【上の資料】 家苦(やく)はらひ 〽アヽラ うるさいな〳〵 今(こん)ばんこよひの雨風(あめかぜ)に家(いへ)くら堂社(どうしや)おしなべて町(まち)もやしきも おに瓦(かはら)屋根板(やねいた)迄(まで)もさらひませう去(きよ)ねんのやくの鯰(なまづ)めが 一周忌(いつしうき)にははやて風(かぜ)八月すへの五日(いつか)はや軒(のき)なみそろふ家々(いへ〳〵)も きのふの無事(ぶじ)はけふの苦とかはるもはやき飛鳥川(あすかがは)岡(おか)は渕瀬(ふちせ)の 大出水(おほでみづ)かぜにはおそれ入豆(いりまめ)のさて〳〵ふくは福(ふく)はうち旦那(だんな)お門(かど)を ながむればそらに戸板(といた)が舞上(まひあが)り平地(ひらち)の池(いけ)となるかみに泪(なみだ)の 雨(あめ)の水(みづ)ましてながるゝ船や竹(たけ)いかだながいものにはまきはしら 立(たち)よるかげの大木(たいぼく)も根(ね)から折口(おれくち)死出(しで)の山寺(やまでら)にはかなきおり からにこのやくはらひがとんで出ふくろの中へさらり〳〵              風雷散人戯述【巴文様】 【下の資料】      ほう〴〵へ逃状(にげじやう)の事 一此あら四郎と申もの生国(しやうこく)は風(かぜ)さの国(くに)辰巳郡(たつみこうり)  早手村(はやてむら)出生(しゆつせう)にて怪気(あやしげ)なる風来(ふうらい)ものに御 座(ざ)候間  荒魔(あらま)ども失人(うせにん)に相立(あいたち)雷(らい)でん方(かた)へほう〴〵に  逃出(にげいて)候所 殺生(せつせう)なり並木(なみき )之 義(ぎ)は当吹折(とうふきおり)の  八月二十五日の夜(よ)より翌(よく)六ッ時までと  相(あい)きわめ困窮人(こんきうにん)の義は損料(そんりやう)七分(しちぶ)の  割合(わりあい)を以(もつて)風雲(かざぐも)吹(ふき)かへしとして屋根板(やねいた)瓦(かわら)  ふらされべく候 御(おん)仕きせの義は  夏(なつ)は佃島(つくだじま)の水浅黄(みづあさぎ)ひとへもの一ツ  冬(ふゆ)は破格子(やぶれごうし)のすのこ一枚(いちまい)可被下候 一 諸方(しよほう)木様(きさま)御破損(ごはそん)の義は  申におよばず御家(おいへ)のぶさ  ほう相(あい)たをし申ましく候 一 愁傷(しうせう)の義は代々(だい〳〵)一向夢(いつこうむ)  中(ちう)にて寺は人(ひと)□築地(つきじ)  門(もん)ぜつ地中(ちちう)本堂院(ほんどういん)つぶれんじ  大破(たいは)に紛(まぎ)れ御座なく候もし  この者か女中方(じよちうがた)の閨(ねや)をつぶしうんすうの鼻(はな)あらしをさせ  松杉(まつすき)の大木(たいぼく)をねこきとなし折逃(おりにげ)屋根落等(やねおちとう)致(いたし)候はゝ荒魔(あらま)  早速(さつそく)うかれ出 雨戸(あまど)こぢあけ可申(もうすべく)候あらしの雨(あめ)ふつてむさんの如(ごと)し                難渋(なんじう)ふきやしき                  家(いへ)なし飛蔵店(とびぞうたな)    台風(たいふう)百年目      失人(うせにん) 並木(なみき)や多尾(たを)四鶴       八月二十五日   とんださはぎ町    浅草雷神門前(あさくさらいじんもんまへ)    木戸(きど)なし ふみぬきや釘蔵(くぎぞう)      鳴神屋(なるかみや)        五郎右衛門殿