《題:《割書:大地震|大津浪》末代噺廼種》 ■全 《題:《割書:東海道|地震津波》末代噺種》 【上段左へ】 京 此度のぢしん つなみ諸国 大ひにあれ たれども此 平安城は しづか也 皇(おゝきみ)の御 威(い) 徳(とく)を仰(あふ)ぎ 奉るべし 大津  地しん大ゆり人家少〻 傾(かたふ)き 湖水(こすい)浪あらけれともけがなし 草津  ぢしん大ゆり人家三四 けん崩れいたみ家多し 石部  地しん烈(はけ)しく人家五六 軒(けん)倒(たふ)れ損(そん)じ家多し 水口  右同断【(=右に同じ)】 人家六七けん 寺一軒倒れ死人三人けが十八人有 土山  右同断三日の夜 鈴(すゞ)か山 何となく 騷がしかりしよし 坂ノ下  地しん烈しく人家大損し土山と 同しく鈴鹿(すゝか)山前夜より物さわがしかりし由 関  右同断人家大損じ倒 るゝ家三げんけが人四人あり 【下段左へ】 亀山  御城少々損じ町屋二十軒 ばかり倒(たふ)れ出火あれども早速(さつそく)鎮(しづま)る 庄野  地しんはげしく人家三 分通りくづれ死人三人けが人多し 石やくし  同断人家大そんじ二 十けんばかり崩れけが人多し 四日市  四日五日とも ぢしんはげしく人家 五六十けん倒れ土蔵 三十餘ケ所崩る死人 凡二百人けが人数しらず 桑名  大ぢしんの後大つなみにて 浜辺(はまべ)みな〳〵流れ死人けが人おびたゝし 宮  同断人家三分通崩るぢ しん後(ご)つなみにて浜辺残らず流る 鳴海  大ゆりつなみ人家過半 つぶれ死人けが人多し 池鯉鮒【(ちりゅう)】  大ゆりにて人家こと〴〵く ゆがみつなみにて半潰れに成 岡崎  右同断 混雑(こんさつ)中つなみ にて死人多くけが人数しらず 《題:《割書:東海道|地震津波》末代噺種》 【上段左へ】 藤川  地しん後つなみにて人 家過半つぶれ死人多し 赤坂  同つなみにて七分通り ながれ死人けが人おびたゞし 御油  大ぢしんにて 人家多く崩れ死人 けが人有之其後 つなみにて過半流れ 又死人けが人おびたゞし 二川  ぢしん後つなみきたり 過半つぶれ人死多し 白須賀  同断つなみにて六分 通りつぶれる 新居  半つぶれ 海辺の大小ふね のこりなく流失 御関所つぶれる 死人多し 舞坂  ぢしん後の大つなみ にて一/駅(しゆく)のこらず流れる 浜松  地しんにて人家大半 崩れ死人多し 【下段左へ】 見附  ぢしんつなみにて過 半潰れ候へども死人至て少し 袋井  ぢしんにて人家大 半くづれ出火となり丸やけ 掛川  地しんにて人家悉く 倒れ出火となりのこらず消失 日坂  地しん強(つよ)く候へとも少〻 の破そんのみにて無難(ぶなん) 金谷  ぢしんにて人家倒れ 出火と成七八分通りやける 島田  ぢしんにて人家多崩る 其後つなみにて七八分/潰(つぶ)れる 富士川  大ぢしんにて 川上の山くづれ落て せき留し故渡し 場水なく川原(かわら)と成り 往来の人/歩行(かち)わたり 藤枝  ぢしんにて人家くづれ 出火と成半分焼失死人けか人多し 岡部  ぢしん/後(こ)つなみにて 半つぶれに相成 《題:《割書:東海道|地震津波》末代噺種》 【上段左へ】 丸【鞠】子  大ぢしん後出火と成 火を防ぐ事あたはず丸やけ 府中  地しんにて人家倒れ 江川町より出火三分通やける 江尻  同じく出火と成る丸 やけ人死けが人多くあり 沖【興】津  ぢしんの後つなみにて 過半つぶれ死人けが人多し 由井  ぢしんにて人家損じ 多けれども無難 蒲原  地震 にて人家 倒れ出火と なり焼のこる 半分ありしが 大つなみ押 来りて のこりの 人家みな 海中へ まきこむ 吉原  ぢしんの後出火となり ふせぐ事ならず丸やけ 【下段左へ】 原 沼津 三島  此三宿は 地しんは尤強けれども無難 箱根  地しん烈しく御本ぢん 三ヶ所崩る山大荒往来留る 小田原  ぢしんつよく人家少〻 崩れ損じ家少なからず 大磯 平塚 藤沢 戸塚 程ヶ谷 神奈川 川崎 品川 右七/駅(しゆく)とも少〻つゝ違(たが)ひあれ ども大底(たいてい)小田原におなじ 江戸 十一月五日 地しん御屋 敷方并に 町家多く さる若町 十丁ばかり 出火(かはじ)三 芝居とも 焼失けが人 なし 《題:《割書:大地震|大津波》末代噺種》 【上段】 土州(とさ) かんの 浦【甲浦】十三 里が間 津浪(つなみ)にて ながれる 坂井(さかい)飯郡(いくこふり)鯛(たい)の浜(はま)村より徳島(とくしま) まで二里斗二尺程づゝ地割(ちわ)れ 牛馬(うしむま)落込死(おちこみし)す〇/阿波徳島(あわとくしま) 大ゆりにて人家/倒(たふ)れ出火(しゆつくは)と成 通り町壱丁目より三丁目まで 八百(やを)屋町中町/紀伊国(きのくに)町新 町紙屋町遍【「辺」カ】うらすじ不残 牢(らう)ケ浜(はま)小路(しやうぢ)まで屋敷(やしき)数軒(すけん) 町家千二三百/軒(けん)焼失(せうしつ) 【下段】 〇/讃州高松(さぬきたかまつ)大ゆりにて人(じん) 家(か)過半(くははん)崩(くづる)〇/丸亀(まるかめ)は少しゆる やかなれども人家(じんか)損(そん)じ多し 〇/豊前(ぶぜん)小倉(こくら)大地しん五日 申(さる)の刻より猶〻/烈(はげ)しく市(し) 中(ちう)大混雑(おほこんざつ)夜中(やちう)五六度ゆり 七日/朝(あさ)又〻大ゆり人家(じんか)崩(くづ)れ 損じ夥(おびたゝ)し〇/肥前肥後筑前(ひぜんひごちくぜん) 右同断〇/豊後鶴崎(ぶんごつるざき)大ゆり 人家過半つぶれ死人かず しれず府内(ふない)人家四百けん 餘くづれ死人けが人数不知 尤/中国路(ちうこくぢ)国々(くに〴〵)地(ち)しん甚だ しく候へ共/格別(かくべつ)の事なし 依(よつ)て爰(こゝ)に略(りやく)す 《題:《割書:大地震|大津波》末代噺種》 【上段】 〇/芸州(あき)/広島(ひろしま)十一月四日辰の 刻大 地(ぢ)しん五日申の刻又 大地しん六日中/地震(ぢしん)七日又 大ゆり尤四五六日朝迄二十 五六度/其餘数取出来(そのよかずとりでき)がた く/大底(たいてい)ゆりつゞけにて家の 内に居られず皆〻/野宿(のじゆく) にて/凌(しの)ぎ申候御城の/矢倉(やぐら) 大そんじ御家中并に町家 /崩(くづ)れ/損(そん)じおびたゝし/怪我(けが) 人小〻あり/市中(しちう)并/往来(わうらい) の/橋(はし)/数(す)ケ所ゆり/落(をと)し申候 〇/東(ひがし)は/奥州(おうしう)/辺(へん)もおなじく 地しんありといへどもゆる やかにして/格別(かくべつ)の事なし 【下段】 〇/紀州(きしう) /若(わか)山地しん /烈(はげ)しく其後 大つなみにて /湊(みなと)の船川上卅 丁/餘(よ)の所迄/突上(つきあげ) /砕(くだ)ける船数多なり 〇田/辺(なべ)御城下二分通り津波 にて/流(なが)れ跡六分通り/出火(しゆつくは) /焼亡(しやうばう)〇湯浅六百軒/餘(よ)津波 にて/押(おし)ながす広浦は千/軒(げん) ばかりの/處(ところ)残り三/軒(けん)に成右 の外/日(ひ)方名高日高黒江 /下津(しもつ)江水等の浦〻津波の /為(ため)に/過(くは)半/流失(りうしつ)す 《題:大地震末代噺種》 【上のマス】 扇屋 ざしき の図 〇新町東東/扇(おうぎ)屋のざしき 崩るその近辺損じ/反(おく)し 〇あ波座戸屋町小まもの だな西角大ゆがみ夫より にし筋北倒の人家七八 けん大くづれ夫より半丁 西野角屋敷両かわ家 廿五軒大くずれ夫より にし筋北東角人家十 軒ばかり崩る 【下のマス】 〇永大浜大古蔵崩れる 〇京町堀羽子板ばし北詰 筋角浜がわ人家三げん くずれ出火と相成/即座(そくざ)に 火しづまる 【図中】 手あやまちの図 〇同両こくばし筋/籠(かご)屋 町筋南角間口十六間 ばかり崩れ手辺ちあり /早速(さつそく)火しづまる 〇同紀伊国ばし南詰西 に入所両三軒大崩れ 《題:《割書:嘉永七|寅歳中》/珍事(ちんじ)末代噺種》 【右側一段目】 大関 十一月 大坂地震津波 関脇 同   志州鳥羽津浪 小結 九月  《割書:大坂|長町》三つ子産 前頭 閏七月 信貴山寅守 前頭 十一月 阿州徳嶋出火 前頭 八月  《割書:八代目|團十郎》乗込併病死 前頭 六月  奈良大地震 前頭 六月  郡山大地震 【右側二段目】 前 十一月 紀州田辺大津波 同  六月 《割書:讃|州》金毘羅町洪水 同 十一月 岡崎矢矧橋落 同  九月 湊死去 同 十一月 平野大地震 同  七月 北ノ新地踊り 同 十一月 河内松原地しん 同  二月 《割書:八丁目|寺町》地獄戻り 同  六月 なんば砂持 同 十一月 堺津波 同  四月 《割書:大|坂》坂町いてう娘 同 十一月 岡山大荒れ 【右側三段目】 同 十一月 兵庫大地震 同 〻 高野山ぢしん 同 〻 和歌山つなみ 同 〻 備後鞆地震 同 〻 丹波ぢしん 世 〻 富士川埋る 話 〻 《割書:土|州》かしの浦津波 人 〻 《割書:豊|後》鶴崎地しん 頭 〻 紀州日高荒 頭 〻 同湯浅津波 頭 〻 《割書:南|都》灯篭倒 【中央上段から】 《割書:次第|不同》御免 行司 九月 身延山大坂通行 九月 《割書:江|戸》五尺石達磨降 八月 近国近在《割書:豊年踊|神事地単出》 勧進元 諸国大豊年 差添人 六月十一月 大坂町々御千度 【左側一段目】 大関 十一月 《割書:大|坂》大黒橋船込 関脇  四月 京大火 小結  五月 堀江孝行娘 前頭  三月 《割書:大|坂》遊行寺参詣 前頭 十一月 東海道《割書:地震|津波》 前頭  七月 上酒婆々 前頭  六月 伊賀上野地震 前頭  六月 勢州四日市地震 【左側二段目】 前  三月 越前福井大火 同  六月 山城木津大水 同 十一月 尼大地震 同  六月 九郎右衛門町上ケ物 同  四月 《割書:多見蔵|寅吉》同座 同  九月 《割書:東寺|かけ所》弁天出現 同  四月 天神小宮正遷宮 同 十一月 尾ノ道津波 同  〻  西ノ宮地震 同  四月 なんち尼出 同  五月 ちよい出し豆屋 同 十一月 播州《割書:ぢしんにて|泥吹出る》 【左側三段目】 同 十一月 江州彦根地震 同 〻 阿波鳴門ぢしん 同 〻 摂州清水ぶたい落 同 〻 《割書:大|坂》津浪落橋十 同 〻 奥州ぢしん 世 〻 讃州高松地しん 話 〻 淡州福良津波 人 〻 芸州広島地しん 頭  七月大 御堂地搗    〻 坂 天王寺大黒堂建 取 十一月  《割書:江戸|猿若丁》三芝居焼 《題:大地震末代噺種》 △新中ばし筋北角崩る △掘江土佐の御やしき塀  三間斗損じ △幸永橋西詰南へ入所の  人家二三軒崩る △御池橋西詰裏の高塀ぐ  づれ落る △安治川順正寺本堂大損し  /茶間(ちやのま)倒るゝ △同三丁目人家十二三軒  ばかり崩る △同国津橋東西壱軒づゝ崩 △安治川どぐろ近辺大損じ △九条/前垂嶋(まへだれしま)戎嶋富島  寺嶋人家五六十軒大崩れ 【下段図中へ】  清水の  ぶたひ  西へ  くづれ  落る  本堂  別条なし △高津/慈照(じせう)院の高へい  大そんじ △高地新地高津ばし  南へ入所/納屋(なや)十/軒(けん)斗  大崩れ △幸町東/樋(ひ)よりに南へ家  二三十軒ばかり崩る △生玉(いくたま)の鳥居こける 《題:大地震末代噺種》 【上段】 〇長町裏借家損じ家 数知らず 〇玉造二軒茶屋一丁斗 東の人家大くつれその 近辺東西南北損じ数 しらず     《割書: | たいこだう》 〇天王寺■■■■【太鼓楼(堂)カ】 亀井の水の屋かた崩る 其餘境内の法堂/悉(こと〴〵)く 大そんじ五重の塔も 少しかたぶく 【絵中文字】 天王寺  境内   の圖 【下段】 〇下寺町大れん寺高塀 崩れ本堂/庫裏(くり)少〻の 破損あり 〇御蔵跡人家四五軒倒る 〇寺町通り寺町少〻づゝ いたみ浮(うか)む瀬辺遊行寺(せへんゆぎやうでら) ■よまん近辺大いたみ 住居(すまい)ならず 〇生玉/神主屋敷(かんぬしやしき)少〻 そんじあり 〇長町/毘沙門(びしやもん)の大鳥居 倒(たふ)れる 〇住吉石燈篭七八分通 倒(こけ)る末社少〻づゝ損じ 本社/別条(べつでう)なし 《題:大地震末代噺種》 【上段】 〇今里人家十五軒ばかり 倒れる其餘はそん多(おゝ)し 〇今宮戒の社廣田の社 とも少々づゝ損じ 〇/稗島(へじま)村大ゆりにて家 三四分通り倒れるけが 死人は■■【「格別」カ】 〇天下茶屋塀崩る都(すべ)て 今宮より新家勝間等(しんげこつまとう) すみよし迄の人家合 三十軒ばかり倒(たふ)れ破損 する家其数を知らず 〇木津大黒の社は破損(はそん)少々 あれ共(ども)神の奇特(きどく)にや/無難(ぶなん) 人家十二三軒/倒(こけ)る 【下段絵内文から】 玉造の 親音寺 本堂倒る 〇中寺町/当麻寺(たへまじ)掛所(かけしよ)の門 大そんじ 〇同/隣寺(りんじ)の本堂損じ 〇下寺町源正寺の門損じ 〇同/浄国寺(じやうこくじ)本堂崩る 〇寺町寺 〻の/墓所(はかしよ)の 石碑(せきひ)八九分こける 〇道頓ぼり芝居(しばい)小屋/少 〻(しやう〳〵) づゝの損じあり 《題:大地震末代噺種》 【上段】 難波(なんば) 銕(てつ) 元(げん) 寺(じ)の/釣(つり)かね をちる其餘 本堂塀門損じ多し 〇難波村人家二十軒ばかり 崩れる■■■【「いたみ家」カ】多し 〇尼ヶ崎市中人家八十軒 ばかり崩れ怪我人少々 あり近國にて第一ばんの 大ゆり也 〇同たつみの渡し南詰の 宿屋茶みせ残らず崩る 〇今津村人家十軒餘り 崩るいたみ家多し 【下段】 〇中之嶋高松御屋敷内の 金毘羅絵馬堂(こんひらゑまどう)倒(たふ)れその 余門塀等こと〴〵く損じ 金毘羅/長屋(ながや)大そんじ にて住居(すまい)成がたし 〇/灘(なだ)人家五十軒斗崩る 此近辺/兵庫(ひやうご)迄の人家 七八十軒崩る 〇兵庫凡五六十軒くづれ 怪我人少々あり 〇西の宮人家三十四五軒 崩れすべて此近辺/御影(みかげ) まで凡三十軒ばかり崩 損じ家数知らず 〇/伊丹(いたみ)大てい右におなじ 《題:大地震末代噺種》 【上段】 〇摂州三田凡七十軒あまり くづれ近在九ヶ村七八十 けん斗り崩れ/怪我(けが)人多し 〇河内東西にて凡人家 百五六十けん斗倒れ其 外寺社大そんじ 〇堺人家五■■【「六十軒く」カ】づ■【「れ」カ】 堂宮大損じ数知らず 〇泉州佐野人家凡二百 軒餘くづれ大損じ 〇京都は大坂よりはゆり少し 〇紀州勢州は大坂より餘 程ゆり烈しく人家の崩れ 夥(おびた〱)しく大てい野宿(のじゆく)ニ成 申候よし手紙ニ而申来る 【下段】 〇丹波亀山人家凡百軒 あまり崩る 〇同/園部(そのべ)人家二百けん餘 崩れ死人二百餘人けが 人数しらず 〇郡山人家二十餘くづれ 死人凡十二三人怪我人 数しらづ 〇南都春日社大崩れ鳥 居金どうろふ崩れをち 町屋過半崩れけが人少 〻 〇阿波/児島(こじま)大ゆり人家七 分通り倒れ出火となり 一昼夜火おさまらず 〇/讃州(さんしう)高松右同断大火 《題:《割書:地震|津浪》/もちづくし》 【各マス上から下へ】 地しんで人よりおどろく おごろもち びく〳〵してゐる 家もち ゆるたびにおこす しやくもち 津なみで船がとまつて おかもち 船大工はあいた口へ ぼたもち つまらんしばゐの ぶもち 屋/根(ね)から屋根へ材木(ざいもく)でたすけ合ふ あいもち 津なみでからだは あんころもち なんてゐる 船もち あんじてゐる 身もち にげるによはる 子もち つなみであれた新田(しんでん)は すなもち 普請(ふしん)かたはいそがしい てんてこもち 手あやまちははよふ けしもち ずつしり腹(はら)へ巻(まい)てにげる /金子(かね)もち しゆんてゐる たいこもち 地(ぢ)しんで しりもち せがきのせ話(わ)方は施主(せしゆ)人と和尚を とりもち こけた灯籠(とうろう)をなをす /力(ちから)もち よわつてゐる 新田もち ぢしん最中(さいちう)にさんさいしてゐる /不身(ふみ)もち まんぞくにねられん かしわもち くづれかけた家は /菱(ひし)のもち ゆるたびにかり小屋(こや)へ おかゞみ 《題:《割書:大地震|大津浪》/安達原(あだちがはら)《割書:三段|目》抜文句》 【各マス上から下へ】 年寄(としより)たからだは いつ何時の 丸太(まるた)で にす古家(ふるいえ) はつとおどろき またばつたり 津なみと聞て 気打する人 かうなり はてた身の上 穴堀(あなほつ)て埋(うづん)で ゐる瀬戸物や ても扨も扨も〳〵 おもひがけない 座敷へ船の みよし入られたの 一度におどろき /転(まろ)びおり垣押破(かきをしやぶ)り ろうじうら /空地(くうち)へ迯出る人 是はまた あんまりきつい 十一月五日の 夕かた 跡の詮(せん)義は某(それかし)が よきやうに 門にのこる 番頭 今思い知り おつたか 爪(つめ)の長い 家主 ゆんでめでへ はつたとけとばし 川内へ押込(をしこん)で /来(き)た大船 わが身ながら あいそのついた 釣台(つりだい)で迯(にが)して もらふ病人 天眼通(てんがんつう)は 得ざれども いつの何時にゆ ると知た皃(かほ)する人 聞て心も こゝろならず いせから奉公(ほうこ)に /来(き)てゐる人 はしらんと すれども 途中(とちう)で地しんに あふた人 追立られ かしこの橋では 津浪に 出合た茶船 皮(かは)もやぶれし 三味せんの さんざい中へ ゆさ〳〵 八幡殿の 北の方 しずかに 有た都 浜(はま)ゆふが とびたつばかり 鳥羽(とば)浦 大つなみ おまへに問たら しれるであろ 江戸から 戻つて来た人 隙(ひま)入ほど 為にならぬ 工(く)手間/増(ます) 船大工 われ〳〵が /大望(たいもう)の妨(さまた)げ 京の 顏見せ 歎(なげ)きは理(こと)はり 何かに付て 芝(しば)居茶や かきがねに錠(ぢやう) しつかとおろし 家内連て在(ざい) 所へ迯る人 爰(こゝ)迄くるは きたれど ちり〴〵に にげた人 縄(なわ)引切て迯(にげ)出ん と存せじ所 つなみの /咄(はなし)する/船頭(せんどう) 大津波末代噺種 ○摂州 伝法(でんぼ)酒造 味醂蔵(みりんくら)のこらず大浪にて 崩れ候事 奇代(きたい)の珎事なり ○西の宮 灘辺(なだへん)もつなみにて浜近き所の 人家少々流れそんじあれども大坂よりは 余程ゆるやかにて死人 怪我(けが)人少し 味醂蔵(みりんくら) 崩(くず)れ   倒(たふ)るゝ図(づ) 《題:大つなみ末代噺種》 〇紀州/田辺(たなへべ)熊野等(くまのとう)大つなみ にて海辺(うみべ)又は川口/抔(など)にかゝり 居候船へ打上あるひは磯(いそ)に 突当(つきあて)打くだけ又は流失(りうしつ) する事其数を知らず かくのことき水勢なれば 所により一村残らず おし流し男女 死人おびたゝし 〇泉州堺つなみ 烈(はげ)しく橋八つ落(をち)る 湊(みなと)にかゝり居候船不残 破船に相成濱辺の人家 多く流れ死人多し 〇同佐野/大底(たいてい)右に同じ 《題:《割書:地震|津浪》/精進料理献立(せいじんれうりこんだて)》 【縦書き順に】 津浪で子をしなし うら めし くはしいことは 手紙で 汁 いつ何時にゆるといふ 順才 気にかゝる足よわと 小いも 道頓堀川はしにん死人の あへまぜ なます なん船(せん)を助けた 香物 借家(かしや)のふしんはきりが出ぬ 平 門のいがんだ ごぼう 大黒はしへ船の よせ栗 逃る用意を しいたけ 船で逃(にげ)た人はえらい 坪 つなみで海は うず巻麩(まきふ) 酒のんでもりに入て /松露(しやうろ) よいはたるを まつたけ 裏(うら)の廣地(ひろち)を人に菓子(かし)椀 おきばんは夜の 長いも 金子をはらへ まきゆば 安治川辺は一めんに 水善寺【水前寺】のり 常水(じやうすい)に成て津なみも 台引 いがんだ天王寺の とがらし はそんした船をくゑにな おしぐわへ 小家片付て先一ぷく 吸物 地しんで逃る人が せり たすけ船で人を あげ麩(ふ) はそんした家を早ふなを したし 新田はえらい /水菜(みずな) 《題:《割書:大地震|大津浪》一口ばなし》 【上段】 つなみと聞てどこも みずににげた 材木がこけてきてにげた そうか 今夜(こんや)も西か鳴によつて寝(ね)られん おきばん 船に乗て死だげいこおやまも ながれの身じや みりん蔵がこけたときあたまを打た でんぼ 清水のぶたいにゐたら地しんでくだけた とんだ事ナア 鉄げん寺の釣かねが落て何にも ならん 西辺(にしへん)のはしは無事なり /十(じう)ヲおちた 荷物(にもつ)がしれんので せんどさがした 紙屋の家が崩(くづ)れて亭主は はんし 乾物(かんぶつ)屋はにげるのになんぎした /数(かず)の子(こ) 【下段】 東海道の馬かたも地しんにあふて まご〳〵 地しんでにげる娘(むすめ)は ゑらゆすり 新造(しんざう)さんは水上しゝかれて われた 野宿のあいだ此ふすまをちよつと かりや あつたのやしろは地しんがゆらなんだ ソレみや 鳥居も絵馬堂もこけた ざまのわるい 大地しんの時こんな家にいるのは ゑらいこけじや にげしなにかまぼこ屋の門(かど)でこけて アヽいた 象頭山(ざうづさん)はあれなんだ /鼻高(はなだか)じや 寺〳〵の門へつゝぱりかふた /丸太(まるた) 地しんで米が安はなる /世直(よなを)し かるかやかへうた 《題: 大津ゑ婦【ぶ】し》 こいしさにはる〴〵と。/地(ぢ)しん /見舞(みまい)に。こんざつ中へのぼり来れば。 まれな事なり。半時あまりに 一/面(めん)つなみ打て。それを見るより 子供はしがみ付く。この大板にゐら れんが。ほう〴〵くだけて/押(おし)うたれ。 きのふゆつたも今頃か。ぞく〳〵と。 かどふへ/早(はよ)うつれ/行(ゆき)たまへ。ゆるより からだはあるくにあるけば。さぶさ ながらもわが/家(や)をあはて〳〵にげて は入る 笑福亭 勢楽作 【文字なし】