【題簽】 増 女大学 全 【右丁】 新(しん)続(ぞく)古今(こきん)雑(ざう)  権中納言 通俊(みちとし) たづねずは かひなから    まじ いにしへの  代々(よゝ)のかし     こき 人(ひと)のこと   の葉(は) 夫(それ)人(ひと)とうまれては  男子(なんし)にまれ女子(によし)         に まれいにしへの 【続きは欠丁ヵ】 【左丁】   女大学(おんなだいがく) 一 夫(それ)女子(によし)は成長(せいちやう)して他(た) 人(にん)の家(いへ)へ行(ゆき)舅姑(しうとしうとめ)に仕(つかふ)る物(もの) ならは男子(なんし)よりも親(をや)の教(をしへ) ゆるかせにすべからず父母(ふぼ)寵([ちやう]) 愛(あい)して恣(ほしいまゝ)に育(そだて)ぬれば夫([をつと]) 【右丁】 【上段】  嫁(とつき)文章(ぶんしやう) 一筆(ひとふで)申入(まうしいれ)まいらせ候 そもじ さま(さま)御縁(ごえん) 組(ぐみ)極(きはま)り候(さふらふ)てよ所(そ)へ 越給(こしたま)ふよし誠(まこと)に 目出(めで)たふ幾千年(いくちとせ) 色(いろ)もかはらぬ常(とき) 盤木(はぎ)の枝(えだ)をつらぬ る御契(おんちきり)と祝(いはひ)まいらせ候 申までは候はねども 身持(みもち)正(たゞ)しくこゝろ 【下段】 の家(いへ)に行(ゆき)て必(かならす)気随(きづい)にて夫(をつと) に疎(うと)まれ又(また)は舅(しうと)の誨(をしへ)正(たゞ)しけ れは難(かたく)_レ堪(たへ)おもひ舅(しうと)を恨(うらみ )誹(そしり) 中(なか)あしく成(なり)て終(つい)には追出(をいいだ)され 恥(はぢ)をさらす女子(によし)の父母(ふほ)わが 訓(をしへ)なき事(こと)をいわずして舅(しうと )夫(をつと) のあしきと而已(のみ)思ふは誤(あやま[り])なり 【左丁】 【上段】 おとなしくさゞれ 石(いし)の巌(いはほ)となりて 苔(こけ)のむすまで繁(はん) 昌(じやう)して孫(まご)子(こ)の末々(すへ〴〵) まで御栄(さかえ)候やうにと うちねがひ候まゝ 筆(ふで)にまかせて申 上(あげ)まいらせ候 第一(だいいち)慈悲(じひ)ふかく 人(ひと)を憐(あはれ)み虫けだ ものゝ上迄(うへまで)も露(つゆ)の 【下段】 是皆(これみな)女子(によし)の親(をや)の教(をしへ)なき故(ゆへ)也 一 女(をんな)は容(かたち)よりも心(こゝろ)の勝(まされる)を善(よし)と すべし心(こゝろ)ばへ無美(よしなき)女は心 騒(さはがし)く 眼(まなこ)恐(をそろ)しく見(み)出(いだし)て人(ひと)を怒(いかり)言(こと) 葉(ば)訇(あららか)に物(もの)いひさがなく口(くち)きゝて 人に先(さき)だち人を恨(うらみ)ねたみ 我身(わがみ)にほこり人を謗(そしり)笑(わら) 【右丁】 【上段】 情(なさけ)をかけ給(たま)ひおもて は唯(たゞ)青柳(あをやぎ)の糸(いと)の 靡(なひく)か如([こ]と)く物(もの)やはらか にして人(ひと)の心(こゝろ)を酌(くみ)て 知(し)り我(わか)僻(ひか)めるを押(おし) 直(なほ)し扨又(さてまた)心の内(うち)は 石(いし)や金(かね)よりも堅(かた)く あだなる方(かた)に心(こゝろ)を向(むけ) 給ふべからず忠臣(ちうしん)は 二君(じくん)に仕(つか)へず貞女(ていぢよ)は 両夫(りやうふ)に見(まみ)えずくれ 【下段】 われ人 ̄ニまさり皃(かほ)なるは皆(みな)女 の道(みち)に違(たがへ)る也 女(をんな)は唯(たゞ)和順(やはらぎしたがひ)て 貞心(ていしん)に情深(なさけふかく)静成(しつかなる)を善(よし)とす 一 女子(によし)は稚時(いとけなきとき)より男女(をとこをんな)の別(わかち) を正(たゞ)しくして仮初(かりそめ)にもたわ むれたる事を見(み)聞(きか)しむべ からず古(いにしへ)の礼(れい)に男女(なんによ)は席(しきもの)を 【左丁】 【上段】 〴〵此(この)理(ことは)りを朝夕(あさゆふ)心(こゝろ) にかけ給(たま)はゞ神(かみ)や仏(ほとけ) の守(まも)りめもおはし ましまいらせ候 【下段】 同(をなじく)せず衣 裳(しやう)をも同處(をなじところ)に置(をか)ず 同所(をなしところ)にて浴(ゆあみ)せず物(もの)を受取 渡(わたす) 事も手より手へ直(ちか) ̄ニ せず夜行(よるゆく) 時(とき)は必(かならす)燭(ともしび)を燈(ともし)て行へし他人(たにん) は言(いう)に及(をよば)ず夫婦(ふうふ)兄弟(きやうだへ) ̄ニ而 も 別(べつ)を正(たゞしく)すへしと也 今時(いまとき)の民(みん) 家(か)は此(この)様(やう)の法(ほふ)を知(し)らずして 【右丁】 【上段】 第二(たいに)賓客(まろうと)【「きやくじん」左ルビ】など御(おん) 渡(わた)り候はん時(とき)は内(うち)に いかなる心遣(こゝろつか)ひの事(こと) 候とも聊(いさゝか)その気色(けしき) を表(あらは)さず何(なに)となれ うち向(むか)ひ月(つき)雪(ゆき)花(はな) 時鳥(ほとゝぎす)何(いつ)れ其(その)折(をり)に ふれたる物語(ものかたり)などし て懇(ねんごろ)にとりはやし 給ふへく候さりとて 若(わか)き人(ひと)の余(あま)り睦(むつ) 【下段】 行規(ぎやうぎ)を乱(みだり)にして名(な)をよごし 親(をや)兄弟(けうたい)に恥(はぢ)をあたへ一 生(しやう)み を空(いたつら)に仕(する)者(もの)有口 惜(をしき)事 ̄ニ あら ずや女は父母(ふぼ)の命(をほせ)と媒(なかだち)と にあらざれは交(ましは)らず親(したしま)ずと 小 学(がく)にもみへたり仮(たとひ)【注①】命(いのち)を失(うしなふ) とも心を金石(きんせき)の如(こと)にかたく 【左丁】 【上段】 まじげなるもよそ 目いかゞ有まいらせ候や 唯(たゞ)何(なに)となく准(なぞら)へて 角(かど)しのぎなきやう にあひ〳〵敷(しく)候は事 あらまほしく候 第三(だいさん)召仕(めしつか)ひの人 疎(おろそか)にて何事も思ふ やうにならず候はゞ 忍(しのび)やかによまひ言(ごと)を もいひ聞(きか)せ給ふべく候 【下段】 して義(ぎ)をまもるへし 一 婦(ふ)人は夫の家を我(わが)家とする ゆへに唐土(もろこし)には嫁(よめいり)を帰(かへ)ると言我 家にかへると言事也 縦(たとひ)【注②】夫の家 貧錢(ひんせん)成共夫を怨(うらむ)べからず天より 我(われ) ̄ニあたへ給へる家の貧(まづしき)は我 仕合の凶(あしき)故(ゆへ)なりと思一度嫁し 【注① 「仮」で(たとい)とする例あり。「仮令(たとい)」から「令」脱落の可能性もあり】 【注② 字面は縀。旁は誤記ヵ】 【右丁】 【上段】 必(かならず)高声(こはたか)に罵(のゝしり)給ふ べからず主(あるじ)などの 聞せ給ふ所にては 猶更(なほさら)口惜(くちを[し])く候いかに みめかたち美(うつくし)き 女房(にようぼう)も腹(はら)をたて たる顔(かほ)ばせはみに くき物にて候又 よまひ言(ごと)をもきく まじきものと思ひ 給はゞ里(さと)へ返(かへ)し候へ 【下段】 ては其家を出ざるを女の道(みち) とする事 古(いにし)へ聖人(せいじん)の訓(をしへ)也 若(もし)女の道 ̄ニそむき去(さら)るゝ時は 一生の恥(はぢ)也されは婦人 ̄ニ七 去(きよ) とてあしき事七有一には 嫜(しうとしうとめ)に 順(したがは)さる女は去(さる)べし二ッには子(こ)なき 女は去べし是(これ)妻(つま)を娶(めどる)は子孫(しそん) 【左丁】 【上段】 男も女も余(あま)り短(たん) 気(き)に候へば難義(なんぎ)も 出来(でき)召仕(めしつかは)れ候者も 退屈(たいくつ)あればよそへ 【下段】 相続(そうぞく)の為(ため)なれは也 然(しかれ)《割書:共》婦人の 心正(こころたゞ)しく行義(きやうき)能(よく)して妬(ねたむ)心なく は去ず《割書:共》同姓(どうせい)の子を養(やしなふ)へし或(あるい) は妾(てかけ) ̄ニ子あらは妻 ̄ニ子なく《割書:共》去 ̄ニ 及ず三には淫乱(いんらん)なれは去四には 悋気(りんき)ふかけれはさる五 ̄ニ癩病(らいびやう)な とのあしき疾(やまひ)有はさる六 ̄ニ多言(くちまめ) ̄ニ而 【右丁】 【上段】 悪(あし)きさまに名を 立(たて)後(のち)に逃(にげ)うせる ものにて候 或(ある)哥(うた)に みよしのゝなつみの 川の河淀(かはよど)に鴨(かも)ぞ 鳴(なく)なる山蔭(やまかけ)にして 芳野(よしの)川の流(ながれ)は早く 候ゆへ鴨は水の上に 住(すむ)ものなれど余(あま)り 早(はや)き所には住ずして 少しよどむ處(ところ)に遊(あそ) 【下段】 慎なく物いひ過(すごす)は親類《割書:共|》中あ しく成て家 乱(みだる)る物なれば去べし 七には物を盗(ぬすむ)心あるは去此七去は 皆(みな)聖人の教也女は一度 嫁(よめいり)して 其家を出されてはたとひ二度 富貴(ふうき)なる夫にかす《割書:共|》女の道(みち)に 違(たがい)て大なる恥(はぢ)也 【左丁】 【上段】 ぶなり況(いはん)や人間 のはげしき所には ながらへがたく候 第四(だいし)夫婦(ふうふ)の間(あいだ)高(たかき)も 賎(いやしき)も睦(むつ)まじく候 半【はん(はむ)と読ませる】こそ余所(よそ)の聞え も心にくう侍(はべ)れ縦(たとひ) 千世(ちよ)を送(おく)り給ふ《割書:共|》 聊(いさゝか)も主(あるじ)に見おと されぬやうに朝(あさ)夕 嗜(たしなみ)候はゞいよ〳〵 【下段】 一女子は我家 ̄ニ有ては我 父(ふ)母に 専(もつはら)孝を行ふ理(ことはり)也され《割書:共|》夫の 家 ̄ニ行(ゆき)ては専嫜を我親よりも重(をもん)じ て厚(あつく) 愛(いつくし)み敬(うやまい)孝行を尽(つくす)べし 親の方を重し舅(しうと)の方を軽(かろん) ずる事なかれ嫜の方の朝夕(あさゆふ) の見舞(みまい)をかくべからす嫜の方 【右丁】 【上段】 千秋万歳(せんしうばんぜい)を保(たも)ち 給ふべく候扨又 無(む) 念(ねん)の事をもさの み思ふべからず唯(たゞ)浮(うき) 世(よ)の有さまをつく 〴〵見聞給ひ心 をものどやかに過(すご)し 給はゞ行末(ゆくすへ)善(よき)事 のみにて有まいらせ候 つらけれど恨(うら)みんと はた思ほえずなほ 【下段】 の勤(つとむ)べき業を怠るへからずもし 嫜の令(をふせ)あらは慎行て背(そむく)べか らず万(よろづ)の事嫜 ̄ニ問(とふ)て其教に 任([ま]かす)べし嫜若 我(われ)を憎(にくみ)そしり給 《割書:共|》怒(いかり)恨(うらむる)る事なかれ孝(こう)を尽(つくし)て 誠(まこと)を以つかゆれば後は必(かならず)中(なか)能成(よくなる)者也 一婦人は別(べつ) ̄ニ主君(しゆくん)なし夫を主人と 【左丁】 【上段】 行末(ゆくすへ)を頼計(たのむばかり)ぞ 人の妻(め)の余(あま)りねた みの終(おは)りこそ二人の 恥(はぢ)をあらはしにけれ 【下段】 思ひ敬(うやまひ)慎て事(つかふ)べし軽(かろ)しめ侮(あなどる) べからず惣(そうじ)《割書:而(て)》は婦人の道は人 ̄ニ従(したがふ)に 有夫 ̄ニ対(たい[す])るに顔色(がんしよく)言葉遣(ことばつかひ)い【語尾の重複】 いんぎんに謙(へりくだり)和順(わじゆん)成べし不忍(いぶり) ̄ニ而(して) 不(ふ)順なるべからず奢(をごり)て無 礼(れい)成 べからず是女子 第(だい)一の勤(つとめ)也夫 の教訓(きやうくん)有は其 仰(をふせ)を叛(そむく)べからず 【右丁】 【上段】 第五(だいご)旅路(たひぢ)の帰り 或(あるひ)は酒宴(しゆえん)など有 て草臥(くたびれ)の時は女なが らも夢(ゆめ)も結(むす)ばず分(わき) て用心し給ふへし然(さり) 迚(とて)余(あま)りこと〴〵敷やう なるも如何(いかゞ)候はんや 第六(だいろく)常々(つね〴〵)我(われ)に親(した) しき人の少し物遠(ものとを) の様(やう)に候とて此方も 等閑(なほざり)に候半事有 【下段】 疑(うたがは)しき事は夫 ̄ニ問(とふ)て其 下知(げじ) ̄ニ 随(したがふ)べし夫 問(とふ)事有は正(たゞしく)答(ことふ)べし 其 返答(へんとう)疎成(をろそかな)るは無礼(ぶれい)也夫若 腹立 怒(いかる)時は恐(おそれ)て順(したがふ)べし怒あ らそひて其心に逆(さかふ)へからす女 は夫を以天とす返々(かへす〴〵)にも夫に 逆(さかい)て天のばちをうくべからず 【左丁】 【上段】 間敷(まじき)ことにて候 つらしとて我(われ)さへ 心( こゝろ)忘(わす)れずば然(さり)とて 中(なか)の絶(たえ)やはつべき とは奇特成(きどくなる)詠哥(よみうた)と おぼえ候殊更 睦(むつま)じ き人のよまひごと異(い) 見(けん)など候 半(はん)には いかにも念頃(ねんごろ)に聞(きゝ) 給ひ善事(よきこと)を実(げに)もと 思ひ悪(あし)き事をば 【下段】 一 兄公(こしうと)女公(こしうとめ)は夫の兄弟(けうだい)なれは敬(うやもふ) べし夫の親類(しんるい)に謗(そしら)れ憎(にくまる)れは 嫜(しうと〳〵め)の心 ̄ニそむきて我身(わがみ)の為(ため)にも 宜(よろし)からず睦(むつまじく)すれは嫜の心 ̄ニも協(かなふ) 又 嫂(あによめ)を親(したしみ)睦すへし殊更(ことさら)夫の 兄(あに)あによめは厚(あつく)敬(うやもふ)へしわがあ にあねと同(をな)じくすべし 【右丁】 【上段】 打捨給(うちすてたま)ふべく候 仮(かり) にも気随(きずい)の色(いろ)をみ せ給ふべからす 第七人中にていか にも心をはえ〴〵 敷(しく)有(ある)べく候 然(さり)とて 余(あま)り口をきゝ高笑(たかわらひ) など見苦敷(みぐるしく)候 唯(たゞ) 男も女も物(もの)いひ過(すご) し候事悪く候口は是(これ) 科(とか)の門(もん)舌(した)は是 禍(わざはひ)の 【下段】 一 嫉妬(しつと)の心 努(ゆめ)〳〵発(をこす)へからず男(をとこ) 淫乱(いんらん)ならは諫(いさむ)へし怒怨(いかりうらむ)へからず 妬(ねたみ)甚(はなはだし)けれは其けしき言(ことば)も恐敷(をそろしく) 冷(すさましく)して却(かへつ)而夫 ̄ニ疎(うとま)れみかぎらるゝ 物也 若(もし)夫ふ義(ぎ)過(あやまち)有は我 色(いろ)を 和(やわ)らげ声(こへ)を和(やわらか) ̄ニして諫へし諫を 聞(きか)ずして怒らは先 暫(しばらく)止(やめ)て後(のち) ̄ニ夫 【右丁欄外左下】 八 【左丁】 【上段】 根(ね)と申事 実(づゝに)もと 思ひまいらせ候 郭公(ほとゝぎす)人も言ばの 多(おほ)かるは品すくな しと一 声(こへ)に鳴(なく) 【下段】 の心 和(やわら)きたる時又諫へし必 けしきをあらくしこへをい らゝげて夫 ̄ニ逆(さかひ)そむく事なかれ 一 言語(ことば)を慎(つゝしみ)て多(をふく)すべからず かりにも人を誹(そしり)偽(いつわり)を言べからず 人の謗(そしり)を聞事有は心 ̄ニ修(おさめて)人 に伝語(つたへかたる)へからず訕(そしり)を言伝(いゝつたふる)よりも 【右丁】 【上段】 第八(だいはち)謡(うたひ)舞(まひ)平家(へいけ) 其外(そのほか)みる事(こと)【叓は事の古字】きく 事ほんそうのざ敷(しき) □【にヵ】て心に染(そま)ず共 うらやかに有たく候 又 面白(おもしろ)きとてそゞ ろき廻(まは)るも結句(けつく)み ぐるしき物にて候 第九人の言(こと)ばの 善悪(よしあし)又は歌 連哥(れんが) などおかしげに読(よみ) 【下段】 親類《割書:共|》間(なか)あしく成 家内(いへのうち)治(おさまら)ず 一女は常 ̄ニ心 遣(づかひ)して其 身(み)を堅(かたく) 謹(つつしみ)守へし朝(あした)は早起(はやくをき)夜(よる)は遅寝(をそくいね) 昼(ひる)は寝ずして家内の事に心 を用(もちひ)織縫績(をりぬいうみ)つむぎ怠(をこたる)へ からす又 茶(ちや)酒(さけ)なと多呑べか らず歌舞妓(かぶき)小 哥(うた)浄(しやう)るりな 【左丁】 【上段】 なしたるを女(をんな)の上(うへ) にて心におかしく候 共(とも)さもなき事(こと)いひ 出(いだ)し譏(そしり)笑(わらふ)ことある 間敷(まじく)候 只(たゞ)何事(なにごと)も 色(いろ)ふかきさまこそ おくゆかしけれ 第(だい)十心にかけて 習(なら)ふべきは筆(ふで)の道(みち) にて候いかなるやんごと なき御 前(まへ)或(あるひ)は人中 【下段】 との淫(たはむ)れたる事を見(み)聞(きく)へからす 宮寺(みやてら)など都(すべ)て人の多集(おほくあつま)る 所へ四十才より内は余(あまり)に行(ゆく)へからず 一 巫(みこ)覡(かんなぎ)なとの事 ̄ニ迷(まよひ)て神仏(かみほとけ) を汚(けがし)近付 猥(みだり) ̄ニ祈(いのる)へからす只(たゝ)人 間のつとめをよくする時はい のらすとても神仏は守(まもり)給べし 【右丁】 【上段】 にてもおめずして【注①】 しとやかに書(かき)なし たるはいと気高(けたか)く 見(み)ゆるもの也 上(かみ)にも 下(しも)つかたにも此道 拙(つたな) きは不 自由(じゆう)なるのみ か其身(そのみ)も賤(いやし)くしな くだるものにて凡 我(われ)人(ひと)の用(よう)に立(たち)なん 物(もの)は第一 鳥(とり)の跡(あと)也 と或(ある)文(ふみ)にも見(み)え 【下段】 一人の妻(つま)と成ては其家を よく保(たもつ)へし妻の行あしく放(ほう) らつなれは家を破(やぶり)万事(ばんじ)つゞ まやか【注②】にして費(ついへ)を作(なす)へからず衣(い) 服(ふく)飲食(のみくい)なとも身の分限(ふんげん)に 随用ておごる事なかれ 一若時は夫の親類 友達(ともだち)下 【左丁】 【上段】 候まゝ常(つね)〴〵御稽(ごけい) 古(こ)有(ある)こと又 大和(やまと) 歌(うた)は男女(をとこをんな)の中(なか)をも やはらげたけき 武士(ものゝふ)のこゝろをも なぐさむると有(あれ)は 日頃(ひごろ)心がけ詠給(よみたま)ふ べく候 唯(たゞ)男も女も 義(ぎ)につけて身持(みもち) 心づかひ肝要(かんよう)にて 候 能(よき)上(うへ)にもよき 【下段】 部(べ)等の若(わかき)男(をとこ) ̄ニは打とけたる物 語(がたり)を付へからず男女の隔(へだて)を固(かたく) すへしいかなる用有《割書:共|》若男 ̄ニ 文(ふみ)などかよはすべからず 一 身(み)の荘(かざり)も衣裳(いしやう)の染色(そめいろ)模(も) 様(やう)なとも目に立(たゝ)ぬやう ̄ニすべ し身と衣服(いふく)とのよごれず 【注① 「おめず」は「怖む(おむ)」(きおくれする、おじけづく)の否定形か】 【注② 「す」とされたところは、「ま」には見えにくいですが。文意から「倹(つづま)やか」と思われます。「倹約するさま。控え目で慎み深いさま。」の意です。】 【右丁】 【上段】 やうにと願(ねが)ひ候に より足曳(あしびき)のやま 鳥の尾(を)のなか〴〵 敷(しく)書(かき)つらね     まいらせそうろう   めてたくか     しく 嫁文章終 【下段】 してきよげ成はよし勝(すぐれ)て清 を尽(つくし)人の目 ̄ニ立ほど成は悪(あし)只(たゞ) わがみに応(おふ)したるをもちゆへし 一 我(わが)郷(さと)の親(をや)の方に私(わたくし)夫の方 の親類(しんるい)を次(つぎ) ̄ニすへからず正月 節句なとにも先夫の方を勤(つとむ) へし夫の許(ゆるさ)さる ̄ニは何方へも行へ 【左丁】 【上段】 女用文国尽(をんなようぶんくにづくし) 御姫様(おんひめさま)此(この)たび 山城守(やましろのかみ)様 御媒(おんなかたち)にて 大和守様(やまとのかみさま)へ御縁組(こえんぐみ) 御 整(とゝの)ひ遊(あそは)し御結(こゆひ) 納(なふ)の御祝儀(こしうぎ)進(しん)せられ 御 互(たかい)に御 目出(めで)たく 存上(そんしあけ)まいらせそうろう扨(さて)段々(たんたん) 御 道具(たうく)も揃(そろひ)まいらせそうろう 御 這子(はふこ)御箪笥(おんたんす)御厨(みつ) 子黒 棚(つくえ)は河内守(かはちのかみ)様 【下段】 からす私 ̄ニ人に贈(をくり)物すべからす 一女は我親の家をは続(つが)ず嫜(しうと〳〵め) の跡(あと)をつぐゆへ ̄ニわが親よりも嫜 を大切 ̄ニ思ひ孝行を為へし 嫁(か)して後(のち)はわが親の家行事 も希なるへしまして他の家へは 大かたは使を遣して音信(いんしん)を為 【右丁】 【上段】 御 貝桶(かいおけ)は和泉(いつみの)守さま 御 長刀(なきなた)幷(ならひに)御 挟箱(はさみはこ)は 摂津守(せつつのかみ)様 御(おん)奥(おく)さま より進(しん)ぜられ候 伊(い) 賀守(がのかみ)様より伊勢(いせ) 物語(ものがたり)の御 文箱([ふは]こ)志摩(しまの) 守(かみ)様よりは油単(ゆたん)と して純子(とんす)【注】二十 巻(まき) 雨油単(あまゆたん)として尾張(をはり) 名古屋絹(なこやきぬ)百端(ひやくたん)参(まひ) り候 御紋縫(こもんぬひ)ふせは御 【下段】 へし又我おやさとのよき事 をほこりてほめかたるへからす 一 下部 数多(あまた)召(めし)仕《割書:共》万事自 辛労(しんろう)を忍(しのひ)て勤(つとむる)事女の作法(さほう) なり嫜(しうと〳〵め)の為 ̄ニ衣(きぬ)をぬい食(しよく)を調(とゝのへ) 夫に仕て衣(きぬ)を畳(たゝみ)席(しきもの)を掃子 を育(そだて)汚(けかれ)を洗(あらい)常(つね)に家の内に 【左丁】 【上段】 出入(ていり)の参河(みかは)屋へ仰 付(つけ)られ候 遠江(とをとみの)守さま 御 奥(おく)さまより色(いろ) 縮緬(ちりめん)五十 巻(まき)駿河(するかの) 守(かみ)様より蚊帳(かちやう) 【下段】 居 ̄て みたりに外へいつへからす 一下女を遣に心を用ゆべし 言がひなき下 臈(らう)は習し悪 てちゑなく心かたましくもの言 事さかなし夫の事嫜こしうとめ 笑事なとわか心 ̄ニ合ぬ事有は 猥(みたり) ̄ニ謗(そしり)聞(きか)せてそれを却而(かへつて)君(きみ)の 【注 どんすは普通「緞子」「鈍子」と表記されますので、この字は扁か旁かどちらかを書き間違えたものと思われます。箪笥の数詞は巻とは言いませんしね。】 【右丁】 【上段】 進せられ候 昨日(きのふ) 呉服所(こふくしよ)伊豆蔵(いづくら) より納(おさめ)まいらせそうろう甲斐(かひの) 守様より毛氈(もうせん)五 十 枚(まい)相模(さかみの)守さまより 武蔵野(むさしの)ゝ蒔(まき)絵の 御文庫(おんぶんこ)御 硯箱(すゞりはこ) 御難産除(こなんさんよけ)として つかひの海馬(かいば)子安(こやす) 貝(かひ)態々(わさ〳〵)安房(あは)の国(くに) より御取 寄(よせ)進(しん)せ 【下段】 為(ため)と思へり婦人 若(もし)ちへなくし て是を信(しん)しては必(かならす)恨(うらみ)出来(てき)安 元(もと)より夫の家は皆(みな)他人なれは恨 叛(そむ)き忍愛(にんあい)を捨(すてる)事安 構(かまへて)下 女の詞(ことは)を信(しんじ)て大切なる嫜 姨(こしうと)の親(をや)をうすくすべからず もし下女 勝(すくれ)て口かましくて 【左丁】 【上段】 られ候 上総(かづさ)の久留(くる) 里とかや申所(まうすところ)より 目出(めで)たき夫婦(ふうふ)参(まい)り 三(み)つめの御 哥(か)賃(ちん) ねりまいらせそうろう筈(はづ)に 御座候 下総(しもふさの)守さま より御 在所(ざいしよ)常陸(ひたちの) 国(くに)鹿嶋(かしま)の愛敬(あいけうの)御 守(まもり)行器(ほかい)御さし樽(たる) 近江晒(あふみさらし)は美濃(みのゝ)守 さまより進ぜられ候 【下段】 あしき者ならは早く追(おい)出す へしか様(やう)の者は必(かならず)親類(しんるい)の中 をも言(いゝ)さまたげ家を乱(みだ)す 基(もとい)と成者也 恐(おそ)るへし又いや しき者を使には気(き)に合せ ること多(おふし)それを怒(いかり)のゝしり て止(やま)ざれはせわ〳〵敷(しく)腹立(はらたて) 【右丁】 【上段】 飛騨守(ひだのかみ)さまに久(ひさ)しく 勤(つとめ)申され候 躾(しつけ)がた 功者(こうしや)なる御 年寄衆(としよりしゆ) 召抱(めしかゝへ)られ候よし 信濃(しなのゝ)守さまより上(かう) 野(つけ)絹(きぬ)三十 疋(ひき)木具(きぐ) 五十 人前(にんまへ)下野(しもつけの)守 様(さま)より陸奥国(むつのくに)松(まつ) 嶋八景(しまはつけい)の御 屏風(びやうぶ) 進(しん)ぜられ一日(ひとひ)あな たさまへ御姫(おひめ)さま 【下段】 事まして家の内しつかな らず悪(あしき)事有は折々言 教(をしへ)て 誤(あやまり)を直(なほ)すへし少(すこし)の過(あやまち)はこらへ ていかるへからす心の内 ̄ニ はあわ れみて外には行義を固(かたく)訓(をしへ) て怠(をこた)らぬ様 ̄ニ 仕ふへし与(あたへ)恵(めぐ)む へき事有は財(ざい)をおしむべか 【左丁】 【上段】 入せられ候 節(せつ) 出 羽座(はざ)を御 召(めし)御 操(あやつり)御座候 私(わたくし)とも 御 供申上(ともまうしあけ)拝見(はいけん)い たしまいらせ候 【下段】 らす但我気に入たるとて 用 ̄ニ も立ぬ者 ̄ニ みたり ̄ニ 与へからす 一 凡(およそ)婦(ふ)人の心根の悪(あしき)病(やまひ)は 和(やわ)らき順(したかは)さると怒(いかり)恨(うらむ)ると人 をそしると物 妬(ねたみ)と智(ち)恵浅き と也此五 ̄ツ の疾(やまい)は十人に七ハ は必有是婦人の男 ̄ニ 及はさる 【右丁】 【上段】 若狭(わかさ)の勾当(こうたう)も まいられ候 扨々(さて〳〵)能(よき) 御 慰(なぐさみ)にて御(ご)座候 越前綿(えちぜんわた)百把(ひやくば)加賀(かかの) 守様(かみさま)より御 到来(たうらい) 能登(のとの)守さまより 綸子(りんす)紗綾(さあや)越中(えつちうの)守 様より越後(えちご)ちゞみ 御 浴衣地(ゆかたち)御 染帷子(そめかたびら) 進(しん)ぜられ候 色(いろ)〳〵 美(うつく)しき御 模様(もやう) 【下段】 處也 自(みつから)かへりみて戒て改去へ し中にもちへの浅ゆへに五 の疾(やまひ)もおこる女は陰性(いんしやう)也陰は 夜 ̄ニ てくらしゆへに女は男 ̄ニ くら ふるに愚(をろか)にて目の前なるしか るへき事をもしらす又人のそ しるへき事をも弁(わきまへ)す我夫はか 【左丁】 【上段】 にて御座候 佐渡(さどの) 守さまより香具(かうぐ) 源氏(げんじ)御 哥(うた)かるた 是は此方(こなた)さまより御 望にて御 貰(もらひ)遊し 丹波(たんばの)守さまより丹(たん) 後嶋(ごしま)色羽二重(いろはぶたへ)但馬(たじまの) 守様より衣桁(いかう)御(ご) 膳臺(ぜんだい)御 湯桶(ゆたう)御 盥(たらい) しんぜられ候 因幡(いなばの)守様 伯耆(はうきの)守 【下段】 子の災(わさはひ)と成へき事をも知ら ず科(とか)もなき人をうらみいかり のろひ或(あるひ)は人を妬(ねたみ)にくみて 我みひとり立(たて)んと思へと人 ̄ニ 憎(にくま)れ疎(うと)まれて皆わがみの 仇(あだ)と成事を知らずいとはかな く浅(あさ)まし子をそだつれ《割書:共》 【右丁】 【上段】 さまにも入(い)らせられ とり〴〵御 咄(はなし)の上にて こなた御 在所(ざいしよ)出雲(いづもの) 国(くに)大社にて年〴〵 神々様御 集(あつま)り御 縁(えん) 結(むす)び遊し候よし 此御縁は定(さだ)めて御(ご) 贔屓(ひいき)も候はんやと 御 一笑(いつしやう)遊(あそば)し候 岩見(いはみの)守 さまより御つゞら御 長(なが) 持参り候 隠岐(をきの)守さま 【下段】 愛(あい) ̄ニ おぼれて習(ならは)はせ悪し 斯(かく)愚(おろか)なるゆへに何事も我(わが)身 をへりくだりて夫 ̄ニ したがふへし 古(いにしへ)の法に女子を産(う)めば三日 床(ゆか)の下(した) ̄ニ ふさしむるといへり 是も男は天にたとへ女は地(ち) にかたとるゆへによろつの事 【左丁】 【上段】 には獅子(しゝ)の御 香(かう)ろ 堆朱(ついしゆ)の香合(かうがう)鹿(しか)の 文鎮(ぶんちん)筆架(ひつか)硯屏(けんびやう)抔(など) のかざり物にて播磨(はりま) 守さま御小袖御 袷(あはせ)御 単(ひとへ)物抔進ぜられ候 【下段】 につきても夫を先立わが 身をのちにし我かなせる 事によき事ありとても ほこる心なく又 悪(あ)しき事 有て人に言はるゝとて もあらそはずして早くあ やまちを改(あらた)め重(かさ)ねて人 【右丁】 【上段】 御 夫婦(ふうふ)様御膳御 掛(かけ) 盤(ばん)御 重箱(ぢうはこ)御 蒸籠(せいろう)は 美作(みまさか)屋へ仰付られ 備前(びぜん)唐津焼(からつやき)御皿 御引盃御 茶(ちや)弁当(べんたう) 備中(びつちうの)守様よりの 御 贈(おくり)物なり備後(びんごの) 守さまには御たばこ ぼん御火鉢御 燭台(しよくたい) 進ぜられ候 安藝(あきの) 守さまには御 歌書(かしよ) 【下段】 にいわれさるやうに我身 を慎み亦(また)は人にあなど られても腹立いきとふる 事なくよく堪(たへ)て物を恐(をそ) れ慎むへしかくのごと くこゝろ得(へ)なば夫婦(ふうふ)の 中おのづから和らぎ行(をこない) 【左丁】 【上段】 周防(すはうの)守様より長門(ながと) 赤間関(あかまがせき)の御 硯(すゞり)定家(ていか) 卿(けう)の御 筆(ふで)歌仙(かせん)御巻 物におはしまし候 紀伊(きいの)守様より御 琴(こと)三味線(さみせん)碁盤(ごばん) 双(す[こ])六ばんにて淡路(あはぢの) 守様には花瓶(くわへい)おん だいす進ぜられ候 阿波(あはの)守様御 奥(おく)さま より犬張子(いぬはりこ)御 姿見(すがたみ) 【下段】 すゑながくつれそひ て家(いへ)の内おたやかな るへし 右之條々(みきのぜう〳〵)いとけなき ときよりよく訓(をし)ゆべし 又書つけて折(をり)々読(よ)ま しめ忘(わす)るゝ事なから 【右丁】 【上段】 讃岐(さぬきの)守様より御 廣(ひろ)ぶた御ふくさ 五十御 風呂敷(ふろしき)百 伊 豫(よの)守様より 土佐(とさ)の三幅(さんふく)對(つい)左右(さいう) 松竹中 寿老(じゆらう)人 政宗(まさむね)の御守刀進 ぜられ候御 輿(こし)御 迎(むかひ)には筑前(ちくぜんの)守さま 入(いら)せられ候よし 御 送(おく)りには筑後(ちくごの) 【下段】 しめよ今の代(よ)の人女 子に衣服(いふく)道具(どうぐ)なと おほくあたへて婚姻(こんいん) せしむよりも此条々を よく教(をしへ)ゆる事一生身を たもつ寶(たから)なるへし古(ふる) き言葉(ことば)に人よく百萬 【左丁】 【上段】 守様 豊前(ぶぜんの)守さま にて御座候御道 筋は豊後(ぶんごの)守様御 屋鋪前(やしきまへ)肥前(ひぜんの)守様 表(おもて)御門御通りにて 候よし御供中ひ らき候せつは肥後(ひごの) 守さまかつ日向(ひうが)守様 大隅(をゝすみ)守様御屋敷の 間と申す事にて 薩摩(さつまの)守様 壱岐(いきの) 【下段】 銭を出して女子を嫁せし むる事を知(しつ)て十萬銭を 出して子を訓(をしへ)る事を知らず といへり誠(まこと)なるかな女子の 親たる人此 理([り])を知らず んばあるべから壽(ず) 女大学終 【右丁】 【上段】 守様 對馬(つしまの)守さま 事は御つゞきのよし 誠(まこと)に〳〵幾(いく)久敷 萬々年御 繁昌(はんじやう) 遊し御 賑々(にぎ〳〵)敷 さまの御事千 秋萬 歳(ぜい)芽出(めで) たくぞんじ あげまいらせそうろう        かしく 国盡文章終 【左丁】 【上段】   三夕和哥(さん[せ]きのわか)    寂連法師(じやくれんほうし) さびしさは  その色とし      も  なかりけり   槙たつ山の    秋の夕ぐれ   西行法師(さいぎやうほうし) 心なき    夕   身にも   暮    哀(あは[れ])は 沢の  しられけり  秋の  鴫(しぎ)たつ   藤原定家(ふぢはらのていか) 見わたせば  花も   紅葉も    なかりけり 秋   うらの  の  とまやの  ゆふ暮 【下段】 百人一首哥のよみくせ 百人一首《割書:ひやくにんしゆと|つめてよむべし》  天智天皇《割書:てんぢと|  にこるべし》 持統天皇《割書:ちとう|  すむ也》   山邊赤人やまべとよむ  喜撰法師 ほつしとつめて 陽成院《割書:やうじやういん|りうによりやうぜい》 麻呂いつれもまろとよむ  権中納言 ごんちうとにごる 在原うちにて《割書:は|》はら也 文屋ふんやとすむべし  壬生忠岑《割書:みふとよむ|めい古【所ヵ】にはにごる》 坂上さかのへ也うへといわす 深養父ふかやふとよむ 文屋朝康 ふんやあさやす也 赤染あかそめとにこる 行尊ぎやうそんとにごる 祐子内親王家紀伊(ゆ[う]しな[い]しんのうけきい)とよむ 崇徳院すとくいんなり 天のかぐ山とにごるべし  ひとりかもねん《割書:かもを上へ[つ]|けてよむ也》【別本参照】 人にしられてくるよしも《割書:がなと|にごる》 つくはね はねすむべし 有明の月を待いて[つ]【別本参照】るとよむ 月みればちゞに物こそとよむ 人しれずこそ思ひ深しか《割書:かを|すむ》 かたみにそでをしほりつゝ《割書:ほ| すむ》 あふ事のたへてしなく《割書:■しを|上へ付て》 ゑやはいふき いふきといふへし たき川 かわとにこるべし 五ヶの秘哥(ひか)〇人丸の哥〇きせん法師〇あべの中まろ〇みぶの忠みね〇ていかの哥也 【刊記】 寛政八《割書:丙| 辰》初穐吉日 嘉永六《割書:癸| 丑》正月新板    大坂心斎橋通唐物町 書肆      河内屋太助板 【裏表紙】