《題:疱瘡能毒記》 《題:疱瘡能毒記》  疱瘡能毒記(ほうさうのうどくき) 一 疱瘡(ほうさう)の療治(りやうじ)は三日ツヽ先(さき)の事(こと)を考(かんが)へて はやく其(その)手(て)あてせぬと間(ま)に合(あは)ぬものなり しかるに素人(しろうと)はいまだ変(へん)の出(で)ぬうちは落(おち) つき居(ゐ)て潅膿(ほんうみ)の頃(ころ)になり変(へん)を見て急(きう) に躁立(さはぎたち)医者(いしや)を吟味(ぎんみ)するゆへ良医(よきい)も是を 治(ぢ)する事 難(かた)し古(ふる)き言葉(ことば)にも上工(じやうず)は未(いま)だ 病(やま)ぬを治(ぢ)するといへり真(まこと)の軽(かろき)重(おもき)は素人(しろうと) の目(め)には見(み)ゆるものにあらず只(たゞ)かろきほう さうも大切(たいせつ)に手(て)あてするにしくはなし    避忌(さけいみ) 一 腋臭(わきが)ある人  一 父母(ふぼ)房事(ばうじ) 一 屍(しかばね)のにほひ  一 厠(かはや)のさうじ 一 腥(なまぐさき)にほひ  一 酒(さけ)に酔(ゑひ)たる臭 一 諸(もろ〳〵)瘡(かさ)膿(うみ)の臭  一 焼火(ともしび)を吹(ふき)けすにほひ 一 蚊(か) やり 香  一 髪(かみ)の毛(け)を焼(やく)にほひ 一 葱(ねぎ)蒜(にんにく)韮(にら)等の香  一 労力汗(ほねをりあせ)いづる気 一 髪(かみ)ゆふにほひ  一 忌服(いみぶく)ある人 一 産(さん)けがれの人  一 見(み)しらぬ人 一 異形(いぎやう)の人  一 月経(つきやく)の婦人(をんな)   若(もし)その母(はゝ)乳母(うば)月経のときはこごしを   焼(やき)てさくべし 一 葬送(さう〳〵)産(さん)の場(ば)へ立合し人  一 泣(なき)かなしむ声(こへ) 一 怒(いか)り罵(のゝし)る声(こへ)  一 大(おほ) 声(こへ) 一 見(み)なれぬ怪物(くわいぶつ) 一 臭(にほひ)高(たか)きもの 一 僧(さう)山伏(やまぶし)等 其間(そのま)にて祈祷(きとう)する事 一 室(しつ)の内掃除(うちさうじ)  一 人 出入(でいり)多(おゝ)き所 一 鳥(とり)獣(けだもの)をあつめ見せる㕝 一 酒宴(さかもり)三味線(さみせん)太皷(たいこ)等さはがしき㕝 一 祈祷(きとう)まじなひの法水(ほふみづ)をのます事  右 避(さけ)忌(いむ)べきなり若(もし)みだりに犯(おか)せば或(あるひ)は  かゆみを発(はつ)し或(あるひ)はさはがしく眠(ねむ)り  かね或は何(なん)となく気分(きぶん)むつかしく思(おも)ひ  よらぬ変(へん)出(いづ)る事あり   食(くふ)てあしき物(もの) 一わらび  一ぜんまい  一なすび 一まくは瓜(うり)  一すいくわ  一きうり 一も ゝ  一なし《割書:実ねつ|にはよし》  一か き 一く り  一とう瓜《割書:十日| 忌》  一かぼちや 一さゝげ《割書:十日| 忌》  一くわい《割書:十二日|  忌》  一くるみ《割書:同》 一きんかん  一 九年(くねん)ぼ  一ちさ《割書:十五日|  忌》 一しゆんきく《割書:十日いむ》  一ほうれんさう 一とうちさ  一せり  一みつば 一よめな《割書:十五日|  忌》  一かぶな《割書:十二日|  忌》  一えんどん豆(まめ)《割書:同》 一なた豆(まめ)《割書:同》  一そら豆《割書:同》  一あづき《割書:十日| 忌》 一いり豆  一わかめ  一あらめ 一ひじき  一こんぶ《割書:十二日|  忌》  一こんにやく 一さといも  一 竹(たけ)の(の)子(こ)《割書:七日まへにもちゆる|      病あり》 一木のこるい  一 海(の) 苔(り)  一ご ま 一 惣(すべ)て油(あぶら)つよき物  一 餅(もち)米《割書:ほんうみ中は|   よろし》 一あ わ  一 酒(さけ)  一 白(しろ)さけ 一 酢(す)  一 茶(ちや)  一さとう 一 小 麦(むぎ)  一 鯛(たい)《割書:みづうみほんうみの内は|        よし 》 一 鯉(こい)《割書:十五日忌》  一ふな《割書:同》  一かつほ 一まぐろ  一いわし  一ひらめ《割書:廿一日|  忌》 一すゞき  一ぼ ら  一しら魚(うを) 一あじ  一い な  一た ら 一うなぎ《割書:十五日|  忌》  一かれい  一ま す 一なまず  一た こ  一い か 一あ ゆ  一とびうを  一たなこ 一にしん  一ぶ り  一かづの子 一え び  一このしろ  一 石(いし)もち《割書:十日| 忌》 一はまぐり《割書:卅日| 忌》  一しゞみ《割書:同》  一あか貝(がい)《割書:十五日|  忌》 一さゞゐ  一あさり  一 鳥(とり)るい 一 獸(けだもの)るい  右 軽(かろ)き品(しな)は五十日 次(つぎ)は七十五日 重(おも)き品は  百日いむしかれども余毒(よどく)ある者は軽(かろ)き  品(しな)も癒(いへ)ざる内は忌(いむ)べし又 潅膿(ほんうみ)収靨(かせ)  の頃(ころ)溘(にはか)【?】に熱(ねつ)出て渇(かは)きしきりに湯水(ゆみづ)  薬(くすり)のわかちなく飲(のむ)ものあり油断(ゆだん)すべ  からすかならず大 変(へん)おこるべし薬  乳(ちゝ)の外 決(けつ)して与(あた)ふる事なかれもし  止(やむ)事を得(え)ざるときはこき粥(かゆ)のおもゆを  少(すこ)しつゝあたへ急(きふ)に良医(よきい) ̄ニ托(たく)すべし   食(くふ)を宜(よろ)しき物 一ゆりの根(ね)  一はすの根  一ふ き 一にんじん  一大こん  一う ど 一山のいも  一つくねいも  一むかご 一さつまいも  一いんげん《割書:少々》  一くこのめ 一ごぼう《割書:少々》  一うこぎ  一やへなり 一たんぽゝ  一めうが《割書:生は| 忌》  一かたくり 一く ず  一けし  一みかん《割書:あたゝ|  めて| よし》 一ぶどう《割書:くだるものには|      忌》  一いわたけ 一かんぴやう  一 梅(むめ)ぼし《割書:よく煮出して|    よし》 一ふ  一とうふ《割書:焼とう|  ふは| 忌》  一子まめ《割書:少々》 一 古(ふる)たくあん漬  一あまざけ  一ようかん《割書:ほんうみ水| うみの内|    忌》 一 鰔魚(さより)  一きすご  一ほ▢じ 一かながしら  一いさき  一は ぜ 一あいなめ  一もうを  一 赤(あか)めばる 一こ ち  一きんこ  一あわび 一か き  一 玉子(たまご)《割書:余(よ)どくあるものは|       忌》  右 何(いづ)れもよく煮熟(にじゆく)して食(しよく)す大概(たいがい)生(なま)  の物はよろしからず惣(さう)じて過(すぎ)ぬやうに  あたへ別(べつ)して魚類(ぎよるい)は少しつゝ食(しよく)すべし  痘後にいたりても猶(なを)慎(つゝ)しむべし 疱瘡(ほうさう)は看病(かんびやう)が第一也わづか日数(ひかず)のしれ たる病(やまひ)なればおもきは勿論(もちろん)たとへかろき とても随分(ずいぶん)大切(たいせつ)にすべし痘のかず 少きに難症(なんしやう)あり数(かず)多(おゝ)きに順症(じゆんしやう)あり 古人(こじん)も順(じゆん)は多(おほ)きをいとわず逆(ぎやく)は一点(いつてん)を きらふといへり一 生(しやう)に一 度(ど)の病(やまひ)なれ ば後悔(こうくわい)せぬやうに念(ねん)を入べし世間(せけん)に 療治(りやうじ)ちがひと看病人(かんびやうにん)の不心得(ふこゝろへ)にて 死(し)する者(もの)多(おゝ)ししかれども病家(びやうか)その 手(て)あてのあしき事をしらず皆(みな)天命(てんめい)と いふといへども未(いま)だはじめより其痘に 的中(よくあたる)の薬も用(もち)ひず麤忽(そこつ)なる看病(かんびやう)し て死(し)たる者(もの)是も天命(てんめい)とはいひがた かるべし        北久宝寺町四丁目    浪華     平岡氏 【裏表紙】