伏見(ふしみ)大地震(おほぢしん)桃山御殿図(もゝやまごてんのづ) 御届明治十八年十二月十五日 浅草区須賀町二番地 画工月岡米次郎 日本橋区通二丁目四番地 出版人深瀬亀次郎 賢人(けんじん)明(あきら)かならんとすれば佞人(ねいじん)之(これ)を陰(かく)す茲(こゝ)に加(か) 藤(とう)主計(かづへ)頭(のかみ)清正(きよまさ)は朝鮮(てうせん)対陣(たいぢん)の勲功(くんこう)衆(しゆう)に秀(ひい)て 抜群(はつくん)たるも小西行長(こにしゆきなが)が讒奏(ざんそう)淀君(よどきみ)が鶯舌(あうぜつ)に罹(かゝ) り却(かへつ)て太閤(たいかう)殿下(てんか)の気色(けしき)を損(そん)じ自邸(してい)に幽(いう) 閉(へい)せらる時(とき)に伏見(ふしみ)の大地震動(だいじしんどう)し民屋(みんおく)は 更(さら)なり城中(しやうちう)の殿舎(でんしや)悉(こと〴〵)く斜(なゝめ)に傾(かたぶ)き諸人(しよにん)色(いろ) を失(うしな)ふ折(おり)しも清(きよ)正は君前(くんぜん)を憚(はゞか)る身(み)なれど 主君(しゆくん)が御 身(み)大切(たいせつ)なりと警備(けいび)のため従兵(じうへい)を 引率(ひきつれ)走付(はせつけ)れば君(きみ)は疾(はや)桃(もゝ)山御 殿(てん)の林中(りんちう)に退(たい) 立(りう)ありて清正(きよまさ)を御らんじ其(その)誠忠(せいちう)を御 感(かん) あり直(たゞ)に御免(おんめん)ありしといふ                       應需大蘇芳年画