【右頁上段】 七ツいろは《割書:并》絵抄 【右頁中段】 生滅(しやうめつ)滅已(めつい) 寂滅(じやくめつ)為楽(ゐらく) 【右頁下段】 有為(うゐの)奥山(おくやま)今日(けふ)越(こえて) うゐのおくやまけふこえて 浅(あさき)夢(ゆめみし)不酔(ゑひもせず) あさきゆめみしゑひもせず 空海(くうかい)入唐(につとう)して 口(くち)ならびに手足(てあし)に 筆(ふで)をとりて 一時(いちじ)に 八文字(はちもんじ)を 書(かき)給ふ図(づ)              芳盛画 【右頁上段】 伊呂波(いろは)の文(もん)。長(ちやう) 歌(か)に似(に)て大意(だいい) 諸行(しよぎやう)無常(むじやう)の四(し) 句(く)の文(もん)に応(おう)ず 是(これ)石淵寺(せきえんじ)【渕は俗字】の勒(ろく) 操(さう)。延暦寺(えんりやくじ)の最(さい) 勝(しやう)。高野山(かうやさん)の空(くう) 海(かい)。相(あひ)ともに唱和(しやうくわ) して作(つく)るところと いふ又 元興寺(げんかうじ)の 護命(ごめい)と空海(くうかい)と の両作(りやうさく)なりといふ 然(しか)れどもこの四(し) 【左頁上段】 十七 字(じ)新意(しんい)に 起(おこ)るにあらず天(てん) 竺(じく)の悉曇(しつどん)の字(じ) 母(ぼ)にもとづいて始(はじ) めて草字(さうじ)を作 る何(なん)ぞ唱和(しやうくわ)して 是(これ)を作(つく)らんや 空海は天下(てんか)の能(のう) 書 殊(こと)に草書(さうしよ)の 聖(ひじり)とするなり然(しか) れば空海(くうかい)一人の 作(さく)なる事(こと)必定(ひつじやう) せり京(きやう)は後人(こうじん)加(くはふ)之(これ)ヲ 【右頁上段】 実(げ)に世(よ)の中(なか) のことわざにも かいるには口(くち)より のまるゝといふ事(こと) 常(つね)〴〵詞(ことば)を つゝしまずして人 の善悪(ぜんあく)を評(ひやう) する人をいまし めたる理言(りげん)の人の 善(ぜん)を前(まへ)にとく者(もの) はかならず後(のち)に 譏(そし)るものなり人 の是非(ぜひ)善悪(ぜんあく)を 【左頁上段】 説(とか)ざればくち よりのまるゝの うれいなし口は わざはひのかど ともいましめ たり勝しむ べし〳〵 武勇(ぶいう)なる人 までも女により て身(み)をあや まつためし古(こ) 今(きん)に多(おほ)しと 佐藤(さとう)忠信(ただのぶ)は 【右頁中段右】 意(い) 梅がえに心 とまらば鴬の ほふほけきやうの にほひぬるかな 【右頁下段右】 露(ろ) すみよしの 松のしづくに ぬれそめて 世のとうろうの みとはなり けり 【右頁中段左】 波(は) ふねとめて しばしたゞよふ みほのうみ なみにうかべる もみぢばの いろ 【右頁下段左】 忍(に) はつそらの みやまのしみづ なみ見れば 月も水にぞ しのぶなり けり 【左頁中段右】 浦(ほ) のりへたる なみ間を ふねは みゐでらへ よするはきよき しがのうらかぜ 【左頁下段右】 邉(ヘ) そのかみに いつかわかれは あふさかの ほとりに まよふ うその 世の中 【左頁中段左】 ほとけにも かみにもなさば なるものを おにゝつくれる いなかやき ばも 【左頁下段左】 いそがねどけふも めいどのたびのそら みちに まよへば なほ おそふ なる 【右頁中段】 三どくの ふるす はなるゝ うれしさは はつねをいづる たにの うぐひす