【表紙 題箋の文字無し】 【左丁】 《割書:地震|後世》俗語之種《割書:後編|之二》 【両丁 文字無し】 【右丁】 おのれか身を 落葉して    袖に時雨の   おもひ      かな      粟生庵 【左丁】 ある眀 友の集 りて後 殺風景の 噺に善光寺は 三國傳来の尊像 人崇めて佛都と いふか中にも 常念佛の 【右丁】 親疎廻りて六萬五千日の數を積る此春 おそろしき大災諸人命を失ふ就中 一山世尊院の本尊釋迦牟尼如来佛身 紫逢【「紫袍」の意か】にして爾も北越今町の續善光寺濱 出現にましまして殊に霊験あらたなり 前立本尊日本廻國の刻此釋尊の 御輿は渡船の邊りに至りて重く来給ふ事 只事ならすと固く御本院御内佛にま します釈尊代りて御廻國なりし とかや然るに今大災發して一山焼亡の 【左丁】 時勿躰【もったい】なくも佛尊少しくとらけ【くどらけ…くどれる(崩れる)の意。】流れり 其外秘作の佛菩薩一時の灰となり 給ふ事佛法襄ひたりといふ答て云惑ふへ からす佛力とろけ給ひ焼亡した給ふ事こそ 正法に不思議なきしるしなれいつの頃にありけるや 御江戸神田明神の神職恐多くも寺社 御奉行所に願書を奉る其子細は神前に おゐて湯の花の祈祷勤行仕度の  旨を申上るに聞召【きこしめし】をさせられて湯の花の祈 念【「湯の花」は湯の沸騰時に上がる泡。神社で巫女や神職が湯の泡を笹の葉につけて参詣人にかけ浄めたり、神託を仰いだりする。】如斯の利益ありやと【「り」は筆の勢いで巻き上がったか】御尋のありけれは 【右丁】 慎て左右を不顧別して 變りたる利生【仏・菩薩が与える利益】は 承り傳へす昔し よりして 是を執 行よし を言上す則 御許容 をそ仰出 され 【左丁】 けるとかや程経て後山王の神職是も湯の 花の願書を捧奉る時の 御奉行所 被為 聞召て時に利益の有無 御尋の ありける處に両手を胸に當慎て其利益の 廣太無邊【普通は「廣大無邊」とあるところ。広々として果てしがない】なる事をさはやかに言上す 是 御免なくして空敷下りぬといひ 傳ふ爰をもつて正法にふしきなき事社 尊ふとけれ眞實生き如来と穪すへきは 當歳より二三才の小児をいふへし 己か心の信實をうつす時は鰯の頭よりも 【右丁】 光明を放つなるへしと物知り顔の 論語しらすにしはしは憂を凌ける爰に ふしきとするは斯天変の後御本佛をはし め奉に前立本尊御印文【ごいんもん=まじない。またお守り札や護符。】堀切道の 《割書:従御本堂丑寅ニ當リ|畑之中ニ御假小屋建ル》かたはらに三月廿五日より 四月十六日まて安置奉る《割書:其畫圖ヲ不出ハ此|所ニ其印ヲ可為残》 《割書:依テ後代尚|不盡ナルヘシ》所に遠近諸國参詣の旅人引も きらす爰に群集す此道すからにさま〳〵の 見世店を仮にまうけ利潤たるも多かり けるとかや案にたかはぬ繁昌は實に難有御佛なり 【左丁】 御寶物 御類焼 本願上人様  御回向中霊寶拝見有之は悉取揃ひてそ有□【「け」か】る  理然るを大地震發するや否即時に御院内  類焼したるなれは焼亡の有無はしらすといへとも  可察旧地霊場幾莫の寶物ならん可哀可恪【つつしむ】 二王門  炎上 二王尊   高野山木喰【もくじき】上人の寄附にして其作稀也 木喰上人の書翰 【右丁】  二王尊寄附の砌妻戸の内甚玅坊へ是を添て送らるゝ此  書簡表装して什物とす是皆大火のために灰と成とかや 大黒毘沙門両天  其作はしらされとも伽羅像にして爾も古物  なり是一時の灰となる 閻魔王像  法然堂町の閻魔堂にあり○【?】世に此像を祭り正十六日老  若男女群集する事其類ひ鄙山里といへとも数多し  今此王像の妙作なる事は其類にあらす是則小野の篁  の作なりといひ傳ふ是亦可恪灰となりぬ 【左丁】 法然上人の像  同所正信坊に有り上人自作にして爰に残さる  依て此町を法然堂町といふ 笹の葉の名号  此一軸は中衆の一老堂照坊にあり親鸞上人此坊に  逗留して百日々参の満願に笹の葉の形に六字の  名号染筆し給ひて爰に残さる所の寶物也 釋迦如来  衆徒之内釈迦堂の本尊世尊院にあり 越後國の  濱邊今町の西にあたる所の海中出現の佛  尊しかも紫金【「しきん」=赤銅(しゃくどう)の異称。金を三~六パーセント含む銅合金。これに銀を一パーセント程度加えたものにもいう。わが国で古くから工芸品、銅像などに用いられた。】なり因縁によりていまもなを 【左丁 左下部】 北越今町之 街并善光寺 濱一見之畧 圖《割書:己レ十歳ナリシ夏祖|父ニ連ラレテ此濱ニ》 《割書:至リ一見シタル空覚ヲ以|爰ニ圖ヲ出スナレハ其違》 《割書:ウ事【「叓」は「事」の古字】】ヲ免シ給ヘ   善光寺濱といひ亦善光寺村ゟして善光寺へ   塩を進献する事今も猶中絶する事なしとかや 大日如来   大日堂衆徒常智院の本尊 聖徳太子四天王   太子堂衆徒福生院の本尊 曼陀羅   曼陀羅堂衆徒尊勝院の什物日本に二幅な【り】   といふ當摩の曼陀羅は蓮の糸をもつて中   将姫これを織今此曼陀羅は兆典子の真画を   以て結構するとかや 薬師如来   薬師堂衆徒最勝院の本尊播州須摩の   浦海中出現にして佛尊石像なりといへ   とも其名作世に類なし疑ふらくは日の本の   作に有へからすと云云 【右丁】 播州須磨之浦海中 ヨリ石像之薬師如 来出現之大畧圖 ○《割書:此國ニ未タ行テ見ス|唯其趣ヲ畫ニ》 《割書:出スナレハ其建|ハル㕝【「事」の古字】ヲ不可咎の 【右丁】 是等の頽ひは今思ひ出つる儘にて其事を 不詳も爰に加へて足を恪むといへとも其外 一山《割書:光明院 世尊院 寶勝院 圓乗院 常徳院 薬王院 最勝院|徳壽院 本覚院 良性院 威徳院 常住院 蓮花院 尊勝院》 《割書:教授院 吉祥院 福王院 寶林院   ○ 堂照坊 堂明坊 兄部坊|常智院 長養院 玉照院 以上廿一坊   白蓮坊 正智坊 渕之坊》  《割書:常圓坊 行蓮坊 向佛坊 鏡善坊 野村坊   ○ 玄證坊 善行坊|信行坊 浄願坊 徳行坊 随行坊 以上十五坊   壽量坊 林泉坊》 《割書:穪名坊 甚明坊 正定坊 蓮池坊|常行坊 遍照坊 以上十坊》 衆徒中衆妻戸一時に 焼亡したれは名たゝる所の霊佛重寶の 類ひ灰となる事数多なるへし可哀 歎くへし尚尋ねて四五の巻に委鋪【くわしく】 出すへし 【左丁】 左に出す図は去る天保十四辛卯孟春【陰暦一月】九日より 如月の初つ頃まて酉戌の方ゟ辰巳の方に向ひ旗 雲【細長い旗のようになびく雲】の如き氣を発すといへとも日輪の光に押へられて 其形をわかたす見る人も又稀なりきさらき 始め二日の暮頃よりして其氣を發す故に 諸人是を見て奇異の思ひをなす日々刻限 少し宛【ずつ】遅く地より一覧する所の其幅凡六尺其丈 極りなくして辰巳に向ひ行事【行く事】数十里行先 明かならす次第に薄くなりて弥生十三夜ころに 至りて自然と其形を失ふ其あり様圖の如し 【左丁】 ○弘化丁未卯月の 二十八日暁天晴渡り終日 風なし日の出ゟして日輪 紅の如くにして常より光 りも薄し斯大災 のうへなれは諸人 驚怖して禮神す 翌る日【あくるひ】に至りて亦 常の如し 【右丁】 爰に不思議とするは此信濃國の所謂山國なる事 遠く境を隔【へだて】る人なりとも是をしらさるはなし されは大地震の大災はありとも山國にして 洪水の難の斯大變なりとは惑ひうたかひのある も理なり今おもふ時は犀川筋に連なる所の 村々民百姓にありとも年経て後子々孫々の 世に至りなは昔し大地震發し此大河洪水 し其時に此邊りまて満水流失の難ありし とかや我々祖父母長命にしてその患をしられ たりなとゝいひ傳ふかのみにて尚年を累【かさね】し後に 【左丁】 至りては昔の人の言なといゝなるへし譬ひいかなる 大変なりとも幾数十丈の水の嵩りてや高き 此處において水災の患あるへしや疑はしき事に そありけるなと怪みいい言傳ふへし今丁 未三月は四日の夜亥の刻陰陽昇降の變 化をもつて即時に此大河をとめて一滴の水 を漏らさすして四月十三日午の刻を過共日を 積る事既に二十日といへとも眼たゝく【まばたきをする】間も湛る【たたえる】に ひまなし大河を爰に止むる事幾許そその 無量なる事後世猶おそる【「ろ」に見えるが「る」とあるところ】へし既に 【右丁】 二十日およひて漸々茫々たる事湖水にして 諸人眼を驚かす計りなり其広き事山中と いへとも亦たくひなくして村数殊に夥しけれは 爰に略すといへとも信濃国絵図明細村名帳を所持 してあれは是を見て其広き事を知るへし斯 水災の大難を受け家蔵満面の水に漂ひ 水屑に沉【「沈」の俗字】み耕地を押流し山抜崩れて土中 に埋み譬は念佛寺村臥雲院の如き山抜おし 出して一寺土中に埋みなから火事となり日を 追ひて掘出して見るに其侭炭灰といなり【居成り】ぬ 【左丁】 亦下祖山村白心庵の如き岩石抜崩れて地中に 埋むといへとも住僧【その寺院に居住する僧】是素より一宇【一棟の建物】何れに埋み しや其形の有處をしるす吉村の裏山抜け崩れ 泥水いつし【「いづし」=どこ。】よりか山の如く吹出し一村の民家 悉く地中に埋み二十日三十日の至程隔りて 尚追々に人民牛馬を掘出したるなととほゝこの 類ひ多しといへとも爰に省略す《割書:其詳カ成事ヲ尋|得ニ爰ニ書加フル事》 《割書:ヲ思所ニ脳【「悩」とあるところ】ミテ不任心ニ有ケル所ニ幸ヒ成ケルハ地震ノ絵|図出板アリ是ヲ調得テ一見スルニ予カ如キ無学ノ作ス所ニ》 《割書:非ス折節眼病ニ痛ク脳【「悩」とあるところ】ミテ有ケレハ此絵図ニチカラヲ得テ幸|ヒニ水災ノ図画ヲ爰ニ省略ス我劣リテ其文「昌+心」【「姦」の古字「早+心」の譌字】也ト言トモ此》 《割書:絵図計ヲ以後世ニ伝フル時ハ悲歎之情合薄キ事モアランカ因テ|絵図ト此書ト□【文意からひねりだすと「共」か】ニセハ是後代之伝ニ可成欤然ニヲキテハ爰ニ筆ヲ》 【右丁】 《割書:止テ短カク小児ノ見安キニス其詳ナル子細ヲ爰ニ加ル|時ハ文面長キニ至リテ見安カラス依テ子細ヲ次ニ譲ル也》尚後編四 五の巻に出す處を見て知るへし 爰に又川中嶋をはしめとし川辺に連らる【「な」とあるところだが、「な」と読むには無理がある。】る 所の民百姓は最寄の山〳〵に小屋かけて仮居し 今にや水の押来り我家の流失する事そと 願はぬ事を待わひつゝも日を重ねうきかんなん【憂き艱難】に 身をやつし哀み患ふる事既に二十日のけふ に至り山鳴響き渡り天地くつかへるかと恪む所に 湛場はからすも破却して洪水押出すと聞 伝ふる程もなし申の刻頃小市に押出す其有様 【左丁】 山亦山を重ねし如し只何となく真黒し水 煙りともいふへきかあたりに散り乱れて晻【あん=くらい。雲霧が立ち込める。の意】夜 の如し其強勢をこわ〳〵なから見てあるに丹波 嶋まて《割書:小市ヨリ|一里川下モ》山の如くの大浪三ツにして押行けるとかや 其程もなく北は小市村を一ト被りにして此村 の民家耕地等悉押流し久保寺村九反村 荒木村等の耕地湖水の如し其水勢荒木村 吹上の間を瀬筋に押行市村新田川合村の 作場【さくば=耕作地。田畑。】を押荒し犀川と煤花川と是皆合せて 一面の満水となり南は小松原村四ツ屋村 【右丁】 辺【邊=あたり】の堤を押破りて此二タ村流失夥敷川中嶋 一円【圓】数多の村々不残水中に浮むか如く眼たゝ く【「めたたく(眼叩く)」=まばたきをする】間に満面の嵩水湖水の如く太【大とあるところ】海に似たり 其有様を見るに諸人只ばうぜんとして驚もせ す恐れもせす夢ともなくうつゝともなく我 身を捻りて痛さを知りいまた合は有けるかと 怪まぬものなかりけるとかや家蔵の流れ行 事嵐に吹散る秋の木の葉の流るゝかことく 其数幾千万【萬】といふ事をしらす△【?】まかなくに 何を種とて浮草の浪のうね〳〵生茂る夫には 【左丁】 あらねと有とあらゆる家財の品々或は浮み或 は沈【沉】み千鳥の浪を通ふにひとしかりし爰に又 目もあてられす恐しけなるは高瀬荒浪にして 黒く濁れる水の面を親をいだき子を抱て 流れ行屋根にすがり付き呼とも【よべども】叫へとも 助け救ふ事不能【あたわず】然るか中にも流れ行  なからにして火事となり屋根の上にて 狼狽【うろたえる】出し狂気【氣】の如し歎きかなしみ経廻り〳〵 なき叫べと見渡せし漫々たる大海の如し 川風烈しくして火を防事あたはす終に【ついに】 【右丁】 犀川之水一時ニ押破リ 土砂磐石樹木民家ト 共ニ押出シ水煙リ之有様 川中嶋小松原岡田山辺【邊】ニ見ル 丹波嶋駅【驛】 【右丁】 犀川水 一時ニ押 出シ三災 之苔【苦とあるところ】難ニ 爰ニ命ヲ 失フ図【圖】 真気【氣】長画 【右丁】 はかなく成ける者其数幾多か知らねとも沖の 江の浪に魚【漁とあるところ】火を見るか如くそこかしこに 見ゆる事譬ふるにものなく是そ地水火の 三災一時の火難は譬如何なる前業【前世の業因。これによって現世の禍福が定まるとされる。】 なりともあるにもあられぬ事なりけれは 勧【観とあるところ】念せよ後世此書を見る人黄金珠玉は 只一世の財宝【寶】栄花栄耀は更非仏【佛】道 の資【たすけ】に可恐未来世の助成なる事を深く 嗜み行ふ事社【こそ】肝要なれ 【左丁】   五月十六日暁六ツ時御供揃ふ五ツ時御行列   堀切道御仮【假】小屋ヨリ万【萬】善堂御仮【假】堂へ   御引移り諸人夥鋪群集して敬拝す 《割書:御山内小屋|店行司》  海老屋庄兵衛(袴羽織着用) 《割書:同心 同心|同心 同心》  《割書:菱の紋高張上下着用御披官|  高張〃   御披官|〃  御披官》                        《割書:御披官》 【「高張」=高張持のこと。高張提灯を持ち運ぶ役の人。「披官」は「被官」とあるところ。地頭や地主に隷属する百姓。】 《割書:仲間|門》  御朱印 《割書:仲間 上下着御披官|門  〃  御披官》  上田丹下(麻上下着用) 《割書:若党|門》 《割書:鑓持|草履取》 久保田(麻上下着用)内記 《割書:若党 鑓持 色衣三ツ緒五條尊勝院 若党|若党 草履取 〃 良性院 門》   【右丁】 △ 瀉水出家(黒衣三ツ緒五條)  △ 香(上門)燻 出家  【五条=五条の袈裟のこと。五条の布を縫い合わせて作った袈裟。】 《割書: |上下着用》       《割書: |上下着用》 《割書: 侍| 侍》 御別当【當】《割書:  御近習|〃 御近習》   《割書:色衣三ツ緒五条| 》   手燭 衆倦【意味不明】 《割書:黒衣三ツ緒小五条| フク面ニテ》 △△   手燭 衆倦【意味不明】 右に同 御本仏【佛】   御宝【寶】龕【ごほうがん=宝物をいれる厨子】 天蓋【てんがい=仏像・導師・棺などにさしかけてつるす、きぬがさ】    御輿舁【みこしかつぎ】ハ一山僧衆○ 【左丁】  何れも黒衣三ツ緒小五條  輪けさ【輪袈裟=僧のつける略式の袈裟。幅六㎝くらいの綾布を輪形に作り、首から胸にかけて前にたらす。】も有之但し不残  フク面にて此御輿は今   新に山に来也 御院代  法成院   若党【黨】     《割書:色衣三ツ緒五條| 》  南勝(御手伝御下向)院  若党【黨】 《割書:日光山| 》          《割書: |黒衣小五条》 《割書:侍|侍》 御宝(前立御本尊)【寶】龕 《割書:出家|出家》   御輿舁白鳥【丁?】着用 【右丁】 御(御印文)宝【寶】龕  出家  出家 御輿舁   白鳥  出家  出家 今(麻上下)井忠兵衛  若党【黨】   弐人  鑓持   草履取 【左丁】 中野(麻上下)冶【図中の注記には「治」とある】兵衛  若党【黨】   弐人  鑓持   草履取 山際(麻上下)又兵衛  若党【黨】   弐人  鑓持   草履取 【右丁】 町年寄弐人上下着 《割書:八町|庄屋》上下 御医【醫】者共 惣供廻り  以上 【左丁】 丁未神無月十八日四ツ時御出輿 萬善堂御仮【假】屋ヨリ 如来御遷座       之図【圖】 参詣群集 右同日日の出結講【「構」とあるところ。】ニテ快晴四ツ時 頃ヨリ少々曇ルト可知○日記ヨリ出之 【右丁】 当【當】日諸方ゟ奉納物夥鋪亦参詣の諸人 群集なす事百有余歳の齢を経ぬる老人 も覚て是程の賑鋪事未た見聞する事 なしといへり斯大災の後斯なりけるは実【實】に 莫太【「大」とあるところ。】の霊場可仰尊むへし    御行列の次第遠く拝するに左之如し 先箱 高張《割書:白鳥着| 》 披官 同 同 同 上下着用 先箱 高張《割書:同   》 披官 同 同 同 同断 洒水《割書:黒衣三ツ|緒小五條》 尊勝院 手香炉《割書:黒衣三ツ|緒小五條》 感徳院 【左丁】 披官 御近習《割書:装束着用| 》 同              大佛頂院(御別当)権僧正山海 披官 御近習《割書:同断  | 》 同      《割書:紫衣五條| 》  御近習《割書:同断| 》 同《割書:同| 》          爪折傘《割書:御草履取|御杖》 僧 《割書:黒衣三ツ緒|小五條》 御近習《割書:同断| 》 同《割書:同| 》 【「爪折傘」=「つまおりがさ(端折傘)=傘の骨の端を中へ折り曲げた長柄の持傘。公家の参内をはじめ外出の際に、袋に納めて傘持ちの従者に持たせるのを例とした。】 手燭僧 《割書:黒衣三ツ緒|小五条》         但シフク面ニテ  御本佛御輿(衆徒中着衣三ツ緒小五条) 手燭僧 《割書:同断   | 》        《割書:但シ何レモフク面ニテ| 》            法成院(御院代) 天僧《割書:僧|僧》 何れも上同      色衣五條 御印文御輿            南勝院(日光山)         《割書:白鳥着用| 》 僧 赤衣五條  《割書:御輿台|同》 着用  立傘 着用 【右丁】 跡箱  侍 同 上下着用              上田丹下(麻上下着用)《割書:若党 鑓持|同  草履取》 跡箱  侍 同 同断   久保田(麻上下着用)内記 《割書:若党 鑓持|同  草履取》  今井忠兵(麻上下着用)衛《割書:上同 上同|上同 上同》  中野冶(麻上下着用)兵衛 《割書:上同 上同|上同 上同》  上下着用  十月十八日午の刻御遷座相済御法事  御開帳諸人押合へし合【おしあいへしあい】参詣する事  古今未曾有の群集なりけり 【左丁】 犀川の平水【へいすい=河川などの平常時の水かさ。】と村山村の 高低を見競図【圖】略  此図【圖】を爰に出すは去ル夏の頃此邑  なる荒神堂に参詣するに堂の裏成  少しく高き處に二丈有余の松の立木有  此先にちりあくたの夥敷かゝりてあり  けるゆゑに是を怪みて問ける處に満水  の節し【せつじ(節次)=おりおり。たびたび。】水の番に斯なりけるといふまごふ 【文字記入無し】 【右丁】  方もなき有様目を懸たし舌を巻けるか儘に  印つけて置たれは此所迄高水したる事を  後世につ伝【傳】へん事を欲する儘に爰にしるしぬ     折しも夏の事なりけれは 早乙女もみな休らふや子安堂 心して束ねよ雨の早苗とり 庵冷し苗代時【なわしろどき=苗代に水を引いて種もみを蒔くのに適した時節。】の嚢を着て      右       井蛙 【左丁】  大地震発するに此方今洪水の大難に至るまての 手続を此處迄順にせんか為に巨細の事共を省略し 亦己の身の上の事のみをしるせしに似たれ共一国【國】の 変なれは広太【「大」とあるところ。】にして眼前に其子細綴る事不能【あたわず】 因て後巻の報を左に記事す 後編三の巻には  地水火三災の町在山里村名人民牛馬死ての数  耕地荒等都ての変災諸方御領分御取調  有之し事共を巨細にしるす  諸方 御領主様方御 仁徳御救てありかたき  事ともを記事す     【右丁】 後編四の巻 雑記の部  大地震より此方洪水におよひ猶聞伝【傳】ふる  所の変災跡事【あとごと=先例】等追々に書かへて  紙数を増す 後編五の巻には  おのれ不肖たりといへとも時に当【當】りて勤役【きんやく=役を勤めること。】  してあれは御用にかゝわる所の書類  御訴御届け等の事とも又は寄持の事  ともをしるして子孫にのこす 後編六の巻には 【左丁】  善光寺御山内の故事市中の旧例  御堂御普請の巨細近隣世々の   跡事【よよのあとごと=代々しるされた先例。】を集めて写す 後編七の巻には   信濃国【國】絵【繪】図をもつて町々在々山里村  名分郷高附家数人別等を記す是大金  広【廣】太【「大」とあるところ。】にしてわか愚昧の集る處にあらすと  いへとも少しく其種をもとめてあれは集て  成就なせしめ子孫等譲る  事を欲す 【右丁】 尚残る所は地震書類入の袋 丁未より戊申至る所の記録帳 地震大絵【繪】洪水絵【繪】図   是等の品〳〵子孫に至   もてちらす事なか□【り?】し 【左丁】 こゝろあらて   何かは     折らむ  姫百合の花の    しつくに        袖ぬらし           つゝ             幸 一并題 【文字の記入は無し】 【文字の記入は無し】 【右丁】 《割書:地震|後世》俗語之種