新吉原(しんよしはら)こわひ関(せき)の戸(と) 〽かゝる闇夜(やみよ)の大門(おゝもん)をさしてにげ出(だ)す妻(つま)も子(こ)も客(きやく)についても身(み)の上(うへ)を 拭(かけ)ていだせば二階(にかい)の階子(はしご)たまり兼(かね)ては一(ひと) ̄ト飛(とび)に馬爪(ばづめ)のかんざしたど〳〵と大門(おゝもん) 近(ちか) ̄く逃(にげ)てくる鹿島(かしま)は鯰(なまづ)をおさへ玉ひ〽(ことば)ゆすぶればどふもいられぬ大地(おゝぢ)しん何(なん)と なほ平(へひ)どうもいられぬ地しんではないか〽さやうでござり升(ます)此ぢしんを肴(さかな)にひとつ もふけたらようござりませうとはなしのしたに女郎(じよろう)たち門(もん)の外(そと)もに 立休(たちやすら)ひ〽此大門をどうぞ通(とふ)してくんなんしへ〽あれ大門に大へんがあるぞや 〽《割書:ナニ》大へんとは何事(なにごと)じや《割書:ハヽア》そさまは女郎衆(じよろしゆ)じやな此大ぢしんに若(わかい)ィ衆(しゆ)も 禿(かむろ)も連(つれ)ずたゞ一人(ひと) ̄り此大門へは何(なに)しにきたのじや〽ァィわたしや仮宅(かりたく)へ立(たち)のきの者(もの) 門を逃(にが)しておくんなんし〽なる程(ほど)逃してもやろうがお守(まもり)が有(ある)か 〽それどころではありんせぬはィなァ〽お守(まもり)がなければけんのん〳〵〽《割書:コレ》此 大ぢしんにさぞなんぎであろう駕(かご)にでものせて逃(にが)してやりやィのう 〽なる程(ほど)通筋(とほりすじ)なら通(とふ)してもやろうがそんならおれがゆすぶる ことが有(ある)がとで一々(いち〳〵)ころげるか〽ァィ道中(みちなか)でもころげんせうわい《割書:ナ》 〽第一(だいいち)ぎようてんするなさァ江戸 中(ぢう)へ大へんぢしんそうどうに火事(くはじ) にも焼(やけ)る其中(そのなか)に焼ばの灰(はい)ずみ鬼にして逃(にげ)る姿(すがた)もいとしやと 廓(くるは)の外(そと)へおしたしてこちへ〳〵と逃しけれ