【表紙・白紙】 【右丁・白紙】 【左丁・白紙】 【右丁】  金言(きんげん)童子教(どうじけう)序(じよ) 此書(このしよ)は古(いにしへ)の聖賢(せいけん)の語(ご)にて代々(よよ)人口(じんこう)に膾炙(くわいしや)せるを《割書:予(よ)》 頑愚(ぐわんぐ)なりといへども諸書(しよ〳〵)の要語(ようご)を摘(つみ)年々に拾(ひろ)い月々に 集(あつ)め且(かつ)句(く)ごとの上(うへ)に鄙言(ひごん)を以(もつ)て抄(しやう)し一書(いっしょ)となして家族(かぞく)の 幼童(ようどう)読書(どくしよ)の階梯(かいてい)にと与(あた)へけるを友(とも)なりし人の梓(し)に鏤(ちりば)め 世(よ)の幼童(ようどう)の便(たより)にもせよといへるにいなみがたく金言(きんげん)童子(どうじ) 教(けう)の名(な)を蒙(かふむ)らしめ書林(しよりん)に属(ぞく)しぬ古(いにしへ)より諸家(しょか)の著述(ちよじゆつ)多(おほ)し といへども要句(やうく)すくなし初学(しよがく)の幼童(ようどう)此書を得(ゑ)て聖賢(せいけん)を遠(とを)しと せず即(すなはち)今(いま)教(おしへ)を承(うけたまは)ると思ひ心腑(しんふ)に入(いれ)てよまば益(えき)を得(う)る事 多(おほ)からん尤(もっとも)一 句(く)も私意(しい)よりいでたるにあらざれば愚編(ぐへん)也とて あえていやしんずる事なかれ  于時正徳六年丙申春正月日 《割書:此書に類して|童観対句抄と云書出来》勝田祐義編 【黒印:祐義】 【右丁下段】 せい だして おぼへま  せう   ぞ 【左丁】 《割書:諸書要語|童蒙須知》金言童子教《割書:竝抄|》 【上段】 良薬はにがしともよく用ひぬれば やまひを治する徳ありにがきをきらひ もちひざれば良薬も益なし 【下段】 《振り仮名:良薬雖_レ苦_レ口|りょうやくはくちににがしといへとも》 《振り仮名:用_レ病必在_レ利|やまひにもちひてかならずりあり》 【上段】 人よりいさむる所の忠言はかならず耳に さかふものなれ共よく用ひて身に おこなひぬれば其身たゞしく成て徳也 【下段】 《振り仮名:忠言雖_レ逆_レ耳|ちうげんはみゝにさかふといへども》 《振り仮名:行_レ身必在_レ徳|みにおこなひてかならずとくあり》 【上段】 くすりを用てやまひをぢする事をば 誰もしるといへども学文をすればよく 身のおさまるということをしる人なし 【下段】 《振り仮名:雖_レ知_二薬理_一_レ病|くすりのやまひをおさむるをしるといへども》 《振り仮名:不_レ知_二学理_一_レ身|がくのみをおさむるをしらず》 【上段】 せきへきは大きなる玉也寸 ̄ン ゐんは少しの 間を云玉はまことの宝にあらず寸陰 を得たるをよろこびきおふて学すべしと也 【下段】 《振り仮名:尺璧非_二於宝_一|せきへきはたからにあらず》 《振り仮名:寸陰可_二是競_一|すんいんこれきそふべし》 【上段】 よく書をよみ智いたりぬれば大けん 人ともなる也故にまんばいの利ありと也 書をよめば書はよく人に君子の智を添ル也 【下段】 《振り仮名:読_レ書万倍利|しよをよめばまんばいのりあり》 《振り仮名:書添_二君子智_一|しよはくんしのちをそふ》 【上段】 金銀あるものは書楼を立て書をこめ 置べし金銀のなきものは書を入 ̄レ 置 ̄ク 櫃(ヒツ)などを拵(コシラヘ)書を入 ̄レ おき常に見 ̄ル へし 【下段】 《振り仮名:有則起_二書楼_一|あらばすなはちしよろうをたてよ》 《振り仮名:無即致_二書櫃_一|なくはすなはちしよきをいたせ》 【上段】 しづかなるまどの前に居ていにしへより つたはれる書を見るべし又灯のもと にしてはよみたる書の義理を案すべし 【下段】 《振り仮名:窓前看_二古書_一|そうぜんにこしよをみて》 《振り仮名:灯火尋_二書義_一|とうかにしよぎをたづねよ》 【右丁】 【上段】 まづしきもの書をよみぬれば其家 よく治る故富と也とめるもの書をよ めば智いたりたつとくなると也 【下段】 《振り仮名:貧者因_レ書富|まづしきものはしよによつてとみ》 《振り仮名:富者因_レ書貴|とめるものはしよによつてたつとし》 【上段】 愚者は書をもとめ得て是をよみ かしこきものと成也賢なる人は書を まなぶによつて智をまし所領を得る也 【下段】 《振り仮名:愚者得_レ書賢|ぐしやはしよをゑてけんに》 《振り仮名:賢者因_レ書利|けんなるものはしよによつてりあり》 【上段】 書をよみて大智と成人に用られ さかへたる人世に多し書をよくよみ たる故に貧に成たるといふ人はなし 【下段】 《振り仮名:見_二読_レ書栄者_一|しよをよみてさかへるものをみたり》 《振り仮名:不_レ見_二読_レ書墜_一|しよをよみておちぶるゝをみず》 【上段】 古人の君子といわれ名のたかきは 学文の徳によりて也学文は益なし と云てせざる人は一生愚者にて果(ハツ) ̄ル也 【下段】 《振り仮名:学者為_二君子_一|まなぶものはくんしとなり》 《振り仮名:不_レ学為小人_一|まなばざれはしやうじんとなる》 【上段】 能つとむれば何事も成就せずと いふ事なし故に勤 ̄ル所を宝とみる也 万をつゝしめば身に災(ワザハイ)の成 ̄ル事なし 【下段】 《振り仮名:勤為_二無_レ価宝_一|つとむるはあたいなきのたからたり》 《振り仮名:慎是護_レ身本|つゝしむはこれみをまもるもと》 【上段】 学文をばせずして智をねがふ事は たとへば魚をねがひながらあみを拵らへ ざるかごとし其本をつとめざるは愚也 【下段】 《振り仮名:不_レ学而求_レ智|まなばずしてちをもとむるは》 《振り仮名:猶_二願_レ魚無_一_レ網|なをうをゝねがふにあみなきかことし》 【上段】 ふちにのぞみ居て魚をねがはんより たちかへりてあみをつくるべし網 さへあればうおをとる事やすし 【下段】 《振り仮名:臨_レ淵【注】而羨_レ魚|ふちにのぞんでうをゝねがはんより》 《振り仮名:不_レ如_二退結_一_レ網|しりぞいてあみをむすはんにはしかじ》 【上段】 書をよむこと度〳〵くりかへしよま ざれは其理心に熟(ジユク)せざる也 菜(ナ)大根(ダイコン) の類もこまかにかまざれは其味しれざる也 【下段】 《振り仮名:読_レ書須_二熟読_一|しよをよむにはすへからくじゆくどくすべし》 《振り仮名:菜根須_二細嚼_一|さいこんはすべからくさいしやくすへし》 【注 囦は淵の古字】 【左丁】 【上段】 子に文道を教へざれば其子愚なり 是則父のあやまち也父はをしゆれ共 其子不情にして学のならぬは子の罪也 【下段】 《振り仮名:子不_レ教父過|こにをしへざるはちゝのあやまち也》 《振り仮名:学不_レ成子罪|がくのならざるはこのつみ》 【上段】 世間に学文する人は多し是則牛 の毛のおゝきかごとしよく学ひて学 文成就する人はきりんの角の稀(マレナル)かことし 【下段】 《振り仮名:学如_二牛毛_一也|まなぶものはうしのけのごとし》 《振り仮名:成猶_二麟角_一也|なるものはなをりんのつのゝことし》 【上段】 青き色は藍より出れともあいよりも 青きなり氷は水より出れども水より もさむきなり 【下段】 《振り仮名:青出_レ藍青【レ点脱】藍|あをきはあいよりいでゝあいよりもあをし》 《振り仮名:氷出_レ水寒_レ水|こほりはみつよりいでゝみつよりさむし》 【上段】 よく学文をせざれば広く才能を しる事なし心を静にしてよく学ば ざればその学成就する事なし 【下段】 《振り仮名:非_レ学無_レ広_レ才|がくにあらざれはさいをひろむることなし》 《振り仮名:非_レ静無_レ成_レ学|しづかなるにあらざれはがくになることなし》 【上段】 人の吾をしらざるをなげく事なかれ 吾が学智さへ至れば必人しりて貴ふ ゆへ学の至らざるを患ひて情を入へし 【下段】 《振り仮名:不_レ患_二 人不_一_レ知|ひとのしらざるをうれゑざれ》 《振り仮名:惟患_二学不_一_レ至|たゞがくのいたらざるをうれへよ》 【上段】 何ほど学ぶといへ共あく事のなきは己 に本より智あるゆへ也人に教るに退屈 なく教るは己に慈悲しんあるゆへ也 【下段】 《振り仮名:学不_レ厭智也|まなんでいとはざるはちなり》 《振り仮名:教不_レ倦仁也|をしへてうまざるはじんなり》 【上段】 君につかへて間なる時はよく学文を すべし又よく学ひて間ならは出て 君につかふべしとなり 【下段】 《振り仮名:仕而優則学|つかへてゆたかなればすなはちまなぶへし》 《振り仮名:学而優則仕|まなんでゆたかなるときはすなはちつかへ》 【上段】 学文の道は別の事なし只己が心の 散乱したるを取をさめて本心を 正しくするの外はなしとの事也 【下段】 《振り仮名:学文道無_レ他|がくもんのみちたなし》 《振り仮名:求_二放心_一而已|ほうしんをもとむるのみ》 【右丁】 【上段】 冥々とはくらき□いふ也人生れて後 についに学文をせざれは其心くらく してよる行が如く万にあやまちあり 【下段】 《振り仮名:人生而不_レ学|ひとうまれてまなばざれは》 《振り仮名:冥々如_二夜行_一|めい〳〵としてよるゆくかごとし》 【上段】 金玉をは愚者は貴むといへ共是は誠の たからにあらす善人は諸人をよく治て 安くするゆへに是誠に国の宝なり 【下段】 《振り仮名:金玉非_二実宝_一|きんぎよくはじつのたからにあらず》 《振り仮名:以_二善人_一為_レ宝|ぜんにんをもつてたからとす》 【上段】 その心くらくして理にまどふ事ありても 師にしたがひて問さればそのまどひつい に解る事なしゆへによく師にとふべし 【下段】 《振り仮名:惑而不_レ従_レ師|まどひてしにしたがわざれば》 《振り仮名:其惑卒不_レ解|そのまどひついにとけず》 【上段】 土つもりては山となり学文の功をつみ ては聖人となる也聖人にさへ安くなるを 以それより下の賢人には猶成と知るべし 【下段】 《振り仮名:土積則為_レ山|つちつんではすなはちやまとなる》 《振り仮名:学積則成_レ聖|がくつみてはすなはちせいとなる》 【上段】 婦に教るにははしめて来れる時によく 教ゆべし子に教るには狭き門によく 教ゆへし後は教をまもらぬもの也 【下段】 《振り仮名:教【レ点脱】婦便初来|ふにをしゆるはすなはちしよらい》 《振り仮名:教_レ子便嬰孩|こにをしゆ□はすなはちゑいがい》 【上段】 子をよくあわれむ人は杖をもつて打 事多し子に美食ばかりあたふるは子の ためにあた也是則子をにくむがことし 【下段】 《振り仮名:憐_レ子多与_レ杖|こをあわれまばおゝくつえをあたへよ》 《振り仮名:憎_レ子多与_レ食|こをにくまばおゝくしよくをあたへよ》 【上段】 三年の内一人学ばんより三年の内 よく師をたつねて一日学ぶべしと也三 年の独学よりもはかゆくとの事也 【下段】 《振り仮名:三歳与_二勤学_一|さんねんつとめまなばんよりは》 《振り仮名:三歳可_レ択_レ師|さんねんしをゑらふべし》 【上段】 千日の内一人学びてもしれぬ事はしれ ぬ也一日明かなる師にあひぬれはおゝ くの事を問てしるなり 【下段】 《振り仮名:千日与_二勤学_一|せんにちつとめまなばんよりは》 《振り仮名:一日貴_二明師_一|いちにちのめいしをたつとめ》 【左丁】 【上段】 独まなびて学の友なき時はひとり 立にしてよき理を聞事すくなし ゆへにその智あがりがたし 【下段】 《振り仮名:独学無_レ友則|ひとりまなんでともなきときは》 《振り仮名:孤陋而寡_レ聞|ころうにしてきく[こ]とすくなし》 【上段】 目にて人の非を見出さんとする人は 人を誹(ソシル)者也口にて人の短智(タンチ)短才なる 事のみを語るはわざわひの本也 【下段】 《振り仮名:目莫_レ視_二他非_一|めにはたのひをみることなかれ》 《振り仮名:口莫_レ談_二他短_一|くちにはたのたんをかたることなかれ》 【上段】 耳にて悪き声を聞ぬれば己が志を乱す 也心に貪欲(トンヨク)をさかんにし又は嗔恚(シンイ)を 起しぬれは身に災(ワサワイ)をうくるなり 【下段】 《振り仮名:耳莫_レ聞_二悪声_一|みゝにあくせいをきくことなかれ》 《振り仮名:心莫_レ恣_二貪嗔_一|こゝろにとんじんをほしいまゝにすることなかれ》 【上段】 身はあしき友にしたがはざれは悪事を する事なし口に益(ヱキ)なき事をいわざれ ば己が徳行も正しくなる也 【下段】 《振り仮名:身莫_レ随_二悪伴_一|みはあくはんにしたがふことなかれ》 《振り仮名:無益言莫_レ出|むやくのことばをいだすことなかれ》 【上段】 益なき事をせざる人は必善をつと むる者也義を先として行ひ利 欲(ヨク) の事を次とするは誠の道なり 【下段】 《振り仮名:無益事莫_レ為|むやくのことをすることなかれ》 《振り仮名:莫_二後_レ義先_一_レ利|ぎをのちにしりをさきんずる事なかれ》 【上段】 正(タヽ)しからぬ君に事(ツカ)へれば吾も心なら ず悪行をするもの也正しからぬ民を つかへばその君も悪名を取事おゝし 【下段】 《振り仮名:非_二其君_一莫_レ事|そのきみにあらずんばつかふまつることなかれ》 《振り仮名:非_二其民_一莫_レ使|そのたみにあらずんばつかふことなかれ》 【上段】 親は天地の徳を具(ソナ)へたり故に愚也とも 子は恐れ従(シタカ)ふべし賎しきものにても 夫にするからは妻はしたがふへし 【下段】 《振り仮名:親愚而子恐|おやはぐにしてもこはおそれよ》 《振り仮名:夫賎而妻随|おつとはいやしくともつまはしたがへ》 【上段】 一字の師のためには舌をぬくべし況や 数(ス)年の師をや又一日の主君のためには 命を捨る事あり□□退(シリノ)く事なかれ 【下段】 《振り仮名:一字師抜_レ舌|いちじのしにはしたをぬけ》 《振り仮名:一日君捨_レ命|いちにちのきみにはいのちをすて□》  ̄オクリガナ上段】 井の内の蛙(カイル)は陋(セバ)き所にばかり居るゆへ大 海の事をかたれば用ひざる也子に詐(イツハリ)を かたれば子も必いつわりものになる也 【下段】 《振り仮名:井蛙莫_レ語_レ海|せいあにはうみをかたることなかれ》 《振り仮名:子莫_レ語_二誑語_一|こにはきやうごをかたることなかれ》 【上段】 君は悪人にして君の道にそむく共臣は 是を恨(うら)みず臣たる道をつくすべしと 也君があしきとてすつる事なかれ 【下段】 《振り仮名:君雖_レ背_二君道_一|きみはきみのみちにそむくといへども》 《振り仮名:臣莫_レ背_二臣道_一|しんはしんのみちにそむくことなかれ》 【上段】 父は悪人にして父の道に背(ソム)き子をよく あわれまず共子は子たる道にそむかず よく孝をつくすべしとなり 【下段】 《振り仮名:父雖_レ背_二父道_一|ちゝはちゝのみちにそむくといへども》 《振り仮名:子莫_レ背_二子道_一|こはこのみちにそむくことなかれ》 【上段】 理の正(タヽ)しき父は悪き子をは捨てよき 子のみ愛す也心の明かなる君は佞(ネイ)臣 をば捨て正しき臣下のみを用る也 【下段】 《振り仮名:慈父弃_二悪子_一|じふはあくしをすて》 《振り仮名:明君捨_二佞臣_一|めいくんはねいしんをすつ》 【上段】 敖を盛んにすれば後は邪なる事をする もの也 欲(ヨク)を心のまゝにすれば大悪をも企(クワタツ) るもの也故に賢者はふかくいましむる也 【下段】 《振り仮名:敖必不_レ可長|おごりはかならずちやうずべからず》 《振り仮名:欲必不_レ可_レ縦|よくはかなら□ほしいまゝにすへからす》 【上段】 己に智分もなくして大きなる事に志すは あやまちの本也 楽(タノシ)みは至極になれは必 かなしみにかへるもの也少し内にすべし 【下段】 《振り仮名:志必不_レ可_レ満|こゝろざしはかならずみつべからず》 《振り仮名:楽必不_レ可_レ極|たのしみはかならずきわむべからず》 【上段】 己がなる所のわざを以人のならぬをいや しみかすむる事なかれと也一 能(ノウ)はまさり ても他の事に劣(ヲトル)事もあるべし 【下段】 《振り仮名:以_二己於所能_一|おのれがしよのふをもつて》 《振り仮名:莫_レ責_二 人不能_一|ひとのふのふをせむることなかれ》 【上段】 己が人にまされる事を以人のをとれるを 掠(カスメ)て手柄(テカラ)とする事なかれと也人のおと れるをよくあわれむこそ道也 【下段】 《振り仮名:以_二己於所長_一|おのれがしよちやうをもつて》 《振り仮名:莫_レ責_二 人所短_一|ひとのしよたんをせむることなかれ》 【左丁】 【上段】 割の正しからぬものをくふべからず正し からぬ座に居る事なかれと也此をしへ を以万の正しからぬを嫌うふべし 【下段】 《振り仮名:割不_レ正不_レ食|きりめたゞしからずはくはざれ》 《振り仮名:席不_レ正不_レ坐|せきたゞしからずはおらざれ》 【上段】 魚の肉のやぶれたるは身のどく也 又何にても色のあしく変じたる物 みな毒也必くふことなかれと也 【下段】 《振り仮名:魚肉敗不_レ食|ぎよにくのやぶれたるをくらはざれ》 《振り仮名:色悪変不_レ食|いろのあしくへんじたるをくはざれ》 【上段】 にほひあしく成たる物又はめづら敷 時ならぬもの又はいまだじゆくせ ざるものくふべからずと也 【下段】 《振り仮名:臭悪物不_レ食|かのあしきものをくらはざれ》 《振り仮名:不_レ時物不_レ食|ときならざるものをくらはざれ》 【上段】 前によく教をは不_レ立してあやまち したる時に殺事なかれ又法度をはゆ るく立て過をしたる時密くせざれ 【下段】 《振り仮名:不_レ教而莫_レ殺|をしへずしてころすことなかれ》 《振り仮名:莫_二慢_レ令致_一_レ期|れいをゆるくしてごにきはむる事なかれ》 【上段】 己をは貴くして人を見下す事なかれ 己を大智なりとして人を小智なりと おもふべからずと也 【下段】 《振り仮名:勿_二貴_レ己賎_一_レ 人|おのれをたつとくしてひとをいやしんずる事なかれ》 《振り仮名:勿_二自大他小_一|みつからだいな□□してたをしやうなりとすることなかれ》 【上段】 小事を第一につとめて大なる事を失 ふ事なかれ小利ある事を第一につ とむれは大利を得る事なし 【下段】 《振り仮名:専_レ小莫_レ失_レ大|しやうをもつはらとしてだいをうしなふ事なかれ》 《振り仮名:小利大利残|しやうりはたいりをそこなふ》 【上段】 人道は政をとくして人を治るを第一と する也地道はうゆる事をすみやかに して民をやしなふを第一とす 【下段】 《振り仮名:人道者敏_レ政|じんたうはまつりことをとくせよ》 《振り仮名:地道者敏_レ樹|ちだうはうゆることをとくせよ》 【上段】 宝を多く求れは必災起る也是はた からにて災をかふがごとしおもてをかざれ ば内つかれて□を得たるがごとし 【下段】 《振り仮名:不_二懐_レ宝買_一_レ害|たからをいだいてかいをかわざれ》 《振り仮名:不_二錺_レ表招_一_レ累|をもてをかさりてわざはいをまねかざれ》 【右丁】 【上段】 天下第一の□功を□就したりとも よく礼譲行ひて少もその功にほこ る事なかれとなり 【下段】 《振り仮名:功過_二於天下_一|こうてんかにすぎたりとも》 《振り仮名:守_レ之可_レ以_レ譲|これをまもるにじやうをもつてすべし》 【上段】 一天下を持つほとの富を得たりとも 少も奢す人にむかひても万つへり くだるべしとのをしへ也 【下段】 《振り仮名:富有_二於四海_一|とみはしかいをたもつとも》 《振り仮名:守_レ之可_レ以_レ謙|これをまもるにけんをもつてすべし》 【上段】 正しき道を行はざれば吾身脩る事 なし道をよくおさむるには心を専と すべし仁とは爰にては五常の事と知べし 【下段】 《振り仮名:脩_レ身必以_レ道|みをおさむるにはかならすみちをもつてせよ》 《振り仮名:脩_レ道必以_レ仁|みちをおさむるにはかならずしんをもつてせよ》 【上段】 国の政をもすへき位に至らずいまだ下位 の人の己より上の人のすべき事を取おさ めんとするは過たること也 【下段】 《振り仮名:不_レ在_二於其位_一|そのくらいにあらずして》 《振り仮名:不_レ謀_二於其政|そのまつりことをはからざれ》【一点脱】 【上段】 道はよく天下を治るものなれは貴きも のなり故に君子は吾身は大難にあふ といへ共人のためによく道をひろむる也 【下段】 《振り仮名:身軽而道重|みをかるふしてみちをおもくせよ》 《振り仮名:死_レ身而弘_レ道|みをごろしてみちをひろめよ》 【上段】 礼を行ふにも国を治るにも古へより定 れる法ある也百倍の利なくは古代の 法をかへざれと也 【下段】 《振り仮名:利者非_二百倍_一|りはひやくばいにあらずんは》 《振り仮名:不_レ変_二古代法_一|こだいのほうをへんぜざれ》 【上段 衣服又は諸道具は古人より定れる法有 て作る也十倍の利なくは古の法をかへ てあたらしく作りかへざれと也 【下段】 《振り仮名:功者非_二 十倍|こうはぢうばいにあらすんば》 《振り仮名:不_レ易_二古代器_一|こだいのうつわをかへざれ》 【上段】 古人聖人の定め給ふ法を手本として 守れは過なしよく礼をおさめ行ふもの は邪ある事なし 【下段】 《振り仮名:法_レ古者無_レ過|いにしへにのつとるものはあやまちなし》 《振り仮名:脩_レ礼者無_レ邪|れいをおさむるものはよこしまなし》 【左丁】 【上段】 大きに辛労をしたるものには恩をあ つくすへし賢徳ある人ならは目利を して諸人より位をたかくすべしと也 【下段】 《振り仮名:労大者禄厚|らうをゝいなるものにろくをあつふせよ》 《振り仮名:徳盛者位尊|とくさかんなるものにくらいをたつとふせよ》 【上段】 其役をよく勤むべき人をゑらひて つとめさすれはその役治る也あしき人 によき役をゑらひてさすれは乱るゝ也 【下段】 《振り仮名:為_レ官択_レ 人治|くわんのためにひとをゑらへはおさまる》 《振り仮名:為_レ 人択_レ官乱|ひとのためにくわんをゑらめばみだる》 【上段】 ひいきを以悪き人を用ひて大役をつと めさせ其役を乱さすへからす人をゑらふ に正しき方をかへる事なかれと也 【下段】 《振り仮名:挙_レ 人不_レ失_レ官|ひとをあげてくわんをうしなはざれ》 《振り仮名:選_レ 人不_レ易_レ方|ひとをゑらんでほうをかへされ》 【上段】 君はよき臣をゑらひて其人におふじ たる役をあたへ臣は又己が器量をかんがへ て己に過たる役ならは退へし 【下段】 《振り仮名:君択_レ臣授_レ官|きみはしんをゑらひてくわんをさづけ》 《振り仮名:臣量_レ己受_レ職|しんはをのれをはかつてしよくをうく》 【上段】 何れの人にも一能づゝはすぐれたる方 があるもの也その人のよくなる事を つとめさすればとくあるなり 【下段】 《振り仮名:人各有_二 一能_一|ひとはおの〳〵いちのふあり》 《振り仮名:因_レ芸而授_レ任|げいによりてにんをさづけよ》 【上段】 その人のよくする事をはかりて役を あたへへし又何れの官職をもすて ざれは事よく治まるなり 【下段】 《振り仮名:量_レ能授_レ官則|のうをはかりてくわんをさづくるときは》 《振り仮名:職無_二廃事_一也|しよくすたることなきなり》 【上段】 其者の辛労の功をよくかんかへて位 をあたふれは賢者も愚者もその者の 居るべき位の所に居りてよし 【下段】 《振り仮名:因_レ労施_レ爵則|ろうによつてしやくをほどこすときは》 《振り仮名:賢愚得_レ宜也|けんぐよろしきをうるなり》 【上段】 其官職をつとむべき器量にあら ぬ人がその役をつとめぬればその役治 らずしてか□□□□わいおこる也 【下段】 《振り仮名:不_レ当_二其器_一者|そのきにあたらずんは》 《振り仮名:莫_レ居_二於其職|そのしよくにおることなかれ》 【右丁】 【上段】 万の理をし□□□成がたきにあらず よく知事は成かたき也誰も哥をば よめどもよくよむ人はなきなり 【下段】 《振り仮名:非_二知_レ之難_一也|これをしることのかたきにあらさるなり》 《振り仮名:能_レ難也矣|これをよくすることかたし》 【上段】 吾より後に生るゝ人をは侮るべか らず後に生るゝ人は何ほどの智の 人にならんもはかりがたし 【下段】 《振り仮名:後世可_レ畏也|こうせいおそるへきなり》 《振り仮名:来者難_レ誣也|らいしやしいがたし》 【上段】 つよくかゝるものをばしばらくおさへ てしづむべし貧なるものには物を あたゆべし 【下段】 《振り仮名:強者可_レ抑_レ之|つよきものはこれをおさゆへし》 《振り仮名:貧者可_レ豊_レ之|まづしきものはこれをゆたかにすべし》 【上段】 はかる事の巧なるものをは近づけ て己がたすけにすべし人を讒言す るものをははやくしりぞくへし 【下段】 《振り仮名:謀者可_レ近_レ之|はかりことあるものはこれをちかづくへし》 《振り仮名:讒者可_レ退_レ之|ざんしやはこれをしりぞくべし》 【上段】 吾に背く者をば是を捨べし吾に 降参して来れるものをばたとひ咎 あり共ゆるすべしとなり 【下段】 《振り仮名:反者可_レ廃_レ之|はんするものはこれをすつへし》 《振り仮名:服者可_レ活_レ之|ふくするものはこれをいかすべし》 【上段】 事は必油断する所よりおこりわざ わいは人をないがしろにしことをみ だりにするよりおこる也 【下段】 《振り仮名:事起_二乎所_一_レ忽|ことはゆるかせなるところよりおこり》 《振り仮名:禍生_二乎無妄_一|わざわいはむばうよりなる》 【上段】 内心に色を思ひて心をみたりに持事 なかれ外の形をば正しく持て鳥獣 のごとくのふるまひあらされ 【下段】 《振り仮名:勿_三内荒_二於色_一|うちいろにすさむことなかれ》 《振り仮名:勿_三外荒_二於禽_一|ほかきんにすさむことなかれ》 【上段】 もとめがたきたからを価を多く出し て求る事なかれ国家を亡ほす邪 なる音を耳に聞事なかれと也 【下段】 《振り仮名:勿_レ貴_二難_レ得貨_一|ゑがたきたからをたつとむことなかれ》 《振り仮名:勿_レ聴_二亡国音_一|ばうこくのこゑをきくことなかれ》 【左丁】 【上段】 吾身をは貴しと思ひて人をあなどる 事なかれ吾は智ありと思ひて人の 諫をふせく事なかれと也 【下段】 《振り仮名:我貴勿_レ慢_レ 人|われたつとしとてひとをあなどることなかれ》 《振り仮名:我智勿_レ拒_レ諫|われちありとていさめをこはむ事なかれ》 【上段】 周公旦ほどの大富貴を得たり共 奢る事なかれと也いわんやそれより 下の人においてをや 【下段】 《振り仮名:以_二周公之富_一|しうこうのとみをもつても》 《振り仮名:而不_レ至_二於驕_一|おごりにいたらされ》 【上段】 顔回ほどの大貧に成たり共己に得 たる道をたのしみて少も人の富 をむさほらんとする事なかれ 【下段】 《振り仮名:於_二顔子之貧_一|がんしがまづしきにおいても》 《振り仮名:而不_レ改_二其楽_一|そのたのしみをあらためざれ》 【上段】 常にましはりてなれたる人なり共 よく敬て礼をあつくすべし畏るへき 人也とも而も能近付て愛すへし 【下段】 《振り仮名:狎而可_レ敬_レ之|なれたりともこれをけいすべし》 《振り仮名:畏而可_レ愛_レ之|おそるれどもこれをあいすべし》 【上段】 己が気に入たる人にても其人の悪き所 をばよく知へし己がにくしと思ふ人也共 よき事のあるをは見しるべし 【下段】 《振り仮名:愛而知_二其悪|あいすともそのあしきをしれ》 《振り仮名:憎而知_二其善_一|にくむともそのよきをしれ》 【上段】 財をば多く倉につみたり共人を恵 てよき時は散してあたふべし安きに居 ても義を見ては其所を捨てうつるべし 【下段】 《振り仮名:積而能散_レ之|つみてもよくこれをちらせ》 《振り仮名:安_レ安而能遷|やすきにやすんじてもよくうつれ》 【上段】 人の書籍などをかりてはよく守りて 毀ぬやうにしてかへすべしと也此教を 以万つのかり物を大事にすべし 【下段】 《振り仮名:借_二 人之典籍_一|ひとのてんせきをかりては》 《振り仮名:皆能須_二愛護_一|みなよくすべからくあいごすへし》 【上段】 先より借たる時にかけやぶれたる所 あらはよくつくろい補てかへすべし 少もそこなわされとのをしへなり 【下段】 《振り仮名:先有_レ所_二欠壊_一|さきよりかけやぶれたるところあらば》 《振り仮名:就為可_二補治_一|ついてためにほぢすへし》 【右丁】 【上段】 人にものを教るにわ先小なる事を教 近き理の事を教ゆへし後に至りて大 なる事又は理のふかき事を教ゆべし 【下段】 《振り仮名:教_レ 人以_二小近_一|ひとにをしゆるにしゆうきんをもつてし》 《振り仮名:而後以_二大遠_一|しかうしてのちにたいゑんをもつてす》 【上段】 賢なる人を貴みて是を用ひ諸人 をも捨ずしてつかふべし善なる人をば 悦て用ひ不芸なる人をはあわれむべし 【下段】 《振り仮名:尊_レ賢而容_レ衆|けんをたつとひてしゆをいれ》 《振り仮名:嘉_レ善矜_二不能_一|せんをよみにしてふのふをあはれめ》 【上段】 吾身のおもて正しき時はかけの曲る事なし 水を入《割書:ル|》物が丸ければ水も丸く成なり 己正しき時は一家のもの正し 【下段】 《振り仮名:表正則影正|おもてたゞしきときはかげただし》 《振り仮名:盤円則水円|ばんまとかなるときはみづまとかなり》 【上段】 三日人にあわずは前にあひたる時の思ひ をなす事なかれ三日の内には何ほど に智の発明したるもしられずと也 【下段】 《振り仮名:三日不_二相見_一|みつかあいまみへざれば》 《振り仮名:莫_レ為_二旧時看_一|きうじのかんをなすことなかれ》 【上段】 心におゐて三たひ考て云てもよき事 ならは一度云べし九たひかんがへて能 事ならば一度おこなふべし 【下段】 《振り仮名:三思而一言|みたびおもひてひとたびいへ》 《振り仮名:九思而一行|こゝのたびおもひてひとたびおこなへ》 【上段】 何事をするにも古への賢人の定め 給へる法を師とせざればその事 よく長くつゞきがたし 【下段】 《振り仮名:事者不_レ師_レ古|ことはいにしへをしとせざれば》 《振り仮名:難_二以長久_一矣|もつてちやうきうしがたし》 【上段】 愚者は目のまへに有ものをばかろしめ て耳に聞たるを貴ひ近きものをか ろしめて遠きにあるをたつとむ也 【下段】 《振り仮名:無_二賎_レ目貴_一_レ耳|めをいやしみみゝをたつとぶことなかれ》 《振り仮名:莫_二軽_レ近重_一_レ遠|ちかきをかろんじとをきをおもくする事なかれ》 【上段】 人のかたる事は聞ぬるには九ツのかなへ よりもおもきもの也目にて見ぬれば一 ツの毛よりもかろく思はるゝ事あり 【下段】 《振り仮名:聞時九鼎重|きくときはきうていよりおもく》 《振り仮名:見後一毫軽|みてのちいちがうよりかろし》 【左丁】 【上段】 馬はものはいわぬものにてしかも用に 立もの也故に人をばつからかす共馬 をはつかれぬやうによくいたはるべし 【下段】 《振り仮名:令_レ疲_二労於人_一|ひとをひろうせしむとも》 《振り仮名:慎而無_レ労_レ馬|つゝしんでむまをろうする事なかれ》