此節流行の暴瀉病は其療治方種々ある趣に候へども其中素人 心得べき法を示す豫(あらかし)めこれを防くには都て身を冷すことなく 腹には木綿を巻き大酒大食を慎み其外こなれ難き食物 を一切たべ申間敷候若此症催し候はゝはやく寝床に入りて 飲食を慎み惣身をあたゝめ左に記す芳香散といふ薬を 用ゆべし是のみにして治するもの少からず且又吐瀉甚 敷惣身冷ゆる程にいたりしものはしょう焼酎壱弐合の中に 龍脳又は樟脳壱弐匁を入れあたゝめて木綿の切にひたし 腹并に手足へ静にすり込み芥子(からし)泥を心下腹并手足へ小 半時位ヅヽ度々張るべし      芳香散 《割書:上品》 桂枝《割書: 細末》  益智《割書: 同》  乾姜 《割書:同》  各等分 右調合いたし壱弐分ヅヽ時々用ゆべし      芥子泥 からし粉  うどん粉  各等分 右あつき醋(す)にて堅くねり木綿の切にのばし張り候事    但し間に合ざる時はあつき湯にて芥子粉計ねり候ても宜し        又法 あつき茶に其三分へ焼酎を和し砂糖を少し加へ用ゆべし    但し座敷を閉布木綿等に焼酎を付 頻(しき)りに惣身をこするべし      但し手足の先并腹ひえる所を温鉄または温石を布に      つゝみ湯をつかひたるごときこゝろもちになる程      こするも亦よし