地震後(ぢしんご)野宿(のじゆく) の 圖(づ) 【天井代わりの襖に書かれた台詞】 「子ぞうにそろばん をおしへているとアノ        さわぎさ 二月天災(にかちていさい)の 後(ご) 《割書:こ|び》         《割書:もの|くた》 地震がいつて   荷賃(にちん)が一朱 《割書:火事|用心》             《割書:の|ため》 ひにちてん       《割書:だから|しかた》  たくの事       《割書:か|ねへ》 主人が         《割書:むらやの|うちへ》   野ぢん        《割書:こし|たい》       ○【半分黒塗りつぶし。同じ記号で会話の続きを示す】 【衝立代わりの襖に書かれた台詞】 ○【半分黒塗りつぶし】いやもう そろ晩(ばん)の事を おもひだしても   ぞつとする  明神【屋号の提灯】 鹿嶋 【通路部に書かれた台詞】 「ぢしんの晩(ばん) にはやねがなかつたから なんぼ天地しんどうでも 我衣手は▲          ▲露(つゆ)に             ぬれつゝには                 おそれ                   たよ〇●                   大當【屋号提灯】                     ○●「もうから                        かこいができ                           りやア                         野(の)でん                        あんばいよしさ 瓢箪屋【屋号提灯】 【画面右下仮葺きの戸板に書かれた台詞】 「それでも あめがふらな   「なにさ ひとあめ いでしあは     くるとじしんが せでたよ       おさまるといふから           ばら〳〵とむらさめ           ぐらいはしてもいゝ                  のさ          太田【をゝた】どうくわんが          そこのところをよんで                 おいた ゆるがずはぬれまじ  ものを大ぢしんの    跡(あと)より張(は)れる             のぢん               の             むら              さめ               と 【障子板内の歌詞】 〽地 しんの さわぎて いまだにど きやうがおち つかねへから一ぱい のみてへものだ ナニ かんをすることがで きねへとそのちや がまへつゝこみねへ なんだちろりも       見(み)へ ねへと ヱヽまゝよ▼▲ ▼▲ひやでやらうせ 野ぢんのちやまがは ちろりなくなり とは此事だ ろふ 要屋【屋号提灯】 【画面下半分記事】 安政二卯年十月二日夜□ ツ時(どき) 大地(だいち) 大(おほ)い□に 震(ふる)ひ山(やま)くづれ川うづみ家(いへ)を潰(つぶ)し府□□を 倒(たほ)し渚(なぎさ)こぐ舟(ふね)は波にたゞよひ道(みち) 行(ゆく)□ (ま)の   足(あし)の立所(たてど)を知(し)らずそのうへに猛火(くわじ) 八方(はつほう) より燃出(もゑいで) 怪家(けが) 人 死(し)人おびたゞしく 猶(なほ)しば〳〵  ゆりかへしの来るに 人々恐れおのゝきて    常(つね)には鎖(とざ)しにとざしする家 居(ゐ)もくらくもの 捨(すて) 置(おい)て葛籠(つゞら)を背負(せおひ) 出(だ)す五右衛門あれば    釜(かま)をかたぐる嶋屋の番頭 女房(にようぼ)が  ござは夜たか場めき下女(おさん)が手箱(てばこ)に烏(からす) なき悪(わる)いといふては 駈(かけ)いだしよいといふては   迯(にげ)はしり其処(そこ)の廣場 彼処(かしこ)の空地(くうち)へ 戸(と)を敷(しき)畳(たゝ)みを置(おき)ならべ 木(こ)の下陰(したかげ)の     花(はな)ならで星(ほし)をあるじのやどりには 茅(かや)の屋根だにあらざれば竹のはしらも   風流(いき)ならず建(たて)まはしたる場屏風には  いさゝか閨(ねや)のさまあれど箪笥(たんす)の環(くわん)の なる度(たび)にスハといひて驚(おどろ)くは彼(か)の新婚(しんこん)の   昼間(ひるま)に似(に)ず然(さ)れば常には夜更 ては蕎麦(そば)うる人の風鈴かむれゐる   犬(いぬ)の鳴音(なくね)より外(ほか)にはたえて物もなき 町家(まちや)はづれの賑(にぎは)ひて昼(ひる)より明(あか)き   挑灯(てうちん)に火の用心(ようじん)をよぶ聲(こゑ)と拍子(ひやうし) 木(ぎ)の音(おと)かしましく市(し)ちうはかへつて寂(ひつ) 莫(そり)かんと人(ひと)はありとも思へぬ有(あり)様         実(じつ)に前(せん) 代未聞にて後(のち)の        はなしの種なりかし