【表紙】 【表紙裏(見返し) 整理番号のラベル】 JAPONAIS 361 【見返し】 【白紙】 【白紙】 【白紙 手書き数字あり】 1821【線で見せ消ち】 361 【題箋】 花容女職人鑑  上 【題箋に蔵書印 円の外周】 BIBLIO THEQUE NATIONALE MSS 【同 内円】 R.F. 【貼付してあるメモ】 19【見せ消ち】╲15 Kwa yo nio syok nin Kagami Miroir de femmes Jolies et des Ouvrieres Par Nisi Ku wori Matsou-houts   2 vol. 【文字無し】 美人職人尽序 蓬莱山人ことばの玉の枝をよぢ て金銀台のうへに坐して狂歌の 僊人たちをむかふおちつきは露の 吸もの沆瀣【コウカイ=露の気】青ッきりにちよきり ちよと鯉の瀧のぼりこいつはゑらい ゑらすごしと瓢の酒に駒下駄の芸 者を出すものあれば大容洪崖がさ わぎ哥にかへるヒヨコ〳〵のあてぶりすれば 何みてはねるの兎のしうちとひよ〳〵 の鳥あり鳥あり始終天鼓仙笛 のちりからにて老君金母のみぶり なれば湯又馬生も肝をやけつべき 時に山人ひとつの書をとり出たり こは十州の国【注】直子が筆にして 玉巵太真が似がほ絵なりいでや 【注 十州(じっしゅう)=中国をとりまく海にあるといわれる十の島。いずれも仙人の住処(すみか)と考えられた。】 飛行自在の羽人といへどもかゝる 名画にむかひては脛のしろきに うつゝぬかして木の葉衣に涎をの ごひて下界にぽんと落ざらめ やは        宿屋主人 【右丁 絵画 文字無し】 【左丁】 芍薬亭撰  春   廼    歌 十五 八十二   下毛水沼  いかなれは      鼓腹亭実   すみれの露にをとめこか      裾の紫色はあせけん 十五 七十  初日影いたゝくふしは   花実園梅信     めてたしとつるのこほりの          人や見るらむ 十五 五八  見しゆめの中の      おなしく    絶るはふしかねを       霞のはらむ時にや有らん 十五 七五            仙府  春日山とりゐのふちにいにしへの  千柳亭唐丸        京紫の色を見るかな 【右丁 絵画中に書き込み有り】 【左丁】 浅草庵撰       春廼歌 十五 十五 七     芳名垣別号  朝つゆをおとす桜は   福有店真芳     出る日にうはとけのする            雪とこそ見れ 一 十三 一         下毛水沼  うとくなる             鼓腹亭実    老かみゝをも若水に洗ひてきかむ                  鶯の声  一 十三 一   つゝしさくあたりにしなふ山ふきは  五明楼東川       あかもすそ引妹にかも似る   七 十五 五            川崎   酔さめの水このましくのそく井の    天香久丸         底にもねふる青柳のうみに 【右丁 絵画 文字書き込み有り】 【左丁】   西    来     居      撰       春の歌 十七 十五 日のみかけうつす鏡と  白群舎為春   鋳直してけさあらたなる春のうすらひ【うすらび(薄ら氷)=薄くはった氷】    八 八 十三 散らされむ様なけれは花もたぬ    千年舎秀成       柳と風の中はむつまし 一 十 十三 世に絶て嵐もとはぬ山もかな花もてはやす 春曙園光音                かくれかにせむ 七 一 十三 横に寝し霞をとこにとりつきて     紅鏡園梅門              稚き春もけさや立らむ 一 五 十三 あはひとる蜑【あま】か      すかたやはなち髪かすみの海に沈む青柳 和雲亭花垣 【右丁上段】 東  夷   菴【葊は菴の古字】    撰  夏   廼    歌 十五 一一 ほとゝ  きす しのひ ねにさへ  鳴ぬ夜に きゝたうも     なき  いぬのなかほえ  浪花   十明堂北頼 【右丁下段】 上毛  伊香保   八暮女 十三 一 七  ふし   まうて【冨士詣で】  すなる    道者【うちつれて神社・仏寺にお参りする人】の  あたまから   けふりを    出す     やとの   ゆあかり 【左丁 絵画 書き込み有り】 【右丁 絵画 書き込み有り】 【左丁】 明心舎撰   夏廼歌 八 十五 七 照射【ともし】   松花菴金実【葊は菴の古字】  する夜は我やとの ほとけにも万にひとつの    燈しくてけり 八 十三 十   花廼門将雄 あけやすき  なつの夜更の       かやりそと  見れは   朝けの煙なりける 八 十三 十  和静亭春永 また春も行かてや  あると散のこる   花には      なつの    風の静けさ 【右丁】 画語楼撰  夏廼哥 七 八 十五  与鳳亭 神のます     枝成   杜やはゝかる 銀杏に   つけ きなく    髪【注】  法師     の   せみ    哉 【注 付け髪=仮装用のかづら】 【左丁】 七 八 十三  雛廼屋 扇屋の       春子  軒にひと声    ほとゝきす  たれを恋にし   おとしふみかも 八 八 十三  森翠亭 涼しさの風に    大枝  褒美や   とらせんとはなかみ     散す薬やの         たかとの 八 八 十三 汐風に       春友亭   もまれしまつや   梅明  たきぬらん煙り地を這ふ        蜑【あま】か蚊遣火 【右丁】   川崎野辺亭改     壷筆楼春芳 十五 七 五 もみち葉の  矢立の  夕照の山に   水も    歌人の  単【筆】に          汲ほす 十三 六 一  下毛飯沼 立むかふ     尋題【?】亭村立  山たち【山賊】もなし       武蔵野の   月の桂の    男たてにそ 十三 五 一 文泉舎鈴繁  雲井にそ   のほれる      野への    秋萩は     なへて       千くさの        司なるかも 十三 八 一  貢林亭持文  せ話しさは稲より      先へむら長か    人をかり込     出来秋の小田 【右丁 左下】 文庫菴【葊は菴の古字】    撰  秋   の    歌      春の部    西来居未仏著述 女は髪(かみ)の愛(めで)たくあらんこそよけれ。新玉(あらたま)のとしたち かへるあしたには。緋(ひ)のはかまにさげかみしつゝ。ひわり子【注①】 などさゝげ出(いで)たる。宮(みや)づかへもいといみしくて。とそのかは らけは七歳のめの童(わらは)より。なめそむれば。やごとなき方にも。 あがりたる世(よ)のためしときこえて。今(いま)もむかしのあと ひき上戸(じやうご)にやわたり給ふらん。かゆ杖(つゑ)【注②】の節会(せちゑ)は。 【注① 桧破子(ひわりご)=桧の薄板で作ったわげもの。またそれに入れた食べ物】 【注② ニワトコの木を削って杖としたもの。正月十五日の望粥(もちがゆ)を煮る時にかき回すのに使った棒。これで子のない婦人の尻を打てば男子を生むといわれた。】 柳(やなぎ)のしもと【細枝】に。腰細(こしほそ)の蜾蠃(すがる)【ジガバチ類の古名】少女(をとめ)【注】かゐとこ【ゐどこ(居所)=適した場所】のわた りを。したゝかに打戯(うちたは)るゝなと。いたくをかしきわざになん。 はたしもざま【しもじも】のかたはひきおどりて。いづくの里(さと)もたゞ むつまし月の名(な)にやはらぎ。わけて少女達(をとめたち)は。うつ くしき衣(きぬ)うちまとうて。何(なに)かしくれかし【誰それ】とどよみあへり。【皆いっせいに声をたてる】 姉(あね)が小路(こうじ)のおばさまより貰(もら)ふたるはごいたは。妹(いもと)に ほしがられ。綿屋町(わたやまち)より買(か)うたる手まりは。母(はゝ) 【注 ジガバチのように腰の細い、美しい少女。】 親(おや)の百ばかりもはづみつらん。さて哥(うた)がるたの円(まと) 座(ゐ)には。十二三のむすめ子よりして。二十(はたち)を越(こえ)にし さだ過(すぎ)【盛りの年齢を過ぎる】人も立(たち)まじり。くるま座にゐならびつゝ。 おしあひてや姦(かしまし)からん。汐干(しほひ)にみえぬおきの石(いし)は。 恋(こひ)する妹(いも)が袖(そで)の下(した)にかくれ。花(はな)ぞむかしの香(か)にほへるは。 橘屋(たちはなや)のむすめにや見だされけん。質屋(しちや)の姪子(めいご)は ころもほすてふをとり得(え)て。となりの後家(ごけ)さまは ひとりかもねんと。かこちてやさがす成(なる)らん。みなとり とりの其中(そのなか)に。はり打(うち)のおとは春雨(はるさめ)の軒(のき)をたゝくかと おもはれ。風(かぜ)さへてふるゆき折(をれ)の竹にこゑある筒(つゝ)のひゞ きは上臈(じやうろう)がたのすごろくのすさびなるべし。けふは 日和(ひより)ののごかなれば。葛飾(かつしか)の梅(うめ)やしき。今(いま)を盛(さかり)と みやこ鳥(とり)。あしのあかきは未通子(をとめこ)の。もみのぱつちの 一むれにて。隅田(すだ)つゝみのつみ草(くさ)も。嫁菜(よめな)とよばるゝ 半げんぶく【半元服=近世、元服一、二年前にした略式の成年式】あれば。今戸(いまと)に名高(なたか)きあねさまあり。 をかしからぬをもよく笑(わら)ひて。いと長(なが)き春(はる)の日(ひ)もみじ かしとや興(きやう)しぬらん。如月(きさらぎ)のひがん涅槃会(ねはんゑ)は。姑女(しうとめ)の 世(よ)の中(なか)にて。口とあしとの達者(たつしや)なるは。六(ろく)阿弥陀(あみだ)に杖(つゑ)を ひき。また檀那寺(だんなてら)のだんぎ【談義=仏教の教義を話して聞かせること】参(まゐ)りに中食(ちうじき)のにぎり飯(めし)。 菜(さい)の煮染(にしめ)のあんばいも。嫁(よめ)が気(き)どりのうま過(すぎ)たるは。 さすがにそしらん塩(しほ)もあらじかし。弥生(やよひ)は雛市(ひないち)のにぎはひ。 十けん店(たな)のわたりよりして。往来(わうさぎるさ)の内義(ないき)おくがた。紅梅織(こうばいおり)の 衣(きぬ)きたるは鶯袖(うぐひすそで)も似合(にあは)しく。青柳(あをやき)の花田(はなた)のおびはさくらの縫(ぬひ)めも めに立(たつ)て。都(みやこ)ぞはるのにしきとやいはまし。雛(ひな)の調度(てうど)はところせきまでに ならべて。古今(こきん)の内裡(だいり)素袍着(すほうき)の五人ばやし。舟月(しうげつ)が名誉(めいよ)もたかく。 手のなるかたは相談(さうだん)の出来(でき)たるにて。こがねの花(はな)の山 吹(ふき)を。ひとひらふた ひらちらしぬるも。しあんの外(ほか)のおやこゝろにや。三日はなべての家(いへ)に雛(ひな)の棚(たな) 設(まうけ)いでゝ。山川の白酒(しろさけ)はびゐどろの陶(とくり)に雪解(ゆきげ)のいろを争(あらそ)ひ。淀野(よどの)の はゝ子 艸(くさ)は。ひしもちに翠(みどり)のいろをそへてこそうつくしけれ。内かたの包丁(ほうてう) 重(ぢう)づめのいときりたまごは。風味(ふうみ)さへおぼつかなからん。初節句(はつせく)の家(いへ)には親類(しんるい) 縁者(えんじや)のかぎり女子共うちつどひて。あるは舞(まひ)あるはうたふ糸竹(いとたけ)【弦楽器と管楽器】のこゑ。 うつばり【棟をうける木】のちりも動(うご)くばかりにこそいとにぎはしけれ。五日は出(て)かはりの掟(おきて)とて。 三両のお半下(はした)も時(とき)なる哉(かな)とよそほひ。まがひ八丈 東雲(しのゝめ)どんす。おいとまいたゞく お膳(ぜん)にも。ぷんと香(か)のするあさつきなます。たつ鳥跡(とりあと)をにごさぬはまた住(すむ) かたの便(たより)ともなりなましや。そが中(なか)に三とせ五とせ年季(ねんき)かさねし針妙(しんめう)は。 給(たまは)りものもさながらに。主(あるじ)のめぐみのあついたおび。すれば別(わか)れの涙(なみだ)さへ むね一はいのはゞひろにてやありぬらん。さて親郷(おやさと)のやぶ入はそこ〳〵に過(すぐ)して。 大江戸のわたりなる叔母(おば)てふ人のもとに有(あり)て。きのふは戯場(しばゐ)【注】にうつゝを ぬかし。けふは飛鳥(あすか)の花(はな)に遊(あそ)びて。春(はる)の日のくるゝを惜(をし)めり。すべて弥生(やよひ)は 風(かぜ)あたゝかふ。大門の柳西(やなぎにし)になびきつゝ。仲の丁のさくら火(ひ)をともす頃(ころ)は。夜(よ) みせのすゞの音(おと)もよきころ〳〵と鳴(なり)て。一目千本の花(はな)かんざし。よし野(の)泊瀬(はつせ)は 禿(かむろ)が名(な)にうつし。茶(ちや)屋か坐敷(ざしき)は魚肉(ぎよにく)の林(はやし)をなして。下盞(げさん)の酒は池をたゝへり。 【注 外に「芝居」の意で用いられている漢字は「戯園」・「勾欄」・「演戯」等が有ります。】 台頭末社(たいとまつしや)の神(かみ)いさめには。二てう鼓(つゞみ)の長唄(ながうた)こゑうるはしく。舞(まひ)かなでぬる ひとさしに天(あま)の鈿(うすめ)【佃は誤記。本来の表記は「鈿女」】の昔(むかし)をしのべば。松本の岩戸香(いはとかう)ふん〳〵として。べつ かうの光(ひかり)かゞやきつゝ外八文字(そとはちもんじ)【注①】ふみしめて。こゝにくるわの君(きみ)か名(な)をとへば。 何某(なにがし)か許(もと)に今(いま)を日の出の全盛(ぜんせい)とぞきこへぬる。くゆらすたばこの薄(うす) けふり。夕(ゆふべ)には雲(くも)となり。朝(あした)には雨(あめ)とやなるらん。翠帳紅閨(すゐちやうこうけい)【注②】の仇(あだ)しなさけも 蓑輪(みのわ)に月 落(おち)田甫(でんほ)に烏(からす)ないて。衣(きぬ)〳〵の別(わか)れ霜天(しもてん)にみつれば。浅草(あさくさ)の 晨鐘(しんしやう)に驚(おどろか)されて。家路(いへぢ)にとばす罾(よつで)かご。いとゞおもひのおもたましならんかし。 【注① 太夫が揚屋入りの道中をする時の足の踏み方】 【注② みどり色のとばりを垂れ、赤く飾った立派な寝室】 【白紙】 【裏表紙 文字無し】 【表紙 題箋】 花容女職人鑑  下 【白紙】 【短冊様の囲みに和歌三首】 みとりなす春の柳そうつくしき 髪長姫の立すかたかも 芍薬亭 散花に誰か恨むへき御影堂 なつ斗ふく風のやとりそ 浅草菴 南無阿みた色に出にけりとおもふこそ おのか心の鬼の念仏 六樹園 【右丁】 蓬莱山人撰    秋     の      歌 八 十五 一  生花【芲は花の俗字】斎照道 大きくて  はては 入へき  山そなき くまも  なく   すむ  武蔵野    の月 【左丁】 八 十三 八  花月堂百雄 くれなゐに   はなさくとその袋菊       したゝる露も          薬なるらん 七 十三 一 花色の    近江信楽  衣や      桂花園■   うちけん    かんさしの 胡蝶も  くるふ 妹か  相槌 【左丁 下部】      春交亭 風なきて  梅明  こゑなく     荻は    照月の   雪は    うははに      つもり       たり        けん 【左丁 上部左】 五 十三 五 妻ゆゑに涙斗を   青松楼      ふとらせて  久丸  背ほねの見ゆるやせの小男茗 【右丁 絵画 書き込み有り】 【左丁 右下部】 五  柳   園    撰  秋   の    歌 【左丁 本文】 五 八 十五 空の涙はなつ雀に秋今宵むかしをくゆるなへのはまくり   梅迺屋鶴子 七 十二 十三 世をすてゝゆきゝの雲は山の端へよらすさはらぬ秋の夜の月 向鏡亭菱象 七 □ 十三 しますゝき【縞芒】荻の紫よせ切に桔梗ふくろもぬはせてしかな 和静亭春永 五 十 十三 おちかゝる月のみふねをから〳〵と押戻すやうな初かりの棹 橘光貞 五 七 ■■ 城跡のみやまも秋の夕くれは逆茂木みする小男茗の■ 来弓亭数高 七 八 十三 月の中の虎の威をかる狐もや今宵を兎【昼】とたふらかしけん 与鳳亭枝成 【右丁 絵画 書き込み有り】 【左丁】 十五 七 一 いつしたく日かすかそふる斗にて   花咲菴米守      春は隣のたからなりけり 十三 七 八 雁【鳫】のもし鴎の印は跡もなし  至清堂捨魚      水際を雪のしらせにして 十三 七 七 しはらくも  生花斎照道   つちに落ちかぬ  初雪ははしる 時雨のくせや   つきけん 十三 七 六  川崎 早咲の      堤兼成   梅を    つとにて うくひすの   かくれ家とはむ       けさの初雪            川崎 十三 十 七      無為菴未高 留守の間に木すゑあれけり           かへり来て   葉もりの神や門まとひせん 【右丁】   不老園撰 冬の哥 滄洲楼梅戸 十 十八 八 この海の氷のひゝも愈あはんあかつき寒き三井寺のかね 五 十五 一   関員雄 埋火に冬をわすれて春心  つきたす炭にもゆる          かけろふ 八 十三 一   新泉園 降つもるゆきの田のもの 鷺丸  すてかゝしゆみ         もて          ?たを       打かとそみる 七 十三 五 あすはまた   松梅舎志丸   初音またるゝ       鶯の  色の   茶そはも    愛る晦日 七 十三 五   苑囿亭 つりしのふ     麟馬  葉はうら     からて   袖ひさし  霰や風に   みたれみすらん 【左丁 絵画 書き込み有り】 【右丁】 福迺屋撰  冬の    哥   十三 十五 至清堂         捨魚  かくれ蓑そめし   ふすまはたからにて  寒さにたにも      しられさりけり        近江信楽 八 七 十三    花鳥屋乗康 雪の如    ふれる  梢にためて  霰の玉に   見られぬそ  きすなる 【左丁】          泉堺           聴風軒草浪 一 五 十三 埋火の炭にけものゝ        うしとらに  当りてふせく     冬の夜の         ひえ 六 七 十三 松かえの     花咲菴   こふしを落て   米守     ひとつかみ    雪か埋たる人の        あし跡 十 七 十三   仙府 降雪の玉の     千柳亭   芸には       唐丸      およはしと  こはくもまつの     根にかくれけん 【右丁 絵画 書き込み有り】 【左丁】     鈍々亭撰 恋の歌 十五 一 六   六蔵亭 人の目に見も     守冬      てや  浮なたちぬらし   我につきそふ君か俤 十三 五 八 錦木をとり    仝   いれくれた       斗にて  浮名は人のかと〳〵にたつ 十三 八 六      下毛水沼 おもひきや対にそめたる恋衣 鼓腹亭実     かたく色のかはるへしとは 十三 六 五          川崎壷筆楼改 恋やみそ一枚かみをへかすこと    浅楽菴鳳管           対の中のふみそうれしき 十三 七 一             黄鳥亭大道 行末をかけゆの水の待遠しみゝか先やる                  よひとひ【呼樋ヵ】もかな    【右丁 絵画 書き込み有り】 【左丁】      塵外楼撰 恋の歌 七 十五 七 見そめつる時にひねりし芸ひちにおもひの山はつくり出しけん 春交亭梅明 五 十三 五                      《割書:|ヨリ井》 恋やせてひろき衣のみはゝよりおもひにせまる胸のくるしさ  千隺堂長喜 一 十三 七                      《割書:|川崎》 ひとめには腹もたゝれす横くもの帯するまても来ぬ妹そうき  浅楽菴鳳管 一 十三 一                      《割書:|ミカハ》 おとろきて別るゝ鶏のよひなきはもえたつ胸の火にたゝるらし 六王園茂穂 一 十三 三 のみこみし涙のみつに胸の火をけしてひとめをしのふくるしさ 延樹楼湏歌根   【右丁】       泉堺        花月園 六 八 十五   雪丸 梅たちて  祈りし神の 利生にや  志にすかりし        逢夜       嬉しき   六樹園撰    恋之歌 【左丁】     《割書:|ミカハ》      六鵲園 一 十 十三 逢夜はゝ  つかへし     癪も   打わすれ 腹へさしこむ  文こそうれしき 七 八 十三   呉竹亭真直 こぬ人のおこせし      ふみは  采配に   きりて枕の    塵はらはらや 一 八 十三   白波酒店甘喜 つるきたち   身にはそはすて妹故に    ぬけて出たる武士の魂         近江信楽 七 十 十五   花鳥屋乗康 君ゆゑに胸斗かは恋やみの  背中も灸を居て       こかしつ       夏の部     蓬莱山人著述 雪(ゆき)の卯花(うのはな)御簾(みす)うちあけてとは。清少納言(せいせうなごん)の筆(ふで)すさび にて。子規(ほとゝぎす)のはつねきゝては。淀(よど)のわたりはまだ夜深(よふかき)になど。 詠(えい)せしもいとゆかしく。はた初(はつ)かつをの栄耀(えよう)ぐひにとて。八百(やを) 善(ぜん)が楼(たかどの)にのぼれば。目(め)に青(あを)すだれ水(みづ)の音耳(おとみゝ)にすゞしく。 酌(しやく)とる女(をんな)のそろひの前(まへ)だれは。夕風(ゆふかぜ)にそよぎて。蛍(ほたる)みつ よつ軒(のき)にとびぬれば。女(をんな)どもはこれとらへんとひた すらに手(て)をうちならすを。さし心得(こゝろえ)たる下男(しもをとこ)は。坂東(ばんどう) ごゑに返事(へんじ)したるも。おもはぬ興(きやう)をそへてこそおもしろ けれ。五月(さつき)はたんごのさゝちまき。柏(かしは)もちの手つだひにうち つどへるは。ひとつながやの佐二兵衛婆(さじべゑば)さま。瀬戸物丁(せとものちやう)の 五良【郎】八 嬶(がゝ)。半下(はした)の於三嫁(おさんよめ)の君(きみ)。たすきひきかけたち まじりて。くりやのかたはかしましけれど口(くち)ほどは手の 廻(まは)りかねたり。六日のあやめは女の節句(せく)といへど。させる ふしもなく。ふりつゞくさみだれのつれ〴〵は。ひざに ゐねむるねこかいやりて。さみせんの爪(つめ)ひきもそれ者(しや)の はてにやありぬべし。頭(づ)つうにはりし梅(うめ)のみか雨(あめ)のはれ 間(ま)のすけかさは。早乙女(さをとめ)の田植(たうゑ)うたにてあとしさり して植(うゑ)わたるは。おほきなしりの棚田(たなた)なるべし。その たそがれのまがきにはゆふがほの花(はな)さきたれど。あや しの賎(しづ)が住家(すみか)ともみえず。わがせこが来(く)べき宵(よひ) とやさゝがにの。蜘蛛(くも)のすしぼりのゆかた引(ひき)かけて。 けはひなどつくろふは。何人(なにひと)のかくし妻(つま)にや。椽頬(ゑんがは)には さゝやかなるせきしやう【石菖】鉢(はち)に金魚(きんぎよ)をはなちて。鉢(はち)うゑの なでしこはちりもすゑじとや愛(あい)しぬらん。荵草(しのぶくさ)は風鈴(ふうれい)と ともにのきにつられて。庭下駄(にはげた)はふみ石のうへになゝめ なり。やがて日没(いりあひ)の過(すぐ)る頃(ころ)夕餉(ゆふげ)のけふりうちなびきて。 僕(ぼく)の女のそのよう意(い)して。膳(ぜん)にならべしふたものに 入たる菜(さい)のいろ〳〵は。昼餉(ひるげ)の料(りやう)にとゝのへたる七色(なゝいろ) ちやづけの名残(なごり)なるべし。かくて夕餉(ゆふげ)もたべしまへば。 はひりのかたに案内(あない)して。内(うち)にありやとおとづるゝ。声(こゑ) にぞしるき太棹(ふとざを)は。浄(じやう)るりのおししやうさんにて。 楽屋(がくや)むすびの髪(かみ)にさしたる。廿三屋のつげの櫛(くし)は。 あけ残(のこ)る月に似(に)て。柳(やなぎ)しぼりのゆかたきたるは柳(やなぎ) 湯(ゆ)に入ての帰(かへ)りなるべし。いかに今宵(こよひ)は八日にて かやば丁の縁日(えんにち)なれば。かしこの街(ちまた)にひさきぬる薬師(やくし) 如来(によらい)の瑠璃(るり)のいろなる。蕣(あさがほ)やもとめんなどそゝのかさ れて。さそふ水(みづ)あらばとおもふ此(こ)なたにしあれば。うす ぎぬまとひおびひきしめ。うちつれたちて行(ゆく)かたは。 人あししげき宵月夜(よひつきよ)。闇(やみ)をのこせしくろぬりの こまげたの音(おと)かしましく。夕(ゆふ)とゞろきのはしならぬ。海(かい)ぞく 橋(はし)や越(こえ)ぬらん。はた出居どの用心(ようじん)すといふ廿八日は。名(な)に しるき両国(りやうごく)の川びらきにて。年(とし)ごとの例(れい)にそおとに 聞(きこ)へし玉屋(たまや)かはな火(び)あげそむるとか。されば涼風(すゞかぜ) そよぐ柳(やなぎ)はしよりやね船(ふね)一そううかめ出(いで)て。夏(なつ)な から梅川(うめかは)とよび青柳(あをやぎ)とのゝしり。いでやこの船(ふね)には 劉伯倫(りうはくりん)かごとくなるのみぬけ【底抜けに酒を呑むこと】もあればと。一斗樽(いつとたる) ひとつすゑてさかなの用意(ようい)もおほかたならび。海陸山(かいりくさん) 川(せん)の珍味(ちんみ)をこそとゝのへつれ。げにや其(その)利根川(とねかは)の洗(あらひ) 鯉(こい)は。松江(ずんごう)の鱸(すゞき)【魲は鱸の俗字】にまさる美味(びみ)あれど。この円座(まとゐ)に女の なきはさう〳〵し【張り合いがなくて寂しい】とて。同朋(どうぼう)町に人はしらすれば。とりあへず出現(しゆつげん) まします妓女(げいしや)の粧(よそほ)ひ。さながら生(いき)たる弁財天(べんざいてん)のごとくにて。 すきやちゞみのかたびらは雪(ゆき)のはだへ【皮膚の表面】をすかし。緋(ひ)ちりめんの二布(ゆもじ)【注】はすゞ風に ひるがへりてはぎ【すね】のしろきを見すれば。橋(はし)の上(うへ)に行(ゆき)かふ人も。 これに心(こゝろ)をうばゝれて転落(まろびおち)なん風情(ふぜい)あり。芳野丸(よしのまる)のふな 屋(や)かたに髪(かみ)もむかしのかたはづしなるは。いづれの御方(おんかた)の御殿向(ごてんむき)にや。 【注 「ゆかたびら」の後半を略して「文字」を添えた女房詞。】 もうせんの真中(まなか)に座(ざ)せる女性(によしやう)は。瑇瑁(たいまい)の光(ひかり)かしらにかゞやきて。 金襴(きんらん)の帯(おび)は川水(かはみづ)の映(えい)ぜり。これぞ西(にし)の国(くに)百万石もしろしめ せる【治めたもう】御大名(おだいめう)の北(きた)の方(かた)とぞしられたる。声色(こはいろ)つかふ船(ふね)には紋尽(もんつくし)の 手ぬぐひをそめて。冨本(とみもと)【「富本節」の略。浄瑠璃節の一派】かたる船(ふね)にはさくら草(さう)のゆかたを まとへり。すべて行(ゆき)かふ船(ふね)ごとにうたひめところせく【狭く】居ならびたる 中(なか)に。媚(みめ)よきかたはやま〳〵浜(はま)〳〵とほめて。こぎわかれ行船(ゆくふね)としてうた はぬもなく。ひかぬもなし。三弦(さみせん)の棹(さを)船頭(せんどう)よりも猶(なほ)。せはしくてや有(あり)なんかし。 【白紙】 【文字無し】 【白紙】 【白紙】 【白紙】 【見返し 文字無し】 【見返し 文字無し】 【裏表紙】 【王冠マーク(👑) とその下に「N]字】 【背表紙 背文字有り】 KWA YO NIO SJOK NIN HAGAMI 【王冠マーク(👑) とその下に「N]字】 【王冠マーク(👑) とその下に「N]字】 【資料整理ラベル】 JAPONAIS 361 【背表紙最下段】 GARDIEN 1864 【冊子の天或は地の写真】 【小口の写真】 【冊子の天或は地の写真】