《題:疱瘡雨夜談》 雨夜談自序 疱瘡の名古になし医学入門に周の末秦のはしめ にありといへと穏ならす肘後方に東漢の建武年 中に南陽にて虜を撃しとき其毒にそみて中国に 流布す故に虜瘡といふとあり外台秘要には唐の 高宗の永徽四年西域より中国へ移り来るといへり 此瘡変化はかりなきゆへに聖瘡ともいふ又一生に一度 は百歳になりてもやむゆへに百歳瘡とも云又天行疫 病なるゆへに天瘡或は天花瘡ともいふ又其瘡の形豌 豆に似たるゆへ豌豆瘡又は登豆瘡ともいふ其外の書 にはおほく痘瘡と云て疱瘡とはいはす病源候論 に時気頗瘡疫癘皰瘡とあり聖済惣録にも皰瘡 とありて疱瘡とはいはす外台秘要に初て豌豆疱瘡 と出たり我朝にては人皇四十五代聖武天皇天平八丙子年 筑紫の人新羅国に漂流しはしめて此病にそみ来りし より日本に流布すといふ貝原氏の和事始にも聖武天 皇の御時甚仏法を尊信したるゆへに其功徳なく 天皇の御末もめとなく絶たまひ剰あやしきやまひを 神国の人に伝へて万世諸人の憂となり侍るあさましき 事ならすや朝鮮の南秋江か著したる鬼神論に瘡疹の 病は鬼神の致す所とありしより神道者の説には神 国にもとなき病なるを聖武天皇の御時新羅国より そみ来て日本に流布す住吉大神は三韓降伏の神なる ゆへ此病にかきり住吉大神を祭りいのるゆへ痘神と 云も理有に似たれとも誣たる説ならむと貝原氏も記されたり しかし預防の術も有へきにや予か伯母知多郡へ嫁して 其家医にして農なるゆへ菉豆をうへてある人の菉豆は 痘毒を解すといふを聞及ひ年々菉豆をたへられし故 にや八十余歳にて身まかられしか一生疱瘡をやます伯母 常に其事を予に告て存生の中年々菉豆を贈り越さ れて予にたへさせられしか予三十歳に及ふ此まて年々菉 菉豆をたへしにや今年六十九歳になれといまた疱瘡を やます此ころ雨の夜或人来りて疱瘡流行により預防 稀痘の方を尋求られしゆへ手近き書に出たるを語 り侍れは願くは梓に上せて保赤の一助にそへしとある にまかせとり敢す小冊にし雨夜談と号すと云爾 享和三年亥二月   恬淡真人識 雨夜談(あまよはなし) 神功消毒保嬰丹(しんこうせうどくほうゑいたん)  毎年(まいとし)春分(しゆんぶん)秋分(しうぶん)の日一丸つゝ服(ふく)すれは痘毒(とうどく)を消(け)し右  のことく三年 服(ふく)すれは毒(どく)尽(つき)て一生(いつせう)疱瘡(ほうそう)をやまず  纏豆藤(てんづとう)《割書:かげほしにし|十五匁》生地黄(せうぢわう) 牛房子(ごぼうし)《割書:いる》 山査肉(さんざにく)《割書:各》  《割書:十匁》当帰(とうき)《割書:酒にて|あらふ》黄連(わうれん)《割書:酒をそゝき|いる》 桔梗(きゝやう) 防風(ぼうふう) 荊(けい)  芥(がい) 赤芍薬 甘草(かんそう)《割書:各五匁》升麻(せうま)《割書:七匁|五分》連堯(れんぎやう)《割書:七匁》  独活(とくかつ)《割書:二匁》赤小豆(あづき)《割書:七十粒》黒豆(くろまめ)《割書:三十粒》糸瓜(へちま)《割書:二ツ長さ五寸|はかわ霜を》  《割書:うけたるもの|黒やきにし》  右十七味 細(こま)かに粉(こ)にして砂糖(さたう)にかきませ李核(すもゝのたね)の大さに  丸し辰砂(しんしや)水飛(すいひ)して五匁 衣(ころも)にし一丸つゝ甘屮(かんぞう)の煎(せんじ)  湯にて用ゆ 梅英稀痘丹(ばいゑいきとうたん)  梅花蕊(むめのはなのしべ)《割書:七りんすり|たゝらかす》辰砂(しんしや)《割書:細かにすり水飛す|一匁》  右二味 節分(せつふん)の夜(よ)に砂糖(さたう)に交(まじ)へ服(ふく)す疱瘡(ほうそう)かならず軽(かろ)  し毎年(まいとし)用ゆれは痘疹(ほうそう)をやます一方に十二月梅花を  とりかげほしにし粉(こ)にして蜜(みつ)にてねり豆(まめ)の大さに丸し  酒(さけ)にて常(つね)に用ゆれは疱瘡をやまずともあり 四脱丹(しだつたん)  蝉脱(せんだつ) 蛇退(へびのぬけがら) 鳳皇台(ほうわうたい)《割書:にはとりのすもり|のからなり》神仙脱(しんせんだつ)《割書:ふたおや|の爪也》  右四味 等分(とうぶん)あふり粉(こ)にして蜜(みつ)にて菉豆(ぶんどう)の大さに丸  し毎年(まいとし)節分(せつぶん)の夜(よ)壱匁つゝ服(ふく)すれは疱瘡(ほうそう)をやます 玄兎丹(げんとたん)  玄参(げんじん)《割書:五両》兎糸子(としし)《割書:十両》  右二味 鉄(てつ)をいみ粉にして黒砂糖(くろさたう)にねりむくろし粒(つぶ)の  大さに丸し毎日三丸さたう湯(ゆ)にてもちゆ 代天宣化丸(たいてんせんげぐわん)  人中黄(にんちうわう)《割書:甲巳の年は二匁四分|其外の年は一匁二分》黄芩(わうごん)《割書:乙庚の年は二匁四分|其外の年は一匁二分》黄柏(わうばく)  《割書:丙辛の年は二匁四分|其外の年は一匁二分》梔子仁(しゝにん)《割書:丁壬の年は二匁四分|其外の年は一匁二分》黄連(わうれん)《割書:戌癸の年は|二匁四分》  《割書:其外の年は|一匁二分》山豆根(さんづこん) 牛房子(こぼうし)《割書:酒をそゝき|いる》連堯(れんぎやう)《割書:酒にて|あらふ》荊(けい)  芥穂(がいずい) 苦参(くしん) 紫蘇(しそ) 防風(ぼうふう)《割書:各九分》  右十二味 冬至(とうし)の日こまかに粉にして升麻(せうま)をせんし竹瀝(ちくれき)を  等分(とうぶん)にまぜ神曲(しんきく)を粉にしてとき糊(のり)にしまへの粉薬(こくすり)を  ねり丸し辰砂(しんしや)雄黄(ゆうわう)等分(とうぶん)よくすり粉にして衣(ころも)にかけ  疱瘡はゆるとき二三丸竹の葉(は)を煎(せん)じ用ゆかならず  ほうそうをまぬかるべしやみても至てかるし  人中黄(にんちうわう)こしらへやう大なる甘屮(かんそう)皮(かわ)をけつりさり青竹(あをたけ)の  ふしを一方に残(のこ)し切(き)り其(その)竹の中(うち)へ甘草(かんそう)をいれ竹の  口(くち)をきびしくふさぎ水(みづ)のいらざるやうにして大便(だいべん)の  うちへいれひたす事四十九日とり出しあらひほし中  の甘屮をとり出し日にさらしほしこまかに粉にす 稀痘万金丹(きとうまんきんたん)  羌活(きやうかつ) 樺皮(くはひ) 茜根(せんこん) 栝蔞根(くわろうこん)牛蒡子(こぼうし)《割書:いる》 天麻(てんま)  連堯(れんぎやう)《割書:各十匁》麻黄根(まわうこん) 升麻(せうま)《割書:各十五匁》当帰(たうき) 芍(しやく)  薬(やく) 川芎(せんきう)《割書:各七匁》  右十二味水二升にて煎(せん)じ五合になりて布(ぬの)にてこし  かすを▢り火にかけせんじつめ飴(あめ)のごとくにし蜜(みつ)を  すこし加(くは)へて別(べち)に辰砂(しんしや)五匁 雄黄(ゆうわう)竜脳(りうのう)各五分 麝香(じやかう)  七分 全蝎(ぜんくわつ)十四 箇(こ)あぶり蝦蟇(がま)の黒焼(くろやき)一匁五分右六味細  かに粉にしてまへの薬汁にてねりむくろじの大さに  丸し気(き)のもれぬ器(うつわ)にいれをき毎年春分秋分の日一  丸つゝ酒に兎(うさぎ)の血(ち)を少しまぜあたゝめて服すれは痘(とう)  毒(どく)をげしてほうそうをやまず又疱瘡はやる時にも  用てよし痘毒 大便(だいべん)より下(くだ)りてやまずたとへやみても  軽(かる)し 兎紅丸(とこうぐわん)  辰砂(しんしや) 甘草(かんぞう) 六安茶(ろくあんちや)  右三味 等分(とうぶん)粉にして十二月八日 午(うま)の時に兎(うさぎ)の生血(いきち)  をとりねり合て梧桐子(きりのみ)の大さに丸し毎月三六九の  日一丸つゝ服すれはほうそうをまぬかる 兎血丸(とけつぐわん)  十二月八日 兎(うさぎ)の生血(いきち)をとり雄黄(ゆうわう)の粉五分そばこ少しかき  あはせ菉豆(ふんどう)の大さに丸しかげほしにして当歳(とうざい)の小児(せうに)には  二三丸 乳(ちゝ)汁にてもちゆ必(かなら)す惣身(そうみ)に紅点(あかきもの)を吹出(ふきいだ)す是(これ)其(その)  しるし也小児是を服すれは一生ほうそうをやます仮令(たとへ)  やむとても至て軽し歳長(せいちやう)するに至りつねに兎肉(うさきのにく)  を食すへし 竜鳳膏(りうほうこう)  頸(くび)に白きすじある蚯蚓(みゝづ)生なから一ツ捕(とら)へ烏鷄(くろにはとり)の卵(たまご)一ツ  ちさき穴(あな)をあけ其 蚯蚓(みゝづ)を卵(たまこ)の内(うち)へいれ厚(あつ)き紙(かみ)に  糊(のり)してそのあなをふさぎ飯(めし)のにへる上に置(をき)むして  たまこのかたまる比(ころ)とり出し殻(から)をさり蚯蚓をすて  卵(たまこ)の肉(にく)を小児に食せしむ毎年 立春(りつしゆん)の日一ツつゝ食す  れは一生疱瘡をやますまた疱瘡はゆる時にも食し  てよし 扁鵲三豆飲(へんじやくさんづいん)  菉豆(ぶんどう) 赤小豆(あづき) 黒大豆(くろまめ) 《割書:各一升》 甘屮(かんそう)のふし《割書:二両》  右四味水八升にて煮(に)て豆よく熟(じゆく)したるときこゝろに  まかせ食し汁(しる)ものむ小児七日もちゆれは疱瘡をまぬかれ  たとへ煩(わつら)ふても軽(かる)し一方に黄大豆(きなるまめ)白大豆(しろまめ)各一升かへ  て五豆飲(ごづいん)といふ 鯽魚方(せきぎよほう)  鯽魚(ふな)大小にかゝはらす鱗(うろこ)膓(わた)をさり水にてよくあらひ芫  荽 細(こま)かにきり塩(しほ)少しませふなの腹中(ふくちう)へいれ厚(あつ)き紙(かみ)  につゝみ灰火(はい)の中にいれむし熟(じゆく)しかみをさり小児に  食せしむ常(つね)に食すれは疱瘡をやまず其 鯽魚(ふな)の  鱗(うろこ)膓(わた)骨(ほね)等(とう)みな土中に埋(うづ)むへし 鼠肉方(そにくほう)  大なる雄鼠(おねづみ)皮(かは)毛(け)膓(わた)穢(きたなき)をさりよくあらひ酢(す)に塩(しほ)  少(すこ)しいれ煮爛(にたゞら)し小児に食さすへし但(たゞし)小児に見(み)せ聞(き)  かすへからす一方に砂仁(しやにん)に塩(しほ)少し加へ煮(に)るともあり 蝦蟇方(がまほう)  八月大なる蝦蟇(かへる)をとらへ頭(かしら)皮(かは)膓(わた)足(あし)をさり清(きよ)く洗(あら)ひ  胡麻(ごま)の油(あふら)にしほ少しませ鍋(なべ)にていりつけ骨(ほね)を去(さり)  小児に食せしむ凡(およそ)十四五 匹(ひき)も食すれは疱瘡をやまず 稀痘方(きとうほう)  牛黄(ごわう)《割書:一匁》蟾蜍(せんじよ)《割書:三分》辰砂(しんしや)《割書:七分》糸瓜蔕(へちまのほそ)《割書:蔕(ほそ)に近き所|五寸計きり》  《割書:くろやき|にして五匁》  右四味 細(こま)かに粉(こ)にして当歳の児は壱分 砂糖(さたう)にて調(とゝの)へ  服すかならずほうそうをまぬかる 又方  辰砂(しんしや)《割書:至てよろしきを|一匁すりこまかにす》麝香(しやかう)《割書:五厘》萞(とうの)【蓖?】麻子(ごまのみ)《割書:三十六粒からを去(さり)紙(かみ)|につゝみおして油を去》  右三味すり合せ糊(のり)のごとくにし新(あたら)しき筆(ふで)にて小児の  頂(いたゞき)顖(おどり)手(て)のうちうでくび足(あし)のうら腿(もゝ)の引かゝみに碁石(ごいし)  の大さ程(ほど)つゝぬり乾(かは)き落(おつ)るにまかせ必(かならす)あらひさるへ  からす但(たゝし)端午(たんご)の午(むま)の時(とき)に塗(ぬる)へし一年ぬれは疱瘡  出ても数十粒(すじうりう)なり二年ぬれは疱瘡一二 粒(りう)三年  塗(ぬ)れはかならすやまず此(この)方(ほう)を伝(つたふ)る家(いへ)十六代疱瘡  をやまずといふ 疱瘡やまさる法  生玳瑁(せうたいまい) 犀角(さいかく)  右二味同しくすり粉にしてつねに小児にもちゆ 又方  小児生れ臍(ほそ)の蔕(を)落(おち)たるとき黒焼(くろやき)にし五分 辰砂(しんしや)  二分五厘いつれも細かに粉にして別(べち)に生地黄(せうぢわう)当帰(たうき)等分(とうぶん)  水にてこくせんじ飲汁(のみしる)にしてまへの粉薬を服す小  児かならす大便(だいべん)に汚穢(をゑ)の物(もの)を下し一生(いつせう)疱瘡をやまず 又方  小児初て生れしとき生地黄(せうちわう)の自然汁(しぼりしる)を蜆貝(しゝみかい)に二  三 盃(ばい)ほど飲(のま)すれはあしきものを下してほうそうを  やまず 又方  白鴿(しろはと)羽(はね)毛(け)膓(わた)をさり節分(せつぶん)の夜(よ)に煮(に)て小児に食せ  しむ羽(はね)毛(け)は水にてせんし惣身(そうみ)をあらふべし 又方  鶴(つる)の卵(たまご)水にて煮(に)て小児に食せしむ 又方  白水牛(しろすいぎう)の蝨(しらみ)あぶりすりひねりて餅(もち)のごとくにして  食せしむ 又方  葵根(あふひのね)水に煮(に)て小児に食せしむ 又方  兎(うさぎ)の頭(かしら)節分の夜水にてせんじ小児を浴(よく)すればほう  そうをやまず 又方  糸瓜蔓(へちまのつる)せつぶんの夜水にてせんじ小児を浴す  れは疱瘡をやます 滌穢免痘湯(できゑぶんとうたう)  五六月の比へちまのつるをとりかげぼしにし二両  半正月元日の子のとき両親(ふたおや)の中(うち)一人ほかの人にしら  せず水にてせんじ小児の惣身(そうみ)をあらへば一生ほうそう  をやまずもしやみてもまた軽し 胡蘆花湯(ころくわたう)  八月 胡蘆花(ころのはな)をとりかげほしにし節分の夜水にて  せんじ小児を浴すかならずほうそうをまぬかる 又方  六月上の伏日(ふくじつ)胡蘆(ころ)の嫩蔓(めだしのつる)数(す)十 根(こん)とりてかげほし  にし正月元日の五更(ごこう)に人にしらせざるやうに水にて  せんじ小児を浴す 烏魚湯(うぎよたう)  七星(くろ)大 烏魚(ごい)《割書:一名黒魚一名烏鯉魚|一名鱧魚一名蠡魚》一尾小ならば二三尾  十二月晦日の暮合比に水にてせんし小児を浴す惣身  ことくるみあらふへしなまぐささを嫌(きら)ふてそのあとを  湯水にてあらふべからす或(あるひ)は信(しん)ぜず一手(いつしゆ)又は一足(いつそく)をと  めてあらはざれば其所にほうそうおほく出づといふ 苦楝子湯(くれんしたう)  苦楝子(せんだんのみ)をとり水にてせんじ折々小児をあらへばほう  そうをやまず 稀豆如神散(きとうじよしんさん)  糸瓜(へちま) 升麻(せうま) 芍薬(しやくやく)《割書:酒をそゝき|いる》山査肉(さんざにく) 犀角(さいかく)  甘草(かんそう) 赤小豆(あづき) 黒大豆(くろまめ)  右八味等分にし一ふくに二 銭(せん)水一 椀(わん)せんじて六分に  なりて渣(かす)をさり折々服す但(たゝし)児(こ)▢【「の」か】大小をはかりて  加減(かげん)してもちゆへし 甘草散(かんそうさん)  甘屮(かんそう)あぶり粉にして毎日(まいにち)食後(しよくご)に五分つゝさゆにて用(もちゆ)  ゆれば痘毒(とうどく)を消(け)しほうそう至てかるし 稀痘保嬰丹(きとうほうゑいたん)  纏豆藤(てんづたう)《割書:かげ|ほし》 紫艸茸(しそうじやう)《割書:▢をつみ酒にて|あらふ各四両》牛房子(ごぼうし)《割書:いる》  荊芥穂(けいがいずい) 升麻(せうま) 甘草(かんそう) 防風(ぼうふう)《割書:各二両》 天竺黄(てんじくわう)  蟾蜍(せんじよ) 牛黄(ごわう)《割書:各一匁|二分》 辰砂(しんしや)《割書:三匁》 赤小豆(あづき) 菉豆(ぶんとう) 黒(くろ)  大豆(まめ) 《割書:各四十|▢粒》  右十四味こまかに粉にして別(べち)に紫屮(しそう)三両水三 椀(わん)にて煎  じつめ半椀になりて布(ぬの)にてこしかすをさり砂糖(さたう)  半椀いれかきまぜ十四味の粉薬をいれねり赤小豆の  大に丸し辰砂をころもにかけ疱瘡いまだ出ざる時  に一丸 濃(こく)煎(せんじたる)の甘屮湯(かんそうたう)にてもちゆ大人は二丸又 発熱(ねつ)  のときならば生姜(せうが)の絞(しぼ)り汁(しる)にすりまぜ服すあつく  衣服(いふく)を着(き)て汗(あせ)を出すへし但おほ▢服すべからず 預防湯(よぼうとう)  黄蓮(わうれん)《割書:一匁|一分》 犀角(さいかく) 牛房子(ごぼうし) 苦参(くしん) 山豆根(さんづこん)《割書:各一匁》  密蒙花(みつもうくわ)《割書:八分》 升麻(せうま)《割書:一分》 紅花子(へにばなのみ)《割書:十粒する》  右八味水にてせんじほうそういまだ出さるとき服すれば  至て軽(かる)しおもきものはかるく軽(かる)きものはやまず 六味稀豆飲(ろくみきとういん)  山査子(さんざし) 牛房子(こぼうし) 紫草(しそう)《割書:各一匁》 防風(ぼうふう) 荊芥(けいがい)  《割書:各一匁|五分》 甘【振り仮名「かん」か】草(そう)《割書:五分》  右六味 生姜(せうが)三片水二 椀(わん)せんじて一椀にし発痘(はつとう)  のとき服すれば至て軽(かる)し 消瘟飲(せうこんいん)  当帰(たうき) 川芎(せんきう) 桔梗(きゝやう) 陳皮(ちんひ) 枸(く)▢(こ)【「杞」か】《割書:各五分》 木通(もくつう)  白芍薬(はくしやくやく)《割書:各六分》 防風(ほうふう)《割書:四分》 黄連(わうれん)《割書:姜汁にている|一匁》  荊芥穂(けいがいずい) 升麻(せうま) 天花粉(てんくわふん) 青皮(せうひ) 甘草(かんそう)《割書:各三分》  紅花子(べにばなのみ)《割書:二匁》  各十五味生姜入水にてせんしほうそう発(はつ)する時 空(すき)  腹(はら)に服すれは重きは軽くかるきはやまず 稀豆獣験丹(きとうじうけんたん)  生兎皮(いきたるうさきかわ)をはぎさり頭(かしら)と肉(にく)とをとり塩(しほ)にし日に乾(かわか)し  茵蔯蒿(いんちん▢)連堯(れんぎやう)各三匁とおなじく水にて煮(に)熟(じゆく)し汁を  とり小児の大小をはかりてのましむ痘毒(とうどく)をけしおもき  はかるく軽(かる)きはやます 三花丹(さんくわたん)  梅花(むめのはな) ▢(もくの)【「棰」か】花(はな) 梨花(なしのはな)  右三花ともにひらきたるといまた開(ひら)かざると盛(さかり)に  ひらきたるとみなかげぼしにして等分 細(こま)かに粉にし  兎(うさぎ)の脳(のう)にてねり丸し雄黄(ゆうわう)の粉をころもにし菉豆(ぶんとう)  赤小豆(あづき)黒大豆(くろまめ)等分(とうぶん)のせんじゆにてほうそう出んと  するときもちゆれは必(かなら)すかるし 預服万霊丹(よぶくまんれいたん)  升麻(せうま) 葛根(かつこん) 連堯(れんきやう) 蝉脱(せんだつ) 殭蚕(きやうさん)《割書:いり糸|をさる》 白附(はくふ)  子(し)《割書:各三匁》   紫草茸(しそうじyう)《割書:十匁》  山豆根(さんづこん)《割書:五匁》  全蝎(ぜんかつ)《割書:十箇》   雄黄(ゆうわう)《割書: 一匁|五分》  麝香(じやこう) 《割書:一匁》  甘草(かんぞう)《割書:五分》  右十二味細かに粉にして 蟾蜍(せんじよ) 一匁 古酒(こしゆ) にて煮(に)つめ蜜  のごとくにして粉薬をねり 皂角子(さいかちのみ) の大に丸し疱  瘡 初熱(しよねつ) のとき一丸 紫草(しそう) のせんじゆにて用ゆれば至て  かるし 密調辰砂丹(みつてうしんしやたん)    辰砂(しんしや) こまかにすり 磁石(じしやく) 一塊(ひとかたまり) とおなしくいり辰砂(しんしや)の色(いろ)  黒(くろ)くなるころ磁石(じしやく)をとり去(さり)辰砂ばかり又すり粉  にして少しつゝ蜜にてねりほうそうの出んとするとき  用ゆればかるし 白牛毛散(はくぎうもうさん)  純白牛毛(まじりなきしろうしのけ)《割書:五匁銀の皿にていり|灰にし粉にす》 辰砂(しんしや)《割書:二匁すり|▢にす》 糸瓜蔕(へちまのほそ)  《割書:ほそにちかき所▢寸あふり|すり粉にす三匁》  右▢味かきませ疱瘡出んとする早朝(あさ)さゆにてもちゆ  ▢▢至は蜜湯にて用るもよし出痘(しゆつとう)至てかるし 軽斑散(けいはんさん)《割書:一名消瘟丹》  糸瓜(へちま)《割書:蔕(ほそ)にちかき所三寸皮子さらす|黒やきにしてこまかに粉にす》 辰砂(しんしや)《割書:すり粉にす|三分》  右二味かき合せ砂糖あるひは蜜にねりてほうそう  いまだ出ざるとき服すれは至てかるし 西来甘露飲(せいらいかんろいん)  九月中 霜降(そうがう)の後(のち)三日めに糸瓜藤根(へちまのくきね)に近(ちか)き二寸  ばかりの所(ところ)をきりとり倒(さかさま)にか▢下に皿(さら)をうけて汁  をとりびいどろつほに収(おさ)めたくはへ疱瘡いまだ  出さるとき茜根(せんこん)一両水にてこくせんじ前のへちま  の汁を等分まぜて小児に飲(のま)しむ▢【「れ」か】は疱瘡至てかるし 麻油擦法(まゆらほう)  疱瘡まさに発(はつ)せんとするとき手(て)の中(なか)の三指(みつのゆび)に胡麻(ごま)  のあぶらをぬりて小児の頭(かしら)額(ひたい)頂背こし両の手腕(てくび)  両の足腕(あしくび)にぬり睡(ねむ)らしむほうそう至てかるし 雨夜談《割書:畢》  享和三年癸亥季冬発兌 ▢肆     名古屋本町七丁目           永楽屋東四郎梓 【裏表紙】