【表紙】 天文【赤字 手書き】 居処【赤字 手書き】 【題簽】 《題:《割書:増補|頭書》訓蒙図彙大成 二》 【右丁】   十冊之内 【左丁】 《題:頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻之(くはんの)一》       天文(てんぶん)《割書:此部(このぶ)には日月(じつげつ)星辰(せいしん)雨露(うろ)霜雪(さうせつ)のたぐひあり|日月(じつげつ)星辰(せいしん)は天(てん)の文章(ふんしやう)なれば也 易(ゑきに)曰 仰(あふひで)見(みる)_二於 天文(てんぶんを)_一》 【上段】   両儀(りやうぎ) 天地(てんち)開辟(かいひやく)のときかるくして 清(すめ)るはのぼりて天(てん)となりおもく してにごるはくだりて地(ち)となる 天(てん)を陽(やう)とし地(ち)を陰(ゐん)とす陰(ゐん) 陽(やう)を両儀(りやうぎ)といふなり ○七政(しちせい)とは日月(じつげつ)と五 星(せい)を合(あは)せ ていふ又は七 曜(よう)ともいふなり 日月五 星(せい)天(てん)の政(まつりこと)をなすなり 木星(もくせい)を歳星(さいせい)といひ火星(くはせい)を熒(けい) 惑(こく)といひ土星(どせい)を鎮星(ちんせい)と云 金(きん) 星(せい)を太白(たいはく)といひ水星(すいせい)を辰星(しんせい) 【下段図】 両儀(りやうぎ) 【左に】 日(じつ) 月(がつ) 木星(もくせい) 火星(くはせい) 土星(とせい) 金星(きんせい) 水星(すいせい) 【右丁上段】 といふ木火土金水(もくくはどごんすい)の五 行(きやう)の 星(ほし)めぐりて陰陽(いんやう)をなし歳(とし) をわす此(この)五 星(せい)を五 緯(い)ともいふ ○太極(たいきよく)は天地(てんち)いまたわかれず 陰陽(いんやう)わかれざるとき渾沌(まろがれ)たる 事 鶏子(とりのこ)のごとし溟涬(くゞもり)て牙(きざし) をふくめりこれを鴻毛(こうもう)の未判(びはん) といふ其(その)清陽(すみあきらか)なるものは薄(たな) 靡(びき)て天(あめ)となり重濁(おもくにごる)ものは淹(とゞ) 滞(こほり)て地(つち)となるこゝにおゐて天(てん) 地開闢(ちかいひやく)して其間(そのあいだ)に万物(ばんぶつ)生(しやう)ず 開闢(かいひやく)以前(いぜん)を太極(たいきよく)といひ天地(てんち) 陰陽(いんやう)わかれたるを両儀(りやうぎ)といふ ○国常立尊(くにとこだちのみこと)は天地(てんち)既(すで)にわかれ て其中(そのなか)に物(もの)ありかたち葦牙(あしがい) 【左丁上段】 のごとし則(すなはち)化(くは)して神(かみ)となる これを国常立尊(くにとこたちのみこと)といふ人の 始(はじめ)なり日本(につほん)を芦原国(あしはらごく)といふも 此義(このぎ)なり是(これ)より天神(てんじん)七 代(だい)地(ぢ) 神(じん)五 代(だい)あひつゝきて人の代(よ)と なれり唐(もろこし)にては天地開闢(てんちかいひやく)し て盤古氏(ばんこし)はじめて出(いづ)是(これ)人の 始(はじめ)なりこれより三 皇(くはう)五 帝(てい)三 王(わう) とつゞきて人の代(よ)となる ○倭(やまと)は日本(につほん)を倭(やまと)と号(なづく)る事 天(てん) 地開闢(ちかいひやく)の後(のち)は地(ち)は皆(みな)山(やま)にして平(たいら) なし人の代(よ)となりて山(やま)をひら き平地(へいち)となして住(すめ)りよつて 日本(につほん)を山跡(やまあと)といふ義(ぎ)をもつて 倭国(やまとごく)とはいふなり 【右丁下段挿絵】 大極(たいきよく) 国常立(くにとこだち) 倭国(わこく) 【左丁下段挿絵】 唐土(たうど)《割書:もろこし|》 盤古氏(はんこし) 【右丁上段】 ○秋津洲(あきつす)というは 人皇(にんわう)のはじまりを 神武皇帝(しんむくはうてい)と申 奉(たてまつ)る即位(そくゐ)三十一年 四月 帝(みかど)諸国(しよこく)に幸(みゆき) ましまし日本(につほん)の地(ち) 形(きやう)蜻蛉(あきつむし)に似(に)たるを もつて秋津州(あきつす)と 名(な)づけたまふ ○それ日本国(につほんごく)は唐(もろこし) 中華(ちうくは)の地(ち)より東(ひがし)に あたるゆへに日東(につとう)と も扶桑国(ふさうごく)ともいふ 又 須弥山(しゆみせん)の南(みなみ)にあ たるゆへに南瞻部(なんせんぶ) 【左丁上段】 州(しう)ともいふ用明天皇(ようめいてんわう) のとき五 畿(き)七 道(とう)を さだめ給ふ文武天皇(もんむてんわう) の御代(みよ)に六十六ヶ国(こく) にわかちて諸国(しよこく)に守(しゆ) 護(ご)をすへ東武(とうぶ)に将(しやう) 軍(ぐん)ありて諸国(しよこく)を守(しゆ) 護(ご)せしめ西京(せいきやう)中国(ちうごく)に 天子(てんし)の都(みやこ)をかまへた まひぬ田地(てんち)の数(かず)凡(すべて) 九十四万七千八百一町 米高(こめだか)弐千弐百八 万五千四百八十弐 石なりとそ 【下段挿絵】 【四辺に】 東西南北 【上辺】 小人島 秋津洲(あきつす) よし島 日本国(につほんごく) 又 倭国(わこく) 朝鮮国(てうせんごく) 【右丁下段挿絵右から左へ】 日本(につほん)六十四 州(しう)   外に二 州(しう) ゑぞがしま     女護島(によごのしま)     松前(まつまへ) 松島    陸奥(むつ) 常陸(ひたち) 下総(しもふさ) 上総(かづさ) 安房(あわ) 出羽(では) 下野(しもつけ) 武蔵(むさし) 相摸(さがみ) 伊豆(いづ) いをしま 大島 みやけじま 八丈島 あをしま 上野(かうづけ) 甲斐(かひ) 駿河(するが) 佐渡(さど) 越後(ゑちご) 信濃(しなの) 遠江(とを〳〵み) 三河(みかは) 尾張(をばり) 越中(ゑつちう) 飛弾(ひだ) 美濃(みの) 伊勢(いせ) 志摩(しま) 能登(のと) 加賀(かゞ) 越前(ゑちぜん) 近江(あふみ) 伊賀(いが) 若狭(わかさ) 山城(やましろ) 大和(やまと) 河内(かはち) 紀伊(きい) 【左丁下段挿絵右から左へ】 丹後(たんご) 丹波(たんば) 摂津(せつつ) 和泉(いづみ) 但馬(たじま) 播磨(はりま) 淡路(あはぢ) 因幡(いなば) 美作(みまさか) 備前(びぜん) 伯耆(はうき) 備中(びつちう) 讃岐(さぬき) 阿波(あは) 出雲(いづも) 備後(びんご) 八島 伊予(いよ) 土佐(とさ) 隠岐(をき) 石見(いはみ) 安芸(あき) いわき 長門(ながと) 周防(すはう) 上関  豊前(ぶぜん) 豊後(ぶんご) 日向(ひうが) 大隅(おほすみ) 対馬(つしま) 壱岐(いき) 大島 筑前(ちくぜん) 筑後(ちくご) 肥後(ひご) 薩摩(さつま) 五島(ごとう) 肥前(ひぜん) 平戸 琉球国(りうきうごく) 【右丁上段】 ○日(ひ)は陽(やう)の精(せい)なり空虚(くうきよ)にして かたどりがたしよつて烏(からす)をもつて日 の形(かたち)とす陽鳥(やうてう)なればなり三 足(そく)と するは陽数(やうすう)のこゝろなり ○月(つき)は陰(いん)の精(せい)なり空虚(くうきよ)にして かたどりがたしよつて兔(うさぎ)をもつて月 の形(かたち)とす兔(うさぎ)は陰(いん)の獣(けだもの)なればなり 白兔(はくと)陰(いん)の色(いろ)なり ○北辰(ほくしん)は北極(ほくきよく)ともいふ天(てん)の枢(くろゝ)【注①】なり 一周(いつしう)天のめぐる事 此(この)北辰(ほくしん)を枢(くろゝ)か なめとしてめぐるなり北(きた)に位(くらい)して 諸(もろ〳〵)の星(ほし)これにむかふ也 北辰(ほくしん)の座(ざ)に 七 星(せい)あり四 星(せい)あり ○列宿(れつしゆく)此星(このほし)天(てん)の東西南北(とうざいなんぼく)に位(くらい) して四 方(はう)各(おの〳〵)七 星(せい)づゝなり合(あわせ)て二十 八 宿(しゆく)なり是(これ)を三十日にくばりて 毎日(まいにち)をつかさとるなり 【左丁上段】 ○晦(くわい)毎月(まいけつ)大なれば三十日小な れば二十九日を晦(くわい)といふ月 地下(ちか)に かくれて光(ひかり)なしよつて晦(くわい)の字(じ) をくらしとよむなり昏晦(こんくわい)暗晦(あんくわい) のこゝろなり ○朔(さく)は蘇(そ)なりよみがへるとよむ月 は十五日より晦日(つもごり)【注②】までにかけつきて 又 朔日(ついたち)よりよみがへりてはじめて 明(めい)を生(しやう)ずるといふ義(ぎ)にて朔(さく)といふ ○弦(けん)は上十五日を上弦(しやうげん)といひ下十 五日を下弦(げげん)といふ上 弦(げん)は西(にし)の方 下弦(げげん)は東(ひがし)の方(はう)なり上 弦(げん)は七日 八日九日下 弦(げん)は廿二日廿三日廿四日 にあり月の光(ひかり)よこにあり ○望(ばう)は十五日の事なり十五日は 日月 東西(とうさい)にあひ望(のぞ)むゆへに望(ばう) といふ又もち月ともいふなり日 【注① 「くろろ」は「くるる」の変化した語。】 【注② 「つもごり」は「つごもり」の変化した語。】 【右丁下段挿絵上部】 日(じつ)【左ルビ:にち】《割書:ひ|》 景(けい)《割書:ひ| かげ》  晷(き)《割書:同|》 北辰(ほくしん)  紉星(ちうせい)  四輔(しほ) 月(げつ)【左ルビ:くわつ】《割書:つき|》  月は日の  ひかりを  うく  てらさ  ざる  所を  魄(はく)といふ 【右丁下段挿絵下部】 列宿(れつしゆく)【横並び】   列(れつ)はつらなるとよむ二十八 星(せい)列座(れつざ)しつらなる也   宿(しゆく)は左伝(さでん)に音秀(おんしう)とよめり座(ざ)なり。 角(かく)《割書:東方|》 亢(かう) 氐(てい) 房(ばう) 心(しん) 尾(び) 箕(き) 斗(と)《割書:南方|》 牛(ぎう) 女(ぢよ) 虚(きよ) 危(き) 室(しつ) 壁(へき) 奎(けい)《割書:西方|》 婁(ろう) 胃(い) 昴(ばう) 畢(ひつ) 觜(し) 参(しん) 井(せい)《割書:北方|》 鬼(き) 柳(りう) 星(せい) 張(ちやう) 翼(よく) 軫(しん) 【左丁下段挿絵、日「太陽」と月が書かれていて月の満ち欠けの原理を示している】 晦(くわい)《割書:つごもり》  朔(さく)《割書:ついたち》    日        日 弦(けん)《割書:ゆみはり》  望(ばう)《割書:もちづき》  上弦 日入  下弦 日出          日 【右丁上段】 月 相対(あひたい)して月の光(ひかり)地(ち)の方(はう)に有 て天(てん)になし故(ゆへ)に満月(まんげつ)なり ○日蝕(につしよく)は日月 天(てん)に有て日(ひ)は上(かみ) なり月は下(しも)なり朔日(ついたち)は日月の 会(くわい)なり日月 上下(しやうか)にありて道(みち)を 同(おなしう)して会(くわい)すれば地(ち)より見(み)るとき は日は月のためにおほはる是(これ)を日蝕(につしよく) といふなり ○月蝕(くはつしよく)は月はもと光(ひかり)なし日の 光(ひかり)を受(うけ)て明(あきらか)なるものなり日月 道(みち)を同(おなじう)して相(あひ)むかふ地(ち)は月にあた るゆへに日の光(ひかり)地(ち)に遮(さへきつて)る【而ヵ】月蝕(ぐはつしよく)す ○星(ほし)は陽精(やうせい)なり陽精(やうせい)日(ひ)となる 日わかれて星(ほし)となる故(ゆへ)に日(ひ)生(しやうず) とかきて星(ほし)とよむ ○斗(と)は北斗(ほくと)なり七 星(せい)有一二三四 を魁(くわい)とし五六七を杓(ひやう)とす揺光(ようくわう)は 【左丁上段】 破軍星(はぐんせい)なり輔星(ほせい)はそへぼし也 ○参星(しんせい)は西方(さいはう)七 宿(しゆく)の一なり俗(ぞく) に是(これ)をからすきぼしといふ也 星(ほし)の列座(れつざ)からすきに似(に)たり ○昴星(ばうせい)は西方(さいはう)の一 宿(しゆく)なり旄(はう) 頭星(とうせい)ともいふ俗(ぞく)にすばる星(ぼし)と いふ是(これ)なり星(ほし)の列座(れつざ)間(あひ)せまく してすばりたり ○牽牛(けんぎう)は星(ほし)の名(な)おたなばたなり ひこぼしともいふ又 河鼓星(かこせい)とも いふ七月七日 織女(しよくぢよ)牽牛(けんぎう)に嫁(か)す と桂陽(けいやう)の武丁(ぶてい)といふ仙人(せんにん)がいひし より七夕(たなはた)といふ事 始(はじま)れり ○織女(しよくぢよ)は星(ほし)の名(な)めたなばたなり 七月七夕 瓜菓(くは〳〵)を庭上(ていしやう)にそなへ五 色(しき)の糸(いと)を竿(さほ)に掛(かけ)て願(ねか)ふことをいのる に三 年(ねん)の内(うち)に必(かならず)かなふと也 是(これ)を乞(きつ) 【右丁下段挿絵】 日蝕(につしよく)《割書:むしばむ|》    月蝕(ぐわつしよく)《割書:むしばむ|》   月         地影  地  日 星(せい)《割書:ほし|》  日月 星(せい)を三 光(くわう)  といふ  ほしのひかりを芒(ほう)と  いふ流星《割書:りうせい|》  よばいぼし 斗(と)【北斗七星】  枢(すう) 璇(せん) 璣(き) 権(けん) 玉衝(ぎよくかう) 開陽(かいよう) 揺光(ようくわう) 輔星(ほせい)【「輔星」は開陽ミザールの伴星アルコル】 参(しん)《割書:からすき|  ぼし》【オリオン座の三ツ星】 【左丁下段挿絵】 織女(しよくぢよ)《割書:たな| ばた|  づめ》 天漢(てんかん)  《割書:あまの| がは》 牽牛(けんぎう)  《割書:ひこ| ぼし》 昴(はう)《割書:すばる| ぼし》 孛(はい)  《割書:ぼつせい|》 彗(せい)【左ルビ:ずい】  《割書:はゝき| ぼし》 【右丁上段】 巧奠(こうでん)とも七夕祭(たなはたまつり)ともいふ ○天漢(あまのかわ)は天河(てんか)とも銀河(きんか)ともいふ七夕 に烏鵲(うじやく)翼(つはさ)をのべて橋(はし)とし此河(このかは)を渡(わた)し 牽牛(けんぎう)織女(しよくぢよ)の二 星(せい)あひ合(あふ)といへり ○孛星(ほつせい)は妖星(ようせい)なり此星(このほし)出(いづ)るとき は旧(ふるき)をのぞきて新(あたらしき)に改(あらため)又は火災(くはさい)に たゝるの瑞(ずい)有 俗(ぞく)に是(これ)を御光星(ごくはうぼし)と云 ○彗星(はゝきぼし)は妖星(ようせい)なり色(いろ)青(あをき)は王候(わうこう)【侯の誤】死(しす) 赤(あかき)は強国(きやうこく)おこる白(しろき)は兵乱(へうらん)おこる天(てん)下 に災(わざはひ)あるときあらはるゝ星(ほし)なり ○太白星(たいはくせい)は金星(きんせい)なりあかぼしとな づく俗(ぞく)にあかつきの明星(みやうじやう)といふ日にさ きだちて出(いづ)るなり啓明(けいめい)ともいふ ○虚空(こくう)はそらともおほぞらとも よむ太虚(たいきよ)太空(たいくう)ともいふ天(てん)なり天は 円(まとか)にして空々(くう〳〵)として物(もの)なくかたち なしよつて虚空(こくう)となつく 【左丁上段】 ○霧(きり)は陰陽(いんやう)のみだれより生ず 地気(ちき)のぼつて天気(てんき)応(おふ)ぜざるを 霧(む)といふ天気(てんき)くだつて地気(ちき)応(おふ)せ さるを雺(ぼう)といふ風(かぜ)吹(ふい)て土(つち)をふら すを霾(つちふる)といふ ○煙(けふり)は火(ひ)の昇(のほ)る気なり烟(けふり)同し 又 水(みづ)より煙(けふり)いづる ○長庚(ゆふづく)は金星(きんせい)なり日(ひ)におくれ て入 是(これ)を長庚星(ちやうかうせい)といふ俗(ぞく)に是(これ) をよひの明星(みやうぜう)といふなり ○風(かぜ)は大塊(だいくわい)の噫気(あいき)なり陽(よう)の体(たい) にして散(さん)じて陰(いん)の用(よう)となる故(ゆへ)に 風(かぜ)吹(ふく)ときは土(つち)必(かならず)かはく又 旋風(せんふう)飊(へう) 風(ふう)はつじかぜ ○露(つゆ)は夜気(やき)露(つゆ)となる陰(いん)の液(ゑき)也 白虎通(びやくこつう)に露(つゆ)は霜(しも)の始(はじめ)なりと いへり露(つゆ)をばをくといふ降(ふる)とはいわず 【右丁下段挿絵】 太白(たいはく)  《割書:あか| ぼし》         霧(む)         《割書:きり|》 日出             煙(ゑん)              《割書:け| ふ|  り》 虚空(こくう)    《割書:そら|》 【左丁下段挿絵】 長庚(ちやうかう) 《割書:ゆふづく|》 入日       風(ふう)        《割書:かぜ|》        《割書:のわき|》            露(ろ)《割書:つゆ|》 【右丁上段】 ○雲(くも)は山川(さんせん)の気(き)なり地気(ちき)のぼ りて雲(くも)となり天気くだつて雨(あめ)と なるなり雲(くも)は陰(いん)の体(たい)なり昇(のぼり)て 陽(やう)の用(よう)となるみな雨湿(うしつ)の気(き)なり ○雨(あめ)は水(みづ)烝(むし)【蒸の誤】て雲(くも)となりくだつて 雨となるむらさめを暴雨(ばうう)といひ ながあめを霖雨(りんう)といひ夕(ゆふ)だちを 驟雨(しうう)といひ時雨(しくれ)を澍(しう)といふ ○雷(らい)は陰陽(いんよう)あひ激(げき)する声なり 王充(わうしう)論衡(ろんかう)といふ書(しよ)に雷(らい)の形は一人 の力士(りきし)ありて累々(るひ〳〵)たる連鼓(れんこ)を左(ひだり)に 持(もち)右(みぎ)の手(て)に鞭(むち)をもつてうちて声(こへ) をなすといへり ○電(いなびかり)は二月に有(あり)この月 陽気(ようき)漸(やうやく) さかんにして陰気(いんき)をうつその激(けき)す るひかりを電(でん)といふ俗(ぞく)にいなびかり いな妻といふ雷神(らいじん)を電母(でんぼ)といふ 【左丁上段】 ○暈(うん)は日月のかたはらの気(き) なりかさといふ日 暈(かさ)あるとき はひでりし月 暈(かさ)あるときは 三日のうちに雨(あめ)ふるといへり ○雪(ゆき)は雨(あめ)こりて雪となる天地(てんち) の積陰(せきいん)あたゝかなるときは雨と なりさむきときは雪(ゆき)となる 花をなすを雪(ゆき)といひ円(まとか)なる を雹(あられ)といふ又 銀花(ぎんくは)とも六出(りくすい) 花(くは)とも銀屑(ぎんせつ)ともいふ ○氷(こほり)は陰気(いんき)のあつまるところ もれざるときはむすぼふれて 冰(こほり)となる氷(へう)と書(かく)はあやまり也 冰(へう)と書べし冰(こほり)つもれるを凌(れう)と いふ冰(こほり)さかんなるを凍(とう)といふ冰 ながるゝを凘(し)といふ冰(こほり)とくるを泮(はん) といふ氷室(へうしつ)はひむろなり 【右丁下段挿絵】  雲(うん)《割書:くも|》        雨(う)《割書:あめ|》 雷(らい)《割書:いか| づち》       電(でん)《割書:いなつま|いなびかり》  《割書:なる| かみ》  《割書:かみ| なり》 【左丁下段挿絵】       雪(せつ) 暈(うん)     《割書:ゆき|》  《割書:かさ|》           氷(へう)          《割書:こほり|》 【右丁上段】 ○虹(にじ)は日(ひ)雨(あめ)と交(まじはり)て質(かたち)をなす也 日のひかり雨にうつるによつて虹(にじ) あらはる朝(あした)には西(にし)にあり暮(くれ)には 東(ひがし)にあり色(いろ)鮮(あさやか)なるを雄(おにじ)とし 闇(くらき)を雌(めにじ)とす俗(ぞく)に蛇(じや)のいきといふ 螮蝀(ていとう)霓(けい)同ともににじなり ○雹(あられ)は雪(ゆき)こほりて円(まとか)なるを 雹(あられ)といふ寒気(かんき)つよきときは雪(ゆき)と なりて軽(かろ)し寒気(かんき)うすきときは 雪(ゆき)おもくしてとけやすし又 雹(あられ)となる 瑗瑶(ゑんよう)玉粒(ぎよくりう)砕玉(さいぎよく)銀米(ぎんべい)明珠(めいしゆ) 同し雪(ゆき)雨(あめ)にまじはりふるを霰(みぞれ) といふ ○雪(ゆき)水(みつ)寒(かん)にむすぼふれて軒(のき) のしたゞりこほりて氷柱(つらゝ)となる 氷筋(へうきん)氷条(へうでう)とも書(かく)べし又 氷笋(へうじゆん) ともいふなり 【右丁下段挿絵】  虹(かう)【こうヵ】   《割書:にし|》     雹(はく)《割書:あられ|》              氷柱(へうちう)               《割書:つらゝ|》 【左丁】 《題:頭書増補訓蒙図彙(かしらがきぞうほきんもうづゐ)巻之(くはんの)二》       地理(ちり)《割書:此部(このぶ)には山川(さんせん)田園(でんゑん)林丘(りんきう)村市(そんし)のたぐひあり|地(ち)の条理(でうり)なり易(ゑきに)云(いはく)俯(ふして)察(さつす)_二於 地理(ちりを)_一》 【左丁上段】 ○山(やま)は高大(かうたい)にして石(いし)あるを いふ広雅(くはうかに)云(いはく)山(さん)は産(さん)なりよく 万物(ばんぶつ)を産(さん)するなり説文(せつもん)に山(せん) は宣(せん)なり ○峯(みね)は山の端(はし)なり山大にし て高(たかき)を峯(はう)といふ山小にして たかきを岑(しん)といふともにみね なり唐(もろこし)にては香爐峯(かうろはう)日(に) 本(ほん)にては冨士峰(ふじはう)なと也 嶺(みね)同 ○巓(いたゞき)は高山(かうざん)のいたゝきなり絶(ぜつ) 頂(てう)なり詩経(しきやう)に采(とり)_レ苓(れいを)采(とる)_レ苓(れいを) 首陽(しゆやう)之(の)巓(いたゞき)といへり山巓(さんてん)とも又 【左丁下段挿絵】 山(さん)  《割書:やま|》        坂(はん)《割書:さか|》 巓(てん)  《割書:いたゞ|   き》 峯(ほう)  《割書:みね|》 【右丁上段】 高巓(かうてん)ともいふ ○坂(さか)は坡(は)坂(はん)なり山中(さんちう)の高(たか) くけはしき所なり小坂(こさか)を嶝(とう) といふ磴(とう)同し ○嶽(だけ)はけはしき高山(かうざん)をいふ 山城(やましろ)如意嶽(によゐがたけ)近江(あふみ)の比良(ひら)の が嶽なとなり ○谷(たに)は両山(りやうさん)の中(なか)の流水(りうすい)なり 渓(けい)谿(けい)同し水(みつ)谿(けい)にそゝくを谷(たに) といふ山(やま)の間(あいた)に水あるを澗(かん)と いふたにがはとよめり ○丘(おか)は土(つち)の高(たか)き所(ところ)をいふ又 四方(しはう) たかくして中央ひろきを丘(きう)といふ ともあり阜(ふ)同 狐(きつね)死(し)するとき は丘(をか)を枕(まくら)とす ○盤(ばん)は大石(たいせき)なり盤石(ばんじやく)ともいふ 俗(ぞく)に大磐石(たいばんじやく)といふは重言(ぢうごん) 【左丁上段】 なるべし ○巌(かん)はいはほなりさゞれ石(いし) のいはほとなりてとよめるなり 石窟(せきく[つ])を巌(がん)といふ石(いし)のするど にしてたかくそびへたるをいふ 詩経(しきやう)に維石(これいし)巌々(がん〳〵たり)といへり 岩(がん)同 ○崖(かけきし)は山辺(さんへん)なり山(やま)の一 片(へん)に そはだちのそみたるをいふ厓(かい) 同し又 懸崖(けんかい)ともいふかけぎし 補 俗(ぞく)にがけといふなり ○瀑(はく)は滝(ろう)とも書(かく)なりながれ おつる色(いろ)白(しろ)くして布(ぬの)を瀑(さらす)が如(ごと) くなるによつて瀑布(はくふ)とも云 日本にも布引(ぬのびき)のたきといふ ありもろこしには盧山(ろさん)【廬の誤】に名(な) 高(だか)き滝(たき)あり又 滝(たき)を飛泉(ひせん) 【右丁下段挿絵】          丘(きう)           《割書:をか|》    谷(こく)     《割書:たに|》 嶽(かく)  《割書:だけ|》 【左丁下段挿絵】  巌(がん)   《割書:いはほ|》   瀑(はく)    《割書:たき|》 【右丁上段】 ともいふ ○桟(さん)は棚(はう)なり閣(かく)なり木(き)を閣(かく) して道(みち)をなすを桟道(さんどう)とも閣(かく) 道(どう)ともいふ (補)けんその山坂(やまさか)補【▢囲み】道(みち) きれて通(かよ)はれざるに橋(はし)をかけて 道(みち)としかよひとするをいふ ○洞(ほら)は深(ふかく)通(つう)ずるを洞(とう)といふいは あなありて道(みち)を通(つう)ずる所(ところ)也 仙洞(せんとう)は仙人(せんにん)のすむ洞(ほら)なり峒同じ 山に岩穴(がんけつ)ありて袖(そで)に似(に)たるを 岫(しう)といふくきなり ○麓(ふもと)は山足(やまのふもと)なり林(はやし)山(やま)につゞく を麓(ろく)といふ麓(ろく)は鹿(しか)のあるところ かるがゆへに字(じ)鹿(しか)に従(したがふ)なり鹿(しか)は このんで林(はやし)にすめばなり ○林(りん)は平地(へいち)にして叢木(むらがるき)ある所を林(りん) といふ又 野外(やぐはい)を林(りん)と云 樹林(じゆりん)松林(せうりん)竹(ちく) 【左丁上段】 林(りん)などいへり木(き)のあつまり生ず るを林(りん)といひ草(くさ)あつまり生ず るを薄(はく)といふ薄(はく)はくさむら叢(さう)同し。 ○岬(みさき)は山(やま)のかたはらなり海(うみ) などへつき出(いて)たる所をいふ也 越前(ゑちぜん)に金岬(かねがみさき)などいふ所有 ○村(むら)は人のあつまりゐる所也 村落(そんらく)といふ本(もと)は邨(そん)につくる字(し) 通(つう)に経史(けいし)に村(そん)の字(じ)なし邨(そん)は 邑(ゆう)に従(したが)ひ屯(あつまる)に従(したがふ)別に村(そん)につく るは非(ひ)なり今(いま)通(つう)じもちゆ 邑(ゆう)同し ○川(せん)は穿(せん)なり地(ぢ)を穿(うがつ)てなが るゝの心をもつて川(せん)となづく又 河(かは)とも書(かく)なり補【▢囲み】大なるを大 河といひ小なるを小川といふ なり補【▢囲み】江はゑなり 【右丁下段挿絵】       麓(ろく)《割書:ふ| もと》 桟(さん)《割書:かけ| はし》  洞(とう)   《割書:ほら|》 【左丁下段挿絵】          林(りん)《割書:はや| し》           川(せん)           《割書:かわ|》  岬(かう) 《割書: みさき|》      村(そん)      《割書:むら|》 【5行目右側の「補」は、「補[▢囲み]」の正しい挿入先を示す】 【右丁上段】 ○洲(す)は水中(すいちう)の居べき所なり 人(ひと)鳥(とり)などのあつまる息(いこふ)所也 小洲(しやうしう)を渚(しよ)といふなぎさなり水 渚(しよ)石(いし)あるを磧(せき)といふいそなり 水(みづ)沙上(しやじやう)にながるゝを瀬(せ)といふ湍(たん) 同 磯(き)はいそなり ○波(なみ)は風(かぜ)水(みづ)をうつて紋(もん)をなすを 波(なみ)といふ水波(すいは)は水紋(すいもん)なり浪瀾(らうらん) ともに同し大波(たいは)を濤(とう)といふ又 漣(れん)はさゞ波(なみ)なり又 濤(なみ)を潮頭(てうとう)と いふなり ○渦(うづ)は水(みづ)めぐるなり水めぐつて 巴(は)【左ルビ:ともへ】の字(じ)をなすといへり又 泡(はう)漚(をう) 沫(まつ)はあはなり ○島(しま)は海中(かいちう)に山ありてよるべき を島(とう)といふ隝(とう)嶋(とう)嶼(よ)ならびに 同し蓬莱(はうらい)方丈(はうじやう)瀛洲(えいしう)を海(かい) 【左丁上段】 中(ちう)の三島といふ ○海(かい)は晦(くわい)なり荒遠(くはうゑん)にして冥(めい) 昧(まい)なる意(こゝろ)なり又 海(かい)は穢(けがれ)をうけ て其水(そのみづ)黒(くろく)して晦のごとしとも いへり湖(こ)はみづうみなり潮(てう)はうし ほなり ○岸(がん)は水 涯(ぎは)の高(たか)き所をいふ 住(すみ)の江(え)のきしによる浪(なみ)よるさへや とよみ又 岸(きし)の姫松(ひめまつ)と哥(うた)によめり ○浜(はま)は水際(すいさい)なり涯(かい)はほとり浦(ほ)は うらならひに同し水際(すいさい)の平(へい) 沙(さ)を汀(てい)といふみぎはとよむなり 海浜(かいひん)ひろきを瀉(しや)といふかたなり 河浜(かひん)水浜(すいひん)海浜(かいひん)ともにはま也 ○田(た)は土(つち)を耕(たがやす)の名(な)囗は田(た)の四方 のかまへなり中に十の字(じ)は田(た)の 阡陌(せんはく)とてみぞのこゝろなり畎(けん)【左ルビ:たみぞ】 【右丁下段挿絵】       波(は)       《割書:なみ|》       渦(くは)       《割書:うづ|》  洲(しう)   《割書:す|》 【左丁下段挿絵】    島(とう)《割書:しま|》  海(かい)  《割書:うみ|》     岸(がん)     《割書:き| し》    浜(ひん)     《割書:はま|》 【右丁上段】 畝(ほ)【左ルビ:うね】町(てう)【左ルビ:まち】畔(はん)【左ルビ:くろ】 ○畔(はん)は田(た)の界(さかひ)なりぐろとも又は あぜともよむなり又 塍(せう)【左ルビ:ぐろ】堘(せう)【左ルビ:あせ】同じ 周(しう)の国(くに)には耕(たがやす)ものは畔(くろ)を譲(ゆづる)と いふなり ○溝(みぞ)は田間(でんかん)の水(みづ)なり溝(かう)は構(かう)なり たてよこにまじへかまへたるなり 渠(きよ)同 ○独梁(ひとつばし)は独木梁(どくぼくりやう)ともいふなり 又 狐橋(こきやう)【孤の誤ヵ】ともいふ丸木(まるき)ばし一本(いつほん) 橋(ばし)などいふ ○塚(つか)は平(たいらか)なるを墓(ぼ)といひ土(つち)を 封(はう)ずるを塚(ちよ[う])といふ又すぐれて 高(たか)きを墳(ふん)といふともにつかなり 塚(つか)のうへにしるしの木(き)をうゆる 事なり ○場(ちやう)は五穀(ごこく)をお□【さヵ】むる圃(はたけ)なり 【左丁上段】 土(つち)を築(きつく)を壇(だん)といふ地(ち)を除(はらふ)を 場(ちやう)といふ神(かみ)をまつる所なりと あり農人(のうにん)の米穀(へいこく)をこなす所 を場(ぢやう)といふ又ほしばなどゝいふ 市場(いちば)売場(うりば)などいふ又 場(ば)とも かくなり ○井(せい)は伯益(はくゑき)といふ人つくりはじ め給ふなり鴆(ちん)は毒鳥(どくてう)なり羽(はね)井(ゐ) の内(うち)におちて人その水(みづ)をのめば 死すよつて井(ゐ)のもとに桐(きり)を うゆ鴆(ちん)は鳳凰(はうわう)を懼(をそる)鳳凰(はうわう)は梧(き) 桐(り)にすむものなれば鳳(はう)のゐ んことを鴆(ちん)に懼(おそれ)しめん為(ため)也 ○幹(かん)は井垣(せいゑん)なりとあり俗(ぞく)に いけたゐづゝといふ井筒(ゐづゝ)と書(かく) はあしく韓(いづゝ)のかたはらに竹(たけ)を うゆべし鳳凰(はうわう)は竹(たけ)の実(み)をくら 【右丁下段挿絵】  畔(はん)  《割書:ぐろ|あぜ》    塚(ちよう)        《割書:つか|》              溝(かう)               《割書:みぞ|》  田(でん)   《割書:た|》          独梁(どくりやう)           《割書:ひとつ| ばし》 【左丁下段挿絵】         場(ちやう)          《割書:ば|》     幹(かん)     《割書:い| づゝ》   井(せい)    《割書:ゐ|》 【右丁上段】 ふものなれば鴆(ちん)をおそるゝがた めなり ○沢(さは)は水(みづ)のあつまり聚(あつまる)ところ なり沢(さは)には杜若(かきつばた)河骨(かうほね)蓴(しゆん)さ いなどはへ蛍(ほたる)とびかふ夏(なつ)の夕暮(ゆふぐれ) の景気(けしき)もおもしろし ○石(いし)は山骨(さんこつ)なり塊(つちくれ)久(ひさ)しうして 石となる石(いし)変(へん)じて金(きん)銀(〴〵)銅(どう)鉄(てつ) を生(しやう)ず星(ほし)おちて石(いし)となる木(ぼく) 石(せき)に怪(くわい)あり石より火(ひ)を生(しやう)ず ○礫(れき)は小石(しやうせき)なりさゞれいしとも 又つぶてともよむなりその石(せき) 礫(れき)にならつて璃竜(りれう)の蟠(わだかまる)とこ ろをしらすといへり ○沙(いさご)は細散(さいさん)の石(いし)なり別(べつ)に沙(しや)とかく はあやまりなり説文(せつもん)に水(すい)少(しやう)に したがふ水(みづ)少(すくなき)ときは沙(すな)あらわる 【左丁上段】 の義(き)なり繊沙(せんしや)はまなごなり まさごいさこすなご同訓(とうくん)なり ○池(いけ)は地(ち)をうがつて水を溜(たむ)る をいふ沼(せう)も同じ四 角(かく)なる 池(いけ)を方池(はうち)といふ ○泉(いづみ)は源水(けんすい)なり下(した)より涌(わき) 出(いづ)るを濫泉(らんせん)といふ垂(たれ)いづるを 沃泉(ようせん)といふ穴(あな)より出るを汎(はん) 泉(せん)といふ病(やまひ)を治(ぢ)するを温泉(をんせん) といふいでゆなり地下(ちか)を黄泉(くわうせん) といふ ○塘(つゝみ)は池塘(ちとう)なり池(いけ)のほとり のつゝみなり俗(そく)にためいけと いふ柳(やなぎ)をうへたるを柳塘(りうとう) といふ柳塘(りうとう)莫々(ばく〳〵)暗(くらし)_二啼鴉(ていあ)_一と 詩(し)にもつくれり ○園(ゑん)は果(くだもの)をうゆる所なり又 鳥(とり) 【右丁下段挿絵】      礫(れき)      《割書:さゞれ| いし》  沢(たく)  《割書:さは|》        石(せき)        《割書:いし|》        沙(しや)        《割書:すな|いさご》 【左丁下段挿絵】  池(ち)  《割書:いけ|》    泉(せん)《割書:いづみ|》          塘(とう)           《割書:つゝ| み》 【右丁上段】 けだものをやしなふ所を苑 といひ垣(かき)あるを園(ゑん)といふいづ れもそのと訓(くん)ず補【▢囲み】園(その)は今 俗(そく) にうらせどなとゝいふ ○圃(ほ)は菜(さい)をうゆる所をいふ也 又 果(このみ)瓜(うり)をうゆるを圃(ほ)といふと もいへり又はたけなり我(われ)不(ず) _レ如(しか)_二老圃(らうほに)_一と孔子(こうし)ものたまへる事 論語(ろんご)に見(み)へたり ○閭(りよ)は里門(りもん)なり今(いま)いふ在所(ざいしよ) の惣門(さうもん)なり又 家(いゑ)二十五 軒(けん) ほどある在所(さいしよ)を閭(りよ)といふ又 閭(りよ) 巷(こう)といふ ○郊外(かうぐはい)を野(の)といふなり野(の)は ひろくして平(たいらか)なるをいふ 高(たか)くして平(たいらか)なるを原(げん)と云 これをあはせて野原(のはら)といふ 【左丁上段】 埜(や)同し墅と書はあやまり也 ○道(とう)は道路(どうろ)なり途(と)同し 径(けい)はこみちなり 用明天皇(ようめいてんわう)のとき五 畿(き)七 道(どう)に わかつ文武天皇(もんむてんわう)のとき六十六 箇国(かこく)をわかつ ○畷(てつ)は田(た)の間(あいた)のみちなりなは てなり俗(ぞく)に縄手(なはて)と書(かく)は縄(なは)を 引(ひき)たるがごとく直(なを)けれはなり ○衢(ちまた)は四 達(たつ)の道(みち)なりよつて 十 字街(じかい)といふちまたなり俗(ぞく) に辻(しう)の字(じ)を書(かき)てつじと読(よむ) 街衢洞達(かいくのとうたつ)とあり ○城(しろ)は黄帝(くはうてい)つくりはじめ たまふとも又 鯀(こん)といふ人つくり はじめ給ふともいふ内(うち)を城(せい)と いひ外(ほか)を郭(くはく)といふ天守(てんしゆ)狭間(さま) 【右丁下段挿絵】            閭(りよ)             《割書:さと|》  園(ゑん)  《割書:その|》      圃(ほ)      《割書:はたけ| その》 【左丁下段挿絵】     道(とう)     《割書:み| ち》  野(や)   《割書:の|》            衢(く)            《割書:ちまた|》     畷(てつ)     《割書:なは| て》 【右丁上段】 多門(たもん)武者屯(むしやだまり)櫓(やぐら)犬走(いぬはしり) 虎魚(しやちほこ) ○塹(ほり)は城(しろ)をめくる水なり又 坑塹(あなほり)なり坑(かう)壕(かう)ならびに同 城郭(しやうくはく)のほりなり ○封疆(はうきやう)は土(つち)を封(はう)じて疆(さかひ)をか ぎるをいふ俗(ぞく)にこれをどてと いふ洛陽(らくやう)にむかし大閤(たいかう)秀吉公(ひでよしこう) のとき東西南北(とうざいなんぼく)に封疆(どて)をつき て竹をうへ給ふ今にあり ○橋(はし)はもろこし禹王(うわう)といふ聖(せい) 人(じん)つくりはじめたまへり梁(はし)とも 書(かく)なり矼(こう)はいしばしなり圯(い) はつちはしなり板橋(はんきやうは)いたばし 石橋(せききやう)はいしばし土橋(どきやう)はつちばし 歩橋(ほきやう)はふみこへばし ○市(いち)は神農(しんのう)はじめたまふ 【左丁上段】 又 祝融(しゆくゆう)はじめ給ふともいふ 売買(ばい〳〵)の所(ところ)を市(いち)といふ補【▢囲み】今 俗(ぞく)に是を店(たな)といふ魚(うを)のたな 呉服(こふく)だななどゝいふなり ○津(つ)は水(みづ)の会(あつまる)ところなり舟 つき又わたしばなり難波津(なにはつ) 大津(おほつ)今津(いまづ)甲斐津(かいづ)など いふたぐひなり伯(はく)【注】はとまり也 ○浮橋(ふきやう)はうきはし又 浮梁(ふれう)と も書(かく)べし又ふなばしは舟(ふね)をつ なぎならべてはしとする也 水(みづ)ふかくして橋(はし)ぐい立かたき所 などふなばしをかくるなり ○堤(つゝみ)はふさぐともとゞこほる共 よむ土(つち)をもつて水(みづ)をふさぎと どこほらしむるをもつて堤(つゝみ)と いふ隄(てい)かくはあしゝ塘堤(とうてい)同 【注 「泊」の誤か。】 【右丁下段挿絵】  城(じやう)   《割書:しろ|》           橋(きやう)           《割書:は| し》      塹(せん)      《割書:ほり|》        封疆(はうきやう)《割書: |どて》 【左丁下段挿絵】  市(し)  《割書:いち|》       浮橋(ふきやう)        《割書:うきは|  し》  津(しん)   《割書:つ|》 【右丁上段】 柳堤(りうでい)は補【▢囲み】堤(つゝみ)に柳(やなぎ)を植(うへ)たるを云 ○閘(かう)は水門(すいもん)なり俗(ぞく)にこれを 樋(ひ)の口(くち)といふ田(た)に水(みず)を入るとき は引(ひき)あげ入ざるときはおろす ○堰(いせき)は蛇篭(じやかご)に石(いし)をいれて水(みづ)を ふさくものなり又 埭(たい)とも書也 水辺(すいへん)に田地(でんち)又は屋敷(やしき)あれば堰(いせき) をするなり補【▢囲み】俵(たわら)に土砂(どしや)を入て水(みつ) ふせぎともするなり ○水柵(すいさく)は竹木(ちくほく)をあんでこれをつ くる水よけなりうたにも 山川に風のかけたるしがらみは なかれもあへぬもみち成けり とよめるなりしからみといふは 水柵(すいさく)なり ○関(せき)はゆきゝのうたかわし き人をとゞめたゞす所(ところ)なり 【左丁上段】 風破(ふは)の関(せき)鈴鹿関(すゞかのせき)逢坂関(あふさかのせき) これを天下(てんか)の三 関(せき)といふ今は たへてなし箱根(はこね)の関(せき)といふ あり其外(そのほか)関所(せきしよ)あり 補【▢囲み】峠(とうげ)は山坂(やまさか)をのぼりおはりて いたゞきの所をいふあるひは山中(やまなか) の峠(とうげ)鈴鹿(すゞか)の峠(とうけ)なといふ山道(やまみち)の 往来(わうらい)には峠(とうげ)をいくつもこゆる事 なり 補【▢囲み】森(もり)は木(き)の多(おほ)く生(はへ)しげりた る所をいふ狐(きつね)の森(もり)蛍(ほたる)のもり 又 鷺(さぎ)の森(もり)などいふ所あり ○牧(まき)は六 畜(ちく)をやしなふ所を いふ又《振り仮名:郊外|□□ぐはい》を牧といふ言(いふこゝろ)は六 畜(ちく)をはなち牧(まき)すべき所なり 国(くに)の守護(しゆご)を牧(ぼく)といふも民(たみ) をやしなふの義(き)にとる 【□□は「かう」。別本参照】 【右丁下段挿絵】          水柵(すいさく)           《割書:しがら|   み》     閘(かう)     《割書:ひのく|  ち》  堤(てい)  《割書:つゝ|  み》     椻(ゑん)【堰】          《割書:ゐせき|》 【左丁下段挿絵】    《割書:補》     森(しん)     《割書:もり|》    関(くはん)    《割書:せき|》  《割書:補》   峠   《割書:とう| げ》 【右丁上段】 ○墓(ぼ)は慕(ぼ)の字(じ)の意(こゝろ)にて したふといふ事なり子孫(しそん)か 先祖(せんぞ)を思慕(しぼ)するなり塚(ちよ)も 同し天子(てんし)のはかを陵(みさゞき)といふ 塋(ゑい)同し壙(くはう)つかあななり 補【▢囲み】沼(ぬま)は池(いけ)の大(おほい)なるものをいふ 又 水(みづ)少(すくな)く泥土(でいど)なるものなり池(いけ) 沢(さは)沼(ぬま)は同じたぐひなり山(やま) 城国(しろのくに)伏見(ふしみ)に大沼(おほぬま)あり葦(よし)芦(あし) など多(おゝ)くはへ水鳥(みづとり)の住所(すみどころ)也 補【▢囲み】籔(やぶ)は竹林(ちくりん)なり若竹(まだけ)淡竹(はちく)の 二 種(しゆ)を用(もち)ひて其性(そのじやう)かたくよつて 籔となして造作(さうさく)又は器財(きざい)に用(もち) ゆる事かぞへがたし 【右丁下段挿絵】         沼(せう)《割書:ぬま|》  墓(ぼ)《割書:は| か》     牧(ぼく)     《割書:まき|》  薮(すう)《割書:やぶ|》 【左丁】 《題:頭書増補訓蒙図彙(かしらかきぞうほきんもうづい)巻之三》       居処(きよしよ)《割書:此部(このぶ)には宮殿(きうでん)門戸(もんこ)壁(かべ)檣(かき)庭(には)窓(まど)のたぐひ|すべて家居(いゑゐ)宅所(たくしよ)につきての文字(もじ)あり》 ○殿(てん)は堂(だう)の高(たか)くして大(おゝい)なる ものなり天子(てんし)の居(ゐ)給ふ所を殿(てん) といふ殿(てん)の天井(てんじやう)に藻(も)をゑがくは 藻(も)は木草(すいさう)なれは火災(くはさい)□【を】さく るのこゝろなり ○棟(むね)は屋極(をくきよく)なり屋脊(をくせき)を甍(ほう) といふいらかなり鴟尾(しび)はくつかた 蚩吻(しふん)おにがはら ○檐(えん)は簷宇(ゑんう)同し遶(めぐる)_レ■(のきを)【注】点(てん) 滴(てき)如(ごとし)_二琴筑(きんちくの)_一と詩(し)にもつくれり 又 檐(のき)のあやめ檐(のき)の玉水(たまみづ)などゝ 歌によめるなり 【■は「木+簷」・「檐」の誤ヵ】 【左丁下段挿絵】       榑風(はふ)【搏ヵ】  棟(とう)  《割書:むね|》     蔀(ほう)         《割書:しと| み》    殿(てん)    《割書:との|》                階(かい)                《割書:きざは|  し》       檐(えん)       《割書:のき|》       欄杆(らんかん)                《割書:おばしま|》         楹(ゑい)         《割書:はしら|》  礎(そ)             《割書:いしずへ》 【右丁上段】 ○楹(はしら)は殿門(てんもん)の両方(りやうはう)にありよつ て両楹(りやうゑい)といふ柱(はしら)同じ短柱(たんちう)は つかばしらなり ○欄杆(らんかん)は階除(きざはし)の木(き)句欄(こうらん)なり 闌干(らんかん)とも書(かく)なり干(かん)又 檻(かん)に作(つく) るおばしまなり直欄(ちよくらん)横杆(わうかん) ○階(きざはし)は砌(みぎり)なり堂(だう)に昇(のぼ)る道(みち)也 階級(かいきう)階除(かいじよ)《振り仮名:階𬄏|かいてい》ともいふ俗(ぞく) にきざはしといふ堦(かい)につくるは あやまりなり ○搏風(はふ)は風(かぜ)を搏(うつ)とよむ火災 をさくる為(ため)の名(な)なり▢【注①】是(これ)を 懸魚(げんぎよ)といふ魚(うを)は水に住(すむ)もの なれば火災(くはさい)をさくるの名也 ○蔀(しとみ)は屋(いへ)の檐(のき)につりあげ て光明(あかり)をさゝへおほふものなり 俗(ぞく)にうはしとみといふつれ〴〵 【左丁上段】 草(ぐさ)にもやり戸(ど)は蔀(しとみ)の間よ りもあかしといへり蔀はうは あかりなり ○礎(いしずへ)は柱(はしら)の下の石(いし)なり詩(し)を 作(つく)るに韻字(ゐんじ)をふむを礎(そ)と云 磉(さう)礩(しつ)并(ならび)に同し ○庭(には)は門屏(もんへい)の内(うち)を庭(には)と云 又 砌(みぎり)といふも庭(には)なり ○門(もん)は両戸(りやうと)あはするを門(もん)と云 楣(まくさ)閾(しきみ)棖(ほうたて)みな門(もん)にあり ○廊(ほそどの)は殿下(てんか)の外屋(ぐはいをく)なりと ありわたりどの共云 廊下(らうか)廻(くわい) 廊(らう)などなり本殿(ほんでん)へかよふ ひさしなり ○牆(かき)は墻(しやう)垣(ゑん)墉(よう)並(ならひ)に同又門 屏(へい)を蕭墻(しやう〳〵)といふ蕭(しやう)”々【注②】言(こと)は 肅(しゆく)なり君臣はあひまみゆる 【注① ▢は○を逆向きの⌂で囲まれている】 【注② 々+濁点】 【右丁下段挿絵】            庭(てい)《割書:には|》            牆(しやう)《割書:つい| ぢ》            《割書:かき|》 廊(らう) 《割書:ほそ| どの》      門(もん)      《割書:かど|》           扉(ひ)《割書:とび| ら》               磚(せん)                  《割書:しき|がはら》        砌《割書:せい| みぎり》 【左丁下段挿絵】        華表(くはへう)          《割書:とりゐ|》           瑞(ずい)           籬(り)           《割書:みつ|がき》   宮(きう)《割書: |みや》 【右丁上段】 の礼(れい)は門屏(もんへい)にいたりて肅(しゆく) 敬(けい)をくはふるなり ○扉(とびら)は木(き)にて作(つく)るを扉(ひ)といふ 竹(たけ)にてつくるを扇(せん)といふ門扉(もんひ) 戸扉(こひ)柴扉(さいひ)竹扉(ちくひ)などいふ ○磚(せん)はしきがはらなり又 㼾(ろく) 甎(せん)ともいふ又 壁磚(へきせん)ともいふ 塼(せん)甎(せん)並同 禅堂(せんたう)などに有 ○砌(みぎり)は階甃(かいしう)なりいしだゝみ俗(ぞく) にいふいしかき通(つう)して庭(には)の 事なり ○宮(みや)は唐(もろこし)にては至尊(しそん)の居所(ゐどころ) を宮(きう)といふ和朝(わてう)にては神(かみ)の 居(ゐ)たまふ所(ところ)を宮(きう)といふ又 社(しや) とも祠(し)ともいふなり ○華表(とりゐ)は神前(しんせん)にたつる鳥(とり) 井なりとりゐといふ事は神(しん) 【左丁上段】 門なりともいふ又 天(てん)の字(じ)のかた ちなりともいふ鳥井(とりゐ)と名づくる 事 火災(くはさい)をさくるのこゝろの 名なり ○瑞籬(みづがき)は神前(しんぜん)社前(しやせん)のかき也 玉垣(たまがき)ともいふ不浄(ふじやう)の人これ より内(うち)へ入(いる)べからず ○楼(たかどの)は重屋(ちやうをく)なり高(たか)くかさね 上(あげ)て物見(ものみ)をするなり今(いま)俗(ぞく) にちんといふ ○櫺(れい)は隔子(かうし)なり櫺子(れんじ)なり俗(ぞく) にむしこといふ木(き)のまどを櫺子(れんじ) といふ土のまどを土窓(つちまど)といふ ○雪打(ゆた)は仏殿(ぶつでん)楼閣(ろうかく)又は二 階(かい) などに有物なり雨(あめ)雪(ゆき)などの 打(うち)かゝるをうくるものなり俗(ぞく) にあま戸(ど)といふなり 【右丁下段挿絵】  楼(ろう)  《割書:たか| との》       雪(ゆ)       打(た)           宅(たく)           《割書:いゑ》  櫺(れい)   《割書:まど》 【左丁下段挿絵】  厨(ちう)  《割書:くり| や》         窖(かう)  《割書:あな| ぐ|  ら》 【右丁上段】 ○宅(たく)は択(たく)なりよき所(ところ)を択(えらん) でいとなみたつるゆへなり又 人の詫(たく)【「託」の誤ヵ】する所といふ義も有 舎(しや)家(か)屋(をく)ともに同又は第宅(だいたく) ○厨(くりや)は烹飪(かうじん)【「はうじん」の誤】する所なり今云 料理所(れうりどころ)なり又 庖厨(はうちう)といふ略(りやく) してくりともいふ補【▢囲み】俗(ぞく) ̄ニ名付て 台所(たいどころ)といふなり ○窖(あなぐら)は地蔵(ぢざう)なり丸(まるき)を竇(とう)と云 方(けた)なるを窖(かう)といふともにあな ぐらなり地(ぢ)をほりて穴をこし らへ家財(かざい)を入 置(をく)所(ところ)なり ○寺(てら)はもと官人(くはんにん)の居(ゐ)る所(ところ)の 名なり天竺(てんぢく)より仏経(ぶつきやう)を白(はく) 馬(ば)におほせて鴻臚寺(こうろし)といふ 官人(くはんにん)の居(ゐる)所へ来りしより仏氏(ぶつし) の居所(ゐどころ)の名(な)とす 【左丁上段】 ○塔(とう)はもろこしの長安(ちやうあん)に慈(じ) 恩寺(をんじ)といふ寺あり塔(とう)あり鴈(がん) 塔(とう)といふ進士(しんじ)名(な)をその下に 題(たい)す塔婆(とうば)浮図(ふと)同じ ○亭(あばらや)は道路(だうろ)の舎(やどる)所(ところ)なり亦(また) 行旅(かうりよ)宿会(しゆくくはい)の館(やどる)ところなり ともいへり俗(そく)にひとやどりまた はたごやなり高(たか)く立(たて)たる楼(ろう) をも亭(ちん)といふ ○屋(をく)は舎(しや)なり大屋(たいをく)を廈屋(かをく)と いふ又まやともいふ家(いゑ)の真中(まんなか)を 母屋(もや)といふ四方面(しはうめん)の家(いへ)を四阿(あづま) 屋(や)といふ俗(ぞく)に屋(や)をやねといふ ○廬(いほり)は田(た)の中の屋(いゑ)なり稲(いね)など かり入る所なり草(くさ)にてやね をふきたる屋(いゑ)をいふ菴(いほ)同 かりほの廬(いほ)のといふに廬(いほ)の字(じ) 【右丁下段挿絵】    塔(たう)《割書:あら| らぎ》  寺(じ)   《割書:てら|》      亭(てい)《割書:あば| らや》 【左丁下段挿絵】         盧(ろ)          《割書:いほ| り》  屋(をく)《割書:や|》       厠(し)       《割書:かはや|》 【右丁上段】 を書(かき)たり ○廁(し)は圊(せい)なり溷(こん)なり俗これ を雪隠(せつちん)といふ古は清(せい)といふ不(ふ) 潔(けつ)を清(きよめ)除(のぞく)をもつての名なり 釈名(しやくめう)に雑(ざう)なり人そのうへに 雑厠(ざうし)するなり ○坊(まち)は邑里(ゆうり)の名ちまたなり 町(まち)なり京(きやう)二 条通(でうとをり)を銅駝坊(どうたばう)と いふがことし又は別屋(べつをく)を坊(はう)と いふ憎坊(そうはう)寺坊(じばう)などなり ○店(いちくら)は物(もの)をひさく所なりたな なり茶店(さてん)酒店(しゆてん)などいふなり 店屋物(てんやもの)などゝもいふ肆(し)廛(てん) 舗(ほ)同し心(こゝろ)なり ○槅子(かうし)は格子(かうし)とも書(かく)なり組(くみ) 入(いれ)槅子(かうし)狐槅子(きつねかうし)釣槅子(つりかうし)台槅(だいかう) 子なとあり禁裏(きんり)又は寺社(ししや)など 【左丁上段】 にあるは狐槅子(きつねかうし)なり ○倉(くら)は五 穀(こく)を入(いる)るを倉(さう)といふ 米を入るを廩(りん)といふ財宝(ざいほう)を いるゝを蔵(さう)といふ書物(しよもつ)を入るを 庫(こ)といふ上庫(とこ)【注①】はぬりごめなり 府(ぶ)もくらなり ○斎(さい)は潔(けつ)なり心(こゝろ)を洗(あらふ)を斎(さい)と いふ学文所(がくもんじよ)をいふ又 燕居(ゑんきよ)の室(しつ) なり学文(がくもん)をする人 斎号(さいがう)を 付(つく)ことは我(わが)学文所(がくもんじよ)の号(な)をつく なり ○廡(ひさし)は堂下(たうか)の周廊(しうらう)なり大屋(たいをく) の四 辺(へん)の重檐(かさなるのき)なり ○窓(まど)は釈名(しやくめう)に窓(さう)は聡(さう)なり 内(うち)より外(ほか)をうかゞひてもつて 聡(きゝとき)【注②】をなすの義なり牕牖(さうよう)【注③】並 に同し紙窓(しさう)紗窓(しやさう) 【注① 「上庫(とこ)」は「土庫」の誤ヵ】 【注② 「聡(きゝとき)」は「聞解き」の意ヵ】 【注③ 牕は窻に同じ。かつ窻は窗の俗字。窗は窓の本字。牗は牖の俗字】 【右丁下段挿絵】      坊(ばう)       《割書:まち|》   槅子(かうし)         店(てん)          《割書:いち| ぐら》    倉(さう)《割書:く| ら》 【左丁下段挿絵】               瓦(ぐは)《割書: |かは| ら》    廡(ふ)    《割書:ひさし|》       窓(さう)《割書: |まど》    蟆股《割書:かへる|また》  斎(さい)               戸(こ)               《割書:と|》 【右丁上段】 ○戸(と)は一 枚(まい)とびらの門(もん)を戸(と) といふ又 内(うち)を戸(と)といひ外(ほか)を門 といふともいへり民家(みんか)ならび つらなるを編戸(へんこ)といふ ○瓦(かわら)は唐(もろこし)夏(か)の昆吾(こんご)といふ人つ くり始(はしめ)しなりめかわらを瓪(はん)といふ おかわらを𤭆(とう)といふ又 魏(ぎ)の文帝(ぶんてい) 瓦(かわら)をちて鴛鴦(をしとり)となると夢(ゆめ) 見給ふといふ故事(こじ)ありよつて 鴛鴦瓦(ゑんあうぐは)といふ ○蟆股(かへるまた)は摶風(はふ)の下にあり蟆(かへる) の股(また)に似(に)たればなり蟆(かへる)は水中(すいちう)に 住(すむ)ものなれば火災(くはさい)をさくる為(ため) なり鴨居(かもゐ)といふも同(おなじ)意(こゝろ)也 ○臥房(ぐはぼう)は寝室(しんしつ)ともいふ又 閨(けい) 房(ぼう)ともいふ天子(てんし)の御寝所(きよしんじよ)を 夜殿(よんのおとゞ)といふ 【左丁上段】 ○揵(くはんのき)は限門木(かきるもんをき)なり今いふくは んの木(き)なり𢩠(せん)閂(せん)並に同 ○扄(とざし)は外(ほか)より閉(とづ)る関(くはん)なり又 門扉(もんのとびら)のうへの鐶(くはん)鈕なり又 関(くはん) 戸(こ)の木(き)なりくはんの木(き)又は鎖(じやう)也 ○鋪首(ほしゆ)は今 按(あん)ずるに門(もん)又は 襖(ふすま)障子(しやうじ)などのひきて鐶(くはん)なり 鈕(ちう)はつほなり ○壁(かべ)は城(しろ)のかべを壘(るい)といふしらかへ を粉壁(ふんへき)といふ又 画壁(ぐはへき)板壁(はんへき)など あり室(しつ)の屏蔽(へいへい)なり ○廰(まんところ)は政(まつりこと)をきく所なり撿非(けび) 違使(ゐし)のゐる所なり公事(くじ)訴訟(そしやう) をとりさばきする所をいふなり 庁(ちやう)同 ○厩(むまや)は馬舎(ばしや)なり猿(さる)の異名(ゐみやう)を 馬(ば)父といふによつて厩(むまや)に猿(さる) 【右丁下段挿絵】     揵(けん)《割書:くわんのき》    扄(けい)《割書:とざし》  臥(ぐは)  房(ばう)   《割書:ねや》   鋪首(ほしゆ)           壁(へき)《割書:かべ》 【左丁下段挿絵】         《割書:ひと| や》牢(らう)           獄(ごく)  廰(ちやう)  《割書:まん| どころ》    厩(きう)《割書: |むまや》            柵(さく)            《割書:し|がら| み》 【右丁上段】 をもつて祈祷(きとう)とするとぞまた 厩(むまや)の上に馬をつなく木を猿(さる) 木(き)といふ ○牢獄(らうごく)は罪人(つみびと)を囚ところなり 皐陶(かうよう)といふ人つくりはじめ給ふ なり周(しう)の代(よ)には囹圄(れいぎよ)といふ今 籠(ろう)と書(かく)はあやまりなり ○柵(しからみ)は木(き)をあみて是(これ)をつくる軍(ぐん) 陣(ぢん)にて人馬(じんば)をふせぐものなり 笧(さく)同し俗(ぞく)に駒(こま)よせとも馬(むま)ふ せぎともいふ ○閨(ねや)は婦人(ふじん)のねやなり東坡(とうば) が月(つき)の夜(よ)故郷(こきやう)の妻(め)をおもふの 詩(し)にも閨中(けいちう)唯(たゝ)独(ひとり)看(みるらん)と作(つく)れり ○浴室(ゆどの)は沐浴(ぼくよく)して身(み)をきよむ る所なり俗(ぞく)に湯殿(ゆどの)といふ禅(ぜん) 寺(でら)には風呂屋(ふろや)を浴室(よくしつ)と額(がく)す 【左丁上段】 ○籬(まがき)はませともいふ竹(たけ)にてあ みたるかきなり藩(はん)笆(は)ともに同 陶淵明(とうえんめい)が詩(し)に採 ̄テ_二菊 ̄ヲ東の 籬 ̄ノ下 ̄ニ_一悠-然 ̄トシテ対 ̄ス_二南-山 ̄ニ_一【注】 ○枢(すう)はくるゝなり言行(げんかう)は君子(くんし) の枢機(すうき)なりといへり又 北極(ほくきよく)は 天(てん)の枢(すう)なりともいへり門枢(もんすう)戸(こ) 枢(すう)扉枢(ひすう)などいふ ○駅(むまやど)は道中(どうちう)のはたごや馬(むま)つ ぎをいふ駅館(えきくはん)とも又 駅舎(ゑきしや) とも駅伝(ゑきでん)ともいふ ○護摩堂(ごまたう)は護摩(ごま)は梵語(ぼんご) なり焚焼(くんしやう)と翻訳(ほんやく)すしか れば護摩(ごま)たくといふは重言(ぢうごん) なり護摩(ごま)を修(しゆ)する護摩(ごま) するなとゝいふべしとぞ ○台(うてな)は四 方(はう)にしてたかきものを 【注 「東の籬」は「東-籬」ヵ。「「対」の下の二点脱】 【右丁下段挿絵】          籬(り)《割書:ませ| がき》  閨(げい)  《割書:ねや》            枢《割書:く|ろゝ》    浴室(よくしつ)    《割書:ゆどの》 【左丁下段挿絵】  駅(ゑき)  《割書:むま| やど》  護(ご)  摩(ま)  堂(だう) 【右丁上段】 台(たい)といふ台上(たいしやう)に屋(をく)を架(か)する を台門(たいもん)といふ又 楼台(らうたい)舞(ぶ) 台(たい)歌台(かたい)うてな ○櫓(やぐら)はやぐらなり城上(じやうじやう)の望(ばう) 楼(ろう)なり狭間(さま)をあけて敵(てき)の 多少(たしやう)をうかゞひのぞみ弓(ゆみ)鉄(てつ) 炮(はう)をいだす所なり又 戦棚(せんはう)と もいふなり ○桟敷(さんじき)は見物(けんぶつ)の棚(たな)なり桟(さん) 敷(じき)はうつ又はかけるなどゝいふ べからず桟敷(さんじき)かまゆるといふ べしとぞ ○蹴鞠坪(しうきくのつぼ)といふは鞠蹴場(まりけば)也 四 本(ほん)がゝりとて四 隅(すみ)に松竹 桜(さくら)楓(かへで)をうゆるなり鞠(まり)はもろ こし蚩尤(しゆう)がかうべをかたどり てける事なり 【左丁下段】 ○輪蔵(りんざう)は一切経(いつさいきやう)を入 置(をく)蔵(くら)也 転(まわる)やうにこしらへたるによつて 輪蔵(りんざう)とも転蔵(てんざう)とも経蔵(きやうざう)と もいふ一 度(と)転蔵(てんざう)をまわせば一 切経(さいきやう)を転読(てんどく)したる道理(だうり)なり 前(まへ)に居(ゐ)るは傅大士(ふだいし)【注】といふ人なり 仏在世(ぶつざいせ)一 切経(さいきやう)を守護(しゆご)せし人也 ○護朽(こきう)は今いふ擬宝珠(ぎぼうし)なり 橋(はし)又は高欄(かうらん)にあり ○枅(ひぢき)は臂木(ひぢき)と俗(そく)に書(かく)雲(くも)がた をほり付(つく)るゆへに雲臂木(くもひぢき)と云 曲枅(まかれるひぢき)を栱(けう)とも欒(らん)ともいふ枓(ますがた) をのする木なり ○枓(ますがた)は柱(はしら)の上の四 角(かく)なる栱(ます) 斗なり方枓(はうと)栱枓(けうと)枡枓(せうと) ともいふ又は欂櫨(はくろ)ともいふ ○桁(けた)は屋(いゑ)の横木(よこぎ)なり又足がせ 【注 「傅大士」は「愽大士」と誤記ヵ】 【右丁下段挿絵】             桟(さん)             敷(じき)   台(たい )    《割書:うてな》  櫓(ろ)《割書:やぐ| ら》             蹴(しう)             鞠(きくの)             坪(つぼ) 【左丁下段挿絵】            護(ご)            朽(きう)  輪(りん)  蔵(ざう) 【右丁上段】 頸(くび)かせを桁(かう)といふ事もあり 又 衣類(いるい)をかくるを衣桁(いかう)といふ 翡翠(ひすい)鳴(なく)_二衣桁(いかうに)_一と杜子美(としみ)が詩(し)に つくれり ○榱(たるき)は椽(たるき)なりもろこし秦(しん)の 世(よ)には椽(えん)といふ周(しう)の世には榱(さい)と いふ斉(せい)の世(よ)にはこれを桷(かく)といふ ○藻井(さうせい)は天井(てんじやう)なり藻(も)をゑかく によつて藻井(さうせい)といふ藻(さう)といひ 井(せい)といふみな火災(くはさい)をさくるこゝろ なり天井(てんじやう)と書(かく)も此(この)意(こゝろ)なり みな水(みづ)の縁(ゑん)をとる ○窯(かはらかま)は瓦竃(ぐはそう)なりかはらやくかま なり窰(よう)同このかまのうちにかは らを入 柴(しば)にてふすべやくなり 炭(すみ)やくかまも此たぐひなり 【右丁下段挿絵】           榱(すい)《割書:はへ| き》           《割書:たるき》   枅(けい)《割書: |ひぢき》       桁(かう)《割書:けた| 》          枓(と)《割書:ます| かた》 藻井(さうせい)           窯(よう)           《割書:かはら|  がま》 【左丁 裏表紙見返し】       拾冊之内【手書き】 【裏表紙】 【文字無】