【表紙】 【右下隅に三段ラベル:596.5|O17】 【三段ラベル下にラベル:青山】 四季漬物塩嘉言 【右丁左上隅に請求記号:596.5|O17】 【左丁右上隅に蔵書印:東京学芸大学図書】 【左丁右下隅に蔵書印:蔵書|小池?】 【左丁下辺に資料ID:18303604】 序 塩貯豉漬之製造。起_下于南北之世。 祟_二奉釈教_一。天下之人。不_レ好_二鮮食肉 茹_一之時 ̄ニ_上。旧非_下膏粱之家。儲_二待瓊 羞_一之所_中預備_上。今則不_レ然。山海之品 類。四方之殖産。不_レ論_二菓蓏食菜_一。永 為_二不_レ可_レ廃之常物 ̄ト_一矣。加旃(シカノミナラス)口之所_レ嗜 腹之所_レ適。美饌豊膳 ̄モ必以_レ此行 ̄フ。 調理之法。加減極多 ̄シ。小田喜主人能 以_レ精_二其製造_一。欲_レ使 ̄ント_下 天下之人 ̄ヲシテ。依_レ法 施_レ巧。其可_レ剛可_レ柔可_レ新可_レ旧可 ̄キコト_二 硬軟生熟_一。斟_二酌緊要_一。毫 ̄モ無_中遺 違_上所_下以 ̄テ不_レ惜_二其秘_一有_中斯編之著_上 也。余一 ̄タヒ読_レ之知_二其用_レ意之深_一矣。遂 應_二其索_一。以書_二巻端_一。于時丁酉之 秋九月。琴台老人題       【印】【印】       半僲容書【印】【印】 僕(やつがれ)若(わか)かりしより料(れう)理(り)てふ事を業(わざ)として。四(し)季(き)をり〳〵の 漬(つけ)物(もの)はたやさず貯(たくわへ)て。自(みづか)ら誇(ほこり)つ人(ひと)にも贈(おくり)たりしに。後(のち)はいつと なく漬(つけ)物(もの)をのみ鬻(ひさく)やうには成(なり)たるなり。さるからになり物(もの)野(や)菜(さい) の類(るい)。何(なに)くれとなく漬(つけ)てたくわへもたずといふ事なし。今(いま)又/常(つね)の 漬(つけ)物(もの)は皆(みな)家(いへ)毎(ごと)に知(しる)ところなるを。こと〴〵しう並(なら)べいはんも おこがましき事(こと)ながら。秋(あき)雨(さめ)の夜(よ)ばなしを傍(かたはら)に人 ありて記(しる)したれば。猶(なを)あやまりたるも多(おほ)かるべし。其(その)罪(つみ)はゆるし 給へといふ  八百治に代りて 好食外史 漬物塩嘉言序 料(れう)理(り)本(ほん)膳(ぜん)の手(て)厚(あつ)き。二(に)汁(じう)三(さん)汁(じう)を椀(わん)に盛(もり)。五(ご)菜(さい) 七(しち)菜(さい)の器(うつわ)を並(なら)ぶるとも。香(かう)の物(もの)なき時(とき)は立(りつ)派(ば)な 行(ぎやう)列(れつ)に押(おさへ)なく。お座(ざ)敷(しき)狂(きやう)言(げん)に祝(しう)儀(ぎ)をつけざるが 如(ごと)し。京(かみ)摂(がた)には家(や)建(だち)造(ざう)作(さく)をさしてつけものと いふ。関(くわん)東(とう)につけものと呼(よぶ)は。香(かう)の物(もの)の事(こと)にして。 漬(つけ)ると唱(とな)へ押(おす)といふ。つけるといふは戯場(しばゐ)の禁(きん) 句(く)。おすといふのは吉(よし)原(はら)なまり。人(じん)品(びん)威(ゐ)光(くわう)ある 者(もの)を圧(おし)のきくと称(しよう)する事(こと)。且又/一(いち)夜(や)づけ等(たう)の名(めう) 目(もく)は。此(この)物(もの)より出(いで)たる詞(ことば)なるべし。凡/香(かう)の物(もの)は食(しよく)類(るい) 日(にち)用(よう)の第(だい)一(ゝち)。千(せん)門(もん)萬(ばん)戸(こ)暫(しばらく)も欠(かく)べからず。皆(みな)家(いへ)毎(ごと)に有(ある)こと ながら。其(その)仕(し)法(ほう)に依(より)て差(しや)別(べつ)あり。殊(こと)更(さら)風(ふう)味(み)よきこそ 肝(かん)要(よう)なれ。茲(こゝ)に刻(きざ)める一(いち)巻(くわん)は世(よ)に漬(つけ)物(もの)の秘(ひ)事(じ)口(く)訣(けつ)。 香(かう)の物(もの)の六(りく)韜(とう)三(さん)略(りやく)。塩(しほ)の分(ぶん)量(りやう)囲(かこ)い方(かた)。是(これ)等(ら)の法(ほう)を 用(もち)ひ給へと。手(て)前(まえ)味(み)噌(そ)なる端(はし)書(がき)を。漬(つけ)物(もの)の問(とい)丸(まる)小 田原屋の茶(ちや)室(しつ)において筆(ふで)を採(とる)。 花笠文京 一 漬(つけ)物(もの)の仕(し)様(やう)は国々(くに〴〵)所々(ところ〴〵)によりてかわりありといへども   皆(みな)大(だい)同(どう)小(せう)異(い)にして家々(いへ〳〵)に仕(し)来(きたり)たる分(ぶん)量(りやう)もあれば只(たゞ)   其(その)あらましをあぐるのみ 一 凡(およそ)漬(つけ)方(かた)に秘(ひ)事(じ)口(く)伝(でん)もなけれど売(うり)物(もの)に為(する)と素人(しろうと)   の手(て)に蓄(たくわ)ふるとは各(おの〳〵)差(さ)別(べつ)ありて同(おな)じ品(しな)とても   漬(つけ)塩(あん)梅(ばい)の時(じ)節(せつ)に遅(ち)速(そく)あり度々(たび〳〵)手(て)がけざれば   加(か)減(げん)の段(だん)は計(はかり)がたし 一 香(かう)の物(もの)は貴(き)賎(せん)一(いち)日(にち)も放(はな)るべからすいかなる料(れう)理(り)に   珍(ちん)味(み)佳(か)肴(かう)ありとも此(この)一(ひと)品(しな)しばらくも欠(かき)がたし   年(ねん)中(ぢう)心(こゝろ)がけて蓄(たくわ)え置(おく)べきなり 一 漬(つけ)物(もの)の風(ふう)味(み)よきは其(その)家(いへ)の吉(きつ)祥(じよう)にて人(ひと)の望(のそ)む処(ところ)   なりされど諺(ことわざ)にも香(かう)の物(もの)の味(あぢ)よきは内(ない)室(しつ)の   まつりごとしまりよしとてうらやむこと世(よ)の常(つね)   なり 一 料理(れうり)に用(もち)ゆる所(ところ)の味(み)噌(そ)漬(づけ)粕(あす)づけの類(るい)数(かず)多(おほ)けれ   ども事(こと)遠(とを)きものは省(はぶ)けり 一 其(その)外(ほか)菓(くだもの)の砂(さ)糖(とう)漬(づけ)魚(ぎよ)類(るい)の塩(しほ)漬(づけ)は嗣(つい)で後(こう)編(へん)に   あらわすべし 四(し)季(き)漬(つけ)物(もの)塩(しほ)嘉(か)言(げん)目(もく)次(じ)  澤(たく)庵(あん)漬(づけ)    三(さん)年(ねん)澤(たく)庵(あん)   同/百(ひやく)一(いち)漬  刻(きざみ)漬     大(おほ)坂(さか)切(きり)漬   浅(あさ)漬  大坂/浅(あさ)漬   菜(な)漬     京(きやう)糸(いと)菜(な)漬  糠(ぬか)味(み)噌(そ)漬   大(だい)根(こん)味(み)噌(そ)漬  奈(な)良(ら)漬/瓜(うり)  生(せう)姜(が)味噌漬  日(につ)光(くわう)漬    梅(うめ)干(ぼし)漬  青(あを)梅(うめ)漬    千(せん)枚(まい)漬    午(ご)房(ぼう)味噌漬  印(いん)籠(ろう)漬    渦(うづ)巻(まき)漬    達磨(だるま)漬  捨(すて)小(を)舟(ぶね)    雷(かみなり)干(ぼし)瓜(うり)    茄子(なすび)塩(しほ)圧(おし)漬  紫(し)蘇(そ)漬      梅(ばい)花(くわ)漬    桜(さくら)漬  菊(きく)漬       塩(しほ)山(さん)椒(しよ)    辛(から)皮(かわ)  刀(なた)豆(まめ)粕漬     守(もり)口(ぐち)粕(かす)漬   独活(うど)味(み)噌(そ)漬  冬(とう)瓜(ぐわ)味噌漬    花(はな)丸(まる)糟漬   西瓜(すいくわ)粕漬  初(はつ)夢(ゆめ)漬      鼈(べつ)甲(かう)漬    麹(かうじ)漬  百(ひやく)味(み)加(か)薬(やく)漬    巻(まき)漬     阿(あ)茶(ちや)蘭(ら)漬  菜豆(いんげん)青(あを)漬     蕗(ふき)水(みづ)漬    漬(つけ)蕨(わらび)  山葵(わさび)粕漬     辣(らつ)蕎(きやう)三(さん)杯(ばい)漬  三(みつ)葉(ば)溜(たまり)漬  小大根/三(さん)盃(ばい)漬   土筆(つくし)粕漬   家(や)多(た)良(ら)漬  精舎(てら)納(なつ)豆(とう)漬    枝(えだ)豆(まめ)塩(しほ)漬(づけ)   塩(しほ)松(まつ)茸(たけ)  漬(つけ)昆(こん)布(ぶ)      糸瓜(へちま)粕漬   胡蘿蔔(にんじん)味噌漬  十六さゝげ粕漬  天(てん)王(わう)寺(じ)蕪(かぶら)   梨(なし)糟(かす)漬(づけ)  柿(かき)粕漬      柚(ゆづ)青(あお)漬(づけ)    金(きん)柑(かん)塩(しほ)押(おし)  筍(たけのこ)塩漬     通計六拾四品 目次終 漬(つけ)物(もの)早(はや)指(し)南(なん) 《割書:二編  全一冊| 魚類の部| 近刻嗣出》 大坂天満の  石田氏なる 大根屋と   いへる      人 本願寺   より 御改革    の  役を 蒙り   し    時 御改革  石田のおもみ   よくきゝて  大根屋こそ   かうのものなれ  浪花   春迺屋不美人       文川筆【関文川、詳しくは編集履歴へ】 上方にては漬(つけ)物(もの)の 押(おし)石(いし)とて図(づ)の 如(ごと)く別(べつ)に拵(こしら)へ おくなり 生(なま)物(もの)を粕(かす)に漬(つけ)るには桶(おけ)に 二(に)重(ぢう)底(そこ)をこしらへあなを あけて下(した)に糠(ぬか)を入れ置(おき) 水(みず)をとるなり 四(し)季(き)漬(つけ)物(もの)塩(しほ)嘉(か)言(げん)        江戸 小田原屋主人著    澤(たく)庵(あん)漬(づけ)《割書:俗(ぞく)にいふ澤(たく)庵(あん)和(お)尚(せう)の漬/始(はじめ)し物といひまた|禅(ぜん)師(し)の墓(はか)石(いし)丸(まる)き石なればつけ物の押(おし)石の》    《割書:ごとくなる故(ゆへ)に然(しか)名つけしともいふ又/一(いつ)説(せつ)には蓄(たくわへ)漬の転(てん)|ぜしともいふ何(なに)はともあれ人(にん)間(げん)日(にち)用(よう)の経(けい)済(ざい)の品にして|万(ばん)戸(こ)一日も欠(かく)べからざる香(こう)の物の第(だい)一(いち)なり》 大(だい)根(こん)の性(せう)よきをゑらび土(つち)を洗(あら)ひ日あたり能(よき)処(ところ)へ 乾(ほし)場(ば)をしつらひ十四五日/乃至(ないし)廿日/編(あみ)て日にかわかし 夜(や)分(ぶん)霜(しも)げぬやうに手(て)当(あて)して干(ほし)て小(こ)皺(じわ)の出(で)来(き) 【右丁】 たるほどをを見て漬(つけ)るなり桶(おけ)は四斗(しと)樽(だる)の酒(さけ)の明立(あけたて)は 殊更(ことさら)よし又/古(ふる)き四斗樽をつかはゞ米などを入れて 底(そこ)の間にはさまりゐるは甚(はなはだ)あしく米粒(こめつぶ)あれば酸味を 生(しやう)ずる物なり心付(こゝろつく)べき事なり小糠(こぬか)もよくふるひ 小米のまじらぬやうにすべし《割書:因(ちなみ)にいふ古き樽はしめしたりとも|塩水はもるものなり用心あるべし》 一樽の分量(ぶんりやう)は糠(ぬか)塩(しほ)合(あわ)せて一斗大根の大小によつて差 別(べつ)あり凡(およそ)大根五六十本又は七八十本/或(あるひ)は百本小糠七升 塩三升塩糠共によくもみ合せ桶の底の方へは大根の ふときをまわし一段(いちだん)〳〵に糠をふりて漬るなり随分 【左丁】 圧(おし)の強(つよ)きをよしとす水の一杯(いつぱい)にあがるを度とする なり夫(それ)より押石(おしいし)を少(すこ)しゆるめ塩水(しほみづ)のこぼれぬやう にしてたくわふ《割書:是は冬より漬(つけ)てあくる春(はる)正月口をあけるのなり|かくするは二三月頃までにつかひきる仕法(しはふ)なり又》 《割書:麴(かうじ)一/枚(まい)を入るもあれどそれにもおよばぬことなり押石/上方(かみがた)にては丸石(まるいし)は|用ひずつけものゝおしにつかふ石は石屋にてこしらへて売(うる)なり【押石の図】大小共かくの》 《割書:ごとく手かけをつけおきいくつかさねつむ|ともあぶなげなしいたつてべんりよし》又四五月/後(ご)夏(なつ)の土用(どよう)越(ごし) には糠(ぬか)六升塩四升五升五升と等分(とうぶん)にするもあり 糠を減(げん)じ塩がちにすればいつまでも味(あぢ)のかわることなし    同三年/沢庵(たくあん)《割書:又五七年漬|》 年(とし)久(ひさ)しくたくわへ置(おく)には糠(ぬか)は右の分量(ふんりやう)に准(じゆん)じて三年 【右丁】 ならば糠(ぬか)を減(げん)じて塩(しほ)の方二升/余(あまり)も増(ま)し五七年ならば 四升/斗(ばか)りも増(ま)すなり一ヶ年にあてれば塩(しほ)七八合ほど余分(よぶん)に すべし大根も並(なみ)より五六日ばかり乾(かわ)き過(すぎ)たるやうに ほして漬(つけ)るなり是(これ)とても水の十分にあがりたるとき 一端(いつたん)圧(おし)をゆるめて大根に塩水(しほみづ)を吸(すわ)して又/元(もと)のごとくに 押(おし)をかけるなり沢山(たくさん)に漬(つけ)る時(とき)は桶(おけ)を三ッ位(ぐらゐ)積重(つみかさね)るも よし    因(ちなみ)にいふ多年(たねん)たくわふ桶(おけ)には塩(しほ)の分量(ぶんりやう)年月(ねんげつ)を    一々(いち〳〵)樽(たる)に書付(かきつけ)置(おく)べきなり年月(としつき)すぐれば見 【左丁】    わけがたきものなり    沢庵(たくあん)百一漬(ひやくいちづけ) 秋(あき)茄子(なすび)を塩圧(しほおし)にして蓄置(たくわへおき)春(はる)はやく口をあける 沢庵漬(たくあんづけ)の大根の間(あいだ)に右の塩押(しほおし)茄子(なすび)を挟(はさ)みつける なり《割書:塩押茄子のつけ|やう末に出せり》一桶(ひとおけ)に常(つね)より塩五合も減(げん)じて よし茄子の塩/出(いづ)る故(ゆへ)なり大根の風味(ふうみ)も至(いたつ)て加減(かげん) よく茄子(なすび)にも大根の甘(あま)み移(うつ)りて味(あじわ)ひよし春(はる)の香(こう)の 物になすびはことさら珍(めづら)しく客(きやく)遣(づか)ひにも成(なる)べき なり是(これ)を百一漬(ひやくいちづけ)といふ    きざみ漬(づけ) 澤(たく)庵(あん)大(だい)根(こん)の茎(くき)を干(ひ)葉(ば)にして多(おほ)くたくわへおきて 惣(さう)菜(ざい)に遣ひ汁(しる)の実(み)にすへし右の茎の中よりやはら かき若(わか)かぶをゑりおきてよく洗(あら)ひ小一寸/位(ぐらゐ)に刻(きざ)みて 大根を短(たん)冊(ざく)にうちて茎(くき)と等(とう)分(ぶん)にまぜて醤(せう)油(ゆ)樽(だる) 一(いつ)杯(ぱい)ならば塩(しほ)一升/斗(ばか)り入て能(よく)もみ手(て)比(ごろ)なる押(おし)石(いし)を かけて漬(つけ)るなり十余日/過(すぎ)てざつと洗(あら)ひ醤油をかけて 当(とう)座(ざ)喰(ぐひ)にすべしなま漬は無用なりすこしつき すぎたる方がよろし    大(おほ)阪(さか)切(きり)漬(づけ)《割書:上方にてはくもじといふ又くきともいへり|》 大(だい)根(こん)と蕪(かぶら)と等(とう)分(ぶん)に葉(は)茎(くき)ともにきざみ込(こみ)て醤(せう)油(ゆ)樽(だる) ならば塩(しほ)五合を入て能(よく)もみ合(あは)せ強(つよ)く押(おし)て漬(つけ)るなり 十余日を経(へ)てざつと洗(あら)ひかたくしぼりて香(かう)の物(もの)鉢(ばち)へ 入(いれ)置(おき)菜(さい)箸(ばし)にて自(じ)分(ぶん)の喰(くう)ほど手(て)塩(しほ)皿(ざら)へとりて別(べつ)に ちいさき片(かた)口(くち)の器(うつわ)へ醤(せう)油(ゆ)を出し置(おき)銘々(めい〳〵)にかけて喰(くう)なり 是(これ)醤(せう)油(ゆ)をかけすごしても捨(すた)らぬやうに利(り)勘(かん)なる工(く)夫(ふう) なり上(かみ)方(がた)にては専(もつぱ)らすることなり歯(は)ぎれよくいたつて 淡(たん)薄(ぱく)なる風(ふう)味(み)なり    浅漬(あさづけ) ふとき大根をえらみ能(よく)洗(あ)らひて水気(みづけ)をかわかし酒樽(さかだる)の あきたてへ漬(つけ)るをよしとす大根五十本 花麹(はなかうじ)一枚 塩(しほ)一升 麹(かうじ)と塩(しほ)をよくもみ合(あは)せ一段(いちだん)〳〵にふりて其間(そのあいだ)毎(ごと)に新藁(しんわら)を 十五六本づゝ敷(しく)なり上(うへ)のかわに塩(しほ)斗(ばかり)二 掴(つかみ)ほどまき押(おし) 蓋(ぶた)をして強(つよ)き圧(おし)にて漬(つけ)るなり水十分にあがりて 廿日 斗(ばかり)にて漬(つき)かげんなり風味(ふうみ)よき所十余日の内(うち) なり日(ひ)を経(ふ)れば酸味(すみ)の出(いづ)る物(もの)なり早(はや)く遣(つか)ひきるがよし 《割書:二丁目の茶屋にてつけるをことさら風味よしとす一樽二樽をも一日の内に|得意(とくい)方へ音物(いんもつ)にするなり久しくたくわへがたき品なればなり新わらを挟(はさ)み》 《割書:つけるは色の|よきためなり》    大坂 浅漬(あさづけ) 細(ほそ)き大根を洗(あら)ひ葉(は)をさらず茎(くき)共に四斗樽(しとだる)ならば塩(しほ) 一升斗りを加(くわ)へ圧(おし)をつよくして漬(つけ)るなり水よくあがりて廿日 ばかりを経(へ)て出(だ)して遣(つか)ふ是とても刻(きざ)みて醤油(せうゆ)かけて 喰(く)ふ当座(とうざ)の雑用(ざうよう)なり    菜漬(なづけ) つけ菜(な)をよく洗(あら)ひかぶを切(きり)すて庖丁目(はうちやうめ)をいれて漬(つけ)る なり桶(おけ)の大小 菜(な)の多少(たせう)によりて塩(しほ)加減(かげん)見斗(みはから)ふべし    文川筆【コマ9と23にもあり】 過し頃  浪花に   ありける時 茶粥に  みもじといふ事を        花笠文京 にごりえの    なにはなしとも         朝茶かゆ  ゆがみ    もじにて  たうべ    たりける 【右丁】 菜(な)は余(あま)り圧(おし)がつよすぎれば葉(は)の色(いろ)赤(あか)くなる物(もの)なり    京(きやう)糸菜漬(いとなづけ) 関東(くわんとう)には少(すくな)けれど近来(ちかごろ)京の水菜(みづな)の種(たね)を植(うへ)て所々に あり一株(ひとかぶ)にて百茎(ひやくくき)余(あま)りありかぶの根(ね)を切(きり)庖丁目(はうちやうめ)を 多(おほ)くいれて土(つち)を洗(あら)ひ甘塩(あましほ)にてつけるがよし水あがり てもあくといふもの少(すこし)もなし上品(じやうひん)なる物(もの)なり奈良漬(ならづけ) 味噌漬(みそづけ)の香(かう)の物(もの)に附(つけ)合(あわ)す    糠味噌漬(ぬかみそづけ) 《割書:又/酴醿漬(どぶづけ)ともいふ》 万家(ばんか)ぬかみそ漬(づけ)のあらざる所(ところ)もなけれど世俗(せぞく)には取遣(とりやり) 【左丁】 せぬ物のやうにいひならはせしかどとるにも足(たら)ぬ事共 なり又/新(あらた)には急(きう)に出来(でき)がたき物のやうに思(おも)ふやからも あれば心得(こゝろえ)の為(ため)に爰(こゝ)にしるす糠(ぬか)一斗/塩(しほ)五升 右/糠(ぬか)の 小米(こごめ)をよくふるひ取(とり)て塩(しほ)五升に水(みづ)五升を鍋(なべ)にて煮(に)かへし 《割書:寒(かん)の水なれば|ひとしほよし》一/夜(や)さまし置(おき)糠(ぬか)にまぜて桶(おけ)へつけるなり 《割書:せうゆ樽ならば此 分量(ぶんりやう)|にて見はからひあるべし》あらたに拵(こしらへ)たる当座(とうざ)には毎日(まいにち)たび〳〵 手を入れて掻(かき)廻(まわ)すへし故(ふる)き沢庵(たくあん)大根を四五本/糠(ぬか)の まゝいれ生(なま)大根又/茎(くき)でも時(とき)の有合(ありあい)もの茄子(なすび)瓜(うり)のたぐひ 何(なに)にかぎらず漬(つけ)るたびごとに塩(しほ)すこしづゝ入てかきまわすこと 【右丁】 肝要(かんよう)なりかくして十余日を経(ふ)れば糠(ぬか)よくなれて故(ふる)き 糠味噌(ぬかみそ)に異(こと)なることなし又なれたる糠みそを少(すこし)にても 種(たね)にいるれば尤(もっとも)もはやく新糠(しんぬか)の匂(にほ)ひうせるもの也ことさら 新(あたら)しきうちはかんさまししたみ酒(ざけ)醤油(せうゆ)のおりなどあらば いれてかきまわすべし味噌漬(みそづけ)のみそ又 粕漬(かすづけ)のかすなど むざと捨(すて)ずして万事(ばんじ)心がけて捨(すた)【ママ】らぬやうにぬかづけの 中へいれべし三十日ならずして年久(としひさ)しくたしなみたる ぬかみそにかわる事なし時々(とき〳〵)の物(もの)をつけて其(その)あちわひを こゝろむべし 【左丁】    大根 味噌漬(みそづけ) 甘塩(あましほ)にして漬(つけ)たる沢庵(たくあん)大根を能洗(よくあら)ひ水気(みづけ)を布巾(ふきん) にて拭(ぬぐ)ひとり二時斗(ふたときばか)り陰干(かげぼし)にしてたまりがちなる 味噌(みそ)につけるなり一年(いちねん)立(たち)て又 洗(あら)ひ別(べつ)のみそに漬(つけ) おけば何年(なんねん)立(たち)ても其(その)味(あじわ)ひかわることなし常々(つね〴〵)遣(つか)ふ 小出(こだ)しの味噌桶(みそおけ)の底(そこ)に入置(いれおき)もよし    奈良漬瓜(ならづけうり) 夏土用(なつどよう)の中(うち)の極上物(ごくじやうもの)の白瓜(しろうり)を吟味(きんみ)して二ッに割(わり)て 中実(なかご)を深(ふか)くとり瓜(うり)の肉(にく)にきずのつかぬやう取扱(とりあつか)ひ 【右丁】 中(なか)へ塩(しほ)を詰(つめ)て天日(てんぴ)にほすこと二時(ふたとき)斗(ばか)り塩水(しほみづ)をこぼし とくとさまして上/粕(かす)に喰加減(くひかげん)の塩(しほ)をあはせ置(おき)粕(かす)壱貫匁に 大瓜(おほうり)二ッをあをのけにして桶(おけ)を底(そこ)には糠(ぬか)に塩(しほ)少々(せう〳〵)まぜて桶(おけ)の 大小に従(したが)ひて厚(あつ)さ三寸/位(ぐらい)にしき中底(なかぞこ)の板(いた)に穴(あな)をあけ 水気(みづけ)の下(した)へ落(おち)るやうにして瓜(うり)をならべては粕(かす)をつめ瓜(うり)と うりと当(あた)りあはぬやうになしてほどよき圧(おし)をかくれば 中底(なかぞこ)の糠(ぬか)に水気(みづけ)を吸(すひ)とりて瓜(うり)のつきやう大にはやし 又 茄子(なすび)は甘塩(あまじほ)に塩/押(おし)して能(よく)圧(おし)のきゝたる時(とき)に一日/天日(てんぴ)に 干(ほし)さまして後(のち)右の塩(しほ)かげんの粕(かす)に漬置(つけおき)かろく押(おし)をかけて 【左丁】 一年 立(たち)て又 粕(かす)をとりかへ元(もと)の如(ごと)くに漬直(つけなお)すこと瓜(うり)茄子(なすび) 共に三年を経(へ)て程(ほど)とす    生姜味噌漬(しやうがみそづけ) 秋(あき)の季(すえ)実入(みいり)よき生姜(せうが)の葉(は)を切(きり)茎(くき)を少(すこし)つけて置(おき)土(つち)を洗(あら)ひ 生姜壱貫目に塩(しほ)五合斗り塩(しほ)押(おし)にして水十分にあがり たる時/天気(てんき)よき日を待(まち)て一日(いちにち)天日(てんぴ)にほして味噌(みそ)に粕(かす)を 一割(いちわり)まぜて右の生姜(しやうが)を漬(つけ)るなり百日にしてつくもの なりかるき押(おし)をおくべし    種抜蕃椒日光漬(たねぬきとうからしにつくわうづけ) 【右丁】 赤(あか)とうがらしと縮緬(ちりめん)紫蘇(しそ)の葉(は)共に塩押(しほおし)にして一日 ほして蕃椒(とうがらし)を立(たて)にわり種(たね)をぬき細(ほそ)く切(きつ)て紫蘇(しそ)の葉(は)を のばして巻(まき)少し(すこし)ばかり塩(しほ)をふりて押(おし)をかけ廿日ばかり漬(つけ)て 後(のち)水(みづ)をしぼり天日(てんぴ)にかわかして壺(つぼ)に蓄(たくわ)ふ    梅干漬(うめぼしづけ) 梅(うめ)の実(み)の能(よく)いりたるを一時(いつとき)斗(ばか)り水(みづ)に浸(ひた)して洗(あら)ひ梅一斗に 塩三升/紫蘇(しそ)の葉(は)多少(たせう)見斗(みはから)ひにて漬(つけ)るなりはじめは 押(おし)をかるくして梅(うめ)に塩(しほ)のしみたるに従(したが)ひ段々(だん〳〵)押(おし)をつよく かけるなり十四五日又は廿日を経(へ)て日和(ひより)よき日を見定(みさだ)め 【左丁】 簀(す)へあげて日に干(ほす)なり当座(とうざ)喰(ぐひ)には一日か二日ほして 器(うつわ)にたくわふ年(とし)久(ひさ)しくかこひおくには一日ほしては夜は 梅酸に漬(つけ)置(おき)又/翌日(よくじつ)ほすなりかくすること三日にして夫(それ) より四五日ほしあげてからびるほとになりて壺(つぼ)に入べし たとへ十年廿年に及ぶとも味(あぢわひ)かわると【ことヵ】なし梅干(うめぼし)の艶(つや)も よく風味(ふうみ)格別(かくべつ)なり    右の梅酸(うめず)に大根を花(はな)に切(きり)又は薄(うす)くきざみて生姜(じやうが)    など一所に漬(つけ)るはよく人のすることなり上方(かみがた)にては    蓮根(れんこん)生姜(しやうが)を多(おほ)くつけて座禅豆(ざぜんまめ)のかやくにも 【右丁】    赤い蓮根(れんこん)を用ひ鮓(すし)を漬(つける)にはせび【ぜひヵ】紅生姜(べにしやうが)を遣ふ    こと常(つね)の事なり    此(この)梅酸(うめず)にしそのしぼり汁(しる)を入て徳利(とくり)にたくわふべし    料理(れうり)にはをり〳〵入用の物なり    青梅漬(あをうめづけ) 青梅(あをうめ)の若(わか)きうちにとりて一夜(いちや)水(みづ)に浸(ひた)し置(おき)《割書:是は苦(にが)みを|とるためなり》 翌日(よくじつ)水をきりて青梅一斗に塩二升をいれてかろく押(おし)て 漬るなり水あかりたらば其水をこぼしすてざつと洗(あら)ひて 水気(みづけ)をかわかし又すこしふり塩をして漬るなり先(せん)の 【左丁】 水にてはにがみあり其(その)苦味(にかみ)をさりてたくわふべし    ついでにいふ甘露梅(かんろばい)を製(せい)するには右の青梅(あをうめ)の    苦水(にがみづ)を去(さり)て砂糖蜜(さとうみつ)に漬置(つけおき)紫蘇(しそ)の葉(は)に包(つゝ)みて    白砂糖(しろさとう)をふりて軽(かる)く押(おし)をかけるなり    千枚漬(せんまいづけ) 紫蘇(しそ)の葉(は)を一枚(いちまい)づゝ能(よく)洗(あら)ひ百枚二百枚/段々(だん〳〵)と重(かさ)ねて 麻糸(あさいと)にてとぢざつと湯(ゆ)をくゞらせて板(いた)にはさみて水気(みづけ)を とくとしぼり味噌桶(みそおけ)の底(そこ)に並(なら)べて竹(たけ)をわりて動(うご)かぬ様(やう)に おさへおくなりみその溜(たまり)自然(しぜん)としみわたりて日(ひ)あらずして 【右丁】 つくなり    牛蒡(ごばう)味噌漬 牛蒡(ごばう)の本末(もとすへ)を去(さり)中(なか)の所(ところ)斗(ばか)り六七寸に切(きり)是(これ)もざつと 湯(ゆ)をくゞらせ味噌(みそ)に漬(つけ)るなり是は沢庵(たくあん)大根のみそ づけと一所に桶(おけ)の下の方に漬おくべし一年/余(よ)も経(へ)ざれば 漬(つき)かぬるものなり三年五年とふるくなる程(ほど)殊更(ことさら)よし    印篭漬(いんらうづけ) 醤瓜(まるづけ)の跡先(あとさき)を切(きり)中実(なかご)をくりぬき其中(そのなか)に歩穂蓼(ほたで)紫蘇(しそ) の葉(は)若生姜(わかしやうが)青蕃椒(あをとうからし)等(とう)をおしいれ甘塩(あましほ)加減(かげん)にして 【左丁】 圧(おし)強(つよ)て漬(つけ)るなり六七日/立(たて)ば喰比(くひごろ)なり瓜(うり)へとうがらしの からみ移(うつ)りて至極(しごく)よし輪切(わぎり)にしたる所/印篭(いんらう)に似(に)たる ゆへ名(な)づくるものか又云(またいふ)胡瓜(きうり)もかくの如(ごと)くするもよし 歯切(はぎれ)ありてまるづけ瓜(うり)におとらず    渦巻漬(うづまきづけ) 胡瓜(きうり)の季(すえ)の比(ころ)とうがらしを沢山(たくさん)に入(いれ)て甘塩(あましほ)に圧(おし)をかけて 漬置(つけおき)水十分にあがりたる時(とき)二ッにはわらず立(たて)に庖丁目(はうちやうめ)を 入れて中実(なかご)をすき取(とり)一日/天日(てんぴ)にほして能(よく)さまし置(おき) 片(かた)はじよりしつかりと巻(まき)竹(たけ)の皮(かわ)をさきて解(と)けぬやうに 【右丁】 まきしめ糠(ぬか)五升に塩(しほ)一升を合(あは)せ沢庵漬(たくあんづけ)のごとく つけこみしつかりと押(おし)をかけて漬(つけ)るなり十五日ほど たてばよし糠(ぬか)を洗(あら)ひ結(ゆわ)ひめをときて木口(こぐち)より切(きる)に 【渦巻の図】の如し味(あぢ)辛(から)く甘(あま)くして歯(は)ぎれよし    達摩漬(だるまづけ) まるづけ瓜(うり)の季(すえ)なりを二ッにわり中実(なかご)をとり甘塩(あましほ)に して押漬(おしづけ)にする瓜(うり)の形(なり)【瓜の図二個】手遊(てあそ)びの達摩(だるま)に似(に) たる故(ゆへ)に呼(よぶ)ものか皮(かわ)こわくして中(うち)に禅味(ぜんみ)を甘(あま)んずる かそもさん 【左丁】    捨小舟(すてをぶね) 越瓜(しろうり)を二ッに割(わり)中実(なかご)を能(よ)く取(とり)て塩(しほ)を盛(もり)て日にほし あげ水をこぼさずしてほしつける六七日もほしてからび たる時(とき)に重(かさ)ねて壺(つぼ)やうな器(うつわ)にたくわふべし冬(ふゆ)の中(うち) より春(はる)へかけて味淋(みりん)に浸(ひた)しおき珍客(ちんきゃく)にもてなすに妙(めう) なり当座喰(とうざぐひ)には一日/干(ほし)て程(ほど)とす誰(たれ)やらが  夕立(ゆふだち)や干瓜(ほしうり)の身(み)を捨小舟(すてをぶね) といふ句(く)によりて名(な)づけしとぞ    雷干(かみなりぼし)瓜 【右丁】   文川筆 【挿絵】 【左丁】 瓜むいて   雷ぼしを     するからに      夕立や かけたる時は          干瓜の   稲妻のなり          身を  江英楼              捨小舟    如泉            作者不知 【右丁】 まるづけ瓜(うり)の中実(なかご)をぬき永(なが)くむきて一夜(いちや)塩押(しほおし)して 翌日(よくじつ)日にほすなり其座(そのざ)にむきて塩(しほ)をふりて干事(ほすこと)も あれどそれは当座(とうざ)喰(ぐひ)の料(れう)なり一夜(いちや)おしてほせば ちぎれもせず永(なが)くつながりて瓜(うり)一ッが一筋(ひとすぢ)になりて 能(よく)干(ほし)あげて一筋づゝ結(むす)びおくべし久(ひさ)しく囲(かこ)ひ置(おく)には 白瓜(しろうり)を上品(じやうひん)とす丸(まる)づけよりは皮(かわ)もやわらかく漬(つか)り やうもはやし    茄子(なすび)塩圧漬(しほおしづけ) 茄子(なすび)色(いろ)よくつけんと思(おも)はゞ塩(しほ)に川(かわ)の砂(すな)をまぜて漬(つく)れば 【左丁】 艶(つや)よくつくものなり又/明礬(みやうばん)をすこし入れてもよし 皆(みな)当座(とうざ)喰(ぐひ)の料(れう)なり久(ひさ)しくかこひ置(おく)には塩(しほ)沢山(たくさん)入(いれ)て 圧(おし)を強(つよ)くかくれば永(なが)くもつ物なり又/沢庵漬(たくあんづけ)の中(なか)へ つけ込(こむ)茄子(なすび)は一度(いちど)塩押(しほおし)してよく水(みづ)をあけたる時(とき)塩水(しほみづ)を こぼし捨(すて)て一日(いちにち)ほしてふたゝび塩(しほ)をして圧(おし)を強(つよ)くかけて あげたる二度めの水をこぼさぬやうにしてたくわへ置時(おくとき)は いつまでも持つ(もつ)なり此(この)塩押(しほおし)茄子(なす)を百一漬(ひやくいちづけ)につけるなり    紫蘇漬(しそづけ) しその実(み)余(あま)り実(み)がいりすぎれば取(とり)あつかふうちに実(み)が 【右丁】 こぼれて台(うてな)ばかりになる物(もの)なればすこし前(まへ)かたに取(とる) べし扨(さて)しその穂(ほ)をはさみて後(のち)塩水(しほみづ)を拵(こしら)へとくと洗(あら)ふ べしちいさき実(み)の中(うち)に至(いたつ)てこまかき虫(むし)ありて心(こゝろ)わるき 物なり塩水(しほみづ)にて洗(あら)へば彼虫(かのむし)去(さり)て清(きよ)し其上(そのうへ)にてたゞの 水(みづ)にて洗(あら)ひよく水(みづ)をきりてより漬込(つけこむ)べし《割書:ちりめんしそは|匂(にほ)ひよけれ共》 《割書:実べた〳〵としてかたちよろしからず|青(あを)しその実はそのまゝなれども匂ひなし》    梅花漬(ばいくわづけ) 梅干(うめぼし)の実(たね)をさり肉(にく)ばかりすきとりすきとりて擂鉢(すりばち)にてとくと 擂(すり)て平(ひら)たき器(うつわ)にのべ梅花(ばいくわ)の台(うてな)をみじかく切(きり)て梅肉(ばいにく)に 【左丁】 指(さし)ならべ蓋(ふた)をして目張(めはり)してたくわふべしいつまでも 薫(かほり)うせる事なし    桜漬(さくらづけ) さくら中開(ちうかい)の枝(ゑだ)を切(きり)花(はな)ばかりつみて塩(しほ)三升に水(みづ)三升を 入れて煎(せん)じ一夜(いちや)さまして花とひた〳〵に漬(つけ)て軽(かる)く押(おし)を かける近来(ちかごろ)は所々より出(いづ)れど隅田川(すみだがわ)の桜(さくら)を名物(めいぶつ)とす    菊漬(きくづけ) 黄菊(きぎく)の花ばかり摘取(つみとり)て是(これ)も煮(に)ざまし塩(しほ)にて漬(つけ) 押(おし)てたくわふ塩出(しほだし)して菊味(きくみ)にするに生(なま)の菊(きく)にかわる 【右丁】 事なし香(にほひ)ふかし    塩山椒(しほさんしよう) 山椒(さんしよ)の実(み)ばかり取(とり)て少(すこ)しばかり塩(しほ)をふりて押(おし)をかけ 塩水(しほみづ)あがりたらば四五日たちて其(その)水(みづ)をしぼり捨(すて)て ほしてたくわふべし    唐皮(からかわ) 山椒(さんしよ)の木(き)の若(わか)き枝(ゑた)を切(きり)水(みづ)にしばらく浸(ひた)し置(おき)て 木(き)と皮(かわ)の放(はなれ)る比(ころ)きざみて塩水(しほみづ)に漬(つけ)てかこひ遣(つか)ふ時(とき)に 塩(しほ)出(だ)して庖丁(はうちやう)す 【左丁】    刀豆(なたまめ)粕漬(かすづけ) なたまめは生(なま)にてしばらく湯(ゆ)に浸(ひた)し置(おき)塩(しほ)を少(すこ)し ばかりふりて十日/余(あま)り押(おし)て水にて洗(あら)ひ半日(はんにち)ばかり 干(ほし)て粕(かす)に漬(つけ)るなり一年/余(よ)もたゝねばつきかぬる物 なり    守口大根(もりぐちだいこん)粕漬(かすづけ) 是(これ)も大根に湯(ゆ)をくぐらせ一日(いちにち)ひにかわかし粕(かす)に塩(しほ)を少(すこ)し まぜて漬(つけ)てかるく押(おし)をおく《割書:守口大根とはだなと干(ほし)大根にする|もの各/別種(べつしゆ)なり混(こん)ずべからず》    独活(うど)味噌漬(みそづけ) 【右丁】 山(やま)うどを二三日/蔭干(かげぼし)にしてぐな〳〵するやふにして 三年/味噌(みそ)につける百日(ひやくにち)ばかりにて風味(ふうみ)よし    冬瓜(とうぐわ)味噌漬(みそづけ) 冬瓜(とうぐわ)を皮(かわ)ともにたち中実(なかみ)を深(ふか)くすきとりて一塩(ひとしほ)して なるく押(おし)をかけて一夜(いちや)水(みづ)をとり布巾(ふきん)にて水気(みづけ)を 拭(ぬぐ)ひ皮(かわ)をむきて直に味噌(みそ)に漬(つけ)るなり味噌に水/溜(たま)り たらば又みそをとりかへて外(ほか)のみそに漬るかくすること 二三/度(ど)におよべば水も出なくなるを度(ど)とするなりさすれば いつまでたくわへおくとも味(あぢわひ)かわる事なしみ水の出る中(うち)ゆだん 【左丁】 すべからず又/金冬瓜(きんとうぐわ)といふ一種(いつしゆ)もかくして漬(つけ)おけども 度々(たび〳〵)手(て)がけざれば久(ひさ)しくは蓄(たくわへ)がたし    花丸瓜(はなまるうり)粕漬(かすづけ) 花まる瓜(うり)は生(なま)にて直(すぐ)に粕(かす)に漬(つけ)るなりすべて生(なま)のまゝ粕(かす)に 漬(つけ)る物(もの)には二重底(ひぢうぞこ)に桶(おけ)を拵(こしら)へ下(した)に糠(ぬか)をいれ水をおとす やうにせぬときは粕(かす)のかわるものなり糸瓜(いとうり)なども右の通 にして粕(かす)につけるなり    西瓜(すいくわ)粕漬(かすづけ) 西瓜(すいくわ)の花落(はなおち)若(わか)きうちに取(とり)て丸(まる)のまゝ粕につけるなり 【右丁】 是(これ)も花丸漬(はなまるづけ)の仕法(しはふ)にしてつけるなり紀州(きしう)若山(わかやま)より出(いづ) るを名物(めいぶつ)とす    初夢漬(はつゆめづけ) 花落茄子(はなおちなすび)の蔕(へた)を切(きり)まわして甘(あま)く塩押(しほおし)にして芥子(からし)を かき醤油(せうゆ)にてゆるめ少(すこ)し白砂糖(しろさとう)を入て塩梅(あんばい)して茄子(なすび)を 漬(つけ)るなり日数(ひかず)多(おほ)くは持(もち)がたき品なり    鼈甲漬(べつかうづけ) 糠味噌漬(ぬかみそづけ)の故(ふる)き茄子(なすび)を丸(まる)にて塩出(しほぎ)してよくしぼりて 庖丁(ほうちやう)し味淋酒(みりんしゆ)を沢山(たくさん)にかけて浸(ひた)しおくこと三十日ばかり 【左丁】 茄子(なすび)すきとをるほどひやけて奈良漬(ならづけ)の茄子(なすび)にまさること とをし    麴漬(かうじづけ) 醴麹(あまざけかうじ)三/枚(まい)に味淋酒(みりんしゆ)一升をかけてねかし置(おき)干瓜(ほしうり)に塩押(しほおし) 茄子(なすび)干(ほし)大根などを刻(きざみ)こみ紫蘇(しそ)の実(み)生姜(せうが)とうがらしをも すこしづゝくわへ能(よく)つきたる時(とき)に賞翫(しようくわん)すべしこれ漬物(つけもの)の 醍醐味(だいごみ)ともいふべし    百味加薬漬(ひやくみかやくづけ) 生姜(せうが)茗荷(めうが)茸(たけ)蓼(たで)紫蘇(しそ)青柚(あをゆ)山椒(さんしよ)大小の蕃椒(とうがらし)右の類(るい) 【右丁】 何品(なにしな)にかぎらず塩押(しほおし)にしてたくわふべし生(なま)の品(しな)あり あわぬ時(とき)はちよつと塩出(しほだ)して間(ま)にあはせる事まゝ多(おほ)し 料理(れうり)意(こゝろ)ある者(もの)は必(かなら)ずたしなむべき事なり俗(ぞく)にゑの実(み) とうがらしといふまるきをも漬込(つけこむ)べし    巻漬(まきづけ) ふとき大根(だいこん)木口(こぐち)より薄(うす)くはやしよく干(ほし)てたくわへ置(おき) 塩蓼(しほたで)生姜(せうが)をほそ引(びき)きり〳〵とまき輪(わ)とうがらしを帯(おび) にして三杯酸(さんばいず)に漬(つけ)おく    阿茶蘭漬(あちやらづけ) 【左丁】 ほし大根を一寸/斗(ばか)りに切立(きりたて)に四(よ)ッ割(わり)にきざみづから 昆布(こぶ)生姜(せうが)茗荷(めうが)の子塩押(こしほおし)茄子(なすび)つと麩小梅干(ぶこうめぼし)等(とう)を 加(くわ)へて酒醤油(さけせうゆ)にて酸(す)は梅(うめ)の酸(す)を用(もち)ひて当座漬(とうざづけ)に つける尤きくらげとうがらしを入(いれ)べし又/蓮根(はすのね)独活(うど) 新牛房(しんごぼう)時々(とき〳〵)の品(しな)を加(くわ)へるも可(か)なり    菜豆青漬(いんげんあをづけ) 夏(なつ)の土用(どよう)中(ちう)に隠元(いんげん)さゝげをとりて豆腐(とうふ)のからの水(みづ) 気(け)をよく絞(しぼ)りとり塩(しほ)と等分(とうぶん)にまぜて右(みぎ)のゐんげんを 押漬(おしづけ)につけて動(うこか)さずして蓄(たくわ)ふ冬(ふゆ)のうちより春(はる)へかけて 【右丁】 塩出(しほだ)して銅鍋(からかねなべ)にて湯(ゆ)でれば其色(そのいろ)生(なま)のことさのみ 風味(ふうみ)もかわる事なし    蕗水漬(ふきみづづけ) 水蕗(みずふき)生(なま)にて皮(かわ)をむき葉(は)斗(ばか)りを擂鉢(すりばち)に入/塩(しほ)にてもみ 青(あを)き汁(しる)をとり蕗(ふき)は塩(しほ)にて漬(つけ)こみ右(みぎ)葉(は)の青汁(あをしる)を入て 押(おし)を置(おく)なり遣(つか)ふ節(せつ)塩出(しほだし)して煮物(にもの)に入るれば生(なま)のふきに 異(こと)ならず    漬蕨(つけわらび) わらびの和(やわら)かき所ばかりをゑらみて塩(しほ)に灰(はい)を合(あは)せて漬(つけ)る 【左丁】 なり遣(つか)ふ四五日前よりよびあくを入て水に浸し おき熱(にへ)湯をかけて庖丁す    山葵(わさび)粕漬(かすづけ) わさびを短冊(たんざく)にうちて塩にて押(おし)翌日(よくじつ)水(みづ)を切りて 粕につけ壺(つぼ)に詰て目ばりをしてたくわふ    薤三杯漬(らつきやうさんばいづけ) らつきやう一斗/塩(しほ)二升/生姜(せうが)の葉(は)大分入れて塩 おしにして圧(おし)をかけて水十分にあがり三十日ほど 立(たち)て其水をこぼししばらく水をかわかして砂糖(さとう) 【右丁】 蜜(みつ)に漬(つけ)る是(これ)も三十日すればよし右の酸味(すみ)は持(もち) まへの酸味(すみ)なれど若(もし)酸味(すみ)薄(うす)き時は酸(す)少々(せう〳〵)入るもよし    三(み)ッ(つ)葉(ば)溜漬(たまりづけ) みつばせりの白(しろ)き所ばかりそろへて竹(たけ)の皮(かわ)をほそく さきてゆわひ根(ね)と葉(は)を去(さり)水気(みづけ)をとくとかわかして 味噌(みそ)の溜(たまり)をすいのうにてこして其中(そのなか)へつけるなり 二夜(にや)ばかりにて漬(つき)加減(かげん)なり    葉附(はつき)小大根(こだいこん)三杯漬(さんばいづけ) 小(こ)だいこん尤ちいさきを拵(そろ)へ茎(くき)一寸ばかり残(のこ)しおき葉(は) 【左丁】 先(さき)をきり一時(いつとき)ほど日にあてゝ直(すぐ)に三杯醋(さんはいす)に漬るなり 是(これ)を吉原(よしはら)の放言(ほうげん)には洗(あら)ひ髪(がみ)といふ    土筆(つぐし)粕漬(かすづけ) つくしの穂(ほ)ばかりをとり能(よく)洗(あら)ひ水(みづ)を切(きり)て直(すぐ)に粕(かす)に つける遣(つか)ふ時(とき)粕(かす)をあらひ花(はな)がつほなどかけて猪口(ちよく)に 遣ふ風味(ふうみ)至(いたつ)てよし     家多良(やたら)漬(づけ) ひしほの塩(しほ)をからめにつくりおき瓜(うり)茄子(なすび)とうがらし などを刻(きざ)み込(こみ)漬(つけ)るなり沢庵(たくあん)大根の味(あぢ)少(すこ)しかわり 【右丁】 たるにても苦(くる)しからず段(だん)々(〳〵)切(きつ)てつけ込(こむ)也/紫蘇(しそ)の 実(み)生姜(せうが)もよし瓜(うり)茄子(なすび)甘塩(あましほ)に押(おし)て水をきりて 漬(つけ)るはことさらよし    精舎納豆漬(てらなつとうづけ) 納豆(なつとう)には瓜(うり)茄子(なすび)丸(まる)にて一塩(ひとしほ)押(おし)て水気(みづけ)をとりて 漬込(つけこむ)がよし一日ほしてつければ味(あじわひ)格別(かくべつ)なれど急(きう)には つきがたし是(これ)とても生姜(せうが)とうがらし辛皮(からかわ)など入るも あれば時(とき)の宜(よろ)しきに従(したが)ふべし    枝豆塩漬(えだまめしほづけ) 【左丁】 ゑだ豆(まめ)のさやの青(あを)きをゑらびもぎて湯をくゞらせ 中塩(ちゅしほ)にして焼明礬(やきめうばん)を少(すこ)し加(くわ)へかるく押(おし)をしてたくはへ置(おき) 遣(つか)ふ時(とき)一夜(いちや)塩出(しほだし)してゆでればさやも青(あを)くして生(なま)の枝豆(ゑだまめ)の ごとし    塩松茸(しほまつだけ) 尋常(よのつね)の塩松茸(しほまつだけ)は塩水にてゆでさまして其(その)塩水(しほみづ)にて 樽詰(たるづめ)にするゆへ匂(にほ)ひもなく味(あぢ)もなし珍客(ちんきやく)をもてなすには 是(これ)に異(こと)なり松茸のかさのつぼみばかりを撰(えら)み蒸籠(せいろう)に 入れ青松葉(あをまつば)をたきてむしとくとさまし松脂(まつやに)を細末(さいまつ)にして 【右丁】 六十匁塩二升にまぜて松茸(まつだけ)壱貫目余を漬置(つけおく)なり 常(つね)の如(ごと)く塩出して遣(つか)ふに風味(ふうみ)も殊更(ことさら)よく匂(にほ)ひも生(なま)に かわることなし又/初(はつ)だけ松露(しようろ)もかくのごとくして漬置(つけおけ)ば風味よし    漬(つけ)昆布(こんぶ) 松前(まつまへ)昆布(こんぶ)を撰(ゑら)び一夜(いちや)水にひたし置(おき)よく砂(すな)を洗(あら)ひ日に 乾(かわか)して溜(たまり)がちなる味噌(みど)に漬(つけ)るなり又/粕(かす)につけるも 同(おな)じ事なり昆布(こんぶ)の両方(りやうはう)のふちをたち切正味(きりしやうみ)の所 ばかり手比(てごろ)に庖丁(はうてう)して重(かさ)ねてつけるなり    糸瓜(へちま)糟漬(かすづけ) 【左丁】 糸瓜(へちま)の花(はな)落(おち)二寸/位(くらゐ)の所をとり粕(かす)に食加減【振り仮名:くひかげんヵ】の塩を まぜて漬(つけ)るなり尤(もつとも)押蓋(おしぶた)しつかりとして水あがり たらば桶(おけ)をかしげてこぼすべし是(これ)へちまの塩水なり 水気(みずけ)なきやうにして蓄(たくわ)ふべし又/余蒔(よまき)胡瓜(きうり)もかくの ごとくし 如(ごと)くして漬置(つけおく)べし     胡蘿蔔(にんじん) 味噌漬(みそづけ) にんじんのあとさきを切(きり)五六日/風(かぜ)のすく所へ置(おき)甘塩(あまじほ)に して漬(つけ)るなり三四十日たちて一日/日(ひ)にほしてみそに つけ更(かへ)るなり又/粕漬(かすづけ)にするには塩(しほ)をからめにして 【右丁】 漬るなり    十六さゝげ粕漬(かすづけ) さゝげの余(あま)りの実(み)のいりすぎぬうちにとりて生(なま)のまゝ 粕(かす)に漬るなり眉児豆(ふじまめ)などは殊更(ことさら)さやばかりの内に 漬込(つけこむ)なり上(うへ)に水出(みずいで)たらばしたみとるべし    天王寺蕪(てんわうじかぶら) 蕪(かぶ)の茎(くき)一寸/斗(ばか)り附(つけ)て甘塩(あまじほ)に押(おし)つよくかけて漬置(つけおき) さて天気(てんき)よき日(ひ)一日かはかして味噌(みそ)にも漬粕(つけかす)にも漬 かへるなり何(いづ)れ百日/余(よ)も経(へ)ざれは漬(つき)がたし 【左丁】    梨糟漬(なしかすづけ) あはゆきの無疵(むきず)なるをゑらび梨(なし)と梨(なし)とあたり合(あは)ぬ やうに粕(かす)沢山(たくさん)にして漬るなり    柿粕漬(かきかすづけ) はちやといへる細長(ほそなが)き柿(かき)の青(あを)きうちにとりて粕(かす)に つけるなり自然(しぜん)と渋(しぶ)ぬけて甘(あま)からず甚(はなはだ)よき風味(ふうみ) なり会席(くわいせき)の香(かう)の物(もの)に附合(つけあは)す    柚青漬(ゆあをづけ) 柚(ゆず)の実(み)のいらざる青(あを)きうちにとりてかんてんをながして 【右丁】 灰(はい)のあくを附(つけ)てきなこ団子(だんご)のごとくしてつぼに 入れめばりをしてたくわふべし遣(つか)ふ時(とき)ぬるま湯(ゆ)にて あらひおとせばにほひもうぜずいろもかはらずもぎ たてのごとし    金柑(きんかん)塩漬(しほづけ) 金柑(きんかん)余(あま)り熟(じゆく)さぬうち水と塩(しほ)と等分(とうぶん)にせんじ 一夜(いちや)さまして器(うつわ)に入きんかんとぴた〳〵にしてかぜの いらぬやう目(め)ばりをしてかこふべし遣(つか)ふ毎(ごと)にうは水(みづ)を こぼしてひた〳〵にしてべしいつまでももつもの 【左丁】 なり    筍(たけのこ) 塩漬(しほづけ) 竹(たけ)の子(こ)の皮(かわ)をむきて沢庵(たくあん)大根のごとく一かわづゝ並(なら) べて塩(しほ)をふりて中塩(ちうじほ)にしてかろき押(をし)をかけて漬(つけ)る なり尤(もつとも)とうがらしを少(すこ)し入(いれおく)置べし    通計六拾卯四条 四季(しき)漬物(つけもの)早指南(はやしなん)初編(しよへん)《割書:終|》 【挟み物 : 大黒天の図(別紙・一枚刷り)】 【コマ35に同じ】 【広告】 萬(ばん)家(か)日(にち)用(よう)総(さう)菜(ざい)俎(まないた) 《割書:好食外史著|折本一冊出来》 此書は世(よ)に流(る)布(ふ)の料(れう)理(り)の献(こん)立(だて)にはあらず。千(せん)門(もん)万(ばん)戸(こ)日用の総(さう)菜(ざい)のみを 四(し)季(き)にわかちて数多(あまた)をあげたり。されば月(つき)待(まち)日まちの折(をり)からも有(あり)合(あい)の品(しな)を 用ひて間(ま)にあわせ万(ばん)事(じ)費(ついへ)なき仕(し)法(はふ)を専(もつぱら)とする工(く)夫(ふう)の事(こと)どもなり 不(ふ)時(じの)珍(ちん)客(きやく)即(そく)席(せき)包(はう)丁(ちやう) 《割書:同作|折本合刻》 田舎(いなか)山(やま)里(さと)は勿(もち)論(ろん)都(と)会(かい)もはし〴〵料(れう)理(り)屋(や)なき所にて俄(にわか)の客(きやく)来(らい)の節(せつ)。この書(しよ)に よつておもひつかば手かろくちよつと出(で)来(き)る品(しな)々(〴〵)を多(おほ)くあつめたり。 されば常(つね)々(〴〵)手(て)なれぬ人にても包(はう)丁(ちやう)とつて仕(し)安(やす)からしむる事(こと)のみなり 《割書:江戸|流行》料(れう)理(り)通(つう) 《割書:八百善主人著|初編より四編まで出板|同五編 近刻嗣出》 【刊記】 天保七年丙申春        江戸日本橋通二丁目            小林新兵衛        同芝明神前            岡田屋嘉七   書肆   同馬喰町二丁目            西村與八        同横山町二丁目            大坂屋秀八        同芝明神前三島町            和泉屋市兵衛 【コマ38に同じ】 【裏表紙】