TKGK-00058 書名  唐詩選画本,続編5巻 刊   5冊 所蔵者 東京学芸大学附属図書館 函号  921.43/TAC 撮影  国際マイクロ写真工業社 令和2年度 国文学研究資料館 【表紙題箋】《題:唐詩選画本 《割書:七言絶句|続編》一》 【見返し】【上部余白に「寛政癸丑新刻」】 紅翠齋主人画 【印「不許翻刻/千里必究」】 唐詩選  東都書肆 蒿山房蔵 唐詩選画本続編成 ̄ル。請_二余 ̄カ 題言_一。余不_レ知_レ画 ̄ヲ以_レ詩言_レ之。 層巒畳嶂廻瀾狂涛 ̄ハ。其 歌行長篇 ̄カ乎。遠樹疎麓 山市漁落 ̄ハ。其五七言絶乎。 名楼傑閣花卉翎毛 ̄ハ。其 五七言律乎。因_レ詩 ̄ニ賦_レ ̄シ形 ̄ヲ。篇 ̄コトニ 作_二 ̄ル一図_一 ̄ヲ。摹_レ ̄スレハ景 ̄ヲ則滞。離 ̄ルレハ _レ景 ̄ヲ則蕩。宜_レ ̄シテ虚 ̄ニ而不_レ流_二 ̄レ于虚_一 ̄ニ。 宜_レ ̄シテ実 ̄ニ而不_レ泥_二于実_一 ̄ニ。知_二此 ̄ノ二_一 ̄ヲ 者。可_三以 ̄テ言_二絵事_一 ̄ヲ矣。然後 天会超脱意 ̄ロ到 ̄リ筆随 ̄フ。無_二 往 ̄トシテ不_一レ ̄ルハ可 ̄ナラ。北尾氏於_二 ̄ル此 ̄ノ本_一 ̄ニ。尽 ̄ク 以_二意匠_一 ̄ヲ出_レ ̄シ之 ̄ヲ。区分 ̄シテ為_レ ̄ス態 ̄ヲ。 各《割書:々》【〳〵ヵクヵ】適_二 ̄フ其宜_一 ̄ニ。蓋筆 ̄ノ之所_レ到 ̄ル。 円熟 ̄シテ不_レ殢也。可_レ謂無_二 ̄シト遺憾_一 矣。古人 ̄ノ所_レ謂有声 ̄ノ之画。 無声 ̄ノ之詩。余於_レ ̄モ此 ̄ニ亦云。 寛政壬子仲冬南望日     天華楼主人【印「雲山杜多」「沛然」】 【小題】聞笛【篴】  塞上(さいしやうにして)聞(きく)_レ吹(ふくを)_レ笛(ふへを) 雪浄胡天(ゆききようしてこてん)牧(ぼくして)_レ馬(むまを) 還(かへる)月明羌笛戍(つきあきらかにしてきやうてきしゆ) 楼間(ろうのあいだ)借問梅花(しやくもんすはいくは) 何処落(いづれのところにかをつ)風吹一(かぜふいていち) 夜(や)満(みつ)_二関山(くはんさんに)_一 《割書:ゆきもちら〳〵とそらに映|じて見へる時分野飼|しにて置たる馬をひき|つれてかへりたれは誰かは|しらず月明の夜すがら|羌笛を戍楼のあたりで》 《割書:ふくがたん〳〵吹つのつて|落梅の曲にいたる|借問して承り|たいものじや今|はらくばいのない時|分じやにいつれの|処からどこへおちて|あの曲を吹事ぞ|風にふきちらされ|て夜もすがら関|山の中にみちて誰|きかぬものはない|此曲を聞ては此所へ|征伐に来てゐる|ものは故郷の|おもひを引をこし|てかなしからふと|いふ意なり》 【挿絵】  別(わかる)_二董大(とうたいに)_一 十里黃雲白(じうりのくはううんはく) 日曛(じつくれ)【熏・𡽽ヵ】 北風(ほくふう)吹(ふいて)_レ雁(かりを)雪(ゆき) 紛々(ふん〳〵) 莫(なかれ)_レ愁(うれふること)前路(せんろ)無(なきことを)_二 知己(ちき)_一 天下誰人(てんかたれひとか)不(ざらん) _レ識(しら)_レ君(きみを) 《割書:鼻のさきに見わたす|所を十里といふ○この|あたりをまみわたせは|空もうすくもりて雪|を催す白日の夕ぐれ|なれば北風なども吹|来て雁を南にふき|おくりはたして雪が|ふん〳〵と降てものす|ごひ折から旅へゆかるゝ|となり莫愁はなぐ|さむる詞なりそこ元|は手前がやうな親しい|友達にわかるれは前路|で知己なものがある|気の毒に思し召|なそこもとは器|量すくれた人なれ|ば行さきでおもんぢ|君を待うけるで|あらふほとにうれへ|すに気象にして|ゆかれいとなり》 【挿絵】  送(をくる)_三杜十四(としうしが)之(ゆくを)_二江南(こうなんに)_一         孟浩然(もうこうぜん) 荊吳相接水(けいごあいせつしてみつを)為(す)_レ郷(きやうと) 君去春江正淼茫(きみさつてしゆんこうまさにへうほう) 日暮孤舟何処泊(じつぼこしういつれのところにかはくす) 天涯一望(てんがいいちほう)断(たつ)_二 人腸(しんちやうを)_一 《割書:呉と楚とはとこからとこ迄も皆水の|上を住家とするやうな所じや○君去ゆか|れたらは見らるゝであらふ春になれは水も|まし猶ぼう〳〵とはてしもないことじや|其やうな所へ舟をのり出して今夜はど|こをたよりに舟を泊するであらふと|天涯までも見のそみてたよりもなく|たゞひやう〳〵として|       はらわたをたつごとくに|        おもひうれゐ|            らるゝで|             あらふと|                なり》【挿絵】 寄(よす)_二韓鵬(かんほうに)_一《割書:為(なして)_レ政(まつりことを)心間物自間(こゝろしつかなればことおのづからしつかなり)朝看飛鳥暮飛還(あしたにみるひちやうくれにとびかへる)|寄(よす)_レ書(しよを)河上神明宰(かしやうしんめいのさい)羨爾城頭姑射山(うらやむなんじしやうとうのこやさん)》李頎(りき) -------------------------------------------------------------------------------- 《割書:河中に奉行をしてゐらるゝが政を|するにいそがはしからず何にもかま|はず無為にして治らるゝゆへに|万物も従容自適してしつかに|してある一日何をする事もなけ|れば朝々とびゆく鳥がくれがたに|ねぐらを尋てとひかへるをなぐ|さみに見てゐらるゝわれは此|やうな人を愛するゆへに|今手前が書をよする河上|に奉行をつとめてござるそこ|もとなどは人世にことなる神|明の徳ある奉行じやうら|やましひそこもとのこさる|近所は姑射といふ仙居に対|してゐるゆへ姑射の神人の|ごとく無為自然に治むる|神とくのあることを|    うらやむては|         ある》【挿絵】   九日(くにち)      崔国輔(さいこくほ) 江辺楓落菊花黃(こうへんふうをちてきくくはきなり) 少長(しやうてう)登(のぼつて)_レ高(たかきに)一(いつに)望(のそむ)_レ鄉(きやうを) 九日陶家(くにちとうか)雖(いへども)_レ載(のすと)_レ酒(さけを) 三年楚客已(さんねんそかくすでに)霑(うるほす)_レ裳(しやうを) 《割書:最早秋のすへゆえ川はたのもみぢの葉も落て菊花も|さかりに黄はみたる也○九日は登高の佳節とて老若|ともにみなたかきに上てたのしむ其中にわがごときの|旅客はたゞもつはら故郷のかたを見のぞんでゐる|古人九日陶淵明がところへ白衣の人が酒をおくりしと|いふことくわが方へもろ【かヵ】ふたれ共何をいふても三年楚|国に旅客となつてゐれば裳をうるほしてなみだ|のかはく間もないとなり》【挿絵】   題(だいす)_二長安主人壁(ちやうあんしゆしんのかべに)_一          張謂(ちやうい) 世人(せじん)結(むすふに)_レ交(ましはりを)須(もちゆ)_二黃金(くはうごんを)_一黃金(くはうごん)不(ざれば)_レ多(おほから)交(ましはり)不(ず)_レ深(ふかゝら)縱令然諾暫相許(たとへねんだくしてしはらくあいゆるすとも)終是悠々行路心(ついにはこれゆう〳〵たるこうろのしん) 《割書:   此詩は張謂か及第に試らるゝために都に居たときしたしひ旅宿の主人も及第にすゝまぬまへには君に用ひ|   らるゝであろうと思ふて敬ひ其時分は金銀を持行たゆへ取持たが落第の段に成たればかまはぬゆへ人のまじ|   はりといふものは水くさいものとていきとをりて此詩をかべにしるしおきしなり》 《割書: 惣して世人のまじはりといふものは黄金でもたくさんにとりあつかふうちは深く交をすれども貧になるとかま| はずましはりもうすくなるたとへ然諾と相見れは相ゆるすゆへたのもしふおもふてもつい金銀| でもなくなりて貧になると今まで懇意にしたものがゆう〳〵と|              はてもない道とをりのごとく見ぬ|                       顔をしてゐるやうになるさて〳〵|                        人といふものは実のなひものじやと|                                       なり》【挿絵】 送(おくる)_三 人(ひとの)使(つかひするを)_二河源(かけんに)_一 故人行役(こしんかうゑきして)向(むかふ)_二 辺州(へんしうに)_一 匹馬今朝(ひつばこんてう) 不(ず)_二少(しばらくも)留(とゞまら)_一 長路関山(ちやうろくわんざん) 何日尽(いつれのひかつきん) 満堂糸竹(まんたうのしちく) 為(ために)_レ君(きみが)愁(うれふ) 《割書: 黄河の河上に使に行なり |其もとには今御上からの使と|なり辺州河源のかたへゆかるゝが|大勢供まはりをつれるでも|なく御用のことゆへ匹馬に乗|て取いそきてゆかるゝ其もと|のゆかるゝさきは長路の長|道中でことに難所をとをる|事ゆえいつ先のつくるといふ|こともなく毎日〳〵行るゝで|あらうとおもへは何をかな餞|別にとおもひ此さしきの| うちはやしを|     しても|   おもしろからず|    そこもとの|      ゆかるゝさき|           を|  想像(おもひやつ)てみれば|   満堂糸竹|    為_レ君愁》【挿絵】 【挿絵】 涼州詞(れうしうのし)《割書:黃河遠上白雲間(くはうがとをくのぼるはくうんのあいた) 一片孤城万仞山(いつへんのこじやうばんしんのやま)|羌笛何(きやうてきいづくんぞ)須(べけん)_レ怨(うらむ)_二楊柳(ようりうを)_一 春光(しゆんくはう)不(ず)_レ度(わたら)玉門関(きよくもんくはん)》王之渙(わうしくはん)  《割書:黄河の方よりとをく河上へのぼりゆけば雲間にも上るやうにおもはるゝかやうな所へゆくも城数でも|ある所なればたのしみもあれどたゞ一片のはなれ城が万仞の山の上にあるのみでこれを目当|に行ことじや只胡のものが笛中で折楊柳の曲などを吹が離別の感をおこしてわるひとてき|らへども笛になにもうらみもなゐ何ゆへなれば玉関よりこの方へは春光もわたらぬがなれはいつ|も春とも秋ともしらぬから楊柳なとのことはしらぬゆへうらみもなひといふが至極うらみがふ|かい春のわたらぬ所へ来てゐれば旅の情を感しこゝろほそい情がある》 《割書:我か今居る薊庭は蕭瑟とさびしふてわが知音といふはないやう〳〵そこ元ひとりあれともおつつけわかる今日|さいわいに九日登高の節なればどうぞ高きにのほり餞別をしやうとおもへども旅の事なれはやうすはしらず|どこへ行てわれの酒をくまんと也明日わかるゝゆへ今日菊のさけをともにたのしみ明日はたがひに断蓬のことくちり〳〵|にわかるゝが只ひとりある故人にわかるゝとおもへば別してなごりおしゐとなり》 ------------------------------------------------------------------------------- 九日(くにち)  送別(さうべつ) 薊庭蕭瑟(けいていしやうしつとして) 故人稀(こじんまれなり) 何処(いづれのところか)登(のほつて)_レ高(たかきに) 且(かつ)送(をくる)_レ帰(かへりを) 今日暫(こんにちしばらく)同(おなじくす)_二 芳菊酒(ほうきくのさけを)_一 明朝(めうてう)応(まさに)【左ルビ「べし」】_下作(なつて)_二 断蓬(たんほうと)_一飛(とぶ)_上 洛陽客舎(らくやうのかくしやにして)逢(あふて)_二 祖詠(そゑいに)_一留宴(りうゑんす)   蔡希寂(さいきせき) 綿々漏鼓洛(めん〳〵たるろうこらく) 陽城(やうじやう)客舍平(かくしやへい) 居(きよ)絕(ぜつす)_二送迎(そうげいを)_一逢(あふて) _レ君(きみに)買(かふて)_レ酒(さけを)因(よつて)成(なす) _レ醉(すいを)々後焉(すいごいづくんそ)知(しらん) 世上情(せじやうのぜう) 《割書:早朝よりたへず打時のたいこを聞て|洛陽城の客舎に入てもたれ一人訪|来る事もなければ心ほそく思てゐる|所じやされどそこもとにあふたゆへ何|がななと思ひ酒をすゝむるによつて|われも酒をのんでなぐさむ酒にゑふ|たうちは世上のことをわすれてゐるが|さめたのちはなんとあらふ【挿絵】  少年行(しやうねんこう)    呉象之(ごしやうし) 承(うけて)_レ恩(おんの)借猟小(しやれうすしやう) 平津(へいのしん)使(つかふて)_レ気(きを) 常遊中貴(つねにあそぶちうき) 人(にん)一擲千(いちてきせん) 金渾是胆(きんすべてこれきも) 家無(いえなふして)_二 四壁(しへき)_一 不(ず)_レ知(しら)_レ貧(ひんを) 《割書:小平津は公孫弘の知|行所なり宰相の知行|所のことにかり用るなり|都の少年の馬鹿とも|が御上の御意をうけ|て手前のかり場ても|ある事か宰相の知|行をかりてなぐさみ|に猟をしてあそふ|わが気一はいにわが侭|にして賤しいものとは|遊ばぬ御近所むきの|御こしやうなとゝ念|頃にすることじやか|やうにれき〳〵とあそ|ふゆへおこりをきはめ|博奕などをして一擲|に千金をもすつれ|とも惣身か胆でふ|といゆへに何とも思ず|ゐるかくのことくの中|貴の人とかたをならべて|おごりを極るゆへにわが|居る処には戸しやうじもない|やうなれ共その貧にもか|まはぬやうなうはきものが多い【挿絵】    江南行(こうなんこう)     張潮(ちやうてう)  茨菰葉爛(じこはたゞれて)別(わかる)_二西湾(せいわんに)  蓮子花開猶(れんしはなひらいてなを)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ還(かへら)  妾夢(せうがゆめ)不(ず)_レ離(はなれ)江上水(こうしやうのみづを)  人伝郎(ひとはつたふらう)在(ありと)_二鳳凰山(ほうわうざんに)_一 《割書:去年わが夫に茨菰の葉のたゞるゝ秋のすへ此西わんでわかれたがはや一とせもたち蓮の花の最中に|なつたれどもまだかへらぬ妾がこゝろ夢にもうつゝにも去年別れた西湾江上の水をはなれず|わかれた時分のこゝろもちでいつもあり〳〵と見るやうに思てゐる此ごろ人のいふを聞ばわが|おつとは鳳凰山あたりにほうわうの雌雄の中のよいごとくほかにむつましいちかづきをもちて|此方をばわすれてゐらるゝといふが若さうした事ならばうらめしい何ともふとゝきなきこへぬ|人じやといふ詩意ならむ》【挿絵】 【挿絵】  軍城早秋(ぐんじやうのさうしう) 厳武(げんぶ) 昨夜秋風(さくやしうふう)入(いる)_二漢関(かんくはんに)_一 朔雲辺月(さくうんへんげつ)満(みつ)_二西山(せいさんに)_一 更(さらに)催(もよほして)_二飛将(ひしやうを)_一   追(おふ)_二驕虜(きやうろを)_一 莫(なかれ)_レ遣(しむること)_二沙場(さじやうの)   匹馬還(ひつばをしてかへら)_一 《割書:昨夜の頃から秋風の吹来り|漢関あたりもさむくなり征|伐のじせつにもおもむきこと|に朔雲も空にたなびき辺|塞の月もすみわたり西山に|みち〳〵てものすこく|見ゆる 《割書:此時分胡のものどもがいりこむ|ゆへ飛将軍などゝいふやうな|大将を催しつかはして都を何|ともおもはずせむる驕虜の|のゑびすをおひはらはるゝ|   大将の下知をくだす|        ことゝぞ》 【挿絵】 重(かさねて)送(おくる)_三裴郎中(はいらうちうが)貶(へんせらるゝを)_二吉(きつ) 州(しうに)_一   劉長卿(りうちやうけい) 猿啼客散暮江頭(さるなきかくさんずほこうのほとり) 人自(ひとはおのづから)傷(いたましめ)_レ心(こゝろを)水自流(みづはをのづからながる) 同(おなじく)作(なつて)_二逐臣(ちしんと)_一君更遠(きみさらにとをし) 青山万里一孤舟(せいざんばんりいつこしう) 《割書:さて其(そこ)もとをおくるときは日の|暮(くれ)がたゆへ猿(さる)もなきをくり見|おくりに来た客(かく)もちり〴〵に此|江頭(こうとう)をわかるれば行(ゆく)ものも|おくるものもこゝろをいたま|しめわかれを悲(かなし)むに此/河水(かすい)|は何こゝろなくながれてゐる|我(われ)もそなたも同じく都(みやこ)を追(をひ)|しりぞけられた逐臣(ちしん)なれ|ども其中てもそこもとは|又/遠国(をんごく)へながされて|  青山(せいざん)万里(はんり)の|      あなたへ孤|   舟(しう)をうかべてゆかるゝ|             は|  いたましひことじや   送(おくる)_三李判官(りはんくはんが)之(ゆくを)_二潤州行営(しゆんしうこうえいに)_一 万里(ばんり)辞(じして)_レ家(いへを)事(ことゝす)_二鼓鼙(こへいを)_一金陵駅路楚雲西(きんりやうのゑきろそうんのにし) 江春(こうしゆん)不(ず)_三肯(あへて)留(とゞめ)_二行客(こうかくを)_一艸色青々(さうしよくせい〳〵として)送(おくる)_二馬蹄(ばていを)_一 《割書:今そこもとは家を辞して万里のあなたへ鼓鼙の軍事をことゝし金陵の伝馬をとをり楚国の西じゆん|しうのかたへゆかるゝ○わがとゞめぬまへから川ばたの春色がもしもとゞめてくれるかとおもへばとゞめぬさうで結|句この人が馬にのり草をわけてゆかるればあとから青〳〵と生じておくるやうに思はるゝさて〳〵ぜひもない|ことじやといふ詩意なり》【挿絵】 春行(しゆんこう)   寄(よす)_レ興(きやうを)  李華(りくは) 宜陽(せんよう)城下(じやうか) 草萋々(くさせい〳〵) 澗水東流(かんすいひがしにながれて) 復(また)向(むかふ)_レ西(にしに) 芳樹(ほうじゆ)無(なふして)_レ 人(ひと) 花自落(はなおのづからおつ) 春山一路(しゆんざんいちろ) 鳥空啼(とりむなしくなく) 《割書:此/河南府(かなんふ)にある宣陽(せんよう)|城(じやう)もむかしは繁昌(はんじやう)な事で|あつたが今は誰も往来(わうらい)|するものもなく掃除(さうぢ)|するものもなければ|草のみ生しけりて荒(あれ)|はてむかしとはかはり行|只かはらぬは澗水(かんすい)の東(ひがし)に|なかれて又西へながるゝのみしや|昔(むかし)は大/勢(ぜい)どよめき花見(はなみ)などを|したが今はたれもみるものも|なければたゝむなしくおつるに|まかせて置/宣陽城(せんようじやう)【宜陽城ヵ】のみちは|春山に鳥の啼(ない)てゐるのみ|あいするものもないむかしとは|格別(かくべつ)の体(てい)を|      いふなり》【挿絵】 【挿絵】 瀟湘何事等閑回(しやう〳〵よりなにことぞとうかんにかへる)水碧沙明両岸苔(みづみどりにいさごあきらかなりりやうがんのこけ)二十五弦(にしうごげん)弾(たんせば)夜月(やけつに)不(ず) 勝(たへ)_二清怨(せいえんに)_一却飛来(かへつてとびきたり)   帰雁(きかん) 《割書:雁かしやう〳〵あたりに来てゐるが何ことぞとうした事で心をとめす、等閑にかへる事ぞしやう〳〵風景は水みどりに沙あきらかに|おもしろひ景しやになぜすてゝゆく事ぞ、琴の曲に帰雁操といふがあるゆへとりあはせていふ|○此ところは帝舜のきさき娥皇女英の身をしつめたる所なればその神れいが二十五弦の琴を夜月にたんじて|あらうならば其御うらみにたへずして却てあとずさりにとぶであらふ》 【挿絵】  登楼(とうろう)寄(よす)_二王卿(わうけいに)_一   韋応物(いをうふつ) 踏(ふみ)_レ閣(かくを)攀(よぢて)_レ林(はやしを)恨(うらみ)不(ざることを)_レ同(をなじから)楚雲滄海思(そうんさうかいおもひ)無(なし)_レ窮(きはまり)数家砧杵秋山下(すかのちんしよしうざんのもと)一郡荆榛寒雨中(いちぐんのけいしんかんうのうち) 《割書:  郡主(ぐんしゆ)もはんじやうな地へやられずこのやうなさひしいところへやらるゝゆへものかなしひといふ心をふく|  みたる詩なり》 《割書:韋応(いをう)物が郡(こっほり)の奉行(ぶぎやう)で居(ゐ)て楼(ろう)にのぼつてつくるなり○林中(りんちう)よりずいと出てある|閣(かく)ゆへかういふなり、高(たか)きざしきより見れば目の下にみえて、攀(よぢ)のぼつたやうに見ゆる、高(たか)い|閣(かく)じや、そこもとゝ一/所(しよ)に上たらおもしろかろうが、もろともにあそぶ事もならぬはざんねん|じやそこもとは楚雲(そうん)の方(かた)にゐらるゝが、われらは滄海(さうかい)に居(ゐ)て相(あい)へたゞつて、一/所(しよ)にゐる事|もならぬゆへ、さま〴〵の事をおもひ出すとなり、楼(ろう)に上て見ればどこもかしこも砧(きぬた)の音(おと)|がするが秋山(しうさん)の下にきこへてものかなしゐ、一/郡(ぐん)は一/村(むら)の在郷(ざいこう)をいふ、荊榛(けいしん)のむちやくちやとはへて、|やくにもたゝぬむぐらの中にあるが、雨中(うちう)にものさひしふ見へるそこもとゝ一しよに見|たらかうはあるまいといへる詩(し)なり》 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本《割書:七言絶句|続編》二》 【小題】春日 酬(むくゆ)_下柳郎中春(りうらうちうがしゆん) 日(じつ)帰(かへつて)_二揚州(やうじうに)_一南(なん) 国(こくに)見(るゝ)_レ別(わか)之作(のさくに)_上 広陵三月花(くはうりやうさんげつはな) 正開(まさにひらく)花裏(くはり)逢(あふて) _レ君(きみに)醉一廻(ゑふこといつくはい)南(なん) 北相過殊(ぼくあいすぐことに)不(ず) _レ遠(とをから)暮潮從去(ぼてうかへりさつて) 早潮来(さうてうきたる) 《割書:楊州の広陵あたりも|春三月ゆへ花の最中|である此じぶん外でも|あるか花の裏でそこもと|にあふて酒もりをして|たのしむがはやおつつけ|わかれねばならぬしたが|又逢ふも心やすひなぜ|なれば夕へ潮の時分|帰て朝潮のときに早|ござらるゝほどにいつ|  逢ふも自由じや|   さのみうれゐ|    らるゝなと|   なぐさめて|       いふ》 送(をくる)_三魏十六(ぎしうろくが)還(かへるを)_二蘇州(そしうに)_一 秋夜沈沈此(しうやちん〳〵としてこゝに)送(おくる)_レ君(きみを) 陰虫切切(いんちうせつ〳〵として)不(ず)_レ堪(たへ)_レ聞(きくに) 帰舟明日毘陵道(きしうめうじつひりやうのみち) 回(めぐらさば)_レ首(かうべを)姑蘇是白雲(こそこれはくうん)【挿絵】 《割書:秋の夜ちん〳〵と更行ものさびしゐじぶんそこもとをおくるわかれといふものはたゞさへかなしゐに陰虫せつ〳〵|としきりに鳴ていよ〳〵物かなしゐ聞にたへがたひ明日はかへるとて舟にのり毘陵の道をはるかに|ゆかれなばこひしふ思ふて首をめくらして見てもあとかげもみへずたゞ姑蘇山のあたりに白雲のみ|びやう〳〵としてわがうれいをますであらふと|                    明朝わか るゝときの事をおもひやるなり》 曽山(そさん)送(をくる)_レ別(わかれを) 淒々遊(せい〳〵たるゆう) 子(し)苦(くるしむ)_二飄(ひやう) 蓬(ほうを)_一明月(めいげつ) 青樽祗(せいそんたゞ) 暫同(しばらくおなじふす)南(みなみのかた)望(のぞめば)_二 千山(せんざんを)_一如(ごとし)_二黛色(たいしよくの)_一 愁君客路(うれふきみがかくろ)在(あることを)_二 其中(そのうちに)_一 《割書:淒〳〵はおちぶれた事○そこ|もとの旅立のやうすをみれ|ばせい〳〵とみすぼらしく|遊子のことなれば宿もさだ|めず飄蓬とよもぎのごとく|あなたこなたを遊行せらるゝ|此たびも曽山の方へゆかるゝゆへ|今夜月の夜すがらさかもりを|すれどもこゝとてもしばらく|の事じやそこもとのゆかるゝ方|は山つゞきでまゆずみのごとく|青くしげりみゆるがさだめ|て道中をゆかるゝで|   あらふといたはしく|     うれゐおもふと|           なり》【挿絵】   寒食(かんしよく)     韓翃(かんかう) 春城(しゆんじやう)無(なし)_三処(ところとして)不(ずといふこと)_二飛花(ひくはなら)_一寒食東風御柳斜(かんしよくとうふうぎよりうなゝめなり) 日暮漢宮(じつほかんきうより)伝(つたふ)_二蠟燭(らうしよくを)_一青煙散(せいゑんはさんじて)入(いる)_二 五侯家(ごこうのいへに)_一 《割書:春のかんしよくのじぶんには都のあたりどこもかも花のとびちらぬところはなゐ此御ついぢのまはりの柳|なども東風に吹てんぜられてなゝめにたれてある寒食の日くれにはあらたに切火をしてそれをらうそくに|てんじて臣下ともに下さるゝを人〳〵うけつたえて先さいしよに青煙のけぶりのこいところを一ばんがけ|に持行ところが天子の御一門の五侯七貴の門にゆくことじや|             寒食は冬至より百五日めの日にて二月にあり》【挿絵】 【挿絵】  送(おくる)_三客(かくの)知(ちたるを)_二鄂州(がくしうに)_一 江口千家(こうかうのせんか)帯(をぶ)_二楚(そ) 雲(うんを)_一 江花乱点雪紛(こうくはみだれてんじてゆきふん) 紛(ふん) 春風落日誰相(しゆんふうらくじつたれかあい) 見(みん) 青翰舟中(せいかんしうちう)有(あり)_二鄂(がく) 君(くん)_一  《割書:知(ち)はつかさどると読(よ)ませて奉行|の事になるこれは韓翃(かんかう)か客(かく)たる|人ならん》 《割書:今/別(わか)るゝ所の江口(こう〳〵)は家(いへ)の千/軒(げん)|もある処て楚辺(そへん)の空(そら)とも|入まじりてゐる川ばたの花|も風にふきとはされて雪(ゆき)ととも|に粉(ふん)〳〵とみだれておもしろ|ひ風景(ふうけい)じや春風(しゆんふう)落日(らくじつ)のじ|ぶん其許(そこもと)のうけ取の方へゆかれ|たりとも此/風景(ふうけい)を共(とも)に見る|ものもあるまいなればひとりみ|て居(ゐ)らるゝであろふいたはしい|事じや鄂君(かくくん)は楚王(そわう)の母弟(はゝてい)子(し)|哲(てつ)【子皙(しせき)ヵ】青翰(せいかん)の舟(ふね)に乗(じやう)じた事が|説苑(せつゑん)にあるゆへ|   奉行(ぶぎやう)のことに|    とりあはせて|      いふなり》 【挿絵】   宿(シユクす)_二石邑山中(せきゆうのさんちうに)_一 浮雲(ふうんも)不(ず)_下共(ともに)_二此山(このやまと)_一斉(ひとしから)_上  山靄蒼蒼望転迷(さんあいさう〳〵としてのぞみうたゝまよふ) 暁月暫飛千樹裏(けうげつしばらくとぶせんじゆのうち)  秋河隔(しうがはへだてゝ)在(あり)_二數峰西(すほうのにしに)_一 《割書:此宿したる山はたかきゆへに浮雲(ふうん)もやうやく半腹(はんふく)をめぐりて山と斉(ひと)しからず山もこんもりとして茂(しけり)てあればどこ|がとこともしれず方角(ほうがく)のわかちもなくのぞみうたゝまよふありあけの月のすこし今までみへたと思ふたに|はやとんで千樹(せんしゆ)の裏(うち)にかくれて見へず秋の空の漢河(あまのがは)は此方とはへだてゝ草木のしけりたる数峰(すほう)|の西の方にあればとれがどれやら見わかちもないひろい山ではある》 【挿絵】 送(おくる)_二劉侍郎(りうじらうを)_一    李端(りたん) 幾人同入謝(いくばくひとかおなじくいるしや) 宣城(せんじやう)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ及(およは) _レ酬(むくゆるに)_レ恩(をんを)隔(へだつ)_二死(し) 生(せいを)_一唯(たゞ)有(あつて)_三夜(や) 猿(えんの)知(しる)_二客恨(かくこんを)_一 嶧陽渓路(ゑきやうけいろ) 第三声(ていさんせい) 《割書:謝眺(しやてう)がことく其許(そこもと)も官に|ついてござる中は幾人か大|勢入こんで恩をうけたが官|をすてたれば人も見すてゝ|うけた恩をも報(ほう)ぜす死|をへだてたやうに見まひ|に来るものもなひ此うら|みを誰に語る者もなひ|人は見すてゝ来るものも|ないが此人のうらみある事|を知てなくものは猿ばかり|じやこれを|   きかれたならば|    さぞかなし|       からふ|         と|        なり》 《割書:旅泊のことなれば通宵寝ず暁かと驚た体を云●山へ入かゝる月影が森へさしこみたるゆへ空もきらめいて川ばたの|もみぢの間から漁火のすなどりする火が愁眠の一トねいりしてさつはりとさめぬ目にうち対してみゆる扨は|夜がふかい但し夜が明たかとうたがつてきけば姑蘇城外の山寺の夜半の鐘の声が|                  手まへの乗てゐる舟へきこへるから夜があけぬをしるとなり》 ------------------------------------------------------------------------------- 楓橋夜泊(ふうきやうやはく)   張継(ちやうけい) 月落烏啼(つきをちからすないて) 霜(しも)満(みつ)_レ 天(てんに) 江楓漁火(こうふうぎよくは)対(たいす)_二 愁眠(しうみんに)_一 姑蘇城外(こそじやうくはいの) 寒山寺(かんざんじ) 夜半鐘(やはんのしやう) 声(せい)到(いたる)_二 客船(かくせんに)_一 【挿絵】 聴(きいて)_レ角(かくを) 思(おもふ)_レ帰(きを)  顧況(こきやう) 故園黃葉(こゑんのくはうよう) 満(みつらん)_二青苔(せいたいに)_一 夢後城頭(むごじやうとう) 曉角哀(けうかくをかなしむ)此(この) 夜断腸人(よだんてうひと) 不(ず)_レ見(みへ)起行(きこうすれば) 残月影徘(ざんげつかげはい) 徊(くわい)【挿絵】 《割書:比しも秋ゆへ木の葉も黄ばみ落て庭の青苔みち〳〵たであらふたれ掃除するものもなければさだめて|荒はてたであらふと愁へおもふ寝ざめにきけば暁方の胡角の声がものかなしくきこへて旅の愁を引おこす|此曲を聞てかなしさをたれとかたらふものもなくうれふかうして寝もやられずあちこちあるいてみればどこへも|かしこへも月がうつゝてみゆるゆへいよ〳〵愁がますことではある》  宿(しゆくす)_二昭応(しやうをうに)_一 武帝(ぶてい)祈(いのる)_レ靈(れいを) 太乙壇(たいいつだん) 新豊樹色(しんほうのじゆしよく) 繞(めぐる)_二千官(せんくはんを)_一 那知今夜(なんぞしらんこんや) 長生殿(ちやうせいでん) 独(ひとり)閉(とぢんとは)_二 空山(くうざん) 月影寒(げつゑいのさむきに)_一【挿絵】 《割書:むかし漢の武帝の壇を築て天の神霊を祭たごとく玄宗にも祠られ其じぶんには玄宗の幸なされて新|豊宮のあたり樹の陰林のほとりには官人どもが警固し繞て花やかな事でありしがなんぞしらん思もよらず|今夜此長生殿のやうすをみれば古へとはちがひとぢふさいでたれ往来するものもなく月をみるものもなく|                   ものさびしい事かなといにしへをかんじていたむなりとなり》 【挿絵】   湖中(こちう) 青草湖辺日色低(さうこへんのじつしよくたる) 黃茅嶂裡鷓鴣啼(くはうぼうしやうりしやこなく) 丈夫飄蕩今(じやうぶひやうたういま)如(ごとし)_レ此(かくの) 一曲長歌楚水西(いつきよくのちやうかそすいのにし) 《割書:青草湖(せいさうこ)のあたり日もかたむきくれ合に黄茅(くはうほう)の中などに都に見なれぬ鳥がないて|居る此やうな所へ来やうとは思ひよらずものすごひ処(ところ)にきてゐる事かなわれも何をがな功(こう)を|たてゝ高位(かうい)にも上らんと志(こゝろざし)たる丈夫なれどもかやうにおちぶれてなぐさむ方もなけ|れば此曲をつくり楚水(そすい)の西にうたふて吾(わ)がこゝろのうれゐをはらすのみじや》  夜(よる)発(はつして)_二袁江(ゑんかうを)_一寄(よす)_二李潁川劉侍郎(りゑいせんりうじらうに)_一              戴叔倫(さいしゆくりん) 半夜(はんや)回(めぐらして)_レ舟(ふねを)入(いる)_二楚郷(そきやうに)_一月明山水(つきあきらかにしてさんすい) 共蒼々(ともにさう〳〵) 孤猿更叫秋風裏(こゑんさらにさけぶしうふうのうち)不(ざるも)_二 是愁人(これしうじんなら)_一亦斷腸(まただんてうす) 《割書:半夜舟をうかへて楚郷(そきやう)の方へまかりこせばそらも|はれわたり月もさへ山が水底にうつゝてともにさう|〳〵と見ゆる其うへ秋風のうちに孤猿(こゑん)がさけび|ものかなしひこれは旅宿(りよしゆく)ばかりかとおもへば愁(うれひ)の|なひ人も哀情(あいじやう)をもよほすいはんやわれらがやう|なものは甚(はなは)だかなしひ》【挿絵】  寄(よす)_二楊侍郎(やうじらうに)_一      包何(ほうか) 一官何幸(いつくはんなんのさいわいぞ)得(えたる)_レ同(おなじふすることを)_レ時(ときを) 十載(じつさい)無(なふして)_レ媒(なかだち)独(ひとり)見(る)_レ遺(のこさ) 今日(こんにち)莫(なかれ)_レ論(ろんすること)腰下組(ようかのそ) 請君看取鬢辺糸(こふきみかんしゆせよひんへんのいと)  《割書:我もかやうなかるい一官でもあれどうした仕合で此やうにそこもとなどゝ同時につとめて|ゐるぞ【「ぞ」は「が」ヵ】これ幸(さいわい)なことなれどもそこもとはつか〳〵と立身(りつしん)せられたれどわれは不|仕合ていつもおなじつとめでいるぞ誰(たれ)なかだちとなりて進(すゝ)め上てくれるものもなく独(ひとり)|取のこされてゐる◦今になつては役の高(たか)いの低(ひく)いのといふやうな事はいふてくれらるゝな|最そのだんではない鬢毛(びんもう)がいとを乱したごとく白髪(しらが)になつたれば上官しても|                                  やくにたゝぬ》【挿絵】  汴河曲(へんかのきよく)    李益(りゑき) 汴水東流(へんすいひかしにながれて)無(なき) _レ限(かぎり)春(はる) 隋家宮闕已(ずいかのきうけつすでに) 成(なる)_レ塵(ちりと) 行人(こうじん)莫(なかれ)_下 上(のほつて)_二長(ちやう) 堤(ていに)_一望(のぞむこと)_上 風起楊花(かぜおこつてやうくは)愁(しう)_二 殺(さつす)人(ひとを)_一 《割書:むかし随(すい)の煬帝(ようてい)の此河を|さくりとをされてより此|かた来る春も〳〵かぎりも|なくかはることもないに|煬帝の宮殿(くうでん)はあとかたも|なくなつたこのあたりを|通(とを)るものかならずこの長(ちやう)|堤(てい)にのぼつてのぞみ見る|なよなぜなれば長堤(ちやうてい)|楊柳(やうりう)が風に吹(ふき)とばされて|見るにしのびぬほどに見|るなといふが|   手前(てまへ)の|    うれひを|   ひろくいふ|        なり》【挿絵】  聴(きく)_二暁角(けうかくを)_一 辺霜昨夜(へんさうさくや)墮(おつ)_二関(くはん) 榆(ゆ)_一吹(ふいて)_レ角(かくを)当城片(とうじやうへん) 月孤(げつこなり)無(なき)_レ限(かぎり)塞鴻(さいこう) 飛(とび)不(ず)_レ度(わたら)秋風吹(しうふうふいて) 入(いる)_二小単于(しやうぜんうに)_一 ̄ニ 【挿絵】 《割書:辺塞(へんさい)ははや昨夜(さくや)のころより霜くだり関処(せきしよ)のあたりもよほどさむくものすごくなつた◦楡(ゆ)【左ルビ「にれのき」】は関処に|あまた植(う)へ置く木なるゆへかくいふ◦胡角(こかく)のこえが城のあたり暁(あかつき)の片月のてらすじふん物かなしくきこへ|ていよ〳〵たへがたひ鴻雁(こうがん)なとの来る比なれともよく〳〵此こえがかなしひやら此方へとびわたらぬ鳥さへ聞|にたへがたひさうなもう止(やむ)と思ふに秋風の吹にまかせて小単于(しやうたんう)を吹出したればます〳〵かなしふなつた》 【挿絵】   夜(よる)上(のぼつて)_二受降城(じゆごうじやうに)_一         聞(きく)_レ笛(ふへを) 回楽峰前沙(くはいらくほうぜんいさご)似(にたり)_レ雪(ゆきに) 受降城外月(じゆごうじやうぐわいつき)如(ごとし)_レ霜(しもの) 不(ず)_レ知(しら)何処(いづれのところか)吹(ふく)_二蘆管(ろくはんを)_一 一夜征人尽(いちやせいじんこと〳〵く)望(のそむ)_レ鄉(きやうを) 《割書:夜受降城に上りみれば回|楽峰の近所は沙の上がまつ|白くて雪のやうにみゆる手|まへの上た受降城あたりは|霜のごとく月がさへてもの|すごひ此風景のさひしゐ|おりからどこでやら|蘆管の曲をふくが|きこゆる此曲を聞ては| このあたりへ征伐に|   来たものは故郷を|    思ひ出すで|        あらふ|     わればかり|         では|        あるまい》 【挿絵】   従(したがつて)_レ軍(ぐんに)北征(ほくせいす) 天山雪後海風寒(てんざんせつごかいふうさむし)橫笛偏吹行路難(わうてきひとへにふくこうろだん) 磧裏征人三十万(せきりせいじんさんじうまん)一時(いちじ)回(めくらして)_レ首(かうへを)月中看(げつちうにみる)   《割書:天山あたりも雪後(せつご)なれば海風さむくして此あたりを往来(わうらい)するさへものすごひ|に横笛(わうてき)をひとえにどこてもかしこでも吹(ふ)く外の曲でもあらふに旅人(りよじん)を|かなしまする行路難(こうろだん)の曲(きよく)をふく|此/沙磧(させき)のうちには征伐(せいばつ)に来てゐるものが三十万ほどもあらふが一時に首(かうべ)を|めぐらしふりむいてやれ〳〵此やうなあはれな|              曲はとこで吹ことぞと|                     月中にふく方を|                           見てゐる》 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本《割書:七言絶句|続編》三》 【小題】楊柳 【挿絵】    楊柳枝詞(ようりうしのことば)  煬帝行宮汴水浜(ようでいのこうきうへんすいのひん) 数株楊柳(すちうのようりう)不(ず)_レ勝(たえ)_レ春(はるに)  晚来風起花(ばんらいかぜおこつてはな)如(ごとし)_レ雪(ゆきの) 飛(とんで)入(いつて)_二宮檣(きうしやうに)_一不(ず)_レ見(み)_レ 人(ひとを) 《割書:むかし煬帝(ようでい)汴河(へんか)をひらかれており〳〵行幸(みゆき)なされた宮殿(くうでん)なともあり又柳を愛(あい)せられたゆへ|此/汴河(へんか)のほとりにうへた数株(すちう)の楊柳も春は芽(め)ざし青やぎ春にたへずとこもかしこも春じや|日くれがたに見れば風のおこるに吹ちらされて楊(やなぎ)の花も雪のごとくとびみだれて宮檣(きうしやう)【宮牆ヵ】にいれ|ども誰(たれ)愛するものもない昔/煬帝(ようでい)の繁昌(はんじやう)なときは格別(かくべつ)なことじやといにしへを思ふてなげくなり》 与(あたふ)_二歌者(かしや)    何戡(かちんに)_一 二十余年(にじうよねん) 別(わかる)_二帝京(ていけいに)_一重(かさねて) 聞(きいて)_二 天楽(てんがくを)_一不(ず)_レ勝(たへ) _レ情(じやうに)旧人唯(きうじんたゞ)有(あつて)_二 何戡(かちんのみ)_一更与殷(さらにためにいん) 勤(ぎんに)唱(となふ)_二渭城(いじやうを)_一【挿絵】 ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:われ帝京(ていけい)をわかれてより久しく漂白(ひやうはく)し辺土(へんど)にゐて今都にかえりふたゝび禁裡(きんり)の音楽(おんがく)を聞ゆへ|おもしろさうなものなれとも二十/余(よ)年まへのことをおもひ出しかえつてものかなしひ今/朝廷(てうてい)を見(み)|るにむかし吾(われ)ともろともに対(たい)した朋友(ほうゆう)は一人もなく只もとのものとては何戡(かちん)の歌者(かしや)のみあつてさらに|いんぎんに打かへし〳〵先年/離別(りべつ)した渭城(いじやう)の曲をとなへて聞(き)かするが是をきけばいよ〳〵かなしみを生(しやう)ずる  浪淘沙詞(らうたうさのことば) 鸚鵡洲頭浪(あふむしうとうなみ) 颭(たゝよはす)_レ沙(いさごを) 青楼春望(せいろうのしゆんぼう) 日(ひ)将(まさに)【左ルビ「す」】斜(なゝめならんと) 銜(ふくむ)_レ泥(どろを)燕子争(ゑんしあらそつて) 帰(かへる)_レ舍(いへに) 独自狂夫(ひとりおのづからきやうふ)不(ず) _レ憶(おもは)_レ家(いえを) 《割書:鸚鵡洲(あふむしう)あたりは浪(なみ)に沙(すな)が|たゞよはされてゐる景色(けしき)|を青楼(せいろう)よりみてゐれば|今日の日もはや西にかた|ぶきくれなんとする|ながき春の日を毎日|なかめて居るなぜみて|ゐるなればわがおつと|は他国(たこく)に出てかえるべき|日/限(げん)もすぎぬれはどう|したことであらふと案(あん)じ|むかふをみれば燕(つばめ)がどろを|含(ふくん)でくれがたかへる時には|かへるに狂夫(きやうふ)は妻や子の|ことを思はぬさうな|ふとゞきな|     人ではある》【挿絵】 自(より)_二朗州(らうじう)_一至(いたつて) _レ京(けいに)戯(たはふれに)贈(おくる)_二看(みる) _レ花(はなを)諸君(しょくんに)_一 紫陌紅塵払拂(しはくこうぢんはらつて) _レ面(おもてを)来(きたる)無(なし)_三 人(ひとの)不(ざる)_レ道(いは)_二 看(みて)_レ花(はなを)_一回(かへると)【「看_レ花回_一」ヵ】玄都観(げんとくはん) 裏(り)桃千樹(もゝせんじゆ)尽(こと〴〵く) 是劉郎(これりうらう) 去(さつて) 後栽(のちうゆ) 《割書:紫陌(しはく)のみやこの町も|今はおごりものは出来|て町中を毎日〳〵大|ぜい往来(わうらい)をすること|なれば塵(ちり)をけたてゝ|おもてとおもてを|すりはらふて通る|都(みやこ)中のものが遊びの|みにかゝつてゐるゆえ|どれに逢ても花を|見てかへるといはぬは|ない老子(らうし)を祭た玄(けん)|都(と)のあたりも花が咲(さき)|つれ桃もすべて千本|あらふこれは手前/劉(りう)|郎(らう)が都にゐたうち|はなかつたが他国(たこく)した|うちにうへたであらふ| むかしとはかはり|    はてた|       事かな》【挿絵】 涼州詞(りやうじうのことば)    鳯林關裏水東流(ふうりんくはんりみづひがしにながる)白草黄榆六十秋(はくさうくはうゆうろくじつしう)    辺将皆(へんしやうみな)承(うく)_二主恩沢(しゆのをんたくを)_一無(なし)_四 人(ひとの)解(げする)_三レ道(いふことを)_レ取(とると)_二涼州(りやうしうを)_一   《割書:鳳林関(ふうりんくはん)あたりはいつも水ひがしにながれてもとより都(みやこ)の地なれどもいつの比(ころ)より|か白艸(はくさう)黄楡(くはうゆう)のゑびすの地になる事年久しく六十年ほど奪(うば)はれてゐるがどれ〳〵も|みな君(きみ)の御恩(ごをん)をうけてゐぬものはないがたれでも此地をとりもどさうといふもの|もなひがざんねんな事じや》【挿絵】 十五夜望月(しうごやぼうげつ)   王建(わうけん) 中庭地白樹(ちうていちしろふしてじゆ) 棲(すましむ)_レ鴉(あを)冷露(れいろ) 無(なふして)_レ声(こへ)湿(うるほす)_二 桂花(けいくはを)_一今(こん) 夜月明(やけつめい) 人(ひと)尽望(こと〳〵くのぞむ) 不(す)_レ知(しら)秋(しう) 思(し)在(あらん)_二 誰家(たれがいへにか)_一【挿絵】 ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:今夜は三五の夜とて中庭の風景しろ〳〵と月もさへわたり庭樹にからすなどが宿してゐるが宵のうちは月影におど|ろいてさはいだか夜ふけになつたればをちついて樹の中にすんでゐる夜ふけゆへかひやゝかなる露がおくとはしら|ねどもこえなくして桂花がうるほふて見ゆる今夜は三五の月とてとこでもかしこでものそまぬものはなひがこの|風景をかんじ秋をかなしみおもふはわればかりであらふ》 送(をくる)_二盧(ろ)   起居(ききよを)_一  武元衡(ふげんこう)  相如(しやうしよ)擁(ようして)_レ伝(てんを) 有(あり)_二光輝(くはうき) 何事闌干(なにことぞらんかんと) 涙(なんだ)湿(うるほす)_レ衣(いを) 旧府東山(きうふとうざん) 余妓在(よぎあり) 重(かさねて)将(して)_二歌舞(かぶを)_一 送(をくる)_二君帰(きみかかへるを)_一【挿絵】 ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:いにしへ司馬相如が中郎将に拝せられたときに御伝馬で蜀の故郷へかへるとて美々しくはなやかにかさり立て行た|といふがこなたも出世して此度故郷へかえらるゝゆへ相如がごとく所々で伝馬をようしとりまはし光輝ありて美々しく|してゆかるゝゆへよろこはしひ事なれ共われはどうした事か闌干と涙がながれかはくまもなくなごりがをしひ何かなと|おもひしらぬ妓女は初たいめんでなぐさみにもなるまいゆへこなたのもとつとめられた役所の近所東山あたりのなじまれた|妓女をよびよせまへのごとく唄つ舞つこも〴〵になぐさめてきみがかへるをおくるとなり》 【挿絵】  嘉陵駅(かれうゑき) 悠悠風旆(ゆう〳〵ふうはい)遶(めぐる)_二 山川(さんせんを)_一 山駅空濛雨(さんゑきくうもうとしてあめ) 作(なる)_レ煙(けふりと) 路(みち)半(なかばにして)_二嘉陵(かれうに)_一頭(かしら) 已白(すでにしろし) 蜀門西更(しよくもんにしのかたさらに)上(のぼる)_二 青天(せいてんに)_一 《割書:ゆう〳〵とはてしもない道中|ことに持行(もちゆく)旆(はた)などを風が吹|なびかし山川の難処(なんしよ)をめ|ぐりゆく道すがらの風景|は山地/駅路(ゑきろ)もくうもうと|くもり今まで降(ふつ)た雨も|けぶりのやうになつてどこ|がとこやら見わかちもなら|ぬどこまでもかやうなところ|を通るゆへ髪(かみ)もしろく|なるほどつかれたるが今/通(とを)|る嘉陵(かれう)は半分みちで西|の方/蜀門(しよくもん)までば何ほど|あるやらしれぬ|     遠(とを)いところ|         じや》       漢苑行(かんえんこう)        張仲素(ちやうちうそ) 回雁高飛太液池(くはいがんかうひすたいゑきち) 新花低発上林枝(しんくはていはつすしやうりんのゑだ)年光到処皆(ねんくはういたるところみな)堪(たへたり)_レ賞(しやうするに)春色人間総(しゆんしよくにんげんすべて)未(いまだ)【左ルビ「す」】_レ知(しら) 《割書:春の事なれば雁なども高く太液池よりとび去て北へかへる春の最中なれば苑の花樹の枝にもあらたに花|が咲つれて地へつくほどにみたれて見事なことじや此春光のいたる所賞するにたへおもしろい風景じやか宮中の春|色ゆへ天子のみ御覧なされて人間外のものは見ることもならぬ又の説に天子をはしめて人間すべてしらず|此花をたれひとり見るものもないこれは乱後の風景にもつうずるなり》【挿絵】  塞下曲(さいかのきよく) 三(みたび)戍(まもつて)_二漁陽(ぎよようを)【_一】再(ふたゝび) 度(わたる)_レ遼(りやうを) 騂弓(せいきう)在(あり)_レ臂(ひぢに) 箭(せん)橫(よこたはる)_レ腰(こしに) 匈奴(けうど)似(にたり)_レ欲(ほつするに)_レ知(しらんと)_二 名姓(めいせいを)_一 休(やめよ)【異体字「𠇾」休+一】_下傍(そふて)_二陰山(いんざんに)_一 更(さらに)射(いることを)_上レ雕(てうを) 《割書:われも此/漁陽(ぎよやう)あたりへ三|度ほどまもりに来りこの|遼東(りやうとう)へ今度てふたゝび|まもりにきたることぢや|辺塞(へんさい)へまもりにきてゐれ|ば騂弓(せいきう)をひぢにかけて|箭をこしにはさみ横(よこ)たへ|てしばらも身をはなさず|用心することじや匈奴(ゑびす)の|ものもおれが今度まもり|に来るといふ事もしるまいが|さて〳〵あの人はせつ〳〵来る|人じやと思ふやうでどうやら|おれが名をしつたさうに|みゆるが中〳〵其ほうがしつ|とをり戍(まもり)に来たる事なれば|たやすく名をいひ心やすく|する事ではない必ず唐境(とうさかい)|の山へきて雕(くまたか)をゐるにかこ|つけて都(みやこ)の地へふみ込ならば|征伐(せいばつ)に行とをどすなり》【挿絵】  又 朔雪飄々(さくせつひやう〳〵として)開(ひらく)_二 雁門(かんもんを)_一平沙歴(へいされき) 乱(らんとして)捲(まく)_二蓬根(ほうこんを)_一功(こう) 名(めい)恥(はちらくは)計(はかることを)_二擒生(きんせい) 数(すうを)_一直(たゞちに)斬(きつて)_二楼(ろう) 蘭(らんを)_一報(ほうせん)_二国恩(こくをんを)_一 【挿絵】 ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:辺塞なれば北方より風雪飄々とふり来るゆへ雁門の陣屋の門をひらいて見れは平々たる沙漠も|歴乱とかぜが吹みだれて蓬根なども吹まかれて枯てみゆるとても此やうに寒いところへ来て|くらうするからは大功をたてゝ名を天下にあげたがよいなか〳〵いけどりをするを功名のやうに覚て|それのみにかゝつて居るもはづかしいことじやわれは其やうなことにかゝはらぬ直に楼蘭王の首を|きつて一国の御恩をほうじ忠義をたてやうとぞんずる》 秋閨思(しうけいし) 碧窓斜月(へきさうしやげつ) 靄(あいたり)_二深輝(しんき)_一愁(うれい)_二 聴(きいて)寒螿(かんしやうを)_一 涙(なんだ)濕(うるほす)_レ衣(いを) 夢裏分明(むりふんみやうに) 見(みる)_二関塞(くはんさいを)_一不(ず)_レ 知(しら)何路(いづれのみちか)向(むかひし)_二 金微(きんびに)_一 【挿絵】 ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:女中の居る戻子張(もしはり)の窓(まと)へなゝめに月がさしこんで奥(おく)ふかくきら〳〵と見へて物さびしいをりふしさむさうにこゝかし|こできり〴〵すがうるはしく鳴(なく)をきけばいとゞさひしふなつておつとの事を思ひ出し涙(なみだ)衣をうるほす夫を思ふ|につけて夢(ゆめ)のうちにあり〳〵と夫のゐる関塞(くはんさい)をみて夫にあふたやうに思はるゝが女の身なれば行(ゆか)うはづもなく|道もしらぬがどこから金微(きんび)に向て行たぞみちもしらぬに不/思議(しき)な事ではあるとなり》     郡中即事(ぐんちうそくじ)     羊士諤(ようしがく)  紅衣落尽暗香残(かういをちつくしてあんかうのこす) 葉上秋光白露寒(ようしやうのしうくはうはくろさむし)  越女(ゑつじよ)含(ふくんで)_レ情(じやうを)已(すでに)无(なし)_レ限(かぎり) 莫(なかれ)_レ教(して)【左ルビ「しむること」】_三レ長袖(ちやうしうを)倚(よら)_二蘭干(らんかんに)_一 【挿絵】 《割書:資州(ししう)に奉行(ぶぎやう)したときの作也|紅衣(かうい)の蓮(はす)の花びらなども|おちつくし花はみな散(ちり)たれ共|まだとこともなく香(か)がのこ|つてある秋のことゆへに木|の葉(は)の露(つゆ)をひたすやうな|ものすごければこの花の|落(おち)たをみせたらば秋情(しうじやう)|をふくみていろ〳〵の愁(うれい)|を思ひ出すほどにかなら|ず長袖(ちやうしう)の美(び)人どもを|  闌干(らんかん)によせて|       見せるな》  登楼(とうろう) 槐柳蕭踈(くわいりうせうそとして)繞(めぐる)_二 郡城(ぐんじやうを)_一夜(よ)添(そへて)_二山(さん) 雨(うを)_一作(なる)_二江声(こうせいと)_一秋(しう) 風(ふう)南陌(なんはく)無(なし)_二車(しや) 馬(ば)_一独(ひとり)上(のほる)_二高楼(かうろうに)_一 故国情(こゑんのじやう) 《割書:秋のしぶんなれは槐柳|なとの葉もおちせう|そとものさびしくて|郡城をおしこぐつて|生へてあるつねでさへ|声がたかいに雨が降(ふつ)た|ゆえひとへにこへも|たかくものすこい秋|の此しぶんたれに|訪ふものあらば語て|なぐさまうが南/陌(はく)あ|たりも車馬なく|さびしくてわれ独|楼上へ上てさひしい|につけては故郷の|ことをおもひ出して|   やむにたへぬ》【挿絵】 【挿絵】   酬(むくふ)_下浩(こう)■(しよ)【初ヵ】上人(しやうにん)欲(ほつして)_レ登(のぼらんと)_二仙人山(せんにんざんに)_一見_上レ貽 柳宗元(りうさうげん)  珠樹玲瓏(しゆじゆれいらうとして)隔(へだつ)_二翠微(すいびを)_一病来方外事多違(びやうらいほうぐわいことおほくたがふ)仙(せん)  山(ざん)不(ず)_レ属(ぞくせ)_二分(わかつて)_レ符(ふを)客(かくに)_一 一(いち)_二任(じんす)凌(しのいて)_レ空(そらを)錫杖飛(やくじやうをとばすに)【しやくじやうヵ】_一 《割書:仙人の居るところは人間世とちがふて樹なども珠樹(しゆじゆ)で玲瓏(れいらう)とかゝやき翠微(すいび)をへだてゝむかふに見|ゆるわれ病身ものなればこなたなどゝもろともに方外のあそびをしやうと思へどもみなくひちがひ|相違して思ふやうにならぬ元より仙人山などはおらがやうな符をわかつ官人などには付属(ふそく)せねばこなたは神通|を得てござるから空をしのいて錫杖(しやくじよう)をとばし上らるゝに打まかせて置なか〳〵及ひもなひうら山しゐ事じや》 【挿絵】 題(だいす)_二延平(ゑんへい)剣(けん) 潭(たんに)_一  欧陽詹(おうやうせん) 想(さう)_二-像(しやうして)精霊(せいれいを)_一 欲(ほつすれども)_レ見(みんと)難(かたし) 通津一去(つうしんひとたびさつて) 水漫々(みづまん〳〵) 空(むなしく)余(あまして)_二千載(せんざい) 凌(しのぐ)_レ霜(しもを)色(いろを) 長(ながく)与(と)澄潭(しやうたん) 白日寒(はくじつさむし) 《割書:干将(かんしやう)莫邪(ばくや)が二/振(ふり)の霊剣(れいけん)が|此/延津(ゑんしん)にしづんだといふ事じや|が今この剣の精霊(せいれい)をみやう|とおもへども見ることのならぬ|この津水(しんすい)のうちへ一度さつて|より剣はみへずたゞ水のみはて|しもなくながれゆくむなしく|千載(せんざい)ののちの世までも凌霜(しやうさう)|のするどきやき刃の色のみを余|して長くこのすみたゝへたる潭(たん)|水ともにこの水底(みつそこ)にあつて白|日にえいじてすさまじく覚ゆる|のみなか〳〵見る事は|    ならぬほどの|      名剣で|        ある》 【挿絵】    聞(きく)_三白楽天(はくらくてんが)左(さ)_二降(ごうするを)江州司馬(ごうしうのしばに)_一  元稹(げんしん)  残灯(ざんとう)無(なふして)_レ焰(ひかり)影幢幢(かげどう〳〵)  此夕(このゆふべ)聞(きく)_三君(きみが)謫(たくせらるゝを)_二 九江(きうこうに)_一  垂(たれて)_レ死(しに)病中驚坐起(びやうちうおとろいてざきす)  暗風(あんふう)吹(ふいて)_レ雨(あめを)入(いる)_二寒窓(かんさうに)_一 《割書:幢々(とう〳〵)とは明(あき)らかならさる貌(かたち)暁方(あかつき)の焰(ひかり)もなくおつゝけ消(きへ)なんとする灯(ともしび)なれは影も小/暗(くら)くものさびしく|して打/対(たい)して居るは何のゆへなれば此夕きけばわが詞友(しゆう)の白楽天が江州に謫(たく)せらるゝといふゆへその心|中を思ひはかつて夜の目も寝(ね)ず思くらしてゐる吾も此比は大病でなか〳〵動(うこ)くこともならぬにそれを聞て|これはと驚(おとろ)きはねをきてみたれば外もまつくらく折ふし風も吹雨も降(ふつ)てわが居間の吹入れもの淒(すご)い|暁(あかつき)方/旅(たび)立るゝであらふがさぞ物あわれであらふと思へ共行てあふこともならぬは残念(ざんねん)な事てはあるとなり》 【挿絵】    胡渭州(こいしう)     張祐(ちやうゆう)【張祜ヵ】 亭々孤月(てい〳〵たるこげつ)照(てらす)_二行舟(こうしうを)_一寂々長江万(せき〳〵たるちやうこうばん) 里流(りのながれ)鄉国(きやうこく)不(ず)_レ知(しら)何処是(いづれのところかこれなる)雲山漫々(うんざんまん〳〵として) 使(して)【左ルビ「しむ」】_一レ【_レヵ】人(ひとを)愁(うれい) 《割書:亭々(てい〳〵)たるとはたかき空(そら)にかゝつてゐる月が此方の乗行(のりゆく)舟をてらす此夜すがら寂々(せき〳〵)とものさびしい|じぶん万里(ばんり)長江(ちやうこう)のなかれをのりゆくはいよ〳〵もの憂(うい)旅路(たびぢ)じや|かやうに広(ひろ)い海上をたびにして行(ゆ)けばわが故郷(こきやう)はしらずどこらあたりやら見れどもみへずたゞ雲(うん)|山(ざん)のみ漫々(まん〳〵)とはてもなくいくえも〳〵つゞいて旅(たび)人の|          うれひをますでは|                  あるとなり》 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本《割書:七言絶句|続編》四》 【小題】雨鈴 雨淋鈴(うりんれい) 雨淋鈴夜却(うりんれいのよかへつて)帰(かへる)_レ秦(しんに) 猶見張徽一曲新(なをこれちやうぎいつきよくあらたなり)     長説上皇(ながくとくじやうくはう)垂(たれて)_レ涙(なんだを)教(おしゆることを) 月明南内更(つきあきらかにしてなんだいさらに)無(なし)_レ 人(ひと) 《割書:むかし玄宗(けんさう)の蜀(しよく)の道中(どうちう)で製(せい)なされた雨淋(うりん)の曲(きよく)を歌(うた)ふた夜すがらおもひ出して今/秦(しん)の|都にかえつて御座なされどもまた其きよくをさうせよとあつて猶/楽工(かくこう)の張徽(ちやうぎ)と|いふものが一曲/奏(さう)したればいよ〳〵あらたにかなしくきこへるさて此/曲(きよく)といふは張徽がはなし|にも長くいふには是は上皇玄宗(じやうくはうけんさう)の涙(なみだ)をたれて我におしかへし〳〵教(をし)へられた此曲を今夜明月の夜|すがら奏(さう)するに南内(なんだい)の興慶宮(こうけいきう)には此曲を唄ふた玄宗も貴妃(きひ)もなく誰(たれ)きく者(もの)もなくいよ〳〵かなしひ》 【挿絵】      虢夫人(かくふじん) 虢國夫人(かくこくのふじん)承(うく)_二主恩(しゆをんを)_一平明(へいめい)騎(のつて)_レ馬(むまに)入(いる)_二宮門(きうもんに)_一却嫌脂粉(かへつてきらふしふんの)汚(けがすことを)_二顏色(がんしよくを)_一淡(あはく)掃(はらつて)_二蛾眉(がびを)_一朝(てうす)_二至尊(しそんに)_一 【挿絵】 《割書:今此/夫人(ふじん)も天子/玄宗(げんさう)の御寵愛(ごてうあい)をうけたゆへことに此人は馬(むま)をこのみて平明(へいめい)の夜あけ方になると|馬にうち乗(のつ)て天子の宮門(きうもん)に入/参内(さんだい)申さるゝ女は脂粉(しふん)をもつてよそほふものなれど此/美人(びしん)は気(き)|量(りやう)がすぐれたゆへけしやうなどをする事かきらひでたゞざつと眉(まゆ)もうすげしやうをして天子至|尊(そん)に朝(てう)せられたがいよ〳〵風流(ふうりう)で顔色(かんしよく)がうるはしかつた》  度(わたる)_二桑乾(さうかんを)_一 客舍幷州已(かくしやへいしうすでに) 十霜(じつさう) 帰心日夜(きしんにちや)憶(おもふ)_二 咸陽(かんようを)_一 無(なく)_レ端(たん)更(さらに)渡(わたる)_二桑(さう) 乾水(かんのみづを)_一 卻望幷州是(かへつてのぞむへいしうこれ) 故鄉(こきやう)   賈島(かとう) 《割書:我(われ)もあかず故郷(こきやう)を振棄(ふりすて)|て幷州(へいしう)の旅舎(りよしや)すまゐで|居ることはや十年にも|およふ事ゆへ旅(たび)もあきはて|今比は帰心(きしん)を生(しやう)じて昼夜(ちうや)|故郷/咸陽(かんよう)の都(みやこ)をおもひし|きりにかえりたくなつた|無(なく)端(たん)なんのよしみもなひに|又さらに桑乾(さうかん)の水を渡(わた)るに|付て跡(あと)をふりかへり今まで|居(ゐ)た幷州(へいしう)さへ遠(とを)くみゆる|此処へ来たればいよ〳〵故郷は遠(とを)|く阻(へだつ)てかの幷州がまた故|郷(きやう)となつて咸陽(かんよう)はいよ〳〵|遠(とを)く此やうに旅(たび)にのみゐて|いつ帰(かへ)るやら知(し)れぬとおもへば|猶々おもひがます》【挿絵】 【挿絵】    成徳楽(せいとくらく)      王表(おうきう)  趙女(ちやうじよ)乗(じやうして)_レ春(はるに)上(のぼる)_二画楼(ぐわらうに)_一レ  一声歌発満城秋(いつせいかはつすまんじやうのあき)  無(なく)_レ端(たん)更唱関山曲(さらにとなふくはんざんのきよく) 不(ざれども)_二是征人(これせいじんなら)_一亦涙流(またなんどながる) 《割書:趙国(ちやうこく)は妓女(ぎじよ)の多(おほ)い処じやが其/妓(ぎ)女どもか春の風景(ふうけい)に乗(じやう)じて画楼(ぐはらう)に上つてなぐさんで|歌(うた)をはり上てうたふ其/声(こへ)が城中(じやうちう)にみち〳〵てそのあたりのものみな感(かん)をなし愁(うれい)をおこし|春(はる)ながら心中が秋のごとくなつた歌を聞(きい)てさへかなしいに無端(よしなく)さらに関山月(くはんさんげつ)の曲(きよく)をうたひ出され|たれば此あたりへ征伐(せいばつ)に来たらぬものさへ悲(かなしみ)を生(しやう)じ涙(なみだ)をながしゐるに征人(せいじん)はいよ〳〵かなしみを催(もよほす)で|       あらふ》    漢宮詞(かんきうのことば)    李商隠(りしやういん)  青雀西飛竟(せいじやくにしにとんで)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ回(かへら) 君王長(くんわうとこしなへに)在(あり)_二集霊台(しゆれいたいに)_一  侍臣最(じしんもつとも)有(あり)_二相如渇(しやうじよかかつ)_一 不(ず)_レ賜(たまはら)_二金茎露一杯(きんきやうのつゆいつはいを)_一 《割書:武帝(ぶてい)のとき青雀(せいじやく)か来て宮殿(きうでん)の上にのみ止(とま)るを東方朔(とうほうさく)に問(とふ)たればおつつけ西王母(せいわうほ)が来ると答(こた)ふときに|王母きたりて武帝に対話(たいわ)し帰(かへ)るさに三年の後(のち)又来んと云て返(かへつ)たが竟(つい)にこなんだ其(その)ことをいひすて|てかねて仙人を好(すく)ことを謗(そしり)宮女(きうじよ)怨(えん)をいふ青雀(せいじやく)は西へとひ去(さり)王母ふたゝひ来らずこうしたことを君(きみ)は|まことゝ思召て不断(ふだん)集霊台(しゆれいたい)に上て待(また)れた侍臣(じしん)に渇(かわき)の病(やまひ)をしてゐる相如(しやうしよ)が御/側(そは)ちかくゐるから仙薬(せんやく)|をねる金茎(きんきやう)の露(つゆ)を一はいのませて功(こう)をためしの上/信仰(しんこう)をなさるればよいにさうしたことをもせずたゞ|しるしもない事を信(しん)ずる此やうなことにかゝつて物忌(ものいみ)のみして奥(おく)むきへも入/給(たま)はぬは甚(はなはた)おろかな天子じや》 【挿絵】 【挿絵】 夜雨(やう)寄(よす)_レ北(きたに) 君問帰期(きみとふきゝを)未(いまた)【左ルビ「ず」】 _レ有(あら)_レ期(ご)巴山(はざん) 夜雨(やう)漲(みなぎり)_二秋池(しうちに)_一 何(なんぞ)当(まさに)【左ルビ「べし」】_下共(ともに)剪(きつて)_二 西窓燭(せいさうのしよくを)_一却(かへつて) 話(かたる)_中巴山(はざん)    夜雨時(やうのときを)_上 《割書:こなたの方(かた)からいつかへると|とふておこされたがまだいつ|帰(かへ)らふもしれぬことに巴山(はさん)|あたりは今夜(こんや)ものさひしく|雨が降(ふつ)て水かさもまし|秋池(しうち)にみなぎり此/風景(ふうけい)に|たいしてくらしてゐるわれ|もいつか早(はや)く故郷(こきやう)へかえり|ともに西窓(せいさう)の燭(しよく)をきりかき|たてゝ今夜(こんや)巴山(はさん)夜雨の|ものさびしゐ旅(たび)のうき難(なん)|義(ぎ)のものがたりをしたふお|もふがいつかへらうもしれぬ|ことなれは|    さきのあては|        ならぬ|         こと|          じや》 【挿絵】     寄(よす)_二令狐郎中(れいこらうちうに)_一  嵩雲秦(すううんのしん)𧯴(じゆ)【林+豆、樹ヵ】久離居(ひさしくりきよす)  双鯉迢々一紙書(さうりちやう〳〵いつしのしよ)  休(やめよ)_レ問(とふことを)_二梁園旧賓客(りやうゑんのきうひんかくを)_一  茂陵秋雨病相如(もりやうのしううひやうしやうじよ) 《割書:相わかれてよりおれは嵩山(すうざん)の方に居りそなたは秦(しん)の都にゐておの〳〵処をへだてゝ居ますれば只書状|のとりやりのみじやが是も此ごろは双鯉(さうり)のたよりも迢々(てう〳〵)とはるかにして一紙の書状のたよりもなくをと|づれもたへたがさだめてこなたなどはおれが梁園(りやうえん)にゐるゆへいにしえ梁(りやう)の孝王(かうわう)の賓客(ひんかく)鄒陽(すうよう)等が|ごとくよい官につきもちひられてゐると思はれうがかならず其やうにあらうと問たづねくれらるゝな|われも此夜雨のじぶん病気つき打臥て居れば司馬相如(しばしやうじよ)が病につき引込だごとくに最う何も角(か)も|打すてられてゐるから引こんだがましだからかならず問尋ねらるゝ事も御無用といふ下心は立身(りつしん)せぬがうらみしや》   秋思(しうし)  許渾(きよこん) 琪樹西風枕簟秋(きじゆのせいふうらんたんのあき) 楚雲湘水(そうんさうすい)憶(おもふ)_二同遊(どうゆうを)_一 高歌一曲(かうかいつきよく)掩(をほふ)_二明鏡(めいきやう)_一 昨日少年今白頭(さくじつはせうねんいまははくとう) 【挿絵】 《割書:これは秋に感(かん)じてわが年のよる事を思ふて作た詩なり琪樹(きしゆ)のうるはしい木の間に西風のおこるじぶんたかむしろを高くして庭の|風景(ふうけい)を見すゝしいを枕にして寝ころんでゐてみるに付てわか若(わか)いときを思ひ出してまづ句面は我わかいときは楚国のあたり|湘水の辺をとびあるいて遊んだが今老て思ひ出さるゝ楚雲(そうん)も湘(さう)水も色あそびをしたといふ事をいふのじやそれが今は此やう|に年よりたれば只うち臥てゐるのみじや何もなぐさみはなく此詩の一/曲(きよく)をたか〴〵とうたひなぐさむわかいしぶんは鏡を取|出して男ぶりをたしなんだがもはや此ごろはかゞみも箱に入てをくむかし少年のときはかやう〳〵であつたが今は白頭になつた|このやうにはやく年のよるものかと秋に感じてうれいにたへられぬ》 【挿絵】     江楼(こうらうに)書(しよ)_レ感(かんずる)   趙嘏(ちやうか)  独(ひとり)上(のぼつて)_二江楼(こうらうに)_一思渺然(おもひびやうぜん) 月光(げつくはう)如(ごとく)_レ水(みづの)々(みづ)連(連なる)_レ 天(てんに)  同来(おなじくきたつて)翫(もてあそぶ)_レ月(つきを)人何処(ひといづれのところより) 風景依稀(ふうけいいきとして)似(にたり)_二去年(きよねんに)_一 《割書:去年(きよねん)は大せいもろともに上つて遊んだが今年はわれひとり上てさひしいに付て渺然(ひようぜん)とはてもなく|さま〴〵の事を思ひ出して去年(きよねん)のことまで思はるゝ楼上(ろうしやう)より見れば月もさへて水のおもてを真白(まつしろ)く|てらして水天(すいてん)一/色(しよく)にうつらうて面白(おもしろ)い風景(ふうけい)なれ共何事も独(ひとり)なればなぐさみにもならぬ去年此|楼(らう)上にとも〴〵来て月を翫(もてあそ)びし知音(ちいん)は今年はどこへ行たか一人もないが風景(ふうけい)は依稀(いき)とどうやらほの|かに見たやうで去年に相(あい)かはらぬが人といふものはさだめないものじやと感(かん)をおこしたるなり》 【挿絵】  楊柳枝(ようりうし)    温庭筠(おんていいん) 館娃宮外(くはんあきうぐわい)鄴(げう) 城西(しやうのにし) 遠(とをく)映(えいじ)_二征帆(せいはんに)_一近(ちかくは) 掃(はらふ)_レ堤(ていを) 繫(つなき)_二得(えて)王孫(わうそん)帰(き) 意(ゐの)切(せつなるを)_一 不(ず)_レ関(あづから)_二春草緑(しゆんさうのみとり) 萋萋(せい〳〵たるに)_一 《割書:呉王夫差(ごわうふさ)の立られた館娃宮(くはんあきう)|も魏(ぎ)の都(みやこ)した鄴城(けうじやう)も柳(やなき)の名(めい)|処(しよ)で此やなきを見れば遠(とを)くは|館娃宮(くはんあきう)のまへにある柳ははるかに|むかふを通る舟(ふね)に映(ゑい)じちかくは|鄴城(げうじやう)の西にあるやなぎは枝(ゑだ)うち|たれて堤(つゝみ)をはらふて見ゆる|此柳をみればしきりに故郷(こきやう)へかへり|たい繋得(つなきえ)てといふは柳の糸(いと)がつなぎ|とめかへさぬといふこゝろ楚辞(そじ)に王孫(わうそん)|遊(ゆう)兮不(ず)_レ帰(かへら)春草生(しゆんさうしやうす)兮/萋々(せい〳〵)た|りといふから旅(たひ)に立ものは春草(しゆんさう)わか|〳〵と生じたをみて帰心(きしん)が生(しやう)する也|われも其ごとく故郷へかえりたいと思へ|ども柳の糸が帰心(きしん)をつなぎとめて|かへさぬゆへに故郷春草の生して緑(みどり)|青(せい)〳〵としげりたを|    あつかり見る事も|          ならぬ》 《割書:春のことゆへ柳もさかへ枝々かげをまじへどこが宮殿(きうてん)やらしれぬやうにしけり鎖(とさ)してゐる是も嫩色(どんしよく)のわかばえの|ときは雨露(うろ)の恩沢(をんたく)にうるほふてかやうに盛長(せいちやう)したものしや◦底意(そこゐ)はわかいときには君の御/寵愛(てうあい)にあづがり|恩沢(をんたく)をうけたと女の情(なさけ)をいふ鳳輦(ほうれん)これも帝(みかど)ともろともに見たならばおもしろからふにてうあいもすた|れてあればみかどの鳳輦(ほうれん)も来たらず春はつきはつれども誰(たれ)みるものもなくむなしくうぐひす|のなく声(こへ)のみを余しとゞめて朝(あさ)から晩(はん)までないて居れ共たれ愛(あい)するものもない》 -------------------------------------------------------------------------------  折楊柳(せつようりう) 段成式(かせいしき) 枝々(しゝ)交(まじへて)_レ影(かげを)鎖(とざす)_二長門(ちやうもんを)_一 嫩色曽沾雨露恩(どんしよくかつてうるほふうろのおん) 鳯輦(ほうれん)不(ず)_レ来(きたら)春(はる)欲(ほつす)_レ尽(つきんと) 空(むなしく)留(とどめて)_二鶯語(をうごを)_一到(いたる)_二黄昏(くわうこんに)_一【挿絵】   宮怨(きうゑん)      司馬礼(しばれい) 柳色参差(りうしよくしんしとして)掩(おほふ)_二画楼(ぐはらうを)_一 暁鶯啼送満宮愁(けうをうなきおくるまんきうのうれい) 年々花落(ねん〳〵はなおちて)無(なし)_二 人見(ひとのみる)_一 空(むなしく)逐(をふて)_二春泉(しゆんせんを)_一出(いづ)_二御溝(ごこうを)_一 《割書:柳もさかへ参差(しんし)と長(なが)い短(みじか)い枝(えだ)たれて女中の居る画楼(くわらう)をおほひしげつてあることに|あかつき方/鶯(うぐひす)などか此柳のほとりでないてゐるが見るうへきく上がみな満宮(まんきう)のかなしみの|たねとなる年〳〵花はちつて行(ゆけ)どもおくふかきゆへ人の来りみるものもなくむなし|く水上に落散(おちちり)て春泉(しゆんせん)のなかれををひ御溝(ごこう)をながれ出るのみしや下心は此花の落(をち)|しごとく年も寄(より)顔色(がんしよく)も衰(をとろ)へゆけども宮中にゐれば人も見しらす空(むな)しく老(おい)ゆく事じや》【挿絵】  宴(えんす)_二辺将(へんしやうに)_一     張喬(ちやうきやう) 一曲梁州金石(いつきよくのりやうしうきんせき) 清(きよし)辺風蕭颯(へんふうしやうさつとして) 動(うごかし)_二江城(こうじやうを)_一坐中(ざちう)有(あり)_下 老(をいたる)_二沙場(さじやうに)_一客(かく)_下【_上ヵ】橫(わう) 笛(てき)休(やめよ)_レ吹(ふくことを)_二塞上(さいしやうの) 声(こえを)_一【挿絵】 ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:此/涼州(りやうしう)の一曲を金石の鳴(なり)ものに奏(さう)すれば曲といひみなきよらかに清(すみ)わたつてきこゆるおりふし辺土(へんと)の風の|はげしく吹(ふき)蕭颯(しやうさつ)とものすごくして江城(こうじやう)をうごかす座中にわかき時分よりして此/沙場(さしやう)をまもりに|来て老たる人があるほどに横笛(わうてき)の調子(ちやうし)にかならず塞上(さいしやう)の声(こえ)をふく出してくれるなそのこえをきく|ならばものかなしからふほどにかまへてふくなと大/将(しやう)をなぐさむるなり》 【挿絵】 紫宸朝罷(ししんてうやんで)綴(めぐる)_二鴛(えん) 鸞(らんを)_一丹鳳楼前(たんほうらうぜん)駐(とゞめて)_レ馬(むまを) 看(みる)唯(たゞ)有(あつて)_二終南山色(しうなんさんしよくの)【「有終南山色」は「有_二終南山色在_一」ヵ】 晴明(せいめい)依(よつて)_レ旧(ふるきに)滿(みつ)_二長(ちやう) 安(あんに)_一在(あるのみ) 退(しりぞいて)_レ朝(てうを)  望(のぞむ)_二   終南(しうなん)    山(ざんを)_一   李拯(りしやう) ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:只今其中においても紫宸殿(ししんてん)を朝参(てうさん)し義式(きしき)もすんで鴛鸞(えんらん)の行ごとく行烈(きやうれつ)をみださず帰るさに|禁裏(きんり)のまわり丹鳳楼前(たんほうらうせん)に馬をとゞめてみれば京の風景(ふうけい)もいにしえよりは何もかもかはりはてゝ|あるがたゞ終南山(しうなんさん)の色(いろ)のみ青〳〵として晴明とはれやかにして依旧(いきやう)ともとのごとくに相かはらず|長安(ちやうあん)中にみちてとちらから見てもそびえてみゆる朝廷(てうてい)のやうすはすつへりかくへつじや》 【挿絵】     華清宮(くはせいきう)     崔魯(さいりよ)  艸(くさ)遮(さへぎつて)_二回磴(くはいとうに)_一絕(たゆ)_二鳴鑾(めいらん)_一 雲樹深々碧殿寒(うんじゆしん〳〵としてへきでんさむし)  明月自来還自去(めいげつおのづからきたりかへつておのづからさる) 更(さら)【さらにヵ】無(なし)_三 人(ひとの)倚(よる)_二玉欄干(ぎよくらんかんに)_一 《割書:天子(てんし)の行幸(ぎやうこう)なさるゝ回磴(くはいとう)の石坂山みちも久しく行幸がなきゆへ草(くさ)がはへしげりさへきつて|御車(みくるま)のすゞの音(おと)もたへたこの清花宮(せいくはきう)のあたりに雲間(うんかん)に秀(ひいで)た大木もしん〳〵とおく|ふかくしげりこんだその中の碧殿(へきでん)などもものすごくしてたれ往来(わうらい)するものもなくさび|しいていじやたゞ昔(むかし)にかはらぬ明月はてらし来り照(てら)しさつてちがはねどもむかしは玄宗(げんさう)も貴妃(きひ)など|ととも〴〵この宮殿(きうでん)で大/勢(ぜい)引つれてなぐさんだが今は此/玉闌干(きよくらんかん)よりて此月をみるものもない》 【挿絵】  古別離(こべつり)    韋荘(いさう) 晴煙漠々柳毿々(せいゑんばく〳〵やなぎさん〳〵)不(ず)_レ那(いかんともせ)_二離情(りじやうを)_一酒(さけ) 半酣(なかばたけなはなり)更(さらに)把(とつて)_二玉鞭(ぎよくべん)_一雲外指(うんくはいにゆびさす)断(たつ)_レ腸(はらわたを) 春色(しゆんしよく)在(あり)_二江南(こうなんに)_一  《割書:春(はる)のはじめの事なれは空(そら)の風景(ふうけい)もはれわたり漠々(ばく〳〵)と一/面(めん)にしてやなぎも毿々(さん〳〵)とかせに|吹(ふき)うごかされておもしろいかうした折からわがしたしゐ者に別(わか)るゝは残念(ざんねん)なが離情(りしやう)は是/非(ひ)|もなけれどももはや酒(さか)もりもなかばすぎであればこの酒宴(しゆえん)を仕まふといなや直(すく)|にわかれねばならぬそれにつけてもこなたも馬に乗(のり)われも馬にのつて送(をく)るに|玉鞭(ぎよくべん)をとりて行さき雲外(うんぐわい)を指(ゆび)ざしてこなたはあのかたより江南(こうなん)のかたへゆかるゝが腸(はらわたを)を|たつばかりに思ふ江南(こうなん)は春もはやい処(ところ)なれば江南の春色(しゆんしよく)をみられたならばいよ|〳〵思ひがますであらふとおもひやるでこそあれ》 【裏表紙】 【表紙題箋】《題:唐詩選画本《割書:七言絶句|続編》五》 【小題】宮詞   宮詞(きうし) 宮門長閉舞(きうもんながくとぢてぶ) 衣間(いしづかなり) 略識君王鬢(ほゞしるくんわうびん) 已斑(すでにまだらなり) 却羨落花春(かへつてうらやむらくくははる) 不(ず)_レ管(たゞなら) 御溝流(ごこうながれ) 得(えて)到(いたる)_二 人(にん) 間(げんに)_一 【挿絵】 李(り) 建(けん) 勲(くん) ------------------------------------------------------------------------------- 《割書:手前(てまへ)においては只今は帝(みかど)の御/寵愛(てうあい)にもあつからねば宮門をとぢてつゐに開た事もなく舞衣(ぶい)も帝(みかと)の御そばへ|出るといふこともなければすてゝ置て着(き)るといふ事もなくひまである略(ほゝ)とは慥(たしか)にやうすはしらねども|大がいは知れてゐる天子(てんし)が若ければまだ用ひらるゝこともあらふが君王の鬢(ひん)に白髪(しらが)がまじりて御年|よられたれば最早(もはや)てうあいもあるまい是に付ても浦山しいは此花/落(おち)ちれ共誰もとがめず心まゝに風にまかせ|て御/溝(こう)の水とゝもに流れ出るが我は一/旦(たん)君の御手の付た者なれば人間に出る事もならず宮中に年よりはてる》 【挿絵】  水調歌第一畳(すいちやうのうたていいちでう) 平沙落日大(へいさらくじつたい) 荒西(くわうのにし) 隴上明星高(らうしやうのみやうせいたかく) 復低(またひくし) 孤山幾処(こさんいくばくところか)看(みる)_二 烽火(ほうくはを)_一 戦士(せんし)連(つらねて)_レ営(ゑいを)候(まつ)_二 鼓鼙(こへいを)_一   張子容(ちやうしよう) 《割書:平々たる沙漠(さはく)の夕日がたづつと|の世界(せかい)のはて大/荒(くわう)の西を見れば|隴(らう)山の上にある星(ほし)がたつた今まで|たかいとおもへはひくゝたれてとつく|と夜に入たれば孤(こ)山/幾処(いくはく)山々て|もほう〴〵てあいつの火の見ゆる|ゆへ戦士(せんし)の陣屋(じんや)を立つらねて|居るものともが今や陣太鼓(ちんたいこ)の|音かするかとしばらくもゆだん|をせぬとなり|此/詩(し)は何をいふたことゝもしれぬ|か辺塞(へんさい)むきの|    体(てい)をいふなる|          よし》    涼州歌第二畳(りやうしうのうただいじでう) 朔風(さくふう)吹(ふく)_レ葉(ようを)雁門秋(かんもんのあき)万里煙塵(ばんりのゑんぢん)昏(くらし)_二戍楼(じゆらうに)_一 征馬長思(せいばながくおもふ)青(せい) 海上(かいのうへ)胡笳夜聴隴山頭(こかよるきくらうざんのほとり) 《割書:秋のことなれば朔風(さくふう)も木の葉を吹ちらして雁門郡(がんもんぐん)あたり秋の風景(ふうけい)なれば胡(ゑひす)のおこるときじや○ゑびす|のものどもが万里があいだに煙塵(ゑんぢん)をとばして合戦(かつせん)たへずして此方の戍楼(しゆらう)まてもくらくして間近く|せめよせ来てゐればわれも馬にのりて今日かけ出やうか明日かけ出やうかとつねに青海(せいかい)あたりへ来て|ゐる胡(ゑひす)の方を防(ふせ)くことを思ふてたるますゐれば胡笳(こか)の声か隴(らう)山の辺(へん)へ間ちかくきこゆるとなり》【挿絵】  水鼓子第一曲(すいこしていいつきよく) 雕弓白羽(てうきうはくう) 猟初回(りやうはじめてかへる) 薄夜牛羊(はくやぎうよう) 復下来(またくたりきたる) 夢水河(ほうすいか) 辺(へん)青草合(せいさうがつし) 黒山峰(こくさんほう) 外(ぐわい)陣(ちん)【敶】雲開(うんひらく) 【挿絵】 《割書:世間でさはかしいと猟(かり)をするひまもないが今は治た御世なれば雕弓(てうきう)をおひ白羽をさしはさんでゐる狩人も今朝行たものが|くれがた初てかへつた薄夜(はくや)ははやくれあひなれば野飼(のがい)にして置た牛羊も山より下り来りかへるこれも軍(くん)事|がなければ馬牛もいらぬゆへ野飼(のかひ)にしてをく軍(いくさ)があれば草もふみからして生へねども太平のときゆえ|夢水河(ぼうすいが)のほとりも草がどこにもはへしげり合てあり軍/陣(ちん)さいちうには黒山あたりには陣雲が空にたな引|てみへたが今治たればその雲もひらけて太平の御代である》  雑詩(さうし)    陳祐(ちんゆう) 無定河辺暮(ふていかへんほ) 笛声(てきのこへ) 赫連台畔(かくれんたいはん)旅(りよ) 人情(じんのじやう) 函関帰路千(かんくわんきろせん) 余里(より) 一夕秋風白(いつせきのしうふうはく) 髮生(はつしやうず) 《割書:只今この無定河辺(ぶていかへん)のくれ|方にものかなしげに笛(ふえ)の|声がすれば赫連台畔(かくれんたいはん)の|旅人(りよじん)はさま〴〵の愁情(しうじやう)を引|おこして故郷(こきやう)のことを|思ひ出すわがかへる故郷|函関(かんくわん)の方へのみちのり|をつもつて見ればはるかに|千里もあつて帰ることも|ならねばいよ〳〵思を労(らう)し|たるがゆへかたつた一/夜(や)の|うちに此秋風の吹しぶん|白髪(はくはつ)がにはかに生して年|がよりしら髪(が)あたまに|なつたいつ|   故郷(こきやう)へかえる|     ことやら|       しれぬ》【挿絵】 【挿絵】     初過漢江(はじめてすぐるかんこうを)   無名氏(ぶめいし)  襄陽好向峴亭看(しやうようよくむかつてけんていにみる) 人物蕭条(じんぶつしやうでうとして)属(しよくす)_二歳闌(としのたけなわに)_一  為報習家多置酒(ためにほうずしうかおほくちしゆせよと) 夜来風雪(やらいふうせつ)過(すぐる)_二江寒(こうかんを)_一 《割書:たゞ今/漢江(かんこう)をわたり襄陽(しやうよう)に来て此処の峴山(けんざん)の駅亭(ゑきてい)の風景(ふうけい)をみればなか〳〵おも|しろいところなれども冬の事なれば人事万物もさびしくてはやをつゝけ年もつきて|あらたまらんとすることじやために報(ほう)ず此襄陽には習氏(しうし)の富貴(ふうき)なものか有てその地で|襄陽/侯(こう)か古(いにし)へさかもりをせられたことじやことに今夜は風雪にて江をすぎ此方まてさむく|なつたれば是を防(ふせ)くには酒(さけ)にこしたものはないほどに多く置酒(ちしゆ)をいたされとなり》 《割書:今夜は空(そら)もはれたゆへ月さへわたり星もすくなく霜(しも)は野(の)にみつる夜/更(ふけ)のじぶん胡(ゑひす)のもの共が此月夜を考へ○氈|車にのり中国さかいの陰(いん)山あたりへ宿(しゆく)して中国をおかさんとはがねをならしてゐるこれといふも都にいにしへの|李広将軍(りくわうしやうぐん)のやうなよい大将がないゆへにこれを知て単于の胡どもが公然(こうせん)とおほてやかに中国をはゞからす胡(こ)|笳などを吹たてゝ馬に草なとをかふて中国をあなどるよい大将があらば威にをそれやうがよい大将のないは|さんねんなことじや○公然の字のうちに胡笳のことをふくんでいふなり》 【挿絵】  胡笳曲(こかのきよく) 月明星稀霜(つきあきらかにほしまれにしてしも) 満(みつ)_レ野(のに) 氈車夜宿(せんしやよるしゆくす)陰(いん) 山下(ざんのもと) 漢家(かんか)自(より)_レ失(うしなひし)_二李(り) 将軍(しやうぐんを)_一 単于公然来(せんうこうぜんとしてきたつて) 牧(くさかふ)_レ馬(むまに)  塞上曲(さいしやうのきよく) 王烈(わうれつ) 紅顔歳々(こうかんせい〳〵)老(おふ)_二金微(きんびに)_一 沙磧年々(しやせきねん〳〵)卧(ふす)_二鉄衣(てつえに)_一 白草城中春(はくさうじやうちうはる)不(ず)_レ入(いら) 黄花戍上雁長飛(くわうくはしゆしやうかりとこしなへにとぶ)【挿絵】 《割書:われわかいときより来る年も〳〵故郷へかへることもならず老になるまで此処にまもりをしてこの沙磧にくれ行いくとしも〳〵|鉄衣のよろひに寝ふしをして甲をぬいで休息する間もなく居る白草城中はそのところをいふて京とはちがひ|この城中はさむい所でいつが春しややらいつもおなじやうにして花をみるといふ事もなく○黄花戍のあたりは雁のみいつ|もたへず他処へゆくこともなく此処にゐてみやことは格別のところじやとなり》  又 孤城夕(こじやうゆふべに)対(たいして)_二 戍楼(しゆろうに)_一閑(しづかなり) 廻合(くわいがつす)青冥(せいめい) 万仞山(ばんじんのやま) 明鏡(めいきやう)不(ず)_レ須(また) _レ生(しやうずるを)_二白髪(はくはつを)_一 風沙自解(ふうさしかいす) 老(おふることを)_二 紅顔(こうがんを)_一【挿絵】 《割書:辺塞は孤城でよいようがいになる城もない日くれがた此方の戍楼の辺にむかふに何のやうもなく打対して居るたゞ青冥|にもそびえたくらひにたかひ万仞の山がとりまはしてあるこれひとつをたのみにしてこもつてゐる此やうな所へ来て|かんなんをするゆへに手前の頭のしらかになつたことは明鏡をてらしてみるを待におよばすしれてゐるなせなれば此かせの吹|まく沙漠にゐればかゝみを見ずとも紅顔のおとろえたことは自解しがつてんして|                              あるさて〳〵いたましいことじや》 【挿絵】 辺詞(へんし)   張敬忠(ちやうけいちう) 五原春色旧(ごげんのしゆんしよくきう) 来遅(らいをそし) 二月垂楊(じげつすいよう)未(いまだ)【左ルビ「ず」】 _レ掛(かけ)_レ糸(いとを) 即今河畔氷(そくこんかはんこほり) 開日(ひらくひ) 正是長安花(まさにこれちやうあんはなの) 落時(おつるとき) 《割書:辺土(へんど)の五原(ごけん)あたりはかんきのつ|よいところなれば都(みやこ)とはちがひ|春色(しゆんしよく)もおそい処て今ばかり|てもない旧来(きうらい)のむかしからして|かうしや二月じぶんは春のさかり|じやにこの所はまだ柳(やなき)もいと|をかけず芽(め)さゝぬくらいじや|即今(そくこん)やう〳〵川ばたのこほり|かとけるじぶんであるからまさ|しくみやこ長安(ちやうあん)などにては|咲(さき)たる花もちつて春(はる)のすへ|ごろじやこのやうな寒気(かんき)の|つよひ所にひさしく|       居ると|         いふは|      かなしき|         ことでは|    あるといふ事|         なり》 【挿絵】   九日宴(くにちのゑん)    張諤(ちやうがく) 秋葉風吹黃颯々(しうようかぜふいてくわうさつ〳〵)晴雲日照白鱗々(せいうんひてらしてはくりん〳〵) 帰来(きらい)得(う)_レ問(とふことを)_二茱萸女(しゆゆのじよに)_一今日登高(こんにちとうかう)醉(ゑはしむと)_二幾人(いくばくひとをか) 《割書:登高(とうこう)の節(せつ)ゆへこれも登高の作なり上てみれば木の葉も風にふかれ黄(き)ばみてさつ〳〵とひるがえり|空(そら)もはれわたり日てらしてわづかのこりたる白雲(はくうん)がりん〳〵ときら〳〵見ゆる山より下り来れはふもと|に百姓の子どもの茱萸(しゆゆ)をうる女が居るから何と今日は大ぜい上たであらふか幾(いく)人ほど酒宴(しゆえん)をして|酔(ゑふ)たぞと問ふ大かた我ばかりでもあるまいどれ〳〵とてもみなゑふたであらふとなり》  西施石(せいしせき) 楼穎(ろうゑい) 西施昔日浣紗(せいしせきじつくわんさの) 津(しん)石上青苔(せきしやうのせいたい) 思(し)_二殺(さつす)人(ひとを)_一 一(ひとたび)去(さつて)_二姑(こ) 蘇(そを)_一不(ず)_二復返(またかへら)_一 岸傍桃(がんほうのたう) 李(り)為(ためにか)_レ誰(たれが) 春(はるなる) 《割書:西施(せいし)は呉王(ごこう)に|愛(あい)せられたが|むかし此川はたで|紗をせんたくして|あつた其とき腰|をかけた石じやと|いふて今は苔(こけ)|むしてあるがこゝを通(とを)るほど|のものが此石をみては西施(せいし)を|思ひ出さぬものはないしたが|西施も一たびさつて呉国(ごこく)の|姑蘇台(こそだい)へ行てよりついにむな|しくかへらぬ只此川のほとり|の桃李(とうり)の花が咲(さき)つれてあるが|西施はゐぬにたがために春(はる)の景(けい)|をなすぞと花に情(しやう)を|    もたせて|        置なり》【挿絵】      和(わす)_二李秀才辺庭四時怨(りしうさいがへんていしいじのえんを)_一    盧弼(ろひつ) 八月霜飛柳遍黄(はちぐわつしもとんでやなぎあまねくきなり)蓬根吹断雁南翔(ほうこんふきたへてかりみなみにかける)隴頭流水関山月(らうとうりうすいくわんざんのつき)泣(ないて)上(のぼつて)_二龍堆(りうたいに)_一望(のぞむ)_二故鄉(こきやうを)_一 《割書:八月/辺塞(へんさい)は中国とはちがひてはや霜(しも)がとび柳などもあまねく黄(き)ばみをちてさむくなり沙漠(さはく)の蓬根(ほうこん)|も風に吹たゞよはされて雁なともおそしと南にかけるやうなものすこひ処に来てなんぞなぐ|みでもあるかといふに耳(みゝ)には隴山(らうざん)の水のすさまじいをきゝ目には関山月の朧(らう)〳〵たるを見て居る|がいつ故郷(こきやう)へかえらうやら知れぬとおもへばかなしみをなしたるゝ涙をおさへてせめて故郷の方をみて|なりとなくさまんと思ふて竜堆(りうたい)の上にのぼりてこきやうをみれどもみへずいよ〳〵かなしみかますとぞ》 【挿絵】 【挿絵】  又(また) 朔風(さくふう)吹(ふいて)_レ雪(ゆきを)透(とをる)_二 刀瘢(たうはんに)_一 飲(みづかふ)_レ馬(むまに)長城窟(ちやうでうのくつ) 更寒(さらにさむし) 夜半火来知(やはんひきたつてしる) 有(あることを)_レ敵(てきの) 一時斉保(いちしひとしくたもつ)賀(が) 蘭山(らんざん) 《割書:冬の事なれば朔風(さくふう)がふき|きたり合戦場(かつせんじやう)なれば手|を負(おふ)た瘢(きず)にしみわたつて|たえがたい馬に水かひに長|城くつの番手に行てみれ|ば雪が降(ふり)かゝつてつねより|もさらにさむくものうゐに|夜半(やはん)ごろあいづの火が来|るがみゆるゆえにさてはてき|方がせめ入といふ事を知(しつ)て大|せいのものか一時にひとしく出|てがらん山を敵(てき)にとられぬ|やうに大せつにまもりてゐる|    さて〳〵もの|      すごい|        こと|         しや》 《割書:一年すぐればはじめて又いつにかわらぬ一年の春がある人間の寿命(しゆめう)は百/歳(さい)がかぎりといへどもむかしから百|年までいきたといふものもない亭主(ていしゆ)をなぢつて人はさだめないものなれば此やうに華前(くわせん)で酒宴など|をするといふことはたび〳〵あるまいほどに御ていしゆも少々たかくとも酒(さけ)を沽(かへ)ば銭がいる貧(ひん)なによつてかはれぬ|などゝ辞退(じたい)せらるゝな百年の人もなければたれでもいつ死(し)なうもしれぬなれば呑でしばらくもたのしむがよい》  宴(ゑんす)_二城東荘(しやうとうさうに)_一     崔敏童(さいひんどう) 一年始(いちねんはじめて)有(あり)_二 一(いち) 年春(ねんのはる)_一百歲(ひやくさい) 曽(かつて)無(なし)_二 百歲(ひやくさいの) 人(ひと)_一能(よく)向(むかつて)_二花(くは) 前(ぜんに)_一幾回酔(いくばくかよはん) 十千(じつせん)沽(かふて)_レ酒(さけ) 莫(なかれ)_レ辞(じすること)_レ貧(ひんを)【挿絵】 奉(たてまつる)_レ和(わし)_二同前(おなじくまへに)_一   崔恵童(さいけいどう) 一月主人笑(いちげつしゆじんわらひ) 幾回(いくばくぞ)相逢(あいあひ) 相値且銜(あいあふてかつふくむ) _レ杯(さかづきを)眼看(まなこにみる)春(しゆん) 色(しよく)如(ごとし)_二流水(りうすいの)_一 今日残華(こんにちのざんくは) 昨日開(さくじつひらく)【挿絵】 《割書:そこもとゝわれとしたしい中なれど一月のうちに此やうに出会してあそぶ事はたび〳〵はあるまいまれなことで|あらふ今日かやうに相あふたときとも〴〵に酒宴してたのしむがよいなせ此やうにいふなれば眼前(がんせん)にみる|春色のすぎゆくことは流水のごとくしばらくもとゞまらぬものじや昨日ひらいた花がはや今日はちりおつる人間|の寿命(じゆめう)も此ごとく今日あつて明日をしらぬ身なれば相逢た時に杯をふくみわらひたのしむがよいとなり》 宿(しゆくす)_二疎陂駅(そはゑきに)    王周(わうしう) 秋(あき)染(そめて)_二棠梨(とうりを)_一 葉半紅(えうはんのこうなり) 荊州東望(けいしうひがしにのそめは) 草(くさ)平(たいらかなり)_レ空(そらに) 誰知孤宦(たれかしらんこくわん) 天涯意(てんかいのい) 微雨瀟々(びうしやう〳〵たり) 古駅中(こえきのうち) 《割書:秋のもなかのことなれば|棠(なし)の葉(は)も霜(しも)にそまり|紅葉(こうえう)して見ゆる此じ|ぶんわが故郷(こきやう)荊州(けいしう)の方|を東(ひかし)にのぞみ見れば|どこまでも村里(そんり)も見へ|ずたゞ渺(びやう)〳〵と草ばかり|はへしげり空(そら)とひとつ|にみゆる此やうなものす|ごひ旅(たび)に宿(しゆく)するが誰(たれ)も|わが孤官(こくわん)の身となつて|天のはてまでも来て|さま〳〵の愁(ういひ)【うれひヵ】をしつて憐(あはれ)|みてくれるものもある|まいことに雨(あめ)も少々ふり|て古駅(こえき)の中に瀟(しやう)〳〵と|もの淋(さび)しく難儀(なんぎ)にあふこ|とを知(しつ)てあはれみて|くれるものもない》 【挿絵】   塞下曲(さいかのきよく)   釈皎然(しやくのかうせん) 寒塞(かんさい)無(なし)_レ因(よし)_レ見(みるに)_二落梅(らくばいを)_一胡人吹(こじんふいた)入(いり)_二笛声(てきせいに)_一来(きたる) 労々亭上春(らう〳〵たるていしやうはる)応(まさに)【左ルビ「べし」】_レ度(きたる)夜々城南戦(やゝじやうなんたゝかひ)未(いまだ)【左ルビ「ず」】_レ回(かへら) 《割書:我(わが)来(き)てゐる関塞(くわんさい)はさむい所なればかたから梅花(ばいくわ)を見るといふ事もなくいつが春(はる)やらしらねば|梅花のおつるをもみるといふ事もないはづじやゆふべのころ胡(ゑびす)のものが来て吹(ふく)笛声(てきせい)の中に落梅(らくばい)|の曲(きよく)を聞てあるが中〳〵都(みやこ)のやうに真(しん)の梅花をみる事はならぬ所じやわか故郷(こきやう)の労々亭(らう〳〵てい)のあたりは春も|わたり梅も開(ひらい)てあるを帰(かへつ)てみたけれど夜々(やゝ)城(じやう)の軍陣(ぐんぢん)最中なれば道もさはがしくて帰ることもならぬ》 【挿絵】   僧院(そういん)     釈霊一(しやくのれいいつ) 虎渓閑月引相過(こけいのかんげつひいてあいすぐ)帯(おぶる)_レ雪(ゆきを)松枝(せうし)掛(かく)_二薜(へき) 蘿(らを)_一無(なき)_レ限(かぎり)青山行(せいざんゆく〳〵)欲(ほつす)_レ尽(つきんと)白雲深処(はくうんふかきところ)老(らう) 僧多(そうおほし) 《割書:虎渓(こけい)は盧山(ろさん)の中にあり恵遠法師(ゑをんほうし)の居(ゐ)た僧院(そういん)ゆえかりもちゆ此/僧院(そういん)へ来てみれ|ば恵遠法師(ゑをんほうし)の居(ゐ)られた虎渓(こけい)とも同前(どうぜん)なところで月もあいだにひかり月のひかり|に引れてこゝかしこと過(すぎ)て見れば秋(あき)のすへのことゆへ雪(ゆき)をおびた松枝(まつかえ)に薜蘿(へきら)がまは|らに懸りおもしろい気色(けしき)じや此/僧院(そういん)の近処(きんじよ)の青山(せいさん)かぎりなく多いことじやこの山を|みなこと〴〵くあるきつくさんとおもふてそこらをみれば白雲(はくうん)ふかき処にしゆ〴〵の|清僧(せいそう)たちの引こんで御坐(こさ)なさるゝいかさま人間とは格別で|                          ものしづかな所じや》  からうたのこゝろを絵にものせられしは  たらちをのこゝろさしにそ有けらし  そをたかへしと五文字のぜく【「ぜく」は「絶句」ヵ】七文字  のせくは大かたにさくら木にえらせ侍りぬ  猶りちののこれるもこしもつかの木の  いやつき〳〵にたへす■【調ヵ】してむと思ふ物から  まち見給ふ人〳〵にしらせまほしく此さらし  のおくにかいつけたいまつるものならし      ふみのいちくらのあるし高てるしるす。 -------------------------------------------------------------------------------  寛政5年癸丑正月発行   東都書林 《割書:日本橋通二丁目》小林新兵衛蔵。 【裏表紙】