疫癘(ゑきれい)速(すみやか)に治(ぢ)する妙薬法(めうやくほう) □【一?】時疫(じゑき)を治するには。芭蕉(ばせを)の白根(しろね)掛目五匁おろししぼりて。 其生汁(そのなましる)を冷水(れいすい)一合にくはへ呑(のめ)は治する事/速(すみやか)也。熱(ねつ)つよきには □て呑(のむ)べし。若(もし)ねつ裏(り)に入(いり)てはつさんしがたきには。四五日も つゝけ呑(のめ)は熱(ねつ)はつさんして命(いのち)にさはりなし。近頃江州日野住人(ちかころこうしうひのゝちうにん) 中井/某(それかし)此/同方(とうはう)をしるし。印施(いんぜ)【注①】ありて疫難(ゑきなん)をすくふの功大(こうおゝ)ひ也 一七/曜(よう)の中の月/曜星(ようせい)もし五月五日にあたれはそのとし疾疫(しつゑき) の愁(うれ)ひ多(おゝ)しと或経(あるきやう)に説(とけ)り。然るに当亥(とうい)のとし五月五日月曜に あたれり。よつて其/愁(うれ)ひあらんことをおそる此ごろ間々(まゝ)疫病(やくひやう) の流(はや)る事をきく。凡病の難治(なんぢ)なる傷寒(しやうかん)【注②】温寒(うんかん)疫癘(ゑきれい)【注③】に 越(こゆ)るものなしと。此/妙方(めうはう)我家(わかいへ)にもむかしよりつたへてあまた の人に用ひこゝろむるに一人として治せざるはなし誠に仰(あを)ぎ 用ゆへき珍方(ちんはう)なれば。今/先人(せんじん)の志(こゝろざ)しをついで弥(いよ〳〵)この薬方(やくはう) をひろめて。世(よ)にひとしく益(ゑき)あ□【ら】んことをこひねがふのみ  熱症(ねつしやう)は冷水(れいすい)を用ゆべし。若(もし)陰症(いんしやう)【注④】か又水を好(この)まざる人には  湯(ゆ)をくわへ用ゆべし但はせをのなき所にてはめうが  の汁(しる)を多くのみてよし又/牛房汁(ごぼうしる)を呑(のみ)てもよし 附リ  痢疾(りびやう)の治しかたきに。はせをの根(ね)をせんじ服(ふく)すれは治する事  すみやか也   文化十二□【乙】亥夏    平安 三笑洞印施 【注① 世のためになることを印刷して世人に知らせること。またそのもの。】 【注② 昔の、高熱を伴う疾患。いまのチフスの類。】 【注③ 悪性の流行病。疫病。】 【注④ 漢方医学で、病勢が体内にこもって外に発しない状態。発熱などの症状が現れない病気。】