《題:大坂下り なまづの かるわざ》 安政二卯年十月二日【注①】 江戸にて興行 〽この大うをは どろの なかにてそだち くに〴〵 のぬまを しゆぎやう つかまつり 下ふさ【下総】のくに いんばぬま【印旛沼】を よんどころ なく おいだされ それより 信しう【信州】ぜんくわうじ【善光寺】にて はじめて かるわざいたし なを又京大坂へのほり【上り】 大ひやうばんにあづかり みやうがしごく ありがたく ぞんじ どなたのおすゝめは ござりませんが こんど 御とうち【当地】へくだり大ゆりのげい たう【芸当】 いへからいへの がんどうがえし【注②】 みなさまがたのおめのさめます やうごらんに入ます まづさいしよは ぢひゞきにとりかゝります▲ 【下段】 ▲〽さて〳〵〳〵〳〵 このたびのじしん さわぎでゆりちらし 二かいや【二階屋】 どざう【土蔵】 ながや だて【長屋建】 かはらをおとしてふるふ ところが ぐら〳〵〳〵〳〵これをば なつけて どこからどこまではい ます ところが大のじ〳〵 〽さて〳〵〳〵〳〵そこでひがでゝほや〳〵 やける ホ□【イヵ】〳〵〳〵〳〵いへにかい【交い】ます まる たんぼ【丸太棒】 のき【軒】のはしにて しつかとゆはへ やねは こなたへかへらぬやふに のきからのきへ ずらりと ならぶ これをなづけて のだのさかりぶじしや【注③】 それ〳〵あんまはあぶない〳〵くらはさゆふへ ぐらりとかへるなかに ひらや【平屋】がちよぼんと のこる だるま大し【達磨大師】のざぜん【座禅】のかたち サアこれからがみなさんのほねおり【骨折り】だ みなどつとはたらけ〳〵 【注① 安政江戸地震が発生した日、この地震は関東南部を震源地とするマグニチュード7クラスの大地震で、最大震度は6と想定されています。】 【注② 「がんどう返し」とは、歌舞伎用語で舞台装置を垂直回転させて舞台転換すること、ここでは鯰が家をひっくり返すことを指します。】 【注③ 大阪市福島区野田地区の藤は約六百年前からその美しさで知られ、「吉野の桜、野田の藤、高雄の紅葉」は三大名所といいました。ここではずらりと並んだ藤(ふじ)と無事(ぶじ)を掛けています。】