厄病除鬼面蟹冩真(やくびやうよけきめんがにのしよううつし)                        森光親冩 皇朝(わがくに)西海中(さいかいちう)に湧出(わきいづ)る鬼面蟹(きめんがに)は 古代(むかし)管領高國(くわんれいたかくに)の臣(しん)嶌村弾(しまむらだん) 正髙則(じやうたかのり)摂州(せつしう)大物浦(だいもつのうら)の合戦敗(たゝかいやぶれ) 逆浪(あらなみ)に身(み)を投(たう)じ其霊化(そのれいけ)して蟹(かに) となる土俗(どぞ) 称(よん)で嶌村蟹(しまむらがに)といふ此(この) 説(せつ)おそらくは附會(ふくわい)ならんか鑑(おもふ)に水土(すいど)の 気(き)によりて生(せうづ)る物(もの)なり其(その)甲(かうら)をもて門戸(もんこ)に 釣(つる)せばよく諸(もろ〳〵)の厄(やく)を除(のぞ)き疫癘(ときのけ)をはらふこと 實(じつ)に神霊(しんれい)あるがごとし然(しか)れども東海(とうかひ)には得(うる)こと かたし依(より)て其(その)本形(ありのまゝ)を冩真(うつし)とりて一紙(いつし)におさめ 衆人(しうじん)に見(み)せしむ常(つね)に門戸(かどのと)室壁(いへのかべ)に張置(はりおき)て 四時(とき〴〵)禍(まがつみ)を決(さく)べきなり           金屯道人謹識