【表紙】 《題:婦人手紙之文言》 【整理ラベル・TIAO / 75 101 / 日本近代教育史資料】 【右丁】 重田一九大人案 臨泉堂先生書 《割書:頭書|万用》婦人手紙(ふじんてがみ)之(の)文言(もんごん)      児女教訓手習状入   東都書林 尚古堂梓 【左丁】    婦人手紙之文言叙 倭語(わご)に書状(しよじやう)をふみといふはふくみといふ事を略(りやく)したるなりと いふよろづの事この中にふくみたるといふ意(ゐ)なるべし寔(まこと)や千里(ちさと)の 外までも心のまゝをとゞかしむるは手跡(しゆせき)の徳(とく)にして人のうへには 第一に是を学(まなば)ずんば有べからず故(ゆへ)に婦人(ふじん)といへどもしら されば恥(はぢ)おほく生涯(しやうがい)事たらぬがちにて賢(かしこ)きも愚(おろか)に見ゆるは 口(くち)おしき事ならずやよて児女の為に此書をあらはしてさきに 梓行(しかう)せし手紙の文言に嗣(つ)ぐものなり文のつたなき事 文字の謬(あやまり)あらはそは見ゆるし給へかし            重田一九識 【同右端蔵書印】東京学芸大学蔵書 【項目の番号は○囲みで書かれているが、入力の便宜上(半角かっこ)で表した】 【頭書・右丁】 頭書目録 (一)文(ふみ)の封(ふう)じやう (二)月(つき)のかはり名(な) (三)女中(ぢよちう)詞(ことば)つかひ (四)大倭(やまと)こと葉(ば) (五)万(よろづ)染色(そめいろ)の名(な) (六)畳紙(たとふがみ)折形(をりかた)の図(づ) 【頭書・左丁】 (七)小笠原(をがさはら)をりかた (八)進物目録(しんもつもくろく)書(かき)やう (九)婦女(をんな)をしへ草(ぐさ) (十)諸礼(しよれい)躾(しつけ)【身偏に花】かた (十一)食事(しよくじ)しつけかた (十二)給仕(きうじ)の次第(しだい) (十三)婚礼(こんれい)作法(さほう)の次第(しだい) 【本文・右丁】    目録 (一)年頭披露(ねんとうひろう)の文(ふみ)   (三)おなじく返事(へんじ) (四)上巳(じやうみ)の文     (五)花見(はなみ)の文 (六)宿下(やどお)りをとふ文  (七)端午(たんご)の文 (九)五月雨見廻(さみたれみまひ)文   (十)暑中見舞(しよちうみまひ)文 (十一)七夕(たなばた)の文    (十二)盆(ほん)のふみ (十三)八朔(はつさく)の文    (十四)月見(つきみ)の文 【本文・左丁】 (十五)重陽(てうやう)の文(ふみ)    (十六)祭礼(さいれい)の文 (十七)恵比寿講(ゑびすかう)の文  (十八)髪置祝(かみをきいわひ)の文 (十九)歳暮(せいぼ)の文    (二十)寒中見廻(かんちうみまひ)文 (廿一)婚礼祝義(こんれいしうぎ)文   (廿三)振舞(ふるまひ)の文 (廿四)奉公(ほうこう)に出(いづ)る人へ遣(つかは)す文 (廿六)移徙(わたまし)怡(よろこひ)の文   (廿七)病気見廻(びやうきみまひ)文 (廿八)悔(くやみ)の文     (廿八)仏事(ぶつじ)申遣す文 【項目の番号は○囲みで書かれているが、入力の便宜上(半角かっこ)で表した】 【頭書・右丁】 (十四)平生(へいぜい)女こゝろえ (十五)七夕(たなばた)祭(まつり)の事 (十六)四季(しき)の曲(きよく)并に序(じよ) (十七)名香(めいかう)名寄(なよせ)文章(ぶんしやう) (十八)婦人(ふじん)いましめ草(ぐさ) (十九)琴(こと)三味線(さみせん)の事 (二十)衣裳(いしやう)の正字尽(しやうじづくし) 【頭書・左丁】 (廿一)小児(せうに)の薬方(やくはう) (廿二)一生涯(いつしやうがい)の祝事(しうじ)    頭書目録畢 ○香道(かうどう)たしなみの事【挿絵あり】 香(かう)を もてあそぶは くみかうと 名づけて その品 多しと いへども いにしへ より今に たえず おこなはるゝは 【本文・右丁】 (廿九)火事(くはじ)見廻(みまひ)文    (卅一)洪水(かうずい)見廻(みまひ)文 (卅二)疱瘡(ほうそう)酒湯(さかゆ)悦(よろこび)の文 (卅二)大風(おほかぜ)見廻文    (卅三)逗留(たうりう)見舞(みまひ)文 (卅四)芝居(しばゐ)申合(もうしあはせ)の文 (卅六)安産(あんさん)怡(よろこひ)の文    (卅七)餞別(せんべつ)の文 (卅八)留主(るす)見廻の文   (卅九)帰宅礼(きたくれい)の文 (四十)帰国(きこく)悦(よろこひ)の文    (四ノ一)衣類(いるい)借(かり)に遣(つかは)す文 【本文・左丁】 (四ノ三)金子(きんす)借(かり)に遣(つかは)す文 (四ノ四)金子 断(ことはり)の文   (四ノ六)金子 催促(さいそく)の文 (四ノ七)弟子入(でしいり)頼(たの)み遣(つかは)す文 (四ノ九)約束(やくそく)変替(へんがへ)の文 (五十)年賀(ねんが)の文     (五ノ一)女手習(をんなてならひ)教訓書(けうくんしよ)   目録終 【頭書・右丁】【挿絵あり】 十炷(じつちう)なり いはゆる 十 種(しゆ)は  小とり  小くさ  うぢ山  けいば  やかず  めいしよ  花月  源氏  れんり これなり 此外 外組(とくみ)と いふかう 品々あり 其外 心〴〵に こしらへ家〳〵に 伝ふしなおほし 風流の余情(よせい)  その■■【りつヵ】く  すべからず  その道について   たつぬべし 【頭書・左丁】【挿絵あり】 [文(ふみ)の封(ふう)じやう]【四角枠で囲み】 たれさま  たれ    おもて    まいる  〆      より    うら むすび文 おもて 〆  誰さま       まいる    うら 〆     たれ  脇付の上下 上々      中の上   参る人々    人々    申給へ    申給へ 中       下  申給へ     まいる たて文はおほく婚礼祝儀 文に用ゆ脇付の次第如此 【本文・右丁】【挿絵あり】 ○祝物(しうもつ)積(つみ)ものゝ図(づ)  小袖(こそで) ちりめん 綿(わた) 上下(かみしも)  巻物(まきもの) 鯉(こひ) 鮮鯛(せんたい) 【本文・左丁】   ○年頭(ねんとう)披露(ひろう)之(の)文(ふみ)   返(かへす)〳〵いまだことなふ   御さむさしのぎかねまいらせ候 あら玉(たま)の春(はる)の御 寿(ことぶき)   御それさまにもせつかく 松(まつ)竹(たけ)の千世(ちよ)よろづ代(よ)   御いとゐ遊し候やうねがひ かけて御めでたく 【頭書・右丁】【挿絵あり】 【挿絵】 上  誰さま    たれ    まいる 年頭の文は みの紙にて 半紙にても二つ 折となしたとふの ごとくして文をつゝみ 上を水引にて むすび上包みに 誰さままいる たれ としたゝめて 遣すべし  札紙よくさきの  所書わかる    やうに書べし 【挿絵】 名所 たれさま  たれ [月(つき)のかはり名(な)]【四角枠で囲み】 正月を むつき 二月を きさらぎ 三月を やよひ 【頭書・左丁】 四月を うづき 五月を さつき 六月を みなづき 七月を ふみづき 八月を はづき 九月を きくづき 十月を かみなづき 十一月を しもつき 十二月を おとづき [女中 詞(ことば)づかひ]【四角枠で囲み】 着ものを おめしもの ぬのこを おひえ わたを  おなか おびを  おもじ よぎを  よるのもの かやを  かちやう はながみを おさつし べにを  おいろ 【本文・右丁】 幾久(いくひさ)しく御いはひ   上まいらせ候めて度かしく あけまいらせ候 上々様(うへ〳〵さま)ます〳〵御機嫌(ごきげん) よく御年(おとし)かさね遊(あそ) ばさせられ恐(おそ)れながら 【本文・左丁】 まん〳〵御 目出度(めてたく)存上(そんじあけ) まいらせ候さては此品(このしな) ふつゝかのいたりに候へとも 御上臈様(おんじやうろうさま)え御覧(ごらん)に 入たく御それさままて 【頭書・右丁】 かみそりを おけたれ ねるを   おしづまる おきるを  おひなる なくを   おむづかる あるくを  おひろひ 人をよぶを めす かみを   おぐし ものくふを あがる うまいを  おいしい みそを   むし もちを   かちん しんこを  しらいと たんごを  いし〳〵 まめのこを きなこ めんるいを ぞろ にきりめしを むすび とうふを  おかべ きらすを  おかべのから ゆいこを  おゆのした 【頭書・左丁】 ほしなを  ひば こんにやくを にやく さかなを  とゝ たいを   おひら たこを   たもじ いわしを  おぼそ するめを  する〳〵 こめを   うちまき さけを   くこん しやうゆを おしだし すしを   すもじ くきを   くもじ でんがくを おでん こぼうを  ごん 大こんを  からもの かつをぶしを かゝ しほを   しろもの かうのものを かう〳〵 せきはんを こはぐこ 【本文・右丁】 為持上(もたせあけ)まいらせ候くるしからず 思召(おぼしめし)候はゝ御序(おんついで)の節(ふし)御披露(ごひろう) 仰(おほせ)上られ下さるへく候 まことに初春(はつはる)の御ことぶき 申上まいらせ候までに候まゝ 【本文・左丁】 ひとへに御 取成(とりなし)御 願(ねが)ひ 申上まいらせ候めて度         かしく   ○おなしく文   かへす〳〵冬(ふゆ)としはよふぞや 初春(はつはる)の御しうきいづかたも   御心にかけさせられ御たづね おなじ御事にいはひおさめ 【頭書・右丁】 [大和(やまと)ことば]【四角枠で囲み】  ○いの部 いまち月とは  十八夜 いもせとは   ふうふ いははしとは  中たえたるをいふ いなふねとは  いなにはあらずといふこゝろ いぎたなしとは 人のつよくねたるを云 いとしげしとは しばしまてといふ心 いさめとは   いけんする事 いなせをせぬとは いやともおうともいはぬ事 いざなふとは  さそふこと いのちの水とは なみだ いさゝ水とは  たまり水 いらへとは   へんじすること いさよふ月とは 出やらぬ月といふ事 【頭書・左丁】 いねとは    あねの事 いろねとは   いもうと いみじきとは  ほめたることをいふ いへずととは  みやげの事 いつまでぐさとは ながき事をいふ いろなき人とは こゝろなき人といふこと いもせどりとは ほとゝぎすのいみやう いはまくらとは 七夕のあふ夜のまくらのこと いわたおびとは はらおび いぶせきとは  こゝろもとなき事をいふ  ○ろの部 ろうせらるゝとは あさけらるゝことをいふ  ○はの部 はないろころもとは うつろひやすきことを云 はつか夜とは  月なきことをいふ 【本文・右丁】 まいらせ候いよ〳〵御 揃(そろひ)遊はし   下されやま〳〵有がたく 御繁昌(ごはんじやう)さまに御 年(とし)むかへ   存上まいらせ候こなたよりは 遊はし候よしかす〳〵御   折【打ヵ】たえ御無さた御ゆるし 目出度存上まいらせ候さては   下さるへく候めてたくかしく 此御さもし一籠(ひとかこ)御いわひ 【本文・左丁】 上まいらせ候御 慮(りよ)もじさま ながらみな〳〵さまへもよく〳〵 仰上(おほせあけ)れ下さるへく候 猶(なを)春永(はるなが)に万々(まん〳〵)申あけ まいらせ候めて度かしく 【頭書・右丁】 はながたみとは  はなかご也 はらからとは   兄弟のこと はながつみとは  まこもぐさ はふりことは   神人の事 はるつげくさとは 梅の花 はなだいろとは  はないろ はなちがみとは  みだれがみ はにふのこやとは いやしき家のことをいふ はかなしとは   たよりすくなきといふこゝろ  ○にの部 にげなきとは   にてもにつかぬことをいふ にゐまくらとは  はじめてちぎるをいふ にほひ鳥とは   うぐひす にほてるとは   水うみのこと になきとは    ひとつにといふこゝろ  ○ほの部 【頭書・左丁】 ほにいづるとは  おもひのいろほかにあらはるゝを云 ほやのすゝきとは こゝろみだるゝことをいふ ほのくらきとは  ほのかにくらきことをいふ ほのめくとは   たしかならぬことをいふ ほだしとは    よのはなれかたきをいふ ほそどのとは   らうかのこと  ○への部 へたとは     うみのはたを云  ○との部 としこへぐさとは むぎのこと としのなかばとは 六月也 ともちどりとは  友だち也 とものそめぎとは さかしきことをいふ とほ山の花とは  恋しきこと とまりぐさは   なでしこのこと 【本文・右丁】   ○上巳(じやうみ)の文(ふみ)   返(かへす)〳〵御 子(こ)さまがたちと〳〵   御遊ひに御こし下され候やう 桃(もゝ)の節句(せつく)の御いはひ   御ねかひ上まいらせ候こなた 御めてたく存上まいらせ候さては   さひしくくらしおりまいらせ候まゝ 此すもじ折節(おりふし)外(ほか)より 【本文・左丁】   御まち申上まいらせ候めてたくかしく もらひ候まゝお鶴(つる)さまえ 上まゐらせ候めて度かしく   ○花見(はなみ)の文 たん〳〵暖(あたゝか)に成(なり)まいらせ候 いよ〳〵御さへ〴〵敷(しく)御くらし 【頭書・右丁】 とこのうみとは  なみだ どよみとは    とつとわらふ とのあぶらとは  ねやの火  ○ちの部 ちひろのうみとは ふかきうみのことをいふ ちとせのさかとは としおいたることをいふ ちりひちとは   すこしのこと ちはやふるとは  久しきこと ちゝのこがねとは 千両のかねといふ事 ちりほひとは   おちぶれたる ちぎりとは    やくそくのこと  ○りの部 りんゑとは    めぐりめぐることをいふ  ○ぬの部 ぬばたまとは   ゆめをいふ ぬれぎぬとは   なき名のたつことをいふ 【頭書・左丁】 ぬさとは     神のへいのこと ぬかづくとは   神ほとけへまゐりをがむ事  ○るの部 るりのきみとは  げんじ玉かづらの君の名  ○をの部 をちこちとは   遠近のこと をぎのうは風とは 身にしむことをいふ おにつはるとは  はらたつことをいふ おきこぐふねとは とまりさだめぬこと をぐるまとは   めぐりあふこと おしまづきとは  つくゑ をもなしとは   めんぼくなし おもひのつゆ   なみだ をのわらはとは  をとこのわらべなり 【本文・右丁】 候 半(はん)と御めて度御 嬉敷(うれしく) 存上(そんじあけ)まいらせ候 扨(さて)は明日(めうにち) 子供(こども)めしつれ候て飛鳥山(あすかやま) 花見(はなみ)に参(まい)り申べくと 支度(したく)致(いた)しおりまいらせ候 【本文・左丁】 御 程(ほど)さまいかゞおはしまし候 哉(や) 御 誘(さそひ)申上候やう母(はゝ)も申 おり候まゝ御 伺(うかゞ)ひ申上まいらせ候 何(なに)とぞ御 出(いて)なされ候やう 御ねがひ申上まいらせ候めて度かしく 【頭書・右丁】 おもひのたまとは じゆずのことをいふ おもはゆしとは  はづかしきことをいふ おゝよすけは   おとなしきこと おいらくは    老人の事 おだまきは    女のうむへそ也  ○わの部 わがせとは    つまのこと わくらはとは   まれなること わらはやみは   おこり病ひ わなゝくとは   ふるふ事 わすれぐさは   わするゝこと  ○かの部 かはたけとは   うきふししげきをいふ かたわれぶねとは よるかたなきをいふ かたみぐさは   なつかしきこと かたわれ月とは  七日八日ころの月をいふ 【頭書・左丁】 かほよばなは   かきつばた かたおもひとは  われは思へども人のおもはぬ事 かたしろとは   人の形のこと かねごととは   かねてやくそくしたることをいふ かぞいろとは   父母の事 かつらの花とは  月のひかりのことをいふ  ○よの部 よるべとは    たのむえんあることをいふ よすがとは    たよりの事 よわたる月とは  よもすがらの月をいふ  ○たの部 たまのをとは   命のこと たらちをとは   父の事 たらちめとは   はゝのこと又たらちねとも云 【本文・右丁】   ○宿下(やとさが)りを訪(と)ふ文   返〳〵此ほとは堺町(さかひてう) 一筆(ひとふで)申上まいらせ候承(うけたまは)り候へば   ことのほかおもしろきよし お亀(かめ)さま御事御 宿下(やとおり)に   みな〳〵申おり候ちと〳〵 御入遊はし候 由 嘸々(さぞ〳〵)御 賑々敷(にぎ〳〵しく)   おかめさま御つれあそはし 御まへさまにも数(かず)〳〵御 悦(よろこび)と 【本文・左丁】   御とも申度存上まいらせ候 存あけまいらせ候こなた事も         めてたくかしく ひさ〳〵御めもしいたし 《振り仮名:不_レ申|もふさず》候まゝ後程(のちほど)上(あが)り申 べくと存おりまいらせ候 此(この)一折(ひとをり) 御はもしには候へ共御 目(め)に 【頭書・右丁】 たちまちの月とは 十七日の月をいふ たまぼことは   みちのこと たまだれとは   すだれ也 たまくしげとは  あかつき也 たをやめとは   わかき女の事をいふなり たそがれとは   夕ぐれのこと  ○れの部 れいならぬとは  わづらふこと れんしとは    ねんごろなることをいふ れんりのえだとは ふかきちぎりをいふ  ○その部 そめいろの山とは しゆみせんのことをいふ そみかくだとは  山ぶしのこと そゞろとは    心ならずと云こと そでのしがらみとは なみだのことをいふ 【頭書・左丁】  ○つの部 つらなるえだとは 兄弟也 つどふとは    人のあつまること つたなしとは   いやしきこと ついばむとは   鳥のゑをはむ事なり  ○ねの部 ねぎこととは   神ほとけにものをいのること ねぢけ人とは   あしき人 ねまちの月とは  十九日の夜の月をいふ  ○なの部 なかるゝ水とは  ゆくすゑさだめなきをいふ なまめくとは   うつくしき人のことをいふ なをざりとは   ねんごろになきこゝろなり なべてとは    みなといふこと 【本文・右丁】 かけまいらせ候御 慮(りよ)もしさま なからよろしく仰上(おほせあげ)られ 下さるへく候めて度かしく   ○端午(たんご)の文(ふみ) 菖蒲(あやめ)の節句の御ことふき 【本文・左丁】 御めて度存上まいらせ候よふぞや 此ほとは福太郎(ふくたろう)方(かた)へ 見事の品(しな)〳〵御祝(おんいわひ)下 され山々(やま〳〵)有難(ありがた)く御 嬉(うれ)しく ぞんし上まいらせ候さてはけふし 【頭書・右丁】  ○らの部 らうだけとは   くるしきこと らうがはしきとは みだれがはしきことをいふ  ○むの部 むもれ木とは   人にしられぬことをいふ むづかるとは   はらたつこと むつまじとは   ねんごろなるをいふ むつの花とは   ゆきをいふ むべとは     道理といふこと むらさきとは   ゆかりのこと  ○うの部 うきくさとは   うかれたること うたかたとは   水のあは也 うかれめとは   遊女の事 うらゝかとは   はなやかなるをいふ  うの花月は    四月のこと うつし心とは   狂乱なること 【頭書・左丁】 うなばらとは   海の事 うたこゝろとは  うつりやすき心をいふ  ○ゐの部 《割書:いの字の|部にあり》  ○のの部 のちのあしたとは わかれてのあしたのこと也 のこりぐさとは  菊のこと のもりのかゞみとは よそに見る心をいふ  ○おの部 《割書:をの字の|部にあり》  ○くの部 くずのうら風とは うらみをいふことうらはとも云 くだかけとは   にはとり也 くれはどりとは  あやのこと くるしきうみとは せかいをさしていふことなり くだり月とは   かたふく月のことをいふ 【本文・右丁】 初(はつ)のせくわざといわい まいらせ候まゝ昼頃(ひるころ)より 御 子様方(こさまがた)御つれ御入下さるべく候 御 待(まち)申上まいらせ候めて度かしく   ○五月雨(さみたれ)見廻(みまひ)の文 【本文・左丁】   かへす〳〵こなたも雨中(うちう) 打(うち)つゝき朦々(もう〳〵)しき御 日並(ひなみ)に   しのきかねまいらせ候ちと〳〵 候へともます〳〵御さへ〳〵敷   おはこひ御まち上まいらせ候かしく 御入のよし御めでたく御うれしく ぞんし上まいらせ候さては 此 品(しな)少々(しやう〳〵)ながらおくり上 【頭書・右丁】 くにつうみとは  地神五代のことをいふ くたちとは    よのふけゆくこと  ○やの部 やくもたつとは  みそひともじのうたをいふ やからとは    妻子の事 やをとめとは   まいひめのこと やまひことは   こたまの事 やまひととは   仙人のこと  ○まの部 ますらをとは   かりする人 まめをとことは  しんじつの人 まさなきとは   つよくほめたることばなり まのあたりとは  めの下なり またきとは    もはやといふこと まはゆくとは   はずかしきこと  ○けの部 けしうとは    あやしき事 【頭書・左丁】 けらしとは    けりといふこと けうとしとは   けしからぬこと  ○ふの部 ふしまち月とは  十九日の月をいふなり ふけまち月とは  廿日の月のことなり 風月の道とは   歌道のことをいふ ふゞきとは    かぜにゆきのまじりふく事 ふみ月とは    七月の名 ふたつの海とは  生死のこと ふちころもとは  いやしきもの ふりわけがみとは いまだ結ひはじめぬかみ  ○この部 こし地とは    ふるさとのこと こしかたとは   すぎしこと こゝのへとは   内裡のこと 【本文・右丁】 まいらせ候御つれ〴〵御酒(おんさゝ)の 御口取りにもと存上(そんじあげ)まいらせ候 まづは折(をり)から御 見舞(みまひ)迄(まて)に しめし上まいらせ候めて度かしく   ○暑中(しよちう)見廻(みまひ)の文(ふみ) 【本文・左丁】   返(かへす)〳〵こなたよりは打(うち)たへ   御 無沙汰(ぶさた)いたしまいらせ候 わざ〳〵しめし上まいらせ候   ちと〳〵御 伺(うかゝ)ひ申上たく 此ほどはたへかたきあつさに   候へとも折(をり)ふし人ずくな 候へとも御 揃(そろひ)遊(あそ)ばし   にて存なからそのまゝに 御 機嫌(きげん)能(よく)入せられまん〳〵 【頭書・右丁】 こちたきとは   ぶんにすぎたる事こと〴〵しきこと こゝろの月とは  きよきこと ことたつとは   祝言のこと こまかへるとは  わかくなること 五明とは     あふぎなり このかみとは   あにをいふ こもりとは    はたけのこと こずゑの秋とは  九月のこと ころものいへとは かちやう こまむかへとは  八月十五日也  ○えの部 えにしとは    えんのこと ゑいかづらとは  女のつくりかづらなり ゑくりとは    もゝのはな  ○ての部 てなれ草は    持あふぎ也 てふとは     いふとおなじこと てうろとは    六月六日のこと 【頭書・左丁】 てもたゆくとは  手のたるきことをいふなり  ○あの部 あこぎとは    たびかさなるればあらはるゝことをいふ あさなとは    あしたといふこと あまてらすおほんかみとは 天照大御神の事 あめつちとは   天地の事 あらかねとは   つちのこと あづまぢとは   東の路也 あしびきとは   山をいふ あかねさすとは  日の出也 ありあけの月とは つれなき事をいふ あづさゆみとは  こゝろをひくをいふ あさぢがはらとは おそろしき事 あすか川とは   かはり安きこと 【本文・右丁】 めて度御いわゐ上まいらせ候   打すきまいらせ候御ゆるし さては此(この)重(ぢう)の内(うち)麁末(そまつ)なから   下さるべく候かしく 御覧(ごらん)に入まいらせ候まづは あつさの御 伺(うかゞ)ひまでにそう〳〵 申上まいらせ候めて度かしく 【本文・右丁】   ○七夕(たなはた)の文 けふしは星合(ほしあひ)の空(そら)長閑(のとか)に 一入(ひとしほ)御めで度存上まいらせ候 さては御はもじに候へども 此御まな少(すこ)しばかり 【頭書・右丁】 あはびとは    片おもひを云 あまつ神とは   天神七代 あだし人とは   こゝろさしかならぬ人の事 あだくらべとは  たがひにあだなる中 あづま人とは   東の人 あまぎるとは   雲のきれたることをいふ あからめもせすとは よそめをせぬ事 あを人ぐさとは  いきとしいける衆生の事 あさゐとは    あさねのこと あなかしことは  あらおそろしきといふこと あしかきとは   ちかきこと  ○さの部 さをしかとは   鹿の事 さゝがにとは   くものこと さゝれ水とは   少しの水 【頭書・左丁】 さゞれいしとは  ちいさき石 さらなりとは   いふにおよばぬといふ事 さがなきとは   あしき事 さかしたつ人と  かしこだてする人なり さゝめごととは  さゝやくこと さやけきとは   月のさえたることをいふ さかしらとは   さまたぐること さばかりとは   これほどゝいふ事 さいまつるとは  人をもとく事をいふ さみとり月とは  正月のこと さり〳〵とは   がつてんすること  ○きの部 きりたつ人とは  とほくゆく人のこと きりにすむ鳥は  ほうわう きぬ〴〵とは   わかれのこと 【本文・右丁】 外(ほか)より貰(もら)ひ候まゝ御 目(め)に かけまいらせ候御 慮(りよ)もしなから 御かもしさまへもよく〳〵 御つたへ御ねがひ上まいらせ候      めて度 可祝(かしく) 【本文・左丁】   ○盆(ぼん)の文(ふみ)   返(かへす)〳〵も此ほとは富(とみ)太郎へ御 いまだ暑(あつ)さもさりやらず候へども   念(ねん)もじの御ことつてなし みな〳〵さま弥(いよ〳〵)御 障(さはり)なふ   下されやま〳〵有がたく 御 凌(しのぎ)候はんと山々御めて度   御うれしくそんし上まいらせ候 御 嬉(うれ)しく存あげまいらせ候 【頭書・右丁】 きさらぎとは   むすめのこと  ○ゆの部 ゆく水とは    おもふこと ゆるしてとは   ゆだんなること ゆみはり月とは  七日八日の月をいふ ゆふだすきとは  しめなはのこと ゆふつげ鳥とは  にはとり  ○めの部 めでるとは    あいすること めざしとは    いやしき女 めづらかとは   めづらしきこと めりとは     なりのかへ詞なり  ○みの部 みをしるあめとは なみだ也 みやびたるとは  うつくしきこと みづくきとは   ふみのこと みどり子とは   三四才までの子をいふ  ○しの部 【頭書・左丁】 しきたへとは   まくらをいふ しのゝのめとは  あけがたのこと しらなみとは   ぬす人のこと しか〳〵とは   いろ〳〵といふこと しきしまのみちとは 歌の事をいふ しとねとは    よるしくもの しがらみとは   水をせくもの  ○ゑの部 《割書:えの字の|部にあり》  ○ひの部 ひのもととは   日本のこと ひたちおびとは  ちぎりをむすぶことをいふ ひとたのめは   いつわりをいふ事 ひすいとは    うつくしきこと ひとの日とは   正月七日也 ひちかさあめとは にはかにふるあめの事 ひくらしとは   朝より夕迄 【本文・右丁】   ちと〳〵御見合せ御はなしに 御 程(ほど)さまにも御魂(おんたま)むかひにて   御出くださるべく候めてたくかしく 嘸々(さぞ〳〵)御 取込(とりこみ)とすいし上まいらせ候 さては此 三輪素麵(みわそうめん)少々 ながら送上(をくりあげ)候 様(やう)隠居(いんきよ)申 つけまいらせ候ま事にわざと 【本文・左丁】 御はもじの御 事(こと)と存上まいらせ候       めてたくかしく   ○八朔(はつさく)の文   返す〳〵赤かちん一重 田面(たのも)のせくの御いはゐ   さもしきしなに候へとも 申上まいらせ候 誠(まこと)に日並(ひなみ)よく   御めにかけまいらせ候かしく 打続(うちつゞ)き一入(ひとしほ)の御事に存 【頭書・右丁】  ○もの部 もち月とは    十五夜の月 もろこしとは   からくにのこと もろかづらとは  女の兄弟の事なり  ○せの部 せなとは     をとこの事 せきもりとは   せきをまもる人の事  ○すの部 すべてとは    さうじての心 すさびとは    手すさび也 すぐせとは    すぎたる世の事 すゞめいろどきとは くれがたの事 する〳〵とは   いそぐ心をいふ 大和詞終 【頭書・左丁】 [万(よろつ)染色(そめいろ)の名(な)]【四角枠で囲み】 青(あを) 紺(こん) 千種色(ちくさいろ) 花色(はないろ) 浅黄(あさぎ) 萌黄(もえぎ) 木賊色(とくさいろ) 藍豆褐(あいみるちや)【藍海松茶ヵ】 鶯茶(うぐひすちや) 御納戸茶(おなんとちや) 空色(そらいろ) 木蘭(こび)茶(ちゃ)【媚茶ヵ】 黄(き) 鬱金色(うこんいろ) 黄茶(きちや) 卵色(たまごいろ) 鶸茶(ひはちや) 山鳩(やまばと) 梔子色(くちなしいろ) 朽葉色(くちばいろ) 丁子茶(てうじちや) 相伝茶(そうでんちや)【宗伝唐茶ヵ】 木空茶(きがらちや)【黄唐茶ヵ】 褐(かば)【樺ヵ】 柳茶(やなぎちや) 【本文・右丁】 上まいらせ候いよ〳〵御繁昌(ごはんしやう)に 御 入(いり)候 哉(や)さしたる御 事(こと)も なく候へともまづはけふしの 御 寿(ことぶき)申上たくそう〳〵 めてたくかしく 【本文・左丁】   ○月見(つきみ)の文   かへす〳〵外にさしたる 残(のこ)る暑(あつ)さの御 障(さわり)もなふ   お客さまもなく候ゆへ御 遠慮(ゑんりよ) 御めて度存上まいらせ候殊更   なふみな〳〵さま御さそひ はれ〳〵しき御 天気(てんき)にて   御こしのほどまち上まいらせ候 今宵(こよひ)の詠(ながめ)ひとしほと 【頭書・右丁】 赤(あか) 紅染(べにそめ) 茜(あかね)染 緋色(ひいろ) 蘓枋(すはう)【蘇芳ヵ】 桃色(もゝいろ) 薄紅梅(うすかうばい) 葡萄色(とびいろ)【えびいろヵ・又は鳶色ヵ】 騮色(くりいろ)【栗色ヵ】 紫(むらさき) 藤色(ふぢいろ) 柿(かき) 薄柿(うすがき) 大和柿(やまとがき) 桔梗(きゝやう) 鴇色(ときいろ) 藍藤(あいふぢ) 白(しろ) 素褐(しろちや) 兼防(けんばう)【憲法ヵ】 黒(くろ) 灰色(ねづみいろ) 藍鼠(あいねづみ) 檳榔子(びんろうじ) 瑠璃紺(るりこん) 筑波鼠(つくばねづみ) 煤竹(すゝたけ) 其外当世さま〴〵の 染色あり少しづゝの ちがひにて其名かはれり 【頭書・左丁】 しかれどもみな青黄 赤白黒の五色より出    【正色せいしょく】 たるものなり右の内 かんしきとて紫くり色   【間色かんしょく】 もえぎ茶色鼠いろ これを外の五色といふ いづれも此門より出たる也 [畳紙(たとふかみ)折形(をりかた)の図(づ)]【四角枠で囲み】 たとふかみをりかた品々 ありそのものによつて おの〳〵かたちいろ〳〵 かはりありこゝにその あらましをしるす猶 その品々によりくふう してわかたよろしき せいしかたあるべし 【本文・右丁】 おし計(はかり)まいらせ候 扨(さて)は兼々(かね〳〵) 申上候通 乗物町(のりものてう)藤間(ふぢま) よし参(まい)り候まゝお恵(ゑ)みさま 御つれ夕(ゆふ)かたより御出(おんいて) 被成(なされ)候やうねんじ上まいらせ候かしく 【本文・左丁】   ○重陽(てうやう)の文   かへす〳〵久々御 無(ふ)さたいたし 気ふし【けふし=今日】の御 寿(ことふき)菊(きく)の齢(よはひ)   まいらせ候さためて御子さま方 諸(もろ)とも御いわゐ申上   さそ〳〵御 成人(せいじん)なさるへくと まいらせ候また〳〵遠方(えんほう)より   御めてたくそんし 貰(もら)ひ候まゝ木(き)の子(こ)少々 【頭書・右丁】 菊形  きく  かた  に  おも  て  き  く  かた  うら  きく  かた  とて  あり うら きく かた おもて きく  がた 【頭書・左丁】 しきかはらがた  二ツつゞき三ツ     つゞきあり 此たとふ  がみは おほくは  きやう  づゝみに  もち  ゆる   なり 【本文・右丁】   あけまいらせ候かしく さし上まいらせ候お慮(りよ)もし ながら御 叔母(おば)さまへもよろしく 御 伝(つたへ)ねがひ上まいらせ候かしく   ○祭礼(さいれい)申 遣(つかは)す文 此ほとは余程(よほど)ひやゝかに 【本文・左丁】 なりまいらせ候 偖(さて)は神田(かんだ) 御 祭(まつり)にてこなた町内(ちやうない)よりも 練物(ねりもの)出(いたし)候まゝ明日(みやうにち)勢揃(せいそろ)ひ いたしまいらせ候御 子(こ)さまがた 御 誘合(さそひあはせ)見物(けんぶつ)に御こし 【頭書・右丁】 香  づゝみ   にも  なる  べし その  ほか 糸  いれ くし  いれ はく  いれ   にも  用ゆ 水ぐるま  きく   ながしも  みなこれに    おなし 【頭書・左丁】 つゝみはな 花 は ゑ な り 十種香 札入にも 用ゆるなり 【本文・右丁】 なされ候やう御まち申 上まいらせ候めてたくかしく   ○恵比須講(ゑびすかう)の文   かへす〳〵妙正(めうしやう)かたへも仰(おほせ)下(くだ) きのふは御使(つかひ)下され候けふし   され候よしこれは此ほとより 恵比寿講(ゑびすかう)御 祝(いわひ)のよし 【本文・左丁】   少々すくれ不申候ゆへよろ 此方事(こなたこと)御まねき下され   しくこなたより御礼 御しんもしの御事と山々   申上候やう申つけまいらせ候かしく 有かたく御 嬉敷(うれしく)存上まいらせ候 さては此品(このしな)いさゝかなから 御 祝(いは)ひ上まいらせ候おしつけ 【頭書・右丁】 たま手   ばこ  にほひ   もの   いれ 雌折(めをり)  雄折(ををり) 四かく 五かく 九かく しな 〴〵  あり 【頭書・左丁】 [小笠原(をがさはら)をりかた]【四角枠で囲み】 いたものつゝみやう しんののしつゝみやう のしづゝみ あふぎぎやうのつゝみ あふきさうのつゝみ 【本文・右丁】 上り候てかす〳〵御よろこび 申上まいらせ候めて度かしく   ○髪置祝(かみをきいわひ)之文   返す〳〵御それさまさそ〳〵 一筆(ひとふで)申上まいらせ候まつとや   御うれしく御よろこびと 御 揃(そろひ)遊(あそば)しいつも〳〵御さへ〳〵しく 【本文・左丁】   そんし上まゐらせ候こなた 御入遊しかす〳〵御めて度   万代事もよろしく申 そんし上まいらせ候さては   上候やう申おり候 亀(かめ)五郎さま御事御 髪置(かみをき)      めてたくかしく 御いわゐ被遊(あそはされ)候よし御心もしに かけさせられ御 重(ぢう)之 内(うち)被下 【頭書・右丁】 きのはなつゝみ くさのはなつゝみ おびつゝみやう すゑひろ 手ぬぐひ ふくさ 【頭書・左丁】 きやうつゝみやう かけがうのつゝみ すみふでつゝみやう しほづゝみ 猶 さま 〴〵 の つゝみかた あれどもあらまし を出す 【本文・右丁】 ありがたく存上まいらせ候これは あまり〳〵御はもじの品(しな)に 候へとも御 帯地(おびぢ)有合(ありあはせ)候まゝ 幾久(いくひさ)しく御 祝(いはひ)上まいらせ候 くはしくは御めもしの節(ふし) 【本文・左丁】 万々御 歓(よろこひ)申上まいらせ候めてたくかしく   ○歳暮(せいぼ)のふみ   返す〳〵もはや余日も 歳末(さいまつ)の御 寿(ことぶき)まん〳〵   なく候まゝゆる〳〵春永に 御めて度 存上(そんしあけ)まいらせ候   申上へく存あけまいらせ候 妙貞(めうてい)さま御 初(はじめ)みな〳〵さま 【頭書・右丁】 [進物目録(しんもつもくろく)書様(かきやう)]【四角枠で囲み】 進上 はくてう 一は がん   一は たい   一折 すゝき  一折 くらけ  三桶  已上     こなたの名 進物るい折紙の書やうは 樽に魚鳥の時は先鳥を 【頭書・左丁】 書次に魚を書て魚に 樽を書るなり精進物は 魚鳥の間にかくべし 小袖巻物などは樽の 前にかくべきなりすべて 進物の箱あしなき箱は たて板にかくなり又 箱にひもをかくるもの ならば 真中 より 右へ 寄て かく ひも に かく れぬ やうに 書べし ひもなき 箱は真中に かくなり又箱ざかな さんぶたにて足あるには 【本文・右丁】   はゞかりなからみな〳〵さまへ 御 機嫌(きげん)よふ御入なされ候よし   よろしく御つたへ うへなふ御めてたく御うれしく   下さるへく候こなた 存上まいらせ候いつも〳〵めつらし   福助よりもよろしく からす候へとも塩(しほ)さかし一 籠(かご)   申上まいらせ候めてたくかしく おくり上まいらせ候 聊(いさゝか)年(とし)の 【本文・左丁】 暮(くれ)の御祝儀(ごしうぎ)申上候まての 御事に候まつはいそぎそう〳〵     目出たくかしく   ○寒中見廻(かんちうみまひ)の文   かへす〳〵此ほとは 打絶(うちたえ)御 音信(をとづれ)も承(うけたまは)り 【頭書・右丁】 よこ板にかくべし尤 奉書紙にてふちを張 印判おしてあるべし [婦女(をんな)をしへ草(ぐさ)]【四角枠で囲み】  ○姑(しうとめ)の心得(こゝろえ) それ姑 最初(さいしよ)の願(ねが)ひの ごとくすれば則(すなはち)姑の かゞみとなるべし何を以(もつ)て かくいふぞとなれば初(はじめ)に 姑のねがふ所は子息(しそく)に 娵(よめ)をとりて夫婦(ふうふ)中(なか)よく させ家(いへ)をおさめさせなば 最早(もはや)うき世(よ)におもひ 残(のこ)すことはあるまじと思ふ 故(ゆへ)に娵(よめ)をむかへて婚礼(こんれい) も首尾(しゆび)よくすみぬれば あらうれしやといふその 【頭書・左丁】 舌(した)をひき入れざる内 に忰(せがれ)の気(き)に入さへすれば 理屈(りくつ)いふではなけれども 思ひの外 支度(したく)麁相(そさう) 此方の約束(やくそく)違(ちが)ふなどゝ いひ又 支度(したく)十分(しふぶん)なれば 娵(よめ)に自慢顔(じまんがほ)見(み)ゆる など乳母(うば)腰元(こしもと)に囁(さゝや)く より此ものども追従(ついしやう) して仰(おふせ)の通(とふり)あのごとくの お支度(したく)に似合(にあは)ず姑御(しうとご)へ のみやげもの麁末(そまて)に 見ゆるなどはや譏事(そしりごと) いひ出すより事おこる はじめなればこれを慎(つゝし)む 【本文・右丁】   大ふく町 伯父(をぢ)さまへ御めもし 不_レ申 御無沙汰(ごぶさた)いたしまいらせ候   いたし御うわさのみ申 さて〳〵けしからすさむさ   つゞけまいらせ候御 美代(みよ)さま つよく候へとも御揃なされ   御事も御かはりなふ御くらしの 御わもし【わもじ=病気】もなふ山々御めて度   よしもしもや御たよりも 御 歓(よろこひ)入存上まいらせ候さては 【本文・左丁】   御さ候はゝよく〳〵御つたへ 此(この)一種(ひとしな)わざ〳〵遠方(えんほう)より   仰つかはされ下さるへく候 取よせ候まゝいさゝかなから        めてたまかしく 御 見舞(みまひ)まてにおくり上まいらせ候 折角(せつかく)〳〵寒(さむ)さ御いとひなされ候 やうに存上まいらせ候 何事(なにごと)も 【頭書・右丁】 べき事なれ共女心の 思慮(しりよ)なく次第(しだい)〳〵に 事(こと)かさなりて家(いへ)の乱(みだれ) となることをしらず 爺親(てゝおや)にあしくいひなし それよりてゝ親を小(こ) だてにとり親の気(き)に いらぬ娵(よめ)を追(おひ)いだす 事に誰(たれ)も申ぶんは有 まじきなどゝいひてわめ きいだせば息子(むすこ)気(き)の どくさに取成(とりなし)いふとき 女房に目のくれるも 其方の愚昧(ぐまい)ゆへなどゝ 我子(わがこ)へも恥(はぢ)をあたへ 【頭書・左丁】 娵のにくさにわが子 へもあたりあしくなり 最初(さいしよ)娵(よめ)をとりて 家(いへ)ををさめさせその 身(み)は安楽(あんらく)の身とならん 願ひしこともきへはてゝ 修羅(しゆら)をもやす種(たね)とは なりぬ浅間(あさま)しき事 ならずやこゝをもつて 姑はじめの願ひのごとく せば世上の姑の鏡(かゞみ)と なるべきなり歌に  いにしへの娵のつら   さをおもひなば  鬼ばゝじやとは   いかでいはれん 【本文・右丁】 御めもじのふしと     申残しまいらせ候かしく   ○婚礼祝義(こんれいしうぎ)の文      ○こんれいの文に返す〳〵とはかくまじきなり   そへて申上まいらせ候此ほと   亀右衛門(かめゑもん)さま御はなしにて 一 筆(ふで)しめし上まいらせ候御 揃(そろひ)   うけたまはり候へは御さきさま 遊し御 機嫌(きげん)よく入せられ 【本文・左丁】   かねて御 間柄(あいたから)のよし 数々(かず〳〵)御めて度存上まいらせ候此ほとは   御 相応(さうおう)の御ゑんとうけ お萬美(まみ)さま御事御 日柄(ひがら)も   たまはりま事に〳〵 よろしく御 婚礼(こんれい)よろづ   万々年の末(すへ)かけて 御 滞(とゞこふり)なくすまさせられ候よし   御めてたく御両親さま 誠(まこと)に玉椿(たまつはき)の八千代(やちよ)まで 【頭書・右丁】  ○娵(よめ)となる心得(こゝろえ) 娵(よめ)最初(さいしよ)の願(ねが)ひのごとく せばこれ又 世界(せかい)の娵の 鑑(かゞみ)となるべしはじめ 母親(はゝおや)のいふやうは女といふ ものは一度(ひとたび)嫁入(よめいり)して ふたゝびかへれば親(おや)の育(そだて) 柄(がら)あしきによりさきの 気(き)に入らずしてさられ しといはれて親(おや)迄の 恥辱(ちじよく)となるべしさるに よりてさきの夫(をつと)を大切(たいせつ) にし姑(しうとめ)の気に入るやう にすべし舅(しうと)は男(をとこ)の 事なればいかやうにも 【頭書・左丁】 なるものぞといふとき 娘(むすめ)答(こたへ)て御気つかひ なさるまじたとへいか やうの事ありとも戻(もどる) まじ姑(しうとめ)といふものは たとへ仏(ほとけ)のやうな方 にてももとは他人(たにん) なり何事にも機(き) 嫌(げん)をとりて辛抱(しんばう)し 申すべしと一旦(いつたん)母(はゝ) 親(おや)に安堵(あんど)させるは娘 のならひなり時節(じせつ) 来(きた)りて嫁入し当分(とうぶん) はへやすみのことなれば 慎(つゝし)み深(ふか)きゆゑに家内(かない) 【本文・右丁】 万々年(まん〳〵ねん)も幾久(いくひさ)しく   さそ〳〵御 安堵(あんど)の御事と 御めて度 嘸々(さそ〳〵)御それさま   そんし上まいらせ候めてたくかしく 御 喜(よろこひ)の御事と存上まいらせ候 さては此さもし一 折(をり)進(しん)し 上まいらせ候御 歓(よろこひ)申上候 印迄(しるしまで)に 【本文・左丁】 御 祝(いは)ひ上まいらせ候めて度かしく   ○振舞(ふるまひ)の文   返す〳〵申上おとしまいらせ候 せんもじは娘(むすめ)かたへ御しんもじに   御あねさま此ほとは御 かけさせられ見事のしな〳〵   とうりうのよし 贈(をくり)下され扨々(さて〳〵)御 念(ねん)もじの 【頭書・右丁】 のものまでもよきに いひはやすにより女心に 油断(ゆだん)してなじむに したがひ朝寝(あさね)して 髪(かみ)ゆふに隙(ひま)をとり めづらしきうちは 夫(をつと)も用捨(ようしや)するにつき あがりて姑の気には 入らず姑の顔付(かほつき)あし ければそろ〳〵姑を 譏(そし)りいだし腰元(こしもと)下(げ) 女(じよ)を相手(あひて)に陰口(かけくち)いへば そのうちにも又姑に 告(つげ)るものありて家内(かない) の騒動(さうどう)となる娵(よめ) 【頭書・左丁】 始(はじめ)の願ひには嫁入 してさきの夫の気に 入り姑(しうとめ)を大切(たいせつ)にして いかやうのことありとも 辛抱(しんばう)する願ひなり しを打わすれて夫(をつと)の 大切(たいせつ)なる親(おや)をそしり わか口よりわが身を 追出(おひいだ)す媒(なかだち)をなすこと なりうたに  しうとめをおやぞと   おもひつかへなば  いかでふたゝび    家をいづべき  ○奉公(ほうこう)する心得(こゝろえ) 下女(げじよ)最初(さいしよ)の願ひには 【本文・右丁】   御さそひ合され御入のほと 御事と有かたく御うれしく   くとふも〳〵御まち申あけ 存上まいらせ候さてはわざと   まいらせ候御慮もしなから 内祝(うちいはひ)いたし候まゝ御 招(まねき)申上たく   そのよし御あねさまへも こなたより申上候やう竹(たけ)左衛門   仰上られ下さるへく候 申付まいらせ候 夕方(ゆふかた)よりいとさま 【本文・右丁】     めてたくかしく 御めしつれられ御 遊(あそ)ひに 御出被下候やう御ねがひ上まいらせ候 兼(かね)て御馴染(おんなじみ)の勝(かつ)五郎かさ久も 参(まい)り茶番(ちやばん)いたすとやら 申事に候まゝくれ〳〵も御 越(こし) 【頭書・右丁】 奉公(ほうこう)に出てよくつ とめ主人(しゆじん)の気(き)に入り 立身出世(りつしんしゆつせ)して衣服(いふく) も沢山(たくさん)にこしらへ相(さう) 応(おう)の所へ縁付(えんづか)んと おもひての奉公なり はじめ母親(はゝおや)のいひわた すには奉公にいづる からはいかやうの主人(しゆじん)に つかはるゝやしれず朝(あさ) もとくおき夜(よる)も遅(おそ)く 寝(ね)るものとこゝろえ へし女は第一 尻軽(しりがる) にして主人(しゆじん)にくち こたへせす仮(かり)にも朋(ほう) 【頭書・左丁】 輩(はい)と主人のことかげ くちいはず朋輩とて 油断(ゆだん)すべからず主人へ 告口(つげくち)するものと心得 べし年(とし)たけなば 必(かならず)〳〵旦那(だんな)のそば ちかくよらぬやうにし とかく人にそねまれぬ やう物事(ものごと)つゝしみ 大切(たいせつ)に勤(つと)むべしと いひわたす時娘も其 気(き)になつとくして母の 教(をしへ)のとほりにせんと おもひしはこれ最初(さいしよ)の 願ひなりさて奉公に 【本文・右丁】 御 待(まち)申上まいらせ候かしく   ○奉公(ほうこう)に出(いつ)る方(かた)へ遣(つかは)す文   かへす〳〵何なりとも いよ〳〵御 替(かは)らせなふ御入のよし   相応の御用も御さ候はゝ 御めてたくそんしあけまいらせ候   かならす〳〵御へたてなく 承(うけたま)り候へはお千世(ちよ)さま御 事(こと) 【本文・左丁】   御申こし下さるへく候 御 奉公(ほうこう)に御出被成候よし   こなた喜美にても御てつ 嘸々(さそ〳〵)御 支度(したく)何角(なにか)と御   だひに上ケ可申候まゝくれ〳〵 賑々敷(にぎ〳〵しく)御 祝(いは)ひなされ候はんと   御申こし御ねかひ申あけ 御めてたく存上まいらせ候さては   まいらせ候めてたくかしく ふつゝかの品(しな)には候得とも 【頭書・右丁】 出てもはじめのうちは 何事も慎(つゝし)み心いつ ぱいに勤(つとむ)るゆゑに 主人も朋輩(はうばい)も心 よくもてはやすにつけて そろ〳〵と口(くち)をきゝ出し おなじ不奉公仲間(ふほうこうなかま) のかげくちにのりて あしさまに主人を罵(のゝし)り つひにはおのれの 身のさまたげと成(なり)て 立身(りつしん)出世する事 なし最初(さいしよ)の願(ねが)ひ には何とぞよく奉公 して衣類(いるい)をも拵(こしら)へ 【頭書・左丁】 出世もせんと思ひし ことなればその出世を するやうにつとむべき はずを不奉公(ふほうこう)するは はじめの望(のぞみ)をわすれ たるなりこゝをもつて 只(たゞ)人は発端(ほつたん)の志(こゝろざし)を ひるがへさずして一図(いちづ)に まもるべきことなり歌に  山だしのこゝろを   もちてつとめなば  つひには主(しう)に   めぐまれぞせん 右 姑(しうとめ)と娵(よめ)と下女(げぢよ)と 三ツの品はありといへ共 みな是そのこゝろより 【本文・右丁】 御 鼻紙(はなかみ)一 束(そく)御まな一折 わざと御 祝(いは)ひ上まいらせ候 こなた事も御 悦(よろこひ)御 暇乞(いとまごひ)ながら まいり申度候得共御 存知(ぞんぢ)の 取込(とりこみ)にて御 無沙汰(ぶさた)いたし 【本文・右丁】 まいらせ候 宜敷(よろしく)御 伝上(つたへあげ)られ 下さるべく候めで度かしく   ○移徙(わたまし)を祝(いは)ふ文   返す〳〵福(ふく)兵衛事もさつそく けふしは御 日柄(ひがら)もよろしく   御よろこひに上り申へきところ そなたへ御 移(うつ)りなされ候よし 【頭書・右丁】 善悪(ぜんあく)の相(さう)はあらはるゝ ことなりしかれども人 是に心をよする事 なくして家(いへ)を乱(みだ)し身(み) を害(そこな)ふ事になりゆく ことをしらざるなり つゝしむべし〳〵 [諸礼(しよれい)躾(しつけ)がた]【四角枠で囲み】 ○貴人(きにん)へ小袖(こそで)を参(まゐ)ら するに先 衿(ゑり)の左右(さゆう) を両手(りやうて)にもちてひざ まづきめし給ふとき たつてきせまゐらせ 帯(おび)の中ほどを左右 の手にもちてまゐ らするなり 【頭書・左丁】 ○脇差(わきさし)をさし上る事 刃(は)の方をわが方になし 鍔(つば)の下とこじりの所 を両手に持(もち)て参らすべし ○惣(さう)じて刃物(はもの)を参ら すには刃(は)の方をわが方に なしてまゐらすべし ○床(とこ)のかけもの或(あるひ)は 花(はな)などを見る事まづ 床(とこ)の少しこなたより ひざまづき三足(みあし)ほど 床の前へはひ寄(より)よこ 畳(たゝみ)の上へ両手をつきて 見るべし ○しやうじあけたて のこと左りの膝(ひざ)をつき 【本文・右丁】   多用(たやう)ゆへこなたよりよろしく 御 愛度(めでたく)存上まいらせ候此品   申上候やう申付候かしく わざと御祝ひ申あけまゐらせ候 幾久敷(いくひさしく)御おさめ下さるへく候         めてたくかしく   ○病気見舞(びやうきみまひ)の文   返す〳〵とくより御見舞 御かもしさま此ほとより御すぐれ 【本文・左丁】   申上たく候へとも此ほとは 不被成候よしいかゝ御入候や   無人(ぶにん)にてことの外せはしく 扨々(さて〳〵)御 案事(あんじ)申あけまいらせ候   それゆへ自由なから 嘸々(さぞ〳〵)御心づかひさつし上まいらせ候   御無さたいたしまいらせ候 此一 重(ぢう)御 見廻(みまひ)ながらおくり上   御ゆるし下さるへく候かしく まいらせ候くはしくは御めもじに 【頭書・右丁】 右のひざをたてゝ障子(しやうじ) のこし板(いた)のさんに手を かけあけたてをすべし ○屏風(びやうぶ)のたてやうは まづひざまづきて中 ほどをひらき次に右へ ひらき又左りへ開(ひら)くべし ○貴人(きにん)え状(じやう)を参ら する事 左の手をつき 右の手にて手紙(てがみ)の 中ほとより少し下の かたをもちて貴人の よみ給ふやうにおもて の方をむかふへむけて さし出すべし ○貴人(きにん)より肴(さかな)または 【頭書・左丁】 菓子(くわし)はさみ給ふ時は する〳〵と御 前(まへ)へゆき ひさまづき膝(ひざ)にて 三足ほどはひより両 手をかさねて頂戴(てうだい)し 又三足ほどさがりて 右のひざをたて下座(しもさ) のかたへひさをひねりて たつべし ○香(かう)のきゝやう香炉(かうろ) をうけとりたるまゝにて きくべし手を上へ かざしてきくはいやし 香炉の灰(はい)のおしやう 菱形(ひしがた)におすべしいづれ もおしきる所をば長(ちやう)に 【本文・右丁】 申上まいらせ候めて度かしく   ○悔(くやみ)の文 御ともさま御 事(こと)久々(ひさ〳〵)御すぐれ 不被成(なされず)候 所(ところ)御 養生(ようしやう)かなわせられず 御 臨終(りんじう)のよし御しらせ下され 【本文・左丁】 さて〳〵おとろき入まいらせ候 嘸々(さぞ〳〵)御それさま御ちからおとし さつしあけまいらせ候こなた事 早速(さつそく)上(あが)り可申候得共 折節(をりふし) 持病(ぢびやう)にてふせりおり候まゝ 【頭書・右丁】 おすべし半はいむ事 なりたきものゝ時は灰 をおすに銀葉(ぎんよう)をしき そのまゝ置(おく)べし請取(うけとり) わたしの事左の手に 香炉(かうろ)をすへ右の手を そへて渡(わた)すなり請取 やうも同前(どうぜん)にこゝろえ べし但(たゞ)し貴人より たまはらば右の手を左 の下へかさねてきくべし [食事(しよくじ)しつけかた]【四角枠で囲み】 本膳(ほんぜん)出候前に座配(ざはい) おの〳〵まづ左右へ 一 礼(れい)してその人の位(くらい) 【頭書・左丁】 相応(さうおう)に次第(しだい)すべし およそ座(ざ)につくには 位(くらい)の高下(かうけ)をもつて座 をさだむるなれは辞義(じぎ) に及ばずといへども女 は格別(かくへつ)なり上客(しやうきやく)ほど 叮嚀(ていねい)に末座(まつざ)へ会釈(ゑしやく) あるべし位なき人の 座席(ざせき)には長幼(ちやうよう)を以 てさだむるなれば猶 厚(あつ)く辞義(じぎ)して定(さだ)む べし ○給仕(きうじ)のもの膳(ぜん)をすへ る時 中(ちう)にて取一 礼(れい) すべし ○上客 箸(はし)をあぐる時 【本文・右丁】 まづは文(ふみ)して御 悔(くやみ)申上 まいらせ候御 用(よう)も御ざ候はゝ何事(なにごと) にても御 遠慮(ゑんりよ)なく仰下(おほせくだ) され候やう御 願(ねかひ)申上まいらせ候以上   ○仏事(ぶつし)申 遣(つかは)す文 【本文・左丁】 きのふは御 使(つかひ)下されことさら 仏(ほとけ)かたへ何寄(なにより)之 品(しな)送(をく)り 下され万々(まん〳〵)有(あり)がたくそんし 上まいらせ候さては明日 麁末(そまつ)の非時(ひじ)さし上 度(たく)候まゝ 【頭書・右丁】 相伴(しやうばん)其外も亭主(ていしゆ)に 一礼して箸(はし)をあぐべし ○箸をとるはさかさまに とり右の手の無名指(むみやうし)と 小指(こゆび)とのあひだをはさみ 大ゆびと人さし指(ゆび)と 中指と三ッの指(ゆび)にて 飯椀(めしわん)のふたをとり左の 手へわたし又 汁(しる)わんの ふたを取めしわんのふた の上へかさねて膳(ぜん)の右の かたはらに置(おく)べし引 おとしの《振り仮名:飣椀|さいわん》のふたは 喰(く)ふ時ひらきてよし 引おとしは本膳(ほんぜん)の一二の 膳(ぜん)につかずして只 膳(ぜん)の 【頭書・左丁】 わきへひくをいふなり 先 飯(めし)わんを左の手 にてあげてはしを順(じゆん)に 取なほし一はし二 ̄タはし めしをくひて下におき 左の手にて汁(しる)わんを あげて汁の実(み)をくひ 汁を吸(す)ひ実(み)を喰(くひ)て それより本膳のさいを くふべし本膳のさい 二ッあらば左りの方の菜(さい) より喰(く)ふべし若(もし)香(かう)の 物左りにあらば右の方 より喰ふべし飯(めし)汁(しる) 飣(さい)と順(じゆん)にくふべし ○二の膳(ぜん)三のぜんの時は 【本文・右丁】 御 夫婦(ふうふ)さま御 揃(そろひ)御 入(いり)下 され候やう御 願(ねかひ)申しあけ まゐらせ候 何(なに)も御めもし の節(ふし)と申 残(のこ)しまいらせ候以上   ○火事(くはし)見舞(みまひ)の文 【本文・左丁】 今朝(けさ)ほと承(うけたまは)り候へは其(その)御 許(もと)さま 御 近火(きんくわ)のよしさて〳〵御さわぎ なされ候はんとおどろき入まいらせ候 去(さり)ながら何の御 障(さはり)もなふ 皆々様(みな〳〵さま)御 機嫌(きげん)よふ入せられ候 【頭書・右丁】 先本膳の飯(めし)汁(しる)さいを 二三 度(ど)もくひて二の 汁(しる)をすひ同じくさいも くひて本ぜんのめしに かへるべし三のぜんも又其 ごとし凡二三の汁(しる)料理(れうり) によりて客(きやく)くはざる時の 為(ため)にうすみそすまし抔(など) にするなり又本汁をかへ にやりたる間にくふなり ○むかふづめはくはずして よし二の膳の汁は右の 手にとり左の手へうつして くふ置(おく)時も又右の手へ うつしておくべし三の汁は 左りの手にて其侭(そのまゝ)とり 【頭書・左丁】 とるがよし鱠(なます)ばかりは 持上(もちあげ)てくふべからず汁(しる) の実(み)さいのものにても 椀(わん)のそこにあるものを撰(ゑり) 出してくふべからず亭主(ていしゆ) さいのものをひかばかさを 出してうくべし貴人 飣(さい) をひかば箸(はし)を膳の上に 置わんを出し両手を つきてまつべしあたへ 給ふ時両手にうけて いたゞくへし ○貴人の前にては盃(さかづき)は 右の手にとり左の手を そえてもつべし同輩(どうはい) ならば左の手にて飲(のむ)べし 【本文・右丁】 御 事(こと)何(なに)より〳〵御めて度(たく) 御 嬉(うれ)しく存上まいらせ候 取(とり)あへす 有合(ありあは)せ候まゝ此(この)二種(ふたしな)御めに かけまいらせ候たゞ〳〵御 見廻(みまひ)の 印(しるし)までに候めてたくかしく 【本文・左丁】   洪水(おほみづ)見舞(みまひ)の文 打(うち)つゞき御 日和(ひより)あしく御もとさま 御 近所(きんじよ)水出(みづいで)候よしさて〳〵 御 蔭(かげ)ながら殊(こと)に御 案(あん)じおりまいらせ候 去(さり)ながら最早(もはや)水(みづ)も引(ひき)候との 【頭書・右丁】 しかし婦人(ふじん)はいづれも両 手にもちたるがよし ○吸物(すひもの)出すにきうじの ものわが右におかば箸 を取ながら右の手にて そのふたを取すぐに其 手にて椀(わん)をあげ左の 手にうつすべしもし 左手におかば左にて取 すぐにふたをひらき椀 をあぐべし箸の取直(とりなほ)し やう引汁の所にて見 合せしるべし吸ものは てうしの出るを見合せて くふべしまつ実(み)をくひ 汁を二口ほとすひて 【頭書・左丁】 その後(のち)は心にまかすべし 引汁は箸をさかさまに 取直し無名指(むみやうし)小指 両指にてにぎり大指 人さしゆび中の指にて 椀を取あげ右の手に うつし先汁をすひ後 に箸をもとのごとくに 順(じゆん)にとり直(なほ)して実(み)を くふべし下におくには 又右の手にうつして おくべし ○婦人(ふじん)は猶さらの事 にてものごと尋常(じんじやう)に飯(めし) も大ぐちにくふべからず 汁(しる)はくちおと高(たか)く長(なが)く 【本文・右丁】 御 事(こと)まづ〳〵御 恙(つゝが)なふ何より 御めてたく存上まいらせ候御 見廻(みまひ) まで早々(さう〳〵)申上まいらせ候かしく   ○疱瘡(ほうそう)酒湯(さかゆ)悦(よろこひ)の文   かへす〳〵こなた母事(はゝこと)も 御あねさま御事御 疱瘡(ほうさう) 【本文・左丁】   よろしく御よろこひ 御 軽(かろ)く御ひたちなされ御さゝゆの   申上候やう申付まいらせ候 御 祝(いは)ひとて赤飯(せきはん)御おくり        めてたくかしく 被_レ 下 有(あり)かたく御めてたく存上まいらせ候 こなたよりはろく〳〵御 見舞(みまひ)も 不_二申上さて〳〵申わけなく 【頭書・右丁】 すゝることあしし舌(した)うち すべからす酒(さけ)の時同前也 ○串(くし)にさしたるもの箸(はし) にてはさみあげ左りの 手にてくしを取はし を持(もち)そへてくふべし凡(すべ)て 椀(わん)のうちよりそとを 見ること有べからずまた よそ見してものを はさむべからず口をさし 出してくふべからず ○箸(はし)の取やうは三ッ折 にて上の折めをとる べし箸(はし)を膳(ぜん)におくは 初(はじ)め置たるごとくにて 置べし凡(およそ)飯汁椀(めししるわん)を 【頭書・左丁】 取あひだははしを取直し ひざの上に置べしいく たびもかくのごとくすべし ○飯椀(めしわん)のふたにつかば はしをもつてわんの 内へ入るべし ○もてなしの内三たび 亭主(ていしゆ)がたへ謝礼(しやれい)すべし はじめに料理(れうり)の結構(けつかう) なることをいひ二度めに は料理 丁寧(ていねい)なるよし をいひ三度めには諸事(しよじ) 念(ねん)入たるよしを挨拶(あいさつ) すべし此外 遠来(えんらい)の もの名物(めいぶつ)に気(き)をつけ 礼を述(のぶ)べし 【本文・右丁】 おそれ入まいらせ候此御さもし 少々ながら御 祝(いは)ひ上まいらせ候         めてたくかしく   ○大風(おほかぜ)見廻(みまひ)の文 ゆふしは殊(こと)の外(ほか)の大風(おほかぜ)にて 【本文・左丁】 嘸々(さぞ〳〵)御 心(こゝろ)づかひ御 老母様(らうぼさま) 何(なん)の御 障(さはり)もなく候やそれのみ 御 案(あん)じ申上まいらせ候 取(とり)あへず 御 様子(やうす)うけたまはりたくしめし 上まいらせ候めてたくかしく 【頭書・右丁】 ○茶菓子(ちやぐわし)出るときは 盆(ぼん)を右の手にて取上け 左の手にうつしやうじを 取りくふべし ○後段(ごだん)の菓子めい〳〵に 出るはよし若(もし)廻(まは)り菓子 ならば上客 相伴(しやうばん)に辞義(じぎ) して後 紙(かみ)をいだして よき程(ほど)に取相伴の前へ 差出(さしいだ)すべしよき菓子を ゑりとるは見ぐるし ○茶(ちや)ぐはしをはらば上 客より立て手水(てうづ)つかふ べし此時 濃茶(こいちや)の出る ならばていしゆ持来(もちきた)る 茶わんを上客 請取(うけとり)て 【頭書・左丁】 いたゞき座(ざ)におき上客 次の人へのめといふおの〳〵 あつく辞義(じぎ)して上客に ゆづる上客 互(たがひ)に辞退(じたい) せば茶さめ申べしといひ てとりあげ三口のみて 我(わが)吞(のみ)たる所を指のはら にてぬぐひ次の人へ渡(わた) す次の人 受取(うけとり)上客の 呑たる所をわが前へふり むけいたゞきのみて前の ごとく次第にのみ末座(ばつざ)の 人にいたらばのみ終(をは)りたる 茶椀(ちやわん)を上客へもどす也 上客受取 茶(ちや)の香(か)を かぎちやわんを見て次へ 【本文・右丁】   ○逗留(とうりう)見廻(みまひ)の文   返(かへ)す〳〵御つれ〳〵のふしは 愈々(いよ〳〵)御さへ〳〵敷(しく)御入候はんと   ちとこなたへも御はなしに 御めて度存上まいらせ候さては   御出下さるべく候このせつ 此程(このほと)より永々(なか〳〵)の御 逗留(とうりう)   所々(しよ〳〵)開帳(かいちやう)にてにぎはひ候まゝ 嘸々(さぞ〳〵)御つれ〳〵さつし上まいらせ候 【本文・左丁】   御とも申たく候いつれにても 此品(このしな)宿(やど)にてこしらへ候まゝ   こなたへ御こし御まち申 さもしき品には候へとも御 慰(なくさ)み   上まいらせ候かしく ながらしんじ上まいらせ候こなた事も 見合(みあはせ)候て御 見舞(みまひ)に上(あが)り山々 御はなし申上べくとたのしみ 【頭書・右丁】 おくる次第に見をはり 末座(ばつざ)より又上客へ帰(かへ)す 其時上客少しいたゞき 下におく時ていしゆ出て 茶碗(ちやわん)をとらばおの〳〵一礼 すべし本式(ほんしき)はめい〳〵こい 茶なりざしきの廻(まは)り茶は 略義(りやくき)なりこい茶出る時 ふくさを添(そへ)て出すは 茶碗あつきゆゑなり ちやわん冷(ひえ)たらば服紗(ふくさ)を 下に置のむべしふくさは 上客の前によせ置べし ○金柑(きんかん)は皮(かは)ながら蜜柑(みかん)は 三ッにわり皮をとりて くふなりきざはしは皮(かは)を 【頭書・左丁】 とらずされども女中は 皮をとりてくふべし ○干飯(ほしいゝ)道明寺(どうみやうし)これは箸(はし) かたし有べし其 箸(はし)を とりたるにてほしいゝを とり水を箸にてかき立 くふべし塩(しほ)を箸にて さしくはへ水はいくたびも かへてくふべし ○ちまきはかしらを二ッ 三ッほどきて下へおして 箸(はし)にさしくふべし杉(すぎ) 楊枝(やうじ)を用ゆべし 其外さま〴〵ありといへ共 先日用のあらましを記す 余は師をもとめて知べし 【本文・右丁】 おりまいらせ候めて度かしく   ○芝居(しはゐ)申合の文   くれ〳〵もいつごろよろしく候や 菊五郎(きくごらう)助六(すけろく)ことの外よろしき   御きはめ下され候てこなたへ よしうけたまはりまいらせ候   御さそひの御文御こし いつにても御 供(とも)申上度こなたより 【本文・左丁】   下さるべく候御もとさま 御 誘(さそ)ひ申上べく候まゝいつ頃   御ともしさまへはこなたよりない〳〵 にてよろしく候哉御 内々(ない〳〵)   さそひに上申べく候まゝ 仰(おほせ)下さるべく候こなた事は   さやう思召下さるべく候かしく 此節(このせつ)取込(とりこみ)之中申出しかたく候ゆへ 御もとさまより御さそひの 【頭書・右丁】 [給仕(きうじ)の次第(しだい)]【四角枠で囲み】 すべて女のたしなみは 髪(かみ)をゆひ化粧(けはひ)して朝(あさ) 夕(ゆふ)身(み)を奇麗(きれい)に持(もつ)べし すがたを作(つく)るのみにあらず 上たる人への礼義(れいぎ)にて また不浄(ふじやう)を除(のぞ)くとも いへば人の給仕(きうじ)する時は 猶さらのことにして手足(てあし)を きよらかにすべし女の顔(かほ)に 紅粉(べに)おしろいをよそほひ たり共手足のむさきは にげなく愛相(あいさう)のつきる ひとつなればよく〳〵 嗜(たしな)むべし 【頭書・左丁】 ○膳(ぜん)すゑやうの事両手 の親指(おやゆび)を膳のふちへ かけてしつかりともち 目八分(めはちぶん)にさし上け膳の 下より見るごとくにして しとやかに客座(きやくざ)三尺程 こなたにひざまづき膳を 下に置両手をかけて客 の前へおしてすゆるなり とかく畳(たゝみ)のへりをふまぬ やうに心がくへしたつ時は 客(きやく)座敷(ざしき)の右座におらば きうじは左の足よりたつ べし客左座ならば 右の足よりたつと心得べし ○客 飯椀(めしわん)を出すとき 【本文・右丁】 御つもりに福助(ふくすけ)へは申聞せ候まゝ さやうにおほしめし下さるべく候 いつれ御返り事御ねかひ 申上まいらせ候めてたくかしく   ○安産(あんさん)怡(よろこひ)の文 【本文・左丁】   かへす〳〵こなたみな〳〵よりも 一筆申上まいらせ候お阿舞(あん)さま   よろしく申上候やう申おり 御 事(こと)やすらかに御 産(さん)遊はし候よし   まゐらせ候やかて御めもしに 御 血(ち)ごゝろもなく御子さまも   まん〳〵御よろこひ申上へくと 御 達者(たつしや)に御入候との御事万々   存上まいらせ候めてたくかしく 御めてたく嘸々(さぞ〳〵)御もとさま 【頭書・右丁】 たつて客座の三尺ほど こなたにひざまづき左の 手をつき右の手に盆(ぼん)を 持て差出し飯椀を とりて飯鉢(めしばち)のある所へ もどり飯椀ぼんにのせ たるまゝ下に置両手にて 飯鉢のふたを取下座の 方へあおむけて置飯椀 の糸底(いとぞこ)を左の手にて もち右にて杓子(しやくし)を取 二杓子半にもるべしさて 飯椀を右へ持直し糸 ぞこをもちて客へ差 いだすなり又飯鉢を直(すぐ) に客の前へもち出して 【頭書・左丁】 右のごとくし飯(めし)をもること もあり中輩(ちうはい)は此 格(かく)にて よろし ○汁(しる)のかよひの事 客 汁をかゆる時汁椀を盆(ぼん) にて取て下におきその 汁椀のふたを取て打きせ たつべし汁をかへて来る とき客の前にひざまづき ふたをとりて盆のふちに うつむけ置差出すなり 客汁椀をとらば又盆 を下に置盆にある汁 椀のふたをとりて客の おきたるものと所へなを してたつなり 【本文・右丁】 御 怡(よろこひ)とさつし上まいらせ候 誠(まこと)に 麁末(そまつ)之 品(しな)には御座候へとも 御 産着(うぶぎ)一かさねしんし上まいらせ候 幾久敷(いくひさしく)御 祝(いは)ひ納(おさ)め下さるべく候 めて度かしく 【本文・左丁】   ○餞別(せんべつ)の文 弥(いよ〳〵)御 替(かはり)なふ御くらしのよし 何よりもうへなふ御めて度存上まいらせ候 さては徳入(とくにう)さま御事 上(かみ)がたへ 御出のよし明日御 立(たち)との御事 【頭書・右丁】 ○二の膳(ぜん)三の膳 向(むか)ふ附 の順(じゆん)は本ぜんの右へ二の 膳(ぜん)左り三の膳向ふづけは 本膳の少し右のかたへ すゑおくべし菓子又 ひきもの出る時本ぜんの 向ふ左りのかたへすゆる也 ○酌(しやく)とりやうてうし持  出下にすはりてうしの口 を左の方へむけて我前(わがまへ)へ おき客の盃(さかづき)とりたる時に 立て客の前少し下座 の方へひざまづき右の手 にててうしのつるひたりの 手にててうしのふたを おさへてつぐべし酒(さけ)つぎ 【頭書・左丁】 たらばまたもとの座(ざ)へ もとりて扣(ひか)ゆべし ○肴(さかな)挟む事右の手 にはしを取左の手を添(そへ) てはしをそろへさかなを はさみ差出すべし客 一 礼(れい)するならばこなたも 慎(つゝし)んで一礼すべし台(だい) 引物(びきもの)は客の吸物椀(すひものわん)の ふたをとりてもり出す べしすべて給仕(きうじ)は座 敷(しき)の敷居一ツへだてゝ 次にあるべしされども 客 同輩(どうはい)よりはやはり その間(ま)の下座にあるべし 猶 委(くはし)くは師伝(しでん)を受(うく)べし 【本文・右丁】 嘸(さぞ)かし御 取込(とりこみ)御いそもしさまと 存上まいらせ候 左様(さやう)候得はこなた 有合(ありあわせ)候まゝ国府(こくぶ)多葉粉(たばこ) 一 包(つゝみ)御おくり上まいらせ候こなた松兵衛(まつひやうへ)事 御 見(み)たても申上たく候得共 【頭書・左丁】 折柄(をりから)御 屋敷方(やしきかた)御用(ごよう)多(おほ)く それゆへ其御 断(ことはり)御 怡(よろこひ)ながら こなたより申上候 様(やう)申付まいらせ候 頓(やが)て御めでたく御かへりのほどを 御 待(まち)申上候まゝ此よしよろしく 【頭書・右丁】 [婚礼作法(こんれいさほう)の次第(しだい)]【四角枠で囲み】 ○先(まづ)はじめに媒(なかうと)世話(せわ)を なしていよ〳〵相談(さうだん)とゝ のひて聟(むこ)の方より良(りやう) 辰(しん)をえらみ結納(ゆひのう)の品々 遣(つかは)すなり俗(ぞく)にこれを たのみの證(しるし)といふ此 礼(れい)を なしては再(ふたゝ)び変替(へんかへ)する ことなく夫婦(ふうふ)やくそくの はじめの礼(れい)なり結納(ゆひのう) 上輩(じやうはい)ならば七 荷(か)七 種(しゆ) 中分(ちうぶん)は五荷五種次は 三荷三種しうとしう とめへも小袖(こそで)目録(もくろく)樽(たる) 肴(さかな)いづれもその分限(ふんげん)に 【頭書・左丁】 よりて相応(さうおう)の品 遣(つか)はす べし舅(しうと)よりも聟(むこ)の 方へ祝義(しうぎ)同様たるべし 女より夫(をつと)へはつかはすに およばず ○婚礼床(こんれいとこ)のかさりは 上々のこんれいならば座(ざ) 敷(しき)もあらたにして床も 三間床なるべし二間 床ならば外につけ床ある べし女房(にようばう)の道具(どうぐ)は 娵(よめ)の方より女中前日 来りてかざるべしみづし 黒棚(くろだな)も床の次の方に かざるべしくろ棚は元(もと) ふたつ棚(だな)といひしが 【本文・右丁】 仰上られ下さるべく候めでたくかしく   ○留守見舞(るすみまひ)の文   かへす〳〵事により候はゝ こなたせはしきまゝ御たつねも   夕かた御はなしなから 不申上候 嘸々(さぞ〳〵)御 留主中(るすちう)御 淋敷(さびしく)   御たつね申上べく候何も〳〵 御入候はんと存あけまいらせ候 【本文・左丁】   御めもしにやま〳〵申上へくと 幸(さいわ)ひ外(ほか)より貰(もら)ひ候まゝこのしな   のこしをきまいらせ候かしく 御めにかけまいらせ候 誠(まこと)に〳〵 御はもしには候 得共(へども)只々(たゞ〳〵)御 見舞(みまひ)の心(こゝろ)ばかりと御くみなし 下さるべく候めで度かしく 【頭書・右丁】 婚礼(こんれい)にふたつといふ ことをいみて黒棚といふ これにかざる道具(どうぐ)おき 所あり貝桶(かひおけ)は床にかざ るべし女房の衣服(いふく)は 別(べつ)に衣桁(いかう)にかけて かざるべし上輩(じやうはい)はその 夜(よ)七ツかけてかざる三ツ にとりてかへて五ツかけ 五ツに三ツかけべし衣(い) 桁(かう)は二ツも三ツもあるべし 手ぬぐひかけはいかうより 上座たるべし床の間 には女房の持せたる夜(よ) 着(ぎ)蒲団(ふとん)けせうの間 ならはこゝに化粧道具(けしやうどうぐ)も 【頭書・左丁】 かざり置べし ○小袖(こそで)台(だい)につみやうは 常(つね)のごとくにして袖を かへさぬなり ○むかひ小袖とて其夜 にいたり聟(むこ)の方より 遣(つか)はすものなり小袖 一かさねなり衿(ゑり)とゑり とを合せ糸(いと)にて綴(とぢ)て つかはすなり ○輿(こし)請取(うけとり)わたしは家(いへ) のをとなたがひに出て 門前にむしろを敷(しき)輿(こし) をすゑてたがひに祝義(しうぎ) をのべそれよりこなたの 人 輿(こし)を請取(うけとる)なり貝(かひ) 【本文・右丁】   ○帰宅礼(きたくれい)の文   返す〳〵あまり御はもしには 一寸としめし上まいらせ候さては   候得とも此品々御子さまかたへ こなた鶴(つる)左衛門事 道中(とうちう)   御上ケ被下べく候ま事に 何の障(さはり)なく夜前(やぜん)帰(かへ)り候て   御みやけの印(しるし)ばかりに御さ候 いまだいづかた様へも参り不申候 【本文・左丁】   めてたくかしく 留主中(るすちう)は御 心(しん)もじに御なし 被下やま〳〵有かたく早速(さつそく) 御 礼(れい)に上(あが)り可申所 旅労(たびづか)れにて 自由(じゆう)ながらそのよし こなたより申上候やう申おりまいらせ候 【頭書・右丁】 桶(をけ)あらばこれもをとな らしき人こしのつぎに うけ取べし ○夫(をつと)へ女より持参(ぢさん)は小(こ) 袖(そで)一 重(かさね)上下(かみしも)一 具(ぐ)帯(おび)一 筋(すぢ)下おび一筋 扇(あふぎ)一本 畳紙(たとふがみ)五 組(くみ)刀(かたな)一 腰(こし)已上 七 種(しゆ)ひろぶたにて出す これを上輩(じやうはい)として 段々其 分限(ぶんげん)に応(おう)じて さま〴〵あるべきとなり ○夫婦(ふうふ)座(ざ)の事は夫(をつと)は 客座(きやくざ)女は主位(しゆゐ)に座(ざ)す あまり真向(まむき)に座せず 少しすみがけになる やうにすべし 【頭書・左丁】 ○三ツ盃(さかづき)ぜんぶ等(とう)の 次第(しだい)は二 重(ぢう)手懸(てかけ)もて なしの膳せきれいの台(だい) 蓬莱(ほうらい)の台(だい)置鳥(をきとり) 置 鯉(こひ)瓶子(へいじ)三ツ盃 銚(てう) 子(し)ひさげをかざりおく なり平人(へいにん)は分限(ぶんげん)にした がひ床(とこ)のかざりすべし てかけ三ツ盃はかならず あるべしさて待女郎(まちぢやうろ)は 娵(よめ)を化粧(けしやう)の間へいざ なひ衣桁(いかう)などつく ろひざしきへつけ座(ざ)さだ まりて先手がけを出し 待(まち)女郎目出たく挨(あい) 拶(さつ)し夫婦にのし 【本文・右丁】 まつは恙(つゝが)なく帰(かへ)り候ゆへ御しらせ 御 礼(れい)かた〴〵そう〳〵申上まいらせ候かしく   ○帰国怡(きこくよろこひ)の文 御 許(もと)さま御 事(こと)長(なが)〳〵の 御 道中(どうちう)御わもしもなふ 【本文・左丁】 御 機嫌(きげん)よく御 帰らせられ候よし さて〳〵御めてたく嘸々(さぞ〳〵) 御子さまかた御 歓(よろこひ)とすいし上まいらせ候 取敢(とりあへ)ず此(この)一樽(ひとたる)御 祝(いは)ひ上まいらせ候 おしつけ上(あが)り候而まん〳〵御よろこひ 【頭書・右丁】 こんぶかちぐりをとりて まゐらすべしさてをとな しき女房二人てうし ひさげをとりて下座に 下りへいじの雄蝶(をてふ)を取 てあをむけおき酒をひ さげにうつし扨ひさげより てうしへよきほどにうつして 酌(しやく)わが前にひかへて待(まつ) べし扨 引渡(ひきわた)しいで 夫婦と待女郎にすへべし 其時 本酌(ほんしやく)三ツ盃を嫁(よめ) の前に持参(ぢさん)す嫁とり あげて三 献(こん)加(くは)へて聟(むこ)へ さすむこいたゞき其盃を 下へまはしあらたに中の 【頭書・左丁】 盃をとりて三献のみて 嫁にさす嫁いたゞきて 此盃を下へまはし下の 盃をとりあげ三献のみ て婿(むこ)へさすむこ盃を とり三献のみておさむ 是三々九度のまなび也 ○色直(いろなほ)しは此盃すみて いだすべし夫(をつと)は嫁(よめ)より 持参(ぢさん)の小袖(こそで)たるべし 此盃の事はいろ〳〵流(りう) 義(ぎ)あれども下にては 略義(りやくぎ)をもつはらとす れば大略(たいりやく)をこゝにしるす なほ此みちをしれる人に 尋ぬべし 【本文・右丁】 申上まいらせ候 愛度(めでたく)かしく   ○衣類(ゐるい)借(かり)に遣(つかは)す文 いよ〳〵御 障(さはり)なふ入せられ 御めて度御 嬉敷(うれしく)存上まいらせ候 さては度々(たび〳〵)申上かね候へとも 【本文・左丁】 本店祝(ほんたないわ)ひにてお福酌(ふくしやく)に たのまれ候得共御 存知(ぞんぢ)之(の)通(とふり) 衣類(ゐるい)に差支(さしつかへ)困入(こまりいり)まいらせ候 御ほどさま黒(くろ)の御 小袖(こそで)にても 御かり申上度候御 下着(したぎ)も 【頭書・右丁】 ○是(これ)より舅(しうと)姑(しうとめ)にげん ざんすみて雑煮(ざうに)を出し 又盃をはじめ酒(さけ)もかん をすべし ○舅入(しうといり)の事右むこ入の かくをもつてじんしやく あるべし中にも婚礼(こんれい)は 賤(しづ)の男(をとこ)賤(しづ)の女までも 相応(さうおう)の礼をかくべからず 先祖(せんぞ)より子(し)々 孫々(そん〳〵)に いたるまでの吉凶(きつきよう)を定(さだ) むるところなれば能々(よく〳〵) 尋(たづ)ねはからふべし [平生(へいせい)女(をんな)こゝろ得(え)]【四角枠で囲み】 それ縫針(ぬひはり)のわざは女 【頭書・左丁】 第一の芸(げい)なれば幼少(ようせう) の時より手習(てならひ)とひとしく はやく習(なら)ひおぼゆべき ことなり世間(せけん)に琴(こと)三味(さみ) 線(せん)小唄(こうた)などにばかり 心をいれてぬひはりの わざにうとき女もあれ どもたとひ富(ふう)家にそ だちおほく人をつかひ て物縫(ものぬひ)女を置(おく)身(み)なり とも心がけざれば女の道(みち) に背(そむ)くといふべし昔(むかし) 文王(ぶんわう)といふ聖人(せいしん)の后(きさき)は みづからおりぬひあらひ はりし給ひけるよしふるき 書(ふみ)に見えたり物縫(ものぬふ)に 【本文・右丁】 御 見繕(みつくろ)ひいかやうの品(しな)にても 宜敷(よろしく)候まゝ何(なに)とそ〳〵 御かし被下候やう御ねがひ申上まいらせ候 まづはそう〳〵めて度かしく   ○金子(きんす)借(かり)に遣す文 【本文・左丁】   返す〳〵ま事に〳〵よん処 態々(わざ〳〵)示(しめ)し上まいらせ候いよ〳〵   なき事にてせひなく 御さへ〳〵敷御入遊はしかす〳〵   御無心申上候もしまた 御めてたく存上まいらせ候さては   いかゞにおほしめし候はゝ こなた事内々 拠(よんところ)なき   こなたゐるいにてももたせ 事にて金子(きんす)入用(いりやう)に候 所(ところ) 【頭書・右丁】 日をえらむあしき日に たちぬひすれば歌(うた)を となふるなどむかしより 例(ためし)あり衣(い)ふくは衣(い) 食住(しよくぢう)の三ツのうちに して人の身(み)大切(たいせつ)の物 なれば麁末(そまつ)にせざる つゝしみなるべし此ゆへに よく身をたしなみ日を えらむべし其内 申(さる)の日 もの裁(たつ)ことあしし ○衣装(いしやう)をたつ時の歌(うた)  ちはやふる神のをし  へを我ぞしる此やど  よりも富ぞふりぬる  あさひめのをしへ初めし 【頭書・左丁】  から衣たつ度ごとに  よろ こびぞする ○いそぎのものたつ時は 日のよしあしをもゑらま さるゆゑ此歌を三 返(へん)とな へたる上ものたつべし  つのくにのあしきゑび  すのきぬたちて入日も  時もきらはざりけり  からくにのあられゑびす  のきぬなれば日をも時  をもきらはざりけり ○洗(あら)ひすゞきすることは 下さまの女なすわざ ながらこれも心かけてよし 麁服(そふく)なりともあらひ 【本文・右丁】   上ケ申へく候ぜひ〳〵御かし 御存知之通物入多き中   下され候やう御ねかひ申上 申出かたく叔母(おは)かたへ申遣し   まゐらせ候いづれにも 候得とも是も此 節(せつ)すぐれ   御めんだうさまなから御かへり事 不申 夫(それ)ゆへ才覚(さいかく)もむつかしきよし   御なし下さるへく候かしこ 申 越(こ)し候何とそ〳〵申上かね 【本文・左丁】 候得とも金子(きんす)拾五両ほど むかふ五日(いつか)まて御とりかへ御かし 被下候やう御 願(ねが)ひ申上まいらせ候 誠(まこと)に〳〵きのどくさまに 存上候へとも差当(さしあたり)りいたしかたなく 【頭書・右丁】 きよめて垢(あか)つきたる ものを着(き)ざるこそ夫(をつと)の 礼義(れいぎ)といひまた其身 の不浄(ふじやう)をはらふべし 先(まづ)衣類(いるい)をあらふには 灰汁(あく)に和(くわ)してこれを おとすなりつよく油(あぶら)の しみたるは滑石(くわつせき)の粉(こ)を ふりかけてすゝぐべし よくおつるなり ○洗(あら)ひ張(はり)色(いろ)あげ手(て) 染(ぞめ)は女のなぐさみにも すべき手わざにて身 をつかふのひとつなり 染(そめ)ものゝ中にも紅梅(かうばい) 染の心やすく出来て 【頭書・左丁】 はなやかにその色(いろ)紅(べに)に まさることをこゝに記(しる)す  一すはう    四十目  一ずみ 《割書:薬種也|》  同  一かりやす   十二匁  一みやうばん  三匁 右ひとつにして水二升 程入れせんじよく出る を待(まち)ていくたひも染(そ) むべしことの外色よく 出るなり ○女の心はおろかなる ものなるを雑書(ざつしよ)を見て 男女(なんによ)の相性(あいしやう)をかんがへ ひのえ午(うま)をいみ日を うらみものいまひする 【本文・右丁】 御内々(ごない〳〵)御 願(ねが)ひ申上候御 聞届(きゝとゞけ) 下され候やうひとへに〳〵 御 願(ねが)ひ申上まいらせ候かしく   ○金子(きんす)断(ことわり)の文 せんもしは御 使(つかひ)被下候其せつ 【本文・左丁】 仰(おほせ)下され候 金子(きんす)の事 鶴助(つるすけ)へくはしく申 聞(きか)せ候へども 此節(このせつ)仕入(しいれ)さい中(ちう)にてこなたとても さしつかへ候ほどの事に御座候得は 近頃(ちかごろ)〳〵御きのどくさまには 【頭書・右丁】 ことみな親のをしへなく 道(みち)をまもりわきまへる ことをしらしめきるゆゑ なりいはんや後世(ごせ)を もがひて財宝(ざいほう)をなげ うち人倫(じんりん)の道(みち)を知(しら)ず ましてやさしたるよき こともなきで身(み)のさい はひを祈(いの)るはまことに愚(ぐ) 痴(ち)のいたりなり菅家(くわんけ)の おんうたにこゝろだに まことの道にかなひなば いのらずとても神(かみ)や 守(まも)らんよく〳〵此 歌(うた)を 詠吟(えいぎん)してさとるべし 今世(こんじやう)だによくをきめば 【頭書・左丁】 後世(ごしやう)とてもひつかひ なく子孫(しそん)永(なが)く繁昌(はんじやう) してめでたけるべし [ 七夕祭(たなばたまつり)の事(こと) ]【四角枠で囲み】 七夕まつりは七月七日の 夜(よ)織女(しよくじよ)銀河(ぎんが)をわた りて牽牛(けんぎう)にあふと むかし桂陽城(けいやうじやう)の武丁(ぶてい) といふもの言【立ヵ】いたせし よりつたへてさま〴〵の 菓物(くわぶつ)をそなへてこれを まつるを乞功奠(きつかうでん)【乞巧奠の誤】といふ そのまつりの次第(しだい)茅萱(ちがや) の葉(は)をしき瓜菓(くわ〳〵)を手(た) 【本文・右丁】 候得とも此度(このたび)の事は御 断(ことはり) 申上候やう鶴助(つるすけ)申おり候 扨々(さて〳〵)外(ほか)にてもなく御 許(もと)さまより 折角(せつかく)之 仰(おほせ)下候御 事(こと)御 断(ことはり) 申上 思召(おほしめし)の程(ほと)恥(はぢ)入候御事と 【本文・左丁】 存あけまいらせ候 誠(まこと)に〳〵よく〳〵の 事と思召(おほしめし)下さるへく候 猶(なを) 御めもじのふしと申残し まゐらせ候めて度かしく   ○金子(きんす)催促(さいそく)の文 【頭書・右丁】 向(む)けうつはものに水を 入て星(ほし)の影(かげ)をうつして をがむ竹(たけ)を七尺に切(きり)て 左右にたてそのさきに 糸(いと)を七すぢ願(ねが)ひの糸(いと) とてかくるなり又 香(かう)を 炷(た)き琴(こと)を■【弾】じてま つるなり [四季(しき)之(の)曲(きよく)并(ならびに)序(じよ)]【四角枠で囲み】 花(はな)の春(はる)たつあした には日かけくもらで にほやかに人の心(こゝろ) ■【裳】おのづからのび らかなるぞ四方山(よもやま) 【頭書・左丁】  春(はる) 春(はる)は梅(うめ)にうぐ ひすやどしや藤(ふぢ)に 山吹(やまぶき)さくらがざす みや人は花にこゝ ろをうつせり  夏(なつ) 夏(なつ)はうのはなたち ばなあやめはちす なでしこ風(かぜ)ふけば すゝしくて水(みづ)に こゝろうつせり  秋(あき) 秌(あき)はもみぢに鹿(しか)の 【本文・右丁】 此ほどは御 疎々敷(うと〳〵しく)存上まいらせ候 さてはせんもじの金子(きんす)きのふまて 御 約束(やくそく)御ざ候ゆへ御まち申 上候得共御さたなく誠(まこと)に〳〵 こなた事(こと)こまり入まいらせ候 【本文・左丁】 竹右衛門(たけゑもん)へかくし候て御 内々(ない〳〵) 御かし申候事 故(ゆへ)だん〳〵 のび〳〵になり候てはこなた 心づかひ御すいもじ下さるへく候 是非(ぜひ)〳〵此 使(つかひ)のものへ御 渡(わた)し 【頭書・右丁】 音(ね)ちくさの花に まつむし鳫(かり)鳴(なき)て 月(つき)にこゝろうつ せり  冬(ふゆ) 冬(ふゆ)はまづ初(はつ)しも あられみぞれ 木(こ)がらしさえし 夜(よ)のあけぼの雪(ゆき) にこゝろうつせり 各 委(くは)しく琴曲抄(きんきよくせう) 撫箏雅譜集(ぶさうがふしふ) 其外(そのほか)琴の譜の 書(しよ)に見る 【頭書・左丁】 [名香(めいかう)六十一 種(しゆ)    名寄(なよせ)文章(ぶんしやう)]【四角枠で囲み】 夫(それ)名香(めいかう)のかず〳〵に 匂(にほ)ひ上なき蘭奢待(らんじやたい) いかにおとらん法隆寺(ほうりうじ) 逍遥(せうよう)三吉野(みよしの)紅塵(かうぢん) ややどの古木(こぼく)の春(はる) の花(はな)とくに妙なる法(ほ) 華経(けきやう)は花たちばな の香(か)ぞふかみみかはに かくる八(や)ッ橋(はし)の法(のり)の はやしの園城寺(おんじやうじ)しか はた似(にたり)うらみそふ しげる菖蒲(あやめ)にふく 【本文・右丁】 下され候やう御 頼(たのみ)申上まいらせ候かしく   ○弟子入(でしいり)頼(たの)み遣(つかは)す文 一 筆(ふで)申上まいらせ候 時分柄(じぶんから) 御ひへ〳〵敷候得共御 揃(そろひ)遊はし 御さへ〴〵しく御入らせ候はんと 【本文・左丁】 御めて度存上まいらせ候さては 娘(むすめ)事御 面倒(めんだう)さまながら 稽古(けいこ)御 頼(たの)み申上たく 存上まいらせ候 誠(まこと)に〳〵ふつゝか ものにて御 気(き)の毒(どく)さまには 【頭書・右丁】 軒端(のきば)般若(はんにや)鷓胡斑(しやこはん) 青梅(せいばい)よ世(よ)にすぐれたる 楊貴妃(やうきひ)ののどけき風(かぜ) に飛梅(とびうめ)は花の跡(あと)なる 種(たね)が島(しま)白妙(しろたえ)なれや 月の夜ににしき龍田(たつた)の 紅葉(もみぢ)の賀(か)夜(よ)さむの 千鳥(ちどり)浦(うら)つたふふかき 教(をしへ)の法花(ほつけ)こそそこ ぞと匂(にほ)ふ臘梅(らうばい)や八(や) 重垣(へがき)こめし花(はな)の 宴(えん)むもるる花の雪(ゆき) を見ゆ名月(めいげつ)賀(が)蘭子(らんす) 蜀(しよく)橘(たちばな)名(な)さへ花散(はなちる) 【頭書・左丁】 里(さと)とへば春(はる)の丹霞(たんう)の 立そひて 手に持馴(もちなれ)し 花がたみ身(み)の上薫(うはだき)の 香(か)を残(のこ)す須磨(すま)の 浦(うら)わに夜(よ)を明石(あかし)  しらむも知(しら)ぬ十五 夜(や) の軒(のき)は隣家(りんか)に立並(たちなら)ぶ  ふる夕時雨(ゆふしぐれ)手枕(たまくら)の のこる有明(ありあけ)ほども なく雲井(くもゐ)うつろふ 紅(くれなゐ)は春の初瀬(はつせ)の曙(あけぼの) に寒梅(かんばい)二葉(ふたば)早梅(さうばい)を おく霜夜(しもよ)とぞまがえ けんむすぶ契(ちぎり)は七夕(たなば )よ 【本文・右丁】 御座候得共何事も御 隔(へだて)なく 御 呵(しかり)被下御 世話(せは)おなし 下され候やうひとへに〳〵 御 願(ねが)ひ申上まいらせ候めで度かしく   ○約束(やくそく)変替(へんがへ)の文 【本文・左丁】 兼々(かね〳〵)御 約束(やくそく)にて明日は 王子(わうじ)へ御 供(とも)いたし候つもりにて 支度(したく)とゝのへ候ところ 福冨町(ふくとみてう)伯父方(おぢかた)よりお美智(みち) 安産(あんさん)のよし申 越(こ)し候 【頭書・右丁】 夜(よ)は老(おい)の身(み)の寝覚(ねざめ) せし東雲(しのゝめ)はやく 薄紅(うすくれなゐ)日影(ひかげ)もさすや 薄雲(うすくも)の上り馬(うま)とや名(な) 付(づけ)けん六十(む???)の  香(かう)と是をいふなり [婦女(をんな)いましめ草(ぐさ)]【四角枠で囲み】 それ女子(をなご)はとりわけて 父母(ちゝはゝ)のいつくしみ深(ふか)き ものなれば幼少(ようせう)の時 より遠(とを)くあそばず 男の子と交(まし)りあら〳〵 しき戯(たはぶ)れ事をば なすべからず奉公(ほうこう)に 出なば朝(あさ)とく起(おき)て 【頭書・左丁】 東(ひがし)の方にむかひ天(てん) 道(とう)を拝(はひ)し次に神(かみ) 仏(ほとけ)の心ざしある方を 祈(いの)りまた父母のかた を拝(をが)みて其日の 災難(さいなん)なきやうにと毎(まい) 朝(てう)いのりて怠(おこた)るべ からず其主人には勿論(もちろん) 傍輩(ほうばい)のものに至る までも詞(ことば)がへしせず おのれ首尾(しゆび)よきとて 人を見くだし高(たか)ぶら ず何事にも柔和(にうわ) にしてことば多く仮(かり) にも高声(たかごへ)にて罵(のゝし)る べからずまた縫(ぬい)はりの 【本文・右丁】 夫(それ)ゆへ捨置(すておき)がたし今(いま)より そのかたへ参り候まゝ明日の 御事はよん所なく御ことはり 申上まいらせ候 誠(まこと)に〳〵御 気毒(きのどく)に 存上候へ共此よしよろしく 【本文・左丁】 御 聞(きゝ)とゞけ下さるへく候かしく   ○年賀怡(ねんがよろこび)文 春水様(しゆんすいさま)御事御 年賀(ねんが) 御 祝(いわ)ひ遊はし候由 誠(まこと)に〳〵 万々歳(まん〳〵ざい)の御 寿(ことぶき)かぎりなふ 【頭書・右丁】 事は女第一の芸なれ ばよく〳〵ならひ覚(おぼ)ゆ べしたとへ富貴(ふうき)の 家(いへ)に生れたりとも 仕立物(したてもの)はいふにおよ ばずしきしつぎもの つゞまやかにするは 家をたもつ柱(はしら)だて なるべし夫(をつと)をもち てはよくしたがひとかく 男をさしおきていひ 出しはからふことあしし 何事も詞(ことば)かずいはず わかしらぬ道の事は 猶さらにして卒爾(そつじ) にかたるべからずつたへ 【頭書・左丁】 聞(きゝ)たる事などはあや まりあるものなれば かたらんとおもふ事 わが心に会得(えとく)して かたるべし人をつかふ ものはおのれ人につか はるゝとおもふべし万の 事 急(きう)に仕(し)おほせんと するは気(き)のつくるもの なりたとへば十ヲのこと 七ツ八ツまで仕おほせ なば今ひとつふたつは のこしおきよく気(き)を やしなひかさねて成就(じやうじゆ) すべきと思ふがよし 強(しゐ)てものごと早急(さつきう) 【本文・右丁】 御目出たくそんし上まいらせ候 此品(このしな)聊(いさゝか)ながら御めにかけ まいらせ候 宜(よろし)く仰上られ 下され候やう御 願(ねが)ひ申上まいらせ候        めで度かしく 【本文・右丁】   女 手(て)ならひ   教訓(けうくん)の書(しよ) 古(いに)しへはものかゝぬ 人も世(よ)におほかりし とはきけども今(いま) かくめて度(たき)御代(みよ)に 【頭書・右丁】 せんとすればきはめて 障(さはり)できたがるものなり ゆゑに人をつかふにも 二ツ三ツあてがひその 事を仕廻(しまひ)たらばまた だん〳〵にあてがふべし 一 度(ど)におほく用事を いひつくればかならず 仕損(しそん)じできるもの なり物(もの)習(なら)ふにも高(たか)き にいたらんとする業(わざ) をばひくきより習ひ とほくいたらんと思ふ 事をは近(ちか)きより習ふ べし無理(むり)なる主(しう)親(おや) にてもよくしたがふは 【頭書・左丁】 女の道なりとしより たる主人(しゆじん)親(おや)をばない がしろにしてよろづのこと に気(き)をもませかへつて 主親の非(ひ)をあげ己(おのれ) 手がら顔(がほ)して他人(たにん)に 遠慮(えんりよ)も言(いひ)ちらすもの 智(ち)浅(あさ)くたかぶるこゝろ あるゆゑに損失(そんしつ)多(おほ)く さやうのものは終(つひ)に世(せ) 帯(たひ)を持(もち)くづし流浪(るらう) するものなりもと是 愚(ぐ)なるゆゑその時は かへつて主(しう)を譏(そし)り 親(おや)を恨(うら)むものなり 主に不忠(ふちう)にし親に 【本文・右丁】 むまれて物をかゝ ねば常(つね)にふじゆう なるのみにあらず 人と交(まじは)りて見おと されわらはるゝ事 あれば口(くち)をしき事 【本文・左丁】 ぞかしされば上(かみ) れき〳〵より軽(かろ)き 下々(しも〳〵)まで先(まづ)手(て)ならふ 事(こと)をおしゆるは何国(いづく)も おなじ事なり中(なか) にも女子は年(とし)裳(も)【変体かなの「も」ヵ】 【頭書・右丁】 不幸(ふかう)にせしものは 天然(てんねん)の因果(いんぐわ)にて そのむくひあるべし 諺(ことわざ)にいふ人五十になる まで上手(じやうず)にいたらざる わざをばすつべきなり はげみ習ふゆくすゑ もなし老人(らうじん)の事 をば人も笑(わら)はぬもの なりわかき人の中へ 交(まじは)りたるも見ぐるし よろづのわざをやめて 暇(いとま)ある身となるやうに かねて用心(ようしん)すべし 廿年は老(おい)やすく学(まな)ぶ 事はなりがたし一寸 【頭書・左丁】 の光陰(くわういん)をもかろく おもひてついやすべ からず過(すぎ)しあとの はかなきは是悲(せひ)もなく 行末(ゆくすゑ)には心をつくべし 人間(にんげん)の一生はながく 世界(せかい)は広大無辺(くわうだいむへん)也 万の事いち〳〵師(し)は もとめがたししらざる 事をば人に問(と)ふべし われより年(とし)もおとり 位(くらゐ)もひくき人たりとも 道(みち)をきくことわれより さきならばはづかしく おもはずしてその人に とひならふべし年(とし)の 【本文・右丁】 つもれば物(もの)縫(ぬふ)わざを 学(まな)ぶものなればいとけ なきより外(ほか)のわさを 置(をき)てまづ習(なら)ふべし 第(だい)一女子は一 生(しやう)を 親(をや)のもとにてはくら 【本文・左丁】 さずおとなしく 成(な)りてはよそへ嫁(か)し てゆく〳〵は他人(たにん) の中(なか)の住居(すまゐ)して おくるものなれば たとへ親里(をやざと)よろしく 【頭書・右丁】 前後(ぜんご)にはよるべからず 我(われ)は道を師(し)とすべし 師にあはざればわづか の事にてもまどひ とけぬものなれば千 日の勤学(きんがく)よりも一 時の学匠(がくしやう)すぐると いふ事よく〳〵わき まへつとむべし〳〵 [琴(こと)三味線(さみせん)の事(こと)]【四角枠で囲み】 琴(こと)は唐土(もろこし)にて神農(しんのう) といふ聖人(せいじん)つくり はじめ給ふなり日本 にては天(あめ)のうすめの 命(みこと)はじめ給ふ 【頭書・左丁】 ○琴(こと)と三味線(さみせん)との 調子(てうし)をあはする事 琴の三の糸三味線 の一琴の五はさみせん の三とおなじ ○二あがりのてうしは 琴の三さみせんの一 琴の八三味せんの二 琴の十三さみせんの 三とおなじことなり ○糸のおさへやう大 指(ゆび) にさしたる爪(つめ)を前(まへ)の 爪といふ中ゆびにさし たる爪を向ふ爪と云(いふ) 人さしゆびにさしたる つめをわき爪といふ 【本文・右丁】 みめ容(かたち)よく生(むま)れ付(つき) ても物(もの)かく事のつた なければ夫(おつと)のかたの 親類中(しんるいぢう)また出入(でいり)の ものにも見(み)けなされて 中(なか)〳〵はづかしき 【本文・左丁】 事おほしまた手 なとうつくしう書(かき) ぬればをや達(たち)をも 人のほめるもの なれば孝行(かう〳〵)の ひとつなり折ふしの 【頭書・右丁】 ○糸(いと)の名手まへを 巾(きん)といふ次を為(ゐ)と いふ其次を斗(と)といふ それより次第に十九 八七六五四三二一なり おさゆる糸は四七八九 なりひきならひには おさへずしてもくるし からず地(ぢ)のきはに墨(すみ) つけおくべし ○三味線(さみせん)のひきはじ めは文禄(ぶんろく)の頃(ころ)石村(いしむら) けんぎやうといふ法師(ほうし) 琵琶(びわ)を■【忠ヵ】し三味 線をつくりたり ○習(なら)ひやう能(よく)弾(ひ)く 【頭書・左丁】 人の撥(ばち)のもちやう ゆびづかひ色(いろ)の付やう 見るべしばちは手の 内かるく持べし力(ちから)を 入るればはやき事に ばちまはらずぎしつき 糸の音色(ねいろ)出ざるなり 糸をおさゆるゆびは つよくかゞめ爪にて 糸をおさゆべし其 心がけにてしぜんと ねいろ出るなり ○琵琶(びわ)は長さ三尺五寸 四すぢ下よりさかさま にひくを琵(ひ)といふ上 より順(じゆん)にひくを琶(わ)と 【本文・右丁】 文(ふみ)のとりかはしにも 筆(ふだ)かなはねばぶん しやうもふつゝかさに 先(さき)にて打寄(うちより)わらひ 草(ぐさ)となることそほゐ なけれめしつかふ 【本文・左丁】 下々さへものなど能(よく) 書(かき)ぬればそだちの ほどのおもはれて げにくしく覚(おぼ)ゆる ものなり扨(さて)また 縁(えん)にもつきて後(のち) 【頭書・右丁】 いふ天竺(てんぢく)のあしゆりん 王の代(よ)にきぶといふ もの作(つく)りたるとかや [衣装(いしやう)の正字(しやうじ)尽(づくし)]【四角枠で囲み】 裱(おもて) 裡(うら) ■(せぬひ) 襟(ゑり) 衽(おくび) 内襟(したがひ) 袖(そで) 袂(たもと) 裙裔(もすそ) 帯(おび) 襘(おびむすびめ) 紐子(ひも) 宗細(わな) 手巾(てぬぐひ) 汗拭(あせぬぐひ) 紛(ぞうきん) 手帕(ふくさ) 襷襅(たすき) 袍(うはぎ) 缺掖(わきあけ) 裳衣(もつき)【蒙ヵ】 浴衣(ゆかた) 䙃(そでなし) 褓襁(むつき) 襯(したぎ) 【頭書・左丁】 汗■(はだぎ)【襂ヵ】 湯具(ゆぐ)  ○絲(いと)の部(ぶ) 緒(いとぐち) 類(いとふし) 縷(いとすぢ) 絹絲(きぬいと) 線(よりいと) 糸頭(あらいと) 胡糸(しらいと) 経(たて) 緯(ぬき) ■(くみいと) 啄木(たくぼく) ■■(ぼたん) 錦(にしき) 金襴(きんらん) 綺(おりもの) 繍(ぬひもの) 金紗(きんしや) 紗(しや) 羅(うすもの) 穀(ちりめん) 縬(しゞら) 綾(りんす) 光綾(ぬめりんず) 花綾(くわりんず) 紗綾(さあや) 絹(すゞし) 練(ねり) 【本文・右丁】 はよき事につき 悪(あ)しき事につきても 親(おや)ざとへひそかに 言(いひ)やりたき事 必(かならず) あるものなり事に よりて使(つかひ)のものにも 【本文・左丁】 きかせられぬ事 あるとき筆(ふで)かな はねばこゝろにおもふ ほど書(かき)とられず文(ぶん) しやうもふつゝか なればかたこと 【頭書・右丁】 緞子(どんす) 光絹(はぶたへ) 紬(つむぎ) 兜羅綿(とろめん) 絨(びろうど) 七綿(しゆちん) 八綿(しゆす) 縑(かとり) 柳條絹(しまぎぬ) 印美布(さらさそめ) 西洋布(かなきん) 素紬(りうもん) 太布(たふ) 幅(の) 纈(かのこ) 羅紗(らしや) 羅背板(らせいた) 纊(あらわた) 縕(ふるわた) 絮(つゝみわた) ■■(もめん) 斑枝美(はんや) 単皮(たび) 草履(ざうり) 雪踏(せつた) 履(ほくり) 鼻緒(はなを)  右織物類の字也 【頭書・左丁】 機(はた) 布機(ゑもはた) 滕(ちきり) 《振り仮名:■框|をさかまち》【筬框ヵ】 升(よこ) 綜(へ) 筟(くだ) 繀(くだいと) 榎(いのつめ) 臥機(くつひき) 杼(ひ) 筬(をさ) 篗(わく) 柅(わくのえ) 鍼(はり) 㧺(ゆびぬき) ■■(へそ)【績纏ヵ】 紡車(いとぐるま) 紡錘(つむ) 績桶(をごけ) 綿筒(あめ) 撹車(わたくり) 撥拊(まいは) 裁刀(ものたち) 搗碪(きぬた) 硟(きぬまき) 杵(きね) 綿弓(わたゆみ) 尺(ものさし) 笥(ふみほこ) 文匣(ぶんとう) 硯箱(すゞりばこ) 水滴(みづいれ) 【本文・右丁】 書(がき)のやうにてわが おもはくとたがふ事 あれば心(こゝろ)の程(ほど)はつう ぜずしてよめ かぬるゆへ里(さと)にて気(き) つかはする事(こと)あり 【本文・左丁】 よみ書しては年(とし)へて ひさしき事も 記置(しるしおき)ぬれば忘(わす)れず 遠(とを)き国(くに)のおとづれ をも互(たかひ)に問(とひ)きゝ またよの中の楽(たのし)み 【頭書・右丁】 案(つくえ) 剪刀(はさみ) 穵子(みゝかき) 削刀(こがたな) 剃刀(かみそり) 箸(はし) 盒(じきろう) 盤(さら) 礠盆(さはち) 浅仔(まるぼん) 篩(ふるひ) 烟盆(たばこぼん) 烟筒(きせる) 食案(ぜん) 行厨(べんとう) 酒鐺(かんなべ) 《振り仮名:𬐜仔|ちよく》 巵(さかづき) 茶匙(さじ) 箒(はうき) 《振り仮名:衣𨥇|たんす》 匜(はんざう) 椸(いかう) 櫛匣(くしばこ) 衣籠(つゞら) 屏風(びやうぶ) 畳紙(たとふがみ)  ○化粧道具(けしやうどうぐ) 紅(べに) 白粉(おしろい) 櫛(くし) 【頭書・左丁】 眉墨(まゆずみ) 眉掃(まゆはき) 鏡(かゞみ) 三櫛(みつぐし) 筋立(すぢたて) 笄(かうがい) 簪(かんざし) 尺長(たけなが) 髷結(まけゆはひ) 水引(みつひき) 油(あふら) 元結(もとゆひ) 鉄醤(かね)【漿】 洗粉(あらひこ) 糠袋(ぬかぶくろ) [小児之薬法(せうにのやくほう)]【四角枠で囲み】 ○小児 生(うま)れて乳(ち)を のまざるには葱(ねぶか)の 白(しろ)みを壱寸に切(きり)て 乳を少し加(くは)へせん じて用ゆべし ○小児生れて大小 【本文・右丁】 悲(かな)しみいにしへの 事までをもわきまへ しる事みな是(これ)もの かく徳(とく)なれや【也ヵ】む かし名女(めいぢよ)たちの 源氏(けんじ)いせものがたり 【本文・左丁】 ゑいぐわ物がたりを かけるも物かく事が もとぞかしむかし より世上(せじやう)にてもの かゝぬをは目(め)の 見えぬにひとしと 【頭書・右丁】 便通(べんつう)ぜさ【ママ】るには 婦人(ふじん)口をよく洗(あら)ひ てその児(こ)の心(むね)と両の 手のうらと両の足(あし) のうらを精出(せいだ)して すふべし ○小児うまれて産(うぶ) 声(こゑ)出ぬには塩(しほ)を臍(ほそ) の中にぬり灸(きう)をし 人参(にんじん)をせんじて 用ゆべし ○小児の軟癤(なつぶし)出(いづ) るには苦参(くしん)をせんじ あらふべしそのあと には胡麻(ごま)をこまかに よくすりてつけべし 【頭書・左丁】 ○小児の丹毒(はやくさ)には 鶏卵(たまご)のしろみにて 赤小豆(あづき)の粉(こ)をとき ぬるべし ○小児の夜啼(よなき)する には女の歯(は)につくる 五倍子(こぶし)をかねにて こねて臍(ほそ)にぬるべし ○小児の舌(した)に粟粒(あはつぶ) のごときものできたる には赤小豆(あづき)を粉(こ)に してぬるべしまた 寒(かん)の紅(へに)もよし [一生涯(いつしやうがい)の祝事(しうじ)]【四角枠で囲み】 夫人 生(うま)れて七日目を 【本文・右丁】 たれしもいふ事 なりたとえば盲(めしい) たる人のあまたの 医師(ゐし)に見せても いづれの医師(ゐし)も りやうじかなはぬと 【本文・左丁】 いふてもまた上手(じやうす) ありといへばもしかと おもふこゝろから 幾人(いくたり)にも見するは 眼(め)のあきたさの余(あまり) にて病人(びやうにん)の 【頭書・右丁】 一七 夜(や)といふ此日 名(な)を つけ産衣(うぶぎぬ)を着(き)せ 男は左りの袖より女 は右の袖より通(とほ)すべし ○忌(いみ)あきとて男は卅 二日め女は卅三日めに 氏神(うぢがみ)へ参詣(さんけい)するなり ○喰初(くひぞめ)は百廿日めなり 生れ子に膳(ぜん)をすゆる 男は女のひざの上にあげ 女は男のひざへあげて くゝめるまねをなす ○誕生(たんじやう)日二 歳(さい)のとき 出生の日をいはふなり 髪置(かみおき)は三歳の時 十一月十五日にかみを 【頭書・左丁】 おくなり頭(かしら)の上(うへ)綿(わた)を うしろへかける也 末広(すゑひろ)を持(もた) せて氏神へまゐらす ○袴着(はかまぎ)は男子五 歳(さい)の 十一月十五日にきせ初(そむ)る 碁(ご)ばんの上に立(たゝ)せて 左の足(あし)より入させる也 ○被初(かつぎぞめ)は女子四才の 時の十一月十五日きせ初る 此事江戸にはなし ○男女とも八歳にて 入学(にふがく)さすべし手ならひ よみ物さすることなり ○元服(げんぶく)は十五六歳の ころ半元服(はんげんぶく)とて額(ひたい)に 角(すみ)を入るなり一両年 【本文・右丁】 ならひなり物かく 事は習(なら)ひさへすれは 一代あく眼(め)をあか ずにくらさんはくち おしき事ならずや 書うかべては身(み)に 【本文・左丁】 付たる宝(たから)にて 火(ひ)にもやけずとり 落(おと)す事もなく つかふてへりもせず 用心(ようじん)せねどもぬす まれもせず現世(げんぜ) 【頭書・右丁】 過(すぎ)て前髪(まへがみ)をとり稚(をさな) 名(な)をあらたむ女はかほ なほしとて眉(まゆ)を取 鉄醤(かね)【漿】 を付る大かたは縁組(えんぐみ)さだ まりて歯をそむるなり ○婚礼(こんれい)は殊(こと)に大事の 祝(いわひ)にてかず〳〵の法式(ほうしき) あり前(まへ)に出す ○年老(としおい)て法体(ほつたい)の 祝義(しうぎ)且(かつ)年賀(ねんが)度々(たび〳〵) ある中にも六十一を本(ほん) 卦(け)かへりといひ七十を 古稀(こき)の賀(が)といひ米の 祝(いは)ひとして八十八の年(とし) 誕生(たんじやう)日を祝(いは)ひ寿饅(じゆまん) 頭(ぢう)を製(せい)して祝ふなり 【本文・右丁】 来世(らいせ)の宝(たから)なり また物(もの)かくゆへに 身をたて仕合(しあはせ)よき 女性(によしやう)も世(よ)に多(おほ)し習(なら)ひ 給へや習ふべし    めてたくかしく 【左丁】       日本橋通壱丁目           須原屋茂兵衛       同   二丁目           小林新兵衛       本石町十軒店           英 大助 東都書林  中橋広小路           西宮弥兵衛       馬喰町二丁目           西村与八       芝三嶋町           和泉屋市兵衛       芝神明前           岡田屋嘉七 【裏表紙】 【墨で書込みあり・寅政ヵ】