《割書:雨宮|風宮》出侭略縁起 完 【手書きで】寛政十 《題:《割書:雨宮|風宮》出儘略縁記《割書:一九| 画作》三冊》 【検索用:十返舎一九/雨宮風宮出儘略縁記/あめみやかぜみやでほうだいりゃくえんぎ】 【刷りの違う資料:https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100054076/viewer/1 】  序 緒也自篗謂繰 出於是稿草説 ■苧糸与幼童   十遍舎一九 【篗=糸を巻き取る道具=枠】 【■=織を舟扁で書いたか】 こゝに十 ぺんしや 一九といふもの せうとく うちにいる ことがきらい にてねんぢう ぶら〳〵とたゞ いぬの川ばた をあるくよふに まごつきあるき けるに犬もある けばぼうに あたるの どうりにて ふつといゝと ころへいき やはせて御ち そふになりて かへるをたのしみ にいであるき けるがこのごろ はうちつゞき あめふりて さすかの一九 もこのてんき にはであるく 事なりかたく たゞうちに まじ 〳〵と して いれば ほんや からは さうしの さくを さいそく しられ しろものは なし 大きに てこつり さて〳〵 こまつた てんきだ てる事は ならずうち にいばほん やからせつい くるどふそこの あめがあがれば いゝがとひとり そらばかり ながめ  むせうに    きを    もんで      いる 〽この七日は  おいらか   とこのつき    なみのくはい     だから      とふぞ     それまでに       あがればいゝが 〽ことしの  すりは  よつぽと   あんした   きどりだが   どふも   だれも    ほめて     くれねへ        は    どふした      もんだ   らいねんは   しゆんまん【窪俊満】   さんへたの   まずはなる   めへとかく  すりもの  きどりは  しやうさ    どう【尚左堂】の     ことだ 一九がまいにちのあめを くろふにしているもどふり てんぢよくにてはこの ごろはてんとうさまも おつきさまもうちに ばかりござつてねたり おきたりしてあくび ばかりしてゐたまい けるがあまりふりつゞ けにふるゆへさだめて 下かいではなんぎする ものがあるだろふと おほしめし まづあめを しはいする うせいせいと いふほしを【うせいせい:不詳】 めして ながあめの よふすを たづね たもふに かのほしが 申あぐるに なるほと ごもつとも のおたつね しかしこの あいだのてんきは 八せん【八専】にてそのうへ つちにいりたるゆへ でうほうどふりの あめにてわたくし共 わがまゝにあめを ふらすにあらず その二三日いぜんより つゆにいりましたれば いよ〳〵ふらさねば ならぬてんきそふ なくてさへこのつきは さみだれ月六月の せつがわり【節替わり】までは たとへこぬかあめ でもふらし ませねばわた くしどもが あたりまへの やくめがすみ ませぬといふ 【八専:十干と十二支の五行が一致する人専一といい、干支の49〜60番目には専一画八回あるため八専と呼ばれる。和漢三才図会に「このときは天気は朦朧として鬱で、多くは陰雨(ながあめ)となる」とある。】 かみなりいふ 〽さだめしあなたがたも  おやかましうござり  ませうがわたくしの  しやうばいもたゞ  いまがしゆんで     ござります 〽ずいぶん  あめがいやる  とふりひと  とふりはきこへ  たがそれでも  ふりつゞけに  ふることは  見やはした  がいゝおほくの  人のなんぎする  ことだこういつ  ちやァおかしいが  おり〳〵はひのめも  おがまして  やらぬとむぐら  もち【=モグラ】も人げんも   おなじ事だ 〽そしてかみなりも  ちつとたしなんだかいゝ  きんねんははていぶ  ひやうばんがわるい  そしてせうはいに  でやつてけつして  なまよいになりやん  なひよつとおつこ  ちるとこれも人の  なんぎすることだ 〽一にちやふつかがぐらいはわた  くし共もやすもふと  ぞんぢますと下かいで  ついどでた事のねへ  てやいがでかけ  ますからまた  いやとも  ふらねば  なりませぬ 〽おてんとう  さまはなるほど  ごくろふせうだ  こんなにお心  づかいなさる  事はにん  げんは  よもや  しり  おる  まい あめはおてんとうさまに いやみをいわれて手下の あめどもへもいゝふらし おふ〳〵とそのひはくれ ころよりあめを やすませけるゆへ ひさしぶりにて おつきさまぶら 〳〵とでかけて みたまいけるが ながぶりのあげく にてまだくろい くもがどころ〴〵 にちらかつている ゆへみちがわるく ぞうりではある かれずどふやら あめはあがり たれどなか〴〵 かさははなされ ずとおつき さまかさを めしていで たもふ月が かさをめして ござるときは ゑてあめがふると いふいんゑんは    このゆへなり 〽このとき  せつちうあんの【雪中庵=大島蓼太】   ほつくに  さみだれや   あるよひそかに    まつのつきと     いゝしはよく  人のしる   ところ也    こんな    しれた事     より何も      かく事       なし どふかこふした  ところはさけの  かよい【=通い帳】ととつくり   をもちそふな    ふうていだ それよりあめは しだいにつよく なりまいにち ふりつゞけなれば てんとうさまは せかいのなんぎを おぼしめして いろ〳〵おゝせ つけられけれ どもかよふに ふりかゝりては てんちのあいだに これはといふよふな へんな事がなければ あめはやまされぬ などゝわがまゝをいふ ゆへてんとう さまひそかに かぜのかみ かたへおつかいを たてられあめ をふきはらふよふにと  おゝせつけら       れける おほしさまおししやに  きたりたもふ 〽忠しんぐらのもんく にたとへばほしのひる 見へずよるはみだれて あらわるゝといふが このせかいはいつかう よるもひるも   むちやになつて    ことのほかたい       くついたし           た 〽いさい 御らん のとふり かし  こまり   まし    た かぜのかみはてん とうさまのおゝせ をうけにようごの しま【女護島=吉原か大奥のこと】のにもつほど おびたゞしく かぜをふくろに しこんでそろ〳〵 とくちを ゆるめて かぜを いだし けるに おもい もよら ず あめ はこの かぜに ふき はら われて たち まち あめやみ ければてん とうさま にはかにおし たくなされて 出かけたまい なをもさし づをした まいてまだ ところ〴〵に まごついている あまぐも までのこら ずかぜにふき はらわせければ 上々吉の てんきと なりて ひさしぶり にてん とうさま せかいぢうをてらし たまいて しよにん のよろ こぶを うれ  し  がり  たもふ   ぞ  ありがたき そりやふくやれふく   たゞいまおふきじや    てんつく〳〵     てれつくてん 〽てんちけんこん こんどのかぜは ふいてびつくり さするさん〴〵  ふつたなが      あめ    すい〳〵     のすい 問て曰 〽あめは いとの やふにほそ くふるもの だがなぜ このあめは まるいの 答曰く 〽このまるい はあめの よりといふ ものさできもの によりの できるよふな ものにてあめ   もな    がく   ふると  よりができて  このよりが   ちつてし     まはね       ば      てん       き   になり   やせぬ 〽てがら〳〵   これで  せかいが  ひろ〴〵  とした   やふだ さてもあめは かぜのためにだし ぬけにふきはらわれ 手下のあめども 大きにあつくなり なんでもこんどあめ のふるときはいゝやわ せておもいれながく ふりもし又かぜが ふきはらいに でたらなんでも いちばんけちを つけてこのゝち かたでかぜを きらぬよふ  見せつけて   くれんとそうだん         する  〽わがまゝにふり    だしてはまた    てんとうさまから    しりがこよふから【=苦情が来るから】     もしゆふだちの      ふれでもあつ       たらその      ときこそはけん       くはかをふだ 〽ひさし  ぶりの  ひより  だから   ま   づ  とう  ぶんは   お  いら   をば  やす  ませて おくだろふどふ  ぞはやく   ふりてへ    もん     だ こんどは いゝやわ して かぜ をう けつけ ぬがいゝ  てんで  にふり  だしで ものんで 出かけ たがいゝ    ぜ 【振出し:ティーバッグのような状態で、熱湯に浸けて成分を振り出す薬。振出し薬。】 くもでやいもあめと ともにかぜにふきはら われ大きにせきこみ むつか〳〵と【むっかむっかと】むかばら をたてゝおこるかみなり がそばからたいこをたゝ いてせきこませるゆへ いよ〳〵くもははら をたてゝいまにも ふりだしそふないき おいになるおなじよふに あいてをわるくいつて 人をたきつけなどするを たいこをたゝくといふは このかみなりより いでたる事なり 又むく〳〵と たちぐもの おこるはこの いわれにてとかく くもはきのみじ かいものと見へたり 下かいから見ると とかくたちぐもの 見へるときはどこともなしに かみなりのごろつくはやれふれ そりやふれとそばでたいこを たゝいてせきこませると見へたり 〽くもはまいにち  おこつてみても  てんとうさまから  おさしづでも  なければゆふ  だちのも  よふしも  なくいよ   〳〵せき    こんでばかり        いる 〽こふいふはれきつた  てんきではまだ  もたのみはきさま  たちのむかつくを  たのみに  おいらも  たいこを  たゝいて  ほんの  むし  やし  ない  をする【虫養いをする=小腹を満たす】  といふ  もん   だ こゝにかわづは つね〴〵あめがすき にてふだんあめとは 心やすくつき やいけるゆへあめひと つぶひそかにおちて かわづのかたへたづね きたりかねてかいるの うたをよむ事は すみよしめうじん【能の『白楽天』】 のはなしにてかくれ なき事なればなに とぞあまごいのうた よみくれよとたのみ けるさすればその うたにてんとうも かんおふありて あめをふらせと いゝつけらるゝは ひつでうなりと だんじ【弾指=つかの間】のものがたり たのみけるにかいる もよんどころなく うけやいけるがこゝ ろにおもふやう しよせんこのほう ぐらいのうたにて あめのふるといふ 事もおぼつか なしこれは おのゝ小まち さまへおたのみ もふすがよい とかねてうたの みちにて出て いりせし事 なれはそのよし ねがいけるにさつ そくあまこいの うたをよみた もふにより てんとうも そのうたにかん おうありしにや たゞしはなだ かき小まち がうたときゝ たまいてすこし 御ひいきのこゝろ にやあめを ふらすつもりに それ〳〵の 雨がゝりへ  いゝわたし  たまいける 【蛙】 〽かいるは  くちから  ともふ  すが  わたく  しも  こし   おれ  ぐらいの  くちず  さみは  いたし  ますが  あめを  ふらす    ことは  おもい    も  よらぬ  ことで   ござり    ます 〽あなたは   うたはよく   およみなさる  御きりやうはよし  わたくしがへび     だとみいれ    ますに    しかしみいれた   ところがとふか    はりやいが     なさそふだ 【小町】 〽そなたかそふして   いるところは  どふか三すけ  まつたり【三助舞ったり=操り人形】といふ   ものしやわい        の 【三助舞ったり:南京操り(糸操り)で獅子を舞わせる時の掛け声。またその芸のこと。『江戸語の辞典』/後に「待ったり」の字をあてて「ちょっとまった」の意味として使われるようにもなったとか。】 小まちかうたにて 又雨ふりけるゆへかぜの かみもあめのてやいの もくろみをにくき やつばらこのたひも ひとまくりにふき はらつてくれんと でかけみるいふる あめはやりのごとく なか〳〵そばへも よりつかれす かぜのかみのおくれ つきしもまだ あめはふりたし ゆへなるへし それてもかせの ほうには何とぞ してあめへけちを つけてやらん とおもへ共 わがちからに およばす いろ〳〵ひやう ぎして てる〳〵 ぼうしを たのみ きたり このてんき よくなるよふに きとうを たのみける もとより もちまへの てる〳〵 ぼうし【てるてる法師】たん せいをこら していのり てんとう そのこゝろ を見ぬ かほも なされ がたく もはや 小まちへの きり【義理】も たちたれば あめは これまで なりとて それより 又はれ  きつた   ひより    となる 〽れんこん  みつば  にしい  たけ〳〵 くずのあり?  たけゑい   から?し    〳〵 おいらがころも に?ばかりなせ むかしふうに なを大きく まるを  して かいて おいたと おもつ  たら なるほ  ど かう しつかり かいて おかぬ とおれが あたま はなん たか しれ ねへやつ    さ てる〳〵ぼうしが きとうによりて また上々の てんきつゞき あめはあがつ たりやと なり ければ また 〳〵 あめの ほうで より やい もふ小まち【小町】 でもいく めへとふ したもん だろふとさう だんのうちやみ くもおもいつき にててる〳〵 ぼうしが ぎやうほうを くしく【くじく?】さん だんがよし なぜと いふに小町 がうたの とくにて まだふる雨 のやみたるは てる〳〵ぼう しがせかいの りうじんを ふうじこめたる ゆへなりそのぎやう ほうをさへくじき なばりうじんいでゝ 雨をふらす事 うたがいなしと やみくものなかま のくもでやいに それ〳〵のやくを つけきれうすぐれし【器量優れし】 天人をたのんで くものたへまとこじ つけしらくもくろ くものふたりをてる〳〵 ぼうしのでしとなしはくうん こくうんとなのらしてつけ おきくものたへまがいろじかけ のとりもちして てる〳〵ぼうしが ぎやうぼうを ちや〳〵むちや にするつもり くはしくはなる かみ上人の きやうげんの ごとくなれば すじがきを こゝには    しよる 【鳴神上人:歌舞伎の『鳴神』に出てくる僧侶の名前。天皇が祈祷の報酬を払わないことに腹をたてて龍神を封印するが、雲絶間姫の色仕掛けにまける。】 てんとうつくしい てんわうじやの【天王寺屋:歌舞伎役者の屋号】 さん かうと【三光:二代目中村富十郎の俳名】 きたは 【ただし、寛政二年(1798年)に二代目はまだ12〜3才だったはずなので、初代のことを言っているかもしれない。】 〽かゝるやまがに   やさぼうず  さてしゆけうじや【さて、修行者】   にやさおんな【に、優女】        とは   さしづめ〴〵?      そうづ【ぐそうづ=愚僧都?】      ふじ       たろふ【?】      といふ       もの         だ 【65行目以降は芝居だったら役者は誰だろうという話をしているので「ふじたろう」も役者の名前だと思われる。藤太郎が誰かはわからない。】 【この話に小野小町がからんでくるのは『鳴神』の中で小町の歌が雨乞いのアイテムとして使われてるかららしい。また鳴神に小町の歌が出てくるのは、ある旱魃の年に勅命を受けた小町が雨乞いの歌を詠んだらたちまち雨が降ったという伝説が元になっている。】 さすがの てる〳〵 ぼうしも くものたへ まがきりやう にうつゝを ぬかしてついに ぎやうぼう をはぐらか されなんに もならぬ ものとなり ふうじこめ たるりうじん いちどにおころ たちて雨 もとのごとく なりければ かぜのかみ でやいくやし がりまた〳〵 よりやいを つけてさう だんし けるに このうへは どふも しかたが あるまい どふしたら よかろふと やふ〳〵おもい つきこのうへは ぢしん【地震】 をゆつて もらう がいゝ九はやまい 五七のあめに 四つひでりと いふからなん でもよつじ ぶんにぢしん がすると いよりに なるから ぢしんの ほんだな かの なまづ をたの  むがいゝと   そう    だん   きはまる 【九は病…:地震が起きた時刻によって次にどんな災いが起こるか占う方法。六八ならば風と知るべし、と続く。】 〽なんぞといふと  なみだあめを  ふらして  ほへづらを  しやァ  がるくせ  にふるの  ふらん    のと  きの   つゑゝ  やつら     だ 〽そのかわり  ふゆになる      と  まいにち  からつかぜ  ばかりふか  しておし  めりがほしい  といふくらいな  めにあいそふ 〽なまずを  たのみに行  ならひやう  たんざけ  でももつて  ゆくがいゝ  ぬらくらと  ぬけさせ  ぬよふに 〽五風十雨と   いふからべつ    に何もへこんで     いるでいりはねへ 【五風十雨:五日ごとに風が吹き、十日ごとに雨が降ること。農作に適した天気とされる。】 かぜなかまには なますをたのんで 四つどきにぢしん をすこしやら かしてもろふつもり にていろ〳〵の しんもつをぢさんしわざ〳〵 なまずのかたへ たづねきたり 何とぞひより になるやふに すこしばかり ゆさ〳〵とおたのみ 申たしそれもあまり ひどくては又人のきもを つぶすもきのどくほんの ひよりになるといふ まじないばかりのみの くつた所をちよつと おさすりなさるぐらい もふそれもながくおかき なさるとたまりませぬ どふぞよろしく     おたのみ       もふします         といふ 【風、賂(まいない)をしながら頼む】 〽かこ川本ぞうと  いふみにてまい   ないしながら    むせふにけい     はくを      いつて【軽薄をいう=御機嫌をとる】       たのむ 【なまず】 〽ずいぶん  せうちの  すけさ  ちよつと  はいを【蝿を】  おふぐらいの  事でも  せかい  ぢう    が  すこしづゝは  ゆさつきます  まだおらが  かゝし【かかあ衆】を  もたぬ   のでせかいの大し   やわせさひよつと  女ぼうができるがさいごまいばん      せかいがいごくのさ 九はやまい五七の雨に四つ ひでりといふぢしんのうたは ちがいなくあくる日の四時に ぢしんがすこしゆさつくと おもふとたちまち雨かふら れぬよふにてんとう さまからおほせ つけられひよりと なりければいまゝて たいこをたゝいて うてうてん【有頂天】になつ ていたかみなりも にはかにからりつと したてんきになれば ひやうしぬけが してこそ〳〵と したくして たちかへるみち 〳〵あめと はなしやいなん でもけふのぢしん もかぜなかまの もくろみにち がいなしこのいしゆ がへしもしかたが ありそふなもん だとはなし なからたち    かへる 〽からつぽのとつくりじやァ     ねへがまたふつてみよがはなるめへ 〽なんだこのごろの  ひよりはふつたり  てつたりしていつゞ  けのてやいがきが  さだまらぬから  おいらん  たちのこゝろ  つかいが  おいらは  とんだきの    どくだ 又おてんとう さまから りずめで 雨をふら すよふに とおさしづ のあるやふに いろ〳〵とちゑ をふるつてかみなりが たいこからのおもい つきにてあめなか まよりやいくはん じんずもふせい てん十日のうち あまのがわら においてこうぎやうのつもり にてたいこを まわしける 下かいのすもふは ふる事もてる 事もあれと てんぢよくのす もふといふと いつでもふるが これいなれば てんとうさまも むかしよりのれいは はづされずと それよりまゝ あめをふらす よふにとおゝせ つけられ ければ あめなか まは大きに よろこび はめを はづして ふりつゞ   ける 〽またふる  そふだ  そめものゝ  おそくなる   には    こまり     はてる   じれつてへ  ひよりた     のふ 〽うつ  むいて    見や  とんびが  わをかけ  ていやァ  がるなる  ほどいま  〳〵しい  てんきだ 【空から見ているので足下にトンビが飛んでいるのが見える】 〽どふぞふりつゞく  よふにしたい  もんだすもふは  とつてもとらい       でもだ 〽おもいなしか   たいこのおともどでふる〳〵と          きこへるまづはいゝ             きつそふだ【吉相だ】 おてんとうさまの御けらひ  からすおつかいにでる 〽こまつたもんだ またおらが おだんなが うちにばかり ござるだろふ だんながうち だといそがしく    てならぬ すもふの たいこがまわると またふりたし ければかぜなかま でもちゑぶくろの そこをはたいて やふ〳〵とあんじ いだしむかしより おかうびよりとて【御講日和】 もんとしうの おかうがはじ まるとひよりが つゞくこれいなれば おかうをさきへ とりこしてつと めんとてら〴〵を たのみておかう をはじめかせ なかまのたしう ものこらず かたきぬを ひつかけて ありがたや 〴〵とでかけ ければなんでも てんにいつわり なしこれいと あればはつされ ずとまた〳〵雨 をとゞめひより かん〳〵と してくる 十夜つき よにおかう ひよりとて むかしより 今にかはる   ことなし 〽さんけいの人〴〵   あめあいた     〳〵と    いつて      まいる 【左ページ風二人、夫婦の風を見ながら/老夫婦とは別】 〽なぜかおんなはみな  ごけになるととんだ  うつくしくなるもんだ   はやくごけに       したい        もんだ 〽あのとしまを  おまないたなをし  とやらかして  ひとくちあじ   わいたいの 〽かへりには   いだてんの      きよく      ばでも      見てへもんだ 【右ページ、風の老夫婦の台詞】 どれも  こゝへ きたかぜだ    そふな □□□□しい【おひたゞしい/別の刷りで確認】  さんけいじや   どふぞこれ   でおひより   がつゞけば      よい あめなかまは又 おかうびよりで けちをつけられ 大きにせきこみ もはやこのそう しのかみかずも 一まいか二まいと なりたればてき はきとかたを つけてしまわねば ならずひやく まんべんならば もはやなァだ 〳〵といふじぶん しやん【思案】もへち まもいらず てんとうさまの おしかりをうける もかくごのまへ むにむざんに【無二無三に】 ふりだして おかうびより をだいなしに してくれんと あめなかま いゝやわして いちどにばら 〳〵とふりかゝり ければかぜのほうでは きもをつぶしにく きあめが しかた 也 あれのこらず ひとまくりに ふきはらへと おきおいかゝれば あめのかた にもいつすんも あとへはひかず ふつたりふいたり いのちかぎりと いどみやいのち にはたがいに つかみやい ぶつつぶたれつ 大げんくはと   なりける 【雨と風の乱闘、台詞】 〽うぬらが   ふりこんで    きたとつて馬の     みゝにかぜでもねへ 〽あめの   あし    もと  みだるゝ  かたを  ならべ  あなたへばらり  こなたへばらり   ばらり〳〵    ばらり〳〵     ばつとにげて        しまおふ あいつらと つかみ や?つたら どふかじは 〳〵と【じわじわと】 さむくなつて     きた      よふだ【相手が風なので風邪をひいて寒気がしている】 〽あめよ   かぜな    あめかぜな   にゆじや    じゆや〳〵   じゆんづら    べいの       べい【俗謡か童歌の歌詞か】 〽しよてに【初手に】  まけたはほんの   あめをねぶらし    たのだ【飴と雨をかけた洒落】  くはばら    〳〵  かんにん    じや    〳〵 おもいもよらぬ あめかぜのはげ しきにてんとう さま大きにおどろき たまい八十八やはすぎて しまう二ひやく十日には まだはやしこのふき ぶりはどふしたもんだと たちいでゝ見たまへば あめかぜのたゝかいにて 大さわぎ也てんとう さまやふ〳〵とりやう ほうをおしとゞめ たまいわたくしのいこん にてこのほうか?ら?のさし づもまたずおびたゞ しきあめかぜはふき はらわんとするふき たてられじとする はづみにてそのほう共 いざこざはせかいの人の なんぎとなる事なり さうほうともにその まゝにはさしおきがた くおもへ共まづ このたびはさし ゆるす也 このゝち きつとつゝ しむべしと 御しかり ありそのうへ りやうほうへ いろ〳〵と御 けうくんあり 中なをりを とりむすひ たもふこれより して五風十雨 そのときをたかへ ずいつさいの草木 雨によつてそだち さかへ風によつて はなさきみのるも てんちしぜんの せうほうにして まことにゆるがぬ くにのいさほし めでたかりける     しだい也 【天道】 〽あめと  かぜのかみ  はどれがあに  やらおとゝやら  いつもはなれぬ  中じやもの  これからなか  よくした    がよい 〽てんとう  さまなか  なをりの  さかつき  をとり  もち  たもふ 〽ふたりながら  これをのん  でひとつ  うつてくだせへ【打って=納得して】  めでたい     〳〵 【雷】 〽いや   もふ  ごろ   とも   申   ぶんは   ごさり   ませ    ぬ 【雨】 〽これが  やはり  あめふつて  ぢかたまるで   ござり     ます 【風】 〽ほんのかざ  まんがわる  かつたので  ごさり  ます【まんがわるい=間が悪い】 いま まてはあつ たらくち にかぜを ひかし   た【惜(あたら)口に風を引かす=言った事が無駄になる】 あめかぜはそれより たがいにいしふしなく【執しなく=こだわりなく】 むつまじくしゆつ せいしてつとめければ てんとうふかくかんじ たまいて御じぶんの ほんだないせのくに あまてらすおほん かみとおがまれた もふ御みやのかた ほとりにふたつの みやをいとなみ たてたまいて あめとかぜを まつらしめあめ のみやかぜのみや とて今にのこりて ありいせさん ぐうの人々よく しりたもふところ なりもはや何も かく事が   ねへこれでめでたく  まづはふでとめませふ 十返舎一九画作 【裏表紙】