【表紙 題箋】 《題:女学範  上》 【資料整理ラベル】 TIAO 26 95 青山 【右丁 白紙 蔵書整理ナンバー入りの黒印あり】 【左肩に手書きの資料整理番号あり】 TIAO 26 95 【左丁】 おほよそをむなのをしへとな すへかめるいにしへのただし きみちにしるしてかしこきよ りもかしこからむものからく さぐさのいみじきならはしま てかいあつめたるをとりてみ るに女学範といふふみなりけ りかうやうのうるはしくきつ 【右丁】 きにけさやかなるふみつくる ものいまもあなるやととふに としごろしたしくきたれる大 江の資衡なむつくれりときこ ゆるにそせちにゆかしくおも ほゆれこのをのこざえありて こゝろさしふかくからのやま とのふみのみちうとからでよ 【左丁】 ろづめやすしまことにちりひ ち【注】よりもおこりてひろくよに もてあそばしめむこそほいも たちこゝろさしけるをむなの みちひきともなるへけれはひ とつのあづさにちりはめてむ やときこゆればさすがにいな いがたくやありけむほのかに 【注 塵泥(ちりひぢ) つまらないもの。】 【右丁】 ほころびいでたるくちつきひ てまろにふでせよとこふよて【依りて】 つたなきことのはをつらねて まきのはじめにかいつけぬ 明和五年如月中浣     みやまのおきな 【左丁】   女学範目録    上巻     学問大意   三従道     女官品階   読書     廿一代集   三十六人哥合     歌人名数   百人一首     和哥法式   和哥読方     物語草紙   賢女《割書:并 孝婦》     女中学者   女中詩人     女中文人   女中哥人     書学     絵事 【右丁】    下巻     十種香   薫者方     懸香方   懐紙短冊     哥貝    絵貝     歌牌    貝蓋     衣服    染色     布帛    器用《割書:并 御厨子黒棚図》     大和詞   和琴     築紫琴《割書:并図》 双六     雛祭    七夕祭《割書:并図》   女学範目録畢 【左丁】 女学範上                  大江資衡述   学問(がくもんの)大意(たいい) いにしへの ひじり(聖)の みよ(代)の。ただ(正)しき みち(道)を。かい(書)つらね たる。もろこ(唐土)しのいみじき ふみ(書)の。まき〳〵を。よみて。すう(周) こう(公)くくじ(孔子)のたふときみち。まねぶなるを。がくもん(学問)とはいふ めれ。をとこ(男)も をんな(女)も がくも(学問)んすべきなるを。この(此)くに(方) のならはしなれるにや わか(若)きをのこ(男)も まど(窓)の ほたる(蛍)をむつび。 えだ(枝)の しらゆき(白雪)をならして。ふみ(書)まなぶはきくことまれに ぞあ ̄ン なる。をんな(女)はさらにがくもんせぬことなめりとこゝ ろえて。もろこし(唐土)たゞしき ふみ(書)をよまず。この(此)くに(方)ゝて 【右丁】 つくれる。ものが(物語)たり さうし(草紙)な ̄ン どいふ。たはれたるふみをおほく よみ。それよりしもざまにくだりては。としごとにかず〳〵 つくりいだせる。じやうるり(浄瑠璃)こうた(小歌)などいふものをこのみて。 はる(春)のひのながきをわすれ。ふゆ(冬)の よ(夜)のいたくふくるもしら で。もてあそぶおほし。としごとにいだせるまき〳〵を。みな こゝ(心) ろにとゞめて。そのさまのまされるおとれるなど。かたりあひ てたのしひ。ある(或)はけうにいりてこれをうたふなど。見るも うれ(愁)はしきならはしなめれ。おほかた たはれ(婬)わざ(乱)いろこのむ(好色) すぢ かい(書)つらねたれば。みるにしたがひて こゝろ(志)ざしを みだし(乱)。 こゝろ(心)を とらか(蕩)すはしとなるべけれかし。これらは わらはめ(童女)のも てあそぶべきにあらず。さればとて もろこし(唐土)の ふみ(書)の。 【左丁】 やすらかによむべきにもあらねば。やまとことばにかきし。 和論語(わろんご)。女四書(おんなししよ)。女大学(をんなだいがく)。大和小学(やまとしやうがく)。翁草(おきなぐさ)のたぐひをよみ て。いにしへの かしこ(賢)き をんな(女)の。たゞし(端正)き おこな(行)ひを。まなぶ べきなり。    三従道(さんしやうのみち) をんな(女)は。さん(三)しやう(従)の みち(道)とて。いとけ(幼)なきときは。ちゝはゝ(父母) に したが(従)ひ。すでに とつき(嫁)ぬれば。をうと(夫)に したが(従)ひ。おい(老)ては こ(子)に したが(従)ふとなん。ちゝはゝ(父母)は あめつち(天地)にもならぶなめる。 おほ(大)ひなる いつくし(慈愛)みを。かりにも わする(忘)ゝべきかは。されば よ(世)に あしき ふぼ(父母)といふものは。はべらぬ ことはり(理)をしりなば。けう(孝)のみ ち こゝろ(心)におこらざらんかし。ね(寐)ても さめ(寤)てもわするゝことなく。 【右丁】 わがこゝろ(心)をつくして。つかふまつるべきなり。たとひ こゝ(心)ろよから ぬおほせことはあるも。いろ(色)をやはら(和)げことば(詞)をつヽしみて。 ふぼ(父母)のこゝろにさかはぬかたに いさめて(諫)。つかふ(事)まつれば。ふぼ(父母)のこゝ(心) ろもおのづから。よき(善)にむかはせたまふは。おほいなる けう(考)にあら ざらめやは。ひと(人)の いへ(家)にとつぎ(嫁)ては。をうと(夫)をたふとひ(尊)うやまひ(敬)。 みづからは。あくまでへりくだり(謙)て。こゝろ(心)をつくしつかふまつるべけ れ。いにしへ(古)のが くわ(娥皇)う ぢよゑい(女英)といふは。しゆん(舜)といふみかど(帝)に つかへて。つゆ(露)ばかりも をごり(奢)たまふことなく。つま(妻)たる みち(道)をつくし て。しゆん(舜)をうやまひ(敬)たまへりし。まいて ひき(卑)し いやしき(賤)み(身)は。 ちゝ(父)はゝ(母)にいたく けう(考)をつくし。おうと(夫)にしたがひ。つかふまつる べしと。おもふこゝろいづべし。かうやうの ひと(人)あ(有)《割書:ン》なれば。 【左丁】 それをみならふかぎりの をんな(女)の。みちにこころざし(志)おこり(起)て そのみちおのづからひろまるなり。をうと(夫)の いへ(家)にゆきては。しう(舅) としうとめ(姑)を。ふぼ(父母)のごとくうやまひ。よろづのことに。こゝろ(心)を つけ。いみじくつかふまつるべし。ひとたび とつげ(嫁)ば。その(其)いへ(家)にて。 をはる(終)べきみちなりかし。をうと(夫)み(身)まかり(死)などせしに。また こと(外) いへ(家)にとつぐことは。とり(鳥)けだもの(獣)ゝわざ(事)なりと。いにしへ(古)の ひじ(聖人) りの いましめ(戒)にくみ(悪)たまふ。ふるき(古)ふみ(書)どもを見て。よくわきまふ べきとなめれ。列女伝(れつぢよでん)。女四書(をんなししよ)。和論語(わろんご)。などの ふみ(書)。くりかへ しよみて。をんな(女)のただしき(正)みち(道)を。おこなふ(行)べきなれ。    女官品階(にようくわんのひんかい) 女(をんな)のつかさ(司)くらゐ(位)に。すすませ(進)給(たま)ふも。しな(品)おほき(多)さまなり。その 【右丁】 くは(委)しきことは。みじかき ふで(筆)の。つくすべきにあらねども。童(わらは) 女(め)をさとさんれうに。ふたつ(二)みつ(三)こゝにのす。 ちうぐう《割書:中宮》          にようゐむ《割書:女院》 こくも《割書:国母》           ぼこう《割書:母后》 にようご《割書:女御》          かうい《割書:更衣》みやすどころの   べち(別)の な(名)なり       ないしのかみ《割書:尚侍》 ないしのすけ《割書:典侍》        ないしのざう《割書:掌侍》 じやうらうのつぼね《割書:上﨟局》    いちゐのつぼね《割書:一位局》 にゐのつぼねに《割書:二位局》      みやうぶ《割書:命婦》 によくらふど《割書:女蔵人》       とくぜむ《割書:得選》 うねへ《割書:采女》むかしは。くに(国)〴〵より。しかるべき びぢよ(美女)をえらび 【左丁】 て。まいらせしとなり。 によくはん《割書:女官》しよけ(諸家)の。しよだいぶ(諸大夫)のむすめまいる。によう くはん。あがりては。うねへ(采女)をかくるなり。 もんどり《割書:水取》         とのもづかさ《割書:主殿司》 ゐし《割書:闈司》           にようじゆ《割書:女嬬》これも。さふ らひのむすめなどまいる。    しやうやく《割書:尚薬》 くすりこ《割書:薬童子》         きたのまんどころ《割書:北政所》 みだい《割書:御台》          ぶき《割書:舞妓》 まひひめ《割書:舞姫》         あづまわらふのつかさ《割書:東竪司》 ざふし《割書:雑仕》          うへわらは《割書:上童》 しもづかへ《割書:下仕》        はしたもの《割書:半物》 【右丁】 このほかにも。おほ(大)じやう(上)らう(﨟)。こ(小)じやう(上)らう(﨟)。ちう(中)らう(﨟)。おんかた(御方)の な(名)。 むきな(向名)。こふぢ(小路)の な(名)。そつ(帥)。あぜち(按察)のつぼね(局)。じゞう(侍従)。こべん(小弁)。くに(國) の な(名)などありて。その(其)しなおほし。によう(女)くわん(官)のあらまし をこゝにしるす。くはしきことは。女房官品(にようばうくわんひん)。女官志(にようくわんし)。職原抄(しよくけんしやう)。 官職秘抄(くわんしよくひしやう)。官職知要(くわんしよくちやう)。などをあはせみるべし。    読書(よみもの) をんな(女)こ(子)を をしふる(教)に。もろこし(唐土)のふみ(書)どもは よみ(読)がたければ。 和論語(わろんご)。女四書(をんなししよ)。大和小学(やまとしやうがく)。女小学(をんなしやうがく)。女大学(をんなだいがく)。大和俗訓(やまとぞくくん)。 五常訓(ごじやうくん)。童子訓(どうじくん)。家道訓(かどうくん)。大和女訓(やまとぢよくん)。女訓雎鳩草(ぢよくんみさごぐさ)。 女訓翁草(ぢよくんおきなくさ)。女実語教(をんなじつごきやう)。女童子教(をんなどうじきやう)。女今川(をんないまがは)。などの ふみ(書)を。 をしふ(教)べし。これ(是)らのふみ(書)は。みな(皆)かなぶみにして。いとけ(幼)なき 【左丁】 をんな(女)も。よくよむべければ。ひたすら をしへ(教)よましむべし。これ(是) らの ふみ(書)をならへば(習)。おや(親)にけう(孝)をつくし。せうと(兄)をうやまひ。 おとうと(弟)を あはれみ(愍)。すべて をんな(女)のたヾしき みち(道)をしるなり ある(或)ふみ(文)に いふ(云)。よ(世)のひと(人)の たはれ(婬乱)ゆきて。かへる(帰)みち(道)をしらず なりぬるは。源氏物語(げんじものかたり)。伊勢物語(いせものかたり)。あればにや。げんじ(源氏)は。 をとこ(男)をんな(女)の たはれ(婬乱)ごとをしるし。いせ(伊勢)は。いろこのむ(好色)のすぢ ばかりかいたれ(書)ば。かりにも いとけなき(幼)な【「を」も誤】んな(女)に。をしふ(教)べきもの にあらずと。さもありぬべくおぼゆ。ものよくいふものゝ。よにあるべきが。 そらごと(虚言)をよくしなれたるくちつきより。げんじ(源氏)はおとこ(男)をん(女) なの いましめ(戒)につくれり。いせ(伊勢)は いろごのむ(好色)すぢしるせれど。れい(礼) をふくむものあり。ぎ(義)をふくむものありなど。さま〴〵にいひ 【右丁】 いだすらめ。もと すう(▢)こう(公)くじ(孔子)のみちをしらざるよりして。 わが(我)このむわざの。よし(善)あしき(悪)もかうがへず(考)。ひと(人)をそこなひ(害)。たゞ(正) しき みち(道)をふたぎて。かヽる そらごと(不経語)をいひいざせるなるへし。 和論語(わろんご)といふ ふみ(書)は。清原(きよはら)の良業(よしなり)。みことのり(勅)をかうふり(奉)て つくれり。まき(巻)のはじめには。もろ(諸)〳〵の かんことば(神託)をのせ。つぎ の まき(巻)に。よゝ(世々)のかしこき みことのり(勅)をあつめ。つぎにおほくの かしこきひと(賢者)のことばをしるし。つぎにたけきものゝふの ことば(詞)。 つぎ(次)に かしこきおんな(賢女)の ことば(詞)あり。まき(巻)のをはり(終)には。しやく(釈) し(氏)の ことば(詞)をあつめたり。みな(皆)ひとのすなほ(直)にかしこ(賢)からんことを。 をしへ(教)たまふことばなめれ。 女四書(をんなししょ)といふは。女考経(ぢよかうきやう)。女論語(ぢよろんご)。内訓(だいくん)。女誡(ぢよかい)。の よくさ(四種)をあつ 【左丁】 めて。女四書(をんなししよ)といふなり。女考経(ぢよかうきやう)は。唐(たう)の陳邈(ちんはく)といふ ひと(人)のつま(妻)。 鄭氏(ていし)のつくれるを。このくに(此方)ゝてやまとことばになしたり。女論語(ぢよろんご)は。 漢(かん)の曹大家(さうたいこ)といふ をんな(女)のつくれる ふみ(書)を。このくに(此方)にてやはらげ(譯) とき(説)たり。内訓(だいくん)は。明(みん)の大宗(たいそう)皇帝(くわうてい)の御后(おんきさき)の。つくらせたまふ ふ(書) みなり。このくに(此方)にてやはらげ か(書)けり。女誡(ぢよかい)も漢(かん)の曹大家(さうたいこ)の つく(作) れる ふみ(書)なるを。このくに(此方)にてやはらげ か(書)けり。いづれも。をんな(女)のこゝ(心) ろたヾしく。おこなひ(行)のきよらか(清)ならんことを。をしへ(教)みちびき(導) たまふ ふみ(書)なり。 大和小学(やまとしやうがく)といふ ふみ(書)。ふたくさ(二種)あり。ひとくさ(一種)は もろこし(唐土)の小(しやう) 学(がく)を。たヾちにやまとことばにかいたり。たが(誰)ふで(筆)そめしといふ ことさだかならず。また ひとくさ(一種)は。山崎闇斎(やまざきあんさい)の大和小学(やまとしやうがく)と 【右丁】 いふあり。これは もろこし(唐土)の 小学(しやうかく)に。なずらへて/つく(作)れり。このふみ の/をはり(終)に/かみ(神)の/やしろ(社)のことしるせり。この/をのこ(男)。かみ(神)の/みち(道)この めるゆえにや。 女小学(をんなしやうがく)は。宇保氏(うほうぢ)の/ひと(人)の/つく(作)れるなり。をんな(女)の/たヾしき(正)/みち(道) を。その(其)むすめ(娘)に/しめ(示)したるを。あづさ(梓)にちりばめたるとなり。 女大学(をんなだいがく)は。筑前(ちくぜん)の貝原益軒(かいばらえきけん)。名(な)は篤信(あつのぶ)といふ ひと(人)つくれり。 大和俗訓(やまとぞくくん)も益軒(えきけん)つくれり。一ニの/まき(巻)を為学(いがく)といふ。三四の まき(巻)を心術(しんしゆつ)といふ。五の/まき(巻)に衣服(いふく)言語(げんぎよ)をとけ(説)り。六七の/まき(巻) に。躬行(きうかう)をのす。八の/まき(巻)に応接(おうせつ)をとき(説) たり。 五常訓(ごじやうくん)。童子訓(どうじくん)。家道訓(かだうくん)。みな貝原益軒(かいばらえきけん)つく(作)れり 大和女訓(やまろぢよくん)は肥後(ひご)隈本(くまもと)の幡龍子(ばんりやうし)。井沢長秀(いざはまさひで)といふ/人(ひと)つくれり。 【左丁】 女訓雎鳩草(ぢよくんみさごぐさ)も。井沢長秀(いざはまさひで)つく(作)れり。此(この)序文(じよぶん)は。井沢氏(いざはうぢ)のむ(女) すめ須賀(すが)つく(作)れり。 女訓翁草(ぢよくんおきなぐさ)は。筑前(ちくぜん)の/竹田春庵定直(たけだしゆんあんさだなお)といふ/ひと(人)つく(作)れり。 女実語教(をんなじつごきやう)。女童子教(をんなどうじきやう)。女今川(をんないまかは)のたぐひは。なべて/ふみ(文)のみち うとき(疎)にたれど。いとけ(幼)なきをんな(女)にをしへて。あしからぬ かたにおぼゆ。    廿一代集(にじふいちだいしふ) 廿一代集(にじふいちだいしふ)といふは。みな/やまとうた(和歌)を。あつめ(集)たる/ふみ(書)なり。万(まん) 葉集(ゑふしふ)といふ/ふみ(書)は。ふる(古)き うた(歌)の ふみ(書)にて。なら(奈良)のみかど(天皇)の/おん(御) とき(宇)。左大臣(さだいじん)橘諸兄(たちばなのもろえ)公(こう)の。えらひ(撰)たまへりしか。この(此)うちにはい らず。廿一代集とは。古今和歌集(こきんわかしふ)廿巻(はたまき)《割書:紀貫之 紀友則 凡|河内躬恒  壬生忠岑》 【右丁】 《割書:等 勅を奉て撰す。仮名序は貫之。|真名序は。紀淑望かけり。》後撰集(ごせんしふ)廿巻(はたまき)《割書:坂上望城 源順 紀時|文 大中臣能宣 清原元》 《割書:輔等|撰す》拾遺集(しふいしふ)廿巻《割書:大納言公任えらぶ。又は花山院|法皇御撰ともいふ。》後拾遺集(ごしふいしふ)廿巻《割書:中|納》 《割書:言通俊|撰す》金葉集(きんえふしふ)十巻(とまき)《割書:木工頭俊頼|勅をうけて撰す》詞花集(しくはしふ)十巻《割書:左京大夫顕輔 勅|をうけて撰す》 千載集(せんざいしふ)廿巻《割書:三位藤原俊成|院宣を奉て撰す》新古今集(しんこきんしふ)廿巻《割書:通具 有家 定家 家|隆 雅経 等院宣によつて》 《割書:撰す》此(この)八品(やしな)を八代集(はちだいしふ)といふ。新勅撰集(しんちよくせんしふ)廿巻《割書:中納言定家 勅|を奉て撰す》 続後撰集(ぞくごせんしふ)廿巻《割書:民部卿為家|勅を奉て撰す》続古今集(ぞくこきんしふ)廿巻《割書:前内大臣基家 藤原為家|藤原行家 藤原光俊等 勅》 《割書:をうけて|撰す》続拾遺集(ぞくしふいしふ)廿巻《割書:大納言為氏|勅をうけて撰す》新後撰集(しんごせんしふ)廿巻《割書:大納言為世 勅|を奉て撰す》 玉葉集(ぎよくえふしふ)廿巻《割書:大納言為兼|勅をうけて撰す》続千載集(そくせんざいしふ)廿巻《割書:大納言為世|勅を奉て撰す》続後拾遺(ぞくごしふい) 集(しふ)廿巻《割書:民部卿為藤 子息|為定 勅を奉て撰す》風雅集(ふうがしふ)廿巻《割書:萩原法皇|御自撰》新千載集(しんせんざいしふ)廿 巻《割書:大納言為定|勅をうけて撰す》新拾遺集(しんしふいしふ)廿巻《割書:民部卿為明|勅を奉て撰す》新後拾遺集(しんごしふいしふ)廿巻 《割書:中納言為遠 中納言|為重 勅を奉て撰す》新続古今集(しんぞくこきんしふ)廿巻《割書:中納言雅世|勅を奉て撰す》をいふなり。この 【左丁】 ほか(外)にも。うた(歌)をあつめたる ふみ(書)あれども。廿一代集をもとゝするなり。    三十六人 歌合(うたあはせ) 三十六人の うた(歌)あは(合)せを。かせん(歌仙)ともいふ。四条大納言(しぢやうたいなごん)藤原公任(ふぢはらのきんたふ)のえら べるとぞ。そのゝち覚盛法師(かくせいはふし)。うたの ひだり(左)みぎ(右)をわかちて。 十八つがひ(番)となせり。その三十六人は。 柿本人麿(左かきのもとのひとまろ)《割書:大夫 上世|の哥人也》紀貫之(右きのつらゆき)《割書:木工頭。五位|大内記。》凡河内躬恒(をふしかうちのみつね)《割書:甲斐権少目|淡路掾》 伊勢(右いせ)《割書:伊勢守藤原継蔭|の女也。七条院の女房。》大伴家持(おほとものやかもち)《割書:旅人男。従|三位。中納言。》山辺赤人(やまのべのあかひと)《割書:聖武御時|の人》 在原業平(ありわらのなりひら)《割書:従四位上。|右近中将。》 遍昭僧正(へんじやうそうじやう)《割書:俗名宗貞とい|ふ。花山僧正と号す》素性法師(そせいはふし)《割書:宗貞の男。|俗名玄利》 紀友則(きのとものり)《割書:大内記|五位□》 猿丸大夫(さるまるたいふ)《割書:何の時の人か|しれず》小野小町(をのゝこまち)《割書:出羽郡司|常澄の女》 藤原兼輔(ふぢはらのかねすけ)《割書:中納言。従三位。|堤と号す。》藤原朝忠(ふぢはらのあさたゞ)《割書:従二位|大納言》 藤原敦忠(ふぢはらのあつたゞ)《割書:中納言》  藤原高光(ふぢはらのたかみつ)《割書:左近衛少将|五位》源公忠(みなもとのきんたゞ)《割書:国紀子。右大弁|四位。》 壬生忠岑(みぶのたゞみね)《割書:右衛門府生》 【右丁】 斎宮(さいくうの)女御(にようご)《割書:徽子 後村|上の女御》大中臣頼基(おほなかとみのよりもと)《割書:祭主神|祇大副》 藤原敏行(ふぢはらのとしゆき)《割書:富士丸の男。|右衛門督。四位。》 源 重之(しけゆき)《割書:相模権守。|五位》 源 宗于(むねゆき)《割書:兵部太輔。|正四位上》  源 信明(のぶあき)《割書:陸奥守。|四位》 藤原 清正(きよたゞ)《割書:兼輔の男。|左小弁五位。》源 順(したがふ)《割書:挙の男。能登守。|五位。》藤原 興風(おきかぜ)《割書:相模掾。|従五位》 清原元輔(きよはらのもとすけ)《割書:肥後守。|五位》 坂上是則(さかのうへのこれのり)《割書:大内記|五位》 藤原 元真(もとざね)《割書:丹波介。|五位》 小大君(こおほきみ)《割書:女蔵人|左近》  藤原 仲文(なかぶん)《割書:伊賀守|五位》 大中臣能宣(おほなかとみのよしのぶ)《割書:祭主典領|四位》 壬生忠見(みぶのたゞみ)《割書:忠岑男。|摂津目》 平兼盛(たひらかねもり)《割書:駿河守|五位》 中務(なかつかさ)《割書:敦慶親王の女也。|母は伊勢。》    歌人(うたびとの)名数(なかず) うたびと(歌人)の なかず(名数)を。くみあはせたるに。二聖(にせい)。六哥仙(ろくかせん)。梨壺(なしつぼ) の五人。梨壺(なしつぼ)の五哥仙(ごかせん)などいふことあり。 和哥(わか)の二聖(にせい)とは。人麿(ひとまろ)。赤人(あかひと)の ふたり(二人)をいふなり。 六哥仙(ろくかせん)といふは。僧正遍照(そうじやうへんじやう)。在原業平(ありわらのなりひら)。文屋康秀(ぶんやのやすひで)。 【左丁】 喜撰法師(きせんはふし)。小野小町(をのゝこまち)。大伴黒主(おほとものくろぬし)の六人をさしていふ。 梨壺(なしつぼ)の五人とは。大中臣能宣(おほなかとみのよしのぶ)。清原元輔(きよはらのもとすけ)。源順(みなもとのしたがふ)。 紀時文(きのときぶん)。坂上望城(さかのうへのもちき)。の五人をいふ。 梨壺の五哥 仙(せん)は。みな上東門院(しやうとうもんゐん)の侍女(しぢよ)なり。赤染衛門(あかそめえもん)。 和泉式部(いづみしきぶ)。紫式部(むらさきしきぶ)。馬内侍(うまのないし)。伊勢大輔(いせのたいふ)の五人をいふなり。    百人一首(ひやくにんいつしゆ) 百人一首(ひやくにんいつしゆ)といふ ふみ(書)は。むかし京極中納言(きやうごくちうなごん)藤原定家(ふぢはらのさだいへ)と いふ ひと(人)。おい(老)の ゝち(後)。をぐら(小倉)の さんさう(山荘)にありて。いにしへ(古)いま(今)の うた(歌)の なか(中)に。わが(我)こゝろ(心)に。かなひたる うた(歌)を。ひやくす(百首)すぐり いだして。しきし(色紙)がたに かい(書)て。かの さんさう(山荘)の さうじ(障子)に。おさせ。 たまへりし。これ(是)を よ(世)に つた(伝)へて。をぐらさんさう(小倉山荘)の しきし(色紙)の 【右丁】 わか(和歌)といへり。もゝ(百)ひと(人)の つく(作)れる うた(哥)を。いつす(一首)づゝ かい(書)たまへ れば。百人一首ともいふなり。その しきし(色紙)には。うた(哥)ばかりなん かい(書)てよみ ひと(者)の な(名)はなし。のち(後)に みこ(子息)為家(ためいへ)。かきあつめさせ。 よみひと(作者)をしるし。よ(世)にひろめたまふとぞ。百人一首の ちう(注) したる ふみ(書)に。拾穂抄(しふすいしやう)。《割書:北村季|吟作》改観抄(かいくわんしやう)。《割書:沙門契|沖作》なとあり。その(其) 百人一首とは。 天智天皇(てんぢてんわう)《割書:諱は葛城|在位十年》  持統天皇(じどうてんわう)《割書:女帝在位|十一年》  柿本人麿(かきのもとのひとまろ)《割書:大夫。上世|哥人也。》 山辺赤人(やまべのあかひと)《割書:上総国の人|正六位上》 猿丸大夫(さるまるたいふ)《割書:官姓詳|ならず》   中納言家持(ちうなごんやかもち)《割書:姓は大伴。|旅人の男。》 安部仲麿(あべのなかまろ)《割書:秘書監|左補闕》   喜撰法師(きせんはふし)《割書:橘氏一作_二|基泉_一》  小野小町(をのゝこまち)《割書:出羽郡司|常澄女》 蝉丸(せみまろ) 《割書:姓氏不|_レ詳》    参議篁(さんぎたかむら)《割書:姓。小野。|岑守男。》  僧正遍照(そうじやうへんじやう)《割書:姓は良峯|初め名は宗貞》 陽成院(やうぜいゐん)《割書:諱貞明》    河原左大臣(かはらのさだいじん)《割書:姓は源|名は融》  光孝天皇(くわうかうてんわう)《割書:諱は時康|号は小松》 【左丁】 中納言行平(ちうなごんゆきひら)《割書:姓在原》  在原業平朝臣(ありはらのなりひらあそん)《割書:行平の弟|号閑麗翁》 藤原敏行(ふぢはらのとしゆき)朝臣《割書:従五位上。|大内記。》 伊勢(いせ)《割書:藤原氏。継蔭|の女。》   元良親王(もとよしのみこ)《割書:三品兵部|卿》   素性法師(そせいはふし)《割書:初の名は|玄利》 文屋康秀(ふんやのやすひで)《割書:字は琳|三河掾》   大江千里(おほえのちさと)《割書:伊予守|正五位下》   菅家(かんけ)《割書:名は道真。字は三|官は丞相。》 三条右大臣(さんぢやうのうだいじん)《割書:名は定方|姓は藤原》 貞信公(ていしんこう)《割書:名忠平。姓藤原|太政大臣。》  中納言兼輔(ちうなごんかねすけ)《割書:姓は藤原|号は堤》 源宗于朝臣(みなもとのむねゆきあそん)《割書:右京亮|正四位上》 凡河内躬恒(をふしかうちのみつね)《割書:淡路権掾》  壬生忠岑(みぶのたゞみね)《割書:右衛門|府生》 坂上是則(さかのうへのこれのり)《割書:大内記|従五位下》  春道列樹(はるみちのつらき)《割書:文章生|壱岐守》   紀友則(きのとものり)《割書:大内記》 藤原興風(ふぢはらのおきかぜ)《割書:正六位上|治部少丞》  紀貫之(きのつらゆき)《割書:従五位下|木工頭》    清原深養父(きよはらのふかやふ)《割書:従五位下|内匠名》 文屋朝康(ふんやのあさやす)《割書:大膳少進》   右近(うこん)《割書:右近少将季縄|女》   参議等(さんぎひとし)《割書:姓は源。|従三位。》 平兼盛(やひらかねもり)《割書:従五位下|駿河守》   壬生忠見(みぶのたゞみ)《割書:摂津大目》   清原元輔(きよはらのもとすけ)《割書:従五位上|下総守》 権中納言敦忠(ごんぢうなごんあつたゞ)《割書:姓藤原|従三位》  中納言朝忠(ちうなごんあさたゞ)《割書:姓は藤原|従三位》  謙徳公(けんとくこう)《割書:名は伊尹。姓は|藤原。摂政》 曽禰好忠(そねのよしたゞ)《割書:丹後掾》   恵慶法師(ゑきやうはふし)《割書:寛和の比の|人》   源重之(みなもとのしげゆき)《割書:従五位下|相模守》 【右丁】 大中臣能宣(おほなかとみのよしのぶ)《割書:伊勢祭主|四位》  藤原義孝(ふぢはらのよしたか)《割書:従五位下|春宮亮》   藤原実方(ふぢはらのさねかた)《割書:正四位下|陸奥守》 藤原 道信朝臣(みちのぶあそん)《割書:左中将|従四位上》 右近大将道綱母(うこんのだいしやうみちつながはゝ)《割書:倫寧女》 儀同三司母(ぎどうさんしがはゝ)《割書:伊周母。高|階業忠女。》 大納言公任(だいなごんきんたふ)《割書:姓藤原。号|四条。正二位。》 和泉式部(いづみしきぶ)《割書:上東門院女|房。大江雅致女。》 紫式部(むらさきしきぶ)《割書:為時の女|宣孝の妻》 大弐三位(だいにさんゐ)《割書:宣孝の女|成平の妻》    赤染衛門(あかぞめのゑもん)《割書:赤染時用|の女》    小式部内侍(こしきぶのないし)《割書:橘道貞の|女》 伊勢大輔(いせのたいふ)《割書:大中臣輔|親の女》    清少納言(せいしやうなごん)《割書:清原元輔|の女》   左京大夫道雅(さきやうのたいふみちまさ)《割書:姓は藤原|三位中将》 権中納言 定頼(さだより)《割書:姓藤原正二|位兵部卿》 相模(さがみ)《割書:源頼光の女。号は|乙侍従。》  大僧正行尊(だいそうしやうぎやうそん)《割書:天台の|座主》 周防内侍(すはうのないし)《割書:名は仲子。|源継仲女。》   三条院(さんじやうのゐん)《割書:諱は居貞。在|位五年。》  能因法師(のういんはふし)《割書:姓は橘氏|古曽部と号。》 良暹法師(りやうぜんはふし)《割書:祇園別当》   大納言経信(だいなごんつねのふ)《割書:姓は源|太宰帥》    祐子内親王家紀伊(いうしないしんわういへのき)《割書:源経|方女》 権中納言匡房(ごんちうなごんまさふさ)《割書:姓。大江|太宰権帥》  源 俊頼(としより)朝臣《割書:左京大夫|従四位上》  藤原基俊(ふぢはらのもととし)《割書:従五位下|左衛門佐》 法性寺入道(はふしやうじにふだう)前関白太政大臣(さきのくわんぱくだいじやうだいじん)《割書:名忠通|姓藤原》 崇徳院(すとくゐん)《割書:諱|顕仁》 源 兼昌(かねまさ)《割書:従五位下。皇|后宮大進。》 右京大夫顕輔(うきやうのたいふあきすけ)《割書:姓藤原》  待賢門院堀河(たいけんもんゐんのほりかは)《割書:神祇伯|顕仲女》  後徳大寺左大臣(ごとくだいじのさだいじん)《割書:名実|定》 【左丁】 道因法師(だういんはふし)《割書:本姓藤原|氏》  皇太后宮大夫俊成(くわうだいこうぐうたいふとしなり)《割書:姓藤原。|五条三位》  藤原 清輔(きよすけ)朝臣《割書:正四位下|長門守》 俊恵法師(しゆんゑはふし)《割書:本姓は源氏》  西行法師(さいぎやうはふし)《割書:本姓藤原氏。|名円位。》   寂蓮法師(しやくれんはふし)《割書:本姓藤原|氏》 皇嘉門院別当(くわうかもんゐんのべ[つ]たう)《割書:名隆子。|源俊隆女。》式子内親王(しよくしないしんわう)《割書:萱の斎院と|号す》  殷富門院大輔(ゐんふもんゐんのたいふ)《割書:藤原信|成女》 後京極摂政(ごきやうこくせつしやう)前(さきの)太政大臣《割書:名良経》 二条院讃岐(にじやうのゐんさぬき)《割書:源頼|政女》  鎌倉右大臣(かまくらのうだいじん)《割書:名実朝》 参議雅経(さんぎまさつね)《割書:姓は藤原|従三位》  前大僧正慈円(さきのだいそうじやうじえん)《割書:本姓藤原|吉水と号》  入道前太政大臣《割書:名は公|経》 権中納言 定家(さだいへ)《割書:姓は藤原|号は京極》  従二位家隆(じゆにゐいへたか)《割書:姓藤原|号は壬生》  後鳥羽院(ごとばのゐん)《割書:諱は尊成。在|位十五年。》 順徳院(じゆんとくゐん)《割書:諱守成。在|位十一年。》    和歌法式(わかのはふしき) 和哥(わか)の はふし(法式)き。さま〴〵あるなかにも。六義(りくぎ)。六 体(てい)。十 体(てい)。 七 病(ひやう)。八 病(ひやう)。四家(しか)の式(しき)。哥合式(うたあはせのしき)。などいふことあり。さだ(定)まれる はふ(法)なり。 六義(りくき)とは。風(ふう)。賦(ふ)。比(ひ)。興(けう)。雅(が)。頌(しよう)をいふ。 【右丁】 風(ふう)といふは。そへ うた(歌)なり。もの(物)をものに。そへよめるなり。その(其) こと(事)をいはで。その(其)ひと(人)をさとらすといへり。  難波津に咲や此はな冬こもり今は春へと咲やこの花 賦(ふ)は。かぞへ うた(歌)なり。もの(物)にもたとへずしていへり。  さく花におもひつくみのあちきなく身にいたつき の いるもしらすて 比(ひ)は。なずらへ うた(歌)なり。もの(物)になずらへたるなり。たとへば。たとへ たるといふも。おなしことなり。  君にけさあしたの霜におきていなばこひしきことにきえやわたらむ 興(けう)は。たとへ うた(歌)なり。  わかこひはよむともつきし有磯海のはまの真砂はよみつくすとも 雅(か)は。たゞこと うた(歌)といへり。 【左丁】  いつはりのなき世なりせはいかはかり人のことの葉うれしからまし 頌(しやう)は。いはひ うた(歌)なり。  このとのはむへもとみけりさき草のみつはよつ葉にとのつくりせり 八雲御抄に いふ(云)。貫之(つらゆき)おほよそ むくさ(六種)にわかれんことは。えある まじきことゝいへり。まこと(誠)に六義(りくぎ)に。さま(様)をかへん こと(事)は。わか(難分) ちかたき か(歟)。たゞ(但)それもやうにより。ことによるべき こと(事)なり。 六体(りくてい)とは。長哥(ちやうか)。短哥(たんか)。旋頭哥(せんどうか)。混本哥(こんぽんか)。折句(をりく)。沓冠(くつかうふり)。これ(是)を 六体といふ。 長(ちやう)哥は。もじかずを。五七五七五七五七七七と。つらぬるなり。 ある(一) せつ(説)には。つね(常)の うた(歌)を 長歌(ちやうか)といふ。 短哥(たんか)は。もじかずを。五七五七五七七七とつらぬるなり。ある(一)せつ(説)には 【右丁】 つね(常)の うた(歌)を短哥(たんか)といふ。 旋頭哥(せんどうか)は。つね(常)のうた(歌)に。また一 句(く)を くは(加)ふるなり。 混本哥(こんぽんか)は。つね(常)の うた(歌)に。一 句(く)たらす。五七五七とつらぬるなり。 折句(をりく)は。つね(常)の うた(歌)にて。句(く)ごとの はじめ(首)に。もじ(文字)をおくなり。 沓冠(くつかうふり)は。句(く)ごとの かみ(上)しも(下)に じ(字)をおくなり。 古今集(こきんしふ)に いだ(出)せる短哥(たんか)を一首(いつしゆ)こゝにのす。  七条の きさい(后)うせたまひにける のち(後)によみける 伊勢 おきつなみ  あれのみまさる  みやのうちは  としへてすみし いせのあまも ふねなかしたる  こゝちして   よらむかたなく かなしきに  なみたのいろの  くれなゐは   われし【「ら」の誤】かなかの しくれにて  あきのもみちと  ひと〳〵は   をのかちり〳〵 【左丁】 わかれなは  たのむかけなく  なりはてゝ  とまるものとは はなすゝき  きみなきにはに  むれたちて  そらをまねかは はつかりの  なきわたりつゝ  よそにこそ見め 十 体(てい)とは 有心体(うしんのてい) 長高体(たけたかきてい) 可然体(しかるべきてい) 見様体(みるやうのてい) 一節体(ひとふしありてい) 拉鬼体(おにとりひしぐてい) 麗体(うるはしきてい) 面白体(おもしろきてい) 濃体(こまやかなるてい) 幽玄体(いうげんてい)を。わか(和歌)の十 体(てい)といふなり。 八 病(びやう)とは同心(どうしん)。乱思(らんし)。欄蝶(らんてふ)。渚鴻(しよこう)。花橘(くわきつ)。老楓(らうふう)。中飽(ちうはう)。後悔(こうくわい)。の やくさ(八種)をいふなり。同心病(どうしんびやう)とは。おなじことの。二 句(く)にあるを いふなり。乱思病(らんしびやう)とは。ことば(詞)いう(優)にしてそへよめるなり。欄蝶(らんてふ) 病(びやう)とは。もと(本)の 句(く)よく(好)てすへ(末)の 句(く)あらき(疎)なり。渚鴻病(しよこうびやう)は。ひ(偏) とへに だい(題)にひかれて。ことば(詞)らうせ(不労)ざるなり。花橘病(くわきつびやう)は。す 【右丁】 なほにして。すぐ(直)に その(其)ほんみや(本名)うを もち(用)うるなり。老楓(らうふう) 病(びやう)は。へん(編)しゆう(終)いつしやう(一章)に。かみ(上)四(よつ)しも(下)三(みつ)を もちう(用)るなり。 中飽病(ちうはうびやう)は。三十五六 字(じ)あるうたをいふ。後悔病(こうくわいびやう)は。ふうせい(風情) なくて。のち(後)に。くやむ(悔)となり。 七 病(びやう)とは。頭尾病(つびびやう)。胸尾病(きようびひやう)。膊尾病(はくびびやう)。靨子病(ゑふしびやう)。遊風病(いうふうひやう)。声(せい) 韻病(いんびやう)。遍身病(へんしんびやう)。をいふなり。頭尾病(つびびやう)とは。ほつく(発句)のをはり(終)と。 第二句(だいにく)の をはり(終)と。おなじ(同)きなり。胸尾病(きようびびやう)とは。ほつく(発句)の をはり(終)。第二句の上(かみ)六字。おなじ(同)きなり。膊尾病(はくびびやう)《割書:膊一 ̄ニ|作_レ膞》 《割書:又。作_レ■【注】膊匹各反。|膞音転。》は。た(他)の く(句)の をはり(終)と。ほんいん(本韻)と おなし(同)き なり。第三句の をはり(終)と ほんいん(本韻)なり。靨子病(ゑふしびやう)は。又 句の うち(中)。ほんいん(本韻)しも(下)に同字(どうじ)あるなり。遊風病(いうふうひやう)は。一 【左丁】 句(く)の うち(中)の じ(字)と。をはり(終)の じ(字)と おなじ(同)きなり。声韻病(せいいんびやう) は。二韻(にいん)同字(どうじ)なり。遍身(へんしん)病は。二韻(にいん)の うち(中)。本韻(ほんいん)二字以 上を のぞき(除)。同字(どうし)あるをいふなり。 四家式(しかのしき)とは。歌経標式(かけいひやうしき)《割書:参議藤原浜成|勅を奉て作る》喜撰作式(きせんさくしき)《割書:喜撰勅を奉て|作る》 孫姫式(まごひめかしき)《割書:有序》石見女式(いはみめかしき)《割書:是は安部の清行か|式と同物なりや》この よくさ(四種)の ふみ(書)をいふ となり 哥合(うたあはせ)といふことあり。その(其)しだい(次第)は。先(まづ)刻限(こくげん)に大殿已下(おほとのよりしもつかた)公卿(くぎやう)十余(とをあまり) 奉着座(おましにつきたまふ) 次(つぎに)立切灯台(みあかしをたつ) 敷菅円座(わらふざをしく) 次(つぎに)置左右文台(ひだりみきりのふつくゑをおく) 次(つきに)左(ひだり) 右(みぎり)参上(まいりたまふ) 次(つきに)召講師(かうしめす) 次(つきに)歌評定(うたのしなさだめ) 人々進寄(ひと〴〵すゝみよる) 次(つきに)花哥七番講畢(はなのうたなゝつがひよみをはる) 公卿膳坏酌(くぎやうのかしはでかはしけむ) 汁物(しるのもの) 高坏物(たかつきのもの) 次(つきに)郭公哥(ほとゝきすのうた) 次(つきに)勧盃(かはらけまいる) 公卿可取之(くぎやうとりたまふ) 次(つぎに)月雪祝哥(つきゆきいわふうた) 判畢(はんをはる) 次(つぎに)諸大夫置管絃具(しよたいふいとたけの▢▢▢をおく) 次(つきに)呂律曲(りよりちのごく) 次(つきに)有禄(ろくあり) 【注 「𨍭」か「轉」と思われる。】 【右丁】 次(つぎに)引出物(ひきでものあり)    和歌読方(わかのよみかた) 和歌庭訓抄(わかていきんしやう)に いふ(云)。やまとうたの みち(道)は。とほ(遠)くもと(求)め。ひろく き(聞) く みち(道)にあらずと はべる(侍)こと(事)。この(此)こと(事)しやう(至要)にはべる。まこと(誠)に げつし(月氏) かんち(漢朝)やうのわざを よむ(読)べきにあらず。たゞ(只)やまと(大和)ことば(詞)にて。み(見) る もの(物)きく(聞)ものに つき(付)て。いひ いだ(出)すばかりなり。また(又)千載集の じよ(序) に いふ(云)。この(此)みち(道)をまなぶる こと(事)を いふ(云)に。からくに(韓国)ひのもと(日本)の ふる(古) き ふみ(書)の みち(道)をまなび。しか(鹿)の その(苑)。わし(鷲)の みね(嶺)の。ふか(深)きみ のりをさとるにしもあらず。たゞ(只)かんな(仮名)のよそじあまり。なゝもじ(七文字) の うち(内)をいでずして。こゝろ(心)に おも(思)ふことを。ことのはにまかせて。 いひつらぬるならひなりとぞ。 【左丁】 うたをよまんと おも(思)はゞ。まづ なに(何)ゝてもあれ。だい(題)にふかく こゝろ(心)を いるゝことをよしとす。知題抄(ちだいしやう)に いふ(云)。いはゐ(祝)には。かぎりなく ひさ(久)し き こゝろ(心)をいひ。こひ(恋)にはわりなく。あさ(浅)からぬよしをよみ。もし(若) は いのち(命)にかへて はな(花)をおしみ。いへぢ(家路)をわす(忘)れて。もみぢ(紅葉)を たづ(尋)ね んごとく。その(其)もの(物)に こゝろざし(志)をふかく よむ(読)べしとぞ。 題(だい)を はじめ(初)の いつもじ(五文字)にいひつくし。また(又)は たい(題)を。をはり(終)の く(句)ば かりに。よむ(読)ことを きらふ(嫌)なり。京極中納言相語(きやうこくちうなごんのさうご)に い(云)ふ。題(たい)は はじめ(初)の く(句)ばかり。もしは をはり(終)の く(句)ばかりにて。その(其)ことに なきものゝ うた(哥)を。おほく(多)れう(領)ずる。いはれなき こと(事)なりとそ。 本哥(ほんか)をとりてよむといふことあり。古今集(こきんしふ)。後撰集(ごせんしふ)。拾遺(しふい) 集(しふ)。この みくさ(三部)の うち(中)の うた(哥)を。ほんか(本哥)にとりてよむなり。たとへば 【右丁】 古今集本哥 さむしろに(◦◦◦◦◦)衣(◦)かたしき(◦◦◦◦)今夜もや我を待らんうぢのはし姫《割書:読人不知》 新古今集 きり〴〵す鳴や霜夜の さむしろに(◦◦◦◦◦)衣(◦)かたしき(◦◦◦◦)独かもねん《割書:後京極》 哥(うた)を よむ(読)には。ふるき ことば(言葉)をもて。おも(思)ふことを いひ(言)つらぬべし。たとひ おもしろき うた(哥)にても。ことば(言葉)あたら(新)しきは きら(嫌)ふなり。うた(哥)のこ とばをあつめて。ちう(注)したる ふみ(書)は。八雲御抄(やくもみしやう)。藻塩草(もしほくさ)。幽斎聞書(いうさいきゝかき) 全集(ぜんしふ)。初学和哥式(しよかくわかしき)。和哥八重垣(わかやへがき)などなり。 題(だい)に一字題(いちじだい)といふあり。松(まつ)。竹(たけ)。峯(みね)。河(かは)。のたぐひ(類)なり。結題(むすびだい)といふあり。 月前懐友(つきのまへにともをおもふ)。松為久友(まつとひさしきともとす)。の たぐひ(類)なり。また経文(きやうもん)の題(だい)といふあり。 返(かへ)し哥といふあり。これは ひと(人)よりよみて たまは(給)りたるに われもまた よみ(読)て こた(答)ふるをいふなり。 名所(めいしよ)に景物(けいぶつ)をむすぶといふは。たとへば男山(をとこやま)に子日(ねのび)。桜(さくら)。藤(ふぢ) 【左丁】 月(つき)。鳫(かり)。女郎花(をみなへし)。神楽(かぐら)。松(まつ)などをむすぶ。吉野川(よしのかは)には。蛙(かはつ)。款冬(やまふき)【欵は俗字】 千鳥(ちとり)などをむすぶ。二見浦(ふたみのうら)には。卯花(うのはな)。郭公(ほとゝきす)。菊(きく)。鳫(かり)。擣衣(きぬた)。 千鳥(ちどり)。鴛(をし)などをむすぶたぐひなり。これらは八雲御抄(やくもみしやう)。哥枕(うたまくら)。 秋寐覚(あきのねざめ)。名所部類考(めいしよぶるいかう)などにくはしく見えたり。 組題(くみだい)といふ こと(事)あり。たとへは春部(はるのぶ)を十首。くみあはすには。 朝霞(あさかすみ)。夕鴬(ゆふべのうくひす)。柳露(やなぎのつゆ)。山花(やまのはな)。款冬(やまふき)。【欵は俗字】寄煙恋(けふりによするこひ)。寄河恋(かはによするこひ)。寄高恋(たかきによするこひ)。 嶺上松(みねのほとりのまつ)。竹為友(たけをともとする)などなり。秋部(あきのぶ)を五首くみあはすには。秋色(あきのいろ) 秋声(あきのこゑ)。秋香(あきのか)。秋情(あきのなさけ)。秋恋(あきのこひ)などなり。四 季(き)を二首くみあはすに は。水郷春望(すいきやうのしゆんばう)。山路秋行(さんろのしゆうかう)などなり。これらは和哥組題集(わかくみたいしふ)にいず。 たれ(誰)にても うた(哥)をよみ つら(連)ねん こゝろ(志)ざしあらば。まづ うた(哥)の よみ(読) かた(方)の ふみ(書)と。ことば(詞)よせ(寄)たる ふみ(書)を。十へんはかりよみて。その(其) 【右丁】 のち(後)うた(哥)を あつめ(集)たる ふみ(書)を。なに(何)ゝても百へんばかりよむべし。 かくのごとくして よみ(読)つら(連)ぬれは。おほよそ うた(哥)はよまるゝ ものなりと。ひと(人)のかたりき。 哥(うた)の よみ(読)かた。うたの法式(ほふしき)を。見るべき ふみ(書)には。八雲御抄(やくもみしやう)《割書:順徳院勅|作》 和歌用意(わかようい)《割書:二条家|の抄》詠哥大概(えいかのたいがい)《割書:定家の|作》八雲口伝(やくもくてん)《割書:為家の|作》悦目抄(ゑつもくしやう)《割書:基俊つく|る》 近来風体抄(きんらいふうていしやう)《割書:後成円寺|の作》和歌庭訓抄(わかていきんしやう)《割書:定家|作》知題抄(ちだいしやう)《割書:飛鳥井|家の抄》三賢秘決(さんけんひけつ) 《割書:為家|作》新撰髄脳(しんせんずいなう)《割書:公任|作》愚問賢注(ぐもんけんちう)《割書:後成円寺の問|頓阿の注》耳底記(じていき)《割書:細川玄旨談。光|広聞書。》 井蛙抄(せいあしやう)《割書:頓阿|作》幽斎聞書(いうさいきゝかき)《割書:細川|玄旨》歌林良材(かりんりやうざい)《割書:兼良|作》初学和歌式(しよがくわかしき)《割書:長伯の作》 などの たぐひ(類)を。よく〳〵見て。うた(哥)の こゝろ(心)をしるべきなり。    物語(ものがたり)草紙(さうし) ものがた(物語)り さうし(草紙)などいふ ふみ(書)は。かなぶみ(和字文章)つくる れう(料)に。まうけ(設) 【左丁】 たる もの(物)なめれ。さればその まき(巻)〳〵を見るに。ことば(詞) のおかしく あはれ(哀)なるさま。よ(世)になく いみじう(美)。ゆかしき こゝちすれ。なかにも源氏物語(けんしものがたり)。狭衣(さごろも)。伊勢物語(いせものかたり)。大和物語(やまとものかたり) 栄花物語(えいぐわものがたり)。竹取物語(たけとりものかたり)。宇津保物語(うつほものかたり)。枕草紙(まくらざうし)。蜻蛉日記(かげろふのにき)。徒然(つれ〳〵) 草(ぐさ)などいふ ふみ(書)は。みな そのかみ(其昔)の めいぶん(名文)なりとぞ。 源氏物語(げんじものがたり)は。六十 帖(でふ)といへども。ふみ(書)のかずは。五十四帖なり。ことば いう(優)にして。よのつね(尋常)の もの(者)ゝ。よみ(読)うる(得)ことかたければ。ちう(注)せ る ふみ(書)おほ(多)し。源氏物語抄(げんじものかたりしやう)《割書:作者|しれず》同(おなしく)湖月抄(こげつしやう)《割書:北村季吟|つくる》同 紹巴抄(じやうはしやう) 《割書:称名院殿|よりつたふ》同 明星抄(みやうじやうしやう)《割書:西三条三|光院作》同 弁引抄(べんいんしやう)《割書:一花堂|の作》同 綱目(かうもく)《割書:西道智|の作》同 竟(きやう) 宴(えん)《割書:松永貞徳|の作》同 万水一露(はんすいいちろ)《割書:宗祇の孫弟子|能登永閑作》同 河海抄(かかいしやう)《割書:四辻左|大臣作》同 岷紅入楚(びんかうにふそ) 《割書:中院也|足軒作》などの たぐひ(類)よろし。その五十四 帖(でふ)とは。 【右丁】 きりつぼ《割書:桐|壺》 はゝきゞ《割書:帚|木》 うつせみ《割書:空|蝉》 ゆうがほ《割書:夕|顔》 わかむらさき《割書:若|紫》 すゑつむはな《割書:末摘|花》 もみぢのが《割書:紅葉|賀》 はなのえん《割書:花|宴》 あふひ《割書:葵》 さかき《割書:榊》 はなちるさと《割書:花|散里》 すま《割書:須|磨》  あかし《割書:明石》 みをづくし《割書:漂|𣼓》【注①】 よもぎふ《割書:蓬|生》 せきや《割書:関屋》 ゑあはせ《割書:絵合》 まつかぜ《割書:松風》 うすぐも《割書:薄|雲》 あさがほ《割書:朝|皃》 をとめ《割書:乙女》 たまかづら《割書:玉𩬿》【注②】 はつね《割書:初音》 こてふ《割書:胡|蝶》 ほたる《割書:蛍》 とこなつ《割書:常夏》 かゞりひ《割書:篝火》 のわき《割書:野分》 みゆき《割書:行|幸》 ふぢばかま《割書:蘭》 まきはしら《割書:槙柱》 うめがえ《割書:梅枝》 ふぢのうらは《割書:藤裏|葉》 わかな《割書:若菜|上》 わかな《割書:若菜|下》 かしはぎ《割書:柏木》 よこぶえ《割書:横|笛》 すゞむし《割書:鈴虫》 ゆふぎり《割書:夕|霧》 みのり《割書:御|法》 まぼろし《割書:幻》 にほふみや《割書:匂|宮》 こうばい《割書:紅梅》 たけかは《割書:竹|川》 はしひめ《割書:橋|姫》 しゐがもと《割書:椎本》 あげまき《割書:角|総》 さわらび《割書:早蕨》 やどりき《割書:寄|生》 あづまや《割書:東|屋》 うきふね《割書:浮舟》 かげろふ《割書:蜻|蛉》 てならひ《割書:手習》 ゆめのうきはし《割書:夢浮橋》 【注① 𣼓はUnicodeに記載あれど『大漢和辞典』には記載なし。】 【注② 𩬿はUnicodeに記載あれど『大漢和辞典』には記載なし。鬘の誤ヵ。】 【左丁】 この五十四帖のうちの さうぞく(装束)を。ちう(注)したる ふみ(書)に。源(げん) 語装束抄(ごさうぞくしやう)。男女装束抄(なんによさうぞくしやう)などあり。 狭衣(さごろも)とは。大弐三位(だいにさんゐ)といふ をんな(女)の つく(作)れるなり。源氏物語(げんじものがたり) になすらへて。つくれるとなん。この大弐三位(だいにさんゐ)は。紫式部(むらさきしきふ)の むすめ(女)なりければ。源氏物語(げんじものがたり)に。をさ〳〵おとるべくもあらじと ぞ。この(此)ちう(注)をせし ふみ(書)に。下紐(したひも)といふあり。系図(けいづ)あり。系図(けいづ) は。逍遥院殿(しやうやうゐんでん)つく(作)らせたまへりとなり。 伊勢物語(いせものがたり)は。伊勢(いせ)の御(ご)のつく(作)れるゆゑに。な(題号)をもかくいへ りとぞ。また(又)在原業平(ありわらのなりひら)の。みづから しる(記)されしともいふ。あ(或) る ひと(人)のいふ(説)に。業平(なりひら)の じき(自記)の さうし(草紙)ありしうへに。伊勢(いせ) さま〴〵の こと(事)を かい(書)そへ(添)て。つくり(作)ものがたり(物語)となして。 【右丁】 宇多院(うだのゐん)の后宮(きさいのみや)。七条(しちぢやう)のきさい。温子(をんし)の おん(御)かた(▢)へ。たて(奉)まつりし といふに。けつ(決)せりとあり。さもありぬべし。伊勢物語(いせものがたり)に ちう(注) をせる ふみ(書)は。知顕抄(ちけんしやう)《割書:作者|不知》初冠(ういかうふり)《割書:作者|不知》愚見抄(ぐけんしやう)《割書:一条禅閣|の作》逍遥院(しやうやうゐん) 殿家説(てんのかせつ)《割書:三条西|殿作》惟清抄(いせいしやう)《割書:舟橋三位|環翠軒の作》肖聞抄(しやうもんしやう)《割書:牡丹花老人|肖柏の作》闕疑抄(けつぎしやう)《割書:細川玄旨|作》 杼海(じよかい)《割書:了意|作》盤斎抄(ばんさいしやう)《割書:踏雪|作》山口記(やまぐちのき)《割書:宗祇|作》秘訣抄(ひけつしやう)【注】《割書:高田宗|賢作》拾穂抄(しふずいしやう)《割書:北村|季吟》 などあり。また(又)六条宮(ろくじやうのみや)の。まな(真名)の伊勢物語(いせものがたり)といふあり。か(漢) ん じ(字)に かい(書)て。かなの てん(点)を つけ(付)られたり。これは後(のち)の中(ちう) 書王(しよわう)の さく(作)といひ つたふ(伝)るなり。 大和物語(やまとものがたり)は。在原滋春(ありわらのしげはる)のつく(作)れるといふ。滋春(しげはる)は。業平(なりひら) の次郎(じらう)ぎみにて。在次君(ざいしくん)とも な(名)づく。ある(或)は花山院(くわさんのゐん)の おん(御) つく(作)り もの(物)ともいひつたへたり。この ものが(物語)たりの抄(しやう)。北村季吟(きたむらきぎん)つくる。 【注「決」は誤】 【左丁】 栄花物語(ゑいがものがたり)は。赤染衛門(あかそめゑもん)の つく(作)れるといふ。宇多天皇(うだのみかど)より。 後(のちの)朱雀院(すさくゐん)までのあひだの。帝王(みかど)。中宮(ちうぐう)。摂家(せつけ)のことを のせ(載)た り。その ふみ(書)の かず(数)。四十 章(しやう)あり。こゝにのす。 つきのえん   花山(くわさん)  さま〴〵の悦(よろこひ)  見はてぬ夢(ゆめ)  うら〳〵の別(わかれ) かゝやく藤壺(ふぢつぼ) 鳥辺野(とりべの)  はつ花(はな)     いはかげ   日影(ひかげ)の葛(かづら) つぼみ花(はな)  玉村筆(たまむらのふて)【ママ】 木綿四手(ゆふしで) あさみどり  疑(うたがふ) 本(もと)のしづく  をんがく  玉台(たまのうてな)     御着裳(みもぎ)    御賀(おんが) 後悔大将(こうくわいのだいしやう)  鳥舞(とりのまひ)   駒競(こまくらべ)     わか枝(え)    峯(みね)の月(つき) 楚王(そわう)の夢(ゆめ)   衣珠(いしゆ)   若水(わかみづ)     玉(たま)のかざり  鶴林(つるのはやし) 殿上花見(てんじやうのはなみ)   哥合(うたあはせ)   きるはわびしと歎女房(なげくにようばう)    晩待星(くれまつほし) 蛛振舞(くものふるまひ)    根合(ねあはせ)   煙後(けふりののち) 松のしつは【ママ】 布引滝(ぬのひきのたき) 紫野(むらさきの) 【右丁】 竹取物語(たけとりものがたり)は。作者(さくしや)さだかならず。源順(みなもとのしたがふ)つくれるともいふなり。源(げん) 氏(じ)ゑあはせのまきにも。まづ ものが(物語)たりの いでき(出来)はじめ(始)のおや なる。たけとり(竹取)のおきな(翁)に。うつほの としか(俊蔭)けを。あは(合)せて あらそふ(争)と かい(書)たりしも。この(此)ものが(物語)たりのことなかれ。また 万葉(まんえふ)に。わかな(若菜)のことによめるは。このものがたりにはあらずとなん。  宇津保物語(うつほものがたり)は。能登守(のとのかみ)源順(みなもとのしたがふ)つくれり。としか(俊蔭)けのまきといふ も。うつほものかたりのことなりき。 枕草紙(まくらざうし)は。清原元輔(きよはらのもとすけ)の むす(女)め。清少納言の つくり(作)たる なり。ちう(注)したる ふみ(書)には。季吟(きぎん)のつくれる春曙抄(しゆんしよしやう)といふあり。 この(此)ふみ(文)の装束(さうぞく)ばかりに ちう(注)したるを。装束撮要抄(さうぞくさつえうしやう)とい ふ。壷井義知(つほゐよしとも)の さく(作)なり。 【左丁】 蜻蛉(かけらう)の日記は。右大将(うだいしやう)道綱母(みちつなのはゝ)のつくれるなり。右 兵衛佐(へうゑのすけ)藤原(ふぢはら)。 倫寧(ともやす)のむすめなりき。 徒然草(つれ〴〵ぐさ)は。吉田(よしだ)の兼好法師(けんかうはふし)の つく(作)れる ふみ(書)なり。兼好(けんかう)はじめ。 後宇多(ごうだ)の帝(みかど)につかふ。左兵衛佐(さへうゑのすけ)卜部兼好(うらべのかねよし)といひしが。やま(遁世)すみ して。たゞちに法名(はふみやう)となすとぞ。うた(哥)をよみ ふみ(書)をつゞること。 たへ(妙)にして。しうぎ(秀吟)んおほし。この(此)ふみ(書)に ちう(注)したるは。くさ〴〵あ ̄ン な るなかにも。寿命院抄(すめうゐんのしやう)二巻(ふたまき)。野槌抄(のづちしやう)十四巻(とをあまりよまき)《割書:林道|春作》貞徳抄(ていとくのしやう)二巻(ふたまき)《割書:長|頭》 《割書:丸|作》古今抄(こきんしやう)八巻(やまき)《割書:大和田|気求作》盤斎抄(ばんさいしやう)十三巻《割書:踏雪|作》句解(くげ)七巻(なゝまき)《割書:高階揚|順作》文段抄(もんだんしやう) 七巻《割書:季吟|作》諺解(げんかい)五巻(いつまき)《割書:南部宗|寿作》【注①】増補鉄槌(そうほてつつい)六巻(むまき)《割書:山田元|隣作》【注②】大全(だいぜん)十三巻《割書:高田宗|賢作》 参考抄(さんかうしやう)八巻《割書:恵空和|尚作》諸抄大成(しよしやうたいせい)二十巻(はたまき)《割書:浅香山|井作》などをよしとす。 【注① 南部草寿の誤と思われる。】 【注② 山岡元隣の誤と思われる。】    賢女(けんぢよ)《割書:并孝婦》 【右丁】 よ(▢(世ヵ))に かしこ(賢)き とこ(徳)【ママ】を たもち(有)て。もろひと(諸人)にたうと(尊)び。うや(敬) まはるゝ をんな(女)を。徳子(とくし)。藤子(とうし)。といふ。徳子(とくし)といふ ひと(人)は。内大臣(うちのおとゞ) 秀房(ひでふさ)のむすめにて。太宰大弐(だざいのたいに)大内義隆(おふちよしたか)の つま(室)となりたまふ。 けんとこ(賢徳)あるよし。和論語(わろんご)に見 ̄エ たり。おなじ ふみ(書)に。藤子(とうし)と いふは。藤原政長(ふぢはらのまさなが)のむすめなりけるが。京極高次(きやうごくたかつぐ)なるひとの つ(室) まに。そな(備)はりたまへりしとなん。これも かし(賢)こき ざえ(才)ありて。か(芳) ふばしき ほまれ(誉)。ひと(人)にすぐれたまふとなん。かい(書)つけられたり。     孝婦(けうふ) 孝(▢う)はよろづ おこな(行)ふみちの。もとなめれ。あさ(朝)なゆふなに。ちゝ(父) はゝ(母)を うや(敬)まひて つか(事)ふるは。ひと(人)の とり(鳥)けだ(獣)ものに こと(異)なる ゆゑ(所以)なりとぞ。いにしへ(古)より。ひと(人)のよくしれる孝婦(けうふ)は。 【左丁】 兄媛(えひめ)《割書:応神天皇の|御代の人》佐紀民直(さきのたみのあたひ)の女(むすめ)《割書:大和国添|下郡の人》波自采女(はじのうねへ)《割書:対馬島|の人》難波部安良(なにはへのやすら) 売(め)《割書:筑前|の人》橘氏(きつし)妙仲(めうちう)《割書:逸勢|の女》福依売(ふくよめ)《割書:薩州|の人》衣縫造(きぬぬひのみやつこ)金継(かなつぐ)の女(むすめ)。■(みち)南(みなみ)築(つく) 紫(し)の女(むすめ) 舞女(まひひめ)微明(みめう) 周防内侍(すはうのないし) 狭白(けふはく)《割書:若狭|の人》 熱田縁采女(あつたのえんねべ) 照田(てるたの) 姫(ひめ) 千世能姫(ちよのひめ)などをいふめれ。ふるき ふみ(書)の。まき(巻)〳〵に見へたり    女中(ぢよちうの)学者(がくしや) すがた(姿)かたち(容)はさらなり。いみ(美)じき ざえ(才)ありて。から(韓)のやまと(大和) の ふみ(書)の まき(巻)〳〵を。ひね(終日)もす よみ(読)つゝ。いに(古)しへ いま(今)を かうが(考)へて。 その こと(理)はりを。わき(弁)まへん をんな(女)は。もろこ(唐土)しにもおほから ぬに。まいて この(此)くに(方)ゝは。ふみ(書)まなぶ をんな(女)といふものは。なく(無) てありぬべくなど おも(思)ふ。ならはしなるめれといふも。ひた(一向)ふる の おろか(愚)なるかたにや。もろこ(唐土)しの班婕妤(はんせふいよ)。《割書:班汎|の女》班昭(はんしやう)《割書:班固|の妹》蔡文姫(さいぶんき) 【右丁】 《割書:名 ̄ハ琰。|邕の女》などいふ をんな(女)をも。おどろ(驚)かして。れ(音)たゝず(不立)なしてんは。 紫式部(むらさきしきぶ)《割書:藤原為時の女。|宣孝の妻。》清少納言(せいしやうなごん)《割書:清原元|輔の女》有智子内親王(いうちしないしんわう)《割書:嵯峨天皇の皇女|博学の聞へあり》 江侍従(かうじじう)《割書:大江朝綱の女なり|或 ̄ハ匡衡の女ともいふ》讃岐(さぬき)《割書:源頼政の女なり。十三経|をよく講せしとなり。》阿波内侍(あはのないし)《割書:少納言信西の女なり|父の智徳につぎて。文》 《割書:を学び諸書|に達したるなり。》従三位豊子(じゆさんいとよこ)《割書:大江清通の妻|定経の母なり》小野氏(をのうぢ)《割書:名は通。号は|身葉子。》古春(こしゆん)《割書:安井真|祐の妻》井上(ゐのうへ) 氏(うぢ)《割書:名 ̄ハ通。讃|岐の人。》井沢氏(ゐさわうぢ)《割書:一名は須賀。井沢|長秀の女。》などをいふにや。これらの ひと(人)は。をと(男子) こにも まれ(稀)なる。がくざえ(学才)あ ̄ン なるよし。ふるき ふみ(書)に見へたり。    女中詩人(ぢよちうのしじん) もろこ(唐土)しの をんな(女)の。し(詩)つくれることは。名媛彙詩(めいえんいし)《割書:明の鄭文|昂えらふ》名媛(めいゑん) 詩帰(しき)《割書:鐘伯敬|えらふ》名媛詩仙(めいえんしせん)《割書:藤昌琳|えらふ》などに。おほく見へたり。このくに(此方)の をんな(女)は。まなじ(真字)を よみ(読)わくることも。さだかならずきこゆな るに。みづから ふで(筆)とり。し(詩)をも つくり(作)いだせるさま。いとたふとし。 【左丁】 もろこ(唐土)しにも もて(持)わたり。つたへまほしげなる こゝち(心)すれ。こと くにの ひと(人)に くらぶ(比)れは。その いさを(功)しの おほ(多)き。ひ(日)を おなじ(同) うして かたる(語)べきかは。されば文花秀麗集(ぶんくわしうれいしふ)。経国集(けいこくしふ)。朗詠集(らうゑいしふ)。 玉壺詩稿(ぎよくこしかう)。帰家日記(きかにき)。歴朝詩纂(れきちやうしさん)。金蘭詩集(きんらんししふ)。中山詩稿(ちうざんしかう)。などいふ ふみ(書)に。このくに(此方)の をんな(女)の し(詩)見へたり。その(其)さくしゃ(作者)は。姫大伴氏(ひめおほともうぢ) 《割書:嵯峨天皇の時の人。|文華秀麗集に見ゆ》有智子内親王(いうちしないしんわう)《割書:嵯峨天皇の皇女。|経国集に見ゆ》惟氏(これうぢ)《割書:峩嵳【ママ】天皇の時の人。|経国集に出。》 尼和氏(にわ▢▢)《割書:和気氏の女。尼となり|名は法均。経国集に出。》十市采女(とをいちのうねへ)《割書:美濃国の人|朗詠集に出》公主聖安(こうしゆせいあん)《割書:後西院天皇の皇|女。歴朝詩纂に見ゆ》 小野氏(をのうぢ)《割書:名は通。号は|身葉子》桃仙(たうせん)《割書:内田氏|の女》井上氏(ゐのうへうぢ)《割書:名 ̄ハ通。讃岐の人。|帰家日記に見ゆ》阿留(ある)《割書:和州|の人》古春(こしゆん)《割書:安井真|祐の妻》 麗草(れいさう)《割書:城州伏見の人。|玉壺詩稿に見ゆ》龍氏(たつうぢ)《割書:初の名は菊。後 ̄ニ名を貞と|改む。金蘭詩集に出》立花玉蘭(たちばなぎよくらん)《割書:柳川の人。中山詩稿|を著す》 幡君蕙(はんくんけい)《割書:字は瑶華|京師の人》龍氏貴(りうしたか)《割書:貞の女弟|江州の人》龍氏輝(りうしてる)《割書:貴の女弟|江州の人》などをいふ。その(其) 詩(し)を数首(すしゆ)こゝにのす。 【右丁】  晩秋述懐(ばんしゆうのしゆつくわい)         姫大伴氏(ひめおほともうぢ) 節候(せつかう)蕭条(しゆうじやうとして)歳(とし)《振り仮名:将_レ闌|たけなはならんとす》。閨門(けいもん)静閑(しづかにして)秋日(しゆうじつ)寒(さむし)。雲天(うんてん)遠鳫(えんがん)声(こゑ)宜(きく) 聴(べし)。檐樹(たんじゆ)晩蝉(ばんせん)引(ひき)《振り仮名:欲_レ殫|つきんことほす》。菊潭(きくたん)《振り仮名:帯_レ露|つゆをおびて》余花(よくわ)冷(ひやゝかなり)。荷浦(かほ)《振り仮名:含_レ霜|しもをふくみて》旧(きう) 盞(さん)残(のこり)。寂寞(せきばく)独(ひとり)《振り仮名:傷_二 四運促_一|しうんのうながすをいたむ》。紛紛(ぷん〳〵たる)落葉(らくえふ)《振り仮名:不_レ勝_レ看|みるにたへず》。  《振り仮名:奉_レ和_二関山月_一|くわんざんげつをわしたてまつる》       有智子内親王(いうちしないしんわう) 皎潔(かうけつ)関山月(くわんさんげつ)。流光(りうかう)万里(ばんりに)明(あきらかなり)。《振り仮名:懸_レ珠|たまをかけて》露葉(ろえふ)浄(きよく)。《振り仮名:臨_レ扇|あふきにのぞんて》霜華(さうくわ)清(きよし)。 寒鳫(かんがん)晴空(せいくうに)断(たへ)。孤猿(こけん)【注】暁峡(けうかふに)鳴(なく)。那(なんぞ)堪(たへん)空閣妾(くうかくのせふ)。《振り仮名:未_レ慰_二相思情_一|さうしのじやうをなくさめす》。  《振り仮名:奉_レ和_二除夜_一|じよやをわしたてまつる》         惟氏(これうぢ) 《振り仮名:自_三従習_レ静出_二風塵_一|しつかなるにならひてけふうじんいでしより》。北斗(ほくと)柄(へい)廻(めくりて)歳月(さいげつ)巡(めぐる)。俗事(ぞくじ)自(よづから)【ママ】《振り仮名:随_二深夜_一|しんやにしたかつて》 尽(つき)。幽心(いうしん)独(ひとり)《振り仮名:対_二 上陽_一|しやうやうにたいして》新(あらたなり)。渓流(けいりう)《振り仮名:向_レ暖迎_二佳気_一|だんにむかふてかきをむかへ》。山燭(さんしよく)閑(しづかに)燃(もへて)避(せ)_二 世人(じんをさく)_一。泉石(せんせき)《振り仮名:不_レ知_レ催_二白髪_一|はくはつをもよほすことしらず》。悠然(いうぜん)徒(いたづらに)《振り仮名:任_二去来春_一|きよらいのはるにまかす》。 【注 「こえん」とあるところ。】 【左丁】  禅居(ぜんきよ)            尼和氏(あまわし) 【右丁 見返し】 【左丁】 女学範下                   大江資衡述    十種香(じすかう) じすかう(十種香)といふこと。いつの ころ(比)より はじ(始)まりけんかし。おな(同) じ どち(友)。ともにまとゐて。えならぬ にほ(香)ひを も(玩)てあそぶ に。いと けう(興)ある わざ(事)となりぬ。されば ことく(異国)にゝも。かう(香)をもて けうずるなる。ふる(古)き ふみ(書)に見えたり。香志(かうし)。香録(かうろく)。香譜(かうふ)。名香(めいかう) 譜(ふ)。などいふふみあるにてしるべきなり。 じすかう(十種香)の みち(道)にいみじきふみは。香合式(かうあはせのしき)。志野宗信筆記(しのそうしんがひっき)。 雪月花集(せつげつくわしふ)。宗温名香記(そうおんめいかうかき)。建部隆勝香之記(たけべたかよしかうのき)。十組香記(とくみかうのき)。暗部山(くらぶやま)。 香道秘伝抄(かうだうひでんしやう)。などありて。かう(香)をきくやう。ちやうど(調度)まで くは(委)しく 【右丁】 しるせり。 じすかう(十種香)の うつは(器)ものには。ついのかうろ《割書:対香|炉【爐】》かうぼん《割書:香牀》 こじたて《割書:火箸|瓶》かうばし《割書:香箸》こじ《割書:火箸》かうすくひ《割書:香匙》ひあひ《割書:火味》 はいおし《割書:灰押》ぎんはさみ《割書:銀夾》ははゝき《割書:香帚》うぐひす《割書:鴬》ふだばこ《割書:符匣》 こばこ《割書:小筥》ぎんだい《割書:銀盤》ふだづゝ《割書:符筒》をりすゑ《割書:折居》ぎんばいれ《割書:銀葉|匣》 ぎんば《割書:銀葉》たきからいれ《割書:炷炉|台》かうつゝみ《割書:香嚢》かうばこ《割書:香盒》ひとり《割書:火取》 きろくがみ《割書:記録|紙》なのりかみ《割書:名紙》など そなへ(備)をさむ(蔵)べきなり。 かう(香)をもてあそぶに。組香(くみかう)といふことありて。さま〴〵におかしく。 くみ(組)いだせるなめり。その(其)なかにも。ふるく つたは(伝)る な(名)は。十炷(じちう)。宇治(うぢ) 山(やま)。小鳥(ことり)。小草(こぐさ)。競馬(けいば)。矢数(やかず)。源平(げんへい)。花月(くわげつ)。源氏(げんじ)。鳥合(とりあはせ)。闘雞(とうけい)蹴踘(しうきく)。 焼合(たきあはせ)十炷(じちう)。名所(めいしよ)。花軍(はないくさ)。呉越(ごえつ)。初音(はつね)。郭公(ほとゝきす)。忍香(しのふかう)。煙競(けふりくらへ)。新月(しんげつ)。星逢(ほしあひ)。 【左丁】 六義(りくぎ)。古今(こきん)。鴬(うぐひす)。四節(しせつ)。御幸(みゆき)。系図(けいづ)。四 町(まち)。三夕(さんせき)。などありき。いま その(其) ふたつみつこゝにのす。 十炷香(じちうかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三(ひふみ)のかう(香)に。こゝろ(試)み あり。 きやくかう(客香)。こゝろみ(試)なし。香(かう)本(もと)より。香炉(かうろ)の火(ひ)あひ。よく とゝのへ(調)て。こゝろみ(試)の かう(香)を たき(炷)いだす。みくさ(三種)のこゝろみ(試)を。 おの(各)〳〵きゝ(聞)をはら(終)は。十包(とをつゝみ)《割書:一三包。二三包。|三三包。客一包》を うち(打)まぜ(交)。いづれ(何)にて もとりて。ひと(一)つゝみ(包)づゝ。たき(炷)いだす。ふだ(符)づゝ(筒)をも。そへ(添)いだす(出)なり。 香(かう)を きく(聞)やうは。こゝろみ(試)の かう(香)を。こゝろ(心)によく しるしおき(記憶)【臆は誤】て。一の かう(香) と おもへ(思)ば。一の ふだ(符)。二の かう(香)と おも(思)へば二の ふだ(符)。こゝろみ(試)せざる かう(香)とおもへば。 きやく(客)の ふだ(符)を。ふだづゝ(符筒)にいれて。しだい(次第)に まは(順廻)すなり。おの(各)〳〵きゝ(聞) をはり(終)て。きろく(記録)をしるすことあり。きろく(記録)のかき(書)やう。つ(▢)にしるしぬ。 【右丁】      十 炷 香 之 記 十     二  三  一  ウ  三  二  二  一  三  一 炷  青松 二(ー)  一  二  一  三(ー)  二(ー)  三  三  一  ウ   三種 香  紅梅 一  一  三  ウ(ー)  三(ー)   二(ー) 二(ー)  三  二  一(ー)   五    黄葉 二(ー) 三(ー)  一(ー) ウ(ー)  三(ー) 二(-)  二(ー) 一(ー)  三(ー) 一(ー)   十 記  白菊 一  二  三  ウ(ー)  一  二(ー)  三  一(ー)  二  三   三 録  丹桂 三  一  二  二  一  三  一  ウ  三(ー)  二   一 之  緑竹 二(ー) 一  一(ー)  ウ(ー)  三(ー) 二(ー) 二(ー)  一(ー) 三(ー)  三   八 図  紫麻 二(ー) 三(ー)  三  ウ(ー)  三(ー) 二(ー)  一  一(ー) 一  二   六      仲 春 念 二       某 名 記録(きろく)のかくやう。はじめて十炷 香之 記(き)としるし。つきに ふだ(符)の しるしを。青松。紅梅。黄葉。な どかいつけ。かたはらに なのり(名乗)を くは(加)ふ。そのしも(其下)におの〳〵 きゝ(聞) あたりたる かず(数)をかくに。うへ(上)よ りかず【ママ】へて。いくばく(幾)としるし。き(貴) にん(人)などあらば。いくしゆ(幾種)としる す。をはり(▢)に。その(其)つきひ(月日)をかい つけて。しもに あるじ(主人)の な(名)をし るすなり。 【左丁】 宇治山香(うぢやまかう)は。かう(香)いつくさなり。一二三四五(ひふみよいつゝ)。おの〳〵こゝろみ(試)あり。ふだ(符) をもちゐず。なのり(名乗)がみ(紙)してしるす。この(此)かうは。喜撰法師(きせんはふし)の わがいほはの うた(歌)一首(いつしゆ)を。いつゝ(五)にわかちて。一二三四五(ひふみよいつゝ)とさだむる也。 小鳥香(ことりかう)は。いつくさ(五種)なり。こゝろみ(試)なし。ふだ(符)をもちゐず。なのり(名乗)が みにしるす。ことり(小鳥)な(名)かずは十一なり。もゝ(◦◦)ちどり ほ とゝ(◦◦)きす あをし とゞ(◦◦) いし たゝ(◦◦)き き(◦)せ き(◦)れい く(◦)ろつ ぐ(◦)み か(◦)しらさ か(◦) ひと(◦)め と(◦)り かは(◦)らひ は(◦) あさ か(◦)とり よ ふ(◦)ことり 小草香(こぐさかう)は。かう(香)みくさ(三種)なり。また よくさ(四種)にも。いつくさ(五種)にもな す。さだま(定)れる かず(数)なし。その(其)ところ(処)にて。くさ(草)の な(名)のきは めによる。こゝろみ(試)あり。 競馬香(けいばかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三 客(きやく)。おの(各)〳〵 こゝろみ(試)あり。 【右丁】 磐(ばん)二めん。人形(にんぎやう)《割書:赤方|黒方》ふたつ(二)馬(うま)二疋(にひき)。しようぶ(勝負)の き(木)ひともと(一本)。十炷香(しちうかう) の ふだ(符)を もちう(用)。一炷(いつちう)ごとにひらくなり。 矢数香(やかずかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三 客(きやく)。おの〳〵 こゝろみ(試)あり。磐(ばん)一 めん(面)。や(矢)十すぢ。きん(金)の ざい(麾)ぎん(銀)の ざい(麾)《割書:十(とを)》。はこ(箱)にいれおくなり。 源平香(げんへいかう)は。かう(香)よくさ(四種)なり。一二三こゝろみ(試)あり。客こゝろみ(試)なし。 磐(ばん)一めん(面)。おほはた(大旗)二本。《割書:一本は赤|一本は白》こはた(小旗)十本。《割書:五本は白く|五本は赤し》 花月香(くわげつかう)は。かう(香)む(六)【注①】くさ(種)なり。花の一。花の二。花の三。月の一。月の二。 月の三。おの〳〵 こゝろみ(試)あり。 源氏香(げんじかう)は。かう(香)いつくさ(五種)なり。一二三四五。おの(各)〳〵 こゝろみ(試)なく。ふだ(符)な し。なのり(名乗)がみ(紙)を もち(用)う。ほか(外)にかう(香)のづ(図)ひとまき(一巻)あり(有)。《割書:又かうの図の|印五十三。》 《割書:印肉等|もそろふ》この いつくさ(五種)の かう(香)を。いつきれ(五切)づゝいだす。あはせて廿五(つゞいつ)【注②】包(つゝみ) 【注① 見せ消ち線に見えるが、意図せぬ線か。】 【注② 「つづ」は古語で「十」のことを「つづ」といった。ここから「つづやはたち」(10や20)という言葉が生まれたが、やがてこの言葉の意味は「19か20」に変化し、従って「つづ」という言葉も「十」から「十九」に変わってしまった。さらに「廿」という意味にも使用されるようになり、現在、地名や名字に「廿(つづ)」が残っている。】 【左丁】 なり。これをひとつにうちまぜて。五包(いつつゝみ)をとり い(出)だし たく(炷)なり。 のこり(残)は と(外)つゝ(包)みにをさむ。 鳥合香(とりあはせかう)は。かう(香)いつくさ(五種)なり。みくさ(三種)は こゝろみ(試)あり。ふたくさ(二種) こゝろみ(試)なし。ふだ(符)をもちゐず。なのり(名乗)がみ(紙)にしるす。とり(鳥)の な(名) みくさ(三種)。もゝちどり。よぶこどり。いなおふせどり。 名香(みやうがう)の しな(品)。いちじ(著)るしきを。すこしこゝにのす。 たいし《割書:此わうじ|ともいふ》らんじやたい《割書:東大寺|ともいふ》しやうやう《割書:逍遥》こうぢん《割書:紅塵》みよしの 《割書:三吉|野》こぼく《割書:枯木》なかがは《割書:中河》ほくえけう《割書:法花|経》はなたちはな《割書:盧橘》やつはし 《割書:八橋》かぐら《割書:神楽》さかき《割書:榊》ふえ《割書:笛》うすもみぢ《割書:薄紅|葉》やまかげ《割書:山蔭》さうばい 《割書:早梅》ちどり《割書:千鳥》ふたば《割書:二葉》おきな《割書:翁》かゞみ《割書:鏡》りんしやう《割書:林|梢》あげまき《割書:角|総》 ふよう《割書:芙蓉》いほ《割書:庵》かるかや《割書:刈萱》かきつばた《割書:杜若》なつくさ《割書:夏草》ゆき《割書:雪》 【右丁】 ならしば《割書:楢|芝》【蕕は誤】すま《割書:須|磨》あかし《割書:明|石》よもぎ《割書:蓬》おぼろ《割書:朧》にゐまくら《割書:新枕》 うつりが《割書:移香》なかつ《割書:中津》うすぐも《割書:薄雲》ちゞみ《割書:縮》たむけ《割書:手向》やへぎく 《割書:八重|菊》うきしま《割書:浮島》ふゆの《割書:冬野》はなちるさと《割書:花散|里》ふゆ《割書:冬》あさげのはな 《割書:朝気|花》せいぼ《割書:歳暮》かはなみ《割書:川波》はしひめ《割書:橋姫》きく《割書:菊》たなばた《割書:七夕》みを つくし《割書:漂潦》やなぎ《割書:柳》みかさ《割書:三笠》あふち《割書:樗》まつのと《割書:松戸》のゝみや《割書:野宮》 つむ《割書:摘》たつた《割書:龍田》さみだれ《割書:五月|雨》こじま《割書:小島》こはる《割書:小春》はつかり《割書:初雁》 たけのゆき《割書:竹雪》みやま《割書:深山》。みやうがう(名香)の くさ(種)〴〵 おほ(多)きなか(中)に。 やんごとなきを えらび(撰)て。いそ(五十)あまり(余)こゝにかいつけしるしぬ。     薫物方(たきものはう) 後小松院(ごゝまつのゐんの)宸翰(しんかん)薫物方(たきものはう)といふ ふみ(書)にいはく。たきもの(薫物)ゝ はう(方)。さま 〴〵なれども。つね(常)に あは(合)するは。むくさ(六種)なり。梅花(ばいくわ)。黒方(くろはう)。侍従(じじう)。 【左丁】 菊花(きくくわ)。落葉(らくえふ)。荷葉(かえふ)。これみな とき(時)にしたがひて。むかしの ひと(人)は あは(合)せけれど。いまの よ(世)にはさしも見えず。はる(春)は梅花(ばいくわ)。うめのはな の か(香)にかよへり。あき(秋)は落葉(らくえふ)。もみぢ ゝる(散)ころこゝろ(心)すゞしき にほ(香) ひなり。ふゆ(冬)は菊花(きくくわ)。きくのはなの か(香)にことならず。小野宮(をのゝみや)殿(との)の 方(はう)には。長生久視(ちやうせいきうし)の かう(香)なりと。しるされたり。黒方(くろはう)は。ふゆ(冬)のふかく さへたるに。あさからぬにほひあり。侍従(じじう)は。秋風(しゆうふう)蕭索(しやうさく)として。こゝろ(心)に くきおりに。よそへたりとあり。かゝれどいまの よ(世)には。黒方(くろはう)をのみあ はする。かう(香)のかたすくなくて。そのにほひすぐれたるゆゑなり。 梅花(はいくわ)は一ぢむ《割書:沈香|八両二分》二せんたう《割書:占唐|一分三銖》三かいかう《割書:甲香|三両一分》四ちやうじ《割書:丁子|二両二分》 五ひやくたん《割書:白檀二分|三銖》六かんせう《割書:甘松一分》七くんろく《割書:薫陸一分》 八じやかう《割書:麝香二分》 【右丁】 荷葉(かえふ)は一ぢむ《割書:七両二分》二かいかう《割書:二両二分》三ちやうじ《割書:二両二分》四びや くたん《割書:二銖》五かんせう《割書:一分》六くわかう《割書:藿香|四銖》七うこむ《割書:鬱金|二両》じやか うをいる 侍従(じぢう)は一ぢむ《割書:大四両|二分》二かいかう《割書:大一両|二分》三ちやうじ《割書:大二両|二分》四かんせう《割書:小一両》 五うこむ《割書:小一両》じやかうをいる 黒方(くろはう)は一ぢむ《割書:四両》二かいかう《割書:一両》三くむろく《割書:大一分》四びやくたん《割書:一分》 五ちやうじ《割書:二両》六じやかう《割書:二分》 菊花(きくくわ)は一ぢむ《割書:四両》二ちやうじ《割書:二両》三かいかう《割書:一両二分》四くむろく《割書:一分》 五白たん《割書:一分》六じやかう《割書:二分》 落葉(らくえふ)は一ぢむ《割書:九両》二ちやうし《割書:四両》三かいかう《割書:一両二分》四じやかう《割書:二分》 五かうぶし《割書:香附子|三分》六白たん《割書:一分|三銖》七くんろく《割書:一分》八そがふかう《割書:蘇合香|一両》 【左丁】 八条大将方(はちじやうだいしやうのはう)は一ぢむ《割書:小四両|二分》二くんろく《割書:小一分》三白たん《割書:三分》四ちやうじ《割書:小二両》 五かいかう《割書:小一両》六じやかう《割書:小一分|四朱》 朱雀院御方(しゆじやくゐんのおんはう)は一ぢむ《割書:四両》二ちやうじ《割書:二両》三かいかう《割書:一両》四くんろく《割書:二分》 五うこん《割書:二両》    掛香方(かけかうのはう) かけ(掛)がう(香)のあは(合)するやうも。おほかたは たきもの(薫物)ゝはう(方)に とほからず。そのおほくあるなかに。いつくさ(五種)をこゝに のす。 あやめ(菖蒲)。よもぎ(蓬生)ふ。にゐま(新枕)くら。まつかぜ(松風)。ばいくわ(梅花)。これみなうる はしき はう(方)なめり。 あやめ《割書:菖|蒲》は一ぢむ《割書:沈香|一両》二ちやうじ《割書:丁子|一両》三白たん《割書:白檀|一両二分》四かんせう《割書:甘松|一両》 【右丁】 五じやかう《割書:麝香|四分》六りうなう《割書:竜脳|二分》 よもぎふ《割書:蓬|生》は一じやかう《割書:二両》二りうなう《割書:三両》三さ【きヵ】く《割書:菊花|五両》 にゐまくら《割書:新|枕》は一ぢむ《割書:一両|二分》二ちやうじ《割書:一両》三かいかう《割書:一両》四くんろく 《割書:薫陸|三分》五白たん《割書:二分》六じやかう《割書:二分》 まつかぜ《割書:松|風》は一白たん《割書:二両》二ぢむ《割書:一両》三きく《割書:八分》四じやかう《割書:三分》 五りうなう《割書:一分》 ばいくわ《割書:梅|花》は一りうなう《割書:八分》二ばいにん《割書:梅仁|一両二分》三じやかう《割書:六分》四ちや うじ《割書:二両》五かんせう《割書:三分》六白だん《割書:二分》     懐紙(くわいし)短冊(たんさく) うた(歌)をかくかみに。懐紙(くわいし)。短冊(たんざく)。色紙(しきし)のしなありて。くさ(種)〴〵の はふ(法)あり。そのあらましをこゝにのす。 【左丁】 懐紙(くわいし)の寸法(すはふ)は。大臣(だいじん)。大納言(だいなごん)。中納言(ちうなごん)参議(さんぎ)。などの。もち(用) ゐたまふは。一尺三寸なり。大高檀紙(おほたかだんし)をつゝみてもち う。殿上人(てんじやうびとの)四位(しゐ)五位(ごゐ)六位(ろくゐ)などの もち(用)ゐたまふは。一尺 二寸なり。たゞし ない(内々)〳〵の御会(ごくわい)には。小高檀紙(こたかたんし)を も(用) ちう。諸侍(しよし)などは小高檀紙(こたかだんし)を一尺五六分にしてもち うべきよし見えたり。 懐紙(くわいし)したゝむるやうは。うた(歌)一 首(しゆ)ならば。三行(さんぎやう)三字(さんじ) なり。二首三首より。二行七字たるべし。二十首より 百首にいたりては。二行なり。五首七首は。紙(かみ)二枚(にまい) つぎてもちう。十首は。三枚つぎ。二十首よりはかみかず さだ(定)まらずとなり。 【右丁】                 懐紙(くわいし)よみやう     詠白匊花         しらぎくのはなをよめる 懐      和歌        やまとうた 紙     凡河内躬恒      をふしかうちのみつね 書  心あてにおらはや      こゝろあてにおらばや 法  折む初霜の興ま       おらんはつしものおきま 図  とはせるしら匊       どはせるしらぎく    のはな           のはな 【左丁】 短冊(たんざく)の寸法(すはふ)は。ひろ(広)さ一寸八分。なが(長)さ一尺一寸五分なり。 ただ(但)しなが(長)きにおきては。いさゝか(聊)二分(にぶ)三分(さんぶ)のたがひ。くるしか らず。ひろ(広)さはさのみ たがひ(違)もなきよし見えたり。またある せつ(説)には。ひろ(広)さ一寸九分。なが(長)さ壹尺弐寸とあり。 たんざく(短冊)の かみ(紙)を。ひと(人)の もと(元)へ おくる(贈)にはその かず(数)を なに(何) ほど(程)にてもかさね。ほそ(細)き かみ(紙)にて はし(端)を ふたところ(二所)ゆひ(結)。 ひきあはせ(引合)などいふ かみ(紙)につゝみ。やないば(柳筥)こにすゑて。なか(中)を ふ(二) た ところ(所)。やないばこ(柳筥)のしたより。ひも(紐)をとほして むすぶ(結)なり。 うた(歌)の だい(題)などありて たんざく(短冊)を おくる(贈)ときは。一首二首 にても。べつ〳〵に。み(三)つに をり(折)て。ひとつにつゝみ。やない(柳筥)ばこ に すゑ(居)て むす(結)ぶなり。 【右丁】 たんざ(短冊)くの くも(雲)がたは。おほよそ あをぐ(青雲)もを かみ(上)に もち(用)うる なり。また むらさき(紫)を かみ(上)になすことも。とき(時)〴〵あるべしと。 幽斎(ゆうさい)聞書(きゝがき)に見えたり。 短冊(たんざく)したゝめるやう。図(づ)にしるす。        《割書:此所へ文字半字かくる》    《割書:此間五分|はかりあく》   春始   春きぬと人はいへとも鴬の       なかぬかきりはあらじとそ思ふ 忠岑 【此二行短冊形の枠の中】        《割書:此所おりめ》    《割書:此所おりめ》 をんな(女)の たんざ(短冊)く。したゝむるときは。な(名)を たんざ(短冊)のうらにかくなり。 色紙(しきし)の寸法(すはふ)は。さだ(定)まれる こと(事)なし。いへ(家々)〳〵にかはりあ ̄ン なれ。 おほよそ大色紙(おほしきし)は竪(たつ)六寸四分。よこ(横)五寸五分にしたゝむ。 【左丁】 小色紙(こしきし)はたて(竪)さま六寸。よこ(横)さま五寸三分となり。 色紙(しきし)の かく(書)やう。さま〳〵の もやう(模様)ありて。五十 てい(体)も。百 てい(体) にも 会(書)わく(分)るなり。いま その(其)はふ(法)を すこ(少)しこゝに づ(図)しぬ  【色紙形の枠の中に】 【色紙形の枠の中に】  【色紙形の枠の中に】   むめか枝に      秋はきぬ         見渡は波の    なきてうつろふ    としも半に       しからみかけて  あは   鴬の        すきぬとや     けり卯の花咲る   ゆき はね       荻ふく風の       たま河の    そ  白妙       おとろかすらむ        さと   ふる    に 色紙(しきし)を屏風(びやうふ)におすやう。 屏風(びやうふ)ひとよ(一雙)ろひに。色紙(しきし)を お(押)すやう。さま〴〵しなあり。ひと(一) よろひ(雙)に。しきし(色紙)三十六 枚(まい)。ある(或)は七十二 枚(まい)。ある(或)は百二十 枚(まい)も おす(押)なり。三十六 枚(まい)なれは。かた(片)〳〵に十八 枚(まい)おす(押)なり。屏風(びやうふ)の 【右丁】 【六曲の屏風の各面に数字あり】    一            なか(半)ばより。すこし ひき(下)く お(押)   二             して。見よきやうなるをよし        三        とす。いま(今)かた(片)〳〵のづをこゝ         四       にしるしぬ。    五            此図(このづ)は。いにしへの屏風(びやうふ)の形(かた)をいだせり。   六             六枚ともに。木(き)にてつくり。打紐(うちひも)に                 て結(むす)ぶなり。南都(なんと)正倉院(しやうさうゐん)に鴨毛(かものけ)の          七      屏風(びやうふ)といふものありとて。其(その)絵図(ゑづ)をみし    九     八      に。こと〳〵く唐木(からき)にてつくりたるものと   十             見えたり。おほよそ今(いま)の屏風(びやうふ)にちかき         十一      物(もの)なり。           十二    よのつねの屏風(びやうふ)に色紙(しきし)押(おす)やう。是(これ)に   十三            かはることなし。   十四         十五           十六     十七   十八 【左丁】     歌貝(うたがい)《割書:うたかるたとも|ついまつともいふ》 うたが(歌貝)いは。いま(今)のうたがるたのことなり。その はじま(始)りし よ(世)さだ かならず。ある ふみ(書)に在原業平(ありはらのなりひら)御使(おんつかひ)として。いせ(伊勢)のくにゝ参向(さんかう) のとき。帖子内親王(てふしないしんわう)。斎宮(いつきのみや)に そな(備)はりおはしまして。うた(歌)の かみ(上) の く(句)を。さか(盃)づきに かい(書)て。いだ(出)したまへりしに。業平(なりひら)とり(取)あへず。 ついまつ(続松)の たき(焼)すてたる。かがり(煹)の すみ(炭)にて。しも(下)の く(句)を。かいつぎ(書続) たまふと。伊勢物語(いせものがたり)に見え はべ(侍)る。これよりかるたにうつし。もてあそぶ こと(事)になりぬ。ついまつ(続松)の すみ(炭)にて。しも(下)の く(句)かい(書)つぎたまふ えん(縁)により。う(哥) た がい(貝)とることを。ついまつ(続松)とる(取)といふなりと見えたり。また(又)これ(是)に に(似)た る こと(事)は。拾遺集(しふいしふ)にも。ある(或)をんな(女)。うた(哥)の かみ(上)の く(句)を。よみつかは しけるに。良峯(よしみね)の宗貞(むねさだ)かへ(返)しに。しも(下)の く(句)をよみたることあり 【右丁 挿絵の説明】 七夕祭図 【左丁 挿絵のみ】