【表紙】 【資料整理ラベル】 721.8 TAC 日本近代教育史  資料【横書き】 【見返し】 【題箋】 絵本写宝袋 三 【左丁】 絵本(えほん)写宝(しゃほう)袋(ふくろ)三之巻目録 源義家(みなもとのよしいゑ)《振り仮名:追_二安倍貞任|あべのさだたふをおふ》【一点脱】  宗任(むねとう)《振り仮名:詠_二和歌_一|わかをゑいずる》図(ず) 景正(かげまさ)敵(てき)を射(ゐ)る図(づ)   保元(ほうげん)夜軍(よいくさ)之(の)図(づ) 為朝(ためとも)《振り仮名:与_二義朝_一|よしともと》戦(たヽかふ)図(つ)  源頼政(みなもとのよりまさ)《振り仮名:射_レ鵺|ぬゑをゐる》図 真田与一(さなだのよいち)勇力(ゆうりき)之(の)図  川津(かわづ)股野(またの)相撲(すまふ)之図 文覚(もんがく)荒行(あらぎょう)之図    伊豆(いづの)院宣(ゐんぜん)之図 加藤(かとう)次景(じかげ)廉(かど)之(が)図   金子(かねこの)十郎/之(が)図 三浦(みうらの)大介(おほすけ)之図    難波(なにはの)梅(むめ)制札(せいさつ)之図  【右丁】 梶原(かぢはら)二度(にどの)駆(かけ)之図   忠度(ただのり)旅宿(りよしゆくの)花(はな)之図 教経(のりつね)《振り仮名:欲_レ捕_二義経_一|よしつねをとらんとする》図  舎那王(しゃなわう)之(の)図 弁慶(べんけい)《振り仮名:乗後馬|うしろむまにのる》図    堀河(ほりかは)夜討(ようち)之図 安宅(あたかの)/関(せき)之(の)図     時宗(ときむね)大磯(おほいそ)へ馳行(はせゆく)図 朝比奈(あさひな)/草摺(くさずり)を引(ひく)図 【左丁】 源義家(みなもとのよしいゑ)【見出し囲み文字】 頼義(よりよし)/衣川(ころもがは)に押(おし)よせ給ふといへども究竟(くつきやう)の 要害(ようがい)にてたゆすく落(おと)さんこと難(かた)かりし所に清原(きよはらの)/武則(たけのり)術(じゆつ)を めぐらし城中(じやうちう)に火(ひ)をかけさせしかば貞任(さだたふ)兄弟(きょうだい)をはじめ さん〴〵になつておち行(ゆく)時(とき)義家(よしいゑ)貞任をめがけかた手矢(てや) はげておつかけ給ひこゑをあげていかに貞任(さだたふ)しはらく 返(かへ)せ言(ものい)はんと宣(のたま)ひければ貞任ものがれゑじとおもひ 馬(むま)をしづめしかば義家(よしいゑ)大音(だいおん)にて   衣(ころも)のたてはほころびにけり と宣(のたま)ひければ貞任(さだたふ)も馬の鼻(はな)を引返(ひつかへ)し𩋙(しころ)【注】をふり向(むけ)   年(とし)を経(へ)し糸(いと)の乱(みだれ)乃/物憂(ものう)さに と付たりければ義家(よしいゑ)/番(つがひ)給ひし矢(や)をさし迦(はづし)て 引返(ひきかへ)し給ひけり 【注 「𩋙」は『大漢和辞典』では義未詳とされていますが字面は𩋙だと思われます。】 【右丁】 源義家【見出し囲み文字】 【上部】 甲(かぶと)装束(しやうぞく)金 地白(ぢしろ) 𩋙(しころ)緑青(ろくせう) 吹返(ふきかへし)正平 鎧(よろひ)紅(くれない)裳紺(すそご) 赤地(あかぢの)錦(にしき) 【下部馬の説明】 馬星(むまほし) 芦毛(あしげ) 【左丁】 【上部】 安倍(あべの)貞任(さだたふ)生年(しやうねん) 三十四 歳(さい)長(たけ)九尺五寸 腰囲(こしのめぐり)七尺四寸 容貌(かたち)魁偉(おおきに)皮膚(はだへ)甚(はなはた)肥(こへ)白(しろし) 東国(とうごく)一之 壮士(さうし)大/力之(りきの)男(おとこ)也 【下部馬の説明】 馬は栗毛(くりげ) 【左下部】 出立(いでたち)紺地(こんぢ)の錦(にしきの)直垂(ひたたれ) 龍頭(たつかしらの)甲(かふと)椑革威之鎧(しなかわおどしのよろひ) 【右丁】 【隅切囲み見出し】高宗任(かうのむねたふ) 《割書:和哥(わか)|の徳(とく)》 源 頼義(よりよし)奥州(おうしう)安倍貞任(あべのさだたふ) 高宗任(かうのむねたふ)と九年の たゝかひに源氏 終(つい)にうちかち たまひ兄 貞任(さだたふ)は せんじやうにて うち死す おとうと むねたふは いけどられ 御帰洛(こきらく)の後(のち) よりよしの御館(みたち)に 有しをわかき 殿上人(てんじやうびと)あづまの ゑびすなぶりて 【左丁】 あそばんと さかりなる 梅(むめ)のはな 一 枝(えだ)手折(たおり) これはいか なる花(はな)ぞと ありし ことばに つきて あづまにて むめの はなとは 見つれども 大みや人はいかゞ いふらむ 此 哥(うた)に興(けう)さめて しらけと     なり 【挿絵中の文字】 丹朱(たんしゆ)仕立 【右丁上部】 【隅切囲みの中】鎌倉権五郎景正(かまくらのごんごらうかげまさ) 出羽(でわ)にて後(のち)三年の 戦(たゝかひ)の時(とき)義家(よしいゑ)に したがひ生年(しやうねん) 十六 弓矢(ゆみや)打(うち) 物ならぶ人なし 鳥海(とりのうみ)弥三郎 に左の眼(まなこ)を 甲(かぶと)に射付(いつけ) られながら 敵(てき)をおつかけ 一 矢(や)に射(い) ころし たる剛(かう)の者(もの)也 【同 下部】 景正(かげまさ)出立(いてたち) 地白(ぢしろ)に すゝきほを  ぬふたる   ひたゝれ    卯(う)の     花(はな)    威(おどし)の     鎧(よろひ)      也 【挿絵中の文字】 よろひ しろし いとはごふん  仕立 【左丁】 【隅切囲みの中】鳥海弥三郎(とりのうみのやさぶらう) 奥州(おうしう)の住(ぢう)人なり 清原武衡(きよはらのたけひら)に したがひ無双(ぶさう)の 弓取(ゆみとり)也四人 張(ばり)に 十四 束(そく)ねらひすま して射(い)たりしに 景正(かげまさ)すこしも弱(よは)らず 当(たう)の矢(や)まいらせんと 弓矢(ゆみや)つがうを見て にげたれども ついに景正(かげまさ)に ころされしと なり 【右丁】 図(つ)する所は源為義(みなもとのためよし)の八 男(なん) 鎮西(ちんぜい)八郎 為朝(ためとも)弓勢(ゆんぜい)の所也 寄(よせ)たるは伊藤(いとう)五伊藤六 兄弟(きやうだい)なり伊藤五 景綱(かげつな) 為朝に矢(や)を射(い)かけたり 為朝事ともせず合(あわ)ぬ敵(てき) と思へどもなんぢがことば ゆゝしければ矢(や)一つ給(たまはら)ん 請て見よと三年 竹(だけ)の節(ふし) 近(ぢか)なるに山鳥の尾にて剥(はい) だるに七寸五 分(ぶ)の丸根(まるほね)の 矢(や)十五 束(そく)しばし保(たもつ)て 兵(ひやう)ど射(い)る真先(まつさき)に進(すゝん)だる 伊藤六が胸板(むないた)をかけず 射通(いとを)し余(あま)る矢が後(うしろ)なる 伊藤五が射向(いむけ)の袖に 【挿絵中の文字】 兄 伊藤(いとう)五郎 景綱(かげつな) 弟伊藤  六郎  最期(さいご) 【左丁】 うらかへして 立たりける 【標題 右から横書き 隅切囲みの中】 保(ほう)元(げんの)夜(よ)軍(いくさ) 【挿絵中の文字】 為朝(ためとも)             御所(ごしよ) 【右丁】 【隅切囲みの中】源義朝(みなもとのよしとも) 此 図(づ)は源為朝(みなもとためとも) 義朝(よしとも)を おびやかし しりぞけんと わざと甲(かぶと)の 星(ほし)を射削(いけづり)て 余(あま)る矢(や)が 法荘厳院(ほうしやうごんいん)の 門(もん)の方立(はうだて)に 篦中(のなか)責(せめ)て 立(たつ)たる所(ところ)也 義朝(よしとも)出立(いてたち) 黒糸(くろいと)おどし の鎧(よろひ) 赤地(あかぢの)錦(にしき)の 直垂(ひたたれ) 【左丁】 為朝(ためとも)出立 赤地(あかぢの)錦(にしき)の 直垂(ひたゝれ) 鎧(よろひ)は 義朝(よしとも)の八 龍(りう)の 鎧(よろい)を写(うつ)し 胸板(むないた)に獅子(しゝ)を 八つ金物(かなもの)にす 総(すべ)て金物 獅(し)子也 直垂(ひたゝれ)の 紋(もん)も 獅子(しゝ)なり 太刀(たち)は 熊皮(くまのかは)の 尻鞘(しりさや)   也 【右丁】 【隅切囲みの中】兵庫頭(ひやうごのかみ)源頼政(もなもとのよりまさ) 鵺(ぬゑ)の事(こと)は 諸(しよ)人の知(し)る 所(ところ)なれば 注(ちう)するに 及(およ)はす 【左丁 挿絵中の文字】 朱ずみ具   トラ仕立 しゆずみくま 毛がき金            羽山鳥            ねずみ            足は            虎(とら)仕            立      猪早太(ゐのはやた)  くろいと            おどし 【右丁】 【隅切囲み内】俣野(またのゝ)五郎 此 図(づ)は 関東(くわんとう)の 諸侍(しよさふらひ)おくのゝ 狩(かり)をくわだて 頼朝(よりとも)を慰(なぐさめ)し 時(とき)にかしわが とうげに 酒(しゆ)ゑんの折(おり) 座中(ざちう)に 七尺 余(あま)りの大 石(いし) あり俣野(またの)五郎 景久(かげひさ)力(ちから)ぢまん にて此石 妨(さまたけ)と 【左丁】 ひつかゝへ谷(たに)へ捨(すて)んと せし所へ真田(さなだ)の 与一といふ者(もの)来(きた)る またの与一にいしゆ 有与一に言葉(ことば)を かけなげかけしを 与一も大力(だいりき)の 者(もの)にて中(ちう)に かゝへなげかへ せし所なり 与一此 時(とき) 生年(しやうねん)十六 歳(さい)にてぞ 有けると なん 【挿絵中の文字】 真田与一(さなだのよいち) 【右丁】 川津(かはづ)俣野(またの)相撲(すまふ)之(の)図(づ)【隅切囲み内】川津(かはづ)三郎 祐重(すけしげ)は井藤(いとう)次郎が長子(ちやうし) 土肥(とひ)次郎が婿(むこ)なり伊豆国(いつのくに)柏(かしは)が峠(とうげ)にて武蔵(むさし)伊豆(いづ)相模(さがみ)の人々 すまふの時 俣野(またの)かちずまふにて川津(かはづ)と出合(いであひ)三 番(ばん)まけしと也 肉色(にくいろ)朱(しゆ)のきめにてくま 下帯(したおび)ろくせうもやう 金でいしゆこんぜう ごふんゑんじかき入 【挿絵あり】                 黒肉色(くろにくいろ)下帯(したおび)朱(しゆ)金(きん)大 紋(もん) 【左丁】 文覚(もんがく)荒行(あらぎやう)之(の)図(づ)【隅切囲み内】此 法師(ほうし)俗名(ぞくみやう)遠藤盛遠(ゑんどうもりとを)と云 性(うまれつき)憤(いきとをり)り【衍ヵ】強(つよ)く 十八 歳(さい)にてほつ心(しん)し諸国(しよこく)を廻(めぐ)り熊野(くまの)那智(なち)の滝(たき)に七日の願(ぐわん)を発(おこ) してうたれける比(ころ)は極月(ごくげつ)廿日 余(あま)り寒雪(かんせつ)梢(こずへ)を埋(うつ)み滝(たき)の白糸(しらいと)たる ひとなれりされどもたきづほ【ママ】に入てうたれけり二三日には其(その) 身(み)岩木(いわき)のごとくこゞへすでに気(いき)たへける時(とき)こんがらせいたか来(きた)り 文覚(もんがく)をすくひ給ひけり是より行力(ぎやうりき)つよくして高尾(たかお)の神護寺(しんごじ)を建(こん) 立(りう)せんと院(いん)の御所(ごしよ)へくわんじん帳(ちやう)をさゝげしを平家(へいけ)文覚(もんがく)をとつ て伊豆(いづ)の国(くに)へながししかばいきどほりふかくいかにもして平家(へいけ)を ほろぼし神護寺(じんごじ)を取立(とりたつ)べしと心ざしけり其比(そのころ)源(みなもと)の頼朝(よりとも)は 平治(へいぢ)の軍(いくさ)にうちまけ是も伊豆(いづ)に流(なが)されおはしける文覚(もんがく)参(まい)り 度々(たび〳〵)むほんをすゝむといへどもあへてうけ給(たま)はずあるとき義朝(よしとも)の 髑髏(されかうべ)を見(み)せまいらす頼朝(よりとも)涙(なみだ)にむせび口惜(くちおし)や我(われ)勅勘(ちよくかん)の身(み)なれば思(おもふ)に 甲斐(かひ)なし若(もし)今 平家(へいけ)追討(ついたう)の院宣(いんぜん)を蒙(かうふ)らばなどか此 恨(うらみ)を報(むくひ)ざるべきと 歎(なげき)給ふ文覚(もんがく)実(まこと)義兵(ぎへい)を思立(おもひたち)たまはゞ我(われ)ひそかに院宣(いんせん)を請(かふ)てまいら せんと飛(とぶ)が如(ことく)に都(みやこ)に上り院宣(いんせん)を賜(たま)はりて頼朝(よりとも)にこそ渡(わた)しける 【右丁】 【隅切囲みの中】矜羯羅童子(こんがらどうじ) 色(いろ)白(しろ)く   髪(かみ)黒(くろ)し 【左丁】 【隅切囲みの中】制多伽童子(せいたかだうじ)  髪(かみ) かき  色(いろ)  色(いろ)赤(あか)し 【右丁】 【隅切囲みの中】伊豆(いづ)の院宣(いんせん) 頼朝(よりとも)は院宣(いんぜん)を蒙(かうふり)り【衍】 北条時政(ほうでうときまさ)をかたらひ 先(まづ)伊豆(いづ)の目(もく) 代(だい)泉判官(いづみのはんぐわん) 兼高(かねたか)を夜討(ようち)に せんと北条(ほうでう)承り 打勝(うちかち)候はゞ火をあ ぐべし若(もし)利(り)あらずは 使(つかひ)を参らせんと 申て向(むか)ひけり されども やうがいよく 北条(ほうでう)もせめ あぐんでひかへけり 【左丁】 加藤(かとう)次郎 景廉(かけかと)は頼朝(よりとも)の御かんきをかうふり此 度(たひ)もやうしにもれけれ とも心(むな)さわぎしければ何事か有やらんと紫威(むらさきおどし)のはら巻太刀を帯 佐殿(すけどの)へはせ参る頼朝(よりとも)は小具足(こぐそく)に小長刀(こなぎなた)つきゑんにつゝ立(たち)給しが かげかとを見て仰(おゝせ)には今夜(こんや)いづみの判官(はんぐわん)を討(うた)んと北条(ほうでう)佐々木(ささき)を つかはしぬ打(うち)かちたらば館(たち)に火(ひ)をかくべしと云つるがいまだけふり も見へず覚束(おぼつか)なしとのたまふ景(かけ)かど承り夜討(ようち)はそれがしこそ とて言葉(ことば)をちらしかけ出るをかげかどしばしとて火(ひ)おどしの鎧(よろひ) 白星(しろほし)の甲(かぶと)をたび夜討(ようち)には太刀(たち)より柄(ゑ)の長(なが)き物よかるべしと つきたまふ小長刀(こなぎなた)をそ給はりけり景(かげ)かどいそぎ向(むか)ひ北条(ほうでう)に 対面(たいめん)す時政(ときまさ)見て御へんは御かんどうの身(み)なりといへばかげかど さればにわかに召れてかねたがか【濁点の位置が違う】首(くび)つらぬいてまいらせよと此 長(なぎ) 刀(なた)を給はりしとてみせけり北条(ほうでう)さしもあぐみし城中(じやうちう)に事(こと) なくせめ入り櫓(やぐら)に火(ひ)をかけついにかねたかをうちとりけると也 其後 土肥(とひ)土屋(つちや)岡崎(をかざき)三百 余騎(よき)にて石橋山(いしばしやま)に籠(こも)り又 安房(あわ)上(か) 総(づさ)へ渡(わた)り千葉介(ちばのすけ)味方(みかた)して終(つい)に平家(へいけ)をうちほろぼし給ふ 【右丁 挿絵中の文字】     加藤(かとう)次郎 景廉(かげかど)【隅切囲みの中】火(ひ)おどし 兵衛佐(ひやうのすけ)頼朝(よりとも)【隅切囲みの中】  赤地 【左丁】 【隅切囲みの中】金子(かねこの)十郎 家忠(いゑたゞ) 三浦(みうら)一 党(とう)衣笠(きぬかさ)の城(しろ)に籠(こも)りし とき金子も畠(はたけ)山と同心して よせたり大介金子がはたらき 人にすぐれしをかんじ 城(じやう)中よりひさげに 酒を入て盃をもたせ 出(いだ)しけり家忠(いゑたゞ)盃を取 三 度(ど)ほして一 礼(れい)して かへしけり軍陣(ぐんぢん)に酒を 饋(おく)るは法(ほふ)也 請(うく)るは礼なり 大介が所為(しわざ)といひ家忠(いゑたゞ)兵(ひやう) 法(ほふ)の礼を知(し)れりと人々 感(かん)じ             けり 【右丁】 三浦大介義明(みうらのおほすけよしあきら)【隅切囲みの中】三浦(みうら)の一統(いつとう)は頼朝(よりとも)に力(ちから)を合せんと三百 余騎(よき) にて出けるが頼朝 石橋(いしばし)の軍(いくさ)に打(うち)まけ給ひ行方しれざりし ゆへ空(むな)しく帰る道にて畠山 重忠(しげたゞが)五百 余騎(よき)に行逢(ゆきあひ)ゆひこつ ほの浦にてたゝかひ畠山 敗軍(はいぐん)し其後又大勢にて衣笠(きぬかさ)の 城(しろ)にをしよせ責(せめ)たゝかふ大介味方の手よはきを見我れ十三 より已来(このかた)弓矢取て今年(ことし)七十九 歳(さい)老々(らう〳〵)として所労(しよらう)折 節(ふし) 再発(さいほつ)せり此軍にあふ事 老後(らうご)の面 目(ぼく)なり義明(よしあきら)最期(さいご)のいくさ してみせんと白(しろ)きひたゝれの袖(そで)せばきにもみゑぼし引立て 太刀(たち)ばかり腰(こし)に付馬にうちのり右の手(て)に策(むち)をぬきいれ左に たづなかいくり既(すで)に出んとしけるを子息の別当(べつたう)義澄(よしずみ)父(ちゝ)が気 しきを見て馬の口にとりつきしをそこのけと策(むち)にてうて ども甲(かぶと)なればいたまず強(あなかち)に城中へ引(ひき)入けりこれ大介諸 卒(そつ)にはげみを付べき謀(はかりこと)なり 【左丁 挿絵中の文字】 【隅切囲みの中】三浦(みうらの)大介 義明(よしあきら)                青地(あをぢ)                火威(ひおどし)の鎧(よろひ)     【隅切囲みの中】三浦(みうらの)別当(べつたう)義澄(よしずみ)  【右丁】 難波津(なにはづ)の梅(むめ)【隅切囲みの中】源義経(みなもとのよしつね)津(つ)の国(くに)尼(あま)が崎(さき)にて年(とし)ふりたる梅(むめ)を 見給ひ古老(こらう)を召(め)して尋(たづね)られしに仁徳天皇(にんとくてんわう)の御時(おんとき)此花(このはな)冬籠(ふゆごもり) とよみし梅(むめ)なるよし申(もうし)ければゆへなく人の折(おり)とらん事をなげき 弁慶(べんけい)を召(めし)て制札(せいさつ)をかゝしめ立(たて)られしとなり 【左丁】     制札之文(せいさつのぶん) 此華(このはな)江南(こうなんに)《振り仮名:所_レ無|なきところ》也(なり)於(おいて)_下折(おり)_二 一枝(いつしを)_一盗之輩(ぬすひとのともからに)_上者(は) 任(まかせ)_二 天永(てんゑい)紅葉之例(こうようのれいに)【一点脱】伐(きら)_二 一(いつ)枝(しを)【左ルビ:ゑだ】_一者(ば)可(べし)_レ剪(きる)_二 一(いつ)指(しを)【左ルビ:ゆび】_一 【右丁】 【隅切囲みの中】梶原(かぢわら)二度(にど)の駆(かけ) 生田(いくた)の森(もり)は 平家(へいけ)十万 余騎(よき) の大手(おゝて)なりしに 梶原(かぢわら)源太 景季(かげすゑ) 盛(さかり)なる梅花(むめのはな)一(ひと) 枝(ゑだ)手折(たおり)て 箙(ゑびら)にさし 出立(いでたち) はなやか なりしかば あつはれ敵(かたき)よ 遁(のが)すなと大勢(おゝぜい)       に 【挿絵中の文字】 梶原(かぢわら)平三            景時(かげとき) 【左丁】 取(とり)こめられ甲(かぶと)も うち落(おと)され大(おゝ) わらはに成(なつ)て 戦(たゝか)ひしを 父(ちゝ)平三 景時(かげとき) 返(かへ)し 来(きたつ)て 大勢(おゝぜい)を 打(うつ)ちらし 源太(げんだ)と共に 御方(みかた)の陣(ぢん)へ 帰(かへ)りける 【挿絵中の文字】  源太景季(げんだかげすゑ) 【右丁】     行暮(ゆきくれ)て木(こ)の下陰(したかげ)を宿(やど)とせば 旅宿花(りよしゆくのはな)     花(はな)や今宵(こよひ)のあるじならまし 忠度(たゞのり) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【挿絵】 【左丁 挿絵のみ】 【右丁】 【隅切囲みの中】 能登守(のとのかみ)平教経(たいらののりつね) 教経(のりつね)出立(いでたち) 唐繍(からあや)【綉は繍の俗字】威(をどし)の 鎧(よろひ)是は 唐錦(からにしき)の ごとし 赤地(あかぢの)錦(にしき)の 直垂(ひたゝれ) 定紋(ぢやうもん)鎧(よろひ)の 金物(かなもの)等(とう)は 十六の 菊(きく)なり 【左丁】 【隅切囲みの中】 源(みなもとの)判官(はうくわん)義経(よしつね) 義経(よしつね)出立(いてたち)赤地(あかぢの)錦(にしき)の 直垂(ひたゝれ)紫裳紺(むらさきすそご)の鎧(よろひ) 此 図(づ)能登殿(のとどの)は判官(はうぐわん)の 船(ふね)に乗(のり)あたり判官を めかけ飛(とん)でかゝる 義経かなはじとや 思はれけん 御方(みかた)の舟の 間二丈ばかりのき たりけるにゆらりと 飛(とび)うつりたまふ 勢(いきほ)ひなり 【右丁】 【隅切囲みの中】舎那王(しやなわう)《割書:牛若|の事》 字(あざな)は牛若(うしわか)源(みなもと)の義朝(よしとも)の八 男(なん) 曽(かつ)て鞍馬山(くらまさん)僧正谷(そうじやうがたに)にて 異人(いじん)と会(くわい)し兵法(ひやうほふ)の 奥儀(おうぎ)を伝受し給ひける と云へり 【挿絵中の説明】            あいろぐ   朱   白                          紫                             こん           つるいと         こん           こん       こん       緑青(ろくせう) 鎧(よろひ)ゑんじ具(ぐ) 生ゑんじ           朱      金 くま  おどしの  毛(け)がき              僧正坊(そうじやうぼう)色(いろ)黒肉(くろにく)  同しく         しゆ    にしき 【左丁】 【隅切囲みの中】二階堂土佐房正順(にかいどうとさばうしやうじゆん) 弁慶(べんけい)はざつしき一人ぐして 土佐(とさ)が宿(やど)へうち入みれば らうどう共七八十人 夜討(ようち)の評定(へうぢやう)してこそ 居(ゐ)たりける弁慶(べんけい)は 土佐がよこざ にむづと なをりいかに 御(ご)へんは在(ざい)京あらば 先(まづ)ほり河(かは)殿(との)へ参 申さるべきに 遅参(ちさん)はびろうなりと 云まゝに引立(ひつたて)て我馬(わかむま)に のせ弁慶(へんけい)も後(うしろ)馬に のりむちにあぶみを合て 堀河(ほりかは)にはせ着(つき)此 由(よし)を申上る 【右丁 上部】 堀河夜討(ほりかはようち)【隅切囲みの中】土佐房正俊(とさばうしやうじゆん)【正順と前出】は判官殿(はうぐわんどの)の御前(おんまえ)へ 参ちんじけるは此 度(たび)かまくら殿の御代官(ごだいくわん)と してくまのへ参候が路次(ろし)より風(かぜ)の心(こゝ)ちにて候 ゆへ遅参(ちさん)に及(および)候などゝ申ひらき ければ判官心に思(おほ)しけるは たとへ討手(うつて)に来(きた)るとも何(なに) 程の事かあらん重(かさね)てかれが よせ来らんときうつべしと て起請(きしやう)を書(かゝ)せかへしたまふ 土佐房は其(その)帰(かへ)るさに 案内(あんない)をよく見 置(をき)て 其夜に堀河へおし よせたり 御所(ごしよ)には よもこ よひは 【左丁 上部】 よせ じと 思はれ しかば さふらひ 一人も 有 合(あは)ず 判官(はうぐわん) みづから ふせぎ給ふ 土佐(とさ)もさう なくかけ入ず しばらく時 うつりしかば 判官殿のさふらひども 方々(はう〴〵)よりはせまいりて 【右丁 下部】   さん〴〵にたゝ  かひ正俊(しやうじゆん)がちやくし 土佐太郎同いとこ いわうの五郎も   いけどられて    正俊はくらま     をさして      おちけるを      大 勢(ぜい)      つゞいて        おつ        かけ         僧        正が         谷        にて 【左丁 下部】         べん         けいが        生(いけ)どり          て         六 条(てう)      河原(かわら)にひき     出し正 俊(じゆん)を    はじめちやくし    太郎さがみの    八郎いほうの    五郎みな切(き)られ  けり討(うち)もらされたる 者(もの)どもはおちくだりて かまくら殿へかくと 申上にけり 【右丁】 【標題 隅切囲みの中】富樫左衛門(とがしのさゑもん)安宅関(あたかのせき) 左衛門判官 殿をとゞ めんと し けれ ども 弁慶か ちう心(しん)を かんじ 一 命(めい)を わすれ 酒を すゝ めて 通(とを)し けり 【左丁 挿絵のみ】 【右丁】 【標題 隅切囲みの中】曽我時宗(そがのときむね) 此 太刀(たち)おびとり なし手綱(たづな) にてくゝり 表帯(うはおび)の下(した)へ とほし肩(かた)へ かけ背(せなか)にて むすぶ 曽我(そが)より 大礒(おほいそ)へはせ 行(ゆく)ところ    なり 【左丁】 【標題 隅切囲みの中】朝比奈(あさひな)草摺(くさずり)を引(ひく) 時宗(ときむね)鎧(よろひ)沢潟威(おもだかおど)し小札(こさね)金 おどし糸(いと)緑青(ろくせう) 上は褐(さいみ)に 衣裳(いしやう)定(さだまり)なし 鳳蝶(あげはのてふ)を墨(すみ)にて書(かき) たるあり下(しも)はこん也 是 夜討(ようち)の時に着(ちやく)す 上下 褐(さいみ)の事(こと)あり 褐(さいみ)は色わうどなり 此時は上下とも 朱(しゆ)にて仕立(したつ)る事あり 【紋の図】又 舎(いほり)に二木瓜(ふたつもつかう)を付る 事もあり直垂(ひたゝれ)のごとく 又は大紋(だいもん)のごとし 朝比奈(あさひな)素襖袴(すわうはかま)こんぜう 紋(もん)白(しろ)舞鶴(まひづる)あるひは三巴(みつともへ) 【右丁】    彫割細工人      《割書:聚楽町板木屋》        藤村善右衛門      《割書:京下立売通千本東へ入 ̄ル板木屋》        丹羽平左衛門   写宝袋後編拾冊          未割 【左丁 見返し 白紙】 【裏表紙】