【立札】  《割書:くらの》開扉 落涙山(なみださん)非常明王(ひじやうめうわう)  《割書:念仏題目等》 《割書:当十月二日夜四ッ時ヨリ翌日朝迄|一同令難渋者也》     《割書:地震院》       火事 【上段の記事】 そも〳〵なみだ山 非常(ひじやう)明王は御救(おすくひ)の小屋山(こやさん)町法大事(てうほうたいじ)の御 作(さく)にして 地震(ぢしん)雷(かみなり)火事(くわじ)親父(おやぢ)を倶足(ぐそく)し奉る本尊なり悪魔(あくま)降伏(かうぶく)は もちろん世上(せじやう)の人気(しんき)をなほし放蕩(はうとう)惰弱(だぢやく)を止(とゞめ)たまふとの御せいくわん也 地震(ぢしん)と現(げん)じ給ふ時は強欲(がうよく)いんあくの土蔵(どさう)をおとし雷鳴(らいめい)とあら はるゝときは聾(つんぼう)の耳を貫(つらぬき)魂(たましい)を天蓋(てんがい)にとばして無慈悲(むじひ)の心(しん) 中(ちう)をかはらしむ火事(くわじ)身(しん)を現(げん)じてはつぶれし家(いえ)より火(ひ)をはなち 消(けして)人なければやけほうだい夜(よ)の明(あけ)るにしたがひていつしかきえてあと かたはなきの涙(なみだ)の箸(はし)もたぬまでになりても命(いのち)さへあれば一法(ひとほう)かき かへてだますとすれば親仁身(おやぢしん)それかけ出して野宿(のじゆく)の雨(あめ)津浪(つなみ)が くるとだまされて逃(にげ)たあとから盗(ぬす)みする極悪人(ごくあくにん)はいざし 浪(なみ)心を 直(すぐ)にもつものは誓(ちかひ)て助(たす)けまゐらする非常(ひじやう)明王の御剣(みつるき)は おやの異見(いけん)の剣(けん)なるべし片手(かたて)にぎる財布尻(さいふじり)しめしを守(まも)る 子孫(しそん)へあたへたるふとの御つげなればつぶれ    しんで後悔(こうくわい)あられませう やう〳〵 安堵(あんど)し たてまつる 本尊の由来(ゆらい)を くやしくたづぬるにむかし 地震王(ぢしんわう)またかど焼亡(しゃうほう)のきこえ ありて商売(しやうはい)ださだまりかねて命(めい)をかうむり田原俵(たはらへう)だ 火(ひ)出(で)たと御すくひとして二合半のもつそうにておめしに かりふくれがはらにおしよせたり此ときなみだ山 毎日(まいにち)大(たい)そう 不そうおうをいのり施(ほどこ)し米(ごめ)のはかりことをもつて又門(またかど)の崩(くづ)れと なりしもこの尊像(そんざう)の御とくなり此ときのうたに     またかどでこめかみよりぞうたれける       かはらおちたがさはりこそして 【下段】 さいなん  けんのん【険難(けんなん)の変化した語】   らいよけ    火なんよけ   こゞとよけの    御守は     これより       出升 こんがり   どじ せいたか    とうじ