最々古和以噺 完 【原典の㝡は最の異体字】 【検索用:もふもふもふ怖噺/もふもふこわいはなし/もうもうこわいはなし/市場通笑/北尾政美】 【整理ラベル・208/ /643】 【書込み・天明四卯】 【題箋】 最々(もう〳〵)古(こ)和(わ)以(い)噺(はなし) 上下 【右ページ・白紙】 【左ページ】 おうしう    しらかは へんに     ほんま 正兵へ【=正兵衛】といふ  ものありあと しきむこ【婿】にわ    たし【、】にせあんらく【二世安楽】 のためにつほん   くはいこくと【日本回国と】こゝろ ざし【、】ひやり【日遣?】ばん    じやう【?】いつかかゝつて いつかへろふのあてもなしおもひのまゝに れいぶつれいしやう【霊仏霊場】をはいし【拝し】かねがあつては まつばらてさかてをくだはれがうつとしいゆへ【鬱陶しいゆへ?】 てのうちをかふて【手の内を乞ふて?】ゆきあたりばつたりのきで なければ六十六ぶはまわられずとられるもの もなければのじゆくしてもたかいびきひだるく【脾だるく=ひもじく】さへ なければごしやうらく【後生楽】なものなり ところはたんばのくにとほうも ないやまおく かゝりいつもの とおりのじゆく するつもり にてのじゆく のひだか【日高:日の高いうちに】につい たためしも なければ もふ すこし 〳〵【絵の一部?】 に よ る に なり し に おび たゝし きおふかみ のこへなん ぼいのちは すてものゝ きでも六十 六ぶをまだ 三十ぶもある かねばだいしの いのちおりしも六日のよい つきよしらぬやまぢを くたびれあしのぼつたり さがつたりするうち もはやつきもこのま にいりそれからが おふてこずりおふかみ がこはいはりやいばかり でさつ〳〵とあるけは はるかむかふにかすかに あかりがみゆるへあす こだな〳〵とおもふても とんでもなくとおいみちなり あかりをみあてに よふ〳〵とにしり つきさんじや?うか【三十が?】 しうかくなれば【収穫なれば】 ゆきくれたしゆ きやうじや【修行者】いち やのやどをといか めしくしかけるとこ ろをごめんなさり ませみちにふみま よいましたもの おじひにおやどを ねがひますと のたくりこめば あるじとみへて 七十あまりの ばゝアとめては しんじやうがこゝ にはなんにも くいものがござ らぬそばやき もち【蕎麦焼餠】でもよか あとまらつ しやい【泊まらっしゃい】といへば それはけつ かふなもの きつい こう ぶつて ごさり ますと けいはく たら〴〵 さて〳〵 こんにちは おふきに くたびれ ましたと わらじを といてあがり あたりを みればほかに ひともなし すいふろ【水風呂】も なしまづ なんでも かたじけないと    おもふ 【老婆の台詞】 こなたひとりか 正兵へよふ〳〵 やどにありつき ばゞアひとりの しんだいには おもひの ほかのおふ ずまいもはやさいぜんより六ぶと みへてとなりざしきにふたりこれも くたびれたとみへてしらかはよふねの たかいびきとまるおりにばゞアがたいじやう ごい【怠状乞い→脚注】かならず〳〵わしがよぶまでこまいぞ のぞくまいそといつただけうすきみわろく ひとつやにばゞアはあさくさにためしもあり【注】 あだちがはらにはところがちがふたゞしはでたなり【但しは出たなり:安達が原とは違うものの婆あが出た】 なんにもせよのぞくなといつたが こゝろにかゝりくたひれたは ではへり【入り】ゆきふすまのすきま からのぞいてみればまきはり【薪割り】 にてにはをほぢくりふくろ から【袋から】そはをまきみるまに めをだしたちまちはなも さきひきうすをいごかし まわ す うちそばは あかるみ【白くなり】から〳〵と こ【粉】になればいかさま みるなといふはづ たけだのからくりでも かふいくものではない【こういくものではない】 けうけげんな【希有希見な=稀に見る(妖怪の名前でもある)】 ことだとおもひ いるうちおふきな やきもちにこしらへる ゆへいよ〳〵いきを ころして  のぞきみる 【注 『南総里見八犬伝』に「浅草一つ家(孤家)」として登場する「浅草浅茅ヶ原・姥ヶ池伝説」を指す】 【怠状乞い:怠状は謝罪文のことです。怠状乞うというのは「あやまれ」としかりつけること。ここではきつくいましめるという意味で使われています。それを破ればただじゃ済まないよ(謝罪文が必要な状況になりますよ)と叱りつけているわけです。もちろん慣用句なので本当に謝罪文を要求するという意味ではありません。】 【右丁】  てつとりばやに そばやきもちを 三もんどりや五もん ぐらいといふことては なくさては【脚注】のもち ぐらいにたつた四つ こしらへ せんに【先に】とま つたふたりのものを おこしやれ〳〵といつ てもくたびれはて むりやりにいすぶり【揺すぶり】 おこしこなたしゆは よいとしをしてねぼ けることは?ないまた くつてからねさつせへ とかつて【勝手=台所】へよびれいの やきもちふたつづゝ だしけれはねむさも ねむいがめがさめて みればおふきにはらも きていればふたりながら【=二人とも】 むざ〳〵 とひとつ づゝしてやり 【左丁】 ひもじいときのまつい【まづい】ものなし ふたつながらへろりとしてやり ばゝアがごろはちぢやわんて ちやをくんでだしだん〳〵にのどが かわきもふいつはい〳〵とひと ちやがまそこをはたき【、】これは ちやではいかぬみづを ひとつたのみますと いへばふたりを にわへおろし たら いへ みづを あけてやれば よく〳〵のどが かはくとみへて がぶ〳〵〳〵いくらも〳〵 のめばたちまち ふたりともに むまになり ひい ひんといふぞ おそろしき    ことなり 【左丁 下段台詞】 さ■■と【さあたんと?】    のん     だ□【だり?】 【脚注 ◆「さては≒それでは」と読んだ場合: 五文取/ごもんどり=一つ五文の餠(駿河名物・安倍川餅など)から、「一つ三文の餠や五文のそれなど、食べ応えのある餅ならまだしも、それではと待ち構えている餅好きの自分をつかまえて、たった四つぽっちなら、と先客に譲る気持ちで」との叙述と類推。◆「さては≒たては」と読んだ場合:翻刻案A: 宿場間にある茶屋付きの休憩所、立場(たてば)で出るような餅という意味で「休憩所でお茶と一緒にちょっと出す、料金をとるほどでもない餅」の意味か(そういうサービスがあったかどうかは未確認)。翻刻案B:「建場(たてば)の餅=上棟式に家の四隅にあげるお供え。ゆえに数が「四つ」。ネット情報では一升~五合位の大きさとされる。この場合は「建場の餅喰らい≒餅にかけては札付きの大喰いの自分に」の意となり、前の二つとは解釈が異なる。 【右丁】 正兵へしぢう【始終】 のよふすを みてみのけも よだつばかり にてしょせん このつぎは こつちのばん いやだと いふても そんなら ゑゝと いゝそふ な やく しや でもなし しばゐのむまの やふに あとでほかの やくがつとまるかどふか しれず なんでもこのばを 随徳寺【逃げる】とかくごをきわめ ばゝアがあとじかけ【後の分】のそばを こねつかへしている【こねっかえしている】とこをうらぐちのかきを やぶり ほとけさまばかりふろしきにつゝみ おい【笈】はそのまゝおいて いのちから〳〵にげて                       ゆく 【左丁】 正兵へあやふきなんものがれまことに あなたこなたのおかげにてつゝが なく【、】につほん ごくをめくり こきやうへ もゝくり三 ねんぐらいの ことてはなく かきのなるとし にもとり【、】むす めもむこも そくさいに てるすの うちにひと りあそび をするまご ができほん のひとむかし きんしよにも かわることの ないか やれ〳〵 まつ【まず】めて たい【目出度い】とたかいによろこひ いのちさへあれば ゑゝもんだその かくごででゝも かへつてみねば りやうほふで あんじたといふ 【左丁 下段台詞】 みなまめか【まめか=元気か】 ぼうがぢい さまだヨ まる七ねんぶりにてかへりごしやういつさんまい【後生一三昧】 ほつたいして【法体して=僧形になって】なをあらため正兵への正のじを とりしやうせんとかへほんのいんきよさまにて まごのせはでもするばかりとんとらくしん【楽人】 なれともとかくでつけたくせがやます【出つけた癖がやまず】 ことしはしなのゝせんこうじ【善光寺】てふ【と言う】もふいち と【もう一度】さいこくじゆんれい【、】たつしやなうち ずいぶんあるくがとくだとでたがれは【出たがれば】 むすめもむこもそんなにごしやうをねがつて こくらくをゆきすきさつしやるであろふと せけんでいふせりふでとめれどもなんにも あんじることはないいづくのそらでもごい こうとおねんぶつのおかけでこわい こともおそろしいことも ないうぬし たちが くはせ かねも せす【食わせ兼ねもせず≒養い兼ねるわけでもないのに、ヵ】 おれが うち きらいの よふで【おれが家嫌いのようで】 せけんの くはい ぐんも【外聞も(わるく、お前達が)】 きのとく だかそれは によらい さまが こぞんじだと むりやりに またさいこくの ほうへでる つもりに さうだんを きめる 正ぜんねかひのとおり ゆらり〳〵とさいこく のふだをおさめそれ よりたんばのくにへ かゝりせんねんふみ まよいしあたりの やまみちはたしかこのあたりで あつたとうろおほへのちやみせに やすみなんとかゝさんこのやま おくにおそろしいはゝあ【婆あ】か あるといふことだか そんなはなしか こさるかとたつねれ はそれはこのくつと【ぐっと】 やまおくにあるに ちかひはごさり ませぬところては【所では=このあたりでは】だれでもしらぬ ものもこさらぬが六ぶしゆかみちに まよいいつたひとにひとりでもかへ つたといふことは ないゆへなにか よふすもしれませす よく〳〵のことで みせものにする ひとさへこはかつて いきませぬ とんなはけ ものてこさる やらとはなせば 正せんつく〳〵と かんがへろくふに【六部に】 でゝ【出て】あんなめに あふといふもくはこの【過去の】 やくそくとはいゝなから ばゝあひとりで いくらの人 のつきる【尽きる=犠牲になる】ことかしらぬ によらいさま へのごほう【如来様へのご奉公に】 こうにいち ばんきやうけんを かいてみよふと おもふ 【右丁 下段台詞】 どふいふばけ ものたやら さむくなつた   ようだ ところ  しうは  しつて  いることの様【よう】 正ぜんおふぜいの ためとかくこ【覚悟】を きわめさき だつてみた ほとのそば やきもち ふたつかへ だまを【替え玉を】こし らへわざ〳〵 みちにふみ まよいたしか こんなみち あんなやま とたづね こわいことは わすれず もとのとを りのいへ【元の通りの家】 せんど【先度】きた ときはやろう あたま【丁髷】こん とはほふづ【坊主】に かたちが かわりし ゆへそしらん かほで【そ知らん顔で】まし 〳〵と【まじまじと=平気なようすで】いちやのやとゝ【宿と】しけこめば さすがのばゞ あもとしだけて【年長けて≒歳月を経て】ちつともみおぼへ もなくしよ て【初手】いつたとおりのあいさつにて ゑつさら おつさらそはやきもちを【蕎麦焼き餅を】こしらへ ぼうさん おきさつせへとふたついだしければ ははアがそこら をまこつくうちれいのかへたま ととりかへ ふたつながらむしや〳〵して やりしやあ 〳〵まじ〳〵としていれば のと□かわきは しませぬかといへば なんともこさら ぬ【。】ちや【茶】をたべ ては小へんにおき まする【小便に起きまする】 せわて【世話で=面倒で】こさり ますとへいき なれば【、】なむさん【南無三】 かげんかちかつた かとのこつたやつを【残ったやつを】 ひとつしてやると【(婆が)ひとつ食べてみると】 のどをかはかしたし【喉が乾き出して】 もとのときの【(正せん)は元の時の】 かつてをのみ こんでいるゆへ【勝手を飲み込んでいるゆえ】 たらいでみづをのま せればとふ〳〵ばゞアが むまになる【馬になる】 【右丁 下段台詞】 ちやわんぐらい ては いくまい〳〵 【右丁 本文】 てう ぐは ろう【張果老:注】は はだし 正ぜん はゝあ をむま にして さとま でひき だしみき【右】 のやふす【様子】 をはなし ければ かねて きゝ およびし ことゆへ きもを つぶし たんば のくにゝは かりうどの おふきところなればたち まちあつまりほうさん【坊さん】 このむまをわしどもに くださへともらい みせものに             しても 【左丁 本文】 つねのとおりのむま いわれをいつ てもまんはち【≒千三つ。眉唾】だとちやにして【馬鹿にして】みて【見手=見る人】 もあるまい これまでおふぜい人の なんぎにあわせしやつ【奴】 おもいれを【思入れを=思う存分】 せめるがいゝとおふぜい にてむごい めにあわせむまのけ い こばをばゝ【稽古場を馬場】 といふことはばゝアが む まになつた をせめしゆへばゝアをばゝとは このときよりぞ はじまりける いつれもかりう どのこと なればけだものゝ ことはちよさいはなし【如才は無し≒手慣れていて】 ことにむまくらいと あなどりしが おこものはんぐはん【乞食判官/源義経。乗馬の名手の例え】【おくりのはんぐはん=小栗判官/馬にまつわる伝説あり】 でもいかぬくせもの【暴れ馬】 にておふてこ ずりにて よふ〳〵と ぶちころし むまじにの ひとやくに【馬殺しのひと仕事に】 おふぼねをおりけり 【右丁 下段台詞】 どうといふ   ことをしらぬ      そふだ【馴致のかけ声も知らなさそうだ】 【左丁 下段台詞】 よみがすたつた【読みが外れた】  からむま■【ば?】ねは    なんにもならぬ 【張果:瓢箪から馬を出すという仙人】 いつのころよりかこのむまの いちねんあまたの人をなや ませしゆへいつそ山へいかして おきろくぶばかりくらは せておけばよいと てまへがつてなこと をいふを正ぜんも きのどくにおもひ百 ばんのくはんおんへ【百番の観音へ】きせい【祈誓】をかけしにふしぎ なるかなとしふるおふかみあらわれ あたけ【=暴れ】まわればかりうどさへおそれ てかまはぬところを正ぜんころもを ぬいでひらりとかければたちまち ぐにやとなりていきたへたりおふかみに ころもとはこのことなり ところのやくにんへ うつたへまつだい の人のなんぎを すくひいまゝではたんばの おくやまはいんきよしても よいところにしたも正せんがしよぶつの【諸仏の】 くりき【功力】ちつともうそはないほんとふに こわいはなしなりけり 北尾政美画 通笑作 【百番の観音:西国三十三ヶ所、鎌倉三十三ヶ所、秩父三十三ヶ所の観音霊場を全部あわせた霊場巡り。】 【狼に衣:凶悪な者が上辺だけ善人を装うこと。】 【墨で手書き】三拾八番 【裏表紙】