《割書:増補|頭書》訓蒙図彙大生 六 【手書き】 畜獣 禽鳥 頭書(かしらがき)増補(そうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十二 畜獣(ちくじう) 此 部(ぶ)には山野(さんや)人間(にんけん)にすむ もろ〳〵のけだ物(もの)をしるす 【上段】 ○麒麟(きりん)は 仁獣(じんじう)なり ■【鹿+具】身(くしかのみ)牛尾(うしのを) 一角(いつかく)あり牡(ほ)を 麒(き)といひ牝(ひん)を 麟(りん)といふ生虫(せいちう) をふまず 生草(せいさう)をふまず 聖人(せいしん)の世(よ)に いつる獣(けだもの) なり 【下段】 麒麟(きりん) 【手書き】 拾冊之内 【上段】 ○獅子(しし)は百 獣(じう) の長(ちやう)なり 一 日(にち)に 五百里(り)を走る 虎豹(こへう)をとり 食(くら)う故(ゆへ)に 補 虎豹(こへう)といへども 獅子(しし)を大に 恐(おそ)るとや 天竺(てんぢく)の猛獣(まうじう) にて通力(つうりき)し ざいを得(ゑ)し ものなりといへり 一 名(めい)狻猊(しゆんげふ)と いふ ○獬豸(かいち)は 異国(ゐこく)の獣(けだもの) なり其形(そのかた) 獅(し)子に似て 一角(いつかく)あり一名(いちめい) 神羊(しんよう)と云 能(よく)曲直(きよくちよく)を わかつ皐陶(かうよう) 獄(ごく)を治(おさむ)る時 その罪(つみ)うたがは しきものは獬(かい) 豸(ち)にあたふ 補 罪(つみ)あるものは是(これ) を喰(くらふ)罪(つみ)なき はくらはずと 【下段】 獅子(しゝ) 獬豸(かいち) 【上段】 ○虎(とら)はかたち 猫(ねこ)のごとく 大(おほい)さ牛(うし)の 如(ごと)し色(いろ)黄(き)に して前足(まへあし)ふと く一身(いつしん)の力(ちから) 前足(まへあし)にあり夜 行(ゆく)に一目(いちもく)は光(ひかり)を 放(はな)ち一目(いちもく)は物(もの) を見る声(こゑ)雷(らい)の ごとくよく風(かぜ) をおこす補 山(さん) 上(じやう)にて虎(とら)一声(いつせい) 吼(ほゆ)れは百 獣(じう)恐(おそれ) すくむといふ ○騶虞(すうぐ)は白虎(びやくこ) なりその 尾 身(み)より ながし仁獣(ぢんじう) なり ○豹(へう)はかたち 虎(とら)によく似(に)て ちいさし頭(かしら)円(まる)く 面(おもて)白(しろ)し毛色(けいろ) 補 薄黄(うすき)にて白(しろ) きほしあり 甚(はなはだ)美(び)なり故(ゆへ)に みづから毛采(もうさい) をおしむと いふ 【下段】 虎(こ) とら 騶虞(すうぐ) 豹(へう) なかづかみ 【上段】 ○貘(ばく)は熊(くま)に 似(に)たり象(ざう)の 鼻(はな)犀(さい)の 目(め)尾(お)は牛(うし)の ごとく虎(とら)の 足(あし)銅鉄(とうてつ)及(およひ) 竹(たけ)を食(くら)ふ よくねむる けだものなり 補 すべてあしき 夢(ゆめ)をくらふと いふよつて 枕(まくら)にゑがいて 貘(ばく)まくらと 名(な)づく ○象(ざう)は異国(ゐこく)の 大獣(たいじう)なり 鼻(はな)牙(きば)ながく 補 食(しよく)は口(くち)より くらひ 水(みつ)は鼻(はな)より 吸(すう)といふ三年 に一たび 乳(にう)す大山(たいさん)高(かう) 山(ざん)にすむなり 牙(きば)をとり て万(よろづ)のうつは ものにつくる 象牙(ざうげ)といふ なり 【下段】 貘(ばく) 象(ざう) 【上段】 ○犀(さい)は毛(け)豕(ぶた)の ごとく蹄(ひづめ)に 三 甲(かう)あり 頭(かしら)は馬(むま)のごとく 三 角(かく)あり鼻(ひ) 上(じやう)額上(かくじやう)頭上(づじやう) にあり ○熊(くま)は毛色(けいろ)黒(くろ)く 形(かたち)豕(ぶた)に似(に)たり胸(むね) に白脂(はくし)あり俗(ぞく)に 熊白(つきのわ)といふ洞穴(ほらあな)に すむを穴熊(あなぐま)といひ 木(き)にすむを木熊(きくま)と いふ熊蹯(ゆうはん)はくまの たなごゝろ熊胆(ゆうたん)はくま のゐ ○狼(おほかみ)は狗(いぬ)に似(に)て大(おほい)也 頭(かしら)するどき頬白(ほうしろ)く 前足(まへあし)高(たか)く後(うしろ)ひろし 口とがり大(おほ)き也 力(ちから)つよく諸獣(しよじう) をとり食(くら)ふ よく後(うしろ)をかへり 見る ○豺(さい)は狼(おほかみ)の類(たぐひ) なり色黄(いろき)にして 頬白(ほうしろ)く尾(を)ながし 狼(おほかみ)よりは少(すこ)し 小(ちいさ)く力(ちから)つよく 諸獣(しよじう)を喰(くら)ふ 悪獣(あくしう)なり 【下段】 熊(いう) くま 犀(さい) 豺(さい) やまいぬ 狼(らう) おほかみ 【上段】 ○鹿(しか)は馬(むま)のごと くにして小(しやう)なり 頭長(かしらなが)く脚細(あしほそ)く 高(たか)し牡(を)は角(つの)有 夏至(げし)におつ牝(め)は 角(つの)なし六月に して子(こ)をうむ 好(このん)で亀(かめ)をくら ふ秋(あき)のすへにいた りて声(こへ)を発(はつ)す 虚労(きよらう)をおきなひ 腰(こし)をあたゝめ一切(いつさい) の病(やまひ)に益(ゑき)あり ○麑(かのこ)は鹿(しか)の 子(こ)なり ○麞(くじか)は秋冬(あきふゆ)は山に すみ春夏(はるなつ)は沢(さわ)に住(すむ) 鹿(しか)に似(に)て小(ちいさく)して 角(つの)なし黄黒色(きくろいろ)也 雄(お)は牙(きば)あり ○麋(おほしか)は鹿(しか)にゝて色(いろ) 青黒(あをくろ)なり大(おほ)さ小(こ) 牛(うし)のごとし目(め)の下(した)に 二の穴(あな)あり夜(よる)の目(め) といふ ○麢(かもじゝ)は羊(ひつじ)に似(に)て 青色(あをいろ)にして大(おほい)なり 角(つの)は細(ほそ)くて文(もん)あり 人(ひと)の指(ゆび)のごとし長(なが)さ 四五 寸(すん)皮(かわ)をとつて 褥(しとね)とす 【下段】 鹿(ろく) しか かのしゝともいふ 麑(げい) かのこ 麞(しやう) くじか 麋(び) おほじか 麢(れい) にく かもじゝ 【上段】 ○麝(じや)は麞(くじか)に似(に) て小さく色黒(いろくろ)し 臍(ほそ)に香気(かうき)あり 補 じやかうといふは 是(これ)なり故(ゆへ)におのれ が臍(ほそ)をおしむと云 ○羊(ひつじ)は柔毛(じうもう)の畜(ちく) なりよく群(ぐん)を なすよつて群(ぐん) の字は羊(ひつじ)に したがふ ○綿羊(めんよう)は羊(ひつじ)の 毛(け)の長(なが)きもの をいふ夏羊(かよう) 胡羊(こよう)と同 ○豕(ちよ)は豬彘(ちよてい)の惣名(さうみやう) なり野豬(いのしゝ)豪豬(やまぶた)な とあり不絜(ふけつ)を喰(くら)ふ よつて豕(ぶた)といふなり 腎虚(じんきよ)を補(おぎな)ふ ○豚(ゐのこ)は豕(ぶた)の子(こ)也 唐人(とうじん)は ころして常(つね)に食(しよく)す ○野豬(ゐのしゝ)は腹小(はらちいさ)く脚(あし) ながし毛(け)褐色(かういろ)牙(きば)に てかけ投(なげ)る力(ちから)つよし 味甘毒(あぢはひあまくどく)なし癲癇(てんかん)を 治(ち)し肌膚(きふ)を補(おぎな)ふ ○山豬(やまぶた)は項背(うなしせ)に棘(いばらの) 鬣(たてがみ)あり長(なが)さ一 尺(しやく)ば かり筋(すし)のごとし触(ふるゝ) ときは矢(や)を射(ゐ)るが如(ごと)し 【下段】 麝(じや) じやかう 綿羊(めんよう) むくひつじ 羊(よう) ひつじ 野猪(やちよ) ゐのしゝ 山豬(さんちよ) やまぶた 豚(とん) ゐのこ 豕(し) ぶた 【上段】 ○馬(むま)は火気(くはき)を受(うけ) て生(うま)る火は木を 生(しやう)ずる事あたは ず故(さるかゆへ)に肝(かん)あつて 胆(たん)なし胆(たん)は木(き)の 精気(せいき)なり木臓(もくざう)不(ふ) 足(そく)す故にその肝(がん)を くらふものは死(し)す ○駒(く)は馬(むま)二 歳(さい)なる を駒(く)といふ又五尺 以上(いじやう)を駒(く)といふ ○驪(り)は馬(むま)の純(もつはら)に 黒(くろ)きものなりく ろこまなり ○騮(りう)はあかき馬(むま)の 黒(くろ)きたてがみ なるをいふなり 駵(りう)同かげのむま なり ○驄(そう)は馬(むま)の青(あを) しろき色(いろ) なり あしげ馬(むま)なり 連銭葦毛(れんぜんあしげ) ○駁(はく)は馬(むま)の 色(いろ)の純(もつはら)なら ずしてまだら なるなり駮(はく)同 ぶちむま也 【下段】 駒(く) こま 馬(ば) むま 驪(り) くろこま 騮(りう) かけのむま 驄(そう) あしけ 駁(はく) ぶち 【上段】 ○牛(うし)は田(た)を耕(たがへ)す 畜(ちく)なり唐(もろこし) には牛(うし)を 殺(ころ)して祭(まつり)に備(そなふ) 野牛(やぎう)有 水(すい) 牛(ぎう)あり牲(いけにへ) にそなゆるを 大 牢(らう)といふ ○犢(とく)は牛(うし)の子(こ) なり犢(とく)の鼻(はな) 男根(なんこん)に似(に) たるゆへ男根(なんこん)を 犢鼻(とくび)といふ なり ○驢(ろ)はうさき馬(むま)と いふ耳(みゝ)ながき 馬(むま)なり唐(もろこし) には是(これ)をつかふ 倭国(わこく)にはなき 馬(むま)なり ○駝(だ)は背(せなか)に肉鞍(にくあん) ありて峯(みね)の ごとし頸(くび)ながく して脚高(あしたか)し 其毛(そのけ)温厚(うんかう) にして狐(きつね)の毛(け) よりもあたゝか なり夏(なつ)は 涼(すゞ)し 【下段】 犢(とく) こうし 牛(ぎう) うし 特牛 ことひうし 牝牛 めうし 黄牛 あめうし 犂牛 ほしまだらうし 驢(ろ) うさぎむま 駝(だ) らくだのむま 【上段】 ○狐(きつね)は狗(いぬ)に似(に)て 鼻(はな)とかり尾(お)大(おほい) なり昼(ひる)はかくれ 夜出(よるいづ)る馬骨(ばこつ)を くはへて吹(ふけ)ば光(ひかり)を出(いだ) し食(しよく)を求(もと)む是(これ) を狐火(きつねび)といふ又 玉(たま)を くはへて光(ひかり)をなすと もいふ百 歳(さい)を経(へ)て 北斗(ほくと)を礼(らい)して化(ばけ)る といへり ○猫(ねこ)は眼晴(まなこのひとみ)子(ね)午(むま)卯(う) 酉(とり)には糸(いと)のごとし 寅(とら)申(さる)巳(み)亥(い)には満月(まんげつ) の如(ごと)く丑(うし)未(ひつじ)辰(たつ)戌(いぬ)に は棗核(なつめのさね)のごとし鼻(はな) 常(つね)に冷(ひやゝか)なり夏至(げし) 一日あたゝかなり ○狸(り)は虎狸(こり)あり猫(めう) 狸(り)あり猫狸(めうり)はくさし 食(しよく)すべからず頭(かしら)とがり 口方(くちかた)なるを虎狸(こり)と云 ○貉(かく)は狐狸(こり)に似た り毛黄(けき)にして褐色(かういろ) なりよくねむる昼(ひる) はふして夜出(よるいづ)る ○貒(たん)は犬(いぬ)に似(に)て吻(くち) とがり足黒(あしくろ)く毛褐(けかう) 色(いろ)なり尾足(おあし)みぢかく ゆくことおそし耳(みゝ) 聾(しい)て人(ひと)を恐(おそ)る 【下段】 狐(こ) きつね 猫(めう) ねこ 狸(り) たぬき 貒(たん) みだぬき 貉(かく) むじな 【上段】 ○獒犬(かうけん)は大犬(おほいぬ)なり 高(たか)さ四尺なるを 獒(かう)といふ俗(そく)にこれ を唐犬(とうけん)といふ ○犬(いぬ)は味鹹温毒(あぢはひしほはゆくうんどく)な し五 臓(ざう)を安(やすん)し気(き) をまし腎(じん)に宜(よろ)し ○㺜犬(のうけん)は毛長(けなが)し 尨(ほう)狵(ほう)獅犬(しゝけん)同し むくいぬなり ○蝟鼠(ゐそ)は貒(みたぬき)のごとし 脚短(あしみぢか)く尾長(をなが)し 色青白(いろあをしろ)し足毛(あしのけ) 人をさす山谷(さんこく)田野(でんや) に生(しやう)ず猬(ゐ)同 ○霊猫(れいめう)は南海(なんかい)の山(さん) 谷(こく)に生(しやう)すかたちた ぬきのごとし陰(いん)は 麝(じやかう)のごとし ○兎(うさぎ)は前足(まへあし)みじ かく尻(しり)に九の孔(あな)有 辛平毒(からくへいどく)なし中(うち) を補(おぎな)ひ気(き)をます ○猿(ゑん)は禺(さる)のたぐひ 猴(こう)に似(に)て臂(ひぢ)ながし よく樹(き)の枝(えだ)を攀(よづ) ○猴(こう)はかたち人(ひと)に似(に) たり腹(はら)に脾(ひ)なふ して行をかつて食(しよく) を消(しやう)すよく立(たつ)て ゆく性(せい)さはがしく して物(もの)を害(かい)す 【下段】 獒犬(かうけん) たうけん 犬(けん) いぬ 㺜犬(のうけん) むくいぬ 蝟鼠(ゐそ) くさぶ 霊猫(れいめう) じやかうねこ 兎(と) うさぎ 【上段】 ○獺(をそ)は水中(すいちう)にすむ 四 足(そく)ともに短(みじか)し色(いろ) 青黒(あをぐろ)し魚(うを)をとり くらふ水気(すいき)脹満(ちやうまん) を治(ぢ)す多食(おゝくくらふ)べからす ○貂(でう)は鼠(ねずみ)のたぐひ 大(おほひ)にして黄黒色(きこくしき) なり毛(け)ふかくして あたゝかなり帽子(ばうし) 領(えり)にして寒気(かんき)をふ せぐ俗(ぞく)ニ栗鼠(りそ)と書(かく) ○鼯(むさゝび)は小狐(しやうこ)のごとく 肉翅(にくし)蝙蝠(かふもり)に似(に)たり 脚(あし)みじかく尾長(をなが) さ三尺ばかり声人(こゑひと)の よぶがごとく火煙(くはゑん)を 喰(くら)ふ高(たか)きより下(ひきゝ) におもむく下(ひきゝ)より 高(たか)きにのぼる事 あたはず ○鼲(てん)は鼠(ねづみ)のたぐひ なり皮裘(かわかわころも)につくる べし一名(いちめい)礼鼠(れいそ) ○海狗(かいく)は膃肭臍(をんとつせい) なり形狐(かたちきつね)ににて 尾(を)は魚(うを)なり身(み)に 青白(あをしろ)き毛(け)あり又 青黒(あをくろ)き点(てん)あり 臍(ほぞ)は脾腎(ひじん)の労極(らうごく) を治(ぢ)す ○海獺(かいだつ)は獺(をそ)に似(に) て大(おゝき)さ犬(いぬ)のごとし 【下段】 猴(こう) ましら 猿(ゑん) さる 獺(だつ) かわをそ 貂(でう) りす 鼲(こん) てん 鼯(ご) むさゝび 【上段】 脚(あし)の下(した)に皮(かわ)あり毛水(けみず)につい て濡(うるほ)わずあじかといふ ○水牛(すいぎう)は色(いろ)あをく腹大(はらおほい)に頭(かしら) とがりかたち豬(いのこ)に似(に)たり これを食(しよく)すれば消渇(せうかつ)を やめ脾胃(ひゐ)をやしなひ虚(きよ)を おぎなひ水腫(すいしゆ)を治(ぢ)す ○猩猩(しやう〴〵)は海中(かいちう)にすむ獣(けだもの)也 毛色黄(けいろき)にしてさるのごとし 耳白(みゝしろ)く面(おもて)と足(あし)は人(ひと)のごとくに て酒(さけ)をこのむ血(ち)をとりて染(そむ) ○狒々(ひひ)は猴年(さるとし)を積(つみ)て狒々(ひひ) となるといふ形人(かたちひと)のごとくにし て大(おほい)なり脣長(くちひるなが)く反踵髪(はんしやうばつ)を 被(かふ)ふり迅走(とくはしり)て人を食(くら)ふ人を 見れは大(おほい)に笑(わらふ) ○鼠(ねすみ)は四 歯(し)ありて牙(きば)なし前(まへ)の 爪(つめ)四ツ後(うしろ)の爪(つめ)五ツあり小児(せうに)の 驚風(きやうふう)てんかんを治(ぢ)す ○鼷(けい)はつかねずみなり鼠(ねずみ)のちい さきものなり人をくらふて痛(いた) まず瘡(かさ)となる ○鼹(ゑん)うぐろもちは伯労(もず)の化(くは) するものなり鼠(ねずみ)に似(に)て頭(かしら)は ゐのしゝのごとく尾(お)なし毛色(けいろ) 黄黒(きくろ)し池中(ちちう)をうがつてみゝ すを食(くら)ふ日月(じつげつ)の光(ひかり)をおそる ○鼬(いたち)は鼠(ねずみ)より大(おほき)に身(み)ながく 四足みじかく尾大(おおほい)なりいろ 黄(き)にしてあかしよく鼠(ねずみ)をとる ○角(かく)はあらそふとよめりけだ物(もの) 角(つの)をもつてあらそふなり 【下段】 海狗(かいく) おつとせ 海獺(かいだつ) うみをそ あじか 水牛(すいぎう) 狒々(ひひ) 猩猩(しやう〴〵) 【右丁】 【上段】 鹿(しか)は夏至(げし)に角(つの)おちて 秋分(しうぶん)に生(しやう)ず鹿角(しかのつの)水(すい) 牛(ぎう)の角(つの)器(うつはもの)につくる ○牙(きば)は歯(は)のながく大(おゝい)なる ものなり象(ざう)の牙(きば)は 大(おゝい)にしてうつは物(もの)につ くり猪(ゐ)の牙(きは)は物(もの)をす りてなめらかにす ○騣(そう)は馬(むま)の頸(くひ)にあるた てがみなりうながみとも いふなり鬃(そう)鬐(さ)鬛(れう) ならびに同 ○蹄(てい)はけだものゝ足(あし)の さきなり麒麟(きりん)は蹄(ひづめ) の下に肉(にく)ありて物(もの)をふ んでやぶらずといふ 【下段】 鼠(そ) ねずみ 鼷(けい) はつかねずみ 鼹(ゑん) うごろもち 鼬(いう) いたち 角(かく) つの 牙(げ) きば 騣(そう) たてがみ 蹄(てい) ひづめ 【左丁】 頭書(かしらがき)増補(ぞうほ)訓蒙(きんもう)図彙(づゐ)巻之十三 禽鳥(きんてう) 此 部(ぶ)には山林(さんりん)にすむもろ 〳〵の鳥(とり)をのこらすしるす 【上段】 ○鳳凰(ほうわう)は神霊(しんれい)の鳥(とり) なり雄(お)を鳳(ほう)と云 雌(め) を凰(わう)といふ其かたち 鶏(にはとり)に似(に)たり羽(はね)は五 采(さい)をそなへ高(たか)さ四五 尺(しやく)声(こゑ)は簫(しやう)のごとし 生虫(せいちう)を啄(ついばま)ず生草(せいさう) をふまず桐(きり)をこのむ 竹実(ちくじつ)をくらふ 鳳皇(ほうわう)瑞鶠(ずいえん)並同 【下段】 鳳凰(ほうわう) 【上段】 ○孔雀(くじやく)は大さ雁(かん)よ り大なり高(たか)さ四尺 かしらに三 毛(もう)をいたゞ く長さ一寸余 惣身(さうしん) 緑色(みどりいろ)にて光(ひか)り有 尾(を)の玉(たま)は青(あを)くひかる 人 手(て)をうつて歌(うた)へは 尾(お)をひらきて舞(まふ) ○錦鶏(きんけい)は山どりに 似(に)て小(ちいさ)く羽色(はいろ)は五 色(しき)なり孔雀(くじやく)のは ねのことし鷩雉(べつち) 采鶏(さいけい)並同 ○白鷴(はくかん)は山鶏(やまとり)に似(に) て色白(いろしろ)し黒(くろ)き文(もん) あり尾(を)の長(なが)さ三四 尺ばかりあり食(しよく)す れば中(うち)を補(おぎな)ひ毒(どく)を 解(げ)す 【下段】 孔雀(くじやく) 錦鶏(きんけい) 白鷴(はくかん) 【上段】 ○鶴(つる)は長(なが)さ三尺 高(たか)さ 三尺余 喙(はし)の長(なが)さ四 五寸 項目頬(いたゞきめほう)あかく 脚(あし)あをく頸(くび)ながく指(ゆび) ほそく羽白(はねしろ)くつばさ 黒(くろ)し夜半(やはん)になく 声(こゑ)ましはりて孕(はら)むと 糞石(ふんいし)に化(くわ)す ○鸛(こうづる)は鶴(つる)に似(に)ていたゞ き丹(あか)からすくび長(なが)く 喙(はし)あかく色灰白(いろはいしろく)つば さ黒(くろ)し高木(かうぼく)に巣(すくふ) ○鶬鴰(さうくはつ)は鶬鶏(さうけい)なり まなづるなり ○鴈(がん)は大なるを鴻(こう)と いひ小(すこし)なるを鴈(がん)と云 久(ひさ)しく食(しよく)すれは 気(き)をうごかし骨(ほね)を さかんにす ○鴻(ひしくひ)は鴈(かん)の大なるもの なり江渚(こうしよ)に多(おゝ)くあ つまるゆへに江(こう)と書(かく)也 五 臓(ざう)を利(り)し丹石(たんせき)の 毒(どく)を解(げ)す ○鵠(はくてう)は鴈(がん)より大なり 羽(はね)白く高(たか)く飛(とぶ)味(あぢは)ひ あまく平毒(へいどく)なし人の 気力(きりよく)をまし臓腑(ざうふ)を 【下段】 鸛(くわん) こうづる 鶴(くわく) つる たんてう 鶬鴰(さうくはつ) まなづる 鴈(がん) かり 鴻(こう) ひしくひ 鵠(かう) くゞひ はくてう 【上段】 ○鵞(とうがん)は蒼白(あをしろ)の二 色(いろ) ありまなこ緑(みどりに)喙黄(はしき) に脚(あし)紅(くれない)なりよく闘(たゝか)ふ 食(しよく)すれは五 臓(さう)の熱(ねつ) を解(け)す ○鶩(あひる)はかたち鳧(かも)に似(に) たり飛(とぶ)ことあたはず 羽色(はいろ)は白きあり頭黒(かしらくろ) きはかもの羽色のごとし 大寒(だいかん)毒(どく)なし風虚(ふうきよ) 寒熱(かんねつ)水腫(すいしゆ)を治(ぢ)す ○鸊鷉(かいつふり)は鳩(はと)の大さほ どあり陸(くが)をあゆむこ とあたはず水(みづ)に入て 魚をとる ○鳬(かも)は品類(ひんるい)多(おゝ)く大 小あり羽色(はいろ)さま〴〵かは れり図(づ)するところは俗(ぞく) にいふ真鴨(まがも)なり中(うち)を 補(おぎな)ひ気(き)をまし胃(ゐ)を平(たいらかに)す ○鴎(かもめ)は白(しろ)き鴿(はと)のごとし 喙(はし)ながくむらがり飛(とん) で日にかゝやく海辺(かいへん)に 住(すむ)三月に卵(かいこ)をうむ ○鴛鴦(をしどり)は大さ鴨(かも)の如(ごと) し色黄黒(いろきくろ)羽青(はあを)くひ かる小毒(しやうどく)あり夫婦(ふうふ)和(くは) せざるものにはひそかに 【下段】 鵞(が) たうがん 鶩(ふ) あひる かいつぶり 鸊鷉(へきてい) かいつぶり 鳬(ふ) かも 鴎(をう) かもめ をしとり 鴛鴦(ゑんわう  【上段】 喰(くら)はしむ ○鷺(さぎ)は頸(くび)ほそく長(なか)く 喙脚(はしあし)ともに長(なが)し大小有 小なるは頂(いたゝき)に長(なが)き毛(け) 有 脾(ひ)をまし気(き)を補(おぎな)ふ ○鵁鶄(ごいさぎ)は水鳥(みづとり)なり 大さ鷺(さぎ)のごとし灰白(はいしろ) 色(いろ)背黒(せくろき)をせぐろごいと いひほしあるを星(ほし)ごい といふ諸魚(しよぎよ)の毒(どく)を解(げす) ○紅鶴(とき)は一名 朱鷺(しゆろ) といふ鷺(さき)より大なり 色白(いろしろ)く少(すこ)しあかし 俗(そく)にたうがらすと云 ○鷸(しぎ)は大さ鳩(はと)より少(すこ) し小(ちいさ)し喙脚長(はしあしなが)く 羽茶色(はねちやいろ)に黒(くろ)きふ有 田沢(てんたく)にすむ大小あり 大なるをぼとしきと いふ虚補(きよをおぎな)ひ人を暖(あたゝむ) ○鸕鷀(う)は鴉(からす)に似(に)て 頸長(くびなが)く喙少(はしすこ)し長 し水(みづ)に入てよく魚(うを) をとる林木(りんぼく)に巣(す)く ふ漁人(ぎよじん)かふて魚(うを)を とらしむ 【下段】 ごいさぎ 鵁鶄(かうしやく) 鷺(ろ) さぎ 紅鶴(こうくはく) たう とき 鷸(いつ) しき 鸕鷀(ろじ) う 【上段】 ○鷲(わし)は鷹(たか) の大なるもの なり至(いたつ)て大 なるは七八尺に およぶ其色(そのいろ)は 黄(き)にしてはら 黒(くろ)くふあり 觜黄(はしき)なり 深山(しんざん)にすみて 空中(くうちう)をかけり よく獣(けだもの)をつかみ 喰(くら)ふ ○皂鵰(くまたか)は鷹(たか)の大(おゝい) なるものなり翅(つばさ)つ よく空中高(くうちうたか)く飛(とび) めぐり諸鳥(しよてう)はいふに 及(およ)ばす獣(けだもの)をとり食(くら) ふ其 長(たけ)三四尺あり唐(もろ) 土(こし)にて大鷹といふ は鷲(わし)皂鵰(くまたか)をいふと なり日本にては大 鷹と称(せう)ずるものは 隼(はやふさ)などをいふ 【下段】 鷲(しう) わし 皂鵰(さうしう) くまたか 【上段】 ○鷹(たか)は惣名(さうみやう)にて大 小その品多(しなおほ)く勇猛(ゆうもう) の鳥(とり)なり田猟(でんりやう)にも ちひて諸鳥(しよてう)をとら しむる事はそのかみ 神功(じんぐう)皇后(くわうこう)の御(み)代に 百済国(はくさいこく)よりはじめて 鷹を献(けん)ぜしとかや それより代々(よゝ)鷹(たか)を もてあそび給ふ鷹は 朝鮮国(てうせんごく)の産(さん)を第一 とす ○隼(はやふさ)は鷹(たか)の中(なか)にて するどきものなり形(かたち)も 大にして鳶(とひ)ほどあれ ば雉(きじ)鴈(かん)鴨(かも)などの大 鳥(とり)をとる鶴(つる)などに は隼を二 羽(は)かくると かや鶽(じゆん)同 ○鷂(はしたか)は鷹(たか)の小(ちいさ)きもの なり鷂の小(ちいさ)きを兄(こ) 鷂(のり)といふさらに小きを 雀鷂(つみたか)といふいづれも かたち小(ちい)さければ小鳥(ことり) 【下段】 鷹(よう) たか 隼(しゆん) はやふさ 白鷹(はくよう) 【上段】 をとるなり ○雀𪀚(ゑつさい) 雀鸇(さしば) 何れも鷹(たか)の名(な)小 鳥をとる鷹の種品(しゆほん) 四十八あり鳶(とび)鵙(もず)梟(ふくろう) をくはへて四十八 種(しゆ)と せりしかりといへども 狩猟(しゆれう)にもちゆる鷹 は其飼(そのかふ)人の名付(なづく)る あり又むかしより名(めい) 誉(よ)の鷹には悉(こと〴〵)く異(い) 名(みやう)あり亦(また)異国(いこく)より わたりし鷹には異(ゐ) 類(るい)ことさらにあるべし 唐鷹(とうよう)高麗(かうらい)南蛮(なんばん) 琉球(りうきう)日本にも東国(とうごく) 西国(さいこく)北(ほつ)国四国中国 つくしその国々(くに〴〵)のか わりありとかや鷹の 羽(はね)はかた羽(は)に廿四枚両 羽合て四十八 枚(ま)尾(を)は 十二枚ありいづれも名 あり鷲(わし)の尾(を)は十四枚 あり 【下段】 鷂(よう) はしたか 兄鷂(けうよう) このり 雀𪀚(じやくとう) ゑつさい 雀鸇(さしば) 【上段】 ○鸎(うぐひす)は毛(け)うす青(あを)し 立春(りつしゆん)のゝちはじめて さへつる声(こへ)春陽(しゆんやう)に応(おう) ず ○鷦鷯(みそさゞい)は雀(すゝめ)よりちい さく赤黒(あかくろ)く黒きふ あり寒中(かんちう)雪(せつ)中に きたる夏(なつ)は居(お)らず ○鶲(ひたき)は冬(ふゆ)きたる雪(ゆき) びたきといふは青(あを)くひ かる羽色(はいろ)なりじやう ひたきはかばいろに黒(くろ) き羽(は)まじる ○山鶏(やまどり)は雉(きじ)に似(に) てすこし小(ちいさ)くし て尾長(をなが)く羽色(はいろ)黄(き) 赤(あか)し山にすむ也 鸐雉(てきち)といふあぶり 食(しよく)すれば中(うち)を補(おぎな)ひ 気(き)をます ○啄木(てらつゝき)は小(ちいさ)きは雀(すゝめ)の ごとく大(おゝい)なるはひよどり ほど有 下腹赤(したはらあか)く觜(くちばし) 錐(きり)のごとく木(き)をつゝき うかつて虫(むし)を食(くら)ふ 【下段】 鸎(あう) うぐひす 鷦鷯(せうれう) みそさゞひ 鶲(ひたき) 山鶏(さんけい) やまどり 啄木(たくぼく) てらつゝき 【上段】 ○雲雀(ひばり)は一名 蒿雀(かうじやく) といふ雀(すゞめ)より少(すこ)し大(おゝい) に茶色(ちやいろ)にしてふあり 三月の始(はじめ)より夏至(けし)の 頃(ころ)まで空(そら)に登(のぼ)りて 囀(さへづ)る陽(よう)をおこし精(せい) 髄(すい)をおぎなふ ○雉(きじ)は雄(を)は羽色(はいろ)美(び)也 尾長(をなが)し雌(め)は茶色(ちやいろ)に してふあり春陽(しゆんよう)に 至(いた)りてなく九月より 十一月まで食(しよく)すべし ○練雀(れんじやく)は尾(お)の長(なが)き と短(みじかき)との二 種(しゆ)あり大 さひよどりより小(ちいさ)く 黒(くろ)く褐色(かういろ)尾(を)に白き 毛(け)ありて練(ねり)たる帯(おび) のごとし ○鵐(しとゝ)は雀(すゞめ)の大(おゝい)さほど ありて薄青(うすあを)く少(すこ)し ふあり冬月(とうげつ)来る俗(ぞく)ニ あをじといふ此鳥(このとり)を 黒(くろ)やきにして腫物(しゆもつ) に付(つけ)て妙薬(めうやく)なり 【下段】 雲雀(うんじやく) ひばり 雉(ち) きじ 鵐(ふ) しとゝ 練鵲(れんじやく) 【上段】 ○鶉(うづら)はひよどりの大(おゝい) さほどありて丸(まる)き形(かたち) なり惣身(さうしん)こまかなる ふあり赤(あか)ふ黒(くろ)ふの二 品(ひん)あり秋(あき)のすへに至(いた) りてなく人 此声(このこゑ)をは 賞(しやう)じて多(おゝ)く籠(こ)に入(いれ) てかふ粟(あわ)をこのんで食(くら) ふあぶり食(しよく)すれば五 臓(ざう)をおぎなひ中(うち)をま すなり ○吐綬鶏(とじゆけい)は大(おゝい)さ鶏(にはとり) のごとし頭雉(かしらきじ)に似(に) たり羽(はね)の色(いろ)黒黄(くろき)に してほしあり項(うなじ)に 嚢(ふくろ)ありて肉綬(にくじゆ)を納(おさむ) 日和(ひより)よく快(こゝろよ)き時(とき)はこの 嚢(ふくろ)をのばしあそぶ ○山鵲(さんじやく)は鵲(かさゝぎ)のごとく にして色黒(いろくろ)く文采(もんさい) あり觜(はし)あかく尾長(をなが)く してとをく飛(とぶ)ことあ たはず 【下段】 鶉(しゆん) うつら 吐綬鶏(としゆけい) 山鵲(さんじやく) ○鶤鶏(たうまる)は鶏(にはとり)の大なる ものなり一 名(めい)傖鶏(さうけい) といふもろこし蜀(しよく) 中(ちう)に多し羽色(はいろ)黒(くろ) 白(しろ)の二 品(ひん)あり其性(そのせい) 勇(ゆう)にしてよく闘(たゝか)ふ 又しやむ国(こく)より渡(わた) りし鶏(にはとり)ありよつて しやむといふ鶤鶏(たうまる) よりは少(すこ)し小(ちい)く脚(あし) ふとく高(たか)くして勇(ゆう)也 闘(たゝかひ)をこのむ ○鶏(にはとり)は朝鮮国(てうせんこく)を 良(よし)とす羽色(はいろ)は品々(しな〴〵) あり俗(そく)にしやうこく といふ炙(あぶり)食(しよく)すれば 虚(きよ)を補(おぎな)ひ中(うち)をあた ため血(ち)をとめ婦人(ふじん) の崩(ぼう)によし ○雛(ひな)は諸鳥(しよてう)の巣(す) だちなり初(はじめ)て生(うま) れてみづから啄(ついばむ)を 雛(ひな)といふ母(はゝ)くゝめ食(くらは) しむるを鷇(こく)といふ 【下段】 鶤鶏(こんけい) たうまる 鶏(けい) にはとり しやうこく 雛(すう) ひな ひよこ 【上段】 ○矮鶏(ちやぼ)はもろこし 江南(こうなん)に多(おゝ)しかたち 小(ちいさ)くして脚(あし)わづかに 二寸ばかり ○鷽(うそ)は雀(すゞめ)より小く 羽色(はいろ)文采(もんさい)あり腹(はら)の 下白(したしろ)くしてうつく しき鳥(とり)なり ○燕(つばくら)は雀(すゞめ)の大(おゝき)さほど あり泥(どろ)を含(ふくみ)て屋宇(いへののき) に巣(す)をつくる戊巳(つちのへみ)の 日をさくるといへり ○鳩(はと)は惣名(さうみやう)にて類(たぐひ)お ほし図(づ)する処(ところ)は俗(そく)に いふじゆずかけ又 八幡(はちまん) 鳩(ばと)ともいふ頸(くび)のまはり 黒(くろ)くじゆずをかけたるか ごとし羽色(はいろ)灰白(はいしろ)くふなし 人 此鳩(このはと)をとらず ○青鳩(やまばと)は山に住(すみ)て里(さと) に出(いで)ず羽色(はいろ)緑(みどり)褐色(かういろ) なり食(しよく)すれば虚(きよ)を 補(おぎな)ひ血(ち)を活(いか)す 天子(てんし)御衣(ぎよゐ)の色(いろ)是(これ)なり 【下段】 鷽(よ) うそ 矮鶏(わいけい) ちやぼ 燕(ゑん) つばくら 鳩(きう) はと 青鳩(せいきう) やまばと 【上段】 ○鳲鳩(かつこ)は色褐(いろかう)にして 三月 穀雨(こくう)の後(のち)はじめ てなく食(しよく)すれは神(しん)を 安(やすん)ず又つゝ鳥(とり)といふ有 是(これ)も鳩(はと)の類(たぐひ)にて三月 の頃(ころ)なく声(こゑ)を聞(きゝ)て豆(まめ)を まくといへり ○鴿(いへばと)は堂塔(たうたう)に多(おゝ)く あつまり住(すむ)はとなり 精(せい)をとゝのへ気(き)を益(ます)悪(あく) 瘡(さう)を治(ぢす)薬毒(やくどく)を解(げ)す 多く食(しよく)すべからず ○鶇(つくみ)は鵯(ひよどり)の大(おゝき)さ有 羽色(はいろ)茶(ちや)にしてふ有 歳(とし)の暮(くれ)に是(これ)を食(しよく) す味(あぢは)ひよし ○鵙(もず)は鵯(ひよどり)より少(すこ)し小(ちいさ) く茶色(ちやいろ)にて頭(かしら)鷹(たか)の 如(ごと)く小鳥(ことり)を追(おひ)肉食(にくじき)す 小児(しやうに)言(ものいふ)ことおそきに鵙(もず) の踏枝(ふむえだ)にてうつなり ○鶸(ひわ)はかたち雀(すゞめ)ほど あり羽色(はいろ)黒(くろ)く黄(き)なる 羽(はね)まじる春(はる)きたる 【下段】 鳲鳩(しきう) かつこ 鴿(がう) いへばと 鶇(とう) つぐみ 鵙(けき) もず 鶸(じやく) ひわ 【上段】 ○画眉(ほゝじろ)は■【畫+鳥】鶥鳥(くはびてう) なりかたち雀(すゞめ)ほど有 羽色(はいろ)も似(に)たり頬白(ほうしろ)く 黒(くろ)き毛(け)あり ○鶖(かしとり)は鵯(ひよどり)より大(おゝい)に 翅(つばさ)に青(あを)くるりに黒(くろ)き ほし有 羽(は)あり秋(あき)の末(すへ) より冬月(とうげつ)に来(きた)り鳴(なく) ○杜鵑(ほとゝぎす)は鵯(ひよとり)より大に して黄黒(きくろ)く口赤(くちあか)し 四五月の頃(ころ)夜陰(やいん)に なく杜宇(とう)子規(しき)同 ○鵯(ひよとり)は鸜鵒(くよく)なり 又 哵哵鳥(ははてう)ともいふ 身首(みかしら)ともに薄(うす)ね ずみ色(いろ)に黒(くろ)きふあり 諸木(しよぼく)の実(み)を食(くら)ふ 秋冬(あきふゆ)多(おゝ)く来(きた)る ○鶺鴒(せきれい)は觜(はし)ほそく 尾長(をなが)し飛(とぶ)ときは鳴(なく) 居(おる)とき尾をうごかす 羽(はね)白 背黒(せくろ)きをせぐろ といひ青(あを)く黄(き)なるを きぜきれいといふ 【下段】 画眉(ぐはび) ほゝじろ 鶖 かしどり 杜鵑(とけん) ほとゝぎす 鶺鴒(せきれい) いしたゝき 鵯(ひ) ひよどり 【上段】 ○翠雀(るり)は一名 翠(すい) 鳥(てう)といふかたち雀(すゞめ)の 大(おゝい)さほどあり頭背(かしらせなか) ともにるり色(いろ)に光(ひか) りて美(うつ)くしき鳥(とり)也 ちやるりといふもの有 ○蝋嘴(まめどり)は一名 窃脂(せつし) といふかたちひよどり の大(おゝい)さほとにて喙(はし)は ふとく黄(き)なり又しめ といふ鳥(とり)かたち蝋嘴(まめどり) と同 喙(はし)薄赤(うすあか)し ○烏鳳(おなかどり)惣身(さうみ)黒(くろ)く 尾長(をなか)し一 名(めい)王母(わうぼ) 鳥(てう)といふ ○雀(すゞめ)は頭(かしら)は蒜(にら)の顆(つぶ) のごとく目(め)は椒(さんせう)の目の ごとし其性(そのせい)尤(もっとも)淫乱(いんらん) なり食(しよく)すれば陽(よう)を さかんにし気(き)をまし 腰(こし)ひざをあたゝめ小便(しやうべん) をしゞめ血崩(けつほう)帯下(たいけ)を 治(ぢ)す頭(かしら)を食(しよく)すべから ず瘡(かさ)を発(はつ)す 【下段】 翠雀(すいじやく) るり 蝋嘴(らうし) まめどり 烏鳳(うほう) おながどり 雀(じやく) すゞめ 【上段】 ○鸚鵡(あふむ)はよく言鳥(ものいふとり) なり白青(しろあを)く又五 色(しき)あり青き羽(はね)赤(あかき) 喙(はし)あり唐鳥(からとり)なり ○竹鶏(やましぎ)は鷓鴣(しやこ)に似(に) てちいさく褐色(かういろ)にし てまだらに赤(あか)し 尾(を)なし蟻(あり)をくらふ 水辺(すいへん)にすむ ○鸜鵒(はゝてう)はかたち烏(からす) に似(に)て小くよく人(ひとの) 言(ものいひ)をなす尤(もつとも)唐鳥(からとり) なり ○蝙蝠(かふもり)はかたち鼠(ねずみ)に 似(に)てつばさは紙(かみ)をはる がごとしものなり 夏(なつ)より秋(あき)の末(すへ)まで 夜(よ)ことに飛(とび)めぐりて 蚊(か)を食(くら)ふ昼(ひる)は洞穴(ほらあな) にかくれ居(をる)つばさの さきにかぎ有てかゝりゐる 【下段】 鸚鵡(あふむ) 竹鶏(ちくけい) やましぎ 蝙蝠(へんふく) かふもり 鸜鵒(くよく) 哵哵鳥(ははてう)也 【上段】 ○鴉(からす)は觜(はし)大(おゝい)にしてむ さぼる事を好(このむ)黒焼(くろやき) にしてやせ病(やまひ)欬嗽(がいそう) 労疾(らうしつ)を治(ぢ)す ○烏(からす)は觜(はし)ほそく鴉(あ) より小なり生れて 母(はゝ)哺(くゝむる)こと六十日巣(す)だ ちして母(はゝ)を哺(くゝむる)こと 六十日よつて慈烏(じう)と云 ○鳶(とび)は鷹(たか)に似(に)たり 鴟(てい)同 黒焼(くろやき)にして 頭風(づふう)を治(ぢ)す ○怪鴟(よたか)はふくろうの たぐひにて夜出(よるいて)て 昼(ひる)はかくれ居(お)るかた ちは鷹(たか)に似(に)て小(ちいさ)し 不徉(ふしやう)の鳥(とり)なり ○角鴟(みゝづく)はかたちふく ろうにてちいさし頭(かしら) 目ねこのごとく毛角(もうかく) 両耳(りやうに)あり昼(ひる)ふして 夜(よる)いづる声(こゑ)老人(らうじん)の ものをよぶがごとし 【下段】 烏(う) からす 鳶(えん) とび 鴉(あ) からす 怪鴟(くはいし) よたか 角鴟(かくし) みゝづく 【上段】 ○梟(ふくろう)はかたち鳶(とひ)に 似(に)て小(ちいさ)く頭大(かしらおゝい)にして 丸(まる)く眼大(まなこおゝい)なり夜出(よるいで)て 昼(ひる)はかくれ居(お)る雌(め)は 声(こゑ)さけぶがごとし母鳥(はゝとり) を食(くら)ふといふ不孝(ふかう)の 鳥(とり)といへり ○鵲(かさゝぎ)は大(おゝい)さ鴉(からす)のごと し尾(を)とがりて長(なが)し 觜黒(はしくろ)し食(しよく)すれは 痳病(りんびやう)消渇(せうかつ)を治(ぢ)する 婦人(ふじん)は食(しよく)すべからす ○秧鶏(くひな)は鶏(にはとり)に似(に) て小(ちいさ)し頬白(ほうしろ)く觜(はし) 長(なか)く尾(を)みじかく背(せなか) に白まだらあり田(てん) 沢(たく)のほとりにすむ ○鴗(かはせみ)は大(おゝい)さ燕(つばめ)のごとし 喙(はし)かたちより大に尖(とが)りて 長(なが)し足(あし)のうら紅にし て短(みぢか)し水辺(すいへん)に有 て魚(うを)をとる土(つち)にあな ほりて巣(す)つくる惣身(さうみ) 黒(くろ)く青(あを)くひかる 【下段】 梟(けう) ふくろふ 鵲(しやく) かさゝぎ 秧鶏(あうけい) くひな 鴗(りう) かはせみ 【上段】 ○火鶏(くはけい)はかたち鶏(にはとり)に 類して高(たか)さ七尺くび 長(なが)く日に飛行(とびゆく)こと三 百里 異国(ゐこく)の鳥(とり)なり 駱駝馬(らくだむま)に似(に)たるゆへ一名 駱駝鶴(らくだくはく)ともいふ ○鶚(みさご)は鷹(たか)の類(るい)なり 鷹(たか)に似(に)て羽色(はいろ)黄(き)白 なり海辺(かいへん)水上(すいじやう)を 飛(とび)めぐりてよく魚(うを) をとり食(くら)ふ ○羽斑鷸(はまだらしぎ)はしぎの たぐひなり羽(はね)まだら にふありてうつくし 田沢(てんたく)にすむ鷸(しぎ)と 同くむらがり飛(とふ) ○鴋(はん)は水鳥(みつとり)なり大 小ありかたち鴈鳧(がんかも)に 類(るい)して脚(あし)は長(なが)し 【下段】 火鶏(くわけい) 一名 駱駝鶴(らくたくはく) 羽斑鷸(はまだらしぎ) 鶚(かく) みさご 鴋 ばん 【上段】 ○鶁(むくとり)は小(こ)むくといふ大(おゝい) さひよどりより小(ちいさ)く 頭(かしら)白く背(せなか)黒白(くろしろ)の毛(け) あり秋(あき)の央(なかは)多(おゝ)くむ れわたる味(あぢは)ひ美(ひ)なり ○椋鳥(むくとり)大(おゝ)むくといふ 小むくより大(おゝい)なり羽(は) 色(いろ)もかはれり夏秋(なつあき)の 頃(ころ)来(きた)るむれにならず ○菊戴(きくいたゞき)は至(いたつ)て小(ちいさ)き鳥(とり) なり惣身(さうみ)薄青(うすあを)し 頂(いたゞき)に黄(き)なる毛(け)あり天 気(き)よくあたゝかなれは 頂(いたゞき)の毛(け)をひらけば中(なか)よ り紅(くれない)の毛(け)いづる冬月(とうけつ) 来(きた)る鳥(とり)なり ○文鳥(ぶんてう)は雀(すゞめ)ほどあり 羽色(はいろ)黒(くろ)く頬(ほう)に丸(まる)く 白(しろ)き毛(け)あり腹(はら)白し ○四十雀(しじうから)は雀(すゞめ)より 小(ちいさ)く頭黒(かしらくろ)く頬丸(ほうまる)く 白し背(せなか)はうす青(あを)く 腹(はら)白く黒(くろ)き毛(け)あり 秋冬(あきふゆ)きたる 【下段】 椋鳥(むくどり) 小むく 菊戴(きくいたゝき) 椋鳥(むくどり) 大むく 文鳥(ふんてう) 四十雀(ししうから) 【上段】 ○山雀(やまがら)は雀(すゞめ)の大さほ どあり頭(かしら)くろく背(せなか) 黒(くろ)くはらかき色(いろ)なり 羽(は)づかひかるくしてよ くかへるゆへに籠(かご)に入 て飼(かひ)をくなり ○鴰(ひがら)は四十 雀(から)に似(に)て 小(ちいさ)し是(これ)も飼置(かひをく)によし 毛色(けいろ)うるはし ○小雀(こから)は鴰(ひがら)に似(に)てい たつて小(ちいさ)しいづれも 秋(あき)のすゑにわたる ○繍眼児(めじろ)は雀(すゞめ)より 小(ちいさ)し羽色(はいろ)もへぎ色(いろ) 腹(はら)うす黄なり目(め)の まはり白(しろ)し多(おゝ)く集(あつま) り枝(ゑた)におし合(あひ)とまる 鳥(とり)なり ○ゑながは至(いたり)て小(ちいさ)き 鳥(とり)なり頂(いたゞき)灰白(はいしろ)色 羽(は) 色(いろ)うす黒灰白(くろはいしろ)の毛(け) 交(まじ)りうすあかき毛(け)有 尾長(をなが)し秋(あき)より冬(ふゆ) にいたりてむれ来(きた)る 【下段】 鴰 ひがら 山雀(さんじやく) やまがら 小雀(しやうじやく) こがら 尾長(ゑなが) 繍眼児(めじろ) 【上段】 ○駒鳥(こまとり)鵯(ひよどり)より小(ちいさ)く 頭背(かしらせなか)ともに赤茶(あかちや) 色(いろ)腹(はら)に黒(くろ)き毛(け)有 山に住(すみ)て里(さと)へいでず 鳴声(なくこへ)を人 賞(しやう)じて 飼(かひ)をくなり ○九官(きうくわん)は一 名(めい)秦吉(さる) 了(か)といふ鳩(はと)より小(ちいさ)く 惣身(さうみ)黒(くろ)く翅(つばさ)に白 き羽(は)ありよく人の 言(ことば)をなす尤(もつとも)唐鳥(からとり) なり ○風鳥(ふうてう)はかたち雀(すゞめ) より大(おゝい)につばさ尾(を) ともに長(なが)き毛(け)あり てみのをきたるが如(ごと) し色(いろ)は緑(みどり)にてひか りありまれなる鳥(とり) なり ○𪈿(ひよくのとり)は比翼鳥(ひよくのとり)とも 書(かく)なり雌雄(しゆう)つばさ をならべて飛(とふ)といふ 此鳥(このとり)実(じつ)に見(み)たる人 をきかず 【下段】 駒鳥(こまどり) 九官(きうくわん) 一名 秦吉了(さるか) 喉紅鳥(のごどり) 風鳥(ふうてう) 𪈿(ひよくのとり) 【上段】 ○喉紅鳥(のごとり)はかたち 雀(すゞめ)の大さありのど より胸(むね)にいたりて紅(へに) にして美(うつ)くしき鳥(とり)也 まれにあり ○深山頬白(みやまほじろ)は小鳥(ことり) にて羽色(はいろ)美(び)なる 鳥(とり)なり ○黄雀(きすゞめ)はすゞめに似(に) て黄なり又 紅雀(へにすゞめ)と いふは紅(へに)の毛(け)あり又 入内雀(にうないすゞめ)といふも有 ○鸞(らん)は神鳥(しんてう)なり かたち鶏(にはとり)に似(に)て尾(を) 長(なが)く声(こゑ)五音(ごゐん)にあた る鏡(かゞみ)を見れは舞(まふ) ○蒼鷺(あをさぎ)はさぎより 大(おゝい)にして青(あを)く腹(はら)白し 雨夜(あまよ)には羽青(はねあを)く光(ひか) りて人 怪(あやし)みおそる ○葦雀(よしはらすゞめ)は雀(すゞめ)より 大(おゝい)にかしましく鳴(なく)葦(よし) 芦(あし)の中(なか)に居(お)る河辺(かへん) 沢(さわ)のほとりに多(おゝ)し 【下段】 深山頬白(みやまほじろ) 黄雀(きすゞめ) 鸞(らん) 蒼鷺(さうろ) あをさぎ みとさぎ 葦雀(おげら) よしはらすゞめ よしとり きやう〳〵し ともいふ 【上段】 ○鴆(ちん)は鷹(たか)に似(に)たり 紫黒(むらさきくろ)く喙赤黒(はしあかくろ)し 頸(くび)の長(なが)さ七八寸 蛇(へび)を 食(くら)ふ大毒鳥(だいどくてう)なり鳳(ほう) 凰(わう)をおそる ○雉鳩(きじばと)は鴿(いへばと)に似(に)て 羽薄黒赤(はねうすくろあか)く茶色(ちやいろ)の ふあり竹林(ちくりん)に住(すむ)としより こいとなく ○犳鴫(しやくなぎ)は惣身(さうみ)茶色(ちやいろ) にて頸長(くびなが)く脚(あし)ながし 海辺(かいへん)に住(す)む ○都鳥(みやこどり)はかしらより 背(せなか)は黒(くろ)く腹白(はらしろ)し 觜脚(はしあし)あかし水鳥(みづとり)也 ○音呼(いんこ)は大小あり 大(おゝい)なるは鳩(はと)の大(おゝい)さあり 小なるは小鳥(ことり)ほど有 色(いろ)は紅(べに)有 五色(ごしき)あり 唐鳥(からとり)なり ○羽(は)は翎(れい)翰(かん)並に同 翮(かく)はね羽根(はね)羽茎(はぐき)也 翈(かう)はかざきり翮上(かくじやう)の 短羽(たんう)なり 【下段】 鴆(ちん) 雉鳩(きじばと) 犳鴫(しやくなぎ) 都鳥(みやこどり) 音呼(ゐんこ) 【上段】 ○翼(つばさ)は鳥(とり)のつばさ なり翅(し)同 大鳥(おゝとり)を 翼(よく)といふ小鳥(ことり)を羽(う) といふ ○尾(を)は鳥(とり)の尾(を)なり 臎(すい)同 ○嘴(くちばし)は鳥(とり)のくちば しなり喙(けい)同又 吻(ふん)は くちわき觜(し)はくちばし ○卵雛(らんすう)は諸鳥(しよてう)の たまご鶏卵(けいらん)は五臓(ござう) を安(やすん)じ水臓(すいざう)を温(あたゝ)む 【下段】 羽(う) は 翼(よく) つばさ 嘴(し) くちばし 尾(び) を 卵雛(らんすう) たまご 【手書き】 拾冊之内 【裏表紙】