明治十三年九月印行 《割書:傅染病|迺豫防》飲水の心得 完         畏三堂發兌 【右】 【記述なし】 【左】 明治十三年九月印行 《割書:傅染病|迺豫防》飲水の心得 完         畏三堂發兌 【右】 【記述なし】 【左】    例言 一凡人の命を守る道、くさ〳〵なるが、中にも其/旨(むね)とす  るは飲み水にして、一日も之なくては適(かな)はざるもの  なり、然(しか)はあれども其性によしあし有りて、若し日常(ふだん)  あしき水を飲めば流行病の媒(なかだち)となり、よき水飲めば  身の養となる、斯(かゝ)る人体に緊要るものなるに、其善  悪を知ることの書、世になかりけるをもて、七年前文部  少教授なりし松村矩明先生塾に在りて課業の傍(かたはら)、  あれこれの醫書の中より、飲水について心得となる  べきものゝみを抄譯(ぬきがき)し、時もあれば師の閲正(たゞし)を乞は 【右】  んと欲する折、師の卒(みまかり)にあひて其/意思(おもい)を得はたさず、  遂に其草稿を空しく紙魚(しみ)の餌とはなりぬ、さるに  近頃人々の飲水に善悪あることを悟り来て、之を撰ぶ  ことに注意(こゝろ)せば、今ぞ余宿志をも遂げばやと、文匣(ふみばこ)より  彼草稿をとりまとめ見るに、元より己が身の覚へと  なさむまめのとせしゆへ、其説くところ醫語になず  み、或は西洋語の儘なるものあれば、自然と漢語の多  く混りて文章難く、且その頃説しことは今の目に見て  いと古く聞へ、うけ難きものも多し、されど大方の説  は用ひらるべきことあり、捨(すつ)べきにもあれねば是を元 【左】  として、古きは新しきにかへ、難きは易きになし、辺土(へんぴ)  寒郷(いなか)の童蒙(わらんべ)にも了解(わかり)やすからしめむとて鄙近(あさはか)の詞  をもて記き綴りぬ、すべてのことみな此國の詞にひき  直さむと思へど、さては中々に廻り遠く、かへつて煩(わづらは)  しければ、今の人の耳に馴れたる漢語は其まゝにし  て、音と訓(よみ)とを字傍に假名つけ置きたり 一書中字の左り傍(わき)に、経線(たつすじ)をひきたるものは病名と藥  名にして、二線(ふたすじ)は人の名なり、其線をひきたる所以(ゆへん)  は、それ等の語を書ぬき、末に之を解かんと欲せしも  のなれど、深く之を考ふれば、飲水についてはあまり 【右】  緊要のことに非ざる故、虚(むだ)に印刷の手をへて、二三葉の  紙を費にもあたらざれば之を除(のぞ)けり、最病名はこれ  まで漢醫の稱へしとは異れども、病は別に差ことな  し、虎列刺(これら)と虎列刺(ころり)と、稱へはかはれど、仍(やはり)今も昔も吐(あげ)  下(くだ)し甚しくして暫時に斃(たふる)る病なり、又種々(いろ〳〵)のことをも氣  にかけ、或はふさぎなどして無益のことに心労して精  神にかゝりたる病を近頃(ちかごろ)神経病(しんけいびやう)と稱(とな)へ、従前(これまで)の癇症(かんしやう)  といへしが如く、たとひ如何様に稱(とな)へるとも、最早病  と名づくるときは、何れあしきことなりし故、若し書中  に此水を飲めば何病の原因(もと)となり、或は何病を起(おこ)す 【左】  とあれば、其みずをつまり飲ぬにしくはなし、又薬名は  第三章含有物性能の部に於て畧(ほゞ)水に関したる性能  は説明せり、されど其等を委しく知らんと思はゞ、よ  く心得たる西洋医と西洋薬舗とにて尋問べし 一物の分量を時々洋語にて書き記るせしものあり、然  し其下に我邦の分量になほし認めたれど、尚もれた  るもあれむとて左に表を掲ぐ  [リツトル]は千瓦蘭謨(あらむ)[一〇〇〇、〇]にして即ち二磅(ぽんど)  なり大約我二百四十目に当る  [ポンド]は五百瓦蘭謨[五〇〇〇]にして即半[リツト 【右】  ル]なり大約我百二十目に当る  [ガラム]は一磅五百分の一[一、〇]にして即一[リツト ル]の千分の一なり大約我二分五厘に当る 立法[センチメーテル]は瓦蘭謨と同しく一磅の五 百分の一にして大約十五滴計りに当る [ミニウム]は滴(したゝり)にして其液(しる)の厚薄(こきうすき)によつて少しの  差あれど先づ水の重りをもつて定むるものとす  其云此稿を綴れる時、水の善悪を名つけし書の發兌 になりぬ事を聞、是今予思ひ記せしと同じものなら 【左】 んと、求め見るに書中よく深切るに水を試験することを 説さとしたるものなれど、元より西洋の譯書故、余原 稿の如く其文章難しくして、西洋醫書のかたはしも聞 しり、又舎密書の譯書ども讀知る人は、一渡り心得へ けれど、漢字にも暗く、舎密書をもきゝ知らぬ、輩には 少しく解しかたからん、且彼方は水の試験を旨とせ り、此方(こなた)は飲水の心得を主として記すもの故、大に異 なる所あれば遂に稿を全ふして、其思ひの旨を標題 とし、飲水の心得とはものしつるなり 【右】     明治十三年七月下旬                著者織 【左】 《割書:傅染病|之豫防》飲水の心得             村上復雄 著    総論 凡(およ)そ人の體(からだ)四分の三は水より造成(なる)る者(もの)にして其(その)水は 血(ち)に混(まじ)り共(とも)に體内(たいない)を流通(めく)り各部(しよ〳〵)に滲透(しみとほり)て用(よう)をなし其(その) 不用(ふよう)なるものは汗(あせ)、尿(いばり)、水蒸気(すいじようき)となりて體外(たいぐわい)に出(い)ず其水(そのみづ) 一日に大約(おほよそ)四百八十目餘(あまり)なりとす之れによつて見(み)れ は飲水(のみみづ)の多量(たぶん)なることは推(お)して知(し)るべし偖又(さてまた)水は只(たゞ)人(じん) 體(たい)の成分(しなもの)を造搆(つく)るのみならず総(すべて)の物質(もの)を溶解(とか)し或(あるひ)は 咽(んど)の喝(かわき)を止(と)め又(また)は粘稠(ねばり)を稀薄(うすく)し熱病(ねつびやう)に寒冷(ひやゝか)なる水を 【右】 與(あた)ふれば通利(つうじ)を催進(すゝめ)て神経(しんけい)を刺衝(ししやう)し其他(そのた)體(からだ)の温(ぬくゐ)を平(へい) 等(とう)にならしむる等(とう)の効(こう)は實(じつ)に百般(ひやくはん、すゝやか)の飲料(のみりよう)にして一(いつ)も 此右(このみぎ)に出(いず)るものなし古來人/食餌(しよくじ)を絶(た)ち唯(たゞ)水のみを飲(の) みて二十日外命(はつかあまりいのち)を續(つなげ)りと雖(いはども)全(まつた)く水を絶(た)つときは三日 を経(すぎ)ずして死(し)に就(つ)くとなん嗚呼(あゝ)水は貴(たつど)び重(おも)んずべき もの哉(かな)俚言(ことわざ)に雙親(おや)の恩(おん)は報(むく)はるゝとも水の恩(おん)は報(むく)ひ 難(がた)しとは實(じつ)に金言(きんげん)なり 以上/説(と)く如(ごと)く水は人生(じんせい)を營養根元(やしなふもと)なれど又(また)人生(じんせい)を障(そこ) 害(なふ)原因(もと)となる今其事理(いまそのことがら)を述(のべ)ん往古(むかい)英国(ゑいこく)の都府(みやこ)に一箇(ひとつ) の用井(つかひゐど)あり其水を飲みし者は【病名左線】窒扶斯(チブス)病(びやう)《割書:疫|病》に罹(かゝ)り其水 【左】 を飲(の)まざる者は近隣(きんべん)に住居(すまゐ)せるとも其/疾病(やまひ)の感染(うつる)ざ りしとなん依(よつ)て当時(とうじ)英国(ゑいこく)は大に飲水(のみゝづ)を注意(ちうい)することと なれり又[バーセ]府と云へる所の学校(がくかう)あり其校の周圍(ぐるり) に小河(おかは)あり一日(あるひ)【病名左線】虎列刺病(これらびやう)を感受(うけ)し旅客(たひうど)の来(きた)りて其/上(かは) 流(かみ)へ大便(だいべん)を為(な)したる所其/学校(がくかう)の生徒(せいと)多(おほ)く夫れが為(た)め に其/病(やまひ)を感受(うけ)たりと我(わが) 日本に於いても前年(ぜんねん)【病名左線】虎列刺/流行(りうこう)の時/他国(たこく)に比較(くらぶ)れば大 阪の地に最(もつとも)多しとす是全(まつた)く河水の不潔(ふけつ)なるもの或 は井水とても市街(まち)の人家(じんか)稠蜜(つみ)たる故多く厠(かはや)又は 不潔(ふけつ)なる溝渠(みぞ)に近き位置(ところ)にあれば自然(しぜん)と汚穢(よごれ)或は腐(く) 【右】 敗(され)たる者が其/内(うち)へ交通(まじ)り第一圖の如く常用(ふだん)の水/若(も)し 厠(かわや)より下降(した)なるときは糞便等(こへとう)の不潔物(ふけつぶつ)漸次(しだい)に竄入(しみこ)み 殊更(ことさら)厠壺(こへつぼ)の充盈(たま)る時(とき)に於いて最(もつと)も甚(はなはだ)し斯(かく)の如(ごと)き水を 日常(ふだん)飲(の)めるが故/彼病(かのやまひ)に罹(かゝ)りし者の多かりしなん 抑(おも〳〵)惡水(あくすい)を飲めば流行病(はやりやまひ)んい大に関係(かゝはる)ことは我/説(と)くのみな らず醫書(いしよ)中にも説明(ときあか)せり既(すで)に歐洲(おうしう)に於て衛生(ゑいせい)のことに 名(な)を得(ゑ)たる【左二重線】理伯馬來私送兒(リーベルマイステル)氏が云(い)はれしは【病名左線】腸窒扶斯(チヨウチブス) の原因(もと)は溝(みぞ)、坑厠(かはや)等の為めに汚穢(よごれ)或は腐敗(くされ)たる水を 飲しよりして其/病毒(やまひのどく)を人の體内(たいない)に運搬(はこひ) 以て非常(つねなら)ぬ 慘毒(どく)を流布(うつ)せしむるなりと又/英国(ゑいこく)の【左二重線】麻保尼(マホニー)氏と云へ 【左】 る衛星家(ゑいせいか)は【病名左線】有機物(いうきぶつ)《割書:生|物》の混有(まざり)たる水は能(よ)く【病名左線】傅染病(でんせんびよう)及び諸(おほ) 多(く)の疾患(やまひ)を醸(かも)す可(へ)きことを説明(とけ)り又/独逸(どいつ)の萬有學(ばんゆうがく)者の 【左二重線】百典挌穵兒(ベツテンコーウエル)氏は【病名左線】虎列刺病の發萌(きざし)流行(はやり)の理(り)を説明(とか)れ又 【左二重線】路兒(ルール)氏は【病名左線】虎列刺(コレラ)病のみならず【病名左線】窒扶斯(チブス)病にも其等(それら)の水 より起(おこ)るとありよつて日常(つね〳〵)の所用(つかひ)水/不潔(ふけつ)なる時(とき)は忽(たちま) ち疾病(やまひ)の原因(もと)となる假令(たとひ)平素(つね)に其/患害(うれひ)なくとも一回(ひとたび) 之れを一地方(あなた)に運搬(はこび)て茲(こゝ)に[其病の芽(め)を留(とゞむ)るときは千(おほ) 萬人(くのひと)をして此/疾患(やまひ)に罹(かゝ)らしむるに至(いた)る例之(たとへ)ば茲(こゝ)に芽(め) を出る(いだ)さんとする麥(むぎ)の小粒(こつぶ)あり之れを机(つくへ)の上(うへ)におく(お)くと きは数百年(すひやくねん)を経(へ)るとも決(けつ)して花(はな)を開(ひら)き實(み)を結(むす)ふことな 【右】 けれとも之れを地(ち)におろせば適宜(よきほど)の養(やしなひ)を得(ゑ)て小苗(わせ)と なり逐次(したい)に発生(はつせい)するに至る故に過年(せんねん)横濱(よこはま)に在留(ざいりう)せし 欧米(をうべい)人或は東京に在留(ざいりう)せる外国(ぐわいこく)人其/他(た)我邦(わがくに)の人民(じんみん)も 【病名左線】虎列刺(コレラ)及【病名左線】窒扶斯(チブス)病は飲水(のみみづ)より誘(ひざな)ひ發(はつす)るものにして他 の患害(やまひ)は毫(すこし)も之に関係(かゝは)らさるものとせり偖(さて)【病名左線】虎列刺(コレラ)及 【病名左線】窒扶斯(チブス)病の飲水に関係(かゝは)ることは今/姑(しばら)く之を措(お)き先(まつ)水の 種類(しゆるい)及其/善悪(よしあし)を逐次(しだい)に説明(ときあか)すべし    第一章     水の種類 水は【左線】酸素(サンソ)と云へる気体(もの)と【左線】水素(スイソ)と云へる気体(もの)と抱合(くみあい)て 【左】 液(しる)の體(かたち)となれる者なれ共其/二(ふたつ)の気体(もの)は只水を造成(つく)る 主(など)にして多少(たせう)他の物(もの)を含(ふく)み自(おのづか)ら純粋(じゆんすい)なる者は稀(まれ)なり 世に天水(あまみづ)は純粋(じゆんすい)なる者と稱(ものな)れと顕微鏡(けんびきやう、ムシメガネ)又は藥(くすり)にて之 を試(ため)せば其内に種々(いろ〳〵)の混合物(まざりもの)を見る況(まし)て天より降(くだ)り て土地(とち)に滲洑(しみこみ)其水の流(なが)れて河(かは)となり或は湧(わい)て種々(いろ〳〵) 他の物の質(しつ)を含(ふく)むこと多からん故に水の種類(しゆるい)異(こと)なり従(しがふ) て其/性質(せいしつ)且/味(あじは)ひ等も差(たがへ)り夫に付飲水となる者あり又 ならざる者あり且又/良(よき)水の内に良(よき)水あり悪(あしき)水の内に 又悪(あしき)水あり皆(みな)悉(こと〴〵)く含有物(ふくむもの)の性質(せいしつ)と分量(ぶんりやう)とに因(よ)つて別(わか) 【右】 ちあり左に記(き)したるは英国に於て飲水になるべき者 の度(ど)に従(したがう)て順次(しだい)をつけたる者なり  第一《割書:健康|學上》}善良{第一泉水、第二深穿井水(ほりぬきゐど)第三㵎水}味最良  第二《割書:健康|學上》}嫌疑《割書:第四雨水|第五畦水》} 味適良  第三《割書:健康|學上》}危嶮{《割書:第六河水《割書:溝渠と通|するもの》|第七浅穿井水《割書:即ち|地水》》}味良 [第一]善良(ぜんりやう)水は新(あらた)に吸(くみ)たる后(のち)四五日間も其儘(まゝ)に置(おく)とも 【左】 決(けつ)して下等(かとう)の生物(いきもの)を看(み)ることなく若し数(すう)日を経過(すぎ)て漸(し) 次(だい)に僅微(すこし)の沈澱(おとみ)生(せう)じ第二圖の如き水/藻(くさ)の者ある も飲料とならざることなし然し其等は善良の水とは謂(いひ) 難し [第二]嫌疑(嫌疑)水は腐敗(くされ)たる物の成績(あつまり)て水中に第三圖の如 き水/茸形(たかやう)のものと第四圖の如き滴蟲(うじむし)の如き者を含(ふく)む 其他/樹葉稿(このはくづ)又は絨毛(けくつ)等の雑物(まざりもの)を見る  [雨水]雨水は清冽(きよらかなる)と認(いたゝ)むるなれ共其天より降(くだ)れる際(とき)  前件(ぜんけん)に説明(ときあか)せし他に空中(くちう)の【左線】酸(サン)、【左線】炭(タン)、【左線】窒(チツ)の三/元素(げんそ)及ひ【左線】安(アン)  母尼亜(モニア)、【左線】硝酸(セウサン)、【左線】亜硝酸(アセウサン)の氣(き)を含(ふさ)むのみにして著(いちゞる)しき鹽(あん、しほ)   【右】 類(るい、け)を含(ふく)まされは其/味(あぢは)ひ淡(たん)を失(うしな)ひて常用(つうよう)の飲水(のみみづ)にな り難(がた)く如何(いかん)なれば鹽味(えんみ)無き水を服用(ふくようい)すれば【病名左線】胃粘膜(ヰネンマク) より吸収(すいいる)ること遅(おぞ)くして之が為(た)めに胃部(ゐぶ)の害(がい)あり又 海岸(かいがん)の近傍(きんぺん)或は廣濶(くわうくわつ、ひろい)なる海面(かひめん)を通過(つうくわ、とほり)して来(きた)れる雨 は必(かなら)ず【左線】食鹽(しよくえん)、硫酸曹達(りうさんさうた)《割書:芒|硝》の鹽(えん)を含(ふく)むと雖/従(したがつ)て【左線】有機物(ユウキブツ) の多量(たりやう)なるを以て飲用(ひんよう)し難(がた)し又/人家(じんか)稠密(ちようみつ、みつ)なる市街(しがい) の雨水は屋上(おくじよう)に附屬(ふぞく、つく)する塵埃(ちり)及び烟煤(すゝ、かほり)を雑(まじへ)るを以 て初降(しよがう、はじめ)瞬間(しゆんかん、しばらく)の者は汚穢溷濁(よごれにご)りて且/臭気(しうき、かほり)あり故に是(これ) 等(ら)の水は害(がひ)ある者とす 抑(そも〳〵)雨水は清潔(せいけつ)なる時(とき)僅(わづか)に飲用(いんよう)し得(る)可しと雖/決(けつ)して 【左】 之を以て前章(ぜんしよう)に説(とけ)る如く善良(ぜんりやう)なる飲水となし難(がた)し 雪水亦然り若し天水を飲(のま)んと欲(ほつ)せば少しく【左線】加里(かり)を 加(くは)ふれば飲料(いんりやう)となる可し [第三]危嶮(きけん)水は飲料(いんりやう)に成難(なりがた)き者とす若(も)し之を顕微鏡(けんびきやう)に て験(ため)すれば第五圖の如き者を見る其物/悉(こと〳〵)く死(し)する時 は其水/溷濁(にご)る然し【左線】亜酸化鐵(アサンクワテツ)を含(ふく)む溷濁(にごり)と彷彿(さすに)たる者 なれば外見(ぐわいけん)のみを以て看認(みしたゝ)む可からず最(もつとも)【左線】亜酸化鉄(アサンクワテツ)を 含(ふく)みし水は之を濾過(こ)せば飲料(のみりよう)となる  [河水]河水は危嶮(きけん、あやうき)なる者と雖其/河浅(かはあさ)しくして其/流(なが)れ急(きう)  なるものなれば飲料(のみりよう)として害(がい)なし然(しか)れ共久しく市(し) 【右】  街(がい)を流通(つう)じ且其/流(なが)れ穏(をだや)かなる者なれば其/下流(かはしも)に於 て大に不潔(ふけつ)となり又/多量(たぶん)の【左線】有機(いうき)【左線】無機(むき)の両質(りやうしつ)を含(ふく)め るは大に害(がい)あり又/海(うみ)に近(ちか)き河水は潮波(うしを)の逆流(さかのぼり)て海 水の成分(せいぶん)を含(ふく)めるを以て飲用(いんよう)になり難(がた)く又/瀑雨(にわかあめ)或 は洪水後(おほみつご)にて其水の色/恰(あたかも)味噌汁(みそしる)の如く染(そ)むる時は 【左線】有機物(いうきぶつ)其他/諸雑物(いろ〳〵のもの)を含(ふく)む故 決(けつ)して飲m可からず 総(すべ)て先一/般(はん)の河水は飲料(いんりやう)にならさる者と看做(みな)して よし然(しか)し之を飲まざるを得(ゑ)ぬ時(とき)は含有物(ふくむもの)の著(いちじる)しく 無(な)き者を撰(ゑら)み水濾法(みづこしはふ)によつて濾過(こす)せば僅(わづか)に其用に 供(けう)するに足(た)る  【左】 [井水]井水は粗(ほゞ)泉水に同しと雖/土質(としつ)を含(ふく)むこと多(おふ)けれ ば泉水の如く佳良(よき)水と稱(とな)へ難(かた)し然(しか)れ共死水に比(ひ)す れば僅少(すこ)しく良なり故に其/含(ふく)む所の物質(もの)或は量(かさ)に よつて飲料(のみりよう)となる然し底(そこ)の汚泥(きなきどと)なる井水は其水に 【左線】炭酸加爾基(タンサンカルキ)、【左線】鹽酸曹達(エンサンサウダ)、【左線】鹽酸加爾基(エンサンカルキ)、【左線】硝酸加爾基(セウサンカルキ)、【左線】硫酸加爾里(リウサンカルリ)、等を含(ふく)みて其/性剛(せいつよ)くして豆(まめ)、肉(にく)、類(るい)を煮(に)又煎茶(せんちや)等の 用になし難し殊(こと)に【左線】有機物(いうきぶつ)を含(ふく)める水は必(かなら)ず臭気(しうき)を 帯(お)び顕微鏡(けんびきやう)或は肉眼(にくがん)を以て歴然(はつきり)其水中に第六圖の 如き生活體(せいくわつたい)を看認(みしたゝ)偖(さて)又/前章(ぜんしよう)に云(い)へる如く都會(とくわい)の 人家(にんか)稠密(つみ)たる所の井は多く厠圊(かわや)、糞壺(こへつぼ)、溝渠(みぞ)、又は塵芥(ちりすて) 【右】 場(ば)の接近(ちかく)にあるものにて斯(かく)の如き場所(ばしよ)の井水は概(おほむね) 糞(ふん)、尿(いばり)及ひ食物(しよくもつ)の腐敗(くされ)る者等の異物(あやしきもの)を混(こん)ずれば能々(よく〳〵) 験水法(けんすいほう、みづをためす)によつて畧(ほゞ)其水の含有物(ふくむもの)を発顕(あらは)し若し【左線】安母(アンモ) 尼亞(ニア)及【左線】有機質(イウキシツ)を多量(たりやう)含(ふく)む者は絶(たへ)て之を飲用すべか らず假令(たとへ)其/質(しつ)僅少(わづか)或は只/痕跡(あと)を留(とゞ)むる者たりとも 一/度(ど)煎沸(せんふつ、にる)せしむるか或は濾過(ろくわ、こす)するに非(あら)ざれば飲用(いんよう) す可からず 人工(じんこう)にて鑿(ほ)りたる井水のみならず泉(いづみ)の源(みなもと)より湧出(わきいづ) るものも水道(すいどう)を通(とほ)り過(すぐ)る時/厠(かわや)、溝(み)、等にて變惡(わるくな)るは前 と同し 【左】 [海水]海水は【左線】挌魯兒曹胃母(コロールソヂユム)、《割書:食(し)|鹽(ほ)》【左線】硫酸曹達(リウサンサウダ)、【左線】硫酸苦(リウサング) 土(ド)、等を含(ふく)みて其/味(あじ)苦鹹(くがん)なるを以て飲用(いんよう)に成(な)り難(が)し然(しか) れ共/混合物(まざりもの)の量(かさ)に依(より)て鹹味(からみ)深(ふか)しと雖/邪悪(じやあく、あしく)ならずして 新吸(くみたて)の水に食鹽(しほ)を和(くわ)したるが如きは飲用(のみよう)となし得(う)可 し最海水は適量(よきほど)飲んで身(み)に害(がい)あること更(さら)になし  総(すべ)て鹽類(ゑんるい)を含(ふく)める水は夥多(おびたゞし)く【左線】有機質(イウキシツ)を含(ふく)める水に  比較(ひかう、くらぶ)すれば其/害(がい)少(すくな)し何(な)んとなれば斯(か)く食鹽(しほ)を含む  水は疾病(やまひ)を發(はつ)すること無く且少しく連用(つゞきもちゆ)れば習慣(なれ)て  害(がい)なきに至(いた)る [溜水]溜(りう)水は死水と稱(とな)へて池(いけ)、沼(ぬま)、澤(さは)、等(とう)の溜(たま)り水なり是(これ)等(ら) 【右】 は死活(しくわつ、いきる)の【左線】有機(イウキ)、【左線】無機(ムキ)両質(りやうしつ)を含(ふく)む事多く且暖気(だんき)なる時は 【左線】有機物(イウキブツ)の腐敗(くさ)れる故/種々(いろ〳〵)の惡(あし)き臭(かざ)を發(はつ)して大んい害(がい)を 為(な)す若し誤(あやま)つて之を飲(の)めば肺(はい)及/肝(かん)に疾患(やまひ)を生(せつ)じ甚(はなはだ)し きに至(いた)りては肝(かん)に一/種(しゆ)の寄生蟲(やどりむし)を生(せう)ぜしむ [高軟水]硬(こう)水は主(しゆ、おも)として【左線】石灰鹽(セキクワイエン)《割書:【左線】石灰鹽類、殊に【左線】炭酸石灰及|び遊離の【左線】炭酸を含有す》 を含(ふく)む軟(なん)水は【左線】炭酸亞兒加里鹽(タンサンアルkアリエン)を含(ふく)む今之を容易(たやす)く知 らんには石鹼(せきけん、しやぼん)《割書:亞兒加里|製の石鹼》を溶解(とか)して著(いちじる)しく之を知る硬(こう) 水は石鹼(せきけん)融(と)け難(がた)く軟(なん)水は石鹼(せきけん)融(と)け容(やす)し  総(すべ)て軟水(なんすい)は諸般(しよはん)の工業用(かうぎうよう)又は物を洗(あら)ふに賞用(しやうよう)すれ  共其水中に腐敗物(くされもの)を含(ふく)めるが故に飲/料(りやう)にして害(がい)あ 【左】  り硬(こう)水は其/腐敗物(くされもの)を沈底(しづ)め又此水中に含(ふく)む物は頗(すこぶる)  人身(じんしん)に助(たすけ)となれる者あり其/所以(ゆゑん)は今/硬(ごう)水に含(ふく)める  【左線】剥多亞斯(ポツタース)、【左線】石灰(セツクワイ)、【左線】曹達(サウダ)、【左線】苦土(クト)、【左線】鐵(テツ)、及ひ【左線】酸素(サンソ)と抱合(はうがふ、あひ)したる【左線】硫(イ)  黄(ワウ)、【左線】炭酸(タンサン)、挌魯林(コローリン)等は各人(かくじん、ひと〳〵)需用(じゆよう、いりやう)の物質(もの)を多少(たせう)之よ  り補(おぎな)ふか故なり然れ共古き説(せつ)によれば硬(ごう)水を攝生(やうじやう)  に良(よ)からぬ者とし軟(なん)水を飲料(いんれう)となして良(よ)き物とな  せり之/全(まつた)く硬(ごう)水の菜(な)、豆(まめ)を煮(に)て熟(じゆく)しが難(がた)く麪包(パン)を捏(ねり)て  発酵(はつかう)し難(がた)く醇酒(よきさけ)を醸(かむ)す能(あた)わず飲んで消化(こな)れ難(がた)きが  故若し胃部(しよくぶくろ)に在りても斯(この)作用(はたらき)を為(な)すならんとして  健康上(けんこうじやう)に有害(いうがひ)なる者とはなせり最(もつと)も滋養(じやう)なる物と 【右】  ても其/分量(ぶんりやう)多ければ害(がい)あり又/消化(こなれ)の力(力)速(すみやか)になる者  も健康(けんこう)に害(がい)ある者あり假令(たとえ)は河(かわ)、池(いけ)、沼(ぬま)は軟(なん)水にして  其/力(ちから)あるも前説(ぜんせつ)の如く腐敗物(くされもの)を多量(たぶん)含(ふく)めるを以て  健康上(けんこうじやう)に大害(たいがい)あり又/雨水(うすい)《割書:軟|水》は清冽(きよらか)なれ共/淡薄(たんはく)に失(しつ)  するを以て鹽類(えんるい、しほけ)を附加(ふか)するに非(あら)ざれば飲料(いんれう)に供(けう)す  ること能(あた)はず是に因(よつ)て之れを見れば先/常用(つね〳〵)の飲水は  硬(ごう)水に害(がい)少(すくな)くして軟水(なんすい)に害(がい)多(をほ)し最(もつとも)硬(ごう)水の書物(しよぶつ)を溶(よう、と)  解(かい、かす)せしむる力(ちから)薄(うす)きは全(まつた)く土質分(どしつぶん)の混合(こんがう)少(すく)なきが故  なり若し其等(それら)の用に供(けう)せんと欲(ほつ)せば適量(よきほど)【左線】曹達(サウダ)を加(くわ)  ふれば其/用(よう)に足(た)る従(したが)つて其/味(あじ)も佳(か)なる者となる 【左】    第二章     含有物(がんいうぶつ) 人の常(つね)に飲料(いんれう)となせる水は多(おほ)く泉(せん)、井(せい)、河(か)の水を用ゆ其 三水に含(ふく)む物の表(ひよう)を左に掲(あ)ぐ  第一鑛基(クワウキ){《割書:剥多亞斯(ポツターアス) 曹達(サワダ) 安母尼亞(アンモニア)|苦土(クド) 酸化鐵(サンクワテツ)》  第二酸類(サンルイ){《割書:硫酸(リウサン) 燐酸(リンサン) 珪酸(ケイサン) 炭酸(タンサン)|亞硝酸(アセイサン) 挌魯林(コローリン)》  第三有機物(イウキブツ)  第四水中に游離(いうり)する物[粘土] 【右】 其他/井(せい)、泉(せん)、河(か)、の起源(おこり)及ひ其/造搆(ぞうこう、つくりかなへる)の物質(ぶつしつ)により水中の含(がん) 有物(いうぶつ)を分析(ぶんせき)すれば多く諸物(しよぶつ)を認(したゝ)め看(み)らる既(すで)に【左線】沃鎭(よぢん)の 如きは水中に含(ふく)むこと化学的(くわがくてき、くすりでみつ)にて調査(しらべ)らるゝと雖此等 は百磅(ぽんど)《割書:一磅が百|二十目餘》以上の水を分析(ぶんせき、わける)するに非(あら)ざれば之 検査(けんさ、しらべる)するに苦(くる)しむ是/全(まつた)く水中に含(ふく)むこと微小(すくなき)が故なり 假令害(たとひがい)ある者とも其/分量(ぶんりやう)の極少微(ごくせいび、すなき)なる時は人身(じんしん)上に 障害(さまたげ)あることなきもの故茲(こゝ)に説(と)かず今左に記(き)る所の者 は右/含(ふく)む物の如何なる(いか)なる性能(せいなう)あるかの大約(おほよそ)を説明(ときあか)す者 なり    第三章 【左】 [剥多亞斯] 【左線】剥多亞斯(ボツタース)は灰(はい)に含(ふく)む鹽(しほ)の如きものにてよく 水に溶化(ようくわ、とけ)す世上に云う所のあく水は此ものゝ水に解(とけ) て混(まじ)るな人體(じんたい)の中に在りては血液(ち)、乳(ちゝ)、汁、尿(いばり)の如きも のに混(まじ)り【左線】剥多亞斯(ボツタース)鹽(えん)を存在(そんざい)する者とす若し水中に含(ふく) みたるも多量(たりやう)ならざれば飲んで健康(けんこう)上に害(がい)あることな し [曹達] 【左線】曹達(サウダ)は鹽(しほ)の原(もと)にして胃(ゐ)を清涼(すゞやか)にする性(せい)をもち殊(こと) に留飲(いうひん)、食滞(しよくたい)等を治(じ)する効(かう)あれば譬(たと)ひ水中に多量(たりやう)の【左線】曹(サウ) 達(ダ)を含(ふく)むとも一/切害(せつがい)あること無し尚(なほ)善良(ぜんりやう)の飲水(のみみづ)となす 【右】 偖(さて)水は数年間(いくねんかん)飲用(いんよう)にする共【左線】有機物(いうきぶつ)の多量(たりやう)を含(ふく)むに 非(あら)ざれば健康上(けんこうじやう)にあること更(らさ)になし [安母尼亞] 【左線】安母尼亞(アンモニア)は激烈(はげ)しき臭(かざ)を有(いう)する無色(むしよく、いろなき)の揮發(きはつ、のぼる) し易(やす)き瓦斯(ガス)なり若し水中に多量(たりやう)含有(がんいう)せることあれば之 を飲(の)むべからず総(すべ)て【左線】安母尼亞(アンモニア)の多く含(ふく)む水は糞壺(こへつぼ)、腐(くさ) 敗(れ)たる土(つち)多き地質(ちしつ)、滴虫(てきちう、ちいさきむし)多き地質(ちしつ)等より來(きた)れる者多け れは多分(たぶん)【左線】有機質(イウキシツ)を含(ふく)めり故に惡(あし)きものとす然し尿様(いばりやう) 即ち不快(ふくわい、こゝろよからぬ)の臭気(しうき、にほひ)を附與(ふよ)すと雖其水【左線】有機質(イウキシツ)の含(ふく)むこと少(すく) なき時は假令(たとひ)其/多量(たりやう)なるも決(けつ)して健康上(けんこうじやう)に無害(むがひ)なり [石灰] 【左線】石灰(セキクワイ)は小兒(せうに)の【左線】膓(ちよう)、【左線】胃(ゐ)中に酸(す)き液(しる)を醸(かも)し嘔吐(あげ)下利(くだし)を 【左】 發(はつ)する者を止(とゞ)めるの効(こう)あれども此のみ用ゆることは稀(まれ) なり故に水中に小量(せうりやう)含(ふく)む時は健康上(けんこうじやう)に害(がい)あることなし 然し【左線】硫酸石灰(リウサンセキクワイ)を多く含(ふく)む水は【左線】膓加答兇(チヨウカタル)《割書:所謂|痢病》様(やう)の疾病(やまひ) を誘(さそ)ひ尚永(なほなが)く之を用(もち)ゆれば総(すべ)ての消化器(せいくわき、ものをこなすきかい)を害(がい)するに 至(いた)る可し [苦土] 苦土(クド)は【左線】广倔揑失亞(マクネシア)と稱(とな)へ土質(どしつ、つきやうな)のものにして曹達(サーダ) と大同小異(たいどうせうゐ)のものなれども水中に大/量(りやう)含(ふく)む時は大に 健康上(けんかう)上に害(がい)あり [酸化鐵] 【左線】酸化鐵(サンカテツ)は少量(せうりやう)なれば血(ち)を富(とま)すの性(せう)あれとも多(た) 量(りやう)なるときは胃(ゐ)に妨碍(さまたげ)を起(おこ)す故に水中/多量(たりやう)含有(がんいう)する 【右】 時は頗(すこぶ)る健康上(けんこうじやう)に害(がい)あり [硫酸] 【左線】硫酸(リウサン)は食気(しよくき)を進(すゝ)める功(こう)ある者にして若し水中に 含(ふく)むとも害(がい)なし然(しか)し多量(たりやう)に含(ふく)む水(みづ)は胃(ゐ)の妨害(さまたげ)を生(せう)じ 且つ腹痛(ふくつう)を發(はつ)せいむることあり【左線】硫酸(リウサン)を多く含(ふく)む水は必(かなら) す【左線】加爾基(カルキ)《割書:石|灰》の存在(そんざい)多きが故に不健康(ふけんこう)の者とす [燐酸] 【左線】燐酸(リンサン)は諸酸(しよさん)に比較(ひかう、くらぶ)すれば其/力(ちから)弱(よは)きが故假令(たとひ)水中 に含(ふく)むこと多量(たりやう)なりと雖/健康(けんこう)に害(がい)あること少(すくな)し斯くの如 き水は一/度(ど)蒸發(じようはつ)せしめて以て飲用に適(かな)はさることを定 む最(もつと)も此/酸(サン)は飲用の水中に於ては常に微少(すこし)の痕跡(あと)を 存(のこ)すのみにして多量(たりやう)なる者少なし 【左】 [珪酸] 【左線】珪酸(ケイサン)は地上に在り又/鑛泉(くわうせん)中にて【左線】酸化珪素(サンカケイソ)とて天(てん、し)然(ぜん、せん)溶解(ようかい、とけ)し殊(こと)に温泉(おんせん)中には頗(すこぶ)る多く今(いま)常用(じやうやう)の水中に於 ては全(まつた)く無(な)きか或(あるひ)は極(ご)く微少(びせう)なる故に其/効用(かうよう)は記(しる)さ す [炭酸] 【左線】炭酸(タンサン)を含(ふく)める鑛泉(くわうせん)は薬用(やくよう)に供(けう)することあれども飲(いん) 用(よう)に緊要(いんおう)と為(なさ)ざる故其/効用(こうよう)は略(りやく)す [亞硝酸] 【左線】亞硝酸(アセウサン)の少量(せうりやう)は食機(しよくき)を進(すゝ)め消化不良(せいくわふりよう、こなれよからぬ)の諸疾(しよしつ、やまひ)に 之れを薬用(やくよう)となすことあれと若し水中に含(ふく)む時は假令(たとひ) 其/痕跡(こんせき)と雖/飲(の)んて害(がい)あり其/所以(ゆえん)は【左線】安母尼亞(アンモニア)と同く此 【左線】亞硝酸(アセウサン)を多量(たりやう)含(ふく)む水は必(かならず)汚穢(よごれ)たる地層(しと)を通(とほ)りたるか 【右】 腐敗(くされ)たる【左線】有機物(いうきぶつ)の存(そん)する所に由(よ)るか故なり [挌魯林] 【左線】挌魯林(コローリン)の抱合物(はうがふぶつ)は動物(どうぶつ)體中(たいちう)に於て須要(いりやう)の成分(せいぶん) たり殊(こと)に【左線】挌魯林曹胃母(コロールソジヂユ)《割書:即ち|食鹽》の如きは普(あまね)く常用食物(ぢやうようしよくもつ)中 に存(そん)し其味を調(とゝのふ)るのみならず體(たい)の中に於ても必要(ひつよう) の者なる故其/含(ふく)むもの愈々多(いよ〳〵おほ)き時は尿(いばりの)中に排泄(もれ)ること愈々(いよ〳〵) 多きを常(つね)とす因(よつ)て水中に含(ふく)むとも健康(けんこう)に害(がい)あることな し [有機物] 【左線】有機物(いうきぶつ)は植物(しよくぶつ)動物(どうぶつ)にして若(もし)水中にある時は其 身(み)か枯(か)れ死(し)するとも種ありて生々(いき〳〵)相続(あいつぎ)永世(いつまで)も絶(たへ)ざる 者なり故に之を多量(たりやう)含(ふく)む水は【左線】膓窒扶斯(チヨウチフス)《割書:傷|寒》等の疾患(やまひ)に 【左】 罹(かゝ)ること有(あ)る可(べ)し然(しか)れ共一般(ぱん)飲水中(のみみづのうち)に溶解(とけ)たる【左線】有機物(いうきぶつ) を少(すこ)しくも含(ふく)まざる者は幾稀(ほとんどまれ)にして全(まつた)く無色(むしよく)の清水(せいすい) とても【左線】有機物(いうきぶつ)の痕跡(あと)を留(とゞ)む故に第四章の験水法(けんすいはう)に従(したが) ひて其/量(りやう)微少(びせう、ごくすくなき)なる者を飲料(いんれう)となし其多きは第六章に 説(とけ)る如く【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)の溶(と)き液(しる)を加(くわ)へて色(いろ)の退(しりぞ)かざ る者は飲用(いんよう)となし其/夥多(きわた、おほき)なるは廃棄(はいき、すつる)す可し  曾(かつ)て獨乙國(ドイツコク)ニ一箇井水(ひとつのせゐすい)あり其水の存在(そんざい、ある)せる地質(とち)は  植物(うへもの)の朽(くさ)れたる地層(ちそ)より成(な)れむ者にして其水の中  に【左線】有機物(いうきぶつ)を含(ふく)むことは大約(およそ)そ水一万分中に百二十三  分其/物質(ぶつしつ)を含(ふく)めり而(しか)して其水を数年來(すうねんらい)六十人餘(あま)り 【右】 のものが飲(の)みて何等(なにら)の障(さわ)りもなく健康(けんこう)に年月(としつき)を送(おく) りしが或年(あるとし)【左線】虎列刺(コレラ)病(びやう)の流行(りうかう)せる時(とき)ありて其水を飲(の) める者は多(おほ)く其/病(やまひ)に罹(かゝ)れり然(しか)るに又「ペルリン」と稱(とな) へる處に水道(すいどう)ありて其水を飲(の)める近隣(きんべん)の人民(ひと〴〵)と其の 【左線】有機物(いうきぶつ)を含(ふく)める井水を飲(の)む者とに就(つい)て【左線】虎列刺病(コレラびやう)の 感染(うつ)りたる患者(びやうにん)を比較(くらぶ)るに果(はた)して其/井(せい)水を飲(の)みし 人民(ひと〴〵)に於て其/員数(いとかづ)多かりしとぞ我/邦(くに) 日本に於ても東京(とうけい)は水道の水を飲(の)大坂は河(かは)水と 井水を飲(の)む偖(さて)前年(ぜんねん)【左線】虎列刺(コレラ)流行(りうこう)せる時大坂の人民(ひと〴〵)と 東京の人民と其病に罹(かゝ)りし患者(びやうにん)を較(くら)ぶれば仍(やはり)河井(かせい) 【左】 の水を飲める坂府の人民を以て其/算(さん)を増(ま)す其/所以(ゆへん) は該(がい)人民の常に飲用となせる河水は其/上流(かはかみ)に於て 糞(ふん)尿(いばり)及/食物(しよくもつ)の腐(くさ)れたる異物等(ゐぶつとう)を流(なが)せるゆへ【左線】有機物(いうきぶつ) を多量(たりやう)含(ふくみ)しこと瞭然(れうぜん、あきらか)たり又井水を常用(じやうやう)とせる者ある も人戸(じんこ)稠密(ちようみつ)たる地なる故其井所多くは厠(かわや)、溝(みぞ)の近傍(そば) にあり因(よつ)て前(まへ)に説明(ときあか)したる如く【左線】有機物(いうきぶつ)を多量(たりやう)含(ふく)め り曾(かつ)て予(よ)が坂府西区に寓居(ぐうきよ)せる時其/近傍(きんぺん)に井を穿(ほ) る者ありて凡数十尺にして土中(どちう)より蘆(あし)の枯(か)れたる もの或は木の朽(くさ)れたる者を見る是に依て之を考(かんがふ)る に該(がい)地方(ちほう)の地/層(そ)は獨乙國(ドイツコク)の地/質(しつ)と同じき者にして 【右】 植物(しよくぶつ)の朽(くさ)れたるより造生(ぞうせい)する者/多(おほ)きか故/該(がい)井水は 多(おほ)く【左線】有機物(いうきぶつ)を含(ふく)むこと必(ひつ)せり茲(こゝを)以て患者の多かりし ならん之に因(よつ)て総論(さうろん)に述(のべ)たる如く【左線】有機物(いうきぶつ)を混有(こんいう)せ る水は假令(たとひ)平素(へいそ)は倖(さいはひ)に患害(うれひ)を見ること無きも一回(たび)【左線】傅(でん) 染病(せんびやう)流行(りうかう)するときは忽(たちま)ち之が媒(なかだち)をなして非常(ひじやう)の惨(さん) 毒(どく)を社会(ひと〴〵)に流布(うつ)せるに至(いた)る可(べ)き者なれば能々(よく〳〵)【左線】有機(いうき) 物(ぶつ)を含(ふく)める有無(うむ)を次章の験水法にて注意す可(べ)し    第四章     験水法 飲水の善悪(ぜんあく)又は適否(てきひ)を定むるは最(もつとも)緊要(きんゑう、かんじん)なるののと雖(いへども) 【左】 之れを精密(こまやか)に知ることの法(はふ)は甚(はなはだ)むづかしきものとす今 其/大概(あらまし)をいはんに先水を真(しん)に分析(ぶんせき、わける)せんには湧出水(いうしつすい、わきいづるみづ)に 就(つい)ては井泉なるや止(し)泉なるや流(りう)泉なるや水道なるや 又河水に就(つい)ては其流れの触(ふる)る場所(ばしよ)の性質(せいしつ)及潴溜(ちよりう、みづたまり)場或 は製造場(せいざうば)其居住或は製造(せいざう)場の近部(きんぶ)の上下を視察(しさつ)し又 井水に就ては潴溜場(ちよりうば)或は工業場(こうげうば)の位置(いち)及び其/製造(せいざう)場 に於て何業(なにげう)を経営(いとなみ)するや此/建築場(けんちくば、ふしんば)と潴溜(ちよりう)水の中間(あひだ)に 隔(へだ)たる地質(ちしつ)は砂石(すな)なるか粘土(ねばつち)なるか其/位置(ところ)は高(たか)きや 低(ひく)きやの状態(ありさま)を察(さつ)し其他/驟雨(にはかあめ)の形状(ありさま)霖雨後(ながあめご)の形状又 は風雨(ふうう)の為(た)め起(おこ)る所の水の位置(いち)及/湿気(しつき)の時候(じこう)又は久 【右】 しく或は瞬間(しばらく)前(まへ)に汲取(くみとり)し所の水の臭味(くさみ)等を悉(こと〴〵)く極(きあ)め ざるを得(え)ず斯(か)くの如く精微(せいび)なる試法(みはる)或は深奥(ふか〳〵)しき埋(り) を究(きはむ)ることは常人(たゞひと)に在(あ)りては之れを要(えう)するに足(た)らず只 飲水(のみみづ)の健康上(けんかうじやう)に適不適(てきふてき)を判断(はんだん)するを以(もつ)て足(た)れりとす 故に此/編(へん)は水の成分(せいぶん)を辨識(べんしき)し得(う)べき試法(しはう)を挙(あ)げ成分(せいぶん) の多少(たせう)を比例(ひれい)するが如きは畧(りやく)す其/含有物(かんいうぶつ)の量(かさ)を 定(さだ)むることは此/試験法(しけんほう)に就(つい)ては緊要(きんえう)なるもの故其要な る者は一二の法方を説(と)き餘(よ)は人體(じんたい)に障(さわ)り無き定量表(ていりやうひよう) を記(き)すれば其/表(ひよう)によつて健康上(けんかうじやう)に有害無害(いがいむがい)を考察(かうさつ)す べし夫(そ)れとても撿硬器(ハロメートル)といへる器械(きかい)なくしては精(くは)し 【左】 きことは分(わか)ち難(がた)きなれども只其/大約(おほよそ)を知(し)るのみ    飲水の善悪を常人に易く試験し得へき法 飲(のみ)水にして最良(もつともよき)ものは無色透明(みしよくとうめい、すきとほる)にして久しく置(お)く共 色を變(へん)ずることなく亦/何(なに)たる臭(くさ)みもなくして快活(さわやか)なる 味(あじ)をもち決(けつ)して異(こと)なる味あることなし空気(くうき)《割書:殊に炭|酸気》を 含(ふく)むものにして少(すこ)しく水疱(あは)を發(はつ)し其/他(た)夏時(なつ)には其水 寒冷(ひやゝか)にして冬時(ふゆ)には其水/温暖(あたゝか)なるものを良(よ)しとす 三四合の水を取(と)り硝子壜(がらすびん)に入れ凡(およ)そ五六分/時間(じかん)之れ を煎沸(わか)して后(のち)火(ひ)を去(さ)り視(み)るに其色/濁(にご)りて壜(びん)の底(そこ)の光(つ) 沢(や)を失(うしな)ふものは其水中に【左線】炭酸石灰(タンサンセキクワイ)の多量(たりやう)を含(ふく)みし徴(しる) 【右】 し故/斯(かく)の如き水は善良(ぜんりやう)の飲水に非(あら)ず 天然(てんぜん)【左線】有機物(イウキブツ)を含(ふく)む水は微少(すこ)しく褐色(ちやいろ)を帯(おふ)るものなれ ば無色(むしよく)の玻璃瓶(がらすびん)に入れて容易(たやす)く知り得(う)へし但し透明(とうめい、すきとほり) の水と雖/屡(しば〳〵)【左線】有機物(イウキブツ)を含(ふく)むことあり斯(かく)の如き水は【左線】過滿俺(クワマンカン) 酸加里(サンカリ)と云へる者の溶液(ときしる)を少(すこ)しく加(くわ)ふれは必(かなら)ず茶褐(ちやかつ) 色(しよく)を露(あらは)す其/他(た)【左線】有機物(イウキブツ)を含(ふく)める者は必(かなら)す一/種(しゆ)の臭味(くさみ)あ るを以(もつ)て之を辨明(べんめい)すべし 約(おほよ)そ一合の水に【左線】単寧酸(タンニーサン)の溶(と)き液(しる)四匁《割書:単寧酸一分と四|分の餾水と一分》 《割書:の酒精とに溶解せし者に|して固より透明なりとす》を注(そゝ)ぎ約(おほよ)そ五/時間(じかん)を経(へ)て濁(にご) らざる時は其水は善良(ぜんりやう)の者たるべし然(しか)れども若(も)し其 【左】 五分時間或は一時間の中に濁(にご)れるものは健康(けんこう)上に於 て害(がい)あることは言を竢(ま)たざれ共或は二時間を経(へ)て濁(にご)れ る者の如きも亦/飲用(いんよう)に供(けう)するに足(た)らず 此/他(た)色の清(きよ)らかなるものと又/濁(にご)りたるものとにて知 り又は臭(くさ)みと味(あじ)とにて含(ふく)む者を試(ため)す法 [第一]水/濁(にご)にて黒(くろ)き色なるものは粘土様(ねばつちやう)或は泥土状成(どろつちやう) の其中に混在(まじ)るを想像(さうぞう)す [第二]水/色(いろ)黄(き)及褐色(ちやいろ)を認(したゝむ)るは【左線】有機物(イウキブツ)の着(いちゝる)しき含有(がんゆう)或 は【左線】鐵(テツ)、鹽(エン)類(るい)の存在(そんざい)より起(おこ)れるものとす最(もつとも)【左線】有機物(イウキブツ)を含(ふく)め る水は其/色(いろ)によつて證(せう)す若(も)し其/含(ふく)むこと多量(たりやう)なる時は 【右】 必(かなら)す茶褐色(ちやいろ)を露(あらは)す其/他(た)一/種(しゆ)の臭味(しうみ)あるを以(もつ)て又/辨(べん)す へし [第三]不佳(ふか)の臭気(しうき)ある水は【左線】硫化水素(リウクハスイソ)[即ち【左線】硫酸石灰(リウサンセキクワイ)及【左線】硫(リウ) 酸苦土(サンクド)と腐敗(ふはい)したる【左線】有機物(イウキブツ)の産生物(さんせいぶつ )なり]或は泥沼(でいせう)の 瓦斯(がす)[即ち【左線】有機物(イウキブツ)腐敗(ふはい)の産生物(さんせいぶつ)なり]の存在(そんざい)なり [第四]収斂性(しうれんせい)の味(あじ)は【左線】酸化鐵(サンカテツ)と知(し)る可し [第五]苦(にが)き味(あじ)は【左線】苦土(クド)と【左線】鹽(エン)類(るい)の (含(ふく)みたるなり [第六]鹹味(かんみ、からき)は【左線】食鹽(しよくえん)或は【左線】鹽化加爾叟母(エンクワカルシユム)たるべし [第七]土様(どやう)の味(あじ)は【左線】亞兒加里(アルカリ)【左線】土(ド)類(るい)【左線】重炭酸鹽(ヂウタンサンエン)類(るい)の存在(そんざい)なり 該(がい)水(すい)は飲用(いんよう)となして健康に害(がい)あることなし前(まへ)に説(と)ける 【左】 水は悉々(こと〴〵)く健康(けんこう)に害(がい)あり殊(こと)に【左線】硫化水素(リウクハスイソ)【左線】沼泥瓦斯(セウデイガス)等の存(そん) 在(ざい)せる水は決(けつ)して飲(の)むべからず    試薬を以て分析する法 此/試法(しほう)は水分(すいぶん)を半(なか)は蒸散(じやうさん、につめ)して之を濾過(ろくわ)して其/残査物(のこりもの) と濾滴水(こししる)とに試薬(ためしぐすり)を施(ほどこ)して其/性物(せいぶつ)を減察(げんさつ、あらはし)するなり 水を蒸発(じやうはつ、わかす)するに白金皿(はくきんさら)を用(もち)ゆるを良(よし)とすれと平家(へいか)に 在(あつ)ては之に代用(たいよう)するは裏面(うちうら)に光滑(つや)ある陶硅(くすり)を全布(かけ)た る磁碟(やきものさら)を撰(ゑら)むべし若/内面(うちうら)の糙澁(ざうなう、あらき)なる者は物質(ぶつしつ)多く皿(さらの) 内(うち)に固着(ひつつ)き又/玻璃皿(がらすさら)は固着(ひつつく)ことの害(がい)なしと雖も破れる ことの憂(うれひ)あり 【右】 今/試(こゝろみ)んと欲(ほつ)する水を前件(ぜんけん)の器(うつは)にて摂(せつ)氏百五十/度(ど)以下 百二十/度(ど)の温度(おんど、ぬくみ)を以て数時間(すうじかん)煎沸(せんふつ)し殆(ほと)んと其/半(はん) 量(りやう)になると候(うかゝ)ひ其/液(しる)を膠質(にかわけ)の無(な)き紙の上(うへ)に傾(かたむ)けて濾(こ) し其紙上の物を假(か)りに[甲物]となし其紙より滲透(しみとほり)たる 漏水(おりしる)を[乙水]となし左の試験(しけん)を為(な)す可し 甲物は水中に遊離(いうり)する【左線】炭酸(タンサン)の効用(こうのう)にて液中(えきちう)に収留(とゝま)り たる【左線】炭酸石灰(タンサンセキクワイ)、【左線】炭酸苦土(タンサンクド)、【左線】膽酸化鐵(タンサンクワテツ)、【左線】燐酸(リンサン)時(とき)あつては硫酸(リウサン) 【左線】石灰(セキクワイ)、【左線】粘土(ネンド)等の諸合物(しよがふぶつ)なり    甲物試法 [第一] 【左線】炭酸(タンサン)を試験(しけん)するは甲物(こうぶつ)に稀薄(うすき)【左線】挌魯爾水素(コロールスイソサン)の小(せう) 【左】 量(りやう)を溶(と)き泡醸(あわたゝ)は【左線】炭酸(タンサン)なりと定(さだ)む  遊離(いうり)の【左線】炭酸(タンサン)を含(ふく)める水は少許(すこし)の【左線】石炭(セキタン)水(スイ)を加(くわ)ふれは  溷濁(にごり)を生(せう)す可し [第二] 【左線】鐵を發顕(あらは)すは甲物(かうぶつ)の溶液(ときしる)に【左線】硫藏剥多亞斯(サルホシニートポツタース)又は【左線】蔵(ヘロシ) 加里鉄剥多亞斯(ニードポタース)を注(そゝ)ぎて【左線】鐵(テツ)を試(こゝろ)む [第三] 【左線】石灰、【左線】苦土は上/術(じゆつ)に因(よつ)て既(すで)に【左線】鐵(テツ)を試(こゝろ)みたる溶液(ときしる)を 煎(に)て之に【左線】安母尼亞(アンモニア)を加(くわ)へて濾過(こ)し其/濾液(こししる)に又/蓚酸安(シウサンアン) 母尼亞(モニア)を加へて久間(ひさしく)《割書:凡二十|時間》暖(あたゝか)なる所に置(お)き若(も)し白色 の沈降(おり)を發顕(あらは)せは石灰(セキクワイ)なり《割書:【左線】石灰は【左線】炭酸と【左線】硫酸|と存することあり》而して 后此/溶液(ときしる)を濾(こ)し其/濾液(こししる)に再(ふたゝ)ひ【左線】安母尼亞(アンモニア)を混(こん)し又加ふ 【右】 るに些少(すこし)の【左線】燐酸曹達(リンサンソーダ)を以てし此を玻璃罩(がらすかん、ぼう)にて攪(か)き雑(ま) せ凡十二時間其/儘(まゝ)に安置(あんち、うごかさずおく)し而して其/液(しる)を他器(たき、おかのうつは)に移(うつ)す 時は器(うつは)の側面(ふち)に白色の結晶沈降物(けつしようちんこうぶつ)を看認(みしたゝ)む是則ち【左線】苦 土なり《割書:炭酸|苦土》挌  水二合乃至四合を取り之れに【左線】鹽酸(エンサン)を滴注(そゝぎ)て微酸性(びさんせい)  とし又【左線】珪酸(ケイサン)を試(こゝろみ)んが為(た)め一/時(じ)之を蒸発乾固(じやうはつけんこ、かわかし)せすめ  て其/残留物(ざんりうぶつ)を溶解(とか)し之を濾(こ)して其/濾液(こししる)に【左線】蓚酸安母(シウサンアンモ) 尼亞(ニア)を混(こん)し【左線】石灰(セキクワイ)【左線】土(ど)類(るい)を沈降(ちんかう)せしめ凡十五分間を経(へ) るの後(のち)其【左線】蓚酸石灰(シウサンセキクワイ)を集取(しうしう)し其/濾液(こししる)に【左線】安母尼亞(アンモニア)の過(くわ)  量(りやう)を注(そゝ)ぎ次(つぎ)に【左線】燐酸安母尼亞(リンサンアンモニア)を加へて【左線】苦土(クド)を沈澱(ちんでん)せ 【左】 しむ [第四] 【左線】硫酸(リウサン)を試(ため)すは甲液(こうえき)に【左線】挌魯爾抜律母(コロールバリユム)を加へ凡十二 時間/煖(あたゝか)き所(ところ)に安置(あんち、おき)沈降物(ちんこうぶつ)を看査(かんさ、みる)せば是則ち【左線】硫酸(リウサン)な り若し其/量(りやう)微少(すこしく)なる時は上部(うは)水を少しく別器(べつき)に移(うつ)し 其/残(のこ)りの小/量(りよう)を玻璃瓶(がらすびん)に容(い)れ振揺(しんよう、ふる)せば明了(めいりやう)に看認(かんにん、みしたゝめ)す るを得(え)る  又法二合乃至四合の水を取り【左線】鹽酸(エンサン)を加へて酸性(さんせい、すいみ)を  なし之を煖(あたゝ)め其/温水中(おんすいちう)に【左線】鹽化重土(エンクワシユウド)を加ふれば沈垽(ちんてい、おりもの) を生じ(せう)す是/則(すなは)ち【左線】硫酸(リウサン)なり [第五] 【左線】燐酸(リンサン)を試(ため)すは上/術(じゆつ)に因(よつ)て【左線】硫酸(リウサン)を試(こゝろ)みたる溶液(ときしる)に 【右】 硝酸(セウサン)を加へ蒸発乾固(じやうはつけんこ、かわかし)其/残留物(ざんりうぶつ、のこり)を【左線】硝酸(セウサン)と水にて溶(とか)し 之を濾過(ろくわ、こし)其/濾液(こししる)に【左線】謨里武雷安母尼亞(モリプトアンモニア)又は【左線】醋酸曹達(サクサンサウダ) 及【左線】挌魯爾化鐵(コロールクハテツ)を過注(くわちう)【左線】燐酸(リンサン)を査看(ため)す    乙液試法  [第一] 【左線】硫酸(リウサン)を試(ため)すは乙液(えき)に些少(すこし)の【左線】挌魯兒水素酸(コロールハリウム)の水とを加ふれば酸類(さんるい)に溶解(ようかい)し難(がた)き白色 沈澱(ちんでん、おとおり)を生(せう)す是則ち【左線】硫酸(リウサン)なり  遊離(いうり)【左線】硫酸(リウサン)を試験(しけん)するは諸物(しようぶつ)を炭化(たんくわ、もやす)するの性あるを  以て容易(たやす)に之を試験(しけん)するを得(う)可し則ち百度に於て  乾煇(かんき、かわき)せしむるときは全(まつた)く之を炭化(たんくわ)すること宛(あたか)も炎火(えんくわ) 【左】  に燬(もゆ)るか如く [第二] 挌魯林(コロリン)を試(ため)すは乙液【左線】硝酸(セウサン)を交(ま)せ之に【左線】硝酸(セウサン)銀(ぎん)を加  へる時は白色の沈澱(ちんでん、おどみ)は溷濁(にごり)を現(あらは)せば【左線】挌魯林(コローリン)を表(へう)す [第三] 【左線】燐酸(リンサン)を試(ため)すは乙液と【左線】硝酸(セウサン)と共に蒸餾(じやうりう)し其/残査物(ざんさぶつ、のこりもの) を【左線】硫酸(リウサン)試査(しさ)の如くなして【左線】燐酸(リンサン)を試(こゝろ)むべし [第四] 【左線】炭酸石灰(タンサンセキクワイ)を試(ため)すは乙液の大(く)分を稠厚(ちようこう、ねばり)に迄/蒸餾(じやうりう)し 而して其/液(えき)の反應(はんおう)を試(こゝろ)む若し其/液(えき)【左線】亞磁加里(アルカリ)なれば此 稠厚(ちよこう)に清水の一/滴(てき、しつく)を玻璃皿(がらすさら)に受け之れに再ひ酸(さん)の一 滴(てき、しづく)を混(こん)すれば泡醸(あわ)を現(あらは)す其【左線】亞兒加里(アルカリ)液(えき)に【左線】挌魯爾加爾(コロールカル) 胃(チユム)を加へ若し【左線】炭酸石灰(タンサンセキクワイ)が沈降(ちんかう、おとすり)すれば【左線】亞兒加里(アルカリ)の【左線】炭(タン) 【右】 【左線】酸(サン)を発生(はつせい)す [第五]上/術(じゆつ)を施(ほどこ)せし液(しる)を乾餾(かんりう、かわか)し残査物(のこりもの)を葡萄酒(ぶだうしゆ)にて沸(わ) かし之を濾過(ろくわ、こし)して乾餾(かわか)し其/残査(のこり)を些少(すこし)の水にて溶(と)き 【左線】硝酸(セウサン)を試す其試法は些少の【左線】番木鼈(バンボクメツ)の元質(もと)を稠厚(こき)【左線】硫酸(リウサン) に溶(と)き之に【左線】硝酸(セウサン)を試(ため)す液(しる)の小量(せうりやう)を漑(そゝ)き若し【左線】硝酸(セウサン)存在(そんざい) すれば其/液(えき、しる)中/直(たゞち)に著名(ちよめい)なる紅色(こうしよく)を顕(あらは)し后/紅様(こうやう)の黄色(わうしよく) に移(うつ)る  又法二合の水を取り【左線】炭酸曹達(タンサンサウダ)を加へて【左線】亞爾加里(アルカリ)性(せい)  となし蒸発(じやうはつ)して僅少(すこし)の容積(かさ)と為(な)さしむ此/蒸発(じやうはつ)する  の旨趣(ししゆ、むね)は一は以て水中/所含(しよなん、ふくむところ)の【左線】安母尼亞(アンモニア)を飛散(ひさん)せし 【左】  め一は以て其水をして濃厚(なうかう、こく)ならしむるなり而して  【左線】硝酸(セウサン)を試(こゝろ)みるには之に藍丁幾(らんちんき、あいのときたるもの)少許(すこし)を加へて微藍色(うすあいあい)  となし尋(つゝい)て数/滴(てき)の濃(のう、こき)【左線】りゅう を加ふ若し其/硝酸(セウサン)を有(いう)せ  る者は其/藍色(あいしよく)忽(たちま)ち變(へん)して黄色(きいろ)となる可し而して其  【左線】硝酸(セウサン)の極(きわめ)て少量(せうりやう)なる時は少(すこし)く之を煖(あたゝ)め又其水中に  二三片の【左線】硫酸(リウサン)【左線】[アニリン]を加へ若【左線】硝酸(セウサン)の存(そん)する時は  忽(たちま)ち變(へん)じて藍色(あいいろ)を呈(てい)す可し」【左線】亞硝酸(アセウサン)を験(ため)するには先(まつ)  之に酸(さん)を注(そゝ)ぎ少く煖(あたゝ)め而して重【左線】灰金酸加里(コロールサンカリ)或は【左線】灰(コロ)  金酸加里( ムサンカリ)を加ふれば則ち其【左線】灰金酸加里(コロールサンカリ)を還元(くわんげん)せし  めて藍青色(らんせいしよく)を現(あらは)す可し 【右】 [第六]乙液に【左線】挌魯爾安母紐母(コロールアンモニウム)及【左線】安母尼亞(アンモニア), 【左線】蓚酸安母尼亞(シウサンアンモニア) の多量(たりやう)を雜(ま)ぜ暫時(ざんじ)其/儘(まゝ)に置(お)き発生(はつせい)する沈降物(ちんこうぶつ)は之石 灰なり [第七]上/術(じゆつ)にて石灰(セキクワイ)を試(こゝろ)みたる濾液(こししる)の小分に【左線】安母尼亞(アンモニア) 及【左線】燐酸曹達(リンサンソウダ)を加へて【左線】苦土(クド)を試(ため)す可し [第八]上/術(じゆつ)の残液(ざんえき、のこりしる)を乾(かわか)し之を焼き【左線】剥多亞斯(ポツダアス)及【左線】曹達(ソーダ)を試(こゝろ) む可し [第九]安母尼亞(アンモニア)を試(ため)すには乙水に純粋(じゆんすい)の【左線】挌魯爾水素酸(コロールスイソサン) 抱水石灰(ふうすいせきくわい)を注(そゝ)ぎ水数滴(みづすうてき)を投(とう)ずべし又は【左線】剥多亞斯曹達(ポツタアアルサウダ) 【左】 の容水(ようすい)と共に熱(ねつ)することあり何(いづ)れも【左線】安母尼亞(アンモニア)在中(ざいちう)すれ ば瓦斯(がす)の状態(ぜうたい、かたち)にて蒸散(じやうさん)す其之を知るに第一は特別(とくべつ)の 臭気(しうき)に在り第二は濕(うるほ)はしたる試験紙(しけんし)に現(あらは)れたる反應(はんのう) に在(あ)り第三は【左線】挌魯爾水素酸(コロールスイソサン)或は【左線】硝酸(セウサン)等の揮發(きはつ)【左線】酸類(サンルイ)に て濕(うるほ)はしたる物體(ぶつたい)[玻璃罩]之に觸(ふる)るれば白焰(はくえん、けむり)を放(はな)つを 以て知る  又【左線】安母尼亞(アンモニア)を試(ため)すに【左線】炭酸(タンサン)化物(くわぶつ)となし或は強酸(きようさん)に化(くわ)  合(かふ)せしむる時(とき)は容易(たやす)く之を得(う)可し其/試法(しはう)は験(ため)す可  き水に【左線】昇汞(シヨウコウ)溶液(ようえき)《割書:昇汞一分|餾五分》を五六/滴(てき)注(そゝ)ぎ后(のち)又【左線】炭酸加(タンサンカ)  (リ)溶液(ようえき)の五六/滴(てき)を加ふれば混濁(こんたく、にごり)を生(せう)ず初(はじ)め昇汞(シヨウコウ)液(えき) 【右】 に起(おこ)る混濁(にごり)は遊離(いうり)【左線】安母尼亞(アンモニア)の反應(はんのう)とし次の【左線】炭酸加(タンサンカ) 里(リ)溶液(ようえき)に由(よつ)ての溷濁(にごり)は【左線】安母尼亞鹽(アンモニアエン)類(るい)とす 又【左線】沃土加里(ヨウトカリ)と【左線】沃土汞(ヨウトコウ)とを溶和(とか)し之に小学/量(りやう)の水/化(くわ)【左線】加(カ) 里(リ)銃敏(たいひん、するどく)ならず若し水/溷濁(こんだく、にごる)するか或は染色(しんしよく)する 時は之に【左線】炭酸曹達(タンサンソーダ)の小/量(りやう)を加へ硝子蒸餾器(がらすじやうりうき)に投(とう)し 烈火(れるくわ、つよきひ)を以て煎沸(わか)し蒸餾液(じやうりうえき)を取(とり)て其【左線】安母尼亞(アンモニア)を験(ため)す 可し [第十]第九の如く【左線】挌魯爾水素酸(コロールスイソサン)を注(そゝ)き乾餾(かんりう)せしめたる 残渣物(ざんさぶつ、のこりのもの)を再(ふたゝ)び【左線】挌魯爾水素酸(コロールスイソサン)にて沾(うる)はし猶(なほ)水を注(そゝ)ぎ之 【左】 を煖(あたゝ)め残渣(のこり)あれば之を濾過(ろくわ、こす)し其/残査物(のこりもの)は【左線】珪酸(ケイサン)たるべ し若其【左線】珪酸粘土(ケイサンネンド)の二物は【左線】炭酸曹達(タンサンソーダ)の容積(ようえき、ときしる)と共に煎沸(せんふつ、くぁかす)せ  ば忽(たちま)ち又/残査物(ざんさぶつ)往々(おう〳〵)有機物(イウキブツ)の現在(げんざい)する為(ため)に黒色(こくしよく)を  帯(おぶ)ることあれ共之を焼(やけ)は全(まつた)く白色となる    有機物試法 諸多(しよた)【左線】有機物(イウキブツ)の水に溶解(ようかい)す可く或は水に融出(ゆうしつ、とけ)す可(べ)き 物質(ぶつしつ)を含有(がんいう)する者(もの)にして其/全(まつた)く之に溶融(ようゆう、とける)せざる者 甚(はなはだ)稀(まれ)なり而(しか)して屡々(しば〳〵)説明(せつめい)せし如く【左線】有機質(イウキシツ)を多量溶(たりやうよう) 抱(はう)せる水を以て有害不良(いうがいふりやう)の者となせば此/試法(しはふ)も緊(きん、かん) 【右】  要(よう、じん)の者とす従(したがう)て害不害(がいふがい)の定量(ていりやう)の大約(おほよそ)を知らざるを  得(え)ん故に含有物(がんいうふつ)を定量(ていりやう)するの法(はふ)を挙(あ)ぐ 夥多(きよた)の【左線】有機物(イウキブツ)を溶和(ようくわ)せる水は之を蒸發(じやうはつ)せしめ其/残査(ざんさ) 物(ぶつ)白/灰色(くわいしよく)或は黄白色(わうはくしよく)ならずして灰(くわい)色或は灰褐色(くわいかつしよく、にづみちや)を呈(てい) し其/濕潤(しつじゆん、しめり)せるものは黒(こく)色を帯(お)ぶ如斯(かくのごとき)水は決(けつ)して飲用(いんよう) となす可からず若し之を常用(じやうやう)なせば健康上(けんこうじやう)に大害(たいがい)あ り能(よ)く注意(ちうい)せざるを得(え)ん 右の法術(はふじゆつ)を施(ほどこ)す際(さい)其水【左線】硝酸(セウサン)鹽類(えんるい)【左線】安母尼亞(アンモニア)鹽類(えんるい)【左線】炭酸苦(タンサン区ク) 土(ド)及【左線】鹽化苦土(エンクワクド)等の如き物質(ぶつしつ)含有(がんいう)する時(とき)は其/定量(ていりやう)を験(けん、ため) 知(ち、し)し難(がた)し然(しか)れ共/如斯(かくのごとき)物質(ぶつしつ)を含有(がんいう)せざるか或は只/僅(わづ)か 【左】 に其/痕跡(あと)のみなる時は之を灼熱(やくねつ、く)畧(ほ)ぼ定量(ていりやう)し得(う)可 し其/灼熱(やくねつ)して定量(ていりやう)せんと欲(ほつ)する試法(しはう)は蒸發(じやうはつ)の残査物(ざんさぶつ、のこり) を取(とり)て凡百六十度の温熱(をんねつ)に於て全(まつた)く乾燥(かんそう、かわかし)せしめ之を 秤量(ひいりやう、はかり)して無蓋(むがい、ふたのなき)の鍋(なべ)に投(たう)じ適宜(てまき)に熱灼(ねつやく)して冷後(れいご、さめたるのち)に少許(すこし) の【左線】炭酸(タンサン)安母尼亞(アンモニア)溶液(ようえき、ときしる)を注(そゝ)ぎ之を濕潤(しつじゆん、うるほはし)して再び百六十 度の温(おん)に於て乾燥(かんさう、かわかし)せしむ而して之を秤量(へいりやう、はかる)すれば即ち 有機物(イウキブツ)の概量(かいりやう)たることを知る可し 精密(せいみつ)なる定量(ていりやう)を知らんと欲(ほつ)せば【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)を以(もつ)て す可し此【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)なる者(もの)は一分の量(りやう)を以て有機(イウキ) 物(ブツ)五分の量(りやう)を遊離(いうり)則ち酸化(さんくわ)せしむるの性力(せいりよく)を具(そな)ふ然 【右】 れ共有機質(イウキシツ)を含有(がんいう)する水は屡々(しば〳〵)【左線】安母尼亞(アンモニア)及【左線】亞硝酸(アセウサン)の 成分(せいぶん)を存在(そんざい)る其二物又/能(よ)く【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)を還元(くわんげん)せし めるの性質(せいしつ)あり故に若し水を試験(しけん)するの前(まへ)に於て先 づ豫(あらかじ)め両物(りようぶつ)を除去(じよきよ)せずんばあらず 【左線】安母尼亞(アンモニア)及【左線】亞硝酸(アセウサン)を除去(じよきよ、のぞく)するは一/磅(ぽんど)《割書:[約百二|十目餘]》の水を陶(さ) 皿(ら)に内(い)れ塵埃(ほこり)なき場所(ばしよ)に於て純(じゆん)【左線】苛性曹達(カセイサウダ)滷液(えんえき)《割書:[一分の|乾燥那》 《割書:篤𠌃母より成る水化那篤𠌃母一分 |及蒸餾水四分を以て製したるもの]》を一磅(ぽんど)五百分の一 《割書:[約そ二分五厘|十五滴に当る]》を混(こん)し之を煑沸(にわか)して水の容量(ようりやう)三分の一 に至(いた)るを候(うかゞ)ひ之に【左線】稀硫酸(キリウサン)《割書:[硫酸一分|餾水二分]》を一磅(ぽんど)五十分の一 を加(くわ)へ再(ふたゝ)び煑沸(にわか)し全量(ぜんりやう)約(おほよ)そ半/磅(ぽんど)に至(いた)れば全(まつた)く両物を 【左】 除去(じよきよ、のぞく)し得可し 上/術(じゆつ)をなしたるものを摂(せつ)氏の六十度とし【左線】過滿俺酸加(クワマンガンサンカ) 里(リ)溶液(ようえき)の二十五立方[センチメーテル]を加へ十五分時 間をえ経(へ)る後(のち)更(さら)に摂氏の五十度乃至六十度を再ひ之に 附與(ふよ、くわへ)し又之に通常定量用【左線】蓚酸溶液(シウサンヨウエキ)を百/倍(ばい)のもの二十 五立方[センチメーテル]を注加し十分時間に於て褪色(たいしよく、いろがぬける) する時【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)溶液(ようえき、ときじる)を灌(そゝぎ)て竟(つい)に稀薄(うすき)の紅色を残(のこ) すに至らしむ此時用ひし處の【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)溶液の量 二十五立方[センチメーテル]を越(こゆ)る時は其/剰餘(あまり)の者は 則ち【左線】有機質を酸化(さんくわ、とかす)せしむるに費耗(ついや)せし者たることを知 【右】 る而して此【左線】過滿俺酸加里/溶液(ときしる)の一立方[センチメーテ ル]は【左線】過滿俺酸加里の眞量(しんりやう)〇、〇〇〇三一六四を溶(とか)する 〇〇一五八二を乗(じよう、かける)ずれば則ち含む所の【左線】有機質の瓦蘭(くら) 謨量(むりやう)を得(う)べし  茲(こゝ)に用ゆる所の【左線】過滿俺酸加里(クワマンガンサンカリ)溶液(ようえき、ときしる)は [リツトル]中  〇、六三瓦蘭謨(くらむ)の結晶(けつしよう)【左線】蓚酸(シウサン)溶液(ようえき、ときしる)を以て定めし者にし  て【左線】過滿俺酸加里及び該(がい)【左線】蓚酸の両溶液(ようえき)各々(おの〳〵)等分(とうぶん)の量を  以て之を混和(こんくわ)せば互(たがひ)に相(あ)ひ分解(ぶんかい)するの性を具(そな)ふ而 して此【左線】蓚酸溶液(ようえき、ときしる)は通常(つうじやう)定量用(ていりやうよう)【左線】蓚酸溶液十立方[セン 【左】 チメーテル]を[リツトル]の餾水にて稀(うす)くしたる者 にしてするの通常(つうじやう)定量用【左線】蓚酸溶液《割書:[結晶蓚酸(けつしやうしうさん)の六十三|瓦蘭膜を一[リツト》 《割書:ル]則ち一千立方[センチメー|テル]の水中に溶解せしもの]》の 百/倍(ばい)稀液(うえき、うすきしる)なり【左線】過滿俺酸 加里溶液を製(せい)するには三十五瓦蘭膜(がらむ)の【左線】過滿俺酸加 里を取り蒸餾(じやうりう)水《割書:[過滿俺酸加里少許を投|じて蒸餾したるもの]》一[リツトル] 中に溶解(とか)し通常量用【左線】蓚酸溶液の百倍/希液(きえき、うすきしる)を以て 其/含有(がんりやう、ふくむ)を確定(くわくてい、たしかにさだめ)したる者なり此含量を定(さだめ)つ法は該【左線】蓚 酸溶液二十立方[センチメーテル]を取り之に二十三 立方[センチメーテル]の稀(うすき)【左線】硫酸を加へ摂氏の六十度 乃至七十度にて温(ぬく)め之に該【左線】過滿俺酸加里溶液を注(そゝ) 【右】  ぎ其/脱色(だつ、いろのぬける)する間は續(つゞい)て之を灌(そゝ)ぎ竟(つい)に不滅(ふめる、なくなる)の薄紅色(はくこうしよく、うすきあかいろ)  を呈(てい)して其/反應(はんおう)の全(まつた)く終(おは)るに至(いた)らしむ可し此時/費(ついや)  せし【左線】過滿俺酸加里溶液の量十九立方[センチメーテ ル]なる時は該液の九百五十立方[センチメーテル]を 取り一[リツトル]に至るまで之を稀釈(うすく)す可し 博士【左線二重線】德龍母私土兒佛(トロンムスドルフ)氏は【左線】過滿俺酸加里溶液を以て【左線】有 機質を定量するに水を蒸發(わかし)して濃稠(ねばる)ならしむることを 説けり是/都(すへ)ての水蒸散して濃稠(ねばる)ならしむる時は【左線】過滿 俺酸加里溶液を要すること常に少量なる者なりとの理(り、わ) 由(ゆう、け)に出でたるなり此/現像(げんざう、あらはるかたち)は水中に含(ふくむ)む所の【左線】安母尼亞 【左】 に關係(くわんけい、かゝはる)由るなる可し[博士/華傑兒(ハレル)]安母尼亞を 含まざる水を験(ため)せしに之を濃稠(こくねばる)ならしむる前と後と に係(かゝ)はらず常に同量の【左線】過滿俺酸加里溶液を投用(いれる)した りと云ふ 【左線二重線】德龍母私土兒佛(トロンムスドルフ)氏の【左線】有機質定量法は先づ其水百立方 [センチメーテル]を取り凡そ三百立方[センチメーテル] を容(いる)るほどの長頸壜(くちのながきびん)に投じて〇、五立方[センチメーテ ル]の【左線】曹達滷液《割書:[一分の苛性曹達を二分|の餾水に溶解せしもの]》及び十立方[セン チメーテル]の【左線】過滿俺酸加里溶液《割書:[解前章|に見ゆ]》を加へて十分 【右】 時間/煑沸(わか)し摂氏の六十乃至五十度に冷却(れいきやく、さまし)して之に五 六方[センチメーテル]の稀(うすき)《割書:[一容量の濃硫酸と三容量|の蒸餾水よりなれるもの]》 を加へ又之に十立方[センチメーテル]の尋常定量用【左線】蓚 酸百倍の者を加へ以て注意(こゝろがけ)振盪(しんとう、ふる)し而して随(したがつ)て褪色(いろがなくなる)す れば随て【左線】過滿俺酸加里溶液を滴加(ぼつ〳〵くわへ)し竟(つい)に不滅(なくなる)の淡紅(すゝいろ) 色を呈(てい)するに至(いた)らしむ是に於て其【左線】蓚酸液と【左線】過滿俺 酸加里溶液との立方[センチメーテル]の数の差異(ちがい)は則ち 【左線】有機物の含有たることを知る可し此一立方[センチメー テル]の【左線】過滿俺酸加里溶液は〇、〇〇〇三一六四の純【左線】過 滿俺酸加里を含有(ふくむ)するが故に其一立方[センチメーテ 【左】 ル]は【左線】有機質の〇、〇〇一五八二を證(しよう、しようこ)する者とす 又水一[リットル]を陶皿(やきものさら)の中に取り二立方[センチメーテ ル]中/純(ぢゆん)【左線】過滿俺酸加里一/瓦蘭膜(くらむ)を含有せる【左線】過滿俺酸加 里溶液を徐加(そろ〳〵くわへ)し遂に其水に赤色を呈して半時間を経 るも尚/褪色(いろがのく)せざるに至らしむ此【左線】過滿俺酸加里溶液の 一立方[センチメーテル]は【左線】過滿俺酸加里の〇、〇〇一を 含有するが故に果(はた)して水中所含の【左線】有機質量を[ミリグ ランム]の数に於て見んと欲せば輙(すなは)ち該液の立方[セン チメーテル]の数に五を乗(ぜう)ずれば之を得可し    第五章 【右】    浄水法 不潔(きたなき)みずを飲料(のみりよう)にせんとするは其法/種々(いろ〳〵)あり最(もつと)も容(た) 易(やす)くなす法は約そ十五分時間水を煑沸(にや)して之に些少(すこし) の茶葉を投(とう)じて稀(うす)き茶浸(ちやしる)と為して用るを最良(さいりやう)とす  総て煑沸(わかし)たる水は種々(いろ〳〵)の氣盡(きこと〳〵)く放散(はうさん)して多く其/固(おち)  有味(まへのあぢ)を失(うしな)ふ者なれば其水一[コップ]中に[アルコホル]  《割書:[酒|清]》五六滴を混和(まぜあは)するか或は之を密(たしか)に閉(とち)たる硝子壜(がらすびん)  に入れて空気(くうき)を共に二三十/回(べん)之を振(ふ)盪れは氣類(きるい)を吸(すい)  収(こみ)て少しく其味を佳(よく)ならしむ  最良(さいりやう)の浄却法は動物(だうぶつ)の炭、木炭(すみ)、珪炭(けいたん)、磁鐵(じてつ)、海綿(かいめん)、毛絨(もうじう)等 【左】  を器械(きかい)の基底(そこ)に箝(はさ)みて濾(こ)す其/装置(しかけ)種々(いろ〳〵)ありと雖/就中(なんづく)  其/動物炭(だうぶつたん)を以てする者を最(もつと)も良とす之を濾水器(みづこしきかい)と云  ふ 濾水器(みづこしきかい)をなすは直径(さしわたし)一二尺の植木鉢(うへきばち)をとり其/底(そこ)の穴(あな)  を海綿(かいめん)にて密塞込(とじこめ)其上へ二寸許/動物灰(だうぶつはい)を入れ其上を  細(こま)かなる砂石(すな)と粗(あら)き砂石(すな)とにて葢(おほ)ふ斯くそうち(しかけ)たる鉢  を上/葢(ふた)のある清潔(きれい)なる樽《割書:其葢に一寸許りの孔を穿り偖|樽の側に凡そ底より三四寸上》  《割書:へ一孔を穿り其に小注管を挿入し樽|の底には槲樹の木片二三簡を投す》の上へ上(の)せ鉢(はち)の孔(あな)  と樽(たる)の孔(あな)とを緊(かた)く合し而して水を灌(そゝ)げば砂灰(すなはい)を滲透(しみとほ)  りて良水となる若し人之を供用(きようやう)せんと欲(ほつ)せば彼の注(ちう) 【右】 管(くわん)を捻(ねじ)る時は該水/迸(ほとば)しり出ず第十圖の如し    第六章     飲水心得の通則 [第一則] 各種(いろ〳〵)疾病(やまひ)は體内(たいない)の水分/不足(ふそく)せるより生(せう)ず る者多しとす [第二則] 飲水(いんすい)を注意(ちうい)せざれば窒扶斯虎列刺(チブスコレラ)の媒介(なかだち)と なる既に前に説(と)ける如く [第三則] 惡(あく)水を飲用する時は急性病(きうせいべう、きうなるやまい)を發(はつ)するのみな らず又/慢性病(まんせいべう、ながきやまひ)を發(はつ)す [第四則] 良好(りやうこう)の水は前に屡々(しば〳〵)いへる如く透明(とうめい、すみたる)なる色に 【左】 して久し空気(くうき)に曝(さら)すとも更(さら)に色の変(かわ)ることなく又/何(なに) たる臭(かさ)も無くして爽涼(さわやか)なる味(あぢ)を保(たも)ち決(けつ)して異(こと)なる味 なき者を最良(もつともよし)とす [第五則] 不透明(ふたうめい、すみきらぬ)なる色にして濁(にご)り或は染色(しんしよく)して其/他(た) 悪(あし)き臭気(しうき)ある水は飲料にならざること言を俟(ま)たざれ共 又/透明(とうめい)にして清(きよ)らかなる蒸餾(じようりう、らんびきのみづ)水又氷水、雪水、雨水の如 きも其/味(あじわ)ひ淡薄(たんはく)にして不佳(ふか)なる故/善良(ぜんりやう)の水と稱(とな)へ難(がた) し [第六則] 善良の水を得んと欲せば地を撰(えら)びて噴水(ほりぬき)を 穿(ほ)る可し 【右】 [第七則] 井水/若(もし)くは泉水にして飲水に供用(きようよう)するもの は四/季(き)及び時々/気候(きかう)の順逆(じゆんぎやく、かわり)に会(あ)ふも只/僅微(すこし)の差異(ちがひ)を 見るのみなるべし而して此井泉は糞壺(こへつぼ)、溝暗(みそ)、製造(せいさう)場、及 び屠牛場(とぎう、うしをころす)場(ば)等より注流(ちうりう)する 所の悪水道より決(けつ)して浸淫(しんいん) す可からざる位置(ゐち)を撰(えら)ばずんばあらず [第八則] 常に飲用とせん水は寒暑(かんしよ)の変(かは)り、瀑雨(にわかあめ)の后(のち)、雪 融(とけ)の際(とき)等に当(あた)りては必(かなら)ず之に注意(こゝろ)を怠(おこた)る可からず是 則ち瀑雨(にわかあめ)等の為(ため)に所々(しよ〳〵)より浸淫(しんいん)して不潔物(ふけつぶつ)を増多(ざうた)す るを以てなり [第九則]  【左線】有機物(イウキブツ)を含有(ふく)める水を飲んと欲(ほつ)せば【左線】過滿俺 【左】 酸加里の溶(と)き液(しる)を少(すこ)し加(くわ)へて之を濾過(こ)すれば飲用に 供(けう)せらる [第十則] 飲水の味(あぢ)を佳(か)ならしめんが為め醋(す)、砂糖(さたう)、甘味(あまみ) のある果物(なりもの)の汁(しる)、葡萄酒(ぶだうしゆ)及他の酒精飲料(しゆせいいんりyおう)を加ふるは其 味を美(び)にするのみにして有害物(いうがいぶつ)を除(のぞ)くに足(た)らず [第十一則]  【左線】單寧酸(タンニサン)の溶(と)き液(しる)を密(みつ)に瓶中(びんちう)に貯(たくほ)ふれば假(た) 令数年(とひすうねん)を経(へ)るも決(けつ)して其/性(せい)を變(へん)ぜす而して彼の【左線】虎列(コレ) 刺(ラ)病(へう)流行(りうこう)の際(さい)に当(あた)つては宜しく其/液(しる)十五/滴(てき)或は二十 滴を一[コツプ]の水中に滴(たら)し二三分時間/置(お)きて後之を 飲用せば能く水中の病毒(びやうどく)を除(のぞ)くの効験(しるし)あるもんとす」 【右】 [第十二則] 旅客(たび)又は途中(とちう)にて種々(いろ〳〵)の水を飲用する時 は[コツプ]一盃(はい)に約(おほよ)そ一/茶匙(さひ)の酒精(しゆせい)飲料を加(くわ)へて服(ふく)す べし [第十三則] 大/暑(しよ)の時/冷(ひや)水を用ゆるよりも温湯(おんとう)を飲用 すれば却(かへつ)て渇(かわき)を止む [第十四則] 若し身體(しんたい)の内部(うちら)に於て大/熱(ねつ)を覺(おほゆ)る時は冷(れい) 水を多/量(りやう)に飲用すれば善(よ)く熱(ねつ)を消(け)するの効(こう)あり [第十五則] 固(す)と良好(りやうかう)の水と雖も数日間之を置(お)けば生(せい) 活物(くわつぶつ)を生(せう)ずる故能々注意す可し 【左】    飲水含有物無害の定量表 左の表は水十万分中に含む物質の各量(かくりやう)にして若し次 に揚(あぐ)る所の表に越ゆるときは決して良性のものにあ らず最此/比例(わりやひ)にて過量なるは不健康有害のものとす   安母尼亞    五、〇   石灰の全量  二〇、〇   苦土     二〇、〇   硫酸      五、〇   硝酸      〇、五   有機物     五、〇 【右】 其他曹達剥多亞瓦斯等は其量多きも人身に害なく又燐 酸珪酸沃鎭の如きは水中含有すること微少なるものな れば健康に障り無し依而斯の如き物質の量は畧し唯 水中に在つて不健康になるものゝみを揚げたり 【第一図から第七図まで記載分の翻刻】  第一圖   以上圖のアは井戸   にしてヱは其内の   水/際(きは)までにして   ヲは用水なり   イは井處近傍(そばの)   糞壺(こへつぼ)にしてウは   充盈(しうみつ)したる    糞塊(ふんくわい)なり  第二圖   顕微鏡にて水中の   物を見たる圖   滴蟲を養ふ べに水藻 第三圖 滴蟲  第四圖  【図のみ】  第五圖  【図のみ】  第六圖  【図のみ】  第七圖  【図のみ】 【第八図から第十図まで記載分の翻刻】 第八圖  アの如く細小(ちいさ)  き者の互(たがひ)に相  合ふてイの如く  へ形を為し又  へ形の下動く時  はヱの如き圖き  形になり又上の  動く時はウの  如き圓錐の形  を為すヲは細  少なる者の  群集(あつま)りて少  き封を為せ  しものなり 第九圖  以上の圖は東京  大學醫學部の  教師東京市中  の井水を試礆驗  せられし時  千住下谷及築  地の水中に於て  ありし機生物  なりしと衛生  汎論と稱へし  書にありしを  其侭茲に顕す 第十圖 【図中の単語のみ】  濾水器   植木鉢    水 砂粗 砂細 灰物動   水桶    檞樹片   注管 明治十三年七月十五日版權免許 同    九月   出版        大坂府平民 【ハンコ】売価二十銭    著者等兼出版人 村上復雄             《割書:東京日本橋區通三丁目|六番地寄留》    發兌人 東京府平民            須原鐵二             同同西河岸町十二番地    賣   東京日本橋區通壹丁目            北畠茂兵衛        同淺草區茅町貳丁目            北澤伊八    弘   同日本橋區呉服町十二番地            坂上半七        東京日本橋區通三丁目            丸屋善七        同京橋區銀座四丁目            博聞本社    書   横浜辨天通貳丁目            師岡伊兵衛        大坂心齋橋筋南久寳町            前川善兵衛    弘   同本町四町目            岡島眞七    肆   神 戸 港            鳩居堂    印 刷 東京京橋區元數寄屋町四丁目            稲田活版所 【記載なし】 【貼り付けシールのみ】 大日本教育會書籍館  第五室 三函 一〇架 号 一册 【右】 060771―000―1 特25―372  飲水の心得[伝染病の予防]  村上 復雄 著  M13 CBM―0678 【左】 明治十三年九月印行 《割書:傅染病|廼豫防》飲水の心得 完    畏三堂發兌