TKGK-00056 書名  唐詩選画本,[二編]5巻 刊   5冊 所蔵者 東京学芸大学附属図書館 函号  921.43/TAC 撮影  国際マイクロ写真工業社 令和2年度 国文学研究資料館 【表紙題箋】《題:唐詩選画本 《割書:七言絶句》一》 【見返し】 芙蓉先生画 【印「不許翻刻/千里必究」】 唐詩選 東都書肆 嵩山房蔵 【上欄 横書き】文化甲戌再板 自序 信手而画唐詩景象二三 紙翌復二三筆如是 数日自充銷暑清涼散 不図謬落書肆之手也書 肆嵩山房主人裒為五 巻因旁書国字解以応 童子之求請余冠一言已 是土苴加以仏頭不潔何 禍棗梨為之奪而不還 主人曰已是搨打数十■【遍ヵ過ヵ】 都若不許請倩它人 作序言耳余窮且困 古人有言不困在於早 慮不窮在於早予是不 早投秦火余過也然欲 人勿知莫若勿為欲人 勿聞莫若勿言吁何 以解識者嘲遂序 此言示非余志已主人捧 巻蓬累行 己酉秋八    芙蓉山人撰【印「芙蓉」】    東洲老漁書【印「呉門左氏」】 【小題】鴻雁    蜀中九日(しよくちうのくじつ)    王勃(おうほつ) 九月九日望郷台他席他郷(くぐわつくじつぼうきやうたいたせきたきよう)送(おくるの)_レ客(かくを)杯(はい)人情(にんじよう) 已(すでに)厭(いとふ)_二南中苦(なんちうのくを)_一鴻雁那(こうがんなんぞ)従(より)_二北地(ほくち)_一来(きたる) くじつには。たかいところへのほるものしやといふにより。われもひとにさそはれ。しよくのぼうきやうたいに のほつて見るに。こきやうならばおもしろかろふに。たせきのことではあり。ことにけふは。このところへのぼり わかるゝひともあるゆへ。いよ〳〵かなしい。われはみやこよりみなみ。しよくのくにのかたへきていて。こ きやうへかへることもならぬに。かりかねはどふしたことて。きたのちより。とびきたることぞ と。とりにことよせていふこと。じようたいかくつろいで。おもしろいくわしくは掌故にあり 【挿絵】 渡(わたる)_二湘江(せうこうを)_一  杜審言(としんけん) 遅日園林(ちじつゑんりん) 悲(かなしむ)_二昔遊(せきゆふを)_一今(こん) 春花鳥(しゆんくわてう)作(なす)_二 辺愁(へんしゆうを)_一独憐(ひとりあわれむ) 京国人南(けいこくのひとなん) 竄(さんせられ)不(す)_レ似(に)_二湘(せう) 江水北流(こうすいのほくりうに)_一 きよねんみやこでたのしんだときは おもしろかりしがなんこくへさせん せられてこのたひのちじつゑ んりんのはなとりのふう しよくを見るにつけてみやこに いるならはこのふうけいをみて はさぞおもしろかろふにたひの ことゆへこのふうけいを見て むかしのあそひをおもひたしか ゑつてうれいますわれはけい こくのきたのみやこのものなる がなんほうへさせんせられて ゆくはせうこうのみづのきた へなかるゝにもにずみづのまね もならぬうらやましい事 じや掌故箋註にくわし 【挿絵】 【挿絵】    贈(おくる)_二蘇館(そくはん)書記(しよきに)_一   杜審言(としんげん) 知君書記本翩々(しんぬきみかしよきもとへん〳〵)為許(ためにゆるす)従(したかつて)_レ戎(ちうに)赴(おもむく)_二朔辺(さくへんに)_一 ̄ニ紅粉(こうふん) 楼中(ろうちう)応(へし)_レ計(かそふ)_レ日(ひを)燕支山下(ゑんしさんか)莫(なかれ)_レ経(ふること)_レ年(としを) おれかしつているがこなたはもとよりふんしやうへん〳〵とすくれてたれおよふものもないこんとしよきやくにたのまれ なるほどゝたいしやうのためにゆるしぢうくんにしたかつてさくへんのゑひすのかたへゆかるゝこなたのごない しつかひをかぞへてまたるゝてあろふかならすゑんしさんあたりにとうりうすることはこむようで ござるあのほうのはんてもひのかきりのある事しやほどにはやくかへられよかならすとうりうするなといふ 事なれともおらがいふてはきゝはすまひによつてそこでないきをたしていふておもしろい箋註にくわし   戯(たわむれに)贈(おくる)_二趙使君美人(てうしくんのひしんに)_一 杜審言(としんけん) 紅粉青娥(こうふんせいが)映(ゑいす)_二楚雲(そうんに)_一桃花馬上石榴裙(とうくはばじやうせきりうくん) 羅敷独(らふひとり)向(むかつて)_二東方(とうほうに)_一去(さる)謾(まんに)学(まなんて)_二他家(たけを)_一作(ならん)_二使君(しくんと)_一 たわむれとはおとけにといふこゝろともたちのてうしくんがかゝいのひしんへおくるなりてんきのよいしふんに りつはななりをしてけわい【化粧】たてゝでたそうんといふはふさん【巫山】のしんしよ【神女】のこともとりあわせて いふそうんにもゑいするほとりつはな事じやそのびしんがとうくわばといふ此いろのむ まにのりしやくろの花のいろのしたはかまをきてゆくいつもしくんとつれたちゆくかけふはひ とりゆかるゝめつたにみつからでないたけのてうしくんとなりておとももふそふらふの事はてうおう【趙王】のこじ也 【挿絵】 劉廷琦(りうていき)  銅雀台(とうしやくたい) 銅台宮観(とうたいのきうくはん)委(いす)_二 灰塵(くわいしんに)一 魏主園陵漳(きしゆのゑんりやうしよう) 水浜(すいのひん) 即今西望猶(そつこんせいほうなを) 堪(たへたり)_レ思(おもふに) 況復當時歌(いわんやまたとうじか) 舞人(ふのひと) とうしやくたいはせんざいもへたるゆへ はいほこりとなりあとかたもなくまつ たいらになつたいするとはうつもれて しもふをいふぎしゆのゑんりやうのあたり を見れはしやうすいのほとりにあるか さひしい事しやいませいぼうして見るに ゑいゆうといわれた人のあともなくなる ものかなとおもふにたへてめもあて られぬいまのそみ見るにだにたへ かたいいわんやむかしのかぶのきうしよ【宮女】か このたいのうへよりのそみ見た ときはさぞかなしかりつろふ くわしくは国字解せう故せんちうに             あり 【挿絵】 【挿絵】      邙山(ぼうさん)    沈佺期(しんせんき) 北邙山上(ほくぼうさんしやう)列(つらね)_二墳塋(ふんゑいを)_一万古千秋(ばんこせんしゆう)対(たいす)_二洛城(らくじやうに)_一城(じやう) 中日夕歌鐘起(ちうじつせきかせうおこる)山上唯聞松柏声(さんしやうたゝきくせうはくのこゑ) ぼうさんはらくやうのきたのほうにありひとをうつみしはかしよがおゝくあるせんこのいにしへよりみ やこのちかきにらくしようにたいしてあるいまこのところへきて見れはしやうちうはにきやかに うたつたりまつたりうちはやしをしているがこのやまのうへてはたゝさひしくしやうはくのこゑをきく のみじやといつてじつはあのやうにせんざいもいきているやうにたのしむかおつつけこゝへほうむるはきのとくじや   送(おくる)_三司馬道士(しはとうしか)遊(あそふを)_二 天台(てんたいに)_一   宋之問(そうしもん) 羽客笙歌此地違(うかくのせうかこのちたかふ)離筵数処白雲飛(りゑんすうしよはくうんとふ)蓬萊(ほうらい) 闕下長相憶(けつかなかくあいおもふ)桐柏山頭去(とうはくさんとうさつて)不(す)_レ帰(かへら) うかくのうちはやしなとゝいふはなか〳〵にんけんてきく事はならぬがこのひとのせうかゆへきくてあるいまこのところをた かへさらるゝゆへこれきりしやりゑんのさしきを見れはとこもかもしらくもがたなひいてとうしをむかへにきたやうすじや いまわかれてとうはくさんへもとられたならはもふこのところへかへることはあるまいほうらいけつかきん ちうでなかくこなたの事をあいおもふであろふ◦ほうらいけつはてんしのきうでんとうはくはてんたいのべつな也 【挿絵】 【挿絵】 送(おくる)_二梁六(りやうりくを)_一   張説(ちやうせつ) 巴陵一望(はりやういちぼう) 洞庭秋(とうていのあき)日(ひゝに) 見孤峰水(みるこほうすい) 上浮(しやうにうかむを)聞道(きくならく) 神仙(しんせん)不(す)_レ可(べから) _レ接(ましわる)心(こゝろ)隨(したがつて)_二湖(こ) 水(すいに)_一共悠々(ともにゆう〳〵) 《割書:はりやうぐんのかたからとう|ていこを見れはいちめんにく|もりもなくまい日(にち)こはうの|はなれしまかたつたひとつ|とうていのみつのうへにうか|むてあるかみゆるこなた|はあのこはうをはるかに|めあてにゆきあとをかく|してせんどうしゆぎやう|せらるゝせんにんになつてはにん|けんにはましわられぬげなみへ|ぬところなれはまたしもなれ|ともひゞに見ゆるところなれ|はこなたをおもひわがこゝろこ|すひのことくはてもかぎりも|なくおもひくらすであろふ》 【挿絵】 涼州詞(しやうしうのことは)【横書き】 王翰(おうかん)【横書き】 ¬ -------------------------------------------------------------------------------- 葡萄美酒夜光杯(ふとうのびしゆやくわうのはい)欲(ほつして)_レ飲(のまんと)琵琶馬上催(びわばせうにもよほす) 醉(ゑつて)臥(ふすとも)_二沙場(しやしように)_一君(きみ)莫(なかれ)_レ笑(わらふ事)古来征戦幾人回(こらいせいせんいくはくひとかかへる) ふとうてかもしたさけをやこうのはいにうけてのむさかなにはばせうてひわなとをたんしすひふん のむ事じやしたかこのやうにさけにゑひたをれているをさためてひとかわらふてあろふがそれ もかまわぬむかしからこのところへきてぶしてかゑつたものはすくない大かたうちしにしたり ひやうししたりするわれもあすのいのちもしらぬゆへさけてものんてたのしむかよい 【挿絵】 清平調詞(せいへいちやうし)  三首(さんしゆ) 李白(りはく) 雲(くもに)想(おもひ)_二衣裳(いしやうを)_一 花(はなには)想(おもふ)_レ容(かたちを)春(しゆん) 風(ふう)払(はらつて)_レ檻(かんを)露(ろ) 華濃(くはこまやかなり)若(もし)非(あらすんは)_二 群玉山頭(くんきよくさんとうに)  見(みるに)_一会(かならず)向(むかつて)_二瑶(やう) 台月下(たいげつかに)_一逢(あわん) 《割書:くもをいしやうにするはせんしよ【仙女】の事|なりこれはげんそうのまたびじん|をゑぬうちの事をいふくもを見|てもはなを見てもこのやうなび|しんをゑたいとおもひくらしおりふ|しはるてはるかせがかんをふき|はらいてんかいちのめいくはのは|なさかりのつゆのこまやかなるを|見てこのやうなびしんをゑたい|とおもひくらしこのやうなひしんはなか|〳〵にんけんかいにはあるまひ|ぐんきよくさんのほとりおう|ぼ【王母】かかたて見るにあらずんはやうた|いのせんしよ【仙女】あるところてあふか|とかくほかては見ることは|なるまい《割書:くわしくは掌故|箋註国字解にあり》》 【挿絵】 一枝濃艶(いつししやうゑん)【穠艶ヵ】露(つゆ)凝(こらす)_レ香(こうを)雲雨巫山枉断腸(うんうふさんまけてたんてう) 借問漢宮誰(しやくもんすかんきゆうたれか)得(ゑん)_レ似(にたる事を)可(か)-憐(れんの)飛燕(ひゑん)倚(よる)_二新粧(しんそうに)_一 《割書:ほたんのたつたひとゑたのいろつやのうるわしいにつゆなとこりうかんてあるこれてきひ【貴妃】かとしさかりのこと|をもたせたてうとこのはなのことくびじんもうるわしい事じやきひをゑたから見れはふさん|のしんじよをしたふたはまげてたんちようししたふたものじやふさんのしんしよはそ【楚】のじようおう【襄王】ゆめ|にしんによとちきりくもとなりあめとなりこよふといふた事なりきひかやうなびしんはとうだいには|ないかんきゆうにはひしんかおゝかつたといふとふて見たいものじやかわいらしいちやうひゑん【趙飛燕】なとゝ|いふやうなものかけわいてもしてきたならはすこしはにやうかなか〳〵すかほてきて|はおよひもないよるといふはたのみにすることひゑんはかんのせいていのきさきなり》 【挿絵】 名花傾国両(めいくはけいこくふたつなから) 相歓(あいよろこふ)常(つねに)得(ゑる)_二君王(くんのうの) 帯(おびて)_レ笑(わらひを)看(みることを)_一解(かい)_二-釈(せきして) 春風(しゆんふう)無(なき)_レ限(かきり)恨(うらみを)_一 沈香亭北(ちんこうていのきた) 倚(よる)_二闌干(らんかんに)_一 《割書:はなもきびかやうなものに|なかめられきひもはなを|見てふたつなからあひよ|ろこぶめいくはとはぼたんのこと|ほたんのめいくはもきひのびし|んもふたつながら御きにい|りじやくんのうこの花を|見てわらひをおびたまへ|あいせらるゝゆへかよふに|あいよろこんで見る|はなのこゝろにもか|よふにはるかせがふか|ばついにはふきちらさ|れるてあろふといふ|あやふみがありおんな|のならひとしてつねにはる風|などのふくにおふてはわがかたちも|おとろへてうあいもすたろふかとおも|ふかぎりなきうらみかあるがきひは|そのやうなうらみもなくかいせきしかてん|してこゝろにうれいもなくはなを見|たのしんてきみとともにちんこう|ていのきたのらんかんによつてなんの|うらみもなく|ほたんをあいして|   いらるゝ》       李白(りはく) 蘭陵美酒鬱金香(らんりやうのびしゆうつこんこう)玉碗盛来琥珀光(きよくわんもりきたるこはくのひかり) 但(たゝ)使(して)_下二主人(しゆしんを)_一能(よく)酔(よわしめは)_上レ客(かくを)不(す)_レ知(しら)何処是他鄉(いつれのところかこれたきやう) らんりやうはよひさけのてところうつこんこうとはにほひのよひさけかようのさけをけつこうなたまのわんにもりて もてなさるはかたじけないよいさけをけつこうなさかつきへつげはこはくのひかりがするしゆしんとはいまたひにてかゝつている ところのていしゆさけをふるもふてくたさるゝゆへこきやうしややらたきやうしややらしらすなくさみて いるといふしたこゝろたひのうれをさけにてわするといふにかなしみをふくめり  李白(りはく) 客中行(かくちうこう) 【挿絵】   峨眉山月歌(がびさんけつのうた) 峨眉山月半輪秋(がびさんけつはんりんのあき)影(かけは)入(いつて)_二  平羌江水(へいきようこうすに)_二【_一ヵ】流(なかる)夜(よる)発(はつして)_二   清渓(せいけいを)_一向(むかふ)_二 三峡(さんかうに)_一思(おもへとも)_レ君(きみを)    不(ず)_レ見(みへ)下(くだる)_二渝州(ゆしうに)_一    ふねにのりこのやまのひたをとをり見    れは月がはんぶんはやまにおゝわれそ       の月かけかこうすいにいりなかれ        このしふんにたにあいをふねに        のりいたしてさんかうあたりへのり        こめはもふくらくして見へぬとふそ         ゆしゆう  あたりへゆきたなら         は月か   すこしは見ゆるで               あろふと                おもふて           すひふんのりゆくてある            しごくふねのはやいを            いふ川かみより川しもへ           のりくたすぢやきみとは           月の事をいふ              李白(りはく)           王元美(おうけんび)か曰(いわ)くこれはこれ太白(たいはく)が           佳境(かけう)二十八字(にしうはちじ)のうち峨眉山(かびさん)           平羌江(へいきやうこう) 清渓(せいけい) 三峡(さんかう) 渝州(ゆしう)           の五(いつ)ツ(ゝ)の地名(ちめい)あれとも後人(のちのひと)を           してこれが為(ため)に痕跡(こんせき)にたへざらしむは           此/老鑪錘(ふるたゝら)の妙(みやう)なりとなむ       この後/宋(そうの)蘇子瞻(そしせん)なともこの詩(し)を賞(せうし)       此/格(かく)にならひはべれとも太白(たいはく)が妙境(めうきやう)には至(いたり)       がたしとなむいへり 【挿絵】 上皇(しようくはう)西(せい)_二-巡(しゆんの) 南京(なんけいに)_一歌(うた)   李白(りはく) 誰道君王(たれかいふくんのう) 行路難(かうろかたしと)六(りく) 龍西幸万(りやうにしにみゆきしてばん) 人歓(じんよろこふ)地(ち)転(てんじて)_二 錦江(きんこうを)_一成(なし)_二渭(い) 水(すいと)_一 天(てん)迴(めくらして)_二玉(きよ) 塁(るいを)_一作(なす)_二長安(ちやうあんと)_一  其二(そのに) 剣閣重関(けんかくのてうくはん) 蜀北門(しよくのほくもん)上(しよう) 皇帰馬(くはうのきば)若(ことく)_レ 雲(くもの)屯(たむろす)少帝(しやうてい) 長安(ちやうあんに)開(ひらき)_二紫(し) 極(きよくを)_一双(ならへ)_二_懸(かけて)日(しつ) 月(けつを)_一照(てらす)_二乾坤(けんこんを)_一 【挿絵】  聞(きいて)_三王昌齢(おうしやうれいが)左(さ)_二-遷(せんすと)龍標尉(りやうひやうのいに)_一 ̄ニ遥(はるかに) ̄ニ有(あり)_二此寄(このよせ)_一 楊花落尽子規啼(やうくはおちつきてしきなく)聞道龍標(きくならくりやうひやう)過(すぐと)_二 五溪(ごけいを)_一 我(われ)寄(よせて)_二愁心(しうしんを)_一与(あたふ)_二明月(めいけつに)_一隨(したかつて)_レ風(かせに)直(しきに)到(いたれ)_二夜郎西(やろうのにしに)_一                         李白(りはく)    李白(りはく)もとをくにてきいてせめての事にとおもひこのしをつくりよせし也 やうくはもおちつきてはるもつきなんとほつしてほとゝきすもなきはるのひもくれゆくじ ぶんにはたゝさへものゝかなしいおりからこなたはごけいをすきてりやうひやうあたりへ ゆかるゝわれもともにいたならはりべつもしよふけれどもはるかにへたてゝいる事 なれはあふこともならすうれいているこのうれいをたれにたのんでこなたにつ げしらするものもないめいげつはどこもかもてらすなればこれにことづてとゞける ほどにつきを見るごとにわがうれいをおもひやつてくられい◦くわしくはせうこ せんちう唐詩せん国字かいとうにあり 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本《割書:七言絶句》 二》 【小題】黄鶴 【上段】 黄鶴楼 ̄ニシテ送_三 ̄ル孟 浩然 ̄カ之_二 ̄ヲ広陵_一 ̄ニ 故人西 ̄ノカタ辞_二 ̄シテ黃 鶴楼_一 ̄ヲ煙花 三月下_二 ̄タル 揚州_一 ̄ニ孤 帆 ̄ノ遠影 碧空 ̄ニ尽 ̄ク 惟見 ̄ル 長江 天 際 ̄ニ 流 ̄ルヽコトヲ 【中段 挿絵】 【下段】 くはうくはくろうにしてもう  こうねんがこうりやうに  ゆくをおくるこじん   にしのかたくは      うくわく   ろふをじして   ゑんくはさんげつ          やう   しうにくだる    こはんのゑん     げいへきくう     につく     たゝ見る     ちやうこう     てんさひに     なかるゝ       ことを      李(り)       白(はく)             があるなり            ゆふかふかいじよう             にも見ゑぬと             ぢやほかになん            なつてなかるゝのみ           こうのてんとひとつに          たゝ見ゆるものはちよう      あをいとひとつになつて見へぬ      み見ゆるか見ているうちそらの     見へすたゝそこもとののりゆくふねの     のあとかけを見のそめはほかになんにも   のりおろしてゆかるゝあまりさんねんさにこなた  なたはこれを見すてゝ川しものかたへふねを のふうけいをともに見たならおもしろかろふにこ わかしたしいこなたとこのこうくわくろうのゑんくは  陪(はいして)_二族叔刑部侍郎(そくしゆくけいほうじろう)  曄及中書舎人賈(ようおよひちうしよしやしんか)  至(しに)_一遊(あそふ)_二洞庭湖(とうていこに)_一 洞庭西望楚(とうていにしにのそめは) 江分(こうわかる) 水尽南天(みつつきてなんてん)不(ず)_レ 見(み)_レ雲(くもを) 日落長沙秋(ひおちてちようさしう) 色遠(しよくとをし) 不(す)_レ知(しら)何処(いつれのところにか)弔(とむらはん)_二 湘君(しようくんを)_一 ぞくしゆくはちゝかたのおぢなりばいは あいとものふ人なり。とうていにとも〳〵ふ ねをのりいだしてつくる。かししやじんがしに こたふるこゝろにていふ。八百里のうし を【潮】にて。なんてんのはてまて見ゆる かきりもないひろい事じや。とうてい こは西のかたそこうがいりながれ南の かたはなんてんのはてまで見ゆるはな はだひろい事であるはやひもくれ ちようさあたりの秋のけしきを とをく見るにかしが白雲明月(はくうんめいけつ) 弔(とむらふ)_二湘君(しようくんを)とこのやうにのりゆきたらば しようくんの処へもゆきそふなものじや といふにこたへて不(す)_レ知(しら)なにをいや るぞなか〳〵どこやらしれぬひろ い事しや 【挿絵】 天門中断楚江開(てんもんなかたへてそこうひらく)碧水東流(へきすいひんかしになかれて)至(いたつて)_レ北(きたに)迴(かへる) 両岸青山相対出(りやうかんのせいさんあいたいしていづ)孤帆一片日辺来(こはんいつへんじつへんよりきたる) てんもんざんは東にはくほうさん【博望山】西にりやうさん【梁山】と云かならんてその中をそこうと云川がなかるゝへきすいの川おもてを見れ は東のかたへなかれきたのかたへめくりなかるゝしつへんといふはみやこの事りはくみやこよりこの処へきたりふねにててん もん山を見のそむなりはしめてこのところへきたりたる情をいふじつへんといふとてみやこからすくにきたといふては ないほかのふねはみへぬわかふねはかりしやト云こゝろて一へんと云このやふなるところにきたるはかなしい事しや             李白(りはく) 【横書き】望(のそむ)_二 天(てん)門(もん)山(さんを)_一 【挿絵】 霜落荊門江樹空(しもおちてけいもんこうじゆむなし)布帆(ふはん)無(なく)_レ恙(つゝが)掛(かく)_二秋風(しゆうふうに)_一 ̄ニ 此行(このかう)不(あらす)_レ為(ために)_二鱸魚鱠(ろきよのくわいの)_一自(おのつから)愛(あいして)_二名山(めいさんを)_一入(いる)_二剡中(せんちう)_一 ̄ニ けいもんの山林なとも秋ゆへしもにかれて木のはもおちまはらに成たゆへに江樹空也◦しん【晋】のこかいし【顧愷之】かいふた 通り心よくごちう【呉中】の方へつゝがなく無事に秋風に帆をかけゆくぢや秋風のふくにじようしてゆくはちようかん【張翰】が ことくすゞきのなますをおもひ出してくわんをやめて行ではないもとよりごちうがこきやうでも ないからそのためてはないがごちうは山のおゝいところゆへそれを見ようがためにゆくことじや ¬ -------------------------------------------------------------------------------- 秋下(あきくたる)_二 荊門(けいもんを)_一 李白(りはく) 【挿絵】 旧苑荒台楊柳新(きうゑんこうたいやうりうあらたなり)菱歌清唱(りやうかせいしよう)不(す)_レ勝(たへ)_レ春(はるに) 只今唯(たゝいまたゝ)有(あつて)_二西江月(せいこうのつきのみ)_一曽(かつて)照(てらす)_二吳王宮裏人(ごをうきゆうりのひとを)_一 こゝはごおうのこせきじやといふさだめていにしへはきうでんなともびれいてありつろうがいまはあとかたもないはるわ へんする事もなく楊柳新今はのはらとなりたゞひしをとる人かうたをとなへてゆきゝするどこもかもはるじやが むかしとはかわりはてたたゞいまたゞあるものとては月のみできゆうてんはあとかたもないたゞその宮人をてらした 月のみむかしにかゞす【「かゞす」は「かはらす」ヵ】となりこのづはいにしへのごおうきゆうちうのさまをうつせり 李白(りはく) 【挿絵】【横書き】蘇(そ)台(たいの)覧(らん)古(こ) 【挿絵】 朝辞白(あしたにじすはく) 帝彩雲(ていさいうんの) 間千里(あいたせんりの) 江陵一(こうりやういち) 日還両(しつにかへるりやう) 岸猿声(かんのゑんせい) 啼(ないて)不(す)_レ住(とゝまら) 軽舟已(けいしゆうすてに) 過万重(すくはんちやうの) 山(やま) そうちようよりはく ていちようをのりおろし せんりもあると云か舟 がはやいゆへたつた一日 にきたりやうほうの きしてさるをきゝなから くたるいつしよてもなく ゆくさき〳〵てないて とゝまらすとこまて もなきつゝいてたひ のうれいをひきおこし かへり見れははやはん しやうの山ものり すきてさてもは やい事しや 早(つとに)発(はつす)_二白帝(はくてい) 城(こうあいを)_一   李白(りはく) 【挿絵】【横書き】越(ゑつ)中(ちうの)懐(くわい)古(こ)                李白(りはく) 越王勾踐(ゑつおうこうせん)破(やふつて)_レ吳(こを)帰義士(かへるぎし)還(かへつて)_レ家(いゑに)尽錦衣(こと〳〵くきんゑ) 宮女(きゆうしよ)如(ことく)_レ花(はなの)満(みつ)_二春殿(しゆんてんに)_一只今惟(たゝいまたゝ)有(あり)_二鷓鴣飛(しやこのとふのみ)_一 ゑつおうがさかんになりてこおうをほろほしたがそのしふんこうをなしてほうひをもろふた事を云それから ゑつおうもおこりをきわめきゆうしよともたいふんあり花のことくなびじんがしゆんてんにみちてさかん な事てありつらふか今はのはらとなりてしやこのとふのみしやゑつのくにゝはしやこといふとり たいふんあるゆへにいふなりこのづはむかしゑつおうのきゆうてんのさまをうつせり 【挿絵】 一(ひとたひ)為(なつて)_二遷客(せんかくと)_一 去(さる)_二長沙(てうさに)_一西(にし) 望(のぞめは)_二長安(てうあんを)_一不(す)_レ見(み) _レ家(いゑを)黃鶴楼(くはうくはくろう) 中(ちう)吹(ふく)_二玉笛(きよくてきを)_一 江城五月(こうちやうごげつ) 落梅花(らくはいくは) 与(と)_二史郎中(しろうちう) 欽(きん)_一聴(きく)_二【他本「_三」】黄鶴(こうくはく) 楼上(ろうしやうに)吹(ふくを)_一レ【他本「_二レ」】笛(ふゑを)   李白(りはく) みやこをしりそけられて ちやうしや【長沙】にきていればてう あんのかたはとをいわがこきやう てうあんのかたをみのぞめとも わがいゑは見へぬそこもとゝともに させんのかくとなりこのやう なるへんさいへきている事かな とおもへばいよ〳〵かなしいくはう くはくろうは川のあるところ ゆへ江城といふなりうれいて いるのにかのろうでぎよくてき をふくがだん〳〵ふきつのつて 落梅花のきよくをふく おもいよらぬ五月じふんこのき よくをきけはみやこをおもひ だしてこひしいくわしくは掌故に有 春夜洛城(しゆんやらくしように) 聞(きく)_レ笛(ふゑを) 誰家玉笛(たかいゑのきよくてきそ) 暗(あんに)飛(とはす)_レ声(こゑを) 散(さんして)入(いつて)_二春風(しゆんふうに)_一満(みつ)_二 洛城(らくじやうに)_一此夜曲(このよきよく) 中(ちう)聞(きいて)_二折柳(せつりうを)_一 何人(なんひとか)不(さらん)_レ起(おこさ)_二故(こ) 園情(ゑんおしやうを)_一   李白(りはく) たれかふくそたれといふ事 もしれぬがおもわずはるかせ にふきちらされてみやこ中 どこもかもこのこゑのきこへ ぬといふところはあるまい そのきよくはなにをふく ぞとおもふにりべつの せつりうのきよくをふく たひにいるものはたれでも かなしかろふわれもたび にいるゆへうれいをひき おこすことであるあん にといふはおもわずと いふこゝろなりされとも よるにかけてもちあわせ たる字也くわしくは掌故にあり 【挿絵】     春宮曲(しゆんきゆうのきよく)   王昌齢(おうしやうれい) 昨夜風開露井桃(さくやかせひらくろせいのもゝ)未央前殿月輪高(ひおうのせんでんけつりんたかし) 平陽歌舞新(へいやうのかぶあらたに)承(うけ)_レ寵(てうを)簾外春寒(れんくわいはるさむうして)賜(たまふ)_二錦袍(きんほうを)_一 さくやあたり風もあたゝかにしておにわのもゝの花もひらきみかとも花見にしゆつきよあつてひおうてんのまへてこゆう きやうなされてつきのたかくあかるはよふけをいふなりこのしふんさむくなつたゆへしんざんの女中におきかつかれて れん外にほかのきうしよにはかまわすしてあらたにしんさんを御てうあいなさるくわしくは箋註や掌故に有 【挿絵】 【挿絵】   西宮春怨(せいきうのしゆんゑん)    王昌齢(をうしやうれい) 西宮夜静百花香(せいきゆうよしつかにしてひやつくはこうはし)欲(ほつして)_レ捲(まかんと)_二珠簾(しゆれんを)_一春恨長(しゆんこんなかし) 斜(なゝめに)抱(いたいて)_二雲和(うんくはを)_一深(ふかく)見(みる)_レ月(つきを)朧々樹色(らう〳〵たるしゆしよく)隠(いんたり)_二昭陽(せうやうに)_一 せいきうははんせうよ【班婕妤】がいるてうしんきゆう【長信宮】也せいきうにしようよがひとり夜もしづかにしているにはなもさかりにこう ばしこのはなを見やうとおもひしゆれんをまかんとすれどもきむつかしくはるのけしきを見てもうれいがせうずる ゆへうちすてゝおく◦うんなはこと【琴】のことものうひあまりどふぞうれいをさん【散】ぜんとなゝめにゆがみながらことをひき すだれこしにおくの方より月を見ていればろう〳〵とおぐらき【小暗き】木の間からしようやうきうがおくふかくみゆるしやう やうきうはてうひゑん【趙飛燕】が毎夜〳〵みかどの御てうあいにあひみかどの御ゆうきやうなさるゝ処じやそのやうなる処へ いまではゆく事ももならず御そばててうをうける事はない月もはつきりとは見へぬと也くわしくは掌故にあり    西宮秋怨(せいきゆうのしうゑん)    王昌齢(をうしやうれい) 芙蓉(ふようも)不(ず)_レ及(しか)美人粧(びじんのよそおひ)水殿風来珠翠香(すいてんかせきたつてしゆすいこうはし) 却恨(かゑつてうらむ)含(ふくんて)_レ情(じようを)掩(おゝふ事を)_二秋扇(しゆうせんを)_一空(むなしく)懸(かけて)_二明月(めいけつを)_一待(まつ)_二君王(くんをうを)_一 ふようの花も及さるびじんがきみのてうあいすたれたゆへおんなの事なれはことばてはゆわずじやうをふくん ているがこのやうにしゆうせんをおゝひかたつけたやふにてうあいのすたれてあるかてまへのこゝろはめいけつを かけたことくくもりもないもしもこの月の夜なとにきみのこざろふもしれぬとまつているくわしくは箋註 掌故にあり 【挿絵】  長信秋詞(ちやうしんしうし) 王昌齢(をうせうれい)《割書:この詩はんきがてうのすたれたるさまを作れる也|しんせいとはほんぼん【本本】にといふことはくめいはふ》 真成薄命久尋思(しんせいにはくめいひさしくじんしす)夢(ゆめに)見(みて)_二君王(くんのうを)_一《割書:しあわせなり班姫(はんき)がこゝろにてう|あいのすたれた我ははくめいとおもへ》 覚後疑(さめてのちうたかふ)火(ひ)照(てらして)_二西宮(せいきうを)_一知(しる)_二夜飲(やいんを)_一分明(ふんみやうなり)《割書:ともまたほんぼんにてうのすたれた事|やら久しく尋思しおもひきわめられぬ》 複道(ふくどう)奉(うくる)_レ恩(をんを)時(とき)《割書:しはらくゆめのうちにたしかきみにおめにかゝりてうあいにあふたと|おもふたにさめて見たれはうそであつた是はゆめてあつたかなかつたかとうた|かふなりさめてのちてうしんきうよりよく見れはしようやうきうのあたり火か西宮をてらすがあれはみかとの御|遊かあつてよさかもりてもあつたかさりながらむかしおんをうけたことくふんめうにたつた今御目にかゝり|しがゆめのやふてはなかつたがさめて見れはみかどの宮はむかふにあるさて〳〵あちきなき事哉と也委は箋註に有》 【挿絵】 【挿絵】 青楼曲(せいろうきよく)  王昌齢(おうしやうれい) 白馬金鞍(はくばきんあん) 従(したかふ)_二武皇(ぶこうに)_一旌(せい) 旗十万(きじうまん)宿(しゆくす)_二 長楊(ちやうやうに)_一楼頭(ろうとうの) 小婦(せうふ)鳴(ならして)_レ箏(さうを) 坐(さす)遥見(はるかにみる)飛(とばして) _レ塵(ちりを)入(いる事を)_二建章(けんしやうに)_一 けんそう【玄宗】の色をこのむをかん のぶていにひしてふこうといふ ぶしのうわきものともはく ばにのりみかとの御あそひの御 ともをしてはなやかな事じや はたをたてならへてうやうきうに しゆくすこのじふんゆうしよとも かそうなとをならしてざして いながらはるかにむかふをわが なしみのせうねんともがけんしやう にいるをしり目て見ているといゝ すてゝおくおもしろいたかいにみつ 見られつするうわきの情を いふくわしくは箋註或は 国字解 掌故なとに有 こゝに略す 【挿絵】    閨怨(けいゑん)   王昌齢(をうせうれい) 閨中少婦(けいちうのせうふ)不(す)_レ知(しら)_レ愁(うれいを)春日(しゆんしつ)凝(こらして)_レ粧(よそをい)上(のほる)_二 翠楼(すいろうに)_一忽(たちまち)見(みて)_二陌頭楊柳色(はくとうやうりうのいろを)_一悔(くゆらくは)教(して)【左ルビ「しむ事を」】_二 夫壻(ふせいを)_一覓(もとめ)_二封侯(ほうこうを)_一。【『唐詩選国字解』の返り点は「教_三夫壻覓_二封侯_一」】 -------------------------------------------------------------------------------- おやのてをはなれてからまたついにおつとにわかれた事もないなんにもうれいといふ事をしらすして はるのけしきを見やふとおもひかたちつくろふててまいのいるすいろふにのほつて見れば たちまちはくとうやうりうのいろを見てはるのすきゆくをかんしておつとのことを おもひたしてさて〳〵さんねんなことはおつとゝわかるゝじふんにおれはぐんちうにゆくがてからを すれは大めうになる事じやといわれたゆへやつたが今おもへはざんねんぢやくやしい事 をしたとあぢきなくいふておもしろい        くわしくは国字解 箋註 掌故等を見てしるへし 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本 《割書:七言絶句》三》 【小題】秋天 【挿絵】 出塞行(しゆつさいこう)  王昌齢(をうせうれい) 白草原頭(はくそうげんとう) 望(のそめば)_二京師(けいしを)_一黄(くはう) 河水流(がみつなかれ)無(なし)_二 尽時(つきるとき)_一秋天(しうてん) 曠野行人(くはうやこうじん) 絶(たゆ)馬首東(ばしゆとう) 来知是誰(らいしんぬこれたそや) ゑひすのちはくさもあをからずしろ きゆへはくそうげんといふこきやう の京をしたひのそめともみやこは みへずさて〳〵とをいところへきた 事かなみやこはいつくのほとぞと おもふて見のそめともみやこは見へ ずたゝ見るものとてはつくる事もな くびやう〳〵と西よりひかしのかたへ くはうがの水のなかるゝのみじやさい 外の事なれは秋のてんにくはうくわつ【曠濶】 たるのはらて人かげもない処じやに 馬にのつてひかしから来るはたれ であろふなにものそ人かけもない ところでひよつとひとを見たゆへ はなはたおとろいたていじやく わしくは箋註 こくじかい 又は 唐詩せんかう釈本にあり 【挿絵】    従軍行(しうぐんこう)    王昌齢(おうせうれい) 烽火城西百尺楼(ほうくはしやうせいひやくしやくろう)黄昏独坐海風秋(くはうこんとくざかいふうのあき) 更(さらに)吹(ふく)_二羌笛(きやうてきを)_一関山月(くはんさんげつ)無(なし)_レ那(いかんともする事)_二金閨万里愁(きんけいはんりのうれいを)_一 ゑひすへしれぬやうに小しろをきつきそれを烽火城といふて用心にする烽火をあくるばのぐるりに人のとをられぬやうに かまへをしておくなりこのところへじうくんにきてひとりざしていればゑひすのかたから秋風がふききたつてもの すごい事じやかふしたふうけいを見るさへあるにこのものかなしいにさらにいづかたにかふゑをふくがきこへることに 関山月のきよくをふくゆへわれはかまわねともこきやうをおもふじようがせうじてどふもならぬ金閨とは さいしとものことをふくむなり烽火は遠見のばんのあいづなりくわしくはせんちう又はかう釈本にあり     従軍行(しうくんこう)    王昌齢(おうせうれい) 青海長雲(せいかいのてううん)暗(くらし)_二雪山(せつさんに)_一孤城遥望玉門関(こじようはるかにのそむきよくもんくはん)黄沙(くはうしや) 百戦(ひやくせん)穿(うかち)_二金甲(きんこうを)_一不(すんは)_レ破(やふら)_二楼蘭(ろうらんを)_一終(ついに)不(じ)_レ還(かへら) このしろより見れはたゝひやう〳〵としてわがきているはゑひすのちせいかいのきたなればくもがなかくたなびいてせつさんまて もまつくろにしてものすこくみゆるぎよくくはんは西北のすみでとをい処じやにそれを通りてまたとをいこのはん てのものゝいるこぢようあたりへきて又玉門山をのそむさへとをい都はいよ〳〵遠い。しやばくてたひ〳〵かつせんかあるゆへよろ いをぬくまもなくこのやふてはいつこきやうへかへる事ぞ大方はろうらんをやふりしまわずはかゑらぬてあろふかきりもない事じや 【挿絵】 【挿絵】  従軍行(しうくんこう)   王昌齢(おうせうれい) 秦時明月(しんじのめいけつ) 漢時関(かんじのくはん)万(はん) 里長征人(りちやうせいのひと) 未(いまた)【左ルビ「ず」】_レ還(かへら)但(たゝ)使(して)_二 龍城飛将(りうじやうのひしやうを) 在(あらしめは)_一不(す)_レ教(しめ)_三胡(こ) 馬(ばをして)度(わたら)_二陰山(いんさんを)_一 いまにはしめずしんのじふんも きたといふかちかひみちでもない ばんりてうせいし◦てうぜうと いふをきづいてせめた事がある そのときもかつせんにきたものが 此めいげつを見てこきやうの事 をおもひかなしみかんの時もきて たゝかひしんかんよりこのかたかゑつた ものがないとかくよい大将がない からこじんが都をあなとるたゞゑ ひすのおそるゝひしやうぐんのやふ なひとがあらば胡人がからへ うちいるゝことはあるまいよい 大将のないはせひもない事じや 此詩解へく解へからさるの間 に妙ありとなむ  梁苑(りやうゑん) 梁園秋竹古時煙(りやうゑんのしうちくこしのゑん) 城外風悲(しやうくはいかせかなしんて)欲(ほつする)_レ 暮(くれんと)天(てん)万乗(はんせうの) 旌旗何処在(せいきいつれのところにかある) 平台賓客(へいたいのひんかく) 有(あつてか)_レ誰(たれ)憐(あわれまむ) りやうゑんの竹は古時(こし)孝王(こうおう) のことくあいかわらすしけつて あるばかりて古時(こし)のけいしよく【景色】 のとほりじやこうおうの時 けつこうなことてありつらふか 城ぐはいを見れはくれがたにあき のものすごい風がふいて あれはてゝものかなしいていじや 孝王(こうおう)のさかんなるときは天子 どうせんであつたゆへばんしてん しのまねをなされてござ つたが今はあとかたもない其 しふんは相如(しよくじよ)鄒陽(すうやう)ことき のぶんじんさいしを むかへあいせられたと いふが孝王のことき ひとあらばわれも 相如なとのことく もちひられやうにと なりくわしくは 掌故(せうこ)又は講釈(かうしやく)本を 見るへし 【挿絵】 【挿絵】     芙蓉楼(ふようろうにして)送(おくる)_二辛漸(しんせんを)_一  王昌齢(おうせうれい) 寒雨(かんう)連(つらなつて)_レ江(こうに)夜(よる)入(ゐる)_レ吳(こに)平明(へいめい)送(おくつて)_レ客(かくを)楚山孤(そさんこなり)洛陽(らくやうの) 親友如相問(しんゆうもしあいとはゝ)一片氷心(いつへんのへうしん)在(あり)_二玉壺(きよくこに)_一 われ今させんのみ【身】てあめふりのさむいしふんにあめにうたれなから川はたとをりをよるそこくよりごこくへ ゆくこのところでこなたにであふてふようろうにのほり夜あけかたのおりふしかくをおくつて見れはそこく のかたに一ツはなれた山があるゆへいよ〳〵おもひをそゆる事甚しいもしあの方らくやうへゆきついてとも たちともがぶしじやかどふしているそととふたらばむかしみやこにいたときはふうきをもたのみにしたが 今はわが一へんの心かたまのつほのこほりのことくさつはりとしてふうきをねかわぬから都へゆくきはないといわれへ    送(おくる)_三薛大(せつだいか)赴(おもむく)_二安陸(あんりくに)_一 王昌齢(おうせうれい) 津頭雲雨(しんとうのうんう)暗(くらし)_二湘山(せうさんに)_一遷客離憂楚地顏(せんかくのりゆうそちのかんばせ) 遥(はるかに)送(おくる)_二扁舟(へんしうを)_一安陸郡(あんりくぐん)天辺何処穆陵関(てんへんいづれのところかぼくりやうくはん) 今こなたを■【おヵ】くるわたしはで見ればおりふし風雨のしふんゆへせうさんなともうんうにとぢられて 見へぬそちのかんはせとは楚辞(そじ)ではうれいにかゝるといふ事になるがこゝではやはりりへつのうれいをいふ われさせんの身なれはこのそこくのちに顔色憔衰の境ておくれはわが身にそへて一入かなしい◦舟にのりあん りくへゆくおおくる事じやあまりなこりおしさにあとかけを見れは雨かくらふしてあんりくくんよりほくりやう くはんは高い処ゆへこの処より天にそびへ見ゆるが今日は雨や雲てみへぬゆへ別してなこりおしい 醉別江楼橘柚香(ゑいわかるこうろうきつゆこうはし)江風(こうふう)引(ひいて)_レ雨(あめを)入(いつて)_レ船(ふねに)涼(すゝし) 憶君遥(おもふきみははるかに)在(あつて)_二湘山月(せうさんのつきに)_一愁(うれい)_二-聴(きいて)清猿(せいゑんを)_一夢裡長(ほうりになかからん) 送(そう)_二別(へつす)魏三(きさんに)_一                王昌齢(おうせうれい) 【挿絵】 今こなたのちやうしや【長沙】のかたへゆかるゝゆへにしゆゑんをもよほしこのこうろうてゑつてわかるゝころしもあき ゆへきつゆなともじゆくして香はしうにほふじふんこなたこの処よりのりゆく舟のうへを江風がふいて あめをひいてすゝしい◦ゆくさきのかくしうをおもひやりこれからせうさんあたりへゆかれたならはつ きを見てさへあわれにおもふものしやにさるのこゑのすみわたつてなかくなくのをゆめの夜 すからきかれたならは夜もねられすうれいていらるゝであらふいたわしい事じや        委しくは箋註又は講釈の本を嵩山房でもとめ見るへし    盧渓(ろけいに)別(わかる)_レ 人(ひとに)    王昌齢(おうせうれい) 武陵渓口(ふりやうのけいこう)駐(とゝむ)_二扁舟(へんしうを)_一渓水(けいすい)随(したかつて)_レ君(きみに)向(むかつて)_レ北(きたに)流(なかる) 行(ゆいて)到(いたつて)_二荊門(けいもんに)_一 上(のほらは)_二 三峽(さんきやうに)_一莫(なかれ)_下将(もつて)_二孤月(こけつを)_一対(たいする事)_中猿愁(ゑんしうに)_上 ふりやうけいから舟にのりゆるゝか【「ゆかるゝか」ヵ】あまりなこりおしいゆへ舟をとゝめてけいすいを見れはうらやましい水は こなたについてきたへなかるゝがおれは水にもおよはぬしたいゆく事かならぬさんねんじや◦けいもんあたりへ ゆき三こうなどへのほつたならはさるのたくさんな処じやが目に月を見みゝにはさるをきかれた ならはうれいそへてさびしかろふほとにかまへて孤月をもつてさるの声にたいしてきくやふな事をせらるゝな 月夜さしのしふんにはひとしほさるもなくものじやほとにくわしくはせんちうを見るへし 【挿絵】    重(かさねて)別(わかるゝ)_二李評事(りひやうじに)_一         王昌齢(おうしやうれい) 莫(なかれ)_レ道(いふこと)秋江離別難(しうこうりへつかたしと)舟船明日是長安(しうせんめいしつこれちやうあん)呉姫緩舞留(ごきくはんぶしてとゝめて) _レ君醉(きみをゑはしむ)隨意青楓白露寒(すいいなれせいふうはくろのかん)《割書:たひたちかのびているゆへ二ども三どもわかるゝを|てうべつといふなり》 《割書:まいかたからわかれをいゝいたしてこのころまては秋江の風(ふう)はを見あわせていたからきうにはわかれはせまいとゆふたを|たのみにしていたがもふ明日はわかれねばならぬいふ事なかれなせなれは明日は舟にのり長あんへゆかるゝこよひ|はせめての事にゆるりとぎじよにまひなどをまわせて酒もりをするじやたのしんで下されよこのりへつ|の川はたの青楓の木かけの寒(さむ)くともずいいにまゝよやれとおもひなこりをおしみ酒もりをする事じや》 【挿絵】 少年行(せうねんかう)   王維(おうい) 出身(しゆつしん)仕(つかふ)_レ漢(かんに) 羽林郎(うりんらう)初(はしめ) 隨(したかつて)_二驃騎(ひやうきに)_一戦(たゝかふ)_二 漁陽(きよやうに)_一孰知(たれかしらん) 不(さる事を)_下向(むかつて)_二辺庭(へんていに)_一 苦(くるしま)_上縱死猶(たとへしすともなを) 聞(きかん)_二俠骨香(きようこつのかうはしきを)_一 しゆつしんとは名目(めいもく)文字(もんじ)なり おやなとのうちしに【討死】した子ともをは うりんらうにしてめしいたしぶ げいなとをたしなませる事じや われもせうねんのころよりうりん のぶくわんにめしたされててうてい につかへていたはじめひやうきせうくん なとゝいふやうな大将にしたかつて 一トいくさしてきたである◦わきか ら人が見たならば漁陽(きよやう)あたりでさぞ せひをつくしかつせんしつらふとおもふがお れはいのちすてゝたゝかひはせぬ夷(ゑひす)を 相手(あいて)にいのちはすてぬたとへしすとも 都(みやこ)て我壱人(われひとり)といはるゝほどにこうを たてゝしゝても骨(ほね)迄/香(こうばし)い名(な)のた つほどてなけれはおもしろくない 独(ひとり)在(あつて)_二異郷(いきやうに)_一為(なり)_二異客(いかくと)_一毎(ことに)_レ逢(あふ)_二佳節(かせつに)_一倍(ます〳〵)思(おもふ)_レ親(しんを) 遥知兄弟(はるかにしるけいてい)登(のほる)_レ高(たかきに)処(ところ)遍(あまねく)插(はさんて)_二茱萸(しゆゆを)_一少(かくらん)_二 一人(いちにんを)_一 【挿絵】 九月九(くくはつく) 日(じつ)憶(おもふ)_二山(さん) 中兄弟(ちうのけいていを)_一  王維(おうゆい) たこくにいてつくりし詩なりおういが十七さいのときのさくなりおやきようたいともにこきやう にいるにわれひとりたこくのいかくとなりたひすまひをする事じやかとおもひいたす 九日にはさためてあいともにさけなとをのんているであろふがわれひとりきやうたいのなか でかけているゆへさぞとふしているやらとおもふてくれるであろふといふてこの方からいよ〳〵むかふ をおもふがきこゆる親(しん)といふはおやきやうだい一けぢうのことをいふ 与(ともに)_二盧員外象(ろいんくはいせうと)_一過(よきる)_二 崔処士興宗林(さいしよしきやうそうかりん) 亭(ていに)_一      王維(おうい) 緑樹重陰(りよくしゆちよういん)蓋(おゝう)_二 四鄰(しりんを)_一青苔日(せいたいひゝに) 厚(あつうして)自(おのつから)無(なし)_レ塵(ちり)科(くは) 頭箕踞長松(とうにしてききよすちやうしようの) 下(もと)白眼(はくがんにして)看(みる)_二他(たの) 世上人(せしようのひとを)_一 さいしよしはくわんにつかすやまや しきなとのやうなところへとぢ こもつているりよくしゆがいくゑ もしけりてしりんのとなりもあ ろふがりよくしゆがおゝふてあるゆへ みへぬしつかなところじやにわのせいたい しばくさなどもひとのゆきゝなく はきそうちもせねともおのづからちりも なくけだかき人ゆへめつたな人にはつき あわぬ◦くはとうとはちらしかみをいふきゝ よとは足をふみのばしている事なり ふうりうなひとてよにもとめもなく かんむりもきすちらしがみて長松の もとにあしをなけたしているいちう になんにもかまわぬさまをけいやう す世けんのものにひとりもきにいつ たものがなけれは白眼(にらみ)つけて いらるゝゆへにたれゆきゝするもの もない くわしくは掌故(せうこ)箋註(せんちう)国字解(こくしかい) など嵩山房にもとめ見るへし ○又唐詩選講釈にも      くわしく有り 【挿絵】    送(おくる)_二韋評事(いへうじを)_一    王維(おうい) 欲(ほつして)_下逐(をつて)_二將軍(しやうくんを)_一取(とらんと)_中右賢(ゆうけんを)_上沙場(しやじやう)走(はしらしめて)_レ馬(むまを)向(むかふ)_二居延(きよゑんに)_一 遥知漢使蕭関外(はるかにしるかんししやうくはんのほか)愁見孤城落日辺(うれいみるこしやうらくじつのへん) こんとこなたはへんさいのたいしようをあとをおつて右けんのゑひすの大将をとりこにしやうとおもつていさ みすゝんてきよゑんの方へむけおもむかるゝなにのやうすもしらすきしやうにしていかるゝかはるかにせうくはん あたりへゆきてこしやうのくれかたにはものさびしくこきやうの事ともをおもひ出されたならはあわれ にうれいていらるゝてあろふなか〳〵はしめいさむたやうにはあるまいくわしくは掌故にあり 【挿絵】 【挿絵】  送_三沈子福之_二江南_一 楊柳渡頭行客稀罟師盪_レ槳【䉃】向_二臨 圻_一唯有_三相思似_二春色_一江南江北送 _レ君帰       王維 -------------------------------------------------------------------------------- やうりうととうかうかくまれなりこしかぢをおしてりんきにむかふ。 たゞそうしのしゆんしよくににたるあつて。こうなんこうほくきみをおくつて かへる。  しんしふくが。こうなんにゆくをおくる。    おうい -------------------------------------------------------------------------------- 江北(こうほく)から江南(こうなん)のかたへゆくなり。ほんかいどうもあろふが。今こなたおくるところの渡(わた)りは。 ほんかいとうてはないから。行客(こうかく)のゆきゝもすくない。罟師(こし)は漁人(きよじん)なり。臨圻(りんき)は川 岸(きし)のてはつれなり。漁人(きよしん)が舟(ふね)をこひて行水(ゆくみつ)をわたすなり。なこりおしさにあとかけ を見のそむなり◦さて江南(こうなん)ははるのさいちうで。春色(しゆんしよく)のないところはない。わが相思(そうし)の情(じよう)はくち でいふてもしるしない。どこもかも春色(しゆんしよく)のあるを見て。わがしやうのかきりないをおもひ やつてくれられい。こゝろさきへ身(み)はもとるゆへ。送(おくつて)_レ君(きみを)帰(かへる)とはいふなり         くわしくは国字解又は箋註掌故等をけみししるへし 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本 《割書:七言絶句》四》 【小題】春風     春思(しゆんし)     賈至(かし) 艸色青々柳色黃(そうしよくせい〳〵としてりうしよくきなり)桃花歴乱李花香(とうくはれきらんとしてりくはこうはし) 春風(しゆんふう)不(す)_二為(ために)吹(ふき)_レ愁(うれいを)去(さら)_一春日偏能(しゆんじつひとへによく)惹(ひいて)_レ恨(うらみを)長(なかし) はるもさかりのていをいふ。くさのいろもあをく。やなきもきばんで。めさすじふん。とうくはもさきみだれて はるのさかりなれは。なんのかなしい事もない。このやうにはなも。はるじやとこゝろよくさき。人もはると おもふておもしろくなくさみ。はるかぜのふかぬ事もないが。なせわがうれをはふきちらしてはくれぬ ぞ。はるの日のなかいに付て。あさからばんまで。ひとへにうれいがしみついてはなれぬと也 紅粉(こうふん)当(あたつて)_レ壚(ろに)弱柳垂(しやくりうたるゝ)金花臘酒(きんくはろうしゆ)解(けす)_二酴醿(どびを)_一 笙歌日暮能(せうかじつほよく)留(とゝむ)_レ客(かくを)酔殺長安軽薄児(すいさいすてうあんけいはくのじ)  【挿絵】其二 こうふんのひしよ【美女】かさけのうりばのろにあたつて柳なとがせい〳〵とたれしけつてある。かんつくりのさけのうへにきんくは のうかむやふなきんくははよひさけの事どびのやうな名たかひさけとかてんしてのむにもきこゆる又さけにときてのませる にもきこゆぎじよなどかせうかやまひなとをして日がくれると大ぜいとりこんでさかもりをするそれ ゆへけいはくのじともがぜうちうこの処で酒にゑひたわむれていれともわれはおもしろくないゆへたのしますと也    西亭春望(せいていのしゆんほう)    賈至(かし) 日長風暖柳青々(ひなかくかせあたゝかにしてやなきせい〳〵)北雁帰飛(ほくかんきひして)入(いる)_二窅冥(ようめいに)_一 岳陽城上(かくやうしやうしやう)聞(きく)_二吹笛(すいてきを)_一能(よく)使(して)_二春心(しゆんしんを)_一満(みたしむ)_二洞庭(とうていに)_一 はるのあたゝかなしぶんゆへ柳もせい〳〵とめさしてかりかねもきたへかへるをはやはるもすへなれはかりも とびつきてはてもないおゝそらにいりこきやうへおとつれもならぬとみやこの事をおもふている ◦この春心(しゆんしん)のうちにはなにやかやこめてある左遷(させん)の事も春(はる)をいたみかなしむ事もこもりある也たゝさへに こゝろあしいに笛(ふゑ)をきけはうれいをひきおこしはるをかんする心をして満(みつ)_二洞庭(とうていに)_一とこもかもうれいになつた 【挿絵】 初(はしめて)至(いたり)_二巴陵(はりやうに)_一与(と)_二李(り) 十二白(じうじはく)_一同(おなしく)泛(うかふ)_二洞(とう) 庭湖(ていこに)_一 賈至(かし) 楓岸紛々落(ふうかんふん〳〵としてらく) 葉多(やうおゝし)洞庭秋(とうていのしう) 水晚来波(すいはんらいになみたり) 乗(しやうして)_レ興(きやうに)軽舟(けいしう) 無(なし)_二近遠(きんゑん)_一白雲(はくうん) 明月(めいけつ)弔(とむらふ)_二湘娥(せうがを)_一 南国(なんこく)のはりやうあたりへ させんせられてきたり ◦楓岸(ふうがん)粉々(ふん〳〵)みな楚辞(そじ)の 字なりあきのじぶんゆへ きしのもみぢなともふん〳〵と ちりみだしきのはもおちて さひしくなりし水(みづ)の面を見れ ば秋風(あきかせ)がふくゆへなみもたち なにとなふ屈原(くつけん)がこともおもひ いづる 左遷(させん)の身なれは二人ともに 心(こゝろ)を得す屈原(くつけん)と同(おな)し 境界(きやうがい)じや 舟にのり遠近(ゑんきん)のしやへつ【差別】 もなくのりまわしてこの やうにはてしもなく居(い) たらば白雲(はくうん)のはれた明月(めいけつ) の夜(よ)すがらは湘君(せうくん)のびやう をもとむらいそふなもの じや くわしくは国字解(こくじかい)に有  送(おくる)_三李侍郎(りじろうが)赴(おもむく)_二常州(じやうしうに)_一 雪晴雲散北風寒(ゆきはれくもさんしてほくふうさむし)  楚水吳山道路難(そすいごさんとうろなん) 今日(こんにち)送(おくる)_レ君(きみを)須(すべからく)【左ルビ「へし」】_レ尽(つくす)_レ醉(ゑひを)  明朝相憶路漫漫(めうてうあいおもふともみちまん〳〵)            賈至(かし) 冬(ふゆ)と見(み)へてふつたゆきかはれ雲もはれ せつごの事ゆへきたかせふいてさむくもの すこいしふん常州(せうしう)へゆかるゝそのみちは へいちもなく道路難(とうろかたし)の しごくゆきにくきみち   すからである 今日さけをすゝむるから     十ぶんのんでゑひを つくされよなせなれは   明日わかるゝ身なれはもふ いつ逢(あ)ふ事やらしれぬ   路(みち)漫々(まん〳〵)ととをい       ところへ  ゆかるゝなれは    相逢(あいあ)ふ事も  はかりかたい 胡 済鼎(さいてい)かいわく 此詩(このし)王維(おうい)が元二(けんじ)か 安西(あんせい)へつかいするにおくる 詩(し)と相類(あいるい)する蓋(けたし) 明朝相憶路漫(めうてうあいおもふともみちまん)々なる事を おもふゆへに今日(こんにち)須(へし)_レ尽(つくす)_レ酔(ゑひを) 西(にしのかた)出(いてゝ)_二陽関(やうくはんを)_一無(なからん)_二故人(こじん)_一とおもふ ゆへに勧(すゝむ)_レ君(きみに)更尽一杯酒(さらにつくすいつはいのさけ)と なむいへり【挿絵】 かくやうろうは西北(にしきた)のかたちやうしやは。とうていのみなみのみつのはてゆへかくやうろうのあるところよりは まだみなみじや。とうていこのきたの方には江水(こうすい)つゞきなかるゝがかくやうろうより見れはとうていの こうすいかぎりひかしのかたへつらなりつゞきて。びやう〳〵とせんりにうしをがみちてある。このところ を舟にのりゆかるゝがおりふし青雲(せいうん)のそらをあをいて北地(ほくち)のみやこの方をのそめは。みやこのそらにあたる【「あたる」は「ある」ヵ】 しびゑんのほしなとが。とをく見へてどこともしれぬ。とも〳〵にみやこからとをいところへきている われもそなたも。とをいところへきている 空洞(くうとう)となにもない西(にし)の方からきたの方まてさわりはない員外(いんくはい)かいゝふんにして。かくやうから。ちやうしや までなにもない湖(こ)すいつゝきじやから朝(あさ)舟にのりはんかた【晩方】帰らるゝといわるゝがかくやうあたりでさい。さびしい にこれよりひかしの長沙南畔(ちようしやなんはん)のあたりへ行(ゆき)たらばいよ〳〵都(みやこ)はとをくなりこゝろほそかろふとなり 岳陽楼(かくやうろうにして) 重(かさねて)宴(ゑん)-別(へつす)_三 王八員(おうはちいん) 外(くはいが)貶(へんせらるゝに)_二長(ちやう) 沙(しやに)_一   賈至(かし) 江路東連(こうろひんかしにつらなる) 千里潮(せんりのうしを) 青雲北望(せいうんきたにのそめは) 紫微遥(しびはるかなり) 莫(なかれ)_レ道(いふこと)巴陵(はりやう) 湖水闊(こすいひろしと) 長沙南畔(ちやうしやなんはん) 更蕭條(さらにせうじやう)【挿絵】 【挿絵】    封大夫(ふうたいふ)破(やふる)_二播仙(はんせんを)_一凱歌二首(がいかにしゆ)  岑参(しん〳〵) 漢将(かんしやう)承(うけて)_レ恩(おんを)西(にし)破(やふる)_レ戎(ぢうを)捷書先奏未央宮(せうしよまつそうすびようきう)天子預(てんしあらかしめ)開(ひらいて)_二麟(りん) 閣(かくを)_一待(まつ)祗今誰(たゝいまたれか)数(かぞへん)_二貳師功(じしのこうを)_一《割書:播仙(はんせん)は西域(せいいき)のゑひすなり|凱歌(がいか)はてがらをしてかへる事なり》 《割書:そうたいしようにおゝせつけられ御目かねとをりなんのくもなく打ほろほしてきた◦せうしよはゑ|ひすをほろほしたといふはやおいのせう状なり。しゆびよくうつてまいつたといふ状をみなのかへらぬ|さきにてんしへそうもんする事じやせう状なとのきたときはみかともびようきうで御らんなさる事じや|△なんでもみやこへのほつたならはみかとのほうびを下さるであろふみかともかへらぬさきからりんかくをひらき|まつてごさるこんどのてがらはなか〳〵貳師(じし)廣利(くはうり)の功(こう)はばくたいなれどかぞふるにたらぬ勝(すくれ)た手柄(てから)じや》    其二 日落 ̄テ轅門鼓角鳴 ̄ル千群面-縛 ̄シテ出_二 ̄ツ蕃城_一 ̄ヲ 洗_レ ̄テ兵 ̄ヲ魚-海雲迎_レ ̄ヘ陣 ̄ヲ秣_レ ̄テ馬龍-堆月照_レ ̄ス営 ̄ヲ -------------------------------------------------------------------------------- ひおちてゑんもん。こかくなる。せんぐんめんはくして。はんじやうをいづ。へいをあら つてぎよかい。くもぢんをむかへ。むまにまくさかふて。りやうたい。つき ゑい をてらす -------------------------------------------------------------------------------- ゑんもんはちんやのもんなり。ひくれじふんには。かいぢんを。たいこをうつてかへる。ゑひすのかた のこうさんのものとも。てまへでなわをくゝり。ばんじやうよりひきいだされている。 ◦こんにちめでたふ。ぎよかいあたりへきたじふん。雲雨(うんう)がこのほうのぢんを。むかへるやふ にして。くだつてきたが。あれは。へいをあろふ。ずいう【瑞雨】と見へた。ゑひすのいくさが おさまつたれは。なんのきづかいもなく。りやうたいあたりで。むまにまくさかへば。 月がゑひをてらすと也。くわしくはこくじかいを見るへし 【挿絵】    苜蓿烽(もくしゆくほうにして)寄(よす)_二家人(かじんに)_一  岑参(しん〳〵) 苜蓿烽辺(もくしゆくほうへん)逢(あふ)_二立春(りつしゆんに)_一葫蘆河上涙(ころかしようなんた)沾(うるほす)_レ巾(きんを) 閨中只是空相憶(けいちうたゝこれむなしくあいおもふ)不(す)_レ見(み)_三沙場(しやしように)愁(しう)_二-殺(さいす)人(ひとを)_一 へんさい【辺塞】のとうちうで。はるのけいしよくになり。はやはるになつたかとかんして。きよねんのりつしゆん は。さいしどもと一しよにいたがとおもふて。こきやうの事をおもふて。かなしめば。なみたのかわく まもない。けいちうで。さだめてわれをおもふて。うれうるであろふが。むだ事じや。此方 が今この。たびのうれいといふものは。たゑがたい。此しやじようのありさまを。しらぬ ゆへなにともおもふまいが。みたなら。なを〳〵かなしかろふとなり 【挿絵】   玉関(きよくくはんにして)寄(よす)_二長安李主簿(ちやうあんのりしゆほに)_一  岑参(しん〳〵) 東(ひんかしのかた)去(さること)_二長安(ちやうあん)_一万里余(はんりよ)故人那惜一行書(こじんなんそおしむいつこうのしよ)玉(きよく) 関西望腸(くはんせいぼうすれははらはた)堪(たへたり)_レ断(たふるに)況復明朝是歲除(いわんやまためうてうこれさいじよなるをや) ひかしのかたてうあんをさり。ばんよりの。ゑひすのさかいの。玉(きよく)もんまできているに。こなたなどが せめて状でもこして。くれそふなもじや。どふして一ふでおこしてくれぬぞ ◦きよくもんのほうから。さきへは。なんぼうあるやらしれぬが。このところへゆかねばならぬ と。おもへばはらわたがたへるやふな。このかなしみをおもひやつてくれられへ。そのかなしみ だにあるに。たびさきにて歳除(さいじよ)にあい。としをこゆる事なれは。いよ〳〵かな しみをせうする事ではあるとなり。くわしくはせんちう〳〵 【挿絵】     逢(あふ)_二入(いる)_レ京(きやうに)使(つかいに)_一    岑参(しん〳〵) 故園東望路漫々(こゑんひんかしにのそめはみちまん〳〵)双袖龍鍾涙(そうしうりやうしやうとしてなんた)不(す)_レ乾(かわか) 馬上相逢(はせうにあいあふて)無(なし)_二紙筆(しひつ)_一憑(よつて)_レ君(きみに)伝語(てんごして)報(ほうせしむ)_二平安(へいあんを)_一 われこのへんさいへきていれば。こきやうのみちはまん〳〵ととをい事じや。みやこへのつかひにあふ たれば。なにかをわすれて。両方のそでになみたをうるをして。かわくまもない。りやうしやうとゆき やらず。つかひをうらやましく。こきやうへ状をたのみたけれど。馬(むま)のうへなれは。紙筆(かみふで)は なし。たゝこなたによつて伝言(でんごん)するほどに。すいぶんそくさいでいると。いふてくれられい 【挿絵】  磧中作(せきちうのさく) 走(はしらしめて)_レ馬(むまを)西来(せいらい)欲(ほつす)_レ 到(いたらんと)_レ 天(てんに) 辞(じして)_レ家(いゑを)見(みる)_二月両(つきのりやう) 回円(くはいのまとかなるを)_一 今夜(こよい)不(す)_レ知(しら)何(いつれの) 処宿(ところにかしゆくせん) 平沙万里(へいしやはんり)絕(ぜつす)_二 人煙(じんゑんを)_一 御用(ごよう)ゆへすいぶんいそいで。むまをはし らしめてのほれば。しだいにたかくて。 てんへのほるやうな。いゑをぢして。 このどうちうへ出てから。十五日を 二どへたゆへ。ふたつきになる とこにとまろふやら    ばんりひやう〳〵と            して 平沙(へいしや)はるかにして    ひとのいゑも見へず   とこをたのむへき         ところも            ない おゝかたこの   沙上(しやしやう)にしゆくするで        あろふさて〳〵  こゝろぼそい        事ではあると也 【挿絵】  虢州 ̄ノ後亭 ̄ニシテ送_三 ̄リ李判官 ̄カ使 ̄ヒシテ赴_二 ̄クヲ晋絳_一 ̄ニ得_二秋字_一 岑参 西原 ̄ノ駅路掛_二城頭_一客散_二紅亭_一 ̄ニ雨 未(イマ)【左ルビ「ス」】_レ ̄タ休君去 ̄テ試 ̄ニ 看 ̄ヨ汾水 ̄ノ上白雲猶似_二 ̄ン漢時秋_一 ̄ニ -------------------------------------------------------------------------------- くわくしうの。こうていにして。りはんくはんが。つかひして。しんこうに。おもむくをおくる。しうのじを得(ゑ)たり。 せいげんのゑきろしやうとうにかゝるかくこうていにさんしてあめいまたやます きみさつてこゝろみに見よふんすいのうへはくうんなをかんしのあきににん -------------------------------------------------------------------------------- 後亭(こうてい)とはくわく しうのしろの うしろにある ていのことなり 西原(せいけん)の城(しろ)より うへに山をかけて 海道(かいとう)があるゆへ かゝるといふなり 江亭まておくつてきた 客もみなかへりさひしく なり。まして雨もやます うそさびしいじせつ道中 せらるゝさぞさひしかろふ 扨その道(みち)すし汾水(ふんすい)あたり には漢(かん)の武帝(ふてい)の古(こ)せきが ある君(きみ)去(さつ)てこゝろみに 見られよかんのときの人は あとかたもあるまい 白雲(はくうん)はかりは 漢(かん)のときにかわる まい楼船(ろうせん)をうかむと いふやうな事はあるまい このやうの事を見られた ならは  いにしへをかんして なをかなしかろふと       なり くわしくは    掌故せんちうに       あり 【挿絵】 われはにしへゆくに。 にしのたかきかたより。 ひかしへむいて。かへる ゆへ。てんくはいより かへるといふ。 みやこへ帰る事 ゆへ。むまをたゝ きたて。とりの ことくはやくいそ いて。かへらるゝうらやましい。 そこもとは。かへらるゝから うれしかろふが。われはかへ る事もならぬ。この 交河(こうか)のきたにいて。いま このところで。こなたを おくり見れは。さむいじふんで はや。ゆきがある。このゆきを見 なから。詩(し)をつくり。おくるについても われは。このやうな。さむいところへ きているが。こなたはかへらるゝが。 われはいつかへる事じややら。また いつあふやらしれぬと。   おもへばかなしうなり。     なみた。ころもにみつと也  送(おくる)_二 人(ひとの)還(かへるを)_一レ京(きやうに) 匹馬西来天外(ひつばせいらいてんくはいより) 帰(かへる)揚(あけて)_レ鞭(むちを)只(たゝ)共(ともに)_レ鳥(とりと) 争(あらそふ)_レ飛(とぶことを)送(おくる)_レ君(きみを)九月(くくはつ) 交河北(かうかのきた)雪裡(せつり)題(たいして)_レ 詩(しを)涙(なみた)満(みつ)_レ衣(ころもに) 【挿絵】 【挿絵】  赴(おもむき)_二北庭(ほくていに)_一度(わたつて)_レ隴(ろうを)思(おもふ)_レ家(いゑを) 西(にしのかた)向(むかふこと)_二輪台(りんたいに)_一万里余(はんりよ)也知鄉信(またしるきやうしん) 日(ひゝに)応(まさに)【左ルビ「へし」】_レ疎(そなる)隴山鸚鵡能言語(ろうさんのおうむよくげんごせは)為(ために) 報家人数(ほうせよかじんしば〳〵)寄(よせよと)_レ書(しよを)  岑参(しん〳〵) --------------------------------------------------------------------------------- われこのところへゆくに。にしのかたりんたいのかたを見れはばんりよまたはる〳〵の事じや。こゝら さへたよりがないに。いよ〳〵またしる郷信(きやうしん)がしだいにとをさかりたよりをきく事も なるまい。ろうざんあたりはおうむのあるところじやこれからは状文のたよりのない 処じやとおもふから。こきやうのさいしに状をおこせといふてくれ大かた十(とを)のものが ひとつならではとゝかぬひとたよりのないところじや。おふむのことく はねでもあつてとんでくるよりほかはないくわしくは国字解(こくしかい)を見るへし 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本 《割書:七言絶句》五》 【小題】胡笳  酒泉太守席上酔後作(しゆせんのたいしゆのせきしようすいこにさくす)  岑参(しんしん) 酒泉太守能剣舞(しゆせんのたいしゆよくけんふす)高堂置酒夜(かうとうちしゆしてよる)撃(うつ)_レ鼓(つゝみを) 胡笳一曲(こかいつきよく)断(たつ)_二 人腸(ひとのはらはたを)_一坐客相看涙(さかくあいみてなみた)如(ことし)_レ雨(あめの) くんちうのさかもりゆへ。なまぬるくてはすまぬとて。つるぎのまいなどをする。さいさんとりだしてする ゆへ。よくといふ。夜なども。どうにのぼりよあけまて。さかもりをして。うたへは。まへは。なにこゝろなく たのしむ事じや。これまては。きしようでありしが。まいのはてをきけば。胡笳(こか)のこゑかする。これをきけは愁(うれい)を ひきおこし。坐中(ざちう)かほとかほとを見あわせて。こきやうの事をおもひ出して。なみたをはら〳〵とながしている 【挿絵】 【挿絵】  送(をくる)_三劉判官(りうはんくはんが)赴(おもむくを)_二磧西(せきせいに)_一    岑参(しん〳〵) 火山五月行人少(くはさんごくはつこうじんまれなり)看君馬去疾(みるきみかむまさつてときこと)如(ことし)_レ鳥(とりの) 都使行営太白西(としのこうゑいたいはくのにし)角声一動胡天暁(かくせいひとたひうこくこてんのあかつき) 西域(せいいき)のくはさんを五月じふんとをり見れはたびひとがひとりも通らぬさびしいところじや。いまこなた はむかふのやうすをしらぬゆへ。たゝひとりきしやうにむまをとばせてゆかるゝがこなたのゆか るゝ行営(こうゑい)のぢんやは太白山(たいはくさん)のにしでゑびすへちかいところなれはこてんのあかつきかたに どこともなく角(かく)をふきあけたらばかなしかろふはしめむまをとばせたやふではあるまいとなり 【挿絵】     山房春事(さんほうのしゆんじ)    岑参(しんじん) 梁園日暮乱飛鴉(りやうゑんじつほらんひのあ)極目蕭條三両家(きよくもくしようしやうたりりやうさんか)庭樹(ていじゆは) 不(す)_レ知(しら)人去尽(ひとさりつきることを)春来還発旧時花(しゆんらいかへつてひらくきうじのはな) いにしへははんしやうな事てありつろふが。今は人のゆきゝもなくひくれかたにはからすがむれとんている極目(きよくもく)とむかふ のはてまて目をきわめて見れはしやう〴〵とものさひしくたゝ野人(やじん)のいゑいが二三げんもみゆるばかりじや この処になんのきもなくある木はいにしへのりやうゑんのにわ木なれともそのにわをあいしたひともすきさり たれあいする人もなけれどはるになればむかしの枝(ゑだ)にひらき見る人もないくわしくは講釈の本を見るへし    寄(よす)_二孫山人(そんさんしんに)_一   儲光羲(しよくはうき) 新林二月孤舟還(しんりんじけつこしうかへる)水(みつは)満(みち)_二清江(せいこに)_一花(はなは)満(みつ)_レ山(やまに) 借問故園隠君子(しやもんすこゑんのいんくんし)時々来往(じゝらいおうして)住(じうすかと)_二 人間(にんげんに)_一 しんりんは地名(ちめい)なり。はるけしきおもしろかろふとおもひこきやうのしんりんのうらべに二月(にげつ)じふんふねにさほ さして帰りてあれは春水もせい〳〵とたゝへてみゆるはなもまつさい中て山々に見るにさいてあるさためてそん さんじんもこれを見ていらるゝであろふなんでもあわふとおもひたつねたればおもひのほかとこへか行ていられぬ 隠君子(いんくんし)なれは人間(にんけん)にましわりそふもないものじやが人間にも住居(じうきよ)していらるゝかてんのゆかぬ事でこそあれ 【挿絵】     贈(をくる)_二花卿(くはけいに)_一    杜甫(とほ) 錦城糸管日粉々(きんしやうのしくはんひゞにふん〳〵)半(なかはは)入(いり)_二江風(こうふうに)_一半(はかはは)入(いる)_レ雲(くもに) 此曲祗(このきよくたゝ)応(へし)_二 天上(てんしやうに)有(ある)_一 人閒能(にんけんよく)得(ゑん)_二幾回聞(いくたひかきく事を)_一 しよくのみやこで。このころのしくはんは。なかばは江風(こうふう)なとにしたがい。なかばは雲(くも)に入て。天(てん)にもひゝきわたる。この きよくといふは。じたい民間(みんかん)できくことはならぬ。このやうなる音(おん)の妙(たへ)なるきよくは。玄宗(けんそう)こときの天子(てんし)の 御きゝなさるゝきよくなれば。人間世(にんけんせい)ではなか〳〵つね〳〵きくことはならぬ。花(くは)けいか。ごされはこそきくであると也。 花(くは)けいは御かゝへの大将(たいしやう)とみゆれども。妓女(きじよ)の事に見てもよい◦此画(このゑ)は当時(とうじ)妓女(きじよ)の此詩(このし)をもて。歌(うた)にいれかゝする図(づ)なり【挿絵】 重(かさねて)贈(おくる)鄭錬(ていれんに)      杜甫(とほ) 鄭子(ていし)将(まさに)【左ルビ「す」】_レ行(ゆかんと) 罷(やむ)_二使臣(ししんを)_一 囊(のうに)無(なし)_三 一物(いちぶつの) 献(けんづる)_二尊親(そんしんに)_一 江山路遠(こうさんみちとをし) 羈離日(きりのひ) 裘馬誰(きうばたれか)為(たらん)_二 感激人(かんげきのひと)_一 このひとはこきやうへゆかん とてくわんをやめてゆか るゝがけつこうなるひと ゆへにたみをむさほ らす一せんのたくわへ なくこきやうのおやた ちへみやけもないこれ からこきやうへかへるみち もとをくこうさんをへ てゆく事じやきうば はふうきのひとみやこに はふうきなるひともた いぶんあるがこのひとの ひんきうでけつはく なるをかんげきしあ われんでやるものも ないはぜひもないこと 事かな きりとはたびへおもむく みちすがらの事なり くわしくは 唐詩講釈にあり 【挿絵】  奉(たてまつる)_レ和(わし)_二厳武軍城早秋(げんむがぐんじやうのそうしうを)_一  杜甫(とほ) 秋風嫋々(しうふうしやう〳〵として)動(うこかす)_二高旌(かうせいを)_一玉帳(きよくてう)分(わかつて)_レ弓(ゆみを)射(いる)_二虜営(りよゑいを)_一 已(すてに)收(おさめて)_二滴博雲間戍(てきはくうんかんのしゆを)_一欲(ほつす)_レ奪(うばわんと)_二蓬婆雪外城(ほうばせつくはいのじやうを)_一 あきのことなれば。かせがじやう〳〵とふき。ちんやにたかくたてゝある。はたをなひかす。せいばつのしふんゆへ。大将のてう に大せいきているに。弓(ゆみ)をわかち。てわけをして。胡(ゑひす)のぢんへ矢をいかけて。たゝかいまいれといゝつける。はやたゝかひかつて。 てきはくのぢを。げんむが。かた【方】ておさめたれば。そのちの雲間(うんけん)のたかき所へ。戎ろうをたてゝ。ばんての ものをおく。そのかちにぜうして。ほうはせうあたりも。みなうばいとり。ばつか【幕下】にしたかへんとせらるゝ 【挿絵】  解(とく)_レ悶(もん)     杜甫(とほ) 一(ひとたひ)辞(じして)_二故国(ここくを)_一 十(とたひ) 経(ふ)_レ秋(あきを) 毎(ことに)_レ見(みる)_二秋瓜(しうくはを)_一憶(おもふ)_二 故丘(こきうを)_一 今日南湖(こんにちなんこ)采(とる)_二 薇蕨(びけつを)_一 何人為覓鄭(なんひとのためにもとむてい) 瓜州(くはしう) こきやうをでゝよりとしひさしく りよかくとなりて十ねんにもなる あきの事なれは子美(しみ)がざいしよ はうりのめいふつゆへたびて瓜(うり)を 見てもいまじふんわがさとにもよい うりがあろふかとおもひたす 今日なんこあたりへきて いてはこきやうで見なれた うりはなくしてはやはるに なりてわらびをとるとき なれはひとへにこきやうを おもひだすせめての事に ていくはぢうといふほうゆう になりともあふてなくさ まふとおもへともあふ事も ならぬたれかわがために たつねてつれてきてあわせ てくれやうぞたれもつれ てくるものはあるまい鄭瓜州(ていくはちう)と いふはでき口(くち)でこきやうの やうなうりでももつてきて くれたならばわがうれいも とけやうとなりくわしくは 唐詩講釈の書を見るへし 【挿絵】 書堂飲既夜復(しよとうのいんすでによにしてまた)邀(むかへて)_二李尚書(りしやうしよを)_一 下(おり)_レ馬(むまより)月下賦(けつかにふす)   杜甫(とほ) 湖月林風相与清(こけつりんふうあいともにきよし)  残尊(さんそん)下(おりて)_レ馬(むまより)復同傾(またおなしくかたむく) 久(ひさしく)𢬵(すつ)【扌+弃】_三野鶴(やくはくの)如(ことくなるを)_二双鬢(そうひんの)_一 遮莫鄰鶏(さもあらはあれりんけい)下(くたることを)_二 五更(ごかうに)_一 書堂(しよどう)の湖上(こしやう)の月(つき)も清(きよく)く。風色もよし。このこ せうのほとりへきて。かへるがさんねんさに。日のくれる までいて。李尚書(りせうしよ)をむかへて。またのみあました さけを。むまよりおりて。うちよつてかたむける。 わがことくさけをのめば。みたりなと人がいおふが。かま わぬ。やくはくのことくわがかしらもしらがとなりたれは。 なにといわれうとまゝよ。せけんにかまわぬきにな つた。遮莫(しやはく)とまゝよさて。となりの一ばんとりが なき五更(ごかう)の夜(よ)あけになろふとも。のみ あかさねはならぬ。ときよをいき とをりていふなり。 久(ひさしく)𢬵(すつ)【扌+弃】とは只すつる ではない。せ けんにかま はぬと いふ こと   也 【挿絵】      塞下曲(さいかのきよく)    常建(しやうけん) 玉帛朝回(きよくはくていくはいして)望(のそむ)_二帝京(ていけいを)_一烏孫帰去(をそんかへりさつて)不(す)_レ称(しやうせ)_レ王(おうと) 天涯静処(てんかいしつかなるところ)無(なし)_二征戦(せいせん)_一兵気銷(へいきせうして)為(なる)_二日月光(じつげつのひかりと) ゑひすのこくおうが。ていけいをのそみあをいできたり中ごくにきふくし玉(きよく)はくをもつて朝参(てうさん)するゆへ ゑひすも今までは王号(おうごう)をなのつていたれども烏孫(をそん)もちうごくへしたがひくだつておうとせうせず。てんの はづれまでしづかにおさまつて征伐(せいはつ)のやうな事はない軍(いくさ)があれは天(てん)に兵気(へいき)がたなびくがそれもせうし つきて日月もあきらかに輝(かゝやい)て(て)清平(せいへい)の世となつた昔(むかし)こうした事があつたよい天子(てんし)のいます時(とき)の事いふ 【挿絵】  其二(そのに) 北海陰風(ほつかいのいんふう) 動(うこかし)_レ 地(ちを)来(きたる)明(めい) 君祠上(くんしじやう)望(のそむ)_二 龍堆(りやうたいを)_一髑髏(どくろう) 尽是長城(こと〳〵くこれちやうじやう) 卒(そつ)日暮沙(じつほしや) 場飛(じやうとんで)作(なる)_レ灰(はいと) -------------------------------------------------------------------------------- めいくんしはしようくんのはかなり ゑひすのほつかいからすさましい いん風(ふう)が地(ち)をうこかして。ふき きたる。龍堆(りやうたい)はしやじよう で龍(りやう)のなりのやふなるに よつていふなり。ひやう〳〵と はてしもない処(ところ)しや。むかしより みやこからこのところへきて。 うちじにした士卒(しそつ)どもの。しがい をたれかたつけるものもなけれは。 はつこつばかりじや。くれあいに見 れは。ちりほこりとなりて風 にふきとぶ。ばんてにきている 我(われ)らも。かくのことくであろふと かんにたへられぬと也 くわしくは国字解(こくじかい)を 見るへし    送(おくる)_二宇文六(うぶんりくを)_一    常建(じやうけん) 花(はな)映(ゑいして)_二垂楊(すいやうに)_一漢水清(かんすいきよし)微風林裏一枝軽(びふうりんりいつしかろし) 即今江北還(そくこんこうほくかへつて)如(ごとし)_レ此(かくの)愁殺江南離別情(しうさいすこうなんりへつのじやう) はるの事ゆへはなもさかりに。やなきもあをやいで。かんすいにゑいじうつろふて。きよらにみゆる。このじふん はやしをふくかぜも。はけしからず。そよ〳〵ふくゆへ。はなもちらずおもしろいけしきじや。こなたのゆかるゝこう なんのかたは。はるもはやいゆへ。ゆきつかるゝじふんには。はるもすきるであろふ。こうなんのさびしい。ふうけい を見られたならば。しべつのしやうをかんじ。こうほくのふうけいをおもいやつて。うれいらるゝであろふ 【挿絵】  三日(さんじつ)尋(たつぬる)_二李九荘(りきうそうを)_一         常建(しやうけん) 雨歇楊林(あめはやむやうりん)     東渡頭(とうとのほとり) 永和三日(ゑいくはさんじつ)    盪(とらかす)_二軽舟(けいしうを)_一 故人家(こじんのいゑは)在(あり)_二    桃花岸(とうくはのきしに)_一 直(たゝちに)到(いたる)_二門前(もんせん) 渓水流(けいすいのなかれに)_一 ゆふへまてあめかふりしが 今朝(けさ)はやなきのある東(とう) 渡(と)のほとりまてはれ わたりみゆる今日はさいはい 三日(さんじつ)ゆへむかし義之(ぎし)が永(ゑい) 和年中(くはねんちう)に蘭亭(らんてい)にあそ びしことくわれも。けいしうを こきいだし友(とも)たちの処を たつねてゆくである こじんの家(いゑ)はとこぞとおもふに むかふのもゝの花のさきつれた きしにあるからこの水に 舟をうかべゆけばたゝちに 門前(もんせん)にいたりついて ふうけいをみれはもの しつかにてぶりやうの とうげんへきた やうなといふを もたせたる詩(し)也 くわしくはこくじかいにあり 【挿絵】     高適(かうてき)   九曲詞(きうきよくし) 鉄馬橫行(てつばおうかうす)鉄(てつ) 嶺頭(れいとう) 西(にしのかた)看(みて)_二邏逤(らさを)_一取(とる)_二 封侯(ほうこうを) 青海只今(せいかいたゞいま)将(まさに)【左ルビ「す」】_レ 飲(みづかわんと)_レ馬(むまに) 黃河(くはうが)不(す)_レ用(もちい)更(さらに) 防(ふせぐことを)_レ秋(あきを) われもなにをかな功(こう)をたてやうとおもふて てつばのてつよきむまにのりてつれい とうあたりをこゝやかしことかけまわり にしのかた。らさこくを目あてにして もしおごり。てむかふものも あらはうちいつてそのくにをとり たいめうになろふとおもふたに 青海(せいかい)あたりへゆきて馬(むま)に水かわふと しても胡(ゑひす)のものがかまわぬ太平(たいへい) の御世(ごよ)なれは黄河(くはうが)あたりへ秋(あき)を ふせいで中国(ちうごく)へゑひすがいらねは。する こともない。すればこうをたつることも ならぬさんねんである あきをふせぐといふはゑひすが中(ちう)こくへ いりこむしせつゆへせきしよをたてゝ ふせぐなり 【挿絵】 【挿絵】    除夜作(じよやのさく)  常建(じやうけん) 旅館寒灯孤(りよくはんのかんとうひとり)不(す)_レ眠(ねむら)客心何事(かくしんなにことぞ) 転凄然(うたゝせいぜん)故鄉今夜(こきやうこよひ)思(おもふ)_二千里(せんりを)霜鬢明朝又一年(そうびんめうてうまたいちねん)                       《割書:白雪山人書》 -------------------------------------------------------------------------------- こよいはじよやなれはこきやうにてはよもすがらともしひをおゝくともしたのしめともたひのこと なれはともしひもほそ〴〵としているゆへなにかとおもひがせうじてねられぬこれもりよかくの身のうへ てあろふ客心(かくしん)とふした事で此やふに転(うたゝ)凄然(せいせん)とものあわれにさひしくている事そわが みながらもさとられぬ今夜(こんや)は除夜(しよや)とてひとはみなにきやかにたのしめどもわれはこの様【処ヵ】に 千里(せんり)のこきやうの事をおもひいだしてかなしむこよひがあけたならは又いちねん 明(みやう)てうのとしをかさねてしらがあたまになりたひにはかりいてこきやうへかへる事も いつともしれねはいよ〳〵せいぜんとものうい事じやとなり 【跋】 書画本唐詩選後 予祖父か心さしを続前年五言絶 句画出来今年また七絶を続刻 せむことを思ふたま〳〵芙蓉 先生を訪ふに七絶の景象を 図して童蒙にあたふるあり余これ をうかゝふて先生にこふにゆるさす 百計終にこれを得よつて五絶の 体裁にならひ傍に国字解をく はへて木にのほせ侍る事とはなりぬ 寛政元年己酉の秋九月       嵩山書房小林高英識           【印「小林/氏印」「高英」】 寛政二《割書:庚| 戌》正月出板  文化十一《割書:甲| 戌》九月再板             《割書:杉田金助刻》 【上段】 唐詩選《割書:南郭先生校》全 同無点《割書:同》   二冊 同四声カナ付 三冊 同大字読書本 三冊 同掌故《割書:芸閣先生著》二冊 同箋註《割書:淡園先生著》八冊 同除言《割書:同》   二冊 同唐音附五七言絶句 全 【下段】 唐詩選夷考《割書:中南先生著|   三冊》 同艸書石摺《割書:東江先生書|   三冊》 同石摺  《割書:川保寿先生書|   三冊》 同国字解   三冊 古文孝経 《割書:春台先生校正|    全》 同《割書:正文 訓点付   全|大字 白 文   全》 同《割書:国字解 半紙本   全|片カナ付 小本   全》 同和字訓 《割書:大峰先生訓|    全》 東都書林    《割書:日本橋南二丁目|   小林新兵衛蔵板》 【裏表紙】