【表紙 文字無し】 異国物語合巻 持ち主  越後      □□      □□ 春もやう〳〵くれゆき。五月雨(さみだれ)の比(ころ)になり ぬ。雨中(うちう)つれ〳〵なるに。友(とも)とする人 きたり。世中(よのなか)のよしなき事 共(ども)うらなく かたるこそおかしけれ。おなし人間(にんげん)に貴(き)【左側に「たつとき」と傍訓】賤(せん)【左側に「いやしき」と傍訓】 賢(けん)【左側に「かしこき」と傍訓】愚(ぐ)【左側に「おろかなる」と傍訓】有。又 姿(すがた)言葉(ことば)もさま〳〵ありとかたる 或(ある)人云姿言葉の。ちがひしことは。もろこし なるへしと云。何(なに)の国(くに)には。人のかたちかく 有などかたりけるに。かたはらいたくおもし ろし。いかで。かの国の風俗(ふうぞく)しれるや。いつは りならんと云。井(ゐ)の内(うちの)蛙(かはず)なるべし 三 才図絵(さいずゑ)にくわしくありと云。これを 見るに。初心(しよしん)の人。めやすからす。みるにせん なし。あさきより。ふかきに入なれば。他(た)の あざけりもあらんなれど。仮名(かな)になをし つれ〳〵のなぐさみとせしなり。およそ 一百四十余ケ国有めつらしくちかひしこと なりと云爰によそ人すなはち異国(ゐこく)物語 と名つくるのみ 異国物語上 日本国(につほんこく)則(すなはち)和国(わこく)なり。新羅国(しんらこく)の東南(たつみ)大 海(かひ)のうちに有。 山嶋(さんとう)【「嶋」の左側に「しま」と傍訓】によつてすみかとす。この国九百 余里(より)。もつは ら武勇(ぶゆう)をこのみ。中国にしたがわず。国をおかし。 うばはんとす。此ゆへに中国是をおそれて常(つね)に 倭寇(わたい)名づく。又は神国(しんこく)と云(いひ)。天神(てんじん)七 代(だい)地神(ぢじん)五代 より。人 王(わう)の今(いま)にいたり。まつり事たゞしく。儒(しゆ)。釈(しやく)。 道(どう)。詩哥(しいか)。管弦(くわんげん)。文武(ぶんふ)。医薬(いやく)。其 道(みち)をまなび。上下 万(ばん) 民(みん)。まことをさきとし。国の制度(せいと)明(あきらか)なり。しかあれ ば。四海(しかい)【左側に「よつのうみ」と傍記】をだやかに。諸(しよ)国【左側に「もろ〳〵のくに」と傍訓】にすぐれたり。是に より。万国(はんこく)。日本にしたがわすといふことなし 【絵画 表題として】 大日本国 高(かう) 麗(らい) 国(こく) いにしへは鮮卑(せんひ) と名(な)づく。周(しう)の 武王(ぶわう)のとき。箕(き) 子(し)を其国に封(ほう) じてより。朝鮮(てうせん) 国(こく)と名づく 中 国(ごく)の礼(れい)楽(がく)詩(し)書(しよ)医薬(いやく)うらかた【占形】にいたるまでみな 此国につたはりて官制(くわんせい)こと〴〵くあきらかなり。 国の制度(せいたく)皆(みな)儒道(じゆどう)之 風(ふう)にしたがひて。又 悪殺(あくさつ)【さつ】のい ましめなし。人みな君化(くんくわ)にかなひて。四夷(ゐ)の中に ひとり高麗(かうらい)をすぐれたりとす。たゞ礼義(れいぎ)のおこな はるゝかたち。中国にたがふ事有。其(その)国に。良馬(りやうば)白石(はくせき) なし。ともし火(ひ)に黒麻(こくま)をもちひ。布(ぬの)をもてあきな ふ。国のかたち東西(とうざい)二千 里(り)南北(なんぼく)一千五百里なり。 都(みやこ)は開州(かいしう)にあり。名づけて開城府(かいぜひふ)と云。北京(ほつきん)の 城(みやこ)にいたる事其道三千五百里なり 扶(ふ) 桑(さう) 国(こく) 此国は大 漢(かん)国の 東に有。板屋(いたや)を つくりてすみか とす。さらに城郭(じやうくはく) なし。武帝(ぶてい)の時 罽賓(けいひん)の人その 国にいたりてみるに。国人 常(つね)に鹿(ろく)【左に「しかの事也」と傍記】をかふて牛(うし)の ごとくにつかふ。又其 乳(にう)【左に「ちの事」と傍記】を取 ̄ル をもつてわざとすと也 大(たい) 流(りう) 球(きう) 国 此国 建安(けんあん)より水を 行事五百里也 其国に玉石(ぎょくせき)【左に「たまいし」と傍記】お ほし。中国の制(せい) 度(たく)にしたがひて 朝覲(てうごん)みつぎもの をたてまつる。みな時にかゝはらず。王子(わうじ)およひ 陪臣(ばいしん)の子は。みな大 学(かく)に入て書をよむ。礼義(れいぎ) はなはだあつし 小(せう) 琉(りう) 球(きう) 国(こく) 其国 東南海(とうなんかい)にち かし。地(ち)より玻瓈(はり) 名香(めいかう)其外(そのほか)もろ〳〵 のたからを生(しやう)ず 女(ぢよ) 真(しん) 国(こく) 其国 契丹(けいたん)国の 東北(うしとら)【「ひがしきた也」と左側に傍訓】の方(かた)長白(ちやうはく)山 のもとに有。鴨(かう) 緑水(りよくすい)のみなも と。古粛慎(こせうしん)の地 なり。其さき完(くわん) 顔氏(がんし)と云(いふ)もの有。つみをのがれて。此国にかくれたり。其 地(ち)に金(こかね)【「きん」と左側に傍訓】おほし。此ゆへに。国の名(な)として。金(きん)国と云。阿(あ)国と 云人より。みづから帝王(ていわう)と号(がう)す。国人 鹿皮(ろくひ)【「しかかわ」と左側に傍訓】魚皮(きよひ)【「うを」と左側に傍訓】を 衣(ころも)としたり又 野人(やしん)皆(みな)利刀(りたう)を帯(たひ)し。死(し)をかろくして 命(いのち)をしまず。男子(なんし)皆(みな)其 面(おもて)に黥(すみ)入たり 暹(せん) 等(ら) 国 其国 濱海(ひんかい)【「はまうみ」と左側に傍訓】に有 男子はかならず其 陽(やう)をさく。宝物(たからもの) をたくはへて。ふうきを。へつら ふ。しからざれば 女家(ちよけ)これに妻(つま)あわさず。此国に□(□□□)おほし 匈(けう) 奴(と) 韃(たつ) 靼(たん) 此国人 五 種(しゆ)有 一 種(しゆ)は身の毛(け)黄(き)【「きイろ」と左側に傍訓】 なり是山 鬼(き)と 黄特牛(あめうし)との生 ずる所也一 種(しゆ)は くびみじかくおほ きなるもの有。すなはち獲狡(くわくかう)と野猪(やちよ)との生(しやう)する所(ところ) なり。一種は髪(かみ)くろく身の色(いろ)白(しろき)は則(すなはち)是。唐(もろこし)の 李請(りせい)か兵(つはもの)の末孫(ばつそん)【「すえまご」と左側に傍訓】也一種は突獗(とつけつ)なり。其さ支(き)は 則(すなはち)射摩舎利海神(しやましやりかいしん)のむすめと金角(きんかく)の白鹿(はくろく)【「しゝ」と左側に傍訓】と ましはり感(かん)じて生(しやう)ず此国の主(しゆ)【「ぬし」と左側に傍訓】として民(たみ)みな したがふ白鹿(はくろく)の生ずる廿五 世(せ)を貼木真(てうほくしん)と名づく 是大 蒙古(もうご)と云(いふ)。ひそかに帝王(ていわう)と称(せう)す。是より 四 世(せ)の孫(そん)【「まこ」と左側に傍訓】忽必烈(こつひつれつ)【「れツ」と左側に傍訓】すでに。中国の天子(てんし)となれり 国人つねに猲(かつ)をこのみて。羊馬野鹿(やうはやろく)【「ひつしむま しか」と左側に傍訓】の皮(かわ)を 衣(ころも)とす 巴(は) 赤(せき) 国(こく) 此国人 つねに林(はやし)木(き)のうち に住(すまい)して。田をつ くる。又馬をいだし あきなふ。応天府(おうてんふ) よりゆく事一年 にして此国に      いたる 黒(こく) 契(けい) 丹(たん) 国(こく) 此国ゆたかにして 城池(しやうち)有 家(いへ)あまた つくりならべ。人 煙(ゑん)【「けむり」と左側に傍訓】 たえず。金国(きんごく)の人 此国にいたり行。応 天府よりゆく事一年 にしていたる 土(と) 麻(ま) 国(こく) 此国ゆたかに家作(いへつくり) して人煙たへず 国の風俗また 韃靼(たつたん)国に似(に)たり 応天府より行事 七ヶ月にしていたる 阿(あ) 里(り) 車(しや) 廬(ろ) 其国 皆(みな)山林(さんりん)【「はやし」と左側に傍訓】に よりて城(しやう)をかま へ家(いへ)を作(つくり)又 田(た)有 応天府より行 事一年に していたる 女(ちよ) 暮(ほ) 楽(ら) 国(こく) 其国 城池(しやうち)人 煙(ゑん) おほし。人 皆(みな)鹿(ろく) 皮(ひ)を衣(ころも)として 牛羊(うしひつし)をやし なふ国のならひ 人皆ゆたか也 韃靼(たつたん) 国の人と通(つう)して あきなふ 烏(う) 衣(ゑ) 国 其人 常(つね)に烏(くろき) 衣(ころも)を着(き)たりか しらに大被(おおひれ)を かづくそのながさ 膝(ひさ)をかくし腕(うて) をかくす漢人(かんひと) をみるときは則(すなはち)そむき行て其かほをみせし めず。もししゐてそのかほをみるときは則(すはなち)是 をころす。いわく。わがおもては人に見せしめす と。則(すなはち)又 草(くさ)をもつて其(その)死(し)人におほふ。物をあき なふに又かけ物をもつてせり。もし。そのあたひ すくなき時(とき)は。又も人をころす 老(らう) 過(くわ) 国(こく) 此国 安南(あんなん)国の西北(いぬい)の かたに有いにしへ 越裳(ゑつしやう)国の人其 性(しやう)狼戻(らうらい)にして たゞ人とまじ はらずひそか に弓(ゆみ)を引(ひき)て是を射(ゐ)ころす。もし又 他国(たこく)の人 をとらへては。足のうらをすりて。其 皮(かわ)をはぐ。此 ゆへに行事あたはず。其国より象牙(ざうげ)金銀(きんぎん)をい だす。をよそ食(しよく)物は口(くち)よりくらひ水酒(みつさけ)は鼻(はな)よりのむ 虼(きつ) 魯(ろ) 国 此国 木魯(ほくろ)国と おなし風俗(ふうぞく)也 応天府(おほふてんふ)より行(ゆく) 事七ヶ月にして いたる 乞(きつ) 黒(こく) 国(こく) 其国 城池(しやうち)なし 羊(ひつし)と馬(むま)とをい だしあきなふ 国の風俗(ふうぞく)韃靼(たつたん) 国におなし応天 府より行事 七ヶ月にしていたる 占(せん) 城(しやう) 国(こく) 其国みな林(はやし)の内(うち) をすみかとす 安南国(あんなんこく)より見(み) つきものをたて まつる広州(くわうしう)より 舩(ふね)をいだし順(じゆん) 風(ふう)八日にしていたる。国の内(うち)名香(めいこう)犀象(さいざう)をいだす。又 田をたがやしてくらふ海浜(かいひん)【「うみはま」と左側に傍訓】に鰐(わに)の魚(いを)あり。も し国人とがのうたがわしき時(とき)は鰐(わに)に。あ ふたるに。とがなきものはくらはずと いふ 深(しん) 烈(れつ) 大(たい) 国(こく) 其国人 韃靼(たつたん)国と 風俗(ふうぞく)をおなじく せり。応天府(おうてんふ) より行(ゆく)事六ヶ 月にしていたる 波(は) 利(り) 国(こく) 其国 林木(はやしき)おほし 田をうへて。なり はひとす。城池(しやうち) なし。家(いへ)おほく 作(つくり)ならべたり。韃(たつ) 靼(たん)国に通(つう)ず。応 天府より行事一年 にしていたる 鉄(てつ) 東(とう) 国(こく) 其国よりよく逸(いち)【「はしる」と左側に傍訓】 物(もつ)【「むま也」と左側に傍訓】の馬(むま)をいだす 応天府(おうてんふ)より行(ゆく) 事二ヶ月にして いたる 訛(くわ) 魯(ろ) 国(こく) 其国人まなこふ かくおちいりて かしらのかみ黄(き)【「きはだ」と左側に傍訓】 なり木(き)をかさね たてゝ家(いへ)とせ り。応天府より行 事一年半に していたる 木(ほく) 思(し) 奚(けい) 徳(とく) 此国の風俗(ふうしよく)【ママ】又 韃(たつ) 靼(たん)におなじ。応 天府より行事 七ヶ月にして いたる 方(ほう) 連(れん) 魯(ろ) 蛮(はん) 其国人ものいふ ことばあきらめが たし。田をつくり て。なりはひとす 馿馬(ろば)をいだしあ きなふ。応天府 より行こと一年 にしていたる 昏(こん) 吾(こ) 散(さん) 僧(そう) 其国 山林(やまはやし)おほし 人みな田を作(つくり) て食(しよく)をたくはふ 応天府より行事 九ヶ月にしていたる 大(たい) 漢(かん) 国(こく) 此国に兵戈(ひやうくわ)なし 又 合戦(かせん)する事 なし紋身国(もんしんこく) と通(つう)じて。物をあ きなふ。たゞ其 言葉(ことば)ひとつ ならずと也 爪(さう) 哇(あ) 国(こく) 東南海(とうなんかい)の嶋(しま)の うちに有 則(すなはち)是 いにしへ闍婆城(しやばじやう)と 名(な)づくる所(ところ)なり 泉州路(せんしうろ)より舩(ふね) を出(いだ)して一月 にしていたるべし。其国 冬夏(ふゆなつ)のへだてなく。常(つね)に あつくして霜雪(しもゆき)なし。其 地(ち)より胡椒(こせう)蘇方(すはう)をいだす 武勇(ぶよう)をもつて賞(しやう)にあづかる。飲食(いんしゐ)【「のみくひ」と左側に傍訓】は木葉(このは)にもりて くらふ。およそ。あらゆる虫(むし)のたぐひみな是を煮(に)て 食(しよく)す男(おとこ)死(し)する時(とき)は其 妻(つま)十日を過(すご)して又人めとる 擺(ひ) 里(り) 荒(くわう) 国(こく) 其国 北海(きたうみ)にち かし風俗(ふうぞく)また 韃靼(たつたん)国におなじ 応天府より行事 六ヶ月にしていたる 後(こう) 眼(がん) 国(こく) 其国人うしろの かたうなじに一 目(もく)有。国(くに)のあり さま。韃靼(たつたん)国にお なじ。むかし良(りやう) 河(か)の人。此国に 行(ゆき)てたちまちに 此人をみて大におそ れたり 大(たい) 羅(ら) 国(こく) 此国の風俗(ふうぞく)また 韃靼(たつたん)国におなじ 応天府より行事 四ヶ月にしていたる 不(ふ) 刺(し) 国(こく) 此国 西蕃(せいばん)にかゝ れり常(つね)に馬(むま) 羊(ひつし)をやしなひ て是をあきな ふ応天府(おうてんふ)より 行(ゆく)事一年八ヶ 月にしていたる 三(さん) 仏(ぶつ) 斎(せい) 国(こく) 此国 南海(なんかい)【「みなみうみ」と左側に傍訓】のうち にあり広州(くわうしう)より 舟をいたして南 北の風十五日に していたるへし 惣門(さうもん)より入(いり)て五 日にして其国 中にゆく木(き)をもつて柵垣(ませがき)を作りて城(しろ)とす国 人よく水(みつ)にうかぶ。其人みな薬(くすり)を服(ぶく)するさらに 矢(や)もたゝず。かたなもやぶらず。此ゆへに諸国(しよこく)に覇(は) たり。其国の地に穴(あな)あり牛(うし)数万(すまん)わき出(いつ)る人是 を取て食(しよく)とす。後の人其 穴(あな)に垣(かき)をゆふより又うし わきいでずといふ 近(きん) 仏(ひつ) 国(こく) 此国東南海のほ とも【「り」の誤記ヵ】に有。此国 野嶋(のしま)の蛮賊(ばんぞく) おほし麻羅奴(もらと)と 名(な)つく商人(あきんど)の 舟(ふね)其国にいたり ぬれば。国人むら がりあつまりて。是をとりこにし。大なる竹(たけ)をも つつ【「つ」の重複ヵ】てさしはさみて。やきころしくらふ。人のかし らを食物(しよくもつ)のうつはものとす。父母(ちちはは)死(し)する時(とき)は。一 類(るひ) あつまりて。鼓(つゝみ)をうち。ともに其(その)肉(にく)をくらふ。是 非(ひ)【「あらす」と左側に傍訓】人(にん)の類なり 大 闍(しや) 婆(ば) 国(こく) 莆家龍(ほけれう)国の ほとりに有。中 国より順風(じゆんふう)八 日にしていたるべし むかし雷(いかづち)此国ニ おちて。大石(たいせき)【「いし」と左側に傍訓】さけ くだけ。其 石(いし)のうちより。一人 出生(しゆつしやう)せる。是を立(たて)て。 国の大 王(わう)とす。此国より生(しやう)ずるもの。青塩(せいえん)【「あおきしほ」と左側に傍訓】および 綿(わた)あふむ鳥(てう)【「とり」と左側に傍訓】其(その)外(ほか)。たからの玉(たま)あり。又其国に 飛頭(ひとう)の人あり《割書:樚䡎首(ろくろくび)と|いふものなり》其 民(たみ)是を名づけて 虫落民(ちうらくみん)といふ 婆(は) 羅(ら) 国(こく) 此国 男女(なんによ)ともに かたなをおびて 道をゆく。又人と ちなみ。したし まず。人をころし て。他国(たこく)にはしり 廿日をすぐれば。其とがをかうふらず。他国(たこく)の人其 妻(つま)をぬすむ事あれば。わが妻(つま)かたちすぐ れて。人のために愛(あい)せらるゝと云(いひ)て。其おとこ をころし。其女をむかへて。是をやしなふ。た がふことあれば。皆(みな)ころすをもつて国風(こくふう)とす 沙(しや) 弼(ひつ) 荼(だ) 此国むかしより このかた人のいたる 事なし。たゞ 聖(せい)人 徂葛尼(そかつけい) と云人のみ。此国 にわたりて。文 字(じ)ををしへらる。其国は。西荒(せいくわう)のきわまりにして 日輪(にちりん)西(にし)に入(いる)時(とき)日(ひ)のめぐるこゑ。いかづちのひびくがご とし。国王(こくわう)つねに城(しろ)の上(うへ)に数(す)千人をあつめて。角(かく) をふき。かねをならし。太鼓(たいこ)をうちて。日(ひ)のめぐる こゑにまぎらかす。しからざれば。小児(せうに)婦人(ふじん) みな。おそれて。死(し)【「しぬる」と左側に傍訓】すとなり 斯(し) 伽(きや) 里(り) 野(や) 国(こく) 芦眉(ろひ)国にちかし。 山の上に穴(あな)あり。 四季(しき)のうち。火の もえいづる事 常(つね)也。国人大 石(せき) を其 穴(あな)にとり ふさぐ事 数(す)千 斤(きん)。又 穴(あな)の内(うち)になげいるゝに。し ばらくのうちに。みな。やけくだく。五年に一たひ づゝ。火もえあがりて。家(いへ)も林(はやし)も石も。ともに火に やかれ。人みな死(し)すと云 崑(こん) 崙(ろん) 層(そう) 期(き) 此 国(くに)西南海(せいなんかい)のほ とりにあり。此 嶋(しま)の上に大 鵬(ほう)と 云(いふ)鳥(とり)有。此 鳥(とり)の とぶ時(とき)は両(りやう)の つばさ九 万里(まんり)也 よく駱駝(らくだ)の馬をくらふむかし人其鳥の羽(は)を。ひ ろふて。其 茎(くき)をもつて。水桶(みつおけ)につくるよし。又野人 有。身くろき事うるしのごとし。他国(たこく)の商(あきん) 人(ど)のために奴(やつこ)となりてあきなふ 采(さい) 牙(け) 金(きん) 彪(ひう) この国 西蕃(せいはん)の 木波(ほくは)国にちかし 応天府(おうてんふ)より行 事五ヶ月にし ていたる 獦(らつ)【ママ】 獠(りやう) 国 𨋽軻(しやうか)に有。其国 人 婦人(ふじん)みなは らむこと七月 にして子を生(しよう) ず。国人 死(し)する 時(とき)は竪棺(しゆくわん)【縦棺】にし て是をうづむ 瓠(こ) 犬(けん) 国 此国むかし帝(てい)誉(??) 高辛氏(かうしんし)のとき。 宮中(きうちう)に老女(らうぢよ)有 耳(みゝ)のうちより 蚕(かいご)のまゆのごとく なるものを生(しやう)ず。 瓠(ふくへ)に入てをくに化(け)して犬(いぬ)となる。其 色(いろ)五 色(しき)【「いろ」と左側に傍訓】也 名づけて瓠犬(こけん)と云時(いふとき)に呉将軍(こしやうくん)むほんをおこす。 瓠犬(こけん)ひそかに。呉将(こしやう)が首(くび)をくわへてかへる。帝(みかど)よ ろこひて。宮女(きうちよ)を給(たま)ふ。犬(いぬ)女(をんな)をつれて。南山(なんさん)に入。 三年のうちに男子(なんし)十二人を。うむ。みな是人也 みかど長 沙(さ)の武陵蛮(ふれうばん)の主(ぬし)とせり。其子。わが父(ちゝ) の犬(いぬ)なることをはぢて。ひそかにはかつて。是 をころせり。今 瓠犬(こけん)の国そのすゑなり 紅(かう) 夷(ゐ) 国(こく) 此国 安南(あんなん)のみなみ のかたに有。其国 人 衣(ころも)をつくる事 なし。綿(わた)をもつ て身にまとへり。 くれなゐのきぬを かしらにまとへり。其かたち回々国(くわい〳〵こく)の人のごとし。国に 塩(しほ)なし。交趾(かうち)の人 塩(しほ)をもつて。此国にあきなふ也 天(てん) 竺(ちく) 国(こく) 此国大 秦(しん)にちかし 良馬(りやうは)おほし。国 人 皆(みな)両鬂(りやうひん)【「鬂」は「鬢」の俗字】を。た れくだし。綿(わた)を もつてかしらを つゝみ。きぬをも つて。したうずとせり。国のうちに泉(いづみ)あり。商人(あきんと) 瑠璃(るり)の瓶(へい)に。此 水(みつ)をいれて。ふねのうちにたくは ゑ。もし風あらく。なみたかきとき。この水を 海(うみ)にそそぐに。風波(ふうは)【「かせなみ」と左側に傍訓】立(たち)どころにとどまるなり 交(かう) 脛(けい) 国 此国人 両(りやう)のあし もぢれ。まはれり。 そのはしる事 風のごとしとなり 阿(あ) 黒(こく) 驕(きやう) 国 此国人 家(いへ)おほし。林(はやし) 木(き)のあひだにあり 国人 鹿皮(しかのかわ)を衣(ころも)とし 馬に乗(のり)て弓(ゆみ)を引(ひく) たはふれに。人を射(いる)。 死(し)する時(とき)には。その せなかをうつにす なはちよみがへる となり 蘇(そ) 門(もん) 答(とう) 刺(し) 此国田。かたふして 五 穀(こく)すくなし 中にも位(くらゐ)たかき 人。物をおさめ長(ちやう)【「つかさどる」と左側に傍訓】 ずる也。国人一日の 間(あひた)に身の色(いろ)かならず。三度(みたび)かわる。其色 或(あるひ)は黒(くろく)。或は黄(き)。 あるひは赤(あかし)。としごとに。かならず十 余(よ)人をころして。 其 血(ち)を取りて。あぶるときは。その年 病(やまひ)をしやうぜす。 これにより。民(たみ)皆おそれて都(みやこ)につきしたがふ。しか ればすこし死(し)のなんをのがるとなり 火(くわ) 州(しう) 此国 城(しろ)も田(た)もおほくあり。男子は腰(こし)にばかり衣(ころも)をき て。長(たけ)高(たかく)かみをくみて。首(くび)にたれ。婦(ふ)人はぼうしを いたゞいて。居(ゐ)るなり。きわめて。楽(がく)をすく也。琵琶(ひわ) ふえをもち。あそぶ也男子は。馬にのり弓を射(ゐ)て たわふれとする也 交(かう) 趾(ち) 国(こく) 交趾(こうち)国。又は安南(あんなん) と名づく。其国 もとこれ。漢(かん)の 馬援(ばゑん)か兵(へい)の子孫(しそん)【「すへまこ」と左側に傍訓】 なり。国人おや子 一 所(しよ)に住(ぢう)せず。妻(つま) をむかふに。媒(なかだち)をもちひず。男子(なんし)は盗賊(とうぞく)【「ぬすみ」と左側に傍訓】をわざとす。 女子(によし)は。はなはだ。淫乱(いんらん)なり。古城(こせい)の王(わう)。其 少子(せうし)をつ かはして。中国の妻(つま)をよみ。道(みち)をおこなふ。国人是に そむく。漢の中国これをおさむ交州(かうしう)の刺史(しし)を たつ。後漢(ごかん)のとき。又そむく馬援(ばゑん)これをしつむ 五 代(だい)のすゑにあたつて。節度使(せつとし)呉昌(こしやう)文 初(はじ)めて。ひ そかに。王(わう)の号(な)をたつる。其後(そのゝち)皆(みな)王の名を称(せう)す 欽(きん)より西南(ひつじさる)のかた。舟をもつてわた□【「る」ヵ】事一日に していたるへし 黒(こく) 蒙(もう) 国(こく) 此国 城池(しやうち)有(あり)。家(いへ) づくりあり。国 人田をつくり てなりはひとす 天気(てんき)常(つね)に熱(ねつ) して人の身 焼(やく) がごとく也人 皆(みな)五 色(しき)のにしきをはかまとせり。応天府より行(ゆく)事 一年にしていたるなり 婆(は) 登(とう) 国(こく) 林邑(りんいう)の東(ひかし)に有 西(にし)の方(かた)迷蒭(めいすう)国 にちかく。南の方 阿陵(あれう)国にかゝれ り。稲(いね)を。うゆる 月ごとに。一たひじ ゆくす。文字(もんじ)あり。貝葉(はいえう)にかく。もし。死(し)すれば。金銀(きんぎん) をもつて。四 肢(し)をつらぬきて。後(のち)に婆律膏(はりつかう)。およ び。沈檀(ちんたん)龍脳(りうなう)をくわへて。薪木(たきゞ)をつみて。これを 火葬(くわぞう)すとなり 無(ぶ) 腹(ふく) 国 此国 海(うみ)の東南(とうなん)に あり。国人 男女(なんによ) ともに。みな腹(はら) なし 聶(しよう) 耳(じ) 国 此国無 腹(ふく)国の東(ひがし)に有 国人 身(み)はとらの紋 ありて。耳(みゝ)ながき 事ひざをすぎたり ゆくときは。その 耳(みゝ)をさゝげて ゆくといふなり 三 身(しん) 国 此国 鑿歯(せんし)【資料の字は「鑿」の異体字と思われる】国の 東(ひかし)にあり其人 かしらひとつにして 身はみつあり 蜒(たん)【字面からは「蜓(てい)」に見える】 三 蛮(ばん) 国(こく) 此国人 船(ふね)をもつて 家(いへ)とす。きわめて まづし。冬(ふゆ)にいたる にも。身に一 衣(ゑ)なし。 魚(うを)を取(とり)て。食(しよく)とす 妻子(さいし)共(とも)に舟(ふね)に のり。ゆくさきに とゞまるなり。 木(もく) 蘭(らん) 皮(ひ) 国(こく) 此国大 食(しよく)国の西(にし) に大 海(かい)有。海(うみ)の 西(にし)に国(くに)有。其 数(かず) かぎりなし。其中 に木蘭皮国(もくらんひこく)ま では人みな。いた るべし。むかし陀盤(たはん)の地(ち)より舩(ふね)をいだして西(にし)に行(ゆく)事 百日にして。一ツの小(せう)舩(せん)【「ふね」と左側に傍訓】をみる。舟(ふね)のうちに。数(す)百人のりて 酒(さけ)さかな。もろ〳〵のうつはもの有。其国の生(しやう)する 所(ところ)。麦(むぎ)一 粒(りう)のたけ三寸。瓜(うり)の大さめぐり四五尺也 柘榴(しやくろ)一 顆(くわ)。おもさ五 斤(きん)。桃(もゝ)は二斤。菜(な)のたけ三四 尺(しやく)井(ゐ)をほる事。深さ百 丈(ちやう)にして水あり。羊(ひつし)のた かさ三四尺 春(はる)は腹(はら)をさきて。あぶらをとる事 数(す)【「かず」と左側に傍訓】十 斤(きん)二(ふた)たび其(その)疵(きず)をぬふて。よく又よみがへら しむ。これぬふ所(ところ)の糸(いと)にくすりをぬると云 賓(ひん) 童(とう) 龍(りう) 此国もと占城(せんじやう)国 の貴(き)人。国のあるじと なれり。道(みち)ゆく 時は象(ざう)にのり 馬(むま)にのる。つきし たがふもの。数(す)百 人 皆(みな)手(て)ごとに盾(たて)をもてり。あかき。かさをさす。其 従者(じうしや)木(こ)の葉(は)に食(しよく)をもり。椰子酒(やししゆ)と米(べい)酒とをもつ て。みち〳〵たてまつる。ある人のいわく。仏書(ぶつしよ)に いへる。王舎城(わうしやじやう)は。すなはち。この地(ち)なり。今(いま)。目連(もくれん) 舎利弗(しやりほつ)の塚(つか)ありと云 骨(こつ) 利(り) 国(こく) 此国 回鶻(くわいこつ)の北(きた)大 海(かい) のほとりに有。名(めい) 馬(ば)をいだしあき なふ。其国。昼(ひる)な がく。夜は。みじ かし。日くれての ち。天(てん)の色(いろ)くろし。 羊(ひつじ)を煮(に)て。□(じやく) するとき。夜あけて。日いづると云 頓(とん) 遜(そん) 国 此国むかし梁(りやう)の 武帝(ふてい)のとき。み つぎものをたて まつる。其国 海(かい)【「うみ」と左側に傍訓】 嶋(とう)【「しま」と左側に傍訓】の上(うへ)にあり。其 国人。まさに。死(し) すれば。親族(しんぞく)こと〴〵く。歌舞(かぶ)【「うたひまふ」と左側に傍訓】して。野(の)にをくる。又【右側に小字で挿入】 鳥(とり)有。 其かたち。あひるのごとし。数(す)万とひきたる。親族(しんそく) みなかたはらに立(たち)よる。其 鳥(とり)。死(し)人の肉(にく)を。食(しよく)し つくす。すなはち。其ほねを火葬(くわそう)にしてかへる。こ れを鳥葬(てうさう)と名づくなり 狗(こう) 骨(こつ) 国 此国人 皆(みな)人の身(み) にして。犬(いぬ)のかしら なり。身になが き毛(け)ありて。又 衣(ころも) を着(き)ず。ものいふ こと葉(ば)。犬(いぬ)のほゆ るがごとし。其つまは。皆(みな)人にして。よく。漢語(かんご)に通(つう)ず。 貇鼡皮(りつすのかわ)【振り仮名は「りつす」で「りす(栗鼠)」のことと思われるが、上の字「貇」に迷います。】を衣(ころも)とし。犬人と夫婦(ふうふ)として。穴(あな)にすめ り。むかし中国の人。其国にいたる。犬人の妻(つま)。其人 をにげかへらしむ。犬人これををふとき。帯(おび)十 余(よ)筋(すし)をおとす。犬人是をくわへて。穴(あな)にかへり此内に のがれかくりぬと云。応天府より行事二年二月にいたる 長(ちやう) 人(じん) 国(こく) 此国の人たけ 三四 丈(じやう)なり。むかし 明州(みやうじう)の商人(あきんと)海(うみ) をわたる時(とき)。雰(きり)ふ かく風あらくして 舟のむかふかたを わきまへず。やう〳〵雰(きり)はれ。風やみてのち。ひとつの 嶋(しま)につく。ふねよりあがりて。薪木(たきゞ)をとらんとす るに。たちまちに。ひとりの長(ちやう)【「なが」と左側に傍訓】人をみる。其 行(ゆく) こと。飛(とふ)がごとし。あき人おどろき。おそれて。にげ まとひ。ふねにかへる。長人この人をおふて。海(うみ)にか けいる。舩(ふな)人 強弩(ぎやうと)の大弓をはなつにのがるゝ事 をえたり 蒲(ほ) □(かん) 国 犬理(けんり)国より五 程(てい) にして。其国に いたる。黒水(こくすい)と 淤泥河(おでいが)とを。へだ てゝ。しかも難所(なんじよ) なるをもつて。西(せい) 蕃(はん)の。諸国 通路(つうろ) なし。其国の王(わう)は金銀の冠(かふり)をいたゝき金銀をもつて 家(いへ)をかざりちりばめ錫(からかね)をもつて瓦(かはら)をつくり てふくといふなり 婆(は) 羅(ら) 遮(しや) 此国 男女(なんによ)ともに いぬのかしらをいた だき。猿(さる)のおもて をかけ。日夜(にちや)まひ あそぶなり 五(ご) 渓(けい) 国 此国人 父母(ちちはは)死(し)する 時は鼓(つゞみ)をうち歌(うた) をうたひ親属(しんぞく)酒(しゆ) ゑんして舞(まひ)あそぶ 山にほぶり【文意からは「葬る」=「はぶる」とあるところ。「ほぶる」は屠る意】て其子 三年の内(うち)塩(しほ)を くらはず 哈(かふ) 密(みつ) 国 此国 西蕃(せいはん)のうちに 有。火州(くわしう)の東なり 国の風俗(ふうぞく)は 回々(くわい〳〵)国 と韃靼(たつたん)国に同じ 撒(さん) 馬(は) 兒(げい) 罕(かん) 此国 哈刺国(かふしこく)の東に 有。もと是 西蕃(せいはん) の内なり。山川(さんか)【「やまかは」と左側に傍訓】の景(けい) 物(ふつ)すこぶる中国に 同じ。あきなふ物 は皆(みな)国中の銭(ぜに) をもちゆとなり 孝(かう) 臆(い) 国 此国のめぐり三千 余里(より)平沙(へいさ)のうち にすめり。木を もつて柵垣(ませがき)を つくる。柵(ませ)のうち めぐり十 余(よ)里。其 内に人家(じんか)二千 余(よ)あり。気候(きこう)常(つね)にあたゝかにして。草 木。冬もしぼまず。国人 皆(みな)長(たけ)ながく。大鼻(ひ)【「はな」と左側に傍訓】にして。ま なこあをく。かみ黄(き)なり。其おもて血(ち)のごとく。つねに かみをゆふことなし。五こくゆたかに金鉄(きんてつ)【「こかねくろかね」と左側に傍訓】おほく 麻布(あさぬの)を衣(ころも)とす。商(しやう)敗(■■)のあきなひものなし。道 ゆくときは。男女(なんによ)ともに。其おやをつるく【「ゝ」ヵ】。孝道(かうだう)の 国なり。馬羊(うまひつじ)をやしなふをわざとせり 繳(けき) □(□) 国 此国 永昌郡(ゑいしやうくん)の南 の方一千五百里 にあり。国人みな 尾(お)あり。座(ざ)せんと する時は。先(まづ)地(ち)を ほりて穴(あな)をつくり 其 尾(お)。おきて。のちにざす。もしあやまりて。其 尾(お) をうちおるときは。すなはち死(し)すとなり 的(てき) 刺(し) 普(ふ) 刺(し) 此国 皆(みな)城池(しやうち)家井(いへい) あり。田をつくる。 又 明珠(めいしゆ)をいだす 其 玉(たま)ひかりあり。 又もろ〳〵の宝石(ほうせき)【「たからいし」と左に傍記】 おほし。応天府 よりゆく事二年一 ヶ月にしていたる 三 首(しゆ) 国(こく) 此国むかし夏(か) 侯(こう)の時に有。一身 にしてみつのかし らあり 真(しん) 臘(らう) 国(こく) 此国 広州(くわうしう)より舩(ふね) をいだして。北風(きたかせ) 十日にして。此国に いたるべし天気(てんき) さらにさむき事 なし。妻(つま)をめど るには。男(おとこ)まづ。女の家(いへ)にゆくとなり。国人もし女子(むすめ)を 生(しやう)ずれば。九 才(さい)のときに僧(そう)を。よびて経(けふ)をよまし め。其女子の身より。血(ち)をいだし。其ひたいに黥(すみ) す。しからざれば。国人めどらず。もし人の妻(つま)。他(た)人 と通(つう)ずれば其男 大(おほき)によろこびていわく。我妻(わがつま) かたちうつくし。此ゆへに人のために愛(あひ)せらると て。さらにとがむることなし。もし盗(ぬす)人あれば。其 手(て) 足(あし)をきる。火印(くわゐん)をもつて。其かほにしるしをつくる と也。国人のとがををかせば。金(きん)をいだしてあかなふ。 金(こがね)なければ身をうるとなり 道(とう) 明(めい) 国(こく) 此国の人。身に衣(ころも)を 着(ちやく)せず。もし人の 衣を着(ちやく)せるをみて は則(すなはち)是をわらふ。 国に塩(しほ)と。くろがね なし。竹をもつて 弓矢(ゆみや)につくり。鳥(とり) を射(ゐ)て食(しよく)とす 七 蕃(はん) 国 此国山をたがへし 田をつくる駝牛(だぎう)【「うし」と左側に傍訓】 をいだしてあきなふ なり 猴(こう) 孫(そん) 国 此国一には抹利刺(まりし) 国と云(いふ)若(もし)他国(たこく) より。此国をとらんと すれば。数(す)万の猿(さる) ありてふせぎ かへす。応天府より 行(ゆく)事三年に していたるとなり 勿(ふつ) 斯(し) 里(り) 国(こく) 此国 白達(はくだつ)国に属(そく) す国人七八十 歳(さい) まで。雨(あめ)をみざる ものあり。大なる 江(え)ありて。其みな もとをしらず。大 水(みつ) 田(た)をひたす。 水のうちより神人いでゝ石(いし)の上に座(ざ)す。国人是を 礼(れい)して。年の吉凶(きつけう)【「よしうれへ」と左側に傍訓】をとふに。 神人わらふ時は吉也 うれへ有時は。わざはひ有。国人山の上に廟(べう)を たてゝ是をまつる。廟(へう)の上に大 鏡(かゝみ)あり。他(た)国より 其国にわざはひせんとするときは。かゞみにうつ りてまづみゆと云なり 馬(ば) 香(こう) 国(こく) 此国の風俗(ふうそく)正月 元日二日八日は婆(は) 摩遮(ましや)のまつり 三月十五日は遊(ゆう) 林(りん)のまつり五月 五日は弥勒(みろく)下生(げしやう) の日七月七日は先祖(せんぞ)のまつり十月十日には国 王(わう) より首領(しゆりやう)の臣(しん)をいだし。両部(りやうぶ)の兵をわかち。甲胄(かつちう)を きせて。石をうち杖(つえ)をもつてたゝかふ《割書:今いふ印地(いんち)|なるへし》 たがひに死(し)するをまちてとゞむとなり 瑞(ずい) 国(こく) 此国人ひつじを やしなひ。田をつ くる人家(じんか)おほし 亀(きう) 茲(じ) 国(こく) 此国 牛馬(きうは)のたゝ かふをもつてた はふれとし。七日 のうちにせうぶ を見て。その年 の牛馬(うしむま)の吉凶(きつきやう) をみると云 丁(ちやう) 霊(れい) 国(こく) 此国 海内(かいたい)にあり 国人ひざより下 に毛(け)を生(しやう)じて 足(あし)は馬(むま)のごとく よくはしるにみ づから其 足(あし)に鞭【「ふち」と左側に傍訓】 うつ一日に三百 里(り) を行(ゆく)へし応天府 より行(ゆく)事二年にいたる 野(や) 人(じん) 国 此国 山林(さんりん)【「やまはやし」と左側に傍訓】おほし人 皆(みな)木(き)のはをくらふ 国人たつたん国と たゝかふにまけず となり 蔵(ざう) 国 此国 城池(しやうち)人家(じんか)有 国のうちに大なる 柳(やなき)の木おほし応天 府よりゆく事一年 三ヶ月にしていたる 點(もく) 伽(きや) 臘(ろう) 国(こく) 此国 城池(じやうち)人家有 国主(こくしゆ)有て。人これ にしたがふ。大海(たいかい)より 珊瑚樹(さんごしゆ)をいだす。 国人くろかねのあみ ををろし。さんこ をとるといへる。此 国のことなるへし 奇(き) 肱(こう) 国(こく) 此国人よく飛車(ひしや)【「とぶくるま」と左側に傍訓】 をつくりて風に したがひて。遠(とおく) ゆく。むかし殷(いん)の 湯王(たうわう)の時 奇肱(きこう)国 の人。くるまにのり て。西風によつて予州(よしう)にきたる湯王(たうわう)其車を。やぶ りて。国民(たみ)にみせしめす。そのゝち。十年をへて。 東風(とうふう)吹(ふく)とき。奇肱(きこう)の人またくるまをつくりて かへる。其国 玄玉門(けんぎよくもん)の西一万里にあり 無(ぶ) □(けい) 国 此国人 腹(はら)のうちに 膓(わた)なし。土(つち)を食(しよく) として。穴(あな)にすむ 男女死するもの。 みな土(つち)にうづむ そのこゝろくち ずして。百年ののち。又 化(くわ)して人となる。其 肺(はい)の 臓(ざう)くちずして百二十年に又 化(くわ)して人となる 其 肝(かん)の臓(さう)くちずして。八十年に人となる 其国三 蛮(ばん)国におなじとなり 大 食(しよく) 勿(ふつ) 斯(し) 離(り) 此国 秋(あき)の露(つゆ)を うけて。日にさら すに雨(あめ)となる。あ ぢはひまことに 甘露(かんろ)なり。山の 上(うへ)に天正樹(てんしやうじゆ)有 木(こ)のみ。栗(くり)のごとし。蒲芦(ほろ)と名づく。国人とりて食(しよく) す次(つぎ)のとし。又生(しやう)ずるを麻茶(まちや)といふ。三年に して生(しやう)ずるを没石子(ほつせきし)といふ。又 桃(もゝ)。柘榴(じやくろ)くるみ等(とう) あり。木蘭皮(もくらんひ)国とおなじくゆたかなり 木(ほく) 直(ちよく) 夷(ゐ) 国(こく) 此国 獦獠(かつりやう)国の西にあり。鹿(しゝ)の角(つの)をもつてうつ はものとし。国人 死(し)するときは。くゞめて。これを 火葬(くわさう)にす。その人いろくろき事うるしの ごとし。ふゆにいたれば。沙(すな)のうちにとゞ まりて。其かしらをいだすとなり 一 臂(ひ) 国 此国人一 目(もく)一孔一 手(しゆ)【「て」と左側に傍訓】一 足(そく)【「あし」と左側に傍訓】半躰(はんたい)にし て相(あい)ならびて行(ゆく) 西海(さいかい)の北(きた)にあり 乾(けん) 陀(だ) 国(こく) 此国むかし。尸毘王(しびわう) の庫(くら)火のため やかれて。こがれた る米(こめ)。今(いま)にあり。人 一 粒(りう)を食(しよく)する時 は身ををふる までやまひなし となり 長(ちやう) 毛(もう) 国 応天府(おうてんふ)よりゆく事二年十ヶ月にして いたる国人 皆(みな)其 身(み)に長毛(ながきけ)あり城池(じやうち)人家 田(でん) 畠(ばた)【「はたけ」と左側に傍訓】あり。其国人はなはた短少(たんせう)【「みじかく」と左側に傍訓」 也 晋(しん)の永嘉(やうか) 四年。中国にきたれり 昆(こん) 吾(こ) 国 此国よりからかねをいだす。かたなにつくるに 玉をきる事 泥(どろ)よりもやすし。其国 塹( つち)を かさねて浮屠(ふと)をつくる。屍(しかはね)をおさめまつりて 哭(こく)するを孝行(かう〳〵)とす 黙(もく) 伽(きや) 国(こく) 此国 荒郊(くわうかう)にかゝ れり。もと人家 なし。むかし犬食(けんしい) 国の莆羅(ほら)𠰢(はん)と 云人 妻(つま)をめどり て荒郊(くわうかう)に住(ぢう)す。すでに又一 男子(なんし)をうめり。其所に 水(みつ)なし。其子を地(ち)におきて。水をたづぬるに是 なし。其子あしをもつて地(ち)を擦(かく)に。きよき。いづ みたちまちにわき出(いで)たり。つゐに。大なる井(ゐ)と なる。ひでりにもかわかず。此 所(ところ)人 皆(みな)かんじて家(いへ) づくりすとなり 注(ちう) 輦(れん) 国(こく) 此国 西蕃(せいはん)の南に 有 則(すなはち)南天(なんてん)ぢく の内(うち)也。此国に大 象(ざう)六万あり皆(みな) 其(その)せなかに。家(いへ) をつくりてのせ たり。其 家(いへ)のうちに武勇(ふゆう)の兵(つはもの)をこめて。いきの そなへとす。金銀(きんぎん)を銭(ぜに)としてあきなふ。国人の性(しやう)其 こゝろひとしからず。食物(しよくふつ)およびうつはものみな 別(べつ)々にしてもちゆとなり 集(しう) 利(り) 国 此国一 目(もく)国の水(すい) 辺(へん)にあり。其人 ひざ。うしろへま がりくぶし又うし ろにむかひて一 手(しゅ)【「て」と左側に傍訓】 一 足(そく)【「あし」と左側に傍訓】 波(は) 厮(し) 国(こく) 此国人身の色(いろ)く ろき事うるし のごとし。金花(きんくわ)【「こがねはな」と左側に傍訓】 をもつて身に まとへり国に 城池(しやうち)なし国王(こくわう)はとらの皮(かわ)をもつて。かしらに かづく。みちをゆくときは籠(かご)にのり。あるひは象(ざう) にのり肉(しゝ)【「にく」と左側に傍訓】餅(べい)をくらふ。あやしき。たから。もろ〳〵 の薬(くすり)をいだしあきなふなり 南(なん) 尼(けい) 花 羅(ら) 此国に三 重(じう)の城(しろ) あり。国人 皆(みな)牛(うし)をたうとみて。 四 方(はう)の家壁(かへき)【「いへかべ」と左側に傍訓】に 牛(きう)【「うし」と左側に傍訓】糞(ふん)をぬるを 上とす。壇(だん)をつ きてまつる。また牛(ぎう)ふんをぬり花(はな)をたて。香(こう)をもる あき人を門(もん)のうちにいれず。門外(もんのそと)にしてものを おぎのるとなり 西(せい) 洋(や) 古(こ) 里(り) 此国南海の浜(はま)に ちかし蘇枋(すはう)胡(こ) 椒(しやう)珊瑚(さんご)宝石(ほうせき) おほし。つねに 木綿(もめん)ををりいだ す。その色(いろ)あざ やかに。紙(かみ)のごとし。其国人しろき布(ぬの)をもつて其 かしらをつゝみ。金(こかね)を銭(ぜに)としてあきなふ となり 一 目(もく) 国 北海の外(ほか)に人有 一 目(もく)【左に「め」と傍訓】ありて其 おもての中に つけり其 外(ほか)は つね人のごとし 義(ぎ) 渠(きよ) 国(こく) 此国大 秦(しん)の西に あり。其 親属(しんぞく) 死(し)する時は。柴(しば) をあつめて。是 を火葬(くわさう)し煙(けふり) 立(たち)て雲井(くもゐ)にのぼるを合烟霞(かふえんか)と名づくまた 卒哭(そつこく)【「なく事なし」と左側に傍訓】することなし 懸(けん) 渡(と) 国 此国 鳥(てう)ほう山(さん)の 西にあり谷(たに)ふ かくひろくして 他国(たこく)より通(つう)ぜず 但(ただし)縄(なは)を引(ひき)て わたると也国民 皆石のうへに田つくる又 石(いし)をたゝみて家(いへ)とす。手 をもつて水をのむに。たがひにあひひく。いは ゆる猿引(さるひき)といふものなり 長(ちやう) 脚(きやく) 国(こく) 此国長 臂(ひ)国と 其 道(みち)ちかし。其 国の人つねに。長ひ 国の人ををふて 海(うみ)に入て。魚(うを)を 取(とる)其 足(あし)ながさ 一 丈(じやう)ありとなり 長 臂(ひ) 国 此国大海の東(ひかし)に あり国人 手(て)を たるればながく して地(ち)にいたる。む かし一人あり海中(かいちう)【「うみのなか」と左側】にしてひとつの布衣(ほい)【「ぬのころも」と左側に傍訓】をひろふ 其たけ一 丈(しやう)にあまる是 長臂国(ちやうひこく)人の衣(ころも)なりといふ 羽(は) 民(みん) 国(こく) 海の東南に羽(う) 民(みん)の国有。岸(がん) 崖(かい)の間に住(ぢう)し て。まなこあかく。 かしらしろく。手(て) 足(あし)。人のことくにして。其 身(み)に毛(け)あり。又ふたつの つばさ有て。よく飛(とふ)にとをき事あたはず 子を生(しやう)ずるに卵(かいご)なり 沙(しや) 花(くわ) 公(こう) 此国東南海の中 に有。其人 常(つね)に 大海に出(いて)て闍(しや) 沙国(しやこく)のあき人を おびやかしうは ひ取(とる)をわさとす 都(と) 播(はん) 国(こく) 此国 草(くさ)をむすび て庵(いほり)として。又 かうさくをしら ず。国のうちに 百合(ゆり)草おほし つねにとりて粮(かて)とす。鹿皮(ろくひ)鳥(とり)の羽(は)を衣(ころも)とす。 国に刑(けい)の法なし。若(もし)ぬすひとあればぬすみ物 に一 倍(ばい)してあかなふと也 白(はく) 達(たつ) 国(こく) 此国の大 王(わう)は弗必(ほつひ) 烈勿(れつもつ)の子孫(しそん)也 諸(しよ)国より。おし よせ。此くにをう たんとするに。 さらにおかされ ず。この地(ち)もろ〳〵のたからおほし。酥酪(そらく)を食(しよく)とし 少魚(せうぎよ)【「ちいさきうを」と左側に傍訓】をくらふ。しろきぬのをもつてそのかしらをまとふ也 巣(そう) 魯(ろ) 果(くわ) 国(こく) 此国 城池(しやうち)人家(じんか) 有ごこくをうへ 良馬(りやうば)をいだす 応天府よりゆく事 一年七ヶ月にして いたる 結(きつ) 賓(ひん) 郎(らう) 国(こく) 此国城池人家有 田をうへてなり はひとす其国 人かしらのかみ 黄(き)にして身の 色(いろ)あかし応天府よりゆく事三年にしていたる 眉(ひ) 路(ろ) 骨(こつ) 此国 内(うち)に城(しろ)あり 七 重(ちう)なり黒光(こくくわう)【「くろひきかり」と左側に傍訓】 の石(いし)をもつて砌(みきり) とす。番人(ばんひと) あり。 塚(つか)二百 余(よ)ヶ所有。 胡(こ)に是を塔(たう)と 名づく。一 所(しよ)のたかさ八十 丈(しやう)なり。又三百六十 坊(ぼう)あり 国人。皆 毛段(もうたん)を衣(ころも)とし肉麪(にくめん)を食(しよく)とす。金銀お ほし砂摩挲石(しやましやせき)をいだしあきなふなり 穿(せん) 胸(けう) 国 此国 人 皆(みな)むねに あな有くらゐ たかき者(もの)は棍(つゑ)を 其むねにとをし いやしきもの。こ れをかきてゆく となり 女(によ) 人 国 此国東北海のす みに有国のうち に男子(なんし)なし。若(もし) 男子ゆく時はか ゑさず。女みな井(ゐ)の水(みつ)に影(かけ)をうつしてすなはち はらむ。また女子をうむといふなり 西(せひ) 蕃(はん) 国(こく) 此国一には鬼方(きはう)国と 名づく武丁(ぶてい)す てに鬼方国を うつに二【或は「三」ヵ】年に してたいらけ たりと云(いふ)。国の うちに城池(しやうち)なし山林(さんりん)の内(うち)に住(ぢう)す。よく人の 食□をくらふ応天府よりゆく事三ヶ月にし ていたるなり 可(か) 只(し) 国(こく) 此国 西(せい)蕃のう ちにあり。もろ 〳〵のたからを いだしあきなふ 烏(う) 萇(ちやう) 国(こく) 此国人 若(もし)死罪(しざい) あるときに。こ ろす事なし。 くすりをあたへ てのましむるに。 其とがあきら かにあらはる。其 ことにしたがひて此人をながすとなり 溌(はつ) 枚(はい) 力(りよく) 此国南 海(かい)のうち にあり国人つ ねに肉(にく)をくら ふ又 牛(うし)に針(はり) をさし其血(ち)を とりて。乳(にう)にか きまぜて。これをのむ。其身に衣(ころも)なし腰(こし)より したにひつじの皮(かわ)をもつておほひとせ り。此国のならひなり 鳩(きう) □(けい) 羅(ろ) 此国また西蕃(せいはん) のうちにあり 宝石(ほうせき)【「たからいし」と左側に傍訓】をいだす 晏(あん) 陀(だ) 蛮(はん) 国(こく) 此国 藍無里(らんぶり)国 より細蘭(さいらん)国に いたる。其国ざかひ に有。国人 身(み)の色(いろ) くろくしてしかも くろき毛(け)を生(しやう) ず。又衣なし白布(はくふ)【「ぬの」と左側】 をもつて腰(こし)に まとふとなり 回(くわひ) 々(くわひ) 国 此国 城池(しやうち)人 家(か)【「いへ」と左側に傍訓】 あり田をうへて 食(しよく)す市(いち)ありて あきなふ江淮(こうわい)の 風俗(ふうそく)のごとし 阿(あ) 陵(れう) 国 真臘(しんろう)国の南に 有人家はなはた 大なり。しゆろの かわをもつて上 をおほふ象牙(さうげ) をもつて床(ゆか)とし 柳花(りうくわ)【「やなきはな」と左側に傍訓】をもつて 酒(さけ)につくる。手をもつて物を食(しよく)す。国人の身に 毒(どく)有て。他国の人おなじく宿すれは其 身(み)に かさを生(しやう)ず。もし女人と交合(かうかふ)する時(とき)はかならず 死(し)すとなり 不(ふ) 死(し) 国(こく) 此国 穿胸(せんけう)国の 東にあり。其人 身くろくしてう るしのごとく。い のちながくして 死(し)することなし つねに丘土(きうど)【「おかつち」】に住(ぢう) す樹(き)有不 死樹(しじゆ)と名づく是を食するにいのち ながし又赤泉(せきせん)【「あかきいつみ」と左側に傍訓】あり是をのむに老(らう)【「おひ」と左側に傍訓】せす 登(とう) 流(りう) 眉(ひ) 此国 真臘(しんらう)国に しよくす。人をえ らびて。国のあるじ とす。其国人 みな帛(わた)をもつ てもととりを まとふ。又其身に衣(ころも)なしおなじくわたをもつては だへをかくす。国主(こくしゆ)【「くにぬし」と左側に傍訓】出(いで)て座(ざ)す。登場(とうぢやう)と云 従者(じうしや)皆(みな) 礼(れい)するに手をまじへ。両(りやう)のかたをいだく中国の 刃手(しやしゆ)【「叉手」の誤記と思われる】のごとし 悄(せう) 国(こく) 此国 西蕃(せいはん)に有 国人つねに乳(にう) を食(しよく)とす人を ころして又よく よみがへらしむ 吐(と) 蕃(はん) 国(こく) 吐蕃の名(な)は西(せい) 蕃(はん)をかりて号(がう) するところ。も とは。西羗属居(せいきやうしよくきよ) のもの西蕃(せいはん)より 其ほどちかく。こゑ をあぐれば。きこゆるがゆへに。国の名(な)とす姓(しやう)は勃窣(ぼと) 野(や)といふ。其 民(たみ)もつとも。勇(ゆう)をこのみて。其中に すぐるゝものを賛太夫(さんたいふ)と云 回(くわい) 鶻(こつ) 国(こく) 偉元郎回訖(ゐけんらうくわいこつ) そのさきはもと 匈奴(けうと)なり。大 業(けう) 中にみづから 回訖子(くわいこつし)を名づ けて。菩薩(ぼち) 突(とつ) 獗(けつ)と云 唐(たう)の徳宗(とくそう)のとき。諸易(しよえき)をたてたり其 本地(ほんち)は哈刺和林(かうしくわりん)にありといふ則(すなはち)今の和寧路(くわねいろ)也 鳥(てう) 孫(そん) 国(こく) 此国人 皆(みな)三 爪(さう)に して鳥(とり)のごとし 身(み)にながき毛(け) あり田をうへて 食(しよく)とす 吉(き) 慈(し) 厄(やく) 国(こく) 此国のめくり皆(みな)大 山なり山によつ て城(しろ)をかまへたり 金銀(きんぎん)にしき等(とう)。 おほし民(たみ)みなゆた かにして楼閣(ろうかく) きれいなり。おほく駝馬(だば)をやしなふ。国のうち。きわ めてさむく。春(はる)のゆき夏(なつ)にいたりてきえず 大(たい) 秦(しん) 国 西方(さいはう)諸国の中(なか) に尤(もつとも)すぐれたり 番国(ばんこく)のあき人 此国を麻羅弗(もらほつ) と名づく布帛 をもつて金字(きんし) の錦(にしき)ををりいだす。地(ち)より珊瑚碼碯真珠(さんごめなうしんじゆ)等(とう) のたからを生(しやう)ずなり 印(ゐん)【字面は「卯」に見える】 都(と) 丹(たん) 国(こく) 此国つねに熱(ねつ)し て冬(ふゆ)をしらず 天に雲(くも)なし。人 の身くろし応天府よりゆく事 一年二ヶ月にいたる 紋(もん)【「ふん」に見えるが誤記と思われる】 身(しん) 国(こく) 此国人身に文(もん)有 て。豹(へう)のごとし。と をくゆくときに 糧(かて)をたくはへず 居(こ)【左に「ゐる」と傍訓】する所(ところ)金玉(きんきよく) をかざる市(いち)に出(いつ)る時(とき)は。珍宝(ちんほう)【「宝」字の左に「たから」と傍訓】をもつてあきなふ 莆(ほ) 家(け) 龍(れう) 此国東南海のほ とりにあり。広(くわう) 州(しう)より船(ふね)をいだし てゆく事。一月に していたるべし 国(くに)の大 王(はう)は。もとゞりをとり。かみをけづる。国民(たみ)はみ な。かしらをそりて法師(ほうし)のごとし。椰子酒(やししゆ)其色あ かく。あぢはひきわめて佳(か)なり。其国より胡椒(こせう) 沈檀(ちんたん)【ぢんたん=沈香と白檀】丁香(ちやうかう)【「丁子」のこと】白豆蔲(はくつく)を生す 氐(さい) 人(しん) 国 此国 建木(けんほく)国の西 にあり其国人 おもては人にして 手(て)も又人のごとし むねより上(かみ)は人 なりといへともそ れより下は魚(うを)の       ことし 東(とう) 印(ゐん) 度(と) 此国 西蕃(せいばん)にちかし 国人の性(しやう)きわめ て勇(ゆう)なりいくさ にむかひて死(し)する を利(り)とす。むかし老子(らうし)この国にいたりてひろく道(みち)を おしゆとなり。応天府よりゆく事五ヶ月にし ていたるとなり 小(せう) 人 国 此国 東方(とうばう)に小(せう)【左に「ちいさき」と傍訓】 人(しん)国あり人の たけ。わづかに 九寸。海鶴(かいくわく)【左に「うみつる」と傍訓】常(つね) にかけり【空を飛び廻る】てやゝ もすれば。人を くらふ。このゆへに。国人ゆくときは。大 勢(せい)むらがり つれてゆくと云(いふ)なり 擔(せん) 波(は) 国 此国 内(うち)に人家城(じんかじやう) 地(ち)あり。田(た)をつ くりて食(しよく)す。天 気(き)つねに熱(ねつ)し て地(ち)に草木(さうもく)な し黒獅子(こくしゝ)【左に「くろきしゝ」と傍訓】をい だす応天府より 一年一月にして いたるなり 西(せい) 南(なん) 夷(ゐ) 此国西南の五 姓(せい) 宜州(きしう)より其国 さかひにいたる。国 人かみをけづることなく。足(あし)を跣(はだし)【左に「すあし」と傍訓】にしてゆく。斑(はん)花の布(ぬ▢) を衣(ころも)としかたなををひて。弓(ゆみ)をたいしてゆく 蘇(そ) 都(と) 勿(ふつ) 匿(とく) 此国 皆(みな)穴(あな)にすむ あなの口(くち)に家作(いへつくり) して。戸(と)をかたく とぢたり。他(た)国 の人其□【「穴」ヵ】の口(くち)に いたる。あなより けぶりいづる。こ れにふるれば。かならず死(し)す。其あなの深浅(しんせん)【左に「ふかきあさき」と傍訓】を しらすといふなり 鳥(てう) 伏(ふく) 部(ぶ) 国(こく) 此国むかし大に疫(えやみ)す山神(さんじん)【左に「やまかみ」と傍記】これをあわれみて 孔雀(くじやく)を化(け)して。三たび其 地(ち)をついばむに。泉(いづみ) わきいでたり。人これをのみて。そのやまひ みないえたりとなり 三(さん) 伏(ふく) 駄(だ) 此国 交趾(かうち)の南に あり山有 挿(さう) 流(りう)と名(な)つくめ ぐり数(す)百里なり 其山はなはだ。か たくして。くろがねのごとし。さらにやぶるべからず。 一方にひとつの穴(あな)あり。これより出入(いでいり)して交趾(かうち) に通(つう)ず。山のうちみな良田(りやうてん)なり。かうちより此 国をとらんとせし事。度(たび)〳〵(〳〵)なれども其国人 つよくしてとる事あたはず 䫘(けつ) 祭(さい) 国(こく) 此国 皆(みな)平地(ひらち)にして。山なし林木(りんほく)【左に「はやしき」と傍訓】おほし。又田をうへ てなりはひとす。家(いへ)おほし。国のうちに良馬(りようば)を いだす。かしらにつねに衣(ころも)をかうふる。応天府(おうてんふ)より ゆくこと一年にしていたるなり 浮(ふ) 泥(でい) 国 此国 板(いた)をもつて城(しろ) とする也王の居(ゐ) 所(しよ)のやねをたら 葉(よう)【多羅樹の葉】をもつてふき。 民(たみ)のいゑをば。草 をもつてふく也。此国に薬樹(やくじゆ)【左に「くすりのき」と傍訓】有。其 根(ね)を凡てせんじて 膏(こう)とし服(ぶく)す。又身にもぬる。しかる時(とき)はたとひ兵刃(へいじん)【「刃」の左に「やひば」と傍訓】 にやぶられても。死(し)なざるなり。死(しゝ)たる時(とき)は棺(くわん)に入て 山中にうづみおさむるなり。二月にそのまつりを する也七年こえて後(のち)は。まつらず。俗共(ぞくとも)おごり〳〵て かみに五色(こしき)にいろどりたるわたをもつてかさり。腰(こし) に花にしきにてかざる也。さて海(うしほ)を煮(に)て塩(しほ)とし。 もみをかもして。酒とす。十二月七日を。正月とす およそしゆえんの会(くわひ)。つゞみをならし。ふえをふき。鈴(れい)を かけて舞(まふ)也是をたのしみとす。食物(しよくもつ)をもる器(うつはもの)も なきにより。竹(たけ)にて。たらよう【多羅葉】をあみ。食(しよく)をもり。中国の 人をあひけいする。酒(さけ)にゑひたるものを見るたびに すなはちたすけてかへるなり 【蔵板仮名本抜書目録を三段に枠取りして記載あるもここでは一段ごとに編集】   菊華堂蔵板仮名本抜書目録 《割書:寺町通松原上 ̄ル町西側》                            菊屋七郎兵衛板元 【上段】 一休目無草《割書:一休和尚|水鑑註》 全      《割書:さとりの書》 同哥笑記 《割書:新左衛門ト|問答ノ書》六冊 同噺本      五冊 同一代記 《割書:年譜》  二冊 同骸骨  《割書:さとりの書|哥絵入》全 同水鑑  《割書:さとりの書》全 同二人比丘尼《割書:さとりの書》全 山家一休 《割書:烏鶏問答|絵入》 四冊 將棋力草 《割書:作物》  三冊 【中段】 立花大全 《割書:花ノ立様》 全 同 便蒙 《割書:仏前花ノ|立様》 全 同訓蒙図彙《割書:百瓶ノ図|并生花入》 六冊 同時勢粧 《割書:桑原仙渓|筥入》 八冊 《割書:拋|入》立花道しるべ《割書:生花指南|本ナリ》二冊 商人平生記《割書:常ニ心得ノ|事ヲ記ス》全 商人黄金袋《割書:心得ノ事|并故事入》 全 万世家宝 《割書:四民ノ心得ヲ|記ス》四冊 諸礼教訓鑑《割書:小笠原|躾方入》  全   【下段】 料理節用大全《割書:料理仕様|并切形能毒入》全 同切形秘伝抄    全 算法重法記《割書:開平其外|割物委ク入》 全      《割書:小本》 算法闕疑抄《割書:諸物割物|其外不残有》 五冊 改算智恵車《割書:諸商売 大冊|品割塵劫記也》全 万福塵劫記《割書:近道早算|新板》 全 万海塵劫記《割書:早割|割物委く》 全 世宝塵劫記《割書:随分見安く》全 茶湯真臺子《割書:茶湯稽古ノ書也》五冊 【上段】 同指南抄《割書:作物》 三冊 将棋経抄《割書:作物|指方》 二冊 同評判《割書:上手評判入》二冊 同指覚大成《割書:指方上手分》五冊 中古将棋記《割書:駒組結手|小本》一冊 中将棋初心抄《割書:指方駒ノ|行様》一冊 碁立初心抄《割書:初心稽古本》二冊 諸葛孔明風雨考《割書:雨降晴占|折本小本》一冊 夢相善悪霊府《割書:夢善悪占|小本》一冊 呪咀重法記《割書:まじなひ|小本》一冊 【中段】 同筆記 《割書:諸礼躾方|一まき委記》五冊 諸礼当用集《割書:当流諸礼|悉集》三冊 男重法記《割書:諸礼躾方|其外重法集》全 和字大勧抄《割書:仮名つかひノ|書ナリ》二冊 定家仮名遣   全 手尓葉紐【注①】鏡《割書:てには遣ひ様|折本》全 滝本管書帖《割書:正筆》 全 同 消息 《割書:正筆》 全 朝鮮人行列記《割書:品々》全 朝鮮年代記《割書:絵入》 三冊 【下段】 𠌶【「華」の本字】夷通商考《割書:異国行程人物土産|物異魚異獣等委ク》      《割書:記ス   五冊》 異国物語《割書:外国ノ人物|註釈ヲ加》三冊 高仜【注②】伝 《割書:馬乗様ノ書》二冊 楠一生記《割書:正成一生ノ事ヲ記|絵入》十二冊 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