清明物語 【右丁】 【整理番号】 A00 霞亭 758 【中央に落款】 【左丁】 此書外題知れ難けれとも第一頁破紙の端にづの字見えぬ 柱にしのだとあれば山本土佐様正本信田妻ならん乎 又宇治加賀の正本に清明道満行力諍と云ものありて 此書の挿画に(十二枚目)清明かつ所を載せければ加賀の 正本なる乎猶後考を待つ 【ここが最初のページのようですが、ほとんどすべて破れていて、一行目のごく一部のみ残っている状態で何が書いてあるのかまではわかりません】 【数行分の破れあり】                      □とお□□申                     □其頃かはちのち                  □其名をあらはし今日本                 □はりまいなみのちう人?也し か□□□□□□□□□□…ふ?つかへする所のりやうちを給はる其いせいによつて弟つね平も かわちのしゆこと也□□こほり【郡】にきよぢうしてゑいくわにさかへあるも心にまかせすと いふことなししかれ共我まゝならんやまふの道つね平がさいぢよかぜの心ちとてばんし【つね平が妻女風邪の心地とて万死】 のゆかにふし【の床に伏し】けるか一もん家の子さま〳〵いじゆつとつくせ共其かいもなしつね平申けるはこ とかりそめのやうに思ひしかねつびやうはなはたしくなか〳〵大事也都にましますしやきやう【舎兄】 だうまんほつし【道満法師】を頼みびやうきのていをうらなはせ其やうすによつてあるひはいきりや うしりやう【生霊死霊】のわざにても有かたつねみんとたうまんの方へ人をつかはし候へはさつそく来るへ きの返状也と語?所へはんの物【番の者=見張り】都ゟ御しやきやうだうまんの御下りにて候と申上るつね 平よろこびやれ〳〵それこなたへとやがて立出こはそう〳〵の御らいか忝【かたじけなく】候とやがておくへせ うしけるだうまんの給ふはさつそく参るべきやうにそんしつれ共みかどの御ようしげく思はすあ ひのひ候扨病人のやうすはいかにつね平さ也候たゝかりそめのやうに存候へ共ねつ病しきりにごたい【五体】 をくるしめたへかたく候とはしめおはりを申上るだうまん聞て扨其病きさしおこりたる月日こくげんは いかにたれは過つる中の十日のよねの上こくかとおほへ候たうまんうちうな付■【出?】〳〵うらないみんとせんぞあし やのすくねきよふと【芦屋宿禰清太】かもろこしのほうどうせん人【法道仙人】にあひて天もんじり【天文じり、コマ14にも有り】ゑきれき【易暦】【「天文・地理・易歷」を並べる例があるようです。あるいは「事理」かも】をまなひし よもつにしるししそんにつたへししよでんを取出ししはしかんがみいかにつね平此病きはいかにもほん しんゟ出たれ共つねにかはりしぎやくきやうちうといふ病也つねていのいしそんずべき病所に てなし此りやうしにはわかきめぎつねの【若き雌狐の】いききも取すぐに病人へあたへなはたちまち病き へいゆふすへし是則ほうとうせん人のつたへの内にたしかにこもれりへんしもいそくへしと申所へ都ゟひ きやくとうらいしどうまん□□□いそき上京なさるへしもろこしゟそうこく申くわん人渡り色々の みつき物さし上□…うらな□…きとのせんし下り候とこときうに申上るだうまん 【数行破れ】         □□□□□…せん申せしことくにはからひ給はゝおつ               □まねへたるゝ扨つね平やれ□□                      □□□□□… 【A】石川悪右衛門つね平おつかけ来 【B】はいてん【拝殿?】 【C】□きつてかゝる ̄ノ所 【D】らうどう 【E】おやきつねにげる 【F】    柿本人丸 ほの〳〵と あかしのうら のあさ きり にし まかくれ行 舟おしそおもふ    山辺赤人【山部赤人】 わかのうらに しほ 道【満】くれ はかたを なみ□□□を【なみあしべを】 □□てたつ【さしてたづ】 なきわたる   在原なり□□【在原業平】 世中にたへて さくらの なかり せは はるの心は のとけから まし    小野小町 いろみへ うつろふ 物は□… 【汚れで3行ほど読めず。世中の 人の心の花にぞ有りける、と続くはず】 【1行目汚れで読めず】 □□□はある人なりひら小町かうたすゑに有しはなかつかさつらねしうたにうくひす□□□【前コマの挿し絵にある和歌の事か】 □かりせはゆきゝへぬ山ざといかではるをしらましけに心なきちやうるいはなにな■■ひす □【み?】つにすむかはずのこゑ【声】いつれかうたをよまさるや神もほとけものふじうあるは此■そ と《割書:つきゆりふし| 》しはしなかめておはします所へあくゑもんかせこのもの【悪右衛門の勢子の者】しのだのもりへかいのほりおめ□□ けんでかりくだす所ににしのやまのてゟかりだされぎつねふうふ子を引つれいきをいは つんでとをりしか二ひきのおやはにけのびあと成子ぎつねあまりせつなくやすなかま くの内へぞにけ入けるやすなもとゟじひふかく扨々ふびんやちくるいな□□せつなきゆへ たすけてくれよといわぬばかりゑゝむざんやそれたすけよといふ所へせこの物共来りま さしく此まくの内へやかん【野干】入たり出されよとくち〳〵にぞ申けるやすな聞てそれ〳〵すいふん手を さげをんびんにはからへかしこまつて立出いや〳〵やかんは此方へ参らず候よかたをたつね給へとさらぬ ていに申けるせこのものいかつてまさしくみ付て来りたりぜひいだされよさなくはおし入 むたいにとらんといかりけるらうとう聞て扨はきつねか入しをみ給ふな此うへはせひなしいか にもやかんは是にありわたしたく候へ共此方頼みかけ入たるをいかにちくるいなれはとてむさ〳〵 とわたしてはふびん也我々しゆくくわん【宿願】あつて此宮へさんけいいたすしんぜんをけかさんももつたい なしこの方へ申うけんぜひゆふめん【宥免】あつてとをられよと《割書:おとしふし| 》いとしんひやうにぞ申けるせこのものか づにのりやあおこかましきことはかなぜひ出さずはかけ入とまくの内へ入らんとやすなからう とうらうせきものやとおしとむる所をいなやにおよばずぬき打にはつしと打すかさずうけとめ まつかう二つに切わつたり残る物共一どにばつとおつちらし扨やすなはくだんのやかんを取出しさぞ おや共かなげくらんそれ〳〵とはなされける《割書:いろ| 》あと立かへりうれしげ成ふぜいにて《割書:はつみふし| 》ゆく へもしらす也にける所へあくゑもん大せいを引くし【引具し】まくちかく【幕近く】立ゟ大おん上け何物なれは此方 にようし有ゆへうちとるやかんをむたいにばい取のみならずわかての物さんたに【さんざに=散々に】うちちらしらう ぜき成ふるまひ一人もあまさし我石川のあくゑもんつねひらといふ物なりはや出よ命 おしくはやかんを出しかうさんせよといかりけるやすなこらへぬわかものにて何石川のあくゑもんと や我こそせつしうあべのぐんしやすあきか一子権太左衛門やすなといふもの也なんぢか下 べ共それかしかまくのまへにてらうぜきをせしか共下人と思ひわさとかうさんしつれはかつにの りまくの内へ切て入ゆへおつちらしたり下らうのわさしゆじんのしらさることよと思ひしに扨 はあくむざんのらうぜき物に申付ことをこのむ物とみへたり《割書:いろをん| 》おのれかやう成ぶたう【不道】しんあは ぬあいてと思へ共せひにおよばすいざこざれと太刀ぬき打てかゝるあくゑもんからうと う【郎党】渡りあひ爰をせんときりむすぶ大ぜいにぶせいのことなれはやすながちう□□□ こと〳〵く打れあるひは手をおいやすなもきずをかうむりしはしやすらふ所へあくゑもんが らうどうさはなみ清六すきまもなく切てかゝり上だん下だん付つからんづたゝ□□□ なと有ふしきにけしとみかつはとまろぶ【転ぶ】を清六はつしと打をちや□□うけとめ□… 《割書:いろちふし| 》さつとないだもろひざながれのつけにかへすを立あかつてくひを打□… かけ付□□□だく心へたりとまへゝゑいと引ふすか又三人□□是を□□□□せと□… 所へ大□□つとおりあひ手取あし取《割書:ふし| 》やかてなわを□□… □□□しものそれかしなわめのはぢにおよふこと天道にすてられたり《割書:いろ| 》ゑゝ父上のおほしめ されん口をしやとはかみをなしいかるゝつね平聞てやあさいぜんのかうけんとはちがいやみ〳〵是いけ□ られしよなみれはなか〳〵はらのたつそれかうへをはねよかしこまつてかたはらへ引すゆる所 へかしうふじい寺【河州葛井寺】のぢうそう【住僧】らいはんおしやうともあまたにて来らせ給ふつね平本ゟ たんなのことなれは是はぞんしよらざる御らいりんにて候おしやう聞召ぐそう此頃やうし あつて都へのぼり一両日いぜんに罷下りきでんないほうびやうきをもぞんぜず今日 しゆく所へ立こへしが承はりしゟなか〳〵げんきにみへて候きてんの事たづね候へはようし 有て此所へ来られしと聞てさいはいみやうじんへ心さしのついてながら御めにかゝらんた め参りたりしてそれなるめしうとはいかやうの事にてはからひ給ふつね平さん候まつ 思召よりしゆく所まで御らいか忝候さて此たんはかやう〳〵のらうぜきゆへかくめし取てせ つかいいたし候とはしめおはりをかたりけるらいばんきこし召もつ共【もっとも】さもあらんさりなからぐ そう是へ参りあいせつがいせらるゝ物をみすてゝとをるべきやふしきに来るもふつしん の御かごにて有らんいかやうのとか有共日頃たんなのよしみにふしやうなから此めしうと をそれかしに給はり候へつね平承はり仰そむきかたく候へ共きやつめからう〳〵の【牢籠の】とが人に てさいのめにきさみてもあきたらす候へはまつひら御ゆるし下さるへしとことはをわけて申 けるおしやう聞召尤しごくいたしぬれ共出家たらんものがたとへてうるいちくるい【鳥類畜類】也共わ か□にかへても命をすくうか出家のさほう也たとへ申請たり共おとこはたてさせ申まし 則参りて□を□□□□そう□てにけらん《割書:おすふし| 》ひらに〳〵にと申さるゝつね平今はせひなくお しやうさやうにの給ふをいかていなとは申さるへきそれ〳〵めしうとをおしやう様へ渡し申せかしこ まつてあひ渡す扨それかしはしさいあつて是よりすぐに立ゟかたの候へはさつそくおいと ま申上けんとれいきをのふれはおしやうも同じく此方ゟしそうをもつて御れい申さんさ らは〳〵と《割書:いろふし| 》いふこゑの両方へこそわかれける其後やすながいましめ切ほとき我々こそま ことの人間にあらず御身おもはぬなんにあひ給ふも皆我々かゆへなれはせめてなんぎ をすくはんため姿をへんしてたばかり申たりさいぜんの命の《割書:色おん| 》いつの世にかはおくるへ き只何事もじせつたうらいといふかと思へはたちまちかたちをへんしてやかんと也ゆき 方しらずうせにけりやすなはとかくあきれはてしはしたゝずみいたりけりゑゝ《割書:ふしゆり| 》心な きちくるいもなさけの道をわすれず命のおんをおくりたるありさまけに人間にま さりたりとてみなかんせぬものこそなかりけれ    第二 あへのやすなは思はぬなんにあひけれ共やかんか心さしゆへふしきに命たすかりけりされ共爰かし こときずをかうむり心もくるしくいきをつかんとたに川へくだる所にしづのめと打みへて二八斗 の女房のいとやさしけ成よそをひにてかの川へおり立みづをくむとみへしか何とか□□□に けしとみかつはとおつるされ共つたかつらに取付あやうき所にやすなはつといふて立ゟ□□□ 取て引上扨々あやうき次第やなけがはしなきかといへば女房ほつといきをつき□□□□□□ しけなきこと共やすでにしすべき所をば御たすけ給はるたんかへす〳〵も有り□□□□□□□ □□□御身はいつくいか成御かたそやかやうの所へ来り合せ給ふもひとか□□□□□□ 【A】女ほう火をたてみせる 【B】□□□□□□い 【C】悪右衛門下 ̄ニ成 【D】悪右衛門かりして帰 ̄ル所 【E】あべのくんしやす秋 【F】三□のせんじ【三谷のせんじ】 この□□□り?此おんをおくりかへし申さんとおもはゆけにそ申けるやすな聞てされはそれかしも□□□ もの成か?しのだの明神へさんけいいたしふりよに此所にてかやう〳〵のなんにあひせいきもつかれし□□ のんとをうるほさんと思ひ此川に来り只今仕合也とつぶさにかたらせ給へは女房聞て扨はさやう の人成かみづからと申は此山かけにすまひいたすしづのめにて候仰を聞はことのほか御身も くるしきやうす也みづからかすみあらしたるいほりのあれは【自らが住み荒らしたる庵のあれば】まつ是へ立よらせ給ひてつかれをは らせ給ふべし只今の命のおんにぜひにともなひ奉らんといとねん頃にそ申けるやすな聞てあゝ 近比うれしう候ことのほかつかれたれば参りて少やすらひたくは候へ共御身こそさやうにの給へ又 あるしのいかゞ思召候はんや女房聞て仰尤さりながらみづからはつまとても候はずはにふの こやに只ひとりすむやまがつ【山賎】にて候へは何かくるしう候はんせひこなたへとすゝむれはやすなも 今はとかふ【あれやこれや】なく此うへはともかくも仰はそむき申ましと打つれ山ぢに入にけるげにためしなき いもせのゑんふしき也ける《割書:三重| 》しだい也是は扨をきあべのぐんしやすあきは家の子らうと う近付て扨もやすなはしのだよりそう〳〵かへると思ひしにいまだげかふせざるかとの給ふ 所へやすなか召つれゆきし下人一人大いきついてはせ来りやすあきの御まへに出しの だにての次第はしめおはりをかたりみかたはぶせいかたきは大ぜいゆへかな□すして【かなはずして?】ついに わかきみもいけとられさせ給ふそれかしもきりしにゝ【切死にに】せんとそんしかとも此ことしらせた てまつり其後あんひをきはめんとそんしかくのたんに候と申もあへぬにやすあき大きにりつふく 有扨々それは口をしき次第かなよくこそはしらせたりことをのはしてかなふましへんしもきう に取かけやすなをは取かへさんもし又うんめいつきはてゝやすな打れて有ならは我も則其 所をさいこと思ひさたむぞなんぢらそれ物のくのやういして跡よりおつ付かた〳〵とのんくわ□□□ に打のりかけ出せはすまん【数万ヵ】の家のこやれあべの家のめつほう此たひなるはとあはてふ ためき我も〳〵と《割書:三重| 》いそぎけるさればにやあく右衛門つね平はよしなきやかんのあらそひゆへ 爰かしことひまを取ことのひ〳〵に也けるかやう〳〵やかんを取持せ山ぢをこそは出にけるむ かふをみれば何かはしらず大せいけはしくはせ来るこはいかにとみる所に程なくはせつ き大おん上やあそれ成はあく右衛門にてはなきかかくいふはせつしうあべのくんしやすあ きといふ物也扨〳〵おのれはなにたる事にそれかしか子をりふじんにはからめおきしぞい そきこなたへわたすべしさなくはおのれらあんをんにはおくましいかに〳〵とよはゝつたつねひ ら聞てあべのくんしやすあきとやもつ共ふりよのこうろんゆへやすなとやらんをめ し取ては有けれ共ふしい寺のらいばんおしやうさま〳〵申さるゝによつてぜひなくたす けかへしたり此方にはしらすいふやすあき聞て扨々おのれはおくびやうしごくのく人【愚人?】か な今更さやうにちんずる共いかて其かい有べきやとかくはよしなしやれなんぢら物ないわせ そきつてかゝれと下ぢすれは承はるとてらうとう共きつさきをならべ立むかふか たきも今はせんかたなくふせきとめんとぬれ【き】てひはなをちらして《割書:三重| 》たゝかいけりやす あきがらうとうとも思ひきつたるはげみのていまたつね平がもの共もたかいにおと らずはたらきければ両方共にみなこと〳〵くうたれけりよせての大将やすあきな にさまやすなはさいせんうたれたるにまかいなししよせん我子のきやうにかたきの大将 □取てほんいをとけんと思ひつね平をめがけ一もんしに打てかゝるあく右衛門心へたりとしのぎを □□□つばをわり爰をせんと切むすふつね平何とかしたりけんうけ太刀になつてあやう□□ みゆる所へらうとう一人きたつてやすあきのこしのつかい【腰の番】をてうときるなむ三ほうとふりかへつ てまつかう二つにきりわつたり又つね平と打あひしがやすあきうんのきはめかや太刀をと ほくへ打こみぬかんとするまにつね平おどりあかつてちやうとうつなにかはもつてたまるべき五 十四才□一ご【一期】にてついにそこにてうたれけりあくゑもんしすましたりとよろこぶ所へ やすあきのらうとう三谷のせんしはせ来るつね平こはかなはしとそのまゝそこを立 さりけりそのあとへ三谷のせんしあふいきついてかけ付此よしをみてなむ三ほうし なしたり〳〵と【為成したりと=しくじったと】しう【主】のしがいを取かくしおのれあく右衛門めいづくまでかはのすべきとあと をしとふて《割書:三重| 》おつかけたりさる程につねひらはよう〳〵とにけのひてもはや其日もく れあなたこなたとまよひしかともしひかすかにみへけれはいそぎ立ゟいかに此やの あるし我はみちにふみまよひたるもの成か跡成もりにてさんぞくにあひ只今是へお つかけて来る也あはれかげをかくして給はれといふあるしの女房きくゟもいやさやうの人に 御やとはなりがたし其うへやいん【夜陰】のことなれはかなふましきと申もあへぬに三谷のせんしは せ来り是もともしびをたゟに立ゟ人かけすとすかしてみてやあそれなるはかた きにてはなきかといふやそのまゝきつてかゝれは心へたりとぬきあはせしはしか間き りむすぶいほりの内にはやすなも女房もこはふしき成事やとみゝをすまして聞いたり□ にとる【かヵ】しけん三谷か太刀つばもとゟほつきとをれこはむねんとつつと【つっと=さっと】入てひつくみ大こんか うりき【大金剛力(だいこんがうりき)】を出しゑいやつとくみふせたりされ共くひをかくべき打物なしゑゝ口おしやおのれ ねちくひ【ねぢ首】にせんせられしと両方はかみをなしてときをうつすあく右衛門したゟ大おん上やあこ れ成いほりに有し【あるじ】はなきか我こそかしう石川あく右衛門といふ物也さいせん申せしさんぞ くきたつて只今わか命を取はあはれ出あひたすけたらは所りやうをのぞみににとら せんきんこくにかくれなきあく右衛門をしらさるか出あへ〳〵とよはわつたりやすな此うへ を聞ゟも是は天のあたへかやいで打とめんといふ女房聞てさらばみつからひをもつ て出べき也其跡ゟねかいよつて思ふまゝに打給へ心へたりと女房をさきに立後に付て出 にける三谷のせんし是をみてやあなにものなれはさんぞくと思ひあやまちするな 我はしうのかたき打ぞといふやすなひのひかりにすかしてみてやあなんぢは三谷の せんしにてはなきかしてそふいふは何ものぞ我はあべのやすなにてあるか扨しうの かたきとはいかにせんしはつとおとろき扨きみにてましますかのふきやつめが大とのを 打申て候しやいはおつて申さんさあ是あそばされよやすなおふきくまでもなし 我身のかたきおやのかたきおぼへたるかとくびちうに打おとしまついほりにてやうす をきかんいさ〳〵こなたへ〳〵と三人うちつれ入にけるふししう〳〵のきゑんよにめつらしく もめくりあひ□かたきうちやとみなかんせぬものこそなりけれ    第三 それにんかいのせいすいしやうしやひつめつゑしやじやうり【会者定離】へし此しのたのもりにて 父をうしない其かたきを打取よのじんかうをふさがんためふるさとへもかへらずして女房 のなさけゆへかけをかくしていつみ成しのたのもりも程ちかきとあるざいけのと□□ ■■あるし《割書:おくり| 》くらしておはしますとし月かさなり今ははや七才に成給ふわか君一人おはしまし御 なをあべのとうしと付給ひ御てうあいかきりなし此わかせいじんのごにいたつて三ごく にかくれなきうらかたのめいじんあべのせいめい是也やすなも今はかうさく【耕作】をしいとなみ しか今日も又のに出んとおもてをさして出けれはどうしさもいたいけにはだへ其まゝ ちゝのあとをしたひ出んとす母引とめ《割書:いろ| 》あゝひやゝかなりしあきのかせ《割書:いろ| 》引わすらはゝ いかゝせんとこそてをうちきせまはしてむすぶさおり帯いとあいらしきよそおい《割書:いろ| 》子を 思ふこそたへもなししづか手わさのならいとて《割書:いろ| 》いとなみ〳〵に《割書:ふし| 》はたを立からきよを のがれんとやがてはたへぞあからるゝ人のなさけによりたけの《割書:つきゆりふし| 》しつかおだまきくり かへしよれつもつれつ君か思ひのかねことは《割書:ゆりふし| 》やとるひまなくくる〳〵ときり〳〵はたりて う〳〵とおるはたぬのこそやさしけれされはにや女房よのつねの人ならずしのだのや かん也しかやすなに命たすけられ其ほうをんのため人がい【人界】にましはりはや七とせにな りにけるころしも今はあきのかせふくらう【梟】しやうけい【松桂】のゑたになきつれ《割書:いろ| 》きつね らんぎくの花にかくれ住とは古人のつたへしことく【白楽天の『凶宅』】此女房ていぜん成まがきのきくに心を よせしかさきみだれたる色かにめてゝ《割書:いろ| 》なかめ入うわの姿を打わすれあらぬかたちとへんし つゝ《割書:ふしゆり| 》しはし時をそうつしける折ふしどうしはうたゝねしていたりしかめをさまし母のうしろに来りし かかほばせをみるゟもやれおそろしやとおめきさけんでなげきける母はつと思ひしかさ あらぬていにてやれ何をさやうにおそれなげくぞとうしはさらにちかづかず《割書:いろ| 》のふ母うへ の御かほばせのかはらせ給ひておそろしやとなけく所へめのと来り何とて御□けん【御きげん?】あし く候母さらぬていにて【、】いやつや〳〵ねいりて有つるか【、】めをさまし【、】さはかしくかけ出□□□□□ れといへはかへつて母かおそろしきとてあらぬことのみ申也それ〳〵すかしてたへと□□へはめのと 承りやがてわかをいだきおくのていへぞ入にける扨母うへはくときことこそあはれ也我は 本ゟあだしのゝ草ばにかげをかくすみの人のなさけのふかきゆへ《割書:くり上ふし| 》いくとし月をおくりし かいかなれはあさましや色かたへ成花ゆへに心をよせてみづかゝみうつる姿をみとり子 にみとかめられしは何事ぞや是ぞゑんのつきは也あのていならは父うへにもかたるへしせめ てあの子か十才に成迄みそだてたく思へ共力およばぬ次第也本のすみかへ帰るへし 《割書:いろ| 》あゝ扨かなはぬうきよやとしはしなみたをなかしけるさるにても【、】つまのやすな帰らせ給 ふを待うけよそなから也共【なりとも】いとまこひとは存れといや〳〵たゝ御るすに立さり跡を みせぬにしくはなし【及くはなし】と思ひ立こそあはれなれ所へめのとわか君をいたき御やす みなされ候と申上る母うへそれこなたへといたき取あゝふひんや同ししとねによりふして にうみ【乳含み?】を参らせさま〳〵といとおしみふかき有様は《割書:ふし| 》なをもあはれぞまさりけるほ となくわか君ねらせ給へはよにもうれしくはや立出んとおもはれしかいや〳〵其 まゝ出る物ならばつまのやすなふしきをなさせ給ふへしあらましを□き□□すゝ り引よせ文こま〳〵とかゝれたりはつかしなからみつからはしのたのもり□□やかん也君に命 をたすけられ其ほうをんをおくらんためかりそめなからゑんのむすひはやむとせ□□□ 身のつねならぬ姿をはおさなき物に【、】み付られもはや君にもいかてみゑ参らせん□□ 心を一すちに立出申と心かなしとおほさんよの有様を人のしらねはとよみをきしと□の□に まかせおしはかり給ふへしかへす〳〵もおさなき物よきにもりそたて我ちくしやうかくるしみをた すけさせたひ給へ《割書:いろ| 》あゝ扨むさんやおさなき物かよるにもならははゝよ〳〵〳〵と尋ねしたはんこと 共を思へは〳〵かなしやと其まゝわかに取付てせんこふかくになくばかりやう〳〵心を取なをしおさ なき物かおくれのかみをかきなて扨々ふひんやみつから出るをゆめへもしらて《割書:ふし| 》かくゆたかには やどりけるよ本のすみかへ帰りても此なり【子が?】事を思ひ出さは《割書:いろ| 》いか斗かなしかるへき思へは〳〵 おや子のゑん是かかきりかあさましやと又ひれふしてぞなく斗され共かなはぬとなれは かきし文とうしかひほにゆひ付そは成しやうしに一しゆの歌をつらねけり《割書:ふし| 》▲こひしくはたつ ねきてみよいつみ成しのだのもりのうらみくずのはとかきとめじこくうつりあしかりなんと心つ よくも思ひ切なく〳〵かへりし有様あはれ也ける次第也扨其後若君は夢にもしらすゆたかに ふして有けるかめを打さましあたりをみれは人はなしのふ母うへのふ母上とかなたこなたをたつ ぬれとも其かいさらにあらはこそわか君いよ〳〵あくがれやれめのとはなきか母上の我をす てをきいつくへやらんゆかせ給ふ《割書:いろ| 》のふ今ゟ後は仰をそむき申ましあしき手わさもいたすましの ふ母上さまとすてゝ行しをしらすしてつねのおとしと心へあしずり【=じだんだを踏む】したる有様諸事のあはれ と聞へけるめのとおとろき是はいか成事やらんと申所へ父のやすなのべゟかへりいかにどうじ何をな けくそ【、】のふ父うへさま母のみへさせ給はぬと《割書:ふし| 》すかり付てなくばかりやすな其まゝいたきとり やれめのと何たるしさいそいや何共そんせす候やすなふしきに思ふ所にせうしに一しゆのうた 有《割書:ふし| 》こひしくは尋ねきてみよいつみ成しのたのもりのうらみくずのはと有《割書:色□…| 》むね□□□□□□ ふしきはれやらす又おさなき物かきぬのひほにふみ有是をみれは□□□□しのたのもり□やかん 也しが一命をたすけられ其おんのほうぜんためゑんのむすひ七とせ迄すこす□□□今更□□申 ことあさましやみつからかあらぬかたちをおさなきものにみ付られ有にもあられず候かへす〳〵もおさな き物を頼とのぶんていよみもあへず是は〳〵と斗也御涙のひまゟも扨はいつそやしのたにてたすけ たりしやかんおんをいとらん【おんをおくらん?】とひ女【美女】とへんしそれかしかめい【命】をすくふてさま〳〵とはこくみ【育み】たるかやさしきや□□□ち くるいなれはとて此とし月のなさけの程何しにうとみはつべきやまだいとけなき此子をふ びんとは思はすしいづくへか行つらん思へは〳〵かなしやとかきくどひてぞなげかるゝむざんやおさなき物のふ 父上様もはや日もくれ候かはゝは帰らせ給はぬは【、】のふはゝのまします所へつれゆかせ給へやとわつとさ けふ□□そ父もめのとも其まゝに《割書:ふし| 》ぜんごふかくになきいたりやすな涙をおさへおふ〳〵どうりかな ことはりやいかにめのと此ていにては有にもあられずこよひしのたのもりへ立こへ何とそ此子か母に あひ今一とともないたく思ふ也おことは跡のるすを頼也いかにどうじあまりおことかなけくゆへ□母を 尋ねに出るかなんちも共に行べきかたゝしめのとにいだかれ跡に残りてあそはんや若君聞召《割書:いろ| 》のふ 母上様に合せて給はらはいつくへ也共参らんと《割書:ふし| 》すかり付てなげかるゝやすなふひんに思召おゝ其 きならはつれ行て一とは合すへしこなたへ参れとよはにまきれしのひ出しのたのもりへそ《割書:三重| 》いそき ける爰にあはれをとゝめしはあべのとうしか母上也本ゟ其身はちくしやうのくるしみふかき□の上に 猶うき事のかさなりて思ひのたねと也やせんいとゝ心はうば玉のよるのふしとにおさな子の□や□ らみてさこそなけくらん《割書:いろ| 》ふびんや《割書:ふし| 》とこかるゝゆへか《割書:下?| 》露も涙もとゞまらて行道さらにみへわ□す□立 わづらうそあはれ成《割書:ふし| 》頃しも今は秋なれはちくさに【千草に】すたく【集く】むしの声《割書:ふし| 》□れ〳〵に成てつらきうきことの 【1行汚れとかすれで読めず】 □□はおしねもりからしの□□みゆるをも《割書:いろ| 》もしかり人や有らんと《割書:□□□□| 》心ほそさはかきりなしよう〳〵□ とり行程に我すむもりも近付ぬ爰にかりうとのいつもかけおくきつねわな様□のへかけ置 たりさすかちくるいのあさましさ心にこめし《割書:ふし| 》其かす〳〵のこと共をはたとわすれ其まゝ心うつり つゝとやせんかくやと身もたへして《割書:ふし| 》しどろもとろのあしもとにて立ゟかさをぬぎすてゝ上成小袖のたも とをかさすとみればたちまちにやかんと也てくるいしは何にたとへん《割書:三重| 》かたもなしかりうと様々手をくだ ひてつりとらんとしけれ共心きいたるやかんなれはかへつてかりうとをわなへおしこみ其身は立のきう れしけにおとりくるひて其後は我かすむもりの草村に《割書:ふし| 》入てかたちはなかりけり所へあべのやすな おさなきものをいだきしのだのもりに来りしかやかんのすみかいつくならんとあなたこなたとさまよ へ共たま〳〵こととふ物とてはとをきの原のむしのこゑ秋かせ渡るくすのはのうらみのたねをや残すらん やすなあまりの物うさにこゑを上やれ此子か母はいづくに有ぞわすれがたみの此若かあ まりにこがれしとふゆへ是迄尋ね参りたり今一どみゝへおさなき物かなけきをとゝめゑさせよと 《割書:ふし| 》かきくどきの給へとこととふ物は更になしとうし待わひのふ父上様かくおそろしき所にいつ迄まします 母上様に合せんとの給ひしかいつわりにて候な《割書:いろ| 》あゝ扨母上様のふ母上とよばはる声にさし物や すないとゝ心もきへ〳〵と《割書:ふし| 》せんごふかくに成にけりやすな力およばす扨々ぜひもなしいかにちくるいなれは とてせめておもかげ也共まみへずし心つよきこと共やよし〳〵いつ迄なからへんしよせん此子をさしころしわ か身も共にしかいしてうき世のきつなをのかれんといかにとうし母は此よになきにゟ父は只今爰に てしゝて母にあふがなんぢも共にしすべきか《割書:いろ| 》のふ母うへ様にあふならはころしてたべとぞなげかるゝ やすな心はそかれ共力及ずこしの太刀をするりとぬきすでにさしころさんとすうしろをみればやかん あらはれ《割書:ふし| 》なみだにくれていたりけりとうしみてのふおそろしやと其まゝ父に取付はあふたうり也いかに それ成はどうしか母にて候な其すかたにてはどうしもおそれをなす有しむかしの姿にて若をなく さめたび給へ其時やかん【、】と有こかけのいけみづに姿をうつすと思へは其まゝ女のすがたと成とうし是 をみてのふ母上様といひもあへずいだき付は母も共にいだき上あゝ扨何しに爰迄来れるぞ又々 うきよのもうしうにひかるゝ事のかなしやとすがり付てなくばかりやすな涙のひまゟもかりそめ にあひなれていくとし月をかさねたとへはいか成こと有共何しにうとみ申べき此わかがふびん也今一とさと へ帰りせめて此子が十才迄もりそだてたび給へ母涙ながしらされば此若十才は扨置一ごそひはてた く候へ共みづからか身のうへは人間にましはり一たびすみかへ帰りては又おなしやへ立もとりすむといふ事 かなはずなごりはつきぬことなれどはやとく帰らせ給ふへしさりなから此若世のつねのにんたいならす せいじんの其後は人をたすけよを道引天下に一人の物と也候はんいて此若ににかたみをとらせ申へしとてずか ら四寸四方のこかねのはこを取出し此はこと申はりうぐうせかいのひふ也是をさとりておこなは ば天ち日月人間せかいあらゆることを手の内にしる也とあたへ又すいしやうのことく成かゝやく玉を 取出し此玉をみゝにあて聞時は鳥けだ物のなくこゑ手に取ことくに聞しり様々きとく 是おゝし今ははや是まで也はやとく〳〵と有けれはやすなも今はことはりを聞からはいかてまよ ひ申べき心やすかれ此若を天下に一人の物となし御身のくるしみはらさせ参らせんいざこなたへとお さなき物をいだきとれは《割書:いろ| 》いや〳〵父にはいだかれましいなや母上とゝめてたへと取付をされ 共やすな心つよくも引はなち有し所を立されはおさなき物は声を上《割書:いろ| 》のふ母上となき さけぶ母もなく〳〵跡に付【、】しはしか程は来りしかもはや是ゟかへる也やれおさなきものよ是かこん じやうのわかれかやさらは〳〵といふ声も其おもかけもみへされは今は有にもあられすして又ちく 生のすかたと也高岩尾にかけ上り《割書:いろ| 》そなたの方をなかめやり天にあこがれちにふしてなきか なしめる其有様世にためしなきわかれのていあはれ也ふしき也げに尤也ことはりや皆かんせぬものこそなかりけれ    第四 されはくわういんやのごおし月日にせきもりすべざれはあべのとうし其とし十才にあまりけり本ゟよの つねのしやうたいならねは八才の時よりはしめてしよをよみ一を聞て十字をさとり一と聞し事二 とわすれずその名をあらためあべのとうしはるあきらとそ申けるあけくれ家につたはる天もん どうのまき物に心をうつしちうやまとろむひまもなし其うへ母のやかんりうくうのひふう?めいぎやく【めいぎよく=名玉】 迄をあたへぬれは猶たのもしさかぎりなししかる所にふしぎやこくうにおんがく聞へ花ふりしうん一村た な引是はいかにとみる所にくもの内ゟはくはつたるらうそう一人しゝにのりろくぢ【陸地?】に行かことく らいけん有こそふしきなれわか君御らんし只ほうせんと立給ふ時にらう僧こくうゟ我は是 たいとうようしうのじやうけいざんにとし久しきはくとう上人といふ物也なんぢがせんぞあべのなか丸と いつし【言ひしが変化した「言っし」という言い回しがある】物たいとうに渡り我にあひて天もんじり【天文地理】みやうじゆつ【妙術】をならいきはめ其書物なんぢか手 につたはり持といへ共たしかに其りをきはめゑず然ばおことはかのなか丸かさいたん也されはせんせ【前世】のさ いち【才知】をわすれつしていにしへにまされる也ゐんやうれきすう天もんじりかし【加持】ひふ【秘符】のふるきことなんぢに つたへ天下のたからとなすべきと書物一くわん取出し是則きんうぎよくとゝ【金烏玉兎と】いふしよ也なんぢか家に つたわるほきないでんに是を取そへきはめなはあく病さいなんはいふに及ずたとへはしやうかう【定業】 かぎりの命也共一どはそせいにおゐてうたがいなし扨なんぢか母のやかんも誠はしのたの明神是い にしへのきび大臣也昔?の□ん【をん】をほうぜんためちくしやうのくをうけてなんぢか父にゑんのむすびさかゆ る家のまもりと成つたへ置たるひふめいぎよく少もうたがふ事かれ我たいとうのじやうけいざんに 有といへ共ほんし【本地】是もんしゆほさつ天もんじりのみやうちゑを衆生にあたへん其ため也うたかふことなかれ とたちまちもんじゆとあらはれくも?にかけつて入給ふはるあきらこは有かたき御つけやと跡をはる かにふしおかむ所へ父やすな有し所へ来り給へは若君くたんの有様つふさに語る父なゝめならす【斜めならず】よろ こびおふたのもしやなを〳〵おこたることなかれと家につたはる書物にきんうぎよくとを取そへち うや是をみひらきていよ〳〵しんづうのみやうじゆつをきはめける所にいつく共なくからす二ひきとび 来りのきにとまりてしはしか間さへつりしをはるあきらあやしく思ひ母のやかんかあたへしくたんの玉を 取出しみゝにおしあて聞いたりしはらくあつて二ひきのからす東西へそとびさりけるはるあき ら是を聞いかに父上只今からすのさへずりしことふしきのことをさへづりて候先一つは都のからす 今一つはくわんとうのからす也都からすがあつまの鳥にかたるやうこんど都にはみかとの御のふ也此いはれ はだいり御ぞうゑい有し時よるのおとゝのうしとらはしら石ずへのしたにへびとかはすいきな からつきこめられへびはかわづをのまんとしかわずはへびにのまれしとあいたゝかふ其いきとをり 天に上りついに御かとの御のふと成是を取のけ給はゝ御のふはしさいなくへいゆふ有へしと さへつりて候いかさまふしきにそんし候とまき物を取出しうらないてみればからすのことばに少もた かはずどうじ悦ひ是さいわいのこと也いそき都へ上りそうもんのとげ奉り此たんをうらないいか成 よにも出申さんいかゝあらんと申上るやすなうれしくあふいしくも申たり是あべの家引おこさんずいそ □【う】也君の御ため身の□□□□□一もはやくのほるべしとおや子打つれ都をさして□《割書:三重| 》□… 【A】くけ大臣たち 【B】夕□…【破れあり】 【C】せいめいかつ所 【D】ねこ鼠をとる所 【E】時?のくわん白 【F】左大じん 【G】みかど 都大り【内裏】にはとうぎん【当今】御のうましますさるにゟ御てんやく【御典薬】心を□くし【つくし】ほしやうんりやう【?】のやくしゆをへんし くんしんさしの【君臣佐使の】はいざい【配剤】しよじのこうそうは【諸寺の高僧は】がぢごねん【加持護念】のおこないごまひほう【護摩秘法】のいのりをなさるれ共 さらにしるしはなかりけり然る所へやすなおや子の物すぐにきんり【禁裏】へ参り是はせつしうあべ のやすなと申ものにて候扨是に候はあべのはるあきらと申てそれかしか子にて候此もの天もんし りゑきれきに【、】じねん【自然】ちをさとりてうらかた【占方】を仕る其かみあへのなか丸かしそんたり然は 此頃みかとの御のふのよしを承はりおゝそれながら是をうらない奉らんとつつしんでそうもんす 時にくぎやうせんぎあつてあべのなか丸かしそんとあれは【、】けにさる事も有へしさあらはうら ない奉れとて中のおちゑんまでめされけり時にはるあきらつつしんて申上るそも〳〵此 御のふといつは【言つは  コマ14にも同様の例あり】きんてい【禁廷】うしとらの方よるのおとゝの【夜大殿の】はしら石ずへの下にへびとかわずとたゝかい て其いかりほのふとなつて天にのぼる是によつて御のふ有此石ずへの下成へびとかわずを ほりすて給はゝ御のふは何のしさいなく候はんと手に取やうにそうらないけるくぎやうせんぎあつ て是はふしきの次第かなさあらは先其石ずへをほりかへせと木工のかみ【もくのかみ=木工頭】に仰付られやかてほら せ給ひけるあんにたかはずへひとかわすをほり出し則是をすてけれはたちまち御なふ御 へいゆふまし〳〵けりかみ一ぢんゟげつけいうんかく【月卿雲客】かんだん【肝胆?】きもにめいし扨もめいよの次第やと《割書:ふし| 》おの〳〵 かんし給ひけるおくゟのせんしにはかくめいようふしんの物也とてしやうてんをゆるされ五ゐを給はりけ り【、】おんやうのかみとぞ召れける殊にあべのゝ庄三百丁を親子のものに下され父子共に 都にちうしてきんりのみやつかへ有へし【、】ことに今日は三月のせいめいのせつなれはとてはるあ きらのはるのぢをあらためあべのせいめいとめされてうすずみの御りんし【御綸旨】下るそ有がたきせい めい親子てうたいして【頂戴して】こは有かたき次第とてやがて御前を立けるはゆゝしかりける次第也所へ天下の はかせあしやだうまんさんたいす【。】くげ大臣御らんしていかにだうまん今日ふしきのこと有十三四成わら はさんだいせしめみかどの御のふをうらない奉りたちまちごへいゆふ被成候と一々語らせ給へはたうまん 大におとろきしか【、】さらぬていにて扨其ものはいつくのたれと申上て候されはせつしうあへのはるあ きらとなのり則かれが父あべの安なといふ物つれてさんだい致したりどうまん心に思ふやう扨は せん年我か弟の悪右衛門を打たる敵よなきやつを色々尋ねしかいづくにかしのひつらん我身 のさまたげ【、】まして敵なれはいかで其まま置べきやと扨おの〳〵其わらがうらかた誠と思召すか 先あんしても【案じても】御らん候へ此たうまんかうらかたと申はもろこしにてもならびなきほうとう仙人のつたへ 天下に一人の物とよばれし某がさやうのあさ〳〵しきことにて御へいゆふ成べきをそんずましきや あゝおろか成仰せ哉?とかしらをふつてそ申ける人々の給ふはいかに御ふん申されても御のふ其まゝへ いゆふ成ましてへびかわず取出す是に過さるせうこ【証拠】なしと口をそろへて申さるだうまん聞 ていや御へいゆふと被成はまつてんやくのかみ心をつくされしよしのかうそうかぢごねんのおこない数 ならね共此だうまん此度におゐてはきよくたい【玉体】あやうく存【、】有とあらゆるしよてんのがんがへくふう 仕りいのりしゆへ御へいゆふ被成て候を【、】とくゟ【疾くより】存扨こそさんだい申たり又へびかわす有しはたれ にても候へかの物共に心をかよはすかたあつてわさとおし入置たるにて候御へいゆふのよき折からに □□□□□□□□□□□□□□□□一を取はあつはれくはほうの物にて候かやうに申せは何とやらんそねみ申に □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□すめし悪人に所領を給はりあまつさへ御りんし 【1行破れでほとんど読めず】…存かやうに □□是いつはりならはかの物をめされ某とうらかたのきとくをくらべさせて□□□□□□□□ □にしれ?申さんとはゞかりなくぞ申けるくぎやうせんきあつてやがてそうもん被成ける内ゟのせん□□ つ共也かつうは【且つうは?】ふしきをはらさんため則明日なんでんにて其せうれつを【勝劣を】たゝせとせんし有るたうまん悦ひ□【御】 前を立せいめい方へはぢよくし立はやよういとこそ《割書:三重| 》聞へけれすでに其日に也しかは清明親子と うまんみめいゟもさんだいすみかとなんでんにしゆつぎよなれは公家てん上人残らすはなやか□し けんぶつ也内ゟのせんしにはそれ〳〵両方きとくをくらべいつれにてもかちたるをししやう【師匠】まけたるを でしにしていよ〳〵道をおこなふべしとのせんし也両方はつとちよくとう申其時内ゟからひつを数□ してかき出す扨中にはねこ二匹入おもりをかけたり此内をうらない申せとせんし有其時だう まんいかに清明其方はうらかためいしんと聞さだめてそれかし御でしに成べき間しよししなんにあつか らんとあざけるていにそ申ける清明聞ておふそれはたかい也扨それかしうらない申さんや但【=それとも】こぶんうらな い給ふかたうまん聞て先其方うらない給へとさもおふやうにそ申ける其の時清明かんがへて申上る此か らひつの内にねこ二匹候はんとうらないける【。】だうまん【、】はつと思ひしかさらぬていにて是はきどくにうらな はれたりいかにもねこにて候けいろはしやく白也と申人々立ゟふたを取てみれはくだんのねこあら はれたりけつけいうんかく【月卿雲客】はつとかんし給ひける然共是はかちまけのしるしなしと又内ゟ大き成さん■の 上にあほい【=おほい】をかけ其中に大かうし【柑子】十五入則持出是も内成物をうらなへとのせんし也こんどはだうまん いらつて申上る此中には大かうし十五候といきをいかゝつて申上るせいめい本ゟ名人なればかうしとはしつ たれ共さすかめいよの物なれは爰ぞきとくをあらはす所と思ひやかてかちし【加持し】てんしかへて【転じ変へて】申上る此 内成は大かうしにては有ましく候ねすみ十五匹候と申上るみかと□しめ公家大臣扨こそせい 【A】とび烏しゝむら持来 【B】らうとう共 【C】清明いのる所 【D】やすなのしゝむら 【E】御藤太手 ̄ヲをふ めいうらかたはしそんじたりとつゝやきさゝやきたかいにめとめをみ合只せいめいがかほゝまもつていたり けるたうまんしすましたりと悦び何と人々いつれかちかい候はんさだめてそれかしかうらない□□□□ いつらんいかにせいめい殿只今申上られしにへつにかはりは候はぬかふたを取て其後かまいてく やみ給ふなといきをいかゝつて申けるやすなも今はせき色に也ひたいにあせをなかしやれせい めいかわることは是なきか必そつし【卒爾=早まった事を】申なとせき切りてそ申けるせいめい少もさはかす御きつかひ 有べからすいそきふたを取給へと申ぜひなく人々立よつてふたをとれはかうしはなくしてねすみ 十五匹かけ出る四かく八方へかけまはる其時さいせんの二匹のねこ【、】かのねずみをみるよりも其まゝ かけ出おつつめ【追っつめ】ほつかけあるひはくわへてふりまはしかなたこなたへとひめぐれはみかとをはしめく け大臣后くわんじよもろ共にみすもきちやうもざゝめきて扨々 きとくのせいめいやとかんし給 ふ御声《割書:ふし| 》しはしはなりもしつまらずはしめいさみしだうまんはせいめいかてしとしほ〳〵と御前を 立扨せいめいには数のほびを給はりやかて御前を罷立は父はうれしくあゝ仕りたりせい めい《割書:いろ| 》我子なからもふしきの物やとあをき立〳〵やかたをさして帰りけるやすなかうれしさせい めいかきどくの程ためしまれ成そう人【相人=占い師】やと皆かんせぬものこそなかりけれ    第五 だうまんほつしはもい井【?】のにはのあらそひにまけあけくれしんいをこかしらうどうを近付いかに 汝ら今度それかしせいめいとうらかたのせうぶにまけしことあまりにき□つ【きやつ?】をあなどり【、】か うまん【高慢】さしおこり思はずもちじよくをとるぐわんらいきやつ原はわか弟の敵といひかれ是 もつていかて其まゝをくへきやまつやすなを打へししかしそつし【卒爾】に打からは我身のうへも大事也 只けいりやくにしくはなしいかゝはすべきと仰けるらうとう共承り尤かな此度のき我々まて 口おしく候とかくはかりことが然へしと申上るたうまん聞きてさいわいのことこそあれ御尋ね被成へ きこと有と則ゆふさり某もせいめいも一所にさんだい申也此跡にてみかとゟちよくしのていに まなびよに入てやすながたち【館】へ行きん中ゟのせんし也いそぎさんだい仕れとたはかり一条のはし の下にふせせいをかくし置くたんのはしいた【橋板】引はつしやすながおつる所をおりあひ思ふまゝにしお ふせ何物のしはざ共しれぬやうにいたすべし本ゟわれはせいめいと一所に御てんにあひ つむれはうたがいも有るべからず其後せいせい【せいめい?】をもちりやくをもつてほろぼさん此ぎいかにと 仰けるらうどう共尤よろしき御けいりやくもはや日もくれ候はん其やうい仕らんだうまん悦ひ さあらば山下伝次はきりやうすくれたれは【器量優れたれば】まづちよくし【勅使】のよういこしらへよ畏て内に入やかてし しやうそくあらためて出ければだうまんみて【、】おふよくにせたりもはや時もいたれは我はたいりへさんだい せん皆々じぶんはからひ【時分計らい】打立へしとちりやくのようい申付其身は何となくきんりをさして上りし はおそろしかりける《割書:三重| 》たくみ也されはにや清明はみかとゟの御とし【御めし?】とてやがてさんだい仕るやかたには 父上らうとう共召しあつめよものはなし有所へたうまんか方ゟくだんのちよくし来つてあんないこい やすなにたいめんし君ゟのせんし也其方おや子に仰付らるへきむね有則せいめい御てんにあ ひつめたりいそきさんだい有へきとのちよくぢやう也やすな畏おつ付さんたい仕らんとちよくしを かへし供人少々召くして其まゝやかたを出にける今ははや一条のはしにさしかゝりすでになかば 渡る所に下ゟ板を引はつせは中よりとうとおつる【。】かくれいたるせい共どつとおり□□こと〳〵 く切ふせたりやすな大かう【大豪?】の物なれ共はしゟはおとされつ□□かへりなはすゑゝむねん□□ 成そ【。】なをなのつてしんじやうにとゝめをさせ郎等聞てきゝたくはきかせん是こそあしやのたうまん□ 打太刀そと立かゝりずだ〳〵に切ふせしすましたりと悦びて其まゝそこを立のきける本ゟ人の かよひもなき町はつれのことなれはたれ知物もあらずしてすでに其よもあけ方に也ければ あなたこなたゟとびからすあつまりてやすなかしがいさん〳〵に引ちらしにくをくわへてのくも有あ るひは手足もくをいぬ共くいさき爰やかしこへのきけるはめもあてられぬ《割書:三重| 》したい是は扨置 せいめいよいゟ御てんに相つめしか本ゟじんづうの物なれ共さだめるかうとてはかなくも是 をはしらす扨あけ方にやかたへ帰り一条のはしに行かゝりみれはなかはおちたりふしきやとむ かふをみればはしの上に手をい有清明をみるゟくるしげ成声を上それかしは御内の五藤太に て候清明はつとおとろき何ゆへさやうに成たるぞさればかやう〳〵の次第にてよひにちよくし の立しゆへ君の恩とも仕り通る所に何物共なく侍ふせいたしはしをおとし君もかくの通?りに ならせ給ふと申上れはせいめい是は〳〵とかけおりみてあれは何かはしらずしがい有其まゝそこ へたをれふし《割書:ふし| 》声を上てぞなげかるゝ扨も〳〵あさましやゑゝ是はたうまんめがしはさならん然共 かれときはめんやうもなしよし〳〵某程の物か父をやみ打にせさせおめ〳〵と有べきやけに〳〵はく とう上人の御つげにもたとへじやうがう【定業】かきりの命也共一度はそせいにおいてうたかいなしとおしへ 給ひしは今此時たりはくとう上人へ頼を懸つたへおかれししやうくわつそくめいの□をおこない 哀父上をそせいならせ奉らん我一せの大頼爰也とやかたへ人をつかはし則はしの上にやがてたん【壇】 をかざりけるされはにややすなかしかいとびからす引ちらしごたいもはなれたれ共やう〳〵に 取あつめだんのまへにすへ置たり扨たんには五色のへいを□□とう?□やう?あまたくもつを 【A】父のやすな 【B】清明さうもん 【C】六ゐのしん 【D】道まんせきめん ̄ノ所 そなへさてせいめいだんじやうにさしかゝりなむ大しやうもんじゆぼさつ一度むすひし□□□□ いやくちからをそへてたびたまへとしんじうにきねんしてごへいおつとりなむにつほん大小の□□ たゝいま【只今】くわんじやう【勧請】申たてまつるまつかみはぼんでんたいしやく【梵天帝釈】しもはしだいてんわう【四大天王=四天王】《割書:いろ| 》下□□ のちにはいせは【伊勢は】しんめい【神明】天しやうくわうたいじん【天照皇大神】けくうないくう【外宮内宮】八十まつしや【末社】かわしもに さかつて《割書:いろ| 》くまのにみつの御やま【、】たきもとにせんじゆくわんをん【千手観音】《割書:下おん| 》かんのくら【神倉?】にはりうぞうこん けん【竜蔵権現?】のふじう【納受、のうじゅう】あつて給はれやとれい【鈴】を取てはふりならし〳〵てかづらきなゝだいこんがうとうし【葛城七大金剛童子】 こもり【子守(大明神)】かつての大みやうじん【勝手の大明神】みわ【三輪】たつた【竜田】かすかのみやうしん【春日の明神】やはたはしやう八まん【八幡正八幡】いなり【稲荷】きをん 【祇園】かものやしろ【加茂の社】たかきおやまにあたこさん大ごんげん【愛宕山大権現】とまたしやくじやう【錫杖】をおつとつてふりた て〳〵さかもとさんわう廿一しや【坂本山王(日吉大社)廿一社】うちおろしに【、】しらひけのたいみやうじん【白髭の大明神】するがの国にふしせんげん【富士浅間】 ことにつの国すみよし【津国=摂津国住吉】天わうし【天王寺】しやうとくたいし【聖徳太子】かはちの国におんぢひろをか【河内国。恩智、枚岡】こんだ八まん【誉田八幡宮】へ つして《割書:いろ| 》あかめたてまつる【。】せつしうしのだのみやうじんそうして日本のしよじんしよぶつ くはんじやう申たてまつるたとへじやうごうかぎりのいのちなり供一どよみがへらせてたびたまへ せひかなわずはせいめいが命只今とりてたへと【、】じつたいせうげの【?】おこないにてかんたんく たき【肝胆砕き】いのりける仏神のふじうまし〳〵けん【。】ふしきやにくしゝむらをくわへてのきしさとのいぬとびから すかしゝむらあるひはかいなをくわへ来りけりせいめいいよ〳〵いさみをなしせめつけ〳〵いのり けるかくてぎやうほうこといたり【、】りやうそく【両足】し【?】かいな【腕】とけ付はやかてめんぞう【面相】あらはれて六こん六 しき【六根六識】ほとなくもとのやすなとなり給ふせいめいだんゟとんでおり其まゝちゝにいたき付 は【、】やすなはゆめの心ちにて是は〳〵とばかり也扨せいめいみきのたんをとい奉れはやすなつ ふさにかたらせ給ひたうまんめにたはかられやみ〳〵とうたれしにそせいしらすとふつしんの御かく【?】し やうかう【定業】ならすといひながらひとへおことがかげ也と手を合わせ《割書:ふし| 》らいはいしてぞ申さるゝせい めい承はり扨こそそれかしぞんせしにちかはす此うへはへんしもはやくたうまんめを打取しんいを はらし申さんとやかたへ帰る扨こそ一条のもとりはしのゐんねん是也今のやすなかそせいのわ ざせいめいかほうりきよにためしなき有様やとかんせぬ物こそ《割書:三重| 》なかりけれ是は扨置 みかとにはくけ大臣あひつめ給ふ所へだうまんほつしさんだいす内ゟのせんしには今日は何とて せいめいはさんだいせさるそ【。】たうまんかしこまりさ也候せいめいはふりよのことにて父にはなれ申て 候さためてけがれをおそれさんだい仕らさると存候くけ大臣聞召扨々やすなひやうきの やうにはきかさりしかふびんやとの給ふ所へせいめいやかてさんだいす人々御らんしやあせいめいは只今御 たつねのせんしくだるに付て聞は父やすなしきよのよし也けがれたる其身にてはやとく帰省 有へしと皆々仰有けれはせいめい承はりこはそんしよらさる仰かな何しに父かあひはてしにさんだ い申さんや扨たれ人かさやうに申上られて候時にたうまんすゝみ出いかにせいめいやすなはてしこ とはそれかし申上て有扨々其方はいかに御てんのおこたらずつとめんとてまさしくしゝたるおやを さなしといつわり【、】けかれたる身をかへりみずてんじやうにある事かへつて其身にはちあたらん【。】は やかへられよと申けるせいめい聞て扨は御ぶん申されたるな扨それかしか父なにとしてはてたるとはそ うもんありしぞだうまん大きにあさわらつてやあおろかややすなあひはてられしとたれしらさ らん物や有あゝ尤かな【。】うたれけれ共あいてもしれずかたきをとらさるゆへはつかしく思ひつゝ□ るゝなとてもけがれし其身なれはたゝそう〳〵にかへり□た□【かたき?】を打とるやうのうらないをかんかへ給□ □□□け□せいめい聞ていやそれかしはおやをうしな□□□□ねはへつにかたきを取へき□…… ず扨御ふんはぜひにやすなはあひはてしと申さる□がもし只今にても是へおし付□其方は□□ いたされんやだうまんから〳〵と打わらひ□をかしやしゝたる物かふたゝびおる物ならはそれかしか二つとな きくびをごぶんにゑさせん又いてずんば其方かくびをとるぞさあ出せ〳〵といきをひかゝつて 申けるせいめい聞ておゝ聞へたりおゝそれながらそうもん申上候さいぜんゟのあらそひじやうぶんにた□□ すべし父が出されはそれかしかくびをわたし又いづれはあの方のくびを申うくるにて候おの〳〵 是はことめづらしきあらそひかなとかふいひがたしとの給ふ時せいめい大おん上いかにだうまんいよ〳〵 くびがけわすれ給ふな何しにわすれんはやとく出せおふ心へたりのふ父上いそひて出させ 給へやすな其まゝ立出るだうまん大きにきもをけしすでに其ざをたゝんとす六ゐのしんは□と むる其時やすなありししだい則にせちよくしにたはかられたる事又そせいのやうす其外 おと〳〵のあくゑもんかいしゆ【意趣】かれ是一々そうもんす内ゟのせんしには申さんことはり也あつはれせいめい は人間にてはよもあらし則だうまんをとらする也思ひのまゝにはからふへしとのしよくちやう也□たし けなし【かたじけなし】とごぜんを立だうまんかくびをうちおとしかさねてせいめい四位のかずへのかみ【主計頭】天もん のはかせとめされてゑいくわにさかへまつだいまて其ちゑをあらはす是ひとへにもんじ ゆほさつのさいたん也じやうこも【上古も】今もまつだいもためしすくなき次第やと□な かんせぬものこそなかりけれ 延宝二《割書:甲| 寅》年九月上旬 靏屋              喜右衛門 【裏表紙】