【表紙】 【資料整理ラベル】 721.8 TAC 日本近代教育史  資料【横書き】 【見返し】 画師浪速 橘有税 写宝袋 《割書:前|編》 浪華書舗 称觥堂板 【左丁欄外蔵書印】 東京学芸大学蔵書 【左丁】 絵本写宝袋叙 鄒-国-公 ̄ノ曰。離-婁 ̄ノ之明。公-輸 子 ̄ノ之巧 ̄ミ。不 ̄レハ_レ以 ̄テセ_二規-矩 ̄ヲ_一。不_レ能 ̄ハ_レ成 ̄コト_二 方-員 ̄ヲ_一。画-工教 ̄ル_レ 人 ̄ニ亦 類(-) ̄ス_レ是 ̄ニ。不 ̄レハ_レ【レ点の重複】 _レ以_二画-本 ̄ヲ_一。不_レ得_レ成 ̄コトヲ_二形-状 ̄ヲ_一。画-本 【右丁】 者 ̄ハ規-矩也。且-夫 ̄レ物 ̄ノ之形-状 夥 ̄シ矣。牙-角 ̄アル者 ̄ハ孰 ̄レカ不 ̄ン_レ知 ̄ラ_二其 ̄ノ為 ̄ヲ_一_レ 獣。羽-毛 ̄アル者 ̄ハ孰 ̄レカ不 ̄ン_レ知 ̄ラ_二厥 ̄ノ為 ̄ヲ_一_レ禽。 《振り仮名:縦-令|タトヒ》雖 ̄トモ_二異-獣異-禽 ̄ト_一。於 ̄テ_二其 ̄ノ所 ̄ニ_一_レ 写 ̄ス弁 ̄シ_レ之 ̄ヲ。於 ̄テ_二其 ̄ノ所 ̄ニ_一_レ彩(イロトル)別 ̄ツ_レ之 ̄ヲ者 ̄ハ。 【左丁】 其 ̄レ必 ̄ス画(-) ̄カ乎。画 ̄ノ之規-矩可 ̄シ_レ謂 ̄ツ 博 ̄ント矣。状 ̄トリ_レ之 ̄ヲ弁 ̄シテ_レ之 ̄ヲ。而不 ̄シテ_レ可 ̄カラ_レ尽 ̄ス 而尽 ̄シ_レ之 ̄ヲ。不 ̄シテ_レ可 ̄ラ_レ測 ̄ル而測 ̄ル_レ之 ̄ヲ者 ̄ハ。 妙 ̄ナリ也。神 ̄ナリ也。妙(-) ̄ハ者心 ̄ノ之規-矩。 画-本 ̄ハ者形 ̄ノ之規-矩。以 ̄テ_二形 ̄ノ之 【右丁】 規-矩 ̄ヲ_一入 ̄ル_二心 ̄ノ之規-矩 ̄ニ_一。所_レ謂尽 ̄ス_二 神-妙 ̄ヲ_一者也。公-輸-子遂 ̄ニ折 ̄リ_レ規 ̄ヲ 毀 ̄テ_レ矩 ̄ヲ。而騁 ̄スル_二其精-巧 ̄ヲ_一。亦不 ̄ル_レ出 ̄テ_二 此-理 ̄ノ之外 ̄ニ_一爾。今窃 ̄カニ以 ̄テ_二此-理 ̄ヲ_一。 為 ̄クル_二此画-本 ̄ヲ_一。方 ̄ナル者不_レ円 ̄ナラ。円 ̄ナル者 【左丁】 不_レ方 ̄ナラ。動 ̄ク-者忙 ̄シク。静 ̄ナル者閑 ̄ニ。三-遠 之要。七-定 ̄ノ之相。手体万状。 皆写 ̄シテ使 ̄シテ【「シム」左ルビ】_三レ之 ̄ヲ在 ̄ラ_二 此 ̄ノ-内 ̄ニ_一。若 ̄シ措 ̄テ_二規- 矩 ̄ヲ_一而探 ̄リ_レ妙 ̄ヲ測 ̄ル_レ神 ̄ヲ者。雖 ̄トモ_二 一-生 尽 ̄スト_一_レ心 ̄ヲ。吾未 ̄タ_レ見_レ得 ̄コトヲ_二其神-妙 ̄ヲ_一也。 【右丁】 観 ̄ル_二此-本 ̄ヲ_一者。庶-幾 ̄クハ思 ̄ヘ_レ諸 ̄ヲ。旹【時】-維 享保五歳次 ̄ル_二庚子 ̄ニ_一 三-月吉- 日。橘氏有-税子採_二毫 ̄ヲ於浪 花 ̄ノ後素軒 ̄ニ_一 【香炉印の文字】衛【下の印の文字】《割書:橘印|有税》 【左丁】  絵本写宝袋(ゑほんしやほうぶくろ)一之巻 目録(もくろく) 和歌(わか)三神(さんじん)之(の)図    公家(くげ)束帯(そくたい)衣冠(いくわん)之(の)図(づ) 吉備(きび)大臣(だいしん)之(の)像(ざう)《割書:縫(ぬい)之(の)始(はじめ)》 源氏絵(げんじゑ)簾(みす)障子(しやうじ)蔀(しとみ)之(の)図(づ) 同 閨(ねや)門戸(もんこ)垣(かき)之図   綾羅(れうら)錦繍(きんしう)地紋(ぢもん)之(の)図(づ) 宮女(きうぢよ)衣装(いしやう)之図    衣被(きぬかづき)物見(ものみ)之図 女三宮(によさんのみや)之図     紫式部(むらさきしきぶ)物語(ものがたり)を書(かく)図 源氏(げんじ)明石巻(あかしのまき)之図    同 朧月夜(おぼろづきよ)之図 同 浮舟(うきふね)之図      同 紅葉賀(もみちのが)之図 【右丁】 斎宮女御(さいくうのにようご)之図    伊勢物語(いせものがたり)五条宮(ごでうのみや)の図 梅枝(むめがえ)に雉(きじ)を附(つけ)て送(おくる)図 同 業平東下(なりひらあづまくだり)の図 宮女花見車(きうぢよのはなみぐるま)の図   忠盛扇(たゞもりあふぎ)を落(おと)す図 酒(さけ)を煖(あたゝめ)て紅葉(こうよう)を焼(たく) 中国(なかくに)嵯峨(さが)に趣(おもむ)く図 忠度(たゞのり)歌(うた)の望(のぞみ)之図   鶯宿梅(あふしゆくばい)之図 鸚鵡小町(あふむこまち)之図     犬追物(いぬおふもの)之図 【左丁】 和歌之三神(わかのさんじん) 玉津嶋明神(たまつしまみやうじん)【見出し囲み文字】 【上段 雲中の文字】 衣通姫(そとをりひめ)は応神天皇(おうじんてんわう)の孫(まご) 允恭(いんげう)天 皇(わう)の后(きさき)の妹(いもうと)也 容姿(かたち)艶(うるわし)き色衣(いろみそ)に徹(とをり)て 晃(ひか)るゆへ時(ときの)人 衣通(そとをり)といふ 允恭帝(いんけうてい)の妃(きさき)なり 聖武天皇(しやうむてんわう)神亀(しんき)元年 勅(みことのり)して紀州(きしう)和哥浦(わかのうら) に玉津嶋(たまつしま)大 明神(みやうしん)と あがめまつりたまふ 御 衣續(そいろとり)唐衣(からきぬ)白地(しらぢ) 泥紋(でいもん)表着(うはぎ)茶色(ちやいろ) 五衣(いつゝぎぬ)五色(ごしき)のうんけん 単(ひとへ)赤(あか)又は白(しろ)きら銀(ぎん) 泥(でい)仕立(したて)也はだのゑり白(しろ) 二 畳重(てうがさね)へりうむけん しとねへり紫(むらさき)うんけん 【下段】   立(たち)かへり     またも   此世(このよ)に   跡垂(あとたれ)む 名(な)も  おもしろ      き   和哥(わか)の    うら      波(なみ) 【右丁】 【上段】 左(ひだり)正三位(じやうざんみ)柿本人麿(かきのもとのひとまろ)【見出し囲み文字】 太夫(まうちきみ)【注】姓(しやう)は柿本(かきのもと)名(な)は人丸(ひとまる) 孝照天皇(こうせうてんわう)の後胤(こういん)なり 古今集(こきんしう)序(じよ)におほき三(みつ)の くらゐ柿本の人丸なんうた のひじりなりけると云(い)へり 本国(ほんごく)は石見国(いわみのくに)角(つの)の里(さと)播州(ばんしう) 明石(あかし)に人丸を大 明神(みやうじん)と崇祭(あがめまつる) ■(さいしき)【綷ヵ】○帽子(ぼうし)紺青(こんぜう)○表着(うはぎ)袍(ほ)にも 非(あら)ず直衣(なをし)とも見へず名(な)を不知(しらず) 身(み)と袖(そで)一 幅(はゞ)と薄縹(うすはなだ)領(くび)かみ袖(そで)一 幅(はゞ)裙(すそ)【襽ヵ】白(しろ)し前(まへ)に紐(ひも)有 紋(もん)浮(ふ) 線綾(せんれう)銀 泥(でい)にてかく○奴袴(さしぬき)紫(むらさき) 又 藤色(ふちいろ)紋(もん)三もぢり八 総(ふさ)の藤(ふぢ) 銀 泥(でい)にて書(かく)尋常(よのつね)とは異(かわる)也 【注 「太夫(まうちきみ)⦅読みは「もうちきみ」or「もうちぎみ」⦆」は「大夫(まえつきみ)⦅前つ君の意⦆」の変化したもの。天皇の御前に伺候する高位の臣の総称。上は大臣から下は五位まで。】 【下段】 【人物等に注記された文字は画像上で翻刻】 梅(むめ)のはな  それとも     見(み)えず  久(ひさ)かたのあまぎる   雪(ゆき)のなべて    降(ふれ)れば 【左丁】 【上段】 右(みぎ)山辺赤人(やまべのあかひと)【見出し囲み文字】 山辺(やまのべ)は姓(しやう)也 所(ところ)の名(な)なり 父祖(ふそ)詳(つまひらか)ならず神亀天平(しんきてんへい)の 比(ころ)の人 聖武帝(しやうむてい)の御宇(ぎよう)に 卒(そつ)す山辺 近江(あふみ)越前(ゑちぜん)に在(あり) 古今集(こきんしう)の序(じよ)に山辺赤人(やまのへのあかひと) といふ人ありけり哥(うた)にあや しく妙(たへ)なりける人丸(ひとまる)は赤人(あかひと) がかみに立んことかたく赤人 は人丸がしもにたゝむことかた くなんありける云云 綾(いろどり)狩衣(かりぎぬ)かき色(いろ)裏(うら)白(しろ)く 腰帯(こしをび)白(しろ)し地紋(ぢもん)定(さたま)りなし 奴袴(さしぬき)白 無紋(むもん)単(ひとへ)白(しろ)又は 薄花田(うすはなだ) 袖結(そでくゝり)【絬ヵ】白(しろ)し 【下段】 春(はる)の野(の)に  すみれつみ     にと  こし   我(われ)ぞ 野(の)を  なつかしみ   一夜(ひとよ)ねに     けり 【右丁】 【上段】 文官束帯之図(モンクワンソクタイノヅ)《割書:大 臣(ジン)大納言|中 納言(ナコン)》【見出し囲み文字】 ○冠(カフリ) 垂纓(スイエイ) 袍(ホウ) 下襲(シタカサネ) 表袴(ウエノハカマ) 赤大口(アカヲホクチ)  石帯(イシノヲビ) 襪(シタウズ) 笏(シヤク) 履(クツ) 或(アルヒ)ハ単(ヒトエ) 大帷(ヲホカタビラ)  大 帷(カタビラ)ハ為(タメ)_二袖衣紋(ソテノエモンノ)_一ナリ ○冠(カフリ)黒濃墨(クロコキスミ)割塗(ホリヌリ)或(アルヒ)ハ薄墨(ウスズミ)隈墨(クマスミ)ニ テ【割菱紋】菱(ヒシ)ヲカク ○纓(エイ)薄墨(ウススミ)濃墨(コキスミ)【格子模様の図】  《振り仮名:如_レ此|カクノゴトク》カク《振り仮名:巾-子|コジ》ノ上(ウエ)ト末(スエト)ニ濃墨(コキスミ)ニテ  【割菱紋】《振り仮名:如_レ此|カクノゴトク》菱(ヒシ)ヲ画(エカ)ク○袍(ホ)《振り仮名:大-略|タイリヤク》黒(クロ)シ極(ゴク)  丹青(イロドリ)ハ粉墨(ゴズミ)ニテ刻塗(ホリヌリ)地紋(ヂモン)光墨(ヒカリスミ)ニテ ○領(クビ)カミノ中襟袖(ウチエリソデ)ノ中ニ又 有(アリ)_レ袪(ソデグチ)何(イヅ)レモ  朱(シユ)又 白(シロ)モアリ○裾(キヨ)ハ白(シロ)シ ○面(カホ)殿上眉(テンジヤウマユ)アル時(トキ)ハ鬚(ヒゲ)ナシ帷(カタビラ)赤(アカ)シ  生眉(ウブマユ)ノトキハ鬚(ヒゲ)ヲ画(カ)ク帷(カタビラ)白(シロ)シ ○表袴(ウエノハカマ)白紋(ゴフンモン)窠(クワニ)霰(アラレ)銀 泥(デイ)ニテカク ○赤大口(アカヲホクチ)表裏(ヲモテウラ)朱(シユ)金 ̄ノ括(クヽリ)○襪(シタウツ)白《割書:ユビノマタナキ|タビナリ》 【下段】 紋銀泥(モンギンデイ) 【左丁】 【上段】 武官(ぶくわん)《割書:左大将(さだいしやう) 右大将(うだいしやう) 左中将(さちうじやう)|右(う)中将 左少(させう)将 右少将》 ○冠(カフリ)如(ゴトシ)_二文官(モンクハンノ)_一巻纓(マキエイ)常(ツネ)ノ纓(エ)ヲ内(ウチ)エマキタル  テイ也○緌(ヲイカケ)【注1】下墨具(シタスミノグ)薄墨(ウスズミ)クマコキスミ筋(スヂ)  ガキ○袍闕腋(ホケツエキ)弓矢(ユミヤ)ヲ不(ザル)_レ持(モタ)トキハ纓(エ)ヲ垂(タルヽ) 【注1 「糸+禾+心」は誤記ヵ。文字の意味から「緌」で翻刻を行った。】           《振り仮名:𩍜取|ヲビトリ》【注2】菖蒲革(シヤウブカワ)   胴金(ドウガネ) 帯剣(タイケンノ)𣠽(ツカ)  毛抜形(ケヌキカタ) 分銅鐔(フントウツバ)    菖蒲(シヤウブ) ̄ニ        金           似 露(ツユ)  腕貫緒(ウデヌキノヲ)又 犬(イヌ)ハジキ ハイガシラノ   金             ムスビ 【注2 帯剣(タイケンノ)𣠽(ツカ)の図の説明の𩍜■(ヲビトリ)の「トリ」の該当文字「革+雚」が見当たらず、現在充てられている文字「取」で翻刻しました。「𩏪䪝」の誤ヵ】 垂之図(タレノヅ)  平緒(ヒラヲ)ノ結目(ユヒメ)ニ掛(カク)ル唐(モロコシ)ノ紳(シン)ニ齊(ヒト)シ 紳之図(シンノヅ) 是(コレ)唐(モロコシ)ノ礼服(レイフク)ノ飾(カザリ)ニシテ衣裳(イシヤウ)ノ権(ヲモシ)也 聖像(セイザウ) 及(ヲヨビ)王侯(ワウコウ)束帯(ソクタイ)之 時(トキ)著(チヤク)シ終(ヲハツ)テ後(ノチ)ニ佩(ヲブ)_レ之(コレヲ) 曲領(キヨクレイ)ト紳(シン)【「ヲヽヲビ」左ルビ】ト一双(サウ)ノ物(モノ)也 【下段】 矢羽切生(ヤノハキリフ) 【右丁】 衣冠(いくわん)之(の)図(ず) 冠(かふり)袍(ほ)奴袴(さしぬき)【見出し囲み文字】 【上段】 束帯(そくたい)の外(ほか)一切(いつさい)にこれを畫(かく) 源氏(げんじ)伊勢物語(いせものがたり)などの絵(ゑ)は 束帯(そくたい)まれなり衣冠(いくわん)かふり に直衣(なふし)烏帽子(ゑぼし)になふしの 図(づ)をもちゆ歌仙(かせん)には束帯(そくたい) 衣冠(いくわん)なり 束帯(そくたい)の図(づ)は威儀(いぎ)正(たゞ)しく畫(かき) 衣冠(いくわん)はおほやうに畫(かく)と云事(いふこと) 有 奴袴(さしぬき)にかきやう有と云 袍(うはぎ)色 五色(ごしき)単(したぎ)も五 色(しき)あり 奴袴(さしぬき)紫(むらさき)藤(ふぢいろ)薄青白(うすあをしろ) 紋(もん)八藤(やつふぢ)鳥(とり)だすき浮線綾(ふせんれう) いづれも銀 泥(でい)にて畫(かく)なり 【下段 挿絵注】 エンジ エンジグ 朱(シユ) ロウセウ シワウク ゴフン 【左丁】 立烏帽子(たてゑぼうし)直衣(なふし)【見出し囲み文字】 【上段】 源氏絵(げんじゑ)おほくはたてゑぼし なふしなりかふりになふしの 事(こと)もあり ○冬春(ふゆはる)の絵(ゑ)は 直衣(なふし)白(しろ)  紋(もん) 浮線綾(ふせんれう)銀 泥(でい)にてかく ○夏秋(なつあき)の絵(ゑ)は 直衣(なふし)薄青(うすあを)  紋(もん) 三重襷(みゑだすき) 地色(ぢいろ)あいろぐ  紋(もん)はしんぜう又はあいろにて  もかく ○奴袴(さしぬき)あいろぐゑんじぐ  紋(もん) 八藤(やつふぢ)の丸(まろ) 鳥(とり)だすき  銀 泥(でい)にてかくなり  衣冠(いくわん) 直衣(なをし) 狩衣(かりきぬ)  いづれもすあしなり 【右丁】 【上段】 風折(かざをり)狩衣(かりぎぬ)之(の)図(づ)【見出し囲み文字】 鷹野(たかの)などに畫(ゑかく)なり 狩衣(かりきぬ)は冬春(ふゆはる)は裏(うら)あり 夏秋(なつあき)はなし紋(もん)さだまりなし ○飛紋(とびもん)を畫(かく)袖結(そでくゝり)あり  四季(しき)ともに一重(ひとゑ)狩衣(かりぎぬ)を用る  事(こと)もありと ○裏(うら)白(しろ)き時は腰帯(こしおび)白し ○こしおびは衣(きぬ)の切(きれ)なりといふ  ともの色(いろ)に仕立(したつ)る  高位(かうゐ)は後(うしろ)の裔(すそ)長(なが)し ○大帷(かたびら)単(ひとへ)などの表(うへ)に着用(ちやくよう)  の事(こと)もあり ○奴袴(さしぬき)ふぢ色 白(しろ)無紋(もんなし)  むらさきうすあい無紋(むもん) 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 吉備大臣(きびだいじん)之(の)像(ざう)《割書:はじめの名は|下道の真備(まび)》【見出し囲み文字】 【上方】 孝霊天皇(こうれいてんわう)第(だい)三 王子(わうじ)稚 武彦命(たけひこのみこと)に 備州(びしう)を賜(たま)ふ其(その)後胤(こういん)真備(まび)元正(げんしやう) 天皇(てんわう)の御宇(ぎよう)霊亀(れいき)二年 公(こう) 学文(がくもん)のために入唐(につたう)して 五 経(きやう)三 史(し)陰陽(おんやう)諸芸(しよげい) こと〴〵く伝(つたへ)て 帰朝(きてう)し給ふ 又 孝謙(かうけん) 天 皇(わう)天平 勝宝(しやうほう) 二年に遣唐使(けんたうし)と なる同六年 帰朝(きてう) 加茂氏(かもうじ)の祖(そ)也 又 曰(いわく)聖武天皇(しやうむてんわう)の御宇(ぎよう)日本(につほん)より 大 唐(たう)へ貢物(みつきもの)をおくるに安倍仲麿(あべのなかまろ) を使(つかひ)とす武帝(ぶてい)貢(みつき)物 微少(ひしやう)也とて 仲麿(なかまろ)をころす其後(そのゝち)又 吉備大臣(きひだいじん)を 【下方左:後ろから五行目より】 使(つかひ)として唐(たう)へつかはさる才智(さいち)を試(こゝろ) みんために碁(ご)を囲(うた)しむ仲(なか)まろが 霊(れい)来(きたつ)て教(おし)ゆるによつて吉備公(きひこう)是 にかつ又 文選(もんせん)と野馬臺(やばたい)乱文(らんもん)の詩(し) を読(よま)しむ又 霊鬼(れいき)来(きたり)てこれをおしゆ 【図に対する注は画像中で翻刻】 【右丁】 吉備公(きひこう)唐縫(からのぬひ)を見給(みたま)ふ図(づ)【見出し囲み文字】 かるがゆへに公(こう)水(みづ)の流(なが)るゝごとく これをよむ唐帝(たうてい)感(かん)じて害(がい)する ことあたはずと云は虚説(きよせつ)なり 吉備公(きびこう)の渡唐(とたう)は玄宗(げんそう)の時(とき)にて 武帝(ぶてい)のときにあらず 又 日本(につほん)にて繍(ぬひ)を縫(ぬふ)こと此 公(こう) 唐(から)にて見ならひ帰朝(きてう)の後(のち) わが国(くに)の 人に教(をしへ) ぬはしめ たまふ哥(うた)に おるあやにまさりて みゆるからぬひのいと しな〳〵に色とれるかな 惣(そうじ)て此 公(こう)発明博識(はつめいはくしき)にして徳功(とくこう)多(おゝ)き人也 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 【上段】 巻簾外面(まきみすそとおもて)【見出し囲み文字】 仕(し)たてさま〴〵有 大は金 地(ぢ)ろくせう にてひきまきたる ところ下わうどぐぬり ろくせうにてひく 中は下白ろくぬり しわうぐにてひく 小は下びやくろく【白緑】 金でいにてひく あみいとはしゆ 同内面(おなしくうちおもて)【見出し囲み文字】 爵金(うこん)朱(しゆ)紺(こん) 本式(ほんしき)編糸(あみいと)両(ふた) 通(とをり)なり畫(ゑ)には 一通也 両通(ふたとをり)は 不(ず)_レ用(もちひ) 【下段】 簾縁文(みすへりのもん)窠(くわ)堅木瓜(たつもつかう)【見出し囲み文字】 平鎰(ひらかき)之(の)図(つ) 勾鑰(同)【見出し囲み文字】  金泥(きんでい)置上(をきあげ) 簾(みす)の緒(を)近年(きんねん)は外(そと)の飾(かざり) に畫(かく)此図は上 古(こ)より畫(ぐわ) 伝(でん)のごとく内に畫(かく)又あみ いとも同 断(だん)なり後人(こうじん)了(りやう) けんあるべし 簾(みす)の緒(を)【見出し囲み文字】 あげまきむすひ 【図に対する注は画像中で翻刻】 【右丁】 【上段】 障子(しやうじ)畫壁(はりつけ) 冬春(ふゆはる) 絵(のゑ)用 【以上、見出し囲み文字】 半蔀(はんしとみ) 折曲(をりまがり)は 一方を 半 蔀(しとみ) にかく 夏秋(なつあき) 絵(のゑ)用 【以上、見出し囲み文字】 【下段】 挙格子(あけかうし) 半(なかば) 挙(あぐるは) 半(はん) 蔀(しとみ)【以上、見出し囲み文字】 妻戸(つまど) 竹節襷(たけのふしたすき) 【以上、見出し囲み文字】 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 閨房(けいばう)之(の)図(づ) 女室(によしつ)ねやの         とぼそ 【以上、見出し囲み文字】 折扉(おりど)之(の)図(づ) 壁代(かべしろ)之(の)図(づ)        色しろし 【以上、見出し囲み文字】 【図に対する注は画像中で翻刻】 【右丁】 【上段】 大和門(やまともん) 猪(い)の  目 すかし 竪(たつ)  すぢ 【以上、見出し囲み文字】 竹戸(たけど) し折(おり)  ど 品々(しな〴〵)  有 網(あみ) 簀(す) 戸(ど) 【以上、見出し囲み文字】 【下段】 垣(かき) 桧(ひ)  垣(かき) あや  すぎ あじ   ろ 葭(よし)  垣(がき) 柴垣(しばがき) 生(いけ)  がき 【以上、見出し囲み文字】 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 源氏絵(げんじゑ)   人形(にんぎやう)衣裳(いしやう)地紋(ぢもん)正略(しやうりやく)之(の)図(づ) 【以上、見出し囲み文字】 【上段】 浮線綾(ふせんりやう) 輪無(わなし) 【以上、見出し囲み文字】 【下段】 浮線綾略(ふせんりやうりやく) 輪無略(わなしのりやく) 【図に対する注は画像中で翻刻】 【右丁】 【上段】 雲立涌(くもたてわき)【見出し囲み文字】 龍胆(りんだう) 【見出し囲み文字】【「胆」は「膽」の新字】 松竹梅(せうちくばい)【見出し囲み文字】 【下段】 轡唐草(くつわがらくさ)【見出し囲み文字】 菊立涌(きくたてわき)【見出し囲み文字】 早蕨(さわらび) 若松(わかまつ) 唐草(からくさ)【以上、見出し囲み文字】 【左丁】 【上段】 鳥襷(とりだすき)【見出し囲み文字】 窠霰(くわにあられ) 八藤(やつぶさのふぢ) 【下段】 鳥襷略(とりだすきりやく)【見出し囲み文字】 屏風(びやうぶ)の裏(うら)に此 紋(もん)付る事(こと)むかし 鳥襷(とりたすき)の絹(きぬ)にて 張(はり)唐(もろこし)より渡(わた)せし 其(その)まねびなり 三重襷(みゑだすき)【見出し囲み文字】 直(なをし)に用 綾菱(あやびし)【見出し囲み文字】 単(ひとへ)に用 【右丁】 宮女(だいりぢよちう)之(の)衣(きぬ) 十二 単(ひとへ)を云 《割書:附》唐衣(からきぬ)之(の)図(づ)【以上、見出し囲み文字】 【見出し下】 ○表着(うはぎ)腰(こし)より上下色 地紋(ぢもん)かわりたるは唐衣(からきぬ)を着(き)せたるなり  こしより下 表着(うはぎ)なり ○又 上下(かみしも)一 様(やう)の色地紋(いろぢもん)に仕立(したつ)るは唐衣(からきぬ)を着(き)せず小褂(こうちき)と云 衣(きぬ)也  常(つね)に畫(かく)所也○衣(きぬ)の尺(たけ)凡(およそ)九尺ばかり裳(もすそ)一丈 紅(くれない)の袴(はかま)九尺 余(よ) 【上段】 此 図(づ)は五(いつ)つ衣(ぎぬ)なり又七ッ衣あり 春冬(はるふゆ)の絵(ゑ)には八つも九ッ十も重(かさぬ)ると也 いづれもうむけんの手(て)つまなり 【図に対する注は画像中で翻刻】 【下段】 単(ひとへ)表地門(おもてぢもん)【見出し囲み文字】 同 裏地紋(うらぢもん) 【左丁】 裳(しやう)【左ルビ:も】之(の)図(づ)【見出し囲み文字】 白 羅(うすもの)地摺(ぢすり)の 下(すそ)濃(こ)目染 纐纈(こうけつ)【「くゝしぞめ」左ルビ】の裳(も) 【図に対する注は画像中で翻刻】 【右丁】 女房(にようぼう)装束(しやうぞく)之(の)図(づ)【見出し囲み文字】 【見出し下】 髪(かみ) 目半分 かくると なり 【上方本文】 唐衣(からきぬ)を きる時は 裳(も)を付る これを一 具(ぐ) 具足(ぐそく)といふ 男子(なんし)の束帯(そくたい)の ごとし ○小袖(こそで)白(しろ) ○単(ひとへ)重(かさね)紋(もん)横菱(よこびし)  地(ぢ)朱(しゆ)ろくせう紋(もん)紺青(こんせう)  白ごふん銀でい地(ち)もん ○五 重(がさね)うむけん○表着(うはぎ)見合(みあわせ) ○唐衣(からきぬ)ちや色 見合(みあはせ)金 泥(てい)紋(もん)腰尺(こしだけ) ○小腰(こごし)仕立(したて)もやう色 唐衣(からきぬ)同前なり 【下方本文】 引腰(ひきごし)仕立(したて)右に       見ゆ 小腰(こゞし)結下(むすびさげ)もやう 色からきぬと 同じ 単(ひとへ)たとへは 表(おもて)ろくせう うら白(しろ) ろくせう 紋(もん)表(おもて)ひなた うらかげ 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 かさみ着様(きやう)《割書:すそ長き|衣(きぬ)なり》【見出し囲み文字】 後(うしろ)の長(なが)さ一 丈(ちやう)四五 尺(しやく) 前(まへ)の長(なが)さ一 丈(ぢやう)二 尺(しやく)ばかり 前一 幅(はゞ)半 後(うしろ)二はゞ うしろへ引(ひく)なり 小野小町(をのゝこまち)が表着(うはき)を 細長(ほそなが)と云(いふ)しかれ ども細長は袖(そで)に くゝりなし かさみの類(たぐひ)か 腰帯(こしおび)有 襟(ゑり)は衽(おゝくび)なり 領(くび)かみにも畫(ゑかく) 小町が表着(うはぎ)袖(そで)にあきたるさま有 かざみはけつてきのごとく袖下わき ̄ニ あき有うてをうしろへなびけしとき わきのあきしを見あやまるなり 【56行目「けつてき」は「闕腋」と考えられる】 【右丁】 衣被(きぬかづき)【見出し囲み文字】 【上方雲形囲み内】 宮女(きうぢよ)の被(かづき)也 競馬(けいば) 花火(はなみ) 舞楽(ぶがく) 等(とう) 物見(ものみ) 之時(のとき) 又うちかけの すそを後(うしろ)より 着(き)ながらかしらへ かつくあり これを裔被(しりかづき)と いふ 【下方雲形囲み内】 地(ぢ)しわう具(ぐ) 菊(きく)こんぜう 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 女三宮(によさんのみや)【見出し囲み文字】 【上方雲形囲み内】 二品(ニホン) 親王(シンワウ) 【右丁】 紫式部(むらさきしきぶ)【見出し囲み文字】 松木(まつのき) うす墨(すみ) 朱(しゆ)ずみ 葉(は) 草(くさ)の しる 如此(かくのごと)く 【図に対する注は画像中で翻刻】 【左丁】 【上方】 紫式部(むらさきしきぶ) しよ願(くわん)ありて石山(いしやま) 寺(でら)にこもりしか比(ころ) しも八月十五 夜(や) 月(つき)湖水(こすい)にうつりて すみわたり しかば光源氏(ひかるげんじ)の 物語(ものかたり)心にうかふ まゝひとつの 巻物(まきもの)にうつし けるとなり 【中・下方】 カミヨリアイラウ  又 草(クサ)ノ汁(シル)ニテツヽク ニテシモヘクマトル 中白キハワウドノ カミハアイ中ハウス ソコニイサリタル ズミシモハワウド  ニテツヽク クマナリ             水形(ミヅノカタ)             薄墨(ウスヾミ)             藍青(アイラウ)             薄隈(ウスクマ)             月影(ツキカゲ)             薄墨(ウスヽミノ)             隈(クマ)      中薄墨曲取(チウウスヾミクマトリ) 【図に対する注は画像中で翻刻】 明石(あかし)【見出し囲み文字】 【上方】 秋(あき) の 夜(よ)の つき  げの こま   に わが  こふる 雲(くも)  ゐ   を かけ  れ 時(とき)の間(ま)も  みむ 此 哥(うた)は源氏(げんじ)のきみ あかしのうへのもとへ かよひ給ふ道にて都(みやこ)の かたこひしく思召(おぼしめし)てよみ給ふ 【下方】 此 図(づ)は光源氏(ひかるげんじ)須磨(すま)に わびしくておはしけるを  明石入道(あかしのにうだう)のもとより  むかへたてまつりしゆへ    すまよりあかしへ    うつりたまふその    道(みち)の景(けい)なり      入道(にうだう)の哥(うた)に      ひとりねは      君(きみ)もしりぬ      やつれ〴〵と      おもひあかしの      うらさびし      さをとわが      むすめの事を      おもはせがほに      よめりかくて      つゐに入道の      むすめあかし      のうへにあひ      なれたまふ        となん 朧月夜(おぼろづきよ)【見出し囲み文字】 【上方】 おぼろ 月よの 内侍(ないし)は みかど の御心 ざし有 けるに 大内(おゝうち)の 花(はな)のえん の時げんじ のきみ ひそかに あひ給ひ しゆへに 須(す)まへ うつり たまふ なり いづれぞと  露(つゆ)のやどりを  わかむまに   小ざゝが   原(はら)に  風(かぜ)もこそ   ふけ おぼろ月夜(づきよ)の 哥にうき身(み)世(よ)に やがて消(きへ)なばたづねても 草(くさ)のはらをばとはじとや おもふとよみ給ひし かへしなり 浮舟(うきふね)《割書:宇治(うぢ)十 帖(でう)の内》【見出し囲み文字】 【扇の上方】 【右丁】 此 浮舟(うきふね)は東屋(あづまや)の 君(きみ)ともいふとなり 光源氏(ひかるけんじ)の御 子(こ) かほる中将(ちうじやう)の しのびづま にて宇治(うぢ)に おはしけるを 京にすま せばやと 三 条(でう)に 家作(いゑつく)らせ たまふ又 源氏(げんじ)の 御 弟(おとゝ)匂(にほふ) 兵部卿(ひやうぶきやう) のみやは 【左丁】 ある夜(よ) 中 将(じやう)に にせて しのびて あひ給ひ しづかなる 所にて 契(ちぎ)らんとて うき舟(ふね)の君(きみ)を ぬすみいだし 舟(ふね)にのりて 宇治川(うぢがは)にいで たまひしてい也 雪(ゆき)の夜(よ)のけしき 月は二十日あまりの ていなり 【扇の内側】 橘(たちばな)の 小嶋(こじま)は 色(いろ)も かはらじを 此(この) 浮(うき) 舟(ふね) ぞ ゆく  ゑ しら  れぬ 【扇の下方】 【右丁】 月(つき)ごふんつきのわき紺(こん) 青(ぜう)かすり水(みづ)極(ごく)ざい色(しき)の ときはこんぜう銀 泥(でい) にて水(みづ)のしはを かく其外(そのほか)は あいろう なり 浮舟(うきふね) 表着(うはぎ) ちや 又は ゑんじぐ 【左丁】 にほふ宮(みや) ひたい ごふん うす くま 殿上(てんじやう) 眉(ま) ゆ べん ほかし 直衣(なふし)白(しろ) 紋(もん)銀でい 又あいのぐ こんぜう 地(ぢ)もん 三重(みゑ)だすき さしぬきむらさき 紅葉賀(もみぢのが)【見出し囲み文字】 【扇の上方】 物おもふ    に たち  舞(まふ) べく  も あら  ぬ 身(み) の 袖(そで) うち ふり  し 心(こゝろ) しり  きや 【扇の下方】 【右丁】 此 賀(が)は朱雀院(しゆしやくいん)四十歳(よそぢ)になら せたまふ御いわひにもみぢ の木(き)の本(もと)にて舞楽(ぶがく) あり光(ひかる)げんじも 十七 歳(さい)にて 青海波(せいがいは)を まひた  まふ 源(げん) 氏(じ)物 がたりに いろ〳〵に ちりかふ 木(こ)の葉(は)の 中より 【左丁】 青海波(せいがいは) のかゝやき いでたる さま いと おそ ろし き まで みゆと かきたり かふりのかさしは もみぢなりげんじ のかざし風(かぜ)にちり たるゆへ菊(きく)の花(はな)の有しを おりてさし給ふとなり 【右丁】 斎宮女御(さいくうのにようご) 【上方】   几帳(きちやう)仕立(したて)上(かみ)白(しろ)下(しも)より紫(むらさき)はきかけ   又は惣朱(そうしゆ)錦(にしき)もやううむけん   金でい地紋(ぢもん)からくさ等(とう)をかく 一文字(いちもんじ)白(しろ)にても茶(ちや)にても 驚燕(ふうたい)【注】白 紫(むらさき)こん見 合(あわ)せ綾(あや)の紋(もん)を画(かく)三重襷(みゑだすき) 露(つゆ)総角(あげまき)白(しろ)くれなゐ 右いづれも金銀でい仕立(したて)なり 二 畳重(でうがさね)うむけんへり五色(ごしき)三色 思(おもひ)入 次第(しだい)にすべし 【中段 畳上左端】 六セウ ヘリハ ムラサキ ウンケン 【下方】 二畳(にでう) 重(がさね)は 常(つね)の 畳(たゝみ)に。お なじへり とりたる 表(おもて)を 重(かさね)て とづる よこに 中 筋(すぢ)を 引(ひく)事 畳(たゝみ)と 表敷(うはしき)と の分(わかち)也 【左丁】 伊勢物語(いせものがたり)【見出し囲み文字】 【上方 雲形内】 むかしおとこ女のもとに ひと夜(よ)行(ゆき)て又もいかず なりにければ女 手洗(てあら)ふ 所に貫簀(ぬきす)をうち遣(やり) てたらひのかけに見へ けるを  我(われ)ばかり物思ふ人は   又もあらじと  おもへば水の下(した)にも       ありけり 来(こ)ざりける男(おとこ)立(たち)きゝて  水口(みなくち)にわれや見ゆらむ  かはづさへ水のしたにて  もろごゑになく 【下方 雲形内】 貫簀(ぬきす)はたら ひにおほふて 水のちらぬ 支度(したく)なるよし あみてすき まより水 くゞるといふ 今わたし かねなども ぬきすと いふ 【注 「ふうさい」は誤。正しくは「きやうえん」とあるところだが、掛け物のの風帯の一名なので「ふうたい」と振り仮名をしたと思われる。】 【右丁】 伊勢物語(いせものがたり)に 昔(むかし)おほきおほいまうちきみと聞(きこ)ゆるおはしけりつかうまつる おとこ長(なが)月ばかりに梅(むめ)の作(つく)り枝(えだ)に雉(きじ)をつけてたてまつるとて ◦わがたのむ君(きみ)がためにと   折(おる)花(はな)はときしも    わかぬ物にぞ有ける とよみて奉(たてまつ)りければ いとかしこくおかしがり 給ひて使(つかひ)に禄(ろく)給へり ◦おほいまうちきみは  忠仁公(ちうじんこう)天 安(あん)元年二月  十九日 太政大臣(おほきおほいまうちきみ)に任(にん)す  事(つかう)まつる男(おとこ)は業平(なりひら)  なり時しもわかぬ  とは作枝(つくりえた)の梅(むめ)なれ  ばなり又 雉(きじ)をたち 【同丁 挿絵中の説明】 業平(なりひら)よりの使(つかひ)と有 【左丁】 入てよめり 忠仁(ちうじん) 公(こう)を祝(いわふ) ゆへに 君(きみ)が ために 折(お)れば 花(はな)も 常盤(ときは)に なれる と云也 藤原良房(フヂハラノヨシフサ)ハ 貞観(ヂヤウクハン)十四年 九月二日 ̄ニ薨(コウ)ズ《振り仮名:享-年|カウネン》 六十六-歳 《振り仮名:忠-仁-公|チウシンコウ》 ニ謚(ヲクリナ)ス 【囲みの中】 摂政太政大臣(おほきおほいまうちきみ)藤原良房公(ふぢわらのよしふさこう) 【同丁 左隅】 良房(よしふさと)云(いふ)は存生(ぞんじやう)の諱(いみな)也 忠仁公(ちうじんこう)は謚号(おくりな)なり 【右丁】 【隅切囲みの中】業平(なりひら)東下(あづまくだり) むかしおとこ東(あづま)の方(かた)に 住(すむ)べき国(くに)もとめにとて ゆきけり行々(ゆき〳〵)てするがの 国(くに)にいたりぬふじの山を 見れば五月(さつき)のつごもりに 雪(ゆき)いと白(しろ)うふれり  時(とき)しらぬ山(やま)は   富士(ふじ)のね  いつとてか   かのこ    まだらに   雪(ゆき)の降(ふる)らん 【同 挿絵中】 在原業平(ありわらのなりひら)          嚨(くちとり)     童(わらは) 【左丁 上部】 早月(さつき)の 富士(ふじ)谷々(たに〴〵)に 雪(ゆき)消残(きへのこ)る形(かたち) 鹿子(かのこ)の如(ごと)し 【同 下部】 峯(みね)は白(ごふん)鹿子(かのこ) 白(しろ)し鹿子(かのこ) 間地(ぢ)紺青(こんせう) 下(すそ)は墨(すみ)にて 星(つゝき)緑青(ろくせう)曲(くま) 【同 挿絵中】     六位(ろくゐ)       仕丁(じてふ) 足高山(あしたかやま) 【右丁】 宮女(だいりぢよろう)  花見車(はなみぐるま)   之図(のづ) 【左丁 挿絵のみ】 【右丁】 平忠盛(たいらのたゞもり)兵衛佐(ひやうへのすけ)のつぼねといふ 宮女(じやうらう)のもとへ通(かよ)はれけるに 有明月(ありあけのつき)をかきたる扇(あふぎ)を わすれかへられ しをわかき 女房(にようばう) おほく よりて ひろひ あげ 是は いづくより の月かげぞや とわらひければ 佐(すけ)の局(つぼね)取(とり)あへず 【左丁】 雲井(くもゐ)  より  忠(たゞ)もり 来(き)  た   る 月なれ   ば 朧(おぼろ)げにては  いはじ     とぞ   おもふ 【右丁】 【隅黒囲みの中】     林間(りんかんに)《振り仮名:煖酒焼紅葉|さけをあたゝめてこうようをたく》 《割書:白氏文集(はくしぶんじふ)》     石上(せきしやうに)《振り仮名:題詩払緑苔|しをだいしてりよくたいをはらふ》 高倉院(たかくらのいん)紅葉(もみぢ)を 愛(あい)し大内(おほうち)に 植(うへ)たまひしが    来夜(あるよ)    野(の)わけ    はした    のふ吹(ふき)て     こと〴〵く      ちり     たるを   朝ぎよめの  仕丁(じてふ)ども  かきあつめ 【左丁 下部】   さむき    朝(あした)    酒(さけ)を   あたゝ    むる    たき    草(くさ)に     し     たる    てい     なり 【同 上部】 鍋(なべ) 金(かな) 輪(わ) 墨(すみ)仕立(したて) 蓋(ふた)にゝ色(しき) 土器(かはらけ)黄土(わうど)ぐ 火勢(くわぜい)金 泥(でい) 朱(しゆ)きをひ 煙(けふり)うすずみ かすり 楓葉(もみぢ)朱(しゆ) 朱(しゆ)ずみ 【右帖】 弾正少弼中国(だんじやうのせうひつなかくに)【枠内】 帝(みかど)の勅定(ちよくぢやう)にて嵯峨(さが)に         おもむく 【同下部】 馬(ムマ)黄土(ワウド) ゴフン クマ ロク  セウ アイ ノク【藍具ヵ】 朱  白 【左帖左下】 琴(こと)の飾仕立(かざりしたて) 委(くわしく)工商(こうしやう)之(の)巻(まき) に見(み)ゆ 【枠内】薩摩守(さつまのかみ)平忠度(たいらのたゞのり) 寿永(じゆゑい)三年七月二五日/平家(へいけ)の 人々 都(みやこ)を落(おち)たまふにより忠度(ただのり) も都(みやこ)を出(いで)られしが道(みち)より 引(ひき)かへし五/條(でう)の三/位(み)俊成卿(しゆんぜいきやう)の 家(いえ)に行(ゆき)具足(ぐそく)の引合(ひきあはせ)より 巻物(まきもの)一/軸(ぢく)取出し 千載集(せんざいしう)をえらひ たまはゞ此/巻(まき)物の 内/一首(いつしゆ)なりとも 御おんかうふり たきよし歎(なげ)き 申されける 其後(そののち)世(よ)静(しづ) まり千載集(せんざいしう)を 【左帖上部】 撰(せん)ぜられける時(とき) かの巻(まき)物の内に 左(さ)りぬべき哥(うた) いくらもあり けれども 勅勘(ちよくかん)の 人なれ   ば 名字(みやうじ)を かくして たゞ一首(いつしゆ)ぞ 入られしが よみびと しらずと かゝれたり 【左帖下部】  故郷(こきやう)の花(はな)といへる  心をよめる さゞ波(なき)や志賀(しが)の  都(みやこ)はあれ   にしを    むかし     ながら       の    山桜(やまざくら)     かな 【枠内 右から横書き】 鶯(アウ)【左ルビ:うくひす】 宿(シユク)【左ルビ:やどる】 梅(バイ)【左ルビ:むめ】 後鳥羽(ごとばの) 院(いんの)時(とき)京 洛(らく)に寡婦(やもめ) あり園(その)に 一株梅(ひともとのむめ)を 植(うゆ)紅白(こうはく)相交(あいまじは)る 【左帖】 其花(そのはな)最(もつとも)異(ことなり) 毎春(はるごとに)鶯(うくひす) 有(あつ)て 来(きたり)宿(やど)す 可謂(いひつへし)鶯花(あうくわ) 相得(あいうると)《割書:矣|》 為勅(ちよくして)之(これ)を 被召(めさる)婦(おんな) 和歌(わか)を作(つくりて)云(いわく)  勅(ちよく)なれば   最(いとも)賢(かしこ)し  鶯(うくひす)の宿(やど)はと問(とは)ば    いかゞ答(こた)へむ 故(かるがゆへ)に帝(みかど)叡感(ゑいかん)ありて 移(うつ)し給(たま)はず 是より鶯宿梅(あうしゆくばい)と曰(いふ) 【右帖下部】 一/説(せつ)に此女は 紀貫之(きのつらゆき)の 妹(いもうと)なるよし もいふ 【右帖上部から】 小野小町百歳(おのゝこまちもゝとせ) の姥(うば)となりて 関寺辺(せきてらへん)に ありける時(とき) 帝(みかど)より御 あはれみの 御哥(をんうた)をつかは されしに其(その) 返歌(へんか)をぞ といふもじ たゞ一字(いちじ) にて申 上たて ま つり し と かや 【右帖下部から】 鸚鵡(あふむ)小町(ごまち)一字返歌(いちじのへんか) 陽成院御製(やうせいゐんのぎよせい) 雲(くも)のうゑは  ありし昔(むかし)に   かはらねど みし玉(たま)だれの  うちやゆか    しき 勅使(ちよくし) 新大納言行家(しんだいなごんゆきいゑ) 小町(こまち)返(かへ)し   雲の上は【以下「ぞ」以外は白抜き文字】     ありし      昔       に    かはらねと  見し玉   たれの  うちぞ【この「ぞ」のみ普通の墨字】  ゆか しき 犬追物之図(いぬおふもののづ)【枠内】 鳥羽院(とばのいん)の御宇(ぎょう)に 三浦介(みうらのすけ) 上総介(かづさのすけ) 両(りやう)人/始(はじめ)て これを射(ゐ)る 絵本出来目録 渋川氏板行 一絵本忘草    草本禽獣虫魚       三冊 一同 稽古帖   ふくさ絵八景山水書法草本 三冊 一同 たからくら 禽獣虫魚         弐冊 一同 草源氏   八景ふくさ絵       壱冊 一同 清書帖   草本禽獣虫魚       四冊 一同万宝全書《割書:和漢絵師景図伝記古筆短尺古今印画古銭手鑑|茶湯道具一切刀脇差目貫笄鍔古今銘画》 十三冊 一同写宝袋後編  未刻  享保五《割書:子|》年九月吉日 【裏面】