《割書:画|図》百鬼夜行 二止 【検索用:鳥山石燕】 《割書:今|昔》百鬼□□ 和歌はあめつちをうこかし是は目に 見へぬ鬼かみを絵空ことに筆もて行 まゝあやしうもの狂はしきさまとし ことにゑかくはおほろけならぬ世上 の史林にもはつかはしくひめこめ 侍るを書肆某いへる嬰児のむつ かるを止んはしかよりはなししきりに 乞にまかせぬれは松たつ春の勇 ましきにあたひをまちて怙めや〳〵と やら桜木にのする事とはなりぬ   安永九のとし蝋月 石燕自序 百鬼拾遺序 【印 斐然成章】 画-師石-燕隠-老也性-質温-雅 ̄シテ庭 ̄ニ成_二 一-簀 ̄ノ之功 ̄ヲ_一池 ̄ニ引 ̄テ_二 九-仞 ̄ノ之泉 ̄ヲ_一而春-紅 聞 ̄キ_二睍-睆 ̄ヲ_一夏-涼張 ̄ル_二沂-楽 ̄ヲ_一秋-水流 ̄シ_二萩-花 ̄ヲ_一 冬-雲群 ̄ス_二関々_一 四-時耽 ̄テ_二此 ̄ノ楽-事_一而不_レ 知 ̄ラ_二老 ̄ノ之将 ̄ニ_一レ至 ̄ント也惟至 ̄レハ_二同-好 ̄ノ者_一欣-然 ̄トシテ 烹_レ茶 ̄ヲ勉然 ̄トシテ談_レ画 ̄ヲ既 ̄ニ下 ̄スト_レ筆 ̄ヲ直 ̄チニ足 ̄ル_レ成 ̄ス_二百- 余-図 ̄ヲ_一奕-々玄-勝可 ̄シ_二以 ̄テ賞 ̄ス_一矣由 ̄テ_レ此 ̄ニ弟- 子益《割書:々》衆 ̄シ成-編 ̄モ且 ̄ツ多 ̄シ皆 ̄ナ世 ̄ノ之所《割書:也》_レ知 ̄ル也 丙-申 ̄ノ春著 ̄ス_二百-鬼夜-行 ̄ヲ_一己-亥 ̄ノ歳後-編 継 ̄キ出 ̄シテ而前-後百-鬼全 ̄シ焉今茲辛-丑 春書-肆某又来 ̄テ請 ̄フ_二幽-冥 ̄ノ之図 ̄ヲ_一而 ̄シテ欲 ̄ス_二 以 ̄テ刻 ̄ント_レ之 ̄ヲ隠-老笑 ̄ツテ曰 ̄ク多 ̄ク図 ̄ス_レ之 ̄ヲ則不 ̄シテ_三啻 ̄ニ 損 ̄スルノミ_二心-力 ̄ヲ_一而取 ̄ル_二譏 ̄リヲ千-載 ̄ニ【一落ち】但 ̄タ恐 ̄ハ鬼-哭 ̄サン夫 ̄レ 如 ̄ン_二之 ̄ヲ何_一書-肆曰 ̄ク画-工 ̄ハ元 ̄ト是 ̄レ尽 ̄ス_二無-類 ̄ノ 之心 ̄ヲ_一合 ̄ス_二有-道 ̄ノ之器 ̄ニ_一若 ̄シ夫 ̄レ雨 ̄レ_レ粟 ̄ヲ鬼-哭 ̄スルモ 亦骨-力 ̄ノ所 ̄ニシテ_レ至 ̄ル而尚 ̄ヲ佳-事也強 ̄テ請 ̄フ莫 ̄レト_レ 辞 ̄スルコト於 ̄テ_レ是 ̄ニ無 ̄シテ_レ已 ̄ムコト而探 ̄リ_レ怪 ̄ヲ聚 ̄メテ_レ妖 ̄ヲ而為 ̄ス_二 三- 巻 ̄ト_一題 ̄ス_二百-鬼拾-遺 ̄ト_一問 ̄フ_二序 ̄ヲ於余 ̄ニ_一々以 ̄テ_二不- 才 ̄ヲ_一辞 ̄ス隠-老 ̄ノ曰負-俗之 ̄ノ図為 ̄ス_二嬰-児 ̄ノ之 戯 ̄ト_一而-已不-才 ̄ニシテ而且 ̄ツ作_レ序 ̄ヲ則是 ̄レ一-怪 【右丁】 事也因 ̄テ妄 ̄レテ_二固-陋 ̄ヲ_一而書 ̄ス_二其端 ̄ニ_一矣  安永十辛丑春      元洲  滕武幹      【落款2=元洲 滕武幹印】       【左丁】 百鬼夜行拾遺上之巻目録 ○蜃気楼(しんきろう)【コマ07】  ○燭陰(しよくいん)【コマ08】 ○人面樹(にんめんじゆ)【コマ08】  ○人魚(にんきよ)【コマ09】 ○返魂香(はんごんかう)【コマ09】  ○彭候(ほうこう)【コマ10】 ○天狗礫(てんぐつぶて)【コマ10】  ○道成寺(とうぜうじ)の鐘(かね)【コマ11】 ○灯台鬼(とうだいき)【コマ11】  ○泥田坊(どろたぼう)【コマ12】 ○こくり婆(ばゝ)【コマ12】 ○白粉婆(おしろいばゝ)【コマ13】 ○蛇骨婆(じやこつばゝ)【コマ13】  ○陰女(かげおんな)【コマ14】 ○けら〳〵女【コマ14】 ○煙々羅(ゑん〳〵ら )【コマ15】 【中巻目録:コマ17】 【中巻目録:コマ29】  蜃気楼(しんきろう) 史記(しき)の天官書(てんぐはんしよ)にいはく 海旁(かいはうの)蜃気(しんき)は楼台(ろうたい)に象(かたど)ると 云々 蜃(しん)とは大蛤(おほはまぐり)なり海上(かいしやう)に気(き)をふきて 楼閣(ろうかく)城市(じやうし)のかたちをなすこれを蜃気楼(しんきろう)と名(な)づく又 海市(かいし)とも言 【右ページ】  燭陰(しよくいん) 山海経(せんがいけう)に曰(いはく) 鍾山(しやうざん)の神(しん)を 燭陰(しよくいん)といふ 身(み)のたけ千 里(り) そのかたち人面(にんめん) 龍身(りやうしん)にして    赤色(せきしよく)なりと   鍾山(しやうざん)は     北海(ほくかい)の       地(ち)なり 【左ページ】  人面樹(にんめんじゆ) 山谷(さんこく)にありその花(はな)人の首(くび)のごとし ものいはずしてたゞ笑(わら)ふ事しきり なりしきりにわらへばそのまゝ     落花(らくくは)すと        いふ 【右ページ】  人魚(にんぎよ) 建木(けんぼく)の西に あり人面(にんめん)にして 魚身(ぎよしん)足(あし)なし胸(むね) より上(うへ)は人にして 下は魚(うを)に似(に)たり是(これ)   氐人(ていじん)国の人なり        とも云 【左ページ】   返魂香(はんごんかう)【反魂香】 漢武帝(かんのぶてい)李夫人(りふじん)を寵愛(てうあい)し給ひしに夫人みまが り給ひしかば思念(しねん)してやまず方士(はうし)に命じて返魂香(はんごんかう) をたかしむ夫人(ふじん)のすがた髣髴(はうほつ)として烟(けぶり)の中にあらはる 武帝(ぶてい)ます〳〵かなしみ詩(し)をつくり給ふ   是耶非耶(しかひか)立而望之(たつてこれをのぞむ)   偏(ひとへに)娜々(だゝたり)何(なんぞ)冉々(ぜん〳〵として)   其来遅(それきたることおそきや) 【漢詩の部分は振り仮名が小さくつぶれがちなのでまちがっているかもしれません】 【右ページ】 彭侯(はうこう) 千/歳(さい)の木(き)には精(せい)あり状(かたち)黒狗(くろいぬ) のごとし尾(お)なし面(おもて)人に似(に)たり 又山/彦(ひこ)とは別(べつ)なり 【左ページ】 天/狗(ぐ)礫(つぶて) 凡(およそ)深山(しんざん)幽谷(ゆうこく)の中にて 一/陣(ぢん)の魔風(まふう)おこり 山/鳴(なり)谷こたへて  大/石(せき)をとばす事    あり是を  天/狗(ぐ)礫(つぶて)と云 左伝(さでん)に見へたる 宋(さう)におつる七つの 石もうたがふらくは    是(これ)ならん     かし 【右ページ】   道成寺鐘(どうせうじのかね) 真那古(まなご)の庄司(しやうじ)が娘(むすめ) 道成寺(どうじやうじ)にいたり安珍(あんちん)が つり鐘の中にかくれ居(ゐ)たるを しりて蛇(じゃ)となりその鐘(かね)をまとふ この鐘(かね)とけて湯(ゆ)となるといふ 或(あるいは)曰(いはく)道成寺(どうじやうじ)のかねは今 京都(けうと) 妙満寺(みやうまんじ)にありその銘(めい)左(さ)の           ごとし  紀州(きしう)日高郡(ひだかごほり)矢田庄(やたのしやう)  文武天皇(もんむてんわうの)勅願書(ちよくぐはんしよ)道成寺(どうじやうじの)冶鐘(やしやう)  勧進(くはんじんの)比丘(びく)別当(べつとう)法眼(はうげん)定秀(でうしう)檀那(だんな)  源万寿丸(みなもとのまんじゆまる)并(ならびに)吉田(よしだ)源頼秀(みなもとのよりひで)合山(がつさんの)  諸檀越(しよだんおつ)男女(なんによ)大工(だいく)山願(さんぐはん)道願(だうぐはん)小(せう)  工(く)大夫(たいふ)守長(もりなが)延暦(ゑんりやく)十四 年(ねん)乙亥(きのとのい)  三月十一日 【左ページ】   灯台鬼(とうたひき)【燈臺鬼】 軽大臣(かるのだいじん)遣唐使(けんとうし)たりし時 唐人(とうじん)大臣(だいじん)に唖(おし)になる薬(くすり)をのませ身(み)を彩(いろど)り頭(かしら)に灯台(とうだい) をいたゞかしめて灯台鬼(とうだいき)と名(な)づくその子(こ)弼宰相(ひつのさいしやう)入唐(につとう)して父(ちち)をたつぬ灯台鬼(とうだいき) 涙(なみだ)をながし指(ゆび)をかみ切(き)り血(ち)を以て詩(し)を書(しよ)して曰(いはく)   我(われ)元(もと)日本(につほん)華京客(くはけいのかく) 汝(なんぢは)是(これ)一家同姓人(いつけとうせうのひと)   為(こと)_レ子(なり)為(おやと)_レ爺(なる)前世契(ぜんぜのちぎり) 隔(やまを)_レ山(へだて)隔(うみを)_レ海(へだて)変生辛(へんぜうからし)   経(としを)_レ年(へて)流(なみだを)_レ涙(ながす)蓬蒿宿(ほうかうのやど) 遂(ひを)_レ日(おひ)馳(おもひを)_レ思(はす)蘭菊親(らんきくのしん)   形(かたち)破(たきやうに)_二他郷(やぶれて)_一作(とうきと)_二灯鬼(なる)_一 争(いかでか)皈(きうりに)_二旧里(かへりて)_一寄(このみを)_二斯身(よせん)_一 【右ページ】  泥田坊(どろたばう) むかし北国(ほくこく)に 翁(おきな)あり子孫(しそん)のために いさゝかの田地(でんぢ)をかひ置(おき)て寒暑(かんしよ) 風雨(ふうう)をさけず時々(とき〳〵)の耕作(こうさく)おこたらざり しにこの翁(おきな)死(し)してよりその子 酒(さけ)にふけりて 農業(のうぎやう)を事(こと)とせずはてにはこの田地(でんぢ)を他人(たにん)にうりあたへければ 夜(よ)な〳〵目(め)の一つあるくろきものいでゝ田(た)かへせ〳〵とのゝしりけりこれを 泥田坊(どろたばう)といふとぞ 【左ページ】  古庫裏婆(こくりばゞ) 僧(そう)の妻(つま)を梵嫂(ぼんさう)といへるよし 輟耕録(てつこうろく)に見えたりある山寺(やまてら)             に 七代 以前(いぜん)の住(ぢう)持(ぢ)の愛(あい)せし 梵嫂(つま)その寺(てら)の 庫裏(くり)にすみ     ゐて 檀越(だんおつ)の米銭(べいせん)を かすめ新死(しんし)の 屍(しかばね)の皮(かは)を はぎて  餌食(ゑじき)と  せし   とぞ 三途河(さうづがは)の脱衣婆(だつゑば) よりも    おそろし〳〵 【右ページ】 白粉婆(おしろいばゝ) 紅(べに)おしろいの神(かみ)を 脂粉仙娘(しふんせんじやう)と云おしろいばゞは 此神の侍女(ぢぢよ)なるべしおそろしきもの しはすの月夜(つきよ)女のけはひとむかしよりいへり 【左ページ】  蛇骨婆(じやこつばゝ) もろこし巫咸国(ぶかんこく)は女丑(ぢよちう) の北(きた)にあり右の手に青蛇(あほきじや) をとり左の手に赤蛇(あかきじや)をとる 人すめるとぞ蛇骨婆(じやこつばゝ)は 此国の人か或説に云 蛇塚(へびづか)の蛇(じや)五右衛門と いへるものゝ妻(め)なり よりて蛇五婆(じやごばゝ)と よびしを訛(あやま)りて 蛇骨婆(じやこつはゝ)といふと  未詳 【右ページ】  影女(かげおんな) ものゝけある家(いへ) には月かげに女の かげ障子(せうじ)などに うつると云 荘子(さうじ)にも 罔両(もうりやう)と景と問答(もんだう)せし事あり 景は人のかげ也 罔両(もうりやう)は景(かげ)のそばにある微陰(うすきかげ)なり 【左ページ】  倩兮女(けら〳〵女) 楚(そ)の国(くに)宋玉(さうぎよく)が東隣(ひがしどなり)に美女(びぢよ) あり墻(かき)にのぼり宋玉(さうぎよく)をうかゞふ 嫣然(ゑんぜん)として一(ひと)たび笑(わら)へば陽城(やうじやう)の 人を惑(まどは)せしとぞおよそ美色(びしよく)の 人情(にんぜう)をと□かす事 古今(ここん)にた□し 多(おほ)しけら〳〵      女 朱唇(しゆしん)をひ□ □□して多(おほ)くの 人をまどはせし □ 婦(ふ)の霊(れい)      ならん□ 【以下は別資料を見て翻刻】  倩兮女(けら〳〵女) 楚(そ)の国(くに)宋玉(さうぎよく)が東隣(ひがしどなり)に美女(びぢよ) あり墻(かき)にのぼり宋玉(さうぎよく)をうかゞふ 嫣然(ゑんぜん)として一(ひと)たび笑(わら)へば陽城(やうじやう)の 人を惑(まどは)せしとぞおよそ美色(びしよく)の 人情(にんぜう)をとらかす事 古今(ここん)にためし 多(おほ)しけら〳〵      女 朱唇(しゆしん)をひる がへして多(おほ)くの 人をまどはせし 淫 婦(ゐんふ)の霊(れい)      ならんか【欤=歟の略字】) 【別資料画像: https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5e/SekienKerakera-onna.jpg 】   煙々羅(ゑん〳〵) しづが家(や)のいぶせき蚊遣(かやり)の煙(けふり) むすぼられてあやしきかたちを なせりまことに羅(うすもの)の風に           やぶれやす               き             ごとく               なる                すがた             なれば              烟々羅(ゑん〳〵ら)とは               名づけ                 たらん 《割書:今|昔》百鬼拾遺 霧 百鬼夜行拾遺中之巻目録 ○紅葉狩(もみぢがり)  ○朧 車(くるま)【コマ18】 ○火前坊(くわぜんぼう)  ○みの火(ひ)【コマ19】 ○青行灯(あおあんどう)  ○雨女(あめおんな)【コマ20】 ○小 雨坊(さめぼう)  ○雁木(がんぎ)小 僧(ぞう)【コマ21】 ○あやかし ○鬼童丸(きどうまる)【コマ22】 ○鬼(おに)一 ̄ト口(くち)  ○蛇帯(じやたい)【コマ23】 ○小 袖(そで)の手(て) ○はたひろ【コマ24】 ○大座頭(おゝざとう)  ○火間虫入道(ひまむしにうだう)【コマ25】 ○殺生石(せつせうせき)  ○風狸(ふうり)【コマ26】 ○茂林寺(もりんじ)の釜(かま)【コマ27】 【上巻目録:コマ06】 【下巻目録:コマ29】 【右ページ】    紅葉狩(もみぢがり) 余五将軍(よごしやうぐん)維茂(これもち)紅葉(もみぢ)がりの時 山中にて鬼女(きぢよ)にあひし事 謡曲(ようきよく)にも見へて皆人のしる所なればこゝに贅(ぜい)せず 【左ページ】    朧車(おぼろくるま) むかし加茂(かも)の大路(おほぢ)をおぼろ夜(よ)に 車(くるま)のきしる音(おと)しけり出てみれば 異形(いぎやう)のもの也 車争(くるまあらそひ)の       遺恨(いこん)にや 【右ページ】    火前坊(くはぜんぼう) 鳥部山(とりべやま)の烟(けふり)たちのぼりて 龍門(りやうもん)原上(げんしやう)に骨(ほね)をうづまんと              する 三 昧(まい)の地(ち)よりあやしき形(かたち)の出たれば         くはぜん坊(ばう)と名付(なづけ)たるならん 【左ページ】    蓑火(みのひ) 田舎道(いなかみち)などに      よな〳〵  火(ひ)のみゆるは多(おほ)くは   狐火(きつねび)なり    この雨(あめ)にきる       たみのゝ嶋(しま)と   よみし蓑(みの)より  火(ひ)の出(いで)しは     陰中(いんちう)の陽気(やうき)か   又は耕作(こうさく)に苦(くるし)める    百姓(ひやくせう)の臑(すね)の火     なるべ        し 【右ページ】   青行灯(あをあんどう)【青行燈】 灯(ともしび)きえんとして又あきらかに 影(かげ)憧々(どう〳〵)としてくらき時 青行灯(あをあんどう)□□【とい】へるものあらはるゝ事 ありと云むかしより百物語をなすものは 青き紙(かみ)にて行灯(あんどう)をはる也 昏夜(こんや)に鬼(き)を 談(だん)ずる事なかれ鬼(き)を談(だん)ずれば怪(くはい)いたるといへり 【左ページ】    雨女(あめおんな) もろこし巫山(ふさん)の神女(しんぢよ)は朝(あした)には 雲(くも)となり夕(ゆうべ)には雨(あめ)となるとかや 雨(あめ)女もかゝる類(たぐゐ)の      ものなりや 【右ページ】    小雨坊(こさめばう) 小雨坊(こさめばう)は雨(あめ)そぼふる夜(よ) 大みねかつらきの山中に徘徊(はいくはい)して 斎料(ときりやう)を こふと なん 【左ページ】    岸涯小僧(がんぎこぞう) 岸涯(がんぎ)小僧は川辺(かはべ)に居て 魚(うを)をとりくらふその歯(は)の 利(と)き事やすりの如(ごと)し 【右ページ】   あやかし 西国(さいこく)の海上(かいしやう)に船(ふね)のかゝり居(お)る時 ながきもの船(ふね)をこえて二三日も やまざる事あり油(あぶら)の出る事おび たゝし船人(ふなびと)力をきはめて此油をくみほせば 害(がい)なししからざれば船(ふね)沈(しづ)む是あやかしの                  つきたる也 【左ページ】   鬼童(きとう) 鬼童丸(きどうまる)は雪(ゆき)の中に 牛(うし)の皮(かは)を蒙(かうふ)りて 頼光(らいくはう)を市原野(いちはらの)に うかゞふ    と云 【右ページ】     鬼一口(おにひとくち) 在原業平(ありはらのなりひら)二 条(でう)の后(きさき)をぬすみいでゝあばら屋にやどれるに鬼(おに)一(ひと)口に くひけるよしいせ物がたりに見へたり    しら玉か何ぞと人のとひし時露とこたへてきえなましものを【『伊勢物語』第六段・芥川】 【左ページ】     蛇帯(じやたい) 博物志(はくぶつし)に云(いはく)人(ひと)帯(おび)を籍(しき)て眠(ねふ)れば 蛇(じや)を夢(ゆめ)むと云々されば妬(ねため)る女の三重(みえ) の帯は七重(なゝえ)にまはる毒(どく)蛇ともなりぬべし  おもへどもへだつる人やかきならん   身はくちなはの         いふかひもなし【木下長嘯子の狂歌】 【右ページ】    小袖(こそで)の手(て) 唐詩(とうし)に 昨日(さくじつ)施(さうに)_レ僧(ほどこす)裙帯上(くんたいのうへ) 断腸(だんちやうす)猶(なを)繋(びわの)_二琵琶絃(いとをかけしことを) ̄ヲ_一 とは妓女(うかれめ)の亡(うせ)ぬるを いためる詩(し)にして僧(そう)に供養(くやう)せしうかれめの帯(おび)に なを琵琶(びわ)の糸のかゝりてありしを見て腸(はらはた)をたちて かなしめる心也すべて女ははかなき衣服(いふく)調度(てうど)に心を とゞめてなき跡の小袖より手の出(いで)しをまのあたり見し人ありと云 【漢文は朱褒の漢詩】 【亾は亡の異体字】 【左ページ】   機尋(はたひろ) はたひろはある女の夫(おつと)の出てかへらざるをうらみおりかゝれる機(はた) をたちしにその一 念(ねん)はた ひろあまりの  蛇(じや)と   なり     て 夫の行衛(ゆくゑ)を したひしとぞ 自(きみが)_二君之出(いでし)_一矣(より) 不(また)_三復理(ざんきを)_二残機(おさめず)_一【張九齡の詩】               と 唐詩(とうし)にも   つくれり 【右ページ】   大座頭(おほざとう) 大座頭(おほざとう)はやれたる袴(はかま)を穿(はき) 足(あし)に木履(ぼくり)をつけ手には杖(つえ)を つきて風雨(ふうう)の夜(よ)ごとに大道(だいどう)を徘徊(はいくはい)す ある人これに問(とふ)て曰(いはく)いづくんかゆく答(こたへ)ていはく いつも倡家(しやうか)に三 弦(げん)を弄(ろう)すと 【左ページ】   火間虫入道(ひまむしにうだう)【火間蟲入道】 人生(じんせい)勤(つとむる)にありつとむる時は匱(とぼし)からず といへり生(いき)て時(とき)に益(ゑき)なくうかり〳〵と 間(ひま)をぬすみて一 生(しやう)をおくるものは 死(し)してもその霊(れい)ひまむし夜入道(よにうだう)と なりて灯(ともしび)の油(あぶら)をねぶり 人の夜作(よなべ)を さまたぐると なん 今 訛(あやま)りて ヘマムシと よぶは へとひと 五音(ごいん) 相通(さうつう)也 【右ページ】  殺生石(せつしやうせき) 殺生石(せつしやうせき)は 下野国(しもつけのくに)那須(なす) 野(の)にあり老狐(らうこ) の化(くは)する所にして 鳥獣(てうじう)これに 触(ふる)れば 皆(みな)死(し)す 応永(おうゑい) 二 年(ねん) 乙亥(きのとのい) 正月十一日 源翁和尚(げんおうおしやう) これを打破(だは)【左ルビ:うちやぶる】すといふ 【左ページ】    風狸(ふうり) 風によりて巌(いはほ)をかけり 木にのぼりそのはやき事    飛鳥(ひてう)の如(ごと)し  茂林寺釜(もりんじのかま) 上州(じやうしう)茂林寺(もりんじ)に 狸(たぬき)あり守霍(しゆくはく)と いへる僧(そう)と化(け)して 寺(てら)に居(お)る事七 代(だい) 守霍(しゆくはく)つねに 茶(ちや)を たしみて 茶(ちや)をわかせば□たぎる事 六七日にしてやまず人 その釜(かま)を名(な)づけて文福(ぶんふく)と云(いふ) 蓋(けだし)文武火(ぶんぶくは)のあやまり也 文火(ぶんくは)とは慢火(ぬるきひ)也 武(ぶ)火(くは)とは活(つよき)火(ひ)也 《割書:今|昔》百鬼拾遺 雲 百鬼夜行拾遺下之巻目録 ○羅生門(らせうもん)【コマ30】  ○芭蕉(ばせを)の精(せい)【コマ31】 ○夜啼(よなき)の石(いし)【コマ30】  ○硯(すゞり)の魂(たましひ)【コマ31】 ○屏風闚(べうぶのぞき)  ○毛羽毛現(けうけげん)【コマ32】 ○目目連(もく〳〵れん)  ○狂骨(きやうこつ)【コマ33】 ○眼競(めくらべ)   ○後(うしろ)髪【コマ34】 【目録にはないが:○否哉(いやや)コマ35】 ○滝霊王(たきれいわう)【コマ36】  ○方相氏(ほうさうし)【コマ35】 ○白沢(はくたく)【コマ36】   ○隠里(かくれさと)【コマ37】 【上巻目録:コマ06】 【中巻目録:コマ17】 【右ページ】  羅城門鬼(らせうもんのおに) □□□ □□□せんを □□一句□□ □□□気 暮(くれて)風(かぜ) □□□と□… □□□□□□に後(のち)渡辺綱(わたなべのつな)がため□ □□□□れからきめ見たるもこの鬼 神(しん)にや 【以下は別資料を見て翻刻。解像度が低すぎてよめない:https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/95/SekienRashomon-no-oni.jpg 】  羅城門鬼(らせうもんのおに) 都良香(とりやうかう) らせうもんを 過て一 句(く)を吟(ぎん) じて□気(き)霽(はれては) 風(かぜ) 梳(しんりうの)_二新柳髪(かみをけづる)_一とその時 鬼神(きしん)一 句(く)をつぎていはく 氷消波洗(こほりきへてはなみ)_二旧苔鬚(きうたいのひげをあらふ)_一と後(のち)渡辺綱(わたなべのつな)がために 腕(うで)をきられからきめ見たるもこの鬼神(きしん)にや 【左ページ】   夜啼石(よなきのいし) 遠州(ゑんしう)佐夜(さよ)の中山にあり むかし孕婦(はらめるおんな)この所にて 盗賊(とうぞく)のために害(がい)せられ 子(こ)は胎胞(たいはう)の内に恙(つゝが)なく 幸(さいはゐ)に生長(せいちやう)してその 讐(あた)を報(むくひ)しとかや 【右ページ】  芭蕉精(ばせをのせい) もろこしにて 芭蕉(ばせを)の精(せい)人と化(け)して 物語(ものがたり)せしことあり今の 謡物(うたひもの)はこれによりて        作(つく)れる           とぞ 【左ページ】   硯(すゞり)の魂(たましい) ある人赤間(あかま)が関(せき)の石硯 をたくはへて文房(ぶんばう)の一 友(ゆう) とすひと日 平家物語(へいけものがたり)を よみさしてとろ〳〵と       居ねふるうち 案頭(あんとう)の【=机の上の】硯の海(うみ)の波(なみ)さか            だちて 源平のたゝかひ今みるごとく あらはれしとかやもろこし 徐玄之(じよけんし)が紫石潭(しせきたん)も   思ひあはせられ侍(はべ)り 【右ページ】  屏風(べうぶ)闚(のぞき) 翠帳紅閨(すいてうこうけい)に枕(まくら)をならべ 顛鸞倒鳳(てんらんたうほう)の交(まぢはり)あさからず 枝(ゑだ)をつらね翼(はね)をかはさんと ちかひし事も侘(あだ)となりし 胸(むね)三寸の恨(うらみ)より   七尺の屏風も猶のぞくべし 【左ページ】   毛羽毛現(けうけげん) 毛羽毛現(けうけげん)は総身(さうみ)に 毛(け)生(お)ひたる事 毛女(もうぢよ)の ごとくなればかくいふか 或(あるひ)は希有希見(けうけげん)とかきて ある事まれに  見る事   まれなれ    ば   なり    とぞ 【右ページ】   目目連(もく〳〵れん) 煙霞(ゑんか)跡(あと)なく     して  むかしたれか栖(すみ)し   家(いゑ)のすみ〴〵に    目を多(おほ)くもちしは     碁打(ごうち)のすみし          跡ならんか 【左ページ】    狂骨(きやうこつ) 狂骨(きやうこつ)は井中(せいちう)の白骨(はくこつ)なり 世(よ)の諺(ことはざ)に甚(はなはだ)しき事を きやうこつといふも このうらみのはなはだしき    より     いふならん 【右ページ】   目競(めくらべ) 大政入道(だいぜうにうだう)清盛(きよもり)ある夜(よ)の夢(ゆめ)に されかうべ東西(とうさい)より出てはじめは 二つありけるがのちには十二十五十 百千万のちにはいく千万といふ数(かず)をしらず 入道もまけずこれをにらみけるにたとへば 人の目くらべをするやう也しよし平家物語(へいけものがたり)にみえたり 【左ページ】   後(??ろ)神(かみ) うしろ神(かみ)は臆病神(おくべうがみ)につきたる神(かみ)也 前(まへ)にあるかとすれば忽焉(こつゑん)として 後(しりへ)にありて人のうしろがみを           ひくといへり 【右ページ】   否哉(いやや) むかし漢(かん)の東方朔(とうばうさく) あやしき虫(むし)をみて 怪哉(くはいさい)【左ルビ:あやしいかな】と名(な)づけし ためしあり 今(いま)この否哉(いやゝ)も これに   ならひて    名付(なつけ)たる     なるべし 【左ページ】    方相氏(はうさうし) 論語(ろんごに)曰(いはく) 郷人(けうひとの)儺(おにやらいに)朝服(てうふく)而立(して)_二 於阼階(そかいにたてり) ̄ニ_一  註(ちうに) ̄ニ儺(おにやらいは)所(ゑきを)_二以逐(おふゆゑん也)_一レ周礼(しゆらいに) ̄ニ  方相氏(はうさうし)掌(これを)_レ之(つかさとる) 【右ページ】 滝霊王(たきれいわう)【瀧霊王】 諸国(しよこく)の滝つぼよりあらはるゝと云 青龍疏(せいりうそ)に一切の鬼魅(きみ)諸障(しよせう)を伏(ふく)すと云々 【左ページ】   白沢(はくたく) 黄帝東巡 白澤一見 避怪除害 靡所不徧   摸捫窩賛    【印 摸 捫】 【挿し絵のみ】 鳥山石燕豊房画 校合門人    子興    燕二 安永十辛丑春 彫工 井上新七 文化二乙丑求板 書林  勢州洞津   長野屋勘助 【裏表紙】