【撮影ターゲット】 【表紙 題箋】 《割書:童子|教訓》撫育草 上 【資料整理ラベル】 158.4 W33 日本近代教育史   資料 【見返し】 【左丁】 撫育草序 吾 ̄カ友義-堂脇-坂先-生受 ̄ク_二学 ̄ヲ于我 ̄カ 石-門 ̄ニ_一起 ̄シテ_二大-慈-心 ̄ヲ_一欲 ̄ス_レ利_二-益 ̄セント人 ̄ヲ_一甞 ̄テ著 ̄シ_二 国-字 ̄ノ書数-編 ̄ヲ_一以 ̄テ_二滑-稽 ̄ヲ_一行 ̄ナフ_二訓-誨 ̄ヲ_一項(コノ)- 日(コロ)復 ̄タ着 ̄テ_二撫-育-草一-編 ̄ヲ_一以 ̄テ諭 ̄トス_二童-蒙 ̄ヲ_一 蓋 ̄シ人導 ̄クトキハ_二之 ̄ノ於幼-時 ̄ニ_一則 ̄チ易 ̄シテ_レ入而難 ̄シ 【右丁】 _レ変 ̄シ猶【シ=左ルビ】_下種 ̄ル_レ樹 ̄ヲ之法矯 ̄タムレハ_二之 ̄ヲ於小-時 ̄ニ_一則 ̄チ- 至 ̄テ_二合抱 ̄ニ_一而不 ̄ルカ_上_レ易 ̄ヲ也堵-庵手-島先生 甞 ̄テ有 ̄リ_二前-訓之作_一今此 ̄ノ著殆 ̄ント演(ノブル)_二其 ̄ノ 志 ̄ヲ_一者也非 ̄ス乎(ヤ) 享和三癸亥春 鎌田鵬撰 【左丁】 脇坂義堂述 《題:《割書:童子|教諭》撫育草(そだてくさ)》 此 草紙(さうし)はよく童(わらんべ)ををしへ撫育(そだて)孝弟(かうてい)の道(みち)を しらしめ身(み)を修(おさ)め家(いえ)をとゝのへ子孫(しそん)長久(ちやうきう)にいたるの事を 知(し)るし又 日用(にちよう)の心得(こゝろへ)となるへき事(こと)急難(きうなん)急病(きんひやう)を救(すく)ふ の術(しゆつ)を心(こゝろ)やすくをしへさとせり        序 古語(こご)に子を教(おしゆ)るは幼稚(ようち)の時(とき)。妻(つま)を教(おしゆ)るは始(はじめ)て来(きた) れる時(とき)にありと。よつておもふに凡(およそ)人の子をそだ つるは。樹木(じゆぼく)を作(つく)るがごとく成(なる)べし。樹木(じゆぼく)を作(つく)るに 其木(そのき)の。いまだ弐尺にみたざるうちより。枝(ゑだ)をたれ 又は葉(は)をすかし抔(など)して。漸々(ぜん〳〵)に作付(つくりつけ)ぬれば。後々(のち〳〵) 数尺(すうしやく)の大木(たいぼく)となれるまでも。其枝(そのえだ)ぶり相替(あいかは) らで。年(とし)ふるにしたがつて。いよ〳〵おもしろく愛(あひ)し ぬべし。然(しか)るに作(つく)るべき時(とき)には。かまはで捨(すて)おき。 大木(たいぼく)となりて。ためんとし。かゞめむと欲(ほつ)すとも。 豈(あに)おもふまゝならんや。人も幼(いとけな)き時(とき)におしへ ならはせずして。成人(せいじん)の後(のち)訓戒(きんかい)を加(くは)へんとするは大木(たいぼく) を。ためんとするにひとしければ。幼稚(ようち)の時(とき)に道(みち)を 学(まな)ばし。あしき縁(ゑん)にふれさせず。よき事を見聞馴(みきくなれ) さし給ふこそ。子をそだつるの肝要(かんよう)ならんかと。友(とも) なる人にきける。教(おし)への数々(かず〳〵)を書集(かきあつめ)て。童子(わらんべ) 撫育草(そだてくさ)と題(だい)して。我子弟(わがしてい)のためにしるし伝る 時に寛政辰の初夏       義堂敬白 【右頁】   家業家職大明神 人の世を渡るは皆全く名々の家業家職大明神の 御めぐみなれば難有く脇(わき)目なく太切に信心(しんじん)すべき事也 然るに世の人多くは此家職大明神を麁抹およそに なす故に 其脇目          正直 ふるひま 家職大明神   堪忍 油断に 乗して 酒色遊興 奢(おごり)吝(やぶさか)名聞利欲諸勝屓事の悪歴外道が さま〴〵見入れ終には身をも家おもほろぼし失(うしな)ふ也 慎むべし恐るべし そも〳〵人の家職といふは主人たる者は家来を善に教へ みちびき愛しあはれむが家業也親は子に慈愛あつく よく教へそだつるが家職也兄は弟を愛し恵が家業也 【左頁】 夫は行儀正しくて妻をよく教るが家職也家来は主 人を太切にし忠をつくすが家業也子は身を捨てゝ 親を敬い安心さするが家職也妻夫に順ひおとなしく 少しもりんき偏執の心なく貞(てい)を守に【「る」の誤記か】が家業也 弟は兄は親也と真実心に敬ひて よく順ふが家職也朋友は互に信を 以て交りあしき方へ心をよせずむつまじく たすけあふのが家業也 士(さむらい)は士(し)たるの道(みち)をはげみ百性(ひゃくしやう)は百性たるの 農耕(のうこう)するが家職也 職人(しよくにん)は其(その)職分に出精し商人は其商ひに 油断(ゆだん」)なくせひをいだすが家業也 士農工商ともおの〳〵此家業家職大明神 を御太切に信心して脇目なければ家内 和合いたし子孫目出度栄々と長久に 世を渡るなれば人々ひとゑに         ありがたく奉存てこの 家業家職大明神を只一図に御太切に 信心していかなる人がおもしろひ事や 亦むまひ事を申きたるとも 脇目ふらずに此神に一身をうち まかせ一心不乱に 家業家職に     日夜 勤(つとめ)て      怠らざんば いかなる貧者微運の者も 冨に至る事うたがひ       あるべからず 此家業家職大明神を     麁略にすれば いかなる福者(ふくしや)高運(かううん)の者(もの)たりとも貧(ひん)に至(いた)る事(こと)目前(めのまへ)也 其(その)証拠(しるし)には 此(この)家職(かしよく)大明神(だいみやうじん)を一日 麁略(そりやく)にすれば一日だけの貧乏(ひんぼう)也一 月(つき)麁略(そりやく)にすれば 一 月(つき)だけの貧(ひん)をうくる也 一年(いちねん)麁抹(そまつ)にすれば一年だけの貧(ひん)来(きた)りて一 代(だい)の 身(み)をうしなふ也又一日 家職(かしよく)大明神(だいみやうじん)を大切(たいせつ)に勤(つと)むれば忽(たちまち)其一日の福分(ふくぶん)を 得(う)るにあらずや一月大切に信心(しんじん)してつとむれば其一月だけの福分をうる 事(こと)明(あきら)か也一年大切にすれば其一年(そのいちねん)の福分(ふくぶん)を得(う)る事うたがひなし まして一 代(だい)大切(たいせつ)にして麁略(そりやく)なく信心(しんじん)を凝(こ)らし脇目(わきめ)なくつとめなば 大福(だいふく)を得(ゑ)て子孫(しそん)を保(やすん)じ安楽(あんらく)に世(よ)を渡(わた)るべし誠(まこと)に世(よ)に霊験(れいげん) あらたなる神仏(かみほとけ)多(おほ)しといへども此(この)家職大明神(かしよくだいみやうじん)は取訳(とりわけ)利生(りしやう)あらたにして 大切にすれば忽(たちまち)大切にするほどの福分(ふくぶん)をたまはる事 速(すみや)か也又 麁略(そりやく) にすれば麁略(そりやく)にするほど貧になる事 明白(めいはく)にて世におそろしき 生神(いきかみ)と申 奉(たてまつ)るは此(この)家職(かしよく)大明神の御事なればおそれ慎(つゝし)みて日々(にち〳〵) 【右頁】 怠(おこた)らず信心(しんじん)し大切(たいせつ)に家職(かしよく)すべし但(たゞ)し此御神(このおんかみ)を祭(まつ)り奉(たてまつ)るには 倹約質素(けんやくしつそ)の御造酒(をんみき)をさゝげ正直(しやうぢき)の御燈明(をとうみやう)をかゝげ奉(たてまつ)り堪忍辛(かんにんしん) 抱(ばう)の御鏡(をかゞみ)をそなへ家内(かない)和合(わがう)の御神楽(をんかぐら)をあげ我心(わがこゝろ)を清浄(しやうじやう)にして 日夜(にちや)怠(おこた)らず信心(しんじん)堅固(けんご)につとむる時(とき)は一代 貧苦困窮(ひんくこんきう)の大難(だいなん)をまぬ かれ運(うん)をひらき富貴(ふうき)にいたる事(こと)速(すみやか)なれば幼稚(ようち)の時より此家職 大明神を信心(しんじん)し霊験(れいげん)あらたなる事をよく知(し)りて神(かみ)の御恩(ごをん)を 有難(ありがた)く思(をも)ふべし幼稚(ようち)の比(ころ)より此神の御恩(ごをん)を知(し)らずんば一代 身(み)を立(たつ)る 事(こと)成(なり)がたし今日 食事(しよくじ)をして身(み)をやしなふも衣服(いふく)きるも家(いゑ)にて住(すむ)も 手習(てなら)ひするも読物(よみもの)ならふも算用(さんよう)まなぶも諷(うた)ひ習(なら)ふも人を使(つかふ)も寝(ね)るも 起(をき)るも何(なに)もかも皆(みな)此(この)家職(かしよく)大明神の御恵(をんめぐみ)御蔭(をかげ)なれば忝(かたじけ)く思(おも)ひ奉(たてまつ)りて片時(へんし)も 此 神(かみ)の御 恩(をん)を忘(わす)れ麁抹(そまつ)にすれば身(み)をうしなふの大事としりて幼稚(ようち)の時(とき) よりはげみ〳〵て家職(かしよく)を覚(おぼ)へ大切にして五倫(ごりん)全(まつた)ふ家(いゑ)和合(わがう)して子孫(しそん)永々(ゑい〳〵)栄(さかふ)べし 【左頁】 朱文公(しゆぶんこうの)曰(いはく)朱子(しゆし)名(なは)喜(き)字(あざなは)元晦(けんくはい)又(また)仲晦(ちうくはい)ト云(いふ)       宋(そう)ノ代(よの)大儒(たいじゆ)也 文公(ぶんこう)ハオクリ名(な)也 《振り仮名:勿_レ謂|いふことなかれ》《振り仮名:今-日不_レ学|こんにちまなばずして》《振り仮名:有_二来-日_一勿_レ謂|らいじつありといふことなかれ》《振り仮名:今-年不_レ学|こんねんまなばすして》《振り仮名:有_二来|らいねん》 《振り仮名:年_一日-月逝-矣|ありとじつげつさんぬ》《振り仮名:歳-我不_レ延 鳴-呼 是-誰之-愆|としわれのびずあゝこれたれかあやまちぞや》 此文(このぶん)は朱子(しゆし)の人に学問(かくもん)せよと親切(しんせつ)に進(すゝ)め給ひし文也(ぶんなり)学(かく)に志者(こゝろさすもの)は速(すみやか)に道(みち)に すゝみて一日(いちにち)も怠(おこた)るべからず今日(こんにち)は学(まな)ばずとも明日(みやうにち)より学(まな)ぶべしとおもひて今日を 怠(おこた)り行(ゆく)今年(こんねん)学(まな)ばずして来年(らいねん)より学(まな)ぶべしといふて怠(おこた)るうちに日月(じつげつ)は 早(はや)うつり行(ゆき)て歳(とし)ものびず歳(とし)もかへらず我(われ)もいたづらに年老(としおひ)てかなしく 悔(くや)めどもいたしかたなき也 是(これ)みな誰(たれ)があやまちなるぞや人の知(し)りし事(こと)ぞなく 己(おのれ)があすあり来年(らいねん)ありとおもひ怠(おこた)りし過(あやまち)ちなり今更(いまさら)悔(くゆ)ともかひなき 事なれば誰(たれ)も幼稚(ようち)のとき壮年(さうねん)の時(とき)に道(みち)を学(まな)びて今日を大事(だいじ)と怠(おこた)らず はげむべしとおしへ給ふ御事(おんこと)也 幼壮(ようそう)の人(ひと)日々(ひゞ)にはげみ学(まな)びたまふべし    〽あすといふものを心にさへずして今日を大事(たいし)と学べ世の人 【右頁】 抑(そ)れ此国(このくに)の手習(てなら)ふ業(わざ)は彼(かの)唐土(もろこし)の八 歳(さい)にして小 学(かく)に入(いる)といへる 事(こと)と略(ほゞ)相似(あひに)て大やう八っ九っの比(ころ)より師(し)につきて十 数(じう)歳(さい)迄(まで)【「数」の振り仮名脱】 の所作(しよさ)也 其(その)程(ほど)過(すぎ)ぬれば皆(みな)それ〳〵の家業(かぎやう)有(あ)りてつとめ ざる事あたはざるか故(ゆへ)に其(その)余力(よりよく)すくなふしてたとひ幼少(ようせう)の 時(とき)習(なら)ひ得(ゑ)ざりし事(こと)を悔(くやみ)おもふといふ共 其心(そのこゝろ)がらにて再(ふたゝ)び ならひ学(まな)ぶべき日(ひ)はあるまじ其上(そのうへ)親(おや)是(これ)を導(みちび)き師(し)是(これ)を おしゆといへども其道(そのみち)を得(ゑ)ざるは是(これ)子(こ)の過(あやまち)なりと古賢(こけん)も いましめ置(おき)給ひければ凡(およそ)子(こ)たるもの其(その)産業(さきやう)を勤(つと)むる事 あたはで空(むな)しく遊戯(ゆうげ)する間(あいだ)に油断(ゆだん)なく習(なら)ひ学(まな)べき事(こと)也 【左頁】 〽世の中に書くべき文字(もじ)はかゝずしてことをかく也 恥(はぢ)をかくなり 此哥(このうた)の通(とを)りにて我(われ)人共(ひととも)に幼(おさな)き時(とき)は手習(てなら)ひをきらひて後(のち)に不自由(ふじゆう) にて事(こと)をかき恥(はぢ)をかく事(こと)は知(し)らず何(なに)になり共(とも)事(こと)をよせて手習(てなら)ふ事 を怠(おこた)りなん事(こと)を欲(ほつ)す父母(ふぼ)たる人は此(この)志(こゝろざ)しのたゆむをみてわざと 怒(いかり)て慈悲(じひ)の鞭(むち)をふりあげ給ふ幼稚(ようち)の心(こゝろ)にうらめしくおもひし 事(こと)も侍(はべ)りしが今(いま)に至(いた)りて臍(ほそ)を噛(かむ)といへどもかへらざる事(こと)なれば 幼稚(ようち)の人は一 日(にち)なりと速(すみや)かによき師(し)に随(したが)ひて手習(てならひ)をはげみ ならひ読物(よみもの)を情出(せいだ)し十露盤(そろばん)を不怠(おこたらず)けいこし人のみちたり おしへを聞(きく)べし是(これ)則(すなはち)幼年(ようねん)の時(とき)の親孝行(おやかうこう)にて成人(せいじん)の後(のち) 恥(はぢ)をもかゝす事(こと)をもかゝずして身(み)を脩(おさ)め家(いゑ)を斉(とゝな)ふの基(もと) なれば幼(いときな)き時(とき)におこたらずまなぶべしはげむべし 【右頁上部】 文字(もんじ)の始(はじま)りは 唐土(もろこし)蒼頡(そうけつ)と云(いふ) 人 海辺(かいへん)に出(いで)て 釣(つり)を垂(たれ)て居(ゐ) 給ひしに空(そら)を 雁(かり)の飛行(とびゆく)体(てい)を 身て文字(もんじ)を 造(つく)り給ふと云(いふ) 又一 説(せつ)に 砂(すな)の上(うへ)の鳥(とり)の 足跡(あしあと)を見て 造(つく)り給ふとも云(いふ) 【右頁下部】 永(ゑい)字(じ)の八 法(はう)は唐土(もろこし)蔡邕(さいゆう)神人(しんじん)に得(え)し 筆道(ひつどう)の根元(こんげん)にて七十二 点(てん)の変法(へんはう)あり 和朝(わちやう)にては十六 点(てん)をゑらむなり 【「永」の字を大書して廻りに文字有り】         咏      側    磔         永  努       勒     趯          策 掠 【左頁上部】 いろはは弘法(こうばう)大師(だいし)の作(つく)り始(はじ)め給ふと いへり京(きやう)の一 字(じ)は護命(こめい)僧正(そうしやう)の書添(かきそへ)たまふ といふ説(せつ)あれども信用(しんよう)しがたし往昔(むかし)唇舌(しんぜつ) 牙(げ)歯(し)喉(こう)の五音(ごいん)の五十 字(じ)をとり用(もち)ひて 生死(しやうじ)無常(むじやう)の心(こゝろ)を七文字(なゝもじ)の短歌(たんか)につくり たるを一 字(じ)つゝはなし書(かき)ていろはと 号(がう)したるものと見えたり 〽色(いろ)はにほへどちりぬるをわが世  たれぞつねならん 〽有異(うゐ)のおく山(やま)けふこえて  あさき夢(ゆめ)みしゑひもせず 假名(かな)といふは正字(しやうじ)をやつしたる物(もの)なり 正字(しやうじ)を知(し)りてかく時(とき)はかな文字(もじ)よく うつる物(もの)也 下(しも)に三 体(てい)をくはしく記(しる)す 【左頁下部右】 以呂波仁保辺土(いろはにほへと)知利奴留遠和加(ちりぬるをわか) 《割書: イ ロ ハ ニ ホ ヘ ト| 》 《割書: チ リ ヌ ル ヲ ワ カ|  》 与太礼曽川祢奈(よたれそつねな)良武宇為乃於久(らむうゐのおく ) 《割書: ヨ タ レ ソ ツ ネ ナ| 》 《割書: ラ ム ウ ヰ ノ オ ク|  》 也末計不己江天(やまけふこえて)安左幾湯女美之(あさきゆめみし) 《割書: ヤ マ ケ フ コ エ テ| 》 《割書:ア サ キ ユ メ ミ シ| 》 恵比毛世寸(ゑひもせす) 《割書: エ ヒ モ セ ス| 》 唐 上大人。丘乙己。化三十。 土 七十土。尓小生。八九字 以 佳作仁。可知礼也。 呂 漢土(もろこし)にては童子(とうし)手習(てならひ)の始(はしめ)に是(これ)を習(なら)ひ 波 て後(のち)千字文(せんじもん)をまなぶといへり 【右頁】 小野道風朝臣の曰それ 書をよくする事は師 の心の外を求ず直に 執行して日をへて        自ら しる事あり始より        伝へて しるの法なし人その心に 誠心得て天地の間を        知るに 知りがたからず 誠の外より 天地の間に ひとし  からぬ ことなし 【左頁上部】 《題:孝》 《振り仮名:一-考|いつかう》《振り仮名:立_則|たつときはすねはち》 《振り仮名:万-善|ばんぜん》《振り仮名:従_レ之|これにしたがふ》 かしこきも聖(ひじり)も人の孝(かう)をのみ 万(よろづ)の道(みち)のもとこそ         きけ 【左頁下部】    孝(かう)の字解(じかい) 舜典(しゆんてん)にいへるは五刑(ごけい)の属(しよく)三千にして罪(つみ) 不孝(ふかう)より大(おい)なる物(もの)なしと孔子(こうし)宣(のたまひ)しなり 年(とし)五十にして父母(ふぼ)を慕(した)ふは舜(しゆん)なる かと賛美(さんび)し給ふも実(げにも)也父母を敬(うやま)ふ者(もの)は 敢(あへ)て人(ひと)をにくまず父母を敬(うやま)ふものは敢(あへ)えて 人をあなどらずと一孝(いつかう)立(たつ)ときはよろづ あしき事(こと)のあるべきや西(にし)より東(ひんがし)より北(きた) より南(みんなみ)よりおもふて帰(き)ふくせざる事なし と有声(うせい)の伝にいへり其 実(まこと)皆(みな)みづから吾(わ)が 一 念(ねん)の孝弟(かうてい)を充(みち)て其(その)至極(しごく)を極(きわ)めつくす 時(とき)は深(ふか)く神明(しんめい)に通(つう)じあきらかに四海(しかい)の うちをてらすなり誠(まこと)なるかな孝(かう)は百(ひやく)の おこなひの源(みなもと)といふ事(こと)宜(むべ)なり 【右頁上段】   童(わらべ)教訓(きやうくん) 廿八首 人はたゞ幼(いと)きなきよりよき事を  まなびて友(とも)をゑらぶにぞあり 父母(ちゝはゝ)に返事(へんじ)よくして行義(ぎやうぎ)よく  手跡(しゆせき)そろばんはげめ読書(よみもの) あさゆふに神(かみ)と仏(ほとけ)を礼拝(らいはい)し  つぎにこゝろで父母を拝(おが)めよ いつはりが万(よろづ)の悪(あく)のもとなれば  かりにもうそはいはぬ物(もの)也 おゝ口(ぐち)と自慢(じまん)かげ口そしり口  助言(じよごん)悪口(あくこう)さし手口(でぐち)すな 【左頁上段】 せぬがよし喧(けん)𠵅(くは)口論(こうろん)石(いし)つぶて  角力(すまふ)あないちむさしわるじやれ 御師匠(おししやう)や父母(ふぼ)にいはれずこそ〳〵と  かくす事(こと)ならかたくいたすな 殺生(せつしやう)はすぐに其身(そのみ)にむくふ也  ものゝ命(いのち)をとるなわらんべ きちがひやかたわな人を笑(わら)ふなよ  わらふおろかを人(ひと)がわらふぞ ゑんにふれ心(こゝろ)のうつるものなれば  あしきたはむれせぬものぞかし 月々(つき〳〵)に灸(やいと)をすえよやいとすりや  父母(ふぼ)はよろこび我(われ)は無事(ぶじ)也 【右項下段】   丁稚(でつち)教訓(きやうくん) 廿八首 奉公(ほうこう)に来(き)た日の心いつまでも  わすれず念(ねん)を入(い)れて事(つか)へよ 御主人(ごしゆじん)の仰(おほ)せのあらば早速(さつそく)に  へんじよふして御用(ごよう)勤(つと)めよ 口上(こうじやう)を言違(いひちが)へなよ使(つかひ)には  みちくさをせずひまを入(いれ)るな けんくわすな角力(すまふ)もとるなよその子(こ)を  せぶらかすなよ仕(し)かへしもすな うそつかず影(かげ)ひなたなく目(め)だれみず  ほねおしみせず身(み)をば働(はた)らけ 【左頁下段】 大口(おぐち)と女(おんな)おだてとませた事(こと)  するをこれらが野良(のら)の始(はじめ)じや 勝(かち)まけをあらそふわざと川遊(かはあそ)び  小銭(こぜに)あつかひかくし喰(くひ)すな 居眠(ゐねぶ)りてあたら夜(よ)ごとをすごさずに  目(め)あきてはげめ手跡(しゆせき)そろばん 楽書(らくかき)や犬(いぬ)かみあわせ溝(みぞ)なぶり  使(つかひ)わすれて物(もの)をおとすな つかふどに物(もの)をばいふなおとなしく  下女(げじよ)といさかい中(なか)わるうすな 御主人(ごしゆじん)の内(うち)の事(こと)をば外(ほか)へいて  よしあしともにいふなかたるな 【右頁上段】 召使(めしつか)ふ者(もの)かは我(われ)を父母(ちゝはゝ)の  あはれみ給ふごとくめぐめよ 召使(めしつか)ふ人(ひと)をばつらくよりきらひ  ゑこひいき抔(など)せぬものぞかし 遅(おそ)く寝(ね)て早(はや)く起(をき)るの起(をき)ぐせを  しつけならへよ一代(いちだい)のとく 只居(たゞい)せず稽古事(けいこごと)をば情出(せいだ)すが  すぐに其身(そのみ)の薬(くすり)なりけり 麁相(そさう)ゆへけがあやまちの出来(でき)るぞと  知(し)りてしづかに物事(ものごと)をなせ 童(わらんべ)の一芸(いちげい)なるぞ食物(しよくもつ)に  いやしからぬと嘘(うそ)つかぬとは 【右頁下段】 傍輩(はうばい)は中(なか)むつまじく我(われ)よりも  下(しも)なるものをあはれみてやれ ひまあらば在所(ざいしよ)の父母(ふぼ)へ状(しやう)やりて  無事(ぶじ)でつとめる事(こと)をしらせよ 我親(わがおや)の門(かど)は通(とを)ろと用(よう)なくば  よらぬがよるにまさる奉公(ほうこう) 薮入(やぶいり)に行(ゆ)かば泊(とま)らずかへれすぐ  永居(ながゐ)はとかくおそれ成(なる)べし 我(われ)ひとりつとめ働(はたら)け傍輩(はうばい)の  あちらこちらとゆづりあはずに 食事(しよくじ)をばなす度(たび)ごとにあぢあふて  みれば主人(しゆじん)のみな御恩(ごをん)なり 【左頁上段】 短気(たんき)ゆへ身(み)を亡(ほろぼ)すと謹(つゝし)んで  かんしやく気随(きず)ひきまゝ起(おこ)すな 外(よそ)へ行(ゆく)時(とき)には父母(ふぼ)に行先(ゆくさき)と  道筋(みちすじ)までも告(つげ)て行(ゆく)べし おさなくと理非(りひ)をよく〳〵弁(わきま)へて  無理(むり)やわやくはいはぬもの也 余(よ)の芸(げい)は知(し)らでもすむが知(し)らいでは  すまぬ己(おの)が家業(かぎやう)とぞしれ 性根(しやうね)をば入(いれ)るがうへに性根をば  いれて覚(おぼ)へよ己(おの)が職(しよく)ぶん 食物(しよくもつ)や衣類(いるい)好(この)みをすなよかし  これがおこりのもとでこそあれ 【左頁下段】 やいとすえ食(しよく)をつゝしみ達者(たつしや)なが  御主(をしゆ)へ忠義(ちうぎ)親(おや)へ孝行(こうかう) はきそうじ礼義(れいぎ)配膳(はいぜん)なに事も  じだらくにせずきよくとゝのへ しんぼうとかんにんするが奉公(ほうこう)を  よくも仕遂(しとぐ)る伝受(でんじゆ)なりけり 利口(りこう)ぶり言葉(ことば)多(おほ)きと片意地(かたいぢ)と  短気(たんき)不律義(ふりちぎ)うそにてもすな 用事(ようじ)をばかいて芝居(しばい)を見るのみか  もどつて主(しゆ)に嘘(うそ)と間似合(まにあへ) 正直(しやうぢき)と柔和(にうは)にすれば御主人(ごしゆじん)も  傍輩中(はうばいぢう)もかあいがるなり 【右頁上段】 あやまちがあらばたちまちあらためて  ことはりいへよ負(まけ)おしみすな おさなくと男(おとこ)女(おんな)の行義(ぎやうき)をば  正(たゞ)しくもせよこれが肝心(かんじん) 兄弟(きやうだい)は唯(たゞ)むつまじくしたしめよ  是(これ)が父母へのすぐに孝行(かうこう) おさなくと物(もの)のなさけをよく知りて  人をあわれむ心(こゝろ)ふかゝれ あだにのみ今日(けふ)をあそぶな        ひまあらば  おしへを書(かき)しかな文(ふみ)をよめ 【右頁下段】 商売(しやうばい)をよく覚(おぼ)へるが銀(かね)よりも  宿(やど)へ這(はい)入るの元手(もとで)とぞしれ 出世(しゆつせ)をはせんと思(おも)はゞ身(み)をつめて  よき事にのみ心うつせよ 手代(てだい)にはにくまりようふとも内證(ないしやう)の  使はかたく理(ことは)りをいへ 何事(なにごと)を人(ひと)が頼(たの)もと御主人(ごしゆじん)に  かくす事ならかたくいたすな 奉公(ほうこう)を大事(だいじ)とするが          何よりも  我(わが)親(おや)たちに孝行(かうこう)と知(し)れ 【左頁】    筆(ふで)のはじまりの事 筆(ふで)は文殊(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)の指(ゆび)をひやうせりといへり軸(ぢく)のたけ 四寸弐部といへり筆形(ひつぎやう)は爪(つめ)をかたどる上古(じやうこ)には木(き)を けづりて文字(もんじ)を書(か)くゆへに入柎(しゆじゆ)とも入木(じゆぼく)とも木筆(ぼく▢▢)【ひつヵ】 ともいふなり 譬案抄(へきあんしやう)に曰 硯(すゞり)は文珠菩薩(もんじゆぼさつ)の眼(まなこ)に かたどればかりにも硯(すゞり)のおもてに物など かくべからず又 硯(すゞり)のすりためを海(うみ)と名付るは 文珠(もんじゆ)菩薩(ぼさつ)【𦬇は略字】の智恵(ちゑ)の眼(まなこ)の広(ひろ)きことを 海(うみ)にたとへたり  古哥に いつわりの名(な)をのみたてゝ          あひみぬは   硯(すゞり)のうへのちりや吹(ふき)けん 唐土(もろこし)にては望鳳珠(もうほうしゆ)又は鳳瓦硯(ほうぐはけん) 鳳字硯(ほうじけん)なとゞ【濁点の位置の誤記】いふ惣(そう)じて硯は風(かぜ)と いふ形(なり)にきりたるがよしともいへり 【硯の中の文字】 よき人に只(ただ)すり   入(い)りてしたしめよ あしき友(とも)には   くろくそまるな 【右頁上段】   筆持やうの事 中指と人さしゆひとこの中に さしはさみかしらゆひ【人差し指のこと】の かたはらと大指【親指のこと】のはらと二所 にてをさへてとるべし くすしゆびとこゆひと 二をよせて中の ゆびの下にかさねて ちからになすべし 【右頁下段】 十(しう)二(ふ)点(てん)画(くはく)筆(ひつ)法(はう)之図(のづ) 宝蓋(ほうがい) 聚水(じゆすい) 蟠龍(ばんりやう) 象笏(しやうしやく) 犀角(さいかく) 浮鵝(ふが) 鉄城(てつじやう) 懸珠(けんしゆ) 彎(らん)笋(とう) 獅口(しかう) 金刀(きんとう) 鳳翅(ほうよし?) 払(ほつ) 法(はう) 【右頁左下段】 長(なが)きを画(くは)と云(いひ)短(みしか)きを点(てん)と云(いふ) 此(この)筆(ひつ)法(はう)をよくならひ得(う)れば 万(よろづ)の文字(もんじ)を書(か)くに心(こゝろ)やすし つとめてまなぶべし 【左頁上部】 五 倫 【左頁下部】 五倫(ごりん)とは君臣(くんしん)父子(ふし)夫婦(ふうふ)兄弟(きやうだい)朋友(ほうゆう)の御五ッの道(みち)なり父子(ふし)の間(あいだ)は骨肉(こつにく)を わけたる事(こと)なれば相(あい)したしむ理(り)あり君臣(くんしん)の間(あいだ)は他人(たにん)なれ共 君(きみ)は禄(ろく)をあたへて 養(やしな)ひ臣(しん)は身(み)をゆだねてつかふる事(こと)たかひに義(ぎ)を以(もつ)て交(まじは)る理(り)あり夫婦(ふうふ)は なれやすきものなれば男女(なんによ)の礼義(れいぎ)を正(たゞ)しくわかつ理(り)あり兄弟(きやうだい)は兄(あに)を敬(うやま)ひ弟(おとゝ)を あはれむ次第(しだい)あり朋友(ほうゆう)はつねにいひかはすことばたがはざるやうにまことを以(もつ)て交(まじは)る 理(り)あり人間(にんげん)の行(おこな)ふべき道(みち)天地(てんち)の間(あいだ)に此(この)五つの外(ほか)なし五倫(ごりん)の道(みち)をあきらかに するを人の人たる道(みち)といふ也 此(この)五つの道(みち)たがひなば形(かたち)は人なり共(とも)心(こゝろ)は鳥(とり)獣(けだもの)と異(ことな)るべからず   仁 他(た)をめぐみ我(われ)をわすれて物ごとに慈悲(じひ)ある人を仁(じん)としるべし   義 へつらはず驕(おご)る事(こと)なくあらそはず欲(よく)をはなれて義理(ぎり)をあんぜよ   礼 君(きみ)をあふぎ臣(しん)をおもひてかりそめもたかきいやしき礼義(れいぎ)みだすな   智 何事(なにごと)もそのしな〳〵をしる人をひろくたづねて他(た)をなそしりそ   信 心(こゝろ)いと直(なを)かるべしと祈(いのり)りつゝあしきをすてゝよきをともなへ 【右頁上部】 〇司馬温公 司馬(しば)温公(をんこう)は幼稚時より 学問(かくもん)を好み給ひ夜(よ)を以(もつ)て 昼(ひる)につぎて書(しよ)をよみ 給ふ暫(しはらく)寝(いね)給ふ時(とき)には 丸木(まるき)を以(もつ)て枕(まくら)として 臥(ふ)し給ふゆへに少し寝(ね) 入(い)り給ふとすぐに枕(まくら)転(ころび) はしりておのづから目(め) さむるなり目(め)さむれば よろこび起(おき)出(いで)て又(また)書(しよ)を 見たまふ幼年(ようねん)より かゝるあつき御 志(こゝろさ)しにて ありけるゆへ終(つい)に高官(かうかん)に 【左頁上部】 すゝみ篤行(とくかう)の美名(びめい)を 千歳(さんざい)に残(のこ)し給ふ又(また)此(この) 丸木(まるき)の枕(まくら)を警枕(けいしん)と名(な) づけて寝(ね)る間(ま)も慎(つゝしみ)を ふかくし給ふと云 《振り仮名:司馬温公曰|しばおんこうのいはく》《振り仮名:積_レ金|こがねをつんで》以(もつて) 《振り仮名:遺_二子孫_一|しそんにのこす》子孫(しそん)《振り仮名:未_二必能_一|いまだかならずよく》 《振り仮名:_レ守_一|まもることあたはず》《振り仮名:積_レ書|しよをつんて》以(もつて)《振り仮名:遺_二子孫_一|しそんにのこす》子(し) 孫(そん)《振り仮名:未_二必能_一_レ読|いまだかならずよむことあたはず》《振り仮名:不_レ如_レ積_二|いんとくをめい》 《振り仮名:陰-徳於冥々之中_一|めいのうちにつむにはしかず》以(もつて) 《振り仮名:為_二子孫長久之計_一|しそんちやうきうのはかりことゝす》 【右頁下段】 《割書:児女|教諭》撫育草 全部二巻 〇 幼稚(ようち)の時(とき)より常(つね)に 御公儀様(ごこうぎさま)の御法度(ごはつと)之 御趣(おんおもむき)又(また)は町分(てうぶん)之作法(さほう) 【左頁下段】 は我家(わがいゑ)之 定(さだめ)などはとく と合点(がてん)のまいり能(よく)候 様(やう)により〳〵に申 聞(きか)せ 教守(おしへまも)らせ可申候 幼稚(ようち)の 時(とき)より守(まも)らせなら はしつけざれば成人(せいじん)の 【右頁上段】 此 語(ご)は温公(おんかう)の御 語(ことば)にて 金(こがね)をおほく積(つみ)かさねて 子孫(しそん)にのこしあたふる とも子孫(しそん)よく其 富(とみ)を 守(まも)りたもつことあたはぬ 【右頁下段】 後守(のちまも)るにうとくおの づから麁略(そりやく)に至(いた)る ものに候へは父母(ふぼ)たる 人は此道理(このどうり)を能々(よく〳〵) 心得(こゝろえ)幼稚(ようち)の比(ころ)より 守(まも)りならはせ可申候事 【左頁】 〇神仏(かみほとけ)を尊(たつと)み朝(あさ) 夕(ゆふ)不怠(おこたらず)為致礼背拝(らいはいいたさせ) 可申候これも幼少(ようせう)之 比(ころ)よりおしへならは せ癖(くせ)づかせ可申候事 〇 十二三才(じうにさんさい)之 比(ころ) 【右頁上段】 もの也又あまたの書籍(しよもつ) をつみかせねて子孫(しそん)に あたふるとも子孫(しそん)よく読(よみ) て其(その)書物の義理(ぎり)意味(いみ)を 知(し)る事(こと)あたはぬものなり しかれば金銀(きんぎん)や書物を のこしてあたへんよりは 陰徳(いんとく)とて人にも知(し)らさぬ 名聞(みやうもん)をはなれきつたる 善事(よきこと)をなして冥々(めい〳〵)の うちとておくふかき至誠(しせい) のうちにつみおさめば子孫(しそん) 長(なが)かるべし我(われ)は此計(このはかりこと)を せんとのたまひしなり 【左頁上段】 有(あり)がたき事(こと)にあらずや 是誠(これまこと)に真(しん)の学問(がくもん)なり よく〳〵此語(このご)を翫味(ぐわんみ)す べし  閔子騫 閔子騫(ひんしけん)は孔夫子(こうふうし)の高弟(かうてい) にして父母(ふぼ)によく孝(かう)を つくし給へる人也 論語(ろんご)に 孔子も孝なるかな閔子騫 と賞し給へり閔子騫 幼稚(いとけなく)して母(はゝ)をうしなへり よつて父(ちゝ)また後(のち)の妻(つま)を 求(もとめ)給へり此(この)妻二人の子 生しかば彼(かの)妻二人の我(わが) 【右頁下段】 までは手習(てならひ)読書(とくしよ) 算術(さんじゆつ)をよくおしへ 学(まなば)し十四五 才(さい)に 相成(あひなり)候はゞ我(わが)職分(しよくぶん) 家業(かぎやう)を情出(せいいだ)し 熟練(じゆくれん)致(いた)させ可申候 【左頁下段】 其余(そのよ)の芸能(げいのう)はおしへ たるより存(ぞん)ぜぬ方(かた) が大方(おゝかた)はよろしき ものとうけたま はり候 去(さり)ながら是(これ)は 其人(そのひと)之 分限(ぶんげん)身(み)がら 【右頁上段】 実(じつ)の子を愛(あい)しいつくし みて継子(まゝこ)の閔子騫(びんしけん)を 悪(にく)みてとにかく父(ちゝ)へあし くとりなしそしり閔子 騫にさま〴〵とつらく あたりけれども少(すこ)しも 【右頁下段】 にもより候 事(こと)なれば 一概(いちがい)には申 難(がた)く候 得とも中(ちう)以下(いか)之 町人(てうにん)商人(あきんど)風情(ふぜい)は芸(げい) 能(のう)ありてほめらるゝ 方(かた)よりは無芸能(むげいのふ)にて 【左頁下段】 商売(しやうばい)一向(いちむき)の外(ほか)には 何(なに)も知(し)らぬ男(おとこ)なりと そしらるゝ者(もの)が芸能(げいのう) ありとほめらるゝ人 よりも多(おほ)くは先祖(せんぞ)の 家(いゑ)をよくたもち身体(しんだい) 【右頁上段】 うらむるけしきなく猶(なを)も 孝(かう)をつくし給ふ或(ある)さむき 冬(ふゆ)継母(まゝはゝ)我(わが)実(じつ)の二人の子 には綿(わた)をあつく入(い)れて衣(い) 服(ふく)を着(き)せ 閔子騫(びんしけん)には着(き) 物(もの)に綿を入れず蘆(あし)の穂(ほ) をとりて綿として衣服 をこしらへ着せられければ 閔子騫 寒(さむ)き冬の事(こと)なれば 身(み)こゞえひえて身体(しんたい) 自由(じゆう)ならざるを父(ちゝ)見た まふていきどふり給ふて 汝(なんぢ)何(なに)とてぶしやうをなし て身(み)をうごかざるやとて 【左頁上段】 策(むち)を以(もつ)てうち給ひしかば 閔子騫(びんしけん)が着物(きもの)すこしく 破(や)れて芦(あし)の穂(ほ)あらはれ ける此時(このとき)父 始(はじめ)て継母(まゝはゝ)が 悪心(あくしん)なる事を知(し)り給ふて 大(おゝ)ににいかりすぐさま 妻を追出(おいいだ)しさらんと したまひしかば 閔子騫 父(ちゝ)が 袖(そで)にすがり涙(なみだ)をながし 声(こゑ)をはなつて申され けるは父上(ちゝうへ)いきどふり を止(やめ)て我(わが)申事を聞入(きゝい) れ給へ今(いま)の母(はゝ)を出(いだ)して 又あらたに母(はゝ)をむかへ 【右頁下段】 持(もち)も上手(しやうず)にて繁栄(はんゑい)し 家職(かしよく)抜目(ぬけめ)なきもの と十に八九は見来(みきた)り候 士農工商(しのうこうしやう)とも我職(わがしよく) 分(ぶん)にうとくして外(ぐはい) 芸(げい)に名(な)を得(ゑ)るは余(あま)り 【左頁下段】 おもしろき事(こと)共(とも)不存(ぞんせす)候 無録(むろく)之町人 抔之(などの)我(わが) 職分(しよくぶん)業体(ぎやうてい)にうとく して芸能(げいのう)にさときは 好(この)ましからぬ事にて 多(おほ)くは我(わが)得手(ゑて)の芸(げい) 【右頁上段】 給はゞ我(われ)のみならず弟(おとゝ)二人 も継子(まゝこ)となりて三人 共(とも) になんぎしてさむかるべし 又 今(いま)の母をかんにんし こらゑ給はゞ我(われ)一人 寒(さむ)く 難義(なんぎ)するのみにて弟二人は あたゝか成(なる)べし我(われ)はいか やうにてもくるしかるまじ けれども今(いま)の母(はは)を出(いた)し 給へば二人のおさなき弟(おとゝ) こそかあゆくふびん也と なく〳〵父(ちゝ)をいさめられ ける実心(じつしん)孝心(かうしん)に継母(まゝはゝ) も大に感心(かんしん)してなみだを 【左頁上段】 ながし是(これ)までの悪心(あくしん)を 真実心(しんじつしん)にひるがへし 閔子(びんし) 騫(けん)にわびことしともに 父(ちゝ)にわびければ父(ちゝ)は継母(まゝはゝ) をにくしと思(おも)ひ給ひけれ ども 閔子騫が実心(じつしん)に 感涙(かんるい)し妻(つま)を去(さ)る事(こと)を ゆるされける継母(けいぼ)も此後(このゝち)は 閔子騫が徳(とく)を尊(たつと)み善(ぜん)に 和(くは)して我実(わがじつ)の子(こ)よりも 子騫(しけん)を真実(しんじつ)に愛(あひ)し ければ子騫(しけん)はなを〳〵 父母(ふぼ)を敬(うやま)ひ孝(かう)をつくし 給ひしなり 【右頁下段】 能(のう)に専(もつは)ら心(こゝろ)を入(い)れて をのづから家業(かぎやう)は麁(そ) 略(りやく)になり行(ゆく)ものにて 終(つい)には家(いゑ)をうしなひ 身(み)を破(やぶ)り先祖(せんぞ)の名(な)を けがし子孫(しそん)を絶(だつ)の 【左頁下段】 基(もと)ひなれば先(まづ)芸(げい) 術(しゆつ)を学(まな)びならはす 事(こと)はあとへまわし て商人(あきんど)形気(かたぎ)文(もん) 盲(まう)一図(いちづ)に我(わが) 家業(かぎやう)家職(かしよく)をよく〳〵 【右頁上段】 閔氏(びんし)《振り仮名: 有_二賢良_一|けんらうにあり》何曽(なんぞかつて)《振り仮名:怨_二晩娘_一|ばんらうをうらまん》【晩娘=継母をいう】 尊前(そんぜん)《振り仮名:留_レ母|はゝをとゞめて》《振り仮名:在三-子|いますさんし》《振り仮名:免_二風霜_一|ふうさうをまぬかる》 〇世(よ)の子(こ)たる人(ひと)此(この)閔子騫(びんしけん)の 御徳(おんとく)をしたひて孝行(かうこう)を はげみ実心(じつしん)あつくは実(じつ)の 父母(ふぼ)はいふに及(およ)ばず継父(けいふ) 継母(けいぼ)もなんぞ心(こゝろ)をへだ て給(たま)はんや人の我(われ)にあし きは我(わが)真実(しんじつ)のたらぬ ゆへなりと心得(こゝろゑ)て人(ひと)を 咎(とが)めず唯々(たゞ〳〵)我(われ)にかへり みて父母に孝心(かうしん)人に実(じつ) 心(しん)をつくすべきものなり 【左頁上段】 〽まゝしくて母こそ     母にあらざらめ   子は子たる子の      道を行べし 〽我がよきに人の     あしきが       あらばこそ  人のあしきは    我が悪き也 〽よしあしの人には    あらで我にあり  かたち直ふて     影はまがらず 〽人にたゞ済ては    なきにへだつると   思ふ心ぞ垣と      なりぬる 【右頁下段】 おしへこみ丹練(たんれん) 致(いた)させ可申候事 〇幼稚(ようち)のときより 賢人(よきひと)に近(ちか)よせ 学(まな)ばし度(たき)は学問(がくもん) の道(みち)に候 学問(がくもん)と 【左頁下段】 申てむつかしき四(し) 角(かく)なる文字(もんじ)を よく読(よみ)詩作文(しさくぶん) 章(しやう)を達者(たつしや)に いたし博学多識(はくがくたしき) になる事(こと)にて 【右頁上段】   楊 香 《振り仮名:深-山|しんざんに》《振り仮名:逢_二白-額_一|はくかくにあへり》 《振り仮名:努-力|とりきして》《振り仮名:搏_二腥風_一|せいふうをうつ》 《振り仮名:父-子|ふし》俱(ともに)《振り仮名:無_レ恙|つゝがなし》 《振り仮名:脱_レ身|みをまぬかれたり》《振り仮名:飢-口中|きこうのうち》 【右頁下段】 はなく候 愚(われら)が申は 実(じつ)の学問(かくもん)にて 人(ひと)たるのみちを ならひ忠信孝弟(ちうしんかうてい) をはげみ親族(しんぞく) 一 門(もん)家内(かない)和合(わがう)し 【左頁】 我(わが)業体(ぎやうてい)を精出(せいだ)し 身(み)のほどを知(し)りて 我分限(わがぶんげん)の位(くらゐ)に 素(そ)し足(た)る事(こと)を 知(し)り驕(おご)らず吝(やぶさか) ならずして家(いゑ)を 【右頁上段】 楊香(やうきやう)は魯国(ろこく)の人にて十五 才(さい)也 或日(あるひ)父(ちゝ)と共(とも)に山(やま)へ入りてあち らこちらとあるき終(つい)に山(やま) 深(ふか)く入(いり)ける時(とき)にあらく猛(たけ)き 虎(とら)出来(いできた)りて眼(まなこ)すさまじく 爪(つめ)をときて向(むか)ふにたてり 楊香(やうきやう)此 虎(とら)がために我大切(わがたいせつ) の父(ちゝ)をうしなはん事をおそ れかなしみて我身(わがみ)をすて 父(ちゝ)をうしろにして前(まへ)にすゝん で虎(とら)をおひはらはんといたし ければ虎(とら)も大(おゝ)いにいかり たけつてすでに取(と)り喰(くら) はんとの勢(いきほ)ひ成(なり)ければ楊(やう) 【左頁上段】 香心のうちに天(てん)にいのりねか はくは天(てん)我(わが)志(こゝろ[さ])しをあはれみ給ひ て我命(わがいのち)を以(もつ)て父(ち[ゝ])にかへ父の命(いのち)を たすけ給へとちかひて虎(とら)の 前(まへ)におそれなくすゝみよりて いわく汝(なんぢ)人にあらねどよく聞(きゝ) わけて父(ちゝ)の命(いのち)をたすけよ我(わが) 身(み)は汝(なんぢ)にあたふべしとすりより ければ今迄(いままで)猛(たけ)くあれし虎(とら) 勢(いきほ)ひをうしなひ尾(を)をすへて 何国(いづく)ともなく逃(にげ)うせける爰(こゝ)に おいて楊香(やうきやう)父子(ふし)身(み)を全(まつた)ふ して帰(かへ)り給へりこれよりして 楊香(やうきやう)が美名(びめい)天下(てんか)にかくれなかりける 【右頁下段】 斉(とゝの)ひ脩(おさむる)るを申 事に候 是(これ)至(いたつ)ておも き事(こと)に候へは幼(よう) 稚(ち)の時(とき)より善師(よきし)を たのみ賢友(よきひと)に 近(ちか)よせおしへ善(みち) 【左頁下段】 導(ひき)にあづからせ可 申候事 〇 択(ゑら)ぶべきものは朋(ほう) 友(ゆう)に候 善友(ぜんゆう)にまじ れば我(われ)知(し)らずして 自然(しぜん)とよき事を覚(おぼ)へ 【右頁上段】 〇世(よ)の子(こ)たる者(もの)は楊香(ようきやう)がごとく 父母(ふぼ)のためには命(いのち)をすてんとする が常(つね)なるに命(いのち)の事(こと)は扨(さて)おいて 手足(てあし)を惜(お)しみ骨(ほね)をおしみて 我身(わがみ)を大事(だいじ)とすしかれば 実(じつ)に我身(わがみ)を大事にするかと おもへば埒(らち)もなき酒色(しゆしよく)名利(みやうり)の 為(ため)には手足(てあし)も惜(お)しまず尻(しり) もかろく身命(しんみやう)もなげうつ にあらずや是(これ)はいかなる間(ま) 違(ちがひ)ぞやよく〳〵かんがへ見(み) 給ふべし此(この)間違(まちがひ)がわからざれば 身(み)を立(たつ)る事あたはぬ也よき人に よりて道(みち)を学(まなび)て父母の心を安(やす)んじ給へ 【右頁下段】 悪友(あしきとも)を友(とも)とすれば 我(われ)知(し)らずしておのづから あしき心(こゝろ)にうつり行(ゆく) ものに候へば偏(ひとへ)に善(ぜん) 友(ゆう)をゑらび友(とも)と いたさせ可申候事 【裏見返し】 【裏表紙】 【表紙 題箋】 《割書:童子|教訓》 撫育草 下 【上段】 五常(ごじやう)の歌(うた)   他(た)を恵(めぐ)み我(われ)をわす 仁 れて物ごとに慈悲(じひ)ある   人を仁(じん)としるべし   へつらはずおごる事なく 義 あらそはず欲(よく)をはなれて   義理(ぎり)をあんぜよ   君(きみ)をあふぎ臣(しん)を思(おも)ひて 礼 かりそめもたかきいやしき   礼義(れいぎ)みだすな   何事(なにこと)も其(その)しな〴〵を 智 知(し)る人(ひと)をひろく尋(たづ)ねて   他(た)をなそしりそ   心(こゝろ)いと直(なを)かるべしと祈(いのり) 信 つゝあしきをすてゝ   よきをともなへ 【下段】 撫育草(そだてくさ)下ノ巻 〇幼稚(ようち)の人(ひと)の病(びやう) 身(しん)になりて成人(せいじん)を なす事(こと)あたはず又(また) 息才(そくさい)にて成人(せいじん)致(いた)し たりとも不身持(ふみもち) 【右頁上段】  呉   猛 呉猛(ごもう)は年(とし)八 才(さい)にして至(いたつ)て 孝行(かうこう)ふかき人なり元来(もとより) 家(いゑ)まづしくしてよろづ 心(こゝろ)にかなふ事(こと)なし夏(なつ)の 事にありけるが父(ちゝ)寐(いね)給ふに 蚊(か)多(おほ)くとまりてほしい まゝに父(ちゝ)をさしけるを幼稚(ようちの) 心(こゝ)ろにおゝいにうれひけれ ども貧家(ひんか)の事なれば 蚊帳(かや)とてもあらざれば 我(わか)衣(ころも)をぬぎて父(ちゝ)に着(き)せ けれども蚊(か)なをも父(ちゝ)の 身(み)に近(ちか)づきければ呉猛(ごもう)我(われ)は 【左頁上段】 赤裸(あかはだか)になりて父(ちゝ)の傍(かたわら)に 居(ゐ)られければ蚊(か)あつまり 来(きた)りて呉猛(ごもう)が幼(いときな)き赤(は) 裸(だか)身(み)を喰(くい)て父(ちゝ)が方(かた)へ 行(ゆか)ざりければ呉猛(ごもう)大(おゝ)いに よろこびて是(これ)より毎夜(まいや) 父(ちゝ)を我(われ)より先(さき)へ臥(ふ)さしめ 我(わが)衣(ころも)をぬぎて父(ちゝ)にきさ しめ我(われ)ははだかにて其(その) かたわらに臥(ふ)し給ふと蚊(か) むらがりかゝりて呉猛(ごもう)を さしくろふ幼稚(おさなき)の人の其(その) 苦痛(くつう)何(なに)にたとへん物(もの)も なしされども呉猛(こもう)は是(これ) 【右頁下段】 放蕩(はうとう)にて身(み)を立(たつ)る 事(こと)あたはざるの輩(ともがら) 世(よ)にまゝある事に候 是(これ)多(おほ)くは親(おや)たる者(もの) の撫育(そだて)あしきゆへ なりとなげかれし 【左頁下段】 或(ある)翁(おきな)の候が尤(もつとも)なる 事(こと)と存(そんじ)候 其(その)訳(わけ)は すべて親(おや)たる者(もの)は 我(わが)小児(こ)の愛(あい)におほ れて美食(ひしよく)をなさしめ 又(また)は三度(さんど)の食事(しよくじ)の 【右頁上段】 をこらへしのび居(ゐ)て身(み)を 動(うごか)さば父(ちゝ)の方(かた)へ行(ゆか)ん事(こと)を おそれられしとかや幼年(ようねん) の身(み)として古今(ここん)稀(まれ)なる 孝心(かうしん)天(てん)に通(うつ)じ今(いま)に善行(せんこう) 世(よ)に知(し)る所(ところ)なり 【左頁上段】 夏夜(なつのよ)《振り仮名:無_二帷帳_一|いちやうなし》 蚊多(かおゝけれと)《振り仮名:不_二敢揮_一|あへてふるはす》 《振り仮名:恣_レ渠|かれほしひまゝ》膏血飽(かうけつあくまです) 《振り仮名:免_レ使_レ入_二親闈_一|しんゐにいらしむることをまぬかる》 【右頁下段】 外(ほか)に菓子(くはし)木(こ)の実(み)の るいをあたへて脾(ひ) 肝(かん)の臓(ぞう)をやましめ又(また) 小児(せうに)のよろこぶをよし として麁服(そふく)をかへて 和(やわ)らかなる美服(びふく)を 【左頁下段】 あたふるよりして 身体(からだ)おのづからゆる み怠(おこた)りて様々(さま〴〵)の病(やまひ) を生(しやう)じ十に七八は 成人(せいじん)する事(こと)あたは さるを見 来(きた)り候よし 【右頁上段】 世(よ)の子(こ)たる人(ひと)此(この)呉猛(ごもう)の孝(かう) 心(しん)をよみて感涙(かんるい)し我身(わがみ)を 恥(はづ)べき事(こと)也 殊(こと)におの〳〵 方(かた)は父母(ちゝはゝ)先祖(せんぞ)の御蔭(おかげ)にて 蚊帳(かや)もあり火燵(こたつ)もあり 是(これ)のみにても親(おや)の御恩(ごをん) を有難(ありがた)くおもひ奉(たてまつ)るべき 事也 其上(そのうへ)父母(ふぼ)は子(こ)たる物(もの) を風寒暑湿(ふうかんしよしつ)にあてまじ 蚤蚊(のみか)にも喰(くは)せまじと我 身(み)をすてゝ子(こ)の息才(そくさい)無(ぶ) 事(じ)なるをのみ願(ねが)ひ給ふが 親(おや)の常(つね)也 呉猛(ごもう)がごとき 孝心(かうしん)は所詮(しよせん)およばずとも 【左頁上段】 せめては親(をや)の御志(おんこゝろざ)しに順(したか) ひ不養生(ふようじやう)なく息才(そくさい)にて 父母(ふぼ)の仰(おゝせ)にもとらずんば 少(すこ)しは御恩(ごをん)を知(し)るのはし ともいふべきか 〽子(こ)をおもふ親(をや)ほど    親(おや)をおもひなば   世(よ)にありがたき    人といはれん 〽父母(ちゝはゝ)によく事(つか)ふ    ればあめつちの   神(かみ)もめくみは    ふかきとぞし          る 【右頁下段】 又(また)稀(まれ)に成人(せいじん)をなす 小児(せうに)ありとも幼年(ようねん) より美食(びしよく)美服(ひふく)に そだてなれ来(きた)りし 癖(くせ)がつきて成人(せいじん)の 後(のち)は猶(なを)以(もつ)て美食(びしよく)美(び) 【左頁下段】 服(ふく)を好(この)みおのづから 驕者(おごりもの)栄曜者(ゑようもの)となり て身(み)を滅(めつ)し家(いゑ)を うしなふ輩(ともがら)すくな からず候 是(これ)みな親(おや)の 愛(あい)におぼれし撫育(ぶいく)の 【両頁上段 絵のみ】 【右頁下段】 あしきあやまりにて 何(なに)も知(し)らぬ幼稚(ようち)の者(もの) に美食(びしよく)美服(びふく)の毒(どく) をあたへて病(やまひ)を起(おこ)し 短命(たんめい)ならしむるは 愛(あい)して実(じつ)に愛(あい)せざ 【左頁下段】 るの不慈悲(ふじひ)のいたり にてかなしき事(こと)に あらずや又(また)無事(ぶじ)に 成人(せいじん)をいたせし所(ところ)が 前(まへ)にも申 如(ごと)く栄耀(ゑいよう)に 育(そだち)し癖(くせ)が常(つね)と成(なり)て 【右頁上段】 【四角く囲って】   孟母 孟(もう)母は至(いたつ)て賢女(けんじよ)なり 母(はゝ)はじめ住(すみ)給ふ家(いゑ)墓(はか)に ちかき故(ゆへ)孟子(もうし)幼年(ようねん)の 時(とき)なりければ葬(はうむ)るわざを してたはむれ給ふ母(はゝ)是(これ) を見て我子(わがこ)をおく所(ところ)にあ らずとて家(いゑ)をかへて此度(このたび)は 市場(いちば)の辺(へん)に舎(いゑゐ)したまふ 孟子(もうし)又(また)たはむれに商人(あきんど)の まねをし給ふ母(はゝ)是(これ)をみて こゝも我子(わがこ)をおく所(ところ)に あらずとて此度(このたび)は学問所(がくもんじよ) のかたはらに舎(いゑ)をうつし 【左頁上段】 かへ給ひしかば孟子(もうし)また たはむれに揖譲(いつじやう)進退(しんたい)し 他(た)を敬(うやま)ひ己(おのれ)を卑下(ひげ)し 礼義(れいぎ)を正(ただ)しくする事(こと)を まねび給ふ母(はゝ)よろこびて こゝにて我子(わがこ)をおくべき 所(ところ)也とて住所(ぢうしよ)を定(さだめ)給ふ 孟子(もうし)あるとき隣(となり)の家(いゑ)に 猪(いのこ)を殺(ころ)すを見て是(これ)は何(なに)に すると母(はゝ)に尋(たづ)ね給ふ母(はゝ) たはむれに汝(なんぢ)に食(しよく)せし めんがため也と答(こた)へ給ひしが 跡(あと)にて思(おも)ひ給ふはたはむれ にも我子(わがこ)をあざむくは 【右頁下段】 我(われ)知(し)らず驕(おごり)り至(いた)り 身(み)を損(そん)じ終(つい)に困窮(こんきう) にいたらしむるも実(じつ)は 親(おや)の真実(しんじつ)子(こ)を愛(あい)する の道(みち)を知(し)らざるの過(あやまち) なれば誠(まこと)に子(こ)を愛(あい) 【左頁下段】 するの心(こゝろ)切(せつ)ならば幼年(ようねん) の時(とき)よりかりにも美(び) 食(しよく)美服(びふく)其外(そのほか)おごり かましき事(こと)にふれ馴(なれ) させず随分(ずいぶん)質素(しつそ)に そだて質素(しつそ)なる事(こと)を 【右頁上段】 是(これ)いつはりをおしゆる也と 悔(くや)み給ひてすくさま猪(いのこ)の 肉(にく)を買(かい)求(もと)めて食(しよく)なさし め前(さき)の事(こと)いつはりならざる 事(こと)をしめし給ふ 孟子(もうし)学校(がくかう)に入(い)りて勤学(きんがく) のいとまに母(はは)にまみへんこ とをおもひて帰(かへ)りたまひ しかば母(はゝ)孟子(もうし)に学問(がくもん)は 長(ちやう)じたるやと尋(たづ)ね給ふ 孟子(もうじ)前(さき)の如(こと)く也と答(こた)ふ 母(はゝ)其時(そのとき)みづから織(おり)て居(ゐ)給ふ 機(はた)のきぬを刀(かたな)をもつて 断(たち)きりてなんぢがいま 【左頁上段】 学問(がくもん)長(ちやう)ぜずして母(はゝ)が 家(いゑ)に帰(かへ)るはみづからが此(この) 織物(おりもの)を仕(し)とげずして たちきるに同(おな)じといかり なして示(しめ)し給ひしかば 孟子(もうし)恐(おそ)れいりて学校(がくこう)に かへり日夜(にちや)勤学(きんがく)して大(たい) 儒(じゆ)大賢(たいけん)の徳(とく)を全(まつた)ふし 名(な)を天下(てんか)になし給ふ 世(よ)の子(こ)たる人は此(この)孟子(もうし)の 御(をん)孝心(かうしん)をまなびて親(おや)の 御(をん)おしへ御(をん)志(こゝろざ)しに順(したが)ひて 道(みち)にすゝみ身(み)を立(た)て名(な)を なすべし又(また)世(よ)の親(おや)たる人(ひと)は 【右頁下段】 見ならはせて麁食(そしよく) 麁服(そふく)にて養育(よういく)いた し候へば自然(しぜん)と身(み)は 無事(ぶじ)にて心(こゝろ)は質素(しつそ)に なれならひて成人(せいじん)の 後(のち)よく物(もの)にたえやすく 【左頁下段】 して身(み)を立(たつ)るもの也 是(これ)童(わらんべ)を養育(よういく)するの 肝要(かんよう)歟(か)と存(そんじ)候 其上(そのうへ) 毎月(まいげつ)一度(いちど)づゝは灸治(きうぢ) 不怠(おこらず)致(いた)し遣(つかは)し可申事 〇 孝経(かうきやう)小学(せうかく)四書(ししよ)五経(ごきやう) 【右頁上段】 此(この)孟母(もうぼ)の実心(じつしん)深(ふか)き御心を したひて我子(わかこ)の幼(いときな)きとき より少(すこ)しもあしき縁(ゑん)にふれ させずよき事(こと)を見聞(みきか)せ ならひ馴(なれ)さしてかりにも いつはりをかたらずおしへず 正直(しやうちき)になるやうにそだて あぐるにて実(げに)に親(おや)たるの 慈愛(じあい)なるべし 〽人(ひと)は唯(たゝ)幼(いときな)きより誠(まこと)しく   正(たゝ)しき道(みち)を見聞(みきゝす)ぞよき 〽童(わらんべ)のあしくそだつは        友(とも)だちと   たゝよる方(かた)のあしき故也 【右頁下段】 は申に不及(およばず)童(わらんべ)の常(つね)に ひとりよみて合点(がてん)致(いた)し よきおしへのかな文(ぶみ)又(また)は 忠信(ちうしん)孝子(かうし)の行状(ぎやうじやう)を 書(かきし)かな本(ほん)をあたへて 見せ置(をき)候へばおのづから 【左頁下段】 心(こゝろ)も正(たゞ)しく相(あひ)成(な)るもの に候 縁(ゑん)にふれてうつり 行(ゆく)が人(ひと)の心(こゝろ)に候へば幼稚(ようち)の 時(とき)より少(すこ)しにてもよき 事(こと)の縁(ゑん)にふれさせ可申候 あしき縁(ゑん)にふれさせず 【右頁上段】 孟子曰(もうしのいはく)《振り仮名:以_レ力|ちからをもつて》《振り仮名:服_レ 人|ひとをふくする》者(ものは) 《振り仮名:非_二心-服_一|こゝろふくするにあらす》《振り仮名:以_レ徳|とくをもつて》《振り仮名:服_レ 人|ひとをふくする》者(ものは) 中心(ちうしん)《振り仮名:説-而|よろこんで》《振り仮名:誠-服|まことにふくす》也 是(これ)は孟子(もうし)の御語(おんことば)にて 力勢(ちからいきほ)ひを以(もつ)て人(ひと)を帰服(きぶく) すれば人 其勢(そのいきほ)ひにおそ れしたがふといへども実(じつ) 心(しん)よりきふくするにあら ず又(また)心徳(しんとく)をもつてすれば 人(ひと)真実(しんじつ)にありがたく思(おも)ひ て心(こゝろ)よりきぶくする也と のたまへり 世(よ)の主(あるじ)たる人 親(おや)たる人 我(わか) 【左頁上段】 家来(けらい)や我子(わかこ)を帰(き)ぶくいた させんとおもひたまはゞ 先(まづ)我身(わがみ)持(もち)をよくし真実(しんじつ) に家来(けらい)するや子(こ)をば愛(あい)し いつくしみよき道(みち)に至(いた)らしめ むとおもひ給ふこゝろつよ ければをのづから其(その)実心(じつしん)に 帰服(きふく)し主人(しゆじん)親(おや)を大切(たいせつ)大(だい) 事(じ)に敬(うやま)ひいたすものなり 又(また)勢(いきほ)ひ威光(ゐくはう)のみにてきび 敷(しく)するときはこわがりおそ るといへども内心(ないしん)はきふく せずしてうらむる物なれば 唯々(ただ〳〵)徳(とく)を以(もつ)てすへき事(こと)也 【右頁下段】 あしきたはむれあしき友(とも) あしき本(ほん)抔(など)はかりにもかたく 見せ申まじく候事 〇 幼稚(ようち)の者(もの)を養育(そだつ)るは 威厳(きびしく)するがよろ敷(しき)と申 人の候これも一理(いり)ある尤(もつとも)の 【左頁下段】 事(こと)に候へ共(ども)やはり温和(やはらか)に そだつる方(かた)にしくはなしと 存候 其故(そのゆへ)は童(わらんべ)は知(ち)にくらき ものに候へば親(おや)たる人(ひと)あまり 厳(きびし)ければ恐(おそ)れ親(した)しまず してよしあし共(とも)にかくし 【右頁上段】 殊(こと)に幼稚(ようち)のものを おしへるには厳敷(きびしく)して おそれこわからさぬやう にし何事(なにごと)もよく〳〵合点(がてん) の行(ゆく)やうにやはらかに申 聞(きか)せ 真実心(しんじつしん)からきぶくいたさせ 申べき事(こと)なりおさなき ものゝ目(め)にもよしあしは よくわかる物に候へはかり にも無理(むり)おしはならぬもの に候へば何(なに)を申 付(つけ)何(なに)をおし ゆるにも道理(どうり)を以(もつ)てよく のみこみ候やうに導(みちび)き候 事(こと) 幼(おさな)き者(もの)を教(おしゆ)るの肝要(かんよう)也 【右頁下段】 つゝみて唯(たゞ)こはがるのみにて 心服(しんふく)をせぬ者に候へばなに 事(ごと)も兎角(とかく)やはらかに申 聞(きか) せよく呑込(のみこみ)心服(しんふく)いたし候 様(やう)に 随分(ずいぶん)温和(おんくは)にそだて上(あ)げ 申候が宜敷(よろしき)かと存候 譬(たと)へば 【左頁】 悪敷(あしき)事(こと)ある節(せつ)につよく 折檻(せつかん)を用(もち)ゆる方(かた)よりは よき事ある節(せつ)に随(ずい)ぶん ほめて遣(つか)はし候へば幼稚心(おさなごゝろ)に よろこびて又(また)此後(こののち)もほめら れん事をねがひて自(おのづか)ら 【右頁上】 【四角い囲みの中に】    陸績 陸績(りくせき)は年(とし)六 才(さい)の時(とき)遠(ゑん) 述(じゆつ)といふ人(ひと)の所(ところ)行(ゆき)けるに 袁述(ゑんじゆつ)菓子(くはし)に橘(たちはな)を出(いた)せり 陸績(りうせき)是(これ)を三つ取(とり)て袖(そで)に いれられしが帰(かへ)りさまに 袁述(ゑんじゆつ)といとまごひする とてたもとよりおとし ければ袁述 是(これ)を見て おさなき人に似(に)あはぬ ことなりと申されければ 陸績(りくせき)こたへて此(この)橘(たちばな)あまり 見事に候へば我(わが)食(しよく)せん よりは母(はゝ)にあたへん事(こと)を 【左頁上】 おもひてなりと申され けるに袁述(ゑんじゆつ)是(これ)を聞(きゝ)て 感心(かんしん)し年(とし)いまだ六 才(さい)に してかゝる孝心(かうしん)の人を知(し) らず古今(ここん)にまれなる孝(かう) 子(し)かなとほめられけるこれ よりして孝(かう)の名(な)世上(よのなか)に あらはれ万民(ばんみん)かんじけると也 孝悌(かうてい)皆(みな)天性(てんせい) 人間(にんげん)六歳児(ろくさいのじ) 袖中(しうちう)《振り仮名:懐_二緑橘|りよくきつをふところに》【一点脱】 《振り仮名:遺_レ母|はゝにのこして》《振り仮名:報_レ含_レ飴|たいをふくむことをほうず》 世(よ)の子たる人 此(この)陸績(りくせき)の 【右頁下】 よき事(こと)はげみよき事を せんと思(おも)ふ心(こころ)から自然(しぜん)とよき こと好(ずき)になり終(つい)には善(ぜん) に至(いた)る物(もの)なり又(また)あしき事 ある時(とき)にのみ折檻(せつかん)を強(つよ) く用(もち)ゆれば幼稚(おさな)心(ごころ)に 【左頁下】 心服(しんふく)はせずたゞ折檻(せつかん)のみ を恐(おそ)れて又(また)あしき事(こと)ある 節(せつ)は其(その)悪敷(あしき)をふかくかくし て知(し)らさぬやうになり行(ゆく) 物(もの)なりあしきをかく包(つゝみ) 習(なら)ふは是(これ)大悪(だいあく)に至(いた)るの 【右頁上】 六 才(さい)にして我(われ)橘(たちは)を食(しよく) せんよりは母(はゝ)にすゝめんと の孝心(かうしん)をきゝて恥(はづ)べき 事(こと)なり子(こ)たる人(ひと)は此(この) 孝心(こうしん)をまなびて他(た)に出(いづ)る 事(こと)あらば相応(さうおう)の手土産(てみやけ) の品(しな)にてもとゝのへ帰(かへ)りて 親(おや)にすゝむべし手 土産(みやげ)は わづかなれど親(いや)の心(こゝろ)を よろこばしむるは大(おゝ)いなる 我身(わがみ)の徳(とく)にあらずや幼(おさな) き人といへども此道理(このとうり)を よく呑込(のみこみ)て外(ほか)より帰(かへ)る ときにはなににても 【左頁上】 土産(みやけ)を持(もち)て帰(かへ)り父母(ふぼ)に 進(しん)ずべし幼年(ようねん)より かよふの仕(し)くせになれな らひぬればおのづから 何国(いづく)へまいりても親(おや)の 事(こと)をわすれぬものにて 自然(しぜん)と孝心(かうしん)ふかくなる ものに候とかくよき事は 仕(し)づけくせ付(つけ)度(たき)物(もの)にて 実心(じつしん)よりは出(いて)ずとも陸(りく) 績(せき)がせめてまねを仕(し)習(なら) ひて外(ほか)に行(ゆか)ば帰(かへ)りには何(なに) なるともとゝのひ父母(ふぼ)に すゝむべしよき事(こと)はまねに 【右頁下】 基(もと)にて終(つい)にいつはり もの悪人(あくにん)とも成(なる)物(もの)なれば 兎角(とかく)真実心(しんじつしん)より合点(がてん) させずして恐(おそ)れこはがらす のみにてはよからぬ事(こと)と存候 随分(ずいぶん)温和(おんくは)に申 聞(きか)せ教(おし)へ 【左頁下】 そだつるが宜敷(よろしき)かと存候 乍去(さりながら) 左(さ)に記(しる)し候 分(ぶん)はゆるかせ和(やは) らかにせず厳敷(きびしく)相(あひ)いまし め堅(かた)く守(まも)らせ可申候 一うそいつはりをいひ父母(ふぼ)に 物(もの)をかくす事(こと) 【右頁上】 なるゝ時(とき)はすぐに本真(ほんま)事(ごと)と なるもの也 又(また)あしき事(こと)は まねにもせまじき物(もの)也  まねをせよ主人(しゆじん)へ    忠義(ちうぎ)親(おや)へ孝(かう)   ひたものすれば本真(ほんま)       とそなる いつくしみまたは     うやまひいろ〳〵と  親(おや)にはつくせ人(ひと)の         子(こ)のみち 【左頁上】 【四角い囲みのな中に】   文伯母 公父(こうほ)文伯(ぶんはく)の母(はゝ)は賢女(けんじよ)なり 其子(そのこ)文伯(ぶんはく)の常(つね)に朋友(ほうゆう)と 堂(だう)にのぼるをひそかに 見られけるに其友(そのとも)とする 人々(ひと〴〵)みな文伯(ぶんはく)をうやまひ かしづきてあるひは文伯(ぶんはく)が 太刀(たち)をもち或(あるひ)は沓(くつ)をな をしなどしけるを母(はゝ)見 給ひて文伯(ぶんはく)をよびて しかつていはく我(われ)聞(きく)古人(こしん)の 明君(めいくん)は国土(こくど)の人民(にんみん)我臣(わかしん) 下(か)なれども朕(われ)に順(したが)ふ 人(ひと)は善(ぜん)なしとて別(べつ)に 【右頁下】 一 父母(ふぼ)の仰(おゝ)せある時(とき)に不返事(ふへんじ) いたし言(ことば)を返(かへ)しもとる事 一 祖父(ぢい)祖母(ばゞ)は申に不及(およはず)年長(としだけ)し 人(ひと)をかろしめあなどる事 一 気随(きず)ひ気侭(きまゝ)をなし假初(かりそめ)に も短気(たんき)かんしやくを出(いだ)す事 一 我(わが)分限(ぶんげん)に不相応(ふさうおう)のよい物(もの)を このみほしがる事 【左頁下】 一 召使(めしつか)ふ者(もの)になさけなく 無理(むり)わやくをいふ事 一むしけらを無益(むやく)にころし けんくは口論(こうろん)を好(この)む事 一 何(なに)によらず己(おのれ)が我意(がい)を立(たて)ん とする事 一 人(ひと)をあなどり我(われ)をかしこしとし 物(もの)に自慢(じまん)する事 【右頁上】 賢者(けんしや)をもとめて師(し)と うやまひあがめたまひて 少(すこ)しも臣下(しんか)のごとくはあし らいたまはざりしとこそ 今(いま)汝(なんぢ)が友(とも)とする人(ひと)はみな 汝(なんぢ)をうやまひしたがふ人(ひと) なりかゝる輩(ともがら)と交(まじは)らば 何(なに)もかも我(われ)まさりたり とおもひよろづにわれを 足(た)れりと心得(こゝろゑ)て日々(ひゞ)に 我慢(がまん)つのりて徳(とく)をうし なふべしといましめ給ひし かば文伯(ぶんはく)げにもと心付(こゝろつき)て これより我(われ)にまされる 【左頁上】 人(ひと)を友(とも)として交(まじは)りければ 其(その)徳(とく)の正(たゞ)しく終(つい)にほまれ を世(よ)にあらはしけるとなん 世(よ)の親(おや)たる人(ひと)は此(この)文伯(ぶんはく)が母(はゝ) のごとく善友(ぜんやう)をゑらびて 子(こ)の友(とも)となすべしまた 子(こ)たる者(もの)は文伯(ぶんはく)が母(はゝ)の教(をしへ)に したがふ事(こと)のすみやかなる にならひてあしき友(とも)を さりよき友(とも)に随(したが)ひて身(み)を おさめ孝(かう)を立(たつ)べし 《振り仮名:無_レ友_二不_レ如_レ已者|おのれにしかざるものをともとする事なかれ》【一点脱】 過則(あやまつては)《振り仮名:勿_レ憚_レ改|あらたむることなかれ》 【右頁下】 一 男女(なんによ)の行儀(ぎやうぎ)をしらず大口(おゝぐち)をいふ事 一 家職(かしよく)をおしゆるに性根(しやうね)を 入(い)れず心(こゝろ)をうすく用(もちゆ)る事 一 手習(てならひ)読物(よみもの)算術(さんじゆつ)の稽古(けいこ) に怠(おこた)り不精(ぶせい)なる事 一 火(ひ)なぶるをなし火(ひ)の元(もと) をそまつにする事 此(この)十弐(じうに)ヶ条(でう)童(わらんべ)の心得(こゝろゑ)可守(まもるべき) 【左頁下】 之(の)大事(だいじ)に候へばかたく申 付(つけ)守(まも)らせ 可申候事 右之 外(ほか)幼稚(ようち)の者(もの)を撫育(ぶいく)する の心得(こゝろゑ)あまた有(あり)といへ共(ども)愚老(ぐろう) 筆(ふで)を動(うご)かすに不調法(ぶちやうはう)なれば 其(その)大略(たいりやく)を書(しよ)して童(わらんべ)を 撫育(ぶいく)するの便(たよ)りともなれ かしと拙(つたな)きを忘(わす)れて記(しる)し侍(はべ)る 【右丁 挿絵中の文字】 史記 【左頁 右側囲みの中】 小児(せうに)の急病(きうびやう)急難(きうなん)をすくひ治(ぢ)するの秘方(ひはう)を左(さ)に 記(しる)し侍(はべ)る見る人 心易(こゝろやす)く思(おも)ひて捨(すて)給はずと用(もち)ひ給はん事(こと)を希(こいねがふ)而已(のみ) 【左頁上】 病(やまひ)犬(いぬ)に咬(かま)れたるに早速(さつそく)杏仁(きやうにん)《割書:あんず|の種也》を赤(あかう)【上部枠外に】犬 なるほど炒(いり)てよく摺(すり)つぶし疵口(きずぐち)の大小に 随(したが)ひ銭(せに)ほどにも碁子(ごいし)ほどにもして味噌(みそ) 灸(やく)如(ごと)く灸(きう)すれば杏仁(きやうにん)の中へ血(ち)を吸込(すいこむ)也 此如(このごと)く幾度(いくたび)も取(とり)かへ血(ち)も止(や)み疵(きず)口に痛(いたみ)を 覚(おぼ)ゆる時(とき)止(やめ)てよし若(もし)疵(きず)口あさく血(ち) 出(いで)ずとも毒(どく)はい杏仁(きやうにん)の中へ吸込(すいこみ)て後(のち)の う 《割書:患(うれい)なし|疵(きず)口》△《割書:是ほど|ならば》〇《割書:杏仁(きやうにん)の大サ|是程(これほど)にすべし》  《割書:其余(そのよ)は|これに|準(じゆん)ずべし》 但(たゞ)し廻(まわ)りをあつく中を少(すこ)し薄(うす)くして艾(よもぎ)を 沢山(たくさん)に置(おく)べし疵(きず)に湯水(ゆみづ)のつくことを忌(い) むるか又杏仁(きやうにん)の拵(こしらへ)やうは湯(ゆ)に浸(ひた)し皮(かわ)を 【左頁下】 丹毒(はやくさ)療治(りやうぢ)【上記の文字四角く囲む】丹毒見立并療治方 夫(それ)丹毒(はやくさ)の病症(びやうしやう)はその相(さう)顔(かほ)にあらはる最初(さいしよ)に 左右(さゆう)の耳(みゝ)及(およ)び頬(ほう)の色(いろ)赤(あか)く又 赤黒(あかくろ)く成(なる)も ありそれより咽喉(いんかう)へむけ其相(そのさう)顕(あら)はるゝなり 或(あるひ)は腹痛(ふくつう)するもあり或(あるひ)は正気(しやうき)を失(うしな)へる様(やう) なるも有(あり)腹痛(ふくつう)するは腹(はら)かたくたとへば石(いし)の ごとく又 腹(はら)やはらかにして腹(はら)に熱(ねつ)あるもあり 是(これ)は病(やまひ)の軽重(けいぢう)に寄(よ)るなり此病はにはかに 発病(ほつひやう)し甚(はなは)だ急(きう)也 尤(もつとも)余病(よびやう)に異(こと)にして 耳(みゝ)及(およ)び頬(ほう)の色(いろ)を見るを丹毒(はやくさ)第(だい)一の見立(みたて)と する也よく〳〵心(こゝろ)を付(つく)べし右の相(さう)顕(あらは)れ丹毒(はやくさ) 【右頁上】 さりうちの肉(にく)を剉(きざみ)て炒(い)るべし 〇 疵(きず)口に風(かせ)のあたるを大いにいむべし 〇 韮(にら)を搗(つき)しぼり汁(しる)をとり一はいづゝ 七日め〳〵に飲(のみ)七々四十九日 迄(まで)に七 盃(はい)を 呑(のむ)ときは毒(どく)うちへ入(い)る事なし 〇 又(また)升麻(しやうま)葛根湯(かつこんとう)を飲(のむ)はなをよし 〇 犬(いぬ)に咬(かま)れし跡(あと)禁忌(とくいみ) 胡(こま) 麻仁(あさのみ) あづき あぶらけ類(るい) 里(さと)いも さうめん ねぎのびる あさつき わけぎ ちもと かりひる 生魚(なまうを) 川魚(かわうを)此 外(ほか)すべてくさき にほいあるもの 右(みぎ)は百日(ひやくにち)があいだ急度(きつと)くふべからず 酒(さけ) 是は至(いたつ)て大毒(だいどく)なり一年いむべし 犬肉(いぬのにく)是は一 代(だい)くふべからず大にいむ 〇又 犬(いぬ)にかまれたるによきくすりは 【左頁上】  大坂 堂嶋(どうじま)舟大工(ふなだいく)町 京(きやう)屋 宗吉殿(そうきちどの) と申 方(かた)に売薬(ばいやく)に致(いた)され候よし此くすり 至(いたつ)て妙薬(みやうやく)の趣(おもむき)也 予(よ)が知音(ちいん)の者(もの)先年(せんねん)犬に かまれ難義(なんぎ)の時(とき)に此 薬(くすり)を用(もちひ)てすぐさま 治(ぢ)し申候に付こゝに記(しる)し候なり 【罫線あり】 鼠(ねづみ)の咬(かまれ)たるに 猫(ねこ)のよたれ又(また)糞(ふん)を【枠外上部に】鼠 ぬり付(つけ)てよし 〇又かまきり虫(むし)のかげぼしを飯(めし)つぶ にてねり付けてよし 〇 又(また)鮒(ふな)の生(なま)なる肉(にく)をすり付てよし 〇 又(また)梅(むめ)のたねを酢(す)にてすり付(つけ)てよし △鼠(ねづみ)の小便(せうべん)目(め)に入(いり)たるに猫(ねこ)のよだれを さし入(い)れてよし 【罫線あり】 猫(ねこ)の咬(かみ)たるに 薄(はつ)荷の汁(しる)をぬるべし【枠外上部に】猫 〇 犬(いぬ)の毛(け)をやき付(つけ)るもよし〇又犬の糞(ふん)をぬるもよし 【右頁下】 にてこれあらば左右(ささう)の腕(かひな)のうち臂(ひぢ)の折(をり)かゞみ と肩(かた)との真中(まんなか)子(こ)どもなどの力(ちから)こぶといふ所(ところ)へ とくと口(くち)をつけ強(つよ)く吸(すふ)なり是 療治(りやうぢ)の法(はう)なり 軽(かろ)きは血(ち)出(いづ)る重(おも)きは黒血(くろち)出(いづ)る二口三口ほどづゝ血(ち)出(いづ)る なり血(ち)の出(で)やむを期(ご)とす尤(もつとも)外(ほか)の病(やまひ)はしらず丹毒(はやくさ) に右の療治(りやうぢ)をなせば何(なに)ほど重(おも)き丹毒(はやくさ)にても 治(ぢ)する事 神妙(しんめう)なり十四経(じうしけい)手之(ての)太陰(たいいん)肺経之(はいけいの) 図(づ)にていふ時(とき)は雲門(うんもん)尺沢(しやくたく)のあい間(あいだ)侠白(けうはく)といふ図(づ)の 少(すこ)し内(うち)に当(あた)る也 嗚呼(あゝ)宜(むべ)なるかな此(この)術(じゆつ)の妙(めう)なる 事(こと)用(もち)ひて知(し)るべし但はやくさの時早速右の療治を  なせばぢする事うたがひなししかれともかくべつりやうじておくれに成は  すふてもち出ぬ事も有べしその時はかの所をひらばり【注①】かかみそり  にて少しはね切りすふてみるべし 【罫線あり】 五疳(ごかん)には【上記文字を四角で囲む】おゝばこの根(ね)葉(は)実(み)ともに くろやきにし味噌(みそ)に入(い)れまぜう鰻(うなぎ)のかば やきにつけて用(もち)ゆ 【罫線あり】 舌(した)胎(しと)【注②】には【上記文字を四角で囲む】昆布(こんぶ)を黒焼(くろやき)にし紅粉(べに) 【注① 平針=外科治療に用いる平たく小さい刃物。両刃で先がとがっている。】 【注② 「舌しとぎ」のこと。】 【左頁下】 ときつけぬりてよし 【罫線あり】 疱瘡(ほうさう)には【上記文字を四角で囲む】あづき 黒豆(くろまめ)ゑんどうと 甘草(かんざう)少し加(くは)へ水(みづ)にて煮(に)て毎日■【「かん」ヵ】心に 此 汁(しる)をのみ豆(まめ)をくふ時(とき)は妙(みやう)にほうさうかろし ほうさうはやる時(とき)に呑(のみ)おくべし至(いたつ)てかろし 【罫線あり】 夜(よ)なきするに【上記文字を四角で囲む】灯心草(とうしんさう)もぐさをやきて 灰(はい)をとり乳(ち)の上(うへ)に付(つけ)てのましむ 【罫線あり】 虫歯(むしば)には【上記文字を四角で囲む】昆布(こんぶ)とこんこんぶの塩(しほ)と烏賊(いか) の甲(かう)此 三品(みしな)を等分(とうぶん)に黒(くろ)やきにいたし 付(つく)べし〇又しやうちうにて口(くち)すゝぎふくむ もよし〇又 芹(せり)のしぼり汁(しる)を少し 耳(みゝ)へ入(い)れてよし 【罫線あり】 聤耳(みゝだれ)には【上記文字を四角で囲む】大根(だいこん)のしぼり汁(しる)をこより のさきにつけて入れてよし〇又 熊(くま)のゐを ときて入れてよし〇又せみのぬけからを 【右丁 上段】 銭(ぜに)咽(のど)につまりたるに ふのりをときて のみてよし ○又 油(あぶら)と酢(す)を呑(のむ)もよし是(これ)は胸(むね)わるき ゆへにつきかへすなり 【罫線あり】 諸(いろ〳〵の)魚(うを)の(に)毒解(あたりたる)には ふくべのたねを 【頭部欄外に】魚 干粉(ほしこ)にしてのむべし ○くちなしの実(み)をせんじのむべし 【罫線あり】 酒(さけ)にあたりたるには くずの花(はな)かなすびの 【頭部欄外に】酒 花(はな)かゆうがほの花(はな)かいづれにても干粉(ほしこ)にして 用(もち)ゆ○又 葛根(かつこん)もよし 【罫線あり】 菌(きのこ)の類(るい)にあたりたるには 桜木(さくらき)の皮(かわ)か 【頭部欄外に】菌 実(み)をせんじ用(もち)ゆ △松(まつ)たけにあたりたるに鰑(するめ)をせんじ用(もち)ゆ 【罫線あり】 そばにあたりたるに あらめをせんじ 【頭部欄外に】そば 用(もち)ゆ○又かりやすをせんじ用(もちゆ)るもよし 【左丁 上段】 餅(もち)の咽(のど)につまりたるに 一番酢(いちばんす)を呑(のむ)べし 【頭部欄外に】もち 【罫線あり】 湯火傷(やけと)には 胡瓜(きうり)の絞(しぼ)り汁(しる)をつくべし 【頭部欄外に】やけと ○馬(むま)のあぶらをつけてよし ○にわとりのたまごをつけてよし ○さとうを水にときてつけてよし 【罫線あり】 簽(そげ)【注】刺(たち)たるに かまきり虫(むし)のはらわたを 【頭部欄外に】そげ すり付てよし○又きうりの皮(かわ)をつけてよし ○又 蝿(はい)をつきたゞらかしつけてよし 【罫線あり】 うるしまけには 杉菜(すぎな)のしぼり汁(しる)を 【頭部欄外に】うるし つくべし○又はすの葉(は)をせんじあらふ ○大むぎを粉(こ)にし水(みづ)にてぬりてよし ○又かつをぶしをせんじ用(もち)ゆ 【罫線あり】 のどに骨(ほね)たちたるに 人(ひと)の爪(つめ)をせんじ用(もち)ゆ 【頭部欄外に】のど ○南天(なんてん)の葉(は)をせんじ用(もち)ゆ 【注 字面からこの字と思われるが「そげ」という義は無し。】 【右丁 下段】 粉(こ)にしごまの油(あぶら)にてときて入れてよし 【罫線あり】 のどけれ痛(いたむ)には【上記文字を四角で囲む】梅干(むめぼし)の黒(くろ)やきを吹入(ふきいれ)てよし ○又くちなしの実(み)をせんじ用(もち)ひてよし 【罫線あり】 鼻血(はなぢ)には【上記文字を四角で囲む】山梔子(さんしし)のはを黒焼(くろやき)にして 鼻(はな)の中(なか)へ吹入(ふきい)るべし○又(また)胡椒(こしやう)の粉(こ)を 紙(かみ)につゝみて鼻(はな)のつめとするもよし 【罫線あり】 睡遺尿(ねしやうべん)には【上記文字を四角で囲む】燕(つばめ)の巣(す)の中(なか)のくさを やきて粉(こ)にし水(みづ)にてのますべし ○あづきの葉(は)のしぼり汁(しる)をあたゝめのむべし 【罫線あり】 白禿(しらくも)には【上記文字を四角で囲む】鶏(とり)の卵(たまご)を蔴(ごま)あぶらにて 合(あわ)せ付てよし○蕪(かぶら)のくろやきをごまの あぶらにて付てよし 【左丁 下段】 狐臭(わきが)には【上記文字を四角で囲む】墨(すみ)をすりてわきのしたに ぬりて見るべし穴(あな)ある所(ところ)はかわかぬなり 其(その)かわかぬ所(ところ)へやいとすべし ○又 田(た)にしの殻(から)を粉(こ)にして付るもよし 【罫線あり】 喉痺(こうひ)には【上記文字を四角で囲む】酒(さけ)に塩(しほ)を入(い)れてくゝむ妙(みやう)也 ○又みかんの黒(くろ)やきを粉(こ)にして吹入(ふきいれ)てよし 【罫線あり】 ひゞあかぎれには【上記文字を四角で囲む】苦練(くれん)《割書:せんだん|の実》を酒(さけ)にて せんじ付(つけ)てよし 【罫線あり】 しもやけには【上記文字を四角で囲む】牡蛎(ぼれい)《割書:かき|がら》を粉(こ)にし 髪(かみ)のあぶらにてときて付(つく)べし ○里芋(さといも)土(つち)をあらはずやきて 粉(こ)にしかみのあぶらにてとき て付(つけ)てよし ○なすびの木(き)をせんじ付(つく)るもよし ゝ右丁 上段】 ○からすの黒(くろ)やきを水(みづ)にてのむ ○ゑの木(き)のみを粉(こ)にして用(もち)ゆ 【罫線あり】 蜂(はち)のさしたるには たでのしぼり汁(しる)を【頭部欄外に】はち つけてよし○塩(しほ)をぬるもよし 【罫線あり】 百虫(いろ〳〵のむし)耳(みゝ)に入(いり)たるに ごまの油(あぶら)をさすべし 【頭部欄外に】虫(いろ〳〵) ○又たでのしぼり汁(しる)を入(いれ)るもよし 【罫線あり】 百足(むかで)のさしたるには 其(その)むかでをすぐに 【頭部欄外に】むかて ころし付(つけ)る妙(みやう)也○にわとりのくそを 水にてときて付てよし 【罫線あり】 蛇(べひ)【ママ】るいに咬(かまれ)たるには山中(さんちう)などならば 【頭部欄外に】へび 急(きう)に地(ぢ)を堀(ほり)かまれたる手(て)か足(あし)を其(その) 内(うち)へ入(いれ)上(うへ)より土(つち)をかけ堅(かたく)押付(おしつけ)其上(そのうへ)より あつき小便(せうべん)をしそゝぎ疵(きず)口より毒(どく) 気(き)をもらして土(つち)をさり疵口【注】へ小便(せうべん)し 【注 字面は疵+口で一字のように見えるが該当する文字は見当たらないので、疵口として刻字する。】 【左丁 上段】 かけ後(のち)糞(ふん)をあつくぬり布(ぬの)か木綿(もめん)で くゝり宿(やど)に帰(かへ)り冷酒(ひやさけ)にて糞(ふん)をあらひ 去(さり)雄黄(おわう)乾姜(かんきやう)を等分(とうぶん)に粉(こ)にし馬歯(すべり) 莧(ひゆ)の汁(しる)に調(とゝの)へ疵(きず)口ばかりあけ四辺(まはり)へ敷(しき)其(その) 上(うへ)を布類(ぬのるい)にてくゝり置(おく)べし呑薬(のみぐすり)には 紫莧(あかひゆ)の汁(しる)をとり一弐 盃(はい)のむべし升麻(しやうま) 葛根湯(かつこんとう)をのめば猶(なを)よし○又 貝母(ばいも)を粉(こ) にし酒(さけ)にてゑふ迄(まで)呑(のむ)時(とき)しばらくして酒(さけ) 疵(きず)口より水(みづ)と成(なり)出(いづ)る水出やみて後(のち)貝母(ばいも)の 粉(こ)を付(つけ)てよし○又 蚯蚓(みゝづ)の首(くび)に白節(しらふし)ある所(ところ) 五六分 切(きり)すりたゝらかしさし口に付てよし ○又 田葉粉(たばこ)の葉(は)付てよし○又 黒豆(くろまめ)の葉(は) 塩(しほ)少(すこ)し加(くはへ)て付てよし○胡椒(こしやう)の粉(こ)酢(す)にて とき付てよし○右 見合(みあわせ)て用(もち)ゆべし ○蛇(へび)にかまれたる人 河(かは)をわたるべからず水 にて手足(てあし)あらふべからず 【右丁 下段】 听逆(しやくり)には【上記文字を四角で囲む】柿(かき)のへたをせんじ用(もち)ゆ ○とうがらしの粉(こ)をうどんの粉(こ)にて つゝみ丸(ぐわん)じのみてよし 【罫線あり】 中暑(ちうしよ)霍乱(くわくらん)の療治(りやうぢ)【上記文字を四角で囲む】 小児(せうに)の夏(なつ)に至(いた)りて俄(にはか)に目(め)をみつめ 気(き)を絶(ぜつ)し又は腹痛(ふくつう)しもだえ くるしみ又は大(おゝ)いになきさけび腹(はら) 石のごとくにこわりはるの類(るい)ありこれ 大方(おゝかた)中暑(ちうしよ)か霍乱(くわくらん)にてそりや御医(おい) 者(しや)よ薬(くすり)針(はり)よといふ間(ま)に早(はや)息(いき)を引取(ひきとり) 死(し)する小児(せうに)多(おほ)しなげかはしきの 至(いた)り也 然(しか)るに是(これ)を治(ぢ)するの術(じゆつ)は かねて常(つね)に小麦(こむき)のわらをたくわへ 置(おき)て右(みき)のやまひと見候はゝすぐに 【左丁 下段】 医師(いしや)よ薬(くすり)よといはずして小麦(こむぎ)の藁(わら)を 一寸ほどづゝにきざみ《割書:少にても麦 藁(わら)|多きがよろし》水を入て 釜(かま)にてせんじ出(だ)し其せんじ申候 湯(ゆ)を 手拭(てぬぐひ)やうのものにひたし病人(びやうにん)の腹(はら)臍(へそ)の あたりをあたゝめ遣(つか)はしせんぐり〳〵 かへてはあたゝめあたゝめては仕(し)かへ〳〵して あたゝめる時(とき)はたとひ気絶(きぜつ)したる病人(ひやうにん) にても息(いき)をかへしたすかる事 奇妙(きみやう)也 此 病難(ひやうなん)をのがるゝ事 医薬(いやく)の功(こう)よりも 此術(このじゆつ)はなはだ功(こう)ある也《割書:予(よ)》も此術(このしゆつ)をもつて 難治(なんぢ)の小児(せうに)を三人 迄(まで)すくひ候また爰(こゝ)に 記(しる)し侍(はべ)り其 外(ほか)にも此 術(じゆつ)にて功(こう)を得(え)し 事(こと)多(おほ)くある也あまり〳〵心易(こゝろやす)き術(しゆつ)故(ゆへ)に かろくあなどり給はずと此(この)病症(ひやうしやう)あらは 何角(なにか)なしにすみやかに此(この)奇方(きはう)を用(もち)ひ 給ふべし又 此(この)中暑(ちうしよ)や霍乱(くわくらん)に 【右丁】 川(かわ)へはまり水(みづ)に溺(おぼ)れ死(し)したるには口(くち)を開(ひら) かし横(よこ)に箸(はし)一 本(ほん)くはへさして口(くち)より水(みづ)を吐(はか)す べし扨(さて)きものをぬがし臍(へそ)へ灸(きう)すべし竹(たけ)の くだにて両方(りやうはう)の耳(みゝ)を吹(ふく)べし○又(また)水(みづ)を出(いだ)さ すには気丈(きじやう)なる人(ひと)をあふのきに臥(ふさ)し其上(そのう[へ])へ 溺(おぼれ)し人(ひと)をうつぶせにのせて気丈(きじやう)の人(ひと)をして そろ〳〵とうごかすれば水(みづ)出(いづ)る ○又 皀莢(きうけう)【左ルビ:かはらふじ】を粉(こ)にして綿(わた)に包(つゝみ)肛門(こうもん)の 中(なか)にいるゝ女は前陰(まへと)と肛門(こうもん)とに入るゝしばらく して水(みづ)出(いで)て活(いき)る 右溺(おぼれ)し人 気(き)のつきて後(のち)冬(ふゆ)は少(すこ)し あたゝめ酒(さけ)を呑(のま)し夏(なつ)はめしの湯(ゆ)を のますべし 【罫線あり】 此術(このしゆつ)みな〳〵小児(せうに)のみにあらず大人(たいじん)も用(もち)ひて 同(おな)じ功(こう)に候へばつねによく御 覚(おぼ)へ置(おき)被成候て 右の症(しよう)右の難(なん)候はゞすみやかに用(もち)ひ給ふへし 【同 下段】 似(に)たる丹毒(はやくさ)の症(しやう)もある物なれば小児(せうに) かやうのやまひあり候はゞ前(まへ)に出(だ)し置(をき)申候 丹毒(はやくさ)のりやうぢも用(もち)ひ給ふべし右 両(りやう) 方(はう)とも用(もち)ひ見給ふべし中暑(ちうしよ)も丹毒(はやくさ) も両方(りやうはう)共(とも)至(いたつ)て早(はや)き病(やまひ)にて医薬(いやく)を 用(もち)ゆるの間(あいた)なきことなれば此(この)病症(びやうしやう) と見るならば早速(さつそく)に手(て)の力(ちから)こぶの所(ところ)を 吸(すい)ひてみて丹毒(はやくさ)のりやう治(ぢ)し すぐに小麦(こむき)わらをせんじて腹(はら)を あたゝめ両術(りやうじゆつ)ともに用(もち)ひ給ふべし ○小児(せうに)夏中(なつぢう)小麦藁(こむぎわら)のせんじ 汁(しる)にて常(つね)に行水(ぎやうずい)をいたさせ 臍(へそ)をあたゝめつかはし候へば 中暑(ちうしよ)霍乱(くわくらん)入(い)り申さず候あいだ 夏中(なつぢう)日々(にち〳〵)右 麦(むき)わらにて行水(きやうすい) 致(いた)させ申へき事(こと)なり 【左丁】 ○韋賢(いけん)が伝(でん)に云 子(こ)に黄金(わうごん)満籯(まんゑい)を遺(のこ)さんよりは一 経(きやう)を 教(おし)へんにはしかじと又 景行録(けいかうろく)にも曰(いはく)世(よ)に百歳(ひやくさい)の人(ひと) なし枉(まげ)て千 年(ねん)のはかり事(こと)をなす児孫(じそん)はおのつ から児孫(じそん)の福(さいわい)有(あり)児孫(じそん)を把(とり)て馬牛(ばぎう)となす事なかれ と《割書:云| 々》誠(まこと)に人の一 生(しやう)はわづかにみじかき間(あいた)なるに 猥(みだり)に金銀(きんぎん)銭(ぜに)米(こめ)をあるがうへにも積(つみ)たくはへ千万年(せんまんねん) もつゞいて豊(ゆたか)なるやうとて子孫(しそん)にゆづりあたふれ ども貧福(ひんふく)はおの〳〵天性(てんせい)の定(さだ)まりありて親(おや)富(とめ)る とて子(こ)もまた富(とめ)るものにはあらず其上(そのうへ)富(とみ)をすれば 仁(じん)ならずとも侍(はべ)るが如(ごと)く彼(かの)そくばくの財宝(ざいほう)を積(つみ) 【右丁】 蓄(たくはゆ)る事(こと)は大やう道(みち)に背(そむ)かではあたはざる事(こと)に なむ侍(はべ)れば其(その)散失(ちりうす)るに間(ま)のなき事(こと)はなを 浮(うか)へる雲(くも)のごとくにして頼(たの)みおもふべき事にはあらず 然(しか)れば唯(たゞ)子孫(しそん)をして速(すみやか)に師(し)に付(つけ)て聖人(せいじん)の教(おしへ)を学(まな)ば しめ己(おのれ)を脩(をさ)め人(ひと)を治(をさ)むるの道(みち)を知(し)らしめたき事にや 苟(いやしく)も人として此(この)有(ある)を知(しり)て楽(たの)しむ時(とき)はたとひ其(その)天命(てんめい) 不幸(ふかう)にして身(み)の便(たより)あしく成(なり)ぬ共(とも)彼(かの)あかず貪(むさぼ)る人(ひと)の家(いゑ)に 千金(せんきん)を積(つみ)かさねたらんよりは其心(そのこゝろ)清(きよ)く一 簞(たん)の食(しひ)しばらく宜敷(よろしく) とも彼(かの)あさましき人の大牢(たいらう)の美味(びみ)に日々(にち〳〵)に万銭(はんせん)を費(ついや) すよりは其(その)たのしみはるかにまさりぬべき歟(か) 【左丁】 ○つら〳〵世(よ)の人(ひと)の心(こゝろ)推(をし)はかるに大(おゝ)よそ人の人たる所以(ゆゑん)の道(みち) を学(まな)ぶべき事(こと)とは誰々(たれ〳〵)も志(こゝろざし)なきにしはあらねど我(われ)人(ひと)共(とも)に 世(よ)をわたるわさに暇(いとま)なくとかくと黙止(もだし)居(ゐ)るうちに春秋(はるあき)を経(へ)て 年(とし)老行(おいゆき)てをのづから本意(ほんい)を遂(とげ)ずせめては我(われ)こそ斯(かく)人(ひと) なみ〳〵ならざらめ其子(そのこ)は又(また)人にも人と呼(よば)しめたた【ママ】きと思(おも) はざる親(おや)はあるべからずしかるにさ思(おも)ひながらも速(すみやか)に師(し)に付(つけ)て 教(おしへ)てんともせで徒(いたづら)にきのふと過(すぎ)けふと暮(くら)して遂(つい)に学(まな)ばす べき日なく剰(あまつさ)へ慈愛(じあひ)におぼれていとけなきよりありたき まゝに育(そだ)てなすゆへにやゝ年(とし)壮(さか)んに及(およ)ぶといへども親(おや)に 孝(かう)をすべき道(みち)をもしらねば常(つね)に不孝(ふかう)のみなるを以 我子(わがこ)ながらも歯(は)を喰(くい)しばりて憎(にく)みのゝしり他人(たにん)にも 触(ふれ)あるき果(はて)は聞(きく)もうとましき親子(おやこ)の縁(ゑん)を断(たつ)の類(たぐ[ひ])世(よ)に 【右丁】 幾等(いくら)も多(おほ)き事(こと)也 勿論(もちろん)其子(そのこ)の不孝(ふかう)なるは誠(まこと)に憎(にく)むべきの 至(いたり)なりといへども其(その)孝行(かうこう)にすべき筈(はづ)の道(みち)を学(まな)ばせ 教(をし)へざりしあやまちは是(これ)本(もと)として親(おや)にあり論語(ろんご)に教(をしへ) さる民(たみ)を以(もつて)戦(たゝか)ふ是(これ)を棄(すつ)といふとのたまひしなれば親(おや)たる 人(ひと)は先(まつ)我身(わがみ)をあつく慎(つゝ)しみ子(こ)たるものゝ幼稚(ようち)の時(とき)より学(まな)ばし 道(みち)をおしゆる事(こと)是(これ)実(じつ)に親(おや)たるの職分(しよくぶん)慈愛(じあい)なり又(また)子(こ)たる ものは父母(ふぼ)の御(おん)仰(おゝ)せにそむかす道(みち)をまなびて孝養(かうよう)をなす べしよしあし 共(とも)我親(わがおや)に目(め)をつけず譬(たと)ひ父母(ふぼ)は我(われ)に つらくし給ふ共 我(われ)は唯々(たゞ〳〵)子(こ)の道(みち)をつくし父母(ふぼ)に孝(かう)をなすが 我(わが)職分(しよくぶん)孝行(かうこう)なりと決定(けつぢやう)して少しも父母(ふぼ)の非(ひ)を見ずして つかふべき事也 然(しか)るに世間(せけん)の子(こ)たる人にまゝ己(おのれ)が不孝(ふかう)不行状(ふぎやうでう)を なして是(これ)は我(わか)幼(いとけな)き比(ころ)より父母(ふぼ)がよくおしへそだてざるの過(あやまち)也 【左丁】 抔(なと)と咎(とがめ)不 埒(らち)をのがれんと父母(ふぼ)をよからぬ事(こと)に申 抔(など)のやからは 誠(まこと)に鳥(とり)獣(けだもの)にもはるかまさりたる大悪人(だいあくにん)にて申もけがらわしく 言(こと)の葉(は)にかくるもおろか成(な)る事(こと)也 子(こ)たる者(もの)はかりにも父母(ふぼ)のよし あしに目(め)をつけず我(わが)やく前(まへ)の孝行(かうこう)をはけみつくすべししかる 時(とき)はいのらずとても神(かみ)も仏(ほとけ)も守(まも)り給ひて家(いゑ)富(とみ)栄(さかへ)子孫(しそん)又々(また〳〵) かくの如(こと)くに栄(さか)ふべし親(おや)たる人は我子(わがこ)の愛(あい)におぼれず何(なに) とぞ〳〵善道(ぜんどう)へみちびかんと幼稚(ようち)の時(とき)よりよき師(し)に順(したが)はし めよき友(とも)に交(まじは)らせよき事(こと)を見ならはせよき事(こと)を聞(きゝ)なら はせて我子(わがこ)をよき人によく身(み)を脩(をさめ)さしよく家(いゑ)を たもたせ給ふこそ先祖(せんそ)親(おや)人の大孝行(だいかうこう)にて子孫(しそん) をいつくしむの大慈悲心(だいじひしん)といふべきものなり                    脇坂義堂誌 【右丁】  享和三稔亥春   以徳舎蔵板          《割書: |同三条麩屋町東へ入》    書林       吉田屋新兵衛          《割書:同二条高倉南側》    弘所       八文字屋仙次郎          《割書:大坂心斎橋安堂寺町》             秋田屋市兵衛          《割書:同心斎橋南四丁目》             吉文字屋市左衛門 【左丁】 教訓書目《割書:此本は儒仏神を尊み上を敬ひ下をあはれみ身を|治め子孫長久のおしへを女中子達も心得やすく|さとせしもの也御求 ̄メ御覧て被下候以上》 【罫線あり】 ○養草 ○同二篇 ○教の小槌 ○福神教訓袋 ○我守り ○遊ひ哥 ○要草 ○前訓 ○安楽問弁 ○もてあそび ○我杖 ○朝倉新話 ○かねもうかるの伝受 ○安楽になる伝受 ○孝行になる伝受 ○万吉伝 ○開運出世伝受 ○福相になる伝受 ○福来る神の伝受 ○留松伝 ○売卜先生糖俵 ○同後篇 ○まのあたり ○雨(アメ)の晴 ̄レ間 ○あまやどり ○今計り ○夜話荘治 ○御代の恩 ○子守り哥 ○心得草 ○大和詩経 ○御代の恩沢 ○民の繁栄 ○盲安杖 ○孝経童子訓 ○為人抄《割書:片カナ》 ○おには外 ○廿三問答 ○大和西銘 ○むつまじ草 ○儀兵衛行状 ○松翁一人言 ○女訓姿見 ○和論語 ○大学明徳記 ○春ひより ○かゞし草 ○明徳和賛 ○ありべかゝり ○食事五思 ○五穀無尽蔵 ○目なし用心抄 ○何よりの事 【右丁】 ○心相問答《割書:義堂夜話|第一篇目》 ○五用心慎草《割書:同第|二篇目》出世鯉《割書:同第|三篇目》 【二行分墨消し】 身体柱立 ○撫育草(ソダテクサ) ○道二[翁]道話 ○同二篇 ○同三篇 ○同四篇 ○勧孝見せばや ○都鄙【左ルビ:片カナ】問答 ○斉【斎】家論 ○あつめ草 ○同二篇 ○同三篇 ○同四篇            ○同五篇 ○同六ヽ ○同七ヽ ○同八ヽ《割書:近刻》 ○同九《割書:同》 ○俗字指南車《割書:児女日用の|文字 ̄ヲ記ス》 ○同十ヽ《割書:同》 ○同十一ヽ《割書:同》 ○同十二ヽ《割書:同》 ○同十三ヽ《割書:同》 ○新実語教○同カナ付 ○同十四ヽ《割書:同》 ○同十五篇《割書:未刻》 ○理学津梁 ○眠さまし画姿 ○工夫近道 ○一休法語 ○井蛙文談 ○身体直し 【三行分墨消し】 大黒散《割書:此薬は暑気(しよき)くわくらん食傷(しよくしやう)虫のかぶり腹一通りの妙|薬にて寒気のあたりひゑ一切に妙也殊に甲子の日に|用ひおけば一代無病也ト云 一ふく料十六穴》 【左丁 上段】 りうゐん散(さん) 此薬はりうゐんたん一切しやく 気むねのいたみ手足腰身の しびれいたみに妙にして総【惣】て りうゐんたんより生る万病に きめうなり △酒の二日ゑひすべて酒どくを けす事妙也酒好の御方常に 用ひ給ふてりうゐんをひらき 治しよく気血をめぐらし長 命ならしむ△毒いみさしあいなし  大包一匁四分 半包七分 【左丁 下段】 どくいみ まつさし あい なし 【丸囲みの中】 ○小児虫気たゐどく五かん【疳】たんき きやうふう虫歯万病に妙也 ○大人 ひじんをつよくし暑気あたり  男女 くわくらん腹のいたみくだり  一切胸のいたみつかへ虫のかぶり一切   りびやう中風気絶めまい    のぼせづゝう歯のいたみ     口中一切によし      酒毒舟馬かごのゑひ       鳥獣の病に妙也 ほ           一服   毎日食事の      代 て 跡にて弐三粒    卅六   用ひくば一代脾    銅 ゐ 腎のうれゐなく第一歯をつよくし   口中の病なく長命 ̄ニ至 ̄ル也 丸 △小児常に用て無病長寿也  大人男女常に用て万病 ̄ヲ去 ̄ルコト妙也 《題:《割書:気|病》一切丸(いつさゐぐわん)》【「一切丸」の下の四行書き】 気より出 ̄ル万病を治 ̄ス事妙なり らうがゐかんしやう産労(さんろう)たん気 肝積(かんしやく) 総【惣】て異病変病ぶら〳〵病 狂気(きちがい)乱心 長病に妙なり △物覚(ものおぼへ)これをよくし気をひろくすること妙なり△子なき人常に用て能 子を生ず女消産する人常に用て安産也△男女共に目口引つり腰 ひざいたみ手足あしく物覚へなく気ぬけ言わからぬに妙也 △男女とも気のつかれ身の疲 ̄レ△らうがい△疾あせ△火動じんきよ△陰痿(ゐんい) △てんかん△気絶△りびやうおこり△中風きやうふう△のぼせ立ぐらみ△食傷 胸痛腹痛一切毒虫毒獣物におどろく人に妙也△小児虫気五かん夜なき又 卒病に妙也△毒忌(とくいみ)なし△御医師方の御くすり用ひながら此薬用給ふて少しも かまはずよろしく御座候         京二条高倉南側角 御薬料本包銀廿四匁小包三匁    本家  脇坂ほてゐ庵 大包金百疋中包弐朱一片にて御坐候    江戸は中橋南伝馬町二丁目東側 【裏表紙】