【表紙 題箋】 《割書:増補|頭書》訓蒙図彙大成 十 【朱の手書きにて】 雑類 【資料整理ラベル】 TIAB 11 164 日本近代教育史   資料 【右丁 白紙】 【手書きのメモ】拾冊之内 【左丁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づい)巻之廿一 雑類(ざうるい) 《割書:此部(このぶ)には/諸天神仙聖賢佛菩薩(しよてんしんせんけんぶつぼさつ)諸祖師(しよそし)|其外(そのほか)人物(じんぶつ)の部(ぶ)に/洩(もれ)たるを/補(おぎな)ひしるす》 【同 上段】 二王金剛(にわうこんがう) ○ 右(みき)を右弼金剛(うひつこんがう)と云 人の生善(せうぜん)をよろこび たまふ那羅延金剛(ならえんこんがう) ともいふ ○ 左(ひだり)を左輔金剛(さほこんがう)と いふ人の断悪(だんあく)をよろ こびたまふ密迹金(みつしやくこん) 剛(がう)ともいふ佛法(ふつほう)の守(しゆ) 護神(ごじん)なれば/三門(さんもん)に 安 置(ち)す 【同 下段 挿絵中の文字】 右弼金剛(うひつこんがう)【右から横書き】 左輔金剛(さほこんがう) 【右から横書き】 【右丁 上段】 ○持国(ぢこく)天王/乾達婆(けんだつば) 毘舎闍(びしやじや)を足下(そくか)に踏従(ふみしたが)へ て東方(とうばう)を守護(しゆご)したま ふ四天王の第一(だいいち)なり ○増長(ぞうちやう)天王/鳩槃荼(くはんだ) 薜茘多(びやくれいた)を足下(そくか)に踏(ふみ) 従(したが)へ南方(なんばう)を守護(しゆご)した まふ四天王の第(だい)二なり ○広目(くわうもく)天王/龍(りやう)及(およ)び富(ふ) 単那(たんな)を足下(そくか)にふみした がへ法界(ほうかい)を安立(あんりう)し西方(さいほう) を守護(しゆご)したまふ ○毘沙門(びしやもん)天王/夜叉(やしゃ)羅(ら) 刹(せつ)を足下(そくか)にふみしたがへ 北方(ほつはう)を守護(しゆご)したまふ大 悲多聞(ひたもん)天王ともいふ 【同 下段 挿絵中の文字】 持国(ぢこく)  天王 毘沙門(びしやもん)  天王 【左丁 上段】 ○韋駄天(いだてん)は佛法(ぶつほう)の守(しゆ) 護神(ごじん)なり魔王(まわう)佛舎(ぶつしや) 利(り)を奪(うばひ)とり逃(にげる)を追欠(おつかけ) 取返(とりかへ)し給ふなり禅家(ぜんけ)は 厨(くり)に安置(あんち)す ○鍾馗(しようき)は唐(たう)の明皇(めいくはう)夢(ゆめ) に臣(しん)は終南(しうなん)の進士(しんじ)鍾馗(しようき) なり天下(てんか)の虚耗(きょがう)妖孽(ようげつ) を厭(▢▢)はんと見給ふ故(ゆへ)に □道士(だうし)に命(めい)して其形(そのかたち)を □せしめ天下(てんか)に伝(つた)ふと云 【同 下段 挿絵中の文字】 《割書: |新》  韋(ゐ)   駄天(だてん) 《割書: |新》  鍾馗(しやうき) 【右丁 上段】   弁才天女(べんざいてんによ) ○衆生(しゆじやう)に知(ち)恵(ゑ)福(ふく) をあたへたまふなり 琵琶(びわ)を弾(たん)じたまふ相(そう) をもつて又は妙音(めうをん) 天女ともいふ   福禄寿(ふくろくじゆ) ○福神(ふくじん)なり天南星(てんなんせい) といふ星(ほし)の化現(けげん)なり 頭(かしら)ながくして拄杖(しゆじやう)に 経(きやう)を結(ゆひ)そへてもてり 鶴(つる)を愛(あひ)す又/鹿(しか)を 愛(あひ)すともいふ 【同 下段】 弁財(べんざい)  天女(てんによ) 福禄寿(ふくろくじゆ) 【左丁 上段】   大黒天(だいこくでん) ○八万四千の眷属(けんぞく) あり貧困(ひんこん)を転(てん)じて 福者(ふくしや)となさんと誓(ちかひ) たまふ摩伽羅神(まからじん)と もいふなり   蛭子(えびす) ○伊弉諾尊(いざなぎのみこと)の第三 の御/子(こ)日(ひ)の神(かみ)の御 弟/西宮蛭子(にしのみやえびす)三郎/殿(どの) といふなり市(いち)の売(ばい) 買(〳〵)を守(まも)り給ふ御 神(かみ) なり 【同 下段】 大国天(だいこくでん)【右から横書き】 蛭子(ゑびす) 【右丁 上段】   布袋(ほてい) ○志那(しな)の散聖(さんせい)にし て弥勒菩薩(みろくぼさつ)の化身(けしん) なりといへり常(つね)に布(ぬの) の袋(ふくろ)を負(おひ)てあそべ りゆへに布袋和尚(ほていおしやう) と名(な)ずけたり   寿老人(じゆらうじん) ○福神(ふくじん)なり老人星(らうじんせい)と いふ星(ほし)の化現(けげん)なり白(はく) 髪(はつ)にして帽子(ほうし)をかぶ り拄杖(しゆぢやう)をもてり鹿(しか)を 愛(あい)す 【同 下段】 布袋(ほてい) 寿老(じゆらう) 【左丁 上段】 ○伏羲氏(ふつぎし)唐土(もろこし)の帝王(ていわう) 大 聖人(せいじん)なり此(これ)人生(じんせい)の始(はじめ)に て網罟(まうこ)を作(つくり)て猟漁(かりすなどり)を 民(たみ)に教(をしへ)給ふ又/畫(ぐわし)_二 八 卦(けいを)_一 瑟琴(しつきん)を造(つくり)たまふ ○神農氏(しんのうし)は同/帝王(ていわう)にて 聖人(せいじん)なり民(たみ)に五穀(ごこく)を作(つくる) 事を教(をし)へ又/市(いち)をなし 交易(かうえき)の利(り)を施(ほどこ)し給ふ 帝(みかど)草木(さうもく)を味(あちは)ひ寒温(かんうん) 平熱(へいねつ)の性(しやう)を察(さつ)し人身(じんしん) の病(やまひ)を療(りやう)ずる事を教(をし)へ 給ふ此(これ)より医道(いどう)おこる 【同 下段】 新  神農(しんのう) 新  伏羲(ふつき) 【右丁 上段】 ○倉頡(さうけつ)は黄帝(くわうてい)の代(よ) の人なり眼(まなこ)四つあり鳥(とり) の足跡(あしあと)を見(み)て始(はじめ)て 文字(もんじ)を作(つく)る是(これ)文字(もんじ)の 祖(そ)なり ○黄帝(くわうてい)は軒轅(けんゑん)氏(し)といふ 蚩尤(しゆう)といふ逆臣(ぎやくしん)を亡(ほろぼ)し 帝位(ていゐ)に即(つき)給ふ聖人(せいじん)也 此時(このとき)より暦算(れきさん)律呂(りつりよ) 宮室(きうしつ)書契(しよけい)冠服(くわんふく)等(とう)こ と〴〵く具(そなは)る又 始(はしめ)て舟(ふね) を作(つく)り給ふ元妃(げんひ)に命(めい) じて蚕業(こがひのわざ)を教(をしへ)給ふ 【左丁 上段】 ○孔子(こうし)は唐土(もろこし)周(しう)の代(よ)の人 尭舜(ぎやうしゆん)の道(みち)を弘め五 常(じやう) を教(をしへ)給ふ文宣王(ぶんせんわう)ともいふ 儒宗(しゆそう)の大 聖人(せいじん)なり ○老子(らうし)は周(しう)の代(よ)蔵室(ぞうしつ) の史(し)たり生れながら白(はく) 髪(はつ)なり道経(とうきやう)五千 言(げん)を 顕(あら)はし無為(むい)自然(しぜん)の道(みち)を 教(をしへ)給ふ道士(どうし)の大祖(たいそ)神人(しんじん) なり其終(そのおはり)をしらず ○許由(きよゆう)は尭帝(ぎやうてい)位(くらい)を譲(ゆづ) らんとの給ふを聞(きゝ)て其耳(そのみゝ) 汚(けが)れたりとて潁川(えいせん)の滝(たき)に いたり耳(みゝ)を洗(あらひ)し賢人なり 【右丁 下段挿絵】 倉頡(さうけつ) 黄帝(くわうてい) 【左丁 下段挿絵】 老子(らうし) 孔子(こうし) 許由(きよゆう) 【右丁 上段】 ○維摩(ゆいま)居士(こじ)ともいへり 手(て)に払子(ほつす)を持(もち)方丈(ほうじやう) の門に八方の獅子(しし)の座(ざ) をかざり三千の大衆(たいしゆ)を 入て法門(ほうもん)をゝし給へり ○山越(やまごし)の弥陀(みだ)は比叡山(ひえいざん) 横川(よかは)の峯(みね)に阿弥陀仏(あみだぶつ) の尊容(そんよう)を現(げん)じ給ふを 恵心僧都(ゑしんそうづ)拝(おが)み給ひて 写(うつ)し給ひけるとかや ○聖徳太子(しやうとくたいし)は人王丗二代 用明天皇(ようめいてんわう)の皇子(わうじ)なり 丗四代 推古天皇(すいこてんわう)の御宇(ぎよう) 摂政(せつしやう)たり日本(につほん)仏法(ふつほう)の 祖(そ)なり守屋(もりや)を亡(ほろぼ)し摂州(せつしう) 天王寺(てんわうじ)を建立(こんりう)し給ふ 【左丁 上段】 ○出山(しゆつさん)の釈迦(しやか)は如来(によらい) 十七 歳(さい)にして出家(しゆつけ)し 三十歳の御 時(とき)十二月八 日 明星(みやうぜう)の出(いづ)るとき廓(くはく) 然大悟(ねんだいご)をしめし正 覚(がく) を成(なし)たまへり ○誕生仏(たんじやうぶつ)は釈迦如来(しやかによらい) 卯(う)月八日 寅(とら)の剋(こく)【尅は俗字】に誕(たん) 生(じやう)し給ひ七 歩(ぶ)あゆみ 御 手(て)の左右(さゆう)をもつて 上下をゆびざして天 上天 下(げ)唯我独尊(ゆいがどくそん)と のたまへりとかや入滅(にうめつ)は 二月十五日なり 【右丁 下段挿絵】 維摩(ゆいま) 山越(やまごしの)弥陀(みだ) 聖徳太子(しやうとくたいし) 【左丁 下段挿絵】 出山(しゆつさんの)釈(しや)迦 誕生仏(たんじやうぶつ) 【右丁 上段】 ○初祖(しよそ)達磨(たるま)は梁(りやう)の 武帝(ぶてい)にまみへ江をわた りて魏(ぎ)の少林寺(せうりんじ)に入 たまふ世(よ)に芦葉(ろよう)の達(だる) 磨(ま)とも又は一 葦(ゐ)の達(だる) 磨(ま)ともいふ ○不動明王(ふどうみやうわう)右の手(て)に 利剣(りけん)を持(もち)左に搏(ばく)の縄(なわ) を持(もち)給ふは衆生(しゆじやう)の邪悪(じやあく) をいましめ給ふすがたなる べし後(うしろ)の炎(ほのふ)は動(どう)ぜぬ かたち又 凡人(ぼんにん)の怒(いかり)のていを あらはし示(しめ)し給ふなるべし 【左丁 上段】 ○龍猛菩薩(りうみやうほさつ)は南天竺(なんてんぢく) に出生(しゆつしやう)釈尊(しやくそん)より八百年 後(のち)なり真言宗(しんごんしう)第一の 祖(そ)なり大日 経(きやう)金剛頂(こんがうてう)経 蘇悉地経(そしつちきやう)を弘(ひろ)め給ふ ○善導大師(ぜんどうだいし)は唐土(もろこし)長(ちやう) 安(あん)の滝(たき)より出現(しゆつけん)し給ふ 三十 余年(よねん)少(すこし)も睡眠(すいみん)せ ず唐(とうの)永隆(えいりう)二年三月十四 日 遷化(せんげ) ○天台(てんだい)大 師(し)は陳隋(ちんずい)二代 の国師(こくし)唐土(もろこし)天台宗(てんだいしう)の開(かい) 祖(そ)十一月廿四日六十歳にて 入滅(にうめつ)智者(ちしや)大師(だいし)ともいふ 【右丁 下段挿絵】 達磨(たるま)  尊者(そんじや) 不動明王(ふどうみやうわう) 【左丁 下段挿絵】 龍猛(りうみやう) 善導(ぜんどう)  大師(たいし) 天台大師(てんだいだいし) 【右丁 上段】 ○六 祖(そ)大師(だいし)は唐土(もろこし)にて 達磨(たるま)より第六 祖(そ)諱(いみな)は 恵能(ゑのう)此下(このした)より禅宗(ぜんしう)五 家(か)にわかる大 鑑(かん)禅師(ぜんじ)は おくり号(がう)なり ○伝教(でんぎやう)大師は最澄(さいてう)とも いふ日本(につほん)天台(てんだい)の開祖(かいそ)なり 延暦(ゑんりやく)廿一年に入唐(にうとう)五十六 歳六月四日 入滅(にうめつ) ○役行者(ゑんのきやうじや)は役小角(ゑんのせうかく)とも いふ和州(わしう)の人 葛城山(かづらきやま)に入 て孔雀(くじやく)明王(みやうわう)の法(ほう)を行(おこな)ひ 後(のち)に母(はゝ)を鉢(はち)入て入唐(にうとう)し たまふ 【左丁 上段】 ○寒山子(かんざんし)は初唐(しよたう)の人 天台山(てんだいさん)に隠(かく)れて常(つね) に拾得(しつとく)と法友(ほうゆう)たり後(のち)に 去所(さるどころ)をしらず文殊(もんじゆ)の 化身(けしん)なりといふ ○拾得(じつとく)は豊干(ぶかん)禅師(ぜんじ)の 道(みち)のかたはらに拾(ひろ)ひ得(ゑ) たるゆへ拾得(じつとく)といふ常(つね)に 寒山(かんざん)とまじはるその終(おはり) をしる人なし ○巨霊人(これいしん)は大 力(りき)神通(じんづう) を得(え)たる仙人(せんにん)なり山を 劈(つんざく)の力(ちから)あり常(つね)に白虎(びやくこ) を愛(あい)す 【右丁 下段挿絵】 伝教(でんぎやう)  大師(だいし) 六 祖(そ)大師(だいし) 役行者(ゑんきやうじや) 【左丁 下段挿絵】 寒山(かんさん) 拾得(じつとく) 巨霊人(これいじん) 【右丁 上段】 ○費長房(ひちやうぼう)は後漢(ごかん)の代(よ) の人(ひと)なり仙術(せんじゆつ)をまな び得て白鶴(はくくわく)にのりて 空中(くうちう)を飛行(ひぎやう)しあそび たる仙人(せんにん)なり ○琴高(きんかう)は神仙(しんせん)の術(じゆつを) 学(まな)びて其(その)功(こう)なり大い なる鯉(こい)に乗(じやう)して水上(すいじやう) を飛行(ひぎやう)し書(しよ)をよみ 遊(あそ)びたる仙人(せんにん)なりと いへり 【左丁 上段】 ○大公望(たいこうぼう)は尚父(せうほ)ともいへ り渭浜(いひん)に釣(つり)して楽(たの)し みたる隠士(いんし)なり後(のち)に 八十 余歳(よさい)に及(およん)で周(しう)の 文王(ぶんわう)その賢(けん)をしり給ひ 師とし給ひ同 武王(ぶわう)に兵(へい) を教(おし)ゆついに紂王(ちうわう)を 亡し給ふ ○上利剣(じやうりけん)は剣(つるき)を乗(のりもの)と して大海(だいかい)の波上(なみのうへ)を飛(ひ) 行(ぎやう)する術(じゆつ)を得(え)たりと なん 【右丁 下段挿絵】 琴高(きんかう) 費長房(ひちやうぼう) 【左丁 下段挿絵】 大公望(たいこうぼう) 上利剣(じやうりけん) 【右丁 上段】 ○張九哥(ちやうくか)は宋(そう)の代(よ)に都(みやこ)に 居(きよ)し冬(とう)月にたゞ単(ひとへ)の衣(ころも) きるばかり帝(みかど)あやしみて 召(めし)て酒(さけ)を飲(のま)しむある日 王(わう)にまみへいとまをこひ薄(うす) ̄キ 紙(かみ)を蝶(てふ)のかたちに剪(きり)て 是を放(はな)せば悉(こと〴〵く)飛(とび)さりける 又 招(まねけ)ばかへりて元(もと)の紙(かみ)と成 しとなり ○鉄拐仙人(てつかいせんにん)は虚空(こくう)に むかつて己(おのれ)がかたちを ふきいだす術(じゆつ)を得(え)た りし仙人なり ○蝦蟇仙人(がませんにん)はつねに 蝦蟇(ひきがえる)を愛(あい)せるゆへに 其名(そのな)を得(え)たりとなん 【左丁 上段】 ○西王母(せいわうぼ)は仙女(せんぢよ)なり 前漢(ぜんかん)の武帝(ぶてい)に桃(もゝ)を 奉る味(あぢはひ)甚(はなはた)美(ひ)なり帝(みかど) 核(さね)を植(うへ)んと有しかば王(わう) 母(ぼ)の曰(いはく)此桃(このもゝ)三千年 ̄ニ一度(ひとたび) 花咲(はなさき)実(み)のる一ツ食(しよく)す れば三千年の寿(ことぶき)をたも つと東方朔(とうぼうさく)此桃を三つ ぬすみ食(しよく)せりとぞ ○通玄(つうげん)は張果呂(ちやうくはろ)とも いふひさごの中(なか)より駒(こま) を出す術(じゆつ)を得(え)たりし 仙人なり 【右丁 下段挿絵】 張九哥(ちやうくか) 鉄拐仙人(てつかいせんにん) 蝦蟇仙人(がませんにん) 【左丁 下段挿絵】 西王母(せいわうぼ) 通玄(つうけん) 【右丁 上段】 ○天人(てんにん)は首(かしら)の花曼(けまん) しぼむことなく羽衣(はごろも)常(つね) に垢(あか)づかずつねにま たゝきせずとかや然(しかれ) ども命(いのち)終(おは)るときは 楽(たのし)みつきて五 衰(すい)の かなしみあり ○迦陵頻(かれうびん)は天上の 鳥(とり)なり天人(てんにん)の面(おもて)の ごとく声(こゑ)すぐれて 美(うつ)くしよつて妙(めう) 声鳥(せうてう)又 好音鳥(かうおんてう)と もいへり是(これ)仏教(ぶつきやう)の 説(せつ)なり 【左丁 上段】 ○和哥(わか)は此国(このくに)の風俗(ふうぞく)と して三十一 字(じ)のかなをつら ね心を種(たね)として情(じやう)を 述(の)ぶる事 実(まこと)をもとゝ す故(ゆへ)に仏神(ぶつしん)も感応(かんおう) 有ほどの徳(とく)あるは哥(うた)也 それ和哥(わか)は神代(かみよ)より 始(はじま)るといへども住吉(すみよし)大 明(みやう) 神(じん)を以(もつて)哥(うた)の御 神(かみ)と崇(あが)め 奉り衣通姫(そとをりひめ)人麿(ひとまろ)赤(あか) 人を哥(うた)の祖神(そじん)とすと かや後(のち)に俊成(しゆんぜい)定家(ていか)家(か) 隆(りう)のごとき哥人(かじん)数多(あまた)在(あり) て秀哥(しうか)多(おゝ)し 【右丁 下段挿絵】 迦陵頻(かれうびん) 天人(てんにん) 和歌(わか)  三 神(じん) 衣通姫(そとをりひめ) 人麿(ひとまろ) 赤人(あかひと) 【右丁 上段】 ○詩(し)は唐土(もろこし)よりおこれ り故(かるがゆへ)に唐哥(からうた)といふ夫(それ) 詩(し)は和哥(わか)に同じく六(りく) 義(ぎ)あり五 言(ごん)七 言(ごん)とて 五 字(じ)七字に作(つく)り絶句(ぜつく) と律(りつ)とありよく其(その)情(じやう) を述(のべ)て人心(じんしん)を感(かん)ぜし め実(じつ)をあらはす事 詩(しい) 哥(か)の二ツにとゞめたり 白居易(はくきよい)のあざ名(な)は楽(らく) 天(てん)晩唐(ばんだう)の詩人(ししん)なり 蘇軾(そしよく)字(あざな)は子瞻(しせん)東坡(とうば) と号(がう)す宋(そう)の代(よ)の人 なり 【左丁 上段】 ○筆道(ひつどう)は唐土(もろこし)の文字(もんじ) なり漢字(かんじ)といふ晋(しん)の 王義之(わうぎし)筆法(ひつほう)の祖(そ)とす 石面(せきめん)に書(しよ)すれば墨石(すみいし) 一寸ばかりしみ入しとなり 日本(ひのもと)にては嵯峨天皇(さがてんわう) 弘法大師(こうぼうたいし)橘逸成(たちばなのはやなり)是を 三 筆(ひつ)といふ道風(とうふう)佐理(さり) 行成(かうぜい)を三 蹟(せき)といふ何れ も筆道(ひつどう)の名誉(めいよ)後世(こうせい) に残(のこ)りて其(その)筆跡(ひつせき)を 尊(たつと)べり尊円(そんえん)親王(しんわう)の御 筆(ひつ) 跡(せき)を御家(おいゑ)一 流(りう)と称(しやう)じ て今世(いまよ)に習(なら)ひもちゆ 【右丁 下段挿絵】 詩人(しじん)  白楽天(はくらくてん) 東坡(とうば) 【左丁 下段挿絵】 筆道(ひつどう) 晋(しんの)  王義之(わうぎし) 小野道風(おのゝとうふう) 【右丁 上段】 ○琴(こと)は伏羲(ふつき)の作(つく)り始(はじ) ̄メ 給ふ五十 弦(けん)又廿五 弦(けん)あり 瑟(しつ)といふ楽器(がくき)に用(もちゆる)を 和琴(わごん)といふ又 世(よ)に翫(もてあそ)べる 十三 弦(けん)の琴(こと)をつくし 琴といふ音曲(おんぎよく)しらべ上手(じやうず) 多(おゝ)くあり ○香(かう)は清浄(せうじやう)潔白(けつはく)の徳(とく) ある物(もの)にて穢(けがれ)をさくる 故(ゆへ)に神前(しんぜん)仏前(ぶつせん)にて焼(たく) なりその香(か)遠(とをき)きにいたる 伽羅(きやら)は水(みづ)に入てしづむ也 よつて沈香(ぢんかう)といふ唐土(もろこし) よりきたる 【左丁 上段】 ○鞠(まり)は唐土(もろこし)女媧(ぢよくは)氏(し)の 代(よ)に逆臣(ぎやくしん)蚩尤(しゆう)といふ 者(もの)謀叛(むほん)を企(くわだて)軍(いくさ)に及(および) しが女媧子(ぢよくはし)は女帝(によてい)なが ら聖徳(せいとく)あれば万民(ばんみん)な びき従(したが)ひ終(つい)に蚩尤(しゆう)を 討(うち)亡(ほろぼ)し給ひ其(その)頭(かうべ)をは ねたり諸人(しよにん)蚩尤(しゆう)を悪(にく) みて頭(かしら)を蹴(け)たり是(これ)鞠(まり) の始(はじめ)とかや鞠のかゝりは 松(まつ)楓(かへで)柳(やなぎ)桜(さくら)の四本を植(うゆ) るなり飛鳥井(あすかゐ)家(け)難波(なんば) 家(け)鞠(まり)の御 家(いゑ)なり上が 茂(も)社家(しやけ)松下(まつした)一 流(りう)あり 【右丁 下段挿絵】 琴(こと) 香(かう) 【左丁 下段挿絵】 【「新」の記載あるか】 蹴鞠(しうきく) 【右丁 上段】 ○目利(めきゝ)は墨跡(ぼくせき)古画(こぐは)又 万(よろづ)の器(うつはもの)の真贋(しんがん)をよく 見分(みわく)る人をいふ古筆見(こひつみ) とも名付(なづく)剣(つるぎ)の目利(めきゝ)は 本阿弥(ほんあみ)とて其家(そのいゑ)あり ○算術(さんじゆつ)は万法(まんほう)にわたり 貴賤(きせん)ともになくてかなは さる事なり天地(てんち)五 運(うん) の形道(ぎやうどう)も算数(さんすう)を以て 考(かんが)ふ高山(かうざん)万里(ばんり)の数(すう)を知(し) る事も皆([み]な)算勘(さんかん)の術(じゆつ) をもつてす人間(にんげん)日用(にちよう) 算勘(さんかん)の高徳(かうとく)あげてか ぞへがたし 【左丁 上段】 ○諸礼(しよれい)は人倫(じんりん)の交(まじは)り において礼なくてかなは ざる事なり聖人(せいじん)の 教(をしへ)給ふ六芸(りくげい)といふは礼(れい) 楽(がく)射(しや)御(ぎよ)書(しよ)数(すう)なり中(なか) にも礼を重(おもん)じ給ふこの 国(くに)の礼儀(れいぎ)の作法(さほう)は将(しやう) 軍(ぐん)義満(よしみつ)公の御代(みよ)より始(はじま) れりとぞ小笠原家(おがさはらけ)の 諸礼(しよれい)といふ又 躾方(しつけがた)とも いふ仕官(しくわん)の人は勿論(もちろん)の 事 貴人(きにん)にまじはる人 はしらでかなはぬ芸(げい)な れば心がけ有(ある)べき事也 【右丁 下段挿絵】 目利(めきゝ)【注】 算術(さんじゆつ)【右から横書き】 【左丁 下段挿絵】 諸礼(しよれい)【注】 【注 「新」が書かれていたとしても消されていると思われます。】 【右丁 上段】 ○弓(ゆみ)は射芸(しやげい)といふ武(ぶ) 士(し)の家(いゑ)に生(うま)るゝ人は射(しや) 芸(げい)を学(まな)はずんばあるべか らず武士(ぶし)を弓執(ゆみとり)とは いふなり唐土(もろこし)に楊由(やうゆう) 基(き)と云し弓(ゆみ)の達人(たつじん)は百 歩(ほ)下(さが)りて柳(やなぎ)の葉(は)を 射(ゐる)に一 葉(は)も射(ゐ)そんずる 事なしとぞ我朝(わがてう)に おゐては鎮西(ちんぜい)為朝(ためとも)能(の) 登守(とのかみ)教経(のりつね)那須与市(なすのよいち) 等(とう)弓(ゆみ)の達人(たつじん)なり其 外(ほか)数多(あまた)精兵(せいへい)の射(ゐ)て ありしなり 【左丁 上段】 ○馬(むま)は乗馬(じやうば)の法(ほう)なり 是(これ) 武士(ぶし)の要道(ようどう)なれば 師伝(しでん)を受(うけ)て習(なら)ふべきこ と肝要(かんよう)なり巧者(こうしや)無功(ぶこう) 者(しや)によりて駿馬(じゆんめ)にても あしく曲(くせ)出(いづ)るなり其 品(しな) 百曲(もゝくせ)ありとかや駒(こま)のし いれ曲(くせ)の直(なを)しやう法式(ほうしき) ありてむかしより八 乗(じやう)【条とあるところ】 流(りう)あり今世(こんせい)大坪(おほつぼ)の一 流(りう) を専(もつはら)にもちひて武士(ぶし)の 要道(ようどう)とす高山(かうざん)の険阻(けんそ)も たやすく上り大河(たいが)を渡(わたす) も是(これ)みな駿馬(じゆんめ)の徳(とく)也 【右丁 下段挿絵】 《割書: |新》  弓(ゆみ) 【左丁 下段挿絵】 《割書: |新》  馬(むま) 【右丁 上段】 ○剣術(けんじゆつ)は太刀打(たちうち)の 法(はう)なり兵法者(へいほうじや)とも いふ武士(ぶし)第一の道(みち)也 流儀(りうぎ)あまたあり神(しん) 道流(とうりう)柳生流(やぎふりう)神影(しんかげ) 流 一刀(いつたう)流などさま〳〵 有 併(しかし)未熟(みしゆく)の芸(げい)を 頼(たの)み身(み)の危(あやうき)をしら ざる人まゝ多(おゝ)しいた ましき事にあらすや 今(いま)静謐(せいひつ)の御代(みよ)に おゐては商家(しやうか)職人(しよくにん) 農人(のうにん)等(とう)はしらぬこ そよかるべし 【左丁 上段】 ○囲碁(ゐご)は周公(しうこう)旦(たん)作(つく)り 給ふと云 吉備(きび)大臣(たいしん)入(につ) 唐(とう)の時 伝来(でんらい)といふ三百 六十 目(もく)は年月(ねんげつ)日 数(かず)也九 目星(もくほし)は九 曜(よう)の星(ほし)石(いし)の 黒白(こくびやく)は昼夜(ちうや)を表(ひやう)する なりとぞ ○将棋(しやうき)は周(しう)の武帝(ぶてい)臣(しん) 下(か)王褒(わうほう)に命(めい)じて作(つく)ら しむ軍法(ぐんほう)の備(そなへ)をかたど りしものなり大将棋(だいしやうぎ)中 将棋あり今もてあそ ぶを小将棋(しやう〳〵き)といふもと よりならひあるなり 【右丁 下段挿絵】 《割書: |新》  剣術(けんじゆつ) 【左丁 下段挿絵】 《割書: |新》  囲碁(ゐこ) 将棋(しやうぎ) 【右丁 上段】 ○茶湯(ちやのゆ)はむかしより ある事なれども茶(ちや) 亭(てい)を数寄(すき)屋と号(がう)し 草木(さうもく)の植(うへ)やう料理(りやうり)等《割書:ニ》 いたるまで法式(ほうしき)を立(たて)て くわしくなりしは千(せんの) 利休(りきう)よりはじまれり 古田(ふるた)織部(をりべ)小堀(こぼり)遠州(ゑんしう)な ど茶道(さどう)の達人(たつじん)其 流(りう) 品々(しな〳〵)あり人倫(じんりん)の交(ましは)り 行儀(ぎやうぎ)をしるの一助(いちぢよ)なり 元来(もとより)茶道(さどう)は奢(おごり)をは ぶき敬恭(けいきやう)をもとゝす るを本意(ほんい)とすといふ ○立花(りつくは)は京 六角堂(ろくかくたう) の別当(べつたう)池坊(いけのぼう)立花の宗(そう) 匠(しやう)なり毎年(まいねん)七月七日 に門弟(もんてい)参集(さんしう)して立(たつ) る貴賤(きせん)是を見物(けんぶつ) 又 拋入(なげいれ)【抛は俗字】の伝(でん)所々(しよ〳〵)に師(し) あり今世(きんせい)なげ入 専(もつはら)に おこなはれて花の会(くわい) 多(おゝ)し宜(むべ)なるかな花 は人の心をなくさめ 鬱気(うつき)をさんずるもの なればよきわざにて 貴賤(きせん)のもてあそびと なるもことはりぞかし 【右丁 下段挿絵】 《割書: |新》  茶湯(ちやのゆ) 【左丁 下段挿絵】 立花(りつくは) 【右丁 上段】 ○山伏(やまぶし)を修験道(しゆげんどう)とも いふ真言(しんごん)の法(ほう)なり行(ぎやう)を 修(しゆ)し身(み)をこらし又 高(かう) 山(ざん)大山へのぼりて行(ぎやう)を なすなり常(つね)に天文(てんもん)易(えき) 学(がく)をまなびて諸人(しよにん)の 五 運(うん)八 卦(け)を占(うらな)ひ手(て)の筋(すじ) 吉凶(きつけう)病(やまひ)の軽重(きやうぢう)失物(うせもの)の 方(はう)がく等(とう)を考(かんが)ふまた 一 派(は)役行者(えんのきやうじや)の法(ほう)を修(しゆ) するものあり是を行者(ぎやうじや) の先達(せんだち)といふ人の病(やまひ)を 祈祷(きとう)す垢離場(こりば)あり是を 行者(ぎやうじや)ぼりといふ 【左丁 上段】 ○鷹(たか)は唐土(もろこし)五 帝(てい)の時 より賞(しやう)ぜりとかや我(わが) 朝(てう)にわたりしは神功(しんこう) 皇后(くわうごう)の御代(みよ)に百済(ひゃくさい) 国(こく)より始(はじめ)て鷹(たか)を奉 る其後(そのゝち)仁徳天皇(にんとくてんわう)の 御代(みよ)に唐(とう)より鷹を 献(けん)ぜしかば御猟(みかり)を催(もよほ)さ れ諸鳥(しよてう)をとらしめた まふ是(これ)鷹狩(たかがり)のはじ めなり鷹は勇気(ゆうき)さ かんにして武備(ぶひ)の鳥(とり) なれば武門(ぶもん)に賞(しやう)せら るゝ事 宜(むべ)なり 【右丁 下段挿絵】 山伏(やまぶし) 【左丁 下段挿絵】 鷹(たか)  匠(じやう) 【右丁 上段】 ○能(のふ)はむかしよりある 事なれども其 伝(でん)たし かならず後小松院(ごこまつのいん)の 御宇(ぎよう)に観世(くわんぜ)世 阿弥(あみ)と いふ者(もの)公方家(くばうけ)の能(のふ)太(た) 夫(いふ)にてさかんに翫(もてあそび)ぬ後(のち) に金春(こんはる)保生(ほうしやう)金剛(こんがう)と別(わかれ) て四 座(ざ)といへり又 猿楽(さるがく) といふ事は猿田彦(さるたひこ)の余(よ) 流(りう)のいひなりとかや謡(うたひ)は 日本(ひのもと)遊興(ゆうけう)の随一(すいいち)にして 神祇(じんぎ)釈教(しやくきやう)恋(こひ)無常(むじやう)故(こ) 事(じ)世(よ)の諺(ことわざ)まて悉(こと〴〵く)集(あつ) むるものなり 【左丁 上段】 ○笛(ふえ)小鼓(こつゞみ)大鼓(おゝつゞみ)太鼓(たいこ) 是を四 拍子(ひやうし)といふなり 笛(ふえ)は漢(かんの)武帝(ぶてい)の時(とき)丘仲(きうちう)作(つく)る とかや鼓(つゞみ)は秦(しん)の穆王(ぼくわう)の 作(さく)なり大鼓(おゝつゞみ)は陽(やう)にして 呂(りよ)なり小鼓(こつゞみ)は陰(いん)にして 律(りつ)なりこれ陰陽(いんやう)和(わ) 合(がう)の器(き)なり又 太鼓(たいこ)は 黄帝(くはうてい)の時(とき)䕫(き)を煞(ころ)し 其皮(そのかは)をもつて作(つく)れり とかや或(あるひ)は云 黄帝(くはうてい)蚩(し) 尤(ゆう)とたゝかふ玄女(げんじよ)帝(みかど) のために䕫牛(きぎう)の鼓(こ) を作(つく)れりと云々 【右丁 下段挿絵】 脇(わき) 地謡(ぢうたひ)  《割書:同音(どうおん)ともいふ》 能(のふ)    太夫(たいふ)《割書:してともいふ》  【左丁 下段挿絵】 笛(ふえ) 小鼓(こつゞみ) 大鼓(おほつゞみ) 太鼓(たいこ) 【右丁 上段】 ○狂言(きやうげん)はそのはじまり つまびらかならずのふ の間へ入る事は気(き)を 転(てん)じて笑(わらひ)をもよふす べきためなるべし能(のふ)と 同じく流義(りうぎ)のわかち ありて少しのかわり有 又 狂言(きやうげん)のうちに伝授(でんじゆ) とするものありそれ 狂言の本意(ほんい)は狂戯(きやうけ)を 専(せん)として人の心をなぐ さめわらひをおこす事 を要としたるものなり とかや 【左丁 上段】 ○浄留理(じやうるり)は小野(をのゝ)お通(づう) に始(はじま)るお通(づう)は信長公(のぶながこう)の 侍女(しじよ)なり参州(さんしう)矢作(やはぎ) 浄留理(じやうるり)女(むすめ)が事(こと)を作(つく)る 岩船(いわふね)検校(けんげう)ふしを付(つけ)て 是(これ)を浄留理(じやうるり)といへり 其後(そのゝち)瀧野(たきの)沢角(さはつの)の両(りやう) 検校(けんげう)三線(さみせん)に合(あは)せて曲(きよく) 節(せつ)をかたる又(また)慶長(けいちやう)の頃(ころ) より浄留理(じやうるり)太夫(たいふ)の受領(じゅれう) をいたゞく事(こと)になり 京大阪江戸に浄留理 太夫 多(おほ)くなりて色々(いろ〳〵)の 流義(りうぎ)出来(しゆつたい)せり 【右丁 下段挿絵】 狂言(きやうげん) 【左丁 下段挿絵】 浄留理(じやうるり)  太夫 【右丁 上段】 ○三絃(さみせん)は元来(ぐわんらい)琉球(りうきう) 国(ごく)の楽器(がくき)なるよし 三味線(さみせん)とも書(かく)なり 近世(きんせい)諸国(しよこく)ともに此(この)三 絃をもてあそぶ事 専(もつはら) なり尤 婬声(いんせい)の物なれ ども調子(てうし)におゐて自(じ) 由(ゆう)なる器(き)なり故(ゆへ)に雪(せつ) 月花(げつくは)の楽(たのし)みその余(よ)の 遊興(ゆふけう)いづれ三絃をもて 一曲専要(いつきよくのせんよう)とす又 小弓(こきう)と いふものは三絃より作(つく)り 出せるものなるべし 【左丁 上段】 ○芝居(しばゐ)は其(その)おこりは 河原(かはら)の芝(しは)にこさなんど を敷物(しきもの)として狂言(きやうけん)を なしたるものにて今の 放下(ほうか)しなとゝ同し類(たぐひ) の物なりしが次第(したい)に高(かう) 上(じやう)になりて衣服(いふく)器物(きぶつ) まても花美(くはび)を尽(つく)して 立役(たちやく)女形(をんながた)敵役(てきやく)などゝ それ〳〵に役(やく)をわけて 三ケの津(つ)には常芝居(じやうしばゐ) をゆるされ諸人(しよにん)の慰(なぐさ[む])所 とはなりぬよつて芝居(しばゐ) と名(な)づけ侍りぬ 【右丁 下段挿絵】 三絃(さみせん) 小弓(こきう) 【左丁 下段挿絵】 芝居役者(しばゐやくしや) 敵役(てきやく) 女形(をんながた) 立役(たちやく) 【右丁 上段】 ○人形芝居(にんきやうしばゐ)はあやつり ともいふ名(な)ありはじめは 人形を糸(いと)にてつり つかひし事なりしが 巧者(こうしや)出(で)きて今(いま)は自由(じゆう)に はたらきをなす事 生(しやう) あるがごとし難波(なにば)竹本(たけもと) 豊竹(とよたけ)の両(りやう)芝居(しばゐ)をもとと す上手(じやうず)あまたあり又 難波(なには)に竹田(たけだ)といふからく り人形(にんぎやう)の芝居あり珍(めづ)ら しき細工(さいく)をなして人の 目(め)をおどろかすほどの上(じやう) 手(ず)なり 【左丁 上段】 ○軽業(かるわざ)はむかしより其 伝(でん)ある事にや始(はしめ)をしら ず誠(まこと)に危(あやう)き所作(しよさ)なれ どもかね合(あひ)手練(しゆれん)のこと にて上手([じ]やうす)あまた出て 人の目(め)をよろこばしむる といへどもやゝもすれば 怪我(けが)過(あやまち)をなすもの有 きりん太夫といひしもの 一ツつなをわたり始し より軽(かる)わざしをすべて 世俗(せぞく)にきりんとよぶ幼(よう) 稚(ち)の時より仕(し)なれざれは なりがたかるべし 【右丁 下段挿絵】 人(にん)  形(きやう) 芝(しば)  居(ゐ) 【左丁 下段挿絵】 軽業(かるわざ) 【右丁 上段】 ○鉢扣(はちたゝき)は元祖(くわんそ)空也(くうや)上 人なり下京(しもきやう)空也堂(くうやどう)の 内(うち)に住居(すまゐ)して茶筌(ちやせん)を けづり作業(さきやう)とす十二 月十三日より京町中を 売(うり)ありく正月大ぶくの 茶筌(ちやせん)めてたき例(ためし)とし て求(もとむ)る事なり ○鹿島(かしま)の事触(ことふれ)といふ は毎年(まいねん)春(はる)鹿島(かしま)大 明(みやう) 神(じん)其年(そのとし)の吉凶(きつけう)人間(にんげん)の 身(み)の上(うへ)五穀(ごこく)の善悪(よしあし)等(とう) 神託(しんたく)あるを諸国(しよこく)へ触(ふれ) しらするものなり 【左丁 上段】 ○猿舞(さるまはし)はふるきこと なるよし今(いま)京都(きやうと)へ 来るは伏見(ふしみ)の辺(へん)より 出るよし年(とし)の始(はじめ)に 御所方(こしよがた)へ嘉例(かれい)とし て上りめでたき事 を舞(まは)しむ又 田舎(ゐなか)にて 牛馬(うしむま)を飼(かふ)所は秋入(あきいれ)の 時分(じぶん)きとうのためにと て舞(まは)しむとかや其故(そのゆへ)は 猿(さる)は山の父(ちゝ)と称(しやう)じ馬(むま)は 山の子(こ)といふゆへなりと あいのふ抄(せう)といふ書(しよ)に 見へたり 【右丁 下段挿絵】 鉢敲(はちたゝき) 鹿島事触(かしまのことふれ) 【左丁 下段挿絵】 猿(さる)  舞(まはし) 【右丁 上段】 ○万歳楽(まんざいらく)は年(とし)の始(はじめ)に めでたき例(ためし)をとり揃(そろ)へ て祝(いは)ひまふなりむかし よりも有事なるよし 聖徳太子(しやうとくたいし)の御 時(とき)に烏(ゑ) 帽子(ぼし)装束(しやうぞく)を下し給はり し例(れい)によりて今に烏(ゑ) 帽子(ぼし)素襖(すはう)を着(ちやく)すると いへり都(みやこ)へ来るは大和(やまと)より 出る農人(のうにん)なりよつてや まと万歳(まんざい)といふ又 中国(ちうごく) へは美濃(みの)より出 東国(とうごく)へは 三河(みかは)の国よりもいづると いふ 【同 下段挿絵】 万歳楽(まんざいらく) 【左丁】 夫 ̄レ宮-室衣-冠動-植飛-沈。凡-百器-用。以_二 文-字_一。写_二-貌其 ̄ノ状 ̄ヲ_一。則苦-捜力-索。劣 ̄カニ得_二其 彷-彿 ̄ヲ_一。求_二之図-絵 ̄ニ_一。則一-目瞭-然。思已 ̄ニ過 _レ半矣。故古-人之講_レ学。必也右-書左-図。 図-書並-称。取_二従-来_一尚 ̄シ矣。惕-齋先-生所 _レ著図-彙。其意 ̄ノ所_レ属。蓋亦在_二乎此 ̄ニ_一。其 ̄ノ書 奚翅。訓_二-導童-蒙_一云-爾。雖_二宿-儒老-学_一。亦 有_三資 ̄テ以広_二致-格之識 ̄ヲ_一。家-珍人-蔵。良 ̄ニ有 _レ以哉。従_二寛-文_一逮_レ今 ̄ニ。殆 ̄ト百幾十年。版已 ̄ニ 就_二刓-欠 ̄ニ_一。今-茲寛-政己-酉。額-田-氏主-人。 嘱_二 下-河-辺氏 ̄ニ_一。移_二-写 ̄シ旧-様 ̄ヲ_一。再-刻剞-劂。而 精-工縝密。視_レ旧 ̄ニ有_レ倍 ̄コト焉。刻-成。請_レ余以_二 一-語_一。余-謂 ̄フ。近。有_二春-朝-齋山-城名-所図- 会_一。亦以_二図-絵 ̄ノ之故。盛 ̄ニ行_二乎世 ̄ニ_一。朝-摺暮- 印。洛-陽紙-貴。彼 ̄ハ実 ̄ニ不_レ過_二 一-臥-遊 ̄ノ之具 ̄ニ_一 而已。猶-且見_レ賞如_レ斯。况 ̄ヤ之大 ̄ニ有_レ益之 書。非_三徒 ̄ニ供_二於目-翫 ̄ニ_一也。則必與_レ彼並駆。 而超-乗過此。如_レ指_二諸掌 ̄ニ_一。余預 ̄シメ為_二額田 翁 ̄ノ_一作_レ賀。翁其-記 ̄シテ而験 ̄セヨ_レ之。 己酉四月 春荘端隆       [印]端隆之印 [印]文中氏 【右丁】 寛政元年己酉三月吉辰 出来 皇都書林 九皐堂 寿梓 【同 上段】 訓蒙図彙 《割書:大本》  全八冊 同本小本     全四冊 同増補頭書    全八冊 同増補頭書大成  全十冊  《割書: |寛永元年出来》    下河邉拾水子画図 同増補頭書大成拾遺 《割書:全五冊|嗣出》 三才千字文《割書:訓蒙図彙の目録を幼童の素|読になして文字を覚ゆるに便あらしむ》 【同 下段】 村上勘兵衛 出雲寺文治郎 今井七良兵衛 額田正三郎 勝村治右衛門 泉 太兵衛 小川太左衛門 小川源兵衛 谷口勘三郎 【左丁 手書きメモ】 拾冊之内 【裏表紙】