【右頁枠外上部】【右から読む】=(金春週報)=【左から読む】大正九年四月十日発行(4) 【右頁上段】ユ社特作品 社會劇 薄命の女 全六巻 監督……………ポール・ポウエル氏 原作 エルマー・エルスウオース氏 脚色{【脚色{は本行と次行にまたがります】エルマー・エルスウオース氏    …………ポール・ポウエル氏 役割 アツピー・ホプキンス…………メリー・マクラレン孃 ヂエー・ブース・ハンター……サーストン・ホール氏 ホプキンス夫人…………………アー・シエーファー孃 マシエー・ホプキンス……………ヂョン・マツケー氏 ヂェー・ビー・ハンクス……………ヂョン・クツク氏 ルース・スターナー………………エセル・リッチー孃  ニユーヨークにシロセと云ふ靜かな町があつた。町の若い人達 は、何れもこの町の單調な生活に飽きて、新なる土地に新なる運 命をか開拓すべく思ひ〳〵の旅路にたつて立つて行くのであった。  樂しい家庭を夢見てゐた若い娘達は、恁うして、一人去り、二 人去つて、日に日に若い男を奪はれて淋れゆくのを見て、言ひ知 れぬ腦みを覺えるのであつた。  ホプキンスの過去には、相當に榮華を極めた慕かしい昔があつ た。今では實業会の失敗者となつて、而も娘五人の父親として、 餘り裕ならぬ生活をしてゐた。  長女は、アツピーと云つて、丁度娘盛りの年頃であつた。  此處に又、ハンクと云ふ中老の紳士があつた。彼は宏壯たる邸 宅の主として、何不自由のない身であつたけれども、最愛の妻に 死なれて間もない彼に取ては、大きい立派なその邸宅も洞窟のよ うな寥しみがあつた。  ハンクスは美しいアツピーの姿を見るや、直ぐに 「自分の妻 【右頁下段】 になる女」と一人で定めて、アツピーの父親の元に結婚を申込む で來た。  アツピーの父親は、相手方が非常な金持ちであると云ふのに、 いたくも目が眩らんで、結婚を強請する迄に娘を力説した。  眞實の結婚は愛によつて生れなければならない……と恁ふ堅く 信じてゐたアツピイとしては、父の言葉が惡らしい程悲しかった。  富ー結婚ー幸福?  アツピイの心は千々に亂れた。  彼女は愛もない理解もない冷たい結婚を強ひられんよりは、寧 を職業の女となつて自由に幸福に暮らして行き度いと男々しい決 心をして、彼女は、ある珈琲店に女給として働らく口を見付けた りした。  そうして彼女は誠の愛による結婚の來らんことを願ふのであつ た。けれども、けれどもそれは束の間の夢であつた。彼女は父親 の執念き追及に敗かされて到々、金持ちのハンクスの處へ……愛 も理解もない冷たい骸のようなハンクスの處へお嫁になることに なつて了つた。  恁うして、彼女が常に心に抱いてゐた愛と自由と、そうして幸 福とは根底から覆されて了つたのであつた。  然し、彼の女は、どうしても、その生活に滿足することが出来 ずして遂に夫の家をも去るようになった。  夫の家を去つた彼女は、先に口を需めて置いた酒塲に行つて給 仕女となつた。  その酒塲に足繁く通ふブースと云ふ男があつた。彼は、元マチ ネーの俳優などをした男であつたが、彼は總てを酒に生きてゐる 男であつた。  幾度となく顏を合せてゐる内に二人は何時か愛し合ふ仲になつ た。  そうして、アツピーは愛する男の耽溺してゐる酒を止めさせる 爲めに、朝夕の眞心込めての忠言を吝しまなかつた。  アツピーの暖かい愛に滿ちた言葉はブースの上に著らしい効果 を齎らした。男は初めて酒を絶ち、初めて眞實の愛に生ることが 出來た。  紐育のとある角に二人が佇立んだ時、窓から洩れる華やかな夜 の燈は、前途を祝福するかの如く美しき男女の面に輝やいてゐた。 (完) 【見開き中央枠内最上段】 【右から読む】ミー マレーに 【枠内2段目】 雨のしょぼ〳〵降る中に 何を思案の首たれる 赤い朝顏小さい花 雨に漏れては悲しかろ 【枠内3段目】 白くぬられた兄故に 私は淋しと泣くわいなあ 赤い朝顏□□た色 兄に別れて泣きぬれた 【枠内4段目】 【右から読む】松本恒四郎 【枠内5段目】 特等椅子席 一圓五十錢 特等座席 一圓 一等席 七十錢 二等席 五十錢 【枠内5段目】 【右から読む】入塲料 改正 【左頁最上段から】 【右から読む】金春週報 (第百六十一號) 【左から読む】”THE KOMPARU WEEKLY” 【縦書き】活動寫眞とご兒童に就いて(一) 鹿野夢路  娯樂機關として、今日著しき發達をなせる活動寫眞を兒童敎育に利用 するは、頗る時宜に適するものと思はるれど、敎教者の側に在りてては、 従來たゞフイルムの如何を、問題とせるのみにして、未だ其他の事に想 ひ到らざるが如きは、用意充分なりと謂ふべからず。普通學務局長も、 活動寫眞を兒童敎育に利用するには、活動寫眞其物の、果して兒童の衛 生に適するや否やを、先決問題と爲さゞる可からずと云へり。こは久し き以前、フイルム問題の喧しかりし當時、既に警告のありたる所なり。   【右頁 上段余白 右横書き】  (2)=(金春週報)=■お煙草は喫煙室で願います■ 【上段】 陰気な晩     妄想狂生     午後三時頃降しさ【ママ】る雨を冒してK館に向 ふ。残念!満員御断りと、何んだか癪に障 った気味で、ふんと電車に乗って降りた処 はAだ。Tに入って三時間程居たが、嫌な 気持になって出だ、急にKが懐しくなった ので行かうと決めた。此れだけKが引力が あるとは不思議だね。  ユ社の名監督レオナード氏の作品、金髪 はバイオレツトマアセローの如く筋肉の発 達はルイズ、グロームに似たるミーマレー の「危険に付徐行せよ」意味深長だね。  彼女の瞳は恵み深い女王様の様ですね、 虚栄姫のリネア、それはマレーでした。春 の夢を追憶しますよ、毛布を被つて、靴で トン〳〵と叩いて知らせる所は永久に忘れ られません。且って偽を云はざりし人の前 で自分が女なる事を伯母さんに隠した事が 堪まら無くなって、真実を示【ママ】げて、再びワ シントンの画を見て、泣く瞬間の表情は賞 するに価ありますね。  彼女の最も得意とする、子供らしい、無 邪気さや、悲哀、又は情緒的なる気分は「私 は幾程に値を付けられるでせう。」でよく味 はう事が出来ませう。  近頃チニー君が大流行ですね、此度は快 活な青年、箱のイチゴを食べながら。見物 とは恐入りました。マルホール君は初めと 終りに一寸顔を出しただけ。  終りに、ピクチユアー、オラクレ欄の出 来たのを喜びます。  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 机に向かって   三田 松山香雪  孤島の娘、カーメル嬢独特の滑稽味を蔵 【中段】 する人情劇、殊にお名残の活躍と希望せる に何たるプロツト、何たる演技、全くこれ が堂々たる青鳥のスタンプを受けた作品か と怪しまざるを得ぬ駄作であった、最初興 行主の説明の際、本人の現はれぬこと、島 でカンニバルが出たり、ケリーがラーキー を置き去るあたり、誠に了解に苦しむ点が 多かつた、以後覆轍の禍なからんことを。  闇の灯火、プリシラ嬢の適役劇をマレー 嬢があれまでに始終一貫せる芸風賞揚の価 値十分なり、されど壌今やユ社に亡し、口 惜しき極なり、又々名優揃これ果して好影 響か将又然らざるか、それは、諸兄の御意 向に任せ、扨てこれ成功の力作。  "Danger Go Slon" 鉄道踏切の注意と世 上との連絡その着目点の妙味、原作者の俊 秀を喜ぶ、マグシーが牧師の説教とワシン トンが "Who never tell a lie" に 感 銘し 良心の苛責に堪えかね将来に燈火、即ち闇 夜に燈火を得たる等教育的描写の発揮せる ものがあった、又雑貨店主がマグシーの係 蹄に掛るあたり、サラ叔母さんを楯に脅迫 的態度、ジムミーの門前にスペンサーを煙 に巻く場面、自役の性質を十分に咀嚼せる 表現、マレー嬢として比較的活溌なる演技 プリシラ嬢を想像させるに難くない、ロン チヤニー氏が手先活動の大写原作に基いて 列車を見せるレオナード氏の監督上の法練 今更ながら驚嘆の眼を放つた、全篇監督と 俳優との統一妥協より成り殊にラストシー ンの絞りはインス映画に良く見るものであ る兎に角傑作たるを失はぬ最後に間奏「愛 らしき小娘」を謝す。 【下段】 コンパルの帰り       飯倉 華 水 生 K「矢張りドロシーはうまいね、何うだい  あの酒場に於ける処なんか…… S「テーブルの上に立って呼ぶ処だろう…  あれを見るとモルガンの娘のローラを思  出すよ、……丁度同じやうな表情じやな  いか?……けれ共彼時から見ると今はづ  つと上手だね…… K「ストウエルも今度は今迄に無い様に巧  くやったけれ共、僕の気のせいか知れぬ  けれ共、ジム青年としての弱々しき顔等  は全く感心したね、……けれ共今は死し  て此世の人で無いと思ふと残念な事した  よ、ドロシーも嘸悲しんだろう? S「ストウエルには黄金の花のジムを以て  永久の別れとなるんだね、……死んだ人  が今眼前に動くとは、之文明の賜だよ、 K「深夜の人も愈よ終りだ……コーベツト  の目覚しかつたねヱ……とにかく第一編  から今迄の写真と変つた処が多かつたよ  ……最後に二人(コ氏オ嬢)で表れ挨拶す  る所等……何うだい君! S「キツスカ?…若い我々には眼の毒だよ K「今日の喜劇には驚いたね、……何だい  あれが喜劇だと聞くと、開いた口がふさ  がらんね、……丸つきりなつてないよ! S「如何に写真が面白くなくても説明を巧  くやつて呉れゝば未だいゝけれ共、両者  共なひと来るから………ヒカンするよオ K「今日の黄金の花だつて、説明宜敷を得  て初めて満足出来たんだよ、……瀧田天  籟君の説明と来たら先づ此上なしだね… S「とにかく今日のは確かに特別興行の値  打は有つたね。(三月廿八日昼) 【左右頁中間予告欄・枠】 【上段 右横書】 予告    【縦書】  テンペスト・コデイー第二編   見込まれた家  全二巻  ユ社特作映画   正劇 飛行家の娘 全三巻     ドンナ・ドリユー嬢演 【中段 縦書】 特作映画  《割書:西班牙|情話》火の女           全六巻     ヘダ・ノバ嬢演   【右横書】 来る十七日 封 切 【下段】 京橋区加賀町一七番地 《割書:編輯 発行|兼 印刷人》渥美 鉄雄 発行所    金春週報社 毎土曜発行 電話 銀座一六四六 【左頁】  【上部欄外 右横書】 ■休憩奏楽中はお静かに■ =(金春週報社)= 【本文上段】   見終つて   紫孤生    嫌な連続も終つて一寸息をつくかと思ふ と又ラジウムの秘密か!所で僕が深夜の人 を見終つた今、是に就て一言したいのは、 深夜の人は僕にとつて近頃のシーリアル中 で先づ優秀なものーー少くとも好きな方だ と言ひたい。何故か?  元来連続劇も可成以前迄はそのプロツト に就て考へられたものだが現今は最早其に 就て云々する時ではないとは一般の与論で ある。即ち現今の千偏一律は何人も是認し てゐるのだ。其点からみても、深夜の人は 多少その筋が変つてゐる(勿も矛盾も無い ではないが)又幾ら長くとも十巻位ならと 思ふ物を三十六巻のと恐しく延長するのだ  から飽いてくるのも当然だ。其を飽かせな い様にする所に所謂監督者の手腕を要する 訳である。即ち撮影、染色、場面転換或は トリツクの巧用等。是等に就ても深夜の人 は遠写、腑観【ママ】、瞬間撮影を巧に取入れてゐ たし、全体にシンミリした気分を漲らして ゐたと思ふ。トリツクとても二三を除く外 先づ無難だつた。是等に加うるに出演俳優 の敏捷を以てして観客者をグン〳〵引付け て行く所にシーリアルの生命が存する訳で ある。此点から見て電光石火等も成功せる 連映の一であらう。要するに以上は、僕は 無意味に深夜の人を推称【ママ】するのではないと 云う事に就て一例をあげたに過ぎぬ。  兎に角僕が幾ら連映が厭だと云つても続 々上場されゝば仕方がない我慢しておとな しく見やう。次のラジウム劇もーー 【左頁中段】 囗休憩楽解説囗   ラ・トスカ (La Tosca)      ヂアコモ・プチニ作 (解説)ラ・トスカはプチ二の第五の歌劇に て、其の「お蝶夫人」についで有名な歌劇で ある。この歌劇にはプチニの天才が最もよ く発揮されてをり、劇中の人物の其の地位 とをよく了解して楽器及声楽が最も巧みに 用ゐられてをり、物語に大なる効果が与へ られてをる。洵に音楽と劇的製素とがよき 平衡を得て、最も完全な芸術品であり而し て、美しいのみならず、力と深さに富んだ ものである。ラ・トスカが劇と音楽の融合の 点に於てヴエルデイ以後、伊太利の産んだ 世界的最大の歌劇と云ひ得るものである。 【嵌め込み枠の広告】 【上部横書右から読む】 一部金二十銭 【縦書き】 ■■  階上売店にあり   ■■ 【枠内枠 大きな活字で縦書き三行】 号一号と発展する キネマ旬報 を是非ご購読下さい 【枠内枠外左側 縦書き】 ■■  女給にお申付下さい ■■ 【広告枠最下段 横書き右から読む】 本郷黒甕社 【本文】   第一幕 聖アンドレア寺院の場 画家カプラドシは壁画装飾の為に、寺院内 にて画板に向つてをる。そして名も知れぬ 美しい参拝者の祈祷の姿をモデルにしてゐ た。此寺院にて彼は其恋人のフロリア・トス カと逢ふ事になつてゐた。突然其処へ国事 犯で破獄して来たアンジエロテイが入り来 る。画家は友人なる事をみとめ、彼をかば  【下段】 い、其邸宅に送る。其処へトスカ入り来る 人の気配か【ママ】するのでトスカは嫉妬心を起こ す。時しも砲声聞こゑ、脱獄の旨が知らさ れる。警視のスカルピアが入り来る。彼は カヴアラドシを共犯者と欵【ママ】ふ。内々トスカ に恋してゐたスカルピアは画家とトスカの 間を裂かんとして、カプアラドシの破滅の 計画をたてる。   第二幕 スカルピア官邸の一室 スカルピアは画家を逮捕せんと命令を発す そして画家をとらへ彼を拷問にかけて、其 友アンジエロテイの隠れ場所を知らんとす る。拷問の場にトスカを連れ来り、トスカ をして、云はせやうとする。恋人の苦む様 に堪えかね、トスカはアンジエロテイの在 処を云ふ。マリオは獄屋に縛がれる、スカ ルピアは「自分を愛さなければ、恋人を死 刑にする」と云ふ。トスカはスカルピアの 言に従ふ。そして翌朝偽りの死刑を行ふ事 とする。トスカはスカルピアより保釈の書 類を受けとるや、スカルピアを刺して恋人 の下に走る。   第三幕 城外銃殺執行場 偽りの死刑が行はれた。然るにトスカは、 たほれたるカヴアラドシの元に走つて抱き 起せば、偽りどころか、真の死刑であつた 折から、兵七等はスカルピアを殺したりと てトスカを捕らへんとして来る。トスカは 此の様を見て城廓の胸間から身を投じて自 尽する。 かくして悲劇は終る。(キネマ旬報より)   × × × × × ×