【右頁】 059253―000―0 特38―178  虎列刺病予防養生法訳解  工藤 寛哉 著  M10 CBF―0106 【左頁】 【貼り付けシールのみ】 特38 178 東京府書籍館 壱 新門   三部   六類   三函   四棚   九二七号   《題:虎列刺病予防養生法訳解》 【貼り付けシールのみ】 特38 178 工藤 寛哉 纂  《題:虎列刺病豫防養生法譯解(ころりようじんやうじやうのしかた)》 虎列刺病豫防養生法譯解    題言 今般虎列刺病流行(このたびこれらびようはやる)については恐(かしこ)くも 聖上深(てんじよふか)く御憂嘆遊(おんうれきあそば)せられ諸官庁廳(しよくわんちよう)に下命(おゝせ)ありて厚(あつ)く其豫防法(そのようじんほふ)を御施行(おんほどこし)あらせ られ速(すみやか)に烈(はげし)き病毒(びようどく)を撲滅(うちけ)し萬民(ばんみん)の生命(せいめい)を保護(ほご)せんと専(もつは)ら力(ちから)を盡(つく)さるゝこと は既(すで)に世人(よのひと)のしる所(ところ)なれば世人も亦深(またふか)く上意(ぜうい)を體認敢(まもりあへ)て政府豫防法(おかみのじふじんはふ)の淶洽(てあつき)に 安(やす)んぜず偏(ひとへ)に自身(じん)の養生(やうぜう)に注意(こゝろがけ)し苟(いやしく)も恬然麁漏(うつかりになざり)に経過(うちすご)すべきことにはあらざ るなり 弾丸(たま)は縦大砲(たとひいしびや)のたまたりとも聲(こゑ)あり形(かたち)あるものなれば避得(さけう)べきこともあれど虎(こ) 列刺病毒(れらびやうどく)は聲(こゑ)も形(かたち)もなければ之(これ)を避(さく)ること最(もつと)も難(かたし)とすされど人能(ひとよ)く此難(このなん)を免(のが) れんと思(おも)はゝ精(くわし)く此/予防養生法(よぼうようふせうほふ)に注意等閒(こゝろがけなとざり)のことさへなければ天賦(うまみつき)の建康(けんこう、たつしや)を保(たも) 持(つ)こと疑(うたが)ひなかるべし 【右頁】 一町内一ヶ村(いつてうないいつかそん)のうち若一人不養生(もしいちにんふやうぜう)にして此病(このやまゐ)に感染(とりつか)るゝことあれば瞬間(またゝくうち)に其(その) 毒(どく)を全町満村(まちぢうむらむら)に傳播(うつ)して無數(あまた)の生霊(いのち)を堕(おと)すべきほどの惡病(あくびよう)なることは人々の知(しる)と ころれなば乃(すなは)ち其身一巳(そのむひとり)の養生(やうぜう)は天下萬人(てんかまんにん)のためにして不養生(ふやうぜう)の人は政府(せいふ)の罪(ざい) 人(にん)とも云(いふ)べきなり然(これ)ば人々/其身一個(そのみひとり)の用心(ようじん)こそ至極肝要(しごくかんよう)の事(こと)としるべし因(より)て茲(こゝ) に内務省衛生局(ないむせうゑいせいきよく)の報告(ほうこく)を標準(めあて)として其他心得置(そのほかこゝろにおく)べき事件(ことがら)を各國名家(かくこくめいか)の示教(をしえ)に 拠(よ)り其樞要(そのかんよう)を抜摘(ぬくがき)し文字(もんじ)鮮(すくな)き田野人(いなかびと)のために文意(ぶんゐ)を平易(やすく)して以(もつ)て廣告(ひろくつげ)んとす    毒疾証候(やまひのおこり) 虎列刺病(これらびやう)は最(もつと)も急性(きうせう)の悪症(あくせう)にして其毒質(そのどくしつも)は一種(いつしゆ)の生活保有(せいくわつほゆう、いきたるむし)の有機物(ゆうきぶつ)にして多(おほ) く地中(ちのうち)の水(みず)に潜存(ひそみゐ)て又/空氣中(くうきのうち)にも浮游(うか〳〵)する物(もの)のごとし此毒自然人(そのどくしぜんひと)の口中或(くちあるひ)は 皮膚(けあな)より躰内(たいない)に入(い)り直(すぐ)に消食機(しようしよくき)[膓胃]を侵(おか)すゆへに最初(はじめ)は稍心下(やゝむなさぎ)に苦悶(くるしみ)を覚(おぼ) へ尋(つい)て便意嘔吐(くだしはきけ)を催(もよふ)し初(はじ)め一行(ひとたび)は大概通常(たいがいつね)の大便(たいべん)に少(すこ)し水液(みづゑき)を混(まじ)へ腹痛(ふくつう)もなく 下利(くだ)す爾後病人自(そのゝちびやうにんおのづか)ら惣身(そうしん)の水液腹部(しるはら)に流(なが)れ集(あつま)るの氣味(きみ)を覚(おぼ)ふ二行目(にどめ)の上厠(ちようづ) 【左頁】 より多(おほ)くは洗米汁様(こめのとぎしるやう)の液(しる)[重(おも)きは血(ち)を混(まじ)ゆ]のみを瀉した(くだ)し四肢製厥冷皮膚水(てありぞく〳〵ひにはだはみず) に濡(ぬれ)たるがごとくなりてこれを摘(つま)みあぐれば其儘(そのまゝ)にして平/膚(はた)に復(かへ)らず咽喉渇甚(のんどかわき) 小便通(しようべんつう)ぜず聲漸(こゑやうや)く涸(かる)れば暫(しばらく)して死亡(しぼう)するなり最(もつと)も急(きう)なるものは只初(たゞはじ)めの 一瀉下(ひとくだし)のみにて十分時間(じうぶんじかん)に斃(たは)るゝもなりかくのごとく確(さし)たる前兆(しるし)もなく頓發(にはかにとり) するものなれば平生(つね)に豫防養生(よぼうやうぜう)を怠(おこた)るべからず    豫防養生法(やぼうやうぜうはふ) 虎列刺毒(これらどく)は多(おほ)くは病者(びやうじや)の吐瀉(はきくだし)せし物(もの)の中(うち)にありて此毒早晩地上(このどくいつしかちぜう)に落散降雨(おりたりあめ)と 共(とも)に地中(ちゝう)にしみこみ其近傍(そのほとり)の井又(いどまた)は河水(かはみづ)に混(こん)ぜしを飲(の)み或(あるひ)は病者(びやうじや)の觸(ふれ)し衣服(いふく) 器具等(うつわとう)より傳染(うつる)を最(もつと)も多(おほ)しとす又吐瀉物(またはきくだしもの)を投捨(なげすて)たる河海(かはうみ)に生(せう)する魚類或(さかなるゐある)ひ は吐瀉物(はきくだしもの)を培養(こやし)にしたる蔬菜(やさい)を食(しよく)して感染(わづらふ)ことあり又/其毒(そのどく)ある水(みづ)を飲(のみ)し牛乳(うしのち) に此毒(そのどく)を含胎(ふくみ)ゐたることありかくのことく人間必要(にんげんひつよう)なる飲食物(いんしよくぶつ)より傳染(うつる)ものな れば力/及所注意(なるたけこゝろがけ)すべきなり但(たゞ)し平常豫防法(つね〳〵よぼうはふ)によく行届(ゆきとゞ)き腹中健全(はらのうちたつしや)なるものは 【右頁】 此大厄難(このだいやくなん)を免(のが)るゝことは既(すで)に前(まへ)に言(いゝ)し通りなり偖其豫防法(さてそのやあばうはふ)の第一(だいゝち)は食物(しよくもつ)第二は衣(い) 服起臥(ふくおきふし)第三には住家(すまゐ)の三事(さんじ)とす又/若(も)し己(おの)れが家(いへ)に現(げん)に此病(このやまひ)に感(かん)ぜしものあらば 其吐瀉物洗除法(そのはきくださいものあらいかた)と所用器具(もちふるうつわ)の所置法(あつかひかた)とに注意(ちうい)することを肝要(かんよう)とす茲(こゝ)に先初(まづはじめ)の三(さん) 要事(ようじ)を一々分(いち〳〵か)ち誌(しる)し後(のち)に洗浄法及(あらひかたおよ)び器具所置(うつわあつかひ)の捷便(べんり)なる物を撰(えら)み記載(かきの)せんとす    平常(つね〳〵)の心得(こゝろへ) 虎列刺病(これらびよう)は食物(たべもの)より傳染(うつる)ものなれば第一に飲食(のみくひ)に注意成丈消化易(きをつけなるたけこなれよ)き物を撰(えら)み平(つね) 常(〳〵)より減量(ひかへめ)に食(しよく)すべし蕃椒(こしよふ)生姜(しよふが)山葵(わさび)芥子(からし)大根(だいこん)おろしなど少(すこ)しづゝ添(そ)えるも 宜(よろ)し衣類(きもの)又/夜具(やぐ)は常(つね)より少(すこ)し厚(あつ)く着木綿(きもねん)か「フラネル」にて腹(はら)を巻(ま)き寝(いね)る時(とき)も取(とり) ぬやうにすべし又/芳香散(ほふこうさん)[製法後に記す]を一度(いちど)に分量(ぶんりやう)一分づゝ日に三四度/位白(ぐらひさ) 湯(ゆ)にて用(もち)ふべし惣(そう)じて新爽(さわやか)なる空氣中(ところ)にて身躰(からだ)に微熱(あたゝまり)を覚(おぼふ)る位(くらひ)の適宜運動(ほどよきはたらき)を 最(もつと)もよろしとす    飲食物(たべもの) 【左頁】 ○湯茶(ゆちや)は餘(あま)り熱(あつ)からぬを用(もち)ふべし冷水(ひやみづ)を好(この)まば清水(よきみづ)を撰(ゑら)み必(かなら)ず一度沸涌(ひとたびたぎらか)し後冷(のちひへ) しを用(もち)ふ多(たゝ)く飲(の)むべからず桂露水(けいろすゐ)[後(のち)に記(いだ)す]を加(くは)ふれば味(あぢはひ)よろし 〇牛羊鶏肉魚類(うしひつしにはとりぎをるい)は新鮮(あたらし)くして脂肪少(あぶらすくな)きものを撰(えら)むべし 〇蕃藷芋類烏芋百合(さつはいもいもるいくわゐゆり)の根蓮根少(ねれんこんすこし)づゝよろし 〇蔬菜類(やさいるい)は最(もつと)も少量(すこし)なるべし   但(たゞ)し何品(なにしな)にても能(よ)く煑煎焼炙(にたきやき)て用(もち)ふべし鶏卵(たまご)は半熟(なまにへ)なるがよし    食(しよく)すべからざる物(もの) 〇不潔井河水(きたなきいどかわみづ)又は食物(しよくもつ)の中(うち)にても最(もつと)も戒(つゝし)むべし 〇動植共(にくやさいとも)に生物一切(なはものいつさい) 〇不熟不良(ふじくふりよう)の蔬菜果物(やさいくだもの) 〇蕎苣笋茸桃柿(ちさたけのこきのこもゝかき)の類一(るいいつ) 切(さい) 〇假令新鮮獣魚肉蔬菜(たとへあたらしきけものうをにくやさい)たりとも煑炙(にたき)の十分ならぬ物 〇䀋漬(しほつけ)の肉類(にくるい) 〇動植共(にくやさいとも)に干物(ほしもの)一切 〇海老蟹蛸貝類(ゑびかにたこかひるい)一切 〇酒類(さけるい) 〇味噌(みそ)類 〇 本味(もとあぢ)を失(うしな)ひ酸味(すゐけ)ある食物(たべもの)一切 〇臭惡(にほひあ)しき食物(たべもの) 〇青鱗鱗魚鯨(あをうろくうをくじら)の類一切 【右頁】 〇鶩雁豚(あひるがんぶた)の如(ごと)き脂(あぶら)の多(おゝ)き肉類(にくるい)一切 〇湯煑卵子(ゆでたまご) 〇催下薬(くだしぐすり) 此外消化(このほかこなれ) の惡(あ)しき食物(たべもの)一切    起臥衣服(おきふしきもの) 〇衣服(きもの)は垢付(あかつき)し物(もの)を着(き)るべからず肌着(はだき)は成丈変換洗濯(なるたけきりかへせんたく)すべし少(すこ)しにでも濕氣(しめりけ)あ る衣(きもの)を服(きる)べからず 〇夜具(やぐ)は日(ひ)に〳〵露乾(ほしかわ)かし雨天(あめふり)には火氣(たきび)を以(もつ)て乾焙(あぶる)べし 〇日々浴湯(ひゞゆあみ)して肌(はだ)の垢(あか)を洗(あら)ひ去(さ)るべし䀋湯最(しほゆもつと)もよし 〇常(つね)に用(もち)ふる手拭(てぬぐひ)は第一石炭酸水(だいゝちどくけし)[後(のち)に記(いだ)す]を含(ふく)ませ或(あるひ)は他(ほか)の□香等(をほひかうとう)を所持(もつ) へし 〇感冒下利(かぜひきくだし)の發(おこ)らぬよふに衣服(きもの)を加減(ぬぎき)し體温(ぬくもり)に平均注意(ほどよくこゝろがけ)すべし 〇昼夜常(ひるよるつね)に木綿布(もめんきれ)を以(もつ)て腹部(はら)を纏巻手部(はきあし)は股引足袋(もゝひきたび)を穿(はく)へし 〇非常(あまり)に精神身體(きぶんからだ)を労(つか)らし渾(すべ)て衰弱(つかれ)の源(もと)となることを慎(つゝし)むへし假令(たとへ)ば過度(やたら)の運動(はたらき) 【左頁】 〇湯茶(ゆちや)は餘(あま)り熱(あつ)からぬを用(もち)ふべし冷水(ひやみづ)を好(この)まば清水(よきみづ)を撰(ゑら)み必(かなら)ず一度沸涌(ひとたびたぎらか)し後冷(のちひへ) しを用(もち)ふ多(おゝ)く飲(の)むべからず桂露水(けいろすゐ)[後(のち)に記(いだ)す]を加(くは)ふれば味(あぢはい)よろし 〇牛羊鶏肉魚類(ういしつしにはとりうをるい)は新鮮(あたらし)くして脂肪少(あぶらすくな)きものを撰(えら)むべし 〇蕃薯芋類烏芋百合(さつまいもいもるいくわゐゆり)の根蓮根少(ねれんこんすこし)づゝよろし 〇蔬菜類(やさいるい)は最(もつと)も少量(すこし)なるべし   但(たゞ)し何品(なにしな)にても能(よ)く煑煎焼炙(にたきやき)て用(もち)ふべし鶏卵(たまご)は半熟(なまにへ)なるがよし    食(しよく)すべからざる物(もの) 〇不潔井河水(きたなきいどかわみづ)又は食物(しよくもつ)の中(うち)にてももっと最(もつと)も戒(つゝし)むべし 〇動植共(にくやさいとも)に生物一切(なまものいつさい) 〇不熟不良(ひじふりよう)の蔬菜果物(やさいくだもの) 〇萵巨笋箪柿(ちさたかのこきのこもゝかき)の類一(ついいつ) 切(さい) 〇假令新鮮獣魚肉蔬菜(たとへあたらしきけものうをにくやさい)たりとも煑炙(にたき)の十分ならぬ物 〇䀋漬(しほつけ)の肉類(にくるい) 〇動植共(にくやさいとも)に干物(ほしもの)いっさ一切 〇海老蟹蛸貝類(ゑびかにたこかひるい)一切 〇酒類(さけるい) 〇味噌(みそ)類 〇 本味(もとあぢ)を失(うしな)ひ酸味(すゐけ)ある食物(たべもの)一切 〇臭惡(ひほひあ)しき食物(たべもの) 〇青鱗魚鯨(あをうろこうをくじら)の類一切 【右頁はコマ六右頁と同じ】 【左頁】 深夜(よふけ)までの宴會或(さかもりあるひ)は甚(はなはだ)しき憤怒悲憂等(はらたちなげきとう)の如(ごと)き一身(からだ)の平均(つりやい)を失(うしな)ふ事(こと)は一切慎(いつさいつゝし)む へし殊(こと)に房時(いろごと)の度(ど)をすごすへからず 〇雨中夜間或(あまふりよなかあるひ)は露草(つゆくさ)の際(なか)を遊歩(あるく)など濕氣(しめりけ)に觸(ふ)れ寒冷(さむさ)に冒(おか)さるゝことを避(さる)へし 〇夜間(よなか)に窓戸障子等(あまどしよふじとう)を開(ひら)き寝(ね)るべからず 〇諸人群集(しよにんくんじゆ)の場所(ばしよ)に近(ちか)づくべからず務(つとめ)て 清爽活発(さわかか)なる所(ところ)に居(ゐ)るべし 〇船積(ふなづみ)にて其頃來(そのころきた)る物(もの)は勿論衣食物(もちろんきものたべもの)とも猥(みだり)に諸品(しよしな)を買入(かひいる)るべからず買入る時 は不潔(よごれ)に氣をつけ掃(はら)ひ去(さ)り家(うち)に入るゝべし 〇家畜(うちにかひ)たる牛馬犬猫豚鶏等(うしうまいぬねこぶたくはとりとう)の羽毛(はねげ)の穢(けがれ)に注意除(きをつけのぞ)き去(さ)るべし 〇假令親睦知巳(たといなかよきつきあい)たりとも此病(ころり)に罹(かゝ)らば尋訪(みまひ)すべから若余儀(もしよぎ)なき時(とき)は速(すぐ)に其家(そのいへ) を出(いで)て石炭酸水(どくけし)にて口嗽(くちそゝき)ぎ面部部等洗(かほとうらあら)ひ浴湯(ゆあみ)して石鹸(さぼん)にて膚(はだ)を洗(あら)ひ衣服(きもの)を改(きかゆ)べ し[後(のち)の見舞篇(みまひへん)を見(み)るべし   右(むぎ)は荒増詳細(あらましくはしき)は後(のち)の吐瀉物洗陰[除]法篇(はきくだしもあらひのけかたのところ)に記(しる)す 【右頁】    家屋心得(やうちのこゝろえ) 〇居室(すうち)は力所及精密(なるたけねんいれ)に拭掃(ふきはぎ)し戸障子(としようじ)を開(ひら)き新鮮(あたらし)き空氣(くうき)を適宜通融(ほどよくかよわ)すべし 〇室内(すうち)には常(つね)に少許(すこしばかり)の硫黄(いおう)を焼(た)きかほらすべし 〇厠(かわや)は日々/清浄(きれい)に拭掃(ふきさうじ)し糞壺(こゑつぼ)には時々/石炭酸(どくけしのこ)末か録譽(ろくはん)の末一握(こひとにぎり)斗りを撤布(まきりら)す  べし 〇雨日夜間(あめふるよなか)は空氣(くうき)を乾燥(かはか)さんために火鉢(ひばち)を供(その)ふこともあるへし 〇塵芥丘其他惡臭(はきだめそのほかあしきにほひ)の物は取除(とりの)くへし惡水溜(げすい)には時々/解毒粉(どくけしこ)を撤入(はきい)るへし 〇味噌漬物 䀋肴等惡臭(みそつけもの しほさかなあしきにほひ)の物を置所(おくところ)は成丈避(なるたけさく)へし 〇一室内(ひとつへや)に多人数聚會(たにんずあつはる)ことを忌(い)むへし 〇成事(なること)なら高燥清潔(たかひきれい)の地(ところ)を撰(ゑら)み移住(うつる)を  尤よしとす    感染(わづらひし)時の心得 [醫者(いしや)の來(くる)までの手當(てあて)] 〇虎列刺流行(ころりはやり)の際些(ときいさゝか)たりとも吐瀉(はきくだし)の氣を催(もよふ)さば醫者呼(いしやよひ)に人を走(はしら)せて「コレラ 藥」[後(のち)に記(しる)す]を二十/滴(しづく)或は三十滴を小盃一(こさかづき)ぱいの水に和(わ)し飲(の)みて床(とこ)に伏(ふ)し 【左頁】 十分時或は十五分時/毎(こと)に用ゆ但(たゝ)し吐(はき)又は下利止(くだしや)む時は服用(のむこと)を止(や)むへし假令吐(たとへはき) 瀉止(くだしやま)ずとも十回以上(じつぺんのうゑ)は進服(のむ)へからす手足少しく冷(ひへ)又は寒氣(さむけ)あらば脚湯(こしゆ)又は 全身浴(ゆいり)を行(おこな)ひて温覆發汗(あたゝはりあせ)すへし嘔吐劇(はきけはげし)くして藥(くすり)及び納(おさま)らざる時は氷片(こほり) あらば頻(ちよび〳〵)に食(しよく)すへし嘔氣烈(はきけはげ)しく心下苦悶(むなさきくるしく)なる時は芥子粉(からしこ)三/握麥粉(つかみむぎこ)一握を 酸(す)にて硬(こわ)き糊(のり)ほどに捏(こ)ね六七寸四方の木綿(もめん)の切(きれ)に挺(のば)し心窩(むなさき)に貼(は)り少(すこ)し痛(いたみ)を覚(おぼ) へ皮膚赤(はだあか)くなるまで貼置(はりおく)べし小児(こども)は三四寸の切に挺(ねべ)て右の如(ごと)くし其上に焼(しよふ) 酎(ちう)を温(あたゝ)め木綿切(もめんぎれ)に浸(ひた)し腹(はら)を温(あたゝ)むべし[小児(こども)のコロリ藥分量(くすりぶんりよう)は後(のち)に記す]    病人/見舞(ままゐ)の心得 〇親兄弟(おやきようだい)か親類(しんるゐ)がコレラ病に感染(とりつかれ)しと聞(き)き驚駭(おどろき)て駆付(かけつけ)るとも我身(わがみ)に少しにて  も汗出(あせいで)しときは決(けつ)して病人の寝所(ねどころ)に近(ちか)づくべからず汗(あせ)の乾(かわ)く時は必ず傳染(うつ)る ものなり又/決(けつ)して空腹(すきはら)にて患者(びようにん)に近(ちか)づくべからず成(なる)べく丈(たけ)は病人に近附かぬ が宜(よろ)しけれども若(も)し餘儀(よぎ)なき譯(わけ)にて病室(ねどころ)に入るならば身躰中(からだちう)をよく拭(ぬぐひ)ひ乾(かわ)か 【右頁】 し氣を鎮靖(おちつけ)て石炭酸水(どくけし)を浸(ひた)せし手拭(てぬぐひ)か紙を以て口鼻(くちはな)を掩(おほ)に窓戸(まど)などの空氣(くうき)の 通(かよ)ひよき場所(ところ)に居るべし決(けつ)して病人の枕元(まくらもと)と室内(へや)にある火鉢(ひばち)の傍(そば)に坐(すわ)るべ からず    虎列刺病用藥製法用法(ころりぐすりつくりかたもいゐかた)     服藥(のみぐすり)の部 〇芳香散(ほうかうさん) 益智(やくち) 《割書:八匁|》 佳枝(けいし) 《割書:八匁|》 乾姜(かんきよふ) 《割書:八匁|》 丁香(ちよふじ) 《割書:四匁|》   右を混細(まぜこ)となし一次(いちど)に目方壹分を白湯(さゆ)にて 服(のむ)一日三四次 〇虎列刺藥 芳香□砂精(ほうこうどうさせい) 阿片丁幾(あへんちんぎ) 薄荷水(はくかすい)    右/等分(おなじめかた)を混和(まぜ)て大人(おとな)は三十/滴(しづく)十年より十五年/迄(まで)は十五滴以下の小児は一   年に一滴當(ひとしづくあて)に小盃一盃(こさかづきひとつ)の水に和(いれ)用ゆ 〇桂露水(けいろすい) 刻桂枝(きざみけいし) 《割書:一斤八十目|》 清水(せいすい)《割書:一升|》右ランビキに入れ火に上(の)せ法の  如く蒸留(じようりう)して取る 【左頁】    右藥品(みぎのくすり)は漫(みだり)に多量(おゝ)く用(もち)ゆれば却(かへつ)て大害(たいがい)あり慎(つゝし)むべし此外用藥數品(このhおかもちひくすりあまた)あ    れども用方(もちひから)むつかしければ茲(こゝ)に記(しる)さず必(かなら)す醫(いしや)につひて服用(ふくよう)すべし     消毒洗浄藥(どくけしあらひくすり)    左(さ)に記載(かきの)する藥(くすり)は飲(のむ)べき物にあらず 第一/石炭酸水(せきたんさんすい) 結晶石炭酸一分を百/倍(ばい)の水(みづ)に溶(とか)せしもの 第二石炭酸水 緑蕃(ろくばん)九十六文目を水(みづ)貳升六合に混(こん)じ蘇生石炭酸(そせいせきたんさん)九文目六分を 加(くは)へたるもの     吐瀉物洗浄(はきくださしものあらひよふ)並に病毒に汚染(けがれ)たる器物所置(うつわものさむき)の法(しよう)   虎列刺病(これらやむ)者ある家(いゑ)に於(おゐ)て消毒(どくけし)の法を行(おこのふ)は廰官區戸長(やくにんくこちやう)並に醫師(いしや)の布教(をしゑ)を受(う)   くべしと雖(いへど)も今更(いまさら)に心得(こゝろへ)の為(ため)に吐瀉物掃除(どくぶつとりのけ)の法(しかた)を記(しる)す 抑々(そも〳〵)コレラ病(びやう)の傳染毒(うつるどく)は其/吐瀉物(はきくだしもの)に舎(やど)れる吐瀉物を或(あるひ)は海河(うみかは)に捨(す)て或(あるひ)は 【右頁】 下水(げすい)などに投(すつ)れば其病毒(そのどく)は既(すで)に消滅(きひうせ)たりと誤認(あやまり)て早晩其水(いつかそのみづ)に混(まじり)て伝播(ふゑ)又は地中(ちのうち) に侵入井泉(しみいりいどみづ)に透鼠(とけこみ)て病毒(やまひ)の傳染(うつ)ることを知(しら)ざる者多(ものおゝ)し人々善(ひと〳〵よ)く心得置豫(こゝろへおきあらか)じめ消毒(どくけし) 藥(くすり)を買求(かひもと)め吐瀉物(はきくだしもの)を受(うく)る器(うつわ)には此藥(このくすり)を容(い)れ置既(おきすで)に使用(つかひ)し後(のち)は直(すぐ)に戸外(そと)に持出(もちいだ) し洗浄(あらひ)て其後(そのあと)に又第一/石炭酸水(せきたんさんすい)を入置(いれおく)べし 偖此吐瀉物並(さてこのはきくだしものならび)に其器(そのうつわ)を洗浄(あらひ)し水(みづ)は決(けつ)して他人(おかのもの)の通(かよ)ふ糞壺(せついん)に混(まず)へからず悉(こと〳〵)く 取分(とわけ)て住家及よ(すみかおよ)び井戸(いど)を離(はな)るゝこと七間斗(しちけんはか)りの所(ところ)に置(おき)て地(ち)を深(ふか)く堀(ほ)り埋(うづ)め或(あるひ)は焼捨(やきすつ) るを殊(こと)に良(よし)とす 吐瀉物焼捨法(はきくだしものすてかた)は淺(あさ)く地(ち)を堀(ほ)り底(そこ)に乾(かわ)きたるわら又は削屑(かんなくづ)を敷(し)き排泄物(はきくだしもの)を其上(そのうへ) に捨(すて)又其上にわらを覆(おほ)ひ石炭油(せきたんゆ)を濯(そゝ)ぎて火(ひ)を點(もや)し上下攪反(うへしたかきかへ)して十分に焼(や)き盡(つく)す べし 〇虎列刺(これら)病にて斃(たお)たる者(もの)は成丈速(なるたけすみや)かに片附(かたづ)け十分に第一/消毒(どくけし)藥水をひたしたる 木綿衣(きもの)に包(つゝ)み地(ち)を深(ふか)く堀(ほ)り埋葬(うづむ)へし火葬(くわそう)を尤もよろしとす 【左頁】 〇コレラ病者或は其/死屍(しがい)に觸(ふれ)たる人の衣服(きもの)はたとへ如何様(いかよう)なるとも皆毒氣(みなどく)にけ がれし物と見做(になし)て速(すみやか)に脱換(ぬぎかへ)第二/消毒藥水(どくけし)にひたし後石鹸(のちさぼん)にて洗濯(あらい)べし 〇コレラ病者の寝室並(ねやならび)に死屍(しがい)を置(お)ける部屋(へや)は石炭酸を皿(さら)にもり微火(ぬるび)に上(の)せ其臭(そのにほひ) を十分に蒸薫(かほら)して満室(まうち)にころらすべし 〇病者/全快(ぜんくわい)し或は埋葬(とりおき)の後(のち)は先(ま)づ室中(ねや)にある所の金銀器具(かなものうつわ)並に彩色物(いろもの)等/取除(とりの)け [此/品類(しなもの)は別に相當(さうとう)の消毒法(どくけしほふ)を行(おこな)ふ]窓戸(まど)を密閉火鉢(ふさぎひばち)に火を入れ其上に硫黄(いおう)を置(おき) 入口(いりぐち)を閉(と)ぢ七時間斗り薫蒸(かほら)せ後窓戸(のちまど)を開(ひら)き室内(まうち)の諸物(どうぐ)を外(そと)に持出(もちだし)たゝき拂(はらふ)べし 天井柱建具(てんじよふはしらたてぐ)等のものは第二消毒藥水にてよく洗(あら)ひ空氣(かぜ)にさらずべし畳(たゝみ)は一(ゐ) 層注意(ほこゝろづく)べし 〇コレラ病者ありし室内(へや)の器具縦令(うつわものたとへ)は衣服夜具膳椀(きものやぐぜんわん)等は精密注意法(よく〳〵きをつけかた)のごとく 第二石炭酸水にひたし石鹸(さぼん)水にて洗ひ或は硫黄氣(いおうき)を炊(たき)こむなど怠(おこた)るべからず諸 道具は取換(とりかゑ)の出來(できる)なれど性命(いのち)には取りかへなければ可成(なるべく)は惜(をし)まず焼捨(やきすつ)べし 明治十年十月二日 御届    編者 工藤寛哉       福岡縣下筑前國第一大區       一小區那珂郡下名嶋町       百五拾九番地 寄留   出版人 植木園二       右同     寄留  發 兌 筑前博多中嶋町 五 樂 堂            定価金三銭 【裏表示 記述なし】