《題:これら病予防心得》   明治十年九月  [定価八銭] 《題:これら病予防心得》  東京書林      白楽圃発兌 虎列刺病予防心得   鹿児島県より電報《割書:明治十年|八月廿五日》  鹿児島県下下越、キジマテウチムラより青瀬村中浜村  辺コレラ病流行し其病勢凡そ三時間を経て死する者  四十余人に至り病者数知れざる旨警視分署より報知  あるに付速に臨病院より医員を差向けたれども相成  ベくは至急に治療法及び予防法等心得し医師派出の  御都合取計ひを願ふ尚追て病の性質は委細申上べく  との趣を同県令より電報にて其筋へ伺ひに成りしと 〇内務省録事《割書:明治十年|九月十九日》  鹿児島県下谷山郷ニ於テコレラ病流行ノ趣電報神奈  川県下横浜并神奈川駅ニ於テ同様流行ノ趣上申アリ  付テハ衛生局第五号報告ニ示セル養生法等ヲ守リ能  ク其身ノ保護ニ注意アランヿヲ要ス 〇内務省衛生局《割書:明治十年|九月十九日》  神奈川県下横浜ニ於テ本月五日ヨリ虎列刺病流行シ  十八日ニ至ルマテ患者総員四十二名アリ其内十四人  死去二人全治二十六人ハ治療中ノ趣報知アリタリ 〇内務省衛生局《割書:明治十年|九月二十日》  長崎ニ於テ本月初旬ヨリ虎列刺病類似ノ症病流行ノ  処十日頃ヨリ真ノ亜細亜虎列刺流行シ同日ヨリ十七  日迄ニ患者七十八人アリ内十八人死去セル趣県官ヨ  リ報知アリタリ 〇警視本署甲第二十四号《割書:明治十年|九月二十日》  虎列刺病予防心得別冊ノ通内務省ヨリ被相達候条此  旨布達候事   但シ別冊ハ内務省乙第七十九号ノ通ニ付此ニ略ス 〇警視本署乙第二十四号《割書:明治十年|九月二十日》  虎列刺病伝染ノ徴候有之ニ付テハ第一石炭酸必用ノ  薬品ニ候処此機ニ臨ミ一己ノ利欲ヲ謀リ代価を騰貴  シ販売ノ者有之候テハ不相成候条薬店営業ノ者ヘ至  急諭達可及此旨相達候事   但格外ノ代価以テ販売ノ者於有之ハ糺問ヲ遂ケ   処分可申付候条此旨可相心得事 〇東京府甲第八十七号《割書:明治十年|九月二十日》  神奈川県管内横浜港ニ於テ虎列刺伝染病流行ノ趣該  県ヨリ通知有之自然当管内ヘ伝染ノ程モ難計就テハ  病院本分局並ニ区医同出張所等へ兼テ相達置ク旨モ  有之ニ付速ニ便宜ノ場所ニ申出治療ヲ受ケ候様可致  此旨布達候事   但病毒消滅薬ノ義ハ病院本分局及ヒ区医同出張所   等ニ於テ可致付与筈ニ付便宜ノ場所ヘ申出受取可   申尤代価自弁難致モノハ無代価付与可致事 〇東京府丙第二百三号《割書:明治十年|九月二十日》  今般甲第八十七号布達候ニ付テハ毎区内巡視ノ上伝  染ノ徴候アル病者見聞候カ又ハ病者ヨリ届出アルトキ  ハ速ニ最寄医員(病院本分局及ヒ区医同出張所)へ協議  ヲ遂ケ病毒消滅ノ方法可致注意此旨諭達候事 〇警視本署甲第二十五号《割書:明治十年|九月十九日》  今般横浜港市街ニ於テ虎列刺病症ニ罹リ死亡ノ者有  之自然当地へ伝染ノ患難計ニ付▢生自養勿論ニ候得  共万一盛染症ト認メ候ハヽ時間ヲ不移医師ノ治療ヲ  乞ヒ其旨速ニ最寄警視病院又ハ各分署ヘ可届出此旨  布達候事   但シ他人ト雖𪜈右病症ニ罹リ候モノ見受候ハヽ本   文同様可届出候事 〇警視本署甲第二十六号《割書:明治十年|九月廿一日》  医師診断ノ際虎列刺病感染ト認メ候ハヽ患者前入口  ニハ(コレラ病アリ)ト記載シ該医師ニ於テ直チニ粘付  可致此旨布達候事 〇警視本署甲第二十七号《割書:明治九年|九月二十一日》  虎列刺病伝染ノ徴候ニ付テハ取調ノ都合モ有之間当  分ノ内何症ニ不限総テ死亡ノ者ハ医師ノ診断書ヲ添  便宜ヲ以テ警視病院又は所轄分署へ速カニ可届出此  旨布達候事 〇警視局ヨリ各方面へ左之御達《割書:明治十年|九月二十日》  所轄内薬店ニ於テ石炭酸所有ノ量数有無共至急該店  ニ就キ取調可申尤モ本人捺印シ調書取纏メ明後二十  二日限リ本署第五課エ可差出此旨相達候事  但シ該薬品ヲ隠匿シ窃ニ販売スル者有之ニ於テハ  厳重ニ処分申付候条取調ノ際可及諭達事   警視局ニテハ虎列刺病予防法ノ事務 捗(はか)ドルニ随   ガヒ益々厳密ニ注意既ニ一昨日ヨリ数名ノ警部   巡査ハ医員ト共ニ新橋ノ停車場ヲ初メ大森辺ヘ   モ出張セシメ横浜ノ方ヨリ来ルモノ悉ク撿査セ   ラレ昨日ハ各分署ノ長并ニ警部ヘ予防法ノ詳細   ヲ演舌セラレ又昨二十日ニハ各大区ノ区戸長ヲ   同局第二課ヘ呼出シ各区務所ニヲイテ予防法ヲ   注意スベキ旨口達アリシニ付戸長ヨリ差配人ヘ   雪隠下水芥溜等不潔ノ場所ハ極メテ清潔ニスベ   ク又ソノ差配ノウチニ該病ノ患者アルトキハ昼   夜ニ限ラス速ニ区務所ヘ届ケ出ル様ニト申シ渡   サレタリ《割書:九月二十|日諭達》 内務省乙第七十九号《割書:明治十年|八月廿七日》  各府県ヘ《割書:(東京府|ヲ除ク)》  虎列刺病予防法必得別冊編製相達候条実地流行之際  ニ於テハ更ニ該法ヲ考訂斟酌シテ臨時相達候儀モ有  之候得共予防方法之儀ハ病毒浸入之前予メ注意ヲ要  スル事件不尠ニ付為心得此旨相達候事       虎列刺病予防法必得 第一条 外国地方ニ「虎列刺」病流行して内務省より撿疫  規則の施行を命するときは開港場ある地方長官は医  員衛生掛警察吏等を選定して其委員となし外国領事  に協議し該規則を遵奉して予防拒絶の事を担任せし  むべし 第二条 「虎列刺」病流行の地方より来る船舶は港外一定  ノ地ニ於テ撿病委員其船に就き船長并に医官に患者  或は病屍の有無を尋問撿按し該病者に罹れるもの或  は擬似の症状あるものは之を避病院に移し病者なき  ものと雖𪜈若干の時日を限り入港を許さゝることあ  るべし 第三条 港口に於て離島或は人家隔絶の地を撰ひ臨時  避病院を設け入港船舶の「虎列刺」患者を入るゝに供し  或は便宜に従ひ該地方にて此病に罹りたるものも入  院せしむることあるべし   但し避病院は其構造極めて軽易を主とし三棟を建   るか或は一棟にして室に区画し軽症重症恢復期の   患者を分ち置くへし 第四条 避病院には黄色の布にQ字を黒記したる標旗  を建て其境界には制止榜を立て厳しく外人の交通を  絶つへし且つ該院に需用する一切の物品は使丁を定  めて購求し其使丁は決して病室に入り或は病毒汚染  の物品に触れしむるべからす 第五条 避病院の病者全快したるときは委員より全快  の証書を与へ衣服其他一切の什具に消毒法を行ひ退  院せしむへし病者軽快に赴くとも委員の許可を得る  に非ざれは決して院外に出つるを許さす 第六条 避病院に於て死亡したるものゝ埋葬地は委員  に於て相定し妄りに埋葬すへからす但し該地方に墓  地を有するもの委員の許可を得消毒法を行ふの後は  運搬するも妨けなし   以上六条開港場ある地方にて撿疫規則に参酌し施   行すへきものとす   以下流行の時地方一般の予防方に係る 第七条 地方官は管内に「亜細亜虎列刺」病者あることを  医師より届け出たるときは其病性の真偽と諸症の緩  劇とを詳かにし若し真の「亜細亜虎列刺」なるを確認す  るときは委員を命し予防の方法に着手し内務省に申  報し且管内近隣の地方庁に報告すへし 第八条 医師は「虎列刺」病者を診察するときは其時々直  ちに区戸長或は医務取締を経て地方庁に届出へし 第九条 地方庁は医師より日々出す所の申牒を集め患  者の数と死者の数とを記し毎土曜日之を内務省に申  報すへし 第十条 地方長官は「虎列刺」病流行の勢盛なるときは日  日二十四時間の死亡員数を管内に告示すへし 第十一条 貸家旅店滞泊の船学塾及ひ諸製造所の主等  総て衆人を管するものは若し其内に「虎列刺」病に罹る  ものある時は二十四時内に委員区戸長或は医務取締  に届くへし 第十二条 陣営の主将軍艦の船将も其配下に「虎列刺」病  者あるときは二十四時内に其地方庁に通知すへし 第十三条 「虎列刺」病者ある家族は看護に緊要なる人の  外は成丈他家に避けしめ往来するを許さす患者恢復  或は死亡の後消毒法を行ひ十日を経るに非されは学  校に入るべからす 第十四条 「虎列刺」病流行の時に際し地方長官は祭礼開  市等無益に他方の人の群集する事件を禁すへし 第十五条 前条の場合に於ては地方官は病勢の緩急と  人口の多寡とに応し管内各市邑に於て特に「虎列刺」患  者のみを療養する仮病院を設け旅店の貸家等多人数  同居の患者を移し入るへし 第十六条 委員は「虎列刺」病者ある家宅船舶の門戸入口  に著しく「虎列刺」伝染病ありの数字を記して之を貼付  し成丈無用の人の交通を絶つへし 第十七条 委員は特に「虎列刺」病者の吐瀉物に注意し該  病者ある家は一々其処置を示諭し決して便所下水芥  溜田圃河海等に投棄せしむへからす   附録消毒法を参配すべし 第十八条 委員は「虎列刺」病者ある家屋船舶器具等消毒  法を行ひ或は器具の極めて汚れたるものは買上て  之を焼却埋却する等総て病毒伝播を防制する便宜の  方法を設け地方長官の許可を得て之を施行すべし 第十九条 「虎列刺」病流行の時或は其恐れある時は委員  は便所芥溜下水溝渠等総て一般の清潔に関する事件  に注意すべし但し掃除は既に流行の時に及ては或は  行ふを却て害あることあり消毒法を行ふへし 第二十条 「虎列刺」病者を運搬し或は該病に罹りて後他  行し或は患者若くは屍体に触れたる物品を消毒法を  行はざる前贈与受用せる等総て不注意に由て病毒を  他に伝播すべき事件を禁すべし 第二十一条 「虎列刺」病者を病院或は其自宅に送るには  各地方に於て此規則を参酌し相当の手続を定め妄り  に運搬転移するを禁し且つ其運送器は世間公用のも  のを用ふるを許さす運送後は消毒法を行はしむへし  排泄物或病毒に汚染したる器具を消毒法施行の場所  に送るも亦其手続きを定め注意を加ふへし 同上 第二十二条 「虎列刺」病者の死屍は該地方にて定めたる  埋葬地に非ざれは他に運送するを許さす運送の器も  再ひ生人に用ゆるを禁す而して其通路は最捷近なる  ものを撰ふへし 第二十三条 内国の港湾に於て往来の船舶に「虎列刺」病  者あるか或は十日以内に此病に斃れたるものある時  は繋泊前其舟師より該地の委員或は区戸長に届出て  其差図を受けたる場所に碇泊して全く外人の交通を  絶ち消毒法を行ひ其許可を得るの後にあらされは其  所を移すを許さを【「す」の誤りか】 第二十四条 「虎列刺」病流行の地方に在りては便宜の場  所に消毒薬販売の所を設け(在来の薬店に命し若し薬  店なき場所は新に此販売所を仮設す)委員にて其薬価  を一定し購求するものには施行の方法をも伝示せし  むへし貧困のものは無費にて給与することあるへし   虎列刺消毒薬及其方法  「虎列刺(これら)」病の真因(しんいん)と其 蔓延(まんえん)の実況(じつきゃう)とは未た明了ならず  と雖も其 病毒(びやうどく)の特に患者(もとのおころり)の吐瀉物(としやぶつ)に舎(やと)れることは諸  説の一定して復た疑を容れざる所なり  而して此吐瀉物も排泄(はいせつ)の直(たゞ)ちに伝染(でんせん)の毒(とく)を逞(たくまし)うする  ものに非さるに似たり少時【左ルビ「しばらく」】を経て泡醸腐敗(はうじやうふはい)【左ルビ「あわだちくされ」】に陥(おちい)り然  る後始て一種の伝染病を醸成【左ルビ「つくりかた)」】するものなり故に吐瀉  物を他の腐敗したる物に混するときは其腐敗するこ  と太(はなは)た速かにして病毒を発生すること最甚し「虎列刺」  病者の吐瀉物を他人の糞尿(だいせうべん)に混する(尋常の便所芥溜  下水等投棄するの類)ときは大に其蔓延【左ルビ「ひろまり」】の勢を熾(さかん)にす  るものなり 右の如くして発生したる病毒の人体に侵入するは飲 水(「虎列刺」病者の汚物を埋めたる近傍の水源或は井水 に病毒滲透したるに由る)食物(「虎列刺」病者の排泄物を 食ひたる魚介家畜の肉或は該排泄物を培養に供した る蔬菜或は病毒の気中に有て之れに染み或は小虫等 汚物を齎して附点する等より伝ふるに由る)或は消毒(どくけし) 法(はふ)を行はさる便所に上る等なり而して人体器具も亦 能く病毒を伝播(でんは)【左ルビ「うつし」】するの媒介(なかだち)となるものなり 此故に海陸の撿疫規則を以て全く此病を拒絶(きよせつ)するの 企望(きばう)は其目的を達すること極めて難しとす而して消 毒の法は近来「虎列刺」病予防方法中最大 緊急(きんきう)の事件と なり其病防の実績(じつせき)を奏したるは各国の普(あま)ねく実験す る所なるを以て此方を施行するは之を人民各自の注 意に任して足れりとすべきものに非らす必す勧奨(くわんしやう)或 は強迫(きやうはく)して厳重に奉行せしむるは保護の要件なりと 是れ此方法は直ちに病毒を撲滅【左ルビ「うちけす」】するの方あるが故に 精密(せいみつ)に注意して施行するときは能く其蔓延を制し且 つ該地の病根を永遠(ゑいゑん)に絶つことを得るものなれはな り輓今(ちかごろ)欧洲(ようろうは)諸国伝染病流行の時に際しては一般に之 を施行し之が為に莫大(ばくだい)の国費(こくひ)を要すと云ふ 消毒薬中(せうどくやくちう)最有力のものは石炭酸(せきたんさん)を第一とす近来消毒 法の声誉(せいよ)を得たるは職として此発明に由るなり之に 次くものは亜硫酸瓦私(ありうさんぐわす)なり緑礬(ろうは)の単用は防臭(ばうしう)の能あ るのみ病毒を撰滅するに足らす亦た石炭酸(せきたんさん)を配用す べし        消毒薬方 第一 粗製石炭酸(そせいせきたんさん) 四十五分より六十分ノフエニル酸  (即ち結晶石炭酸)を含(ふく)むものにして稍(やゝ)色を帯び流動し  て水に溶化し難(がた)し「テール」を化すれば不快(よからぬ)の臭気【左ルビ「くさみ」】を発  す 第二  石炭酸末 右の粗製石炭酸に木炭。砂灰。鋸屑(をがくづ)等の  粗末を化したるもの 第三 結晶(けつしやう)石炭酸(即ち「エニル酸又フエニルアルコール」  無色の結晶酸(けつしやうさん)にして全く水に溶解【左ルビ「とける」】するもの(十八分至  廿分の水にて既に溶解す) 第四 石炭酸水 結晶石炭酸一分を百倍の水に溶(とか)した  るもの 第五 石炭酸溶液(せきたんさんようゑき) 結晶石炭酸二分を百分の水に和し  たるもの 第六 硫酸鉄(りうさんてつ)と石炭酸との混和溶液(こんくわようゑき) 一「キロ」の緑礬(ろうは)を  十五「リトル」の水に混し三百ガラム至三百五十ガラム  の粗製石炭酸を加へたるもの(此合剤は久しく貯ふべ  からす用に臨て調合すべし 第七 石炭酸蒸気(用に従て粗製或は結晶酸を用ふ)石炭  酸を皿(さら)に盛(も)り文火(ぬるきひ)に上(の)せ蒸散せしむ 第八 亜硫酸瓦私 硫黄【左ルビ「▢わう」】に火を点し焼(やき)て瓦私(くわす)を発す        消毒薬用法  消毒法と施行するには(第一)其 瀉【左ルビ「くだし」】物吐物【左ルビ「はき」】及ひ此吐瀉物  を以て汚したる衣服具 紙屑(かみくつ)布片等(きれるい)及ひ其死体(第二)患  者の消息(ねおき)したる居室(ゐま)船室若くは病院陣営等(第三)便所  塵芥(ごみため)下水等一切 不潔(むさくるしき)の掃除に注意す可し(第一)病毒に  汚染(よごれしみ)したる物品  (排泄物)吐瀉物を受る器(うつは)は予め縁礬(ろうは)に石炭酸(せきたんさん)を混した  るもの(第六)一合余を入れ置き用を終るの後は直ちに  屋外に持出し洗浄【左ルビ「あらひきよむ」】して又右の消毒薬を入れ後用に備  なへし吐瀉物并に其器を洗浄したる水及ひ吐瀉物に  染(しみ)たる紙屑布片は溝渠(みぞ)下水(けすゐ)芥溜(はきだめ)田圃(でんぼ)等に投棄(なげすて)すへか  らす且つ此吐瀉物他の腐敗物に混するときは其病毒  を醸成すること殊に甚しきを以て決して之を尋常(つね)の  便所に投し健康(けんかう)なる人の糞尿(だいせうべん)に混すへからす「虎列刺」  病者の排泄(はいせつ)物は悉皆(こと〳〵く)之を取分け深く土を堀りて之を  埋め十分に石炭酸末(第二)を撒布し然る後土を覆ひ雑  草を種(う)ゑへし又排泄物を焼却するは殊に良(よろし)とす浅く  穴を堀り底(そこ)に乾きたる藁(わら)或は鉋屑【左ルビ「かんなくす」】を布き吐瀉物を其  上に投し再ひ藁或は鉋屑を覆ひ石炭油を灌(そゝ)ぎて火を  点(とも)す火勢滅するときは之を攪せ再ひ油を注き全く灰  燼となるの後穴を塡め雑草を種ること前に同し但し  排泄の度毎に斯く埋却(まいきやく)焼却(せうきやく)するを要せす積て若干の  容量に至て焼棄して可なり  排泄物は家屋井戸用水等を距ること七間以上の場所  にあらされは埋むへからす且つ一穴に多量を収むへ  からす  自宅に吐瀉物を埋め或は焼くの余地を有せざるもの  は前段の如く消毒法を行ひ置き一日二回【左ルビ「にど」】或は三回【左ルビ「さんど」】一  定の場所に送るべし委員は予め之が為めに恰当【左ルビ「しかるべき」】の地  を定め排泄物を処分する所となし各家より送る所の  排泄物を前法に従て焼き或は埋むべし紙屑布片等の  汚物に染みたるものは排泄物と共に焼却すべし  (衣服夜具)洗濯(せんたく)に堪ふべき衣服は桶(をけ)に入れ石炭酸 溶液(ようえき)  (第五)を灌(そゝ)き浸(ひた)し置くと一昼夜にして更に熱湯(あつゆ)を注き  煮(に)ること四分時後水にて洗浄【左ルビ「あらひきよめ」】す  洗濯に堪へざる衣服は其品柄によりて亜硫酸瓦私(第  八)或は石炭酸蒸気(第七)を以て薫(いぶ)蒸すべし  「虎列刺」患者或は死屍に触れたる上衣(うわぎ)は吐瀉物に汚  染したるに非ざれは[汚染したるものは勿論前法に従  ひ然る後刷浄して空気に晒【左ルビ「さら」】すべし  (夜具)の類も石炭酸溶液を流(ひた)し後煮沸洗浄すること衣  服とに同し其洗濯【左ルビ「せんたく」】すべからざるものは十分に石炭酸  の蒸気を薫(いぶ)し或は溶液を布片海綿に浸して洗刷すべ  し  総て衣服夜具 畳席(しきもの)等の甚しく汚れたるものは買上げ  て焼却すべし  (家具)木材の具飲膳の具等は皆石炭酸水(第四)を灌(そゝ)き然  る後 石鹸(しやぼん)水にて洗浄し乾かすへし其洗ふべからざる  ものは亜硫酸瓦私(第八)或は石炭酸蒸気(第七)にて薫し  或は石炭酸溶液(第五)を海綿【左ルビ「かいめん」】布片に浸(ひた)し拭浄【左ルビ「のとひきよめ」】すへし総  て日常の家具は病室に入れて一時に薫蒸し石炭酸水  を以て洗浄するを最良とす  (書籍新聞紙)の類病室にありたるものは開きて石炭酸  蒸気を薫(いぶ)すへし  (器械)外科(けくわ)産科の道具職人手道具の類は石炭酸水(第四)  を以て洗ふへし  (食物の汚れたるものは投棄【左ルビ「うちやる」】すべき者許多なり或は消  毒法を行ふて足るものあり委員の指図に随ふべし  (死屍)「虎列刺」病に斃れたるものは成丈速に片付け十分  に石炭酸溶液(第五)を浸したる木綿を以て之を包み健  康なる人を近づかしむべからず棺(くわん)の内には多量の石  炭酸末(第二)を充て時々石炭酸溶液を灌くべし  (第二)家屋船舶病室等  (部屋)「虎列刺」病者ある部屋並に死屍を置ける部屋は十  分に石炭酸蒸気(第七)(結晶酸を用ふへし)を薫して之を  満室に篭【左ルビ「こ」】むへし患者全快し或は埋葬の後は先つ室中  の金銀器書画彩色絹物等を取除け(此品は別に相当の  消毒法を行ふ)窓戸を密閉し火鉢に火を盛り其上に硫  黄を置き入口を閉(と)づへし薫蒸【左ルビ「いぶしたてる」】すること六時乃至八時  にして火鉢を除き窓戸を開き少時【左ルビ「しばらく」】を経て室内の諸物  を大気中に持出し敲(たゝ)き払ふへし天井【左ルビ「てんぢやう」】建具等木製の物  は石炭酸(第四)を注き石鹸水を以て洗浄し後ち空気に  晒すへし  (運送器具)「虎列刺」病者或は其死屍を運送(うんそう)したる舟車駕  等は用ふる度毎(たびこと)に石炭酸水(第四)を以て洗ひ或は石炭  酸蒸気(第七)亜硫酸瓦私(第八)を蒸すへし右の車駕中に  具へたる器具は前条の消毒法を参酌【左ルビ「みはからへ」】して行ふへし  (第三)便所芥溜【左ルビ「はきため」】下水等  (便所)は日々其糞池を掃除し十分に緑礬【左ルビ「ろうは」】石炭酸の合剤(かうざい)  (第六)を撒布【左ルビ「まきちら」】し再ひ汚臭(をしう)を放つを見は直ちに之を撒【左ルビ「ふりかけ」】す  へし  (芥溜)は流行前に掃除【左ルビ「そうぢ」】すへく既に流行の時に及て掃除  するは攪擾【左ルビ「かきちらか」】して其 悪気【左ルビ「わるき」】を揮発し却て害あることあり  静定して時々其上に石炭酸末(第二)を撒布【左ルビ「まきちら」】して之を覆  ふべし或は掃除の時に臨み石炭酸緑礬の合剤(第六)を  灌(そゝ)くも亦 良(よろ)し  (下水溝渠)は日々之を疎通し水を灌(そゝ)きて洗浄すへし甚  しく汚穢(きたなきもの)の滞塞(とゞこうりふさがり)したる所は石炭酸水(第四)を注くを良  とす   ( 畢)        予防救済方法 〇内務省衛生局報告第五号《割書:十年八月|廿四日》  虎列刺病流行スルヤソノ勢ヒ甚タ迅疾ニシテ殆ント  耳ヲ掩フニ及バザルモノアリ其ノトキニ当タリテハ  官庁ヨリ予防救済ノ注意アルベシト雖𪜈其養生法ト  吐瀉物ノ洗浄法トノ如キハ各人予テコレヲ心得置キ  深ク戒慎スルニ非サレハ啻ニ其ノ一身ヲ非命ニ殪ス  ニ止マラス必ラス其惨毒ヲ他人ニ蔓延シ底止スル所  ヲ知ラザルニ至ルベシ因テ今其方法ヲ記シテ左ニ報  告ス        虎列刺病(これらびやう)流行(りうかう)之節 各自(かくじ)に注意(ちゆうゐ)すべき        養生法          附 吐瀉物(としゃぶつ)洗浄法(せんぢやうはう)  コレラ病(びやう)は同じく其 病毒(びやうどく)に触(ふ)るゝ人と雖も悉皆(しつかい)之に  感染(かんせん)するものに非す外襲(ぐわひしふ)病毒(びやふどく)の外更に其 体中(たいちゆう)に於て  之に応するものあり始めて病を発(はつ)するものなれは消(せう)  食機病(しよくきひやう)殊に下痢に罹(かゝ)るものは最も危く且(かつ)其平常 坐臥(ざか)  を同しくする人にても毎(つね)に腸胃(ちようい)の健康(けんこう)なるものには  感染すること稀れにして虚弱なる人に多きが故に其  流行の時に際しては別して飲食を節用し労働を慎し  みて消食機を健全にし感胃食傷等をなさゝる様に用  意をなし若し軽き下利或は他の消食機病を発するこ  とあれば速に医師に就き大切に養生すべし  食物は一つ一つの品を定めて其 良否(りやうひ)を判(わか)たんよりは  其 調理(てうり)と節用(せつよう)とに注意するを肝要なりとす如何なる  食品にても生物を食し或は多食するときは下利其他  の腸胃(ちやうゐ)病を発して伝染を招き或は伝染するものなり  其外各人の慣習に因りて常に下利を発するものは同  様の害あれば決して用ふべからず偖(さて)其用ふへき食料  には穀物及び牛(うし)犢(こうし)羊(ひつじ)鷄(にはとり)の鮮肉【左ルビ「よきにく」】を最上とす家鴨(あひる)雁(がん)豚(ぶた)の  肉は脂肪【左ルビ「あぶら」】多くして宜しからず又魚介を厳禁するとい  ふことあれとも海浜にては常食となすが故に之が為  に差支を生すべし到庭新鮮なる者は差して禁ずるに  及ばず野菜は萵苣【左ルビ「ちさ」】の類を捨て馬鈴薯の如き澱粉を含  める根類(蕃薯【左ルビ「さつまいも」】及薯類)を食すへし魚介蔬菜は勿論総て  何品にても煮蒸焼炙【左ルビ「にむしやきあぶり」】等の調理を経たる物に非れは用  ふへからす又 成熟(せいしゆく)せる菓実 桃(もゝ)李(すもゝ)梨(なし)檎(りんご)葡萄(ぶとう)苺(いちこ)の類を少  し許つゝ食するは害なしと雖も不熟(ふしゆく)のものは必す之  を忌むへし  飲水(のみみつ)は不潔(ふけつ)或は疑はしきものを忌(い)むへし凡て此際に  於ては何れの水をも皆不潔なるものと想(おも)ひ定め一と  たび煮沸(にた)てし後ちに用ふるを良(よ)しとす但し煮沸(にた)てし  後ち復(ま)た冷せし水は其 新鮮(しんせん)活溌(くわつぱつ)の味(あぢ)を失ふものなる  が故に少量(せうりやう)の茶或は葡萄酒(ぶどうしゆ)を加へて其味を直すべし  抑飲水を清浄にするに過満俺酸加里(くわまんかんさんかり)といふ薬を称用(せうよう)  する者あれとも之を化して僅に赤色を帯ふるを度と  し決して多量(たりやう)を加ふへからす若し此 酸(さん)を滴(したゝ)らして其  水 茶褐色(ちやかつしよく)となるものは夥(おびたゞ)しく有機物(ゆうきぶつ)を含有(がんゆう)するの証  にして飲料に適せさるものと知るへし又茶酒等を適(てき)  用(よう)すへしと雖も酒は極めて少量に限り又 酸気(さんき)を帯(お)ひ  たる乳並に酸味の飲料は勿論冷水氷製の如きも禁忌  すへき物とす  以上飲食の適用を必得誤りて全く穀物野菜を食はす  只々肉と羹汁【左ルビ「そつぷ」】とのみを限り或は粥のみを以て常用と  し飲料にも亦葡萄酒のみを用ふる等は大なる過(あやま)ちな  りとす又 最良(さいりやう)の飲食たりとも其用ふる分量を平日よ  り少しく減(げん)すへし然れとも甚た空腹(くうふく)に至るときは却  て害あるものなり  衣服(いふく)は感冒 下利(げり)を予防(よばう)せんが為に常服の外にフラン  ネル木綿(もめん)等にて小腹(したはら)を巻(ま)き足には毛布(けぬ)の股引の類を  穿(は)くを良(よ)しとす若し全身【左ルビ「みうち」】湿濡【左ルビ「しめりぬるゝ」】せし時は速に乾(かわ)きたる  衣服に着換早朝 深夜(しんや)の湿気(しめりけ)を避くべし  冷水を以て常に全身を洗拭【左ルビ「のこふ」】するの習慣(しうくわん)ある人は流行  中に於ても之を休むるに及ばざれども其冷浴【左ルビ「みづあび」】の如き  は止むるを以て良とす  過度(くわど)の運動(うんどう)(盛宴【左ルビ「さかもり」】。不眠【左ルビ「ねず」】。非常の奔走【左ルビ「かけはしり」】等)精神(せいしん)及び身体の疲【左ルビ「つかれ」】  労憂愁【左ルビ「うれひ」】憤怒【左ルビ「はらたち」】の如き神思の勘当(かんどう)を避けて居常(つね〳〵)活溌(くわつぱつ)爽快(そうくわい)  ならんことを務むべし総て衰弱(すいじやく)は遺伝(いてん)。病後。労動(ろうどう)。等に  由るの別なく皆 伝染病(でんせんびやう)の感応性(かんおうせい)を増加するものなり」  「コレラ病者の見舞は成丈け之を避くべし仮令(たとへ)躬(みづか)ら之  に感染(かんせん)せざるも更に他に伝及(でんきう)する媒(なかだち)となるの恐(おそ)れあ  るものなり然れども止むことを得すして見舞ふとき  は必す空腹(くうふく)にて往(ゆ)く可からず既(すて)に見舞ひし後には即  ち石炭酸水(せきたんさんすい)(一分の結晶石炭酸(けつしやうせきたんさん)を百倍の水に溶(とか)したる  もの)を以 嗽(そゝ)き又此水に半量(はんりよう)の浄水(せうすい)を和(くわ)して顔面【左ルビ「かほ」】をも  洗ひ次て石鹸(せきけん)【左ルビ「しやぼん」】にて洗浄(せんちやう)すべし(石炭酸(せきたんさん)を和して製した  る石鹸は便利なりとす)居所【左ルビ「ゐどころ」】を清潔(せいけつ)にし寝室(ねま)の空気を  乾燥(かんそう)ならしめ糞尿【左ルビ「べんじよ」】を除去(ぢよきよ)すべし是等の汚穢物(おゑつぶつ)は伝染(でんせん)  の媒(なかだち)となるものなれは深く注意して禍(わざわい)を招(まね)くこと勿  れ  流行(りうこう)地方に居住(きよぢやう)せざるも敢て差支なき人にして甚し  くこの病を恐るゝものは避(さけ)て人迹(じんせき)の少き山郷(さんきよう)に赴(おもむ)く  に如くはなし然れとも此病を感受(かんじゆ)する日より発病(はつびやう)ま  てに至る間は甚だ不同(ふどう)にして其短き者は二十四時に  於て発すへしと雖も二十一日に至ることありて其 発(はつ)  症(しやう)は至て幽微(かすか)なるが故に既(すで)に気分(きぶん)悪しくして下利(げり)す  る時は最早旅行すべからす        吐瀉物(としやぶつ)洗浄法(せんじやうほう)  コレラ病者あるの家に於て消毒(せうどく)の法を行ふは委員(ゐいん)并  に医師の教示【左ルビ「さしつ」】を受くべしと雖も今心得の為に吐瀉物(としやぶつ)  掃除(さうぢよ)の方法【左ルビ「しかた」】を示(し)めすべし抑(そも〳〵)コレラ病(びやう)の伝染毒(でんせんどく)は其 吐(と)  瀉物(しやぶつ)に舎(や)どれるものなるか故に特(こと)に其 掃除(さうぢよ)に注意す  べし元来 邦人(ほうじん)の習慣【左ルビ「しなれ」】にては斯る病毒の舎(や)どれる吐瀉(としや)  物(ぶつ)にても或は之を河海に投(とう)し或は之を下水(げすゐ)に投(とう)すれ  は其 病毒(びやうどく)は既に消滅(せうめつ)したりと誤(あやま)り認(みと)めて早晩(いつか)其水に  混(こん)して伝播(でんぱ)し又は地中に浸潤【左ルビ「しみこみ」】し井泉(せいせん)にまで透竄【左ルビ「しみほり」】して  病毒(びやうどく)の伝染(でんせん)するに至るを知(し)らざるもの多し人々善く  之を心得置き消毒薬(せうどくやく)を求め予(あらかじ)め吐瀉物(としやぶつ)を受る器(うつは)には  此薬を容(い)れおき已に使用(しよう)せし後は直ちに屋外(おくぐわい)に持出  して洗浄し又其 消毒薬(せうどくやく)を入れ置べし偖(さて)此吐瀉物并に  其器を洗浄せし水は決(けつ)して之を他人の用ふる糞池【左ルビ「こえため」】に  混すべからす悉皆(しつかい)之を取分け住家及ひ井戸を距るこ  と六間半余の地に於て深(ふか)く其土を堀りて埋(うづ)め或は焼  捨すべし若し自宅(じたく)に此の如き余地(よち)なき者は前の如く  消毒法(せうとくほう)を行ひ置き一日に二度或は三度 程(ほど)づゝ一定(いつてい)の  場所(一定(いつてい)の場所とは委員(ゐいん)或は区戸長より予(かね)て吐瀉物(としやぶつ)  等を処分(しよぶん)する地を定(さだ)め置(お)くものを云ふ)に送(おく)るべし尚(な)  ほ詳細(しやうさゐ)は委員(ゐうん)及ひ医師区戸長の指図を受けて精々手  抜なき様に処分(とりはからひ)すべし  予防法を左に掲ぐ警視局御雇教師テーニッツ氏口述せ  られし虎列刺病の今日新聞上を以て人民に布告すべ  き箇条左の如し  虎列刺病は唯中毒に由て発す其毒は虎列刺病者の排【左ルビ「はい」】  泄物【左ルビ「せつぶつ」】例【左ルビ「たとへば」】の大便(だいべん)吐物(へど)等に在り虎列刺病の四方に蔓延す  るは大便よりするを以て大便中に含有(ふくむ)したる毒を撲(うち)  滅(け)すべき 第一の急務(きふむ)なり又た虎列刺病者の着したる  衣服 蓐(しとね)等は皆悉く火に投して焼尽すべし何となれば  虎列刺病者の排泄物之に附着(ふちやく)する者あればなり消毒  薬として糞尿(くそせうべん)中に注漑(そゝぎ)すべきものは緑礬【左ルビ「ろうは」】是れなり其  水に溶解(とける)するの度は五十倍なり(即ち一分の緑礬に水  五十分)是れ価廉にして用法亦た簡易なり其用法は毎  日全く臭気の止む迄 糞桶(くそをけ)中に注(そゝ)ぐべし其他消毒薬と  して方今用ふる者は石炭酸(せきたんさん)なり此消毒薬を糞器に注  ぎ入るゝは虎列刺流行の地は勿論未た流行の萌(きざし)なき  も客人等虎列刺病者に接し或は虎列刺病潜伏気【左ルビ「せんふくき」】の人  に交り其毒を含みたる者未だ発病せざるを以て知ら  ずして厠(かわや)へ臨(のぞ)めば即ち其厠中に止まるなり  然るときは其家の者皆知らずして之に触るれは其毒  に感する明瞭なり故に未だ流行せさるの地と雖ども  注意して緑礬石炭酸等の消毒薬を糞器中に注漑する  ことを怠る可からずと云ふ  虎列刺に由て斃れたる者は土葬より火葬に処するを  良とす此時衣服蓐等も一処に焼灰すべし  虎列刺毒 伝播(でんぱ)の景況種々あり左に一二を挙く虎列刺  患者の排泄(はきくだし)物地に落散りしとき降雨等の為め地中を  通り其近傍の井及ひ水道に至り其水中に混ず之を飲  むものは虎列刺毒に感する論を俣さす又た其虎列刺  毒を含みたる水を牛に飲ましむれは牛は之に感せざ  るも体中に吸収め其乳中に分泌す故に其牛乳を飲み  さるものは其毒に染むと虎列刺毒を含有せる水を飲  むと同し是れ英国にて確認(くわくじん)したるなり  虎列刺患者の排泄物大便を田圃に蒔き散せは其植物  其毒を吸収め仮令外面より何的【左ルビ「なにほど」】の洗滌法を行ふも決  して洗ひ尽さず而して之を食する者は忽ち其毒に感  す(以下次号ニ出ス)  明治十年九月廿五日御届             東京府平民         編輯人   山田栄造               第四大区一小区               北甲賀町廿番地             東京府平民         出版人   江島伊兵衛               第一大区六小区               呉服町九番地 【裏表紙】