《割書:画|図》百鬼夜行 一 《割書:画|図》百鬼夜行 《割書:前偏| 陰》 序【印】 一日東叡山の落花を踏て 根岸の藤のおほつかなき徑 伝ひに山吹の清き流にそふて 日くらしの帰るさ石燕子か 画室を訪ふ主人は外に□て 帰杖も程あらしと留主する 童子に喫茶をすゝめられて 頻に眠をもよほす折から軒端の 蜂巣より三つよつふたつ耳を 侵してはらへとも去らす剣を ぬいて蠅を逐し人もかゝる時 にこそと童子とともに杖を 振て巣中をおひやかせは あまたの蜂みたれ飛てたちまち 化して人となる其さま少き 傀儡に似たり壮士あり美女あり 智者有愚者あり或は僧あり よくもの言ひて起居動静都て 世の中のよしあしを尽せり あなあやしと机に肘をかけて めかれせぬ後に只今かへり まかりぬと石子におとろかされて 覚れは一帙を枕として 忙然たり蜂なを軒端に 舞ふて槐安国をかへりたる 人のことし【如し。】かくてあるし【主】ちかころ 水滸伝の人物をうつして 画るものあり見□□□とかの帙を ひらけは我夢し人こと〳〵く 冊中にありされは睡中必 この画裡に遊ふならしこゝに頃日 書肆何かし是を梓にちりはめ 世に広うせむことをねかふ燕 終に諾して予に其緒をとかしむ 我方外の友たれは辞するに 及はす筆を採てしかいふ    雪中菴蓼太 【落款二つ】 安永六年酉正月 凡物の化するや石の燕となり筆 の蟋蟀となるはよく化すといふへし こゝに鳥山石燕なるもの画にあそふ こと年ありその筆亦よく化して 森羅万象なさすといふものなし さきに鳥山彦を著し世人しる処 なり今はた古画の百鬼夜行に據て 意を加へ容を補ふ書肆何某はやく 見とゝめて梓に寿せんことをこふ 授るに到て六巻となし陰陽風 雨晦明をもてわかつ其まゝに 画図百鬼夜行と題し已に 前編三冊成ぬこゝにおゐて序 を予にもとむ燕ら俳歌の友にし て相識ことひさしけれは辞におよ はすたゝ怪力乱神をかたらさる のいましめをまもる人にはいさゝか睠 を避るのおもひなきにしもあら さるのみ 安永龍集乙未冬東都隠士 紫陽主人老蠶 【一】○こたま【コマ9】 【二】○やまひこ【コマ10】 【三】○山わらは【コマ11】 【四】○白ちご【コマ12】 【五】○川太郎【コマ13】 【六】○あかなめ【コマ14】 【七】○かまいたち【コマ15】 【八】○きつね火【コマ16】 【九】○天狗【コマ10】 【十】○山うば【コマ11】 【十一】○犬神【コマ12】 【十二】○ねこまた【コマ12】 【十三】○かはうそ【コマ13】 【十四】○たぬき【コマ14】 【十五】○あみきり【コマ15】 【中巻目録:コマ19】 【上巻目録:コマ29】 【右ページ】 老蠶篆【落款あり】 陰 ○木魅(こたま) 百年の樹には 神ありてかたちを あらはすといふ ○天狗(てんぐ) ○幽谷響(やまひこ) ○山童(やまわらは) ○山姥(やまうば)【「や」が欠損】 ○犬神(いぬかみ) ○白児(しらちご) ○猫(ねこ)また   川太郎ともいふ ○河童(かつは) ○獺(かはうそ)【ルビの「は」もしくは「わ」が欠損】 ○垢なめ(あかなめ) ○狸(たぬき) ○窮奇(かまいたち) ○網剪(あみきり) ○狐火(きつねひ) 《割書:画|図》百鬼夜行 前編 陽 陽 老蠶篆 ○女郎くも【コマ19】  ○てんあそ火【コマ20】 ○さ?うけん火 ○くはしや ○つるべ火   ○ふ□り火 ○うばが火  ○さかはしら【コマ24】 ○まくらかへし【コマ25】○野てら坊【コマ21】 ○高女【コマ22】    ○手の目【コマ22】 ○鉄鼠【コマ23】     ○黒塚【コマ23】 ○ろくろくび【コマ24】 ○うぶめ【コマ20】 ○海座頭【コマ21】   ○雪女【コマ25】 ○いきれう【コマ26】 ○ゆうれゐ  ○死れう 【さ?うけん火/くはしや/つるべ火/ふ□火/うばが火:以上はこの資料にはない。】 【死れう/ゆうれゐ:これもこの資料にはない。】 【上巻目録:コマ08】 【下巻目録:コマ29】 【左ページ】 絡新婦(ぢよらうくも) ○鼦(てん) 【目録の「てんあそ火」】 ○姑獲鳥(うぶめ) ○海座頭(うみざとう) ○野寺 坊(ほう) ○高女 ○手の目 ○鉄鼠(てつそ)《割書:頼豪(らいがう)の霊(れゐ)鼠と化と|世にしる所也》 ○黒塚(くろつか)《割書:奥州安達原にありし|鬼 古歌にもきこゆ》 【頼豪:僧侶の名前】 ○飛頭蛮(ろくろくび) ○逆柱(さかはしら) ○反枕(まくらかへし) ○雪女(ゆきをんな) ○生(いき)□【生霊(いきれう)】 《割書:画|図》百鬼夜行 前編 風   老蠶篆 風 【一】○見こし【コマ29】 【二】○ひやうすべ【コマ30】 【三】○おとろし【コマ30】 【四】○ぬれ女【コマ32】 【五】○ぐはごせ【コマ33】 【六】○青ぼうず【コマ34】 【七】○ぬつへつほふ【コマ35】 【八】○うわん【コマ36】 【九】○せうけら【コマ29】 【十】○わいら【コマ31】 【十一】○ぬり仏【コマ32】 【十二】○ぬらりひよん【コマ33】 【十三】○おうに【コマ34】 【十四】○赤した【コマ35】 【十五】○牛おに【コマ36】 【上巻目録:コマ08】 【中巻目録:コマ19】 【左ページ】 ○見越(みこし) ○せうけら ○ひやうすべ ○わいら ○□とろし【おとろし】  □□仏(ほとけ)【ぬり佛/ぬり仏】 ○濡女(ぬれをんな) ○ぬらりひよん ○元興寺(ぐはごせ) ○苧(を)うに ○青坊主(あおぼうず) ○赤舌(あかした) ○ぬつへつほふ ○牛鬼(うしおに) ○うわん 詩は人心の物に感して声を発 するところ画はまた無声の詩と かや形ありて声なしそのこと 〳〵によりて情をおこし感を催す されはもろこしに山海経吾朝に 元信の百鬼夜行あれは予これに 学てつたなくも紙筆を汚す ときにしょり書林何某需るに頻なれは いなみかたくて桜木にうつしぬ よしその童蒙の弄ともならんかし きのとの未の秋菊月於月窓 下石燕自跋     鳥山石燕豊房        校合門人 子興             月沙 画図百鬼夜行後編 近刻         彫工 町田勘右衛門 安永五丙申春      勢州洞津書林         長野屋勘吉 文化二乙丑年求板 【裏表紙】