NEWS  NO.68 "DENKICAN" PROGRAMME OF THE NEW PICTURES Charles Chaplin in "Sunnyside" A First National Attraction【写真下】 【上部欄外】 大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 (二) 【キャスト】 Mack Sennett Comedies―1919 "HEARTS AND FLOWERS" in 2 Reels Cast Of Characters Louise Fazenda…………………………………A Flower Girl Ford Sterling………………………………A Leader of Man Phyllis Haver……………………………A magnates Dobloman Billy Armstrong……………………An Indignant Nobleman Jack Ackroyd……………………………A Child of Desting【Destiny】 【内容紹介】 米国パラマウント社センネツト映画 (1) 滑稽『心と花』 全二巻       "Hearts and flowers" 『酒場から酒場を渡り歩いてゐるオーケストラの  楽長で、あるバーの花売娘と恋に落つこちた。  処が欲の皮に引張られて、途方もない野心を起  し、ある財産家の姫様に想ひをかけたばかりに  飛んだ失敗を招く貧弱な音楽家………        …………フォード、スターリング 『花売渡世の、貧乏でも心が花の娘さん……        ………………ルイズ、フアゼンダ 『貴い身分で、金のあるお姫様………        ……………ホイリス、ハーヴアー 『怒りつぽい、貴族の若様………        ………ビリー、アームストロング 『花売娘の、うぢや〳〵する程居る兄弟の中の一  人で、可哀相な彼女の弟………        ……………ジヤツク、エクロイド    『説 明』…………………浅 野 柳 翠 【左欄の上部】 米国パテー支社ローリン映画 (2) 喜劇ロイドの『ブルドツク』【※】   ハロルド、ロイド氏   ハーリー、ポラード氏 共演   ベツプ【ブ?】、ダニヱル嬢       『説明』【※】徳 永 天 露 【左欄の下部】 Pathe Rolin Film "COUNT YOUR CHANGE"【『ブルドツク』原題】 Ferturing【ママ】 Harold Lioyd【ママ】 with Harry Pollard and Bebe Daniels 【第2コマの1ページ目ここまで】 【▼ページ境界(1つ目)】 大正九年四月八日封切ニコニコ大会映画番組   《割書:客席|にて》喫煙御断 【上部欄外】 (三) 大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 【右欄の上部】 米国パテー支社ローリン映画 (3) 喜劇ロイドの『新婚旅行』【※】   ハロルド、ロイド氏   ハーリー、ポラード氏 共演   ベツプ【ブ?】、ダニヱル嬢       『説明』【※】徳 永 天 露 【右欄の下部】 Pathe Rolin Film "A JAZZED HONEYMOON" Ferturing【ママ】 Harold Lioyd【ママ】 with Harry Pollard and Bebe Daniels 【キャスト】 Mack Sennett Comedies―1919 "WHEN LOVE IS BLIND" Cast Of Characters 《割書:Ben Turpin|Charles Lynn》}………………………………Men About town 《割書:Marie Prevost|Phyllis Harver》}………………………………Heartbreakers Erle Kenton…………………………………A Smart Aleck Marvel Rea…………………………………………The Actress 【内容紹介】 米国パラマウント社センネツト映画 (4) 滑稽 『盲 滅 法』 全二巻       "When Love Is Blind"   『泥棒と女とを得べく競争する町の地廻り………        ……………………ベン、ターピン        …………………チヤールス、リン 『男殺しの、可愛い娘さん………        ……………マリー、プレヴオスト 『飛んだ処へ咲き出でた、恋の花』………        ……………フイリス、ヘイヴアー 『旅館専門の、機敏な泥的………        …………………アール、ケントン 『恋を毮つては投げ、毮つては投げ捨てる女優さ  ん………………………………マーヴヱル、リー 『チヨボ髭生やした酒屋の番頭………        …………チエスター、コンクリン 『喧嘩を買つて歩く、弱い勇士………        ………………チヤーレス、ムレー    『説 明』…………………埼 東 天 民 【第2コマの2ページ目ここまで】 【▼ページ境界(2つ目)】 《割書:次回|上映》文 芸 映 画『名 花 薔 薇』【※】【左に"Rose of the world"】【次の三行、ここの直下に】 米国アートクラフト社映画 モーリス、ターナー氏監督 エルシー、フアーグソン嬢主演 【上部欄外】大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 (四) 【英字部分】 Paramount Arbuckle Comedies Joseph M. Schenck Presents Fatty Arbuckle in " A DESERT HERO " in 2 Reels Written and Directed by Fatty Arbuckle―1919 【内容紹介】 米国パラマウント、アーバツクル映画 フアツテイ、アーバツクル自作兼監督 (5) 喜活劇 デブの沙漠の豪傑      "A Desert Hero"  全二巻    ==映 画 の 概 念== 太陽に、焼くが如く照り付けらるゝ沙漠に、カー ボリツク、キヤンプの町がある。此□【所ヵ】に住んでゐ る連中は道徳も何もあつたものでない。 『ラツキー、ボツブ………此男は風の吹くまゝの  此□【地ヵ】の生れで、痩せぎすの骨張つた、日に焼け  た男である。 『ブル、ネツク、ブラツドリー………暗いトンネ  ルの中のような、心の黒い男である。 『ドツク、ツースのジョー………このキヤンプの  難物で酒の気が無ければ生きて居られぬ男で、  実に命知らずの、獣の様な悪人である。 そんな恐ろしい連中の中に、只一人美しい、可愛 ゆいまだ蕾の花の様な女がゐる。 『フオツクストロツト、フアンニー………ブラツ  ドリーの呼びもの女で、境遇の為めに、こんな  罪の多い所に来てはゐるものゝ、至って無邪気  で、野の花一輪摘むのさへ心配してゐる程の、  愛らしい女である。 此処へ「デブ」の山狗ホールがやつて来た。 彼はピストルの名人で、堂々たる風采で、度胸が あつて、素晴しい豪傑である。遂に一同から選挙 されてセリフ【sheriff】となり、悪人を追払ふて、この恐し い土地を平定し、一同を率ひて救世軍の信者とな り町の風□【儀ヵ】を一変した。 こんな豪傑にも、優しい悶えの恋の道! 『あの女は俺を思つてゐる………否、それとも思  つてゐないか知ら………』 などと人知れず苦んだものだ。   『説明』【※】……………………………泉 天 嶺 【第2コマの3ページ目ここまで】 【▼ページ境界(3つ目)】 《割書:次回|上映》神   秘   劇 『七 羽 の 白 鳥』【※】【左に"the Seven Swans"】【次の三行、ここの直下に】 米国パラマウント社映画 ゼ、シヤアル、ダウレー氏監督【J. Searle Dawley】 マーガリツト、クラーク嬢主演 【上部欄外】 (五) 大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 【英字部分】       A First National Attraction Charles Chaplin in his third Million Dollar Comedy       "SUNNYSIDE" in 3 Reels Written and Produced by Charles Chaplin May 1919 【内容紹介】 米国フアースト、ナシヨナル社特作 百万弗大映画===第二回作品 (6)《割書:純芸術|喜 劇》チヤプリン、サンニーサイド         "SUNNYSIDE" ―――全 参 巻 一九一九年チヤールズ、チヤプリン自作自演    ==映 画 の 概 念== 『サンニイサイドの村。……『汝の隣人を愛せよ! 『作男もやれば下男もやる。受付もやればその他  何でもやるチヤーリ。 『あの下男はまだ起きない、これでは朝の時間が  何もならぬことになる。 『ホテルの常盤木。………『大至急だよ。 『砂糖はいゝ加減に甘くするもんだ………滅茶苦  茶に入れる奴があるかい。 『朝の説教。『父親と倅。『不本意ながら罪人! 『彼の教会は青空で、説教壇は風景。     第二巻 『処が、今度は艶沙汰。………『彼女の弟ウイリー。 『両人相手の友達。………『盲目遊びをしやう。 『音の低い楽の音!………『またも遅れる。 『セツセと仕事をするんだ。 『都の人が這入つて来る。 『村のドクトル。………『診察代一〇弗。     第三巻 『旦那それだけですか、モウ外に何か御用は? 『何とか致しませうか、………『ノラクラ連。 『彼方へ行け!………『都の男は全快。 『何を差上げませうか、『ヱ……妾忘れました。 『残酷な運命。………『彼の最後の望み! 『恋は辛いものと云ふが、遂げられゝばまだいゝ  として、駄目になつたとすれば悲惨なもの。 『寝坊!此方の鞄を持つて来るんだ。          ――――――――(終)――       『説明』【※】 高橋黒眼  茂木天洋 【※=他の括弧[]と〔〕で試行するも前者は文字消去、後者は無反応なので代用措置】 【第2コマの4ページ目ここまで】 【このコマの3頁(=(八))と4頁(=表紙)は、他のコマに有るため着手不要です】 【上部欄外】大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 (六) 【本文】        内 外 時 事     問題の週替実現【@上部(横書き、文字順=右から左へ)】  Dはニューズ六七号に於て、永らく 懸案たりし週替に就て強硬且穏健なる 最後の交渉を求【?】め必ずや近く実践すべ きことを言明せり。果然要求徹底!問 題可決!愈々来るべきDの巨弾春季特 別興行の終ると共に週間興行たる事に 決定す。我改造の第二歩に入りDの奮 闘正に今後に在り。乞ふ親愛なる諸賢 よ!更に一層の御後援あらんことを。      日活社の新映画契約 日活社は過般来朝せるフアースト ナシヨ ナル社及ゴールドウイン社代表者を通じて 同社の新映画を契約し既にその数種を輸入 せり。両社はパラマウント、アートクラフ ト社と共に米国第一流の映画製作社にして フ社はグリフヰス映画ピツクフオード映画 タルマツヂ姉妹映画ステワート映画及チヤ ツプリン映画等を又ゴ社はフアーラー映画 フレデリツク映画レツクス、ピ【?】ーチ映画ノ ーマンド映画等の大作品を有す。而も最近 独逸映画の契約を了し、欧米の名画続々輸 入されつゝあり。来るべき六区の変動、否 東洋【?】の大映画戦に対する日活社及びDの奮 戦活躍は真に目覚ましきものあらむ。     巨弾ニコニコ大会に就て 従来否最近四回に亘りD独特のニコニコ大 会にチヤプリン、ドグラスの両映画を列挙 し来りたるも开は実際に於て永続し難き情 実あり。共に斯界の巨星にして経済とプロ グラムに於に許さず。今回より相分立して D独特の一大散弾砲たらしむ。而してドグ ラス映画は近く他の名篇と共に上映すべし 【ここから中段】    おゝ親愛なり快漢ドグ氏 【十行分、写真下部】 昨秋我ドグラ ス、フヱアバ ンクス氏支配 人田中欽之氏 来東に際し、 Dを通じて氏 愛好の諸賢に 寄贈さるべく 約束されたる 氏の肖像は既 に数日前より送達されつゝあり。その数実 に一万余、快活に笑める君の面影、真情溢 るゝ如く且頗る優美也。D感激に堪へず。 その君の肖像を掲げ、爰に氏及び田中氏に 対し、諸賢と共に満腔の謝意を表す。      一 旬 一 言     出 陣 の 辞            か す み 生 【傍点ここから】『饒舌は銀、沈黙は金』とある。【傍点ここまで】 銀は到底金の比ではない。然し銀をもつて 金たらしむる為めには――否銀をもつて金 の地位を得せしめんには――【傍点ここから】まづ金の滅尽 を必要とする。所謂ダンヌチオ氏の完全な る占有は滅尽に在る。とか云ふ哲学から割 出して考へて見れば饒舌も終には金たるこ とが出来る。不可能のことではない。且饒 舌の等閑覗【ママ】すべからざる所以なのである。【傍点ここまで】 こんな理由から――或は屁理屈から――折 角沈黙を守つて居らうとした決心も、遂に オヂヤンになつてしまつた。そして何か言 つて見ようと云ふ野心がむら〳〵起る。 【ここから下段】 【傍点ここから】見て感じて書く――たゞこれ丈では批評の 価値が充分生じない。不充分である。見て 感じ同時に批評的衝動が起つて、然る後に 書く――少くともこの四つのヱリメントが 必要である。【傍点ここまで】勿論批評的衝動が起つて書い た批評が必ずしも好いと極つて居ないが、 苟くも多少なりとも権威ある批評を書かん とせば、批評的衝動もないのに無理に書い た批評は価値がない。スピンガアンと云ふ 人は『想像的精神と批評的精神とは根本に 於て一致す』と云って居る。 【傍点ここから】創作家も批評家もその表現能力のクライマ ツクスに於ける精神的過程は根本に於て同 一である。即ち創作も批評も共に想像でき ると説いて居る。【傍点ここまで】 人々は一般に批評を軽視しすぎて居りはし ないだらうか。少くとも批評は真面目でな さるべきである。下らない悪口や美文ヨタ を飛ばして、極めて childish な喧嘩や口論 で埋めた不真面目な批評は何の権威もない【ママ】 殊に、苟くも活動写真が立派な芸術である と認められて居る今日、映画に対する批評 は軽視すべきではない。 大変憎まれ口をきいたが、これもソリロキ イだと思つてくれゝば別に腹も立つまい。 兎に角来週あたりから何か出鱈目に書くこ とにする。『出鱈目』と言つてもトラシユマ ホッスがうぢや〳〵して居る世の中、うつ かりした事も言へまい。言々句々責任を以 つて言ふ『出鱈目』なんだから骨が折れる。 私は自分の振りまわした鞭で、自分を鞭打 たれてゐるのである。自分自身がまだ碌な 批評も出来ないくせに――と、私は烈しい 鞭の音を胸に聞く。お恥かしい次第だ。 【▼▼▼頁境界部▲▲▲】 《割書:月刊|雑誌》活動倶楽部【この直下に次の三行】 毎月十日発行――定価一部金六拾銭 《割書:東京市下谷区南|稲荷町卅一番地》――活動倶楽部社 振替東京四四一八一=電話下谷一二五一 【上部欄外】(七) 大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 【本文】        大 観 小 観     感じたまゝを            章  太  郎  メキシコの中世時代に起つたアズテツク 人種とスペイン人種との宗教的争闘を劇の 主格【?】として、モンテズマの愛娘と其恋人た る敵方の若武者とのデリケートな戀愛を描 出した原作者の力は偉大である。そして此 作品を斯くも艶麗に、優美に指導し遂せた デミル氏の手腕もまた偉大であると思ふ。 【傍点ここから】何時の世にも私等は実例を見ることではあ るが、公衆的或は個人的盛衰の裏面には、常 に女性の蠱惑的なパウワーを発見する。そ して吾人は一種の戦慄みたいな感じを与へ られる。私はこの奇跡的な劇筋を見て一層 それを感ぜざるを得ない。【傍点ここまで】 ペーガニズムの衆人をクリスチヤンに導か うとしたコルテズは終にアズテツク人種を 全滅せしめた。然も悲惨な戦に依つて仕遂 せたのであつた。私等は斯る公衆的盛衰の 裏面に唯一個の女性を見出すのみである。 中世紀に於けるペーガニズムが人心の上に 与えた影響は、基督教のそれより以上に深 く大きなものであつたと思ふ。そしてその 反動はモンテズマの如き英傑にも、人身供 犠【?】などゝ云ふ凄惨な行為を敢てなさしめた のであらう。 放逸遊惰にながれたアズテツク城内に起居 【ここから中段】 して多くの待女に取囲かれたテズカの性格 は、フアーラーに依つて表現されてゐた、 彼女の演出する処、何等の軽薄浮華なるは なく、真摯的に且情緒充溢たるものであつ た。美の神の神前に若者を救はんがために 跪いた彼女の態度、モンテズマが敵の捕物 になつたことを意識した時の彼女の表現、 谷川に過古の黄金時代を追想しつゝ沈痛な 恋を若者と語る時の彼女の表情等を見るに 実際フアーラーの芸風の偉大であり、且つ 荘厳であることを認識する―無論デミル氏 の指導や周囲の情景より享ける処も大では あるが――。 其他の俳優も皆理解を持つて演出されてゐ た。リード氏に就ても一言評したいが。そ れは次の機会まで待つことにする。     真に愛するならば            内 田 徳 司  【傍点ここから】何んな物にも其もの自身の弱点がある、 週報そのものが其館の機関紙である以上そ れは或程度まで其館の利益を保護せねばな らぬ。それが即ち週報そのものゝ弱点であ る。【傍点ここまで】而も投書家の中には其弱点に付入つて 徒らに賛美の文のみを寄して、自己の投書 欲を充そうとする者がある。彼等は映画の 批評とはお世辞なりと思ひ違いして居るか 然らずばお太鼓を叩いてまでも自分の名を 求めやうと言ふヒキヨウ者である――それ が真の批評であり、それが愛する館のため 幸福であるならば兎も角――。 然し自分達は、Dを真に愛するならば所謂 『良薬口に苦し』の筆法であらねばならぬ。 だから、俺は出鱈目の賛美の文は書かない のだ。俺はDが好きだ!だから良薬ならず とも切めて苦い薬を進ぜるのだ。 Dはそれを快く受けて呉れる度量を有つて 【ここから下段】 ゐる。私は其れを喜ぶのである Dを愛する人々よ!私等は真摯な批評もし 忠告もし賛美もし、そうしてDのニユース から不真面目なお世辞やを撃退しませう! Dの巨弾と相俟つて……、    美 !!【左九〇度】            可  津  次  【傍点ここから】人間が苦み、働き、そして生を全ふして 行くには、何者かそこに一つの目的があら ねばならぬ。それは何?富!成功!あらず 即ち『美』そのものに帰着するのである。 人間は常にそう云ふ感じを有つ本能を有し て居る。【傍点ここまで】であるから少しでも美に接しやう 接しやうと祈つて、それに触るべく望んで ゐる。映画を見る上に於ても『美』なるべ きものをと希望して止まない。 大芸術的映画!それの多くは皆『美』の化身 である。曰く『神の娘』『ウーマン』そして期 待を重ねた名優フアーラー嬢の『神に見離 された女』皆悉く美を以て充満されてゐる。 そうした映画それが我々の真に求むる映画 上の『美』なのである。 『神に見離された女』何たる雄大な、荘厳な 極美なるものではないか。宮殿の美麗さに 先づ胸を衝かれる。あの暁の色を充分に表 現し得た城中の大石段、王の愛娘テズカが 一人余生を送る大森林中の自然、自分は美 の国に遊んでゐる如く思はれた。殊に映画 の初め、フアーラー嬢のあの絶大なチヤー ミングな瞳を、永く絞り残したことは美観 以外に印象を深からしめた。 此映画に依つて、私は求むる『美』その者に 浸り得たことを感謝せねばならぬ。 【このコマの3頁(=(八))と4頁(=表紙)は、他のコマに有るため着手不要です】 【上部欄外】 大正九年四月十日発行    デンキカンニユース    第六十八号 (八) 【左部欄外(適宜改行調整しましたが本来縦一行です)】 《割書:定価   一部 三 銭|□書一行(六号十四字詰)》 《割書:郵税 二銭|八 十 銭》 《割書:発行編集|兼印刷人》 森田 勝祐 《割書:浅草公園六|区三号八番》 デンキカン社 電話下谷《割書:三六二二|五七七七》 【本文】     賛   美             K塾 脇愛泉 期待を満して呉れた『神に見離された女』よ 夫には凡ゆる賛美の声を放たねばならぬ。 嗚呼……神秘、雄大、荘麗、深刻此等の総 てを遺憾なく発揮したる大文芸的映画! 目覚めたるD坊よ、映画に於て、プロの高 尚美麗に於て、而して最後の革新週替興行 実現せんか、其時に於て、D坊は完全なる 何等欠点なき、愛すべきものたらむ。 『神に見離された女』真の芸術品として、誰 しも讃美、尊重の声を放たぬ者はあるまい。 吾々に与へて呉れた芸術的感化の偉大さよ 深奥なる忘れ難き印象よ! フアーラーよ!その徹底味を十分に有し深 刻美の見えたる嬢のヱキスプレシヨン。感 激、詠嘆、賞賛せねばならなかつた。そし てテレクターなるデ、ミル氏に感謝せねば ならぬ。六巻を通じて、深き鮮かなる印象 は永久に私の頭から去るまい。     ベツスの巧さ            秋  渓  生  新しいブラントン映画が思ひがけなく現 はれた、而もベツシーに喜劇を見出さうと は思はなかつた。娘が男装して牧童の仲間 に入り偶然の手柄を現はす筋は有勝だが、 其れをあれ程面白く見せたベツシーの巧さ にどうだ。常に覗はれる細かに行届いた表 情動作が終始自然的な喜劇味を漂して、少 しの重苦しさも、執拗さも残さなかつた嬢 の手腕に感心すると同時に 如何に諸方面 に融通の利く達者な俳優であるかゞ泌々と 思はれた。嚇されて慄へる辺の可愛いさ! 【傍点ここから】期待したフアーラー劇は、一寸した不満が 全篇の感銘を滅茶々々に破壊した様な気が 【ここから中段】 する。自国の滅亡の責を負ひ、唯一人残り し王女が死せもやらず、敵の若人に訳なく 説落されていとも芽出度大団円とは……。【傍点ここまで】 全篇力強い恋でグイグイ押し通すなら終末 をもつと立派に結んで欲しい。     GF映畫を見て            秋 嶺 夢 人  【傍点ここから】ア社の作品中、自信ある随一である。【傍点ここまで】と 曾て嬢がプレー紙上で発言した如く……否 より以上の映画であつた事を私は『神に見 離された女』から享けた【罫線】ーーー【罫線ここまで】序巻の前章 文は遠く『文明』を近く『女』を想はしめた。 風薫るメキシコのロケイシヨンも。古代偏 狭も遺憾なく、豪華なる国民の性格、風俗習 慣を展開し遂に英雄ネロの末路の如きを見 る。殊に後半は原作者と指導者のベストを 尽した篇で、デミル氏の『私の撮影観』を見 れば分る。そして壮大華麗な結婚式に清楚 たるポロネース『ミニヨン』荘重なるロウヘ【ポロネース、ママ】 ングリイン『フライダル、マーチ』が交互に【フライダル、ママ】 奏せられたのは此映画に相応しかつた…… かくて劇はクライマツクスに達した。 【傍点ここから】即ち伝習的迷信【傍点ここまで】===【傍点ここから】宗教皆無観は、あらゆ る人々を含有する社会を根底より覆へすと 云ふ前□の暗示説へ帰着するのである。【傍点ここまで】     愚   筆            牛込 清  芳 城塞高く響き渡る鐘の音は『軍の神』に捧 ぐべき犠牲者の心臓より迸出る呪ひと悶え の声の如く愁しくも恐しく打鳴されたあの 神秘的なシーンに依つて幕は落され、王を して余はスペイン人の敵にあらず味方なり 穏やかに去れと云はしめた娘テズカも、哀 【ここから下段】 れ城を追はれ山麓の賊が伏屋に敵の若人と 恋を語るラストシーンを通じて、恋は偉大 且絶対的なることを強い劇的表現を以て巧 みに具体化した作者マクフアーソン氏の手 腕は賞賛するに余りありと雖も、ラストシ ーンのヤンキーニズムなるを遺憾とする。 次で私が最高の期待を有てる監督デ、ミル 氏の演出法は【傍点ここから】場面の余りに舞台形式に流れ た事、場面転換が或一部の緊張味を破壊し た嫌ひがあつた。唯見るべきは俯瞰撮影の 雄大さと背景の精巧を極めた事である。【傍点ここまで】 フアーラーの確実にして些の誇張なく極く 自然的に運びゆく芸風!テズ□其役に共鳴 し性格描写の真摯なるは感服の外なし。     喜劇を好く            K I N 生  俺の好きなのは喜劇。センネツトなんか みてゐると極り悪い程笑ひこけてる自分を 発見する。俺にはファーラー何のその、一 旬先が待たれるのだ。 世の中には苦労性な人が居る。チヤプリン を見て潜々涙が出るとか、チヤプの技巧が 盡きやしないだらうかと心配して居る人が ある。何たるトラジカルコメデイぞや。 所で俺のパーさんだ。パーさんはシネマに 興味がない。然し痛快な喜劇を御覧じたら 恐らく俺等と同じ感興を受けるであらうと 思つてお伴れした。パーさんがアハゝ笑つ て居るのを覗き込んで、此れ有哉と喜んだ ものだ。しかし云つた……【傍点ここから】どうも女の亂暴 なのと泥の中へ遠慮なく這入るのが見て居 られない【傍点ここまで】……と。馴されたる哉俺等の眼。 『サンニーサイド』とトラジカルコメディ… ……文句は見てからのことだ。