【コマ3の右頁】 ・・愈々次週封切十月第三週の陣容・・ 號外‼ 日支事件今や正に事態急を告げて……… 北滿の天地日章旗飜るところ戰雲亂れ飛ぶ 想起せよ‼ 祖國のために名譽を死守して敢然と起 てる明治卅七八年の日露戰没出征美談 骨はくだけ血汐は飛んで屍山血河南滿洲の天地に故國を思 ひ母を偲びて御國のため死を賭した一太郎の雄々しき姿を  主人公の名は岡田梶太郎、母はかめといふ梶太郎 は明治十六年六月六日生れ、かめは嘉永五年十二月 十五日生である。梶太郎の隊は丸龜市にある歩兵第 十二聯隊補充大隊の第一中隊で出發したのは明治三 十七年八月二十八日の朝、當時梶太郎は廿一歳、か めは五十三歳だつた。出發した場所は香川縣の多度 津港で埠頭の廣場の、即ちかめが「市太郎やあいそ の船に乘つてゐるなら鐵砲をあげろ!」と叫んだ地 點に銅像がたてられてある。この實話を數年後、當 時の東京高等師範敎授たる故佐々木吉三郎氏が國定 敎科書に載せて今日に至つたもので母子の一生の一 大名譽と言はねばならぬ。 兒童敎育社 發行 原作……三右文一 脚色……久未芳太郎 監督……野村芳亭 撮影……永井信一 出演者 岩田祐吉 鈴木歌子 磯野秋雄 新井淳 花岡菊子 河村黎吉 野寺正一 松竹京都下加茂特作時代喜劇 二川文太郎第一回監督 林長二郎久方振りの珍衍演へ 蒲田撮影所より特に 珍優 渡遊篤 特別出演 かごや大納言 大正舘週報 一九三一・・一〇・二二・・ ・・第三一二・・ 發行所朝鮮京城櫻井町大正舘・福崎濱之助□編輯兼發行人・中水友之助 印刷所 東亞出版憫察社 【コマ3の左頁】 退屈男(第三話) 仙臺に現れた……旗本退屈男 志波西果入社第一回作品 市川右太衛門………主演 市川右太衛門プロ超特作時代映畵・雑誌……文藝俱樂部所載 原作………………佐々木味津三 脚色・監督 ……志波西果 撮影………………大井幸三 ……松竹キネマ共營…… 大正舘週報 【右頁】 ・・愈々次週封切十月第三週の陣容・・ 號外‼ 日支事件今や正に事態急を告げて……… 北滿の天地日章旗飜るところ戰雲亂れ飛ぶ 想起せよ‼ 祖國のために名譽を死守して敢然と起 てる明治卅七八年の日露戰没出征美談 骨はくだけ血汐は飛んで屍山血河南滿洲の天地に故國を思 ひ母を偲びて御國のため死を賭した一太郎の雄々しき姿を  主人公の名は岡田梶太郎、母はかめといふ梶太郎 は明治十六年六月六日生れ、かめは嘉永五年十二月 十五日生である。梶太郎の隊は丸龜市にある歩兵第 十二聯隊補充大隊の第一中隊で出發したのは明治三 十七年八月二十八日の朝、當時梶太郎は廿一歳、か めは五十三歳だつた。出發した場所は香川縣の多度 津港で埠頭の廣場の、即ちかめが「市太郎やあいそ の船に乘つてゐるなら鐵砲をあげろ!」と叫んだ地 點に銅像がたてられてある。この實話を數年後、當 時の東京高等師範敎授たる故佐々木吉三郎氏が國定 敎科書に載せて今日に至つたもので母子の一生の一 大名譽と言はねばならぬ。 兒童敎育社 發行 原作……三右文一 脚色……久未芳太郎 監督……野村芳亭 撮影……永井信一 出演者 岩田祐吉 鈴木歌子 磯野秋雄 新井淳 花岡菊子 河村黎吉 野寺正一 松竹京都下加茂特作時代喜劇 二川文太郎第一回監督 林長二郎久方振りの珍衍演へ 蒲田撮影所より特に 珍優 渡遊篤 特別出演 かごや大納言 大正舘週報 一九三一・・一〇・二二・・ ・・第三一二・・ 發行所朝鮮京城櫻井町大正舘・福崎濱之助□編輯兼發行人・中水友之助 印刷所 東亞出版憫察社 【左頁】 退屈男(第三話) 仙臺に現れた……旗本退屈男 志波西果入社第一回作品 市川右太衛門………主演 市川右太衛門プロ超特作時代映畵・雑誌……文藝俱樂部所載 原作………………佐々木味津三 脚色・監督 ……志波西果 撮影………………大井幸三 ……松竹キネマ共營…… 大正舘週報 人性の風車 松竹キネマ蒲田映畵 そは田園を背景にして大自 然のうちに點ぜらる婀娜艶 麗の旅の女が涙して語る愛 戀情痴物語數奇を極めた暗 の女の半生を剔抉して所謂 人間の情愛の眞を描きて完 きもの……されば奇しくも 悲し情炎のほむらよ……… 淸水宏……監督作品 …主要役割… 榮吉…………結城一朗 お信 ………川崎弘子 お種…………若水照子 お常…………花岡菊子 重藏…………坂本武 吉公…………堺一二 浮浪者………野寺正一 その娘………浪花友子 初公…………吉川英蘭 村の若者……大國一郎 原作脚色 湯原海彦 ……潤色 野田高梧………撮影 佐々木太郎 [梗槪] 涯しなく續いてゐる鐵道線路を歩いてゆく一人の男がある、それは都會を追はれた ので農村へ歸る榮吉であつた。追ひかけて來て聲をかけたのは艶かしい酌婦姿のお信だつた 彼女も亦都會を はれた旅烏の一人なのであつた。  榮吉とお信とは或るガレージで一夜を明かした、主人の重藏の好意で榮吉は其處のトラツ クの運轉助手として働く事になつた。二人はガレージの二階を借りた。  榮吉が仕事に出れば一人留守居をするお信は、艶めかしい姿で自堕落に煙草など喫んでゐ た。重藏の情慾はそゝられずにはゐなかつた。用にかこつけては彼女の室へ入つて來る事が 多くなつた。榮吉にはそれが不愉快でならなかつた。  榮吉はお信を心から愛してゐた、彼の眞情はお信にも明瞭とわかつた。お信は榮吉がいと しくなり何となく傍から離れられなくなつた--。  榮吉が茶畑の女達に人氣のある事は吉公には不滿だつた、彼は茶摘女のお種を戀してゐた 彼は榮吉を憎むの餘り二三の仲間を語らつて榮吉を歐打させた。けれど榮吉にしてみればお 信が居るので此處等の女に心惹かれはしないと語つたこれを聞いた吉公は詫びた、そして自 分は實はお種を戀してゐた事を打ち明けた。  お信は初公始め村の若者達を集めて酒など飲んだ、アバズレ女のやうなかうした事は、榮 吉が嫌つてゐるのは彼女にもよく解つてゐた。けれど今の彼女には自分一人が家に居て、榮 吉にだけ働かせるのはすまい氣がした、だから彼女はせめて煙草錢だけでも働きたかつたの だ、それにはかうする事よりしか知らない彼女なのだつた。  お信を見習ふてか、この頃村の娘達は化粧に身をやつし、夕方橋の袂などに佇んで行きず れの若者に淫らな眸を見せる事が多くなつた--。  或る日、榮吉はお常と呼ばれる女を救けた。彼女は父一人、兄弟四人の家族で生活のため 酌婦に賣られるのが辛さに、東京の伯父を訪ねて行くところだと語つた。お信はわが身の上 を思ひ出した。  幾日か經つた--美しい純情なお常に對して、一時は淡い嫉妬に似た氣持も出たが、やが て生來の俠氣から、その氣持も氣の毒な同性への道場と變つて行かずにはゐられなかつた。  お信は一夜家を空けた、榮吉は詰問したが彼女は黙つてゐた。そしてお常の傍へ寄つて幾 何かの金を出した、お信の眸はいつになく優しく涙さへあふれてゐた。 松竹蒲田特作ナンセンス劇 松井實昇進第一回作品 現代風刺 ”昇給と花嫁” 出演メンバー 齋藤達雄・淸水將夫 若水照子・高松榮子 武田春郎・二葉かほる (退屈男第三話) ・・仙臺に現れた 旗本退屈男 …京洛の長旅から江戸に歸つて來たその後の物語… [梗槪] 京都の長旅から江戸に歸つたが退屈男早乙女主水之助は例に依り欠伸 ましりの日をおくつてゐた。  そして思ひ出したやうに、例の皮肉な惡戱によつて僅かにその胸を抑へてゐ た。  當時江戸には、先代將軍以來の彈壓的の施政方針の犠牲となつて祿を失つた 諸國浪人がその日の糧に追はれ乍ら充滿してゐた。  將軍綱吉はそれ等の浪人等を救濟するの方法に何等の頭もおかれず、むしろ 畜類に異常の隣愍を加えて、人間以上の待遇を與えた我退屈男は、それを見て たゞ嘆息を洩らすのみではなかつた、  彼は、またもや、皮肉な惡戱を案出した。數日後、幕府の高家筆頭として、 その奸惡を憎まれてゐた吉良上野之介を初め、箸削りから成上つた、お犬醫者 丸岡朴庵等お犬様によつて威勢をよく連中を招待したのは、我退屈男である、 そして新設した檜風呂に灘の生一本をなみ〳〵と湛えて、まづお犬様やお猫様 を多數入浴させそのお餘りを來客達に振舞ふた。知らずしたゝかに酔つぱらつ て來客達頃はよしと主水之助は、そのネタを破つて痛快がる。計られたと知つ て残念がつたが相手が犬様で致し方なく主水之助の嘲笑を後に一同はこそ〳〵 に歸つてしまう。  だがそのまゝ納まらないのは、上野之介の一味である。