【シール】847―210 《題:牛痘辨非   完》 牛痘辨非(ぎうとうべんひ) 痘科(とうくわ、ホウソウカ)は醫家(いか)十三/科(くわ)の一(いつ)にして漢土(かんど、モロコシ)にては宋元(そうげん)以来世々(よゝ)其人に乏(とほし) からずといへ共我(わが) 邦(くに)にては専(もつは)ら痘科と称(しよふ)するもの古来(からい)より 断(たえ)てある事(こと)なし予(よ)が高祖嵩山君明(すうざんくんみん)の載曼公園先生(たいまんこうせんせい)に従(したがい)て悉(こと〴〵)く 其奥秘(おうひ)を伝授(でんじゆ)し祖考錦橋君(そこうきんきょうくん)に至りて始(はじめ)て痘科を以て専門(せんもん)とし 京師(けいし)に在(あり)て世に鳴(な)り遂(つい)に 太府(たいふ、コウギ)の召(めし)に應(おう)じて東都(とうと)の醫官(いくわん)に列(れつ)す 実(じつ)に 本邦痘科(ほんほうとうくわ)の鼻祖(びそ、ハジメ)たる事世の知(しる)所なり故に治痘の法に於(おけ)る 皆/予(よ)が家術(かじゆつ)におざるはなし凡(おうよそ)痘(とう、ホウソウ)に関係(くわんけい、カゝル)する所何事(ところなにごと)によらず人の 問(とひ)に答(こたへ)て其方法(ほう〳〵)を説示(ときしめさ)ざる事なしされば治痘(ちとう)の諸法(しよほう)に至りては 漢蘭(かんらん)を擇(えらば)ず田夫野媼(でんふやおん、イナカノチゝバゝ)の語(ご)といへ其博(ひろ)く集(あつめ)て其/可否(かひ、ヨシアシ)を撰(えら)び可(か、ヨキ)なる 【右頁】 ものは是(これ)を用(もち)ひ不可(ふか、ヨカラヌ)なるものは戒(いましめ)て是を用ひず世人(せじん、ヨノヒト)犀角的利亜加(さいかくてりあか)の 類(るい)をも其/主治(しゆち)の当否(とうひ、アタルヤイナヤ)を知ず漫(みだり)に用ひて害(がい)を招(まね)くは何事そや病(やまい)に 寒熱虚実(かんねつきよじつ)あり薬(くすり)に補瀉温涼(ほしやうんりやう、ヲギナヒクダスアタゝメヒヤス)あり一既(いちがい)に痘に宜(よろし)となすは炎暑(ゑんしよ)より 綿(めんい、ワタイレ)を抜(にく)し温煖(うんだん、アタゝカキモノ)を茹(くらふ)が如く厳(げん)寒に単衣(たんい、ヒトヱ)を着し冷水(れいすい、ヒヤミヅ)を飲(のむ)が如し その宜きにあらざるは辨(べん)を費(ついやす)に及ずといへ共此等の理獨愚俗(りひとりぐぞく)の惑(まどへ)る のみならず醫(い)も亦/或(あるい)は是を了知(りやうち、サトル)せず参茋犀角(じんぎさいかく)を合投(あわせとう)じ薬(やく) 性(せい)の温涼(うんりよう、アタゝムルヒヤス)を辨(べん)ぜさるに至るは考(かんが)ひえざるの甚しきなり吾(わが)家にては 的利亜加(てりあか)は痘科無用(とうくわむよう)の薬なるを早くより辨知(べんち、ワキマヘシル)すと雖(いへ)とも世俗(せぞく) 専(もつはら)これを用るを以て其方をも集録(しうろく、アツメシルス)する事三十餘方(よほう)に至る まして其/他有用(たうよう)のものに於(おい)ては集録せずと云事なし獨種痘(ひとりしゆとう) 【左頁】 諸法(しよほう)の如きは損(そん)ありて益(ゑき)なきを以て深(ふか)く門弟子等(もんていしら)をも戒(いまし)めて 敢(あへ)て施(ほとこ)し行(おこな)いしめず然るを世人/或(あるひ)は予(よ)を評(ひゆ)してその業(ぎよう)に害(がい) あるを以て誹謗(ひほう、ソシル)すといひ或は其/術(じゆつ)を羨(うらや)み妬(そね)むといふ殊(こと)に知らず彼徒(かれら)の 説実(せつじつ)に是/良法(りようほう、ヨキ)ならば予に亦これを施(ほどこ)し行(おこな)はんのみ何そ他(た)人の業(ぎよう)を 防(さまた)げんや全(まつた)く其或は再(さい、フタゝビ)痘(とう)を發(はつ)し或は驚癇(きようかん)となりて死ぬ(し)に至るもの 多(おほき)を以て敢(あへ)て行(おこな)はざるなり抑牛痘(そも〳〵ぎうとう)の一術原(いちじゆつもと)これ愚民(ぐみん)を煽惑(せんわく、マドハス) するの妖法(ようほう、アヤシキワザ)にして我 邦(にく)の人に施(ほどこ)すべき術にあらず西洋夷狄(いてき)は 禽獣(きんじう、トリケモノ)に異(ことな)る事なく飲食風土(いんしよくふうど、ノミクヒイヤウキ)もとより同(おなじ)からず肌膚(きふ、ハダヱ)も亦/犬馬(けんば、イヌムマ)に 近(ちか)し故に痘毒(とうどく)も自然他症(しぜんたしよう)と成(なり)て皮表(ひひよう、カワノソト)に発して害(がい)をなす事/少(すくな)し 且(かつ)西洋もとより痘の流行(りうこう、ハヤル)稀(まれ)なり或は十数(じうすう)年にして一発(いつはつ)す 【右頁】 本邦(ほんほう、ワガクニ)にも亦/痘無(とうなき)の地あり八丈島/周防岩国紀州熊野肥前大村松(すはう いわくに きしう くまの ひせん おほむら まつ) 浦等皆然(うらとうみなしか)り或(あるひ)は三五十年の間偶痘(あひだたま〳〵とう)を患(うれふ)るものあれば必(かならず)_レ深山(しんざん)幽(いう) 僻(へき)の地(ち)へ移(うつ)して其/死生(しせい)に任(まか)す依(より)て痘を患るものなし他国隣界(たこくりんかい)に 至る時(とき)は必ず感(かん)じて出痘(しゆつとう)すしかればゝ其/国人生来(こうじんせいらい、クヒビトムマレツキ)痘/毒(どく)の無(なき)にはあゝず 風土(ふうど)のしからしむるなり況(いわん)や西洋(せいよう)三千里/外(ぐわい)禽獣(きんじう、トリケモノ)牛馬(ぎうば、ウシムマ)の痘を 以て我(わが) 邦人(ほうじん、クニヒト)に施(ほどこ)し種(うゑ)んとす其/非(ひ)なる事論(ろん)を待(また)ず且/両(りよう)肘(ちう、ヒジ) 僅(わづか)に十顆(しつくわ)にも過(すぎ)ずして周身(しうしん、ミウチ)に餘(あま)る巨(きよ、オホキ)毒(どく)を去(さら)んとするは猶(なほ)烏(ら、イ) 賊(ぞく、カ)魚(ぎよ)の手を刺(さ)して墨(すみ)を求(もとむ)るが如く得(え)べきの理断(りたへ)て無し高貴(こうき)の 人の如きは脾胃(ひい)脆薄(きはく、モロクウスシ)にして肌膚(きふ、ハダヘ)も亦(また)柔弱(じうじやく、ヤワラカニヨワシ)なり然るを是を却(おびやかす)に 針(はり)を以てし其/驚駭啼哭(きよう がい てい こく、オドロキ オソレ ナキ カナシム)顧(かへりみ)ず故に必/癇(かん)を発(はつ)し驚(きよう)を発し 【左頁】 天命(てんめい)を待(また)ずして死(し)するに至(いた)る此(これ)等は猶刀(なほかたな)を操(とう)て是を殺(ころ)すにひと しく其/残忍(さんにん、テアラ)なる事何ぞ禽獣(きんじう)に異(こと)ならんや我(わが) 邦仁義(くにじんぎ)の域(いき、トチ)に生(うま)れ 夷狄(いてき)の邪術(じやじゆつ)に惑(まどひ)て一時(いちじ)の利を貪(むさぼ)る事いかで神罰(しんばつ)を冥々(めい〳〵)に家(かうふ)ら ざらんや是皆その原(もと)は世俗(せぞく)の新奇(しんき、メヅラシキ)を見聞(けんぶん)するを嗜(たしむ)を以て夷狄(いてき) 其/虚(きよ)に乗(じよう)じて機工(きこう、カラクリシゴト)を以て其/目(め)を驚(おどろか)し妖言(ようげん、アヤシキコトバ)を以て其/耳(みゝ)を覆(おほ) はんとするなり然(しか)るを洋術(ようじゆつ)に惑溺(わくでき、モドヒオボル)するの醫生嘗(いせいかつ)て其/利害(りがい) 辨(べん)ずるに遑(いとま)あらず反(かへつ)て是々/説(せつ)を設(まふ)け庸俗(ようぞく)を欺(あざむい)て重利(ぢうり)を射(い)るに 至る先考(せんこう)深く是を憂(うれい)て種痘辨義(しゆとうべんぎ)の作(さく)ありといへ其/纔(わづか)に門下(もんか) の二三子(じさんし)に示(しめ)すのみ庸人(ようじん、ツネノヒト)文字に乏(とぼし)きmのは其/書(しよ)を読得(よみら)る 事も能(あた)はず読(よむ)といへ其/能々(よく〳〵)其を辨知(べんち、ワキマヘシル)するもの觧(すくなき)を以て徒(いたづら)に 【右頁】 妖言(ようげん)に惑(まどは)さるゝ事いかんともすべからずされ其/追々牛痘(おひ〳〵ぎうとう)の害(がい)を被(かうふ)る もの多(おほき)きを以て隅々(こま〳〵)は其/非(ひ)を知(しる)ものありといへ其/種師(しゆし)は猶(なほ)靦然(てんぜん、アツカマシク)として 自(みつか)ら恥(はぢ)す更に遁辤(とんじ、ニゲコトバ)【?】を作(つくり)て其非を飾(かざる)は醜(にくむ)にべきの甚(はなはだし)といふべし漢土(かんど、モロコシ) にては崔金南(さいきんなん)その害(がい)を憂(うれひ)て覆車懸鑑(ふくしやけんかん)の作ありといへ其/竟(つい)に其/幣(へい)を 救(すくふ)事/能(あたは)ず是亦_レ嘆息(たんそく)すべき事なり夫/痘(とう)は一種(いつしゆ)の異毒(いどく、コトナル)にして尋常(じんしよう、ツネテイ) □毒(たいどく)と同からず深く骨髄(こつずい、ホネノウチ)に沈伏(ちんふく)して時有て沴気(れいき、アシキ)に感(かん)じて発出(はつしゆつ) するものなり其/発(はつ)する所の沴気(れいき)も亦一種の異気(いき、コトナル)にしてこれと 相/感(かん)触(しよく、フレル)するが故に骨髄の毒発(とくはつ)して痘瘡(とうそう)となる其/一(いと)たび発するに 至ては勢更(いきほいさら)に防禦(ぼうきよ、フセギトゞム)すべからず稀(き、スクナキ)となり密(みつ、オホキ)となり紫黒(しこく、ムラサキクロ)となり灰(くわい、ハイゝロ) 白(はく、シロ)となるは蓄(ちく、タクワヘ)毒の濃淡多少(のうたんたしよう、コキ ウスキ オホキスクナキ)に由(よる)未だ発せざるの前は骨髄に沈(ちん、シヅミ) 【左頁】 伏(ふく)して聲臭(せいしう、オーモカオ)ともに無く有無浅深(ゆぶせんしん、アルナシアサキフカキ)知(しる)べきの理(り)なしいかでか皮膚外(ひふぐわい、カワハダヘノホカ) 数粒(すうりう)の種痘(しゆとう)を以て其毒を引出(ひきいだ)す事を得(え)んや頭瘡疥癬(づそうかいせん、カシラノカサ シツ ヨリゼン)の如きも 皆よく傳染(でんせん、ウツル)して或(あるい)は周身蔓延(しうしんまんゑん、ミウチニハイヒロガル)に至る是毒(これどく)の浅(あさき)ものゆへ飲食(いんしよく、ニミクヒ)の為も 増減(ぞうげん)し易(やす)く沴気(れいき)の觸冒(しよくぼう、フレオカス)を待(また)ず多(おほく)は傳染(でんせん)よりして発出(はつしゆつ)し来るなり 痘はしかしず若傳染(もしでんせん)のみにして発(はつ)するものは是/様痘(やうとう、ホウソウノカブレ)にして正痘(せいとう、マコトノホウソウ)には あらざるなりされば母(はゝ)の乳傍(にうほう、チゝノカタワラ)或(あるひ)は看病人(かんひようにん)も其の膿(のう、ウミ)気(き)に觸(ふれ)て二三 顆四五顆多(くわしどくわおほき)は数十顆(すうじうくわ)を発(はつ)するあり其/形正痘(かたちせいとう)と異(こと)ならず斯(さ、ヒギリ)に 依(より)て開落(くわいらく、テソロヒカセ)す痘後(とうご、ホウソウゴ)の人といへ其亦/触発出(よくはつしゆつ)す痘(とう)前(ぜん、マヘ)の人の是を発し て後又正痘(のちまたせいとう)を免(まねかれ)ず是/等(ら)は膿(のう、ウミ)気(き)にのみ感(かん)染(せん、ソマル)するもの故に正痘 にはあらす沴気(れいき)の感(かん)觸(しよく、フレル)にあらざれは骨髄(こつずい)の毒おる事なし故に 【右頁】 再痘(さいとう)を免ず種痘(しゆとう)の針痕(しんこん、ハリノアト)より増(ます)事なき沴気(れいき)の感觸無(かんしよくなき)が故なり 其毒尤深(そのどくもつともふかき)が故を以て敢(あへ)て蔓延(まんゑん、ハビコル)に至らざるは其/沈伏(ちんふく)の毒出る事なき 故なり痘後の人にても亦/能発出(よくはつしゆつ)するを以て所謂(いわゆる)様痘(やうしよう、ホウソウノカブレ)の類(るい)にして 正痘おつべからざる事/明白(めいはく)なるを知べきなり然(しか)るを痘は一生一発のもの 故一二/顆(くわ)にても發すれば再痘(さいとう)せぬと思ふは甚(はねはだし)き愚(ぐ)といふべきなり古人(こじん、イニシエノヒト)も 鶴頂(つるいたゞき)を発(はつ)せざれは其/聲(こゑ)を宏(おほい)にせず蟹売(かにうり)を脱(だつ、スカ)せざれば其/脱脱(はしの)大に せば虎爪(とらつめ)を転(かへ)されは其威(そのい)を奮(ふる)はず人も出痘(しゆつとう)せされば太陰陽明(たいいんようめい)の 毒発(どくはつ)洩(せつ、モレル)せず壽域(しやいき)に登(のぶ)る事を得(え)ずといへり此言至理(このことしり)にして易(かふ)べから ず然ればいかで僅数粒(わづかすうりう)の種痘にて畢生(いつしやう)の巨(きよ、オホキ)毒(どく)を除(のぞ)くの理あらん や一時幸(いちじさいわい)に免(まねかる)るに似(に)たりといへ其/毒竟(どくつい)に尽(つく)る事なく後或(のちあるひ)は 【左頁】 再痘(さいとう)を発するか或は驚癇(きようかん)等の病を発(はつ)して死(し)に至(いた)るもの予が親(した)く 目撃(もくけき、ミキワムル)する処なり或は幸(さいはい)に再痘(さいとう)せざるもの有といへ其是/偶中(くうちう、マグシアタリ)にして 牛痘(きうとう)の験(けん、シルシ)にはあらず世に終身痘(しうしんとう)を患(うれへ)ざるもの少しとせず此等(これら)は 毒(どく)の微(び、スコシキ)なる□□のにして或は繦緥(きょうほう、ムツキ)の中に一二顆(くわ)を陰所(いんしよ)に発して父 母是を知らざるなり又/老年(ろうねん)にいたりて出痘(しゆつとう)するあり是毒の尤 沈伏(ちんふく)して沴(れい)気の感染漸遅(かんせんやうやくおそ)きものなり是等の人に種痘(しゆとう)する時は 免(まねかる)るんい似たりといへ其年を経(へ)て再痘せん事/計難(はかりがた)く驚癇(きようかん)の害(がい) 免(まねか)れ難く遇驚癇(さま〳〵きようかん)を免るありといへ其/異症(いしよう)を醸出(しよう、カモシイダス)して 終身(しうしん)不具(ふぐ、カタワ)の人となるも亦少からず是皆/却(おびやか)すに針(はり)を以てし 気血(きけつ)の流通(りうつう、ナガレ)を壅塞(ようそく、フサギ)し隧道(すいどう、チノミチスジ)をして通ぜざらしむ故に此等の 【右頁】 諸/症(しよう)を醸出(じようしゆつ、カモシイダス)して非命(ひめい)の死を致す事恐(おそ)るべしなり家(か)大人 深く是を憂(うれひ)予も亦/坐視(ざし、ヰナカラミル)するに忍(しのび)ず其害あるを知て黙(もく)して云(いわ)ざる は尺位(しい)の誚(そしり)を免れず依(より)て今其/大□(たいがい)を畧(りやく)書して俗(ぞく)の惑(まとひ)を觧(と)き 世の夭札(ようさつ、ワカジニ)を救(すくわ)んことを庻幾(こいねが)ふ且古来より稀(き)痘の方(ほう)多くありといへ 其皆/觧(げ)毒の薬にして徒(いたづら)に児の脾胃(ひい)を損(そん)するのみにして更(さら)に其 効(こう)なきを以て世の人用るもの亦/稀(まれ)なり然(しか)るを牛(きう)痘の如きは稀痘(きとう) の諸方に比(ひ、タラブル)すれば其害尤正しといへ其世人/偏(ひとへ)に妖言(ようげん)に惑溺(わくでき、マドハサレ)して 殆(ほとん)ど狐狸(こり、キツネタヌキ)に誑(たふらかさ)るゝが如きは長嘆息(ちようたんそく)をなすべきなり凡痘を軽(かろ)くせんと ならば常に隧道(すいどう、チノミチスヂ)に壅塞(ようそく、トゞコウリ)なからしめ飲食(いんしよく、ノミクヒ)を慎み寒暖(かんだん、サムサアタゝカサ)を節(せつ、ホドヨク)にして 敢(あへ)て温覆(うんふく、アタゝメオホウ)せしめず発生(はつせい)の□(いゆう)気を閉塞(ひそく、トヂフサグ)せしむる事勿(なか)るべし 【左頁】 世の人多く姑息(こそく)の愛(あい)にして偏(ひとへ)に温覆(うんふく)して常に微汗(ひかん、スコシアセ)を取(とる)に至る小 児は純□(じゆんいやう)のものなり清涼(せいりよう、スゞシ)なたれば病なし寒暑(かんしよ)にも馴(なれ)しめされば表(ひよう) 気/実(じつ)せず試(こゝろみ)に貧賎(ひんせん、マヅシキ)の児(じ)を見よ必無病(かならずむびよう)なり児を育(やしな)ふもの深くこの 理(り)を察(さつ)して是を平素(へいそ、ツネ)に慎(つゝし)みて姑息(こそく)の愛にひかるゝ事なかる べし   文久紀元三月          下谷成通東山本町代地片町      醫官   本道痘疹科  池田鍋仙誌 【裏表紙】