それとり
揚(あげ)てと心(こゝろ)ならずも。遅(おそ)なはるにて侍(はべ)るやらん。まず寛々(ゆる〳〵)といらせ給へト兎(と)かくするまに
御酒(みき)殽(さかな)。朝餉(あさげ)の准備(ようい)もとゝのひて。婢女(はした)が運(はこ)ぶを傔仗(けんぢやう)がうけとりて御前(ごぜん)へも持(もち)いで
                                   下ノ四

〽暴(にはか)のことにて行(ゆき)とゞかず。麁末(そまつ)ながらも御酒(みき)一献(いつこん)トいふを聞(きゝ)て傍(かた)へに侍(はべ)りし。片貝(かたかひ)はじめ
三人(みたり)の傍女(そばめ)。音勢(おとせ)もあとに引そふて。銚子(ちやうし)土器(かはらけ)を吉光(よしみつ)君(ぎみ)の。御 傍(そば)近(ちか)くへ進(すゝ)むれば
吉光(よしみつ)傔仗(けんぢやう)に会釈(ゑしやく)あり土器(かはらけ)をとりあげ給ふ。この折(おり)渾家(つま)の小弱木(こよろぎ)と小曽女(こそめ)は衣服(いふく)
を更(あらた)めて。板椽(いたえん)の方よりする〳〵と。歩行(あゆみ)出(いづ)れば傔仗(けんぢやう)が〽すなはち是(これ)へ参(まゐ)りしは。妻(つま)小弱木(こよろぎ)と
小曽女(こそめ)にはべり。よき折(をり)を得(え)て御目見(おめみへ)を。いたすは渠等(かれら)が身(み)の僥倖(さいはひ)有がたうそんじまするト
演(のぶ)れば吉光(よしみつ)〽ヲゝ左様(さう)か。今いふ通(とほ)り遠慮(ゑんりよ)はない。サア〳〵近(ちか)うトあるにより小弱木(こよろぎ)小曽女(こそめ)
もろともに。遥(はるか)末坐(ばつざ)にすゝみ倚(よ)る。かくて吉光(よしみつ)は御ン土器(かはらけ)を。先(まづ)傔仗(けんぢやう)に賜(たま)はりツゝいつの
ほどにか御使(おつかひ)を。館(やかた)へ走(はし)らせ給ひけん。御 近習(きんじゆ)なる岩井蔀(いはゐしとみ)が。唐櫃(からひつ)二合(にがふ)舁(かき)になはせ
庭口(にはぐち)より進(すゝ)みいり。椽(えん)の端(はし)に手(て)をつかへて〽仰(おふせ)にまかせ品々(しな〳〵)を。舁(かき)齎(もたら)して参り候いかゞ
計(はか)らひまうさんトいへば吉光(よしみつ)うち笑(ゑ)み給ひ〽其処(そこ)へ出(だ)して並(なら)べいト仰(おふせ)に蔀(しとみ)は唐櫃(からひつ)の蓋(ふた)
はね開(あけ)てとり出(だ)すは。黄金(こがね)作(づく)りの太刀(たち)一振(ひとふり)。巨勢(こせ)の金岡(かなをか)が絵(ゑ)まきもの。白銀(しろかね)五十枚(ごじふまい)台(だい)に
載(の)せ是(これ)は傔仗(けんぢやう)への御みやげ。また沈檀(ぢんだん)の寄木(よせき)にて造(つく)り役(まう)けし櫛(くし)の匣(はこ)。綾錦(あやにしき)の巻絹(まきぎぬ)

十 巻(くわん)これをば妻(つま)の小弱木(こよろぎ)へ。また高蒔絵(たかまきゑ)の短冊箱(たんざくばこ)染付(そめつけ)の香炉(かうろ)惟朱(つゐしゆ)の香合(かうがふ)。また
一角(えかふる)をもて彫(きざ)みたる。筆架硯屏(ひつかけんびやう)を始(はじめ)とし。世(よ)にも稀(まれ)なる名器(めいき)ども。旦(かつ)御ン小袖(こそで)一襲(ひとかさね)。こ
れは小曽女(こそめ)にとらするとの。仰(おふせ)に三人(みたり)は額着(ぬかづき)て。その恩(おん)を謝(しや)し奉(たてまつ)り。蔀(しとみ)も御 次(つぎ)へ通(とほ)らせ
て。さま〴〵に饗応(もてなし)けり。かくて御 盞(さかづき)の数(かず)重(かさ)なり。君(きみ)にも酔(ゑひ)を催(もよふ)し給ひ。御機嫌(ごきげん)斜(なゝめ)なら
ざれば。三人の側室(そばめ)小弱木(こよろぎ)小曽女(こそめ)。音勢(おとせ)も今(いま)はうちとけて。盞(さかづき)数遍(すへん)めぐらすまゝに。そ
の程々(ほど〳〵)に酔(ゑひ)を発(はつ)して。声(こゑ)さへ高(たか)くなりもてゆけば折(をり)こそよけれと小弱木(こよろぎ)は。予(かね)て侍女(こしもと)に
分携(いひつけ)おきけん。琴(こと)皷弓(こきう)三味線(さみせん)を。持来(もちきた)りて後(うしろ)へおく。小弱木は恵しやくして。
〽始(はじ)めての御ン入(いり)に慰(なぐさ)めまゐらす品(しな)もなく。さこそ鬱悒(いふむく)おぼすらめ。不束(ふつゞか)なれど小曽女(こそめ)
事。いさゝか糸竹(いとたけ)を習(なら)ひ覚(おぼ)え。音色(ねいろ)をかしういたし侍り。御 慰(なぐさみ)にはならずとも。御 笑(わら)ひくさも
一興(いつきやう)と。御景色(みけしき)をもうかゞはず。是(これ)へ器(うつは)をとりよせ侍(はべ)り。苦(くる)しからずは一曲(いつきよく)を。お聞(きゝ)にいれ侍(はべ)
らんか。然(さ)はれ一人(ひとり)にてはその音色(ねいろ)も。静(しづか)に過(す)きて興(きよう)も薄(うす)し。御属々(おつき〴〵)の女中(ぢよちう)のうち何にまれ做(なし)
給はゞ。こよなう愛(めで)たく侍(はべ)るべし。といへば吉光(よしみつ)それこそ僥倖(さいはひ)。その相方(あひかた)は誰(され)にても。頓出(とくいで)よと宣(のたま)ふ
                                  下ノ五

にぞ。さらばといひて片貝(かたかひ)は。三味線(さみせん)を掻(かい)とりつ幾瀬(いくせ)は皷弓(こきう)の役(やく)に居(を)れば。小曽女(こそめ)は琴(こと)
のは柱(ぢ)をかけて。軈(やが)て弾出(ひきだ)す三人(みたり)の音色(ねいろ)。いづれも倍(まさ)ず劣(おと)らぬ曲(きよく)に。人々(ひと〳〵)心耳(しんに)を澄(すま)すばかり。霎(しば)
時(じ)は一坐(いちざ)寂(しづ)まりたり
      第九  古今伝授(こきんでんじゆ)のまき
この楽(たのしみ)も時(とき)過(す)ぎて。永(なが)き春日(はるひ)もはや闌(たけ)て。午(うま)の貝(かひ)吹(ふく)ころとはなりぬ。夫(それ)より吉光(よしみつ)は
辞退(じたい)する小曽女(こそめ)が詠草(えいさう)を請(こひ)とりて。端(はし)より次第(しだい)によみくだし。只管(ひたすら)称誉(しやうよ)し給ふほど
に傔仗(けんぢやう)夫婦(ふうふ)も歓(よろこ)ばしきことに思ひてさま〴〵の追従(つゐしやう)言葉(ことば)を謁(つく)すうちに。女児(むすめ)小曽女(こそめ)は
哥(うた)の道(みち)を好(この)めるものから年(とし)もまゐらず。いと拙(つたな)くは候へど。あはれ君(きみ)の賢慮(けんりよ)をもて。古今(こきん)
伝授(でんじゆ)を賜(なまは)らば是(これ)に倍(まし)たること侍(はべ)らず。成(なる)べくは近(ちか)きほどに御許(みゆるし)あらば女児(むすめ)は元(もと)より。われ〳〵とて
も生前(しやうぜん)の歓(よろこ)びにて候と。聞(きい)て吉光(よしみつ)欣然(きんぜん)とし。そはいと易(やす)き願(ねが)ひ也今(いま)直(すぐ)にと膝(ひざ)たて給ふを。
おし止(とゞ)め参(まゐ)らせて今(いま)は御遊(ぎよいう)の妨(さまたげ)なり。いつにても御閑暇(ごかんか)の折(おり)もて願(ねが)ひ奉(たてまつ)ると。いひ果ぬに吉(よし)
光(みつ)が。互(たがひ)に若(わか)き身(み)ながらも只管(ひたすら)懇望(こんまう)することを。寛々(ゆる〳〵)延(のば)すべきならす。真蘓枋(ますほ)の芒(すゝき)の

故事(ふること)あり。いざ〳〵准備(ようい)いたすべし。去(さり)ながらこの事(こと)は冷泉家(れいぜいけ)の極意(ごくい)にて。彼家(かのいへ)
伝授(でんじゆ)の法式(ほふしき)は七間(なゝま)を隔(へだて)一間(ひとま)毎(ごと)に。内(うち)より錠(ぢやう)をさし固(かた)め。其処(そこ)にて伝授(でんじゆ)をする事なれど
それにてはいと手 重(おも)し。二間(ふたま)ばかりを隔(へだて)てなん。奥(おく)まりたる所(ところ)あらば案内(あんない)せよと立(たち)給へば
傔仗(けんぢやう)小弱木(こよろぎ)は先(さき)にたち。奥(おく)のかたへ案内(あんない)し参らす吉光(よしみつ)四辺(あたり)をみまはして。こゝの一間(ひとま)が宜(よか)らんと
やがて其処(そこ)此処(こゝ)を建(たて)きりつ。待間(まつま)もあらず徐々(しづ〳〵)と入(いり)来(く)る小曽女(こそめ)が面(おも)ざしは三人(みたり)の側室(そばめ)
音勢(おとせ)等(ら)には聊(いさゝか)劣(おと)りたる方(かた)なれど。その風俗(ふうぞく)の跫然(しと)やかさは。いかなる宮腹(みやはら)の媛(ひめ)といふ
とも是には過(すぎ)じとみゆる斗(ばか)り。おのづから愛敬(あいけう)づきて寝(ね)よげにみゆると業平(なりひら)が。詠(よみ)けん
むかしも思ひ出(いだ)されて。心(こゝろ)恍惚(くわうこつ)となり給へば頓(やが)てすつとすり倚(より)ツゝ《割書:光|》〽古今伝授(こきんでんじゆ)の三鳥(さんてう)三 木(ぼく)
それよりは三丁つゞけの。よいことを教(おし)えてやらう。此方(こつち)を向(む)きやれト衿首(えりくび)に手をかけて
引(ひき)よせ給へば。小曽女(こそめ)はいまだ恋(こひ)しらぬ心(こゝろ)ときめきたりといへどもその年(とし)もはや十七にて。男(をとこ)
欲(ほし)やの気(き)も出(いで)たるに。吉光(よしみつ)が艶姿(やさすがた)。いなにはあらぬ稲舟(いなふね)の。流(なが)れよる瀬(せ)の波(なみ)まくら。身(み)も
動(うこか)さで有(ある)ほどに。吉光(よしみつ)やがて口(くち)を吸(す)ひ。はや玉門(ぎよくもん)へ手を入(い)れて。探(さぐ)り給ふに年(とし)は年だけ
                                   下ノ六

潤(うるほ)ひ出(いで)て二本(にほん)の指(ゆび)の。苦(く)もなくはいれば玉中(ぎよくちう)を。上(うへ)を下(した)へといろひ給ふに。小曽女(こそめ)は今更(いまさら)は
づかしさに。顋(おとがひ)えりにさし入(い)れて。物(もの)をもいはず居(ゐ)るほどに。吉光(よしみつ)頻(しきり)に指先(ゆびさき)を。奥(おく)へつきいれ
また口元(くちもと)へ。引出(ひきいだ)して紅舌(さね)のあたりを。くる〳〵捻(ひね)れば何(なに)となう。快(こゝろ)よく覚(おぼ)えツゝ。ずる〳〵精水(きみづ)を
出(いだ)すほどに。吉光(よしみつ)今(いま)は折(おり)よしと。前(まへ)をまくり内股(うちもゝ)を。左右(さいう)へ広(ひろ)げて一物(いちもつ)を。あてがひて小(こ)
刻(きざみ)に。腰(こし)をつかへど了得(さすが)は新開(あらばち)。少(すこ)しきしみて入(いり)かぬれば。唾(つばき)をどつしり塗(ぬり)つけて。また
あてがひつちよこ〳〵と。突(つけ)ばたちまちずる〳〵と。這回(こたび)は苦(く)もなく根(ね)まてはいる。当下(そのとき)小曽女(こそめ)の
顔(かほ)をみるに。たゞ眼(め)をねぶり歯(は)をかみしめ。上気(じやうき)なしてや鼻(はな)つまらせ。スウ〳〵〳〵といふほどに。吉光(よしみつ)は
しつかと抱(いだ)き。二三十 遍(へん)つき立(たつ)るに。その開中(かいちう)のしまりよさ。快(こゝろ)よき事 喩(たと)へんかたなく。竟(つゐ)じろ〳〵
精(き)をやり給へど。小曽女(こそめ)は始終(しじう)男(おとこ)の脊中(せなか)へ。手(て)はまはせどもしめもせず。精(き)をやつたるやらやらぬ
やら。夫(それ)さへわからぬ新契(にいちぎり)。たゞわく〳〵と胸(むね)をとる。是(これ)そ恍惚子(おぼこ)の情(じやう)なるべし
       第十  惚薬(ほれぐすり)のまき
かゝる折(おり)から穴沢佐栗(あなさはさぐり)。ゆう〳〵君(きみ)の御 行方(ゆくゑ)を索(たづ)ねあてゝこゝへ来(きた)り。吉光(よしみつ)君(きみ)の耳(みゝ)に口(くち)。うち

低語(さゝやけ)ば笑(わら)はせ給ひ〽大(おほ)かた左様(さう)でありつらん。その准備(ようい)にと蔀(しどみ)にいひつけ。取(とり)よせ置(おい)た
黄金(こがね)千両(せんりやう)。それをとらせて斯々(かう〳〵)せよト仰(おせふ)をうけて〽夫(それ)ならば恨(うら)み所(どころ)か大歓(おほよろこ)び。さぞ有難(ありかた)く
存(そんじ)ませうトいひツゝ佐栗(さぐり)は蔀(しどみ)より。金千両(かねせんりやう)をうけ把(とつ)て。下部(しもへ)に負(おは)せ道(みち)をはやめ。来(く)るとは
知(し)らでうち腹(はら)たつ。浅香(あさか)は椽(えん)に端居(はしゐ)して。長(なが)いものには捲(まか)れろと。喩(たとへ)にいへど余(あんま)りな手妻(てづま)つ
かひの懐(ふところ)より。まだ怖(おそろ)しきあの換玉(かえだま)。吉光(よしみつ)さまでなからうなら。その往先(ゆくさき)を遂(おつ)かけて。
赤恥(あかはぢ)かゝすも知(し)つては居(ゐ)るが。左様(さう)したならば女児(むすめ)の身(み)に。崇(たゝ)りがあらうと。それも
できず。悔(くや)し涙(なみだ)を堪(こら)える怨襟(つらさ)。佐栗(さぐり)雄士(をとこ)もちよくらもの。騙(だま)して何処(どこ)へか迯(にげ)おつた。
ホンニこれが何様(どう)したら。腹(はら)が医(い)やうと。こなたの空(そら)を。うち眺望(ながめ)ツゝ操言(くりこと)の。恨(うら)み烈(はげ)しき
折(をり)こそあれ〽浅香(あさか)は内(うち)歟(か)トいり来(く)る佐栗(さぐり)。それとみるより佐栗(さぐり)が胸逆(むなさか)。とらんとする
手(て)を緊(しつか)とおさへ〽抱(だい)て寝(ね)たときや可愛(かあいゝ)の。三百ぺんも言(いひ)ながら。精(き)をやりつゞけて死(し)ぬ〳〵と。
言(いつ)たを今更(いまさら)忘(わす)れて歟(か)。たとへこの身(み)は換玉(かえだま)でも。まんざら憎(にく)うはあるまいに。何(なん)で其様(そのよ)
に腹(はら)たつのじや。しかし君(きみ)にも気(き)の毒(どく)との。仰(おほせ)につけこみ金千両(きんせんりやう)。まうし請(うけ)てお前(まへ)へ
                                   下ノ七

進(しん)ぜる。是(これ)は御前(ごぜん)の思(おぼ)し召(めし)。とはいへわしが骨折(ほねをり)で。まうし請(うけ)たもお前(まへ)が恋(いと)しさ。その心(こゝろ)
根(ね)を汲(くみ)とつて。呉(くれ)ても宜(よい)ではあるまいか。トいふに浅香(あさか)は顔反(かほそむ)け。傍(かた)へをみれば千両箱(せんりやうばこ)。これ
は。夢(ゆめ)かと了得(さすが)に仰天(ぎやうてん)。その腹立(はらたち)も何処(どこ)へやら。失(うせ)て莞爾(につこり)〽これはまア。正真(ほんとう)かエトいはせも放(あへ)ず
〽ほんの嘘(うそ)のと其(その)やうに。疑(うた)ぐり深(ふか)いも程(ほど)があるト蓋(ふた)うち開(ひら)けば山吹(やまふき)の花(はな)の露(つゆ)そふ
出出(ゐで)ならで。たまげ果(はて)たる斗(ばか)り也。当下(そのとき)佐栗(さぐり)はすり倚(よつ)て〽なんと何様(どう)じやト浅香(あさか)が膝(ひざ)を。
とんと敲(たゝけ)?ば其儘(そのまゝ)に佐栗(さぐり)にひたと抱(いだき)つき〽斯(かう)いふ実(じつ)のあるお方(かた)とは。今(いま)までしらぬ盲目(めくら)も
同然(どうぜん)。一回(いちど)なりとも吉光(よしみつ)さまの。お寝間(ねま)を穢(けが)しお情(なさけ)を。うけたは冥加(めうが)と申すもの。腹(はら)を立(たつ)た
は了張(れうけん)ちがひ。是(これ)から申 佐栗(さぐり)さん。女児(むすめ)もをらぬ独住(ひとりずみ)。不便(ふびん)をかけて下(くだ)さりませト実(げ)に惚薬(ほれぐすり)は
佐渡(さど)が嶋(しま)より。出(で)るのが一番(いちばん)利道(きゝみち)と。川柳(せんりう)点(てん)も虚(うそ)ならぬ。佐栗(さぐり)は心(こゝろ)に仕(し)すましたり。少(すこ)し
萎(すが)れし花(はな)ながら。いまだ色香(いろか)も滅(きえ)うせず。殊(こと)に仕(し)こなし如在(ぢよさい)なく。また開中(かいちう)の味(あぢ)と
いひ。多(おほ)く得(え)がたき年増女(としま)の手取(てとり)。興(きよう)ある事(こと)に思(おも)ひツゝ。そのまゝ直(すぐ)に口(くち)と口。チウ〳〵吸(すへ)ば舌(した)
の根(ね)の。限(かぎり)を出(いだ)して快(こゝろ)よく。吸(すは)せながらに手(て)を伸(のば)し。佐栗(さぐり)が股(また)へさしいるゝ。当下(そのとき)佐栗(さぐり)が一物(いちもつ)は。

ヅキン〳〵と勃起(おゑ)たちて。木(き)よりも堅(かた)く筋(すぢ)ばりしを。浅香(あさか)は無手(むて)と握(にぎ)りつめ。また亀頭(あたま)
より雁首(かりくび)の。あたりを撮(つま)み。または撫(なで)。余念(よねん)もあらぬ景勢(ありさま)に。佐栗(さぐり)も浅香(あさか)が内股(うちもゝ)へ。手(て)を
入(い)れてみれば吐淫(といん)の滑(ぬめ)り。する〳〵として手(て)もつけられず。さては十分(じふぶん)萌(きざ)したり。この斯(ご)を
外(はづ)さずしたゝかに。精(き)をやらして嬉(たのし)まんと。直(すぐ)さま横(よこ)におし転(こか)し。割(わり)こんで突(つき)いるれば。浅香(あさか)は
もはや夢中(むちう)になり。玉茎(へのこ)の亀頭(あたま)が子宮(こつぼ)の口(くち)へ。はやとゞくか届(とゞ)かぬに。アツレいゝとの大(おほ)
嬌(よが)り。グウ〳〵スウ〳〵鳴(なり)たつるは。実(げ)に猪(ゐのしゝ)が鼻(はな)あらしを。吹(ふき)たつるにも異(こと)ならず。佐栗(さぐり)もこ
れに浮(うか)されて。アゝわたしもそれいゝト互(たがひ)の嬌(よが)り坤軸(こんぢく)も。碎(くだ)くるばかりにみえにけり
      第十一 丑(うし)の時(とき)詣(まうで)のまき
夜(よ)は深々(しん〳〵)と更(ふけ)わたり。艸木(くさき)も眠(ねぶ)る丑(うし)三(み)ツごろ。佐栗(さぐり)は時(とき)をとりちがへ。翌(あす)朝六(あけむ)ツには公(おおほやけ)の。
御用(こよう)あればと急(いそ)ぎ足(あし)。浅香(あさか)が家(いへ)を立(たち)いでゝ。俱(とも)をもつれずたゞ一人。小燈灯(こぢやうちん)をふり照(てら)して。
はやくも御所(こしよ)の門(もん)へ来(きた)り。きけば八(ヤ)ツ半(はん)ならんといふ。かくてはいまだ出仕(しゆつし)も早(はや)し。左様(さう)と知(し)
つたら今(いま)しばし。浅香(あさか)と抱(だか)れて寝(ね)たものを。悔(くや)しき事ををしてけりと後悔(こうくわい)しツゝ
                                  下ノ八

御 庭口(にはくち)なる。詰所(つめしよ)へ往(ゆき)て一休(ひとやす)と。折戸(をりど)ひらきて樹立(こだち)の間(ひま)。あゆむ処(ところ)に粲然(ちら〳〵)と。火影(ほかげ)に怪(あや)しみ
燈灯(ちやうちん)を。弗(ふつ)とふき滅(け)し身(み)を潜(ひそ)め。窺(うかゞ)ひみれば吉光(よしみつ)が。寵愛(ちやうあい)深(ふか)き側室(そばめ)の桃代(もゝよ)。髪(かみ)をさば
きて白打扮(しろでたち)。金輪(かなわ)にたてし蝋燭(らふそく)の。風(かぜ)のまに〳〵晃(きら)めくは。嗔意(しんい)の炎(ほむら)としられたり。傍(かたへ)に。
居(ゐ)るは岩井蔀(いはゐしとみ)。手(て)を捕(とら)へて物(もの)いふ風情(ふぜう)。何(なに)さま怪(あや)しと樹(こ)がくれて。それが動静(やうす)を伺(うかゝ)へは
蔀(しとみ)は桃代(もゝよ)が顔(かほ)をみあげて〽感得院(かんとくゐん)の修験(しゆげん)を恃(たの)んで。音勢(おとせ)を呪咀(のろふ)といふ事は。定(たし)かに聞(きい)
たも嘘(うそ)ならず。音勢(おとせ)がこの頃(ごろ)ぶら〳〵病(やまひ)。医師(いし)よ祈祷(きとう)と御所(ごしよ)さまには。ありとあらゆる
御心配(おこゝろづかひ)。その病根(びやうこん)はおまへの所為(しわざ)。たとへ音勢(おとせ)に寵愛(ちやうあい)を。みかへられうとこれも時節(じせつ)。僻(ひが)むは
女子(おなご)の常(つね)とはいへ。大恩(だいおん)うけし君(きみ)が心(こゝろ)を。悩(なや)ます淫婦(いんふ)をみたは僥倖(さいはひ)。サア引縛(ひつくゝ)して庁所(やくしよ)へ拽(ひか)ふと。
いふに桃代(もゝよ)は抱(いだ)きつき〽お前(まへ)も余(あん)まり情(なさけ)ない。先頃(いつぞや)からして贈(おく)られた。文玉章(ふみたまづさ)もこゝにある。色(いろ)よい
返辞(へんじ)をしないのが。お気(き)にいらぬか知(し)らないが。その頃(ころ)は吾君(わがきみ)の。寵愛(ちやうあい)もまた他(ほか)ならず。夫(それ)を
忘(わす)れて他心(あだこゝろ)を。出(だ)しては済(すま)ぬと強面(つれなく)したも。吾儕(わたし)ばかりかお前(まへ)の身(み)をも。大事(だいじ)におもふ蔭(かげ)の深(しん)
実(じつ)。憎(にく)い女(をんな)とお恨(うら)みは。却(かへつ)てお前(まへ)の了張(れうけん)ちがひ。それは過(すぎ)にし昔(むかし)のこと。今(いま)は音勢(おとせ)にみかへられ有(ある)に

甲斐(かひ)なき桃代(もゝよ)が身(み)。人(ひと)を呪咀(のろふ)ば穴(あな)二ツと。いふも承知(しやうち)で奥庭(おくには)へ。夜更(よふけ)て一人(ひとり)の物詣(ものまうで)。それをお前(まへ)
に見付(みつか)つたは。協(かな)はぬ験(しるし)の糠(ぬか)に釘(くぎ)。たとへ庁所(やくしよ)へ拽(ひつ)れりと。さのみ厭(いと)ひはせぬけれと。まんざらに憎(にく)
い。女子(をなご)ぢやと。思(おぼ)さねばこそ玉章(たまづさ)の。数(かず)さへ送(おく)り給はりし。そのお心(こゝろ)の替(かは)らずは。今(いま)はどうなと
吾儕(わたし)が身(み)は。お前(まへ)任(まか)せにするほどに。何卒(どうぞ)この場(ば)は見遁(みのが)してト睨(ながしめ)にして蔀(しとみ)が顔(かほ)を。みツゝ
も歎(なげ)く俤(おもかげ)は。雨夜(あまよ)の月(つき)に梅(うめ)が香(か)の。匂(にほ)ひこぼるゝばかりなるに。蔀(しとみ)はかねて浮岩(あこがれ)て
送(おく)る文(ふみ)さへそのまゝに。うち返(かへ)さりし腹(はら)たゝしさ。折(をり)もかなと思(おも)ふに僥倖(さいはひ)。かゝる容子(やうす)をみ
にければ。疫(えやみ)の神(かみ)で敵(かたき)を撃(うつ)と。世(よ)の諺(ことわざ)にいふごとく。かく厳(きび)しくは威(をど)すものから。掻口(かきく)
説(どか)れて忽地(たちまち)に。魂(たましひ)天外(てんぐわい)に飛(とび)さりつツゝ。左様(さう)いふお前(まへ)の心(こゝろ)なら。何(なん)で吾儕(わたし)がこの事を。人(ひと)に洩(もら)し
て難義(なんぎ)をかけう。いよ〳〵左様(さう)なら今(いま)こゝでと。抱(いだ)きよせて口(くち)を吸(すへ)ば。桃代(もゝよ)も蔀(しとみ)が衿(えり)へ手(て)を
かけ。しめ付(つけ)て口と口。しばしは互(たがひ)に詞(ことば)もなし。暫(しばら)くあつて押(おし)こかし。其侭(そのまゝ)ぐつと割(わり)こめば。太(ふと)り
肉(じゝ)なる桃代(もゝよ)が陰門(いんもん)。ふくれあがりて紅舌(さね)低(ひく)く。その肌(はだ)ざはり艶麗(すべ〳〵)として。えもいは
れぬ心地(こゝち)になり。蔀(しどみ)は急(せき)たち大(おほ)わざ物(もの)を。づぶ〳〵と押(おし)こめば桃代(もゝよ)は久(ひさ)しく遠(とほ)ざかり。男(をとこ)ほし
                                下ノ九

さに開中(かいちう)も。疼痛(うづく)ばかりの。折(をり)なれば。飽(あく)まで太(ふと)く逞(たく)ましき。大物(たいぶつ)を押(おし)こまれて。たゞ
フウ〳〵と息(いき)をはづまし。夢中(むちう)になりて嬌(よが)り出(た)し。絶(たえ)も入なん在(あり)さまに。蔀(しとみ)は日来(ひごろ)したひ
ぬる。ことにしあれば是(これ)もまた。更(さら)に前後(ぜんご)正体(しやうたい)なく。すかり〳〵と突立(つきた)て。ぬきもやらずに二ツ
玉(だま)。双方(さうはう)の陰水(いんすゐ)は。四(よ)ツの股(また)に溢(あふ)れ滴(したゝ)り。びちや〳〵ぐちや〳〵ずぼ〳〵と。たれに心(こゝろ)もおく
庭(には)の樹立(こだち)の他(ほか)に聞人(きゝて)なしと。心(こゝろ)弛(ゆる)して声(こゑ)をたて。余念(よねん)なくこそみえたりけれ
       第十二 祝言(しゆうげん)のまき
室町御所(むろまちごしよ)の御連枝(ごれんし)なる。斯波捨若丸(しばすてわかまる)の奥御殿(おくごでん)。御次(おつぎ)御婢女(おはした)うち交(まじ)り。箒(はき)けはいとり〴〵
に。雑巾(ざふきん)がけの拭(ふ)き掃除(さうぢ)。三ン人よれは姦(かしまし)と。世話(せわ)にもいへる。女(をんな)の口々(くち〳〵)〽室町(むろまち)さまは美(うつく)しい。よい刀祢(との)
さまじやと噂(うはさ)は聞(きい)ても。竟(つひ)にみあげた事もなし。明石(あかし)さまは御僥倖(おしあわせ)。ノウ小蝶(こてふ)どのわたしら
も。何時(いつ)がいつまで御奉公(ごはうこう)。夫(それ)よりか御暇(おいとま)とり。よい良人(ていし)をもち孩児(やゝ)でも産(うん)だら。さそ嬉(うれ)しい
事であろ〽ヲヤ〳〵お前(まへ)は明石(あかし)さまの。今宵(こよひ)の御婚礼(ごこんれい)が羨(うらやま)しさに。急(きふ)に良人(ていし)を持気(もつき)におなりか
ホンニ夫(それ)といへばアノ明石(あかし)さま。御年(おとし)こそお十六なれ。まだねつからな孺子(ねゝ)さんで。お形(なり)も小(ちい)さしあれでも

まア肝心(かんじん)の。御床入(おとこいり)が。出来(でき)やうかいなト低語(さゝやけ)は〽何(なん)だかどうもむづかしさう。夫(それ)よりは後室(こうしつ)の壽田(すだ)
の方(かた)さまはやう〳〵に。お二十九のわか後家(ごけ)さま。美(うつく)しいとは何(なん)の事。女(をんな)でさへ惚々(ほれ〴〵)するほど。いつその
ことに壽田(すだ)さまに。遊(あそ)ばしたら宜(よ)さそなもの〽まさかになんぼ御美(おうつく)しくても。左様(さう)はならぬ訳(わけ)で
あろ。しかし小蝶(こてふ)とん全躰(ぜんたい)は。明石(あかし)さまを直(すぐ)さまに。御所(ごしよ)へ御入輿(ごじゆよ)とある処(ところ)を。むかしは此方(こつち)へ
聟(むこ)をとり。婚礼(こんれい)さしてその後(のち)に。男(をとこ)の方(かた)へ引(ひき)とるが。日本(ひのもと)の礼(れい)とやら。どうぞ左様(さう)いたしたいと。
壽田(すだ)さまの御願(おねが)ひで今宵(こよひ)御所(ごしよ)さまが入(い)らせられ。御婚礼(ごこんれい)とのその噂(うはさ)。左様(さう)してみれば壽田(すだ)
さまにも。お心(こゝろ)有(あつ)てのことかもしれない〽左様(さう)とも〳〵壽田(すだ)さまは。お年(とし)も盛(さか)りの若後家(わかごけ)で。
夫(それ)に男(をとこ)が大(だい)お好(すき)。先刀祢(せんとの)さまにも毎晩(まいばん)〳〵。三(みつ)ツも四(よ)ツも強(しゐ)つけて。竟(つひ)におかくれ遊(あそ)ばしたも。腎(じん)
虚(きよ)とやらいふお病(やま)ひさうな。夫(それ)から後(のち)はお一人住(ひとりすみ)。淋(さび)しうておなりなさるまい。明石(あかし)さまは鑓(まゝ)しい
お子(こ)。どうやらちやつと横盤(よこばん)を。お切(きり)なさるもしれないトいふ口(くち)押(おさ)へて〽これさ〳〵。滅多(めつた)なことを
いふまいぞ。何様(どう)でも此方(こつち)のかまはぬ事。ヲヤ御時計(おとけい)もモウ四ツ半。急(いそ)いで御掃除(おさうじ)しませうト
掃除(さうじ)も終(をは)ればはや九ツ。遠見(とほみ)の雑人(ざふにん)は走来(はせきた)り。御所(ごしよ)さまの御入(おいり)ざふと。知(し)らせに破驚(すは)やと奥表(おくおもて)
                                    下ノ十

ざゝめきわたる御殿(ごてん)の賑(にぎ)はひ。かくて御婚礼(ごこんれい)の式(しき)も形(かた)の如(ごと)く。済(すみ)ての後(のち)に当主(たうしゆ)捨若(すてわか)。また
後室(こうしつ)壽田(すだ)の方(かた)とも。御ン盞(さかづき)事(こと)のありけるに。吉光(よしみつ)これを臠(みそな)はせば。年(とし)こそ少(すこ)し闌(ふけ)かたなれ。天(てん)
然(ねん)の姿色(ししよく)嬌嬈(たをやか)にて。錦(にしき)に包(つゝ)む玉(たま)ならずば。桃(もゝ)と桜(さくら)を一樹(ひとき)に咲(さか)せて。ながむる心地(こゝち)の
せられければ暫(しばら)くは目(め)も離(はな)さず。その俤(おもかげ)に見蕩(みとれ)給ふ。壽田(すだ)の方(かた)も予(かね)てより。聞(きゝ)は及(およ)べと
吉光(よしみつ)君(ぎみ)が。御ン容貌(かほばせ)より立(たち)ふるまひ。優(ゆう)にやさしき御ンけはひ。光(ひか)る源氏(げんじ)も斯(かく)までにはと思(おも)
ふ斗(ばか)りの御ンよそほひに。忽地(たちまち)心(こゝろ)悸(ときめ)きて。手(て)に持(もち)給ふ盞(さかづき)と。同(おな)じ色(いろ)にぞ赧(あから)むる。顔(かほ)を反(そむ)けて
坐(ざ)した給ふ。さま〳〵の御規式(ごぎしき)には。春(はる)の日(ひ)も闌安(たけやす)くして。はやくも初夜(しよや)の過(すぎ)ぬるほどに。頓(やが)て姫君(ひめぎみ)
の御寝所(ぎよしんじよ)には。綾(あや)の褥(しとね)錦(にしき)の横(よぎ)。善(ぜん)をつくし美(び)をつくし。待受(まちうけ)給へば吉光(よしみつ)君(ぎみ)も御ン床着(とこぎ)
を召換(めしかへ)られ。御寝間(おまま)へ入(い)らせ給ひけるに。明石姫(あかしひめ)は女中(ぢよちう)たちが。噂(うはさ)したる如(ごと)くにて。年(とし)に似(に)げなく
少(ちひ)さうて。御心(みこゝろ)さへもをさなければ。刀祢(との)の入(い)らせ給ひしを。恥(はづ)かしと思(おも)ふ気色(けしき)もなく。燈台(とうだい)の下(もと)に
人形(にんきやう)など。とり広(ひろ)げて居(ゐ)給ふほどに。吉光(よしみつ)は是(これ)を見(み)て。余(あま)りに稚過(をさなすぎ)ぬれど。却(かへつ)て可愛(かあい)き所(ところ)も
ありと。側(そば)に居寄(ゐよつ)てこの人形(にんぎやう)は。格別(かくべつ)に秘蔵(ひさう)とみゆれど。室町(むろまち)へ来(き)給はんには。是(これ)にも倍(まし)たる

人形(にんぎやう)の。沢山(たくさん)あるを参(まゐ)らせん。と聞(きい)て明石(あかし)は歓(よろこ)び顔(がほ)。夫(そん)なら今(いま)から参(まゐ)りませう。と余(あま)り稚(をさな)き
御気色(みけしき)に。心(こゝろ)劣(おと)りはせらるれど。是(これ)は全(まつた)く稚心(をさなごゝろ)の。失(うせ)ざる故(ゆゑ)と心(こゝろ)に汲(くみ)とり〽今(いま)は夜(よる)にて夫(それ)は
便(びん)なし。翌(あす)こそ伴(ともな)ひ行(ゆく)べけれ。まづ〳〵今宵(こよひ)は諸俱(もろとも)に。歇(やす)むべければ床(とこ)の中(うち)へ。入(い)り給へと手(て)を
採(とつ)て。頓(やが)て床(とこ)へいり給ひ。吉光(よしみつ)は抱(いだ)きよせ口(くち)を吸(すは)んとし給へど。口(くち)をば堅(かた)く閉(とぢ)て開(ひら)かず。前(まへ)をまく
りて手(て)をいるゝに。アレヨト強(つよ)く押(おさ)ゆるを。然(さ)はせぬものよとその手(て)を放(はな)ち。内股(うちもゝ)へいれてみるに
滑々(すべ〳〵)として薄毛(うすげ)もなく。夫(それ)より稍(しだい)に紅舌(さね)の辺(あた)り。また玉門(ぎよくもん)へ手(て)を臨(ののぞ)ませても。頻(しき)りに渾身(みうち)を
悶(もだ)ゆるのみ。にて陰門(いんもん)のやうす十二三の。小女児(こむすめ)に等(ひとし)へければ。斯(かく)てはなか〳〵用(よう)にも立(たゝ)じと。吉光(よしみつ)
君(きみ)は可笑(をかし)くも。また本意(ほい)なくもおぼされて。詞(ことば)だになく在(おは)しけり
     是(これ)より後(のち)壽田(すだ)の方(かた)との色情(しきじやう)は。まさしく藤壷(ふちつぼ)の宮(みや)が姿(すがた)を借(か)り。三人(みたり)の側室(そばめ)音勢(おとせ)
    が事。傾城(けいせい)浜荻(はまおぎ)が物(もの)あらがひは。葵(あふひ)のうへが赴(おもむき)を模(うつ)し。さま〴〵趣向(しゆかう)ありといへど。こゝに
     丁数(ちやうすう)限(かぎ)りあれば。たゞそのさまを画(ゑ)にのみみせ。文(ぶん)は後(おく)れて二編(にへん)にあり。看官(かんくわん)是(これ)を察(さつ)し給へ
相生源氏下之巻 終
                                 下ノ巻大尾

BnF.

正写
あひ
 おひ
 源氏
    上之巻

正写相生源氏  上

往昔(むかし)の源氏(げんじ)は五十 四帖(よでふ)。今(いま)この
源氏(げんじ)は十 余帖(よでふ)。三本(さんぼん)ならで猿(さる)の
毛(け)岩。足(た)らぬ趣向(しゆかう)もつれ〴〵を。
慰(なぐさ)むばかりの空(あざ)ものがたり。
婀娜(あだ)な処女(あね)さん小意気(こいき)な
年増(としま)。いづれも劣(おと)らぬ情(なさけ)の海(うみ)の。深(ふか)き縁(えにし)を
うつし画(ゑ)に。ゑがけばこれも世態(せいたい)の。生写(しやううつし)とや

相生(おいおひ)源氏(げんじ)の敘(ぢよ)
往昔(むかし)の源氏(げんじ)は五十 四帖(よでふ)。今(いま)この
源氏(げんじ)は十 余帖(よでふ)。三本(さんぼん)ならで猿(さる)の
毛(け)岩。足(た)らぬ趣向(しゆかう)もつれ〴〵を。
慰(なぐさ)むばかりの空(あざ)ものがたり。
婀娜(あだ)な処女(あね)さん小意気(こいき)な
年増(としま)。いづれも劣(おと)らぬ情(なさけ)の海(うみ)の。深(ふか)き縁(えにし)を
うつし画(ゑ)に。ゑがけばこれも世態(せいたい)の。生写(しやううつし)とや

いふべからむ。五条(ごでう)
あたりの夕顔(ゆふがほ)の。宿(やど)は浅香(あさか)が
住居(すまゐ)にとりなし。明石(あかし)の
かたの婚礼(こんれい)は。
葵(あふひ)の上(うへ)の趣(おもむき)を擬(ぎ)し。
その継母(まゝはゝ)なる
隅田(すだ)の前(まへ)は。竊(ひそか)に
藤壷(ふぢつぼ)の更衣(かうい)を模(ぎ)す。

女三(によさん)の宮(みや)の飼猫(かひねこ)は
ねう〳〵と啼(ない)て
妻(つま)を乞(こ)ひ。いぬきが雀(すゞめ)に
あらねども。篭(かご)の鳥(とり)なる娼妓(おゐらん)浜荻(はまをぎ)。
いまだ口(くち)さへ開(ひら)かねば。にげたる噂(うはさ)も
聞(きゝ)およばず。これ等(ら)は後(のち)の話(はなし)物
して。まつ序(ぢよ)びらきを
      なすにしこそ

                        口ノ二

                            口ノ三

もゝよ
〽御ぜんさまわたくしは
  こんばんでちやうど十五日ぶりで
   おめしになりましたから
     どうぞそれだけ
         あそばして
           くださいまし

みつ
〽十五ばんはおろか
      いくばんでも
   こしのつゞくたけ
       やらせてとらさう
     まづ〳〵かうゆつくりとして
           たのしまうでは
                ないか


                          上ノ一

                         上ノ二


片貝
〽こよひのやうにいゝついたしても〳〵
  そのたんびによいと思ふ事はございません
   まことにがつかりといたしてきがとほく
     なりましたツけいまだにまだ
      からだぢうがひよろ〳〵いたすやうで
        ございますどういたしたので
               ございませう

みつ
〽こよひはおれもひさしぶりで
  手まへをだひてねるのだからかくべつに
   せいをいれたゆへそれでよかつたのだらう
  そのせへかおれもだいぶつかれておきかへるも
    たいぎじやしかしいゝつしたらう五ツぐらゐまでは
     おぼえてゐたかそれからはむちうであつた     

みつ
〽なるほど
   てまへは
 ほかのもの
  からみると
 よつほど
  させかたが
  じやうずじや
 そのうへこの
  あぢのよい事は
 どうしたものか
  ほかのものも
   ずゐぶん
  ほねををる
   やうすじやが
  なか〳〵こうは
      ゆかぬ
 なかの
  やうすでも
 ちがつて
   をるか
 こよひは
  とくと
 あらた
  めて
 み
やう
 と
それで
あかりを
つけたのじや
ハテかうみた所では
  さつぱりわからぬアゝこの
 しまりのよい事ソレ〳〵また
  おれもいきさうじやはへ

いくせ
〽アゝいくモウ
 どうもこんなによくツては
                             上ノ三

 いのちもこんもつゞきません
  どうしてこうよくなります
           だらう
   またソレいきますヨ
         フウ〳〵〳〵〳〵〳〵
           スウ〳〵〳〵〳〵〳〵

あさか
〽ばか〳〵しいわが子の
  わられるのをわざ〳〵たちぎゝを
   するでもないがどうもきになつて
               ならない
 ヲヤ〳〵どうかこうかできた
   さうで道たるさんのはないきの
   あらい事まアけしからねへアゝしかし
     これをきいたらおつな
       きになつてきたヨ

                            上ノ四

道たる
〽なぜそんなに
  むねをどき〳〵と
 させるのだなんにも
  こわい事はないはな
 よくきをおちつけて
 ソレおれがのを
    にぎつてみな
   こんなになつてゐるヨ
 これをいれてみなせへ
  どんなにいゝこゝろもち
        だらう
  それだからおめへ
   せけんでしぬの
    いきるのとさはぐも
     みんないゝからの
           事だ

おとせ
〽なんだかしらないが
   かほばかりあつくツて
  そしてからだが
   ふるへてなりません
    これでも
     よいのかねへ

夕やみは是
 はとくし
  月のはて
かへすわか
    きこ
 そのまにも
     みむ

正写相生源氏上之巻
                東都 女好菴主人著
    第一 北嵯峨(きたさが)のまき
こゝに何(いづ)れの御 時(とき)にや。花洛北嵯峨(みやこきたさが)の片(かた)ほとり。表(おもて)に冠木(かぶき)の門(もん)を構(かま)え。庭(には)に
築山(つきやま)遣水(やりみづ)なんど。いと床(ゆか)しくもすみ做(な)したる。その家(や)の主人(あるし)は年(とし)の頃(ころ)。四十(よそぢ)ばかりの
寡婦(やもめ)にて。只(たゝ)一個(ひとり)の女児(むすめ)をもてり。いかなる筋目(すじめ)の人なりや。絶(たえ)て男(おとこ)といふものなけ
れど。四時(ゑいし)の衣裳(いしやう)朝夕(あさゆふ)の暮(くら)しにさへも縡(こと)かゝす。婢女(はしため)二三人と六十(むそぢ)ばかりの。老爺(おやち)一人(ひとり)
をめしつかひて。豊(ゆたか)ならねど貧(まづ)しくは。あらぬさまに世(よ)を送(おく)る。ころは如月(きさらぎ)の中旬(なかつかた)。野末(のずゑ)
に春(はる)をしらせつる梅(うめ)の白(しろ)きははや萎(すが)れて。紅(くれなゐ)のみぞ盛(さかり)なる庭(には)に飛(とび)かふ小雀(こすゞめ)も
世間(せけん)しらずか母鳥(はゝとり)を。したふて翎(はがい)ふくらしつ。倶(とも)に餌(ゑ)ひろふしほらしさ。女児(むすめ)音勢(おとせ)は椽(えん)
端(はな)に。みて居(ゐ)たりしが後(うしろ)をむき《割書:おとせ|》〽アレ慈母(おつかあ)さん。御覧(ごらん)なさい。あれは大方(おほかた)昨日(きのふ)か一昨日(おとゝひ)
巣立(すだち)をいたしたのでございませうね。誠(まこと)にかあいらしいしやうございませんかトいふに母親(はゝおや)

浅香(あさか)はうなづき〽ほんにノウ鳥翔(とりつばさ)でさへあの様(やう)に。子(こ)を慈(いと)しがるは自然(しぜん)の情(じやう)。却(かへつ)て人(にん)
間(げん)はあれほどの。情がないと思ふか知らぬが。お前(まへ)の祖父(おぢい)さんは花華好(はでずき)で。常(つね)に立派(りつば)な
物(もの)好(この)み。辞世(なくなら)れた跡(あと)へ残(のこ)るは。この家屋敷(いへやしき)と借銭(しやくせん)ばかり。夫(それ)も他(ほか)なりや宜(よけ)けれども
荘官どのへ質に入れた。田地の元金三百両これは代々この家に伝(つた)はつた家督(かとく)田(でん)
地(ぢ)。手放(てはな)しては御先祖へ済ぬといふてゞ有たけれと。何をいふにも大金で。請戻(うけもど)す手(しゆ)
段(だん)もないうち。知つての通りお年のうへ。斯成(かうなつ)てみれは私の役目。何卒して取戻したら
草(くさ)葉の蔭て。祖父さまが。さぞお歓(よろこ)びなさらうと思つても男(おとこ)の手(て)でさへ。及はぬお金を
女(をんな)の身(み)で届か。ぬ事と明らめても朝(あさ)に晩(はん)に気にかゝり。神仏へも無理(むり)な願(ねがひ)。かけた
お蔭か此間おまへにも噺(はな)した。通(とほ)り。室町(むろまち)さまがお前の噂(うはさ)を何処(どこ)から歟(か)お聞(きゝ)遊(あそ)ばし
是非〳〵あげろその代り。御 金(かね)は望(のぞ)み次第(しだい)に遣(やら)うと。順菴(しゆんあん)さんの。御取次(おとりつき)ヤレ嬉しや
その金で。田地(でんぢ)は直(すぐ)に手元へ返る。とは思つてもおまへはまだやう〳〵取(とつ)て十四の
女児(むすめ)。十三年のその間。丹誠(たんせい)したも可愛(かあい)さと。また末(すゑ)始終(ししう)楽(たの)しみにもと。思(おも)つた
                                   相生之壱

ものを御殿(ごてん)へあげ。室(むろ)町さまのお寝(ね)間のお伽(とぎ)。有(あり)がたいには違(ちがひ)もないが。花見遊山(はなみゆさん)
も好(すき)にはならず。結構(けつかう)なものを給(た)べ美(うつく)しい衣裳(きもの)着(き)て。みかけ斗(ばか)りは羨(うらやま)しくても。
身(み)は侭(まゝ)ならぬ籠(かご)の鳥(とり)。傾城(けいせい)より少(すこ)し倍(ま)す。宮仕(みやづか)えも傍輩(はうはい)の。嫉(ねた)み媢(そね)みで苦労(くらう)
も多(おほ)く。夫(それ)より結句(けつく)牛(うし)は牛(うし)。馬(うま)は馬(うま)つれ気(きは)は軽(かる)く。慈母(おふくろ)おいでか能天気(よいてんき)。けふは
初寅(はつとら)鞍馬(くらま)へ往(ゆか)う。支度(したく)しやれと無造作(むざうさ)の。暮(くら)しは実(じつ)の楽(たの)しみと。思(おも)へば
いつそ御 断(ことは)りを。立(たて)やうかとは思(おも)ひながら。左様(さう)してみれば。お金(かね)が出来(でき)ず。
二ツよい事サテないものよ。と小唄(こうた)に謡(うた)ふも違(ちが)ひなしまア〳〵お前(まへ)の心(こゝろ)をも聞(きい)たうへでと
相談(さうだん)したら。わたしの安堵(あんど)家(いへ)の為(ため)。何(なん)の少(すこ)しも厭(いと)ひませう。親(おや)の為(ため)なら傾城(けいせい)に。沽(うら)れる
女児(むすめ)も沢山(たんと)ある。夫(それ)からみればお月(つき)さまと。泥亀(すつぽん)ほどな違(ちが)ひやう。人が聞(きい)たら果報(くわはう)や
けて。死(し)なねばよいと申ませう。何卒(どうぞ)左様(さう)して祖父(おぢい)さんの。それほど苦労(くらう)になされ
た田地(でんぢ)。とり戻(もど)して下(くだ)されば。お前(まへ)も一生(いつしやう)楽(らく)になる。三方(さんばう)四方(しはう)これほどな。冥加(めうが)に余(あま)つた
事(こと)はない。と器用(きよう)に挨拶(あいさつ)した故(ゆゑ)にその通(とほ)りを順庵(じゆんあん)さんへ申た所(ところ)夫(それ)ならば近々(ちか〳〵)のうち

御沙汰(ごさた)があらう。といはれたもモウ五六日。大方(おほかた)間(ま)もあるまいほどに。往(いき)たい
処(とこ)でも有(ある)ならば。今日(けふ)にも往(いつ)たがよいぞやト。実(げ)に児(こ)をおもふ親心(おやごゝろ)は。また格別(かくべつ)
としられたり。折(おり)から来(きた)るはこの地(ち)の豪富(かねもち)。弓削道足(ゆげみちたる)といふものにて。この年(とし)は五十(ごじう)
可(ばかり)。されど気軽(きがる)で年(とし)よりは。若(わか)くみゆるが。日頃(ひごろ)の自慢(じまん)。この頃(ころ)流行(はやる)点取(てんとり)発句(ほつく)。浅(あさ)
香(か)も音勢(おとせ)もいひならひ。何処(どこ)の奉燈(はうとう)よしこの奉額(はうがく)。月次(つきなみ)運座(うんざ)衆議判(しやうぎはん)。萬者(はんじや)
披露(びろう)の初会(はつくわい)のと。持(もち)こまれては否(いや)ともいはれす。かの道足(みちたる)はこの道(みち)に古(ふる)く染(そま)りて巧者(かうしや)
なり。女(をんな)に勝(かち)をとらせんと。折(をり)〳〵代句(だいく)もしてやるにぞ。音勢(おとせ)は叔(をぢ)さん〳〵と。隔(へだて)あらねば
道足(みちたる)もいと憎(にく)からず往(ゆき)かよひ。遊(あそ)ぶにはよき女子(をなご)の世帯(せたい)。誰(たれ)に遠慮(ゑんりよ)も内蔵(ないしやう)の
ことまで裏(うら)なく語(かた)りあふ。中(なか)らひなれば其処(そこ)へきて《割書:道|》〽何(なん)だ慈母(おふくろ)大分(でへぶ)真面目(まじめ)で
何(なに)かいふの《割書:浅|》〽ナアニ此(この)間(あひだ)お前様(まへさん)にもお噺(はな)した事サ《割書:道|》〽ムゝ音勢(おとせ)ばうの事(こと)か。ムゝ〳〵
彼(あれ)は至極(しごく)あの子(こ)の了簡(れうけん)がいゝコウ〳〵音勢(おとせ)ばう。室町(むろまち)さまは誠(まこと)に美男(いゝをとこ)でそ
して女(をんな)をは滅法(めつほふ)可愛(かあい)がらツしやるといふ噂(うわさ)だ。お前(めへ)は僥倖(しあはせ)だ。此様(こん)なあどけねへ
                                  上ノ二     

のはまた一倍(いちばい)。可愛(かうい)がつて甞(なめ)たり乾(かは)かしたりさつしやるだらう。折角(せつかく)むつちりとした頬(ほう)ぺたを甞(なめ)な
くされねへやうに気(き)をつけなヨ《割書:おとせ|》〽アレ否(いや)な叔(をぢ)さんだ。私(わたい)は其様(そん)なことはしらないヨ《割書:道|》〽お前(めへ)が知(し)らなくツ
ても。先(さき)で教(おし)えて下(くだ)さらア。何(なん)ならマア其(その)めへに。自己(おれ)が教(をし)えてやらうか《割書:おと|》〽ホゝゝいやだノウトまだ
男(おとこ)にはあふみ路(ぢ)や。心(こゝろ)かたゝ歟(か)石山(いしやま)女児(むすめ)瀬田(せた)の夕照(せきせう)ほんのりと。面赧(かほあか)くして駈(かけ)てゆく《割書:浅|》〽どう
もまだ彼通(あのとほ)りでございますから。今回(こんど)御殿(ごてん)へあげても。何様(どう)だらうかと。案(あん)じられますのサ
他(ほか)の子供(こども)をみるのに。モウ十四にもなれば些(ちつ)とは美心(いやらし)みが付(つく)ものでございますが。何故(なぜ)彼様(あんな)で
こざいませう。その僻(くせ)まんざらな。馬鹿(ばか)でもないかと思(おも)ひひますが《割書:道|》〽夫(それ)ぢやアお前(めへ)が十四ぐらゐ
のときは。余(よつ)ほど晒落(しやれ)て巧者(こうしや)に遣(やつ)たとみへるね《割書:浅|》〽何故(なぜ)エ《割書:道|》〽夫(それ)だツて十人並(しふにんなみ)マア。あのくらゐなものサ
今(いま)ツから。色気(いろけ)が沢山(たつふり)あつてみねへ。大変(たいへん)だ。しかしノウ。浅香(あさか)さん小帒(こぶくろ)と小女児(こむすめ)にやあア。
油断(ゆだん)がならねへといふ譬(たとへ)の通(とを)り。色気(いろけ)が出(で)めへが。體(からだ)が少(ちひ)さからうが。初花(はつばな)せへ咲(さ)きやア。随(ずゐ)
分(ぶん)間(ま)にあふと言事(いふこと)だせ《割書:浅|》〽勿論(もちろん)夫(それ)にしちやア些早(ちつとはや)い方(はう)かして。コウト去年(きよねん)の霜月(しもつき)
あたりから。體(からだ)も汚(よご)れましたがね。何(なん)だか一向(いつかう)な孩児(ねゝ)さんで困(こま)りますヨ《割書:道|》〽何(なん)だか人の噂(うはさ)にやア。

室町(むろまち)さまは大(だい)の腎張(じんばり)で。得手(えて)ものも大(おほ)きいといふ噺(はな)しだ《割書:浅|》〽また馬鹿(ばか)をお言(いひ)なさるヨ
《割書:道|》〽なに〳〵そりやア正真(ほんとう)だ。しかし其様(そんな)な大物(たいぶつ)で。無二無三(むにむざん)に突(つき)かけられちやアト眉(まゆ)の間(あいだ)に
皺(しは)をよせ。案(あん)じる面持(おもゝち)こなたにも。たゞ案(あん)じるは其処(そこ)ばかり。霎時(しばし)兎角(とかう)の詞(ことば)もなく。しばらく
有(あつ)て声(こゑ)をひそめ《割書:浅|》〽お心易(こゝろやす)いから申ますが。実(じつ)は夫(それ)を案(あんじ)ますのさ。万一(ひよつと)して怪我(けが)でもして御(ご)
覧(らん)なさい。宜恥(いゝはぢ)ツかきでございますから《割書:道|》〽そこもあれば蓋(ふた)もありだか。ナニ〳〵まさか其様(そん)な
事もあるめへ。しかし浅香(あさか)さん。娼妓坊(ぢようろや)なんぞをみるのに。體(からだ)が大(おほ)きけりやア。十三でも十四で
も。モウ鄽(みせ)へ出(だ)して客(きやく)をとらせるが。左様(さう)いふのは其処(そこ)の宅(うち)へ出入(でいり)の人(ひと)か。または他(ほか)の娼妓(ぢようろ)へ久(ひさし)く
馴染(なじん)で来(く)る客人(きやくじん)が。いづれ四十 以上(いじやう)の人に梳攏(みづあげ)をして貰(もら)ツて。夫(それ)から出(だ)しやす。左様(さう)せへす
りやア。何様(どん)な強蔵(つよざう)に出会(であつ)ても。間違(まちがひ)ねへが。左様(さう)でねへと。悪(わる)くすると。怪我(けが)をして
困(こま)るといふ事だ《割書:浅|》〽ヲヤ〳〵左様(さう)かねへ。何故(なぜ)また四十以上の人(ひと)に。恃(たの)みますねへ《割書:道|》〽ハテサ若(わけ)エものは
いざ戦場(せんじやう)と言(いつ)てみねへ。松(まつ)の根(ね)ツ子(こ)か。山椒(さんしやう)の擂子木(すりこぎ)のやうにして。突立(つきたて)るから溜(たま)らねへ。処(ところ)が
四十以上のものは。たとへ勃起(おこつ)ても何処(どこ)か和(やは)らかで。ふうわりとするだらう。其(その)うへお前(めへ)場(ば)かず
                                   上ノ三

巧者(かうしや)で。なか〳〵雛妓(しんぞ)を痛(いた)めるやうなことはしねへサ《割書:浅|》〽フム左様(さう)かねへ《割書:道|》〽マアお前(めへ)なんざア何(いく)
歳(つ)のとき。何様(どん)な人に割(わら)れたか。大概(たいげへ)覚(おぼ)えがあらう。考(かんがへ)てみねへナ《割書:浅|》〽ホゝゝゝモウ久(ひさ)しい事(こつ)たから
其様(そん)な事は忘(わす)れ切(きつ)たのサ《割書:道|》〽イヤ〳〵そりやア嘘(うそ)だ初(はじ)めて割(わつ)て貰(もら)ツた人は死(しぬ)まで決(けつ)して
忘(わす)れるものぢやアねへとヨ。そりやア男(おとこ)でせへ左様(さう)だノ。夫(それ)からざらに成(なつ)ちやア一々(いち〳〵)覚(おぼ)えてノも
ゐねへけれど《割書:浅|》〽お前(まへ)なんざア猶(なほ)の事さね《割書:道|》〽何故(なぜ)〳〵こりや一ばんきゝ所(どこ)だ。竟(つひ)にさせた
事もなくツて《割書:浅|》〽またお前(まへ)此様(こんな)な老婆(ばゝあ)がどうなるものかね《割書:道|》〽イヤまだ〳〵左様(さう)まんざら
捨(すて)たもんぢやアねへ。《割書:浅|》〽拾(ひろ)ひもされまいねホゝゝゝ《割書:道|》〽マア雑談(じやうだん)は串戯(じやうだん)。音勢(おとせ)ばうの事が正真(ほんとう)に
気(き)になるか《割書:浅|》〽それが実(じつ)に苦労(くらう)サ《割書:道|》〽夫(そん)なら自己(おれ)が。梳攏(みづあげ)をしてやらうじやアねへか。左様(さう)すれ
ば大丈夫(だいじやうぶ)だ。エゝそれぢやア悪(わり)いか《割書:浅|》〽左様(さう)さねト考(かんが)へる《割書:道|》〽何(なに)も自己(おれ)が彼様(あん)な手(て)も足(あし)もねへ
お玉杓子(たまじやくし)をみるやうなものを。是非(ぜひ)抱(だい)て寝(ね)てへといふのじやアねへが。左様(さう)して出(だ)せは大丈夫(だいじやうぶ)で
おめへが安心(あんしん)にもならうかと思(おも)ふのだ。其処(そこ)でノ浅香(あさか)さん斯(かう)しやう。是(これ)からお前方(めへがた)は
立派(りつぱ)な身(み)のうへに成(なつ)て。銭(ぜに)も金(かね)も入(いる)めへけれど。既(すで)に娼妓(ぢようろ)の梳攏(みづあげ)でせへ。夫々(それ〳〵)の祝義(しうぎ)を

してやるわけ。深窻(しんそう)に養(やしな)はれて。手(て)いらずをする訳(わけ)だから。自己(おれ)が小袖(こそで)一襲(ひとかさね)祝義(しうぎ)として。
金(かね)を十両はづみやせう。ハゝゝゝしかし一晩(ひとばん)で十両あんまり安直(あんちよく)でもねへノハゝゝゝ《割書:浅|》〽ナニそりやアマア何様(どう)でもよ
いが。彼児(あのこ)が承知(しやうち)すれば宜(いゝ)がトはや十両の祝義(しうぎ)と聞(きい)てどうせ他人(たにん)に預(あづ)ける女児(むすめ)。とれば取得(とりどく)とい
ふ気(き)になる《割書:道|》〽其処(そこ)はお前(めへ)からよく左様(さう)言聞(いひきか)して。何(なん)でも御殿(ごてん)へ出(で)るにやア。左様(さう)
して往(いか)ねへと悪(わり)いからと言(いつ)てみねへ仔細(しせへ)はねへはナ《割書:浅|》〽夫(そん)なら左様(さう)言(いひ)ますから。晩(ばん)に
来(き)てみてお呉(くん)なさいナ《割書:道|》〽ムゝよし〳〵晩(ばん)に来(き)やせう
     第二 初寝(はつね)のまき
浅香(あさか)は音勢(おとせ)を言諭(いひさと)し。何様(なん)でも左様(さう)せにやならぬといふから。音勢(おとせ)もそのみ否(いなみ)
もせずその夜(よ)になれは道足(みちたる)は。まづ酒肴(さけさかな)など齎(もたら)して。母子(おやこ)に振舞(ふるまひ)時分(しぶん)はよしと。
予(かね)て設(まう)けの閨(ねや)へ入(い)る。浅香(あさか)は音勢(おとせ)が手(て)を把(とつ)て《割書:浅|》〽サア往(いき)な。そして叔(をぢ)さんか何様(どう)せう
と。自由(じゆう)になつて居(ゐ)るのだヨ。これ〳〵この紙(かみ)を持(もつ)ていきナ《割書:おとせ|》〽なんだか私(わたい)は怖(こわ)いやうだ
ねへ《割書:浅|》〽ナニサ怖(こわ)いことも何(なんに)もないはナ。道足(みちたる)さんが悪(わり)いやうにはしまいから。サア往(いき)なヨト
                               上ノ四

いはれて恍惚子(おぼこ)の恥(はづ)かしく。面(かほ)あからめるを屏風(びやうぶ)を引(ひき)あけ《割書:浅|》〽夫(そん)ならお恃(たの)み
申ますヨ《割書:道|》〽委細(いさい)承知(しやうち)ス。コウ音勢(おとせ)ばう。マア帯(おび)を解(とき)な左様(さう)してこゝへ這入(はいつ)て寝(ね)る
のだ《割書:おとせ|》〽ホゝゝゝ可笑(をかしい)ねへ《割書:道|》〽何(なに)もをかしい事はねへ。サア今夜(こんや)はお前(まへ)と自己(おれ)と御婚礼(ごこんれい)だ
しかし薬鑵(やくわん)と土器(かはらけ)の婚礼(こんれい)は。神武(じんむ)以来(このかた)あるめへハゝゝゝ《割書:おとせ|》〽何(なん)だとへ《割書:道|》〽ナニ此方(こつち)の事ヨ
さア〳〵早(はや)く這入(はいん)なと。いへど了得(さすが)に入(いり)かぬるを。道足(みちたる)手(て)を取(とつ)て無理(むり)に引(ひき)こみ《割書:道|》是(これ)サ
左様(さう)堅(かた)まつて居(ゐ)ちやアいけねへすつと此方(こつち)へかう倚(よつ)て。そして足(あし)をあげて自己(おれ)が足(あし)の
うへゝあげるのだ。ムゝ左様(さう)〳〵。其処(そこ)でこの枕(まくら)の下へ手(て)をずいと入(い)れナ。夫(それ)から斯(かう)しやうと
いふのだト道足(みちたる)左(ひだり)の手(て)を伸(のは)し。音勢(おとせ)が内股(うちまた)へずつと入(い)れると《割書:おとせ|》〽アゝレ叔(をぢ)さんトいひながら
股(また)をすぼめる《割書:道|》〽是(これ)サそれじやア往(いけ)ねへ《割書:おとせ|》〽夫(それ)でもくすぐつたいものヲ《割書:道|》〽マア其処(そこ)を少(すこ)し
我慢(がまん)しなくツちやア。刀祢(との)さまのお気(き)にやアいらねへ。サアこゝを広(ひろ)げなヨ《割書:おとせ|》〽斯(かう)かへ
《割書:道|》〽ムゝ左様(さう)だ〳〵ト手(て)をやつてむつくりとしたる額際(ひたひぎは)。なでゝみれば二三分(にさんぶ)ばかり。
もや〳〵として指(ゆび)まはさつれど。撮(つま)むほどにはまだならぬ。薄毛(うすげ)の容子(やうす)かあいら

しく夫(それ)よりだん〳〵手(て)をやれば。両渕(りやうふち)高(たか)くふつくりとしたる。中(なか)にちよんぼり
埋(うづ)み紅舌(ざね)。そのまはりには長(なが)き毛(け)の。四五 本(ほん)はえて手(て)にさはる。其(その)心地(こゝち)よさ道足(みちたる)が。
一物(いちもつ)亀頭(あたま)を持(もち)あげて。ぴん〳〵と勃起(おゑ)たてば。音勢(おとせ)が手(て)を持(もち)そえて《割書:道|》〽サアこれを
握(にぎ)つてみな《割書:おとせ|》〽ヲヤト言(いつ)たばかり直(すぐ)に放(はな)す。其(その)手(て)を押(おさ)へ《割書:道|》〽しつかり握(にぎ)つて。上(うへ)へやつ
たり下(した)へやつたりしてみなヨ《割書:おとせ|》〽をかしなもんだねへ《割書:道|》〽ナニ可笑(をかし)ものかトこゝに暫(しばら)く気(き)を
移(うつ)させ。そろ〳〵撫(なで)て玉門(ぎよくもん)へ。中(なか)ゆび一本(いつほん)はめてみるに。吐婬(といん)といふは更(さら)になけれど。
ずる〳〵はいれば先(まづ)しめたりと。予(かね)て准備(ようい)の通和散(つうわさん)。唾(つは)にてときこて〳〵と。陰茎(まら)
の亀頭(あたま)より雁首(かりくび)の下(した)の方(はう)までよく塗(ぬり)つけ。さてまた音勢(おとせ)が玉門(ぎよくもん)のまはりへ
べた〳〵塗(ぬり)まはせば《割書:おとせ|》〽何(なん)だエ誠(まこと)に気味(きみ)が悪(わる)いねへ。私(わたい)は浄水(ちやうづ)に往(いつ)て参(まゐ)らう《割書:道|》〽ナニ
気味(きみ)の悪(わる)いことはねへ。マア浄水(ちやうづ)は跡(あと)にしねへ。サア是(これ)からかうするのだトくつと割(わり)こみ
一物(いちもつ)を。押(おし)あてがふに道足(みちたる)は。その大(おほ)むかし名(な)に高(たか)き。弓削(ゆげ)の道鏡(だうきやう)が子孫(しそん)にて。道足(みちたる)
まで三十八 代(だい)遥(はるか)の裔(すゑ)でも否(いや)といはれぬ。血脈(ちすぢ)のしるし歟(か)一物(いちもつ)は。並(なみ)に超(こえ)たる大(おほ)わざ
                                    上ノ五

もの。年(とし)は取(とつ)てもしやんとこい。いきり切(きつ)ては鉄火(てつくわ)の如(ごと)く。血気(けつき)壮(さかん)の若(わか)ものにも
なか〳〵劣(おと)らぬ威勢(いきほひ)なれば釜(かま)の蓋(ふた)をしたるごとく入(い)れものよりも入(い)れるものが。
四方(しはう)へ余(あま)つて這入(はいる)へき気色(けしき)なければ道足(みちたる)も。少(すこ)し困(こま)つた心持(こゝろもち)。されど宝(たから)の山(やま)にいり。
手(て)をむなしくはと通和散(つうわさん)を。またこて〳〵と塗(ぬり)まはし。脇(わき)の下(した)から手(て)をさしこみ。
両方(りやうはう)の肩(かた)をしつかりおさへ。乗(のり)かゝつてちよこ〳〵〳〵と小(こ)きざみに腰(こし)をつかへば。薬(くすり)
の奇特(きどく)にずる〳〵と亀頭(あたま)ばかりははいつた容子(やうす)。音勢(おとせ)はこのとき上気(じやうき)して。耳(みゝ)と
頬(ほう)とを真赤(まつか)になし。顔(かほ)をしかめて《割書:おとせ|》〽アゝレ何(なん)だかはゞつたいやうでアゝせつないト
頻(しき)りに上(うへ)へ乗(の)り出(だ)すを。道足(みちたる)肩(かた)をしめつけ〳〵《割書:道|》〽今(いま)によくなるから些(ちつと)堪(こら)えナ。其(そん)
様(な)に痛(いた)くはあるめエ《割書:おとせ|》〽アゝ痛(いた)くはないけれと。をかアしいは《割書:道|》〽ナニ今(いま)にだん〳〵
よくなるから。腰(こし)を些(ちつと)ヅゝ動(うご)かしてみなトまたちよこ〳〵と早腰(はやごし)につかひけれ
ば程(ほど)もなく。かの大物(たいぶつ)は毛際(けぎは)まで。ぬら〳〵〳〵と這入(はいり)しが元来(もとより)新開(しんかい)のしまりよ
く。陰茎(まら)の亀頭(あたま)を赤子(あかご)の口(くち)でくわへて引(ひつ)ぱるやうなれば。道足(みちたる)は現(うつゝ)をぬかし。音(おと)

勢(せ)が頬(ほう)や口(くち)の端(はた)をべちや〳〵と甞(なめ)まはしその可愛(かあい)き事 喩(たと)へんかたなく
一生懸命(いつしやうけんめい)にだきしめれば。音勢(おとせ)もこのとき開中(かいちう)がむづ痒(がゆ)きやうに覚(おほ)え。何(ど)
処(こ)となく気持(きもち)よければ思(おも)はず道足(みちたる)が首筋(くびすじ)を両(りやう)の手(て)でしめつけ〳〵
《割書:フウ〳〵|  ハア〳〵》息(いき)づかひ。せわしくなれば道足(みちたる)ははや少(すこ)しも堪(こら)えられず頓(やが)てドキン〳〵
ドク〳〵〳〵と樽(たる)の吞口(のみくち)抜(ぬい)たるごとく腎水(じんすゐ)子宮(こつぼ)へはぢけかけ。アゝ〳〵ムゝ〳〵と夢中(むちう)の驕(よが)
り。当下(そのとき)浅香(あさか)は兎(と)やあらんと抜足(ぬきあし)をして隔紙(からかみ)の。外(そと)へ来(きた)りつ身(み)を倚(よせ)かけ。
耳(みゝ)を澄(すま)して動静(やうす)をきくに。思(おも)ひの外(ほか)に出来(でき)たやうす。道足(みちたる)がグウ〳〵スウ〳〵
嬌(よが)るを聞(きい)てあぢな気(き)になり。年(とし)は取(とつ)ても永(なが)き年月(としつき)。一義(いちぎ)強(たえ)たる陰門(いんもん)へ。たち
まちびしよ〳〵湿(しめ)り気(け)出(で)て。湯具(ゆぐ)さへ濡(ぬる)るばかりなれば。何(なん)となく上気(じやうき)して。
耳(みゝ)も真赤(まつか)になるばかり。はやその内に道足(みちたる)は。紙(かみ)をとつて拭(ふ)き方を。教(おし)えなど
するやうすに。はや是(これ)までと徐々(そろり〳〵)。おのれが子舎(へや)へ帰りゆく。音勢(おとせ)はかねて噺(はなし)にも
きゝ。其(その)身(み)も何時(いつ)ぞ交合(して)みたいと。思(おも)ふ心(こゝろ)はありながら。たゞ枕絵(まくらゑ)でみたばかり
                                  上ノ六

どふいふ物(もの)歟(か)と思(おも)つたに今宵(こよひ)始(はじめ)めて味(あぢ)をしり。なるほど悪(わる)くもないやうだが
何(なん)だかはゞツたくつて。抜(ぬい)た跡(あと)まで例(いつも)とは。どこやら違(ちが)ツた心持(こゝろもち)。それにぬる〳〵
拭(ふい)ても〳〵。跡(あと)から流(なが)れる気味(きみ)わるさ本(ほん)や何(なに)かに書(かい)てある。苦労(くらう)をしたり
気(き)を揉(もん)で。するほどのものでもないと。真(しん)の甘美(うまみ)をまだしらぬ。恍惚子(おぼこ)心(こゝろ)ぞ道理(ことはり)なる
    第二 室町(むろまち)のまき
爰(こゝ)に始(はじめ)より記(しる)したる。吉光公(よしみつきみ)と聞(きこ)えしは。日本一(につほんいち)の長者(ちやうじや)にて。国々(くに〴〵)数多(あまた)領(りやう)し
たまひ。花洛(みやこ)室町(むろまち)に御所(ごしよ)をかまへ。住(すみ)給ふをもて如此(しか)いへり。この君(きみ)いまだ二十一 歳(さい)。
殊(こと)に容色(やうしよく)双(なら)びなく。女(をんな)にしてみま欲(ほし)き。やさ姿(すがた)にて在(おは)しければ。属々(つき〴〵)の女房(にようぼ)たち。
甲乙(たれかれ)となく慕(した)ひまゐらせ。どうぞ〳〵と居膳(すえぜん)は。七五三(しちごさん)やら五々三(ごゝさん)やら。料理(れうり)に愚(おろか)は
なけれとも。人(ひと)の心(こゝろ)は貴賤(きせん)となく。常(つね)に眼(め)なれし物をば嫌(きら)ひ。珍(めづ)らしきを好(す)く
ものにて。人品(ひとがら)のよき長髱(ながつと)や。或(ある)ひは地黒(ぢくろ)地白(ぢしろ)の福袿(かいどり)。大振袖(おほふりそで)の高髷(たかわげ)は。平生(つね)の
事(こと)にて面白(おもしろ)からず。紅白粉(べにおしろい)もうつすりと。水髪(みづがみ)嶋田(しまだ)か銀杏(いてう)くづしの。結(むす)び髪(かみ)

さへ目(め)につきて。その風俗(ふうぞく)を好(この)み給(たま)へば。奥女中(おくぢよちう)も自然(おのづから)。それに移(うつ)りて
意気(いき)作(づく)りには。なすものながら下々(した〳〵)の。女(をんな)の如(ごと)くはえもならず。されど多(おほ)くの
側室(そばめ)のうち。別(わけ)て寵愛(ちやうあい)なし給ふ。片貝(かたかひ)といふ十九 歳(さい)。色白(いろしろ)にして鼻筋(はなすぢ)通(とほ)り。
眼(め)はぱツちりとして黒眼(くろめ)がち。一(ひと)たび睨(ながしめ)にみるときは。ぞつとするほど色気(いろけ)を含(ふく)
む。桃代(もゝよ)といへるは二十二 歳(さい)。色(いろ)は少(すこ)し浅黒(あさぐろ)けれど。地躰(ぢたい)の艶(つや)は玉(たま)の如(ごと)く。口元(くちもと)眼(め)
元(もと)に愛敬(あいけう)あり。そのうへ気軽(きかる)で口(くち)まへよく。人(ひと)の気(き)をとる上手(じやうず)なり。また幾瀬(いくせ)
とて太(ふと)り肉(じゝ)。標致(きりよう)はさのみ宜(よ)からねど。今(いま)流行(りうかう)の於多福(おたふく)出(で)。むつくりとして愛敬(あいけう)
あり。殊(こと)に一義(いちぎ)の上手(じやうず)にて。男(おとこ)を泣(なか)す希代(きたい)の妙術(めうじゆつ)。自然(しぜん)に得(え)たる上開(じやうかい)は。是(これ)に上(うへ)
超(こ)すものもなく。この三人は殊(こと)さらに。吉光(よしみつ)が寵愛(ちやうあい)にて。下方(したがた)風(ふう)に身(み)をかざ
らせ。夏(なつ)冬(ふゆ)素足(すあし)の花華(はで)作(づく)り。その余(よ)の側室(そばめ)七八 人(にん)。されば吉光(よしみつ)はかはる〳〵
閨(ねや)へも召(め)し。また此方(こなた)より。往(ゆき)給ひて一晩(ひとばん)に。三人五人の時(とき)もあり。また一人を抱詰(だきづめ)に
楽(たのし)み給ふ折(をり)もあり。しかるにけふは桃(もゝ)の節句(せつく)。祝(いわ)ひ日の事なれば。怨(うら)みツこいが有(あつ)
                                上ノ七

ては悪(わる)い。みな一同(いちどう)に歓(よろこ)ばせ。楽(たの)しみ給んと昼(ひる)の程(ほど)より。掛(かゝ)りの女中(ちよちう)に内意(ないい)あり。
はやるの暮(くれ)るや暮(くれ)ぬ間(ま)から。奥御殿(おくごてん)をたて切(きつ)て。飩子(どんす)の蒲団(ふとん)を敷(しき)つらね。
吉光(よしみつ)は中(なか)に坐(ざ)し。そのまはりに十人(じうにん)の側室(そばめ)をずつと並(なら)べおき。手自(てづから)竃(くじ)を
出(だ)し給ふ。まづ一番(いちばん)に当(あた)りしは。真(まこと)の陰茎(まら)にて本手(ほんて)にとり組(くみ)。二番(にばん)より五番(ごばん)
までは。左右(さいう)の手(て)左右(さいう)の足(あし)に男質(はりかた)一本(いつほん)ツゝ結(ゆひ)つけて。側(そば)へ引(ひき)よせ嬌(よが)らすべし。また
六 番(ばん)は入(いり)かはり。真(まこと)の陰茎(まら)にて茶臼(ちやうす)となし。七 番(ばん)より十番までは。前(まへ)の如(ごと)く
男質(はりかた)で。嬌(よが)らせんとありければ。さては一番と六 番(ばん)の竃(くじ)こそ。肝心要(かんじんかなめ)なれと。堅(かた)
唾(づ)を呑(のん)で竃(くじ)をひくに。あけて悔(くや)しき他(ほか)の数(かず)。一 番(ばん)はかの手取(てとり)。幾瀬(いくせ)が当(あた)りと
大歓(おほよろこ)び。さてそれ〳〵の順(じゆん)にまかせ。右(みぎ)り左(ひだ)りへ引(ひき)つけて。まづ幾瀬(いくせ)が股(また)おしひ
ろげ。会釈(ゑしやく)もなく突入(つきい)れ給へば。幾瀬(いくせ)は例(れい)の泣上手(なきじやうず)。はやスウ〳〵と泣出(なきいだ)し。手足(てあし)を
からみもちあげ〳〵。アゝ〳〵どうもそれもつと。上(うへ)の方(はう)を力(ちから)をいれて。おつき遊(あそ)
ばして下(くだ)さいまし。エゝモ體(からだ)が蕩(とけ)るやうだと。絶入(たえい)る斗(ばか)りの声(こゑ)を出(だ)し。身(み)を

もがいて抱(だき)きつく。吉光(よしみつ)は左右(さいう)の手(て)。左右(さいう)の足首(あしくび)を働(うご)かせて。上(うへ)を下(した)へと突(つき)
ながら。腰(こし)をくる〳〵幾瀬(いくせ)が望(のぞ)みに。ソレ上(うへ)かそれ奥(おく)かと。頻(しきり)にすか〳〵づぶ
ずぶと。突(つき)立(たて)給(たま)へば男根(なんこん)は。はりさく如(ごと)く気(き)が満(みち)て。はや腎水(じんすゐ)も流(なが)れんとす
るにぞ。われを忘(わす)れて両(りやう)の手(て)で。しつかと幾瀬(いくせ)を抱(いだ)きしめ。足(あし)を縮(ちゞ)めて
ソレおれも。サア〳〵いくヨと口(くち)をすひ。ドツキ〳〵と。精(き)をやること限(かぎ)りなく。陰水(いんすゐ)あ
ふれてだら〳〵〳〵と。蒲団(ふとん)へ流(なが)るゝその気味(きみ)よさ。夫(それ)に引(ひき)かえ四人(よにん)の女(をんな)は。今(いま)モウ
いかうとする処(ところ)に。男質(はりかた)を引(ひき)ぬかれ。鳶(とび)に油揚(あぶらげ)さらはれし。心地(こおゝち)になつて物(もの)
もいはず。幾瀬(いくせ)が頻(しき)りに嬌(よが)るをみて。たゞずる〳〵〳〵と陰門(いんもん)より。精水(きみづ)をながす
斗(ばか)りなり。夫(それ)よりもまた入(いれ)かはり。五筆和尚(ごひつおしやう)に異(こと)ならで。一回(いちど)に五人(ごにん)の女(をんな)を泣(なか)す
この戯(たは)ふれにこの夜(よ)を明(あか)す。何(いづ)れも同(おな)じさまなれば。くた〴〵しくて書洩(かきもら)し
つ。かくて吉光(よしみつ)さま〴〵の楽(たの)しみ。いまだ尽(つき)ざれど。予(かね)て北嵯峨(きたさが)の音勢(おとせ)が事。
お手医師(ていしや)順菴(ぢゆんあん)より聞(きゝ)給ひ。楊貴妃(やうきひ)西施(せいし)はものかはにて。吾(わが)朝(てう)の衣通姫(そとほりひめ)。小町(こまち)と
                                上ノ八

いふともこの処女(むすめ)に。なか〳〵及(およ)ぶへきならず。と聞(きゝ)給ふより見(み)ぬ恋(こひ)に。
浮岩(あこがれ)給ひて順菴(じゆんあん)に。よく計(はか)らへといひつけ給ふに。首尾(しゆび)よきお請(うけ)はなしたれど
順庵(じゆんあん)この頃(ごろ)風邪(ふうじや)とて。引籠(ひつこ)み御前(ごぜん)へ出(いで)されば。音勢(おとせ)がことは先(まづ)それなり。吉光(よしみつ)
頻(しき)りにその処女(むすめ)を。見(み)まほしく思(おぼ)されて。日来(ひころ)お気(き)に入(い)りの穴沢佐栗(あなさはさくり)に。この
事(こと)を命(おほ)すれば。表向(おもてむき)から召(め)すとまうせば。手重(ておも)くして急(きう)にはまゐらず。箇(か)
様(やう)々々(かやう)になし給はゞ。今日(けふ)にも明日(あす)にも自由(じゆう)の事(こと)と。聞(きい)て吉光(よしみつ)歓(よろこ)び給ひ。さあらば
今(いま)から忍(しの)びの供立(ともだて)。准備(ようい)しやれと命(おほせ)をうけ。佐栗(さぐり)はそれ〳〵へ通達(つうだつ)し。その
刻限(こくげん)をぞ侯(まち)にける。こゝに道足(みちたる)は甘(うま)く計(はか)り音勢(おとせ)が初物(はつもの)をしめて心(こゝろ)に歓(よろ)ひ。
今日(けふ)は天気(てんき)も殊(こと)によし。近々(ちか〳〵)に御殿(ごてん)へあがらは。出歩行(であるき)も自由(じゆう)ならず。嵐山(あらしやま)も
盛(さか)りときけば。花見(はなみ)がてらの野遊(のあそ)びに。連(つれ)てゆかんと割籠(わりご)など准備(ようい)なしつゝ
音勢(おとせ)を伴(ともな)ひ供(とも)の男女(なんによ)も二三 人(にん)。忍(しの)びやかに立出(たちいで)て。跡(あと)には母(はゝ)の浅香(あさか)一人(ひとり)。縁(えん)さきを
明(あけ)ひろげ。咲乱(さきみだ)れたる桜海棠(さくらかいどう)。かなたこなたを飛(とび)めぐる。蝶(てふ)の姿(すがた)の優(やさ)しさを

うちながめてありける処(ところ)へ動也(とや)〳〵人(ひと)の足音(あしおと)は誰(たれ)なるらんと伸(のび)あがる。
その生垣(いけがき)の透間(すきま)より。裡(うち)を覗(のぞ)きて一人(ひとり)の侍(さふらひ)〽モシ〳〵この辺(へん)に浅香(あさか)といふ寡婦(やもめ)の
住居(すまゐ)が在(ある)との事(こと)。知(し)つてなら教(をし)えてト聞(きい)て浅香(あさか)は不審顔(ふしんがほ)《割書:浅|》〽ハイ〳〵その
浅香(あさか)と申まするは私(わたくし)でございますが。何(なん)の御用(ごよう)で何方(どちら)から《割書:侍|》〽ハゝア其方(そなた)が浅香(あさか)ど
のか。サア分(わか)りました此方(こちら)へト会釈(ゑしやく)をすればその後(うしろ)に。立(たち)給ふは年(とし)の程(ほど)。二十(はたち)か
二十一二ばかり。色白(いろしろ)くして鼻筋(はなすぢ)通(とほ)り。眉(まゆ)は遠山(ゑんざん)の三日月(みかつき)の如(ごと)く。眼(め)清(すゞ)やか
に唇(くちびる)赤(あか)く。いかにも威(ゐ)あつて猛(たけ)からぬその風俗(ふうぞく)は公家(くげ)にもあらず武家(ふげ)と
も見(み)えぬ打扮(いでたち)は。綾(あや)の小袖(こそで)に二重飩子(にぢうどんす)の紺地(こんぢ)に雲龍(うんりう)を織出(おりだ)したる。被布(ひふ)の
やうなる物(もの)を着(ちやく)し。黄金造(こがねつく)りの小刀(ちさかたな)。指貫(さしぬき)袴(はかま)もめし給はず。かの侍(さぶらひ)が伺(ことば)を
聞(きゝ)て〽思(おも)ふにましたる住居(すまゐ)の風流(ふうりう)少(すこ)しは噺(はな)せるものとみえる。しかし少(すこ)し
の案内(あない)もせず。推(おし)かけ客(きやく)は困(こま)るであらう。其処等(そこら)はよう計(はか)らふて主人(あるじ)が
心(こゝろ)をつかはぬやうに。左様(さう)言(い)やれトいひなから切戸(きりど)を明(あけ)てしづ〳〵と入(いり)給ふに
                                上ノ九

浅香(あさか)は恟(びつく)りかの侍(さふらひ)が傍(そば)へゆきて声(こゑ)を低(ひそ)め《割書:浅|》〽何方(となた)さまでございますか御門(おかど)
違(ちがひ)を。遊(あそ)ばしたのではござりませぬかト訝(いぶか)りとへば点頭(うなづく)侍(さふらひ)〽其方(そなた)が浅香(あさか)どのに
相違(さうゐ)なくは。門違(かとちがひ)ではない彼(あの)お方(かた)は。辱(かたじけ)なくも。室町(むろまち)の吉光(よしみつ)さま。近曽(ちかごろ)お手医師(ていし)
順庵(じゆんあん)から。言(まう)し入(い)れた女児御(むすめご)音勢(おとせ)。頓(とう)にお迎(むか)へあるべき処(ところ)。順菴(じゆんあん)老(らう)が病気(ひやうき)ゆゑ
遲(おそ)くなつたをおまちかね。お忍(しの)ひでと御仰(おつしやる)から。御供(おとも)いたした在下(それがし)は。穴沢佐栗(あなさはさぐり)と
申すもの。心当(こゝろあた)りがござらうがな《割書:浅|》〽ハイ夫(それ)ならば覚(おぼ)えのあること。アゝ生憎(あやにく)に女児(むすめ)は
留守(るす)。女子(をなご)どもと私(わたくし)ばかりトいふを佐栗(さくり)が〽イヤこれお袋(ふくろ)。決(けつ)して心配(しんぱい)はいらぬ事
御 茶(ちや)弁当(べんたう)の准備(ようい)もあり。御供(おとも)の衆(しう)は銘々(めい〳〵)割籠(わりご)。茶(ちや)なり湯(ゆ)なりあればよし。
座敷(ざしき)には炉(ろ)もみえる。釜(かま)もかけてある容子(やうす)御 茶(ちや)一服(いつぷく)献(けん)じれば。跡(あと)はわれらがよい
様(やう)に。斗(はか)らふは宜(よ)けれども。肝心(かんじん)の女児御(むすめご)が留守(るす)とはハテサテ間(ま)の悪(わる)さしかしその内(うち)
には帰(かへ)りもあらうサア〳〵早(はや)うお茶(ちや)〳〵ト急立(せきたて)られて夢(ゆめ)にだも思(おも)ひがけなき
貴人(あてびと)の暴(にはか)の御入(おいり)に気(き)もわく〳〵納戸(なんど)へ入(い)りて手(て)ばやくも脱(ぬい)で着(き)かへる晴着(はれぎ)

の衣裳(いしやう)。二人(ふたり)の婢女(げぢよ)もたゞきよろ〳〵と。立騒(たちさは)ぐのみ詮方(せんすべ)しらず。浅香(あさか)は遥(はるか)
次(つぎ)の間(ま)にて。一礼(いちれい)すれば吉光(よしみつ)君(ぎみ)〽不意(ふい)に参(まゐ)つて最大(いかい)世話(せわ)。何(なに)かの事 佐栗(さぐり)から。逐(ちく)
一(いち)に聞(きい)たであらう。苦(くる)しうない近(ちか)う倚(よつ)て浮世(うきよ)ばなしをして聞(きか)しやれ。けふ
はのどかで風(かぜ)もなし。庭(には)の手入(てい)れが届(とゞ)くとみえて。花(はな)もよう咲(さ)き植樹(うゑき)の刈込(かりこみ)。
小(ちい)さくても見所(みどころ)あるト讃(ほめ)給へば恐(おそ)れ入(い)りおづ〳〵彼所(かしこ)へ膝(ひざ)すりよせて。最前(さいぜん)
佐栗(さくり)が指図(さしつ)もあれば水屋(みづや)よりして把出(とりい)だす。水(みづ)さし茶碗(ちやわん)棗(なつめ)の茶入(ちやいれ)。茶筌(ちやせん)茶杓(ちやしやく)
や蓋置(ふたおき)まで。法(ほふ)の如(ごと)くに飾(かざ)りたて《割書:浅|》〽憚多(はゞかりおほ)くはごさりまずが未熟(みじゆく)な手前(てまへ)の薄(うす)
茶(ちや)一(いつ)ぷく。さしあげましたうござりますが《割書:光|》〽イヤこれは奇妙(きめう)〳〵庭(には)のかゝり住居(すまゐ)
の様子(やうす)。主人(あるじ)は大(おほ)かた風流(ふうりう)と。察(さつ)したに違(ちが)ひない《割書:浅|》〽ホゝゝ風流(ふうりう)も。風雅(ふうが)もはるか
前(まへ)の事(こと)。今(いま)はしがない寡婦(やもめ)のくらし《割書:光|》〽寡婦(やもめ)々々(〳〵)と言(い)やつても。みれば花香(はなか)もまた失(うせ)ず。さ
かり久(ひさ)しきしら菊(きく)の。名残(なごり)の匂(にほ)ひなつかしく。慕(した)ふて来(く)る蟲(むし)もあらう《割書:浅|》〽これは〳〵御(ご)
前(ぜん)さまとした事か。こゝへ並(なら)べた茶器(ちやたうぐ)歟(か)。太刀(たち)刀(かたな)ではあるまいし。なんぼひねつたもの
                              上ノ十

数寄(ずき)でも。古(ふる)いものが宜(よい)とつて。慕(した)ふはおろか此方(こつち)から。何卒(どうぞ)遣(つか)つて下(くだ)されとの。恃(たの)
みもきゝ人(て)はございません。女は盛(さかり)の短(みじ)かいもので。二十前(はたちまへ)から三十 前後(ぜんご)それが過(す)ぎては
悪口(わるくち)にも老婆(ばゝあ)〳〵といひ立(たて)られ。果散(はか)ないものでございますト噺(はな)しのうちにはや沸(たぎ)る。
湯(ゆ)を汲(くみ)とりてさわ〳〵と。たてし薄茶(うすちや)の服加減(ふくかげん)。まう一服(いつぷく)と望(のぞ)まれて御意(ぎよい)に入(いつ)てか冥(めう)
加(が)なことと。また立(たて)かけるその折(おり)に。御指揮(おさしづ)うけて持出(もちいづ)る。台(だい)に乗(の)せたる綿端物(わたたんもの)。佐(さ)
栗(ぐり)は浅香(あさか)にうちむかひ〽これは御前(ごぜん)のおみやげもの。頂(いたゞ)かれたが宜(よか)らうトいはれて
浅香(あさか)は身(み)をしさり。御礼(おれい)申せば吉光(よしみつ)君(ぎみ)〽まず是(これ)は今日(けふ)こゝへ。尋(たづ)ねて来(き)た験(しるし)ばかり。用(よう)に
たゝば身(み)も歓(よろこ)ぶ。これ佐栗(さぐり)いひつけた。ものが出来(でき)たらはやう是(これ)へ持(もつ)て来(き)やれ《割書:佐|》〽ヘイ畏(かしこ)まり
ましたト館(やかた)よりして准備(ようい)ある。御酒(みき)御殽(みさかな)も幾種(いくいろ)か。それ〳〵の器(うつは)へ盛(も)りてこの家(や)
の婢女(げぢよ)をも手伝(てつだ)はせ。所狭(ところせき)までおきならふれは。吉光(よしみつ)は杯(さかづき)とりあげ《割書:光|》〽花(はな)より団子(だんご)の
喩(たと)への通(とほ)り。月花(つきはな)を詠(なが)むるにも。酒(さけ)がなくては興(きやう)がない。コレ浅香(あさか)とやら酒(さけ)はどうじや。
ナニ不調法(ぶてうほう)とは嘘(うそ)であろ。みかけからして酒飲(さけのん)だら。どうやら元気(げんき)で面白(おもしろ)さう。サゝ飲(のん)たがよい身(み)が

酌(しやく)をしてとらさうトその有(あり)がたさになみ〳〵と。一(ひと)ツ受(うけ)たる杯(さかづき)を。やう〳〵干(ほ)すとまた一ツ。
強(しゐ)つけられて飲(の)む酒(さけ)に。果(はて)は殽(さかな)も御手自(みてづから)。ソレ手(て)が穢(よこれ)る口(くち)を開(あい)たと思(おも)ひの外(ほか)なる如(ぢよ)
在(さい)なさ。浅香(あさか)も元来(もとより)なる口(くち)を。遠慮(ゑんりよ)も今(いま)はうち忘(わす)れ《割書:浅|》〽サア佐栗(さぐり)さん今回(こんど)は貴君(あなた)
《割書:佐|》〽亦(また)わたくしかへ情(なさけ)ない。些(ちと)御前(ごぜん)へ上(あげ)るがよい《割書:浅|》〽夫(それ)でも余(あま)り無躾(ぶしつけ)な老婆(ばゝあ)とお呵(しかり)なさ
れうかと《割書:光|》〽イヤ〳〵決(けつ)して呵(しか)りはせぬ。其方(そち)が杯(さかづき)まちかねた《割書:浅|》〽ヲヤ〳〵御前(ごぜん)が程(ほど)のよ
さ。モウ二十 年(ねん)も若(わか)い時(とき)なら。お否(いや)であらうと無理無躰(むりむたい)。仕(し)やうもあらうに佐栗(さぐり)
さん。年(とし)ほど哀(かな)しいものはない。貴君(あなた)がたも今(いま)のうち。情出(せいだ)してお遊(あそ)びさないホゝゝト
睨(ながしめ)に吉光(よしみつ)を視(み)るその愛敬(あいけう)。萎(すが)るゝ花(はな)の色(いろ)なくても。匂(にほ)ひ残(のこ)れる霜夜(しもよ)の菊(きく)。
これも一興(いつけう)ならんかと。女児(むすめ)が留守(るす)を物怪(もつけ)の僥倖(さいはひ)。今宵(こよひ)はこゝに草枕(くさまくら)。旅(たび)ならなく
に宿(やど)ありて。慰(なぐ)さまんと思(おぼ)しつゝ佐栗(さぐり)を一人(ひとり)止(とゞ)めおき。その余(よ)の供(とも)は帰(かへ)さ
れけり
相生源氏上の巻畢
                              上ノ十一

BnF.

雪月花美都の詠 上

【右丁】
ほんのりと
 いもがはだんの
  雪間より
かほりゆかしき
おすら紅梅
【下句読みは?】
【左丁】
/巫山(ふさん)の/神女夢(しんによゆめ)に/来(きた)つて/㐮王(ぜうわう)の/蕩郎(じんばり)に
/犯(おか)させ、/粂(くめ)の/仙人古郷(せんにんこきやう)に/飛行(ひぎやう)して/物洗(ものあら)ふ/女(め)
の/脛(はぎ)の/白(しろ)きを/見(み)て/通(つう)をうしなふ。/実(げ)に/朝(あした)には/雲(くも)と
なり/暮(ゆふべ)には/雨(あめ)となる/朝々暮々(てう〳〵ぼ〴〵)にまよへるは、
/生(しやう)あるもゝのならひにて/神仙(しんせん)すら/猶斯(なほかく)の/如(ごと)し
まして/況(いはん)や/人輪(じんりん)に、おいてをやした/一物(いちもつ)を
/気(き)ざした/開(ぼゝ)を/見(み)るからは/夫(それ)といはねど/心(こゝろ)には、

いとこのもしき/顏(かほ)つき/夜(よ)に、/肛門(おかま)をれに/好人(すきびと)も
/妄想(もうぞう)がちな/初心者(しよしんもの)あるひはくめの/挊好(せんずりずき)も、/此(この)
/色書(いろぶみ)をひらき給ひて/悪(わる)ひ/所(ところ)も/御贔屓(ひいき)めに
アゝいゝ〳〵トいつまでも/幾世(いくよ)かはらぬ/御評判(ごひやうばん)
/大玉茎(おほでれつく)の/大当(おほあた)りを/書肆(しよし)もろともに
   /庶幾(こひねがふ)ことしかり
              淫水亭述印

「けふはうちのひとは
いちにちかへるこつちやア
ないからゆつくりと
あそんでいきな
「そうとはしらすもし
今にもやと
ろくかかへつ
てきやア
しめへかと
おもつて▼▲
▼▲
かつりちめへて
やつたから今のいち
ばんはさつぱりあぢが
しれなかつたばんまて
かへらねへときいたら
またこんなになつたから
すぐに入なをしと
しやう
「けふは
おめへにかしきり
にするから
いくらでもすき
にしな

/花桂詠(はなかつらながめ)の/銀世界(ぎんせかい)
  /隅田川(すみだがわ)の/雪(ゆき)の/詠(ながめ)
/雪(ゆき)は/鵞毛(がもう)に/似(に)て/飛(とん)で/散乱(さんらん)す/人(ひと)は/靏裝(くわくしやう)を/着(き)て/立(たつ)て/徘徊(はいかい)すト
/簑笠(みのかさ)の/懐手風流逸三昧(ふところでふうりういつさんまい)の/土手(どて)の/雪(ゆき)見もはじめの/内(うち)こそ/興(けう)も
/深(ふか)けれ/瓢(ひさご)の/酒(さけ)も/空(むな)しく/明(あき)て/次第(しだい)に/寒(さむ)さを/覚(おぼ)ゆる/頃(ころ)は/深々(しん〳〵)たる
/寒気肌(かんきはだへ)を/通(とほ)し/句(く)も/歌(うた)も/出(いで)ばこそ/酒(さけ)さめ/興尽(けうつき)てあたら/佳景風(かけいふう)
/流(りう)の/眺望(てうもう)も/今(いま)は/更(さら)に/目(め)もとまらず/此寒凌(このさむさしのぎ)には/温(あたゝか)き/物(もの)もがなト
/俄(にはか)に/酒売家(さけうるいへ)のみ/尋(たづぬ)るもおかし/夫(それ)を/思(おも)へば/初(はじめ)より/家根舟(やねぶね)の/置巨燵(おきごたつ)

【右丁】
/酌人(おしやく)を/一枚打込(いちまいぶちこん)で/其身(そのみ)は
/布団(ふとん)にすつぽりまとはれ
/梅香和(うめがわ)から/入(いれ)たきどりの
/肴(さかな)あつ/燗(がん)でひつかけ
ながらのいちや/附(つき)いざ
さらば/芸者(げいしや)もころぶ/所(ところ)
までと/隅田川上(うはて)へのぼるが
/上分別(じやうふんべつ)はるかにまさりし
                〔雪ノ一〕
【左丁】
/雪見(ゆきみ)なるべし/舟(ふね)の
/内(うち)には/爪弾(つめびき)にて/一中(いつちう)
/節(ぶし)のうまい/所(ところ)を
ひとくさりづゝ/吉(よし)
/原八景(わらはつけい)は/爰(こゝ)の/所(ところ)が
いゝのわん/久(きう)は/爰(こゝ)が/能(いゝ)
のト/小声(こゞゑ)でうたひて
/誰のは/爰(こゝ)をかういふ

【右丁】
/節(ふし)にもつていくのあの/人(ひと)のは/爰(こゝ)をこうかたるのと/節付(ふしづけ)の/論判(ろつぱん)に/酒事(さけごと)
も/余処(よそ)になりおつなはづみでいつの/間(ま)にか/咄(はな)し/合(あひ)が/出来(でき)たと見へて
/舟頭(せんどう)に/渡(わたり)が/出(で)るト/粋(すい)を/通(とほ)して/揚(あが)り/場(ば)でもない/所(ところ)へ/舟(ふね)とつけて/岸(きし)の
/杭瀬(くひぜ)へちよともやひ/木(き)の/根(ね)に/取付舟頭(とりつきせんどう)は/雪埋土手(ゆきつむどて)へよぢのぼり
/木母寺(もくぼじ)の/門前(もんぜん)なる/酒屋(さかや)をさして/吞(のみ)に/行跡(ゆくあと)は/舟中(せんちう)さしむかひ「/舟頭(せんどう)
がなんとか/思(おも)やァしまいかねへ「てめへも/野暮(やぼ)をいふもんだぜ/舟(ふね)の/出合(であひ)
にわたりを/出(だ)しやアすぐはづすといふ/手続(てつゞき)は/元禄以来極(げんろくいらいきま)りの
/定法(じやうほう)だからなんの/遠慮(えんりよ)が/入(い)るものか「それだがあんまり/正直に/幕(まく)を
            〔雪ノ二〕
/切過(きりすぎ)るから/間(ま)がわるいやうだからさ「なぞといつて/今更(いまさら)おつうのがれやう
と/思(おも)つてもそうはさせねへ「ヲヤきついこつたよだれものがれやうとは申ま
せんよぢれつてへどうでもしておくんなさいよト/男(をとこ)の/首筋(くびすじ)へかぢりついて/口(くち)ト
/口(くち)チウ〳〵〳〵〳〵/男(をとこ)はすぐに/手を/延(のば)してくぢりかゝれば/玉門(ぎよくもん)は/最前(さいぜん)より/程(ほど)
よくうるほひてある何んばいどうもたまらず/指二本(ゆびにほん)ぐつと/入(いれ)てぐり〳〵ト
くぢり/廻(まは)せば/女(をんな)は/目(め)をとぢひたひに/八(はち)の/字鼻息(じはないき)フン〳〵いひながら/男(をとこ)
の/股(また)へ/手(て)を/入(い)れて/一物(いちもつ)をじつとにぎり「エゝモこんなにしているくせにはやく
どうかおしなねへト/其(その)まゝそこへ/寢(ね)てかゝれば/男(をとこ)は/上(うへ)へのりかゝりもへ

【右丁】
たつ/如(ごと)き/緋縮緬(ひぢりめん)の/二布(ゆもじ)をぐつと
まくりあぐれば/肌(はだ)は/今降(いまふ)る/雪(ゆき)より
/清(きよ)く/玉門(ぎよくもん)ふつくりとしてまんぢう
の/如(ごと)くひたひにうつくしい/毛(け)がふつ
さりとはへている/様躰(やうだい)どうもたま
らず/是(これ)にていよ〳〵/一物(いちもつ)は/木(き)よりもかた
くいきりたちおやけきつたる
へのこをかゝへ/開(ぼゝ)に/見(み)とれて
               〔雪ノ三〕
【左丁】
うつゝなきを「エゝモさむいよ
どうしたトいふのだねへ「ヲツト
/承知待(しやうちまち)給へトやがて/陰茎(へのこ)
をすつぽりのぞませ/見(み)
ながらぬつト/一(ひ)ト/押(おし)おせ
ば/其美敷玉門(そのうつくしきぎょくもん)へ/古(こ)
/木(ぼく)にひとしき/大陰茎(おゝまら)
がぬる〳〵〳〵ト/半分(はんぶん)

【右丁】
ばかりすべりこんだる/心地(こゝち)よさ
そのまゝ/上(うへ)から/抱付(だきつい)て
ぬきさしはげしく
するうちに/玉門(ぎょくもん)の/中(なか)
いちめんにぬる〳〵うるほひ
/根(ね)まですつぽりはいりし
/気持何(きもちなん)にたとへん
ものもなし/女(をんな)も/始終(しじう)
           〔雪ノ四〕
【左丁】
/鼻息(はないき)あらく/下(した)から
/抱付(だきつき)もち/上(あげ)〳〵「エゝ
もういつそアゝどうも
フン〳〵〳〵ト/大(おゝ)よがり/男(をとこ)
は/爰(こゝ)ぞと/大陰茎(おゝまら)
に/一倍精(いちばいせい)をはり
こんですかり〳〵
ずつぽずぼずぼり

【右丁】
ずぼりトつきたて〳〵/上下左右(じやうげさいう)まんべんなう/陰茎(へのこ)のあたまで
こねまはせば/女(をんな)は/今(いま)はこらへかね「ハア〳〵〳〵ト/身(み)をそらし/開(ぼゝ)を/指上(さしあ)
げしやくり/上無性(あげむしやう)に/気(き)をやる/喜悦(よがり)の/淫水湯(いんすい湯)ほどにたぎりて
どつくどくぬら〳〵ぬる〳〵ながれ/出(だ)し/雪(ゆき)の/寒(さむ)さもおぼへぬばかり
/逆上(のぼせ)あがつてのたうち/廻(まは)りスウ〳〵フウ〳〵ハア〳〵ト/何処(どこ)へ/遠慮(えんりょ)も
なきよがりこと/問(と)ふ/人(ひと)はあらねども/舟(ふな)べりたゝく/水(みづ)の/音浪(おとなみ)に/浮(うき)
/寢(ね)の/鷗(かもめ)のみ/浦山(うらやま)しとや思(おも)ふらん/男(をとこ)もへのこをしごかれてこらへ
かねたるよがりなき/淫水(いんすい)へのこに/突(つゝ)かけ/来(きた)りすでに/気(き)のいく/息(いき)づかひ
            〔雪ノ五〕
【左丁】
へのこの/胴中張出(どうなかはりいだ)し/厂首(かりくび)ひらき/一(いち)めんにびくり〳〵ト/脉(みやく)を/打(うつ)
ひゞきが/女(をんな)の/身(み)にこたへともにフウ〳〵ハア〳〵ト/力(ちから)のかぎりにしがみ
つき/毛際(けぎわ)と/毛(け)ぎはをすりつけ〳〵/双方一度(そうほういちど)にドク〳〵〳〵ぬら
〳〵〳〵〳〵どつくどく《割書:ハアゝゝゝフウゝゝゝゝ|スウ〳〵〳〵〳〵ハア〳〵〳〵》ト
/互(たがひ)に/抱〆(だきしめ)かすなく/出(だ)し/出(だ)されたる
よがり/水(みづ)そのまゝ/口(くち)を/吸合(すいあい)て/見(み)れば/見(み)るほどうつくしき/女(をんな)の/顏(かほ)にあく
/色(いろ)なくなえきらぬ/内又(うちまた)きざし/開(ぼゝ)の/中(なか)にておえかへれば/抜(ぬか)ずふかずのむしかへし
/又(また)そろ〳〵と/抜差(ぬきさし)するにはじめに/増(まさ)るへのこの/勢(いきほ)ひ/女(をんな)もおとらぬ/好者(すきもの)な
るにやほつこりしつゝ/下(した)からも/持上(もちあげ)ながら「いつそおたつしやだねへ「ちと/達者(たつしや)

【右丁】
/過(すぎ)て/気(き)に入らずか「ヲヤいつ/気(き)に入(い)らないト申ましたへエゝにくらしい「てめへは
にくらしくつてもおらアかあいくつてこてへられねへ「エゝモウなんとでも
いゝなじれつてへよトしがみつきそんな/事(こと)よりもつと/身(み)にしみてソレそこの/所(ところ)をさ
アゝそうだよもつとよ〳〵アゝゝもう〳〵〳〵フン〳〵〳〵〳〵エゝどうせうのう「どうでもてめへ
の/勝手(かつて)にしやな「フン〳〵〳〵〳〵アレ/平気(へいき)でさにくらしいくいつくと「エゝいてへばかをするなへ
トいゝさまへのこを/奧(おく)ふかくぐつと/突込(つゝこみ)たまぎらせ/其(その)まゝずぼりと/抜(ぬき)あげてはづるゝ
ばかりの/高(たか)ごしにすかり〳〵トおこなふ/折(をり)しも/渡(わた)りの/祝義(しうぎ)でひつかけた/簑(みの)に
/目深(まふか)な/竹(たけ)の/子笠案山子(こがさかゝし)と/見(み)まがふ/舟頭(せんどう)が/一(いつ)ぱい/機嫌(きげん)の/土手(どて)つたひもどりかゝ
      〔雪ノ六〕  
【左丁】
りて/降(ふり)しきる/吹雪(ふぶき)も/侭(まま)の/川(かは)ちどりあし/間(ま)の/雪(ゆき)をふるひ/捨舟(すてふね)にひらりととび
うつれど/中(なか)の/二人(ふたり)は/能最中程(いゝさいちゅうほど)を/計(はか)らひ/舟頭(せんどう)が/帰(かへ)り/来(きた)るに/心(こゝろ)もつかず/取組合(とつくみあひ)
てスウ〳〵フウ〳〵ハア〳〵ハア〳〵いゝ〳〵〳〵エゝもういつそいきつゞけだよ「おれも/四五(しご)ばん/気(き)
をやつたがどうした/事(こと)かおれがへのこが/木(き)のやうにかたくなつてちつともなへねへ
もうこうなつちやア/大丈夫(だいじやうぶ)だおれも/日頃(ひごろ)の/念(ねん)がとゞひた/今日(けふ)といふけふはなんで
もてめへの/淫水(いんすい)をありつたけけへぼりをしにやアならねへ「わつちもこういふ/訳(わけ)
になつたからにはあくまでおまはんに/堪能(たんのう)させなくちやア/気(き)がすまねへよ/其(その)
かわりには/外(ほか)に/性(しやう)わるはならないからそうおもひよ「/人(ひと)の/事(こと)よりてめへが/性(しやう)わるを 

しねへようにしや「じれつてへ/是(これ)ほと/内幕(うちまく)を/見(み)せてもまだうたがふのかのう
サア/是(これ)でもかへ〳〵ト/足(あし)をからんで/引〆(ひきしめ)〳〵/跡(あと)はたがひに/鼻息(はないき)ばかり《割書:スン〳〵スン〳〵|スウ〳〵〳〵〳〵》ソレ
/又(また)いくよハア〳〵〳〵アゝいゝ〳〵ト/大(おゝ)よがり/最前(さいぜん)より/舟頭(せんどう)は/耳(みゝ)をすまして/気(き)をもだ
つかせ/突張(つゝぱり)かへるへのこをにぎりこらへかねたる/五人組折(ごにんぐみをり)から/同(おな)じ/雪見舟上手(ゆきみぶねうはて)
へ/棹(さほ)さすせんどう/仲間(なかま)「/舩六(せんろく)はやいななんとよく/降(ふ)る/雪(ゆき)ぢやアねへかてめへ
そこになにをしているト/声(こゑ)かけられてびつくりふりむき「さればよあん
まりひどく/積(つも)ツたから「どうした「/今(いま)かいて/居(い)る/所(ところ)だ
雪のながめ終
         〔雪ノ七〕

BnF.

《題:恋の湊
露の
出島》

恋(こひ)のみなと
 露(なさけ)の出(で)しま序
躍(おどり)に金(かね)を懸(かけ)たる
拍子(へうし)利(きヽ)の孃(むすめ)も■(お)手(て)の
附(つく)べき旹(とき)に逢(あハ)ハねバ却(かへつ)て
親(おや)にてんてこ舞(まひ)をさせ
大金(おおがね)を執(と)る妾(めかけ)といへども
孕(はらミ)こぢれる其時(そのとき)ハ思(おも)ハぬ
所(ところ)へ縁(えん)にいヽ斯(かヽ)れバ生物(なまもの)に

かつえて張形(はりかた)に提(とぼし)盛(ざかり)を
過(すご)しむだな■(へのこ)【門に由=ふぐり】に喰(く)ひ飽(あき)て腎虚(じんきよ)の
先途(せんど)を見(ミ)届(とヾ)けぬも侭(まヽ)にならぬハ
浮卋(うきよ)とハおまへと私(わたし)が身(ミ)の上(うへ)と鹿島(かしま)なるうらなき
恋(こひ)も掌(てのひら)を握(にぎ)りて常陸(ひたち)帯(おび)も結(むす)バず陸奥(ミちのく)に錦木(にしきヾ)も
すたりて吸付(すいつけ)煙草(たばこ)が媒(なかだち)すると聞時(きくとき)ハ恋哥(こひか)一首(いつしゆ)をよむひまに
尻(しり)を敲(たヽひ)てすびきぬるこそ恋(こひ)すてふ身(ミ)の譽(ほまれ)ぞと又(また)も入(ひ)らざる御世話(おせわ)
な㕝(こと)をスウ〳〵フウ〳〵ハア〳〵と余慶(よけい)な汗(あせ)をかくこと爾(しか)り
 とつて二度ものおつ立し?まハ万作と
 しるき ひつじの新板          當書山介【印】

【欄外書き込み】
japanais
211B(3)

〽おめへこのあいだの
 うたに〽穴のなかハ
  うめきにけりな
   いたづらに◑【右半分黒の丸】
【右下】
◑たヾ
くじりても
ながれでしかな
 とハほん
  とうの
 こヽろいきを
 よん
 だな
【上】
〽それでも〽よの中に
たえてしぼゝの
なかりせバ人の心ハ
たのしから
 まし
そんなことを
いひ
ながら
にくい


ねへ
いつ

いき
そうに
なつた
ヱヽ
 モウ
フン〳〵〳〵
【左頁】



上田島(うへだしま)

【地図】
しき
しま

【右上】
ほヾ

【右下】
いんらん
  国
【中】
よがる
 国
【左上】



【左下】

たい

【左下離】
さね

しま

〽そちハ
けふゆ
 しまの
だい
 さんで【今日湯島の代参で】
この
 ぬれ

げん
かへ
どれ
ない
 ぢん【内陣】を
うかヾ
  ハふか
どうじや
 〳〵


〽モウ
はづかし
 くつて
 なりま
  せん
【左頁】



大名しま



 嶌

【右見開の右】
〽おれも
さつき
から見て
 ゐるがよつほど
  すきな
   てあいだ
   これで十五
   六ばんも
   やらかすだ
     らう
   これさ
   ばあさま
   せかつしやるな

〽ぢいさまよう
  ござるか
 しかも八九
 百年ぶりだ
 はやく
  いれて
  おくれ
【左上】
〽モウ〳〵
  かな
  らず
  かハつて
  おく?れ□□□【▲?】
【右見開の左】
▲ないよ
きがいき
つヾけだよ
こんやハ
ねずにゐて
やたらに島やら
ねへかハいヽよ【やたらに島(を)やらねえ(より)かはいいよ?】
 いくよ〳〵ドク〳〵〳〵
       ヒチヤ
        〳〵〳〵
【左見開の右】
〽なる
ほど
一時
ほどたつ
うちに
おまへいくつ
きをやつた
 とおもふ
廿七八たびだ
なんぼこんやハ
しつゞけのやく
そくでも口こそ
きかねへがまらと
ぼヽのてめへもあらァ
ちつとやすんで酒
にでもしやう
 じやァねへか
ほんにおまへの
ぼヽにもさげ
すまれらァな
それ〳〵
ドク〳〵
ヲヽ
いヽ
〳〵〳〵
【左見開の左】



やたらじま

宝(ほう)
来(らい)
島(しま)

向嶋



五本手しま

【下段】
〽ぼヽか
あつての
つきゆき
 はな見だ【月雪花見だ】
どうしても
としまのハ【年増のは】
あんばいが
 ちがふ
   ハへ
しんぞ【新造=新妻】
より
かく
べつ
いヽ

〽かう
して
ゐる
うち
に◑

◑だん〳〵
かりが
ふやけ

きた

【左頁】



関東じま


佃島

【下段】
〽いや
だよ
そん

ことを
せず

ほん
とう

いれ

おく





よこじま


【下段左】
〽だれが
【左頁】
きても
こうわり
 こんで【こう割り込んで(=横入れして?)】
やめ
 られる
ものか
入れたらこの
ゑかきのなと
 おなじことで
  いく〳〵【?いヽく?】
    だよ【この絵描きの名と同じ事でいくいくだよ】


〽だれ

きやァ
しま
せんか
いつ
 そ▲
【左上】
▲きがせいて
なりませんヨ
サアどうしたんで
こざいますはやく
いれてよぢれつたいねへ

〽なんだかいつそ
かハひくつて
どうしやう⨁
【下へ】
⨁かと
おもふ
やうに
なり

すハ

【左頁】



あゐじま



𠀋


【下段】
〽ひごろの
おもひで
けふの
 しゆひ
へのこが
いてへほど
おへて【生へて】きた
それかう
したら
どうだ〳〵





立じま

【右下】
〽しつかりつか
 まつてゐなヨ
ソレかうしてする
 のもきが
  かハつて
 かくべついヽ

【左上】
〽アヽ
いヽことハ
いヽけれど
 だれか
きやア
しまい
 かねへ

恋(こひ)の湊(ミなと)露(なさけ)の出島(でじま)

  名代(ミやうだい)聟(むこ)ハ娘(むすめ)の為(ため)に是ぞ出島の砂糖(さとう)の甘(うま)ミ

いづれの島(しま)いづれの國(くに)にやありけん深圖(ふかづ)甞(なめる)といふ者(もの)あり
田畑(でんばた)あまた持て近郷(きんごう)にかくれなき郷士(ごうし)なりけるがきハめて
醜男(ふをとこ)にて色(いろ)ハ薄(うす)墨(ずミ)を流(なが)したるが如(ごと)く鼻(はな)ひらけ口大きく
目ハ猿(さる)の如し生得(しやうとく)色好(いろごの)ミにして足ることを知(し)らぬ小人(せうじん)なれバ
慾(よく)あくまで深(ふか)く常(つね)に物好ミにて家柄(いへがら)器量(きりやう)すぐれし
うへに持参金(ぢさんきん)あまたある女房(にようぼう)をもたんものをと年(とし)ごろ

さがしけれど醜男(ぶをとこ)にてかゝる好(この)ミあるゆゑに絶(たへ)てなし
深図甞(ふかづなめる)が従弟(いとこ)に出尾(だすを)九次郎といふ美男(ひなん)ありこのころ
食客(しよくかく)となりて朝暮(あけくれ)甞が碁(ご)将棊(しやうぎ)の相手(あいて)などして月
日を送(おく)りけるある時/助兵衛(すけべゑ)といへる道具屋(どうぐや)来(きた)りて
倘(もし)旦那(だんな)兼(かね)ておたのミの奥(おく)さま漸(やう〳〵)さがし先へ掛合(かけあつ)て
参(まゐ)りました名(な)ハさせ子といつて年(とし)ハ十七/粂三(くめさ)菊次郎(きくじらう)【岩井粂三郎と尾上菊次郎?】
を一ッにして菊五郎に愛敬(あいきやう)をもたせたやうな容貌(きりやう)持(ぢ)
参(さん)ハ二(ふ)タ箱(はこ)に田地(でんぢ)五百石/家柄(いへがら)ハ申に及バぬ大上(だいじやう)〻(〳〵)吉(きち)の

花(はな)よめご【花嫁御】なんと御相談(ごさうだん)被成【なされ・なさい】ませぬかと言(い)ハれて
甞(なめる)ハ有頂天(うてうてん)それハ奇妙(きミやう)自己(おれ)が思ふ通りの女房(にようばう)
何分(なんぶん)世話(せわ)をたのミいるといふに助兵衛/図(づ)にのりて
左様(さやう)なら仲人(なかうど)のしるしにまァ十五両(じふごりやう)も下さりまし
そのかハりきつときめてあげませうしかし爰(こヽ)に
ちつと六(むつ)ヶしいわけハ見合(ミあひ)でござりますそれも私(わたくし)が
申(まうす)とほりになさいますれバよし【、】いやとおつしやると
この相談(さうだん)ハ出来(でき)ませぬといふに甞ハみだれ箱(ばこ)【蓋のない浅い箱】

より金(きん)十五両とり出(いだ)し是ハ仲人(なかうど)のしるしなり
扨(さて)また何がどうでも結(むす)ぶの神の貴公(きこう)ゆゑどう
なりと仰(あふせ)のとほり御ゑんりよなくといふに助兵衛(すけべゑ)
金を押(おし)いたヾき是ハ早速(さつそく)ありがたうござりますと
ふところへ入(い)れまづこうでござります先方(さきかた)の親(おや)ごの
いハれますにハその聟(むこ)どのをまァこつちへ連(つれ)て
ござれわしも逢(あひ)たし娘(むすめ)にも見せて氣(き)にさへ入る事(こと)
ならすぐに祝言(しうげん)をさせてもいヽといふことでござります

から娘御(むすめご)の氣(き)に入るところがかんじんでござります何(なん)
とかう被成(なさい)ませぬか此方(こなた)に御同居(ごどうきよ)被成(なすつ)て御出被成【おいでなられ・なされ】
ます出尾(だすを)九次郎(くじらう)さまを見合につれ申(まうし)て参(まゐ)りま
して親(おや)ごや娘ごに逢(あハ)せますれバあのいヽ男(をとこ)でハ氣(き)
に入(い)るハ必定(ひつぢやう)そこで鳥渡(ちよつと)祝言(しうげん)の盃(さかづき)をしてすぐに
こつちへ引取(ひきと)り先(まづ)顔(かほ)を見(ミ)せるお聟(むこ)さま九次郎
さま御床入(おとこいり)の時分(じぶん)一寸(ちよつと)分廻(ぶんまハ)して入替り燈火(あかり)を
少(すこ)し闇(くら)くしてそれ屏風(びやうぶ)の中でだいて寐(ね)るやつさ

御祭(おまつり)さへ渡(わた)して【祭を渡す=性交する】仕舞(しまへ)バもうこつちのもの何(なん)と孔(こう)
明楠(めいくすのき)【諸葛孔明・楠正成】でござりませうといふに甞(なめる)ハ小首(こくび)をかたふけ
少(すこ)しおつな㒵(かほ)【=皃、貌】をせしが忽地(たちまち)こひざをはたとうち
妙計(ミやうけい)〻(〳〵)〻冝(よ)い知恵(ちゑ)だ〳〵おれよりハ事(こと)ハ知(しつ)てゐる
年(とし)ハ若(わか)し男(をとこ)もすこしハよからうし随分(ずいぶん)あれ
なら氣(き)に入(い)るだらふ今(いま)からすぐに行(ゆく)がいヽと九次(くじ)
郎(らう)をよび右(ミぎ)のわけをたのミ甞(なめる)が好(よ)き着物を出(いだ)し
腰(こし)のもの下物(さげもの)まで氣(き)をつけて着(き)せ替(かへ)て見るに元(もと)

より美男(びなん)の事(こと)なれバ源氏(げんじ)の君(きミ)も業平(なりひら)も及ぶまい
となりふりに助兵衛(すけべゑ)ハ勇(いさ)ミたち天晴(あつぱれ)よき聟君
さま今(いま)に吉左右(きつさう)〳〵とうち連(つれ)いそぎ出てゆく斯(かく)て
助兵衛ハ彼(か)の家(いへ)に至(いた)り玄関(げんくわん)より右の趣(をもむき)を申し
入るに兼(かね)て約(やく)せしことなれバ早速(さつそく)座敷(ざしき)へ通し主人(しゆじん)も
あひ娘(むすめ)させ子にも引合(ひきあハ)せなどするにさせ子ハ更(さら)
なり家内(かない)のものども九次郎(くじらう)を挙(ほめ)【誉?】ざるハなかりけれ
バ主人もよろこびて助兵衛(すけべゑ)にあまたの金銀(きん〴〵)をとらせ

娘の氣(き)にもいり我〻(われ〳〵)【我の字は𠨂】の氣にもいれバ約束(やくそく)の通り
二(ふ)タ箱(はこ)と五百石(ごひやくこく)の田地を附(つけ)つかハすへし幸(さいハ)ひ今日(けふ)
ハ吉日(きちにち)なれバ祝言(しうげん)をさせ今夜(こんや)ハ此方(こなた)へ畄(と)め明日(あす)
聟(むこ)を同道(どう〳〵)にて娘も我〻(われ〳〵)【𠨂】も侶(とも)に行(ゆく)べしといふに
いなミがた【否み難】けれバ冝様(よきやう)にとの挨拶(あいさつ)し金子(きんす)の礼(れい)をのべ
獨(ひとり)心(こゝろ)うれしく九次郎にも右(ミぎ)のおもむきをはなし
祝言(しうげん)ハすぐにするとの事(こと)また一夜(ひとよ)泊(とま)りたりとも
かの事(こと)さへなけれバ言(いひ)わけハすむと色(いろ)〻(〳〵)とすヽめ

けれバともかうも【=ともかくも】冝様(よきやう)にといふに早速(さつそく)其用意(そのようい)して
祝言(しうげん)も色(いろ)なほしもすミてはや床入(とこいり)になりけれバ
錦(にしき)の夜具(やぐ)に九次郎(くじらう)ハ寐(ね)ころぶ間(ま)もなく女子(をなこ)ども
させ子をともなひ屏風(びやううぶ)のそば御(ご)きげんやうと立(たつ)て行(ゆく)
跡(あと)にさせ子ハはづかしく惚(ほれ)てハ居(ゐ)れどうい〳〵しく
なんといふたらよからふと雪(ゆき)よりしろき㒵(かほ)ばせ【顔馳。顔つき】に
ぱつとちらせし薄紅梅(うすこうばい)新枕(にいまくら)とぞ知(し)られたり九(く)
次郎(じらう)ハ手を取(とつ)てさァお這入(はいり)と夜着(よぎ)のうち思(おも)ハず

さわる股(もヽ)と股ぐつとおへ立(たつ)一物(いちもつ)をしつかりと胯(また)へ
はさミおれハ聟(むこ)の前(まへ)立なれバ瑕(きず)をつけてハ
甞(なめる)へたヽずと心で心(こゝろ)を叱(しか)つても聞入(きヽいれ)なきハ一物(いちもつ)にて
祢(やヽ)ともすれバ天恵(あたま)をあげどきん〳〵と脉(ミやく)をうち
筋(すぢ)をあらハす勢(いきほ)ひにいじるばかりハ冝(よ)からうと枕(まくら)
の下(した)へ手(て)を入(い)れてじつとしむれバしめかへしたれ教(おし)
へねど目(め)をねふり夜着(よぎ)の襟(えり)を㒵(かほ)へあて無言(たまつ)てゐる
させ子(こ)が胸(むね)へ手をあて見(ミ)るにどき〳〵と動氣(どうき)の為(す)

るハこわいのと恥(はづ)かしいのと嬉(うれ)しさに只(たヾ)じとして居(ゐ)
たりける九次郎(くじらう)ハそろ〳〵と腹(はら)のしたへ撫(なで)おろし臍(へそ)【字は「𦜝」】
の下(した)から玉門(おんこと)をさぐり見(ミ)るにうつすりと四五本(しごほん)生(はへ)て
ふつくりとまだ手いらずの上開(じやうかい)なり中指(なかゆび)をつばにて
ぬらし一本(いつほん)いれてそろ〳〵と人形(にんぎやう)を遣(つか)ふに少(すこ)しづヽ
鼻(はな)いきあらくあれもう其御手(そのおて)を御取(おとり)なすつて下(くだ)
さいましよいつそもうといふ聲(こゑ)ともろともにおし
うるほひ【潤い】が出(て)るともはやたまりかね是(これ)までなり

とおきなほり胯(また)ぐらへわりこんでつわ【=唾】をたつぷり
ぬりつけて玉門(おんこと)へあてがいてそろり〳〵と腰(こし)を遣(つか)ふ
にぬめりかあるゆゑ天恵(あたま)ハ這入(はいれ)どいたいと見(ミ)へて
のり出(いだ)すを娘(むすめ)の手(て)の下(した)よりかたをおさへまた
そろ〳〵とあしらへバ玉門(おんこと)の奥(おく)の方(ほう)から薄(うす)き
水(ミづ)たら〳〵と出(で)る其拍子(そのひやうし)半分計(はんぶんばか)り這入(はいり)けり
もうよしと大腰(おほごし)にすかり〳〵とするほどに顔(かほ)を
しかめてあれもしへ【?もらへ?もヽへ?】いたい【痛い】けれどこらへて居(を)り

ますからどうぞこれからかハゆがつて下(くだ)さりまし
といふに九次郎(くじらう)たまりかねついどく〳〵と精(き)を遣(や)
るに毛際(けぎハ)までぐつとは入(いり)し心地(こヽぢ)よさ是(これ)ハならぬ
今(いま)一ッむしかへさんと大腰(おほごし)にすかり〳〵とするほどに
いつかいたミもうちわすれ男(をとこ)の首(くび)にしがミつき
もういたくハ御(ご)ざいませんよそして中(なか)がむづがゆく
なつて其(その)おこすりのたび〳〵にいつそ冝(いヽ)心持(こゝろもち)で
ございますよ是(これ)がきの行(いく)といふのかへもつときつく

してくださいましあれどうもおつな氣(き)になりました
もつと奥(おく)をきつくといふにまたむく〳〵と發(おへ)返(かへ)す
こヽぞと思(おも)ひ大腰(おほごし)にすかり〳〵と腰(こし)を遣(つか)ふに娘(むすめ)も
今(いま)ハたまりかね恥(はづ)かしきこともうちわすれあれもう
どうも氣(き)が遠(とほ)くなりますよと歯(は)ぎしりをして
しがミつきあつき淫水(いんすい)【滛】だく〳〵と出(いづ)ると供(とも)に九次(くじ)
郎(らう)もこらへかねて又(また)精(き)をやりそのまゝにてぞ寐入(ねいり)けり
扨(さて)夜(よ)も明(あく)れバおさせハ起(おき)寐乱(ねミだ)れ髪(がミ)を撫付(なでつけ)んと

                     てしま十四

化粧(けワひ)の一(ひ)ト間(ま)へ引篭(ひきこも)る其間(そのま)に九次郎(くじらう)ハ下女(げぢよ)を呼(よん)で硯(すヾり)
箱(ばこ)を無心(むしん)なし何(なに)をや書置為(かきおきし)たりけん作者(さくしや)も是(これ)を知(し)る
こと能(あた)ハず朝飯(あさめし)の支度(したく)よきと見(ミ)へ下女(げぢよ)の案内(あない)に掾(えん)へ出(いで)終(よ)
夜(すがら)させ子(こ)と吸合(すひあふ)たる口(くち)の廻(まハ)りの紅(べに)白粉(おしろい)洗(あら)ひ落(おと)すも残(のこ)り
おしく盥(たらひ)の温湯(ぬるゆ)の手障(てざハ)りに又(また)思(おも)ひ出(だ)すさせ子(こ)が肌(はだ)不計(はからず)
移(うつ)す水鏡(みづかヾミ)雲霧(うんむ)の契(ちぎ)りにやつれし我(わが)【𠨂】面帰(かほかへ)りて甞(なめる)に咎(とが)め
られんもうそ氣味悪(きミわる)く【薄気味悪く】思(おも)ひつヽそこ〳〵顔(かほ)を洗(あら)ひしまへバ
早(はや)此方(こなた)へと又(また)案内(あない)に次(つぎ)の間(ま)へ立出(たちいづ)れバ舅姑(しうと)【𠢎】二人(ふたり)を上座(しやうざ)に

なし次(つい)で九次郎(くじらう)させ子(こ)が膳(ぜん)並(なら)べし席(せき)へつく〴〵と見(ミ)れバ
見(ミ)る程(ほど)似合(にあふ)た夫婦(ふうふ)と助兵衛(すけべゑ)下座(げざ)より平(ひら)の蓋(ふた)取持(とりもち)ながら
せき立(たて)て早(はや)御帰宅(おきたく)もしかるべし又(また)追日(おひじつ)に吉日(きちにち)を撰(えら)ミて後(のち)の
御輿入(おこしいり)と伴(ともな)ひ立出(たちいで)道(ミち)すがら助兵衛(すけべゑ)ハ九次郎(くじらう)に向(むか)ひまづ花(はな)
聟(むこ)の名代(ミやうだい)ハ首尾(しゆび)よく遣(や)つて退(のけ)たものヽ一夜(ひとよ)泊(とまり)ての御帰(おかへ)
りなれバ甞(なめる)旦那(だんな)の疑(うたが)ハれん其時(そのとき)交合(いちぎ)ハ成(なさ)ざるよしおん身(ミ)も
固(かた)く断(ことハ)り玉へ我(われ)【𠨂】また弁舌(べんぜつ)利口(りこう)をもて旦那(だんな)をうまく言(い)ひ
解(とか)んと言葉(ことば)つがへて立戻(たちもど)り甞(なめる)が居間(ゐま)へ来(き)て見(ミ)れバ甞(なめる)ハ

                    てしま十五

いまだ起出(おきいで)ずすつぽり夜着(よぎ)を引蒙(ひきかふ)り寐言(ねごと)と仕事(しごと)の
まつ㝡中(さいちう)ゆゑ助兵衛(すけべゑ)九次郎(くじらう)ハ手(て)を束(つが)ね目(め)の覚(さむ)るのを
待(まつ)とハ知(し)らず《割書:甞》〽コレさせ子(こ)どのいくら和主(おぬし)が否(いや)がつても
㝡(も)う斯(か)う成(なつ)ちやア仕方(しかた)がねへどうぞ一畨(いちばん)させて
下(くだ)せへ成程(なるほど)和主(おぬし)がいふ通(とほ)り偽聟(にせむこ)の九次郎(くじらう)を替玉(かへだま)とした
狂言(きやうげん)ハ成程(なるほど)自己(おれ)が悪工(わるだく)ミ其腹立(そのはらだち)ハ尤(もつとも)だが初手(しよて)から自(お)
己(れ)が出(で)た段(だん)にやァ親立(おやたち)までも承知(しやうち)ハ有(ある)めへと助兵衛(すけべゑ)一(ひ)ト軍(ぐん)
策(さく)自己(おれ)を憎(にく)がる事(こと)ハねへまア〳〵一畨(いちばん)させてミな面(かほ)こそ醜(わる)いが

陰莖(まら)の味(あぢ)ハ九次郎(くじらう)などの及(およ)バぬ所(ところ)まァ斯(か)うなりねへ夫(それ)
それ〳〵半分(はんぶん)這(はい)入つた㝡(ま)う少(すこ)しヱヽ左様(さう)しちやァいけねへ
ョあれ〳〵せつ角(かく)這入(はいつ)たのに又(また)ぬけて仕舞(しまう)たァこれさ
そんなにしやきばらずに直(すなほ)に成(なつ)てさせて呉(くん)なよヱヽ〳〵〳〵〳〵
それ見(ミ)ねへなとう【ろ?】〳〵すまたへ精(き)が往(いつ)たァヱヽ㝡(も)うこれさ
おさせぼうや実(じつ)に能子(いヽこ)だ㝡(も)う少(すこ)しァレ此股(このまた)を開(ひろ)けて呉(く)んな
それ又(また)這入(はいつ)た此度(こんど)ハ㝡(も)う放(はな)しやァしねへよソレ〳〵〳〵能(よ)からうがの
どうだ〳〵ヱヽ又(また)其様(そん)な事(こと)をするよ頰(ほを)つぺたへ喰付(くひつい)たり左様(さう)

                      てしま十六

引樒(ひつかい)【搔?】ちやァ痛(いた)い〳〵コレサ能子(いヽこ)だ㝡(も)う少(すこ)しおとなしくして
居(ゐ)て呉(くん)なよソレいく〳〵〳〵此(この)惣身(からだ)が鑠(とろ)けるやうだァヽいヽ〳〵よし〳〵〳〵
鼻(はな)を喰(く)ひ切(き)られても耳(みヽ)を引(ひつ)かきむしられても㝡(も)う構(かま)ハねへ
命(いのち)でも何(なん)でもおめへに呉(くれ)てやるよアヽいヽ〳〵〳〵又(また)いくよそれ〳〵いく
よト大(おほ)もがきを聞居(きヽゐ)る助兵衛(すけべゑ)九次郎(くじらう)も貰(もら)ひ氣(き)ざしに巾(はヾ)つ
たくなるを両手(りやうて)にじつと押(おさ)へ目(め)を見合(ミあハ)せ大(おほ)ため息(いき)斯(かく)て
甞(なめる)ハ妄想(もうざう)の夢(ゆめ)ハ破(やぶ)れてむつくりと起(おき)て居直(ゐなほ)る床(とこ)の中(なか)甞〽はて
夢(ゆめ)で有(あつ)たかなァト見廻(ミまハ)す此方(こなた)に助兵衛(すけべゑ)九次郎(くじらう)一夜(いちや)泊(どま)りの

誤(あやま)りあれバ㝡(いと)こハ〴〵に手(て)をつかへ《割書:おへ》〽ヘヱ御早(おはや)うト辞義(じぎ)すれバ
甞(なめる)ハ怒(いか)りの聲(こゑ)ふり立(たて)おのれ助兵衛(すけべゑ)よくも〳〵/我(われ)【𠨂】をたバかり
九次郎(くじらう)にさせ子(こ)の新開(あら)をしめさせたな吁(うんぬ)どうして呉(くれ)んずと
立懸(たちかヽ)らんとする所(ところ)を九次郎(くじらう)袂(たもと)に取(とり)すがりはやまり玉ふな甞主(なめるぬし)
まづ落居(おちつい)て助兵衛(すけべゑ)が演説(まうしのぶる)を聞(きヽ)玉へといふ九次郎(くじらう)を突飛(つきとば)し彼(か)の
妄想(もうさう)の濡陰莖(ぬれまら)も拭(ふ)かず助兵衛(すけべゑ)に打(うつ)て懸(かヽ)るを九次郎(くじらう)漸(やう〳〵)押止(おしとヾ)め
《割書:九》〽我兄(あにき)【𠨂兄】よく〳〵聞(きヽ)玉へ昨夜(さくや)一宿(いつはく)なしたるも是(これ)計策(けいさく)の一(ひと)ッにて矢張(やつぱり)
縁談(えんだん)とヽのへる一助(いちじよ)たらんといふ跡(あと)へ助兵衛(すけべゑ)少(すこ)しく首(くび)をあけ《割書:助》〽まづ

                           てしま十七

聞(きヽ)玉へ先方(さきかた)の両親(ふたおや)はじめさせ子(こ)まで是非(ぜひ)とも今夜(こんや)婚礼(こんれい)と
すゝめらるヽを辞退(こばミ)なバどうりで先(さき)に疑(うたが)ひが起(おこ)るまいとも言(いハ)れぬ
ゆゑ其意(そのい)に任(まか)せて婚礼(こんれい)ハ昨夜(さくや)首尾能(しゆびよく)致(いた)したなれど何(なに)を申すも
先(さき)ハ未通女(おぼこ)九次郎様(くじらうさま)が受合(うけあふ)て決(けつ)して一義(いちぎ)ハなされぬ筈(はづ)。只(たヾ)夜着(よぎ)の
中(なか)へ這入(はいつ)た計(ばか)りハ御勘弁(ごかんべん)なくて叶(かな)ハぬ処(ところ)よく〳〵夜中(やちう)の趣(おもむき)ハ九次(くじ)
郎様(らうさま)より御聞(おきヽ)なされと言(い)ハれて甞(なめる)ハ嘲笑(あざわら)ひいや舌長(したなが)き申しぶん
假令(たとへ)させ子(こ)が未通女(おぼこ)にもせよ色直(いろなほ)しの床入(とこいり)に男(をとこ)が肌(はだ)をふらずして
何(なに)とて承知(しやうち)をなすべきや九次郎(くじらう)どのどうでござつたさぞ餅肌(もちはだ)で甘(うま)

かつたらうの其方(そなた)ハ誠(まこと)の外(ほか)仕合(しあハせ)もの此甞(このなめる)ハ今(いま)の夢(ゆめ)に漸(やう〳〵)させ子(こ)を
抱(だい)て寐(ね)ていやがる処(ところ)を無理(むり)やりに大骨折(おほぼねをり?)で本望(ほんもう)を遂(とげ)たと思(おも)ふハ
夢(ゆめ)なれバ覚(さめ)て悔(くや)しいお身等(ミら)が㒵(かほ)ほんにぶつたり叩(たヽ)【扌卩】かれたりと
いふめに逢(あつ)た此甞(このなめる)悔(くや)し涙(なミだ)が此通(このとほ)りと蚕豆程(そらまめほど)の泪(なミだ)をこぼせバ九次郎(くじらう)
近(ちか)くすり寄(よつ)て《割書:九》〽我兄(あにき)【𠨂兄】が腹立(はらたち)尤(もつとも)ながら実(じつ)に昨夜(さくや)ハ両親(ふたおや)への心休(こヽろやす)めに床(とこ)へ
ハ入(い)れど決(けつ)して一義(いちぎ)ハいふまでなし毛一本(けいつぽん)だに引張(ひつぱら)ぬ此九次郎(このくじらう)が義心(ぎしん)
鉄石(てつせき)そのせつなさを推察(すいさつ)あれと皆(ミな)まで言(い)ハせず首(くび)うちふり涙(なミだ)
拭(ふき)つヽうるミこゑ【声】《割書:甞》〽是(これ)こなさんもいひ加減(かげん)に人(ひと)を安房(あほう)にするがいヽ

                     てしま十八

枕(まくら)が物(もの)を言(い)ハぬで仕合(しあハせ)毛(け)の一本(いつほん)も引張(ひつはら)ぬとこりやおもしろい
其(その)證拠(しようこ)をどうして見(ミ)せる無證拠(むしようこ)な言(い)ひ分(わけ)ハ闇(くら)いぞ〳〵それ
とも證拠(しようこ)が有(あ)らバ見(ミ)せよと伸引(のつひき)ならず詰寄(つめよせ)られ側(そバ)にハ手(て)に汗(あせ)
握(にぎ)る助兵衛(すけべゑ)九次郎(くじらう)ハ甞(なめる)をせかせいざ此時(このとき)と其證拠(そのしようこ)ハ斯(かく)の如(ごと)
しとまくつて見(ミ)せる大男根(おほまら)厂(かり)の処(とこ)より鈴口(すヾぐち)を二ッに分(わか)れて畨(つが)
ひの鳩(はと)の画(ゑ)これ御覧(ごらん)ぜよかヽることも有(あら)んと思(おも)ひて昨日(きのふ)出懸(でがけ)に
写(うつ)し置(おき)たる床(とこ)の間(ま)の探幽斉(たんゆうさい)が鳩(はと)の一軸(いちじく)《割書:甞》〽何(なに)探幽(たんいう)が鳩(はと)の
画(ゑ)を其処(そこ)に書(かい)たが證拠(しようこ)とハまだ受難(うけがた)いさんざつぱら夕辺(ゆふべ)ハ

させ子(こ)を犯(とぼ)して跡(あと)で今朝(けさ)帰(かへ)りがけ書(かい)て来(き)たとて其手(そのて)を
喰(くら)ふ甞(なめる)ならず《割書:九》〽こりや御疑(おうたが)ひの深過(ふかすぎ)るあの探幽(たんいう)の鳩(はと)の画(ゑ)が
手本(てほん)無(なく)して書(かヽ)るべきか昨日(きのふ)出懸(でがけ)に書(かい)たる證拠(しようこ)ハ筆意(ひつい)を能(よく)〻(〳〵)
御覧(ごらん)あれと言(い)ハれて甞(なめる)ハ虫眼鏡(むしめがね)に是(これ)を写(うつ)して見(ミ)る処(ところ)が
実(じつ)に其場(そのば)によく〳〵見(ミ)て写(うつ)し取(とり)たる證拠(しようこ)とすべき筆意(ひつい)墨(すミ)
継(つぎ)寸分違(すんぶんたが)ハず成程(なるほど)感心(かんしん)九次郎(くじらう)どの是(これ)にて疑(うたが)ひすつ
ぱり晴(はれ)た然(され)バ是(これ)より計策(けいざく)のすつぱり行(ゆき)し祝(いハ)ひ酒(ざけ)とそこ〳〵
床(とこ)を畳(たヽ)ませて手早(てばや)く手洗(てあら)ひ口(くち)そヽぎ朝(あさ)より酒宴(しゆえん)を催(もようセ)バ

                       てしま十九

助兵衛(すけべゑ)九次郎(くじらう)漸(やう)〻(〳〵)と言(い)ひ分(わけ)立(たち)て大悦(おほよろこ)び供(とも)に其座(そのざ)に連(つら)
なりて終日(ひめもす)【ひね?もす】座(ざ)𪥌(けう)【=興】を添(そへ)たりけり是(これ)より助兵衛(すけべゑ)が仲人(なかうど)にて
させ子(こ)が方(かた)にハ衣類(いるい)諸道具(しよどうぐ)僉(ミな)〻(〳〵)新規(しんき)に鎌倉(かまくら)へ注文(ちうもん)成(な)
して拵(こし)らへれバせきにせけども急(きう)にハ出来(でき)ず彼是(かれこれ)日数(ひかず)
六十日も空(むな)しく春(はる)の立過(たちすぎ)て待(また)るヽ甞(なめる)が男根(へのこ)の淋病(りんびやう)斯(かく)
てハさせ子(こ)が支度(したく)出来(でき)ても床入(とこいり)叶(かな)ハぬ事(こと)なりとあせりて
医療(いりやう)を尽(つく)すといへども夏(なつ)ハ殊更(ことさら)此病(このやまひ)薬(くすり)の利目(きヽめ)遅(おそ)くして
終(つひ)に仲人(なかうど)助兵衛(すけべゑ)をもて病気(びやうき)ゆゑ全快(ぜんくわい)までまづ輿入(こしいり)を延(のハ)

じ遣(や)り猶又(なほまた)竒薬(きやく)を尋(たづぬ)る時(とき)九次郎(くじらう)ハ本町(ほんちやう)河岸(がし)なる獅子(しヽ)の
看板(かんばん)といふ薬(くすり)を聞出(きヽいだ)して是(これ)を咄(はな)すに甞(なめる)大(おほい)によろこびつ
早速(さつそく)九次郎(くじらう)を買(かひ)に遣(や)りけりこヽに又(また)させ子(こ)が方(かた)にハ早(はや)諸(しよ)
道具(どうぐ)の整(とヽの)ひていざといふ時(とき)甞(なめる)が病氣(びやうき)に日延(ひのべ)となれバさせ子(こ)
ハ勿論(もちろん)両親(ふたおや)までも氣(き)を揉(もミ)て何卒(なにとぞ)病氣(びやうき)速(すミやか)に全快(ぜんくわい)させん
と神仏(かミほとけ)を祈(いの)るに付(つき)て氏神(うじがミ)へさせ子(こ)も日参(につさん)初(はじ)めけるが或街(あるちまた)にて九(く)
次郎(じらう)に計(はか)らず出逢(であ)ふ不審(いぶか)しさせ子(こ)ハ下女(げぢよ)に言(い)ひ付(つけ)て《割書:下女杉》〽貴(あ)
殿(なた)ハ甞(なめる)さまじやァございませんか病氣(びやうき)といふて婚礼(こんれい)を延(のバ)して置(おい)て外出(ほかで)歩行(あるき)

                         てしま二十

お嬢(ぢやう)さまがお否(いや)になり外(ほか)に倍花(ますはな)出来(でき)ませしやと年増(としま)のいちごん
と胸(むね)つけどもまさか途中(とちう)で咄(はな)しも出来(でき)ず是(これ)にハ子細(しさい)の有(ある)ことなれバ
此方(こなた)へ来(こ)よと或酒店(あるちやヽ)の奥(おく)まりたる二階(にかい)へ連行(つれゆ)き何(なに)か酒肴(しゆかう)の注文(ちうもん)
なし《割書:九》〽まア〳〵一盃(いつぱい)呑(のミ)なせへ女中(ぢよちう)もおかしく思(おも)ふだらうがこれにハ
いろ〳〵訳(わけ)あること私(わた)しもむねがどき〳〵して言(い)つたが冝(よ)かろかいふ
まいかと実(じつ)にからだが震(ふる)へるやうだよ《割書:杉》〽なに貴君(あなた)一旦(いつたん)御祝言(ごしうげん)を遊(あそ)
バした金粕(きんぱく)【金箔?】の付(つい)た御新造様(ごしんぞうさま)の此御嬢様(このおぢやうさま)お陰(かく)し遊(あそ)バす事(こと)ハございませんじ
ゃァございませんか倘(もし)正実(ほんとう)を被仰(おつしやら)ないと旦那様(だんなさま)へいつ付(つけ)て【言っつけて?】助兵衛(すけべゑ)どんを

呼付(よびつけ)て《割書:九》〽是(これ)さそれじやァ大変(たいへん)だ実(じつ)の事(こと)を咄(はな)すがの実(じつ)ハ私(わた)しハ九次郎(くじらう)と
言(い)つて甞(なめる)が家(うち)の食客(いそうろふ)さ此間(こないだ)ハ聟(むこ)になる甞(なめる)がほんの首替(くびがハ)りに往(いつ)た処(ところ)が
婚礼(こんれい)まで為(し)て往(ゆ)けと言(い)ハれたのハ嬉(うれ)【女㐂】しいけれど此事(このこと)が甞(なめる)へ知(し)れてハ飯(めし)
の喰上(くひあ)ゲとハ思(おも)へどもおさせさんが此美(このうつ)くしい顔(かほ)を見(ミ)ちやァ跡(あと)も先(さき)も勘弁無(かんべんな)
しに遣(や)りハ遣(やつ)たが其跡(そのあと)の軍策(ぐんさく)をバどう為(し)やうと考(かんが)へ最中(さいちう)甞(なめる)が病気(びやうき)
今日(けふ)ハ薬(くすり)を買(かつ)て来(こ)いと言(い)ひ付(つけ)られて出(で)た途中(とちう)お前方(まへがた)に出(で)つくハして
実(じつ)に面目(めんぼく)ない訳(わけ)サ《割書:杉》〽何(なに)貴君(あなた)斯(か)う成(なつ)ちやァ構(かま)ふことが有(あり)ますものかねへお嬢(ぢやう)
さまとおさせ【お杉?】が膝(ひざ)一寸(ちよつと)衝突小須(つヽつきてうづ)【?】に往(いつ)て参(まい)りますよと衝(つヽ)とたち外(はづ)す

                       てしま二十一

後(うし)ろを見送(ミおく)る九次郎(くじらう)おさせが側(そバ)へそつとより《割書:九》〽コウおさせさん私(わた)しが
彼処(あすこ)を出(で)る時(とき)ハ実(じつ)に天竺浪人(てんぢくらうにん)【逐電浪人。やどなし】だが左様成(さうなつ)ちやァお前(まへ)の内(うち)の老翁(おとつさん)や
義母(おつかさん)が私(わた)しを聟(むこ)にやァよもや為(し)めへ《割書:させ|子》〽もし左様成(さうなつ)たらお前(まへ)さんに連(つれ)
られて何処(どこ)へでも迯(にげ)てお貰(もら)ひァますハ《割書:九》〽実(じつ)にそんなら嬉(うれ)【女㐂】しいよト言(い)ひ
つヽ横(よこ)に押(おし)こかせバ《割書:させ》〽お杉(すぎ)が来(く)るといけませんよ《割書:九》〽何来(なにく)るとことァねへのだョ
まァじつとしてお居(いで)なせへとぐつとまくつて割込(わりこめ)バ恥(はづ)かしさうに袖(そで)で
顔(かほ)かくしながらも早(はや)く為(し)てと言(い)ハぬ計(ばか)りの面持(おもゝち)ハ玉門(ぼヽ)の縁(ふち)から実頭(さねがしら)の
しこりに言(い)ハずと知(し)られたり九次郎(くじらう)ハ早(はや)たまらずつばきたつぷり

ぬり付(つけ)てぐヴ〳〵ぐッと三(ミ)こづきに根(ね)まで押込(おしこ)ミしつかり抱(だき)つき
《割書:九》〽どうだね先日(いつか)の晩(ばん)よりハ又冝(またい)ひ心持(こゝろもち)に成(なつ)たらうねといひつヽ
腰(こし)をそろ〳〵遣(つか)ふ其心地(そのこヽち)よさ得(え)も言(い)ハれずおさせハよがりの
よまいごと《割書:さ》〽あァれェもヲいィよヲいイよヲ《割書:此所なミごしにつかふ|うちのよまいごとなり》そソヽれェヽ
いィヽくゥヽゑェヽもヲヽ《割書:このところはやごしにつかふところの|よまいごとそのいきあいにてよミ玉へ》斯(かく)る所(ところ)へ下女(げぢよ)のお杉(すぎ)
にお嬢(ぢやう)さま〳〵と言(い)ハれて覚(さむ)る夜半(よは)の夢(ゆめ)【𦴋】《割書:させ》〽ヲヤ九次郎(くじらう)さんハ何(と)
処(こ)へお往(いで)だへ《割書:杉》〽そんな名(な)の御方(おかた)ハぞんじませんよ《割書:させ》〽ヲヤどうしやうねへ
露(つゆ)の出(で)じま  終

                          てしま二十二

BnF.

雪月花みつのながめ 下

【右丁】
「アゝいきそうに
なつたから
もういぢるのは
あとにして
はやく
おいれよ
        〔花ノ三〕
【左丁】
「こうして
まいばん〳〵
したり
くぢつたり
してたの
しもうと
いふぞんねんで
ふうふ
になつた
中だから
くぢつ
ても
どうしても
たんと
やるほど
いゝしやア
ねへか

  /吉原(よしはら)の/花(はな)のながめ
/吉原(よしはら)は/三日見(みつかみ)ぬ/間(ま)に/桜(さくら)かなト二月廿五六日までは/中(なか)の/町(てう)に/芽生一本(めばへいつぽん)
なかりしに三月朔日の/気色(けしき)を/見(み)ればふ/思義(しぎ)や/数千本(すせんぼん)の/桜生出(さくらおひいで)
/大門口(おゝもんぐち)より/水道尻(すいどうじり)までひしと/咲(さき)みだれたるありさまつたへ/聞筑紫(きゝつくし)
の/飛梅(とびうめ)も/斯迄(かくまで)の/事(こと)はあるまじく/天神(てんじん)は/見(み)へねども/新造禿(しんざうかむろ)を
/引連(ひきつれ)たるおいらんの/道中(どうちう)いづれ/現(うつゝ)と/夢(ゆめ)のよし/原花街(はらてう)が/胡蝶(こてう)か
/胡蝶(こてう)が/我(われ)かト/物言花(ものいふはな)にうつれつゝ/貴賎(きせん)の/遊客(ゆうかく)つどひ/来(く)る/花(はな)の
/弥生(やよい)の/賑(にぎは)ひ/殊(こと)にさゞめく/見世張頃(みせはりごろ)三人/連(づれ)の/悪洒落客(わるじやれきやく)は/助兵衛(すけべい)

【右丁】
/作蔵腎六(さくぞうじんろく)といふ/腎張連中(じんばりれんぢう)
「なんでも/今日(けふ)は/斯色男(かういろをとこ)が三人
/揃(そろ)つたからは/人(ひと)に/出来(でき)ねへおもしろひ
/遊(あそ)びをして/後日(ごにち)はなしになるやうな
/洒落(しやれ)をしてへか/何(なん)と/助(すけ)さん例(れい)の
/妙案(みやうあん)をあらはす/気(き)はないかどうだ〳〵
「おれもささつきからそうおもつて
いるがなんと/此面(このつら)で/揚(あが)ればいはずと
            〔花ノ一〕
【左丁】
/知れた/事(こと)だが/女(をんな)が三人だらう
/所(ところ)で/其(その)三人ながら/此方(こつち)で/一座(いちざ)
/廻(まは)しを/取(とる)といふ/趣向(しゆこう)はどうであらう
「そいつァてんとおもしろしだが/先(さき)で
そうはさせめへ「/所(ところ)に/工夫(くふう)ありさ
いづれ/知(し)らぬ/内(うち)でなければ/出来(でき)
ねへ/事(こと)だから/惣初会(そうしよくわい)であがつて
/先(まづ)お/神酒(みき)を/沢山(たくさん)とりこんで/大(おゝ)

【右丁】
/吞(のみ)とやらかして/女共(をんなども)をぐつすり/酔(よは)して/仕舞(しま)ふがこんたんだ、さて/其上(そのうへ)で
お/床(とこ)へ/廻(まは)ツてとりあへず/酒開(さかぼゝ)を/一番(いちばん)づゝ/受取(うけとり)わたしをすますと、さァ
女はもうおんくわで/酔(よつ)ては/居(ゐ)ることだしはめをはづしてぐつと/寢込(ねこん)で
/仕舞(しま)ふにちがいはねへはさ、そこでいづれも/様子(ようす)を/見合三方共(みあわせさんぼうとも)たわい
なく/女共(をんなども)が/寢込(ねこん)だ/所(ところ)で/一度(いちど)に/入替(いれかわ)つて/寢陰戸(ねいり)でもなんでもいゝから
/一番(いちばん)づゝやらかしやすそれでまだ/気(き)が/付(つか)ずは/小便(しやうべん)に/行(ゆく)ふりで/又外(またほか)へ/入(いれ)
/替(かわ)つて/作公(さくこう)の/買(かつ)た/女(をんな)をおれも/腎公(じんこう)も/交(す)る、/又(また)おれの/買(かつ)た/女郎(ぢようろ)を/作公(さくこう)
も/腎公(じんこう)もする、/腎公(じん)のかつた/女(をんな)を/作公(さくこう)もおれも/交(す)るからたがひにうら
            〔雪ノ二〕
【左丁】
みつこはなしといふあんじだもしあらはれた/所(ところ)がたりで/小便(しやうべん)にいつて/酔(よい)まぎれ
にへやを/間違(まちげへ)たぶんにしてごまかして/仕舞(しま)ふといふ/工(たくみ)はどうだろう「ヤ
きてれつ〳〵そう/味能(うまく)いかねへまでも/洒落(しやれ)でいゝがこまつた事には
/初會(しよくわい)といふもんだからどんな/酒好(さけずき)な/女郎(ぢよろう)でも、カッチリで/下盞(げさん)がお
さだまりたからはじまるめへ「イヤおめへたちもお/女郎買(おぢよろうかい)はまだ/青(あを)いぜ/初(しよ)
/會(かい)から/遠慮(えんりよ)なく/女郎(ぢよろう)にも/吞(のま)せておもしろく/遊(あそ)ぶ/事(こと)を/知(し)らねへといふは
いかがだ。知らざァ/伝受(でんじゆ)しようか/但(たゞし)しつているか「そりやァ/初會(しよくわい)ばかりよ/二會(にくわい)
/目(め)うらからは/吞(のみ)も/喰(くひ)もしなくつてどうするものか「ハテ/今夜(こんや)の/趣向(しゆこう)は/裏三(うらさん)

【右丁】
/會目(くわいめ)なぞでは/出来(でき)ねへ/初會(しよくわい)から/酔(よは)せなければならねへはさ。チョツ/百疋(ひゃつぴき)づゝて
なけりやァゆるさねへ/伝受(でんじゆ)だが/友達(ともだち)のよしみに/云(いつ)て/聞(きか)せよう。/先此三人(まづこのさんにん)なら
三人ずつと/揚(あが)ッて/何(なん)にもいはず/内證(うち)からの/出し物(だしもの)で/閑静(かんせい)にやらかして
/小早(こばや)く/切上(きりあ)げお/床(とこ)となる/所(ところ)で/大臺(おゝだい)を/一枚外(いちまいほか)に/上酒(じやうしゆ)を/一升取(いつしやうとつ)てくれト
いゝ/付(つけ)て/置(おい)て/床(とこ)へはいるとてうど/一(いち)もくおして/仕舞(しまつ)た/時分(じぶん)に/彼臺(かのだい)の/物(もの)が
/来(く)る。それ/一端座敷(いつたんざしき)がひけた事だからおめへの/女(をんな)の/部屋(へや)といふものかおれが/女(をんな)の
へやといふものかへ/其臺(そのだい)を/持込(もちこむ)。ソリア/皆(みんな)おきて/来(き)て/一所(いつしよ)にあつまつて/又酒事(またさけごと)が
はじまるといふ事だから/初會(しよくわい)が二會目(うら)のやうになつて/女(をんな)も/一度床(いちどとこ)へ/入(いれ)た/事故(ことゆへ)
               〔花ノ三〕
【左丁】
/初會(しよくわい)の/遠慮(えんりよ)がなくなりことにはおのれが/部屋(へや)の事なり/吞喰(のみくひ)もいつもの
/通(とほ)りさ/此伝受(このでんじゆ)は/今夜(こんや)ためして/今夜(こんや)すぐに知れる事だから/妙(みう)だろう。/所(ところ)でこつ
ちはなるたけ/吞(のま)ねへようにして/女(をんな)どもにむしやうにしめつけ/二升(しやう)が三升と
なりもう/是(これ)ぢやア/吞(のめ)ねへ/何(なん)ぞ/臺(だい)を/好(このん)でやれとか/酢(すつ)ぱい/物(もの)とかからいもの
とかいつてむしやうに/長(なが)くひつぱつて/向(むか)ふをぐつすり/酔(よは)して/此方(こつち)は/酔(よつ)たふり
で/酔(よは)ねへ/所(ところ)が/狂言(けうげん)だが/是(こりや)ア/急度(きつと)/其図(そのづ)にあたるに/違(ちげへ)はねへよ「なんだか
おぼつかねへもんだが/出来(でき)ねへ/所(ところ)がとまどいでぬけるからもと〳〵だノウ/腎公(ぢんこう)
「イヤおいらァぐつと/気(き)に/入(い)ツた/直(すぐ)にやらかそう〳〵ト/咄(はなし)ながら/行袖(ゆくそで)を

【右丁】
ひかへて《割書:わかいしゆ|》「モシ
ちとお/上(あが)りあそ
ばさい/能(よい)お/孃(こ)
/様(さま)も/沢山(たくさん)ござり
ますお/見(み)たて
なさいまし「イヤ
それは/御心切(ごしんせつ)
/忝(かたじけな)いハゝアどれも〳〵
          〔花ノ四〕
【左丁】
うつくしい/時にコウ、アノ
/人(ひと)がアゝ/深切(しんせつ)にいつてくれる
から/皆(みな)も/爰(こゝ)の/内(うち)と
/極(きめ)なせへ《割書:わかいしゆ|》「それは/有(あり)がとう
サアお/見立遊(みたてあそ)ばしませ「イヤ〳〵/見立(みたて)る
には/及(およ)ばねへからなんでも
よく/寢(ね)そうな/孃(こ)ばかり
/出(だ)して/呉(くん)ねへ《割書:わかいしゆ|》「へゝゝゝ/御(ご)じやうだん

【右丁】
ばつかり「イヤ/笑談(じやうだん)じやアねへよ。/助兵衛(すけべ)はそつと/引(ひつ)ぱりシツ〳〵トにらめつけ「な
にさそれはじやうだんだ/内実(ないじつ)はとつくに/見立(みたて)て/置(おき)やした「さやうならト/若(わか)いもの/先(さき)に
/皆(みな)〳〵/二階(にかい)へあがりおさだまりの/引付彼是(ひきつけかれこれ)ありて/既(すで)に/床納(とこおさま)り/手筈(てはず)の/通(とほ)り
すつばり/仕(し)すまし、とゞ/二度目(にどめ)の/床(とこ)となり/作蔵(さくぞう)の/相方(あひかた)は/白川(しらかは)という/新造寢(しんぞうね)る
が/早(はや)いか/乗(の)りかゝりひときは/見事(みごと)な/太陰茎(ふとまら)を/火のやうにしてつき付(つけ)れば/白川(しらかは)はマア
/待(まち)なましトおさへて/我手(わがて)につばきをつけ/押当(おしあて)かひて/入(いれ)させるにすこしきしんで
ぬるりトはいるに/其侭(そのまゝ)さつさトやりかける/酒(さけ)のかげんか/白川(しらかは)は/調子高(てうしだか)なる/鼻息(はないき)
にフン〳〵〳〵トすゝり/上(あげ)むしやうに/持上(もちやげ)る/上手者枕(じやうずものまくら)の/音(おと)がきし〳〵〳〵〳〵/隣座敷(となりざしき)は/一座(いちざ)の
             〔花ノ五〕
【左丁】
/腎六枕(じんろくまくら)の/音(おと)と/鼻息聞付此相方(はないききゝつけこのあひかた)は/夜舟(よふね)とて/是(これ)も/同(おな)じく/新造(しんぞう)の
ねふいさかりを/御神酒(おみき)のかげんすや〳〵/寢(ね)入るをゆりおこしいかりきつたる
/厂高陰茎(かりだかまら)へつばきものして/入(いれ)かけるに/厂(かり)さきふちにつかゆるをやにはにぬつト
/押込(おしこめ)ば/夜舟(よふね)はびつくり/目覚(めさめ)る/心地(こゝち)とかくもぢ〳〵/更(ふけ)かねしがとつぱつ
してどく〳〵〳〵〳〵ハアもうどうもト/自鉄(じがね)のよがり/又其奧(またそのおく)は/助兵衛(すけべ)がこい川は
とうに/一番(いちばん)しまひ/早寢込(はやねこん)だる/相方(あいかた)の/作里(さくざと)が/寢顏(ねがほ)を見(み)て/二度目(にどめ)が
/気(き)ざす/腎張陰茎(じんばりまら)おへるをかゝへてうかゞふ/所(ところ)へ/隣座敷(となりざしき)の/腎六(じんろく)がそろ
〳〵ト入来(いりきた)り「目利(めきゝ)にちがわずどれも〳〵/能寝込(ねこむ)と見(み)へておれが/座敷(ざしき)

【右丁】
へはもう/作公(さくこう)めへしかけて
/来(き)たからおめへ/一(いち)ばん/済(すん)だら
/早(はや)くいつて/作公(さくこう)の/女(をんな)を
しめねへトいふに/承知(しやうち)と
助兵衛(すけべ)が/行(ゆく)を
おそしと/腎六(じんろく)
が入替(いれかは)ッて
たわい〔下へ〕
〔上より〕
なき/作里(さくざと)が
/前引(まへひき)まくり
/厂高(かりだか)まらを
/押込(おしこむ)に/作里(さくさと)は
          〔花ノ六〕
【左丁】
うつゝながらやつぱり
おのれが/客(きゃく)と/心(こゝろ)
/得持上(ゑもちやげ)てさせる
/床(とこ)の/上首尾(じやうしゆひ)
/又助兵衛(またすけべ)は
/作蔵(さくぞう)の/座(ざ)
/敷(しき)へまんま
と/忍(しの)びこみ

/樽柿(たるねき)くさく/酔臥(ゑひふし)たる/白川(しらかわ)をつゞけさま/二番(にばん)とぼして/其次(そのつぎ)の
/腎六(じんろく)が/座敷(ざしき)へゆけば/作蔵(さくぞう)は/腎六(じんろく)の/相方夜舟(あひかたよふね)の/寢陰戸(ねいり)を/一(いち)
/番(ばん)とぼし/此上(このうへ)は/助兵衛(すけべ)が/相方作里(あひかたさくざと)を/犯(とぼさ)んと/出合(であい)がしらに/助兵衛(すけべ)
にばつたり/行合互(ゆきあひたがひ)に/無言(むごん)でうなづき/合(あい)ぐる〳〵/廻(まは)りにまんべんなく
/三人(さんにん)ながら三人の/女(をんな)をうたはし/犯(とぼし)て/廻(まは)り/夜明(よあけ)がたにはもと〳〵の/我相方(わがあひかた)
の/懐(ふところ)へ/戻(もどり)て/居(ゐ)れば/相方(あひかた)は/夢中作里白川夜舟(むちうさくざとしらかはよふね)、やがてれんじのしら
むころ/送(おく)ツて/出(いづ)る/格子(かうし)のまがき/客三人(きやくさんにん)はおかしさこらへ/何(なに)くわぬ/顏(かほ)で
            /皆(みんな)があばよ
花のながめ            〔花ノ七〕