【表紙】 【蔵書ラベル:東京府女子師範学校郷土室|品名|番号|数量】 【三段ラベル:911.45|EHO】 【題箭】絵本 【破れあり】 全 【左丁】 叙 凡(およ)そ書画(しょぐわ)にいふ所(ところ)。真行草(しんぎやうさう)の三体(さんてい) と。こは世間(せけん)の通称也(つうしようなり)。東坡(とうば)先生(せんせい)書(しよ)を論(ろん) じて。真(しん)は立(たつ)が如(ごと)く。行(ぎやう)は歩(あゆむ)が如(ごと)く。草(さう)は走(はし)るが 如(ごと)し。能立(よくたち) 能歩(よくあゆま)ずして。奚(なんぞ)よく走(はし)らんやと。画(ぐわ)も またしかり。然(しか)れどもまづ草体(さうてい)の簡易(かんい)【左ルビ:◦タヤスシ】をもて。 【右丁】 初学(しよがく)を教(をしゆ)るは平常(つね)也。こゝに於(おい)て人物(じんぶつ) 山水(さんすい)及(および)。 もろ〳〵の画(ぐわ)の草体(さうてい)を輯(あつ)め彫(ゑり)て。童蒙(どうまう)画(ゑ)を 弄(もてあそ)ぶの便(たより)となす。この小冊(せうさつ)を懐(ふところ)にせば。席上(せきしやう) 即座(そくざ)の規矩(きく)【左ルビ:◦テホン】ともなりて。心(こゝろ)を慰(なぐさ)むの一助(いちじよ)               ならんかし  壬寅       応需   孟夏       松亭主人誌 【左丁】 面白(おもしろ)き風(かぜ)に   ふりあり     川柳(かわやなぎ) 【左下隅】 英泉画 【右丁】 唐人も  みたがる雪(ゆき)の  綿(わた)ぼうし 【右下】 佐野(さの)の雪(ゆき)  その夜(よ)雨(あめ)だと   大(おほ)さわぎ【注④】 【左下】 身(み)が大事(だいじ)  さやを廻(まわつ)て    国(くに)えゆき【注⑤】 【左丁】 生薪(なままき)の  煙(けむ)も   御製(ぎよせい)【注②】    の  うち   にいり 【左側上下の順】 忠度(たゞのり)は  木賃(きちん)   も 出(だ)さず  宿(やど)を かり【注③】 名代(みやうだい)を  取(とつ)た    気(き)で寝(ね)る    柳下恵(りうかけい)【注①】 【注①:中国、周代の魯の賢者。本名、展禽。字は季。柳下に住み、恵と諡されたことによる名。魯の大夫・裁判官となり、直道を守って君に仕えたことで知られる=コトバンク】 【注② この「御製」とは、仁徳天皇の「高き屋にのぼりて見ればけむり立つ 民のかまどはにぎはひにけり」の歌をさしていると思われる。】 【注③ 平忠度が都落ちのとちゅうに詠んだ「行(ゆき)くれて木(こ)の下かげをやどとせば花やこよひのあるじならまし」を受けた句だと思われる。】 【注④ 謡曲「鉢木」の佐野源左衛門尉常世の話で発端は雪が降ったことと関係することに由来? 又は 藤原定家の「駒とめて袖打ち払ふ影もなし佐野の渡りの雪の夕暮れ」のパロディ?】 【注⑤ 東海道の宮宿から桑名宿への道のりを、危険な「七里の渡し」(海路)を避けて、安全な「佐屋街道」(陸路)で「佐屋」へ廻り「三里の渡し」(川路)を使ったことを言う。似たものに、宗長の「もののふの矢橋の船は速けれど急がば回れ瀬田の長橋」があり】 【右丁】 稲妻(いなづま)は  山(やま)を   見せ    たり かくしたり 【右下】 僧正(そうじやう)の   榎木(えのき)どうでも  ほねがらみ  【注】 【左下】 床(とこ)の   間(ま)の  富士(ふじ)の裾野(すその)に     福寿草(ふくじゆさう) 【左丁】 入聟(いりむこ)はひとかわ  うちで  はらを    立(たち) 【左側上下の順】 下総(しもふさ)の  じや〳〵馬(むま)   かげが   七(なゝ)つあり 提灯(てうちん)が   きへて  座頭(ざとう)に   手(て)を   ひかれ 【注 『徒然草』第四十五段のお話に基づいた句と思われる。ちなみに「ほねがらみ」とは「すっかりそこから抜け出せないこと。」】 【右丁上下の順】 おそめ   しき居(ゐ)へ    ひいて      置(おき) 落頭(おちかしら)  よみ込(こみ)    で  買(か)ふ  大(おほ)   一坐(いちざ) 【左丁】 土手(どて)を  ゆく いしやは  上野(うへの)か    浅草(あさくさ)か 【右下】 浮草(うきくさ)のやうに   浪間(なみま)の  都鳥(みやこどり) 【左へ】 虫篭(むしかこ)で  西瓜(すいくわ)の   種(たね)が    鳴(ない)て     居(ゐ)る 【右丁:右側から左側上下の順】 いつ見ても  盧生(ろせい)が    顔(かほ)は  もへぎ   なり  【注】 げつ  そり   と  夏(なつ)   やせを    する  咲(さく)や姫(ひめ) 朱(しゆ)で   かいた  キの字(じ) 【赤トンボのこと】    とんで行(く)   秋(あき)の空(そら) 【左丁:右側上下、左側中央の順】 子の寝顔(ねかほ)   見(み)に入る  母(はゝ)の門(かど)すゞみ 石垣(いしかき)へはい  あがる亀(かめ)   ぬきへもん 正直(しやうじき)の   そばて  息子(むすこ)を   だまし    て居(い)る 【注 唐の沈既済(しんきせい)の小説『沈中記』の故事の一つ、「邯鄲の枕」を受けた句。】 【右丁】 水道(すいだう)の穴(あな)へ  御幣(ごへい)を   大家(おほや) 立(たて) 身(み)は重(おも)し  籠(つゞら)は軽(かろ)し    下女(けちよ)さがり 【左丁】 見真似(みまね)   して  下女(けちよ) 浅草(あさくさ)を【浅草紙】  口(くち)で   とり 【右川柳下】 角兵(かくべ)衛  獅子(しゝ) ぜんたい   無理(むり)な    毛(け)をはやし 【左側中央】 木曽(きそ)の山(やま)  いとの清水(しみつ)で      谷(たに)を縫(ぬい) 【右丁 上下左側中央の順】 吹付(すいつけ)る   うちに  柳(やなぎ)は 松(まつ)に な  り 松(まつ)の年明(ねんあき)き  荒神(くわうじん)   さま    に    なり くたびれ   者(もの)  わづかな   掾(ゑん)に  腰(こし)を掛(かけ) 【左丁】 名(な)も鼻(はな)も   世上(せじやう)に    高(たか)ひ 秋葉(あきは)  山(さん)【秋葉三尺坊(天狗)】 花(はな)で誉(ほめ)られ   葉(は)で憎(にく)まれる     窓(まど)の梅(うめ) 【右丁 上下左下の順】 沖(おき)を  ゆく 船(ふね)の   重(おも)  りに 一万(いちまん)   度(ど) 三味(さみ)せんも  鼓(つゞみ)も【注①】   みへる    野掛道(のがけみち) 客(きやく)ふん【注②】と言(いふ)     うち   柳(やなぎ)【注③】    臼(うす)に     なり【注④】 【注① 三味せんはぺんぺん草、鼓はたんぽぽ】 【注② 客分=内祝言だけはしたものの、年が若かったり、年回りが悪かったりという理由で、表向きは客としておく嫁。】 【注③ 女性の細い腰。柳腰。】 【注④ 「臼」は女性の腰回りの大きさのたとえ。女性の腰つきが男を知って大きくなること。】 【左丁】 元船(もとふね)の  不(ふ)   そく    は  女房(にようぼ)   ない    ばかり 前垂(まいだれ)を  肩衣(かたきぬ)にして   下女(げぢよ)は     髪(かみ) 【右丁 右側から左側上下の順】 とぎ立(たつ)た  月(つき)には   虫(むし)が  さびて鳴(なき) 初鰹(はつかつほ)そろ   ばんの     ない  うち   で    買(かい) 後家(ごけ)の供  如才(ぢよさい)のあるが     供(とも)につき 【左丁 上中下の順】 干(ほす)は  夏(なつ) 濡(ぬるゝ)ゝ【送り仮名の重複】  は 秋(あき)  の 御(ぎよ)  製(せい) なり より蓮(はす)や  より   はす  なぞと   周茂叔(しうもしゆく)【注】 鯱(しやちほこ)は魚(うを)の   仲間(なかま)の    軽業師(かるわざし) 【注 宋代の学者。性甚だ蓮花を愛し、蓮は花の君子なるものと称し、之を山麓の濂渓に植ゑて楽しみたり=GadaiWiki】 【右丁 右上から左側へ順に】 七景(しちけい)に  弁(べん)   慶(けい)  既(すでに)   する    ところ 御隠居(ごゐんきよ)   は  粉(こ)なやの後家(ごけ)を      庭(には)へ呼(よび) 神主(かんぬし)は  人(ひと)のあたまの     蠅(はい)を追(お)ひ 【左丁 右側上下、左側の順】 富士(ふじ)  筑波(つくは) 虹(にじ)天秤(てんびん)に  引(ひつ)かける 隅田川(すみたかわ)【注】  ありや   なしやと  ふつ(◦)て見(み)る 【「◦」については17コマ目注②を参照。】 尻(しり)の火(ひ)【蛍のことヵ】を  あつめて 胸(むね)を  あかるく     し 【注 江戸時代の酒の銘柄の一つ。江戸、浅草並木町山屋半三郎(山半)から売り出した。隅田川の水を用いての醸造という。】 【右丁 右側から左側上下】 猫(ねこ)の目(め)を時計(とけい)に  遣(つか)ふ村師匠(むらししやう) 生花(いけはな)を  蟇(かへる)の   やうな 身(み)  ぶり   で    見(み) 【茶会の最後にお床(とこ)を「拝見」する時の姿。】 赤(あか)  籏(はた)の  おんりやう   横(よこ)に    這(は)ひ   あるき【注】 【左丁 上から下へ】 礼帳(れいてう)に梅(うめ)の   句(く)もある    留守(るす)の庵(あん) 気(き)の長(なが)さ   とう〳〵    鯛(たい)を     片身(かたみ)      釣(つり) 上(か)み下(しも)は    口上(くうじやう)【ママ=くわうじやうの「わ」ヌケヵ】までも      折(おり)       目(め)        高(たか) 【注 ヘイケガニ 甲羅の模様が怒った人面に見え、瀨戸内海に生息する事から、壇ノ浦の戦いで敗れた平家の亡霊が乗り移ったとの伝説から名付けられた。平氏は赤旗、源氏は白旗】 【右丁 右側から左側上下】 いかして仕舞(しまへ)と  もう者(しや)の 大(おほ) 喧(けん)  / 𠵅(くわ) 猫(ねこ)でない   証拠(しやうこ)に  そばへ竹(たけ)を書(かき)【注】 青(あを)み  には  木賊(とくさ)   の   ほしゐ    御吸物(おすいもの) 【看板らしき字】 薬種【左右のかな不明】 【左丁 右上下、左上の順】 ひやん  きらひ   やつと    聞(きゝ)     とる  きぐすり     や 三角(さんかく)の   法(はう)で  いびつと   丸(まる)が    出来(でき) 其根(そのね)  から子(こ)の    ふへるので       布袋竹(ほていちく) 【注 虎を描くに、猫と間違えられない様に、虎に付き物の竹も描くというもの。下手な絵を揶揄するもの】 【右丁】 恋(こい)しきは  親父(おやじ)の   臑(すね)に  母(はゝ)の   臍(へそ) 水鳥(みつとり)も  鳩(はと)も源氏(けんし)の肩(かた)を持(も)ち 【左丁 上下の順】 ばん  町(てう)の 古(ふる)  井戸(ゐど)   で  呼(よ)ぶ   焼(やき)つぎや【注①】 びんづる【注②】の  股(また)を お妾(めかけ)  やたら   撫(なで) 【注① 有名な怪談話「番町皿屋敷」を踏まえた句。庭の古井戸に身を投げたお菊の幽霊が焼接ぎ屋を呼んでいるというもの。焼接ぎ屋とは欠けた陶器を釉(うわぐすり)で焼きつけて接(つ)ぐことを業とする人。また、その家。】 【注② 賓頭盧頗羅堕(びんづるはらだ)の略。釋迦の弟子。俗に、病人が自分の患部と同じその像の箇所をなでて病気の快復を祈願する。「なでぼとけ」とも言う。】 【右丁 右側上下左側中央の順】 田(た)の中(なか)   に  居(ゐ)れば 八朔(はつさく)  苦労(くらう)なり【注④】 鉢巻(はちまき)を  すると   女房(にようぼう)    帯(おび)を     しめ 孝行(かう〳〵)のやうに水鳥(みつとり)   なつみ居(ゐ)る 【左丁 右側上下左側中央の順】 水鶏(くひな)にも  母(はゝ)は出(で)て    みる 物(もの)あんじ 強(つよ)いふり  俗(ぞく)が坊主(ぼうず)を  きて【注①】   あるき 空(から)つ(◦)【注②】  手(て)で 宝(たから)あわ   せに  伍子胥(こししよ)【注③】     勝(かち) 【注① 出家していない俗人が坊主合羽(江戸時代、オランダ人のカッパをまねて作った袖の無い雨合羽)を着ていること】 【注② 「◦」=空手(からて=手に何も持たないこと)を「からって」と促音にする意で付けたものと思われます。つまり現在の小さな「っ」を表わしているのでは。】 【注③ 中国、春秋時代の呉の臣の名。】 【注④ 八朔(旧暦八月一日)に吉原の遊女が白無垢で道中する習わしがあった。田の中では白無垢が泥で汚れて苦労するだろうとの意?】 【右丁 右側から左側上下】 猪(ゐのしゝ)の寝がへりに   散(ち)る  萩(はき)の    露(つゆ) 古足袋(ふるたび)の  指(ゆび)の出(で)る    のが   講(かう)    頭(かしら) 初心(しよしん)  ほど 高慢(こうまん)  らしい 【左丁 右側から左側上下】 手拭(てぬくひ)を持(もち)あつ  かつて安初会(やすしよくわい) 筆先(ふでさ)き   で  若紫(わかむらさき)を   染(そめ)さげる【?】 傾城(けいせい)に  鼻(はな)を あかせる   嘘(うそ)つ(◦)つき   【右丁 右側から左側上下】 親(おや)のせに立(たゝ)  せた鷹(たか)は鳶(とんび)の子 鼻(はな)を   かむ  のだに  たいこは    笑(わら)ひかけ 山(わ)  葵(さび) ちよん  ぼり 大平(おほひら)の八(はち)まん座(ざ) 【左丁 上段、下段右左の順】 隹(ふるとり)  は 下総(しもふさ) 公(きみ)は  武蔵(むさし)   なり 吹(ふき)がらの  煙(けむ)りで  狸(たぬき)さと   られる 茂(も)  林(りん)   寺(じ)    で  毛有(けう)な茶釜(ちやかま)      と    大(おほ)さわぎ 【右丁 右から左へ】 おしどりの橋(はし)の     掛(かけ)たは天(あま)の川(かわ) 筆(ふで) 捨(すて)た松(まつ)で  筆(ふで)とる    旅日記(たびにつき) いゝ藪(やぶ)を  もつて   寝(ね)られぬ  半夏前(はんげまへ) 【左丁貼紙上から下へ】 請求記号 911.45【下線】 受入番号 ――― 東京学芸大学附属図書館 東京都小金井市貫井北町4-780 電話(国分寺0423-21) 1741(代) 【裏表紙】